●炎の海
小さな竜が、自身の体躯に見合わぬほどの武装を抱えて、吼える。
未熟な力で吐き出す己のブレスよりもよほど強い炎に、はしゃぐようにしながら森を焼いていた。
徐々に燃えていく森を見ながら、青年はぎりと忌々し気に爪を噛む。
「ここに隠されている『聖なる木』を、冒険者達はきっと守るだろうな。うん、だからそれをみんな殺してしまおう。大丈夫、全部焼けば、全部、殺せる」
かさかさと足元で蠢くゴーレム達をちらと見て、再び見据えた森は、まだまだ健在ながらも、勢いよく燃え上っていて。
あぁ、なんて爽快な気分なんだと、今度は愉快気に笑った。
●清らな森
「やはり炎上はワルの基本……いえ、なんでもありません」
読んでいた本を閉じ、ぺこりと礼をしたグリモア猟兵ルクアス・サラザール(忠臣ソーダ・f31387)は、集まった猟兵達を見渡して、事件の詳細を語る。
「既に皆様ご存じの事かと思いますが、猟書家なる者の侵攻によって、エルフの森が焼き討ちされています」
エルフの森に生えるという『聖なる木』。
それは『世界樹イルミンスール』から株分けされた、深い森の中にたった一本だけ生える木だという。
大天使ブラキエルの目論む天上界への到達のため、幹部であった『チーフメイド・アレキサンドライト』はその木を求め、彼女が討たれた今や、オブリビオンがその遺志を継いだのだ。
「たった一本の燃えない木を見つけるために森全体を焼くとは、大変に派手で宜しい……ではなく、とても見過ごせませんので、お力添えを願いたく」
にっこりと笑んで、ルクアスは此度森に現れた敵の詳細を語る。
森を焼き払っているのは、可愛らしい仔竜だ。
未熟ながらも竜らしい力を秘めている、今後が楽しみな存在だが、純粋さ故に、他者に利用されやすい存在でもある。
今はまだ、森を焼くために搭載されたアームドフォードの威力にはしゃいでいるところだが、森に炎が広がるほど、周囲に適応した属性を纏える彼らはブレスの威力を増す。
そうなれば、森の延焼はさらに勢いを増してしまう事だろう。
「そうなる前に、速やかな討伐をお願いしたく。そうすれば、彼らを利用していた敵も、前に出てこざるを得ないでしょうから」
一先ず優先すべきは、仔竜達の討伐。
無論、この件には現地に住むエルフ達も協力してくれる。
迷いの森として名高いエルフの森を利用して敵だけを惑わせたり、樹上からの攻撃などを依頼することは、積極的に頼むと良いだろうとルクアスは告げて。
あ、と思い出したように声を上げた。
「どうやら、幹部の意志を継いだというオブリビオンは、森を燃やすことよりも、『冒険者』なる存在を殺すことに固執するタイプのようです」
その性質を利用すれば、彼が『冒険者』を殺そうと猟兵に向かってくる間に、エルフ達に消火作業をしてもらう、という協力の仕方も可能だろう。
「敵も味方も上手く利用してこそ、ですね」
そう微笑んで、いくらか慣れない所作ながらも、グリモアによる道を開くのであった。
里音
エルフの森を焼いてみたかったんです!
集団戦、ボス戦でお届けする猟書家戦、ほぼ純戦で参りたいと思います。
第一章、第二章共通して、エルフ達と協力して共に戦う事でプレイングボーナスが得られます。
エルフ達の攻撃手段は、主に樹上から攻撃可能な弓や投石の類となります。
戦力としては強力ではありませんが、地の利を活かした援護をしてくれるでしょう。
二章移行時に断章を挟むと思います。その前にプレイングをかけてくださっても問題ありませんが、参考までに。
4月の満月までに完結できればいいなを目標にしていますので、場合によってサポートさんのお力を借りたり、逆に他のシナリオの兼ね合いでゆっくりペースになったりする可能性があります。
内容如何を問わず、タイミング次第での失効が発生する可能性もあります。物理的に送信できる間は受付期間ですので、お心変わりなければ再送いただけますと幸いです。
皆様のプレイングお待ちしております。
第1章 集団戦
『戯れる仔竜』
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POW : じゃれつく
【爪 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 未熟なブレス
自身に【環境に適応した「属性」 】をまとい、高速移動と【その属性を纏わせた速いブレス】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 可能性の竜
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エステレラ・ピスカピスカ
※話す時は全て平仮名
流石はルアですね
アクの基本を押さえています!
わたくしも燃やすのは得意…え、燃やしてはいけないのですか?
そうですか…
小さなドラゴンさんは利用されているとのこと
でしたら話し合いをするのです
平和的であることはより良い国造りの基本ですからね
ドラゴンさん、ドラゴンさん
あなたは騙されているのです
こんなことはやめるのです
えっ
ひゃ
爪が鋭いのです…
わたくしの羽根、裂けていません?
仕方がありません!
わたくしは大きくなってコラーってするのです
平伏すれば良し
しなければ、ドシーンってしちゃうのですからね!
エルフの皆さんも悪いドラゴンさんのお仕置きを
弓でぴゅぴゅんといきましょう
セラちゃんもゴーです!
●
燃え征くエルフの森を前に、なるほど、と頷いて。エステレラ・ピスカピスカ(ぜったいくんしゅ・f31386)は誇らしげに胸を張る。
「さすがはルアですね。アクのきほんをおさえています!」
大炎上はやはり基本なのだ。うんうんと頷いて、エステレラはこの炎上をより派手なものにすべく、配下である炎の軍勢を呼び出そうとする。
「わたくしももやすのは得意……え、もやしてはいけないのですか?」
「森がなくなってしまっては、聖なる木も守れませんし、何より、住む場所がなくなってしまいます!」
「そ、それはたいへんです。わたくしもおうちがなくなってしょんぼりしていました……」
悪の大魔王として相応しい大炎上を見せられないのは、ちょっと残念だけど。
気を取り直して、アームドフォードで派手に炎をぶちまける仔竜達へ、エステレラは歩み寄る。
利用されているらしい彼らと、まずは話し合いだ。
「へいわてきであることはよりよいくにづくりのきほんですからね」
悪に染まり切れない良い子のラスボスは、とててっ、とドラゴンへ駆け寄って。
くりくりのお目目と、じっ、と視線を合わせる。
「ドラゴンさん、ドラゴンさん。あなたはだまされているのです。こんなことはやめるのです」
齢六歳ながらも、ラスボスとして生まれ魔王になる者として育ったエステレラはしっかりと威厳を湛えながらも慈悲深い眼差しでドラゴンを説く。
その姿にドラゴン達は瞬く間に畏怖を覚え……たりすることはなかった。
「えっ」
しゃきん、と構えた鋭い爪で、エステレラへと襲い掛かる。
「ひゃ」
しゅっ! と振り回される小さな爪から、わたわたと逃げるエステレラ。
突然の攻撃にドキドキしながらも、自身の羽を確かめるエステレラ。
「つめがするどいのです……わたくしのはね、さけていません?」
ふわふわの羽は無事だった。周囲を飛び回る羽の眷属達が、心配そうにくるくる飛び回ってから、オッケーサインを出す。
ほ、と胸を撫でおろしてから、エステレラはきりっと眉を上げて、ちょっぴりお姉さんの顔で、ドラゴン達を振り返る。
こうなっては仕方がない。しっかりと躾けてしまうしかなかろう。
「こうべをたれなさい。わたくしがかのいだいなるだいまおう、エステレラ・ピスカピスカであります!」
王笏を翳し、声高に告げれば、エステレラの体は二倍に膨れ上がる。
偉大なるカリスマを湛え、新たに増えた翼を広げ、もう一度変身を重ねれば、その体躯は周囲の木々にも及ぶほどへと至る。
誰もが平伏したいと思う偉大なる大魔王を前に、ドラゴン達は慌てたようにひれ伏すが、中には反抗的な個体もいて。
「きかないのであれば、しかたがありません!」
ふわ、と。浮き上がった下半身は、心根が良い子なラスボスに相応しい禍々しさ。毒々しい色の舌を持つ二口と共に、ずしん、と地響きを上げて踏み出せば、小さなドラゴンは震えあがるしかない。
「エルフのみなさんもわるいドラゴンさんのおしおきを! セラちゃんもゴーです!」
振り返ればエルフ達も平伏していた。そして、命じる声に一つ応え、反抗的なドラゴンへと矢を放つ。
ゴーを出された眷属達も加われば、瞬く間に一帯は制圧されるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
牧杜・詞
森を焼く?
森は護るもので焼くものではないわ。わたしにとってはね。
他の人はわからないけれど。
だからあなたたちを殺す理由は、森を焼いたからではないわ。
わたしが殺したいからよ。
珍しく怒りつつ、でもそれを外には出さず、そう言い放ちます。
エルフの人たちには、巻き込まれないように消火に当たって欲しいかな。
ちょっと本気でいくから、そばにいたら殺しちゃうかもしれないし。
【鉄和泉】を構えて【識の境界】を発動。
相手の攻撃を【第六感】を使って【見切り】つつ【切り込】んでいくわね。
あ、でも木には傷をつけないように気をつけないと。
基本はスピードで躱していくけれど、
木を盾にするくらいなら【武器受け】で攻撃を受けるわ。
●
「森を焼く?」
目の前で繰り広げられる所業に、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)は肩眉を上げる。
たん、と軽やかに、無造作に。地を蹴った詞は、森へと炎を放つ仔竜を、無造作に斬り捨てた。
「森は護るもので焼くものではないわ」
わたしにとっては。そう言いながら、詞はくるりと次の敵へと狙いを定める。
他の人がどう思うかは、知らない。少なくともここに住むエルフにとっては同じように『護る』という言葉が出てくるだろう。
けれど、自身の住まう場所であり、株分けされた聖なる木への敬意を抱き護ろうとするエルフ達と。
森を護るという目的のために儀式を受け、結果として森という形だけを残して全てを滅ぼした詞と。
同じ言葉を使っても、きっとどこか、趣が違うのだろう。
もっとも、詞にとってそんな些細なことはどうでもよくて。ただ目の前の害悪を葬り去るために、刃を振るう。
「あなたたちを殺す理由は、森を焼いたからではないわ。わたしが殺したいからよ」
抱いた怒りは内に秘め、詞はそう言い放つと、ちらり、一度だけエルフを振り返る。
共に戦うという意思を感じる瞳をしているけれど、同じ戦場に立たせるわけにはいかない。
「あなたたちには、消火に当たってもらいたいわ」
「ですが……!」
「ちょっと本気でいくから、そばにいたら殺しちゃうかもしれないし」
食い下がる声を退けるのは、ゆるりとした笑みで吐き出す主張。
穏やかな口ぶりで、柔らかな表情で、紡ぎだしたその言葉は、どこまでも冷たい殺意に塗れていた。
今はまだ抑えられている殺戮衝動が、そこにはある。
気圧されるようにわずかに身を引いたエルフ達だったが、その瞬間には、自分達が足手まといになる可能性を理解して、素直に頷く。
敵の対処を任されてくれるなら、森を護るべく動くのだと頷き合って散ったエルフを見送り、詞は改めて仔竜達を見据えた。
憂いがなくなれば、あとは、殺すだけ。
抜き払われた刃を向けて、詞は駆ける。
炎に塗れた中、仔竜達が炎の属性を身に纏い、ブレスを吐き出そうとしてくるが、大きく開いた口腔に刃を突き立て、妨げて。
そのまま薙ぎ払って、切り伏せる。
抑えてもにじみ出ていた殺戮衝動を解放した詞は、目の前の物を殺し続ける殺人鬼へと転じることで、仔竜達が攻勢に出る前に、その身を切り捌いて行った。
怯えを含んだ眼差しで詞を見上げ、ブレスを吐き出そうとした仔竜へ、一度刃を振りかざした詞は、ふと、何かに気付いたようにその刃を下ろす。
そうして、半歩だけ後ろに下がると、再び刃を掲げ、今度はそのまま、降りぬいた。
(傷つけるところだった……)
さっきの位置では、仔竜の背後の木も抉ってしまっていただろう。
詞にとって、森は護るものだ。傷つける事はしたくない。
そのためならば、放たれるブレスを武器で受け流すくらいの事はしよう。
――身を挺するほど、相手に後れを取っているとは思えないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
リスティ・フェルドール(サポート)
援護・治療・盾役として参加いたします。最優先は自分を含む仲間全員の生存と帰還。成功の立役者ではなく、命の守り人として最悪の結果を回避できれば、それ以上に望むことはありません。
真剣な雰囲気は邪魔をせず、仲間同士の険悪な雰囲気はあえて朗らかに。チームワークが生存率を上げる一番の方法として行動します。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはマスター様におまかせいたします。よろしくおねがいします!
●
「随分燃えてしまっていますが……まだ、取り戻せる範囲なんですね」
エルフ達に、そう確かめて。リスティ・フェルドール(想蒼月下の獣遣い・f00002)は少しばかりの安堵をその表情に湛えた。
もう手遅れだというような危険な状態になる前に間に合ってよかった、と。
それならば、これ以上炎が燃え広がる前に、まずはとエルフ達に消火活動を依頼していくリスティ。
しかしそれでは、仔竜達が放つ炎と鼬ごっこになってしまうのでは、との危惧に、もっともだと頷いて。
「そっちは、僕に任せてください」
微笑んで、軽やかに踵を返した。
リスティには、仔竜と真正面から戦闘をする気はない。
自分が適しているのはあくまで援護や治療、盾役と言ったお手伝いであり、最優先は自分を含む仲間全員が生存して帰還することだと考えている。
今は、それに加えてエルフと、彼らの住まう森とを護ることが大切。
だからこそ、エルフ達に燃え征く森を放って戦いに赴かせるのは、気が引けたのだ。
「あぁ、みつけました」
ごおぉ、と景気よく炎を吐き出す無骨な機械を背負って、仔竜がきゃっきゃとはしゃいでいる。
仔竜はリスティの気配に気づくと、ぴゃっ、と驚いたように飛び退いてから、きっ、と睨むような眼差しを向けてくる。
やる気満々と言った様子の仔竜に対して、リスティは穏やかな表情で対峙して。
しゃっ、と振りかざされた爪をひょいと躱すと、その背に、ぺし、と手袋を投げつけてやった。
「森を燃やしてはいけませんよ」
宣告するルールは、今この場所を護るために何より必須で、必要以上に仔竜を束縛しないもの。
ただの忠告にしか聞こえないその台詞に、初めこそきょとんとして、不満げにぷいと顔を背けた仔竜だが、リスティの宣告を無視して炎を放とうとすれば、びりり、と痛みが迸って。
硬直したように、その場に蹲った。
「うん、そう。森を燃やすと、痛い思いをしますからね」
大人しくしていてくださいねと微笑んで、リスティはまた踵を返した。
仔竜は群れている。一体を大人しくした程度では、エルフ達の消火が間に合わなくなるだろう。
「さて、次の子は……」
きょろきょろと辺りを見渡し仔竜の姿を探しては、同じように制約を課して。
ある程度繰り返した頃には、炎の勢いが随分と弱まっていることに気が付いた。
これなら、自分も消火活動に加わっても大丈夫だろう。
森を護るため、リスティはエルフ達へと合流するべく森を進むのであった。
成功
🔵🔵🔴
荻原・志桜
※アドリブ歓迎
むぅ。自然を焼くのは反対!
エルフさんや動物たちにとっても大切な森なんだから
それを傷付けちゃダメだよ
エルフさんたちもお手伝いを頼もう
弓や石で注意を逸らしたり誘導とかできないかな
わたしたちみんなで守ろうねっ
仔竜が利用されているならあまり傷つけたくないけど
言っても聞かないようなら少し荒療治になっちゃうんだからね!
詠唱を紡ぎ仔竜の周囲や宙に幾つもの魔法陣を展開していく
鎖で網のようにしたら速い動きでも捕らえてみる
ブレスにも耐えられるよう鎖に防御の力を込めて
その身を拘束する鎖を伸ばし仔竜に絡めていき
捕まえた!
森を灰にしてしまうほど強い力を秘めてるんだね
でも無暗にその力を振り翳したらいけないよ
●
はしゃぎ倒している様子の仔竜達と、彼らに燃やされていく森の光景に、荻原・志桜(春燈の魔女・f01141)はむぅと頬を膨らませた。
「自然を焼くのは反対!」
憤りをあらわにする志桜に、けれど仔竜達はお構いなしの様子。
アームドフォードを木々へと向ける仔竜の目の前を横切るよう、えい、と魔法を撃って牽制しつつ、森をかばうように立ちはだかった。
「エルフさんや動物たちにとっても大切な森なんだから、それを傷付けちゃダメだよ」
志桜へと仔竜が群れを成して襲い掛からないよう、エルフ達は樹上からしっかりと見張っている。
危険があれば、即座に弓や石を放てるように。
『直接攻撃するんじゃなくて、弓や石で注意を逸らしたり誘導とかできないかな』
志桜の優しい願いは、まだまだ将来有望な仔竜を慮るもの。
その気持ちに同意できるからこそ、エルフ達も出来るだけ仔竜を傷つけずに挑むことを決めた。
『わたしたちみんなで守ろうねっ』
そう告げてくれた笑顔を曇らせるわけにはいかないのだ。
そんな志桜やエルフ達の想いをよそに、仔竜達はぴゅーっと散らばり、好き勝手に暴れようとしている。
「あっ、もう!」
言っても聞かないだろうとは薄々感じていたが、こうなっては仕方がない。
少しばかり荒療治になりそうだが、しっかりと説き伏せてやらねばなるまい。
そうと決まれば、志桜は即座に詠唱を紡ぐ。
「顕現せよ天の楔、穿て――」
紡がれる声に合わせて形成されるのは、幾つもの魔方陣。
仔竜達の周囲や宙に現れるそれを、仔竜達はぎょっとしたように見止め、すぐさま逃げ出そうと踵を返すが、すかさず撃ち込まれた矢が、足止めをする。
別の方からは石が飛んできたりして、逃げる隙間がない。
そうこうしている内に、魔法陣からはじゃらりと音を立てて幾つもの鎖が飛び出てきたではないか。
咄嗟に仔竜が放ったのは、炎属性のブレス。けれど森の燃焼具合が中途半端であったためか、その威力もやや半端。
防御の力を込められた鎖を焼き斬るほどには至らない。
じたばたしている内に、伸びてきた鎖に絡め取られ、地面にごろりと転がされた。
「捕まえた!」
お気に入りらしいアームドフォードは危ないのでエルフ達と協力してないないして。
じたばたしたりしょんぼりしたりしている仔竜を、改めて見渡した。
幼いがゆえに純粋で、だからこそ良いことも悪いことも素直に受け止めてしまう小さな命達。
そんな彼らに、志桜が向ける瞳は、優しかった。
「森を灰にしてしまうほど強い力を秘めてるんだね」
凄いことだよ。と。柔らかく語り掛ける声に、ぴょこん、と仔竜の尻尾が揺れる。
自分達は未熟で弱いから、ブレスだけでは駄目だと渡されたアームドフォードだった。
けれど彼女は、それを褒めてくれているではないか。
「でも無暗にその力を振り翳したらいけないよ」
自分達をあっさり捕まえた強い人が、自分達を認めてくれているのならば。
その人の忠告は、真摯に受け止めるべきなのだろう。
弱肉強食の野生らしい理解力で、仔竜達は鎖に絡められたままながらも、ころころと志桜に懐きだしたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『孤独の錬金術師』アルキテクトゥス』
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POW : BOOST AXE
【魔法で加速させた右腕の斧】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : SPIDER GOLEM
レベル×5体の、小型の戦闘用【クモ型のゴーレム】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ : TARANTULA
【背嚢の中に格納した各種素材】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【クモ型の魔法生物】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「クネウス・ウィギンシティ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●遺志を継ぐ者
「あれ、おかしいな……火が消えていく……?」
燃えていく森の光景を満足気に眺めていた青年は、違和感に眉を寄せる。
その違和感がより決定的な形になったのは、森へと嗾けたはずの仔竜達が、背負っていたはずのアームドフォードを放り出してわらわらと戻ってきたのを見た時。
どうしてと口にした青年は、けれどすぐさま、忌々し気に舌を打つ。
「あぁ、そうか……冒険者達が邪魔をしてるんだね……」
それならば、殺しに行かなくては。
ゆらり、殺意と復讐心を瞳に宿して、青年――『『孤独の錬金術師』アルキテクトゥス』は森へと進む。
手にした斧は、ずるりと地面を引きずってざりざりと細い道を作り、その周りを、ちょこまかと動く小さなクモ型のゴーレム達が続く。
背嚢に収納した各種素材は、まだまだ十分、貯蔵がある。
殺すための備えは十分だと言わんばかりに、アルキテクトゥスは口角を上げ、笑うのであった。
音駆螺・鬱詐偽(サポート)
世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん
ただいま参上。
・・・って、どうしてこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのよ。
うう、これも番組の為なのね。
自身の命綱である番組の為、多少の苦難や困難は仕方なく行います。
むしろ持ち前の不運によりおいしい場面を呼び込んでくれるかと思います。
ただし、ネガティブとはいえアイドルですのでマイナスイメージとなる仕事はすべて却下でお願いします。
ユーベルコードや技能はご自由に使わせてください。
どうぞ、当番組のネガティブアイドルをお役立てください。
プロデューサーより
徳川・家光(サポート)
『将軍なんだから、戦わなきゃね』
『この家光、悪は決して許せぬ!』
『一か八か……嫌いな言葉じゃありません!』
サムライエンパイアの将軍ですが、普通の猟兵として描写していただけるとありがたいです。ユーベルコードは指定した物をどれでも使いますが、全般的な特徴として「悪事を許せない」直情的な傾向と、「負傷を厭わない」捨て身の戦法を得意とします。
嫁が何百人もいるので色仕掛けには反応しません。また、エンパイアの偉い人には会いません(話がややこしくなるので)。
よく使う武器は「大天狗正宗」「千子村正権現」「鎚曇斬剣」です。
普段の一人称は「僕」、真剣な時は「余」です。
あとはおまかせ。よろしくです!
●
ずるずると斧を引きずりながら森を行くアルキテクトゥスの前に、二人の猟兵が立ちはだかった。
「エルフ達が大切にしている森を焼き払うなど言語道断。この家光、悪は決して許せぬ!」
「世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん、ただいま参上……って、どうしてこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのよ」
テンションの差がだいぶ激しい二人だった。
しかしどちらも、『悪』なる者を断じる正義を掲げて己の前に立っている。
――きっと、冒険者に違いない。
薄く笑って、アルキテクトゥスは自身の背嚢から様々な素材を取り出す。
鋼の塊、魔法薬の瓶、干からびた爬虫類――。それらを基にした錬金術は、アルキテクトゥスの持つ斧の封印を解き、瞬く間にクモ型の魔法生物へと変じさせた。
焼け焦げた草の上をがさがさと這いずって迫ってくる巨大なクモ。それを見て、音駆螺・鬱詐偽(帰ってきたネガティブアイドル・f25431)はかすかに嫌悪を示すような表情をして。
「番組の為、だけど……やっぱり嫌、私には無理……!」
数歩、後ずさった。そんな鬱詐偽とクモの間に、徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)が割り込むようにして立ち、抜き払った刀を構えて敵を見据える。
「僕が相手です!」
家光は将軍として人の上に立つ者だ。
この手は民草を守るもので、だからこそ、地位も名誉も関係ない世界での戦いにおいても、震える少女を守るために戦う事を厭わない。
その覚悟は、家光の刀、『大天狗正宗』と呼応する。
指南役から譲り受けたその刀は、持ち主の覚悟に合わせて、成長するのだ。
「行きますよ、正宗――愛する者の声が、我が力となる!」
刀を構えた家光の背後に、鏡のようなものが浮かび上がる。
『上様、お気をつけて!』
『上様、勇ましゅうございます!』
大奥へと繋がる映像デバイスは、巨大なクモへ果敢に挑む家光へ、ダイレクトに嫁の声を届けた。
禍々しい形状の脚が家光を掠め、その身に傷を負わせれば、案じる声が混ざり、それでもひるまぬ姿に感嘆の声が飛び。
その度に、家光の武具は力を増し、より一層力強く、クモへと挑む糧となっていった。
巨大なクモに懸命に立ち向かう家光の背に、鬱詐偽も感化されないことはない。
(……番組の為にもやらなきゃ、やらなきゃ……でも、私が頑張ったって、何も……)
しかし、どこまでもネガティブな鬱詐偽には、真っすぐに立ち上がって共に立ち並ぶなど、とても、出来なかった。
それでも、おず、と口を開く。小さく小さく、歌を紡ぐ。
『鬱るな!鬱詐偽さん』なる番組のテーマ曲。骸の海に散ったはずが、電子の海に強引に連れてこられて、不本意ながらアイドルとなってしまった。
そう、不本意だった。自身の存在を維持するために番組を存続させなければならない。そのために苦難や困難に立ち向かわなければならないなんて、脅しもいいところだ。
でも――誰かがそれを見てくれている。
共感されたり、応援されたり、鬱詐偽というアイドルを、ネガティブなまま受け入れてくれる人が居る。
声が、少し大きくなる。決して前向きな曲ではない。それでも、誰かに届けたいと願う、アイドルとしての歌声が、家光の耳にも、届いた。
「――素敵な歌ですね」
ふ、と。一瞬だけ振り返った顔が、微笑んで。
すぐさまきりと引き締められた彼へ、デバイスの向こうから声援が飛ぶ。
『上様!』
「一か八か……嫌いな言葉じゃありません!」
振り上げられた鋼製の脚。それが届くより早く、家光は懐深くへ踏み込んだ。
声援に、歌に、背中を押されているから。今ならなんだって出来てしまう気がする。
「はあぁっ!!」
裂帛の気合と共に振りぬかれた刃が、巨大な体躯を、切り伏せた。
音を立て沈み込み、元の武器へと戻ってしまったのを見て、アルキテクトゥスは慌てたように斧を拾い上げ、離脱する。
「待て!」
「もう、充分、充分です……!」
追いすがろうとする家光の服を、ぐい、と鬱詐偽が引く。
取れ高はもう十分だ。それに家光は傷だらけ。
「あまり……心配させすぎるのはよくないと思うの」
貴方には、たくさんのお嫁さんがいるのだから。説き伏せるような言葉はやはりどことなく自虐的だけど。
それもそうですねと、家光は振り返り、デバイスの向こうの嫁達と鬱詐偽に微笑むのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
牧杜・詞
あなたが首謀者なのかしら?
わたしを殺したいなら、そう言ってくれればいいことなのに、
手間のかかることをしたわね。
あなたの命程度では、あなたが奪わせた森の命には遠く及ばないけれど、
手向けとして、送らせてもらうわね。
ちょこまか動いているクモ型のゴーレムは基本無視。
『アルキテクトゥス』を狙って行くわ。
邪魔をするようなら、クモも殺すけど。
「偽りの命では、楽しさも半減ね」
「そういえばその斧、接近戦が強いんだっけ?」
そう。なら、そのくらいはつきあってあげる。
一気に間合いを詰めて【新月小鴨】を抜いたら【命根裁截】で殺しに行くわ。
残念だけど森を護るなら、わたしに負けはないわ。
でも全力の殺し合いは楽しめそうね。
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分かってはいたが、流石に冒険者と言う存在は一筋縄ではいかないらしい。
次こそは。そう思案するアルキテクトゥスの前に、牧杜・詞が立つ。
「あなたが首謀者なのかしら?」
じ、と見つめる瞳は、静かに見えて。その奥に、深い激情を宿しているように見えた。
これは、怒りか――。
「わたしを殺したいなら、そう言ってくれればいいことなのに、手間のかかることをしたわね」
もう殆どされたとはいえ、焼けてしまった森が蘇るには時間がかかるだろう。
詞は視線だけで見渡して、薄く瞳を細めた。
「あなたの命程度では、あなたが奪わせた森の命には遠く及ばないけれど、手向けとして、送らせてもらうわね」
なるほど、と。アルキテクトゥスは薄らと歪んだ笑みを浮かべる。
森を焼かれたことに憤り、首謀者たる自分を始末しに来た。
この少女も間違いなく『冒険者』に違いない。だって、そうだろう。彼女は「わたしを殺したいなら」と言った。
そうだ、そうだとも。アルキテクトゥスは大きく頷く。自分を殺した冒険者に復讐するために、こうしてオブリビオンとして蘇ったのだ。
「わざわざ殺されに来てくれたのなら、少しくらいは苦しまないようにしてあげようか」
「そう、ご親切にどうも」
手にした斧を振りかざすアルキテクトゥスに、詞は涼し気な表情で返すと、その手に白鞘の短刀を握りしめる。
まるで良家の婦女が持つ守り刀のような、小さな刃。大きな斧と対峙するには些か、心許なくすら見える武器。
だが、油断のならないのが『冒険者』だと表情を引き締めて、アルキテクトゥスは詞との間合いを詰めた。
迫る青年の足元には、ちょこまか動いているクモ型ゴーレム。煩わしいが、こちらの邪魔をしてこないならば無視だ。
何せ、彼らは作り物の機械仕掛け。命令に従うだけの偽りの命。
(それを殺したって、楽しさも半減ね)
楽しくない殺しはするものではない。自分を殺しに向かってくる敵を仕留める方が、よほど、有意義だ。
距離が詰まる。それに合わせて、斧を握る右手に、魔力の胎動を感じた。
ああ、そういえば。詞は一度距離を取るように引いて、確かめるように呟いた。
「その斧、接近戦が強いんだっけ?」
「はは、そうだね。その小さなナイフで防いでみればわかるんじゃないかな?」
挑発するようなアルキテクトゥスの言葉に、そう。と。詞はやはり涼し気な面持ちで聞き流したかと思えば。
「なら、そのくらいはつきあってあげる」
まるで言葉に乗せられたかのように、一気に間合いを詰めた。
すらりと抜き払われる短刀は、やはり短く、あの刃が届く間合いならば、超近接でこそ威力を発揮する斧も、届く。
果たして思惑通り、アルキテクトゥスの斧は、魔法により超高速に加速され、速度を伴った威力で以て、詞を打ち据えた。
血飛沫が、飛んで。
けれど、膝をついたのは、アルキテクトゥスの方だった。
「は……なん、で……?」
「残念だけど森を護るなら、わたしに負けはないわ」
思ったより深く貰った気がする傷を確かめながら、詞は青年を見る。
「でも全力の殺し合いは楽しめそうね」
微笑む詞が握るのは、血の一滴もつかない、まっさらなままの刃。
命だけを刈り取る刃が、再び、振りかざされた。
大成功
🔵🔵🔵
エステレラ・ピスカピスカ
※台詞は平仮名と片仮名
む!
ワルそうな気配がするのです!
ワルいことをしているのは貴方ですね!
沢山の人が困るワルいことはいけないのですよ!
エルフさんたちと一緒に立ち塞がります
わたくしは魔王ですから
ちょこっとだけ色々と守れるのです
わたくしは一歩も引きません!
エルフさんたちは引き続き弓で援護を
セラちゃんたちもお願いするのです
わたくしの背中の羽は斬撃が出来るので
小さな蜘蛛が襲ってくるなら斬り伏せるのです
大きな蜘蛛さんとお兄様へは
UCを使ってわたくしが裁きましょう
悪いことはですね
後から皆が笑顔になれる事でないと駄目なんですよ
笑って許してくれない事は
誰かを悲しませる事は
魔王たるわたくしが許しません!
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む! と、エステレラ・ピスカピスカのワルワルセンサー(概念)がワルそうな気配に反応する。
「ワルいことをしているのは貴方ですね! 沢山の人が困るワルいことはいけないのですよ!」
ラスボスの魔王のイメージにあるまじき、しかしデビルキングワールドでは限りなく通常運転の真面目なお説教に、アルキテクトゥスは訝るように眉を寄せ、首を傾ぐ。
どう見ても幼女。そしてどう見ても……討伐される側の禍々しさ。
しかし、エルフを従えて堂々と立ち塞がる姿は、正義に準ずる者のようにも見受けられる。
判断しあぐねたアルキテクトゥスは、一歩だけその集団に歩み寄る。
「……退いてくれるかな」
「おことわりします。わたくしはいっぽもひきません!」
柔らかながらも威圧するような言葉に、エステレラは胸を張って王笏を突き付ける。
その勇ましい姿に、エルフ達は奮起し、アルキテクトゥスは冷めたような眼差しを薄ら、細めて。
――邪魔をする気ならば、排除するしかないかと、呟かせた。
「退かなかったことを、後悔すると良いよ!」
王笏に対抗するように突き付けられた斧が、背嚢から溢れるように現れた素材を纏うようにして、姿を変える。
巨大なクモへと転じたそれを、きっ、と見据え、エステレラは背後に立つエルフ達を一度振り返る。
「エルフさんたちはひきつづきゆみでえんごを! セラちゃんたちもおねがいするのです」
矢面に立つエステレラを案じる声が聞こえるが、だいじょうぶ、とエステレラはにっこり微笑む。
「わたくしはまおうですから」
いまはまだちょこっとだけだけれど、色々と守ることは当然の責務なのだ。
ぱたた、と震わせた羽は父たる魔王譲りのデビルウィング。しゅっ、しゅっ! と、ふわふわの見た目からは想像もつかないほど鋭く羽ばたき、巨大なクモの足元で蠢くクモ型ゴーレムを寄せ付けない。
「さぁ、かかってきなさい! わたくしがあいてです!」
宣言通り一歩も引かずに立ちはだかるエステレラに呼応するように次々と放たれる矢。
鋼の素材を纏う巨大クモには通じないようだが、アルキテクトゥスをわずかに退かせ、小さく舌打ちさせる。
忌々し気な彼が再び踏み込むと同時、脚を振り上げ、口を大きく開いて襲い掛かってくる巨大クモ。
そのぎらつく複眼を、光の剣が貫いた。
「よぞらのほしよ、だんざいのほしよ。つみびとに、ひとしくばつをあたえよ」
唱えるエステレラを中心に、星が――ほしのように煌く光剣が、飛翔する。
幾何学模様を描きながら飛ぶ剣と交わるようにして、星茨の光が輝き。それは敵対する者達へ厄災を齎し、戒めを与えるエステレラの星々。
「わるいことはですね、あとからみんながえがおになれることでないとだめなんですよ」
無数の煌きが巨大なクモを貫き、斬り伏せていくさまを見据えながら、エステレラは常になく厳しい表情で語る。
悪事が称えられ、皆が率先してワルを目指すデビルキングワールドにだって、悪には悪の矜持があるのだ。
この男の行為にはそれがない。復讐という皮をかぶった、ただの破壊と殺戮に、なんの意味があろうか。
「わらってゆるしてくれないことは、だれかをかなしませることは、まおうたるわたくしがゆるしません!」
エステレラの煌きに、まるで力を与えられたかのように、エルフ達の放つ矢も、雨霰と降り注ぎ。ついには巨大なクモを地に伏せさせた。
だが、降り注ぐ光と矢に歯噛みしたアルキテクトゥスは、己の武器を見捨てるようにして、すでに姿を消していた。
追うべきかと問うエルフに、エステレラはゆっくりと首を振る。
「まだもえているもりをまもるほうがさきです」
おうちがなくなってはしょんぼりしてしまいますからね、と。振り返ったエステレラは屈託なく笑った。
大成功
🔵🔵🔵
荻原・志桜
森を焼こうとして、仔竜たちを嗾けた張本人
絶対に許さな――…ひえ、クモ?!!
でも本物じゃないし、だいじょうぶ……大丈夫!
敵は油断したら危ない相手
エルフさん、ごめんね
あの敵はしっかり此処で倒すから森をお願い
絶対に大丈夫だと信じてて
桜の刻印が刻まれた術符を複製して周囲に展開
口早に唱え其々に破魔と防御の魔術を多重に付与
攻撃反射や光線でゴーレムを倒していく
魔女を極めようとする自分にとって錬金術も例外なく知的好奇心の対象
敵でなければのんびり談義してみたいところだけれど
ねえ、どうしてそんなに誰かを殺めたいの?
誰かを傷付け、命を奪う行為を楽しむ人は許せない
エルフさんたちと約束もしたからね
わたしたちは負けない!
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見つけた、と。荻原・志桜は厳しく引き締めた表情で、逃げる背を追った。
「森を焼こうとして、仔竜たちを嗾けた張本人、絶対に許さな――」
追いすがろうとして、志桜は一瞬、その足を止めてしまう。
「……ひえ、クモ?!!」
見つけてしまった、アルキテクトゥスの足元でかさかさと蠢く無数のクモ型ゴーレムに、思わずひるんだのだ。
だが、あれは本物ではない。だから大丈夫だと言い聞かせ、志桜は自身を奮い立たせる。
――本物じゃないけど、本物よりも大きいという現実は、見ないふりをして!
すーはー。深呼吸で気を取り直しがてら、志桜は共に敵を追っていたエルフ達を振り返る。
「エルフさん、ごめんね。あの敵はしっかり此処で倒すから森をお願い」
森を燃やした相手を自ら打倒したい思いもあるだろう。けれど、あれは手負いとはいえ油断のならない敵だ。
エルフ達に万が一のことがあってはならない。
そんな志桜の思いを汲んで、エルフ達は頷くと、ご武運をと残して踵を返す。
「絶対に大丈夫だと信じてて!」
彼らの背に、決意を届けて。志桜は前を向く。倒すと決めたのだから、もう、クモだって怖くない。
逃げる敵を見失わぬよう駆けながら、志桜は桜の刻印が刻まれた術符を複製し、周囲に展開させていく。
「其は堅牢なる光の護り、聖なる裁きを此処に」
あらかじめ魔力を込めている幾多の術符は、口早に唱えられる志桜の詠唱に呼応して、破魔と防御の魔術を発動させた。
ふわり。木々の合間を縫うように浮く術符を従えた志桜に、アルキテクトゥスは足元のゴーレムを嗾けた。
けれどそれらは、一撃でも与えれば簡単に消えてしまう存在。術符を切り裂かんと飛びつけば反射された攻撃に討たれ、迂回して志桜を直接狙おうとも、放たれる光線に貫かれて朽ちていく。
「くっ、こんなに使い物にならないなんて……!」
吐き捨てるような言葉に、志桜はぴくりと眉を顰める。
魔女を極めようとする志桜にとって、錬金術も例外なく知的好奇心の対象になるものだ。
それを収めた術士であるアルキテクトゥスとだって、敵でさえなければ、分野の違う者同士でのんびりと談義をしたいくらい。
けれど、彼は敵で――人を殺めることを、目的としている存在だ。
「ねえ、どうしてそんなに誰かを殺めたいの?」
「はぁ……? 冒険者が……お前達が、僕を殺したからだろう!」
与えられた裏切りは、アルキテクトゥスの心を歪めた。それこそ、冒険者ではない存在すら、それとみなして殺そうとするくらいに。
「誰かを傷付け、命を奪う行為を楽しむ人は許せない」
例え、貴方が酷く傷つけられたのだとしても。だからこそ踏み越えてはならなかった。
踏み越えて、欲しくなどなかった。
唇を噛み、志桜は術符を操りアルキテクトゥスの行く手を遮る。
彼に従い蠢いていたゴーレムは、もう、いない。
「エルフさんたちと約束もしたからね。わたしたちは負けない!」
残念だけど、さよならだ。最後まで復讐心と殺意に塗れた瞳を真っ直ぐに見据え、志桜は桜色の煌きで、孤独な青年を貫いた。
――首謀者の姿が完全に消え去る頃には、森を焼いていた火も、ほぼ消えたようだ。
安堵と喜びに包まれたエルフ達が、それぞれに猟兵の元へ駆けつけて、感謝と労いの言葉をかけるだろう。
その中に、すっかり大人しくなった仔竜達も混ざっていたとか、いないとか。
ともあれ、エルフの森は守られた。敵の手に渡ることのなかった『聖なる木』の力が必要になる時があればいつでも協力するという頼もしい言葉を受け取って、猟兵達は帰路に就くのであった。
大成功
🔵🔵🔵