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燐暮

#サクラミラージュ #俺たちの宿敵シリーズ

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#サクラミラージュ
#俺たちの宿敵シリーズ


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 伊太利亜のとある島には、小さなチャペルがある。
 町としては大きくない規模でありながら、漁業や観光業で栄えている。
 オリーブ畑と美しい海を眺望できるこのチャペルも観光ホテルに併設された施設であり、ここで挙式を上げる海外客も多いという。
 今日もまた一組、幸せな男女のその門出を祝うべく、多くの縁者がチャペルに集っていた。
 しかし準備ごとにはトラブルがつきもの。
 式は遅れに遅れ、日は暮れはじめ、明かりを灯されたチャペル内は薄暗く、扉の外から眺望する海にもオレンジが色づき始める。
 スケジュールは押しているものの、それまでのトラブルが嘘のように式は順調に進み、結婚式に参加した一同は胸を撫で下ろしていた。
 むしろ、日暮れに染まったチャペルは、何とも言えない美しさで参加者の中には涙する者も少なくなかった。
 フラワーシャワーが振り撒かれるヴァージンロードの中を歩む二人はとても幸せそうで、まるで雲の上を歩くようでもあった。
 しかし、その歩みは一瞬にして現実に引き戻される。
 花嫁と花婿だけが歩ける赤じゅうたんの上に、染み出すように踏み入る黒い靴。
「いやいや、これはめでたい席。お二人とも輝いておいでだ」
 張り付けたような笑みを浮かべる矮躯の男には、言い知れぬ不快感があった。
 糸引くような粘ついた語り口もそうだが、黒スーツに赤いネクタイで揃えた服装も、曲がった腰も、この場に相応しくは見えず、悪趣味だった。
 その男は、伊太利亜という地にはさほど珍しくない非合法組織、いわゆるマフィアの幹部であったが、帝都からわざわざ結婚式の為にやってきた新郎新婦及びその縁者には、それこそ縁のない話であった。
 結婚式にあってはならぬ闖入者。それをつまみ出そうと近寄る式関係者だったが、その手が触れるより先に白刃が舞い、切り伏せられる。
 いつの間にか矮躯の男の傍らには、軍服の少女が刀を携えて立っていた。
「……おい、つまらん事の為に呼んでくれたな」
「まあそう言うな。騒ぎが大きくなれば、お前の望みも叶うだろう」
 苛立たしげに矮躯の男へ向かって刀を向ける少女は、そうは見えないが男に使役される影朧であった。
「……わかった。今は貴様の言葉を信じてやる」
 一応、使役されているという立場上なのか、それとも矮躯の男の言葉を本当に信じたのか、軍服の少女は眼帯で覆われた片目の辺りを指でなぞり、式場の者たちへと向き直った。
「恨みはないが、ここで消えてもらう。なに、日が落ちる頃には、楽になる」
 そうして少女は刀を振るう。
 静かな怒りを湛えるその瞳、夕陽のような輝きに血の色を映しながら。

「とまぁ、そういうお話がありまして……あ、皆さん驚かれてます?」
 グリモアベースはその一角、予知の映像を一通り見せた給仕姿の疋田・菊月(人造術士九号・f22519)は、居並ぶ猟兵たちにお茶を配り終えると、自身の顔を両手で指さす。
 実はそうなんです。と明るい表情を崩さぬ菊月の顔つきは、予知の中にあった軍服の少女とそっくりだった。
「実はあの剣士の影朧さん、私と同じ人造人間なんですよ。ちょっとした不幸がありましてあのような無様を晒しておりますが、まあ今回は関係ないので、出会ったらちゃちゃーっと倒しちゃってくださいませ」
 どうやら事情がありそうなところをさらっと流して、菊月は今回の依頼の概要を説明し始める。
 舞台はサクラミラージュは伊太利亜のとある島。
 観光名所で知られるホテル備え付けのチャペルで挙げる結婚式に、地元のマフィアが介入してくるという話である。
 それだけなら猟兵の出る幕は無いのだが、そのマフィア、実は影朧を使役する結社なのだという。
「四号さん……あ、さっきの剣士の影朧さんなんですが、彼女に命令できるということは、そうとしか考えれません。私や四号さんは、作り手の博士以外の命令はたぶん聞かないのでー」
 どうやら影朧を使って結婚式を荒そうという目論見の裏には、観光業における莫大な騰がり。
 要するに稼ぎを寄越せというのだ。それを拒否しているから、イヤガラセに影朧をけしかけられる羽目になったという。
 その煽りもあってか、予知の中でも結婚式のスケジュールは遅れに遅れていた。
「そこでですね。皆さんには、先んじて現場に行っていただいて、式場を盛り上げてほしいんですよ。
 とはいえ、本物の結婚式を囮に使うわけにはいきません。
 当日の予定を無理矢理ねじ込んで、結婚式の予定をずらし、我々が襲撃を迎え撃つという手で行きましょう!」
 力技だな。などの声が上がるが、一般人の命には代えられない。
 夕暮れにマフィアが現れるまでに、猟兵たちは結婚式場のチャペルでいろいろと盛り上げなくてはならなくなってしまった。
 ブライダル撮影会、花嫁や花婿の貸衣装も用意しているらしい。
 あくまでもお仕事だが、本当に結婚式っぽいことをやってもいい。
「マフィアの皆さんは、我々が強敵だと知れば、手勢を出してくる筈です。四号さんよりも先に、まず数で勝負を仕掛けてくると思います。
 それを蹴散らして後、いよいよ四号さんを出してくることでしょう」
 本来ならば、因縁のある菊月が相手をすべきなのかもしれないが、本人が見た予知に介入することはできない。
 あくまでも猟兵を送り込むことでしか対抗する手段を持たない事には悔しさもあるものだが、彼女はそれでも猟兵たちの力を信じている。
 最後に菊月は、自身の持つ数少ない情報を提供する事にする。
「四号さんは、近接戦闘を念頭に置いてデザインされたと聞きます。特に剣術の使い手ですので、苦手な方は十分にご注意を」
『俺を呼ぶために片目を失ったっちゅうのに、頑張るもんだの』
「ダメですよー、そんなこと言っちゃ。えへへ」
 肩に乗せた黒い鳥が何事かを述べるのを優しく諫めつつ、菊月は猟兵たちを送り出すのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 今回はサクラミラージュ世界、舞台はイタリアだそうです。
 どこの島だろう。とにかく、景色のいい場所です。
 マフィアという名の、影朧を使役する結社が相手ですが、彼らの使役する中には、菊ちゃんの宿敵が混じっています。
 つまりは、俺たちの宿敵シリーズの一つです。
 とはいえ、本人はあんまり因縁を感じていない風ですが……。
 あちこちに意味深な事を匂わせてはいますが、本人の言から、気にせずちゃちゃーっと倒してしまって全然かまいません。
 今回は日常→集団戦→ボス戦というフレームを使わせていただいております。
 1章、特に断章などを投下する予定はないので、お好きな時にお好きに書いてもらって構いません。
 どうあっても、成功すれば先に進むので、有能スタッフが素敵なブライダルにしてくれるはずです。たぶん。
 というわけで、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 日常 『輝きをもう一度』

POW   :    華やかに

SPD   :    厳かに

WIZ   :    絢爛に

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リューイン・ランサード
POW

【竜鬼】

ホテルが金の無心に応じないから、結婚式を挙げる新婚さん達を殺戮するのですか!?ドン引きです<汗>。
放っておけないので頑張ります!(実は怒っている)

囮の結婚式が必要という事なので、ひかるさんに花嫁役になってもらい、自分は花婿役を。
前に紋付き袴を着たけど、タキシードは初めてです。
翼や尻尾部分をホテルの着付け担当と悪戦苦闘して何とか対応する。
(服の直し代は猟兵報酬から出す。)

で、ひかるさんを見たらサプライズに驚きとドキドキで思わず赤面。
「とても綺麗で似合ってます!僕は幸せです!」と思いっきり力説。
テンション高く(怪力にて)ひかるさんをお姫様だっこしてチャペルに入場し、場を盛り上げます。


荒谷・ひかる
【竜鬼】

どんな理由があろうとも、大切な式を台無しにするなんて許されませんっ!(ぷんすこ)
……それはさておき、真似事とはいえ結婚式できるのは楽しみですっ。(切り替えが早い)

そんな訳で、新郎新婦役をします
以前の似たような案件では白無垢でしたが、ドレスも着てみたかったんですよね

リューさんと分かれてスタッフさんと更衣室へ向かった後、ちょっとした悪戯心のさぷらいずで【覚醒・一耀の魂】発動
真の姿(ナイスバディな大人の女性に成長したような姿)へ変身、あとはメイクも着付けも全部プロにお任せです

さぷらいずへの彼のオーバーな反応に苦笑しつつ、抱きかかえられてぎゅっと抱きつきながら入場します



 渡る世間は鬼ばかりという話を、どこかで聞いたことがある。
 そういうドラマがあったという話から始まり、表題が気になって調べたりもしたという。
 ここ伊太利亜に限らず、帝都で放映された古い作品が他の国でリバイバルされていることは少なくないらしい。
 そのエピソードのみならず、例えるならば観光地として知られるこの島にも渡世というものがある。
 税金だってあるし、法律だって当然ある。その埒外に、マナーだの慣習だのといったものがのさばる。
 とりわけ伊太利亜は伝統には口うるさい。
 古くからあるものに対しては、一家言というのか、時には法律さえも曲げてしまいかねない。
 たとえば、特定の産地で採れたり作られたりしたものでなければ名乗れぬ物であったり、
 たとえば、料理に対するときに厳密で、ときに何気ない取り決めですらも、伝統として順守する。
 職人気質といえばそうなのだろう。
 それゆえに、商売の方法やその手法、とりわけ場所の使用権利などというものを主張し始めたら、それはきりのない話であるらしい。
 ギャングやマフィアと呼ばれる者たちは、そういう物に対して力を振りかざして権利を主張する。
 前置きが長くなってしまったがつまりは、ここは今日から俺の土地だから、ここで商売するなら上がりを寄越せというのだ。
 と、まぁ、そういった内容の話をリューイン・ランサード(竜の雛・f13950)は、花婿衣装を着つけられながら聞いていた。
 衣装を担当する壮年の男性スタッフは、綺麗にそろえた髭を蓄える温和な印象の紳士であったが、愚痴っぽくも手際よく服を着つけていく様はいかにもプロの仕事である。
 グリモア猟兵の策略の影響で本物の結婚式の予定をずらして無理矢理予定をねじ込まれたというのに、嫌な顔一つ見せずにプロの仕事を披露してくれる意識の高さを思えば、愚痴を漏らすというだけでかなりマフィアの仕打ちに対して腹に据えかねるものが伺える。
 それはリューインも同じ気持ちのようで、
「ホテルが金の無心に応じないから、結婚式を挙げる新婚さん達を邪魔するんですか!?」
 と、概要も知らされていたというのに、改めて驚愕と憤りを素直に顔に出すのであった。
 本来予知通りの事が起こるなら、もっとひどいことになるのを知っているだけに、普段からイヤガラセを行っているというマフィアのやり口には我が事のように怒りを覚えてしまう。
 実際問題、お付き合いしている相手がいるリューインからすれば、他人事とは思えない。
 なんとしてでも連中を懲らしめておかなくては。と意思を固めると同時に、どうにも緊張してしまうのを拳を握ることで和らげようとする。
 今回の事件とあんまり関係のない、いや関係すると言えば大ありなのだが、まったく別問題でリューインは緊張していた。
 それは、今現在彼がされるがままの状態で着付けられているタキシードに起因する。
 予知の通りの事が起こるなら、この日に挙式する予定だった一般の方々はマフィアの使役する影朧に惨殺されてしまう。
 当たり前と言えば当たり前だが、結婚式は一人ではできない。それどころか結構な数の人員が必要である。
 婚約者二人だけでなく、その親類縁者などを含めれば、よほど寂しい人生を送っていない限り、参列者は少なくはならない。
 グリモア猟兵がわざわざ予定をねじ込んで式そのものの日取りをずらしたのにも、一般人を巻き込まない人払いの意味もあったのである。
 とはいえだ。それで当日に何もしないというのは、予知から大きく外れてしまう。これでは何が起こるか分かったものではない。
 というわけで、猟兵の誰かが寄り集まって結婚式の真似事をしなくてはならないというわけである。
「緊張しとりますなあ。本当に式を挙げるという訳ではないのですから、どうぞお気を楽に」
「いやぁ、でも……」
 ドラゴニアンの翼や尻尾に合う紳士服を選別するのにちょっと手間取った結果、既存のレンタル衣装に直しをいれる事になって、本当に式を挙げるわけでもないだけに、リューインは恐縮してしまう部分があったが、スタッフは鷹揚にリューインの肩を優しく叩き、姿見の前で佇まいを確認している。
 一応、名門とされる家の生まれとして、リューインはこの手の装束に不慣れという訳ではないが、どちらかと言えば地味な性分である彼に対して銀色の光沢を思わせるブライダル用のフロックコートはちょっと気後れしてしまうのだ。
 実は似たような案件で和式の結婚式を執り行ったこともあったのだが、その時とは別の慌ただしさのようなものがある、ような気がする。
 花嫁役の彼女は、どうしているだろう。
 自分も彼女も、まだまだ成熟した男女とは言い難い。
 それでも、きっと天使のように可愛らしいのだろう。
 淡く朧げなウェディング姿を夢想し、頬が緩むと同時に、そこへ並び立つことを思うとどうにも足元がすくんでしまうような緊張感に襲われる。
 だが彼は知らない。そこにサプライズが待っていることを。
 悶々とするリューインとは別の部屋、彼の相手役を買って出た荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)が、衣装役の女性と話を合わせていた。
 ひかるもまた、グリモアベースで聞かされた依頼の概要とは別にスタッフの女性から話を聞いていた上で、
「どんな理由があろうとも、大切な式を台無しにするなんて許されませんっ!」
 と蒸気が上がりそうな可愛らしい感じで怒りをあらわにしていたのだが、すぐに花嫁役がそんなに怒った顔をしてはいけないよとスタッフの明るい笑顔にほだされて、ぱっと切り替えたひかるの顔には期待の笑みが浮かぶ。
「……それはさておき、真似事とはいえ結婚式できるのは楽しみですっ」
「そうそう、その笑顔。やっぱり、ドレスは可愛らしい感じにしましょうか?」
 ぐっと拳を握り、並べられたドレスに視線を配るとどれもきらびやかに見えてわくわくしてしまう。
 ただ、プロのチョイスというのは、時に残酷である。
 リューインもひかるも、まだまだ未成熟な男女。とくに、がっしりと肉の付いてきたリューインはまだしも、ひかるはまだまだあどけないという表現が似合う。
 14歳、成長期真っただ中であるひかるは、年々身長が伸び続け、手足を含むそのシルエットは女性としての輪郭を描きつつあるのだが、それでもようやく150センチに届いたくらいだ。
 体格もそれに見合うもので、こう言っては難だが、せくしぃ~とは言い難いのである。
 それゆえに、スタッフが選んだドレスもまたそれに合わせたものである。
 可愛い。確かに可愛いのだが、なんというかこう、結婚式というよりかはピアノの発表会みたいな感じだ。
 せっかくの結婚式。真似事とはいえ、ちゃんとらしい気分でやりたい。
 それに、ちょっとした悪戯心から、ひかるには秘策があった。
「すいません、どれも素敵だと思うんですが……ちょっと提案があるんです」
「なに、悪いこと?」
「ちょっとだけ」
 にへっと悪戯っぽい笑みを浮かべるひかるの心情を察してか、女性スタッフは興味深そうにその提案を待つ。
 それを言葉で伝える代わりに、ひかるはユーベルコードを発動させる。
 こんな段階でもうユーベルコードを? と言いたいところだが、【覚醒・一耀の魂】によってアウェイキニンしたひかるの姿は、なんと前世の全盛期を再現する。
 本来は色々と条件が必要な変身なのだが、細かいことは言いっこなしである。
 彼女のそれはいわゆる先祖返りに近いものだが、肉体的にも全盛期、つまりは女性としてもっとも脂ののった状態を再現するわけで、何が言いたいかと言われれば色んな部分が大人な状態なのである。
 羅刹らしい華奢ともとれるしなやかさはそのままに、筋肉は発達し、足から腰にかけて丸みを帯びる曲線はより強調され、目鼻立ちも面影を残したまま精悍さを増す。
 なにより、奥ゆかしさこそ華であった胸元は暴力的なまでに主張している。
「わぁ、驚いた……あっという間に大人のレディだわ!」
「この姿でドレスを着たら、きっとリューさんビックリすると思うんですよ!」
 ユーベルコードによって急激に様子が変わったのをぽかんと眺めていたスタッフだったが、そのどこか冷たい雰囲気すら漂わせる姿から一変して無邪気にぐぐっと両手を握りしめる姿は、中身が全然変わっていないことをうかがわせる。
 ホントは口調が変わったり、色々違いがあったりするのかもしれないが、まぁ今回は大目に見てくれ。なんたってサプライズなのだから!
「ふーむ、そうなると、ドレスも選び直しね! メイクも変えなきゃ。せっかくだから、思い切り大人っぽく、旦那さんを惚れ直させてあげなきゃね」
 バチーン! と魅力的なウィンクを送ると、女性スタッフはやる気に満ちた様子で衣装棚へとあわただしく引っ込んでいく。
 なんとも陽気で、あわただしく、前に白無垢を着込んだ時とはまた別のそわそわした感覚がある。
 素敵な人たちと、場所だと思う。それだけに、滅茶苦茶にされるのは嫌だ。
 姿見に映し出された、恐らくは自分の未来に近い、けどきっと違う姿を見返す。
 同じ魂を持つとしても、同じ未来、同じ末路を辿るわけではない筈だ。
「見ていてね、『私』……わたしは、わたしの未来を歩んでいく」
 そうして、新郎新婦がチャペルに入場する時間がやってくる。
 先に入場していた新郎役のリューインは、後になってヴァージンロードを歩んでくるその姿が、いつもと違って見えただろう。
 というか本当に違う姿なのだから当たり前ではあるのだが。
 仲人役に女性スタッフを伴って静々と赤絨毯の上を歩むウェディングドレス姿のひかるの姿を、ちゃんと認めるのに時間を要したのは、それが成熟した女性の姿であったのも要因だが、ガラスの雪でも散らしたかのようにきらきらとした姿に見惚れて思考するのを忘れていたからだった。
 見開いた藍色の瞳が、ようやく脳とのリンクを再開し始めると、途端に体温が上昇するのが知覚できた。
「ふふふ、真っ赤ですよリューさん」
「……きれいだ」
「え?」
「とても綺麗です。似合ってます!」
 緊張した様子で呟くのも一瞬の事、すぐに大ボリュームで、いつものヘタレはどうしたのかというくらいに大きな声でその思いを口にすると、ひかるの手を取る。
 火が付いたように顔を赤くするリューインのリアクションに苦笑していたひかるは、その力強さに思わず身を固くするが、
「僕は幸せ者です!」
「ひゃあっ!?」
 チャペル中に反響する大声で宣言すると同時に、ひかるを抱え上げる。
 サプライズする側が驚くことになってしまったが、力強く抱きかかえられるとなんだか胸の高鳴りが抑えられなくなって、居ても立っても居られない気分から、ひかるもリューインにギュッと抱き着く。
 その段階で、チャペル内の温度は最高潮に達する。
 ちなみに、チャペルには参列者の代わりのスタッフが詰めており、牧師役もスタッフが代わりにやってくれている。いわゆるガヤとして参列しているのだが、段取りとかその辺りをあんまり厳密に決めていないためか、その場のノリでお祝いムードになっていた。
「あの、重くないです? 今は、ちょっと大きくなってますし」
「そんなに変わってないです! それに、大事な重さだと、僕は思います」
 そんな騒がしい中でも二人の世界に入り込んでいる二人は、二人にだけしか聞こえない言葉を交わすのであった。
 本当は指輪の交換がどうだとか、神前での誓いがどうだとか作法はあるのかもしれないが、それは本物の式を挙げる時に取っておいてもいい事だろう。
 あんまり本格的にやり過ぎても、新鮮さを損なうというものだ。
 それに、誓いのキスだの、そういうのはその……まだ早いでしょ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレジア・オディウム
◎アドリブ連携歓迎
祝福すべき祝いの席を私利私欲の為に打ち壊し、
あまつさえ殺戮まで行うなど……悪、紛うことなき悪ですね
故郷を出て早速このような悪に出くわすとは、やはり世界は悪で満ちている
早く消し去らなければ……

■行動
囮作戦ですね、良いでしょう
――とは言ったもの、一体どうすれば……?
悪魔たちであれば、どっきりグッズでも見せれば大抵は大盛り上がりなんですが……外の世界では何故かウケが良くないですし

そうですね、ここは無難に【UC】を使用して光の花弁を舞い散らせ、光輝く式場を演出する事で盛り上げられるでしょうか
後は食事の配膳なり照明係なり、裏方の仕事にでも徹して悪が出て来るのを待つとしましょう


ティエル・ティエリエル
わー! 結婚式だー! 花嫁さんってすっごく奇麗だよね!!

結婚式と聞いただけでテンションが上がって式場中を元気に飛び回るよ♪
フラワーシャワーのタイミングになったらボクにまかせろーと空中からせっせと花びらを振りまくね♪
元気に飛び回ってるせいか【小さな妖精の輪舞】で鱗粉がキラキラと舞ってとっても奇麗なんだ☆

※まだまだお子様なティエルちゃん。恋愛とかはまだまだ無縁です。
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 結婚式場として利用されるホテル付設の小さなチャペルは、小高い牧場のように自然を残してある場所に建っている。
 実は伊太利亜に古くからある建物を改修して今のチャペルになっているという話で、どちらかと言えば古めかしさを感じるが周囲の景観との親和性は高く、まあなんというのか、様になっているのだ。
 海とオリーブ畑を望む眺望は中々に気持ちよく、潮交じりの乾いた匂いのする風は胸がすくようだった。
 本当にこのような場所に悪人が現れるものだろうか。
 エレジア・オディウム(indignatio・f31770)は、チャペルの傍らで腕組みしつつどこか難しい顔で首をかしげる。
 女性としては長身、おまけに頭にはデビルキングワールドの悪魔特有の立派な角に加え、本人の誠実さを表すかのようなぴしっとした姿勢も相成って、その立ち姿は大きく見える。
 真面目に不真面目を推奨するデビルキングワールドの、その法律に則って悪戯にも真面目に取り組んだ結果、意図しない形で不幸を呼んでしまったエレジアは、悪魔でありながら悪しきを憎む二律背反を背負う事となった。
 世の中には善き悪事と本物の悪事がある。
 気づかぬうちに自分自身も、また同じ過ちを犯してしまうかもしれない。
 戒めるために、また不幸を振り撒くことをしないためにも、エレジアは己自身を律し、そして世の悪事を潰すために奔走する道を選んだのだった。
 穏やか過ぎて拍子抜けしてしまうこの場所も、やがては悪事に蹂躙されてしまう。
 そんなことは許されない。止められるものなら、この手で止めて見せる。
「祝福すべき祝いの席を私利私欲の為に打ち壊し、あまつさえ殺戮まで行うなど……悪、紛うことなき悪ですね」
 グリモアベースで見た予知の内容を思い起こし、この場の雰囲気に和みそうになった気分に活を入れる。
 傾きかけた陽の光に向かい、ごっつい戦斧を肩に担ぎ、ぐっと拳を握って静かに誓う。
「故郷を出て早速このような悪に出くわすとは、やはり世界は悪で満ちている。
 早く消し去らなければ……」
 強迫観念にも似た決意。
 ただ、まぁ、その、ちょっとやる気があふれ出し過ぎて、武器を担ぐ姿が堂に入り過ぎているせいか、周囲をあわただしく行き交うスタッフは、この場にそぐわない姿をちらちらと眺める事しかできず、どう声をかけたものか計りかねていた。
 そこへ、ひらひらと光の粒子を振り撒く影が横切るのを、視界の端に捉え、エレジアははっと息を呑む。
「わー! 結婚式だー!」
 祝いのムード、その暖かな空気を愛しむかのようにチャペルの周囲を飛び回るのは、小さな妖精の猟兵、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)。
 子供故に無邪気さを包み隠すことなく、楽しい雰囲気に自分も楽しくなって元気に飛び回る姿を前に、エレジアは己を恥じる。
 駄目だな。気負いがあった。戦う気持ちが逸り過ぎた。
 基本的に真面目な悪魔であり、エレジアは事情もあってストイックになり過ぎるきらいがあった。
 一つ深呼吸。ひとまずは戦斧を降ろして気を落ち着かせると、式場を飛び回るティエルを呼び止める。
「もし、そこの妖精の方」
「うん? なーにー?」
「私も何か、お手伝いをしたいのですが……差し当たって、何をしたものか迷っているのです。何か手立てがあればよいのですが……」
「へ? ああ、うーん……うーん……」
 あくまでも真剣な面持ちのまま相談を持ち掛けるエレジアの言葉に、ティエルはちょっぴりびっくりした様子を見せつつも、腕組みをして悩み始める。
 ひょっとして何も考えていなかったのだろうか。
 驚きの馴染み具合と思っていたが、驚きの無策だったのか……?
 無粋なことを訊いたかもしれない。エレジアの胸の内に不安がよぎる。
 だがしかし、言うてもティエルはようやく10歳を迎えた子供である。
 愛情は感じるし与えることはできても、恋愛という気分にはまだまだ遠い。
 どちらかと言えば、親愛という形でしか愛というものを理解できない。
 つう、とエレジアの背筋を冷や汗が伝う。
 何か意見すべきか。
 たとえば、同郷の悪魔相手ならば、持ち前のどっきりグッズでドッカンドッカン盛り上がってくれるのだが、他の世界の人間にはどうにもウケが悪い。
 自分の世界の尺度とは違うのだ。その感覚でものを言うのは危険かもしれない。
 二人して思い悩むところを、今度は式場のスタッフが声をかけてくる。
「おーい、君たちも手伝いに来てくれたんだろう? ちょっと手が足りないんだ」
 この現場においてはありふれた紳士服の男の手には、花の花弁が詰まった籠があった。
 様々な花の花弁を詰めたそれは、新婚夫婦が練り歩く先を飾るフラワーシャワーのものらしい。
 今回の結婚式は、あくまでもそれっぽいイベントであり、本当の結婚式ではないため、この場を盛り上げているのはその多くが式場のスタッフである。
 新郎新婦役は猟兵が買って出てくれたものの、やはり惨状が待ち受けているからには、スタッフはそれほど多く出てこれないらしい。
 本来は新郎新婦の親類がやりそうなことだけに、集められるスタッフにも限度があるのだろう。
 うんうんと悩んでいたエレジアとティエルには渡りに船だった。
「心得ました。必ずし遂げて見せます」
「お、おう、そんな頑張るような仕事でもないから、気軽にね?」
「上からばら撒くなら、ボクにまかせろー♪」
 花籠を渡され、二人はそれぞれに、文字通りの花道に向かって配置に就く。
 なるほど、フラワーシャワーなら空を飛べる妖精のティエルにはうってつけだ。
 あくまでも祝い事に対しても真面目に考えるエレジアは、自身にも何かできないかと思案する。
 自分にしかできない事はないかと考えて、思いついたのはそう、ユーベルコードであった。
 猟兵ならばこそ、この場を一味も二味も違った演出ができる事だろう。
 戦うばかりが猟兵にあらず。
 傍から見れば力み過ぎにも見えるかもしれないが、それはある意味で貴重な性質でもある。
 ただし、本人からすれば極めて無難な方策の一つに過ぎないというところが、彼女のストイックさの表れでもあり、美点とも言えた。
 やがてチャペルの扉が開き、新郎が新婦を連れて登場すると、その場が沸き立つ。
 美しく華やかに着飾った二人の晴れ舞台を祝福するかのように、その花道に花弁が舞う。
「花嫁さん、すっごくきれいだねー!」
「ええ、とても」
 おそらく、囮とは言え、本当にお互いに好き合っているのだろう。それを傍目に感じさせるくらいには、幸福が溢れているように見える。
 それを感じ取ったからこそ、二人は素直に、一瞬は仕事を忘れて祝福する。
 今しかない。
 花びらを投げ込みながら、発動させたユーベルコード【光花】によって打ち上げられた光球から同じように光り輝く花びらが舞う。
 聖域を作り出すユーベルコードとしては、この場には相応しいものだろう。
 それ以上に、サプライズとしてもフラワーシャワーの演出としてもとても美しく舞い踊る花弁は、周囲のスタッフをも感嘆させる。
「わー! 負けないぞー♪」
 周囲をめぐる光球から散る光の花弁に対抗意識を持ったか、ティエルもまたユーベルコードを無意識に発動させる。
 【小さな妖精の輪舞】が、花びらを振り撒きながら飛び交うティエルの翅からきらきらとした鱗粉のような光の粒子を散らす。
 周囲の光に照らされて、オレンジの髪を飴色に染め上げ、虹色のガラスのような光沢を持つ翅からは蛍火のような妖精の粉が散って花びらを彩る。
 その幻想的な光景を、どやぁーっと満面の笑みでもって飛び回るティエルと、
 うむうむと満足げに頷くエレジア。
 さて、まだまだやる事はいっぱいある。
 感動も一区切りとばかり、あらゆる雑用を手伝おうとスタッフに声をかけるエレジアは、ふと、自身が作り出した聖域に踏み入る気配を覚える。
 胸騒ぎを覚えるほどの気配は、彼女が親しく、そして憎むべき悪の気配。
 少し遅れて、空を舞っていたティエルもまた、何かしらの気配を感じて周囲を見回す。
 どうやら、招かれざる客が……いや、この場合は待ち受けていた客がやって来たらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『廃棄物』あるいは『人間モドキ』』

POW   :    タノシイナァ!アハはハハはハハハハハハハハハ!!
【のたうつような悍ましい動き 】から【変異した身体の一部を用いた攻撃】を放ち、【不気味に蠢き絡み付く四肢】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    ミてイルヨ、ズットズットズットズットズット……!
自身の【粘つくタールが如き何かが詰まった眼窩の奥】が輝く間、【歪んだ出来損ないの四肢】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    アソボうヨ!ネエ、ネエ、ネエ、ネエ、ネエ……!
【嫌悪や憐れみ 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身と同じ存在達】から、高命中力の【執拗な触腕による攻撃】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 黒い服に赤いネクタイが妙に目立つ。それは外連味のある井出達の男であった。
 暴力的手段も用いる非合法組織には、メンツというものがある。
 それゆえに見た目にも威が無くてはいけない。
 それにしてはちょっとだらしない体型の、レモンを彷彿とさせる黒服の男が、ほぼ白で統一された式場の敷地に足踏み入れたのは、まさに墨を落とした水のように大きな違和感であった。
「いやいや、これはめでたい席。お二人とも輝いておいでだ」
 中折れ帽をとって恭しい態度を取りながらも、その矮躯の男からは祝福など一切感じ取れなかった。
 どうやら予知にあった通りに、マフィアの男がやって来たらしい。
 そしてその傍らには、軍服姿の少女が男を守るように立ち、腰に差した刀の柄に手を這わせ、油断なく周囲に目を配っている。
「……情報と違うな。妙に落ち着いている」
 マフィアの男に使役される立場である影朧の少女は、式場のスタッフが慌てていない事に、違和感を覚えていた。
 事前に話を通してある式場のスタッフは、慌てず迅速に、影朧の出現を前にして波が引くような手際でホテルへと逃げ込んでいく。
 後に残ったのは式場の手伝いを兼ね、囮の為にイベントを仕組んだ猟兵たちのみであった。
「どうやら担がれたようだな……何か、手引きした者が居る」
「なんだってぇ!? クソ、面倒だな……」
 目元が疼くのか、眼帯を撫でる少女の言葉に矮躯の男は口汚く悪態をつき、また別の影朧を呼び出す。
 周囲からぼこぼこと泡立つように出現したのは、人のような人になりそこなったかのような、言い知れぬ不安を覚える奇妙な影朧であった。
 さすがに現場に出張るだけあって、マフィアの男もこの場が一筋縄ではいかないと悟ったのだろう。
 戦力が増強されたからには、まずはそれを排除すべきだろう。
「オオオオ……アハハハハ……」
 崩れた体に壊れたような哄笑を上げる『廃棄物』たちが式場に向けて這い出す。
「おれ達に楯突こうってんなら、それなりに痛い目を見てもらうぜ、ッハハ!」
エレジア・オディウム
◎アドリブ連携歓迎
本当の結婚式では無いとはいえ、素敵な式でしたね

そして漸く悪が出てきましたか
心根が邪悪な者に相応しい醜悪な手勢ですね

さて…………殺す
叩き潰して殺す、引き千切って殺す、とにかく殺す
もしかしたら、何かの犠牲者だったのかもしれない
ただ、今はもう不可逆に捩れた悪の先兵
なら殺す、同情も何もない、悪はただ殺すだけだ

■戦闘
ここは真っ先に【切り込み】、この斧の一撃で叩き潰していく
複数体に囲まれても【なぎ払い】、動きを拘束されても
【UC】も含めた【怪力】で、引き千切って突破してから潰してやる

少々、式場が荒れてしまうかもしれませんが……
悪を滅する為です、仕方がありません
今度謝罪して弁償をしましょう


ティエル・ティエリエル
ふふーん。作戦通り騙されてやってきたね♪
幸せな結婚式場を荒らそうとする悪いヤツはボクが許さないぞ☆

うりゃうりゃうりゃーと空中からヒット&アウェイで湧いて出た影朧を攻撃だ!
攻撃回数が増えてる間は四肢の届かない空中に退避しておくね。
人間モドキ同士が味方を攻撃し始めたらチャンスとばかりに【妖精の一刺し】でズドンといくね♪

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 聞いた話がある。
 花嫁や着るドレスや、花婿のタキシードというものは、お互いの相性も然ることながら式の開催される日時によっても選ぶものが違うという。
 つまり、朝に行うものには朝の。夜に行うものには夜の。といった具合に、周囲の景色、よもや日没まで計算に入れた演出にもなっているという話である。
 さすがは一生もののイベントと言わざるを得ない。
 そういった文化に追及の手を伸ばせば、またそれも道というにふさわしい奥の深さがあるのだろう。
 そこまで深い話ができるほどの知識はないし、またその道に進むわけでもなければ知る必要もないような話ではある。実際、そんなことが分からなくとも、仮初の式とは言え、催されたイベントの渦中にいた二人はとても輝いて美しく見えた。
 多分それだけでいい。それに、そう見せるだけの技術や努力があちこちにあったのだと思える。
 本当の式ではなかったとはいえ、じつに素敵な結婚式だった。
 チャペルの掲げるシンボルを見上げ、鎧の上から抑える胸の奥に暖かいもの感じながら、エレジア・オディウムはほんの数秒ほど瞑目する。
 優しくて穏やかな時間は貴重だ。
 いつまでもその場に居たい気持ちになる。
 だが、この身が、纏う鎧が、手に重みを課す戦斧が、駆り立てるのだ。
 悪を許すなと。
 悪魔でありながら勇者の手にしたという装備を身に纏い、その性分は病的に悪を許さない。
 わらわらと植物が伸びる様を早回しで見ているかのように、人のようなそうでないようなモドキが起き上がる。
「漸く、悪が出てきましたか」
 穏やかな気持ちを胸にしまい込んだエレジアの口から、硬質な言葉が漏れる。
「心根が邪悪な者に相応しい醜悪な手勢ですね」
「可哀想なことを言うなよ。貴様ら風に言えば、生まれが良し悪しを決めるわけでもない筈だろう」
 廃棄物を挟んだ向こう側に立つ、帝都の軍人を模したような服装の少女が、煽るように肩をすくめる。
 見た目は小柄だが、その服装、見下すような視線が容易ならざる気配を感じさせる。
 しかしエレジアは臆することはなく、大ぶりな戦斧を構える。
 その周囲を、きらりとひかる鱗粉が舞う。
「ふふーん。作戦通り騙されておびき出されてきた腹いせかな?」
「なんだと……子供が」
 現れた小さな妖精の猟兵、ティエル・ティエリエルが、その小さな体を大きく見せんと腕組みしてぐぐーっと胸を張る。
 空を飛んでいるためか、いくら小さくても顎を高く見下すように煽り立てる度合いで言えば他に類を見ないだろう。
 かなわないな。と内心で思いつつも、乱れかけた心に静かな闘争心を燃やすと、エレジアは改めて戦斧を握り直して、這い寄る歪な廃棄物たちの前に立ちはだかる。
「もしかしたら、何かの犠牲者だったのかもしれない。
 ただ、今はもう不可逆に捩れた悪の先兵」
 ならば、哀れと思いこそすれ……いや、一分の同情もなく、殺す。
 悪は殺す。
「ウオオオオッ!!」
 雄たけびを上げ、エレジアは【正義】の名の下に先陣を切って飛び込んだ。
 長身から最上段に振り上げられた戦斧が『廃棄物』どもをまとめて叩き潰さんと振り下ろされると、水分を含んだ肉が潰れる嫌な音も一瞬の事、地を打つ震動が爆裂するかの如く響き渡り、ひび割れとクレーターを形成して肉片を飛び散らす。
 その一撃ですでに多くの廃棄物が形を保てなくなるほど吹き飛んだが、それでも生きているらしい数体がその身を奇妙に変形させて、筋肉の束のような腸のような何かを伸ばしてエレジアを絡み取らんとする。
「ぬああ、邪魔、だぁあ!!」
 知性を失ったかのような叫びと共に、絡みつく触手を振り払い、引き千切り、斧を振り回して叩き斬り、或は潰す。
 ただ、狂乱に支配されるがままに見える蛮行ではあるものの、その理性はちゃんと残っている。
 荒した式場の敷地は、ちゃんと後程、補修するなり弁償するなりを真面目に考えていた。
 悪を滅するためとはいえ、ちゃんとごめんなさいして元通りにするのが、正しい悪魔の姿である。
「わー、お掃除が大変だー!」
 エレジアの奮戦っぷりをやや離れた位置から眺めていたティエルは、その豪快極まる戦いっぷりに羨ましさもあるのか、ちょっぴり嬉しそうである。
 自分も将来はあそこまで大きくなれれば、気持ちがいいかもしれない。
 いやいや、小さくたって、やれることはいっぱいあるのだ。
 負けてはいられない。とばかりに愛用のレイピアを抜き放つと、風を切って飛ぶ。
「うりゃうりゃうりゃー☆」
 凄まじいスピードで飛び回りながらも、その剣の狙いは正確であり、地面から起き上がろうとする廃棄物の眉間や脳天を一突き。
 奇妙な人型を取りつつも、急所と思しき場所を巧みに突いていき、体の大きさのハンデを感じさせない身のこなしで次々と無力化していく。
 一つ突いては即座に離れ、も一つ突いては離れる動きは、さながらモグラ叩きの様相である。
『ミてイルヨ、ズットズットズットズットズット……!』
 しかし廃棄物たちもただ殺されるばかりではない。
 高速で飛び回るティエルのきらきらとした光跡を追って、タールのような濁った眼窩を黒く光らせると、その動線を先読みするかのように歪んだ手足をバキバキと伸ばしていく。
「おーっとっと!」
 さすがに動きが直線的過ぎたかー! っと、目の前に奇妙な手足が迫るのを見越して、ティエルは上空へと方向転換。
『こっちだヨォ……こっちだヨォ……』
 伸びるたびにその内側でゴキゴキと鈍い音をさせる手足が、ティエルを追って長く長く伸びていく。
 そこへ、
「ヌえぇぇいッ!!」
 伸びた葦を刈るかの如くエレジアの戦斧が一閃される。
「お怪我は!?」
「えっへへ、大丈夫大丈夫ー!」
 崩れ落ちる奇妙な手足がばらばらと散る中で見上げるエレジアと、にこやかにそれに応えつつティエルは空中から降下する勢いで加速する。
 ティエルを狙うために伸ばした手足が崩れ始め、廃棄物たちに降り注ぐこの瞬間は無防備になる。
 無邪気な子供には変わりなくとも、ティエルも猟兵として戦い続けてきた戦闘観はある。
 それをチャンスと見ない筈もなかった。
「いっくぞーーー!!」
 急降下の加速を加えた【妖精の一刺し】が、防御を顧みない全力の突進突きが、エレジアの背後を狙う廃棄物たちを貫いた。
 タールのような、黒い体液と歪んだ部品をまき散らしながら、廃棄物たちが蹴散らされる奥で、軍服の少女が舌打ちを漏らすのが見えた。
「チッ……やはり、猟兵。見た目に騙されてはいかんな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リューイン・ランサード
【竜鬼】

こんな怪物まで使って僕とひかるさんの結婚式?を邪魔しますか!
許せません!と先程からマフィアに感じていた怒りを怪物にも向ける。

ひかるさんの言葉には「なるほど…それは確かに変更できませんよね。」と納得。
真の姿になりつつUC発動し、オーラ防御を纏います。

フローティングビームシールドを自分とひかるさんの周囲に滞空させて攻撃を盾受けできるように。
「それでは一緒に斬り結びましょう。」とひかるさんと連携して戦闘。

風の属性攻撃を纏ったエーテルソード(右手)と流水剣(左手)による二刀流(2回攻撃+怪力+なぎ払い+範囲攻撃)で次々と怪物を屠る。

ウェディングドレスで戦うのも綺麗ですね♪(と一瞬だけ見惚れる)


荒谷・ひかる
【竜鬼】

……ところでリューさん。
わたし、今別のコード使えないんです。
何故かって……その、ちょっと強引な真の姿への変身だったので……元の姿に縮んじゃうんです。
つまり、どういうことかというと……脱げちゃいますっ。(赤面)

ということで『私』、戦闘はお願いしますっ!
――もう、仕方のない子ね『わたし』は。
(軽く溜息つきつつ、中身も前世の『私』に切り替わり口調も変化)
行きましょう、リューイン。

何処からともなく召喚した刀で、リューインと連携し近接戦闘を行う
敵には特に感情を向けず、冷徹に
ドレスも汚さないよう、彼の盾も利用しつつ華麗に立ち回り切り刻む
最中に彼の視線を感じれば、一瞬だけ柔らかく微笑み返す



 ざわざわと騒ぎ立てるかのように、周囲の物陰やらから、人のようなそれになりそこなったかのような影朧が湧き出る。
 それらは牧場のようなチャペル周辺を囲うかのように数多く生まれ出でて、とっくに退避させた式場のスタッフを除いた今では、新婚夫婦に扮した二人を囲うのみとなっていた。
 地面に敷き詰められたかのようにわらわらと波を作る廃棄物を前に、花嫁姿を守るように前へ出るリューイン・ランサードは油断なく影朧たちを見やる。
「こんな怪物まで使って僕とひかるさんの結婚式を邪魔しますか! 許せません!」
 燃えるような輝きを湛える瞳をかっと見開いて、不気味な影朧ごしに怒りの視線をマフィアの男に向ける。
 いつになく強気の視線を向けられたマフィアの男は思わずたじろぐが、すぐにその視線の行き先が傍らの軍服の少女に移ると、胸を張りつつその影に隠れる。
「こんなものはおままごとだろう……それとも、荒事まで含めた結婚式じゃなければ、満足いかない体質なのかな?」
「なに……!?」
 小柄の隻眼に煽り立てられるかのように微笑まれると、ちりっと交錯する視線に火花が散るかのようだった。
 一触即発。
 目をそらせば、たちまち周囲から火の手が上がりそうなほど敵意がぶつかるのだが……
「あの、……リューさん」
「え、えっ、どうしました、ひかるさん?」
 燃え上がるシチュエーションを、しかし唐突に現実に引き戻したのは、傍らでタキシードの裾をひっぱる荒谷ひかるであった。
 おずおずといった、いつもよりも奥ゆかしい感じで呼び止めるのは、よほどの事情があるのだろうか、リューインもちょっと慌てた様子である。
「わたし、今別のコード使えないんです」
 両手の指をつつき合わせるような気づかわしげな仕草で告白するのは、猟兵らしく戦いの相談であった。
 いや、この状況なのだからある意味、正しいことではあるのだが。
 それでも気恥ずかしそうにするにしては、おかしな様子でもあるかもしれない。
 リューインも、仕草と言動にいまいちピンとくるものがないようで、どういうことかその意図を細かく図りかねているようだった。
「何故かって……その、ちょっと強引な真の姿への変身だったので……元の姿に縮んじゃうんです」
「はあ……」
 たどたどしく説明するひかるの言葉をうまくかみ砕けぬまま、言われるままに今のひかるの姿をまじまじと見つめてしまうリューイン。
 なるほど、成熟した女性然とした姿に見合うよう宛がわれたウェディングドレスは、この上なく似合っているように見える。
 贔屓目もあるかもしれないし、もしかしたら実際には先祖返りした姿ではなく、別の未来の姿になるのかもしれないが、それでもリューインにとっては至上の美しさを誇る女性に見えてならなかった。
 うん? つまり、その、どういうことだ?
 考えがまとまらないうちにひかると目が合うと、その顔が見る間に真っ赤に染まる。
「つまり、どういうことかというと……脱げちゃいますっ」
「へぇ……はあっ! なるほど……それは確かに、変更できませんね」
 リンゴのように赤くなるひかるのその顔の理由に思い至り、しかしそれがどういう意味を成すのか嚙み砕くのに時間を要し、ぴったりと着込んだドレスからこぼれる、むき出しの首筋や肩の丸みを帯びた輪郭さえも上気するのを見遣ってからようやく、雷が落ちたかのように合点がいく。
 なるほどなるほど、確かに確かに。
 式場スタッフに完璧なサイズを用意された状態のひかるは、あくまでもユーベルコードによって成熟した女性の体格前提である。それを解除してしまっては、元の成長期の14歳に戻ってしまうのである。
 それはつまりその……と、あらゆる世界の魔術に手を伸ばさんとする利発なリューインの頭脳が爆発的なイメージの翼を広げるのを、強靭な意思でブレーキをかけ、むりやり平静を保つことに全力を傾けると、悟りのようなものが見えてきた。
 リューインも決して大人ではない。しかしながら、女性に対するいかんともしがたいイメージを勝手に推し進めるのは紳士のする事ではないのである。
 冷静さとちょっとした興奮がないまぜになって、ひとまずひかるを守らなければという思いと、影朧たちに対する怒りとが、ユーベルコードとなって発現する。
「今こそ覚醒の時です」
 【竜神人化】。ひと時だけ真の姿をとり、その背の翼は光と化し三対に増え、尾は二股に分かれ、それぞれ手にしたエーテルソードと流水剣は竜の魔力を得て凄まじい波動を纏う。
 そしてリューインのみならず、ひかるをも守らんと周囲を浮かぶビームシールドが周回し始めると、
「それでは一緒に斬り結びましょう」
 リューインはひかるを守るように立ちはだかりつつ、猛然と影朧たちに斬りかかる。
「……『私』、戦闘はお願いしますっ!」
 その後を追うように、ひかるもまた身の内の自分、真の姿の一つである前世の自分へとシフトする。
 かつてはオブリビオンとして蘇った自分の魂の一部である彼女は、精霊と心通わせるひかるとは違う。
「──仕方ない子ね『わたし』は……行きましょう、リューイン」
 快活さが鳴りを潜めて、落ち着いた低い声が成熟した全身に神経を通わせるかの如くその身を制御する。
 精霊と心通わせる心優しき少女のものではない、荒谷流戦闘術の開祖「一耀の羅刹『アラヤ』」が、大股でリューインの背に追いつき、精霊銃ではなくどこからともなく呼び出した刀を手に、腰を低く構える。
 下がる目尻は細く引き絞られ、身のこなしはより体重を意識するように変化する。
 銃把を握る手が手首から肩の付け根まで固くする……のではなく、足先から指先までを適度に脱力し、体重と関節とを流れる水のように操作して、刀を振るう。
 【覚醒・一耀の魂】によってシフトしたその動きは、近接戦闘を得手としたそれそのものであった。
『アソボうヨ! ネエ、ネエ、ネエ、ネエ、ネエ……!』
 ざわざわとうごめく森の如く、次々と触腕を伸ばしてくる廃棄物たちに囲まれながら、リューインは片手のエーテルソードでそれらをさばき、もう片手の流水剣でもって斬り払う。
 使役される影朧たちは、その数こそ多いが、猟兵たちの手にかかれば然程でもない。
 一時とはいえ、真の姿をとった二人の前には、物の数ではない。
 頼みの綱である数の暴力によって二人のスキを突こうにも、その穴を埋めるように浮遊するビームシールドに阻まれてしまう。
 そしてその隙を逃さぬよう、地を滑るように流麗な足運びから、ひかるの手にした刀が弧を描く。
 切り裂いた次の瞬間には身を引く所作には無駄がなく、返り血すら浴びない。
 尤も、ウェディングドレスを汚さぬよう立ち回っているためであるが、あくまで冷徹に綺麗な一刀一殺を繰り出す様は、服装こそ華やかだが実に堂に入っていた。
 それは、一緒に肩を並べているリューインすらも、ひと時は見惚れさせるほどであった。
 いや、戦闘中にそれはまずいんじゃないのか。
 睨みつけてやろうとするが、それがどうにもだらしない笑みに変わってしまう。
「えへへ、じゃない。勝手に顔を緩めないで」
 自身を嗜めるという奇妙なことをやっているひかるだが、どうやらこれが、惚れた弱みというやつなのかもしれない。
 しかしこれはまずい。
 物の数ではない相手ならまだしも、あの軍服の少女は、そう簡単にいくだろうか。
 それとも、着替える時間くらいはくれるだろうか。
 貸衣装を汚すのは、流石に気が引けてしまう。
 それがたとえ、敵のものだったとしても。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『人造剣士四号・羽黒』

POW   :    一の風「陣風」
【刀】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    四の虹「紫雲」
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【剣気の刃】で包囲攻撃する。
WIZ   :    八の烈「天山」
【刀もしくは鞘】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、刀もしくは鞘から何度でも発動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠疋田・菊月です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ざあ、と風が吹くように。呼び出した影朧たちは、結婚式を偽装した猟兵たちの手によってたちまち退治されてしまった。
 泥のように周囲にまき散らされたその名残も、いずれは消えてなくなることだろう。
「くっ、こいつら、ただもんじゃねぇな……お、おい、俺は逃げるからな。お前は、時間を稼げ!」
「うん? 何を言っているんだ、お前は」
 思ったよりも強い猟兵たちの活躍に泡を食ったマフィアの男は、我先にと逃亡を図ったが、なんということだろうか。
 使役しているはずの軍服の少女の姿をした影朧に胸ぐらを掴まれて動けなくなってしまう。
「ぐ、ぐぐ……なにをする!? 命令だ、俺を逃がせ! 聞こえてるのかよ!?」
「聞けぬなァ。指揮官たるもの、現場を放棄するは、最後の仕事のはずだ。貴様に魂はないのか?」
「影朧風情が、俺様に、ぐぎぎ……あがぁ……」
 泡を飛ばしながら命令を下す矮躯の男を片手で持ち上げ、締め上げると、やがて言葉を発することもできなくなったのか、うめき声をあげて気を失ってしまう。
 それを興味なさげに投げ捨てると、少女は改めて外套を翻し猟兵たちへと向き直る。
「猟兵諸君、おめでとう。これで一仕事というわけだが……あまりに容易くて、拍子抜けかな?」
 ややずれた軍帽を被り直し、手袋の裾を直し、その顔に冷たい笑みを湛えてこれまでの活躍を称賛する様子は、まるで言葉通りではないかのようであった。
 すう、ふう、とわかりやすい嘆息。
 倒れ伏すマフィアの男に一瞥くれると、にこやかな表情を納めて、何処とも知れぬ何かを見上げ、恨み言を呟く。
「……どうせ、どこかで見ているのだろう。──九号」
 そして再び猟兵たちに向き直ると、無造作に腰に差した刀を抜き放つ。
「魂、魂か……それを持たぬ私が言えた口ではない。そうさ、これは……それを取り戻すための応報だ」
 マフィアの男さえ捕まえてしまえば、もうこの依頼は達成したも同じである。
 しかし立ちはだかるそのグリモア猟兵に面影を似せる影朧が、それを許すだろうか。
「幸せの最中に水を差されるのは、どんな気分かな? 悪くない気分だろう。私もそうだった。慣れれば、そう悪いものでもないさ。今にわかる」
 蔑む様な笑みを浮かべ、眼帯に指を這わす仕草は、まるで失った片目、あるいは自分自身がそうであるかのような口ぶりだが、詳しいことは不明であるし、まず間違いなく無関係である。
 そこに正気はあるのだろうか。
「名乗るのが遅れたな。
 私は人造剣士四号。……だが、この番号は好かぬ。この刀と同じ羽黒とでも呼んでもらおうか」
 静かな怒りに狂った剣士が、空気を震わすようにその怒りを全方位に向ける。
 陽は傾き、チャペルにオレンジの陽光が差して、軍服の少女──羽黒の背後には燐と燃える夕陽があった。
 構える刀に、この世界のどこにでも咲く幻朧桜の花びらが触れ、二つに両断される。
 この狂える影朧を野放しにするのは危険だ。
「来い。そして、貴様らを切り伏せ、引きずり出してやるぞ……九号」
ティエル・ティエリエル
わっ、マフィアの人がやられちゃった!?
つまり、こっちの女の子が黒幕だったんだね!黒い服着てるし!

むー、それにしてもせっかくの結婚式だったのに参加者が笑顔じゃないなんてダメだよね!
やっぱり、幸せの最中には笑顔だよ♪

そうと決まればあっちの羽黒って子も笑わせるぞ☆
背中の翅を羽ばたいて空中から攻撃のチャンスを窺うね♪
味方の攻撃に合わせて突撃!刀で切り払われそうになるのを「見切り」で回避、【妖精姫のいたずら】で服の中に潜り込んじゃえ☆
それこちょこちょこちょー!絶対に笑わせてやるもんねー

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


エレジア・オディウム
◎アドリブ連携歓迎
……殺しは、しないんですね
まぁ良いです

しかし、悪とはいえ貴女からは何か親近感のようなものを感じます。何故かは分かりませんが……
一応聞いておきますが、今この場で潔く諦めて、大人しく躯の海へと帰る気は?

……そうですか、仕方がありませんね

なら死ね

■戦闘
――? 今、いつの間に斬られ……ぐっ!
疾い、それに的確にこちらの隙を……!

なる、ほど。あの剣に対して、この戦斧では少し相性が悪そうですね
……では、槍ならばどうでしょう?
ここは【UC】によって、周囲に光の槍を創造
攻撃回数を重視した槍の弾幕によって、捌く暇も与えずに【串刺し】にして敵の動きを止めてから、今度こそこの戦斧の一撃を叩き込みます



 サクラミラージュの世界には、その大地のどこにでも幻朧桜が咲いている。
 それは伊太利亜の片田舎は、海を臨む丘の上に佇むチャペルに於いても同じこと。
 潮の匂いを運ぶ海風に煽られて、付近の仄かに光を帯びるような幻朧桜の花びらが散ると、その渦中に居る帝都の軍服に身を包んだ少女の姿は、ここが伊太利亜であることをひと時忘れさせるような様子であった。
 人造剣士、羽黒と名乗ったその少女は、何者かに作られた生命。
 その命は一度失われ、オブリビオン──影朧として蘇った。
 かつての彼女がどうであったか、この場にそれを知るものは居ないが、使役されていた筈の彼女は突如として飼い主を昏倒させ、独自に戦う道を見出す。
 恐らくはマフィアの男の存在が、羽黒にとっては足かせになるとでも思ったのだろう。
 もしくは、単純に気に食わない事を言ったからなのか、それももう定かではない。
 少なくとも、使役しされる間柄に於いて、最低限度の信頼関係すらも、彼らの間には存在しなかったのだろう。
 この期に及んでの仲間割れなど、羽黒にとってもマフィアの男のにとっても利のある行動とは思えないだけに、唐突にマフィアの男が絞め落された場面を見たティエル・ティエリエルはぽかんと口をあけて驚いていた。
「わっ、マフィアの人がやられちゃった!?」
「殺しはしないんですね……」
 エレジア・オディウムは、その少女が凄まじい怒気を振り撒きながらもその怒りのままにマフィアの男を殺さなかったことが意外だった。
「これは折檻だよ。この場を納める者は私じゃない。それに、あの男に顎で使われて戦うのではつまらん」
 それすらも言い訳に聞こえるが、そもそも羽黒はマフィアの男に興味を持っているようには見えなかった。
「まあいいです」
「つまり、こっちの女の子が黒幕だったんだね! 黒い服着てるし!」
「えっ」
 元気にびしっと指を突き付けるティエルに、エレジアは自分で納得しかけたところに思わず間抜けな声を上げる。
 せっかく真面目な雰囲気になりかけてたのに、この子は何を言っているんでしょうか。
 と思いきや、それを聞いた羽黒もまたふっと鼻を鳴らして乾いた笑みを浮かべている。
「そうとも、少なくともこの場では私が一番の悪者だ。ただ、黒いのは私の趣味だ。こいつに合わせたわけじゃないぞ。いいか、忘れるな」
「ふーん、まぁ、どっちでもいいけどね☆」
 すらりと愛用のレイピアを抜き放つと、明るい雰囲気とは裏腹にその瞬間から空気が密度を増したかのように張り詰めていく。
「子供と思って侮るなかれ、か。できるな、妖精の」
「ふふーん!」
 対峙する二人の語らいを黙ってみていたエレジアは、あれっ、意外と話せるな。と視線を行き来させると、自身も戦斧を構え油断しない視線を送りながら、敢えて問う。
「しかし、悪とはいえ貴女からは何か親近感のようなものを感じます。何故かは分かりませんが……」
「ほほう、それは危うい事じゃないのかな? 貴様も、こちら側に堕ちる片鱗をもつということじゃないか」
「そういうことでは……いえ、一応聞いておきますが、今この場で潔く諦めて、大人しく躯の海へと帰る気は?」
「お優しいな。しかし、曲がりなりにも軍服を纏っている身としては、敵前逃亡はできぬ」
「……そうですか、仕方がありませんね」
 会話が途切れ、お互いの要求が通らず、距離も縮まらないことを悟ると、後に残るのは沈黙。
 たっぷり一呼吸。
 言葉で吐ききった息を吸い、体中で固形にでもするかのように息を止め、丹田が火を焚くように爆発的な胆力を生み出すと、エレジアは戦斧を手に加速する。
 ついでにその長身の影に隠れるようにしてティエルもまたそれに合わせて突撃する。
「──なら、死ね」
「やってみろ」
 交錯する一瞬、巨大な戦斧が一直線に振り下ろされるよりも早く、羽黒の刀の切っ先がぶれたように見えた。
 正中線を割るような軌跡を描いた戦斧の一撃は、まるで攻撃の軸をずらされたかのように羽黒を逸れていて、それが体捌きでわずかに横に移動したのみで躱されたと気付いた時には、戦斧は地を打ち、振り上げて切り返そうと戦斧を持ち上げようとしたエレジアの視界の端に赤く弧を描く軌跡。
「──? 今、いつの間に」
 斬られた? という前に、腋から肩にかけて、そして左腿から出血する。弧を描いて見えたのはその出血、即ち斬った軌跡であった。
「ぐっ……!」
「どうした。長柄が泣いているじゃないか? む!?」
「そこだぁー!」
 それぞれ手足を切り落とさんとした刀の攻撃は、それでも体格差からかわずかに浅く、更には追撃に踏み込もうとした羽黒の脇目を盗んで飛び出したティエルの突撃がそれを阻んだ。
「チッ、私より小さい相手は初めてだよ!」
 するどいレイピアの突撃を苦しい体勢で受け、更に飛び退いて斬り払うが、その時にはもうティエルは姿を消していた。
 普通の人間よりずいぶん小さい体格ながら、妖精のティエルはその背の翅を巧みに操って奇襲からの連撃で羽黒と渡り合う。
「二人とも、疾い。それに、的確にこちらの隙を……!」
 がくんと、手足に力が入らなくなるのを感じる。
 腋からの切り上げと腿への斬りつけ。深く入っていれば切り落とされていた。
 いや、羽黒はそのつもりだったのだが、悪魔としての頑丈さに救われていたのだ。
 リーチ差、体格差、得物の重さ、有利な条件が全て揃っていたというのに、完璧に間合いに入られてしまった。
 単純に刀を使う相手と侮っていただろうか。相手の得手に飛び込んでしまったのは、下策であったか。
 いいや、だが見よ。もっと苦しい条件で、体格差で言えば数倍もあるティエルは、自身の特性を最大限に活かして奮闘しているではないか。
 考えろ。どんなに能天気でも、戦況を見誤らなければ、それは強みである。
 逆に言えば、どんな生真面目でも、戦況を見誤れば、それが隙となる。
 なるほど、と、エレジアは折れかけた心に火をいれる。
 今のこの戦斧ではあの剣に追いつけない。恐らく、速度帯が違うのだ。
 だが、絶対に当てられる隙があるはずだ。
 それを作るには……たとえば、槍ならばどうだろう?
「……いい加減に離れろ、子供が!」
「むー、違うよ。ちゃんと笑顔にならなきゃ。だって、せっかくの結婚式なんだよ」
「まだ言うか!」
「やっぱり幸せの最中には笑顔だよ♪」
 一方のティエルは、羽黒に肉薄する事で、刀の威力を削いでいた。
 的が小さいというのもあるが、基本的に刀は先端で斬る。その内側に入られると満足な威力が出せない。
 達人ならば、間合いの内側に於いても戦う術は用意しているものだが、逆に同等の使い手が刀よりも狭い間合いで戦い続けるならば、有利になるのはやはり内側に居る者ということになる。
 機先を制したティエルは、距離を詰め続けることで羽黒の刀が最速になる前に回避することができているが、それも長くは続くまい。
「まだ結婚式などと、能天気なことを言っているのか!」
 後ろに跳ぶように引き足を踏ん張り、身体を落とすようにして退きつつ斬る。
 距離を取るのと攻撃するのを短縮した一撃だったが、それも危ういところで回避したティエルは、しかし今度は止まらずにそのまま羽黒の胸元に飛び込んだ。
「むぅ、なんだと!?」
 外套を支える菊のボタンがちぎれ飛び、大仰な外套がするりと落ちるが、とうの羽黒はそれどころではなかった。
 なんと、空いた胸元からティエルが服の中に入り込んだのだ。
 【妖精姫のいたずら】それは、どんな隙間にでも入り込む妖精ならではのユーベルコード。しかしその本質は、
「絶対に笑わせてやるもんねー☆ それこちょこちょこちょー!」
「ひぁっ!? や、な、なんのつもり……ひぐっ、脇腹は、よせ……貴様、あ、や……あ、あっ……ひゃめっ……!」
 もこもこと軍服の表面を膨らましてその内側を動き回りながら、けっして表に出ないような乙女の柔肌をぺたぺたと無遠慮に撫でまわしていくと、堅物そうな羽黒の雰囲気からは想像もつかないような甲高い声が漏れ、危うく刀も取り落としそうになりつつ、身もだえている。
 顔を真っ赤にし、緩みそうになる表情を必死に堪え、眼に涙を湛える姿は、なんだかこう、見てはいけないような表情にも感じるが、これは絶対的なチャンスである。
 正視に堪えないその姿をなるべく見ないようにしつつ、そのタイミングでエレジアは術を完成させていた。
 羽黒の周囲を囲むように、光の球が出現し、それが槍穂を作って一斉に羽黒の方へと向く。
「捌けるものなら、捌いてみなさい」
「く、この……!」
 ほとんど無防備に、降り注ぐ【光槍】の嵐に呑まれる形で、羽黒はその手に握る方に力を込める間もなくユーベルコードの直撃を貰う。
 ちなみに、さんざん擽ったいたずら姫はその前にちゃんと離脱していたぞ。
 これで仕留めた? いや、グミ撃ちは負けフラグなのである。
 それに、やられっぱなしは性に合わない。
 光の余韻が稲妻となって砂塵を迸る中、エレジアは戦斧を手に飛び込む。
 ゆらりと土煙の中にたたずむ人影に、今度こそ必殺の一撃を見舞った。
「──今度は、当たりましたよ」
 確かな手ごたえ。身の丈を超える戦斧の一撃を食らった羽黒が、その身をボールのように弾ませて吹き飛ばされるが、その途中で足をつくと、刀を杖代わりに立ち上がる。
「やるじゃないか……まったく、自分の甘さが嫌になる」
 緩んだ襟元をきっちり締め直し、まだちょっとだけ上気する頬を引き締め、今しがたの一撃で軋みを見せた刀を構え直す影朧が、それでもまだ戦わんと眼光を光らせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リューイン・ランサード
ホテルに迷惑掛けないよう着替えようと思ってたら、ひかるさん(に宿る前世の魂の一部)の発言に、「えっ!?…そうか彼女はそういうタイプの侍なのですね」と納得。

即座に方針合わせ「判りました。頑張って戦います!(小声で)怖いですけど…。」と(心の中でホテルの人々に詫びつつ)UC発動。

このUCは【敵よりヘタレだけど、勇気を振り絞って戦う場合】のみ有効なので、羽黒さんがコピーしても僕には適用されないし、ひかるさんはその能力に比例した自己強化を行うので、弊害は無い筈。

ビームシールド盾受けで自分とひかるさんを護り、第六感と見切りで攻撃回避し、光の属性攻撃を纏った二刀流(2回攻撃+怪力)で羽黒さんを斬ります。


荒谷・ひかる
【竜鬼】

着替えの時間?
不要よ、このままで良いわ。
『わたし』は兎も角、私は侍よ?
敵に背を向けるなど、言語道断だわ。
(なお内心では『わたし』が頭抱えてる模様)
……大丈夫よ、私を誰だと思っているの?

引き続きリューインと連携し、刀での近接戦闘を行う
私のコードの能力は「敵コードの能力に比例した自己強化」
敵コードの効果そのものは「コピーした上で何度でも発動」と強いので、強化はガッツリ乗る
一方で刀での攻撃そのものはコードではないので受け止めてもコピーはできないはず
よしんばコピーできたとしても「内なる魂」を持たぬ彼女には扱えないでしょう

自分で「魂を持たぬ」等と言う輩の刃が、私に届くものですか。



 日暮れを待つばかりの、チャペル周辺の丘は、眼下にオリーブ畑と海を臨む情景が広がる。
 古びた市街以上に余計なものがなく、木の柵で覆われた土地には、かつては羊でも放っていたかのような草むらが広がっていた。
 尤も、猟兵たちと影朧との戦いを経た今は、そこら中に土煙が上がるほど荒れているのだが。
 激しい光と戦斧の応酬(あとくすぐり)、それにより、結婚式場の敷地はえらいことになっていたが、それでもなお影朧を倒しきれずにいる。
 もうもうとしていた土煙が晴れる頃、落ちた外套はそのままに、緩んだ眼帯を結び直した影朧・羽黒は、軍帽を被り直し、地に刺した刀を抜く。
「待たせてしまったな。別にこれから殺し合うことを考えれば、居住まいを直す必要もない……この間に切り込むなり、着替えてもらってもよかったんだが」
 刀についた土を一振りで払うと、猟兵たちに向き直る。
 羽黒と対峙する二人の格好を、彼女なりに慮ったところだったが……、
「着替えの時間? 不要よ。このままでいいわ」
 荒谷ひかるは、勇ましく粉塵吹き抜ける中でウェディングドレスのまま刀を構える。
 その傍らに立つリューイン・ランサードは、内心で少しばかり焦っていた。
 何しろ、ドレスもタキシードも、貸衣装。本来の彼らの服装ではない以上に、けっこうお高い奴ですよそれ。
 いくらその手の知識にそれほど造詣が無くとも、リューインにだってそれくらいはわかるくらいに衣装にはお金がかかっている。
 これから戦うにはいろんな意味でリスキーなことを頭の隅に置いていたために、焦るのはごもっとも。
 しかし、一度戦う機運が高まれば、今のひかるに止まることはできない。
 内心の、本来の心優しいひかるは頭を抱えるところであるが……。
「『わたし』はともかく、私は侍よ。敵に背を向けるなど、言語道断だわ」
 既にユーベルコード【覚醒・一耀の魂】によって、その体格も性質も前世のそれになっているひかるは、その独自の士道に従って退くわけにはいかない様子である。
 というか、今術を解いたら服のサイズが合わなくなって、ちょっとあられもない状態になってしまうだけに、退くつもりはなかったのだが、わざわざ気を使ってくれたというのは、影朧ながらなかなか律儀なところがある。
「えっ!? ……そうか彼女はそういうタイプの侍なのですね」
 いつもの心優しいひかると共に、分かたれた魂の一部である今の状態のひかるも知ることになったとはいえ、その違いはリューインにとってややハードルである。
 何しろ、好戦的な性質の彼女と違い、リューインは戦うのにまずは尻込みしてしまう。
 しかし今回はそうも言っていられない。愛する女性の前で、そんな弱音ばかり言っていられない。
「判りました。頑張って戦います」
 口中で怖いですけどという言葉をかみ殺すリューインの膝は、今にも笑い出しそうになっている。
 刀を構え相対する軍服の人影は、小柄にそぐわない気配を持っているからだ。
「ふん、侍。侍ねぇ。笑わせるじゃないか。花嫁衣装で倒せる相手かどうか。試してみるか、お侍さん」
 リューインの意気地なしを看破したか、それとも同じ刀を持つ者に反応したか、羽黒はその身を倒すように前のめりの姿勢で踏み込み、一瞬にしてひかるとの距離を詰める。
「ッ!」
 短い呼気と、交錯する刃物と刃物。
 大振りと見せかけた踏み込みからの切り上げを放つ瞬間、引き戻して即座に突きに転じる切り返しを、初手を受けた感触からひかるはそれを感じ取って身を開き軸をずらして回避。
 そのまま巻き取るような動きで刀の切っ先を跳ね上げて、踏み込むと共に切り下す。
 感触がない。完璧に合わせたはずだったが、踏み込みの感覚がいつもよりおかしいとひかるは足元に違和感を覚える。
 その瞬間、ドレスの裾をヒールの踵が踏み抜いてたたらを踏んでしまう。
 致命的な隙。だが、間に入ったリューインの展開していたビームシールドによって羽黒の攻撃は阻まれる。
「おや、見ているだけではないようだ。ホントに、着替えなくて平気かな?」
 咄嗟にひかるの前に出るリューインごしに、羽黒が刀を肩に担いであからさまな隙を見せてくる。
 それは羽黒からすれば、いい具合に援護に入ったリューインへの称賛であり、戦うための猶予を与える傲慢でもあっただろう。
「確かに、少し準備が足りなかったようね」
 心が煮えるのをどうにか堪え、冷静に状況を見る。
 確かに足場に対してハイヒールは踏み込みに辛いし、面積の多いドレスのスカートはかなり邪魔だ。
 仕方ないとばかり、スカートの前部分を切り落とし、ハイヒールを脱ぐ。
(ちょちょちょ、何してるんですか『私』、それ貸衣装なんですよ!)
「……大丈夫よ、私を誰だと思っているの?」
 いや、そういうことではなく。と、内心では猛抗議が勃発するのを一言で黙らせると、ひかるはあらためて向き直る。
「ほう、変わった二刀を使うみたいだが……誰かに師事したものではないようだ」
「え、その、ダメですかね」
 ひかるの準備が済むまでの少しの間、リューインは一人で羽黒と斬り合っていた。
 影朧との戦いの最中、剣を握る手は相変わらず震えるほど臆してはいたものの、それでも必死でくらいついていた。
 ルーンを刻んだ剣と、水の加護を得たフォースセイバーは、それぞれに重心も違うし使い勝手も異なるものであろう。
 それらを腕力と教則に任せて、ひとまずは形になっている状態で振り回すのだから、十分に脅威とも言える。
「いやいや、実戦で使い込んだ技術なんだろう。わかるさ。そんなへっぴり腰でも、ちゃんと活きている剣だ。だが、小娘一人に止められるのは何故だろうな?」
「うぐ、それは……」
 刀と鞘とで、リューインの二刀は受け止められてしまう。
 体格差は歴然。加えてドラゴニアンでもあるリューインのその怪力は並外れたもののはずだ。
 間違えても刀を携えた程度の華奢な少女に止められるようなものではない筈だった。
 たとえそれが卓越した技量の持ち主であっても、力押しを御するにしたって限度がある筈だった。
「覚悟が足りないんだよ。いいのか? 嫁さんが痛い目を見なきゃ、やる気にならないのか?」
「くうう、そんなわけ、ないでしょうがぁ!!」
 その瞬間、あらん限りの力、勇気を振り絞ったその時に【勇気の発露】は発動する。
 拮抗が崩れ、押し切られた形の羽黒が体勢を崩したところにリューインの二刀が叩き込まれる。
 辛うじてそれを刀と鞘で受けるが、それまでの三倍以上に跳ね上がった力にさしもの羽黒も受け流しきれない。
 みしり、と刀から嫌な軋みが上がる。
「くぅ、取れぬか……!」
「取らせないわ……!」
 羽黒が大きく隙を見せたまさにその瞬間、ドレスの裾を落とし、素足になったひかるが滑るように肉薄する。
 本来の踏み込みを取り戻したひかるの体捌き、迷いのない剣筋は、素早くそして鋭く羽黒に切り込んでいく。
 鞘を手放し、両手持ちになってそれを受けようとする羽黒だったが、もはや刀が限界を迎えていた。
「……見切るか、私の天山を」
「ええ。『私』の技は、『わたし』の願い。内なる魂を持たぬ貴様には返せまい」
 羽黒にとっての奥の手、それは相手の技をそのまま返す【天山】であったが、それらはいずれも不発に終わった。
 相手よりもヘタレだけど勇気を出せば力を発揮するリューインのユーベルコードは、それを使えたところで効果を発揮できず。
 まして、ひかるのユーベルコードは、内なる魂を呼び起こして真の姿に変じて力を得るものである。
 何らかの事情で魂を持たぬ事となった、残り香に過ぎない羽黒にとっては、返せるものではなかった。
「羽黒が折れてしまった……ごめんよ、博士……でも」
 血で濡れる手足よりも、もはや薄くなった呼吸よりも、度重なる戦いで折れてしまった刀に目をやり、空を仰いで何者かに詫び、気が付けば倒れていた。
「斬り合いが、楽しくってさ」
 ごぶっと塊のような血を吐き出すと、その唇も制服の胸も、動かなくなった。
 そしてその亡骸もやがて、ユーベルコードに導かれてまつろはぬ魂の残滓として、付近の幻朧桜へと消えておく。
 静かな怒りに満ちていたあの少女の姿をした影朧も、最後の瞬間だけは満ち足りたように笑っていたように、二人は見えたかもしれない。
 まぁ、それはそれとして。
「さて、一番の難敵は片付きましたが、ひどい有様ですね。自分含めて」
「……まぁ、『わたし』がなんとかしてくれるでしょう」
 周囲の被害状況、昏倒したままのマフィアの男、それと汚れまくった貸衣装。
 猟兵としてやる事はやったが、まだなにかこう、やんなきゃいけない事があるよね~という冷や汗を流すリューイン含む猟兵たちだったが、ひかるだけはほんのり他人事のように嘆息し、暮れていく空を仰ぐのだった。
 燐のように暮れる陽は、戦いの後を少しだけ暖かくしてくれるような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月08日


挿絵イラスト