正と邪の狭間へ! 参上! マスク・ド・ヒーローズ!
●
――ヒーローズアース。某街。
「くっ……万事休すか……!」
目前に現れた騎士の姿を見て。
その青年……戦隊ヒーロー、マスク・ド・ヒーローズのリーダーである、赤いヒーローコスチュームの青年が歯軋りする。
彼の回りには騎士達がじりじり滲み寄っていた。
『マスク・ド・ヒーローズ。失われし『神』の欠片を抱いて生まれしお前達を我々は……』
告げながら、武器を突きつけてくるその騎士達を見て。
何かを悟ったかの様な表情を浮かべたマスク・ド・ヒーローズのリーダー……ダイヤ・ザ・レッドが覚悟を決めた溜息を一つつき。
各個撃破の為に今、正に襲われているであろう、仲間達が生き残れる奇跡を願いながら腰のヒーローソードを抜剣し、彼等と相対した。
●
――同都市、最も高く聳え立つ建物の屋上。
(「ふむ……これは不味いですね」)
その光景を見ていた人物は、そう思う。
(「しかし、私には私のやるべき事がございます。ですが、あのマスク・ド・ヒーローズが彼等に壊滅させられるのを見過ごすのは私の美に反しますね」)
――で、あれば。
今の『私』に出来ることは……。
●
「……何なのよ、これ」
と、グリモアベースの片隅で。
その光景をグリモアを通して見たエリス・シルフィード(金色の巫女・f10648)が、プルプルと肩を震わせ。
そして……。
「……な・ん・で! あの邪神にマスク・ド・ヒーローズ何て言うヒーロー達が狙われる光景を、私が見る羽目になるのよ~!」
――絶叫。
エリスの其れを聞きつけたか。
何人かの猟兵達が近付いてきたのに気がつき、エリスがこほん、と咳払いを一つして、皆、と呟く。
「ヒーローズアースのある都市に、マスク・ド・ヒーローズって言うヒーロー戦隊がいるのよ」
彼等は、赤・青・桃・黄コスチュームを着、トランプのマークを模した仮面を被るヒーローで。
且つ全部で4人で結成されたヒーロー戦隊でもある。
「まあ、欠番ヒーローが居て、もしいたらホワイト・ザ・ジョーカーとか呼ばれていたんでしょうけれども、それはおいといて。取り敢えず、この4人のヒーロー達がジャスティス・ウォーで失われた神々の力の欠片を受け継いでいて、其れを狙って邪神が動くって事件を予知しちゃったのよ、ええ」
当然ヒーロー達を狙う邪神は、4人の各個撃破を目論む訳で。
このまま行けば久々の休暇を謳歌していた4人のヒーロー達が邪神に狙われ、その命を落とす、と言う事だ。
「正直、失われし神々の欠片をオブリビオン達に奪われるわけにはいかないのよ。しかも今回の事件、何か皆とは別に動く奴もいるみたいだし」
その存在はこの街で最も高い建物から、ヒーロー達を見守っているとかいないとか。
地道に分散しているヒーロー達を探して彼等を守るべく行動するのが常道だが、このヒーロー達を見守っている何者かから情報を収集する事でヒーロー達を救える可能性も0ではない。
「まあ、どのみちこの街を狙う邪神を倒すためにはマスク・ド・ヒーローズの中に眠る失われた神々の力が必要になるわ。これがないと彼等を狙う邪神の力が上昇するのは勿論、邪神がこの土地に封じられた滅びし神を召喚して協力して戦ってきて、手に負えなくなるからね」
つまり、滅びし神々の欠片を封じているヒーロー達の協力がこの事件を解決するには不可欠であり。
その為に彼等……マスク・ド・ヒーローズを救うのは必須となる。
「色々と大変な事になるかも知れないけれど。皆なら何とか出来るって信じてるわ。だから皆……頑張ってね♪」
――ポロン。
諦め交じりの天使の笑顔と共に爪弾かれたエリスの春風のライラに導かれ。
猟兵達はグリモアベースを後にした。
長野聖夜
――正と邪の戦いのその行方は。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
今回は、ヒーローズアースの猟書家シナリオをお送り致します。
尚、プレイングボーナスは下記となります。
プレイングボーナス:ヒーローチームと共に戦う、もしくは猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員であると名乗る(敵がスナークの名の元に恐怖を集める企みを妨害します)。
このシナリオに出てくる主な登場人物は5名です。
尚、ヒーロー達は戦隊を組んでいます。戦隊名は、マスク・ド・ヒーローズです。
ビジュアルは、其々のマークを模した仮面とコスチュームを着るヒーローとなります。
平時は流石に私服です。
1.ダイヤ・ザ・レッド。
戦隊のリーダー。コスチュームは赤。典型的な熱血主人公。
義侠心に篤く、市民達を守る為であれば自らの命を捨石にすることすら厭いません。
2.スペード・ザ・ブルー。
参謀ポジション。常に沈着練成な人物。休暇は図書館等をよく利用します。
3.ハート・ザ・ピンク。
ヒロインポジション。心優しい性格で本当は戦いを好みませんが、その力に目覚めてしまったが故に、戦隊に身を投じて共に戦っています。人々を守る心はレッドに勝るとも劣らないくらい強いです。女子高生らしく、衣服やファンシーな小物に興味のある年頃の少女です。
4.ジャック・ザ・イエロー。
ムードメーカーポジション。普段は食いしん坊で、休暇はよく中華街などに繰り出す様です。
5.屋上から見下ろす仮面の男。
仮面の色は黒です。名前は不明です。尚、この街のヒーロー達が狙われている事に気がついている様です。名前は出しませんが、他のキャラとの兼ね合いで名前が決まるキャラになります。尚、プライドやら美学に拘る節がある様です。
街はかなり大きな街です。
その為、特徴を見て探しやすそうだな、と思う方を探して守ってあげて下さい。
彼等が何処にいるのかは、(OPに明記のあるレッドと屋上の男以外は)性格等から決めて頂いて問題ございません。
第1章プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
変更があれば、MSページ及び、タグにてお知らせ致します。
プレイング受付期間:4月23日(金)8時31分以降~4月24日(土)17:00頃迄。
リプレイ執筆期間:4月24日(土)18:00以降~4月26日(月)迄。
――其れでは、良き活劇を。
第1章 集団戦
『デュランダル騎士』
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POW : デストロイブレイド
単純で重い【量産型魔剣デュランダル】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : ケイオスランサー
【魔槍】が命中した対象に対し、高威力高命中の【仲間のデュランダル騎士との怒濤の連携攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 不滅の刃
【量産型魔剣から放たれる光】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
イラスト:弐壱百
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ大歓迎
連携は可能なら
成功数過多なら却下可
…邪神、か
猟書家に力は与えない
ここで阻止する
ブルー、ピンク、イエローのうち
猟兵の救援がない場所を優先
全員救援ありなら人数最少の地点へ
※場所はMS様にお任せor他猟兵プレ準拠
誰に向かってもやることは変わらない
【魂魄解放】発動後
「地形の利用、ダッシュ」でヒーローの下へ急行
「かばう」で割込み黒剣で「オーラ防御、武器受け」し防御
怒涛の連携攻撃は「カウンター」からの「2回攻撃、衝撃波、範囲攻撃、吹き飛ばし、鎧砕き」
鎧を破壊しつつ一気に薙ぎ倒してやる
邪神の手先め、まとめて落ちろ!!
撃破後は他ヒーローと合流して邪神討伐へ
…合流地点に悩むところだが
●
「……邪神、か」
街のとある中央公園に。
風に煽られる様に姿を現した館野・敬輔が低く、小さくそう呟く。
(「猟書家に力を与えるつもりはない」)
其れが、今の自分の役割だから。
故にどのヒーローを救助に行くかを敢えて定めず、この地に舞い降りた。
――誰かの為でも無く。
――何かの為でも無く。
ただ……。
「奴の完全復活を、阻止する為に」
その決意と共に。
サバイバル仕様スマートフォンに入ってくるデータを確認して。
敬輔は、この街の閑静な住宅街の近くにある図書館に目的地を設定し。
――ダン。
と、迷彩ブーツで大地を蹴立ててその場を後にした。
●
移ろいゆく景色。
その中でも際立つ図書館の方からの人混みの波に逆らう様に、敬輔は駆ける。
只、其れに意外に手間取る羽目になり、内心で舌打ち一つ。
(「……これなら、猟兵組織スナークである事位は名乗っておくべきだったか」)
自分達はヒーローを狙う騎士達から、ヒーローと市民を守る組織だと伝えれば、或いはこうまで労苦はせずに済んだかも知れぬ。
ともあれ、後悔先に立たず。
そのまま敬輔がその人混みを掻き分けていくと、そこには……。
『皆さん、直ぐに此処から離れて下さい。落ち着いて避難を。大丈夫。彼等の標的は皆さんではありません』
冷静に告げる、私服の青目の少年。
年齢にそぐわぬ落ち着いた彼の姿に、図書館員達が整然と従い、人々を避難させている。
騎士達は、そんな図書館員達や、逃げる人々に一顧だもくれず。
巨大な魔槍を捌きの鉄槌の如く彼に振り下ろそうとした、その刹那。
「……紙一重だったか!」
力任せに大地を蹴り。
黒剣を抜剣、『彼女』達に助力を乞い、高速で少年と『魔槍』の間に割り込み、赤黒く光る剣の平で槍撃を受け止める敬輔。
――キィィィィィンンッ!
澄んだ鈍い音が辺り一面に響き渡るとほぼ同時に、その周囲に布陣していた騎士達が一斉に襲いかかる。
「ぐっ……!」
休む間もなく繰り出される槍撃と、腰に帯びた漆黒の魔剣の抜刀一閃。
黒剣に黒きオーラと、全身に纏いし白き靄たる『彼女』達の魂を結界とし、攻撃を受け止める敬輔に、少年が貴方は、と呟く。
『一体……?』
その少年……スペード・ザ・ブルーの呼びかけに。
「話は後だよ。今はコイツらを……!」
敬輔の口から思わず漏れた『少女』達の叫びに応じる様に。
黒剣の赤黒く光り輝く刀身が、生物の様な異様な輝きを帯びた。
同時に敬輔が黒剣を横一文字に振り抜くと。
まるで、鎖縛から解き放たれた猛獣の様に。
身に纏った白き靄達が無数の鏃型の衝撃波と化して撃ち出され、騎士達の鎧を纏めて貫いていく。
思わぬ衝撃に、グラリと傾ぐ騎士達。
その様子を冷静に、けれども唖然と見つめる少年の視線を感じつつ、敬輔は横薙ぎに振るった黒剣を大地に突き立て擦過させた。
――お兄ちゃん。
――あの騎士達は動揺しているよ。
――今なら。
少女達の声に後押しされて。
「ああ! 邪神の手先達よ、纏めて骸の海へ沈め……!」
そう叫び、大地に擦過させた黒剣を振り上げる。
振り上げと同時に四方八方に向かって疾走していく三日月型の白き斬撃の衝撃波が、刺突の衝撃波に鎧を穿たれた騎士達を纏めて吹き飛ばし。
そして周囲の壁に叩き付けられ、ガシャン! と鈍い音を立てて砕け散った。
結末を見届け黒剣を納剣、残心する敬輔に、少年が君は、と呼びかけた。
『……僕達を、助けに来てくれたのか?』
その少年の呼びかけに。
周囲の騎士達の再動がないか睥睨しつつ敬輔が振り返り、そうだ、と静かに首肯。
「この街のヒーロー戦隊……マスク・ド・ヒーローズの君達が邪神の一派に狙われる、と言う情報が入った。君は……」
『成程。ありがとう、猟兵。僕はスペード・ザ・ブルー。マスク・ド・ヒーローズの一員だ』
落ち着き払って告げる少年、スペード・ザ・ブルーにそうか、と頷きながら、敬輔がそう言えば、と小さく問いかけた。
「他のヒーロー達は……」
その敬輔の問いかけに。
ブルーがすまない、と小さく謝罪し、軽く頭を横に振る。
『今日は本来休暇日なものでね。皆が何処にいるのか迄は見当は付きはするが……このまま合流すれば市民達にも……』
「其処が戦場になり、被害が出る、と言う事か」
呟く敬輔に、沈痛な表情を浮かべたブルーが頷き返した。
(「では……」)
如何するか、と敬輔が内心で呟いた正にその時。
――パァン!
ある一角で花火の様に弾ける閃光。
其れを見たブルーが、成程、と納得の声を上げた。
『あそこに行こう、猟兵。皆も生きていればそこに集まる』
そのブルーの呼びかけに。
「了解した。……急ぐぞ」
周囲の人々に此処はもう安全である旨を図書館員達に理知的に告げ、人々の不安を解いてヒーロー姿になるブルーを一瞥し。
敬輔は、ブルーと共に信号弾の上がったその場所へと駆け出した。
成功
🔵🔵🔴
ユーフィ・バウム
参りましょう――《戦士の手》と共に!
【情報収集】しつつヒーロー達を探し、守ります
平時は私もアース用通常服を身につけた若者です
衣服やアクセサリを買いに来た女学生を装い
ピンクに接触しましょう
これ、可愛いですよね。
【世界知識】で事前に学んだ知識を、
【コミュ力】で仲良くなるトークに材料にして交流を図り
敵が現れたら「スナーク」の一員であると名乗りつつ
自分もヒロインコスチュームを着用、共に戦いましょう
基本は自分が近接戦で敵を捕まえ
【怪力】で押さえる間に彼女に打ち込んでもらいますね
彼女を守ることが大事なので、ピンチの際には【かばう】
敵の魔槍の初撃には注意し、【見切り】、
すんでで避けた上で【カウンター】です!
●
「此処に、ハート・ザ・ピンクさんがいるんですね」
銀のポニーテールを風に靡かせながら。
お洒落で可愛らしく、でも気取らない、年頃の女子が好みそうなファッションショップに辿り着いたユーフィ・バウムがそう呟く。
タンクトップにホットパンツ。
小麦色の肌に良く合ったそれに身を包むユーフィの姿は、まるで、学校の休みに遊びに出たスポーツ好きな女学生の様。
腰のベルトに付けた、愛らしい子狐の小物が跳ねていた。
そのまま店に足を踏み入れ、さりげなく周囲に気を配ると。
「う~ん、このワンピースも可愛いけれど、でも……」
と、飾られている衣服に目移りさせる少女の姿。
プリーツスカートと、チェックのシャツ姿の長髪の少女……ピンクにユーフィが、
「こんにちは。これ、可愛いですよね」
と、相槌を打てば、少女は驚きに目を瞬かせ、頬を紅色に染め首肯した。
『あっ、は、はい。そうですね』
そのままはにかむ少女を、空色の大きな瞳に優しく映し出し、ユーフィが自然と微笑する。
「これ、あの有名なデザイナーの新作でしたよね。わたしもこれ着てみたいなぁ、と思うんですけれど、中々踏ん切りがつかなくて」
ユーフィの思わぬ呟きに。
『えっ? どうしてですか?』
ピンクがちょっと驚いた表情で同い年位だろうユーフィを見る。
「わたし、実はアクセサリーとかあまり持っていなくて。だからコーディネートとかよく分からないし……」
『あっ、そうなんですね。このワンピースなら、きっと……』
と、少女がユーフィを案内してくれたのは、アクセサリーコーナー。
因みに腰の子狐の様な可愛いキーホルダー等も一通り取り揃えられている。
ユーフィがその中で目を留めたのは、見た目、普通の銀十字のネックレスにしか思えない手頃な価格のネックレス。
「ダブルクロス?」
思わずユーフィが呟くと、はい、と少女がはにかんだ。
「これ、見た目はただのネックレスですけれど……あっ、ちょっといいですか?」
と、店員に断りを入れてから、器用な手つきでそれを2つに分ける。
驚くユーフィにちょっとだけ得意げに少女が微笑んだ。
『こう2つに分けられるんです。友達同士で分けて使うとか、そう言う事もできたりするんですよ』
「す、凄いですね」
そう言って、まじまじとそれを見つめながら。
ふと、何かを思いついた表情になり、ユーフィが彼女に提案した。
「これも何かの縁ですし。良かったら一緒にこれを買って半分こしませんか?」
「あっ! 良いですね、そういうの!」
ユーフィの提案に弾む少女。
そのままダブルクロスのネックレスを購入して一緒に店を出て、少し人から離れた所を歩き始めた時。
――ゾクリ。
不意に首筋にチリチリとした殺気を覚えた。
その瞬間、ユーフィはそれまでののほほんとした笑顔を凛々しく引き締め。
一方少女は、不安と憂いを孕んだ表情をその顔に浮かべた。
『この気配……これって……?!』
「落ち着いてください、ハート・ザ・ピンクさん」
すかさず彼女をユーフィがそう呼ぶとピンクが思わず目を見張る。
『私の事、知って……?』
「そうです。わたしは、ユーフィ・バウム。猟兵組織『秘密結社スナーク』の一員です」
名乗るユーフィに少女が一瞬不意の雷に打たれた様な表情を浮かべるが、直ぐに畏敬の眼差しをユーフィに向けた。
『じゃ、じゃあ、ユーフィさんは猟兵なんですね。如何して此処に?』
と、ピンクが呼び掛けるや否や。
――ガシャン、ガシャン、ガシャン。
足音と共に、姿を現したのは漆黒の甲冑に身を包みし、騎士達の群れ。
騎士達からピンクを庇う様に立ちながらユーフィがポニーテールを揺らしてピンクを振り返り微笑んだ。
「勿論、貴女達と共にこの騎士達と戦い、この街を守るためです。だから……ハート・ザ・ピンクさん! 一緒に戦いましょう!」
そのユーフィのお願いに。
「……はい!」
頷き、パチン、と指を鳴らして一回転。
それに合わせる様に、ユーフィもまた、身を翻し。
「いざ、参りましょう――この、《戦士の手》と共に!」
バーバリアンガールスーツへと瞬く間に着替え終え、そう叫ぶと。
『はい……! この街の人達を守るためにも……!』
芯を通わせながらも、何処か戦いへの恐怖を帯びたハートの仮面を被ったピンクがそう応じ、その手に先端にハート型の宝石の取り付けられた杖を握りしめた。
(「ごめんなさい……。でも、あなた達がいる限り、街の人達が危険なの……!」)
胸中で目前の騎士達に謝罪するピンクの思いを慮りつつ、ユーフィが前へ。
――その右腕には、青空の如き、水竜を象った蒼穹のオーラ。
――その左腕には、暁の如き、火竜を象った紅蓮のオーラ。
水と火……対極とも言うべき力纏いしその両拳を構え。
その背のディアボロスエンジンを起動させてその身を加速させて突進する。
凄まじい勢いに咄嗟に魔槍を引いた騎士の懐に潜り込み、両腕で締め上げる様に抑え込むユーフィ。
そのまま万力で締め上げながら、後方に向けて叫んだ。
「ハート・ザ・ピンクさん!」
その叫びに応じる様に。
はい、と決意も露に、目を凝らして杖の先端から光線を放射するピンク。
放たれたそれがユーフィに組み付かれた騎士の頭部を撃ちぬき吹き飛ばす。
息絶えた騎士の躯をユーフィはすかさず……。
「え~い!」
力任せ持ち上げ、投げ飛ばした。
ユーフィが投擲した方向は、かの騎士を囮にピンクへと肉薄し、その魔槍で貫こうとしていた別の騎士。
騎士同士の甲冑がぶつかり合い、その魔槍をピンクに届かせるよりも先に拉げる様な嫌な音と共に崩れて機能を停止する。
(「これで2体……!」)
周囲の敵の数を数えながらのユーフィ。
その刹那……。
『ユーフィさん!』
ピンクの案ずる様な、そんな声。
その声にはっ、となったユーフィが其方を見れば、地を這う様に、自らの死角から迫る魔槍の一撃。
「させませんっ!」
勇ましい叫びと共に、体を大きく仰け反らせて寸前で躱す。
ピンクとお揃いで買ったダブルクロスの銀の煌めきがその場を照らすその間に。
腰を屈めて、炎竜纏いし右拳を騎士の鳩尾に叩きこみ。
更に水竜纏いし左腕が、蒼穹色の弧を描いて、続けざまに上空から波状攻撃を仕掛けようとしていた騎士の顎を打ち砕いた。
『す……凄い……!』
粗野ながらも、ユーベルコード……超常たる力を余す事無く現す絶技に昇華されたその狩技に、感嘆の声を上げるピンク。
「ピンクさんには指一本触れさせまんっ!」
雄叫びと共に右拳で甲冑を吹き飛ばし壁に叩きつけるその間に。
顎を殴り砕いた騎士が地面に落下しながら魔槍を投擲しようとするのを目の端に捕らえ……。
「ピンクさん!」
すかさず指示を出すユーフィの其れに。
『は……っ、はいっ!』
しかと答えたピンクが今度は杖の先端より光弾を射出。
それは騎士の魔槍に着弾し、その槍を粉微塵に砕いていた。
「この戦い……わたし達の勝ちですっ!」
魔槍を砕かれ、困惑する騎士に返す刀で手刀を繰り出すユーフィ。
それは、咆哮の如き雄叫びの様にも思える激しき大気の振動を起こし。
咢を開いた火竜の如き紅蓮のオーラとなり、最後の騎士を食らい尽くした。
●
「これで、この辺りの騎士は全滅したみたいですねっ!」
ふう、と軽く息をつき、火照った頬に手を当てながら。
構えを解いたユーフィの呟きに、ぎゅっ、と胸のダブルクロスを握りしめながら、ピンクがそうですね、とか細い声で頷いている。
その表情に漂う不安げな影を見て、ユーフィがピンクさん、と優しく問いかけた。
「大丈夫ですか?」
『私は、大丈夫です。でも、それ以上に皆の事が……』
それは、街の人々の事であり。
同時に、共に戦うヒーロー達の事でもある。
彼等への心配と気遣いを口にするピンクに、そうですね、とユーフィもその大きな青色の瞳に微かな憂いを漂わせた、正にその時。
――パァン!
と、上空で何かが弾ける音が響き渡った。
驚いたユーフィとピンクが上を見れば、そこには花火の様に弾けた閃光。
『あれは……緊急招集の合図です……!』
その仮面の奥の瞳に喜色と緊張を漂わせ。
叫ぶピンクの声に、では、とユーフィが静かに頷いた。
「一緒に行きましょう、ハート・ザ・ピンクさん!」
確固たる決意と共に進むことを促すユーフィに頷き返し。
ハート・ザ・ピンクは、ユーフィと共に、信号弾の方へと走り出した。
大成功
🔵🔵🔵
水無瀬・旭
【救助活動】を活かし、レッドの救援に向かうとしよう。
君は、己の身を以て『正義』を示す『ヒーロー』か?
ならば、『ロード・ハガネ』と。『共に戦え』と、俺の名を呼ぶがいい。
この問い、そして命令(ねがい)を受諾して【指定UC】を発動。
【救助活動】でレッドを護りながら、彼の剣術と連携しようか。
連携の一撃であろうと、この無敵の装甲なら受け止められる。
そして、この群がり、纏まった間合いは大好物だ。溢れる黒焔を【属性攻撃】で強化し【焼却】の力を込めた『鐵断』の一撃で溶断する。
…性格は全く違う筈なのだがね。君の在り方が、弱きを逃す為に命を賭した古き武士…高倉義時に重なるところがあったから、助けたくなっただけさ。
バーン・マーディ
(レッドの前に…騎士達の前に立つ黒騎士
……そうか
お前達は今も戦い続けているのか
その在り方を利用されて
我らは「デュランダル」
猟兵組織「スナーク」と同盟を結べし者なり(スナークの一員とは名乗りたくないヴィラン
我が同胞達の進む道を正しに来た
UC発動
対峙するだろう類似した騎士達
お前達は今は我が判らぬのだろう
良い
ならば我は嘗てのように武を以てお前達に示すとしよう
【戦闘知識】で騎士達の動きを把握
【オーラ防御】展開
【集団戦術】で騎士団達の連携を高め殲滅
騎士の攻撃は【武器受け】で受け止め
【カウンター・二回攻撃・怪力・鎧破壊・鎧無視攻撃】
魔剣と車輪剣で受け止め容赦なくカウンターで斬る
是が叛逆だ
お前達の在り方だ
森宮・陽太
【SPD】
アドリブ可
連携は可能なら
邪神が再び現れるか
…となると、行かねえ理由はねえんだよな
とはいえ
俺にヒーローを守る資格はあるのか
…暗殺者は、誰かを守れるのか
悩みつつレッドの居場所に急行
ヴァサゴを召喚しようとするが不和を恐れ躊躇
代わりに「高速詠唱、魔力溜め」+指定UCでサブナック召喚し
即座にレッドを庇わせる
覚悟を決めるにはまだ早いぜ、ヒーロー
俺への魔槍を「見切り」で回避した後
速攻撃破狙いで二槍を伸長
「ランスチャージ、串刺し」で首筋を貫く
騎士撃破後は急ぎ他のヒーローたちの救援へ
…ああ、そうか
守りたいと考えているのは「暗殺者」じゃなくて「俺」
そのために「暗殺者」の力を振るう
…そういうことだな
●
(「邪神が再び現れる、か……」)
グリモアベースからその街の一角に辿り着き。
その顔にどこか苦渋の表情を浮かべながら、森宮・陽太が胸中で呟いている。
自らの体を駆け巡るは、奇妙な焦燥。
――と。
「何か、悩み事でもあるのかい?」
そんな陽太の様子に気が付いたか。
つと、後ろから1人の男……水無瀬・旭が、そう、陽太に問いかける。
初めて出会った旭からの問いに、陽太が驚いた様に目を見開き、続いて、いや、と、誤魔化す様に翡翠色の瞳を逸らした。
「緑の髪のにーちゃんには、関係ねぇよ」
「そうかい? 俺には、君が何かを探しているかの様に見えたけれど」
――そう。
ある世界で、『正義という名の暴力』を振り撒いた己を『悪』と称し、『正義』を探求し続けた農学者である、自分の様に。
その旭の何気ない呟きに。
陽太が一瞬目を見張るが、直ぐに小さく頭を横に振る。
(「……分からねぇんだよ」)
嘗て一度対峙した邪神が再び現れ、ヒーロー達を脅かすのであれば。
それを阻止することに否やはない。
――されど。
「俺に、『ヒーロー』を守る資格があるのかよ……」
それは風に乗って消えそうな、そんな声。
けれども旭はその声を耳の端に捕らえ、軽く微かに頭を振った。
「例え、壊れても。例え、脚が砕けても。前に進み続ければ、その意思が折れなければ……」
何時か、きっと……。
旭のその呟きは微風に乗って消え失せ、この時の陽太の耳に届くことは無かった。
●
「まだ……まだやられるわけには……!」
悲壮なる覚悟を胸に抱いて。
騎士達に囲まれながらも尚、不退転の決意を抱き続ける赤いコスチュームに身を包んだダイヤ・ザ・レッドがヒーローソードを抜き身に構え騎士達を睨みつけている。
そのレッドの様子に何の感慨も抱く事など、ある筈も無く。
「マスク・ド・ヒーローズ。お前達の身に宿りし神々の欠片、我等が偉大なる同胞への供物として捧げよう」
と、量産型魔剣『デュランダル』を振り上げたその瞬間、だった。
――轟。
禍々しくも偉大なる漆黒の神気と覇気の混ざった結界を纏いし黒騎士が、レッドと騎士達の間に、悠然と立ちはだかったのは。
男……バーン・マーディは黙然とそこに佇み、その双眸を静かに閉ざしている。
「……そうか」
豊かなバスで告げられる重厚なる呟き。
泰然たるバーンを見て、騎士達が怯む様に後退った気がするのは錯覚か。
「お前達は今も、戦い続けているのか」
(「その在り方を利用されて……」)
で、あれば。
バーンに出来ること、それは……。
「あ、あなたは……?」
傷ついたレッドの問いに、バーンは重々しくこう答えた。
「我等は『デュランダル』。猟兵組織『スナーク』と同盟を結びし者なり」
――我は、我等はヴィランなり。
『悪』たる我等は、スナークの一員を名乗りはせぬ。
胸中でそう呟きつつ、故に、と静かに続けた。
「『我等』は、我が同胞達の進む道を、正しに来た」
「……そう、か……」
その、レッドの言の葉に。
何処か、寂寞たる思いが込められている様に聞こえたのは、レッドの後ろに到着した陽太の気のせいであろうか。
――と。
「君は、己の身を以て『正義』を示す『ヒーロー』か?」
低く、響き渡る様な厳かな声。
何気ない様に聞こえるその問いを発した旭のそれに、レッドが思わず目を瞬く。
「己の身を以て、『正義』を示す、か」
それは、束の間の逡巡。
その間に陽太が胸のポケットからデビルカードを取り出し、その身にヴァサゴの権能を憑依させようとして……。
(「……っ!」)
あの時の戦いの記憶がフラッシュバックし、ヴァサゴの憑依を躊躇した時。
「俺は……ただ、皆を……皆の日常(セカイ)を守りたいだけのヒーローだ。少なくともそれが、俺にとっての『正義』だから」
――その為であれば、この命など、惜しくはない。
確固たるその覚悟と決意を口にしたレッドのそれに、旭は深く頷きならば、と深い声でレッドに呼びかける。
「俺の名を呼ぶがいい。『ロード・ハガネ』と。そして、『共に戦え』と命じるが良い。その時俺は……この、『ロード・ハガネ』は、君の『正義』を貫く剣となろう」
バーンと肩を並べる様にレッドの前に立ち。
漆黒の双刃の馬上槍……鐵断・黒陽を下段に構えながら。
そう問いかけ、そして命令(ねがい)を告げられることを乞う旭の揺るがぬそれに、レッドがありがとう、と頷いた。
「『ロード・ハガネ』。どうか、俺と一緒に戦ってくれ!」
告げながら、旭の左隣に立つレッドに……。
「その声を聞いた。その命令(ねがい)を聞いた。ならば……このロード・ハガネ、君の『正義』に味方をしよう」
頷き、願いを受け入れた旭の体が見る見るうちに無敵の漆黒の武者鎧と思しき甲冑に包み込まれ。
同時に、鐵断・黒陽の炉心から黒焔が巻き起こり、双刃を黒く、黒く染め上げた。
その一方で。
バーンは静かに閉ざされた儘であった双眸を開き、全身に纏っていた禍々しき漆黒の覇気をより深く、深く練り上げながら豊かなバスで呼びかけた。
「死してなお、我と共に在りし忠臣たる騎士達よ」
それに応じて現る霊達は……。
「似てやがる。この、黒騎士達に……!」
そう呻く陽太の呟きに動じる様子も見せず。
「我が声に呼応せよ。今こそ、戦いの、その時だ」
そのバーンの呼びかけに。
呼応し、志半ばに倒れた騎士達の精鋭が、『不滅の刃を持つ魔剣』を、或いは、『混沌の魔槍』を携え、バーンの背に姿を現した。
――かくて。
ダイヤ・ザ・レッドと。
ロード・ハガネ・旭と、
『デュランダル』が主・バーン。
……そして。
迷いの悪魔使い・陽太の、戦いの始まりの鐘楼が鳴ったのだった。
●
『奴らを滅ぼせ! 我らが紛い物などに後れを取るな! 行くぞ、我等が同胞よ! すべては我らが偉大なる同盟者の為に!』
怯むな、と言わんばかりに雄叫びを上げる騎士達。
戦意高揚も兼ねられたその咆哮と共に、指揮官であろうその騎士が、その腰の量産型魔剣を胸元に翳す。
翳された量産型魔剣から放たれる漆黒の光が騎士達の体を癒し、同時にその体内の力を活性化。
『突撃せよ!』
光によって活気づいた騎士達が号令を受け、魔槍を構えて一様にレッドに向けて突撃を開始。
「……くっ!」
圧倒的な質量を持った騎士団の突撃が瞬く間にレッドに迫るが……。
(「……ダメだ! やらせねぇ!」)
胸中に沸き起こった激情に流されるままに、陽太がデビルカードの一枚をすかさず投擲、それに腰の銃型のダイモン・デバイスの銃口を向けて引金を引く。
「サブナック! あいつを……レッドを庇え!」
叫びと共に放たれた一発の銃弾がそのデビルカードを撃ちぬいた。
同時に巨大な魔法陣が空中に描き出され。
それを通過して現れるは、右手に盾を、左手に鉾を携えた獅子頭の『サブナック』
サブナックは、旭の死角から魔槍を突き出していた騎士とレッドの間に割り込み、右手の盾でそれを受け止め。
続けざまに追い打ちの様に左手の鉾から魔槍を生み出し、カウンターで敵を貫く。
その動きを振り切られたスピードメーターで読んだバーンが、精鋭の騎士団を差し向け、その手の不滅の刃で切り捨てさせた。
騎士団に群がらんと、一斉に襲い掛かろうとする騎士達。
だが、その動きに対して……。
「こういう間合いは、大好物だ」
厳かに告げた旭が、上空で旋回させた鐵断・黒陽を唐竹割に振り下ろした。
すると、まるで残像の様に溢れ出した黒焔が、陽炎の様に騎士達を覆い尽くし、纏めて焼き尽くして溶解させていく。
「南には絶対に彼らを行かせないで! あちらは住宅街だ! 行かせてしまえば、俺達の日常(セカイ)を守れない!」
旭に願う様に叫び、先程量産型魔剣を胸の前で翳した指揮官クラスの騎士に向けて、袈裟にヒーローソードを振り下ろすレッド。
袈裟に振るわれた刃を量産型魔剣で受け止め、お返しとばかりに魔槍を突き出そうとする騎士の目前に、敢然と旭が立ちはだかる。
魔槍が旭の無敵の甲冑に突き立ち、ここぞとばかりに周囲の仲間の騎士達が抜剣、一斉に旭に襲い掛かるが……。
「どんな連携の一撃であろうとも、俺のこの無敵の装甲なら受け止められるよ」
『ロード・ハガネ』をハガネたらしめるその無敵甲冑の前に無残にも弾かれ、量産型魔剣が次々にその刃を欠けさせていく。
「……行け」
そこに嗾ける様なバーンの低いバスが響き渡り。
刹那、不滅の暴風が不意にバーンの周囲にまるで瘴気の様に沸き起こり、それに士気を上げたデュランダル騎士団達が雄叫びを上げた。
『オオオオオオオオオオッ!』
精鋭騎士団達が、旭を狙った騎士達に殺到し、自らの手に持つ混沌の槍で纏めて串刺しに、或いはその剣で彼らを一斉に薙ぎ払う。
(「我はヴィラン。我等は悪」)
だからこそ、ヒーロー達と共闘するつもりは毛頭無い。
だが……それ以上に。
「お前達は、今は、我が判らぬのだろう」
細切れになって散っていった騎士達を静かに見つめながら、豊かなバスで何処か哀れむ様に告げるバーン。
倒された騎士達を癒すべく騎士達の1体が胸の前に量産型魔剣を翳し、眼前で動ける騎士達が魔槍を構えファランクス陣形を取るが。
「良い」
ただ一言そう述べて、突き出された無数の魔槍を魔剣「Durandal MardyLord」と車輪剣『ダイアモードR』で真正面から受け止めて。
続く連槍撃を双魔剣で叩き落とし、「Durandal MardyLord」から放出される禍々しい覇気と神気を解放し、彼等を縦一文字に薙ぎ払った。
「であれば、我は嘗ての様に武を以てお前達に示すのみ」
そのバーンの言葉とほぼ同時に。
バーンの呼び出した騎士団の精鋭達がある一点に集中し、怒号と共に一斉突撃。
それは量産型魔剣を掲げた騎士に殺到し、瞬く間に彼を混沌の槍で串刺にして。
すかさずバーンが踏み込み、「Durandal MardyLord」を一閃。
その首を撥ね飛ばした。
「是が、叛逆だ。お前達の在り方だ」
全てはヴィラン……悪たる『我等』の本来の在り方。
(「叛逆……か」)
それ以上を語らず、黙祷するバーンの背を一瞥して。
旭は……ロード・ハガネは、指揮官を失っても尚レッドを殺傷しようとする騎士達の息もつかせぬ連携攻撃を、その無敵の甲冑で受け止めていた。
(「バーン……。彼が掴んだその星は……」)
果たして彼なりの『正義(こたえ)』の在り方なのか。
(「俺には、一度は掴んだ筈のあの星は、未だ見つからない」)
『正義という名の暴力』を翳した『悪』であったロード・ハガネたる自分。
けれども今は、レッドの為の、『剣』として戦う『正義』の味方である自分。
その自らの意志に呼応する様に。
鐵断・黒陽から溢れ出す黒焔が、未だ戦う意志を持つ騎士達を。
……自らの『正義』の為に戦うレッドを滅ぼそうとする目前の『悪』を飲み込まんばかりの一撃で灼き滅ぼしていく。
その灼き滅ぼされていく、騎士達の様子を決して忘れぬ、と言う様に。
消し炭となりつつある騎士達を凝視するバーンと、レッド。
――と、その時。
『まだだ……! 未だ、我等はやられぬ……!』
低い呻きを上げると同時に。
最期の力を振り絞った2体の騎士が動いた。
1体が、残る全ての力を傾けて、旭に体当たりを叩き付け。
「……っ?!」
傷は全く負わねど、虚を衝かれた旭が思わず体を傾がせる。
その間隙を拭ってもう1体の騎士が、持てる力の全てを籠めた魔槍の一撃で、レッドの喉を貫こうとした、その刹那。
「遅ぇよ」
レッドを狙った1体の騎士の首筋に、伸長された濃紺のアリスランスが突き立てられ、無念の絶叫を迸らせながら、騎士ががくりとその場に崩れ落ちて溶解した。
「サブナック!」
騎士の暗殺主……陽太の続けざまの叫びに応じる様に。
急反転したサブナックが、旭をよろけさせた騎士に体当たりを叩き付け、その鉾の先端から魔槍を突き出す。
突き出されたその魔槍が、旭に体当たりを叩き付けた騎士の鎧の継ぎ目を貫いて。
「レッド! 緑髪のにーちゃん!」
陽太が、そう叫ぶや否や。
「うおおおおおっ!」
レッドが渾身の力を籠めてヒーローソードで騎士を真っ向両断に切り裂いて。
「焼き尽くせっ!」
旭が、手の中で鐵断・黒陽を跳ね上げる様に持ち替えて、騎士の下腹部から上半身までを真っ二つに切り裂き黒焔で完全に焼き払う。
最期の1体が灰になって燃え尽きていくその様子を見つめつつ旭が『ロード・ハガネ』形態を解除する様子を見つめながら。
「如何して?」
とレッドが彼に問いかけた。
そのレッドの質問に。
「どうかしたのかい?」
そう旭が続きを促すと。
「確かに俺達ヒーローが狙われている、と言うのはあの騎士達の話からも良く分かった。でも、如何して、貴方はブルーやピンク、イエローではなく、俺のことを助けに来てくれたんだ?」
責めているわけではない。
それは、ただ、純粋にレッドの心中から自然と零れた、純粋な疑問。
そのレッドの疑問に対して。
一振りの武器(ハガネ)……剣である、『ロード・ハガネ』から、1人のただの『星』の探し人へと戻った旭が、微苦笑を浮かべて見せた。
「実は……性格は全く違う筈なのだがね。君の在り方が……」
その脳裏を過ぎるのは、自らが纏う無敵の装甲の般若面。
そして、其処から想起することの出来る……。
「弱気を逃す為に命を賭した古き武士……」
――そう。
「……高倉・義時に重なるところがあったから、助けたくなっただけさ」
見方を変えれば、義時のその行為は、『悪』であったのかも知れない。
だが……それでも彼は、其れを自らの役割……己が『正義』と定め、そして最期まで其れを貫いた。
「……高倉……義時……」
初めて聞く名前だったからだろう。
分からないという様に頭を横に振るレッドに、旭がまあ、と彼の肩を軽く叩いた。
「君の『正義』は弱きを助け、強きを挫く、真に強い『正義』だった。だから俺は、守りたかったのさ」
静かに旭がそう告げるや否や、束の間の静寂が周囲を満たす。
と、その時だった。
――パァン!
何かが破裂する様な、そんな音が聞こえたのは。
「おい、ありゃなんだ?!」
その音にいち早く気がつき、空を見上げた陽太が、炸裂音のした空を指差す。
陽太の差した先に見えたのは、まるで弾けた花火の様な不思議な閃光。
その閃光の意味を知るや否や、ひゅっ、とレッドが息を呑んだ。
「緊急招集信号弾……! と言う事は、未だ皆は生きているのか……!」
小さく鋭く叫びながら。
噴火直後に流れる溶岩の勢いで其方に向かって駆け出すレッドの後ろ姿を見て。
「あっ! おい! 待てって!」
陽太が慌てて、その背を追いかけ。
「忙しない話だね。でも、急ごうか」
呟きその後を追って駆け出す旭。
バーンもまた、粛々とその戦場に向かって歩き出す。
(「お前達の在り方を利用した、その存在に」)
報いを与えてやる、そのために。
そう、バーンが覚悟を決めるその間に。
何時の間にか陽太に併走した旭が、その横顔をみて、おや、と言う表情になった。
今、陽太が見せているその表情。
それは、初めて会った時に見せた迷いを……。
「……吹っ切って、前に進むと決めた。そんな顔をしているね」
その旭のさりげない問いかけに。
「ああ、そうだな。……納得、したからな」
そう答える陽太の言の葉に嘘偽りは見えていない。
「では、何に納得したのかな?」
旭が、そう呼び水を向けてみると。
陽太はレッドを……自らが守ろうとしている仲間達の方に駆けているその後ろ姿を見つめて、言った。
「誰かを、何かを守りたい、と考えているのは、『暗殺者』である俺じゃない。今の『俺』。……その為に、過去に得た『暗殺者』の力を振るう。……そう言うことなんだよな、ってな」
陽太の胸のポケットに収められたお守り刀の刀身が、そんな陽太の呟きに応じる様に水晶色の輝きを発する。
晴れやかな表情となった陽太に、旭は、再び自らの『星』を探して、荒野を流離う『正義』の味方は、そうか、と優しく微笑し頷いた。
――その胸に、微かな羨望と憧憬を抱きながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
奴らは未だこの世界を諦めてはいないらしいな
フン…迷惑な話だ
イエローを探しに中華街へ行こう
事前に仮面の男にもコンタクトを取って情報を貰えれば確実だろうし、試す価値はあるな
人通りの多い場所だ、建物の屋根や壁を軽業で走破しながら探そう
騎士共が現れればパニックになるだろうし、犠牲が出る前に急行しなければな
私は秘密結社スナークの一員で、君の味方だよ
…詳しい話は後だ、まずは此処を切り抜けるぞ
イエローを見つけたらUCを発動
跳び蹴りで敵を破壊しつつ、イエローと共闘
ナガクニを装備し、敵を斬撃や蹴撃で倒していく
周囲がパニックになった場合は、イエローに避難を助けてもらおうか
では、共に戦おうか
ヒーロー
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携ツッコミ全振り大歓迎
…うん
グリモア猟兵が絶叫したくなるのもわかる
私もツッコミたくてたまらないのだが
本来ならヒーローの助太刀に向かうところだが
あえて最も高い建物の屋上に行こうではないか
ハリセン携えてな!
そこな仮面の男よ
貴様、悪党だろ!
…とボケた後訂正
貴様、怪盗ジョーカーだろ!
あの騎士たちは邪神の手先でな
ヒーローの中にある神々の力を狙っておるのよ
力を渡すと大変なことになるので
阻止するために助力いただけないか?
…と説得して助力要請
場合によってはハリセン持ち出すぞ
ちなみに騎士の襲撃を受けた場合は
躊躇なく「歌唱、優しさ」+【スリーピング・シープ】
もふもふ羊の下敷きになるが良い
文月・統哉
失われし神々の欠片か
女神の宝も…
屋上へ
挨拶は仮面と中の人両方に
久しぶり!
そして初めましてかな、ジョーカー
見過ごせないのは俺達も同じ
共闘させて欲しいんだ
君達は君達の美学の為に
俺達は俺達の使命の為に
敵は各個撃破を狙ってる
逆に言えば
戦い易い場所で合流出来れば
周囲への被害も抑えつつ有利に戦えるかもしれない
この辺には詳しいんだろ?
いい場所無いかな
人払いが容易で開けた場所…スタジアムとか?
仲間に連絡し
UCで現地へ急行
緊急事態告げる信号弾に非常ベル
オブリビオンの襲来から人々を守る
猟兵組織『秘密結社スナーク』として
人々を安全に避難させる
彼らはヒーロー
緊急事態を察知すれば反応がある筈
合流促しつつ
戦闘に加勢するぜ
司・千尋
連携、アドリブ可
・イエローを探して守る
食いしん坊なら中華街で食べ歩きとかしてそうだな
俺も食べ歩きしながら探してみよう
私服だと見つけ難いかもしれないが
襲われれば騒ぎになるだろ
何とか見つけ出して守ってやるか
よう、ヒーロー
お前狙われてるみたいだぜ
協力して倒さない?
攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
近接や投擲等の武器も使い
早業や範囲攻撃、2回攻撃など手数で補う
敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
イエローや市民への攻撃は最優先で防ぐ
敵の回復は可能なら横取りか鏡を使い反射してみる
●
――時は少し、遡る。
某建物、屋上にて。
街全体を展望出来るそのビルの屋上に鋼鉄製ハリセンを構えた藤崎・美雪が、然もあらん、と首を縦に振っていた。
「うん、グリモア猟兵が絶叫したくなるのも、分かる、分かるんだ……!」
「へぇ、分かるのかよ?」
美雪がハリセンを振るうその姿を見て、司・千尋が皮肉げな笑みを浮かべ、愉快そうに首を傾げた。
因みに、千尋は元々屋上に立ち寄る予定はなかったが……。
「イエローを探すのか。ではその前に、私と共に一度仮面の男とコンタクトを取りに行かないか? 情報を貰ってからの方が確実だろう」
と、共に転送されてきたキリカ・リクサールに提案され、其れも面白そうだと同意し、一度屋上に立ち寄ったのである。
メラメラと執念の炎を燃やす美雪と、そんな彼女を愉快そうに眺める千尋、冷静に思索を張り巡らすキリカと三者三様の姿を見て。
ニャハハ、と文月・統哉が愉快そうに笑った。
「それにしても、失われし神々の欠片かぁ……。って事は、もしかして……」
(「『彼』の集めている女神の宝も……」)
笑顔を浮かべつつ、何かを考える表情を浮かべる統哉の様子に気がついたキリカが、ほぉ、と整った眉を微かに動かした。
「統哉。お前はまるで、仮面の男に何か心当たりがある様な物言いだな」
「ニャハハハハッ……まあ、俺と美雪はね♪」
キリカのその問いかけに、笑顔で返す統哉の様子に。
「ぐうう……あの男……あの男……! 何故こんな所にまで現れるのだ! 女神か!? 此処にも何か博物館とか女神が関係しているのかぁ!?」
既に虚空に向かって何やら吼えている美雪を見て、千尋が思わず膝を打った。
「女神、女神ねぇ……普通の言葉なんだが、何だか面白そうな話じゃないか」
わざとらしく眉を動かす千尋に美雪が眉間に皺を寄せつつ、屋上から地上を見るその男を見つけ、ビシッ、と指を突きつけた。
「おい! そこな仮面の男よ! 貴様、悪党だろ!」
と力強く、犯人はお前だ! とばかりに断言する美雪。
思わず美雪の口から漏れた悪党発言にぶっ、と千尋が吹きだし、キリカもまた、何? と愉快そうに僅かに眉を動かした。
――ヒュー……ヒュー……。
へくちっ、と思わず誰かがくしゃみをしてしまいそうな冷たい風が、何故か辺り一帯を駆け抜けていく。
……と、その時。
「フフッ……確かに私、ヴィランですからねぇ~。悪党と言えば、悪党ですね~フロイライン」
クツクツと肩を振るわせながら。
統哉達に背を向けるその男に、何となく居たたまれない気持ちになってしまった美雪がもとい! と仕切り直しを要求し……。
「貴様、怪盗ジョーカーだろ!」
と、言い直したのを確認して。
「久しぶり! それと初めましてだね、ジョーカー!」
統哉が旧友にするかの如き軽い口調で呼びかけると、仮面の男が改めて統哉達を振り返り、優雅に一礼した。
「Guten Tag、フロイライン美雪、ヘル統哉。今宵は良い月が上りそうでございますね」
と、此処まで告げたところで。
仮面の男……怪盗ジョーカーと呼ばれたその男がキリカと千尋の姿を見て、おや、と言う表情になった。
「其方のフロイラインとヘルのお2人とお会いするのは是が初めてでございますね。改めて、Wie geht es dir、お2人とも。私、怪盗ジョーカーと名乗らせて頂いている者です。どうぞ、お見知りおきの程を。因みにフロイライン美雪、ヘル統哉も、この『私』とお会いするのは、初めてでございましたね」
そう告げる仮面を被る長身痩躯の少年は、体つきからすると10代後半位の様だ。
初めて会う相手故か、軽く髪を梳かす様にしてからフン、と鼻息を漏らすキリカと、ほうほう、と愉快そうに頷く千尋。
「意外に礼儀を知っているのだな。猟書家の神々との戦いの前にまさか怪盗を名乗るヴィランと出会うとは思っていなかったが……キリカ・リクサールだ」
「まっ、良いんじゃねぇの? ヴィランだっけ? ヴィランって言うと悪を企む奴等の筈だが……だからこそ、情報に詳しいって所もありそうだしな。俺は千尋だ」
「しかし! しかし! 怪盗ジョーカー! 何で貴様の様な界渡りしていそうなヴィランがこんな所に居るのだ!? またかっ!? またあのボケ怪盗でも現れたのかぁっ!?」
魂込めた叫びと共に。
ぶおん、と突っ込みに定評のある美雪の鋼鉄製ハリセンによる光速の一閃を、ひらり、と華麗なポーズで容易く躱す怪盗ジョーカー。
「おやおや、フロイライン美雪。本日はその様な事をするために私の元を訪れた訳ではございますまい? 何か用があって私の所に其方のフロイラインキリカとヘル千尋と共にいらしたのではありませんか?」
「……くっ! まさか、貴様に正論を言われる時が来ようとは思わなんだわ……!」
何故だか悔しそうに歯軋りをし、無駄な敗北感を噛み締める美雪はさておいて。
統哉が笑窪を刻んだまま改めて実はさ! と呼びかけた。
「何度かあったけれど、また共闘させて欲しいと思ってね。マスク・ド・ヒーローズが殺されるのを見過ごせないのは俺達も同じだからさ。君達は君達の美学のために。俺達は俺達の使命の為に。……どうかな?」
「成程。斯様な用事でございましたか。そう言うことでしたら勿論、協力させて頂きますよ。是でも私、人死が出るのは美しい話では無いと言う怪盗業的美学がございますからねぇ」
ご尤も、と言う様に首肯する怪盗ジョーカーのその様子に。
キリカが微かに目を見張った。
「私と千尋は、中華街をうろついているというイエローの情報を得られれば、と思っていたのだが、随分とフットワークが軽いのだな、お前は。ジャスティス・ウォーの様な戦いがなければ、ヴィランが協力するとは思えないのだが」
と、言うキリカのその問いかけに。
「ええ、ええ。仰るとおりですよ、フロイラインキリカ。無論、私にもこの街を訪れた目的も理由もございます。ですが、その為にマスク・ド・ヒーローズ達を犠牲にすると、少々私にとっても都合が悪いのですよ、はい」
思わぬ怪盗ジョーカーの発言に。
「都合が悪い?」
と、愉快そうに千尋が尋ねるとはい、と威風堂々と頷く怪盗ジョーカー。
「光なくして影は無し。光届く世界であればこそ、我が闇もより一層の輝きが増すというもの。何よりもスリル無くして、何が怪盗業でございましょうか!」
バサッ! っと。
大仰に身に纏っていたブラックマントを広げる怪盗ジョーカーのその発言に。
「そ・れ・が、貴様の美学か! 美学なのか~!!!!!!!」
全力で叫びプロ野球選手も真っ青な勢いで鋼鉄製ハリセンを振りかぶる美雪。
当たれば確実にとても痛いに間違いないハリセンの一撃を、首を竦めて軽々と躱す怪盗ジョーカー。
それから彼は、キリカと千尋の為に、中華街の中にある巨大な点心屋を指差した。
「ヘルジャック・ザ・イエローはあの食べ放題のある点心屋で点心を堪能していらっしゃいますよ。幸いにも、未だダイヤ・ザ・レッドを狙った様な騎士の姿は確認されておりませんので、今から行けば、一般人に被害が出るよりも先に現場に到着することも出来る筈でございます」
「へぇ……よく調べてあるな」
感心した様に千尋が告げると、ええ、とその場で手品師の様な美しい一礼をする怪盗ジョーカー。
「情報は私達、怪盗の命綱。ましてや私自身のスリルを高めてくれるヒーロー達を狙うオブリビオンは私自身も気に入らないので。それでは、Bis……」
「待てぃ、怪盗ジョーカー! 貴様出オチか!? 出オチ担当なのかぁ!?」
そのままマントを翻して帰ろうとする怪盗ジョーカーに絶叫する美雪。
その美雪のツッコミ交じりの呼び止めに、怪盗ジョーカーがおや、と肩を竦めた。
「未だ私に何かご用がございましたでしょうか、フロイライン美雪。私、そろそろ準備を……」
「まあまあ、ジョーカー。そう言わないでさ。ちょっと俺達にもう少し協力して貰えないか?」
統哉のさりげない呼びかけに。
ほう、と興味深そうな表情を浮かべて、怪盗ジョーカーが統哉を振り向く。
「ヘル統哉。私、情報提供以外に今回特に脳がない筈なのですが……それ以外に私に何か聞きたいことがあるのでしょうか?」
心底不思議そうに仮面の奥の瞳をキョロキョロさせる怪盗ジョーカーにニャハハ、と統哉が笑い返した。
「そうそう、それだよ、それ。ギブアンドテイクの情報提供ってやつ」
「ほう? しかし、ヒーロー達が何処にいるのかくらいしか私、今回は猟兵の皆さんにお伝えできる情報はございませんが? そもそも猟兵の皆さんの方が私より遙かに強いお力をお持ちではありませんか」
何処か、からかう様な調子で飄々と告げる怪盗ジョーカーに統哉がもう一度、それだよ、それ、と告げる。
「だからさ。俺達とヒーローが力を尽くして邪神やその部下とその場で戦ったら、一般人にも街にも被害が出るだろう? でも、其れは逆に言えばさ、戦い易い場所で合流できれば一般人やヒーローだけではなく、周囲への被害も抑えられるかも知れないと言うことでもある訳だ。ジョーカーは、この辺り詳しいんだろ?」
と、何処か剽軽な調子で問いかける統哉に。
ほうほう、と愉快そうに怪盗ジョーカーが頷いた。
「ああ、成程。一本取られてしまいましたねぇ。確かにそう言われてしまえば、私も私の美学の為に、そう言った場所の情報を提供するしかございません」
「だろ? どっか人払いが容易で開けた場所……例えばスタジアムとか、そんな場所知らないか?」
巧みに誘導してくる統哉のそれに、わざとらしくペチン、と自らの額を叩く怪盗ジョーカー。
「ああ、ございます、ございます。丁度今日は何らかの記念日らしく休場中のスタジアムがあるのですよ。公的機関でございますし、この街の市長はマスク・ド・ヒーローズの事も存じておりますので仮にそのスタジアムが破壊されたとしても補償費用は全て街で負担して下さるでしょうねぇ」
「ニャハハ、情報有難う。それじゃあ、後は……」
と、統哉が呟いたところで。
「ふむ。となると、私達は好きな様に暴れて構わない、と言う事だな」
と妙に満足げに頷いたキリカが、素早く踵を返して怪盗ジョーカーのいる屋上から別の建物の屋根に飛び渡り。
更にその屋根から屋根を、アンファントリア・ブーツで軽々と蹴って伝っていく様にその場に向かう。
マッキナ・シトロンが怪盗ジョーカーから得たデータを基に、イエローの動きを推測、解析してその情報は信用に値すると判断。
それから周囲の情報を自然と回収し、ヴェートマ・ノクテルトを通じて集積した情報をキリカの脳に直接転送した。
「やれやれ。どうせなら色々飯食いながら回りたかったんだけれどなぁ……」
千尋が皮肉な笑みを浮かべて軽く肩を竦めて、宵と暁を護衛兼、イエローを追うための目としてキリカに付け、自らは堂々と屋上を降りてその場を後にした、その時。
「なぁ、怪盗ジョーカー」
何となく、ドスを聞かせたそんな声音で。
美雪が低く呻く様に怪盗ジョーカーに呼びかけるのに、ジョーカーがどうか致しましたか? と余裕綽々で肩を竦めた。
「千尋さんや私は、空を飛ぶことは流石に出来ず、またキリカさんの様に軽快なステップを刻むことが出来ないんだ……。つまりこのまま行くと、キリカさんと統哉さん、2人だけでイエローを救出しなければならなくなる」
「ふむふむ、確かにその通りでございますね。ですが、其れと私が何か関係がございますかな?」
その仕草が、如何にも道化師めいていて。
わざとらしく首を傾げて煽ってくる怪盗ジョーカーに手に持つ鋼鉄製ハリセンをプルプル震わせながら、だ・か・ら! と叫ぶ美雪。
「あなたも邪神の手先……あの騎士達にヒーローを殺させるわけには行かないのだろう? つまり……うおあっ!?」
それ以上を美雪が言うよりも先に。
軽々と美雪を担ぎ上げ、ついでに普通に屋上から歩いて中華街に向かおうとしていた千尋の背中に細い糸を射出する怪盗ジョーカー。
釣り針の様に先端に取り付けられた其れが、千尋の衣装に引っ掛かかり、千尋をするすると自らの方へと引き寄せる。
「って、おい、俺も?!」
思わぬ不意打ちに流石に目を白黒させる千尋の様子にニャハハ、と冗談めかした笑い声を上げる統哉。
それから、自らをちょっと目付きの悪いクロネコの着ぐるみで覆って、赤いスカーフを風に靡かせ、空中に浮いた。
「それじゃあ、俺達でイエローをちゃちゃっと救って、スタジアムに移動、他のヒーロー達に招集を掛けつつ助けに行こうか!」
「ああ、そうでございました。ヘルイエロー以外の他のヒーローの皆様ですが。どうやら、其々に他の猟兵の皆様の助力を受けることが出来ている様ですよ?」
あっさりそう宣う怪盗ジョーカーに思わず絶対零度の視線を突きつける美雪。
「……何故、貴様は既に其処までの情報を掴んでいるんだ……化物か!?」
その、美雪のツッコミに。
「いいえ。私は、怪盗です」
道化師めいた表情で些かわざとらしく大真面目に返す怪盗ジョーカーの其れに千尋が思わず、にやりと口元を歪めた。
そんな、千尋の笑いと共に。
統哉達は、まるでムササビの様に軽やかな動きで、危機迫るイエローの基へと急行することと相成ったのであった。
●
「ふん、ふふ~ん♪ 焼売、餃子に小籠包食べ放題なんて、最高なんだなぁ♪」
ハフハフハフハフハフと。
レンゲで掬い取った小籠包を口の中で転がし存分に舌鼓を打った太っちょな少年ジャック・ザ・イエローが鼻歌を歌いながらポン、と膨れに上がった胃袋を撫でる。
もう十分以上に点心は堪能したと判断、お会計を済ませて満足げにその店から出てきた時。
――フワリ。
不意に、少年の頭上を、紫色の影が覆った。
「? 何なんだな?」
怪訝そうに彼が上空を見上げれば。
切れ長の細く黒いその瞳で、じい、と自分を見つめる美女……キリカの姿を認め、ひゃっ、と驚き、思わず背筋をピン、と伸ばす。
年頃の少年の、目上の女性に対する微妙な感情の変化を気にする様子もなく。
アンファントリア・ブーツの魔法工学、反重力機能により、重力に捕らわれることなく屋根に両足で張り付き少年を見下ろしながら。
「どうやら、間に合った様だな、少年」
と、微かな安堵交じりに紫の長髪を梳かしたキリカが小さく呟くと、少年はパチクリと思わず目を瞬かせた。
「え……えっと……お姉さん、誰なんだな? 僕、お姉さんのこと知らないんだな」
「ふむ、そうだな。改めて名乗ろう。私は秘密結社スナークの一員で、君の味方だよ、少年」
キリカが静かにそう告げると。
はっ、と身を強張らせた少年……否、ジャック・ザ・イエローが、キリカに対して崇拝にも近しい畏敬の表情を浮かべて、問う。
「……あの秘密結社スナークの一員が、如何して僕の所なんかに来ているんだな?」
「……詳しい話は後だ。此処は人通りも多く危険だ。一先ず君には私について此処から直ぐに移動して貰いたい」
そのキリカの呼びかけに。
「分かったんだな」
しかとした表情となって頷くイエローに、良い子だ、とでも言う様に氷の女王の様な微笑を浮かべて満足げに頷くキリカ。
その周囲で浮遊する千尋の人形、宵と暁にイエローを確保した旨、言伝を頼み、反重力機能を切ったキリカが華麗に大地に降り立つ。
感嘆した表情で拍手でもせんばかりのイエローの様子を見ながら、さあ、と静かにイエローに呼びかけるキリカ。
――と、此処で。
「キリカ! 上だ!」
空中浮遊をしながら、近くの中華店の屋根の上に姿を現した騎士をクロネコワイヤーの爪に引っ掛け自分の方へと引き寄せ叫ぶ統哉。
キリカがすかさず上空を見れば、量産型魔剣デュランダルを両手遣いに握りしめ、振り下ろそうとする漆黒の騎士の姿。
「……ちっ。運が良いのか悪いのか……」
舌打ちをしつつ、空中で円を描く様にフワリと舞いながら跳び蹴りを放つキリカ。
放たれたその蹴りが、量産型魔剣を大上段に振り上げた騎士の胸部を直撃。
粉々に打ち砕かれた騎士の破片が、周囲の屋根の一部を吹き飛ばし兼ねない余波を生じさせるが……。
「させねぇよ」
その破片を覆い尽くす様に。
無数の鳥威がその周囲にばらまかれて焦茶色の結界を展開して、その中に破片を封じ込めた所で……。
「消えろ」
低い呟きと、共に。
千尋の右腕で回転していた960本の刀身に複雑な幾何学紋様の描かれた光剣が解き放たれた。
光剣は、真っ直ぐに鳥威の結界に閉じ込められた騎士の破片に突き立ち、存在そのモノを空間事抉り取って消失させる。
「よう、キリカ。伝言聞いたぜ。そいつが件のヒーローだな?」
と、怪盗ジョーカーのワイヤーに引っ掛けられた儘、皮肉な笑みを浮かべる千尋に、流石のキリカも微かな困惑を感じざるを得ない。
「その通りだが。何故お前は、そんな事になっている?」
無表情でありながらも微かに眉を顰めて問いかけるキリカに、気にするな、と言わんばかりに手を振るって冗談めかした笑い声を上げる千尋。
「と、とにかくキリカさん! 後、其処のイエローだろうが太っちょ少年! 私達と共に、一先ずこの場は離れてくれ!」
「でっ、でもそんな事したら美味しい食……じゃなくて中華街の人達が……」
美雪のその言葉に、躊躇う様な表情を浮かべる少年を。
ヒョイ、とつまみ上げる様に拾い上げたキリカがアンファントリア・ブーツを最大出力にさせながら一先ず、と呟く。
「此処は、私達秘密結社スナークを信じてくれ。君が此処を一緒に潜り抜けてくれれば、人々に被害は及ばない」
あやす様な、けれども真摯なキリカの説得に。
「わ……分かったんだな……!」
と、強く頷くイエローに、微かな笑みを浮かべてやっているその間に。
「さてさて、皆様! 目的地は此方でございますよ~! It’s a Show Time!」
わざとらしく怪盗ジョーカーが声を張り上げ、周囲に身を潜めて奇襲の機会を伺っていた騎士達を挑発し、美雪と千尋を抱えた儘スタジアムに向かい。
「騎士達、お前達はこの着ぐるみレッドが相手をするぞ!」
星空の如き光彩を灯しつつ放たれた漆黒の大鎌の一閃で、騎士を斬り倒して屋根から落下させながら、統哉もまた声を張り上げ。
「さあ、行くぞ、イエロー!」
キリカが抱き抱えたイエローに呼びかけ、アンファントリア・ブーツで大地を蹴撃、飛翔する様にスタジアムに向かって駆ける。
尚、統哉に斬られて地面に落下した騎士は、千尋の960本の光剣で空中で串刺しにされ、跡形もなく消失していた。
●
「此処が貴様の言っていたスタジアムなのか、怪盗ジョーカー、そうなのだな!?」
ずっと千尋と共に抱き抱えられたままの状態だった美雪が、そこに辿り着くや否や怒号を上げる。
その美雪の言の葉を涼しい顔(仮面で表情は見えないが)で受け流し、然様でございます、と怪盗ジョーカーが優雅に呟く。
因みに抱き抱えられている間はうっかり変なところを殴って落下したりする危険を回避するべく美雪は鋼鉄製ハリセンを握りしめたままだったらしい。
そんな美雪と千尋を下ろして、手慣れた手付きでスタジアムの入口を解錠した怪盗ジョーカーがさあ、皆様、とキリカ達を促した。
「ニャハハ♪ 時々思うんだけれど、妙なところで律儀だよねぇ、ジョーカーって」
クロネコ刺繍入り緋色の光を曳いて空中を浮遊していた統哉が笑いかけると、チッチッチ、とジョーカーがしなやかな指を優雅に振る。
「ヘル統哉。これも怪盗の嗜みでございますよ。た・し・な・み」
「くっ……思いっきり突っ込んでやりたい……! しかし、その怪盗の嗜みとやらに助けられている今の状況からすると、突っ込みさえ出来ん……!」
わなわなと身を震わせる美雪を宥める様に、千尋の人形、暁がまあまあ、と同情する様に美雪の肩を手持ちの扇子でポン、と叩く。
尚、美雪に同情する様に暁を、結詞で操るその主である千尋は、地面に下ろされた所で、やれやれ、と言う様に肩を軽く竦めていた。
「み、皆無事なんだな……!? 凄いんだな……流石は猟兵組織『秘密結社スナーク』なんだな……!」
キリカに地面に下ろして貰い、興奮に目を輝かせるイエローの呟きに、まあね、と統哉がウインクを一つ。
尚、ジョーカーは猟兵組織の一員ではないのだが……その辺りはご愛敬。
と、此処で。
「さて、此処ならば幾ら壊しても一安心、で良いのだな、怪盗ジョーカー」
口の端に、肉食獣を思わせる笑窪を刻みながら。
ナガクニの濃口を切りながらのキリカの問いに、無論、その通りでございます、と優雅な一礼をする怪盗ジョーカー。
「ですが、此度の戦いで私が今、手を貸せるのは此処まででございます、フロイラインキリカ。舞台は整えさせて頂きましたので、後は、猟兵の皆様の手腕に期待させて貰いますよ」
「き……貴様! 此処か! 此処で一時退場するのか!」
叫んで鋼鉄製ハリセンを放つ美雪の其れを、マントを翻して滑らせて避けながら、イエローにああ、そうでした、と呟くジョーカー。
「ヒーロー、ジャック・ザ・イエロー様。あなた様がお持ちの緊急信号弾を宜しければ、私にお預け下さいませんか? 猟兵の皆様からのご要望です。他の皆様への連絡係位は引き受けさせて頂きますよ」
その怪盗ジョーカーの提案に。
「う……うん。頼んだんだな!」
と、ジャック・ザ・イエローが頷き、懐から小さな砲丸の様な其れを取り出す。
それは、緊急招集を意味する信号弾。
イエローが取り出した其れを恭しく受け取った怪盗ジョーカーがそれでは、と優雅に一礼し、マントを翻してすっ、とその場から姿を搔き消すと、ほぼ同時に。
――ドタドタドタドタドタッ!
と、けたたましい足音と共に、生き残りの騎士達がスタジアムに飛び込み、量産型魔剣と魔槍を其々に構えた。
その様子を、薄らとした鮫の様な笑みを唇に刻み込んだキリカが見て。
――スラリ。
まるで妖艶なる美姫の如く。
或いは蠱惑的な妖精の様に。
血糊一つ付いていない美しき銀の輝きを伴う刃を持つナガクニを抜刀、統哉達とイエローへと視線を送り。
「では、共に戦おうか、ヒーロー。猟兵組織『秘密結社スナーク』の諸君」
と、艶やかな笑みと共に告げるキリカの其れに、イエローが素早くその腕のブレスレットにカードを装填。
瞬く間にその身に黄色のコスチュームを纏い、その顔にジャック……否、クラブの仮面を被ったヒーローが姿を現した。
と、此処で。
「……ところで、だ」
ふと、何かに気がついたかの様に。
美雪がポツリと致命的な一言を漏らした。
「あなた以外の3人は皆、トランプのマークのヒーロー名が付いているのに、何故、貴方だけが絵札なんだ……?」
――ヒュー……。カラン、カラン……。
その日、二度目の木枯らしが、何処からともなく吹いてきて。
冷汗をダラダラ流しながら、がっくりとイエローが肩を落とした。
「ま……間違えられているんだな……。本当なら僕は、クラブ・ザ・イエローなんだな……。と言う訳で、これからの僕は、クラブ・ザ・イエローなんだなぁぁぁぁぁぁぁっ!」
羞恥に顔を真っ赤にしたイエローの絶叫と共に。
その腕のブレスレットに嵌め込まれたトランプカードからジャック……絵札の兵士達の分身を召喚し、騎士達に攻めかからせるイエロー。
「……流石はヒーロー。是が君の本当の力か」
感嘆とも、呆れとも取れるそれを小さく呟きながら、アンファントリア・ブーツで一気に疾走し、騎士の懐へと駆けるキリカ。
魔槍を抜き放った騎士達がそんなキリカの猛進を阻むべく、密集隊形で槍を突き出し、キリカを槍衾の餌食にしようとするが。
「はっ、させねぇよ」
そんな騎士達を鼻で笑った千尋が、今度は左腕に展開した960本の光剣を次々に射出しつつ、無数の鳥威をスタジアム全体に展開。
無数の鳥威達がまるで数珠の様に繋がって、蜘蛛の糸の様な結界を張り巡らす。
それはキリカやイエロー、上空から迫る統哉を魔槍の猛攻から守り。
更にイエローの兵士達が、一斉に騎士達に突撃を敢行。
「皆! 一気にやっつけるんだな~!」
イエローの叫びに応じた兵士達の突進による攪乱が、騎士達の視界と標的を惑わすその間にキリカが騎士の懐に到達し。
「遅い」
呟きと共に、逆手に構えたナガクニを振るった。
竜神達と袂を別った、邪龍とも言うべき存在の骨の混ぜられた銀刃が閃き、騎士の胸甲を易々と切り裂いた、刹那。
キリカが暴風の如き回し蹴りを躊躇なく放ち、量産型魔剣デュランダルを持つその腕を拉げさせ、忽ち騎士達を戦闘不能に陥れる。
「――斬る!」
戦闘不能になった騎士達を浄化の意味合いも籠めて統哉が『宵』で纏めて一閃。
深淵の夜を切り開く星空の如き輝きを伴う『宵』の刃先から放たれた光の斬撃が、一瞬にして騎士達の首を刎ねて浄化させ。
「其処だな……消えろ」
呟きと共に、千尋の左腕を旋回していた960本の複雑な幾何学紋様が刀身に描き込まれた光剣が、踊る様に騎士達に襲いかかった。
戦場全体を包囲する様に分散した960本の光剣が、悦びに打ち震える様に存分に騎士達に触れ、片端から彼等の存在を消失させていく。
それでも辛うじて生き残っていた騎士達が数体、量産型魔剣から光を発して、千尋の光剣に消失させられた腕や足を再生しようとするが。
「羊さん、羊さん。皆の心も体も、そのもふもふで癒してやってくれ」
美雪の優しくあやす様な甘美なる子守歌に召喚されたモッフモフな羊さん達。
その羊さん達がめぇめぇ鳴きながら、怒濤の如くその騎士達を踏みつけ下敷きにしていくと。
『Zzzzzzz……』
そのまま、安らかな眠りに落ちていった騎士達を踏み砕く様にキリカが騎士達の上にアンファントリア・ブーツで着陸する。
着陸と同時に地面にアンファントリア・ブーツに籠められた衝撃の魔力を放逐。
それは一瞬で粉微塵に騎士達を砕け散らせ彼等は為す術無く全滅したのであった。
●
――パァン!
スタジアムの上空で、轟音と共に花火の如き閃光が舞い上がる。
それを静かに見上げた怪盗ジョーカーは、その美しさに束の間呆然としたが、程なくして、ほう、と静かに息を吐いた。
「本来であれば、私が出る幕はございませんでしたが……あなたがマスク・ド・ヒーローズの失われし神々の力を狙うと言うのであれば、話は別でございますよ」
憎悪の化身、欠片を集めしコレクター……。
――『邪神』、ダークメナス殿。
その、怪盗ジョーカーの呟きは。
微風に乗って、消えていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ダークメナス』
|
POW : 我、失われし汝等の盟主なり
全身を【盟主の威光 】で覆い、自身の【同志達が奪ってきた神or不死の怪物の力】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : 我は盟主として、同志達の無念を晴らそうぞ
自身に【神々の時代の頃より得てきた同志達の無念 】をまとい、高速移動と【六枚羽根より滅びを齎す衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 我が同志達の怨念、晴らさずにいられようか
自身が【同志達が殺された事への憎悪 】を感じると、レベル×1体の【神々の時代より存在する古代遺産】が召喚される。神々の時代より存在する古代遺産は同志達が殺された事への憎悪 を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:塒ひぷの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠エリス・シルフィード」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
スタジアム入口。
「皆、無事か!?」
スタジアムの上に上げられた閃光花火……否、緊急信号弾を見上げながら。
猟兵達と共にスタジアムに辿り着いたダイヤ・ザ・レッドの呼びかけに。
「無事だったか、リーダー。……何よりだ」
静かで落ち着いた、けれども深い安堵の籠められた少年の声が返ってくる。
青いコスチュームを纏い、スペードマークの仮面を被ったブルーの落ち着きを感じさせるその声に、レッドがほっ、と安堵の息を漏らしていた。
「皆……。本当に……本当に良かった……!」
続けて別の猟兵に連れられて現れたのは、桃色コスチュームにハートの仮面を被ったピンク。
レッドに続いて、ピンクが現れたことに気がつき、ブルーが軽く周囲を見回し、では、と独り言の様に。
「この信号弾を上げたのは、ジャック・ザ・イエロー……?」
と、呟くと。
「違うんだな! 今の僕は、クラブ・ザ・イエローなんだな!」
スタジアムの入口から、ジャック・ザ・イエロー……否、クラブ・ザ・イエローが姿を現した。
怒りながらも、満腹のお腹が恥ずかしそうにコスチュームから少しはみ出す彼を見て、安堵故に、ピンクがクスリと微笑を零す。
ブルーも思わず、と言う様に軽く肩を竦めてみせた。
「皆……! 良かった、無事で……!」
そんなブルー達の頬が緩む姿を見て、心から安堵して、その胸を撫で下ろし。
レッドが、頼もしき仲間達を一瞥しながら力強く頷いた、正にその時。
「感動の再会に水を差す様で申し訳ございませんが。マスク・ド・ヒーローズの皆様。宵の口の本番はこれからの様でございますよ」
――と。
スタジアムの屋上に佇む仮面の男が呼びかけたのに、はっ、とした表情になってレッドが彼……怪盗ジョーカーを咄嗟に見上げた。
「まさか、あなたは……!」
その仮面……否、仮面を被る人影に、思う所があったのであろうか。
レッドがそう呼びかけるのに踵を返し、怪盗ジョーカーはスタジアムの入り口の向こうからの気配を感じ取り、はぁ~っ……と、重い溜息を吐く。
「折角の愉しい宵の時間を、邪魔されるのは不愉快なのでございますがね……」
愚痴る様に、そう呟くと。
怪盗ジョーカーが皆様、とスタジアムの入口で再会の喜びを分かち合うマスク・ド・ヒーローズと猟兵達に呼び掛けた。
「あまり時間がございません。一先ずこの中にお入りください。猟兵……いいえ、秘密結社スナークの皆様が、貴方方と共に戦うべく待っております」
その怪盗の呼びかけに。
イエローがはっ、とした表情になり、そっ、そうなんだな!
と、怪盗ジョーカーに同意した。
「この中で、猟兵達が待っているんだな! 何でも、僕達の中に眠る失われし……!」
イエローがそれを言の葉に乗せるよりも先に。
『そうか……。我が大望に気が付きし、人……いや、ヴィランが、動いたか』
思わずその場にひれ伏したくなる様な。
重奏たる声がスタジアム一帯に響き渡った。
その声を、聞くや否や。
――ドクンっ。
マスク・ド・ヒーローズ達の中に眠る『其れ』が凄まじい不協和音を上げ、ヒーロー達の心拍数を一気に引き上げる。
ただ、現れた『其れ』の姿を見て。
その仮面の目頭を大仰に押さえ、おおっ! と何処かわざとらしく悲しげな嘆きの声を上げる者が1人。
「やはり現れてしまいましたか……! 森羅万象の滅びと闇に通じし、盟主たる邪神ダークメナス殿……!」
『闇の災厄』
そう名付けられた『邪神』の名を朗々と告げる怪盗ジョーカーを、無機質な仮面の下の瞳で睨みつけ。
『黙れ、下郎。汝が如き、愚昧にして弱き闇等、我が威光の前には全くの無力! 汝の様な力無き者が、我が前に現れる等……恥を知るがよい!』
厳かにそう叫び、その背の羽根から、闇に咲く花の如き輝きを発し。
悠然とスタジアムとヒーロー達へと近づいてくる、ダークメナスの姿を見て。
「確かに、私の力不足は事実でございましょう」
と、力なく頷く怪盗ジョーカー。
だが、仮面に隠れて見えぬその口元には、してやったりの微笑が浮かんでいた。
(「ですが、その様に私達の手に負えぬ程の力を持つ貴殿であればこそ、猟兵の皆様は貴殿の存在に気が付くことが出来るのです」)
幾星霜の時を経て、育まれてきたその憎悪を。
その憎悪と悪の果てにある『力』を求める神々によって生み出されし『邪神』たるその存在に。
猟兵達は気が付くことが、出来るのだ。
(「ですが、この地に眠る神は1柱に非ず」)
故に、それを封じなければ、猟兵達とて苦戦を免れぬ。
だから……。
(「おお、我が愛しき女神よ」)
――猟兵と、マスク・ド・ヒーローズの力をご照覧あれ!
胸中で叫ぶ怪盗ジョーカーのその姿は。
まるで、友なる『神』に祈りを捧げる、敬虔なる信徒の様。
その怪盗の祈りに導かれる様に。
『邪神』に裁き齎す審判者たる猟兵達の待つ、スタジアムの戦場に。
マスク・ド・ヒーローズの後を追う様に、姿現せしダークメナスは悠然と潜入するのであった。
*第2章のルールは下記となります。
1.下記行動を取る事で、プレイングボーナスとなります。
ヒーローチームと共に戦う、もしくは猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員であると名乗る。
2.ダークメナスはこの地に眠るもう一柱の『邪神』を召喚しようとしています。
しかし、マスク・ド・ヒーローズ達は健在ですので、彼らの力を得れば、その神の力を相殺出来ます。
3.怪盗ジョーカーはある秘密を所有しています。それに基づいた協力要請を行えば、怪盗ジョーカーも神の力の相殺に協力します(これもプレイングボーナス扱いです)。
4.怪盗ジョーカーをこのシナリオの最後に捕らえたりすることは出来ません。
但し、聞きたいことがあれば(答えられる範囲で)何かを最後に話してくれるかもしれません。
5.怪盗ジョーカーを無視しても、戦闘に大きな支障はありません。
――それでは、良き戦いを。
ユーフィ・バウム
邪神の大望なんて興味はない
ヒーロー達と共に未来を拓きます
「秘密結社スナーク」 の蛮人ユーフィが、参りますっ
マスク・ド・ヒーローズさん達には
この地に眠る『邪神』の力を相殺を頼み
私はダークメナスに近接戦を挑みますねっ
【勇気】と【覚悟】をもって!
【野生の勘】で何か閃くことあれば、従い行動
基本は【功夫】での肉弾戦
盟主の威光で覆われるダークメナスの体を
オーラを込めた【怪力】の拳で【鎧無視攻撃】として
叩き込みますよ
相手が飛ぶなら、こちらもディアボロスエンジンに
風の【属性攻撃】を込め、【空中浮遊】して
【空中戦】を挑み、必殺の《麗掌破魂杭》を狙う
事件が解決したら、また買い物に行く約束等できると
嬉しいですねっ!
水無瀬・旭
マスク・ド・ヒーローズよ、改めて俺の名を呼び、命じてくれ。『共に戦え』と…そして、『勝て』、と!
ヒーローたちの命令を受諾し、【指定UC】を起動。
…『正義の味方』を諦めた『悪』たるこの身でも、燦く『星(せいぎ)』の味方はできるさ。
無敵の鎧でヒーロー達を衝撃波から守りつつ、敵の高速移動の動線を見極めよう。…味方にも策士はいるのだ、ブルー、敵に一鎗馳走するための策はあるかい。
【エネルギー充填】し、【焼却】の力を【属性攻撃】で強化した『鐵断』に、【呪詛】を込め。【スナイパー】の能力で【槍投げ】を行って縫い留めてやろう。
闇が深ければこそ、強く優しき正義の味方はより輝く。…後は君たちに任せるよ、ヒーロー。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン…戦闘員がやられたら、お次は怪人の登場か
定石通りだな
UCを発動
自分も超強化して敵を迎え撃つ
相手の高速移動に合わせて自分も動き、纏った呪詛で敵の衝撃波を防ぎながら鉤爪で敵を切り裂く
滅びし神に対しては私が心配する事は無いだろう
何故なら…私の背中は、共に戦っている頼もしいヒーロー達が守ってくれているのでね
例えどんな邪神がいようとも、彼らが守ってくれるならば私は何の憂いもなくこの爪を振るう事が出来る
それこそ、この身が摩りきれるまでな
流れる血も構わずに、ダークメナスを攻撃し続ける
この世界を脅かしていたフォーミュラは既に消えた
お前も早く会いに行ってやるがいい、寂しがっているだろうからな
司・千尋
連携、アドリブ可
お楽しみはこれから、だな
だからと言って寝てる神が沢山いても困るけど
引き続きヒーローチームに協力要請
後はアイツを倒すだけだし一緒に戦おうぜ
背中は任せろ
その代わり『邪神』は任せたぜ
今回は防御や仲間の援護優先
攻撃は烏喙を主軸に『禍福相倚』を使い
強化の無効化を狙う
早業や範囲攻撃、2回攻撃など手数で補いつつ
相手の動きを見極め
近接武器も使い確実に『禍福相倚』を
当てられるように工夫
敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
ヒーローチームやジョーカーへの攻撃は最優先で防ぐ
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
光と闇は表裏一体
何れが欠けても輝かないが
何れに偏っても破滅を招く
神々が憎悪と闇の果ての力を求めたように
猟兵にも憎悪を力にする者がいる
…今、憎悪の闇を見せてやる
真の姿解放
指定UCは発動継続
ヒーローたちと共闘、邪神の力の相殺を図る
「地形の利用、ダッシュ」+高速移動でダークメナスに肉薄し背後を取り
「早業、2回攻撃、怪力」で黒剣で六枚羽根を「部位破壊」
オブリビオンは全て殺すとの「殺気」は隠さない
滅びを齎す衝撃波は「視力」で発射の兆候を「見切り」
「属性攻撃(聖)、オーラ防御」を織り交ぜた漆黒の「衝撃波」で相殺を試みる
ヒーロー
これが憎悪を、闇を力にする意味
…己が信念、突き通せ!
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
…ああ、吹っ切った
今はこの地を守るために
邪神すら殺す暗殺者になってやる
秘密結社スナークには、暗殺者もいる
ダークメナス、てめえは結社の…俺の「敵」だ
1章の騎士をダークメナスが同志とみなすなら
ヒーロー達も古代遺産の餌食になる
もう一柱の邪神を阻止するべくヒーローたちは守らねば
「高速詠唱、言いくるめ」+指定UCでアスモデウス召喚
「属性攻撃(炎)、制圧射撃、蹂躙」の獄炎でダークメナスごと古代遺産を一気に焼き払わせる
地獄の炎で邪神を焼き尽くせ!
俺はアスモデウスや他猟兵を囮に「忍び足、闇に紛れる」で背後へ移動
心臓目がけ二槍を伸長「ランスチャージ、串刺し、暗殺」
…己が闇と共に散れ
文月・統哉
人々を街を護るとの強い意志胸に
着ぐるみの空で戦う
ヒーロー達にオーラ防御
秘密結社スナークとして共闘し
連携攻撃
勿論ジョーカーとも
ヒーローとヴィラン
その違いは紙一重
誰かの正義は
誰かにとっての悪かもしれない
誰かの悪と呼ぶ行いは
誰かを救うのかもしれない
神々の力は君の中にも
そうだろう
ジョーカー・ザ・ホワイト?
誤魔化さなくていいよ
君はイエローが持つ緊急信号弾の事を知っていた
白でも黒でも
ヒーローでもヴィランでも君は君だ
どうか力を貸して欲しい
人々の命と
女神の安らかな眠りの為に
可能なら最後
ダークメナスの憎悪を祈りの刃で払う
気休めだけどね
彼女は猟書家
どこかでまた侵略を続けるだろう
それでも
仲間を想う気持ちは分かるから
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
成程、邪神か
…UDCのそれとは明らかに異質だな
ツッコミ属性は一時封印
今はヒーローも猟兵もまとめて鼓舞しよう
「歌唱、優しさ、鼓舞、楽器演奏」+【サウンド・オブ・パワー】
ヒーローの活躍を称え鼓舞する歌を歌い戦闘力増強だ
必要あらばグリモア・ムジカに演奏を肩代わりさせよう
仮面の下の「現在の」ジョーカー
実はマスク・ド・ヒーローズの一員だったのでは?
大方、ブラック・ザ・ジョーカーあたりか
UDCの戦隊ものだと一人は黒がいるし(偏見)
というわけで怪盗ジョーカー
もし元マスク・ド・ヒーローズであれば手を貸してほしい
ま、戦闘後に改めて真実か否かは確認を取るが
レッドは何か知っていそうだしな
●
――ザッザッザ……。
その背に輝ける羽根を纏いし『彼女』がスタジアムへと足を踏み入れながら。
その兜の様にも見える巨大な一つ目から、光線を撃ちだそうとした、その刹那。
「お楽しみは、これからって奴だよな。まあ、寝ている神が沢山いても困るけれどよ」
思わず、ひゅう、と口笛を吹きそうな愉快げな声と共に。
無数の鳥威が焦げ茶色の結界を纏って障壁と化し、スタジアム内に入ろうとしたヒーロー達と怪盗ジョーカーへの攻撃を打ち防ぐ。
イエローと怪盗ジョーカー以外の4人のヒーロー達がその防御に驚くその間に。
「この鳥威……」
「千尋さん、ですね!」
館野・敬輔が黙然と、ユーフィ・バウムがポニーテールを軽く揺らしながら喜色を現して叫ぶと、司・千尋が口元に微笑を閃かせた。
「レッド。君の仲間が予め、他の猟兵達に渡りをつけておいてくれた様だね」
「だな。しかし、人形遣いの茶髪のにーちゃんも来ているとは思っていなかったが」
レッドと共にスタジアムに駆け込んだ猟兵……水無瀬・旭と、森宮・陽太が其々の表情で呟くその間に。
「フン……戦闘員がやられたら、お次は邪神……怪人の登場か。定石通りだな」
「と言うか、それはヒーロー戦隊もののお約束、と言う奴だろう、キリカさん。まあ、その内『ふっふっふ、奴は我らの中で一番の小物!』とか言って出てきそうな輩もいるのが少し不安だが」
キリカ・リクサールの鼻を鳴らしながらのその言の葉に、鋼鉄製ハリセンをしまいつつ目を細めて藤崎・美雪が溜息を吐く。
(「と言うか、出てくる、絶対出てくる。怪盗ジョーカーが意味ありげに登場してきているのが正直怖い」)
等と言う美雪の懸念……フラグは見事に的中し。
イエローと怪盗ジョーカーに誘導される様に、マスク・ド・ヒーローズを追っていたダークメナスがこの場に現れたその刹那。
――ゾクリッ。
おぞましい程の悪寒が、スタジアムにいる猟兵達を襲った。
「この感じ……皆、大丈夫かっ!?」
ちょっと目つきの悪い赤いスカーフを巻いたクロネコの着ぐるみに身を包んだ文月・統哉の空中を飛翔しながら呼びかけに。
「大丈夫です! ですが、この気配……!」
ユーフィがダークメナスからハート・ザ・ピンクをその背に庇いながら、腰に帯びた勇気の実を一つまみしつつ答えた、その瞬間。
『出でよ、我が同胞、邪神オルランドゥ。かの地に眠りし古の神々の残滓を我と共に分かち合おうぞ』
朗々と歌う様に響き渡るダークメナスの呼びかけに応じて。
『……ヨカロウ、我が同胞よ。イマコソ、我等の力、ミセルトキ……!』
地の底から鳴り響く様な声と共に。
闇がある一点に集結し、そこから語るもおぞましき姿をした『其れ』が姿を現す。
全身を漆黒に彩られた『其れ』が発する、尚昏く、破滅的なその瘴気は、街一帯を容易く蝕む程のそれに彩られていた。
――けれども。
「――っ! これは……っ!」
ブルー・ピンク・イエロー、そしてレッド……ヒーロー戦隊、マスク・ド・ヒーローズの全身から闇を祓う暁光の如き輝きが溢れ。
それが目前に現れた『闇』……邪神オルランドゥに拮抗する様にぶつかり、激しい鍔迫り合いをする様に火花を散らす。
マスク・ド・ヒーローズ達の中の失われし神々の欠片の力により、緩和された瘴気の中で。
悠然と立ちはだかり、マスク・ド・ヒーローズ達を殺害せんと動き出すダークメナスとの間に……。
「……光と闇は表裏一体。何れが欠けても輝かないが」
刀身が赤黒く光り輝く黒剣を構えた敬輔が、ダークメナスへの殺気も露に割って入り。
「いずれに偏っても、破滅を招く」
そう呟くや否や。
敬輔の全身を覆っていた白い靄の内側から、漆黒の殺意を伴った全身鎧が、敬輔の身を包んでいく。
(「そう……貴様たちの様な神々、憎悪と戦いの果ての力を求めた様に」)
「猟兵にも、憎悪を力にする者がいる」
――だから。
「……その憎悪の闇を見せてやる。この剣の中に眠る『皆』と共に」
「……わたしには、憎悪による闇はよく分かりません」
その、敬輔の隣に立つ様に。
銀のポニーテールを揺らし、心の内から湧き上がる無限の勇気に身を浸しながら。
ユーフィが、両の手を握り込み、でも! と烈火の如き闘志と共に叫んだ。
「あなた達、邪神の大望になんて興味はないっ! そんなもの、この街の人々も、マスク・ド・ヒーローズも望んでいないっ! だから、わたしは、ヒーロー達と共に、未来を拓きます!」
その為の勇気と覚悟を表明するユーフィに合わせる様に。
「そうだな。誰もこの地をお前達の様な神に委ねるつもりはないだろう」
と、キリカが口元に鮫の様な笑窪を刻みながら、軽く紫の長髪を掻き上げるのに合わせて。
「キャハハハハハハハハハハハハッ!」
彼女の傍に控えていた、見た目は愛らしいが、底の見えない闇の様な眼孔穿かれし不気味なオペラマスクを被り。
棘の様に全身から錆びた刃物を生やした人形、デゼス・ポアが嘲笑を上げた。
不遜とも取れる笑みを浮かべるキリカの姿にその能面を動かすダークメナス。
キリカ達の隣に向かうべく陽太の脇を駆け抜けようとした旭が、ヒーロー達の様子を見て目を細める陽太を見て、微笑を零した。
「完全に吹っ切った。そんな顔をしているね」
その旭の呼びかけに。
「ああ……完全に吹っ切ったぜ。あいつらの守りたいという思いのために、俺は邪神をも殺せる暗殺者になってやる、ってな」
「……そうか。それが、君の正義(こたえ)なんだね」
何処か、少しだけ遠くを見る様な、暖かな眼差しと、共に。
『星』の探究者たる『正義』の味方の問い……否、確認に。
陽太が、ああ、と小さく頷いた。
「そう言う緑髪のにーちゃんだって、そのつもりなんだろ?」
旭の髪と同じ色の眼差しで旭を見つめて。
静かに問いかける陽太のそれには答えないで。
旭が漆黒の双刃持ちし、馬上槍……鐵断・黒陽を下段に構えながら、自らの背後にいるマスク・ド・ヒーローズに囁いた。
「レッド……いいや、マスク・ド・ヒーローズよ。改めて俺の名を呼び、命じてくれ」
――それは、命令(ねがい)。
命令(ねがい)を乞う旭の奥底にある、深き覚悟と誓いの意を汲み取り、自らから流れる神々の欠片の力を制御しレッドが頷く。
「俺は、俺達は……この街の皆の日常(セカイ)を守りたい。でも、俺達にはその力が足りない。だから……!」
そこで、ひゅっ、と強く息を吹き込み。
「『ロード・ハガネ』! どうか、この街を……日常(セカイ)を守る為に、俺達と共に、戦ってくれ!」
そのレッドの命令(ねがい)の籠められた言の葉は。
「その命令(ねがい)を聴いた。ならば……このロード・ハガネ。君達の『正義』に味方をしよう……!」
旭……否、ロード・ハガネの確固たる決意の込められた反応に乗じて。
その全身に、武者甲冑を思わせる無敵の装甲を纏い。
その手の鐵断・黒陽から、全てを灼き尽くす陽炎の如く揺らめく黒焔を解放され。
ロード・ハガネがその場に自らの姿を顕現させた。
(「……例え、『正義の味方』を諦めた、『悪』たるこの身でも」)
――燦く『星(せいぎ)』の味方は出来る。
正義(ねがい)と共に其処に立ち塞がる旭……ロード・ハガネの姿を認めながら。
「俺達は……秘密結社、『スナーク』は」
クロネコの着ぐるみの周囲に黒猫刺繍入りの緋色の結界を展開した統哉が告げた。
「君を、必ず浄化する。この街の人々の為に。そして……」
その様子を遠巻きに見つめる、怪盗ジョーカーを目の端に捕らえながら。
――怪盗ジョーカーであり、ジョーカー・ザ・ホワイトでもある、彼の為に。
その統哉の願いと祈りがまるで、聞こえているかの様に。
「It’s a Show Time。我が女神よ……彼等に幸運を」
呟かれた怪盗ジョーカーの言の葉が。
戦いの始まりを告げる鐘の音と化し、ダークメナスが咆哮した。
●
『愚かでありながら、我が同胞を奪いし、憎しみ深き者達よ。我が力の前にひれ伏して、その骸を我等が供物とするが良い』
そう呟くと共に。
全てを威圧せんばかりの凄まじい威光……それは、禍々しくも神々しき覇気……を纏うダークメナス。
その背の光り輝く羽根の一枚、一枚が眩き輝きを解き放ち。
同時に、その周囲に無数の剣や槍の形状を伴った古代遺産が召喚される。
――其れは未だ、人も、ヒーローも、ヴィランも存在しなかった時代。
神々と不死の怪物のみが跳梁跋扈せし、神代の時代より連綿と受け継がれし憎悪と無念を背負いし『盟主』としての、真なる姿。
「……UDCの其れとは明らかに異質だな。しかも此程迄の憎悪と無念の想いを背負いつつ、戦えるというのか」
呟きながら、美雪がグリモア・ムジカの譜面を展開。
流れ出す伴奏に合わせて美しく透き通ったメソソプラノの歌を奏で始める美雪。
鋭く、けれども力強く紡がれる美雪の歌声を背に、キリカの口元に浮かぶ不敵な笑みを破壊しようとするかの様に。
滅びし同志達の無念と怨念を纏って、高速で空中移動を行ないながら、号令を掛ける様に手を挙げるダークメナス。
『行け! 我が同志達。神代の頃より存在せし汝等の遺産で全てを滅せよ!』
その叫びと、共に。
無数の古代遺産が、まるで驟雨の如く、大地に立つ敬輔達に降り注ごうとした正にその時。
「おっと、お前の好きにはさせんよ」
マッキナ・シトロンが驟雨の如く降り注ぐ古代遺産の落下地点を解析し。
解析されたその着地点を、ヴェートマ・ノクテルトを通じて直接その脳に転送されたキリカが不敵な笑みを崩さぬ儘に。
大地に突き立つ古代遺産をアンファントリア・ブーツで蹴って空中へ飛翔。
そして……。
『狂気の声を上げろ、デゼス・ポア』
そう呼びかけるや、否や。
「キャハハハハハハハハハハッ!」
キリカに付き従っていたデゼス・ポアが哄笑と共に、古代遺産の一部を……そこに纏わり付く旧き者達の残滓を喰らい。
そして妖艶にして、怪異たる銀光と共に、キリカの中へと吸い込まれていく。
その全身を踊り狂う様に巡るは、鮮血色の奇々怪々たる、螺旋紡ぎし無限の呪詛。
並行世界の自分、デゼス・ポアを憑依したキリカの腕が、まるで蹂躙する獣の如く巨大な銀の鉤爪と化してダークメナスに斬りかかった。
放たれたその一撃を、ダークメナスがその背の羽根の内、最下部と最上部の二対四枚の羽根で辛うじて受け止め。
「我が力の前にひれ伏すが良い!」
一喝した。
カッ! と言う激しい閃光と共にその全身を覆っていた威光が覇気の刃と化して、キリカを切り刻むべく一気阿世に襲いかかるその隙を突いて。
「『秘密結社スナーク』が蛮人、ユーフィ・バウム。いざ……参りますっ!」
雄叫びと共にその背のディアボロスのディアボロスエンジンに蒼穹……大空を舞う風の精霊達の力を宿して爆発させるユーフィ。
大地に突き立つ古代遺産を吹き飛ばさんばかりの大轟音と共に、ひらりと空中へと浮き上がって、ディアボロスエンジンを操り肉薄し。
キリカの全てを斬り裂く鉤爪の一撃を受け止めたダークメナスの懐に潜り込み、蒼穹の『気』を練り込んで掌底を鳩尾に叩き込んだ。
『ぐっ……!』
僅かによろめく様に傾ぐダークメナスに続けざまの後ろ回し蹴りを叩き込もうとするが、その猛攻は右腕で捌くダークメナス。
『その程度の力で我を倒せると思うな、汝!』
怒号と共に左貫手で、ユーフィの脇腹を抉らんと返す一撃を放つダークメナスに。
「背中がガラ空きだぜ? ダークメナス」
周囲の瘴気に溶け込む様に足音を殺してダークメナスの背面に回った千尋が、すかさず、と言った様に烏喙を投擲する。
黒塗りの毒の塗り込められたその短刀の刀身が、青炎を纏いて放たれる。
その危険を直感的に感じ取ったか、ダークメナスの羽根の1枚がまるで其れを叩き落とす様に光線を撃ち出した。
撃ち出された光線で烏喙を弾きつつ全身を竜巻の様に回転させてユーフィとキリカを煩わしげに弾き飛ばして滑空するダークメナス。
その背の六枚羽根の力が急速に膨れ上がり、更に幾つかの奇怪な紋様の描き出された魔法陣がダークメナスの背後に現出する。
六枚羽根に収束していく力。
そして魔法陣から放出されようとしている、刀剣・槍・斧の形を取った無数の古代遺産は、マスク・ド・ヒーローズを狙っていた。
邪神の封印に力を注ぐマスク・ド・ヒーローズ達を庇いながら、旭……ロード・ハガネが鐵断・黒陽の黒焔をくゆらせ身構えている。
一方、その魔法陣から射出される無数の古代遺産の動きを予測した陽太は、何が起こるのかを想像し、静かにその目を鋭く細めた。
(「ちっ……。ダークメナス。コイツにとっては、やはりあの騎士達も同志だったって訳か……?」)
それとも……今、レッド達が抑えている邪神オルランドゥの方をであろうか?
同胞たる邪神の力を抑えられて、ダークメナスがそれに対する憎しみをえないという道理は無い。
だが……。
(「『俺』だけの知識じゃ、流石に足りないか……?」)
――であれば、俺は。
この、森宮・陽太は。
ロード・ハガネを名乗る、旭の様に。
「……ダークメナス。てめぇは俺達結社スナークの……『敵』だ」
その呟きと、ほぼ同時に。
まるで何かに導かれるかの様に視界が全方向に広がっていき、その頭がから恐ろしい程に冴え渡っていく。
或いはこれ程迄に不思議な昂揚を得ているのは、その耳にまるで水のせせらぎの如く響き渡る美雪の歌故かも知れないが……。
(「やはり、そうか」)
それは、嘗ての暗殺者として鍛え抜かれた直感であろうか。
濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを十文字に構えた陽太が鋭く命じる様に叫んだ。
十文字に構えられたランスとグレイヴの先に生まれ落ちた魔法陣から、ダイモンデバイスの銃口を覗かせながら。
「アスモデウス! 獄炎で降り注ぐ古代遺産を焼き払え!」
陽太の命令に応じる様にアスモデウスが咆哮し。
地面に向かって降り注ぐ無限の古代遺産へと螺旋状の獄炎を吐き出し、ヒーロー達に向かって降り注いだそれを焼き尽くすアスモデウス。
それでも数本の刀剣がマスク・ド・ヒーローズ達に振り下ろされようとした、その時だった。
「ジョーカー!」
深淵の闇を切り開く一条の流星の如き輝きを伴う漆黒の大鎌『宵』wp振るって、ダークメナスを牽制した統哉が叫ぶ。
その統哉の呼びかけに応じる様に。
「やれやれ……仕方ございませんねぇ。まぁ、微力ではございますがお力添えさせて頂きましょうか」
愉快そうに肩を竦めた怪盗ジョーカーが漆黒のマントを翻し、古代遺産とレッドの間に割り込み、無数のトランプを眼前にばらまく。
遺伝子の様に編み上げられた無数のトランプの鎖が結界を形成し、残された数本の刀剣を巻き取り失速させ、そのまま落下。
マントが軽く風に靡いて見えたその姿。
その腰に帯びた何かを見つけたレッドが思わず、と言った様に息を飲む。
「やはりあなたは……!」
呻く様にレッドが怪盗ジョーカーに何かを告げようとした、その瞬間。
レッドの意識が微かに乱れたその瞬間を狙って、邪神オルランドゥの力が強化され、失われし力の欠片の拘束を解こうとした。
「リーダー!」
ブルーの鋭い声に叱咤されたレッドが、直ぐに邪神オルランドゥへと意識を戻す。
「ううっ……邪神の力がこれ程だなんて……知らなかったんだな……!」
「くっ、うぅぅ……!」
脂汗を流しながらのクラブ・ザ・イエローの呻き声に、喘ぐ様に荒く肩で息をつくピンク。
「ピンクさん!」
後背の様子に気がついたユーフィがピンクに呼びかけると、ピンクは大丈夫ですよ、と苦しげな表情の儘に口元に笑みを作って見せた。
その手がまるで、其処から力を分けて貰おうとするかの様にその胸のダブルクロスを握りしめている。
だが……ダークメナスは止まらない。
『我等が大望を果たし、同志達の無念を晴らすため、汝等、一切の希望を捨てよ!』
叫びと共に、構えていた六枚羽根から日常(セカイ)に滅びを齎す衝撃波を大地に向けて放射する。
「……させられるかよっ!」
無限にも等しい、その一瞬。
その一瞬に、殺気を隠さぬままの敬輔が、赤黒く光り輝く黒剣を一閃。
殺意の乗った漆黒と白の綯い交ぜになった斬撃の衝撃波が空間を抉り取り、六枚羽根から放射されたそれと大激突。
大轟音と共に一部が相殺され、それでも何撃かの衝撃波が敬輔の其れを潜り抜けてヒーロー達に迫ったが……。
「彼等の一振りの剣たるロード・ハガネが、誓いを、正義(ねがい)を絶やさせることなどさせはしない」
ロード・ハガネが小さく呟き、衝撃波の残滓を真正面から受け止める。
滅びを齎す、と言われる程のあまりの衝撃に思わず体を傾がせながらも、鐵断・黒陽を構えたままに旭は、その般若面の奥で微笑を閃かせた。
「大丈夫だよ、ヒーロー。俺は、ロード・ハガネはこの程度の滅びには屈しない」
『我が力の前では、汝の無敵もまた、無力かと思うたが……認識を一度改めねばなるまいか』
冷徹に、そう呟きながら。
その背の光羽根を、今度は光矢の様に戦場全体に降り注がせるダークメナス。
それに応じる様に、千尋が無数の焦茶色のオーラを纏った鳥威を展開。
それは、ディアボロスエンジンをフルドライブさせて肉薄し、ダークメナスに続けざまの蹴撃を叩き付けるユーフィと。
全身から流血しながらも、口元の不敵な笑みを崩さぬ儘に鉤爪をダークメナスに乱打するキリカを守る。
だが、鳥威は片端から千々に破れ、そのまま地表へと落下。
更にダークメナスの勢いに乗じる様に、邪神オルランドゥの力がより一層、その力を否応なしに増していった。
「ぐうっ……?!」
思わぬ圧迫感に呻き声を上げるレッド。
イエローやピンクに至っては、最早声を上げることも叶わぬか、唯々歯を食いしばり、邪神の力を相殺するのに注力を注いでいた。
顔色を蒼白にさせているイエローとピンクの姿を横目に捕らえ、そうか、とロード・ハガネが胸中で呻く。
(「ダークメナスがこうして時間を稼げば稼ぐ程……」)
邪神オルランドゥの力は高まり、それだけヒーロー達の力の影響下から抜け出せる可能性が高くなっていく。
(「……厳しいな。あの時戦った邪神と個体としては同じ筈なのに、その力は否応なしに高まっている」)
アスモデウスに絶えず獄炎を解放させて、古代遺産による猛攻を凌いでいる陽太もまた、ロード・ハガネと同様の結論に至ったか、冴え渡っている思考で次の一手を思案し続けている。
敬輔もダークメナスの後背に回り込もうとするが、キリカとユーフィと統哉の波状攻撃を、高速移動でいなす彼女の背は中々取れない。
――ポタリ、ポタリ。
全身を朱に染めながら滴り落ちるキリカの鮮血が、大地を叩く音が静かに響いた、その時。
「……ブルー。敵に一鎗馳走するための策はあるかい?」
旭が鐵断・黒陽の炉心から噴き出す黒焔を、滞留する溶岩の如く溜めながら、必死に邪神オルランドゥを食い止めるブルーに問うと。
「……ある」
その額から溢れる汗が目に染みて涙が零れるのも構わずにブルーが冷静に告げた。
険しい視線を、邪神オルランドゥへと向けた儘に。
「それは?」
その、旭の……他者の『正義』に味方する、一振りの剣(ハガネ)の問いかけに。
ブルーがそれは、と小さく呻く。
「相殺している僕達側の均衡を崩せば良い。僕達がオルランドゥを食い止めるのに精一杯な結果、ダークメナスがその力を存分に発揮できるならば、力の天秤を僕達側に傾ければ……」
「ダークメナスの動きと、俺達の動きの均衡も崩れる、と言う事だね」
そう告げる旭の呟きに、そうだね、とブルーが小さく頷いた。
(「けれども、その為には如何しても、後少しだけ神々の欠片の力が足りない」)
誰かが暴走し、自己犠牲に殉じれば、恐らくはこの均衡は完全に崩れるだろう。
その僅かな時間さえ捻出できれば、『秘密結社スナーク』であれば確実にダークメナスを倒せる筈だ。
其処まで読んでいながらも、ブルーはそれを言の葉に乗せることは出来ない。
そんな事をすれば、誰が何をするのかなんて、言わなくとも理解ってしまうから。
(「でも、街の人の為ならば、僕達の命が失われるのを恐れるなんて……」)
そうブルーが覚悟を定めようとした、正にその時。
「ならば、答えは簡単だな。そうだろう? ……ジョーカー」
『宵』による幾度目かの一撃をダークメナスに受け流された統哉が、怪盗ジョーカーに、そう、問いかけていた。
●
「……はて? ヘル統哉? 一体何を仰っていらっしゃるのでしょうか?」
その統哉の呼びかけに。
まるで言わんとすることを分かっているかの様に。
怪盗ジョーカーが些か道化師めいた口調で両手を広げるその様子に、統哉が思わず苦笑を零す。
「ヒーローと、ヴィラン。正直その違いは、紙一重だと俺は思う」
――誰かの『正義』は、誰かにとっての『悪』かも知れない。
――誰かの『悪』と呼ぶ行いは、誰かを救う『正義』なのかも知れない。
嘗て、在る世界で、苛烈な正義感故に『正義という名の暴力』を振り撒いた己を『悪』と称した者がいる。
けれども彼の、旭の行いを他者が見た時、それは『正義』だったのかも知れない。
(「……そうか。緑髪のにーちゃんがレッドに言っていた、あの高倉・義時と言う武士の行いは……」
ある者から見れば、『悪』だったかも知れないが。
義時と言う武士とその仲間達にとっては、『正義』だったに違いないのだ。
そう……オブリビオンを倒す猟兵達の『正義』が、『オブリビオン』にとっては、『悪』と見做されるのと同様に。
「敬輔も言ってくれた。光と影は表裏一体のものだって。そして、ヒーローが『光』であるとするならば……ヴィランはきっと、『影』でもある」
――故に。
――♪
グリモア・ムジカに自らの歌を奏でさせながら美雪がジョーカー、と呼びかけた。
「今、貴様が借りている仮面の下のその体。『現在』のジョーカー。その青年は……マスク・ド・ヒーローズの一員だったのではないか?」
その美雪の言の葉に。
怪盗ジョーカーは戯けた様に肩を竦める一方で。
レッドが、思わず、と言った様に目を見開き、息を呑んでいた。
「さぁて、何のことでございましょうか、フロイライン美雪? 私は只の力なき怪盗。自らのスリルを求めて此処にやってきた、只のヴィランでございますよ?」
冗談めかした笑みを、仮面の奥で浮かべる怪盗ジョーカーに。
「……う……そだ……」
レッドが呻く様に、喘ぐ様に呟いている。
「でも……だって……あの人は……兄……さんは……」
――もう……。
自分を、この日常(セカイ)を守って……。
冗談めかした怪盗ジョーカーの其れにニャハハ、と統哉が笑い、更に言の葉を紡ぎ続けようとした、その時。
『汝等……斯様な力無き者に、何を期待するというのか! 度し難い! 万死に値する!』
ダークメナスがその背の六枚羽根に宿した怨念達を収束し、全てに混沌を齎す破壊の弾丸を生み出し、統哉を消失させようとするが。
「私達の前でその様な隙を見せることが出来るとは……片腹痛いな」
統哉に完全に意識の向いた、ダークメナスの間隙を突いて。
全身を朱に染めたキリカが口から血を零しながら、その身を覆う鮮血の呪詛を鉤爪に纏わせて、袈裟と逆袈裟に、同時に振るう。
その瞬間、銀爪に混じったデゼス・ポアの錆色の刃と鮮血の呪詛が絡み合った。
其れは、全てを引き裂く鮮血の刃と化して、ダークメナスの両肩から両脇腹にかけてを深々と切り裂き。
「ユーフィ」
そのまま前傾姿勢になって擦れ違い、その背をダークメナスに向けたキリカの合図に。
「絶対に……やらせませんから!」
無限の勇気と共にユーフィが力強く頷き、その両拳を蒼穹のオーラで覆い尽くす。
ディアボロスエンジンがオーバーヒート寸前なのか、悲鳴の様なけたたましい駆動音をあげるが、ユーフィが恐れることなくダークメナスに突進。
「我は掲げる、闇を貫く蛮勇の……」
叫びと共にキリカのその背を足掛かりに、深々と腰を落として蒼穹のオーラ纏いし左拳を真っ直ぐに、ダークメナスの背中に突き込んだ。
『ゴガァッ?!』
ミシリ、とその背に罅が入る嫌な音を聞きながら呻くダークメナスの隙を突いて、キリカが行け、と自らの全力を込めてユーフィをダークメナスの方へと押し出すと。
「――蛮勇の拳……轟かせ!」
ユーフィがその右拳の蒼穹を暁光のオーラへと変えて、更なる拳の……否、パイルバンカーから射出される杭の如き一撃を解放した。
それはユーフィの、必殺の一撃。
――麗掌破魂杭。
それは、天にも昇る必殺の一手。
――悪しき魂すら打ち砕く、暁光の杭。
その一撃がダークメナスを大きくよろけさせ、やむなく統哉への攻撃を中断、傷だらけのユーフィとキリカの方を振り向いた、その刹那。
「調子に乗るなよ」
呟きと同時に、結詞で引き寄せた烏喙を千尋が再び投擲した。
投擲された黒塗りの短刀は、青き炎を曳いてダークメナスの身を貫き、その飛翔能力を弱体化させ。
「……行けよ」
その様子を見てそう告げる千尋の呼びかけに応じる様に。
「――叩き斬る!」
たんっ、と勢いよく大地を蹴った敬輔が、遂にその背面に回り込み、赤黒く光り輝く黒剣を、横一文字に一閃した。
赤と黒と白の綯い交ぜになった横光りの一閃が、ダークメナスの防御用の羽根を切り落とす。
『汝等……未だ、我の邪魔をするか……!』
憤怒に満ちた叫びをダークメナスが上げるその間に。
統哉が、怪盗ジョーカーにニャハハ、と改めて笑いかけた。
「誤魔化さなくていいよ、ジョーカー。そもそも君は、イエローが持つ緊急信号弾の事を知っていたんだから」
その統哉の笑いかけに、怪盗ジョーカーが懐から取り出したトランプを仮面の上から翳すようにする。
戯けたその仕草が如何にも様になっていて、統哉は再度ニャハハ、と笑った。
「白でも、黒でも。ヒーローでも、ヴィランでも、君は君だろ、ジョーカー? だから、だから、今は……」
そこまで告げたところで。
冗談めかした笑いを僅かに消して、会心の笑みを浮かべた統哉がこう告げた。
「人々の命と、女神の安らかな眠りの為に。俺達に力を貸してくれ、ジョーカー」
その、統哉の呼びかけに。
何処か愉快そうにクツクツと笑い声を上げ、やれやれ、と言う様に怪盗ジョーカーが軽く頭を横に振った。
「此度の私は、本来であれば傍観者に過ぎなかった筈なのでございますが……そう言うことなら、私もほんの少しだけ、皆様にお力添え致しましょう」
そう告げるや、否や。
その手を振り翳し、ブルーが口に出さぬ結論に向かおうとしていたレッドの手に、後ろから自らの手を添える怪盗ジョーカー。
否……此度の戦いの『ジョーカー』の体たる、ジョーカー・ザ・ブラック。
「っ?!」
添えられた、その手から流れ込んでくるその熱に。
自らと同じ波動の様にも感じ取ることの出来る其れに。
レッドが思わず目を丸くしてジョーカー・ザー・ブラックを振り返ろうとするが、其れを察した彼は軽く頭を横に振った。
「行けませんよ、ダイヤ・ザ・レッド。それでは、あのヘルロード・ハガネに申し訳が立たなくなってしまいます。今は、マスク・ド・ヒーローズの頭目にして、貴方方の持つ失われし神の力を統合出来る、ダイヤ・ザ・レッドの力が必要なのです」
そのジョーカー・ザ・ブラックの言の葉に。
其方を振り向こうとしていたレッドが振り向くのを止め、そして邪神オルランドゥへと失われし神々の力を集結させる。
その時、レッド・ブルー・ピンク・イエローの背に一頭の巨大な黄金龍が現れた。
龍の咆哮が聞こえるや否や、邪神オルランドゥに絡まる、トランプの4つのマークが螺旋状に連なった鎖が、一際強い黄金の輝きを発し始める。
同時に、其れに連動する様に。
ユーフィの一撃で深手を負ったダークメナスの傷の再生能力が、目に見えて遅くなっていった。
「……今だ!」
その瞬間を、ブレスレットに嵌められたトランプカードで読み取ったのか。
ブルーがすかさずと言った様子で叫ぶのに応じる様に。
「闇が深ければこそ、強く優しき正義の味方はより輝く。それが……この戦いの中で俺が見つけた星(セイギ)であり、願い(セカイ)だから」
自らの『星』は、未だ見つからないけれども。
自らの『星』を……『正義』を見つけたこの、心優しきヒーロー達の為に。
『正義の味方』を諦めた『悪』たるロード・ハガネ……旭が、その全身を黒焔で包み込んだ鐵断・黒陽を、狙いを定めて投擲する。
それは、高速での面移動から縦移動へと動きを切り替え、敬輔達の追撃を躱そうとしたダークメナスの一瞬の隙を、的確に貫いていた。
胸部を貫かれ、噴火直前の活火山の如く溜め込まれていた怒涛のマグマの様な黒焔の奔流に飲み込まれ焼き尽くされるダークメナス。
全身を黒焦げにされ、荒く息をつきながらも六枚羽根を展開、滅びを齎す衝撃波を最後の抵抗、とばかりに叩きつけようとするが。
「敬輔……もう一度、だろ?」
煽る様に呟いた千尋が月烏を握る宵と、鴗鳥を握った暁を結詞で操り肉薄させる。
宵の月烏の刃先と、暁の鴗鳥の頭の青炎がダークメナスを燻る様に襲い掛かり。
……そこに。
「……今度は外さない。これが憎悪を、闇を力にする意味なのだから……!」
顔に残痕を、頭部に肩に打撲傷を付けられたダークメナスの背を、敬輔が黒剣で唐竹割に一閃。
振り下ろされた赤黒く光り輝く剣先から眩い白光が舞い、その六枚羽根を易々と断ち切っていく。
「後一息……一息ですよ、キリカさんっ!」
己が限界を超えた闘志を振り絞ったユーフィが、既に煙を上げつつあるディアボロスエンジンをフル稼働させて肉薄しながら、その顎に向けて膝蹴りを叩きこんだ、その瞬間。
「そうだな」
その銀のオペラマスクの嵌め込まれた鋭い両目から、血涙を流しながら。
キリカが側面に向かって大地を蹴って肉薄し。
「この世界を脅かしていたフォーミュラは既に消えたのだ」
既に自分のものか、それともダークメナスのものか分からない血に塗れた銀の鍵爪を力任せに振り上げて。
「お前も早く会いに行ってやるがいい」
十文字に振り下ろし。
「……寂しがっているだろうからな」
側面から、その背と胸を、X字型に切り裂いた。
『わ……我は……まだ……ま……だ……!』
ヒュー、ヒュー、と血の泡を吹きだしながらも、尚。
同志たちの怨念と憎悪を一身に纏ったダークメナスが周囲に古代遺産達を召喚しようとした、その刹那。
「……後は、君に任せるよ。『星』を見つけたヒーロー達の『正義』の味方。前に進む意思を抱き続けることを決めた……」
旭……否、ロード・ハガネのその囁きと共に。
「……己が、闇と共に散れ」
低く陽太が呟き。
――パァン!
と、ダークメナスの背後……心臓にあたる部分から、一本の濃紺色のアリスランスを突き出していた。
伸長した濃紺のアリスランスの穂先には、異様な輝きを伴う心臓が縫い留められている。
「これで終わりだ、ダークメナス」
そう陽太が呟きながら。
濃紺のアリスランスを引き抜き、淡紅のアリスグレイヴでその心臓を一閃。
グレイヴの剣状の刃先がその心臓を断ち切り、アスモデウスの獄炎が、それを跡形もなく焼き尽くしていく。
心臓を失ったダークメナスの遺体は、そのまま地面へと落下していき……大地に激しい音を立てたのだった。
●
「……安らかに」
ダークメナスの肉体の死を見届けて。
美雪の歌を聞きながら、統哉が『宵』をダークメナスに一閃する。
それは、漆黒の大釜『宵』の刃先に籠められた、願いと祈りの鎮魂曲。
星色の輝きを伴うその一閃が、その憎悪を少しでも晴らせますようにと言う祈りと共に放たれる。
その一撃を受けたダークメナスが光の粒子となって消えていくのを統哉は、ただ、静かに見守っていた。
(「彼女は、猟書家だ」)
仮に此処で倒せたとしても、何処かでまた侵略を続けるのだろう。
――でも……それでも。
(「君の、仲間を想う気持ちは分かるから」)
だから……その願いと祈りを込めて、統哉は、その刃を振るった。
――彼女の魂に、僅かなりとも安らぎが与えられます様に、との願いを込めて。
「これで終わり……か?」
グリモア・ムジカに奏でさせていた音楽を止めながら。
美雪が誰に共なく呟くのに、そうだね、とロード・ハガネから旭へと姿を戻した、旭が頷く。
「ふん……大した相手ではなかったか」
軽く鼻を鳴らしながら、デゼス・ポアとの合体を解除するキリカ。
瞬間、大量出血の反動からか、がくりと大きく体をよろめかせるが。
「おいおい此処に来て出血多量で気絶なんてのは勘弁だぜ?」
と、千尋が皮肉気な笑みを浮かべながら、よろめくキリカの背後に結詞で簡易ストレッチャーを編み上げ、それで受け止める。
そんなキリカの様子を愉快そうに見るジョーカー・ザ・ブラックへと微かに鋭い眼差しを向け、美雪がジョーカー、と問いかけた。
「あなたは、元マスク・ド・ヒーローズだったのか?」
その美雪の問いかけに。
レッドに添えた手をそっと離しながら、クスクスと肩を震わせジョーカーが笑っている。
「いえいえ、私は怪盗です。まあ、私は私なのですが、この体……Mr.ブラックは、嘗てのマスク・ド・ヒーローズの一員であり、そして……」
「兄さん……兄さんなんだろ……?!」
そう叫ぶレッドのその声に。
ジョーカーはまあ、そう言う事にしておきましょうか、とわざとらしく天を仰いで両手を掲げる。
何処迄が本気なのか分からないジョーカーの態度に美雪が溜息をつきながら、懐に忍ばせた鋼鉄製ハリセンに手を伸ばすと。
「さて、これで私の此度の宵の口の役割は終わりです。それでは皆様……Schönen Abend.」
ばさり、と漆黒のマントを翻した。
その瞬間旋風が巻き起こり……怪盗ジョーカーは、それに紛れて姿を消す。
代わりに、そこにヒラリ、ヒラリと零れ落ちたのは、1枚のカード。
溜息をつきつつ、美雪がそれを拾い上げるとそこには……。
「明日の夜23:00、『女神の腕輪』を頂きに、この街の博物館に参上いたします。怪盗ジョーカー」
と言う一枚の予告状。
その予告状を見て。
「……結局」
美雪がフルフルと肩を震わせ。
有無を言わさず鋼鉄製ハリセンを取り出し、罪なき予告状を思いっきりスパーンと一発殴り飛ばし。
「結局お前が手助けをしたのは、女神絡みだったのか~っ!!!!!!!!!!」
と、虚空に向かって、吠えた。
「ニャハハハハハッ……。何というか、ジョーカーらしいね♪」
虚空に向かって吠える美雪を見て、ニヤリと愉快そうに笑う統哉。
千尋が、宵と暁に、キリカとキリカの為に編んだ簡易ストレッチャーを任せ、腹を抱えて笑っている。
「とは言え、それを盗まれるのを防ぐのは、君達ヒーローの仕事だね」
旭の何気ない指摘に、名残惜しそうに怪盗ジョーカーが去って行った後を見送るレッドが気が付き、はっ、とした表情になる。
ブルーもまた、そうだね、と小さく頷き明日の夜に向けての策略を練る間に。
ユーフィが戦いが終わり、その場にしおしおと項垂れる様に座り込んだピンクに向かって笑顔を浮かべた。
「また、機会があったら、一緒に買い物に行きましょうねっ?」
そのユーフィの悪戯っぽい笑顔を見つめて。
ピンクもまた年頃の少女らしい笑顔を浮かべて、はい、と頷き、約束の印と言う様に小指を差し出す。
ピンクの小指にユーフィが笑顔で小指を絡めて、指切りげんまんをするのに合わせた2人のダブルクロスが上下に揺れた。
そんな、ユーフィとピンクの様子を遠巻きに見つめながら。
敬輔が黒剣を納剣する様子を見て、陽太がその肩に軽く手を置く。
「一先ず、終わったな」
その、陽太の呟きに。
「ああ……終わった」
敬輔が軽く頷き返して。
胸中で、マスク・ド・ヒーローズ達にそっと、声を投げかけた。
(「……己が信念、貫き通せよ」)
それが誰に対して向けている言葉なのか、自分でも、よく分からないままに。
――かくて。
ダークメナスとマスク・ド・ヒーローズを巡るこの戦いは終局を迎え。
マスク・ド・ヒーローズ達は、再び自分達の日常(セカイ)へと、帰っていく。
この街を守る『正義のヒーロー戦隊』
その役割を、果たすために。
大成功
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