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終の挽歌

#ダークセイヴァー #▷▷▷ #第三章プレイング受付【6月2日〜6月5日】 #展開の関係上、お手数ですが再送をお願い致します。 #【再送期間】6月6日〜6月9日いっぱい【全採用です】 #再送にご協力頂きありがとうございました!!

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#ダークセイヴァー
#▷▷▷
#第三章プレイング受付【6月2日〜6月5日】
#展開の関係上、お手数ですが再送をお願い致します。
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●詭道
 ——剣は、己が信仰である。
 本質であり、誉れであり——最良の友である。
「……騎士の誇りは、地に落ちた。あぁそうだろう……そうだろうとも……」
 それでも、と吐いた言葉が血に濡れた。それでも、ただひとつこれだけが、街を救う方法だった。あの城主の、神を名乗る者に弄ばれるだけの日々を抜ける方法であった。
「お前を一人で死なせはしないさ。……これが愚かな我らの最後の自負」
 肩で受け止めた朋友の骸。地下闘技場の熱狂の渦も歓声も慰めにはならなかった。あぁ、慰めを得ることなど許されぬのだろう。ただひとりで良い、届けば良かった。奴は自らが定めたルールは守る。
 ——ただ、これだけが方法だったのだ。
「貴様が、此度の挑戦者か」
 廃墟に立つ城主が告げる。片眼を失い、異形を飲み干し、友の血さえ呑み込んだこの身にも奴の姿だけはしっかりと見えた。
「我らは血統の宿命に従い、この地で果てるが——貴様も、道連れだ」
 咆吼と共に踏み込む。黒き剣が地を滑り火花を散らす。来る、と感じた瞬間、己の角が砕けた。しとどに流れた血が床板を濡らす。その血さえ、剣にて吸い上げて行く。
「——足りぬな」
 次の瞬間、男の体は浮いていた。腹を貫いた城主がそのまま黒衣の騎士を持ち上げる。至るべき死ではない——その敗北を知らしめるように。
「貴様の宿命はその程度のものか」
「貴様、だけは……!」
 吼える声が血泡に濡れ、ばたつかせていた足がだらりと垂れる。叫ぶ声は——もう、音になってはいなかった。
「——死んだか」
 残るは骸だけだ。
 ずるり、と腕から抜け落ちた骸を床に放る。黒剣だけは最期まで握っていた男を一瞥し、城主は黒衣を揺らす。
「足りぬ……足りぬな」
 三度告げ、四度目に城主は柱を砕く。とうの昔に廃墟となった広間だけが血を吸っていく。
「我が真の神となるには未だ、血と肉が必要か。魔神たるこの身に、相応しき——……」
 クハ、と城主は笑う。低く低く、喜悦滲む男の声が永劫塔に響いていた。

●永劫塔・オクルス
「そしてまた、一つの街が滅びたのです」
 静かに告げたのは、長い銀の髪を結い上げた司祭であった。スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は微笑んで猟兵達を出迎えるた。
「永劫塔オクルス——彼の地下闘技場に、オブリビオンが潜伏していることが分かりました」
 オブリビオンの名は、禍つ黒蝕のスパダフォーラ。半神半魔と噂もあるオブリビオンだ。
「スパダフォーラに挑んだ、とある街の最後の騎士団によって」
 塔の影響力が及ぶ地であったのだろう。街の半分は死に絶え、僅かばかりの生き残りがいるだけの街の、最期の騎士団であった。
「——彼らは、街の人々が逃げるだけの時を稼ぐ為、そして僅かな可能性に賭け、賭け闘技場の闘士となったのです」
 騎士の誇りは地に落ちた、と。血反吐を吐き、泥を啜り、たった一人の勝者を決める戦いを勝ち抜き——スパダフォーラに挑み、負けた。
「彼の叫びが、彼らの怒りが此度の道に繋がりました。——うんうん、刻限だね」
 静かに一つ微笑んで、スティレットは猟兵達に告げた。
「奴の居場所、その道行きを掴むことができた。真の神に至る為、スパダフォーラはより強き者との武闘を望んでいてね」
 今回は、随分と派手な大会が闘技場で開かれるという。
「君達にはそこに参加してきて欲しい」
 まずは地下闘技場での戦い、勝つことがスパダフォーラのいる上層階に向かう道となる。
「永劫塔の最上階までは、道中のトラップもあるからね。この戦いを乗り越えられた者だけがスパダフォーラの前に辿りつくことができる」
 地下闘技場には多くの闘士が集まっている。追い込まれた街の者、賭け試合の為、パトロンを得る為、と理由は様々だろう。
「けれど、皆、理由は生きるためだからね。説得して負けて貰うことは出来ない」
 スティレットはそう静かに告げた。
「闘技場は勝敗は生死を含まない。スパダフォーラに挑めるのがただ一人の時点で、あってないような決まり事だけれどね」
 そこにある葛藤さえも、スパダフォーラの望む贄の果てなのだろう。神に至る者に挑むのであれば、と。
「君達は勝つことだよ。それが、唯一スパダフォーラに辿りつく道になる」
 まぁ対戦相手は戦闘不能にして、転がしておけば良いからね、とにっこりと告げてスティレットは導きの光を灯す。
「死者の命運を背負うのは生者の特権だけれど、君達はあまり身を重く過ぎないようにね」
 滅びし騎士団の拓いた最期の道だ。思うが侭に戦い、駆け抜ければ良い。
「それじゃぁ、運命の至る地へ」
 いってらっしゃい、と告げる司祭の声と共に、転移の光が広がった。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願いいたします。

地下闘技場とか、塔を上がっていく感じって好きだったりします。なそんな感じ。
まったり運営の予感です。

●各章
 第一章:地下闘技場での戦い。
 第二章:現時点では詳細は不明。塔の上層に向かう道となります。
 第三章:ボス戦・禍つ黒蝕のスパダフォーラ

●プレイング受付について
 第一章プレイング受付:5月4日 8:31〜

 各章、導入の追加があります。
 締め切り、以降の章につきましては、マスターページ、タグでご案内させて頂きます。

 *状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

●第一章について
 地下闘技場での戦いとなります。
 戦いは一度のみ。1対1の戦い。
 お連れさんなどを戦いの相手に選んでいない場合は、一般人との戦いとなります。

 *地下闘技場について
 勝敗の賭けが行われている闘技場。
 オブリビオンの庇護を受けた貴族達が、金を積み、闘士を育てては捨てている。
 様々な理由で賭け試合の闘士となった者たちが集まっている。

●黒剣の騎士団
 オープニングの時点で全員死亡。

●お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為【お名前】or【合言葉+ID】の表記をお願いいたします。(合い言葉などのみの場合は、合い言葉が重なってしまう時がある為)

 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

 それでは皆様、御武運を。
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第1章 冒険 『献上の宴』

POW   :    面白いものが見れると聞いたのです(堂々と客として潜入する)

SPD   :    ……(賑わいに紛れて潜入する)

WIZ   :    この珍しい品をご覧ください(売り手として潜入する)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●永劫塔オクルス
 それは、血と泥に塗れ、栄誉を投げ捨て——同時に得る場所であるという。
 永劫塔オクルス。地下闘技場。
 薄暗いこの世界に於いて尚、金が動く賭け闘技場には多くの闘士が集まっていた。闘技場の闘士となり身を立てるのを夢見る者、闘争にこそ生を見いだす者、暴力にこそ本質を見いだした者、或いは——己が街を背負い、ただ一つの可能性に身を投じた者。
「良いぞ、いけ!」
「——、いいか、お前に私は……だけ賭けて……!」
 狂ったように客席から声を上げるのはパトロン達と、賭け試合に熱中している客達であった。城主がヴァンパイアに連なる者であったとしても、彼らには最早関係ないのだろう。その庇護を受けるように地下闘技場は喝采と失望を繰り返していた。

●回音
「——……今宵の参加者か」
 仮面の男が告げる。闘技場のスタッフの一人だろう。受付の広場には多くの闘士達が集まっていた。
「試合は一対一の決闘形式になる。闘技場は勝敗に生死を含まない。一度勝利すれば、上層へ向かう『塔の試練』に足を踏み入れることができる」
 そして、と闘技場の男は告げた。
「ただ一人の強者が、城主様と戦うことができる。喜べ、勝者は望む全てが叶えられる」
 ——塔の試練で、闘士の数が減る、或いは、ただ一人となるために争いが起きるのであろう。尤もそれは『今まで』の話だ。
 猟兵達以外の参加者も存在するが、こちらが勝利すれば問題は無い。
『闘技場は勝敗に生死を含まない』
 相手を気絶させても勝利だ。
 これを上手く使い、上層に向かう事はないまま闘士として闘技場に残っている者もいるという。——ならば『それ』を上手く使うだけだ。
 猟兵達が戦う相手は、主に一般の闘士達だろう。
 共に闘技場に向かう仲間がいれば、対戦相手に指名し、敗北を以て己が従僕とするのも手だろう。或いは、それぞれの戦い、一般の参加者たちを倒すという手もある。
 まずは最初の戦い、どう勝利し、相手を諦めさせるか——或いは気絶させるかだ。さぁ、どう動こうか。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第一章受付期間:5月4日 8:31〜

●1章リプレイについて
 地下闘技場での戦い
 戦いは一度のみ。1対1の戦い。
 お連れさんを指名していない以外は、一般の闘技場参加者との戦いとなります。
(猟兵同士の組み合わせは、指名が無ければ発生しません)

▼闘技場参加者
 パトロンを得ている闘士
 街の為に自ら賭け闘士となった元騎士
 力の証明に来た闘士
 お金を稼ぎに来た闘士
 等など。
 プレイングの雰囲気を見て相手を決めますが、ご希望があればどうぞ。
 詳細はオープニング、導入にて。


◆―――――――――――――――――――――◆
春乃・結希
剣は最良の友…良いですね。私の場合は恋人やけど

withの威力は、普通のヒトには大き過ぎるから
背負ったまま、素手で戦います
…抜かないのかって?これはとっておきなので、あなたをぶっころす時に使います

UC発動
wandererの移動力を上げ、攻撃力を下げる

リーチの差を埋めるため、どんな相手でも懐に潜り込み【ダッシュ】
【怪力】による拳と蹴り、掴んでからの引き倒し
【激痛耐性】で受けてからの【カウンター】
withを振れる隙を作れたら、背中から抜いて叩きつけ…ずに寸止め
…やめとこ。あなたの為やないですよ?あなたを殺しても、私が楽しくないからです
お相手、ありがとうございました
闘技場の端に投げ飛ばしておきます



●第一試合 剣と旅する娘と灰燼の騎士
 永劫塔・オクルス、その最下層に地下闘技場はあった。積み重ねられた硬い石で作られた塔は、外界の音を封じる。一度闘士として参加すれば、この地に僅かばかりある緑さえ見ることは敵わない。
 ——勝者のみが、この地を出ることができる。
 地下闘技場の取り仕切り男の声が高らかに響く。審判を兼ねると言うが——実際のところ、リングアナウンサーのようなものだろう。高らかに対戦相手の名を告げ、煽るように続ける。
「……まで、対戦相手は皆、灰となるまで焼き尽くしたと言います! だからこそ皆が君を灰燼騎士と呼んだ! さぁ、今日の対戦相手も塵とするのか!?」
「……」
 灰燼の騎士と呼ばれた騎士は、灰色の鎧に長剣を背負っていた。鈍く赤の入った刃が、焼き尽くす由来だろう。地下闘技場に慣れた騎士は、兜の下、射貫くような視線でこちらを見ていた。
「お前が、挑戦者か」
「はい、そうなりますね」
 あなたではなく、この闘技場に対して、ではありますが。と告げるのは黒髪を揺らす娘だった。鉄と砂の乾いた匂いがする風は、塔の上層から流れ込んでくる。煽られるまま、賑わっていく客たちの声を遠くに、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は視線を上げた。
『——剣は、己が信仰である。本質であり、誉れであり——最良の友である』
 嘗て、この地に挑んだ騎士がいたという。全てを賭け、ただ一人生き残れば良いと戦い時を稼いだという。
(「剣は最良の友……良いですね。私の場合は恋人やけど」)
 小さく息を零すようにして結希は笑う。観客たちの声が狂気さえ滲ませていく。
「挑戦者も余裕の表情だ! 今日は挑戦者が多いって!? はは、勿論。今日って日は特別だからさ。だから今日の地下闘技場は今までに無い戦いが見れる筈だぜ!」
 さぁ、と審判を名乗る仮面の男が告げる。
「地下闘技場、戦いの始まりだ!」
 オォオオオオ、と歓声が獣の咆吼のように響いた。
「膝を付くことだ娘。死にたくなければ」
 踏み込みは灰燼の騎士が先であった。抜き放たれた長剣が床を削るように振り上げられる。その鋒に、結希は身を逸らす。半分だけで良い。引いた足で床を掴み、僅か、身を沈める。
「行きます」
 告げて、前に跳んだ。ざぁあと髪が揺れる。降ろされたままの鋒が距離を嫌うように跳ね上がる。剣戟に速度はあれど、振り上げは先の一撃よりは時間が掛かる筈だ。
(「だから、右に……!」)
 軽く身を振る。最低限で躱して一気に距離を詰める。結希の背を押すように、背負うwithが触れた。——そう、withは抜かない。
(「withの威力は、普通のヒトには大き過ぎるから」)
 だからこそ前に行く。二歩目、大きく入れた踏み込みに騎士が声を荒げた。
「娘、抜かないつもりか!」
「これはとっておきなので、あなたをぶっころす時に使います」
 軽やかにひとつ告げて、結希は三歩目をいれる。床を掴んだ瞬間、解き放つのはアルダワの技術。蒸気魔導回路が最適解を導き出す。リーチの差を埋める為の間合いを、飛ぶように一気に詰める。
「……ッ早い、くそ!」
 騎士が後ろに身を飛ばす。床を長剣が切る。舞い上がった砂塵が結希の視界を覆うより早く、旅人は床を蹴った。
「上か……!」
「ちょっとは上にいますが、どちらかと言えば……」
 入れるのは蹴り、だ。身を浮かした回し蹴り。空を蹴り、届かせるは二撃目。足先が、ガウン、と騎士の鎧に触れた。
「く……ッそが!」
 蹴りが騎士が、手をついた。引き倒され、だが、は、と荒く息付き、立ち上がった騎士の刃が熱を帯びる。荒く、ただ凪ぐような一撃が真横から届いた。
「——!」
 その刃を、腕で受ける。この一撃が来る可能性はあった。分かっていた。だって、先の蹴りは、今の力は『下げて』あるのだから。
「貰います」
 痛みは耐えられる。ひとりじゃない。withも一緒だから。だからこそ——払い上げる。
「娘、腕ごと捨てる気……っなんだと!?」
「捨てませんよ」
 腕で受けた刃を、騎士の持つ腕にぶつける。灰燼の騎士の腕が跳ね上がった。長剣が空を舞えば、観客達が狂ったように声を上げる。迷わず、結希は背のwithを抜く。叩き付けるように、真上から灰燼の騎士へと向け——止めた。
「なにを、している」
「……やめとこ。あなたの為やないですよ? あなたを殺しても、私が楽しくないからです」
 静かに一つ息をついて、結希は漆黒の大剣を握り直す。
「お相手、ありがとうございました」
 そうして、ひょいと掴んだ騎士を結希は闘技場の端へと投げ飛ばす。一拍の後に、狂ったような歓声が闘技場に響き渡った。
「勝ったー! 勝者は麗しき挑戦者だ。彼女の名は——……」
 挑戦者に名前は無い。闘技場で勝利した瞬間に「名」を得るのだ。高らかに告げられる勝手な名前に結希は静かに息をつく。歓声の向こう、上階へと続く門は勝者へと開かれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム
地下闘技場に武器を握り参加
命で以て拓かれた道、明日への扉としましょう

蛮人のユーフィです、宜しくお願いしますね!
場所がどうあれ。堂々と宣言し相対

対戦相手の攻撃は【見切り】、その上で避けずに
この鍛えた肉体から込める【オーラ防御】で受け切ります
受けきれないものは【武器受け】も併用

貴方の攻撃では私は倒せません、諦めてくださいッ――!
余裕があるようなら、相手の攻撃に
防戦一方にも見えるようにし、
場内を湧かせるようにもしましょうか

けれど、攻撃は常に受けきり、叶わないことは分からせる
降参をしないようであれば、一撃で――
【ダッシュ】で間合いを詰め、《トランスバスター》の一撃
気絶に留めるよう注意して打ち込みます!



●第二試合 蛮人と烈火の騎士
「聞いているか? 聞こえているか? 今日の挑戦者達は強者揃いだぜ! 今のうちにがっつり賭けておくかい? あぁ、そいつは良い!」
 地下闘技場には煽るような男の声が響いていた。審判と言う男は、実際の所、煽るような言葉を口にして賭け試合を盛り上げる為のものなのだろう。すり鉢型の闘技場は、今日という試合を楽しむ客で埋め尽くされていた。一部見えた天蓋が話にあったパトロン、というものがいる場所なのだろう。永劫塔・オクルスの地下に作られた闘技場は勝者のみを地上に戻し——だが、深く深く地下に掘り進めるようにして作られた闘技場は天井まで飾り付けられた豪奢なものであった。
「命で以て拓かれた道、明日への扉としましょう」
 強く武器を握り、少女は立つ。闘技場へと足を踏み入れた瞬間、客達がざわめき出す。それは期待か、或いはユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)の見目からの侮りか。
「ふん、お前が私の対戦者か」
「蛮人のユーフィです、宜しくお願いしますね!」
 恰幅の良い騎士が胡乱な瞳を向ける。巨大なハンマーに似た武器を持つ騎士の男は、ふん、と二度目の息をついた。
「小娘程度が俺に勝てると思うとはな、挑戦者に命の価値を説くべきなんじゃないのか?」
「おぉおっと、烈火の騎士も流石に驚いたか!? だが忘れちゃいけない。今日の挑戦者達はきっと、この闘技場を沸かせてくれるんだぜ!」
 高らかに告げる審判に、烈火の騎士が息をつく。忌々しげに告げる騎士は、この闘技場で長いのだろう。
「どうしてもやるのか」
「はい」
 場所がどうあれ、堂々と宣言し告げたユーフィに騎士は息をつき、ハンマーを持ち上げた。
「ならば膝を付くことだ。蛮人よ」
 試合開始だ、と審判の声が響き渡った。オォオオ、と咆吼と共に騎士が来る。巨体による踏み込みは、速度より圧を感じる。
「ォオオ!」
 裂帛の気合いと共に振り上げられたハンマーが鈍く光る。床を擦ったのか、火花を散らし、ダン、と重く踏み込んだ騎士が——来る。
(「——正面、真っ直ぐに」)
 その流れが分かった上で、ユーフィは腕を前に出した。組むようにして両腕で一撃を受け止める。ガウン、と重さに腕が痺れ、足元、床がひび割れる。
「貴方の攻撃では私は倒せません、諦めてくださいッ―!」
「受け止めたのか、お前!」
 ひゅ、と騎士が息を飲む。重いハンマーをたたき上げるようにユーフィは視線を向ける。弾くように腕を振るえば、ハンマーは先に浮かされた。
「力があるようだな、蛮人のユーフィよ。だが、俺も仕事でな。お前相手に負ける訳にはいかん!」
「——!」
 真横からハンマーが来た。精度は無い。躱そうと思えば躱せる——だが、ユーフィは受け止めた。鍛えた肉体によって紡ぎ上げたオーラが、打ち据える鋼の一撃に耐える。は、と荒く息を吐き、吹き飛ばされた体を支えるように床を掴む。
 わぁああ、と観客達の声が上がる。少女の劣勢に、騎士の踏み込みに——だが、全ての攻撃を受けきり、尚、立つ娘に闘技場の空気が変わっていく。
「まだ、立つのか。お前は……!」
 揺れた声は、己の力では届かない者に出会った衝撃に近い。目を見開き、それでも握るハンマーを下ろさないのは騎士がこの闘技場でパトロンを得て戦う騎士だからか。
「まだだ、まだ俺は……!」
「行きますよぉっ! これが森の勇者の、一撃ですっ!」
 一気に距離を詰める。降参が、膝を折ることが許されぬ彼の矜持に応える為に。飛ぶような加速と共に、深く沈めた身。振りかぶった拳が神速の一撃となった。
 ——ガウン、と重く一撃は届く。硬い鎧の奥、恰幅の良い騎士の体が揺れ、息を飲むような声の後、気絶するようにして崩れ落ちる。
「……その道に辿りつく為です」
 喝采の響く闘技場で、ユーフィは何故、と最後に告げた騎士に言葉を残す。気絶してしまった彼には届かないだろうが、それでもこの戦いの勝者として告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
賭け闘技場とは。どこでも金銭は人を狂わせるもので。
お互い大変ですねと、対戦相手に【礼儀作法】良く一礼。

殺しはしません。少し面倒ですが、いいでしょう。
相手や闘技場の様子を【偵察】しつつ、
しばらく相手の攻撃を避けながら鋼糸で闘技場内に罠を作成。
まあまあそう焦らずに。ゆっくり行こうじゃありませんか。
これがお互い最期になるかもしれないでしょう?

罠にかけて逃げ場を封じた後、『咎力封じ』で
対戦相手の自由を奪い、手刀でも入れて気絶させておきます。

さて、これで如何程の金が動いたのでしょうね。
特に興味はないですが、闘技場の様子を見て想像でも膨らませます。暇なので。

※アドリブ歓迎です!



●第三試合 荒事師と黒蛇の騎士
 喝采が闘技場を揺らすようであった。地下闘技場、勝者となる意外に地上に出る術は無い——と煽るように告げた審判は、実際の所リングアナウンサーのようなものなのだろう。
「賭け闘技場とは。どこでも金銭は人を狂わせるもので」
 永劫塔と呼ばれるこの地において、享楽に身を沈める人々は存外に多いらしい。観客席で声を上げる燕尾服のペンギン達を眺め、八上・玖寂(遮光・f00033)は口元に笑みを刻んだ。
「お互い大変ですね」
 礼儀良く一礼をした玖寂の視界にて、相対する騎士が踵を鳴らした。
「ほう、余裕なものだね。お互い、とは」
 高く鳴らした踵は態とだろう。長い尾を揺らし、ボウガンを手にした騎士が蛇のように笑ってみせた。
「君のような相手を磔にするのも私の趣味でねぇ。今日は随分と試合が荒れている」
「おおっと、黒蛇の毒舌は今日も健在か!? だが今日の挑戦者は、どこも勝率が高いぜ! 今から賭けておくのも……」
「ゲスなものだねぇ。私はただ雄弁なだけだというのに。尤も、私と話しているだけで信服し、この矢を望む者もいるけれどねぇ」
 ゆっくりとボウガンに矢が番えられる。銀の矢、鋒の鈍い色に玖寂は僅かに瞳を細めた。あれは、毒か。
(「致死性は低い……いえ、遅効性でしょうか」)
 確かにそれであれば、黒蛇と名がつくか。黒衣を揺らし、二種の弓を構えた騎士が口の端を上げるようにして笑った。
「愉しませて貰うよ。君が膝をつく瞬間を」
 さぁ、と審判の男が告げる。煽るように言葉を並べ、毒蛇と告げられた騎士が掲げたボウガンが鈍く光る。
「地下闘技場、戦いの始まりだ!」
 オォオオオオ、と歓声が獣の咆吼のように響いた。その音に紛れるように闘技場に無数の弓が降り注いだ。ヒュン、と鋭く耳に届いた音に玖寂は身を横に振る。続けて後ろに。一撃で落とすような矢は使ってこないだろう。尤も、矢が降り注ぐ現場も——まぁ、知らぬ訳でも無い。コートの袖を引き、脱ぐようにして矢を払う。布に絡めるようにして初撃を躱して玖寂は息をついた。
「殺しはしません。少し面倒ですが、いいでしょう」
 闘技場に障害物らしいものは無い。荒れた床板は、単純に戦いの痕だろう。足元、崩れることも無いのであれば——あるのはただ広い空間。身を隠す場所が無いのは相手も同じだが、獲物が矢であれば。
「……」
 ヒュン、と玖寂の顔の横を矢が抜けた。おやぁ、と黒蛇が笑う。
「考え事なんてひどいねぇ。私が磔にする時は必死な顔をしてくれなくては」
 言って露悪的に笑った黒蛇の騎士が、来た。踏み込みは早いか。凪ぐように振るわれた腕が一気に矢を放つ。玖寂を追うように届くのは、狩りのつもりか。
「生憎、飾り物には向きませんよ。他人を喜ばせるのは不得手なもので」
 しれっと告げて、微笑んだ男が闘技場の壁を蹴るようにして矢を躱す。トン、と鋭く刺さった矢はそのまま壁に残れば、闘技場の観客達がわぁあ、と声を上げた。
「ふむ、彼らは私に早く君を捕らえて貰いたいようだねぇ」
「まあまあそう焦らずに。ゆっくり行こうじゃありませんか」
 黒蛇の言葉に、玖寂は静かに微笑む。穏やかな口調の向こう——その底に真心が無いことなど黒蛇にも知れたか。
「これがお互い最期になるかもしれないでしょう?」
「くは、ははは! そうだねぇ、ならばだからこそ!」
 タン、と軽い跳躍を一つ黒蛇が刻む。背負った一回り大きなボウガンをこちらに向ける。
「さぁ磔のじか——ッな、これ、は」
 ——向ける筈だった。
 キリリリ、と何かを引き絞るような音が闘技場に零れた。空に浮いたように、勢いよく踏み込んだままの姿勢で宙に浮いた黒蛇に観客達がざわめき出す。
「鋼糸……!? まさか、貴様、私の矢を……!」
「えぇ。再利用を」
 ひゅん、と玖寂は腕を振る。指先、絡めた鋼糸が打ち出された無数の矢に——闘技場のあらゆる場所に刺さった矢に絡みつけられていた。だからこそ、ああして動き回って避けていたのだ。
「これで仕掛けも十分でしょう」
 トン、と踏み込んだ先、黒蛇の騎士にロープをかける。手にした最後の矢が、握ったそれが玖寂に届く前に落ちれば——、静寂にカラン、と乾いた音が落ちた。
 ワァアアアア、と喝采が闘技場に響き渡る。新たな勝者の誕生だと騒ぎ立てる審判に視界に、玖寂は黒蛇に手刀を落とす。敗者となった男が膝を付く前に、先んじて上がった喝采は、未だ止むことも無く狂ったような声が闘技場に響いた。
「さぁみんな、忘れるなよ。今日の勝者だ! 挑戦者——……」
 勝者となって初めて、挑戦者は名を得る。この闘技場に刻まれていく。指先で払い、残る鋼糸を解いて玖寂は闘技場の様子を眺めた。
(「さて、これで如何程の金が動いたのでしょうね」)
 特に興味は無いが、少しばかり想像を膨らませるのも悪くは無いだろう。暇だったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
うーん、闘技場かぁ…
見世物は苦手だけど、でも、がんばるっ!

生死問わずっていうけど、いかに無力化するかが勝負っ!
…あれ?わたし、大型砲撃系魔法しかないから、どうしよ…

光刃剣と精霊剣を二刀流に構えて
礼をしてっと

それじゃ、いくよっ!

飛ばずに、そのまま接近して相手の武器を無力化しようと思うけど相手も歴戦だよね。
うーん、本気であてに行かないとだめか…

でも、殺傷力を抑えないと…

剣の出力を落として
当たっても殺傷しないようにしてから
【フェイント】を仕掛けながら攻撃
ダメージは微少だけど、本命はここから
【高速詠唱】で【属性攻撃】の雷を付与しつつ切るね
UDCアースで言うスタンガンの要領になれば、殺傷しなくて済むしね



●第四試合 精霊術士と堅陣の重騎士
 地下闘技場は、熱狂の渦にあった。この地を抜け出したくば勝利の他無い、と高らかに審判を告げる男が叫び、観客達の熱狂を煽る。事実、闘技場の上階——塔の上に向かうには、この戦いで勝利するのが最初の条件だ。だが、この闘技場で常連と言われる闘士がいるように、誰もが地上を——塔の上を目指す訳では無い。
「子供が相手とはな」
「……」
 シル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)と相対する白銀の鎧を着た闘士もまた、その一人であった。大槍に盾を持つ重騎士は、冷えた目をシルに向け、僅か細める。
「術士……ほう、うぬは見目の通りではないか」
「おぉおっと、こいつは珍しい! 堅陣の重騎士が相手を褒めるなんて! こいつはオッズが変化するんじゃないのか? パトロンの……卿はお怒りか!?」
 煽るように告げる審判に重騎士が眉を寄せる。盾で床を一度叩いたが——その程度の事で、喋るのを止める気は無いのだろう。あの審判は結局のところ、この闘技場の盛り上げ役なのだ。
(「うーん、闘技場かぁ……。見世物は苦手だけど、でも、がんばるっ!」)
 嘗ての勝者は、友さえも斬る事となったという。その果てに上階に挑み、勝つことは叶わず、だが時を得た。彼らの叫びは怒りは、祈りは繋がった。
「うん、だから進まなきゃ」
 喝采に、観客達の声に足を止める理由は無い。
(「生死問わずっていうけど、いかに無力化するかが勝負っ!」)
 そこまで考えて——ふと、シルは気がついた。
 ——どうやって戦おう、と。
 相手は重騎士。防御力には自信があるのだろう。あの人は、盾のひとだ、と思うから。でも、それでもあの騎士は一般人で、自分は猟兵で。
(「……あれ? わたし、大型砲撃系魔法しかないから、どうしよ……」)
 シル・ウィンディアは精霊術士だった。大型砲撃系魔法をこの場で使えば——うん、もしかしたらこう観客席のちょっと穴があくかもしれない。流石に塔ごと、すっとーんと折れちゃうようなことは無いと思うけれど。
「……うん」
 こっちで行こう、とシルは二振りの剣を抜く。銀のロッドから顕現する光刃の剣。そしてもう一振りは精霊の力を宿す光の剣であった。
「準備は整ったか。精霊と語らう娘よ」
「うん!」
 軽やかに一つ頷いて、一礼と共にシルは告げた。
「それじゃ、いくよっ!」
「来るが良い。——この穢れた地で紡がれた盾に」
 盾を構え、重騎士が踏み込んだ。手にした槍が鋭く突き出されれば、ヒュ、と鋭い音と共に風が抜ける。身を飛ばすようにして一撃を躱すとシルは逆手に構えた精霊剣を振るった。
 ギィイイ、と鎧の上を力が走る。火花が散り、だが跳ね上げるように重騎士が盾を打ち上げた。
「甘いぞ!」
「知ってるよっ!」
 打ち付けるように来た盾に、身を後ろに飛ばす。相手は槍、間合いを理解した上でいれたこれは——フェイントだ。
(「うん、剣の出力、良い感じに落とせてるね」)
 シルの予想通り、相手の武器を一気に無力化するには難しい相手だ。本気にあてに行かないとダメだと分かっていた。それでも殺傷力をおさえなければ、きっとあの騎士を傷つけてしまう。
「浅い、浅いぞ娘! その攻撃では……!」
「届かないよね。でも、本命はここから」
 鎧を撫で、盾を削り、僅かばかり重騎士へと届けていた一撃とは違う。鋭い踏み込みをシルは見せる。
「その、早さは……!」
「我が手に来たれ……」
 唇に高速の詠唱を乗せる。二振りの刃に宿ったのは——雷撃。タン、と蹴った先、二歩目の踏み込みは重騎士の懐深くに沈み込んだ。
「決めますっ!」
 ザン、と刃が重騎士に届いた。ゴォオ、と雷音が闘技場に響き渡り——ぐらり、と重騎士が膝を付く。
「——っく」
 痺れたのだろう。手から槍が落ちる。盾だけを残して膝をついた重騎士に、その前に立つシルに闘技場の歓声が届く。
「これは何たることか! 麗しの挑戦者が勝利したぞ! 彼女の名は——……!」
 勝利した時、挑戦者は初めて名を得る。観客達の喝采を耳に、ふぅ、と息をついたシルは上階へと続く門が開かれる気配に気がついていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
神になろうだなんて、烏滸がましい話さね
傲慢に過ぎて地の底に堕ちた魔王だよな、どっちかっつーと

羽根は収めてサーベルを手に参戦
闘士としての矜持がある相手なら、出来るだけ堂々と仕合いたい
剣を交えながら、相手が闘いに何を思うか問いかけよう
それが誰かの為でも己自身の欲の為であっても、こんな所で闘うだけの強い思いはあるんだろう
俺はそれを尊重する
だからと言って、負けてやる訳にはいかない

相手の全力を受け止め――背の羽根を広げ宙に回避し、回り込みつつサーベルで突きの一撃を
急所は外してある筈さよ
あんたが勝利に賭けて望み願った思いは受け止めた
全部、代わりに持って行かせて貰うさね
己が主に仕える一人の騎士として、な



●第五試合 紅き使者と絶影の騎士
 永劫塔・オクルスは地下以外に人々が息をするのは許しはしない。勝者のみがこの地を出ることができるというのが地下闘技場の審判の言葉であった。尤も——審判というよりは盛り上げ役だ。
「さぁ、オッズは確認したか? 対戦相手と結果は? 今日この時ほど、挑戦者が勝利する日を見たことあるか!? 俺は無いね。そう、こんな初めてな日に地下闘技場に足を踏み入れた皆様方は幸運ってことさ!」
「……」
 どちらかと言えば、リングアナウンサーさね、と早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は息をついた。この地にマイクがあるわけも無いが、あれば握って叫んでいるのだろう。現状、拡声器程度でこれだけ声を張り上げ、観客達の歓声を煽る男は——確かに、この地下闘技場を取り仕切るだけの才能があるのは確かだった。
(「この賭け試合も、狂ったようにつり上げられる値段もみんな、儀式の一つさね」)
 古く、祭りというものは神を奉じる為にあった。ここで行われる闘技も、数多流れる血も全て禍つ黒蝕のスパダフォーラの為にあるのだろう。奴が、神に至る為に。
「神になろうだなんて、烏滸がましい話さね」
 ここは祈りには遠く、だが、血の滲むような思いと願いがあった場所だ。壁に、床に古く残された血の跡は戦いの痕跡だろう。
「傲慢に過ぎて地の底に堕ちた魔王だよな、どっちかっつーと」
 低く落とした息と共に翼は闘技場へと視線を向ける。わぁああ、と上がった声に誘われるように視線を向ければ、見えたのは黒髪を揺らす男であった。
「——上にある者が地の底まで落ちてくる事を心配するよりは、自分の心配をしたらどうだい?」
 銀色の狼の耳は欠け、細い体に簡素な鎧を身に着けた騎士が翼へと視線を向ける。
「膝を付く程度で済むとは思うのかい? 此処は、覚悟のない者が足を踏み入れるような場所ではない」
「おぉっと、絶影の騎士の洗礼だ! 今日は挑戦者の勝利が多いのは知っていてのことか? 戯れに足を踏み入れる場所ではないのは事実、だが、数多の夢と欲望が叶うのもこの闘技場だ!」
 高らかに告げる審判に絶影の騎士が眉を寄せる。やれ、と息をついた姿は飄々として——だが、瞳の奥はひどく、暗い。
「あの通りだよ。早々に膝をおることだ」
「最初から負けるつもりなら、出て来ないさね」
 騎士が短く息を吐く。冷えた瞳が、射貫くほどの強さを持つ。その視線に、敵意に真正面から応えるように翼はサーベルを抜いた。やる気か、と問う声はもう無かった。代わりに、騎士は低く構える。黒塗りの剣が抜かれ、一度縦に構えられた。
「さぁ、みんな見たか? 聞いたか? 絶影の騎士の誓言を! オッズは確認したか!?」
 さぁ、と審判が煽るように告げた。
「地下闘技場、戦いの始まりだ!」
 オォオオオオ、と歓声が獣の咆吼のように響く。同時に騎士の踏み込みが来た。一歩、二歩、一気に距離を詰めた騎士の剣が下から来る。
「倒れることだよ」
「——ッと、重いさね」
 十字を抱くサーベルが、ギ、と軋む。騎士の剣を受け止めれば、ふ、と落ちる息が耳に届いた。
「あぁ、当たり前だろう? 私は君とは違い、この闘技場の騎士なのだから!」
 火花を散らすサーベルと剣を、より深く打ち合わせるように騎士が踏み込む。一気に近づいた距離は、先に、突き飛ばしでもいれるつもりか。——だが、翼は避けなかった。
「何の為に戦うさね」
 鍔迫り合いに、僅か滑るように触れた剣が頬を切る。浅く落ちていく血に構わず、翼は告げた。
「闘いに何を思うさね」
「は、そんなこと今聞くような話かい?」
 笑うように騎士が告げる。サーベルを打ち上げるようにして剣戟が来た。身を回すようにして、勢いをつけた斬り上げ。ヒュン、と鋭く響いた一撃を——翼はサーベルで受け止める。
「な……ッ」
 刀身に滑らせるようにして、衝撃を散らす。鋼と鋼の触れあう音が闘技場の喧噪に混じる。
「それが誰かの為でも己自身の欲の為であっても、こんな所で闘うだけの強い思いはあるんだろう」
 狼の耳がぴくり、と動く。至近で見た騎士の顔には少なくは無い傷が見えた。刀傷も火傷も。この闘技場でついたとは思えぬものも。
「俺はそれを尊重する。だからと言って、負けてやる訳にはいかない」
「私は二度と選ばされる側にならない為に戦うんだよ」
 低くひくく、唸るように騎士は告げる。サーベルで受け止めた剣は、素早く退かれていた。
「……知っているか奴らの下卑た遊びを。私は、選ばせられた。選んで、しまったんだ」
 滲む怒りを己に向け絶影の騎士は剣を握る。刀身に力が集まっていく。低い構え。まだ来るつもりか。
「あの日、見捨てた命の為に。残された者を守る為に、使い潰しすり潰す為にこの身はある!」
 タン、と踏み込みは音も無く、素早く来た。渾身の突きを受け止め衝撃を回避するように翼は背の羽を広げた。
「な……ッまさか、オラトリオか!」
「この背の翼が、飾りなんかじゃ無い証拠――見せてやるよ」
 この瞬間まで仕舞っていた背の翼を見せるように身を浮かす。血のように赤い翼で空気を叩き、一気に騎士の後ろへと回り込んだ。
 ——トス、とサーベルが騎士に沈む。あ、と浅く漏れた声が、床に落ちた。
「急所は外してある筈さよ」
「行く、つもりなのか……上に」
 膝をついた騎士の声が掠れて響く。一度だけ翼は彼に視線を返した。
「あんたが勝利に賭けて望み願った思いは受け止めた。全部、代わりに持って行かせて貰うさね」
 己が主に仕える一人の騎士として、な

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒金・鈊
血濡れた栄光、か。
何時如何なる世界も。原始的な遊戯を棄てられぬものだな。
などと言い、俺もひとたび駒となるわけだが。

対峙する相手が、命しかチップを持たざるものでも、貪欲に力を求めるものにせよ。

俺に一太刀でも入れられるものか、と挑発して仕掛ける。
剣は鞘に入れたまま挑むが、骨折程度は覚悟してもらおうか。

絶望の福音で先を読み回避。
観客が楽しめるように、のらりくらりと躱して長引かせ。

意外に気骨のあるものだ。
それだけ、賭けるものがあるということか?

最後は相手の得物を砕く。
素手でも掛かってくるようなら、腕を砕く。

まったく、怒号も賞賛もやかましいことだ。
次は良い主を持つことだ。
……俺に言えた話では、ないがな。



●鋼の焔と零落の騎士
 ——喝采が、血濡れの闘技場を切り裂いた。怒号が落ちた血さえ震わせれば、地下にある闘技場に狂気に満ちた観客達の声が響き渡っていた。
「さぁ試合の確認は済んだか? どいつもこいつも熱戦ばかり。番狂わせの連続だ! オッズは確認してるかい?」
「——あれが、審判か」
 黒金・鈊(crepuscolo・f19001)は息をつく。よく回る舌で仕事をしてきたのだろう。実際、この手の闘技場にルールなどあるわけも無い。
(「挑戦者も観客にとっては、新しい闘士が増えた程度か」)
 ただ、新たな享楽の贄が生まれただけのことに過ぎない。——そこを、利用する者がいたとしても。
「血濡れた栄光、か。何時如何なる世界も。原始的な遊戯を棄てられぬものだな」
 尤も、己もひとたび駒となるわけだが。
 薄く、鈊は笑う。怒号と歓声が呼んだ風か、射干玉の髪が頬に影を刻む。表情など滲むこともないまま——ふいに、釣り上がった値に鈊は視線を上げる。足音高く、対戦者が姿を見せていた。
「ひは、あんたが相手かぁ?」
 腹に、胸に、引きつるように残った傷跡を晒す男がそこ立っていた。獲物はハルバードか。じろじろと鈊を見た後に、男は、ひは、と笑う。
「今日は腕も足も全部ぶっつぶす気分でさぁ。俺がしっかり殺してやるよぉ、挑戦者」
「——そうか」
 なら、とは告げずに鈊は腰の刀に手を置く。浮かべられたのは男の煽るような微笑であった。
「俺に一太刀でも入れられるものか」
 熱狂と狂乱の中、ただ二人だけに響いた言葉に零落の騎士が目を瞠り——笑った。
「ひ、ははは! 良いぜ、そいつで俺の力を証明してやるさ!」
 血走った目で騎士が吼える。呼応するように闘技場が咆吼を響かせた。
「地下闘技場、闘いの始まりだ!」
 狂気に満ちた歓声が響く中、先んじて動いたのは騎士であった。瞬発の加速、獲物の距離に鈊は僅かに身を退いた。
「ひは、避けてばっかかぁ?」
 ヒュン、と鋒が頬を掠る。振り上げられたハルバードと同時に、鈊に『見えた』のは敵の踏み込み。間合いを詰めるそれ自体は不思議ではない。だが、武器を持たぬ手がひとつ動くのが『見えて』いた。
「——その方が盛り上がるだろう」
 ぶつかるように詰められた間合い。至近にあって騎士はハルバードを振り上げる。柄から手を離し短く持ち——凪ぐ。
「真っ二つだぜ! ……な」
「——」
 腰を狙ってきたハルバードに鈊は剣を持ち上げる。抜きはしない。鞘ごと衝撃を受け止め、振り上げる。弾き上げるようにして、浮いた騎士の体を鞘で突き出した。
「く……ッぁあああ、くっそ!」
 剣に似合いの重い鞘だ。半ば鈍器に近いそれを、鈊は片手で振るって見せる。突き出した先、吹き飛んだ騎士が悪態と共に身を起こす。次に踏み込むのは鈊の方だ。
「これはなんたることだ! 零落の騎士が翻弄されている場を私達は見たことがあるでしょうか!? すり潰されるのはまさか、零落の騎士の方なのか!?」
「あぁああっうっせぇ!」
 騎士が吼える。肋骨が折れたのか、胸を押さえた男が、地を叩く。雷光に似た光が見えたが——足を止める理由にはならない。
「それに関しては同意見だが」
 絶望の福音。10秒先の先を、正しく鈊は利用する。己が間合いにて、迷わずに。
「意外に気骨のあるものだ。それだけ、賭けるものがあるということか?」
「ひは、俺はさぁ暴力を肯定しただけだ」
 この世は守る者が多すぎる。
 至近にて撃ち合う瞬間、冷えた声が鈊の耳に響いた。狂った男の顔とは違う、顔こそそのままに、まるで別人のような声で零落の騎士は告げた。
「だからこそ、俺は壊し続ける側になったのさ。いつか、全部ぶっ壊してやるためになぁ!」
 低く、滑るように鋒が来た。鈍い光に鈊は足を引く。沈むように取った構えと共に、鞘に身を沈めたままの真闇を振り上げた。
「な——!」
 ギン、と鈍い音が最初にあった。次いで火花が散り——ガウン、とハルバードが折れる。息を飲んだ次の瞬間には、踏み込んできた騎士を返す鞘で打った。
「く、ぁああああ!」
 砕けたのは腕であった。吹き飛ばされた騎士が、悪態と共に顔を上げる。その声を喰らい尽くすように観客達が声を上げた。
「まったく、怒号も賞賛もやかましいことだ」
 勝者の誕生だと闘技場が吼える。歓声は、審判を名乗る男によって煽られていくのだろう。膝をつき、だらりと垂れた腕を押さえる騎士へと鈊は告げた。
「次は良い主を持つことだ」
「……、あんたも主を持つのか」
 ひは、と騎士が笑う。傷を晒す男に、鈊は少しばかり言葉を止めた。騎士の主がパトロンだとして、ワイン片手に闘技を見る者と己の主と——さて、どちらの方が真っ当か。
「……俺に言えた話では、ないがな」
 勝ちなさい、と告げた男が遠くで笑った気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】ルーシーちゃんと(f11656)

ルーシーちゃん
君なら大丈夫だと思うけど無理しちゃダメだよ。
また後で、一緒に上で逢いましょうね
頭を優しく撫でて
それぞれ一般人へと戦いへ

さてと、僕のお相手さんはこの方ですか
お手柔らかにお願いしますねぇとにこりとご挨拶をして

ふふっ、生死は問わないでしたね
じゃ本気で行きましょうかぁ?

観客席には見えないように
屍鬼
暴食グールを鬼化させ相手に恐怖を与える

なぁーてねと
ベラーターノ瞳で相手の行動を予知して読み取り剣などで気絶させる

貴方も勝たないといけないといけない理由があると思いますが
今回は…ごめんなさいねぇ

ルーシーちゃんはどうなったでしょうか?


ルーシー・ブルーベル
【月光】ゆぇパパ(f06712)と

血だの肉だの
そういうのがお好きな神様って多いのね
騎士の方々が紡いだいと
必ずや手繰り寄せましょう

頭に温もりがふれる
うん
パパの強さは良く知っている
絶対に勝つって分かってる
でも、でも
お気をつけてね
また後で

一般の方と戦いましょう

ヌイグルミのララをぎゅっと抱きしめて
決闘の場に出された子供……に見えるかしら
油断して頂けると良いのだけど

どの様な武器を扱うのか、
よく注意して見切り躱しましょう
隠し手が無いかも注意
刃が届いても激痛耐性で凌ぐわ

大振りの攻撃に合わせ【瑠璃唐草の祈り】
相手の戦闘継続の意思を断ち、降伏して頂くわ
きっと理由があるのよね
ごめんね

…パパのお顔が見たいな
今すぐに



●第六試合 白銀の徒と咆吼の騎士
 喝采と狂気が闘技場を包んでいた。永劫塔・オクルス、その地下に潜るように闘技場は作られていた。渇き、荒れた大地には不釣り合いな程に豪勢な飾り付け。円形の闘技場は、すり鉢状に作られた観客席に多くの財を注いでいた。
「さぁ、試合の確認は済んだかい? 挑戦者達の活躍は!? 今日のオッズは狂っていくぜ。もしかしたら私達は今、新たなる歴史を目撃しようとしているのかもしれません!」
 煽るような言葉に視線を向ければ、審判と言われる男の姿があった。尤も、審判と言うよりは盛り上げ役だろう、と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は静かに息を落とす。観客を煽り、飛び交う値を煽り絶えず観客に刺激を与え続ける。
(「その実、飛び交う金をここの主は必要としてはいない……ですか。ルーシーちゃんの教育に悪い言葉が無いと良いですか」)
 歓声は獣の咆吼に近く、怒号と狂気に少しばかりルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が足を止めた。
「声がおおきいのね」
「えぇ、随分とお喋りなようですね」
 ヌイグルミのララで耳を押さえるようにして、ルーシーは息をついた。
「血だの肉だの。そういうのがお好きな神様って多いのね」
 闘技場の勝者のみが、上階に挑む権利を得るという。先の闘いも決着がついたのだろう。ぎぃ、と扉の開く音が、控えの場にも聞こえてくる。
「騎士の方々が紡いだいと、必ずや手繰り寄せましょう」
「えぇ」
 静かに頷いたユェーが、そっとルーシーに視線を合わせる。
「ルーシーちゃん。君なら大丈夫だと思うけど無理しちゃダメだよ」
 闘技場の勝利に生死は問わない。大丈夫だとは思っている。だがそれと、心配はやはり別なのだ。
「また後で、一緒に上で逢いましょうね」
 優しく頭を撫でれば、うん、と小さな声が耳に届いた。
「パパの強さは良く知っている。絶対に勝つって分かってる。でも、でも」
 柔らかな金色の髪を揺らして、ルーシーは顔を上げた。その視線に応じるようにユェーは膝を折る。
「お気をつけてね。また後で」
「うん、ルーシーちゃんも」
 最後にもう一度優しく頭を撫でて、ユェーは分厚い門の先へと向かう。闘技場の壁は分厚く固いのだろう。壁面に残された血の跡は、どれ程前のものか。
「さぁ、挑戦者の姿が見えたぜ! 金額は決めたかい? 闘いが始まってしまえば、誰にも止めることはできない……そう、今までの挑戦者達の闘いを思い出して震えはしないか!?」
 煽るように響く審判の声に、は、と黒衣の騎士が笑っていた。
「随分と賑やかなことじゃねぇか。活きの良い挑戦者が勢揃いってか?」
 ハンマーに似た鈍器を持った騎士が、ユェーへと視線を向ける。
「お前が相手か。挑戦者のにーさんよ」
「お手柔らかにお願いしますねぇ」
 にこり、と微笑んだユェーに、騎士の男は口の端を上げるようにして笑った。
「良いじゃねぇか。俺様が本気の闘いって奴をみせてやるよ」
「おぉおっと、こいつは咆吼の騎士のいつもの雄叫びが聞けるのか!? 彼のハンマーの前に、立って勝利を迎えたやつはいない! 挑戦者も倒れてしまうのか、それとも今日初めて膝をつく咆吼の騎士を見るのか!?」
 煽るように審判が言葉を重ねる。狂ったように観客達が熱を上げ、闘いの開始が告げられた。
「さぁ、闘いの始まりだ!」
「——ぶっ潰してやるぜ……!」
 咆吼と共に、騎士が来た。獲物に似合いの重い踏み込み。決して遅くは無いが、踏み込みに武器の重さを乗せている。確かに当たれば痛そうではあるが、怪我をして彼女を心配させるわけにはいかない。
「ふふっ、生死は問わないでしたね。じゃ本気で行きましょうかぁ?」
 踏み込む騎士を正面に捉えながら、観客達の目には映らぬようにユェーは手首の上に指先を滑らせる。一筋、走った傷から、赤い滴が零れ落ちる。指先を伝い、ぱたぱたと男の影に落ち——ふいに、影が揺れた。
「おや、お腹が空いたのかい? 良い子だね、ディナーの時間だよ」
 波立つように、沸き立つようにユェーの影より暴食のグールが立ち上がる。影を黒衣のように纏い、あぁ、僅かに聞こえたのは衣擦れの音か、戦場に生んだまやかしか。
「な、んだ……それは……ッ」
 騎士の動きが一拍、鈍る。振り上げる筈のハンマーが止まる。不思議も無い。巨大な黒き鬼の姿を得た暴食グールに見据えられたのだ。
「お前、お前はいったい……!?」
「なぁーてね」
 吐息を零すように一つ笑い、とん、とユェーは床を蹴る。抜き払った剣の柄をトン、と騎士の首に沈めた。
「貴方も勝たないといけないといけない理由があると思いますが、今回は……ごめんなさいねぇ」
 あ、と擦れた声と共に騎士の手から武器が落ちる。ガン、と重い音が、闘技場の歓声を招いた。
「おぉおおっとこれは、私達は一体何を見させられたのか!? 咆吼の騎士が膝をついている! 勝者は、挑戦者だー!」
 熱狂を耳に、ただ一つも応える事はないままにユェーは変わらぬ笑みを浮かべる。悠然と、時に底知れぬと言われぬ青年の笑みはどこまでも美しく——故に、更なる狂乱を招く。
「ルーシーちゃんはどうなったでしょうか?」
 次への期待か。闘技場の新たな闘士としてか。釣り上がっていく値に微笑だけを返し、ユェーは門の前で別れた少女の事を思い出していた。

●第七試合 金色の星と頳の騎士
 喧噪が煩いほどに響いていた。煽るように響く審判の声が、勝手に悲劇の話を作り上げていく。闘技場において、勝者となって初めて挑戦者は名前を得るのだろう。勝利のその瞬間まで、数多いる挑戦者の一人に過ぎない。
「……」
 その中に、子供がいるのもどうやら初めてではないようだった。
 ぎゅ、とヌイグルミのララを握りしめて、ルーシーは視線を落とす。コツ、コツ、と小さな足音と共に出てきた少女の姿に観客達は息を飲み——次の瞬間には賑わいを見せていた。
「——子供か。このような場に挑みにくるとはな。売られたか、全てを賭けてかは知らんが……ここは、容易く生きていける場所ではないぞ」
「流石は頳の騎士。湖畔の都の騎士であった男は違う! だが、彼も歴戦の闘士だ! 今まだ全てを一撃で終わらせてきたのが、頳の騎士。さぁ、賭けるなら今だ。騎士が折れるか、それとも挑戦者が崩れ落ちてしまうのか……!」
 悲劇と告げながらも、それを望むように審判は煽り観客達は狂気に満ちた声を上げる。止めないのか、とただ一度だけ騎士の声がした。ゆっくりと視線を上げたルーシーが頷けば、息だけが一つ落ちる。
「ならば、一撃で終わらせよう」
「……がんばるわ」
 最後に一度、ぎゅ、とヌイグルミを抱きしめる。さぁ、と審判の声が響く。
「闘いの始まりだ!」
 ォオオオ、と歓声が獣の咆吼のように響き渡った。ダン、と強い踏み込みと共に騎士が来た。突き出されたのは刀身の短い刃。反射的に身を後ろに退けば、目の端で何かがチカ、と光った。
(「もうひとつ……!」)
 二刀流か。躱すには足りず、浅く腕に一撃が届く。痛みを耐えるように唇を引き結ぶ。は、と息を吐けば、僅か騎士が眉を寄せた。
「ならば避けるな娘。これ以上の不幸など——」
「どうか、咲いて」
 大きく踏み込んできた騎士の一撃が、空で止まる。戦場に零れ落ちたのは瑠璃唐草の花吹雪であった。血と泥に汚れた床に色彩が宿る。騎士が息を飲んだ音が耳に届いた。
「私、は……、君は、いったい……いや、この花は——……」
「きっと理由があるのよね。ごめんね」
 誘うように差し出された少女の手が招いた花弁であった。ルーシーの瞳と似た色彩の花が、騎士の戦う意思を断っていく。あぁ、と零れ落ちた息と共に刃が下ろされる。
「おぉおっと、これはどういうことだ!? 闘いが止まったのか!?」
「——私の負けだ。降伏しよう」
 肺腑の底、溜まった息を吐き出すように重く、重く騎士の声が落ちた。戦意を失えば、剣を握る意味も無くなる。
「……パパのお顔が見たいな。今すぐに」
 瞳を伏せ、背を向けた騎士を見ながらルーシーはぎゅ、とヌイグルミを抱いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
剣、などと。
アイツが俺に与えた其れは、技は。
他者を屠り、命を奪い、己を守り、役目を果たし…
アンタを殺した――否、俺にアンタを殺させた…
誇りも誉れも無いただの“道具”。
捨てられなかっただけの“モノ”。
…『俺』が、最も馴染んだ――

言動は本気か演技か。そこから解る相手の性格。
得物。リーチ。体幹に足運び、手の動き。
移動の速度、軌道。格好より隠し種の有無…
視得る全てを見切り。
短期戦で仕留めないと“相手が”危ないだろうから。
対峙し、仕掛けて来た所を、知識を以て回避、
カウンターにて急所に一撃。

貫いた様に見えるだろう…けど。
UCにて曲げた剣でのブラフ。
柄で気絶させただけ。

あぁ。
殺さない様に、気を付けないと、な



●第八試合 影を行く傭兵と鉄血の騎士
 ——そこは血の臭いがしていた。否、血溜まりが残されている訳では無い。永劫塔の地下、大地から深く潜るようにして作られた豪奢な闘技場は、ワイングラスを片手に試合を眺めるような客の為にある。
 狂気と享楽の為。そして——真の神を目指す存在の贄となり、祝祭となるために。  
「さぁ、見たか? 見てきたか? 挑戦者達の勝利。これ程の転換期を私達は見たことがあるだろうか!」
 煽るように響くのは、審判を名乗る男の言葉だった。他の世界の言葉で言えば凡そ、リングアナウンサー辺りが似合いだろう、と青年は青の瞳を向ける。
「君達は覚えているか? 嘗て、己の剣を信念と告げた騎士たちを! 彼ら以来の快挙を今私達は目にしようとしているのかもしれない!」
「……」
 牽制の喧噪も遠い。この手の下卑た戦場をクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は知らぬ訳でも無かった。
「剣、などと」
 吐息一つ零すように声は落ちる。柔く笑みを浮かべる青年には不釣り合いな程に低く落ちた声であった。喝采が呼んだ風か。艶やかな黒髪が揺れ、落とす吐息を隠す。
「アイツが俺に与えた其れは、技は。他者を屠り、命を奪い、己を守り、役目を果たし……」
 は、とクロトは息を吐く。二度目のそれは自嘲に似たか、過去を吐き出すに似たか。
「アンタを殺した――否、俺にアンタを殺させた……」
 誇りも誉れも無いただの“道具”。
 捨てられなかっただけの“モノ”。
「……『俺』が、最も馴染んだ――」
 傭兵は毒の空言を唇に乗せる。影のように黒衣を揺らし、喝采と怒号の中に立つクロトの視界に、長い影が落ちた。ゆるり、と視線を上げればガツン、と鈍い音が耳に届いた。
「おいおいおい、こんな優男が俺様の相手か。良いのか? 良いのかよ? 俺様のモーニングスターでぶっ潰しちまっても」
「おぉっと鉄血の騎士、早くも勝利の宣言か! 挑戦者達の連勝は此処で止まるのか! 皆様、オッズの確認は済みましたか? 今なら……」
 煽るように響く審判の言葉に騎士は鼻を鳴らす。上背のある男が、がっしりとした鎧に身を包んでいるのは、己の武器が理由か。
(「モーニングスター、接近戦が得手だな。迎撃のみで勝ち抜いてきた訳でも無いだろう。隠し球はあると見て良い」)
 戦場における傭兵は、事実を把握する必要がある。受け取った情報は多くても構わない。取捨選択が出来ていなければ、クロトも今、ここに立ってはいない。
「おいおい黙りか? ま、俺様が速攻勝利を奪って、闘技場のトップになったって良いけどなぁ」
「……そうだな」
 ォオオオ、と観客達が声を上げる。獣の咆吼に似たそれは試合開始の気配を感じてか。煽るように騎士の名を告げた審判が腕を振り上げた。
「さぁ、第八試合の開幕だ!」
「殺してやるぜ……!」
 ダン、と足音は荒く響いた。怒号と共に鉄血の騎士が来る。迎撃型では無いのか。予想より踏み込みが軽い。
(「それなら、前に出るか」)
 詰められていく間合いを、クロトは自ら喰らう。トン、と軽く床を蹴るようにして、二歩目の足音は消える。バタバタと黒衣だけが靡いた。狙いは短期決戦。短期戦で仕留めないと“相手が”危ないだろうから。
「は、来るなら潰してやるぜ!」
 クロトを押しつぶすようにモーニングスターが振り下ろされた。ガシャン、と鎖が派手に音を鳴らし、鉄球だけが先に落ちてくる。真っ正面、待つように落とされた一撃に——だが、クロトは前への踏み込みを選んだ。打ち下ろす一撃の間、僅かに騎士が足を引いていたからだ。
(「次の動きがあるのならば——……」)
 それを、封じるためにも前に出る。最後の加速、身を沈み込ませるようにしてクロトは騎士の間合いを踏んだ。
「は、こっちを偉ぶってなら! 盾で潰してやるぜ!」
「……生憎」
 突き出された盾が、棘を見せる。仕掛け付きか装飾か。どちらにしろ真面なものではない。だからこそ——その盾にクロトは手をつく。前に出された守りは、すぐに背を守れはしない。身を回すようにして後ろに入り、振り抜いたのは黒柄の長剣。
「開展」
「く……ッァ」
 深く、ふかく。心の臓へと届くように剣は行く。わぁああ、と闘技場が湧き上がった。勝利を高らかに告げる声と怒号を聞きながら、クロトは剣を下ろす。その剣が『形を元に戻して』いく。そう、貫いたように見えるだろうが——実際は、十三の業、礎の一を利用し、曲げた剣で行ったブラフ、だ。柄で気絶させただけのこと。
「あぁ。殺さない様に、気を付けないと、な」
 殺した威力は騎士を気絶させた。馴染みのある動きの侭、鋒を滑らせた身にクロトは静かに声を落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
相手は騎士然とした闘士
暴力に酔う愚か者では無い様ですね。
彼を殺めてしまっては己の縛りに反する、
力を抑えながら闘士を制します。

血を見る様な戦いになったら己の殺戮衝動に囚われかねない
オーラ防御で受け流しながら翻弄
殺気を纏った残像を放ち恐怖を与える
それでもなお向かって来るか?
ならば致し方ないUC・咎狗無明縛で捕縛しよう
拘束具の一つ呪魂鉄枷を放ち問う
「何の為に命を賭し戦う?」
あなたは恐怖に屈せぬ誇り高き闘士、
金の為に戦っている様には見えません。
……ちなみにぼくは城主様を殺す為にここに来ました。
もし似たような目的を抱いているなら……
ぼくら猟兵の力に賭けてみませんか?



●第九試合 白き衝動と弧月の騎士
 狂気と喝采が、闘技場に満ちていた。高くそそり立つような壁の向こう、観客達はワインを片手に試合を眺め、零れ落ちた血に喝采と怒号を注ぐ。
「……」
 彼らは吸血鬼の恩恵を得てまで、生きている価値は果たしてあるのか。ひとに値をつけ、つり上げては、ふいに捨てる。勝利する闘士だけが彼らに取っては必要であり——回る金だけを見れば、敢えて負けさせるのだろう。
「そこに……」
 青年は薄く唇を開く。銀の瞳が仰ぐように観客席を眺め、伏せられる。存在の意義を、意味を問うには些か場が悪かった。吐息一つ零すようにして笑い、ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は視線を上げる。
「あなたが、ぼくの相手ですか」
「……観客に何を期待する挑戦者よ。己が武の証明であれば去れ」
 それであれば、と告げたのは鈍い銀色の鎧を纏う闘士であった。長剣を手に、顔だけを晒した男は低く笑うように告げる。
「或いは膝をつき敗北することだ」
「おぉぉおっと、来たぜ来たぜ! 弧月の騎士の言葉。その威圧で、何人が戦う前に膝をついた!? 今日の挑戦者はこいつの前に倒れちまうのか!?」
 煽るように響いたのは、地下闘技場の審判を名乗る男の声であった。ルールなどあってないような闘いの審判など、実際は賭け試合を煽る為の道化だ。闘士の戦績を告げ、ナギを挑戦者と告げる。この地では、勝者となるまでは名を持たない。無数の挑戦者の一人に過ぎないのだ。
(「ですが、その分、彼らはこの挑戦者による多くの勝利など気にしてはいない」)
 この塔の主たる存在も、だ。神を目指すものからすれば、闘技は神に捧げる祝祭だ。
「……、止める気は無い、か」
「えぇ」
 視線は射貫く程に強いというのに、闘士から零れ落ちた声は僅かばかりのため息を招く。同情の類いではない。僅かばかりに滲む自嘲は、騎士然とした闘士の過去に何かがあるのか。
(「暴力に酔う愚か者では無い様ですね。彼を殺めてしまっては己の縛りに反する」)
 ならば後は、力を抑えながら闘士を制するしか無い。下げられたままの鋒を視界に、ナギは静かに息を吸う。己の中の衝動を鎮めるように、ゆるく拳だけを握る。
「さぁ、地下闘技場、最後の試合の始まりだ!」
「——斬り捨てられることだ。腕の一本で済ませてやろう」
 告げる言葉と共に弧月の騎士が来た。ダン、と響く重い踏み込み。二歩目で、騎士は一気に加速する。
(「重さを乗せたようだね。血を見る様な戦いになったら己の殺戮衝動に囚われかねない」)
 は、と息を小さく吐き、ナギは軽く足を引く。身を逸らすようにして展開させたオーラの防御で刃を受け止める。剣を滑らせるように軽く身を振る。トン、と着地の先、迷わずナギは間合いを詰めた。
「ほう、我が剣を受け躱すか。だが何時まで——……」
「いつ、か」
 吐息一つ零すように告げて、ナギは顔を上げる。視線を合わせる。銀の瞳が見据えた瞬間、放たれた殺気に騎士が僅かに息を飲む。
「——貴様」
 そこに確かに恐怖はあったのだろう。だが、ナギの放った殺気に闘士は踏み込む。嘗て、そうして向かった闘いがあったかのように。尾を引くようにあった闘士の気配が変わる。
「ここで、折れろ」
 踏み込みが早い。ダン、と重く入れた一歩。ぐ、と身を低く構えた孤月の騎士が突きの構えをとる。
(「向かって来るか? ならば致し方ない」)
 穿つ剣を前に、ナギは手を伸ばす。指先、絡めるようにして持った鋼鉄の枷が——放たれる。
「何の為に命を賭し戦う?」
 静かな、問いと共に。
「——ッ」
 ガシャン、と鈍い音を立て、騎士の剣が宙で止まる。ナギの喉元へと迫るその距離で剣と枷だけが鈍い光を零す。
「あなたは恐怖に屈せぬ誇り高き闘士、金の為に戦っている様には見えません」
 ワァァアアア、と観客達が声を上げる。狂ったような歓声。その狂気に眉を寄せることもないままに、ナギは眼前に騎士に告げる。
「その腕も、もう動かないのでしょう。もうずっと前から」
 最初の動きで違和感はあったのだ。騎士はもう片腕が動かない。その上で、あの言動。折れろと告げる彼は、試合の放棄を迫っていた。ただ勝利するためであれば、賭け試合には不釣り合いな交渉だ。
「あなたは、彼らを知って——……」
「とうに老いた身だ」
 肺腑の底から、吐き出すような声であった。重く、重く騎士は告げる。どれだけ死んだと思う? と。
「数多の命が散る様を見た。下卑た闘技だが、これで生きている者もいる。永久に続かずとも、この地に身を沈めるべき者が共に腐り果て、最後に愚かに死ぬのであれば十分だろう」
 それに見合わぬ者は去れば良い、と騎士は告げる。
「お前のようにな」
「……ちなみにぼくは城主様を殺す為にここに来ました」
 囁くように少年は告げる。秘密ひとつ告げるように、この地では然程珍しくも無い事情に、あと一つの真実を寄せた。
「もし似たような目的を抱いているなら……ぼくら猟兵の力に賭けてみませんか?」
「——……」
 僅か息を飲むような気配の後に、騎士の剣が引く。
「おぉおっと、これはどういうことか! 弧月の騎士が試合を放棄したか? いや、こいつは挑戦者の力だ……! 私達は今、歴史的瞬間を前に——……」
 審判の声と観客の声が狂ったように響く。獣の咆吼のようだろう、と騎士の声がナギの耳に届いた。
「……ここには似合いのものだ、だが……」
 は、と息を落とす。僅か、伏せられた視線は長くをこの地で過ごしてきた闘士の、嘗ての騎士の安堵に似ていた。
「勇者も英傑も、待つにはとうに飽きた。己では足らず、仲間の無念も晴らせずにのうのうと今日まで生き延びてきたが——……そうか」
 後を頼む、と告げる騎士の声に、ナギは静かに頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『首なし騎士の亡霊』

POW   :    力でねじ伏せる。

SPD   :    速さでねじ伏せる。

WIZ   :    魔力でねじ伏せる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●挽歌
 喝采と熱狂の果てに、闘技場は次なる炎を灯す。中央へと下ろされた松明が血に濡れた床を撫で、四方に炎を灯す。中央、封じられていた扉は闘いの勝者が決まった瞬間に開かれていた。ならばこれは——誘いだ。熱に煽られ、喝采と怒号に見送られ、数多の騎士が、闘士がこの道を行ったのだろう。喝采は慰めとなり得たか。流した血は、己が心を支えたか。
「さぁ、今、私たちは新たな時代を迎えようとしているのかもしれない! 彼らの内、誰が辿りつくか。或いは、数多の騎士や闘士と同じようにこの塔の錆びとなるのか……おっと、血が苦手な紳士淑女はどうぞ、目を瞑っていてください。目を瞑ったままでも、掛け金は——……」
 賭け試合が終わったとしても、塔を登る姿さえ、試合の客達に取っては新たな刺激に過ぎないのだろう。その勝敗が、この塔の終わりを意味するなどと思いもしないままに。
「善行と悪行は共に並ぶと思うか」
 青白い光が、扉を向けた先に見えた。白い霧の向こう、声は降りてくる。嘲笑とも、殺意とも違う、低い問いかけであった。
「我を悪と断じれば、貴様等は己が善として行った全てと向き合うこととなるだろう。それを善行と告げられるか」
 或いは己の悪行を、正しく悪であったと。
 響く声音は、オブリビオンの気配を有していた。この塔の主、城主たる存在——己を、神へと昇華せんとする、真の神を目指すもの。
「我は構わん。どれ程の意味を、どれ程の理由を、我に掲げうが、捧げようともな」
 禍つ黒蝕のスパダフォーラは、霧の向こう、塔の上から猟兵達に告げた。
「混在となれ。善行と悪行の全てに塗れ、魔神たるこの身に相応しき贄となれ」
 それこそが役目であると言うように。

●首の無い騎士達
 霧が、晴れる。顔を上げれば、上へ、上へと向かう螺旋階段が見える。階段の幅は広く、だが他の猟兵達の姿が見えない。共に進むもの以外は、見えぬのだろう。
 嘗て、この地は何に使われていたのか。
 祈りがあったか、将又流刑の地であったのか。
 永劫塔の頂上へと向かう道は長く、その向こうに、ガシャン、ガシャン、と古びた鎧の音がした。
「ァアアアアア……」
「ァア。ァアアアアア……」
 首の無い騎士達だ。剣に斧、槍と様々な武器を持つ彼らは、皆、頂上に辿り着けずに死んだもの達か。ただ一人だけが、城主に挑むことができる。そのルールを思えば、この地で殺し合いが起きたことは想像もできる。
「ァア。アアアア……」
 首の無い騎士は、鎧を震わせるように声を零す。その叫びは、怒りか苦しみか、或いは後悔か。その何れであるかなど、生者には知ることは出来ず——だが、引き裂かれ残された死者の残滓は、君達に一つの幻影を見せるかもしれない。
 嘗ての善行を。
 嘗ての悪行を。
 ——或いは『そう』だと思っているものを。
 幻影を見ぬ者もいるだろう。彼らの叫びを聞き、振るう一撃を以て道を開かねば塔の頂上には辿り着けない。
 ——神を目指す者を、地に下ろす為に。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第二章受付期間:5月21日8:31〜5月24日

●首なしの騎士達について
▷剣装備
▷槍装備
▷斧装備
 他、ご指定があればなんでもどうぞ。

●首なし騎士の見せる幻影について
 嘗ての悪行、嘗ての善行、そう思っていたものを見せたりしてきます。
 例:一番強いお前が行くべきだ、と殺されることを選んだ友の幻影が見えたのだ……。

 見る、見ないはご自由にどうぞ(フレーバーです)

◆―――――――――――――――――――――◆
 
シル・ウィンディア
何が悪か、何が善か…
そんなのわからないもん
わたしは…。わたしが大好きな人たちが笑顔でいてくれるならそれでいい
それで誰かを傷つけても…
それが、悪といわれても、善といわれても…
わたしは、わたしの信じる道を生きるだけっ!
善でも悪でもどっちでも決めればいいよ

亡霊騎士様には光刃剣と精霊剣を束ねた大剣モードでお相手
地上すれすれを【空中機動】で飛んですれ違いざまに大剣で切り抜けるよ

ま、それで何とかなれば苦労はしないね
本命は…
【高速詠唱】を行いつつ、【残像】を生み出して攪乱機動を行ってからのエレメンタル・スラッシュっ!

さすがに、大型砲撃系はまだ使うわけにはいかないしね
さぁ、待ってなさい、今から行くからねっ!



●わたしの信じる道を、と少女は告げた
 長く、尾を引くように騎士達の声が響いていた。首の無い騎士たちは、その意思と擦り切れた魂だけを鎧に封じられ、或いは己の死にさえ気がつけぬままに永劫塔のひとつとして、シル・ウィンディア(f03964)の前に立ちはだかっていた。
「ァアアアアア」
「ァアアアアアアア、ァアアアア」
 その声は呻き声に似て、同時に嘆きとも悲鳴とも似ていた。
「……」
 ここは死に満ちている。
 すぅ、と浅くシルは息を吸う。少女の頬に、下る騎士達の影が落ちた。視線を上げれば、階段を滑り降りる霧が——揺れる。人影とも、街中とも似たそれに思い出すのは禍つ黒蝕のスパダフォーラの言葉だった。
『我を悪と断じれば、貴様等は己が善として行った全てと向き合うこととなるだろう』
 善行と悪行は共に並ぶものであるのか。
 善行とした行為は、ある種の悪行では無いのか。或いは悪行として成した行為は、ある種の善行であったのではないか。
「何が悪か、何が善か……そんなのわからないもん」
 己を真の神へと昇華すべくスパダフォーラの紡ぎ落とした言葉に、シルは真っ直ぐに答えを告げる。
「わたしは……。わたしが大好きな人たちが笑顔でいてくれるならそれでいい」
 少女の手の中にあったのは、二振りの刃であった。ひとつは光刃の剣・エレメンティア。あと一つは精霊剣。二振りの光の剣をシルは束ねる。高く、掲げる。この闇を、切り裂く刃となるように、己の覚悟をひとつ告げるように。
「それで誰かを傷つけても……それが、悪といわれても、善といわれても……」
 光が揺れる。永劫塔の薄闇の中、切り裂くように精霊達が歌う。
「わたしは、わたしの信じる道を生きるだけっ!」
 二つの剣を束ね、シルの手に大剣が落ちる。その柄をしっかりと握り少女は——飛ぶ。
「善でも悪でもどっちでも決めればいいよ」
「ァアアアアアアア!」
 踏み込みに首なしの騎士が反応する。上段から一気に振り下ろされる刃が、ゴォオ、と風を生んだ。だが、シルは構わず地上すれすれを飛ぶ。階段を蹴り上がるように、身を浮かしたまま、一歩、二歩。届く剣圧に構わず剣を——振る。
 ギィイイイ、とシルの大剣が、騎士の鎧を切り裂いた。火花が散り、だが、感触が淡い、と思う。魂、魔力。そういったものの気配は薄い。
「浅い、よね。やっぱり」
 すれ違い様、切り抜けた少女は、飛び込んだ先で足を止める。きゅ、と床を掴み、反射的に大剣を振り上げた。
「ァアアアアアア」
「ま、あれ何とかなれば苦労はしないね」
 一撃を受け止める。は、と息を吐き、弾き上げれば僅かばかり、空間が空く。大剣の一振り。それだけの空間を——剣の間合いを、少女は正しく認識する。
「世界を司る精霊たちよ、集いて光の剣となり」
 歌うように告げる詠唱は口早に、展開される魔方陣と共に踏み込む。次は駆け抜けない。相手の間合い、その不覚に一度飛び込み——刃を、見る。
「ァアアアアア!」
 狙ってくるよね、とシルは思う。亡霊達に最早、意思はなく。生者の命をただ狙うのであれば精霊術士は道を開く。この地には無い、光を以て。
「すべてを斬り裂けっ」
 刃は、身を前に跳ばしたシルの残像を貫く。背に感じた風に、迷う事無く振り返る。鋒を向けた先——斬撃が走った。
「エレメンタル・スラッシュ!」
 それは、光の剣。
 火・水・風・土、その四つの属性を束ね、生み出された光の刃が首なしの騎士達を切り裂き——崩す。永久の終わりに、漸くの眠りに、膝をつき、剣を残して彼らは消える。
「うん、いってくるね」
 告げる言葉が、行くと告げたか。
 少女は倒れた影にだけ告げて、階段の遙か上——塔の頂上を見る。うん、さすがに、大型砲撃系はまだ使う訳にはいかない。ひたすらに登って、倒して——目指すだけだ。
「さぁ、待ってなさい、今から行くからねっ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
常識で言う、良い事悪い事。理解はしてるつもり
でもそれより、自分がどうしたいかの方が大切やから
助けたいと思ったら助けるし、旅の邪魔になるなら誰だろうと海に還す
他人がどう思うかなんて関係無い
私は私の旅を続けるだけ

騎士達を斬り伏せつつ
一歩一歩、踏み締めて登っていく
名誉の為。誰かを守る為。お金の為。
何の為であっても、強い想いは力になると思う
この塔の前では足りなかったみたいやけど…
だから私が代わりに…なんて思わない
既に過去になってしまったあなた達の想いを背負って戦えるほど
私は優しくないから

この塔を登るのも、旅の思い出を増やす為
神様なんて、凄いモノになろうとしてるヒトがどんなヒトなのか、会ってみたいんです



●私は私の旅を続けるだけ、と彼女は告げる
 上へ、上へ。ただ目指す為だけにある螺旋階段は、冷えた空気を下ろす。闘技場にあった熱は今や遠く、ただ足音ばかりが大きく聞こえるのは観客の姿が無いからか——或いは、降りてくる騎士達が理由か。
「ァアアアア」
「ァア、ァアアアァ、ァアアア」
 首の無い騎士の呻き声は、果たして何処から生まれているのか。握る剣が、槍だけが朧気な気配で行く騎士達をこの地に縫い付けている。長剣の見せる影に、軋む鎧の音に春乃・結希(f24164)は視線を上げた。
「常識で言う、良い事悪い事。理解はしてるつもり」
 薄く唇を開く。一歩、また一歩、降りてくる騎士の影が指先に触れる。あと少しで騎士の長剣の間合いに入るのだろう。零れ落ちる殺意は、死者が生者に向けるただそれだけに、呻き声が螺旋階段に響き渡る。
「でもそれより、自分がどうしたいかの方が大切やから」
 振り下ろすより先、真っ直ぐに突きつけられた鋒に結希はきつく漆黒の大剣を握る。手に残る重さと共に——withと共に、結希は騎士へと視線を返した。
「助けたいと思ったら助けるし、旅の邪魔になるなら誰だろうと海に還す」
 それが誰にとっての善行でも、同時に誰かにとっての悪行であっても関係ない。
「他人がどう思うかなんて関係無い」
 鈍く光る鋒に、騎士達をこの姿にして縫い付けた者へ結希は真っ直ぐに告げた。
「私は私の旅を続けるだけ」
「ァアアアアア!」
 突きつけられていた剣が緩く下がり、首なしの騎士が踏み込んできた。2段、一気に飛び降りるようにしてきた相手の刃を結希は受け止める。
「with」
 強く大切なその名を呼ぶ。最愛の恋人である大剣。火花を散らし、首なしの騎士の突きを刀身に滑らせ、僅か、結希は身を沈める。相手の重さが一気にかかってくる。——だが、それで構わない。相手が、倒れてくるのだから。
(「だから、前へ」)
 騎士の影の、横を抜けるようにして火花と共に結希は行く。
「私が、最強でいられる理由」
 だん、と一気に横を抜け、振り返った先、首なしの騎士が振り返ると同時に全身全霊を込めて『with』を振り下ろす。
 それは絶対的自信の根源。
 強く握る剣と共に、結希は正面の騎士を切り伏せる。背後、聞こえた呻き声に反射的に横に飛ぶ。階段の幅は認識してる。結構に広いし、何より旅慣れはしてるのだ。道の足元も、結構ちゃんと見てる。
「何より……」
 浅く、吐いた息と共に鋒を下げて斬り込む。
「ァアアアアァアアア!」
「名誉の為。誰かを守る為。お金の為。何の為であっても、強い想いは力になると思う」
 ある者は膝をつくようにして倒れ、ある者は空を仰ぐように倒れた。漏れる声は後悔に、怨嗟に、或いは僅かばかりの安堵を滲ませる。その全ては城主に向けた彼らの嘗ての叫びだった。
「この塔の前では足りなかったみたいやけど……。だから私が代わりに……なんて思わない」
 斬り伏せ、踏み込み結希は前に行く。一歩を踏み込む。降りていく、終えていく——辿り着けなかった彼らより前に。
「既に過去になってしまったあなた達の想いを背負って戦えるほど、私は優しくないから」
 きつく、きつく結希は漆黒の大剣を握る。前を見る。ガシャン、と最後の騎士が崩れ落ちる。すれ違い様に見えた姿に、目を伏せる事無く。
(「この塔を登るのも、旅の思い出を増やす為」)
 冷えた風が結希の頬を撫でる。揺れる髪をそのままに、結希は真っ直ぐ黒の瞳を向けた。
「神様なんて、凄いモノになろうとしてるヒトがどんなヒトなのか、会ってみたいんです」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム
善行か悪行か。「これまで」は果たして

ふふ、私は蛮人、頭で考えません
少なくとも、私の闘いが善行であると
思ったことはありませんよ

戦士として猟兵として
為すべきことをしているに過ぎないから

私の【野生の勘】が示すオブリビオン――許せない者を穿つ、
その先に少しでも守れる人々の幸せがあればいい

重装備の亡霊騎士には、
【力溜め】た【怪力】での重い重い斬撃
いかな装甲とで、この【鎧無視攻撃】の一撃で
打倒す――

きっとまだ起き上がるのでしょうね
ならばこそ、次はありったけの闘気…
【オーラ防御】を纏う武器、いえ体そのものでの
【踏みつけ】《トランスクラッシュ》の一撃

亡霊騎士を沈黙させたら、
【ダッシュ】で迅速に先を急ぎましょう



●その先に少しでも、と少女は笑った
 高く、高く、ただ上を目指す為だけに作られた場所であった。登る為というには不釣り合いな広さを持つ螺旋階段には、戦いの跡がある。刃が滑ったか、炎が床を舐めたのか。歪み、裂けたその地に臆する理由など、ユーフィ・バウム(f14574)には一つも無かった。
「善行か悪行か。「これまで」は果たして」
 戦いも、戦う場も少女は知っている。
 小さく落とした息と共に、ユーフィは視線を上げた。一歩、一歩と、聞こえてくる足音は首なし騎士のものだ。足音からして、武器も鎧も重い。ユーフィの知る密林とは違い、ここは硬く重い足音は全て響く。耳を澄まさずとも、木々と共にその音を探さずとも——戦うべき相手の姿が見える。
「ァア、ァアアアアアアアアアア」
 踊り場にて、首の無い騎士が立っていた。一体、先に来たのか。巨大な斧を持つ騎士は、黒塗りの鎧に獣の意匠をつけていた。吼える獅子の紋章を掲げ、首を落とされた騎士は——だが、射貫くような視線をユーフィに向ける。
「——」
 その一瞬に、呻き声は無かった。ただゆっくりと向けられた体に、斧に影が生まれる。ユーフィをすっぽりと包むような影、濃い暗がりが少女の銀色の髪を揺らす。
「ふふ、私は蛮人、頭で考えません」
 その威圧に、ユーフィは静かな微笑みと共に応えた。おっとりとした優しい雰囲気はそのままに、だが空色の瞳は真っ直ぐに相手を見る。
「少なくとも、私の闘いが善行であると思ったことはありませんよ」
 ガシャン、と鈍い音が響く。騎士のものではない、ユーフィの持つ剣・ディアボロスだ。部族に伝わる創世の大剣を叩き直し作り上げた大型の武器は、荒く——だが、だからこそ美しい。
「戦士として猟兵として、為すべきことをしているに過ぎないから」
 身の丈以上ある武器を片手で持ち上げユーフィは告げる。戦士の矜持と共に、
「私の野生の勘が示すオブリビオン――許せない者を穿つ、その先に少しでも守れる人々の幸せがあればいい」
「ァアアアアア!」
 咆吼は、戦いの始まりを告げたか。或いは、死者が生者を狙う為だけのそれか。ダン、と荒く、階段を降りるよりも半ば、飛び降りてきた巨体にユーフィは踏み込む。大上段より、一気に振り下ろされてきた大斧を、己の刃で受け止める。
 ——ガウン、と重い音がした。派手に火花が散り、ユーフィの足元、床が砕ける。
「ァアアアア、ァアアア!」
「えぇ。受け止めましょう、その一撃。わたしの全力を以て」
 分厚い斧は、斬るより叩き割る為にあるのだろう。その重さでユーフィの剣さえ折ろうと、重さを掛ける。だが、一度受け止めて仕舞えば——そこから先、打ち上げる術も少女は知っている。
「私が、蛮人がお相手しましょう」
 強く剣を握る。はぁあああ、と声を上げ、腹に力を入れて一気に——怪力で打ち上げる。
「ァアアア!」
 首なし騎士の斧が浮く。その一瞬に、ユーフィは踏み込む。巨大な武器を、少女もまた、叩き割るように振るった。
「いかな装甲とて、この一撃で……!」
 ギィイイイイン、と重く、鈍い音と共に、ディアボロスが首なし騎士の鎧を割った。肩口から、叩き割られたように軋み、片腕が落ちる。だが、それでも首なしの騎士は立ち上がる。
「ァア、ァアアア!」
 咆吼に僅かばかりの喜悦が滲む。強者と出会った事実に、笑うような気配はこの騎士が嘗て有していたものか。魂の名残か。今や、ただこの地に縫い付けられるだけの存在となり、挑戦者をただ刈り続けていた首なしの騎士が、今、戦いの為だけの斧を構え直し——来る。
「ァアアアアア!」
 深く、沈み込んでの斬り上げ。巨体が振るう斧は風を招く。ゴォオオ、と届く風に、靡く髪に——だが、ユーフィは構わず踏み込んだ。刃ではない、今はこの体そのものを以て。
「鍛えられた肉体を、めいっぱい叩き込みますっ!」
 闘気を纏うその体こそ、最大の武器となる。
 全力のボディアタックに、騎士の体が揺らぎ、ぐらりと倒れる。呻く声も消えれば、騎士は青白い光の中に消えていく。——この地の果て、塔の頂上にいる存在を倒せば、彼らも漸くの眠りに辿り着けるだろう。上を目指し、ユーフィは駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
己が悪行など、叩けば埃のようにありますがね。
言葉遊びでしょうか?
……いや。あれは。

組織が望むまま、奪い、騙し、殺した。
そこに『僕』の意思は必要なかった。
『それら』を教えた人。かつて殺したはずの幻影。

……あれは、彼を殺したことは、
果たして悪行だったのか善行だったのか。今も分かりませんが。

まあ、今更知ったことではありませんね。
『月影も照らさぬ無貌の星』で幻影ごと滅ぼしましょう。
攻撃力を5倍、装甲を半分に。

首のない騎士。個性のないもの。
……さて。ほんの少しも親近感を覚えないかと言われると嘘になりますか。
でもまあ、同じ末路を辿る気は更々ないものですから。


※アドリブ大歓迎です!



●まあ、今更、と男は吐息を零す
 長く、ただ上に向かう階段がそこにはあった。登らせる気など、そも無いのだろう。此処に足を踏み入れる者は皆、上を目指すものだ。ただひとりが禍つ黒蝕のスパダフォーラに挑むことができるという闘技場のルールは、此処に来て彼らを二度目の戦いに誘うのだろう。
「……」
 だからこそ、階段は所々に欠け、剣の跡を残し、美しく飾り立てられた壁にさえ、剔り取られた跡を残す。派手に斬り合ったのだろう。元より、手すりも無い螺旋階段は幅の広い傾斜を持つ戦場に過ぎない。上を取れれば、戦い易いのか、或いはただ一人を選ぶ為に身を捧げた者もいたのか。
『善行と悪行は共に並ぶと思うか』
 だから、あんなことをスパダフォーラは告げたのか。その善行は、何処から見てもただの善行なのか、と。その悪行は、誰から見てもただの悪行に過ぎぬのか、と。
「己が悪行など、叩けば埃のようにありますがね」
 さらり、と八上・玖寂(f00033)は告げる。ひとつ、ふたつと指折り数えずとも、足跡が如く残っていると言えば良いのか。そも、足跡を残すように言われなければ、そんな仕事はしないが。
「言葉遊びでしょうか?」
 息をひとつ落とす。ただでさえ長い階段を上がる必要があるのだ。重く聞こえる足音は、この地に縫い付けられた者達だろう。弧を描く階段が、長い影を落としている。首の無い騎士達。呻き声に僅かに瞳を細め——玖寂は瞳を細める。一段、階段を上す筈だった足が、止まる。
「……いや、あれは」
 影が、見えていた。青白い影が、やがて輪郭を描く。一歩、一歩、重く聞こえてきた騎士の足音が変わっていく。音がある。足音がある。気配など容易く殺し、容易く紡ぎ、己が足音など、世界に落とす影など容易く演じ作り分けた——……。
「……」
 それは、玖寂の知る者であった。
 手袋の下、指先が僅かに動く。過去が玖寂を喚ぶ。
(「組織が望むまま、奪い、騙し、殺した。そこに『僕』の意思は必要なかった」)
 『それら』を教えた人。かつて殺したはずの幻影。凡そ、世に影など最早落とせぬ筈のひとが、そこに立っていた。
『   』
 向けられる視線の、薄く開いた唇は言葉を形作ったか。或いは吐息を零しただけか。笑みの類いか。
「……あれは、彼を殺したことは」
 浅く玖寂は息を吐く。冷えた指先に力を入れる。僅か瞳を伏せ、だが次の瞬間には男は悠然とした笑みを浮かべる。
「果たして悪行だったのか善行だったのか。今も分かりませんが」
 底の知れぬ笑みと共に指先を振るう。キィン、と高い音と共に鋼糸が展開される。張り巡らすは鋼の檻。鈍く光りさえ落とさずに——だが、糸は男の手を離れていく。
「まあ、今更知ったことではありませんね」
 トン、と音も無く、一振りの忍刀に暗器は変わる。逆手に構えた瞬間、玖寂は床を蹴った。武器は手放さない。斬り込み——幻影ごと、一気に刃に掛ける。青白い霧が解け、眼前の空気が変わる。落ちた影。騎士の刃が、緩く来る。攻撃ではない——ただ、落ちてきたのだ。
「ァア、ァア……!」
 無貌の星は、月影を照らさずとも。忍刀は、鈍い光さえ返さずに鎧の核さえも貫いていた。一撃は重く、この身の護りを半分にして。自ら手を下す確実性を好む玖寂にとって、間合い深く踏み込むことも知っている。相手の影を踏むこの位置も。
「ァア、ァアアア!」
「首のない騎士。個性のないもの。……さて。ほんの少しも親近感を覚えないかと言われると嘘になりますか」
 剣を落とし、拳ばかり僅かに振るってきた首の無い騎士を玖寂は避ける。僅か、身を逸らすだけで見送れば、ガシャン、と派手な音をたてて首の無い騎士は膝をつく。
「——ァア、ア」
 言葉さえ失い、声だけを残し。この地に縫い付けられ、ただ機能としてあった亡霊を玖寂は一度だけ見据えた。
「でもまあ、同じ末路を辿る気は更々ないものですから」
 霧に飲まれるようにして消えた騎士に玖寂は背を向ける。長く続く階段の先から、冷えた空気と血の臭いが届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒金・鈊
頭がないというのは不便だな。
死んだことにも気付かん。

上をとられているのは気に食わんが、相手の得物が剣ならば不利とはいうまい
密かに、いつでも炎を使えるように備え。
こちらも剣だと誘うように、間合いへ誘いながら、迎え撃つ。

叫喚に呼び起こされるのは、身を焼く炎。
滅びを眺めるしかできなかった、役立たずの己。
死ぬ事もできず彷徨う亡霊に過ぎぬ己……。

俺の悪行は、無意味であること。
しかし、そんな路傍の石を拾う物好きもいるらしい。

ならば、価値を示すまで。

剣筋を見、剣を受ける事に注力。
此方は剣を剣で抑えたまま、反撃は地獄の炎を操り、焼き尽くそう。

同じ死者だとしても。
頭持つ身が……負けるわけにはいかないだろう。



●ならば、と男は息を吐いた
 冷えた空気が頬を撫でた。熱狂が遠ざかったからか、狂乱が失せたからか。は、と息を一つ落とし黒金・鈊(f19001)は視線を上げる。
「……」
 凡そ、人が登る事など考えていない階段は、それを望むものが使う為の道筋なのだろう。ただひとり、と城主が決め、それだけが守られると知った者達が挑み続ける為の道のひとつ。幅の広い階段には、武器を振り下ろした跡が残り、壁に残された傷跡は爪に似た武器でもあったのか、削るように上に向かった者は——果たして辿りついたのか、或いは。
「頭がないというのは不便だな」
 飴色の瞳がひたりと見据えた先、鈊が捉えていたのは影であった。長く続く影。人のそれよりは僅かに大きいのは上段にいるからか。ガシャン、ガシャン、と派手に聞こえてきた足音に剣に手を添える。
「死んだことにも気付かん」
「ァア、ァアアアアアア」
 螺旋階段の一角、首の無い騎士は、ただ一度だけ身を揺らす。頭など無いというのに、ゆっくりと持ち上げられた剣は寸分違わず鈊を捉えていた。
「ァア、ァアアア……」
 派手な足音が止まる。鋼の巡礼が濃く影を落とす。
(「——来るか」)
 上段より突きつけられた鋒に、鈊は僅かに瞳を細めた。上を取られているのは気に食わないが——相手の獲物が剣ならば不利とは言うまい。刀身はあちらの方が長いか。だが刃の分厚さで言えば鈊の持つ刀の方が上だろう。鯉口を切る。浅く、切った指先から零れた赤を袖口に隠し——鈊は、刀を抜く。
「……」
 こちらも剣だと誘うように、僅かに足を引く。は、と鈊が息を吐くのと、首なしの騎士が、荒く踏み込んだのは——同時だ。
「ァアアアアアア!」
 上段から一気に、飛び降りるようにしてきたのは突きであった。半ば突進に近い一撃に、鈊は身を横に飛ばす。引いた足を基点に、鈍器めいた己の刀を下げる。重く、打つような一撃は覚えがある。螺旋階段の壁面に足をつき、は、と顔を上げれば再びの叫びが耳に届いていた。
「ァアアア、ァアアアア!」
「——」
 その声に、僅か息を飲む。叫ぶ声は首なし騎士のものであった筈だというのに、何かがちらつく。火花。火の粉。叫喚に呼び起こされるのは、身を焼く炎であった。足元から、湧き上がるように炎が来る。擦る足元から全てを焼き尽くすように、立ち尽くす鈊の肌を舐めるように炎が這い上がる。
「……」
 それは、滅びを眺めるしかできなかった、役立たずの己。
「死ぬ事もできず彷徨う亡霊に過ぎぬ己……」
 なぞるように鈊は幻影に告げる。あぁ、そうだろう。とうに分かっている、と鈊は口の端を上げる。
「俺の悪行は、無意味であること」
 片腕に触れる衣が揺れた。右腕は鋼の焔。衣は撫でるように通り過ぎ——だが、熱は残っていた。
「しかし、そんな路傍の石を拾う物好きもいるらしい」
 独り言めいた言葉が、音となって響いたのは真実この地に一人であったからか。件の物好きが聞けば物好きはどちらだと笑ったことだろうが——。
「ならば、価値を示すまで」
 剣であれば、その価値を。
 息を吐き、低く構えを取れば再び首の無い騎士の一撃が来た。
「ァアアアアアア!」
 下段から、床を削るようにして刃が滑り込む。真っ先に首を払いに来た一撃に、鈊は薄く笑う。振り上げた刀で受け止めれば、派手に火花が散った。
「ァア、ァアアアア!」
 ギリギリ、と鋼と鋼がぶつかり合う。一撃の重さを受け止めるように刀に手を添える。右の腕から地獄の炎が——零れた。
「同じ死者だとしても」
 鋼の焔は刃に這う。熱が射干玉の髪を揺らす。首を、頬を撫でていく焔は鈊の焼く事は無く——首の無い騎士に、届いた。
「頭持つ身が……負けるわけにはいかないだろう」
「ァア、ア」
 地獄の炎が、騎士を焼き尽くす。最後、落ちた声が響かせた怨嗟は城主へと挑んだ嘗ての騎士の名残か。灰の一つも残さずにこの地に縫い付けられた騎士が崩れれば、ただ上へと続く長い螺旋階段だけが残されていた。
「……上、か」
 相変わらず、無駄に登らせる道だと息をついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
『善行と悪行は共に並ぶか』?
その問い自体、欠伸が出る程くだらない。

善とか悪とか、そんな各々違うもの、
いちいち名前や意味を与えて分けたがるから面倒なんですよ。
人間ってヤツは。
そこには“事実”しかない。
善悪なんて後で誰かが勝手に考えるでしょ。

さぁ。じゃ、ねじ伏せますね。

首が無いのは面倒だ。
が、周りを気にしないで済む狭所ってのは良い。
壁に床に天井に、張るワイヤー。
地も空も己が領域。
一度に攻め来る数、リーチ。各々の鎧の形状、狙い所。
踏込み、腕の動き、攻撃の兆し…
凡ゆるを見切り、階段を、壁を、天井を踏み。
武器持つ腕、踏み締める足、細い腰部…
巻き絡げるは鋼糸。
放つ
――拾式

神は、善悪なんざ考えもしないもんさ



●神は、と青年は静かに告げた
 歓声と怒号、狂気と狂乱に満ちた地へと帰る道が閉ざされれば、その地は静寂を甘受していた。長く尾を引くような咆吼があれど、ガシャン、ガシャン、と重く響く足音があれど、随分と静かに思える。
「……」
 戦場に於ける静寂はささやかな間だ。平和が、戦争の合間の小休止に過ぎないと笑い告げられるように、次の死地の気配と静寂は共にやってくる。
「『善行と悪行は共に並ぶか』?」
 塔の頂上より降ろされた声は、その気配をとうに消していた。真の神に至らんとするオブリビオンにとってみれば、その問いかけは神としての言葉であったのか。
『我を悪と断じれば、貴様等は己が善として行った全てと向き合うこととなるだろう。それを善行と告げられるか』
 城主を——塔の主を殺すそれを善行とすれば、ただ一つの悪行も無いのか、と。或いは悪行と言っても善行たり得ぬのかと問うのだろう。そうして、真の神に至ろうとする存在の所業全ても悪と言えるかと。闘技場で狂乱に身を委ねる者達が、闘技場の騎士達が日々を暮らしていけるそれを見ても、と。
「その問い自体、欠伸が出る程くだらない」
 吐き出した息ひとつ、クロト・ラトキエ(f00472)は視線を上げる。射貫くほど、冷えた瞳が上階を捉えていた。
「善とか悪とか、そんな各々違うもの、いちいち名前や意味を与えて分けたがるから面倒なんですよ」
 冷えた風が髪を揺らす。柔らかな黒髪が頬に触れ、薄く開いた唇は静かな笑みを描いた。
「人間ってヤツは」
 柔く作った笑みと共にクロトは告げる。
「そこには“事実”しかない。善悪なんて後で誰かが勝手に考えるでしょ」
 一度だけクロトは瞳を伏せる。青の瞳が世界を閉じ、音を拾う。上階で聞こえてきていた足音が近づいてきている。音の大きさは変わらない——だが、僅か、片足分が重いか。ならば、獲物は——……。
(「片手武器、刀身より刃に厚みがある……」)
 ならば、と薄く唇から音を零す。言葉として響かせたのは、足音より強く『それ』の気配を感じたからだ。
「ァア、ァアアアアアア!」
「さぁ。じゃ、ねじ伏せますね」
 叫びは踏み込みより早く来る。視線を上げた先、クロトの読み通り首の無い騎士は片手持ちの剣を構えてきた。一段、二段、律儀に降りてきたのはそこまでに、残りは一気に——来る。
「ァアアアアア!」
「……」
 飛びかかるように一気に振り下ろされた剣にクロトは一度だけ後ろに引く。軽く一度、鋒は靴先に僅かに触れて——終わる。斬撃ひとつで穴があくような靴では無いが、無駄に汚す理由も無い。もう一度、今度は大きく跳びながらワイヤーを放つ。壁を基点に、背後に一カ所足場を作り上げれば、荒い騎士の踏み込みにクロトは空を取る。
「ァア、ァアアア!」
「首が無いのは面倒だ」
 だが、とクロトは張り巡らせたワイヤーを足場に、身を宙に飛ばす。地も空もが己が領域。追うように来た剣を躱し、ワイヤーを足場に背後に回り込む。一拍の後、振り返る騎士に合わせて、上を——取る。
「ァアア、ァアア!」
 ワイヤーの上に立ち、一度視線を落とした男に騎士が吼える。そこに滲む怨嗟も怒りも、全て生者であった頃に城主へと向けたものか。今やただ、この地に縫い付けられ、塔の歯車の一つとなった騎士の刃に、ワイヤーを断ち切ろうとする一撃に壁を蹴る。斜めに、一気に飛べば足裏で掴んだのは天井だ。
「――拾式」
 騎士の腕が止まる。ひゅん、と絡み巻き付いたのは鋼糸。踏み込む足に、細い腰に巻き絡げれば首の無い騎士の動きが止まる。
「断截」
 鋼糸を引く。ギ、と軋む音が零れた次の瞬間、自在に絶つ糸の檻は首の無い騎士を——断つ。腕が落ち、細い腰が砕ければ核を失い首の無い騎士は崩れ落ちた。
「ァア、ァアアアア……」
 膝をつき、最後、騎士の落とした剣が霧に攫われていく。城主の仕業か——或いは、あれが居続ける限り塔は次の骸を贄とするのか
「神は、善悪なんざ考えもしないもんさ」
 頂上にて待ち受ける存在に、そう呟いてクロトは先を目指す。善悪の関係なく——ただ、己が道行きの侭に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

そこにいるのは貌無し騎士
きっと彼らも…
今はそれよりもあの子の姿を探す
大丈夫だとわかっていても

小さな……女の子
村人達は優しかった
誰かもわからない少年を村人として受け入れてくれた
永遠に続くと思う、幸せ

〝あか〝が欲しかった
無だった少年に〝あかいろ〝は毒であり刺激的だった
あの男に操られて…
本当にそうか?
あの時の俺の心は?
あの男だけの『悪行』なのか

今でも自問自答する
ふと触れるあたたかな手

小さな……娘
怪我ない姿にホッとして
悪でも善でもどうでもいい
この小さな手を護れれば

あの人達を解放して楽にしてあげようね

獄導
怒りや恐怖や悲しみも地獄へと


ルーシー・ブルーベル
【月光】

貌無し騎士さん達の叫声はどこか哀しい
いえ、それより
ゆぇパパは?


小さな杯に赤い命が満たされる
青花を冠する一族なのに
血は赤いのね、って
最初は不思議に思ったっけ

銀盆に乗ったそれを
一息にあおる

決しておいしくはない
でもこうしなくては青花は
裡に住むUDCは生きられない
青花を神と信仰するブルーベルの一族にとって
これが「善行」

善だ悪だ
一色で語れるものか
まして誰かに掲げるものじゃない

ゆぇパパ!
一体何が見えてる?
視線が合えば安堵して
善悪関係ない
ルーシーがすべきは
パパの手を取る事
この温もりを護る事

うん
あの人たちはこのままではいけないもの

ふたつ花色の怪火を喚ぶわ
花菱草はパパへ
青芥子は騎士さんへ

もうお休みなさい



●誰かに掲げるものじゃない、と少女は告げる
 長く、尾を引くような叫びが螺旋階段に響いていた。階段としての幅は随分と広く、壁のあちらこちらに金や銀の紋章が見える。魔方陣の類いに近いのか——だが、ひとつひとつに力を感じることは無い。意味を無くされたか、或いは、飾りに過ぎないのか。
「ここ……」
 見れば、壁や階段にも戦いの跡が残っていた。重い武器が振るわれたのだろう。深く刻まれた傷に、コツン、とルーシー・ブルーベル(f11656)の靴が触れれば、欠け落ちた破片が砂に変える。足早に崩れ去ったそれに、少女は足を止める。冷えた風に金色の髪が揺れた。
「……」
「ァア、ァアアアア」
 風に乗り、首の無い騎士の叫びが強く響く。ガシャン、ガシャンと派手に聞こえる足音は、身を隠す気など何ひとつ無いからだろう。一歩、また一歩と近づいてくる鋼の行列が少女の体を影に包む。黒い鎧が生んだ影か、或いは持ち上げられた大鎌か。
「ァアア、ァアアアアア」
「ァアァアアアアアア」
 そこに、騎士達の嘗ての意思などなく。落ちる叫び声はどこか哀しい——そう、ルーシーは思う。
「いえ、それより、ゆぇパパは?」
 パパ、ときゅ、とぬいぐるみを抱きしめる。どこにいるの、と淡く紡ぎ落とした筈の言葉が、幻影に攫われた。
『    』
「……」
 誰かが、ルーシーを呼んでいる。小さな杯が差し出される。杯に満たされるのは赤い命。
(「青花を冠する一族なのに、血は赤いのね、って最初は不思議に思ったっけ」)
 銀盆に乗ったそれを、ルーシーは一気にあおる。決しておいしくは無い。でもこうしなくては青花は——裡に住むUDCは生きられない。
「青花を神と信仰するブルーベルの一族にとって
これが「善行」」
 ブルーベル家の後継者として、再興を期待される少女にも良く分かっている。この身を染める程に。
「善だ悪だ。一色で語れるものか」
 まして、とルーシーは視線を上げる。手にしていた小さな杯が——幻影がかき消されていく。
「誰かに掲げるものじゃない」
 かみさまになろうと言うようなものに、勝手に上げるようなものじゃない。あげるようなものでもない。言の葉を返した少女に、風が吹く。冷えた風はルーシーの金色の髪を揺らし、青の片眼に探し続けた白を見つけた。
「ゆぇパパ!」
「……」
 駆け寄った少女の声に、朧・ユェー(f06712)は応えない。ただ一点を見据えたまま、唇を引き結んだ人にルーシーは、そう、と手を伸ばした。
「一体何が見えてる?」
 
●あの時の己の心は? と男は思う
 冷えた風が頬を撫でていた。闘技場の熱狂は遠く、狂乱と怒号が去り、喝采が消え失せればユェーの目に見えていたのは首の無い騎士の姿だった。
「ァアア、ァアアアアア」
「きっと彼らも……」
 この地に挑み、そして破れたのだろう。或いは、ただ一人が挑めるという決まりに殉ずるように死を選んだのか。何かを、誰かを守るために。
「……」
 壁に残された剔るような跡に、ユェーは指先で触れる。憂いよりも、今は、あの子の姿が見えないのは心配だった。大丈夫だとわかっていても、心配しないのとは違う。
「ルーシー……」
 ルーシーちゃん、とそう続く筈だった言葉が空を切る。目の前に、ひとり立つ姿が見えていたのだ。
「小さな……女の子」
 紡ぎ落とした声は揺れていたか。
 村人達は優しかった。誰かもわからない少年を村人として受け入れてくれた。
(「永遠に続くと思う、幸せ」)
 けれど——衝動が、あった。或いは欲望だったのか。
『〝あか〝が欲しかった』
 無だった少年に〝あかいろ〝は毒であり刺激的だった。
『あの男に操られて……』
 一人立ち竦む少年が告げる。
「本当にそうか?」
 白銀の髪を揺らす男は告げる。
 ひたり、見据える少年の瞳に、肩越しに見る“あか”に。
「あの時の俺の心は? あの男だけの『悪行』なのか」
 今でも自問自答する。答えなど得られぬまま、浮かぶ言葉は都合の良いそれに過ぎないのでは無いかと、そう——……。
「……見えてる?」
「——」
 血に濡れた幻の向こう、濡れた靴先が、あと一歩を進む前に声がした。ふと触れるあたたかな手。二度、三度と瞬いたユェーの視界が晴れていく。幻影が消え、紅く染まった過去の代わりに見えたのは柔らかな金色。
「ゆぇパパ」
「小さな……娘」
 青い瞳に出会う。紡ぎ落とした言葉に、ルーシーが頷く。怪我の無い姿に、ほっとしてユェーは娘の名を呼んだ。
「ルーシーちゃん」
「うん。ゆぇパパ」
 きゅ、と握られた手。この子が掴んでくれたのだろう。
(「悪でも善でもどうでもいい。この小さな手を護れれば」)
 抱き上げて無事を確かめるには——流石に、はしゃぎすぎた父親になるだろう。頭を撫でる代わりに、ありがとう、とひとつ告げる。
「あの人達を解放して楽にしてあげようね」
「うん。あの人たちはこのままではいけないもの」
 ほう、とルーシーは息を零す。パパと視線があって安堵したのだ。
(「善悪関係ない。ルーシーがすべきはパパの手を取る事。この温もりを護る事」)
 だからこそ今、二つの花色の怪火を喚ぶ。
「目覚めて、花開く時よ」
 少女の誘いに、空間が揺れる。冷えた空気に僅か花の香りが混じる。ふわり、ふわりと柔く風が揺れ、ルーシーの誘いに花菱草色と蒼芥子色の炎が現れる。守護と加護を紡ぐ花菱草色をユェーに届け、ルーシーは首の無い騎士を見た。
「もうお休みなさい」
 蒼芥子の炎が、首の無い騎士に届いた。向けられた剣が、僅かに鈍る。それでも踏み込もうとする巨体が濃く影を映す。避けることは無く、ただ真っ直ぐに視線を向けた娘にユェーは、緩く瞳を細めて、騎士に向き直る。
「さぁ、地獄への入り口だよ。いってらっしゃい」
 怒りや恐怖や悲しみも地獄へと。全て昇華し、逝けるように。地獄の使者が首の無い騎士へと手を伸ばす。
「ァア、ァアアア——……」
 無数の手に捕まれ、青芥子が騎士に灯る。その核まで届くように。永久の終わりに、膝を付くようにして姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
――優柔不断な俺にはキツいな、これ

見えるは幻は、あの女の姿
邪神崇拝教団を潰した時に捕縛せず、生き直せとそっと見逃した
後に逆恨みで大きな報復を受けるとも知らず
善意は悪意になって戻って来た

善行は思い上がりだったと
大事な人を失う結果を呼んでしまって
それからずっと俺のせいだって己を責めてきたけど
最近な、やっと自分は別に悪くないって思える様になってきた

その証は、俺が今こうして生きている事だと思う
だから、俺は俺の正義に従って進むと決めたんだ

首失いし騎士達よ、貴方達の無念は俺が晴らそう
主よ、彼らに救いを与え給え
祈りと共に口ずさむ鎮魂歌
浄化と破魔の力籠めた羽根と花弁で包み込み
今は安らかな眠りに導かれんことを



●だから、と彼は静かに告げた
 たったひとりの彼女に、届けるように。

「ァア、ァアアアアアアア!」
 その叫びは獣に似ていたか。怨嗟とも怒号とも似つかぬ声は首の無い騎士から響いていた。声を出す場など最早無いというのに、それは確かに声と——叫びとして響く。
「――優柔不断な俺にはキツいな、これ」
 生者の気配は、何一つ感じないというのに、血と戦いの気配だけは強くこの地に残っている。は、と一度だけ早乙女・翼(f15830)は息を落とす。螺旋階段に見えた傷は、ここ最近についたものでも無いだろう。床を剔るようについた鈍器に寄る傷、二段を吹き飛ばしたように見えるのは剣戟だろうか。分厚い刃が砕き——だが、先が無い。踊り場より先に刃の痕跡は無く、ただ引き延ばしたような血の跡が見えた。
「ァア、ァアアアアア」
 首の無い騎士の叫びが揺れる。低く低く、響いた男の叫びは空間を歪ませるようにして一つの音に変わる。
『——翼』
 それは翼のよく知った声だった。吐息ひとつ零すように笑って、伏せた瞳で告げられる言葉。
「——」
 紡ぎかけた名が、舌の上に溶ける。愛しいその名を紡ぐ代わりに柘榴色の瞳が捉えたのは『あの日』の始まりの女の姿だった。
『   』
 あの女は己をどう呼んでいたか。
 邪神崇拝教団を潰した時に捕縛せずに、生き直せとそっと見逃した。
『ほら、行くさよ』
『……』
 後に逆恨みで大きな報復を受けるとも知らず。善意は悪意になって戻ってきた。
 消える背を見て、己はどう思った。返る言葉はあったか、これが善行とそう納得しきっていたのか。安堵と共に見送り気がつかなかったのか。
「思い上がりだったと」
 その善行は——あの女を逃がしたことは、己の思い上がりだったと。それが大事な人を失う結果を呼んだのだ。指先から零れ落ちていく命。消える温もり。彼女の声は遠く、あの女の声は聞こえていたか。
「それからずっと俺のせいだって己を責めてきたけど」
 翼は瞳を伏せる。血に染まったような紅い羽が淡く影を落とす。遠く騎士の足音が近づいてきていた。鎧の思い音。鈍く引きずるように聞こえるのは剣か、鎌か。首でも落としに来たか、と翼は薄く笑う。
「最近な、やっと自分は別に悪くないって思える様になってきた」
 吐息ひとつ零すようにして翼はそう言った。今の己があるのが、主の気まぐれだろうが、何だろうが。
 一度、伏せた瞳で、心の中で彼女の名を呼ぶ。
「その証は、俺が今こうして生きている事だと思う」
 あの女の幻を前に、もう立ち竦みはしない。後悔に塗れるだけには成りはしない。告げる言葉は、あの女にではなく、大切な彼女へと——そう、久しぶりの手紙でも出すように翼は告げた。
「だから、俺は俺の正義に従って進むと決めたんだ」
 深く鮮やかな赤の翼を広げる。軽く身を浮かせ、翼は前を見た。羽ばたきをひとつ、幻影が消え去る。迫る刃に青年は前に出た。
「首失いし騎士達よ、貴方達の無念は俺が晴らそう」
「ァアアアアア!」
 ぐん、と低く飛ぶようにして一撃を躱す。本気で首を狙ってきたか。引くように振るわれた刃が浅く翼の背を切る。僅かに散った羽根に、だが構わずに間合い深くに——行く。
「死天使の羽根と彼岸花、死に逝く者に捧げよう」
 抜き払ったサーベルに、首の無い騎士が僅かに身を逸らす。だが、その鋒は巡礼の鋼を貫くことはないままに深紅の鳥の羽根に変わる。
「主よ、彼らに救いを与え給え」
 祈りを、此処に。
 願いを此処に。
 剣の代わりに、舞い上がった羽根が曼珠沙華の花びらが首の無い騎士を包み込む。
「ァア、ァアア——」
 返る刃を翼は避け無かった。ただ迫る気配を感じながら騎士へと手を伸ばす。花びらの包まれるようにして膝を折った嘗ての闘士に。この地の先、城主に挑まんとした騎士に。
「今は安らかな眠りに導かれんことを」
 福音の中、安息を願う。光があなたの道行きを照らすように。
 その旅立ちを見送ると、翼は螺旋階段の上を目指す。一歩、一歩、神よりもいっそ魔王に近い存在に出会う為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
……聞こえる。
今まで殺してきた咎人共の声が……
咎人殺しは善行か?悪行か?
そんなもの考えた事すら無かった。
己が内なる衝動と理性とのせめぎ合いの結果でしかない。
……そんな難しい事は魔神とやらを殺してから考えるさ。

幻影の咎人など恐れるに足らず
真の恐怖は我が身の内にあり
「咎鬼怨魂」
怨念の慟哭で幻を吹き飛ばせ!
どけ、首無し騎士ども。
退かぬなら奴等もこの怨魂に飲み込むまでよ!



●死と祝福 そして恐怖とは
 長く尾を引くような叫びが塔に響く。永劫の名を持つ塔は、上へ、上へと続く螺旋階段を有していた。手すりなど気の利いたものなど無く、だが、幅だけは随分と広い。長物とて容易に振り回せるのだろう。剣で剔ったような跡が壁に残り、そのまま床を撫でていた。僅かな光を残すのは、魔方陣の類いだろうか。力を失って久しいそれに、文字らしい文字など無く——ただ、僅かな祈りがあった気配にナギ・ヌドゥー(f21507)は銀の瞳を細めた。
「ただ一人と、ですか」
 闘技場の勝者には、塔の頂上へと向かう道が開かれた。そして、ただ一人だけが城主に挑むことができる。勝者にはどんな願いを叶えると、そんな話さえ闘技場では耳にしたが——多くは、禍つ黒蝕のスパダフォーラの首を取る為にこの塔を登ったのだろう。
「そして、挑むべき一人の為に全てが礎となった」
 床に深く、刻まれた剣の跡に触れる。血の滲んだ跡が残っている。もう、随分と古いのだろう。軽く触れた指先で破片が落ちる。欠け落ちれば、それはすぐに砂に返った。
「……」
 永劫塔を構成する形を失ったが故か。ただ一度、ナギは息を吐く。少なくとも、この剣を振るった者は暴力に酔う愚か者では無かったのだろう。ひたり、と掌で剣と、斧の跡に触れる。彼らの戦いはどちらかが勝利し——或いは、譲ったのか。派手に争った痕跡は無く、だが斬り合い踏み込んだ名残だけがあった。
「ァア、ァアアアアアア」
「ァア、アアアアア……」
 その、果ても。
「……首の無い騎士ですね」
 ガシャン、ガシャン、と足音が重く響く。大斧を持つ騎士の影が、上段からナギに落ちる。素直に階段を降りてくるのであればあと少し、螺旋階段だ。無茶をすればすぐ来るのだろう。息を吐き、己の裡にある衝動を掬い上げる。あれは、どちらだと視線を向けた瞬間——声が、した。
「……聞こえる」
 囁くように、責めるように。叫ぶように『声』がナギを呼ぶ。今まで殺してきた咎人達の声が、反響するように聞こえていた。
『我を悪と断じれば、貴様等は己が善として行った全てと向き合うこととなるだろう。それを善行と告げられるか』
 騎士達の足音が遠ざかる。オブリビオンの声が頭を過り、飲み込まれるようにして咎人達の声が響く。
「咎人殺しは善行か? 悪行か? そんなもの考えた事すら無かった」
 己が内なる衝動と理性とのせめぎ合いの結果でしかない。そこに善悪の尺度は無く——だが、聞こえる声に、否とは言わぬ。聞こえなかったとも、知らなかったともナギは言いはしなかった。
「……そんな難しい事は魔神とやらを殺してから考えるさ」
 僅か瞳を伏せて、ナギは告げる。吐く息と共に拳を握る。殺しの快楽に溺れながらも、殺す人間は「暴力を厭わない者」だけと己に縛りを掛けて生きる青年は——前を見た。
「幻影の咎人など恐れるに足らず。真の恐怖は我が身の内にあり」
 湧き上がる声は、囁くほどに甘く。疵口に染み込むように、ナギを狂わせるように強く指先を掴む。
「――これが己の業、か……」
 青年が纏うのは、今まで殺してきた咎人達の怨霊。叫びが呻きが、呪いがその身を這う。咎人の屍山を築き続けた身を染め落とすように、沈めるように絡む怨霊の衣に——ナギは視線を上げた。
「怨念の慟哭で幻を吹き飛ばせ!」
 咎人の怨魂は、ナギを呪う為に慟哭する。その叫びが、幻影の咎人達を吹き飛ばす。白い霧が散り、見えたのは踏み込む首の無い騎士の姿だ。
「ァアアアアアア!」
「——」
 振り下ろす一撃に、ナギは身を引く。切るよりは半ば叩き付けるような重い一撃を躱し、怨霊の叫びを操る。
「どけ、首無し騎士ども。退かぬなら奴等もこの怨魂に飲み込むまでよ!」
 慟哭が響く。甲高く、鋼さえ切り裂く程の力を以てこの地に縫い付けられた騎士達を飲み込んでいく。鋼の隊列は途絶え、白い霧が這うように階段を上がっていけば鐘の音が聞こえていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『禍つ黒蝕のスパダフォーラ』

POW   :    魔神降臨
【魔力を制御している封神の枷を外し、】【戦場全体を侵す暗黒瘴気、】【肉体を再生させる神の加護】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD   :    禍つ神霊の幽刃
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【見えない幽態の刃】で包囲攻撃する。
WIZ   :    黒蝕変異態
命中した【敵の攻撃を無効化する変異態となる。対象】の【武器】が【対象自身を侵し蝕む呪いのアイテム】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナギ・ヌドゥーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終の挽歌
 長く続く螺旋階段を抜ければ、古びた柱がひとつ、目に付いた。永劫塔の頂上、飽きるほどに登った先にあったのは廃墟であった。城跡に近いそれは、この塔の主を城主という所以であったか。
「……ほう」
 廃墟の半分を、半ば作った男が視線を上げる。崩れた柱を玉座とするように腰掛けていた『それ』はこの地の闇よりも濃く、影とも違う。その黒は淀み、蝕み、吐息さえ黒く染める。
「貴様等が此度の挑戦者か」
 は、と禍つ黒蝕のスパダフォーラは笑う。低く、低く笑う男は——果たして男、とそう性別を断じて良い『もの』であるのか。
「我が定めし誓約を破りし者がこの地に踏み入れるとは、……ハ、愉快なものだな」
 背の翼は異端の証か。その姿は吸血鬼の血を持つ印か。
「我を、恐れたか」
 低く落ちた問いに嘲笑は無く、ただ冷えた視線だけが猟兵達を貫く。否と告げても、是と告げても——奴の一撃が届くのだろう。じゃらり、と腕の枷が揺れる。見る目を持つ者がいれば、あれが力を封じる類いの枷であると分かるだろう。
「貴様等が此処で殺し合い、ただ一人が挑むも良いが——、貴様等は我が真の神に至るには良き贄だろう」
 一歩、一歩、禍つ黒蝕のスパダフォーラが歩き出す。黒衣が如く黒き影を揺らし行けば、螺旋階段へと戻る道が封じられる。永劫塔の上、残るのは廃墟のみ。円形の巨大な空間は、闘技場と同じか——それ以上の広さを持つ。
「封神の楔を断ち切り、我は甦った。血と肉を捧げよ、矜持を費やせ、誇りを、魂を差し出すが良い」
 禍つ黒蝕のスパダフォーラが告げる。言葉と共に、空間に黒い霧が満ちていく。
「真の神に至る禍つ黒蝕のスパダフォーラが全て、飲み干してやろう」

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第三章受付期間:6月2日〜6月5日いっぱい

*展開の関係上、再送をお願いする場合がございます。
大変申し訳ございませんが、もし、戻ってきた場合、構わないぜーって場合は再送頂けると幸いです。

●戦場について
永劫塔の頂上。廃墟が広がっている。
戦うには問題の無い広さ。戦いの中で落ちたりはしません(落ちて避ける、とかもできません)

◆―――――――――――――――――――――◆
春乃・結希
怖いか怖くないか…
前にするだけで、すごく強いって伝わってきて、しかも神様になろうとしてる
そんな相手と戦うなんて…楽しいに決まってます

withの斬撃とwandererの蹴撃を織り交ぜ、変則的に攻める
UCでの破壊で少しでも隙を作れたら、逃さないように踏み込みたい
瘴気に侵されて動けなくなるまでの時間を少しも無駄にしないよう、攻撃の手は緩めない【覚悟】
騎士達の剣技は、洗練されて、凄く綺麗で、少し羨ましい
私のは、ただ相手を叩き潰す為だけのものだから
…だからこそ、動きは読まれにくいはず

はー…壊しても壊しても…いくらでも再生出来るんですか?
なら、好きなだけぶっ壊せるという事ですね
もう少し、付き合ってください



●魔神は嗤い、彼女は行く
「——至れ、見せよ。命よ。我に挑みし者よ」
 永劫塔の主、禍つ黒蝕のスパダフォーラの声が低く響いた。二度、三度と不気味に反響するように響いた言葉が——不意に、歪む。空間そのものが震えたかのような変化に、春乃・結希(f24164)は短く息を吸った。
(「——来る」)
 身を、振ったのは反射だ。
 そうしないとダメだと、思ったから体が動いた。ざぁああ、と地を滑るようにして利き足で床を掴む。ざらついた地面——そう、地面のような場所だ。塔の上だというのに、此処はひどく不可解な作りをしている。変わった場所だな、と結希は思った。でも、それだけだ。目の前の相手——さっきまで、結希が立っていた場所に踏み込んできた相手の方に、意識は向く。
「怖いか怖くないか……」
 スパダフォーラの言葉を思い出す。恐れたかと問う声。
(「前にするだけで、すごく強いって伝わってきて、しかも神様になろうとしてる」)
 そんな、と結希は薄く口を開く。ゆらり、と揺れた指先が、手が背負う剣に回る。漆黒の大剣withをゆっくりと構えるようにして結希は視線を上げた。
「そんな相手と戦うなんて……楽しいに決まってます」
「——ほう」
 低く、笑うような声に結希は前に出る。真っ直ぐ、一気に踏み込んだのは加速を選んだから。一歩、二歩、飛ぶように身を前に跳ばす。最初は——残撃から。ひゅん、と低く、下段から切り上げる。
「楽しい、楽しいか。愉快なものだな。……だが、この枷、外すには良き頃合いだろう」
 ガシャン、とスパダフォーラの両腕にある枷が落ちる。黒く揺蕩っていた『もの』に何かが混じっていく。
「見るが良い、魔神の力を」
 自由を得たスパダフォーラが腕を掲げる。黒く闇に似た身から、血が零れ落ちる。今度こそ、床を叩くそれに、結希は唇を引き結ぶ。
(「代償……ですね」)
 その血が、スパダフォーラに加護を紡ぎ、戦場に暗黒の瘴気を呼び起こす。鈍い痛み、熱に似た感覚に意識を持って行かれる前に、息を、吐く。
「動きは……止めない」
 前を見て、結希は跳ぶ。作られた間合いを取り返すようにブーツで床を強く踏む。蒸気魔導が一気に行く力を加速させる。
「蒸気魔導の力、受けてみて」
 高く、跳ぶように結希は一気に行った。ダン、と床を強く踏み、身を回すようにして蹴りを叩き込む。ガウン、と重い一撃と共に爆炎がスパダフォーラを襲った。
「——は、炎とはな。我を焼くか、挑戦者。だが、この身は——……」
 癒えると、そう続けるつもりだったのか。だが、一撃を受けたスパダフォーラの腕が、胴が砕ける。僅か、スパダフォーラが息を飲む。
「貴様……」
「——」
 行きます、とは言わない。行くだけだから。瘴気に侵され動けなくなるまでの時間を少しでも無駄にしないように、結希は行く。蹴りと、剣を交え。止まること無く動き続ける。嘗ての挑戦者たちも、そうやってスパダフォーラに挑んだのだろう。
(「騎士達の剣技は、洗練されて、凄く綺麗で、少し羨ましい。私のは、ただ相手を叩き潰す為だけのものだから」)
 だからこそ、と結希は唇を引き結ぶ。
(「動きは読まれにくいはず」)
 荒く、踏み込む。騎士であれば、まずしない飛び込みに近いそれ。斬る為の一撃ではない、勢いよく振り上げたwithを——今、振り落とす。
「いきます」
 ガウン、と一撃がスパダフォーラの肩に沈んだ。黒い煙のような何かが四散し、腕がだらりと垂れる。は、と神を目指す者が嗤った。
「愚直に来るか、挑戦者よ。だが、我はこの通り……再生するぞ」
「はー……壊しても壊しても……いくらでも再生出来るんですか?」
 元に戻っていくスパダフォーラの腕を見据え、結希はゆっくりと身を起こす。
「なら、好きなだけぶっ壊せるという事ですね
もう少し、付き合ってください」
 少女は告げる。今日という旅の果てにある者を知る為に、結希は愛しい大剣を握り、前に——行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
そんな、神様のいけにえとかになるつもりはないからっ!
そんなの、お断りだよっ!!

敵攻撃に敵UCは
【空中機動】で跳び回って、敵の射程距離に注意して【空中戦】で対応
【第六感】をフル活用して殺気や攻撃気配を感じ取って
敵の動きを【見切り】【残像】を生み出して【フェイント】をかけつつ行動だね

攻撃は、腰部精霊電磁砲と風精杖の魔力【誘導弾】で攻撃を行って中距離戦
攻撃や回避を行いつつ

【多重詠唱】でUCの詠唱とともに【魔力溜め】をしっかり行って…
【全力魔法】でのヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!
【限界突破】して後先なんか考えないっ!

わたしの全部だ!遠慮せずに持っていけーっ!



●その闇にこそ、炎あれと
 ガウン、と重い一撃が禍つ黒蝕のスパダフォーラに落ちた。ハ、と城主は笑う。永劫塔の頂上、不可解な廃墟に残された柱を砕き、零れ落ちた血に似た黒を震わせながら口の端を上げた。
「ハ、そうか、貴様等、只人では無いか。此度の挑戦者は随分と骨があると思っていたが」
 クハ、とスパダフォーラは笑う。そこに滲むのは喜悦であった。喜んでいる、とシル・ウィンディア(f03964)は思う。そこに見える歓迎は、単純に好敵手としてでは無い。
(「それが、神様になる為の試練として丁度良いから……だよね」)
 周囲に漂っていた瘴気が消えていく。——違う『収められていく』だけだ。スパダフォーラがその気になれば、あれはすぐに展開される。術式では無く、鍵は腕から落ちた枷だ。気配が随分変わっている。
「エルフの娘か。真の神に至るこのスパダフォーラに相応しき戦いを見せよ」
 スパダフォーラが翼を広げる。軽く、身を浮かせた相手が気配を変えていく。翼はより黒く、どろりと滴る『闇』が禍つ黒蝕のスパダフォーラを包んで行けば——黒衣が揺れた。
「黒蝕変異。来るが良い、神の贄に相応しきものとして」
「そんな、神様のいけにえとかになるつもりはないからっ!」
 黒衣が二度、三度と揺れる。ゆるく身を倒した姿を視界に、シルは真っ直ぐに顔を上げた。
「そんなの、お断りだよっ!!」
 前に——跳ぶ。一歩目は踏み込みに、身を低く沈めるように行ったのは加速の為。獣のようにスパダフォーラも身を沈めて来た。
「蝕め」
「遠慮、しとくよっ!」
 ぐん、と突き出された爪にシルは強く地を踏んだ。跳躍ではない。空を踏むように、風を纏うように精霊術士は飛ぶ。突き出しの一撃が浅く、衣の端だけを裂いていく。
(「思ったより伸びてくる。でも、あと一つ」)
 ぐん、と一気に上に身を飛ばす。速度を先に選んだのは敵の手の中、掴んだナイフが見えたからだ。
「ほう、空を行くか。だが、我にも翼はあるぞ」
「知ってるよ。でも、わたしも空を知ってるから!」
 一気に距離を詰めるように身を浮かしたスパダフォーラの手から放たれた一撃に、身を逸らす。ぐん、と荒く、身を横に振ってシルは息を吐く。多分、そう何度も避けてはいられない。
(「でも、相手が距離も使ってくるのなら……」)
 撃ち出された瞬間は、分かる。当てることを目的としてくるのであれば——。
「迎え撃つから!」
 キュイィン、と甲高い音が戦場に響いた。腰部精霊電磁砲で、スパダフォーラの放ったナイフを散らす。掠るように相手に届いた攻撃では、ダメージには至らないか。
「攻撃の無効化ってそういう意味だね……でも」
 それなら、とシルは空を蹴る。身を後ろに飛ばす。選んだのは距離じゃない。射線だ。相手が防御力を上げてきているのであれば——その名を、少女は紡ぐ。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ」
 ざぁあ、と足を滑らせ後ろに行く。取ったのは射線。真っ直ぐ、正面。一度、地に手をついた少女の指先を基点に魔方陣が展開される。立ち上がり構えた風精杖が光りを生む。
「悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……」
 こちらのあたった攻撃を無効化するほど防御力を上げてくるのであれば、その上で、相手が放つアイテムがあるのならば——砕くチャンスはある。その為に、高めた魔力を今——解き放つ。
(「限界突破して後先なんか考えないっ!」)
 これは、六芒増幅術で強化した、エレメンタルブラスト。重ねた詠唱と共に、シルは己の全てを解き放った。その『無効』を打ち砕き、覆す為に。
「六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
 水色のリボンが揺れる。きら、と青の瞳に光りが映る。限界を突破した力に体が軋む。でも、撃ち抜く炎はこの為にあるから。
「わたしの全部だ! 遠慮せずに持っていけーっ!」
「ハ、撃ち込んでくるか! だが、神に至るべきこの身に傷など——……」
 庇うように腕を前に出す。無効化していると思っているからこその無防備さが、今、スパダフォーラを貫く。
「な——!」
 ゴォオオ、と直線上を光が薙ぎ払う、直射砲撃魔法に——限界を超えたシルの力にスパダフォーラの防御が砕かれ、炎が、届く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム
戦士の誇り、戦士の魂
燃やしこそしましょう
けれど貴方に渡せるものなど、何もありません

【勇気】と【覚悟】を胸に――いざ真向勝負!
【なぎ払い】での【衝撃波】を牽制に、
間合いを詰め近接戦を挑みます

相手からの攻撃を【オーラ防御】で凌ぐ
受けるのではなく、自慢のオーラで圧し、体勢を崩す為
【力溜め】た一撃をねじりこめば、其の一撃
【鎧砕き】の一撃として!

武器にて鎧を砕けば、押し込むのは
【グラップル】【功夫】を生かした肉弾戦
【怪力】を生かして離れさせずダメージを重ねる

来るであろう反撃も、【激痛耐性】等で凌ぎ
【限界突破】して耐え【カウンター】で返す
動きを止めることが出来たら残る力を拳に込め
《麗掌破魂杭》の一撃です!



●故に、少女は闘士である
 地を攫うような光があった。
 ゴォオオ、と直線上、薙ぎ払うように行った直射砲撃魔法が永劫塔の頂上を焼く。僅か、浮いた瓦礫さえ散りに返した炎の先、攻撃を無効化する力を纏っていた禍つ黒蝕のスパダフォーラが、ぐらり、と身を揺らす。
「グ……ッハ、ハハハハ! そうか。それでこそ、我が神に至る為に、握り潰すに相応しい」
「それは、全てを握りつぶすということですか?」
 熱を帯びた戦場に少女の静かな声が響いていた。柔く纏っていた空気も、見目の幼さも今は——無い。凜と立つユーフィ・バウム(f14574) の空色の瞳が真の神に至ると告げる男を見据えていた。
「是、だ。封神の鎖を断ち切った今、我が身に満ちる魔力こそ、真の神に至る者の証」
 腕が焼かれたか。赤々とした血は無く、どろりと黒い煙がスパダフォーラから零れ落ちる。廃墟の床を塗らすことさえ無いままに、一振りと共にスパダフォーラは己の腕を構築し治す。傷が癒えた訳では無いだろう。形だけを取り戻したスパダフォーラの瞳がユーフィを捉えた。
「喜べ挑戦者よ。貴様が死力を尽くしその武を捧げるに相応しき死地だ」
 一歩、一歩、スパダフォーラが身を進める。踏み込みに地面が割れる。塔の頂上にあるというのに、城の跡地とも似た空間は天井が無いだけの古い神殿にも似ていた。柱は無く、今や僅かばかりの壁と柱が残るだけだが——確かに、ここは嘗て、誇りと共に戦う者達がいたと、ユーフィはそう思う。
「戦士の誇り、戦士の魂。燃やしこそしましょう」
 ひゅん、と残る黒い煙さえ払うようにユーフィは大剣を振るう。部族に伝わるその剣は、少女の覚悟に鈍く光る。ディアボロス。打ち直されたそれを片手で持ち——ユーフィは告げた。
「けれど貴方に渡せるものなど、何もありません」
 勇気と覚悟を胸に、片手に持ったディアボロスを肩口まで振り上げ——一気に、降ろす。ゴォオオオ、と風の唸る音と共に衝撃波が戦場に走った。
「——ほう」
 ザン、と衝撃波が黒蝕のスパダフォーラに届く。浅い。だが、構いはしない。これは牽制なのだから。
 ダン、と荒く地を踏み、身を低めるとユーフィは一気に前に跳んだ。一歩、二歩、大きく行くのは一気に距離を詰める為。ユーフィの間合いは、近接だ。
「仕掛けるか! 良いだろう、魔神の力とくと味わうと良い」
「えぇ、全て——」
 ひゅん、と拳が来る。鋭い一撃、だが同時に広がるのは暗黒の瘴気だ。熱に似た痛みに、だがユーフィは顔を上げる。きつく、空の手を握り——息を吸う。
「受け止めます!」
 拳に身を逸らすのでは無く、ユーフィは踏み込む。詰められた間合いを己のものとする為に。——ガウン、と衝撃が眼前で弾けた。スパダフォーラの拳が空で止まる。
「貴様……」
 ユーフィのオーラだ。
 撃ち込むが故に、その衝撃がスパダフォーラに返る。僅かに体が浮く。地に足が付かなければ——……。
「この一撃、貴方の鎧を砕きます」
 ダン、と次の踏み込みはユーフィは取った。僅か、受けた傷をそのままに。構わぬと少女は行く。血濡れの手で握る大剣を振り——降ろす。
「——ック」
 瘴気が、揺れた。熱のような痛みは変わらずとも、回復し続けるスパダフォーラが大きく体を揺らす。癒やしがあれど、加護があれど、それを上回る一撃があれば——その守りを、砕ける。
「ハハハ、良いぞ。それでこそ、この我に挑むに相応しい!」
 ヒュン、と蹴りが来る。大剣で受け止め、だが散らしきれなかった衝撃が体に届く。だが、ユーフィは踏みとどまった。は、と息だけを吐いて、空の手を握った。
「我は掲げる、闇を貫く蛮勇の拳」
 残る力を拳に込め、最後の間合いを行く。ぐっと近く、スパダフォーラの影の下まで入り込むようにして身を沈め——突き出す。
「……轟く!」
「ハ、拳ひとつで我を砕くと——……な」
 ひゅ、とスパダフォーラが息を飲む。受け止めるように前に出した両の腕が、暁光の杭を打ち付けられていた。
「貴様、この力……我を穿つか!」
 それは悪しき魂さえ打ち砕く光。ユーフィの一撃が、戦場に満ちていた暗黒の瘴気を払えば、ぐらりと真の神を目指す男が身を揺らす。黒蝕、地に揺蕩うばかりであった黒い煙が、今、ぱたぱたと地に落ちていた。耐えきれぬと、ばかりに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
申し訳ないですが、誇りも恐怖も、遠い昔に置いて来たもので。
こんな何もない男でも、挑戦を受けて頂けるのでしょうかね?

『灰徒、無音にして影を踏む』を使用し、
【目立たない】ように戦場を様子見。
頃合いを見て、暗器を以って【暗殺】に移りましょう。
少しでも動きを鈍らせることが出来れば僥倖。
決定打はどなたかに任せましょう。

向こうの攻撃は【第六感】で致命傷は避けたいところ。
人のこと言えませんが、『見えない』のは厄介ですね……。

そういえば、賭け闘技場的にはここは見えるんでしょうか。
塔の主を打ち倒す様、如何様に見えるのか……。
まあ、どちらでもいいのですが。


※アドリブ大歓迎です!


クロト・ラトキエ
あはは。
全く、何もかも御免被りますね。

立ち位置。視線。移動は足か翼か。手脚、攻撃の兆し。
防御、回避の癖。あの言動、故の隙…
凡ゆるを視、奴の挙動を、思考を見切り、攻撃に回避にと繋ぐ。

幽態…されど刃なら実は在る。
不可視でも飛来音まで消せぬか、と。
それにどれほど数が多くても、如何なる軌跡を描いても、
一度に動かせる量は限られる。
大量の己の刃同士で干渉、斬り合うなんて愚の骨頂。
そして、着地点は必ず一点…
即ち、奴の『敵』。

廃墟も利用し攻撃を防ぎ、動きに合わせ鋼糸を張り。
地も空も己の領域に。

一撃は鋼糸引き抜く己の掌へ。
刃を、神の成りたがりを…地に墜とす
――唯式・幻

強欲も傲慢も勝手だが…
俺は神だろうと殺すんで



●遮光、踏む影があれば
「我が血で塔を濡らす、か。ハ、魔神たる我に相応しき挑戦者か」
 滲む笑みは正しく喜悦であった。双眸は面に隠れているのか。瞳など見えずとも相手が戦いというものに昂ぶっているのはよく分かる。己が血に等しい黒を踏み、廃墟の壁についた拳を——振り下ろす。
「それでこそ、我が真の神に至る日に相応しい」
 剥き出しになったのは牙か。口の端を上げ、壁ひとつを壊せば廃墟に砂が舞う。最も一瞬のことだ。荒く一歩を踏み込んだスパダフォーラに八上・玖寂(f00033)は僅かに瞳を細めた。
「真の神に、ですか」
 紡ぐ男の口元には笑みが敷かれていた。派手に崩れた壁にも、スパダフォーラから零れ落ちる泥のような黒い液体にも表情ひとつ変えぬままに玖寂は視線を上げる。
「生憎、神というものには縁が遠いもので。どんなものであるか検討もつきませんが」
「ほう、ならば、貴様の両眼に焼き付けると良い。挑戦者よ。代わりに——」
 ゆるり、とスパダフォーラが身を起こす。
口の端を上げた男の纏う気配が変じていく。空間の変化は既に枷を落としたが故にものか、暗黒の瘴気は今は遠く——だが、ひたひたと迫る気配がある。
(「神に至るのであれば、今のあれは何なんでしょうか。まぁ、何者でも構いませんが」)
 魔神であろうが、神であろうが。やることは変わらない。
「何かお求めでも?」
「貴様は、その全てを見せるが良い」
 神に至ると告げた者は、黒き手を玖寂へと差し向ける。鋭く尖った爪から、ぱたぱたと黒を零しながら低く笑う。
「血と肉を捧げよ、矜持を費やせ、誇りを、魂を差し出せ」
 そうして、全て、と告げたスパダフォーラが地を、蹴った。
「——」
 来る。半ば、反射的に玖寂は身を後ろに飛ばす。ヒュン、と鋭く突き出されたのは鋭い爪か。
「その誉れを得ることだ」
 喉元、攫うように来た一撃に、スパダフォーラに玖寂は指先を振るう。キリリ、と滑らせた鋼糸が敵の踏み込みを絡め取れば、黒爪は肩口を裂くに終わる。
「ほう?」
 低くスパダフォーラが嗤う。ヒュン、とそのまま滑るように引いた鋼糸に黒い手は残らない。間合いひとつ、取り直したか。後ろに飛んだスパダフォーラを視界に、玖寂はひとつだけ息を落とす。
「申し訳ないですが、誇りも恐怖も、遠い昔に置いて来たもので」
 肩口の残る鈍い痛み程度で、玖寂の笑みが崩れる事は無い。悠然とした姿は変わらぬままに、真っ白な手袋が戦場に映える。
「こんな何もない男でも、挑戦を受けて頂けるのでしょうかね?」
「——是だ」
 ハ、と笑うスパダフォーラが翼を広げるのと、玖寂が暗器を放つのは同時だった。一撃、牽制に放ちながら瓦礫の影に入る。一歩、二歩。柱を飛び越えれば、ばたばたと靡いた衣だけが音を残し足音が——世界に残す音が、消える。
「ハ、貴様等はその手の類いか。構わん、我はその全ての武を飲み干す必要があるのだからな」
 神であるからこそ、真の神を目指す者であるからこそ。禍つ黒蝕のスパダフォーラは螺旋階段にて問い、この頂上を己が待つ地とした。
「この身は魔神にして神に至る者。我に挑みし者よ、今日、この日に貴様は全て変わるぞ」
「あはは」
 応えは、言葉が先にあった。足音は後から付いてくる。鋼糸と黒爪が重なり合う瞬間、剣戟の狭間に己が気配を紛れさせていた青年が今、廃墟に立っていた。
「全く、何もかも御免被りますね」
 柔らかな黒髪が、揺れる。クロト・ラトキエ(f00472)の声が響き、黒衣から覗く指先が真っ正面、凪ぐように鋼糸を放った。

●その闇こそ抱擁とすれば
 キィン、と甲高く音が鳴った。正面、放った鋼糸にスパダフォーラの踏み込みが僅かに鈍る。牽制には丁度良く——だが、別にそれを狙った訳ではない。
(「立ち位置。視線。移動は地に足をつき、加速は翼か」)
 手脚、攻撃の兆しを見逃さぬようにクロトは戦場を蹴った。緩く弧を描くようにして一気に走る。崩れた柱を飛び越え——振り返る。
「追ってきましたか」
「ハ! 気がついたか、だが——我の方が早い」
 空にて迫ったのは蹴りだ。身を回すように来た一撃に、クロトは腕を前に出す。ガウン、と重く届いた衝撃を殺すのでは無く——その、勢いに沿うように後ろに一気に飛ぶ。塔から落ちる気は無い、それより手前、クン、と足先が仕掛けにかかる。
「早さだけが取り柄では仕留めきれないでしょう」
 ただそれだけで生き残れた戦場は無く、ただそれだけで勝利できた死地も無かった。生還を得手としてきた雇われ兵は、今、鋼糸を足場に空を取る。神を目指す者よりも上に——塔の頂上にて、誰もが仰ぎ見る地にて、己に出会う為だけに——挑む為だけに、数多の試練を科してきた者を、見下ろす。
「君は善悪を考えますか」
「ハ、考えもしないと言ったのは貴様であろう。挑戦者! 禍つ神霊の力——味わうが良い」
 クロトを見上げ、吼えるスパダフォーラの足元に魔方陣が展開される。深い紫のそれが多重展開され——一気に解き放たれる。
「幽刃開放。——貴様もだ、隠れた挑戦者!」
 ヒュン、と音がしたのは一瞬。次の瞬間、張り巡らせていた糸の一つが断ち切られる。崩れた足場に構わずクロトは飛ぶ。足を止める気は無い。動き回ることにある意味は——分かっているのだ。
「……」
 影を踏むように行くひとりが、クロトをしても気配が掴みにくい。身を隠し、気配を殺して行く仕事が何であるか、暗器を扱う身であれば分かる。玖寂の仕事は、暗殺だ。
(「では、少し派手に行きましょうか」)
 スパダフォーラは踏み込みを好む。トドメに好むのは至近だ。故に打ち込みが多い。避ければ追ってくる。あの戦いは、武人のそれというよりは狩りに近い。——だが、荒い。
(「待つことに向かないのであれば——……」)
 敵の挙動を、思考を読み、見切るようにクロトは身を飛ばす。ザン、と浅く、背に刃が届く。踏み込みを一歩、強くすれば前に気配が来るが——だが、身を低めれば、躱せる。そう、音があったのだ。
(「幽態……されど刃なら実は在る。不可視でも飛来音まで消せぬか」)
 数はある。一撃、腕に受けた程度で終わらない。二撃、足に届く前に鋼糸で受け止めたが——だが、終わりはしない。それでも、分かることはある。
 まだ、クロトは死んでいない。
 どれほど数が多くても、如何なる軌跡を描いても、一度に動かせる量は限られる。
(「大量の己の刃同士で干渉、斬り合うなんて愚の骨頂。そして、着地点は必ず一点……」)
 即ち、奴の『敵』だ。
「見せるが良い、貴様達の血を、その力の全てを!」
「……」
 さて、全てですか、と玖寂は影を踏む。クロトの派手な立ち回りもあって、スパダフォーラの意識は彼に向いている。
(「強欲なことですが……それも、神を目指す者らしさでしょうかね」)
 敵の意識以上に、問題なのは戦場に放たれている奴の幽刃だ。気配はする。音もある。一度、受けて間合いを取る手もあるが——それでは、目立たぬようにしてきた意味が無くなる。
「人のこと言えませんが、『見えない』のは厄介ですね……」
 無音にて玖寂は影を踏む。一歩、二歩。踏み込む足は素早く——だが己が気配も凪いだままに。心に抱くべきものなど、最早無いままに。それを教え込まれ、飲み干した身は三歩目を一気に詰める。低く飛ぶように行けば、真横に気配が迫る。ヒュン、と届いた幽刃が玖寂の髪を散らし——首に迫る一撃を、腕で受け止める。
「……」
 パタパタと落ちる血。致命傷は避けた。刃を使わなかったのは——奴の背に、迫ったからこそ。
「いつまでそれで耐えきれる。挑戦者よ。貴様の矜持を、誇りを——……」
 禍つ黒蝕のスパダフォーラの言葉が止まる。僅かな違和。ひゅ、と息を飲むのは一瞬の内に——だが、滑る刃は玖寂の方が早い。
「そんなに背後を気にしてどうしましたか?」
  腱を切る。背後から低く、スパダフォーラの足に暗器を滑らせ、そのまま持ち直した刃を深く背に沈める。
「後ろから失礼します」
「な……っ貴様!」
 カハ、とスパダフォーラの口元から黒い霧が零れ落ちる。ばたばたと派手に落ちるそれと共に展開されていた幽刃が加速する。
「我を、この我を相手に……!」
「あぁ、あなたの相手をしてる」
 クロトの瞳が、その色彩を深める。暗色に深く、深く沈むように染まり——迫る刃の全てが、止まる。
「一の代価で数多の対価。なら答えは簡単だ」
 唯ノ弐、壱ノ式。『生きる為に死を択び、死なぬ為に傷を負う』
 鋼糸を引き抜く己の掌へ。
「刃を、神の成りたがりを……地に墜とす」
 張り巡らせた領域を、今、展開する。
「――唯式・幻」
「な——……! グ、ァアアアア!」
 幽刃が落ち、スパダフォーラの腕が、翼が切り抜かれるように落ちていく。
「強欲も傲慢も勝手だが……俺は神だろうと殺すんで」
「きさ、まらぁああああああ!」
 咆吼に、永劫塔が震えた。怒号と共に零れ落ちた黒が湧き上がる。形ばかり、己の姿を取り戻そうとスパダフォーラが異形の翼を開く。
「そういえば、賭け闘技場的にはここは見えるんでしょうか」
 その姿を視界に、玖寂は緩く首を傾ぐ。ワイングラス片手に楽しんでいた彼らは、さて、どんな想いでいるのか。
「塔の主を打ち倒す様、如何様に見えるのか……。まあ、どちらでもいいのですが」
 永劫の名を持つ塔が、今、終わりを始めようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒金・鈊
はてさて既に良識は棄ててきた身ゆえ。
律に従う所以もなし。
この戦いに誇りはあるか、どうか……についてだが。
貴様だけがそれを誇っていればいい。

相手の出方を窺う。敢えて後を取る。
流石に力負けしそうだな……殴打は剣で止め、掴まれぬよう、駆ける。
直接の斬り合いは、相手の技を待つための前座。
あちらが幽刃を繰り出した時、恐らく最も隙がでるだろう。
此方も天墜にて応酬させてもらう。

刃が見えなくとも、貴様が見えていれば、問題は無い。
地獄からの迎えとでも言おうか。
送り込むのは、別の者であるとしても。

主によく歓待しておくように言われているのでな。

さあ、唯一無二の王者、いずれ神となろうものの末路。
変わらぬ喝采を。



●即ち、断つる刃であれば
 不可視の刃が、砕け散る音がした。見えずとも破砕の音はあるのか。鋼が砕けたか——否、術式と呼ばれるものが弾けたのか。黒色の血が廃墟を濡らし、波打つように揺れれば前にあった猟兵達の血が柱を撫でていた。
「クハ、ハハハハ!」
 先に立つ、彼らの誰も膝を付かぬままに。ただ一度、片膝を付かされた男が狂ったような笑いを上げていた。
「そう、そうだ。これこそ、我が真の神に至る為、その道筋に相応しい……我が、この力の全てを使うに良き日だ」
 禍つ黒蝕のスパダフォーラがゆらり、と立ち上がる。片腕に翼、脚と受けた傷による疲弊はあるのだろう。形ばかり補った身で、地に足をつける者は神に至る前は『何』であるのか。
(「何であろうが」)
 この世を歩き、影を落とすのであれば亡霊よりは刃が届くのだろう。
 僅か、落とした息と共に黒金・鈊(f19001)はコツン、と硬い足音を落とす。熱を帯びた風が黒髪を揺らした。
「はてさて既に良識は棄ててきた身ゆえ。律に従う所以もなし」
 血と肉はあれど、半身は炎に沈み焔を得。差し出す程の矜持が、誇りがあるかと聞かれれば——ただ一度だけ、鈊は瞳を伏せるようにして笑う。
「この戦いに誇りはあるか、どうか……についてだが」
 肩に羽織るだけの衣が揺れる。飴色の瞳が、ひたりとスパダフォーラを捉えた。
「貴様だけがそれを誇っていればいい」
「ハッ、我が真の神となるべく、等しく贄となるのは貴様達挑戦者だ」
 口の端を上げ、獣めいた牙を見せながら笑うとスパダフォーラが地を、蹴った。
「——誇りと思うのは、貴様の方だ」
「——」
 言葉と、踏み込みは同時に来た。瞬発の加速。速いか、と鈊は軽く身を引く。
(「流石に力負けしそうだな……」)
 ならば、回避より、真闇を振り上げる。ガウン、と真っ正面、斜めに引き抜いた剣がスパダフォーラの拳を受け止めていた。
「見せるが良い、貴様の全てを!」
 火花が弾け、受け止めた衝撃が鈊の腕に返る。ぐ、とそのまま押し込まれる感覚に、身を引く。かかる重さをそのまま利用するように、一気に後ろに飛んだ。
「……生憎」
 荒く取った間合い。追撃の踏み込みはすぐに来た。ダン、とスパダフォーラの足音が重く響き、跳躍と共に身を回す。回し蹴りに、鈊は身を逸らした。回転に沿うように脚を引き、低く構えた刃を振り上げる。
「貴様相手に晒すものなど無くてな」 
 落ちるスパダフォーラの蹴りを、分厚い刃を以て受け止める。切り上げに踏み込みを乗せれば、黒曜の鋒はスパダフォーラへと深く沈み——至近にて、魔神は嗤った。
「ほう、我を地に落とすか」
 滲む喜色はこの戦いにか、己を追い込む程の戦場にか。それでもまだ、己の勝利を疑わぬスパダフォーラが翼を広げる。黒い影が鈊の頬に触れる。
(「——全て、前座だ」)
 直接の斬り合いは相手の技を待つ為のもの。全てはこの瞬間の為。一撃を放つ瞬間にこそ、隙はある。
「禍つ神霊の力——味わうが良い」
 スパダフォーラの立つ地に多重展開された魔方陣が光を零す。深い闇が廃墟を満たす。
「幽刃開放」
 ヒュン、と空を切る音と共に戦場に無数の幽刃が解き放たれた。音は近づく。肩口に刃が滑り、軽く、身を浮かせたスパダフォーラが笑う。
「我が刃に跪くことだ、挑戦者よ!」
「——」
 衝撃が背に届く。肩から滑るようにして刃が届き、続く音が右から響く。——だが、鈊はそこに立っていた。
「刃が見えなくとも」
 身ひとつ揺らすこと無く、ただ、ぱたぱたと落ちる血だけが動となり男は、告げる。
「貴様が見えていれば、問題は無い」
 ザン、と迫る幽刃が鈊の右腕を落とす——筈だった。だが、幽刃は男の腕を落として止まる。鈊の躰に届く前に、脇腹を割く前に炎に飲まれていく。
「貴様——……」
「地獄からの迎えとでも言おうか」
 右腕の鋼の焔が揺れる。飴色の瞳で捉えた敵を前に仄蒼く燃える無数の刃が顕現する。
(「送り込むのは、別の者であるとしても」)
 刃を振るうように、鈊は右腕を振るう。ゴォオ、と唸る炎が不可視の刃の向こう、魔神の翼を焼き切り、その身を地に落とす。
「き、さま……!」
「主によく歓待しておくように言われているのでな」
 鋭く笑った男は右腕の焔を振るう。ただ勝てと告げた主は、全ての戦いを眺めていることだろう。僅か微笑を浮かべながら。
「さあ、唯一無二の王者、いずれ神となろうものの末路」
 残るは廃墟と、黒翼を失い地に落ちた魔神のみ。黒い煙と揺蕩った血は既に大地を濡らし、忌々しげに向けられた視線に、鈊は静かな笑みと共に一礼をしてみせた。
「変わらぬ喝采を」
 永劫の名を持つ塔の、陥落が始まろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
なんつーか…本当にイメージ通り
地に堕ちた魔王は今なお天の玉座を欲するってか

背の翼羽ばたかせ、基本空中からの接近
向こうもあの皮翼が飾りじゃなさそうな気もするけど
一方的に空中から襲われるよりは対等に行けるか

十字のサーベルを床に突き立て
戦場侵すこの瘴気を浄化する祈りを捧げる
少しでも向こうの強化を薄めたい所

そもそも代償を伴う神の力なんて、な?
呪われし邪神がお前にはお似合いだ
喚び出す魔剣を握りしめ、口にするは聖句
断罪の力を以て、全力全霊でぶった斬る

この世界の神と俺の信ずる神は違うだろうが
救い主を求める存在がいるなればそんなの関係ないな
導かれるまま、悪を滅する
それが俺自身の生きる意味でもあるから



●故に、ひとは祈る
 熱が廃墟を攫う。朽ちた柱を撫でるように行く焔は、僅か青を帯びていた。この地には遠い空の色彩。灰を帯びたその色に早乙女・翼(f15830)は僅かに瞳を細め、トン、とつま先で地に触れる。淡く落ちた影は背の翼を広げたが故だ。戦場を濡らした黒は、塔の主のものだろう。赤き血が流れる事も無いままに、ばたばたと零した黒血が、焔に焼かれていく。
「——ハ」
 だが、その中にあって禍つ黒蝕のスパダフォーラは立っていた。口の端を上げ、零れる笑みは狂人のそれとも狂気とも違う——純粋な歓喜だ。
「クハハハハ! そう、これだ。これこそ我が封印を破り目覚めた意味がある。その意義がある」
 両の手を広げ、零れ落ちた黒にさえスパダフォーラは笑う。確信を滲ませ、どろり溶けた腕は一度既に砕かれてあったか。形ばかり取り戻されていくそれに翼は息をついた。
「なんつーか……本当にイメージ通り。地に堕ちた魔王は今なお天の玉座を欲するってか」
「ハッ、元より天の玉座は我の為にあっただけのことよ。挑戦者よ」
 熱を帯びた瞳がこちらを向いていた。僅か、身を浮かした翼を見上げるようにして牙を見せたスパダフォーラが黒翼を見せる。背を裂くようにして形を得れば、羽ばたきがひとつあった。
「誰とも知れぬ神が住まうより、我が蹂躙し立つだけのこと」
 祈れ、とスパダフォーラが告げた。口元、零れた黒血は毒か。戦場の空気が歪んでいく。塗り替えるように、黒く沈む。崩れた柱も、僅か残った壁さえも何もかもが黒く揺れる霧に飲まれていく。
(「暗黒瘴気……」)
 僅か口元を押さえるように翼は袖を口元に当てる。一度だけ深く息を吸う。痛みなど——戦場で己が得る痛みなど、ただ自分だけのことだ。スパダフォーラの翼は飾りじゃないようだが——空は、翼も知っている。
「我こそが神に至る!」
 吼える声と共に、荒くスパダフォーラが地を蹴った。飛行より跳躍に近いのか。グン、と一気に距離を詰めてきた相手に翼はサーベルを引き抜く。半ば反射的に構えた刃に、スパダフォーラの爪がぶつかる。
 ギィイイ、と鈍い音と共に火花が散った。鋭い爪が細身のサーベルを滑り翼の腕に届く。
「全てを見せることだ、挑戦者よ」
「——生憎」
 熱に似た痛みと共にコートが裂けた。肩口、袖が破れれば肌を晒す。ばたばたと派手に落ちた血に、だが、翼は息だけを吐いた。
「祈る先は決めてるさよ」
 正面、迫った相手を蹴るように脚を振り上げる。ガン、と荒く、スパダフォーラの胴を叩き間合いを取る。空けた距離は絶対では無い。別にそれ自体は構わないのだ。この間合いは、この距離は斬り合いの為ではない。縦に構えたサーベルに手を添える。唇に乗せるは聖句。刃の上を指先が滑り、床に——放つ。
「死の、陰の谷を行くときも——……」
 私は災いを恐れない。
 突き立てたサーベルを基点に、白い光りが走る。展開された魔方陣が、風を呼ぶ。
「貴様……この力は……!? まさか、我の瘴気を……!」
「そもそも代償を伴う神の力なんて、な?」
 トン、とサーベルに軽く脚を落とす。剣の上に立つようにして、翼は両の手を広げる。祈りを此処に、血に染まったような緋色の羽根を持つ青年は浄化を願い——ひとつ、拳を握る。
「呪われし邪神がお前にはお似合いだ」
 空の手に喚び出すは魔剣。翼の求めに応じ、剣は手に落ちる。——重さなど、感じはしない。
「傲り高ぶる愚かな者に、主の怒りが降り注がんことを」
 神雷が剣に落ちる。高く、掲げた刃と共に翼は空を蹴った。間合いを詰めるのは、こちらの番だ。
「我が瘴気を祓うか、オラトリオ!」
「この世界の神と俺の信ずる神は違うだろうが、救い主を求める存在がいるなればそんなの関係ないな」
 ガウン、と一撃受け止めるようにスパダフォーラが腕を前に出す。だが、神雷がそれを許しはしない。雷光こそ、魔を破り浄化を祈るものであれば。
「終わりさね」
 至近にて祈るように翼は告げる。ぐ、と押し込むサーベルがスパダフォーラの腕を——落とした。
「グ、ァアアアアアッ貴様!」
 ザン、と刃は黒き身を滑る。神雷と共に加護を得たスパダフォーラの上回るように傷を刻む。例え、相手が癒やしを得ていたとしても——その上を、核へと届くように。ぐらり、と禍つ黒蝕のスパダフォーラが身を揺らした。零れ落ちた黒が遺跡を濡らしていく。この地、既に瘴気は無い。
「導かれるまま、悪を滅する。それが俺自身の生きる意味でもあるから」
 引き抜いた刃で黒を払う。は、と落とした息と共に翼は真っ直ぐにスパダフォーラを見た。この地に来るため、受け止めた思いと共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

お生憎様
あなたに差し上げるものは何もないわ
ゆぇパパの事も、ルーシーの事も
つゆほども

パパと離れないで済むのは何よりね
ルーシーはね
ふたりで居るなら神様も怖くないよ
ふふ……うん、そうね
離れず、いっしょに

あの黒いのは良くないモノの気がする
こちらへ届く前に切り祓うわ
邪も加護も
おいで『シロクロのお友だち』

連撃を放って、
彼のひとへの路を作りましょう
どうかな、良く見える?
続きをお任せしても良いかしら、パパ

ルーシーは無慈悲な神様も優しい神様も知っている
でもあなたが至る所は
少なくとも神さまがいる場所では、なさそうね

無……パパはそんな怖いトコ行っちゃだめよ?
じゃ、離れないように!
ぎゅうって手をつなぎましょう


朧・ユェー
【月光】

おやおや、欲張りな方ですねぇ
僕は美味しくはありませんよ?
嗚呼、この子は髪の一本も差し上げませんが

そうですね
離れる事無く一緒に
相手が神だろうと悪魔だろうと
離す事は出来ないですから

えぇ、そうですね
ふふっ、可愛らしい攻撃
僕の為にありがとうねぇ

大喰
僕は雑食なので
血、肉、魂を欲しがるのなら
僕も貴方の全て頂きましょう
何一つ残らない様に

無の世界へ連れてあげる
地獄よりも怖い場所へ

手を握り返して
ありがとう大丈夫、僕は小さな天使が傍にいるから無へは行かないよ



●月光は路を照らし、夜に橋をかける
 ゴォオオ、と雷光が地に落ちた。永劫塔の頂上、廃墟となった城塞に闇が散る。黒く零れたそれは血の代わりであったのか。ばたばたと床を塗らし、不可解なこの地を黒く染める。
「そう、そうか。我を追い詰めるか……クハ、ハハハハ! 良いぞ、それこそ挑戦者に相応しい。我が真の神に至る日に相応しき相手よ」
 片腕はとうに落ち、形を取り戻すことさえもうできぬのか。どろり、と黒い液体のように禍つ黒蝕のスパダフォーラの腕が、波打つ。追い詰められていると、そう分からぬ程愚かでは無いのだろう。だが、その死地にあってスパダフォーラは笑う。ひどく愉快に、歓喜さえ滲ませて。
「貴様等もまた、よき贄となろう。鎖を断ち切り復活した我に全てを捧げよ、血と肉を、矜持を、誉れを」
 未だ無事な片手が差し出される。誘いとは違う、距離こそあれどルーシー・ブルーベル(f11656)の心の臓を捉えるように拳は緩く握られていた。
「魂を差し出すことだ」
「おやおや、欲張りな方ですねぇ」
 その指先を、視線を遮るように白い男が前に立った。神を目指す魔神を前に、浮かべた微笑はそのままに朧・ユェー(f06712)は金色の瞳をスパダフォーラを向けた。
「僕は美味しくはありませんよ?」
 瞳は美しく弧を描き、白銀の髪が頬に触れた。淡く落ちた影は男の美しい笑みを儚げに見せたか——或いは妖しさを滲ませたのか。睫の影を落とすように、僅か伏せた瞳と共に緩くユェーは首を振る。
「嗚呼、この子は髪の一本も差し上げませんが」
 魔神の言の葉など待つ事は無いままに、踏み入れた最後の戦場を瞳に収める。折れた柱に、崩れた壁。派手な破砕は、これまでの戦いではなく、この日に起きたものだろう。随分と、範囲が広い。猟兵が駆け回ったともあるだろうが——スパダフォーラの背にある翼は、飾りでは無さそうだ。
(「空中……飛行のみを好むようには見えないですねぇ」)
 この手の相手は、空を知りながらも地に伏せさせる為に近接を好む。緩く、握る拳の傍ら、凜とした声がユェーの耳に届いた。
「お生憎様。あなたに差し上げるものは何もないわ」
 顔を上げ、真っ直ぐにルーシーはスパダフォーラを見る。目を逸らす理由など何処にも無かった。ここは、嘗て誰かが全てを賭けて戦った場所だ。誰かの幸いを願ったような場所で——その為に、己の全てを賭けた人が居た場所に、今、ふたりでいるから。
「ゆぇパパの事も、ルーシーの事もつゆほども」
 きっぱりと、否を紡ぐ。ゆるく、握るように見えた白い指先にルーシーは手を伸ばす。トン、と指先、軽く触れたのは——あの、階段で見た姿があったからだろうか。
(「パパと離れないで済むのは何よりね」)
 小指を軽く、掴む。約束をするように。
「ルーシーはね、ふたりで居るなら神様も怖くないよ」
「そうですね、離れる事無く一緒に」
 ぽん、と頭を撫でる代わりにユェーの指先がルーシーに応える。優しい約束と共に、金の瞳が先を——スパダフォーラを捉えた。
「相手が神だろうと悪魔だろうと、離す事は出来ないですから」
「ふふ……うん、そうね。離れず、いっしょに」
 ルーシー、と短く声が届く。こくり、と頷いたのはスパダフォーラが背の翼を広げたのが見えたからだ。
「クハ、案ずることはない。このスパダフォーラが貴様等全て、飲み干してやろう。封神の枷は、既に落ちたのだからな」
 黒い指先が毒に染まる。パタパタと落ちたそれに戦場が波打つ。描き出される黒い波紋に、ルーシーは瞬く。
(「……あれは、すごく……」)
 いやなものだ、と思う。
 同時に、スパダフォーラの纏う空気が変わっていくのが見える。加護だ。術式まで解析は出来ないが——あれは、傷を癒やしていくのだろう。
「あの黒いのは良くないモノの気がする。こちらへ届く前に切り祓うわ」
 邪も加護も。
 両の手をルーシーは前に出す。淡く青い光りが少女の足元で花開く。
「おいで、シロクロのお友だち」
 その呼びかけに、パンダのぬいぐるみがぴょん、と立った。てやっと持ち上げられたのは笹葉。ぴしっとポーズを取ったぬいぐるみが一度ルーシーを振り返った。
「うん」
『♪』
 こくり、と頷いたルーシーに応じるようにパンダのぬいぐるみは笹葉を揺らした。ひゅん、と振るうそれが、新緑を呼ぶ。這うように迫ってきていた暗黒の瘴気が切り裂かれれば——視界が、開いた。
「どうかな、良く見える? 続きをお任せしても良いかしら、パパ」
「えぇ、そうですね。僕の為にありがとうねぇ」
 これは彼のひとへの路。
「ルーシーは無慈悲な神様も優しい神様も知っている。でもあなたが至る所は、少なくとも神さまがいる場所では、なさそうね」
 続けて振るわれた笹葉が、スパダフォーラへと届く。ただの斬撃と構わず腕を振るった魔神が脚を止めた。
「これは……! 貴様、我が加護を祓うか。娘」
「えぇ、自慢の娘ですから」
 ですが、とユェーは地を蹴る。一気に前に、僅か派手に出たのは——スパダフォーラの目にかわいい娘を晒すつもりは無いから。
「僕は雑食なので、血、肉、魂を欲しがるのなら僕も貴方の全て頂きましょう」
「ハ、我を喰らうと? 貴様にそれが出来るか、挑戦者よ!」
 ぐん、と突き出された拳に身を逸らす。回避は僅かで良い。浅く、触れた一撃に構わず靴裏で地を擦る。瞬間、暴食グールが脈を打つ。
「嗚呼、お腹を空かせてるね。まだまだ喰べれるよ。お喰べ」
 展開される陣は無く、ただ暴食グールは世界に顕現する。無数の口や手がスパダフォーラを囲い——掴む。
「貴様……!」
「何一つ残らない様に」
 唇に乗せた誘いは甘く、深い闇の中へとスパダフォーラを引きずり込む。脚を、手を掴む。放つ筈であったスパダフォーラの黒い刃さえ、飲み込むように。
「無の世界へ連れてあげる。地獄よりも怖い場所へ」
「貴様ぁあああ!」
 禍つ黒蝕のスパダフォーラが吼える。真の神に至ると、己を魔神と告げる男が膝を折る。
「無……パパはそんな怖いトコ行っちゃだめよ?」
 ぎゅ、とふいに強く握られた手にユェーは、そっと頷いた。
「ありがとう大丈夫、僕は小さな天使が傍にいるから無へは行かないよ」
 大切な、優しいその手を握り返してユェーは瞳を合わせた。離れないように、と込められた強さに応えるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
アンタが目指す真の神とは何だ?
この呪われた血肉と魂は魔神の贄として相応しいかい。
禍つ黒蝕の力、とくと味わわせてくれ!

攻撃が通らぬ……何だこの異体は?
我が力の根源、魂と心臓が歪みオレを飲み込み始めている……
己が悪業に喰われ死ぬ、オレには相応しい死に様かもしれんがまだやる事が残っている。
聞け絶望の鼓動を!
ユーベルコード発動
悪魔の血流、呪毒の凶血よ、黒蝕と一体となれ!
もはや何も見えず聞こえない
だが奴の闇は第六感で感じとれる
黒蝕を生命力吸収により取り込み喰らう
死か勝利か……
互いを喰らい合い残るのはどちらかな?



●禍つ黒蝕と殺人鬼とその心臓
 ——黒き血が、戦場を染めていた。ばたばたと派手に落ちたそれは、失った片腕か、それとも腹に受けた一撃が返ってきたか。形ばかりを補い、痛みにこそ生を告げ、今日こそ降誕の時と吼えていた禍つ黒蝕のスパダフォーラがゆらり、と立つ。
「クハ、ハハハ。そう、そうか……これが痛み、これが恐れか。ハハハハ! 我を恐れ、封印した者はこれを有していたのか」
 伝承に曰く、禍つ黒蝕のスパダフォーラは異端の神の血を引くという。異端の神と吸血鬼の交配により生まれた半神半魔である、と。その力を恐れた領主達がいた、と。
「あぁ、ならば今日という日こそ、我が真の神に至るに相応しい。貴様の全てを飲み干し、数多重ねた贄と共にこの永劫塔から始めてみせよう」
 我が力の証明を。全てを蹂躙せし魔力を以て。
「貴様らは降誕の贄となる。喜べ、その身の全てを差し出せることを。挑戦者よ」
「アンタが目指す真の神とは何だ?」
 長く尾を引くように青年の影が廃墟におちた。さわさわと白い髪が揺れる。影のように立ち、亡霊のようにゆらり、と一歩を進めたナギ・ヌドゥー(f21507)が銀の瞳をスパダフォーラに向けた。
「この呪われた血肉と魂は魔神の贄として相応しいかい」
「貴様……ハ、随分と血が香る」
 クハ、と落とされた笑みに歓喜が滲むのは、好敵手と見たが故か。最後の贄に相応しいと、そう思ったからか。スパダフォーラは、残る翼を広げる。低く、構えた魔神にナギは、は、と笑うように息を零し——言った。
「禍つ黒蝕の力、とくと味わわせてくれ!」
 それは、身に宿す衝動が解き放たれた瞬間であった。殺しの快楽がナギの裡で波打つ。目の前にいるのは、この相手は、数多の闘士を嬲り、数多の戦士がその身を散らすだけの理由を作り上げた者。己が神に至る為に、必要な贄の為、周囲の街を飲み込み、人々を飲み干し——使い捨て、足らずと此度の闘技を招いた。
「さぁ!」
 暴力を厭わない者だ。
 一歩、二歩、身を前に倒しナギは行く。踏み込みは地を蹴るように、相手に間合いを詰められるより先にこちらが喰らう。最後の一歩、ダン、と廃墟を蹴って詰めればスパダフォーラの腕がこちらに突き出された。
「クハ、我を喰らうか!」
「——」
 穿つ一撃に、ナギは身を沈める。低く、深く最後の踏み込みを入れれば、スパダフォーラの一撃は空を切る。
「あぁ」
 笑うように告げ、ナギは だらり、下げた手に持っていた鉈を魔神の喉に向けて切り上げた。
「黒蝕展開。変異」
「——な」
 筈だった。
「攻撃が通らぬ……何だこの異体は?」
 鉈が黒躰に飲み込まれる。切り裂いた筈が、半ば飲み込まれるように攻撃が通らない。僅か、息を飲んだナギの腕を、ぐ、と掴んだのはスパダフォーラであった。
「味わいたいのであったな。ならば、とくと味わうことだ。我が力」
 引き寄せるように捕まれた腕で躰が浮く。同時に深くナギの躰にスパダフォーラの刃が突き立てられた。
「——は」
 アンタ、と続く筈の言葉がせり上がってきた血に飲み込まれる。派手に吐いた血が、足元を濡らす。腕はとうに離されていた。甘く見られたか、と思ったのは一瞬。突き立てられた刃が、抜けない。只の剣では無いか。ぐにゃり、と痛みでは無い何かで意識が揺らぐ。躰がひどく熱を持つ。
「我が力の根源、魂と心臓が歪みオレを飲み込み始めている……」
 これが魔神の力なのか。クハ、と嗤うスパダフォーラの視線がこちらを向く。細められた瞳に、少しばかりの歓心があった。
「まだ、意識を残しているとはな。すぐに砕け散るかと思ったが……クハ、貴様の血肉から飲み干すべきか」
 真の神へと至る為に、数多の可能性を取り込み飲み干し異端の神さえ陵駕するつもりなのか。一歩、二歩、近づいてくるスパダフォーラのナギは歪む視界で見上げる。膝はまだ、ついてはいない。だが、己の意識は、躰は何処まで持つのか。
(「己が悪業に喰われ死ぬ、オレには相応しい死に様かもしれんがまだやる事が残っている」)
 チャンスはまだある。奴が、己の勝利を確信しているのであれば——来る筈だ。吐き出した血を拭うこともないままに、ナギはゆらりと視線を上げる。嗤う魔神を見る。伸びてくる手を、その指先を。
「喜べ、挑戦者。貴様が最初の——」
「聞け絶望の鼓動を!」
 贄だと告げる筈であったのか。スパダフォーラの言葉が止まる。ナギの叫びに、心の臓を押さえた青年の姿に、脚を引く。正しい警戒だ。だが、もう遅い。
「絶望の鼓動が聞こえる……ぅガぁあああああああアアアアアア!」
 それは人体改造によりナギの躰に埋め込まれた悪魔の心臓だ。ナギの寿命を喰らい、対価の果てに魔力を引き出すそれを今、暴走させる。
「悪魔の血流、呪毒の凶血よ、黒蝕と一体となれ!」
「な……! く、これは……」
 指先から、爪を立てた胸から零れ落ちるのは呪毒の凶血。スパダフォーラの紡ぐ暗黒の瘴気よりも濃く、深く呪いに満ちた血が戦場を這う、滑るように陣を描き、スパダフォーラを掴む。身を浮かせようが最早遅い。
「貴様、貴様は……ッそれで、何故まだ……!」
「……」
 スパダフォーラの叫びは最早ナギの身には届かない、何も見えず聞こえない。それが暴走の対価。相応しき果て。——だが、奴の闇は感じ取れた。黒蝕を辿るように指先を伸ばす。凶つ血は、触れるものを取り込み喰らう。
(「死か勝利か……互いを喰らい合い残るのはどちらかな?」)
 薄く、ナギは笑う。両眼より零れ落ちた血に、スパダフォーラが零した呪詛も驚愕も届かぬままに、知れぬままに。
 ——やがて、ふつり、と魔神の気配が消えた。喰らい尽くし、飲み干された魔が消え青年は目を覚ます。ぺたりと掌が黒く汚れた何かに触れた。
「……」
 禍つ黒蝕のスパダフォーラであったもの。黒き血にも似たそれが、ナギの手の中に消えていく。残されたのは奴の枷がひとつ。指先で触れれば、砕けるだけか。或いは——この手の中に残るのか。互いの境界さえ見失う程に喰らい合い——その果てに、消えた魔神の名を、ナギは唇に乗せる。
「殺しましたよ」
 誇り高き闘士と交わした約束に、一度だけ瞳を伏せる。
 斯くして永劫塔の主は消え、狂気に満ちた闘技場は終焉の日を迎えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月13日
宿敵 『禍つ黒蝕のスパダフォーラ』 を撃破!


挿絵イラスト