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花晶遊戯~永想の箱庭

#封神武侠界 #花晶遊戯

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#花晶遊戯


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●花咲く桃源、その贄は

「――ああ、美しい。」

 桃花咲き乱れる桃源郷、その一角。射干玉の髪をさらりと肩口から滑らせて、麗しい仙人が笑う。彼が見つめる手の内にあるのは、今が盛りと香る花。しかしその姿は桃の花では無い。それは、牡丹の白一花。しかし形は牡丹に似ているものの、透けるように薄い花弁や沈丁花にも似た甘い芳香は、よく見る花姿とは異なって見える。そして何よりも“違う”のは、花の毟られた先。そこにある苗床は土などではなく、根と葉に塗れ物言わぬ――人の姿。

「唯の花も良いけれど、不思議だね。人に根ざした花が、これほど心惹かれる色香を宿しているとは」

羽、角、尻尾――元より人には無いモノを欲しがる性質のせいだろうか。人にしか植えられず、人によって異なる様を魅せる花は、この上なくそそられるものがあった。

「幸い種はここにたんとある。なら、あとは」

――苗床が必要だよね?

ひらりと舞い散る花の世界に、妖しげな笑みが垣間見えた。


●水晶に封す、かの庭は
「や、集まってくれてありがとうみんな。ところで、お花は好きかい?」
 ひょい、と菫の砂糖漬けを口に放り込みながら、荒久根・ジジ(ビザールイーター・f05679)が何気なく集まった猟兵達へと質問する。どこからともなく重なる好き、という声に、うんうんと頷きながらもう一つ、ぱくり。
「香りが良かったり、見てると華やかでいいもんね~。ボクも好きだよ。…あ、食べれる奴だけでしょ、って?失敬な!…そりゃまぁ、その方が好きだけど。」
 もぐもぐ、ごくん。
「まぁ前置きはこのくらいにして、今回は封神武侠界に行って貰うよ。そしてちょっとそこで、花を咲かせてほしいんだ。…話や興味のってことじゃあないよ。本当に、君たちの体に、生きたお花をポポン、とね?」
 パッ、と花の咲く様を手で真似ながら、ジジがにやりと笑って見せる。今回現れたのは『翠醒』と名乗る仙人のオブリビオン。元々人にはない、尻尾や翼などの部位を好んで収集するという異端の仙人だったが、何の因果か今彼の手元には『人を苗床に咲く花の種』があるのだとか。
「種、と言っても形状は煙とか花粉に近くてね。彼が張っている花吹雪の結界に混ぜられちゃえば、避けるのはほぼ無理かな。どっちにしろおびき寄せる材料にもなるから、ここはひとつ我慢してもらうしかないんだけど。」
 幸い苦痛などはほぼなく、結界を抜ける最中に気が付けば体のどこかしらに花が芽吹いているらしい。形状はそれこそ千紫万紅、既存の花に似たものもあれば全く未知のものもあり、生える場所や生え方も人によって違うらしい。唯一共通すると言えば――それは、想いの深さに比例するということ。
「それも特に愛だね、愛。友愛、親愛、恋慕、愛憎。人、ペット、物、事象。形も対象も問わないけれど、心を満たす想いが甘くふかぁい程、花は喜々として大きくなったり沢山咲いたりするそうだよ?」
 そして芽吹かせた体で結界を抜ければ、そこに待つのは花を狙う仙人だ。説得はままならず、ただ求めるものを手に入れるまで執拗に攻撃してくるので、ここは正攻法で撃破が望ましい。
「で、うまく倒せた後は仙人仙女も焦がれる水晶の秘境へご案内さ!」
 そこに広がるのは深い渓谷の底。樹々や岩や花、鳥や魚や虫までも。何もかもが水晶を彫って造られたかの様な、うつくしくひそやかな秘境。
「何でも水晶の実の内に小さな箱庭を作ると、まるで時を止めたように綺麗なまま保てるんだって。いわゆるテラリウムとかアクアリウムに近いのかな?永い時を生きる彼らには、またとない宝だね。」
 普段は一部の仙人だけの秘密の場所だが、オブリビオンを退けた猟兵になら、場所を教えるのも箱庭を封する仙術を施すのも請け負ってくれるそうだ。
「さ、説明は以上だよ。それじゃみんな、今回もよろしく頼むね!」
 そこまで言うとパチン!と手を叩いて、ジジがグリモアを呼び出した。


吾妻くるる
こんにちは、吾妻くるるです。
今回は封神武侠界にて
花と水晶と想う心を封する秘境へご案内です。

●基本説明
構成:花を芽吹かせる+花乞う仙人の撃破+花と想いを水晶に封じる(イベシナ)
戦闘:判定【普通+α 特殊判定】

◇◆◇
 こちらは、壱花マスターとの合わせシナリオです。
 直接的な関係はないので、各シナリオご自由にご参加頂けます。
◇◆◇

●1章 花舞う結界、花咲く想い
 花舞う結界の中を奥へ奥へと進んで行きます。花嵐の中には“人にのみ寄生する花の種”が混ざっていて、中にいると自然と身体のどこかから花が発芽します。痛みやダメージはありません。花の種類は人それぞれ、咲き方も千差万別です。実際の花とは違うものもあります。深紅の薔薇が右目に咲く、右腕が鈴蘭に似た花で覆われる等お好きに。ただ傾向として“誰か・何かを想う甘い気持ち”に比例して大きく・多くなります。友情、親愛、慈愛、恋慕、愛憎など形や対象は問いません。

なおこちらの花はボスを無事に倒せましたら自然と体から離れ、のちの水晶の秘境にて持ち帰る選択が出来ます。

●2章ボス戦『異端仙人『翠醒』』
 ボス戦です。咲いた花を奪おうと戦いを仕掛けてきますので、どうぞ迎撃してください。今回は咲いた花を『ステータスアップバフ』として利用できます。目の花はいつもより視界を研ぎ澄ませたり、足の花によって高く飛ぶことが出来たり、設定はご自由に。万能無敵は無理ですがちょいサポートくらいにはなります。あと指定があればデバフにもできます。その際は苦戦する描写になりますが、戦闘の判定自体は人数とダイスによります。

デバフ希望の方はプレのどこかに【★】をお願いします。ない場合は基本バフか効果なしで描写します。

●3章 花を封する水晶の箱庭
 桃源郷に数刻だけ現れるという、水晶の秘境です。樹々、花、水、その全てが透明な水晶で出来ているかのような美しい場所。この樹になる水晶の実は空洞で、中に詰めたものを美しく永らえさせることが可能です。湖を泳ぐ水晶の魚、美しく隆起した結晶などを封して、いわゆるテラリウムやアクアリウムに近いものを作れます。秘境についた時点で皆様に咲いた花は自然と体から離れますので、水晶の中に入れて持ち替えるもよし、水晶の泉に沈めて還すもよし、でお好きに扱って下さいませ。

それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『花舞う結界』

POW   :    花と往く

SPD   :    花を見る

WIZ   :    花と知る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ひらり、はらりと花びらが舞う。

仮にも結界の只中だと言うのに、奥へと向かう道中はなんとも呑気なものだった。物見遊山と言うべきか、散歩の延長と表するべきか。なんといっても常春の穏やかさに、淡く漂う花の香り。柔らかに頬を撫でる風は心地よく、目に写る花咲き乱れる景色はまさに夢の如く。――桃源郷。その美しい有様に目を奪われていると、ふと体に小さな違和感を感じた。腕を撫でられたかのような、暖かい息を吹きかけられたかのような、くすぐったい感覚。気になって目を向けると、そこに見えたのは薄桃の花。けれど舞い散る桃の花とは似つかない、荊纏う大輪の薔薇の花。唐突な変化に驚きながらも、辺りよりも目を惹くそれを眺めていると。

――想いに根差し咲く花の、なんと麗しい。

花びら舞う結界の中、今か今かと花に焦がれた男の声が響いた気が、した。
★『花咲き病』について

 何かを想う気持ちがあれば【種族を問わず花は咲きます。】ですが、基本的に人に寄生して咲く種なので、様々な要因で咲かない方もいるかもしれません。その事に関してもの想う様子や、誰かと語り合う描写も可能ですので、【咲くかどうか・何が咲くか】は全て参加者様が自由にお決めください。お任せも可能ですが、その場合はこちらの好みで花を添えさせて頂くのが殆どになります。
ミラ・ホワイト
クラウンさま(f03642)と

とりどりの彩降る美しい情景の中
まぁ、お上手なんですから
花の雨で迷子になってしまわぬよに
優しい手のひらをきゅうと握って

見上げる白く柔らかな髪に
遊ぶよに揺れる金の鐘
そゆえばクラウンさまと一緒の子
なんてお名前なのでしょ?

わたしと共にあるのはポインセチア
「幸運を祈る」とゆ想いを込めた子なの
大好きな方々が、幸せでいてくださるよに
…ね、わかってるかしら
皆の笑顔を願うあなたにも
めいっぱいの「しあわせ」をお届けしたいのよ

うふふ
クラウンさまと一緒なら
いつだってとびきり笑顔になるんですから

繋ぐ指先から芽吹き咲いた
白と桃のペチュニアの花
きっと今いちばんのしあわせものは
他でもないわたしね


クラウン・メリー
ミラ(f27844)と

ミラもお花も綺麗だから
どっちか分からなくなっちゃいそうだ!
ふふー、間違えないように手を握ってなきゃだね?
小さな手を包み込み

俺のお花?――フリチラリア!
この花にはね「人を喜ばせる」想いがぎゅっと詰めてあるんだ
それと、ミラやみんなのことが大好きな気持ちも

ミラに咲いている子はどんな子かな?
わ、とっても素敵!
まるで赤いお星様みたいだ

……えへへ、俺のしあわせも願ってくれるの?
ミラの気持ち、いっぱいいっぱい届いているよっ

だから、ね。俺の気持ちも受け取ってくれる?
ミラの笑顔、見ていたいんだ

包み込んでいる手の甲から咲いた
大きな赤いゼラニウム
君がいっしょに居てくれるから

俺もずっとしあわせ!



 桃源郷――桃の花が咲き乱れ、覗く渓谷の岩は白くなだらかに。青々と地を覆う草芽は靴越しにも柔らかい感触を伝え、心地よい風がひゅうるりと流れていく。それは例えば、天国だとか、楽園だとか。そんな言葉と共に並び評される、ある種の理想を突き詰めた場所の名前。その只中へとタ、タ、タ、と踏み出す足は軽く、ひらりと舞い落ちた花びらを鼻上に乗せたまま、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)が振り向いてくすぐったそうに笑う。
「綺麗なお花だね!でもミラも綺麗だから、どっちか分からなくなっちゃいそうだ!」
「まぁ、お上手なんですから」
 語り掛けられたミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)が、その嬉しげな様子に思わず微笑みを浮かべる。
「ふふー、間違えないように手を握ってなきゃだね?」
「ええ、花の雨で迷子になってしまわぬよに、ね」
 差し出された手に手を重ね、きゅうっと握れば包み込まれる暖かさに心までもぬくもるよう。そうして奥へと進みながらも歩調はゆるく合わせられ、時にそうっと見守るような視線を感じるのが嬉しくて。ふと見上げたミラの瞳に映るのは、白く柔らかな髪に、遊ぶよに揺れる金の鐘。いつも彼と共にある、可愛らしい数輪の花。
「そゆえばクラウンさまと一緒の子、なんてお名前なのでしょ?」
「俺のお花?――フリチラリア!」
 パッと、それこそ花を咲かすような笑みでクラウンが髪先の花へと触れれば、今にもチリリ、と音が鳴りそうに揺れる。
「この花にはね、「人を喜ばせる」想いがぎゅっと詰めてあるんだ」
 顔に描いた鮮やかなメイク。くるりと放ってはギリギリで受け止めるジャグリング。大きな玉の上で見せる軽業に、ひらりと舞って見せる空中ブランコ。それは全て笑顔を届ける為のもの。愉快で陽気なピエロとして舞台へと立つ日々に、いつも寄り添い咲く花は、まさにクラウンの願いそのものを表しているよう。
「それと、ミラやみんなのことが大好きな気持ちも」
 つないだ手をもう一度きゅ、と握って見せて笑うクラウンに、フリチラリアの花への想いを知った今は、ミラの笑顔が一層と優しく綻んでいく。
「ミラに咲いている子はどんな子かな?」
「わたしと共にあるのは、ポインセチア。「幸運を祈る」とゆ想いを込めた子なの」
 胸元に咲く一輪へ優しく視線を落としながら、ミラがそっと語り掛ける。誰もが祝福を願い合う聖夜に添い、赤く咲く花姿は、まるで。
「わ、とっても素敵!まるで赤いお星様みたいだ」
「ふふ、似てるかも。大好きな方々が幸せでいてくださるよに、願ってるから」
 降り積む雪のように、瞬く星の煌めきのように。あたたかく優しい幸福が、いつでも思い描く人々を包んでくれるよう、願っている。――だけど。

――…ね、わかってるかしら。
皆の笑顔を願う、やさしいあなた。
わたしが願う先には、あなたもいることを。

フリチラリアにそっと手を翳し、想いを重ねるように。見上げた赤い瞳が金の瞳を映して輝きを帯びる。
「あなたにも…めいっぱいの「しあわせ」を、お届けしたいのよ」
「……えへへ、俺のしあわせも願ってくれるの?」
 ふにゃ、とやわくほどける笑みに、もちろんとミラの声が重ねられる。ただ一日の為に編まれた彩りであっても、今この身がさいわいを願う気持ちは、いつだってあなたに届けたいと想っているのだから。
「ミラの気持ち、いっぱいいっぱい届いているよっ」
 そんな言葉にならない想いも受け止めるように、クラウンがゆるりと瞳を閉じて頷いて見せる。だから、と続ける言葉は、君にだけ届くよう耳元にそうっと寄せて。――だから、ね。俺の気持ちも受け取ってくれる?
「――ミラの笑顔、見ていたいんだ」
「うふふ、クラウンさまと一緒なら、いつだってとびきり笑顔になるんですから」
 くすぐったそうに紡ぐ言葉に、浮かべる笑みに滲む色に、また幸せが重なっていく。

包み込んでいるクラウンの手の甲から咲いたのは、大きな赤いゼラニウム。温もり分け合い繋ぐ指先から芽吹き咲くのは、白と桃のペチュニアの花。

――きっと今いちばんのしあわせものは、他でもないわたしね。
――君がいっしょに居てくれるから、俺もずっとしあわせ!

重なる視線が、幸福を、想いをたしかに伝え合う。
繋いだ手が離れぬように、離さぬように。芽生える想いが花となって、ふたりを結ぶ。

――たとえこの先、手が離れたとしても。
願ったしあわせの花色が、ずっと心を結わうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
花が想いに反応するなら
俺の花はきっと青だよな、なんて

予想通り咲き乱れるのは小さなネモフィラ
抑えきれねえ想いを象徴するみたく身体のあちこちから
特に集中して咲いてるのが額の角と、そして両脚

はは、見ろよパウル
青くてちっせえのがぽこぽこしてて、まるで吸盤みてえだ!
人と蛸の特徴を併せ持つパウルの脚に少し似ているようで
お揃いが嬉しくて、ガキみたいにくるくる回って見せびらかしちまったり

あっ、パウルの花もめっちゃ綺麗じゃん
紅に青、これもなんだか俺らみたい
つーか普通にファッションとしてイケてるな、花の眼帯って感じで
そんな事を考えてたら矢車菊がどんどん増えてって
やっべこれ元凶倒さなきゃピーンチな感じ?


パウル・ブラフマン
【邪蛸】
ジャスパーを苗床にするなんて…!
イケないお花だね☆

真紅の角に鈴なりのネモフィラは圧巻の美しさ。
両脚の青に無邪気にはしゃぐ姿には
それこそ心を洗われるようで…
花への殺意も忘れて朗らかに
ボトムスの裾を捲りあげてキミの元へ!

盛り上がった眼帯を外せば
伽藍堂の眼孔に大輪の紅いハイビスカス
隙間に群生するブルーの矢車菊が主張していて。

オレもジャスパーと一緒のオデコが良かった~!
しょげてみせつつ内心驚愕。
銀河帝国で過去に魔改造されたオレに
寄生できる生命体が存在していたなんて。
余程この植物の生命力が強いのか?
いや…オレのジャスパーへの愛が凄まじいせいだ。

ぽこぽこエンドレスで沸く矢車菊。
はわわ…どうしよ~!



 桃の花びらがひいら、ひらり。風に乗ってどこまでも、舞いあがっては遊ぶように。真白く美しい渓谷を、自らの薄紅へと我儘に自由に染め上げていく。そのひとひらを捕まえようとしてか、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が吹き抜けていく風に手を伸ばして――虚空をつかみ取った。
「ジャスパーを苗床にするなんて…!イケないお花だね☆」
 煙や花粉に似ているという花の種。まるでその種を握りつぶすかのように、笑顔を浮かべてながらギギギギ…と握りこぶしに力を入れる。いっそ殺意も感じる程の握力だが、それも長くは続かない。
「はは、見ろよパウル!」
 楽し気なジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)の声が耳に届けば、パウルの笑顔も本来の色を取り戻して、愛しい人へと向けられる。
「どしたのジャスパー…ってわわ、もうお花咲いてる~!」
「へへっ、青くてちっせえのがぽこぽこしてて、まるで吸盤みてえだ!」
 花が想いに反応するなら、俺の花はきっと青だよな――なんて。そんな考え事吸い上げたかのように、ジャスパーの体には予想通り真っ青で小さなネモフィラが咲き乱れる。それもパウルを目の前にして、抑えきれない想いを象徴するかのように。ぽこぽこぽこっと身体のあちこちから、待ちきれないというように花が芽吹いていく。中でも特に集中して咲いてるのが額の角と、そして両脚。ジャスパーのトレードマークでもある真紅の角に、鈴なりに咲く青のネモフィラは色の対比もあって圧巻の美しさ。更に足に咲いたネモフィラが見せる様相は、まるでパウルの足のよう。人と蛸、どちらもの特徴を併せ持った愛しい人の姿に近づけたようで、ついくるくると回りながらお揃いだ!と嬉し気に燥いでしまう。その無邪気な姿はそれこそ心を洗われるようで、パウルが漸く握りしめていた拳を開放し、僅かに残っていた殺意も消え果てた。代わりに手にするのはボトムスの裾。まくり上げてお揃いを強調し、歩み寄れば暫しくるりくるくると、笑い声の響くダンスタイムが続く。右から左へ、ステップアンドターン。背中合わせからふと視線が交わったとき、あれ、と声が上がったのはパウルから。眼帯の下、伽藍堂のはずの眼球が動いた気がして、外してみれば大輪のハイビスカスが太陽を求めるようにまろび出る。肉と花の隙間には、群生するブルーの矢車菊が主張していて、不思議とジャスパーの花咲く角と色合いがよく似ていた。
「あっ、パウルの花もめっちゃ綺麗じゃん」
「え~!でもオレもジャスパーと一緒のオデコが良かった~!」
 コイビトが褒めてくれる言葉は嬉しいけれど、茶化した言葉の裏に、パウルが隠すのは深い驚愕だった。

――嘗ては世界を滅ぼそうと暗躍した銀河帝国。
戦争の為、勝利の為、過去に施された魔改造の数々。
すでに予知能力は失ったとはいえ、施された施術はなかったことにならない。
最早この身が真っ当なニンゲンと同じ体組織をしているとは思えない。
それを無視して寄生し、これ程の花を咲かすなんて。
余程生命力が強いのか、それとももしかして、同じ“世界”に由来するのか?

 頭の隅で静かに行われる回顧、思考、推察。けれど仮の結論までつけておいてから、首振りひとつでそれを全て覆す。いいや、何のことはない。花がこんなに芽吹くのは――オレのジャスパーへの愛が凄まじいせい、それ以外ない。
「つーか普通にファッションとしてイケてるな、花の眼帯って感じで」
「ホント?なら新しい眼帯作っちゃおうかなっ☆」
 そう言ってまじまじと見つめるジャスパーの顔の、なんて愛らしいことだろう。話すたび覗くスクランパーは開けた日の甘美さを思い出してしまうし、首を傾げた時にさらりと零れる黒髪は梳いたときの感触もサイコーだし、それにそれに…。

ぽ、ぽぽぽぽ、ぽぽっ!!

 と、正確無比な思考力がうっかりのろけに使われた反作用のように、パウルの瞳の矢車菊が急激に数を増やして溢れ出し、ふたりから驚きの声が飛び出た。
「はわわ…どうしよ~!」
「やっべこれ元凶倒さなきゃピーンチな感じ?」
「留まるわけないから、着くまでにお花だらけになっちゃいそ~!」
「留まらねーんだ?」
「ジャスパーへの想いにブレーキなんかあるわけないからね☆」
「パウルっ…!!」
「あっ、ジャスパーの角にもお花が増えたっ♪」
「うわっ、これはマージで急がないとふたりとも花になっちまうなっ!」
「ジャスパーはぜっっったい綺麗な花になると思うけど…抱きしめられないのは勘弁だもんね~!」
 お互いに見つめ合い、そこに映る姿を見ては花を増やし合いながら。口では困ったと言いつつも――手をつなぎ合い、笑顔で奥へと進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】

あなたの髪に咲く鈴蘭
己の髪と揃う姿に
あなたに咲く己の花に
幸せで満たされる儘指先伸ばし
白に咲く白へ触れ

藤色の眸の片方が
リラの眸と変じる様には
同じ名抱く
水晶の品へも想い馳す

あなたと妾のふたつのひとつ
其れが正しく己に宿るなら
なんて素敵なことかしら

妾の身にリラ…ライラック
あなたが咲くのは不思議なきこと
だって、ね
この裡にはあなたが
根ざしているのだもの
其れを知らしめるよに咲くのは
ある意味道理そう思わない?

“あなた”越しに見る世界は
どんな色を帯びているのかしら
そんな思考をも埋めるよに
越した先にもあなたが満ちる

視線を独り占めするあなたは
常の通りと告げたなら笑うかしら
いつだって
妾を占めるのはあなたばかり


ライラック・エアルオウルズ
【花結】

本当に花が咲いたね?
ふと、君の片眸を見やり
その指先が白に伸びれば
己も花咲くことに気付き
頭に連なる鈴蘭に、綻ぶ

恒では叶わない御揃いは
病であれども嬉しいもの

然して、僕彩咲かす君には
その花で身飾るときよりも
甘い陶酔と背徳が止まずで
君彩を頭咲かせた事もあり
思考が君に溺れているよう
――ああ、いや、違うな
溺れているから咲いたのか
此方も道理、何て笑って

いっそ、まどかな両の眸を
僕の花で覆い尽くせたらと
恋がれもしてしまうけれど
それでは、藤と並び添うも
見つめて頂くも叶わないね

ね、花越しの僕はどう映る?
てのひらを柔く頬に添えれば
眸に限らず、視線も独占して

返る答に僅か瞠る僕のさま
今は酷く花盛りなのだろうな



 真白い渓谷に、桃の花びらが舞う。風の吹くたびそれは視界を奪うほど巻き起こるのに、樹々は華やぎを失わず、延々と花を咲かせ続けている。枯れず、衰えず、咲き誇り続ける桃花に、心のうちでそっと自らの想いのようだと重ね――ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)が、愛し気に隣へと視線を移す。
「本当に花が咲いたね?」
 見つめる先に咲くのは鈴蘭と、そしてリラの花。左目と変わる様に芽生えたその花を、見つめるライラックの瞳に写して、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が嬉し気な笑みを浮かべる。
「そういうあなたにも、ほら」
 そう言って伸ばすティルの指先は、僅かに屈んだ白へと触れる。ふわ、と柔らかな感触と共に、今にもチリリと音が聞こえそうな愛らしい白鈴連なるのは、鈴蘭の花。ライラックに鈴蘭の花冠を、ティルにはリラの眸を。まるで交わし合うように咲いた花姿が、それを嬉しく思い見つめ合う時間が、いっそう気持ちを甘やかにしていく。
「でも、妾の身にリラ…ライラック。あなたが咲くのは不思議なきことね」
 そう前置いて見せるのは、いっとうやわくほどけた微笑み。

――だって、ね。
この裡には、あなたが根ざしているのだもの。
約した願いも、重ねた言葉も、帰る先も。
何もかもが、貴方へと連なっていく。
だから、其れを知らしめるよにこの花が咲くのは。

「ある意味道理。…そう、思わない?」
 そして、咲いた花に思い返すのは、ひとつの水晶を分かち合った、ふたつ。想いを綴る藤色の筆。贈った名は“リラの眸”。譬えたそれが、今ここで本当になったのだとしたら、それはなんて。
「――なんて素敵なことかしら!」
 歌うように零されるティルの心裡に、頬に昇る熱が隠せない。赤らめた頬で見つめ返し、嬉しい、とだけ絞り出すも、ああ、何もかもが足りない。こちらこそ、どれ程君を想っているか。恒では叶わない御揃いが、病であれども嬉しいことを。僕と同じ彩を咲かす君には、その花で身飾るときよりもずうっと、甘い陶酔と背徳が止まずにいることを。君の彩を頭へと咲かせた事で、思考が君に溺れていることも、全部伝えきれない、言い足りない。

――ああ、いや、違うな。
溺れるというのなら、もう、とうの昔に。
陸も呼吸も忘れるほどに、夢の中だとも。
だからこそ、この花を選んで咲いたのか。

 僅かな納得と共に開きかけた口に、白い指がふれる。ね?と首をかしげる姿に、織るように指を重ねて、合わせた視線で先を訪ねる。
「“あなた”越しに見る世界は、どんな色を帯びているのかしら」
「…それは僕も知りたいよ。…ね、花越しの僕は、どう映る?」
 尋ねる声には手を添えて、柔く白磁の頬を包む。そうして上を向かせれば、ティルの視線が全て“ライラック”に染まる。――本当は、いっそ。まどかな両の眸を、僕の花で覆い尽くせたらと、そんな思いに恋がれもしてしまう。けれどそれでは、藤と並び添うも、見つめ返して貰うことも、叶わない。だから、隠す様に飲み込んで、せめて代わりに、今ばかりは見つめる先を独占する。でも、ライラックが抱いた願いを隠すことに、意味はないのかもしれない。
「常の通りだわ。いつもとちぃとも、変わらない」
「そうなの?」
「ふふ、そうみたい。でも、当たり前。ね、だって…」
 そう言い切った言葉の先は、手招く白い指先の先に。乞うままに顔を寄せれば、僅かに赤みを帯びた耳元へ、とびきりの蜜が注がれる。

――いつだって、妾を占めるのはあなたばかりだから。

 この身も、瞳も、想いも、全部。何もかもが、“あなた”が根差す、花の塒。想い願ったことは、もうとっくに叶っているのだと告げて天使が笑えば、跳ねる鼓動のままに、寄せた距離に甘えて、そっと額に口づけを落とした。

 もどかしくもあまい想いを吸い上げて、瞳の花は涙のように、花冠はヴェールの如く、溢れていく。今を盛りと咲く二人の花を祝福するように、ふわり、と花嵐が舞った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミンリーシャン・ズォートン
なんて、美しい世界――。

舞う花弁も
花達の甘い香りも
全てが心地好い

舞い踊る花弁を掌にのせ
ゆっくりと足を進めていけば
馴染みある香りが次第に濃くなっていた事に気付く
髪に咲く金木犀の花達がいつの間にか増えていた

――確か、強い想いに反応するんだったかしら?
だとしたら、金木犀の花が増えているのは間違いなく最愛の彼への戀心。

ふふっ。

瞳を閉じればいつも貴方が傍に居てくれる
優しさも、温かさも、涙で昊に描き続けてきた夢も、全て貴方が与えてくれた

ぁ。また花が増えちゃった。

なんて言いながら、幸せに綻ぶの
何時だって
何処に居たって
貴方に戀をしているから

己の髪からふわふわと甘い香りを漂わせながら、翠醒さんを捜しに行きます。



 桃花は綻び、柔らかな風は花弁を舞わせ、渓谷を美しく満たしていく。穏やかに晴れる空、あたたかな空気、人々の思い描いた理想をそのまま彫り上げたかのような、理想を冠する豊かな庭。
「なんて、美しい世界――。」
 ほう、と感嘆の溜息をつきながら、ミンリーシャン・ズォートン(戀し花冰・f06716)が花舞う空を見上げる。舞い踊る花弁も、今を盛りと咲く花達の甘い香りも、肌に感じる全てが心地好い。丁度目の前を過ぎったひとひらを白い指先に遊ばせて、ふわり、ゆらりと結界の中を進んでいく。その最中、ふと気が付いたのは、小さな変化。桃花の香りに代わって感じる、甘い香り。それまでにも柔く混じっていた馴染みあるそれが、一歩、また一歩と進む度に強くなっていく気がして。不思議に思って自らの髪を手繰ってみると、いつもよりも数段と咲いた金木犀の数が多い。
「――確か、強い想いに反応するんだったかしら?」
 確かめるように呟いて、胸の内へと問いかける。想いを糧にするのだとしたら、金木犀の花が増えているのは間違いなく――最愛の彼への、戀心。
「ふふっ」
 綻ぶ笑みを浮かべたまま目を伏せて、すう、と髪に咲いた花の香りを吸う。あまくて、優しくて、馴染みがあって、でもちっとも飽きることなんてない。宛てた想いにも似た香りに、また嬉しくなって、花が咲く。

――まなうらに思い描いた姿が、いとおしくて、鼓動が跳ねる。
瞳を閉じれば、いつも貴方が傍に居てくれる。
優しさも、温かさも、涙で昊に描き続けてきた夢も、全て貴方が与えてくれた。
私に咲くのは、あなただけ。

「…ぁ。また花が増えちゃった。」
 仕草一つ、眼差し一つ思い出すたびに、金木犀がたわわと咲いていく。ともすれば困ったようにとれる言葉も、ミンリーシャンにはただただ幸福を告げる蜜言に代わる。何時だって、何処に居たって。何度でも、この一瞬にも、貴方に戀をしているから。綻ぶ花がそれを教えてくれる度、胸を満たすのは幸せな心地だけ。

――甘くやさしい香りを纏い、奥へ奥へと進んでいく。
花求む仙人にもきっと、この香りは導いてくれるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベル・ルヴェール
アヤカ/f01194

僕の胸。ちょうど心臓のある辺りに花が咲いた。
アデニウムに似た花だ。色は灰色だがアデニウムに似ている。

アヤカの花は知らない花だ。
でも綺麗な花だと思った。アヤカに咲いた花の意味は分からないけど
太陽のようだと思った。
僕はアヤカの目を指さして「アヤカの目には太陽が咲いている」と言う。

僕の花は砂漠の薔薇に似ている。
砂漠の薔薇は思い出の花だ。僕と主と僕の片割れと三人の思い出の花だ。
アヤカの花にはどんな思いが詰め込まれているんだろうな。
色んな思いが詰め込まれているのか。

僕の花がどんどん大きくなっている。
僕は主も片割れも大切だから当たり前か。


浮世・綾華
ベル/f18504

右眼を閉ざす暗闇
振れればふわりと重なる花弁の感触

――どんな花、咲いてる?
太陽想わせる橙
それはきっと万寿菊に似て

太陽
その答えに誰を想って咲いたのかは瞭然で
嗚呼、息苦しい

ベルも咲いてる
あでにうむ

本来は、そーゆー色じゃないんだ
珍しい色と感じる
――そう。主と、片割れ
それが咲いたことには納得
ベルは彼らのこと
一等愛おしそうに話してたから

砂漠の薔薇
思い出の花、ねえ
どんな思い出が詰まってんのか
そのうち聞かせてくれる?

俺のは…思い出とかじゃなさそー
(多分、彼奴が俺にとってこんな形をしてたんだ)

視界は悪いが何とかなりそ
ベルは?

大切と当然のように口にする真っすぐさが
やっぱり俺は、眩しいと感じるんだ



 ひらりと舞う、桃の花びら。ひとたび風が吹けば視界を奪うほどに散らしても、桃の樹々が花を絶やすことはない。ある種の理想を叶えた境地、仙人仙女が住まう渓谷――桃源郷。その只中に張られた結界を進めば、パキリ、と花の芽吹く音がする。奏でるのは、ベル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)の左胸。鼓動を糧にしたように、とくり、とくりと跳ねるたびに花が美しく開いていく。樹木にも似た茎を持ち、五枚の花弁を星の如く広げ咲く、その花は。
「アデニウムに似た花だ。」
「あでにうむ。」
 零された聞き覚えのない音に、連れそう浮世・綾華(千日紅・f01194)がなぞるように名を口にする。
「色は灰色だが、よく似ている。」
「本来は、そーゆー色じゃないんだ」
「本来は、赤が多い。」
「でも、その色の方がベルらしい、って言ったら変かな」
「いいや。髪色と一緒だから、僕も好きだ。」
 誇らしげに、衒いなく言い切って、ベルが胸の花を面白そうに見つめる。その姿を見つめていた綾華の視界が、急に切り取ったように、ぷつりと欠けた。見えないのは、右目。閉ざす暗闇を指先が追いかけて触れれば、ふわり、と数多重なったような花弁の感触。
「アヤカにも花が咲いた。」
「――どんな花、咲いてる?」
 尋ねる綾華の瞳を覆うのは、万寿菊によく似た花。その色はまばゆいばかりの橙に染まり、いっとう大きく咲き誇っている。けれど万寿菊を知らないベルには、その在り様を撫で示すことができなくて。ただ真っ直ぐに指をさし、知っている言葉でその在り様を告げる。それは砂漠にあっては時に美しく命を育み、そして時に残酷に干上がらせる、まばゆいひかり。
「アヤカの目には太陽が咲いている」
「…太陽」
 鸚鵡返しのように、繰り返す。太陽――その例えを聞けば、誰を想って咲いたのかは瞭然で。吐く息も吸う息も、何処か肺ににがく広がる。嗚呼、全く持って息苦しい。そんな綾華の想いは知らず、ベルは自らの花の由来を語り始めた。
「僕の花は砂漠の薔薇とも呼ばれる。砂漠の薔薇は思い出の花だ。」
「砂漠の薔薇。思い出の花、ねえ」
「僕と主と僕の片割れと、三人の思い出の花だ。」
「――そう。主と、片割れ」
 その言葉に憶えた、カリ、と爪の引っかかる様な心地はとおくに追いやって、綾華がゆるりと笑みを結ぶ。その花が彼の身に咲くことには納得がいった。だって、ベルは彼らのこと話すときは、一等愛おしそうな顔をしていたから。
「どんな思い出が詰まってんのか、そのうち聞かせてくれる?」
「勿論だ!アヤカの花には、どんな思いが詰め込まれているんだろうな。」
「俺のは…どうかな、思い出とかじゃなさそー」
 軽い言葉に惑いを混ぜて、そっと隠す様に仕舞い込む。散らさぬように右目触れれば、眼球があるはずの場所にやわい花びらの感触がふれる。ベルが迷いなく例えた形そのものなら、これはきっと――彼奴が俺にとって、こんな形をしてたんだろうと、想う。
「なら、色んな思いが詰め込まれているのか。」
「ん、そーいうことにしとこうかな」
 嘘ではないけれど、真そのものでもない。でも今はまだその内を語るに難しく、ベルの言葉に頷いた後は、一先ず先へ進もう、と綾華が話題の矛先を変えた。
「さって、視界は悪いが一応何とかなりそ。ベルは?」
「問題なさそうだが、どんどん大きくはなる。僕は主も片割れも大切だから、当たり前か。」
 いとしげに目を細め、大切だ、と当然のように口にする真っすぐさ。砂の大海を行けども見失わない一等星のような在り方が、やっぱり少し、眩しく感じて。太陽宿す瞳が、星のように咲く花を前に――そっとひととき、瞬いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

花が咲く──桜が綻ぶ
嬉しくなって微笑む

咲いたのが、きみの花である薄紅の桜だから
髪に、首に指先に咲き誇るきみを愛でるように撫でていく
私にも角があればサヨとお揃いになれたのにな
何時だって桜は私にとって特別な花だから……と、桜にやきもちかい?
私の巫女は可愛いねと優しく撫でる

サヨにも赫い桜が咲いている
私のあかい桜がきみに
照れるな…けれどそれ以上に
愛しさが込み上げてもっと嬉しくなって抱きしめれば瞳にも桜が…このまま桜の木になれてしまいそうだよ
きみとなら、構わないのだけどね
それでは約束を楽しめない

赤と薄紅の桜咲く手が重なり合わせて奥へ進んでいく
サヨ、これからも一緒に咲かせていこうね
私達の「さくら」を


誘名・櫻宵
🌸神櫻

あら、あらあら?不思議な心地

常に咲く薄紅の桜に混じって赫が咲いていく
角に翼に、首に腕にと咲くあかにふふり笑う
だってこれはカムイの赫だもの
翼はまるで、赫桜でできた天使の翼のよう
指先の赫桜が可愛くて、ぱくりとひとつ食めば─甘い

嬉しくなって私の神様をみやれば、あら…桜が…
私でない桜を愛でて喜んでいる神様の姿はかぁいいけれど……むう

何だか妬ける
腕の中に飛び込んで気を引いてみる
や、ヤキモチじゃないんだから!
照れ隠しにぷいとそっぽを向くけど離れない
撫でてくれなきゃ

2人で桜に?
それも悪くないけど
あなたと見たい景色が沢山あるの

2つの桜咲く指を絡めてふたり並んで奥を目指すわ
勿論よ!沢山の幸を咲かせましょ



 桃の花びらが風に舞って、ひいら、ひらり。樹木は今を盛りと花を咲かせ、真白の渓谷を薄桃に染め上げていく。そのあたたかく柔らかな風にほころび、穏やかな陽のひかりに焦がれ、そして何より――並び立つ人への、愛を吸い上げて。深く根降ろした花が、カタチとなって花を咲かせた。
「サヨ、その角の花は…」
「…あら、あらあら?」
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の見つめる先、常は薄紅の桜がともる誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の角に、ぽつり、と赫が混ざる。その色をおいかければ、次第に首に、腕に、そして翼にもあかが混ざって、痕を残すように咲き誇っていく。その変わっていく自分の姿に、ふふ、と笑みを零せばカムイが首をかしげるので、かぁいい、と呟いてからくぅるり回って見せる。
「だって、これはカムイの赫だもの。だから嬉しくて」
 つい笑みがこぼれてしまったの――そう言われれば、赫桜でできた天使のような翼をぱたりと動かす様を見れば、カムイの顔にもしあわせそうな微笑みが浮かぶ。その喜びを糧にしたよに、紅く櫻宵の指先が染まるのは想い故か花故か。いっとう美しく映るそれをぱくり、とひとつ食むと、舌に広がる味はまるで神が与う柘榴にも似てあまく、甘く、満たされるような心地がした。花が消えて白に戻った指先に、カムイが愛しさと痕の残らぬ惜しさを籠めてそっと唇をふれさせると、甘さの名残を苗床にしたように、ふわり、桃に似て異なる淡い色が咲く。
「あら…カムイ!ほら、あなたも桜が」
「噫、それもこれは、サヨの色をした桜だね」
 咲いたのが常纏う赫ではなく、巫女の花である薄紅の桜。それが髪に、首に、指先に咲き誇るのが嬉しくて、愛でるように撫でていく。
「私にも角があればサヨとお揃いになれたのにな」
「それも素敵だけど、カムイはそのままでうつくしいもの」
 巡る廻る約と縁の果て。朱が咲き彩を得たその姿は、いつ見ても幾度見ても、軌跡の尊さを教えてくれるから。その姿がいいの、と自らと同じ朱咲かす巫女が微笑めば、また新しく神の首に、指先に、薄紅が灯っていく。そのことが嬉しくて、指先の花へと頬を寄せれば、ふいに櫻宵の笑みに陰りが宿る。
「…桜が、好きなの?」
「勿論、何時だって桜は私にとって特別な花だから」
 その意味が、分からないわけではない。どうして特別なのか、なぜそれほど嬉しそうなのか。訳を知っているはずなのに、自ら以外を愛し気に撫でる指先が、なんだかおもしろくなくて。

――桜を愛でて喜んでいる神様の姿は、とってもかぁいいわ。
けれど、なんだか妬けてしまう。
だって、それは、私じゃないのよ?

 また新しく咲く薄紅にふれかけた手を、腕ごと奪うように胸へ飛び込む。一瞬驚いたカムイが、すぐにぎゅう、と嬉しそうに抱きしめてしまうから、許してしまいそうになる。でも、やっぱりまだ駄目。もっと触れてくれないと、もっと――撫でてくれなきゃあ。
「…私じゃない桜が、いいの?」
「…桜にやきもちかい?」
「や、ヤキモチじゃないんだから!」
 拗ねたような嘘に、私の巫女は可愛いねと、カムイが優しく撫でる。重なり合うあたたかさに、赫桜が、薄紅が、いっそう二人の体を蝕んでいく。このまま抱きしめていたい、と願う気持ちは視界さえも奪うように、カムイの右目が赤から薄紅へと変じる。
「…このまま桜の木になれてしまいそうだよ」
「2人で桜に?」
「きみとなら、構わないのだけどね」
「そうね…それも悪くないけど」
 そう在れたらきっと幸せなまま、呪いにも離別にも怯えずに、ずうっと寄り添い合える。それもいい、と思う気持ちは確かにあるけれど。
「でも、あなたと見たい景色がまだまだ沢山あるの」
「そうだね、それでは約束を…世界を巡って、楽しめない」
 根降ろし目塞ぎ在るよりも、ふたり並んで果てまでゆこう。躰は離れても、想いと手は結わえたままに。繋ぐ先、命にいちばん近い指へ添うて、赫桜と薄紅があえかに咲う。
「サヨ、これからも一緒に咲かせていこうね。私達の「さくら」を」
「勿論よ!沢山の幸を咲かせましょ」
 ひき合うように、導き合うように、降り積む桃花にも負けぬほどに、桜を芽生えさせながら、神と巫女が想い路を往く。
 
――君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

嘉納・日向
◇裏人格:ひまり
親友と相談したけど、お花好きなんであたしが行きまーすっ
入れ替わるまでどんな花かヒミツっての、面白いかと思ってさ

奥へずんずん進めばいいんだねっ。おっけー!
鼻歌交じりに足を進め、時々花舞う結界を見渡す
つい足を止めかけて、親友にちょっと叱られたり
わーっ、ごめんてひなちゃん!約束だもんね

咲く花は片腕を覆うように広がった真っ青のエゾギク。ちょっと意外カモ?名前的に向日葵とか思ったけど
そっか、信頼と……心配かぁ
親友に向けた花言葉、バッチリ合ってんじゃん

だって色々背負いすぎなんだもん。追い詰められたひなちゃんとか、見たくないしさ
なーんちゃって、秘密秘密!
ひなちゃんがコレを見るのが超楽しみだ!



 ひいら、ひらりと桃の花びらが舞う。巻きあがるそれは時折視界を奪うほど溢れているのに、樹木には不思議と花が尽きない。そんな中を、髪についたひとひらをつまんでくるくると回しながら、嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)が一人――いや、“ふたり”であるく。
「お花好きなんで、結界の中はあたしが参上でーすっ!」
 宣言するのはそのうちのひとり、“ひまり”だ。びしっ、と敬礼を決めてから、軽い調子でステップ、ステップ。こうして散歩気分を楽しむのも目的の一つだが、狙いはもう一つ。
「入れ替わるまでどんな花かヒミツっての、面白いかと思ってさ」
 ニシシ、と猫のように笑うひまりがふと耳を澄ますような表情を作ると、無音の後に、後のお楽しみね!と虚空に返事を返す。それは、傍から見るだけの人には分からなくても、ふたりだけに通じるコミュニケーション。
「で、なんだっけ?…“奥へずんずん進めばいい”んだねっ。おっけー!」
 素直にうんうん頷きつつ、指示を受けてひまりが奥へ向けて歩き出す。時にはポップな曲調の鼻歌を歌いながら、時にはちょっぴりスキップ交じりに。そしてふと見留めた美しい桃木の景色に足を止めかけると、数秒のうちにピャッ、と叱られた猫のようにひまりの肩が跳ねた。
「わーっ、ごめんてひなちゃん!約束だもんね」
 出てきたからにはきちんとこなさないとね、と気を改めて足を進めようとした、その瞬間。右腕をふと温かい感覚が走った。なんだろ?と首をかしげて持ち上げる間にも、その感覚は膨らんでいき、見る見る間に茎が、葉が、そして花が芽吹きだす。細い花弁がまぁるく広がった、真っ青な花。それは、エゾギクによく似ていた。
「へー、ちょっと意外カモ?名前的に向日葵とか思ったけど」
 形状は少し通づるものがあるけれど、種類としては全く違う花。すっかり腕全体を覆うほどになったそれをまじまじと眺めながら、エゾギクの花言葉を口にする。
「そっか、信頼と……心配かぁ。親友に向けた花言葉、バッチリ合ってんじゃん」

――だって色々背負いすぎなんだもん、ひなちゃんはさ。
ひなちゃんのせいじゃないのに、まだずっとあたしのことまで抱え込んで。
でもね、わかってる?
あたしは追い詰められたひなちゃんとか、見たくないんだよ?
だからずっと心配だし、でも、それ以上にいっぱい、いーっぱい!
…信頼、してるんだからねっ。

「…なーんちゃって、これはまだ秘密秘密!さって、ひなちゃんがコレを見るのが超楽しみだ!」
 想い込めた花はまだ、自分の瞳にだけ隠して。明かす瞬間を楽しみに、ひまりがまた足取り軽く結界の奥へと進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
咲く花:赤薔薇。左胸から左手にかけて

愛情に反応して花が咲くか…私の愛情の全ては隣を歩くマクベスに向けるもの。
ならば自ずとそのようなものへと変わるだろう。
では、マクベスは?

そっと歩くマクベスを見れば左足から青い花が。

マクベス、花が咲いて…あぁ、私も咲いたか。
赤い薔薇の花か
うむ、どうやら心の臓の辺りからから左の指先にかけて多くの花が咲いたようだ。
我ながらなんとも分かりやすい。

マクベスの花は勿忘草。
その花言葉は有名だ…
案ずるな、私は絶対にお前を忘れない。

…そうだな、今日も思い出を残すべく敵を倒してマクベスとの時間を過ごそう


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
『青い勿忘草、左足首から左腿にかけて覆うほどに咲く』

人に寄生する花、ねぇ
まぁ害がないなら…いや、オブリビオンが寄ってくる餌にはなんのか
グラナトさんに咲く花はなんとなく予想つくけど
俺はどんな花が咲くかな

花が舞ってる中を歩くって、ただのデートなら最高だったんだけどな
ま、仙人を倒せば心置きなくできそうだけど
ん?グラナトさん胸のとこ…
やっぱり、グラナトさんは赤い薔薇が咲いたな

俺も?へぇ~、ふふっ…此処から咲くのは嬉しいな
ちょうどグラナトさんから貰ったアンクレットのある辺りだね
うん、忘れられないくらいこれからもいっぱい思い出作ってあげるよ



 甘く香りを纏って、桃の花が咲き乱れる。ひゅう、と柔らかな風が吹くたびそれは花びらを散らして舞って、結界の中はむせ返るほどに花で満たされていた。そのうちのひとひらを捕まえて、しげしげと眺めながらマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)がぽつりと零す。
「人に寄生する花、ねぇ」
 美しく見える花嵐も、その陰には人を苗床にする花の種を隠している。こうして息をして、肌を晒しているだけで、それはすでに密やかに躰内へと入って根を張っている。
「まぁ害がないなら…いや、オブリビオンが寄ってくる餌にはなんのか」
 ねぇ?とマクベスがくるりと振り返って手にした花びらを放ると、数多ある中から正確に投げられたひとひらを捉えて、グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)がじっとその色を見つめる。
「愛情に反応して花が咲く、か…」
 事前に聞いた情報を改めて口にすると、きいた瞬間にも、今にも、浮かぶ答えは一つきり。

――私の愛情の全ては、隣を歩くマクベスに向けるもの。
ならば自ずとそのようなものへと変わるだろう。
それはある程度予想がつく。
…では、それならマクベスは?

 胸の内は唇に乗せず、代りに一度花びらを当ててからそっと空へと返す。その仕草に思わずふふ、と笑みをこぼしながら、俺はどんな花が咲くかな、と読んだように言葉にした。そのままト、ト、と足取り軽くマクベスが、その歩調に合わせるようにゆったりとグラナトが、互いに隣を歩き、結界を奥へ奥へと進んでいく。
「にしても、花が舞ってる中を歩くって、ただのデートなら最高だったんだけどな。ま、仙人を倒せば心置きなくできそうだけど」
「そうだな、水晶の谷もさぞ美しいだろう、が……マクベス、足に何か、」
「ん?グラナトさん胸のとこ…」
 咲き初めに気づいたのは、互いに同時。マクベスが見つめる先は、グラナトの左胸。そこに大輪の赤い薔薇が芽生えたかと思うと、するすると枝を、つぼみを先へと伸ばしていき、最終的には左指の先まで覆うほどになった。
「やっぱり、グラナトさんは赤い薔薇が咲いたな」
 そっ、と軽く胸の薔薇に触れながら、その大きく数多咲く様子にマクベスが甘く微笑む。――それは、左耳に咲き、燃え盛るをそっと閉じ込め、そして想いを重ねて贈った144と、同じ花。愛を語る傍に長く添ってきた、情熱の大輪。そのことが嬉しいような、少し気恥ずかしいような気もしながら、「我ながら、なんとも分かりやすい。」と、口にしつつ、次いでグラナトが見つめるのはマクベスの左足。
「マクベスにも咲いているな」
「俺も?あ、ほんとだ。へぇ~、ふふっ…此処から咲くのは嬉しいな。ちょうどグラナトさんから貰ったアンクレットのある辺りだね」
 視線を追ってみれば、言葉にした通り嵌めたアンクレットから伸びるように、小さな花がいくつも折り重なって咲いていた。その愛らしくもどこか儚げな花の名は。
「勿忘草か。その花言葉は有名だ…」
「“わたしを忘れないで”だね」
「案ずるな、私は絶対にお前を忘れない。」
 不安も、思案も、その隙すら与えないかのように、グラナトが厳かに言い放つ。身に巣食う花がこれ程までに馨しく美しく咲くのは、その確固たる想いもあってのことだろう。――忘れてたまるものか、と。その意図を汲んで、マクベスが静かにうなずいてみせる。
「うん、それに忘れられないくらい…これからもいっぱい思い出、作ってあげるよ」
「…そうだな、今日も思い出を残すべく、マクベスとの時間を過ごそう」
「なら、早く行ってお邪魔虫を倒さなきゃだね?」
 そう言って悪戯っぽく笑ってけしかけるものだから――早々に敵を倒そう、とグラナトが決意を新たにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戀鈴・シアン
【狼硝】

俺が生まれた理由は花を生けるため
ヒトの身を得てからもその本質は変わらず
花は何より好きなもの

なんだけど、この結界は凄いね……
はぐれないように気をつけないと
……あれ、レン?
待って、きみの身体、もう花が咲いて――
手を伸ばして、きみに触れた箇所から一輪
淡い紫の花が芽吹いた

――この花は
以前、想いが花になった時と同じもの
紫苑
花言葉は、そう

あれからも変わってないね、俺達
変わらぬきみへの想いを知って
きみの変わらぬ願いも知って
それが嬉しくて、笑う

レンの勿忘草、随分と立派に咲いてるじゃん
なんて茶化せるのは、きみの想いを全て受け止める自信があるから
ふ、間違いない
大丈夫、忘れないよ
きみの我儘も全て背負わせて


飛砂・煉月
【狼硝】

花、儚くも美しい人の生みたいな彩
隣のキミは花瓶
其の花を更に煌めかせる存在

花舞う結界に花嵐
噫…花尽くしだ
でもキミの色は見失わないよ、シアン
名を呼び咲いた花は右腕を覆う程の勿忘草
いつもは此の短い生を忘れて欲しいと願うのに
噫、親愛寄せるキミには…どうしたってこの花が咲くんだ
忘れないでと色濃く想い零す様に隠せぬ量と大きさ
遠慮なく見せるのはキミに咲く花の意味をもう知っているから

変わらないよ、オレ達は
進んでも、変わらない
互いの不変に嬉しくて緩む

シアンの紫苑だってオレと同じくらいでしょ?
想いの大きさを実感して
託せる事を再度実感して
短命の狼は茶化し咲う
キミには憶えていて欲しい
其の我儘さえ遺していく想い



 桃の花びらが、まるで嵐の如くに舞う。花々はみずみずしく咲き誇り、警告の白岩は彫刻の如く整然として。頬を撫でる風は温かくやわく、甘く香りを伝えて過ぎ行く。結界の中とはいえ、中の風景は桃源郷と言う名にふさわしく、ただただ美しい景色が広がるばかり。そのうちひとつ、ふたつと花びらが風に乗って、ふわりと戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)の硝子めいた髪に、薄桃の彩りを添えていく。その姿に飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が似合うね、と柔らかく笑う。――咲き誇り、綾めき香る花。その儚くも美しい、人の生みたいな彩。ましてや、こうして隣に並ぶシアンは花瓶を器物としたヤドリガミ。美しく咲き染む花を、更に煌めかせる存在。ならば似合うのも頷ける、と舞い込んできた一輪を新たにシアンの髪へと加えようと煉月が手を伸ばす。

――俺が生まれた理由は、花を生けるため。
美しく咲き誇る花を、硝子より生まれた花を。
ヒトの身を得てからもその本質は変わらない。
花は、何より好きなもの。

 だから伸ばされるまま、添えられるままに。シアンがそっと頭を傾けて桃の一輪を飾られれば、親し気に細められた視線同士が交わされて、笑い声が重なる。
「それにしても、この結界は凄いね……」
「噫…花舞う結界に、花嵐にと、花尽くしだ。」
「はぐれないように気をつけないと」
「大丈夫、キミの色は見失わないよ、シアン」
「ふふ、そうだね。きみならきっと……あれ、レン?待って、きみの身体、もう花が咲いて――」
「え、もう?」
 驚いて思わず伸ばした手が触れ合うと、追うようにシアンの指先にも灯るように
淡い紫の花が芽吹く。それは、紫苑。いつかにも想いを糧に咲いた花。そして煉月の腕に伸びゆくのは、勿忘草。それらはまるで結わうように、共に咲いて花を増やしていく。その咲き様に、煉月が自らの花を見て僅かに苦く笑う。

――いつもは、此の短い生を忘れて欲しいと願うのに。
親愛寄せるキミには、どうしたってこの花が咲くんだ。
忘れないで、ずっと心に留めて置いて。
隣にオレが居なくなっても、今日を、何時かを、思い出してほしい。

その想いの深さに比例するように、小さいはずの花は大きく、右腕を覆うほどに咲いていく。けれどそれを隠すようなことはしない。ひらりと振って遠慮なく見せるのは、咲く花の意味をもう、知っているから。

紫苑の花言葉は、“君を忘れない”
勿忘草の花言葉は、“私を忘れないで”

呼び合い重なり合うようなその対の花を、互いに見せ合うように差し出す。
「レンの勿忘草、随分と立派に咲いてるじゃん」
「シアンの紫苑だってオレと同じくらいでしょ?」
 揶揄い、からかい、そんな遣り取りができるのは、受け止める自信があるからこそ。そして同じだけの想いの深さに、託せることもまた確信を得る。

――命は短し、咲えよ共に。
――離れども、想いは傍に。

「あれからも変わってないね、俺達」
「変わらないよ、オレ達は。進んでも、変わらない」
 成長する想いはあれど、この想いだけは、ずっと変わらない。変わらないきみへの想い。きみからの変わらない願い。その不変が嬉しくて、互いに顔を緩めて見合わせる。
「キミには憶えていて欲しい」
「大丈夫、忘れないよ」
 我儘さえ遺していく想いを、仕舞い込む様に胸へと手を当てて。

何度でも、何度だって、想いを結わい、やくそくをしよう。
交わす言葉の数すらきっと、いつか――こいしくなる日が、来るのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
【花面】

花が体に咲くとは、なんだか素敵だね
あぁ、ほら…ご覧よ、シェルウカ
右の手甲から二の腕まで
咲く花はベルフラワー
ふふ、感謝とか、楽しいお喋りとかの花言葉があったはずだよ
なんだか合っている気がする。可愛らしいね

君の花は赤くて綺麗だ
それにしても便利なものを用意したのだね
はは、そうして口に出されると、少し、くすぐったい心地だね

おや、髪にも咲いて…?
避けられた髪の下。右目に咲くのはミモザの花
…花言葉は…ど忘れしてしまったなぁ
言えない。この小さな花が抱える言葉なんて
だってそれはきっと友情ではなく…
あっ、待っ…み、見なくていい…!
え…ち、違う!鬼殿は…あの羊にはもう、何も…
でも、君に、とは
――言えない


シェルゥカ・ヨルナギ
【花面】

君の花、星みたいで可愛いねー
感謝と楽しいお喋り?
…ふふ、そっかー

俺の左手や腕には赤い小花が沢山
所々大きめのも
何の花かな
携帯端末の花図鑑アプリで撮影
電波無しで使えるんだって
…カランコエの八重咲き、これかな?
花言葉は
幸福を告げる、沢山の小さな思い出、あなたを守る
…ああ、この花はきっとカランコエだね

あれ
ちょっとじっとしてて
そっと手を伸ばしエンティの右目にかかる前髪を柔らかく避ける
…ミモザっていうの?
流石詳しいね
花言葉は?
…え
ならこのアプリに任せて!(パシャー
花言葉、幾つかあるねー
ん、秘密の恋…?
もしかして鬼殿への…
隠れるように咲いていたし
他の意味ならきっとここまで慌てない
君はやはり彼を――



 ひらり、はらりと花びらが舞う。咲き誇る桃花をさらって、風が吹くたび視界が塞がれるほどなのに、不思議と樹木が花を失う様子はない。桃源郷の名にふさわしい情景を見つめながら、エンティ・シェア(欠片・f00526)が目の前を過ぎる花びらを指で遊ばせる。
「花が体に咲くとは、なんだか素敵だね」
「どんな花が咲くのかなー」
 少し先を歩いていたシェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)も、花びらを目で追いながらいつもより足取りが軽そうに見える。そんな様子を微笑ましく見ていると、そわ、と右手に何かが這うような感覚を憶えて、エンティが声をかける。
「あぁ、ほら…ご覧よ、シェルゥカ」
 初めはほんの小さな蕾。右手の甲の中心に、ぽつりと芽生えたそれはあっという間に花を咲かせて、愛らしい紫色を覗かせる。その後も駆け上がる様に次々と花が咲いていき、気づけば右腕を覆うほどになった。
「君の花、星みたいで可愛いねー」
「ふふ、ベルフラワーだね。感謝とか、楽しいお喋りとかの花言葉があったはずだよ。なんだか合っている気がする。」
「感謝と楽しいお喋り?…ふふ、そっかー」
 その花言葉が自分に向けられたものと思えば、何処となくくすぐったくて思わず笑みをこぼす。その声に誘われたように、今度はシェルゥカの左手からぽぽぽ、と花が芽吹く。小さく、時に大きく、密に咲く花姿は華やかで。へぇ、とエンティが感心したように呟いた。
「君の花は赤くて綺麗だ」
「うん、でも何の花かな?…こういう時は、これだ!」
 と、シェルゥカが懐からててーん!と取り出すのは携帯端末。それで自らの腕に生えた花を写し取り、登録された“花図鑑”アプリに読み込ませる。
「電波無しで使えるんだって」
「それはそれは、便利なものを用意したのだね」
「でしょ?あ、検索結果が出た!…カランコエの八重咲き、これかな?」
 アプリが弾きだしたのは、カランコエ。花が集まって咲く姿、中でも特に花びらが重なり合った八重咲は、正に左腕に咲く花姿にそっくりだ。そして何より、添えられた一文にシェルゥカが納得したように頷く。

カランコエの花言葉は幸福を告げる、沢山の小さな思い出――あなたを守る。

「…ああ、この花はきっとカランコエだね」
「はは、そうして口に出されると、少し、くすぐったい心地だね」
 返すように向けられた花言葉に、エンティが照れたように髪先を弄る。その瞬間覗いた、燃えるような緋色の髪とは異なる色に、シェルゥカがはたと首を傾げた。
「あれ、ちょっとじっとしてて」
「おや、髪にも咲いて…?」
 尋ねながらも大人しくしていると、指先が探り当てたのは柔らかく避けた前髪の下、隠された右目に根差す花。
「黄色の小さなポンポンがいーっぱい!って感じの花だねー」
「あー…それはたぶんミモザ、かな」
「…ミモザっていうの?流石詳しいね。花言葉は?」
「…花言葉は…ど忘れしてしまったなぁ」
 花の名を告げた途端、何処かそわそわとした様子だったエンティが、花言葉を問われてはさらに濁す様に視線を泳がせる。

――言えない。この小さな花が抱える言葉なんて。
だってそれはきっと、友情ではなく。
秘めた心を表す、確かな言葉になってしまうから。

けれどその心のうちが読めるはずもなく、如何にも落ち着かない様子の理由が知りたくて、シェルゥカがとった行動は迅速だった。
「…え、ならこのアプリに任せて!」
 パシャー!
「あっ、待っ…み、見なくていい…!」
 慌てて止めようにも、既に画像を読み込んだアプリの検索は速く、あっという間に並んだ花言葉がシェルゥカの目に留まる。
「花言葉、幾つかあるねー。感受性、思いやり…ん、秘密の恋…?」
 行き当たった言葉に、はたとシェルゥカが眉根を寄せる。――思い当たる節は、ある。浅からぬ縁がある彼ならば、それに隠れる様に密やかに咲いていたのも、そう考えればつじつまが合ってしまう。なら。
「もしかして鬼殿への…君はやはり彼を――」
「え…ち、違う!鬼殿は…あの羊にはもう、何も…」
 それだけは、と誤解を解こうとエンティが言葉を重ねるものの、違う、以上には口に出来なかった。だって、それは――君にこそあてた想いだ、なんて。

――言えない。これ以上は、なにも。

詰まるような想いが喉を塞いで、声にならない。それでも向けられる赤い視線から逃れる様に、もう一度だけ細くかすれる様に――違うよ、と呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

うん、行こう
どこにどんな花が咲くかわくわくしちゃうな

なつめの尻尾、大きな花束みたいだ
これは勿忘草かな
ふふ、忘れられたくない相手でもいるの?
なんて冗談めかして聞きながら
尻尾に触れようとした右腕に
たくさん咲いたのはオレンジのガーベラ

「あなたは私の輝く太陽」

成る程なぁ、なんて
なつめの笑った顔を見ながらこっそり思う
ううん、なんでもないよ

綺麗なんて言われるとこそばゆいな
いや、花が綺麗なのは確かなんだけど

わ、ど、どうしたの!?
あっという間に尻尾の花が更にたくさんになっちゃった
少し重そうだけど
これはこれでいいじゃない
似合ってるよ
揺れる尻尾を見れば、嬉しいのかなって
思わずオレまで笑顔になった


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
ンし!行くぞときじ!
身体に花を咲かせましょー!ってなァ!

くるりと回れば
ぽぽんっと音を立て、
虹色に光る尾に負けないぐらい
様々な彩の勿忘草が咲く

おー、咲いた咲いた!
(…そりゃあ、
忘れられたくねーよ。お前には)
そんな思いは発することなく胸の中へ仕舞って。

ときじは…お!
オレンジのガーベラかァ!
いーじゃん!すげー綺麗…。

そう告げながらときじに尻尾を触られれば、どくんと胸が脈打ち
尻尾の花はぼぼぼぼっと更に数を増やす
見た目はどこぞのトカゲモドキの尾のよう

なッ!?なんだァ!!?
なんか『れおぱ』ってやつみてェになっちまったなァ…俺の尻尾。

それでも似合うと言われれば
微かに尾が嬉しそうに揺れた



 ひらり、ひぃらり、舞うは桃花、花嵐。美しい渓谷を淡い桃色に染め上げて尚、樹々の花は尽きることなく咲き誇る。穏やかな風に、晴れ渡る空に、ふわり届く甘い香り。正に桃源郷と呼ぶにふさわしい情景の中、横切るふたりから楽しげな声が響く。
「ンし!行くぞときじ!身体に花を咲かせましょー!ってなァ!」
 意気揚々と花びら舞う中を、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が先を指さし奥へと進んでいく。
「うん、行こう。どこにどんな花が咲くかわくわくしちゃうな」
 名を呼ばれた宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)もつられるようにふ、と笑みを浮かべ、逸れぬように揺れる尻尾を追いかける。今度は地面、抜け落ちないかな?と揶揄う声には、また飛べば大丈夫だろ!とけらり返して。なつめが躍るようにくるりと回ったかと思えば、ぽぽんっ!と可愛らしい音が二人の耳に届く。音と共に芽生えたのは、虹色に光る尾に負けないぐらい、様々な彩の小さな花。
「おー、咲いた咲いた!」
「なつめの尻尾、大きな花束みたいだ。これは…勿忘草かな」
 なつめが自らの尻尾を持ち上げ、十雉がそれをまじまじと見つめる。赤、薄桃、水色、紫、橙――千紫万紅移ろうけれど、花姿は確かに勿忘草そっくりだ。
「ふふ、忘れられたくない相手でもいるの?」
 あまりに有名な花ことばに準えて、からかうように十雉が零せば、どうだかなァとなつめがふいと空を仰ぐ。

――…そりゃあ、忘れられたくねーよ。
他の誰でもない、お前には。
花の橋を架けた日も、静かに杯を交わした時間も。
何もかも、憶えててくれねーと。

 言葉に乗せずに想いは胸深く沈め、ふと視線を戻せば十雉がちょうどそろっと尻尾に手を伸ばしている最中で。然し指先がもう少しで鱗にふれる、という直前でまたぽぽんっ、と花の芽吹く音が響いた。次に咲いたのは、十雉の右腕。二の腕から大輪のオレンジの花が咲いたかと思えば、ぽぽぽ、と見る間に蕾の数を増やしていく。そのガーベラによく似た花姿に、花言葉は何だったかと思い返せば、思い当たった言葉は――「あなたは私の輝く太陽」。
「…成る程なぁ、」
「お!オレンジのガーベラかァ!いーじゃん!すげー綺麗…。ってときじ、今なんか言いかけたか?」
「ううん、なんでもないよ。にしても綺麗なんて言われるとなんかこう、こそばゆいな。いや、花が綺麗なのは確かなんだけど」
 小さく零した言葉は納得と共に風音へ隠して、誤魔化すように花への感想をこぼす。そして触れ損ねた尻尾へと再度手を伸ばして、花に埋もれた滑らかな白銀をするりと撫でた――途端、その感触になつめの胸がどくり、と跳ね上がる。そしてまるで鼓動そのものを吸い上げたかのように、ぼぼぼぼっ!と音を立てて、尻尾の勿忘草が急激に数を増やしだした。
「なッ!?なんだァ!!?」
「わ、ど、どうしたの!?」
 驚いて互いに声を上げるもののその勢いは止まらず、先ほどよりさらに色を増やしながら咲き乱れ、遂には原型も見えなくなるほどに膨れ上がって。
「あっという間に尻尾の花、更にたくさんになっちゃったね」
「なんか…『れおぱ』ってやつみてェになっちまったなァ…俺の尻尾。」
 家飼いで人気のあるトカゲモドキの尻尾の如く、もっさりふとましくなった尻尾に、持ち主のなつめ自身が驚いて目を見開く。
「少し重そうだけど、これはこれでいいじゃない。似合ってるよ」
 そういって十雉が目元を和ませながら見つめれば、似合う、の言葉が嬉しくてか、なつめの尻尾が知らずゆらゆらと揺れる。素直な尻尾にまたひとつ笑みを零し、ゆるりと増えゆく互いの花を見つめ合いながら、結界の奥へと並んで進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

睦月・伊久
【POW】

花は好きですよ。
自然のある場所自体好きです。落ち着くので。
この身が植物の要素も持ち合わせているからでしょうか。

誰かを思う気持ち……甘くは無いと思いますが……思い浮かぶのは、やはり、

異形の僕を受け入れてくれた、僕のせいで死んでしまった集落の方々。
……守れなかった、大切な人達。
彼らとの日々を、愛していたのに。

だから、せめてこの悪縁をあちらに持ち込まないように、もう彼らを巻き込まないように。
その思いだけで僕は、死にながら尚この世にとどまっている。

あぁ、……赤い、彼岸花が、身体に。

「悲しい思い出」は離れず、あの世で「再会」できたとしても許してもらえるかはわからない、それでも。



 ひらり、はらりと桃の花びらが舞う。ともすれば視界を奪うほどの花嵐も、樹々が花を失うことはなく咲き乱れ、白岩の渓谷は美しく聳えたつ。桃源郷、と言われて多くの人々が思い描く優美な光景そのものが、ここには広がっている。
「美しい景色ですね。」
 その只中で、睦月・伊久(残火・f30168)が目の前を過ぎる桃の花を見つめながら、そっと呟く。――花は好きだ。自然のある場所自体も、ほっと心が落ち着くので好ましく思う。それはこの身に、植物の息吹も持ち合わせているからだろうか。然し残念ながらここは美しいだけの場所ではない、結界の中。今ここでこうして息をしているだけでも、躰の内には緩やかに花の種が根を張っているのだ。人に寄生し、何かを、誰かを想うあまい気持ちを吸い上げる、花。
「誰かを思う気持ち……甘くは無いと思いますが……」
 それでも、問われて思い浮かぶのはやはり、“あの人たち”の姿。異形の自分を受け入れてくれた、そしてそのせいで死んでしまった集落の方々。守れなかった、大切な人達。

――彼らとの日々を、愛していた。
神様と慕い向けてくれる笑みを、供え物を渡すときの温かな手を。
ささやかでかけがえのない時間を、大切に思っていた。
本当は神様なんかじゃなくて。騙すつもりなんてなくて。
でも居心地のいい場所を、手放せなくて。
そうして真実を黙していた代価は、無情にも彼らの命で贖われてしまった。

 命は、時間は、もう巻き戻せない。進んだ針はこのままずっと、未来を今にしていくだけ。だからせめて、この悪縁を“あちら”に持ち込まないように。きっと安息を得ただろう彼らを、もう二度と巻き込まないように。その思いだけで、死にながら尚この世にとどまっている。物思いに僅かに目を伏せた瞬間、パキリ、と何かが砕けるような音がした。気が付けば体のあちこちに、死者を想う気持ちを吸い上げたかのように、彼岸の華が芽吹いていく

――あぁ、……赤い、彼岸花が、身体に。

 角に咲いては赤く、獣の背に咲いてはなお紅く。「悲しい思い出」は今もこの身を離れず、あの世でもし皆と「再会」できたとしても、許してもらえるかはわからない。――それでも、今は蹄を鳴らし、前へと進む。渓谷に残す足跡に、ポツリと生えた彼岸花の色は――抜けるような、白だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈
アドリブ歓迎!

花がめっちゃ舞ってるな…
こんな場所で勉強するのも良いかもなぁ
だな、試してみようぜ
エルスタル・ヴォベの魔術書にならそれ系も載ってる気がするし!

体に花が咲k…あ、生えてる
気付けば
ぽこぽこ
髪や目
両腕から手にかけて花が咲き乱れる
時間が増えるごとに其れは体中に増え
咲くは白椿
何処か見覚えのある…そうだ
前の花泥棒の時に心結から出ていた花だ

…気持ちに比例して大きくだっけ?
(ならこれが心結への…いや咲きすぎてない??

ん?
握られた手を不思議そうに握り返し
大丈夫大丈夫、居なくならねぇさ
之いたくないし!
あ!心結にも花咲いてんじゃん!

綺麗だけど何の華だ…?
後で調べるか?

確か花持ち帰れるらしいしな!


音海・心結
💎🌈
アドリブ歓迎


ここが桃源郷ですね
何処を見てもお花だらけ
ふふり
この中でお勉強も楽しそうですね?
お花の箱庭が魔術で作れたら幸せですよ
今度試してみますか?

ちらちらと髪に花が咲く中、
覆いつくす程の真っ白な椿に気づく
想いに比例してるのだとしたら嬉しい
けれど、

──零時

彼の体が埋まり見えなくなっていく
何処かに行きそうで、怖くなって
思わず手を手繰り寄せて握る

(傍にいて。何処にもゆかないで)

それと同時に自分の腰付近
ピンク色の花──カリンが絡むように咲き乱れる

……天使の羽みたい
守ってあげないとですね

綺麗、可愛い、嬉しい
初めて見るに近い花
何で咲いたのか、この花が選ばれた理由──花言葉等、知る術もなかった



 桃の花びらがひらり、ひら、ひら。時折吹く風に乗っては、視界を奪うほどに溢れて、世界を薄紅に染め上げていく。真白の渓谷も、さくさくと踏み心地よい下草も、立派な樹木も、全部。淡く桃色を帯びる風景は穏やかな美しさを讃えて、正に此処こそが。
「ここが桃源郷ですね。何処を見てもお花だらけ」
「確かに花がめっちゃ舞ってるな…」
 音海・心結(瞳に移るは・f04636)がきょろきょろと見まわして、揺れる髪に桃一輪が落ちれば、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)がそれをそっと摘まみ上げて、ほら!と見せる。その差し出される花にふふり、と顔を和ませ受け取れば、思わず口をついて――
「この中でお勉強も楽しそうですね?」
「こんな場所で勉強するのも良いかもなぁ」
 ふたりから、同じ言葉が転び出た。ハモったことに驚いた視線を合わせれば、すぐに意欲が取って代わって、ふたりの顔に笑顔を齎す。
「此処みたいにお花がいーっぱい咲いた箱庭が、魔術で作れたら幸せですよ。」
「箱庭かぁ…そう言えばここの仙人の仙術って、そういうのだっけ?なんか良いアイディアもらえそうだ」
「なら、今度試してみますか?」
「だな、試してみようぜ。エルスタル・ヴォベの魔術書にも、それ系も載ってる気がするし!」
 そう言って引き合いに出すのは、つい先ごろ共に赴いた本屋で手にした本。樹木を匂わす表紙の魔術書ならきっとこの手のが…と思い至ったところで、零時がソワ、と自分の体を奔る違和感に気づいた。
「あっ、体に花が咲き……いや、生えてるって感じだなこれ」
「わ、きゅうに咲きましたね。白い花、みたいですけど」
 初めは髪、そして瞳の片方。それに触れようと伸ばした腕にもぽこぽこぽこ、と白い花――白椿が咲いていく。その数はどんどんと増え、零時の青をどんどん塗り替えていくよう。
「…気持ちに比例して大きく、だっけ?」
 小さく呟いて、自らの記憶を確認する。それなら糧にしている想いの先は、間違いようがない。

――何処か見覚えのある花…そうだ。
前の花泥棒の時に、心結から出ていた花だ。
ならこれが心結への…いや、咲きすぎてない??

 自分でも把握しきれていなかった想いの大きさを、何時かの兎が背負っていた白椿が、知らしめるよに咲き乱れる。うわわ、と驚く零時の姿が、蒼が、白へ白へと書き換えられていく。想いが溢れてのことなら嬉しいと思うのに、心結が今心に抱くのは、曇ったような気持ち。もし、このまま零時が白く埋め尽くされてしまえば、何処かへ行ってしまってもう、あえなくなる――?ふと襲われた恐怖に、慌ててまだ肌が見えていた腕をつかんで、ひゅう、と空気のかすれる音と共に、名を呼ぶ。
 
「──零時」

――いやだ。傍にいて。何処にもゆかないで。
みゆを、おいてゆかないで。

 名前以上は声にならず、ただ捕まえた腕をぎゅう、と強く握りしめる。不安で、心細くて、僅かに震える手へ――そっと、握り返す力が伝わった。
「ん?どうした心結」
 すっかり白い花に覆われながらも、覗く蒼はちっとも輝きを失わず、当たり前のように零時が明るく笑顔を見せた。
「あの、花が…あんまり咲くので、消えちゃわない、かと」
「大丈夫大丈夫、居なくならねぇさ。いたくもないし!」
 ぶんぶんと掴んでない方の腕を回して問題なさをアピールする姿に、漸くいつも通りだと――“此処”にいるのだと実感して、心結がほっとして息をつく。その安心した合間を縫うように、引き留めた手の力を汲んだように、今度は心結の背に花が芽生えていく。枝を編んで形を作り、葉を茂らせては羽のように、そして小さくも数多咲く花は、薄紅に染め上げて。背に現れた一対は、まるで。
「……天使の羽みたい」
「綺麗だけど何の華だ…?後で調べるか?」
「そうですね。その為にも毟られないよう…守ってあげないと、ですね」
「確か花、持ち帰れるらしいしな!オブリビオンにわざわざくれてやることはないよなっ」
 水晶の秘境もさぞ綺麗だろう、仙術は一体どんなものか――重ねる雑談の影で、未だ増え続ける花はあっても、繋いだ手があればもう怖くはない。花の選ばれた訳も、秘めた言葉もまだ知らず、今はただ奥へ奥へと駆けていく。

――カリンの花言葉は豊麗、優雅――そして、“唯一の ”。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
【嵐雅】

ふふ、花嵐すごいの~
せーちゃん、お花が咲くんじゃって
虚とわしごっこができるの

なんて言っておったら咲き始める白薔薇
ふふ、虚以外がこの身に花咲かすのは……あ、痛
ぐ、大暴れしよるな…仕方ない
眼帯外せば茨を伸ばして、払おうとしておる
これは…嫉妬…!
嫉妬してくれていることが嬉しくぽぽぽと花が咲いていく
虚が散らすよりわしが嬉しく思って咲く方が早い~(尻尾ふりつつ)
あっ、痛っ、照れ隠しか、花が散らんと見るとわしをちくちくと…!

おお、せーちゃんも咲いとる!
黄色い蒲公英か、咲いたと思えばふわふわ綿毛に
なに、ふーしてもよい? では早速
ふ~!(ふわふわを飛ばしながら尻尾ゆらし
ふふ、今度はどこで咲くんじゃろね


筧・清史郎
【嵐雅】

俺がいつも咲かせるのは桜だが
何が咲くか、興味深いな
らんらんと虚とお揃いか
それは楽しみだ

ふふ、虚に愛されているな
そう友を微笑ましく見つつも

想いの深さ…特に愛、か
俺は長年箱で在った故に、感情…愛というものがまだよく分からないが
それで花が咲くのだろうか、と思っていれば
視線の先に、友の揺れるもふもふ尻尾

ああ、そうだ…俺には、もふもふへの愛がある(きり
刹那、髪にぽぽぽっと咲く蒲公英
ひよこのポポ丸の名は、この蒲公英から取ったしな
そうほわほわ笑めば、花がもふもふ綿毛に
それが舞えばまた蒲公英の花に(ループ
ふふ、ふーしてもいいぞ
さり気に友の尻尾もふれば、また満開に

桜以外の花を咲かせるのも、たまには良いな



 桃花に満たされた渓谷の一角。ふわりと風が吹くたびに花びらを纏い巻き込み、時には視界を奪うほどに吹き荒れる。その一陣にさらされ、髪に残ったひとひらをつまみ上げながら、終夜・嵐吾(灰青・f05366)が耳をピコピコする。
「ふふ、花嵐すごいの~」
 笑い声を零しながら振り返れば、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が袖の花びらを払いながら、確かにな、と微笑み同意を返す。
「せーちゃん、ここお花が咲くんじゃって。」
「そうか。俺がいつも咲かせるのは桜だが…何が咲くか、興味深いな」
「目に咲いたら虚とわしごっこができるの」
「らんらんと虚とお揃いか。それは楽しみだ。…と言ってる間にらんらん、ほら。」
 そこに、と清史郎が嵐吾の肩口を指させば、そこには大きな花のつぼみが見えた。そしておっ、と驚く声を糧にしたように先が綻び、見る見るうちに大輪の白薔薇が咲き誇る。
「ふふ、虚以外がこの身に花咲かすのは……あ、痛」
 中々見ない光景にまじまじと視線を傾けていると、ちくりと右目に痛みが走る。
「大丈夫か、らんらん」
「た、たぶん…ぐ、大暴れしよるな…仕方ない」
 痛みはあっという間にずきずき、じくじくとその大きさを増していき、封しておくには難しいほどになって、思わず眼帯を外す。すると待ちかねたようにするりと瞳から茨が伸びて、見事に咲いた白薔薇を躊躇なく散らした。その迷いなさ、“この身に咲いていいのは私だけ”と言うような行為は、まさに。
「これは…嫉妬…!」
 嫉妬、独占欲、それはつまり――愛故に生まれる感情。わし、嫉妬されとる…愛…!と喜ぶ想いを花咲き種は見事に察知し、ぽぽぽぽ!と連なる様に嵐吾に白薔薇が咲き乱れていく。虚の茨も咲く端から叩き落とし、貫き、と必死に応戦するが。
「散らすよりもわしが咲かす方が早い~」
 嵐吾の言葉通り、咲く速度の方が僅かに早い。何となく想い愛勝負で勝ったような心地になってふりふりと機嫌よく尻尾をゆらしていると、ムッとしたようなオーラを纏って虚の茨の矛先が白薔薇から嵐吾へと移る。チクチク、サクサク、ぶすっ。
「あっ、痛っ、わしをちくちくしだし…いたた!」
 突かれながらもどことなく嬉しそうな嵐吾の様子に、見守っていた清史郎もふと笑みをこぼす。
「ふふ、虚に愛されているな」
「じゃろ~?ってあ、また、痛っ、痛い~~!!」
 もはや微笑ましくも映る遣り取りを目にうんうん頷きつつ、ふと未だ花の咲かない身を見て呟いた。
「想いの深さ…特に愛、か」
 清史郎はヤドリガミだ。元は硯箱として長く過ごした為か、愛と問われてもそれが何かよくわからない。友を得て、食を通じ、世界を渡り、情に触れることはあっても、それが愛かはまだ答えようがない。そんな自分にはたして花が咲くのだろうか、と思っていれば、視線の先にいたのは――虚と戯れて微笑む、嵐吾の姿。
「ああそうだ。俺には、この愛があった。嵐吾…」
「えっ、せーちゃん…もしやわしに、愛を…!」
 ドキッ
「ああ嵐吾、勿論だ。愛おしく思っているとも…その尻尾のもふもふを…!」
「あっ、うん知っとった!」
 満面の笑顔で見つめる先は、嵐吾のふさふさ揺れる尻尾。そして愛を実感した途端、清史郎の藍色の髪にぽぽんっ!と可愛らしい黄色の花が咲いた。
「おお、せーちゃんも咲いたの!蒲公英じゃの~」
「そういえば、ひよこのポポ丸の名は、この蒲公英から取ったしな」
 咲いた花の種類にも納得がいって、面白そうにつんつん、とつついているとみるみる内に花がぶわっ、と綿毛に代わる。そして綿毛が吹いた風に舞ったかと思えば、残された鍔からまたぽんっ!と黄色い花が顔を覗かせる、が繰り返される。
「綿毛ええのぉ、ふわふわ~」
「ふふ、ふーしてもいいぞ」
「なに、ふーしてもよい? では早速…ふ~!」
 風に巻かれる前に、ちょうどふわりと咲いた一輪に優しく息を吹きかければ、勢いよく飛んで行って、一瞬周囲が綿毛景色に代わる。その様子にぱたぱたと尻尾を振って嵐吾が喜べば、こっそりその尻尾をもふっとした清史郎も、愛のバロメーターよろしく蒲公英がぽぽぽぽっ、と増やして満開に。
「ふふ、今度はどこで咲くんじゃろね」
「桜以外の花を咲かせるのも、たまには良いな」
 種の芽吹く先を想像しながら、柔らかな風の中で二人が空を見上げ、微笑んだ。


………🌸

「あれ、せーちゃん。首筋に桃の花びら付いとる」
「ああ、花嵐に遊ばれたか。らんらん取ってもらえるか?」
「ほいほーい…ん?あれ?……あ、ああ~~…成程」
「どうかしたか?」
「んーや、なーんも。ま、水晶の秘境についたらはなそか」
「ん、そうか?なら、そこまで楽しみにしていよう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花天】
甘くて深い愛の花、な~
良し、春も遠慮なく咲かせ…って二人仲良くスルーしないで!
コホン
ま、敵の手の内とはいえ、楽しめるモンは楽しんだモン勝ちって事で!

改めて!春はオレへの愛を満開に…あとオレとも並んで歩…(言い終える前に安定の塩対応&善意の追撃食らい)
あまいどころかしょっぱい!
哀が重くて心が枯れそう!

(と、不意の花に目を細め)
お、本当一際華やいだな!
春も益々爛漫満開の様相で
二人とも、見てるだけで伝わってくるよ

オレは咲くかどーか…
へ?
コレは違っ…!
(頭にぴょこっと雛風の蒲公英や沢山の野花が――ささやかなれど大切なものが表れ)
(気恥ずかしくて隠そうとするも
仲間やペットへの想いは絶える事なく)


永廻・春和
【花天】
(呉羽様の軽口をさらりと流しつつ
綾兄様と並んで進み)
私達は元より花咲く身なれど、如何なる影響を受けるか――この様な状況では御座いますが、少し興味深くもありますね

(懲りぬ約一名様へ哀れみの眼を向け)
――流石に哀情違いでは咲かぬ様ですね?
(と、綾兄様と顔を見合わせれば)
綾兄様、いつの間にやら梅と一緒に桜が咲いておりますよ
ふふ、確かに縁も深き花ですものね

(つられて笑み咲かせた瞬間
今度は自らの桜枝に梅や野花がふわりと咲き添って)
まあ、私も?
(乙女らしい愛は未だ知らぬも
友愛や親愛は確かに深く知るもの――
仲間を象徴する様な花達にすぐ合点が行き)

あら
呉羽様もまた、本当に愛らしい花で
(微笑ましく眺め)


白姫・綾絲
【花天】
(呉羽さんは相変わらず賑やかな方だなぁと暢気に思いつつ、春ちゃんとはぐれぬよう歩調合わせ)
そうだね、寄せ植え、源平咲き、或いは――敵の術中ではあるけれど、花の一点に於ては、どうあっても楽しい事になりそうだね

ああ、ごめんなさい、呉羽さんもはぐれないようにお手を引きましょうか?(純然たる善意)
哀情…?しょっぱい?
(色々よくわからず春ちゃんと顔を見合わせれば)
おや、本当だ、まさかの二種源平咲きになったね
思い入れ深い、僕達の日々の象徴たる花――あたたかな友愛や親愛の証、だね
ふふ、何だか嬉しいな

あ、春ちゃんもお揃いになったね
――それに呉羽さんも(色々零れ咲いていますよと、隠す様子を微笑ましげに)



 ひらり、はらりと花びらが舞う。渓谷を吹き抜ける風は柔らかく、けれどひとたび吹けば視界を奪うほどの花嵐を連れてくる。樹々に溢れんばかりに咲く桃花は、それほどに花びらを落としても一向に枯れる様子はない。その有り様は、樹種は違えどどこか――桜狂い咲く世界を思わせるものがあった。その只中を歩く3人のうちひとり、呉羽・伊織(翳・f03578)がふと目の前の花びらを捕まえて呟く。
「甘くて深い愛の花、な~。良し、ここは一つ春も遠慮なく俺への花を咲かせ…」
「あ、あちらで鳥の声が…鶯でしょうか?」
「どうだろう?でも、涼やかで可愛らしい声だね」
「…って二人仲良くスルーしないで!」
 伊織の悲鳴も何のその、でマイペースに麗らかな春模様を楽しむ永廻・春和(春和景明・f22608)と白姫・綾絲(素心若雪・f22834)。春和とふたりきりだって大抵のことは往なされるのに、話もペースも合う綾絲がいてはめげず押せ押せの伊織も形無しである。
「コホン…ま、敵の手の内とはいえ、楽しめるモンは楽しんだモン勝ちって事で!」
 気を取り直して花舞う中、大きく手を広げて告げられる宣言には、ふたりも今度は同意の頷きを返す。
「私達は元より花咲く身なれど、如何なる影響を受けるか――この様な状況では御座いますが、少し興味深くもありますね」
「そうだね、寄せ植え、源平咲き、或いは――。敵の術中ではあるけれど、花の一点に於ては、どうあっても楽しい事になりそうだね」
 たとえ結界とあっても、3人で共に歩けば不安もどこへやら。ちょっぴりの警戒は抱きつつ、何はともあれ花模様を楽しもう、と心ひとつに歩き出した――はずだった。
「目標をちゃんとそろえた所で…改めて!春はオレへの愛を満開に…あとオレとも並んで歩…」
 やっぱり微塵も懲りてなかった伊織がソソソ、とふたりへ距離を詰めようとするものの。
「あ、春ちゃん。そこ少し段差になってるよ。どうぞお手を」
「ありがとうございます、綾兄様。では拝借して…」
「待ってそれ俺がやりたいやつっ…!!」
「ああ、ごめんなさい、呉羽さんもはぐれないようにお手を引きましょうか?」
「そうじゃなくて…いやそれはそれで有難いけど…けどっ!あまいどころかしょっぱい!」
 全き善意で伸ばされる綾絲の手と、全力で駄々をこねる様子に向けられる春和からの哀れみの眼。残酷な温度差が双方から襲い掛かり、伊織が眉を寄せてしょ気る。
「――流石に哀情違いでは咲かぬ様ですね?」
「咲くどころか哀が重くて心が枯れそう!」
「哀情…?しょっぱい?」
 会話の意図が掴めない綾絲に気にしなくていい、と声をかけようかと春和が視線を合わせれば、はたと髪の先に見慣れた色を見つけて微笑む。
「綾兄様、いつの間にやら梅と一緒に桜が咲いておりますよ」
「おや、本当だ、まさかの二種源平咲きになったね」
「お、本当一際華やいだな!」
 いつもは髪飾りのように紅梅が差す髪に、薄紅の桜が添い並んでいっそう華やかな印象になった。それも思い入れ深い、共に過ごす日々の象徴たる花――桜が咲いたことが嬉しくて、綾絲の顔に柔らかな笑みが浮かんだ。
「あたたかな友愛や親愛の証、だね。ふふ、何だか嬉しいな」
「ふふ、確かに縁も深き花ですものね」
 あたたかな表情につられるように笑い声を零すと、その声を吸い上げたかのように、今度は春和の桜枝に梅や野花がふわりと咲き添うた。
「あ、春ちゃんもお揃いになったね」
「まあ、私も?」
「へぇ、こっちもまた綺麗だなぁ…よく似合ってる!」
 確かめるように頭の桜枝に触れれば、いつもと違う花弁の感触がして、不思議そうに指を滑らせる。乙女らしい愛は未だ知らないけれど、友愛や親愛は確かに深く知るもの。ならば仲間を象徴する様な花達が咲くことには、すぐに合点が行った。納得するように穏やかな笑みで頷く春和を見て、同じ心地を既に味わった綾絲もうんうん、と続いて頷く。そんな2人の様子を見て、未だ咲いてない――と思い込んでいる伊織が、はぁーっと溜息を一つ。
「この調子じゃオレは咲くかどーか…」
「――いやいや、呉羽さんも既に十分、可愛らしいことになっていますよ」
「…へっ?」
 唐突な目配せと含む笑みに、慌てて頭に手をやると、ぴょこっと雛の如く飛び出た蒲公英や、沢山の野花が咲いていることが指越しにも伝わってくる。ささやかなれど大切に想う気持ちが何もかも溢れ出た様な有り様は、自らにも花が咲いて嬉しい…というよりも気恥ずかしさが勝って。
「あら、呉羽様もまた、本当に愛らしい花で」
「いや、コレは違っ…!」
 慌てて隠そうとしても、時すでに遅し。ばっちりたっぷり見られた上に、隠そうと意識する度花が増えていくもので。暫しあられもない悲鳴と、二人分の微笑ましそうな笑い声が渓谷にこだました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

俺の胸に咲く小さな花
ヘリオトロープ
左胸の、心臓のあるあたりを中心に紫と白の小花が広がる

太陽の光に焦がれ、日差しを見つめ咲くという花
それはきっと、ヘルガという陽だまりを見つけた俺の心
戦いしか知らなかった俺に愛情という水をくれた
凍てついた心を微笑みで温めてくれた
揺れるたび広がる甘い香り
可憐な姿はきっとお前自身の象徴で
そしてその花の言葉は「献身」

人々のため、世界のために祈り捧げ続けるお前を
俺は生涯かけて守り抜くと誓った
悲しみも苦悩も全て受け止めよう
理不尽に怒る時あればお前の剣となり盾となろう

ああ、お前も心の花を咲かせたのだな
その美しく優しい想いを
大切に包み込むようにお前の肩を抱き進もう


ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

わたくしの背中の翼に芽吹いた花は、カランコエ
白い羽の間を縫って、赤や黄色やピンクの花が
色鮮やかに咲き誇る
不思議と翼飛行は阻害しないようで
それでいて、翼のあたりがほのかに暖かい

色鮮やかな数多の花は、たくさんの小さな思い出
ヴォルフと共に歩み築いた
そのひとつひとつが大切なたからもの
辛い時も、悲しい時も、彼がいたから乗り越えられた

だけどもう、守られてばかりではいられない
わたくしもあなたを守るから
いいえ、いつか故郷の世界を吸血鬼から解放し
みんなを幸せにするためなら
泣き言など言ってはいられない
あなたがくれた強い心を胸に
未来を切り開いてゆくの

抱き留める彼に身を委ねて
これからも二人、共に歩みましょう



 桃の花びらが、渓谷を舞う。それは時に視界を染め上げる程舞い上がるのに、不思議と樹木の花が尽きる様子はない。今が盛りと咲き誇り、そしてまた舞い遊ぶ花びらをはらり、ひらりと零していく。その美しい光景を前に、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が笑みを浮かべて、足取り軽く進んでいく。そのほんの少し後ろを見守り歩むのは、夫たるヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)。美しいわ、と花びらと遊ぶ天使に、その姿も含めてだと告げれば、桃と同じようにヘルガの頬が僅かに染まる。そしてヴォルフガングを見つめ返す青の瞳が、喜びからふと、驚きの色へと移り変わって見開かれる。
「ヴォルフ、胸に花が」
「ああ、咲いたようだ。これは…ヘリオトロープ、か」
 左胸から芽生えた、紫と白の小さな花。まるで心臓に根を下ろしたかのように、その鼓動を糧にしたかのように伸びゆく姿を見ながら、想うのは花に似た最愛の人のこと。――太陽の光に焦がれ、日差しを見つめ咲くという花。それはきっと、ヘルガという陽だまりを見つけたヴォルフガング自身の心を現しているようで。

――戦いしか知らなかった俺に、愛情という水をくれた。
冷たく凍てついた心を、惜しみない微笑みで温めてくれた。
護るつもりで引いた手が、強張っていた感情を解き放ってくれた。

 揺れるたび広がる甘い香り。可憐な花姿はきっと、象徴しているのだろう。ヘリオトロープが持つ花言葉は、「献身」。その言葉に準えるように、ヴォルフガングがヘルガの手を取り、膝を付いた。
「――俺は、生涯かけて守り抜くと誓った」
 聖騎士が今一度、最愛の花へと宣誓を告げる。
「悲しみも苦悩も、全て受け止めよう。理不尽に怒る時あれば、お前の剣となり盾となろう」
 だから、と続けようとした言葉を止めたのは、ヘルガの白い指先。紡ぐヴォルフガングの唇にそっと当てて、見上げる視線に微笑んで見せる。
「ヴォルフ、見て。わたくしにも、花が咲いたの」
 くるり、と背を向ければ見えるのは、美しい天使の翼。然しいつもは真白の羽に、今は赤や黄色やピンクの花が色鮮やかに咲き誇る。羽根の隙間を縫うように咲きながら、不思議と飛ぼうと思えばいつもと同じく飛べることが分かる。それに何より、花の一つ一つがほのかに温もりを伝えて、心地よい。それはまるで、ヴォルフガングにふれられたときのようで。

――色鮮やかな数多の花はきっと、たくさんの小さな思い出のしるし。
ヴォルフと共に歩み築いた、かけがえのない時間。
そのひとつひとつが、大切なたからもの。
辛い時も、悲しい時も、彼がいたから乗り越えられた。
だけど、もう。

「…守られてばかりではいられない。これからはわたくしも、あなたを守るから」
 それは、カランコエに眠るもう一つの花言葉。それは、と言い募ろうとしたヴォルフガングに、優しくいいえ、と留めてヘルガが手を組み、祈るように目を伏せる。
「いつか故郷の世界を吸血鬼から解放し、みんなを幸せにするためなら、泣き言など言ってはいられない。」
 もしそれが、たった一人きりで歩む道ならば、孤独と苦難に塗れた茨の道となっていただろう。だけど今はもう、違う。隣にはいつも最愛の騎士が居てくれて、胸にはいつも愛しい想いが溢れている。
「あなたがくれた強い心を胸に、未来を切り開いてゆくの」
 無垢な雛鳥は、天翔ける白鳥へ。あなたと共に、どこまでも羽搏いてゆける。そう言い切るヘルガの表情に、ヴォルフガングが眩し気に、そして愛しげに目を細める。
「ああ、お前も心の花を咲かせたのだな」
 変わったのは、己ばかりではない。互いに手を取り歩んだ時間が、ふたり共を育んでいったのだ。
「これからも二人、共に歩みましょう」
「ああ、どこまでも共にあろう。二人で」
 包み込むように肩を抱き、そのあたたかな手に手を添えて。並び歩んできたふたりが、次の道へと歩き出す――いつまでも、共にあろうと誓いあって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

隣から深い溜息の音
どうしたんだと其方を向けば──大輪の薔薇の数々。
「花束みたいで綺麗だな、ルーファス」
なんて呑気に笑い
けれどちくりとした痛みが奔り
件の場所を見遣れば、そこは左手薬指の根元

咲くは、大きな桔梗。

一瞬で花言葉を思い出した俺は咄嗟に後ろ手にそれを隠す
いや、だって、恥ずかしいだろう…!?よりによってこの指にこの花言葉は、
(「俺がルーファスのこと物凄く好きだと示しているようなものじゃないか…!」)
事実その通りなのだけどいかんせん照れが凄まじい
捲っていた袖を下ろして必死に隠しながらルーファスと攻防戦を繰り広げた


ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

ぽんぽんぽんぽん
イヤ、咲き過ぎだろ
思わず深い息が漏れた

花は想いの強さに比例してるらしいけど
身体中の至るところに赤い薔薇が咲く
これのどこが花束に見えるのか
詳しく問い詰めてやりたいし
オレを花束としてやろうか? あ?
なんて軽口も頭に浮かんでくるけれど

──まあ、

ちらりと呑気に笑う彼を見る
確かに誰よりも大切なヤツだから
咲くとは思ってたんだよなあ

で、お前、何、隠してんだよ

オレがこんなに薔薇見せつけてるのに
お前は教えてくれねえわけ? へえ、
恥ずかしいとか今更過ぎるだろ
ほら、隠してねえで見せろよ
その服脱がすぞ、バカマコ
なんて冗句も含めた攻防戦は暫く続く



 咲き染む桃花が、ひいら、ひらり。真白い渓谷に所狭しと植えられた樹木は、枝にたわわと花を咲かせて、風が吹くたび視界を薄紅へと染め上げる。真白の渓谷、青々とした下草、桃の花々を撫でるよう、穏やかに吹く風の音を裂いて――唐突に、ぽんっ、と芽吹きの音がした。
「…イヤ、咲き過ぎだろ」
 呆れたようなルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)の声に、共に渓谷を並び歩く明日知・理(月影・f13813)がどうしたのかと振り返れば、その姿に“赤”が咲いていた。胸元の紋とは明らかに違う、複雑な花びら模様みせる大輪の赤薔薇。それが髪と問わず腕と問わず、自身の全身のあちこちからぽんぽんぽんっ、と咲いていくのを見て、ルーファウスが深くため息をつく。
「花束みたいで綺麗だな、ルーファス」
「へーそれはそれは…なんならオレを花束としてやろうか?あ?」
 今ならさぞ隠れた棘が痛かろう、と両腕を広げて嫌味を言ったつもりが、返されるのはにこりと呑気な笑顔だけ。効いた様子の無さに、思わず顔を顰めてぷい、とそっぽを向く。そもそもこれのどこが花束に見えるのか、暫し時間をかけて問い詰めてやろうか――とも思ったけれど。

――まあ、確かに。
誰よりも大切なヤツが隣に居んだから。
咲くとは思ってたんだよなあ。

 とは言っても、わざわざ花言葉を調べるまでもないような深紅の薔薇が咲くとは思ってなかったし、こんなに隠しようもなくぽんぽん咲くとも思っていなかったわけだが。それに何より、未だ変わった様子のない理の様子が気になって、ルーファウスがちらりと視線を戻す。互いの視線が交わったその瞬間、理の左肩がぴくりと跳ねた。ちくりと刺されるような痛みを感じて、先をたどるように視線を落とせば、それは左手薬指、その根元。くるりと一周して結わえるような茎に、咲くは紫色をした大きな――桔梗が一輪。まるで指輪のような在り様に、一瞬にしてその花言葉を思い出し、顔を染めた理が慌てて後ろ手に花を隠す。が、隠すまでの一連の流れも、朱の上った頬も、ルーファウスが見逃すわけはなく。後ろ手に抵抗がしにくいのをいいことに、がっちりと肩を掴まれてしまった。
「で、お前、何、隠してんだよ」
「な、別に何も隠して…」
「嘘つけコラ」
 獲物を見つけた肉食獣のような笑みを前に、それでも理が必死の抵抗で指を遠ざけようと足掻く。桔梗の花言葉は、“永遠の愛”。寄りにもよってこの指に、その花言葉を咲かせるなんて。

――俺がルーファスのこと物凄く好きだと示しているようなものじゃないか…!

 実際まったくもってその通りなのだが、改めて目に見える形となっているのを、しかも当の本人に見せるとなれば、それはもう照れが凄まじい。
「オレがこんなに薔薇見せつけてるのに、お前は教えてくれねえわけ?へえ…」
「いや、だって、恥ずかしいだろう…!?」
「恥ずかしいとか今更過ぎるだろ。ほら、隠してねえで見せろよ」
「頼むからこれだけは、ちょ、勘弁っ…!!」
「なに袖降ろしてンだ…その服脱がすぞ、バカマコ」
「余計無理に決まってるだろ!」
 言い合い、じゃれ合い、意地の張り合い。仕舞いにはその行為こそが若干楽しいものになりつつ――素直に明かすには、暴くには、まだ時間も余裕も足りなくて。暫し不毛な攻防が、ふたりの間で繰り広げられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
SPD
普段なら毒性を持つ植物もこの場合はどうなるのかな?普通の花ではないしそこまで考えなくても大丈夫かしら?
想いの深さ、愛で咲く花。
私の思いは甘いかどうかは……むしろ甘さは皆無じゃないかと思います。
想うがゆえに離れて暮らす家族への。そして猟兵になって知ったキラキラと美しく輝く心の持ち主たちをもっと見ていたい、もっと見つけたいそういう気持ち。
少なくともそういった方々のせいで、そしておかげで、私は人に絶望しきれない。まだ希望をもってる。
希望なんていっそなくなった方が楽なのにね。

咲く花は秋桜。色はお任せ
一つ一つは大きくないが、花冠のように頭部を一周するように咲く。



 ひらり、ひいらと花びらが舞う。柔らかな風が吹くたびに桃の木が揺れて、花嵐となって桃源郷を流れていく。瞳の上にひらりと落ちてきたひとひらを掬って、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)が花びらを陽に透かすように眺める。美しい景色、甘い香り、穏やかな気候。夢見心地のように見えて、ここは既に結界の中。呼吸をして、少しとはいえ肌を晒している以上、人を苗床に育つ花種が身の内に巣食っていいるのだ。そして咲く花は自らで選べない。なら普段毒性を持つ植物が生えた場合は、どうなるのか。
「普通の花ではないし、そこまで考えなくても大丈夫かしら?」
 一先ず敵さえ倒せれば、花は問題なく体を離れるとの説明はあった。なら、余り深く考えることもないのかもしれない、とその考えは脇に置いておくことにした。
――想いの深さ、愛で咲く花。
 なら、私の思いはどうなのか。掴み切れないところもあるが、“甘い”かどうかと問われたら、むしろ甘さは皆無なのではないか、と思う。想うがゆえに離れて暮らす、家族への想い。そして猟兵になって知った、キラキラと美しく輝く心の持ち主たち。あの人たちの姿を、背中を、もっと見ていたい、もっと輝いていく姿を見つけたいと想う気持ち。少なくともそうした人々の“せい”で、そして“おかげ”で、今の自分は人に絶望しきれないでいる。まだ、もしかして、と希望をもってしまう。
「希望なんていっそ、なくなった方が楽なのにね。」
 希望の先には絶望が、期待の先には失望があるのだとすれば、そんなものは始めから持たない方が楽でいられる。――それでも、一度魅せられてしまえば、手放しがたいのも確かで。悩み迷う心は未だ先を決めきれなくても、花はその想いすら吸い上げてそっと芽吹いていった。咲く先は頭、まるで花冠の様にゆっくりと茎を絡ませ、つぼみがひらけば其処に在ったのは、秋桜の花。大きくない代わりにいくつもの花が、白、薄桃、赤、と数多に色を変えながら、咲き乱れていく。

――複雑で、甘くはなくて、それでも未だ、放るに惜しい。
そんな想いをもし、愛と呼ぶのなら。

「…もう少しだけ、こうしていてもいいかしら、ね」
 花の冠にそっと触れながら、藍晶石の目を伏せる。いつかのことは、まだ分からない。だから、今は――この花を美しく想う気持ちのまま、歩んで行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
咲く花「ライラック」

私はヤドリガミだから花がさくのだろうかと思いましたが。

最初は髪飾りの花が落ちてしまったのだろうかと思った。
けれどそれが落ちたのではなく自分の体が咲かせているのだと気づいた。
花が咲いていることは驚いたけれど、この紫の花が咲いたことは妙に納得した。
私が挫けそうになった時、手を差し伸べれくれた友がくれた花。
誇りと友情の花。
ああ、4枚の花びらのライラックの中に5枚の花びらのライラックが。
怖くないと、大丈夫だと背中を押してくれているみたい。
ここには一人できたけれど。
一人じゃないと見守ってくれているよう。

ふふ、そうですね。月代たちもいてくれますものね。
さあ、翠醒の元へ急ぎましょう。



 ひらり、はらりと花ひらが舞う。ともすれば視界を埋め尽くすほどなのに、樹々には桃花がたわわと咲いて、いっこうに失われる様子はない。
「不思議な…でも美しい光景、ですね。」
 何か魔術でもかかっているのか、と舞う花びらを掬って吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)が眺めるが、あいにくとその一枚からは絡繰りを読み解けそうにない。そのまますくう様に広げる手のひらに一枚、二枚と薄桃が重なっていく最中、ふと淡い紫色が目を掠めた。初めは、花飾りの花が零れたのかと思った。けれど肌に触れれば耳に、首筋に、そして手首にと花咲く様子が見て取れて、目を見開いた。その花の名は。
「ライラック…」
 髪飾りと同じ、小さく愛らしい花。ヤドリガミであるこの身に、花は芽吹くのだろうかと疑問だったが、そんな想いを吹き飛ばす様に花を増やしていく紫色。そのことに驚きはしたけれど、この紫の花が咲いたことは妙に納得した。

――私が挫けそうになった時、手を差し伸べれくれた友がくれた花。
誇りと友情の花。

 その花が芽吹いてくれたことが、桃花よりも降り積む紫の花が嬉しくて、鼓動が僅かに弾む。そして咲いた箇所をひとつ、ふたつと数えて行けば、差していた指に咲くライラックが目に留まる。他のものより僅かに大きく見えるそれに目を凝らせば、花弁の数が1枚多い。幸せの一片を示す、五枚花弁のライラック。その花咲く姿に、髪飾りを贈ってくれた友を想い、柔らかな笑みが灯った。

――まるで、怖くないと、大丈夫だと背中を押してくれているみたい。
ここには一人できたけれど。
一人じゃないと、いつでも見守ってくれているよう。

 知らず少し冷えていた体が、想いひとつでじんわりと暖かくなる。そしてまるでその心内を見透かしたように、くいくい、と袖を引かれる感覚に視線を下げれば、そこにはつぶらな瞳で狐珀を見上げる仔竜の姿があった。
「ふふ、そうですね。月代たちもいてくれますものね。」
 そう呟いて、そっと月白色の毛並みを撫でれば、嬉しそうに身をゆらすので思わず笑い声が溢れて。
「さあ、では翠醒の元へ急ぎましょう。」
 幸運の証を、想いのカタチを、奪わせはしない。そう決意を新たにして、狐珀が結界を奥へと進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【鏡酒】アドリブ◎

喫茶店で出逢った以来だなァ、ディオ
新世界初心者なお前よりちぃっと先輩な俺が導いてヤんよ
後で景色楽しもうや

咲いた花に驚く
左目(未来を見る所以)に紫紺野牡丹
対象は仲が良い猟兵全員と護る世界
大事に想う気持ちが大きく種類も多い
花弁も徐々に大きく花の数も増え

痛ッ…!何、だこれ
(眸に咲くは
視る
即ち
鏡(おれ)だからか)

ディオにも花が
心臓…
その花…何か心当たりはあるのか

黙って話聞く

唯一をこの手で…
辛かったな
でも
そうするしかなかったンだろ(咎めず宥め
お前は、偉いぜ
運命や結末がどうであれ
己が為すべきコトをしたと思う
悔いるなよ

(もし抗えてたら
今頃二人は)

友の色、か

そっと手で隠す
少しでも苦しまぬよう


ディオ・マンサニー
【鏡酒】

新しい世界に初めて踏み入るのでなぁ。戦いがなければこの景色も楽しめるのに…ちぃと残念よ。

ん…?おお…ジニアの、はな。

…あまり聞いていて楽しい話ではないのだと思うが…。それでも、聞くか?
聞いてしまうのかー。そうだな…アティンという太陽の神がいてな。オブリビオンとして時々現れるようなのだが。
其奴は吾人の……唯一無二の友であった。そう、手に掛けたのは吾人よ。
よくある噺さ、周りのいざこざに。己の立場に、運命に。翻弄されたのだよ、我らは。そうするしか、なかった。お互いに引けなかったのだ。
この花はあやつの…アティンを思い出す色だ。くるしいな。

(咲く花は心臓辺りに生い茂る感じでお願いします)



「喫茶店で出逢った以来だなァ、ディオ」
 ひらり、ひいらと桃花が舞う風の中。花嵐にあってもスッ、と耳に届く声で、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が共に歩くディオ・マンサニー(葡萄酒の神・f17291)へと呼び掛ける。それに頷きを返すと、再会を喜ぶように浮かんでいた微笑みが、ほんの少し曇る。それは、僅かな不安か、それともこの先にいる仙人の無粋な邪魔にか、あるいは――両方。
「新しい世界に初めて踏み入るのでなぁ。然し、戦いがなければこの景色も楽しめるのに…ちぃと残念よ。」
「なら、新世界初心者なお前よりちぃっと先輩な俺が導いてヤんよ。その後で景色楽しもうや」
 既に二度ほどこの世界に足を踏み入れてるクロウが、自信たっぷりに笑みを浮かべて腕を広げて見せる。その様子にふふ、と声を零し鷹と思えば、ディオの表情が急に驚きへと染まった。
「クロウ、瞳が」
「ア?…痛ッ…!何、だこれ」
 声を掛けられるのと同時に痛みを覚え、思わず押さえたのは、左目。指の感触が伝えるのは、本来あるはずの滑らかな青い眼球ではなく、花特有のふわりとした柔さ。しかも一輪に留まらず、今にも涙の様に溢れそうなほど増え続ける。その花姿はまるで紫紺野牡丹のよう。ただ本来の紫色を数多と咲かせながら、目尻の橙一輪は唐菖蒲を思わせ、雫と零れ落ちそうな数輪は桜色に染まり、そっと潜む蕾の深紅は薔薇の面影を残していた。それは、根差す想いの数の表れ。千紫万紅、須らく護るべき世界すらも見据えて咲くのが、他でもない左目なのは、きっと。

――眸に咲くのは“視る”こと、即ち“鏡”
それを器物とするおれ、だからか。

 納得と、痛みの引く感覚を憶えて、心配そうな視線を投げるディオに大丈夫だと笑みを覗かせる。すると今度は、クロウが花の瞳を見開く番だった。
「ディオ、お前にも花が」
「ん…?おお…ジニアの、はな。」
 向けられた言葉にふと胸元へ目を落とし、その花の色を目にすると、ふとディオの顔が曇ったような気がした。太陽のように明るく、金を孕む橙の色。花だけが溢れてみえる咲きようは、その茎と葉が、そして何より根が、心臓を苗床にでもしているかのようで。
「心臓あたりか…その花…何か心当たりはあるのか」
「…あまり聞いていて楽しい話ではないのだと思うが…。それでも、聞くか?」
 散らさぬよう柔く花に触れながら苦笑うディオに、クロウがひとつ頷いて、口を噤む。その姿に観念したように、せめて切り出しだけは軽く繕いながら、話し始めた。
「聞いてしまうのかー。そうだな…アティンという太陽の神がいてな。オブリビオンとして時々現れるようなのだが。其奴は吾人の……唯一無二の友であった。
 オブリビオン、友であった――どれも過去を示唆する言葉。アティンと呼ばれた神は既に没し、今や骸の海の住人となったのだろう。なら――“彼はなぜ死んだのか”?
「…そう、手に掛けたのは吾人よ。よくある噺さ、周りのいざこざに。己の立場に、運命に。翻弄されたのだよ、我らは。そうするしか、なかった。お互いに引けなかったのだ。」
 訥々と語られるそれは、正に神話の一篇だった。時には愛に満ち奔放で、そして時に悲劇を孕み、織られ綴られ受け継がれゆく、遥かな神々の物語。そして。
「この花はあやつの…アティンを思い出す色だ。くるしいな。」
 ――それでいて、ただのディオ・マンサニーという男としての、過去の話でもあった。
「唯一をこの手で…辛かったな。でも、そうするしかなかったンだろ」
 黙して耳を傾けていたクロウが、そっと口を開く。今の話で、何もかもが分かるわけじゃない。それでも、くるしい、と零すその想いだけは、汲み取りたくて。
「お前は、偉いぜ。運命や結末がどうであれ、己が為すべきコトをしたと思う。だから、悔いるなよ」
 慰めに似て、励ましに寄せて。ディオが歩んだ道行きを、その結果を、肯定する。今こうして出会ったこと、共にいる時間があるのは、苦しくとも選んだ結末故なのだから。
「そう、だな。今はまだ難しいかもしれないが…クロウの言葉は、留め置こう。」
 未だ瞳は太陽の花を見つめながら、頷きを一つ返す。

――友の色、か。
もし抗えてたら、今頃二人は、どうなっていたか。
この花嵐を共に眺めていたのか、それとも。

 途絶えた未来は、取り返せないifは、花に埋もれた瞳にも映ることはない。だからせめて、とクロウが輝き宿す花を手で遮る様に隠す。今を生きるディオの苦しみを、ほんの少しでも遠ざける様に。俯いた顔が、また前を向く様に。その語られない想いを、それでもそっと、聞き届けたように。ディオが伏せた瞳の向こうで――ありがとう、と静かに零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【揺藍】

円ちゃんには何の花が咲くんだろうね
綺麗な円ちゃん
きっと咲く花も綺麗なんだろうなあ

ぼくにはどんな花が咲くと思う?
んふふ
かぁいい花が咲くと良いんだけれど

行こう、円ちゃん
手を差し出して
繋ぐ温もりに頬が緩む

んーん
円ちゃんの体温が心地良いなって
円ちゃんもそう思ってくれたら嬉しいんだよ

ふわり、舞い落ちる薄桃の花
右目に触れると花が咲いているよう

円ちゃんが好きって気持ちが溢れて
きっと咲いたんだよ

円ちゃんの花
どこか妖しくて美しい
彼女そのもののような花

だいじょうぶだよ
円ちゃんは円ちゃんだものね
こうして手を繋いでいよう
円ちゃんと一緒に居る今を噛み締めるみたいに

零れ落ちた花びら
この想いを決して逃さないように


百鳥・円
【揺籃】

身体から花が咲くだなんて、想像し難いですね
んふふ、かわいいティア
あなたからはどーんなお花が咲くのでしょう

早速、向かってみましょーか
小さくて可愛らしい手を取って
目的地へと歩んでいきますよう

心臓、左胸に突き刺さる違和感
この感覚には、覚えがあります
空に焦がれ、天を貫くように咲く曼珠沙華
赤と黒、二彩の花が心を語る

あーあ、もう
こんな時まで干渉をしてくるんだから

ありがとう、ティア
大丈夫。わたしは、此処にいますよう
逸れないように、手を繋いだままでいいですか?

可憐な桃の花を揺らす、愛おしいあなた
ほろほろと溢れる花びらの、うつくしいこと

はらり、両目から零れ落ちた青の彩
勿忘草の想いは、“わたし”だけのもの



 ひらり、はらり、桃の花が舞う。あちこちに咲き乱れる桃の樹々から剥がれ落ち、攫うような風に乗って、真白の岩の渓谷を、鎖された結界の内を、淡くふかく染めていく。その風に遊ぶ一花を指先にからめとって、百鳥・円(華回帰・f10932)がしげしげと眺めた。
「身体から花が咲くだなんて、想像し難いですね」
 特に何の変哲もなさそうな桃花は、そのまま隣のティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)の髪へとかざして似合いますね、と笑みを添えて告げる。その花簪への礼に返されるのは、嬉しそうな微笑み。
「円ちゃんには何の花が咲くんだろうね」
 きれいで美しい円には、きっと沿うように美しい花が咲くはず、とティアが花ほころばように唄えば、円も愛し気に目を細めて笑う。
「んふふ、かわいいティア。あなたからも、どーんなお花が咲くのでしょう」
「かぁいい花が咲くと良いんだけれど」
「見てみたいですね。じゃ早速、向かってみましょーか」
「うん!行こう、円ちゃん」
 伸ばされる手には、手を重ねて。導く様に、遊ぶように、どちらが先となく奥へ奥へと歩いていく。その最中、ささらと零れる笑い声には、どーしたんですか?と僅かな心配を籠めて円が尋ねる。
「んーん、円ちゃんの体温が心地良いなって。円ちゃんもそう思ってくれたら嬉しいんだよ」
 その甘やかな声がいとしくて、もちろん一緒だと返そうとした、その瞬間――喉が、きゅう、とつかえた。言葉にできない、息も吸えない、詰まるような感覚が次いで伝えるのは、つきりと差すような胸の痛み。鼓動打つ左胸に、それは突き刺さる様な違和感を訴える。この感覚には、覚えがある。その先を思い返すより早く芽生えるのは、空に焦がれし花蕾。ひかりを得て天を貫くように咲きだすのは、曼珠沙華。染める色は赤と黒。その二彩の花が、雄弁に心の有り処を語る。

――あーあ、もう。
こんな時まで干渉をしてくるんだから。

 その色は、砕けた百の宝石に似て。長く靡く、“いもうとたち”の――わたし“たち”の髪色に似て。仕方ない、と綺麗に割り切ることもできず、でも芽生えたそれを無碍に手折ることもできない。曇りかけた顔を、ティアがすくいあげるように、円の頬に触れる。
「だいじょうぶだよ、円ちゃんは――円ちゃんだものね」
 
――円ちゃんの花。
どこか妖しくて美しい、彼女そのもののような花。
きっと、思うところもあるだろうけど。
それも含めて“円ちゃん”なのだとしたら。
ぼくはその色を、うつくしいとおもうから。

 唇に乗せない想いを、指先で語る様に。ひとひらも散らさぬように、そうっと赤と黒に触れる。其処に在ることを、静かに受け入れるようなティアのぬくもりに、円が瞳を伏せて、深く息を吸う。
「ありがとう、ティア。大丈夫。わたしは、此処にいますよう」
 微笑み返す言葉に、うそはない。だけど、ほんの少し胸に痛みの余韻が残っているから、今はまだ甘えていたくて、指先の熱を引き寄せる。
「逸れないように、手を繋いだままでいいですか?」
「うん、ずっとこうして手を繋いでいよう」
 そう言って細めたティアの瞳から、はらはらと花びらが零れていく。涙の様に、想いのように、右目から芽生えた桃の花が、絶えずその淡い色を溢れさせる。
「円ちゃんが好きって気持ちが溢れて、きっと咲いたんだよ」
 ――あえかに笑い、可憐な桃の花を揺らす、愛おしいあなた。ほろほろと溢れる花びらの、なんてうつくしいこと。まばゆさにふと瞬けば、はらり、と円の両目からも青の彩が零れ落ちる。手に掬うその形は涙ではなく、花びらの形をしていた。ああ、今この時は、この色だけは、紛れもなく、混ざりものでなく。

――勿忘草の想いは、“わたし”だけのもの。
――この想いを決して、逃さないように。

 薄桃と、淡青と。零す花びらに、秘める想いを重ねあわせて、もう一度強く手を握り合う。先のことは、知らないふりをして、今日を、今を、一瞬をかみしめる様に。

閉じ込められた結界の中、この時のあなたは、わたし/ぼくだけの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ】
花嵐だって、どこまで続くのかな?
周囲を見回して
はっとしてから英を振り返る
大丈夫!今日は勝手にうろうろしないから!
溜息をつかれる前に先手を…
そう、学習したの

いつの間にか繋いだ右手にピンクの朝顔
あっという間に腕一面に絡んで、思わず笑ってしまう
我ながらわかりやすい
英がはじめて咲かせた花だからかな?
花が身近になったのって、英の影響だもん

英は…紫陽花?綺麗だね
そんな事ないよ
冷たいだけならきっと咲かないよ
私は好き

誰に向けるものでも
何に向けるものでも
もっとたくさん咲いてくれるようになったらいいな
英には言葉を尽くすより、実感して貰った方がいい
見て、感じて、そうして気持ちも芽吹いて咲いたらいいな


花房・英
【ミモザ】
体から花が生えるなんて、変な感じ
楽しいより怖いが先に立つから
こういう時は寿の感性が羨ましい
ふぅん、学習したんだ
褒めてないからな

沢山咲いた隣の朝顔は、嘘のない寿そのままみたいだ
これって、咲く花に法則あんのかな
寿が種くれなきゃ咲かなかったけどな
庭も花だらけだもんな今

左手の甲に青の紫陽花
嫌いじゃないけど…冷たい感じ
そういう意味なら俺に似てるのかもな
…言うと思った
内心で欲しいと思った言葉を、こいつはいつもくれるんだ

でも、俺にはこれくらいで丁度いいよ
寿みたいに沢山咲いたら持て余しそう

小さな手毬がひとつ揺れてる
ほんの一言
何気ない仕草
少しずつ知った感情の名前は知らない
ただ優しくて、ちょっと苦い



 ひらりひらりと、桃の花びらが舞う。渓谷を抜ける風は穏やかで、けれどその度に巻きあがる花びらは、時折視界を奪うほどに多い。それもそのはず、渓谷には所狭しと桃木が植えられて、その全てが枯れず尽きずに咲き誇っているのだ。その桃の香りを纏った空気を突っ切って、太宰・寿(パステルペインター・f18704)が軽やかに歩いていく。
「花嵐だって、どこまで続くのかな?」
「さぁな。…しかし体から花が生えるなんて、変な感じ」
 丁度目の前を過ぎった花びら一枚を捕まえて、花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)がそっと零す。花嵐よりも、今気になるのは人に寄生するという花。どうしてもその性質の所為か、面白いや楽しいより、躰に芽生えるという怖れのほうが先に立つ。こういう時は恐れなく花を愛でる寿の感性が羨ましい、とちらり視線を送れば、周囲を見渡しながら先行していた寿がハッ、と振り返って戻ってくる。
「大丈夫!今日は勝手にうろうろしないから!」
「ふぅん、学習したんだ」
「そう、学習したの!」
 ため息をつかれるより前に学んだことを主張出来たからか、何となく自慢げな様子の寿に、英が添える言葉は。
「褒めてないからな」
 ――釘だった。

 奥へ奥へと進む道中、どちらからともなくいつの間にかつないだ手。その温かさが嬉しくて、ふと寿が手を見遣ると、そこにはピンク色の花が芽生えていて。桃とは違う、大きく星型の色を呈する花は、朝顔。右手の甲にポン、と一つ咲いたかと思えば、まるで互いの手を結わえるように咲いてから、するすると上へ伸びて、あっという間に腕一面に絡まった。その在り様に思わず、寿が笑ってしまう――ああ、我ながらわかりやすい。
「これって、咲く花に法則あんのかな」
「どうだろ?でも朝顔なのは、英がはじめて咲かせた花だからかな?」
「寿が種くれなきゃ咲かなかったけどな。それに今は庭も花だらけだし」
「でも花が身近になったのって、英の影響だもん」
「…そう」
 ともすれば不機嫌そうな声色は、けれど内実はそう、要は照れ隠しの要領で英がふと視線を下へとそらす。その瞬間目に飛びこむのは、自らの左手の甲。小さな青い花が毬のように集まって咲いて、そこからぽつ、ぽつ、と雨を受けたように広がっていく。
「英は…紫陽花?綺麗だね」
「まぁ、嫌いじゃないけど…冷たい感じ。でもそういう意味なら、俺に似てるのかもな」
「そんな事ないよ。冷たいだけならきっと咲かないよ。それに」
 ――私は好き、と笑って、寿がそっと紫陽花に触れながら口にする。花を育てているからこそ、分かる。豊かな土がないと、必要なだけ水をやらないと、花はどれも育たない。ならきっとこの紫陽花が咲いたのは、英の心の裡に、確かな想いが培われているからこそだ。
「誰に向けるものでも、何に向けるものでも構わないから、もっとたくさん咲いてくれるようになったらいいな」
 あまく優しい、祈るような寿の言葉に、英が僅かに目を伏せて、想う。

――きっと、そう言うと思ってた。
内心で欲しいと思った言葉を、知らず願っていたことを。
こいつはいつも、惜しみなくくれるんだ。
衒いなく、真っ直ぐに。

 それを嬉しいと、素直に口にして伝えるにはまだ色々と足りないけれど。贈られた言葉を静かに受け止めつつ、今はまだこれでいい、と飲み込んだ。
「でも、俺にはこれくらいで丁度いいよ。寿みたいに沢山咲いたら持て余しそう」
「そう?英には言葉を尽くすより、実感して貰った方がいい気がするけど」
 重なる会話の中の、ほんの一言。ふとした瞬間に視線がとらえる、何気ない仕草。ふれるたび芽生える感情が何かは、まだ分からない。ただ優しくて、ちょっと苦いそれを抱えて、ふたり並んで奥へと進む。

知って欲しいと願った気持ちと、芽生え始めた感情の端っこは、きっと――同じ名前だとは、まだ知らぬまま。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

見て、ゆぇパパ
お花が空を舞ってるわ!
この中にお花の種も飛んでるの?タンポポの綿毛みたいね

手をつないで、パパといっしょの景色をみている
こんな時でも楽しくて
あたたかな気持ち

だからかな
つないだ手の手首にくるりとイチゴの花が咲く
ブレスレットみたい
以前いっしょにイチゴを食べにお出かけしたっけ
甘くて幸せな思い出を想うと
お花が幾つも増えてく

パパのお花は、ヒマワリね!
2人の花
ルーシーにとっても大事なお花
とてもキレイで、うれしい

血は繋がっていないけれど
ルーシーにとって
パパは誰よりも『パパ』なの
パパのこと大好きって思うのは常のこと
想いを吸い上げてたくさん咲いたらいいよ
尽きることはきっと無いの

ほら
また咲いた


朧・ユェー
【月光】

桃源郷
ひらひらと舞う花びらの中
タンポポ?
えぇ、そうですね。そう思うと可愛らしいですね

手を繋ぐ彼女の小さな手があたたかい
彼女の手首に可愛らしい花
苺の花ですか?
一緒に食べた想い出、懐かしいですね

以前に言っていたあたたか
想いが繋がるようで心あたたかい
だからだろうか
胸に心臓に向日葵が咲く
君との花

僕を父親として慕ってくれて大好きだと言ってくれる娘
本当の父親じゃないけど娘を想う愛情は誰よりも負けてはない

その気持ちが大きくあたたかく咲いていく



 桃の花びらが、ひいら、ひらり。美しく聳える白い渓谷を、風が舞うたび薄桃に染め上げていく。尽きぬ花を湛えて、青々と茂る草木を抱いて、春の園を縫い留めたような景色の中を、少女が足音軽くかけていく。
「見て、ゆぇパパ。お花が空を舞ってるわ!」
 ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が金糸の髪に花びらを共に舞わせながら、両手を広げて笑みを浮かべる。花と遊び躍るような娘の姿に、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が微笑みと共に綺麗だね、と言い添えれば、ルーシーの笑みがいっそう嬉しげな色に染まる。
「この中にお花の種も飛んでるの?タンポポの綿毛みたいね」
「タンポポ?えぇ、そうですね。そう思うと可愛らしいですね」
 人を苗床に寄生する花の種――一見恐ろしく映るそれも、ルーシーのちょっとした発想の違いで、こんなにも感じ方が変わってくる。そして逸れないようにと伸ばした手を繋ぎ合えば、敵の結界の中とあっても安心感とぬくもりを伝えてくれる。一緒に居れば此処だって、楽しい散歩道に代わってしまう――だから、だろうか。そんな楽しい気持ちを吸い上げたように、ルーシーのつないだ手首から芽生えるのは、可愛らしい白の小花。ブレスレットのようにくぅるりと咲いた花からは、ふわり、甘い香りがして。
「苺の花ですか?」
「そうみたい。そういえばゆぇパパといっしょに、イチゴを食べにお出かけしたっけ」
「一緒に食べた日が懐かしいですね」
 赤と白、その中でも一番美人の子を選び、お互いに交換して食べさせ合ったしあわせなお出かけの日。その溶けるように甘かった味を思い出せば、またぽぽぽ、と苺の花が華やかに咲いていく。そして目に見える想いはルーシーだけでなく、見つめるユェーの胸にも、火を灯すように花を芽生えさせた。黄色い花びらを丸く密に咲かせ、羽衣に縫い、ぬいぐるみの髪飾りにし、幾度となく娘へ送った、思い入れある花。
「パパのお花は、ヒマワリね!」
「ええ、それも随分な大輪だ。」
「ルーシーにとっても大事なお花だから、とてもキレイで、うれしい」
 目映く咲くように笑うルーシーに、ユェーの胸に芽生えたヒマワリがまた一回り大きくなる。太陽の輝きを求める大輪の花。ならきっと、この胸の花にとっての太陽は、ルーシーだろう。その彼女がこんなにも嬉しそうに微笑むのなら、これほどの花が咲くのも納得がいく。いっそ誇らしくヒマワリを見つめれば、ルーシーが繋いだ手を引いて、屈んでくれる?と尋ねてきて。一も二もなく膝を付き――あのね、と寄せられる言葉に、ユェーが耳を澄ます。

――ルーシーにとって、パパは誰よりも『パパ』なの。
パパのこと大好きって思うのは、常のこと。
だから想いを吸い上げて、お花がたくさん咲いたらいいって思うのよ。
だって尽きることなんて、無いもの。

 囁かれる言葉を裏付けるように、またひとつ、ルーシーにいちごの花が芽生える。明かされる想いの一つ一つが、こんなにも愛しいなんて。胸の花に触れながら、ユェーがそっと目を伏せる。

――僕を父親として慕ってくれて、大好きだと言ってくれる娘。
本当の父親ではないけれど、ルーシーを娘として想う愛情は
誰よりも負けてはない。
それは、何よりも自信を持って言える。

「嬉しいです。僕もこうしてルーシーの傍にいられることが、何よりの幸せだから」
「ルーシーもよ!――大好き、ゆぇパパ。ずっと一緒に居てね」
「僕もです、ルーシー。いつも君を見守っているから」
 青く尊い血ではなく、想い合う気持ちが二人を“親子”として結わう。この先の道もきっと、共にいよう、と――交わす小指の約束に、またひとつ、小さなイチゴの花とヒマワリが花咲いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久澄・真
【五万円】

そもそも咲く要素が俺にあると思うのか
“そういう部類”じゃねぇのはよく知ってんだろ、お前
誰かを想うだの何だの
そういった類とは無縁も無縁
金勘定付きでしかそういうサービスはしてねぇよ

つか咲いてんぞ、ソコ
指差した相手の首筋
無縁だと同じ事を口走った男に咲いた白
へえ、と口角を釣り上げ面白そうに

ジェイくんは誰かを想う甘ぁい気持ちがお有りの様で

見ればそれは月下美人
「儚い恋」の花とはこれまたセンチメンタルなもんを咲かせた連れ
詮索する真似はしない
対してメリットを感じないからな

どこにも異変の起きてないこの身
両手広げてほらな?と

けれど進んだ足元にぼとり
落ちた小花一輪は
黒く枯れきって気付く事も無いままに


ジェイ・バグショット
【五万円】

俺もお前は絶対咲かないって思ってるわ
お互い無縁だろ。そこはすげー自信ある
ふは、そのサービスで一体幾ら儲けてんだ?

えっ…うわ、マジで咲いてやがる
指摘された白い一輪に面食らう
…気持ちワリィ言い方すんな
心当たりねーよ

似合わない月下美人の芳香に肩を竦め
俺にしては随分と上等な花咲かせたなァ
もっとショボイのかと思ってた

どうやら俺にもまだ花が咲くくらいの人の心は残ってるらしい
意外だが別にそれを厭う訳でもなく
この花が何を糧に咲いたのかは謎のまま

どこを見てもいつも通り
変化のない真の姿にブレねぇなァと
くつくつ笑いを含み

ふと零れ落ちたソレに視線が釣られる
地に落ちた黒を一瞥するも
それが何かと触れることはなく



 桃の花びらがひいら、ひらり。咲き乱れる花に、瑞々しい草木と真白の岩肌。墨画にも描かれそうな優美な渓谷は、今やそうとは見えずとも、敵の思惑、結界の中。内側は人に寄生する花の種に塗れ、息をするだけで苗床にされるという。その霧の如く細やかな種を煙や花粉に例えはしたが、今ここで桃花を割くように香るのは――煙草の煙に、蜂の毒。
「来ておいてなんだが――そもそも咲く要素が俺にあると思うか?」
 ハ、と今にも鼻で笑いそうな声にかけて、久澄・真(○●○・f13102)が目の前の花びらをひらひら仰いで目の前から押しやる。
「俺もお前は絶対咲かないって思ってるわ。」
 それに当然の如く同意しながら、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)も目には見えない花の種に、それでも胡散臭そうな視線だけは虚空に向ける。
「“そういう部類”じゃねぇのはよく知ってんだろ。金勘定付きでしかそういうサービスはしてねぇよ」
「ふは、そのサービスで一体幾ら儲けてんだ?ま、確かにお互い無縁だろ。そこはすげー自信ある」
 誰かだ何かだ想い合って、酸いも甘いも嚙み分けて――そういった類とは無縁も無縁。金さえあれば砂糖を吐けども、一銭もなければ埋める沈めるもやぶさかではない。今を盛りと咲き誇る花を前にしてこれこそ不毛極まれり、な会話のはずが、はたと口を止めて真が指さすは、ジェイの首筋。
「おい、つか咲いてんぞ、ソコ」
「えっ…うわ、マジで咲いてやがる」
 指摘に慌てて首を後ろに回せば、確かに覚えのない柔らかな感触が指に伝わる。白く大輪を咲かす花は、“此処にある”と主張するように、あまい香りで毒を書き換えていく。先までありえないと言い張っていたのに、こうまで見事に咲かせたのが気まずいのか、逸らす視線にへぇ、と口の端を吊り上げて真が揶揄う。
「ジェイくんは誰かを想う甘ぁい気持ちがお有りの様で」
「…気持ちワリィ言い方すんな。心当たりねーよ」
 ジェイが肩を竦めつつ、舌打ち一つで揶揄を一蹴する。しかし我ながら随分と上等な花咲かせたものだと、覗き込むように首筋へ視線をやる。咲くにしてももっとショボイのかと思っていたが、似合わない芳香が何ともこそばゆい。この香りに、花の重なる咲き姿からして、花の名は――月下美人。一体どんな想いを元に咲いたのかは分からない。それでも、分かることが一つある。

――どうやら俺にもまだ、花が咲くくらいの人の心は残ってるらしい。

 なんとも意外なコトだが、別にそれを厭う訳でもなく、ただ事実として受け入れる。そんなジェイの心裡は知らず、測りもせず、真はただ自分の肩に張り付いた桃の花を適当に払う。月下美人の宿す“儚い恋”の花言葉を知りつつも、詮索するつもりは毛頭ない。何かしらメリットがあれば話は別だが、今のところそれは一切感じない。ついでにも一つ何も感じないのは、自らの体。十分に時間は経っているし呼吸もしているはずなのに、今のところ何の変化もないし感じもしない。その姿を両手広げて、ほらな?とニヤリ笑いを浮かべながら、ジェイに見せつける。確かにどこを見てもいつも通り、常のまま。あるはずない、と言いつつ白を咲かせた身では、肩を竦めてブレねぇなァ、とくつくつ笑うほかはない。その笑みに満足したのか、くるりと背を向けて奥へと足を進める真の体から、

――ぽとり、と何かが落ちた。

 その身から零れた小さな花一輪に、さきゆく真は気づかない。僅かに後ろを歩いていたジェイだけがその花を見留めて――何も問わずに目を逸らし、ゆるりと後を追う。

何もかもを呑み込み隠す、白の裏側、表裏の片面の色。
――黒く枯れ果てた花が地に臥して後、ひゅう、と風に攫われていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ
🌸両手の甲に咲く 花はお任せ


正直に言います。水晶の秘境に釣られました……!
人に咲く花で花自体には害はないみたいですから、ウィル、オル、レディ、シリウスも一緒に。
水晶の実で作る箱庭も気になりますし、珍しい秘境も皆で見てみたいです。
それにビーストマスターとして仲間として、この子達への気持ちなら自信がありますっ。

夏には星空と夜明けを、冬には夜の虹を。
海の底の珊瑚の星屑に、一面の白詰草の花畑。
一緒に見て来た綺麗なものを、またもうひとつ増やしましょう。

並んで歩く常春の中でいつの間にか咲いた花の場所に気付いたら、何だか納得してしまいました。
あなた達と繋いだり、撫でたりぎゅってしたりするための手ですもの。



 桃の花が舞って、ひいら、ひらり。柔らかな風に舞って、踊って、楽し気に。真白い渓谷を、青々と茂る草木を、薄紅に染めていく。吹くたび香る柔らかな香りに、見上げた空の穏やかさ。まさに桃源郷と呼ぶにふさわしい情景の中――シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)がきゅっ、と表情を引き締めて、心の内を告げる。

「…正直に言います。」

ごくり。

「水晶の秘境に釣られました……!」

どーん。

 勿論この美しい花の渓谷も心惹かれるものはあるし、仙人を倒すべき趣旨も理解している。だけどやっぱり説明を受けて心ときめいたのは、珍しいという水晶煌めく秘境の話。
「水晶の実で作るという箱庭も気になりますし、珍しい秘境も皆で見てみたいですから――ね。」
 と、尋ねる言葉を口にして視線を落とせば、そこにいるのはともに桃源郷へと足を踏み入れた仲間たち。既にここは結界の中、花の種は撒かれているはずだが、人を選んで寄生するのならば安全だろう、と一先ず自由に過ごしてもらっている。白竜のベルは風に舞う花びらを追いかけてパタパタと飛び回り、黒豹のオルトゥスは我花には興味なし――と見せかけて、目の前を過ぎるたびに尻尾がぴょこりと動いている。白猫レディもクールを装おうとして目の前にポトっと落ちたてきた花にはテシテシ手が伸びていて、箒のシリウスに至っては花の絨毯をサッサカサー、と掃きながら移動してる…という、四種四様個性あふれる過ごし方。でも皆、とシャルファの掛けた声にきちんと視線を返してくれる様子や、それぞれなりに楽しく過ごしているのが伝わってきて、思わずにこにこと笑顔が浮かんでくる。花が想いに根差すというのならきっと、この身には大輪の花が咲くだろう。――だって。
「ビーストマスターとして仲間として、この子達への気持ちなら自信がありますからっ。」

――夏には星空と夜明けを、冬には夜の虹を。
海の底の珊瑚の星屑に、一面の白詰草の花畑。
一緒に見て来た綺麗なものは、大事な想い出。
そして今日はまたもうひとつ、宝物を増やしましょう。
愛しい貴方達と、一緒に。

 共に歩く常春の道が楽しくて、この先に待つ美しい情景が待ち遠しくて、気が付けば揺れていた両手にふわりと花がひらいていく。初めに気が付いた右手の甲には、紫色のベルフラワー。そして次に見止めた左手には――いつかの絆繋ぐ、真白のマグノリア。“感謝”と“愛”を花言葉に宿すふたつに、そして何より花の咲く場所に納得して、シャルファがふふ、と笑い声を零す。
「あなた達と繋いだり、撫でたりぎゅってしたりするための手ですものね。」
 陽に両手をかざし、嬉しそうに花を見つめるシャルファに――どこか誇らし気な四匹ぶんの視線が注がれていたことは、風に舞う桃花だけが知っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『異端仙人『翠醒』』

POW   :    大人しくしてくれないか
自身が装備する【切れ味鋭い妖刀】から【対象に向かって四方から襲い掛かる炎】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【妖刀に斬られたいと渇望し動きが鈍る魅了】の状態異常を与える。
SPD   :    アレが欲しい、手伝っておくれ
【仙術で威力を増幅した魅惑の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ   :    大丈夫、一瞬だから
【妖刀もしくは仙術による攻撃】が命中した部位に【身体の表面を走る光る龍の形状をした仙力】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はエーリヒ・グレンデルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


――花は未だ咲き乱れ、花嵐となって舞い踊る。

 唐突に、ぱちん、とはじけたような音が耳に届く。大元をたどろうにも周囲の景色に変化はなく、ただただ美しい白い渓谷が広がるのみ。しいて言えばそう、目の前にいつの間にか――射干玉の髪を零す仙人が、居て。

「ああ、どうやら素晴らしい花を芽生えさせたようだ。私の為にわざわざ、ありがとうございます。」

 玲瓏とした声に、涼やかな笑みに、傲慢な言葉が彩られる。

「あいにくと、花以外に興味はありません。人の部位などは特に。なので、大人しくしていただけますか?そうすれば無用に傷つけはしません。…遺体であっても、綺麗であれば多少の慰めにはなるでしょうからね」

 腰に佩いた妖刀をすらりと抜き放ち、告げるは宣戦布告にして死刑宣告。花を手折れば苗床などどうでもいい、とはっきり言い棄て嗤う姿は、とうに人の道を外れし者。

「それでは、永久に然様なら。豊かな土壌、大儀でしたよ。」

 優美な微笑みに、対話の叶わぬことを匂わせて――異端の仙人が、刃を向けた。
 
 
 
==================================

・花咲き病の扱いについて
 『異端仙人『翠醒』』戦において、体に花が生えてる方は希望次第で【ステータスアップバフ】として利用できます。1回きりのジャストガードや視力向上など、基本的に軽微なもののみ発生します。内容は各自お好みでどうぞ。無敵最強などはマスタリングされます。なお希望者には【バッドステータス】としても機能しますので、プレイングに記載をお願いいたします。

以下は文字数軽減にご利用ください。
〇…ステータスアップバフ
●…ステータス異常あり(デバフ)
×…効果なし
☆…バフ・デバフ・効果なしお任せ
記載なし…バフ>効果なし>デバフ、の優先度でこちらで選択します。

==================================
夜鳥・藍

私の場合、髪を切られるだけで済みますか?……いえ。ごっそりとされそうなのでやっぱりやめておきます。
そもそも会話が成り立たないようですけど。

先手必勝を狙い青月を掲げUC雷公天絶陣を放ちます。雷は収束させなるべく多くのダメージを狙いましょう。
攻撃後はなるべく目立たないようにしておきますが、攻撃行動をした以上無視されることはないでしょう。相手の攻撃は第六感による索敵、偵察でなるべく相手の攻撃の筋を読み回避します。
命中されたとしたら仙力は呪詛耐性でしのぎます。力を流し良くも悪くも効果を及ぼすのが「呪」なのですから、10割防ぐとはいかなくともある程度応用は効くはず。



 結界の奥の奥。突き抜けた先は、花舞う美しい景色そのままだった。然し嵐の前のような静寂がひた、と満たされていた。鎮座する翠醒がそ、と笑みを湛えながら視線を投げかけると、静寂を先に破ったのは――夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の方だった。
「花を欲していると聞きましたが…私の場合、髪を切られるだけで済みますか?」
「随分と美しい花冠だ。秋桜、かな。ただ髪が絡みついてるとあれば、切り離した方がよさそうだ。」
 律儀に質問に答えているようで、よく聞けばそれはほとんど自問自答に近いことが、声音から分かる。交わったと思った視線も僅かに逸れて、翠醒の瞳には花冠しか映っていない。予想通り、“ごっそり”とされそうなので花を明け渡すのは選択外。そもそも会話がきちんと成り立たないのなら、あとは戦闘――それも先手必勝あるのみ。翠醒が佩いた妖刀を構えるより早く、藍が抜き放つのは月の青宿す打刀。然しそのまま切りかかるのではなく、切っ先を向ける先は空。真っ直ぐ上へと延びるその姿はまるで避雷針の如くに写り、実際藍がそのまま招き寄せるのは驟雨の如く降り注ぐ絶雷。まばゆい光を纏い、振り下ろす仕草で一束にされた青白い光が、バチィ!と攻撃的な音を立てながら翠醒へと駆け抜けていく。その疾風の攻撃に僅かに驚いた表情を見せたが、翠醒も即座に妖刀を走らせ正面から切り伏せる。走る仙力が龍と成り、雷と絡み合い喰らい合いを見せる。そして僅かに分があったのは――雷の方。消える一瞬に手のひらを貫き、翠醒の腕に鈍いしびれを残していった。
「なるほど雷公鞭、か。…しかも思いのほか戦いを心得ているようだ。油断ならないね。」
 まばゆい初手の一撃が目晦ましも兼ねていたと悟ったのは、雷光をやり過ごしたあとの焼けた網膜に映る無人の渓谷。岩陰か、樹木の裏か、予想を付けながら幾度か刀を振るえば、4度目にようやく藍の姿へ見つけありったけの仙力を叩き込む。だがそれも第六感を駆使した瞬時の回避に直撃は避けられ、僅かに残ったダメージ分は、一瞬にして花を増やした秋桜の花冠が吸い上げる様にして消し去ってしまった。
「ああ、苗床を守ろうというのか。そんなものより美しい花…そちらの方が大事だというのに」
「この花は確かに美しいと思います。ですが私の思う美しさとあなたは、やはり相容れなさそうです。」
 花を愛でる心は持ちながらも、命一つ顧みない。その在り様を言葉にして否定しながら、藍が今一度刀を手に翠醒へと向き合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミンリーシャン・ズォートン
☆(金木犀)
アドリブ歓迎

此の花が、欲しいのですか?
――ならば、お好きなだけどうぞ。

先程花を掌の上で愛でていた時と変わらぬ柔らかな表情のままで、腰にあった冷気を纏う刺突剣を胸に抱きます
小さく詠唱すれば、腕の中から沢山の金木犀の花達――。

ひらひらと自由に舞い煌めく花達、其の美しさや甘い香りを嗜む時間が、彼にもあれば良いのですが……。

……とても、残念です。

花が好きな者同士
もしも違う形で出逢えていたなら、友になれたかもしれない

花をみて、
水晶の秘境も――

叶う事のない願いに
ぎゅっと瞼を閉じて

私が貴方にしてあげられることは――
手向けの花に祈りを込めるように、金木犀の花達をより華やかに彼へと優しく降らせます。



 花舞う中を、奥へ、奥へ。そうして辿り着いた美しい渓谷は景色を変えないまま、ぱちん、と結界だけがはじけて消える。その中央に立つ翠醒が伸ばす手へ向けて、ミンリーシャン・ズォートン(戀し花冰・f06716)は自らの髪に芽吹き咲く金木犀をそっと梳いて見せた。
「此の花が、欲しいのですか?」
「ええ、欲しいですね。しかし小さく愛らしい花だ。一輪一輪摘むのは面倒そうなので、その髪ごと切り取ってしまえばいいかな」
「そう――ならば、お好きなだけどうぞ。」
 どうせ抵抗するだろう、と踏んでいたのに、返されたのは差し出すかのようなミンリーシャンの言葉。意図をはかりかねた翠醒が見せた隙に、微笑みながら胸の内へと抱くのは、氷の剣。ひやりと冷たい刃へとまるで歌いかけるかの如く、優しく小さな詠唱を口にする。――『金木犀の花達、光と風を纏って私と共に舞いましょう』。するとその呼びかけに歓喜したように、春の雪解けを迎えたように、剣が橙の金木犀へと変じてあたりへと舞っていく。
「ああ!また美しい花が。あなたは花が呼べるのか。それはよい仙力をお持ちだ。」
 増えた華やかさに、翠醒がふと素直な感想を口にして目を輝かせる。その姿だけを見れば、彼はただ花を愛でる風流な仙人のようで。――花が好きな者同士、もしも違う形で出逢えていたなら、と願わずにはいられない。

――もしも、ほんの少し何かが違えば。
美しい花について語らい合える、友になれたかもしれない。
ひらひらと自由に舞い煌めく花達、その華やかさや甘い香り。
舞い踊る花をみて微笑み、水晶の秘境に感嘆を零す。
そうして自然を嗜む時間が、彼にあれば良かったのに。
もし共にそんな時間が持てたのなら…きっと。
楽しいと、思えただろうに。

「……とても、残念です。」
 叶わない願いが胸を過ぎって、僅かに苦い痕を残す。それを振り払うようにきゅう、と目を閉じてから、剣の変じた金木犀へと指先を振るう。
「私が貴方にしてあげられることは、これだけだから――」
 向けられる花を受け入れるように、笑って腕を広げる翠醒へ。手向けの花に祈りを込めて、金木犀達をより華やかに風へと遊ばせる。

――せめて訪れる眠りが、僅かでも優しくあるようにと、願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

嘉納・日向


◇引き続き『ひまり』が担当
マジごめんねお兄さん。この綺麗な花ね、先約があるっつーか……親友に渡すからさ。あげらんないかな!

てなわけで、こっちも得物(装備:ながれぼし)を構えて迎え撃っちゃうよ〜!

なんだかお花のお陰で取り回しが軽々かも!(腕力強化)

がんがん〈切り込んで〉注意を引き、こっそり陽炎のひなちゃんが〈闇に紛れ〉て〈不意打ち〉の準備が出来るまで応戦っ

やばやば
視線を受けちゃって、花に手が伸びつつも……実は計算通りなんだよね
視線を受けない方にいたひなちゃんに、〈不意打ち〉の〈援護射撃〉してもらっちゃうよ!

『やるじゃん、ひまり』
カッコよかったっしょ!✌️……あ、お花のことはもうちょい後でね!



 結界の奥に待っていたのは、風流な仙人姿の男だった。その美しい容姿に微笑を浮かべ、妖刀を手に「その花をおくれ」と手を伸ばす緊迫の一瞬に、嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)はパチン、と勢い良く両手を合わせて――告げる。
「マジごめんねお兄さん!」
 未だ入れ替わらず、対峙して話すのは“ひまり”の人格。いやぁ、と軽く笑みを浮かべながら謝罪を口にする姿は、まるで待ち合わせへの10分の遅刻を友達にでも謝る気軽さそのもの。僅かに毒気を抜かれたように、翠醒が僅かに柳眉を顰めて様子をうかがう。
「この綺麗な花ね、先約があるっつーか……親友に渡すからさ。あげらんないかな!」
 だが勿論、ひまりにもここで戦う心得はある。あげられない、の言葉に秘めた意志の強さを見せるように構えるのは、空色の棍だ。
「てなわけで、こっちも切り込ませてもらっちゃうよ〜!」
 …因みに棍、と表したのは翠醒目線で他に近い形状の武器を知らないからであって。レェスのリボンは繊細に、ヒマワリの装飾は可愛らしく。なのに明らかに殺傷能力上げ目的で撃たれた飛び出す釘は数知れず。そう、ひまりの握った武器は俗にいう――釘バットである。用途よろしく勢い込んで、妖刀相手にもガンガン向かっていくひまりが、いつもよりも一撃一撃に乗せた威力が高いことに気が付いて、ニッと笑みを浮かべる。
「お花のお陰かな?なんか取り回しが軽々かも!」
「ほう?花にそんな効能があるとは。然し勢いは良いが――隙も多いぞ?」
「…やばっ!」
 切り合うこと数度、不意に跳ね上げられた妖刀にバランスを崩し、まともに翠醒と視線が合う。――あれが欲しい、腕咲く花が、欲しい。その意図の込められた視線は魅了を纏ってひまりを侵食し、反応したように腕の花がみるみる膨れ上がって、バットすら飲み込むほどに育つ。思わずたたらを踏んで下がるひまりに、勝機を見た翠醒が大胆な踏み込み一閃を振りかぶった、その瞬間。
「……実は計算通りなんだよね…今だよひなちゃん!」
「…なにっ!?」 

 ガァン――!

 と、唐突に甲高い銃声が渓谷に響き渡った。撃ち貫くのは翠醒の肩口。そして銃口の潜む先は――ひまりの影の中。切り合っている最中から既に定められていた照準は、影から“日向”の手により引き金を引かれた。ぐぅ、と悔しさと痛みの混ざった声を上げて引き下がる翠醒を横目に、日向の声が耳に届く。
『やるじゃん、ひまり』
「カッコよかったっしょ!……あ、お花のことはもうちょい後でね!」
 褒める声にはピースサインで答えつつ、花咲く手とは逆の手を影へと伸ばし――パチンッ、と親友同士がタッチを交わした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【花結】〇

興味がない、だなんて
随分と見る目が無いね
花咲かす彼女も、また
“花”に違いないのに

然して、生憎乍ら
何方の花も僕のもの
己が咲かす花にしても
彼女の為に咲かせたと
そうするには、少うし
“我”が強いやもだけど

君の赦す、我が儘とゆくよう
そのまま、我を通すとしよう
繋いだ手を解くかわりに
炎さえ、薙ぎ払う剣を想う
今ばかりは王子様よりも
君の騎士でありたいから

頭に根差す花の御陰か
思考は、君のことばかり
恒と同じであるけども
いっそう、溺れゆくよに
故にと、魅了は心響かず
剣に迷いもありはしない

何より、傍咲く君が居る
頼もしき術に背押されて
踏み込む爪先もかろやかに

手折ることを赦しはしないさ
往く先も咲き続けるのだから


ティル・レーヴェ
【花結】☆

なんて無粋なのかしら
誰の為だとどの口が言うの

彼は
そしてその身に咲かせた花は
花弁一つさえ
全部全部妾のものよ
示すよに繋ぐ手にぎうと力籠め
不機嫌な想いの儘頬膨らます

彼自身こそ大切だというのに
妖しの刄ごと遠ざけてしまいたい
互いに咲いた愛し花を護るよに
妾の騎士の支えとなるよに
あなたの宿した力をもって凶刃を縛す
ほら、花が欲しいのでしょ?
其方には勿体ない花だけど

妾ばかりと溺れる彼が
彼の儘と妾を咲かせ剣振るう姿が
堪らぬ程に凛々しくて
狂おしい程愛おしい
熱籠る吐息を零し
自ずと瞳の“彼”にも触れて
あゝ見惚れてばかりは駄目ね

縛せず迫る力には
疾く詠唱重ね結界術にて阻む
此処に咲く“花”全て
決して傷つけさせないわ



――花をおくれ、と手を伸ばす。

 桃花が舞う結界の奥の奥。美しい景色はそのままに、それを乱すのはぼたり、と垂らされた墨のような黒。見た目ばかりは麗しい仙人が、微笑みながらも、その手に妖刀を抜き放つ。
「美しい花が欲しい、その花をおくれ――ああでも、苗床はいらないな」
 想いを糧に育つ花。その種をまきながら、想いにも土壌にも何の興味も持たない冷めた瞳。摘み取った後にどれだけ屍が積みあがろうと、翠醒の笑みは少しも揺らぎもしないのだろう。それは、なんて。
「――なんて無粋なのかしら」
 柔らかに浮かべていた笑みは顰めた顔へと取って代えて、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が翠醒の伸ばす手を拒絶する。今こうして自分の身に咲いた花に触れれば、その度に胸があたたかくなる。この想いを、花育む根を否定するなんて、どれほど寂しい在り様だろう。例え花だけ手に入れても、そのさもしい心には過ぎた宝だ。
「興味がない、だなんて。随分と見る目が無いね」
 拗ねた顔の恋人を庇うよう半身前に出ながら、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)も言葉に同意を重ねる。咲き誇る花も華やかなれど、その花を咲かす彼女こそ、またとなく美しい“花”に違いないのに。そう想いながら柔く揺れるライラック咲かす彼女を見れば、ティルからも鈴蘭揺れる髪に愛し気な視線が添う。
「彼は、その身に咲かせた花も、その花弁一つさえ、全部全部妾のものよ」
 告げる言葉が真実だと示すように、繋ぎあう手にぎゅうと力を籠め、胸にふつりと湧く不機嫌な想いのまま頬を膨らませて翠醒を睨み据える。こんな場でなければ、その愛らしい態度も、独占するような言葉の甘美さに酔っていたい――と思いかけて、ライラックがふるりと首を振りながら手を握り直す。
「生憎乍ら、何方の花も僕のもの。この身に咲かす花にしても、彼女の為に咲かせたものだよ」
 ――本当は、そう言い切るには、少うし“我”が強いやもだけど。それすらも君が赦してくれると知っていて、躊躇うことなく我儘を通す。そして、言葉の通じないと分かればまとは剣を交えるだけ。翠醒がため息交じりに妖刀を振りかぶるのを見て、ライラックもまた構えるように手を伸ばす。

――想像せよ、創造せよ。
花喰らう怪物には、致命の剣を。
花しか見ぬ瞳など、炎へくべよ。
今ばかりは王子様よりも、君の騎士でありたいと。
此処に、願おう。

 相愛し、想像し、取り出されるは真白の剣。鈴蘭の白を宿し、握る柄にはリラを刻み。此度のジャバウォックを倒すに相応しい、花の剣がライラックの手に宿る。その手にティルが輝石嵌めた指で触れれば、剣を取り落とさぬよう勿忘草が優しく結わえられる。ああそれだけで、百の軍勢も打ち倒せよう。駆ける一瞬に必勝を誓い、騎士が疾く早く駆け抜けていく。

――妖しの刄ごと、遠ざけてしまいたい。
互いに咲いた愛し花を護るよに。
妾の騎士の支えとなるよに。
花を、想いを、結び重ねて。

 手は離れても、心も想いも、何もかもが互いの裡に咲いている。なら、懼れることなんて何一つない。
「ほら、花が欲しいのでしょ?其方には勿体ない花だけど」
 彼を守るためならば、と招くのは左薬指に咲く銀環。真中の輝石が煌めけば、踏み込む爪先も軽く感じられて、ライラックが剣振るう合間にふと微笑む。――頭に根差す花の御陰か、手に咲く勿忘草の所為か。思考は君のことばかり。恒と同じであるけども、いっそう深くふかく、溺れゆく心地になる。だからこそ、それが守りともなって、翠醒の放つ炎の魅了は心へ響かず、剣に迷いもありはしない。鈍ることなく振るわれる切っ先が、幾度となく硬質な音を立てて、翠醒をじりじりと退かせていく。その姿の、なんて頼もしいことだろう。愛おしいと溺れる彼が、鈴蘭咲かせ剣を振るう姿が、堪らぬ程に凛々しくて、狂おしい程愛おしい。胸が高鳴るたびに、口から零れる吐息も熱を帯びて、ずうっと見ていたい気持ちに駆られそうになって、自ずと瞳の“彼”にも触れる。

――あゝ、見惚れてばかりは駄目ね。

 縛する布紐の合間をすり抜ける斬撃は、ティルが歌声重ねて守りを成して跳ねのける。大きく崩れた体勢に、滑り込むように一歩踏み出し、ライラックが剣を振りかぶる。
「此処に咲く“花”全て、決して傷つけさせないわ」
「手折ることを赦しはしないさ。往く先も、ずっと隣で咲き続けるのだから」
 
――姫が歌い、騎士が貫き、花食む怪物はやがてゆるりと地へ臥した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戀鈴・シアン
【狼硝】


随分と傲慢な物言いだな
俺達の花は、互いへ寄せる想いが芽吹いたものだ
レンの勿忘草は俺のもの
そしてこの紫苑は――レン以外にやるもんか

対峙する黒へ指先を伸ばし
そこから溢れ出る硝子の花弁
硝華の嵐は光を反射しながら相手へ纏わりつき、動きを阻害し視界を遮る
これで敵は満足に攻撃を当てられなくなる筈

さあレン、駆けて
俺もすぐに追いつく
大丈夫、ちゃんときみの隣に行くから

身体に咲く花から力が流れてくるのを感じる
レンと想いを通わせる度それは強まっているようで
言うなれば連携力の強化と言った所か

――追いついた!
互いに名を呼び合い、呼吸を合わせ
レンの動きに合わせて想刀を振りかぶる
花の代わりに、この一撃をくれてやる


飛砂・煉月
【狼硝】


オレもアンタに興味は無いけど
でも此の花を寄越せってなら話は別
咲いたの想いはアンタの為のもんじゃない
オレの勿忘草はシアンの
シアンの紫苑はオレの
誰にもやんねーし

硝子の花弁が舞えば其れが合図
遅れちゃ駄目だよなんてのは信頼の戯れ
勢い良く駆け相手に迫って
例え炎を受けても生憎痛みに鈍い狼は止まらない
斬られたいの欲望は一瞬あったかどうか
欲張り狼の慾で上書きを
花を赫に染める気は無いんだ

シアンの動きを感じて動く度、花が力をくれる
想い結ぶ程に其れは顕著で
噫、共に並んだ時には凄い力になりそ

並ぶキミの名前を呼ぶ
呼吸は重ねて、今
白槍をシアンの刀に合わせて突き立てて
欲深いアンタに花より似合いの一撃を見舞ってやる



 結界を抜けた先の風景は、変わらず穏やかで美しいものだった。ただ一つ違うのは、花舞う薄紅を、真白の渓谷を、柔らかな新緑を裂いてぼたり、と落とされた墨のような、黒。
「ようやく苗床がご到着か。ああでも、待った甲斐はあったな。ずいぶん美しい花じゃないか。では――」
 ――早々に切り落とそうか。はっきりとそう口にして、異端の仙人たる翠醒が妖刀を抜き放つ。
「随分と傲慢な物言いだな」
 常は柔らかく細められる戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)の瞳も、余りに横暴な翠醒の言葉を前に、今は睨みつけるように鋭い。
「俺達の花は、互いへ寄せる想いが芽吹いたものだ。レンの勿忘草は俺のもの。そしてこの紫苑は――レン以外にやるもんか」
 忘れない、憶え往く。その約束の証のように咲いたこの花を、自らの欲の為だけに蒐集するオブリビオンなんかに容易く渡す筈もない。
「オレもアンタに興味は無いけど、でも此の花を寄越せってなら話は別」
 ポン、とシアンの肩に手を置いて、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)も同意するように言葉をつなげる。
「咲いた想いはアンタの為のもんじゃない。オレの勿忘草はシアンのだし、シアンの紫苑はオレの。誰にもやんねーし」
 これは、シアン/煉月にだけ渡す花束だから。まるで交わした想いの証左のように一輪ずつ、触れたシアンの肩に勿忘草が、そして煉月の指先に紫苑が花を開かせる。その様を見て僅かに目を見開いたあと、ふ、と微笑んで互いに笑みを浮かべた。ああもう、負ける気なんて起きやしない。肩の勿忘草に柔くふれた後、シアンが伸ばす指先が開戦の合図を告げる。指し示す黒へと迫り、舞い踊るのは硝子の花びら。硝華の嵐は光を反射しながら相手へ纏わりつき、妖刀振るう腕を鈍らせ視界を円に遮っていく。これでもう、敵は満足に躍れやしない。
「さあレン、駆けて。俺もすぐに追いつく。」
「わかった。――遅れちゃ駄目だよ」
「大丈夫、ちゃんときみの隣に行くから」
 交わし合う軽口は信頼の裏返し。ほんの少しの心配も、共に過ごした日々が安堵へと変えていく。握りしめる白槍の指先、分け合った紫苑を一瞬瞳に納めてから、放たれる矢の如く煉月が駆ける。硝子に飲まれた翠醒にそれを避ける術はなく、苦し紛れに妖刀から炎が巻きあげる。けれど痛みに鈍い狼には、その程度では足止めにもならない。込められた仙力の所為か、沸き上がる斬られたいという欲望も、ほんの一瞬あったかどうか。何もかもを残して刻んで逝こうとする、欲張りな狼の慾で上書きして、更なる追撃を打ち込んでいく。
「花を赫に染める気は無いんだ」
 この花は血を知らず、美しいまま手渡すと決めているから。そんな誓いにも似た煉月の言葉を、きれいごとを、と翠醒が吐き捨てる。けれど蔑む台詞も、続けざまに振るわれる妖刀も仙力も、煉月には何一つ届かない。右の斬撃は槍が払いのけ、真上から迫る炎は硝嵐が散らしていく。シアンの動きを感じて動く度、花が力をくれる。レンと想いを通わせる度、力が強まっていく。距離も言葉も超えて、互いが互いを導き護りあう。――それはきっと、花が結わえた連なる力。

「――追いついた、レン!」
「シアン!いくぞっ」
 
 追いついたシアンの声に、構えを変えて煉月が呼吸を合わせる。柄の長さを利用して妖刀を一瞬跳ね上げ、体勢を崩した翠醒に迫るのは、白き槍と硝子の剣。そして――

――花を求める欲深き心に、重ね合わせた一撃が深く穿たれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】☆

そ、そうだよ!
アンタのためのものじゃない
この花は…わっ

そこまで言ったところで重い尻尾が乗って
な、なつめ…
うん、そうだ。オレたちの花は一輪もあげられない
花を愛する気持ちはよく分かるけど
アンタは花を大切にしてくれないような、そんな気がする

にっと笑って、突き出された拳に拳をぶつける
やってやろうか、相棒
さぁ、思い切り暴れてきて
オレがちゃんと後ろにいるから

攻撃よりも援護を優先して動く
【悔魂・花浅葱】で操るのは蒼い炎、遠距離から燃やして撹乱
なつめに攻撃が向けば『結界術』で守るよ

お帰り、なつめ
――ああ、やっぱりなつめはオレにとっての『ひかり』
温かい『おひさま』なんだ


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】☆

……はァ?誰がおめーの為だっつったよ
俺が花咲かせよーと思ったのは

花咲く尾をずしりと隣の相棒の肩に乗せて

コイツのためだ。
テメーにゃあ1輪もやらねェ
…そーいや、尻尾や羽を集めるのも
好きだったんだってなァ?

ーー取ってみろよ。
俺の花咲く虹色の尾。
取れたらてめーにくれてやらァ!

ときじ、援護頼んだぞ。と
グッと拳を相棒の前に出して
拳が返ってくれば
ニッと笑って
敵の元へ駆け出していく
アイツの花はやらない
アイツには触れさせない
ーー『護る』とやくそくしたから。

さっさと終わらせてーから
テメーにくれてやるよォ!

『終焉の一撃を』!

一撃食らわせて
気怠気に帰り相棒を見れば
もう一度笑って

ーーただいま、ときじ。



――花をおくれ、花をおくれ。美しく咲いた、おまえの花を。

 まいた種の持ち主が、さも当然そうにそう言い放つ。こちらに視線を投げるようで、その瞳に写すのは咲いた花ばかり。苗床など、人などどうでもいいと示しながら、するりと腕を伸ばして乞う。

「……はァ?誰がおめーの為だっつったよ」
 その傲慢な翠醒の態度に、心底いやそうな声を出して、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)がじろりと半目で睨む。
「そ、そうだよ!アンタのためのものじゃない」
 あまりの言い様に一瞬呆気にとられた宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も、すぐさま首を振って拒否の意を示した。その様子にふと微笑みながら、なつめが一歩十雉へと歩み寄り。
「俺が花咲かせよーと思ったのは…」
「この花は…わっ」
 互いに重なりかけた声が途絶えたのは、十雉の方。花咲く尾をずしりと肩に乗せられ、驚きつまった言葉を、先になつめが口にする。
「コイツのためだ。テメーにゃあ1輪もやらねェ」
 どの色も、どの花も、全ては隣立つ相棒への想いのカタチ。ならたとえ零れた一片だろうとも、その手に渡すには惜しい。
「な、なつめ…」
 衒いなく告げられて、十雉がほんの少し照れたように顔を赤くする。肩にかかる尻尾はいつもよりずっと重い。自らを想ってくれる気持ちが、今これ程の花を咲かせているんだと思えば、胸の奥がじわりと暖かい。なら尾の花も、この身に咲く花も、何一つくれてやる気にはなれない。
「うん、そうだ。オレたちの花は一輪もあげられない。花を愛する気持ちはよく分かるけど――アンタは花を大切にしてくれないような、そんな気がする」
 渡せない理由に、本能的に感じ取った理由を口にして改めて十雉が拒否を示せば、翠醒の顔に嵌めたような笑みが浮かぶ。虚ろで、どこか薄ら寒い、とりつくろったような笑顔。その顔に、本性見たり、となつめが不敵に笑えば、思い出したように付け加える。
「…そーいや、尻尾や羽を集めるのも好きだったんだってなァ?」
 花を求める前の翠醒は、人にない部位を求める異端の仙人だったと語られている。なら、今こうして目の前に花が咲き誇る竜の尾があるとなれば、垂涎の品となるのでは?――そのなつめの読みは正しく、翠醒の瞳はひた、と尾に釘づけられていて。
「ああ、好きだよ。だから君の尾はそのまま千切って貰おうかな」
「――取ってみろよ。俺の花咲く虹色の尾。取れたらてめーにくれてやらァ!」
 挑発込めて吠えたてれば、翠醒もそれへ乗るように妖刀を抜き放つ。今にも一触即発の中、駆ける直前になつめがニッ、と笑いながら拳を出して、十雉へと声をかける。
「ときじ、援護よろしくな」
 想いごと預けるように、差し出される拳。なんの迷いもないその信頼に、十雉も応えるように拳を握って前へと突き出す。
「…やってやろうか、相棒。さぁ、思い切り暴れてきて、オレがちゃんと後ろにいるから」
「ああ、頼んだぜ!」
 ――コツッ、と音を立てて拳が付き合わさった。それだけでもうあとは、言葉は要らない。なつめが疾く翠醒へと掛けていき、その背を十雉が見守る。油断なく振るわれる妖刀の一撃には軽く身を沈めて交わし、次いで仙力込めた炎がなつめを焼こうと襲い掛かると、十雉の指先が繰る蒼い炎に散らされる。二度、三度と同じような攻防を繰り返し、急いた翠醒が大きく妖刀を振りかぶったところで、なつめが足払いをかけ、十雉が蒼炎で視界を奪い大きく体勢を崩させる。

――アイツの花はやらない。
アイツには触れさせない。
『護る』と、やくそくしたから。
いつまでも隣で、傍で、笑っていて欲しいから。

「さっさと終わらせてーからテメーにくれてやるよォ!――『終焉の一撃を』!」
 ぐるりと独楽の如く体を捻り、下されるのは竜尾の一閃。花を、虹を纏って繰り出されるその一撃は重く、受け身もままならない翠醒はそのまま喰らって――どう、と地へ臥せた。

 動かない姿を見て僅かに息を吐き、なつめが気だるげに十雉へと振り返る。ほんの少し覚えた疲れも、無事を確認する心配そうな視線に気づけば、緩やかに笑みへと変わっていって。
「――ただいま、ときじ。」
 その言葉に、優しい色をした声に、ほっと息を零しながら想う。

――ああ、やっぱりなつめはオレにとっての『ひかり』だ。
あたたかくて、やさしくて。
時折まぶしくて、涙が出そうになるけど。
ずうっと見つめていた、『おひさま』なんだ。

「――お帰り、なつめ。」
 想いひとつを抱えるように、そっと胸に手を置きながら。十雉の顔にも、柔らかな笑みが灯っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】☆
は?俺の吸盤持ってくだって?ふざけんなこの(放送禁止用語)
幾らおんこ~な俺でも見過ごせねェな、あァん?

バタフライナイフ構えパウルに目配せ
一度だけ俺の為に傷ついてくれねえか
あとは全部あいつに叩き込むからさ

【九死殺戮刃】
パウルの負傷を受けて命を繋ぎ止め
増えた手数で狙うのは奴の「右腕」
得物で塞がってる方の手に興味はねえんだわ
斬られたってぜーんぜん平気だし?
つーかそんななまくらじゃ気持ちよくもねーし?
だけどそっちじゃない方は吸ば……花を手折る気だろ
ぜっっってえさせねェし
折れんのはてめェの腕の方だばーかばーか

ところでさっきからブチ切れパウルがすげえ格好いいんだけど
やっべ、集中しねえと


パウル・ブラフマン
【邪蛸】☆
(目から滝状態で矢車菊を溢れさせつつ)
変態的嗜好はどーでもイイんだけど
お花狙うのはダメゼッタイ。
ジャスパーが悲しんじゃうからね。
…そんじゃ『生け花ごっこ』しよっか。おにーさん『花瓶』ね☆

目配せで全てを察してニッコリ。
ジャスパーの為ならお安い御用ってね♪
バタフライナイフを一撃を腹部に受けつつも
翠醒の動きを注視。

攻撃してきたタイミングを見計らって…UC発動!
言ったっしょ?『花瓶』だって。
敵の右腕にKrakeの照準を定め
奪った威力をそのまま【カウンター】でお見舞いするね。
スカしたその口か
綺麗なケツの穴からブチ込んでやりたいトコロだけど
愛しいジャスパーの御前だもの、右腕の傷口で我慢しよっと♪



――花をおくれ、と仙人が手を伸ばす。

 結界の奥の奥。美しい情景はそのままに、現れたのはぼたり、と零した墨のような黒。花を乞う指先は優美で、浮かべる笑顔は麗しいのに、どこか虚ろさを匂わせる姿。苗床なんていらないと臆面なく口にして、ただひと時愛でる為だけにこの愛しい花を欲するなんて――カケラも許せるはずなく、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)がキレた。それはもうブチィッ!って音が聞こえそうなほどにガチのギレだ。
「は?俺の吸盤持ってくだって?ふざけんなこの―――」

~🌺しばらくお待ちください(ヒーリングミュージック)🌺~

 凡そ良い子の皆に聞かせたら卒倒しかねないボキャブラリーで罵るジャスパーを、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は怒った顔も愛らしいんだよね、と瞳から滝の如く矢車菊を溢れさせつつ微笑んでいた。が、翠醒が目に映れば呆れたように首を振って、ジャスパーと同じく拒否を口にする。
「変態的嗜好はどーでもイイんだけど、お花狙うのはダメゼッタイ。ジャスパーが悲しんじゃうからね。」
「パウルの花も欲しいとか言ったら幾らおんこ~な俺でもマ・ジ・で・見過ごせねェからな、あァん?」
 ギリギリと睨み威嚇するジャスパーにキュンとする胸を抑えながら、パウルも沸き上がる嫌悪を混ぜてわざとらしく軽い口調で――戦闘の始まりを告げた。
「…そんじゃ『生け花ごっこ』しよっか。おにーさん『花瓶』ね☆」
「花をくれるんなら、花瓶というのもやぶさかじゃないけど。君たちは素直にくれそうにはないな…なら」
 くすりと笑って受ける翠醒が、腰に佩いた妖刀を抜き放つ。その動きを見たジャスパーもバタフライナイフを構えながら、視線だけはパウルへと向ける。

――一度だけ、俺の為に傷ついてくれねえか。

 ほんの僅かに細めただけの目配せで、パウルがすべてを察してウインクを返す。九死殺戮刃――威力は高いけれど、その分寿命か仲間の負傷を要求する扱いに難しいユーベルコード。けれどパウルにとってはジャスパーの寿命を削らずに済むなら、与えられる痛みなんて嬉しい“オマケ”程度のものだ。預けられる信頼の傷口はわき腹にぱっくりと開かせ、ジャスパーが残る八死を全て叩き込むべく翠醒へ切りかかる。狙うは右腕。妖刀に切られるもお構いなしに突っ込んでは1、2と右腕に斬撃を刻んでいく。
「ははっ、普通得物を持つ手を狙わないかい?」
「興味ねえんだわ。斬られたってぜーんぜん平気だし?つーかそんななまくらじゃ気持ちよくもねーし?」
「変わってるなぁ」
「だけどそっちじゃない方は吸ば……花を手折る気だろ。ぜっっってえさせねェし」
 想いに根差し咲いた花、愛しい人の吸盤にも似た花姿には触れさせもしない、と3、4とさらに傷跡を刻んでいく。ジャスパーの動きは速く、捉えるに難しい。ならせめて距離を取ろうと、翠醒が妖刀に炎を這わせて放とうとした。だが。
「なら…これはどうかなっ…!?」
「――それこそさせるわけないっしょ」
 静かに、けれど明らかにキレてることが分かる凶顔で、パウルが炎とジャスパーの間に割って入る。触手に固定されたKrakeで妖刀ごと受け止めれば、これで“条件は整った”。次の動作へ移ろうとしてるパウルを目の端に捉えて、今度は翠醒の視線を奪うようにジャスパーが立ちはだかり5、6とナイフを振るう。――さっきからブチ切れパウルがすげえ格好いいんだけど、と思わず見惚れて止まりそうになったが。
「…やっべ、集中しねえと…なァ!!」
 そこはなんとか踏みとどまった。呟きながら残る斬撃を7、8と刻んだところで翠醒がぐらりと体勢を崩し、漸くジャスパーの肩越しに二人の配置の意味を悟る。前衛が派手に動いている間、後衛がやることと言えば――照準の設定。
「……狙撃か、このっ…!」
「言ったっしょ?『花瓶』だって。」

――本当ならジャスパーを傷つけようと思っただけで極刑モノだし
スカしたその口か綺麗なケツの穴からブチ込んで
○○して××す位やりたいトコロだけど。

「愛しいジャスパーの御前だもの、右腕の傷口で我慢しよっと♪」
 ぺろりと口の端を舐めて茶目っ気を出しつつ、パウルが容赦なく一撃を放つ。瞬間上がる火花は菊の花の如く火花を散らせ、我慢の分を全て贖ってもらうかの如く――次の瞬間、翠醒の右腕には大口径の花が生けられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈
アドリブ歓迎


別にお前の為に花を咲かせた訳じゃないぞ…??
…てか、心結のも含め絶対渡さん!

昔ならともかく
俺様はあの魔術書の解読は一部出来てる
つまり自然の魔術も使えるのさ!

手の中から白椿の花が溢れて宙を舞う
花を発芽《ジャーマネーション》と成長《グラウス》の術式で、無意識に増えるのとは別に意図的に増やしていくのだ

お前が蒔いた種は文字通り
魔術の触媒にも使えるのさ!

俺様の想いを元に創られた花だ
魅了ぐれぇびくともしねぇさ!
この魔術で防ぎきる!
君の歌が途切れる事が無い様に
心結の華…心も護る!

咲き誇れ白椿!

咲乱花《ブルーミングフラワーズ》ッ!!

攻撃ごと華の嵐でぶっ飛ばす!

決して、見失わない


音海・心結
💎🌈
アドリブ歓迎


事情は分かりましたが、みゆたちが大人しく花を渡すとでも?
これはみゆたちのものです
お前には決して渡さない

――綺麗
舞い踊り咲く白椿
彼自身が白椿で埋まっていくけれど、もう怖いことはない
それより、この花を――天使の花を護らなくては

白椿に交ざり、飛んで翔けて敵を翻弄
リズムを刻む音に乗せて敵の耳元へ届ける
この幻想的な空間に合うような歌を、メロディを
頭に浮かんだ言葉を即興で
うまく歌えなくてもよいのです
眸には映りません

みゆの歌声が
白椿を彩る何かになれますように
そして、どうか――

”見失わないでください”

他でもない貴方が見つけてくれること
護ってくれること

――唯一の人へ、信頼を込めて



――花をおくれ、と仙人が手を伸ばす。

 人の身にだけ咲く花を、愛でる為に欲しいと言う。元より異端の仙人が、花を求めてさらに狂ったその果てが今こうして、目の前で笑っている。苗床などどうでもいい、花だけ寄越せという余りに傲慢なその在り様を。

「別にお前の為に花を咲かせた訳じゃないぞ…??」
 あきれ果てたように目を細め、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)がばっさりと切って捨てた。
「事情は分かりましたが、みゆたちが大人しく花を渡すとでも?」
 音海・心結(瞳に移るは・f04636)もまるで駄々をこねる子を見るように、諭す口調で“そんなわけない”と語ってみせる。
「…てか、心結のも含め絶対渡さん!」
「そうです、これはみゆたちのものです。お前には決して渡さない」
 想いを糧にこの花たちが咲いてくれたというのなら、それを何も解さない奴に等、ひとひらとてくれてやる道理はない。互いの想いを一つにして、相対する意を示した後、零時がそれに――と付け加えて得意げな笑顔を見せる。
「昔ならともかく、俺様はあの魔術書の解読は一部出来てる。つまり…自然の魔術も使えるのさ!」
 告げるや否や天高くつき上げた自らの手の中から、白椿の花が溢れて宙を舞う。樹々の魔を紐解く書から読み取った、いくつかの新しい術。無意識に増えるものとは違う、発芽《ジャーマネーション》と成長《グラウス》の術式で、意図的に増やしていく魔術込めた花。いつかの無力を嘆いた時とは、もう違う。出会い、導かれ、教えられ、立ち上がり、学び取った全てを糧に、零時は今ここに立っている。過去の雫は未だ胸にあっても、振り返って悔やむことだけは、もうしない。
「お前が蒔いた種は文字通り、魔術の触媒にも使えるのさ!」
 高らかに告げて零時の指が翠醒を示せば、一斉に花びらが嵐となって向かい襲い掛かる。その白露の色の、数多と舞う姿の、なんて。

――なんて、綺麗。
舞いあがる花びらも、踊り咲く白椿も、とても美しい。
彼の姿が白椿で埋まっていくけれど、もう怖いことはない。
零時は輝きを失わない、そしていつだって傍にいてくれると、分かったから。
それより今はこの花を――天使の花を護らなくては。

 胸の想いに従うように、心結もまた白椿に交ざり、ふわりと飛んで翔けてゆく。リズムを刻む音に乗せてひいら、ひらり。幻想的な空間に合うような歌を、メロディを、頭に浮かんだ言葉のまま即興で紡いでいく。――うまく歌えなくても良い。ただ少し気を引いて、視線にこちらを追わせられれば、それで十分だ。たとえ翠醒がこちらを見つめようとしても、カリンの翼が高く空へ運んでくれる、舞う白椿がそうっと遮ってくれる。だから、少しも怖くない。ただ叶うなら――歌声が、白椿を彩る何かになれますように。そして、どうか――

”見失わないでください”

 歌詞にそっと込められた、小さな声。見つけてくれることを、護ってくれることを、唯一の人へ信頼を込めて唄う。その声を零時が聞き届けて、力強く頷いた。見失わない、心結の華も心も護ると誓い、花と歌に惑う翠醒へ白椿を全て咲かせるように手繰る。

貫く意志持つ零時が居て、信じ守り抜く心結が居れば、『此の世に不可能など決して無い』。

「咲き誇れ白椿!――咲乱花《ブルーミングフラワーズ》ッ!!」

 視界全てを覆うほどの白椿の嵐。幾千幾万と及ぶ花の洪水に、妖刀の一振りでは切り落とすこと叶わず、溺れるように翠醒が沈んでいく。その様子を尻目に、ふわりと舞い降りる心結へ嬉しそうな笑みを向けて、零時がそっとその手を取った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベル・ルヴェール
アヤカ(f01194)☆

僕らの花を簡単に渡すわけにはいかないな。
特に僕はこの花を気に入っている。
ずっとここにあると大変だが今日くらいは良い。
アヤカ。目は大丈夫か?
そのままだと視界が悪そうだな。
僕がアヤカの目になろう。

アヤカの目に咲いた花側に陣取って僕はアヤカの片目になるんだ。
僕は砂漠の番人でもある。砂漠は厳しい場所だ。
こう見えても戦い慣れてはいるぞ。
アヤカの戦い方に合わせて剣と銃を使い分けるつもりだ。
僕に咲いた花がどんな力になるのか分からない。
お喋りなのは僕の取り柄だ!

僕の足を引っ張るかもしれないけど僕はやろう。
アヤカは大丈夫か。こっちは任せて見える砲に集中してくれ。
僕は大丈夫だ!


浮世・綾華
ベル(f18504)〇

さっきも言ったろ
何とかなりそうだって

心配性だな
世話焼きとも告げたことは記憶に新しい
けれど彼の厚意を無下にする気にもならないから
花咲く方に移動するのを見送った

実際、ベルと旅をしたから分かる
様々な知識を得て行動する様は頼もしく思えた
だから言葉を疑うことはなく
――随分お喋りな片目だこと
くすりと笑み鍵刀を構え

狭まった視界では、ベルの動きに合わせるのは難しい
だから、言葉に甘え今は思うまま刃を振るう

視線に、まずい、と
気に入っていると言っていたアデニウムも
咲かせる友人も、守りたいと思えば

光る太陽が数秒だけそれを跳ねのけるから
放つ咎力封じ

――ベル!
今だ、と
間に合うならば後追うように駆けて



 結界の奥の奥、仙人の待つ場所は、歩いた道と変わらぬ美しい場所だった。ひらりと薄布を払い、流麗に剣取る翠醒の姿も、本来なら絵の一枚にも残したい情景なのに――浮かべる笑みを見れば、ぞっとするほど温度がない。こちらを見つめているはずのに、その瞳が映しているのは花だけで、苗床などどうでもいいというのが空気だけでも分かる。
「苗床の役目、大儀だったね。――さぁ、咲き誇るその花を頂こうか」
 言い放つ言葉には、是非すら問う気がない。然し今にも刃で削ごうかと一歩踏み出す翠醒へ降り注ぐのは、拒否の声だった。
「僕らの花を簡単に渡すわけにはいかないな。特に僕は、この花を気に入っている。」
 欲するように伸ばされる手へ、ベル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)がきっぱりと首を振って断る。砂漠の薔薇、想い出の花。ずっとここにあっては困るだろうけど、今日ばかりはここを彼らの特等席と決めたのだ。なら、無碍に毟らせるわけにはいかない。
「俺も毟られるのは勘弁かな。無理にやって目、見えなくなっても困るし。」
 浮世・綾華(千日紅・f01194)も同意するように頷いて、ゆるりと瞳に咲く花へ触れる。ベルの花へ向ける想いとは違うだろうが、それでもやはり、どうぞと差し出す気にはなれそうもない。
「でも、そのままだと戦うには視界が悪そうだな。」
「さっきも言ったろ?何とかなりそうだって」
「そうか。でもあって困ることもないだろう?だから――僕がアヤカの目になろう」
「…全く、心配性だな」
 苦笑を浮かべて告げる言葉は、同じ様に口にした記憶も新しい。けれど彼の真っ直ぐな厚意を無下にする気もなくて、花咲く方に移動するのを見送った。
「随分仲がよろしいことで。然し二人とて、花を得る為なら私は手折って見せますよ?」
「僕は砂漠の番人でもある。砂漠は厳しい場所だ。こう見えても戦い慣れてはいるぞ。」
 挑発にはニッ、と笑って返し、伺うようにベルが綾華へ視線を投げる。“知っているだろう?”と言外に尋ねる瞳には、思わずくすりと笑って応えた。――そうとも、実際ベルと旅をしたから分かる。砂漠を渡る駱駝の乗り方、含むと水の溢れる乾燥果実のこと、先行きを占い導く術、何もかもベルは知っていた。様々な知識を指針に力強く行動する様は、初めて砂の大海を往く綾華にも、そこがいっそ楽しく見える程に頼もしく思えた。だから彼の言葉を疑うことなんて、何一つない。
「――随分お喋りな片目だこと」
「お喋りなのは僕の取り柄だ!」
 揶揄う言葉一つを引き金に、ベルが疾く速く駆けていく。待ち構えていた翠醒の振り下ろされる妖刀を、金の鎖から変じた刀で受け流して隙を作れば、心得たように綾華の追撃が迫る。大丈夫、と口に乗せながらもやはり片目が塞がれた状態は少し、やりにくさを感じる。それでもいつもと変わらず鍵刀が軽いのは。

――合わせてくれる?
――勿論だ、好きに躍ると良い!

 背を任せ、目に変わり、支えてくれるベルがいるから。翠醒が繰り出す右の一閃を綾華が受け止め、込める力を後押すようにベルが刀を振り下ろす。二度、三度と重ねた鍔迫り合いの末、翠醒が力負けして姿勢を崩したかに見えた――その瞬間。急に顔を跳ね上げ見開かれた瞳が、正面の綾華を捉える。まずい、と感じる刹那に手足に這う感覚は、このまま自由を奪われることを予感させて、想う。

――あのアデニウムの花を、気に入っていると笑っていた。
またベルには砂漠の話を聞かせてほしい。
どっちも、何一つ、散らせたくない。

 花は、想いに芽生えるもの。綾華が間際に思う願いを吸い上げたように、瞳に根差す太陽が一瞬目映くきらめいて、魅了の浸食を僅かに跳ねのける。そのまま手足が言うことを効くうちに翠醒の腕を捉えて、叫ぶ。
「くっ、貴様なぜ動け――」
「――ベル!」
「大丈夫だ、任せてくれ!」
 刀を銃に変えて、呼ばれたベルが構えを見せる。引き金を引く瞬間、あでやかに開くのはアデニウムの花。散らす火花に彩を添えて、狙う先へと導くように。放たれた弾は反れることなく――翠醒を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
【雅嵐】


綺麗に花は咲いておるけど、やはりわしの上に咲くのは虚だけでええなぁ
じゃが、せっかく己の身の上に咲いたものを好きに持っていかれるのも癪じゃしね
抗わせてもらおかな
汝の苗床になったつもりはないしの
せーちゃんのほわほわはどんなもんじゃろか
そうじゃね、満開じゃあ。ではせーちゃん、やるかの?

あの刃とやりおうてみるか
虚、わしに爪かしておくれ
今日は一緒に遊ぶようでひっかいたりはせんようじゃよ
そも、炎はわしの得手じゃから、このよなものは遊びよな

与えられた斬られたいなんて渇望は叩き伏せ
汝に斬られて楽しいことなどないしの

ふふ、せーちゃんの性に斬り伏せるのがおうとるのわかる
わしも爪で裂いて遊ばしてもらお


筧・清史郎
【雅嵐】☆

ポポ丸のような黄花も、もふもふ綿毛も、愛らしいが
それを渡す道理はないしな
そんなに花が欲しければ沢山くれてやろう
蒼桜の刃をな
俺のほわほわも満開に咲き誇っているぞ
ああ、いざ参ろうか、らんらん

敵の予備動作や刃の軌道を確り見切り
花霞の如き残像駆使し相手の攻撃躱す事をまずは重視
友の炎の方が、ずっと激しく美しいからな
ふふ、共に仲良く敵と遊ぼうか、虚
ふわふわ綿毛さんもきっと力を貸してくれるだろう

斬られるのも致命傷にさえならなければ特に構わないが
だが俺はひらり舞う桜花弁のように、なかなか捕まえられないぞ
それに…斬り伏せる方が性に合っている
さあ、友との攻勢で生じた敵の隙に、存分に桜嵐を見舞ってやろうか



――花をおくれ、と仙人が言う。

 美しい渓谷に、ぼたりと落とした墨の黒。ゆうらり微笑むその笑みも、佇まいも優美なのに、どこか虚ろに映る翠醒の姿。人を見つめるようで、瞳が映すのは身に咲く花ばかり。その一輪にそうと触れながら、終夜・嵐吾(灰青・f05366)がこれが欲しいか?と見せつけるように手をひらめかす。
「綺麗に花は咲いておるけど、やはりわしの上に咲くのは虚だけでええなぁ」
「へぇ、なら譲ってくれるということかい?」
「いんや、せっかく己の身の上に咲いたものを好きに持っていかれるのも癪じゃし、
抗わせてもらおかな。汝の苗床になったつもりはないしの」
 尋ねる声にはにこりと否定して、そうじゃろ?と首を向ける先には、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の姿。
「確かにポポ丸のような黄花も、もふもふ綿毛も愛らしいが、それを渡す道理はないしな」
 今またふわりと綿毛が飛んで花に代わって、を繰り返す蒲公英に微笑みかけながら、清史郎も渡す気はないと意志を見せる。
「そんなに花が欲しければ沢山くれてやろう、蒼桜の刃をな」
 流麗な動きですらりと刃を抜き放つ清史郎には、ひゅう、とからかうような音乗せてわしも、と嵐吾が腕を回す。
「せーちゃんのほわほわはどんなもんじゃろか」
「俺のほわほわは満開に咲き誇っているぞ」
「そうじゃね、満開じゃあ。ではせーちゃん、やるかの?」
「ああ、いざ参ろうか、らんらん」
 目配せ一つでそれは開戦の合図に変わり、まずは先んじて清史郎が刃を手に切りかかる。翠醒も妖刀を以て二度、三度と鍔迫り合い、桜嵐と炎舞がせめぎ合う。
「あの刃とやりおうてみるか。…虚、わしに爪かしておくれ」
 呼びかけるのは、伽藍の奥。咲き添う花のどれよりも妖しくうつくしい茨が、ずるりと嵐吾の腕に爪を成す。獣の如き凶悪なそれで数度虚空を試し切れば、疾く友の背に追いついて炎を切り伏せる。
「おお、らんらん。虚の機嫌は直ったようだな」
「今日は一緒に遊ぶようで、ひっかいたりはせんようじゃよ」
「ふふ、なら共に仲良く敵と遊ぼうか、虚」
 並び立てばいっそう刃は鋭く、爪は凶悪に翠醒を攻め立て、じりじりと退かせていく。ニ対一、数も力もかなわないのならせめて鈍らせよう、と思ったのか、翠醒が巻き上げる炎に魅了込めて二人へと向かわせる。
「――苗床は、焼かれてしまえ」
「ざぁんねん、そもそもわしの得手は炎じゃから、このよなものは遊びよな」
「友の炎の方が、ずっと激しく美しいしな」
 業、と猛る火柱を前にしても、まるで火の粉を払うかのように軽く。刃と爪が撫で斬りにすれば、あっという間に散り果てる。僅かに染み入る妖刀への執着も、一瞬で全てが綿毛へと変わった蒲公英が目に入れば、洗い流されたようにさっぱり消えた。
「くっ…切られに来ればよいものを…!」
「いや、汝に斬られて楽しいことなどないしの」
「それに俺は…斬り伏せる方が性に合っている」
 その蒼紅混じる瞳がほんのひととき、深紅に染まったように見えたのは気のせいか。優雅な剣舞はそのままに、攻める切っ先が一層素早さを増していく。切られるのもいとわない豪胆さを見せながら、桜を纏いひらひらと掴ませず。翠醒が隙を見せた一撃には、切り落とさんばかりの重い斬撃。穏やかに見えてその実、戦場に相応しい苛烈さを見せる友の姿に、嵐吾が思わずふふ、と笑う。
「せーちゃんの性に斬り伏せるのがおうとるのわかる」
 敵に回れば恐ろしかろうが、味方で、友であればこれ程頼もしい相手も居まい。友への信頼と、虚の差そう指先に乗せて、また嵐吾も剣戟の内へと戻っていく。

桜嵐と黒爪、双方に駆り立てられ――翠醒が倒れるに、そう時間はかからなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

睦月・伊久


この人、僕が1番嫌う種類の外道ですね。
やろうとしてる事が集落の人々の死の原因を作り、僕にこの赤い糸を付けた張本人とほぼ同じなのでちょっと……個人的であるとは分かっていますが、かなり怒りを感じます(地面蹴り蹴りしながら

霞禍を漂わせ【目潰し】しつつ、妖刀を持つ手を祟り縄で打ち据え武器を取り落とさせ【捕縛】します(【武器落とし】併用
攻撃なんて当てさせませんしそもそもさせませんよ。

更に【連鎖する呪い】で不幸を差し上げましょう。

本当に腹立たしい程の執着と身勝手さですね。
貴方の手に入れられるものなど、なにもありませんよ。
さっさと骸の海にお引き取り願います。



――花が欲しいと、仙人が嗤う。

 ただひと時愛でるが為に、美しく芽吹かせた花を手折り、苗床はぽいと棄てる。それが土くれだろうと人だろうと、彼に構うところなどない。その在り様に、かつての醜悪な誰かの記憶が重なって――睦月・伊久(残火・f30168)が、怒りをあらわに言い棄てる。
「あなたは、僕が1番嫌う種類の外道ですね。」
 翠醒のやろうとしてることが、否応にもかの姿を彷彿とさせる。愛すべき集落の人々を死へと導き、未だこの身に纏わりつく赤い執着の糸を縫い付けた張本人。憎く、恨めしく、それ故に忘れることもできない厭わしいモノ。それが個人的な恨みを重ねているとは分かっていても、猛る怒りを抑えきれず、気づけば蹄がガリリと地を抉る。どちらにせよ、会話を重ねる価値のない相手ならば、穿つのは先手あるのみ。
「さて、素直に花をくれれば、戦わずに済むんだけどね?」
「…本当に、腹立たしい程の執着と身勝手さですね。」
 かけられる言葉にはギリ、と奥歯をかみしめ怒りをこらえ、一呼吸おいて呼び込むのは、霞。ゆぅらりとたなびくそれは禍々しく纏わって、翠醒から視界の自由を奪っていく。
「目晦まし、かな。けどこちらとて妖刀があ――」
「攻撃なんて当てさせませんし、そもそもさせませんよ。」
 仙力に物を言わせた斬撃を放とうとする、その一瞬。振り上げた妖刀の揺らめきを目印に、伊久が背後から祟り縄を投げつける。それは正確に翠醒の握り手を打ち据えて、取り落とした妖刀へずるりと蛇の如く這って封してしまう。
「ぐ、…忌々しい苗床だ。花を寄越せば用はないのに」
「花はあげません。ひとひらも。でも代りに、不幸を差し上げましょう。」
 そう言って、次に伊久が手招くのは“呪い”。かつてひと時とはいえ神と祭られたモノの能う呪いは、最早神罰にも近しい。吹き抜けるそよ風が鎌鼬の如く肌を切りつけ、桃花の甘やかな香りは臓腑を焼き、なだらかな筈の地に足を取られて転げる。翠醒の身を、形のない不幸がじわりと蝕んでいく。
「貴方の手に入れられるものなど、なにもありませんよ。さっさと骸の海にお引き取り願います。」
 渡る彼岸は骸の海へ。果てたとしても、決して“彼ら”の元になど行かせない。

――その想いを具現するように、地に臥す翠醒の胸から一輪、黒く枯れ果てた彼岸花が堕ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
⭐︎
咲く花:赤薔薇。左胸から左手にかけて

この薔薇はお前を想って咲かせた花ではないこの花を受け取っていいのはマクベスだけだ。
(一枚もあげないと言うマクベスにくすりと笑いながら)
そうだな…そしてマクベスの身から咲いた花ならマクベスの体と同じだ…一枚たりともお前にはやらんさ。

花はやれんがこれならどうだ?
【オーラ防御】と【結界】を展開し防御しつつ
UC【柘榴焔】を【属性攻撃】炎で強化して発動

あぁ、でもマクベスにはこちらも怒らせてしまうか?なにせマクベスが特に美しいと好む炎だからな。


マクベス・メインクーン

グラナトさん(f16720)と
咲いた花:勿忘草、左足首から大腿まで

は?なんだコイツ唐突に
誰もお前の為に花咲かせたわけじゃねぇよ
てか、グラナトさんの薔薇は俺のだから
お前に花びらの1枚たりともやるわけねぇだろっ

2本の小刀に精霊を宿して雷【属性攻撃】【2回攻撃】で
【先制攻撃】するぜっ
敵のUCは【フェイント】で躱す
俺に触れていいのもグラナトさんだけだから

グラナトさんの攻撃タイミングに合わせて
【全力魔法】でUC使用、敵を感電させて動きを鈍らせる

ん…グラナトさんの炎すらアイツにやるのは惜しいけど
敵を倒すグラナトさんがカッコいいから、もっと見たいくらい♪



 並び歩いて辿り着いた結界の奥は、変わらぬ美しさを讃えた渓谷だった。ただ一つ違うのは、白と薄紅と新緑の彩りに、ぽたり、と墨を落としたかのような黒い存在。
「やぁ、苗床役をご苦労様。何方も綺麗な花を咲かせたね。じゃあ、早速頂くとしようか」
 ただ自分勝手な欲望だけを口に、麗しい仙人姿の翠醒がさも当然と言わんばかりに手を伸ばす。
「は?なんだコイツ唐突に。誰もお前の為に花咲かせたわけじゃねぇよ」
 だがその余りに突然な要求に、ケッ、とマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)が吐き捨てながら切って捨てる。
「俺のこの薔薇も、お前を想って咲かせた花ではない」
 グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)も同意するように眉を顰め、理不尽な願いを跳ねのけた。
「てか、グラナトさんの薔薇は俺のだから。お前に花びらの1枚たりともやるわけねぇだろっ」
 想いを糧に咲く花。それも愛しい恋人の体に芽生えた薔薇とあっては、誰であっても触れさせたくなどない。なんなら見つめるのも自分だけにしたいくらいなのだ。譲どころか奪うなどもってのほかである。べ、と舌を出して一層の拒否を見せるマクベスに、思わずグラナトがくすりと笑みを浮かべる。
「そうだな…マクベスの身から咲いた花なら、それは最早マクベスの体と同じだ…。一枚たりともお前にはやらんさ。」
 高らかな宣誓をきけばマクベスの顔にも笑みが浮かび、凡そ無抵抗では花を得られないと察した翠醒が、ため息とともにすらりと妖刀を抜き放つ。
「なら削いでしまえばいいことだ。あいにく、私は苗床の方には何の興味もないのでね」
「はっ、出来るもんなら――やってみなっ!!」
 挑発を引き金に、妖刀が振り下ろされるより早くマクベスが奔り出す。構えるのは2本の小刀。それぞれに雷を纏わせ、足元に潜り込めばくるりと独楽の如く回り、先制の二連撃を叩き込む!いつもより足が軽く速く感じるのは花のお陰か、と鍔ぜり合う合間に気が付けば、後方に控えているはずのグラナトが傍にいるようで心強く感じる。そして仙力込めた翠醒の拳は小刀を引くタイミングをずらしたフェイントで避け、ニヤリと笑う。
「俺に触れていいのもグラナトさんだけだから」
「ああ、花はやれんが代わりにこれはどうだ?」
 二人の距離が空いた刹那を逃さず、グラナトが呼び込むのは神の炎。ひらり、ひらりと舞う火が寄り集まればいつもよりも苛烈に赤く、渦を巻きながらゴウ、と翠醒へ迫る。
「美しいですが、あいにくそちらは結構――ぐっ!?」
 迫る炎を仙力で相殺しようと伸ばした腕は、思った半分も上がらずに震えて止まる。既に数回マクベスの連撃を受けた身には、痺れが回って動きがままならなくなっていたのだ。だが今更気づいたところで、もう遅い。

冥界の果実は今だけその形を薔薇へと変えて――豪焔となって、仙人の身を焼いた。

「…あぁ、でもマクベスにはこちらも怒らせてしまうか?なにせマクベスが特に美しいと好む炎だからな。」
「ん…グラナトさんの炎すらアイツにやるのは惜しいけど、敵を倒すグラナトさんがカッコいいから、もっと見たいくらい♪」
 焼け落ちる薄絹の向こう、悔し気な表情浮かべる翠醒へ向けて、ふたりが揚々と花咲く身を見せつけて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻


何ともこそばゆい心地だ
私の巫女が、私の彩を纏い嬉しげに笑っているなんて
可愛い、愛しい、戀しい
之が愛で、之が戀
ひとのする戀愛というのは斯様なものなのか

数多の和歌にうたわれた想いが理解出来た気がする
噫、駄目だよ
折角サヨに私の桜が咲いたのだから
ひとつだってそなたには渡さない
約されていない
この子は私の愛しい子
生まれる前から決まっている

きみに食べられた桜が羨ましいなんめ
私も仕様がない

結界を張りサヨを守る
庇うよう前へでて早業で駆け先制攻撃
サヨの衝撃波に斬撃派を合わせよう

そなたに桜は勿体ないよ
刃受け止め枯死の神罰を叩きつけ
切り込み、打ち消すように切断

共に生きるのだ
この桜と共に
私の巫女は傷つけさせない


誘名・櫻宵
🌸神櫻


カムイの彩の桜を纏うのは嬉しくて暖かで幸せでたまらない
カムイの愛に包まれているようなのだもの!
噫、なんと良い気持ち

だのに、奪うだなんて
うふふ…あなたの為のわけないじゃない
これは全て、私のものよ
私に咲いているから美しいの
私という花はかの神のもの
カムイの桜だって─凡て全て私のものよ
ひとひらだってあげないわ
カムイの指先の桜を食んで笑う
照れる神の姿はかぁいらし

仙人さん
花が欲しくばあなたが花になればいい
あなたを糧にあえかに咲かせてあげる

艶華─桜化を齎す神罰を巡らせて
衝撃波と共に斬撃を放ち生命を貪る

仙人の力すらも凌ぐ愛を咲かせるわ
堕ちるのは簡単だ
でも私は…カムイの隣にいたいから
私の神は穢させない



 桃花舞う中を、桜の巫女がくぅるりと羽を広げ踊る。

 いつもは薄紅で彩られた躰に、今は塗り替えられるほどの赫が咲く。そのうちの一輪に触れれば、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)がとろけるように甘く咲う。この色はカムイの色。カムイの彩の桜を纏うのは嬉しくて、暖かで、幸せでたまらない。

――だって、カムイの愛に包まれているようなのだもの!
噫、なんと良い気持ち。

 溢れた想いは足を軽くさせ、またくるり、くるりと神楽の如くに舞い踊る。その姿を見れば朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)もまた嬉し気な笑みを灯らせる。こそばゆい心地もあるけれど、私の巫女が、私の彩を纏い嬉しげに笑っているなんて、嬉しい以外にあるはずもない。

――噫、可愛い、愛しい、戀しい。
どれほど言の葉を搔き集めても、言い足りない、表しきれない。
それでも胸の奥の焦れるような想いを、口にせずにもいられない。
之が愛で、之が戀。
ひとのする戀愛というのは、斯様なものなのか。

 数多の和歌にうたわれた想いが理解出来た気がして、納得するように目を伏せてカムイが頷く。愛らしいと思えばまたカムイの躰にも薄紅の桜が咲いて、溢れて、あまい感覚が走り抜ける。この時が、ずっと続けばいい。そう思うのに――その美しく咲き合う花を、仙人が見過ごす筈もなかった。
「ああ、美しいね。薄紅、深紅…どちらも桜か。」
 声も姿も流麗ながら、どこか虚ろに響く声。視線が合うようで、その瞳は花しか映していない。美しく桃花芽生える渓谷に、ぼたり、と零した墨のような黒――異端の仙人、翠醒の姿。
「削ぐのは面倒そうだが、一輪とて零さず頂こう。愛でるものは多くてもよい」
 傲慢で、自分勝手で、鐚とも人を顧みないことが分かる言葉。そしてそのまますらり、と抜き放つ妖刀の揺らめきに、櫻宵が思わず冷ややかな笑い声をあげた。
「奪う、だなんて。うふふ…あなたの為のわけないじゃない」
 ひらり、と今一度見せつけるように回って見せて、その彩りが、咲かせた想いの先が、誰であるかを凛と告げる。
「これは全て、私のものよ。私に咲いているから美しいの。私という花は、かの神のものだもの。」
 二色の桜に彩られた巫女が、そう言って自らの神へと手を伸ばす。神もまた応えるようにゆるりと指先を絡めて、頷き一つで宣託を口にする。
「噫、駄目だよ。折角サヨに私の桜が咲いたのだから、ひとつだってそなたには渡さない。――この子は私の愛しい子、生まれる前から決まっている」
「カムイの桜だって――凡て全て、私のものよ。」
 そういって、絡めたカムイの指先に咲く一輪を、はくり、と櫻宵が食んで見せる。舌に広がる甘さを転がして、白い喉を通っていく姿を見れば、カムイが照れたようにはにかむから、かぁいらしくてつい、ふふ、と声が漏れる。噫でも――本当は、きみに食べられた桜が羨ましいなんて思ってしまう自分に、カムイが自ら苦笑する。櫻宵が食むなら、この身の花をいくらでも差し出そう。でも、他にくれてやる気は微塵もない。
「そなたには、何一つ約されていない」
「だから、ただのひとひらだってあげないわ」
 巡り巡った縁の果、今ここにある軌跡を穢そうというのなら――それは神罰に能う罪だ。それを今下さんとして、神が刀を手に駆ける。
「そなたに桜は勿体ないよ」
 疾く早く振るわれる剣舞に、翠醒も妖刀と炎で相対するが、巫女の桜が与える力で、カムイの切り込む方が数段速い。二度、三度、と硬質な音を立てた剣戟の果、ぐらりと傾いだ翠醒へ、今度は櫻宵が言い放つ。
「仙人さん、花が欲しくばあなたが花になればいい。あなたを糧に――あえかに、咲かせてあげる」
 神の施す結界の下、巫女が新たに舞うは“艷華”。放たれる斬撃はまほろの桜を纏って美しく、魅せつけるが如くに振り下ろされる。炎の誘惑、桜の魅了。きしくも似通った力の鬩ぎ合いは、火の粉が桜へと変わる様子で勝敗が伝えられた。ただただ愛でる花欲しさの愛など、神と巫女の逢瀬の前には、あまりに儚く脆い。

――堕ちるのは簡単だ。
きっとほんの少しのことで、この身は呪いへ変わる。
でも私は、カムイの隣にいたいから。

――共に生きるのだ。
巡り合えた軌跡を、私はもう手放さない。
このいとしい桜と共に、永く、先へ。
 
「私の神は穢させない」
「私の巫女は傷つけさせない」
 
想い重ね、ひとつと合わせ。――薄紅と朱赫の斬撃が、翠醒へと振り下ろされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】〇嗅覚向上

花が咲いてる俺が餌役ってワケか
まー良いけど
しっかり守ってくれよダーリン
狙われ役はやってやるんだから
それくらいはしてくんねぇとなァ

敵の主張には肩を竦めて
花が欲しいって?
おいおい、誰がタダでやるって言ったよ
咲いたことすら奇跡なわけよ
金も取らずにやる訳ねぇだろ

タダで手に入れようなんていい度胸じゃねーかと鼻で笑う
俺のコレはすげー高ぇぞ
お前は対価に何をくれる?

刻印より生み出した血の猟犬二体で狩り開始
花の香りの中敵の匂いはよく目立つ
後ろから伸びた真の手に視界を奪われても
犬どもと五感を共有している為なんの問題もない

ハッ、浮気されねェようしっかり掴まえとけよダーリン
軽口の応酬はいつものこと


久澄・真
【五万円】

みてーだな
花咲かせてない俺は苗床ですらねぇ
つか眼中にすら無いんじゃねぇか?
この身から枯れ落ちた花の存在など知らぬ口から吐き出す戯言

ハイハイお役目頂戴しますよハニー
こいつは俺の大事な大事な金蔓
花狂いのイカれ野郎にくれてやる義理はない
へぇ、何
お前俺の金(蔓)に手出そうとしてんの
心の広い俺でも生憎と獲物の横取りには寛大じゃなくてな

敵の視線受けぬ様
連れの目元をするり徐に左手で覆う
嗅覚特化中っぽいし戦闘に支障はねぇだろ、多分

残念、ハズレ

無抵抗で受けた魅惑
掛かろうが掛かるまいが苗床ですらねぇ身の使い道などこれで十分
浮気してんなよハニー
なんて軽口

あとは腹を空かせた犬共が勝手にどうとでもするだろう?



――花をおくれと、仙人が嗤う。

 麗しい水墨画の風景に、ぼたり、と垂れた墨のように。黒い影が揺らめいて、乞うに手を伸ばす。人の姿を見ているようで、その瞳に映るのは花ばかり。苗床には興味がないと言い棄てるのなら――花の咲かぬ身は、きっと。

「…ってことは、花が咲いてる俺が餌役ってワケか」
「みてーだな。花咲かせてない俺は苗床ですらねぇ。つか眼中にすら無いんじゃねぇか?」
 敵を前にして、日常の延長の気安さで会話が続く。芽生えた月下美人を散らぬ程度につつくジェイ・バグショット(幕引き・f01070)に、改めて花の咲かない身を示して久澄・真(○●○・f13102)が手をひらつかせる。――ここに来る道すがら、自らの躰から零れ落ちた黒い花のことなど露知らず。唯一見止めたジェイもそれを告げる気は更々なく、仕方ねぇなとため息交じりに一歩前へと出た。
「まー良いけど。しっかり守ってくれよダーリン」
「ハイハイお役目頂戴しますよハニー」
 囮は請け負うならそれくらいはしろ、と茶化して振るジェイに、真も適当に乗っかって返す。言葉の軽さよりは真剣に守るつもりはあるが、それも詰まるところ金の問題。――大事な大事な金蔓を、花狂いのイカれ野郎にくれてやる義理はない。というのは言わぬが花か、周知の事実かは置いておくとして。
「人間ふたりに花が一つ、か。少々少ない気もするが、まあいい。頂くとしようか」
「おいおい、誰がやるって言ったよ」
 切り落とさんと妖刀に手を掛ける翠醒に、ジェイが虫でも払うようにシッシッ、と手を振る。元より咲くとは思わなかったのに、何の奇跡か芽生えた花。想いを問われても首をかしげるばかりだが、それでもこの身に咲いたのならこれは、自分のものだ。金払いの一つもなく、はいそうですかと渡す気はない。
「タダで手に入れようなんていい度胸じゃねーか」
「もとはと言えば、私がまいた種なのだけどね」
「咲かせたのは俺だから所有権はこっちだろ?俺のコレはすげー高ぇぞ、お前は対価に何をくれる?」
「ふふ、なら――妖刀の一振りでも支払おうか」
 そう言って、振るう妖刀から仙力を纏った斬撃が放たれる。その迫り来る衝撃を前に金じゃねェのか、となおジェイの口は軽く、刻印より招くのは血で贖う猟犬2体。迫る苦痛は丸ごと無視して、咥えてこいと言葉なく命じれば、疾く駆けぬけて翠醒へと襲い掛かる。足に喰らい付き、腕を引きずり、まとわりつく猟犬に妖刀振るいながら舌打ちする翠醒が、僅かに顔を上げる。見つめる先は猟犬の操り手たるジェイ。仙力込めたる視線は魅惑を纏って、金色の瞳を堕とそうとして。
「へぇ、何。お前俺の金に手出そうとしてんの」
 ――するり、と伸ばした真の左手によって阻まれる。ジェイの視界を奪い、代わりに真正面から翠醒の視線を見つめるのは深紅の瞳。
「残念、ハズレ」
 ベ、と舌を出して小馬鹿にしながらも、無抵抗で魅惑の瞳を受ける。掛かろうが掛かるまいが、苗床ですらない身の使い道などこれで十分だ。そしてじわりと裡に感じた儘ならない熱は、ジェイの冷ややかな体温に吸われるようにして、あっという間に消え去った。からくり人形の代りのような働きは、花の所為かただの偶然か。鼻で笑いながらジェイの耳へ寄せて、甘くあざとく語り掛ける。
「浮気してんなよハニー」
「ハッ、不安なら浮気されねェようしっかり掴まえとけよダーリン」
 常と変わらない軽口を交わして、ごろりと寄せたジェイの頭を抱えるように、真が目を塞ぐ手にそっと力を籠める。見なくていい、ここでこうして互いに哂っていれば、それで済む。花の香りの中、研ぎ澄まされた鼻には敵の匂いはよく目立つ。
 
――あとは腹を空かせた犬共が、食うなり裂くなり勝手にするだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミラ・ホワイト
クラウンさま(f03642)と


芽吹き咲き誇るふたつの花は
繋いだ手をすっぽり覆うほど
奪われないよにいまいちど
指先にそうと力を込めて

傍に居て下さるよろこびやしあわせ
クラウンさまへ抱く想いを源に
美しいお顔を見せてくださったこの子達を
手折ることなどさせません…っ

…もし、奪われてしまったとしても
枯れず尽きることのない想いで
何度でも咲かせてみせますから

――そう、ね
苗床が潤っているからこそ
可憐な華を咲かすことができるの
ですから、わたしの大切なこの方を
傷つけることはゆるさないわ

合図を受ければ微笑んで
口遊む旋律とともに舞う雪の花弁に
彩鮮やかな桃色の其れも混じりゆく

吹く風と馨る華の加護が
あなたの力となりますよう


クラウン・メリー
ミラ(f27844)と


俺は君のために花を咲かせた訳じゃないよ?

そこにはミラへの想いぎゅっと詰まってて
ミラといっしょに楽しい気持ちも
嬉しい気持ちも分かち合えたからこそ
咲かすことが出来たお花なんだ!

うんうん、ミラのためなら何度だって咲かせてみせる!
だって想いは変わらないからっ

――それに、苗床があるからこそ
綺麗な花が咲かせられるんだよ!

今日のパフォーマンスはゼラニウムを交えた花吹雪
お花さん達もいっしょに戦おう!

花が君の目を遮り俺は黒剣を振る
妖刀を押さえることが出来たら合図
もし、ミラが攻撃されそうなら受け止めてみせる
守りたい気持ちはいっしょ

ふふー、君は一番綺麗なお花を知らないんだね?
教えてあげないっ



 結界を抜けた先は、先ほどまでと変わらない美しい景色が続いていた。僅かに広けてはいたが、舞い踊る薄紅も、真白い岩が成す渓谷も、萌え出づる新緑も目に鮮やかなまま。それなのに、絵画のような風景の真ん中にぼとり、と落とした墨の黒が、調和を乱すように佇んでいる。
「ああ、素晴らしい花を咲かせたね。私の為に、苗床をご苦労様」
 麗しい仙人が、涼やかな声で零すのは傲慢な言葉だけ。花が欲しいと寄越す視線も、ふたりを見つめているようで、芽生えた花しか映していない。聞く耳はなく、欲のままにすらりと妖刀を抜く姿に、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)がきっぱりと拒否の言葉を放つ。
「俺は君のために花を咲かせた訳じゃないよ?」
 芽吹き咲き誇るふたつの花は、繋いだままの手をすっぽり覆うほどに育っている。。いまいちど指先にそうと力を込めて、ミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)も首を振って嫌だと示す。傍に居てくれるよろこびやしあわせを源に、この花は美しい顔を見せてくれた――だから。
「クラウンさまへの想いの花を、この子達を手折ることなどさせません…っ」
 強く決意を込めた声に、クラウンも微笑みながらうん、と頷き指先のあたたかさをぎゅう、と大事に握りしめる。
「この子たちにはミラへの想いぎゅっと詰まってて、ミラといっしょに楽しい気持ちも嬉しい気持ちも分かち合えたからこそ、咲かすことが出来たお花なんだ!」
 ――その言葉を以て、決別は見えた。皮肉にも欲した花は、咲かす糧を理由に自らの手元に渡らないと知って、翠醒が柳眉を顰めて溜息をつく。
「…構いません。素直に譲る気がないのなら奪うまで。野菜や果実と同じことだ。実ったのなら、苗床から根ごと引き抜けばいい。そこに収穫物の是非なんていらない」
 冷静に、冷徹に。人を替えのきく苗床と言って捨てる様に、最早会話の余地は見えない。妖刀を以て手にかけることを厭わないだろうその姿に、緊迫が走る。けれど、相対しても揺らがないものが、ここにはあるから。
「…もし、奪われてしまったとしても、枯れず尽きることのない想いで、何度でも咲かせてみせますから」
 僅かに見せた震えを、自ら告げる言葉で宥め、クラウンへと微笑んで見せる。未だ不安はあるだろうに、それを見せず鼓舞を口にするミラへ、クラウンもまたとびっきりの笑みで応えてみせた。
「うんうん、ミラのためなら何度だって咲かせてみせる!だって想いは変わらないからっ。それに――」
 つないだ手はそのままに、もう片方の手で振り上げるのは黒い剣。それを空中高く放り投げれば。
「――それに、苗床があるからこそ、綺麗な花が咲かせられるんだよ!」
 言葉を引き金に、パッ、と頭上で花びらへと変わる。舞うのは髪に添うのと同じく、フリチラリア。でも今日はとっておきのゲストもお招きして、共に躍るは腕に咲くゼラニウムたち。
「お花さん達もいっしょに戦おう!」
 パフォーマーの指先一つで、花たちはともにひらりと回りながら翠醒へと迫る。その彩りの美しさが、楽し気なダンスが、想いの果てに生まれた一つの情景だとしたら、それはなんて――しあわせな事だろう。
「――そう、ね。苗床が潤っているからこそ、可憐な華を咲かすことができるの」
 見惚れたミラが、ぽつりとつぶやく。向けてくれた想いが、こんなにも花開いてくれたことが嬉しい。愛しいと思う気持ちが、これほどまでに花を育ててくれたというなら、きっと、何処まででも駆けていける。
「ですから、わたしの大切なこの方を傷つけることはゆるさないわ」
 覚悟一つですぅ、と息を吸い、花の指揮者へ目配せを送る。歌い手の準備が整ったとあれば、妖刀振るって花嵐に抵抗する翠醒へ、いっそう風を巻き上げ釘づけにして――パチン、と指を鳴らしてクラウンが合図する。

――Lala,la ♬

 響くのは、聖なる夜を祝う歌声。ミラが口遊む旋律と共に舞う雪の花弁に、彩鮮やかな桃色の花びらも混じりゆく。浄化と希望を込めた音色は防ぎようもなく、花に遊ばれた仙人の心裡へ深くふかく刺さって、ようやくその膝を折らせた。
「ふふー、君は一番綺麗なお花を知らないんだね?」
 息も荒く跪く翠醒へ歩み寄り、花風を纏うクラウンが問いかける。
「一番、綺麗…?それはいったい…どれのことを、」
「ダーメ――教えてあげないっ」
 答えを取り上げて悪戯っぽく笑いながら、クラウンの見つめる先には――甘やかに唄い続けるミラの姿があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【鏡酒】アドリブ◎
●左目が見えず
東方親分戦で左腕負傷。治りかけ

花に随分とご執着のようだがテメェにこの花達は似合わねェよ
特にディオが咲かせた花はなァ

(彼の花は彼だけのいろではないから
思い出に等しい其れは、)

俺の花はこれまで出逢った仲間達との軌跡
この痛みさえ譲る気はねェ(全部受け止めてこそ
そう簡単に摘み取らせるかっての

左目の紫紺野牡丹の紫色が鮮やかに肥大
紫苑や泡沫の桃花に花弁が変化し激痛走る

ちィ…左側を突かれると対応出来ねェかもしれねェ
カバー頼めるか

前衛
右手で剣持ち左手は添えて
玄夜叉に炎属性宿す
ディオの悪魔の力を上乗せ
距離取り敵の攻撃に触れず
UC使用
派手に暴れる
猛毒効果与え動き鈍らす
一気に畳み掛け


ディオ・マンサニー
【鏡酒】アドリブ歓迎


…随分とまあ、無粋な輩よ。
花が咲いたのはお前のせいだが、はいどうぞと素直に渡すと思うか?
これは吾人のだ。吾人の愛してやまない黄金よ。
なんて、ちょっぴりおこな吾人だぞ。
もちろんクロウの花も渡す気ないのだ、諦めよ。

UCで悪魔達を召喚。クロウの大剣に纏わり付かせて支援。
よいぞ、お前たち。存分に振るわれてこい。
視線のUC対策にサングラス…効くのか?小さな光源で目眩まし等の方が効果的かも。
左側…花の咲いている方だな。重点的にカバーしよう。

呼び出した悪魔達で徹底的に支援、補佐。



――花が欲しい、花をおくれと、まるで童のように仙人が手を伸ばす。

 真白の渓谷に、美しい情景に、ぼたりと零した墨のような黒。見た目ばかりは麗しく、微笑み湛えてこちらを見つめている。だが実際にかの瞳が映しているのは花ばかり。苗床には興味がないと言葉を交わさずとも分かる在り様で、すらりと妖刀を抜いて立ち塞がる。これほど花に溢れた景色に立ちながら、それほど優美な容姿をしていながら、それはなんて。

「…随分とまあ、無粋な輩よ。」
 溜息と共に零しながら、ディオ・マンサニー(葡萄酒の神・f17291)が呆れた視線を投げてよこす。
「花が咲いたのはお前のせいだが、はいどうぞと素直に渡すと思うか?」
「随分とご執着のようだが、テメェにこの花達は似合わねェよ。特にディオが咲かせた花はなァ」
 ディオに同意するように、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)も眉をひそめてケ、と吐き捨てる。想いに根差すという花。それも隣立つ神が咲かせた花に、そのきらめく色に、どれほどの想いが、記憶が込められているか。それを知らしめるよにやわく胸の花に触れながら、ディオが愛し気に目を細める。
「これは吾人のだ。吾人の愛してやまない黄金よ。」
 それを解しようとも思わない奴には、ひとひらとてくれてやるつもりはない。
「それにもちろんクロウの花も渡す気ないのだ、諦めよ」
「俺の花は、これまで出逢った仲間達との軌跡だ。そう簡単に摘み取らせるかっての」
 数多の色宿し目に咲く花に、今までの歩みと仲間の顔をひとつひとつ重ね、笑みを湛えてクロウが剣を構える。これ以上の対話は必要ない――そう告げようとした瞬間。ぶわ、と音に聞こえそうなほどにクロウの左目の花が開きだす。肥大する紫は、その花弁を紫苑に、桃花に、泡沫の如く移ろいながら激痛を刻んでいく。
「ぐ、う――――!」
「クロウ、無事か!?」
 思わず屈んで左手を地面につこうとして――だらん、と力なく腕が下がった。だが転ぶ前にディオが咄嗟に支え、瑪瑙の淵より呼び込んだ悪魔をつっかえに差し出す。花咲く瞳の痛みは濃く、先の戦争で一度失った左腕はまだ戦闘に耐えるほど回復していない。それでも、ふるりと一度首を振れば、クロウの顔に浮かぶのは笑み。左目の痛みはきっと、何もかも守りたい欲張りの証で。左腕の伝える痛みは、東方親分と正真正銘、全力を尽くして戦った末の置き土産だ。なら、全部全部受け入れてやる。この痛みすらも、誰かに預ける気などない。それで敵を穿つに力が足りないというのなら、借りればいい。花がある、想いがある、そして今ここにはディオがいる。ひとりではない。
「ちィ…左側を突かれると対応出来ねェかもしれねェ。カバー頼めるか」
「左側…花の咲いている方だな。わかった、任せてくれ」
 一も二もなくディオが頷けば、呼び出した悪魔たちが心得たようにその形を変じていく。花には一つ目の悪魔が添い、左手には悪魔がくるりと尻尾を巻き付け支えるように。そうして改めて構えを見せれば、眺め見ていた翠醒が嘲笑うように肩を揺らした。
「は、はは、随分苦しそうだね。止めを刺して楽にしてあげようか?」
「ほざいてな。今の俺は――テメェなんかに負ける気がしねェ!」
 咆哮と共に疾く駆けて、手にした大魔剣――玄夜叉に纏わせるのは炎の力。きしくも鍔ぜり合う翠醒が妖刀に纏わせるのは同じく炎。巻き上げ、爆ぜて、圧倒的な熱量を吐きあいながら続いた剣舞は、同時に放たれたユーベルコードにより一層その熱さを増す。クロウの炎から発せられる沈丁花の香りは翠醒の口から血を吐かせ、翠醒の放つ炎が僅かにクロウの頬を掠めれば、妖刀に吸い込まれそうな心地が襲う。だが、その瞬間ズキリ、と一層強く目が痛みを訴えた。――まるで魅了を吹き飛ばすかのような激痛。身を蝕みながらも今確かに助けられたことに、思わずクク、と喉で笑いクロウが剣を構えなおす。翠醒もそれを見て身を起そうとして、その腕がとうにクロウの身から離れた悪魔に捉えられていたことを知り、青ざめる。
「クロウ、今だ!」
「ああ、ありがとなディオ。――これで終わりだッ!!」
 纏う炎を豪、と猛らせる。まるで金の花びらを思わせる火の粉を降らせながら、クロウが必殺の一撃を振り下ろした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ】○
景色は綺麗なのに不穏だぁ…
このお花って、抜かれたらどうなるんだろう?
痛かったら嫌だな
大丈夫、私のも英のもあげる気ないよ
今日はなんだか冴えてる気がするの(虹霓をふりふり)
うん、いい絵が描けそう

そんなにお花が欲しいなら、こっちをあげる!
地面いっぱいに大輪の花を咲かせて駆ける
普段よりちょっぴり筆がよくはしるのが楽しくて、でも調子に乗らないよう
魅惑の視線は頑張って抵抗する
美形は見慣れてるんだから…!(言い聞かせ
間に合わない攻撃は英にお任せ
残念でした、私よりこの子の方が強いんです
守ってあげたいとずっと思ってるけど、本当は私より強くて頼もしい
英、やっちゃって!
生み出される花嵐は、うんと美しい


花房・英
【ミモザ】○
寿、下がって
庇うように一歩前に出る
痛いかもな、でも抜かれないようにすればいい
寿の言葉に小さく頷いて
調子がいいのはいいことだけど
前、出過ぎないでよ

相変わらず楽しそうに描くなと思いながら
無銘を構えて地を蹴る
寿の動きを補助するように立ち回る
相手からの攻撃は、クロでエネルギーの盾を展開して庇う
前に出すぎるなって言っただろ
俺の事を自分の事のように自慢げに言うからため息をつくけど、嫌じゃない
認めて貰えてるみたいで、本当は嬉しい
俺に出来ることなんて大してないから、せめてこういう時に力になりたい
言葉にできない分まで武器を花弁に変えて、翠醒を飲み込む

さようならは、こっちのセリフだから



 花舞う中を、奥へ奥へ。結界のぱちん、とはじけた先は、未だ美しく変わりない風景を湛えていた。けれどその薄紅の花に、真白の岩に、萌ゆる新緑に見合わないのは、真ん中にぽとり、と落とした墨の様な黒。――異端の仙人、翠醒の姿。
「わざわざこちらまでご苦労様。さぁ、あとは花だけあればいいので苗床には消えてもらいましょうか。」
 声のトーンはまるで世間話でも興じている気軽さなのに、内容があまりにもきな臭い。周りの美しさとの不和に、うわぁ…と残念そうに太宰・寿(パステルペインター・f18704)が眉を寄せた。
「景色は綺麗なのに不穏だぁ…」
「寿、下がって」
 向けられる敵意にいまいち危機感の薄い寿を庇うように、花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)が警戒心をあらわに前に出る。
「このお花って、抜かれたらどうなるんだろう?痛かったら嫌だな」
「痛いかもな、でも抜かれないようにすればいい」
 この種の構造はまだよくわからないが、根は如何にも体深くにある気がする。ならそれを抜くのに無痛というわけにはいかないだろう。それと――花を渡して済むなら、と考えてはいないかと思わず心配と釘差しの気持ち半々で英が視線を投げれば、察したようにふ、と笑って寿が首を振る。
「大丈夫、私のも英のもあげる気ないよ。それに今日はなんだか冴えてる気がするの」
 そういって構えたモップサイズの絵筆――虹霓を数度ふれば、いつもより取り回しが軽い気がして口の端が上がる。
「うん、いい絵が描けそう」
「調子がいいのはいいことだけど。前、出過ぎないでよ」
 描きながらうっかり敵の前に出られたら困る、ともう半歩映が踏み出しながら言葉をかけると、ハァ、と待ちかねたように翠醒が溜息を吐いて妖刀を抜き放つ。
「今世への別れは済んだかな?ならそろそろ――花だけ貰って然様なら、といたしましょうか」
「…そんなにお花が欲しいなら、こっちをあげる!」
 そう言って先に動いたのは、寿。筆を振るって地面に描くのはアザレア、鈴蘭、朝顔、紫陽花、そしてミモザ。季節も色も飛び越えて、地面を花でいっぱいに咲かせ駆け抜けていく。普段よりちょっぴり筆がよくはしるのが楽しくて、でも調子に乗らないように――と思ったのに、気づけば翠醒の視線が届く距離に、いて。
「寿っ!」
 けれど振り下ろされる妖刀は、ガキン!と硬質な音を立てて弾かれる。英が突きだした拳にエネルギーの凝縮させた盾が光り、目論見の外れた翠醒がチッと舌打ちをする。相変わらず楽しそうに描くな、と思ってたらこれだから、寿からは目が離せない。
「前に出すぎるなって言っただろ」
「ご、ごめん…でも残念でした、私よりこの子の方が強いんです」
 そうやって敵にまで自分の事のように自慢げに言う姿に、思わずため息をついてしまうけど、嫌じゃなくて。認めて貰えてるみたいで、本当は嬉しいと思っているのに、まだ素直には伝えられない。だからその分行動で示そうと、構えた無銘を素早く振るい、寿と翠醒の距離を広げさせる。一歩、二歩、と力強く踏み込みながら、翠醒の鋭い斬撃にも対応していく姿は、傍目にも十分な実力が伺える。なのに、睨み据える英の瞳には、僅かに引いたような色が宿っていた。

――俺に出来ることなんて大してないから、せめてこういう時に力になりたい。

 “なんて”“せめて”。気づけば自然と浮かんでしまう、そんな言葉たち。けれどその、ともすれば卑屈にも見える想いを掬い上げるように、淡い光を纏った花がふわり、と英の視界一杯にひろがった。地面から剝がれ、色鮮やかに自由に舞う花たちの姿は、力強く吹き上がって英を前へと進ませる。

――守ってあげたいとずっと思ってるけど、知ってるよ。
貴方が私よりずっと、強くて頼もしいこと。

「英、やっちゃって!」
 込めた想いは花開き、今、寿の声を引き金にして届けられた。
「さようならは、こっちのセリフだから」
 いつだって、後押ししてくれるその声に、花たちに応えるように、英もまた自らの武器を花と転じて――大きくまき上げた。

――英と寿。二人分の想い乗せた花嵐が、美しく舞いながら翠醒の姿を呑み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼


この花は、わたくしたちの大切な思い出
決して何処の馬の骨とも知れぬ輩のためじゃないわ
まして、己の欲望の為に人の命を踏み躙るならば
わたくしたちが決して許さない

ヴォルフを庇った翼に走る、龍の形した禍々しい力
身を苛む激痛を、カランコエの花々が防いでくれる
彼と結んだ絆の証、決して散らせない
翼に力込め、覚悟を決め耐え抜いて

歌う【涙の日】
天からの慈雨が大地を潤し花を育てるように
そして怒りの奔流が邪悪な者共を押し流すように
聖なる光よ、降り注げ
ヴォルフに癒しを、敵に神罰を

わたくしの心は、貞節は、愛する夫一人に捧げた
決してお前のような下郎の好きにはさせない
花の、人の尊き命、仇に散らせるものか


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼


私欲のために人を陥れ、殺めた果ての犠牲に綺麗も汚いもあるものか
貴様のような外道の戯言には本当に反吐が出る

四方から襲い掛かる炎を、ヘルガに向かう流れ弾まで全て庇い受け止めて
自ら貴様に斬られたいとは思わんが、彼女が斬られるぐらいなら
俺が全てを代わりに受けて傷つく方が遥かにマシだ

それでも完全な狂気に陥らずにいられるのは
きっとこの胸の花の加護
この想いだけは決して散らせはしない

俺が庇いきれなかった龍の仙力に必死で耐え抜くヘルガの苦痛
彼女の代わりに受け止めた炎の呪い
そして今まで無残に殺された人々の無念
全てをこの剣に込めて貴様を斬る

人の道を外れし鬼畜め
命を踏み躙る貴様に花を愛でる資格はない
消えろ



――花をおくれと、仙人が言う。

 既にいくつも苗床を“無駄”にして、なお見ぬ花を搔き集める。愛でて飽きた花は苗床と同じように打ち捨てながら、その心には微塵も罪悪感など宿らない。ただ欲するだけ、ただ慰めるように愛でるだけ。欲しがるばかりの童のような男が、こうしてまた、新たに現れた苗床に咲く花へ手を伸ばす。それが、ふたりの逆鱗に触れるとも知らず。

「――この花は、わたくしたちの大切な思い出」
 そっと身に咲いた花のあたたかさを感じながら、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が言葉を紡ぐ。
「決して何処の馬の骨とも知れぬ輩のために咲かせたものじゃないわ」
 いつもは柔らかく慈しむような声音が、今は強く拒絶の色を表している。並び立つヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)も、その言葉に同意するように頷いて、翠醒へ強い軽蔑の眼差しを向ける。
「私欲のために人を陥れ、殺めた果ての犠牲に綺麗も汚いもあるものか。…貴様のような外道の戯言には、本当に反吐が出る」
 既に一体何人を手にかけたのか。何かを想う心を持たず、その癖愛でる花だけは欲しいなどと宣う心根は、余りにもさもしく醜い。
「己の欲望の為に人の命を踏み躙るならば、わたくしたちが決して許さない」
「…ならば、許しを請うよりも焼き払ってしまう方がよさそうだ。花はまぁ、多少燃えるだろうけど、死体から摘んでいくとしよう」
 あまりに傲慢な言葉に、ヘルガが怒りで身を震わせる。それをせせら嗤うように翠醒が妖刀を抜き放つと仙力を龍へ、炎へと代えて襲い掛かからせた。
「…やらせるか!!」
 叫びながら、ヴォルフガングがヘルガの前へと庇うように立ちはだかる。四方から迫る炎を、ヘルガに向かう流れ弾まで全て庇い受け止めて、それでも尚膝を付くことなく前を見る。斬られたいなどとは微塵も思わないが、ヘルガが斬られるぐらいなら
全てを代わりに受けて傷つく方が遥かにマシだ。そして注ぎ込まれる魅了に狂わず居られるのは、きっと胸に咲いた花の加護だと思えて。今一度翠醒へと踏み込もうとして、耳に届いた声に振り返った。
「う、くっ…!」
「――ヘルガッ!」
 その声で、ヴォルフガングは初めて知った。自らがヘルガを庇ったように、ヘルガもまたヴォルフガングの死角から迫る一撃を阻もうと、翼を伸ばしていたことを。
「なぜこんなことをっ…!」
「…言ったでしょう、もうわたくしは、庇われてるばかりではいられないと。今こそ貴方と共に、前へと進むの」
 力なく俯いた雛鳥はもういない。此処に居るのはどこへでも羽搏ける白鳥で在り、何よりも愛しい騎士の伴侶だ。その想いと覚悟を糧にしたように翼のカランコエが咲き広がれば、痛みが緩やかに引いていく。重ねて歌を紡げば、

――天からの慈雨が大地を潤し花を育てるように
怒りの奔流が邪悪な者共を押し流すように
聖なる光よ、降り注げ
ヴォルフに癒しを、そして敵には――神罰を

 祈るような歌はまばゆい光を伴って、ヴォルフガングの火傷をひとつひとつ癒し、今一度炎を放とうとした翠醒へは刺し貫く聖光を降り注がせる。そのヘルガの姿の、なんてうつくしいことか。この花を手折ろうというのなら、この身はいかなる悪をも断って見せる、とヴォルフガングも決意を元に翠醒へ向き直る。

――俺が庇いきれなかったヘルガの苦痛
彼女の代わりに受け止めた炎の呪い
そして今まで無残に殺された人々の無念

 今まで翠醒が与えてきた悲劇、その全てを込めて、ヴォルフガングが天高く剣を振り上げる。
「人の道を外れし鬼畜め。命を踏み躙る貴様に花を愛でる資格はない」
「決してお前のような下郎の好きにはさせない。花の、人の尊き命、仇に散らせるものか」
 想う心を、見据える先を一つに束ね、業火はより猛々しく燃え上がる。
「――消えろ!」

 天使の齎す神罰を、狼王の下す裁決を前に、翠醒の炎は――あまりにも、無力だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀


この花を素晴らしいと仰って頂いてありがとうございます。
ですが花弁一枚すら貴方に差し上げるつもりはありません。

UC【神使招来】使用
ウカ、ウケ、私は皆が怪我をしないように結界を張ることに集中します。
ですから私の代わりに、翠醒の相手をお願いしますね。

翠醒が反撃を開始しようとしたら月代、衝撃波を!
衝撃波で桃花と共にライラックの花弁で花嵐を起こして翠醒の視界を塞ぎ気をそらすのです。
みけさん、ウカとウケを援護すべく後方からレーザーで砲撃をお願いします。
花嵐とレーザー射撃を同時に放ち翠醒の反撃の隙を与えるのを防ぎつつ狙うのは態勢を崩させること。
態勢が崩れたら、ウカ、ウケ、一気にたたみかけますよ!



――花が欲しいと、仙人が手を伸ばす。

 種をまいては苗床を拱いて、辿り着けば花だけを刈り取り捨ててしまう。そうして幾何か眺めた花も、飽いては棄ててまた次を求める。そんなことを繰り返し、今また目の前に現れた花にも笑みを浮かべ、乞うように手招くのだ。――美しい花をおくれと。

「この花を素晴らしいと仰って頂いて、ありがとうございます。」
 そんな翠醒の傲慢な物言いに対して、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)が述べるのは、礼だった。けれどぺこりと下げた頭を上げた時、その瞳に宿っているのは強い拒絶の色。
「ですが花弁一枚すら貴方に差し上げるつもりはありません。」
 想いに根差し咲いたライラック。友との絆示す、誇りと友情の花。それをただひと時愛でる為に差し出すことなど、出来はしない。
「それは残念、では奪い取ることにしましょうか。」
「それもさせません。――『猛き者達よ 深き眠りから目覚め 我と共に闇を祓う力となれ』」
 妖刀を抜き放ち微笑む翠醒に対するよう、狐珀が厳かに祝詞を口にする。それに呼応するように現れたのは、豊穣の名を取る二体の狐たち。
「ウカ、ウケ、私は皆が怪我をしないように結界を張ることに集中します。ですから私の代わりに、翠醒の相手をお願いしますね。」
 信頼を込めて微笑みかければ、任せろと言わんばかりに二匹が疾く駆けていく。ウカが大気を利用して鎌鼬を起こせば翠醒が妖刀で薙ぎ払い、炎を巻き起こせばウケが結界をはって熱波を防ぐ。幾度か続いた攻防の末に、焦れた翠醒が全てを巻き込むように仙力を龍へと昇華させた、その瞬間。
「月代!」
 狐珀の声に合わせて、名を呼ばれた月白の竜が衝撃波を放つ。竜と龍、互いに鬩ぎ合わせる力は互角。しかし狐珀がライラックを織り交ぜた花嵐で翠醒の視界を奪えば、拮抗したバランスは崩れて月代の衝撃波が龍を打ち破る。僅かによろめきつつも、いまだ油断なく妖刀を構える翠醒が、次々と放たれる攻撃に苦さの混じる言葉を吐く。
「く、…随分味方が多いようで」
「ええ、皆自慢の子です。それに、これで全員ではないですよ。…みけさん!」
「…何っ!?」
 ついで呼ばれるのは多尾狐の姿をしたAIロボット。飛び上がるや否や繰り出すのはまばゆいレーザー。未だ止まぬ花嵐の中で放たれる光速の攻撃は避けるに難しく、再度仙力を繰り出そうとするも間に合わずに数発が皮膚を焼き、そしてついに翠醒に膝を付かせた。――体勢は崩れた。ならば好機はまさに、今。
「ウカ、ウケ、一気にたたみかけますよ!」
 改めて前衛に付かせていたウカとウケに指示を出し、起き上がるより早く二体が喰らい付けば――勝敗は、狐珀へと軍配が上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花天】☆
さて、良い話の種にはなったが――そーだな
いけすかない野郎なんぞに花を呉れてやるなんて御免だ!
無粋な輩にこそ、散って還ってもらおーか

早業でUC放ち先制攻撃
属性は麻痺齎す毒と目潰しの闇に絞り
手元や目元へ乱れ打ち
妖刀の武器落としや仙術の阻害を

序でに二人のUCの影に風切混ぜて飛ばし2回攻撃
癒しを拒み身を蝕む呪詛仕込み
眠り落ちても回復されないよう援護
二人して凄まじい花吹雪で、とことん華やかだな!

敵所作は確と観察し見切りも図る
花吹雪の中に残像も混ぜ撹乱し、標的定め難いように
それでも光走れば、二人に刃向ける前に――自らに闇属性UC突き立て相殺

見目はアレだが、ま、コレは大事な花なんでな!(開き直り)


永廻・春和
【花天】☆
豊かな土壌も、爛漫の花盛りも、仲間あってこそのもの
手折り絶っては、忽ちに色褪せましょう
この花は、共に培い育んできた日々の象徴――まだまだ伸ばし行けるよう、魔の手は払い除けましょう

私は守りに重きを
破魔と浄化の霊力を花型の折紙や霊符へと
其等を周囲に舞わせ、妖刀や仙術に抗うオーラと結界術を展開
その上で仙力走る気配あれば、傷付く前に、傷付ける前に――退魔刀で力の流れを断つか、榊で祓い除け、浄めに

余裕あれば攻勢に転じUC
花吹雪で目眩まし掛けると同時、一瞬の眠りに誘い、敵の手が緩む隙を、お二方の攻撃の機を
――この身に咲いた花の代わりに、せめても手向け花を送りましょう

ふふ、益々見事に華やぐようで


白姫・綾絲
【花天】☆
話の種から更に話に花を咲かせるも一興
(呉羽さんは相変わらずですねと一瞬笑って)
ええ、花盛りはまだまだ――此処で土に還る訳には行きません
此処で摘み取るべきものは、災いの芽のみです

呉羽さんに続きUCで花の嵐を
仲間は傷付けず、その身を眩まし守る一助に――敵のみを攻撃し、破魔の力で妖刀や仙術を僅かでも抑えられるよう援護を重ねて参ります
それに加え、敵の攻撃が飛ぶ際は退魔刀で切り払い、皆で傷付け合わぬよう、助け合って凌ぐように連携を
はい、お望みの花は差し上げられませんが、代わりの餞は盛大にと

(開き直りや助け合いの間に、また花が元気に綻び――つられて笑顔も綻んで)
身も心も良き花の彩で満ちる様ですね



――渓谷に、明るい笑い声が響く。

 まさに話と花を咲かせ、笑い綻び歩く三人姿は景色も相まって水墨画のような穏やかさだ。なのに、最奥へとたどり着いたそこには、ぼたり、と零した墨のような黒が、ひとり。それぞれに咲いた花だけを目にとめて、苗床は要らないと言い棄てて、乞うように手を伸ばすのだ。

「さて、良い話の種にはなったが――一先ずここは、中断かな」
 残る名残惜しさを切り替えるように一度瞬いて、呉羽・伊織(翳・f03578)が笑みを刷いたまま翠醒を見据える。
「ええ、花盛りはまだまだ――此処で土に還る訳には行きません」
 もう少し話に花を咲かせるも一興だったかな、なんて揶揄い込めた言葉には、伊織から飛んでくる批難の視線に、笑って冗談ですよと返して。白姫・綾絲(素心若雪・f22834)もまた対する敵へと気を引き締める。
「豊かな土壌も、爛漫の花盛りも、仲間あってこそのもの。手折り絶っては、忽ちに色褪せましょう」
 共に和やかに話弾ませていた永廻・春和(春和景明・f22608)も、無遠慮に花を奪おうとする敵を前にしてはさっと身構えながらも、自らに、そして2人の友に咲く花を見れば、少しだけ目元を緩めた。
「この花は、共に培い育んできた日々の象徴――まだまだ伸ばし行けるよう、魔の手は払い除けましょう」
「ええ、此処で摘み取るべきものは、災いの芽のみです」
「そーだな、いけすかない野郎なんぞに花を呉れてやるなんて御免だ!無粋な輩にこそ、散って還ってもらおーか」
 皆想いはひとつと重ね、改めて翠醒へと向き直れば、残念だな、という言葉と共に
翠醒が妖刀へと手を掛ける。だがそれを振り抜くより早く、先行を掛けるのは伊織の闇に染まる暗器。投げると同時に付与するのは変幻自在の幻惑、中でも麻痺を齎す毒と目潰しの闇に絞ったもの。掠りでもすれば効果は必須のそれを、翠醒がいともたやすく仙力込めた斬撃で退けていく。だが、それは未だ様子見の一手目。綾絲も攻勢に続こうと、ふわりと鈴蘭の嵐を呼び起こす。僅かに混ざる薄紅は、その身に咲き添う花の一助か。いつもよりも苛烈に華やかに舞って、続く二投目を放つ伊織を後押しする。先より早く、それも破魔の花嵐纏って迫る暗器は避けるに難しく、今度は右足、左腕と掠めて翠醒が悔し気な舌打ちを見せた。そして防戦一方は性に合わない、とでもいうように、高く振り上げる妖刀から溢れるのは、炎。仙力相まって豪、と音に聞こえる程猛り狂い、未だ立ち位置の近い三人をまとめて焼き払うように奔らせた。――だが、それもあと1歩のところでふ、と息を吹きかけられた蝋燭の如く消える。二人を背に一歩前へ出たのは春和。既に周囲へ施した結界術に加え、重ねるのは榊による祓いと清め。悪心以て放たれた炎は春和の守りの前に、いともたやすく掻き消えた。

――攻めに支えに守り。
互いに助け合い支え合い向かっていけば、敵を前にしてこうも心が凪いでいる。
恐れはなく、怯えは見えず。
重ね合う力を言祝ぐように、桜が、梅が、蒲公英が咲き誇って皆を鼓舞していく。

「身も心も、良き花の彩で満ちる様ですね」
「ふふ、益々見事に華やぐようで」
「見目はアレだが、ま、コレは大事な花なんでな!」
 更に増えていく互いの花を見て、火の粉舞う中にも自然と三人に笑みが浮かぶ。その様子を目潰しの闇で欠けた視界から、羨み混ぜた虚ろな目で翠醒が覗き込んだ。
「ああ、更に咲き誇っていく――素晴らしい。さぁ、はやくその花を、私に」
 おくれ、と手を伸ばす代わりに、放たれるのは龍の斬撃。何もかもをかみ砕き進む鋭い攻撃も、今や辺りを埋め尽くすほどに舞った花吹雪が行く手を阻み、咢が誰にも届くことなく閉じられ消える。
「――この身に咲いた花の代わりに、せめても手向け花を送りましょう」
「はい、お望みの花は差し上げられませんが、代わりの餞は盛大に」
「二人の花吹雪で、とことん華やかだな!なら、俺からも最後に一つおくろうか」
 鈴蘭を咲かせ、桜を舞わせ、百花繚乱の景色の中、真っ直ぐに暗器が放たれる。

与えられるのは癒し無き眠り。その淵から目覚める前に――黒い刃が深く穿たれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェルゥカ・ヨルナギ
【花面】

ねぇエンティ
違う、だなんて
鬼殿への想いを無理に否定しなくていいと思う
…大丈夫だよ
嬉しい事や楽しい事はこれからもきっと沢山ある
だって一緒に遊んでくれるでしょ?
鬼殿よりも幸せな時間や沢山の思い出を俺と経験しよう
…だから、否定しなくて大丈夫
君の、気持ちだもの

何…何をしてるのエンティ…
まさか鬼殿を意識したから?
だめっ…!
エンティへ向かう妖刀を左腕で受ける
いやだ。君は生きると言った
抱きしめられても、鮮血の様な花弁の奥、
仙人へ視線を定めたまま。君を守れるように
怪我は…治すよ
治癒が働くよう意識は自分達へ

信じて、の声で少し安心して
けれど
溢れるミモザは鬼殿と、そこから死を連想させる
信じるから、どうか――


エンティ・シェア
【花面】

誤解を解きたい、けど
打ち明けるほど、自覚もない
…シェルゥカ。後で、ちゃんと話そう
一先ずはあれを、片付けないと

真の姿猫版をに化けて
華焔で魔力の花を編んで、腕の花に混ぜておこう
花がほしいのなら、取りにおいで

妖刀に斬られたいような気持ちには素直に従う
花を触れさせる機だと、足を止めて腕を差し出す
けれど
目の前で赤が散って
思わず、庇うように抱きしめた
シェルゥカ…!怪我は、ない…?
君が傷つくのは…いやだよ

…ねぇ、シェルゥカ
自死を願った私は、『生まれ変わった』んだ
そう易々と身を捧げたりはしないとも
信じて
隠せないほどに育ったミモザと共に、敵には魔力の花吹雪を押し付けよう
お返しだ
炎に巻かれて、燃えてしまえ



 花舞う結界の奥の奥、少しずつ開けていく道をふたりな並びながら歩いていく。暫し続いた気まずい無言を先に破ったのは、シェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)のほう。
「ねぇエンティ」
「…なんだい?」
 訊ねるエンティ・シェア(欠片・f00526)の声は、僅かな不安を混ぜていつもより少しか細げに響いた。
「違う、だなんて。鬼殿への想いを無理に否定しなくていいと思う」
「あの、それは…」
「…大丈夫だよ。嬉しい事や楽しい事はこれからもきっと沢山ある」
 未だエンティに対して図り切れないことはあっても、これだけは確かに言える、と言葉に籠めてシェルゥカが告げる。
「だって、一緒に遊んでくれるでしょ?鬼殿よりも幸せな時間や沢山の思い出を、俺と経験しよう」
「それは、勿論。望むところだとも。でも…」
「…だから、否定しなくて大丈夫。君の、気持ちだもの」
「……――シェルゥカ。後で、ちゃんと話そう。」
 向けられた優しさは嬉しい。これからを語ってくれた先が、待ち遠しい。それなのに、混ざった誤解が棘のようにささくれて、チクチクと小さな痛みを残す。

――羊へ宛てた想いじゃないのは、確かだ。
でも、君への想いがまだ、自分でもわからない。
好きだと思う、共に居られて嬉しいと思う。
それでも揺れ動く色が淡くて、まだつかめない。

 だから、この場で悩むのは暫し諦めて、ゆぅらりと姿を変える。靡く黒髪に、焦げた着物の端、耳と尻尾は猫のもの。花纏う“私”へと変じて。
「一先ずはあれを、片付けないと」
 ――敵を倒す、その目的に向けて意識を集中させた。

――薄紅の花、真白の岩、新緑の緑。美しい景色を引き裂く様な、黒。

 ぷつりと結界の切れた先に現れたのは、美しい風景画にぼとり、と垂らされた墨の様な仙人の姿。見目は麗しく映っても、浮かべる笑みが、すらりと抜き放つ妖刀が、剣呑と異端を際立たせる。
「ああ、苗床のご到着だ。それにしても…ふふっ、随分咲かせたね?刈り甲斐がありそうだ」
 ふたりへと視線を向けているようで、瞳が映しているのは芽生えた花ばかり。ならば欲するままに溺れればいいと、華焔で魔力の花を編み上げ、腕の花へと混ぜ込み――前へ伸ばした。
「花がほしいのなら、取りにおいで」
「何…何をしてるのエンティ…」
 差し出すように晒された腕に、シェルゥカが驚き声をかける。けれどそれには取り合わず、誘うようにいっそう花を咲かせれば、目論見通り翠醒が地を蹴って駆けてくる。
「殊勝で良い心がけだ。せめて痛みなく切り落として差し上げよう」
 先に届く炎が、妖刀に魅入られる心地を植え付けていく。それに抗うことはせず、一歩踏み出てそのまま妖刀を受け入れようとした、その瞬間。

――エンティ、まさか君は。
鬼殿を意識したから?なら、いけない。このままでは、“また”。

「だめっ…!」
 危機を覚えたシェルゥカが、勢いのまま翠醒とエンティの間に身を滑らせて――その身に真っ赤な花を咲かせた。
「シェルゥカ!」
 驚き声をかけるも、痛みに顔を顰めて返事は無い。更には目論見の外れた翠醒からの追撃が見えて、庇うようにシェルゥカを抱きしめながら咄嗟に腕の炎を猛らせ、距離を取るように後ろへと下がる。
「シェルゥカ…!怪我は…?ああ、こんなに血が…」
 抱きしめた腕が、しとどに濡れる血で重い。肩口の傷を見つけて痛ましそうに歪めたエンティの顔に、シェルゥカの手が伸びて、小さな声が届く。
「…いやだ。」
「シェルゥカ…?」
「君は、生きると言った。なのにあんなこと…」
「…ああ、そうだった。済まない。でも、君が傷つくのは…いやだよ」
「俺だってそうだよ。大丈夫、怪我は…治すよ」
 そう言って目を伏せれば、冥き天体が現れて回りながら癒しの力をあたりへと広げていく。それは怪我を負った自身のみならず、そばにいるエンティにも届くように。
「…ねぇ、シェルゥカ」
 治癒の働き癒えつつある傷へ、それでも労し気に手を伸ばしながら、エンティが微笑みを浮かべる。
「一度は自死を願った私だけど、今はもう『生まれ変わった』んだ。そう易々と身を捧げたりはしないとも。だから――信じて」
 静かに告げられる言葉は暖かく、ただただ真摯に訴えかけてくる。未だ溢れるミモザは鬼と、そこから溢れる死を連想させるけれど。信じて、と問いかけたエンティの言葉に僅かに安心した自分も、確かにあったから。
「信じるから、どうか――」
 ――続く想いは言葉にならなかった。けれどそれごと全て受け入れたように、エンティが頷いて立ち上がる。火の粉を払い態勢を立て直した翠醒へ向き直り、先よりもずうっと大きい炎の花を咲かせる。それは最早隠せないほどに芽生えたミモザをも巻き込んで、豪焔と化していく。

――先を約束してくれた君を守るために。
そして一緒に、と交わした約束を、守るために。
敵を斃して、帰るんだ。共に。

「お返しだ。炎に巻かれて、燃えてしまえ」

 ひいら、ひらり。舞う火の粉をまるで花弁のように散らせながら――豪、と迫る炎が翠醒の身を焼いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ


戦えないレディは、戦闘の前に安全なところに避難です。

この花は、あなたには差し上げられないんです。だってわたしの感謝も愛もこの子達へのものですもの。
それに、お別れするのはどちらでしょう。

だけど種を頂いたのは確かですから。
花がお好きなら、あなたにわたしからありったけの花を。
オルがなるべく安全に戦えるように《高速詠唱》した【白花の海】で《先制攻撃》、相手の動きを封じます。
シリウスは相手の間合いより外に居て、必要に応じて《不意打ち》でオルの援護を。

――ただ、咲いた花を大事に愛おしむだけでは満足できなかったんでしょうか。
届かない言葉の代わりに、最後は【燈花】を。
これがわたしに出来る、精一杯です。



――花をおくれと、仙人が手を伸ばす。手に咲いた花を指さし、美しいと誉めそやしながら、翠醒が手にするのは妖刀。話し合いでなく、譲られるでもなく、傷つける手段を以て花を得ようとする姿に、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)が目を伏せて首を横へと降った。
「この花は、あなたには差し上げられないんです。」
 声音は穏やかなまま、けれどはっきりと拒否を示した言葉を口にする。
「だってわたしの感謝も愛も、この子達へのものですもの。」
 そう言って愛しげに細めた目を、隣立つ仲間へと向ける。ウィルベル、オルトゥス、シリウス――そして戦いの場には向かないからと、奥の岩陰に潜ませたレディも、みんな。出会ったときの嬉しさを、共に重ね過ごした時間の楽しさを、この身が全部憶えている。両手の花がこんなにも美しく大輪として咲くなら、間違いなくこの記憶と想いに根差したものだ。なら、彼ら以外に手渡すことなんて、出来ない。
「それに、お別れするのはどちらでしょう。」
 その言葉を皮切りに、シャルファも臨戦態勢に入る。ウィルは杖へと変じて手の内に、低く唸り構えるオルには合図を待たせ、シリウスには先んじて中空へと移動を示した。
「種を頂いたのは確かですから。花がお好きなら、あなたにわたしからありったけの花を。」
 そう言って、招き寄せるのは白花の海。咲き誇る霞草の花畑、その幻影。高速詠唱により疾く広がるそれを目にした翠醒が、妖刀握るを僅かに緩める。それを逃さずオルトゥスが駆け出し爪で一閃すれば、動けないままに喰らって敵が足を退く。慌てたように仙力を龍の形と成し迸らせても、それは死角に入っていたシリウスからの、名の通り流星のような箒柄の一撃で角度を逸らされ、何にも当たらず消えてしまう。幻影でからめとり、黒豹が攻め立て、箒星が不意を打つ。繰り返される攻防の中で、徐々に翠醒が抗う術を失っていく姿を目に、シャルファが悲し気に顔を曇らせる。

――ただ、咲いた花を大事に愛おしむだけでは満足できなかったんでしょうか。

 此処にたどり着くまで、道端に咲き、樹々を染める花は美しかった。それを仲間と共に愛でれば、シャルファは十分に満たされた心地になった。なのに、今目の前の彼はどうして奪わずにおれないのか。問いかける声は届かず、また尋ねたとて、きっと応えは返ってこないのだろう。既にオブリビオンと化したものは、抱えた歪みを自ら正す術がない。ならせめて――還る為の導を、花として贈ろう。
「これがわたしに出来る、精一杯です。」
 花に満ちた幻影が、まるで海の如くに揺らめき波立つ。霞に紛れて星の花が、絆の花びらが舞い降りるその只中に立ち、夢に見た心地のまま――翠醒が目を伏せれば、とぷりと沈む様に消えて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【揺藍】⭐︎

円ちゃんの笑い声に笑い声を重ねる
なんておかしいんだろうね?

君の為のものじゃあないよ
咲いた花はぼくと、ぼくが秘める円ちゃんへの心
円ちゃん以外に触れて欲しくないもの

ぎゅうと繋いだ手に力を込める
だいじょうぶ、傍に居るよ

ぼく達を散らせるなんて、ちゃんちゃらおかしいね
やっつけちゃおうか

もちろん、いけるよっ
ふふふー2人でのんびり過ごそうね
その為に今頑張るんだよ
終わったら、この世界をいーっぱい堪能しよう

歌声に浸すは毒
その思考も、存在すらも、支配しちゃおうか
じっとして、円ちゃんの攻撃を甘んじて受けて
それは呪詛みたいに
んふふ、円ちゃん円ちゃん、綺麗なんだよ

溢れた勿忘の花
邪魔なんか、させないよ


百鳥・円
【揺籃】☆

おかしな事を言うんですねえ
ついつい笑い声が溢れてしまいます

――あなたのため、だなんて
この花は、わたしの内に潜む心のもの
この花は、“わたし”だけの想い

ぎゅっと手を繋いだあなたを見て
やわく微笑みを浮かべましょうか

花びらの一枚たりとも寄越しません
仙人だかなんだか知りませんけれど
わたしたちを散らすのは、まだ早いですよ

さてさて、行けますか?ティア
終わった後は、ふたりでゆっくりと過ごしましょ
この世界を堪能するのも良いですねえ

ひょいっと双翼で飛び立って
漆黒の仙人目掛けて黒曜の刃を放ちましょうか
ばびゅんっと登場、まどかちゃんですよっと

溢れた勿忘草は、あなたとの思い出の花
触れさせることさえ、させません



――花をおくれと、仙人が手を伸ばす。

 桃花舞う嵐を抜けて、真白の渓谷に待っていたのはぼたり、と垂らした墨の黒。
「おかしな事を言うんですねえ」
 あんまりにも見当はずれな“おねがい”に、百鳥・円(華回帰・f10932)がついくすくすと笑い声を零す。そして、ねぇ?と尋ねるように視線向ける先で、重ねるようにティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)も綿あめのような笑い声をこぼす。
「なんておかしいんだろうね?」
 いまだ瞳から零れる、涙のような勿忘草。それがどんな想いに咲いて、どれほど深く根ざしているか、そんなの誰にも分かりっこない。知っているのは自分だけ、そしてあなたにだけ向けるもの。
「君の為のものじゃあないよ。この花には、円ちゃん以外に触れて欲しくないもの」
 そう言ってつないだのとは逆の手を拾い上げて、ほろほろ溢れる涙を円へと手渡す。頬を摺り寄せるようなその仕草がいとしくて、かあいらしくて、目を細めながら円も胸のうちで思う。

――あなたのため、だなんて。
この花は、わたしの内に潜む心のもの。
この花は、“わたし”だけの想い。

 誰にも譲らない想いを鎖すように、ぎゅっと手を繋いだティアを見て、やわく微笑みを浮かべてみせる。そうすれば同じくらいにぎゅう、と手を握り返されて――だいじょうぶ、傍に居るよと囁きが耳に届く。ああ、それだけで、きっとどこまでも駆けていける。
「さてさて、行けますか?ティア」
「もちろん、いけるよっ」
「終わった後は、ふたりでゆっくりと過ごしましょ」
「ふふふー、この世界をいーっぱい堪能しよう」
「良いですねえ、水晶の谷もきれいでしょうし…では、あとの楽しみのためにも」
「その為に今、頑張らなきゃね」
 夢見心地に指先重ね、微笑み笑いあう目が、漸く翠醒へと向けられる。けれどその瞳は、先とは打って変わって冷めた色を帯びていた。
「花だけくれれば、悪戯に散らせたりはしないんですけどね。まぁ人に興味はないので、別に死んでも構いませんが」
 それでも傲慢な態度は崩さず、翠醒が妖刀を抜いて見せれば、改めてかぶせられるのはころころと転がるような二人分の笑い声。それだけで、“むりだよ”と込めた意が伝わってくるようで。
「花びらの一枚たりとも寄越しません。仙人だかなんだか知りませんけれど、わたしたちを散らすのは、まだ早いですよ」
「ぼく達を散らせるなんて、ちゃんちゃらおかしいね。やっつけちゃおうか」
 ――じゃあ、いくよ。開始を告げる合図もひそやかに、二人だけに伝わる目配せで紐解かれる。合わせるように円が背の黒翼をはためかせ、ひょいと地を飛び立っていく。空舞う姿をティアが綺麗だよと誉めそやしながら、次に口にするのは甘く溶けるような、歌。距離を詰める円へ斬撃振るう翠醒にその歌が届けば、まるで鉛の枷を嵌めたように動きが鈍っていく。耳から注がれる毒は蜜のように、一度耳朶に響いてしまえば抗う意志さえ溶かしていく。そうして右手の力が萎えれば手首に一つ、足の力が抜けて膝を付けば甲に一つ、円の黒曜の刃によって傷が与えられていく。
「ばびゅんっと登場、まどかちゃんですよっと。…ふふ、羽をもがれた虫の気分はいかがですか?」
「な、にを…これ以上は…ぐっ…ッ…!?」
「だーめ。口を閉じて、じっとして、円ちゃんの攻撃を甘んじて受けてね」
 空舞う夢魔と毒孕む人魚の歌声に翻弄され、花食む仙人が呼吸一つ儘ならずに崩れ落ちていく。
「邪魔なんか、させないよ」
「触れさせることさえ、させません」
 傷つけるなんてもってのほか。見つめることさえ、許しはしない。

――だって、今だけは、あなただけのわたし/ぼくだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
〇理(f13813)と

で、ようやく見せる気になったのか
にやにやと嬉しそうに
左手の薬指に咲く桔梗を見る

ま、隠してたら戦いにならねえし、
これ以上ふざけて
アイツに殺されるのも勘弁
なんて考えた後
あとで、しっかり見せろよ、理
と、君の名を紡ぎながら
至極しあわせそうに微笑んだ

けれど、そんなやり取りも一寸
双子鉈を引き抜く頃には真剣な表情で
完全に君へ背中を預けながら
言葉を交わさずとも呼吸を合わせ
ふたりで畳み掛けるように攻撃を

やがて放つは黒き焔火
鉈の先端から溢れ出すそれは
いとしい君とだけの、信頼の証

赤く燃えるような薔薇の如く
熱さを帯びた一撃を仙人へ
にっと口角上げて隣の君を見る

おら、理ッ!
あとはしっかり決めてこい!


明日知・理

ルーファス(f06629)と共に
アドリブ、マスタリング歓迎

_

肩で息をしながら、うぐ、と赤い顔で言葉に詰まり
けれど
紡がれる俺の名とその笑顔が幸せそうで、甘くて
「…二人きりのときにな」
照れて彼の顔を直視できない
心臓が爆発しそうだ

然し己の頬を叩き
無理やり頭を切り替える
ルーファスとナイトは傷付けさせない
彼らを最優先に庇うよう立ち回り
言葉交わさずとも息は合う

翠醒操る妖刀の魅了に薬指の桔梗が燃えるように熱く、不敵に刹那煌き
知らず口角が上がり

──悪いな、この心はもう、一人だけのものなんだ。

愛しい彼の声を背に受け、一息に跳び

「──シス!!」

纏うは我が魂に宿るUDC
禍つ凶犬──シス
この牙を以て
手向けとする



「…で、ようやく見せる気になったか、理」
 結界の奥の奥、敵の居るという最奥へと向かう道中、ニヤニヤ笑いを浮かべながらルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)が尋ね聞く。その声にじゃれ合いでの疲労からか、未だ肩で息をしながら、うぐ、と赤い顔で明日知・理(月影・f13813)が言葉に詰まる。恥ずかしい、と逃げるのは簡単だ。けれど、いっとう大事そうに名を呼ぶ声と、向けられる笑顔が幸せそうで、甘くて。これはもう、到底長くは抗えそうにない。観念したようにぎゅう、と胸の上の服を掴みながら、理がぼそりと呟く。
「…二人きりのときにな」
 それだけを言葉にするのも精一杯なほど、ドクドクと鼓動がうるさい。それなのに。
「あとで、しっかり見せろよ、理」
 ――なんて。嬉しそうに、しあわせそうな顔をして囁くから。いっそう赤くなった顔を隠すのが一苦労だった。

「ま、しかし隠してたら戦いにならねえし、これ以上ふざけて――アイツに殺されるのも勘弁だな」
 そんな甘いやり取りの末に、ルーファスがピタと足を止めたかと思えば、水墨画の如く美しい景色はそのままに、中央にぼたり、と落とした墨のような黒色の仙人が佇んでいた。花を求める翠醒が、ふたりの姿をみとめるとにこやかに微笑みながら、迷いなく妖刀を抜く。
「やぁ、苗床ご苦労様。にしても…ふふ、片方はずいぶん可愛い咲き方をしてるな。指ごと切り落とさないと花を傷つけそうだ」
 それが、どれ程地雷を踏み抜いた言葉か知らぬまま、涼やかな顔で翠醒が口にする。ニヤリと浮かべた笑みは静かな怒りを湛えた真顔へと変わり、ルーファスが黒い炎を燻らせながら双子鉈をすらりと抜く。その姿に理も己の頬を叩き、無理やり頭を戦いへと切り替える。――怒ってくれたのが嬉しいとは、素直に言えないけれど。今はともかく、敵を倒すのが優先だ。ルーファスとナイトは傷付けさせない、と理が一歩前に出れば、ルーファスからも預けるように背中を向けられる。言葉を交わさずとも呼吸が合わさり、開戦の一撃もまるで打ち合わせたかの早さで――ルーファスの鉈から放たれる、黒い炎で告げられる。瞬く間に広がるそれを翠醒もまた自らの炎で対抗するが、押さえている間に理が自身の妖刀で一閃を繰り出す。ニ対一、数の有利をしっかり生かした上に阿吽の呼吸で責められれば、じり、じり、と翠醒が後退りしていく。ならば片方を封じようと嬲る先を理へ替え、炎が僅かにその指先に届いた。火傷の跡も残らない程の接触、だが込められた仙力が理を妖刀へと誘惑しようとして――スウ、と阻まれた。肌を撫でた翠醒の炎よりも燃えるように、不敵に刹那の煌き宿したのは桔梗の指輪。ここはもう先約済みだと主張するような熱に、知らず口角が上がってしまう。
「なぜ、仙力が通らないっ…!?」
「──悪いな、この心はもう、一人だけのものなんだ。」
 動揺する切っ先を逃さず跳ね上げ、崩れた体勢にはさらに黒炎が追い縋って身を焼いていく。今こうして奔る炎すら、いとしい想いの具現で在り信頼の証だとわかるのは、この世でたった二人だけ。その炎に赤薔薇が力を貸すかの如く、紅い火の粉が舞って一層猛れば、漏れるのは翠醒の苦悶の声。
「おら、理ッ!あとはしっかり決めてこい!」
 愛しい人の声を受けて駆ける身の、なんと軽いことだろう。疾く駆ければあっという間にその距離は、30cmより内へと踏み込んで。
「──シス!!」
 招き纏うは魂に宿るUDC。禍つ凶犬──シス。いとしき炎とこの牙を以て手向けにせんと、月光纏う一撃を繰り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル


【月光】

どちらもゆぇパパとルーシーの想いの花なの
あなたのためじゃない
言葉が通じなくても構わないけれど
パパを一筋たりとも傷つけさせはしない

心が咲かす花の美しさに想いは寄せても
その大地を、身体を、心を大切に出来ないのなら
お花好きとしてはまだまだね

蒼色兎のヌイグルミ
ララ、起きて
『変身するお友だち』

パパ、どうぞララに乗ってちょうだいな
いっしょにお花を咲かせましょう
2人乗せた蔦竜は空へ

イチゴの花言葉は
尊重と愛情、幸福な家庭
それと、
『先見の明』

ふしぎと襲い来る炎が確と見える
全て見切り避けていくわ
青花の香りもいかが?
次は刺激的な華がお待ちかねよ
パパ、お願いしても?

ありがとう
ルーシーもふたりのお花を守るわ!


朧・ユェー
【月光】○

黄色と赤い僕とルーシーちゃんの花
それを貴方は欲しいと仰るのですか?
えぇ、綺麗な花はとても美しく素敵ですよね
おやおや、花以外はどうでも良いと?

花は命があってこそ花
その身体、心があるこそ美しく
それを折るなど美しくないですね
ララちゃんに?
彼女をひょいと乗せて自分も乗り
ララちゃんありがとうねぇ

向日葵
二人で育てる華
幸せにする夏の華

射影
貴方の花、貴方の心を写して
死の華を咲かせましょうか

僕の花は勿論ですが
この子の花は絶対に渡しません



 花舞う結界を奥へ、奥へ。向かう道は少しずつ開けて、辿る突いた先はぐんと開けた広場のようだった。零れる花びらの薄紅も、渓谷が織りなす真白も、萌ゆる新緑も変わらず美しいままなのに、中央にぼたり、と垂らした墨のような黒だけが情景の輪を乱していた。
「ああ、どちらも良い花が咲いたな。では頂いてしまおうか。」
 歩み来る姿をみとめた翠醒が、にこりと笑みを浮かべ早々に妖刀を抜き放つ。敵意を感じる行動に、並ぶルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)を庇うように前へ出て、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が言葉を掛けた。
「黄色と赤…僕とルーシーちゃんの花、それを貴方は欲しいと仰るのですか?」
「そのために種をまいたからね。花は良い。」
「えぇ、綺麗な花はとても美しく素敵ですよね」
「まぁしかし、おしゃべりな苗床は不要だな」
「おやおや、花以外はどうでも良いと?」
 表面上は和やかに微笑んで見せながら、その実どちらも向け合うのは言葉の剣。探り合うように切っ先を滑らせあそばせ、見計らっていたタイミングを割いたのは、小さくもはっきりとした拒否の言葉だった。
「ダメ。」
「ルーシーちゃん…?」
「苺の花も、ヒマワリも、どちらもゆぇパパとルーシーの想いの花なの。あなたのためじゃない」
 道を歩きながら語り合った、想い出の数々。どれもが幸せで素敵で、だからこそこんなにも綺麗な花が咲いたのだ。なら、それをユェー以外にあげるなんてできない。なにより。
「パパを一筋たりとも傷つけさせはしない」
 決意を宿した青い瞳で、ルーシーがきっぱりと言い放つ。その幼くも強い娘の姿に、翠醒に向けた張り付けるようなユェーの笑みが、喜び綻ぶ微笑みへと変わっていく。
「花は命があってこそ花。その身体、心があるこそ美しく。それを折るなど美しくないですね」
「美しいなんて言っても、咲かせる大地を、身体を、心を大切に出来ないのなら、お花好きとしてはまだまだね」
 花への想いを口に、ね?と顔を向け合えば、今一度二人の目にお互いの花が写って、ふふ、と柔らかな笑い声が零れる。そう、花の根差す場所ごと愛せないなら――無粋な邪魔ものには、ご退場を願わなくては。
「さぁララ、起きて」
 声を掛けるのは、腕に抱いた蒼色兎のヌイグルミ。呼ばれた名前を引き金にララがぴょんと飛び出せば、みるみる体に青い花が芽生えて、蔦で編まれた竜の姿へ変わっていく。
「パパ、どうぞララに乗ってちょうだいな」
「ララちゃんに?では、ありがたく」
 一礼の後にひょいとララの背へ跨ってから、ルーシーを引き上げて共に空へと舞いあがる。変身に気を取られた翠醒が慌てて仙力の炎を放っても、ひらりと花びらの如く舞うララは捉えられない。ルーシーの腕に華やぐイチゴの花言葉は、尊重と愛情、幸福な家庭。それと――『先見の明』。元より空舞うものを地から落とすは難しく、花の力を得たルーシーの瞳に翠醒の動きは鈍く映る。
「花の竜も悪くないが、焼き落とせないとは面倒な…」
「ふふっ、お困りかしら。せっかくなら青花の香りもいかが?」
 苦虫をかみつぶしたような顔の翠醒に、追い打つように降り注ぐのは花の香り。然しその甘やかさにうっかり吸い込もうものなら、ゆっくりと体が自由を失っていく。美しい花には元来、棘も秘密も隠してあるもの。
「次は刺激的な華がお待ちかねよ。パパ、お願いしても?」
「任されました。――貴方の花、貴方の心を写して、死の華を咲かせましょうか」
 元より届かぬ空の上から、睨めつけるのは硝子越しのユェーの瞳。せめてもの対抗に翠醒自らも魅了を込めた炎舞を見せようにも、命を刈り取る死神の力を前には、緩やかに膝を折るしかなかった。――向日葵。二人で育てる華。幸せにする夏の華。その花を無理に手折ろうだなんて、許せるはずもない。
「僕の花は勿論ですが、この子の花は絶対に渡しません」
「ありがとうゆぇパパ、ルーシーもふたりのお花を守るわ!」
 未だ一輪と失わず咲き誇る花をその身に、ふたりが誓い合うように互いの花を見つめ、微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『貴方だけの物語』

POW   :    天から降る雫を掬う

SPD   :    水の地を歩む

WIZ   :    水晶の樹に触れてみる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


――きらきらと、雫が降る。

 翠醒を退けた暫し後、桃花咲く渓谷の奥の奥。階段のように並んだ石を降りて行けば、そこは水晶讃える秘境だった。

 真白だった岩も透き通り、樹々は葉も花も実も透明で、時折零れる雫を掬えばキィン、と硬質な音を立てて水晶へと変わり、また雫へ戻って地面へ吸い込まれていく。底までも見通せる水を讃えた池を覗き込めば、泳ぐ魚も僅かにプリズムのような色を帯びながらも透き通っていて、枝に止まる鳥が落とした羽も、きらきら輝く水晶を彫ったよう。樹々に実る果実を手にすると、中に果肉は見当たらず、まるで器のような伽藍洞だ。何処にも穴などなさそうなのに、池にとぷりと浸せばいつの間にか水と魚が中で遊び、水晶の花に寄せればするりと果皮をすり抜けて内側に花が咲き誇る。

――永想の箱庭、ここがそう呼ばれる所以こそ、この不思議な水晶の実だ。
 一度内へととり込めば、花は人の一生を越える程に咲き続け、蝶や魚、小鳥のような籠められる程の小さな生き物なら、やはり永い生を得るという。武侠世界の住人は皆、押しなべて長命のものが多い。そんな彼らにとってここの果実はまたとない宝、永き世を慰める箱庭となるのだ。
 
 そして今、想いに根差し咲いた花は、自身が望めばそっと身から離れることだろう。それはもとより、さる仙人の秘術が生んだ種。かつて愛する人に想いを形にして手渡そうと、術を編んだのが始まり。水晶の実に自らの想いの花を封して渡し、それに喜ぶ羽衣人と永く共に生きたというのが、種と共に口伝される伝説だ。それに倣って自身の花を実に封すも良し、それを望まないなら水晶の泉に還せば、やがてほどけて肥沃な大地の糧となるだろう。短夜に現る、まほろの水晶の渓谷。過ごし方は皆、心のままに。

――想い果て無く、永らえば、憶えし庭に、あなたを見る。
=====================

水晶の実

 大きさはさくらんぼ〜大玉スイカまでで、さまざまなサイズがあります。中に封じたいものを寄せれば自然と吸い込まれて、花なら枯れずに咲き続け、実に入るくらいの小さな生き物なら中で健やかに長生きします。人や大きな生き物は入りません。装飾品への加工はこちらではしませんが、持ち帰ってアクセサリのトップに用いたり部屋に飾るには問題ない仕様です。

 水晶の谷にある草木や花や結晶はテラリウム・アクアリウム作りに利用して構いません。鳥や魚や蝶も懐きやすいので、連れ帰っても大丈夫です。植物も生物もだいたい水晶で出来たプリズムの美しい透明なものばかりですが、多少変わった物もあるかも知れません。こちらからのアイテム化は致しませんが、各自での作成は歓迎です。お好みでどうぞ!

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夜鳥・藍
林檎サイズの実を一つ手に取ってみて覗き込めば思わずため息がでてしまう。
これだけでも十分綺麗。これ自体をまた別に持ち帰りたい気がするけど、何かを近づけたら簡単にするっと入っちゃうのかしら?もしそうなら飾るのも大変そうね。
そっと自身から白の秋桜を一輪取り実に近づける。じっと観察してみるけどどういう原理なのかしら?そう見てるうちにするりと花は水晶の中で咲いて。

人の事はまだ怖いし信じきれない。
でもこんな私を信じてくれる人がいる。今は会わずとも愛してくれる家族がいる。
この種を作った人とは意図が違うけど、でも自分の望みを忘れないように。
周りにいてくれる人達を忘れないように。
だからそばに置いておこうと思う。



 シャララ、シャララと音がする。あちこちが水晶から成る秘境は、涼やかな音を立ててながら、美しい在り様を見せてくれた。泉を覗けばキラキラ光を返しながら魚が泳ぎ、囀る鳥の声も透き通るように美しい。その中を同じくらい目を輝かせながら夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)が歩いていると、丁度林檎ほどの大きさの実を見つけて、そうっともいでみた。枝からは簡単に取れてしまうのに、実に触れる手は硬質な感触を伝えてくる。光に翳して見てみれば、くるりと回すたびにプリズムが反射して思わずほぅ、と感嘆の溜息が零れる程。このままでも十分飾っておきたいほどに綺麗な逸品だ。――けれど。
「何かを近づけたら簡単にするっと入っちゃうのかしら?もしそうなら飾るのも大変そうね。」
 せっかくなら何も入ってない実もひとつ持ち帰りたいけれど、あれこれ勝手に入ってしまうのは困る。とりあえず持ってるぶんには大丈夫そうなので、試しに“泉の水を掬ってみよう”と実をちゃぽん、とつけてみたら――引き上げると内側は水で満たされたのに、泳いでいた魚はするりと抜けて行ってしまった。ついでに“水を零そう”と思って何となく傾けてみたら、今度はぱしゃん、と水が果皮を抜け出ていった。
「…もしかして、中に入って欲しいと想うものだけが内側に留まれるのかしら?だとしたらそのままでも飾って大丈夫そうね。」
 なら、後でもう一つ手ごろな実を手にしてもいいか、と算段を付けて。一先ずまた空に戻った実へは、自身に咲く白い秋桜を一輪摘んで近寄せてみる。今度はどういう原理かわかるかも、とじっと観察してみるけれど、あっという間にするりと吸い込まれて、元々そこにいたかのように水晶の中で咲いていた。施された仙術か、秘境の奇跡か、何にせよ紐解くのは難しそうではあるが――手にした美しさに、代りはないかと納得して、出来たばかりの箱庭を見つめる。想いを封した花の箱庭、そこに“私”は、何を閉じ込めたのか。

――人の事はまだ怖いし、信じきれない。
でもこんな私を信じてくれる人がいる。
今は会わずとも愛してくれる家族がいる。
この種を作った人とは意図が違うけど、でも自分の望みを忘れないように。
周りにいてくれる人達を忘れないように。

 想いを探す中で自然と伏せていた瞳をひらき、改めて自らの花を映す。秋桜はこれほど優美に咲けるのは、それだけ芽生えた想いが、それを育んでくれた人たちがきっと、同じ様に優しいからだ。恐れに飲まれないよう、信じきれない、と心が曇ってしまわぬようこの実をそばに置いておこうと思って、やわく手で包み込む。感謝と親愛を籠めた花庭はきっと――迷ったときの、灯りになってくれるはずだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
【揺籃】

水晶の実だなんて見事ですねえ
普段から宝石のようなお菓子に囲まれてますが
こうして実っている様には、驚いてしまいます

ティア、気になるものはあります?
わたしは……そうですねえ
手のひらで包み込める大きさのものを
透き通る水晶の光が眩しいですん

双眸から溢れ落ちた水色の花も
天を貫くように咲いた赤と黒の花も
この身から離れて落ちてゆく

いっとうキレイに咲いた勿忘の花
一輪を掬い取っていとおしきあなたへと
わたしの想いを、受け取ってくれますか

なんて、乞わずとも
あなたなら、受け取ってくれると知っている
想いを添えることを、知らなかった
なんだか擽ったいですね


もちろん


差し出された桃花を受け止めて
顔を合わせて微笑みましょ


ティア・メル
【揺藍】

ねー、水晶の実ってこんなに綺麗なんだね
円ちゃんが待ってる宝石糖も綺麗だけれど
これも甲乙つけがたいくらい素敵なんだよ

んにー
ぼくも両手で収まるくらいのものを
透き通った中に今から命を芽吹かせる

ひいらり舞い落ちた花が水晶の中に咲いて
これがぼくの、円ちゃんへの想い
みにくいぼくから生まれたなんて思えないくらい
綺麗でびっくりしちゃう

壊さないよう大切に大切に受け取る
もちろんだよ
だいすきな円ちゃんからの想いだもの
ありがとう、円ちゃん
嬉しげに破顔して

円ちゃん円ちゃん
ぼくのも、受け取ってくれる?
未だにゆびさきが震えそうになるのは
ぼくが弱い証拠
でも差し出せるようになったのは
円ちゃんが全てを受け止めてくれるから



「水晶の実だなんて見事ですねえ」
 しゃらら、と涼やかな音が響く水晶の秘境。見渡す限りあらゆるものが透明で、ひかりを取り込む度プリズムを放つ光景は、この世のものとは思えぬ美しさ。その中でもやはり樹々につり下がった水晶の実が目を引いて、百鳥・円(華回帰・f10932)が手近なひとつを指先でつつく。
「ねー、水晶の実ってこんなに綺麗なんだね」
 隣立つティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)もまねて実を突いてみれば、キィン、と硬質な音が響く。サイズは大小さまざまに、中身は空っぽ。果皮は透明で硬く、正に天然のスノードームのよう。
「普段から宝石のようなお菓子に囲まれてますが、こうして実っているのは驚いてしまいます」
「円ちゃんが待ってる宝石糖も綺麗だけれど、これも甲乙つけがたいくらい素敵なんだよ」
 さくらんぼ程のものならそれこそドロップの様に、舌で転がせばしゅわりと溶けそうな見た目をしている。試してみるのも面白そうだが、今水晶の果実に求めるのは頬張ることではなく、花を封してくれる箱庭の役割だ。
「ティア、気になるものはあります?」
「んにー、どれも綺麗で悩むんだよぅ。円ちゃんは?」
「わたしは……そうですねえ。これくらいがいいでしょうか」
 そう言って手に取るのは、林檎ほどの大きさの実。丁度円の両手で包み込めるくらいの程よいサイズで、翳せばきらきらと光を通して輝きを帯びる。
「透き通る水晶の光が眩しいですん」
「ふふー、円ちゃんの瞳もキラキラしてるよ。じゃあぼくも…これくらいにしようかな」
 円に倣って、ティアもちょうど自分の手に収まる桃くらいの実を選んで摘み取る。その途端、ぷつりと何かが切れ理ような音がして、気づけば花が地面へと落ちていく。今までの様に想いに応じて溢れたわけではない。根が絶えて、花の芽生えが終わる時間が来たのだ。双眸から溢れ落ちた水色の花も、天を貫くように咲いた赤と黒の花も、円の身からぽとりと離れて落ちてゆく。赤と黒はそのまま地へと還し、手で掬い上げるのはいっとうキレイに咲いた勿忘の花。誰のものでもない、円の想いに添うて咲いた想いの花。その一輪を実へと籠めて、いとおしきあなたへと手渡す。
「わたしの想いを、受け取ってくれますか」
 ――なんて、口にはするけれど本当は知っている。乞わずともあなたなら、受け取ってくれると。ほら、その証拠のように伸ばされた手が、壊さないよう大切に大切に箱庭を受け取って咲う。
「もちろんだよ。だいすきな円ちゃんからの想いだもの。」
 とろけそうな笑顔を浮かべて、ティアがそっと箱庭に頬を寄せる。愛し気に内に咲く勿忘草を見つめながら、ありがとう円ちゃん、と返されれば胸の裡があたたかくなって円にも笑みが灯る。
「円ちゃん円ちゃん…ぼくのも、受け取ってくれる?」
 そういって、今度はティアも自らの箱庭を円へと差し出す。透き通った中に芽吹かせた命。ひいらり舞い落ちた水晶の中の花。こつりと指で触れるたびに花びらを舞わせて、また花へと還って咲き誇る桃花。

――これがぼくの、円ちゃんへの想い。
花びらになってもまた咲いちゃうくらい、ずっとずっと、の想いのカタチ。
みにくいぼくから生まれたなんて思えないくらい
綺麗でびっくりしちゃう。

 ゆびさきがほんの少し気を抜けば震えそうになるのは、未だ弱い気持ちが居座っている証拠。でも壊すことなく差し出せるようになったのは――その想いごと、円が全てを受け止めてくれると知っているから。
「もちろん」
 差し出された桃花を受け止めて、円もまた慈しむ様に箱庭を見つめる。そしてそっと引き寄せたティアへと額を寄せて、顔を合わせ微笑み合う。想いを添えることなんて、知らなかった。でも今はこんなにも、愛しい想いを知っている。擽ったいですねと笑えば、でもあったかいよ、と声が返ってくる。いつかのしあわせは今、ここにこうしてカタチになる。

――あなたの想いを、余すことなく。ずっとずっと閉じ込めて、傍におくの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
【花面】

いつもの姿に戻って
水晶の実を一つ、手に取る
右腕のベルフラワーをはらりと籠めて
それから、シェルゥカを見つめる

ねぇ、シェルゥカ
恋、とは、どんな感情なのだろうね
今の私は、明確に捉えられない
鬼殿に抱いた執着がそれだと言うなら…そうなのかもしれない
でも、君が傍に居るのに…
君の傍に居るのに、そんな想いを咲かせたりはしない
きっと君が思うより、私の気持ちは君の事で一杯だよ

だから、このミモザも。君へ贈ろう
アプリで見ただろう
この花は友情の意味も持つ
感謝と、友愛を、君に
…今の私が分かるのは、それだけなんだ

誤魔化しでいい
君が『恋』と定義づけた執着を、君に抱くのは
――恐ろしい

受け取った実は、少し、重たい気がした


シェルゥカ・ヨルナギ
【花面】

血のついてないカランコエを水晶の実へ

俺が居るから咲かせない?
約束が俺の存在が、君の気持ちを縛っている…?
約束は大切
けど
君の想いの枷にはなりたくない

ミモザが俺への友情なら
何故慌て言葉を詰まらせたの
今それを口にした君は何の淀みも無いというのに

友愛を後から重ねたミモザは他を封じる証の様で

俺への友情として贈るというなら
深い呼吸を一つ
にっこり笑顔で受け取るよ
君が誤魔化した正体不明の何かを持ち続けよう
誤魔化す事で君が苦しむのは自由だもの
そのうち本当に俺への友情と思い込めたなら
これも沢山の小さな思い出の一つに紛れる
凪いだ幸福な日常
俺は君を守る為に、その友情を受け取るよ
さあ、このカランコエも受け取って



――しゃらら、と涼しげな音が響き渡る。

 渓谷を抜けて辿り着いたのは、何もかもが透明で輝きを帯びた、水晶の秘境。その中にうつくしく実る水晶の実を一つ手に取って、いつもの明け色宿した姿に戻ったエンティ・シェア(欠片・f00526)が、くるりと回して眺め見る。滑らかな果皮は硬く、およそ何かを通しそうには見えない。けれど右腕から落ちるベルフラワーを拾い上げて寄せれば、シャボン玉の膜の様にするりとすり抜けて中に入ってしまう。その不思議を目の当たりにして、シェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)も追うように一つ実を手に取ると、自身のカランコエから選りすぐったものを水晶へと寄せる。その選ぶ指先に、エンティが僅かに痛ましそうに目を細める。――血を吸ったカランコエ。それはどうしても、自らを庇ってついたシェルゥカの傷を思い起こさせる。傷ついて欲しくなかった。でももし、身を挺してまで庇うほどの気持ちを向けられていたのなら、嬉しいとも思ってしまう。このやっかいな気持ちは、一体なんなのだろう。
「ねぇ、シェルゥカ。…恋、とは、どんな感情なのだろうね」
 今の自分には、明確に捉えられない想い。もし鬼殿に抱いた執着がそれだと言うなら、そうなのかもしれない。わからない、掴めない――でも、それでも。
「君が傍に居るのに、君の傍に居るのに。他の人へそんな想いを、咲かせたりはしないよ」
 ――きっと君が思うより、私の気持ちは君の事で一杯だよ。これだけは確かな気がして、はっきりと言葉に変えて告げる。けれどそれを聞いたシェルゥカは、見開いた眼をぱちり、と瞬かせる。

――…俺が居るから、咲かせない?
交わした約束が、俺の存在が、君の気持ちを縛っている?
約束は大切だ。どうあっても守りたい。
けど、君の想いの枷にはなりたくない。
そんなことは、望んでいない。

 けれど、シェルゥカの心の内は、エンティに伝わらない。複雑に混ざる想いを知らぬまま、更に言葉を重ねていく。
「だから、このミモザも君へ贈ろう。アプリで見ただろう?この花は友情の意味も持つ」
 
――ミモザが俺への友情の想いを咲かせたものなら。
何故あの時、あんなにも慌てて言葉を詰まらせたの。
今それを口にした君は、何の淀みも無いというのに。

「感謝と、友愛を、君に。…今の私が分かるのは、それだけなんだ」
 ベルフラワーとミモザ。その二つを封した箱庭をエンティが差し出す。浮かべた笑みには、どうしても苦さが混じってしまうけれど、今はこれでいい。誤魔化しでいい。シェルゥカが『恋』と定義づけた執着をそのまま抱くのは――どうしても、恐ろしく感じてしまうから。けれどシェルゥカは、エンティの箱庭を見つめたまま動かない。ひかりを宿さない赤く紅い瞳が、ただじぃ、と裡に咲く花だけを映し込む。――友愛だと、感謝だと、後から言葉を重ねたミモザは他を封じる証の様に感じる。その封じた想いこそが、今ここで口にすべきだったろうに。

――でも、構わないよ。君が何を向けようとも。
君が誤魔化した正体不明の何かを、今はただじっと持ち続けよう。
誤魔化す事で君が苦しむのは、自由だもの。
そのうちもし本当に心を蝕む想いを、俺へのただの友情と思い込めたなら。
きっとこれも沢山の小さな思い出の一つに紛れる。
何の変哲もない、凪いだ幸福な日常。
君が壊したくない、平和なこれから。
俺は君を守る為に、それを“友情”のカタチとして受け取るよ。

「ありがとう。じゃあ、このカランコエも受け取って」
 深呼吸を一つおいて、内に渦巻く想いへひた、と蓋をするように。シェルゥカがにこりと笑みを張り付ける。そして受け取ったエンティの箱庭と交換するように、自らの花を封した実を差し出した。いつも通りの所作、常とよく似た笑顔。なのに、それがどうしてか怖い気がして。素顔の筈が、仮面越しに見る顔のような気がして、ほんの一瞬エンティが手を伸ばすのをためらった。けれどすぐに被りを振って、ありがとう、と笑みを作ってそっと受け取る。

薄い玻璃のような果皮に、カランコエの花が込められただけの実。
手に乗せられる、美しく小さな箱庭はどうしてか――少し、重たい気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
ミラ(f27844)と

何時ものように手を差し伸べて
笑顔を浮かべながら君といっしょに歩く
どのお花も取られなくて良かった!なんて

ミラが守ってくれたお陰だよ!
ありがとう

わあ!凄いっ!
ここが仙人さん達の秘密の場所なんだね!
全部硝子で出来ているみたいだっ!
えへへ、ミラといっしょに見れて嬉しいな

わ、これが水晶の実?とっても綺麗だね
ふふー、まるでスノードームみたい!

手の甲に咲いていたゼラニウムを
水晶の中にぎゅっと詰め込んで

欲張りな俺は花として言葉として
そして、形としてこの想いを残したかったから
ミラの前にしゃがんでふにゃりと微笑む

――ね、ミラ
良ければ受け取ってくれる?

えへへ、もちろん
ずっと隣で見守ってほしいな


ミラ・ホワイト
クラウンさま(f03642)と

恒と同じく延べられた手
あたたかくて優しくて
胸満ちる想いに頬が緩む
お花もあなたも、傷付かなくて良かったの

硝子を鏤めたような
光と滴が織り成す澄んだ場所
クラウンさまと見る世界は
いつだってどこだって、きらきらして視えますけれど
中でもここはとびきりだわ…!

まぁ、うふふ
スノードームがいっぱいね?
どんな素敵な景色を詰めようかしら
なんて迷ってしまうけれど

手の平に収まるまぁるい子へ
そつと触れれば移り咲くペチュニア
欲張りさんはわたしの方、なの
真っ赤な花咲く水晶の実へ
頷くよにこつんと寄せてはにかんで
あなたにだけ囁く願い事

――永遠の花を、想いを
クラウンさまのお傍で、咲かせてくださる?



「わあ!凄いっ!ここが仙人さん達の秘密の場所なんだね!」
 何もかもが透き通る、水晶の秘境。そよ風が吹くたびに耳に心地よい音が届き、草花も生き物も皆輝きを帯びている。そんな美しい景色に感嘆の声をあげながら、いつものようにクラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)がそっとミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)へと手を差し伸べて、共に歩いていく。――硝子を鏤めたような、光と滴が織り成す澄んだ場所。クラウンと見る世界はいつだってどこだってきらきらして映るけれど、中でもここは。
「ええ、とびきり美しい景色だわ…!」
「全部硝子で出来ているみたいだっ!えへへ、ミラといっしょに見れて嬉しいな」
 その恒と変わらないあたたかさと優しい笑顔が、知らない場所への小さな不安なんてあっという間に溶かして、幸せな微笑みへと変えていってしまう。
「それにしても…どのお花も取られなくて良かった!」
「本当に。お花もあなたも、傷付かなくて良かったの」
「ミラが守ってくれたお陰だよ!ありがとう」
「わたしこそ、クラウンさまが居てくれてどれ程心強かったか…だから、ありがとう、なの」
 互いに交わし合うお礼に、ふと頬を緩めればちょうど目の前に現れるのは、樹になった沢山の果実たち。あたりと同じように透明で、果実に似た形。なのに中身のないそれはまるで。
「わ、これが水晶の実?とっても綺麗だね。ふふー、まるでスノードームみたい!」
「まぁ、うふふ。スノードームがいっぱいね?」
 そう、ちょうどスノードームの外側にそっくりだった。どんな素敵な景色を詰めようかしら、とミラが見比べて、選んだのは手のひらに収まるくらいのまぁるい実。クラウンもそれに倣うよう、同じ様な大きさの実を一つ手に取ってお揃いだね、なんて笑ってみせて。手の甲に咲いていたゼラニウムを、水晶の中にぎゅっと詰め込んでいく。潰れないように、でも一つでも多く籠めるように。そうして出来上がった箱庭を、嬉しそうに一度回し見てから、クラウンがふにゃりと笑ってミラへと差し出した。
「――ね、ミラ。良ければ受け取ってくれる?」
 箱庭には、いっぱいに咲き誇る赤のゼラニウム。“君あっての幸福”――ミラがいてくれるから、ミラが笑ってくれるから、自分はこうして幸せでいられる。そんな想いも、花も、花言葉も。全部全部、永遠の形にして残そうとした、クラウンの欲張りな願いのカタチ。それを前にして、ミラがいっとう甘やかに微笑んで頷いてから、こつり、と額を寄せて囁く――欲張りさんはわたしの方なの、と。こうして共にいられる今が、贈られる想いが、何もかもが嬉しくて。溢れそうな想いを零すように、そっと触れれば水晶の実へとペチュニアが移り咲く。
「――永遠の花を、想いを。クラウンさまのお傍で、咲かせてくださる?」
 貰うだけじゃななくて、与えられるだけじゃなくて。私からも笑顔を、幸せを、あなたへめいっぱい贈りたい。そう想いを込めた箱庭を手渡せば、クラウンがそっと包み込むように受け取った。
「えへへ、もちろん。ずっと隣で見守ってほしいな」
「見つめてるわ、ずっと一緒に。花も、クラウンさまも」
 約束へ絡める小指のように、交わし合うのは永想の箱庭。その小さな庭が――いつまでもしあわせに咲うふたりを、見守るように咲き誇っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】

身に宿したあなたの花
藤色と並ぶ其れが愛しくて
咲かせた儘も良いけれど
あなたの姿を
両の眸に確と映したいから
あなたに咲いた妾を手にし綻ぶ顔も

そ、と片目覆うてのひらに
余すことなく受け止めて
ほら、あなたが両手にいっぱい
向けた笑みをあなた色に映していて

ええ、勿論
同じ封するなら
ふたりでひとつと願っていい?
ふたりの為の願掛けと

寄せる白に淡紫を添わせ
きららかな匣庭に
宿る一瞬も同じでいてと

水晶の実がふたりの花を
永くと包み抱くよに
妾があなたを、ふたりの幸を
永く包み抱いていたい
そんな願いをも叶えてくれるかしら

重なる額
交わる眸
双方から伝わる熱が愛おしい
触れるそばから
交わる其処から
ひとつになってしまえたらいいのに


ライラック・エアルオウルズ
【花結】

降る雫が花を揺らす
それを摘みとるのは
実に名残惜しくあるが
君の花を、君の片眸を
見られないのも惜しいから

己を諭して、摘む鈴蘭
これを咲かしていたのかと
僕と君のてのひらに、綻ぶ

ねえ、秘術の逸話に倣って
想花を封しても良いかな?
ふたつを封するのならば
寄り添えるよな大きさに
想いと願いを籠めようか

そうと寄せる真白の花
並ぶそれらに唯願うのは
隣合うまま、咲き続けて
“永く共に生きられるように”

――そう、あれるように
想花を水晶が護るのなら
添う花は、僕が必ず護りゆく

密か誓い、額と眸を合わせる
花越しではない、間近な熱
“花”のふたりであればこそ
咲かさずとも伝わるだろうか

ふたりでひとつのまま
時の涯まで、どうか共に



――しゃらら、と涼やかな音が鳴る。

 何もかもを水晶で彫りだしたかのように、透き通りプリズムを放つ秘境。踏み入れた先の美しさにティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が思わず爪先を躍らせれば、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)が戦いの終えた身を騎士から王子たらんと変えて、そうっと添うように手を差し出す。重ね合わせる手のひらがあたたかくて、綻ぶ笑みに頬を染めればぷつり、と何かの音が互いの耳に届く。それは、身に咲いた花の根が切れる音。渓谷を越えて、凶刃を退けて、辿り着いたここで花が離れた証の声。――身に宿した愛しい人の花。藤色と並ぶ其れが愛しくて、このまま咲かせた儘も良いかもしれない、なんて思ったりもするけれど。ああほら、リラがこの身の離れるを予感して、惜しそうにこちらを見つめる、あの紫薫の瞳。割れ物のように優しい手つきで外した鈴蘭の冠に、妬いてしまいそうなほど愛し気な笑みを寄せる、あのかんばせ。その姿をおさめるには、どうしたって片目では足りない。両の眸に確と映したいから、そ、と覆うてのひらに、花を余すことなく受け止めて。――ねぇ、こっちを見て?
「ほら、あなたが両手にいっぱい」
 はにかむように咲って、零れたリラの花を手のひらごとむければ、ライラックが照れたように頬を染めてわらう。降る雫が揺らす花。それを摘みとるのは本当に名残惜しかったけど、君の花を、君の片眸をまたこうして見られたのなら、それに勝る幸いもない、と白頬に手を添えて告げる。
「ねえ、秘術の逸話に倣って、想花を封しても良いかな?」
「ええ、勿論。同じ封するなら、ふたりでひとつと願っていい?」
 ライラックと、鈴蘭と。交わし合うよう咲いた、互いを象徴するかのよな想い花。ふたりの為の願掛けにそれを離さず、永夜の箱庭に添わせてほしい。そうティルが願い出れば、勿論と深く頷いて、ライラックがいっとう美しい実を摘み取ってみせる。まぁるく輝く、ちょうど二輪をおさめるに程よい水晶の実。そのきららかな空の匣庭に、ほんのひと時も離れずに、宿る一瞬すらも同じでいてと想いながら、ティルがやわく白に淡紫を添わせて籠める。するとすぐに果皮をすり抜けて、添うたままに色深く咲き誇る姿が嬉しくて、並ぶそれらに唯願うのは。

――隣合うまま、咲き続けて。
“永く共に生きられるように”

 囁くような、それでいて何よりもつよくつよい、願い。ライラックが切に零す想いにティルもまた、同じ様に胸の裡を打ち明ける。――水晶の実がふたりの花を永く包み抱くのなら。
「妾があなたを、ふたりの幸を、永く包み抱いていたい。――そんな願いをも叶えてくれるかしら」
「……そう、あれるように。想花を水晶が護るのなら、添う花は、僕が必ず護りゆくよ」
 それは、二花咲き誇る箱庭だけが見届ける、密やかな誓い。指を絡めて、額を寄せて、触れ合う温度がこんなにも愛おしい。それなのに、これ以上はもう寄り合えないのだと、そしてまた身を離す一瞬の切なさが待っているのかと思うと、もどかしい想いが胸を焦がす。離れたくない、ずうっとこうしていたい。いっそのこと触れ合った先からとけて、ひとつになってしまえたらいいのに。――でも、本当にそうなったら、並び立つことの喜びも、眼差しの交わるひとときの鼓動の高鳴りをも、何もかも失くしてしまう。だからこれは、永遠のないものねだりなのだ。一生叶うことはない、甘やかでじれったい願い。それをずっと隣で抱き続けることが、何よりのさいわいを結わう。“花”のふたりであればこそ、その想いは咲かさずとも伝わるだろうと、信じて。

ふたりでひとつのまま。箱庭のきらめき続く永きまで。
――時の涯まで、どうか共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
ベル(f18504)

零れ落ちた太陽を掬う
拓かれた視界は眩く目を細め

あでにうむ
持って帰るの?
へえ
いや。好きって言ってたから持って帰るのかなって
嗚呼、そーゆーこと
そんなら、うん。分かった
そんときゃ呼んで?

俺も沈めていくよ
ん。多分、こーゆー狭いとこ…
(――彼奴は望まない
抜け出したいって輝くひかりを傍らに置くのは
きっと少しだけしんどいから)
でも、そうか。お前をそんな気持ちにできたなら
(きっと、嬉しいはずだ)

じゃあ俺も
言わないでおこ

ふと、傍らに落ちた羽を拾ってくるくる
弄ぶようにベルの髪に差す
なんだか気づいてなさそうだ
でも、似合ってるよとくすり
返されれば瞬くも、さあと
折角こんなきれーな場所なんだ
少し歩くか


ベル・ルヴェール
アヤカ(f01194)

僕はここに置いていく。この花は持ち帰れない。
今度は主と片割れと見たいからな。
その時はアヤカも呼ぼう。本物のアデニウムを見よう。

アヤカも置いていくのか。その花も太陽みたいで良い花だと思ったけどな。
僕は砂漠にいるからアヤカよりも太陽に近い。
ほっとするような気持ちだった。
アヤカの言いかけた言葉が気になったが僕も一緒に置いていくと決めたんだ。

この花を置いていこう。別れの言葉は言うか?
僕は言わない。また会う!
アヤカが僕の髪に何かをさしたな。
僕もお返しにアデニウムの花弁をさそう。
ああ。沢山見て回ろう。
僕らの知らない物で溢れている!楽しもう!



――しゃららと、涼やかな音が鳴る。

 葉擦れも、鳥の声も、水晶のように硬質で澄んだ音を立てて耳をすり抜けていく。水晶の秘境というに相応しい景色を見れば、欠けていた視界がパッと開けて、浮世・綾華(千日紅・f01194)が思わず手を伸ばす。今まで瞳を塞いでいた太陽を掬うと、急に拓かれた視界にきらめきが眩くて、思わず目を細める。その花を見て離れたのか、と尋ねるベル・ルヴェール(灼熱の衣・f18504)の方へと振り返れば、彼の花もまた掌へと零れ落ちていた。
「あでにうむ、持って帰るの?」
「僕はここに置いていく。この花は持ち帰れない。」
 悩む間もなく、ベルがきっぱりと言い切って微笑む。その様子に、少し驚いたように綾華がぱちりと瞬いた。
「へぇ…」
「どうかしたか?」
「いや。好きって言ってたから持って帰るのかなって」
 あれほど心を寄せていた花ならば、なんとなく手元に置くものだと思っていた。
「今度目にするなら、主と片割れと共に見たいからな」
 けれどそう言って、衒いなく笑う顔にこれ以上ないほど――納得した。迷いなく選び取り、拘りなく信じ抜く。その在り様こそ眩しい気がして、光に慣れたはずの目をもう一度瞬かせて、頷く。
「嗚呼、そーゆーこと。そんなら、うん。分かった」
「その時はアヤカも呼ぼう。本物のアデニウムを見よう。」
「うん、楽しみにしてる。それに俺も、この花は沈めていくよ。」
 そう告げれば、今度はベルがほんの少し首を傾げた。
「アヤカも置いていくのか。その花も太陽みたいで良い花だと思ったけどな。」
「ん。多分、こーゆー狭いとこ…」
 そこまで言って、綾華がふつりと言葉を切る。
 
――彼奴は、望まない。
閉じ込められることを。
枷を嵌められることを。
箱庭に籠めてしまえば、抜け出したいって目映くひかりを放つだろう。
それを傍らに置くのは、きっと少しだけ、しんどいから。
 
 続かない先を待っていたベルが、逸らされた綾華の横顔を見て、すくうように自らの想いを言葉にする。
「僕は砂漠にいるから、アヤカよりも太陽に近い。だからその目に見つめられると、ほっとするような気持ちだった。」
「…そうか。お前をそんな気持ちにできたなら」
 きっと、嬉しいはずだ。その言葉の差す先が誰であるかはわからずとも、ベルがそれはよかった、と笑って頷く。
「では、この花たちを置いていこう。別れの言葉は言うか?僕は言わない。また会う!」
「じゃあ俺も言わないでおこ」
 太陽の元でも水晶の煌めきの下でも、変わらぬ物言いのベルにふ、と笑いながら綾華も首を振る。その瞬間ふと、傍らに何かが輝いた気がして目で追うと、ピイイ、と高い鳥の声。ふわりと舞い落ちた羽を拾ってくるくる回すと、プリズムがひかりを零して美しい。そのまま手放すにはなんだかもったいない気がして、少し先を歩くベルの髪に遊ぶように差してみた。
「ん?アヤカ、僕の髪に何かさしたな。」
「さーって、なんでしょうねぇ。でも、似合ってるよ」
「そうか、なら僕もお返しにアデニウムの花弁をさそう。」
「どーも。…どう、似合う?」
「ああ、とてもよく似合う!」
「そりゃよかった。…さて、折角こんなきれーな場所なんだ。少し歩くか」
「ああ。沢山見て回ろう。ここは僕らの知らない物で溢れている!楽しもう!」
 そういってベルが楽し気に両手を広げて、綾華へと振り返る。砂漠の旅とは違う、お互いに未知の秘境。咲く花も、粒と煌めく水も、何もかもが知らないモノに溢れている。なら、今はただ好奇の赴くままに任せ、競うように奥へ奥へと二人が向かう。

――花を大地へ返すまで、暫しの秘境探索へと赴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

睦月・伊久
SPD

……とても、綺麗な光景ですね。
同時に不思議な光景です。木や生き物が水晶で出来ているというのは……
鳥や魚は確かに水晶なのに、それでも生きて動いているとは……

……さて、水晶の泉に向かいましょうか。
花を永遠に取っておく気は無いんですよね……何せ僕は死者で、いずれこの悪縁とのケリが着いたなら多分、所謂成仏というものができるかな、と思っているので……ずっと残るものを作ってもいずれ置いて行ってしまうなら……花をそんな風に閉じ込めてしまうのは……嫌だな、と思いまして。

そっと身体に咲いた彼岸花を取り泉に浮かべます。
……大丈夫。残らなくても、あの人達への思いは消えないはず。



「……とても、綺麗な光景ですね。」
 しゃらら、と涼しげな音が響く水晶の秘境。樹々に揺れる葉の一枚、枝を渡る小鳥の翼一つとっても透明で美しい景色を前に、睦月・伊久(残火・f30168)がぽつりと感想をこぼす。
「不思議な光景です。木や生き物が水晶で出来ているというのは……」
 伊久に樹々の息吹を感じたのか、ほんの一瞬透明な小鳥がピチチ、と鳴いて肩に止まった。羽繕いも僅かに飛び去ってしまったが、肩に残る感触や瞳に映ったきらめきは、水晶そのもののようで。
「確かに水晶で出来ているようなのに、それでも生きて動いているとは……」
 そのまま不思議に見惚れること暫し、けどすぐにふるりと首を振って視線の先を水音の聞える方へと向ける。
「……さて、水晶の泉に向かいましょうか。」
 かつり、と蹄の硬質な音を響かせて、伊久が向かうのは泉のほとり。水晶の実に籠めれば花を永く生かせることは知っている。けれど花をそうして永遠に取っておく気持ちは、どうしても湧かなかった。何せこの身は既に――死者だ。未だまとわりつく悪縁に縫い留められただけの御霊。何もかもにケリが着いたなら所謂成仏という形を以てこの世を離れる、命無き幽霊。なら、ずっと残るものを作ってもいずれ置いて行ってしまうことになる。だれに託す当てもなく、愛でられることもない形で花をそんな風に永らえさせるのは、閉じ込めてしまうようでどうにも嫌だった。泉にたどり着けばぷつり、ぷつりと身から花を摘んで、何処までも澄んだ水へと浮かべていく。水面を滑っていく赤花は、まるで亡き人を想い流す灯篭のよう。やがて溺れるように水底へと、大地へと沈んで消えて行く姿に、胸がチリリと痛むけれど。
「……大丈夫。残らなくても、あの人達への思いは消えないはず。」
 花は還しても、花に籠めた想いは今もこの胸に在り続ける。想いに咲く花を咲かせられたのなら、まだ心があの人達を想い続けているという証左に他ならない。なら、この身はまだ膝を折らずにいられる。歩き続けていられる。――たとえそれがどれ程昏く険しい道であろうとも。それだけを確かめて、伊久が黙祷のように暫し目を伏せてから、泉を後にした。

彼岸花――赤が落ちれば、追うて青葉が芽生える花。
そして地に落つ花びらもまた、新たな花を育む礎となる。
全ては巡り廻る輪の中に在る。
ならば魂もいつか――輪廻の先にて、再会と結びを得るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

嘉納・日向
『お待たせひなちゃん、お花楽しみにしといてよ』
(解いた髪をきゅっと結んで)
……っと。ありがとね、ひまり

◇日向に交代

うわすっご、鳥も魚もキラキラ
果実の大きさは迷いつつ、林檎大のそれを手に取って
その際に青いエゾギクが視界に入る
ヒントだと花言葉を囁く声は、あの子を背負い込んだ私へのメッセージのよう
あんた花に詳しかったもんね
信頼、か
私達がこの状態になる前に、気がついとけばよかったかな……へ、湿っぽいのはナシ?ごめんごめん
親友の声に耳を傾け
エゾギクを結晶で彩って
大きめの二輪はおそろいで

多分、私達なりの友情の続き
どんな形になっても、これだけは変わらないと願い込め



『お待たせひなちゃん、お花楽しみにしといてよ』

 何もかもがキラキラと透明な、水晶の秘境。そのきらめきを前にして、嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)――の裡に宿る“ひまり”が、同じくらいに瞳を輝かせた。そして一言そう告げると、解いていた髪をキュッと結んで。
「……っと。ありがとね、ひまり」
 躰の主導権を日向へと渡した。初めて自身の目で見る秘境の景色に、日向もまた目を見開いて、ぱちぱちと瞬かせてきらめきを眺めた。
「うわすっご、鳥も魚もキラキラ」
 枝から枝へ飛び移る小鳥も、ぱしゃんと水を跳ねて泳ぐ魚も、何もかもが透き通ってプリズムを放つ不思議な光景。暫しその中を楽しむ様に足を進めれば、目の前にたわわと実が生った樹々が現れ始める。さくらんぼ程のものもあれば、一抱えもありそうなメロン大の実もあったりと大きさはまちまちで、どれもうつくしく透き通った水晶の実。余りの多様さに大きさを迷ったものの、最終的には林檎大の実を手に取った。その実をもごうと手を伸ばすと、ふとそこへ咲いた青いエゾギクが視界に入る。
「…そっか、あんた花に詳しかったもんね」
 心配と、信頼。ヒントだと花言葉を囁いた声は、あの子を背負い込んだ自分へのメッセージのようだ。今もかつてもそうやって、ひまりは衒いなく自分を信じてくれていたのに、と想い返せば――どうして、と自責の念がじわりと心を満たす。
「私達がこの状態になる前に、気がついとけばよかったかな……」
 思わずポツリと零れたそんな言葉を、しゃららと涼やかな風の音と共に、日向の耳にだけ届く声が叱咤する。
「…へ、湿っぽいのはナシ?ごめんごめん」
 もし今も隣にいたのなら、肩を小突かれたりしたのだろうか、とか。そういう考えはきっとこれからも過ぎるだろう。それでも、その度にこうして励ましてくれる友達がいるのなら、案外うまくやっていけるのかもしれない。そんなことを思いながら、躰に咲いたエゾギクを摘み取って、足元に転がる結晶で水晶の実の内側を彩っていく。きらきらと輝く小さな箱庭の中央に咲くのは、大きな二輪のエゾギク。おそろいのように咲いた、信頼宿す想いの花。
「…一輪だけじゃ、寂しいからね」
 多分これは、私達なりの友情の続き。この先の私達がどうなるか、それは分からない。でもたとえどんな形になっても、これだけは変わらない。そんな願いを込めて、箱庭をそっと両手で包み込む。

――ひとつの器に、ふたつ分の想いを込めて。これからもずっと、歩いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

美しいきみをそのままに
枯れないように散らないように
とこしえであるように──こうして閉じ込めておけたらいいのに

サヨの朱桜を閉じ込めた柘榴の果実を抱く
他のものは要らない
きみの桜が在れば、いい
私には永遠があるのに、きみにはない
どうして?
きみを、また見送るなんて
そんなの嫌だ

サヨ?
朱桜の隣に私に咲いていたサヨの色の桜がひとつ、寄り添っている
重ねられた掌が暖かい

朱桜の花言葉は…私が決めた
「果たされた約束」と「約倖」だ

サヨの桜は?
噫……まるで心まで見透かされたようだ
私の巫女には敵わないな

勿論だ
私が愛を謳うのも
愛を契るのも──サヨだけだよ

あいしてる

二つに割った禁断の片割れをきみに
分かたれようとひとつだよ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

噫、なんて美しいの
愛しい神がもいだのは柘榴の実?

柘榴の中には私に咲いた朱桜がひとつ
苦しげに眉を寄せるカムイのかぁいらしいこと
噫、甘くて甘くて蕩けそうな愛を感じる

カムイ、大丈夫よ
頬を撫でてから、彼に咲いた私色の薄紅を柘榴の中の朱桜に添わせてからカムイの頬を撫でる

カムイの朱桜の花言葉は何だっけ?
私の桜の花言葉はね
『廻る約束を貴方と共に』『とこしえの愛』よ
何も心配はないわ
今度は私があなたの願いを叶えるの

ねぇ、私をあいしてくれる?
愛の言葉に微笑んで蕩けるように咲かせよう

ええ、愛してる

折角ひとつだったのに二つになっちゃった
そうね
分かたれた禁断をまたひとつに重ね合わせる
何度離れても
こうして重なるの



――しゃらら、と涼しげな音が響く。

 真白の渓谷を通り抜けた先は、何もかもが煌めき輝く水晶の秘境。葉の一つ、鳥の羽一枚とっても水晶から削りだされたかのように透明で美しい、時の止まったような世界。ここ自体が一つの箱庭のように感じられて、朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)が眩し気に目を細める。並び歩く誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)も初めて目にするうつくしい場所に、綺麗ね、と微笑めばまた角に薄紅と朱赫が咲いていく。その花の彩を見て、カムイの指先がふれるのは水晶の実。数多生る中から選ぶ一つは、まるで柘榴思わすカタチのもの。その中へ込める一輪を乞えば、巫女が嬉しそうに手を伸ばす。
「――噫、なんて美しいの。私の愛しい神がもいだのは、柘榴の実?」
 いつも口元へと運ばれる、あのとろけそうに甘やかな柘榴。神との縁深く、何よりも好んで口にする果実。それを包む様に優しくふれれば、指先に咲いた朱桜がするりと果皮をすり抜けて、内側でなお鮮やかに咲き誇る。きっとこの一輪は今、永遠を得たのだろう――櫻宵から出でて、櫻宵より永きを紡ぐ命を。それはなんて、皮肉なことだろうか。

――美しいきみを、そのままに。
枯れないように、散らないように。
傷つかぬように、怯えないように。
定めある命の軛を解いて、とこしえにしてしまいたい。
今ともに在る幸福ごと、こうして永久に閉じ込めておけたらいいのに。

 朱桜を閉じ込めた柘榴の果実を抱いて、カムイが苦し気に眉を顰める。――他のものは要らない。きみの桜が在ればいい。それなのに、それだけがどうしても叶わない。
「私には永遠があるのに、きみにはない…どうして?きみを、また見送るなんて、そんなの嫌だ」
 常の穏やかな振る舞いに混ざる幼さが、いつか来る別れの苦しみを想って、一段と濃くにじみ出る。その姿がかぁいらしくて、いとおしくて。甘くて甘くて蕩けそうな愛を感じ、櫻宵がまた一つ、咲みをほころばす。
「カムイ、大丈夫よ」
 俯く視線をすくうように、櫻宵がそうっとカムイの頬を撫でる。まるで涙を受け止めるかのように眦に咲いた、櫻宵の色をした桜一輪を摘み取って、柘榴の中の朱桜に添わせ咲かす。
「ねぇ、カムイ」
「…サヨ?」
「カムイの朱桜の花言葉は何だっけ?」
「朱桜の花言葉は…私が決めた。「果たされた約束」と「約倖」だ」
 告げられる花言葉に、櫻宵がまた素敵ね、と微笑んで花を咲かす。その姿が愛おしいぶんだけ、別れを想像してしまった今は胸が張り裂けそうに痛む。それを誤魔化す様に、カムイが言葉を重ねる。
「…サヨの桜は?」
「私の桜の花言葉はね。『廻る約束を貴方と共に』『とこしえの愛』よ」
 私だけの桜。私だけの愛しい神。その全ての想いを込めた花言葉。カムイの身に今咲いて、櫻宵の躰にこの先ずっと咲き続ける、桜の言の葉。
「何も心配はないわ。今度は私があなたの願いを叶えるの」

――何度も何度も、あなたは私を助けてくれた。
そして今もこうして、傍に添うてくれる。
なら、この先は私が叶え続けるのよ。
とこしえに。

 まるで心まで見透かされたような、慈愛に満ちた櫻宵の瞳。それをひたと向けられれば、漸く胸に詰まった苦さがほどけていく気がして、苦笑を浮かべる。
「私の巫女には敵わないな」
「ふふ、そうかしら?……ねぇ、カムイ。私をあいしてくれる?」
「勿論だ。私が愛を謳うのも、愛を契るのも――サヨだけだよ」

――あいしてる。

 しゃらら、と響く水晶の音をかき分けて、耳に届く甘やかな声。神からの愛の言葉に微笑んで、今度は巫女が蕩けるように笑みを咲かせる。
「私もよ、カムイ。あなたを――愛してる」
 重ねられる言葉に、カムイも微笑みを浮かべて櫻宵へと向ける。そして掲げた手の内の柘榴をぱきり、と割って見せれば、分かたれた何方もに薄紅と朱紅が咲いた箱庭が出来上がる。欠けた花弁はあれど咲き誇り、合わせればまた一つとなって華やいで。二つに見えて、この世に唯一つきりの桜の箱庭。
「たとえ分かたれようと、ひとつだよ」
「そうね。何度離れても――こうして重なるの」
 分かたれた箱庭を重ね、互いに身を寄せ合い抱きしめれば、逸る鼓動も重なり合って、なにもかもがひとつになる。

――離れても、分かれても。
この狂おしいほど愛しい想いが還る先は、たったひとつ。
あなたのもとだけなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】
ずっとくっついてて欲しいくらいだったけど
炎使いの俺じゃそのうち花をダメにしちまいそうだもんな
身体をぽろぽろ離れるネモフィラを掬い上げて笑う
仕方ねえけどやっぱちょっと寂しいな

――ん?なんだパウル
一緒に……?
それ、いいな

一番大きな実を選んでは、俺とパウルの花を閉じ込めていく
中央にハイビスカス
矢車菊とネモフィラをその周囲に
パウルの菊に寄り添うように、あるいは纏わりつくように
愛しの吸盤ちゃんを添えていく

でーきた
エイツアの事務所に飾って見せびらかしてえくらい綺麗なオブジェ
でもやっぱ誰にも見せたくねえかも
いいな、ベッドサイド
毎日これ眺めながら寝るなんて最高
俺とパウルの、愛の結晶だもんな?なーんて


パウル・ブラフマン
【邪蛸】
右目を喪失して随分経つけれど
代わりに花があるってのも、案外悪くなかったかな☆

ん…ジャスパーもそのお花、気に入ってたもんね。
そだ!オレ達のお花、一緒に『一つの水晶』に入れてみようよ♪

二人で見繕った大きな実を池へ浸し
花の大小やバランスを見極めながら配置していこう。
ジャスパーの超絶イケてる美的センスを
オレの普段のヲタ活で鍛えた造形力で実現させたいな♪

できたー!!
大量の矢車菊の全てを納めることはできなかったけれど
オレ達が想い合う形が可視化されたのはマジ感激…てか感無量だよ!
どこに飾ろっか、ロビーもいいけど
やっぱり…ベッドサイドがいいかなって。
ふふ、おんなじコト考えてた。

正真正銘、愛の結晶だね♪



――しゃらら、と涼やかな音が響き渡る。

 花の結界を抜けて、凶刃を退けて、漸く辿り着いた水晶の秘境。そこは樹々に揺れる葉一つ、飛び交う鳥の翼一つとっても透き通っていて、きらきらとプリズムを放っている美しい場所だった。ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)がそのきらめきを写して瞳を輝かせれば、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)も恋人の喜びようにふにゃりと笑みを零す。けれどふと二人同時にぷつり、と何かが切れるような感覚を覚えて自らを顧みれば、躰からハラハラと花が離れていくのが見て取れた。
「お別れの時間かぁ…右目を喪失して随分経つけれど、代わりに花があるってのも、案外悪くなかったかな☆」
 見えるようになったわけではなかったけど、空っぽが埋まる感覚は新鮮で、こうして離れるとなるともの寂しい気持ちがわいてくる。
「ずっとくっついてて欲しいくらいだったけど、それじゃダメにしちまいそうだもんな」
 ジャスパーも恋人に準えた花が離れていくのは惜しい気がして、身体をぽろぽろ離れるネモフィラを掬い上げて苦く笑う。けどこのまま炎を操る自身の身に咲き続ければ、いつか焼いてしまいかねない。それならきっとこの方が、と思って自身に言い聞かせて頷く。
「仕方ねえけど、やっぱちょっと寂しいな」
「ん…ジャスパーもそのお花、気に入ってたもんね。」
 お揃いだと喜び躍ったジャスパーの姿は、パウルにとっても嬉しいものだった。それに伽藍洞の右目をひと時とはいえ埋めてくれたハイビスカスを、このまま水に還して別れるには寂しい気がして。
「そだ!ねぇジャスパー?」
「――ん?なんだパウル」
「このオレ達のお花、一緒に『一つの水晶』に入れてみようよ♪」
「一緒に……?それ、いいな」
 しゅん、と落ちていたジャスパーの尻尾が嬉しそうに揺れるのを見て、パウルが満面の笑みを咲かせる。それなら、出来るだけ沢山花が詰められるように、とびきり大きな実探しへと移っていく。――林檎大?だめだめ、足りない。メロンくらい?悪くないけどもう一声。大玉スイカサイズ?…これならいけそう!そうして選んだ一抱えはありそうな実に、今度は身に咲いた花をどんどん飾り付けていく。中央にはどん、とシンボリックにハイビスカスを置いて。矢車菊とネモフィラはその周囲へと華やかに。特にパウルの菊に寄り添うように、あるいは纏わりつくように、愛しの吸盤ちゃん(ネモフィラ)をここぞとばかりに密に添えていく。ジャスパーの超絶イケてる美的センスを主軸に、パウルの普段のヲタ活で鍛えた造形力を組み合わせ、花同士がつぶれない限界までぎゅっぎゅっ!と詰め込めば――。
「でーきた」
「できたー!!」
 大きめの水晶の実を丸ごと花束にしたような、美しく咲き染む箱庭が出来上がった。残念ながら濁流の如く溢れる矢車菊を全部は入れることができなかったけれど、愛が器に収まりきらないってことだね☆、と笑い合えばそれも嬉しい気持ちに代わる。
「オレ達が想い合う形が可視化されたのはマジ感激…てか感無量だよ!」
「ほんとすっご、エイツアの事務所に飾って見せびらかしてえくらい綺麗なオブジェじゃん!」
「だよねぇ☆どこに飾ろっか、ロビーもいいけど…」
「んー……いや今フツーに見せびらかしたいとかいったけど、でもやっぱ…誰にも見せたくねえかも」
「ふふ、ならやっぱり…ベッドサイドがいいかな。」
「…いいな、ベッドサイド。毎日これ眺めながら寝るなんて最高」
「ふふ、おんなじコト考えてた。」
 ぬくもりを分け合って眠る瞬間。微睡みを感じながら髪を梳くひととき。愛しい人の顔越しにこの花庭をみられたら、どんなに幸せな気持ちだろうか。
「俺とパウルの、愛の結晶だもんな?なーんて」
「もっちろん!正真正銘、純度100%の愛の結晶だよ♪」
 言い切る笑顔に、嬉しそうな笑みを寄せて、肩を寄せて箱庭を見つめ合う。

――愛してる、何よりも。その想いはきっと、命が尽きてもずっとそばに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
面白いですねぇ、こんな場所があるなんて
……これ、中はどうなってるんでしょう
生き物たちは、閉じ込められたとは思わないんでしょうか

不思議そうに近くの実を覗き込む
小さめの西瓜ほどもあるだろうか
触れたら取れてしまったそれを、慌てて両腕で抱えるように受け止める
……ちょっと重いですね、もう少し小さくて良かったんですが
中で魚でも飼ったら楽しいんですかね
水に浸して、小魚たちごと中に収めよう
水草と、水晶の花々と、水晶化した砂利と

……あの子が見たら、面白がるでしょうか
水晶化したなら毒性もないでしょうし、良いですかね
水底に、そっと赤い水晶と化した彼岸花を
煌めく光と水と、あの子の花と

ふふ、部屋にでも飾りますかねぇ



「面白いですねぇ、こんな場所があるなんて」
 きらり。何もかもが透き通ってプリズムを放つ、水晶の秘境。樹々も、飛ぶ小鳥も、泉を泳ぐ魚すらも水晶で作られたかのような不思議な場所に、葬・祝(   ・f27942)がほう、と感嘆の声を零す。透明な生き物の生態や草や花の感触なども気にはなるが、中でも一番確かめたいのはやはり、箱庭となる水晶の実。丁度近くの樹になっていた小さめの西瓜ほどもあるだろうものを、不思議そうに覗き込む。
「……これ、中はどうなってるんでしょう。生き物たちは、閉じ込められたとは思わないんでしょうか」
 果肉は見当たらず、見た目は唯の空っぽの実。虫や何かが入ってる様子も無く、試しに指でつついてみると、コツリ、と硬質な水晶の感触が伝わってくる――のと同時にぷつり、と枝から取れてしまい、慌てて両腕で抱えるように受け止める。
「……ちょっと重いですね、もう少し小さくて良かったんですが」
 無花果や林檎ほどの手ごろな実も見てとれたものの、摘んでしまった以上はこれでいいか、と気持ちを納得させて、内を埋めるものを模索してみる。
「この大きさなら、中で魚でも飼ったら楽しいんですかね」
 ちょうど金魚鉢にも近いサイズ感に、そんなことを思い付いて実を抱えながらととと、と泉の淵へと歩み寄る。底まで見通せる透明度の水に、ぱしゃりと跳ねる小魚たちを捉えて沈めると、果皮をすり抜けて全部が内へと収まって。そのまま水草と、水晶の花々と、水晶化した砂利と。手前は見えやすいよう水と小魚だけに、奥手は高さを出して花の造形が生きるよう。そうやってきらきら輝く水辺のものたちを籠めて、詰めて、配して。ただのからっぽの実を、永き時を渡る箱庭へと変えていく。その最中、ふと思い出すのは――かの、かんばせ。
「……あの子が見たら、面白がるでしょうか」
 それは、ほんのちょっとした思い付き。水晶化したなら毒性もないでしょう、と真白い腕を泉へと漬ければ、触れた奥底でパキリ、と音を立てて赤い水晶が顔を出す。細い花弁が幾重にも重なる、深紅の彼岸花。水晶の泉の水に触れて結晶化したそれを、箱庭の底へと添えれば、魚たちが嬉しそうにぱしゃり、と跳ねた。
「ふふ、部屋にでも飾りますかねぇ」
 透明で、煌めいて、密やかに赤を燈す永夜の箱庭。煌めく光と水と、あの子の花を閉じ込めた花の匣。

これを目にした時、あの子は一体どんな顔を見せてくれるのか。
――そんな想像を脳裏に描いて、祝がゆるりと口元に笑みを刷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディオ・マンサニー
【鏡酒】
おお、これが秘境。とても美しいなぁ。
…マジか。吾人と作ってくれるか。嬉しいな。

こちらもスノードームのような水晶の実を手に取り、何を入れようか考えて。

おや、吾人の花はダメか。葡萄なら良いのか。待っていろ、と黄金の杯の中から葡萄の実を何粒か取り出して。
そうだ、これもと装飾のラピスラズリを渡そう。
石の寿命が尽きる日まで、どうか大事にしてやってくれよ、と。

紫紺野牡丹とジニアだけを水晶の実へ入れる。
友の花が、黄金色に負けない鮮やかな紫色が輝いている。胸がいっぱいになる感覚に思わず、笑みが零れる。

蝶々が髪に止まって、思わず破顔してしまう。そうだなぁ…蝶は入れずに暫く戯れていようかな。


杜鬼・クロウ
【鏡酒】

まだ多少痛む左目から花弁の雫溢れ
花途を往き秘境へ

絶景だなァ!
俺もヤドリガミだから、連れ添う箱庭で心を慰めようとする気持ちは分かるな
水晶に宿る想いは、永遠に…か
(絶対、だなんて信じてねェが
”ずっと一緒”がカタチになってるのは…羨ましい)
…一緒に作ってみるか?ディオ

スノードームのような水晶の実に、
自分が咲かせた花の全て、葡萄の実、草木に止まる青い鳥を飾る
せめてこの中では永想に

お前の花は、お前の友の色だから俺の水晶には入れられねェ
代わりにお前の象徴でもある葡萄の実、くれよ
俺の花(紫紺野牡丹)やるから
石もイイのか?
…ハ、勿論
モノは大事にするタチなンだわ

軽く爪先だけ池の中へ
游ぐ魚に触れ羽が舞う



「おお、これが秘境。とても美しいなぁ。」
 キラキラと光を零し、しゃららと涼やかな音を鳴らす水晶の秘境。またとない美しい景色を目にしながら、ディオ・マンサニー(葡萄酒の神・f17291)が感嘆の声を上げる。
「確かにこれは絶景だなァ!」
 並び歩く杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)も、木の枝や葉っぱの一枚、飛び交う小鳥の羽に至るまで水晶で彫られたかのような光景に、目を見開いて笑みを見せた。未
だ花びらを零す左目は時折ツキリと痛むけれど、今となっては守り通せた証のようで悪い気はしない。
「水晶に宿る想いは、永遠に…か」
 自身もヤドリガミだからか、連れ添う箱庭で心を慰めようとする仙人たちの気持ちは何処となく分かる気がする。

――絶対、だなんて信じてねェ。
生きていれば何かしら、壊れ、変わり、朽ちてくものはある。
でも、例えそうであったとしても。
”ずっと一緒”がカタチになってるのは、羨ましいと思うから。

「…一緒に作ってみるか?ディオ」
 気が付けば、クロウの口をついて出たのはそんな言葉だった。なんて返すだろうか、とちょっぴり気がかりな反応を窺うように、ちらりと視線をディオに向けると。
「…マジか。吾人と作ってくれるか。嬉しいな。」
 返ってきたのは、はにかんだような笑みと嬉しそうな言葉だった。そうと決まれば、と早速ディオが樹になる実へと目を向け選び始めるので、クロウも思わずくく、と喉を鳴らし笑って、追うように実選びへと移っていく。程なくして選び終えたのは、両者とも丸くキレイな形をした、両手で包めるほどの実。なら次はどんな箱庭にしようか、と考えながら話は進む。
「入れるものは決まったか?なんならこのジニアを入れてもいいぞ。」
「お前の花は、お前の友の色だからな。俺の水晶には入れられねェ。」
「おや、吾人の花はダメか。」
「代わりにお前の象徴でもある葡萄の実、くれよ。俺の花やるから。」
「葡萄なら良いのか。待っていろ」
 それなら、と少し得意げにも見える笑顔を浮かべて、ディオが懐から取り出すのは黄金の杯。葡萄酒造りの神としての象徴。常はほんの少し揺らせばあっという間に葡萄酒で満たされるその杯に、今招き寄せるのはその元になる葡萄の実。ころころといくつか呼び寄せた所で、中でもいっとう美しい実を数粒選りすぐり、クロウへと手渡す。
「実はこれでいいか。あとは…そうだ、これも」
 そう言って、首元に飾った装飾品からぷつりと切り離すのは、真夜中に星を撒いたような煌めきを宿す石――ラピスラズリ。嘗ては金剛石よりも珍重されたという石を、それも身に着けたものから取って惜しげもなく手渡すものだから、クロウが驚いて目を見開いた。
「石もイイのか?」
「良いとも。代わりに…石の寿命が尽きる日まで、どうか大事にしてやってくれよ」
「…ハ、勿論。モノは大事にするタチなンだわ」
 器物に宿る身なればこそ、モノを慈しむ心は誰より深い。いつまでも輝くように、そして花も石も寂しくないような庭に、と思ってクロウが自身の実へ左目の花を籠める。ディオに手渡す一輪以外は、花びらの一つも零さぬように。葡萄の実と、そして草木を加えようと手折りかけた所で、まるで誘われたようにクロウの手に小鳥が止まる。透明さを纏いながらも、何処か青い燐光放つ鳥に作りかけの庭を見せれば、シャララ、と鳴いて自ら入り込むものだから――せめてこの中では永想に、と微笑みかけて庭を閉ざした。見守っていたディオも良い庭になったな、と笑いかけつつ、自身の実へそっと花を籠めていく。紫紺野牡丹とジニア、ただそれだけを水晶の実へ入れて。友の花が、黄金色に負けない鮮やかな紫色に輝いているのを目にすれば、目映さに痛めた心は溶けて、どこか暖かな心地がした。出来上がった実をのんびり覗いていると、ふとディオの髪にきらきらと輝く蝶々が止まったのを見て、泉に爪先を遊ばせていたクロウがへぇ、と声をかける。
「中々似合いの髪飾りだなァ。その別嬪は連れていくのか?」
「そうだなぁ…庭には入れずに、暫く戯れていようかな。」
 水晶の谷にはない鮮やかな新緑が気に入ったのか、まるで元からそこにいたかのように羽を休める様子に、ディオが思わず破顔する。

游ぐ魚が遊色煌めかせ、歌う鳥の羽が舞い、蝶の羽搏きはシャララと涼やかに響く。
――命と想いの箱庭は、きっと永久に続いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ】
…ねぇ、英の花を私にくれない?
なんだかどうしても欲しくて、そう強請ってみる
私の?
水に還そうとした花を指さされて首を傾げるけど
うん。じゃあ、交換ね
どれがいい?いっぱいあるよ、なんて冗談めかして笑いながら
摘んだ朝顔を差し出す

へへ、ありがとう
受け取った紫陽花を大切に両手に包む

だってこれには英の気持ちが詰まってるんでしょ?
英の心が咲かせた花だから、特別
ぜーんぜん、だって本心だもん

この思いは、恋と言うには優しすぎて
愛と言うには、ちょっと甘い

自分からも朝顔を摘んで、紫陽花の側に入れる
一輪でも綺麗だけど一緒がいいなって

他にも水晶の花を入れてみようかな
きらきらしてもっと綺麗になるね


花房・英
【ミモザ】
俺の?別にいいけど…なら、寿のくれよ
水に還すのはなんか勿体ないし
じゃあ、これとこれ
大きいのと少し小ぶりのものを指さす

何を思えばこんなに咲くんだろう
…羨ましい
そんなに思える寿の事なのか、寿に思って貰える事なのか
多分どっちもだから
大切に紫陽花を受け取って貰えた事にじんわり満たされる
口から出るのは、そんなに嬉しいもんか?なんていう素直じゃない言葉だけど

いつも思うけど、言ってて恥ずかしくない?
締まりなく笑う顔すら最近は今までとは違って映るみたいだ

ふぅん、思ったより合うもんだね

楽しそうに他の花も探す寿と手許の実を眺めて
ここは寿が好きそうなものが見つかりそうだな

俺はこれだけでいい
これだけが、いい



 美しく煌めく、水晶の秘境。ようやくたどり着いたそこを二人並んで歩いていると、目の前にはきらきらと光零す泉が広がっていた。太宰・寿(パステルペインター・f18704)が思わずその美しさにしゃがんで手を伸ばせば、冷たい水の感触と、硬質な水晶の粒になってはまた水へと戻る不思議な感覚も伝わってきて、ふふ、と笑い声を零す。楽し気な寿の様子には花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)も見守りながら、その姿にほっとしたような、嬉しいような心地がして、手首にまだ少し残っていた種が紫陽花を芽生えさせた。その咲きようを目にして、ふと寿が伺うように視線を投げる。
「…ねぇ、英の花を私にくれない?」
 なんだかどうしても欲しくて、素直にそう強請ってみる。申し出には一瞬英が目を見開いたものの、どこかでそう言うんじゃないかという気もしていたのか、すんなりと受け入れられた。
「俺の?別にいいけど…なら、寿のくれよ」
 そんなに綺麗なのを水に還すのは勿体ない、とまでは少し気恥ずかしくて口にはしなかったが、一先ず欲しいというところだけはきちんと言葉にした。
「私の?」
 そう返されて、今度は寿が目を丸くした。ちょうど泉にいるからこのまま自身の花は還してしまおうか、と思っていたのに。でも確かに人のものを欲しいというのなら、何かを差し出すのは道理かもしれない。
「うん。じゃあ、交換ね。どれがいい?いっぱいあるよ」
「じゃあ、これとこれ」
 冗談めかして笑う寿に、真面目な顔で大ぶりのと小ぶりの一輪ずつを指す英。指定通りの二輪を差し出して、未だ沢山のピンクの朝顔が咲く寿の身を見て、英の心の端にチリリ、と焦れたような想いが過ぎる。

――羨ましい。
何を思えばこんなに咲くんだろう。
この羨望はそんなにも鮮やかに“何か”を想える寿の事に対してなのか。
それとも寿にこんなにも想って貰える“なにか”に対してなのか。
…それは多分、どっちもだ。

 この想いはまだ知られたくない。だから花が吸ってしまう前に、と英が体から紫陽花を引き抜く。二輪分のお返しか、想いの先に宛てたからか、いっとう大きな一輪だったのはきっと無意識に近い。それを傷つけないよう寿がそうっと手で包んで、とびきりの笑顔でありがとう、と受け取ってくれるものだから、苦く広がっていた気持ちも溶けて、じんわりと満たされた気持ちになる。
「…そんなに嬉しいもんか?」
「だってこれには英の気持ちが詰まってるんでしょ?英の心が咲かせた花だから、特別」
「いつも思うけど、言ってて恥ずかしくない?」
「ぜーんぜん、だって本心だもん」
 つい口から出るのは、いつも素直じゃない言葉になってしまうけれど。それすらも受け止めるように優しく笑う寿が、いつからか違って見えるのはどうしてなのか。はっきりと掴めず居る想いを胸に、英が手渡した花を見つめる。その顔が、寿にもまた昔と違って見えているのは、気づかないまま。

――この想いは、まだ名前が付けられない。
恋と言うには、見守るような気持ちが優しすぎて。
愛と言うには、手放したくない気持ちがちょっと甘い。
程よいような、少しずつ足りないような。
でも胸があたたかくなる、大事な想いだから。

 自分の想いをそう掘り下げながら、口にはしない。いつか告げる日が来るかもわからない。でも望むのはきっと、お互いが幸せに笑っていられる未来なのは確かだ。だからそう在れるようにと祈りを込めて、近くの樹から実を一つ手に取る。その内に咲かせるのは貰った紫陽花に、自らの朝顔を一輪摘んで隣に添わす。
「一輪でも綺麗だけど、一緒がいいなって」
「ふぅん、思ったより合うもんだね」
 青に紫、薄桃と移ろう色合いは隣合えば馴染んで見えて、両手のひらで包めそうな実の中で心地よさそうに咲いていた。
「他にも水晶の花を入れてみようかな。きらきらしてもっと綺麗になるね」
「ここは寿が好きそうなものが見つかりそうだしな」
「でしょう?じゃああっちから行ってみよう!」
 同意に早速と足を向ける寿の背を見て、映が追いかける前にこっそり樹から実をもいで朝顔を籠める。

――俺はこれだけでいい。
これだけが、いい。
他には何にも、いらない。

 水晶の花も、泳ぐ魚も、自らの紫陽花をも添えることなく、ただ朝顔だけが咲き染む箱庭を手にして、そうっと鎖す。そしてこっちだよ、と手を振る寿へ、いつも通りの顔を繕って追いかけて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
咲く花:赤薔薇。

ほぅ、見事な景色に変わったな。

そう言えば水晶に花を詰めることができると聞いた。マクベスの花を残しておきたいのだが構わないか?
(それぞれ相手に詰めてもらう水晶の実を探して)
これに入れてくれるか?
(みかん大の水晶の身を差し出しマクベスから差し出された水晶の実の大きさに目を軽く見開いて)

随分と大きなものを選んだな。
だが、詰め甲斐がある。
(自身から咲いた花を取ると水晶に目一杯詰めて)
私の愛の形だからなたくさん詰めねばと思ってな。

勿忘草を詰めた水晶の実はきっと私と共に長くマクベスとの思い出を繋いでくれるだろう。
私は…マクベスを忘れない。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
わぁ~、水晶の光が反射してキラキラしてて綺麗…
あの木に成ってるのが水晶の実なのか
この光景、グラナトさんと見れてすっごくラッキーだね♪

全部は水晶に詰められないだろうから
花は一部だけ取っておいて後は池に返そうかな
グラナトさんはどの器がいい?
俺はそうだなぁ…小さいほうが持ち運べていいけど
家に飾ってみるのもいいかも
じゃあグラナトさんの愛がいっぱい入りそうな
1番大きいのにしようかな

グラナトさんの器に勿忘草を入れて…
たくさん詰めるよりは散らばるような感じで
もちろん、まだまだ末永く忘れられない思い出を作ろうね



「ほぅ、見事な景色に変わったな。」
 シャララと音を立てて輝く、水晶の秘境。先程までの渓谷とはまた違った美しさを見せるそこに、グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)が感嘆の声を上げる。
「わぁ~、水晶の光が反射してキラキラしてて綺麗…あ、あの木に成ってるのが水晶の実なのか」
 連れ立つマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)もその美しさに瞳を輝かせながら、物珍しそうにあちこちを眺めている。
「この光景、グラナトさんと見れてすっごくラッキーだね♪」
「そうだな、無事にこれてよかった」
 翠醒を退け、互いにけがもなく辿り着けたことを喜び合い、先ほどマクベスが指さした実のなる木へと歩み寄る。それぞれ大きさも形も異なる実がばらばらに実っているにもかかわらず、どれもすべて透明なせいか不思議と景色として整って映る。そのうちの一つに触れながら、グラナトがふとマクベスへと尋ね聞いた。
「そう言えばこの水晶の実に花を詰めることができると聞いた。マクベスの花を残しておきたいのだが、構わないか?」
「勿論!かわりに俺もグラナトさんのお花、貰っていい?」
「ああ、貰ってくれ。この花は全てマクベスを想って咲かせたからな。」
 想いに根差す花。愛しい相手を想い咲いた、たくさんの花。それを何もなかったように水へと還してしまうのは、どうにも惜しい気がして。互いに交換の約束を交わし、込める実選びへと移っていった。
「グラナトさんはどの器がいい?」
「そうだな…勿忘草の花付きが映えそうだから、これに入れてくれるか?」
 そういってグラナトがもいだのは、みかんほどの大きさの実。全部持ち帰りたい気持ちもあるが、ひとつひとつの花自体が小さい勿忘草との比較を考えると、きっとこの方が美しいだろうと見当をつけて選んだものに、マクベスがかわいいね、と微笑んで頷く。
「わかった、出来るだけ綺麗に入れるね」
「マクベスはどうする?」
「俺はそうだなぁ…小さいほうが持ち運べていいけど、家に飾ってみるのもいいかも」
 いつもそばに在る、というのも心惹かれるが、せっかくグラナトがこんなにも沢山咲かせてくれたのだ。全ては無理でも出来る限り、めいっぱい詰めて持って帰りたい――となると。
「じゃあこのグラナトさんの愛がいっぱい入りそうな、1番大きいのにしようかな」
 そういって手にしたのは、それこそマクベスの腕で一抱えするような、スイカほどもありそうな大きな実。
「随分と大きなものを選んだな。だが、その分詰め甲斐がある。」
 自身の実とその大きさを比べてグラナトが思わずふ、と微笑みを浮かべた。そして身に咲く赤薔薇をひとつひとつ丁寧に積んで、マクベスの実へと詰めていく。潰れないように、散らないように、けれど抱えるほど大きな実の内を、埋め尽くすように。
「すごい、赤薔薇でぜんぶ埋まっちゃいそう」
「私の愛の形だからな、たくさん詰めねばと思ってな。」
「じゃあ俺からも…」
 今度はマクベスが自身の勿忘草を摘んで、グラナトの手にする器へと入れていく。せっかく美しく残したい、と選んでくれた想いを汲む様に、その手つきは優しく緩やかに。ぎゅっとたくさん詰めるよりは、華やかに散らばるような雰囲気を心がけて花を籠めていく。その思いやりに、そして出来上がった箱庭の美しさに、グラナトが目を細めて微笑む。
「美しいな。きっとこれを見る度に想うだろう。私は…マクベスを忘れない。」
「俺もだよ。それにもちろん、まだまだ末永く忘れられない思い出を作ろうね!」
「ああ、共にな。」
 想いも、続いていく先も、きっと全て見届けてくれるだろう永想の箱庭を手に。二人が今一度、共にあろうと約束を交わし合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戀鈴・シアン
【狼硝】

ふふ、褒めすぎ
レンが居てくれる所も、俺の世界と同じだ
きみがいないともう俺の世界は成り立たないから

きみと同じ大きさの実を手に
レンの欲張りに付き合うの、好きなんだ

身から離れゆく互いの花
紫苑と、己にも咲いた一輪の勿忘草
この花も水晶に入れていいかな
此処に入れた花は一生咲き続けるんだって
まるで変わらない俺達の想いのよう
ああ
二人で、咲かせ続けよう

いいよ、勿論
俺は猫にしようかな
お互いのイメージの動物
指先でそれぞれの硝子細工を創って
片方はレンへ
俺達の花、守ってね

想いが花となり芽吹いたあの時
想いと力が通じ合ったあの時
一片の花弁だって誰にもあげない
俺達だけのもの

…欲張りな所、一緒にいる内に少し似てきたかも


飛砂・煉月
【狼硝】

水晶の秘境はシアンの世界みたいだ
キミみたいに煌めいてる
って、シアンの人たらし~
…でも、成り立たないのはもうオレも同じだ

実は林檎と西瓜の中間くらい
シアンと同じ大きさの少しの欲張り

離れ落ちる花に名残少し
勿忘草と自身にも咲いた紫苑を掌に
あっは、オレも同じこと考えてたってへらり
永遠を
約束を
不変を
――咲かそうよ

…あ、シアン
キミの硝子も入れてイイ?
オレのには犬とか
ちっちゃい奴なら走り回ったりすんのかな?
想い花の番犬に、なってよね

想いで咲いた花
花で通じ合ったあの瞬間の熱
此れは絆の形
オレが手に入れた永久
誰にもやんねーよ
全部オレので、全部オレ達のだ

一緒に居ると似るって言うじゃんね
だから欲張ってと狡く咲う



「――水晶の秘境は、シアンの世界みたいだ」
 きらきらと零れるひかりを目にして、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が言う。真白の渓谷を抜けて、凶刃を退けた、奥の奥。待ち受けていたのは、何もかもが水晶を削ったような美しい秘境だった。その透明な美しさが隣立つ硝子花瓶のヤドリガミに似ている気がして、落ちてくる鳥の羽一枚を捉えて翳し、ほらねと笑って見せる。
「ほら、キミみたいに煌めいてる」
「ふふ、褒めすぎ」
 準えられた戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)が、思わずくすぐったそうに笑いながら言葉を返す。花を活ける為に作られた身としては、うつくしいと例えられるのは嬉しいことだ。けれどもう、自らの世界は花の為だけにとどまらない。
「それならレンが居てくれる所も、俺の世界と同じだ。きみがいないともう、俺の世界は成り立たないから」
「って、シアンの人たらし~。…でも、そうだな。成り立たないのはもうオレも同じだ」
 出会って、話して、今こうして共に並び歩いている。その軌跡がいつのまにか、お互いにお互いの世界を大きく切り開いき、そして強く結びつけた。もう世界の一部はきっと、瞳に写し込む相手の姿をしているのだ。だからだろうか、どちらが問うでもなく、歩いた先で樹になる実を見つければ、どれを手にしようか自然に悩み始めていた。想いを糧に芽生える花、身に咲いた縁のカタチ。緩やかに離れつつあるそれを、ただ水に還すのはどうにも惜しい。なら、仙人たちの逸話に倣って封してしまおう。それも出来るだけ沢山、一輪でも多く。そう思いながら先にもいだのは煉月のほう。林檎よりも大きく、西瓜よりはほんの少し小さいほどの実を見つければ、これならいっぱい入るだろう、と両手でぷつりと枝から切り離す。大きすぎ?と顔の横に並べて問う煉月には、「レンの欲張りに付き合うの、好きなんだ。」とシアンが隣に実った同じくらいの大きさをもいで、悪戯っぽく笑って見せた。そして少しずつ躰から離れ出した花を、零さないように拾い上げては水晶の実へと寄せていく。硬質な感触をした果皮をするりとすり抜けて内で咲き誇る、勿忘草と紫苑、それぞれの実。別れた花庭にふと、シアンが肩口に咲いた花が零れるのを受け止めて、煉月に問いかける。
「ねぇレン、この花も水晶に入れていいかな」
「あっは、オレも同じこと考えてた」
 戦いの最中シアンの肩口に、そして煉月の指先に芽生えた互いの花。交わし合った証もまた永久に残そう、と摘み取った花を実へと籠める。
「此処に入れた花は一生咲き続けるんだって。まるで変わらない俺達の想いのようだよね」
「なら永遠を、約束を、不変を――ずっとここに咲かそうよ」 
「ああ。二人で、咲かせ続けよう」
 一つきりだった色に、蒼と紫の彩りが交わって箱庭が華やかさを増す。これだけでも飾りたいくらいに美しいけれど、もう少し、あと少し、とまた欲張りが顔を出して。
「…あ、シアン。キミの硝子も入れてイイ?」
「いいよ、勿論。俺も入れちゃおう…形は猫にしようかな」
「なら、オレのには犬とか?」
「ふふ、いいね」
 お互いをイメージした動物たち。それをシアンが指先をくるりと回しながら、それぞれの硝子細工を創っていく。猫はすらりとした短毛の美形で、長い尻尾がゆらり。犬はふさふさの長毛で、気安そうに尻尾がぶんぶん。出来たそれらを手に取って、そっとお互いの水晶の実へと入れれば、どちらも花の箱庭で気持ちよさそうにする姿がみえた。
「ちっちゃい奴なら、その内走り回ったりすんのかな?」
「きっとそうだよ。――俺達の花、守ってね」
「うん。想い花の番犬に、なってよね」
 託した願いにこたえたのか、箱庭の二匹がにゃあん/ワン!と鳴いた…ように見えて、シアンと煉月がふふ、と顔を見合わせて笑う。

――想いで咲いた花。
花で通じ合った、あの瞬間の熱。
此れは絆の形。
オレが手に入れた永久
誰にもやんねーよ。
全部オレので、全部オレ達のだ。

――想いが花となり芽吹いたあの時。
想いと力が通じ合ったあの、高揚と安堵を同時に感じた瞬間。
想い返せば今も胸があたたかくなるひとときを
きっとこの花が憶えててくれる。
だから、一片の花弁だって誰にもあげない。
全部全部、俺達だけのもの。

 出来上がった箱庭を手に、思ったことは同じ。口にはしなかった筈の想いが、それでも視線が合わされば――ああ、同じことを思ったのかと分かるのは、きっと。
「…欲張りな所、一緒にいる内に少し似てきたかも」
「一緒に居ると似るって言うじゃんね」
 裡に湧いた欲深い想いにシアンが苦笑を浮かべれば、もっと欲張って、と煉月が狡く咲う。

――いつか果てる時が来ても、この箱庭はそれすら憶えていてくれるだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
これは…(言葉を失うとはこういうことかと、その美しさに思わずため息)

月代、ウケ、ウカ、箱庭を作るお手伝いをお願いしてもいいですか?
片手に収まる大きさの実を手に取り、谷にある草木や結晶を近づける。
上手く空き地に見えるように配置できるといいのですが…。
月代やウケ、ウカに結晶を土管や猫の形に削ってもらい完成したものから実の中へ。

この先も路地裏の皆と…いいえ、縁あって出会えた方たちと末永くいられるように願いを込めながら、仕上げに自分に咲いたライラックの花を水晶の実に咲かせれば完成です!

水晶のようにきらきらと輝く光がいつまでも路地裏に降り注ぎますように
咲き誇るライラックに願いを込めて



「……これは。」
 漸く辿り着いた、水晶の秘境。樹々も、飛び回る小鳥たちも、足元に咲く草花までもが水晶を削ってできたように透き通っている。風が吹き抜けるたびに硬質な葉が擦れてしゃらら、と涼しげな音が響き、落ちる雫もきらめきを放っては水へと還っていく。言葉を失うとはこういうことかと実感しながら、その美しさに吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)が思わずため息を吐く。暫く堪能するように眺めてから、三匹分の視線を感じてハッと意識を引き戻す。そう、ここに来たのは景色を眺めるほかにも目的があって。
「月代、ウケ、ウカ。箱庭を作るお手伝いをお願いしてもいいですか?」
 尋ねれば、勿論!というようにそれぞれが鳴き声や頷きを返すのを見て、狐珀が笑みを浮かべてありがとう、と返す。早速頭上になる実の中から片手に収まる大きさのものを手に取り、秘境に生える草木や結晶へと視線を移す。草の一本、結晶の形ひとつとっても吟味して選び取る様子には、完成形がはっきり見えているようで。
「上手く空き地に見えるように配置できるといいのですが…。」
 目指すはあの居心地の良い空間。ふらりと来ては話を弾ませ、マイペースな猫たちを見守る野良者の集う場所。その再現の為に月代やウケ、ウカに手渡した結晶を土管や猫の形に削ってもらい、完成したものから実の中へと籠めていく。この先も路地裏の皆と、いやそれだけではなく縁あって出会えた方たち皆と、末永くいられるようにと願いを込めながら、角度を決めて飾って。仕上げに自らに咲いたライラックの花をそっと水晶の実に咲かせれば。
「…完成です!」
 ふぅ、と一息吐いて出来上がった箱庭を手伝ってくれた3匹にも見せると、嬉しそうに皆尻尾や耳が揺れる。ひとつ飾るごとに煌めきを増していった空き地風にまとめた箱庭。

――この水晶の様にきらきらと輝く光が、いつまでも路地裏に降り注ぎますように。

 内側で鮮やかに咲き誇るライラックに掛けて、狐珀がそっと願いを込めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

翼から零れ落ちた心の花
色とりどりのカランコエをそっと掬い取って

梅の実程の大きさの水晶の実を二つ取り
その一つをヴォルフに渡す
この中に二人の花を一緒に詰めて
後でペンダントに仕立ててお揃いのお守りにしましょう

本当は今も怖いの
大切なものを奪われることが
願い、思い出、そして命
そのどれもがかけがえのないものだから

だから、二人の積み重ねた思い出を
互いに交わした絆と誓いを
無くさないように
忘れないように

わたくしはあなたを守る
痛みにも恐れにも悲しみにも負けないで

わたくしとあなたが咲かせた想いの花は
清浄なる水晶の中で人の一生を超えて生き続ける
この優しい記憶が、いつまでも続きますように


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

胸に根付いたヘリオトロープが零れて落ちる
だが、この胸に咲いた想いは消えるどころか
なお一層花を咲かすようにいや増して

ヘルガから水晶の実を受け取り
彼女と共に互いの花を詰める
お前の咲かせたカランコエと俺のヘリオトロープが
共に寄り添い咲き誇る
それはまるで色とりどりの楽園

ヘルガ、強くなったな
俺たちはもう、どちらかが一方的に守られるような関係じゃない
共に並び立ち、共に戦い、一歩一歩未来へと歩む

ああ、必ず守り抜こう
この想いは何者にも奪わせはしない
二人が積み重ねた思い出
共に歩んできた軌跡を

この先に何が待ち受けていても
二人ならきっと乗り越えられる


俺たちはいつまでも一緒だ
この水晶の中に広がる花園のように……



――しゃらら、と涼やかな音が鳴る。

 何もかもが水晶で出来たかのように、輝ける秘境。戦いを経ても無事に辿り着けたことの喜び、そして何より美しい景色を共に見れる嬉しさに、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が瞳を輝かせて笑みを浮かべる。ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)もその嬉しそうな様子のヘルガを見て、切り抜けられたことへの安堵を再び噛み締めた。逸れないように、とどちらからともなく伸ばした手を取れば、ふと体から何かが欠ける感覚が奔る。それは胸に咲いた花が、翼から心の花が零れていくことの知らせ。けれど胸に根付いたヘリオトロープは確かに零れて落ちたのに、胸に咲いた想いは消えるどころか、なお一層花を咲かすようにいや増して感じて、ヴォルフガングが気づけば自らの胸を押さえていた。その姿にヘルガもまた零れ落ちた色とりどりのカランコエを、傷つけないようそっと掬い取る。そして梅ほどの大きさをした水晶の実を二つ摘み取り、その一つをヴォルフに渡す。
「この中に二人の花を一緒に詰めて、お揃いのお守りにしましょう。ペンダントにすれば身に着けられますし」
 提案されれば一も二もなく頷いて、ヘルガから水晶の実を受け取って、落ちたヘリオトロープを拾い上げていく。互いの花を半分ずつ交換し、手にした実へと寄せればするりと透明な果皮をすり抜けて、ヘルガの咲かせたカランコエとヴォルフガングの咲かせたヘリオトロープが、共に寄り添い咲き誇る。それはまるで色とりどりの楽園。果てまでも想いを留める――永想の箱庭。出来上がった美しい箱庭をそっと手に包み込み、ヘルガが嬉しそうな微笑みの中にほんの少し、憂いを混ぜて想う。

――本当は、今も怖いの。
大切なものを奪われることが。
願い、思い出、そして命。
そのどれもが愛おしくて、尊くて
かけがえのないものだから。

 だからこそ、二人の積み重ねた思い出を、互いに交わした絆と誓いを、無くさないように、忘れないように。今こうして想い込めた花を封して、永遠としたい。
「わたくしはあなたを守るわ。痛みにも、恐れにも、悲しみにも負けないで」
 恐れは未だ胸のうちにあっても、恐怖を知っているからこそ愛することの尊さもわかる。ヴォルフガングへと向ける視線は、誓いを籠めたように真っ直ぐと強い。
「ヘルガ、強くなったな」
 その眼差しに、ヴォルフガングがふ、と柔らかく微笑む。そう、最早お互いに、どちらかが一方的に守られるような関係ではなくなった。共に並び立ち、共に戦い、一歩一歩未来へと歩んでいく。本当の意味での伴侶となったのだ。
「ああ、必ず守り抜こう。この想いは何者にも奪わせはしない」
 二人が積み重ねた思い出も、共に歩んできた軌跡も、何もかもがかけがえのない愛おしいもの。この先に何が待ち受けていても二人ならきっと乗り越えられる。衒いなくそう信じられる。

「俺たちはいつまでも一緒だ。この水晶の中に広がる花園のように……」
「ええ、ずうっと。この優しい記憶が、いつまでも続きますように」

清浄なる水晶の中で、人の一生さえも超えて。
ヘルガとヴォルフガングが咲かせた花は――永想に、生き続けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ
何もなければずっと眺めていてしまいそうなくらい綺麗な場所ですけど、箱庭は作ってみたいので頑張ってそちらに意識を切り替えましょう。
作ってる間、ウィル達は自由行動です。

テラリウムの容れ物にちょうど良いような大きな実を選んで、半分はお水、もう半分は陸地を作りますね。

あともう一つとっても重要なものがあります。
苔が生えた流木です!
それから、陸地の部分に手の甲に咲いたマグノリアとベルフラワーをそっと落として。

生き物は、どうしようか迷いましたけど……。
もしもこの場所を離れて箱庭で暮らしたいっていうお魚さんやヤモリさんが居れば、何匹かお迎えしましょうか。
生きたい場所を決めるのは、その子自身ですもの。



「なんて綺麗な場所なんでしょう…!」
 何もかもが透き通り、きらきらとプリズムの反射する水晶の秘境。ようやく降り立つことのできたきらめく世界に、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)が同じくらいに瞳を輝かせる。樹々にゆれる葉の一つ、枝を渡る小鳥の翼、ぱしゃんと跳ねる魚の鰭すらも水晶を彫って作ったかのような美しい光景は、何もなければずっと眺めていてしまいそうなくらいだ。けれど、今日は見物だけが目的ではない。
「箱庭は作ってみたいので、ここは一つ意識を切り替えていきましょう。」
 ふるりと首を振って視界をリセットし、眺めるだけの時間は終わり。首をかしげて見上げるウィルたちには自由に遊んでおいで、と告げて自らは実選びへと移っていく。小さなものはさくらんぼ程から、大きなものは抱えるのも苦労しそうな大玉スイカ程まで。樹々に実る果実は実に多様なサイズで、思わず目移りしてしまう。一先ず作りたい箱庭を脳裏に描き、大きすぎず小さすぎずを意識して手に取ったのは、メロンほどの大きさの実。丁度両手で支えられて、飾るにもボリュームがあるほど良いサイズに満足したら、今度は中身の選定へ。テラリウムにするつもりで、まずは半分に泉の水をすくい、もう半分には水底から救い上げたサラサラの水晶砂と結晶で陸地を作り上げていく。それだけでも十分飾るに美しく、中に生き物も住めそうな箱庭だが、シャルファの瞳は未だ何かを探すようにきょろきょろと動く。
「この中にはあともう一つ、とっても重要なものがあります…それは、苔が生えた流木です!」
 どどーん。そう、お目当ては流木。それもテラリウムの印象を左右するオブジェにして、住環境を整える柱にもなる苔付きの物。何もかもが水晶で編まれたような秘境にあるのかとちょっぴり不安もあったが、泉の淵を重点的に探していると木自体は透明だが緑の苔が程よく生えた流木が見つかって、ほくほくと実の中へ込めた。それから、陸地の部分に手の甲に咲いたマグノリアとベルフラワーをそっと落として飾れば、テラリウム自体は一応の完成を見た。
「生き物は、どうしようか迷いましたけど……。」
 捕まえてしまうのは簡単だ。でも、それはしたくない。生きたい場所を決めるのは、あくまでその子自身。こちらから渡せるのは、棲みよいように想い込めた箱庭と、大事にする心意気だけ。その気持ちで以て、出来上がった箱庭をそっと泉の淵に置いて問いかける。――私と、私の仲間たちと一緒に、生きませんか、と。暫し続いた静かな時間は、ぱしゃぱしゃ水を跳ねさせる双子魚と好奇心旺盛そうな小ヤモリが箱庭へと滑り込み、それに喜ぶシャルファの――ようこそ、の声で終わりを告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

ゆぇパパやルーシーに咲いた花
元々は大切なひとにお渡しするための術だったのね

手にした水晶の実
キラキラしてなんてキレイ
中が空なのは少し寂しいけれど…あっ、パパみっけ!

ねえ、パパ
もし良かったらなのだけど
パパのヒマワリ、ひとつ頂いてもいい?
その、かわりにルーシーのお花も、あげるし
受け取って貰えればほにゃりと笑って

ヒマワリとイチゴの花
水晶の実に寄せれば
空だった箱庭が花で満ちる

とても、うれしい
このお花たちはずっと一緒って事でしょ?
先の約束を形を結んだみたい

パパ、これ
受け取って下さる?

ルーシーにも頂けるの?ありが、…黒ヒナさん?
…ふ、ふふ!
黒ヒナさんもありがとう
そっと撫で
ステキな世界で一つの箱庭ね!


朧・ユェー
【月光】

大切なひとに…
あの方もそうだと良かったですよにね

とてもキラキラと美しい
翳せば透き通る彼女を映す
寂しそうにする彼女にくすりと笑って

はい?僕の花ですか?
えぇ、構いませんよ
小さな向日葵の花を渡して
苺の花を?ありがとうねぇ
彼女の苺の花を受け取る

苺と向日葵の花が咲く
珍しい光景
一つとない僕達だけの花畑
えぇ、僕達の約束の…

下さるのですか?ありがとうねぇ
じゃお返しに
同じのを作ろうとしたらぴぃーと肩に居た黒雛が鳴くて羽ばたき小さな羽根が水晶へと
二人の花畑に降り注ぐ黒雪の様に

ふふっ、どうやらこの子も一緒にルーシーちゃんに渡したいみたいですね



「ゆぇパパやルーシーに咲いた花…元々は大切なひとにお渡しするための術だったのね」
 キラキラと美しい水晶の秘境。そこへ二人並んで足を踏み入れながら、花の由来を知ったルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が改めて自分に咲いた苺の白花を見る。
「大切なひとに…あの方もそうだと良かったですのにね」
 転ばぬようにとルーシーを見守りながら、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)もちらりと自らのヒマワリを目に映す。人の花を求めず、自らに芽生えさせて、捧げたい誰かがいたのなら――もしかしたら、戦うような道筋は、避けれたのかもしれない。骸の海に沈んだ今ではそれも遠い願いだろうが、ほんの少しの憂いを口にして、切り替えるようにユェーが首を振った。そして視線を戻せば、ちょうどルーシーが背伸びをして水晶の実をひとつ手にしたところだった。
「なんてキレイ…!」
 そのままでも輝き零す実はうつくしく、覗き込めばプリズムが青い目に虹の彩りを加えていく。ただ、中が空なのは少し寂しいかも、と一瞬肩を落としかけたが。
「…あっ、パパみっけ!」
 透き通る果皮越しに、一瞬寂しそうにする姿にくすりと笑ったユェーの姿を見つけて、ルーシーの顔にも笑みが浮かんだ。こうして覗き込むのも楽しいけれど、やっぱりせっかくなら中を何かで満たしたい。そう思えば自然と視線が向かう先にはヒマワリの花が咲いていて。
「ねえ、パパ。もし良かったらなのだけど…パパのヒマワリ、ひとつ頂いてもいい?」
「はい?僕の花ですか?」
「そう!その、かわりにルーシーのお花も、あげるし」
 少しもじもじしながら、どうかしら?と見上げるように訊ねる娘の姿は何ともいじらしくて愛らしい。そんな風に言われては、勿論返す言葉は決まっている。
「えぇ、構いませんよ。苺の花も、頂けるならうれしいです」
 そう言えば、ヒマワリにも負けない明るい笑みを見せて、早速お互いに自らの花を数輪ずつ摘み取り手渡し合う。それをルーシーが手にした実へと寄せれば、するりと果皮をすり抜けて、内側で一層華やかに花が咲き誇る。ヒマワリと苺の白花。本来なら同時に見るのは難しい花が共に添う、珍しい光景。一つとない二人だけの花畑。
空っぽだった箱庭が花で満ちる様子に、目を細めてほう、と感嘆の溜息をついてルーシーがつぶやく。
「とても、うれしい。これでもうこのお花たちは、ずっと一緒って事でしょ?」
「そうですね、きっと仙人の寿命までも一緒に咲いてくれるでしょう」
「まるで先の約束の形を、花にして結んだみたい」
「えぇ、僕達の約束のカタチのよう…」
「だから、ね。パパ、これ…受け取って下さる?」
 広げた両手にちょうど収まるほどの、小さくも想いの詰まった箱庭。それを大事そうにそうっと包みながら、ルーシーがユェーへと差し出す。
「下さるのですか?ありがとうねぇ。じゃお返しに」
 その気持ちが嬉しくて、落とさぬようにしっかりと受け止めたなら、父として娘へ礼を返そうとユェーも水晶の実を手に取る。同じように花を籠め、手渡そうと差し出しかけた所で、ぴぃー!と甲高い声が二人の耳に届く。鳴き声の主は、ユェーの肩に止まった黒い雛。
「…黒ヒナさん?」
 ことりと首をかしげるルーシーの目の前で、並んだ二つの箱庭の上を黒雛がくるりと輪を描いて羽搏く。その瞬間、小さな翼から零れた羽がするりと実に吸い込まれていき、ふわりふわり、と何度も舞う様子を見せた。それはまるで、二人の花畑に降り注ぐ黒雪の様に見えて。
「ふふっ、どうやらこの子も一緒にルーシーちゃんに渡したいみたいですね」
「…ふ、ふふ!黒ヒナさんもありがとう」
 ユェーの肩に戻って心なしかもっふりドヤッと見える黒雛へ、ふたりから感謝のなでなでが贈られる。そして改めて完成した箱庭を見つめて。
「世界で一つきりの、ステキな箱庭ね!」
 ルーシーが、とびきりの笑顔でそう告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】

せっかく咲いた金の種だ
ただ手放すんじゃつまんねェだろ
伽藍洞の実へ花を収めれば
一夜の花は永遠となる

見ろよこれ
イイ出来栄えだと思わね?

月下美人が収まる程のテラリウム
植物と鉱石を閉じ込めた静かな世界
花弁を滑る雫がプリズムとなり
小さな虹のカケラが散る

いよいよ金に困ったらこれ売って足しにする
薬代くらいにはなんだろ
所謂実物資産ってヤツ
ハハっ、お前の紹介なら金払いには期待出来そうだ

案外高く売れたりしてな
幾らで売れると思うよ?
遊び感覚で価格予想

お前も花の一つ咲かせりゃ
小遣い稼ぎ出来たのに残念だったな
言葉とは裏腹に面白がっているのは明白

散る花の存在には気づかず
煙草に混じった花の残香が微かに香って消えた


久澄・真
【五万円】

見せられたテラリウム
横目で一瞥すれば
こつり指の甲でノックを一度
振動が響くほど柔な作りはしてないだろに
またひとつ伝い落ちた雫がプリズムとなって散ってゆく
なるほどこれは売れそうだ

吸い込んだ煙を宙へと吐いて
金払いのイイ蒐集家ならツテがあるぜ
当たってみるか?なんてくつり嗤う

生憎と自身に綺麗所集めの趣味はない
相場を聞かれた所で経験則でしか割り出せず
これくらいじゃねぇ?
適当に指を幾つか立てた

お気遣いなく
小遣い稼ぎは十分間に合ってる
つか、俺に花が咲いたら面白かったのにっつーのが本音だろう

不意に手の内に零れ現れた黒い枯れ小花
どうしたって塵にしか見えないソレを
グシャリと当たり前の様に潰して払い散らした



――しゃらら、と涼しげな音が鳴る。

 何もかもが水晶で編まれたような、ひかり煌めく秘境。風が吹く度プリズムがきらきらと光を零す、美しい光景。その只中を黒と白の2人が並んで、紫煙纏わせながら横切っていく。
「――せっかく咲いた金の種だ。ただ手放すんじゃつまんねェだろ」
 そう言って、黒の男が自らに咲いた花をぷつりと摘み取る。価値を損なわないように、との配慮で以て触れる手つきは、酷く優し気に映って。お優しいねハニー、と久澄・真(○●○・f13102)が揶揄えば、良く知ってるだろダーリン?とジェイ・バグショット(幕引き・f01070)がおどけて肩をすくめる。丁度傍に実っていた手ごろな水晶の実を一つもいで、摘み取った月下美人を寄せれば、シャボンの膜のようにするりとすり抜けて吸い込まれていく。他にも目についたものをいくつか滑り込ませ、出来上がったテラリウムをジェイが掲げてニヤリと笑みを一つ。
「見ろよこれ。イイ出来栄えだと思わね?」
 ――それは、密やかな月の庭。輝き香る、手の内の静かな世界。月下美人を真ん中に据え、周囲を飾るのは水晶の小さな草花と鉱石の欠片。真白の大輪を邪魔することなく、けれど時折光を反射して花を主役に飾り立てる配置。花弁に浮かぶ雫は尽きることなく滑ってはプリズムとなり、小さな虹のカケラとなってキラキラと散っていく。その美しく鎖した箱庭を横目に見て、真が指を伸ばしてスノードームのように透明な果皮を弾く。カツン、と鳴る硬質な音を聞く限り、凡そ指ではじいた程度では振動が響くほど柔な作りには感じない。其れなのに、触れた瞬間にひとつ、またひとつ伝い落ちた雫がプリズムとなって散ってゆく。――なるほど、これは“売れそう”だ。
「いよいよ金に困ったらこれ売って足しにする。薬代くらいにはなんだろ」
「金払いのイイ蒐集家ならツテがあるぜ。当たってみるか?」
「ハハっ、お前の紹介なら金払いには期待出来そうだ」
 案の定、売買の価値を見出して作ったらしいジェイが――所謂実物資産ってヤツ、と告げれば、真も吸い込んだ煙を宙へと吐いて乗っかるようにくつりと嗤う。
「案外高く売れたりしてな。…幾らで売れると思うよ?」
 遊び感覚の質問なのはわかりつつも、尋ねられたら自然と頭の端で算盤が弾かれる。然し生憎と綺麗所集めの趣味はない為、相場を聞かれた所で経験則でしか割り出せず、これくらいじゃねぇ?と適当に当たりを付けて指を幾つか立てて見せた。その数字に満足したのか、口笛一つでニヤリと口の端を歪める。
「お前も花の一つ咲かせりゃ小遣い稼ぎ出来たのに、残念だったな」
「お気遣いなく。小遣い稼ぎは十分間に合ってる。…つか、俺に花が咲いたら面白かったのにっつーのが本音だろう」
「ハッ、つれないなダーリン」
 言葉とは裏腹の面白がるジェイの声に、言ってろ、と真が払うように手をひらつかせて――ふと、“ソレ”が視線に入ったのは偶然なのか必然だったのか。不意に手の内に零れ現れた、黒いモノ。煙草の灰か、道中で土でも触ったか。何にせよどうしたって塵にしか見えないソレを、当たり前の様にグシャリと潰して払い散らす。風に乗ってぬぐわれていく黒の欠片が、花びらの形をしていたことを。今しがた散った想いの花があることに、誰も気づかないまま。

――煙草に混じった花の残香が、微かに香って消えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
【嵐雅】

煌めき溢れる秘境、これは美しいな
零れる雫を掬ってみれば、硬質な感触に興味津々
雫へと戻る様を見送った後
首傾ける友の横顔見つめ、ああ不思議だな、と笑んで

お魚さんもキラキラと綺麗だ
やはり此処のお魚さんは、硬くて食せないのだろうか(じぃ
ふふ、では帰ったら、刺身を摘まみつつ酒盛りをしよう
などと…友と並んで、池を覗いてお喋りを

らんらんはどの水晶の果実に、何を閉じ込める?
俺は…そうだな
掌にころんと乗るくらいの、桃の形の果実をひとつ

一輪、貰っても良いだろうか
ふと腕を伸ばし、友に咲く白薔薇を手にすれば
己に咲く蒲公英と一緒に、永遠の箱庭に閉じ込めよう
俺のふわふわ綿毛も友へ
飾るのが楽しみだな、そう笑み返して


終夜・嵐吾
【嵐雅】

すごい場所じゃね~
不思議なもんじゃね、雫じゃのに水晶でまた雫になる
不思議過ぎてどういうことじゃ?と首を傾げてしまうの

お魚さん? と並んで見つめる
お魚さんもきらきらしとるの
刺身にしたら綺麗そうじゃな…
なんて思っておったら酒も恋しくなる
鮭とつまみを持ってきとったらよかったの
そしたらここで酒盛りできたろうにと笑って
うむ、帰ったら酒盛りじゃの!

まぁるいこれにしよ、りんごみたいじゃよ
おお、ええよ。持っていっておくれ

わしもせぇちゃんの綿毛もらお
ふわっと飛んでいく前にこの中へ
すすーっと入ってしまったの、不思議じゃ
…もっといれたらふわふわりんごになりそじゃな
ふふ、どこか日当たりのええとこに並べておくか



「煌めき溢れる秘境、か…これは美しいな」
 何もかもが輝きを放つ、仙人仙女も憧れる地――水晶の秘境。その優美な景色を目にしながら、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)がほう、と感嘆の声を零す。
「すごい場所じゃね~」
 隣立つ終夜・嵐吾(灰青・f05366)も目の上に手を翳し、ほうほう、と興味深そうにあちこちを眺め見ていた。透き通る樹々、プリズムきらめく魚や鳥、花も実も透明なそれらを見つめ歩くこと暫し。泉の傍で葉上をすべる雫が、まるで水晶同士をぶつけたようにシャララとなるのを聞いて、ふたりがせーので手を伸ばす。まず指に触れるのは、冷たい水としての感触。それがすぐに掌の上で水晶の硬質さを伝えたかと思ったら、濡れた心地を残して指の隙間をすり抜けていく。
「不思議なもんじゃね、雫じゃのに水晶でまた雫になる」
「ああ、本当に不思議だな」
 掴めそうで捉えられず、感触だけが残る指先を見ながら嵐吾が首を傾げ、その様子を見た清史郎は思わずふ、と微笑みを浮かべる。すると今度はぱしゃん、と水のはねる音が聞こえて、泉へと視線を移す。
「おお、お魚さんもキラキラと綺麗だ」
「お魚さん?」
 今度は反対に首をかしげる嵐吾へ、ほらそこに、と清史郎が指を指せばまたぽちゃん、と尾鰭をゆらして魚が跳ねた。かろうじで反射する光を捉えれば姿は見えるが、やはりここは魚の姿も透明に近く、水晶を彫ったかのような見た目をしていた。
「確かにお魚さんもきらきらしとるの。刺身にしたら綺麗そうじゃな…」
「やはり此処のお魚さんは、硬くて食せないのだろうか」
 水晶製ならやっぱり包丁が通らないのか、もしか切れたとしてもゴリゴリ食感…?なんて、魚と見てついうっかり食べる方へと話題のかじを切れば、何処となくお腹が切なくなった気がして二人が顔を見合わせ笑い合う。
「酒とつまみを持ってきとったらよかったの。そしたらここで酒盛りできたろうに」
「ふふ、では帰ったら、刺身を摘まみつつ酒盛りをしよう」
「うむ、帰ったら酒盛りじゃの!」
 ここの魚を口には出来なくても、土産話を肴にすればきっと美味しく飲めるだろう。そんな先の楽しみもちゃっかり確保しつつ、次は話のタネになりそうな箱庭づくりへと移っていく。
「らんらんはどの水晶の果実にする?」
「うーんどうしよ、結構色々ある…お、まぁるいこれにしよ。りんごみたいじゃよ」
「おお、可愛いな。では俺は…そうだな、これにしようか。」
 たわわとなる水晶の果実を前に目移りしつつ、嵐吾はりんごに似た形のを、清史郎は手のひらに収まるくらいの桃に似た実をもいで見せ合う。
「実が決まったら次は中身じゃの~」
「それなんだが…らんらん、よければ一輪貰っても良いだろうか」
「おお、ええよ。持っていっておくれ。代わりにわしもせぇちゃんの綿毛もらお」
「ふふ、ふわふわは良いものだからな。好きなだけ持って行ってくれ」
 互いの花を交換、ということで話は落ち着き、ふたりが咲き誇る花へと手を伸ばす。清史郎が嵐吾の腕に咲く白薔薇を傷めないよう優しく摘んで、嵐吾が今にもふわわと飛びそうな清史郎の髪の綿毛をそっと摘み取る。そうして林檎の実へ綿毛を、桃の実へは白薔薇と蒲公英を寄せるとあっという間に果皮をすり抜けて、中で気持ちよさそうに花が揺れていた。
「すすーっと入ってしまったの、不思議じゃ」
「本当に。仕組みはさっぱりだが、見てて面白いな」
「…もっといれたらふわふわりんごになりそじゃな。」
「もっと摘んでいくか?」
「それも良いの~。…ふふ、どこか日当たりのええとこに並べておくか」
「ああ、飾るのが楽しみだな。酒の席では目の前に置いておこうか」
「お、ええの!これでいつでもどこでもお花見楽しめる~」
 出来上がった箱庭を手に、ふたりが楽しそうに笑顔を浮かべる。秘境での楽しみはこれで終わりでも、まだやりたいことは残っている。

何処に飾るか、一緒に何を飲もうか。それは全部――帰ってからの、お楽しみ。

………🌸

「そういやせーちゃん、はいこれ」
「これは桃の花…いや、桜だな。らんらんどこでこれを?」
「せーちゃんの首にポツリと咲いとっての。でもこりゃせーちゃんが咲かせたと言うより…なんぞ、置き土産っぽい感じじゃな」
「土産…ああ、そうか。ふふ、“頼んだ”分の駄賃、というところだろうか」
「ま、何にせよ後はせーちゃんのお好きに、じゃの」
「では一先ず受け取っておこう。見つけてくれてありがとう、らんらん。」
「ふふ、どういたしまして~。」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
理(f13813)と

ぼろぼろと身体から離れる薔薇
君を想った愛の証を捨てたくなくて
折角だから入れるか、と水晶玉へ

1本、2本と数えながら
その度に君との日々を思い返す
秋に出会ってから
気付けば、もう半年だなあ
お前と一緒に居たら
毎日飽きねえし幸せだよ

やがて完成したテラリウム
ほら、理、部屋にでも置いとけ
受け取らねえなんて選択肢ないから
なんて、けらけらと笑ってみせて
不意に真剣な表情になれば
お前のは、くれねえの?

あ゛、と
誤魔化すような低音漏れて
そういや薔薇って本数で
贈る花言葉が変わるんだと
今日は11本だけど
そのうち108本準備するかな
ふ、と不敵に口角を上げて
君の唇へと指先を添えた
オレが贈るまで意味は調べんなよ


明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

薬指から離れた一輪の桔梗
咲いた当初は恥ずかしかったが
捨てたいとは思わなかった

こんな俺の好意を表したようなもの、贈られて嬉しいものかと言われれば全く自信がなく
然しやはり捨てる気にもなれず
迷いながら結局水晶の中へ

時の流れは早いなと談笑しつつ
差し出された薔薇のテラリウムが嬉しくてじわり頬が赤くなる
幸福に自然と笑み溢れ
「…ありがとう、ルーファス」
大事にするよと心からの言葉伝え
桔梗のことを問われれば瞳瞬き
「…こんなのでいいのか…?」
と申し訳なく思いながら差し出す

108?
それはどういう花言葉なんだと口にした矢先
彼の言葉と仕草にいよいよ真っ赤になり



――ぼろぼろと、身体から花が落ちていく。

 漸くたどり着いた秘境は、名に違わぬ美しさだった。何もかもが透き通り、水晶の煌めき零してしゃらら、と揺れる様に明日知・理(月影・f13813)が目を奪われているのを、イイ眺めだな、と何処となく揶揄うニュアンスを籠めてルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)が見守っていた、その矢先。ふつり、と何かが切れるような音が響いたかと思えば一輪、また一輪と薔薇が透明な大地に赤を添えていくのが見えた。――君を想い咲いた花。愛おしい気持ちを吸い上げた、愛の証。それを棄てるのは忍びなくて、水晶の実に入れるかと呟けば、理がはたと自らの手に視線を向けた。そこにルーファスの薔薇と同じように、指輪の様に咲き結んだ桔梗が、ちょうど体から離れていくのが見えた。“変わらぬ愛”なんて花言葉の花を、それも左の薬指に咲いたのを見つけた時は恥ずかしかったが、それでも捨てたいとはちっとも思わなかった。けどこんな自分からの好意を表したようなもの、贈られて嬉しいものかと言われれば――正直全く自信がない。然しかといって捨てる気にもなれず、ルーファスが樹々になった実を選ぶのに並んで、迷いながら理も水晶へ入れることを決めた。
「そういや秋に出会ってから、気付けばもう半年だなあ」
「もうそんなにか。時の流れは早いな」
 談笑に花を咲かせながら、ひとつ、ふたつ。ルーファスが両手で包めそうなサイズの実に赤薔薇を籠めていく。理もまた一輪分にちょうどいい小さな実を見つけて、そこへ桔梗をするりと入れ込んだ。
「お前と一緒に居たら毎日飽きねえし…幸せだよ」
 不意に零される、そんな言葉。思わずじわり頬が赤くなるのを感じて理がルーファスに視線を向けると、悪戯っぽい笑みと一緒に手が伸ばされて――。
「ほら、理、部屋にでも置いとけ」
 理からの返事は聞かず、ぽすり、と懐に出来上がった薔薇の箱庭を押し付ける。受け取らねえなんて選択肢ないから、なんてルーファスはけらけらと笑ってみせるけれど、理にはただただ嬉しいだけで。それを抱えて浮かぶのは、幸福に満ちた微笑み。
「…ありがとう、ルーファス」
 どうしても照れは浮かんでしまうけど、せめてお礼だけは真っ直ぐ目を見て告げよう、と理が顔を上げると、そこにはほんの数舜前とは打って変わった、不意に見せる真剣な表情のルーファス。
「お前のは、くれねえの?」
「え…?」
「その水晶の実」
 手にした桔梗入りの水晶を指さされ、理がぱちりと瞳を瞬かせる。あげたいとは思ったが、まさか向こうから欲しがられるとは思わなくて。「…こんなのでいいのか…?」と、申し訳ない気持ちで箱庭を差し出すと、理に劣らぬ嬉し気な微笑みで受け取られて行って。
「こんなの、じゃなくてこれがいいんだよ。」
 そう告げて受け取れば、ルーファスが――あ゛、と誤魔化すような声を上げてから、言葉をつなげる。
「そういや薔薇って、本数で贈る花言葉が変わるんだと」
「へぇ、そうなのか。」
「今日は11本だけど…そのうち108本準備するかな」
「108?それはどういう花言葉な――んっ!?」
 問いかけた口を、ルーファスがそっと指先一つで塞ぐ。触れる感触に思わずぴたり、と理が止まったのをいいことに、そのまま右から左へ。まるで口紅でも塗るようにツツ、と唇をなぞってから離し、ルーファスが不敵な笑みを浮かべる。
「オレが贈るまで意味は調べんなよ」
 ――その仕草に、その笑みに。どれ程心を搔き乱されているか、分かっているのだろうか。そう問いかけたくても、今は凡そ声が出そうにない。すっかり真っ赤に染まった顔を向けながら、理が…待ってる、と口の形だけで返事を返した。

――ひとつ、ふたつと数えて11。それが意味するのは“最愛の人”。
108の示す先を知るのは、きっとほんの少しだけ後のこと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈
アドリブ歓迎

すげぇ場所じゃん…めっちゃ水晶!
生きてる者全部凄い事になって…めっちゃ欲しいが流石に駄目か…

この水晶の実沢山ほしいが…
…この種って術?術なの?え覚えたい…覚えてぇよこれ…
身に想いの華を封して渡す…それも良いかもなぁ
折角だし俺様はこの花を水晶の実に入れるとするぜ!
心結はどうする?
まぁ俺様量がかなり出たし一部は泉に還すけどさ
俺様の花?
大丈夫だぜ、好きに使ってくれ

白椿を水晶の実に上手い事入れつつ

そういや結局何の想いからなんだろ
想いの種類がはっきりしないし…心結へのってのは確かなんだけど
…そうか、心結がそう言うんなら…細かい事は気にしなくてもいっか

もし一緒だったら…俺様も嬉しいかも


音海・心結
💎🌈
アドリブ歓迎


どこを見ても水晶
……綺麗ですね
この水晶の実沢山欲しいですが
他に此処を訪れる方もいるかもしれません
その方の為にも1つだけにします

選んだのは両掌に収まる程度の小さな実

折角ですし、みゆもお花の一部を入れます
全部は入らなそうなので、残りは泉へ
……ぁ
零時のも少し頂いてもよいですか?
ほんの少し寂しいですが
これでいつでも好きな時に見られます

一輪の白椿を軸に周りにカリンを散らす

何の想いでも
どんな想いでも
みゆの事を思って咲いてくれたのなら
それだけで満足ですよ
みゆの咲いたお花の意味
名前も花言葉も分かりませんが……

みゆが抱いている零時への想い
零時が抱いているみゆへの想い

一緒だったら、嬉しいのです



「すげぇ場所じゃん…めっちゃ水晶!」
 渓谷を過ぎて、凶刃を退けて、漸くたどり着いた水晶の秘境に兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)が感嘆の声を上げる。
「どこを見ても水晶……綺麗ですね」
 音海・心結(桜ノ薔薇・f04636)も同意するように頷いて、水晶が零すプリズムのひかりに瞳を輝かせる。
「生きてる者全部凄い事になって…めっちゃ欲しいが流石に駄目か…」
 そわそわと手を動かしながら零時が見つめる先は、秘境を生きる動物たちの姿。クリスタリアンとも通じるものがあるのか、透明で硬質な体で生きる者たちは気になるようで小鳥の飛び交うたびに視線がパッとそちらへ移る。
「この水晶の実もできれば沢山ほしいが…ていうかこの種って術?仙術なの?だったら覚えたい…覚えてぇよこれ…」
「確かにこの実は沢山欲しいですが、他に此処を訪れる方もいるかもしれませんしね」
 魔術の習得に意欲的な零時には勿論、飾るだけでも美しい実は心結にも魅力的に映る。然しやはり後の人を考えると沢山はよくないと結論付けて、それぞれ1つずつということで納得した。
「にしても身に想いの華を封して渡す、か…それも良いかもなぁ。折角だし俺様はこの花を水晶の実に入れるとするぜ!心結はどうする?」
「そうですね。折角ですし、みゆもお花を入れようと思います」
 沢山咲かせた美しい想いの花たち。それを持ち帰れるなら今日という日の記念になるし、もしかしたら眺めているうちにちょっぴり仙術の神秘を紐解けたりして…と淡い期待もかけつつ、ふたりが実選びへと移っていく。持ち運びやすいオレンジ大のか、せっかくだから大玉スイカ級の特大のを?等々悩みつつ、最終的に手に収まったのは飾るも持ち歩くも選べそうな、両手に包める林檎サイズのもの。その中に零時が白椿を潰れないよう優しく入れつつも、この大きさではせいぜい三輪くらいが限界で。
「流石に全部は入らなさそうだな。まぁ俺様量がかなり出たし、一部は泉に還すか」
「……ぁ、それなら零時のも少し頂いてもよいですか?」
「俺様の花?大丈夫だぜ、好きに使ってくれ」
 そう言って咲いた中からいっとう花ぶりの綺麗なものを選んで、心結へと白椿を手渡す。それを花びら一つも零さないようそっと大事に受け取り、心結が水晶の実へと籠めていく。貰った一輪の白椿を軸に、周りに自らに咲いたカリンを散らすと、見るも華やかな箱庭に仕上がって心結が嬉しそうに笑みを零す。
「そういや結局、この花が咲いたのって何の想いからなんだろ」
 ふと気になって、泉に還すつもりで持っていた白椿をくるくると回しながら零時がつぶやく。自身を覆いつくしかねないほどに咲いた花。それほどの量を咲かす想いなら、それがどんなものなのか知りたいと思う。なのに心結へ宛てた想いだという確かさ以外は、想いの種類すらいまいちはっきりしない。そして心結も自身に咲いた花の意味や、名前や花言葉も分からないまま。でも零時を想って咲いたとというのは、はっきりと言える。
「どうなんでしょうね?でも何の想いでも、どんな想いでも、みゆの事を思って咲いてくれたのなら…それだけで満足ですよ」
「…そうか、心結がそう言うんなら…細かい事は気にしなくてもいっか」
 掴み切れなくても、向けた想いがプラスの感情であることには確信が持てる。なら無理に今すぐ分かろうとしなくてもいいのかもしれない。――でももし叶うなら、どうか。
「みゆが抱いている零時への想いと、零時が抱いているみゆへの想い…それが一緒だったら、もっと嬉しいのです」
「うん、もし一緒だったら…俺様も嬉しいかも」
 未だにつかめないけれど、いつか手渡し合う日には同じ形をしていて欲しい、と願いをかけて。今は嬉しい、と交わし合う言葉が何よりの想い。

――花言葉は知らずとも、今こうして向け合う微笑みは
同じ様に、幸せに満ちているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

永く共に生きるための秘術か
不老不死と言われる仙人だからこそ…なんだろうね

なつめも竜神だから、オレよりずっと長生きなんでしょ?
ならきっとオレの方が先に死んじゃうね
オレが死んだ後も、ちゃんと忘れずにいてほしいな
今日こうして花を咲かせたことも

しょうがないなぁ
待つのはあんまり得意じゃないんだけど
…なんて
待ってるから
約束破ったら許さないからね

オレに咲いた花をあげるから
どっちが先だったとしても、この花を見てオレのこと思い出してよ
桃の実くらいの大きさの水晶にオレンジのガーベラを閉じ込めて
なつめが迷わないように願いを込める

どうして死は訪れるんだろう
神様って残酷だな


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】
秘術…か
流石仙人って名乗るだけのこたァあるなァ。

(言葉を聞けばきゅっと唇を噛んで)
……あァ、そうだな。
きっと少なくとも
寿命では人間よりは
長生きだろうなァ
忘れねェよ。忘れられねェよ
きっと。
お前は俺の『ひかり』で
俺の『幸せ』なんだから

なァ、俺も。
もしも、何かの間違いで
お前より先に俺が死んでも
俺の事、忘れないで。
次は必ず覚えて転生するから
死なずに…待ってろ。

そう言って柚子の様な実に
尻尾に咲いた
彩り豊かな勿忘草と
『忘れないで』の
想いをめいっぱい詰めた
虹の実を差し出して交換こ。

貰った実を見つめながら
お前も
この中に入れられたらずっと…
と考えたのも束の間

ありがとな。
とお礼を言って大事に握りしめた



「永く共に生きるための秘術、か」
 しゃらら、と涼やかな音が鳴る水晶の秘境。ひかりは水晶を通してプリズムを放ち、何もかもが透明できらめく場所。そのうつくしさを前に、永く封したいと思う気持ちが分かるかも、と宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)が手を翳して光と遊ぶ。
「ま、流石仙人って名乗るだけのこたァあるなァ。」
 唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)もまた目の前にひらりと落ちた鳥の羽をつかみ取り、光に透かして覗き見る。
「不老不死と言われる仙人だからこそ…なんだろうね」
 生あるものは、死から逃れられない。けれど種族によっては、その永きが永遠にも等しいものがいる。この世界を生きる仙人たちもまた、数多の時を跨いで生きていくのだろう。――それは、ただの人間にはあまりに遠い時間。
「なつめも竜神だから、オレよりずっと長生きなんでしょ?ならきっとオレの方が先に死んじゃうね」
「……あァ、そうだな。きっと少なくとも寿命では、人間よりは長生きだろうなァ」
 竜の神として生を受けたなつめも、恐らく人間よりもずっと長い時を生きる。――過去を想って胸が痛むことは、今まで幾度もあった。けれど今初めて、いつか来る先を、その別れを思って、きゅっと唇をかんだ。
「ならオレが死んだ後も、ちゃんと忘れずにいてほしいな。今日こうして花を咲かせたことも」
 別れは寂しい。だからこそあとに残るものへ、カタチや想いを置いていきたい。そう思うのは短か世の人の性か、それとも――想う相手がいるからこそ、か。
「忘れねェよ。忘れられねェよ…きっと。」
 花の橋を渡ったあの日も、共にスープを口にしたあの日も。笑顔も、あたたかさも、何もかも憶えている。たとえこの先幸せな思い出が傷跡を刻んで痛んでも、何一つ忘れない、何一つ手放して、たまるものか。――お前は俺の『ひかり』で、俺の『幸せ』なんだから。
「なァ、俺も。もしも、何かの間違いでお前より先に俺が死んでも…俺の事、忘れないで。」
 そして例え不老不死であっても、それは“死なない”と同義ではない。老いず病まずの身すら、直に躰を損なえばそこには死が待っている。だからこれは、保険だ。我儘と欲張りに、別れを憂う気持ちを隠した、誓いにも似た約束。
「次は必ず覚えて転生するから、死なずに…待ってろ。」
「…しょうがないなぁ。待つのはあんまり得意じゃないんだけど」
 張りつめた声に、十雉もまた痛む胸を隠して苦く笑う。その表情にもしか断られるのか、となつめの寄せた眉根以上に尻尾がしょぼんと下がるのを見て、今度は込みあがる想いのままに微笑んで見せる。
「…なんて、冗談。待ってるから、ずっと。その代わり、約束破ったら許さないからね」
 そう言って、手を伸ばすのは水晶の実。樹になった一つを摘み取って、
「ほら、オレに咲いた花をあげるから。どっちが先だったとしても、この花を見てオレのこと思い出してよ」
 手渡すのは桃の実くらいの大きさの水晶に、オレンジのガーベラを閉じ込めた箱庭。なつめが迷わないようにと願いを込めた花たちは、その想いに応えて太陽のように咲き誇る。それをありがとう、と受け取るなつめがふと――この中に十雉も入れられたら、と考えかけてふるりと頭を振った。そして手を伸ばして、柚子の様な実をひとつもぐ。尻尾に咲いた彩り豊かな勿忘草と、『忘れないで』の想いをめいっぱいに詰めこんで、虹のようになった箱庭を交換に差し出した。閉じ込めて、永遠にして、ずっとそばに置いて。それで幾何かの安堵を得ても、十雉に幸せと自由がないなら意味がない。だからせめて、この想いだけは添うて欲しいと、ありったけで願う。

――あァ、分かるよ。きっとこんな想いを礎に、この箱庭の秘術は生まれたんだ。

「…どうして死は訪れるんだろう。神様って残酷だな」
「本当になァ。でも、こうしてときじに会えたのも神様の采配だってんなら、悪くねェさ。それにほら、俺も一応“竜神”だし?」
「――ふ、はは。そうだね、そうだった。」
 未だ憂いは、胸に残り続ける。それでも、こうして交わした箱庭を、ともに笑い合えるこの日を。今は、愛おしく想うから。

――いつか分かたれる日まで、どうかずっと、傍に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミンリーシャン・ズォートン
アドリブ歓迎

水晶の樹へ近づいて
うーんと背伸びして手にするのは掌に乗る大きさの果実
私の愛しい人への、贈り物

先ずは水を少し入れて、煌めく鳥の羽根を探しに

鳥さん、鳥さん。
その綺麗なキラキラの羽根、おひとつ分けてくれませんか?

待って待って~、と追いかけるけれど、全然羽根が手に入らない……
疲れてぽふりと寝転んでいると、自分の羽根が抜けました。

思わず自分で自分を笑っちゃいながらも、己の羽根を果実へ入れて、最愛の彼を想って咲いた金木犀の花も入れて。
ーーそして、己の身体から放たれる光も果実に閉じ込めたなら、私だけの永想の箱庭の完成なの

喜んでくれるかな
早く逢いたい、

さぁ、帰ろう

煌めく箱庭を大切に抱き、帰路に就く



――しゃらら、と涼しげな音が鳴る。

 何もかもが水晶で出来た秘境は、葉ずれや囀り一つとっても、何処か硬質で澄んだ音がした。そんな美しい景色の只中で、ミンリーシャン・ズォートン(戀し花冰・f06716)がうんと背伸びをしながら手を伸ばすのは、水晶の実。ほんの少し指先がふれただけで、ころりと転がり込んでくるそれは、ちょうど両手のひらで包めるほどのサイズ。これに何を詰めようか。この秘境の美しいものを、想いを全部込めて――私の愛しい人への、贈り物にするの。そう思えば足取りも軽く感じて、まずは泉へと浸して少し水で満たす。そして次は何を入れようか、と思ったところに芽に飛び込んできたのは、美しい羽を輝かせる小鳥が一羽。
「鳥さん、鳥さん。その綺麗なキラキラの羽根、おひとつ分けてくれませんか?」
 そろり囁くように訊ねると、ピチュチュ?と不思議そうに首をかしげてから、小鳥が離れた枝へ移ってしまう。
「あ、わ、待って待って~」
 思わず追いかけるけれど、近寄るたびにひょい、と奥の枝へ移っていくばかりで、肝心の羽根はちっとも手に入らない。何度か繰り返していくうちにくたびれてしまい、諦めようかと芝生の生えたあたりにぽふりと寝転んでみると――ふわっと舞うのは白と水色の羽根が、2枚。
「…自分の羽根が抜けました。」
 なんともな結末についふふ、と自分自身に笑いが零れる。するとその声に重なるように、思いのほか近くで小鳥の声がした気がして振り返る。追いかけていたはずの小鳥が気が付けば目と鼻の先に居て、ミンリーシャンが手にした羽を興味深そうにのぞき込む。そして唐突に自らを羽繕いしたかと思うと、抜けた1枚を差し出してきた。
「もしかして…交換、ってことでしょうか?」
 ぱちり、と瞬きながら訊ねると同意するようにピ!と鳴き声が上がるので、ありがとうと礼を告げて交換した。小鳥は貰ったミンリーシャンの羽を満足そうに咥えて飛び去っていき、残されたのはきらきらプリズムの輝きが美しい一枚の尾羽。想わぬ戦利品が嬉しくて、ひかりに翳して虹色を暫し堪能した後は、自らの羽根と最愛の彼を想って咲いた金木犀の花と共に果実へと入れる。そして最後に、身体から放たれる光をも内へと込めたのなら――この世にたった一つだけの、永想の箱庭が完成する。

――箱庭、喜んでくれるかな。
手渡したなら、どんな顔をしてくれるかな。
ああ、早く逢いたい。
一秒でも早く、一瞬でも永く。
あなたの傍に、いたい。

「――さぁ、帰ろう」
 煌めく箱庭を大切に胸へと抱いて、ミンリーシャンがくるりと踵を返す。美しい水晶の秘境にも、涼やかな小鳥のさえずりにも、振り返ることはない。だって――愛しい人の温もりには、敵わないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月13日


挿絵イラスト