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墨染の華、清澄なる炎

#カクリヨファンタズム #通常シナリオ #シリアス

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#カクリヨファンタズム
#通常シナリオ
#シリアス


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●ある狐の妖がいた。
 妖はかつて、人に仕えていた。召喚獣として。やがて相棒として。そして、友として。
 彼と共に悪事を働く者を倒すのが楽しかった。彼女と共に夜を闊歩する時間が好きだった。死闘を共にするのも、死に寄り添うことも、今となっては懐かしき思い出だ。
 ──時が経つにつれて、妖は役目を終え眠るようになった。

 妖は夢を見ていた。かつての光景。かつての人々。現世と幽世という形で隔てられる前の話だ。
 夢の内容は、かつての楽しかった日々を繰り返すだけだ。映像として、見ているだけの夢。だがその夢が、まるで拷問のように妖の記憶を刺激し続けた。何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も、戻られるはずのない過去の景色ばかりを見せられる。
 懐かしい、といった感情はない。戻りたい、という感情が心を蝕む。
 ──”澄華(すみか)“。ある女性の名前を囁く。

「ここに、いますよ」

 ──あぁ、そこにいたのか。
 妖は眠れる体を起こし、涙を流した。幾人もの退魔師の中でも、最も付き合いの長かった彼女が顔を見せる。
 わかっている。これが幻だということは。これが夢で、いつか覚める景色であることも。だから、今だけは戻してくれ。
 私の老いた心を、少しだけ潤しておくれ。

「さ、いきましょう。”墨火(ぼっか)“、もう一度あなたと──」

 ──行こう。私を、そちらに連れていってくれ。

●ある魔術師のメイドは、グリモアベースに猟兵を集めていた。
 目元に涙の痕が残っている少年は、皆が集まったのを見て、さっそく概要の説明に入った。

「カクリヨファンタズムにて、カタストロフの前兆を予知しました」

 なんだいつものことか。と、猟兵たちは肩をすくめる。
 カクリヨファンタズムは、戦争の有無なくカタストロフが起こる。いわば世界の均衡が極端な地だ。世界の終焉たるカタストロフの前兆と言われても、場所がカクリヨファンタズムと指定されれば「いつものこと」で済む。
 とはいえ、それを「いつものこと」で済ませれないのが猟兵の役目だ。

「ある妖怪が骸魂と融合し、オブリビオン化しました。皆さまにはこのオブリビオンを撃破、融合元の妖怪の救助を行ってもらいます」

 オブリビオンのいる座標は、分かりやすくも要塞化していた。
 カクリヨの平地に突如できた、巨大な球体。それは模様のついた折り紙が幾重にも並んだ、紙の迷路だ。当然ただの折り紙というわけではなく、コンクリート壁を思わせるほど硬く、燃えたり濡れたりしても破けることのない、異質な折り紙でできている。
 そんな迷路の奥に、オブリビオンはいる。

「墨火遣い『九重・澄華』。……恐らくオレと血縁のあった方です」

 “墨火”という狐の妖を従えた退魔士。その女性こそが、”澄華“という名のオブリビオンだ。この中の墨火が憑依元の妖であり、澄華はカクリヨに流れていた骸魂らしい。
 曰く、澄華という退魔士は数百年前の存在であり、UDCの暦でいう平安に活躍した者のことだ。

 澄華と墨火は非常に親密な関係にあり、彼女が没した後も、墨火は彼女と共に行く夢を見ていた。人間と妖、そこには寿命という壁がある。永遠に共に居られないが故に、孤独を拗らせてしまったのだろう。
 墨火に取り憑く形で復活した退魔士は、今や世界を破壊する脅威だ。

「彼女は自身の呪術と妖を同時に扱います。かつての相棒と再会し、一体化した彼女は恐らく強い……ですが、皆様のお力があれば討伐は可能かと」

 白亜は予知した内容を一通り説明し終えると、手のひらにグリモア──ではなく、折り鶴を差し出した。

「澄華を討った後、どうか墨火を慰めてあげてください。彼は、折り紙が好きだと言っていました」

 折り鶴はふわりと浮き、白亜の背後で開いたグリモアの門へ吸い込まれてゆく。
 行先を案内するように。門の先には、体積を広げつつある折り紙の迷路があった。


天味
 天味です。
 四月も終わりを迎え、葉桜と雨が目立つ季節となりました。今回のシナリオは、そんな出会いと別れ、再会ばかりが訪れるこの春に合わせたものとなります。
 カクリヨファンタズム。そこで独り残された召喚獣が、かつての相棒と再会する話です。

 第一章では、オブリビオン化した彼が作り上げた空間、折り紙の迷路を突破してもらいます。
 迷路の要塞をどのように攻略するかは自由です。強い力でゴリ押したり、まじめに迷路を攻略したりしてもオッケー。どのように進んでも最終的にゴールへ着きます。
 燃えない、濡れないとありましたが、ユーベルコードを使ってでの破壊ならば通ります。

 第二章では、退魔士、『墨火遣い『九重・澄華』』との戦闘になります。オブリビオンの退魔士を討伐し、墨火を救い出しましょう。
 説得や諫めは必要ありませんが、あると戦いやすくなる……かも。

 第三章は日常フレームです。詳しい内容は突破時に断章で公開します。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『無秩序な大迷宮を攻略せよ』

POW   :    気合で走り回って通路を総当りで確認する

SPD   :    通路以外の脱出経路でショートカットを試みる

WIZ   :    無秩序の中に秩序を見出し、最短経路を模索する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

神代・凶津
今回の敵は、俺達と同じ退魔を生業としていた存在。
つまり俺達の大先輩って訳だな、相棒。
「・・・ええ。だから止めてみせます、絶対に。」
おうよ、んじゃ行くとしますかッ!

先ずはこの迷路を越えなきゃいけねえな。んじゃ、頼んだぜ相棒。
「・・・式、召喚【捜し鼠】」
【捜し鼠】を放ってこの折り紙の迷路の情報を収集して出口を捜し出すぜ。

墨火遣い『九重・澄華』ねぇ。
人外を引き連れて退魔師やってるって点は相棒に似てんな。親近感が湧くか?
まあ、狐と仮面じゃベクトルが違うがな。はっはっはっ!!


【技能・式神使い、情報収集】
【アドリブ歓迎】



 歪な球体は、近づくにつれてその姿を露わにする。全体的に卍繋ぎを思わせる表面だが、その中の暗い部分は全て球体迷路への入り口だ。折り紙でできた球体は幾重にも路を作り、今もなお増殖している。
 その証拠に、さも生きているかのように折り紙が面積を広げ、自ら折れて、壁を形成していっている。

 まるで地形を生成するオブリビオンのようだ。
 球体の全体を望める場所に降り立った、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は本体である赤鬼の仮面に手を当てる。

「今回の敵は、俺達と同じ退魔を生業としていた存在──つまり、俺達の大先輩ってワケだな、相棒」
「……ええ」

 赤鬼の仮面のヒーローマスク、その憑依元たる巫女の神代・桜は、凶津の言葉に頷く。
 一人と一枚で一つ、”退魔師”として活動している彼らにとって、遥か昔より活動していた"退魔士”の存在は敬うべきものだ。しかし、今はそれがオブリビオンとして復活。カタストロフを起こさんとしている。
 起こりうる滅びの吉兆は、目の前の折り紙の迷路。このまま放置すれば、いずれこの世界は折り紙に覆われてしまうのだろうか。それだけは、退魔師として止めなければならない。

「だから止めてみせます、絶対に」
「おうよ、んじゃ行くとしますかッ!」
「先に偵察を行います」
「行くって言ったのにィ!?ま、情報収集は大事だよな!」

 桜は片手を凶津から離すと、式神の一体を口寄せする。彼女を包むように風が吹き荒れ、それは薄っすらと鼠のカタチを作り上げてゆく。

「……式、召喚【捜し鼠】」

 百は超えるだろう、白色の鼠が桜の足元に集まる。これらすべては桜が召喚した式神であり、捜索に強い召喚獣だ。集まった鼠たちは一斉に桜へ顔を上げ、一匹ずつ球体の迷路へと走ってゆく。
 一匹ずつばらけて入り、百もいた鼠は瞬く間に姿を消していった。

「しっかし、墨火遣い『九重・澄華』ねぇ。人外を引き連れて退魔士やってるって点は相棒に似てんな?親近感が湧くか?」
「……」

 茶々を入れる凶津だが、桜は集中しているのか反応はない。しかし凶津の言う通り、桜にも感じるものはあった。
 仮面と人間、退魔師という関係でありながらも奇妙な関係ではある。凶津は正体不明の謎の仮面だが、桜にとっては互いに"相棒”と呼べるほどの、兄妹めいた仲である。
 ブリーフィングの話によれば、討伐対象たる九重・澄華も互いに"相棒”と呼べる狐の妖がいるという。確かに、共通点は多い。

「まあ、狐と仮面じゃベクトルが違うがな!はっはっはっ!!」
「うるさい」
「んぉぉ!?」

 凶津の口を遮るように、桜は仮面の口辺りを掴んでズラす。彼女は球体の表面、右上辺りにある一点を見据え、いつでも戦闘ができるよう自らの得物を召喚した。
 捉えたのだ。鼠の一匹が、迷路を攻略した。球体の中心にいる巫女の姿を発見し、その情報を最後に絶命するのを彼女は見届けた。迷路のゴールまでに敵はいない。多少路が変化を起こしているものの、奥まで行くまでの情報は残っている。

「……よーぅし、ルート確認。行くか?」
「ええ」
「んなら、とっとと行っちまおうぜ。相棒」

 式神と情報共有をした凶津は、自身を正位置へと戻させて迷路へと向かう。
 相棒を持つ者、いつか別れが訪れる日は来る。その時、こうして災厄の元にならなければいいのだが、現実はそうもいかないのだろう。澄華の相棒であった、墨火という名の狐の妖。片や正体不明の仮面である自身にも、いつかあの狐の妖と同じ想いをする日が訪れるのだろうか。その時には、世界を破壊するほどの懐かしみを覚えるのだろうか。
 今はまだ、神の溝知る。

成功 🔵​🔵​🔴​

日上・文女
「これは...まさかそんな...」
迷宮に踏み込んでしばらく。折紙の壁を綺麗だなーとか暢気に眺めながら進んで、自分が完全に迷ってることに気付く。
探索に便利なUCなんて使えないしとりあえず総当りで頑張ってみようとした結果、完全に自業自得の迷子。
「はいそうです、私がばかでした...」
頭抱えて打開策を考える。
来た道はわからない。バットを倒してダウジングも無理だった。
「うぅ...じゃあもうこれしか...」
思い付いたのは暴力的解決法。綺麗な壁を壊すのは、たとえオブリビオンによって作られた物でも少し気が咎める。
壁に向かってUC発動。風穴を空けた先がせめて目的地であることを祈りながら進む。

〈アドリブ歓迎〉



 夢は自覚すると覚めるのが大概だ。自覚してもなお覚めない明晰夢もあるが、今回ばかりは夢とは違う。例えばテーマパークに来てハイテンションになり、そのまま夕方になるまで「楽しかったなぁ」という気持ちで満たされている時のような感覚。
 時間を忘れ、我も忘れ、一時間や二時間と長い時間を過ごしていたはずなのに、さも一分か二分かの出来事のように思えてしまう現象。

 を、人間の女性、日上・文女(アイムノットヒーロー・f16173)は敵陣のど真ん中で体感していた。

「これは……まさか、そんな……」

 折り紙でできた迷路は、美術品のように美しかった。何枚もの色紙を重ねて作られたソレは、色とりどりであるだけでなく、紙ごとに模様も違う。季節であったり、動物であったり、はたまた絵そのものに特に意味はなかったりと、バリエーション豊富な迷路に、彼女は囚われてしまっていた。
 探索に便利なUCはない。だが所詮は迷路。入り口は多くとも最終的に最奥まで行けるよう作られているはずだ。
 というわけで、総当たりで攻略しに行った彼女はものの見事に迷子になった。完全に自業自得である。

「はいそうです、私がばかでした……」

 ずぅーん、とうなだれる文女。だがすぐに「そうだ!」と閃く。
 思いついた方法の一つとして、持っていた”通販した合金バット”を立てて、傾くのを待つ。からんと音を立てて倒れたバットの方向へ向かって走れば即解決!
 と、ダウジングを試した彼女だが、結果は二度目のずぅーんであった。
 その他、頭ごなしに思いついた打開策を考えたものの、なかなかいい案は浮かばない。

「というか、迷路の模様が変わってる……!」

 今更だが、この迷路は生きている。オブリビオンが生み出し、幽世を侵食するための折り紙の迷路だ。文女は先ほどいた場所の模様が違うことに気づき、「もうここから出られないんじゃないか」と戦慄した。
 このままだとマジで囚われたままである。

「うぅ……じゃあ、もうこれしか」

 というわけで、最後の最後まで取っておいた最終手段を使うことにした。
 暴力的解決方法。いかにオブリビオンが生み出したといえど、綺麗な壁を壊すのは気が引ける。だがそうは言ってられなくなった。文女は壁から一歩下がり、そして拳を握って走りだした。
 もうどうにでもなれ。いやどうにかなって。『無我夢中全力攻撃(ヤケッパチインパクト)』。

「なんとかなれー!!」

 ズゴォオンッ!!とおおよそ紙から鳴るはずのない、岩石が砕け散るような音が鳴り響く。後先考えない全力の一撃は、頑丈な折り紙の壁をに風穴を開け、なんと道を切り開いた。
 大穴から吹き付ける風。間違いない、どこかゴールに近い場所へとアクセスできている。

「……や、やった!?」

 パンチの衝撃で生じた砂煙が拭われ、彼女の目の前に広がったのは……カクリヨファンタズムの草原と夜空だった。

「…………」

 どうやらゴール……ではなく、スタート地点までのショートカットを開いてしまったらしい。
 だが、これまでの思いつきが彼女の脳を刺激する。
 球体の表面が迷路の入り口となっており、この迷路は球体の中心がゴールになる。つまり、球体からまっすぐ中心を貫くように直線的に穴を開けばゴールまで一直線なのでは?

「…………もういっちょぉぉぉ!!」

 ──結果的に、彼女はゴールまでものの数分で近づけた。一時間も二時間も迷っていたのが、まるで嘘のように。

成功 🔵​🔵​🔴​

大神・零児(サポート)
人狼
妖剣士×黒騎士
30歳男
普段(俺、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)
怒った時(俺、てめぇ、か、だろ、かよ、~か?)

探索や調査、追跡等は内容に即した使えそうなUCを選択し、技能やアイテムも駆使
またマルチギアイヤフォンという通信機を仲間に配って即時情報共有も可能

戦闘の際は敵のUCにメタ、カウンター、一方的に攻撃ができるようなUCを選択又は状況を技能やアイテムを駆使して作り出し、マルチグレネードの機能を選択して使ったり、妖刀「魂喰」や黒剣「黒鞘」を駆使しての剣士の動き等で戦う

基本戦闘型キャラ
ギャグシナリオはツッコミのような立ち位置
自身に触れられる危険がなければお色気も少々いける

アドリブ共闘等可



 人狼の男、大神・零児(人狼の妖剣士・f01283)は折り紙の迷路の中を歩いていた。
 敵のいない、静寂な場所。折り紙が幾重にも重ねられ、色とりどりの模様に目が移る。しかし零児は武器を手に、いつでも戦闘が行えるよう構えていた。

「さて、反応は……」

 零児は迷路に入る際、あるユーベルコードを発動していた。『悪夢変異「魔炎幽狼」(フェンリル・ゴーストウルフ)』。大小さまざまな狼の形をした炎を呼び出し、それを操るものだ。
 とある悪夢から生まれた、”魔狼”を召喚する技である。

 数十体もの魔狼を呼び出した彼は、他にも存在する迷路の入り口へとそれらを忍ばせた。一つ一つ個別に操作し、マッピングするように迷路を攻略してゆく。
 零児は戦闘態勢で全ての魔狼を操っていた。脳裏で魔狼の動きを処理し、踏み出す一歩にも念を入れて、目に見えるもの全てに警戒する。自身も探索している中で、彼はとてつもない集中力を使っていた。

「三割は視えた。猟兵が歩いている痕も、ある。残り、ゴールは──!」

 ぷつん、と糸が切れるような感覚。刹那、零児は帯刀している"黒剣「黒鞘」”に手をかけた。魔狼の一体が攻撃され、消えてしまったのだ。
 敵か、罠か、魔狼が消える寸前の景色を想起し──気づく。魔狼の一体がゴールに入り、墨色の炎にかき消された瞬間を。

「そこか!」

 すぐさま零児は歩いた道を引き返し、ゴールへと走る。
 マッピングをしていたために、近道はすぐに理解した。それまで集中していた周辺への警戒を薄め、たどり着くことのみに徹する。いざとなれば、剣を抜けるように。
 走り、駆け、そしてゴールへ。

 迷路を抜けると、そこは広い空間だった。
 おおよそ百メートルもある、球体状の空間。中心には平面の足場があり、零児がたどり着いたゴールから蜘蛛の巣状に橋がかけられていた。
 一つの戦場。用意されたと言わんばかりの闘技場の上に、彼女はいた。

「……今度は、ちゃんと猟兵さんのようですね」
「そうか、てめぇが」

 妖狐の女性、『九重・澄華』は妖艶に微笑む。彼女に巻き付くように広がる、墨色の炎、『墨火』もまた笑い、一人と一体は零児を捉える。

「見ていただけましたか?墨火の無垢なる想い……美しかったでしょう?」

 彼女の問いかけに、零児はふと思い出す。
 今回、オブリビオン化した妖怪、『墨火』は折り紙が好きだったという。その好きなものでできた迷路には、一切敵も、罠もなかった。まるで「じっくり見て欲しい」と言わんばかりの、純粋な迷路。飾られた景色は、確かに美しいと言えるものだった。
 しかし、零児はあえて逆らう。

「いいや──けばけばしかったな」

 常に集中しながら迷路を攻略していた彼にとって、目移りの激しい邪魔な景色だった。そもそも、あの折り紙がこのままカクリヨを侵食してしまうのだ。美しいが故にそれを許容する、という真似はできなかった。
 黒剣「黒鞘」を両手に持ち、零児は抜刀する。歴代所持者の思念を宿し、相手の魂を吸い取る剣──"妖刀「魂喰」”。骸魂に囚われた妖怪にとって、これほど有効な剣はない。

「悪いが俺にはてめぇの、そこの狐坊やの趣味は合わなさそうだ」
「……そう。であれば、戦いましょう」

 二人は互いに得物を構え、戦いの火蓋を開いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

楜沢・紺(サポート)
12歳のサムライエンパイア出身の妖狐の男の子です
テレビや漫画などから現代的な知識は多少理解して
スマホなども使えて流行のゲームも遊んだりします
何でも興味津々の子供っぽい性格ですが

戦闘が始まれば剣士として
命の取り合いでは真剣に容赦無く戦います

よい行いをしたり経験を積む事で尻尾が増えるという信仰があり
今の所尻尾は4本あります。
それで刀を握り戦闘を行います。

技能は本人が修得しているというより
装備している刀にその技能に対応する能力がある感じです
どの刀にどの技能があるかなどは明確に描写しなくて大丈夫です

困ってる人は見過ごせない性格で
基本的なルールは守ろうとします

特にNGなどはありません



 その頃、迷路を駆ける猟兵がもう一人いた。
 妖狐の少年、楜沢・紺(四ツ尾の妖狐・f01279)は急いでゴールへと向かうが、その道は遠い。

「やっと、やっと見つけた!」

 折り紙の迷路を攻略していた彼は、すっかり迷ってしまっていた。迷路を飾る折り紙を見ていたのもあるが、元の道がどこだったか、見失ってしまったのである。
 迷路は今もカクリヨを侵食しようと若干蠢いているので、ところどころで覚えていたはずの模様が変わっていたり、道がいつの間にか違うものになっていたりと、紺を混乱させた。

 しかし、そんな彼でもゴール地点は既に捉えていた。
 『フォックスファイア』を使い、バラバラに撒いた狐日にも他の道を探索させていた彼は、ついにゴールを見つけることができたのだ。なお、今いる場所からゴールはかなり遠い。

「けど、酷いよ!せっかく見つけたのに消されるなんて!」

 ゴールを見つけた狐火は、すぐにその場にいるオブリビオンに消されてしまった。おそらくそれが目標であるオブリビオンだろう。
 全力疾走する紺は、迷路の中をまだ走る。

「えーっと……こっち、じゃないこっち!」

 そろそろ朧気になりつつある記憶を頼りに、紺は右へ進んだ。
 迷路の先には広い空間への入り口らしい門があり、そこから黒い引きずった痕のようなものが地面に引かれている。
 間違いなく、この先にいる。

「──!」

 紺は意識を切り替え、走りながら剣の一つを手に取った。
 迷路で迷っていた少年はもういない。一人の剣士は、囚われてしまった妖怪を救うために剣を抜く。
 それが思い出という温かいものに包まれていたとしても、猟兵として、一人の剣士として、見過ごすわけにはいかなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『墨火遣い『九重・澄華』』

POW   :    爆怨符
【呪符の投射 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【濃縮した呪怨の爆発】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    転依・黒狐『墨火』
対象の攻撃を軽減する【墨火憑依状態 】に変身しつつ、【追尾する墨色の炎弾】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    『墨火』召喚
自身の【持つ呪符の一枚 】を【召喚獣『墨火』】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠九重・白亜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「本来、私は憑依される側でした」

 彼女は語る。
 狐火の妖怪である『墨火』は、その黒一色の体故に、他の妖怪から恐れられていたという。澄華はそんな彼の手を取り、契約を結んだ。
 ”狐の嫁入り”という儀式において、狐火はそれに用いる松明とされている。まさに婚約の灯となった墨火は、澄華に取り付くことで彼女を妖狐へと昇華させた。

「けど今は、逆に私がこの子に憑依しているんです。不思議でしょう?」

 死後、人間であった彼女の魂は骸の海に没した。
 拠り所を失った狐火は妖狐として生き、長い時間を幽世で過ごした。人間には決して生きれぬ時を経て、彼は二度目の孤独を味わった。そんな時に、もう一度手を差し伸べられたのだ。
 逢いたかった人に。もう二度と逢えない者に。だからこそ、もう二度と手を離さぬよう折り紙の檻を作り出した。

「私も、この子も、離れたくないんですよ。ふふっ……自分でも言うのも何ですけど、まるで仲睦まじい夫婦のよう」

 愛しき者が生んだ、想いの中で。
 一人と一匹の戦いが、無慈悲に開かれた。
神代・凶津
よう、大先輩方。
割りかし似た者同士、こんな形で会いたくはなかったね。
「・・・貴女逹を止めに来ました。」
と、言う訳だ。アンタ逹を再び引き裂かせて貰う。
恨むな、とは言わねえが覚悟はして貰うぜッ!

先手必勝、妖刀で距離を詰めて攻撃だ。敵の攻撃は見切って避けたり妖刀で受け流したりしながら攻防するぜ。

九重・澄華が『墨火』召喚をしたらこっちも対抗だ、頼んだぜ相棒ッ!
「・・・式、召喚【飛び鎌鼬】」
鎌鼬に墨火の相手をさせるぜ。どんなに強力だろうとこの数は易々と突破できねえだろッ!
その隙に九重・澄華を仕留めるッ!


【技能・先制攻撃、見切り、受け流し、式神使い】
【アドリブ歓迎】



「よお、大先輩方」

 迷路の最奥で待ち構える、九重・澄華。その前に立ったのは、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)だった。
 既に妖刀を抜いている彼、もとい彼女──神代・桜は剣を上段に構え、相手を捉える。

「……おや、あなたたちは」
「割かし似た者同士、こんな形で会いたくはなかったね」
「えぇ、あなたとはどこか親近感を感じます。そちらのお方も」

 澄華は剣を向けられても、柔和に微笑むだけ。しかし既に準備はできているのだろう、下げられた左手には一枚の札を取っていた。
 片やお面、片や妖狐。種族は違えど、"相棒”であることは同じ。もし彼女が現代に生きていたのならば、どこか違う道を歩めたのかもしれない。だが、過去は過去でしかない。凶津は猟兵、澄華はオブリビオン、それだけで対立関係は成り立つ。

「……貴女達を止めに来ました」
「と、言う訳だ。アンタ達を再び引き裂かせて貰う」

 先に動いたのは、猟兵からだった。
 妖刀を上段に構えたまま一歩踏み出し、殺気を制御し相手の無意識に付け込む。"縮地”と呼ばれる、まるで跳躍してきたように接近する古武術の一つだ。疑似的な縮地で桜は澄華に迫る。

 準備万端であったにも関わらず、澄華は隙を突かれたことに驚愕するが、即座に札を短剣のように振るい剣先を弾く。和紙の札は墨色の炎を纏い、あらぬ硬さを帯びていた。

「チッ!だがそうでなくっちゃな!」

 桜は妖刀の突きから、袈裟斬り、横一閃と隙なく斬撃を与える。先手は防がれたものの、澄華は攻撃に転じることができず防御に集中している。一撃が重いためか、彼女が攻撃を防ぐ度に体幹がよろけているのが見えていた。
 今度こそ、と桜はそこに突きの一撃をお見舞いした。

 だが、澄華もそこで終わらない。防御から一転、札を突き出して召喚する。最愛の相棒、『墨火』を。

「共に討ちましょう──『墨火』!」
「ッ!」

 突きを放つ寸前、凶津は札から湧き出した殺気を見切り、桜を引っ張って大きく後退する。瞬間、先ほどまで桜がいた場所が墨色の炎に包まれた。
 その中心には、手のひらに乗りそうなほどの、小さな狐火が佇む。

「あぁ、共にこの想いを護らん──」
「来やがったぜ……頼んだ、相棒!」
「──式、召喚。【飛び鎌鼬】!」

 体躯に似つかわしくない、しゃがれた男の声。増幅する殺意に、凶津は冷や汗を流す。だが、これを待っていた。
 相棒の声に応え、桜は即座に『式神【飛び鎌鼬】』を発動した。名前通り、鼬の式神が呼びかけに応じ姿を現す。その数は百を超えていた。

 召喚された鎌鼬は、刃状の尾を振るいながら墨火へ突撃してゆく。墨火は一つ火を噴き、突っ込んできた鎌鼬を即座に処理するが、隙を与えることなく二匹、三匹と突撃される。これにより、追い立てられるように、墨火は澄華から距離を取ってしまう。
 澄華と桜、鎌鼬らと墨火、それぞれ分かれて戦闘は続く。澄華は相変わらず墨色の札で剣を弾き、桜は剣術で澄華の集中力を削ってゆく。

「っ、まだまだ!墨火!」
「そっちには行かせねぇよ!」

 共に応戦するはずの墨火は、百を超える鎌鼬の対処に追われていた。異色の炎は鎌鼬を易々と燃やすものの、数の多さ故に澄華の元へ行けなかった。
 もう一撃。桜が一閃を与えた瞬間、澄華の体幹がブレたのを見た。そこへ、彼女は破魔を込めた突きを穿つ。

「──ッッ!!」

 最後の一撃もまた札で防がれたものの、剣先は澄華の胸元まで届いていた。撥ねられたように澄華は飛び、ようやく鎌鼬を全て処理したのか、墨火は桜に向けて炎を放ちつつ澄華の元へ向かう。

「げぇッ!?」
「ふッ!」

 桜は剣に纏わせていた破魔の力を、結界へ転用して障壁を作り出す。炎は結界で防がれ、凶津と桜は難を乗り切った。
 ──胸元を抑え、深呼吸をする澄華がまだ残っているが。

「ヒュー……おっかねぇ」
「貴様こそ……」

 凶津と墨火が互いに嫌味をぶつけるが、桜と澄華は互いに見据えたまま。
 戦いはまだ終わりそうにない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エダ・サルファー(サポート)
アックス&ウィザーズ出身の聖職者で冒険者です。
義侠心が強く直情的な傾向があります。
一方で、冒険者としての経験から割り切るのも切り替えるのも早いです。
自分の思想や信条、信仰を押し付けることはしません。
他人のそれも基本的に否定はしません。
聖職者っぽいことはたまにします。
難しいことを考えるのが苦手で、大抵のことは力と祈りで解決できると言って憚りません。
とはいえ、必要とあらば多少は頭を使う努力をします。
戦闘スタイルは格闘で、ユーベルコードは状況とノリで指定のものをどれでも使います。
ただ、ここぞでは必殺聖拳突きを使うことが多いです。

以上を基本の傾向として、状況に応じて適当に動かしていただければ幸いです。



 ドワーフの女性、エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)は考える。相手はオブリビオン、しかしその正体は骸魂に憑りつかれた妖怪──さらにその妖怪と骸魂は、かつて相棒関係にあったという。
 相棒というよりは、相思相愛のようにも思えたが、エダは拳を握りしめて雑念を払う。

「……面倒な相手だな」

 今の澄華は、七夕の日の織姫だ。彦星と再会した暁に、オブリビオンと化しているだけ。幸い、殴れば彦星から織姫は離れてくれるだろうが、そう簡単にはできない。
 彼女の持つ呪符が、エダの判断を渋らせていた。

「用心深い。けど、正しい判断です」
「お生憎様、お前の呪符の種は割れてんだ。さっさと投げろよ」

 『爆怨符』という名らしい。澄華のユーべルコードは、呪符が命中することで爆発を起こすものだ。ただ、これは一度外すと二度目も外すという制約がある。
 それならば、呪符を回避すれば、あとは簡単に対処できる。……のだが、エダの持ちうるユーべルコードの大半は近接技だ。接近すれば、呪符を回避できる確率は格段に下がる。

 彼女もそれをよく理解しているのだろう。彼我の距離が十数メートルと離れている今、どちらも睨み合うだけで動こうとはしない。片や、呪符を当てなければならない。片や、己の拳のみが攻撃手段。お互い、一発勝負だからだ。
 「先に投げろ」と言わんばかりに、エダは澄華を睨む。だが、澄華もまた「先にかかってこい」と言わんばかりに笑顔を見せる。

 数十秒も続く静寂。動いたのは、戦闘で生じた折り紙の破片が落ちた音。それが鳴った瞬間だった。

「見よ!鍛錬と祈りが生み出す力をッ!!」
「怨みよ、爆ぜ──!!」

 同時に動いた。
 エダは瞬時に目に見えぬ力場を発生させ、籠手と同じ黒を基調とした巨大な拳を生成する。『奥義・巨人式』。真の姿へと切り替わり、祈りとドワーフ力を組み合わせた、巨人の如き力を生み出すユーべルコードだ。
 澄華は持っていた呪符に、オブリビオンとしての呪怨を注ぐ。黒々とした炎が纏わりつき、一層禍々しさが増した一枚の札を手に構える。フェイントもなく、彼女はまっすぐエダに投射するつもりなのだろう。

「てぇェェ──っりゃァァッ!!」
「ッ!?」

 そして、勝負に勝ったのはエダだ。
 呪符が投射された瞬間、エダは拳を使って跳び上がる。たった一発だけで地面に大穴が開けられ、その衝撃でぶっ飛んだ彼女は、宙で回転しながら澄華へと肉薄する。重力と回転、そして祈りとドワーフ力。四つの力が込められた拳を真に受ければ、どうなるかは明白だった。
 だが、澄華は諦めない。ここに最愛の相棒がいるのだから。

「──お願い、墨火!」
「承知ッ!」

 澄華は相棒の墨火を動かし、彼方へと飛んでしまった呪符へと向かわせる。投げて当たらないのであれば、相棒を使ってでも着弾させる。黒色の狐火が瞬時に呪符へと飛びつき、口で呪符が咥えられた。

「は!?ズル、ッ!!」

 回避できたはずのミサイルが、いきなりホーミングミサイルに変わったようなもの。エダはギョッとするが、瞬時に拳の一つを犠牲にすることに決める。
 左手の一本が無くなろうが、まだ右手がある。回転しながら力場から左の巨拳を切り離し、迫りくる墨火へと放つ。そして、

「んにゃろォッ!!」
「──ッッ!!」

 エダの背後でとてつもない爆発が起きたのと同時に、彼女の裏拳が澄華へと着弾した。勢いがいくらか失われたものの、それでもパワーのある右裏拳は、防御態勢を取った澄華をぶっ飛ばすには十分な威力だった。
 ゴムのように澄華は拳と床から弾き飛ばされ、勢いのままに壁に激突する。手ごたえは、あったようだ。

「っ、と……驚かせやがって」

 着地したエダは排熱するように大きく息を吐き、ようやく笑みが絶えた澄華を見据えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

日上・文女
「なんかいろいろごめんなさいいい!?」

壁を壊しやっと目的地に到達。迷宮の主を見て思わず謝罪。
戦いは相変わらず怖いけど必死で自分を騙しUC発動。
意思疎通も殆ど取れない、というか言うことすら聞いてくれない連中だけど戦闘だけは頼りになる。
「そっちは仲良さそうで、通じ合ってて、お互い大切で...」
うん、考える程にこっちが悪い感じしかしない。
愚連隊の数頼みで突っ込ませ墨火が九重の守りに集中することを願って防御のスキを探す。
見つけたら近くの愚連隊をバットでスキに打ち飛ばす。
「心から!ホントに!ごめんなさいだけど!」
お互いに思い合う、そんな二人に世界を滅ぼさせたくも無い。



〈アドリブ歓迎〉



 運の悪いことに、日上・文女(アイムノットヒーロー・f16173)がたどり着いた時には、澄華はキレていた。
 正確には本気で戦う覚悟を決めたらしいのだが、壁を破壊して目的地にたどり着いた文女には、どうにも「よくも壊してくれましたね」と言わんばかりの殺意を真に受けてしまったらしい。

「なんかいろいろごめんなさいいい!?」

 無言で墨火を文女へ放った彼女は、何も言わない。真剣な表情そのものだが、文女にとっては般若のソレである。文女は咄嗟に『鬼火特攻愚連隊(バッドボーイズファイアワークス)』を召喚し、墨火へ小型の戦闘兵器を盾に走り出した。

「ヒャッハー!」
「ブチ込ンデヤルゼェ!」
「汚物ハ消毒ダァーーッ!」
「バンザーーーーーイ!!」
「喧しい」

 グラサン、モヒカン、肩パッド、日本兵などといった小さな特攻野郎たちが、澄華を討たんと動きだす。しかし、召喚された彼らは弱い。一撃で消滅するほどの弱さだ。迎撃を命令された墨火の炎を浴びただけで、即消滅している。
 しかし、単体の墨火に対して数だけは勝っていた。

 彼らに対して意思疎通は殆ど取れない。というか言うことすら聞いてくれはしない。だが戦闘だけは頼りになる。
 文女は彼らに墨火を任せ、バットを持って走る。
 思えば、彼女らは心が通じ合っている。仲が良いのは見ていてわかる。それでいてお互いを大切に想い、今こうして戦っている時も、信頼し合っているのがわかる。
 対してこちらはどうだろう。片やバットを持つ自分、片や特攻だけの愚連隊(バカヤロウども)だ。ミスマッチだし、考えるほどにこっちが悪い感じしかしない。

「えぇい、しつこいッ!」
「ひぃッ!」

 次々と愚連隊を召喚しては墨火の対処をしているが、殲滅スピードはこちらが劣勢だ。一撃で終わるのも原因なのだが、墨火の持つ射程が伸ばされているのもある。状況はジリ貧であった。
 ちらりと文女は澄華を見る。
 戦闘の影響かボロボロになっており、優しかったであろう目つきは鋭いものになっている。瞳には執念が宿っているように見えた。どのような執念なのかは、あまり想像したくなかったが、文女は唾を飲み込んで雑念を払う。

 今の彼女は、墨火を操演するように動かしているのだろう。右手の指先がせわしなく動いており、それが墨火とリンクしているのがわかる。
 時に彼の意思に従わせ、時に自身の判断で動かす。お互いに信頼できているからこその芸当だ。

 そこに着けこむ隙など──作るしかなかった。

「心から!ホントに!ごめんなさいだけどぉッ!」

 彼らの意思は疎らだ。自分の意思は元より弱い。だからこそできる芸当は存在する。
 文女はバットを墨火──ではなく召喚されたての肩パッドのケツにジャストミートさせた。打ち飛ばしたのだ。

「ヒャッホォォーーーイ!!」

 火炎放射器を持った肩パッドは放物線を描き、墨火の射線を飛び越えて澄華へと肉薄する。操演に集中していた彼女は、いつの間にか接近を許されていたことにハッと気づく。墨火をたぐり寄せようにも、もう遅い。あと一秒もすれば、彼女は愚連隊の炎を浴びることになるだろう。

 ただ思う。お互いに想い合う、そんな二人に世界を滅ぼさせたくもない。
 できれば幸せなまま終わって欲しいと、願ってしまったから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
分かっちゃいたがクソ強えッ!
って転依・黒狐『墨火』だと!?これ以上のパワーアップは反則だろ!?
だが憑依系の技ならこっちもとっておきの奥の手があるぜ。
大先輩の度胆を抜いてやろうぜ、相棒ッ!
妖刀憑依ッ!!

「【鬼面の大霊剣(ソードオブヒーローマスク)、この力で私達は貴女方を超えてみせます・・・ッ!」

破魔の大霊剣になった俺を相棒がブン回す大技だ。
追尾する墨色の炎弾?纏めてなぎ払ってやりな、相棒ッ!
一気に近付いて振りかぶった大霊剣を叩き付けてやる。
後輩としては無様は見せられねえ。俺達の限界を突破してでも先輩の防御はブチ抜かせて貰うぜッ!
届けええええッ!!


【技能・破魔、なぎ払い、限界突破】
【アドリブ歓迎】



「チィッ!!」
「ッ!!」

 紫電と黒炎がぶつかり合い、彼我の距離が開く。未だに神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)と墨火との戦闘は続いており、こちらが優勢であるにも関わらず、彼女らが倒れる気配が見えなかった。
 澄華は立つのがやっとなほどで、墨火も最初の時よりも力が落ちている。もうすぐ勝てるというのに、それでも墜ちないのは意地か。それとも根性か。

「分かっちゃいたがクソ強えッ!」
「当然だ。このくらい、この程度で墜ちるなぞ……!」

 このままでは埒が明かない。お互いがそう思った。
 凶津と共にいる桜も、澄華も、次の一撃で片づけようと覚悟する。互いに得物を構え、先に動いたのは澄華だった。

「墨火、お願いがあります」
「……無論だとも」

 墨火が凶津から離れたと思えば、澄華にまとわりつくように黒炎で彼女を包んでゆく。ごうごうと燃え上がる黒炎はやがて一つの火の玉へと代わり、暴風を放って彼女を解放した。
 禍々しく燃え上がる狐の耳と尻尾。両手には呪符らしき黒一色の札があり、その目には炎が宿っていた。

「アイツら、完全に一体化しやがった!?これ以上のパワーアップは反則だろ!?」

 『転依・黒狐『墨火』』。凶津の言った通り、墨火と憑依し一体化した彼女は恐ろしいほどの圧力と呪怨の炎を見せつける。これが、先祖代々活躍してきた退魔士の真の姿なのだろう。
 だが、憑依系の技はこちらにもある。

「──なあ、大先輩の度胆を抜いてやろうぜ。相棒ッ!」
「えぇ──!」

 彼女らが覚悟を決めて憑依したというのならば、こちらも憑依する。大先輩への敬意であり、覚悟を決めた瞬間でもあった。
 桜が持つ妖刀、そこに凶津の魂が憑依する。生ける仮面は元の姿を捨て、妖刀に宿る魂魄との一体化を図る。それがオブリビオン化という恐ろしい現象であっても、凶津は躊躇しなかった。

 それは手に握れるほどのサイズではなくなり、折り紙の空間さえも切り裂くほど巨大な劔へと変わる。鍔には凶津が癒着しており、真紅色の炎を吐く様はまさしく骸の異形であった。

「『鬼面の大霊剣(ソードオブヒーローマスク)』、この力で私達は貴女方を超えてみせます……ッ!!」
「……あなた方も、ですか。では証明しなさい。その炎で、私たちを焼き尽くしてみせろッ!!」

 轟音、として炎がぶつかり合った。澄華から放たれた黒炎の弾幕、それらは全て桜へと追尾してくる。
 今の凶津を、桜は両手で持つことはできない。抱えきれぬほど巨大な彼を振り回すことも不可能だ。凶津の意思が無ければ、の話だが。桜の意思に従い、凶津は妖刀と化した自身を横に振るう。

 たった一振り。それだけで、放たれた黒炎のほとんどが振り払われる。真紅色の斬撃と暴風が辺りを破壊し、たった一閃でドーム状の空間が切り裂かれた。硬く、折り紙ならぬ強度を誇っていた迷路に一筋の切り傷が開き、そこから月光が差す。

「強い、けど私にはまだ遠い──!!」
『いいや、俺達の手には届く──!!』

 あっさりと振り払われた黒炎の弾幕だが、次は違った。弾幕そのものに質量が込められ、もう一度奏者である桜へと放たれる。凶津もまた、炎を纏い一閃を放つが、今度は斬り切れない。
 銃弾をまっすぐ受け止めたような、硬い感触。妖刀と黒炎が、鍔迫り合いをしていた。

 ここで意地を張らなければ死ぬ。互いが思った。
 桜は持ちうる気力を回し、凶津を勝たせるために歯を食いしばる。対して、澄華は持ちうる全力を注ぎ、黒炎の威力を高めて負けじと詰める。誰も譲らない。譲りはしない。

『届けえええェェェェッッッ!!!』

 誰が叫んだかはわからない。だが、誰かの想いが、決着をつけた。
 真紅に飲み込まれてゆく黒。片方に勢いが勝ってゆく時点で、誰かは察した。

「──」
『──!待て、まだ……』
「いいんです。譲りましょう……それに、また逢えますよ」

 真紅の炎に辺りが飲み込まれてゆく中、不思議なことに誰かの声だけは耳に入った。
 悲し気に泣く、子狐の声。寂し気に、しかし満足したように遠くなってゆく女性の声。

「大先輩として、誇りに思います。さようなら──」

 やがて真紅が全てを飲み込み、炎と土煙が戦場を破壊し尽くした。
 数分経っただろうか。互いに力を使いつくした勝負は終わり、あとは崩壊しつつある折り紙の空間だけが残る。大穴が空いた天井からは月光が差し込み、そこには一人の少女と、一枚の仮面、そして一匹の黒い狐が横たわっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『紙芝居をつくろう』

POW   :    色とりどりの画材でダイナミックな紙芝居を作る

SPD   :    軽妙な語り口で紙芝居の物語を綴る

WIZ   :    繊細な筆遣いで美麗な紙芝居を作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 骸魂が抜けた黒一色の子狐は、消えてゆく折り紙の世界に嘆く。あぁ、まだずっと居たかった、と。
 既に数百も生きているはずの彼は、わんわんと子供の泣く。最愛の相棒との、二度の別れ。「また逢える」という言葉に嘘は無くとも、悲しみさえも飲み込むことは叶わなかった。
 あの時、骸魂に憑依されていた時点で、彼の心は砕ける寸前だったのだから。

 一時の幸せ。それを理解していても、涙は止まらない。だが、心は先を見なければならない。
 静かな月夜の草原。辺りに散らばった、折り紙の名残り。硬く迷路を形成していたソレだが、今なら只の人間の指で折れるほど柔らかい。子狐は散らばった一枚を噛み、涙を流しながら折り始めた。

 それは折り紙で作られた動物たち。彼が大好きだった折り紙と、彼女と一緒に行う紙芝居。彼女と逢ってずっとやりたかったことを、一人で細々とやり始めた。
神代・凶津
zzz・・・あれ?俺たしか・・・ッ!?
そうだッ!戦いはどうなったッ!?
「勝ちましたよ。」
おお、そうかッ!まあ俺と相棒のコンビなら当然だなッ!
(折り紙を折っている子狐が視界に入る)
あ~、どうするよ相棒。流石に声かけづらいんだが。
「勿論、行きますよ。」
まあ、相棒ならそう言うと思ったよ。

折り紙を折っている墨火の横に行くぜ。俺達も一緒に折り紙を折っていいか?
「・・・澄華さんの代わりにはなれませんが。」
それでもアンタが大先輩とやりたかった事を一緒にさせちゃくれねえかい?

折り紙なんて折ったのいつぶりよ?
ん?俺がどうやって折っているかって?細かい事は気にするなッ!


【技能・コミュ力、慰め】
【アドリブ歓迎】



「……zzz……?あれ?俺たしか……ッ!?」

 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)が目?を覚ますと、そこは月夜が浮かぶ草原だった。
 最後に見た景色と言えば、折り紙でできた空間と、オブリビオン──すぐさま警戒態勢を取ろうとしたが、体が上手く動かない。
 そんな彼に、相棒の声がかかる。

「勝ちましたよ」

 神代・桜は、一足先に起きていたらしい。仮面を横に寝転がっていた彼女の声で、ようやく状況を理解する。
 あの折り紙の空間は消え、オブリビオンの気配もない。つまるところ──あの大先輩を超えることができたのだ。

「お、おぉ!そうかッ!まあ俺と相棒のコンビなら当然だなッ!」
「…………」
「な、なんだよ黙りやがって……あ」

 勝ったというのに反応が薄い桜だが、凶津はすぐに原因に気づく。少し離れた場所に、黒色の子狐がいたのだ。
 九重・澄華の召喚獣、『墨火』という名の妖狐が、泣きながら折り紙を手にとっている姿を見てしまった。

「……あ~、どうするよ相棒」

 絶対的な戦いだったとはいえ、彼から相棒を失わせてしまったのはこちらだ。妙な罪悪感のおかげか、流石に話しかけづらい雰囲気であった。
 しかし桜は立ち上がり、凶津を拾う。

「勿論、行きますよ」
「……まあ、相棒ならそう言うと思ったよ」

 彼女も、同じ感情を僅かに抱いていただろう。だが歩みを止めないことだけは、凶津はよく知っていた。
 ガサリと草を踏む音で、墨火は振り向く。

「……貴様らか」
「あぁ、そうだよ」

 憑依時は荘厳な声を発していた彼だが、今の彼は年相応の声で怨みをぶつける。うへぇと思った凶津だが、桜は静かに彼の隣に座り、墨火が折ったのだろう折り鶴を手に取る。
 それは狐の手でありながらも、職人が折ったような丹精な造りをしていた。

「オレはただ、澄華ともう一度出会いたかっただけなんだ。できれば、またこうやって……知ってたよ。駄目なことくらい……けど、ッ」

 歯を食いしばり、まだあふれ出す涙に耐え忍ぶ。
 死人は蘇らない。それはどの世界においても絶対の法則だ。狂ってしまったのは、縁者の骸魂と邂逅してしまったことだろう。凶津ももし同じ状況なら、揺らがないと言い切ることはできない。仮にそれが──。
 そんな凶津の思考を止めるように、桜の手が仮面を手に取る。そして、もう片方には子狐の頭へ。

「……澄華さんの代わりにはなれませんが」

 優しく、温かみに満ちた手が、一枚と一匹を撫でる。表情に変化は無い。しかし慈愛に溢れた指先が、漆塗りの面と燃え立つ毛なみを癒す。母親を思わせる、優しい手であった。
 やがて手を離すと、彼女はまだ折られていない折り紙の一枚を手に取る。

「私にも折らせてください。あの時、託された気がするんです」
「……そういう、こった。アンタが大先輩とやりたかった事を一緒にさせちゃくれねえかい?」

 撫でられたことに意外に思いつつも、凶津は桜と一緒に墨火に問いかける。彼の涙は、気づけば止まっていた。

「……好きにすればいい」

 ──折り紙なんて折ったのはいつぶりだろうか。
 一人の巫女と、一枚の仮面はそれぞれ紙に触れながら思う。幼い頃はもちろん、それ以降は?おぼろげな記憶を頼りに、折りたいものを作ってゆく。鶴を作ろうか、カエルを作ろうか、パクパクなんてものもあった気がする。
 月夜の元で、三者三様に折り紙で動物が作られてゆく。静かな草原に、新しい命を生み出すように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
結構な数の折り紙の動物が完成したな。折り紙なんて久しぶりだが案外折り方を覚えてるもんだな。
後は、この折り紙達で大先輩の代わりと言っちゃなんだが墨火と一緒に紙芝居をやるとするぜ。
「・・・澄華さんの好きだった紙芝居の話を教えてくれませんか?」

紙芝居が終わったら『湯呑セット』で人数分のお茶を入れて墨火と一緒に『おはぎ』でも食うとするか。
どうよ墨火?ウチの相棒が作ったおはぎ。

これで墨火の悲しみが少しでも癒えりゃいいんだがな。


【技能・慰め、コミュ力、料理】
【アドリブ歓迎】



 しばらく経つと、草原にはいくつもの動物で溢れていた。気づけば、何十枚と折っていたらしい。UDCアース固有の動物はもちろん、墨火が知らない生き物や、道具にも似た形状のものまで、色とりどりの折り紙が揃っていた。

「久しぶりだったが、案外折り方を覚えてるもんだな」
「あぁ。今だと、このようなものもあるんだな」

 凶津と、墨火はできあがったものを眺めていた。その一方で、桜は気づく。辺りに散らばっていた折り紙が、消えつつあることに。
 時間が経ち過ぎたのだろう。それに、ここにいる理由ももうすぐ無くなりつつある。

「……澄華さんの好きだった紙芝居の話を、教えてくれませんか?」
「紙芝居?あぁ、確かグリモア持ちが言ってたな」
「好きだった紙芝居……か。確か」

 墨火は語る。今のような、一枚ごとに絵をめくって語られる紙芝居は、当時には無かった。一枚の絵を元に、語り手が読み聞かせる方式が、当時でいう"紙芝居”だったという。
 こうして折り紙を並べ、それを登場人物に見立てて語るのは澄華流のようだ。

「鶴と蛙が主役なら、水辺の絵を背景にするんだ。動物が主役だから、子供たちには人気だったよ」

 九重・澄華が作り出した紙芝居を、懐かしむように墨火が語る。折り紙でできた動物を使い、月夜の草原を背景に綴る思い出は、それだけでも芝居の演目のように思えただろう。
 かつてあった物語。今は紙に記されることもなく、消えてしまった思い出。凶津と桜は、静かに彼の語りに耳を傾けていた。
 終わった頃には桜が"湯呑セット”を取り出し、人数分のお茶とおはぎを用意する。墨火がおはぎを頬張っている間、今度は凶津が語り手となって紙芝居を始めた。

「で、俺と相棒が出会ったわけ。どうよ!」
「3点」
「及第点」
「相棒ォ!?ぼっ、墨火お前わかってんじゃねぇか……」

 そうしてさらに時が経ち、墨火の語りが終わった頃には──朝日が差し込んでいた。
 途端に、折り鶴たちが焼けた。日の光に当てられ、火となって消えてゆく。火葬か、それとも魂の浄化か、無慈悲にも跡は残らず、一つ残らず全てが飛んで、火に変わる。
 美しい狐火とも言える光景だった。

「あ──」

 風に煽られ、花吹雪のように舞う折り紙たち。空中で火の玉になって消える姿は、墨火にとってあの別れを想わせた。たまらず声が漏れてしまったが、もう泣くことはない。
 二度、三度も別れを想えば、自然とにじみ出る涙は薄れてゆく。消えてゆく記憶のように、何も全てが残るわけではない。だが、遺されたものだけは消えぬよう抱えてゆく。

「……そろそろ、だな」

 凶津たちの隣で、痺れを切らしたのか三色の光の門が開いた。凶津と桜は察していた。これからまた違う戦の予感がする。それも、この世界で。
 楽しかった時はこれまで。次また逢う時に、この世界は残るのか。──今はまだ、わからないけれども。

「なあ、墨──」
「……行きましょう」

 開いたグリモアから振り返ると、そこにはもう墨色の狐はいなかった。
 ただ一つだけ、お礼の代わりだろうか。曼珠沙華の意匠の折り鶴が、朝露に輝く草原に残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月17日


挿絵イラスト