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花編みの森~想い、微睡み、花に籠めて

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#戦後


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●初夏の候
 拝啓、私の最も大切な人へ、

 ――早いもので、貴方が騎士団の遠征に出立してもう半年が過ぎようとしていますね。
 白に覆われた町の門前で貴方の冷たくも温かい手を解いたあの日が、もう何年も昔のことのように感じられます。
 未だ大変な旅路の途中かと存じ上げますが、そちらではいかがお過ごしでしょうか。
 緑豊かなこちらでは、早くも日に日に夏めいて参りました。
 貴方と共に過ごした森にもとっくに春が訪れ、刻を忘れてしまうくらい平和な雰囲気に包まれております。
 柔らかな鳥たちの囀り、梢が揺れるサラサラとした葉音に、頬を緩やかに撫でていくそよ風の存在。
 芽吹き出した萌え木は優しい陽の光を乱反射させていて、地面を包み込む草花は柔らかく地に寝転ぶ私を受け止めてくださいます。
 東洋の樹花であるサクラはせっかちな性分なのでしょうね。貴方の帰りを待たず、もう既に散ってしまいました。ですが今は、モッコウバラが町を美しく彩っております。
 町を美しく彩る季節の花々も美しいのですが、私はやはり森に生きる野花の方に惹かれてしまいます。
 緩やかにその蔓を伸ばす野ばらに、ふわふわと愛らしく爆ぜるミモザ。タンポポやクローバーが地面に広がり、ヤマユリが静かにその身を揺らしていました。
 森は今年も変わらずに、緑と生き物で溢れているので、ご心配なく。貴方と私、二人だけの秘密の場所は今日も穏やかなものです。
 唯、傍に貴方が居ないこと。それだけ、その分だけ、とても寂しく思うだけで――……。

●木漏れ日溢れる花編みの森より、愛を込めて
(……もうそろそろ、帰って来られるはずだから)

 今日も貴方のことを想っている。
 明日も貴方のことを想うだろう。
 昨日も貴方のことを想っていた。
 一昨日だって、その前だって――。
 ずっとずっと、貴方のことを待っている。

(……そういえば私、いつからここに居たのでしょう)

 ふと我に返って花編む手を止め、自分の両手をまじまじと観察してみる――長時間ずっと花を編んでいた両の手は草花の汁に塗れ、斑な緑色に染まっていた。
 ゆっくりと指先に力を籠めて見るが、思う様には動かない。ここ最近ずっと、花冠を編んでいたせいだろうか。

 もうずっと前の話。まだ私がうんと小さかった頃、貴方が教えてくれた花の冠。
 最初の頃はデコボコとした何とも不格好な冠が出来上がってしまって、それを見た貴方は次の日お腹が痛くなってしまうくらい笑い転げていましたね。
 でも、それもずっと昔のこと。大人も目の前に迫った今だから、あの頃よりずっと綺麗に編めるのです。
 この森に春が来てから、日の大半此処で過ごすことが私の日課になっていました。貴方がいつ帰ってきても、良いように。
 旬の花で花冠を編んで、花束を作って。他にも押し花に、ドライフラワーにポプリに――。
 貴方がいつ帰ってきても、この森に訪れた季節をいち早く貴方に教えられるように。

(でも、ずっと花を編んでいる気がしたのですが……気のせい、でしょうか)

 感じたのは微かな違和感。
 ここ最近、ずっとずっと貴方との幸せな想い出に浸り、家に帰っていないような。

(でもきっと、気のせいでしょう)

 再び『貴方』に想いを馳せ、幸せな想い出に浸りながら花を編み始めた娘は気が付かない。
 視界の端でキラキラと煌めく、木漏れ日とはまた違った何か。
 森をゆっくりと泳ぐそれらが自分に憑りつき、幸せな夢を見せて惑わせていることに――。

●ピクニックへの誘い
「行方不明になってるんだってさ」
 丁度、一週間くらい前から。
 そんな切り出しと共に影杜・梢(月下故蝶・f13905)がぺらりと猟兵たちの目の前に広げて見せたのは、緑溢れる穏やかな森を描いた一枚の絵だった。
 アックス&ウィザーズの世界に住む放浪の画家が描いたものであるらしい。
 木や草花の影から姿を覗かせている野生動物の姿に、森の開けたところで昼食を摂る猟師の親子。群生する季節の花々はその身を風に任せ、枝葉のトンネルと潜り抜けてきた陽の光がきらりと躍っている。
 何処からどう見ても牧歌的で、危険も何もない。熊が出る訳でもないし、迷ってしまうほど深くも無い。ただの平和な森だというのに――何故だか、その森で行方不明者が出たそうな。
「どうにも、ふらっと森へ行ったっきり帰ってきていないそうだ」
 行方不明になっているのは、花盛りの娘が一人。
 この娘は、幼馴染みで新米騎士となった青年と良い仲であるらしく――遠征に出かけた青年の帰りを、一日千秋の思いで待ち侘びていたらしい。
 青年と共に一緒に過ごした森で一人想い出に浸り、彼の無事と帰りを毎日のように祈るくらいなのだから。
 事件が明るみに出たのは、娘の母親がきっかけだった。
 騎士団帰還の報せを受け、一刻も早く娘に知らせようと家の扉を開け放ったところ――何故だか、室内はもぬけの殻で。
 ふらりと森に足を運ぶ娘を見たというのが、行方不明になる最後の目撃情報だった。
「で、どうにもこの行方不明事件にオブリビオンが関わっているみたいでね。
 並みの冒険者じゃ第二第三の娘になりそうだったから、猟兵であるキミたちに解決してもらいたいってワケ」
 曰く、娘を捕らえている元凶を倒してしまえば、森は元に戻るらしい。
 丁度初夏も目前だし、ちょっとしたピクニック気分で解決してきてよ――と、猟兵たちを送り出そうとした梢は、思い出したかのように説明を付け加える。
「確かに、行方不明事件の元凶になっている存在はそう強くはないないみたいだよ。……だけど、気を付けて」
 元凶はどうやら、幸せな夢を見せて森にやってきた人々を捕らえる算段のようだ。そこから少しずつ、生命力を奪い――その後の末路は、想像に難くない。
 緑溢れる森でのピクニック。でも、娘のように、幸せな夢に捕らわれてしまわぬように。
 隣に居る愛しい存在と、もう逢えない懐かしいあの人と、今を共に歩む友たちと。平和なこの森でずっと一緒に過ごせたら、ずっとこの森で遊んですごせたら、と。そう、思ってしまわぬように。
「そろそろ、青年の方も町に帰り着くんじゃないのかな。……想い出に捕らわれてしまうほど待ち侘びた彼との再会だ。だから、夢じゃなくて現実のものにさせてあげたいよね」
 いつか醒めてしまう夢でも、それで少しでも救われると云うのなら。
 初夏の陽気に甘んじて、少しの微睡みに身を委ねるのも良いのかもしれない。
 幸せな夢を無理に振り払えとは言わないけれど、ゆっくりでも良いから目を覚まして欲しい。
 そう告げて梢は、猟兵たちを送りだしていくのだった。


夜行薫

 お世話になっております。夜行薫です。一年の中で5月の初めが一番好きです。
 庭の裏に咲く木香薔薇が年々侵略範囲を広げていることに、危機感を覚える今日この頃。他の植物が……。

●シナリオについて
 今回は、花と緑が誘うゆったりとしたピクニックのお誘いを。『夢』と『花』と『自然』辺りがキーワードです。
 全章通して花と緑、木漏れ日の溢れる穏やかな森が舞台となります。
 森は春から初夏辺りに咲く花が満開です。野に生える花が多く見受けられますが、近隣の町から動物が種を運んできたのでしょう。八重薔薇等の野生化してしまった豪華な園芸種の姿も見られます。
 春から初夏辺りに咲く花なら、基本的に探せば咲いているという認識でOKです。

●受付について
 毎章とも断章追加をいたします。
 受付/締切はタグとMSページにてお知らせします。

●第1章:『魔性の花園』
 行方不明になった娘を探して、森の中へ。
 風が通り過ぎ、鳥が囀り、キラキラと木漏れ日が乱反射して、目の前には自然の花畑が広がっています。
 牧歌的な光景ですが、気を付けて。
 花畑は「ずっと此処に居たい」と思わせる幻覚を見せてきます。
 もう逢えない誰かが見えるかもしれませんし、無性に花園ではしゃぎ、転げまわりたくなるかもしれません。
 あの手この手でこの場に引き留めようとする幻覚を振りきり、森の奥へ進みましょう。

●第2章:『空飛ぶオトシゴ』
 森に異変を齎した元凶との集団戦です。
 娘は空飛ぶオトシゴから少し離れたところで、幸せな夢を見続けています。
 空飛ぶオトシゴを全て倒せば自然と目を覚ますので、基本放置で構いません。

●第3章:『森林で素材収集』
 平和が戻った森で、思い思いに過ごす一幕となります。
 娘のように花冠を編むなり、花束を作るなり、野生動物と触れ合うなり、木漏れ日の下で微睡むなり、ピクニックをして楽しく過ごすなり。どうぞ思い思いの初夏の森をお楽しみください。
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第1章 冒険 『魔性の花園』

POW   :    とにかく脇目も振らずに進む。

SPD   :    花の少ない場所を見つけて進む。

WIZ   :    慎重に対策を施して進む。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花編みの森へ
 一度、二度、三度。ゆっくりと息を吐いて、そしてまた吸い込んで。
 陽光の白き光が満ちる世界に視界を慣らすかのように、静かにその瞳を瞬かせれば。
 ふわりと降り立った初夏の訪れを感じさせる森が、優しく自分たちを包み込んでいることに気が付いた。
 転移と共にさくりと踏みしめた草の感触は柔らかく、何処までも駆けだせてしまいそうに思えてしまう。
 突然現れた見知らぬ猟兵たちの様子を伺うように遠くからその姿を覗かせているのは、シカやリス、ウサギといった野生の草食動物たちだ。
 そよ風に背を押されるようにして、ひらりひらりと目の前を通り過ぎていくのは、淡い色合いの翅が美しい蝶の群れ。
 蝶たちの行く先をそのまま辿れば――目の前に広がる、自然の花畑にピントが合った。
 足元のスミレは踏み潰されても、また再びゆっくりと起き上がってきて。ヤマユリは木陰で静かにその身を揺らし、タンポポとシロツメクサが競い合うようにして根を伸ばしている。
 古木に絡みつく野バラの花は勢い良くその蔓を天に向かって伸ばし、そのすぐ脇でツユクサがひっそりと咲き誇っていた。
 近隣の町から野生動物が種を運んできたのだろう。森の所々に群生するネモフィラやミニバラといった園芸種の花々も、不思議と森の一部に溶け込んでしまっている。

 一見すると争いとは無縁に思えてしまうほど穏やかで平和な森。だけど、気を付けて。
 綺麗な花には棘がある。目の前の花園には、罠がある。
 気が付けば此処に居るはずのない懐かしい人影が自分の手を引いているかもしれないし、隣に佇む愛しい人とゆっくり木陰に座って一日を過ごしたい衝動に駆られてしまうかもしれない。共に此処に訪れた友たちとこの花園で遊び回りたくなってしまうかも。
 幸せな夢に誘われるのは仕方が無い事なのかもしれない。だけれども、甘美な夢に捕らわれてしまわぬように。
 森は静かに、だけど確かに囁いているのだから――「此処に、悲しいことなんて何もない。だからずっと、此処に居ようよ」と。
ガルレア・アーカーシャ
【心を留める存在】
足止めをする幻覚?場を駆け抜ける案を出した友に反対を
―ラス、…私は今更そのような物に誑かされる程、無垢な人生は送っていないつもりだが?せっかくなのだからそのような戯れすら楽しんでいくのも悪くはないだろう?
微笑みながら告げる、が…私に、この情景はどのような幻覚を見せるのか。楽しみにしていなかったと言えば嘘になる
あるのならば是非とも見てみたいものだ―そう思い足を踏み入れた先、

…焦がれる弟の、美しい歌声が聞こえた気がした
来ているのだろうか、ここに
いるならば…探さなければ―

ふらりと、足を踏み出した私の手を取り、ラスが一気に場を駆け出した
我に返って、ばつの悪いままに「…済まない」と一言


ラルス・エア
【心を留める存在】
危険を察知する、油断をするなと本能が告げた
しかしこの場を駆け抜ける提案をした私を親友が笑うのだ
レアの酔狂ぶりには時折ため息しか出ないが、せめて己だけは警戒を怠らずに進むべきであろうかと

森の囁きが聞こえ始める
ここにいれば、友より先に終わる己の命も、人狼病についても考える必要はなくなるのだと
ずっと、大切な親友とここにいればよいと
『ここならば、時は止まる』と
甘言と知りながら、耳が拾う言葉は胸に掛かって
己の心の弱さを痛感せざるを得ず

更に心が大きく揺らいだ直前
レアが自我を無くしたように歩み始めた
我に返り、親友の手を取りこの場を駆け抜けた

親友の謝罪に「いや…救われたのは俺の方であった」と



●いつか、夜が明けたら
「――足止めをする幻覚?」
 親友の忠告が声として形持つ存在となり、ガルレア・アーカーシャ(目覚めを強要する旋律・f27042)の耳元まで辿り着いたのは、そよそよと風揺れる柔らかい草を踏みしめながら歩き始め、それから少し経った頃合いだった。
 夜を忘れてしまったように眩い白光に溢れる森の中で、その忘れられてしまった夜から抜け出してきたかのような二人組は向き合ったまま佇み始める。
「ああ、そうだ」
 爽やかな初夏彩る森には似つかわしくない、少しだけ怪訝な声が親友の口から一つ零れ落ちたのに、ラルス・エア(唯一無二の為だけの・f32652)はそぅっと溜息をついた。
 ラルスのため息がそよ風と共に走り去ってもなお、振り返ったままの姿で立ち止まるガルレアの表情は晴れない。表情がそのまま彼の心境を表しているのだろう。ハッキリと言葉にするのなら――噂を真に受けるのか、と。
「――ラス、……私は今更そのような物に誑かされる程、無垢な人生は送っていないつもりだが?」
 何処となく咎めるような色を孕んだガルレアの言葉に、ラルスが遠い目をしたのも無理のないことだ。現実逃避した先、木陰から見え隠れする青空が美しい。そんなことを思ってしまうほどには。
 向き合う親友が己の忠告を聞き入れないことなど百も承知で告げたのだが――分かっていてもなお、「この場を駆け抜ける」という提案を笑われた挙句、目の前で瞬殺されると多少なりとも精神的に来るものがある。
「せっかくなのだから、そのような戯れすら楽しんでいくのも悪くはないだろう?」
 常闇の世界において、穢れを知らずに大人になることは、至難の業だ。
 それを肌身に感じて育ったガルレアにとって、危険や死といった己を脅かす存在もまた、人生を彩る舞台装置にしか過ぎない。
(「レアの酔狂ぶりにはため息しか出ないが、せめて俺だけでも警戒を怠らずに進むべきであろうか……いや、進むべきだな」)
 呪いとも呼べる人狼病が影響しているのか。
 ただの人間よりも幾分か鋭くなった五感と本能が、この森に足を踏み入れてから頭の中で絶えず警鐘を鳴らしている。油断をするな、と。
 話は終いだと告げるように再び歩み始めたガルレアの背中を眺めつつ、幾分か重くなった足取りで一歩踏み出したところで――ラルスを引き留める『声』が、後ろから掛けられた。
『もう、闇は晴れたのに』
 何処へ行くの、と。
 振り返れば、自身のすぐ後ろに見知らぬ少年が立っていた。
 狼耳が生えた少年は、それだけを告げると瞳が赤い少年と手を取り合って花畑へと走り出す。その横の木陰では、翼の生えた少年と少女が仲睦まじげに談笑していた。
 突然目の前に現れた幻覚に、ラルスは直感的に感じ取る。此処はきっと、闇が晴れ、夜明けが訪れた故郷の姿なのだ。
(「ここにいれば、友より先に終わる己の命も、人狼病についても考える必要はなくなるのか」)
 己を蝕む人狼病について思い煩う必要も、もうない。親友をおいて逝く『いつか』に独り怯える日々も。
 だって、人狼病の治療法は確立されたじゃないか。悪しき異端の神々は討たれたじゃないか。
『ずっと、大切な親友と此処にいれば良い。此処ならば、時は止まる』
 森は囁く。だからずっと、此処で過ごせば良いと。前を歩く彼の手を取るだけで、久遠に幸せになれるのだと。
『世界は、真に平和になったのだから』
 甘言と知りながらも、降り積もる言の葉を耳が拾い上げてしまう。自然と止まる歩みに、ラルスは己の心の弱さを痛感せざるを得なかった。
(「……私に、この情景はどのような幻覚を見せるのか。ラスには悪いが、楽しみにしていなかったと言えば嘘になるからな」)
 一人静かに笑みを浮かべ、歩み進めるガルレアは気付かない。己の後ろを歩む親友が、既に幻覚に捕らわれ始めていることに。
(「もしあるのならば、是非とも見てみたいものだ――」)
 木陰に佇むヤマユリの花弁を揺らしながら、目の前に広がる花園に足を踏み入れたとき――確かに、聴こえたのだ。聞き間違えるはずもない、その美しき旋律が。
 小鳥たちの囀りに紛れて、そよ風に乗って。微かな歌声が、ガルレアの耳元まで運ばれてくる。
 恋い焦がれて止まない弟の、途絶えて久しい旋律が。今再び、自分の鼓膜を振るわせているのだ。これ以上の幸いが、この世に存在するのだろうか。
(「来ているのだろうか、ここに。いるならば……探さなければ――」)
 月明かりもそうだが、森が作り出すカーテンのような木漏れ日も、弟にはきっとよく似合う。
 『Fine』は要らない。ずっとずっと、このまま二人で。
 唯、お互いの為だけに歌を奏で、口遊むことができたのなら。互いにとっての、唯一で在れたのなら。
 歌声を頼りにふらりと足を踏み出すガルレアの足取りは、水底を歩いているかのように、不確かなものだった。
『ねえ、ずっと此処に居ようよ』
 花畑から手招きをする少年が、繰り返しそう誘いかけている。
 ラルスは何も言えず、その場に立ち尽くしてしまっている。
 そんな時、視界の端で確かに頼りなく黒が揺れたのだ。慣れ親しんだ、ガルレアの色彩が。
 ゆらりふらりと自分から離れ往く彼の腕を強く掴んだのは、殆ど反射的な行動だったといっても良い。
 一度掴んだ腕をそのまま力強く引き寄せた――後で痣になったと怒られたって構いやしない。
 少年たちに背を向けるとラルスは花を蹴散らし、草を踏みつけてがむしゃらに花園を駆け抜ける――未だ夢揺らぐガルレアを半ば引っ張るような形のまま。
「……済まない」
「いや……救われたのは俺の方であった」
 そうして二人で駆け抜けて、身を放り出すかのように森の中の開けた草地へと縺れ込んだ。
 肩を大きく上下させながら花畑の方に視線を飛ばせば、先ほどまで明瞭だった少年たちの姿は見えなくなり、いつの間にか歌声も途絶えてしまっている。
 そこで漸く我に返ったガルレアがばつの悪いままに視線を逸らし、ラルスに向かって小さく呟いたのだ。「済まない」と。
 親友の謝罪に対しても未だぼんやりとした意識のまま、ラルスはどうにか返事を返す。そしてあれからずっと握ったままであったガルレアの腕を、そっと離した。
 もしも、いつか。置いて逝く日が、置いて逝かれる日が来たのなら。
 その時、素直に自分はこの手を離せるのだろうか。そんなことを、頭の片隅で思いながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

瑞月・苺々子
◆□
目の前に広がる花畑
何処か懐かしい花の香りに思わず立ち止まってしまう
木漏れ日の暖かさは、まるでいつかの母の温もりにそっくりで

「ママ…?」

此処にいるはずのない母の面影すら見えてきてしまう
此処にいれば貴女は幸せ、そう引き留められる
…けれど、ももの本当のママはそんなことしないもの
ももが頑張ってる姿を見るのが、一番の幸せっていう人だから


これは夢
幸せな夢

「ももはママに会うために頑張ってるんだもん」

ももがママに会いたいように
森の奥にいる探し人にも、きっと会いたい人がいるのだから
迷わずに進まなくちゃ

けれどこの微睡みの中
ママのお膝で眠れたらどんなに幸せかしら

早くママに会いたい
だから、ももは今を精一杯頑張るの



●かぞくのきずな
 きらきらと光を纏いながら静かに降り注ぐ陽光に、枝葉が作り出す自然のアーチ。転移した先には、思わず駆けだしたくなる自然の光景が広がっていた。
 低木が作り出す自然のアーチは、小柄な瑞月・苺々子(苺の花詞・f29455)だからこそ通れた秘密の道だ。
 低木の連なる一角をゆっくりと潜り抜ければ、苺々子のふわっとした大きな狼耳が葉っぱに触れて、かさかさと柔らかい音を立て始める。まるでそこだけ雪が降り積もったかのように、枝いっぱいに咲いていた小さくて白い花たちが、ふわふわと苺々子の髪に零れ落ちた。
 低木のアーチを潜り抜ければ、途端、目の前に広がるのは大きな大きな花畑。
 苺々子がよく知る花も、今日が初めましての花も。そのどれもが可憐に咲き誇っていて――そして、苺々子の鼻腔を擽るのは、忘れもしない何処か懐かしい花の香り。懐かしい花の香りに、苺々子も思わず立ち止まって、香りの出所を探してしまう。
 花の香りに導かれるまま左右を大きく見渡せば、想い出深い姿が苺々子の目に飛び込んできた。
 目の前でゆらゆらと揺れる、小さな白い釣り鐘たち。今にもりんりんと鈴が鳴る音が聞こえてきてしまいそう。
 菖蒲は見つけられなかったけれど、微かに聞こえる水音を辿って小川や湖を探せば、その傍にひっそりと咲いているかも。
「ママ……?」
 森にある存在の全てを慈しみ、包み込むようにゆっくりと木々隙間から降り注ぐ暖かな木漏れ日。
 そんな木漏れ日の暖かさは、まるでいつかのママの温もりにそっくりで。
「ママ……!」
 小さな釣り鐘たちから視線を上げれば、目の前に居たのは大好きなママの面影。
 此処に居るはずないのに。頭では分かっていても、苺々子の足は自然とママの方に向かって駆けていってしまう。
 そのままぽふんとママに抱き着けば、柔らかく受け止められて。
『此処にいれば、貴女は幸せになれるの』
 そのまま、そう引き留められる。
 此処に居れば良いって。一緒に菖蒲の花を探しに行こうって。此処なら、家族みんなでずっと一緒に居られるからって。
(「……けれど、ももの本当のママはそんなことしないもの」)
 ももが頑張ってる姿を見るのが、一番の幸せっていう人だから。
 本当のママなら、頑張れって背中を押してくれるはずだから。
 温もりは名残り惜しいけれど、そっとママの面影から離れると、自分に言い聞かせる。
 これは夢。幸せな夢。夢であって、現実じゃない。
「ももはママに会うために頑張ってるんだもん」
 夢じゃなくて、現実で逢うために。
 目の前のママの面影に向かってしっかりはっきりそう告げれば、言葉の代わりにクスリと微笑みが一つ返ってきた。
 それでこそももだって、そう伝えるみたいに。
(「ももがママに会いたいように。森の奥にいる探し人にも、きっと会いたい人がいるのだから」)
 だから、迷わずに進まなくちゃ。
 ママの面影にさよならを告げて、苺々子は再び歩き出す。
 少し触れただけでポロリと散ってしまう青い小花に、熟れ始めた野イチゴの実。森を彩る可愛らしい植物の姿に視線を奪われることはあっても、今度こそ立ち止まることは無かった。
(「けれどこの微睡みの中、ママのお膝で眠れたらどんなに幸せかしら」)
 ママに優しく撫でて貰いながら、ゆっくりと微睡んで。少しだけ想像してみて、結論に至る――それはきっと、とても幸せなことだろうから。
(「早くママに会いたい」)
 だから、ももは今を精一杯頑張るの。
 時には立ち止まることがあっても、花園を進む小さな子狼の歩みは決して止まらない。
 どんなに小さな一歩でも。どんなにママまで遠くても。
 歩み続けていれば、いつかは辿り着けるって信じているから。

成功 🔵​🔵​🔴​

馬県・義透
【馬県さんち】
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』のほほん唯一忍者
一人称:私
生前の名:外邨義紘(双子兄)

まー、『六人』で出掛けよう、という目標ですねー。
ほらー、私たちも双子ですけどー。こうして出掛けること、なかったですからねー?
そうそう、満15歳にてお披露目。それまでは表に出てはならぬ、でしたからね。
後にも先にも、『空の器』で外に出たのは私だけでしょうが。

長閑ですよねー、とても。
…長閑で綺麗だからこそ、いかねばなりませんねー。だって『私たち』、それを守るために戦ってますからー。
だから、行きましょうか、蛍嘉。内部の友たちも。


外邨・蛍嘉
【馬県さんち】
蛍嘉の双子兄=『疾き者』
基本、呼び捨て。

義透からお誘いがあったから来たけど。なるほど、目標。
うちもクルワいるしね。…見た目からわからない大所帯だよね…うち。
ああ、14までは屋敷に隣接する森との往復だったね…修行で。
ま、私たちが双子で、封じる鬼が一人なら、絶対に片方は『空の器』だからね。

そうだね、そして、とても綺麗だ。他世界の森もいいものだね。
(『義紘(兄の名)』があの色…銀灰色の髪のままだったら、こちらも映えてたよね?)

うん、いこう、義透。ここでのんびりなんてしてられないよね。
『私たち』のような存在を、生み出さないように…戦うんだよ。



●護る為に
 一口に『森』と称される場所であっても、その地域や世界によって森の内包する雰囲気はガラリと変わってしまうもの。ともすれば、事件や事故の現場となることも多い。けれど、目の前に広がる森からは陰鬱さや不気味さが一掃されているようにも思える。
 静かに降り注ぐ陽光のカーテンに、吸い込む森の空気はやや冷たいけれど、その分とても澄んでいた。
 この森で行方不明者が出ているなんて、にわかには信じ難いことで。
 やや物騒な行方不明事件と、この森をひっそり支配するオブリビオンの存在さえなければ、絶好のお出かけ日和だった。
「まー、『六人』で出掛けよう、という目標ですねー」
 こんなにも爽やかな初夏の陽気なんだから、依頼解決とお出かけと、両方の目標を果たしたいところ。
 のんびりと森を散策する馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の正体は、四人で一人の複合型悪霊だ。
 今は、『疾き者』である義紘が表に出ており、彼が生きていれば至っていた『風絶鬼』の容姿でサクサクと軽快に柔らかな草を踏みしめていた。
 義紘が一歩踏み出す度に銀灰色の髪がさらさらと揺れ、時折降り注ぐ陽光を受けてキラリと輝いている。
 そんな双子の兄の髪に思わず手を伸ばしそうになったのは、妹である外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)だった。
 こうして兄と共に出かけたり、時間を忘れてのんびりしたりできる日が来るなんて――色々と制約のあった生前では、想像さえ出来なかった話だ。
「なるほど、目標」
「ほらー、私たちも双子ですけどー。こうして出掛けること、なかったですからねー?」
「うちもクルワいるしね。……見た目からわからない大所帯だよね……うち」
 兄の言葉に相槌を打ちながら、蛍嘉は「なるほど」と言葉と返していた。『六人』で出かける機会なんて、あるようであまり無かった気がしたのだ。
 見た目では、二人。でも、この場には確かに、六人が存在している。
 今だって義紘の三人の戦友が森に関して感想を述べていたし、蛍嘉は兄と会話しつつ、クルワともやり取りを行っていた。
 多重人格者(とそれに連なる存在)あるあるであろう、それ。多重人格者同士(二人は実態的には悪霊になるのだろうが)で出かけたら、知らず知らずのうちに大所帯になっているのだ。
 己の内側に何人もの人格が存在するのだから、見た目では例え二人であっても、内面では実に賑やかなものであった。
「ああ、14までは屋敷に隣接する森との往復だったね……修行で」
「そうそう、満15歳にてお披露目。それまでは表に出てはならぬ、でしたからね」
 何者にも邪魔をされること無く、その花を綻ばせる蕾に、日陰をひっそりと侵攻していくコケ類たち。二人の歩みに合わせるようにして、紅く熟れていた木の実を食む小鳥が一斉に翼を広げ、空へ空へとその翼を広げて飛んでいく。
 青い小鳥の残していった羽根を見上げながら、しみじみと呟いてみせた蛍嘉に、義紘は青空を見上げながら返事を返す。青空の向こうに義紘が思い起こすのは、幼少期のことだった。
 満15歳になるまで。思うことは多くあれど、それまで唯一触れ合える外の世界であった屋敷に隣接する森は、今でも記憶としてはっきりと残っているのだから。
 場所が異なれば、そこに育つ植物や森の雰囲気、空気感だって異なる。屋敷に隣接していた森とはまた異なった雰囲気で、目の前のこの森は義紘と蛍嘉たちの訪問を歓迎してくれていた。
「後にも先にも、『空の器』で外に出たのは私だけでしょうが」
「ま、私たちが双子で、封じる鬼が一人なら、絶対に片方は『空の器』だからね」
 子は二人、鬼は一人。どちらかが鬼を封じて、どちらかが『空の器』になる。偶々鬼を封じたのが蛍嘉で、『空の器』になったのが義紘だった。それだけの話だ。
「長閑ですよねー、とても」
「そうだね、そして、とても綺麗だ。他世界の森もいいものだね」
 故郷の森も、他世界の森も。どちらの緑も美しく、また、愛おしい。
 オブリビオンの影響を受け、魔を宿す花園の影響もあるのだろうが――不思議と、穏やかな緑溢れるこの地は時間を忘れて散策してしまいたくなるのだ。
(「義紘があの色……銀灰色の髪のままだったら、こちらも映えてたよね?」)
 普段は夜のような、日陰のような黒を宿したその髪色。今のように『鬼』としての力を解放した時にだけ、再びあの銀灰色を見ることがかなうのだから。
 光と緑満ちるこの森に、光を宿したかのようなこの銀灰髪はきっとよく映えるし、とても絵になるだろう。
 屋敷隣の森で見たいつかの光景と、今目の前に広がる光景が自然と重なって見えてしまったのも、仕方のない話なのかもしれない。
「……長閑で綺麗だからこそ、いかねばなりませんねー。だって『私たち』、それを守るために戦ってますからー」
 このまま此処で一日を過ごしたくなるが、それは目の前の事件を解決してからの話だ。
 そう。自分たちはこの長閑な景色を守る為に、戦っているのだから。
 争いでこの長閑な風景を破壊させてしまうことが、無いように。
「だから、行きましょうか、蛍嘉。内部の友たちも」
「うん、いこう、義透。ここでのんびりなんてしてられないよね」
 隣の妹へと問いかければ、そう間を置かずに頼もしい返事が返ってくる。
 夏のあの日、滅びた故郷。乱世の悲劇を繰り返さないためにも。
 そこに悪意が存在しなくても、今は小さな災禍の芽であったとしても。手遅れに、なってしまう前に。未然に防がなくては。
「『私たち』のような存在を、生み出さないように……戦うんだよ」
 そうだ。自分たちのような存在を生み出さないために。
 蛍嘉が花園に向かって藤色をした棒手裏剣『藤流し』を放てば、目の前に広がっていた牧歌的な光景は薄っすらと薄れ始め――幻を押し返すように、紫色の藤の花が、緑の森に彩りを添えていった。
 『六人』は藤の花が指し示す先を目指し、森の奥へと歩んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
(指定:宿敵アンリの姿/インディゴには覚えが無い)
見覚えの無い男性の姿が、見えた。
「───『■■■』?」
反射的に何かを口にした。でも、僕には分からない。
余計な言葉も紡がず、ただ微笑んでくれる。そんな『大切なヒト』が其処に居た。
僕に向かって手を差し伸べてくれている。
手をとらなきゃ。そう思って───
「…ッあ…」
名前を呼ぼうとして、思った。『あれは、誰?』と。
急激に何かが冷めていく。
思わずブルリと身体を振るわせて、身体を掻き抱き、目を閉じる。
息を吐きながら目を開いた時には、誰も居なかった。
「……。」
とりあえず、絶妙にほんのちょっとだけ服に引っ掛かってる目の前の八重の薔薇の茨をどかして、先に進もうか…



●薔薇に思うは
 ――いつから、此処に居たのだろう。
 思い返してみれば転移した先が既に此処だったような気がしたし、森の中を歩むうちに自然と足がこちらに向かっていたような気もしたのだ。
 同業者である猟兵たちの話し声や、空飛ぶ小鳥の囀りも薄膜一枚隔てたかのように、何処か遠く聞こえるひっそりとした森の木陰。陽光から逃れるようにしてヒッソリと生えるコケに足を取られないように気をつけながら、少しゴツゴツとした岩場を歩むインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)は、不意に我に返り辺りを見回していた。
 森と共に生きる猟師ですら、あまり通らない道らしい。周囲に生えるシダやキノコは踏みつけられた様子が見られず、人間の足跡一つすら見つけられなかった。
 それでも、この森にすむ野生動物にとっては、この岩場もれっきとした道であるらしく、今も少し離れた岩場から鹿がインディゴの様子を伺うようにチラチラと視線を向けている。
 人があまり寄り付かない場所であっても、植物は変わらず芽吹くものだ。きっと、この森から人々が消えてしまっても、変わることなく。
 インディゴがふと目線を落した先、コケやシダに紛れるようにして、静かに八重薔薇が佇んでいた。
 未だ落ちぬ朝露にその身を濡らしたまま、永遠に来るはずのない待ち人を今も待ち続けているかのように。そっと日陰に咲く、生命の証。
 陽光は頭上を覆う古木が独り占めしてしまって居ると云うのに、こんな場所でも咲くことが出来る程、この薔薇は生命力に満ち溢れているらしい。
「───『■■■』?」
 見覚えのないはずの八重薔薇が、微かに記憶の残滓のような、心の奥に潜む何かに引っ掛かった気がして――暫し魅入られるようにして八重薔薇を眺め、再び歩き出そうとインディゴが顔を上げた先。

 見覚えの無い男性の姿が、見えた。

 知らないはずなのに。反射的に言葉が口から零れ落ちていた。でも、僕には分からない。
 自分が呟いたはずの言葉であるのに。意味のある言葉として頭が声を理解する前に、地面に吸い込まれて消えていく。
 細かな表情は古木が取りこぼした陽光が逆光となり、窺い知ることが出来ない。
 それでも、その双眸は確かに自分を射抜いている。柔らかな視線が、自分に向けられている。
 余計な言葉も紡がず、遠くから見守るようにして。ただ微笑んでくれる。そんな『大切なヒト』が。
 僕に向かって、手を差し伸べてくれている。僕がその手を取る瞬間を、じっと待っていてくれている。
 日陰から日向へ。岩場から、同業者のいる草地の方へと。
 手をとらなきゃ。そう思って───。

「……ッあ……」

 男性の『名前』を呼ぼうとして。そうだ。さっき僕の口から漏れ出た言葉はきっと――。
 でも、ふと気付く――あれは、誰?
 もう二度と逢うはずのない存在に出逢ったような。そんな高揚感に溢れていたはずの身体。しかし、急激に何かが冷めていく。
 名前を僕は知らないと、他ならぬ僕が叫んでいる。
 身体を巡る何かの衝動に思わずブルリと身体を振るわせて、インディゴは自身の身体を掻き抱き、ギュッと目を閉じる。
 襲い掛かる何かから、その身を守るようにして。
 一回、二回……。落ち着かせるようにして、深く息を吸い、また時間をかけて息を吐き出す。
 そうしながら目を開いた時には――誰も居なかった。先ほどの鹿が、自分へと奇妙な視線を投げかけているのみで。
「……」
 ふらりと、覚束ない足取りで一歩踏み出そうとして――くいっと、何かに服を引っ張られるような感覚がした。
 振り返れば、先ほど眺めていた八重薔薇の茨が、絶妙な具合で服に引っ掛かっている。
(「服が破れないように茨をどかして、先に進もうか……」)
 そっと茨をどかし始めたインディゴ。男性のことは気になるけれど、今は先に進まなくては。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ

なんて素敵な森!
あたしの住む世界にこんな「森」はないから目を輝かせてしまう
草の香り、葉擦れの音、花々の揺れる様
ああ、いいなあ
あの木陰なんてとっても素敵
試しに座ってみると、草がふうわりと
木漏れ日がちらちら 手を伸ばせばすみれの花が
此処で好きな人と一日過ごしてみたいなあ
あのひともきっと森なんて知らないだろう
きっと喜んでくれるに違いない
その前に、あたしが一日ここで過ごして――

そこで気づくの
浮かれているのもあるけれども
あたし、罠にはまっているのかも

助けに行かなくちゃ
好きな人を待つ気持ちはとてもよくわかるから
助けにいってあげなくちゃ

後ろ髪を引きずられるように森の奥へ
あたしは、猟兵
助けにいかなくちゃ



●木漏れ日のなかで
 さわさわと風の走る足音が聞こえている。
 どうにもこの森の風は、少しばかり悪戯好きな性質を併せ持っているようで。
 二つに結われたツインテールをあっちに引っ張たり、こっちに手招いたりして。遊ばれる度に手で押さえても、再び風によってくしゃくしゃにされてしまう。
 そうして暫くの間、鮮やかな黒髪にちょっかいを掛けつつ自分の直ぐ後ろを走っていたかと思えば、次の瞬間にはふわりと花畑の花弁を巻き上げながら花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)を追い越して、風たちは青空の果てを目指して駆けていった。 
「なんて素敵な森!」
 まゆの住む世界は、一年中を桜で覆い尽くされたサクラミラージュの世界だ。季節が夏であっても冬であっても、街中の何処にでも幻朧桜が可憐に咲き誇っている。
 一面を桜色に覆われた世界に住むまゆだからこそ、溢れんばかりの「緑」に覆われたこの森の光景は新鮮で。
 今は若々しく柔らかい萌黄色に包まれているこの森も、これから夏を迎えるにつれて、生命力に溢れた深緑色に染まっていくのだろう。
 夏の訪れた森を一瞬想像して、そっとまゆは頬を綻ばせた。
 桜色の世界では感じる機会があまりない草の香りに、さらさらと囁くような葉擦れの歌声。ゆらゆらと草葉の歌声に合わせるようにして、花々がその身を揺らす様子に至るまで。
(「ああ、いいなあ」)
 あの木陰なんてとっても素敵。
 広々とした森のなか、ぽっかりと開いた草地の真ん中には、大きな木が一本だけ。まゆへ手招きするように、その枝をさらさらと揺らしている。
 きらきらと木漏れ日が舞うあの木の下はきっと暖かくてとっても素敵だろうから、自然と足もふらりとそちらへと向かっていた。
 試しにひんやりと涼しい木陰に座ってみると、草がふうわり舞い上がって。
 ちらちらと見え隠れする木漏れ日に、大木にそっと寄り添うように咲くスミレの花々は、手を伸ばせばすぐに届きそうな距離だった。
(「此処で好きな人と一日過ごしてみたいなあ」)
 そっと柔らかい紫を宿すスミレの花弁を撫ぜれば、すべすべとした感触がした。
 よくよくスミレの葉を見て見れば、所々に虫食いの穴が点々と空いている。どうやら、食まれてしまったらしい。
「生きる以上、仕方ないとは思うんだけど……」
 この森に住む虫は、まゆの想像以上にグルメであるらしい。「美味しかったから」と葉脈だけを残して器用に食べられたスミレも、「苦いから止めよ」とばかりに一口齧られただけのスミレも。どちらも何処となく、哀愁のようなものが漂っている。
(「あのひともきっと森なんて知らないだろうから、きっと喜んでくれるよね」)
 赤が似合うあの人の世界も、森なんて存在は縁遠くて。だからきっと、目の前の緑に驚くだろう。
 大自然に生きる小さな命に一喜一憂しながら、此処でのんびり過ごすのだ。木陰に座ったり、花を編んだりして。
(「その前に、あたしが一日ここで過ごして――」)
 まゆはそこで、ふと気付く。
 完全に浮かれているけれども――……。
(「あれ? あたし、罠にはまっているのかも」)
 ぱっと、心地良い微睡みから目が覚めるような感覚に襲われた。
 我に返ってキョロキョロと周囲を見渡してみれば、先ほどまで心地良く吹いていた風も、草の匂いも、ぴたりとその姿を隠してしまって。
(「……助けに行かなくちゃ。好きな人を待つ気持ちはとてもよくわかるから」)
 だから、助けにいってあげなくちゃ。
 名残り惜しくもスミレから手を離して、まゆはゆっくりと立ち上がる。
 あたしは、猟兵だから助けにいかなくちゃ。
 何とか歩き出したけれども、数歩歩いては心地良い木陰を振り向いて見て、また数歩歩いて。後ろ髪を引きずられるようにしながらも、まゆは少しずつ森の奥へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

都槻・綾
いっとうの幸福だったと気付くのは
其れを失った時なのかもしれませんね

私ならどんな夢に浸るかしら

人形の縫と
散策気分で森の中
白詰草の花冠を作ってやり休憩も

彼女の双眸に
青空や翡翠の樹々が映っているのを
微笑んで眺め
共に見晴るかす野原は
陽を浴びて眩く煌いている

何処までも何処までも澄み渡った世界
悲しみのない
涙する人もいない
爽やかな風景

そっと重ねられた小さな人形の手
温度は無く冷たいけれど
私を現へ連れ戻す、確かな手

ありがとう
夢を見ていたのでしょうか

夢か
現か
境目のない何気ない日常の遣り取りだけど
再び見渡す風景は変わらずに眩いけれど
何故だろう
たった今まで游んでいた記憶の中の景色は
還れぬ故郷のように
切なく、うつくしい



●美しきものたちへ
 身近にあると、かえってその輝きに気付かぬもの。
 それはまるで星空のように。遠くから振り返って見つめてみて、初めてその価値に気付くもの。
 それは自分にとって大切な存在かもしれないし、今まで歩いてきた道のりだったり、価値に気付かぬまま手放してしまった品かもしれない。
 総じてそれらに共通していることと云えば、失ってからその価値に気付くということで――。
(「いっとうの幸福だったと気付くのは、其れを失った時なのかもしれませんね」)
 そんなことを心の片隅で考えながら、ふわり、都槻・綾(絲遊・f01786)はゆっくりとシロツメクサの覆う森を往く。その手に木漏れ日よりもきらきらと瞳を瞬かせる人形の縫を優しく抱きながら。
(「私ならどんな夢に浸るかしら」)
 本当は少しばかり、その『夢』に心当たりが無い訳でも無いのだけれど。
 今は戻れぬ、愛しき日々たち。もしかしたら、その夢を見るのかもしれないから。
 郷愁と懐かしさと愛しさと、少しばかりの好奇心と。くるりくるりと移り変わる心の色彩を躍らせながら、綾は人形の縫と二人、散策気分で森の中を歩いて行く。
「この辺りで休憩としましょうか」
 ポンポンと競い合うようにしてその根を伸ばしているのは、シロツメクサとタンポポの両軍だ。
 ふわふわとした白ともっふりとした黄色の入り乱れる様は愛らしく、しかし本人達にとっては切実な争いなのだろう。だって、子孫の未来が掛かっているのだから。
 白と黄色入り乱れる陽当たりの良い野原に、みょんみょんと飛び石のようにその姿を覗かせるのはスギナで。「ちょっと生える場所間違えました?」と言いたそうな様子で、白と黄色を見守っていた。
 競い合いながらもどうか、どちらもこのまま枯れることがないようになんて。綾はクスリと頬を緩ませながら、そっとシロツメクサの花を摘んで花冠を編み始めた。
 花冠には偶然見つけた四つ葉も編み込んで。出来上がったそれをそっと縫に被せれば、ふわりと表情が華やいだ。
「――長閑で美しいですね」
 まったりと白雲往く青空に、煌めきを宿す翡翠の樹々。ふわりと遠き旅に出るタンポポの綿毛に、太陽を目指して翅を広げるテントウ虫。縫が宿す双眸は、万華鏡のようにくるりくるりと様々な自然の彩を映し出していく。
 それを綾は微笑んで眺め、それから柔らかな春に溢れる目の前の野原に視線を向けた。
 共に見晴るかす野原は、降り注ぐ陽を浴びて煌めいていて。
 争いとは無縁の、何処までも何処までも澄み渡った世界が、目の前に広がっていた。
 悲しみはない。餓えも争いも、夜も無ければ、涙する人もいない。
 小さな生命が思い思いに煌めきを放つだけの、爽やかな風景だ。
(「このまま――」)
 ずっとこの景色を眺めて居られたら。
 そんな想いが胸に溢れかけたその瞬間、そっと重ねられるのは、小さな人形の手のひら。
 命溢れるこの野原とは反対に、温度を宿さぬ、無機質なその手は小さく冷たいけれど。
 何も語らずに重ねられたそのヒンヤリとした確かな存在が、幻へと旅立ちかけていた綾を現へと連れ戻すのだ。
「ありがとう。夢を見ていたのでしょうか」
 夢か。現か。
 そんな分類は、とても些細なことのように思えた。
 夢は現へと続いていて、現もまた夢へと続いている。
 境目のない何気ない日常の遣り取り、その連続で歴史や季節は紡がれていて。
 再び見渡す風景は変わらずに眩いけれど、先ほどまでのような、触れれば壊れてしまいそうな脆い硝子細工のような空気感は感じられなくて。
(「――何故だろう」)
 たった今まで游んでいた記憶の中の景色。
 振り返れば、随分と遠くまで来てしまった気がした。
 帰り道を探そうにも、歩いて来た道のりは草や花々に覆われ、辿ることすらできそうになくて。
 先ほどまで揺蕩っていた、記憶の中の景色。色褪せぬ、原風景。それはもう、還れぬ故郷のように。
 切なく、うつくしい。
 とても。とても――。
 心の底から、そう想うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント


陽の光に照らされた草花は輝いて
小さな生命たちが溢れている
なのに不思議と現実感が無い

進もうとした足取りは妙に重い
目に見えない何かが絡みついている様な
誰かに引き止められている様な
――。
嗚呼、声が聴こえる
自分の名を呼ぶ声だ
姿が見えなくともわかる
酷く懐かしくて、忘れる事のない声だ
最近何故か、お前の夢や幻覚をよく見るんだ
今になって…何でだろうな

ふぅ、と一息吐いて
目を閉じた
まだ思考は働いている、それなら―
分かるだろう?
こんな場所でお前の声が聴こえるなんて有り得ないと

そうして振り返れば
囁く声は消えていた
鳥の囀りと木々のさざめきが響くだけの只の森だ
…先へ進もう
何時までも夢を見ているわけには、いかないのだから



●声の形
 人間も動物も、植物さえ。今この地に息をしている生命は奇跡の連続で成り立っている。何処かで一度でも生命のバトンが途切れていたのなら、今目の前に咲いている花々も、この場に存在しなかったのかもしれない。
 普段は気に留めることも少ない、小さな――けれど身近にある、数多の命の煌めき。星と同じくらい数多く、そして眩く煌めくそれはきっと、改めて見てみるととても美しいのだろう。すぐ傍にあることに慣れてしまって、生命の持つ美しさに気付かぬだけで。
 ノヴァ・フォルモント(待宵月・f32296)の目の前は、そんな小さな生命の輝きで溢れ返っていた。
 クローバーによく似た小さく愛らしいカタバミは、見かけによらず案外逞しいという。現に、もっさりと野原の一角を占領しつつあった。その横ではその昔花壇から脱走して雑草化したという、お転婆な桃色のお姫様の姿も。
 土の下からでも敏感に春の訪れを感じ取って一斉に芽吹き始めた野原の草花達は、我先にと空で微笑む太陽に向かってその葉を伸ばしている。
 ブーンと耳を澄ませば聞こえるほどの微かな羽音を響かせて、ミツバチがするりと花弁の中へ潜り込んだ。
 陽の光を受けて、輝きを宿す小さな生命たちが野原に溢れている。今、この森に確かに存在していて、確かに目の前で呼吸をしている。
 なのに。
(「――なのに、不思議と現実感が無い」)
 触れる草花の感触は何処か作り物めいていて、鳥の囀りは何処か機械的に繰り返されているだけのようにも聞こえて。
 そして、自然と戯れながらも進もうとした足取りは妙に重く感じられた。
 目に見えない、透明な茨が自分の足に絡みついているような。
 姿の感じられぬ、誰かに引き止められている様な。
 生命に溢れる野原にそっと紛れ込み、自分が見つけるその瞬間を心待ちにしているように。誰かが自分をじっと見ている。そんな気がする。
『――、――。』
 嗚呼、声が聴こえる。
 ノヴァ、と。確かに、自分の名を呼ぶ声がする。
 声のする方を見なくとも、誰が自分を呼び止めているのか、ノヴァにはすぐに判断がついた。

 ――一説によれば、人間は「声」から順に、その人のことを忘れていくのだと云う。

 自分でも気づかぬうちに、ゆっくりと静かに。
 それでも、「声」の記憶が一番初めに無くなるのだとしても。ノヴァは確かに、憶えている。
 酷く懐かしくて、忘れる事のない声なのだから。忘れられるはずも、ないのだから。
 魂に直接刻み込まれたお前が紡ぎ出す音の揺らぎは、これからも決して忘れることは無いのだろう。
(「最近何故か、お前の夢や幻覚をよく見るんだ。今になって……何でだろうな」)
 確固たる理由は、自分でも分からない。ただ、お前の夢や幻覚ばかりを見ている。今も。
 かつての想い出を繰り返し、思い起こすように。お前のことばかりを。
 そんな自分を呼び止めるように。お前は気付け、と叫んでいる。
 何度も繰り返される、「お前」の声が。それでもノヴァは声のする方を――見なかった。
 代わりに早く浅くなる呼吸を落ち着かせるようにふぅ、と一息吐いて、目を閉じた。
(「まだ思考は働いている、それなら――」)
 外ならぬ自分に言い聞かせる――分かるだろう? と。
 こんな場所でお前の声が聴こえるなんて有り得ない。
 先ほどまで姿さえ見えなかったと云うのに、声が聞こえることも。
 全て、あり得ぬ話。
 これは己が作り出した、幻にしか過ぎないのだと。
 深く息を吸って言い聞かせて――そうして振り返れば、そこには誰もいなかった。
 ただ、小さな生命に溢れた野原がそこに在るだけで。
(「……先へ進もう」)
 いつの間にか、自分の名を紡ぎ、囁く懐かしき声は消えていた。
 鳥が囀り、植物が煌めき、木々が歌うだけの只の森が、目の前に広がっているばかりだ。
 そうだ。何時までも夢を見ているわけには、いかないのだから。
 己には、今を歩くこの両足があるのだから。過去でも未来でもない今を、生きているのだから。
 ノヴァは後ろを――振り返ることなく、生命満ちる野原を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

森乃宮・小鹿

思い出の場所で無事を祈る、なんて
余程その人が大切なんでしょうねぇ
……仕方ない、迎えに行ってあげましょ

にしても、本当に見事っすね
こんなにたくさんのお花が一度に見られるなんて……
うわあ……花冠とか作れちゃいそう……
たくさんお花がありすぎてどう楽しめばいいか悩んじゃいます

座り込んで花を眺めて、天気もよくてずっとこうしていたくて
……あれ、何かが引っかかる
花は好きだけど、もっと大事なものが何かあるような

延々悩んで、思い出す
そうだ、ボクが花より大事なものなんて決まってる
花より価値ある美しい想いを散らせないために
森の奥のお姫様を騎士様と無事に再会させるために

寄り道しすぎたっすね
さあ、先を急ぎましょうか!



●目覚めをあなたに
 人によっては故郷だったり、忘れることの出来ない大切な場所だったり。
 誰にでもあるであろう、想い出の場所。それが、迷子のお姫様にはこの森だっただけの話で。
(「思い出の場所で無事を祈る、なんて。余程その人が大切なんでしょうねぇ」)
 それでも、華麗にお宝を盗んで退場するまでが怪盗の仕事ならば、お出かけも家に帰ってくるまでがお出かけだ。それが、行ったきり帰ってこないなんて。
 そう。今回のお仕事は、オブリビオンの退治と、眠り姫のようにスヤスヤと森の奥で夢を見続けているお姫様のお迎えである。
「……仕方ない、迎えに行ってあげましょ」
 自分が行方不明になっていることにすら気づかず、森で幸せな夢を見続けている花盛りの娘。
 迎えに行くこちらの身にもなって欲しい。やれやれと大げさに振られる森乃宮・小鹿(Bambi・f31388)の動作には若干の呆れが含まれていたが、それでも足はしっかり森へと向かっていた。
 オブリビオンからお姫様を救い出すことなど――簡単な方のお仕事なのだから、きっと。
「にしても、本当に見事っすね」
 よいしょっと軽い身のこなしで岩場を乗り越えれば、小鹿の両目に飛び込んできたのは地平線の先まで続いているんじゃないかと思えるほどの見事なお花畑だった。
 疎らに点在する木々は歌うようにさざめき、何処からともなく小鳥の囀りが響き渡る。花の間をひらひらと飛び交う蝶やミツバチは蜜を集めることに夢中で、小鹿がすぐ近くまで近づいても羽ばたく素振りすら見せなかった。
「こんなにたくさんのお花が一度に見られるなんて……」
 これは、お姫様が夢中になるのも無理は無いのかもしれない。
 赤に黄色、橙に青。花々が作り出した自然のパレットは、無い色を数える方が難しいほどくらいで。
 圧倒的な生命力と他の追随を許さない自由気ままさで、あっちへこっちで花を綻ばせているのは、この森に昔から根付いていた野生の植物たち。
 野にかえっても可憐さはそのままに、数は少ないながらも思わず目を奪われてしまう大ぶりな花を咲かせているのは、町から運ばれてきた園芸種なのだろう。
「うわあ……花冠とか作れちゃいそう……」
 たくさんお花がありすぎて、どう楽しめばいいか。
 美しい色彩に染まるスミレやビオラは砂糖漬けにすれば間違いなく美味しいだろうし、優しい桃色を宿すスイートピーたちは花冠に編み込んでも、ブーケにしても長く楽しめるだろう。
 ふうっとタンポポの綿毛を優しく吹けば、ふわりと大空に。
「……あれ、何かが引っかかる?」
 花畑の真ん中にそっと座りこめば、シバザクラが優しく小鹿を受け止めてくれた。
 花を選びながら花冠を編んで、時には小休憩としてのんびりヒツジのような雲が揺蕩う青空を眺めたりなんかして。
 何もかもがこの花畑にはあるのに、何かを忘れているような。
 確かに花は好きで、見ていて飽きない。だけど――。
(「もっと大事なものが何かあるような?」)
 首を左右に傾けつつ、必死に手繰り寄せるのは先ほどまでの記憶。
 花を眺めに此処に来た訳ではないし、何かを迎えに来たような。
 確か、森の中で幸せな夢を見ているお姫様がいて。
「そうだ、ボクが花より大事なものなんて決まってる」
 花より美しく、長く咲くそれは、花よりも価値のある美しい想い。
 それを散らせぬために、小鹿はここまできたのだ。
 森の奥で眠るお姫様を、漸く帰還した騎士様と再会させるために。この物語を、ハッピーエンドで終わらせるために。
「寄り道しすぎたっすね。さあ、先を急ぎましょうか!」
 自らの目的を思い出した小鹿は、シバザクラの花弁を盛大に巻き上げながら勢い良く立ち上がった。
 目的は唯一、それを思い出した以上、もう惑わされることはない。
 軽快なステップで花畑を進む小鹿の姿は、「バンビ」という彼女のあだ名ピッタリだったとか――。

成功 🔵​🔵​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆
ひらひらと舞う蝶を指で遊ばせながら
綺麗な森だねぇ
オブリビオンが関わっていなくても
ここに居たい、また来たいって気持ちになってくるよ
やったぁ、梓お手製のお弁当でピクニックだね
…あれ?あそこに何かいるよ

焔の母竜、俺は本物には会ったことはないのだけど
梓と旅をしていく中で、今回のように
幻覚として何度か出会ったことがある
幻のほうがよく会っているだなんて不思議な感じ
嬉しそうな梓と焔を見ていると俺まで顔が綻んでくる

梓と並んで母竜を枕にして寝転がり
鳥の鳴き声、草花が風に揺れる音をBGMに
のどかなお昼寝タイム…すやぁ

いけないいけない、俺まで爆睡してた
ふふ、焔が一番しっかりしているのかもね


乱獅子・梓
【不死蝶】◆
そうだな、今回の仕事が終わったら
弁当持ってまた遊びに来るのもいいかもな
…ん?

美しい花畑の中で
巨大な赤いドラゴンがゆったりと伏せっている
あれは…俺がガキの頃、故郷で出会った、焔の母竜
今はもうこの世にいない

「幻」という形で会うのはもう何度目だろうか
思わず「元気だったか?」なんて声をかけてしまう
母子の再会に焔も嬉しそうに鳴いている

何故か母竜の言いたいことが自然と理解出来て
背中を貸してくれるのか?
大型犬を枕にするような感じで
寝転がって母竜の身体に頭を預ける
春の暖かさも相まって程よい眠気が…ぐぅ

……
………
あだっ!?
焔に叩き起こされる
危ない、永久に眠るところだった…

母竜に別れを告げ、先へ



●再会の約束
 この森で生きているのは、植物や野生動物だけではない。
 ありのままの自然の姿が残るこの森は、虫たちにとっても楽園であるようで。
 ふわりふわりと空に翅を広げ、思うままに空中を飛ぶのは蝶の群れ。
 真っ白に染まった翅を持つ蝶も、小さく愛らしい蝶も、青く澄んだ綺麗な色を宿す蝶も。その全てが美しい。
「あの蝶、なんて名前なのかなー」
 名も知らぬ蝶へと想いを馳せながら、くるくると指先で数度丸を描けば、それが合図と成った。
 まるで灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と事前に打ち合わせをしていたかのように、呼び寄せられた蝶はひらひらと迷いなく綾の指先へとその細い足を絡ませて。そのままふわりと、翅を休ませる。
「綾の手から蜜でも出ているのか……?」
 真剣な顔で綾の仕草を真似ているのは、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)だった。
 先ほどからずっと綾の真似をして蝶を呼び寄せているのだが、何故だか自分にはいっこうに寄り付かない。偶にひらりと寄ってくる蝶が居ないこともないのだが、近くまで来た途端、何かに気付いたように急いで方向転換して逃げていくのだ。
 蝶は綾にばかり寄りついているのだから、そろそろ綾の指先から花の蜜が出ている説も濃厚になってきている。
 そうやって真面目な顔で考察に勤しむ梓は気付かない。
 梓の両肩に乗る焔と零がキラキラと瞳を輝かせているせいで、自身に蝶が寄り付かないことに。
 単純に蝶と遊びたいだけだと思うが、小さな蝶たちにとっては本能的に命の危機を感じてしまうらしい。「食べられるかも」と逃げていってしまっているのだ。
「にしても、綺麗な森だねぇ。オブリビオンが関わっていなくても、ここに居たい、また来たいって気持ちになってくるよ」
「そうだな、今回の仕事が終わったら、弁当持ってまた遊びに来るのもいいかもな」
 ももっと蝶の寄り付く綾を見ていると、何故だか負けたような気分にもなる。
 そっとリベンジを意気込みながらも、今度はピクニックをするために此処にこよう。
 蝶に好かれぬ自分を慰めるようにすり寄る焔と零を撫でながら、梓は人知れずそう決意していた。
「やったぁ、梓お手製のお弁当でピクニックだね。……あれ? あそこに何かいるよ」
「……ん? あれは……」
 ふわりと一斉に綾の手から蝶が飛び立って、青空に向かって飛んでいく。
 風がふわりとその姿を隠して、周囲には気づけば二人と二体がいるばかり。
 次来る時は梓お手製のお弁当が一緒だと、無邪気に綾が喜んだのも一瞬のことだった。自分を包み込む雰囲気が、確かにふわっと変わったのだから。
(「あれは……俺がガキの頃、故郷で出会った、焔の母竜」)
 いつからそこに居たのだろう。花園の真ん中で、自然に溶け込むようにして微睡んでいる大きな竜の姿があった。
 梓にとっては懐かしい存在である彼女。だが、今はもうこの世にいない。彼女はもう、梓や焔の記憶の中に住むばかりなのだから。
 思わぬ場所での思わぬ再会に、梓の頬も緩んでしまう。焔も久々に見る母の姿に、嬉しそうに「キュー!」とはしゃぎ声を上げていた。
「幻のほうがよく会っているだなんて、それも不思議な感じがするね」
 綾もまさかの久しぶりに、ひらりと手を振って挨拶を一つ。
 焔の母竜と直接会ったことは無いのだけれど、梓と旅をしていく中で、幻覚として何度か出会ったことがあるのだから。
 母竜も綾のことを憶えていたらしい。梓と焔を見て、それからゆるりと尻尾を振って綾へとご挨拶をしてくれた。
「久しぶりだな。元気だったか? 焔は見ての通り、毎日元気にしているぞ」
 「幻」という形で会うのはもう何度目だろうか。
 同じ幻では無いのだから、何度再会を重ねようとも、記憶が受け継がれるはずがない。
 そのはずなのに、目の前の母竜はまるで全ての再会を憶えているように振舞うのだ。
 だから、梓の口から自然に――「元気だったか?」なんて。再会を喜ぶような声が出るのも、自然な話で。
 懐へと飛び込む焔を優しく受け止めながら、「元気だった」と伝えるような母竜の柔らかな鳴き声が森に響いた。
「お、背中を貸してくれるのか?」
 心が通じ合っているのか、「幻」だからなのだろうか。
 何故だか、母竜の言いたい事が梓には手に取るようにして理解できた。どうやら、背中を貸してくれるらしい。
 「それじゃあ」と、もっふもふの大型犬を枕にするような感じで、柔らかな新芽の芽吹く草原に寝転がって。頭は母竜に、身体は柔らかな草に。それぞれ預けて寝転がれば、たちまち眠気が襲い掛かってくる。
「ちょっと休憩していくのも良いよね」
 梓の隣で、綾もまた母竜に頭を預けて寝転がんだ。
 暑いくらいの初夏の陽気なのに、吹き抜ける爽やかな風が程よく暑さを吹き飛ばしてくれる。
 ごろりと二人並んで空を見上げれば、先ほど戯れていた蝶の群れが青空を横断していく姿が見えた。
 ふわふわぽかぽかで、怖いことなんて何もない。ある意味恐ろしいほどのお昼寝日和なのだった。
「程よい眠気が……ぐぅ」
 草花が揺れる音や鳥の鳴き声は子守唄。呼吸の度に上下する母竜の身体は揺り籠で。
 のどかなお昼寝タイム。そう。このままここでずっと。すやぁと仲良く二人揃って、永久の眠りに――……。

「キュー!!」

 ――着かなかった。
 眠りに落ちかけたところで、真っ黒な視界に星が瞬いた。
 突然頬に生まれた痛みと熱さに目を開ければ、焔による尻尾ビンタがべちんべちんと容赦なく放たれている真っ最中で。
「あだっ!? ほら、起きてるぞ!!」
 文字通り叩き起こされ、同じく文字通り跳ね起きる。
 両手で起きていると盛大にアピールして、漸く尻尾ビンタは収まった。……視界の端で零までもが、無言で生み出した氷塊を自分たちに向けていたのは、きっと気のせい。そう、全ては見間違い。そのはずだ。
「危ない、永久に眠るところだった……」
「いけないいけない、俺まで爆睡してた。ふふ、焔が一番しっかりしているのかもね」
 ぎゃいぎゃいと騒ぐ焔を抱き寄せれば、ぎゅっと梓に飛びついてきた。暫くは離れようとしないだろう。
 そして、視界に影が差したかと思えば、焔の母竜が申し訳なさそうに覗き込んでいた。
 すぐ隣で起きた騒ぎを聞きつけて、綾もゆっくりと起き出すとそのままぐーっと伸びを一つ。
 案外、焔が一番しっかりしているのかもしれない。
 ここでずっとのんびりしていたいけれど、生憎そうもいかない。ピクニックを楽しむのは、またの機会に。
「それじゃあ、またな」
「今度はお土産を持ってくるねぇ」
 大きく手を振り、母竜へと別れを告げて。
 今度来た時は、ゆっくりと楽しもう。そんなことを思いながら。
 梓と綾は、花園の先へと歩き出す。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花降・かなた
◆【風花の祈り:3人】
わーい、ピクニックよピクニック!
お弁当の準備は(多分)万全!なんだか楽しいことがたくさんありそうな気がするわ!
花畑を見たら迷わずダイブ!
わーい。お花すてき。気持ちいい……もうずっとここでごろごろしてましょうよ。ゴロゴロ―。
え、纏さん行っちゃうの?うーん、追いかけないと……zzz
魅華音さん、お昼寝、気持ちいいわねぇ
もうずっとこんな感じで、一生ごろごろして過ごしてたいわ…


……
朝?やぁよ。もうちょっと寝たいの
纏さんも一緒にお昼寝して…
寝返りを打って魅華音さんを抱き枕に……あれ、いない?
だめなの?そう……。えっと、そう、駄目だった……かしら?
うぅ、待っておいてかないで―(起きる


唐草・魅華音
【風花の祈り:3人】
アドリブOK

かなたさん、のんびりしてる場合じゃないですよ?はやく進まないと。と注意しますが、見てるとわたしも一緒にゴロゴロしたくなって、一緒にゴロゴロしちゃいます。
散策に行く纏さんに「行ってらっしゃい~」とのんびり声掛けして、まったりお花畑のベッドに微睡んでのんびりと……
もう何をしに来ていたか思い出せなくなり、纏さんが帰ってきたらお弁当食べようかな~?とか思いつつすやすやと……
すっかり飲み込まれかけた所で、纏さんに声をかけられて、最初は焦らなくてもとまったり構えて……
……はっ!?と目覚め。そうです!ここには救助任務で来たんでした!また囚われないうちに早く行きましょう、と。


九石・纏
◆【風花の祈り:3人】
・幻覚
気持ちは分かる。が、まずは捜索だろうかなた嬢?

ははは、…まぁ良いか!俺も辺りを散策してくるかぁ。
気付かぬ内に捜索から散策へ

ダークセイヴァーではまず見ない、暖かい日の光に照らされた花畑、少女達の楽しげな声。平和な時間。
このまま、ずっとこの時を過ごしているのも、いいか……?

・幻覚からの覚醒
なんだ、お前もいたのか。
ふと横に亡き戦友、人狼の男の影を見る

狂気耐性、戒めの義手を見る。
ああ安心しろ、忘れやしねぇよ。

呪詛耐性『銀狼の聖剣』浄化の銀光で周囲を照らし、
幻覚効果を払い、仲間へ声をかける

さぁ!迷子の娘さんを探さにゃなならん。
名残惜しいが、楽しみは後にとっとこう。な?



●ピクニック日和
 「遊ぼう」と木々の誘う声に、「もちろん」と答えるように手を伸ばす野原の花々の姿が見えた。
 小鳥たちは思い思いに親から教えてもらった歌を歌い、風がその歌声を遠くまで響かせていく。空は染み一つない鮮やかな青に染まっていて、上空の真っ白な雲は雨の気配の一つすらも感じられない。
 こんな良い日に一日を部屋で過ごすなんて、勿体ない!
 部屋に籠っている時間があるのなら、一秒でも早く外に出る支度をして、青空の元で駆けださなくちゃ。
 そう。今日はまさに絶好のピクニック日和だった。
 これほどまでに天候に恵まれた環境で、逆にピクニック以外の何をするというのだろう。花降・かなた(雨上がりに見た幻・f12235)は、ピクニック以外の答えを持ってはいなかった。
「わーい、ピクニックよピクニック!」
 楽し気なはしゃぎ声と共に、かなたの足取りは一直線に様々な花が咲き誇る花畑の方へ。草を散らし、花びらを舞い上げ、蝶の群れを押しのけて。全速力で駆けていくかなたを止める者は誰も居ない。
 花畑を駆けていく途中でかなたが普段被っている「お嬢様風」とか「癒し系」とかいう猫たちまでもが、にゃーっと逃げ出したのは……きっと、気のせいだ。
「なんだか楽しいことがたくさんありそうな気がするわ!」
 花畑にお弁当に、ピクニックに。もう既に、楽しいことがかなたの全身を包み込んでいる。
 それにそう。ピクニックといえば、欠かすことの出来ないのがお弁当!
 青空の下で食べるサンドウィッチやおにぎりは、普段の食事とはまた違った楽しさを感じられるのだから。
 そういえばお弁当って、誰が準備するのだったかしら? 花畑にダイブを決める時に一瞬そう思わなくも無かったけど、きっと誰かがしっかり準備しているはず。
 ここにもし「花畑ダイブ大会」の審査員が居たのなら、満場一致で満点を出すほどの華麗なダイブを決めて。
「かなたさん、のんびりしてる場合じゃないですよ? はやく進まないと」
 ――と、ゴロンゴロンと花畑の絨毯を転がり始めるかなたを現実に引き戻す声が上から降ってきた。
 ゴロンな体勢のままかなたが上を見上げれば、唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)が絶対零度の視線を自分に向けているところで。
 ピクニックのお誘いは確かに悩ましいもの。それでも、事前に聞いているようにこの花畑には「幻覚」を見せる性質があるのだし、今は依頼の途中なのだ。何時までも遊んでいる訳にはいかない。
 もう既に「幻覚」に捕らわれている可能性だってあるのに。冷静な魅華音は、花々のお誘いにも靡かずかなたに注意を告げる。
 もうっとかなたを覗き込む魅華音の言葉にうんうんと頷き、ゆっくりと二人へと向かってきた九石・纏(人間の咎人殺し・f19640)もまた、魅華音と同意見のようで。
「気持ちは分かる。が、まずは捜索だろうかなた嬢?」
 お花畑でピクニックは、事件を解決してからでも遅くない。
 まずは進むべきだと告げる魅華音と纏に、「えー」っと不満そうなかなたの声が上がった。
「こんなにもすてきなのに? 気持ちいい……もうずっとここでごろごろしてましょうよ」
 二人からつめたーい視線を向けられても、かなたはめげない、挫けない。
 見せつけるようにとても楽しそうに花畑をゴロゴロとしたら、自分を見つめる魅華音の瞳が揺らいだのを確かに確認したのだから。
「もう、仕方ないですね」
 自由に目の前をゴロゴロするかなたに、ついに魅華音も折れた。
 目の前のふわふわ可愛らしいお花畑のベッドが羨ましくなったわけでも、かなたさんがとても楽しそうに見えた訳でも無い。
 これはかなたさんが迷子にならないため。仕方なく、一緒にゴロゴロするんですから!
 自分にそう言い聞かせながらも、誤魔化しきれない足取りは弾むように花畑の方へ。
 もふんっと飛び込めば、ふわりと花々が優しく魅華音を受け止めてくれる。こはは……かなたさんが虜になってしまうのも、無理はないのかもしれない。そう思いながら、もふっとふわふわした花に抱き着いた。
「ははは、……まぁ良いか! 俺も辺りを散策してくるかぁ」
「纏さん、行ってらっしゃい~」
 目の前でゴロゴロしている少女二人を見ていたら、纏の中にあった「急がなくてはならない」という気持ちもゆっくりと褪せ始めた。
 そうだ。こんなにも楽しそうにしているのに、何も水を差すようなことをしなくても良いのではないだろうか。
 少しくらい、自由に楽しむのも。
 二人に行き先を告げ、のんびりと散策を始める纏。しかし、纏もまた気付いていない。自身の目的が捜索から散策へ、ひっそりとすり替わっていることに。
 花畑ではしゃぐ少女二人に、散策しつつ物珍しい植物をじっくりと観察する纏。残念ながら、ツッコミ役は不在であるらしい……。
「え、纏さん行っちゃうの? うーん、追いかけないと……zzz」
 魅華音から遅れること少し、どうにか誘惑に抗ってかなたが手を伸ばした頃には、纏の姿は目の前にもうなかった。
 でも仕方ない。こんなにも心地良いのだから。寧ろ、誘惑に頑張って抗ったのだから誉めて欲しい。
「魅華音さん、お昼寝、気持ちいいわねぇ」
 もうずっとこんな感じで、一生ごろごろして過ごしてたいわ……。
 零れ落ちる本音を隠す素振りすらみせず、かなたはでろんと花畑のベッドで思いきり寛いでいる。
 好奇心の赴くまま近づいて来た子ウサギを抱き枕代わりに抱き寄せてわしゃわしゃすれば、最高の気分だ。
「そうですね。このままずっと此処に居たくなります~……」
 そーれっとゴロゴロによって舞い散った花びらを搔き集めてふわりと再び空に放てば――ちょうど風向きが魅華音の方を向いていたせいで、魅華音の髪にふわふわと花びらたちが纏わりついた。
「花びらが……とってあげるわ」
「あ、お願いできます?」
 のそーっとした手つきで一枚、二枚……魅華音の髪に絡みつく花びらを数えつつ解いていたら、かなたに襲い掛かる眠気が徐々に強いものになっていっているような。
 ぼんやりと空を見上げつつ、花びらを取ってもらっている魅華音もいつの間にか、うつらうつらと船を漕いでいる。
「纏さんが帰ってきたら、お弁当食べようかな~? 丁度お昼近くになるでしょうから~」
「良いわね、それ」
 ほわほわとピクニックについてを考えながら、かなたと魅華音は仲良く眠りの世界へ――……。
(「このまま、ずっとこの時を過ごしているのも、いいか……?」)
 思わずそんなことを思ってしまう。ここは残酷なほどに、穏やかな世界だった。
 眠たげな少女たちのやり取りをBGMに森を散策していた纏が遠くから花畑を振り向いて見てみれば、そこには、夢のような光景が広がっていて。
 纏の生まれ故郷である闇と夜に覆われた世界ではまず見ることの叶わない、暖かな陽の光差す穏やかな森。異端の神々に怯え、息を殺してそっと生活を送る人々や動物の姿は見られない。
 思い思いに草を食み、空を飛んだりもする野生動物たちに、楽しそうにはしゃぐ少女たち。争いや飢えに怯える必要もない。だってここに――命を脅かす存在は、いないのだから。
「……なんだ、お前もいたのか」
 ふと、花畑を眺める自分の視界に影が差して。思わず横を見れば、久しく逢っていなかった戦友の姿が見えた。
 あの頃から変わらぬ――否、変わるはずのない人狼の姿に、自然と纏の表情も柔らかいものになる。
 幻であると分かってはいるが、暖かい想いが胸を覆い尽くしていく。
 そう。姿は変わるはずがない。
 纏の視線はそっと、戒めの義手へ。何故ならば、戦友は。
(「ああ安心しろ、忘れやしねぇよ」)
 ――もう、この世に存在しないのだから。
 もう隣に並ぶ日が来なくとも。友のことは、未来永劫忘れぬから。
 その決意と共に、森を覆い尽くしていくのは纏が放つ浄化の力を宿した銀光だった。
 亡き友の名を冠するその力は、周囲を照らし、幻覚を払い――銀光が去った後には、静かな森が在るばかりだった。
 隣に居た友もいない。胸を占めていた、「ずっと此処にいたい」という不思議な高揚感も。
「さぁ! 迷子の娘さんを探さにゃなならん。名残惜しいが、楽しみは後にとっとこう。な?」
 纏が花畑で眠るかなたと魅華音に声をかければ、二人はのっそりと起き出した。
「あ、帰ってきましたか。何も、そんなに急がなくても……」
 未だにぼけーっとした魅華音は寝ぼけ眼のまま、ゆっくりとお弁当を取り出そうとして……。
「……はっ!? そうです! ここには救助任務で来たんでした!」
 途中で、我に返った。慌ててパタリとお弁当の蓋を閉じる。
「朝? やぁよ。もうちょっと寝たいの。纏さんも一緒にお昼寝して……」
「かなた嬢、朝を通り越してもう昼に近いぞ」
 覚醒した魅華音とは反対に、まだまだおねむかなたは二度寝を決め込もうとして――魅華音を抱き枕にしようとした手は、すかっと見事に空ぶった。
「また囚われないうちに早く行きましょう」
「そうだな。また幻覚に囚われることが無いとも言いきれない」
 一早く歩き出した纏に、すくっと立ち上がった魅華音が後に続く。
「だめなの? そう……。えっと、そう、駄目だった……かしら? うぅ、待っておいてかないでー」
 そして最後に、のろのろと起き出したかなたが続く。……だめなの? と、何度も前を歩く二人に確認を取りながら。
 名残り惜しいけれど、花畑でのんびりピクニックは全てが片付いてから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

炎獄・くゆり
【獄彩】


あっ、うさぎ!
美味しそお~~~じゃなかった!
フィーちゃんみたいでカワイイ!
ン~~やっぱりフィーちゃんのがカワイイ~~
その嬉しそうなお顔もグッド!

よく燃えそうな森ですね
試し……ハァイ、やめときまぁす
着火機能はオフにしといて寛ぎますかぁ
お花畑に寝っ転がるのってロマンありますねえ~~
せーのでいっちゃいます?
ぎゅっと抱きつけば、自分が下側になってそのまま一緒に倒れ込み
ウフフ、カクリヨのまっしろふわもふ地面を思い出しますねぇ

あ~~~なんか帰りたくないかもお
でもフィーちゃんには色んな物を見てほしいから
狭い世界は彼女に似合いませんからね
あたしが連れ出したげます

ね?
真っ直ぐに、彼女へと左手を伸ばして


フィリーネ・リア
【獄彩】

跳ねるうさぎ
フィーには楽しそうなくゆちゃのほうが可愛いの
うふふ、フィーの方がかわいい?
ならきっとくゆちゃんが居るからだね
高い自己肯定感はいつも彼女がくれる絶対

燃やしたらきっとフィーの好きな色が見れる
でも駄目だよ、くゆちゃん
聴こえるさびしんぼうの森の聲
魔女は拾ってしまう聲だけど
ふふ、なら寝っ転がっちゃおう?
だいすきな彼女の隣では魔女もただの人形だから
せーので飛び込んじゃうの
ほんと、あの時のふわもふみたい

だめ、くゆちゃんにはフィーをまだいっぱい可愛くしても貰うんだから
色んなものをフィーと見るの
何より停滞はくゆちゃんに似合わないから
フィーは此処を否定するわ

手を繋いで眼を合わせたなら、きっと



●うさぎ、追いし。美味しい、うさぎ
 ちらちらちら、と。背の高い植物に見え隠れするのは、白に茶色に、斑模様に――ふわっふわで小さな野ウサギたちの姿だった。
 はみはみと生えているタンポポが片っ端からウサギの口に吸い込まれて、消えていく。
 時にペットとしても飼育されるウサギは、こうして見ているだけでも十分に愛くるしい。きゅるんと円らな視線を向けられたら、たちまちウサギの虜になってしまってもおかしくないだろう。
「あっ、うさぎ!」
 目の前でぴょんぴょんと跳ねるウサギに、一早く反応したのは炎獄・くゆり(不良品・f30662)だった。
 くゆりの澄んだ金色の瞳は、真っ直ぐにウサギの姿を捉えている……否、捉えているなんて生易しいものではない。決して逃さぬように、しっかりとロックオンしていた。
 過不足なく引き締まった筋肉に、濁りの無い澄んだ瞳、健康そうな毛並み。何処からどう見ても――。
「美味しそお~~~じゃなかった! フィーちゃんみたいでカワイイ!」
 今すぐにでも捕まえて、町の猟師さんにでも捌いてもらって、から揚げやワイン煮にして食べたい。ウサギ肉は栄養分豊富で、硬い猪肉とは違って柔らかくて食べやすいんだとか。絶対に美味しい。
 うさぎ美味し、から揚げ――そういえば、何処かの世界にそんな歌があったような。そう、『懐かしの味』みたいなタイトルの。
 思わず漏れ出た本音を慌てて打ち消して、わざとらしく「きゃーっ!」とはしゃぎ声を上げるくゆりを前に、本能的な危険を感じたウサギたちが我先にと逃げ込んだのはフィリーネ・リア(パンドラの色彩・f31906)の背後だった。
「フィーちゃんを盾にするとは、なかなかに手強いうさぎですねぇ~~!」
「フィーには楽しそうなくゆちゃんのほうが可愛いの」
 みょんみょんとフィリーネの背後から顔だけを覗かせるウサギには、何処となく勝ち誇った雰囲気が漂っていた。
 丸いふわふわなうさぎたちをよいしょっと抱き上げるフィリーネに、心のシャッターの連写を決めるくゆり。この光景は決して忘れる訳にはいかない。カワイイと可愛いが合わさって、破壊力抜群なのだから。
「うふふ、フィーの方がかわいい?」
「ン~~。やっぱりフィーちゃんのがカワイイ~~。その嬉しそうなお顔もグッド!」
 大好きなくゆちゃんに褒められて、フィリーネもにっこりと嬉しそう。愛らしいうさぎの魔力も、くゆりには効果がなかった。
「ならきっと、くゆちゃんが居るからだね」
 こてんと首を少しだけ傾けてみたフィリーネに、声を抑えて悶絶しだすくゆり。
 高い自己肯定感は、いつもくゆりががくれる絶対から成り立っているのだから。長閑な森でも平常運転の二人を、もふっとうさぎたちが見守っている。
「でもでも、よく燃えそうな森ですね」
 改めてよく見てみれば――くゆりにとっては、着火剤の宝物庫のような森だ。若木に草原に花畑に。ついでに、ウサギも美味しそうにこんがり焼けるに違いない。
「燃やしたらきっとフィーの好きな色が見れるけど……でも駄目だよ、くゆちゃん」
「試し……ハァイ、やめときまぁす」
 燃やしてしまったら、折角のお花畑も無くなってしまうのだから。「めっ」をするフィリーネに、素直に着火機能をオフにしたくゆりは、そのままお花畑へと駆けだした。
「お花畑に寝っ転がるのってロマンありますねえ~~。せーのでいっちゃいます?」
 さわさわさわと囁くのは、さびしんぼうな森の聲。
 一緒に遊ぼうとフィリーネに囁きかけているけれど、魔女へと向かって手招いているけれど。
 でも、大好きなくゆちゃんの前では、フィリーネはただのフィリーネなのだから。
「ふふ、なら寝っ転がっちゃおう? せーので飛び込んじゃうの」
 くゆりを下に、ぎゅっと抱き着いてそのまま花畑の中へ!
 一緒にもふっと春の色彩溢れる優しい花畑へと飛び込めば、ふわりと柔らかな花びらが雨のように降り注いだ。
「ウフフ、カクリヨのまっしろふわもふ地面を思い出しますねぇ」
「ほんと、あの時のふわもふみたい」
 優しく柔らかく受け止めてくれる花々の絨毯に、ふわふわと降り行く花の雨。
 その光景に、思わず少し前に行ったカクリヨファンタズムでの光景を思い出してしまって。
 あのまっしろまるもふたちはどうしてるかなーって思うけれど、今頃きっと飼い主に高級白粉を強請っているに違いない。
「あ~~~なんか帰りたくないかもお」
 ゴロンゴロン。もふんもふん。
 花を巻き上げながら転がれば、くゆりをそっと包み込むのは柔らかな春の陽気。
 暖かくて、平和で、ゆったりできて。思わず、帰りたくなくなってしまう。
 でもフィーちゃんには色んな物を見てほしい。そう思う自分が居ることも確かで。
「だめ、くゆちゃんにはフィーをまだいっぱい可愛くしても貰うんだから」
 それになにより、隣のフィリーネがダメと言うから。
「色んなものをフィーと見るの。何より停滞はくゆちゃんに似合わないから」
 自由だからこそ、くゆちゃんは輝いているのだ。
 二人の色彩が生まれるインクに、まっしろもふもふに、この柔らかな春の森に。
 二人を彩る記憶のスケッチブックも順調に埋まっていっているけれど、まだまだ白紙でいっぱいで――きっと一冊目が埋まっても、二冊目がページを開かれる瞬間を待ち侘びてるから。
 まだまだ見たい景色も色彩もいっぱいあるから、ここでずっと過ごす訳にはいかないのだ。だから。
「フィーは此処を否定するわ」
「そうですねぇ。狭い世界は彼女に似合いませんからね。あたしが連れ出したげます」
 秘密の花園は惜しいけれど、二人で見る新しい景色には敵わない。まだまだ沢山の未知が、フィリーネとくゆりとの出会いを待っているのだから。
「ね?」
 真っ直ぐに差し出されるくゆりの左手に、ぎゅっとフィリーネの手が重なった。
 言葉は要らない。慣れ親しんだ色彩を宿す眼と眼と合わせれば、それだけで全てが伝わるのだから。
 頷き合って美しくも狭い世界を否定すれば――ほら、目の前にあるのはただの花畑だ。
「ふふ、うさぎが案内してくれるみたいなの」
 幻から抜け出したフィリーネとくゆりを少し離れたところで待っていたのは、先ほどのうさぎたち。どうやら、森の奥まで案内してくれるみたい。
「おやおや、思いのほか良い子じゃないですかぁ~~」
 「仲直りしましょ~~」とうさぎに近づいたくゆりだったけれど……「美味しそう」発言を恨んでいるのか、ささっと逃げられる。
「くゆちゃんの魅力は、フィーだけが知っていれば良いの」
 逃げるうさぎと追いかけるくゆり。そのやり取りにふふっと微笑みを零しながら、フィリーネもゆっくりと歩き始めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

穏やかで美しい森なのに
何故でしょう、安らかさと同時にどこか悲しい思いが過ぎるのです

何日も何日も、帰らぬ人を待ちわびて
彼女の寂しさは想像に難くありません

ああ、わたくしもヴォルフと離れたくない
この穏やかな世界で、いつまでも一緒にいたい

……駄目。
それでは駄目なの
過去、わたくしは何度となく「幸せな夢に捕らえ離さぬ幻」に誘われた
それが悲しい善意からであれ、悪意による罠であれ
溺れてしまえば現実との絆は切れてしまう
もう二度と、あなたを悲しませたくないから

手を繋いで
わたくしを離さないで
今ここにあるぬくもりが、確かな生の証
もし不安にかられたなら、強く手を握り締めて

あなたがいれば、わたくしは何も怖くない


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

静かな森だ
心穏やかな気分になる

ああ、これは彼女が……俺たちが望んだ平和な世界
これこそが誰もが待ちわびていた……

……ヘルガ?
ここには何も怖いことはないのに
何故そんなに悲しい顔をしている?

……そうだったな
世界にはまだ多くの悲しみが満ち溢れている
志半ばに、無念のうちに倒れた人がいる
自分たちだけが安穏としてはいられないと
そして残酷な運命は、真綿のような夢で包んで
その意志を折ろうとしてくるのだと

行こう
死の罠に囚われた娘を
そして、俺たちの「現実」を救う為に

白く華奢な手をそっと繋いで
大丈夫だ。俺はここにいる
いつだってお前を守ってやる
どんな悲しみも弱さも乗り越えて
この絆は決して断ち切らせはしない



●解けぬように
 野を跳ねるウサギに、ゆっくりと木漏れ日の中を進む鹿の群れ。
 小鳥たちは我が子の待つ家へと食事を運び、餌にされて堪るかと虫たちが捕食者たちから姿を隠す。
 平和で、長閑で、争いとは無縁のこの森。何もかもに満ち溢れているようで、それでも大事な何かが欠けているような――そんな違和感をヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)この森に感じていたのだ。
(「穏やかで美しい森なのに……何故でしょう」)
 光差す木漏れ日に見え隠れするのは、平和であるが故の安らかさと……それと、少しばかりの悲しさの姿だった。
(「静かな森だ……心穏やかな気分になる」)
 ヘルガの隣で澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は、目の前の平和な光景に半ば無意識のうちに表情を緩めていた。
(「ああ、これは彼女が……俺たちが望んだ平和な世界。これこそが誰もが待ちわびていた……」)
 自分たちの旅の終着点は、まさしくこの森のような場所を差すのだろう。
 弄ばれる生命も無い。餓えや絶対的な支配者に怯える必要も無い。誰もが幸せで在れる、ありのままの姿で在れる、楽園のような場所。
 この森こそが待ち侘びた理想郷で、此処に居る限り、最愛の彼女が傷付くことは無いのだ――もう、二度と。
 愛しきヘルガが傷付き、救われぬ人々に涙することも、もうないのだ。これ以上に素晴らしき場所が、この世に存在するだろうか?
 心からの安堵の表情を浮かべるヴォルフガングと異なり、顔を下に向けながらヴォルフガングの少し後ろを歩くヘルガの表情には影が差している。
(「何日も何日も、帰らぬ人を待ちわびて……彼女の寂しさは想像に難くありません」)
 最愛の人を持つヘルガだからこそ分かる。唯一との別れは、それが一時的なものであっても――身を焦がすほどに寂しく、哀しいものだと。
 それでも、この胸に巣食う寂しさは、幸せな夢に囚われた娘への共感だけでは無い様な気がした。
(「ああ、わたくしもヴォルフと離れたくない。この穏やかな世界で、いつまでも一緒にいたい」)
 この穏やかな世界で、いつまでも共に。
 これは紛うことなき最高の幸せで。でも、胸に佇むひっそりとした微かな違和感は拭えなくて。
 理想郷のような目の前の森に視線を巡らせて――それから、ヘルガは気付く。
 そうだ。この森には、変化が無い。停滞という二文字だけ。まるで、森の奥で眠る娘と同じように、刻を忘れてしまったかのような姿をしているのだ。
 野生動物たちは朝になると起き出して、お昼になると思い思いにこの森で過ごして、夜になると家へと帰る。幻に囚われている限り、その流れが壊れることも無い。
 明日も、明後日も、きっと一年経っても。同じような毎日を繰り返し過ごすのだろう。
 移り変わる現実を拒み、仮初の楽園に閉じこもっているだけに過ぎない。此処に居る限り、本当の幸せは訪れない。
 そのことに気付いた瞬間、目が覚めるような感覚がヘルガの身体中を襲った。
「……ヘルガ? ここには何も怖いことはないのに、何故そんなに悲しい顔をしている?」
 ヘルガの微妙な変化にも目敏く気付いたヴォルフガングが、どうしたのかと彼女の顔を覗き込んで問いかける。
 怖いことは何もないのに、何をそれほど恐れていると云うのだろうか。
「……駄目。それでは駄目なの」
 ふるふると静かに首を振るヘルガに、ヴォルフガングの眉間の皺が深くなった。
 何を恐れているのだろう。そこまで考えて、ヴォルフガングもまた、奇妙な感覚を感じた。
 何かとても、大切なことを忘れてしまっているような……。
「わたくしは今まで何度となく『幸せな夢に捕らえ離さぬ幻』に誘われたわ。それが悲しい善意からであれ、悪意による罠であれ――」
 ヘルガは告げる。
 その幻に溺れてしまえば、現実との絆は切れてしまう。もう二度と、あなたを悲しませたくないから、と。
 だって、あなたとは「夢」でも「幻」でもなく、「現実」で共に幸せになりたいのだから。
「……そうだったな」
 ヘルガの告白に、ヴォルフガングもまた、忘れかけていた自身の使命を思い出していた。
 例え、一つの世界に平和が訪れたのだとしても。数多ある他の世界には、まだまだ多くの悲しみが満ち溢れている。
 志半ばに、無念のうちに倒れた人がいる。悪意ある過去に襲われ、命を散らした人がいる。
 少しでも多くの人々を救うのが自分たちの使命であるというのに、自分たちだけが安穏としてはいられない。
 何処かに苦しむ人々が居る限り、歩き続けるのが自分たちなのだから。
 そうだ。残酷な運命は、現実なんて見ないで良い、と。真綿のような夢で包み込んで、その意志を折ろうとしてくるのだ。
「――行こう。死の罠に囚われた娘を。そして、俺たちの『現実』を救う為に」
 これは幻なのだと気付くことが出来たのなら、もう、何も怖くは無かった。
 ヘルガとヴォルフガング。どちらからともなく差し出される手は、ゆっくりと繋がれる。甘美な幻のなかで、決してお互いを見失わぬように。決して、離れ離れになってしまわぬように。
「大丈夫だ。俺はここにいる。いつだってお前を守ってやる」
 手を繋いでもなお何処か不安そうな表情を浮かべるヘルガに、ヴォルフガングは優しく言い聞かせる。俺がお前を護る。だから、怖いものなんて何も無いのだと。
「どんな悲しみも弱さも乗り越えて、この絆は決して断ち切らせはしない」
「ええ……そうね。今ここにあるぬくもりが、確かな生の証だもの。あなたももし不安にかられたなら、わたくしの手を強く握り締めて」
 ぎゅっと絡められる指先に、伝わる互いの体温。この証がある限り、先のように幻に溺れることはないのだろう。
「あなたがいれば、わたくしは何も怖くない」
 だから進みましょうと、ヘルガは微笑む。
 娘を夢から救い出すために。二人の理想の実現のために――現実で、二人で幸せになるために。
(「この絆は決して断ち切らせはしない」)
 柔らかく微笑むヘルガを見たヴォルフガングもまた、決意を新たに彼女の手を強く握り返した。
 そこには幻で在ろうと、過去で在ろうと。何者さえも、壊すことのできない確固たる絆が、確かに存在していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加

駆け落ちで結婚した身としては今回の件は放ってはおけない。大切な人の元へ急ぐ子も、帰りを待ちわびる子も気持ちは良くわかるからねえ。

子供達と共に件の園に入る。なるほど、これほど多くの種類が揃う園は珍しい。奏が作ってくれた花冠を頭に被ってたら隣にいつの間にか死んだ夫が。そうだねえ、戦いに無縁そうなここで、アンタの隣で過ごせればどんなにいいだろう。

でもアタシは若い子らを無事に再会させる任務があるんでね。ここで足止めを喰う訳にはいかない。あなた、アタシは先に行くよ。隣の夫に軽く手を振って、先に進むよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

お互いを思いあうお二人、ぜひ再会させてあげたいです。娘さんはふらっとさりげなく出かけただけなんでしょうね・・・不幸にも帰れない園に来てしまっただけで。待ちわびる気持ちは良く分かる故。

件の園は綺麗な花が咲いてて思わず絢爛のクレドでくるくる踊っちゃいます。母さんに花冠をプレゼントしたら、母さんの隣に死んだお父さんが?うん、父さんとここで過ごせるならここにいてもいいですが、娘さんを助けにばいけませんので。父さんに花冠をプレゼントした後、前を向いて進みます。今から未来を護りにいきます。お父さん、見守っててくださいね。


神城・瞬
【真宮家】で参加

愛しい人の元へ戻ろうとしている方の気持ちも愛しい方を待ちわびる方のお気持ちも良く分かります。帰る場所があるってことは幸せな事ですから。ぜお二人を再会させて幸せな時間を過ごさせてあげたい。

件の園を見て、なるほど、ここはいい所だ。いつまでもいたいという気分にさせられる。なぜか死んだ生みの両親もいるような?そうですね、この園で千早父さんと麗奈母さんと一緒に居られるなら、いてもいいかもしれない。

でも、今の響母さんと奏の傍が僕のいるべき場所。お二人の未来を護る為に、先に進ませて貰います。千早父さんと麗奈母さんにネモフィラと野ばらの花束を贈り、奥に歩を進めます。



●想い、変わらずに
 誰かを愛するという気持ちも、誰かの帰りをずっと待ち侘びる想いも。
 褪せぬ想い出に、封印したくなるような体験に。
 生きている限りこの身体の内側に揺らめく、色も形も異なる情動の灯火たち。
 哀しみも愛も、喜びも。きっと、それはどれも等しくとても尊くて愛おしいものだから。
「駆け落ちで結婚した身としては今回の件は放ってはおけない。早く連れ戻してあげないとね」
 木の上で木の実を口いっぱいに詰め込むリスに瞳を細めつつ、真宮・響(赫灼の炎・f00434)は夫と駆け落ちした当時のことに想いを馳せていた。
 この人しかいないと思えたからこそ、あの時あの手を取ることが出来たのだ。
 名家の令嬢として生まれた自分、当然似たような育ちの令息と将来を共にするのだと思っていた――あの人に出逢うまでは。
 「釣り合わない」とどれだけ周囲に反対されても、あの人が居れば他の何も要らないと言い切れてしまうほどの情熱。この身体さえも燃やし尽くしてしまいそうな想いに駆られるまま、手に手を取って家出同然に駆け落ちをして。
 今の自分を当時の周囲の人々が見たらなんと言うのだろう。でもそれで、奏や瞬に出逢うことが出来たのだから――幸せなのだと、響は胸を張って言いきることができる。
「大切な人の元へ急ぐ子も、帰りを待ちわびる子も気持ちは良くわかるからねえ」
 どちらも、かつて響が体験してきたことなのだから。
 騎士の青年は一秒でも早く彼女に会うために帰路を急いでいるだろうし、帰りを待つ娘は早く帰ってきて欲しいと寂しさのあまり、幸せな夢に囚われてしまった。二人の気持ちは、痛いほどよく分かる。
「ええ。愛しい人の元へ戻ろうとしている方の気持ちも、愛しい方を待ちわびる方のお気持ちも良く分かります」
 響の呟きに、興味深そうに花畑に生える花を観察していた神城・瞬(清光の月・f06558)も、相槌を打つ。
 お互いが一人前になるまでは、と胸に想いを秘めている旬だが――瞬にだって、愛しい人が居るのだから。
 愛しい人の傍に居たいのは当然の感情であるだろうし、大好きだからこそ離れ離れになる時間は短く在って欲しいと願ってしまうもの。それが人間なのだ。
「お互いを思いあうお二人、ぜひ再会させてあげたいです。娘さんはふらっとさりげなく出かけただけなんでしょうね……」
 愛だ恋だの話題に、どうしても真宮・奏(絢爛の星・f03210)の視線は瞬の方へと吸い寄せられてしまう。
 ちらちら意識していると気付かれないように、出来る限り瞬を見ないように努めつつ、「自分なら」と考えてみて――半年以上も逢えないのは耐えられないですね、と早くも結論が出てきた。
「不幸にも帰れない園に来てしまっただけで。待ちわびる気持ちは良く分かる故。だから、」
「ええ。帰る場所があるってことは幸せな事ですから。ぜお二人を再会させて幸せな時間を過ごさせてあげたい」
 恋や愛への想いはそれぞれ、それでも、青年と娘の再会は三人に共通する想いだ。
 娘を助け出すために、第二第三の娘を生み出さないために。三人は目を見合わせて頷き合うと、花畑へと足を運ぶ。
 美しい花園には、オブリビオンの影響で幻を見せる性質が備わってしまっているのだ。用心して進まなくては――……。
「とっても綺麗なところですね」
 と、思っていたのだが。
 オブリビオンの影響を抜きにしても、色彩豊かな花々が作り出す目の前の光景は、言葉を忘れてしまいそうなほど美しいもので。
 思わず奏が走り出してしまうのも、無理は無いのかもしれない。
 綺麗なものを見かけたその感動と勢いのまま。ふわりと奏が一回転するたびにタンポポの綿毛が解き放たれて、ひらりと生み出された風にすくわれた花びらが舞い上がる。
 綿毛がたくさん髪の毛にくっついても、ステップを間違えてしまっても、気にしない気にしない!
 細かいことは森の前に置き去りにして、今を楽しまなくちゃ。奏は身体を巡る情動に身を委ねて、くるくると楽しそうにダンスを踊るのだった。
「なるほど、これほど多くの種類が揃う園は珍しい。でも、あんまりはしゃぎすぎるんじゃないよ」
 花と戯れる奏を苦笑交じりに送り出した響は、少し離れたところで咲き誇る花々の光景を眺めていた。
 長い時間をかけて作り出された、果てが見えぬほどの花畑。花畑がこれほど大きくなるまでの間ずっと、此処は一度も争いの地になっていないのだろう――否、今まで一度とすらなったことが無いのかもしれない。この森の動物や虫は、人間を恐れる素振りをあまり見せない。
「これは、母さんに」
 何時の間にか、奏はひとしきりはしゃぎ終えていたらしく、綺麗に編まれた花冠を手にして響の元へと戻ってくる。シロツメクサに、カスミソウに、ビオラにミニバラ――奏は春色宿る花冠を、そのままふわりと響の頭へと被せた。
「……あれ、お父さん!?」
 響に花冠に被せていたら、いつの間にか増えていた人影が。弾かれるように顔を上げた奏は、瞳が零れ落ちてしまいそうなほどに大きく、その目を見開いた。
 だって、死んだはずの父さんが今、隣に居るのだから。
 奏の声に響もまた、いつの間にか隣に居た夫の方を見て――何度か上から下まで見てみたが間違いない。死んだはずの夫が、隣に佇んでいる。
『やっと気づいてくれたか』
 ちょっとした悪戯心で交じっていたけど、このまま気付かれなかったらどうしようかと思っていたよ、と。
 声も、困ったように苦笑する表情も、優しい眼差しも。響と奏の記憶のなかにある、彼の姿と変わることなく。
『奏も大きくなったな』
 もうすっかり大人のレディになりつつある奏に、嬉しそうにはにかんで――それから、告げる。
『ここに居る限り、響も奏も争いに巻き込まれることはない。だからずっと、ここに居ないか』
 このまま家族全員で、此処に居ようと。
 それはとても魅力的な誘いで、でも。
「そうだねえ、戦いに無縁そうなここで、アンタの隣で過ごせればどんなにいいだろう」
「うん、父さんとここで過ごせるならここにいてもいいですが、娘さんを助けにばいけませんので」
「そうさね。アタシは若い子らを無事に再会させる任務があるんでね。ここで足止めを喰う訳にはいかない」
 魅力的な誘いでも、此処には居られないと。
 同じような紫色の瞳が四つ、はっきりと意思を告げて――それでこそ、響と奏だと。父の面影は確かに破顔した。

「なるほど、ここはいい所だ」
 いつまでもいたいという気分になってしまう。それほどまでに素晴らしい場所なのだろう、ここは。
 響や奏と少し離れた場所で花々を眺めていた瞬もまた……亡くなったはずの生みの両親と、再会を果たしていた。
『瞬、立派になったのね』
 襲撃された里、その時に亡くなった両親。二人に最後の別れを告げてから、十年以上の月日が流れているのだ。
 かつて独りぼっちだった少年は、響と奏に出逢い、立派な青年へと成長を遂げていた。
 そんな息子の姿を目にした母である麗奈は目に涙をため、父である千早もまた、「今まで頑張ってきたんだな」と労うように瞬の肩に手を置いた。
『苦労を掛けさせてしまたな。少しくらい休んでも良いんじゃないか』
「そうですね、この園で千早父さんと麗奈母さんと一緒に居られるなら、いてもいいかもしれない」
 ここで少し休んでいけば良いという両親に、瞬も微笑みを返して――しかし、両親の提案には、ゆっくりと頭を振った。
「でも、今の響母さんと奏の傍が僕のいるべき場所ですから。お二人の未来を護る為に、先に進ませて貰います」
 別れと、感謝を込めて。瞬が千早と麗奈に贈るのは――青空の様に澄んだネモフィラと、強い生命力を持つ白い野バラの花束だ。
 二人に手渡すと、『無理をしないで』と励ましの言葉を送られる。二人の言葉に手を振り返し、しかし立ち止まることは無く。
 瞬の足取りは、自分を待つ響と奏の方へと。

「あなた、アタシは先に行くよ」
 そして、響と奏もまた、父へと別れを告げている最中であった。
 響の言葉に、ぎゅっと親愛のハグを送る夫。久々に触れる夫の体温に、離れたくなくなるが、それでもそっと抱きしめ返す手を解いて。
「ええ。母さんや瞬兄さんと一緒に、今から未来を護りにいきます。お父さん、見守っててくださいね」
 シロツメクサに、カスミソウ、ビオラにミニバラ。母にプレゼントした花冠と使った花は同じ、しかし、色合いを少しだけ変えて。
 丁寧に想いを込めて編んだ花冠を、奏は父へと被せた。
 手を振って歩み出す響と奏を、優しく送り出してくれる父の姿。今はまだ、一緒にいくことはできないから。
「さて、娘さんを助けにいきましょうか」
「衰弱してないと良いんだけどね」
「一週間近く、でしたか。心配ですね」 
 合流した三人は、森の奥へと進んでいく。
 未だ幸せな夢に囚われたままでいる娘を助けるために。再会を叶えるために。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

氷雫森・レイン
【星雨】

「いってらっしゃいにはただいまが、いってきますにはおかえりが必要なのよ」
あれはセットなの
「迎える家人が足りないと家も淋しがるでしょうし」
家族も生家も知らぬ私が呟いた所で空虚なものだとは思いつつ
そんな私を傍らの生真面目な弟子が心配し出す前に精霊を呼ぶ
「ラル、上からも探して頂戴。私達を見失う高さまで行ってはだめよ」
けれど上の空がバレていたかの様に以前依頼(星彩のカンタータ)で毒に冒されて見たフェアリーらしき2つの影が見えた
この期に及んでまだ判然としない姿が悔しくて追いたくなって
「!」
ラルの甲高い呼び声で我に返ってやめた
私は導き手だから
「行くわよ、アレク」
立ち止まる訳にはいかない
まだ、今は


アレクシス・ミラ
【星雨】
アドリブ◎

ずっと待っていた人が帰ってくる
それは同時に、騎士の彼にとっても漸く帰れるということ
彼らがおかえりとただいまを言えるように
探しに行こう
―レディ?
ひとり呟くレディの声が何処か淋しげに聞こえた気がしたけれど
…どうしたのと聞くのは、後だ
【暁穹の鷲】で捜索を手伝うよ

探す中
出身であるダークセイヴァーでも光溢れる景色を見られたらと、ふと考えてしまったからか
遠くにもう逢えない亡き故郷の人々と両親の姿が見えた
けど
彼女の精霊の声に
視界は前へ戻る
…そうだね、ここで止まる訳には行かない
たとえ街の人々と一緒に見る事は叶わなくても
あの世界の夜明けを皆で見たいから

ああ、行こう。レインさん
今は探し人の元へと



●影追い、影踏み
 故郷に自分の帰りを待つ存在が居る。遠く離れていても、確固たる絆を感じられるほど、大切な人が居る。
 温かい食事に、賑やかな家庭。いつでも背中を押してくれる、親しき人たち。
 それだけで、どんなに辛くても苦しくても、不思議と「頑張ろう」って思えるのだから。
 そんな絆が「過去」のせいで千切れてしまうことなど――あってはならないこと。
「いってらっしゃいにはただいまが、いってきますにはおかえりが必要なのよ」
 キラキラと木漏れ日を反射させて森の中を飛んでいるのは、柔らかな青を宿した雨の色。ふんわりと包み込むような木漏れ日とはまた異なった、静かに寄り添う雨の光が、この森に一瞬の軌跡を刻んでいく。
 「いってらっしゃい」と、「ただいま」。「いってきます」と、「おかえり」。他にも、「ありがとう」と「どういたしまして」だったり。「いただきます」と「召し上がれ」だったり。
 「あれはセットなの」と語るのは、透き通る四枚の翅を音もなく羽ばたかせている氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)だ。
 どちらかだけにしてしまってはいけないと、何処か得意げな表情で話すレイン。セットの言葉は寂しがりやだから、どちらかだけにしてしまうと、たちまち悲しみに溺れてしまうだろう。
「迎える家人が足りないと、家も淋しがるでしょうし」
 一人でも、一匹でも。誰かが欠けていたら、それはもう「家族」とは呼べないだろうから。
 けれど――……。
(「でも、家族も生家も知らぬ私が呟いた所で空虚なものね」)
 訳知り顔でそう語ってみせる雨雫の妖精の表情に、少しの影がちらついて。
 呟いてみせるけれど、家族も生家も知らない。経験したことがない。少なくとも、レインの記憶には無い。
 レインの微かな表情の曇りも、隣を歩く生真面目な弟子であるアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、機敏に拾い上げてしまうのだろう。それもそれで、複雑な思いになるのだった。
(「ずっと待っていた人が帰ってくる」)
 それは同時に、騎士の彼にとっても漸く帰れるということ。長く辛い遠征から、やっと解放されること。
 自分にも大切な存在が居るからこそ、アレクシスも分かる。大切な人々の「ただいま」や「おかえり」が聞けないことは、何よりも寂しいことなのだと。
「うん。彼らがおかえりとただいまを言えるように、探しに行こう」
 そこでチラリとレインの表情を向いたアレクシスは、それだけで何かを感じ取ったらしい。少しだけ首を傾げると、レインへ優しく問いかけた。
「――レディ? ひとり呟くレディの声が何処か淋しげに聞こえた気がしたけれど」
 何処か気まずいような、気付いて欲しいようで、気付かれて欲しくなかったような――。胸を覆うこの感情に一つの名をつけるにはあまりにも複雑すぎたし、弟子がこれだから、レインも複雑な思いになるのだ。
 人の感情に機敏な弟子が、遠からず自分のことを心配し出すことは、想定できていたのだから。
「ラル、上からも探して頂戴。私達を見失う高さまで行ってはだめよ」
 心配し出す前に、弟子の言葉のその先を遮るようにして。レインは鳥型精霊であるラルを呼び出すと自身もまた、上空へと飛翔する。
 先ほど、見間違えていなければ……。フェアリーらしき2つの影が木々の間に見え隠れしていたのだから。
 以前、この世界で依頼を受け、そこで毒に冒された時に見た、自分と同じ澄んだ雨色の翅を持つ2人の影。レインと同じような翅と蝶の形をした翅が、二つ並んで見えたのも一瞬。その姿はすぐに遠くなる。
「……どうしたのと聞くのは、後だ。捜索を手伝うよ」
 何かを見たことは、レインの様子からアレクシスにも伝わっていたのだろう。聞きたいことは幾つもあるが、まずは彼女の見た何かを探そうと、アレクシスは暁光を纏った鷲を召喚する。
 レインとラル。アレクシスと暁穹の鷲は、それぞれ手分けをしてレインの見たフェアリーらしき人影を探し始めるのだった。
「こちらの方には来てないのかな……」
 光満ちる森に、アレクシスが生み出す軽やかな足音が響いては消えていく。
 立ち並ぶ木々の間に、花園の影に、動物たちの群れの中に。この森は、何処であっても光に照らされている。闇と夜が覆うダークセイヴァーとは、正反対に思えてしまうくらい。
(「ダークセイヴァーでも、こんな光溢れる景色が見られたら……」)
 ダークセイヴァー出身である以上、特別意識しなくとも考えてしまう。
 闇と夜に覆われた世界に夜明けが訪れたら、きっとこんな光景なのではないかと。
 故郷のことを考えたからだろうか。アレクシスの瞳に、もう逢えない――逢うことのできない亡き故郷の人々と、両親の姿が見えた。
 異端の神々に支配されることも無く、皆が笑顔を浮かべ、楽しそうに暮らしている。そんな光景が。
「きっと、あの景色こそが――」
 そうだ。あの光景こそ、自分が、待ちわびていた光景じゃないか。
 遠くからでも、直ぐに分かった。アレクシスに向かって両親が手招いている。それに誘われるようにして踏み出しかけたはずの一歩は――突如響いて来たラルの甲高い声によって、寸前のところで止められた。
「……そうだね、ここで止まる訳には行かない」
 たとえ街の人々と一緒に見る事は叶わなくても。あの世界の夜明けを皆で見たいから。
 夢でも幻でもなく、現実の世界で。大切な人々ともに。
 その為に、自分はここまで歩んできたのだから。これからもあゆんでいくのだから。
 我に返ったアレクシスは、後ろで手招く両親や街の人々に心の中で別れを告げ、ラルの声がした方向へと走り出す。

「!」
 何か大切なことを忘れているようで。追いかけても追いかけても、追いつけなくて。
 それに、この期に及んでまだ判然としない二人の姿。それが悔しくなって、何処までも追いかけたくなったけれど――。
 レインを現実に引き戻すかのように叫ばれたラルの甲高い呼び声で、我に返った。
 追うことを止めてその場の空中で佇めば、直ぐに二つの人影は見えなくなる。レインはアレクシスが来るまでの間……二人が飛んでいった方向を、じっと見つめていた。
「――あら、来たのね。行くわよ、アレク」
「ああ、行こう。レインさん」
 ラルの声を目印に駆けてきたアレクシスと無事に合流を果たせば、二人並んで探し人の元へと。
 先ほど何を見たのかも、何があったのかも、二人は語らずに。ただ、何も無かったかのように、歩み出す。
(「私は導き手だから立ち止まる訳にはいかない。まだ、今は」)
 フェアリーは、冒険の導き手なのだから。だからあの面影に気を取られ、止まるわけにはいかないとレインは自身に言い聞かせて。
(「今は……探し人の元へと」)
 夜明けを待つアレクシスもまた、幻とはいえ親しい人々の面影に後ろ髪を引かれたが、振り返ることはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】◆
そーだな
あ、ちょうちょおっかけて迷子とかナシだぜ、御猫サマ!
ん、ま、のんびりするのは一仕事後のお楽しみってコトで――

(と、視線を目先の花畑に移した瞬間
――目が離せなくなる

だって、あの人が
もういない筈の恩師が
在りし日の様に
また穏やかに笑って――)

(…また、この幻か
何度も夢見る想い出

こうやって花の名や編み方を教えてくれた
日蔭で鬱ぐ俺を日向に連れ出してくれた
そんな温かな手が差し伸べられるけれど――

……本当の貴方は、その手は、最期にこの背を押したから)

…俺は進まなきゃなんない
為さなきゃなんない事があるんだ

それを止める貴方じゃないだろ
行ってくるよ

大丈夫
(仲間に向き直り
ちゃんと道を見据えて笑い)


鈴丸・ちょこ
【花守】◆
おう、絶好の昼寝日和だが、楽しみは後にとっとくもんだからな
お前こそ陽気に当てられたガキの如く寝落ちんなよ、伊織

ま、心置きなく羽伸ばす為にも、先ずはやる事をやるぞ
(――と言った傍から、二人して心此処に非ずとは、困ったもんだ

なんて視線がバラけた仲間にやれやれと頭を振るも
――ったく、それは俺も、か

荒廃した世界しか知らぬ筈の亡き戦友が
こんなにも平和な場所で穏やかに笑って
昔の様に遊びに誘ってくる

――だが)

伊達に不惑まで生きちゃいねぇよ――今更惑うもんか
(堂々と幻の横を抜けて真直ぐに進み)

お前のお陰で此処まで至った命と力だ
有意義に使ってみせてやろうじゃねぇか
(なぁ、と仲間へ視線戻して不敵に笑い)


永廻・春和
【花守】◆
のどか、うららか――そんな言葉が見事に馴染む光景ですね
此処が不穏に飲まれぬ様に、心して参りましょう
はいはい、お二方とも御戯れは後ですよ

(空気が変ったと察せば、自らも一層気を引き締め、一見は平和な光景を見渡して――
陽光煌めく先に見えた幻に、目が眩みかける

けれど、何とか踏み留まって)

貴方、様は
(ずっと探している――花の癒しを拒み、傷を抱えたまま姿を眩ました御方
その姿がこんなにも穏やかに花に囲まれて、酷く優しい笑みを浮かべて、手招いて)

…こんな道があるのならと、想わずにはいられぬけれど

此は夢のままではなく、現で叶えねばならぬ事ですから

ええ――参りましょう、皆様
(お二方と、踏み出して)



●夢現
 穏やかな森と、そこに広がる大きな花畑。ここでお昼寝をするとしたら、何処が良いだろう。
 大木の下か、陽当たりの良い花畑の真ん中だろうか? それとも、野原を独り占めにして?
 光に満ちたこの森は、きっと何処で微睡んだって気持ち良くて幸せな気分になれるに違いない。
 夢か現か。そんなことすら、些細な問題だと思えてしまうくらい。
「のどか、うららか――そんな言葉が見事に馴染む光景ですね。此処が不穏に飲まれぬ様に、心して参りましょう」
 長閑。麗。柔らかな新緑で彩られたこの森は、永廻・春和(春和景明・f22608)が呟いた表現がぴったり似合うだろう。
 今はまだ小さな不穏の芽吹き。それが大きく育ってしまう前に防がなくては。この長閑な景色を守るためにも。
「そーだな。あ、ちょうちょおっかけて迷子とかナシだぜ、御猫サマ!」
「おう、絶好の昼寝日和だが、楽しみは後にとっとくもんだからな。お前こそ陽気に当てられたガキの如く寝落ちんなよ、伊織」
 と、景色を楽しみつつ気を引き締めていた春和の耳に届いたのは、早くも喧嘩が始まりそうな――それも、理由がかなりアレな感じの――呉羽・伊織(翳・f03578)と鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)が大人気も無くバチバチとお互いに挑発しあうやり取りで。
 ため息を吐き出しつつ春和が振り返れば、捕まえた蝶をちょこの目の前でヒラヒラ見せびらかしている伊織と、そんな伊織に向かって容赦なくシャドー猫パンチを繰り出しているちょこの姿があった。
「はいはい、お二方とも御戯れは後ですよ」
 生産性の欠片もないやり取りを、強制的に切り上げさせる。
「ん、ま、のんびりするのは一仕事後のお楽しみってコトで――」
 勝敗は持ち越しになってしまうけれども、春和の云うところの『御戯れ』はまた今度だ。行方不明の娘の捜索が最優先なのだから。
 その娘サンは、この広大な森の何処に居るのだろう。「さて、」と、伊織が視線を目先の花畑に移した瞬間。
 音もなく静かに伊織の赤い瞳が、大きく見開かれて。

 ――先ほどまでしっかりと捕まえていたはずの蝶が、はらりと伊織の手から飛び立った。

 はらはらと青空を目指して舞い上がる蝶は、あっという間に見えなくなった。
 恐らく蝶が逃げ出したことにも、伊織は気付いてはいないのだろう。
 だって、蝶よりも遥かに大切で喪いたくない存在が。喪いたくなかった存在が。
 目の前に、居たのだから。
 あの頃から少しも変わらぬ穏やかな笑顔で。もういないはずのあの人が。
 自分に手を差し出しているのだ。在りし日の様に。幸せだったあの頃が、舞い戻ったかのように。
「――どうやら、既に『幻』の影響下にあるようですね」
 春和には何も見えなかったが、一歩踏み出したまま花畑の一点を見つめて固まる伊織に、先ほどまでの長閑な空気が一転して、何処からともなく初冬のようなヒンヤリとした冷たい冷気が漂ってきている。
 空気が変わった。そのことを、一瞬で感じさせられた。
 春和が一層気を引き締めて、一見すると先ほどと何も変わらぬ平和な森の見渡していると、不意に、陽光が眩く煌めいた。
「――貴方、様は」
 視界を覆う白光に、思わず手で光を遮ったのも一瞬。眩みかけるが何とか堪え、数度目を瞬かせた先に――春和が今までずっと忘れることの出来なかった、あの人の姿が在った。
「ま、心置きなく羽伸ばす為にも、先ずはやる事をやるぞ」
 ――と言った傍から、二人して心此処に非ずとは、困ったもんだ。
 ちょこがそう口にした次の瞬間には、こうなのだから。大きく二人の名前を呼んでもなお、返事の一つすら寄越しやしない。どうやら、完全に幻に囚われてしまっているらしい。
 我を忘れたようにして花畑に佇み、視線がバラバラの一点を見つめる仲間たち。
 言った傍これとはと、残されたちょこは「これだから手間がかかる」とばかりに、やれやれと頭を振っていたが。
 「これだから経験の浅いヤツは」と先輩風を吹かせ、どうにか平静を保とうとしていたのだが。
(「――ったく、それは俺も、か」)
 目の前にいるとっくの昔に亡くなったはずの戦友は、ちょこが何をしたって消えそうに無かった。
 竜巻によって生物の大半が死滅し、荒廃した世界。灰や砂埃が舞うばかりの故郷に、緑の森なんてものは存在しない。見たことも無い。
 そのはずなのに。
 灰色に染まる世界しか知らぬ筈の戦友。緑溢れる平和な森で、昔のように遊ぼうと――そう、誘ってくる。
 世界が滅びに瀕することが無ければ。竜巻さえ発生することが無ければ。
 戦友とも、こうして遊ぶことが出来たのだろうか。
 それは、もしもの世界。有り得たかもしれない、未来の話。
 戦友の誘いも、平和な世界にも、誘惑を感じないと言えば嘘になる。
 ……だが。
「伊達に不惑まで生きちゃいねぇよ――今更惑うもんか」
 自分をただの黒猫と思って舐めて掛かられては困る。
 死体が生き返り、戦車が勝手に動き出し。他にも常識がひっくり返されるような現象が多々起こる、そんな何でもアリな終末世界を今まで生き抜いてきたワイルドでハードボイルドなちょこ様なのである。
 今更、こんな幻如きに囚われるお猫様ではなかった。
 戦友の誘いも完全スルーして、おすまし顔で堂々と戦友(幻)の真横をゆっくりと見せつけるように進行してみせれば、ちょこの行動が予想外過ぎたのか、一瞬戦友(幻)が固まったような。
「伊織も春和も、早く乗り越えろよな」
 戦友(幻)の何か言いたげな視線は綺麗にスルーして、花畑のこちら側から向こう側の二人へ向かってエールを飛ばすちょこ。
 さて、二人が抜け出すまで、あとどれくらい掛かるのだろう。

(「……また、この幻か」)
 何も言わず穏やかに微笑む恩師と見つめ合っていたのは一瞬だったかもしれないし、ひょっとしたら何時間も経っていたのかもしれない。
 時間の感覚さえ朧げで、しかし、伊織にとってはそんなことはどうでも良かったのだ。
 想うは、唯一つ。目の前にいる、恩師のこと。
 何度も夢見る、懐かしき想い出たち。もう戻れぬ、幸せに満ちた過去の記憶。
(「こうやって花の名や編み方を教えてくれた。日蔭で鬱ぐ俺を日向に連れ出してくれた」)
 何も言わずに黙っている伊織を落ち込んでいると捉えたのか、花畑の中でも陽当たりの良い特等席へと連れていくと、そっとその場に座らせられる。
 ハルジオンは、元を辿れば西洋から持ち込まれた園芸用植物だったこと。ヒルザキツルミソウは、2日程しか咲けないこと。
 花冠を編むとき、茎は長過ぎても短過ぎても良くないこと――……。
 かつてをなぞるかのように、重ねられる今という瞬間。
『もっと教えたいことがある』
 だから、暫く此処に留まっていかないかと。
 あの日のように、差し伸べられるのは優しく温かな手で。
 けれど――。
(「……本当の貴方は、その手は、最期にこの背を押したから」)
 目の前の面影のように、引き留めることはしない人だったから。
 伊織は差し伸べられた手にそっと自分の手を重ねて、しかし、次にはゆるく頭を振った。
「……俺は進まなきゃなんない。為さなきゃなんない事があるんだ」
 完成した花冠をもう片方の手でパサりと被せてやれば、ふわりと、影が笑った気がして。
「それを止める貴方じゃないだろ。行ってくるよ」
 ――手がそっと、解ける。いつの間にか、姿が見えなくなっている。
 暫くその場に座り込んでいた伊織は、やがてゆっくりと立ち上がるのだった。

「貴方、様が……何故、此処に」
 春和は目の前の人物を、ずっと探していた。
 気がかりだった。ずっと探しているあの方が。今、目の前に。
 癒しを受ければ、次に進めると云うのに。殆ど誰しもがそれを受けると云うのに。貴方様がそれを選ぶことは無くて。
 花の癒しを拒み、行き先すら誰にも告げず……傷を抱えたまま、一人寂しく姿を眩ました御方。
 そこにどんな事情があったのかも、どんなことを思っていたのかも。当人になれぬ春和には、想像するしか無いのだけれど。
 きっと、全てを拒むほどに深く傷ついていたのだ。そんな貴方様が。
(「……こんな道があるのならと、想わずにはいられぬけれど」)
 姿を眩ます前、最後に見た姿からは想像もつかないくらい、穏やかな表情で。全てを赦してしまうかのように、残酷なまでに優しい笑みを浮かべて。
 春和へ「おいで」と、手を招いている。花に囲まれて、幸せそうに笑っている。
「此は夢のままではなく、現で叶えねばならぬ事ですから」
 もし叶うのならば、今すぐにでもその手を取ってしまいたかった。
 でも、それは出来ぬこと。込み上がる衝動を堪えて、滲みつつある視界には気づかぬ振りをして。春和は笑顔で小さく手を振った。
 ――例えこれが、夢であっても。お別れは、せめて笑顔で。

「お。どうやら、無事に乗り越えたみたいだな」
 花畑のこちら側へと辿り着いた伊織と春和を、ちょこは平常運転の様で出迎えていた。
「ああ。もう大丈夫」
 仲間へと向き直った伊織は、道を見据えて笑っている。その瞳に、しっかりとちょこと春和の姿を映して。
「思いのほか時間食っちまったしな。行くか」
「ええ――参りましょう、皆様」
 幻を現で叶えるためにも。立ち止まってはいられないと、春和もまたその表情を緩めてみせ。
(「……お前のお陰で此処まで至った命と力だ。有意義に使ってみせてやろうじゃねぇか」)
 戦友へは、感謝と餞別を。仲間へは、叱咤激励を。
 なぁ、と仲間へ視線を戻したちょこは、そう不敵に笑い――一度だけ後ろを振り向くと、伊織と春和の後を追いかけていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『空飛ぶオトシゴ』

POW   :    仲間を呼ぶ声
自身が戦闘で瀕死になると【仲間の空飛ぶオトシゴ】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    未来の予言が聞こえた気がする
自身が【何となく祈りを捧げているような動作をして】いる間、レベルm半径内の対象全てに【不吉な予言】によるダメージか【幸運の予言】による治癒を与え続ける。
WIZ   :    力を受け取る
全身を【輝く光】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●木漏れ日を泳ぐモノたち
 ――そこには、ポッカリとした草原が広がっていた。
 魔を宿した花園の見せる幻に囚われることなく、「ずっと此処で遊んでいたい」という誘惑に負けることもなく。
 花畑を抜けた猟兵たちは、森の奥に辿り着く。
 猟兵たちがやってきた花畑の方からパラパラと足跡のように続いているのは、萎れて枯れかけた花の骸。
 数日前までは美しく咲いていたであろう花の足跡を辿っていけば、猟兵たちの視線は大きな古木の根元に行き着いた。
 古木の根元には――きっと彼女が件の行方不明の娘なのだろう――幹にその身体を預けるようにして、小さな寝息を立てている娘が一人。
 土と草の汁に染まった白い手先。娘の周囲には、彼女が今まで編んだ沢山の花冠が散らばっていた。
 少しやつれてはいるが、目立った外傷らしきものは見られない。疲れ果てて、眠ってしまっているだけだろう。
 急激に弱らせてしまっては、十分な生気を奪えないせいか。
 幸せな夢を見せ、この場に留まらせて。そうやって、この森にやってきた人間に取りついて、少しずつ生気を奪っていく。

 ふと、森に満ちる木漏れ日とはまた異なった輝きが視界の端に煌めいた気がして。
 風に靡く透き通った新緑色のヒレに、蔦のような尻尾と、ふわふわ浮遊しているシルエット。何事かと娘から視線を逸らせば――キラキラと光纏うタツノオトシゴのような存在が、猟兵たちを囲っていた。
 その数、数十はいるだろうか。
 恐らく彼らが娘に取りつき、幸せな夢を見せ、この場に留めていたのだろう。
 しかしこの『空飛ぶオトシゴ』たち、言語は通じないが――意思はあるようだ。何となく、言いたいことは伝わるし、伝えられるような。

 だが。
 そこに悪意が無くても、意思を持っていても、生きるために人に取りつく必要があるのだとしても。
 相手はオブリビオンで、『過去』である以上――倒さなくてはならないのだ。
 
 娘はそうっとしておいても問題ないだろう。
 今は、目の前の彼らを戻るべき場所へと。
徳川・家光
燃え盛る馬、火産霊丸(ほむすびまる)を召喚し、騎乗します。
周囲の草花が炎に巻かれても、それが娘さんに届かない限りは、頓着しません。

「オブリビオンと相対して、怒りの感情が浮かばない事もあります。今がその時ではありますが……しかし、やはりあなた方は『過ぎ去りし過去』なのです。未来の為に、斬らせて戴きます」

 そう言い放ち、火産霊丸に直立騎乗した後、両手を離しての二刀流攻撃で、次々と敵軍を切り開いてゆきます。逃げる物も焼き払い、不吉な予言によって受ける負傷もものともせず、あたかも楽園を破壊する悪鬼が如く、全てを見出し、焼き尽くすような戦いで、これ以上の災害を防ごうと奮戦します。



●炎帝の如く
「オブリビオンと相対して、怒りの感情が浮かばない事もあります。今がその時ではありますが……」
 しかし、と。先に続く言葉は区切られた。
 徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)が見据える先に居るのは、空飛ぶオトシゴたち。人や未来へ怨念を抱かぬ彼らが積極的に人を襲うことは無い。
 ところで、エンパイアの将軍でもある『上様』こと家光が何故この場に居るのかと問われれば――偶然の巡り合わせが大きいが、人々とその未来を護るためなら何処にだって駆け付ける。それが将軍なのである。
 空飛ぶオトシゴたちはキラキラした光を纏いながら、猟兵たちに近づいてきている。生存していくために他者の生気が必要なだけだとしても、オブリビオンである以上見過ごす訳にはいかなかった。
「火産霊丸よ、焔の底より出ませい!」
 家光の呼ぶ声に反応し、勇ましい嘶きと共に姿を現したのは、爆ぜる焔を纏う名馬「火産霊丸」だ。白き体毛が美しい火産霊丸に家光は颯爽と騎乗すると、敵軍に向かって切り込んでいく。
 本来手綱を握るはずの両手はそれぞれ「大天狗正宗」と「千子村正権現」とを構えていた。手放しでの騎乗を可能にしているのも、卓越した技術とバランス感覚があってこそだろう。
「――やはり、あなた方は『過ぎ去りし過去』なのです。未来の為に、斬らせて戴きます」
 ごうおうと炎の咀嚼音がした。びょうおうと風の唸る声が聞こえた。
 白銀の煌めきを纏った一閃が流星の如く瞬いたのも、一瞬。自身の身に何が起こったのか。それすらも理解できぬまま、空飛ぶオトシゴたちは次々に切り払われ、炎に巻かれていく。
 家光と火産霊丸が駆けし後に、緑は一片すらも残らない。炎の道が広がっていくだけだ。
 祈りを捧げている最中に切り落とされた空飛ぶオトシゴのヒレ。不吉な予言を操り多少風向きを変えたところで――少しの負傷で立ち止まる家光と火産霊丸では無い。
 炎と刀を操る家光の戦いといえば、ある種の芸術の様であった。熱風による熱傷すらも厭わず敵軍に切り込むその勇姿に、自由自在に操られる炎、繰り出される剣舞は少しの乱れも無く。白馬に跨った悪鬼は絶望的なまでの美しさを宿して、猛進を続けている。
 最早、成す術がない。森を焼き尽くす家光の姿は、空飛ぶオトシゴたちにとって楽園を破壊する悪鬼の如く映っていたことだろう。
 圧倒的な力の差を見せつけられ、逃げ出そうとした空飛ぶオトシゴ。そんな哀れな空飛ぶオトシゴが最期に見た光景は、自身へと真っ直ぐに突きつけられる鋭い太刀筋だった。
 炎は忌まわしい。生息環境である森を灰塵に帰すから。しかし、美しくも在るのか。それを思い知らされたと同時に、空飛ぶオトシゴの視界が黒に染まっていく。
 悪鬼もとい一人の将軍によって切られた闘いの火蓋は、家光の獅子奮迅の活躍によって早くも猟兵優勢に傾いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
◆■

…随分と可愛い敵さんだなあ
とは言え、囚われのお姫様を返していただくよ
一緒に帰ろう、彼氏さんが待ってるよ

草原にふさわしくUCも花で
鈴蘭の白い花びらで攻撃していくよ
可能なら【2回攻撃】や【マヒ攻撃】も織り交ぜて

あたしはしばらくは【オーラ防御】や【結界術】で防御

敵が光ってパワーアップしたら【捨て身の一撃】
防御を捨てて、思い切り鈴蘭を叩きつける!

ある程度倒せばあたしもぼろぼろになると思うから
そうしたらちょっと後ろに下がるよ
後は他の猟兵さんたちにおまかせなんだ

可愛い外見してるのになあ、性格悪いなあ、敵さん



●白花と踊る
「……随分と可愛い敵さんだなあ」
 ヒラヒラと優雅にたなびく美しいヒレに、木漏れ日のような光を纏うその姿。
 オブリビオンでは無かったら、そのまま懐かせて一緒に家に帰りたくなるくらい。可愛らしい容姿に癒されることは間違いない。それでも、空飛ぶオトシゴたちがオブリビオンであることに変わりはないから。
「とは言え、囚われのお姫様を返していただくよ。一緒に帰ろう、彼氏さんが待ってるよ」
 と、花澤・まゆは木に身体を預けて眠っている娘を一瞥する。先ほど先陣を切った某将軍がかなり派手に草花や木々を燃やし尽くしていたのだが――それですら、囚われのお姫様は起きる気配を見せなかったのだから。
 そう。自分たちは、あのお姫様を助けるために此処にきたのだ。全ての空飛ぶオトシゴを倒し、助け出すために。花澤・まゆは、退魔の霊刀「小夜啼鳥」を手にかけた。
 鞘から刀を引き抜けばチィチィと小鳥の鳴くような声と共に、刀身がふわりと鈴蘭の白い花びらに変わり始めて。
「さて、避けられるかな?」
 空飛ぶオトシゴたちの視界を覆い尽くすように鈴蘭の花吹雪は渦を巻いたかと思えば、次の瞬間には鋭さを増した花びらによって空飛ぶオトシゴたちの身体に無数の傷がつけられて。
 隙をついて花吹雪を操るまゆ本人を攻撃しようにも、鈴蘭の花弁を盾代わりに展開されるオーラ防御によって掠り傷を負わせることすら困難で。
 これでは押される一方だと判断したのか、空飛ぶオトシゴたちはその両ヒレを空へ向かって大きく広げた。
 途端、一際眩しい光が空飛ぶオトシゴたちの全身を巡り――一通り光が駆け巡った後の彼らを見れば、少しだけ攻撃的な態度になったような。
「ここだね!」
 パワーアップした瞬間を、まゆは見逃さなかった。
 攻撃一辺倒へと切り替えた空飛ぶオトシゴに対抗するかのように、まゆもまたオーラ防御を引っ込めて、ぶわりと鈴蘭の花嵐を巻き起こす。
 鋭さを増した鈴蘭の花吹雪。それを小さく小さく圧縮して、それから一気に解き放つ。
 敵陣の中央で盛大に爆ぜさせれば、空飛ぶオトシゴたちは綺麗な弧を描きながら吹き飛ばされ――木にぶつかって、動かなくなった。
「可愛い外見してるのになあ、性格悪いなあ、敵さん」
 捨て身の戦法によって倒された空飛ぶオトシゴたちも多かったが、まゆもまた無傷とはいかなかった。吹き飛ばされた鈴蘭の花びらを浴び、身体中に切り傷が出来たのだから。
 ある程度倒したところで、仲間に任せるためにまゆが後ろに下がれば、今度が仲間たちが前へと飛び出していく。
 それにしても、神様を味方にしているかのように予言を操ったり、劣勢になればキラキラと光を纏ってパワーアップしたり。可愛らしい見掛けによらず、その攻撃手段はなかなかにえげつない。
 仲間たちの後ろ姿を見送りながら、まゆは思わずポツリと呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラルス・エア
【夢幻の先】
己の心の弱さを痛感する。このような有り様では、先の件はいつまでも敵が突く隙として立ち塞がる事であろう
…いつかは、確実に訪れる
だが、己が身にその答えはまだ見出せない

親友への戦闘には不干渉
敵数も多く、己が巻き込まれる可能性の方が高い

戦闘知識より状況の把握
心があり、訴え掛ける意思のある、人に憑かねば存在も危ういもの
「……すまないな」
一言、言葉が洩れた

指定UCの準備
一部を覚える程の長編叙事詩の本を、詩詠み多重の詠唱として諳んじる。浮かぶのは術式と同じ集中と英雄譚から喚び起こす己の覇気

可能な限り長く、敵を引きつけ
UC発動
一撃で屠れなければ敵を苦しめるだけだ
反撃は急所を防ぎつつ甘んじて受けよう


ガルレア・アーカーシャ
【夢幻の先】
少女を目に『己の見た―幻覚の後先が、あれか』と、未来への不快と僅かな己への侮蔑に駆られる
――弟の声を安易に使われた。己の脳が再生した幻覚であっても――赦し難い
「残さず。皆、殺す。その僅かな意思を、断末魔へと変えてやろう」

共の親友は放置した方が強い
敵が群れているならば好都合
UC氷縛・凍雷を群れの中央に発動させる
氷柱と雷による攻撃と共に、その身を凍り付かせ、そもそもこちらに近づかせないままに倒すのが目的ではあるが

攻撃力の強化を図るのであれば抜け出るものもいるかも知れぬ
包囲攻撃を抜け出たものがいるのであれば、手にしている障翳・黒夜からの音を円舞曲【ワルツ】で誘導型の弾幕に変えて一掃しよう



●背中合わせの、
 幻覚に囚われた先。果たしてそれは、どのようなものなのだろうか。
 考えるよりも先に、自然と瞳が眠る娘の姿を捉えていた。
(「己の見た――幻覚の後先が、あれか」)
 今はまだ、その身体が若干のやつれだけで済んでいても。少しずつ少しずつ、生気を奪われ朽ちていき――やがて、骸と化してこの森と一つになるのだろう。
 未来への不快と微かな己への侮蔑に、ガルレア・アーカーシャは心底忌々しそうにその顔を歪めていた。
 弟の声を安易に使われたのだ。それが例え、己の脳が再生した幻覚であっても――赦し難い。
 声も容姿も。弟の全ては一片残らず、自分のものなのだ。他の誰にも、渡すつもりは毛頭ない。
「残さず。皆、殺す。その僅かな意思を、断末魔へと変えてやろう」
 嫌悪を隠すつもりすら見せず、空飛ぶオトシゴへと不敵な微笑みを向けるガルレアの横で、ラルス・エアはぼんやりと娘を見つめていた。
(「このような有り様では、先の件はいつまでも敵が突く隙として立ち塞がる事であろう」)
 平和に生きてきたであろう娘とは異なり、自身は数々の修羅場を潜り抜けてきているのだ。それが、戦闘経験のない町娘と同様に幻覚に囚われてしまうなど、あってはならぬこと。
 ラルスは、幻に囚われてしまっていた自身の心の弱さを痛感していた。
(「……いつかは、確実に訪れる」)
 その時、自分はどのように行動するのだろう。笑って手を離すのか、「死にたくない」と叫ぶのか、それとも親友も道連れにしてしまうのか。
 己が身にその答えはまだ見出せない。その時になってみないと、分からない。
「敵が群れているならば好都合だな。纏めて氷塊に閉じ込めてやろう。それとも、先のように焼き払われるのが好みか?」
 余裕を見せつけるようにゆったりとした歩調で空飛ぶオトシゴに向かうガルレアを見、ラルスもまた愛読書である長編叙事詩の本の頁を捲り始めた。
 ここは互いが好きに動いた方が良い。それは互いに分かりきっていること。
 だからこそラルスは親友の戦闘に不干渉を貫くつもりであったし、ガルレアもまた、ラルスの戦いには気を留めないつもりであった。
「……すまないな」
 本を捲る音に紛れてラルスの口から一言、言葉が洩れた。
 心があり、考えがあり。訴え掛ける意思と知能のある、人に憑かねば存在も危ういもの。
 今から、彼らを狩るのだから。
 ガルレアの耳にも届かなかってであろう謝罪の後に、ラルスが紡ぐのは遠い異国の韻を持つ調べ。
 次々に詩を詠み、多重の詠唱として展開していく。
 ふわりと浮かぶのはなぞられる術式と同じ、集中と英雄譚から喚び起こす覇気であった。
「凍り付くか、串刺しになるか。選ばせてやろう」
 詠唱を展開するラルスの背後で、傍若無人な魔王の如く振舞っていたのはガルレアだ。
 突如として群れの中央に発現したのは、500を超える数の雷を纏った氷柱。空中に生え出たかと思うと、周囲を凍てつかせながら成長し――空飛ぶオトシゴたちを、容赦なく貫いた。
 串刺しを免れた空飛ぶオトシゴたちも、冷気によって凍り付き、或いは氷柱の纏う雷で動けなくなり。
 まさか悪鬼と炎が去った直後に、魔王によって氷と雷が齎されるとは、空飛ぶオトシゴたちも思っていなかっただろう。
「悪いが此処を通すことは出来ない……この力は無限であり、無尽蔵であり、そして限界すらもない。ただ、どこまでも殲滅の為に在れ!」
 ガルレアの攻撃から逃げ出した空飛ぶオトシゴが向かった先に居たのは、拳に覇気を纏ったラルスだった。
 圧倒的な存在感で空飛ぶオトシゴたち引き付けたラルスは、拳を握り締め――自身の周囲に集っていた空飛ぶオトシゴたちに向かって強力な衝撃波を放つ。
 一撃で屠れなければ、無駄に苦しませてしまうだけだ。
 その信念のもとに繰り出された攻撃は、地面を深く削り、空飛ぶオトシゴと共に周辺の木々を薙ぎ払っていく。
 さりとて、されるがままの空飛ぶオトシゴたちではない。
 残された空飛ぶオトシゴは光で全身を覆うと、ガルレアとラルスに向かって行くのだが。
「私から逃れられると思うなよ」
 勇ましく突進を繰り出した、残っていた僅かな個体も、ガルレアが音を弾幕に変化させて放った誘導型の弾幕に穿たれた。
「俺たちが相手をしていたものは、全て倒したか?」
「ああ、そのようだな」
 空飛ぶオトシゴの突進を真っ向から受け止め、投げ飛ばしたラルスがガルレアに問いかければ、短く返事が返ってくる。
 仲間たちはまだ戦っているが、二人の周囲に空飛ぶオトシゴの姿は見られなかった。
 手に付いた土埃を払うラルスと、乱れた服装を整えるガルレア。
 背中を預けられる仲ではあれど、好き勝手に戦っても自分の攻撃に相手を巻き込まぬほどに、連携は取れていても。その視線は各々違う存在を捉えている。
 ガルレアは、唯一である弟を。ラルスは、隣立つガルレアを。
 その視線が同じ方向を向く日は――来るのだろうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

炎獄・くゆり
【獄彩】


タツノオトシゴ?
何でこんなトコロにぃ~~?
海のイキモノじゃありませんでしたっけ
あっ、もしかしてあたし達と遊びたくて出てきちゃいましたぁ~~?
ではではご要望にお応えして遊んであげましょっか、フィーちゃん!

いっぱいいるし一匹捕まえちゃお~~っと
ああん、逃げないでくださいよお~~!
わかった、追いかけっこですね?
ンン~~~~なかなか捕まんなぁい
フィーちゃん、挟み撃ちにしましょ!
合点承知、いきますよお~~~!!

ウフ、捕まえた!
次はソチラが鬼ですよお
近距離であたしとフィーちゃんのラブラブアタックを喰らって無事だったなら、の話ですけどねえ

それではそれでは
幸せな夢が見れるといいですねェ~~~


フィリーネ・リア
【獄彩】

花畑から続く枯れかけの花
フィーは咲いて枯れていく花の方が安心しちゃう

あらあら、こんな処にタツノオトシゴ
遊びたくて海から来たの?
うふふ、フィーたちと遊びたいなら、そうね
キラキラの悪い子たち
フィーたちがたくさん遊んであげるね

人はいつか死ぬの
悲観はしない、でも奪うのは違うのよ
自分を棚に上げた魔女の零し
でも楽しそうなくゆちゃんに付き合うのは人形のフィーなの
うん、フィーが塞ぐからくゆちゃんが捕まえてね?

くゆちゃんに捕まったら鬼ごっこになるかな
鬼になる前にどうぞフィーからも逃げて
魔女は悪い子に幸せな夢は見せない
でも人形のフィーは祈ってあげる

けれど祈るだけの慈悲知らず
虹色の彩に消えるなら
さようなら



●オトシゴ危機一髪☆
 足跡のように花畑から点々と続くのは、枯れかけのお花たち。
 永遠に咲き続けるのも美しいけれど、咲いては枯れる方が自然らしいから。
「フィーは咲いて枯れていく花の方が安心しちゃう」
 点々とお花の足跡をなぞっていくフィリーネ・リアの視線が辿り着いたのは、空飛ぶオトシゴたちの群れ。
「あらあら、こんな処にタツノオトシゴ。遊びたくて海から来たの?」
 フィリーネがうふふと微笑みながら尋ねれば、肯定するようにひらりとヒレを動かした……ような。
 それにしても、ほっそりとした身体に、ひらひらと靡く長ーいヒレ。
 空飛ぶオトシゴたちの姿は、何処からどうみても海の生物であるタツノオトシゴにそっくりで。
「タツノオトシゴ? 何でこんなトコロにぃ~~? 海のイキモノじゃありませんでしたっけ」
 ここは森である。少なくとも、今現在は。途方もない昔は、海に沈んでいたのかもしれないけれども。
 炎獄・くゆりが思わずそんな疑問を口にしてしまったのも無理はない。
 偶々姿がよく似ていたのか、タツノオトシゴに擬態したのか、それともかつては海に生息していたのか。今となっては分からないことだけれども、だからこそ好奇心がそそられるのだ。
「あっ、もしかしてあたし達と遊びたくて出てきちゃいましたぁ~~? ではではご要望にお応えして遊んであげましょっか、フィーちゃん!」
「うふふ、フィーたちと遊びたいなら、そうね。キラキラの悪い子たち、フィーたちがたくさん遊んであげるね」
 海からここまで遠路はるばる遊んで欲しくて来たのなら、乙女と魔女のコンビが直々に相手をしてくれる――最も、生きて帰られるのかは分からないのは、遊びに来た彼らにはまだ内緒。
「ああん、逃げないでくださいよお~~! わかった、追いかけっこですね?」
 いっぱいいるし一匹捕まえちゃお~~っと。一匹くらいなら捕まりますよね~~?
 そんな軽いノリで空飛ぶオトシゴたちを追いかけ始めたくゆりだけど、なかなかに苦戦してしまっている。
 先ほどまでのゆったりとした動作は何処へやら、ヒラヒラとヒレを動かして高速で逃げ……いや、空中を泳ぎ回る空飛ぶオトシゴに、追いつくことは一筋縄ではいかない。
「人はいつか死ぬの。悲観はしない、でも奪うのは違うのよ」
 自分もいつかは死ぬのだけど――今はそれを棚に上げ、木の根元で眠る娘をちらりと見て。
 そう。人はいつか死ぬけど、生命力は奪うものじゃない。
 追いかけっこする空飛ぶオトシゴとくゆりのやり取りにクスクス笑みを漏らしつつ眺めていた、魔女フィリーネのそんな零し。
「ンン~~~~なかなか捕まんなぁい。フィーちゃん、挟み撃ちにしましょ!」
「うん、フィーが塞ぐからくゆちゃんが捕まえてね?」
「合点承知、いきますよお~~~!!」
 ひらひーらと少し挑発するように少し遠くからヒレを動かす空飛ぶオトシゴに、走り疲れてきたくゆりからフィリーネに飛んできたのは挟み撃ちの提案。
 くゆりに付き合うのもまた、フィリーネの大事なお仕事だ。「せーの!」で合わせて空飛ぶオトシゴの前と後ろに飛び出せば、行き場を無くした空飛ぶオトシゴがキョロキョロと逃げ道を探し出して――その隙をついて、くゆりが飛び込むように空飛ぶオトシゴをキャッチ!
「ウフ、捕まえた! 次はソチラが鬼ですよお」
「鬼になる前にどうぞフィーからも逃げて」
 くゆりに捕まった空飛ぶオトシゴ。ぽいっと解放された空飛ぶオトシゴに向かって、今度はあなたが鬼だよとフィリーネがニッコリと告げる。
「近距離であたしとフィーちゃんのラブラブアタックを喰らって無事だったなら、の話ですけどねえ」
 それでも、鬼になるのはくゆりとフィリーネの抜群のコンビネーションで繰り出される攻撃を耐え忍ぶことが出来たらの話。
 耐えきれなくて倒れてしまったのなら、そこで幸せな夢の世界へさようなら。
「魔女は悪い子に幸せな夢は見せない。でも人形のフィーは祈ってあげる」
 けれどフィリーネは祈るだけ。そこから先は、彼らしか知らない。魔女は慈悲知らずだから。
 鬼ごっこ開始の合図のように放たれたのは、くゆりによる先制攻撃。間髪置かずにフィリーネが構えていた虹色の絵筆を振りかざして。
「虹色の彩に消えるなら、さようなら」
 頭から絵具を被って鮮やかな虹色に染まった空飛ぶオトシゴ。
 プルプルと絵具を落すように身体を震わせながらも、負けてはいられないと輝く光で身体を覆い始めた空飛ぶオトシゴに、ドッカーン! と大きな発射音を上げてくゆりの右手からロケットランチャーが繰り出される。
「それではそれでは、幸せな夢が見れるといいですねェ~~~」
 見事空飛ぶオトシゴに着弾したロケットランチャーは、盛大な爆発音と共に地面を抉りながら、空飛ぶオトシゴを吹き飛ば――あ、お空の向こうまで吹き飛ばされた。
「片道切符の空中散歩にご招待~~~!」
「綺麗な景色が見られると良いの。起きてればのお話だけど」
 きっと、吹き飛ばされた時点で幸せな夢に落ちていることだろう。
 地平線の向こうまで吹き飛ばされた空飛ぶオトシゴを見送りつつ、くゆりとフィリーネはハイタッチを交わしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
『疾き者』のまま。
武器:漆黒風

さて、オブリビオン退治ですねー、蛍嘉。それにクルワ。
すみませんか、前衛お願いしますねー。
私は後方からの支援になりますのでー。

ええ、幸運は『我ら』に。そして、相対的に蛍嘉もクルワも幸運に。
不運はオブリビオンのみに。

剣鬼と称されたがゆえに雨剣鬼になったクルワと、それを長年宿していた蛍嘉ですよ?
遅れをとるはずないんですよ(信頼)

私は漆黒風を投擲して、さらに祈りを捧げる暇を潰しましょうかー。ふふ、当たらなくても…気にはなるでしょうね?

…まあねえ、さっきの姿、削る寿命は私のだけで、実は疲労がねぇ…。
気づいた内部三人から、またいつもの説教きてましてねぇ…。


外邨・蛍嘉
義透(f28057)とまだいるよ。
「」内クルワ台詞。
私の武器は藤色蛇の目傘(刀形態)、クルワは妖影刀『甚雨』。

さて、行こうか、義紘(兄の名)とクルワ!
「エエ、行きマショウ!…トコロで、ヨシツナは」
うん、さっきの無理してたね。説教くらってるようだから、私は何も言わないけど。
「デハ、ワタシも言いマセン」

さてさて、信頼されてるんだから、剣撃飛ばして行こうか!
「エエ、この信頼に応えるためニモ!」
相対的幸運って言うのも、いいものだね…。援護もあるしね!


クルワ、本当は義紘に宿る予定だったので、何も言えません。



●信頼の証
 猟兵たちを取り囲む空飛ぶオトシゴの数は減ってきているものの、それでもまだ半数以上ふよふよと周囲を漂っている。
 娘を救い出し、悲劇を繰り返さないためにも――オブリビオン退治の時間だった。
「さて、オブリビオン退治ですねー、蛍嘉。それにクルワ」
「さて、行こうか、義紘とクルワ!」
『エエ、行きマショウ!』
 空飛ぶオトシゴに向き合い、開戦の掛け声を告げる馬県・義透に、外邨・蛍嘉と蛍嘉から分離したクルワは威勢の良い返事を返す。
 刀形態へと変化させた藤色の蛇の目傘を空飛ぶオトシゴに向ける蛍嘉に、いつでも鞘から刀を抜けるように妖影刀『甚雨』に手を添えるクルワ。二人とも、戦闘準備はバッチリだった。
『……トコロで、ヨシツナは』
 チラリ、とクルワの視線の先には、何故だか申し訳なさそうな表情をした義透の姿が。
 表からは分からないが、身体を共有する3人に何か言われているのだろうか。
 臨戦態勢に入っていると蛍嘉とクルワとは反対に、義透の方はもう少し……少なくとも、3人によるお説教が終わるまでは難しそうである。
「うん、さっきの無理してたね。説教くらってるようだから、私は何も言わないけど」
『デハ、ワタシも言いマセン』
 花園を駆ける際に、自らの寿命を代償に『風絶鬼』に覚醒していた義透。どうやらそのことで、3人に説教を受けているようで。
 3人からのお説教があるのなら……と、それ以上は何も言わずに見守りに徹した蛍嘉とクルワだったが、無論空飛ぶオトシゴたちのことも忘れてはいなかった。
 周囲への警戒を怠らず、刀を構えてお説教の終わる時を待っている。
「すみませんが、前衛お願いしますねー。私は後方からの支援になりますのでー」
 そうして少し経った頃、漸く解放されたらしい義透が棒手裏剣『漆黒風』を指の間に挟んで、戦いの構えを取った。
 ちらりちらりと降り注ぐ陽光を受けて、水面のように緑色の光を乱反射させる漆黒風。
 義透が空飛ぶオトシゴに向かって投擲したそれらが木漏れ日のカーテンを切り裂いて、空飛ぶオトシゴたちの身体に突き刺さった鈍い音が戦いの始まりを告げる。
「ええ、幸運は『我ら』に。そして、相対的に蛍嘉もクルワも幸運に。不運はオブリビオンのみに」
 空飛ぶオトシゴたちの身体を切り裂き、突き刺さった漆黒風が目印だというかのように。
 義透が解放したのは、平穏な森には似つかわしくない禍々しい色をした靄――四悪霊が封じてきた呪詛だ。黒い靄のような呪詛は漆黒風の突き刺さる空飛ぶオトシゴたちを覆うと、見る間に生命力を奪っていく。
 悪霊としての力だが、それが空飛ぶオトシゴだけに向かっているのは、まだ理性があるおかげだろう。
「剣鬼と称されたがゆえに雨剣鬼になったクルワと、それを長年宿していた蛍嘉ですよ? 遅れをとるはずないんですよ」
 投擲の合間に、ポツリと零された義透の呟き。それは、妹と妹が封じる『鬼』への絶対的な信頼だ。
「さてさて、信頼されてるんだから、剣撃飛ばして行こうか!」
『エエ、この信頼に応えるためニモ!』
 兄からの信頼を追い風に、蛍嘉とクルワは空飛ぶオトシゴたちとの距離を一気に詰める。
 空飛ぶオトシゴたちは、急な天気雨が降ってきたとばかりに思ったに違いない。
 でもそれが天気雨と呼ぶには激しく、刃物のような鋭利さを帯びていることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
 天気雨と見紛ったそれは、蛍嘉とクルワが放つ斬撃のような集中豪雨だったのだから。
 横殴りの雨の如く振るわれる剣撃に、空飛ぶオトシゴたちの身体は音もなく切り刻まれていく。
「ふふ、当たらなくても……気にはなるでしょうね?」
 不利を一転させる予言を実現させようとしたのだろうか。斬撃の雨に穿たれながらも、祈りを捧げるような動作をとる空飛ぶオトシゴたちだったが……黙って予言を成就させるような義透でははない。
 注意を引き付けることを主眼に、漆黒風が投擲される。こつんこつんと身体を掠めたり、微妙な位置に当たって地面に落ちたり。
「相対的幸運って言うのも、いいものだね……。援護もあるしね!」
 彼らの意識が漆黒風に向けられた瞬間を狙い、蛍嘉とクルワの放つ一閃が残っていた空飛ぶオトシゴたちを一掃させた。
 義透によって齎された幸運と、生命力を奪われていた空飛ぶオトシゴ。そこに蛍嘉とクルワもよる猛攻が加わっていたのだ。倒されるのは、時間の問題だった。
「……まあねえ、さっきの姿、削る寿命は私のだけで、実は疲労がねぇ……。気づいた内部三人から、またいつもの説教きてましてねぇ……」
 動く存在が無い事を確認したところで、臨戦態勢を解く3人。
 なかでも義透は腕を軽く回しながら、「困った」とばかりに苦笑を浮かべていた。
 『風絶鬼』として覚醒する際に削るのは自分の寿命だけだ。他の3人に影響がないと言えばそうだが、嘗ての戦友なのである。命を削る姿に、何も感情を抱かない訳ではない。
 戦闘が終わったことで、再び内部3人によるお説教タイムになりそうな予感がしたから。
 苦笑する義透の姿に、蛍嘉とクルワもまた苦笑いを返すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

インディゴ・クロワッサン
◆■ (テンション低め)
あー………何かイマイチ気分がノらないし、身体動かす気分でもないや…
「……面倒になってきちゃった」
開幕からテンション低いのって問題なんだろうけど…ノらないものは仕方ないよねー…
一撃で仕留めるべく、深呼吸してから激痛耐性を発動。
それから鎧砕きや鎧無視攻撃だの部位破壊だの毒使いと毒耐性だの串刺しだの範囲攻撃だの力溜めだの覚悟だのだまし討ちだの使えそうな技能を発動させられるだけ発動させたら、UC:侵食の赤薔薇 を発動。可能な限り一撃で仕留めるよ。
「っぐ…」
ほぼ最大出力でUC発動させたけど、心臓への負担ヤバいねー…叫ぶ余裕無かったよ…ちょっと呼吸止まってたかもしれないね、これ…



●薔薇の傷跡
 チラリチラリと見え隠れする、ここに来るまでの道中で見た見知らぬ男性の幻覚。
 確かに知らないのに、身体が知っていると叫んでいるような。そんな形容しがたい違和感が頭に居座って離れないせいか、インディゴ・クロワッサンのテンションは地を這うように低いものだった。
(「あー………何かイマイチ気分がノらないし、身体動かす気分でもないや……」)
 幻覚のせいか、何をするのも億劫だった。
 身体を動かす気分ではないが、かといって男性の正体についてあれこれ思考を巡らせる気にもならない。
 今は何も考えず、ただ空を見上げてぼーっとしていたかった。
「……面倒になってきちゃった」
 手足一つ動かすのも鉛の茨が絡みついているかのように重く感じたが、そんな億劫そうなインディゴに構うことなく、空飛ぶオトシゴたちはゆっくりとインディゴに近づいてきている。
(「開幕からテンション低いのって問題なんだろうけど……ノらないものは仕方ないよねー……」)
 派手に炎やら氷やらを刀やらを振りかざして戦う仲間たちを見、そっと呟きを漏らす。
 気分がノらないのは仕方ないかもしれないが、かといってこのまま何もせずに突っ立ていても空飛ぶオトシゴに取りつかれて生気を奪われるだけである。
 仕方ないなーと軽く身体を伸ばしたインディゴは、森の澄んだ空気で胸を満たすように深呼吸をすると、激しい痛みに耐えられるように意識を切り替えた。
 可能な限り、一撃で仕留められるように。なるべく多くを串刺しできるように広範囲に展開し、茨を操り、逃げる個体にはだまし討ちを……。
 持ち得る全ての技術を発揮することができるように、頭の中で茨の展開を考えながら――インディゴは自身の心臓から、赤薔薇を纏う大量の茨を解き放った。
「っぐ……」
 まるで、お伽話の呪いのように。仲間たちの戦闘で焼け焦げた木々も、切り払われた草花も全てを覆い隠して、赤薔薇を咲かせる茨は侵略を始めていく。
 戦闘意欲のないインディゴを狙い、近距離を漂っていた個体は茨によって串刺しにされ、一瞬でその姿が見えなくなった。祈りを捧げているような動作を取り始めた個体は、直ぐに茨に絡み取られてしまう。
 空飛ぶオトシゴが齎した不吉な予言により、心臓の痛みが増したインディゴだったが、殆ど最大出力で自身の能力を発動させている今、多少痛みが増したところで大きく何かが変わるはずもなく。
(「ほぼ最大出力で発動させたけど、心臓への負担ヤバいねー……。叫ぶ余裕無かったよ……ちょっと呼吸止まってたかもしれないね、これ……」)
 心臓が踊り狂うような激しい痛みが徐々に消えていったことに、敵を倒し尽くしたのだと気が付いた。
 胸を擦りながらインディゴが顔を上げて周囲を見渡せば、茨によって切り裂いたような傷跡が木々や地面に刻まれている。
 空飛ぶオトシゴたちが自身の周囲に居ないことを確認すると、荒ぶる呼吸を落ち着かせるようにゆっくり呼吸を繰り返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

森乃宮・小鹿
◆■
この子らが今回の原因っすね
どんなに見た目がきれいだろうと油断はしないっす

さぁーて、数は多いけど味方も大勢っす
ボクは確実に数体止める気持ちでいきましょうか
まずは相手の動きを見ながら呪文詠唱
慣れてきたけど長いっすからね
ある程度唱えたらオトシゴさん達に一気に近付き
呪文を最後まで唱えて右手で触れる

黄金に凍えて、汝美しき静寂となれ
止れ、寂たる樹氷の如く

あとは鬼ごっこでもいたしましょ
逃げられないように、捕まらないように
黄金に変わりゆくまで呪いを与えたオトシゴさん達を引き付けるっす
さあ、幸せに微睡むことはできないけれど
もう暫くボクは此処にいてあげるっすよ
みんなが完全に黄金へ変わるまでは、っすけどね



●沈黙は金なり
 生物の生存方法は実に様々だ。
 捕食されないために強き生物に擬態するものに、毒を宿して天敵の命を奪うもの。
 一見すると美しい空飛ぶオトシゴだが、その内にどんな能力を秘めているのか。
「この子らが今回の原因っすね」
 相対する空飛ぶオトシゴをじっと観察する森乃宮・小鹿の姿に、全くと言って良いほど隙は存在しない。
 ともすれば油断してしまうような愛らしい容姿をしているが、それに靡くような小鹿ではないのだ。
(「どんなに見た目がきれいだろうと油断はしないっす」)
 何処に罠が仕掛けられているのか、分からないから。怪盗がお宝を前に、油断しないのと同じ。
 幾ら愛らしい外見でも、油断してしまったらその時が一巻の終わりだ。
「さぁーて、数は多いけど味方も大勢っす」
 開けた草原に残るのは、火によって焦げた跡に凍り付いた氷柱に……。
 周辺の木々は斬撃の余波でバッサリ切られていたり、茨が這ったような痕跡が残っていたり。
 敵も多いが、頼りになる味方も多かった。
 仲間が盛大に繰り出した攻撃から逃げ出した数体。それを確実に仕留める方針で、小鹿は動き出す。
(「慣れてきたけど長いっすからね」)
 そろり、そろーりと。
 ゆっくり行けば見つからないと考えたのだろうか。小鹿の視線の先には、こっそり逃げ出そうとした空飛ぶオトシゴが数体。
 風に揺れる草花に交じって、見え隠れする緑のヒレ。緑豊かな森に紛れ、良い感じにカモフラージュされてしまっている。
 気付いていない振りをしながら、視界でそれとなく空飛ぶオトシゴを捉え――小鹿は呪文を詠唱していく。
 慣れてきたけど、呪文は長い。焦らずに、後は最後の一節を唱えるだけにして。
「黄金に凍えて、汝美しき静寂となれ。止れ、寂たる樹氷の如く」
 戦闘の諸々に乗じて、逃げようとした先。急に影が差し、何事かと空飛ぶオトシゴが見上げた先に居たのは小鹿の姿で。
 怪盗団メンバーとしての盗みの技術は未熟であれど、それだけの話。身体能力までもが劣ることは無い。
 さすが怪盗団の一員というべきか、重力を感じさせない身のこなしで一気に空飛ぶオトシゴたちとの距離を詰めた小鹿は、右手でその身体に触れると最後の一節を唱える。
「今度はオトシゴさん達が鬼っすよ。あとは鬼ごっこでもいたしましょ」
 逃げられないように、捕まらないように。
 ひらりと「鬼」の注意を引き付けながら、小鹿は蝶の如く舞い逃げる。
 可哀想な「鬼」たちは自身の身体の異変に気付かない。黄金に変わる呪いが付与されたことも。小鹿を追いかけ速く動くほど、黄金化が加速することも。
「さあ、幸せに微睡むことはできないけれど。もう暫くボクは此処にいてあげるっすよ」
 徐々に自由のきかなくなっていく身体の違和感に気付いたようだが、その時には既に手遅れだ。
 「鬼」から逃げ切った小鹿が清々しい表情で見つめる空飛ぶオトシゴの身体は半ば黄金に呑み込まれ、後少しで完全に黄金へと変化しきってしまうのだろう。
「みんなが完全に黄金へ変わるまでは、っすけどね」
 パチリととびきりのウインクを決めてみせた小鹿の声が、空飛ぶオトシゴに届いたかどうかは――定かではない。
 小鹿の目の前には、数体の黄金があるばかりなのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィゼア・パズル
心地良い森の気配になんだか昔を思い出して和んでしまいます。

幸せな夢を見せ、生命力を奪うタイプと。…夢は所詮夢ですからね。辛さを忘れるには丁度良いですが、夢に逃げ続けていては、現実の幸せを逃してしまいますよ。
「そちらの女性をお迎えに上がりました。“餌“を奪って申し訳ありませんが…返して頂きますね?」

【空中戦・空中浮遊】を常時展開、星脈精霊術を使用
仲間との連携重視
【属性攻撃・範囲攻撃・全力魔法】の技能発揮し、浮かぶ相手を的に風の刃と嵐を吹き荒らしましょう。出来るだけ広範囲かつ多数を落とす事を目指します。

…なんだろうな。もう少し、平和的なUCを作っても良いかも知れませんね…。



●嵐を齎す者
 爽やかな風が吹き抜ける。夏に向けて張り切り始めた太陽の光も木の葉によって和らげられ、丁度良い涼しさとなって猟兵たちに降り注いでいた。
 故郷の森を思い出してしまうような、牧歌的な風景が目の前に広がっている。
 ヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)はふわりと自身を包み込む森の気配に、昔の記憶が思い起こされ、思わず頬が緩んでしまうのを自覚していた。
 この時期の森は心地良い。しかし、静かなる森の安寧を妨げる存在が、この場に居るのもまた確かなこと。
 空飛ぶオトシゴに取りつかれたら最後、娘のように徐々に衰弱して――この森の養分となってしまうことだろう。
 懐かしい雰囲気を感じるこの森にずっといたいと思ってしまうが、勿論養分となる形で、ではない。
(「幸せな夢を見せ、生命力を奪うタイプと。……夢は所詮夢ですからね。辛さを忘れるには丁度良いですが、夢に逃げ続けていては、現実の幸せを逃してしまいますよ」)
 あれほど心待ちにしていた存在が帰ってくるのだから。
 ヴィゼアの視線の先には、眠ったままの娘の姿がある。
 起きた娘に先の言葉を直接伝えたいところだが、娘を起こすには、目の前の空飛ぶオトシゴたちを倒さなくては。
「そちらの女性をお迎えに上がりました。“餌“を奪って申し訳ありませんが……返して頂きますね?」
 ふわりと空中に浮き上がったままヴィゼアが慇懃に礼をすると、「餌」を横取りされることに対する怒りだろうか、空飛ぶオトシゴたちは威嚇するようにそのヒレを広げると、地面に向かって叩きつけた。
「あまり荒っぽいような態度では、女性に嫌われてしまいますよ。――おいで、狩りの始まりだ」
 斬撃に、炎に、氷に。ヴィゼアが空飛ぶオトシゴたちの注意を引き付けている間にも、味方である猟兵によって様々な攻撃が繰り出されている。
 仲間を巻き込んでしまわぬように、しかし、仲間が作り出した隙をつけるように。
 猟兵と空飛ぶオトシゴたちが入り乱れる草原を、ヴィゼアは一陣の風と成り駆け抜けた。
 時には空中で静止し、また時には大きく余裕ぶった動きで空飛ぶオトシゴたちの注意を逸らさぬまま。
「夢の続きは、どうぞ骸の海で」
 味方を巻き込まぬ程度の十分な距離を保ったところで、ヴィゼアは風の刃を吹き荒らす。
 木々の木の葉を舞い散らせながら途端、巻き起こるのは気まぐれで千変万化な風の嵐。はらりと一瞬で粉々にされた木の葉が、空飛ぶオトシゴたちの未来を暗示していた。
 舞い上がった草花と一緒くたになりながら、空飛ぶオトシゴは無数の刃に切り刻まれ――獰猛な嵐はそれだけでは収まらない。次は輝く光で身体を覆い始めた個体から、ひらりと嵐に呑み込まれ、風の刃によって全身が串刺しにされた。
 何処から現れるのか予想すらできない嵐に囚われたら、その時が最後だった。
「……なんだろうな。もう少し、平和的なUCを作っても良いかも知れませんね……」
 ふわり、と。全身を風の刃に貫かれ、どさりと重い音を立てて最後の一体が地に落ちる音をBGMに、周囲を見渡したヴィゼアはぽつりとそう呟いた。
 その一角だけ草刈りでもしたのかと思われそうなほど刈られた地面の草花に(何なら地面も抉られてしまっている)、巻き込まれた木々には風の刃による深い傷跡が刻まれていて。嵐の餌食になった空飛ぶオトシゴたちに至っては――娘さんには見せられないような状態で力尽きていた。
 ……うん。もう少し、平和的な攻撃方法を考えても良いのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆
良かった、娘さんは無事のようだね
あの花冠、全部彼女が作ったのかな。すごいね
早く幼馴染さんに見せてあげたいね

タツノオトシゴって海の生き物だよね?
空飛んでるよ、なんかすごい
光を纏いながらふよふよ舞うその姿に惹かれて
思わず指を伸ばして軽くつんつんしてみたり
倒さなきゃいけないオブリビオンだとは分かっているけれど

ん、なになに?
頭に彼らの予言が流れ込んでくる
…楽しいピクニックをするでしょう
…お弁当には大好物がたくさん入っているでしょう
…四つ葉のクローバーを見つけるでしょう
わ、ほんと?ワクワクしてきたよ

最後はUCの紅い蝶で眠らせるように倒す


乱獅子・梓
【不死蝶】◆
娘を見てもう生気を奪われた後かと一瞬ヒヤッとしたが
眠っているだけと知って安堵
…穏やかな顔で眠っているな
さぞ幸せな夢を見ていたんだろうな

さっき蝶を指にとまらせていたように
今度は空飛ぶオトシゴと戯れる綾を見て
あいつの指から今回はプランクトンでも出てるのか??と思ったり
可愛らしい外見に加えて、こいつらがさっき焔の母竜と
穏やかな時間を過ごさせてくれたのだと思うと
容赦なく倒す!という気はなかなか起きないな…

俺にも何か聞こえてくる…こいつらのUCか
…お弁当作りでうっかり指を切るでしょう
…ピクニック中に虫に刺されるでしょう
俺のは嫌な予言ばっかりだな!?

最後はUCで零の歌声を聴かせて倒す



●予言の行く先は彼ら次第
 花と共に想いと記憶を編み込んで。想い人との幸せな想い出に包まれて。
 穏やかな表情で、眠っている娘の姿。それはまるで、そのまま永遠の眠りについてしまったかのようにも見えて――……。
「……穏やかな顔で眠っているな。さぞ幸せな夢を見ていたんだろうな」
 目立った外傷が無いのが幸いだった。衰弱しているだけなら、快復も比較的早いだろう。
 娘を見て手遅れだったかと嫌な意味で乱獅子・梓の心臓が跳ね上がったのも一瞬のこと。
 静かに上下する胸の動きに眠っているだけだと気付くと、ホッと安堵の息を吐き出した。
 驚くと口から心臓が飛び出るとは言うが、この類の動悸は出来れば体験したくない類のものだ。
「良かった、娘さんは無事のようだね」
 激しく脈打ったままの胸を擦っている梓とは反対に、灰神楽・綾はのほほんとした口調で呑気に「良かったねー」と言っている。
 まるで、娘さんが眠っていると分かっていたかのような口振りに、梓は反射的に突っ込んでいた。
「綾……。もしかして、眠っているだけだって知ってたのか?」
「ん? だって、血の匂いしてないし、呼吸もしっかりしてるでしょ?」
 きょとんと首を傾げて、分かってさも当然だというような空気を漂わせる綾に、梓は心の中だけで「なら教えろ……!」と地団太を踏んだ。
 でも、綾には分かって自分には分からなかったって、悔しいから言わないつもりだ。絶対に。
「あの花冠、全部彼女が作ったのかな。すごいね。早く幼馴染さんに見せてあげたいね」
 悔しげな梓の心中など知ってか知らずか、綾は変わらずに感想を述べている。ある意味、綾が最も幸せなんじゃないんだろうか。
「タツノオトシゴって海の生き物だよね? 空飛んでるよ、なんかすごい」
 光を纏い、ふよふよと舞う様に泳ぐその姿。
 蝶が花に惹かれるように、ふわりと空飛ぶオトシゴに惹かれた綾は、ゆっくりと彼らに近づいていく。
 後ろから聞こえる「危ないんじゃないか?」という梓の心配そうな声には、手を緩く振って「大丈夫だよー」と返しておいた。
「倒さなきゃいけないオブリビオンだとは分かっているけれど、可愛いものだね」
 思わず指を伸ばして、口をつんつんと軽く突けば、空飛ぶオトシゴは驚いたように跳ね上がった。
 その反応もまた可愛くて、空飛ぶオトシゴを突く綾の手は暫く止まりそうにない。
「あいつの指から今回はプランクトンでも出てるのか??」
 思えば、さっきは蝶を指にとまらせていた。そして今度は、空飛ぶオトシゴと戯れている。
 綾の手からは、生物の好む食べ物か何かが出てきているのじゃないか。空飛ぶオトシゴの様子を見ていたら、その新説がより濃厚になってきた。
 空飛ぶオトシゴと戯れる綾の姿を眺めつつ、梓もまたそっと彼らに指を指し出してみれば――一瞬ちらとだけ梓を見た後、しれーっと素知らぬ顔で真横を通り過ぎ、そのまま綾の方へ。
「……焔と零がいるから、別に良いぞ」
 もぎゅっと焔と零を抱き寄せれば、人懐こい鳴き声を上げてすり寄ってくる。だから空飛ぶオトシゴにスルーされても、悲しくなんてない。
 焔と零をよしよし撫でれば、慰めるようにじゃれつかれた。
「でも、こいつらがさっき焔の母竜と穏やかな時間を過ごさせてくれたのだと思うと、容赦なく倒す! という気はなかなか起きないな……」
 例えスルーされても、焔の母竜と穏やかな一時を過ごすことが出来たのだ。
 倒す気はなかなか起きない……例え、スルーされたとしても。
「ん、なになに?」
 と、もしょもしょと空飛ぶオトシゴの身体を撫でつつ戯れていた綾の頭に、直接囁くような声が響いてくる。
 キョロキョロと見上げるが、周囲に声の主の姿は確認できない。ひとしきり辺りを確認したところで、囁くような声の持ち主が、目の前の空飛ぶオトシゴだと気付いた綾。
 そのまま彼らの予言に耳を傾けていれば。
『……楽しいピクニックをするでしょう』
『……お弁当には大好物がたくさん入っているでしょう』
『……四つ葉のクローバーを見つけるでしょう』
「わ、ほんと? ワクワクしてきたよ」
 脳裏にイメージと共に浮かぶのは、楽しい予言の数々だった。
 沢山の大好物が入った大きなお弁当を梓が作ってくれて、そのまま楽しいピクニックをして。
 のんびり過ごしていたら、四つ葉のクローバーを見つけたりなんかもして。
「どうしたんだ? かなり嬉しそうだが」
「いや、楽しそうな予言だなーって思って」
 ニコニコ笑顔でそう答える綾から離れた空飛ぶオトシゴたちは、そのままゆらりと梓の方へ向かってくる。
 ついに遊ぶ気になったか、と梓が期待したのも一瞬で――……。
『……お弁当作りでうっかり指を切るでしょう』
『……ピクニック中に虫に刺されるでしょう』
『クローバーを見つけるでしょう……五つ葉の』
「俺のは嫌な予言ばっかりだな!?」
 ご丁寧なことに、妙にリアルで生々しい幻覚と共に告げられる梓への不吉な予言。
 綾との扱いの差が一目瞭然だった。思わず抗議の声をあげる梓にも構わず、告げるだけ告げるとしれーっと綾の元へと帰っていく空飛ぶオトシゴたち。
 嫌われる理由を考えてみたところで、「何となく気に入らない」くらいしか理由が無い事に気付いて――梓は心の中で涙したとか。
「なかなかに楽しかったよ。また遊べると良いね」
「そうだな。……今度は俺とも遊ぼうな」
 ひとしきり楽しんだのなら、次に待つのはお別れの時間だ。
 零の神秘的な咆哮によってすとんと意識を失った空飛ぶオトシゴたちは、綾の放った蝶の群れによってそのまま永遠の眠りの世界へと。
 今度こそはと意気込む梓を労うように、綾が静かにその肩を叩いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

娘さんの命に別状がなさそうで、本当に良かった……

だけど、このオトシゴの能力は厄介ですわね
傷つくほどに強くなり、しかも瀕死になると仲間を呼ぶ……
でも、いくら強化できるといっても、体力には限界があるはず
あきらめずにいきましょう
どれだけダメージを受けても、わたくしがヴォルフを癒し援護し続けますわ

歌うは【涙の日】
味方には癒しの、敵には裁きの光を降らせて
優しさを込めて祈り続ける
ヴォルフ、どうか負けないで……!

幸せな夢の中では、痛みも寂しさも感じないかもしれない
でもそれが、現実の世界で待つ人を悲しませるのならば
それは「本当の幸せ」とは呼べないわ
わたくしたちは未来に向けて生きてゆくの


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

意志の疎通を図るまでもなく、このオトシゴたちに『悪意』はないのだろう
生きるために獲物を誘い、効率よく弱らせて食らう
それは自然の摂理、全ての生物が持つ生存戦略

だが俺たちも、同胞の命の危機を放ってはおけないのでな
理不尽な死の運命に全力で抗い、敵を狩る
それもまた、今を生きる者の意志と知れ

【獄狼の軍団】を召喚
全力で敵を(敵UCで仲間が召喚されたらそれも含めて)集団攻撃
回復能力に長けた相手だ。持久戦に持ち込まれると厳しくなるだろう
多少のリスクは覚悟の上で高火力を叩き込む

回復の要のヘルガには傷一つ付けさせはしない
全力で庇い守る
どれだけ傷ついても、気合と覚悟、鋼の意志で
激痛に耐え抗ってみせる……!



●未来に向けて
 それが例えどんなに小さな悲劇でも、悲しむ人が少なくても。
 これ以上、この世に悲しむ人を増やしたくは無かったから。皆が笑い合えるような平和な世界を目指したかったから。
「娘さんの命に別状がなさそうで、本当に良かった……」
 だから、娘に命の別状がないと分かった瞬間、ヘルガ・リープフラウは心の底から安堵したのだ。
 安堵のあまり崩れ落ちるような体勢になったヘルガを、そっとヴォルフガング・エアレーザーが抱き留めた。
 ヘルガを抱き起しながらも、ヴォルフガングの瞳には空飛ぶオトシゴたちの姿が映っている。
(「意志の疎通を図るまでもなく、このオトシゴたちに『悪意』はないのだろうが」)
 目の前の空飛ぶオトシゴたちからは、悪意や殺意のようなものは感じられなかった。あるのはただ、生きたいというような、生物なら抱いて当然の生存本能だけで。
 生きるために獲物を誘い、効率よく弱らせて食らう。生き残る為に、策を巡らせて獲物を待つ。
 それは自然の摂理、全ての生物が持つ生存戦略。この世は弱肉強食で、環境に適合出来なかったものから滅んでいくのだから。
 自然の摂理。そうと言えば、なのだが。
「だが俺たちも、同胞の命の危機を放ってはおけないのでな」
 生きるために彼らが獲物を狙うのならば、ヴォルフガングたちもまた、仲間の為に戦うのだ。
 それに、そもそも自然の摂理のなかにオブリビオンの存在は組み込まれてはいない。
「理不尽な死の運命に全力で抗い、敵を狩る。それもまた、今を生きる者の意志と知れ」
 環境に適合出来なかったか、単に個体数が少なくなったのか。理由は定かではないが、彼らは滅んだ。恐らく、もうずっと昔に。
 彼らは昔を生きた存在であって、今を生きる存在ではない。
 過去を超えて今を未来に繋ぐためにも、ヴォルフガングは地獄の炎を纏った獰猛な狼犬の群れを召喚するのだ。
「だけど、このオトシゴの能力は厄介ですわね。傷つくほどに強くなり、しかも瀕死になると仲間を呼ぶ……」
 猟兵たちの戦いを冷静に分析していたヘルガが、静かに呟いた。
 先ほどから見ていて気付いたのだが、彼らは傷付く程に強くなり、光に覆われてパワーアップしたり。瀕死になると仲間を呼んだりもしている。
「でも、いくら強化できるといっても、体力には限界があるはず。あきらめずにいきましょう」
 どれだけダメージを受けても、わたくしがヴォルフを癒し援護し続けますわ。
 にこやかに「回復は任せて」と告げるヘルガに、ヴォルフガングが寄せるのは絶対の信頼と絆だ。
 彼女ならば、何が起きても上手くやってくれるから。ヘルガが居るからヴォルフガングは、目の前の戦いに安心して集中することができるのだ。
「何者も地獄の番犬の顎門から逃れる術は無いと知れ!」
ヴォルフガングの勇ましい咆哮と共に、一斉に雄叫びを上げた地獄の狼犬たちが空飛ぶオトシゴへと飛びかかる。
 地を蹴り、風を裂き、目の前の獲物に食らいついて。決して離すまいと、空飛ぶオトシゴの身体に鋭い牙を食い込ませていく。
 もとより、ヘルガを護るための多少のリスクは覚悟の上だ。長期戦に持ち込まれたら、不利になるのはこちらなのだから。
「ヘルガには傷一つ付けさせはしない――全力で庇い守る!」
 地獄の狼犬たちに紛れて、ヴォルフガングもまた前線へと飛び出した。
 これも全て、愛しきヘルガを護るため。彼女にヒレ一つ触れさせないように。
「ヴォルフ、どうか負けないで……!」
 ヴォルフガングの無事を願いながらヘルガもまた、祈りを捧げ始めていた。
 静謐なる聖歌を口ずさみ、一心にヴォルフガングの無事と勝利を祈る。
「主よ。御身が流せし清き憐れみの涙が、この地上より諸々の罪穢れを濯ぎ、善き人々に恵みの慈雨をもたらさんことを……」
 ヘルガの祈りに呼応するようにして、天からゆっくりと差し込むのは柔らかな光の雨だ。
 一見すると優しく全てを包みこむような光だが、しかし、悪しきモノには容赦しない。
 空飛ぶオトシゴの数体が眩い光に包まれたかと思うと、そのまま空飛ぶオトシゴの身を焦がし――光のレースが解けた少し後には、何も残ってはいなかった。
「未来のためにも、負ける訳にはいかないからな……!」
 最前線でバスターソードを振るうヴォルフガングの身体には、無数の傷跡が出来ている。
 光を纏いパワーアップした空飛ぶオトシゴに、瀕死になった仲間の呼ぶ声に新しく姿を現したもの。そして、ヘルガに向けられる攻撃をも肩代わりしているのだ。身体中に傷がつくのは、必至のことだった。
 力のままバスターソードを振るい、空飛ぶオトシゴを叩き切る。薙ぎ払いで吹き飛ばした数体にすかさず地獄の狼犬が食らいつき、連撃を食らわせていた。
 どれだけ傷付いても、倒れる訳にはいかないのだ。
 自分の背後にはヘルガがいる。娘の帰りを待つ人々がいる。
 自身の身を包み込む優しい光を感じながら、覚悟と気合で自らを𠮟咤激励し、バスターソードで切り払うこと、何度目だろうか。
 最後の一体に剣の重さを生かしてその刃を突き立てた時、ヴォルフガングは戦いの終わりを実感していた。
「ヴォルフ、大丈夫かしら……!」
 緊張感が途切れたせいか、ふらついたヴォルフガングを駆け寄ったヘルガが支えた。
 そのままヘルガはヴォルフガングの手を引いて木陰に座らせると、傷の手当てを行っていく。
「幸せな夢の中では、痛みも寂しさも感じないかもしれない。でもそれが、現実の世界で待つ人を悲しませるのならば……それは『本当の幸せ』とは呼べないわ」
 一つ一つ丁寧に、傷の状況を見極めながらヘルガが語るのは道中で見た幻のこと。
 痛みも寂しさも感じない。でも、それが現実では無いのなら――そこには、なんの意味もない。
「わたくしたちは未来に向けて生きてゆくの」
「そうだな。俺も、ヘルガと共に未来に向けて歩んでいきたい」
 ――木陰で微笑み合う二人を、木漏れ日が優しく見守っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花降・かなた
◆【風花の祈り:3人】
かわいい!絵でしか見てなかったけど本当におかわういわ!
ねえねえ二人とも、写真を撮りましょう。ほらしゃし…(ぎゃー)(やられた
うう……油断していたわ……
うぇーん。纏さーん(這う這うの体で逃げかえる
そ、そうね。油断大敵よね!
遭難…はっ。なるほど、これが遭難の原因!
さすがね魅華音さん!

と、いうわけで二人の背中に隠れて、サウンド・オブ・パワーで歌うわ!
戦え~。た・た・か・え~♪(歌は一般人並みにうまいが歌詞が残念と定評の身

後はか弱い身なので、二人の背後で援護に徹する
けれども危険があれば、迷わず飛び出してオーラ防御を通した(このくそ重たい)傘を盾に庇うわ!
二人とも、やっちゃって~♪


九石・纏
◆【風花の祈り:3人】
不思議な生き物だなぁ。っと!?

クイックドロウ、投剣を投げて、かなた嬢を襲うオトシゴへ牽制からの大剣で切断。
大丈夫か!

ふぅ…気ぃつけな、かなた嬢、見た目はどうあれオブリビオンだ。

敵の生命力吸収を警戒し、自身の生命力、覇気の制御を強め、吸われないようにオーラ防御。

(歌を聞いて)ははは、締まらんなぁ。やるか!

『絶望の福音』で予言の内容を正確に把握、
起る出来事(魅華音嬢との同士撃ち等)いち早く察知し、自身や2人の身を早業で守り、
怪力で大剣をなぎ払い、重さを感じさせない動きでオトシゴ達を斬り払って行く。

味方へ向いた生命力吸収へ、炸裂氷弾を投擲。
氷の呪詛妖気を吸わせて、妨害だ。


唐草・魅華音
【風花の祈り:3人】
アドリブOK

一緒に写真?さすがに無理では……っと、危ない所でした。見た目の愛くるしさも惑わす幻覚のようなものなのでしょうね。
……遭難の元凶討伐、開始するよ。

まずはドローンを飛ばして敵の攻撃パターンを情報収集し、戦闘知識と照らし合わせて行動パターンを分析。
パターン分析したらかなたさん纏さん2人に伝え、輝いてきた時に生命急襲を妨害したり、祈りの体勢を崩すため銃弾乱射の弾幕を張って散らしたり、近づいてきた相手を刀でなぎ払って牽制し思うように行動させないように。
ドローンに情報が集まった頃合いで、2人に殲滅すると伝えてUC発動。ドローンの動かすままに敵を一気に蹴散らします。



●かわいいはせいぎ?
「かわいい! 絵でしか見てなかったけど本当におかわういわ!」
 絵や写真でしか見たことの無かった生物を実際にその目で見てみると、想像以上の愛らしさに思わず身悶えてしまう話もこの世では割と有り触れたお話で。
 その例に漏れず、花降・かなたのテンションは青空を突き抜けて宇宙にまで到達してしまいそうなほど急上昇を続けている。
 少し薄いまん丸な瞳に、キラキラと零れ落ちる光。シュっとシャープな外見に、流れるヒレは美しく。絵でしか見たことのなかった空飛ぶオトシゴたちだけど、実物は本当にかわいい。目に入れても痛くないくらい。
「ねえねえ二人とも、写真を撮りましょう!」
「一緒に写真? さすがに無理では……」
 ちょいちょいと空飛ぶオトシゴに向かって駆けつつ手招きするかなたに、唐草・魅華音は冷静にツッコミを入れる。
 だって、空飛ぶオトシゴたちはどう見てもかなたを歓迎している雰囲気ではない。闖入者を眺めるようなジト目でかなたを見つめている。
「写真よ、写真。ほらしゃし……」
 浮かれるかなたは、魅華音のツッコミも聞き流して。推しと切望の対面を果たしたファンのようなテンションで突撃し――見事、撃沈した。
 ぎゃーという癒し系乙女にはあるまじき悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいだ。
「不思議な生き物だなぁ。っと!?」
 魅華音に代わってヒレを使い、ベシッとかなたに容赦なくツッコミ(攻撃)を入れた空飛ぶオトシゴに、九石・纏は反射的に投剣を投げていた。
 咄嗟に投げた投剣だったが、纏の狙い通りの場所に命中し――空飛ぶオトシゴの注意がそちらに逸れた瞬間を狙って、大剣でバッサリと切り捨てる。
「……っと、危ない所でした。見た目の愛くるしさも惑わす幻覚のようなものなのでしょうね」
 かなたが見事に引っかかったが、あの愛くるしさも油断を引くための策略に違いない。戦闘の役に立つだろうと空飛ぶオトシゴの生態を分析する魅華音の隣に、かなたが這う這うの体で逃げ帰ってきた。
「うう……油断していたわ……うぇーん。纏さーん」
「ふぅ……気ぃつけな、かなた嬢、見た目はどうあれオブリビオンだ」
 大剣を構え、一歩前に出た纏の視線は未だに空飛ぶオトシゴを捉えている。
 どんな姿をしていても、れっきとしたオブリビオンに違い無いのだ。現にかなたへお見舞いされたツッコミ(攻撃)は、普通の野生動物が繰り出すものと威力も強さも桁違いだったのだから。
「……遭難の元凶討伐、開始するよ」
「そ、そうね。油断大敵よね! 遭難……はっ。なるほど、これが遭難の原因! さすがね魅華音さん!」
 這う這うの体で逃げ帰ってきたかなただったが、復活も早かった。
 がばりと起き上がると一拍遅れで纏の話に激しく首を縦に振り、魅華音の分析には尊敬の眼差しを飛ばしている。
「かなた嬢も遭難しないようにな?」
「し、しないって!」
 ふらーりとついていきたくなるけれど、そこはググっと堪えて。
 魅華音のドローンが頭上を飛んでいく機械音を聞きながら、纏は大剣を握り直し、魅華音はドローンから得られる空飛ぶオトシゴたちの行動パターンの分析に神経を傾け。そしてかなたは――二人の背に隠れた。あれ、隠れた?
「予言の内容は気をつけていれば、それほど脅威にはならないようですが……どうやら負傷を受ける程に強く、より攻撃的になるようですね。後は不利になってくると生命力を吸収してきますので、ご注意を」
 魅華音は分析した行動パターンを纏とかなたに告げると、攻撃に備えるべくドローンをバラバラに飛ばし始める。
 生命力吸収能力を警戒した纏もまた、身体に覇気を巡らせてオーラ防御を展開した。奪われることが事前に分かったのなら、奪われないように対策はできるのだから。
「戦え~。た・た・か・え~♪」
 先ほど空飛ぶオトシゴによる洗礼を直々に受け、直ぐに立ち直った気もしたのだが……か弱い乙女の身であるかなた。二人の背後で、支援に徹し始める。
「……かなたさん」
 歌唱能力は良いが、響き渡る歌詞が残念なような。
 魅華音が歌詞に何か言いたそうな視線で一瞬振り返ったが、かなたは見てない気付かない。全ては「気・の・せ・い~♪」だ。
「ははは、締まらんなぁ。やるか!」
 どうにも気の抜けてしまう歌声に、戦闘中だと云うのに纏も思わず破顔させてしまう。
 それでも、緊張しすぎてしまうよりはずっと良い。持ち前の怪力で大剣を易々と振り回すと、空飛ぶオトシゴへ向かって行った。
「っと。来ます」
 祈りを捧げるような動作に素早く気付いた魅華音が、銃弾を乱射させて祈りの姿勢を崩し去る。そこへ間髪置かずに纏が飛び込み、大剣の重さを感じさせない横薙ぎで数体の空飛ぶオトシゴを一度に薙ぎ払った。
 勢いのままに吹き飛ばされた空飛ぶオトシゴたちは、木の幹に叩きつけられ、地面に倒れ伏して動かなくなる。
「残念だが、その予言は現実にならないな」
 空飛ぶオトシゴが纏に告げたのは、乱戦によって引き起こされる魅華音との同志撃ちだった。
 しかし、能力で予言の内容を正確に把握していた纏に怖いものはない。
 一早く敵の気配を感じ取ると目に留まらぬ速さで駆け抜け――魅華音の背後へと迫っていた空飛ぶオトシゴを叩き切った。
「その行動は想定済みです」
 挟み撃ちにするつもりだったのだろう。背後からやってきた空飛ぶオトシゴは纏が討ったが、正面から向かってくる空飛ぶオトシゴはまだ健在だ。
 しかし、魅華音とて無策ではない。刀を振るうと、バッサリと尻尾を斬り落とす。
「二人とも、やっちゃって~♪」
 二人を一番の脅威と捉えたのか、わさわさと集まってくる空飛ぶオトシゴたち。
 二人では対処できそうにないと判断しかけたところへ、割り込む影が。
 よいしょっとかなりの重量を感じさせる動作で敵に向かって突き出された傘に、そのままオーラ防御が展開され――目の前に突然現れた物体に止まることも出来ないまま、ドゴン! とおおよそ傘が立てるべきではない音が森の中に木霊していった。
「あー。重かったわ」
 ぶつかった衝撃で気絶したらしい空飛ぶオトシゴは放置して、よっとと何処か危なっかしくも無事に傘をしまったかなた。
 一連の行動を見ていた纏と魅華音がかなたの傘を凝視しているが……傘の材質や製法やらを聞く一歩までは踏み出せなかった。踏み出さない方が良い気がした。
「さて、そろそろ殲滅に移りましょうか」
 コホンと空気を切り替えるような咳払いと共に、魅華音は纏とかなたに殲滅の開始を告げる。
 危機を察知したらしい空飛ぶオトシゴが一斉に行動に出始めたが、それに気付いた纏が群れの中心目掛けて炸裂氷弾を投擲した。
 氷の冷気を受けて、動きが鈍くなった空飛ぶオトシゴたち。そこに、ドローンに自身を完全操縦させた魅華音が飛び込んで行って。
 銀月の如く舞う剣筋と、放たれる弾幕の数々に静かに倒されていく空飛ぶオトシゴたち。
 3人が相手をしていた全てを倒し終えれば、そこには再び静かな森が舞い戻って……。
「ねえ、シャッターチャンスじゃない? あそこ、一匹でふよふよしている子がいるわ!」
 ――来なかった。
 キラキラと瞳を輝かせてかなたが先導する先には、ふよふよと逃げ出そうとしたのか、一匹で漂う空飛ぶオトシゴの姿が。
「確かに一匹だけですが、油断しない方が……」
 魅華音の注意も聞き流し、足取りも軽くかなた意気揚々と近づき――案の定、ぎゃーという悲鳴が再び上がる。
「二度あることは三度あるというが、な」
 大剣で空飛ぶオトシゴを切り払い、本日2度目となるかなた救出を果たした纏。
 しかし、逃げ帰ったかなたの視線の先は新たな空飛ぶオトシゴをロックオンしていて――森と3人に平穏が戻るまで、もう少し時間がかかりそうな様子だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ノヴァ・フォルモント


木漏れ日の宙を泳ぐ無数の姿
一見すれば和やかな風景にも思えるが
彼らが夢を見せているのか、あの子に

…穏やかな夢を見続けられたら
それはある意味幸せなのかもしれないな
でも其処に留まり続けていては
生きていないのも同じこと
自らの眼でこの先を見据えなければ

そして相手がオブリビオンである以上は
彼らも在るべき場所へと還してやらねばな

三日月の竪琴を手に弦をゆっくりと爪弾く
まだ宵闇に覆われる時間でも
月が確りと見える時間でもない
それでも閉じた瞼のうらには月夜の風景が浮かぶ
言葉の通じない彼らにはこの宵闇の旋律がどう聴こえるだろうか

悪意のない存在ならばせめて
穏やかに眠れるよう祈りを込めて
おかえり、君たちの還る場所へと



●月光の子守唄
 陽光の天蓋を押しのけて、ふわりふわりと漂うのは無数の空飛ぶオトシゴたち。
 木陰で眠る娘を護る忠実な騎士のように、猟兵たちへと向かってくる。
 まるでお伽話の一頁のようなその情景は、彼らが『過去』でなければとても絵になっていたころだろう。
「彼らが夢を見せているのか、あの子に」
 ノヴァ・フォルモントの口から漏れ出た声も、ふわりと陽光に攫われて初夏の森へと消えていく。
 娘と森と、空飛ぶオトシゴ。一見すれば和やかな風景にも思えるが、実際はそうではない。
 彼らにとって娘は遊び友達ではなく、ただの取りつく先なのだから。
(「……穏やかな夢を見続けられたら、それはある意味幸せなのかもしれないな」)
 苦しみも哀しみもない。朽ちていく己の身体にすら、気が付かず。
 永劫と呼べる時間を幸せな夢の中で揺蕩うことが出来たのなら、それはある意味幸せなのだろう。
 だが、と頬に手を添えたノヴァは「幸せなのかもしれないな」と思うと同時に、反対の感情も抱いていた。
(「でも其処に留まり続けていては、生きていないのも同じこと」))
 夢でも幻でもなく、自らの眼でこの先を見据えなければ。
「そして相手がオブリビオンである以上は、彼らも在るべき場所へと還してやらねばな」
 もう十分遊んだ頃合いだろう。娘も空飛ぶオトシゴも、それぞれの家へと帰る時間だ。
 ノヴァは三日月の竪琴を緩く抱えると、その弦に手を添えてゆっくりと爪弾いた。
 ポロンと生まれ落ちた月の旋律が、柔らかく森の中へと広がっていく。弦はその身体を振るわせるたびに、きらりと淡い燐光を纏わせる。
 瞼を閉じたその向こう側。ノヴァの瞳の奥には静けさに満ちた月夜の風景が浮かんでいた。
(「言葉の通じない彼らにはこの宵闇の旋律がどう聴こえるだろうか」)
 まだ陽は天頂付近で眩い光を放っている。宵闇に覆われる時間も、月が確りと見える時間でもない。
 それでもノヴァの手により生まれし穏やかな宵闇の旋律は、確かに彼らに伝わっていたのだ。
 森に掛かるは薄藍色の夜のカーテン。眠りに付いた木々の間から、そっと望月がその姿を覗かせている。
 降り注ぐ月光はノヴァの奏でる旋律のように、何もかもを平等に包み込んで。
「おかえり、君たちの還る場所へと」
 悪意のない存在ならばせめて、穏やかに眠れるよう祈りを込めて。
 優しく広がる竪琴の音色に籠められるは祈りと願い。祈りの数だけ、宵闇はその濃さを増していく。
 空飛ぶオトシゴたちの身体に纏わりついた宵闇色の煌めきは、そのまま彼らにそっと手を差し伸べて。
「おやすみ、どうか良い夢を」
 子守唄のような優しき旋律が彼らと共に去れば、そこにいるのはノヴァ一人だけだ。
 それから一拍遅れで、穏やかだが賑やかな初夏の森の姿が戻ってくる。
 ノヴァはその様を見届けてから、そっと弦から指先を離すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
【星雨】
「あらあら、眠り姫…というより野の白鳥の王女様ね」
編んだ花冠を届けさせてあげたいのに
「まったく、厄介な子たちだこと」
溜息を吐きつつ警戒を声音に乗せて傍らの弟子にも侮らぬ様促す
あのお嬢さんは勿論、この森も荒らしたくないわ
守るものが多いと戦闘は慎重になるというもの
まして敵に負わせた傷が敵の力になる性質を持つなら
「追い込み猟でも始めましょうか」
炎のヒツジグサを幾つも宙に咲かせてそのまま使役
眠る少女からは離すように敵を追い立て、後は移動範囲を牽制して段々渦を作る様に一所に固めて
「アレク、今よ!」
自分の炎はそこで散開、捉え損ねた敵警戒で幾つか合体させる
残ってる奴はその炎による各個撃破でいい筈だわ


アレクシス・ミラ
【星雨】


「彼女には帰りを待っていた人がいる。そして、彼女にも帰りを待ってる人達がいるんだ」
「君達は引き留めたいようだが…お引き取り願うよ」
朝日のように、そろそろ起きる時間だよと知らせたいんだ
あの花冠は夢ではなく、この現実の世界で渡して欲しいからね

古木には探し人のレディ
敵も多い上に中途半端ではさらに増えてしまう
僕もこの森を荒らしたくはない
此処は一気に決めようか
眠る女性から離すように
盾からオーラ防御…『閃壁』を展開し押し返そう
「お任せを!」
レインさんの合図に応え
【天聖光陣】展開…さらに光属性の魔力を光陣に叩き込み
集められた敵達の下から光の奔流の如く光柱を一斉に放つ!
…君達は、在るべき海でおやすみ



●おはようを告げるために
 地面に散らばるのは、色も花も二つとして同じものは無い花冠の数々で。
 パラパラと娘の手元から零れ落ちたそれらは、木陰で眠る娘に寄り添うようにして目覚めの時を待っていた。
「あらあら、眠り姫……というより野の白鳥の王女様ね」
 編んだ花冠を届けさせてあげたいのに。
 空飛ぶオトシゴたちが邪魔をしていて、何なら王女様自身も起きる気配を全く見せない。
 氷雫森・レインが散らばっていた花冠のうちの一つをゆっくりと両手で持ち上げれば、カサリと花の乾いた音がした。
 せっかく編んだのに。幸せな夢を見ているうちに、花の見ごろは過ぎてしまっている。
「まったく、厄介な子たちだこと」
 ため息と共に吐き出されたレインの声に浮かぶのは警戒の色。弟子であるアレクシス・ミラに気を緩めないようにと静かに告げれば、アレクシスは青に染まる瞳を静かに瞬かせて、しっかり頷いてみせた。
「彼女には帰りを待っていた人がいる。そして、彼女にも帰りを待ってる人達がいるんだ」
 静かな青が射抜く先には、夢見る娘の姿が在る。
 自らも唯一を知る身だからこそ。一度握る先の手が解け、再び繋いだアレクシスだからこそ、分かる気持ちがあるのだ。
 帰りを待つのも、待っている方も、一刻も早い再会を待ち望んでいるのだと。
 これ以上、娘と幼馴染みである青年にとっての想い出の地が、過去に侵食されてしまう前に。
(「あのお嬢さんは勿論、この森も荒らしたくないわ」)
 守るものが多いと戦闘は慎重になる。守るべき存在に気を取られ、ミスを起こしてしまう危険性だって。
 それに、負傷を与えるほどに敵が力をつける性質を持つなら。と、アレクシスとレインが辿り着いた作戦は一つ。
「――追い込み猟でも始めましょうか」
 中途半端に伸ばすよりも、防御か攻撃かどちらかに特化してしまった方が良い。
 短期間で決着をつけましょうかと、レインが空中に花咲かすはヒツジグサ。
 白く燃え上がる焔を花弁に、はらりと花開くそれは小さな太陽のように眩くて。
「そうだね。君達は引き留めたいようだが……お引き取り願うよ」
 盾を構え、空飛ぶオトシゴたちに相対するアレクシス。その様相は、お伽話の騎士そのものだ。
 白銀の大盾から放たれる微かな燐光は、陽光のように柔らかく、ふわりと舞い上がるとアレクシスの身体を包み込んでいく。
(「朝日のように、そろそろ起きる時間だよと知らせたいんだ」)
 この白銀の煌めきを、木陰で眠る娘の元へ。全て終わって、それからおはようを告げられたら。
「あの花冠は夢ではなく、この現実の世界で渡して欲しいからね」
 大切な存在に現実の世界で手渡せるのなら、それ以上に幸福なことは無いのだから。
 自らも大切な存在に贈り物したあの時の、嬉しいような恥ずかしいようなくすぐったい気持ちを思い浮かべて――一瞬頬を緩めた後、アレクシスは空飛ぶオトシゴたちに向き直る。
「よし、此処は一気に決めようか」
 交わされる言葉は少なく、しかし確実に伝わったお互いの考え。
 先導するのは、レインが使役するヒツジグサの炎華だった。
 ふわりと重なり合ったり、クルクルと踊るように動いたり。近づき過ぎず、しかし、決して離れぬように――複雑怪奇な動きで翻弄させながら、空飛ぶオトシゴたちを追い立てていく。
 自然界に生きるものとしての、炎への本能的な恐怖心からだろうか。美しい花にふらりと寄ってきた空飛ぶオトシゴたちだったが、ヒツジグサを形作るそれの正体が炎であると気付くと、くるりと向きを変えて逃げていった。
「アレク、今よ!」
 ぐーるぐると。夢中で炎から逃げる空飛ぶオトシゴたちは気付かない。
 娘から引き離されていることに。一か所に集まるように、誘導されていることに。
 空飛ぶオトシゴたちが丁度良い感じに密集した瞬間。その一瞬を見逃さず、レインは短く叫んだ。
「お任せを!」
 レインの呼ぶ声に、アレクシスは機敏に反応を返して滑り込む。
 突如として散らばった炎の花々。それと交代で、目の前に現れた白銀の騎士の姿に、空飛ぶオトシゴたちは不意打ちを喰らう形となった。
「払暁の聖光を今此処に!」
 敵群を押し返した絶対防御の大盾から放たれるのは、幾百幾千という数の光の柱だ。
 アレクシスの想いに応えるようにして展開された数えきれないほどの光柱は、大きな光の奔流となり――空飛ぶオトシゴたちを、あっという間に飲み込んでしまった。
 地面から生え出た光の奔流は、空飛ぶオトシゴたちを飲み込んでなお止まらない。
 朝焼けよりも眩い白光で森を照らし出し、空中に光の軌跡を刻み、地平線の向こうへと走り去る。
「……君達は、在るべき海でおやすみ」
 光柱と共に空飛ぶオトシゴたちが去った空を見上げながら、アレクシスはそっと祈りを捧げる。
 満身創痍の空飛ぶオトシゴが数体残っていたようだが、彼らもまたレインの炎によって即座に在るべき海へと還された。
「残りもあと少しですね」
「彼女が目を覚ますのも、そろそろかな」
 草原を覆っていた空飛ぶオトシゴたちの姿も、目に見えて少なくなってきている。
 二人がちらりと娘の様子を伺えば、その瞼が微かに動いた気がして。
 ――目覚めの夜明けは確かに近いのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈴丸・ちょこ
【花守】◆
ふふん、蝶よか狩り甲斐のあるのがふよふよ
うようよしてやがるじゃねぇか
(きらきらふわふわを前に、目と爪とぎらぎららんらんと)
気分良く昼寝する為にも、一暴れして憂いなんぞ吹き飛ばすぞ
寝覚めが悪いのは御免だからな

春和の桜で眠りに傾いた奴から、すかさず急所狙いUC――仲間召喚の間も回復の間も与えず、一撃必殺の名の通りに早業猫ぱんちで沈めてく
敵の攻勢は野生の勘で掻い潜りつつ、伊織と残像描いて駆け眩ます

おうとも、ねんねすんのはお前達だ
お前達の思惑が何であれ、夢幻がどうあれ――過去は過去、今は今だ
この娘も俺達も、此処で過去に沈み落ちてる場合じゃねぇんだよ
なんたって、夢以上の楽しみが待ってんだからな


呉羽・伊織
【花守】◆
おーいちょこニャン、どっちが危険生物かわかんない絵面になってんぞ
(――いやギラギラしつつも、耳や髭がぴこぴこしててやっぱ可愛いなコレ?とは口が避けても言えず、コホン)
ああ、幸福な筈の夢が、最悪の現を招かぬように――きっちりと、果たしに行くとしよう

輝きを纏えぬように、光奪う闇属性に絞ったUCで先制攻撃
春和の技で眠った奴は、ちょこと手分けし間髪入れず2回攻撃
回復する前に早業でUC重ね確実に落とす
敵の攻撃はちょこと残像見せて掛け撹乱

悪意がなくとも、悪夢を招く
幸福が不幸に転じちゃ笑えやしない

花盛りはこれからだ
命と想いを、枯らす訳にゃいかない

過去の化身は、過去へ
今を生きる身は、未来へ
道を繋ごう


永廻・春和
【花守】◆
もう、またお戯れを――ですがそれだけお元気でしたら、心配は無用ですね
心地好い夢の果てが、死という悪夢を迎えては、あまりにも――ええ、醒まし、晴らしに参りましょう

UCで一帯の敵を眠りへと――回復の懸念はお二方がいれば大丈夫と信じて
防御面は霊符舞わせて仲間と、件の少女も護る様に結界術
これ以上、生命力は奪わせません
攻撃は余裕あれば、破魔の霊符を織り交ぜ、不穏な力を打ち祓いましょう
眠りに就くのは、貴方達です
彼女も、落とし子も、其々が帰るべき場所へ誘いましょう

彼女が想い続けた未来は、木漏れ日以上に温かく優しい気配は、夢見ずとももうすぐそこに
お目覚めくださいませ――どうか貴女も、夢の続きは現にて



●未来へ繋ぐ
 爛々と一等星の如く煌めく金の瞳が二つ。ふよふよと高速でくねる黒の尻尾が一つ。
 じっと力の蓄えられた二つの前足は、繰り出されるその時を今か今かと待ち侘びていて。そしておてての間には、鋭利な爪が隠されている。
「ふふん、蝶よか狩り甲斐のあるのがふよふようようよしてやがるじゃねぇか」
 しぱっ! と狙いを澄ませて鈴丸・ちょこが渾身の猫パンチを放てば、ガッ! と次の瞬間にはもう勝敗がついている。
 ちょこの周囲を漂っていた空飛ぶオトシゴの一匹が、他ならぬちょこによって首筋を抑えられて、食い込む爪から逃れようと必死に藻掻いている訳で。
 この場面だけ見たのなら、何処からどう見ても森の愛らしい生物を狩る悪にゃんこである。
「おーいちょこニャン、どっちが危険生物かわかんない絵面になってんぞ」
 と、飛んでくるヤジが一つ。
 誰か、なんて尋ねる手間も必要ない。この場においてちょこを揶揄うのは、呉羽・伊織以外に存在しないのだから。
(「――いやギラギラしつつも、耳や髭がぴこぴこしててやっぱ可愛いなコレ? 言えないけど」)
 キリリと百獣の王もかくやの勇ましい表情とは反対に、ちょこの耳や髭はピコピコと忙しなく動いている。
 ここで可愛いなんて言ったのなら――数秒後には自分の首筋に鋭利な爪が突き立てられる事態になるのは目に見えている。言えるはずもない。
「おっと。ふよふよよりも狩り甲斐のあるのが、こっちにいたな?」
 伊織の「危険生物」発言に、標的をふよふよから伊織へと変更したちょこ。
「もう、またお戯れを――ですがそれだけお元気でしたら、心配は無用ですね」
 シャキーンと見せびらかされた爪は――永廻・春和の声によって、伊織の首に突き立てられることは無く。
 いつも通りの様子に呆れながらも、春和はそっと表情を緩めた。花園での幻覚が暗い影を落としていないか心配だったが、この様子なら大丈夫だろう。
 寧ろちょこも伊織も元気いっぱいといった様子で、羽目を外してしまわないか気掛かりだったが……首筋を引っ掛かれたら、その時はその時。危険生物扱いした本人の自業自得である。
「気分良く昼寝する為にも、一暴れして憂いなんぞ吹き飛ばすぞ。寝覚めが悪いのは御免だからな」
 絶好のお昼寝日和なのだから。たっぷり遊んでぐっすり眠るにも、まずは目の前のふよふよを一掃してからだぜと向かっていくちょこに、伊織と春和も後に続く。
「ああ、幸福な筈の夢が、最悪の現を招かぬように――きっちりと、果たしに行くとしよう」
 空飛ぶオトシゴたちに気付かれるよりも早く、正確な動作で放たれたのは、伊織による光奪う闇を纏った暗器の雨。
 光を纏えぬように。これ以上の力を得る前に、封じてしまえばこちらのものだ。
「心地好い夢の果てが、死という悪夢を迎えては、あまりにも――ええ、醒まし、晴らしに参りましょう」
 どうか、夢の続きの現でも、幸せな夢を。
 悪夢を晴らし、夜明けを齎し。初夏の森にも、再びの平穏を。
 そんな祈りを風に乗せて花吹雪くのは、春和が放った桜の花びらだった。
 一足先に去った春が舞い戻ってきたかのように。森の中は今再びの淡い春色に包まれて、ふわりふわりと飛ばされてきた桜の花弁に覆われる。
 桜の花弁は空飛ぶオトシゴたちにも同様に、ふわっと纏わりついて。
 何が付着したのかなんて確認する間もなく、襲い掛かるのは強烈な睡魔。
 空飛ぶオトシゴたちがウトウトと眠りの世界に旅立ったのを確認すると、桜吹雪に代わり次に放たれるのは、霊符の舞で。
「これ以上、生命力は奪わせません」
 護りの霊符は伊織とちょこへ。娘にも何かあってはいけないと、結界を張って春和は守りを固めていく。
「悪意がなくとも、悪夢を招く。幸福が不幸に転じちゃ笑えやしない」
「おうとも、ねんねすんのはお前達だ」
 春和の桜吹雪に誘われ、眠りの世界へと旅立った存在から。
 急所は先の“戯れ”でしっかり把握している――一撃必殺の名に違わず、シュバッ!! と放たれるちょこの高速猫パンチは、頭部を穿ち、首筋に深い傷跡をつけ。
 仕上げに後ろ脚で強烈なキックをお見舞いしてやれば、空飛ぶオトシゴはゆらりと地面に沈んでいった。
「っと、引っ掛かれたな」
 ちょこによって全身をボロボロのギタギタにされた空飛ぶオトシゴは、しかし、最後の力を振り絞って新たな仲間を呼びよせた。
 仲間のピンチに駆け付けた新しい個体は、伊織に目をつけたが――するり、と。伊織本人を攻撃したところ、何故だか攻撃がすり抜けた。
「ふよふよは狩るんであって、ふよふよに狩られることはねぇよ」
 空飛ぶオトシゴがキョロキョロと周囲を見渡せば、伊織とちょこが何体も存在している。
 そのどれか一つだけが本物で、それ以外は残像の偽物だ。虚を突かれた瞬間を目敏く狙ったちょこが、また一匹空飛ぶオトシゴを沈めていく。
「花盛りはこれからだ。命と想いを、枯らす訳にゃいかない」
「ええ。眠りに就くのは、貴方達です。彼女も、落とし子も、其々が帰るべき場所へ誘いましょう」
 春和の放った破魔の霊符が身体に張り付き、伊織による光を奪う闇が身体を覆っているせいで、戦闘能力を増強させることもできず。
 眠りから目覚める前に、そのまま永遠の夢の世界へと。
 流れるような動作で伊織から再び放たれた闇を纏う暗器に、空飛ぶオトシゴたちは夢の世界へと旅立っていく。
「お前達の思惑が何であれ、夢幻がどうあれ――過去は過去、今は今だ」
 むぎゅっと呼び寄せられた最後の空飛ぶオトシゴを押し潰したのは、ちょこによる猫パンチ。
 仲間を呼ぶ声にも容赦はせず、肉球で地面へと叩きつけれやれば――動く空飛ぶオトシゴは周囲に居なくなっていた。
 援軍ももう現れはしないだろう。
 過去は過去へ。未来は、未来へ。
 各々の歩むべき道へ繋ぐための、目覚めに誘うかのような静かな戦闘は、ゆっくりと幕を下ろした。
「ほんとにおねんねしてるだけだな」
 数は残すところあと少しとは言え、全ての空飛ぶオトシゴが倒された訳ではない。万一を考慮し、春和による結界は維持されたままだ。
 淡い膜を張る結界を潜り抜けて娘の元へと近づいて状態を確かめるが、本当に眠っているだけらしい。
 ちょこがぷにっと手加減気味の猫パンチをお見舞いしても、寝息を漏らすくらいで起きやしない。お姫様はかなり寝坊助なようだ。
「……ちょこニャンの扱い、なんかオレだけ雑くない?」
「呉羽様のそれは――」
「『危険生物』扱いしたんだ。自業自得だぜ、伊織」
 ふにっと肉球パンチと割と本気の猫パンチと。
 扱いに温度差を感じると伊織から不満の声が上がるが、春和とちょこによって瞬殺された。
 戦闘の緊張感も去り、いつもの日常のやり取りである。
「にしても、とんだ眠り姫なこった」
「ええ、そろそろお目覚めくださいませ――どうか貴女も、夢の続きは現にて」
 娘が想い続けた未来は、木漏れ日以上に温かく優しい気配は、夢を見ずとももうすぐそこに。
 彼女の元へと帰り着くその瞬間を、待ち望んでいるだろうから。
 春和の問いかけに応えるようにして、娘の口元が動いたような気がした。
 彼女が目を覚ますのも、きっともう少しの話。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加

娘さんは・・・無事か。もしもの事があるから奏に護衛を頼むよ。この飛んでいるちっこい群れはアタシと瞬に任せな。本人(?)達に悪意はないんだろうが、またこの森から帰ってこない被害者が出るといけない。

【ダッシュ】で敵の群れに飛び込む。ランダム性の高い敵の攻撃はどう転ぶか分からない恐ろしさがあるから、【残像】【見切り】【オーラ防御】で対策しながら、【気合い】【怪力】【二回攻撃】【範囲攻撃】を併せた飛竜閃で薙ぎ払っていく。アンタらはここにいただけかもしれないが、未来あるものの為だ、骸の海に還ってもらうよ!!


真宮・奏
【真宮家】で参加

敵から離れた木の下にいるから、気を付ければ娘さんは大丈夫そうですが、もしもの事がありますので、娘さんの護衛はお任せを。

トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で防御を固め、娘さんを最優先に、危なくなった方を【かばう】します。攻撃は【衝撃波】【範囲攻撃】で。無自覚で魔性の森を作っているのは怖いというか、憐れというか。オトシゴさん、生まれ変われたら害のない存在になれたらいいですね。


神城・瞬
【真宮家】で参加

娘さん、怪我は無いようですね。良かった。さて、この小さいふよふよしたものを倒さないと帰れませんか。ただ居るだけの存在らしいですが、この森も何とかせねばなりませんので。

まず【オーラ防御】で防御を固め、【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して展開。敵に愛着が出て躊躇いが出る前に月光の狩人で狩りつくします。過去の存在なのが悔やまれますね。僕達は未来を護る猟兵なので、娘さんを連れ帰らせて貰います!!




「娘さんは……無事か。もしもの事があってもいけないしね。奏、護衛を頼むよ」
 猟兵たちの活躍により、空飛ぶオトシゴの数は数えられるほどとなっている。
 全てを倒しきるまで油断は出来ないが、猟兵優位は火を見るよりも明らかだ。
 戦闘はひとまず仲間の猟兵たちへと任せ、真宮・響は木に身体を預けて眠る娘の元へと一目散に駆けつけた。
 顔は青白いが、呼吸はしっかりとしている。
 味方が張った結界も機能している。気を付けていれば、戦闘に巻き込まれることは無いだろうが……。それも、“絶対に”ないとは言いきれない。
 響が真宮・奏に娘の護衛が出来ないか尋ねると、威勢の良い返事が返ってきた。
「はい。もしもの事がありますので、娘さんの護衛はお任せを」
 はっきりと告げられる「お任せを」の言葉が頼もしい。立派に成長した娘を感慨深く思いながらも、響は「頼んだよ」と明るい笑顔を奏に向けた。
 奏なら、しっかりと護衛を果たしてくれることだろう。
「娘さん、怪我は無いようですね。良かった」
 娘の身体をそっと確認していた神城・瞬が怪我が無い事を二人に伝えれば、ほっと安堵の吐息が漏れ出てきて。
 命に別状はない。空飛ぶオトシゴが全て倒されたら、じきに目を覚ますだろう。
 しかし、安心するにはまだ少し早い。残りは少ないとはいえ、娘に取りついた空飛ぶオトシゴがふよふよと辺りを漂っているのだから。
「さて、この小さいふよふよしたものを倒さないと帰れませんか。ただ居るだけの存在らしいですが、この森も何とかせねばなりませんので」
「ああ。この飛んでいるちっこい群れはアタシと瞬に任せな」
 森にひっそりと住み着いた空飛ぶオトシゴたちを何とかしない限り、影響を受けた花畑も元に戻らないだろう。
 穏やかな森を取り戻すために、瞬と響は武器を構えると敵軍に向かって切り込んでいく。
「本人(?)達に悪意はないんだろうが、またこの森から帰ってこない被害者が出るといけないからね」
 足元の草に体重を掛けるのも、数瞬のこと。
 疾走する響は空飛ぶオトシゴたちとの距離を一気に詰めると、挨拶代わりに素早い一撃を放った。
 空中に赤い軌跡を刻みながら、大きく振り上げられ、それから振り下ろされた光剣「ブレイズフレイム」が空飛ぶオトシゴの身体を深く切り裂いていく。
 後ろで切り裂いた空飛ぶオトシゴが倒れ伏す音を聞きながらも、敵群へと飛び込んだ響は止まらない。そのまま前方へと剣を突き出し、空飛ぶオトシゴの胸部を貫いた。
 剣が肉体の奥深くまで穿った重い手ごたえを感じながら、ゆっくりと剣を引き抜けば、事切れた空飛ぶオトシゴがま地面へと沈んでいく。
 しかし、空飛ぶオトシゴたちも黙って倒されていく訳ではない。突然群れに飛び込んできた響に驚きながらも、平静を取り戻した個体から、そっと祈るような動作を取り。
 ――途端、響の脳裏に聞こえてくるのは不吉な予言の数々だった。
「残念だけど、そうはいかないよ。アンタらはここにいただけかもしれないが、未来あるものの為だ、骸の海に還ってもらうよ!!」
 予言と共に、確かに感じたのは背後に現れた空飛ぶオトシゴの存在。
 響は反射的にオーラ防御を展開させると、振り向くと同時に横に一薙ぎして背後の空飛ぶオトシゴに一撃を食らわせる。
 予言はランダム性が高いが、警戒しつつ対策を講じれば、必要以上に怖がる必要はない。
 大きなダメージを受ける前に、祈りを捧げている個体に狙いを定めると、響は駆けていくのだった。
「過去の存在なのが悔やまれますね」
 丸くて円らな瞳が幾つか、オーラを身に纏う瞬をじっと見上げていた。
 森に生息する精霊の一種であると言われても信じられそうなほどに、目の前の存在は美しい。
 キラリと陽光を味方につけながら、森を舞う光景はきっと絵になっただろうに。
 奏であったら、可愛らしい見た目を気に入りずっと一緒に過ごそうとするだろう。一家に一匹欲しいとも思えてしまうが、残念ながら、彼らは過去の存在だ。
 オブリビオンであることに多少の心残りを感じながらも、瞬はマヒや目潰しの術式を編み込んだ結界を周囲一帯に張り巡らせていった。
「僕達は未来を護る猟兵なので、娘さんを連れ帰らせて貰います!!」
 瞬の展開した結界が、無数の光る糸と化し空飛ぶオトシゴたちを絡み取っていく。
 結界の放つ眩い光に覆われ、ロクに目が見えないのだろう。ジタバタと藻掻く空飛ぶオトシゴたちは、自ずから結界の拘束をより複雑なものにしていることに気付く気配もない。
 触れるとチクリとした痛みの走る光の糸に全身を絡み取られてしまえば、動くこともままならない。
 愛らしい容姿を持つ彼ら。愛着が出る前に、と。瞬は百体を超える狩猟鷲を呼び出す。
「さあ、獲物はそこですよ!! 容赦は不要です!!」
 上空に呼び出された狩猟鷲が一斉に急降下し、空飛ぶオトシゴたちを貪り狩る様子は――圧倒的の一言に尽きた。
 狩猟鷲が空飛ぶオトシゴを狩る様子はかなり刺激の強い光景だろうが……狩猟鷲の働きによって、そう時間をかけずに動く空飛ぶオトシゴは見られなくなる。
 目の前で繰り広げられた弱肉強食の縮図に傍に奏が居なくて良かったと、結界を解除しながら瞬は思うのだった。
「無自覚で魔性の森を作っているのは怖いというか、憐れというか」
 炎、水、風。三つの魔力が奏の身体を覆い、オーラのようにその身を包み込む。
 自らが発動させた三つの魔力の流れを感じつつ、奏はふわりとこちらに向かってきた一匹の空飛ぶオトシゴと相対していた。
 人の気配に寄ってきた空飛ぶオトシゴ。偶然とは言え、運がないことは確か。出来るのならば、こちらに気付かずに通り過ぎて欲しかった。
 奏の後ろには、眠ったままの娘の存在がある。何としても、ここを通す訳にはいかない。
「すみませんが、ここを通す訳にはいきません」
 大きく身体を広げ、突進を放ってきた空飛ぶオトシゴの身体を真正面から受け止める。
 若木のように華奢な身体をしているが、意外にも重量はあるらしい。腕の痺れを感じながらも、奏はどうにか小盾越しに空飛ぶオトシゴの攻撃を受け流した。
 奏の動きを封じさせようと伸ばされる尻尾。自身の身体の代わりに剣を絡みつかせて、勢いのままに叩き切れば、空飛ぶオトシゴの尻尾が切断された。
「オトシゴさん、生まれ変われたら害のない存在になれたらいいですね」
 次はどうか、オブリビオン以外に生まれることが出来たら。
 そう願いつつも、容赦はしない奏だ。中途半端に体力を残し、新たな援軍を呼ばれては堪ったものではない。
 尻尾を切断した勢いのまま、至近距離で剣を振り上げてそのまま衝撃波を纏わせた突きを食らわせる。
 防御をとる間もなく攻撃を浴びることになった空飛ぶオトシゴは、近くの木に身体を横たえるようにして倒れると、そのまま動かなくなった。
「母さんも瞬兄さんも、無事で何よりです」
 奏が空飛ぶオトシゴを倒し、戻ってきた響と瞬に大きく手を振れば、二人もにっこりと笑って手を振り返してくれた。
 一対複数の戦闘になった響と瞬のことは心配だったが、無事に終わって何よりだ。
「奏も、娘さんの護衛をしっかり務めてくれたようで」
 瞬が労いと共に奏を褒めれば、えへへと嬉しそうにはにかむ奏。好意を寄せる相手に褒められて嬉しくない訳がない。
「さて、残りも数体だけど。娘さんは、そろそろ起きるだろうか」
 響がゆっくりと娘の顔を覗き込めば、眠りも浅いものになってきているのだろうか、「ううん」と微かな声が聞こえてきた。
「残りが倒されれば、起きそうな気配ですね」
 空飛ぶオトシゴも、あと数体。
 全ての空飛ぶオトシゴが倒されるまでもう少しの間娘を護衛していようと、決心する三人なのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
眠る娘さんと想い人さんにとっての大切な森
燻る草木は痛ましい
やがて萌え出る新たな草花の芽の為の
野焼きで済む範囲に延焼を抑えられれば、と
高速かつ多重の詠唱で放つ鳥符は
数多の水の羽搏き

大地に染み渡る滋雨となれ、と祈りながら
彷徨うオトシゴ達も
彼方の海へと纏めて流してしまおう

澪を標すから
迷わずお帰り

憂いを祓えた後は
娘さんの眠りを覚ます為に
そっと
笛音を奏でようか

柔らかな風に乗って
ふわり舞う花弁と共に
間もなく此の地へ辿り着くと言う
待ち人の元へも
春の便りが届くと良い

或いは
此処へ迎えに呼ぶ手伝いにもなるかしら
なんて
さやかな笑みを添えた旋律が
目覚めの贈り物になりますように

さぁ
夢よりも
もっと素敵な現が待っていますよ



●再び芽吹く生命
 戦闘地と化した以上、それは仕方のないことなのかもしれない。
 燻る草木に、凍てついた花々。
 刈り取られた野草に、抉られた地面。
 パチパチとかなり弱くなった火が小さく爆ぜ、焦げるような匂いが未だに鼻の奥にこびりついている。
 森への多少のダメージは避けて通れない。
 都槻・綾は少しの残り香を置いて嵐の去った草原を見、その痛ましい光景にそっと瞼を伏せた。
(「やがて萌え出る新たな草花の芽の為の、野焼きで済む範囲に延焼を抑えられれば……」)
 そろそろおはようの時間も近い。眠る娘さんと想い人さんにとっての大切な森なのだから。
 これ以上、緑を灰にさせないために。当たらな草花の芽吹く、土壌となるように。
 綾が高速で紡ぐのは、水を宿す羽搏きを放つための詠唱。
 綾の両の手から飛び立つ鳥符は遠く、広く。この草原一体に降り注ぐように。何処までも、飛んでいけるように。
(「大地に染み渡る滋雨となれ」)
 実りを齎す滋雨を祈りながら。
 彷徨うオトシゴ達も、彼方の海へと還ることができるように。
「澪を標すから、迷わずお帰り」
 鳥が運ぶは天気雨。ゆっくりと動きながら森に恵みを降り注いでいくそれに陽光の光が反射して、森に七色の橋が掛かった。
 雨が鳥と共に遠くへ飛び去れば、後に残ったのは綾と猟兵と七色の橋だけだ。
 数体残っていた空飛ぶオトシゴの姿は、何処にも見られなかった。
(「さて、もう目覚めの刻ですよ」)
 憂いを祓い、しかし、綾の仕事はそれだけでは終わりではなかった。
 夢から覚めようとしていて、それでもまだ夢を揺蕩っている娘の元へと近づくと、綾はそっと笛を構える。
 娘が現へと帰る導となるように。眠りを覚ますために。静かに奏でられるのは、柔らかな笛音だ。
 ふわり。綾の奏でる音色に合わせて、花弁が躍るように舞い散っていく。
 間もなく此の地へ辿り着くと言う、待ち人の元へ。その人の元まで。
 笛音に踊るこの花弁が。春の便りが届くと良い。願いを乗せた音色は、森にゆっくりと広がり始める。
(「――或いは、此処へ迎えに呼ぶ手伝いにもなるかしら、なんて」)
 春の便りが届くか、音色に呼ばれて此処まで迎えに来るか。
 それは、待ち人が現れた時のお楽しみ。どちらも一等に嬉しいことには違いないのだから。
 旋律に寄り添うは、綾のさやかな笑み。
 どうかこの音が、目覚めの贈り物になりますように。
「さぁ夢よりももっと素敵な現が待っていますよ」
 曲を奏で終えた綾がそっと娘の顔を覗き込み、優しく「おはよう」を告げればゆっくりとその双眸が開かれて。
 夢から現へと帰り着いた娘は、数度瞼を瞬かせると――その瞳に、確かに猟兵たちの存在を映したのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『森林で素材収集』

POW   :    とにかく片っ端から採りまくる!

SPD   :    広範囲を探索、素材が沢山ある場所を探してみる。

WIZ   :    ここは量より質、高品質な素材を厳選して集める。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●陽光に包まれて
 夢は醒めた。過去は還った。森は日常を取り戻した。
 猟兵たちに助け出された娘が、娘を探しにきたという幼馴染みの青年と共に深く礼をして、町へと戻る後ろ姿を見送れば――後にはただ、平穏を取り戻した静かな森が在るばかりだ。
 青年は町に帰りついたばかりだったらしい。しかし、「彼女が行方不明になっている」と聞いて居ても立っても居られなくなり、気付いたら森に駆けていたという。
 多少は衰弱していたものの、幸いなことに大きな負傷は無かった娘だが……今頃、彼女の帰りを待つ人々からキツいお灸が据えられていることだろう。
 事件が無事に解決したことに安堵しつつ、猟兵たちは思い思いの場所に散らばっていく。
 鹿やウサギは相変わらず猟兵たちを遠くからじっと観察していて、花畑の花々も変わらずに咲き誇っている。花束や花冠だって、自由に作れてしまうだろう。
 戦闘地と化した森奥の草原には闘いによる傷痕が残っているが――夏も近い。生命力溢れる緑がたちまち傷跡を覆い隠してしまうのも、時間の問題だろうか。
 自然のベリーや木の実を探してみるのも、森の楽しみ方の一つだろう。木を走るリスを追いかければ、そう苦労せずに辿り着けるはずだ。……甘いものを引けるかどうかは、運次第だろうけれども。
 太陽はいつの間にか天頂に昇りきり、丁度お腹も減ってくる時間だ。陽光のカーテンの下で自然を満喫しながら、ピクニックをするのも良いだろうから。
都槻・綾
傷ついた草地は痛ましいけれど
焦土に残る小さくも逞しい芽を見つけたなら
眦を和らげて

木陰から此方を窺う動物の気配へ
もう大丈夫ですよと穏やかに声を掛け
今一度柔らかく奏でる篠笛は
彼らの安らぎの為に

合わせたように歌う鳥の囀りも聴こえるから
森の日常が漸う還ったのだろうと
そっと安堵の吐息

植物観察を、と持参した帳面には
もう幾つもの草木花の姿を記していて
ちょっとした辞書のよう

足元に揺れる露草や蒲公英を
屈んで縫に示し

御覧なさいな
葉を見れば
根の形状も分かるのですよ
面白いでしょう

学ぶことの楽しさに見入る横顔に笑み深め
斯様に何気ない日々こそ
蕾や花のようだと思う

みんな違って
みんな美しい

明日もきっと
沢山の花が咲くのでしょう



●明日も変わらずに
 疎らに緑の消えた草原は痛ましい。
 癒しの雨が降り注いでもなお、傷付いた森は一昼夜で元に戻るものでは無いのだから。
 この森が完全に元の姿に戻るには、長い月日が掛かるだろう。
 それでも、しゃがみ込んでじっくりと観察していた焦土の中に、鮮やかな新緑を見つけ出したのなら。
 地面から萌え出たばかりの若芽を眺める都槻・綾の眦は、自然と穏やかなものになる。
 自然は想像以上に逞しく生命力に溢れているのだ。
「もう大丈夫ですよ」
 木陰から綾の姿を伺うのは、森の異変に勘付きその身を隠していた動物たちだった。
 鹿にウサギ、リスや子ネズミ。種類なんて関係ない。一様に怯えの色を宿す彼らへと、綾は優しく声をかける。
 穏やかに手招きを一つして篠笛を構えれば、柔らかな音色にゆっくりと動物たちが集ってきた。
 綾が奏でるのは、そよ風のように穏やかな旋律だった。この森に住む、彼らの安らぎの為に。
 風に乗って森に満ちる篠笛の音色に合わせるようにして、鳥たちが囀り始める。歌うように紡がれる伸びやかな鳴き声に、怯えていた動物たちも静かに寛ぎ始めた。
 思い思いに木陰で過ごし始めた動物たちに、森の日常が漸く還ったことを思い知る。
 最後の音色を奏で終え篠笛から口を離した綾は、そっと安堵の吐息を漏らすのだった。
「御覧なさいな。葉を見れば、根の形状も分かるのですよ。面白いでしょう」
 日常が還ってきたことを見届ければ、次は植物観察の時間だった。
 露草の葉を指さし、それから持参した帳面に記された草木花の姿を示せば、落ち着いた双眸を持つ縫の瞳に、鮮やかな野草の色彩が映りこむ。
 露草の空色に、蒲公英の黄色。真っ直ぐに引かれたような平行線状の葉を持つ露草に対して、蒲公英は鳥の羽のような葉を持っている。
 葉の違いがそのまま根の形状に現れるなんて、面白い。
 植物たちの生存戦略が、それぞれに適した状態にその身体を変化させていったのだ。長い時間をかけて、じっくりと。
 これからきっと、野原を歩くたびに縫の視界には草木花が自然と飛び込んでくるだろう。
 また一つ新たな学びを得て広がった世界。勉学の楽しさを実感した縫は、嬉しそうに頬を緩めた。
 花のように綻んだ縫の横顔を眺める綾もまた、笑みを深めていく。
 穏やかに続いていく日々の、何気ない日常のやり取り。それはとても愛おしくて、手放したくはないものなのだから。
(「斯様に何気ない日々こそ、蕾や花のようですね」)
 似ていても、同じような一日は無い。野に同じ花が咲かぬように。
 みんな違っていて、だからこそみんな美しい。
 明日への期待を胸に、蒲公英の綿毛を手渡せば、縫がキラキラと瞳を瞬かせて見上げてくる。
(「明日もきっと、沢山の花が咲くのでしょう」)
 ふわりと風に吹かれて飛んでいくのは、縫が飛ばした蒲公英の綿毛たち。
 こうして新たな旅に出た彼らは、翌年見事な花を咲かせるのだろう。
 明日も沢山の花が。そうしてきっと、明後日もその先も。毎日を抱えきれないほどの花々に囲まれて、綾と縫の穏やかな日々は続いていくのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
「…うー…」
心臓の痛みは完全に引いたから、アース系列世界でよく着てる、替えがいーっぱいある私服に手早く着替えてから、野いちごを籠いっぱいに詰めて、それをUC:無限収納 にしまったら、お花畑にごろんと転がって、考え事をしてるよ
「あうー…」
知りたいよーでも怖いよー知りたくないよー…
ごろごろと同じ所を転がりながら、相反する気持ちの狭間で、僕は揺れていた、んだけど…も…
「………ふわぁ…」
痛みは引いても、疲労感はそう簡単には抜けないわけで。
大きな欠伸が出る程には疲れてきちゃったし…ふわぁ………
「おやすみなさ~い…」
何も考えずに…寝ちゃおっかな………うん…それが一番良さそ………Zzz



●夢と現の狭間で
「……うー……」
 花畑の隅から聞こえているのは、ゾンビのような呻き声。
 陽光に焼かれて瀕死寸前の吸血鬼のような状態のインディゴ・クロワッサンに、森の動物たちが心配そうにインディゴの周りに集っていた。
 完全に心臓の痛みが引いたのを確認してから、のそのそと気だるげな調子でアース系列の世界で良く売られている、量産品のラフな私服に着替えたのは少し前のこと。
 そのまま森に来た記念に、周りに咲いていた野イチゴを籠一杯に詰め、どうにか能力を発動させて、ユーベルコード製の屋敷を模した物品保管庫に籠ごと野イチゴを押し込んだのだ。
 押し込んだ途端、今までの疲労感がいっぺんに押し寄せて来た訳で。
 半ば倒れ込むようにして花畑にごろんと転がって、それからはずっと考え事をしていた。
「あうー……」
 視界の端で鹿が野イチゴを食み、ウサギが元気良く跳ね回っている。ゴロゴロと転がる度に、ふわりと花弁が舞い上がって落ちていく。
 こんなにも穏やかな森にいるのに、インディゴが思い出すのは道中で見た男性のことだった。
(「知りたいよーでも怖いよー知りたくないよー……」)
 ごろごろと同じ場所を転がるインディゴに合わせるようにして、思考回路の方もずっと同じ場所をグルグルと回っている気がする。
 覚えがないはずなのに懐かしい感じのする男性と、それから思い出すのは……他でもない、薔薇のことだ。
 自分にとって大切な存在であると言っても過言でない薔薇と、見覚えのないはずの男性。
 繋がりがあるはずのない二つなのに、何処かで繋がっていると本能的に感じてしまうのだ。
「…………ふわぁ……」
 知りたい。でも、知りたくない。知ってしまったのなら、もう元には戻れない気がする。今の自分という存在が粉々に砕けて散ってしまうような、そんな危機感を覚えていた。
 相反する気持ちの狭間を往ったり来たりして彷徨えば、気分はまるでメトロノームになったかのよう。
 痛みは引いても、身体を支配する重い金属のような疲労感が抜ける気配は微塵もない。
「おやすみなさ~い……」
 大きな欠伸が自然と出てしまう程には、疲れていたようだ。
 身体にやってくる甘美な眠気に誘われるままにごろんと身体を横たえさせて、ゆっくりと瞼を閉じる。
「ふわぁ………何も考えずに…寝ちゃおっかな………うん…それが一番良さそ………Zzz」
 疲れている時は、何も考えずに眠ってしまうのが一番だ。
 眠りかけてもなお、心の隅に居座る男性を追い出すように、インディゴは眠りの世界に旅立つのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィリーネ・リア
【獄彩】


うふふ、くゆちゃん嬉しそう
ほわり緩みながら近づいてかわいい子たちに案内のお礼を
あら、フィーなら真っ白にかわいい模様だって書いてあげるよ?
それにね、くゆちゃんは本当はとっても優しいんだよって
腕の中の子にもみんなにも御伽噺を読むように紡ぐ

あらあら次の場所は木の実がいっぱい
きっと仲直り出来たんだよ
良かったね、くゆちゃん
うふふ、みんな仲良く一緒にね
だいすきなくゆちゃんの焔は小さくてもきれい
ん、フィーにもちょうだい!
もちろんあなた達も一緒だよ
熱かったら少しだけ冷ましてあげるね?

くゆちゃんが森の恵みを美味しくしてくれるなら
フィーはみんなにお揃いの花冠を編んじゃう
今日はお揃いの花冠で彩を咲かせるの


炎獄・くゆり
【獄彩】


あっら、さっきのうさぎさん?
ウフフフ、仲直りしてくれる気になりました?
おいでぇ~~~食べたりしませんからぁ~~~
さっきはご案内ありがとですよお、イイコイイコ!

フィーちゃんほらほら、フワフワですよ
真っ白で模様の描き甲斐がありそ……あっ、こんなコト言ってたらまたキラわれちゃう
今のはナシナシ!
あれれ、今度はドコにご案内してくれるんです?

やだぁ~~~木の実パラダイス!
ふむふむ、仲直りのシルシってヤツです?
ではご相伴に預かりましょうか!
アッ、コレ美味しそお~~~
弱火でイイ塩梅に焼き上げたなら
フィーちゃん、一緒に食べましょお!
うさぎさんも勿論ご一緒に!
花冠と美味しいオヤツでステキな女子会~~!



●ウサギ、追いし。木の実は、美味し
「あっら、さっきのうさぎさん? ウフフフ、仲直りしてくれる気になりました?」
 少しだけ焼け焦げた背の高い草花に見え隠れして、ふわふわと動く影が幾つか。
 もふっとする身体を大きく動かせて、ぴょこんと長い耳だけを草の間から覗かせて。
 平和な日常が戻ったことにいち早く勘付いて、ぴょんぴょんと跳ねてきたのは、先ほどのウサギたちの姿だった。
「おいでぇ~~~。食べたりしませんからぁ~~~」
 炎獄・くゆりが両手を広げて先ほどのウサギを出迎えれば、一際大きく跳ねてパッとくゆりの腕の中に飛び込んできた!
 腕で動く淡い色のウサギをもふもふっとふかふか楽しめば、もっと撫でろと言わんばかりにその身体を摺り寄せてくる。
「さっきはご案内ありがとですよお、イイコイイコ!」
「うふふ、くゆちゃん嬉しそう」
 満面の笑みでウサギの身体を撫でくり回すくゆりを見守りながら、フィリーネ・リアもまたふわりと微笑んでウサギたちに案内のお礼を告げる。
 お礼と共にしゃがみ込んで綿毛のようにふわふわな身体をそっと撫ぜれば、リラックスするようにでろんと溶け始めた。
「フィーちゃんほらほら、フワフワですよ。ネコは液体らしいですけど、ウサギも十分液体ですねぇ~~~?」
「どこまでも薄くなっちゃうの」
 なでなですれば、その度に長ーく薄ーくなっていくウサギの身体。撫でまわせとお腹を向けてくる辺り、しっかり仲直りは出来たみたいだ
「真っ白で模様の描き甲斐がありそ……あっ、今のはナシナシ!」
「あら、フィーなら真っ白にかわいい模様だって書いてあげるよ?」
 みょーんと伸びる真っ白な身体に模様があったのなら、模様も同じように伸びてしまうだろう。
 きっと面白おかしく伸びるに違いない。もし模様として顔を書いたのなら……想像しただけで、自然と笑みも零れてしまう。
 筆の流れるまま、自由に模様を描き足したくなったくゆりだが、「あっ、こんなコト言ってたらまたキラわれちゃう」と慌てて言葉を引っ込めた。
 フィリーネのかわいい模様を描かれたウサギも気になるけれど、それはまたの機会のお楽しみに。
「それにね、くゆちゃんは本当はとっても優しいんだよ」
 腕の中で思いきり寛ぐウサギたちに御伽噺を読み聞かせるように。フィリーネが優しく語り掛ければ、「そうだね」と返事をするように前足がちょこんとフィリーネの手に添えられた。
「あれれ、今度はドコにご案内してくれるんです?」
 二人の腕の中で十分に撫でまわされ満足したのか、ウサギたちは不意に腕の中から飛び出すと、少し離れたところからくゆりとフィリーネのことじっと見つめている。
 まるで「ついてきて」と言っているようで、ぴょんぴょんと跳ねていく後ろ姿を追いかけていけば、辿り着いたのは――。
「やだぁ~~~木の実パラダイス!」
「あらあら次の場所は木の実がいっぱい」
 そこは、御伽噺に出てきそうなほどに素敵な場所だった。
 濃い緑色をした低木には、紫に青、赤にピンクに……色とりどりのベリーの実が数えきれないほど実っていて。
 大きな木には、仄かに甘い香り漂う美味しそうな果物の姿があった。
「きっと仲直り出来たんだよ。良かったね、くゆちゃん」
「ふむふむ、仲直りのシルシってヤツです? ではご相伴に預かりましょうか!」
 仲直りの印は、森の宝物庫のような素敵な場所へのご招待だった。この森で一番美味しい木の実を教えてくれるように、ウサギたちはくゆりを一つの木の方へと導いていく。
「うふふ、みんな仲良く一緒にね」
「アッ、コレ美味しそお~~~」
 大きくて真っ赤に熟していて、仄かに花のような香りを発していて。
 見るからに格別な木の実を摘めば、くゆりは弱火で表面を軽く焼き始める。
 そのまま食べても美味しいだろうけど、焼くことでもっと美味しくなるだろうから。
「くゆちゃんの焔は小さくてもきれいね」
 うっとりとした表情のフィリーネが見つめる先にあるのは、くゆりが作り出した小さくも美しい色彩で揺らめく炎の存在で。
 フィリーネの腕の中のウサギたちがじっと狙いを定めているのは、くゆりが焼いている木の実の存在で。
 その瞳に宿す存在は違っても、この光景を楽しんでいることに違いは無いのだから。
「フィーちゃん、一緒に食べましょお! うさぎさんも勿論ご一緒に!」
「ん、フィーにもちょうだい! もちろんあなた達も一緒だよ」
 焼きたてアツアツの木の実を切り分ければ、ほくほくと蕩けるような甘みと共にふわりと湯気が広がった。
 フィリーネがふうふうと冷ましてからそっと木の実を差し出せば、ウサギたちは我先にとフィリーネの手から木の実を貰って食べ始める。どうやらお気に召したようで、あっという間に「次」が欲しいと強請られてしまった。
「くゆちゃんが木の実を美味しくしてくれる間に、今日はお揃いの花冠で彩を咲かせるの」
 一つじゃ足りない、美味しい森の恵み。
 「お任せあれ」とくゆりが2個目、3個目を焼いている間に、フィリーネは編み上げたお揃いの花冠を皆の頭に。
「あらら、食いしん坊な子がいたの」
「まだ熱いですよ~~~」
 と、おかわりを待ちきれなかったのか、飛び出したウサギが木の実の熱さにびっくりして高く跳ねあがる。
 おっかなびっくりしながらもその光景に笑みを咲かせば、慌てて戻ってくる食いしん坊なウサギさん。
 冷ました木の実を手渡せば、恐る恐る食べ始める。
 お揃いの花冠で頭を彩って、森の恵みに舌鼓を打つ楽しい女子会はまだまだ始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
【馬県さんち】

☆約束された説教タイム☆
「我ら、何度か言っていますよね?気安く使うなと」『静かなる者』冷静沈着な武士 白髪
「まあ、いつもは戦闘じゃから、早めに切り上げてたぞ?だが、今回は探索であろう?」『侵す者』武の天才な武士 橙髪

あ、はい…あの…すみません…。
生きていたら『風絶鬼』になるのは私だけなので…。

「わかっておる。それで我らの寿命が減らないのも知っておる。だがな、無理をしすぎなのだ貴殿は!」『不動なる者』盾&まとめ役な武士 黒髪

はい…。
☆説教タイム、一時終了(帰宅後に続く)☆

ええと、蛍嘉。情けないところを見せてしまいましたね…。
ええ、よい戦友ですよ。

※三人とも、『疾き者』より年下です。


外邨・蛍嘉
【馬県さんち】

ふふふ、森の木陰っていうのもいいよね。風の音、光の姿が見えたりするんだし。
そこで休んでるんだけれど、理由があってさ。

義紘、内部の三人に説教されてるんだよね。現在進行形で。
兄の今の髪色って、その三人の髪色でできてるんだけど…。

年下…一番近くて5つ年下の『不動なる者』、遠くて8つ年下な『静かなる者』に説教されてる最年長の図だよ…。
三人って武士だけど、生前から忍者な兄を対等に扱ってくれてたんだよね。
だから、兄は自己犠牲しちゃう面もあるんだけれど…。

あ、一旦終わったかな?
ふふ、義紘、疲れが顔に出てるよ。
でも、良い戦友になったね、本当。



●絆の形
 自然に満ちたこの場所では、本来姿を持たぬものの実体までもが時々見え隠れしているようで。
 ふわりと草花が倒れれば風がその場所を走っていることに気が付くし、キラキラと葉を潜り抜けて降り注ぐ木漏れ日を受けてば、陽光がそっと舞い降りていることに気付かされる。
「ふふふ、森の木陰っていうのもいいよね。風の音、光の姿が見えたりするんだし」
 さわさわと涼やかな風の音に身をゆだねて微睡んでいた外邨・蛍嘉は、そっと双眸を瞬かせた。
 姿なき存在がこの場に居る。それをハッキリを感じさせてくれる。
 見え隠れして気ままに森を駆けまわる風や光の存在に、蛍嘉は緩やかに笑みを零す。
 戦闘後に森の木陰で休むのも、のんびり出来て良いのだろうけれど。はたして「それ」は何時になったら終わるのだろうか。
 かなり長い時間続けられている「それ」に、眠気が生まれてしまうのも仕方がない。
 蛍嘉がそっと眺める先には、森の木陰で待ち惚けを食らう理由が現在進行形で繰り広げられていた――。
『我ら、何度か言っていますよね? 気安く使うなと』
「あ、はい……あの……すみません……」
 柔らかな草地を選んでくれたのは戦友3人の「痛くない様に」という優しさなのだろうが……こうも長時間説教タイムが繰り広げられていれば、自然と足も痛くなってくる。
 ふわふわとした草地に正座の体勢で、ちょこんと項垂れているのは馬県・義透の姿だった。
 本日何度目なのだろう。そして、帰宅後何度繰り広げられるのだろう。数えていては義紘の身がもたないことだけは明白だった。
 普段から冷静沈着な『静かなる者』による一言が、ぐさりと義紘の胸に突き刺さる。怒気を表出させず、それでいて絶対零度の声で地を這うように告げられるものだから……逆に怖い。
 『静かなる者』によるダメージから義紘が回復する前に、『侵す者』による追撃が飛んできた。
『まあ、いつもは戦闘じゃから、早めに切り上げてたぞ? だが、今回は探索であろう?』
 ――ぐさりと胸に突き刺さった『静かなる者』の言葉を、抜けない様にしっかりと押し込む形で。
 遠回しに「探索でも戦闘でも、どちらにせよ多用するな」と告げられていることが、一周回って逆に辛かった。
(「義紘、内部の三人に説教されてるんだよね。現在進行形で」)
 存在感を放ちながら若干遠い目で義紘を見つめる蛍嘉なのだが、内部の3人は蛍嘉のことをサッパリ忘れ去っているに違いない。
 少し前もお説教は現在進行形であったし、何なら今もそうだ。そして、もう少し後まで現在進行形のままだろう。
(「兄の今の髪色って、その三人の髪色でできてるんだけど……」)
 黒に交じる白と橙色が、陽の光を受けてサラリと輝きを反射させている。その髪色こそが、4人で1人の複合型悪霊であることを静かに表していた。
「年下……一番近くて5つ年下の『不動なる者』、遠くて8つ年下な『静かなる者』に説教されてる最年長の図だよ……」
 割と見かけている、年下である内部3人に説教される兄の図。
 年長の威厳は何処に行ったのだろう。少し首を傾けて考える蛍嘉だったが、きっと誰も気付かないうちに逃げ出したに違いない。
 年上の頼もしさや諸々が早く帰ってくることを祈りつつ、蛍嘉はため息を吐いた。
(「三人って武士だけど、生前から忍者な兄を対等に扱ってくれてたんだよね。だから、兄は自己犠牲しちゃう面もあるんだけれど……」)
 武士である3人に対して、1人だけ忍であった兄。しかし、彼らは対等に接してくれていたのだ。
 そのせいか、自己犠牲をしてしまう面が出来たのかもしれないが……なるべく無茶はやめて欲しいのだから。
「生きていたら『風絶鬼』になるのは私だけなので……」
『わかっておる。それで我らの寿命が減らないのも知っておる。だがな、無理をしすぎなのだ貴殿は!』
「はい……」
 『不動なる者』からの雷と「もっと自分を大切にしろ」という3人共通のメッセージを最後に、義紘はやっと解放された。
 痺れる両足でどうにか立ち上がれば、蛍嘉が苦笑交じりに近づいてくる。
「あ、一旦終わったかな? ふふ、義紘、疲れが顔に出てるよ」
「ええと、蛍嘉。情けないところを見せてしまいましたね……」
 ばつの悪そうな義紘の様子に、蛍嘉はクスリとその笑みを深める。
 なんだかんだ言いながらも、皆義紘の身を案じて、これほど大切に思ってくれているのだから。
「でも、良い戦友になったね、本当」
「ええ、よい戦友ですよ」
 迷いなく答えられる義紘の返事が、4人の絆の強さを表していた。
 色々あったけれど、今では良い戦友なのだから。
 帰宅後の説教タイムことは一先ず棚の上に置いておいて……「のんびりしましょうか」と、義紘は蛍嘉に告げる。
 これほど自然が近くにあるのだから、触れ合いを楽しまなければ勿体ない。
 ゆっくりと森の散策を始める義紘と蛍嘉の視界に飛び込むのは、生命力に溢れる植物や動物の数々で――この森は、確かに6人で護りぬいたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガルレア・アーカーシャ
【暗黙】
この親友は教えてくれる
夢想の世界に在る弟とは違うもの
私が、現実に在るという実感を

足を止め
花園で掴まれた腕を見た
浮かぶ
この感情ある痛みを与えてくれた手を
先に喪うのかと
しかし…それは無いとも認識する
「似たことを」
苦笑が浮かぶ話題
だが
「―それも、こうして」
花を手折り
「先。戦闘で消したあの存在のように」
地に墜とした弱き存在を想えば
「ならば私も
同じくいつしか理由も無く
何かに命を奪われることだろう
沢山奪い過ぎたのだ―今更奪われぬ道理もない」

だから、と親友に優しく微笑もう
「気に病む必要などはない
いなくなるのは、私が先なのかも知れないのだから」

花を親友の胸に
己の生命より
私には、讃えたい存在があるのだと


ラルス・エア
【暗黙】
花の前で足を止め
レアが花園で
私が咄嗟に掴んだ腕を見る
沈黙が落ちた
まるで考えていた事が透け責められている気がして
「…私が、いつ消えるか
そればかりを思案していた」
自分から口にした

相手の苦笑に微か己が情けなく
思わず一度瞑目し
しかし―レアが殆ど見せる事のない微笑みと共に出した結論は
この血を引かせるには十分だった
(なにを)
確かに、あの様な…
惨殺を躊躇う心がなければ憎まれ殺される可能性は上がるのみ
だが親友は
胸に飾るこの花は、その意味を知り、尚俺に向ける感情だと―

衝動で相手の身を引き震え訴える
せめて
「頼む…これ以上、花を、手折らないではくれないか…」
―自分が、この存在を生かす為に生きる事が出来るよう



●別れの夜明けが来ないことを、願って
 現実とは想像以上に曖昧なものだ。
 もしかしたら、現実と思い込んでいる瞬間が夢で、夢と思っている世界が現実なのかもしれない。
 今この瞬間が夢ではないという保証は、何処にもない。
 しかし、ガルレア・アーカーシャには、その保証を与えてくれる相手が存在していた。ここが確かに現実であると。自分が現実に在ると。痛みと感情をもって、告げてくれた存在が。
(「この親友は教えてくれる。夢想の世界に在る弟とは違うもの。私が、現実に在るという実感を」)
 ふと森を行く足が止まったのも、決して偶然のことでは無いだろう。
 花畑の中心から徐々に色彩が薄れていくように。花々が疎らに生えるだけのそこは、紛れもなく親友が自分を幻から引き戻したあの場所だったのだから。
 思い起こされるように浮かび上がるのは、先ほどの記憶。導かれるようにして、ガルレアは花園で掴まれた腕を見た。
(「この感情ある痛みを与えてくれた手を先に喪うのか」)
 ふわりと浮かんできたのは、一抹の感情。名前すら名付けられぬほどの小さなそれは、一瞬にして再び胸の中へと深く沈んでいった。
 「しかし……それは無い」と認識しているのは、他ならぬガルレア自身なのだから。先に逝くのは、恐らく。
 花の前で足を止め、ガルレアが腕を見る。
 その一連の動作を、ラルス・エアは気まずい思いで見守っていた。
 決して心地良いとは言い難い沈黙が二人の間を音もなく満たしていって、やがて窒息してしまいそうな――そんな息苦しささえ感じてしまう。
 腕を見やるガルレアは何も言わなかった。だからこそ、考えていた事が透け責められている気がして。
「……私が、いつ消えるか。そればかりを思案していた」
 ラルスは自分の考えを、自分から口にした。
「似たことを」
 微かな間。それから、吐息と共にガルレアが浮かべたのは苦笑だった。
 話題が話題なのだから、仕方がないのかもしれないが。
 だが、しかし。
「――それも、こうして」
 まだ夏本番は遠いと云うのに。狂い咲いたのだろうか。
 春と初夏を彩る花々に交じって、一株だけ揺れる夏の花にガルレアは手を伸ばしていた。
 星が散るように咲くアスターの花をそっと手折って、ラルスの方へと。
「先。戦闘で消したあの存在のように」
 地に墜とした弱き存在を想えば、自ずと結論は限られてくる。自らが、どのような結末を迎えるのかも。
 今更な話だった。奪ったら奪われる。否、例え奪ったことが無かったとしても、運が悪ければ。
 それが世界の理で、それが今まで自分に降り注がなかっただけの話だ。
 実に簡単なロジックだ。
「ならば私も。同じくいつしか理由も無く、何かに命を奪われることだろう。
 沢山奪い過ぎたのだ――今更奪われぬ道理もない」
 それが、ガルレアの導き出した、答えだった。
(「なに、を」)
 苦笑を見せたガルレアに、己のことを情けなく思ったのも一瞬のこと。
 弾かれたようにラルスは大きく目を見開いて、ガルレアの顔をじっと見つめる。
 目の前の親友は、今、何と口にしたか。自身の結末について、どう捉えていたか。
 反芻させる。
 小鳥の鳴き声も、風の騒めきも。目の前の親友の声すら。その全てが遠く聞こえてしまう。
 ガルレアが殆ど見せることのない微笑みと共に導いた結論は――ラルスの血を引かせるには、十分だった。
「確かに、あの様な……」
 先の戦いを、思い返す。
 弱き存在を相手にしていても、躊躇い一つすら見せなかったあの戦いを。
 惨殺を躊躇う心がなければ、憎まれ殺される可能性は上がるのみ。そして一度上がった可能性が下がることは、恐らく二度とない。
 恨みの炎は、延々と長きに渡って燻り続けるものなのだから。
 それを分かっていてもなお、レアは、その手を止めないのだろう。そしてそれを理解した上で、あえてその道を選ぶとでもいうのか。
(「だが。胸に飾るこの花は、その意味を知り、尚俺に向ける感情だと――」)
 だから。と残酷なほどに優しく微笑むガルレアが、そっとラルスの胸に挿した花。
 それは意味を知り、それでもなお、ラルスに向けられる感情の証で。
「気に病む必要などはない。
 いなくなるのは、私が先なのかも知れないのだから」
 だから、きっとお互い様だ。
 どちらが先に倒れたとしても。その時はきっと、避けられぬ運命だったのだろうから。
 己の生命よりもガルレアには、讃えたい存在があるのだ。その為には、己の生命すら惜しまない。
 己の生命ですら、必要であれば駒に変えてしまう。
「頼む……これ以上、花を、手折らないではくれないか……」
 浮き上がっては言葉にならずに爆ぜていく、名も無き感情の泡たち。
 ラルスの身を突き動かしたのは、殆ど衝動的なものだった。ガルレアの身を引くと――震え訴える。
(「どうか……」)
 これ以上、花が散らぬように。
 それでも、手折るというのであれば。せめて。せめて――自分が、この存在を生かす為に生きる事が出来るよう。
 目の前の存在が、自分に託したこの花だけを遺して、消えてしまうことが無いように。
 夏が来るたびに、星のようなこの花を見て、親友のことを思い出す日々が、訪れないように。
 縋り訴えるラルスを、ガルレアは優しい微笑みを向けたまま―――しかし、その口がラルスの望む答えを紡ぐことは、
 仮に、望む答えを与えたところで……それは、一時的な気休めにしかすぎないのだから。
 自分か、相手か。一枚ずつ散っていく、生命の花弁。
 未来がもし定まっていたのだとしても。きっと、最後の一枚になるその時まで、自分たちには分からぬことなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

何か凄まじい光景を見た気がするが、二人は無事再会出来たみたいだね。まあ、心配させた分娘さんは凄い怒られるだろうが、それは娘さんの家族の問題だ。さて、草原でゆっくりするか。

ああ、奏と瞬はベリーと木の実を取りに行くんだね。行っておいで。気を付けるんだよ。これだけ心地よい陽気だ。昼寝に丁度いい。鼻歌歌いながらゆっくり寝転がる。草と花の香りが心地よい。良く眠れそうだ。寝ていたらウサギがお腹に乗ってたり。夕陽に目を覚ましたらお腹に乗っているうさぎを膝に乗せて撫でながら奏と瞬の帰りを迎える。大漁だね。そうだね、家に帰ってデザートに入れようか。腕を奮おうかね。


真宮・奏
【真宮家】で参加

何故母さんと兄さんが冷や汗かいてるか分かりませんが、お二人が再会出来てよかったです。娘さんにはもれなく雷が落とされるでしょうが、そこは私達が関わる事じゃないですし。さあ、平和になった森を楽しみましょう。

木を走るリスに目を奪われてわき目も振らず追いかけます。リスさん、案内ありがとうです。このベリーは・・・酸っぱい!?はずれですか・・・あ、兄さんのは甘いんですね。この調子で一杯ベリーと木の実採取していきましょう。もちろん、自然のバランスを崩さないようにですね。

採取に夢中になってたらいつの間にか日が傾いていますね。早く母さんの元へ戻りましょう。この収穫でデザートですか!?楽しみです!


神城・瞬
【真宮家】で参加

いやあ、あの凄まじい狩りの風景が奏の目に入らなくて良かったですよ・・・それに、娘さんは無事大切な人と再会できたようで。まあ、物凄く怒られるでしょうが、それは娘さんの家族の問題ですから。

あ、奏がリスを追いかけて走って行ってしまいました。何かあると困りますので急いで追いかけます。リスが案内してくれた先にはベリーが。奏のははずれだったみたいですが、僕のは甘いですね。そうですね、自然のバランスが崩れないようにベリーと木の実を採取しますか。

あ、いつの間にか夕方ですね。母さんの元へ戻りましょう。そうですね、このベリーと木の実は家に帰ってデザートに入れましょう。きっと美味しいです。



●仲良く揃って
 ――狩猟鷹の本気は凄まじいものだった。
 倒れ伏した空飛ぶオトシゴたちの姿が光となり散っていっても、まだ瞼の奥に先ほどの光景が焼き付けられているような気がしたのだ。それほどまでに、狩りの風景は……うん。暫く忘れられないだろう。
 猛禽類であるのだから、あれが本来の姿と云われればそうであるのだが。
「いやあ、あの凄まじい狩りの風景が奏の目に入らなくて良かったですよ……」
 冷や汗を拭いながら、神城・瞬は心底安堵してほっと息を吐き出していた。
 間近で光景を見ていた瞬だからこそ分かる。猛禽類の本気を見せつけられたあの狩りは、逞しさや頼もしさを感じると共に、とても恐ろしくも思えたのだ。
 あの風景が奏の目に入らなくて、本当に良かった。もし目に入っていたのなら、今でも再起不能だっただろうから。
 瞬の隣で真宮・響もまた、コクコクと首を縦に振り続けている。娘がきょとんとした表情で見つめてきているが、見ていなくて本当に良かったと響でさえ思ってしまうのだから。
「何か凄まじい光景を見た気がするが、二人は無事再会出来たみたいだね」
 見た気がする。うん、きっと気のせいだ。そういうことにしよう。
 凄まじい光景を早々記憶の底にしまい込み、思い出さないように厳重に鍵をかけて封印した響は、そっと話題を娘さんと騎士の青年ものへとすり替える。
「何故母さんと兄さんが冷や汗かいてるか分かりませんが、お二人が再会出来てよかったです」
 きょとんとしながらも、聡い真宮・奏ではその話題をそっと流す。直感的に、聞いてはいけないような気がしたから……主に、衝撃映像とかそういう方面で。
「ええ。娘さんは無事大切な人と再会できたようで」
 奏につられるようにして、瞬もまた娘さんと騎士の青年が歩いて行った方向を見やる。今頃、雷が何度も落ちている頃合いだろう。
「娘さんにはもれなく雷が落とされるでしょうが、そこは私達が関わる事じゃないですし」
「そうですね、物凄く怒られるでしょうが、それは娘さんの家族の問題ですから」
 家族の形には色々あるのだから。そして、心配する気持ちも同じ家族であるからこそ。
 だからこそそっと心の中で娘さんの無事を祈るだけに留めた3人は、草原の方へと歩き出す。
 漸く森に平穏が戻ったのだから、存分に楽しまなくては勿体ない。
「そうそう。それは娘さんの家族の問題だ。さて、草原でゆっくりするか」
「はい、平和になった森を楽しみましょう」
 仲良く森へと歩き出す3人を、小鳥たちが優しく見守っていた。
「あ、リスさんが……!」
 のんびりと森を散歩していたところ、奏の目の前に現れたのは栗毛色のふわふわとした尻尾が可愛らしいリスの姿。丸い瞳で、「こっちにおいで」と奏に話しかけているようで。
 木の枝から立ち止まって、それからちょこちょこと駆けだしたリスの後ろを追いかけて、奏はわき目も振らずに走り出す。
「あ、奏がリスを追いかけて走って行ってしまいました……。何かあると困りますので、追いかけてきます」
「ああ、行っておいで。気を付けるんだよ」
 響に短く行き先を告げて、瞬も奏の後を追って走り出す。
 穏やかな森とはいえ、危険が全くないとは言いきれない。少し険しい岩場があったり、ぬかるんでいたりして危険な場所もあるのだから。
 わき目も振らずにリスを追いかけてしまった奏だが、瞬がいるし大丈夫だろう。元気良く走っていく二人を見送った響は、ゆっくりと草原に寝転がった。
 澄み渡る青い空、ふわふわとした白い雲に、吹き抜けるそよ風。これだけ心地良い陽気なのだ、昼寝するにはちょうど良い。
「うん、良く眠れそうだ」
 ごろりと草原に四肢を放り出せば、ふわりと香る草花の香り。人の手が介入していない、自然のままの素朴で優しい香りがふわりと響の身体を包み込む。
 柔らかな自然の香りに包まれてウトウトと微睡んでいれば、鼻をヒクヒクさせたウサギがお腹の上に乗ってきた。
「温かくて丁度良いね」
 少し高めの体温が何とも眠気を誘ってくる。お腹に乗ったウサギをふわふわと撫でながら、響の意識は徐々に眠りの世界へ……。
「リスさん、案内ありがとうです」
 追いかけて走って、辿り着いて。
 そうして奏が辿り着いた先は――沢山のベリーが宝石のように煌めきを放つ、自然の宝石箱のような場所だった。
 見慣れたベリーにそっくりな青いものに、真っ赤に染まった今が食べ頃のもの。薄い水色は見慣れないけれど、だからこそ好奇心が刺激されてしまう。
「奏、怪我はしていませんか?」
「瞬兄さん! 私なら大丈夫です」
 美しいベリーの数々にキラキラと瞳を輝かせていた奏が聞き慣れた声に振り返れば、奏を追いかけて走ってきた瞬が丁度追いつくところであった。
「リスさんが此処まで案内してくれたんですよ」
 ほら、と奏の示す先には、たわわに実る沢山の種類のベリーたち。
 森の宝石箱のような光景に、思わず瞬も見入ってしまう。これほど沢山のベリーを見たのは初めてだ。
「あ、リスさん。そのベリーが美味しいんですか?」
 奏をここまで案内したリスが、美味しそうに濃い赤紫色に染まったベリーを頬に詰めている。
 ひし形のような少し見慣れない形であるが……リスさんが美味しそうに頬張っているからと奏も口に入れて――そして、その酸っぱさに思わず目をぎゅっと瞑った。
「このベリーは……酸っぱい!?」
 酸っぱい。それも、物凄く。
 それでもリスさんはとても美味しそうに食べているから……きっと、奏の選んだベリーが外れだったのだろう。
「奏のははずれだったみたいですが、僕のは甘いですね」
「はずれですか……あ、兄さんのは甘いんですね」
「奏も食べますか?」
 淡い空色に染まるベリーを興味の赴くまま一口齧った瞬は、にっこりと顔を破顔させる。
 見慣れない色のベリーだったが、味はとても甘いものだった。どうやら当たりであったらしい。
 羨ましそうな視線を向ける奏にベリーを手渡せば、直ぐに口に放り込んで「美味しい!」と嬉しそうにはしゃぎ始める。
 あまりの美味しさにニコニコ笑顔の奏を微笑ましそうに見守りながら、瞬はベリーと木の実を採取していく。
「とりすぎは良くないですからね。リスさんたちの食べる分が無くなっちゃいますし」
「そうですね、自然のバランスが崩れないようにほどほどに」
「リスさんこの木の実は……って、苦かったですか?」
 奏が手渡した木の実を口に含み――一瞬硬直したリスは、それから凄い勢いで甘いベリーを口に詰め込み始める。
 「苦かったんですね……!」とワタワタ慌てつつ甘い木の実を渡していく奏に、瞬は堪らず噴き出した。
「こちらも甘いと思いますよ」
「わあ。瞬兄さん、ありがとうございます」
 きっと良いお土産になるだろうから。
 時には味見も交えながら、瞬と奏がベリーと木の実採取に勤しんでいれば――時間はあっという間に過ぎていって。
「あ、いつの間にか夕方ですね。母さんの元へ戻りましょう」
「はい、早く母さんの元へ戻らないと」
 リスさんにお別れを告げて元来た道を戻ってきた瞬と奏を、膝にウサギを乗せた響が出迎えてくれた。
 膝に乗っているウサギがすっかりリラックスして寛いでいる辺り、この一日でとても仲良くなったらしい。
「おや、漸く帰ってきたみたいだね」
「ええ。ベリーと木の実が沢山採れました」
 瞬がベリーと木の実が沢山入った籠を響に見せれば、「これはすごいね」と感嘆交じりの声が上がって。まさか、ここまで採取してくるとは思ってもいなかったらしい。
「大漁だね。そうだね、家に帰ってデザートに入れようか。腕を奮おうかね」
「母さん、僕も手伝いますよ」
「この収穫でデザートですか!? 楽しみです!」
 たくさん集まったベリーと木の実。これだけあれば、色々なデザートを作ることが出来るから。
 今日は仲良く、家族みんなで料理を作ろうか。
 デザートを楽しみに、仲良く3人は帰路に着くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆
森の奥、ちょうどいい木陰が出来ている大きな木の
根本にレジャーシートを広げ
梓のお手製お弁当を取り出して楽しいピクニックタイム
だって次はいつここに来られるか分からないからねー

あの短時間でこんなに豪勢なお弁当を作れるだなんて梓ってば天才?
まずはふわふわの卵焼きからいただきまーす
リンゴはうさぎさんだし、ウィンナーはタコさん型だし
慌ただしくてもこういう遊び心は忘れないのがすごい
匂いに釣られてきたのか、リスが近くに寄ってきて
ねぇ、この子たちにもお弁当あげていい?

上からコツンと何かが降ってくる
あ、ベリーの木だったんだねコレ
試しに一つ食べてみれば口の中に程良い甘酸っぱさが広がる


乱獅子・梓
【不死蝶】◆
「今日、梓のお弁当持ってピクニックしたい」
だなんて綾にせがまれて
急ピッチで弁当を作る羽目になるとは…
急いで町で材料を買って厨房を借りててんやわんや
慌てすぎて指を切りかけた、危ない
空飛ぶオトシゴの予言通りになるところだった

綾の無茶振りに何やかんやで応える俺も
甘やかし過ぎでは??と自問しつつ
レジャーシートの上に弁当を広げる
綾や仔竜たちの美味そうに食っている姿を見ると
大変だったが作って良かったなと思う辺り、俺もチョロい
おー、お前たちも食え食え

ベリーに興味津々そうな焔と零にも一粒ずつ与えてやる
零は幸せそうな表情で味わい
焔は…びっくりしたような顔で飛び跳ねてる
焔は酸っぱいの引いたんだな…



●ランチタイムは賑やかに
 ポイントは、小首を傾げて上目遣い。純粋そうな雰囲気で、貴方にしか頼めないという空気を作って。
 そして良い感じに瞳を潤ませて、顔の前で手を合わせて――それで、にっこり微笑めば完璧だ。
「今日、梓のお弁当持ってピクニックしたい」
 きっと、乱獅子・梓が気づかなかっただけで語尾にハートが沢山舞っていたに違いない。その上、灰神楽・綾に賛同するようにぎゃいぎゃいと焔と零まで騒ぎ出すものだから。
 「お願い」を断れない雰囲気を作り出した綾は、ある意味確信犯だ――誤用の方の。
 『気になる☆あの子の落とし方大全!』とか名前の付く恋愛テクニック本に載っていそうな百点満点のおねだりを綾が炸裂させたのが、遡ること少し前のこと。
 テクニック見え見えの策に引っ掛かる俺も大概甘いな、とか思いながら、断れなかった梓も梓であった。
「だって、次はいつここに来られるか分からないからねー」
 とは、主犯格である綾の弁だ。
 森の奥の、丁度良い木陰が作り出されていた大木の下で。
 地面に敷かれたレジャーシートに所狭しと並べられているのは、梓お手製のお弁当だった。
 森と相性抜群なピクニックバスケットの中から現れるのは、ハムにタマゴ、レタスやトマトと具沢山のサンドウィッチに、魔法瓶に入ったコーンスープ。タコさんウィンナーに、エビフライに、ウサギさんリンゴに……賑やかなピクニックバスケットの中には、勿論綾の大好きなふわふわ卵焼きも顔を覗かせていた。
「あの短時間でこんなに豪勢なお弁当を作れるだなんて梓ってば天才?」
「まさか、綾にせがまれて急ピッチで弁当を作る羽目になるとはな……」
 森よりも賑やかなバスケットの中を覗き込んでキラキラニコニコ破顔している綾とは反対に、梓は若干遠い目をしている。
 森の探索と戦闘から、綾の「お願い」により町にUターンしてお弁当を作る羽目になったのだ。頑張ったと自分を褒めてもバチは当たらないだろう。
「お陰で指を切るところだったんだぞ。危うく空飛ぶオトシゴの予言通りになるところだった」
 綾が食べようとしていた卵焼きを横からかっさらいつつ、梓は独り言ちる。
 玉子焼きを咀嚼する梓の視界の端で「してやったり」な表情を浮かべた空飛ぶオトシゴの幻覚が一瞬チラついたような気もしたが、きっと気のせいだろう。
 卵焼きの方もそれなりに美味しく出来ていた。慌てて材料を買い込み、厨房を借りて急いで作ったにしては上出来だろう。
「まずはふわふわの卵焼きからいただきまーす」
 真横からトンビ――ではなく、梓に卵焼きを誘拐されて数秒の間固まっていた綾だったが、再起動も早かった。カラフルで豪華な梓お手製のお弁当が目の前にあるのだ。一秒でも惜しかった。
 気を取り直してふわふわの卵焼きを口に入れれば、ふわりとした柔らかな感触と一緒になって優しい玉子の甘みが溢れ出す。
 もぐもぐと幸せそうに咀嚼する綾の手は、早くも二切れ目の卵焼きをしっかり確保していた。
(「綾の無茶振りに何やかんやで応える俺も甘やかし過ぎでは??」)
 そんな梓の自問は幸せそーにお弁当を食べる綾と焔や零の姿を見た途端、一瞬で立ち消えてしまう。
 自分の作ったお弁当を美味そうに食べているのだ。これ以上の幸せがあるのだろうか。
(「大変だったが作って良かったなと思う辺り、俺もチョロい」)
 込み上げてくる日常への愛しさをどうにか噛み殺しながらも、「おー、お前たちも食え食え」と梓は若干ニヤけたままの顔で綾たちにお弁当を勧めるのだ。
「リンゴはうさぎさんだし、ウィンナーはタコさん型だし。慌ただしくてもこういう遊び心は忘れないのがすごい」
 と、綾評価委員長はご満悦のようだ。次から次へとウィンナーやらサンドウィッチやらが、綾の口に吸い込まれては消えていく。
 梓の横で焔と零がエビフライを取り合い出したので、軽くデコピンした後それぞれに一匹ずつ与えたりなんかもしつつ。
 ゆったりワイワイと繰り広げられるランチタイムに引き寄せられたのか、不意にひょっこりとリスたちが顔を覗かせた。
「ねぇ、この子たちにもお弁当あげていい?」
 匂いに釣られてきたのだろうか。
 興味津々といった様子でバスケットを覗き込むリスたちに対して「そのリンゴ俺のだから」とちゃっかり牽制しつつ、梓にそう尋ねた綾。
「いいぞ。あんまり食べさせ過ぎないようにな?」
 答えを聞く前からお弁当を手にしている綾の姿に笑いを堪えながら、梓は優しく返事を返す。返事を聞いた途端あげ始めるのだから、余程あげてみたかったのだろう。
 綾からお弁当を受け取ったリスたちは、もにっと頬に詰め込んで木の上へと帰っていった。
「あ、ベリーの木だったんだねコレ」
 リスも去ったしお弁当の続きを、と思ったところで何かが上からコツンと落ちてきて。
 落ちてきたそれを手に取れば、ベリーの実だった。
 見上げれば、先ほどのリスたちがぽとぽととベリーを落している。先ほどのお礼のつもりらしい。
 試しに一つ食べてみれば、口の中に程良い甘酸っぱさが広がった。
 甘過ぎずサッパリしていて、幾らでも食べれてしまいそうな食感だ。
「焔は酸っぱいの引いたんだな……」
 自らも一つ食べた後、梓は興味深々と前足でベリーを転がす焔と零に一つずつ差し出せば。
 幸せそうな表情で味わっている零の横で、焔が垂直に飛び上がった。
 びっくりしたような顔をした後……慌てて卵焼きを口に詰め込み始めたのだ。かなり酸っぱかったのだろう。
 賑やかなランチタイムに、自然と笑みも沢山咲いて。でも、まだこれで終わりではない。お弁当の次は、梓がお弁当と同じくらい気合を入れて作ったデザートが待っているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

森乃宮・小鹿
◆■
やー、無事に終わってよかったっす!
にしても、わざわざお迎えに来るということは
騎士さんからしてもあの子は本当に大事な人なんでしょうね
……ちょっと羨ましいっす

ま、せっかくだからボクももう少しお散歩していきましょう
故郷は万年大雪の寒い地方で、花は珍しいものでしたから
こうしてお日様の下でお花を眺めてられるの、すごい贅沢してる気分
出来映えはともかく、お花の冠だって編めちゃいましたからねぇ

帰る前には二種類ほど花を摘むっす
まずは怪盗団のみんなへのお土産に
少しだけすみれを摘んでいきましょう
見るにしても食べるにしてもちょうどいいお花っすからね

そして自分用に芝桜を一輪だけ
今日の思い出として栞に押しましょう



●思い出が褪せないように
 花園に飛び込んでも、もう「ずっと此処に居たい」と思えてしまうような不思議な感覚には襲われなかった。
 空飛ぶオトシゴが倒されたのと同じく、花園の幻覚も晴れたのだと森乃宮・小鹿は漸く実感が湧いてきて。
 花々の中心で大きく伸びをすれば、華やかな花の香りが胸いっぱいに吸い込まれる。
「やー、無事に終わってよかったっす!」
 日常の戻った森に依頼の達成も伴って、開放感でいっぱいだ。
 お姫様も眠りから覚め、騎士様と無事に再会できたのだから。これ以上にないハッピーエンドだろう。……まあ、お姫様が今頃家族から受けているであろうお叱りを思えば、自然と苦笑が交じってしまうのだが。
「にしても、わざわざお迎えに来るということは、騎士さんからしてもあの子は本当に大事な人なんでしょうね」
 視線は自然と、二人が歩いていった方角へ。
 わざわざお迎えに来るのは、それだけ大切にされていることで。それに少しばかり、憧れてしまう小鹿だった。
「……ちょっと羨ましいっす」
 怪盗団のメンバーでもある小鹿だが、怪盗であると同時に女子高生でもあるのだ。愛だ恋だはどうしても気になってしまうお年頃である。
 二人の関係を羨ましく思いつつ、ついでに「ボクはどんな人とそういう関係になるんすかね」とか考えてしまったりもしつつ。
「ま、せっかくだからボクももう少しお散歩していきましょう」
 二人の帰っていた先を暫く見つめた後、小鹿もまた歩き始めた。折角森に来たのだから、楽しまなくては損だ。
 弾むように花園に一歩を踏み出せば、ゆらりと花々が小鹿をお出迎え。
 万年大雪で、一面を氷と白に閉ざされた寒い地方を故郷に持つ小鹿にとって、これだけ花が咲き乱れる光景が見られることはなかなかに貴重だ。
「こうしてお日様の下でお花を眺めてられるの、すごい贅沢してる気分」
 出来映えはともかく、お花の冠だって編めちゃいましたからねぇなんて。
 幻覚にがっつり囚われて、花園ではっちゃけた数時間前のことをしみじみと思い出してみたり。
「雪の代わりに花が降りませんかねぇ」
 花々に覆われる故郷を想像して――うん。案外悪くない気がした。そうしたら、花冠も栞も、ドライフラワーだってきっと作りたい放題だ。
「見るにしても食べるにしてもちょうどいいお花っすからね」
 帰る前に、と小鹿が手を伸ばす先にあるのはスミレの花。怪盗団のみんなへのお土産用だ。
 白に紫、薄紫に水色に。色々な種類のスミレが寒色系の蝶々の群れみたいに咲き誇っている。
 お姫様を迎えに行く道中に見かけたスミレの群生地をちゃっかり記憶していた小鹿。少しだけ、と。愛らしい蝶々のようなフォルムの花を摘んでいく。
(「芝桜は自分用にっす」)
 今日の思い出として栞に押したら。きっと、いつでもこの花園のことを思い出せるから。
 鮮やかなピンク色を手に、小鹿はにっこりと微笑んだ。
 帰って怪盗団のみんなに今日のことを話す瞬間が、今から待ち遠しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星野・祐一

【花澤まゆちゃん(f27638)と一緒】
そっか…まゆちゃん頑張ったんだな
「森」を知る機会を作ってくれてありがとな
目にする事はあっても知る暇はなかったからさ

まゆちゃんが食事の用意してる間に俺は麦茶の用意でも
こう緑に囲まれた場所で飯を食べるなんて新鮮だな
それもまゆちゃんとだ…飯が何時もより美味しく感じるぜ

お、動物だ…宇宙船じゃ「野生」のなんていないからな
俺もまゆちゃんに倣ってパンくずを撒いてみよう
食べてる姿に眺めながら恐る恐る手を伸ばしてみたり

最後は昼寝に丁度いい木陰でまゆちゃんと一緒にお昼寝
鳥の囀りや涼しい風が心地いい
ああ…全くだな、まゆちゃん
湧き上がる睡魔に誘われて、瞳を閉じておやすみなさい


花澤・まゆ

【星野祐一さん(f17856)と一緒に】
娘さんが無事で本当によかった
安心したので、祐一さんを呼んだの
祐一さんも「森」を知らないだろうから

とりあえず木陰の下で買ってきたサンドイッチを食べるよ
こういうところでご飯を食べるといつもより美味しいのはなんでだろう
…祐一さんと一緒なのもあるけど

パンくずを撒いて動物たちに
近くに動物が来たら触らせてもらえるかな?
そっと手を伸ばして撫でてみるよ
嫌がるようなら無理強いはしない

最後は気持ちのいい木陰で祐一さんと一緒にお昼寝
木漏れ日ちらちら
気持ちいいね、祐一さん
眠るのがもったいないけど、少しだけ傍でおやすみなさい



●2人で過ごす「森」でのひと時
 森をタツノオトシゴのようなオブリビオンがひっそりと支配(?)していたこと。
 人に取りつく彼らは、娘さんに取りついて夢を見せていたこと。
 空飛ぶオトシゴを倒して、無事に娘さんと幼馴染みさんを再会させたこと。
 古木の下に2人、寄り添い合うようにして座って。花澤・まゆはこの森で起きた一連の出来事を、星野・祐一(シルバーアイズ・f17856)に話していた。
 祐一は時折ふんふんと相槌を打ちながら、真剣にまゆの話を聞いている。
「娘さんが無事で本当によかったよ」
「そっか……まゆちゃん頑張ったんだな」
 まゆの話が終わると同時に、くしゃりと頭に置かれるのは祐一の大きな手で。労わるように優しく頭を撫でられて、まゆは柔らかく微笑みを浮かべた。
 彼の言葉一つで、先ほどまでの疲れが全て吹き飛ぶ気がするから。まゆにとっては一番の特効薬だ。
「『森』を知る機会を作ってくれてありがとな。目にする事はあっても知る暇はなかったからさ」
 祐一さんも「森」を知らないだろうから。
 そんな思いで、祐一を呼んだまゆ。目にする機会があっても深く知る機会の無かった「森」という存在に、祐一はぐるりと周囲を見渡した。
 「森」は想像以上の音と色彩に溢れている。宇宙船からは想像できないような途方もない緑の海が、目の前に広がっていた。
「こう緑に囲まれた場所で飯を食べるなんて新鮮だな」
 それもまゆちゃんとだ……。祐一はまゆに聞こえないくらいの小さな声で、呟きを一つ。意識してしまえば、途端にぎこちなくなってしまうだろうから、努めて平静に。
 まゆが買ってきたサンドイッチを用意しているその横で、祐一もまたコップに麦茶を注いでいく。
 コップの周りに汗のように水滴が滴り落ちて、麦茶が陽光を受けて琥珀のように煌めくのを見れば、夏がもう間近に迫っていることを感じられた。
「飯が何時もより美味しく感じるぜ」
「そうだね。こういうところでご飯を食べると、いつもより美味しいのはなんでだろう」
 「森」の中であったり、自然に囲まれて普段とは違っていたり。あとは……祐一さんと一緒なのもあるけど。きっと。いや、十中八九それが原因だ。
 大好きな人と特別な場所で、2人きりでご飯を食べているのだから。美味しくないはずがない。
 そしてそれは、隣に座る祐一も同じ気持ちのようで。
 紅く染まる顔を気付かれないように、まゆはもっもっとサンドイッチを食べ進めた。
「お、動物だ……。宇宙船じゃ『野生』のなんていないからな」
 美味しそうにサンドイッチを食べる2人の姿を見て、お腹が空いてきたのだろうか。
 ふわりと2人に吸い寄せられるようにして集まってきたのは、野生動物たち。
 宇宙船では、そもそも「野生」や「自然」といったものが存在しないから。祐一は少しばかり瞳を輝かせて、興味深そうに野生動物たちを眺めている。
「お腹空いてるみたいだし、食べるかな?」
 じっとサンドイッチを見つめる幾つもの視線にまゆはクスリと微笑んだ後、パラパラとパンくずを撒いて動物たちにあげてみた。
 途端、それまでの静けさが嘘のように我先にとパンくずに向かって行くものだから!
 思わず驚いて転びかけたまゆを、咄嗟に祐一が支えて。
「みんな元気いっぱいだな」
「そんなにお腹空いてたんだね……」
 観光地の池の鯉を連想してしまいそうな食べっぷり。
 遂にはパンくずの取り合い始めた動物たちに、まゆを真似てパンくずを撒き始めた祐一が「喧嘩するなよ?」と、順番に配り始めた。
「触らせてもらえるかな?」
 近くによってきた鹿に、まゆはそっと手を伸ばす。
 嫌がらせてしまうようなら直ぐに引っ込める予定だった指先。だけど、その必要はなさそうだ。
 自分から身体を摺り寄せてくる鹿に、まゆはふわりと笑むと鹿の短い毛を撫ぜていく。
「ふわふわしてて、癖になるな」
 パンくずに夢中になっている鳥に恐る恐る手を伸ばした祐一は、羽毛の柔らかさに目を丸くさせる。
 軽く押せば、ふわりと返ってくる柔らかな感触。これはなかなか癖になってしまいそうだ。
「気持ちいいね、祐一さん」
 ご飯と野生動物との触れ合いをひとしきり楽しめば、食後なのもあって眠気が押し寄せてくる。
 パンくずを沢山食べた野生動物たちも、2人の周りで一緒になって船を漕いでいた。
「ああ……全くだな、まゆちゃん」
 遠くから聞こえる元気な鳥の囀りに、そよそよと吹き抜ける涼しい風が心地良かった。
 優しく降り注いでちらちらと乱反射してみせる木漏れ日も、一層眠気を誘うもので。
 膝に乗って丸くなっているリスやウサギの温もりを楽しみながら、まゆの背中は木の幹に、そのまま隣の祐一さんへ少し頭を預けて
 眠ってしまうのは勿体ないけれど、甘いお誘いには抗えない。
「おやすみなさい」
「うん。おやすみなさい」
 腕にもふっと集った小鳥たちを撫でる祐一の手も、徐々にペースが落ちて行って……隣で微睡むまゆに「おやすみなさい」を告げれば、優しい「おやすみなさい」が帰ってきた。
 偶にはこんな日があっても良い。少しだけお昼寝をしたら、次は何をしようか。
 そんなことを考えながら、2人の意識は夢の中へ――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花降・かなた
【風花の祈り:3人】
さあ、お弁当よ!!お待ちかね、の!!
え。私?勿論何もせずにふんぞり返ってるわ!(偉そう

と、いうわけで魅華音さんのお弁当を堪能する
くぅ、美味しい…魅華音さん美味しいわよ。きっといいお嫁さんになるわね…
あ、纏さん、そこの卵焼き取ってくださる?
(優雅に、だが全く動かない
とかひたすら食べ回れば、後は……

私、食べたらすぐ眠くなるのよね……
と昼寝。まさに自由人の自由を満喫するわ。
すやすや眠って、いい感じで起きたら花畑が目に入って
これはピンと来たわ。という事で花冠を編む。そして
隙ありっ!
二人に花冠をかぶせれば任務完了よ!
うん、二人とも可愛い!
写真撮りましょう写真。三人で!!

うーん。幸せ!


唐草・魅華音
【風花の祈り:3人】
アドリブOK

はい、お弁当ですね。
……えっと、開ける前に。味見は重ねて何度もしましたので、味の方は悪くないかと思います。たぶん。ただ……ちゃんとした料理を始めたのが最近でして。見た目が……ですので、あまり期待しないでくださいね?
(と、ふたを開ける。切り口が所々おかしく見えるサンドイッチと、形が三角形か丸かよく分からないようなおにぎりを中心としたお弁当が広がっている。)
おいしいですか?…よかった。

かなたさん、寝ちゃいましたね…もう大丈夫でしょうが、寝ている所見てると…眠くなっちゃいますね…

…ん?寝てしまいました。
写真ですか?いいですね、撮りましょう。

……?何か、ありました?


九石・纏
◆【風花の祈り:3人】
腰を落ち着けよう。

なーに、大丈夫だ。魅華音嬢、ありがとうな。
それじゃ、頂きます。
(といって、サンドイッチに齧り付く)…うん、美味い。
(サンドイッチの次は御握り、と2人が食べる分に気をつけつつも、弁当の中に箸を伸ばして美味しく平らげていく)
ん、ほいかなた嬢。

眠てるかなた嬢をよそに、
弁当を平らげた後の茶を飲んで、一息。

ごちそうさん。いやぁ美味かった。ん、2人とも、寝ちまったか。

茶片手に、静かに花畑を見やる。綺麗だ。
あいつも見たら、きっとそう思っただろう。

物思いにふけって、気付かなかった振りをして、花冠を載せられる。
おっと、こいつは一本取られた!写真?ははは、しかたねぇなぁ!



●お待ちかねのランチタイム!
 森の平和を取り戻し、無事に囚われのお姫様を助け出したのなら。
 風に揺れる色鮮やかな花畑に、頭上の青色が何処までも澄み渡る。空と緑のコントラストは言葉も要らないほどに美しい。景色、良し。
 足元には広々としたレジャーシートに、人数分のお皿やコップも完璧だ。準備も良し。
 食べ物の気配につられてやってきた野生動物たち。鳥なんか空から爛々と目を輝かせて隙が出来る瞬間を狙っている。野生動物、良――くない。慌てて追い払う。
「さあ、お弁当よ!! お待ちかね、の!!」
 準備は整った。邪魔者は居なくなった。
 花降・かなたのよく響く大きな声に驚いたのか、花の蜜を吸っていた蝶の群れが一斉に飛び立つ。
 平和の戻った森でお昼タイムにすることなんて、お弁当を食べる以外に存在しないのではないだろうか。後は蓋を開けるだけのお弁当を前に、かなたのテンションは最高潮を迎えていた。
「はい、お弁当ですね」
 無邪気なかなたとは正反対に、唐草・魅華音は妙に畏まってレジャーシートの上にちょこんと正座してしまっている。そしてお弁当に添えられた両手は、蓋を開く寸前で固まっていた。
 目の前にあるお弁当が自分とは全く関係のない存在であったのなら、かなたのようにはしゃぐことが出来たのかもしれないが……。あのお弁当は、魅華音当人がそれはもう頑張って作ったもので。
「……えっと、開ける前に。味見は重ねて何度もしましたので、味の方は悪くないかと思います。たぶん」
 念には念を。味は悪くない。そう、悪くなかったのだが。
 味は、と魅華音が思い返すのは、お弁当作りの最中のこと。味はともかく、見た目にちょっと失敗してしまった自覚は……大いにあった。
「ただ……ちゃんとした料理を始めたのが最近でして。見た目が……ですので、あまり期待しないでくださいね?」
「なーに、大丈夫だ。魅華音嬢、ありがとうな」
 蓋を少し持ち上げ、そしてすぐにまたパタリと閉じてしまった魅華音を見て、コップにお茶を注いだり、お皿を用意したりとピクニックの準備を進めていた九石・纏は苦笑を浮かべた。
 見た目は多少不格好でも、魅華音の気持ちは十分感じられるだろうから。
 それほど気を張ることでもないと告げる纏に、魅華音も漸く決心がついたらしい。短く息を吐くと、勢いのままにお弁当の蓋を開け放った。
「え。私?」
 それにしても、お弁当を作った魅華音に、ピクニックの準備を行う纏。そして、「勿論何もせずにふんぞり返ってるわ!」と言いきっていたかなたは――。
 有言実行。お手伝いとか準備とかそういうのは、高笑いで誤魔化した。何なら、用意が整うまで気配を限りなく薄めていた。
 偉そうだけど、かなたは食べる専門係なのだ。食べる専門係なら仕方がない。たぶん。きっと。
「それじゃ、頂きます」
 蓋を開ければ、切り口が所々おかしく見えるサンドイッチと、形が三角形か丸かよく分からないようなおにぎりを中心としたお弁当が広がっていた。他にも、少し焦げてしまっている卵焼きだったり、不揃いの大きさに切られたサラダだったり……。
 少々不格好だが、一生懸命作ったと伝わってくるような、温かい気持ちが伝わってくるお弁当だった。
 纏はサンドウィッチを一切れ手に取ると、さっそく齧りつく。
 魅華音は纏の反応の一挙一動を見逃さないように、緊張に満ちた表情でサンドウィッチを食べる纏をじっと見つめていた。
「……うん、美味い」
「おいしいですか? ……よかった」
 サンドウィッチを齧りつき、それから一気に破顔した纏に、魅華音もまたへにゃりと脱力した微笑みを浮かべた。
 自分で作ったお弁当を美味しいと言ってもらえることは、とても嬉しいことなのだから。
「くぅ、美味しい……。魅華音さん美味しいわよ。きっといいお嫁さんになるわね……」
 サンドウィッチを両手に、何なら自分の取り皿にはしっかりちゃっかりおかずを沢山乗せて。
 いつのまにか静かになっていたと思えば、かなたは食べることに夢中だったようだ。
 しみじみと感動しながら、しかしその手と口は止まることなく、お弁当を食べ続けている。
「あ、纏さん、そこの卵焼き取ってくださる?」
 優雅にもぐもぐと食べ進めるかなた。だが、全く動かない。かなたの動く範囲は、お箸が届く範囲内だけなのだから。
「ん、ほいかなた嬢」
 サンドイッチを食べ終えた纏は、おにぎりに齧りついていた。
 おにぎりを咀嚼しながらかなたに卵焼きを差し出せば、一瞬で卵焼きがかなたの口の中へ。
 威勢の良い食べっぷりに微笑み、しかし魅華音とかなたの食べる分にも気を付けつつ、纏はお弁当をバランス良く食べていく。
「私、食べたらすぐ眠くなるのよね……」
 自由人なかなたは、何処までも自由だった。
 沢山食べ回って、お腹はいっぱい。「ごちそうさまでした」の声と共にレジャーシートにころりと寝転べば――一瞬で眠りの世界へ。
「かなたさん、寝ちゃいましたね……」
 瞬き一つする間に眠りに落ちたかなたに、魅華音は驚きのあまり目を丸く見開いている。「お昼寝スピード自慢大会」とかあったのなら、きっとぶっちぎりで優勝を飾れるくらいの驚異的な速度だ。
「もう大丈夫でしょうが、寝ている所見てると……眠くなっちゃいますね……」
 もう幻覚の心配は無いだろう。それでも、すやすやと気持ち良さそうに眠るかなたを眺めていれば、自然と自分まで眠くなってくるもので。
 ふわと小さく欠伸をした魅華音もまた、かなたの隣ですうすうと眠りにつく。
「ごちそうさん。いやぁ美味かった。ん、2人とも、寝ちまったか」
 ボリュームたっぷりのお弁当も、3人で賑やかに食べ進めればあっという間に空になった。
 お弁当を完食し、お茶を飲んで一息ついていた纏は、いつの間にか眠ってしまったかなたと魅華音に、そっとブランケットをかけていく。
 と、そう間を置かずに2枚あるはずのブランケットを、両方ともかなたがぐいっと引っ張って持ち込み始めて。それに負けじと魅華音が引っ張り返し――かなたと魅華音がブランケットを取り合う様に苦笑いを浮かべながらも、纏の視線は花畑を捉えていた。
 怖いものなんて何もない。花が芽吹き、陽光が差しこむこの森には。
 夜に閉ざされた故郷にも、いつかこのように花々が咲く日が来ることを願って。
(「……綺麗だ」)
 あいつも見たら、きっとそう思っただろう。
 問いかけに答えるようにして、纏の手に持つカップにふわりと花弁が一片。音もなく訪れた。
「隙ありっ!」
 そうして暫くの間、花畑を眺めながら物思いに耽っていた纏。背後からガサゴソと何かを企むように響いてくる盛大な物音には、気付いていない振りをして。
 こっそり起き出したかなたが花畑で花冠を編んでいる姿なんて、見ていないし、気付いてもいない。そのはずである。
「おっと、こいつは一本取られた!」
 さも驚いた、という風を貫きつつ後ろを振り向けば、「任務完了よ!」としっかり顔に書かれているかなたと目が合った。
 得意げな表情でドヤるかなたは、不思議と憎めない。
「……ん? 寝てしまいました……? 何か、ありました?」
 賑やかな話し声に起き出した魅華音の頭にも、纏の頭を彩る花冠と同じものが乗せられていて。眠っている最中に、かなたに花冠を被せられていたようだ。
 だが、魅華音は頭の上に乗るそれに気づいていないらしい。かなたが込み上げる笑いを押し殺して、魅華音の頭をちらりちらり。
「二人とも可愛い! 写真撮りましょう写真。三人で!!」
「写真ですか? いいですね、撮りましょう」
「写真? ははは、しかたねぇなぁ!」
 言い終わるか終わらないかのうちにカメラを構えて、すっかり撮影モードのかなたに巻き込まれるようにして。
 魅華音と纏がかなたの方へと身体を寄せれば、その瞬間、森に響き渡るのは軽快なシャッター音だ。
「うーん。幸せ!」
 画面に映る、花冠を乗せた3人の姿。画面を見て、魅華音も漸く花冠に気が付いたよう。
 記憶はいつか薄れてしまうのだとしても。写真として形に残せば、今日この一日の想い出が永遠に残るから。
 今日この日の想い出を振り返る未来が、早くも少しだけ待ち遠しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィゼア・パズル
常日頃戦闘にのみ特化している相手を労う日を作っても良いかと思い、森へ向かう。自分が荒らしてしまった場所は…その内、新しい生態系が出来るだろう。彼らの生命力を侮りはしない。

「気持ち良いか?フロゥラ。」
攻撃のためではなく相棒の為に星脈精霊術を使用。木々の間を縫う様に飛び回る精霊を見上げながらのんびりと弁当を広げる。風呂敷には色とりどりの鉱石。別の場所から採ってきたとっておきのものだ。
嬉しそうな梟を見れば連れて来て良かったと安堵する。
「ホッホゥ」と話かけてくる相手に笑いかけよう
「そうそう浮気する訳がないだろう?」
梟の形を作る彼女にのんびり笑いかけ、幹を背に鉱石を口に含んだ



●緑纏う森の賢者と共に
 自然の驚異的な生命力を侮ってはいけない。
 少しばかり傷付けられたとしても、その内に新しい生態系を築き上げ、すっかり元の森に戻る日が訪れるのだろうから。
 目的の場所へと向かう道すがら、ふと自分が空飛ぶオトシゴたちとの戦闘で荒らしてしまった場所がこの辺りだったことに気が付いて。ヴィゼア・パズルはちらりとその場所に視線を向ける。
 抉られた地面に、刈られた草花。戦闘後を彷彿とさせる見た目であったが、植物たちはそんなことなど気に留めることもなく、その身を風に揺らしている。
 この様子なら、すっかり元通りになる日も近いのだろう。自然の生命力に賞賛を送りながら、ヴィゼアは再び歩みを進めた。
「気持ち良いか? フロゥラ」
 木漏れ日が雨のように降り注ぎ、点在する木々の隙間を潜り抜けて地面にまで潜ってきている。
 草地に疎らに生える木々を縫う様にして飛び回るのは、緑色の光を纏った愛らしい妖精たち。
 右へ左へステップを踏んで、時にはくるりと一回転なんかもしたりして。精霊は舞い踊るかのように、ひらりひらりと木々の間を飛んでいた。
 精霊の飛び交う枝葉を見上げながら、ヴィゼアは木陰に腰を下ろして弁当を広げ始めている。
 風呂敷を解くヴィゼアの肩にとまっているのは、梟の姿を形作る風の精霊フロゥラだ。翼を少しだけ広げて風を浴びる彼女に問いかければ、気持ち良さそうに『ホゥ』と鳴いた。
 日頃は戦闘翔けるにばかり呼び出している彼女を労わる為に訪れたのだが、此処には想像以上の光景が広がっている。
「来て良かったな」
『ホホゥ』
 波間を漂っているかのように現れては消えてを繰り返す陽の光に、淡い燐光を纏いながら空を翔ける精霊たち。時折零れ落ちる木の葉に、遠く澄み渡る初夏の空。
 嬉しそうに精霊たちに交じって空を飛び始めたフロゥラを見上げながら、ヴィゼアは風呂敷の中に入っていた鉱石のうちの一つに齧りついた。
 深海のような藍色に、陽光のような金色、炎を閉じ込めたような赤色まで。この色とりどりの鉱石は、別の場所から採ってきたとっておきのものだ。
 パサパサと自分の頭上を旋回するフロゥラの姿に、ヴィゼアは来て良かったと安堵の息を吐き出して。
『ホッホゥ』
「そうそう浮気する訳がないだろう?」
 上空から話しかけてくるフロゥラに、くすりとヴィゼアは笑いかける。
 木の葉と遊ぶ精霊たちに、煌めきを宿す手元の鉱石たち。美しいものは多いが、そうそう浮気する訳が無いのだから。
 ゆったりと幹にもたれかかったヴィゼアは、爽やかな風を感じながら、鉱石を口に含んだ。
 楽しそうなフロゥラと共に、此処でもう少しのんびりしていくのも悪く無いだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント
◆□
太い木の幹に背中を預け
ただ静かに目の前の景色を眺める

木の枝に止まる小鳥たち
視界越しに自分の腕を翳して
此方に来てくれないか、そう思ってみる
けれど彼らはそのまま青い空へ飛び立っていった
森の動物たちも
遠くから様子を伺っているような視線だけは感じる

…彼らと意思を通わす術を、俺は持っていない
こんな時は少し残念だと思う
話が出来れば演奏会の観客になってくれただろうか、と

自身が曲を奏でる時は何かに向けてだ
それは客であり、人である事が大半だが
場所や自然に向けての時もある

今日はこの森が聴き手かな

彷徨う旅路の最中
再びこの場所を訪れることは恐らく無いだろう
だからお別れと
素敵な景色を見せて貰えた感謝の気持ちを込めて



●森の音色
 其処では音が世界の全てを支配していた。
 小鳥たちの歌声に、風の走り抜ける音。木々の囁き声に、野生動物の鳴き声。
 時に重なり合うことはあっても、互いの旋律を邪魔することは決してない。森に響く無数の音が重なり合って、不思議な一つの音楽を奏でているようにも聞こえて来て。
 太い幹に背中を預け、暫くの間森の奏でる演奏を静かに聞き入っていたノヴァ・フォルモントは、閉じていた瞼をそっと開けた。
(「此方に来てくれないか」)
 目を開けた先、真っ先に見えたのは木の枝に止まった数匹の小鳥たちの姿だ。
 白に青、緑色に黄――思い思いの舞台衣装に身を包んだ彼らは、自分たちを見つめるノヴァに気付くことなく、歌を口遊んでいる。
 楽しげなその様子にノヴァは小鳥たちへ腕を翳してみるが……彼らはそのままノヴァに気付くことなく、青い空へと飛び立っていってしまった。
 身体は小さくも、翼を大きく羽ばたかせて。遠くの青を目指して飛んでいく小鳥たちの姿は、あっという間に霞んで見えなくなる。
 ノヴァの手元まで届いたのは、小鳥たちが飛び立った瞬間にふわりと零れ落ちた小さな羽根が一つだけ。
 今度は森の動物たちを呼ぼうにも、彼らの姿を見ることは叶わない。
 木の影や草の隙間。遠くから、様子を伺っているような視線や気配は感じるのだが。
(「……彼らと意思を通わす術を、俺は持っていない」)
 小鳥のような歌を口遊んだり、動物たちの言葉を話したりすることが出来たのなら。
 もしそれが出来たのなら、彼らは自分の周りに集まってくれただろうか。
 小鳥の置いていった羽根を太陽に透かしながら、少し残念だと思うノヴァだった。
 話が出来れば演奏会の観客になってくれただろうか。なってくれたのかもしれない。
(「今日はこの森が聴き手かな」)
 人、動物、自然。
 ノヴァが曲を奏でる時には、必ず向こう側に聴き手となる「何か」が存在する。
 客とも呼べるそれは人である事が大半だが、時には場所や自然である時もあるのだ。
 今回は、この森が聴き手だった。
(「再びこの場所を訪れることは恐らく無いだろう」)
 終着点へと辿り着く「いつか」を目指して、彷徨う旅路の最中。
 多くを語らないノヴァだが、旅路の理由はその胸の奥に確かに存在しているのだ。
 旅路の通過点でしか過ぎないこの森に訪れることは、恐らくもう無い。
 だから、お別れと素敵な景色を見せて貰えた感謝の気持ちを込めて、と。三日月の竪琴で爪弾くのは、ゆったりとした旋律の音楽だ。
 この森の次は、どんなところに辿り着くのだろうか。
 ノヴァの旅路は、まだまだ続いていく。夜が訪れるまで。旅路の果てに辿り着くまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

事件が無事解決して本当に良かったわ
折角の再会の日が『永遠の別れ』になってしまうなんて
そんなの悲しすぎますもの

落ち着いたらわたくしたちもピクニックを楽しみましょう
この時期は様々な野草やハーブが花開く頃
ラベンダーにカモミール、ウスベニアオイの花を摘んで

お昼には草むらに座り、お弁当にしましょう
バスケットに詰めたサンドウィッチを二人で
傍らの樹木に絡むハニーサックルの花を見つけ
そっと摘み取って甘い蜜の香りを味わうの

幸せね
だけど時は移ろい過ぎゆくものだから
日が暮れる前には街に戻りましょう
美しい風景を心に焼き付けて

もし夢に囚われるようなことがあっても
必ずあなたの元に戻るわ
今日の思い出を、決して忘れない


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

平和だな
だが先刻のような『平和すぎる』違和感がない
花は咲き鳥は歌う
あるがままの自然の姿

草むらに座り花を摘む時の
昼餉を楽しみ屈託なく笑う時の
ヘルガの姿はとても愛らしい

彼を待ち焦がれた娘の孤独も
彼女を探し求めた青年の不安も
痛いほどに分かる
もしヘルガを失ったら、俺は……

ああ、そうだな
俺たちは夢想になど逃げたりはしない
必ずこの現実で、生きて幸せになるのだと

離すものか
決してお前を死の淵に追いやったりなどしない
どんな罠にも誘惑にも、決して二人の絆を引き裂かせなどしない
お前の帰る場所は、いつだってここにある
必ずお前を守ってみせる

今日の思い出を心に刻み
明日からまた、新たな日々を歩もう



●新たな日々を
 娘と青年が町の方へと歩いていく後ろ姿が見えなくなるまで。
 その後ろ姿をずっと見守っていたヘルガ・リープフラウは、2人の姿が見えなくなったところで漸く口を開いた。
 安堵のため息と共に、ヘルガの横で同じく2人を見送っていたヴォルフガング・エアレーザーにニコリと微笑みかけて。
「事件が無事解決して本当に良かったわ」
 本当に、何事も無くて良かった。
 危うく、最高の再会の日が、最悪のお別れの日になってしまうかもしれないところだったのだから。
 もしそうなってしまっていたら、青年は心に一生癒えない傷を負うことになっただろう。
「折角の再会の日が『永遠の別れ』になってしまうなんて、そんなの悲しすぎますもの」
 だから良かったと微笑むヘルガに、ヴォルフガングもまたふわりと柔らかな笑みを返す。
「ああ。やっと訪れた平和だ」
 咲いては散っていく花々に、草を食む鹿の姿。風と一緒になって流れる雲に、空へと飛び立つ小鳥たち。
 森は変わることなく、今日という日常を謳歌している。
 しかし、先刻のような『平和すぎる』という違和感はもう、ない。空飛ぶオトシゴたちと共に消えてしまったらしく、何処にも感じられなかった。
 花は咲き、鳥が歌う。
 あるがままの自然の姿が、目の前に広がっているだけだった。
「わたくしたちもピクニックを楽しみましょうか」
「そうだな」
 夏を目指して歩み出したこの初夏の季節は、丁度様々な野草やハーブが花開く頃だ。
 森の中でも町に程近い場所では、町から運ばれてきたと思しきハーブの姿を目にすることが出来た。
 庭園で目にするよりも幾分か痩せてはいるが、一心に空へと紫色の花を伸ばしているラベンダー。こんもりと小さな山のように勢い良く茂るカモミールに、一際大きなウスベニアオイ。
 丁寧な手つきで一つ一つ花を摘んでいくヘルガの様子を見、ヴォルフガングもまたヘルガの動作を真似るように花を摘み始めた。
「丁度良い頃合いかしら」
 自然を壊さない程度に花を摘めば、時刻は丁度お昼時になっていた。
 木陰に座り込んだ2人は、バスケットに詰めたサンドイッチを片手にランチタイムの一時を過ごす。
 背中を預けた木にハニーサックルが絡んでいることを気付いたヘルガは、そっと花を摘み取って甘い蜜の香りを楽しんでいた。
(「草むらに座り花を摘む時も、昼餉を楽しみ屈託なく笑う時も。ヘルガの姿はとても愛らしい」)
 瞳を軽く伏せてハニーサックルの香りを味わうヘルガの姿に、ヴォルフガングはそっと頬を緩めていた。
 ヘルガの動作や表情。そのどれもが愛おしい。優劣など、とても付けられない程に。
(「もしヘルガを失ったら、俺は……」)
 愛おしいからこそ、決して喪いたく無い。目の前でふわりと微笑む、大切な存在を。
 最愛を知るヴォルフガングだからこそ、彼を待ち焦がれた娘の孤独も、彼女を探し求めた青年の不安も――痛いほどに、それこそ自分のことのように理解できた。
「幸せね」
「ああ、そうだな」
 柔らかく微笑めば、それに応えるように笑みが返ってきて。自分の名を呼ぶ愛おしい声に、くるくると万華鏡のように移り変わる表情。
 隣に大切な存在が居るということ。独りではないということ。それを実感させられる。
 幾ら甘美な夢であっても、傍で笑む最愛の温度までは創り出すことは出来ないだろうから。
 だから、ヘルガもヴォルフガングも現実を歩むのだ。
(「俺たちは夢想になど逃げたりはしない。必ずこの現実で、生きて幸せになるのだ」)
 この胸に抱く理想を実現させ、それを見届けるためにも。歩みは止まらない。
「だから、離すものか」
 この幸せを護るために、ヴォルフガングは誓う。
 何があったとしても、愛らしいヘルガのことを離しはしまいと。
「決してお前を死の淵に追いやったりなどしない。
 どんな罠にも誘惑にも、決して二人の絆を引き裂かせなどしない。
 お前の帰る場所は、いつだってここにある――必ずお前を守ってみせる」
 ヘルガの手を取り、瞳を真っ直ぐに見つめて真摯に告げれば。
 「ありがとう。ヴォルフ」とヘルガは頬を薄桃色に染めて花開くように表情を緩めた。
「ええ。もし夢に囚われるようなことがあっても、必ずあなたの元に戻るわ」
 最愛へ続く道標は、どんなことがあっても見失うことは無いだろう。
 そう言いきれるだけの日々と時間を、2人で過ごしてきたのだから。この強固な絆は、例え『過去』であっても断ち切ることは出来ない。
 それに今日だって、花を摘み、昼食を共に摂り。2人で過ごす時間が長くなるほどに、その分だけ、また絆が強くなるのだから。
「時の移ろいは早いものね。日が暮れる前に、街に戻りましょう」
 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
 サンドイッチを食べ終えのんびり木陰で過ごしたり、花を眺めていたりすれば、あっという間に夕暮れ時になってしまった。
 輝きが増した紅に染まる森の風景も、また美しくて。
 今日見た光景を、想い出を、決して忘れないように。心に刻み付けたヘルガとヴォルフガングは、町へと向かって歩き出す。
 どちらからともなく手を絡め、仲良く寄り添って。
 明日からまた、新たな日々を歩むために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
【星雨】
「何とかなったようね」
無事解決して何より
帰るまではもう少し時間がありそうね
「さて、どうしましょうか?」
存外好奇心旺盛な騎士が今興味を向けるものは何かと微笑む

「なら私からはこれを」
首飾りに触れUC発動
出すのは白兎のガーデンピックが刺さる一つの鉢
咲いているのはチロリアンデージー
「沢山あって困ったから貰ってほしいと言われたの。これ、貴方が育てて頂戴」
日頃教えている薬草ではないけれど、植物だもの
本当はアルダワにて不思議な種を妖精の言葉で祝福して咲かせた特別な花というのは内緒
「この花冠、大事にするわ。有難う」
スターリーアイズにDay's eye(デージー語源)を返す事になるなんて本当に面白い話ね


アレクシス・ミラ
【星雨】


「ああ。…2人が再会できて本当によかった」
帰るまでもう少し時間があるなら…
「レディ。君の時間を、少し僕にいただけないだろうか」
思いついた事があるんだ

向かう先は花畑
少し貰うね、と摘むのは小さめの矢車菊とブルンネラスターリーアイズ
昔、母や街の人から教わった記憶を辿りながら
矢車菊の花の指輪に、ブルンネラを編み込んで
フェアリーの花冠に
「…レイン先生。これを受け取っていただけますか」
小さな紅茶と薬草の師匠
貴女のおかげで僕の世界は確かに広がったんだ
感謝と信頼、そして星の祈りを込め
彼女に花冠を被せるよ
…花を貰うとは思わなかったけど
僕にとっては『師からいただいた特別な花』だ
「ええ。…大事に育てます」



●その目に映すは
 囚われのお姫様も、幻覚を宿していたこの森の花畑も。
 一時はどうなるかと思ったけれども、無事に行方不明事件を解決できて何よりだった。
 娘にとっても騎士の青年にとっても大切な思い出の場所なのだから。幻覚の晴れたこの森が、再び『過去』に支配されることが無いようにと祈りながら。
「何とかなったようね」
 可能ならば……もっとはっきり言ってしまうのなら、二度と迷子にはならないで欲しいもの。
 人騒がせな白鳥の王女様にやれやれと頭を振りながら、氷雫森・レインは呆れたようにほっと息を小さく吐いた。
 もう警戒する必要もなく、漸く一息つけるのだから。
「ああ。……2人が再会できて本当によかった」
 平穏の舞い戻った花畑を眺めながら、アレクシス・ミラもレインの言葉にコクリと相槌を打つ。
 バッドエンドを迎えたかもしれない物語を、自分たちの手で護ることが出来たのだ。
 無事に帰路に着いた2人の姿を思い起こしながら、これ以上のハッピーエンドは無いと心の中で言いきった。
「さて、どうしましょうか?」
 事件を無事に解決したのだから、真っ直ぐに帰ってしまっても良いけれど。
 時間は少し残されている。平穏の戻った森で、余韻に浸りながら少しばかり寄り道をしていくのも悪くないだろう。
 雨の妖精はくるりと翻って、好奇心旺盛な騎士に微笑みかける。
 今、アレクシスが興味を向けているものはなんなのだろう。花畑に、動物に、ベリーに……傍らの青い瞳は、ちらちらとあちこちを彷徨っている。きっと、色々なものが気になっているに違いない。
「レディ。君の時間を、少し僕にいただけないだろうか」
 森を漂っていた青色が漸く一つの場所に留まって。色溢れる花畑を瞳の向こうに宿したまま、アレクシスはレインに向かって恭しく右手を差し出してみせた。
 思いついた事があるのだ。だから。
 悪戯な微笑みで誘いかける弟子の姿に、「仕方ないわね」という風を装いながらも――レインはそっと小さな手を重ねた。
 手を取ってアレクシスがエスコートする先は、彼の視線が止まった先。色鮮やかに花々が咲き誇る、花畑だ。
(「少し貰うね」)
 赤に橙、黄色に桃色に水色……。種類も色も関係なく入り混じった花畑は、自然が作り出したパレットのようだった。
 その中の一色、自然のパレットの中から青色を見つけ出したアレクシスは、花畑をかき分け一直線に目的の花が咲いている場所へ。
 真っ白な花弁に、端を彩る青色がお洒落だ。少し腰を下ろして、これから迎える夏にぴったりの涼やかな色彩を纏うブルンネラスターリーアイズに微笑みかければ、花もアレクシスに挨拶を返すようにふわりと揺れる。
 ブルンネラスターリーアイズを摘めば、お次は近くに咲いていた矢車菊の方へ。
 小花と同様に、南の海のような澄んだ青色を閉じ込めた矢車菊を摘んでいく。
(「確か、こうやって」)
 小柄なフェアリーに似合うように、小さめの花を選んだ。
 今はもう、自身の記憶の中に残るだけとなった母や街の人々の想い出。そんな彼らに、昔教わったことがあった。
 記憶を手繰り寄せながらアレクシスが編み進めるのは、矢車菊の花の指輪。そこにブルンネラスターリーアイズを絡ませるように編み込めば、フェアリーの花冠の完成だ。
「……レイン先生。これを受け取っていただけますか」
 身体は小さくとも、その知識は海よりも広く。アレクシスの小さな紅茶と薬草の師匠。
 レインのおかげでアレクシスの世界は確かに広がったのだから。
 涼やかな青の似合う彼女に向けて選んだ、彼女の為の花冠だ。感謝と信頼、そして星の祈りを込めて、花冠を彼女に。
「なら私からはこれを」
 花冠に彩られた頭を下げて優雅に一礼したレインは、首飾りに手を添えて能力を発動させる。
 よいしょっとレインが自身のフェアリーランドから持ち出したのは、可愛らしい白兎のガーデンピックが花を見上げている、一つの鉢植えだった。
 ふわふわとした丸い花が愛らしく、枝葉から零れ落ちた陽光を受けて仄かな煌めきを纏っていた。
 咲いているのは、太陽のような形をしたチロリアンデージーという花だ。
「沢山あって困ったから貰ってほしいと言われたの。これ、貴方が育てて頂戴」
 本当はアルダワで不思議な種を妖精の言葉で祝福して育てて――やっと咲かせた特別な花というのは、レインだけの内緒に。
 沢山あってさも困ったという体を装って、アレクシスへと差し出すのだ。
 日頃教えている薬草ではないけれど、植物だもの。
 きっと、薬草でなくともアレクシスは上手に育ててくれるだろうと、レインはアレクシスに鉢を手渡した。
「この花冠、大事にするわ。有難う」
「ええ。僕の方こそ。……大事に育てます」
 花を貰うとは思わなかったけど、アレクシスにとっては『師からいただいた特別な花』だ。
 一生懸命大切に育てて、鉢を覆うくらいの花を咲かせてみせよう。
 鉢が花色に染まるその日が、早くも待ち遠しいアレクシスだった。
「でも、スターリーアイズにDay's eyeを返す事になるなんて本当に面白い話ね」
 デージーの語源は、「Day's eye」――陽光の目だ。
 星の目に陽光の目を返すことになるなんて、誰が想像できたのだろう。クスリと零したレインに、アレクシスもまた「そうですね」と笑みを咲かす。
 星の目も、太陽の目も。お互いを映すために、贈られたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴丸・ちょこ
【花守】◆
さて、お待ちかねの時間だ
(羽ならぬ全身をのびのび~っとして
一等心地好さげな草布団で丸く
――なる前に)
ま、確かに一仕事して腹も減ったとこだ
偶には木の実狩りも悪くねぇ
(言うや否やリスに続きしゅたっと樹へ)
んじゃ、どっちがより甘い実を探し当てるか勝負だ

(持ち前の鼻と野生の勘
そして打ち解けたリスとの会話を元に
たんまり実を見つけて戻り)
ふふん、どうだ
――おい、ガキ扱いするな
(花冠被せられ抗議しつつも
満更でも無さげなドヤ顔で)
ほう――伊織も珍しくやるじゃねぇか
良い師に恵まれたんだな、お前達

(腹も気分も満ち足りりゃ
今度こそ平和な微睡の中へ
彼奴――亡き戦友のお陰で繋がった今を謳歌し、手向けとしよう)


呉羽・伊織
【花守】◆
あ、仲良く帰ってったあの二人みたいにさ~
春もオレと――ワァ、初対面の動物の方が睦まじい☆
(色んな意味でもふもふ達に完敗し遠い目しつつも)
ん、昼寝も良いケド、おやつにも丁度良い具合だしな
そしたら一等甘いのを採ってきてみせよう!
森や野原ならオレだって負けないからな~
(樹上から降る声に笑って乗りつつ)

(野草や実の知識も、恩師に培ったモノ
――暫しまた懐かしい記憶を思い浮かべつつ
嘗て教わった通りに甘く熟していそうな実を選んで戻り)
さ、此方も御賞味あれ!
…え、オレまで~!?
(まさかの花冠に面食らいつつも
春にも仕返しだ~と笑って被せ返し)
――ん、ホントにな

(過去と今の双方に感謝しつつ
長閑な一時を)


永廻・春和
【花守】◆
後は思う存分のんびりするのみですね
(呉羽様――をスルーし、木陰から顔出す兎さんへ手招きして微笑み)
兎さんも、宜しければ一緒におやつの時間を楽しみますか?
では私は兎さんのお好きそうなものを探して参りましょう
(と、また何やら戯れ出した約二名を見遣り)
童心に返る気持ちは分かりますけれど、迷子にはお気をつけくださいね?

(兎さん分を見つけた序でに、お二方が戻るまで花冠を編み始めて――そういえば、私もあの御方に沢山学んだなと回顧して暫し)
ふふ――お帰りなさいませ
これはお二方とも花丸で良いのでは?
(よく頑張りましたと花冠被せたり被せられたり、和やかに笑んで頷き)

ええ――良き師、そして良き友に感謝を



●過去も現在も、その全てを
 在るべき場所へと還っていった空飛ぶオトシゴたちに、少しの間祈りを捧げ。
 日常の戻った森をぐるりと見渡して安堵の息を吐き――そして、仲良く帰っていった娘と騎士の青年を見送ったのなら。
 いよいよ、待ちに待った賑やかな自由時間がやってくる。
 でも、その前に。あの2人が帰っていた先を見つめながら、初心でロマンチックな雰囲気が消えてしまう前に。呉羽・伊織には、絶対にしなければならない重要な任務があった。
「あ、仲良く帰ってったあの二人みたいにさ~。春もオレと――」
「さて、後は思う存分のんびりするのみですね」
「ワァ、初対面の動物の方が睦まじい☆」
 一緒に帰ろう。
 騎士の青年が先ほどしていたように、伊織は永廻・春和に向かってはいっと手を差し出した。
 常夏の南国に生息している気障な青年が浮かべるような、明るい笑みを貼り付けたら後は完璧――のはずなのだが、春和はまるで伊織なんか見えていないかのように真横をすり抜け、茂みから顔を覗かせたウサギに向かって微笑みかけている。
 ウサギと伊織。どうやら同じ戦いの舞台に上がる前に、伊織の負けが確定したようだ。
「……オレ、幽霊だったっけ」
 スルーどころか、そもそも居ない、見えない扱いされて遠い目をする伊織の手を、慰めるかのように鹿が舐めている。
 慰めてくれるのは嬉しい。嬉しいのだが……舌がザリザリしていて、絶妙に痛い。でも無下に出来ない。
「猫の舌はもっとザリザリしてるぞ。試してみっか?」
「いや……エンリョシマス」
 複雑な心境で鹿に愛想笑いを浮かべる伊織に、鈴丸・ちょこがにまにましながら提案をポイっと投げつける。
 しかし残念、当の本人に断られてしまった。今すぐにでもライオンを召喚できるように準備をして構えていたのだが、勘付かれていたらしい。
「ま、何はともあれ、お待ちかねの時間だ」
 もう少しでライオンにペロペロと――もっと言うと、そのままむしゃっとされたかもしれない。冷や汗を浮かべている若干一名は放っておき、見せつけるように全身をのびのび~っとさせるちょこ。
 伸ばそうにも伸びる羽はないが、その代わりにちょこの全身はよく伸びーる。
 伸びをしてそのまま、ごろんと日差しの心地良い、一等心地好さげな草布団で丸く――なる前に。
「ん、昼寝も良いケド、おやつにも丁度良い具合だしな」
「ま、確かに一仕事して腹も減ったとこだ。偶には木の実狩りも悪くねぇ」
 伊織の呟きに予定変更。言うや否や、枝を駆けるリスに続き、ちょこはしゅたっと樹へ飛び移る。
「んじゃ、どっちがより甘い実を探し当てるか勝負だ」
「そしたら一等甘いのを採ってきてみせよう! 森や野原ならオレだって負けないからな~」
 自信満々に髭を揺らせるちょこ。そんなちょこを見上げる伊織もまた、頭上から降る声に笑いつつ、この勝負に乗る気満々のようで。
「兎さんも、宜しければ一緒におやつの時間を楽しみますか?」
 背後で聞こえる賑やかな若干2名の会話はきっと、聞き間違いだ。
 誰かさんのお陰によって順調に鍛えられつつあるスルースキルを存分に発揮しながら、春和はそっとしゃがみ込む。
 茂みから顔を覗かせたウサギと目線を合わせて微笑みかければ、春和の問に肯定するかのように、ウサギの鼻先がちょこんと手に触れて。
「では私は兎さんのお好きそうなものを探して参りましょう」
 クスリと笑み零せば、「ありがとう」と告げるように一鳴きしてみせるウサギ。
 兎さんのおやつを平和に探すためにも、ヒートアップしつつある背後の2人に特大の釘を刺しておかなくては。
「童心に返る気持ちは分かりますけれど、迷子にはお気をつけくださいね?」
「分かってるって」
「迷子になるのは伊織の方だな」
 売り言葉に買い言葉。ワイワイと賑やかに「戯れ」ながらも、伊織とちょこはめいめいに散っていく。
 2人が去って静けさの戻った森で、春和は困ったように破顔してウサギを一撫でした。
 あんな調子の2人だが、不思議と憎むことはできないのだ。
「これ、とか――あとは、こっちだな」
 野草や自然、木の実の知識。それら全ては、恩師に教えてもらったものだ。
 甘く熟れる木の実を一つ手に取る度に、恩師との記憶が伊織の脳裏に浮かび上がっては消えていく。
 あの実は赤くても熟しているとは限らないとか、あっちは美味しい時期が短いから見極めが大切だとか。
 恩師に教えてもらった野草と触れ合う度に、思い浮かぶ思い出たち。
 嘗て教わった条件に全て当てはまる甘く熟してそうな身を探して、伊織は暫し森の散策へ。傍らに、恩師との想い出の日々を携えて。
「安心しろ。取って食おうって訳じゃねぇよ」
 森の中には、動物にしか歩めぬ道も存在する。
 とんと軽い音と共に枝を蹴って、木から木へ。自由自在に駆けていくのはちょこだった。
 「食べられる!?」と勘違いしてちょこに向かってきたリスとすったもんだの騒動はあったが――それもちょこ渾身の説得によって、誤解はすっかり解けていた。
 そして気が付けば、すっかり打ち解けている有様だ。どうにも誤解のお詫びに美味しい実のなる木を教えてくれるというリスの後ろを、ちょこはトコトコとついていく。
(「――そういえば、私もあの御方から沢山学びましたね」)
 もにもにっと春和が見つけてきた蒲公英の葉を、とても美味しそうに食んでいるウサギ。
 もっもっと小さな山になっていた葉っぱが徐々にその嵩を減らしていく過程に癒されながら、伊織とちょこが戻るまで春和は花冠を編んで過ごすことに決めていた。
「これは駄目ですよ」
 小さな山をぺろりと平らげ、今度は春和の編んでいた花冠をじっと見つめ始めたウサギに、めっと笑いながら注意をして。
 ウサギと共にのんびり過ごしていれば、「そういえば」で思い出す、あの御方に学んだ沢山のこと。
 あの御方と過ごした日々のことは、今でも確かに春和の胸の中で息づいていた。
「ふふ――お帰りなさいませ」
 すたっと地面に降り立つ軽い物音と、ガサゴソと茂みをかき分け満面の笑みで出てきた人影。どうやら、殆ど同時に帰り着いたらしい。こんなところでも息ピッタリだ。
 春和がちょこと伊織を微笑んで出迎えれば、帰ってきてそうそう自慢大会の開幕がするのは、いつもの流れで。
「ふふん、どうだ。――おい、ガキ扱いするな」
 ちょこがずらーっと並べて見せたのは、甘美な芳香を纏うほど良く熟れた沢山の木の実だった。
 帰ってくるなり「よく頑張りました」と春和に花冠を被せられ、抗議しつつも……上々の戦績と相まって、満更でもなさそうな様子。花冠を頭に、ドヤ顔でポーズを決めてみせた。
「さ、此方も御賞味あれ! ……って。え、オレまで~!?」
 ニコニコ上機嫌な笑顔と共に、伊織は手に隠し持っていた真っ赤に色付いた実を見せびらかしてみせた。
 つるりと光る皮を捲れば、いっぱいに詰まった果肉がその顔を覗かせることだろう。
 ちょこ同様に「頑張りましたで賞」として被せられた花冠に面食らいつつも、それで終わらせる伊織ではない。
 「仕返しだ~」と笑って春和に花冠を被せ返すのだから。
「これはお二方とも花丸で良いのでは?」
「ほう――伊織も珍しくやるじゃねぇか。良い師に恵まれたんだな、お前達」
「――ん、ホントにな」
「ええ――良き師、そして良き友に感謝を」
 ちょこの言葉に、間を置かずに肯定を返す伊織と春和。
 屈託ないその笑顔が、彼らと師の絆を確りと表していた。
 この想いが生きている限り、忘れることはないだろう。大切な人と共に過ごした日々は。
(「腹も気分も満ち足りりゃ、漸くお待ちかねの時間だな」)
 集めてきた沢山の実に舌鼓を打ちつつ、賑やかな軽食を終わらせば、ちょこは今度こそ平和な微睡の中へ。
 亡き戦友のお陰で繋がった今を謳歌すること。それがきっと、彼奴への手向けになる。
 くるりと丸まったちょこにつられ、伊織と春和も眠りの海へ。
 過去と今の双方に感謝しながら、長閑な一時を過ごすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月20日


挿絵イラスト