グレイブヤード
●墓場の国
乾いた土が舞い上がり、疎らな木々が風に揺れる。いつも薄曇りの空の下、鳥は歌わず獣は鳴かず、代わりに在るのは無数の墓標。見渡す限りに広がる墓地は、テーブルを覆うクロスのように、この国を包んでいた。
そんな墓場の中心に、ただひとつ、古びた教会が建っている。誰とも知れぬ神を祀ったその場所には、ただ一人、この国の墓守が住んでいて。
「あなたの。お墓も。作りますか?」
ゆっくりと、途切れ途切れにそう語る。大きな帽子と襤褸を纏ったその男は、次の瞬間に、蹴り飛ばされて教会の床に倒れ込んだ。
「要らないわよ、縁起でもない」
そう答えたのは、王冠を被った巨大な女王蟻――貪欲で、傲慢なオウガだった。キラキラしたものを集めるのが大好きな女王は、この国の様子が当然気に入らないようで。
「私に献上するなら金塊とか! 宝石とか! そういうの無いの、この国には!?」
あったかな。思い付かないな。そんな風に首を傾げた墓守は、さらなる一撃で教会の外へと蹴り出される。
「よりによって、こんなしけた国に出てしまうなんて……ああ、もう、苛立たしい」
神経質そうに顎を鳴らしながら、女王蟻は教会の扉を閉めて、奥へと引っ込んで行った。
しばし地面に転がっていた墓守は、のんびりとした動きで立ち上がり、土埃を叩いて帽子を被りなおす。周りに並ぶ無数の墓石を見回した彼は、そこで「しぃ」と口元に指を立てた。
静かに。今はまだ、大人しくしておいで。
そんな仕草に応じて、墓石の影が少し、揺らいだように見えた。
●奪還作戦
「――と、まあそんなわけでね、時計ウサギさんに協力してもらって、こっそり教会にウサギ穴を繋いでもらったんだ」
向かう先、『墓場の国』の現状を語り、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は軽い笑みを浮かべてみせる。広大な墓地の中にある、唯一の教会。そこにはボス格のオウガが居るはずだが。
「そう、いきなり首魁を落としにいけるわけだよ。君達もたまには先制攻撃したいでしょう?」
こんな真似ができるのも、オウガ・オリジンを倒し、支配体勢が揺らいだ影響だろうか。何にせよ話が早いのは良い事だ。
「敵は欲張りな女王蟻だよ。配下も多数居るんだけど、今はその女王に『宝探し』を命じられて、教会から遠出してるんだ」
つまり、これ以上の好機はないと言える。
ボスの元までウサギ穴で直行し、それを撃破。その後に戻ってくるであろう配下に対して、ゆっくり迎撃の準備を整える――といった流れになるだろうか。
「何でも、この国は広大な墓場の下に地下街が広がってるらしくてね……オウガがそれに気付く前に、対処してくれると助かるよ」
詳しくは現地の墓守さんに聞いてね、と付け足して、グリモア猟兵はウサギ穴を示して見せた。ここを潜ればすぐにボス戦、相応の準備を整えていくべきだろう。
「この世界の敵は倒したはずだけど、未だにアリスの訪れは止まっていない。猟書家の件もあるからね、『安全な国』を一つでも多く確保しておきたいでしょう?
……それじゃ、頼んだよ」
つじ
どうも、つじです。
今回の舞台はアリスラビリンス。不思議の国の一つを、オウガ達から奪還していただきます。
●墓場の国
地上に広がる巨大な墓地、『グレイブヤード』と、石造りの地下街、『アンダーグレイブ』の二重構造になった国です。
墓石の下の穴と、地下街の家の裏口が一対一で繋がっています。ですが、何故か『自分の名前の刻まれたお墓』以外は通ることが出来ないようです。
●墓守のロットン
グレイブヤードの教会に住み、全てのお墓の管理をしています。動作も口調も緩慢ですが、力持ちで仕事は早いです。
第二章では猟兵のためのお墓も作ってくれます。
●愉快な仲間『ホロゥ・ホロゥズ』
二章から登場する、墓場の国の住人達。シーツを被った透明な子供、といった感じの姿をしています。シーツには目と口の形の切り抜きがあるため、顔の位置はなんとなくわかるでしょう。シーツの色や模様を自由自在に操る能力を持っているため、隠れるのが得意。
イタズラと、夜の墓場で運動会をするのが大好きです。
●第一章
ボスである『よくばりさま』との戦闘です。敵は教会に陣取っていますが、今回はその祭壇裏にウサギ穴が開いていますので、そこから侵入しての先制攻撃が可能です。配下は宝探しを命じられて遠出中のため、ここでは現れません。
●第二章
自由時間です。
もとい、この後帰ってくる敵集団を迎え撃つための準備を整えてください。この国の住人と仲良くなって協力を取り付ける、この国の仕組みを活かして罠を張る、休憩したり探検したりして英気を養う、といった行動が可能です。
詳細は序文にて。
●第三章
異変に気付いた敵の兵隊、ジャバオウガ達が、隊を組んで教会に戻ってきますので、迎撃してください。
彼等はこの国に来た時からずっと『正体不明の視線』に悩まされてきたので、とてもびびりやすくなっています。第二章での仕掛けや、愉快な仲間と協力して敵を驚かすことが出来れば、プレイングボーナスを得られます。
以上になります。それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『よくばりさま』
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POW : 味見をしてあげましょう。光栄に思いなさい
自身の身体部位ひとつを【巨大な蟻】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD : 美しきわたくしの庭で迷いなさい!価値なき者共が!
戦場全体に、【悪趣味な金銀財宝】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : わたくしは女王でしてよ無礼者が!かみ殺されよ!
自身が【見下された屈辱感】を感じると、レベル×1体の【金貨を背負った手下蟻】が召喚される。金貨を背負った手下蟻は見下された屈辱感を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠アンバー・スペッサルティン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メアリー・ベスレム
なんて陰気な国かしら
だれど静かで穏やかで
あんなオウガは似つかわしくないったら
黄金きらきら、欲望ぎらぎら
あぁ、目が眩んでしまいそう
穴を跳び出し【踏みつけ】て
肉切り包丁【重量攻撃】叩き割る
先制攻撃終えたなら
ひらりと【ジャンプ】で身を躱し
一目散に【逃げ足】で……と
最初はそのつもりだったけど
やっぱりやめた
一方的な暗殺、蹂躙、殺すだけ
それじゃあまりにつまらない!
ねぇ、そうでしょう?
せっかくだからアリスと遊びましょう、女王様
そう惹き付けて噛みつかれ、生命力を奪われる
それって食べられるって事でしょう?
だったらお返しに【食べ物の怨み】を教えてあげる!
ぶちまけるのは金色かしら?
それとも真っ赤な鮮血の色?
●鬼ごっこ
漂う空気から感じ取れるのは、乾いた砂埃の香り。味気なく、陰気、教会の扉を開けば、そこに広がる景色もきっと灰色なのでしょう。ウサギ穴を飛び出したメアリー・ベスレム(WONDERLAND L/REAPER・f24749)は、『墓場の国』をそう認識する。墓石の並ぶそこは、それゆえにきっと静かで、穏やかで。金銀財宝を後生大事に抱えたオウガの似つかわしくないことと言ったら。
「あぁ、目が眩んでしまいそう」
きらきらした黄金を抱えて、ぎらぎらした欲望を腹の底で煮立たせているその女王に、彼女は靴裏を叩き込んだ。
「え、何――」
突然の襲撃者に慌てる敵へ、メアリーはそのまま巨大な肉切り包丁を振り下ろす。刃物か鈍器か判断し難い巨大なそれは、オウガを教会の床へと這いつくばらせた。
「猟兵!? いつの間にわたくしの住処に……!」
「もちろん、あなたが夢中で金貨を数えている間によ」
身体に乗ったメアリーを蹴り落とすべく振るわれた攻撃を、ひらりと跳んで躱して、素早く敵に背を向ける。あとは一目散に逃げるばかり、なのだが。
「やっぱりやめた」
小さな呟きと共に、メアリーはその場で足を止めた。
一方的な暗殺、蹂躙、殺すだけ、それじゃあまりにつまらない! 「そうでしょう?」とオウガの方へ視線を送る。
「せっかくだからアリスと遊びましょう、女王様」
後ろ姿で誘いをかけて、彼女は『逃げる獲物』らしい動きで駆け始めた。
「言ってなさい、すぐに捕まえてあげるわ」
苛立たし気に吐き捨てて、女王がメアリーに追い縋る。六本の長い足で、財宝を抱えた重い身体を引きずるように進む。その動きは見た目に反して、力強く、素早い。そうしてよくばりさまの鋭い顎が、宣言通りメアリーの背を捉えた。
「悪くない味ね」
鮮血が散って、生命力を啜ったオウガが笑みを含んだ声で言う。しかし、対する彼女もまた、昏い笑みを浮かべていた。
「褒めてくれているのかしら? だったらお返しに『食べ物の怨み』を教えてあげる!」
途端に、オウガが呻き声を上げる。メアリーのユーベルコードは、敵が喰ったもの、つまりオウガの腹の中でその効力を発揮する。
「あ、がッ……!?」
「内側から食い破られる気分はどう? ぶちまけるのは金色かしら? それとも真っ赤な鮮血の色?」
腹を裂く傷と口から、鮮血の如く、溜め込んだ金貨が溢れ出した。
そうして苦し気に呻きながらも、女王はメアリーを噛み千切ろうと牙を剥く。
大成功
🔵🔵🔵
霞末・遵
【幽蜻蛉】
うーん。惟継さん先行っといて
ひとりで来ましたって顔してね。おじさんがここにいるのは内緒だよ
あとできるだけ大きな音立ててくれると嬉しいな
大丈夫大丈夫。さぼったりしないって
じゃあいってらっしゃい
……よし。のんびりするかあ
アリって美味しくないんだよね。なんかえぐみが強いって言うか
あと集団で噛んでくるし。やんなっちゃうね
しかし穴の中って落ち着くなあ。今ちょっとうるさいけど暗くて狭くて
もうちょっとゆっくりしてようかなあ……
……そろそろ頃合いかな
さあ行け不意打ちだ。とびだせロケットランチャー
細い胴体目掛けて焼き払えー。焼き払えー
そういえば惟継さんに穴から離れててって言ったっけ
……まあ、いいか
鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
何故俺が先に……?
それにお前さんが居ないと思わせろ?派手に音を立てろ?
まぁ、遵殿にもそれなりに考えがあるのだろう
知らんが
いや、聞いておけば良かったか
そう考える頃にはもう出口だ、今更引き返す訳にもいかんよな
さて、盛大に暴れるとしようか!
事前に天候を操作しておき、雨雲を集めておく
気付かれない内に鳴神にて攻撃
雷ならば攻撃も防げまい、貫通攻撃で頭から腹まで電撃を通してやろう
これだけ派手に音を立てれば要望通りにはなったはずだ
それより遵殿はまだ来ないのか?
おぉ!!な、なんだ!?何が飛んできた?
もしやあれが遵殿の攻撃か?
全く……敵に近付いていたら、俺ごと焼かれていたのでは?
無事だから良しとしよう
●連携?
天候を操る竜神の手により、上空には黒雲が満ちていた。教会の中からそれを悟る事は不可能だろう。全く気付いていない敵――先行した猟兵に牙を剥いた女王へ、鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)は雷を落とした。
「響け轟音、我が咆哮の如く!」
一瞬の稲光と轟音、衝撃で教会の天井をぶち破ったそれは、オウガの頭から足先まで、真っ直ぐに貫く。悲鳴も上げられず、ぶすぶすと焦げ臭い煙を上げる敵の様子に、惟継はにやりと笑んで見せ。
「さて、盛大に暴れるとしようか!」
剣を手に、隠れていた場所から飛び出した。
――さあ、これで要望通りか。それなりに考えがあるのだろう、ここが絶好のタイミングだぞ、遵殿。
時は戻り、ここへの突入前。ウサギ穴の中で、霞末・遵(二分と半分・f28427)は惟継に要望を述べていた。
「うーん。惟継さん先行っといて」
「何故俺が先に……?」
「まあまあ、ひとりで来ましたって顔してね。おじさんがここにいるのは内緒だよ。あとできるだけ大きな音立ててくれると嬉しいな」
「それは別に構わんが……」
「大丈夫大丈夫。さぼったりしないって。じゃあいってらっしゃい」
釈然としない様子の惟継を送り出した遵は。
「……よし。のんびりするかあ」
早速物思いに耽り出した。
アリって美味しくないんだよね。なんかえぐみが強いって言うか、あと集団で噛んでくるし。やんなっちゃうね。しかし穴の中って落ち着くなあ。今ちょっとうるさいけど暗くて狭くて……えっもううるさくなってる? 惟継さん仕掛けるの早くない? どうしよう、もうちょっとゆっくりしてようかなあ……。
遵殿、遵殿。まだ来ないのか?
誰かを待っているなどと敵に悟られるわけには行かず、口に出せぬまま惟継は眉根を寄せる。いい加減敵が体勢を立て直して、こちらに鋭い視線を注いできている。先制の一撃はともかく、このままでは一対一でやりあうことになってしまうが。
ここからどう立ち回るべきか真剣に悩み始めたところで、ようやくそれが飛来した。
「おぉ!! な、なんだ!?」
ウサギ穴の方角から跳んできた弾頭は、惟継のロケットランチャーから発射されたもの。タイミングは完璧と言って良いか議論の余地はあるが、とにかく敵の意識の外から攻撃する事には成功している。
さあ焼き払え、という遵の意思の通り、着弾と同時に爆発が発生。衝撃波で教会の窓が全て吹き飛び、穴の開いた天井はばらばらと崩れ始める。同時に炎は敵の身体を包み込んで――。
「そういえば惟継さんに穴から離れててって言ったっけ……」
「敵に近付いていたら、俺ごと焼かれていたのでは……?」
赤々と燃えるそれを見ながら、二人はそれぞれに微妙な表情を浮かべていた。
そして、同時に同じ結論に至る。
「まあ、いいか」
「まあ、無事だから良しとしよう」
大らかで大変よろしい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
女王を名乗りながら欲張るのなら
私とは違う美学を持っているみたい。気が合わなさそうだ
私、下々に与えるタイプの王族だから
ウサギ穴は有難く使わせてもらおう
祭壇裏に出られるとはいえ、油断はしないさ
私は目に付きやすい外見だと自覚しているから
音を立てず、物陰から機を待つ
隠れている間に強化を済ませておこうっと
“Hの叡智”攻撃力を重視
女王がこちらに背を向けたタイミングを狙う
《早業》で飛び出し思いっきり先制攻撃
フフ、王子様もたまには背後から奇襲くらいするんだ
噛みつき攻撃には気を付けなくっちゃ
迫る口には剣を向ける。喉に刺さればきっと痛い
あはは、この剣は美味しいかい?
私の国に伝わる宝物のひとつさ。キミにはあげないよ
矢来・夕立
楽な国盗りになりそうで何よりですよ。
ここの主人は理想的な女性ですね。お腹の中身が。
こちらに金銭管理を任せてくれるとより良いんですが。
と、《闇に紛れて》観察しているところです。
一番いい殺し方を考えてるんですよ。
硬そうなんで式紙はなし。刀での奇襲かな。関節をちぎるのもアリ…
…アリ。蟻かあ。
蟻の顎って他の部位より脆いんじゃないですか。
わざと大口を開けていただいてそこを刺す、などはどうでしょう。
口の中に刃物を刺すとすごく痛がるんですよね。生き物ってみんなそう。
方針は決まりました。
式紙の囮による攻撃の誘発、刀によるカウンター。こうです。
ところでもしやこの財宝は殺したら消えますか?
じゃあ用はないです。
九之矢・透
え、アタシの名前の墓もあるっての?
確かに縁起でも無いな
……でも墓石なんて高価なモン用意されてて申し訳ないよーな?
ともあれウサギ穴を通って教会に向かうよ
祭壇裏に着いたら暫く潜んで、
確実に一撃を狙える所へ忍び足を使い目立たずに回りこもう
しっかしお宝さがしの為に配下全員使っちゃうとはなー
此処で金塊だの宝石だの見つけたところで、何に使うのさ
アタシは食い物の方がいいなー
っと、今かな
柳を投げて【山嵐】
目や足の関節を狙おうか
噛みつかれ無い様に距離を保ち
【2回攻撃】でダメ押しもう一度
残念だったね
アンタの味方、配下は戻ってこないよ
本当に大事な宝物は傍に有ったのに
気付いた時には既に遅し……なんて、
よくある話だろ?
●隠密組
「中々派手にやってますね……」
そう言って覗き見た教会内部は、雷に続けて爆炎も飛び交うお祭り騒ぎだ。崩れ落ちてくる建材のおかげでますます出辛くなったな、などと考えながら、矢来・夕立(影・f14904)は傍らに視線を戻す。祭壇裏から闇に紛れて移動した先、丁度良く据え付けられていた懺悔室に潜み、奇襲の機会を窺っていたところなのだが。
「狭くないですか?」
「ちゃんと隠れられそうなの、ここくらいしかないからさ……」
「そうそう、奇襲までの間だから、我慢して欲しいな」
同じ場所に隠れる事になってしまった九之矢・透(赤鼠・f02203)とエドガー・ブライトマン(“運命“・f21503)からそう返事が来る。
「特に、私は目に付きやすいだろうからね。しっかり身を隠しておかないと」
それは確かに、何かキラキラしてるもんなあと透が目を細めて、「今からでも別の場所に移るべきか」と夕立が吟味し始めた頃に。
「あああ、私の、わたくしの財宝がぁ……!」
女王蟻が苦鳴と共にその身を捩らせる。内側から食い破られ、爆破に晒され、血の代わりのように飛び散る金銀財宝を、どうにか引き戻そうとしているようだ。強欲さを隠そうともしないその様子に、エドガーは思わず眉を顰める。
「『女王』を名乗りながらあれは……気が合わなそうだ」
「そうですか? 主としては理想的な女性に見えますけど」
下々に与えるタイプの王族、そう自覚しているエドガーとは、夕立はまた違う感想を抱いたようだ。
「ええ……あれって、話によると宝探しに部下全部使っちゃってるんだろ?」
無駄に手駒を使うのは、ボスとしてマイナスでは? そんな透の問いにも、彼は平然と頷いて返した。
「別に良いんですよ。あとはこちらに金銭管理を任せてくれると完璧です」
「でもさ、この国で金塊だの宝石だの持ってても、何に使うの……。アタシは食い物の方がいいなー」
「まあ、それは……」
「一理ありますね……」
ひそひそとそんなやりとりをしながら、彼等はそれぞれに攻め手と、それを実行するタイミングを計る。
「外殻部分は固そうだね」
「狙うなら目や足かな。触角とかも?」
「試してみても良いかも知れません。使うのは刀として、関節を千切るのもアリ……」
剣の切っ先を敵へと向けて、エドガーが『Hの叡智』で自己強化を施す間に、残りの二人も狙いをはっきりさせていく。
……アリ。蟻かあ。そんな風に、自分の言葉を反芻して、夕立は方針を固めた。
よくばりさまはその名の通り、落ちてくる天井の建材よりも、飛び散ってしまった財宝の方が大事らしい。もっとたくさん宝が欲しいという思いだけではなく、資産が目減りするのも許せない。そんな様子で立ち並ぶ椅子を蹴り付け、どかして、コインや宝石をかき集める。
「これも、これも全部わたくしのもの、こんな所で手離すなんて――」
「――っと、今かな」
床面を覗き込むように、女王が頭を下げたそこへ、忍び寄っていた透が投げナイフを放つ。複数同時に放たれたそれは、よくばりさまの足関節を射抜き、ユーベルコードの効果を乗せて、抜けぬ刃と化して突き刺さった。
「――!!」
言葉にならぬ悲鳴を上げた女王が、怒りに濡れた赤い瞳を透へ向ける。すると飛び来た折り紙の蝙蝠が、その視界を遮るように、女王の顔の周りを飛び交い始めた。忌々しいとばかりに突進を強行した女王が、床を蹴り砕きながら走る。が、その時には既に、視界から透の姿は消えている。
それでも怒りと勢いそのままに、懺悔室へと頭を突っ込み、それを破壊する。破壊された木材が舞う合間に紛れて、今度はエドガーがその背に着地した。
「おっと、次はこっちだよ。王子様もたまには背後から奇襲くらいするからね!」
強化された斬撃はその背を切り裂き、深く傷を残す。身を捩り振り落とそうとする動きから、ひらりと逃れたエドガーは、女王の眼前に降り立った。
そこに飛び来る二発目の投刃、透の『山嵐』は、貫くと共に麻痺毒を染み渡らせるもの。それがようやく回ったか、女王は六本の肢を滑らせるようにして、その場に倒れ込んでしまった。
「身体が動かない……!? この、わたくしがこんな目に遭っているのに、あの馬鹿どもは何をしているの!」
「いやー、自分で遠くに行かせちゃったんだよな?」
本当に大事な宝物は傍に有ったのに、気付いた時には既に遅し……なんて、よくある話で。
ならば、自分で何とかしなければならないと、せめてまだ動く上半身を必死に伸ばした女王は、最大の武器である顎を使って、エドガーを噛み殺しにかかった。けれどそれは言い換えれば、とても読み易い一手。この時のための仕込みがあれば、機会を逃すはずもない。闇に紛れていた夕立が、影から立ち上がるように、エドガーの隣に姿を現す。
「――蟻の顎って、他の部位より脆いんじゃないですか」
懺悔室を出て、取り掛かる前に、彼はそう口にしていた。
「口の中に刃物を刺すとすごく痛がるんですよね。生き物ってみんなそう」
「そうだね。喉に刺さればきっと痛いさ」
その時の会話通り、エドガーと夕立、二人の刃が、大きく開いた顎の間に突き立てられた。
「あはは、この剣は美味しいかい? 私の国に伝わる宝物のひとつさ。キミにはあげないよ」
「ところでもしや、この腹の財宝は殺したら消えますか?」
まあ消えますよね。じゃあ用はないです。深く突き立てられた刃が二つ、別々の方へ向けられて、頭部を両断するように、振り切られた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●女王撃破
ばらばらと零れるコインの中に、よくばりさまの頭から王冠が落ちる。失墜した女王は、建材の散らばる教会の床に倒れ、金銀財宝と共に骸の海へと還っていった。
オウガの追討を確認し、半壊した教会から外に出た猟兵達は、ようやくこの国の外観を目にすることになる。乾いた風の下、見渡す限りの墓標が並ぶ、灰色の領域。
その真ん中で、猟兵達を迎えた墓守は、眠そうな顔のまま口を開いた。
「ありがとう。これで、少し、出られる」
ゆっくりと、ぶつぎりの言葉を並べて、シャベルの刃先で地面を突く。それと同時に、周囲の墓標が細かく動き、次々と隠れていた墓穴を覗かせる。ずるずると音を立てて、そこから何かが這い出してきた。
「あ゛、あぁ゛……」
血に汚れた薄布のような、それは。
第2章 日常
『お伽噺の世界』
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POW : 元気よく楽しむ
SPD : 知的に楽しむ
WIZ : 優雅に楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ホロゥ・ホロゥズ
墓場からずるずると這い出してきたもの、血に汚れたボロ雑巾のような者達は、その辺りで我慢できなくなって元気よく立ち上がった。
「イエーイ!!!!!」
「ビックリした? ビックリした??」
薄汚れて見えた布は、見る見るうちに綺麗な白に変わっていく。シーツを被った子供のような姿の彼等が、この国本来の住人達らしい。
「ヤッター久々の外だよーー!」
「ロットンくんちの天井吹き抜けになっとらん?」
「改装したのー?」
シーツに開いた顔型の穴から、ワイワイと賑やかな声が響く。無駄に駆け回る彼等の様子をしばし眺めてから、墓守はまたゆっくりと話し始めた。
この国は見ての通り墓場しかないが、実は墓穴の下に石造りの町が広がっていること。そして、そこに行くには、自分の名を刻んだお墓を用意する必要があること。
「あなたの、お墓も、つくります」
よろしければ、と続けて、墓守は猟兵達を窺うように首を傾げてみせた。
「ご招待だー!」
「この国はねえ、キノコが美味しいんだよ」
「それとも、一緒に運動会する?」
騒がしい愉快な仲間達を置いて、墓守は墓石を準備するために歩き始める。さて、どうにも呑気な話になってしまったが、しばらくすれば、女王の配下がこの場所に戻ってくるものと思われる。
この国を確保するためにも、迎撃の準備を整える必要があるだろう。
●墓場の国へようこそ
敵が戻ってくるまでご自由にお過ごしください。この国の住人と仲良くなって協力を取り付ける、この国の仕組みを活かして罠を張る、休憩したり探検したりして英気を養う、といった行動が可能です。
墓碑に刻む言葉をプレイングで指定していただければ、地下街にも行けるようになります。墓穴はウサギ穴とよく似ており、地下街の民家の裏口に一対一で繋がっています。お墓と同時に一人一軒割り当てられますので、ご自由に。ただし家具は全部石です。ベッドも。
お化けの形の不思議ランプとお墓風の置物、キノコ料理が名物です。
敵が来るまでの時間は不明ですが、良い感じにします。特に対策していない場合でも、近付いてきたら愉快な仲間達が必ず教えてくれますのでご心配なく。
エドガー・ブライトマン
ロットン君、私の墓も作ってほしいなあ
そうそう、『エドガーの墓』って書いてね
せっかくだからカッコいいやつがいいな〜。出来るかい?
用意してもらった墓を通して、石造りの町へ出発さ
ごきげんよう、ホロゥ君たち。キミたちってば、とても元気だ
ホロゥ君のシーツと私のマント、お揃いみたいで面白いね
キノコ料理とやらが気になるよ
私は色々な国を旅をしているんだけれど
おいしい料理を食べるコトも、旅の楽しみのひとつなのさ
だからホロゥ君、一緒に食べよう
どんな料理だろう。煮るのかな、焼くのかな
あっそうだ
食べる前におまじないをかけてあげよう
“おいしくなあれ”
フフ、こうすると更においしくなるんだよ
ほんとうさ。食べてみればわかるよ
●『エドガーの墓』
「ロットン君、私の墓も作ってほしいなあ」
エドガーの言葉にゆっくりと頷いて、近場に腰を下ろしていた墓守が立ち上がる。結構上背があるな、とエドガーがそれを見上げたところで、彼は小首を傾げてみせた。
「どんなのが、いいですか?」
「うーん、せっかくだからカッコいいやつがいいな~」
出来るかい? というエドガーの問いに、墓守はじっと彼の顔を見返す。そのまま待つこと暫し、その場でごそごそとやっていた墓守は、襤褸の下に持っていたのであろう道具袋から、ノミと金槌を取り出した。
「えっ、彫刻?」
今から? 何を? あ、でも手の動きめちゃくちゃ早いな。そんなことを考えている内に、墓地の一角、半壊した教会付近に、王子様の胸像が出来上がった。
「うわあ……ありがとう、よくできているね」
台座に『エドガーの墓』と刻まれたそれを微妙な笑みで眺めた彼は、感謝と賛辞を口にして、自分そっくりの石像を、勧められるままにぐいと押し出す。するとそれは、意外と簡単にスライドして、真下に掘られていた墓穴が露になった。
せっかくだからそちらにも行ってみよう。そう決めたエドガーは、底の見えない暗い穴へと飛び込んで行った。
「どうか、安らかに」
薄暗い墓地の光景がすっかり視界から消えてしまう頃に、墓守の声が聞こえた気がした。
穴の先に見えた扉を開ければ、こちらも灰色な、石造りの部屋があって。
「イエーイ! 一名様ごあんなーい!」
「ようこそお墓の下へ!」
「ああ、ごきげんよう、ホロゥ君たち」
そこから広がる石造りの街で、愉快な仲間達が彼を迎えた。小さな子供のような背丈のホロゥズ達は、嬉しそうにエドガーの周りを駆け回る。どうも話によれば、久々の来客らしい。はしゃぐ彼等の動きに合わせて揺れるシーツを、エドガーは微笑ましい気持ちで追いかける。
「ホロゥ君のシーツと私のマント、お揃いみたいで面白いね」
「ほんとだー、ひらひらしてるー!」
ばさばさとそれを揺すった彼等は、変わらず愉快気に笑う。お揃い、そして彼等は普段からそんな恰好をしているので。
「つまり?」
「裾を踏んづけると?」
「転ぶ?」
「そういうの良くないと思うなぁ」
明らかに背後に回ろうとし始めたホロゥズに釘を刺しつつ、エドガーは彼等の案内に従って、この国を見て回ることにした。
この空間は地下に在るというだけあって、見上げれば空の代わりに天井が見える。それでもここが暗闇で無いのは、薄く光る不思議なランプと、あちこちで蛍光色に輝く妙なキノコのおかげだろうか。駆け回るのは似たような背丈のホロゥズばかり、彼等にとってはそれが普通なのかもしれない。畑もあって、市場のような場所もある。店番が暇そうなのは、『上』をオウガに塞がれてお客が居ないせいもあるだろうか。
大体この街のことを把握できたエドガーだが、色々な国を旅してきた彼としては、やはり料理についても気にかかる。
「そろそろお腹が空かないかい? この国はキノコ料理がオススメって聞いたんだけどね」
「しょーがないなー」
「ご一緒しましょー」
ということで、案内してくれたホロゥズと、食卓を囲むことになった。調理は任せて、と言った彼等が取り出したのは、道中で見た蛍光色に発光するキノコだった。
「面白い色だね……?」
「そうでしょう、ビックリした?」
黄色や緑やピンクに輝くそれ等を、まずはシンプルなソテーに。それからお鍋を用意して、他のお野菜と一緒にシチューに。どこか家庭的な香りのする二品が、食卓へと並べられた。これも悪戯の一環か、と一瞬悩んだエドガーだが、ここは彼等を信用することにして。
「あっそうだ、食べる前におまじないをかけてあげよう」
「オマジナイ?」
「効くの?」
「もちろん、食べてみればわかるよ。こうすると、さらにおいしくなるからね」
フフ、と小さく笑って、エドガーはキノコ料理に向かって手を掲げる。そうしてじっくりと念を籠めてから、“おいしくなあれ”と唱えてみせた。するとお皿の上の蛍光キノコが、さらなる光を放ち始める。
「うわー、光った!!」
「どうやったの!?」
「さあ、私にもわからないよ」
冗談めかして言ってはみたが、本当にわからないのだけど、なんで? そんな問いを思考の外に押し出しながら、エドガーは物理的に光り輝くキノコのソテーを口に運んだ。
あ、普通に美味しい。
大成功
🔵🔵🔵
鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
はっはっは、妖怪でも子供では駄目だったか
俺は遵殿が登ってきたことにビックリしたぞ!
俺は子供が怖い訳でもないし、むしろ可愛いくらいだが
遵殿がああだからな!すまぬが運動会は他の者と楽しむがいい
墓は長命な竜神には無縁に近いものだが墓穴の下の町も気になるもので
墓は作ってもらおうか
生まれから洋風のものよりも和風の墓にして頂きたいが可能かな?
名前は鈴久名だけを入れてくれ
墓の出来に満足しつつ……おや、遵殿は昼寝か?
それにこいつは遵殿の幻蝶だな
いつものことだ、のんびりとしているのだろう
俺はキノコ料理とやらを頂いてくるか
腹が減っては戦は出来んからな
遵殿にも土産を持ってくるとしよう
では幻蝶殿、行くぞ
霞末・遵
【幽蜻蛉】
いやーおじさんも妖怪だからそのくらいじゃおどろうわーーーーっ子供!!!
ああびっくりした。惟継さんに登っちゃうくらいびっくりしたようんうん
だからやることやろう。運動会はしない。おじさんたち忙しいからね
えっお墓くれるの? それはちょっと……欲しいな……
だっておじさん悪霊だよ。お墓くらいあったっていいじゃない
好きなこと書いていいの? じゃあ今ひらめいたアイデアを
長いから名前だけでいいや
へえー! 家使っていいの!
いいねこの暗さ! 一生寝れそう!
でも贅沢を言えば床は石じゃない方が好きだったな……
おじさんちょっと寝てるから惟継さんに伝言頼もう
幻蝶や。頼んだよ
言葉は通じないから心でなんとかしてね
●『鈴久名』、『霞末・遵』
「いやーおじさんも妖怪だからそのくらいじゃおどろうわーーーーっ子供!!!」
「はっはっは、妖怪でも子供では駄目だったか」
墓地から這い出してきたのが、ゾンビでも幽霊でもなく『子供』とわかり、遵が惟継にしがみつく。時に無邪気な子供ほど残酷なことを成す。主に虫を捕まえたりとか、興味本位でその足をもいだりとか。
「びっくりした?」
「ああびっくりした。惟継さんに登っちゃうくらいびっくりしたようんうん」
「俺は遵殿が登ってきたことの方がビックリしたぞ!」
「なるほどねー、おじさんもびっくりさせるの上手なんだー」
感心した様子で頷いたシーツのお化け、愉快な仲間のホロゥ達は、早速遵の真似をして惟継に登ろうとし始めるが。
「いやいやいや来なくて良い、来なくて良いからね」
「ははは、悪いが遵殿がこの様子だからな、遠慮してくれるだろうか?」
子供などむしろ可愛いものなのだが。そんな風に笑って、惟継はホロゥズをそっと押し留める。
「え? 運動会しないの?」
「しない。おじさんたち忙しいからね」
「うむ。すまぬが運動会は他の者と楽しむがいい」
警戒心の塊になった遵に合わせて、惟継が頷く。ざんねんー、と口を尖らせているであろう彼等を送り出して、二人はようやく墓守の方へと向き直った。こちらはこちらで立ったまま半分寝ていたようだが、猟兵二人の気配を察して、ゆっくりと居住まいを正した。
「お墓、つくりますか?」
「そうだね……」
お墓かあ、と二人は共に考える。縁起でもない、と女王蟻は言っていたようだが、それもわからなくはない。しかし長命な竜神にとってはあまりなじみのないもので、悪霊にとっては……。
「あれ……ちょっと、欲しいな……」
意外と悪くない。遵は思わずそう口にする。
「ほう、俺も興味はあるが、遵殿もか」
「悪霊としては、お墓くらいあったっていいと思うんだよね」
「それはまあそうだが。うっかり成仏してしまったりはしないか?」
「どうかな……大丈夫だと思うけど」
そんな風に首を傾げながらも、二人は墓守の問いに答える。それならば、墓に何と刻むべきか。手作りである以上自由にできると聞いて、遵は目を輝かせて。
「好きなこと書いていいの? じゃあ今ひらめいたアイデアを――」
「名前は鈴久名とだけ入れてくれれば良い」
「ええ!? ……じゃあおじさんも、名前だけでいいや」
せっかく思い付いたアイデアだけど、長くなりそうだからね……そう冷静に思い直してしまい、遵はそれを断念した。仕方あるまい。けれど、そう、完成品――シンプルに名前だけの掘られた真四角の墓石は、いかにもそれらしく、「これはこれで」と納得する。
「おお、希望通りだな」
「そうだねえ、それじゃ早速入ってみようか」
墓石の下の墓穴。竜神としては、きっと遠い日に入るかもしれない場所へ、悪霊としては、実のところ初めて入るそこへ、二人はゆっくりと踏み出した。灰色の空は、やがて丸い形に切り取られ、徐々に小さくなっていく。
「おやすみなさい」
墓守の声が小さく聞こえて、闇と共に静寂が訪れる。
「……なるほど、こういうあの世も悪くないかも?」
穴の底から扉を開いて、惟継はそう口を開く。石造りのその部屋は、そう広くもなく圧迫感を覚えるが、むしろそれが心地良い。
「自由に使って良いって話だけど、いいねこの暗さ! 一生寝れそう!」
不可思議なランプの灯は控えめで、上の墓地にも似た薄暗い、灰色の空間。落ち着くなあなどと言いながら、彼は寝台に身を横たえて。
「……いや……床は石じゃない方が好きだったかな……」
肌触りは固く冷たい。腰を痛めそう。あの愉快な仲間からシーツを借りたら多少はマシになるだろうか、でも中身は子供なんだよなあ。そんなことをつらつらと考えながら、遵は墓穴の底で眼を瞑った。
……あ、惟継さんどうしようかな。でもおじさんもうこれ寝ちゃうからな。仕方ないな。
というわけで、地下街へと足を踏み入れた惟継の方だが。
「……来ないな?」
一行に遵が姿を現さず、首を傾げていた。陽の届かぬ地下とは言え、そこかしこに据えられた不思議なランプと、蛍光色に光る謎のキノコのおかげで視界は悪くない。彼の姿を見落とすことはないだろう。
墓穴に潜る所までは見ているので間違いない。隣の墓に入ったのだから、隣の家に来ていそうだが、ウサギ穴の仕組みと同質だとすればどこに繋がっているかの保証もない。しかしこれでは埒が明かないし、探しに行くべきか?
そう思い悩んでいたところ、どこからか光を放つ蝶が、ひらひらと彼の元へ飛んできた。
「これは……」
間違いない、遵の扱う類のもの。だが別にそれが何か言うわけでもなく、手紙がくっついているわけでもない。ここから何を読み解けと言うのか。
「ははあ、昼寝だな?」
察しが良すぎる。いつものことだと納得した様子の惟継は、それならばと幻蝶を連れ、地下の散策に赴くことにした。
「見ない顔だ!」
「ようこそお客さーん!」
「ああ、出たな子供ら」
よしよし案内を頼むぞ、と愉快な仲間達を捕まえて、墓の下の国を巡る。のんびりとした空気は元からだろうが、『上』をオウガ達に抑えられていたことを考えれば、本来はもっと活気があったのかも知れない。駆け回るホロゥズの姿や、暇そうな店番を眺めながら、惟継は思い付いたそれを口にした。
「そういえば、キノコ料理とやらがあるのだろう?」
腹が減っては戦は出来ぬ。この後のことを考えれば、腹ごしらえも悪くないだろう。
「お、興味がある?」
「ならご馳走しちゃおう!」
露店らしき場所で差し出されたそれは、串に刺して焼いただけのシンプルなもの。おそらく食べ歩きを想定してのものだろうが。
「なるほど、これが……?」
刺さっているのは、道中見かけた蛍光色のキノコだった。
香ばしい匂いと共に、良い感じに焦げ目のついたそれは、今もなお薄く発光している。
「悪戯では……ないよな?」
「ナイナイ」
「食べてみてー」
……どちらにせよ連れへの土産としては丁度良いか。そんな事を思いながら、惟継はそれを口へと運んだ。
なるほど名物と言うだけあって味は良い。まあ、ちょっと眩しいけれど。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蔵座・国臣
後詰めとして参加。
女王蟻との戦いでの負傷者が出たなら治療を…
と、いった辺りで驚かされようか。
オウガ達の被害者達が居たのかと思えば、悪戯っ子達だった。とはな。
染みる消毒と苦い薬どちらがいいか、と叱らねば。
ロットン含め女王蟻戦に参加したメンバーに治療を申し出て、
ホロゥ・ホロゥズとの交流をしてみたいところだな。
特に、先程私を驚かせてくれた悪戯上手達が釣れればいいが…ああ、もちろん消毒も薬も無しだとも。是非とも驚かせたい奴らがいるんだが、どうにも私は苦手でね、と相談してみよう。
戦闘に巻き込みたくないから…罠や、遠くから操作できそうな仕掛けがいい。
では、キノコ料理でも食べながら、悪戯会議を始めようか
●墓地と医師
続く戦いに対する後詰めとして、蔵座・国臣(装甲医療騎兵・f07153)が墓地の国を訪れる。祭壇裏に繋がったウサギ穴から外に出れば、教会は戦いの影響だろう、酷い有様となっていた。窓は全て内側から吹き飛んでいる上、天井は破れ、時折建材の欠片が降ってくる。ここで起きた戦闘の激しさを物語るそれらに目を見張りながら、彼は教会の外へと足を急がせた。
これだけの戦闘であれば、当然怪我人も居るに違いない。白衣を纏った彼は、それに違わぬ役割のため、辺りを見回して。
「皆、無事だろうか。負傷者が居るなら――」
と、そこで、外に広がる墓地の下から、何かがぞろぞろと這い出し始める。
「オソカッタネ……」
「タスケテ……イタイヨ……」
「何だ……!?」
薄汚れたシーツに包まれたそれは、ここに居座るオウガ達の暴挙によって、殺された被害者達が化けて出た――というわけでは勿論ない。
じりじりと近づいてくる中、先頭の幽霊が自分のシーツの裾を踏ん付けたらしく、その場で転んだ。
「痛いよ……」
「エー、ちょっとなにしてんのー」
それで緊張が解けたか、『戦場の幽霊ごっこ』をやめた彼等の様子に、国臣は大きく溜息を吐いた。転んでしまった愉快な仲間に、「診てやろう」と手招いて。
「染みる消毒と苦い薬どちらがいい?」
「え! それ以外はないの!?」
ヤブだヤブだと文句を言う彼等に、軽くお灸を据えつつ、彼は他に負傷者が居ないかと聞いて回った。
メンバーへの一通りの治療を終えて、国臣はもう一度改めて墓場を見回す。一見誰も居ないように見えるが、感じる視線には覚えがある。
「……大丈夫だ、消毒も薬も無しにしよう」
「ほんとにー?」
国臣が両手を広げてみせると、シーツの模様を変化させて、辺りに隠れていたホロゥズが姿を現す。大したものだと頷きつつ、国臣は駆け寄ってくる彼等に目線を合わせるように、身を屈めた。
「さて、相談なんだが――」
是非とも驚かせたい奴らがいる、と切り出すと、「難しいねー」と彼等は顔を見合わせる。
「僕等に出来るのは……」
「紐を張って足引っかけるとか」
「落とし穴におとすとか」
「樹の上から金ダライを落とすとか、それくらい?」
「意外といろいろできるな……」
しかし、と国臣は首を横に振って。
「できれば君達を戦闘に巻き込みたくない。遠くから操作できるようなものはあるだろうか」
「えー、それだと笑い声をあげるとか、クラッカー鳴らすくらいしかできないよね?」
うーん、と悩んでいた彼等は、ふと思いついたように国臣を見て。
「そうだ、センセーも一緒に隠れる?」
シーツを広げて彼等が言う。どうやら一緒にスーツを被れば、先程のように身を隠すことが出来るらしい。これならば近くでも罠を操作できるだろうか。
そんな利用法を考えながら、国臣は彼等が持って来てくれたキノコの串焼きを口にした。
作戦会議は、まだまだ続きそうだ。
大成功
🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
喧噪離れてお墓を回る
一つずつ墓碑を覗き込んでみても、文字なんて読めやしないのだけれど
だって、教育なんて一度も受けた事がないんだもの!
そうして墓守の彼を見つけたら、一つ疑問をぶつけてみせる
ねぇ、ここでは「アリス」のお墓はどうなるの?
メアリはアリスでアリスはメアリよ
だけれど、この世界で「アリス」は
みんな、ただの「アリス」でしょう?
自分の扉も見つからない
自分の名前もわからない
そんな「アリス」のお墓はどうなるのかしら
いいえ、メアリはお墓なんて要らないわ
だって、穏やかに眠るだなんてごめんだもの
最期まで人喰い達を殺し続けて
苦痛と恥辱の果てにある、甘美な復讐を味わいたい
メアリはその為に生きているんだから
●喧騒は遠く
わいわいと騒がしい愉快な仲間達から距離を置いて、メアリーは灰色の墓地を歩く。薄曇りのそれには太陽が浮かんでいるのだろうか、穏やかとも言える、中途半端な陽気。乾いた風と、それに乗る砂の香りを感じながら、行儀よく並んだ墓碑を一つずつ覗き込んで行った。
主の希望に墓守が応えた結果だろう、墓石の形は本当に様々。ただそこに刻まれた文字は、メアリーには読むことができない。けれどその様々な形、そして文字に添えられた彫刻の図柄からは、何かを感じ取る事ができた。
これは花の絵柄だろうか、そう指先で墓石をなぞった彼女は、その向こうに、墓守の姿を認めた。
仕事が一段落したのだろう、地面にそのまま腰掛けた彼の方へ歩み寄って、メアリーは墓石を眺める内に感じた疑問を口にする。
「ねぇ、ここでは『アリス』のお墓はどうなるの?」
「……」
黙ったまま、墓守はメアリーの顔を見返した。大きな帽子の下から覗く、色の薄い灰色の瞳。感情の読み取れないそれを見ながら、メアリーは続ける。
「メアリはアリスでアリスはメアリよ。だけれど、この世界で『アリス』はみんな、ただの『アリス』でしょう?」
そう、この世界に落ちてくるアリスは基本的に記憶を失っている。自分の扉も見つからない、名前だってわからない、そんな『アリス』はどうすれば?
ふむ、と頷いて、墓守は少し遠くを見るような目をする。かつての時を、思い出すような。
そして、訥々と答えた。名前の無いアリスも、道中で名前を持つことがあるだろう。自分で、もしくは誰かに名付けられて。それならば問題は無いのだが、本当に何も持たぬアリスならば。
「名前の無い、アリスは。どこへでも、いけます」
例えば誰のお墓でも、潜ってしまえば地下へと辿り着けるだろう。そうやって迷い込む者も居たのだ、と頷いた彼は、そこで何かを思い出したように、口元に指を立てた。
「でも、これは、秘密ですよ」
小声でそう言って、墓守はシャベルを手に立ち上がった。
あなたのお墓はどうされますか? そう問う墓守へ、メアリーは首を横に振って答える。
「メアリはお墓なんて要らないわ」
穏やか眠りを、などと言われるのはごめんだ、と。それは在り方の問題だろう。被捕食者でもあり、得物を狩る肉食獣でもある、そんな彼女に平穏は必要ない。最期まで人喰い達を殺し続けて、苦痛と恥辱の果てにある、甘美な復讐を味わいたい――それが願いなのだから。
ふむ、と頷いた墓守はシャベルを足元に突き立てて。
「それでは、アリス。良き狩りを」
帽子を取って、深々と頭を下げた。その動きに合わせて、ボサボサ髪の間から伸びた、ウサギの耳が揺れる。
大成功
🔵🔵🔵
矢来・夕立
自分の墓を見るってレアな経験ですよね。ひとつお願いします。
オレのぶんは名前だけで構いません。
ここには誰でも通れる道は無いんですか?
ある世界には無縁仏ってものがあって…ざっくり言うと名前の分からない人のお墓ですね。
「誰でも」っぽい通路が機能するようなら、いくつか作っておくのはどうでしょう。
無銘ですから細かい作業は不要だと思います。
なんならおばけさん方もお手伝いしたらどうですか。
あちこちに出たり逃げたり、驚かすには便利ですよ。
戦後は塞ぐなり、公共の通路に使うなり。
まあ実現の可否も含めてひとつの提案です。
…敵の攻め入る隙も増えますが、そこは罠の類でカバーしておきますね。
●『矢来夕立 ここに眠る』
「自分の墓を見るってレアな経験ですよね」
終活とかいうあれだろうか、死ぬ準備をしていればまた別かもしれないが。自分の名が刻まれた墓石を前に、夕立はしげしげとそれを眺める。この場に骨を埋めるつもりがないとはいえ、多少感慨深くはあるのだろう。
死んだ後のことを気遣うなど、悠長に過ぎるようにも思えるのだが。残すもの、残されるもの、そういった方向に行きそうになる思考を振り払って、彼は実戦向きの見地でこの場を見直し始めた。
上と下、二重構造の国と、それを繋ぐお墓の群れ。とはいえその『道』は、一人一つしか使えない。となると――。
「ここには誰でも通れる道は無いんですか?」
「……あなたの、お墓は、ここですが」
「いえ、そうではなくてですね……」
ええと、と言葉を選びながら夕立は言う。他と違い、生者の墓を作る此処では、『無縁仏』という概念自体がないのだろう。
「……ざっくり言うと名前の分からない人のお墓ですね」
夕立の言うそれが可能ならば、地上と地下を繋ぐ共用の通路が出来る事になる。それをいくつか作っておけば……。
「へー」
「そういうのあったら便利だねー」
「でしたら、ちょっと手伝ってもらえませんか?」
あちこちに出たり逃げたり、驚かすには便利ですよ、という夕立の言葉に心惹かれたようで、ホロゥズは墓守を急かして、共に無記名の墓地を作り始めた。
「できました」
「仕事が早い……」
というわけで出来上がった試作無銘墓地第一号に、夕立は実験台として招かれた。うまくすれば地下の国へ入れるし、ダメならダメでちょっと暗い穴の底でじっとしていることになるだけだ。そうして穴の中に飛び込んだ彼は、穴の底があるはずの場所からさらに深く、踏み込んで行くことになる。
実験は成功、のように思えたが。
「行き止まり……ですか」
ぺたぺたと、墓穴の道の先、壁になってしまった場所に手を触れる。基本的に、墓穴は地下の国にある民家と一対一で繋がる――そんな話だったはずだが、どうやらこの無記名墓地はどこにも繋がっていないようだ。良いアイデアだと思ったのだが、と壁をなぞる夕立の側方、穴の側壁がそこで、ばらばらと音を立てて崩れた。
「ワーッ、誰かいる!?!?」
「びっくりしたーーーー!!!」
「……どうも」
うるさい。この賑やかさは間違いない、崩れた壁から出てきたのは、あのシーツを被ったような愉快な仲間達だ。見れば、彼等の後ろにも別の道が伸びていて、もう一人別のホロゥがついて来ている。
「繋がった?」
「繋がったけど」
「繋がってないね」
「どっち???」
わいわいとやっている彼等の言う事は、まあどちらも間違ってはいない。アンダーグレイブへの道にはならなかったが。
「他の無縁墓地と繋がったってことですかね」
まあ、これはこれで。敵を誘い込んでも良し、簡易的な隠し通路として使うもよしだ。
確認も兼ねて、夕立は彼等が来た方の穴から這い出してみることにした。
「……ちょっと汚れるのが難点ですが」
「それはしょーがないよー」
何故かついてくるホロゥズの答えに、彼は小さく溜息を吐いた。
大成功
🔵🔵🔵
九之矢・透
アッチコッチから布が!?
あー、ええと
ハジメマシテ??
お墓用意してもらえんの?あんな高級品!?
何か悪いなと言いつつも、有難くお願いしよう
刻む言葉は……ウーン、
名前さえ入ってりゃお任せ
あ、ただフルネームで頼むよ
苗字は自分で付けたんだけどさ、結構気に入ってるんだ
九人家族で「九之矢」ってね
本当に町全部が石で出来てんだな
キノコ料理食ってみたいです!
さっき食べ物の話したからちょっと小腹が空いてて
おススメの店教えてくれよ
こういうのは地元のヒトに聞くに限るってね
料理に舌鼓をうったり
お土産を見たり……こういう謎の置物って観光地に必ずあるよな
本当に石だらけだ
――カタパルトみたいな投石機を作るのもありかな?
●『九之矢透 ここに眠る』
いかにもそれらしい、墓地から這い出してきたシーツの群れに、透はしばし考えた後に口を開く。
「あー、ええと、ハジメマシテ?」
「イエーイ、はじめまして!」
「あっ! 挨拶返してどうするの!?」
びっくりさせられないじゃない、と揉め始めた愉快な仲間達の姿が、汚れと血糊に塗れたものから変わっていく。どうやら『そういう模様』を作れるらしいと察しつつ、透は彼等――ホロゥズと交流を図ることにした。
ホロゥズは彼等の住処、地下街を案内したがっているようだが、そこに入るには専用のお墓が必要なのだという。助けてくれたお礼ということで、墓守はそれをタダでやってくれると言っているが。
「いいの!? 高級品じゃない!?」
「材料は、あるから」
あるんだ。でもそういう問題? 訥々とした墓守の言葉に首を傾げながら、透はその申し出を受けることにした。
「刻む言葉は……ウーン」
悩ましい、と思いながらも、とりあえずは名前だけを告げる。
「苗字は自分で付けたんだけどさ、結構気に入ってるんだ」
共に暮らす子供達、九人の家族で、『九之矢』。だから刻むならちゃんとフルネームで、と付け加えた。
何やら無闇に豪華な墓石の下、暗い穴の中に飛び込んだ透は、見えていたはずの穴の底が、ずっと不覚に伸びていく奇妙な感覚を味わう。真っ暗なトンネル状のそこを探り探り進めば、やがて石の扉に行き当たった。
「はー……本当に何でも石で出来てるんだな」
重い扉を開ければ、石の家具が並んだ部屋があって、さらに向こうには、石畳の広がる灰色の街が在った。地下にあるというのは事実なのだろう、空は望めないけれど、不可思議なランプや色とりどりに光る謎のキノコが、辺りを明るく照らしている。
「僕等の街へようこそー」
イエーイ、と透を迎えたホロゥズは、そこで案内を買って出てくれた。行きたいところはあるか、という問いに、少しばかり考えてから。
「そうだなあ、キノコ料理は有名なんだろ? オススメの店とかある?」
「あるけど、お腹空いてる?」
「ああ、さっき食べ物の話したからさ」
小腹が空いてて、と話す透に頷き返して、ホロゥズは露店へと先導してくれた。そこへと向かう内から、串焼きにされたキノコの香ばしい匂いが感じられるが。
「おやつにだったら、ここのが美味しいよ」
「ああ、それじゃ早速――」
うん、と現物を見てしばし固まる。先程見たものと同じ、串に刺されたキノコは、今も蛍光色に輝いていた。
食べて大丈夫か決断するのに少々時間を要したが、とにかく。食べてみれば普通に美味しかったそれを齧りつつ、彼女は市場の方、土産物を扱うお店を見ていた。
「こういう謎の置物って観光地に必ずあるよな……」
石の彫刻品だろうか、十字架に古墳、ピラミッドなどの小さな置物がいくつかも並んでいる。
「これ……もしかして全部お墓……?」
そんな置物要る? 素直な疑問が過ぎるが、まあ。お土産とはそういう物かも知れない。
そうしてひとしきり街を歩き回ったところで、透はこれからの話、敵の迎撃についても思考を巡らせる。これまで見て歩いた限り、地上も地下も本当に石ばかり。石材には事欠かないようなので。
「――カタパルトみたいな投石機を作るのもありかな?」
「あー、ロットンくんならできるかなあ」
「頼んでみよー」
こちらに戻ってきているであろうジャバオウガ達を迎え撃つ頃には、きっと準備も整っているだろう。
大成功
🔵🔵🔵
徳川・家光
さすがに、将軍の僕の墓がここにあったら、ちょっと気まずいですよね……。
では僕は、キノコ料理をいただくとしましょう。
同時に、キノコ料理の厨房がもっとも多い場所と、キノコが一番良く取れる場所を伺っておきます。
で、そこに羅刹大伽藍を使って多くの墓石(あるいは石材)を持ち込み、砦のように固く防護を固めさせてもらいましょう。
墓石と墓穴があるために、籠城戦には極めて優秀な国とお見受けしました。ならば、後は兵糧……食料の確保さえ確実ならば、百歩譲って私達がうまくオウガを倒せなかったとしても、そうそうやられる事はないでしょう。
それはそれとして、僕、おいしい食べ物に目がないので、キノコ料理が気になります……!
●徳川さんのお墓作るのはさすがにマズイ
「そういうもの?」
「そういうものです」
「ロットンくんお墓作るの上手だよ?」
「いやー、そうだとしてもちょっと……」
愉快な仲間達の言葉に気まずそうに返事をして、徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)は墓守からの申し出を辞退する。何しろ別の世界には、既にお家の墓所があって、何だったら祀られてもいますので。
「それより、僕はキノコ料理が気になるんですけど」
おいしい食べ物に目がないので、と告げる家光だが、シーツを被った幼子、ホロゥズの反応は芳しくない。
「美味しいお店はね、下にあるんだよねー」
「ああ、地下の方ですか……」
なるほど、と彼等の這い出してきた墓石の方へ目を向ける。不思議な仕組みではあるが、墓穴から繋がるという、もう一つの国。普段はそこで暮らしているというのなら、生活拠点もそちらになるのだろう。
「でもね、おやつなら教会にあるよ」
「ロットンくんのごはんもねー」
そう言ってホロゥズが指差したのは、墓守が住んでいるという教会だ。地上に住んでいるのが彼だけで、その生活用品、それから食料と厨房もあそこにしかないというのなら――。
「では、あそこを中心に構えましょうか」
ぞう、何も食い意地のためだけにこんな話を振ったわけではない。愉快な仲間鯛の使う墓石と墓穴、そして地下にあるというもう一つの国。それらを踏まえて考えれば、この場所はとても籠城戦に向いている。後は食料の確保ができれば、万が一猟兵が破れても……また、猟兵が帰還した後に別のオウガが現れても、そこを拠点に反抗することが可能ではないか。家光はそう分析していた。
「とはいえ、このままだと少し心許ないですね……」
先程ボス戦をやらかしたばかりのその建物は、戦闘の余波で見るからにボロボロである。なので、「石材少しお借りしますね」と告げて、家光は『羅刹大伽藍』を発動、周囲の石材と、いくつかの墓石をその身に纏い、見上げるほどのロボへと姿を変えた。
「ワッ、すごーい!」
「かーっこいいー!!」
ホロゥズの素直な反応に、微かに鼻を鳴らしつつ、彼は豊富な石材や墓石を使い、教会を砦とした防衛拠点作りを開始した。積み上げた石を防塁とし、物資補給や奇襲を考え、内外にホロゥズや猟兵の墓石を再配置。他の猟兵が防衛装置や抜け穴を作っているようなので、極力それを活かせる形にあれ何かすごく香ばしい匂いしてません?
鼻腔をくすぐる香りに、その思考が上滑りしていく。ふと教会の方に目を向ければ、簡易な厨房で墓守が差し入れ用のキノコ料理を作っていた。
嗅いだことのない感じは不思議の国の香草によるものでしょうか。ちゃんとした厨房が無いようなので、手の込んだ料理は期待できないでしょうけど、シンプルなのもそれはそれで……。
「あれ、ロボット故障しちゃった?」
「いえ、大丈夫です。何でもありませんよ」
この後のお食事から何とか意識を引き離して、家光はさっさと仕事をやっつけるべく、気合を入れ直した。
でもこれきっと、醤油をたらして大根おろしを添えたら最高ですよね……。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『ジャバオウガ』
|
POW : 喰らいつく顎
【噛みつき】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : かきむしる爪
【爪】による素早い一撃を放つ。また、【翼を限界まで酷使する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 燃え光る眼光
【視線】を向けた対象に、【額のクリスタルから放たれるビーム】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ジャバオウガ部隊襲来
あれ、何かおかしくね? リーダー格であるオウガ、よくばりさまに命じられ、金目のものを探す旅に出ていたジャバオウガ達は、帰り道になってようやくそれに気付いたようだ。どこに行ってもお墓だらけで、遠征の成果は皆無。あの口やかましい女王に何と言い訳するか困っていたせいで、どうも気付くのが遅れたらしい。
「あの教会……あんなだっけ?」
教会自体は何故か半壊しているが、積み上げられた石材による石塁が見えるし、その後ろには、小型ではあるが投石器みたいなものもある。旅に出ている間に、女王が自分から砦を建造している可能性は……。
「ないよなあ」
「こりゃやられちゃったかなぁ、女王サマ」
割とドライな口調で両手を合わせた彼等は、とりあえずどうする? と互いに顔を見合わせる。
「もうこんな国捨てるか? 何か薄気味悪いしさあ」
「そうする? オレもうヤだよこんなトコ」
何かずっと視線を感じて、全然眠れないし、と。一体の愚痴に周りのジャバオウガ達もうんうんと頷いた。
「でもさ、あの面倒な女王がいなくなったってことは……」
「オレ達の国にできるってこと?」
あ、それ良いかも。じゃあ行ってみるかぁ、と互いに励まし合い、ジャバオウガ達は明るい未来のために、猟兵達の待ち受ける教会へと進軍を開始した。
エドガー・ブライトマン
ホロゥ君、世界平和まであとすこしだ
この国を救うため、私に力を貸してくれ
ああっダメだよマントを引っ張るのは…
美味しいキノコ料理も食べたことだし、張り切っていこう
私が私のカッコいい墓から、カッコよくジャバオウガ君の前に登場する
視線を引き付けている間に、ホロゥ君たちも墓から出て
瓦礫の陰で待機しておくんだ
ごきげんよう、ジャバオウガ君
私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!
キミらがこの国を手に入れるコトは不可能だ
気づかないかい?誰かがずっとキミを見ている
悪い子を罰するものの目だ
ハッタリじゃないよ、私の目を見て
今だよホロゥ君、投石だ!
かれらが驚いている間に“Jの勇躍”
あはは、悪いコトはするものじゃないよ
●ゾンビではない
石造りの街を巡っていたエドガーの元へ、ホロゥズの一人が駆け込んでくる。地上の状況を見に行っていたその子の話では、ジャバオウガの遠征隊が戻って来ているという。とはいえ、いずれ来ることはわかっていた事態だけに、エドガーに慌てた様子はない。
「それじゃ美味しいキノコ料理も食べたことだし、張り切っていこう」
うんうんと頷いて、迎撃に向かう。が、その前に。
「ホロゥ君、世界平和まであとすこしだ。この国を救うため、私に力を貸して欲しい」
「いいよー」
「仕方ないなー」
軽い調子で答える面々を引き連れ、いざ地上へ。そう踏み出したエドガーが、躓いたように体勢を崩した。
「……マントを引っ張らないでくれるかな?」
「はーい」
一方、地上に広がる墓地、グレイブヤードを行くジャバオウガ達は、変わり果てた教会の姿に呆然としていた。石材が積み上げられた簡易的な防塁は言う間でもなく、墓石も見覚えのない位置に移動している。その上、何か石像まである。
「誰がこんなもの作らせたんだ……?」
その端正な顔立ちの石像を前に、思わずそう呟くと。
「こんなもの、とは失礼だね」
「石像が喋った!?」
突然の返事に飛び退いて、周りのジャバオウガ達も臨戦態勢を取る。それと同時に、エドガー像がゴゴゴと細かく震えだし――。
「石像が動いたァ!?!?」
「キミ達だいぶ精神やられてるね……?」
石像をずりずりと動かして、露になった墓穴からエドガーが這い出した。想定ほどカッコイイ登場にはならなかったが、仕様である。服とマントを払って立ち上がった彼は、慄くジャバオウガ達へ、堂々と名乗りを上げた。
「ごきげんよう、ジャバオウガ君。私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!」
「通りすがりの王子様……?」
ざわ、とジャバオウガ達に動揺が走り、互いに目配せを交わす。現状、彼等が気にしているのはただ一つ。
「ゾンビじゃないんだな!?」
「ゾンビではないよ」
「亡霊でもない!?」
「うん、まあ、違うね」
などとやっている内に、エドガーに注意が集まっている間隙を縫って、ホロゥズが配置につくのを確認する。
「けれど残念ながら、キミらがこの国を手に入れるコトは不可能だ」
いつものように爽やかに微笑み、王子様はそう告げた。挑発と取れなくもないその言葉に、ジャバオウガ達もさすがに色めき立つ。けれど機先を制するように、エドガーは口元に指を立て、囁いて見せる。
「――気づかないかい? 誰かがずっとキミを見ている」
「エッ、まさか……!?」
それは、悪い子を罰するものの目だ。そう脅すエドガーに、視線の覚えがありすぎるジャバオウガ達は、目に見えて動揺し始めた。まだかろうじて武器を構えているようだが、あと一押しと言ったところか。
「ハッタリじゃないよ、私の目を見て」
曇りなき青い瞳へ、彼等の視線を集めたところで、エドガーはいい加減待ちくたびれてきているホロゥズへと目配せした。
「おぉ~~」
「悪い子はどこだぁ~~~?」
隠れていたホロゥズは、それを合図におどろおどろしい声を上げ、瓦礫の影から投石を開始する。
「ウワーッ! 何事!?」
「これが天罰だとでも――!?」
驚きのあまり悲鳴を上げるオウガ達だが、ホロゥズの投石程度ではさしてダメージもない。すぐに冷静さを取り戻し、対処してしまえばいい話なのだが。体勢を整える暇もなく、白刃が閃いた。
『Jの勇躍』、エドガーの脱ぎ捨てたマントがふわりと足元に落ちる合間に、光放つレイピアは敵を斬り裂く。動揺の隙を突き、目にも止まらぬ速さで敵陣を駆け、エドガーは元の位置に戻ると、地面に落ちかけたマントを優雅に拾い上げた。
「あはは、悪いコトはするものじゃないよ」
彼の通った軌跡に沿って、敵陣が崩れる。
大成功
🔵🔵🔵
霞末・遵
【幽蜻蛉】
やっばい寝過ごしたかも
ごめーん遅れたー
……なんかすごい発展してる
三日くらい寝てたのかな
惟継さんおはよー
もしかしてもう終わった? 帰って二度寝していいやつ?
まだなの? そりゃ残念 いや間に合ってよかった
楽になるならおじさん遊んでていいかな
……達? 強制参加?
やだあ子供もいるしおじさん投石器で遊びたい
もー
とりあえず投石器に砂利と呪いの蜘蛛をめいっぱい乗せて射出
軽いからよく飛んで楽しいなあ。空が暗くてよく見えないけど
後は呪いがなんとかしてくれるでしょ。砂利と蜘蛛に降られるなんて運がなかったねえ
いやあ、働いた。もう飲んで待ってていいよね
えっ、お土産くれるの?
じゃあもう一投くらいしとこうかな
鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
土産も頂いたことだし、さあ帰るかという訳にはいかんよな
さて、お前さん達……驚かすのは得意かな?
ちょいと頼み事があってな
愉快な仲間達に頼み事を終えたら遵殿と合流だ
そろそろ起きてくれ、最後の一仕事だぞ
下準備を済ませておいたので多少は戦いが楽になるかもしれぬ
俺に感謝することだな!
彼等には墓の裏等に隠れて貰って、奴等を驚かし
動揺している隙に俺達が倒してしまうという流れだ
俺も奴等が来る前に天候操作にて雷雲を呼び出しておき準備しておこう
驚いた所に鳴神にて雷を落として仕掛けるぞ
あとは生き残ったのを追撃するのみ
災難ではあるが怨むのならばあの女王蟻を怨むことだな
そういえば遵殿、土産がある
光るキノコだ!
●協力作戦?
石造りの地下の部屋が微かに振動し、遵が寝台の上で眼を覚ます。
「……あれ?」
ぼんやりとした頭で、この揺れは上での戦闘によるものかと思考する。これはもしや寝過ごしたかな。地下の此処では日の落ち具合などで時間を知ることは出来ないが。とりあえず地上への扉を潜って、来た道を戻れば、自分の墓の下から地上に這い出すことが出来る。最初の戦いの舞台、半壊した教会の方へ目を向けた遵は、積まれた防塁といくつか用意された投石器を目にした。
「いつの間にこんな防備を……」
あれから何日経ったっけ? などと考えていると、彼を発見した惟継から声がかかった。
「おお、起きたか遵殿」
「惟継さんおはよー。もしかしてもう終わった?」
帰って二度寝できるかな、という期待の滲んだ言葉に、惟継は笑顔で返す。
「いや、良いタイミングだ。丁度最後の一仕事だぞ」
「ってことは、まだなの? それは……間に合って良かったよ」
残念、という言葉を飲み込んだ遵は、代わりに盛大に溜息を吐いた。
「そう言うと思って、下準備を済ませておいた。多少は戦いが楽になるかもしれぬぞ!」
俺に感謝することだな、と快活に笑う惟継に、遵はうんうんと頷いて返して。
「楽になるならおじさん遊んでていいかな」
飽くまでもやる気の無い提案を投げる。いっそ皮肉か嫌味に近い物言いだが、惟継にはそれを綺麗にスルーだけの腕力があるので問題はない。
「あのシーツ姿の愉快な仲間達には、墓の裏等に隠れて貰った。彼等に敵を驚かせてもらい、動揺している隙に俺達が倒してしまうという流れだ」
「ふーん……え、俺『達』? 強制参加?」
それでも食い下がる遵の様子を、惟継は不思議そうに見下ろす。
「俺としても、帰れるなら帰ってしまいたいところだが……何だ遵殿、オウガを倒す意義から話した方が良いか?」
「いやーそれはわかってるよ、わかってるけどさあ」
グリモア猟兵の真似事をするか、と楽し気に言う惟継に、遵は首を横に振ってみせた。あの愉快な仲間達が、彼にとって大の苦手である子供を想起させるのもその一因か。仕方がないので遵は遠くから、投石器を使って参戦することで譲歩する。
「それでは手筈通りに頼むぞ、お前さん達」
「はーい」
「まーかせてー」
ようやくホロゥズを送り出したところで、惟継は再度黒雲を上空へと集め始めた。
「オイオイ、なんか急に天気悪くなって来たよ」
「不吉だな……勘弁してくれよ……」
もともと薄暗い墓場が、立ち込める暗雲によってさらに一段階暗さを増す。夜でもないのに薄闇が満ち、ジャバオウガ達が身震いする、そこで。
「あぁ~~~」
「帰れ、カエレェ~~~」
精一杯おどろおどろしい声を上げたホロゥズが、周囲の墓石から姿を現す。這うような動きで迫る彼等の様子に、ジャバオウガ達は一斉に悲鳴を上げた。
「ギャーッ!?」
「うむ、そこだな」
『鳴神』。完全に注意をそちらに引かれ、硬直したジャバオウガ達へ、惟継は雷を落として一網打尽にする。黒焦げになって倒れるオウガ達。声も上げられず倒れた彼等に代わって、ホロゥズが悲鳴を上げていた。
「ワーッ!?」
「キャーッ! 雷!?」
「それじゃ、追撃発射するよー」
「遵殿、遵殿。少し待ってやってくれ」
目の前に着弾した落雷に、散り散りに逃げた彼等が隠れるのを確認してから、惟継は合図を送る。投石器から発射されたのは、遵が集めた砂利と、呪いの蜘蛛の群れ。岩に比べて軽いそれ等は、軽いが故に空中で大きく広がる。目標の方に飛んでいるのは間違いないと思うのだが。
「うーん、暗くてよくわかんないね」
でもまあ呪いがなんとかしてくれるでしょ。そう言ってのけた遵は、やれやれとその場に腰を下ろした。
実際問題、ジャバオウガの生き残り達は、砂利に混じって降り注ぐ不吉な蜘蛛の姿に大慌てになっているようだ。
「では、俺は残りの敵を追討してこよう」
「うん。おじさんは飲んで待ってるからね」
いやあ、働いた。そう満足そうに言う遵の様子に苦笑を浮かべ、惟継はそこで思い出した『お土産』を、彼へと手渡した。
「そういえば遵殿、土産がある」
「うん? くれるの?」
それは、地下街で手に入れた光るキノコ。へえ、と物珍し気にそれを眺めた遵は、大儀そうにではあるが、もう一度立ち上がった。
「じゃあ、やる気がある内にもう一投くらいしとこうかな」
「ああ、頼んだ」
再度降り注ぐ呪いの雨を追って、竜神が敵陣へと切り込んでいった。
「災難ではあるが、怨むのならばあの女王蟻を怨むことだな」
振るわれた七支刀が、半泣きのジャバオウガを切り裂く。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
国を取ったら今度は国を取られる覚悟が必要ってことですよ。
あれに見えるは漁夫というヤツでしょうか。このオレよりおいしい思いをしようとは命知らずですね。許せません。ボコボコにします。
繋がった無人墓地を利用します。
こうした地形、道を利用するならやはり罠ですね。
おばけさん方に追い立てていただきますよ。
オレは先行して罠を仕掛けます。《闇に紛れて》リアルタイムでいきましょう。
さっき通ったときは何もなかったはず。そんな恐怖をご提供するって寸法です。
道の先に落とし穴。式紙のくくり罠。上からたらい。横から手裏剣。など。
オレはあらかた道を覚えられますが、おばけさん方は…
…。地図を描いておいてあげます。
九之矢・透
なんでオマエらの国に出来るって思っちゃうんだよロットンサン居ただろ!
ヘンなとこポジティブだな!?
腹ごなしも出来たし、いっちょやりますか
ホロゥサン達、ドンドン投石機で石投げちゃってくれるかい?
空飛んでるヤツが居たらその辺を特に念入りにね
飛んでるヤツが地面に落ちてきたり降りて来たら、
もうちょいビックリさせてやろうか
【狗解】
視線はコイツだったのかも?なんて思わせられたらいいね
噛みついて攻撃したり、
若しくは追っかけて他のヒトが作った罠に誘導しよう
アタシは物陰に移動して隠れて、目の前を取った時に投擲
やっぱさ、
ヒトの住処荒らしちゃあダメだよなー?
蔵座・国臣
いや、力で抑えてた上が倒されたんだから、ワンチャン狙わず帰ればいいのに…
仕掛けが無駄にならずに済んでよかった。とでも思っておこうか。
用意した仕掛けは、大きく音を鳴らすものと、光るもの。
直接危害を与えるものは片付けとか、後が大変だからな。
やることは単純、仕掛けを動かしてから、仕掛けと反対方向から飛び出して轢き逃げ。警戒はしているようだが、警戒しっぱなしで疲労が見えるからな
。むしろ仕掛けの方に過剰に反応してくれるかもしれん。
不意打ちからそのまま倒せそうなら、再度撥ね飛ばすか、暴力を振るおう。
長引きそうならそのまま撤退して他猟兵と合流、回復支援に徹する
●轢き逃げ
向かってくるジャバオウガの群れを遠目に見つつ、国臣は呆れたように息を吐く。『女王』は既に倒された。その支配に不満があったと言うなら、解放された現状を喜んで帰ればいいだろう、というのが彼の考えだ。
「まあ……おかげで、仕掛けが無駄にならずに済んだ、か」
相手を気遣うのを止め、とりあえず自分の立場での結論を出した彼は、迫るジャバオウガの位置を把握し、『仕掛け』を動かす頃合いを見計らう。
「なあ……またなんか……」
「視線を感じるって? 気のせいだろ」
不快そうな顔でそんな言葉を交わすジャバオウガ達。気のせいだと断じた個体も同じような感じを受けているのか、その表情はすっきりしない。そして、まるで自分に言い聞かせるように否定して、周囲を注意深く見回し始めた。
実際に視線を向けている国臣としては、勘の良さに驚くばかり。見つからぬよう改めて身を潜めて、彼は敵の状況を分析する。
警戒心は強いようだが、同時に警戒し続けたゆえの疲弊が見える。それに、今回ばかりは周囲に神経をとがらせているのが、逆にチャンスと言えるだろう。
「ん、今のは何だ……?」
小さな物音に反応して、彼等の注意がそちらに向いたところで、国臣は仕掛けを発動。ホロゥズ達の悪戯グッズだろう、小さな花火のようなそれは、大きな音と一瞬の発光を伴い、破裂した。
「ワーーーーッ!?」
突如の爆発に目と耳と正常な思考を奪われ、ジャバオウガ達が混乱状態に陥る。片付け等を考慮して、爆発自体にはほとんど威力はない。その代わり。
「さて、それでは行くか」
「え?」
宇宙バイクを駆使して、国臣が仕掛けの逆方向から突撃。スピードを緩めぬまま駆け抜けて、パニック状態のジャバオウガ達を次々に撥ね飛ばしていった。
敵の一団をすっかり踏み越えて、切り返したところで国臣は次の手を思案する。敵は散り散りになり、その多くは空中へと逃げ始めている。彼のバイクならばそれを追うことも可能だが、本職としては他の仲間と合流して支援に当たっておきたい。
そんな彼の思案に答えを示すように、空からジャバオウガ達の元へ、大小の石が降ってきた。
●追い込み漁
「よーし、その調子でどんどん行こうか!」
あの辺り、空中に逃れようとしているジャバオウガを重点的に狙って、と透が指示を出すと、愉快な仲間達がそれに従って投石器を動かす。
「ぜんぜん狙ったトコに飛ばなーい」
「何これー?」
「だよな!!」
当然彼等がそんなものに習熟しているはずもなく。狙いは大体で、当たると良いなとお祈りしながら発射している状態だ。力持ちの墓守に手伝ってもらいつつ、とにかく数撃てば何とやらで攻めた結果、牽制くらいにはなったのだろう、ジャバオウガ達は背の高い墓石や木々を盾にするため降下し始めた。どうにかより安全に、教会まで攻め込もうとしているようだが。
「オーイなんで石が降ってくるんだよー」
「知らねえよー」
「でもこれだけ石材あればジャバオウガ城も作れそうだぜ?」
「いや、まあポジティブなのは良いけどさ……」
何かズレてんだよな、と透が首を傾げる一方、彼等に迫る黒い影が、ぼそりと不吉な言葉を零す。
「あからさまな漁夫の利狙い……。このオレよりおいしい思いをしようとは命知らずですね」
そんなタイミングで透から「撃ち方止め」の号令が入り、投石器の稼働が一時止まる。勿論それは、敵部隊に近付く『彼等』のためである。
「気を付けて……落石の中で歩くと……」
ぼそぼそと、ジャバオウガ達は背後から囁く声を聞いて、恐る恐る、そちらを振り返る。そこは誰かの墓の上、いくつかの地と泥で汚れたシーツが、首の無い人間の形を浮かび上がらせていた。
「こうなっちゃうからねぇ?」
「ギャーーーーッ!!!」
悲鳴を上げたジャバオウガ達は、突如現れたその死体……ホロゥズの性質の悪いイタズラから一目散に逃げ去ろうとする。すると。
「あッ!?」
「あれ、あいつどこいった!?」
突如開いた落とし穴に、ジャバオウガが一体姿を消した。また次の瞬間、何かに足を引っかけた別の一体が、白い蛇のような何かに絡め取られ、自由を奪われ地面に転がる。式神をも駆使した即席のトラップが、何故か行く手に広がっている。
「どういうことだよ!?」
「さっきまでこんなものなかったのに……!」
不気味、というよりもう実害も出ている。どう考えてもこの先は危ない。足を止めた彼等だが、その後ろからは。
「待ってぇ~~」
血塗れのシーツに包まれた首なし死体が複数、追いかけてきている。パニック状態を脱せないまま、ジャバオウガ達はさらに前進を開始した。
「いや、面白いほど嵌ってくれますね」
そんな彼等の逃げていく行先では、闇に紛れた夕立が現在進行形で罠の設置を行っていた。ここを踏むと手裏剣が側面から跳んできて、こっちを引っ掻けると上からタライが降ってくる。こんなことを可能にしているのは、彼のユーベルコードと、ホロゥズの協力を取り付けた下準備の賜物である。
夕立の合図に合わせて、今度はジャバオウガの側面に回っていたホロゥズが火薬で悪戯を仕掛け、方向を誘導。事前の打ち合わせで無縁墓地通路の利用法は完璧だ。夕立は各出口とそこに至る道順を暗記しているし、ホロゥズのために地図まで描いた。
助かるー、と喜んでいた彼等の様子からするに、これで手違いの起きる可能性はほぼないはずだが。
「次どっち行けば良いんだっけ?」
「忘れたー」
「……なるほど」
地図の読めないタイプが居たか。そんなもんどう考慮しろって言うんですかねえ。
ご都合じみた状況ではあるが、ここまで来れば夕立のみでも修正は容易い。しかし、今回はその代わりに。
「ああ……今度は何だよぉ」
若干泣きの入ったオウガ達の前方から低い唸り声が聞こえる。小さく聞こえたそれは、気付けば彼等のすぐそばに迫っていて。影に溶け込むような毛並みと、そこに浮かび上がる二つの眼。墓地の合間から猟犬が飛び出し、ジャバオウガ達に猛然と襲い掛かった。
「アーーーーーーッ!!」
普段ならともかく状況が状況である、突如現れたそれを怪物か何かに誤認したように、ジャバオウガ達は来た道を引き返し始めた。
恐らくはそれが他の猟兵によるものだろうと当たりを付けた夕立は、罠フルセットのおかわりに駆け込むことになったジャバオウガを迎えるべく、無縁墓地に潜っていった。
「これはこれで忙しいな……」
そんなこんな追い掛け回され、罠地獄を駆けずり回って、透達の前に現れたジャバオウガはもうヘトヘトに疲れ切っていた。
「……あれ、もうこれだけ?」
「そのようだな」
ユーベルコードによって呼び出したそれ、先程けしかけた猟犬を撫でていた透の言葉に、合流していた国臣が頷く。透の狙った通り、味方の罠に敵を追い込む作戦は上手く行ったようで、疲労がどうこう以前にもう生き残りがほぼいない。
「うぅ、オレ達ばかりなぜこんな目に……」
愚痴をこぼしながら地面に倒れたジャバオウガに、透は取り出した武器を一本手にして。
「そもそも攻めてきたのが間違いだが……」
「やっぱさ、ヒトの住処荒らしちゃあダメだよなー?」
「だよねー」
「このままだと運動会できないしー」
不たちの言葉に、うんうんとホロゥズが頷く。そんな中、軽く放られた刃が命中して、そのジャバオウガは骸の海に還っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
教会から【ジャンプ】で高く跳んでみせ
敵を【踏みつけ】ご挨拶!
きらきらのお宝も良いけれど
今のあなた達にはもっと欲しいものがあるんじゃない?
無駄足踏んで疲れ果て、とてもお腹が空いてるでしょう?
きっとおいしいアリスのお肉
無能なあなた達に捕まえられるかしら?
そう【誘惑】し【逃げ足】活かして立ち回る
【野生の勘】で致命傷だけは避けながら
躱せない攻撃は【激痛耐性】【継戦能力】耐えてみせ
酷使し続けた翼はいずれ使えなくなる筈だから
回避に専念して復讐の機会を見計らう
【墓守の獣】で半獣半人の姿に変身し
だけれどそれはいつもの人狼ではなく黒妖犬の耳尻尾
メアリはホントは狼だけれど
この国ならきっとこの姿が相応しいでしょう?
●『墓守』
猟兵達の迎撃を受けて、ジャバオウガの集団はみるみる内にその数を減らしていく。そんな中でも数を活かして、どうにか教会まで辿り着いた者達も居た。
「うう、随分やられちまったが……」
「ここまで来れば投石器もヘタに使えないだろ」
ぜーはーと荒い息を吐いて、ジャバオウガ達は気合を入れ直す。よく見れば本拠地と思われる教会は既に半壊。奪取も破壊も容易い、ように思われたが。
「……ん?」
その半分崩落した屋根の上から、軽やかに跳ぶ影が一つ。灰色の空に軌跡を描いて、それは戦闘のジャバオウガの頭上に降り立った。
「ウワーッ、誰だお前!?」
「メアリはメアリよ。――ねえ、あなた達」
仲間を下敷きにされて慌てる彼等に、降ってきた彼女、メアリーは問う。
「きらきらのお宝も良いけれど、今のあなた達にはもっと欲しいものがあるんじゃない?」
挑発的な声音。遠征は空振り、無駄足を踏んだ上に追い立てられて、とてもお腹が空いているのでは? そうして見せる彼女の後姿は、自然と獣の欲を掻き立てるもの。
ああ、それなら望み通り喰らってやると吠えるオウガ達に、メアリーは笑みを向けた。
「無能なあなた達に捕まえられるかしら?」
とん、とオウガの一体を踏み台に、駆け出した彼女を追って、ジャバオウガ達は牙を剥き、鋭い爪を出して翼を広げる。打ち振るうそれで風を呼び、アリスを喰らってきたオウガとしての本性を露に、追い縋る。
これまでの鬱憤を晴らすように力を振るうオウガの追撃を、メアリーは野生の勘で巧みに躱す。けれど今回は、肉食獣の数が勝るか。爪はその柔肌を裂き、赤と共に美味な香りが灰色の墓地を染めていく。
けれど、威容を誇るように広げられた彼等の翼が限界を迎える頃、獣の狩りは逆転した。
「残念ね、交代の時間みたい」
閃く雷光のような衝撃が空気を震わせる。骸魂との一体化により、メアリーは半人半獣へと姿を変えた。黒い毛並みの耳と尾、炎のように赤い瞳。黒犬、ブラックドッグ。それは不吉な死の先触れである。
「メアリはホントは狼だけれど――」
禍々しい爪の生えた腕が、追ってきていたオウガの首を捕まえる。それを地へと叩き付けて、牙を剥いて、狩猟者の笑みがそこに浮かんだ。
「この国ならきっと、この姿が相応しいでしょう?」
黒犬は死神のように扱われるが、それと同時に教会に添う、墓守としての側面を持つ。それが『チャーチグリム』と呼ばれる所以。崩れかけた教会を中心に据えた、この広大な墓地の国で、墓守の獣が高く吠える。
大成功
🔵🔵🔵
●グレイブヤード
最後のジャバオウガが力尽き、灰色の墓場に静けさが戻る。戦いの気配は去って、薄い色の空の下、砂混じりの乾いた風がまた墓碑を撫でる。色に乏しいその国には、代わりに小さく明るい声が響いていた。
「やったーー!」
「これでお出かけできるねえ」
地下に潜んでいた愉快な仲間、ホロゥズが次々に姿を現し、思い思いに駆け回る。
そんな彼等を目を細めて眺めた後、背の高い墓守が、シャベルを担いで猟兵達の前に立った。
「ありがとう」
皆のおかげで、この国の生活は守られた。きっと、アリスが来ても大丈夫だろう。訥々とそう語り、帽子を取った彼は、最後に深く頭を下げた。
ここはグレイブヤード。生者のための墓碑が並ぶ、少しだけ不思議な、墓場の国だ。