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さくら、溯螺

#サクラミラージュ #桜 #心情系シナリオ

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#サクラミラージュ
#桜
#心情系シナリオ


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●春の梢に
 桜の花混じる柔らかな春の風が、頬を撫でる。
 心地よい空気に抱かれ、今にも落ちてしまいそうな瞼の裏に浮かぶのは、いくつも浮かんでは消えていく顔。
 誰かに寄り添う姿。そっと触れるその手。
 それを優しく見つめる存在。
 風にまかれた花びらが、くぅるりとらせんを描いて舞った。
 まるで、愛しい思いを手繰り寄せるかのように。

●美事散り
「咲いた花はいずれ散る、と言うけれど、散っても散っても終わらない花もあるのね」
 ふうむと唸り、ジェニファー・リェン(アンサーヒューマンのサイキックキャバリア・f30007)はふらふら袖を振った。
「サクラミラージュでは、1年ずっと咲き続ける幻朧桜という木があるそうね。とても不思議なのだわ。そんな桜を求めて、さまようオブリビオン……ええと、サクラミラージュでは影朧というのね? それが現れるのよ」
 影朧は皆、多かれ少なかれ傷つき生まれる弱いオブリビオン。なかでもこの影朧は特にはかなく、弱く感じられる。余程の辛い過去が具現化したのだろう。
 敵は倒すもの。そう教え込まれているジェニファーには、影朧のその荒ぶる魂と肉体を鎮めた後に桜の精の癒やしを受ければ転生できるという事情が不可解なようで、しかし、そういう世界なのだとも理解している。
「どういう敵なんだ?」
 問いにグリモア猟兵はすっと醒めた表情になる。もっとも理解できないという表情に。
「何者でもあるし、何者でもない。それは、あなたに『寄り添う存在』。家族、恋人、親友、寵獣。それは時に癒しとなり、時に毒となる。影朧だけでなく、自身の弱さ、甘さ、脆さが敵となるかもしれない」
 抑揚のない淡々とした言葉。普段愛想よくふるまうジェニファーは、真には人の心が分からない。分からないものは脅威となりうる。であれば排除すべきだ。
「それを大切にすることは否定しないけれど。……もしくは、それが強くなる要素となりうるのかもしれない」
 よく分からないと口にして、グリモア猟兵はふうっと息を吐くと表情が戻る。
「その影朧は、叶えられなかった願いを叶えようと、帝都の大通りに現れるわ。人が多くいる場所、ね」
「……人が多くいる場所?」
 反芻する猟兵に、グリモア猟兵は肩をすくめるにも似た仕草をしてみせた。
「大切な人と過ごすこと……いえ、正確ではないわね。大切な人と過ごすさまを眺めること。ジェンには理解できないけれど、あなたたちには分かるのかしら」
 誰かと過ごすその時間。優しく、温かく、切なく、いとおしい。それを眺め見守りたいと思う気持ち。
 ねえ、あなた。幸せですか? それとも、別れの前のわずかな逢瀬ですか?
 どちらにしても、このひとときは大切な時間。
「影朧は桜の下で行われる彩結びの祭りへと向かおうとするの。ええ、大切な思いがたくさん集まる場所、だわね」
 それは、結び紐を親しい誰かに贈る祭り。
 友人、恋人、家族、もう亡き人へ、親愛を愛情を感謝を込めて。
 その場で相手に結ぶも良し。亡き人へ弔いに燃やし天に贈るも良し。
 どうか想いが結び届きますように。
 そんな、ささやかなイベント。
「サクラミラージュでも、帝都を脅かす影朧は即座に斬るそうね。でも帝都桜學府は「影朧の救済」を目的としていると聞いたわ。ということは、脅威でないなら必ずしも滅する必要はない」
 或いは放っておいても消滅してしまうだろう。
 だから、最後の願いをかなえるために、影朧を支えてやらなければならない。
 しかし影朧が突然に街中に現れれば、人々は混乱に陥り騒ぎになってしまうだろう。そのため、周囲に被害が出ないよう十分に注意し対策する必要がある。
 では準備が済み次第速やかにかかるように、と簡潔に告げ、グリモア猟兵は猟兵たちを改めて見た。
「それでは、よい結果を祈っているよ」


鈴木リョウジ
 こんにちは、鈴木です。
 今回お届けするのは、彩結びと桜。

 第1章【ボス戦】帝都の大通りに現れた影朧『寄り添う存在』との戦闘です。『寄り添う存在』は、家族や友人、ペットなど、あなたにとって心許す大切な存在の姿を取ります。
 人によって見える姿が違いますが、『そう見えているだけ』なので、複数存在するわけではありません。また、倒してもすぐには消滅しませんので、普通に倒してください。
 第2章【冒険】周囲の一般人に被害を出さないよう注意しながら、目的地まで影朧に同行してください。意図的に攻撃的な態度や行動をとらなければ、影朧も攻撃的な行動に出ません。
 第3章【日常】桜の下で行われる、好みの色の飾り紐を親しい誰かにプレゼントするお祭り、彩結びの祭りを楽しんでください。人々が楽しむさまを眺め見守るという目的を達成した影朧は消滅します。

●彩結びの祭りと飾り紐
 桜を愛でながら、友愛、愛情、感謝など様々な思いを込めて飾り紐を相手に贈る祭りです。もうどこにもいない相手に贈る場合は、篝火などにくべて桜花舞う空へ贈ることになります。
 飾り紐を贈るほか、酒類以外の一般的な飲食物の店が出ているので、食べたり飲んだりして過ごすこともできます。
 プレイングに贈る旨の記載がない場合は、いろいろなんやかんやあって贈ったことになります。
 飾り紐の色やデザインなどについて指定がある場合は、多少のニュアンスなら読み取りますので、文字数の負担にならない範囲でお願いします。お任せもOKです。

●お願い
 一緒に行動される方がいる場合【○○(ID)と一緒】と分かるようにお願いします。お名前は呼び方で構いません。
 グループでの場合はグループ名をお願いします。
 複数名で行動される場合、リプレイ執筆のタイミングがずれてしまうのを避けるために、プレイングの送信タイミングを可能な限り同日中に揃えてください。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『寄り添う存在』

POW   :    あなたのとなりに
【寄り添い、癒したい】という願いを【あなた】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    あなたのそばに
【理解、愛情、許し、尊敬、信頼の思い】を降らせる事で、戦場全体が【自分が弱くあれる空間】と同じ環境に変化する。[自分が弱くあれる空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    あなたはもう大丈夫
自身の【誓約。対象の意思で別れを告げられ消える事】を代償に、【対象自身の選択で心に強さを持ち、己】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【過去を振り切った強さ】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠宮落・ライアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 春の陽気に誘われ、人々の語り笑う声がさざめく。
 帝都は今日も活気に満ちて、しかしそんなまばゆさにどこか陰りを落としている。
 けれど、なぜだろうか。
 人々が不意に感じたのは、いとおしいぬくもり。困惑ごと優しく抱き留めて、心配しないでと囁いた。
 ふと顔を上げたひとりが目にしたのは、何だったか。
 だが惑わされてはいけない。
 それは影朧――人に禍い為す存在。
「影朧……!」
 誰かが指摘した途端に笑い声は悲鳴と変わり、さざめきがざわめきとなった。
 早く逃げろ、いやユーベルコヲド使いを呼べ、それとも帝都桜學府だ、と皆口々にし、影朧から距離を取っていく。
 姿をひとつと定めぬ影朧は、桜舞い散る空の下、怯える人々をゆるり見回す。
 あなたに寄り添い、あなたのいとおしいひとときを見届けさせて。
 影朧のかすかな声は、誰にも届かない。
音海・心結
※連携不可

眼前に現れるは宝石のように耀く水色の兎
こんなにかわゆい兎が影朧なのですか?
ユイと見比べますがどこをどう見ても兎ですねぇ
違いとゆえば翼が有るか否か

……おいで
手を差し伸べれば元気いっぱい近寄ってくるのですか
単純とゆうか人懐っこいとゆうか
……ふふり
似てますね

両手で抱き上げましょう
かわゆかわゆ
愛でる存在が増えて嬉しいのです

……ん、ユイ
嫉妬してるのですか?
怒らないでください
ユイのこともちゃんと大切ですよ
この子を愛でられるのは今だけ

…………
そろそろ、ですか
子守唄を歌ってあげるので少し眠ってくれますか?
最期の刻を苦しまなくてよいように
みゆから精一杯の愛情、です

……貴方はみゆに愛されて幸せでしたか?



 帝都の大通りへ突然現れた影朧に動揺する人々が、しかしさほど混乱に陥っていないのは凶威を影朧から感じられないからか。
 寂しい、悲しい、どうかそばにいて。そんな心の隙間に入り込む影朧は、文字通り『寄り添う存在』として甘く切ない毒となり侵していく。
 周囲に被害の出ないよう安全を確保してから、猟兵たちは影朧と相対する。
 ミルクティ色の髪を春風に似た気配に撫でられ、音海・心結(瞳に移るは・f04636)の眼前に現れるは宝石のように耀く水色の兎。
「こんなにかわゆい兎が影朧なのですか?」
 裏返せば、兎が心結にとっての『寄り添う存在』。
 彼女のそばに寄り添う、淡桃の天使な翼を生やした白兎のユイと見比べ、
「どこをどう見ても兎ですねぇ」
 違いとゆえば翼が有るか否か。
 かまってくれそうな気配を察してか軽く身をふるわせたユイと、目の前の兎を交互に見た。望めばどんな姿にも変わるのだろう。
「……おいで」
 手を差し伸べれば、呼ばれたことを理解して元気いっぱい近寄ってくる。
 単純とゆうか人懐っこいとゆうか。
 ……ふふり。似てますね。
 両手で抱き上げると、抵抗することもなく心結の腕の中に収まる。
 宝石のようだけれどその手触りはとっても優しくて暖かくて、かわゆかわゆ。
 愛でる存在が増えて嬉しいのです。
 しかし残念ながら、彼女の愛情を向けられたい存在が先にいた。
「……ん、ユイ」
 つんつんと鼻を心結に押しつけてくる。
「嫉妬してるのですか? 怒らないでください」
 この子に嫉妬されるのは今だけ。
「ユイのこともちゃんと大切ですよ」
 この子を愛でられるのは今だけ。
 愛らしい少女の内に宿る危うさをやわらげて。
 そんな時間も、長くは続かない。
「…………」
 そろそろ、ですか。
 いつまでもこうしていたい、こうさせてあげたい願いを、断ち切らなければ。
「子守唄を歌ってあげるので少し眠ってくれますか?」
 最期の刻を苦しまなくてよいように。
 ささやきとともに、少女の背に白い翼が現れた。甘やかな声で紡がれる歌は、水色の兎の姿をした影朧を弱く撃ち、苦しくないよう少しずつ消耗させていく。
 みゆから精一杯の愛情、です。
「……貴方はみゆに愛されて幸せでしたか?」
 寄り添うことは癒やすだけでなく、癒やされることでもある。
 じきに消えてしまうあなたに、慈しみを。

成功 🔵​🔵​🔴​

牧杜・詞
『寄り添う存在』:自分が殺した姉妹の姿をして現れます。

心許す大切な存在ってことになると、そうなるわよね。
最近よく会う気がするけど……これがわたしへの罰ということなのかしら?

ま、まったく罰にはなっていないけどね。
殺したことに後悔はないし、特に今回なんてまた殺せるのでしょう。

ああ……猟兵で頑張ったことへのご褒美なのかしら?

それなら解る気はするわ。
だっていままで、あの瞬間に勝る愉悦はなかったもの。

殺し方もそのときと同じにしようかな。
【新月小鴨】を抜いて【命根裁截】で綺麗に殺してあげる。
「何度でも、殺してあげるわ」

これはわたしからの『お礼』。
まがい物だったとしても、もう一度殺させてくれたことへの、ね。


夜鳥・藍
この影朧は転生を望むのだろうか?
そして私のにとっての寄り添ってくれる存在って誰だろう。心許せるのは、心託せるのはこのタロットカードだけ。
視線が怖いから仕事や買い物以外、人と接する事は避けてきたから。今だってフードで視線を遮らなきゃこういう場所に居られない。
でも誰かが大切な人と過ごすのを見るのはわたしも好きかも。だから手助けになればと占いの道を選んだのだし。

私自身はあまり戦闘経験がないし、UCの雷で感電させ他の方の助けになればいいなと思います。
できるならば他の方の戦闘を観察して参考になればいいと思います。



 耀く兎が消えていくのを見つめ、夜鳥・藍(占い師・f32891)はそっと息を吐く。
 この影朧は転生を望むのだろうか?
 そして私にとっての寄り添ってくれる存在って誰だろう。心許せるのは、心託せるのはこのタロットカードだけ。
 悲愴な生まれではない。そこそこの家柄で両親から愛されて育った。それでも彼女はどこかで孤独だった。愛されていると知っているからこそ。
 視線が怖いから仕事や買い物以外、人と接する事は避けてきたから。今だってフードで視線を遮らなきゃこういう場所に居られない。
 その視線の意味を知っている。そのとおりでないことも知っている。それでも彼女には恐怖の対象だった。
 しかし、だからと世を厭い儚んでいるわけではない。
 避けたくても、遮りたくても、そのそばにいたいと願っている。
 彼女自身のタロットカードとは別のデザインのカードが、いつの間にか彼女の手元に現れていた。より正しい……或いは望ましい未来を見させるために。
 それと気づいて、藍はカードの面をなでた。
 でも誰かが大切な人と過ごすのを見るのはわたしも好きかも。だから手助けになればと占いの道を選んだのだし。
 けれどいまだ経験浅い自分にできることは何だろう? どう戦えば?
 迷う彼女が視線を動かした先に、もうひとりの少女が佇んでいた。

「心許す大切な存在ってことになると、そうなるわよね」
 声にかすかに歓喜を含んで口にした牧杜・詞(身魂乖離・f25693)の目の前には、今は亡き姉妹の姿があった。
 忘れようにも忘れられるはずもない。ええ、一度だって忘れたことがない。
「最近よく会う気がするけど……これがわたしへの罰ということなのかしら?」
 ま、まったく罰にはなっていないけどね。
 これが罰だというのなら、罰という言葉の意味から考え直さなければならない。
 殺したことに後悔はないし、特に今回なんてまた殺せるのでしょう。
 もしかしたら、望めば望んだだけ何度でも、なのかもしれないけれど。
「ああ……猟兵で頑張ったことへのご褒美なのかしら?」
 これは私を寄り添い癒やす『存在』が、それにふさわしい姿をとったもの。
 それなら解る気はするわ。
 だっていままで、あの瞬間に勝る愉悦はなかったもの。
 あのときとまた同じ感覚を、また楽しめるなんて。
 殺し方もそのときと同じにしようかな。
 ああ、でも残念。倒すということは、様々に想像する心地よい時間も、
「これで、終わり」
 白鞘の短刀 、新月小鴨を抜いて、姉妹へと一息に閃かせ――朱が散った。
 綺麗に殺してあげる。
「何度でも、殺してあげるわ」
 これはわたしからの『お礼』。
 まがい物だったとしても、もう一度殺させてくれたことへの、ね。

 顛末に、藍は息を呑む。
 他の誰かの助けになればいいなと思っていたが、助けなど不要だった。或いは、敵が違えばそれを果たせたかもしれない。
 ああ、でも……迷いがわずかに晴れた。戦い方が分かった気がする。
「っ……!」
 影朧が姿を変えたタロットカードを、思いきって打つ。
 彼女のタロットカードを手放すことはできないけれど、時にカードを置くこともあるだろう。
 心許す存在と、いつか距離を取ることもあるだろう。
 迷う心はそのままに、それでも前へ進まなければ。たとえその足取りが恐る恐るであったとしても。
 人に触れるのも、フードを取るのも。ゆっくり、少しずつでも大丈夫。
 あなたは誰かの助けになれるのだから。ほろほろとカードが崩れていくなか、かすかに聞こえた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

瑞月・苺々子
何処からか現れ、立ち塞がるのは白い狼
大きな獣の姿に、朧げな記憶にある父の狼化した姿が思い浮かぶ

「とと……?……それとも……」
返事がある保証なんてどこにもない。それでも問わずにはいられない
……それでも、ととがここにいるはずないことは、ももにも理解できているの

「……ううん。これは影朧。危ない存在なの」
寂しい。その心の隙間に入り込もうとする影朧に、
大事な父への思いを、記憶を踏みにじらせたりしない

「せめて安らかでありたいものよね」
翠清、どうか彼をゆっくり眠らせてあげて


さようなら。おやすみなさい
ももはもう大丈夫。だって、いつかは笑顔で家族の所に帰るもの
なんて強がってみたけれど、本当は寂しくて仕方がないの



 どこか懐かしい香りを含んだ風に目を細めた瑞月・苺々子(苺の花詞・f29455)の前に何処からか現れ、立ち塞がるのは白い狼。
 大きな獣の姿に、朧げな記憶にある父の狼化した姿が思い浮かぶ。
 かすか、苺々子の心が揺れた。
「とと……? ……それとも……」
 返事がある保証なんてどこにもない。それでも問わずにはいられない。
 もしかしたらを期待してしまって。
 けれど、そっと振り払う。
 ……それでも、ととがここにいるはずないことは、ももにも理解できているの。
 彼女の願いと重なるのは当然だ。これはそうして相手の心をすくいあげようとする。
「……ううん。これは影朧。危ない存在なの」
 寂しい。その心の隙間に入り込もうとする影朧に、大事な父への思いを、記憶を踏みにじらせたりしない。
 まして手負い。人々のためにも、影朧のためにも、討たなければ。
「せめて安らかでありたいものよね」
 翠清、どうか彼をゆっくり眠らせてあげて。
 ことあらば敵を締め取り毒で冒す力を持つ白鹿は、今このひとたびは操るその蔓で白狼の姿を模す影朧を優しく絡め、悼むような花びらが降る。
 さようなら。おやすみなさい。
 別れを告げるのは、まやかしの願いへ。
 ももはもう大丈夫。だって、いつかは笑顔で家族の所に帰るもの。
 小さな手をそっと胸に当てて自分に言い聞かせるように確かめ、けれど不意に不安が心をさらう。
 なんて強がってみたけれど、本当は寂しくて仕方がないの。
 大丈夫って言っても、願いがかなうわけじゃない。強くあれるわけじゃない。
 少しだけ寂しさを映した瞳の見つめるなか、白狼の姿が消え、形定まらぬ影朧がゆらりと影を揺らした。
 あなたの寂しさは、あなたを前へ進ませる。
 強がらなくてもいいその時のために。
 葉擦れのようにささやか聞こえたそれは、まどろみに似た儚さで。

成功 🔵​🔵​🔴​

鎹・たから
見慣れた灰緑の髪
狼の耳と、最近は夏でもふあふあの尻尾
桜色の瞳

わかっています、あなたは違うのだと
彼が此処に来ているなら
まずたからに行き先を告げますからね

だから、「あなた」として
少しだけ話を聞いてくれますか

この世界に来る度に
隣に居なくても彼を思い出します
散ってしまわないか、不安になります

本当は、寂しくないですか
たからに大丈夫と言ってくれる度
苦しんではいませんか

あの子とお付き合いをしていても
たからの一番は、なびきですよ

聞いてくれてありがとうございます
影朧の「あなた」
たからはあなたの願いも、叶えたいのです

瞬きせずに見つめて、零れる桜幻に氷柱を混ぜて
その優しさが
どうか報われてほしいから



 そっと目を閉じてから開いた鎹・たから(雪氣硝・f01148)の前には、見慣れた灰緑の髪の男。
 狼の耳と、最近は夏でもふあふあの尻尾。
 そして、桜色の瞳。
 わかっています、あなたは違うのだと。
「彼が此処に来ているなら、まずたからに行き先を告げますからね」
 断言に浮かべた表情は彼のものなのか、それとも影朧のものなのか。
 泣きそうに優しい笑顔を浮かべる彼を、たからはまっすぐに見つめる。
「だから、「あなた」として少しだけ話を聞いてくれますか」
 問わずの問いにもちろんと応え、背を折り視線を……わずかに合わせず。
 きみの話を、おれに聞かせて。
 聞き慣れた声は彼のようでいてそうでない。彼の姿で彼は彼女の願いを促した。
 強いあなたの弱さを見せて。強いからこそ彼に見せない弱さを。
「この世界に来る度に、隣に居なくても彼を思い出します」
 散ってしまわないか、不安になります。
 サクラミラージュの幻朧桜は、咲けど散れども尽きることはない。
 けれど彼は、いつか散ってしまう零れ桜。
 本当は、寂しくないですか。
 たからに大丈夫と言ってくれる度、苦しんではいませんか。
 だとしても、きっと彼は笑うのだろう。きみが悲しまないように。
 傷つけたくないから傷つけてしまう、愛おしい残酷さ。
「あの子とお付き合いをしていても、たからの一番は、なびきですよ」
 真摯な告白を受け、彼は寂しげに少しだけ視線をそらす。
 なにか言いたげで、けれどなにも言わない彼へと、桜隠しの瞳をまっすぐに向ける。
「聞いてくれてありがとうございます、影朧の「あなた」」
 礼を告げると、彼の姿の影朧はやはり泣きそうに優しい笑みでうなずいた。
 とても強くて弱いきみに。
「たからはあなたの願いも、叶えたいのです」
 雪華の少女は瞬きせずに見つめて、零れる桜幻にさやかな氷柱を混ぜて降らせる。
 その優しさが、どうか報われてほしいから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と。
連携不可

まぁ、俺には記憶がねえからな。こうなった場合、当然アイシャが見える訳で。
でもよ、残念なんだけどな。本物がもういるんだわ、俺の肩に座ってさ。
そういう訳で、終わらせっかな。

つってもなー、ただでさえアイシャなんだぞ、姿自体は。
それをさぁ、本物がいるから…なんて言って、容赦なく斬ったり撃ったりは……なんかこう、風情がねえんだよなぁ。
そういう血の通わねえやり方は、何かこの場合は違う気がしてきたし。
決めた、怠け者は頑張らないって事で。

俺は何もしない。その代わり、そっちが何しても通用しない。
だから降参してくれよ。


アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調→華やぐ風
ジノ以外には通常口調
他参加者との連携不可

心許す大切な存在…
そんなの、ジノに見えるに決まってるよ…
惑わされないように、本物のジノの肩に座らせてもらう
肩に両手を添えて、体温を感じる
…うん、ジノはここにいる。
好きだよ
お互いにお互いの姿が見えてるなんて、すごく幸せ

寄り添う存在さん…
辛い過去を抱えているところは、本物のジノと同じ
あなたの心の傷が癒えるように、歌を歌いますね

大切な人と過ごす幸せを
見守るだけじゃなくて、転生して手に入れてほしいなって思う

いつものように攻撃はジノに任せて、自分はサポートに回ろうとしたけど
…あれ…?攻撃しないんだね…。
少し意外だけど、なんだか嬉しい



 舞い降る桜の花びらにまぎれて現れた風色のフェアリーに、ジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)は面倒くさそうに溜息をついた。
「まぁ、俺には記憶がねえからな」
 こうなった場合、当然アイシャが見える訳で。
 彼が見えたその相手の姿の持ち主であるアイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)は、小さな身体をふるりと震わせる。
 心許す大切な存在……。
(「そんなの、ジノに見えるに決まってるよ……」)
 今もそばにいる気怠げな青年。
 本来であれば、こんなにも心安らぐ存在はいないのに。
 心に忍びこもうとして、彼女に好かれようと愛想のいい笑みを浮かべるでなく、彼女に危害を加えようと凶気を放つでなく、よく知り見慣れた彼そのままの影朧に惑わされないように、本物のジノーヴィーの肩に座らせてもらう。
 触れる感触を確かめて、彼は影朧へと告げた。
「でもよ、残念なんだけどな。本物がもういるんだわ、俺の肩に座ってさ」
 その本物の肩に両手を添えて、アイシャは彼の体温を感じる。
 ……うん、ジノはここにいる。
「好きだよ」
 お互いにお互いの姿が見えてるなんて、すごく幸せ。
 これが影朧でなければよかったのに。
 けれど見えている存在は、彼女たちが互いに抱く想いを持ち合わせていない。あくまでも、対象に合わせているだけなのだ。
 決して、影朧自身が満たされることはない。
 そういう訳で、終わらせっかな。
 独白めいた言葉にアイシャが影朧を見つめる。
「寄り添う存在さん……」
 辛い過去を抱えているところは、本物のジノと同じ。
 彼と違うのは、自身が寄り添うばかりで寄り添ってくれる誰かがいないこと。
「あなたの心の傷が癒えるように、歌を歌いますね」
 す、と息を吸い、紡ぐは優しい旋律。
 私の声が聞こえますか?
 大切な人と過ごす幸せを。
 見守るだけじゃなくて、転生して手に入れてほしいなって思う。
 そう願いながら歌うアイシャは、いつものように攻撃はジノーヴィーに任せて、自分はサポートに回ろうとしたけれど、しかし彼は迷っていた。
(「つってもなー、ただでさえアイシャなんだぞ、姿自体は」)
 それをさぁ、本物がいるから……なんて言って、容赦なく斬ったり撃ったりは…………なんかこう、風情がねえんだよなぁ。
 そういう血の通わねえやり方は、何かこの場合は違う気がしてきたし。
 いっそ影朧が罵倒してきたり攻撃してきたりでもあれば、思いきってこちらも攻撃できただろう。
 しかし目の前のそれは、彼のよく知る姿で彼のよく知るふうに振る舞おうとしている。
 あなたが心を許し、あなたが見せない弱さを見せて。
 優しく促すように。
 だからジノーヴィーは、ひとつ息を吐いた。
「決めた、怠け者は頑張らないって事で」
 それはユーベルコードでもあり、彼の意志でもある。
 てっきり攻撃するとばかり思っていたアイシャがきょとんとして歌を止めた。
「……あれ……? 攻撃しないんだね……」
 少し意外だけど、なんだか嬉しい。
 だって、彼には自分の姿の敵が見えていて、けれど彼は攻撃をしないと言ったのだ。
「俺は何もしない。その代わり、そっちが何しても通用しない」
 そういうユーベルコードだから。或いは、たとえ敵のかりそめの姿であっても彼女に敵意を向けたくないからか。
「だから降参してくれよ」
 アイシャの姿の影朧は、ジノーヴィーの視界のなかで彼女のように振る舞うのをやめる。同様にジノーヴィーの姿で彼のように振る舞うことも。
 お互いがお互いを想うなら、影朧が彼らの心の隙間を埋めるために姿を真似る必要はない。
 どうか、あなたたちが幸せであるように。
 かすかに桜の香りを含んだ風が二人を撫で、アイシャはそっとジノーヴィーに寄り添った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

文月・統哉
対峙する影朧に重なるのは
アルダワ魔法学園の制服を着た
金髪に青い瞳の少年の姿

ルークという名の少年は
俺の一番の親友だ
出会ったのは5年前
俺がまだ猟兵となる前だった
学園で最初に出来た友達で
俺が倒した最初の災魔

そうだね
今も君と在れたなら…

でも後悔はしないと決めている
大好きな皆を救って欲しい
災魔の僕を倒して欲しい
それが君の願いだったから

人になりたかった優しい災魔の姿は
人に寄り添う優しい影朧の姿とよく重なって
そんな彼に優しく笑む

俺の願いは、君が穏やかな最期を迎える事だよ
そしていつか生まれ変わったその先で
会えたらいいな
ルークにも、君にも

あの時親友の身を貫いた刃に祈りを込めて
『宵』を再び振り下ろす

※アドリブ歓迎



 文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)と対峙する影朧に重なるのは、アルダワ魔法学園の制服を着た金髪に青い瞳の少年の姿。
 ……ああ。彼のことは忘れるはずもない。
 ルークという名の少年は、俺の一番の親友だ。
 出会ったのは5年前、俺がまだ猟兵となる前だった。
 まだ、普通の学生というだけだった頃。
 学園で最初に出来た友達で、俺が倒した最初の災魔。
 寂寞が胸を打つ。
「そうだね。今も君と在れたなら……」
 もしかしたら、他に選択肢があったのかもしれない。他の世界を知った今なら、他の道も選べたのかもしれない。
 でも後悔はしないと決めている。
 大好きな皆を救って欲しい。
 災魔の僕を倒して欲しい。
 それが君の願いだったから。
 何故だろう。その姿を重ねているのは、彼ではなくて影朧なのに。
 人になりたかった優しい災魔の姿は、人に寄り添う優しい影朧の姿とよく重なって。
 そんな彼に優しく笑む。
「俺の願いは、君が穏やかな最期を迎える事だよ」
 そしていつか生まれ変わったその先で、会えたらいいな。
 ルークにも、君にも。
 優しい願いに、彼が統哉へ向けたのは、穏やかな笑み。
 たくさんの様々な想いを抱いて、そうして浮かべたその表情は、彼の願い。
 この影朧はそれを望んでいる。穏やかな……最後と、最期を。
 あの時親友の身を貫いた刃に祈りを込めて。
 どうか、
「安らかに」
 『宵』を再び振り下ろす。
 漆黒の刃は美しい軌跡を描いて影朧を一閃のもとに斬り伏せる。
 それは影朧の肉体ではなく魂を断ち、彼が重ねた少年の姿をかき消した。
 姿定かではない、願いに応え形を変える影朧は、わずか……ほんのわずかに、悲しげな素振りを見せる。
 あなたは。あなたたちは。
 その心のなかに。或いはそのそばに、寄り添う存在が確かにある。
 ならばもう、終わりにしよう。けれどこのままでは終われない。
 最後にひとつだけ、願いを叶えてくれませんか。
 あなたたちが優しく、強く、弱く、寂しくあれる、いとおしいひとときを見届けさせて。
 聞き覚えのある声で、聞いたことのない声で請う影朧に、猟兵たちは静かにうなずいた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 はらはらと形を変える影朧が、ふいと猟兵たちから意識を逸らし、ゆっくりとした調子でどこかへゆこうとする。
 ただでさえ消耗し、そしてほとんど力を失った影朧は、今にも儚く消えてしまいそうだ。
 文字どおり最後の力を振り絞って、最後の願いを叶えるために。
 あなたの心に寄り添う、あなたのいとおしいひとときを見届けさせて。
 もはや他者に危害を加えようとはしまいが、それでも影朧は影朧である。
 警戒するように、或いはいたわるように、猟兵たちは影朧の後を追った。
 特別でありふれた、大切なひとときを守るために。
夜鳥・藍
SPD
この影朧はどういった人生を歩んできた存在だったのかな?どうしてこうしてまで見届けたいの?

害意もないのであれば、せめてその最後の願いは叶えてあげたい。
「あげたい」と思うのは烏滸がましい事だろうけど。
影朧より先を歩き、町の人々に協力をお願いします。ただ目的の場所まで道を空けてもらうだけでいいんです。この方にただの消滅でなく、未来を。
迷う事も悲しい事も多いけれど、誰かが願ったから私は私として生まれてきたのだと思いたいから。
オブリビオンは、影朧は過去が今ににじみだした物。その人その物ではないかもしれない、ほんの一欠片のような存在かもしれないけれど、その行く先に幸いがあって欲しいと私は願います。



(「この影朧はどういった人生を歩んできた存在だったのかな? どうしてこうしてまで見届けたいの?」)
 影朧に寄り添い、その姿を見つめる。
 害意もないのであれば、せめてその最後の願いは叶えてあげたい。
 占いで人を、時に自らを導く彼女には、影朧……オブリビオンとして、ただ終わらせるだけの最後を選ぶことはできなかった。
 「あげたい」と思うのは烏滸がましい事だろうけど。それでもなにか、助けになれればと……そう、思ってしまう。
 先導するように影朧より先を歩き、町の人々に協力をお願いしてゆく。
「ただ目的の場所まで道を空けてもらうだけでいいんです。この方にただの消滅でなく、未来を」
 声をかけられた人々はためらいがちに影朧を見やる。
 攻撃的には見えず、桜に融けて消えてしまいそうな存在。無為に近づこうとしなければ危害を加えないに違いない。
 そう判断して、藍の要請に従い道をあけていった。
 桜舞う道はまるで、花道のように。
 ありがとう、やさしいひと。
 ささやくようにかすかな声が藍へ向けられ、宙色の瞳を返す。
 迷う事も悲しい事も多いけれど、誰かが願ったから私は私として生まれてきたのだと思いたいから。
 いくつもの言語を複雑に組み合わせた、水琴窟の音のような歌が影朧のそばから聞こえてくる。影朧が触れてきた記憶を積み重ねても、正確に再現するほどの力もないのだろう。
 そのノイズはひどく優しく、葉を打つ雨の音にも似ていた。
 オブリビオンは、影朧は過去が今ににじみだした物。その人その物ではないかもしれない、ほんの一欠片のような存在かもしれないけれど、
「その行く先に幸いがあって欲しいと私は願います」
 祈りに、影朧は微笑んだ。
 と、その姿がにじむように移ろい、ふいに薄青い衣をまとった女性の姿をとった。
 藍の知る人物ではなかったが、指し示す者として知っている。
 今は変わらずとも、いつか時は動き出す。その定かならぬ道行きを。

成功 🔵​🔵​🔴​

牧杜・詞
そう。それじゃいきましょう。
あなたの望む場所へ、いっしょに。

街の人たちには「もう大丈夫」と、視線と態度で合図をするわ。

それでも手を出そうとする人がいるなら、
少しだけ【殺気】を込めて視線を合わせるわね。
「信用できないかしら?」

ああ、それと、『彩結びの祭り』だっけ。
桜を観るのにいい場所があったら、教えてもらえないかしら?

影朧ではあるけれど、久しぶりにいっしょにいられるんだしね。
最後の願いを、いちばんいい場所で叶えてあげたいわ。

それと……あのときは会話もできなかったしね。
今度はさよならくらいは言って、送ってあげたいかな。

ちょっとらしくない、かしら?
やっぱり会えると、少しだけ、昔に戻っちゃうのかもね。



「そう。それじゃいきましょう」
 あなたの望む場所へ、いっしょに。
 詞に促され、彼女が手にかけた相手の姿で影朧はゆっくりと歩を進める。
 猟兵を伴っているとはいえ、やはり影朧がそばを通ることに不安感を覚える者は少なくない。
 不安げな視線を向ける街の人たちに、「もう大丈夫」と、詞は視線と態度で合図をする。
 しかし視線を移していくなかで、通報を受けて急行したらしい数人の學徒兵がそろそろと武器を構えようとするのを見つけ、少しだけ殺気を込めて視線を合わせた。
「信用できないかしら?」
 静かな問いとともに向けられる殺気にたじろぎ、超弩級のユーベルコヲド使いである猟兵が対処するなら、と身を引く。同時に、學徒兵たちがそう判断したならと人々も各々距離をとっていった。
 もう一度周囲を確かめて、
「ああ、それと、『彩結びの祭り』だっけ」
 ふと思い出す。
 この影朧は、桜の下で行われるその祭りになにか想いを寄せているのだ。
「桜を観るのにいい場所があったら、教えてもらえないかしら?」
 問うと影朧は、どこがいいかしら、と口にして考える素振りを見せた。それは詞の知る仕草と同じではなかったかもしれない。
 影朧ではあるけれど、久しぶりにいっしょにいられるんだしね。
 最後の願いを、いちばんいい場所で叶えてあげたいわ。
 永遠に終わることのない桜の下で終わりを迎えるその時のために。
「それと……あのときは会話もできなかったしね。今度はさよならくらいは言って、送ってあげたいかな」
 言って、感傷的になっていることに気づく。
 影朧が足を止めて詞を見つめていることにも。
「ちょっとらしくない、かしら?」
 やっぱり会えると、少しだけ、昔に戻っちゃうのかもね。
 自問に、思いを文字どおりその身に受けた影朧は微笑んだ。
 それは彼女の記憶にあるものとは違ったかもしれないけれど。

成功 🔵​🔵​🔴​

鎹・たから
影朧の速度に合わせて後を追います
混雑しそうな場などで騒ぎにならぬよう
一般人に声をかけます
【心配り

この影朧は皆さんを傷つけません
たから達猟兵が、責任をもって安全な場へ連れていきます
どうか通してください

同意を得られたらきちんと礼を
帝都の皆さんは、影朧の転生を見届けてくれる
オブリビオンが救われるこの世界は
とても優しいですね

もし影朧が攻撃的になったら身を挺してかばい
影朧にも落ち着くよう言い聞かせ
【優しさ

誰かに寄り添おうとするあなたを、傷つける人は居ません
あなたの望む場所へ行きましょう
お祭、きっと素敵に違いありません

あなたの最後の願いを叶えられるように
たからもお祭で待ち合わせている人が居るのです



 一歩ずつ確かめるように歩く影朧の速度に合わせて、後を追うたから。
 混雑しそうな場などで騒ぎにならぬよう、一般人に声をかけながら心と気を配っていく。
 雪華の少女の気遣いにひとりの姿を映しかけた影朧へ、それは無用だと身振りで断る。今のたからには、その優しさは必要ない。
 あなたが誰かに寄り添うように、あの人はそばにいてくれるから。
「この影朧は皆さんを傷つけません」
 興味半分恐怖半分でざわめく観衆へと一歩出て、彼女らしい誠意で告げる。
「たから達猟兵が、責任をもって安全な場へ連れていきます。どうか通してください」
 猟兵たちの勇名はすでに知られている。彼女がそう言うなら信じられるだろう。
 人々がそっと離れていく様子に同意を得られたと判断し、きちんと礼を告げると、人々もやや丁寧に応えた。
 帝都の皆さんは、影朧の転生を見届けてくれる。
「オブリビオンが救われるこの世界は、とても優しいですね」
 もし影朧が攻撃的になったら身を挺してかばい、影朧にも落ち着くよう言い聞かせるつもりだったが、穏やかに進む姿とそれに付き添う猟兵に、人々は警戒しつつも距離をとっている。
 少女の優しさに触れながらも遠巻きにされるのを少しだけ寂しそうに一瞥する影朧へ、たからが声をかけた。
「誰かに寄り添おうとするあなたを、傷つける人は居ません」
 寄り添おうとして傷つけてしまうのか、傷つけるために寄り添おうとしたのか。だとしても、この影朧は誰かの心へと手を差し伸べたのだ。
 その手をとって、たからはまっすぐに影朧を見つめる。
「あなたの望む場所へ行きましょう」
 お祭、きっと素敵に違いありません。
 桜の下、彩織り結ぶいとおしい束の間。
 あなたの最後の願いを叶えられるように。
「たからもお祭で待ち合わせている人が居るのです」
 それを聞いて影朧は優しく微笑んだ。
 あなたたちの、たいせつなおもいでになりますように。

成功 🔵​🔵​🔴​

文月・統哉
影朧の隣を歩く
同じ歩幅で
同じ目線で

遠巻きに見る人々には笑顔を
もう大丈夫だと
彼は危険じゃないと
言外に伝える

穏やかな時は
人々の中に
彼の中にも

そうだこれ♪
沿道のお店で買った桜餅
一緒に食べながら行こうぜ
行儀が悪い?まあまあ固い事言わずにさ♪

ルークともね
よくこうやって食べ歩きしてたんだ
アイツ甘いもの大好きでさ
あ、でも
唐揚げとかも好きだったし
美味しければなんでも、だな(笑

名前、聞いてもいいかな?
良かったらさ
君の話も聞かせてよ
勿論話せる範囲で構わない
誰かの想いに寄り添う君に
俺もまた少しでも
寄り添えたらって思うんだ

君と歩く今も
俺にとっては大切な時間だよ

友達になろうよ
君の最後の願い
一緒に叶えさせて

※アドリブ歓迎



 統哉は影朧の隣を歩く。
 同じ歩幅で。
 同じ目線で。
 影朧は統哉の知らない、しかしどこか懐かしさを覚える姿でゆっくりと歩いていく。
 遠巻きに見る人々には笑顔を向ける。もう大丈夫だと、彼は危険じゃないと言外に伝えると、察した人々は彼らから注意をそらした。
 穏やかな時は、人々の中に。
 視線を移した彼の中にも。
 それを守るために、彼らはある。
「そうだこれ♪」
 取り出して差し出したのは、沿道のお店で買った桜餅。
 一緒に食べながら行こうぜと促せば、影朧はわずかに諌めるような表情になる。
「行儀が悪い? まあまあ固い事言わずにさ♪」
 どうぞとなお促され観念して口に運ぶのを見てから統哉も桜餅を口にする。なめらかでもっちりとした食感に、程よい甘さを引き立てる塩気がちょうどいい。
「ルークともね、よくこうやって食べ歩きしてたんだ」
 アイツ甘いもの大好きでさ。
 思い出し、あ、でも、ともうひとつ思い出す。
「唐揚げとかも好きだったし、美味しければなんでも、だな」
 笑う統哉に、影朧も笑って返す。
 すてきなおもいでですね。
「名前、聞いてもいいかな?」
 良かったらさ、君の話も聞かせてよ。
 請われた影朧が見せたのは、寂しげな微笑みで。
 ごめんなさいと小さく口にしたのは何故だろう。
 勿論話せる範囲で構わない。
 誰かの想いに寄り添う君に、俺もまた少しでも寄り添えたらって思うんだ。
 言い添えるけれど影朧は困ったように微笑むだけで、彼の思いに応えない。
 最初から語れることがなかったのか、誰かに寄り添いつづけた果てに自身を失ってしまったのか。
 それでも、影朧が映すのは誰かとの大切なひとときで。
「君と歩く今も、俺にとっては大切な時間だよ」
 言って、ふと足を止める。影朧も数歩遅れて足を止め、彼へと振り返った。
「友達になろうよ」
 それは、かすかな希望。
「君の最後の願い、一緒に叶えさせて」
 統哉の言葉に、影朧ははっきりと悲しそうな様子を見せた。
 あなたがまえへすすむために、わたしのことはわすれて。
 いずれ消えゆく自身に未練を残さないように。

成功 🔵​🔵​🔴​

瑞月・苺々子
影朧、元気がなくて心配になっちゃうの
そんな時はね、お話しすれば元気になるよってととに教わったの

「あなたのお願いごとはなあに?」

「ももは、もっと立派になって、いつかはママとととの所に帰るの」

「もものお願いごとはまだ叶わないけれど、あなたのお願いごとはきっと叶うの」


ももが一方的にお喋りしてるだけだわ…?
人のお話しも聞きなさいって、ととに怒られちゃうかも
だけど少しでも気が紛れたらいいな
だからね、もう少し頑張って
誰かといっしょにいるってことは、それだけで心強いことだもの

影朧にも幸せな時間はあったのかしら
いずれ消えてしまうのなら
ももは心から、あなたは幸せであることを祈ってるの



 猟兵たちの優しさに触れながら進む影朧は、ゆったりとした足取りが少しずつ遅くなっていく。
 穏やかな表情を浮かべながらも、どこか寂しげで。
(「影朧、元気がなくて心配になっちゃうの」)
 力ない足取りの影朧を案じて、苺々子は足早にそばへ寄る。
 そんな時はね、お話しすれば元気になるよってととに教わったの。
 この影朧はおしゃべりをするのが好きかしら?
「あなたのお願いごとはなあに?」
 問われて、影朧はかすかに首を傾げた。答える代わりに、あなたは? と問い返す。
「ももは、もっと立派になって、いつかはママとととの所に帰るの」
 寂しいけれど孤独ではない。孤独ではないけれど……。
 少しだけ寂しさを映す少女に、影朧がそっと告げた。
 あなたがわすれないかぎり、それはたしかにかなうでしょう。
 安心させるためのまやかしではなく、影朧自身の思いなのだろう。
「もものお願いごとはまだ叶わないけれど、あなたのお願いごとはきっと叶うの」
 苺々子もにっこり笑って、はっと気づく。
(「ももが一方的にお喋りしてるだけだわ……?」)
 人のお話しも聞きなさいって、ととに怒られちゃうかも。
 おろおろしながら見上げると、穏やかな視線とぶつかる。初めてなのに知っている懐かしさ。
 優しい表情なのにどこか寂しそうで、きっと、終わりを感じているのだろう。
 だけど少しでも気が紛れたらいいな。
 だからね、もう少し頑張って。
「誰かといっしょにいるってことは、それだけで心強いことだもの」
 懸命に訴える苺々子に、膝を折って影朧が彼女と目線を合わせ、そっとその手に触れた。温かいような冷たいような、不思議な感覚。
 影朧にも幸せな時間はあったのかしら。
 誰かに寄り添い、誰かの心に手を差し伸べてきたこの影朧に。
 或いは、そうしてきたことそのものが幸せだったのかもしれない。
 いずれ消えてしまうのなら。
「ももは心から、あなたは幸せであることを祈ってるの」
 少女の祈りに影朧は微笑んだ。
 ありがとう、つよくやさしいひと。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と。
WIZ
アドリブ可

諦めてくれたのは良いんだが、何処行こうとしてんだかな。
何か、やりたい事でもあんのかね。
ちょっと、ついてってみっか。

あーあー、もう何もしねえから。っていうか最初から何もしてねーだろ、俺。
俺は面倒くせえのが嫌いなんだよ。だからさっきもああいう風に立ち回ったわけ。…でもそう考えるとちったぁ何かしてたのか。
まぁ兎に角、もう何もしねえからよ。

お、着いたのか。んじゃまぁ、ここまでだな。
…しかし何だな。お前さんはアイシャとは違うんだけど。…何かこう、別れるのは、ちと惜しいね。


アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調→華やぐ風
ジノ以外には通常口調

そうだね、一緒に行こう
誰かに危害を加えることはないだろうけれど、
放っておけないよね

ジノの面倒くさがりなところも、魅力なんだって私は思ってて…
一緒にいると肩の力が抜けてほっとするんです
私には私の性質があって…寂しそうなひとを見ると、笑顔にしたいって思う
寄り添う存在さんの、誰かに寄り添いたい気持ちって、どこから来たんでしょうね?
その素敵な気持ちを…愛してくれる人がきっとたくさん居ますよ
楽しみですね
道中、竪琴で優しい旋律を奏でながら進む

ジノがそんなこと言うの、ちょっと意外…
あなたが願ってくれたのと同じように、私たちもあなたの幸せを願っていますよ



「諦めてくれたのは良いんだが、何処行こうとしてんだかな」
 さまようように弱々しく歩く影朧を見やり、ジノーヴィーは首を傾げた。
 何か、やりたい事でもあんのかね。
「ちょっと、ついてってみっか」
 同意を求めるふうでなくアイシャに言うと、そうだね、一緒に行こう。と首肯する。
「誰かに危害を加えることはないだろうけれど、放っておけないよね」
 ジノーヴィーの肩に触れて、そのあとをついていくと。
 ふらり振り向いた影朧はふと彼らが互いに想う相手に姿を見せようとし、けれど映した姿は誰でもない。
 彼らの姿を見せることが彼らの望みではないと理解して。
 それと気づいたジノーヴィーが、いっそわざとらしいほどに息を吐いた。
「あーあー、もう何もしねえから。っていうか最初から何もしてねーだろ、俺」
 弁解めいた言葉を聞いてアイシャと影朧が見つめるなかで続ける。
「俺は面倒くせえのが嫌いなんだよ。だからさっきもああいう風に立ち回ったわけ。……でもそう考えるとちったぁ何かしてたのか」
 何もしない。それは彼の思いでもあって、彼女への思いでもある。
 彼は『何もしない』ということで何かを為したのだ。
「まぁ兎に角、もう何もしねえからよ」
 言って、本当に影朧の後をついていくこと以外何もしない。
 そんな彼にくすりと笑い、アイシャは影朧へと声をかけた。
「ジノの面倒くさがりなところも、魅力なんだって私は思ってて……一緒にいると肩の力が抜けてほっとするんです」
 彼を怠惰と言う者もあるかもしれない。けれど、気を張らずにいられることがなによりも嬉しい。
 彼女の抱く想いに影朧もふわと微笑んだ。それはとてもたいせつなことで、たいせつなひと。
 もうひとつ、アイシャが抱く想い。
 私には私の性質があって……寂しそうなひとを見ると、笑顔にしたいって思う。
「寄り添う存在さんの、誰かに寄り添いたい気持ちって、どこから来たんでしょうね?」
 問わずの問いに、影朧は穏やかに微笑み両手で自身の胸元に触れた。
 たくさんのおもいが、ここにある。
 そのなかには、アイシャがジノーヴィーに、或いはジノーヴィーがアイシャに抱く想いも含まれている。
「その素敵な気持ちを……愛してくれる人がきっとたくさん居ますよ」
 楽しみですねと笑って返して、竪琴で優しい旋律を奏でる。美しい歌声は消耗する影朧を癒やし、目的の場所へと向かう力を与えた。
 歩調と同じく弱々しく応える影朧が、ふと足を止めた。どうしたのかと視線を移したアイシャは息を呑む。
「ジノ、見て」
 ここは桜の園。舞い散る花びらの向こうで、柔らかな色彩の彩織り紐が木にくくられ風に揺れていたあ。
 模様も長さも太さも様々なそれらを見つめて、影朧が立ち尽くす。
「お、着いたのか。んじゃまぁ、ここまでだな」
 言って、ジノーヴィーはふいと影朧を見やった。
 懐かしむような、いとおしむような、優しい表情で静かに見つめている。
「……しかし何だな。お前さんはアイシャとは違うんだけど。……何かこう、別れるのは、ちと惜しいね」
 彼にしても珍しい感覚だった。当然、アイシャも同様で。
「ジノがそんなこと言うの、ちょっと意外……」
 嫉妬とは違う、好奇心に少し似た気持ちになる。
 ああ、でも。少しだけ、影朧が誰かに寄り添いたい気持ちが分かった気がした。
「あなたが願ってくれたのと同じように、私たちもあなたの幸せを願っていますよ」
 アイシャが告げると、そっとうなずく。
 いつか、わたしでないわたしにあえたなら、そのときには。
 また幸せな姿を見せてほしいと笑った。
 幻朧桜の咲く空の下を、終の場所にと選んだ影朧は。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『きみに飾るわたしの彩』

POW   :    友愛の彩を結ぶ

SPD   :    愛情の彩を結ぶ

WIZ   :    感謝の彩を結ぶ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ほのかに香りを含んだ風に揺れる、色とりどりの彩織りの飾り紐。
 見れば枝葉の邪魔をしないように、桜の木にくくられてある。
いったいどうしてと見回すと、露店にまぎれた小さなあずまやのうちのひとつで、求める者に渡しているようだ。
 色も素材もデザインも様々なそれらを、連れ立つ相手に結んで贈る者、何か思い入れがあるのか自身の持ち物に結ぶ者。
 或いは、小ぶりの火櫃にくべて、その煙が立ち上るのを見上げる者。
 思い思いに過ごす人々を、影朧はどこか懐かしみ、愛おしむように見つめる。
 しばらくそうしてから、猟兵たちのほうへとゆっくり振り返った。
 どうか、みとどけさせて。
 微笑んで胸元に触れたその手元に、いつのまにか蜻蛉玉が通され鈴のついた飾り紐があった。
牧杜・詞
もちろんよ。そのためにきたのだからね。
ああ、でも少しだけ待っていて。

と、自分のぶんの飾り紐を、あずまやでもらってくるわ。
あるのなら同じ感じの飾り紐がいいわね。

影朧が想いを互いに贈り合う、ということはできないのだろうけど、
火櫃で燃やして、気持ちを送ることならできるかな。
と、飾り紐と舞ってきた桜の花びらを火櫃にくべるよう勧めるわ。

どうかしら、あなたの想いは届けられた?

そう……。
それなら、わたしの想いといっしょに還りなさい。

影朧に促すと、自分の飾り紐を火櫃にくべるわね。

影朧の姿が消えたら、桜を見上げてぽつりと、

今日は、さようなら。
またどこかで会ったときは……そのときも殺してあげるから、安心してね



 穏やかに微笑む影朧へ、風に撫でられる髪を押さえて詞がうなずく。
「もちろんよ。そのためにきたのだからね」
 願いを叶えて、終わらせるために。
 ちりと鈴が鳴る。完全にではなくとも、その存在が消滅しかかっているのだろう。時折影朧の姿がにじんで曖昧になる。
 あなたがのぞむならまたころされてもかまわない。と、いささか物騒なことを穏やかに告げるのを断り、
「ああ、でも少しだけ待っていて」
 と言いおいて、自分のぶんの飾り紐を、あずまやで求める。
 あるのなら同じ感じの飾り紐がいいわね。
 そう思い特徴を伝えて訊いてみれば、よく似たものであればあるという。
 丁寧に探して取り出した飾り紐は蜻蛉玉の色味がわずかに違う。最初からそれだけ別にしてほかは同じにしたかのように。
 影朧が想いを互いに贈り合う、ということはできないのだろうけど、火櫃で燃やして、気持ちを送ることならできるかな。
「ねえ。あなたの想いを送ったら?」
 と、飾り紐と舞ってきた桜の花びらを火櫃にくべるよう勧める。
 影朧はしばらく自分の飾り紐を見つめ、そっと外すと掲げるように両手で持つ。
 その飾り紐自体も影朧の一部なのだろうか。だとすれば、その飾り紐に影朧はなにか強い印象を残しているのか。
 一度鈴を鳴らして、思いを断つように火櫃へ飾り紐と、手のひらに落ちてきた花びらをくべる。
 すると、ぽっと強く炎が燃え上がったかと思うと、鈴も残さず飾り紐は消えていた。
「どうかしら、あなたの想いは届けられた?」
 問いには笑みが応えた。満足そうにも寂しそうにも見える笑みで。
「そう……」
 ありがとう、やさしいひと。
 もう飾り紐を着けていないのに、鈴の音が立つ。
「それなら、わたしの想いといっしょに還りなさい」
 影朧に促すと、詞も自分の飾り紐を火櫃にくべる。
 詞と影朧が言葉なく見つめるなかで、影朧のそれとは違い、飾り紐はゆっくりと燃えていき、鈴を残して紐状の形の灰となる。
 火櫃をそわりと風がなでていき、名残惜しそうに灰が舞うのを見つめた詞は、ふと影朧の姿がないことに気づく。
 落としていた視線を上げ桜を見上げてぽつりと、
「今日は、さようなら。またどこかで会ったときは……そのときも殺してあげるから、安心してね」
 呟いたその顔は、舞う桜に隠されて。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜鳥・藍
ずっと、どうして私がこの姿で生まれたのか悩んできた。どうして猟兵に選ばれたのか。
何となくだけど「終わらせるため」かな。
私として生まれる前の、どうしようもなかった想いをどんな形でもいい、終わらせるためじゃないかな。

でも私の願いは?

もっと素敵な「色」を見る事。
人の目は怖い。けれどその中にとても綺麗で素敵な色を持つ人がいる。
燃えるようなオレンジ色の炎を宿す人。神秘的な銀の泉を持つ人。気高いベルベットの緋を持つ人。
猟兵になってまだ日が短いけど素敵な色を持つ人たちを見かけて。もっともっと見ていたい、見つけたいと願った。
真白の飾り紐を求め願いを込めて炎にくべる。叶わなくてもいい、悔いが残らなければ。



 淡い色彩を深い色の瞳に映して、藍は深く呼吸する。
 ずっと、どうして私がこの姿で生まれたのか悩んできた。どうして猟兵に選ばれたのか。
 疎まれてきたわけではない。嫌われてきたわけではない。それでも、自分という存在に悩んできた。
 けれどうっすら浮かんでくるものがある。
 何となくだけど「終わらせるため」かな。
 私として生まれる前の、どうしようもなかった想いをどんな形でもいい、終わらせるためじゃないかな。
 私のなかにある、とりとめのないもてあましてしまう想い。それが、私に預けられた願い。
 でも私の願いは?
 猟兵として世界を渡ることができる私の想いは?
 もっと素敵な「色」を見る事。
 人の目は怖い。けれどその中にとても綺麗で素敵な色を持つ人がいる。
 燃えるようなオレンジ色の炎を宿す人。神秘的な銀の泉を持つ人。気高いベルベットの緋を持つ人。
 目を上げれば、こんなにもたくさんの、素敵な色があった。
 猟兵になってまだ日が短いけど素敵な色を持つ人たちを見かけて。もっともっと見ていたい、見つけたいと願った。
 それは、フードの下で目を伏せていては見ることのできないもの。前を向き、フードを下ろしていなければ。
 人の目は怖い。けれど顔を隠し目をそらしていては見えないものがある。
 少しだけ顔を上げて、桜の舞うなかをゆっくりと歩いていく。
 目についたあずまやを覗き込むと、様々な飾り紐が並べられている。
 複雑に色を組み合わせたものからシンプルなもの、或いは蜻蛉玉やストーンなどのついたものもあった。
 視線を移ろわせ、カードをめくるように手を伸ばす。
 真白の飾り紐を求め、火櫃へと足を向けた。
 願いを込めて炎にくべる。叶わなくてもいい、悔いが残らなければ。
 藍の想いを届けるように、炎からまっすぐに煙が立ち上っていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

揺歌語・なびき
【❄🌸】※紐詳細お任せ

たからちゃんこっちこっち
おつかれさまぁ!
これ?あそこの屋台のお菓子なんだけど
すっごく美味しいから、はい(あーん

揺れる飾り紐は彩の嵐だ
うん、綺麗だね
東屋は…あ、あっちだ

お揃いの飾り紐を見つめる姿
嬉しそうなのがおれにはわかるから
自分の紐を彼女に渡す

ね、これ、たからちゃんが持ってて
ん~厄除け…というか虫除け(後半は聞こえぬ小声
…わかった、強そうなお守りだ

隠していたもうひとつ
手にした飾り紐は火櫃へとくべる
「あいつ」も、一緒のほうがいいだろ

くゆる煙を二人で見上げる
そっと繋ぐ手が冷たくて
おれが絡める指の爪が刺さらぬよう

影朧の未来を願うこの子の未来が曇らぬように
おれが、全部はらうから


鎹・たから
【❄🌸】※紐詳細お任せ

はい、ありがとうございます
なびきはもうお菓子を食べているのですか?
…まぁ(もぐ)待たせて(もぐ)しまいましたし(もぐ)いいでしょう(もぐ

桜に結ばれた飾り紐
ゆらゆらした虹のようです
なびき、なびき
たから達も頂きましょう

お揃いだけど、少し違う
どちらもきらきらしてとても綺麗です

?わかりました、頂きます
ではたからの紐は、なびきがつけてくださいね
お互いに大切にしておけば
お守りになるでしょう?

なびき、そのもう一本は
…そうですね
「彼」に届くと思います

(影朧へ
あなたの想いは、報われましたか?
あなたの願いは、叶いましたか?

さようなら
生まれ変わった時も
優しいあなたで生きられますように



「たからちゃんこっちこっち」
 呼ぶ声に、ゆっくりとそちらへ歩いていく。
 彼はいつでも彼女を待っていてくれるから、急がなくていい。
「おつかれさまぁ!」
「はい、ありがとうございます」
 にこにこしながらいたわる揺歌語・なびき(春怨・f02050)に礼を言いながら、たからはこっくり首を傾げる。
 正確には彼にではなく、彼の持つたくさんのお菓子に。
「なびきはもうお菓子を食べているのですか?」
「これ? あそこの屋台のお菓子なんだけど」
 すっごく美味しいから、はい。
 差し出したお菓子を、数瞬の間をおいてから口にする。
 美味しいことを知っているということは、すでに彼は食べているということなのだろう。ずるい。
「……まぁ(もぐ)待たせて(もぐ)しまいましたし(もぐ)いいでしょう(もぐ)」
 一言ごとにもぐもぐさせながら自身を納得させた。彼の言うとおり、すっごく美味しい。ずるい。
 たからの頬についたお菓子のかけらを、彼女に触れないよう指先でそっととるなびきの耳に、小さな鈴の音が聞こえた。
 桜に結ばれ揺れる飾り紐は彩の嵐だ。入れ替わることはないのに、ひとときと同じ様相を見せない。
「ゆらゆらした虹のようです」
「うん、綺麗だね」
 雪華の瞳に映る彩を零れ桜の瞳が見つめ、それを遮るようになびき、なびきと名を呼んで促す。
「たから達も頂きましょう」
 自分を映さぬ瞳を名残惜しげに網膜に焼き付けてうなずいた。
「東屋は……あ、あっちだ」
 くるりと顔を巡らせて、目についた小さな建屋を訪れる。
 求めたのは同じ紅色に、一方はつまみ細工の椿と、もう一方は硝子細工の飾りを添えて。
 お揃いだけど、少し違う。
「どちらもきらきらしてとても綺麗です」
 言って眺めるその姿。
 お揃いの飾り紐を見つめる姿が、嬉しそうなのがおれにはわかるから。
 片手でつまみあげ支えるもう一方の手に重ねるように、自分の紐を彼女に渡す。
「ね、これ、たからちゃんが持ってて」
 小さな願いに、問う視線が向けられた。
「ん~厄除け……というか虫除け」
 後半は聞こえぬ小声で言う彼に、不思議そうに首を傾げ。
「? わかりました、頂きます」
 2本の飾り紐を並べて見つめ、それから片方をなびきの手に置いて、当然のように告げる。
「ではたからの紐は、なびきがつけてくださいね」
 お互いに大切にしておけば、お守りになるでしょう?
 まっすぐに見つめてくるその瞳。
「……わかった、強そうなお守りだ」
 くすっと笑いふと足を向けた先、隠していたもうひとつ。
 手にした飾り紐は火櫃へとくべる。
「なびき、そのもう一本は」
 言いかけたたからの耳を小さな声が打つ。
 「あいつ」も、一緒のほうがいいだろ。
「……そうですね。「彼」に届くと思います」
 うなずいて、なびきが差し出した手に手を重ねてくゆる煙を二人で見上げる。
 そっと繋ぐ手が冷たくて、かすかに指を動かした。おれが絡める指の爪が刺さらぬよう。
 ふいと彼を見て、それからたからは空を見上げる。
 あなたの想いは、報われましたか?
 あなたの願いは、叶いましたか?
 影朧の姿は見えない。舞い散る桜にまぎれてしまったか。
 さようなら。と口にした。
「生まれ変わった時も、優しいあなたで生きられますように」
 たからの静かな祈りに、なびきは目を伏せる。
 ああ。無垢な幼子が大人になることを望み、そして望まぬことは、罪だろうか。
 それでも望んでしまう。
 影朧の未来を願うこの子の未来が曇らぬように。
 おれが、全部はらうから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と

あぁ、俺もああまで優しい奴に会うのは初めてだな。本当、色んな奴がいるもんだ。

何にせよ、今年も花見が出来てよかったよかった。
そうだな。俺たち自身も、取り巻く環境も…何かしらは変わるんだろうけど、一緒にいる…って事はずっと変わらない様にしたいもんだ。
さて、そういえば飾り紐…なんてモンがあるんだよな。俺もひとつアイシャに贈ろう。白と緑のやつ。
後で大きくなった時に、俺が結んでやるからさ。

本当に、綺麗なもんだ。今年も花見が出来てよかった。
やれ酒だ食い物だ、なんて雰囲気でもねえが…これはこれで風情があるってヤツだなぁ。


アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調は前章の通り
妖精サイズ時はジノの肩に座って

寄り添う存在さん…
つい様子が気になってしまう
こんなに優しい影朧に出会ったのは初めて

ジノ、今年も一緒にお花見できたね
この世界の桜は格別に綺麗
来年も一緒に桜を見に出かけたいな
時を追うごとにきっと、私たちも少しずつ変化していくけど
私は、その先でも隣に居たい
そばに居て、嬉しいと思ってもらいたいから、私…頑張るね
ジノらしい色をと選んだ、白と黒の結び紐を手首に結ぶ
そっか、この姿だと結びづらいよね
今がいいな…
UCで6倍の姿へ
結び紐を結んで…手を繋いで桜を見よう

もう一つ
桜色の紐を寄り添う存在さんの近くの桜の木の枝に結ぶ
いつの日かまた会えますように



 縁台に身を預け桜の花びらに隠れてしまいそうな影朧を、ちらりと見やる。
「寄り添う存在さん……」
 つい様子が気になってしまう。
 こんなに優しい影朧に出会ったのは初めてと口にするアイシャに、ジノーヴィーがうなずいた。
「あぁ、俺もああまで優しい奴に会うのは初めてだな。本当、色んな奴がいるもんだ」
 自分の肩の上で寂しげに視線を向ける彼女と同じ方向を一度見て、想いを払うように桜へと目を向けた。はらはらと落ちる花が彼の肩に落ち、それをアイシャが拾う。
「何にせよ、今年も花見が出来てよかったよかった」
 溜息混じりに言うジノーヴィーに微笑む。
「ジノ、今年も一緒にお花見できたね」
 この世界の桜は格別に綺麗。
「来年も一緒に桜を見に出かけたいな」
 きっとそれは、今年と同じではないだろうけれど。
「時を追うごとにきっと、私たちも少しずつ変化していくけど、私は、その先でも隣に居たい」
 穏やかで、けれどしっかりとした願い。
 確かな願いは、彼も同じだった。
「そうだな。俺たち自身も、取り巻く環境も……何かしらは変わるんだろうけど、一緒にいる……って事はずっと変わらない様にしたいもんだ」
 先のことなんて分からないけれど。一緒にいるということだけは、譲らない。
 今一緒にいることが、こんなにも嬉しいのだから。
「そばに居て、嬉しいと思ってもらいたいから、私……頑張る」
 まっすぐな想いを告げて笑うアイシャに、ジノーヴィーも微笑み返した。
「さて、そういえば飾り紐……なんてモンがあるんだよな」
 ふと思い出して、近くに見えた東屋へ足を向ける。
 長さも等しく規則正しく並べられ、さあどうぞと示された色とりどりの飾り紐を前に思案する。
 俺もひとつアイシャに贈ろう。白と緑のやつ。
 春風を思わせる彩のそれを見て、
「私にもいただけますか?」
 ジノーヴィーの肩の上からおりて、アイシャもじっくりと……いや、さほど時間はかからなかった。ジノらしい色をと選んだ、白と黒の結び紐を手首に結ぶ。
 それから彼の手にする飾り紐を見て、
「そっか、この姿だと結びづらいよね」
 小さな姿のままでは、桜の花びらだって手のひらよりも大きい。フェアリー用の飾り紐があればよかった。
「後で大きくなった時に、俺が結んでやるからさ」
 提案に少しだけ拗ねる。
「今がいいな……」
 後でゆっくり楽しむのもいいけれど、せっかくだもの。今だから感じられる想いがある。
 彼に並び立てるように、ユーベルコードで姿を6倍にして変える。
 そうして差し出した繊手へジノーヴィーが結んで指を絡めた。
 結び紐を結んで……手を繋いで桜を見よう。
「本当に、綺麗なもんだ。今年も花見が出来てよかった」
 風に揺れる飾り紐が桜の色に色彩を加える。鈴の音がささやかに響き、飾り石がきらめく。
「やれ酒だ食い物だ、なんて雰囲気でもねえが……これはこれで風情があるってヤツだなぁ」
 にぎやかでなくても。酒宴がなくても。
 ともに過ごすひとときは、とてもいとおしい。
 白と黒、白と緑の飾り紐が触れあい、そっと彼の肩に頭を預けて、さやかな時に佇む。
 もう一つ。
 アイシャはそっとジノーヴィーから離れ、影朧のもとへ向かった。
 そのそばで、桜色の紐を近くの桜の木の枝に結ぶ。
「いつの日かまた会えますように」
 それは、優しい祈り。
 影朧がかすかに顔をあげてそれを見つめ、儚に笑む。
 ありがとう、よりそうあなた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

文月・統哉
人々を見守る影朧の優しい眼差しに
自分も笑顔になりながら
飾り紐を2つ授かる

空色の紐はルークに
空が大好きだったから
でもアイツ空飛ぶ魔法はすっごく下手でね
まあ俺もどっこいどっこいだったけど

にゃははと笑い
篝火にくべて空へと送る

結ばれた絆は今もここに
これからもずっと

例え輪廻の輪の中で
いつかは思い出せなくなるのだとしても
過去があるから今があり
今があるから未来がある
楽しい事も悲しい事も
重ねた思い出は全部
俺の大切な一部だから

話、聞いてくれてありがとな
(手には桜色の紐がもう一本
もし良かったら君に

巡る輪に比べれば
ほんの一瞬の出会い
それでも
君に会えて良かった

旅立つ君の幸せを願う

いつかまた
会えるといいな

※アドリブ歓迎



 うれしい。やさしい。たのしい。いとおしい。
 たくさんの想いに触れて、存在が儚と消えつつありながらも心地よそうに人々を見つめていた。
 人々を見守る影朧の優しい眼差しに自分も笑顔になりながら、統哉は飾り紐を2つ授かる。
 空色の紐はルークに。
 空が大好きだったから。
「でもアイツ空飛ぶ魔法はすっごく下手でね」
 まあ俺もどっこいどっこいだったけど。
 恥じるのではなく懐かしむとにゃははと笑い、篝火にくべて空へと送る。
 結ばれた絆は今もここに。
 これからもずっと。
 忘れることがなければ。いや、忘れても消えることのない大切な想いは、いつでもここにある。
「少しだけ、いいかな」
 くるり巻く風が、地面に落ちた桜の花びらを含んで散らしていく。
 例え輪廻の輪の中で、いつかは思い出せなくなるのだとしても。
 過去があるから今があり、今があるから未来がある。
 楽しい事も悲しい事も重ねた思い出は全部、俺の大切な一部だから。
 そう口にする統哉の、今この瞬間も重ねられて。
「話、聞いてくれてありがとな」
 礼を言うその手には桜色の紐がもう一本。
「もし良かったら君に」
 差し出した飾り紐を、ためらう間をおいてからゆっくりと受け取った。そっと胸に押し抱いて、やはりゆっくりとした所作で近くの木に結ぶ。
 自分はすぐに消えてしまうから、と言外に伝える影朧は、それでも統哉とのひとときを形として残すことを選んだようだ。
 もう一度、手を胸に添える。大切なものは、ここに。
 巡る輪に比べれば、ほんの一瞬の出会い。
 それでも。
「君に会えて良かった」
 旅立つ君の幸せを願う。
 告げたその時、かすかにあたたかな気配が頬に触れた。
「いつかまた、会えるといいな」
 笑いかけると、影朧も笑い返す。
 たとえ忘れてしまっていても、きっと悲しくない。

成功 🔵​🔵​🔴​

瑞月・苺々子
「ひとつくださいな」

そう言ってもらった月白色の飾り紐
ももは何処に飾ろうかしら
桜の木にたくさんくくられてあるのね
けれど背伸びしてみても、ももには高くて届かないな…

月白色の綺麗な飾り紐、燃やしちゃうのもなんだか勿体なくて
周りの人を見渡せば、持ち物に結んでる人もいるみたい
もももそうしようかしら
ももがいつも着けている、大きな大きな牡丹の髪飾り
そうだ!これに付けてみよう

「とと、それからママにも見せてあげるんだ」

家族の優しさに結んだ、ももが頑張った証の飾り紐
いつかこれを見せたら、頑張ったねって褒めてもらえるかしら
大好きな家族へ向けた想いや愛情が、どうか届きますように



 小さな足音を静かにさせて、苺々子があずまやを訪れると、こんにちはと挨拶された。
「ひとつくださいな」
 そう言ってもらった月白色の飾り紐。
 かすかに薄く青く色づくその白は、彼女のまとうその色で。
「ももは何処に飾ろうかしら」
 見上げれば、そこここにくくられた飾り紐が桜と触れあい、葉擦れに似た音が聞こえる。
「桜の木にたくさんくくられてあるのね」
 それならばと近くの木に近寄って、届かないかしらと手を伸ばす。
 けれど背伸びしてみても、ももには高くて届かないな……。
 低そうなところを探して何度か試してみるけれど、あともう少しも届かない。
 困ってしまって、所在なさげに飾り紐へ目を落とす。
 月白色の綺麗な飾り紐、燃やしちゃうのもなんだか勿体なくて。
 周りの人を見渡せば、持ち物に結んでる人もいるみたい。
 カバンや日傘、着物の帯とか帽子にも。みんな、大切そうにしている。
 もももそうしようかしら。
 じゃあどこに付けよう? 首を傾げて考えていると、そっと髪をなでるように風が吹いていった。
 ふと髪を押さえた時、指先にそわりと触れたもの。
 ももがいつも着けている、大きな大きな牡丹の髪飾り。
「そうだ! これに付けてみよう」
 ぱちりと手を叩き、さっそくそうしてみると。
 いつも彼女を優しく彩る赤に寄り添う月白色は、まるで苺々子自身のよう。
「とと、それからママにも見せてあげるんだ」
 踊るようにくぅるり回ってみれば、髪飾りに結んだ飾り紐も嬉しそう。
 家族の優しさに結んだ、ももが頑張った証の飾り紐。
 いつかこれを見せたら、頑張ったねって褒めてもらえるかしら。
 たくさんたくさん、ぎゅってしてもらえるかしら。
 小さな手で胸に触れ、もう一度空を見上げる。桜の木々のむこうに、透きとおるほど青い空。
 大好きな家族へ向けた想いや愛情が、どうか届きますように。

 ああ、と。
 影朧が溜息をつく。
 人の心に寄り添い触れる影朧のその姿は、もうかすかにしか見えないけれど。
 ありがとう、やさしいひとたち。
 ありがとう、よりそうひとたち。
 どうかあなたたちが、よわくいられますように。
 どうかあなたたちが、つよくいられますように。
 そっと微笑み、桜舞う風に消えていく。
 風に揺れ、木々にくくられた飾り紐が鈴の音を立てた。
 別れを告げるように。あるいは再会を約束するように。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年05月28日


挿絵イラスト