信仰の地に舞い降りたるは、呪竜の主 大天使
●
アックス&ウイザーズ『月面』
儀式魔術【Q】『世界を喰らう骸の月』
骸の月が満月喰らい尽くせし時、仮初めの侵略者が真の支配者となる。
それは、進化の徴、越えるべき轍。
――然れど。
「我が友よ、君の願いは叶わなかったな……」
何処となく泰然と、けれども深き嘆息を籠めて。
かの者、大天使ブラギエルは自らの起こせしその結末を見届け、友よ、と虚ろなる宇宙へと囁きかける。
「君は、『書架』へと帰るがよい」
それがこの大天使が、『友』に望める、唯一にして、無二なる願い。
然れども、彼は。
彼の地への侵攻企てしかの存在……我、大天使ブラギエルは。
「我は、天上界の扉を開く僅かな可能性を実行しよう」
――尤も。
「ヴァルギリオスさえ見逃し、あまつさえ封印された愚か者共が、今更地上の危機に扉を開く事もあるまいが……な」
虚空に向けてそう告げた大天使が月下へ下る。
――己が成すべき事を、成す為に。
●
「漸くこの時が来た、とでも言うべきなのでしょうか?」
グリモアベースの片隅で。
フィーナ・エメラルディア(フェアリーの精霊術士・f31642)が独りごちている。
その声が聞こえたのだろうか。
何時の間にか自らの回りに集まった猟兵達に気がつき、皆さん、とたおやかな微笑みを浮かべてみせた。
「アックス&ウイザーズの世界の1つに、ノウリッジと言う街がございます」
それは、叡智を意味する言葉。
その都市の名前からも分かる様にかの街は、知識を尊ぶ学者であり、聖職者でもある者達によって、構成されている。
故に一度、知識神エギュレの神官であるオブリビオンにその心を利用され、偽神の贄として選ばれた街でもある。
最もその事件は、猟兵達と知識神エギュレより神託を受けた聖騎士アランの活躍によって解決された。
だが……。
「そのノウリッジの街に大量の竜を率いて、大天使ブラギエルが襲撃するという事件が予知出来ました」
元々、知識神と其れに仕える龍達への信仰篤きその街だ。
大天使ブラギエルが侵略対象として選んでもおかしくはない。
「大天使ブラギエルの侵略の目的が大量殺人であるのだとすれば、当然止めるべき案件です。更に言えば、かの大天使ブラギエルとの決戦もその場で行う事になるでしょう」
無論、猟兵達の力だけで戦うのは厳しいという意見も存在するだろう。
しかも……。
「最初に押し寄せてくる竜達の群れには、ブラギエルの背の大天使の光輪によってそのユーベルコードの破壊力を遙かに強化されておりますからね」
ですが……と穏やかに微笑み小首を傾げるフィーナ。
「大丈夫です。ノウリッジの街の危機は、既に聖騎士アラン君にも伝わっています。彼もまたこの地に現れ、皆さんに協力して下さるのは間違いありません」
その竜達を殲滅すると、今度はブラギエルの腹心として、『絶対物質ブラキオン』と呼ばれる『未知の単一原子でできた鎧』に全身を覆った竜が姿を現す。
「ですが、よく観察すれば何処かに僅かな隙間が在る筈です。その僅かな隙間を狙って攻撃をすれば、その腹心である竜も倒せるでしょう」
それから愈々、大天使ブラギエルとの直接対決と相成るだろう。
猟兵達も強くなってきたとは言え、大天使ブラギエルはまだまだ格上。
故に、必ず先制でユーベルコードを使用してくる。
「此に皆さんがどう対応してから反撃を行なうのか……それが、大天使ブラギエルとの勝敗を決する鍵となります。……正直に言えば、1つ、1つの戦いをとっても、激戦が予想されます。ですが、きっと皆さんなら、解決できると私は信じています。ですから……」
――どうか、お気を付けて。
そのフィーナの祈りと共に。
猟兵達は、グリモアベースを後にした。
長野聖夜
――それは、天使と竜の闘争曲。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
アックス&ウイザーズ猟書家決戦シナリオ出ましたね。
今回は全3章構成です。
全てやや難となっておりますので、判定は其れなりに見ます。
このシナリオは、各章毎でプレイングボーナスが異なってきます。
各章プレイングボーナスは下記となります。
第1章のプレイングボーナス……援軍と共に戦う。
第2章のプレイングボーナス……鎧の隙間を狙う。
第3章のプレイングボーナス……先制攻撃に対抗する。
このシナリオでは、第2章で『アイテムを使う』と言うプレイングボーナスがありませんので、その点ご注意下さいませ。
ノウリッジの街の住民の避難ですが、この点は考えて頂かなくて問題ございません。
第1章で登場する聖騎士アランが、人々の避難誘導は請け負ってくれます。
聖騎士アランは、下記拙著登場のパラディンです。
シナリオ名:神信の心の先の破滅を止めて
URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=30968
第1章プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
プレイング受付期間:5月1日8:30~5月2日16:00頃迄。
リプレイ執筆期間:5月2日17:00頃~5月3日一杯迄。
変更などございましたら、タグ及びマスターページにてお知らせ致します。
――それでは、良き戦いを。
第1章 集団戦
『竜の群れ』
|
POW : 竜の爪
敵を【竜の爪】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
SPD : 竜の尾
【竜の尾】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
WIZ : 竜の吐息
【竜の吐息】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ユーフィ・バウム
アランさん、お久しぶりですね
人々の避難誘導、お願いしますッ!
共に戦いましょう!
前衛は、任せてくださいっ
武器で竜の群れに向かい、【なぎ払い】【衝撃波】を
叩きつける形で多くの竜を纏めて攻撃します
竜達が飛行し狙いにくいなら、
ディアボロスエンジンに風の【属性攻撃】を込め、
【空中浮遊】し追いつき
【鎧砕き】の攻撃を撃ち込み仕留めていきます
敵からの攻撃は【見切り】、
避けきれないものは自慢の【オーラ防御】で受け止めます
【激痛耐性】に加え【覚悟】があります!
こんなもので負けるものか!
距離を取ろうとする竜には
空中で【ダッシュ】して追いついて上を取り
闘気を込めた《トランスクラッシュ》での一撃
押し潰すように仕留めます
シル・ウィンディア
大天使…
でも、その前にやることやらないとね
…行くよっ!
避難はアランさんが頑張ってくれるなら
そっちに気が行かないように気を付けて
【空中機動】で飛んで【空中戦】で【残像】を生み出しつつ
【フェイント】を交えた機動で攪乱していくよ
攪乱しつつ腰部の精霊電磁砲の【誘導弾】で牽制攻撃
回避したら接近して光刃剣と精霊剣の二刀流で切り裂いていくよ
敵の攻撃は【第六感】で殺気を感じて【瞬間思考力】で判断
動きを【見切り】
上記攪乱機動で回避と致命箇所へは【オーラ防御】でカバー
多いなら…
【高速詠唱】で隙を減らして
放射状に撃つように気を付けて…
エレメンタル・ファランクスっ!
さぁ、一気に撃ち抜かせてもらうよっ!!
クロム・エルフェルト
連携可
数多の竜が空を舞う
絶望を表した様な光景
何故だろう、不思議と足は竦まない
アラン。ほんの少しの間だけ竜を引き付けてほしい。
それと、その盾で。竜めがけて、私を弾き飛ばして。
アランが攻撃を受け止める、その土煙に紛れる様に
「流水紫電」、最大励起
縮地(ダッシュ)で距離を詰め
アランの盾を踏み台に跳躍(ジャンプ)
竜の翼をUCで切断する
例え斬れなくても
緩慢の呪いはゆっくり浸透する
爪、尾、そして翼
空の覇者が地に墜ちるまでのカウントダウン
蟻の一穴の怖さ、教えてあげる
アランに盾役を任せ、鈍い攻撃を見計ってカウンター
地に確り足着け、竜鱗を鋳溶かせと刀身に焔を収束させ一閃
尾でも爪でも切断、どんどん相手の戦闘力を殺ぐ
ウィリアム・バークリー
ついにここまで来ました。オウガ・フォーミュラまであと一息。気を抜かず戦い抜きましょう。
グリフォンの『ビーク』に「騎乗」して「空中戦」です。
アランさんが住民を避難誘導しているのとは逆の方向へ、竜達を誘導しつつ。
空戦は速さが命。飛翔は『ビーク』に任せ、「全力魔法」「範囲攻撃」氷の「属性魔法」「高速詠唱」「串刺し」のIcicle Edgeで、竜達の身体を貫き凍らせます。
部位狙いするなら、やっぱり翼ですね。引き裂いて地上に落としてしまえば、脅威度は格段に減るはず。
反撃のブレスは『ビーク』に「見切り」回避を任せて、ぼくは攻撃に集中します。先手を取って、竜を大地に落としていきますよ。
容赦はしません。覚悟!
司・千尋
連携、アドリブ可
久し振りだな、アラン
元気そうで何よりだ
今回も協力して倒そうぜ
避難誘導はアランに任せる
攻撃手が足りているか敵に押され気味なら防御優先
無理なら敵の数を減らす事に注力
仲間の攻撃に合わせ確実に倒せるようにする
数の暴力が一番厄介だからな
攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
範囲内に敵が入ったら即発動
範囲外なら位置調整
近接・投擲等の武器も使い
早業や範囲攻撃、2回攻撃など手数で補う
敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
『子虚烏有』での迎撃や回避、防御する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
アランや住民への攻撃は最優先で防ぐ
霑国・永一
いやはや、凄い数だなぁ。一度フォーミュラや幹部級のドラゴンと戦ったことがあると言っても、強そうなものは強そうだ。貧弱な俺じゃあどこまでやれるやら
という事で数には数を。援軍にも任せつつ、俺の方も……っと(狂気の分身を発動)
さて、敵も多いからねぇ。遠慮なく行動可能範囲に数百人単位で呼び出して即竜たちに群がらせるよ。そして近付き次第即自爆してやるのさぁ。
『ハハハハッ!いつも以上に俺様達の使い捨てが激しいなァ!』『肉片祭りだな!俺様達と竜のなッ!』
ああ、援軍は巻き込まない方向で宜しく頼むねぇ
迷惑にならない様各個撃破で頼むよ。大丈夫、死んでもすぐ分身追加するからねぇ
さて、俺も銃で援護くらいはして回ろうか
神宮時・蒼
……ノウリッジの、街…。…なんだか、とても、久しぶりな、気が、します、ね
……アラン様は、お元気、でした、でしょうか
…兎角、今は、あの、竜の群れを、なんとか、しないと、いけません、ね
【WIZ】
…この街の、最初の、脅威も、ドラゴン、でした、ね
【見切り】で相手の口元をよく見て、攻撃は回避
回避出来ないほど範囲が広いのであれば【結界術】で対処
吐息の属性が判れば、【属性攻撃】を応用して結界に混ぜ込みます
【全力魔法】で【呪詛】を強化した無月残影ノ舞を放ちます
感覚―、痛みも、視覚も。
(息の音すらも、止まるのが、分からないのは、怖い、でしょう?)
街の被害が大きくなりそうならば【結界術】で被害を少しでも減らします
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
…とうとう動き出したか
大天使ブラキエルに天上界の扉は開かせない
破れかぶれで大量殺人を行うのなら、なおさらだ
竜の群れは空中から攻めてくるだろうな
【魂魄解放】発動後、翼や尾を狙った「援護射撃、衝撃波、吹き飛ばし」で竜たちのバランスを崩そう
もし援軍がいたら、同じように狙ってもらいたい
地上に降りる竜を見かけたら「地形の利用、ダッシュ」+高速移動で急行し、着地の瞬間「2回攻撃、怪力、鎧砕き」で翼や尾を斬り捨ててやる
尾等の攻撃は前兆を「視力、見切り」、「残像」も囮にして避ける
無理なら黒剣で「怪力、武器受け」し逸らすしかないが…
数で攻めて俺ら猟兵が退くとでも思ったか
道を開けろ!
文月・統哉
遂に出て来たな大天使
無差別大量虐殺とはまた穏やかじゃないが
それだけ追い詰めたという事
ならば迎え撃つのみ
アランに町の様子を確認
彼にオーラ防御を託す
俺達が刃なら、貴方は盾
貴方が居るから俺達も安心して戦える
町の人達の事、頼んだぜ!
仲間と連携して迎え撃つ
【衝撃波】で群れの連携崩し
ワイヤー使っての【空中戦】
素早い観察により情報収集
爪、尾、吐息、どれも厄介だが
尾を振るうには身体をしならせる必要がある
攻撃を見切るのは比較的容易い
ならば
ガジェットショータイムで蛇腹剣召喚
【残像】の【フェイント】で攻撃回避し
狙うは【カウンター】
蛇腹剣を尾に絡め
尾の勢い利用して【鎧砕き】【部位破壊】
体勢崩した所に【二回攻撃】で倒す
加賀・琴
アドリブ歓迎
大天使ブラギエル、アックス&ウイザーズ猟書家首魁ですか
漸く此処まで来た、というべきでしょうね
ならばこそ、今この戦いに全力を尽くしましょう
この街で大量殺人など行わせません
私達だけでは厳しいでしょうが、心強い仲間がいま此処にいます
なら、私はその手助けをするまで!
【神域結界・千本鳥居】で八百万の鳥居による邪悪を拒み惑わす結界を張ります
避難をしやすくし、そして竜の群れをバラバラに惑わすことで群れの連携を困難にさせます
なにより、結界内ではそう高く飛べると思わないことです
これで群れの各個撃破はしやすくなるはずです
私も弓矢を手に取って戦います、破魔の矢を射放ち味方を援護しますよ
●
(「……ノウリッジの、街……」)
竜達の大群が、空を覆い尽くす僅か前。
グリモアベースより転送されてきた10人の猟兵達の1人、神宮時・蒼がその赤と琥珀色の双眸を微かに眇め、街を見つめる。
「……なんだか、とても……」
「よう、何か黄昏れているな、蒼」
目を眇めている蒼のその隣に。
同様に姿を現した、司・千尋がややからかいを帯びて、片手を上げて挨拶をしてくるその様子を見て、蒼が、司様、と小さく呟く。
「いえ……凄く、久しぶりな、気が、しまして、ね……」
「ハハッ、そうか。久し振りか」
此処を千尋達が訪れたのは、凡そ4ヶ月前の程の事。
成程、全く久し振りと言う感慨を持てない程の時間が経っているわけではないが……。
(「何となくだが、こいつの場合、意味合いが違う気がするんだよなぁ……」)
そう……自分を只の『物』と断じたあの時とは、異なる気配。
その変化は、まるで『ヒト』の持つ『心』と言うモノをその身に灯として灯し始めているかの様。
と、そこに。
「皆さん……お久しぶりです」
蒼達の周りに漂う様に舞う、翡翠色の風……『旅の導き手』の風に誘われる様に。
朴訥そうな青年が姿を現した、丁度その時。
「アランさん、お久しぶりですね」
銀のツインテールをくゆらしつつ、おっとりとした口調でユーフィ・バウムが呼びかけると、アランは、微かに驚いた様に眉を動かした。
「あっ……ユーフィさん!?」
何故か戸惑う様な口調のアランの其れに、はい、ときっぱりと頷きつつ、軽く小首を傾げるユーフィ。
「どうかしましたか?」
「いえ……少し今、纏っている空気が違う様な、そんな気がして……」
何故かしどろもどろになって答えるアランに益々小首を傾げるユーフィ。
と、そこで。
「あ……あの、アラン様は、お元気、でした、でしょうか?」
微かに緊張を孕んだ様な、か細い声で。
その色彩異なる双眸を彷徨わせつつ、怖ず怖ずとアランに蒼が問いかける。
――ヒトに心を開かず、自分から自ら歩み寄るつもりなんて無い筈の、ヤドリガミの少女がだ。
そんな彼女の変化に気がついているのかどうかは、分からないけれども。
アランは蒼の方を振り向き、ああ、と穏やかに少女に笑いかけた。
「お陰様でね。貴女達の方は?」
「……多分、元気、だった、のだと、思い、ます……」
今にも消え入りそうな程にか細い声でポソポソと伝える蒼に千尋がやれやれ、と言う世に両肩を竦めた。
「何はともあれ、アランも元気そうで何よりだったぜ」
そう言って、和やかにウインクをアランに決めたのは、文月・統哉。
再会の時を得る事が出来た喜びを分かち合う様に、アランが微笑んでそうだね、と答えるその間に。
不意に、空が、凄まじい圧力と共に、巨大な影に覆われた。
その上空を覆い尽くす影……竜達が世界を覆い尽くそうとするその様を見て。
「……とうとう、動き出したのか」
「大天使……」
館野・敬輔が空を見上げて目を眇めるその隣で、シル・ウィンディアが竜達の更に奥から眩く光り輝く光輪を見つめ、ポツリと呻く。
4-Leafs Clover Ring……身も、心も、魂も捧げると誓った彼に送られた、『想い続けて下さい』と願うその指輪に、何かを祈る様に触れながら。
「ついに此処まで来たんですね」
何処か、万感の思いを込めながら。
ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、大地に向けて突きつけるは、ウィリアム・バークリー。
土色と白と若葉色の綯い交ぜになった中央にグリフォンの描かれた魔法陣が明滅し、眩い白光が魔法陣を包むその間にも。
「いやはや、凄い数だなぁ」
何処か間延びした、そんな口調で。
自らを『普通』と称する男……霑国・永一が、申し訳程度にオシャレっぽさを演出する感じで盗……買った銀の首飾りを弄りつつ呟く。
「一度フォーミュラや幹部級のドラゴンと戦った事があると言っても、強そうなものは強そうだ。貧弱な俺じゃあ、何処までやれることやら」
やれやれ、と言う様に息つく永一の姿を目の端に捕らえ、微かにその双眸を瞬かせたのは、蒼。
「霑国様、です、か?」
「おやおや。蒼か。来ていたんだね」
飄々と告げる永一に軽く小首を傾げる蒼。
数多の竜達が空を舞い、この街に降りてくる。
それはあまりにも絶望的な、そんな光景。
その筈なのに……。
「何故だろう、ね……」
永一の隣で、その狐耳をピクピクと動かしながら、クロム・エルフェルトが姿を現し、腰の刻祇刀・憑紅摸の濃口を切りながらポソリ、と言の葉を紡ぐ。
そよそよと緩やかに流れていく風に、龍紋緋袴を靡かせながら。
「不思議と、足が竦まないのは……」
そのまま千尋と蒼、そしてアランと言う名の聖騎士へと、その藍色の瞳をふわりと彷徨わせるクロム。
クロムの瞳は、続けて統哉や、シル、敬輔、ウィリアム、永一、そして……。
「私達は、漸く此処まで来たのですね。大天使ブラキエル……アックス&ウイザーズの猟書家首魁の、その喉元に」
その身に羽織る薄く透き通った天女の羽衣を翻し、和弓・蒼月を天に向けて掲げた加賀・琴の方に留まっていた。
羅刹の娘、琴も含めた9人の猟兵達を見回し、再びアランに乞い、願う様な表情を向けるクロムへと。
「……エルフェルト様」
蒼が、何かを願う様に茫洋とした赤と琥珀色の双眸で見つめ、言の葉を紡ぐその様子に。
(「ああ……そうか」)
と、クロムが妙に納得した様に小さく首肯する。
「……ん。私の剣が、ヒトを活かす為になるのなら」
濃口を切った、刻祇刀・憑紅摸の柄にそっと手を添えながら。
短く告げる妖狐の娘の其れに、コクリ、と小さく首肯を返すヤドリガミの少女。
その2人のやり取りを見ながら永一が軽く肩を竦めてみせた。
「それじゃあ、前衛はクロム達に任せて、俺はまあ、やれることだけはやるかねぇ」
永一の、その呟きに。
「そうですね。霑国さん……と言いましたか?」
ユーフィが軽く頷きながら問いかけるのに、軽く肩を竦める永一。
「まあ、呼び方はお好きにどうぞ」
「前衛が苦手でしたら、其方はわたし達に任せて、アランさんと一緒に人々の避難誘導と、援護をお願いしますっ!」
「そうだね! 前衛はわたし達の役割だねっ!」
好意を抱く彼女から貰った無限の勇気を溢れ出させるその実を一つまみしながら。
そう告げるユーフィに同意する様にハキハキとシルが答えるのに、ボリボリと軽く頭を掻く永一。
「まあ、そう言う事なら前は期待させて貰おうかね。俺は、元々貧弱だからねぇ」
飄々と呟き肩を竦める永一を一瞥し。
「……そろそろ来るぞ」
敬輔が全身から白い靄を漂わせる様に纏いながら、促す様に呟くのに。
「アラン。背中と、街の人達の避難は任せた。貴方が盾になってくれるから、俺達は、安心してこの街の人々の為の剣になれる」
アランに、瑠璃色を基調に黒猫の意匠が入った、万年筆型の小型望遠鏡……透を手渡しながらの統哉の呼びかけ。
同時に透が玻璃色の輝きを発し、アランの銀十字の細工の施された盾に、クロネコ刺繍入りの玻璃色の結界が展開されていく。
「統哉さん……」
自らに託された結界のその意味を諒解し。
確固たる決意と共に静かに頷くアランにニャハハ、と統哉が笑った。
「街の人達の事、頼んだぜ!」
その統哉の呼びかけに。
「ええ、任せて下さい……!」
そうきっぱりと告げたアランの其れに押される様に。
『グルァァァァァァァァァッ!』
咆哮をあげた竜達が、一斉にその口腔内にブレスを高め。
「……行くよっ!」
シルが其れに答える様に叫んで、白雪の靴『スノーブーツ』で大地を蹴って空中へと飛翔するのに……。
「行きますよ、ビーク、皆さん!」
呼び出した幻獣グリフォン『ビーク』の背に跨がったウィリアムが答え、其々の応えが戦場一帯に響き渡った。
●
(「竜達は超々高空の高見から、私達を見下ろしていますね……」)
クロネコワイヤーの先端の猫の爪を建造物に引っ掛け宙を舞う統哉や、『ビーク』に騎乗して空へと舞い上がるウィリアム。
精霊布のマントに孕んだ風の精霊達の力を借り、空中を舞う様に飛ぶシルと、ディアボロスエンジンを噴射させて空に昇るユーフィ。
そのシル達を守る様に周囲に無数の鳥威を張り巡らす千尋と、白き靄達を赤黒く光り輝く黒剣へと集中させる敬輔。
「……兎角、今は、あの、竜の、群れを、なんとか、しないと、いけません、ね」
竜達のブレスの属性を、茫洋とした赤と琥珀色の双眸を空中に彷徨わせながら見極めようとする蒼の呟きに、琴が同意の頷きを一つ。
「……アラン。その盾で、竜目掛けて、私を弾き飛ばせる様にしておいて」
琴と蒼の目配せの間に、その狐の尾を左右に振りながら、人々の避難に従事していたアランに囁きかける様に呟くクロム。
アランはそれには何も言わず、ただ、静かに分かりました、と首肯した。
――何故とは、問わぬ。
――如何して、とも思わぬ。
それは、クロム達猟兵への信頼故に。
「さぁて、と。数には数をって奴かねぇ、これは……」
永一が掛けてるだけで知的に見える叡智の結晶ともいうべき眼鏡を引き上げるその様子に、敬輔が力を溜めながら、怪訝な表情になった。
「……何を企んでいる?」
「へっ? いやいや、俺は何も企んでいないよ? まあ、この眼鏡じゃぁ、疑われるのも仕方ないか」
敬輔の呟きに飄々と永一が答えるその間に。
「この街で大量殺人などを行なわせるわけには参りません。ならば、私は、私に出来ることを行う迄です!」
その叫びと、共に。
琴が、不可思議な紋様……土蜘蛛の吐き出す無限の蜘蛛の糸を思わせる、呪にして、神聖なるそれを描き出した。
空中に浮かび上がった魔法陣の中央に見えるのは、無限に連なる様にも思える、八百万の鳥居。
腰から影打露峰を抜刀し、その法陣の中央の鳥居に突きつけ、叫んだ。
『此より先は穢れたる邪悪は立ち入れぬ神域、この境界たる結界で、惑い続けなさい!』
その叫びと共に。
空中全体を覆い尽くす様に、口腔内にブレスを溜めていた竜達の群れをバラバラに惑わす神域の結界が現れ、戦場を覆い尽くしていく。
「今です、霑国さん、館野さん!」
突然に生み出された邪悪を惑わす結界たる八百万の鳥居の出現に、混乱を来す竜達の姿を見てすかさず指示を出す琴。
「さて、それじゃあ遠慮なくやらせて貰おうかねぇ」
かしゃり、と軽く眼鏡を引き上げた永一が数百人単位の『戦闘狂』人格の自分を呼び出し、混乱する竜達に向けて突っ込ませ。
「……斬るっ!」
敬輔が黒剣に収束させた白き靄……『彼女』達の力を解放、横薙ぎに振るい空間を断ち、無数の三日月型の斬撃の衝撃波を解放した。
無数の永一の戦闘狂人格達の分身が、混乱する竜達に叩き付けられ、大轟音と共に、琴によって連携を阻害された竜達に衝突し。
敬輔の斬撃の衝撃波が、空中へと浮かび上がったシル達を援護するべく竜達の翼や尾を切り払い、その体を傾がせる。
『ハハハハハッ! いつも以上に俺様達の使い捨てが激しいなァ!』
竜達に群がり次々に自爆していく永一の戦闘狂人格達の嘲笑を涼しい顔をして聞き流す永一。
「ああ、他の皆は巻き込まない方向で、宜しく頼むねぇ」
のほほんとした表情で呟く永一の応えに答える様に。
『肉片祭だなぁ! 俺様達と竜のナァッ!』
永一の戦闘狂人格達が狂笑を上げながら次々に自爆し、天空に爆発の花を咲かせ続けるその様子を見て。
「……アラン。今だよ」
クロムが小さく告げながら、アランの盾にその足を付ける。
その足元に、紫電と蒼い粒子を最大励起して、纏わせながら。
「エルフェルト様……」
蒼が、彼岸の如く蒼の周囲を舞う、憂いを秘めし幽霊花たる幽世蝶を天に舞わせ、鱗粉を撒き散らし、白き結界を空中に編み出し。
「皆を、頼みます!」
勢いよくシールドバッシュの要領で、クロムの足を押し出す様に突き上げるアランの願いを聞きながら。
「……ん。分かったよ」
アランに押し出される様に、クロムが爆発の花に紛れて、空中へと飛び上がる。
「……バウム様、文月様……」
あの時。
ボクが、ボクの名前を失った時、ボクがボクである事を教えてくれた、ユーフィ達や、この街の人々の為に。
(「まだ、ボクに、出来る、事は、あります、から……」)
――だから、ボクは。
蒼は、宵に咲く優美なる白き花……不思議な色彩の光虚ろう嘆きの刃を抱く茉莉花の名を関する鎌を構え、呪を紡ぐ。
『……此の、嘆きは、泡沫の、如く……』
――あるユーベルコードを発動させる、その呪詛を。
●
琴の生み出した、八百万の無数の鳥居。
其れは邪悪なる者を拒み、惑わす神域結界。
その神域結界に大天使ブラキエルの光輪を遮られる様な形と化して、急激に高度を落としていく竜の群れ。
その八百万の鳥居により、群れが幾重にも分割され、動揺を隠せぬ竜達に向け、着弾する度に爆発する永一の分裂する別人格。
更に敬輔が生み出した斬撃の衝撃波に巻き込まれた数体の竜達の欠ける竜翼や、その尾、鉤爪。
それでも尚、翼を羽ばたかせ、自らの爪で応じようとする竜達の攻撃。
その攻撃に対抗して。
「あなた達の好きになんて、させませんっ!」
部族に伝わる創世の大剣を叩き直した大斧にして鎌たるディアボロスに取り付けたエンジンを加速させ、大気を切り裂くユーフィ。
蒼穹纏いしオーラが衝撃波と化して敬輔達によって手傷を負った竜達に強烈な痛打を与え、竜達の体が陥没する。
そこに……。
「皆の避難を請け負ってくれる、アランさんの所に何て絶対に行かせないんだからっ!」
シルが、精霊布のマントに風を孕んで舞う様に飛び回りながら、見た目、短い銀のロッドにしか見えないそれを左手に握りしめ。
更に、地水火風光闇の六大精霊達の力を纏った精霊剣・六源和導を右手に構え、ユーフィの一撃によろける竜達へと刃を振るう。
精霊剣・六源和導による唐竹割りの一撃を竜がその爪で受け止めた、その瞬間。
――ブォン!
シルの左手の短い銀のロッドに過ぎなかったその柄の先端から光刃が現出し、それが横薙ぎに振り下ろされ、竜の胸甲を断ち切る。
ユーフィの一撃に身を捩らせていた竜はその刃を胸に諸に受け、ぱっ、と青い血飛沫を宙に舞わせた。
その返り血を風の精霊達に願いでて受け流しながら、更に踏み込み、シルが精霊剣を袈裟に振るう。
振り下ろされたその刃が、竜の肩から脇腹に掛けてを袈裟に切り捨て、悲鳴と共に墜落しながら最後のあがきとばかりにブレスを吐き出そうとするが……。
「させるかよ」
地上の千尋が用意した無数の鳥威がブレスを受け止め、その間隙をついて、竜の死角からクロネコワイヤーが竜の首を絡め取った。
「遅いっ!」
そのままクロネコワイヤーを巻き取る様に肉薄しその首に懐中時計型のマジックガジェット……暁を使用して作った一本の邪腹剣を抜き、その首を刺し貫く統哉。
止めを刺した竜からクロネコワイヤーを外し、今度はそのワイヤーを、此方へと肉薄し、尾を振るおうとしてくる竜に向けて射出する。
「アラン達の所に、お前達を一匹たりとも行かせはしないぜっ!」
黒ニャンコ携帯で情報を収集しながらの統哉の叫びにおおっ! と目をキラキラと輝かせるシル。
「やるねっ! よーし、わたしも負けられないぞーっ!」
気合いを入れながら、直感的にふわりとバク転の要領で自らの下方から迫ってきていた竜の鉤爪を躱すシル。
そうしながら、腰の精霊電磁砲『エレメンタル・レールキャノン』の砲塔を統哉がワイヤーを絡めた竜に向け、誘導弾を発射。
大地と水平の儘だった『エレメンタル・レールキャノン』から放たれた魔力砲弾が、統哉を振り落とそうとした竜の頭部に命中し、その殺意をシルへと向けさせる。
『グルルルルルルルッ……!』
殺意と敵意を剥き出しにしてその鉤爪を振り下ろそうとする、竜の真上から……。
「させませんよっ……ええいっ!」
ディアボロスエンジンを加速させて更なる高みへと上がっていたユーフィが、雲を蹴る様に滑空し、ディアボロスを竜の胸に叩きつけた。
胸から全身に掛けて罅が入っていくその竜を、和弓・蒼月に持ち替えた琴の破魔の矢が貫き、哀れなる竜は息絶える。
「こっちですよ、こっち! 『ビーク!』」
琴の八百万の鳥居による敵戦力の分断により。
小規模の隊と化した竜達の中央を掻き乱す様に『ビーク』の手綱を握りながら、『スプラッシュ』の先端で魔法陣を描きながらの、ウィリアムの挑発。
竜達の一部がそんなウィリアムを焼き払うべく口腔内に溜めていたブレスを吐き出し、ウィリアムの詠唱を妨げようとする。
(「これは……まずいですか?」)
戦線を攪乱し、各個撃破を目指したが故か。
纏めて一網打尽にするべく準備を整えていたウィリアムよりも一歩早く、竜達の何体かがブレスを吐き出そうとする。
(「くっ……間に合わないかっ?!」)
『ビーク』、とウィリアムが回避を促そうとした、その瞬間。
『ハハハハハッ! 燃えろ! 燃えろ! 焼き尽くされちまぇぇぇぇぇぇっ!』
狂笑と共に無数の永一の人格達が突進して、爆発の花を咲かせて竜達の動きを縫い止め、そして。
「……遅いね」
紫電と、蒼い粒子を足元に纏った妖狐の影が肉薄し、濃口を切った刻祇刀・憑紅を一閃。
「神速剣閃、弐ノ太刀――」
目にも留まらぬ速さで振るわれた刻祇刀・憑紅に籠められた其れが、ウィリアムを狙った竜の翼を……。
「――斬り飛ばす」
そうして翼をもがれた竜の身が呪詛に蝕まれ、焔に焼き尽くされていく。
鱗を焼き尽くされ、大地へと落下していく竜を足蹴にして、縮地の要領でウィリアムの『ビーク』の背に降り立つクロム。
ふさふさの狐の尻尾が擽る様にウィリアムの背中に触れ、ウィリアムは思わずビクリ、と肩を竦めた。
「クロムさんでしたか? ありがとうございます」
そのウィリアムの礼の言の葉を。
「お礼は良いよ。それよりもキミ」
軽く受け流しつつ、一度納刀、次の竜の群れに備えるクロム。
ただ、ピン、と立っている狐耳と、微かに赤らんだ頬が、その胸に収められた緊張と、気恥ずかしさの様な何かを如実に現している。
そんなクロムの胸中の想いにウィリアムが内心で微苦笑を浮かべながら。
「ええ……行きますっ! Icicle……Edge!」
叫びと共に、完成させていた白と若緑色と青の三色に瞬く魔法陣の中央に『スプラッシュ』を突き出すと。
475本の大気中の水分を氷の精霊達によって凝結させた氷柱の槍が撃ち出された。
それは『ビーク』に引き摺られる様にして、纏めてウィリアムとクロムに肉薄していた竜達の体を次々に串刺しにしていく。
「全身串刺しになって、凍てつき大地に落ちて下さい!」
落下する竜達の死体の流れに逆らいウィリアムとクロムの死角から上昇してきた竜達が『ビーク』へと尾を振るおうとするが。
「好きにさせるかよ!」
その竜達に向けて、敬輔が斬撃の衝撃波を叩き付け竜達の尾を叩き斬り、更にその内の1体の顎を一発の大地から放たれた銃弾が撃ち抜いている。
「まあ、俺も一応、援護くらいはさせて貰うよ」
トカレフ状の都合よくUDC関連の記憶だけを消去するという謎技術に溢れた光線の出る銃を実弾に切り替えた永一の、飄々とした呟き。
実弾に撃たれて墜落した竜が不運にもアランが誘導している人々の一部に向かって落下していきそうになるが……。
『……導くは、黄泉への、路』
小さく呪を紡ぎ続ける蒼の掌から飛び立った幽世蝶が零した彼岸の如き、緋の結界がそんな竜を絡め取り、空中で静止させ。
「消え失せな」
それまで鳥威による守勢を重視していた千尋が、不意に右手を上げて叫ぶと同時に、その掌から970本の光剣を撃ち出す。
10本の光剣が、蒼の結界術に絡め取られて空中で静止した竜達に突き刺さり消滅。
ウィリアムの氷柱の槍に貫かれた数十体の竜達が同様の目に遭い、大地を踏む事無く存在を消失させてった。
残った数百本の光剣は、複雑な幾何学紋様の描き出された剣の平を明滅させながら別の群れへと肉薄。
それは、下方からユーフィやシルを狙っていた、琴の鳥居に混乱しながらも、尚、秩序だった連携を行おうとした竜達の群れ。
その竜達を包囲する様に琴の鳥居を潜り抜けて光剣が現れ竜達を貫き、瞬く間にその体を否定し、消滅させていく。
その裏で時折ユーベルコードを使って自ら囮になりつつ、沈着冷静に人々をきびきびと避難させていくアラン。
アランが目指させているのは、この街の象徴とも言える教会。
嘗て、異端審問官によって利用された場所ではあるが、そう言った不確定要素がなければ、最も安全な場所だと言える。
「悪ぃが、アランや人々をお前等に大量虐殺させるわけにも行かないんでね」
やれやれ、と言う様に軽く肩を竦める千尋。
皮肉げに肩を竦める千尋を眼下にして、『ビーク』の背に跨がっていたクロムが無意識にポツリと言の葉を漏らす。
「……キミ達は、強いんだね」
「えっ?」
クロムの独り言にウィリアムが、意味が分からない、と言う様に目を瞬かせると。
ウィリアムの疑問を感じ取ったか、クロムの狐尾が、何処か所在なさげに揺れた。
「ヒトを守る想い。それがキミ達はとても強い」
(「私の剣が、ヒトを活かす為になるならば」)
この命、惜しくなど無い、と胸を張って言う事が、自分には出来るのだろうか。
今も鳥威を展開して、ユーフィ達を守る千尋。
その千尋とアラン達に背を預け、竜達の尾を残像で潜り抜け、蛇腹剣で斬り捨てる統哉や、互いに背中を預けて戦うシルとユーフィ。
そして白い靄達を纏って、ヒトとは思えぬ高速移動で統哉達を突破して着地した竜を叩き斬る敬輔という青年の様に。
それは、人形の様であった顔見知り……今、正に最後の呪を唱えきろうとしている蒼にも言えることだけれども。
束の間の沈黙を置き、考え込む様な表情になりながら、『ビーク』を操り次の戦線を求めて飛翔するウィリアムが呟く。
「クロムさん。ぼくは、貴女のことをよく知りません」
「……そうだね」
呟くウィリアムにクロムが無言で同意する。
そのクロムの同意を背で感じ取りながら、でも……とウィリアムが小さく続けた。
「ヒトを守る為に、自分の剣を活かしたい。そう願える事それ自体が、クロムさんの強さなのではないでしょうか?」
呟きながら、『ビーク』を次の竜達の群れに突っ込ませるウィリアム。
飛翔する『ビーク』に吹き付ける強風に身を晒し、霊威羽織の表地『方喰』の紋を靡かせつつ、クロムがそうかも知れないね、と小さく首肯した、その瞬間。
『……蝕め、身を窶せ』
蒼が詠唱を完成させ、宵に咲く茉莉花の白き大鎌で、空中に弧を描いた。
弧で描かれたその魔法陣と、蒼の呪に導かれる様に。
蒼の上着とスカートを靡かせる強風と共に、宵に咲く、白き茉莉花の花弁が舞い上がり……竜達の群れへと襲いかかった。
●
「この茉莉花の花……蒼か!」
茉莉花の花弁の嵐が竜達に纏わり付き、その体を徐々に、徐々に腐食させていくその様子を見ながら、統哉が呟く。
翼を、足を、鉤爪を、口を次々に腐食させられていく竜達に、これ幸いとばかりに、下方から琴が矢を射かけ、千尋が光剣を連射。
琴が放った破魔の矢が蒼に腐食させられた竜達を射貫き、そのまま頽れる竜達に千尋の光剣が突き刺さり、次々に消失させていく。
「でも……まだまだいるみたいだね~!」
風の精霊達と共に空を泳いで攪乱を続けていたシルが、呟きながら自らの下を通り過ぎようとした竜に精霊剣を突き出す。
精霊剣を頭上から突き立たてられた竜は、今、此方に背を向けているユーフィに向かって突進しようとしていた。
そのまま、シルが精霊剣から地・水・火・風・光・闇の精霊達の力を体内に炸裂させて竜を破裂させる。
その音を聞いて目前の竜の頭をディアボロスでかち割ったユーフィがあっ! と思わず声を上げた。
「シルさんっ! ありがとうございます!」
「えへへっ。この位へっちゃら、へっちゃら! でも……まだあれだけの竜達がいるんだよねぇ~」
ちょっと疲れを見せ始めたか、軽く溜息を吐きながら、腰部の『エレメンタル・レールキャノン』を跳ね上げて牽制射撃を放つシル。
シルの牽制射撃に、咄嗟に距離を取って、その口腔内にブレスを溜める竜に向かって、ユーフィがディアボロスエンジンを逆噴射させて大加速する。
「って、ユーフィさんっ!?」
「今度はわたしの番……めいっぱい、叩き込みます!」
全身を抗魔から放たれる蒼穹のオーラで覆い竜達から吐き出されるブレスを受け流しながら、肉薄するユーフィ。
吐き出された炎のブレスが、距離が大きく開きその効果が減じられた千尋の鳥威を焼き払うが……。
「バウム様……行って……下さい……!」
宵に咲く茉莉花から生み出した魔法陣で花弁の嵐を操作しながら、ふう、と自らの幽世蝶に息を吹きかける蒼。
それに呼応した緋の憂い抱く彼岸の蝶の鱗粉が、緋色の光を再展開された千尋の鳥威に織り交ぜられ竜の吐息に対抗属性を付与。
「はいっ……! 行きますっ!」
対抗属性による援護を受けたユーフィが、思い切りよく叫び、抗魔の防御に使用されていた蒼穹のオーラを攻勢防壁へと変化させ。
その全身に漲る勇気と、蒼穹の闘気を、肉感的な自らのボディに覆い尽くさせて強烈なボディアタックを叩き込んだ。
全身凶器と化したユーフィの体当たりを腹部にまともに受けた竜が口から吐瀉物を撒き散らしながら墜落していく。
「……消えろ!」
そこで敬輔が『少女』達の白い靄を巨大な槍の穂先の様な衝撃波に変えて放ち、下方からその竜を串刺しにし。
「統哉!」
「ああっ!」
統哉が、敬輔の刺突の衝撃波で空中に縫い止められた竜へとクロネコワイヤーを射出して其れを巻き取りユーフィに合流。
勢い余って態勢を崩しそうになっているユーフィの手を取り、自らの傍へと引き寄せた所に、まだ無限にも等しく残っている竜達の尾が迫る。
『ハハハハハッ! どんだけ俺様達の使い捨てが激しいんだかァ!』
其処に突進していくのは、永一の狂気を孕んだ第二人格。
飛び上がり次々にぶつかり自爆し、その動きを阻害する戦闘用人格に礼を述べつつ、生き残りの竜に統哉が蛇腹剣を伸長させた。
伸長した蛇腹剣がその尾に食い込むや否や、残像を曳いて蛇腹剣を戻して肉薄する統哉。
そのまま目にも留まらぬ速さで、左手で咄嗟に『宵』の大鎌を抜いてその脳漿を砕きながら後方のシルに向かって叫ぶ。
「シル! 君なら纏めて彼等を薙ぎ払う手段があるんじゃ無いのか?」
その統哉の呼びかけに。
シルがはっ、と心づいた表情になって、ユーフィにアイコンタクト。
そのアイコンタクトに、ユーフィが微笑んで力強く頷いた。
「大丈夫ですっ! わたしと統哉さんが、前は守り抜きますからっ!」
「うんっ! 分かったよ! ありがとう、ユーフィさんっ!」
力強いユーフィの叫びに明るくハキハキと頷きを返して。
シルが一度全身から力を抜き、動たる軽やかな舞から、静たる対空状態へと体の動きを切り替える。
そして、自らの全身を覆う様に纏われていた精霊達に静かに呼びかける様に、その防御を解除して。
それから光刃剣『エレメンティア』の柄に、精霊剣・六源和導を接合し、ツインブレードへと変化させ。
『闇夜を照らす炎よ、命育む水よ……』
精神集中と、高速詠唱を伴いながら。
光刃剣と精霊剣のツインブレードを大地に水平に構え、呪文を朗々と唱え始めた。
●
(「……この、気配……」)
精霊達の気配の変化を感じ取ったか。
それまで宵に咲く茉莉花で編み出した魔法陣から花弁の嵐を舞わせていた蒼が、茫洋とした双眸を微かに眇める。
「如何しましたか? 神宮時さん」
和弓・蒼月で下から援護を続けていた琴が蒼の雰囲気の変化に気がつき、さりげなく問いかけた。
自らの目が、無意識に統哉の召喚した蛇腹剣を追っているのを自覚しながら。
「……精霊達を、使う、の、です、ね。……ウィンディア様」
ポツリと言の葉を紡ぐ蒼の様子に、今度は左腕の周囲に970本の光剣を召喚していた千尋が成程、と頷く。
「って事は、そろそろ前哨戦のクライマックスって所か?」
飄々と肩を竦めて呟く千尋の言の葉に。
「……その様だな」
下方から衝撃波による援護射撃を続けていた敬輔が同意する様に首肯する。
統哉とユーフィは、シルの所へと敵を向かわせまいとして、懸命に竜達の群れと正面から衝突していた。
「……流石にあそこに投げ込むと皆を巻き込んじゃいそうだなぁ。そうなると迷惑になっちゃうよねぇ。さて、どうしようかねぇ?」
愉快そうに意味ありげな笑みを浮かべて呟く永一に、敬輔が其方を伺うと。
永一の眼鏡の奥の金の眼光が、愉快そうに笑っていた。
と、此処で。
「……あっちもクライマックスか? なら、あっちの援護をしてやった方が良いんじゃないか?」
同じく愉快そうに軽く鼻を鳴らした千尋が指を差した先にいたのは、『ビーク』に騎乗したウィリアムと、クロム。
ウィリアムは高速で詠唱を連発し、氷柱の槍で竜達を射貫き、クロムはその竜達を踏み台にして軽々と次の竜に向かう鮮やかな縮地を実現していた。
「そうですね。では、司さん、力を貸して貰えますか?」
琴のその呼びかけに、了解、と皮肉げに肩を竦める千尋。
そのままウィリアム達の真下へと移動していく千尋と天女の羽衣によって飛翔する琴を見送り、永一がそれで、と愉快そうに笑う。
「俺達は如何するの? あっ、因みに俺はダメだよ、軟弱だから精々援護射撃くらいしか出来ないからね?」
冗談めかした永一の言の葉に。
「……そろそろ、効いて、来る、筈、です、が」
宵に咲く茉莉花から呪詛を纏った花弁を放出し続けていた蒼が独り言の様に呟く其れに敬輔が思わず、と言った様に眉を顰めた。
「何が効いてくるんだ、蒼?」
と、敬輔が問うと。
「感覚――、痛みも、視覚も、そして……」
(「息の根すらも、止まるのが、分からない、毒が、竜達に、回る、その時が、です」)
最後の其れは、口の端にこそ乗せなかったけれども。
それでもちょっと得意そうに頬を上気させる蒼のそれに、何となくこの先の未来を感じ取り、敬輔が無意識に掌を額に当てて溜息をつく。
(「オブリビオンが滅びる事には、何の呵責も遠慮もないが」)
――女性って、少し、怖い。
……と。
そんな、敬輔の思いを慰める様に。
『彼女』達がさざめく様に笑って敬輔の心に同調し、彼の気分を払拭させた。
●
「Icicle Edge Full Burst!」
『ビーク』の背に跨がる、ウィリアムの、その叫び。
それに応じる様に『スプラッシュ』で描き出されていた魔法陣が幾つかの魔法陣に小刻みに分裂してウィリアムの全方位に展開。
そこから幾度目かの475本の氷柱の槍が吐き出された。
「クロムさん!」
その氷柱の槍が竜達に突き立つその前にウィリアムが叫ぶと。
クロムが『ビーク』から氷柱の槍の上に飛び乗り、其処を足場にして、流水紫電の歩法で、器用に竜に肉薄する。
紫電を帯びた氷柱の槍が天から降り注ぐ裁きの雷と化して竜を貫き、貫かれた竜の胸板を蹴って、自らの側面から迫っていた竜の爪を躱しながら。
「――斬」
逆さ吊りの様な態勢になったクロムが、納刀していた刻祇刀・憑紅摸を抜刀し、縦一文字に一閃。
(「竜鱗を鋳溶かせ、伽藍呑みし刧火」)
それは、巨大な聖堂をも焼却する程の呪いの刧火。
刻祇刀に封じられたその焔が解放され、機動力を削ぐ呪詛と共にその身を斬りさき、竜達を次々に焼き尽くしていく。
尾も、爪も、牙も、そして口腔も。
何もかもを斬り、焼き尽くす焔振るう妖狐は、一方で微かな不信を感じていた。
(「……脆くなってきている?」)
そう、それはまるで呪詛の様な……。
と、此処で。
はた、とある事に気がつき、クロムはそうか、と下方で祈り捧げる蒼を思い出す。
(「あの茉莉花の呪詛……そうか、キミの力か」)
なればこれは、必然。
最早、敗走する理由はない。
そう思った昂揚から、思わず頬を紅潮させ、狐尾と耳を揺らすクロムに向けて。
『グル……グルルルルルルッ!』
自らが帯びた呪詛により、体が朽ち果てているにも関わらず、尚もクロムの背後から自らの爪を振り下ろそうとする竜。
――と、その時。
「後ろからとは、好きにはさせませんよっ!」
天女の羽衣を翻し。
クロムと竜の間に割って入る様に現れた琴が、懐から抜刀した影打露峰でその爪を受け止め。
「……遅い」
背に現れた琴の気配を、狐尾を通して感じたクロムが、背を向けたまま刻祇刀・憑紅摸を突き出し、背後の竜の目を貫く。
瞳孔を貫いた刃は脳にまで達し、哀れ竜が地に墜落する間に、再び用意された千尋の光剣が突き刺さり、その竜を消滅させた。
「おい、ウィリアム。そろそろ決着を付けてやれ」
やれやれ、と言う様に肩を竦めた千尋が呟きながら、2体の人形……宵と暁を呼び出し、竜達を切り裂き、或いは打ち据え。
「そうですね……お願いします、ウィリアムさん」
琴が小さく囁きかけて、まるで何かを命ずるかの様にその手を挙げる。
其れとほぼ同時に、この場に残されていた竜達を追い込む様に、無数の八百万の鳥居が四方八方に展開され、彼等を一箇所に閉じ込めていった。
「……キミ」
その八百万の鳥居を足場にクロムが納刀し、何かに備えて身を屈め、その足に紫電と水属性の蒼き粒子を纏わせたその刹那。
「はい……此で終わりです! Icicle Edge Over Drive!」
ウィリアムの鋭い叫びと共に。
全方位に展開されていた魔法陣がウィリアムの真正面に集結。
475本の氷柱の槍を吐き出した。
それに紫電と蒼い粒子を纏った歩法で飛び乗ったクロムが氷柱の槍と共に肉薄、納刀した刻祇刀・憑紅摸に魔力を籠めながら、跳ぶ。
紫電と水属性の蒼い粒子で加速したウィリアムの氷柱の槍が、琴の八百万の鳥居に包囲された竜達を貫く。
蒼の呪詛にその身を汚染され、何も感じなくなっていた竜達は、生死を問わず、その身を紫電と氷の檻の中に閉じ込められ。
――そして。
「――閃」
静かな、クロムの呟きと共に。
収束された焔を纏った横一文字の一閃が踊り狂う様に氷と紫電の棺の中の竜達に襲いかかった。
それに竜達は、声を上げることも出来ず。
或いは痛みも、何も感じることすら出来ぬままに、伽藍呑む刧火に飲み込まれ。
灰一つ残らぬ程に焼き尽くされ、永久の眠りに落ちていったのであった。
●
――丁度、その頃。
『悠久を舞う風よ、母なる大地よ……』
光刃剣と精霊剣のツインブレードを自らの胸前に掲げたシルの呪が、まるで歌の様に朗々と紡がれていく。
光刃剣と精霊剣のツインブレードを基点として描き出されたその魔法陣が、赤・青・緑・黄と、色を変えながら明滅を開始。
同時にこの周囲に存在する4大精霊……火・水・風・土の精霊達が急激にその魔法陣目掛けて殺到していくのを、竜達は感じ取り。
「グルルアアアアアアッ!」
何かを恐れるかの様にその口腔内からシルに向けてブレスを吐き出そうとするが。
「足元がお留守なんだよ」
敬輔の口から少女の様な声が漏れ、同時に、その黒剣に纏われた白い靄が巨大な横薙ぎの衝撃波として、竜達の足を切り裂いていく。
その一撃は、易々とその足から脳までを切り裂き、自分達が真っ二つになった自覚もないままに、竜達が風化して、崩れ落ちていく。
「……効いて、います、ね」
地面からその様子を見上げた蒼の呟きに、空中を額に手を当て覗き込んでいた永一が、やれやれと軽く頭を横に振った。
「本当だねぇ~。まあ、死んでも直ぐ追加できる分身って言ったって、流石に此処で自爆させる訳にも行かなかったからねぇ……くわばら、くわばら」
わざとらしくお祈りの言葉を呟く永一に、アランが軽く米神を解しつつ、朽ち果てていく竜達の光景を透を通して見つめていた。
と、その時。
未だ呪詛の回りきっていない竜が、最後のあがきとばかりにその尾を横薙ぎに振るいながら、爪を、ユーフィに振り上げた。
その爪がユーフィを襲い、続けざまに振るわれた尾が、ユーフィと統哉を纏めて薙ぎ払おうとする。
「こんなもので……負けるものか!」
アランと街の人々を守る為にクロネコ刺繍入り玻璃色の結界を張り巡らす為の透を授けた統哉を守るように、立ち塞がるユーフィ。
爪による一撃をディアボロスに集中させた蒼穹のオーラの結界で打ち防ぎ。
続けざまの尾による薙ぎ払いは、無限の勇気と闘気で練り上げた攻勢防壁で受け止め、体当たりで押し返そうとする。
その間にも後方の竜達がシルに向けてブレスを吐き散らそうとした、正にその時。
「ええええええいっ!」
膂力の全てを使い切る覚悟で竜達の尾を弾き飛ばすボディアタックを繰り出したユーフィが叫んだ。
「統哉さんっ!」
「ああ……シルは、絶対にやらせないぜ!」
誓いと共にユーフィの影から飛び出した統哉が、後方の竜達の内の一体の口腔へと蛇腹剣を、そしてもう一体にクロネコワイヤーを射出する。
クロネコワイヤーで口をグルグルと縛り上げ、更に蛇腹剣でその腹部を貫き、竜達の動きを一瞬食い止めた統哉。
それでも、勢いの止まらない竜達がブレスを吐き出そうとするが……蒼の呪詛によってその動きを鈍らせていた竜達では……。
『……我が手に集いて――』
腰の精霊電磁砲『エレメンタル・レールキャノン』の砲塔を跳ね上げ、その魔法陣達に向けた、シルの詠唱速度には……。
『――全てを撃ち抜きし、光となれっ!!』
――間に合わない。
跳ね上げられた『エレメンタル・レールキャノン』の両砲塔から、2発の精霊弾が撃ち出され……。
その弾丸が魔法陣を潜り抜け、赤→青→緑→黄色と……煌びやかな光を纏いながら、放射状の光線へと分裂し。
「エレメンタル・ファランクスっ! いっけぇぇぇぇぇー!!!!!!」
解き放たれた。
レールガンから撃ち出された弾丸は全てを焼き尽くす極光のレーザーと化して、全方位に向かって広がっていく。
「統哉! ユーフィ!」
敬輔が叫びながら斬撃の衝撃波を撃ちだし、統哉とユーフィに迫るボロボロの竜達を横合いから切り裂いていく。
同時に超絶的なエネルギーの塊がユーフィ達の後方から飛んだ。
それを感じ取ったユーフィがディアボロスエンジンを竜達に向けて噴射させながら、統哉へと手を差し出す。
「統哉さんっ!」
「分かった!」
竜達を縛っていた蛇腹剣を放り出し、差し出されたユーフィの手を掴み取る統哉。
その瞬間、逆噴射させたディアボロスエンジンで一気に地上に向かって加速するユーフィ。
そんなユーフィと統哉の頭上を、シルの撃ち出した四大精霊達の力の籠った魔力砲弾が通り過ぎていく。
竜達もまた、莫大な精霊力を持った其れに気がつき、その翼を広げて逃げようとするが……。
――その翼は、動かない。
(「何故っ……?!」)
脳裏に、一瞬でもその疑問を浮かべられた竜は幸運だったであろう。
放たれたシルの魔力砲撃に痛みを感じる暇すらなく、欠片一つ残さず消失することが出来たのだから。
――かくて。
大天使に率いられし竜の群れとの戦いは、シル達の完全勝利に終わったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『呪骨竜アンフェール』
|
POW : ソウルプリズナー
【魂を囚われた勇者】の霊を召喚する。これは【武器】や【魔法】で攻撃する能力を持つ。
SPD : イーヴィルアイ
【魔眼から放たれる怪光線】が命中した対象を爆破し、更に互いを【魂を縛る呪詛の鎖】で繋ぐ。
WIZ : ミアズマブレス
【呪詛】を籠めた【ブレス】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂】のみを攻撃する。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「セシリア・サヴェージ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――成層圏にて。
『流石にあやつ等では、止められぬか』
其れは、酷く厳かな声。
声の主……大天使ブラキエルは、竜達の群れが墜落していくその様を見て、ほう、と優美に溜息をつく。
その背の光輪の輝きが、竜達の死を報せるかの様に少しずつ失われていった。
『だが、この程度の死を以て、我が願いを、捨てるわけには行かぬ』
――であれば。
今、彼が為すべき事は、只1つ。
『征くが良い、我が僕よ。我が忠実なる僕、『呪骨竜アンフェール』』
その、大天使の呼びかけに。
「グルルルルルルルルル……ッ!」
その全身を『絶対物質ブラキオン』と言う名の、未知の単一原子でできた鎧で覆われた竜が咆哮を上げた。
自らの跨がっていたかの『呪骨竜』の咆哮に満足げに頷き、行け、と嗾ける大天使ブラキエル。
『我が忠実なる僕よ。汝が同胞を存分に滅せし猟兵達と、かの聖騎士を、骨も残さず喰らい尽くせ。その己が身に囚えし勇者達の魂を存分に使い、その呪詛をかの街に撒き散らすが良い』
その大天使ブラキエルの呼びかけと、共に。
「グルァァァァァァァァァッ!!!!!!」
抑えきれぬ歓喜を爆発させる様に呪骨竜が成層圏を突破し、ノウリッジの上空に、その姿を現す。
――この街を……知識に溢れし者達の魂を、自らの中に永遠に刻み込む為に。
*第2章追記です。
1.第2章プレイングボーナス:鎧の隙間を狙う。
2.街の人々の避難は完了しております。
3.聖騎士アランは、街の人々を守る為に全力を注いでいます。
――それでは、良き戦いを。
ウィリアム・バークリー
絶対防御の鎧ですか。まさに天上の秘宝。ですが、現世に持ち込んでは十全には働きません。
引き続き『ビーク』に「騎乗」しての「空中戦」を挑みます。
ぼくは竜の手駒を潰しながら、そちらへ向けて駆け抜けます。
途中、氷の「属性攻撃」を重ねたAstral Freezeで、亡霊たちを斬り捨てながら。霊体だけなら、この剣で簡単に切り裂けますからね。
さあ、間合いに捉えましたよ、ドラゴン。
鎧の隙間なんて面倒なことは言いません。
これまでの氷の「属性攻撃」に加えて、「全力魔法」で非物質の刀身を長大化。
精神だけを斬るAstral Freeze、その鎧で防げるものなら防いでみせろ!
もし効かないなら、ブレスを放つ口を狙おう。
ユーフィ・バウム
戦友のシル(f03964)さんと
アランさんが人々を守ってくれています
私も、私の務めを果たしましょう
《戦士の手》と共に!
敵の魔眼に注意しフェイントをかけつつ
【ダッシュ】で近づき、敵の鎧の隙間を【見切り】
氷炎の【属性攻撃】を宿す拳で乾坤一擲!
【力溜め】た【鎧砕き】一撃を見舞う
絶対物質の護りを
一瞬抉じ開ければ、仲間がいる――今です!
シルさんの必殺の一撃を合わせて
ダメージを叩き込んだのを確認できれば、
再び組み付いて、【怪力】で抑え込み
鎧がまだ残っているようなら隙間に打撃をねじ込む
鎧がないなら立て直す間も与えず
地面に投げ落とし、【踏みつけ】て動きを止めたところを
仲間のフィニッシュで決めていただきますねっ
シル・ウィンディア
戦友のユーフィ(f14574)さんと
後ろを安心して任せられる
こんな心強いことはないよね
さぁ、行くよっ!!
【空中機動】での【空中戦】を仕掛けるよ
風精杖と精霊電磁砲の【誘導弾】での中距離戦だね
敵の鎧の隙はを動きから【見切り】
【瞬間思考力】で判断、風の【属性攻撃】の【誘導弾】を撃ちこんでいくよ
敵攻撃は
【第六感】で感じて敵の動きを【見切り】【瞬間思考力】で判断するね
回避は【残像】を生み出しての攪乱
致命箇所の防御は【オーラ防御】でカバーするよ
攻撃しつつ
本命は【魔力溜め】を行いつつ【多重詠唱】した《指定UC》
狙いはユーフィさんのこじ開けてくれた隙間を
【スナイパー】のように狙って【貫通攻撃】で撃ち抜くっ!
霑国・永一
さーて、なんだか妙なドラゴンも出てきたなぁ。
これが件のユーベルコードを防ぐ絶対物質ブラキオンとやらかぁ。倒した後に盗……もとい鹵獲したいけど、ブラキエルに洗脳される予感しかしないなぁ。
ま、皮算用はいいか、とりあえずこれをなんとかかんとかするかぁ。
隙間を探すにも突くにも速度は欲しいところだし、狂気の透化を使うとするかなぁ。動きは速くなるし、相手から視えなければ攻撃も躱し易いしねぇ。
無論それに甘えるだけでなく、もし他に猟兵居るならそれらに紛れて動くけど
弱点見つけ次第、銃なりダガーなりで狙って生命力を盗みきるとしよう。油断はせずにヒット&アウェイを心掛けるよ。
凄い鎧の代わりに呪われた命を盗まれるべし
司・千尋
連携、アドリブ可
飛んでる敵は面倒だな
さっさと撃ち落とそうぜ
引き続きアランと共闘
攻撃手が足りているか敵に押され気味なら防御優先
攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
範囲外なら位置調整
近接や投擲等の武器も使い
早業、範囲攻撃、2回攻撃など手数で補う
敵を観察し鎧の隙間を探して狙う
隙間ねぇ…
普通に考えたら関節とかにありそうだけど
敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
アランへの攻撃は最優先で防ぐ
ミアズマブレスは『子虚烏有』で消失させたり
回避しやすいよう身体から少し離して鳥威を展開し防ぐ
文月・統哉
呪骨竜…ブラキエルってさ
どんだけドラゴン好きなんだろね
前世はブラキオサウルスだったり?
とかいう冗談はさておいて
絶対物質ブラキオン
名前だけはカッコいいかも(中二的親近感
ならば対抗しなくちゃね
ガジェットショータイム!
召喚するのは
パイルバンカー型武器
だってほら、浪漫だし!
竜の動き見切り攻撃回避
ワイヤー使って巨体に取り付き
鎧の隙間目指し体表を駆ける
だが竜もまた
自身の弱点を分かってるなら
継ぎ目付近の防衛を強化するだろう
魔眼回避が困難な場合は
最終手段でピンチをチャンスに
着ぐるみで空蝉の術
爆発による死角を利用して
隙間に杭を打ち込む
杭の正体は無数のナノマシンの集合体
傷口から竜の体内へ侵入し
内部組織を破壊するよ
加賀・琴
アドリブ歓迎
フィーナさんの言う通り、腹心の竜が来ましたか
休む間もないですね
呪骨竜、鎧を纏っては骨ではなく呪鎧竜とでも呼ぶべきでしょうか?
勇者達の魂を操り、呪詛を振りまく邪竜。ただでさえ強敵なのに鎧を纏って厄介さが先程までの群れとは段違いですね
避難が完了しているが救いですね
神域結界・千本鳥居は、今度は然程意味をなさないでしょうね
ならば、神楽扇と大幣を手に【神楽舞・神域結界】に切り替えます
神楽を舞って神域として清め浄化し、結界と成して皆さんを援護します
魂を囚われた勇者達を、そしてかの邪竜の巻き散らす呪詛を祓い浄化して清めます
味方が受けた呪詛もまた浄化して祓い癒します、そして傷も魂も癒してみせます
神宮時・蒼
……第一陣、退けたと、思い、ましたら、また、どらごん、ですか
…何かと、どらごんに、縁の、ある、街、ですね…
【WIZ】
呪詛とはなんとも馴染み深い攻撃、ですね
【呪詛耐性】がありますし
魂という概念がないボクなら、耐えられるかと
とはいえ、他の方にブレスが飛ぶ可能性もありますので
【浄化】と【破魔】を織り交ぜた【結界術】を展開
鎧の隙間…
動き回られると狙いが定まりませんね
ならば、【全力魔法】と【魔力溜め】を乗せた狐花恩寵ノ陣で、じわじわと動きを鈍らせましょう
動きが鈍れば、鎧の隙間も見えるでしょう
…未だ、心を、ヒトを、理解、しきれません、が
…この、胸を、焦がす、感情の、意味が、分かる時は、来る、のでしょう、か
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
勇者達の魂を使役する竜か!
これは俺には…見過ごせない
できればその魂、解放したいが…できるか?
他猟兵との連携前提
まずは「視力、戦闘知識」で目を凝らし鎧の隙間を探す
動きが激しそうで、なおかつ鎧で覆えば動かなくなりそうな箇所
…翼の付け根や脚の関節などの関節部を重点的に観察
鎧の隙間を発見したら「闇に紛れる、ダッシュ」で接近
もし背にあるなら「地形の利用、ジャンプ」で跳躍し背に飛び乗る
その上で召喚された霊ごと「2回攻撃、祈り、衝撃波」+指定UCで攻撃
霊の解放と鎧の隙間狙いを同時に敢行する
反撃は「第六感、見切り」で避けるしかない
知識神の加護ある者達の魂は渡さない!
ここで散れ!!
クロム・エルフェルト
――なんて、禍々しい
この街の人達の命、奪わせはしない
残像曳くダッシュで距離を詰め、
召喚された亡霊勇者と鍔迫り合いに
ッ……矢張り、簡単には間合いには潜り込ませない、か
勿論、無策で突っ込んだわけじゃない
刀を打ち合わせる音に、微弱な催眠術を織り交ぜる
「認識遅延」
ほんの僅か、仲間が戦いやすくなる切欠になれば佳いのだけれど。
竜と亡霊勇者の攻撃への対処は
UC朱八仙花での迎撃
可能であれば、仲間を護るように陣取りたい
亡霊勇者を斬り伏せ
本命の返す刀は極限まで神経を研ぎ澄ませ
骨と骨の――鎧の隙間に真っ直ぐ刃が通るよう
早業の抜刀術で一閃、切断する
●
――成層圏から悠々と舞い降りてくる巨大な竜。
全身骨で出来たその竜の、双翼の鶏冠が亡者の様な青光を纏っているのを見つめながら。
「――なんて、禍々しい」
ウィリアム・バークリーのグリフォン『ビーク』から音もなく着地し、空中を見上げたクロム・エルフェルトが小さく呟く。
狐耳と尻尾が震える様に揺れ、顔も心なし青ざめるクロムを気遣う様に。
「エルフェルト様……」
神宮時・蒼が自らの胸の裡に静かに灯る其れに促される様に呼びかけたのは、偶然か、それとも必然か。
そんなクロムと蒼のやり取りを目の端に捕らえつつ。
「フィーナさんの言うとおり、腹心の竜が来ましたか」
と、和弓・蒼月を背に背負い腰に帯びた大幣を手に神楽扇を広げながら、加賀・琴が独り言の様に呟いている。
全身の骨を覆う様に鎧を纏った竜が滑空してくるその様子に、霑国・永一は興味深そうに目を細めた。
叡智の結晶とも言うべき眼鏡を掛けているので、何か企んでそうって言われそうな金の眼光を、愉快そうに輝かせて。
「さーて、なんだか妙なドラゴンも出てきたなぁ。件のユーベルコードを防ぐ絶対物質ブラキオン、とやらを着た」
「絶対防御の鎧、とは。正に天上の秘宝ですね」
永一の何かを含む物言いを耳にしたウィリアムが、『ビーク』に騎乗した儘、同意の首肯。
そんなウィリアムの呟きを聞きながら、ニャハハッ、と文月・統哉がちょっと冗談めかした口調で笑った。
「今度は呪骨竜か。……ブラキエルってさ、どんだけドラゴン好きなんだろうね? 前世は実は、ブラキオサウルスだったりして」
「ハハッ、それなら面白いがな」
そんな統哉の軽口に、口の端にニヒルな笑窪を刻んだ司・千尋が返すと、まっ、冗談だけどね。と舌を出す統哉。
(「文月様……司様……」)
そんな統哉と千尋のそれが、知人の妖狐への気遣いの様に感じられて、蒼の胸中の灯が温かくなる。
そんな、統哉達の想いに答える様に。
「……そう言えば、第一陣、退けたと、思い、ましたら、また、どらごん、なん、ですね……」
蒼が、淡く儚き命の中で、懸命に咲く馨しき香を発する金木犀の名を抱いた杖を握り、色彩異なる双眸を、瞬かせながら呟いた。
その赤と琥珀色の双眸に、この街の人々に対する同情が揺蕩う様に思えるのは、同族である千尋の気のせいか。
「……その、何かと、どらごんに、縁の、ある、街、です、よね……」
何となく額に汗を掻いている様に見える蒼の呟きに、そうだね、と思わず笑いながら頷く統哉。
そんな統哉と蒼のやり取りを聞いて。
この街での嘗ての戦いの記憶の糸を手繰り寄せながら、ユーフィ・バウムが確か、と教会を守っているアランの方へと視線を送る。
「この街は、知識神エギュレに仕える、龍達への奉納祭を開く位には信仰心が篤いと聞いた気がしますね」
「ああ……信仰ってのは良く分からないが、要するに、ヒトの心の拠所ってやつか? 其れに街を破壊されるって事になるのか」
ユーフィの言葉に、千尋が成程、と言う様に頷く。
そんな、千尋の呟きに。
「じゃあ、やっぱりそんな事絶対にさせちゃダメだよね、ユーフィさんっ!」
精霊布のマントに風を孕んで空中を滞空しつつ光刃剣と精霊剣を仕舞い。
代わりに左手に風精杖『エアリアル』を握るシル・ウィンディアの呼びかけに、ユーフィがはいっ! と力強く頷いた。
ユーフィとシルの率直な信頼の籠められた掛け合いを耳にして。
其れまで尻尾と耳を逆立て、落ち着かなく揺らしていたクロムの口から、思わず言の葉が漏れている。
「キミ達は、凄いんだね」
何時でも戦闘態勢に入れる様に、油断は決して見せないけれども。
それでも、極自然に軽口を叩き合えるその様子は、幾度も戦場を共にしたが故に育まれた絆なのだろう、と何となく思う。
その絆にクロムの胸中に微かな羨望が芽生えるのに。
「ニャハハッ、クロムだって、凄いじゃないか」
と、統哉が完爾と笑って声を掛けると。
「……キミ?」
思わぬそれに、目を瞬かせるクロムに、だってさ、と統哉が続けた。
「君だって、アランや俺達と一緒で、この街と街の人達を守りたくて、あの竜を倒しに来た。だから、此処にいる。そうだろ?」
その統哉の呟きに。
「……ん。私の剣が、ヒトを活かす為になればいいから」
納刀した刻祇刀・憑紅摸の柄を握りしめながら。
そう呟くクロムにそれで良いんだよ、と統哉がもう一度笑いかけると。
「そろそろ来るぞ、統哉、クロム」
呪骨竜が咆哮し、戦闘可能距離へと近付いてきているのを直感的に悟った館野・敬輔が黒剣を抜剣し。
赤黒く光り輝く刀身に、白銀色の輝きを伴わせながら促すのに、了解! と統哉がサムズアップ。
「……ん。そうか」
敬輔に呼ばれ、腰を屈めて抜刀術の態勢を取りながら、そっと心の片隅で想う。
(「私が、キミ達が戦いやすくなれる切っ掛けになれば良い。そうだよね」)
そんな思いが、心の奥底から自然と浮かび上がったのに気がついて。
気恥ずかしさからか、頬に朱が差してくるのを自覚しつつも。
「……ん。この街の人達の命、奪わせはしない」
紫電を纏いし足下に、水属性の蒼い粒子が舞う、流水紫電の歩法と共に。
緊張で狐耳と狐尾を逆立てたクロムが、シル達に続き大地を蹴った。
●
『グルアアアアアアアッ!』
呪骨竜が、咆哮を上げる。
その咆哮に応じる様に、青き両翼から生まれ出でたるは、その目を虚ろにした勇者……勇気ある者達。
――嘗て、かの竜に挑みて破れ、その魂を囚われた英雄達。
更にその両の魔眼が怪しく光り輝くその様を、額に手を当てて眼鏡の奥の瞳を光らせ、永一が見てへぇ、と呟いた。
「あの絶対物質ブラキオンとやら、倒した後に盗……もとい、鹵獲したいけれど、そうしたらやっぱりブラキエルに洗脳されるしかなくなるのかなぁ」
何気なく告げられた永一の呟きに、千尋が愉快そうに眉を吊り上げ、さてな、と肩を竦めて、空中に浮かぶ呪骨竜を見る。
「機会があったらやってみたらどうだ? 洗脳された時は、俺が纏めて消失させてやるよ」
……と。
その右腕の周囲に触れたモノの存在を拒否し消失させる970本の光剣を、円陣の如く展開する千尋にいやいや、と永一が首を横に振る。
「千尋の光剣だと、ブラキオンより先に俺が消されちゃいそうで、流石に其れは嫌かなぁ。ま、皮算用してもしょうがないし、取り敢えず此をなんとかかんとかしないとねぇ」
ボリボリと、誤魔化す様に永一が頭を掻くその間に。
『グルァァァァァァァァァッ!!!!!!』
呪骨竜が咆哮し、その腹部でブレスを溜め込むその間に。
其々に長剣や槍、杖を構えた勇者達が姿を現し、其々の技を繰り出してくる。
「ユーフィさん、行くよっ!」
「はいっ! 行きましょう、シルさんっ!」
叫んだシルが風の精霊エアリィと契約した証、風精杖『エアリアル』を迫り来る勇者達の後衛に向けて風の衝撃波を解放。
放たれた突風でその動きを阻害するその間に、ユーフィがディアボロスエンジンを噴射して空中へと飛んだ。
「シルさんと皆さんと一緒に、『蛮人』たる私も、私の務めを果たしますっ! この、《戦士の手》と共にっ!」
その、ユーフィの叫びに応じる様に。
シルの風に煽られる様にして更なる加速をしたユーフィの両腕が輝いた。
――その右腕には、紺碧の空の如き、氷竜を象りし蒼穹のオーラ。
――その左腕には、溶岩の海の如き、炎竜を象りし紅蓮のオーラ。
相克する氷炎の力宿すその両拳が、禍々しき輝き纏いし、呪骨竜へと迫る。
だが、其れよりも一歩早く鋭い眼光が真正面から衝突しようとするユーフィを撃ち抜かんとした、その時。
「絶対物質ブラキオン。名前だけはカッコいいかも!?」
とキラキラと目を輝かせた統哉が冗談めかして笑いながらクロネコワイヤーで竜の足を絡め取った。
そしてワイヤーを巻き取り肉薄しながら、懐中時計型ガジェット『暁』を握りしめて、頭の中で緻密な内部構造を瞬時に描き出す。
求めるは……。
「ば……バベ……じゃなくて、パイルバンカーですか」
統哉の右掌の先に現出したパイルバンカーを見つめ、パサリ、と大幣を泳がせながら呟く琴に、ニャハハ、と統哉が笑い返した。
「だってほら、浪漫だし!」
「確かに無敵の鎧の隙間を狙って、バベ……パイルバンカーを突き立て串刺しにするのは浪漫かも知れませんが……」
クロネコワイヤーを巻き取り風を感じながらの統哉の其れに、琴がパチクリと瞬きを繰り返し、神楽扇で口元を覆って呟く。
(「って、私、何を言っているのでしょうか?」)
自分の口から漏れた言の葉の意味に気付かぬ儘、瞬きを繰り返す琴を脇に置いて。
『グルアアアアアアアアアッ!』
呪骨竜が咆哮と共に、魔眼に蓄えた怪光線を戦場全体に撃ちだし、続けざまに口腔内から禍々しき呪詛の籠められたブレスを放射。
「うわっ! こ、これはちょっとヤバいよっ!?」
マントを靡かせ空中を舞ながら、腰部の精霊電磁砲『エレメンタル・レールキャノン』による牽制射撃を仕掛けるシルの驚きの声。
放たれた誘導弾が直撃するが、ブラキオンの鎧の効果で無傷の呪骨竜のブレスがシルの魂を砕こうとした、その直前。
「……やらせ……ません……!」
小さく囁く様な声と共に、その手に止まる天へ祈る幽霊花を飛ばす蒼。
彼岸の如く、優しく、切なき哀しみを背負う幽世蝶が優美に翅を広げて羽ばたき、その翅から緋の憂いを思わせる鱗粉を振りまく。
ぼんぼりの様に、儚くも、何処か心優しき緋の灯が千尋の無数の鳥威と絡み合って組紐の様な結界を編んでシルを守り抜いた。
「ありがとうっ、蒼さん!」
ハキハキと礼を述べながら、ユーフィを援護するべく風精杖を振るい、風刃を放つシル。
風刃が魂囚われし勇者達を切り裂くそれに、胸の裡で引っ掛かる様な何かを感じながら、束の間、徒然なる思考に身を委ねる蒼。
(「『物』である、ボクや、司様には、『魂』、という、概念は、あり、ません……」)
故に魂のみを傷つける、と言うブレスは効果を為さない筈だ。
(「もし、魂、と、言う、概念、が……」)
此の胸の裡に宿る暖かな灯火……未だ、蒼には理解しきれぬヒトの『心』を意味するものであったとしても。
(「……ボク、には……」)
その手にある、水の様な波紋を浮かべる月読の鏡を見つめる蒼。
月と星の導きを映し出す水面の如き鏡面を持つそれの導きによって呪詛を弾き、雲散霧消してくれる筈だと識っているから。
(「……ですから、ボク、は、ボク、の、出来る、こと、は……」)
『……其れは、燃え盛る、赤』
幽世蝶にシル達の援護を任せ、雨に薫る金木犀を空中で回転させて方陣を描きながら、蒼は思う。
――エルフェルト様、霑国様、文月様、バウム様、館野様、加賀様、ウィンディア様……。
誰よりも『ヒト』である皆様を、守る事です――と。
●
「ビーク!」
ウィリアムの鋭い叫びと手綱捌きに、愛獣『ビーク』が雄叫びを上げて、突進する。
その間にウィリアムの抜剣したルーンソード『スプラッシュ』の刀身に描かれたルーン文字が煌めき、氷の精霊達が剣に集約。
Ice Brandと化した『スプラッシュ』による一太刀で、呼び出された魂囚われし勇者達が凍てついていく。
「勇者達は霊達の筈……! 亡霊であれば、この剣で簡単に切り裂けますから!」
ウィリアムの、その叫びに。
「かも知れないが……彼等の魂は、囚われているんだ……!」
敬輔が微かに苦渋の表情を浮かべながら、竜の傍から舞い降りてくる幽霊たる勇者達を受け流した。
(「あの竜を倒せば、使役されている魂達は、その牢獄から解き放たれるのか……?!」)
それは、敬輔の迷い。
『彼女』達の様な、死者達の魂魄を喰らい、其の魂を操る性質を持つ人であるが故の葛藤。
敬輔の葛藤を、その鋭い眼光で見抜いたのであろう。
『ゴルァァァァァァァッ!』
呪骨竜が嗾けるかの様な雄叫びを上げると、囚われた勇者達の魂が人形の様に其れに従い、敬輔へと火線を集中させた。
その杖持つ勇者達から一斉に放たれる、火・水・土・風・光・闇の無数の弾丸。
炸裂するそれらによる猛攻に下方から状況を見据える様に目を細め歯軋りしていた敬輔の目前に、勇者の1人の狂剣が迫った時。
「……させない」
敬輔と勇者の間に、龍紋緋袴から生えた狐尾から狐色の残光を放つ影が姿を現した。
緊張にピン、と立った狐尾が目前で揺れるのに、何だか目のやり場に困る敬輔。
対照的にその影、妖狐である娘クロムは、勇者の一太刀を、納刀した刻祇刀・憑紅摸の鍔で受け止め、激しく火花を散らせるが。
「……ッ」
勇者の膂力に押し負けそうになるクロムの狐尾の毛が、一気に逆立つのに気付いた敬輔がやむを得ぬ、とクロムの後ろから飛び出し。
「……許せ!」
呻く様に呟き、クロムを押し倒そうとしていた勇者に黒剣の平を叩き付け、吹き飛ばした。
「大丈夫か?」
敬輔の呼びかけに、照れ臭くなったか、その頬を紅色に染めつつ首肯するクロム。
けれども勇者達の攻撃は、まだまだ終わりを見せる様子も無く、呪骨竜もまた、空中を自在に駆け抜け、ユーフィ達を翻弄している。
「……やっぱり簡単には、間合いには潜り込ませてくれないね」
空中での戦いを、目を細めて見つめたクロムの呟きに、敬輔もそうだな、と頷き返した。
「せめて、アイツを地上に叩き落としてやれれば良いんだが……」
続く勇者達の魔法攻撃や、竜のブレスを蒼の幽世蝶と協力して展開した無数の鳥威で受け止めながら、千尋が思わず呻いている。
「そもそも、まだ鎧の継ぎ目が何処にあるのかすら、読めていませんしね」
溜息を吐きつつ、其れに同意する琴の其れを聞き流しながら、そうだねぇ~とあまり焦った様子も見せずに、永一が肩を竦めて見せた。
「先ずは隙間を見つけないといけないよねぇ。統哉は、見つけられたのかなぁ?」
眼鏡を掻き上げる様にしながら呟く永一の其れに、ワイヤーを絡めて竜に飛び移った統哉の黒ニャンコ携帯から連絡が入った。
「悪いが、まだ完全には見つかっていない。……って、うわっ?!」
足に取り付き、よじ登って絶対物質ブラキオンの鎧の継ぎ目を探ろうとした統哉を振り落とそうとする呪骨竜。
「統哉さんっ!」
気がついたユーフィがディアボロスエンジンを加速させて氷竜と炎竜を模した闘気の波動を、呪骨竜に叩き付けようとするが。
――ビリッ。
シルの首筋に、電流が走った。
(「っ! これはっ!」)
「ユーフィさんっ! 統哉さんを連れて下がってっ!」
咄嗟に叫びながら高速で練り上げたエアリィ達の力を蓄えた弾丸を、『エアリアル』を振り下ろして解き放ち。
駄目押しとばかりに、腰部の『エレメンタル・レールキャノン』の砲塔を跳ね上げて、2発の魔力砲弾を射出する。
と、その時。
『ゴルァァァァァァァッ!』
呪骨竜が咆哮と共に、両翼を羽ばたかせて暴風を巻き起こした。
その暴風と、『エレメンタル・レールキャノン』からの魔力砲弾で加速した『エアリアル』の精霊弾がぶつかり、大轟音と共に爆発する。
「くううっ!」
ディアボロスエンジンを加速し、両腕に纏った氷竜と炎竜を交差させて氷炎の嵐を生み出したユーフィが辛うじて暴風を受け止めて。
「統哉さん!」
風に飲み込まれ凄まじい勢いで吹き飛ばされそうになる統哉を引き寄せて、蒼穹の結界を展開した。
「何て力だ……!」
ユーフィの展開した蒼穹の結界に重ねて黒猫刺繍入りの緋色の結界を展開した統哉が、暴風を辛うじて受け止めながら呻く。
けれどもその視線は、暴風を起こした双翼と背骨を覆う鎧へと向けられていた。
羽ばたきと共に暴風を生み出した呪骨竜の翼。
けれども其処に僅かなズレ……違和感の様なものを下方からその動きを見つめていた敬輔が微かに感じた、その瞬間。
『ガルァァァァァァァァァッ!』
呪骨竜の魔眼が見るだけで、凍てつきそうな輝きを伴った怪光線を発射。
怪光線が、ユーフィと統哉の結界に着弾し凄まじい爆発を引き起こし、更にその魂を縛る呪詛の鎖が、呪骨竜の翼から射出される。
「……だめ、です……っ。司様……!」
魂を縛り上げる呪詛の鎖の勢いに、赤と琥珀色の双眸に驚愕の光を宿した蒼の祈りの籠められた其れに。
「ああ、分かっている。消え失せろ」
千尋が、右腕に展開していた970本の光剣の全てを呪詛の鎖に向けて解き放つ。
剣先に幾何学紋様の描かれている、出鱈目に放たれた光剣が、全方位から魂を縛る呪詛に向けて突き刺さり、その鎖を消失させる。
(「って言っても、このままじゃやばいな」)
冷静に、けれども背筋に冷汗が垂れる程度には危機を感じている千尋の様子を横目で見やった永一が、やれやれと溜息をついた。
「このまま空中戦を続けていても、不利になるばかりっぽいねぇ、これは」
「……やはり地面に叩き落とすしかないか」
永一の、その呼びかけに。
敬輔が軽く頭を横に振りつつ、その目を鋭く細めてそう応じた。
そうして、先程の違和感の正体を確かめるべく、統哉に確認の連絡を入れようとする敬輔。
けれども、そんな敬輔の邪魔あをするかの様に呪骨竜の叫びに操られた勇者達が、敬輔に迫る。
彼等の魂を解放する。
それが、敬輔の、この戦いでの希みであり、想い。
故に、彼等を斬る事が出来ず、咄嗟にバックステップをした、その刹那。
「魂囚われし勇者達よ。どうか安らかにお眠り下さい」
――シャン、と。
静かに、大幣を振り下ろし、揃えていた足で静かにステップを踏む、琴。
流麗な神楽舞に導かれる様に周囲に神気を帯びた結界が展開されていく。
天女の羽衣が、奉納される舞によって凪がれ、ヒラヒラと風に泳いだ。
まるで、神楽を通じて、破魔と浄化の神をこの地に降ろそうとするかの様に。
琴のその舞に、目に見えて動きを鈍らせる勇者達。
その勇者達から、敬輔を庇う様に。
「……させない」
クロムが勇者と刻祇刀・憑紅摸と再びの鍔迫り合いに持ち込み、勇者をその場で智に押し倒す。
その狐尾は、不安げに揺れている儘だけれど。
――しかし。
「大丈夫だ」
そんな、クロムの不安を断ち切る様に。
敬輔のサバイバル仕様スマートフォンから、統哉の先程とは打って変わった落ち着いた声が入ってきた。
「キミ……?」
その統哉の声を耳にして。
クロムの口から漏れた問いかけに、統哉がああ、と頷き返す。
「統哉、鎧の隙間が分かったのか?」
クロムに守られ、空中の呪骨竜の動きを見つめていた敬輔の問いかけに。
「敬輔こそ、何となく気がついているんだろ?」
と、統哉が応えを返すと、恐らくは、と敬輔が首肯する。
「まあ、あくまでも一部だけではあるが」
「そうだな。俺も多分、同じ場所を考えているぜ」
空中でクロネコ刺繍入りの緋色の結界で真正面から見つめていた統哉と。
地表から見上げる様にして呪骨竜を観察していた敬輔の、相互確認。
その相互確認に。
「一部だけ……ですか?」
ディアボロスに統哉を掴まらせながら、次の怪光線に備えて身構えるユーフィが問いかけると、統哉がもう一度ああ、と頷いた。
そんな統哉達の様子に気がついたか。
竜が咆哮、統哉とユーフィ、シルに向かって魂砕くブレスを吐き出そうとするが。
「そう何度も、同じ手をやらせるかよ」
千尋が、蒼の幽世蝶の放つ憂いの緋の鱗粉と、焦茶色の結界を付与した鳥威を張り巡らして呪骨竜のブレスを凌ぎきる。
『其れは、絶望の、赤……』
その間にも訥々と紡がれる、蒼の詠唱。
その詠唱を聞きながら、琴が開いた神楽扇を宙で仰ぎ、大幣を左右に振り抜き、粛々と神楽舞を続ける。
だがその破魔と浄化の神域結界は、地表の勇者達はさておき呪骨竜には届かない。
「弱点を見つけられたのは幸いですが、このままでは私達の方が押し負けてしまいますね」
琴の、その呟きに。
「まあ、そうだねぇ。今のままだと、貧弱な俺が何も出来ずに終わっちゃうねぇ」
参った、と言う様に、マフラー(黒)で口元を覆ってうんうん、と頷く永一。
あまりの風の強さに、ちょっとだけ寒い今時には、打って付けの其れを引き上げ、焦っている様にも見えない様子で頷くその彼が。
「でも、其処まで言うって事は、何か考えがあるって事だよねぇ? 琴」
と、首に巻くだけで温かさマシマシのオシャレ布を巻き直しながらの永一に。
琴が神楽舞を舞いながら頷き、精神統一も兼ねてか、静かに双眸を瞑る。
「後少し、後少しだけでも此方に近付いてくれれば、希望を繋ぐことは、出来ます」
それは、琴の中に育まれている確信。
千尋よりも力が弱いが故に今の高度では、呪骨竜に、神域の結界は届かない。
だが、その状況を、打破できさえすれば……。
その、琴の呟きに。
「しょうがないねぇ。ちょっと勿体ないけれど、俺もやってみるとするかねぇ」
飄々と永一が、そう呟くや、否や。
永一が横っ飛びに飛びながら、一本の紐付き刃物を投擲した。
「やろうと思えば包丁の代わり位にはなるんじゃね? まあ、勿体ないから紐付けはさせて貰うけれどねぇ」
飄々と掴み処のない言の葉と共に、投擲した刃物で、呪骨竜の魔眼を貫かんとする永一。
刃物による奇襲に、呪骨竜が大仰に仰け反り、刃物が投げられた方向に向けて滑空し、怪光線を放射。
けれども、其処にあったのは、千尋の展開した無数の鳥威のみ。
鳥威が連鎖して爆発し、散り散りになって消失していくが、その度に千尋が続けて鳥威を召喚し続け。
更に……。
「此なら……どうだ!?」
翼の付根と足の関節を重点的に視察していた敬輔が、クロムの脇を通り抜けて、黒剣で大地を擦過させる。
放たれた衝撃波が、呪骨竜を僅かに怯ませ、その高度を落とさせた。
『グルルルルルルルルッ!』
忌々しげに、敬輔に向けて、ブレスを吐き出す呪骨竜。
けれども、その時にはクロムが再び、納刀したまま、その場に立ち、藍色の双眸を静かに閉ざす。
『神速剣閃――』
呟きと共に、刻祇刀・憑紅摸を抜刀し一閃。
緋色の焔を纏った剣閃が、ブレスを断ち切り焼却した、その瞬間。
「この距離なら、きっと……!」
神楽舞を奉納しながら天女の羽衣を風に靡かせ空中を泳ぐ様に神域の結界と共に、呪骨竜に接近する琴。
それは、永一達が繋いでくれた、希望。
その希望に、答える様に。
琴が、ゆっくりと神楽扇を振り、大幣をシャン、シャン、と上下に揺り動かす。
『祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え』
首塚の一族足る琴の血筋に、代々伝わる祝詞を唱えながら。
天女の羽衣を翻し、神に奉納する美しき神楽を舞い続ける琴。
――シャラン、シャラン。
静けさを齎す大幣を粛々と振る音と、優美な曲線を空中で描き出す神楽扇。
生み出された神域の結界から、神々しい神気が溢れ出し。
それが呪骨竜に絡みつく様にその動きを食い止める。
「……キミ……?」
神楽舞に没頭する琴を中心に展開されていく神気に満ちた、その領域に魅入られた様に。
クロムが琴の舞に見入っていた。
その狐耳と狐尾が、興奮のあまりに漣の如く左右に振れている。
『グルァッ?!』
琴の神域に遂にその体を踏み込まれた邪竜の動きが、明らかに鈍くなった。
同時に、空中で琴の舞の範囲外に板勇者達の動きもまた、動揺に鈍くなる。
勇者達の動きが鈍くなったその瞬間を狙って。
「この間合い……行くよ、『ビーク』!」
ウィリアムがその群れを『ビーク』で突っ切り、凍てついた『スプラッシュ』を大上段に振り上げて。
『スプラッシュ』の刀身に今までに無いほどの氷の精霊達を凝縮させ、その非物質の刀身を長大化させ。
「Astral Freeze! 絶対防御の鎧で、防げるものなら、防いで見せろ!」
叫びと共に、袈裟に其れを振り下ろした。
長大な非物質化した氷刃が、袈裟に呪骨竜を切り、その精神に僅かな軋みを作り上げる。
それは、本当に、本当に掠り傷に過ぎない一撃。
だが……。
「統哉さん!」
ウィリアムの、その呼びかけに応じて。
「ああ……ユーフィ! 頼む!」
統哉がパイルバンカーを構えてそう返し。
「統哉さん……シルさんっ!」
意図を察したユーフィがディアボロスエンジンを加速させ。
「まだ、大技には早い時間だねっ! 任せてよっ、ユーフィさんっ!」
シルが『エアリアル』を横薙ぎに振るって追風を吹かせ、ユーフィと、統哉を更に加速させるには、十分な時間だった。
シルの呼び出した風の精霊達の後押しを受けてディアボロスエンジンが加速、統哉とユーフィの高度がぐんぐん上昇し。
「そこだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
統哉がディアボロスエンジンから飛び降りながら、パイルバンカーを翼と鎧の隙間……付根に向かって射出する。
放たれた巨大な杭が、その無敵の鎧と翼の付根に突き刺さり。
撃ち込まれた杭が分解されて無数のナノマシンと化し、翼と鎧を繋ぐ間隙を貫き。
――パリィン!
と音を立てて、呪骨竜の片翼を砕け散らせた。
其れは、失われた翼への哀惜か。
それとも、翼の崩壊故か。
『グルァァァァァァァァァッ!』
答えを出さずに絶叫し、呪骨竜は地面へと墜落していった。
●
――ズシンッ!
凄まじい震動が、大地を駆け抜ける。
それは大地に亀裂を生じさせんばかりの大震動。
統哉のパイルバンカーの一撃により片翼を失った呪骨竜の、大地への着地。
着地できたのは、呪骨竜にとっては、不幸中の幸いであろう。
だが……もう一度飛ぶことは、とてもではないが、出来そうに無い。
琴の神域の結界に更に近付いたことで呪骨竜の力が目に見えて弱くなっていく。
この状況を打破する為に。
『グルァァァァァァァァァッ!』
怒号の混ざり合った咆哮を上げて、共に地に落ちた勇者達をこの神域の主に向けて突撃させる呪骨竜。
だが――。
「……遅い」
小さく呟いたクロムが横合いから懐に飛び込む様に突進し、脇差しである無銘左文字を鞘走らせる。
(「……此の勇者達を……」)
救いたい、と願う仲間がいるのであれば……。
胸中で呟きながらの、無銘左文字の峰による横一文字の一閃。
その一閃に思わずその身を傾がせた勇者達を。
「大地に落ちてきたのならば、好都合だ……今は、眠れ!」
白光を纏った黒剣で、敬輔が薙ぎ払った。
黒剣の纏っていた白光……『束縛からの解放を希う祈り』の籠められた斬撃が、勇者達と呪骨竜を縛る鎖を断ち斬っていく。
(「さっきは、上手く行かなかったが、今度は大丈夫の筈だ」)
何故なら――。
「魂を囚われし勇者達よ、どうかその身を清め給え……」
鈴の鳴る様な声で祝詞を歌う琴の神域結界の神気に縛られた呪骨竜と、勇者達の鎖をたわめているから。
敬輔の鎖を切断する一撃が、一部の勇者達を浄化させ。
その様子を見つめていた永一が、敬輔とクロムの背後を擦り抜けながら、掛けていた眼鏡をもう一度上げて、やれやれ、と呟く。
「貧弱な俺も少しは役に立てているみたいだねぇ。それじゃあ、もう少し役に立つとするかぁ」
と、永一が呟きながら、一応持ち込んでおいた予備の刃物を呪骨竜の背面に回って投擲する。
『グルァッ?!』
まるで世界に透過しているかの様な、不可視の紐付き予備刃物が、呪骨竜の背に突き刺さり、標的を探すべく、その首を周囲に回す。
――だが……見つからない。
見つけられないのだ。
「まあ、視覚に頼りすぎと言うのも、難儀なものだよねぇ」
のうのうと宣いながら、紐付き刃物を引き寄せて。
「そりゃあ1つだけじゃ不安だからねぇ、予備を持ち込むのも当然だよねぇ」
等とぼやきながら、千尋の展開した無数の鳥威の影に隠れる様に迂回して、最初に投擲した刃物を再度投擲。
投擲してそれきりでは勿体ないので、きちんと付けている紐が張り詰め。
統哉に翼と鎧を砕かれ、剥き出しになった骨に突き刺さり。
ドクン、ドクン、とまるで嚥下する様にその生命力を『盗んで』いった。
『グルルルルルルルル……グルァァァァァァァァァッ!』
生命力を『盗』まれる感覚が不愉快なのか、その場でのたうち回る様にしながら、その魔眼から怪光線を乱射する呪骨竜。
我武者羅に撃ち出される怪光線が、既に視力で捕らえるのも難しい永一の姿を捕らえようとするが……。
「ガラ空きですよっ!」
その隙を突いてウロボロスエンジンを切って大地に着地、すかさず跳んだユーフィが流星の如く、緋と蒼の線を曳き正面から肉薄。
そうして、右腕に纏われた氷竜を解放する様に真正面から拳を叩き込み、胸部を守る無敵の鎧の上から強烈な痛打を与え。
「ハアアアアアッ!」
更に左腕に纏われた炎竜の顎に当たる拳を開き、そこから八卦の要領で闘気の炎を解き放つ。
掌底と言う名の顎を開いた炎竜の炎が絶対物質の鎧を一気に熱した。
一気に冷やされ、熱された影響か、絶対物質ブラキオンで作られた鎧に罅が入る。
胸部の鎧に罅が入り、よろける呪骨竜を、天空から見つめながら。
『闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ――』
精霊杖『エアリアル』を大地と水平に構えたシルが、クルクルと『エアリアル』を胸の前で回転させる。
『エアリアル』の白銀の光に導かれる様に空中に描き出される方陣の、天に当たる部分に左指を添え、方陣の中に六芒星を一筆書きで描き出そうとした、その瞬間。
『グルルルルルルッ!』
勘が良いのか、それとも別の理由からか。
天空にいるシルへとその魔眼を向け、怪光線を撃ち出そうとする呪骨竜。
だが……その時。
『……空に、満ちろ』
小さくか細い……けれども確固たる意志の籠められた、そんな声が戦場に響く。
それは、蒼。
蒼の歌う様な呪と共に、雨に薫る金木犀が描き出した方陣の中央に、緋色の痺れ花……曼珠沙華の花が姿を晒す。
その花に籠められた彼岸の憂いの……哀しき想い出の籠められたそれは、蒼の月白の外套を捲れさせる程の風を孕んで。
蒼が呼び出した無限にも等しい曼珠沙華の花弁……朱き天上ノ花弁が、風の精霊達の残滓に乗って、戦場を舞い。
朱の絶望……諦念と言う1つの終着点をも意味する、朱の彼岸花の花弁が呪骨竜の全身に次々に突き立っていった。
(「……鎧の、隙間、では、ありま、せん、が……」)
だが、『諦念』の花言葉持つ緋の憂い抱きし曼珠沙華の花弁は、それ自体が、蜜の様に甘い『麻痺毒』だ。
感覚を狂わせ、失わせてしまう程の猛毒を孕む、そう言う花弁。
――そこに。
「今ですっ、シルさんっ!」
ユーフィが天空に浮かぶシルに呼びかけた、その瞬間。
「暁と宵を告げる光と闇よ……。六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
一筆で魔法陣の中に描き出された六芒星の各頂点に。
頭から赤・青・緑・黄・白・黒……火・水・風・土・光・闇の六大精霊属性を象徴する紋章が浮かび上がって明滅し。
「いっけぇぇぇぇぇぇーーーーっ!」
叫びと共に、腰部の『エレメンタル・レールキャノン』を六芒星の魔法陣に重ねて跳ね上げて、魔力砲弾を撃ち出すシル。
解き放たれた2発の魔力砲弾が、六芒増幅術の魔法陣を潜り抜け。
2本の極光とも見紛うばかりの極太の光線と化して、呪骨竜に向かって天空から降り注ぐ。
降り注いだ極太の光柱が、ユーフィの氷竜に冷やされ、炎竜に熱されて脆くなった、鎧に大きな風穴を開け、その全身を、容赦なく嬲り、打ちのめした。
『グルッ……グルルルル……!』
それでも尚、倒れることなく苦痛と呪詛の混ざり合った呻きを上げる呪骨竜の動きを束縛せんと。
蒼が雨に薫る金木犀を天へと掲げ、描き出した曼珠沙華の方陣を天空へと放り投げ。
その曼珠沙華の花弁の嵐を大地へと再び降り注がせるのを。
「……キミ、これ……」
敬輔を守って目前の勇者を斬ったクロムが狐耳と狐尾を総毛立たせ、その藍色の瞳に強烈な光を宿し、それを見つめた。
●
――狐の松明。
それは、曼珠沙華の花弁の異名。
朱き天上ノ花弁が、クロムの脳裏に、自らを爪弾きにした妖狐の郷を想起させる。
――恨みがないとは言わぬまでも、済んだ事、と切り捨てた筈の旧き想いと共に。
そしてそれは、時に、己が裡に宿りし剣鬼へと、強き火を焚べる。
自らの裡の焔と正対する様に。
その場に佇み、再び全身を無為としたクロムに対して。
「……エルフェルト様……?」
蒼が彷徨う赤と琥珀色の双眸に自分でも気付かぬ程に気遣う様な光を瞳に灯し、クロムに無意識に呼びかけた。
その呼びかけに、狐耳をピクピクと軽く揺り動かしながらも。
クロムが、その構えを解くことなく、その藍色の瞳に槍持つ勇者を写し出す。
勇者が、間合いに入った。
『陸ノ太刀――』
クロムが、再び納刀していた刻祇刀・憑紅摸を抜刀。
伽藍呑む刧火を封ぜしその刃が鞘走り、敬輔の束縛の鎖断ち切る刃を受け入れなかった勇者を焼身させる。
『グルァッ?!』
驚愕の様な叫びを上げる朱き天上ノ花弁に覆われし呪骨竜に、突貫するクロム。
呪骨竜は、其れに応じる様に鎖で縛りし勇者達を再召喚。
そうしてクロムを迎撃させようとするが。
「おおっと! そう言うわけにはいかないぜ!」
左の翼の付根を貫いた統哉が、大地を蹴る様に朱き天上ノ花弁の嵐を駆け抜けて肉薄し、再びパイルバンカーを打ち付けた。
狙うは右の羽と鎧の残骸の付根にあるその隙間。
先程貫いた位置とは対照的な其処に向けて撃ち出された杭が、続けざまに呪骨竜の翼と鎧の残骸の隙間を貫き、残骸を崩壊させる。
「まっ、後は解体してやれば良いってことだよな」
呟きながら、左腕の周囲に970本の光剣を展開する千尋のそれに。
「どうやら、そうみたいだねぇ。まっ、じゃあ、精々沢山『盗』ませて貰おうかねぇ」
自らの戦闘狂人格の力を限定的に帯びた永一が、光線銃に実弾を籠めて、千尋の肩の上から其れを発射。
人類の科学文明の進歩に感動できる程のレベルの銃から撃たれた『命』を盗む凶弾が、関節を撃ち抜きその命を更に盗み取る。
片足を撃ち抜かれ、よろけながら。
肩を怒らせる様に前傾姿勢で肉薄してくるクロムに向けて、残された左足を突き出し、その華奢な体を貫こうとする呪骨竜だったが……。
「邪魔だな……消え失せろ」
千尋が低く命じると同時に左腕を回る様に回転していた970本の光剣が、足の関節を守る様に覆われた鎧の残骸の隙間に入り込む。
光剣は、鎧の残骸の内側から次々に鎧とその左腿を貫き、次々にその体を消失させていく。
両足を奪われても尚、魔眼をクロムに向けて、その身を爆破し、魂縛る呪詛の鎖に繋ごうとする呪骨竜だったが。
「そんなこと……わたし達が絶対にやらせませんっ!」
雄叫びと共にユーフィが肉薄、シルが撃ち抜きドロドロに溶けた鎧の向こう……その胸甲をガッツリと掴み、関節技を仕掛ける。
その両腕に纏いし炎竜と氷竜が、尚も暴れ狂う呪骨竜を締め上げんと、咆哮と共に、その闘気で出来た体で、呪骨竜を締め上げて。
――そこで。
「――万象を断つ」
クロムが前傾姿勢の儘に、目にも留まらぬ早業で、三度刻祇刀・憑紅摸を抜刀。
伽藍呑む刧火纏いし剣閃が、ユーフィに羽交い締めにされた呪骨竜の胸を、紅蓮の弧を描いて三日月型に焼き尽くした。
同時に、自らの心の洞を見つめる藍色の瞳が狐火の様な怪しい輝きを放ち、呪骨竜の魔眼が吸い寄せられる様にクロムに向かう。
そこに……。
「敬輔! ウィリアム! 畳みかけるぞ!」
統哉が叫び、クロムに目線を向けるために、大きく下げた首の付根にパイルバンカーを突き込めば。
「分かりました! 『ビーク』!」
ウィリアムが呪骨竜の脇を潜り抜ける様に『ビーク』を操り、『スプラッシュ』の刀身を大地と水平に構え。
氷の精霊達を纏った巨大な非物質化した『スプラッシュ』を、剥き出しになった頭部に食い込ませ、その魂を深々と切り裂き。
「知識神の加護ある者達の魂は渡さない! 此処で……散れ!!」
大地を蹴った敬輔が、祈りを籠めた白光を纏った黒剣を統哉の刺傷と、ウィリアムの剣閃の痕を斬る様に唐竹割りに振り下ろした。
――其処は、霊達と呪骨竜を繋ぎ止める結合点。
その結合点……精神を縛る鎖を断ち切られ、その体内から大量の亡者達が喜びの声と共に解放されていくその声を背に。
「……終わりだ」
かちゃり、と黒剣を鞘に納める敬輔の呟きと共に。
どう、と呪骨竜がその場に静かに頽れるのだった。
●
「……」
藍色の瞳の向こうに、陽炎の様に見える、妖狐の郷。
幼き自分を爪弾きにした郷の者達。
その全てが、緋の曼珠沙華の先に見えた様なそんな気がした、そのクロムに。
「……エルフェルト様」
その曼珠沙華の花弁を撃ち出した主、蒼がか細い声で呼びかける。
その、蒼の呼びかけに。
誰かに手を差し伸べられる様な、そんな暖かさを感じ取って。
「……ん」
小さく呟いて我に返り、クロムが目前の自らを『物』と定義するヤドリガミの少女を見つめました。
「……ボク、には、エルフェルト様、が、どんな、過去を、過ごして、来たのか、分かり、ません……」
――けれども。
自らの胸の裡に宿ったこの小さな灯火が、何処か辛そうな誰かを見る度に、焦げ付く様な、痛みを覚える。
その……。
「……この、胸を、焦がす、想いの、意味は、未だ、理解、しきれて、いません」
――それは、あの人にある事を問われた時にも、感じた想い。
「……でも、ボクは、分かり、たい、と、思う、のです。この、胸を、焦がす、感情の、意味を、いつか、と……」
――でも。
「ボクは、間違って、いる、の、でしょう、か。その為に、エルフェルト様、を、気にする、のは、おかしい、の、でしょう、か?」
何処か落ち着き無く赤と琥珀色の双眸を宙に彷徨わせ、俯き加減になりながら。
問いかける蒼を、クロムが藍色の瞳で静かに見つめる。
その狐尾と狐耳が、照れ臭そうに激しく揺れていた。
「……ん。ありがとう」
口に出す事が出来たのは、たった、それだけであったけれども。
万感の想いの籠められた其れに頬を赤らめはにかむ蒼を見やりながら。
「クロム。俺達は、君の事を詳しく知っているわけじゃない」
統哉がクロムに、そう静かに語りかけた。
「でも、君は俺達の仲間だ。それだけは、俺達には間違いない事なんだぜ」
そう言って、ニャハハと笑う統哉の其れに、千尋が皮肉げに肩を竦めた。
(「……ったく、これだから『ヒト』って奴は……」)
そう胸中で思いながら。
其れを口には出さず、まあ、と千尋が話を続ける。
「どんな想いや感情をお前が持っているのか、俺は知らんが。お前にとって、それはそんな簡単に手放せるものじゃないんだろ? だったらそれは、お前にとっては大切なんじゃないのか? まあ、『モノ』である俺にはその執着ってのは良く分からんが。ただ……」
と、此処で。
千尋がちらりと敬輔の方を見やり、軽く肩を竦めて見せた。
「アイツは、そう言う執着を持っている。そう言う感情を時々見せる。アイツなら、お前の気持ちも少しは分かるかも知れないぜ?」
その千尋の呼びかけに。
表情には出さないままに、ピクリと狐尾を忙しなく揺り動かし、狐耳を垂らすクロムを見て、千尋が思わず口の端に笑みを浮かべる。
「まあ取り敢えず、未だ戦いが全部終わったわけじゃ無いんだよねぇ。寧ろこれからが本番とかそういう感じなんだろうけどさぁ」
と眼鏡を軽く掛け直し、ボリボリと軽く頭を掻きながら呟く永一に、そうですね、と神楽舞の奉納を終えた琴も首肯した。
「大天使ブラキエル、本命のその戦いは、未だ残っています。エルフェルトさんや、司さん、館野さん達の想いを整理するのは、戦いの中でも出来るのでは無いでしょうか?」
大幣をしまい、神楽扇を畳みながら。
清楚に礼儀正しく、けれどもはっきりと自分の思いを主張する琴に、そうだろうねぇ、と永一が頷き返した。
「でも、忘れないで欲しいんだっ!」
と、此処で。
精霊布のマントに風の精霊を孕んだままに、白雪の靴『スノーブーツ』で華麗に地上に着地したシルが溌剌と言う。
「ユーフィさんも、わたしも、皆がいるから、後ろを安心して任せることが出来る。こんな心強いことはないと思っているってことをねっ!」
その、シルの言葉に応じる様に。
「はい、そうですね」
力強く首肯したユーフィが銀のツインテールを軽く揺らしながら、シルとニッコリ顔を合わせて。
それから、改めてクロム達を順繰りに見つめて目を合わせ静かに頷いた。
「アランさんが人々を守ってくれています。だから、わたし達は、わたし達の務めを果たすことが出来る。クロムさんも、わたし達も、この街を守りたいという想いはきっと、何も変わらないんです。それならこうやって手、を取り合って戦えるのはとても喜ばしいことです。だから、最後まで一緒に、戦い抜きましょう!」
そう告げて。
手を差し伸べるユーフィの其れに、狐尾を揺らしながら、無表情に頷いて。
「……ん」
と、その手を照れくさそうに取るクロム。
その頬が紅潮させているのがちょっと可愛い子狐の様に見えて、ユーフィがニッコリ微笑んだ。
と、此処で。
敬輔が少し離れたところからそんなユーフィ達を見つめながら、ぼう、と自らの胸中に燻る焔を一度、意識する。
(「クロムの目に映っていたもの、か……」)
あの曼珠沙華の花弁を見つめたクロムの藍色の瞳。
そこに映し出されていた、深き激情と、尾と耳の毛を総毛立たせたその様子。
其処にあるモノは、多分、自分の心の中にある『其れ』と――。
(「だとしたら……飲み込まれるなよ」)
『其れ』……復讐の情念に飲み込まれたその先に、救いがあるとは限らないから。
でも、そんな自分の事を気に掛けて、その手を差し出してくれる人達がいることも、敬輔は知っている。
誰かと繋がることを恐れ、前に進めなくなった時の悲劇を知っている。
だから……今は。
誰かから差し出されたその手を拒む事は……。
「皆さん、お話しは其処までです」
そんな敬輔の思いや、クロム達の会話を断ち切る様に。
『ビーク』に騎乗し、空を見上げていたウィリアムが、厳しい顔付きの儘に、ユーフィ達へと呼びかけた。
「ああ、とうとう現れたみたいだねぇ」
間延びした永一の言葉を、まるで聞いていたかの様に。
『我が僕よ、安らかに眠れ。失われし我が友と共に、我が剣の、その中で』
厳粛な面持ちで、その背に光り輝く輪を纏いし大天使ブラキエルが、空を覆う太陽の如く眩い光と化して、粛然とその場に出現した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『大天使ブラキエル』
|
POW : 岩腕
単純で重い【岩石でできた巨大な腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 絶対物質ブラキオン
【「絶対物質ブラキオン」の鎧】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、「絶対物質ブラキオン」の鎧から何度でも発動できる。
WIZ : 大天使の光輪
自身が装備する【大天使の光輪】から【破壊の光】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【徐々に石化】の状態異常を与える。
イラスト:藤本キシノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――太陽の如く燦然と輝く大天使のその光輪。
思わずひれ伏してしまいそうな程の光を背負う大天使が地上へと舞い降りた。
『我が友に引き続き、我が僕をも汝等は失わせたか』
厳かな声の中に、何処か憮然たる情感を籠めて。
粛々と語る大天使のその姿に、猟兵達は身構える。
そんな猟兵達の姿を見て吐息を漏らし、何故、とブラキエルが言葉を紡いだ。
『汝等が守るは、知識の街。然れど知識は汝等を破壊する道具となる』
――故に。
『知識は、我等、猟書家と共に在ればこそ、真なる幸福を享受する。失われることなく存在し続けるその喜びを。その知識の悦びを、汝等は阻むと、そう言うのか』
まるで、幼い子供をあやす大人の様に。
或いは、愚者を諭す賢者の如く。
超然と問う大天使ブラキエルだが、程なくして諦めた様に、頬杖を突いた。
『退く気は非じか、知識神の聖騎士に猟兵達よ。なれば、仕方あるまい。我が求めるは『識』。我が願いを阻むというのであれば、我、武と汝等の殺戮を躊躇いはせぬ』
――故に。
「今、此処に武と殺戮の宴を始めるとしよう。全ては我が友、我が僕と共に、我が愛と憎しみを満たす、天上界へと至るために」
そう告げて。
大天使ブラキエルが、その背の光輪を輝かせ、ノウリッジの街に降下した。
――自らの手で、この街と猟兵に滅びを齎すその為に。
*第3章のプレイングボーナスは下記となります。
1.プレイングボーナス:先制攻撃に対抗する。
*大天使ブラキエルのユーベルコードは絶対先制です。
先ずは、此方に対抗する手段をプレイングに記載して下さい。
この絶対先制は、戦争の有力敵戦と同様の意味合いを持っています。
2.聖騎士アランが街人を守るので、街への被害を考慮に入れる必要はありません。
3.大天使ブラキエルは、地上からの攻撃が届く範囲で滞空しています。
その為、空中戦に拘る必要はありません。
――それでは、良き戦いを。
霑国・永一
天上界へと至るために、ねぇ。到達失敗して自暴自棄になった結果、今の虐殺なんてダサい手段を取ってるというのに、諦めてなかったかぁ
ああ、俺は褒めてるよ?恥や外聞気にせず、どんな手段になろうと生きてれば、最後に勝てれば良いというのは盗人的に好ましいのさぁ
さて、先制攻撃の対策をっと
あの鎧、迂闊に攻撃すると反撃怖そうだなぁ
てことで触らぬ天使に祟りなし!じゃ、皆頑張ってねぇ?(街の影とか利用して逃げ回る)
上手く出来たら隙見て狂気の禁癒発動だ
ただいま、ブラギエル。今時盗人も飛ぶのさぁ
鎧で受け止めるってことは防御の意思。その意思を盗む回復不能の弾丸を飛び回りながら隙間に撃ち込むとしよう
命も尊厳も盗まれて貰うよ
ウィリアム・バークリー
神への愛に見返りを求めますか。そんな愛は商売人と同じ損得計算に過ぎません。信仰を失った大天使よ、覚悟。
破壊の光は、サバイバルマント『ホワイトミュート』に引き受けさせましょう。
石化が進んだら、投げ捨てて。
「高速詠唱」「全力魔法」氷の「属性攻撃」「衝撃波」のElemental Cannonを、影朧エンジンを装着した魔導原理砲『イデア・キャノン』から大天使に向けて照射します。
全部の強化術式を使いたくても、相手に潰されるだけですからね。手早く準備出来るのはこんなところでしょう。
「目立たない」ようにしつつ、仲間に大天使の注意を引いてもらって、狙われないようにするしかないですね。
一撃必滅、原理砲、発射!
ユーフィ・バウム
戦友のシル(f03964)さんと
貴方の言葉は詩的に過ぎます。私には難しい
分かるのはどんな理由があっても、
虐殺なんて許せないことです!
その為の、猟兵
先制される岩腕の一撃は、
【戦闘知識】に【野生の勘】―今まで培った私の全てで
【見切り】、すんでで避けます
避けられなくても!【オーラ防御】を体に纏い、致命を避け
自ら飛んで衝撃を緩和し凌ぐッ
耐えきったなら――《蒼翼の闘魂》を発動し、
真の姿:蒼き鷹として組み付きますっ
貴方の攻撃等、受け切ってみせますわ
もう誰も、殺させはしない!【勇気】を胸に!
【功夫】を生かしたプロレス風打撃に続き
【怪力】を生かした【グラップル】からの投げを打ち、
地面に豪快に投げ落としますわっ
シル・ウィンディア
戦友のユーフィ(f14574)さんと
ついに出てきたか…
過ぎた知識は滅ぼすかもしれない
でも、あなたが使っても人が滅んじゃうでしょ
そんなの、止めるよっ!
対UC:
広範囲ならよけようとしないよ
光を緩和するために闇の【属性攻撃】を【オーラ防御】に付与して体全身を覆うよ
光の影響を少しでも防ぐことができれば…
体が石化し始めてもあわてずに…
みんなを信じて詠唱開始
【限界突破】で【魔力溜め】を行ってじっくり力を循環させて…
【全力魔法】でのヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト
この一撃だけにかける
腰部の精霊電磁砲を外して両手に構えて…
【スナイパー】のようにじっくり狙いを付けて…
この一撃、これが人の生きる意志だーっ!
司・千尋
連携、アドリブ可
愛と憎しみは紙一重ってヤツ?
フラれ男の八つ当たりにしては規模がデカすぎるだろ
先制攻撃含む敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御、迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
単純な攻撃なら見切りや第六感で回避出来るはず…
無理なら盾受けや武器受け等も使い防御し直撃は避ける
攻防は基本的に『翠色冷光』を使用
回避されても弾道をある程度操作して追尾させる
範囲外なら位置調整
装備武器や早業、範囲攻撃、2回攻撃、乱れ撃ちなど手数で補う
友の願いを叶えたい気持ちは
ヒトでもオウガ・フォーミュラでも変わらない…って事か
クロム・エルフェルト
戯言を
智は力、ならばこそ悪しき者に渡ってはならない
敵の先制には残像纏い、戦闘知識と経験の勘を合わせ
浅い傷は敢えて無視
騙し討ちを絡めた足捌きで可能な限り掻い潜る
例え濁り水でも、波立たなければ月は映せる
そうだよね、皆。――あに様。
あの日以来、避けて来たUCを此処で使う
鬼と鋏は使いよう
私は『猟兵らしく』UCでお前を縛る
さあ、八刃の。『力を貸して』。
剣鬼の私と拍合わせ、敵の意識をひきつける
地盤舞えば足場習熟で跳廻り
二人係で四方八方より早業の剣閃を雨と降らす
鬼千雨改め、狐千雨
余所見は――させない
仲間から声が掛かれば、剣鬼の襟首掴んで退く
電撃的な入替り、連携こそ猟兵の真髄なれば
皆を信じて、臨機応変に戦うよ
プリンセラ・プリンセス
連携・アドリブ可
先制攻撃は○第六感○幸運○見切り、馬に○騎乗しての機動回避。命中する場合は○オーラ防御○激痛耐性で耐える。
陸獣を遡源とする魚は巨鯨が持つバハムートの語源としての能力を使用する。
だがブラキエルにバハムートの語源の知識があるだろうか。巨鯨バハムートとするのはUDCアースのものだ。プリンセラはUDCアースに居住していた時期があり○世界知識として知っている。
仮に知っていたとしても正確にイメージできようはずもない。
語源を抑えれば枝葉に通ず。その能力で使うのはとあるゲームでみた蒼い炎のプラズマブレス。メガフレア。
それを竜の口を模した両腕より放つ!
神宮時・蒼
……あれが、大天使、ブラキエル…
…武と、殺戮、とは、天上界とは、何とも、物騒な、場所、なの、ですね
相手が空中にいるとは言え、攻撃が通るようで、良かった、です
相手の先制攻撃は厄介、ですね
兎角、まずは防御を固めましょう
【魔力溜め】と【高速詠唱】で強度を増した【結界術】を展開
相手の攻撃は【見切り】と【第六感】で見極め回避
…もともと、本体(ブローチ)も、石、ですし、ボクに、石化は、通じる、の、でしょうか
と、そんな疑問は置いて
石化の状態異常は【浄化】で治せないか試してみます
攻撃に転じれる機会があれば、【翠花魅惑ノ陣】を
智慧の街を、荒廃した更地には、させません
…おやすみ、なさい。…善き、眠りを―。
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
貴様の願い、ここで阻ませてもらう
…それ以外に、言うことはあるのか?
それとも何だ
知識は猟書家が独占するものではない
皆で共有するものだ、とでも言ってほしいのか?
…どちらにせよ、貴様を葬ることに変わりはない
ここで果てろ!
岩腕による先制対策だが
「視力、戦闘知識」で腕の動きと狙いを把握
最も避けづらい地点に追い込まれぬよう注意しつつ
振り下ろされる直前に「見切り、武器受け、オーラ防御」で黒剣や濃密展開させた漆黒のオーラで岩腕を逸らし避ける
腕が振り下ろされ地面にめり込めば、それは必ず隙になるはず
回避した勢いで黒剣を振りかぶり
「早業、怪力」+指定UCで至近距離から斬り飛ばす!
加賀・琴
アドリブ歓迎
長々と語ってみせても、あなたは骸の海から現れた過去の存在です
知識は現在を、そして未来を生きる者達のものです。あなたたち過去のものではありませんっ
先制攻撃には、家屋に避難することで破壊の光から逃れようとします
地下室がある家屋が一番ですが、そうでなくとも直接破壊の光を浴びるよりはマシなはずです。例え破壊された家屋の瓦礫に埋もれても
先制攻撃をなんとかやり過ごしたら反撃開始です
とはいえ、流石に強いですねっ
私では有効打を与えるのも一苦労しそうです。ならば、皆さんの支援に回りましょう
先の神楽舞は、素直に舞わせてくれそうもありませんし
それなら、こうです!
【凶祓いの矢】を射放ち、敵の妨害に徹します
文月・統哉
格上なのは重々承知
何とか直撃避けその先に繋げたい
観察し【情報収集】
ブラキオはギリシャ語で腕を意味する言葉
成程見事な岩腕だ
直撃すれば致命的な重さ
だが軌道は単純で読み易い
ならば
注意深く攻撃【見切り】【オーラ防御】展開
【残像】が読まれるなら
宵で【武器受け】の姿勢…は【フェイント】だ
実際は【早着替え】で着ぐるみの実体残し
死角への【ダッシュ】で全力回避
これぞ奥の手、着ぐるみ忍法・空蝉の術!
凌いだらここからが本番だ
岩腕を駆け登り、勢いのまま空を駆け撹乱
『誰一人殺させない!』
強い意志と覚悟で着ぐるみの空を発動
宵を振り【衝撃波】で鎧内部を共振させ【鎧無視攻撃】
更に振動の伝達具合から鎧の隙間を見出し
宵で斬り裂く
●
眩い光輝を放つ大光輪を背に、ゆっくりとノウリッジの街に降りてくる大天使ブラキエルを見つめ。
「遂に出てきたか……」
その背筋に冷たいものを滴らせつつ、シル・ウィンディアが生唾を飲み込んだ。
「……あれが、大天使、ブラキエル……なのですね」
赤と琥珀色の双眸を彷徨わせながら、雨に薫る金木犀を握りしめた神宮時・蒼が、シルに頷くその間に。
何故、とブラキエルが吐息を漏らした。
『汝等が守るは、知識の街。然れど知識は汝等を破壊する道具となる』
まるで、幼い子供をあやす大人の様に。
或いは、愚者を諭す賢者の如く。
超然とした大天使ブラキエルのその言の葉。
それに向けて、戯言を、と狐尾と狐耳の毛を逆立てて呟き、納刀した刻祇刀・憑紅摸の柄に手を添えるはクロム・エルフェルト。
尾と耳の逆立ち方から、クロムの内面でくゆる焔を感じつつ、赤と青の双眸を鋭く細めた館野・敬輔が、黒剣を青眼に構える。
クロムの言の葉を耳にしたか、愛おしげにブラキエルがその手の剣を撫でた。
『知識は、我等、猟書家と共に在ればこそ、真なる幸福を享受する。失われることなく存在し続ける事への喜びを。その知識の悦びを、汝等は阻むと、そう言うのか』
――と、此処で。
「ええ、その通りですわ」
何処か気品を感じさせるおっとりとした口調と共に、翡翠色の風が吹く。
その風と共に姿を現したのは、漆黒の馬、チェタックに騎乗した皇女然とした娘……プリンセラ・プリンセス。
不意に現れたプリンセラの姿に、おいおい、と司・千尋が軽く肩を竦めて見せる。
「此処に来て、援軍か。よくもまあ、グリモア猟兵が飛ばせたものだ」
やや皮肉な千尋の物言いに、私は、とプリンセラが囁く様に告げる。
「この世界の破壊を望む、大天使ブラキエルが許せないのでございますわ。ですので、この戦いに参加することを選んだのです」
そんな、プリンセラの言葉を聞き流しながら。
クロムが、その藍色の瞳を鋭く細めた。
「智は力、なればこそお前の様な悪しき者に渡ってはならない」
その、クロムの解に。
ブラキエルが硬質的な金髪を、軽く梳かす。
『汝等は、何を悪と見做し、何を善と見做すのか。我は猟書家。失われし友と共に、『識』を蓄え、『識』に永遠に在り続ける悦びを与える者。我が行いを、何故汝等が、『悪』と断じることが出来るのだ?』
続いたブラキエルの問いかけに。
溜息をつきつつ、加賀・琴が静かに頭を横に振った。
「如何にあなたが長々と何を語ってみせたとしても。あなたは、骸の海……消費された過去から染み出した存在です」
そこで一度言葉を切って。
和弓・蒼月の弦を張り替え直しながら、琴が続けて言の葉を紡ぐ。
「知識は現在を、そして未来を生きる者達のものです。あなた達、過去のものではありませんっ!」
その琴の否定の言の葉に。
ブラキエルが、軽く頭を横に振る。
『『識』は汝等が紡ぎ、生み出してきた『過去』の集積物。我は、『識』を学び、『過去』から進化し、世界の理を曲げるを望む者。即ち、『過去』こそが、『今』となる折の灯となる役目がある。嘗て、この街の希望とならん事を欲した、あの、我が同胞の様に』
ブラキエルの、その呼びかけに。
「……矛盾しているな、貴様は」
敬輔が殺気を隠さず、低く呻いた。
「そうですね、敬輔さん」
その敬輔の、呟きに。
ウィリアム・バークリーが静かに首肯し、そもそも、と小さく溜息を一つ。
「その世界であれば、貴方が神になるのかも知れません。ですが、その神としてのあなたの愛に、あなたは見返りを求めると言う事でしょう」
そんな、愛は。
「結局の所、商売人と同じ損得計算に過ぎませんよ。神の愛とは、見返りを求めぬ愛。そんな基本的な信仰さえ失ったあなたが、大天使を名乗るなど、聞いて呆れます」
粛々と告げられた、ウィリアムの呟きに。
応えを示さぬままに、大天使ブラキエルが何処か諦念の混ざった頬杖を突いた。
『……我が願いを聞く気も、退く気も非じか、知識神の聖騎士と猟兵達よ。なれば、仕方あるまい。我が求めるは『識』。我が願いを阻むというのであれば、我、武と汝等の殺戮を躊躇いはせぬ』
告げて、目も眩む程の勢いで大天使の光輪を輝かせるブラキエル。
そのブラキエルの様子を見つめながら、私には、とユーフィ・バウムが呟いた。
「貴方の言葉は詩的に過ぎまして、私には難しい。ですが……!」
ぐっ、と両拳を握りしめて。
全身に蒼穹のオーラを纏いながら、深呼吸をしたユーフィが叫んだ。
「どんな理由があっても、虐殺なんて許せない! それだけはハッキリしています!」
「そうだね、ユーフィさんっ!」
そのユーフィの言の葉に。
シルが思い切りよく首肯して、確かに、と軽く呟いた。
「過ぎた知識をわたし達が持てば、わたし達は、わたし達を滅ぼすかも知れない」
――でも。
「あなたがその知識を使っても、人が滅んじゃうっ! そんなの、わたし達が絶対に止めるんだからっ!」
その、シルの呟きに。
「そう言うことだ、ブラキエル」
黒剣の剣先を赤黒く光り輝かせながら、敬輔が呟く。
「貴様の願いで失われるものがある。ならば俺達は貴様を此処で阻ませて貰う。……ただ、それだけの事だ。それとも……こう言ってやろうか?」
その口元に何処か歪な笑みを浮かべて。
「知識は猟書家が……誰かが独占するものではない。皆で共有するものだ、とでも」
『汝等の考えなど、我は求めぬ。だが……過ぎたる知識の拡散は、汝等の死を加速させるだけであろう。……違うか?』
その、ブラキエルの呼びかけに。
「俺は……俺達は、それ程人に、絶望してないよ」
そう返したのは、文月・統哉。
(「統哉殿……?」)
狐尾を振りながらのクロムの胸中の呟きに。
何となく気がついたか朗らかな笑みを浮かべて統哉が俺は、と告げた。
「少し前、此処ではない別の世界で、ある男と戦った。彼は、自分よりも先に死んでいった幼い命達を悼み、その事実に絶望していたよ」
その戦いを思い出しながら。
統哉がでも、と話し続ける。
「俺は、あの時彼を諭した。希望を持ち続ける事の強さ、優しさを。それは、何処の世界でも言えること。知識が拡散されようとも、其れを正しく用いて、人は、俺達は歩いて行けると信じている。それが俺達の希望。其れを守る為に、俺達は今、此処に居る」
『なれば汝等、滅びるが良い。その未来への希望が如何に脆弱なものであるのかを知り、我が武と殺戮を止められぬ絶望の海に沈め。其れが、我が願いを果たす標となる』
冷たく凍える様な殺気を籠めて、ブラキエルが静かに言い放った。
●
「我が願いねぇ……。つまり天上界に至りたいって事だよねぇ、それ」
心底愉快そうに肩を振るわせて。
見た者に、『何か企んでそう』って言われる位知的に見える、叡智の結晶ともいうべき眼鏡を掛け直しながら。
その奥の金の瞳を怪しく輝かせた霑国・永一がクスクス笑う。
「到達に失敗して自暴自棄になった結果、今の虐殺なんてダサい手段を取っているというのに、実はまだ諦めてなかったのかぁ」
眩く光り輝く光輪から、破壊の光を放出しようとしながら。
『為せるべき事あらば、最後まで足掻く。正しくそれは、『命』の在り方であろう。その在り方を、汝は愚弄するか?』
物憂げな様で、微かに怒りが綯い交ぜになったブラキエルの問いに、永一がわざとらしく両手を仰ぎながら、ああ、と軽く頭を横に振る。
「俺は褒めてるよ? 恥や外聞気にせず、どんな手段になろうと生きてれば、最後に勝てれば良いというのは、盗人的には好ましいからさぁ?」
『……滅せよ、汝等。希望など、容易く絶望に変わることを、その身を以て思い知るが良い』
厳かな呟きと共に、眩く輝く破壊の光をノウリッジの街を包み込む勢いで解き放つブラキエル。
その全身を覆うブラキオンの鎧やら、降り注ぐ徐々に石化する破壊の光を認めた永一が、しゅたっ、と軽く右手を挙げた。
「じゃ、皆、頑張ってねぇ?」
そのままちゃっかり街の屋根の影やらなんやらへと猛進して身を隠す永一を見て。
「霑国さん、ちゃっかり私達に全部押しつけていきましたね……」
神楽舞を舞う時間は与えて貰え無さそうだ、と諦めの表情になった琴が息を吐く。
実は永一と似たことを考えていたのだが、それはまるでウィリアム達を見捨てる様で、寝覚めが悪い。
(「となると、此処は……」)
と、悲壮な決意を固めて和弓・蒼月に破魔の矢を番えようとした、その瞬間。
「……武と、殺戮、とは、天上界とは、何とも、物騒な、場所、なの、ですね。……司様」
焦点定まらぬ色彩異なる双眸で、破壊の光が降り注ぐ様を見た蒼の呼びかけに、千尋が軽く肩を竦めた。
「愛と憎しみは紙一重ってやつかね? まあ、それはさておき、お前等」
と、プリンセラ達に呼びかけながら、無数の結詞を構えつつ。
「俺達だけで、全ては守れないから、ある程度は自前で耐えてくれよ?」
と、軽薄に告げて。
千尋が結詞の先端の無数の鳥威を破壊の光に向けて展開する傍らで、蒼がその手の雨に薫る金木犀の先端に緋を灯す。
(「……元々、ボクの、本体(ブローチ)も、石、ですし、ボクに、石化が、通じる、の、でしょうか、と疑問、では、あるの、ですが……」)
でも、ボクは、心在る、ヒトの盾に、為らんと、切に、願う、から。
だから、儚く、けれども美しく咲く、『金木犀』の名を頂きし杖の先端から、彼岸の如き、憂いを抱く、幽世蝶を解き放つ。
幽世蝶……天へ祈る幽霊花の羽から零れた鱗粉が、焦茶色の結界纏う鳥威と重なり、緋と茶の結界と化し、破壊の光の勢いを削いでいく。
だが、破壊の光が当たる度に、鳥威もまた徐々に石化し重くなる。
その重さが、結詞を伝ってずしりと腕にのし掛かり、千尋の動きが鈍くなった。
「……司様……!」
蒼の悲壮さの籠った気遣いに、何、と千尋が額から汗を流しながら不敵に笑う。
「この位は何時ものことだろ。ってか、お前は自分の仕事に集中してろよ」
千尋の返事に躊躇を捨てる様に頷き、彼岸の如き緋の愁い纏う結界を強化する蒼。
それさえも貫通してくる破壊の光……圧倒的な迄のそれ。
「ならば……此で行くべきなのでしょうか?」
プリンセラが、黄金の結界を張りつつ軽く小首を傾げるその間に。
「ユーフィさんっ! 皆! 合わせて!」
シルが叫びつつ、自らの指に嵌めた精霊石の指輪を軽く弄くり回した。
火・水・風・土・光・闇の六大属性をイメージした指輪の石が其れに呼応して。
色取り取りの煌めきを伴う結界を生み出すのに。
「はいっ! 守ってみせますよっ!」
「それなら俺も手を貸すぜ!」
ユーフィが蒼穹のオーラで練った結界を、統哉がクロネコ刺繍入りの緋色の結界を重ね合わせて破壊の光の前に展開する。
「クロムさんは下がって下さい! 此処はぼくが押さえます!」
「琴。アンタも下がれ」
クロムをウィリアムが、琴を敬輔が庇う様に前に立つ。
シルと統哉とユーフィの結界で更に勢いを削がれた破壊の光に、ウィリアムがサバイバルマント『ホワイトミュート』を翻し。
敬輔が、プリンセラの今にも破壊されそうな黄金の結界を強化する様に漆黒の結界を展開、破壊光線を受け止めた。
「た、助かりましたわ、騎士の殿方様」
チェタックに跨がり、礼を述べるプリンセラを振り返らず、敬輔がぼそりと、誰に共なく呟いた。
「俺は、騎士なんて大層な者じゃない」
「そうでしょうか? 私をお守り下さったあなたは、立派な騎士だと思いますわよ?」
からかう様な笑みを浮かべて。
小首を傾げて、青い瞳に称える様なプリンセラの視線の光をその背に受け、敬輔が気怠げに溜息を吐き、ブラキエルへと踵を返すと。
『ふむ……この光を受け止めるか。だが……それでは足りぬ』
粛々とブラキエルがそう呟いていた。
その言葉の意味に、最初に気がついたのは、ウィリアムだ。
(「皆さんにあれだけ威力を削いで貰っても、こうなりますか……!」)
見る見るうちに石化していく自らの『ホワイトミュート』を見つめつつ、ウィリアムが内心で呟き、警告するよりも一足早く。
闇属性を付与した結界を生み出したシルや、蒼穹の結界を纏ったユーフィ達の結界が徐々に、徐々に石化していく。
「ウィンディア様……バウム様……バークリー様……!」
それを見た蒼が、胸の裡に灯る灯に、激しく燃え、突き刺す様な痛みを感じるが。
「大丈夫だよっ! この位、へっちゃらだからっ!」
不安げな蒼に、シルが朗らかな笑みを浮かべてそう返す。
「わたし達が石になるよりも前に、皆なら、必ずやっつけられるって、信じているからっ!」
「そうですねっ。わたし達は、仲間ですからっ!」
笑顔で逞しいユーフィの背中に視線を送るシル。
その視線を背中で感じたユーフィが、懐の勇気の実を取り出して一口摘まむ。
食べるや否や、自らの石化に抵抗する様に、無限の勇気が全身を駆け巡る。
その間にウィリアムが『ホワイトミュート』を捨て、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、何もない空間に剣先を突き出した瞬間。
複雑な紋様の描かれた魔法陣が空中に浮かび上がり、そこから……。
――ガシャンッ!
と、大砲と呼ぶに相応しい巨大な魔導原理砲が、ウィリアムの目前に展開された。
現れた持ち手を両手で掴み、更に装備されているペダルに足を掛ける。
眼前のコンソールに、『Elemental Cannnon System』と言うルーン文字が映し出され、ウィリアムがそれに素早く目を走らせた。
「システム起動、『イデア・キャノン』。影朧エンジン起動正常。『イデア・キャノン』に詠唱コード入力開始……!」
呟きながら、コンソールに呪を猛然と叩き込むウィリアム。
『Elemental Power Converge……。Charge Start。精霊力収束モーター起動……』
その、ウィリアムの隣では。
『闇夜を照らす炎よ、命育む水よ……』
体の細胞が少しずつ石になっていく、その変化の痛みを受けながらも。
尚、ウィリアムの『イデア・キャノン』の砲塔と同じ方向に描かれた、シルの六芒星の魔法陣が、六光を伴い輝き始めていた。
●
「……ウィンディア様……」
石になりつつある体に恐怖を覚える様子もなく術に集中し始めるシルを見て。
無意識に仮初めの唇を噛み締める蒼の隣を、狐尾を振るい、同色の残像を曳きながら、クロムが疾走する。
「……ん。キミなら、何か出来ると、信じているよ」
先の戦いで見せてくれた、あの狐の松明の花々――真実と、情熱の花言葉持つ其れを通して対面した『剣鬼』としての自らの心。
そして――もう済んだ事、と割り切っていた筈の、妖狐の郷の、記憶。
……それに火を焚べ、向き合う切っ掛けとなる『光輝』を生み出した、キミを。
勇気で自らの石化の恐怖を退けるユーフィに。
復讐の覚悟を以て、漆黒のオーラに張り付いた石を破壊する敬輔と。
ある覚悟と思いでクロネコ刺繡入りの結界の石化を遅延させる、統哉と共に。
ブラキエルへと向かうクロムの背を見送りながら、蒼が自らの胸に手を置いた。
――トクン、トクン。
胸中に宿る灯の、鼓動する音が聞こえてくる。
そこには、守り切れなかった者への痛みや、苦い後悔が含まれるけれど。
此処で立ち止まらないで、と誰かに背を押される様な温もりも、確かにあった。
「……やって、みせます……」
呟きと共に、雨に薫る金木犀を掲げる蒼。
杖の先端に緋の憂い抱く蝶が舞い降りて、取り付けられた蛍袋の灯火から、蜜の様に何かを吸い取って。
再び杖から飛び立ち、淡い、小さな光を纏った鱗粉を雨の様に戦場に零していく。
淡く儚く優しい輝きを伴うそれがユーフィ達前衛に降り注ぎ、石化を完全に食い止めた。
自らに向かってくる統哉達を見つめたブラキエルが。
『成程……だが、それならば我が腕で汝等を滅ぼすまで』
呟き、破壊の光による攻撃から、岩石で作り上げられた両腕を、空を切る音と共に振り回す攻撃へと淀みなく移行する。
その拳撃が、石化していた鳥威を粉微塵に砕き、豪速で、ユーフィ達に迫る。
「そんな攻撃で……わたし達は倒れませんっ!」
避けきれないと判断したユーフィが蒼に癒された蒼穹のオーラを更に濃く、深い碧に変化させて其れを受け止めて。
その脇を擦り抜ける様に、狐色の残像を曳いたクロムが疾駆し、真正面から刻祇刀・憑紅摸を抜刀しようとした、刹那。
『無駄な事を。我が前に汝の剣閃等、無力なり』
厳かに呟いたブラキエルが左腕をクロムに振り下ろしたが……。
「そうはさせるかっ!」
統哉が漆黒の大鎌『宵』の刃先から星屑の如き淡光の線を曳いてクロムとブラキエルの間に割り込み、攻撃を受け止めようと……。
「な~んてねっ!」
する振りをして、クロネコ・レッドの実体を残し、死角に滑り込む様にダッシュ。
その意図をアイコンタクトで読み取っていたクロムは狐色の残像を残し、紫電と蒼い粒子を纏う、縮地の歩法でその姿を消している。
残されていたのは、統哉のクロネコ・レッドの着ぐるみを吊るし、あたかもそこに統哉達が居たかの様に見せた、漆黒の鋼糸。
統哉のフェイントと、クロムの知識に基づいた騙し討ちが、一瞬でブラキオンの両脇の死角に、統哉とクロムを潜り込ませる。
「ニャハハッ。これぞ奥の手、着ぐるみ忍法・空蝉の術!」
と、統哉がVサインを作ってその右腕に飛び乗ったその瞬間。
『好きに出来ると思うな』
呟いて煩い蠅を落とすかの様にその右腕を振り回そうとするブラキエルに。
「……ん。行くよ」
クロムが小さく呟くと共に鞘走らせたのは、無銘左文字。
放たれたクロムの一閃が、『絶対物質ブラキオン』に覆われたその体に衝撃を与えて、振り落とそうとするその勢いを削ぐ。
『その程度で、我を倒そうなど、不遜であるな』
厳かに告げて、左腕を引き寄せ返す拳をクロムに叩き込もうとするブラキエル。
咄嗟に体を捻り、躱そうとするが、間に合わず。
(「……ん。浅くはないけれど、腕一本ですむならば」)
と、クロムが左腕でその攻撃を受け止めようとした、刹那。
「……甘いな」
濃密に展開した漆黒のオーラを、赤黒く光り輝く黒剣に纏わせた敬輔が、何度も何度もその腕に黒剣を叩き付ける様にして受け流す。
――ギャリギャリギャリギャリギャリ……!
黒剣の刀身が悲鳴を上げるが、構わず黒剣を叩き続ける敬輔。
その敬輔の力が届いたのだろう。
気が付けば、ブラキエルの左腕の軌道を大きく逸らさせて。
クロムと敬輔の脇の地面に着弾し、鈍い轟音と共に大地にめり込ませていた。
「助かったぜ、敬輔!」
統哉が歓喜の声を上げ、一気に岩石の右腕をよじ登る様に駆け上がっていく。
その胸中に、希望を決して絶やさせない、その強き意志と、覚悟を籠めて――。
飛翔した。
「今こそ、着ぐるみの力を此処に! 着ぐるみ召喚・着ぐるみの空!」
叫びと共に、先程地上に残した、クロネコ・レッドの着ぐるみで全身を覆い。
飛翔しながら、『宵』の刃先に星彩の如き煌めきを伴わせて空中を切り裂く統哉。
大気を断ち、生み出された真空の刃が物理的な衝撃と化して、ブラキエルの『絶対物質ブラキオン』の鎧に直接ぶつかり、轟音と共に、ブラキエルの体を傾がせる。
『ぬう……』
呻きながらも態勢を立て直すブラキエルに向けて。
「貴方の好きにはさせませぬわ! この……『蒼き鷹』……ユーフィ・バウムが!」
――それは、穢れひとつない、白き肌と。
――海の様に青く美しく染まった、ショートカットの少女。
その全身を群青色のオーラで覆い尽くせし、『蒼き鷹』
即ち……ユーフィの、真の姿。
「蒼き鷹……参りますわよっ!」
雄叫びを上げて、腕を大地から引き抜こうとしているブラキエルに正面から激突する蒼き鷹、ユーフィ。
その無限の勇気と共に、放たれた肘鉄の一撃。
蒼穹のオーラ纏ったその一撃は、絶対物質ブラキオンの鎧の上から直撃し、ブラキエルに確かな痛打を与えていた。
だが……。
『その『力』……新たなる『識』を我が下に』
そうブラキエルが呟いた、その刹那。
「全竜は鯨であり、鯨は全竜である。あらゆる全竜よ、此処に」
歌う様なプリンセラの、厳かな声が、戦場に響き渡り。
同時に、プリンセラの両腕が、竜の咢の如き姿を形作る。
「語源を抑えれば、枝葉に通じますわ」
――故に、プリンセラにはイメージが付く。
『バハムート』……UDCアースと言う世界を支える巨鯨。
その伝説の巨鯨の存在の異名を名に抱く竜王の、イメージが。
脳で想像したそれが、両腕の竜の咢に完全なる形を与え。
そして……その両腕の咢から咆哮が迸り。
「焼き払いなさい、竜王! この世界の秩序を破壊する、オブリビオン・フォーミュラを!」
プリンセラの号令に応じる様に。
両腕から吐き出された青い焔を模したプラズマのブレスが、絶対物質ブラキオンを焼き尽くさんと燃え上がる。
『絶対物質ブラキオン』に罅が入るのを感じながらも尚、鋭く目を細めるブラキエル。
『その技も、我が識となるであろう。さぁ……!』
と、仰々しく口上を述べ、その青き焔を吐き出させようとした、ブラキエルに。
「あなたに、分かるのでございましょうか?」
と、プリンセラが言の葉を紡ぐ。
ブラキエルが出してはならぬ、応えを引き出せる、その問いを。
「私が呼び出したバハムートの語源と、その言葉の、その意味が」
プリンセラの、その問いに。
ブラキエルが紡ぐことの出来る応え。
それは……。
『……我等、猟書家。全てを識るが為に、『識』を求むる。然れど……かの『識』は我が胸中には非ず』
自嘲気味な、その言の葉のみ。
その隙を見逃さず。
「今でございます!」
と、プリンセラが皇族の威厳と共に、琴達を激励した。
●
プリンセラの攻撃で、ブラキエルが一時的にその動きを止めた、その間にも。
『悠久を舞う風よ、母なる大地よ……』
シルの術は、朗々と紡がれていく。
結界で自らを守り、更に蒼の緋の憂いの蝶の羽ばたきによる鱗粉が、シルの石化の進行を遅らせてくれてはいた。
だが、ユーフィ達には、その恩恵に与ることは出来ず。
シルは徐々に両足から言葉に表わすことの出来ない痛みと共に石化し続けていた。
口に出すことの出来ぬ痛みは、間違いなくシルの心と体をも蝕んでいる。
(「でも……わたしは諦めないよっ!」)
「ユーフィさんを……皆を信じて戦うって決めたんだからっ!」
「……Release.精霊力収束率45%……。……そうですね、シルさん」
コンソールの精霊力のメーターを確認しつつ、ウィリアムがシルの言葉に頷くと。
『だが、それもまた儚き希望。我が齎す破壊には、決して及ばぬ、愚者達の饗宴』
ブラキエルがその希望を断ち切る様にそう告げて。
その背の光輪を再び煌めかせ2度目の破壊の光を降り注がせようとしたその時だ。
『……神代より、語り継がれる、翠の花』
訥々とした、蒼の歌声の如き呪が、ウィリアム達の耳に入り。
「もう一度、破壊の光など、撃たせるわけには行きませんっ!」
琴が和弓・蒼月に番えた破魔の矢を、ブラキエルと鎧を貫くべく射ったのは。
破魔の一矢が、統哉の『宵』と、ユーフィの拳の一撃を受けた衝撃に加え、プリンセラのブレスに嬲られたブラキオンに突き刺さる。
瞬間、破魔の光がブラキオンを喰らう様に輝き、その力を急速に弱めていく。
『ぐうっ……?!』
自らの絶対物質ブラキオンの鎧に深い亀裂が入る音を耳にして、思わず光輪での攻撃を中断したブラキエルに琴が告げた。
「私では、貴方に有効打を与えるのは難しいです。ですが、皆さんを助けるために、その力を妨害することは不可能ではありません。……神宮時さん!」
その、琴の呼びかけに応じる様に。
「……大地へ、無限の如く、咲き誇れ」
呪の完成と共に、蒼が大地に描き出した方陣の中央で、翡翠ノ花金鳳花が明滅し。
描かれた花金鳳花の花弁が、まるで祝福の嵐の様に戦場を舞う。
「この、智慧の街を、荒廃した、更地、には、させま、せんから……」
訥々と紡がれた蒼の言葉に応じる様に。
花金鳳花の花弁が絶対物質ブラキオンの鎧に罅が入ったブラキエルを襲う。
これを受ければ、ブラキオンの鎧が砕ける。
そう判断したブラキエルが花弁ノ舞を躱したが……。
その時には……。
「……あなた、なら、そうする、と、思って、いました、から……!」
まるでそうなることを確信していたかの様に呟き、雨に薫る金木犀の石突きで、大地を叩く蒼。
その瞬間、蒼の周囲を花金鳳花が覆い尽くし、翡翠ノ風が吹き荒れる。
吹き荒れた翡翠ノ風を孕んだ、スカートの裾と外套がふわりと捲れるのも構わず、大地に雨に薫る金木犀を突き付けると。
蒼の周囲を舞う、花金鳳花の花々が、戦場全体に咲き乱れた。
其の翡翠ノ花金鳳花が与えるは、祝福と光輝。
その花言葉に、祈りを籠めて。
「……エルフェルト様、館野様、司様、今……です……!」
蒼の呟くと、戦場に咲き乱れた花金鳳花が、猟兵達を強化する祝福を与え始めた。
●
蒼の翡翠ノ風の祝福を受けて最初に動いたのは、千尋だった。
「折角やってきたチャンスだ。……消えろ」
体が羽根の様に軽くなるのを感じながら、千尋が右掌から青い光弾を発射する。
放たれた青い光弾は、ブラキエルの体を容赦なく撃ち抜いていた。
『ぐっ……!』
鎧の上からも尚襲うその苦痛に顔を歪めたブラキエルの左腕から、力が抜ける。
千尋は、その隙を見逃さず。
「その隙、精々、利用させて貰うぜ」
青い光弾を機関銃の様にその手から連射する。
それらの青い光弾の弾幕は、ブラキエルの全身を撃ち抜いていく。
絶対物質ブラキオンの、その、隙間さえも。
だが……。
(「……っ」)
蒼に強化されているとは言え、光弾を乱射するその代償は大きく、鋭い頭痛と化して、千尋の脳を容赦なく打ち据える。
だが……千尋は止められない。
「少しでも多く、ダメージを与えてやるよ」
頭痛を堪えながら、千尋が結詞に括り付けた烏喙を投擲。
漆黒に煌めく刀身が、青い光弾の連射で更に穿たれたブラキオンの鎧の隙間を貫き、その体内に毒を染み込ませていく。
と、此処で。
「行くぞ、クロム」
反転させる様に黒剣を振り上げ、その右目を激しく輝かせながら、敬輔が言うと。
クロムが其れに頷き、納刀している刻祇刀・憑紅摸へと手を添えて、一歩踏み込む。
その耳と尻尾の毛を逆立て、頬を微かに紅潮させているのは、昂揚故か。
それとも……。
と、クロムが脳裏をある人物の姿が通り過ぎていく。
――あに様。私は……。
と、その時。
「やあやあ皆、ご苦労さんだねぇ」
のうのうとした声を耳にして、クロムが驚き狐尾をピン、と跳ね上げた。
見上げてみれば、永一が自分たちの頭上を平然と飛んでいる。
「これならそれ程反撃もされずに済みそうだよねぇ。よしよし」
『……先程の猟兵か。我に怖れを為し、尻尾を巻いて逃げ出したかと思うていたが』
自分の更なる高み……頭上から見下ろす様に、永一の眼鏡の奥の金の瞳が怪しく光るのに、ブラキエルが一瞬目を白黒させた。
「ただいま、ブラキエル。今時は盗人も飛ぶって言う訳さぁ」
と、何処か巫山戯た調子で告げながら。
永一が滑空して肉薄しつつ、一丁のトカレフ銃を袖下から取り出した。
「さっきの統哉達の攻撃で大体弱点は分かっているからねぇ。精々、その防御と回避の意志位は盗まれて貰うとしようかねぇ」
その言の葉と、共に。
――ビクン。
不意に、体を撃ち抜かれた様な鋭い灼熱感を、体の内側から感じるブラキエル。
(「……何だ?」)
自分でも何が起きているのか分からない、と言う様に軽く頭を振る間にも、統哉が『宵』を大上段に構えて肉薄してきた。
『宵』の漆黒の刃を彩る星光の如き光に、一瞬、ブラキエルはその目を奪われ陶然となり。
――ドスリ。
鈍い音と共に、砕けかけた鎧の隙間に『宵』を突き立てられた。
痛みも、灼熱感も確かに感じている。
其処から大量の血飛沫が宙を舞うのも見ている。
其れにも関わらず……其れを防御する気力が湧かない。
――その様に、動けない。
「ああ、それでいい、それでいいんだよ、君はねぇ」
ユーフィの影に隠れてブラキエルの死角に回り込み、再びトカレフ銃の引金を引く永一。
銃弾が今度は背中の鎧の隙間を貫きブラキエルの中の何かを『盗み』取っていく。
「命も尊厳も、盗まれて貰わないとねぇ。此も俺達の仕事だからねぇ」
『なに……!』
永一の挑発に、かっ、と怒気を漲らせて。
咄嗟に永一に向けた右掌を開くブラキエル。
放たれた数本の光矢が、永一を襲うその間に。
ブラキエルの懐に潜り込んだクロムが、胸中に誓う。
(「私は……あの日以来、避けてきたあの力を使います」)
――あの日。
『影胞子に煙束ね……』
自分の中に生み落とされた、もう1人の自分……。
その――。
『紡げ、忌まわし児戯の呪禁――“鬼は、外”』
紡ぎ出されたその呪を聞くや否や。
自らの赤目を光らせていた敬輔が、現れた自らに近しき『其れ』を感じ取り、自らの全身に、電流の様な何かを走らせた。
(「これは……この気配は……」)
その、敬輔の第六感を裏付ける様に。
クロムの現し身……赤眼の『クロム』が姿を現す。
その口の端の笑みは、嫌という程にねじ曲がり。
その身の奥底に宿す其れは、紛れもなく、自分と『彼女』達がオブリビオンに抱く『其れ』と同じモノ。
現れた赤眼の『クロム』は、藍色の瞳で挑む様に自分を見つめるクロムに対して、情感豊かな笑みを口の端に浮かべ、
「如何して、未だ復讐をしようとしないの?」
と、クロムに問う。
変質した自らの現し身を使う覚悟を定めていたクロムの全身の毛を、総毛立たせるのに十分な声で。
「だって、“俺様”達を育ててくれたのは――」
その時の事を思い起こさせ、クロムに身震いを起こさせようと。
甘く、けれども冷たく囁く『赤眼』のクロムに。
「……黙れ」
クロムが、顔を青ざめさせながらも、毅然と返した。
その尾と耳を、恐怖の様な何かで震わせつつ。
「私は、『猟兵らしく』、お前を縛る」
「……どうやって、私が私を縛ることが出来ると言うの? 今こそ、『私』を放逐したあの郷の者達に、私は――“俺様”達は……」
嘲弄と共に能弁に語りかけてくる『赤眼』のクロム。
それと同時に、クロムの胸中に膨れ上がっていく憎悪の念。
懐旧の向こうに追いやった筈の、故郷の者達への怖れと恨み。
……然れど。
「クロム!」
黒剣を大上段からブラキエルへと振り下ろそうとしながらの、敬輔の呼びかけに。
「……大丈夫」
無表情に。
けれども、その尾と耳を優しく揺り動かして。
青ざめていた顔に血色を取り戻しつつ、何処か穏やかな口調で、クロムが語る。
「お前は、お前だ。でも……同時に私でもある」
蒼は誰かを助けたいと言う……胸に抱いたその灯に思い悩みつつ、自分を気遣い。
千尋は、どんな感情かは分からないが、心に残る限り、それは、自分にとって大切なものなのだと教えてくれて。
琴は、その気持ちを整理する時間はこの戦いの中でも作れる筈だ、と自分を諭して先を見つめることを後押しし。
統哉は、自分のことが仲間なのだとはっきりと口にして。
ユーフィとシルは、こんな自分にも、安心して背中を任せられると言ってくれた。
――ならば。
「私は、私の中のお前を受け入れ、私なりに、『猟兵らしく』生きていく。その為には、今は、お前の力が必要なんだ、八刃の。だから、今は――」
――今は、私に、力を貸して。
願いの籠められた、クロムのその呼びかけに。
剣鬼……先の呪骨竜との戦いの中で、胸中で対峙した、私の中の剣鬼は愉快そうに笑う。
愉悦と嘲弄と……同意を込めて、笑う。
「――良いだろう。どのみち此処を切り抜けられなければ、復讐を語ることさえ“俺様”達には許されない。ならばいつか来るその時のために、今は“俺様”……“わたし”は、“私”に力を貸してやるよ」
自らの裡にある怖れと怨み。
忘れない様にと努め、見ない様にしていた、『剣鬼』たる赤眼の自分。
そんな自らと正対する瞳を持った剣鬼の自分と共に。
尾をくゆらせ、紫電と蒼き粒子をばらまきながら、踏み込みと同時に、クロムが刻祇刀・憑紅摸を抜刀する。
其れに合わせる様に、『赤眼』のクロムは、黄緑と紅の粒子をばらまきながら、地擦りで肉薄、逆手で無銘左文字を抜刀。
2振りの剣閃が、目にも留まらぬ早業で斬撃を繰り出した。
『ぐうっ……!?』
蒼の花金鳳花に強化され、更に刀速を速めた斬撃は、永一に防御と回避を『盗まれた』ブラキエルに見切れる筈もなく。
そのまま袈裟、逆袈裟にその体を切り裂かれ、ブラキエルがその体を思わずよろめかせる。
「……次」
そのよろめきで空いた穴を埋める様に、クロムと『赤眼』が同時に踏み込みと同時に刺突を繰り出す。
それは、千の雨の如き針と化し、幾千回もブラキエルの体を貫く。
その手ごたえを刀を通じて、その腕ではっきりと感じ取りながら、クロムは。
(「鬼千雨……改め、狐千雨……。私は……」)
胸中で思い。
「余所見なんて――させない」
そう口に出し。
刻祇刀・憑紅摸の刀身から伽藍呑む刧火を放ち、残骸と化しつつある絶対物質ブラキオンの鎧事ブラキエルを焼く。
『がっ……ガァァァァァァッ!』
熱にのたうち回る、ブラキエルを一瞥しながら。
「俺達の怒りと憎悪……その全てを思い知れ!」
敬輔が、黒剣を振り下ろした。
振り下ろされた一太刀が、ブラキエルの左腕を真っ二つに両断し。
花金鳳花……光輝を放つ気高き花事周囲の大地を破壊し、砕け散らせたその瞬間。
「其処ですわよっ!」
鷹の様に機敏な動きで、蒼き鷹、ユーフィが突進し、左腕を切断されたブラキエルの体をガッシリと掴み。
「大分、解体されてきているみたいだねぇ」
永一がのほほんとそう言いながら、不可視の魔弾を鎧の隙間から撃ち抜き続け、ブラキエルの体から容赦なく命と選択肢……尊厳を更に盗み取る。
既に、絶対物質ブラキオンの鎧は、見るも無残な程の残骸と化していた。
『だが……まだ、だ……』
まだ、ブラキオンの鎧は砕け散っていない。
そうであるならば、まだ力を奪い取る好機は……。
「その好機を、あなたに与えるわけには参りません!」
鋭く鞭打つ様な叫びと共に。
プリンセラが、双腕の竜の咢を開かせ、蒼き焔を、残骸になりかけているブラキオンの鎧に全力で叩きつけた。
叩きつけられたプラズマブレスに焼き尽くされ、ブラキオンの鎧が音もなく崩れ落ちる。
『我が鎧を、破壊するとは……!』
称賛にも、憤怒にも聞こえる雄叫びを上げ、尚、反撃を行おうとするブラキエル。
だが、その間にも、クロムと赤眼が、まるで2人で1本の刀であるかの様に、ブラキエルに斬撃と刺突を加えていく。
その、一太刀、一太刀を与える度に。
自分の感覚が研ぎ澄まされ――究極の『剣鬼』に――。
まるで『赤眼』に引きずり込まれる様なそんな感覚をクロムが感じた、その時。
「クロム!」
宵闇に差し込む一条の光の様に。
漆黒の大鎌の刃先に宿る月光の如く美しき光の様な声が、クロムを叱咤した。
「俺達は、誰1人ブラキエルに殺させないために、戦っているんだ!」
それは、ブラキエルに『宵』を一閃させた統哉の叫び。
統哉の叫びに籠められた想いに、クロムの狐尾と耳が震える様に揺れ動いた。
「……ん。そうだね。私達は、ヒトを、守りたいんだ」
我に返ったクロムが引きずり込まれそうになった、『赤眼』の自分……剣鬼の襟首掴んで後退すると、ほぼ同時に。
「あなたに、誰も、わたし達が殺させないその為にっ! 行きますわよっ!」
ユーフィが肉薄、関節技を決めての体落としでブラキエルを大地に叩き付けた。
全身を地面に叩き付けられて、荒い息をブラキエルがついた、正にその時。
「精霊力収束率95%……!」
ウィリアムの『イデア・キャノン』の砲塔に描かれた赤→青→緑→黄→白→黒と色彩変わりゆく魔力収束式仮想砲塔が煌めきを灯し。
「母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ――」
シルが呪を唱えながら、描き出した六芒星の魔法陣の六角に、火・水・風・土・光・闇を象徴する紋様が浮かび明滅し始めた。
既に下半身が石になり、痛みも何も分からなくなってきている。
それでもシルは仲間達を信じて、辛うじて石化を免れていた腰部の精霊電磁砲『エレメンタル・レールキャノン』を両手で構え。
――そして。
「今ですわよっ! シルさんっ! ウィリアムさんっ!」
ブラキエルを羽交い締めにしたユーフィが合図した、その直後。
『まだだ……。まだ、我は終わらぬ……!』
と、ブラキエルが自らに残された力の全てを籠めて、大天使の光輪から光球を天空へと射出した。
その光球に籠められるたるは、今までの戦いの中でも最上級に値する程の質量に恵まれた、破壊の光。
――だが。
「……加賀様」
囁く様な、蒼の呼びかけを聞いて。
「やらせませんっ! この戦いに、皆さんが決着を付けるその時まではっ!」
足元の花金鳳花を踏みしめ、そこから発される祝福を受けた琴が、ひょう、と和弓・蒼月に再び番えた破魔の矢を解き放った。
翡翠ノ風を纏った破魔の一矢は、狙い違わず光球を射貫き、ものの見事にそれを雲散霧消させる。
『ば……馬鹿なっ……!』
それは、ブラキエルが初めてあげた、絶望の呻き。
その呻きを耳にしながら。
「……Elemental Cannon Fire!」
ウィリアムが『イデア・キャノン』に凝縮された火・氷・風・地・光・闇の相反する精霊達を強引に融合した巨大な光球を解放した。
太陽の如く眩く光り輝くウィリアムの氷球が、ユーフィがガッチリと捕らえて放さないブラキエルに直撃しようとする。
だが、ユーフィはブラキエルを羽交い絞めにしたまま、動かない。
「確実に、あなたを此処で滅ぼすために、最後までお付き合いいただきますわっ!」
「……キミ……?!」
クロムが咄嗟にユーフィを呼ぶが、ユーフィは気丈な笑みを浮かべて、ブラキエルを完全にその場に締め上げる。
そこにウィリアムの光球が直撃し、極光の如き爆発と化して爆ぜた、その瞬間。
(「行くよっ……ユーフィさんっ!」)
それでもユーフィが……戦友が無事であることを信じて。
「六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
シルが、火・水・風・土・光・闇の六大精霊達の力を凝縮した2発の弾を、『エレメンタル・レールキャノン』から発射した。
「この一撃、これが、人の生きる意志だーっ!」
そのシルの叫びに押される様に。
放たれた弾丸が、描き出された魔法陣を潜り抜けて、赤→青→緑→黄→白→黒と巨大な光柱と化した。
その全てを焼き払う光柱がウィリアムの光球の爆発をダメ押しし、超新星爆発の如き大爆発を引き起こす。
そのあまりにも凄まじい爆発を見て。
「……バウム様……!」
蒼が目を見開き、その爆発の中心点にいるユーフィの名を呼ぶが……。
「まっ……ギリギリって所だな」
千尋が不敵な笑いと共に、くいっ、と結詞の一本を動かす。
「……えっ?」
千尋の不敵な笑いに、思わず間の抜けた声を上げる、クロム。
その間の抜けた声を引き金にする様に。
濛々と舞っていた、爆発の煙が晴れていく。
そこに、ポツリと立つ、1人の少女。
少女……ユーフィの眼前では、あの瞬間に千尋が投擲した、結詞の先に縛られていた一枚の懐鏡……双睛が淡い燐光を発していた。
「此までずっと取っておいた切り札だ。まあ、ずっと隠しておいた甲斐があったな」
呟き、本体である結詞を引き寄せ、物理・精神・衝撃波・魔術等、どんな攻撃でも必ず防ぐ切り札の懐鏡、双睛を手に取る千尋。
傷一つないユーフィを見て、ブラキエルの消失と共に石化が解けたシルが安堵の声を上げ、ユーフィに向かって駆け出していく。
「ユーフィさんっ! 良かった、本当に、信じてよかったっ……!」
半分泣き笑いの様な表情で自分の胸に飛び込んでくるシルを受け止め、真の姿を解除したユーフィが、おっとりと笑った。
「シルさんが、わたしを信じてくれていたのと同様に。わたしもシルさんを信じ続けていましたよっ! だって、わたし達、戦友ですからねっ!」
そのユーフィの笑みと呟きに。
「……うんっ! これからも宜しくね、ユーフィさんっ!」
シルが軽く涙を拭って力強く首肯。
それからにっこりと、唖然としたままのクロムに向かって、笑いかけた。
「此が信じるってことなんだよっ、クロムさんっ!」
そのシルの言の葉に。
「……そうなんだね。……ありがとう、キミ」
無表情でありながらも、嬉しさと恥ずかしさからであろう。
頬を朱色に染め、狐耳と尾を揺り動かし、こっくりとクロムが首肯した。
●
「一先ず、此で戦いは終わりましたわね」
そっ、と安堵の息を漏らしながらの、プリンセラの呟きに。
「ああ、無事に終わったみたいだねぇ」
意味ありげな笑みを浮かべて、眼鏡をかけ直しながら頷く永一。
そんな永一とプリンセラの様子に、疲れた様に敬輔が溜息を吐くその間に。
千尋が、考えこむ様な表情で消滅したブラキエルのいた場所を見つめている。
「どうした、千尋?」
千尋の表情の中に浮かぶ感情に気がついたのだろう。
地面に着地しながら問いかける統哉に、いや、と千尋が軽く頭を横に振る。
「友の願いを叶えたいって気持ちは、ヒトでも、オウガ・フォーミュラでも変わらない……って事なんだよな……ってな」
その表情と同様の、沈痛さの微粒子がちりばめられた、千尋の呟きに。
「キミ……」
と、剣鬼を自らの中に戻したクロムが呼びかけると。
千尋が其方を振り返り、さりげなく此方に来ていた敬輔の方に視線を向けた。
「敬輔。さっきのクロムのあの剣鬼は……」
「……ああ、あれは多分……もしかしたら俺の一つの可能性なのかも知れないな」
渋面を作って頷く敬輔のその呟きに、クロムが思わず小首を傾げる。
その尾を、不安げに揺らしながら。
「……あれが、キミの、可能性……?」
「憎悪に囚われ、その憎悪が欲するままに殺戮……復讐を行い続ける。あれは多分、憎悪に、復讐に飲み込まれた者が辿る末路の一つだろう」
未だ、完全に自分の復讐の旅が終わったわけではないのだけれども。
それでも、父と母の魂を解放した敬輔には、何となく其れが分かっていた。
「だからもし、クロムがあれに飲まれれば。クロムはクロムではなくなってしまうだろうな」
敬輔の、鋭いその指摘に。
「……ん」
血の気を感じさせない表情を浮かべ、不安げに耳を垂らすクロム。
垂れ下がった尾を、温める様に、無意識にその手で握っていた。
「私は……」
クロムの、不安を孕んだ声を活気づける様に。
「そういう時は、俺達の事を思い出して欲しいな」
ニャハハッ、と笑いながら統哉が言の葉を紡ぐ。
「その時は、俺達がクロムの事を見ているから。だから、恐れる必要なんて、何もないんだ」
「……ん。そうなんだね……。それが、ヒト……猟兵の、仲間、なんだね……」
統哉の其れに、血の気を失った顔に血色を取り戻しつつ、安堵の息を零すクロム。
(「……エルフェルト様……」)
「……大丈夫、です。……エルフェルト様は、ボクより、ずっと、ヒト、ですから」
柔らかく、諭す様なそんな声で。
ノウリッジにばらまいた花金鳳花……祝福の花を呼び出した蒼が、安心させる様に微笑みかけた。
――こんな、風、に。
ボクが、誰かに、微笑み、かける、なんて、今まで、出来た、でしょう、か。
それは蒼の胸の中に燈る灯を擽る、奇妙な温かさを含んでいる。
そんな、蒼の様子を見て。
「ふふ……その花の咲く様な笑顔、とても似合っていますよ、神宮時さん」
女性らしい、柔和な笑みを浮かべて。
そう告げて、優しく蒼の肩を叩く琴に目をパチクリさせる蒼。
程なくして、蒼の頬が、朱に染まっていくその様子を。
クロムがその尾を揺らしつつ。
その口元に、本当に微かな柔らかい笑みを浮かべて見つめていた。
――こうして。
ノウリッジの街を襲撃した大天使ブラキエルとの戦いは、終結を迎えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵