ブラック・アンド・ブルー
●虜囚にして罪在りき
「何故こんなことをするのかと言われたら答えを返すことは簡単だ」
蜘蛛手格子の獄舎に猟書家『リュカ・トワル』の声が反響師弟響いていた。
言葉が向けられた先にあったのは、一人蹲る少女。
彼女はオウガブラッドである。
オウガに取り憑かれてはいるものの、狂気の淵を彷徨いながらオウガを抑え込み、されど生き延びるためにオウガの力を駆使する者である。
彼女の名は『オグレス』。
その身に宿した『茨の森の花』と呼ばれるオウガが今、彼女の身体の中で本能を目覚めさせようとしていた。
「――は、っ、ぐ……! かんたん、な、こと……?」
歯を食いしばり、身の内側から溢れんばかりの食人衝動を抑え込みながら『オグレス』は猟書家『リュカ・トワル』を見上げる。
その瞳に宿る執着の意味を理解できずに『オグレス』は震えることしかできなかった。
彼女は獄舎の中に満ちる血の匂いに絶えきれなくなってきていた。
嫌なのに。
とても、とても、嫌なのに。それでも身体が求めているのだ。血肉を、人肉を、アリスの柔らかそうな肉を。
生唾が鳴る。
こんなの自分じゃないと叫ぶ心があれど、身に宿したオウガが震える。
血を欲している。
暴力を欲している。
人を食うという欲求から逃れられぬ宿命を欲しているのだ。
「そう、恐怖や狂気に抗って何処に行こうっていうんだ? 逃げるのも、何かを目指すのも疲れるでしょ?」
だから、楽にしてあげたいんだと、執着の光を宿した瞳で『リュカ・トワル』は『オグレス』の前にどさりと何かを放り投げた。
それはとても、とても。
そう、とても。美味しそうな『■■』。
綺麗な断面。恐怖に引きつったまま固まった表情。絶望に流れる涙。そのどれもが、どうしようもなく。
「――おいし、そう……いやっ、いやだっ、こなの嫌だ! こんな感情があるなんて思いたくない! 私、どうしてこんなにも!!」
『オグレス』が声を張り上げる。
己の身内より張り裂けそうなまでの衝動に翻弄され、頭を床に強かに打ち据える。
「まだ抗うんだ? 頑固だね。衝動に任せてしまえば楽だっていうのに。どうしたって、そんなに意固地になるんだ。楽になっていいんだよ」
狡猾に、それこそ甘やかすように『■■』を蹴り転がす『リュカ・トワル』は、まるでサッカーボールを転がすように『オグレス』の元へと、それを運ぶ。
「さあ、たんと召し上がれ。我慢は体に良くないってことくらい、誰だって知っている。さあ、そんな人間性なんて、捨てちまえ――」
●人として生きるということ
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はアリスラビリンス。猟書家『リュカ・トワル』のアジトである『蜘蛛手格子の獄舎』に囚われているオウガブラッド『オグレス』さんを助けて頂きたいのです」
ナイアルテの瞳が爛々と輝いていた。
彼女のが語る猟書家『リュカ・トワル』はオウガブラッドに憑依したオウガに宿主である『オグレス』の肉体を完全に乗っ取らせることで強力なオウガに仕立てあげようと企んでいるのだ。
「言うまでもなくオウガはアリスの、人肉を欲します。未だ『オグレス』さんの意識は喪われておりませんが。すでに彼女の肉体はオウガ『いばら姫』に乗っ取られています」
今のオウガ『いばら姫』は飢餓状態である。
抵抗を続ける『オグレス』の意志が、人肉を食することを拒み続けているからだ。そこに猟兵たちは駆けつけることができるが、当然『いばら姫』は猟兵たちを喰らおうと襲いかかってくるだろう。
「心は怪物ではなくても、肉体はオウガ。極限まで飢えさせられた『いばら姫』の力は強大そのものです。しかし、未だ『オグレス』さんの心が喪われていないことが幸いしています」
そう、強大なオウガであるが、心にはまだオウガブラッドである『オグレス』の心が残っている。呼びかけることに寄って、意識を取り戻させることができれば弱体化させることも可能であろう。
「彼女は元は花を愛する方だったのでしょう。憑依したオウガもまた草花に関連する存在。しかし、それは美しくも棘を持つ食人花。美しく咲くために血肉が必要であるのならば、そのまま立ち枯れることと望む高潔さがあったのです」
どれだけ空腹になろうとも、例え、それが草木の一本であっても手折ることを悲しむ気持ちが彼女にはあった。
けれど、それらを全て無駄だと切り捨てる者がいる。
それが猟書家『リュカ・トワル』だ。恐怖にあらがい、狂気に打ち勝つことを無駄だと謗る。
「オウガ『いばら姫』を弱体化させ、倒せばオウガブラッドである『オグレス』さんは人間の姿に戻るでしょう。しかし、猟書家『リュカ・トワル』は再び『オグレス』さんをオウガ化させようとしてくるでしょう」
その執着が如何なるものであるのかは伺い識ることはできない。
けれど、そこに悪意があることは言うまでもないのだ。
「人の心を徒に踏みにじる行いであることを知りながら、それをする者を許してはおけません」
ナイアルテの瞳が爛々と輝くのは、その激情故であろう。
人の心に傷跡は在りきである。けれど、その傷跡に触れていい理由は多くはない。触れることができたとしても、そっと撫でるのが望ましいだろう。
痛みを知らしめるために、己の執着のために触れていい場所ではないのだ。
「どうか、お願いいたします。『オグレス』さんを救い、猟書家『リュカ・トワル』を打倒してください」
ナイアルテは猟兵たちを送り出し、深々と頭を下げる。
彼女にできることは、これくらいしかない。けれど、人の傷口を不躾に触れる者を許してはならぬという並々ならぬ意志が猟兵たちの背中を押すのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はアリスラビリンスにおける猟書家との戦いになります。猟書家『リュカ・トワル』との戦いになります。
『蜘蛛手格子の獄舎』でオウガブラッドをオウガへと堕とさんとする『リュカ・トワル』の企みを打ち砕くべく、オウガブラッド『オグレス』を救うためのシナリオになります。
※このシナリオは二章構成のシナリオです。
●第一章
ボス戦です。
転移するとオウガブラッド『オグレス』に憑依しているオウガ『いばら姫』は肉体を乗っ取り、皆さんへと襲いかかってきます。
オウガブラッドである『オグレス』さんに呼びかけ、意識を取り戻すことによって強力なオウガの力を弱体化させることができます。
倒すことによって元の人間の姿に戻ります。
●第二章
ボス戦です。
猟書家『リュカ・トワル』は、人間に戻ったオウガブラッドを再びオウガへと変えるように心無い言葉を投げつけてくることでしょう。
人間へと戻ったオウガブラッド『オグレス』さんはユーベルコード『オウガ・ゴースト』を使って、皆さんに協力してくれますが、効果の通り代償を支払っていますので、回復してあげるのも良いでしょう。
プレイングボーナス(共通)……オウガブラッドに正気を取り戻させる/共に戦う。
それでは、オウガブラッドをオウガへと変貌させることに執着する『リュカ・トワル』から人間性を救う皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『いばら姫』
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POW : 死体の森の眠れる美女
戦場全体に、【UCを無力化し、侵入者を攻撃する茨】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 千荊万棘フォレスト
【UCを無力化する広大な茨の森】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : カニバリズムローズ
【周囲の地形が広大な茨の森】に変形し、自身の【森に侵入した者の生き血(敵へのダメージ)】を代償に、自身の【森の、UCを無力化し、侵入者を攻撃する茨】を強化する。
イラスト:ぬる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
植物のように生きたいと願った。
誰も傷付けず、ただ道端に咲くような草花のように生きたいと思った。
「見向きされないような小さな花でいい。それがいい。けれど、空と太陽の下で風にそよぐように穏やかに生きたいの」
それがオウガブラッド『オグレス』が願った、たった一つのことだった。
傷つけることをしたくないということは、誰とも触れうことをしないということだ。
人によっては、それはより良い生き方ではないだろう。
けれど、『オグレス』はそれがよかったのだ。
誰かと競争することが苦手だった。
誰かと争うことが苦手だった。
だから、ひっそりと息を殺すように生きていたかったのだ。
「けれど、そんな生き方、大変でしょう? だから開放したげよう。しんどいことはやめてさ。誰も彼も傷付けて、傷付けまくって、他人を遠ざけてしまえば、君が望む生き方は簡単に手に入る。静かな、誰も寄り付かない孤高の人になれる」
猟書家『リュカ・トワル』が言う。
確かにそれもまた一つの選択なのだろう。
けれど、それは自分が選びたい生き方ではないのだ。
そんな風に血を流す生き方なんて。
「でも、その身に宿ったオウガは違うって言っている。どうやっても血肉を喰らいたいって言っている。そんな生き方はダメだって言っている。ほら、手を伸ばせば直ぐだ」
転がってくる『■■』。
ああ、そうだ。
どう生きるにしても、奪われてしまっては生きてはいけない。
でも、どうしても。
「――それでも、私、誰かを傷つけるのは嫌なの」
その言葉と共に『オグレス』の意識は闇の中に沈んでいく。
代わりに身を割くような叫びが響き渡る。
茨が走るように張り巡らされていき、その鋭いトゲを誇るように。
そして、咲いた花には牙が生え揃い、近づくもの全てを喰らわんとする。ゲタゲタと笑う食肉花の牙が打ち鳴らされ、猟書家『リュカ・トワル』は満足げに笑うのだった――。
鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎
WIZ
オウガに抗っているオグレスさん
抗っているという事はそうなりたくはない理由があるはず
誰かを傷付けたくない、という思いから来るものなら、俺も同じような気持ちを抱く者だから…力になりたい
オグレスさんに呼びかけてみよう
「貴方がもし誰かを傷付けたくなくてオウガになるのに抗っているのなら…。その優しさは失われちゃいけないものだと思う。俺も同じだから」
負けないで!と必死に呼びかけつついばら姫をなんとかしよう
茨の森は厄介だ
遠距離から仕掛けよう
手元の飴を媒体に固有結界・黄昏の間を発動
火の疑似精霊を召喚
【全力魔法】力を注いだ【破魔】付与の火球で茨の森を【貫通攻撃】しつつ本体にもダメージを
人の心の暖かさを識るのならば、その心が千差万別であることを識ることでもあったことだろう。
言葉は形を正確には伝えない。
言葉は言葉だ。何の力も保たない。けれど、その言葉の意味を、言葉を感じ取れるのであれば、それは即ち力であったことだろう。
オウガ『いばら姫』は叫ぶと周囲を広大な茨の森に変えていく。
あふれる蔦が、あふれる棘が、森に入り込もうとする者全てを傷付け、血を欲する。
「何も傷付けたくないなんて、そんなの欺瞞よ。自分が傷つきたくないから、誰かを傷付けないと宣言しているだけに過ぎない。そんな言葉に何の意味があるというの?」
オウガ『いばら姫』は、今肉体を乗っ取っている『オグレス』の思いを踏みにじる。
静かに、ただ心穏やかに生きていたいと願った彼女の願いさえも見下すのだ。
「貴方がもし誰かを傷付けたくなくてオウガになるのを抗っているのなら……」
しかし、そのオウガの言葉を突き破るようにして真っ直ぐに茨の森を貫く炎があった。
固有結界・黄昏の間(コユウケッカイ・タソガレノマ)によって火の疑似精霊へと変化させた鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)が放ったユーベルコードの一撃であった。
「その優しさは喪われちゃいけないものだと思う。俺も同じだから」
ひりょは叫ぶ。
言葉は何の意味も保たないけれど。それでも叫ぶ。感じる心があるのならば、それはきっと『オグレス』の力になるだろう。
誰も彼も傷付けたくないと願った彼女の思いはいつだって誰かに踏みにじられるものである。
人はそれを踏みにじったということすら自覚できない。
雑草を踏みつけても心が傷まぬ者がいるように。彼女の思いを踏みにじっても平気な者だっている。
「けれど、それでもって貴方が願うのなら。負けないで!」
茨がひりょへと迫る。
森の中へ引きずり込み、彼の生き血を吸ってユーベルコードを封じようというのだろう。
けれど、それらを火の疑似精霊が生み出した火球が燃やし、振り払っていく。
燃える茨の道をひりょは一歩、また一歩と進む。
誰よりも優しく在りたいと願ったのは『オグレス』ではない。彼女はただ静かに生きたかっただけだ。
人が生きる以上摩擦は起こる。
けれど、その摩擦の傷ですら痛みとして感じる者だっている。当たり前のことだ。誰も彼もが違う人間で、どうあっても解り合えないからこそ、人は寄り添うことができるのだ。
解り合えないということを識るからこそ、人は誰かの心を思いやることができるのだから。
「わた、し――……いいや、そんなことなどない。だって、私は孤高の人になりたいの。静かに眠っていたいの。私を起こそうとする者全てを捕食して、あらゆる美徳を貪り食って、私の安寧のために」
死ね、とオウガ『いばら姫』が叫ぶ。
茨がひりょへと迫るが、それらを太刀で切り裂いて、火球が飛ぶ。
「俺だって同じ想いだ。根元が違うのだとして、たどり着く場所が同じなら、俺は……そういう人のために力になりたい!」
ひりょの瞳がユーベルコードの輝きを力強く放つ。
彼の力はいつだって誰かのために。
その願いを受け止め、その思いを護るために。傷付けられるだけの思いだとしても、それを思いやる心があるからこそ、人は誰かに優しくなれるのだ。
「その人を、その人の体を、元の優しい誰かのために、戻せ――!」
疑似精霊の放つ炎が茨の森を振り払うように焼き尽くし、ひりょは真っ直ぐな瞳でオウガ『いばら姫』の閉じたまぶたを射抜くように見つめるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
誰も傷つけないってことは、傷つきたくないってことなんだよね。
それは弱さだけど、優しさでもあるんだよ。
触れあわないことと、近寄ってこないことは、全然違うんだから!
ソースはわたし!
『オグレス』さん、あなたはいまのままでだいじょうぶ。
ゆっくり前に進んでいる途中なだけだよ!
わたし手伝うよ。手伝える。わたしもそうだったからね。
そうすれば花も人も、あなたの周りで笑ってくれるよ!
心が戻ってきたら、邪魔な茨は排除だね。
「少し熱いけど、ちょっとだけごめん!」
【Nimrud lens】で茨を焼いて『オグレス』さんを助けだそう。
『リュカ・トワル』、だっけ?
心を弄んだ代償は、しっかり払ってもらうからね!(珍しくオコ)
「誰も傷付けないってことは、傷つきたくないってことなんだよね。それは弱さだけど、優しさでもあるんだよ」
誰にだって優しさは宿る。
弱さも在る。
強さだけでは人は守れないし、生きてはいけない。いつだってそうだけれど、人の生きる道には、どうしようもない障害がつきものだ。
それを回り道して躱すか、乗り越えようとするか……もしくは、立ち止まってしまうかもまた、人の人生というものであろう。
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)はうなずいた。
茨の森が形成され、入り込めばユーベルコードを即座に封じてくる迷宮となって猟兵たちを阻む。
同時にそれはオウガ『いばら姫』が乗っ取った『オグレス』へと猟兵の言葉を届けないようにするためでもあった。
けれど、それでも理緒は言うのだ。
「触れ合わないことと、近寄ってこないことは、全然違うんだから! ソースはわたし!」
電脳世界にずっと居たっていい。
そんな風に彼女は思っていたかも知れない。別に外の世界にでなくても、識ることはできる。わかることはできる。
だから必要ないことであるように思えたかもしれない。
けれど、人の暖かさを識るのならば。
その篝火の如き光もまた知っているだろう。触れることはなくとも、暖かさへと身体が動くのまた人というものである。
「だから、人は徒に他者を傷つける。どれだけ心に温かいものを持っていたとしても、人を傷つけることをやめられない生き物であるというのならば、それはきっと私を傷つけるもの。ならば、私は奪う者でいたいの」
オウガ『いばら姫』が伏せた瞳のまま嗤っていた。
どれだけ人の心が美しいものであったとしても、彼女は嗤う。嗤って、捕食する。誰かのために、美しいなにかのもののために誰かが願った心さえも全て血肉として飲み込んでいく。
そういうオウガなのだ。
「わたしは『オグレス』さんと話をしているの! あなたじゃあない。『オグレス』さん、あなたは今のままでだいじょうぶ。ゆっくり前に進んでいる途中なだけだよ!」
理緒は、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
わかっていることだ。茨が彼女の心を硬く閉ざしているのだ。声が届かないように、自分に都合の悪い猟兵の言葉を『オグレス』に届かせないようにとオウガの悪辣なる心が壁となっているのだ。
ならば、それを取り払うことこそが、理緒の役目である。
「わたし手伝うよ。手伝える。わたしもそうだったからね」
おんなじなのだ。
誰も傷付けず、傷つかずに生きていたい。
誰だって、そんなふうに生きたいと願うだろう。
軋轢も、摩擦もなく生きていたい。けれど、それは自分ひとりではどうしたって出来ないことなのだ。
だから、人は手と手を取り合って生きていく。
「そうすれば花も人も、あなたのまわりで笑ってくれるよ!」
嘲りではなく、微笑みで。
それが人の見せる心の暖かさだと識ることを、理緒は手伝いたい。自分がそうであったように、世界はこんなにも簡単なのだと知ってほしいのだ。
輝くユーベルコード、Nimrud lens(ニムルド・レンズ)が大気を屈折させ、レンズを生成する。
その輝きが収束した瞬間、放たれる光が茨の森を引き裂いて燃やし尽くしていく。
「少し熱いけど、ちょっとだけごめん!」
放つ光が茨を引き裂き、『いばら姫』の姿を露出させる。
これならば、言葉は届く。
誰だって彼女の思いを識ることができる。ならば、傷つきやすい心をまた護ろうとすることだってできる。
そのためには――。
「『リュカ・トワル』だっけ? 心を弄んだ代償は、しっかり払ってもらうからね!」
理緒は『いばら姫』の背後で嗤う猟書家を見据え、その瞳を珍しく釣り上げて睨めつける。
許せないという思いは、彼女の心を静かに燃え上がらせる。
必ずや、打倒し、『オグレス』を救うのだと、理緒は輝く光のままに茨の森を尽く焼き尽くすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ナギ・ヌドゥー
肉体を乗っ取られながらも心はまだ生きているというのか……
最後まで殺傷の衝動に抗ったのだな、強い子だ。
ならばオレも自身の縛りを守ろう、この子は殺さない。
とは言え茨のお姫様の方はちょいと痛い目を見て貰うがな
刃で切り込み茨の森を刈り取りながら接近する
森を突破しUC無力化を解くぞ!
オレを喰らいたければ喰らえ
この呪毒に侵された血肉を取り込んでみろ
茨も花も毒で枯れるのみよ
オグレス、人として生きる事を諦めるな!
呪魂鉄枷を放ち『咎狗無明縛』発動
「オグレスが求めた生き方……『花』とは何か?」
狂気の淵より目覚め答えてみせろオグレス
なりたかった自分を思い出せ
真実の心を取り戻せばオウガを抑え込める筈だ!
鋸のような刃を持った鉈が茨の森を切り裂いていく。
猟兵たちの放った火球や集束した光が茨の森を焼き尽くしてもなお、オウガ『いばら姫』はユーベルコードを無効化する森を広げていく。
それは即ち、彼女の乗っ取った身体の持ち主であるオウガブラッド『オグレス』の心に猟兵の言葉を届けさえせぬためであった。
如何に強力なオウガであろうとも、未だ『オグレス』の心が残る限り完全なる力を発揮することは出来ない。
ここに来て『オグレス』は益々持って心の光を見せつける。
屈しはしないと。
どれだけ己の心を痛めつけられようとも、他者を傷つけることをしないと叫ぶように、オウガ『いばら姫』の力を抑え込もうとするのだ。
「肉体を乗っ取られながらも心はまだ生きているというのか……」
ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は、その手にした鋸のような刃を持つ鉈を振るいながらユーベルコードを無効化する森を切り裂いていく。
最後まで彼女は殺傷の衝動に非がったのだ。
強い子だと思う。
それはナギにとっては、自分の縛りとなることを知っていながらも、それを誇らしく思うことがあるかもしれない。
「ならばオレも自身の縛りを守ろう、この子は殺さない」
殺しの快楽に溺れながらも、殺す人間は選ぶ。
『暴力を厭わない者』だけを殺すという縛りは、ナギにとって強力な縛りとなるだろう。けれど、それが彼の最後の理性である。
どれだけ強烈な殺戮衝動に苛まれようとも、これだけは己の中に残った最後の砦である。
人間らしく生きるということは、常に抗うことだ。
それだけが人間を人間たらしめ、より良く生きようとする本能であったのかもしれない。
「いいえ、必ず殺させて見せるわ。あなたが殺す相手を選んでいるというのなら、他ならぬ貴方自身の手でこの子を殺させる」
そうすることによってナギという猟兵はきっと死ぬ。
だから『いばら姫』は二択を迫るのだ。
つまり、殺されるか、それとも殺して死ぬか。
だが、ナギはどちらも選ばない。
「いいや。茨のお姫様。お前にはちょいと痛い目を見て貰う。オレを喰らいたければ、喰らえ!」
放たれる茨がナギの身体を貫く。
血潮があふれるが、脈動する茨がナギの血液を吸い上げるのだ。如何に猟兵が生命の埒外に在るものであったとしても、血を失えば倒れる。
だからこそ、吸血するように茨がナギの血液を全て飲み干そうとして、傍からぐずぐずに枯れていくのを『いばら姫』は呆然と見守るしかなかった。
「なぜ……なぜ、あなた」
ぶるぶると震える『いばら姫』の瞳を伏せた表情が見る見る間に青ざめていく。
「――何故、こんな、呪毒に侵された血で、生きていられるの!?」
「さあな。だが、茨も花も毒で枯れるのみよ」
走るナギの瞳がユーベルコードに輝く。
咎狗無明縛(キュウクムミョウバク)――無明なる咎は毒に酔いしれる。
鋼鉄の枷が『いばら姫』を捉え、その言葉を発する。
「『オグレス』、人として生きることを諦めるな! 『オグレス』が求めた生き方……『花』とは何か?」
その問いかけはシンプルだった。
別に正しい答えを求めているわけではない。
けれど、オウガ『いばら姫』には決して答えることのできない質問であった。正解も、不正解もない。
あるのは、『オグレス』が抱く真実のみ。
「狂気の淵より目覚め答えてみせろ『オグレス』! なりたかった自分を思い出せ――」
それはなりたい自分になれるということだ。
大袈裟な花でもなければ、美しい花でもない、道端に咲く小さな名も知らぬ花になりたいと願った心が未だあるのならば、答えに手を伸ばすことを恐れてはほしくない。
だからこそ、ナギは手を伸ばすのだ。
この鉄鎖は、オウガを戒めると同時に『オグレス』を引き上げる一条の光。
「わたしは――風に揺れるように、陽の光に微笑むように。ただ、そこに在り続けるだけでよかった。『花』とはそういう生き方。誰かの悲しみにそっと陽の光を思い出してもらえるような、そんな生き方がしたい」
その答えは『いばら姫』の内側から発せられる光であったことだろう。
蒼炎がひび割れた『いばら姫』の内側から噴出しはじめる。
「できるはずだ、『オグレス』。アンタならば――!」
大成功
🔵🔵🔵
アディリシア・オールドマン
ふむ。わかった。お前は人でありたいのだな?
ならば叫べばいい。私は人なのだと。
自立した一個の魂を持つ、オグレスだと!
猟書家などという、他所の力に縋るだけの輩など、知ったことかと薙ぎ払え!
ええい、邪魔だ茨共!
鎧の隙間から私の血潮を啜ろうとするのか。ふむ。
そのようなこと、知ったことか!
ボナパルトの斧で切り捨て、大砲を持って吹き飛ばしてやる!
オグレス! 貴様もその心を解き放て!
ひとたび願い、望んだお前の幸せは!
他人に否定される謂れなどないのだ!
叫べ、お前の、オグレスの想いを!
お前が戦いを厭い、傷つけるのを嫌うなら、任せろ。
私たちがお前を守る。
(UCの叫びで、オグレスの心の傷を癒してみる。アドリブ歓迎)
蒼炎がひび割れたようなオウガ『いばら姫』の身体から噴出する。
ついに猟兵たちは言葉でもってオウガブラッドである『オグレス』の心へと呼びかけることに成功していた。
いくつもの言葉があった。
いくつもの思いがあった。
それはたった一人では為し得ないことであったけれど、猟兵の戦いは常に数珠つなぎの戦いである。
一人が楔を打ち込み、一人が繋ぎ、一人が紡ぐ。
そうやって猟兵たちは自分たちよりも強大な敵を打倒してきたのだ。だからこそ、オウガブラッド『オグレス』の叫びに全身を金属鎧に包んだアディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)は、再び展開された茨の森へと足を踏み入れる。
「ふむ。わかった。お前は人でありたいのだな? ならば叫べばいい。私は人なのだと」
アディリシアの青い瞳が兜の隙間から光を放つ。
それは人が持つ意志の力であったし、迫る茨を物ともせず肉厚な巨大斧を振るい、断ち切るのだ。
「自立した一個の魂を持つ、『オグレス』なのだと! 猟書家などという、他所の力に縋るだけの輩など、知ったことかと薙ぎ払え!」
邪魔だとアディリシアは振るった斧の柄を水平に構える。
斧頭に拓かれた砲口は迫る茨を見据え、彼女の強靭なる精神力を弾丸に変えて、尽くを吹き飛ばすのだ。
しかし、それでも鎧の隙間から茨が入り込み、アディリシアの血を吸い上げようとするのを彼女は人間ならざるような筋力でもって振りほどいて進む。
真っ直ぐに。
ただひたすらに真っ直ぐに、その瞳をオウガ『いばら姫』ではなく『オグレス』へと向けるのだ。
「『オグレス』! 貴様もその心を解き放て! 一度願い、望んだお前の幸せは! 他人に否定される謂れなどないのだ!」
そうだとも。
誰かの幸せを否定する権利など誰にもありはしないのだ。
アディリシアは識る。『オグレス』が何を願い、どのように生きたかったのかを。だからこそ、否定など出来ようはずもない。
「わたし……」
ひび割れた身体から蒼炎が噴出し続ける。
それが彼女の『オグレス』の見せるユーベルコードの輝きだ。
だからこそ、アディリシアは屈しない。
どれだけ血を吸い取られようとも関係ない。茨を振り払って叫ぶのだ。
「叫べ、お前の、『オグレス』の想いを!」
誰かを傷つける生き方をしたくないと言った願いがあった。
誰かに傷付けられたくないと願った。
ならば、アディリシアは咆哮えるのだ。己の斧を振るい、茨を振りほどいて、輝くユーベルコードがある。
どれだけ、オウガが猟書家『リュカ・トワル』が『オグレス』の心を痛めつけるのだとしても、それを許してはおけぬとアディリシアは叫ぶのだ。
誰かのためにと輝くユーベルコードこそが、アディリシアの力の源であったことだろう。
「私達がお前を護る!」
Warcry(ウォークライ)と呼ぶには、それはどうしようもなく優しい咆哮であった。
誰もが傷つくのを恐れている。
自分ではなく誰かが傷つくことはいとわない者もいるかもしれない。けれど、ここには『オグレス』がいる。自分だけではない、誰かを思いやる心を持つ者がいるのだ。
だからこそ、その叫びは必ずや、それを必要とする者に届くのだから。
涙が溢れるように蒼炎が溢れ、『オグレス』の願いが迸る。
「お前の負けだ、『いばら姫』。彼女の心に私達の言葉は届いた!」
そこを退け、とアディリシアは飛び、斧を真正面から『いばら姫』に振るう。一閃が『いばら姫』の身体に癒えぬ傷を刻み込み、さらに追い込むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
オグレスさんの心に寄り添う所から始めましょう。
それにはこの迷路が邪魔ですね。
多重詠唱による炎(下から)と落雷(空から)の属性攻撃&全力魔法で迷路の屋根に穴を作り、空中浮遊&念動力で迷路脱出し、オグレスさんに近づく。
オウガや茨の攻撃はオーラ防御を纏った天耀鏡の盾受けで防ぐ。
「オグレスさんは優しい人ですね♪植物の女神として、貴女はとても素敵な人だと感じます。どうか私とお友達になってくれませんか。(神という出自上)今まで数える程しかお友達がいませんが、だからこそ一緒にいる人がいるだけで心が暖かくなる事を知っています。そして私はオウガに負けません。」
「オグレスさんを返しなさい!」とUCで茨を打ちます。
「違う。違う違う違う。私は、こんなんじゃない。私は『いばら姫』。滴るような人間の、アリスの、温かい生命の血潮を」
欲しがっているのだと、オウガブラッドである『オグレス』の肉体を乗っ取ったオウガ『いばら姫』は身体中から蒼炎を噴出させながら、周囲を茨蔓延る迷宮へと変え、ユーベルコードを無効化して、猟兵たちを突き放す。
弱体化されているとは言え、それでもなお『いばら姫』は強力なオウガであった。
ユーベルコードを無効化する茨の園は、そこに在るというだけでも強力無比である。
「――……わたしは、違う。だって、こんなにも心が違うって言っているもの。私は『花』のように生きたい。誰にも見向きもされない小さな花のように生きていたい。誰かを傷つけるようには生きたくない」
その叫びは『オグレス』のものであった。
猟兵達が紡いだ言葉が、彼女の心に届き『いばら姫』の力を弱めているのだ。
「『オグレス』さんは優しい人ですね」
その優しげな言葉とともに天より落ちるのは稲妻の一撃であった。
そして、地上より吹き上がる炎が茨の園を包み込んでいく。
それは大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)が放った多重詠唱による神力の発露であった。
放たれた雷撃は茨の迷路に穴を開け、炎は次々と茨を焼き尽くしていく。
念動力によって飛翔する詩乃と『オグレス』の瞳が交錯する。助けを求める声が聞こえたような気がした。
自分一人ではどうしようもなくなっているのだ。
猟兵達によって叩き込まれた攻撃は、『いばら姫』の身体に傷跡を残している。その傷跡から噴出する蒼炎こそが『オグレス』の心の光であり、ユーベルコードである。
「植物の女神として、貴女はとても素敵な人だと感じます。だからどうか――」
詩乃は迫る茨を躱し、念動力によって飛翔する。
其の瞳はユーベルコードに輝いていた。慈愛に満ちた瞳。
そこに在ったのは詩乃発露する神性としてのオーラであったけれど、それが厳かというよりは、どこか親しみを覚えるものであったことを『オグレス』はきっと後で思い出すだろう。
天耀鏡が迫る茨を防いで、空より打ち下ろされる雷によって焼かれていく。
「私とお友達になってくれませんか」
「――なん、で……」
友達、と小さく呟いた唇を詩乃は見ただろう。
彼女もまた友人と言える存在はなかった。詩乃だって神である身分、立場がそれを許さないことだってあっただろう。
それ故に数えるほどしか友達と言える者はいなかった。
孤独を知っている。
孤高であることを知っている。
だからこそ、と告げる言葉がある。
「一緒にいる人がいるだけで心が暖かくなることを知っています。そして、私は……いいえ、『オグレス』さんもオウガに負けません」
それができるはずだと詩乃が叫ぶ。
瞳の輝くユーベルコードは慈愛と共に輝く。
「馬鹿なことを! 私は、もっと食べたいんだ!」
叫ぶオウガの声を詩乃は振り上げた掌を輝かせることによって黙らせた。
「『オグレス』さんを返しなさい!」
放つ一撃は、改心の一撃(トテモイタイアイノムチ)。
平手打ちの一撃は、茨諸共『いばら姫』の頬を叩く。凄まじい裂音が響き渡り、その一撃は『いばら姫』をさらに追い込むだろう。
友人になりたいと願った詩乃の思いは確かにヒリヒリとする頬と共に、きっと『オグレス』の心まで届いたことだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【勇者パーティ】
師匠、ボルシチ美味しくなかったです?(涙目)
わ、わかりました師匠!(嬉しさに瞳キラキラ)
腕によりをかけますから、食べてください!
『オグレス』さんも一緒に!
え?勇者?
師匠のごはんに比べれば些細なことです。
って、どちらさまでしょうか?
サージェさん……わたしのライバルの方っ。
誰ですか『胸惨敗』とか言った人。演奏しますよ?
とはいえまずはごはんですね!
『薔薇サーモンのサラダ』と『リンゴの薔薇風タルト』で、
薔薇なんて食べちゃいましょう!
胸を成長は……『ささみの豆乳シチュー』とかかな?
でも育つかは……(とおいめ)
あ、サージェさん、熱いですので気をつけて!
(四角くて黒いカバンに料理入れつつ)
フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティ】
「オグレスと言ったか。分かるぞ。
腹が減った時、用意されたのがウサギシチューだったときの絶望感……」(遠い目
それにオグレスのその胸。
普段、いかに食べるのを我慢してきたのかも良く理解できる。(胸の大きさに親近感
「オグレスよ。気に病むでない。
悪いのはお前ではない。
……空腹こそが諸悪の根源!」
ゆえに、ここは我が弟子ルクスの出番よ!
我は【極寒地獄】の魔法で茨の森を凍らせて無力化しよう!
「さあ、ルクスよ、お前の料理、存分に奮ってやるのだ!
サージェはルクスが作った料理をオグレスにデリバリーしてやれ!」
栄養いっぱいの料理を食べて我とともに胸を成長させようではないか!
サージェに負けないくらいに!
サージェ・ライト
【勇者パーティー】
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、って誰かと思えばフィアさんじゃないですか
(しゅたっと横に着地すると大きく揺れる何か
どーしました?
あ、どーもーはじめましてー
超絶健全全年齢対象クノイチのサージェでーす
よろしくお願いしまーす
ら、らいばる?
て、照れますねー(てれてれ
しかし胸の大きくなる料理とはいったい
まあ美味しくて栄養ばっちりの料理は大切ですよね
ではお届けクノイチ!(ルクスさんから受け取りながら
敵はフィアさんの氷で無力化……全然してないじゃないですかー?!
何してんのぺたん魔女ー!!(茨かわしながら
ええい仕方ありません!【かげぶんしんの術】の数の暴力で押しますよ!
※アドリブOK
頬を打つ痛みがオウガブラッド『オグレス』の心を振るわせる。
それは痛みであったけれど、不快感のあるものではなかったことだろう。慈愛を持って放たれた一撃は、オウガ『いばら姫』の外殻をひび割れさせ、蒼炎を噴出させる。
ユーベルコードの輝き。
蒼炎はオウガブラッドが見せる狂気への抵抗の証であろう。
「私は、私は、まだ」
「心が、こんなにも誰かの心を振るわせるなんて私は知らなかった」
誰も傷付けず、誰からも傷付けられない生き方をしたいと願った心は、確かに今オウガ『いばら姫』の内側から発する蒼炎となって迸る。
けれど、それでもなおオウガは諦めない。
この肉体を奪って、己の欲望の赴くままに振る舞うことを望んでいるのだ。
どれだけ猟兵が迫ろうとも手放す気など毛頭ないのだ。
「『オグレス』と言ったか。わかるぞ。腹が減った時、用意されたのがウサギのシチューだったときの絶望感……」
ユーベルコードで生み出された茨の森を前にして、フィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)はなぜだか遠い目をしていた。
ウサギ肉のシチューになにかよくない思い出でもあるのだろうかとすっとぼけたくなる気持ちもないわけではないが、その隣で涙目になりながら師匠であるフィアを見つめる純粋無垢な瞳を無視することは出来なかった。
「師匠、ボルシチ美味しくなかったです?」
彼女の弟子であるルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)は、瞳に涙を浮かべながら、あれだけフィアに尽くしているのに完全に料理を飽きられたかのような雰囲気に抗議するのだ。
う、と若干フィアも気まずい。
しかし、その気まずい空気を打破するように茨の森に響き渡るのは前口上。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、って誰かと思えばフィアさんじゃないですか」
ばゆん。
なんだ、ばゆんって。と思われる方もいるかもしれないけれど、何とは言わない何かが揺れる音です。察してください。
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は前口上キャンセルでしゅたっとフィアたちの横に着地していた。
どーしました? とサージェは他意なく首を傾げる。
ちょっと動いただけでもばゆばゆしているのである。何がとは言わない。
「……普段、いかに食べるのを我慢してきたのかもよく理解できる」
フィアはルクスとサージェのどことは言わない場所を見て、そして失礼な視線を『いばら姫』にも向ける。
ここに格差社会の縮図を見た気がしたのだ。
だからこそ、フィアは『いばら姫』にこそ親近感を覚えるのだ。なんで? と思う者は幸せである。
そんなフィアの隣ではルクスとサージェが自己紹介を行っていたりする。
「あ、どーもーはじめましてー超絶健全全年齢対象クノイチのサージェでーす。よろしくお願いしまーす」
「サージェさん……わたしのライバルの方っ」
「ら、らいばる? て、照れますねー」
二人の会話が微妙に噛み合っていないような気がするのは気のせいだろうか。二人のやり取りを他所に『いばら姫』の茨が迫る。
もう状況がよくわからない。
フィアだけが真っ向から『いばら姫』を見据え、言葉を紡ぐ。
「『オグレス』よ。気に病むでない。悪いのはお前ではない……空腹こそが諸悪の根源!」
びしぃ! とフィアが決まったセリフに感激している背後でサージェとルクスはようやく、あ、今そういう話何だという顔をしてやってくる。
むしろ、ルクスは今誰ですか『胸惨敗』とか言った人は、と演奏をちらつかせている辺り、もう何と闘っているかわからない状態である。
しかし、それでもオウガ『いばら姫』を止めなければならない。せまる茨を前にフィアのユーベルコードが輝く。
「ゆえに、ここは我が弟子ルクスの出番よ!」
「わ、わかりました師匠!」
「我が魔力により、この世界に顕現せよ、極寒の地獄よ」
極寒地獄(コキュートス)と呼ばれる大魔術が展開され、フィアのユーベルコードの輝きが一層まばゆく世界を染め上げる。
それは茨の森を氷壁で取り囲み尽くを凍りつかせるのだ。
「さあ、ルクスよ。お前の料理、存分に振る舞ってやるのだ! サージェはルクスが作った料理を『オグレス』にデリバリーしてやれ!」
栄養いっぱいの料理を食べて自分と共に胸を成長させようではないかとフィアは胸を張る。
その隣を駆け出すのはサージェであった。もう何がとは言わないがだゆだゆしておる。
「わっかりました! ではお届けクノイチ!」
「ごはんですね!『薔薇サーモンのサラダ』と『リンゴの薔薇風タルト』で薔薇なんて食べちゃいましょう! 胸の成長は……『ささみの豆乳シチュー』とかかな?」
「しかし胸の大きくなる料理とは一体……まあ美味しくて栄養ばっちりの料理は大切ですよね」
輝くルクスのユーベルコードならぬ、師匠の専属料理人(エヅケ・マスター)としての矜持。
用意されたメニューはどれも美味しそうである。
それを四角くて黒い箱に詰める。イェーガーイーツーとかなんかそんな感じのデリバリーサービスがあったら、多分こんな風であろう。
サージェはそれを背負い、凍りついた茨の森を駆け出す。
「あ、サージェさん、熱いので気をつけて!」
「了解です! って、全然無力化してないじゃないですかー?!」
駆け出したサージェを襲う茨。凍りつかせていてもひび割れながら迫るのだ。フィアのユーベルコードであっても完全には封じることはできなかったのだろう。
襲いくる茨をかげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)で躱しながら、数の暴力で押し込むのだ。
「なにしてんのぺたん魔女ー!!」
お、今罵倒が聞こえたか? とフィアはルクスからの手ずから料理を食べさせてもらいながら、地獄耳を発動させている。
そう、彼女は今忙しいのだ。
栄養一杯の料理を食べて胸を成長させようと躍起になっているのだ。具体的にはサージェにも負けないくらいに!
「はい、師匠あーん」
サージェががんばっている間に二人は仲睦まじく。けれど、サージェは走る。走る。やるべきことはもうわかっているのだ。
「心の栄養は身体の栄養。心が傷付けば、身体も傷つく。けれど、身体が癒えれば、心も癒えるものです」
ですから、とサージェはルクスお手製の料理を四角くて黒いかばんからデリバリー。
ふんわりと優しい味は、きっと『オグレス』の心にも届いたことだろう。
どれだけ傷ついたっていいのだ。
こうやって美味しい料理は心も身体も癒やしてくれる。しゅばば、とサージェの分身達が次々と目にも留まらぬ速度で『いばら姫』の口に料理を運ぶ姿をみやりながら、フィアは大きなたゆたゆを夢想し、ルクスは一生懸命食べてる師匠可愛いなぁと、それぞれとっちらかった想いにふけっていたのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風、四天結縄
彼女は…オグレス殿は、優しい方ですねー。
だからこそ…私たちは助けるために。
茨は厄介ですねー。まあ、悪霊たる私に生き血なんてないんですが。怪我したときに流れるのも、見せかけのやつですし。
四天結縄にある私対応の結び目封印を解き、風の災厄で茨を枯れさせ…その後にUC発動。
同じ植物だとして、切り裂くは『いばら姫』のみですよー。
大丈夫ですよ、オグレス殿。あなたの心からの叫びは、ちゃんと届いているのですよー。
ですから、負けないでくださいなー。
空腹は人の心を荒ませるというのであれば、満たされれば人の心は艷やかな血色良いものとなるだろう。
少なくとも人間とはそういう生物である。
身体には食物が。
心には言葉が。時に言葉は人の心を傷つけるものであるが、けれど確かに感じることができるのであれば、それは力であろう。
「私は、負けない。私が願った生き方を、否定しない人達がいるのならば、否定する人達の言葉以上に私を私たらしめるんだって、理解できる」
これが生きるということであり、よりよく生きるということでもあったことだろう。
オウガブラッド『オグレス』の見せる蒼炎はユーベルコードの輝きとなって、オウガ『いばら姫』のひび割れた傷跡から噴出するのだ。
「彼女は……『オグレス』殿は、優しい方ですねー」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中の複合型悪霊としての一柱、『疾き者』がつぶやく。
『オグレス』の見せる蒼炎の輝きは、そのまま彼女の心の輝きでもあったことだろう。
猟兵達が紡いだ言葉が、彼女の心に確かに輝きを灯したのだ。
「だからこそ……私達は助けるために」
茨が往生際悪く走る。
未だ身体を明け渡さぬと、主導権は自分にあるのだというようにオウガ『いばら姫』はユーベルコードに寄る茨の森を展開し、猟兵たちを近づけさせぬと力を振るうのだ。
「茨は厄介ですねー。まあ、悪霊たる私に生き血なんてないんですが」
例え、傷を負ったとしても見せかけの流血に過ぎない。
それは血潮ではなく呪いのようなものであったことだろう。人であったころの名残でしかない。痛みはあるかもしれないが、それは今を生きる者たちの痛みに比べれば些細なものであったことだろう。
だが、見せかけであったとしても、その身に流れる怨念こそが四柱を纏め駆動するために必要不可欠なるものであった。
茨の森は拡大し続ける。
けれど、だからなんだというのだ。
「これは『鬼』である私が、至った場所」
即ち、四天境地・風(シテンキョウチ・カゼ)である。封印の結び目をほどき、鬼蓮の花弁へと変えていく。
風の災厄が茨の森を枯れ果てさせて、輝くユーベルコードが茨と『いばら姫』を切り裂いていく。
「私が、私でなくなる。私の茨が、私の渇望が!」
「けれど、その渇望が誰かを傷つけるのなら、私はそれを許してはおけない。許してはならない」
二人の声が響く。
ならばこそ、『疾き者』は、その名の通り枯れ果てた茨の森を疾駆するのだ。
「大丈夫ですよ、『オグレス』殿。あなたの心からの叫びは、ちゃんと届いているのですよー」
だから、と『疾き者』は微笑んだかも知れない。
鬼蓮の花弁が宙を舞い、『いばら姫』の肉体を切り刻む。裂傷が走り、蒼炎が噴出し続ける。
それこそが『オグレス』を助けることだと知っているからだ。
例え、オウガとして滅びたのだとしても、オウガブラッドである彼女はまた己の心が見せるユーベルコードの輝きで持ってオウガを封じ込めるだろう。
狂気の淵を歩くようなものだったとしても、再び彼女が狂気に囚われることなどないことを知る。
「ですから、負けないでくださいなー」
その言葉は確かに彼女に届いたことだろう。
誰かの言葉が力になる。言葉は言葉。けれど、感じることで人の心に灯火を灯すのであれば、それは確かに力であるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ミアステラ・ティレスタム
『オグレス』さん、貴女の心は貴女だけのものです
他者が支配していいものではありません
貴女の心は自由であるべき
貴女の意思は尊重されるべき
囚われてはいけません
貴女の心を守るために、わたしは貴女の心に寄り添いましょう
貴女の意思を護るために、わたしは祈りましょう
わたしは、ヒトとして生きる貴女の助けになりたい
距離を保ちながらバブルワンドで発生させた数多の煌めく泡で『いばら姫』の視界と動きを阻害
花を愛する貴女の物語に、わたしはこの花を捧げましょう
祈りと共に浄化の力を込めて
言葉は言葉でしかない。
音の響きでしか無いし、その音が物体を震わすことはあっても心まで震わすことはない。しかして、人の心に漣を立てるのもまた真理である。
ならば、言葉は何故人の心を震わせるのか。
それは、人が言葉を感じるからである。言葉を力に変えるのは、言葉を投げかけた者ではなく、受け取った者である。
だからこそ、オウガブラッド『オグレス』は蒼炎を、オウガ『いばら姫』のひび割れた肉体から噴出させるのだ。
数多の猟兵の言葉があった。
それらは全て彼女の心に力を奮い立たせる。
「私の、心、私の、身体!」
オウガ『いばら姫』は叫ぶ。それは肉体の主導権を『オグレス』に奪われんとして、抵抗しているようでもあった。
茨の森が膨れ上がっていく。
けれど、猟兵の――ミアステラ・ティレスタム(Miaplacidus・f15616)にとって、それはさしたる脅威には感じられなかった。
「『オグレス』さん、貴女の心は貴女だけのものです。他者が支配していいものではありません」
ミアステラの言葉は真であったことだろう。
そう、例え共生関係にあるオウガとオウガブラッドであったとしても心までは自由にできない。
だからこそ猟書家『リュカ・トワル』は悪辣なる手段を用いて、彼女をオウガへと堕とそうとしたのだ。
「貴女の心は自由であるべき。貴女の意志は尊重されるべき。囚われてはいけません」
彼女の言葉は煌めく数多の泡と成って『いばら姫』の周囲に魔法を生みだす。
それらは『いばら姫』の視界を奪うには十分なものであったことだろう。そうでなくても、猟兵たちの言葉によって力を落した『いばら姫』にとっては致命的であった。
「囚われてなんかない。私は、『いばら姫』なのだから!」
「『オグレス』さんはそうじゃない。貴女の心を護るために、わたしは貴女の心に寄り添いましょう。貴女の意志を護るために、わたしは祈りましょう」
人間として生きる。
それがどういうものであるのかを『オグレス』は知っていただろう。
『花』のように生きたいと願った思いは正しさと過ちから開放されて、よりよい生きたかをしようとする彼女の清廉さを物語っていた。
だからこそ、ミアステラの瞳はユーベルコードに輝く。
「わたしは、ヒトとして生きる貴女の助けになりたい」
その言葉に『いばら姫』の腕が動いた。手を差し伸べるようであり、手を伸ばすようでも在った。
それが、『オグレス』の意志であるとミアステラは知っただろう。
ならばこそ、彼女の瞳は益々ユーベルコードに輝く。彼女の、花を愛する『オグレス』の物語にミアステラは花を捧げるように、その夢想詩(トロイメライ)を紡ぐのだ。
「祈りを以て夢想の時を齎しましょう」
彼女の掌から幻想的な水色の花弁が舞い散る。
それらは『いばら姫』の中に在るであろう『オグレス』の放つユーベルコードの輝き、蒼炎と共に『いばら姫』を切り裂き燃やし尽くしていく。
人間の心はいつだって複雑で単純だ。
簡単なようで難しい。
色が移り変わるように、人の心もまた千差万別である。だからこそ、美しい。その祈りはきっと、蒼炎の中から現れる一人のオウガブラッドへの祝福のように、世界を照らし、蜘蛛手格子の獄舎に猟兵たちの勝利とオウガブラッド『オグレス』の帰還を知らせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『リュカ・トワル』
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POW : アレニエの罠
【予め戦場に張り巡らせた透明な蜘蛛糸】が命中した対象に対し、高威力高命中の【伸縮可能な円網状の羽による刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : アリス・デセジェを憐れみて
戦闘中に食べた【猟兵やアリスの血と肉】の量と質に応じて【脚が巨大蜘蛛の八本脚に変化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : ヴェクサシオン
【自身が葬ったアリスの血肉】を給仕している間、戦場にいる自身が葬ったアリスの血肉を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
イラスト:クニ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「スキアファール・イリャルギ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
蒼炎が霧散した中に、一人の少女が膝をついていた。
彼女の名は『オグレス』。オウガブラッドであり、オウガ『いばら姫』を宿し、身体を奪われていた少女である。
「――……心が、温かい。言葉がこんなにも胸に溢れているのに、どうしても言葉にするのが難しいの」
はにかむように微笑んだ『オグレス』はもう、完全にオウガブラッドであった。
取り付いたオウガを完全に封じ込め、狂気を克服した顔がそこにはあったのだ。
けれど、それを面白く思わない者がいる。
そう、猟書家『リュカ・トワル』である。彼は忌々しげに『蜘蛛手格子の獄舎』に張り巡らせた透明な蜘蛛糸の上に立ち、見下ろしていた。
「なんてまあ、そんな絵空事を素面で言えるものだ。どうあっても人生には苦しみと悲しみしかないっていうのに」
猟書家『リュカ・トワル』は猟兵と『オグレス』を見つめ、頭を振る。
「その言葉が温かいって感じる感覚は、誰にだってあることだ。けれど、その温かいものを持つ者が、容易に他者を傷つけることだってできるんだ。なら、傷付けられるよりも、傷付けたほうが生きやすい人生だとは思わないのかい?」
本能のままに。
欲望のままに。
何も抑えることなく、勝手気ままに振る舞うことのできる甘やかな快感。
それを何故抑えるのだと『リュカ・トワル』は問いかける。
「君がどれだけ心癒やされようとも、必ずまた君を傷つける者が現れる。その時、君はまた傷付けられるだけでいいのかい? 仕返ししたいと思わないのかい? それができるだけの力をもっているのに」
「思わない。人には人の事情がある。どんなに理路整然としていて、私よりも人生を知っている人がいるのだとしても」
私はもう曲がることはない。屈することはないと『オグレス』はユーベルコードの蒼炎を燃え上がらせながら、その瞳に輝くを灯す。
それは暖かな光であった。
与えられた暖かさだ。猟兵たちの言葉が、力が、彼女に生きる意志をもたらしている。
蒼炎は彼女の身を焼くだろう。
けれど、それでもいい。
「だって、私は……『花』のように生きたい。花を踏みつけられても、それをまた植え直すことのできる人間になりたい。誰を恨むでもなく、怨念返しをするでもなく、ただ、在るが儘に。人して生きたいの」
「馬鹿な。そんな利用されるだけの人生なんてくだらないって言っているだろう、わからず屋が――!」
『リュカ・トワル』が叫ぶ。
その力の奔流はユーベルコードとなって、『蜘蛛手格子の獄舎』を震わせるのであった――。
ミアステラ・ティレスタム
『利用されるだけの人生なんてくだらない』
貴方のその言葉に揺らいでしまうのは嘗ての自分が重なるから
けれど過去は所詮過去
オグレスさんもわたしも過去を乗り越えました
では、貴方は……?
貴方も他者に利用される人生を歩んできたのでしょうか?
……いえ、たとえそうだとしても貴方を救うことが出来るのはわたしではないでしょうね
ならばわたしはわたしの役目を果たします
バブルワンドから毒性を込めた泡を発動して視界と動きの阻害を今回も試みましょう
自身の高速移動力を利用して距離を保ちながらリュカ・トワルの八本の脚に狙いを定めて水の刃を放出
わたしは貴方の力を削いで次へと繋げましょう
人の心が言葉に由来だとしても、それを柔らかく受け止めるだけの度量が備わることもある。
そうやって人は成長していくのだ。
ときにそれは、鈍化したということであるのかもしれないし、摩耗したというのかもしれないけれど。
それでも人は歩んでいく。
自分の生は自分でしか歩むことはできない。
轍が人の人生の証であるというのならば、猟書家『リュカ・トワル』もまた轍の一部になっていく。
過去の化身であろうとも、今を生きる者たちにとってそれは変わることのない事実である。
『利用されるだけの人生なんてくだらない』
その言葉はミアステラ・ティレスタム(Miaplacidus・f15616)の心を揺らがせたことだろう。
過去と決別して自分の時間を生きる水宝玉のヤドリガミである彼女にとって、今は自分の世界が広がっていくことが幸せだと感じられる。
嘗ての自分が今の自分を見たらなんと言うだろうか。
前向きに思うだろうか、それとも後ろ向きに思うだろうか。
「けれど過去は所詮過去。『オグレス』さんもわたしも過去を乗り越えました」
ミアステラの瞳に映る猟書家『リュカ・トワル』は怪物へと成り果てていた。巨大な蜘蛛の八本足へと変化した『リュカ・トワル』が張り巡らせた透明な蜘蛛糸の上を凄まじい速度で迫るのだ。
『オグレス』の蒼炎が吹き荒れる。
「では、貴方は……? 貴方も他者に利用される人生を歩んできたのでしょうか?」
「いいや、利用する側さ。けれど、力在る者が力のない者に利用されるのは、同じ力を持つ者として歯がゆいのさ。力在る者が全てを統べるのならば、人の軋轢なんて起こりはしない」
迫る『リュカ・トワル』の顔は憤怒そのものであった。
せっかくオウガブラッドとして力を振るうことができるのに、それをしないという事自体が罪であるというように吠えるのだ。
「……いえ、たとえそうだとしても貴方を救うことができるのはわたしではないでしょうね」
ならば、ミアステラは自分の役目を果たすべきだと瞳をユーベルコードに輝かせる。
纏う水の加護は泡のように。
毒性を持った泡は『リュカ・トワル』の視界を埋め尽くし、凄まじい速度で迫る彼の動きを阻害するのだ。
「邪魔だ! この程度の泡で、止められるものかよ!」
吹き荒れる泡と蒼炎の合間を縫うようにして迫る『リュカ・トワル』とミアステラが交錯する。
互いに高速で移動する故に、攻撃の瞬間は刹那であった。
水の刃が『リュカ・トワル』の八本足を切り裂き、吹き飛ばす。温かい血潮が吹き荒れてもなお、止まらぬ戦い。
「わたしは貴方の力を削いで次へとつなげましょう」
いつだってそうだ。
誰だって一人きりでは戦いきることはできない。
猟兵はそうやって繋いで戦うのだ。誰かのためになりますようにと願った心が、きっと強大な過去の化身すらも打ち倒すのだ。
今もそうだろう。
『オグレス』の放つ蒼炎が『リュカ・トワル』を翻弄する。
これは彼女の戦いでもあるのだ。けれど、それに手を添えることができる。そうやって人は寄り添って、より良い生き方を探すのだ。
「そこに愛おしさを持つからこそ、人は誰かと共に生きることができる。過去にとらわれることなく、決別して足をすすめることができる」
こんなにも愛おしいと思ってしまうのだとミアステラは輝くユーベルコードの放つ水の刃、ricordanza*(リコルダンツァ)と蒼炎を舞い踊らせるように『蜘蛛手格子の獄舎』に暖かな記憶を紡ぐのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
鳳凰院・ひりょ
オグレスさん元に戻ったんだね、良かった…
一緒にこの状況を乗り切ろう!
君が自身の肉を代償に戦うというのなら俺は君を癒す!
オグレスさんの周囲で絶対死守の誓いを発動
光の波動で癒し続ける
相手の給仕する血肉を俺は楽しむ事が出来ない
その為に俺の行動速度は1/5になってしまうだろうが…
オグレスさんのオウガが時間を稼いでくれる間に【瞬間思考力】を【限界突破】で動員し、自身の周りにまず「結界内の時間を5倍にする結界」を【結界術】で作り出す
その後オグレスさんとオウガにも同じものを作り出そう
それまでは必死に耐えてみせる!
敵のUC効果を相殺出来たら反撃開始だ!
【全力魔法】力を注いだ【レーザー射撃】の【誘導弾】で援護
蒼炎を纏うオウガブラッド『オグレス』の姿を認めた鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は胸をなでおろしていた。
人の心の暖かさが齎す蒼炎の輝きは、それが即ち『オグレス』がオウガ『いばら姫』に打ち克ったという事実である。
「『オグレス』さん、元に戻ったんだね、よかった……一緒にこの状況を乗り切ろう!」
ひりょの言葉が『蜘蛛手格子の獄舎』に響き渡る。
けれど、猟書家『リュカ・トワル』はそれをさせないとばかりに、嘗て『アリス』であった血肉を透明な蜘蛛糸より落とすのだ。
「いいや、何も状況は変わってなど居ないさ。オウガブラッドは即ち狂気の淵を歩く者。すぐに転ぶし、すぐに堕ちる。そういうものなのさ。美味しそうな血肉だろう? 全部君のものだ。またオウガとして、共に征こう。そうすることが君の幸せなんだ!」
猟書家『リュカ・トワル』が言う。
滴る血肉は、どれだけの『アリス』が犠牲になったかわからぬほどであった。
その血肉でもって『オグレス』を追い込み、再びオウガ化させようとしているのだ。
「光と闇の疑似精霊、力を貸してくれ!」
それは、絶対死守の誓い(ヒカリトヤミノシエン)であった。必ず『オグレス』を護ると誓うひりょのユーベルコード。
どれだけ悪辣なる誘惑が在るのだとしても、光の疑似精霊の放つ光の波動が、蒼炎によって焼ける『オグレス』の肉体を癒やしていくのだ。
「楽しむことなんてできない……けれど!」
それが『リュカ・トワル』のユーベルコードだ。
人の死を楽しむことなどできない。
だからこそ、ひりょの動きは鈍るし、『オグレス』の動きも鈍いものとなってしまう。そこに『リュカ・トワル』は襲いかかるのだ。
『オグレス』にはオウガ化の誘惑を。
猟兵には致命的な動きの鈍化を。
そうやって、『リュカ・トワル』は人の心を弄ぶのだ。
「負けはしない。絶対に。私の心にはみんなの言葉があるのだもの!」
蒼炎が吹き荒れ、『オグレス』から噴出しては『リュカ・トワル』を近づけさせない。
しかし、これでは遠かれ早かれ、二人はなぶり殺しにされてしまうだろう。
考えなければならない。
少しでも早く、少しでもこの状況を打開しなければならない。
「――……! なら、結界を張り巡らせて!」
時間が加速していく。
結界術を今構築する。結界の中の時間を5倍にする力を持って、ひりょは走る。『リュカ・トワル』のユーベルコードの効果は絶大だ。
けれど、知恵と勇気さえあれば、それを上回ることができる。
結界によって遮断された時間の流れ。加速していく意識と身体が、引っ張られるようにして鈍化の力を相殺するのだ。
「闇の疑似精霊よ――!」
ひりょが掲げるのはユーベルコードの輝き。
闇の波動が一斉に放たれ、迫る『リュカ・トワル』の身体を穿つのだ。
「人の心の悪いところしか見ないから、そんなことになる! 人を、力の有無でしか見られなくなる。人はそんなんじゃないって、わかるんだよ!」
ひりょの放つ全力の魔法が光条となってほとばしり、『リュカ・トワル』を強かに打ち据え、その身体を透明な蜘蛛糸から失墜させる。
そう、いつだってそうだ。
人の悪意は人の善意で越えられる。
今は、難しいことであったとしても、可能性に懸けることができる。遠い未来でもいい。決して諦めなければ、その日がやってくるのだとひりょは信じるように、己の胸に抱いた誓いを誇りに思うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
『疾き者』のまま。
武器持ち替え:灰遠雷
わからず屋は、そちらな気がしますがー?
利用されるだけ、と決めつけるのは如何なものかとー(利用される立場に近しい忍者が言う)
それに…オグレス殿の生き方を否定することは、誰にもできませんよ。
早業にて、防御用結界術を私とオグレス殿に施しましてー。
先制攻撃での【四天境地・雷】ですねー。その矢は避けようとも追いかけますよー?
当たったら…痺れて動きが鈍りましょうね。
それに、食らわせるものですか。私はあいにく見せかけの血肉しかない悪霊ですが、それでもですよー。
オグレス殿のは、言わずもがな。
ふふ、本当に。オグレス殿は日向のような人ですね。
「お前たちは、そうやって邪魔をする。オウガになるべきだ。力が在るのなら。そうやって生きるべきなんだ。それがオウガの、より良い生き方だって、何故判らない!」
猟書家『リュカ・トワル』が叫ぶ。
猟兵たちの攻撃は彼を追い詰めていたし、何よりもオウガブラッドである『オグレス』が些かも揺るがぬことに腹を立てていた。
思えば最初からそうだったのだ。
オウガに身体の主導権を握らせようと追い込んでも、彼女は最後まで屈しなかった。弱った肉体故にオウガに乗っ取らせることができたが、本来のオウガとしての力を発揮することなく猟兵に打倒されてしまっていた。
在ってはならないことだ。
なのに結果は、『オグレス』は元に戻り、オウガブラッドとしての力を奮って抵抗してくる。
それがどうにも。
「許せないって思うんだよ! オウガらしく生きていけばいいものをさ!」
巨大な蜘蛛の八本足で蜘蛛糸の上を走る。
蒼炎が吹き荒れても、それを躱し続けるのだ。凄まじい俊敏性であったが、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』は雷の力秘めし強弓を構えて言う。
「わからず屋は、そちらな気がしますがー? 利用されるだけ、と決めつけるのはいかがなものかとー」
嘗ては利用される側であった忍びであった『疾き者』が言う。
確かにそうなのかもしれない。
頷ける部分だってある。けれど、それは『オグレス』の生き方を否定することはできない。
自分にも、『リュカ・トワル』にもだ。
「悪霊からは逃げられない」
手にした強弓が呪詛を込められ、黒く変色していく。
ユーベルコードに輝く瞳が『リュカ・トワル』をしっかりと捉えていた。四天境地・雷(シテンキョウチ・カミナリ)、それは放たれた矢が分裂し、狙った獲物を追尾し続ける絶対不可避のユーベルコードである。
「利用されているだけだと気が付かされていないだけだ! そうやって人は他者を利用し続ける。自分のためにだ! そんな生き方をする者たちなんて――」
死んで当然だと『リュカ・トワル』が言う。
迫る雷の矢を躱すが、すぐに方向転換し、背より迫って彼の身体を貫くのだ。
「痺れておりましょーね。それが我等複合悪霊の力でしてー……それに、食らわせるものですか。私はあいにく見せかけの血肉しかない悪霊ですが、それでもですよー」
言わずもがな、オウガブラッドである『オグレス』の血肉もまた一欠片とて奪われてはならないと『疾き者』は続けざまに矢を放つ。
雷の矢は蒼炎と踊るようにして『リュカ・トワル』を追い詰めていく。
どれだけ逃げようとも、逃げられるものではないのだと言わしめるように、二人の攻撃は苛烈さを増していくのだ。
「もう、誰の生命も奪わせはしない。そうやって、人の心を信じることができないから、心に冷たいものが澱のように溜まっていくのでしょう。人の暖かさがそれを溶かしていくのだと知らないから――!」
蒼炎が走る。
その光景を悪霊である『疾き者』は見ていた。
ああ、とため息を吐き出すように『疾き者』は『オグレス』の人物を評するのだ。
「ふふ、本当に。『オグレス』殿は日向のような人ですね」
彼女が願ったのは『花』としての生き方。
けれど、彼女の思いはいつだって誰かの心に灯火を分け与えるように、別け隔てなく、それこそ太陽の輝きのように誰しもの心に降り注ぐ。
それは悪霊である自分たちもまた例外ではない。
彼女のような者たちこそ喪われてはならず、それらを護るためにこそ彼等は力を発揮するのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
アディリシア・オールドマン
語るに落ちたな、リュカ・トワル。
先刻まで愉悦に耽っていた貴様が、人生の哀苦を語っても響かんぞ?
あれか。傷つけられたくない、利用されたくない。それがお前の想いか?
ゆえに踏み躙り、誑かすと定めたのか?
ならばそれもいいだろう。ならば私たちが相手をすれば済む話だ。
来い、猟書家! 私たちが貴様の想いにぶつかってやろう!
血に塗れたまま、ボナパルトを右の手に、マクシモスを左の手に。多少荒いが、問題ない。
この戦場が敵の手の内というならば、その全てを薙ぎ払う!
力任せに破壊する。蜘蛛の糸だろうが、羽根だろうが、まとめて粉砕してやろう!
なるほど、容易く傷つけられてしまうな。
お前が望むなら、優しくしてやってもいいぞ?
誰かに利用されるだけの人生はくだらないことだと猟書家『リュカ・トワル』は言った。
確かに言ったのだ。
自分が利用する側であるからこそ吐ける言葉であった。
誰かの為と偽る言葉でしかなかった。故に、アディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)は青と赤の瞳でもって見据える。
「語るに落ちたな、『リュカ・トワル』。先刻まで愉悦に浸っていた貴様が、人生の哀苦を語っても響かんぞ?」
アディリシアは、そのオッドアイの瞳を輝かせながら、『リュカ・トワル』に迫る。
『蜘蛛手格子の獄舎』に張り巡らせていた透明な蜘蛛の糸のうえを跳ねるようにして、『リュカ・トワル』はアディリシアを翻弄する。
直線的な動きでは『リュカ・トワル』を捉えきれない。
それほどまでに彼の俊敏性は未だ損なわれていなかったのだ。
「そのつもりはないよ。愉悦こそ強者の特権だ。力ある者だけにある権利だ。だから笑ったんだよ。愉快だろう? 人が弄ばれ、懊悩する姿はさ!」
ひどく滑稽に見えたことだろう。
その表情から『リュカ・トワル』は自身もまた恐れるものが『オグレス』と同じであったことを知ることができる。
「あれか。傷付けられたくない、利用されたくない。それがお前の想いか? 故に踏みにじり、誑かすと定めたのか?」
鏡合わせでしかなかったのだ。
蒼炎が吹き荒れ『オグレス』の放つユーベルコードが『リュカ・トワル』と透明な糸を焼き尽くす。
「無理をするな。あれは私達が相手をする存在だ。今は、休んでおけ」
アディリシアは『オグレス』へと告げる。
彼女のユーベルコードは彼女の肉体そのものを代償として放つものだ。強力だが、それ故に彼女の身体が保たない。
「でも――」
「いいのさ。私たちが相手をすれば済む話だ。あれはきっとそういう存在なんだ。誰かを傷つけることでしか、自己を確立できない過去の化身なんだ」
だからこそ、猟兵が降り立つ。
その瞳にユーベルコードの輝きを灯し、両手に重厚な巨大斧を持ち構える。
多少手荒いが問題など無い。『リュカ・トワル』から放たれた翼の羽が円網状に展開され、アディリシアと『オグレス』を逃さないとばかりに放たれる。
躱すことも許さぬ凄まじい攻撃。
けれど、アディリシアは『オグレス』を背に隠し、手にした巨大斧で尽くを薙ぎ払っていく。
そう、この戦場が敵の手の内だというのならば、その全てを受けきって薙ぎ払うことこそが、アディリシアという猟兵の矜持であった。
「来い、猟書家! 私達が貴様の想いにぶつかってやろう!」
「この後に及んで、まだそんな世迷い言を言うかよ!」
再び円網状の羽が矢のようにアディリシアに降り注ぐ。
それは絶対に躱せない物量であったが、アディリシアは構うことなどなかった。
「蜘蛛の糸だろうが、羽だろうが、まとめて粉砕してやろう!」
瞳がユーベルコードに輝き、グラウンドクラッシャーの単純で重い一撃が『蜘蛛手格子の獄舎』の地形を変えるほどのすさまじい一撃を放つ。
それは蜘蛛の糸を断ち切り、羽を振り払い、衝撃波となって『リュカ・トワル』を打つのだ。
「馬鹿な……! こんなでたらめな攻撃があって――!」
たまるかと、叫ぶ声は響かなかった。
全身鎧に包まれたアディリシアが迫る。手にした巨大斧の一撃が『リュカ・トワル』を袈裟懸けに切り裂く。
「なるほど、容易く傷付けられてしまうな。お前が望むなら、優しくしてやってもいいぞ?」
だが、それはない。
徒に人の心を踏みにじった報いだけは受けてもらわなければならない。猟兵とオブリビオンの戦いとは常に滅ぼすか滅ぼされるかでしかない。
だからこそ、アディリシアの振り上げた斧の一撃が交錯するように『リュカ・トワル』の胸に十字の一撃を加えるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
『利用される』? そこがもう違うね。
『オグレス』さんは『力』の怖さを知ってる。
誰も傷つけないように静かに暮らしていたのはきっとそのため。
だけど今『オグレス』さんは、自分の意志で前に進むことを『選んだ』んだよ。
だれかを傷つける人がいる。残念だけどそれは否定できない。
でも、同じくらい、暖かい人もいるんだよ。
あなたはきっと、傷つける人にしか巡り会わなかったんだね。
それは可哀想なことだと思うけど、誰かを傷つける理由にはならないかな。
だから倒させてもらうよ。
炎には浄化の力があるからね。
【Nimrud lens】でしっかり焼いてあげる。
『リュカ・トワル』さん、あなたも花のように強くなれればよかったのにね。
放たれた十字の一撃が猟書家『リュカ・トワル』の身を切り裂く。
噴出する血が戦場となった『蜘蛛手格子の獄舎』に張り巡らせた透明な糸を真赤に染め上げていく。
そして、猟兵の一撃によって周囲の地形すらも変えられ、ちぎれた糸が再び張り巡らされていく。
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な! こんなことがあってたまるか! なんでわからない。オウガブラッドの力は奇跡だ! 本来なら起こり得ないことだ! オウガと、アリスが共生している。その力がどれだけ素晴らしいことか! 放っておいては利用されるだけなんだよ」
それが何故わからないのだと『リュカ・トワル』は嘆いた。
有効に使わなければならない。
今もなお噴出し続けるオウガブラッド『オグレス』のユーベルコードの蒼炎。
それは『リュカ・トワル』に向けられている。彼にとって猟兵たちの言葉が、彼女の届いたこと事態が許されぬことであった。
「あのまま何もかもオウガそのものになれば、もっと力を振るうことができたはずなのに。誰かに利用されるのではなく、利用する側に回れたっていうのに」
「『利用される』? そこがもう違うね」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は手を天に掲げて言う。
彼女の瞳にはユーベルコードの輝き。
「『オグレス』さんは『力』の怖さを知ってる。誰も傷付けないように静かに暮らしていたのは、きっとそのため」
振るわぬ力に意味はないと『リュカ・トワル』は言うだろう。
そう、力はそれだけでは何の意味も保たない。振るう者がいるからこそ、力は力の価値を示せるのだ。
そのためのオウガ化だ。
欲望のままに、思うままに力を振るう快楽をオウガとなって知ればよかったのだ。
なのに。
「だけど今『オグレス』さんは、自分の意志で前に進む事を『選んだ』んだよ」
「それがどうした! 選んだところで間違ったものを選んでは意味がないだろう。誰も彼もが君を傷つけようとするぞ!」
放つ羽が円網状になって理緒と『オグレス』に迫る。その光景は天を覆い尽くすほどであったが、理緒はまっすぐにユーベルコードの輝き灯す瞳で見据えるのだ。
「誰かを傷つける人がいる。残念だけどそれは否定できない。でも、同じくらい暖かい人もいるんだよ」
「それがわかるから、私は誰かとともに生きることを選んだ」
理緒の背後で蒼炎が揺らめく。それは『オグレス』のユーベルコードの放つ光であった。
大気が屈折し、理緒のユーベルコードに寄って巨大なレンズが生成される。蒼炎を受けて、収束された光は一瞬のうちに迫る羽を焼き払うのだ。
「あなたはきっと、傷つける人にしか巡り合わなかったんだね。それは可哀想なことだと思うけど、誰かを傷つける理由にはならないかな」
だから、倒させてもらうとユーベルコードの放つ二人分の輝きが『リュカ・トワル』を捉えるのだ。
「馬鹿な! 憐れむなど! そんな感情なんて要らないんだよ。そんなものがあるから、人は心の暖かさを捨てきれない。そんなものが生きるために必要だって思い込まされることなく、生きていけない」
欲望こそが、人を人たらしめるのだと『リュカ・トワル』は叫んだ。
けれど、それは間違いだ。
「『リュカ・トワル』さん、あなたも花のように強くなれればよかったのにね」
理緒のユーベルコードの光が『リュカ・トワル』の肉体を焼いていく。
凄まじい熱量と共に、それは放たれた羽が理緒たちに届く前に消失していく。
同しようもないほどの輝き。
それはいつかきっと彼が焦がれた暖かさでもあったことだろう。陽の光。どうしたって自分は青空の下を歩けない。
そんな思いが彼を妄執に突き進ませたのかも知れない。
理緒はそんな彼が少しでもと、思わずには居られず、浄化の炎でもって『リュカ・トワル』を下すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【勇者パーティ】
「師匠といえども、今の言葉、
光の勇者として見過ごせません!」
胸がない分発言は自由、ということはないんですよ!
師匠の過ちを正すのも、弟子の努め。
戦いたくはないですけど、
「しかたありません。師匠、勝負です!」
ここでサージェさんに耳打ち、
(わたしのかけ声で、胸を両手で挟んでくださいね)
「おっぱいじゃんけん、じゃんけんぽん!」
師匠はぺったんパー。わたしたちは巨乳チョキ。
わたしたちの勝ちですね!
……師匠とサージェさんの犠牲は無駄にしません。
『リュカ・トワル』あとはあなただけです!
「とぅっ!」
【光の勇者、ここに来臨!】でポーズを決めたら、
「孤独の闇はわたしの光で照らします!」
と、追撃です
フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティー】
「温かいもの(巨乳)を持つ者が、容易に他者を傷つけられる、か……。
それもまた真理だな……」
本能のままに。
欲望のままに。
勝手気ままに振る舞うことこそ、我の本質。
「そこの黒いの、リュカとかいったか。良いこと言うな!
我、気に入ったぞ。
くくく、漆黒の魔女として協力してやろう!」
くるうりと背後に向き直り、ルクス(変身して巨乳)とサージェ(巨乳)に向かって虚ろな眼差しを向けよう。
「我を傷つける巨乳に仕返ししてくれるわーっ!」
ぬ、我と勝負だと!?
笑止!
【竜滅陣】を唱えようとし……
おっぱいじゃんけんとやらに敗北するのだった。
「そうか――我、ただ在るが儘に生きれば良いのか。
慎ましやかなままに」
サージェ・ライト
【勇者パーティー】
オグレスさんはもう大丈夫ですね
さてここからが本番
人の生き様に口出すなんて何様……
って、何してんのぺたん魔女ーー!?(本日2回目)
くっ、このままではフィアさんごと燃やすしか
うん、めっちゃやりたい……いえ
ルクスさんがシリアスに入ったので見守りクノイチします
え?はい?そーゆー流れ?
くっこれだけは使いたくなかった……!
ルクスさんの合図で【おいろけの術】です!
ふふ、動揺とか怒りとか煽りとかで身動きが取れないでしょう!
そして後は頼みま…こふっ(反動・羞恥で地面ごろもだし始める)
ちょっと戦闘不能なので心の中で応援します
大丈夫、ルクスさんならきっと勝利を掴めます!
※アドリブOK
「温かいものを持つ者が、容易に他者を傷付けられる、か……それもまた真理だな」
猟書家『リュカ・トワル』はそう言ったのだ。
それはある意味で真理である。誰も彼もの心の中が善一色でもなければ悪一色でもない。混ざり合って灰色になり、また白と黒に別れていくように、全てが同じということはないのである。
だからこそ、人は揺れ動く。
オウガブラッドもまた、その例にもれず。人の心とオウガの心が混ざり合って、狂気を生みだす。
それはどうしようもないことであるが、フィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)は『リュカ・トワル』の言葉に共感していたようだった。
本能のままに。欲望のままに。勝手気ままに振る舞うことこそが、悪魔たる彼女の本質でもあったことだろう。
それはデビルキングワールドという世界においての常識でもあり、美徳でもあった。だからこそ、数多の世界を見て、それを一時でも忘れていたことを彼女は恥じ入ったかも知れない。
「『オグレス』さんはもう大丈夫ですね」
一方、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は蒼炎を噴出させるオウガブラッド『オグレス』の姿に胸をなでおろす。
彼女にはもう『リュカ・トワル』の堕落を誘う言葉すら届かないだろう。
猟兵たちの言葉が、行動がそれを為したのだ。だからこそ、サージェたちは『リュカ・トワル』を打倒することに集中できるのだが――。
「そこの黒いの、リュカとか言ったか。良いこと言うな! 我気に入ったぞ」
唐突にフィアが声を上げる。
え、とその場に居た誰もが目をむいたことだろう。
猟書家である『リュカ・トワル』でさえ驚いていた。急に何を言い出すんだと誰もが思った。
「くくく、漆黒の魔女として強力してやろう!」
ん?
あれ、フィアがものすごく悪い顔をしている。いやまあデビルキング法では確かに悪徳こそ美徳である。
けれど、今の状況をちょっと考えて欲しい。
「って、何してんのぺたん魔女――!?」
サージェが本日2回目の叫びをあげる。いやほんとマジで。
くるりと背後に振り返り、サージェと彼女の弟子であるルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)に指を突きつけるのだ。
ちょっと虚ろな眼差しであるところが怖いところである。
「我を傷つける巨乳に仕返ししてくれるわーっ!」
えぇ……。
しかし、そんなどんでん返しにもルクスは頭を振る。
「師匠と言えども、今の言葉、光の勇者として見過ごせません!」
え、こっちも急にどうした!? サージェもなんか口をはさもうとしたが、シリアスな雰囲気である。
師弟対決ってそういうことなのかなって思う程の緊迫した雰囲気が漂う。
「胸がない分発言は自由、ということはないんですよ!」
これは胸囲の格差社会を代弁する言葉では? 師匠の過ちを正すのも弟子の勤めであるとルクスは胸を張る。
戦いたくはないけど、という前置きが嘘みたいにノリノリではないだろうか?
猟書家『リュカ・トワル』も置きざりにしている寸劇が行われているのだが、誰もツッコめない。
「しかたありません。師匠、勝負です!」
「ぬ、我と勝負だと!? 笑止! 漆黒の魔女の名に於いて、我が前に立ち塞がりし全てを消し去ろう」
フィアの瞳がユーベルコードに輝き、竜滅陣(ドラゴン・スレイヤー)の詠唱が開始される。
しかして、そのユーベルコードが炸裂することはなかった。
なんかルクスとサージェが耳打ちで打ち合わせをしているではないか。
正直サージェとしては、ここのままフィアごと燃やしてしまいたいなとさえ思っていたのだが、ちょっとシリアスな雰囲気だなと思ったので自重していたのだ。
えっ。シリアス……だったのか……?
「え? はい? そーゆー流れ? え、あの、えっと、くっこれだけは使いたくなかった……!」
ルクスの合図と共にサージェのおいろけの術(クノイチノガイネンニフクマレルモノ)が炸裂する。
どうしたサージェ、顔が真っ赤だぞ。無理していないか! という具合に真っ赤な顔のままサージェは胸を両手で挟んでいる。
え、どういうこと?
「おっぱいじゃんけん、じゃんけんぽん!」
「――」
「――」
「――」
三者三様の沈黙があった。
猟書家も『オグレス』も猟兵も。みんなどうやったらこの勝負が決着するのかなと思っていたかもしれないが、別々の理由で固まっていたのだ。
けれど、ルクスだけが正気だった。いや、正気か?
「師匠はぺったんパー。わたしたちは巨乳チョキ。わたしたちの勝ちですね!」
え、そうなるの!?
「くっ――負けた――ッ!! 我がぺったんであったばっかりいに!!」
がくー! と膝をついたフィアがうなだれる。戦意喪失。リタイアである。
同時にサージェもまた耳まで真っ赤になった顔のまま、その場に倒れ伏す。慣れないことをするものではないのである。
もう動揺とか怒りとか煽りとかでもう身動きが取れないのである。いいのだろうか。戦う前からすでに二人やられてるような状態である。
「後は頼みま……こふっ」
サージェは羞恥で地面をごろごろもだもだして全く役に立たなくるし、フィアはフィアで。
「そうか――我、ただ在るが儘に生きれば良いのか。慎ましやかなままに」
などとなんかいい感じの後光を放ちながらうなだれている。
なんだか勝手に猟兵側が同士討ちした感が半端ないが、ルクスはけれど意を決して立ち上がるのだ。
「……師匠とサージェさんの犠牲は無駄にしません」
きっと、その瞳がユーベルコードに輝く。
なんかいい雰囲気に流されてしまいそうであるが、三人がいつのまにか同士討ち下だけに過ぎない事実は言わぬが花であろう。
「わけのわからないことを!」
いち早く正気に戻った『リュカ・トワル』がユーベルコードを発現させようとするがもう遅い。
「『リュカ・トワル』、あとはあなただけです! とぅっ!」
ルクスから眩い光と効果線が放たれ、彼女は飛翔する。
そのユーベルコードの輝きは目が眩むほどであり、誰もが見上げただろう。そして、知ったであろう。
――光の勇者、ここに来臨!(ユウシャトウジョウ)
その雄姿を。
「孤独の闇はわたしの光で照らします!」
それはあまりにも光り輝く姿であった。ユーベルコードの輝きだけではない。ルクスの心の輝きであったことだろう。
人の心に闇が膨れ上がるのならば、光もまた強くなるのだ。
故にルクスの放つ鈍器――いや、グランドピアノの一撃は凄まじい威力を伴って放たれ、『リュカ・トワル』のユーベルコードの輝きすらも圧砕するように振り下ろされるのであった。
もはや、デタラメである。
彼女たち勇者パーティに運命を巻き込まれた猟書家『リュカ・トワル』に勝ち目など最初からなかったのである――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ナギ・ヌドゥー
オグレス、2度と狂気に魅入られぬ様よく見ておけ。
絶望の衝動に侵される恐ろしさを!
ドーピングによりリミッター解除
刃に血を滴らせ呪詛と毒を込めUC九忌怨刃発動
巨大蜘蛛の八本脚を連続斬撃で部位破壊
肉を引き裂き血肉に塗れるこの快感……コイツは何度でもオレを闇に堕とす
死を望んでもこの肉体はその祝福を拒み続けやがる
オレが救われるにはもっと過酷な絶望が必要らしい
本能のままに、欲望のままに生きる、それは地獄への途に他ならん。
アンタはずっと優しい花を咲かせ続けてくれよ……
狂気の咆哮が響き渡る。
『蜘蛛手格子の獄舎』には猟書家『リュカ・トワル』が、その足を八本の巨大な蜘蛛の脚部に変じさせ、猟兵の猛攻に対抗するように壁や天井を跳ねるように飛ぶ。
その姿はまさに狂気そのものだ。
オウガブラッドを追い詰め、オウガそのものへと変貌させることに執着する怪物。
「何故理解しない、何故欲望に従わない。水が高いところから低いところにながれるように、人もまた欲望に流されてしまえば楽だと言うのに」
それこそが至高のことであるように『リュカ・トワル』は叫ぶ。
けれど、と猟兵もそして『オグレス』自身も、それが違うとは知っている。
「『オグレス』、二度と狂気に魅入られぬ様よく見ておけ。絶望の衝動に侵される恐ろしさを!」
ドーピングの薬剤が体の中を駆け巡っていくのを、ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は確かに感じていた。
身体の限界を越えたオーバードース。
手にした鋸刃の鉈から血が滴り、呪詛と毒が込められたユーベルコードが輝く。今笹に彼の手にした刃は、九忌怨刃(ディストーテッド・ナイン)。
「苦悶の闇に堕ちし時、殺戮の宴が始まる」
瞳が暗く濁っていく。
けれど、それ以上に殺戮衝動に身を委ねたことにより、彼の瞳は輝いていた。歪な怨刃と共にナギは疾走る。
それは凶悪な輝きを放つ一種の閃光であった。
『蜘蛛手格子の獄舎』の中に疾走る閃光を『オグレス』は見ただろう。
とても悲しくて、とても禍々しい。
けれど、それは人の理性があるからこそ輝くものであることを彼女は知っている。片時も目をそらしてはならぬと思った。
彼が言うように、狂気に囚われる、魅入られるとは、まさにあのような事を言うのだ。
閃光の如く疾走るナギの振るう刃が次々と『リュカ・トワル』の蜘蛛の八本足を切断していく。
絶叫がほとばしり、けれど、ナギの表情は狂喜するように笑っていた。
彼の体に今走っているのは肉を引き裂き、血肉に塗れる快感でしかない。
どれだけ己の理性でそれを縛っても、一度感じてしまえば後はもう奈落の底へと落ちるような甘美なる感覚が体を支配していく。
脳からは次から次へと幸福物質が生み出されるようであり、ナギは嗤う。
「どれだけ――」
そう、どれだけ死を望んでも、ナギの肉体はそれを拒む。
死こそが祝福であるのならば、その祝福をこそ拒まねばならない。そのような祝福が己にあってはならぬとばかりにナギの肉体は『死』そのものを否定する。
「救われたいと願っても、誰も救えない。自分だけが救えるけれど、それを拒否しているのね」
『オグレス』はそれを悲しいことだとは言わなかった。
悲しいと感じる心があれど、それはナギに対する侮辱であったことだろうから。だから、瞳をそらさず、血潮が吹き荒ぶ戦いを見つめる。
「貴様が、邪魔なんだよ! どけよ、猟兵! 何が――!」
何が祝福だと、『リュカ・トワル』が吠える。切断された脚部すらも武器にしてナギに振り下ろすが、それをナギは鉈で振り払って嗤うのだ。
「オレが救われるにはもっと過酷な絶望が必要らしい――本能のままに、欲望のままに生きる。それは地獄への途に他ならん」
だから、とナギは狂喜が支配する感情の置くから言葉を発する。
どうかと願う心があった。
オウガブラッド『オグレス』。彼女が願わくば。
「アンタはずっと優しい花を咲かせ続けてくれよ……」
決してこうなってはいけないと、ナギは血塗れの帳から、微笑むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
人が出会い、ぶつかり、踏み躙られる。
確かにそのような事は多い。
でも争いを乗り越えて和す事で、一人では作れない美しい未来を生み出すのも人です。
オグレスさんが本心から言った生き方は尊いと思います。
ならばその生き方を全うできるように助けるのが友達というものです!
第六感で危険を察知した詩乃はオグレスさんごと包む防御結界展開し、蜘蛛糸を防ぐ。
相手の羽が結界を突破した場合はオーラ防御を纏った天耀鏡で盾受け。
一つは詩乃、もう一つはオグレスさんに配します。
UC発動して反撃。
多重詠唱による風と炎の属性攻撃・全力魔法・神罰・高速詠唱による大炎の竜巻を作り出し、スナイパーで相手を捕捉して飲み込み、焼き斬り裂きます!
猟書家『リュカ・トワル』の絶叫が鳴り響く。
脚部を喪ってもなお、血まみれになって這いずる姿は最早人の形をしていない。けれど、それでも背に負った翼が羽ばたき、円網状に展開された羽がオウガブラッド『オグレス』と猟兵を狙う。
鬼気迫る表情であったことだろう。
凄まじい執着。オウガブラッドを如何なる手段を用いてでも、オウガにせしめんとする狂気がそこにあった。
「わかるんだよ。どれだけ温かいものにふれてもな、人は簡単にそれを忘れる。踏みにじることができる。そうやってどれだけの魂が傷ついてきたと思っている。どれだけの生命が喪われてきたと思っている。明日は自分の生命であるかもしれないんだぞ」
恨みがましく『オグレス』を見つめる『リュカ・トワル』の言わんとしていることは理解できたかも知れない。
けれど、と大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は、自分の友人である彼女に向ける狂気の視線を遮るようにして立っていた。
「人と出会い、ぶつかり、踏みにじられる。確かにそのようなことは多い」
詩乃は女神である。
その神性は知っている。人が、人ならざる者が、どれだけの数ぶつかって潰えてきたことかを。
けれど、と彼女は、その瞳を持って狂気に真っ向から相対するのだ。
「でも、争いを乗り越えて和す事で、一人では作れない美しい未来を生みだすのも人です」
詩乃は知っている。
壊すのも、直すのもまた人だ。『オグレス』という少女の本心。それは尊いものであると。
神であるから、そう判断できたのではない。
一人の存在として『オグレス』という少女が抱いた心が尊いと理解できるのだ。詩乃はそれが喜ばしいことであると思えたことだろう。
「それを詭弁だって言うんだよ! 欲望のままに振る舞えば、誰だって自分の欲望が最優先される。他の人間のことなんてどうでもよくなるんだよ!」
円網状に放射される羽が詩乃と『オグレス』へと迫る。
しかし、二人の少女はそれを真正面から見据えるのだ。
「ならば、その生き方を全うできるように助けるのが友達というものです!」
詩乃瞳がユーベルコードに輝く。
神性解放(シンセイカイホウ)によって二人を包み込むのは若草色のオーラであった。
己達に危害を加えようとする全てを浄化消滅するオーラは、放たれた羽を消滅させる。
「私は誰の目にも留まらなくていい。けれど、それでも手を差し伸べてくれる人がいるのならば、私はそれに答えたい」
蒼炎が噴出し、詩乃の想いに託される。人々や世界を護りたいという想いが、詩乃の中で膨れ上がり、その神性としての力を増していく。
「ならば、私はその手を取りましょう。友人として、一人の存在として」
こんなにも世界は簡単なのだ。
手を伸ばし、手を取る。
ただそれだけで、世界は広がっていく。その暖かさを知るからこそ、人は一人ではなく他者を必要とするのだ。
膨れ上がる蒼炎と詩乃の生み出した風と炎が混ざりあい、竜巻と成って『リュカ・トワル』を飲み込んでいく。
最後まで彼は理解できなかったことだろう。
けれど、仕方のないことなのかも知れない。誰も彼をも己と同じ狂気に落とさんとする者は、いつだって誰からも理解されないことである。
それを悲しいと思う心もまた繋いだ手から伝わってくる。
消滅し、骸の海へと消えていった『リュカ・トワル』を見送り、改めて友人となった二人は、ぎこちなく、けれど、確かに微笑み合うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年04月30日
宿敵
『リュカ・トワル』
を撃破!
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