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ももものがたり

#封神武侠界 #ふざける方のみみずね #どうしてみんな料理で挑んでくるんですか #桃もあるしカレーもあるよ #ご指摘ありがとうございます!!(土下座)

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#封神武侠界
#ふざける方のみみずね
#どうしてみんな料理で挑んでくるんですか
#桃もあるしカレーもあるよ
#ご指摘ありがとうございます!!(土下座)


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●桃源郷にて
「ああ、なんて」
 彷徨えるオブリビオンは、嘆息する。
「なんて芳しい──」

 封神武侠界が桃源郷。
 人界の人々が伝える理想郷。
 そこには、仙人のみが口にする、
 『仙桃』が実ると言われている──。

●李も桃も美味しい
「ちなみにみんなは、フルーツ好きか?」
 俺は好き。
 いつものように、無関係でどうでもいい話から始めようとするこのグリモア猟兵はエリオス・ダンヴィクトル(陽はまた沈む・f27010)、顔がいいだけが取り柄の男。
「いや、無関係な話じゃなくてな。封神武侠界に桃源郷ってあるだろ」
 仙界にあるという、桃の花咲き乱れる美しい理想郷。滞在するだけで霊力が高まるという大変ありがたい場所のことだが──。

「その桃源郷に、オブリビオンが紛れ込んじまったらしい」
 いや、紛れ込んだって言うのはあまり正確じゃない。桃源郷には目的があって入り込んだのだろうとは思う。
 なんにせよ、放っておくと桃源郷のちからでどんどんオブリビオンがパワーアップしてしまうわけだ。
「コイツをなんとか排除してもらいたい。いや、ぶっちゃけ別に強そうじゃないんだが、桃源郷のブーストがどの程度のもんか、行ってみなきゃ分からねぇし」
 道中もそんなに大変じゃないと思うから。うん、たぶんだけど。

「ま、終わったら桃源郷ってとこでちょっとのんびりしてきてくれていいからさ」
 エリオスはへらりと笑う。

「んじゃ、ま。よろしく」
 頼んだぜ。

「Good Luck」


みみずね
 さて、今回は初めての封神武侠界からお送りします。この半年たっぷり休んでおりました。体調は無事です。
 何はともあれお久しぶりです、あるいははじめまして。PBW初心者駆け出しMSのみみずねと申します。MSに関しての詳細はマスターページをご覧ください。
 今回のシリアス度は『シリアスなんてなかった』の予定でおります。執筆ペースは『かなりゆっくり』、高確率で再送をお願いすることになります、ご承知おきください。

●第一章(冒険)
 目的地への道中、なにやら怪しい香りが漂ってきます。
 いいにおーい。それだけです。

●第二章(ボス戦)
 桃源郷に侵入したオブリビオンとの対決です。
 シリアスなんてなかった、いいね?

●第三章(日常)
 守り抜いた桃源郷でゆっくりしていってね!

 プレイングの受付は各章、【追加情報が入り次第】となります。
 その他、受付終了や再送のお願いなどの情報はマスターページやTwitter(マスターページに記載)、タグなどにて随時情報を更新する予定でおりますので、必要に応じてお手隙の際にでもご確認くださると幸いです。
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第1章 冒険 『妖しい香の中』

POW   :    風で吹き飛ばす

SPD   :    香炉を探して壊す

WIZ   :    別の香で相殺する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●いいにおいがします

 桃源郷は良いところ。
 だって仙人が暮らしている、
 老いも無い、飢えも無い世界。
 仙界はきっと素晴らしいところでしょう。

 ほらほら、そこかしこからいい香りも漂ってきます。

 これは……なんだろう?
 果物のような……
 料理?
 調味料の匂いのような……

 いや、焚き火の匂いかも……
 懐かしい匂いのような……?

 分からないけど、いい匂いだなぁ……( ꒪⌓꒪)

●匂いの結界
 あちこちから色んな香りがします。
 基本的にはいい匂いですが、それにつられると先に進めなくなる、ある種の結界です。

 お好みの香りの中を、お好みの手段で突破してください。
箒星・仄々
オブリビオンをパワーupなんてさせません
桃源郷へ向かいましょう

くんくん
確かにいい香りがしますね

これは…爽やかな桃の香
桃源郷はこんな香で満ちているんでしょうね
楽しみです♪

くんくん
美味しそうな匂いが漂ってきましたよ
この香りは先日いただいた中華まんですね
また食べてみたいです
おっと涎が出てきちゃいます

くんくん
これは…マタタビの匂いですね
なんか体がふらふらしてきました
ヒック
お酒を飲んだことはありませんが
こんな感じでしょうか
マタタビには食欲増進些少もありますから
お腹がぐーぐーなってしまいます

様々な香り(全部食べられるもの
がもたらした空腹感を
仙桃を早く食べたい!とのモチベーションとして
桃源郷へ急ぎます



●匂いはすれど実体はなし
 くんくん……くんくん……。
 鼻を軽く鳴らしながら道をゆくのは、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)。
 桃源郷の霊力は仙人たちのもの。オブリビオンをパワーアップなんてさせません。
「いざ、桃源郷へ向かいましょう!」
 と意気込んで。

 くんくん……。
 歩きながら、ケットシーのしっぽが揺れる。
 これは確かにいい匂い。甘いような酸っぱいような、爽やかな桃の香。
 なるほど、桃源郷はきっとこんな素敵な香りで満ちているのでしょうね。
「楽しみです♪」
 足取りが弾む。

 仄々はさらに進む。
 ……くんくん。
 今度は美味しそうな匂いが漂ってきましたよ。この香りは先日いただいた中華まんですね。
 あの、ほかほかの中華まん。仄々はその味を思い出し……
(また食べてみたいです)
 じゅるり。こぼれそうなよだれを我慢した。

 それでも先へと進むと、……くんくん。またいい匂いがしてくる。
 これは…マタタビの匂いですね。
 言わずと知れた、マタタビ科マタタビ属の植物である。その匂いはネコ科のほとんどの生物がその匂いで恍惚を感じるという。ケットシーはネコ科だろうか?

 否である。

 だが、似た生態なのは間違いない。なぜなら見ての通り、マタタビの香りでふらふらしてきている。
「ヒック」
 ふらふら、ぴよぴよ、千鳥足。どうにも足元がふらつくし、頭がぼーっとしてきました。
 お酒を飲んだことはないけれど、飲むとこんな感じになるのだろうか……?

 ぼんやりそんなことを思いながら、それでもよたよたとまだ進む。マタタビに食欲増進些少もあるのも効いたのか、お腹がぐーぐーなってくる。
(ああ、お腹空いてきました……)
 ぐー。ぐー。ぐぅううう。
 実感してしまうとなおさら、周囲から漂う様々な香りが仄々の記憶を刺激する。記憶の中の美味しいもの。それは例えば杏仁豆腐。あるいは薬膳スープ……それに山菜尽くし……それから刀削麺……あと温泉たまご……それから……、

 仙桃……!!

 そうでした、この先の目的地は仙桃が実ると噂の桃源郷。食べたい。早く仙桃を食べたい……!!

 襲い来る美味しそうな香りの暴力を、『食べたい』のモチベーションへと変え、仄々は先を急ぐ……!

 ※ただし千鳥足である

成功 🔵​🔵​🔴​

雨野・雲珠
【八重】

天国があるなら、桃の香りがすると思うんです。
ああでも、林檎でもよいですね。みかんも…
…いいにおーい!

蜂蜜の香り…(※感じ取れない)
俺が思い浮かべられないからでしょうか。
かみさまは?……俺なにか匂いします?
(深山さんにちょっと枝を傾けてみせ)

あ、干したてのお布団の匂いになった…
これはバイト先の珈琲豆の香り…
一瞬香ったこれは 猫の肉球…!

どこから香ってくるのか
調べるつもりで思いっきりつられつつ。
【花吹雪】で風を呼んで香りを散らしてから
濃く漂うところを───あ、ひとつ見つけた!

はっ。これを七之宮(お休み処)に置いたら
来る方みんなが安らぐ匂いを嗅げるのでは!?
この香炉持って帰っていいですか?


深山・鴇
【八重】
そうだな、俺は雲珠君の言う匂いもするが甘くて重いフルーツの蜂蜜漬けみたいな匂いがするかな
逢真君は味がわからんだろうが、匂いはわかるだろう?
ああ、なるほどね。それだとよくわからんっていうのも頷ける
しかしまぁ桃源郷か。仙桃が実る俗界とは隔離された場所だというが……実際に生っている桃の香りなら君にもわかるかもな
雲珠君と俺の匂い? どんな匂いか自分ではよくわからんが……雲珠君は桜の匂いなんじゃないか(桜の精だからというシンプルな理由)
俺? 俺は煙草の匂いぐらいしかせんだろうよ

匂いに惑うんなら、煙草でも吸って行こうか。少しはマシだろうよ(仄かにチョコレートの香りが漂う煙草。吸殻は携帯灰皿へ)


朱酉・逢真
【八重】
心情)ふたりさんにゃアそれぞれ匂いが届いてるよォだが、俺にはトンとわからンな。いや匂ってるンはわかるんだが、それが何かと嗅覚そばだててもスルッと抜けちまうというか。好い匂いに感じるなら、個人的な好悪を持たない俺にゃ効きが悪いのもわかるハナシさ。ひっひ、しかし差が出るなァ。俺としちゃこんな幻影よか、おふたりの匂いのほうが確かで好いが…この〈宿〉は無臭でね。桜も烟草も好ましい。
行動)坊を持ってかれンよに、仙力を拒む結界を張ろう。桃源郷ね…彼岸にゃありふれてるが、たしかに桃は香る。土産かえ、坊や。どれ、お貸し。(烟管の毒煙をぶつけて機能を弱め) そら、これで"いい匂い"がする程度で済むだろ。



●香炉のゆくえ
 桃源郷への道をいく人影が三人分。
 大きいの、小さいの、大きいの。少しずつの距離をとって歩く。

 そのうち一番小さい人影、頭から桜の枝を生やした雨野・雲珠(慚愧・f22865)は想像する。
 天国というところがあるとしたら──。
「きっと桃の香りがすると思うんです」
 噂に聞く桃源郷は、まさにそういう場所なのだろう。雲珠は見ての通りの桜の精だが、桜によく似た桃色の花に満ちたその場所を思い浮かべてみる。満開の桃の花、それにたわわに実るその果実。
 ……ああでも、果実というなら
「林檎でもいいし、みかんも……」
 そう考える端から、その匂いがしてくる気がする。というか、実際にしてくる。風にのって流れてくる美味しそうな香りがかれの鼻をくすぐる。
 いいにおーい!!

 匂いにつられてついフラフラとしそうになる雲珠を見て苦く笑ったのは大きい影の片方、深山・鴇(黒花鳥・f22925)だった。鴾は雲珠よりもう少し冷静に、感じている匂いの言語化を試みる。
「そうだな」
 確かに、雲珠の言うような果実の香りも感じる。特に桃の香りだ。これは、最初に桃源郷の話を聞いたせい、刷り込みというやつかもしれないが。
「俺は雲珠君の言う匂いもするが、甘くて重いフルーツの蜂蜜漬けみたいな匂いがするかな」
 大きくズレているというほどではないが、雲珠の言うのとは少し違う香りを感じていた。

「蜂蜜の香り……?」
 はちみつ。蜂蜜漬けの香り?
 言われた雲珠はすん、と鼻を鳴らしてみるが、それを感じ取ることはなかった。そもそもというもの、雲珠は蜂蜜がどんな匂いなのかを知らない。少なくとも雲珠が嗅ぎ取れる中には、蜂蜜とやらの匂いは感じられない。判じることができるのはすべて、雲珠の知っている、雲珠が好ましいと思うものの匂いがしているということだけだ。
 分かりません、と雲珠は素直に首を横に振った。
「たぶん、俺が思い浮かべられないからじゃないでしょうか」
「なるほど、理にかなってる」
 知らないものの匂いはしない。もしそれが嫌いなものだったらこの結界は成立しない訳だから。そもそも、複数人で歩いているのに、互いの感じる匂いが他の他の匂いが混ざっていないというのも不自然だ。
 そこまで考えた鴾は、二人から少し離れて歩いていた三つ目の人影、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)へと振り返る。

「逢真君は? 味はわからんだろうが、匂いはわかるだろう」
 味覚のない逢真にも、嗅覚はある。やはり桃の花や果物の香りを感じているだろうかと、問いかけた。
 逢真は短く「いンや」と答える。俺にはトンと、だ。
 思いもよらない返答に、二人が不思議そうな顔をしたので、逢真は軽く手を振ってみせる。
「あァ、いや。匂いが全くしねえって話じゃなくてよ」
 嗅覚は正常、これは間違いない。ただ匂ってるンはわかるんだが、それが何かと嗅覚をそばだててもスルッと抜けちまうというか。
 この感覚が伝わるだろうか? おそらくではあるが、ここまでの会話で分かったことは、それぞれが『好い匂い』と感じる匂いだけがするということ。つまり、
「好い匂いに感じるなら、個人的な好悪を持たない俺にゃ効きが悪いのもわかるハナシさ」
 匂いを様々に感じる能力はあっても、特定の匂いに『好きな』という冠がつかない者には、この結界の効果が薄いのではないか。
「ああ、なるほどね。それだとよくわからんっていうのも頷ける」
 鴾が首肯く。
 雲珠と鴾で感じる匂いが違うのも、雲珠が蜂蜜を感じ取れないのも、逢真が特別何かの匂いを捕まえられないのも、それならば説明がつく。

 それにしても、だ。
「ひっひ、しかし差が出るなァ。俺としちゃこんな幻影よか、おふたりの匂いのほうが確かで好いが……」
 何かの匂い、でしかない曖昧な幻のようなそれより、雲珠と鴾の匂いのほうがまだ好いというものだ。
「雲珠君と俺の匂い?」
 聞き返したのは鴾。
 首を傾げたのは雲珠。

 逢真の言葉に、二人とも自分がどんな匂いだろうかと考えて、雲珠は鴾に自分の頭の桜の枝を傾けてみた。
「深山さん。俺、なにか匂いします……?」
「雲珠君は桜の匂いなんじゃないか」
 桜の精だからというごくシンプルな理由で、さらりとそう答えた。
「そうですか? 深山さんは、うーん……」
 はて、しかし自分はどうかと言われると想像し難い。自分に染み付いた匂いと言ったら、いつも扱っている煙草くらいのもので。
「俺は煙草の匂いぐらいしかせんだろうよ」
「そう仰るかみさまは?」
 雲珠には感じ取れないが、かれにも独特の匂いがあるのだろうか? と問うてみるも、逢真は首を横に振る。
「この〈宿〉は無臭でね」
 なあんの匂いもしやしない。
 だが、逢真の感じる桜のふうわりとした柔らかな香り。それに、烟草に親しむ者特有のじっとりとした匂い。どちらもかれらの人為をよく表している。
 桜も烟草も、逢真にはどちらも好ましい。生きているものの匂いがする。

「と、いけません。この香りをなんとかしないと進めないのでしたね」
 はっと本題を思い出した雲珠は、改めてそこら中を漂う匂いとまた向き合う。
 どこからこの匂いがやってくるのか辿ればいいわけですから……。くんくん、とまたも鼻に意識を集中する。花の香り、果物の香り……あちらのほうが匂いが強い気がする……。

 くん。
 あ、干したてのお布団の匂いになった……。

 くんくん。
 これはバイト先の珈琲豆の香り……。

 くん……!
 一瞬香ったこれは…… 猫 の 肉 球 ……!!

「おォい」
 思っきしつられてンじゃねえか。
 どれ。と逢真が手を翳す。坊を持ってかれンよに、仙力を拒む結界を張ろう。香りの結界を少しは緩和できるだろう。

「じゃあ、俺はコイツを」
 匂いに惑うんなら、煙草でも吸って行こうか。少しはマシだろうよ。
 ほう、と吐き出した煙は、仄かにチョコレートの香りが漂う煙草。もちろん吸殻は携帯灰皿へ。桃源郷にゴミのポイ捨ては許されない。たぶん。
「『桃源郷』ね……彼岸にゃありふれてるが」
 あちらとこちらの境には、そういう場所もある。たしかに桃は香るものだ。

 と、二人からの助力を得て、改めて。
 雲珠は【花吹雪】を呼び、風を呼ぶ。ひらひら、舞い散る白い桜の花びらに、桃の香りも飛んでいく。最後に一瞬香った、里の匂いが恋しくないとは言わないけれど。
「──ありました!」
 香炉がひとつ、ぽつんと石の上に置かれていた。これが全ての匂いの大本だろう。

 それにしても。誰が嗅いでもいい匂いの香炉、とは。
 ……。

 ……。……はっ!!

 見つめるうちに閃いた桜の子。
「これを七之宮に置いたら、来る方みんなが安らぐ匂いを嗅げるのでは!?」
 七之宮は雲珠の背負った箱宮と繋がる休憩所。鈴を手にしたものだけが神紋に触れることで入れる、小さくとも神聖な、誰もが安らげるささやかな領域。
 そこにもし、安らぎの香炉を置けたなら……きっと七之宮は、今よりもっと素敵な場所になるでしょう。
「あの、この香炉、持って帰っていいですか?」
 きらきらした目で二人を振り返る。鴾はキョトンと物好きを見る目で、逢真は慈しみの目で雲珠を見た。ひひ、と逢真が口の端を上げる。
「土産かえ、坊や」
 それなら。
 どれ、お貸し。軽く招けば、小さな手が香炉を差し出した。
 逢真はそっと烟管の毒煙をぶつけてやる。香炉の強すぎる幻惑の機能も、このくらい弱めればいいだろう。
「そら、これで"いい匂い"がする程度で済むだろ」
 手土産にするのに支障無いはずさ。
「!! ありがとうございます……!」

 雲珠は香炉を抱えたまま、ぴょんと飛び跳ねる勢いで礼をする。
「いいのかい?」
 なんとはなしに鴾が尋ねる。土産としてほいと軽く渡したが、ひとつ間違えばまた人を惑わす迷宮を作り出すかもしれない結界のモトなのだが。
「もう悪さはできねぇさ」
 にいやりと笑って逢真が応える。与えた毒は、それくらいのものだ。
「……なるほど」
 小さく息を吐いた。どこか呆れたような顔をしているが、納得はしたようだ。

「サァて、行くかね」
 本来ならば此岸であるはずの場所、桃源郷はこの先だ。結界の途切れた今のうちに歩を進めるべきだろう。

 再び歩き始めた三人全員がそれぞれに、新しく瑞々しい桃の香りを感じ始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『暗黒料理人』

POW   :    暗黒料理・天
【超暗黒料理人】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【ながらも食欲を掻き立てる暗黒料理】を放ち続ける。
SPD   :    暗黒料理・人
【暗黒料理によって完全に支配下に置いた者達】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    暗黒料理・地
【暗黒料理】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【から無限に食材が湧き出る環境に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アルミィ・キングフィッシャーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●奇声がきこえます
「キェエエエエエイッ」
 騒がしい。

 今日の桃源郷はえらく騒がしい。

「フォワァアアアァァァア!!!」

 それと言うのも、このオブリビオンがやってきてから。
 ずっと。

 ずーーーーーっと。

 料理を!!
 しているのだ!!!

 因みに奇声を上げているのは単に気合を入れるためらしい。

 ゆらり。
 君たちに気付いた料理人っぽい姿のソレは呟く。
「なんだ……貴様ら……そうか、猟兵……」
 邪魔をするのか……。美味しい美味しい桃料理の……吾輩の暗黒桃料理の邪魔を……。
「貴様らも料理してやっチャッチャイイイィィイーーーョ!!!!」

 なんて?

●そいつの話は聞かなくていい
 桃源郷の仙桃を勝手に採って勝手に料理しているオブリビオンです。
 暗黒料理での攻撃を放ってきます。料理の内容はご自由にどうぞ。
箒星・仄々
プロの料理人の方が仙桃でつくる料理…
どんなものが興味はありますが(ごくり
暗黒料理を口にしてはいけない気がします…残念ですが

私も嘗ては魔力漢方を披露した身
薬膳料理で勝負です!
そう、桃は薬膳の効果もあるのですよ

調理用具はお借りしますね
一生懸命料理します
出来上がるまで少々お待ちくださいね
料理が出来上がる前に攻撃するのはルール違反ですよ?

桃のアップサイドダウンケーキ
桃のスープ
桃のスムージー
桃のシャーベット
桃の葉茶

完成したら自分で食べます

仙桃の力が体内の気血水に作用し
即ち風炎水の魔力がブーストされます

地を駆け
あちょーと飛び上がり
料理人さんへ飛び蹴りを放って倒します

終幕
鎮魂の調べ
ご馳走様でした



●桃料理には桃料理で
「おのれ猟兵ッッッッ!! 貴様ら、この仙桃ヲォォォォ」
 騒がしい黒コックコートのオブリビオンを前に。
「横取りしようってんんんだナァアアアア?!?!!!」
 いえ。ここの住人が得るべき仙桃を横取りしているのはあなたです。──箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は比較的落ち着いていた。

「そうは行かなっチァョ!!!!!」

 ……なんて?
 いや、今はそれはどうでもいいのだ。

 何しろ仙桃食べたいモチベーションでここまで辿り着いた仄々である。目の前で仙桃料理を作りながら雄叫びをあげる彼を見て、最初に思うことは一つだ。
(仙桃料理……美味しそうです)
 それもどうやらプロの料理人が作るそれ。きっと美味しい。素材からして仙桃なのだからきっとすごく美味しい。食べてみたいと心から思う仄々はごくりと喉を鳴らす。
 けれど。

「吾輩の暗黒桃料理をっっッッ邪魔するカァッッッ」

 そう、『暗黒料理』なのである。

(暗黒料理……)
 それがなんなのかはぶっちゃけよく分からないが、名前からして口にしてはいけない感じがする。残念ですが……とても残念なのですが……食べないほうがいいとおもう……。

 しかし。そこでただがくりと肩を落としめげる仄々ではない。
 私も嘗ては魔力漢方を披露した身……!
 こうなったら、
「薬膳料理で勝負です!!」

「愚かな……この吾輩に料理勝負を挑むとは……」
 ごごごごごごご……。暗黒料理人のなにかのパワーが上がっていくのを仄々は見た!
「その勝負、受けて立ったらァァああああ!!!!」

 本日幾度目かの奇声を上げながら。暗黒料理人、本気を出す。その身から吹き出るどす黒いオーラをまとい……そう、暗黒料理人の最終形態、

 スーパーダークシェフ
 超暗黒料理人へとその姿を変貌させる!!!

「この姿になった吾輩はぁあ……!!」
 空も飛べる。本当です。
「食らうがいい!!! 我が! 暗黒薬膳桃料理!!!!」
 次々と繰り出される暗黒料理の数々!
 充満するのは空腹を誘う香り!!

 ……のはずだった。

 だが、仄々はここへきてまだ冷静だった。
「料理勝負ですから。料理が出来上がる前に攻撃するのはルール違反ですよ?」
「なん……だと……」
 超暗黒料理人に衝撃走る。確かに勝負を受けると言った。乗ると言ったからには勝負のルールは相手が決めることだし、乗った勝負のルールには従うべきだ……!
「ヒェイ!!! ならばさっさと料理を作りゃっタッチャィ!!」
 膝をつきかけたが秒で立ち直る料理人、もとい超暗黒料理人。

「じゃあ、調理場と調理器具をお借りしますね」
 そしてちゃっかりと料理人が使っていた(これからも使う予定であった)調理場へと移動する仄々。材料の仙桃も山盛り積んである。
「〜♪」
 ふんふんと鼻唄まじりに調理を開始する。材料は新鮮な仙桃。どう薬膳料理に活かしていこうか……考えるだけでわくわくしてきます。
 下拵え。香りもよく、うぶ毛もきれいな仙桃をひとつひとつ、丁寧に。一生懸命料理します。

 仄々はちらと暗黒料理人を見る。さっき作った料理が文字通り宙に浮いたまま、攻撃をしないというルールに則りお預けをくっている。
「出来上がるまで少々お待ちくださいね」
「わぁかったから早く作っチャチャゃっいヨゥ!!」
 さてはこの暗黒料理人、単に言語中枢にバグがあるのでは? 仄々は訝しんだ。

 まぁ、それはさておいて。

 メインとなる桃のアップサイドダウンケーキに、お腹を休める桃のスープ。
 ドリンクに桃のスムージー、デザートには桃のシャーベット。
 最後に落ち着く桃の葉茶……。

 仙桃の薬膳フルコース、完成!!!

 そしてようやくの完成を見届けた暗黒料理人は、改めて超暗黒料理人へと変じ、仄々に襲いかかろうとする!
 もちろん仄々だって黙って攻撃されるわけはない。料理人の暗黒料理によって湧いてくる食欲は、自分がたった今作った料理を食べて満たすのだ!
 仙桃の力が体内の気血水に作用する。それは即ち仄々の操る風炎水すべての魔力がブーストされることを意味する。

 地を駆ける仄々は、飛翔する料理人へと狙いを定め……風の魔力をふんだんに乗せた跳躍をする!
「あちょー!」
 そしてかけ声! 騒がしいオブリビオンに対抗すべく大きな声で叫びながら、空中へと飛び蹴りを繰り出した!!
「ベバヴェバ!!!!」

  直  撃  ! !

 ……。

 …………。

 シーン、と音がしそうなくらいに静かになった。さっきまでの騒々しさが嘘のよう。
 その静けさの中で、仄々は鎮魂の調べを奏でる。ささやかな音だけがいま一時、桃源郷を包んでいた。

 ……あ。
 と、思い出した。戦闘に夢中で礼儀を失するのは良くない。
「ご馳走様でした」
 美味しい仙桃料理でした。全ての出会いと食材に感謝の気持ちを込めて、仄々はその一言だけを残して、この場を立ち去ることにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【八重】
心情)暗黒料理だってよ。つまりカレーだな。どうだい、いっちょ料理対決ってのは? 俺は触れンからムリだけど。かわりにホレ、指2本立ててツイと横切りゃ、世界の壁なぞ俺にナシ。金とメモいれたバスケットもたせ、鷹を飛ばせば材料はそろう。各種各社のカレールゥから野菜に隠し味になりそなやつまで。それじゃおふたりさん頑張っとくれ。俺は味見もできンでな。
行動)サテおふたりは宮の中。俺は外で見張りといこう。なんだい暴れて、かわいいコックさんでも歌うかい?(箱宮に腰掛けて結界で防ぎつつ烟管プカー) ン? おや深山サンおかえり。ウン、チトうるさくってねェ。頼んでいいかね。どうも。おかえり坊。アア帰ったよ。


雨野・雲珠
【八重】
(聞こえてくるよあのBGMが)

【料理】対決はよいのですけど、
ああも己の道を突き進まんとする方に
勝負を持ち掛けても果たして…
はっ
こっち見てる…
近づいてきた…
…いけそうですね!

今の俺にはかみさまが手に入れてくださった
とっておき(という名の企業努力の賜物)があるので無敵です!
かみさま、箱の見張りお願いします
行きますよ深山さん!

(おもむろに箱宮の中に引っ込みます)
(七之宮内のお台所で料理開始)(大鍋)

備蓄として置いてあるお米も炊いて…
具材を切ってもらったら深山さんは解放します、
かみさまと待っててください。おやつ食べたら駄目ですよ!

~さらに半刻経過~

お待たせしました!
……あれっ、料理人さまは?


深山・鴇
【八重】
なんて? カレー、いやカレーに異論はないが
賢い鷹だな……(突っ込みは諦めた)
いやあの料理人、本当に料理対決がしたいのか?

ああ、うん。ちょっと行ってくるよ(助手にされている事実に突っ込む暇なく連れていかれる)

野菜を切ればいいんだな、任されたよ
(一般的に自炊をする男性レベルの腕前)
玉ねぎと人参、あとジャガイモか。そういや雲珠君、カレールーは二種類くらい違うのを入れると味にコクが出るらしいぞ
(具材を切り終わったので外に出された)

逢真君、おやつは食べずに待ってろと言われたんだが
そこの料理人がこっちに向かってくるなら仕方ないな!
ちょいと捻ってしまおうか

ああ、火でも点けっぱなしだったんじゃないか



●暗黒って? 〜(暗黒?)カレーライス 例のBGMを添えて〜
「暗黒料理だってよ」
 そう言ったのは朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)。その顔には納得の表情が浮かんでいて、他の二人はかれの次の言葉を待った。
「つまり」
 はい。つまり?

「カレーだな」
「なんて???」

 思わず聞き返したのは深山・鴇(黒花鳥・f22925)。相手のオブリビオンの言ってることもなかなかに(聞き取れないという意味でも)意味不明だが、味方の言うことまで意味が分からないのでは何も始まらない。
 説明を求めると、逢真はにぃと笑った。
「どうだい、いっちょ料理対決ってのは?」
 つまり。暗黒料理人に対抗するためにこちらも暗黒料理(カレー)(たぶん見た目の問題)で立ち向かったらどうだ、ということらしい。
「カレー……いやカレーに異論はないけど」
 料理に料理で対抗するのが駄目だとは鴾も言わない。けどなにか言うべきことがある気もする。
「俺は触れンからムリだけど」

 そ れ だ よ !!!!!

 そもそも逢真は病毒の神。食材に触れれば腐るし、或いは完成した料理の傍を、何気なく通っただけでも毒が混入するかもしれない、くらいの存在である。食中毒くらい余裕で発生するんじゃないだろうか。
 というか、味見するにも味が分からないのでとことん料理には向いていない。
「どうだい?」
 そんなことは百も承知のはずの二人への提案だ。雨野・雲珠(慚愧・f22865)は持ち前の真面目さで、うーんと少し考え込んだ。
「対決はよいのですけど」
 料理を楽しんでいるらしい方に一方的な暴力を振るうよりはよほど良い案であるように思えます。
 ですが、ああも己の道を突き進まんとする方に料理の勝負を持ち掛けても果たして……
『その勝負を受けてもらえるものでしょうか?』
 と続けようとした雲珠だが、視線に気付いてはっと顔を上げる。
(はっ)

(こっち見てる……)
 暗黒料理人は、カレーの話で盛り上がっている(?)こちらをじっと見ていた。なんか静かだなと思ったら奇声上げるのと料理する手の両方を止めてこっち見てた。

(えっ、近づいてきた……)
 のろり、ゆらり。左手に中華鍋、右手におたまを持ったオブリビオンがこちらへ近付いてくる。しかし攻撃してくるわけでもなく……これは……もしかすると……、
「……いけそうですね!」
 料理人も他人の作る料理が見たいのでは、と判断した!
「いけそうか?」
 いけそうか?? 鴾は首をひねるが、応えるものは誰もいない。

「ホレ」
 自身は料理が出来ないかわりに、と逢真。
 指を2本立ててツイと横切らせる。世界の壁なぞ俺にナシ、だ。
 ユーベルコードで世界の隔てを無くす。使い魔に材料の買い出しをさせようという魂胆だ。金とメモいれたバスケットをもたせ鷹を飛ばせば、あっと言う間に材料はそろう。
 各種各社のカレールゥから野菜に隠し味になりそうなものまで。隠し味に蜂蜜は定番。鷹の持ち帰ったバスケットには、果物の蜂蜜漬けも入っていた。
 わぁ、すごい。
「賢い鷹だな……」
 もはやツッコミを諦めた鴾。いやそもそもあの料理人、本当に料理対決がしたいのか? 分からないまま料理が開始されようとしている。だがそれを止める為のツッコミの余力はもう無い。

 逢真の鷹が買ってきてくれた大量の食材を前に、雲珠も目を輝かせている。
「今の俺にはかみさまが手に入れてくださったとっておき(という名の企業努力の賜物)があるので無敵です!」
 今ならなんでもできる気がする。気分は無敵、キラキラスタァ。
「それじゃおふたりさん、頑張っとくれ。俺は味見もできンでな」
「はい! かみさま、箱の見張りお願いします」
 調理は七之宮の中で行うこととしようと決めた雲珠。七之宮中は安全だが、箱宮が置きっぱなしでは危険だ。味見の役にすら立たないと自ら宣言した逢真が見張りとしてひとり残ることになった。
 つまり鴾は雲珠と一緒に七之宮へ、
「ああ、うん。ちょっと行ってくるよ」
「さっ、行きますよ深山さん!」
 頑張ってくれと言う逢真へなんとか返事をしたが。あれっ、なんでいつの間に俺もしっかり調理要員なんだ──? ツッコむ暇もなく雲珠に手を引かれていく。

「さて」
 気合充分。雲珠は袖をたくし上げて、大鍋の準備に取りかかる。せっかくだから桃源郷の皆さんにも振る舞えるよう、たくさん作ろうという魂胆で。お米は備蓄してあるものを使えばいいし……。その間に、深山さんには野菜を切っておいてもらいましょう。ほら、剣士ですし。

 >>剣士だから包丁も持てるだろうという安直さ<<

 だがしかし鴾には少年の発想を責めるつもりもなく、淡々と食材と向き合って、仕分けしていく。
「野菜を切ればいいんだな。任されたよ」
 うん、と頷いてあの賢い鷹が買ってきたそれらを手に取る。これでも人並に自炊のできる程度のスキルはある鴾である。野菜を切るくらいなんてことない。
 カレーに入れる野菜ときたら……玉ねぎと人参、あとはジャガイモか。

 トントンとリズミカルに野菜を一口大に切りながら、雲珠へと話しかける。
「そういや雲珠君、カレールーは二種類くらい違うのを入れると味にコクが出るらしいぞ」
「!!」
 かじるととんでもなくしょっぱくて辛いこの茶色い板。味の違いをそこまで意識したことがなかったが、確かに種類それぞれ別の味わいがあることだろう。
「なるほど、やってみます」
 幸い、かみさまの鷹さんが買ってきてくれた中には、雲珠の普段の生活圏では手に入らないカレールゥがたくさんある。どれがいいかなと外箱を眺めては考える。
 そんなことをしている間に、
「終わったよ?」
 鴾の、野菜を切るだけの簡単な作業は終わっていた。次にまだ手伝うことがあるかどうか、今回限定料理長に確認してみる。
「あっ……じゃあ、かみさまと外で待っててください」
 ご飯が炊けるのにも、カレーを煮込むのにも、まだ少し時間がかかる。けれど、それは雲珠ひとりでできることだ。人手がいる作業ではない。
 ここで完成を待ってもいいけれど、それよりは外で箱宮を守ってくれているかみさまのところへ行ってもらったほうがいいだろう。
 あっ、でも
「おやつ食べたら駄目ですよ!」

 おかあさんかな??(偏見)

 食事前におやつ食べたらだめなんですからね。そう言い渡されて、ひと仕事終えた鴾は七之宮から出る。


〜 一方その頃 〜
 ぷかぁ。
 逢真は烟管の煙をくゆらせて、腰掛けた箱宮を結界で包んでいた。……というのも、例のオブリビオンが暗黒料理を撒き散らかして暴れているからである。
「なんだいそんなに暴れて、かわいいコックさんでも歌うかい?」
 棒が一本あったとさ。
 いつの話か知らないが、あったとさという伝聞の棒一本から描きはじめ、最後にはコックさんが出来上がる愛らしいわらべ唄。
「キェエエエエィィイイイ!!! そんな!! モノォ!!!」
「ン? ンン」
 あ、ダメだなこいつ。
 オブリビオンに冗句が通じないのは仕方ないとしても、中でもコイツはだめなほうだ。話が通じないってレベルじゃないやつだ。
 とりあえずのところ結界に阻まれてこちらには近付けない、が、とにかく奇声がやかましい。結界では防げないというか、完全遮音してしまうとそれはそれで不都合があり得る。なンとかならんかね。

 そこそこうんざりしてきたところへ、箱宮から鴾が出てきたのは逢真にとってはまずまずの幸い。
「おや深山サンおかえり」
 おかえりと言われれば鴾もただいま? と軽く応え、
「逢真君、おやつは食べずに待ってろと言われたんだが」
 律儀に言われたことをそのまま伝えた。そして、
「で、……これはどういう状況か聞いたほうがいいのかな?」
 分担した逢真の仕事は箱宮の番。動かないで結界を張り続けるのでずっとこの奇声にさらされていたわけで。
「ウン、チトうるさくってねェ」
 鴾は鴾で野菜カットの仕事を終えてきたところだが、それはそれ。そこの料理人がこっちに向かってくるなら仕方ないな!
 そう、仕方ないのだ。
「ちょいと捻ってしまおうか」
「頼んでいいかね」
 短い応酬。
 宮の中にいる雲珠は、まだあれに料理を披露するつもりでいるだろうが、攻撃されているのでは致し方あるまい。
 鴾は居合の構えから、一閃を放つ。静かに、しかし鮮やかに華やかに──料理人は儚くあっさりと、桃源郷の地に散ったのであった。
「どうも」
 これでやっと静かになった。逢真は今度こそゆっくりした心地で烟管の煙を吐いた。

 そして、

〜 さらに半刻経過 〜

「お待たせしました!」
 元気いっぱい、自信作のカレーを携えた雲珠が宮から出てきた。
「おかえり坊」
 逢真の声に迎えられて、雲珠はきょとんとした顔で周囲を見回す。暗黒料理人の姿が見えないので。
「……あれっ、料理人さまは?」
 ひひ、と笑う逢真。鴾もまた、それを見て苦く笑った。ああ、とそれぞれに頷いて。
「アア、奴さんなら帰ったよ」
「火でも点けっぱなしだったんじゃないか」
「そうでしたか……」
 お互いの料理で勝負をつけようと思っていたのに、残念です。時間をかけすぎてしまったでしょうか。

 しょんぼりした雲珠へ、逢真は笑う。
「そうしょげるなイ」
 カレーを食わせる相手なんぞ、他にいくらでもいるだろう。少なくとも今このとき、この桃源郷はオブリビオンから開放されているのだから。
 そのつもりで大鍋に作ったのだろう?
「……はい……!」
 雲珠は大きく頷いた。

 ところでそれ、暗黒料理に対抗するために作られた料理だけど。というか暗黒と言えばカレーという謎の発想から生み出された料理なのだけど。念のため味見はしておいたほうがいいんじゃないだろうか。
 鴾はそう心の隅で思いながら、言い出すかどうか悩んだ挙げ句──

「喜んでもらえるといいな?」
 雲珠の常識と味覚を信じて、何も言わないことにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『仙桃狩り』

POW   :    仙桃狩りを楽しむ

SPD   :    仙桃狩りを楽しむ

WIZ   :    仙桃狩りを楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●桃がみのっています
 ここは平和な桃源郷。

 オブリビオンもいなくなって、
 仙桃は守られて、
 まさに平穏そのもの。

●仙桃狩りのお時間です

 さあさ、猟兵のみなさん。
 お礼と言うにはささやかですが、
 ぜひぜひ、仙桃狩りを楽しんでいってください。

 この場で食べるもよし、
 持ち帰ってお仲間と分けるもよし。
 霊験の素として加工してみるもよし。

 霊力のこもった
 美味しい仙桃をどうぞ。
箒星・仄々
温かな日差しと爽やかな風を楽しみながら
ゆるゆると散策します
心の赴くままぽろんぽろんと爪弾きます

もし暗黒さんとの戦いで被害があれば
歌と旋律で癒しますね
気が満ちていますから必要ないかも知れませんが

ふと見上げた樹で
ふわふわと風の魔力で浮遊して
仙桃をそっともぎりましょう
ピンク色が美しいです

地面におりて
根元に座っていただきます
まずは皮ごとがぶり
その後は爪をちょっと伸ばして綺麗に剥いていただきます

美味しい!
日差しと陽の気を浴びて
美味しさも霊力も凄いです
薬膳も素材に助けられましたね

沢山いただいてお腹が膨れたら
その幸せや桃源郷そのものの心地よさをかみしめながら
心のまま自由に即興曲を奏でます
ご馳走様でした!



● 桃の郷の めぐみ
 ぽかぽかとした温かな日差し。
 吹き抜けていく爽やかな風。

 桃に囲まれた散歩道を、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)はゆく。穏やかな時間。ねこの竪琴は仄々の気の向くままに爪弾かれる。
 ぽろん、ぽろろん。
 澄んだ音がとおくまで響いていく。

 霊力に満ちた桃源郷では、早くも先ほどの戦闘の後が治っていくところだ。
 ぽん、とまた仄々は弦を弾く。折れた枝も、えぐれた地面も。放っておいても治るのでしょうが、ほんの少しだけお手伝い。
 ゆったりとした旋律と歌声がそれらを優しく癒やしていく。

 ふと見上げれば、仙桃を実らせた大きな木。
 風に揺られてさわさわとした葉、その間から見えるきれいな桃の実。
 そっと魔力の風を操って、ふわふわとその実の高さまで。愛らしいピンク色の実。周りを傷付けないように、そっともぎ取る。
 先ほど調理に使ったのよりさらに新鮮で、とても美味しそう。

 地面に着地して、木の根本にちょこんと座る。ぽかぽかで、さわさわ。ピクニックにはちょうどいい気候だ。
 取ってきた桃を両手に構えて、頭のほうを思いきって皮ごとがぶり。そこから先は少しずつ、ちょっとだけ伸ばした爪の先で丁寧に皮を剥いていく。
「いただきます」
 果汁は滴るほど溢れ、仄々の口の中にも広がっていく。

 ──美味しい!

 桃源郷の豊かな恵み。おひさまと、満ち満ちた陽の気をたっぷり浴びた仙桃はまさに天然にして至上のおいしさ。
 さっきは薬膳料理の材料として使わせていただきましたが、素材の力に助けられましたね。霊力もいっぱいで、なるほど桃源郷の恩恵の塊と言っても過言ではない。
 ……あのオブリビオンの料理人さんも、そこに目をつけたのでしょうけれど。

 そんなことをぼんやりと考えながら、仙桃をぺろりと食べた仄々。せっかく取り放題食べ放題だというので、お言葉に甘えてもう少し。
 沢山いただいていい感じにお腹が膨れたところで、またとてりと仄々は歩き出す。桃源郷の小路はどこを行っても桃の木が続いていた。程よい満腹の快適なおさんぽ。
 降り注ぐぽかぽかの陽光と、いるだけで霊力が高まる桃源郷と、この場所に平和が戻ってきたという幸せと心地よさを噛み締めながら。

 そ、と仄々はまた竪琴を取り出した。
 心の向くままに、即興曲を奏でる。

 風に乗せる旋律は。桃源郷に、実る仙桃に、咲き誇る桃の花に、ここで暮らすすべてのものに。
 たくさんの「ありがとう」を。
 それともちろん。めいっぱいの「ご馳走様でした!」も込めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【八重】
心情)どォも、カレーチェーンの八重です。仙境をインドにしてやろう。マ・俺は近づけンのでヒマだが。
行動)眷属らに、呼び込みさせっか。ウサギとかモルモットとか撒いとこう。つられろ。タミ、お前は他のおふたりと一緒にカレーやら桃やら食ってきてもいいンだぜ。…俺といる? そうかい、好きにおし。澄み渡って憎たらしい空気だ。泥の底みてェに体が重い。だが、と"いのち"らが思うままはしゃぐ様子を見よう。ああ、これを見られるかぎり俺は猟兵をするだろうな。オヤ…兄さんは烟草かえ。ああ、毒煙は俺が回収するが…ははァ、ソレが目的かね? ごらん、坊が楽しそうだよ。かわいいねェ。(片付けに獣を送りつつ手を振り返す)


深山・鴇
【八重】
俺達はカレー屋さんだった……?(違います)

簡易屋台を組む手伝いをしよう
その後は手伝い賃とばかりにカレーを食べるとしようかな
ん? おやつ分のお腹は残すべき?
ああ、桃の分か……よしきた、屋台を切り盛りする雲珠君の分も取ってくるとしようか
桃、どこを見ても桃だな……どれを取っても美味しそうだ
(適当に桃を何個かもいで戻り、雲珠君に渡す)

さて、食後の運動もしたし一服といこうか
逢真君、食後の一服に付き合ってくれないかい
はは、逢真君にはここの空気はちときついだろうな
(左胸の内側から月食を出して火を点けて)
煙草の煙でも吸っておくといい、ん?
空気清浄機とか思ってないとも、はは、いやそんなまさか、ははは


雨野・雲珠
【八重】
俺が!俺たちが!カレー屋さんですよ!

色々借りて簡単な屋台を作ります。
それぞれ食の禁があるかもしれないので、
食べたがってくださる方にだけ。
お味見程度の量ではありますが、さあさあ是非お並びください。
お米(穀類)抜きもできますよ!

はぁ、はぁ…楽しかった…!
わぁ、桃!いつのまに…ありがとうございます。
あまーいですねえ…なにやら力みなぎる気がします。
いくつかお土産にいただいても?
霊力のこもった甘い桃。きっと喜んでくださるはず!

それにしても…炊き出しにカレー。
このカレーの素さえあれば、ありかも…!
(労働の喜びでぴかぴかしながら後始末までやり遂げます)
(見守るかみさまの視線に気づいて笑って手を振る)



● ここが天竺のカレー屋さんかぁ

 果たして。
 桃源郷に漂うのは桃の花の香り。仙桃の芳醇な香り。そして、
 そして。
 圧倒的なまでの、カレーの香り……!(幻かな?)

「どォも、カレーチェーン【八重】です」(幻聴?)
「俺が! 俺たちが!! カレー屋さんですよ!!!」(幻聴?)
「俺達は……カレー屋さん……だった……?」(違います)
 今からここをインドにします。
 テロリストですか???
 いいえ、カレー屋さんです。

 ちょっと冷静になろう。
 大丈夫です俺たちは正気にもどった。

 けれどカレー屋さんは幻ではない。
 突如としてこの平和な桃源郷に現れたのはカレー屋さんの屋台であった。というのも、雨野・雲珠(慚愧・f22865)が先ほどのオブリビオンとの戦い(?)で準備したカレーが大鍋いっぱいにあるのだ。『せっかく作ったので桃源郷の皆さまにも召し上がっていただきたい』という雲珠の思いを汲んでのことだった。
 深山・鴇(黒花鳥・f22925)はテキパキと、雲珠が簡易屋台を組み上げるのを手伝っていた。現地で道具や資材を借りてくるのも含めて。
 労働の対価には……まぁ、後でカレーを一皿いただくくらいでいいだろう。

 屋台の中で雲珠は張り切っている。
 桃源郷で暮らすひとびとはどんなものを好むだろう? それぞれ食の禁があるかもしれないので、食べたがってくださる方にだけ提供することにはなるでしょうね……。

 しかし集まってきている人数をみると、思ったよりカレーは好評の様子で。あたりに充満したカレーの匂いがそうさせたのだろうか、何人もの人が屋台の前に列を成し始めていた。
 ぴょこん、ぴょんぴょんと列の周囲、その足元を飛び跳ねているのは屋台には近付けない朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の眷属たちだ。愛らしいうさぎやモルモット。おやかわいいと足を止める人もいる。いい客寄せになっただろう。

 人数を考えると一人分はお味見程度の量ではありますが、さあさあ是非お並びください。
「お米(穀類)抜きもできますよ!」
 スープカレーというのもいいものだとは、誰が言っていたのだったか。
 とにかく雲珠はどんどんお店を切り盛りしていく。カレーを受け取ったひとはみな、笑顔でお礼を言ってくれるしみんなきれいに平らげてくれる。
 なんてやりがいのあることでしょう……!

〜 一方、その頃 〜
 さて、雲珠がカレー屋さんとして忙しくしている頃。屋台の組み立てという自分の仕事を終えた鴇は報酬のカレーを受け取って、ひとりで先に食事タイムを決め込んでいた。雲珠君の自信作のようではあったが、確かになるほど。いい出来だった。
 そしてふと、匙を運ぶ手を止める。
 カレーはご飯。いわゆるひとつのメインディッシュ。しかしもしかして、少し腹をあけておいたほうがいいだろうか、と思い至ったのだ。「おやつ食べちゃだめですからね」と言われていたのを思い出す。
(ああ、桃の分か……)
 デザートを食べる分くらいは腹に余裕を持たせておくべきだろう。うん、ならばこうしよう。
 鴇は最後のカレーの一口を食べ終わると、立ち上がった。あちらは屋台で忙しそうだし、今のうちに食後の運動をしておけばちょうどいい。
「よしきた」
 屋台を切り盛りする雲珠君の分も取ってくるとしようか。

 散歩がてら、仙桃を取りにいこうと辺りを見渡す。
 ……それにしても。もも。桃、桃、どこを見ても桃だな……どれを取っても美味しそうだ。
 仙桃はどれも食べ頃のようで、鴇はそのなかから適当に何個かを選んで、もいで戻ることにした。

〜 戻って、カレー屋さん 〜
「はぁ、はぁ……(へろへろ)」
 そこには、カレー屋さんとしてめいっぱい働いてへとへとになった雲珠がいた。
「楽しかった……!」
 が、この通り充足感でいっぱいである。

 そこに顔を出した鴇。
「雲珠君、お疲れさま。はい」
 どうぞ。
 ころんころん。仙桃が雲珠の手の中に転がる。
「わぁ、桃!」
 いつのまに……(※君が元気なカレー屋さんになってた間にです)
「ありがとうございます!」
 にこにこと雲珠はそれを受け取る。そうそう、ご飯のあとに水物。これは完璧な布陣です。

「あまーいですねぇ……それに、なにやら力みなぎる気もします」
 二人で仙桃を分けっこして食べる。霊力のこもった桃は甘く、そしてどこか力が湧いてくるものだった。グリモア猟兵の問いかけからここまで言う機会もなかったが、雲珠はフルーツは大好きである。もちろん桃も。
「あの、これいくつかお土産にいただいても?」
 鴇が取ってきた仙桃を見ながら雲珠は尋ねる。ああもちろん、と鴇は軽く答えた。というか、もしだめと言っても、仙桃はまだそこらじゅうにたくさん実っている。好きなだけ持ち帰るといいさ。
(霊力のこもった甘い桃。きっと喜んでくださるはず!)
 雲珠は確信をもって仙桃をお土産用にしまい始めた。帰って一緒に食べたいひともたくさんいる。知人、友人、それにおとうとたち……。
 喜ぶ顔が早く見たいな。

〜 また、別の一方 〜
 屋台が見下ろせる小さな丘の上。逢真はのらりと重い体でそこにいた。すもももももももものうち……李がももの一種なのはともかく、桃が桃の内なのは当然じゃないかとか、そもそも李も桃も桜も林檎も全部バラ科じゃねェかなとか。果てしなくどうでもいいことに思いを馳せながら。目を細めて、向こうをみやって。
「タミ、お前は他のおふたりと一緒にカレーやら桃やら食ってきてもいいンだぜ」
 傍らの白蛇にそう声をかけた。小さな冬は、そのつもりはないと言わんばかりに、しゅるりと逢真の首へと巻き付いた。
「……そうかい、好きにおし」
 桃源郷。陽の気満ち溢れる理想郷。
 ああまったく、澄み渡って憎たらしい空気だ。泥の底みてェに体が重い。……だが、と。
 逢真はまた、丘の下の様子を見る。即席のカレー屋の屋台に、人だかりが出来ている。店の中では忙しそうに働く子どもがひとり。
 "いのち"らが思うままはしゃぐ姿だ。その様をただ見よう。そも、逢真に出来るのは見守ることだけ。自身が近寄ることもなければ、傍で手伝うこともない。
 ああ、しかし。この光景を見られるかぎり俺は猟兵をするのだろうな。と。

 そんな感慨に浸り始めた頃、ひょいと顔を出したのはいつの間にやら屋台からこっちへ上がってきた鴇だった。
 食後の運動もしたし、ここらで一服しようという心づもりであった。
「オヤ……兄さんは烟草かえ」
 ああと軽く応えた。
「逢真君、食後の一服に付き合ってくれないかい」
 そいつは構わんが、と逢真は気怠げに頷けば、察してはは、と鴇が笑う。
「逢真君にはこの空気はちときついだろうな」
 鴇は懐から月食を取り出して火を点けた。ほう、とその紙巻煙草の煙を吸って、吐いてやる。
「煙草の煙でも吸っておくといい」
 せっかくの桃源郷の綺麗な空気を汚すのは気が引けるが、逢真がいるのなら。綺麗すぎるよりいいだろう?
「ああ、毒煙は俺が回収するが……」
 こんな場所にわざわざやって来て鴇が煙草を吸い始める理由をふと考えて、気付く。
「ははァ、さてはソレが目的かね?」
「ん? いやいや」
 別に空気清浄機とか思ってないとも。ははは。
「いやそんなまさか」
 ははははは。
 逢真の指摘に鴇は乾いた笑いで応える。それもう白状したも同然では??

 マ、別にいいさ。逢真は丘の下を示してみせる。
「ごらん、坊が楽しそうだよ」
 かわいいねェ。

 汗だくになって、労働の喜びでぴかぴかになったかれが、今は屋台の撤収作業中だった。後始末の最後の最後までしっかりやるんだという気合に満ちていて。視線に気付いたのか、こちらへ手を振って。
 ああ、そんなに手をぶんぶんと振らずとも良いのに。あんなに笑って、楽しそうに。

 片付けの手伝いに眷属の獣を送りつつ、軽く手を振り返してやった。
 ああ、ほんとうに。
 泥沼に浸かったような倦怠感に身体を引きずりながらも、それでも逢真は思うのだ。

 ほんとうに、“いのち”ってやつは、いとおしいねェ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月16日


挿絵イラスト