●カクリヨファンタズム・竹林の迷宮
陽の光が遮られ、光る竹が暗闇に浮かび上がる幻想的な竹林の世界に。
突然、銀と黒、灰の剣呑な気配が吹きつけた。
――キィンッ!!
――ザシュッ! ズバッ!!
――ドスッ!!
何の前触れもなく、嵐の如く吹き荒れ始めた、大量の刃と骸魂。
竹林で穏やかに暮らしていた妖怪たちは、突然の異変にただ驚き慄くばかり。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
「神様仏様、どうかお助けを、お助けを!!」
恐慌状態に陥り逃げ惑う妖怪たちを、荒れ狂う刃が容赦なく斬り捨て、骸魂と殺戮の空気が一息に呑み込む。
骸魂に呑まれた妖怪は、瞳に剣呑な光を宿した鬼娘へと変貌し、殺戮の衝動に呑まれた瞳をかつての仲間に向け。
「アッハッハ! さあアンタたちも呑まれちまいなよ!」
「ひぃぃぃ!!」
躊躇なく仲間の妖怪を背から斬りつけ、骸魂の餌とした。
惨劇の最中、不自然に密集した竹林の一角に現れるのは、胸元を大きく開けた黒い艶やかな着物を纏った女の剣鬼。
「やれやれ、妖怪程度じゃ、あっさり呑まれてつまらないねえ」
鬼娘の一部を護衛として従えた剣鬼は、つまらなそうに呟きながらも、その瞳は殺戮に惹かれぎらついていて。
「さあて、あたいを楽しませてくれる相手は、いつ現れるのかねえ?」
何者かが現れることを期待しながら、剣鬼は大太刀を肩に担ぎ。
――愉快そうに、目の前の惨劇を眺めていた。
●グリモアベース
「一体何をどうやったらこんな嵐が来るってんだぁ?!」
グリモアベースの片隅に突然響くのは、グリモア猟兵森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)の喚き声。
猟兵達が何だ何だと陽太の側に集まると、喚いてすまねえ、と一言謝罪した陽太が、グリモアが齎した予知を早口で話し始めた。
「カクリヨファンタズムの一部が、『刀』に覆われ殺戮の世界へと変貌を遂げ、惨劇の舞台と化した」
切羽詰まった表情を見せる陽太にさらりと凄惨な状況を示唆され、言葉を失う猟兵達。
「このまま放っておくとカタストロフに繋がりかねねえ、誰か阻止してくれねえか?」
頭を下げる陽太に、猟兵達は切羽詰まった空気を感じ取りながら頷いた。
陽太いわく、突然殺戮の世界に変貌したのは、薄暗く仄かに光る暗い竹林の世界。
刀剣が吹き荒れ始めるとともに迷宮化した竹林は、逃げ遅れた妖怪たちを捕らえ、骸魂に供するための檻と化している。
「今回の元凶は、竹林の迷宮の一番奥に隠れてやがる。まずは迷宮を抜けてくれ」
刀剣の嵐が吹き荒れる迷宮内は、時折竹の葉が鋭き刃となりて刀剣に紛れ、妖怪と猟兵を切り刻む。
竹を伐採しながら進軍しようにも、次から次へと生えて来るので現実的ではなく、強引に突破するのが近道のようだ。
敵意に満ちた竹林を突破した猟兵達が目にするのは、不自然な程に開けた広場。
刀剣吹き荒れる広場の一角には、要塞のように竹が一際濃く密集している場があり、かしましい鬼娘の集団が守っている。
普段は楽しい事が大好きな鬼娘たちなのだが、吹き荒れる殺戮の気配に呑まれ、かなり好戦的となっている。交戦は避けられない。
「鬼娘の正体は骸魂に呑まれた妖怪だが、倒せば助けられる。ちったぁ痛いが我慢してもらって、急いで倒して救出してくれ」
鬼娘を全て倒し、妖怪たちを救出したら、要塞内にいる刀剣の嵐を呼び寄せた元凶たるオブリビオン――剣鬼『彼岸花のおゆう』との対決だ。
「こいつがかなり性質の悪い奴だ……もともと殺し合いを楽しむ性質だから、笑いながら斬りかかって来るぜ」
しかし、剣鬼を倒せば、この刀剣と殺戮の嵐を止めることができる。
怪力と大太刀で相手を蹂躙し這いつくばらせようとするから、容赦せずに倒してくれ、と陽太は語気を荒げて告げた。
愛用の二槍で転送ゲートを描いた陽太は、ゲートの奥から吹き寄せる殺戮の気配に眉を顰めるも。
「今回はいつに増して危険な状況だ。くれぐれも用心してかかってくれ!」
出立しようとする猟兵たちに、精一杯の警告を発し。
――猟兵達を、刀剣吹き荒れる殺戮の迷宮へと送り出した。
北瀬沙希
北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
よろしくお願い致します。
カクリヨファンタズムの片隅にある竹林の迷宮内で、突然刀剣が嵐の如く吹き荒れはじめ、殺戮の迷宮と化しました。
猟兵の皆様、カタストロフを齎す刀剣の嵐を一刻も早く止めて下さい。
純戦シナリオとなります。
判定ちょっと辛目、かつ負傷描写多め。
あらかじめご了承の上、ご参加をお願い致します。
●本シナリオの構造
冒険→集団戦→ボス戦です。
第1章は竹林の迷宮を突破していただきます。
刀剣とともに刃の如く鋭い葉が時折吹き荒れる暗い竹林を突破し、元凶たるオブリビオンの下へ向かって下さい。
ちなみに竹を切り倒してもすぐに新たな竹が生えてくるため、伐採しながらの進軍はお勧めしません。
第2章は骸魂『かしまし鬼娘』との集団戦。
普段はイタズラ好きの鬼娘たちですが、吹き荒れる殺戮の気配に呑まれ、好戦的となっております。
呑まれている妖怪たちは、倒せば救出可能です。
第3章は元凶たるオブリビオン『剣鬼『彼岸花のおゆう』』とのボス戦。
殺し合いを求める剣鬼を真正面から討ち、刀剣の嵐を鎮めて下さい。
●本シナリオにおけるプレイングボーナス
全章共通で【要塞(今回は竹林の迷宮)を攻略、ないしは有利に活用する】と、プレイングボーナスが付与されます。
●本シナリオの運営について
全章、冒頭に断章を追記した後、受付開始。
受付締切はマスターページ及びTwitterにて告知致します。
プレイング送信前に、今一度マスターページを参照いただけますと幸いです。
本シナリオは早期完結を目指し、必要最小限のプレイングのみの採用と致します。
サポートプレイングも積極的に採用させていただきます。
全章通しての参加も、気になる章のみの参加も大歓迎です。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『暗い竹林』
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POW : 肉体の性能任せに突っ切る
SPD : 見切って速さを生かし突っ切る
WIZ : 魔法などで身を守りながら進む
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●刀剣吹き荒れし竹の迷宮
転送された猟兵達の目の前に広がるのは、広大な竹林。
空を覆い尽くす程にまで成長した竹の葉が完全に日光を遮っているため、竹林の内部は薄暗いが、竹の節々が淡く光っているため、視界には支障はなさそうだ。
刀剣の嵐は、竹の合間を縫うように吹き荒れている。
時折刀剣が竹を傷つけるも、直ぐに再生するところをみると、どうやらこの竹1本1本も妖怪のようだ。さしずめ「妖怪竹」とでも言おうか。
――ヒュッ!!
時折、刀剣の嵐に紛れて竹から撃ち出される葉は、刃のように鋭く光り、明らかに妖怪や猟兵を害さんとの意思を持っている。
普段は静かに穏やかな風に揺られている妖怪竹も、今は殺戮の気配に感化されてしまったのか、その身をしならせながら動くものに対し葉を撃ち出していた。
試しに竹を1本切り倒してみると、すぐに新たな竹が伸び、猟兵達の行く手を遮る。
竹を切り倒しながら進むのは、骨が折れるだけでなく、切り倒している間に無数の葉でその身を切り刻まれてしまうだろう。
――この場では、猟兵より妖怪竹のほうが圧倒的に数が多いのだから。
吹き荒れる刀剣の嵐。
殺戮に感化された妖怪竹。
迷宮内を荒らす双方に対処しつつ、危険な竹林の奥でいるであろう、嵐を引き起こす剣鬼の下へたどり着くために。
――猟兵達は、迷宮と化した危険な竹林に足を踏み入れた。
マルチプル・レギオン
(数が多い?なら増やせばいい。
自らの能力『増殖』で自身を10人ぐらいに増やして進む。)
「しかし深いねぇ、この竹藪。」
『なら全て刈り尽くせばいい。』
「でもすぐに生えるぜ?」
『なら地中から引っこ抜けばいい。』
「その手があったか!でも長くて抜き辛くね?」
『なら燃やせ、所詮は植物。火には弱かろうて。』
(他の猟兵には10人に増えたマルチプルが自身と話をしているように見えるだろう。まぁ実際そうなのだが。)
「和は好きだぜぇ?空気が美味い。」
『洋が至高。広大だ。』
「材木の暖かさが良い。」
『石材の冷たさが程よい。』
(何気ない会話をしつつ先に進む。)
真宮・響
【真宮家】で参加
うわ、刀剣が飛んでるだけでも危険なのに、鋭すぎる竹が無限に生えてくると。これは手こずるね。大変だが、ここで立ち止まる訳にはいかない。
子供達に酷い怪我はさせたくない一心で母の底力を発動。【オーラ防御】も展開して子供達の前に出て増えた腕や【衝撃波】で刀剣を吹き飛ばしながら進んでいく。竹のダメージは率先して引き受ける。手当ては後でする。【戦闘知識】で子ども達に刀剣の飛んでくる軌道を知らせて危険を減らす。この巨体だから小回りは効かないだろう。なにより、子供達の安全が最優先だ。アタシは道を切り開くことと、先導に徹するよ。
真宮・奏
【真宮家】で参加
危ないのが飛んでいます・・・と、危なかった(突撃しようとして生えてきた竹を避ける)はい、困難なれど、ここで足を止める訳にはいきません!!家族で力を併せて突破しましょう!!
歌を歌い続ける兄さんの護衛と、母さんの負担を減らすべく、白銀の騎士を発動、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【激痛耐性】で耐えつつ、【オーラ防御】と【結界術】を母さんと兄さんにも重ね掛け。危なくなった方を【かばう】ことを意識しつつ【衝撃波】で刀剣を吹き飛ばしながら進みます。竹は無限に生えてきますから多少の怪我は覚悟して突破しましょう。ふう、こんな所もあるんですね。この世界。
神城・瞬
【真宮家】で参加
色んな現象が起こる世界ですから、こういう危害を与えるのに特化した世界もあるはずなんですよね。危険過ぎますので、何とかしますか。
道を切り拓く母さんと、防衛に専念する奏を支援すべく、サウンド・オブ。パワーで強化します。自分の護りは【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。飛んでくる刀剣と無限に生えてくる竹には僕の結界術は余り効果ないと思いますので、いざというときの【医術】【薬品調合】【投擲】での傷の治療と、【衝撃波】での刀剣の吹き飛ばしの援護に徹します。さあ、先に進みましょう。
●危険極まりない竹林を目の当たりにして
――ヒュンヒュン。
――ザクッ! ザシュッ!!
「うわ!!」
転送されるなり、虚空を舞う小刀とナイフに襲われ、慌てて手近な竹に身を隠す真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
間一髪で難を逃れた響の背を、冷汗が一筋つたい落ちた。
「危ないのが飛んでいます……っと!!」
一方、運よく刀剣と竹の葉の奇襲を免れた真宮・奏(絢爛の星・f03210)は、試しに目の前の妖怪竹を数本ほど切り倒してみるが、切り倒した直後、妖怪竹が猛烈な勢いで再生。
切り口の上を通過しようとした奏は、足裏に竹が突き刺さる感触を察し、慌てて後退する。
後退した奏の目の前を、異常ともいえるスピードで成長する竹の先端が通り過ぎた。
「っと、危なかった……」
「刀剣が飛んでるだけでも危険なのに、鋭すぎる竹が無限に生えてくると。これは手こずるね」
へなへなと崩れ落ちる奏を抱え起こしながら、大きく嘆息する響。
実は響は、強引に竹を伐採しながら進もうと考えていたのだが、切り倒しながら進もうとした場合、如何なる危険が待っているかは、先ほどの奏の反応で立証されてしまった。
(「これはおそらく、燃やすのもダメだろう……さて」)
奏の反応を見て、早々に竹の伐採案を放棄し別の策を練り始めた響を横目に、真っ直ぐ眉間を狙う大太刀を第六感で察しつつ紙一重で躱した神城・瞬(清光の月・f06558)は大きくため息をついた。
「色んな現象が起こる世界ですから、こういう危害を与えるのに特化した世界もあるはずなんですよね」
カクリヨファンタズムは、妖怪たちの追憶で構成された世界。
ならば、戦乱を想起させるような『危害を与えるのに特化した世界』もあって然り。
だが、この状況を放置しておくと、待っているのはこの世界の終わり……カタストロフ。
――それだけ、カクリヨファンタズムは不安定な世界、とも言える。
「危険すぎますので、何とかしますか」
「はい、困難なれど、ここで足を止める訳にはいきません!! 家族で力を併せて突破しましょう!!」
止める意を明確にした瞬に同意するかのように、足元から串刺しにされかけた恐怖から立ち直った奏が同意し、響が後を引き取る。
「大変だが、ここで立ち止まる訳にはいかない」
だから進もう、と続けようとして。
ふと、響の視点が一点で止まった。
●其れは全なる一、一なる全の集団
――時は、ほんの少しだけ遡る。
「しかし深いねぇ、この竹藪」
ふむ……と短く刈り揃えられた髭を撫でながら、マルチプル・レギオン(無限増殖・f32994)は仄かに光る竹林を見渡す。
その背や足元から、ゆらりと何かが伸びたかと思うと、次の瞬間、マルチプルと瓜二つの人間が現れた。
――その現れ方は、まるでマルチプルという猟兵が増殖したかのよう。
『なら全て刈り尽くせばいい』
新たに現れたマルチプルの背から、増殖した別のマルチプルが現れる。
増殖を繰り返し、瞬く間に10体に増えたマルチプルは、増殖体同士で作戦会議を始めるかのように、同じ声で口々に話し始めた。
「でもすぐに生えるぜ?」
『なら地中から引っこ抜けばいい』
酷薄とも言える口調で告げるのは、『陰』のマルチプル。
対して、ハイテンションで陽気なのは、「陽」のマルチプル。
「その手があったか! でも長くて抜き辛くね?」
『なら燃やせ、所詮は植物。火には弱かろうて』
陰陽ふたつの声音が10の口から飛び出す作戦会議は、傍から見れば異様にも映るが、気にせず『陰』のマルチプルが名案と思われた手を告げ、他のマルチプルがそれに同意しかけた……その時。
「燃やしたら私達まで巻き込まれてしまいます!!」
突然響いた女の子の声に、マルチプルとその増殖体は一斉に振り向く。
そこには、マルチプルの存在に気づき駆けつけた、【真宮家】の3人の姿があった。
●【真宮家】と一なる全の邂逅
「あ、えっと……」
同じ顔が10並ぶのを見て、続けて誰に声をかけるべきか悩む奏。
危険極まりないと感じた手段が聞こえたため、思わず叫んだはいいものの、同じ顔ばかり目に入ったため、むしろ誰に話しかけるか迷ってしまう。
戸惑う娘に代わり、響がある事実を指摘した。
「ここにいる猟兵はアンタだけじゃない」
「それもそうか」
『俺たちは誰かが生き残れば良い。だから気にしない』
「いや、あなたはそうかもしれませんが、僕たちは困ります」
目の前のマルチプルたちが立案した作戦の危険性に気づいた瞬は、大きくため息をついていた。
もし、周囲に火を放った場合、妖怪竹を地下茎ごと一掃し、広々とした視界を確保できるかもしれない。
だが、妖怪竹を燃やした場合、視界がクリアになるより先に、竹の幹にあたる「稈(かん)」と稈の間の空洞が熱せられて空気が膨張し、最後には竹そのものが破裂して猟兵達の行く手と退路を遮った後、ゆっくりと炎と煙で燻しにかかるだろう。
もっとも、猟兵が生命を落としそうになったらグリモア猟兵が強制的に連れ戻すため、猟兵が死ぬことはないのだが、連れ戻されるまでのわずかな時間に大やけどを負うのは免れない。
瞬がため息をついている間に、響はマルチプルに話しかけ続けた。
「アンタ、猟兵としての初仕事かい?」
「そうだぜ?」
『俺らは俺らだけで突破する。勝手に行け』
「じゃあそうさせてもらう……とは言えないんだよねえ」
マルチプルの全身を観察した響が、ずばりと指摘。
「そもそもアンタ、燃やせと言ったけど、どうやって火をつけるつもりだったんだい?」
『うっ……』
響の指摘に呻いたのは、マルチプルの『陰』の人格。
現状、マルチプルは火を放てそうなアイテムを持っていない。
かといって、火を呼び出せる術や技を持っている気配も、ない。
どれだけ役に立つアイテムを用意しても、どれだけ有用なユーベルコードを会得しても、それらを『装備』ないしは『指定』していなければ、何の効力も発揮しないのだ。
数の暴力で押しきるには、この竹林はあまりにも深く、先が見えず。
加えて、妖怪竹が『刀』の影響で殺戮に感化されている以上、猟兵に牙をむき妨害を図るのは容易に想像がつく。
たとえマルチプルが、増殖体のうち1体でも突破できれば良いと考えていたとしても、無手のままでは、竹林を突破するより先に全員倒される危険性も十分考えられる。
己が身を護る術を何一つもっていないなら、尚更だ。
無手に近いマルチプルに、放っておけと言われてはいそうですかと突き放せるほど、真宮家の3人は冷淡ではない。
……むしろ、おせっかいが働いてしまう。
だからこそ、響は豪胆にマルチプルに告げる。
「ここはひとつ、アタシらについてきな」
……と。
「仕方ないな」
『今だけだ』
響の有無を言わさぬ態度に、渋々頷くマルチプルたち。
それを聞いた響は子供達に号令をかける。
「奏、瞬、行くよ!」
「はい!」
「行きましょう!」
母の号令を聞いた奏と瞬が頷き、4人……もとい、13人の集団は竹林を進み始めた。
●母の愛と子の想い、一なる集団の思惑が混ざる時
(「子供達に怪我はさせたくないねえ」)
「ああ、子供達の為なら、何でもやってやるさ!!」
止む気配のない刀剣と竹の葉の嵐を眺めつつ、響は前進しながら鬼子母神に変身する。
――それは、子の安全を強く願い、思う故の母の底力が成せる技。
身長が2倍に伸びた状態で改めて上空を見上げると、竹林の隙間から上空を飛び交う無数の刀剣の群れが目に入った。
恐らく、その数は、竹林を縫うように飛んでくる刀剣以上。
(「竹林から頭が出るようになると、間違いなく刀剣の餌食になる……変身で耐えるのは3回までだね」)
ざっと竹の高さを見極めた響は、その巨体で刀剣を受け止めることを前提に、己の能力のみで耐えられる限度を計算する。
変身する都度負傷が回復するとはいえ、その度に身長は2倍に、腕の本数も2倍になる。
変身を繰り返し腕が増えればそれだけ多くの刀剣を止められる一方、竹より鬼子母神の背のほうが高くなってしまえば、確実に上半身は無数の刀剣の嵐に晒され、無限に変身を繰り返しつつ足止めされることは必定。
――先へ進むためには、必然的に変身できる回数は限られてしまう。
「では、私も奥の手を出しますよ!!」
母の補佐と義兄の護衛を兼ね、奏もブレイズセイバーを必殺モードに変形させる。
一瞬何を強化し、何を犠牲にするかの判断に迷ったが、奏はブレイズセイバーの攻撃力を犠牲に耐久力を増強させつつ、翠の結界を響と瞬、さらにマルチプルたちにも施し、猟兵全員の防御力を高めた。
「回復は僕に任せて下さい」
瞬も銀のオーラを纏い、己の防御を万全にしつつ、喉の調子を整えるように二、三音発すると、のびやかな美しい声で歌い始めた。
「突破するよ!」
瞬の歌声を背に受けた響は、燃えるような赤のオーラを展開しながら、4本に増えた腕で刀剣を薙ぎ払い、炎の衝撃波で竹の葉を吹き飛ばし、道を切り開く。
一方、響の腕を避けた刀剣が響の巨体に突き立ち、切り裂いてゆくが、最初から回避を捨てている響は呻き声ひとつあげることなく、耐える。
――それは、子を傷つけまいとする想いの強さの表れか。
――それとも、瞬の回復能力に全幅の信頼を置いているゆえか。
響の戦意に反応し撃ち出された竹の葉が、巨体を浅く掠め、切り裂いてゆくが、響は意図的にそれも無視。
「瞬、そっちに行ったよ!」
肉を切らせることで冷静に刀剣の軌道を見極めた響は、後続の子供達に警告を発する。
「瞬兄さんは傷付けさせません!」
響の警告を耳にした奏も、多少の怪我は覚悟の上で刀剣と竹の葉に狙われた瞬を庇い、翠の衝撃波で刀剣を叩き落とす。
巨体で遮る響と庇い手の奏は、必然的に瞬やマルチプルより多くの刀剣を受けることになるが、銀のオーラで身を護った瞬の歌が、響と奏の四肢の傷を癒しつつ、戦闘力を増強させていく。
回復を瞬頼みにしつつ、響は巨腕でどんどん道をかき分け切り開き。
その背を奏が追いかけつつ、痛みに時折顔を顰めながらも守り。
母娘を護り癒すように、瞬の美しい歌声と銀の衝撃波のハーモニーが広がり。
三者三様の役割を果たしながら、真宮家の3人はひたすら前進を続けていた。
一方、マルチプルたちは、道を切り開き前進する真宮家の3人の背をのんびりと追いかけていた。
「和は好きだぜぇ? 空気が美味い」
『洋が至高。広大だ』
「材木の暖かさが良い」
『石材の冷たさが程よい』
「だ、誰が何を言っているのか、わからないです……」
10人のマルチプルが違う口から同じ声を発しているため、発言主がわからず、時折マルチプルを庇いながらも軽く目を回す、奏。
ちなみに、マルチプル本人も時々混乱するらしい。
それはさておき、雑談をしている場合ではないと気を引き締め直したか、「陽」のマルチプルが『陰』のマルチプルを促す。
「よそ見していないで、先達の業から学ぼうぜ?」
『その必要はない。数が少なければまた増やせばいい』
「次々とやられているんだが、それでもか?」
『誰かひとりでも辿り着けば問題ない』
「陽」のマルチプルと『陰』のマルチプルは、おそらく真逆の事を述べる性質があるのだろう。
だからこそ、「陽」が共闘を提案する一方で『陰』は共闘を拒否しているのだろう。
しかし、響と奏の防御範囲外に出た増殖体が、四方八方から殺到した刀剣にズタズタに切り裂かれ、竹の葉に喉を掻っ切られて血だまりに沈みゆくのを見れば、何れの提案が正論かは明白だった。
「あの家族がいなければ、誰かひとりでも残してたどり着けるのか?」
増殖体がやられるのを目の当たりにした『陰』のマルチプルは、「陽」の指摘に真逆のことを述べられず、沈黙してしまった。
沈黙する『陰』のマルチプルの目の前で、響と奏の防御をすり抜けた刀剣に頭を砕かれ、四肢を斬り裂かれた増殖体が次々と脱落。
10体いたマルチプルは、瞬く間に数を減らしていった。
「大丈夫ですか!?」
マルチプルの増殖体が減っていくのに気づいた瞬が、歌いながら六花の杖を振り、銀の衝撃波を全方向に放って竹の葉を細切れにするが、刀剣を全て落とすには至らない。
瞬が結界術を使えば、ほんの僅かでも刀剣の速度を落とせたかもしれないが、防げないと判断し使用を見送った今、瞬の歌による治癒と強化があったとしても、刀剣の嵐を一手に引き受ける母娘の負担は極めて大きかった。
中でも、巨体を以て刀剣を遮る響の消耗は激しい。
全身を悉く斬り裂かれ、致命傷を受けるたびに変身を重ね、回復を図った鬼子母神の身長は今や15m近くにまで達し、その腕は16本にまで増えていた。
(「今度変身したら竹林の上に頭が出てしまうか……そうなれば詰むね」)
おおよそ20mはあるであろう竹を見上げながら、響は変身による回復の限界を悟る。
――これ以上、変身を繰り返し窮地を脱することはできない。
響が限界を察した、その時。
「見て来るぜ!」
マルチプルの増殖体が1体、響の前に飛び出し、前方に向かって走り出した。
――後ろでただ守られていることに「陽」のマルチプルが耐えかねたのだ。
「!?」
無手であるマルチプルには無謀とも言える行動だが、唐突に飛び出されたため、誰も止めることはできない。
前方から密度を増して襲い来る刀剣に全身をズタズタに斬り裂かれながらも、マルチプルの増殖体の目は、確かに竹林の奥にある広大な空間を見通していた。
「出口は近いぞ!」
後方の奏たちに叫びながら伝えると同時に、真正面から飛んできた太刀に心臓を貫かれ、その場に沈む増殖体。
最初に10体いたマルチプルは、残り1体となっていた。
全ての増殖体がコピーでありオリジナルでもある以上、誰か1人が残ればいいとはいえ、今残っているマルチプルが倒れれば、グリモア猟兵による緊急回収は免れない。
だが、血だまりに沈んだ増殖体の言を信じるなら、竹林を抜けるまであと一息。
無謀ではあったが、ここで躊躇して得られた情報を無駄にするわけにはいかない。
「最後の一息だよ!!」
満身創痍の鬼子母神姿の響が己に喝を入れ直すと、16本の腕で強引に竹林をかき分けながら身を挺して刀剣と竹の葉を受け止め。
「これで、抜けられれば!!」
奏が背後からマルチプルの頭を狙う刀剣を庇って受け止め、払いのけ。
「前方に空間が!」
竹灯りとは異なる光を見出した瞬が、杖を大きく振りかぶり背後から迫る刀剣と竹の葉を衝撃波で吹き飛ばし。
「走れ!!」
真宮家の連携で作り出した僅かな隙を逃さず、マルチプルたちは一気に竹林を駆け抜ける。
――かくして、瞬たち4人は、危険極まりない竹林を突破した。
●嵐の中の静けさ
竹林を抜けた先には、竹1本生えていない剥き出しの地面が広がっていた。
この地にも刀剣の嵐は吹き荒れているが、竹林の中に比べれば視認しやすくなっただけ、対応しやすくなったと言えよう。
「ちょっと、これはハードだったね」
「ええ、母さん、今治しますので」
刀剣を避けられる安全地帯を探した後、変身を解き座り込んだ響の傷を、瞬が取り出した薬で癒す。
いざという時は薬を投げつけ治療するつもりだったのだが、そんな余裕はなかった。
「竹の葉まで警戒していると、さすがに厳しかったです~」
一方、奏は地面に腰を下ろし、必殺モードを解いたブレイズセイバーを労わるように撫でつつ、大きく息を荒げていた。
体力には自信があったのだが、今回はさすがにハードだった。
「増殖体は全部やられたが、命があればよし!」
「……まあ、マルチプルさんが無事でよかったです」
蹲りつつ1体増殖させるマルチプルの能力を目の当たりにし、若干の驚きを交えながら労わりの声をかける瞬。
『全滅の危機になるとは思わなかったな』
「今度は全滅しないよう、対策を練ってこよう」
「数いることは悪い事じゃないから、それが賢明だよ……さて」
仲がいいのか悪いのか、陰陽ともに反省の弁を述べるマルチプルの肩を響がそっと叩きながら、ある1点を指差す。
――響が指し示す方角には、不自然な程に密集している竹藪があった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
第2章 集団戦
『かしまし鬼娘』
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POW : 鬼の刀
【小刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 鬼の鈴
【鈴の音】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ : 鬼の本気
【自身の妖力の全て】を使用する事で、【立派な角】を生やした、自身の身長の3倍の【大鬼】に変身する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●立ちはだかりしは、骸魂に呑まれた妖怪
剥き出しの地面の一角に広がる、不自然なほどにまで密集した竹林。
竹藪、ないしは竹の要塞と呼んでも差し支えない程にまで密集したその地に、傷の手当てを終えた猟兵達がそっと近づくと、突然、複数の人影が要塞を護るように立ちはだかった。
「アハハハハ!! 来たよ来たよ!!」
「無謀なニンゲン……いや猟兵かい?」
「あんたたち、この刀の嵐を鎮めにやってきたんだよね、ね?」
小刀片手に立ちはだかったのは、かしまし鬼娘の集団。
オシャレといたずらとおしゃべりと、その他楽しい事なら何でも大好きな鬼娘たちの瞳は、刀剣の嵐がもたらす殺戮の気配に感化され、激しくぎらついていた。
「いいのかな? あたいたちを倒していいのかな?」
「倒したらあたしたちが取り込んだ妖怪たち、戻ってこないよ?」
鬼娘たちは妖怪を人質(?)に猟兵達を躊躇させようとするが、猟兵達は知っている。
――骸魂に呑まれた妖怪は、骸魂を撃破すれば必ず救出できる、と。
「ふぅん、退く気、ないんだ」
退く様子のない猟兵の姿を見て、さもつまらなそうにつぶやく、鬼娘。
口振りこそつまらなそうだが、瞳に宿る殺戮の光は、本気の殺し合いを望んでいる。
「まあ、この竹林を調べさせるわけには、いかないからねえ」
「そんなことより、あたしたちと遊びましょ!!」
鬼娘たちと猟兵たちは、それぞれの得物を携え、にらみ合う。
はしゃぐ鬼娘たちが帯につけた鈴が、チリン……と澄んだ音を立てた。
さあ、猟兵達よ。
目の前に現れし艶やかな鬼娘たちは、今や殺戮に感化された鬼そのもの。
己が全力を以て対峙し、骸魂に呑まれた妖怪たちを救出した上で、竹の要塞への道を切り開け。
――健闘を、祈る。
※マスターより補足
鬼娘の骸魂に呑まれた妖怪たちは、鬼娘を撃破すれば自動的に救出できます。
救出後、妖怪たちは自らの判断で避難しますので、避難誘導のプレイングは不要です。鬼娘の撃破に全力を注いでください。
マルチプル・レギオン
「あれが親玉か?」
『下っ端だろ。』
「数で有利と思ってるぞ?」
『たかが数十名。』
「こっちは無限よ。」
『ある意味一人だが。』
「一人は皆の為に。」
『皆は一人の為に。」
「『無限増殖!マルチプル・アグリゲーション!」』
(一人のマルチプルから無数のおびただしい数のマルチプルが増殖する。増殖されたマルチプルから更に増殖。無限に増え続けるマルチプル。)
「戦いは質。」
『戦いは数。』
「質が良いのが増えれば尚良い。」
『何人くたばろうと次から次へとやってくる。』
(他の猟兵の攻撃に巻き込まれようとも敵の攻撃でやられようとも。増えて増えて増えまくるその姿は最早どちらが怪物か判別が難しい。)
「囲んで叩け!」
『叩いて囲め!」
●無限の軍団は鬼娘をも蹂躙す
「あれが親玉か?」
『下っ端だろ』
マルチプル・レギオン――の「陽」の人格が、竹の要塞を護るように立ちはだかるかしまし鬼娘を指差せば、『陰』の人格は唾と共に吐き捨てる。
陰陽揃うと、真逆の意見が同じ声で紡がれ、発言主の特定が難しくなるが。
鬼娘たちは、マルチプルたちの言動に一瞬怪訝な表情を見せた後、破顔した。
「にゃははっ、同じ顔がふたりもいる!」
「おっもしろーい。同じ顔で同じ声で、でも違うコト言うなんてー」
陰陽それぞれの口から、同じ声で真逆の意見を紡いでいる状況が、かえって鬼娘たちの興味を惹いたのだろう。
だが、刀剣の嵐が吹き荒れている以上、鬼娘たちの瞳から殺意が消えることはない。
「でもそっちはふたりだよねえ?」
「アハハハハ! 思いっきり切り刻んでやりたいねえ!」
小刀の刃先をゆらゆらと揺らしながら、鬼娘たちはマルチプルに迫る。
現在、鬼娘たちは数十名の集団。
対して、マルチプルは……陰陽の2人のみ。
「娘たち、多いから有利と思ってるぞ?」
「陽」の何となくの呟きに、『陰』のマルチプルは鼻で笑うのみ。
『だが、たかが数十名』
「たかがって、何よ!?」
言葉尻を捕らえ、激昂する鬼娘に、陰陽そろって不気味な笑みを浮かべるマルチプル。
「こっちは無限よ」
『ある意味一人だが』
――一人は皆の為に。
――皆は一人の為に。
「無限増殖!」
『マルチプル・アグリケーション!!』
陰陽ともに叫んだ直後。
「陽」と『陰』、それぞれの背中から、ずるり……と不気味な音を立てながら、同じ顔をしたマルチプルの増殖体が出現。
「何、なに?」
驚く鬼娘たちの前で、マルチプルは瞬時に分裂――否、増殖を繰り返し、瞬く間に数百人の集団へと膨れ上がる。
「戦いは質」
『いいや、戦いは数』
瞬時に数が逆転したことを勝ち誇るマルチプルに、鬼娘たちが覚えたのは……苛立ち。
「数でも質でも、増えればアタイらに勝てると思った?」
――チリン。
微かな鈴の音すら、苛立ち交じりの不協和音。
だが、それに共感した鬼娘たちが殺意と戦意を増し、小刀片手に片っ端から増殖したマルチプルに斬りつけ始める。
防具らしき防具を身に着けていないマルチプルの増殖体たちは、数十本の小刀に胴や四肢を断ち切られ、頭をかち割られ、次々と地に伏していった。
だが、『陰』のマルチプルは余裕を崩さない。
『甘いぜ。何人くたばろうと次から次へとやってくる』
その言通り、生き残った増殖体から再び分裂、増殖し、戦線復帰するマルチプル。
拳しか得物を持たぬマルチプルは、無防備に真正面から殴りかかろうとして、小刀を心の臓に突き立てられ沈み。
あるいは数に任せて一斉に飛び掛かるも、全力で薙がれた小刀で胸を割られて絶命し地に沈む。
だが、沈む都度、別のマルチプルから増殖し、常に戦力が補充されてゆく。
その増殖速度は、一は二に、二は四に、四は八に……ではなく。
一は十に、十は百に、百は千に……と表現しても尚足りぬほどの勢い。
――それは際限なく増殖し蹂躙する、ヒトの姿をした怪物の軍団(レギオン)。
斬っても斬っても増殖を繰り返すマルチプルに、鬼娘たちはおののき、怯える。
「キリがない!?」
「どれだけ増えるの、こいつ!?」
鬼娘たちも恐怖に駆られながら小刀で片っ端から斬り裂くも、際限なく増殖し続けるマルチプルの増殖体を一掃するには、余りにも非力。
「囲んで叩け!」
『叩いて囲め!!』
「きゃああああああ!!」
攻撃を止めた一瞬で囲まれた鬼娘たちは、拳で小刀をへし折られ、袋叩きにされ。
抵抗する術を失った者から、無数のマルチプルに群がられ、拳で蹂躙され、地に伏していった。
やがて崩れ落ちた鬼娘たちの姿が、霞に変化したかのように薄れ、消える。
後に残ったのは、鬼娘の骸魂に呑まれていた、気絶した妖怪たちが数十体。
『陰』は気絶した妖怪たちを殴ろうとするが、「陽」の掌がそれを止める。
「妖怪に戻ったら、それ以上殴ることはないぜ」
『また吞まれたら困る』
拳に力を籠める『陰』を、「陽」は首を振り止める。
――骸魂はともかく、妖怪への攻撃は過剰すぎるから。
「親玉を殴れば、この事態は終わるぜ」
『それならば、さっさと親玉を殴るか』
「陽」の言に納得したか、拳を下ろした『陰』とともに。
マルチプルたちは、竹の要塞に手をかけ、外壁をはがし始めた。
成功
🔵🔵🔴
月山・カムイ(サポート)
すいません、少々遅れましたが援護に参りました
既に戦いに入っている猟兵達の援護に入る形で参戦
集団戦なら攻撃のきっかけになるように、縦横無尽に切り結び
ボス戦なら他の猟兵がトドメを刺す為のサポートを行う
武器を切り裂く、受け止めたり逃がすべき相手を空を跳んで抱えて逃したり
上記の様な行動で現在戦っている猟兵が活躍出来るよう動かしていただければありがたいです
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●紅き無響剣舞は暴風となりて
――時は、少し遡る。
要塞の一角から吹き付けた、無限の軍隊が醸し出す不気味な殺気に、別の場にいた鬼娘たちも敏感に反応していた。
「なんだかわからないけど、押されている気がするねえ」
「ここはひとつ、援護に行くべきかい?」
「楽しめそうだし、そうしよっか~」
突然吹き付けた戦闘――否、蹂躙の気配に、鬼娘たちが一斉に駆け出そうとした、その時。
――ギィンッ!!
鋭く薙がれた一振りの赤き刀と、黒髪に映えるひと房の赤髪が、援護に向かおうとする鬼娘の行く手を遮った。
「少々遅れましたが、援護に参りました」
刃渡り二尺の小太刀「絶影」を振り抜き、鬼娘の行く手を遮るように現れたのは、月山・カムイ(絶影・f01363)。
「邪魔するつもりかい?」
妨害された鬼娘が小刀をちらつかせ、カムイに迫るが、カムイは無言。
「どいてもらうよー」
鬼娘がそのままカムイの喉元に小刀を突き付けた、その時。
「音も無く――――その身に刻め」
その言の葉が、風に乗って鬼娘の耳に届く前に、鬼娘の目の前に不意に紅が現れる。
鬼娘は急ぎ紅に小刀をかざすが、小刀は紅によって大きく弾かれ、虚空を舞った。
鬼娘が状況を呑み込む前に、鬼娘自身の着物の切れ端が、髪が虚空に舞い始め。
「ぎゃああああああ!!」
小刀を弾かれた鬼娘は、まるで見えぬ斬撃の雨を浴びたかのように全身を斬られ、力を失って頽れた。
「何で見えない!? 何モンだい!?」
声を荒げる鬼娘たちだが、見えぬ斬撃に刻まれたのはひとりだけではない。
いつの間にか、斬撃の嵐はその場に居合わせた鬼娘全員に等しく襲い掛かり、その服を、紙を、皮膚を悉く切り刻み始めていた。
――其の正体は、カムイが視認した対象全てを襲う、秒間数千万にも及ぶ紅き斬撃の暴風。
「あああああ!!」
「狼狽えるな!」
鬼娘の悲鳴と怒号が飛び交う中、時折空間をかすめる紅が、鬼娘に深い刀傷を穿ち、呑み込んだ妖怪たちから骸魂をはがす。
鬼娘たちも小刀を頻りに振り回し、斬撃の嵐を切り払い、凌ごうとするも、紅き斬撃の暴風と化し、縦横無尽に斬り結び続けるカムイに対しては、小刀1本ではあまりにも無力過ぎて。
結果、鬼娘たちは不意に現れる紅き刀を受け流すどころか、逆にあっさりと小刀を弾き飛ばされ、斬撃の暴風に巻き込まれて全身を無慈悲に斬り刻まれていった。
紅き斬撃の嵐が止むとともに、ようやく足を止めたカムイの足元には、骸魂から解放された妖怪たちが十体程度伏していた。
「大丈夫ですか?」
絶影を鞘に納めたカムイが伏した妖怪たちに優しく声をかけると、意識のある妖怪たちがゆっくり起き上がり、元の姿を取り戻し安堵する。
「た、助けていただけてありがたやありがたや……」
「それより、急ぎここから離れましょう」
「そ、そうするべ」
不気味な気配は妖怪たちも感じ取っていたか、自力で動けるものは広大な竹林へと避難し始めた。
特に弱っている妖怪はカムイが抱えて空を飛び、同じく竹林へ。
「私も手を貸しますので、急ぎ竹林の中へ」
「かたじけないのぅ……」
申し訳なさそうに謝る妖怪たちを執り成しながら、カムイは避難させられる限りの妖怪たちを竹林へと誘導し続けた。
成功
🔵🔵🔴
ギャレット・ディマージオ(サポート)
●設定等
ダークセイヴァー出身の冷静沈着な黒騎士です。
かつてオブリビオンに滅ぼされた都市で自分一人だけ生き残ってしまった過去を悔いており、人々を守り、被害を防止することを重視して行動します。
●戦闘において
「露払いは私が努めよう」
(敵に)「貴様らの技で、私が倒せるのか……試してみるがいい」
・牽制攻撃
・敵の攻撃から他の猟兵や一般人を守る
・敵の攻撃を回避してカウンター
・ついでに敵の強さを解説する
など、防御的・補助的な行動を主に得意とします。
メイン武器は「黒剣」です。
他は全てお任せします。
別の猟兵との交流や連携等も自由に行ってください。
どうぞよろしくお願いします。
●黒き鞭剣が掬い上げるのは、呑まれし妖怪
――ほんの少しだけ、時は遡る。
無限の軍隊が鬼娘の一角を蹴散らし、別所で紅き斬撃の暴風が吹き荒れている頃。
「ヤバいよ、これ!」
「応援に行った方がいいかにゃ?」
竹林を突破した猟兵達に次々と仲間の鬼娘が倒され、呑まれていた妖怪が救出されている状況に、他の鬼娘たちは危機感を覚え始めていた。
骸魂に妖怪を呑ませれば新たな鬼娘を増やせるものの、現状では骸魂が妖怪を呑み込むより、猟兵達が妖怪を救出する方が早い。
「あたいらまで倒されたら、あの方が困るにゃ!」
「この要塞に入れるわけにはいかないよね!」
やむを得まい、と鬼娘たちが援護に向かおうとした、その時。
――ヒュンッ!!
鋭い風切り音と共に、鬼娘の足元の地面が削られ、土煙が行く手を遮る。
「ケホッ、コホッ!」
「な、何だにゃ!?」
土煙に視界を遮られ、足を止めた鬼娘たちの前に現れたのは、ギャレット・ディマージオ(人間の黒騎士・f02429)。
「――露払いは私が努めよう」
双角の兜で隠された眼差しを受けた鬼娘の背に、一瞬冷や汗のようなものがつたい落ちる。
ギャレットが右手に携える黒剣は鞭剣に変形し、刀剣の嵐を切り裂くべく、そして妖怪を呑んだ骸魂を祓うべく、静かにその時を待っていた。
だが、刀剣の嵐に中てられ、好戦的になっている鬼娘たちは、ギャレットがその得物をふるうことを良しとしない。
「鞭なんて切ってやるにゃあ!」
鬼娘のひとりが、鞭剣を一気に切り飛ばすべく、小刀を振り下ろす。
その刀身が、ギャレットが瞬時に振り上げた鞭剣と交錯した瞬間。
――ヒュンッ!
――ギンッ!!
切り飛ばされたのは、鞭剣……ではなく、小刀の刀身。
鞭剣に切断された刃先は、クルクルと回転しながら地面に落ちた。
「にゃああああ!?」
それでも鬼娘は、刀身を半ば失った小刀をギャレットに一矢報いるべく突き出すが。
「貴様らの技で、私が倒せるのか……試してみるがいい」
ギャレットは返す鞭剣で今度は小刀そのものを弾き飛ばし、鞭剣を瞬時に黒剣に戻して踏み込み、一息に振り下ろした。
――斬ッ!!
「にゃああ~!!」
右肩から左わき腹にかけ、袈裟に深く斬られた鬼娘は、悲鳴と共に頽れ、呑み込んでいた妖怪を解放し消滅。
しかし、解放された妖怪はすぐに目を覚ます様子はなく、自力で竹林に逃げ込めそうにない。
ギャレットは倒れた妖怪を守るように立ちはだかり、黒剣を再び鞭剣へと変形させると、鬼娘たちを妖怪に近づかせないように鞭剣で牽制し続けた。
成功
🔵🔵🔴
真宮・響
【真宮家】で参加
やれやれ、酷い目に遭った。今だに身体中が痛むよ。この娘さん達は・・生来無邪気な性質かもだが、骸魂に憑かれているなら解放してやらないとね。少々手荒くなるが、許してくれ。
数に任せて押し寄せてくるような敵は基本に忠実に行こうか。奏、瞬、前方の抑えは任せた。アタシは【忍び足】【目立たない】【不意討ち】で敵の集団の背後を取る。敵の背後を取れたら敵の攻撃を【オーラ防御】【残像】【見切り】で回避、【気合い】【範囲攻撃】【2回攻撃】を併せた竜牙で攻撃。
余裕があれば【戦闘知識】で敵の攻撃を予測、【カウンター】【怪力】【グラップル】で敵の一人を蹴っ飛ばし、敵集団を巻き込むことで連携を崩してやるか。
真宮・奏
【真宮家】で参加
う~ん・・・骸魂に憑かれてなければ気が合いそうな方達なんですが。この酷い状況の世界を何とかしなければこの集団を突破せねば。勢いに任せた攻撃は油断できませんね。
数に任せて攻撃してくる集団をきっちり足止めします。トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で敵の攻撃をしっかり受け止め、【衝撃波】【範囲攻撃】【2回攻撃】で吹き飛ばします。痛いことしてごめんなさいね。後で謝りますので、先に行かせてください!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
数多くの妖怪達を骸魂から救い出してきましたので、貴方達の言葉には乗りませんよ。むしろ、骸魂で存在を歪められている貴方達を解放するのが僕達の仕事です。少々手荒くなりますが・・・道を開けて貰います!!
勢い任せの敵は基本に忠実に、ですね。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。巨大化は脅威ですが、的が大きくなる分当てやすい。妖力を回復する前に【高速詠唱】【全力魔法】した氷晶の矢で攻撃します。
攻撃力と手数が脅威なので、【オーラ防御】【第六感】で防御の備えをしておきますね。申し訳ないんですが、先に進まねばなりませんので。
●家族の絆は、好戦的な罠すら食い破り
――無限の軍団が一角を突き崩し。
――紅き斬撃の暴風が殺意ごと断ち切り。
――漆黒の鞭剣が妖怪たちを救い出し。
次々と竹の要塞の周囲を守っていた鬼娘が撃破され、呑まれていた妖怪が助け出されていく中。
最後に残った一集団は、必死に竹林を突っ切ってきた【真宮家】が相手どろうとしていた。
「私達で最後か……ここは通さぬよ!」
「お姉さんたちの首を掻っ切って、その腹掻っ捌いてやるんだからねっ!」
竹林を突っ切る際に受けた傷の治療を終え、鬼娘たちの眼前に身を晒した3人に投げかけられるのは、殺意と戦意に心を侵され、今にも襲い掛かりそうな鬼娘たちの心無い言葉の数々。
「う~ん……骸魂に憑かれていなければ気が合いそうな方達なんですが」
要塞の守備を三方から崩され、防戦に回るべき状況にも関わらず、吹き荒れる刀剣の嵐が齎す殺戮の衝動に中てられている鬼娘を見て、ちくりと心が痛む奏。
――どうにも、鬼娘たちが好戦的な態度を無理やり取らされているようにも見えてしまう。
もし、好戦的ではなく、従来の無邪気さを存分に露わにした鬼娘たちとは、気が合いそうだとは思うのだけど。
生憎、今の鬼娘は、妖怪ではなく……骸魂。
――幽世に辿り着けず落命し、この世界に害を成すために妖怪を呑み込み、被害を齎す存在なのだ。
好戦的な鬼娘たちと相容れる余地はないと悟った奏は、心の奥底でそっとため息を漏らす。
奏の心中を知ってか知らずか、鬼娘たちは無邪気に奏に話しかける。
「そこの戦いたがっているお姉さん、私たちと気があいそう♪」
「ねえお姉さん、取引しましょ?」
「取引、ですか?」
突然、取引を持ち掛けられ、訝しむ奏を楽しそうに見つめながら。
鬼娘たちは無邪気に、酷薄に告げる。
「あたいたちと本気でころしあいしてくれれば、妖怪たちは返してあげるよ♪」
「……っ」
――それは、手加減を間違えれば妖怪ごと殺めかねない、諸刃の刃の提案。
鬼娘としては、これで奏の手が鈍れば与しやすいと踏んだか。
あまりな提案に言葉を詰まらせた奏に代わり、神城・瞬がやれやれ、と大きくため息をつきながら助け舟を出した。
「僕たちは数多くの妖怪たちを骸魂から救い出してきましたので、貴女達の言葉には乗りませんよ」
「ちぇ~、バレていたか」
嘘を見破られ、残念そうな鬼娘たち。
もし、瞬たちが妖怪たちを助ける方法を知らなければ、このまま嘘を突き通せていたかもしれないが、百戦錬磨の猟兵である瞬たちには通じなかった。
「まあ、この娘さん達は……生来無邪気な性質なんだろうね」
奏をフォローするように、真宮・響も口添えする。
「母さん、痛みは?」
「ひどい目に遭い過ぎたからね、未だ痛むよ」
話しながらも、腕や脚に痛みが走るのか、時折顔を顰める響。
もっとも、顔を顰めてしまうのも無理はない。
――刀剣の嵐と竹の葉の乱舞を、鬼子母神に変身し受け止め続けていたのだから。
一応、瞬がとっておきの薬品と魔法で治療は施したものの、短時間では完全には癒え切れておらず、痛みは残っている。
正直、万全とは言い難い状態だが、それでも響の瞳には激しい戦意が宿っていた。
「でも、妖怪たちが骸魂に憑かれているなら解放してやらないとね」
そのためなら、痛みは我慢できるよ、と強がる響。
――それは、子を持つ母故の、妖怪たちへの優しさか。
――あるいは、幽世に存命中に辿り着けず骸魂になった鬼娘たちへの憐憫か。
母の想いを受け取った子たちは、共に頷き。
「はい、この酷い状況の世界をなんとかするために、この集団を突破しないと!」
「ええ、骸魂で存在を歪められている貴方達を解放するのが僕達の仕事ですから」
奏が愛用の盾を、瞬が六花の杖を掲げ。
響が姿を消すと同時に。
――双方が正面から、激突した。
●基本は磨き上げれば最強の矛と化す
「気合だけはいっちょ前だねえ!!」
鬼娘たちは瞬たちを挑発しつつ、小刀をゆらゆらと揺らめかせながら接近する。
おそらく、数の暴力で3人と「遊び」ながらその尊厳ごと蹂躙するつもりなのだろう。
だが、響も奏も、そして瞬も、カクリヨファンタズムで何度も骸魂から妖怪たちを助け出してきた身。
故に、数の暴力で押し寄せる集団に対しては……。
「……基本に忠実に、ですね」
瞬が六花の杖を空に翳し、一振りすると、杖を中心に半球状に銀の結界が展開される。
銀の結界に触れた鬼娘たちは、ビクッ!と身体を硬直させた後、あらぬ方向に彷徨い始めた。
「か、からだ、が……」
「めが、かすむよ……」
「くちが、まわら、ないよぉ……」
視界と身体の自由を奪われた鬼娘たちは、小刀を取り落とし、彷徨う。
瞬の銀の結界に施された麻痺毒が、結界に触れた鬼娘たちの四肢や口を鈍らせ、目を霞ませていた。
「そこなお兄ちゃん、卑怯なことしてくれるねえ!?」
他の鬼娘の陰にいたため、結界の効果を逃れた別の鬼娘が、小刀を腰だめに構え、瞬目がけて突撃するが。
「瞬兄さんには触らせません!」
炎・水・風の三属性を愛用の盾に宿し防御力を強化した奏が割込み、絶妙のタイミングでエレメンタル・シールドを掲げて、小刀を真正面から確りと受け止める。
――カァンッ!!
タイミングも角度も絶妙に掲げられたエレメンタル・シールドは、小刀を鬼娘の手からもぎ取り、大きく弾き飛ばす。
よろめいた鬼娘に、奏はさらに二、三歩踏み込み、シールドごと体当たりし、鈍い音を立てながら吹き飛ばす。
吹き飛ばされた鬼娘は、背後に迫っていた別の鬼娘の集団にぶつかり、ボウリングのピンのように一気に薙ぎ倒しながら地面に落下した。
「数に任せて勢いよくやってくる集団は任せて下さい!」
自信に満ちた奏の言通り、瞬を狙う鬼娘たちの攻撃は、悉く奏のシールドに遮られ、通らない。
奏もシールドを両手で確りと構えながら、鬼娘の攻撃をさばき続ける。
埒が明かない、と感じたか。
「小癪だねえ!」
鬼娘の1体が、妖力を全て注ぎ込み、身長が3倍の巨大な大鬼へと変身し、拳を無造作に奏に振り下ろす。
奏も今まで通りシールドで受けるが、突然増した重みに、シールドが軋んだ音を立てた。
「くっ……!」
「さあ、いつまで耐えられるかねえ!?」
大鬼と化した鬼娘は、シールドを構えた奏の頭上から、何度も何度も巨大な拳を討ちつける。
このままだと、奏が杭のように地面に埋め込まれるか、あるいは拳で潰されるか。
だが、大鬼を見た瞬は、六花の杖で大鬼の上空を指し示す。
「少々手荒ですが、道を開けてもらいます。――さて、これを見切れますか?」
刹那、大鬼の頭上から降り注ぐのは、実に500本を超える氷の矢。
瞬が極限まで圧縮し高速で詠唱した呪文で召喚された鋭き矢は、大鬼の頭上から滝のように降り注ぎ、頭や肩、腕に次々と絶対零度の氷を貼りつかせてゆく。
「ギャアアアアア!!」
「巨大化すれば、それだけ良い的になりますね?」
瞬の静かな指摘は、氷の豪雨に紛れて、大鬼には届かない。
数秒後、その場には大鬼の氷像が1体完成していた。
●戦略の応用は清濁併せ持つもので
氷像が完成しても、戦いは続く。
奏は殺到する鬼娘たちをエレメンタル・シールドでいなしつづけ、瞬は時折麻痺毒と目潰しの結界を張り直しながら氷の矢で援護する。
奏と瞬の猛攻で倒れ伏した鬼娘は、まるで身体が霧に変化したかのように霧散し、消滅した。
霧が晴れた後に残ったのは、倒れ伏した妖怪だが、かなり長い間呑まれていたのか、意識がない。
すぐには逃げられないだろうと判断した奏は、妖怪を守るように立ちはだかるも。
(「この状況で妖怪さんを守りながら耐えるのは、厳しい……!」)
響ほどではないが、奏も身を挺して瞬たちを庇った際の傷が癒えきっているわけではない。
正直、瞬の援護があるとはいえ、十数体一気に相手どるのは骨が折れる。
瞬もオーラで守りは固めているものの、響や奏ほど耐えるのは難しい
――おそらく、2人とも長時間は耐えられない。
そう、奏が感じた、その時。
「この一撃は竜の如く! 喰らいな!!」
突如、鬼娘たちの背後から、裂帛の気合とともに閃く、灼熱。
気合と共に薙がれた赤熱した槍が、鬼娘たちを一気に薙ぎ倒した。
「奏、瞬、よく耐えたね!」
「母さん!」
槍の持ち主がいつの間にか姿を消していた母と気づき、安堵の声を漏らす奏。
響は、鬼娘たちが奏と瞬に気を取られている間に背後に回っていたのだ。
そのまま響は、ブレイズランスで鬼娘たちを立て続けになぎ払い、悉く地に吹き飛ばす。
不意討ちにも等しい赤熱の旋風に、思わず抗議の声をあげる鬼娘たち。
「い、いたい~~~!!」
「何してくれるのよ、おばさん!?」
「おばさんだって?」
おばさん呼ばわりされた響のこめかみに、軽く血管が浮く。
「おばさんはおばさんよ、おばさん♪」
「何、ピッチピチの娘がうらやましいの?」
そうと気づかぬ鬼娘たちは、やいのやいのと響をはやし立てるが。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
奏と瞬は……母の背に鬼神が降臨した予感がして、軽く寒気を覚えていた。
「少々……いや、さらに手荒になるけど、許してくれよ!」
こめかみに血管を浮かべたまま、響はさらに豪快にブレイズランスを振るい、背後から鬼娘たちを薙ぎ倒す。
気迫と怒りと、ついでにやるせなさが籠った赤熱の槍の一撃は、響をおばさん呼ばわりした鬼娘たちを次々と吹き飛ばした。
かろうじて槍を逃れた鬼娘が、小刀を構えその身を大きく沈ませ、響の死角から小刀を穿とうとするが。
「見え見えなんだよ!」
死角からの致命的な一撃をあらかじめ予測していた響は、小刀にブレイズランスを軽く合わせて逸らし、そのまま至近距離から蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた鬼娘は、そのままよろめき背後の鬼娘と激突。
双方が衝撃で動きを一瞬止めたところを、響がブレイズランスでまとめて両断した。
一通りおばさん呼ばわりされた鬱憤を晴らした響が、ふと瞬を見ると、彼は結界を維持しながら時折氷の矢を局地的に滝のように降らせつつ、戦場を駆け回って気絶した妖怪を安全な場へと避難させている。
一方、奏は翠の衝撃波を織り交ぜながら、瞬に鬼娘たちの気が向かないよう引き付け続けていた。
追い込まれた鬼娘たちは、妖力を全て使い大鬼と化し、その膂力で平然と拳のみで地面を穿ち、奏たちのバランスを崩そうとするが、その分小回りが利かなくなり、小刀も大鬼の手には小さすぎて掴めない。
さらに妖力を全て使い果たしたことで、自由自在な変化も不可能となってしまう。
そして、瞬がそれを見逃すはずもなく。
「申し訳ないんですが、先に進まねばなりませんので」
絶好の的と化した大鬼に、瞬は躊躇わず氷の矢の豪雨を降らせ続け、氷像を増やして行く。
増える氷像を見て、大鬼にならずに小刀を振り回し続けることを選んだ鬼娘たちは。
「痛いことしてごめんなさいね。後で謝りますので、先に行かせてください!!」
「手荒い真似してごめんよ!」
奏のエレメンタル・シールドと響のブレイズランスで片っ端からいなされ、叩きつけられ、薙がれ、地に伏して行く。
気が付けば、鬼娘たちは全て地に伏し、呑まれていた妖怪たちが全て救助されていた。
●刀嵐招きし鬼は、戦を望みしか
「これで全部かい?」
救助した妖怪たちのうち、直ぐに逃げ切れなかった妖怪たちを竹林に誘導しながら、響は鬼娘の生き残りがいないか目をこらしつつ、子供たちに問いかけると、響がはい、と頷いた。
「他の猟兵さんたちも相手してくれていましたから、おそらくここにいた娘さんたちで最後です」
「後はこの中にいる、元凶の骸魂のみですね」
一際密集している竹藪――竹の要塞を指差し、瞬がさて、と突入手段を思案し始めた、その時。
「ほお、娘っ子を全部倒しちまったのかい!」
気っ風の良い姉御の感嘆の声とともに、竹の壁が静かに開き。
――大太刀を担いだ鬼が、姿を現した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『剣鬼『彼岸花のおゆう』』
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POW : 悪鬼剣『彼岸花』
【血を滴らせた大太刀『三途丸』】が命中した対象を切断する。
SPD : 悪童の爪
【鬼としての力を解放した左手】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【血の臭いと味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : 鬼神妖術『羅生門』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【血で作られた紅の斬馬刀】で包囲攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ガイ・レックウ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●竹の要塞のあるじは、猟兵を蹂躙せんと望んでいて
「やれやれ、せっかく数を揃えたってのによ、全部倒して妖怪を助けやがってさ」
現れた鬼は『彼岸花のおゆう』と名乗り、猟兵達をぎらつく光が宿る瞳でじろりと眺めた後、舎弟に気を遣う姉御のように話しかける。
「その前にアンタたち、これ以上刀や剣が飛び交う中でやりたかないだろ? ――この中でやろうじゃないか」
竹の要塞を指差しつつ、姉御肌の一面を見せながら同意を求める剣鬼に、猟兵たちも二言はないと頷いた。
猟兵達が招き入れられた要塞内は、外観に反して広々とした空間が広がっているが、要塞前の広場よりは明らかに狭い。
刀剣の嵐の中で戦うよりはマシだが、それでも動きが幾分か制約されるのは否めないだろう。
おそらく剣鬼は、鬼娘と猟兵達の戦いぶりをどこかで見ており、猟兵に多少有利な条件を与えてでも、己に圧倒的に有利な状況に持ち込みたかったに違いない。数の暴力で相手を蹂躙するには、手狭過ぎるからだ。
――それもこれも、全ては殺し合いを己が手で楽しむための、お膳立て。
血の気配が漂う要塞内の空気に中てられるように、猟兵達が得物を構えると。
「さあ、これ以上は話すより、血沸き肉躍る戦いを楽しもうじゃないか!」
剣鬼は変化させた鬼の左腕を握り込み、右肩に大太刀を担ぎ、さも愉快そうに、楽しそうに嘯く。
舌なめずりをする剣鬼の表情には、殺戮を期待するいろが一掃濃く宿っていた。
さあ、猟兵達よ。
目の前にいる剣鬼『彼岸花のおゆう』こそが、この刀嵐を招きし張本人。
血のいろを期待し、殺し合いを求める剣鬼を討ち、カタストロフに至る嵐を鎮めよ。
――健闘を、祈る。
マルチプル・レギオン
「しかし馬鹿だなぁ、俺一人だと思った?」
『お前は集団を相手している。』
(先程の増殖体達が後方から突っ込んでくる。)
「行くぜ!俺達!」
『潰れてしまえ。』
(後方で増殖しつつ、前方に突進していく。)
「狭いなら寧ろ好都合。」
『外とは密度が違う。』
「自分で自分の首絞めるとはこう言う事だ。」
『絞めてそのまま消えてなくなれ。』
●狭所で「突撃」することの意味
竹の要塞の壁をこじ開け、一足先に侵入したマルチプル・レギオンが目にしたのは、入り口を開き猟兵達を招き入れようとした姿。
マルチプルはあえて「陽」の人格ひとりのみで入り、剣鬼『彼岸花のおゆう』に「よぉ」と声をかける。
「ひとりでノコノコとよく来たねえ」
「馬鹿だなあ、俺一人だと思った?」
「はぁ? ひとりじゃないか」
呆れる剣鬼の前で、ずるり……と不気味な音を立てながら、マルチプルが増殖。
『お前は集団を相手している』
増殖し現れた『陰』のマルチプルが酷薄に告げると同時に。
――ドドドドドド!
竹の要塞の入り口から、外で待っていたマルチプルの増殖体が突撃。
「ほう、こりゃまあ見事に同じ顔だねえ」
呆れ半分称賛半分で呟きながら、大太刀「三途丸」を構え直す、剣鬼。
その刃からは、既に血が滴っている。
「行くぜ! 俺たち!!」
『潰れてしまえ!』
軍団(レギオン)と化したマルチプルは、全員一斉に剣鬼に突撃し、剣鬼の胴を穿つ。
だが、一撃を入れた直後、剣鬼の腕が動いた。
――斬ッッッッ!!
適当に振るわれた大太刀は、押し寄せたマルチプルの増殖体の胴を悉く両断し、上半身と下半身を泣き別れにして地面に落とした。
足を止めたマルチプルたちの前で、不敵に微笑む剣鬼。
「何のためにわざわざ狭い戦場を誂えたと思っているのかねえ?」
「狭いならむしろ好都合」
『外とは密度が違う』
微笑みの意味を解せぬか、己が有利さを言い募るマルチプルたち。
「普通ならそうだろう……ねえ!!」
剣鬼の口端が、ニィ、と吊り上がった、直後。
――ザシュッ!!
マルチプルの目が捕らえ切れない程の速度で、再度大太刀が一閃。
避けられず斬られた増殖体は四肢や腕を切断され、その場にバラバラと崩れ落ちた。
それでも後方で次々と増殖し続けているマルチプルが、味方の屍を踏み越えながら突撃する前方の同志を手助けし、突撃の威力を倍増させようとするが。
「甘い、甘いねえ! 見え見えだよ!!」
剣鬼はお構いなしに増殖体を斬り続け、胴を泣き別れにし続けた。
マルチプルは、果たして気づいていただろうか?
――剣鬼はわざと密集させるために、要塞内を戦場に選んだことに。
確かに集団が密集せざるを得ない状況は、増殖体の数で押すマルチプルには好都合だったかもしれない。
だが、大太刀が命中した相手を問答無用で「切断」するユーベルコードを持つ剣鬼にとってもまた、好都合な環境だ。
剣鬼は、たとえ大太刀の刃が摩耗していても、分厚い血の層で刃が覆われても、とにかく血が滴る大太刀を相手に当てさえすれば、如何なる状況でも確実に数体の首や胴を宙に舞わせられる。
対するマルチプルは、回避も防御も妨害も一切考えず、ユーベルコードと数のみを頼みに増殖体が一斉に突撃を繰り返すのみ。
無限に増殖できるとは言えども瞬時に増やせる訳ではないため、失った増殖体の補充はどうしてもわずかに遅れてしまう。
そして、補充が間に合わず生じた隙間に剣鬼が踏み込めば、より豪快に大太刀を振るえるようになるのだ。
――単体で出現する『ボス敵』は、『集団敵』より格段に強く、数の暴力が通用するとは限らない。
まだ回避や防御の必然性を考慮に入れれば、増殖体の消耗は押さえられたかもしれないが、全く考慮に入れていないのではなす術がない。
結果、マルチプルの増殖速度を剣鬼の大太刀による切断速度が常に上回り続け、増殖体は見る見るうちに数を減らしていった。
明確に数が減らされても、マルチプルたちは愚直なまでに突撃を諦めない。
「自分で自分の首絞めるとは……」
「首を絞めているのはアンタたちさ! もう少しうまく翻弄する方法を考えて来るんだね!!」
剣鬼の嘲笑とともに、大太刀が三度、一閃。
そのひと振りで残りの増殖体が全て両断され、濃い血だまりの中に沈むのを蹴散らしつつ、剣鬼が唯一残ったマルチプルに肉薄。大太刀を大上段に振り上げ、頭から両断せんと振り下ろす。
矛でもあり盾でもあった増殖体が全て失われた今、マルチプルに避ける術はない。
――ザシュッッッッ!!
「が、がはっ……!!」
マルチプルは胴を真正面から深く斬られ、吐血しながら大きく仰け反る。
咄嗟に後方に身を退いたものの、それだけで大太刀の威力は軽減しきれない。
続けざまに大太刀を逆袈裟に斬り上げ、止めを刺そうとした剣鬼だが、突然マルチプルが輝く光に包まれたのを見て足を止めた。
「何だってんだい?」
「ま、まだ……」
早い、と抗議しようとしたマルチプルの意思はグリモア猟兵に届くことはなく、光と共にグリモアベースに強制転送された。
増殖体を全て失い、残った本体も深手を負い、さらなる追撃を受ければ止めを刺されると判断したグリモア猟兵が、強制的に引き戻したのだ。
大太刀の振り上げ先を見失った剣鬼は、大太刀を鞘に納めつつ呟く。
「数頼みってのは、時と場合によるんだよねえ……」
でも、と最初の突撃で強打された胴をさすりながら、剣鬼は何処とも知れぬ場に向かって呟いた。
――もっと統率された軍団だったら、アタシもどうなっていたかわからないねぇ……。
剣鬼の称賛交じりの声は、マルチプルには届かない。
苦戦
🔵🔴🔴
ラング・カエルム(サポート)
「ほほう、私の力が必要なようだな。安心するがよい、私が来たならもはや解決したも同然だ!」
何かと首を突っ込みたがる。とても偉そうだけど人類みな友達だと思っている毎日ご機嫌ハイカラさん。
別に男に間違われてもなんら気にしない。そもそも自分の性別を意識していない。
別に頭が悪いわけもなく、むしろ回転は速い方だが、明後日の方に回転させる。
とてもポジティブ。人類みな友達だけど、悪いことした奴に叱るのも友達。なので誰にだって容赦もしない。容赦なく殴る。容赦なくUCも使う。だって友達だからな!
●びったんびったんおにびったん
強制的に連れ戻された無限の軍隊たる男と入れ替わるように現れたのは、ラング・カエルム(ハイカラさんの力持ち・f29868)。
「ほほう、私の力が必要なようだな」
「こりゃまた面妖な相手がきたねえ」
胴をさすりながら大太刀『三途丸』を構え直す剣鬼『彼岸花のおゆう』の口振りは、呆れとも困惑ともとれるそれ。
ランゲの中性的な顔立ちがあらゆる境界線を曖昧にし、剣鬼を戸惑わせているのに加え、偉そうな口ぶりで言い放たれては、性格もその後の言動も何もかもが予測不可能。
そんな剣鬼の困惑を知ってか知らずか、ラングは朗らかに言い放つ。
「安心するがよい、私が来たならもはや解決したも同然だ!」
「アンタ、空気読んでないだろう!?」
明らかにフレンドリーに接するラングに、剣鬼も突っ込みながら、内心ドン引き中。
だが、人類みな友達と思っているラングにとって、相手がドン引きしようが突っ込もうが関係ない。
「だいたい、その大きな剣を振り回して友達を斬るのはよくないな!」
「誰が友達だって!?」
「悪いことをした奴に叱るのは友達の役目だ! だから私は叱る!!」
「話が通じない相手だね!?」
一方的に友達認定されて叱られ、剣鬼は困惑どころか混乱。
さらに得物ひとつ手にすることなく笑顔で無警戒に近づくランゲを見て、内心焦りすら感じ始めていた。
(「アタシにとって友達ってのは、殺し合い斬り合い上等で挑んでくる奴らのことなんだけどねえ!?」)
そもそも剣鬼にとって、目の前の相手は殺すか斬るか蹂躙するかのいずれかのみ。
一方的に友達認定された挙句、友達だから叱ると言われても、戸惑うしかできないのが本音。
ラングの良くも悪くもフレンドリーな一面に翻弄された剣鬼は、ラングが接近しても大太刀を振り下ろせない。
「悪い友達は容赦なく殴るからな!」
そのままズガズガと遠慮なく踏み込んだラングは、右手で剣鬼の左腕を掴み、己が右腕を大きく振り上げた。
――ふわっ。
「んなっ!?」
右腕1本で軽々と宙に持ち上げられ、驚く剣鬼。
その直後。
――びたーん!!
勢いよく右手が振り下ろされ、剣鬼の全身が地面に叩きつけられた。
「がっ……はっ……!」
「まだまだ叱るぞ! 友達だからな!」
衝撃で息が詰まらせた剣鬼を、ラングは再度右腕1本だけで持ち上げ、また地面に叩きつけた。
――ふわっ。
――びったーん!!
顔面から叩きつけられ、地面と強制的にキスさせられる剣鬼に、ラングは容赦ない一言。
「友達だからな! 容赦なくびったんびったんしてやる!」
「んなっ……!!」
顔面から叩きつけられた剣鬼は怒りと屈辱に打ち震えながらも藻掻くが、「誰でも友達」であり「誰にだって容赦しない」ラングの、81トンまで持ち上げられる怪力からは逃れられない。
その後もラングは、持ち前のポジティブシンキングで剣鬼の罵詈雑言を受け流しながら、右腕1本でびったんびったんし続け、剣鬼を翻弄。
「いい加減離すんだよ!!」
剣鬼も大太刀と四肢をむやみやたらに振り回すが、ラングの手を振り払えない以上、空中旅行と地面へのキスを繰り返すだけだった。
やがて、何度も地面に叩きつけられた剣鬼は、きゅぅ……と目を回し、気絶する。
「友達なら、2度とこんなことするなよ!」
ラングは気絶し地面に伸びた剣鬼に説教した後、充実感を胸に帰って行った。
(「うむ! 今日も友達のためにいいことをしたぞ!」)
――空気を「読まない」攻撃は、時に恐るべき凶器と化すなり。
成功
🔵🔵🔴
真宮・響
【真宮家】で参加
ふうん、まさにこの状況に相応しい戦狂いってことか。さんざん痛めつけられたからねえ。何倍にもして返してやるよ。さて、この状況ではいつもの隠密は出来ないか。流石戦に慣れてるねえ。
炎の戦乙女を発動、【オーラ防御】【見切り】【残像】で飛んでくる刀剣から身をかわし、【衝撃波】で刀剣を吹き飛ばす。まあ、無限に飛んでくるだろうが、捌ききれない分は炎の戦乙女に一任。
太刀の一撃は敢えて受ける。まあ、二撃目は流石に受ける気はないので、一撃目で【戦闘知識】で太刀の軌道を覚えて、【カウンター】【気合い】【怪力】【グラップル】で返しの渾身の正拳をいれてやる。そして【重量攻撃】の蹴り飛ばしで追撃。
真宮・奏
【真宮家】で参加
この方と出会うのは二度目ですが、豪胆にして苛烈、得物の大きさに反して隙が全く見当たらない。強敵ですね。でもいつまでもこの危険な状態を続けさせる訳にはいきませんので。
トリニティ・エンハンスを発動、今回は攻撃力を上げます。突撃する母さんと随行する形で【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】【かばう】でなるべく飛んでくる刀剣の攻撃は引き受けます。
母さんが確実に一撃を入れられるよう【二回攻撃】【衝撃波】で援護、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で返しの大太刀の一撃を引き受けるようにしますね。
神城・瞬
【真宮家】で参加
まさに女傑、という感じですが、母さんを傷つけ、奏を危ない目に遭わせた時点で討つべき敵です。・・・覚悟して貰おうか。
僕は母さんと奏が存分に攻撃できるように整える。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を敵に向かって展開、裂帛の束縛で敵を拘束。
敵の攻撃は離れていれば問題無いし、【オーラ防御】【第六感】で凌ぐ。もし当たっても、【衝撃波】【吹き飛ばし】で距離を話して攻撃距離を離す。
オレの大切な存在を傷つけた罪は重い!!その報い、存分に受けろ!1
●其れは定められし決着なのか
「アタタタタ……まいったねぇ」
目を覚ました剣鬼『彼岸花のおゆう』は、中性的な容姿の猟兵に一方的にコケにされたことで、肚の底からどす黒い怒りが沸き上がるのを抑えきれない。
――この怒りを発散させられるような敵は、現れないだろうか。
存分に死合える相手を探していた剣鬼の目が、人の気配が吹きつける竹の要塞の入り口に向けられた時。
「漸く来たねえ……!」
剣鬼の瞳が、怒りではなく歓喜の声とともに輝いた。
なぜなら、要塞の入り口に姿を見せたのは……鬼娘を全て蹴散らし、治療を終えて駆けつけた【真宮家】の3人だったから。
「ようやく血みどろ上等の殺し合いができそうだねぇ……」
青白き炎を宿すブレイズブルーを手に、厳しい表情で相手を見据える真宮・響を見て、すう……っと目を細める剣鬼。
気配を消しつつ死角から痛打を浴びせる一方、赤熱した槍で全てを吹き飛ばす豪胆さをも持つ女傑を前に、剣鬼は気分が高揚するのを隠せない。
あからさまに殺し合いを期待する剣鬼に、響はどうしても不快感を覚えてしまう。
「ふうん、まさにこの状況に相応しい戦狂いってことか。さんざん痛めつけられたからねえ。何倍にもして返してやるよ」
殺し合いを所望する相手に向ける響の口調は厳しく、槍の構えも隙の無いそれ。
だが一方で、戦場をぐるりと見渡した響は、剣鬼の狡猾さにも気づいていた。
――剣鬼が、この広場を戦場に選んだ理由を察したのだ。
(「この状況ではいつもの隠密はできないか、手慣れてるねえ」)
密集した竹に囲まれた要塞は、先ほどの広場より明らかに狭い。
加えて、身を隠せそうな遮蔽物は、一切存在しない。
……隠密を得意とする響にとっては、切り札が1枚、封じられたことになる。
「まさに女傑、という感じですが、母さんを傷つけ、奏を危ない目に遭わせた時点で討つべき敵です」
一方、神城・瞬は腹の底から煮えくり返るような怒りを、言の葉の端々に露わにしていた。
恩人たる義母を刀剣の嵐で徹底的に痛めつけ、鬼娘たちを徹底的にじゃれつかせて義妹をピンチに追いやった元凶たる剣鬼を、決して許しては置けない。
「……覚悟してもらおうか」
「おお怖い怖い。お兄さん本気だねえ」
口調を乱暴なそれにがらりと変えた瞬を茶化すようにおどける剣鬼だが、瞳に宿す光は殺戮と死合いを求める剣呑なそれのまま。
――目の前の魔術師が手練れであることは、既に観察済みなのだから。
「やはり、強敵……ですね」
一方、真宮・奏は、2回目の遭遇となる剣鬼を前に、冷静に状況を俯瞰していた。
――母や義兄が怒りを露わに迫っているため、相対的に冷静になったのだろう。
肩に担ぐ大太刀から、豪胆にして苛烈な攻撃が繰り出されるであろうことは容易に想像がつくが、得物の大きさに反し、隙は一切見いだせない。
単に殺し合いを求めるだけの狂人ではないことを伺わせる所作と、母と義兄の怒りを真に受けてなお、おどける程の余裕を見せる姿は、奏に警戒心を与えるには十分すぎた。
……だが、警戒だけしていては、いつまでもこの事態は解決できない。
「いつまでも、この危険な状態を続けさせる訳にはいきませんので」
――止めさせて、もらいます。
エレメンタル・シールドを構えた奏に続くように。
「ああ、覚悟しろ!!」
怒りを露わに六花の杖をドン! と地に打ち付けた瞬が呼応し。
「巻き込まれた妖怪たちの分までやり返すよ!」
ブレイズブルーを構えた響が、裂帛の気合を剣鬼にぶつけ。
「いいだろう、まとめてかかってきな!」
剣鬼の歓喜の声が真宮家の怒りと戦意を受け止め。
――最後の戦いが、始まった。
●血の雨降り注ぐ死合いの果てに
「さあ、行くよ、燃え盛る炎の如く!!」
響が魔力の籠った魔法石を割って炎の戦乙女を召喚し、剣鬼に突撃。
召喚主と行動を共にする戦乙女も揃って突撃するのに合わせ、エレメンタル・シールドに炎・水・風の3属性を宿した奏も母とともに駆け出した。
「ほう! 真正面から来るかい!!」
隠密ではなく真正面からの攻撃を選んだ響に、歓喜の声をあげて大太刀を振り下ろす、剣鬼。
血の滴るそれは、響の胴を左右泣き別れにせんとするが。
「それはさせません!!」
奏がシルフィード・セイバーから立て続けに翠の衝撃波を放ち、大太刀の軌道を逸らしつつ。
「てええええい!!」
さらに片手で構えたエレメンタル・シールドで大太刀の腹を叩き、明後日の方向へ逸らした。
「その盾を先にもぎ取ってやるかねえ!」
剣鬼は大太刀を持たぬ左手に鬼の膂力を宿し、無造作にエレメンタル・シールドを殴りつけるが、どっしり構えた奏に難なく受け止められる。
その間に、瞬が六花の杖を大きく振りかざし、銀の衝撃波を発射。
「オレの大切な存在を傷つけた罪は重い!! その報い、存分に受けろ!1」
口調を大きく荒げた瞬の、義母と義妹を傷つけられた怒りが存分に籠もった衝撃波は、無数の銀の矢に分裂し、剣鬼の目を、四肢を、胴を次々と穿ち、吹き飛ばす。
銀の矢に吹き飛ばされた剣鬼の視界が、わずかに霞んだ。
「毒入りかい!!」
「このくらいでは終わらないからな!!」
義妹を、義母を傷つけられた怒りを露わに、瞬は再度六花の杖を振り、強固な結界を展開。
剣鬼の動きがまた僅かに鈍った隙に、響と戦乙女が剣鬼に肉薄しながら槍を突き出し、剣鬼の肩を抉っていた。
その後、豪胆な剣鬼との、一進一退の攻防が続く。
斬って斬られて。
突いて突かれて。
避けて読まれて。
押して押し戻されて。
双方が決定的な隙を見いだせない中、剣鬼がニィ、と笑う。
「なかなかやるねえ。それじゃあ……」
剣鬼が何かに念を籠めるような仕草を見せると、傷口から滴り落ちる剣鬼自身の血が急速に分裂、虚空に浮き上がりながら紅の斬馬刀と変化する。
その数、凡そ二千は超えるだろうか。
「刀剣は全部この世界に降らせる雨になったけどね、これくらいはまだできるんだよ!」
「まずい!!」
瞬が目潰しと麻痺毒を施した銀の結界を緊急展開し、剣鬼と斬馬刀の動きを鈍らそうとするが、間に合わない。
剣鬼が結界に触れる直前、その意に従い一斉に解き放たれた二千もの紅の斬馬刀が、複雑な幾何学文様を描きつつ、結界を貫通する血の豪雨と化して響と奏に降り注いだ。
刀の形をした血の豪雨に、一瞬戸惑う奏だが。
「母さんには一振りすら通しません!!」
すぐ気を取り直して風の魔力を注ぎ込んだエレメンタル・シールドを構え、衝撃波と盾の表面を荒れ狂う暴風で悉く斬馬刀を弾き、逸らした。
「この程度の雨、どうってことないね!」
響もブレイズブルーで大きく空間を薙ぎながら焼き尽くすように斬馬刀を落とし、戦乙女も赤熱した槍を回転させて斬馬刀を弾き飛ばす。
斬馬刀は2人から離れた瞬にも僅かに降り注ぐが、そのほとんどは銀の結界とオーラに絡め取られて浄化され、傷ひとつつけるに至らない。
だが、奏が防御し、響が必死に逸らしている間に、剣鬼は再度大太刀を構え、奏の横をすり抜け響に肉薄していた。
「母さん!」
(「間に合わない……!?」)
必死に防御していた一瞬を突かれ、突破を許した奏が引き返すも、割り込めず。
「隙を見せたねえ、覚悟!!」
剣鬼は大太刀を大きく振り上げ、響の頭をかち割らんとする勢いで振り下ろした。
だが、響はなぜかブレイズブルーを掲げ、それを受け止める姿勢。
「母さん、槍を!!」
離して下がって、と奏が告げようとするも、間に合わない。
――ズバッ!!
大太刀が触れたブレイズランスの軸が真っ二つに切断され、響の身体が勢いで後方に下がる。
「くっ……!!」
咄嗟に足に力を入れ踏ん張りとどまった響の目の前を、大太刀が掠めた。
あと数センチ手前で踏みとどまっていたら、頭を割られていたかもしれない。
だが、剣鬼はぞっとするような凄惨な笑みを見せながら、響に再度迫った。
「そんなちゃちい槍で受け止められるとでも思ったかねえ!?」
得物を失った響を追撃すべく、剣鬼は大太刀を、今度は地面を掠めるように大きく振り上げ、三度響の胴を左右に両断せんとする。
「母さん、逃げろ!!」
結界も衝撃波も間に合わないと悟った瞬の、精一杯の警告が要塞内に木霊した、その時。
――ドゴォッ!!
鈍く重い音が周囲の騒音をかき消し、一瞬の静寂を齎した。
しばし、呼吸の音すら過大とも思える静寂が支配したが。
――カランッ。
剣鬼の手から大太刀が零れ落ちる音とともに、静寂が途切れた。
「が、があ……ッ!?」
呻き声とともに目を大きく見開きながら腹をくの字に折り曲げ、その場に蹲ったのは……剣鬼。
一方、拳を固く握り込みながら仁王立ちしている響は、無傷。
(「何が起こったってんだい……!?」)
一瞬にして形勢をひっくり返された剣鬼は、内心戸惑いを隠せない。
痛みをこらえ周囲を見渡すと、目に入ったのは、地に投げ捨てられた、柄を真っ二つに切断されたブレイズブルー。
「そういう、ことかい……」
交差した一瞬で何が起こったか、ようやく剣鬼は悟る。
響は青白き炎の槍でわざと最初の一撃を受けて太刀筋を覚え、返す刀を最小限の動作で回避しつつ、全体重を乗せた拳を腹に叩き込んだのだ。
「瞬!!」
「動きを縛らせて貰います!! 覚悟!!」
瞬がすかさず六花の杖を振りかざし、剣鬼の足元からアイヴィーと藤の蔓、そしてヤドリギの枝を生やし、一気に剣鬼を拘束する。
「ぐ、ぐぐぐぐ……まさか……!」
「戦乙女、心臓を!」
御意、と頷いた戦乙女が、赤熱した槍を、動けぬ剣鬼に突き出した。
――ズブッ!!
――ジュウウウウウウウ……。
「がアアアアアアアアーーーーッ!!!」
心臓を赤熱した槍で焼かれ、絶叫する剣鬼。
拘束から逃れようと激しく藻掻くも、大太刀を落とされ、生命の息吹を象徴する三種の植物で縛られていては、反撃の糸口すら見いだせない。
「奏、今のうちに止めを!」
「はい!」
響の鋭い声に弾かれたように飛び出した奏は、エレメンタル・シールドに宿した魔力を移したシルフィード・セイバーを大きく振りかぶる。
戦狂いたる剣鬼を、これ以上生かしておくわけにはいかない。
(「何より、この剣鬼に呑まれた妖怪さんがいるはずですから……!!」)
「覚悟、してください!!」
――ザシュッ!!
奏の想いが詰まった翠の一撃が、剣鬼の首筋に叩き込まれる。
それは、剣鬼にとっての致命傷となった。
「あ、は、は、ははははは……」
首筋を断ち切られた剣鬼の笑い声は、壊れて渇いたそれ。
「この、勝負……アンタ、たちの…………」
勝ち、と言い切る前に力尽きた剣鬼の身体が地に頽れ、消滅した。
●カタストロフの終焉
「妖怪は無事のようですね」
剣鬼に呑まれていたらしき妖怪に治療を施した瞬が立ち上がるのを、笑顔で出迎えるのは、響。
「瞬も奏も、よくやったよ」
「でも母さん、槍が……」
心配そうな瞬の視線の先にあるのは、大太刀を受け止め真っ二つに切断されたブレイズブルー。
それを拾い上げ、主に穂先を入念にチェックした響は、内心胸を撫でおろす。
「大丈夫、直せそうだ」
「無茶はしないでください~……」
剣鬼に斬り込まれた一瞬、母の胴が泣き別れになったかと錯覚した奏は、気が抜けたのか地面にへたりこんでいた。
竹の要塞の外に耳を向けると、物騒な刀剣が飛び交う音は、すっかり消えている。
剣鬼の消滅と同時に、刀剣の嵐は止み、カタストロフは回避されたようだ。
「さ、帰ろうか」
「そうですね」
気が抜けて立ち上がれない奏に瞬が肩を貸し、戦乙女を戻した響と共に、竹の要塞を後にする。
――世界の危機を救った家族を、中天に差し掛かった月が煌々と照らし出し、出迎えていた。
大成功
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