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華妃、一顧にして城を傾けること

#封神武侠界 #第三章プレイングは4/22(木)23:59まで受付中

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#封神武侠界
#第三章プレイングは4/22(木)23:59まで受付中


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 羞月閉花の喩えのごとく、美は万象を傾けるもの。
 春の空より移ろい易き、人心なれば尚のこと。

「あなた様、妾は縛り首が見とうございます」

 酒池肉林の宴の最中、その女は傍らに座す若い男にしなだれかかり、耳元で囁いた。
 髪を短く切り揃え、豊かな胸元を露わにした美女である。
 一方の男はまだ年若いものの、整った身なりと物腰は育ちの良さを感じさせる。
 事実、彼こそが今はこの館の主であり、この宴を催したのもまた彼であった。
 だがその茫洋とした面持ちには、主に相応しい知性が宿っているとは言い難い。

「信! 貴様、儂が居らぬ間にそのような素性も知れぬ女に誑かされおって!」
 ぼんやりと虚空を眺める青年の代わりに、呻くような叫びが上がった。
 手足を縛られて床に転がされた初老の男が、憤怒の眼差しで二人を見上げる。

「あらあら、怖い。あなた様、お父上が妾を虐めぬように言ってやって下さいまし」
「黙れ女狐! この国の内乱も、館の惨状もすべて、貴様の差し金であろうが!」

 殺気を孕んだ視線を向けるこの男こそ青年の父であり、本来この地を治める主である。
 彼がとある用事で従者達と共に領地を離れたのが、僅かに数日前のこと。
 その数日の間に、一人の女が留守を任された息子の懐へと潜り込んだ。
 傾城傾国とは正にこのこと。異変に気付いた父が引き返した時には既に全てが遅く。
 心を奪われた息子の命ずるがまま、地は焼かれて民は互いに殺し合う。
 そして女はその最中にて宴を催し、人々の悲鳴を大いに楽しむ有様であった。

「しかしですね、父上。華妃がどうしても血が見たいと申すゆえ、仕方ありますまい」
「……あの聡明なお前が、そこまで腑抜けたか……っ!」

 血が滲むほど唇を噛み締める当主の首へと、独りでに黒い縄が巻き付いた。
 手足の自由が利かぬその体は、真上に引かれた縄によって吊り起こされる。

「あなた様、妾は縛り首が見とうございます。どうぞ妾のため、お命じになって」

 華妃と呼ばれた女が心底愉快そうに笑い、そして。
 黒縄が、ぴんと張り詰めた。

 ☆ ☆ ☆

「封神武侠界が発見されてしばらく経つが、汝らは既に足を運んだかな?」
 私物の豪奢な椅子に深々と腰掛けたまま、ツェリスカ・ディートリッヒ(熔熱界の主・f06873)は猟兵達の顔を順々に見回し、ひとつ頷いてから足を組み直した。
「知っての通り、封神武侠界は人智を超えた神仙の住まう『仙界』と、定命の人々が暮らす『人界』から成り立っている。人界の多くは晋の皇帝・司馬炎によって統一されているが、大陸はあまりに広大であるがゆえ、それぞれの土地は領主が治めているようだな」

 ツェリスカが指を弾くと魔導書が開き、山水画めいた風景が空中に映し出される。
「さて、此度の予知についてだが……この切り立った峰に囲まれた自然豊かな土地が、前触れもなく内乱状態に陥っているという。どうやら領主不在の時を狙って館に入り込んだ一人の女が領主の息子を籠絡して領地を乗っ取り、戯れに乱を起こしたようだ」
 言うまでもなく、ただの女ではない。悪鬼化生の類……オブリビオンだ。

「奴の名は『黒縄華妃』。かつては傾国の寵姫として時の権力者に取り入り、悪行堕落の限りを尽くしたようだが、最期は首を括られて死んだという。それがオブリビオンとして蘇り、今度こそ己の思うようになる国を手に入れようとしているということだな」
 更に、生前の末路から彼女なりに学んだのだろうか、黒縄華妃は駄目押しの一手として館を離れていた領主『鵬遷(ほうせん)』の暗殺を目論んでいるらしい。

「余の予知では、異変に気付いた鵬遷殿は領地に引き返すも黒縄華妃の手勢に敗れ、最期は捕虜となって息子の手で処刑されている。だが、汝ら猟兵の力があればその運命は変えられるはずだ。汝らにはまず、鵬遷殿と従者一行を領地まで護衛してもらいたい」
 慎重に歩みを進めるような時間の余裕はない。目的地である領主の館まで、険しい山林の道を馬で強行突破することになるだろう。猟兵達は領主一行に馬を借りても、彼らに同乗させてもらっても、自前の移動手段を用意しても、あるいは自分の足で走っても構わない。とにかく領地に着くまで暗殺者や仙術の罠から一行を守るのが最優先だ。

「領主一行を護衛しているのが猟兵であると気づけば、黒縄華妃は人間ではなくオブリビオンの私兵を差し向けて来るだろう。恐らくは手練揃いであろうが、それらの刺客をも打ち倒した上で、領主殿と共に館へ乗り込んで邪悪なる寵姫の化けの皮を剥いでやれ」
 そう言って、ツェリスカは猟兵達に向かって鷹揚に微笑んだ。
「余としても、己が美貌を強きに媚びるために用いるような女は好かん。本来ならば余自らが乗り込みたいところだが、仕方あるまい。汝らならば成し遂げてくれような」
 グリモアが輪転する炎のゲートを作り、猟兵達を封神武侠界の奥地へと送り出す。


滝戸ジョウイチ
 随分とご無沙汰しております、滝戸ジョウイチです。
 今回は新世界「封神武侠界」からお送りします。

●シナリオ概要
 冒険→集団戦→ボス戦の全三章構成です。
 第一章および第二章では、NPCである領主一行を護衛しながら、目的地である領主の館を目指すことになります。基本的に移動しながらの行動になるため、ご注意下さい。

●登場人物(NPC)について
「鵬遷(ほうせん)」
 今回の護衛対象であり、この地を治める領主です。
 髭を蓄えた初老の男性で、頑固で血の気の多い性格ながら家臣や領民からは慕われているようです。
 なお武術を修めているため最低限の自衛は出来ますが、ユーベルコードは使えないためオブリビオンとは戦えません(これは従者達も同様です)。

「鵬信(ほうしん)」
 鵬遷の一人息子で跡継ぎです。鵬遷は「信」と呼んでいます。
 本来は父親に似ず穏やかで真面目な性格のようですが、生真面目過ぎて女性への免疫がなかったのか、黒縄華妃に籠絡されて傀儡となってしまいました。

●シナリオ進行について
 各章の最初に導入が追加された時点からプレイングを受け付けます。
 厳密な締切は設けませんが、おおむね章開始から三日が目処になると思います。
 なお途中の章からの参加も歓迎します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『要人護衛』

POW   :    要人の傍を離れず警戒する

SPD   :    暗殺者の罠を見つけ出し、解除する

WIZ   :    暗殺者の策を読み、裏をかく

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 見上げれば切り立った奇峰の群がそびえ、見下ろせば澄んだ江河が蛇行する。
 一枚の水墨画を写し取ったような風景の只中へと、猟兵達は転移した。
 時刻はまだ夕暮れには早いはずだが、山嶺の上方は霧で覆われて太陽は見えない。
 霧は下界にも漂っているが、それでも遠くに火の手が上がっているのが認められた。
 既に内乱は始まっているのだろう。このままでは被害が広がる一方だ。

 与えられた情報に従って街道を急ぐと、程なくして猟兵達は駅に辿り着く。
 ここは長距離を移動する人々が馬を乗り継ぎ、食事や休息を取るための宿場だ。
 見れば、髭を蓄えた立派な身なりの男が長椅子に腰を下ろし、物思いに沈んでいる。
 猟兵達が近づくと男は顔を上げ、従者達を引き連れて自ら歩み寄った。

「その方らが護衛の者たちか。儂のことは伝え聞いておろう、鵬遷である」
 鵬遷は険しい顔でこちらを見据えてくるが、これは穏やかならぬ心中の表れだろう。
 それでも取り巻きの従者達が不安げに言葉を交わす中、毅然とした姿勢を崩さない。
「ほ、鵬遷様……よろしいのですか、このような者達に護衛を任せても」
「くどいぞ。儂が心を決めたのだ、お前達も腹を括れ。すぐに馬の支度だ」
 従者を一喝し、鵬遷は改めて猟兵達に向き直った。

「見苦しいものを見せたな。あれでも平時ならばなかなかに頼れる者共ではあるのだ。
 だが今は平時ならず、一刻を惜しむ状況だ。この場で出立とするが、構わぬな?」
 連れてこられた中で一際立派な馬に跨ると、鵬遷は街道の先を指し示した。
「我が屋敷へと最短の経路を取れば、必然、山あいの荒れた土地を突っ切る形となる。
 刺客が潜み、術師が罠を張るに手頃な茂みや岩場も多いが、回り道は出来ぬのだ」
 従者たちも続いて馬に跨ってゆく。宿場にはまだ猟兵達の分の馬もいるようだ。
「よし、では往こうぞ。我らが郷を、これ以上戯れに荒らされてなるものか!」
 鵬遷が声を張り上げた。彼らを刺客の手から守り切るため、猟兵達も続く。 
サンディ・ノックス
あぁ、なんて不快な奴なんだ
存分に屈辱に染め、痛めつけてから骸の海に還さないといけない存在だ

女への昏い感情は胸の奥に仕舞って遷さんと従者達に、この世界の礼儀と友に教えてもらった拱手で挨拶
出発する前に遷さんに一言
今回の出来事は力を持つ者が悪用した力に巻き込まれただけ
息子さんを責めないでね
時間が無い時に悪いとは思うけど、これは言っておきたかった

馬は不慣れなので同乗させてもらう
術式の罠を警戒
俺は魔力を扱う者、魔力を見る・感じることはできる
仙術も魔術と根本的なものは同じだろう、差があっても違和感くらいは見つけられるはず
罠を張るのに手頃と聞いた茂みや岩場を特に注意
発見次第、UC解放・夜陰を発動し潰していく


月白・雪音
…領土は既に敵の手に落ちた後、なれば確かに猶予はございませんね。
被害が広がり切る前に事を収めねばなりません。

鵬遷と従者に対しては礼儀作法も交え拱手にて礼を示して
…我らを戦力に加えて頂いた事、感謝致します。
恩義は働きにて返させて頂きますゆえ、一時の協力をお許し願えれば幸いです。


UCを発動し、移動は自分の足にて。
残像、悪路走破で離れすぎない程度に先行しつつ
野生の勘、聞き耳、見切りにて仕掛けられた罠の感知を行う
周囲が暗くなるようであれば暗視も交え、
罠を認めれば即座に存在を知らせ、解除可能なものは解除し
刺客が直接襲いかかるようであれば残像、グラップル、怪力による格闘戦にて
鵬遷及び従者達への被害を防ぐ



 敬意を込めて、左手で右の拳を包み込む。
「……我らを戦力に加えて頂いた事、感謝致します。
 恩義は働きにて返させて頂きますゆえ、一時の協力をお許し願えれば幸いです」
月白・雪音(月輪氷華・f29413)が拱手をしてみせると、鵬遷は「馬上より失敬」と前置きをした上で礼を返した。思わずそう言わずにはおれない義理堅い性分のようだ。
 他の猟兵達、鵬遷の従者達もそれぞれに拱手にて礼を交わす。礼節を重んじる封神武侠界の住人らしく、不安がっていた従者達も猟兵の作法にいくらか安心したようだ。

 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)も友に教わった通りに拱手を行い、軽く目を伏せてから視線を戻す。すると否応なしに視界へ入り込んでくる、戦火の煙。
(……あぁ、なんて不快な奴なんだ。存分に屈辱に染め、痛めつけてから骸の海に還さないといけない存在だ)
 あの内乱を巻き起こしたオブリビオン、黒縄華妃。人心を騙し欺き操って、この地を乗っ取ろうと目論む傾城の寵姫。その有り様は、考えるまでもなく悪辣そのものだ。
 そんな昏い思いが胸中で湧き上がっているのを一切表情に出すことなく、サンディは従者の一人と二、三言ほど交わしてから彼の馬に同乗することにした。どのみち乗馬は経験が浅いが、飛び道具で戦うならば馬の手綱は他人に任せたほうがやりやすいはずだ。
「この先は悪路ですから、振り落とされぬよう気をつけて下されよ」
「ご心配なく。ちゃんと掴まっておくからさ」
 馬の後ろに跨るサンディを横目に、別の従者が雪音にも声をかける。
「貴女も馬の扱いに不慣れであれば、僭越ながら私めの馬に……」
「お気遣い感謝いたします。ですが、私は己の足にて随行いたしますので」
 予想外の返しで呆気にとられる従者に再度の礼をし、雪音は街道へと歩いていく。
「そ、その、走って馬と並走なさるおつもりで……?」
「達人ならば出来ような。急いで馬を進めねば、儂らが置いてゆかれる側ぞ」
 鵬遷は狼狽える様子もなく、堂々と手綱を取る。サンディは従者の服の裾を引いて合図を送り、乗っている馬を鵬遷の隣に寄せてもらった。何事かと鵬遷が視線を向ける。
「今回の出来事は、力を持つ者が悪用した力に息子さんが巻き込まれただけ。
 だから、責めないでね。時間が無い時に悪いけど、これは言っておきたかった」
 サンディの言葉に、鵬遷が初めて驚きの表情を見せた。
「……分かっておるよ。倅が生まれ育ったこの地に、自ら進んで火を放つはずがない」
 さっさと馬を進めてしまったのは照れ隠しなのか。サンディ達の馬も後を追う。

   ▼  ▼  ▼

 他の猟兵達も出発の準備を整えたのを確認し、鵬遷が掛け声と共に馬を走らせる。
 従者達の馬がその後へと続き、猟兵達はその周囲を取り囲むように展開した。
 この見通しの悪い山あいの道、敵はどちらの方角から攻めてきてもおかしくはない。
 往来の少なさからか路面もそこまで踏み固められておらず、手綱を取るのは難しい。
 だが襲撃を掻い潜ってこの道を走破する以外に、惨劇を止める術はないのだ。

 そしてこの悪路を、雪音は表情一つ変えずに己の足だけで駆け抜けていた。
 ユーベルコード『拳武(ヒトナルイクサ)』――ただひたすらに鍛え抜いた技量のみをもって、残像すら残す速度で一行の先人を切り疾駆する。
 道の左右は密集した木立。地形に沿って道そのものが蛇行しているのも相まって視界が悪い。暗殺者の側に立って考えれば、この木立地帯を抜ける前に仕掛けたいはずだ。
「前方、次の曲がり角! カーブの外周に魔力っぽい反応がある!」
 雪音の後ろからサンディの注意が飛ぶ。魔力っぽい、という表現なのは厳密には仙術の反応を捉えているからだろう。しかし術式の系統が違っても、何かがそこにあるのは間違いない。雪音は返事をする間も惜しみ、一足飛びで反応の会った場所へ飛び込む。そして茂みの中から直感を頼りに一枚の呪符を掴み取り、破り捨てた。炎上する呪符。
「その先に次の反応……あ、魔力だけじゃないな。さっさと退けばよかったのにね?」
 サンディを乗せた馬の周囲に漆黒の結晶体が生成され、空中を無数に漂う。
『解放・夜陰』は悪意を具現化するユーベルコード。サンディの合図ひとつで、黒晶の群れが罠の地点へと殺到する。狙いは罠そのもの、そして隠れ潜んでいる術者。探知されていると気付いた時にはもう遅く、無数の黒針があたり一面に降り注いだ。
「くそ、こうなれば……死なば諸共!!」
 破れかぶれになったのか特攻めいて突っ込んできた刺客の姿が、不意に視界から掻き消えた。続いて衝撃と破砕音。空中で反転した雪音が、ユーベルコードで増幅された脚力で刺客を蹴り飛ばし、進路上の大木に叩き込んだのだ。もう起き上がっては来られまい。
「……驚くべき手練揃いだな」
 それらを見る鵬遷の表情は、驚愕と心強さの入り混じったものだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

厳・範
アドリブ歓迎。
半人半獣形態での参加。

グリモアの予知はありがたいものだ。こうして、間に合うのだからな。
一刻すら惜しむ状況ならば、なおさら。

自らの足で駆けるゆえ、馬は不要。
そうへばるものでもないしな。悪路ですら走破しよう。

【使令法:蝴蝶】で蝶を先行させての索敵と情報収集。春先だ、いても不思議ではないからな。
わし自身は、鵬遷殿の側で護衛よ。
暗殺者ならば仙術での焼却…いわば、通告よ。『そこにいるのはわかっている』というな。
向かってくるのならば、焦熱鎗で突き、雷公鞭で打ちすえるくらいはする。
仙術罠ならば、蝴蝶の助言を受けつつ、同じく仙術で解除を試みよう。



「グリモアの予知はありがたいものだ。こうして、間に合うのだからな」
 黒麒麟の蹄が、十分に踏み固められていない悪路を蹴る。
 厳・範(老當益壮・f32809)は険しい道を物ともせずに半人半獣の姿で疾駆しながら、猟兵とはどういう存在なのかを改めて実感していた。範は封神武侠界で齢千年を重ねた瑞獣だ。そんな気の遠くなる月日を生きた彼にも、外の世界は新たなるものを齎した。
 救えるはずのない者に手が届く。それは仁を尊ぶ麒麟にとって何物にも代え難い。
「最初の刺客は退けたようだが、まだ複数の気配が潜んでおる。気をつけよ」
 今しがた大木に叩きつけられて昏倒した術師を瞬く間に抜き去りながら、範は傍で馬を走らせる鵬遷の従者達に忠告した。それだけで、従者達は大いに感じ入った様子だ。
「いやはやしかし、麒麟殿の守護を得られるとは。百人力とはこのことですな」
 封神武侠界の人間には、範のような瑞獣を見るや無条件で有難がる者も少なくはない。範は特に何かを返すこともなく、速度を上げて僅かに先を征く鵬遷の馬と並走する。
「鵬遷殿。先ほどの者を見るに、差し向けられた刺客はあくまで人間である様子」
「ふむ。僅かに姿を見たが、この土地の服装ではない。女狐めに金で雇われたか」
「我ら猟兵の参陣は、黒縄華妃にとっても予期せぬ事態ということでありましょうな」
 鵬遷は頷き、掛け声をかけて馬を加速させた。敵が異変に気づいてオブリビオンの戦力を送り込んでくる前に、少しでも距離を稼いでおくべきだと考えたのだろう。
 範はその領主の馬と付かず離れずの距離を保ちながら、周囲へ油断なく目を走らせた。

 やがて範の耳元で、彼にしか聞こえない囁き声がする。探しものを見つけた、と。
「……『蝴蝶(フーディェ)』、良い働きだ」
 その呟きに応えるかのように、周囲の茂みのあちこちで蝶が羽ばたく。これらは野生のものではなく、範が使令法にて呼び出し、あらかじめ先行させておいた蝴蝶だ。
 今の季節ならば、木々の間を蝶が舞おうと誰一人不審には思わないだろう。ましてや、この蝴蝶の群れが主に情報をもたらす偵察者であるなど常人に気付けはしない。
「大人しく撤退すれば善し、さもなくば……」
 蝴蝶の囁きを元に位置を割り出し、範は疾走しながら狙いを定め仙術を放った。たちまち木立の合間に火柱が上がる。隠れ潜んでいた者が動く気配……そして殺気。
「……分の相応を知らぬのならば、教えてやるのが務めか」
 範は手にした焦熱鎗で牽制の矢を焼却し、そのまま反転させて石突を一息に突き出した。頭上から飛びかかった勢いで強かに鳩尾を打たれ、刺客は悲鳴を上げて地に転がった。
 戦意喪失した暗殺者を一瞥することなく、半人半獣の黒麒麟は駆け抜けてゆく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第四『不動なる者』盾&まとめ役の武士
一人称:わし 質実剛健
武器:黒曜山(盾形態)、四天霊障

護衛となれば、わしの分野となろうな。馬は借りよう。
『疾き者』よ、すまぬが。

疾「はいはいー、地形把握は共有してますのでー」

感謝する。
さて、仙術による簡易的守護の結界を張りつつ。
山あいとなれば、必然的に隠れられる場所も多くなろうな。
刺客を感知次第、間に入るように馬を操作、黒曜山にて弾く。
ま、四天霊障による脅しもやっておくか。強襲は見えぬ武器の利点よな。
簡単には抜かせぬよ。

※『疾き者』だけ、生前忍者。なので助言を求めた。



 刺客の襲撃を退けながら木立の路を疾駆する一行。
 やがて道の左右に茂る木々のうち右側のものだけが次第に疎らとなり、代わりに切り立った岩盤が姿を表す。先に鵬遷が言っていた岩場が近づいているようだ。
「このような地形となれば、必然的に隠れられる場所も多くなろうな」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は周囲の障害物に視線を向けながら、馬の速度を上げた。先の宿場で借りてきた馬だが、乗り手の指示によく応えてくれる。
「――『疾き者』よ、済まぬが」
『はいはいー、地形把握は共有してますのでー』
 続いての言葉は自分自身――正確には、馬県・義透を構成する四人のうちの一人へ向けられたもの。多重人格者、というわけではない。四つのそれぞれ独立した霊魂が一個の人間を形成している複合型悪霊……それが馬県・義透の本質だった。現在表に出ているのは質実剛健の化身たる『不動なる者』、答えた声は穏やかで飄々とした『疾き者』だ。
『勝手知ったる、ってやつですねー。私が刺客なら、まずは上を取ることから考えます』
 生前は忍者であった『疾き者』の助言は的確だ。『不動なる者』――少なくとも表面上は彼こそ馬県・義透――は「感謝する」と呟き、視線を岩盤の上方へと向けた。

 徐々に濃さを増しつつある霧に紛れてはいるが、前方の切り立った崖の上に、複数人の気配を感じる。果たしてこちらが真下を通り抜ける前に、風を切って飛ぶ無数の音が。
「矢で一斉に仕留める手筈か……鵬遷殿、我らの後ろに!」
 そう言うや否や、義透は巧みに馬を操って矢と鵬遷の間に割って入る。そして瞬時に漆黒の剣『黒曜山』を構えると、剣は巨大な盾へと変化して矢の雨を遮った。
 この盾一枚で降り注ぐ矢を鵬遷の分まで防いでみせると、義透は射手達が潜んでいるであろう高台の岩場へと意識を向けた。その視線に沿って放たれた四天霊障……四人分の無念の集合体が、不可視の一撃となって刺客達の足元を打ち砕く。
「ま、今のは脅しだ。そう簡単に抜かせはせぬよ、とな」
 やはり護衛の任務であれば、盾を任ずる『不動なる者』こそが相応しい。
 最も適した者が表に出るのが我ら四人。その強みを発揮しながら、義透は疾駆する。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
傾国の寵姫…ねぇ。そこまで美人だってんなら、是非、一度そのご尊顔を拝んでみたいね。

馬か。へぇ、確かにこの世界じゃバイクなんて気の利いたモンはねぇわな。
馬に跨るぜ。…お前、名前は?──ハハッ、言葉は分かんねぇか。(馬のたてがみを撫でながら)
【運転】で駆けるぜ。鵬遷の馬は追い越しても良いのかい?
なに、折角だ。面白いモンを見せてやろうと思ってよ。(指パチンでUC)
数頭の紫雷の猟犬だ。鵬遷を狙う悪意に反応して襲い掛かる。暗殺者やら簡単な罠程度なら馬の勢いを殺さずに駆けれるハズだ。
それと一つだけ言っておく。俺は基本的に人間の殺しはしない。暗殺者も怪我程度だ。始末する気はねぇ。それは知っておいて貰うぜ。


アレクサンドル・バジル
ハハハ、若様が籠絡されたらしいな。まあ、かつての傾国の寵姫らしいし仕方ねーさ。取り返しがつくうちに目を覚まさせてやろうぜ。

キャバリアも海竜も世界観にあわねーなと馬を借ります。(騎乗)
鵬遷の近くで護衛。
(守るべき護衛対象は鵬遷の従者達も含みます。鵬遷の毅然とした姿勢には好意的ですし、従者達の態度はまったく気にせず)
罠や障害、刺客などは『万象斬断』で物理的に断ち切ります。

親父殿には帰って来て欲しくないみたいだな。傾国って言うなら親父殿ごと魅了してみせるぜって度量を見せて欲しかったがなぁ。



 周囲の風景は、既に木立から岩場へとほぼ完全に移り変わっていた。
 切り立った崖とまばらな木々、そして深まる霧。いよいよ山水画めいた情景だ。
「この世界じゃバイクなんて気の利いたモンはねぇからな。頑張ってくれよ」
 いよいよ悪路と呼ぶに相応しくなりつつある道を突っ走りながら、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は自分の馬に言葉を投げかけた。乗り手の言葉が分かっているのかいないのか、宿場で借りた馬は襲撃に怯えることもなく粘り強く走り続けている。
「ま、キャバリアも海竜も世界観に合わねーからな。ここは馬に乗ってこそだろ」
 冗談交じりの口調で応えたのはアレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)。同じく宿場で借りた馬を難なく操り、カイムの馬の隣に並べて走らせる。
「違いねえ。郷に入ってはなんとやら、だな」
 カイムは自分の馬――宿場で名前を尋ねてみたが当然言葉は話せなかった――を労いつつ、改めて前方に目を向けた。霧と地形で視界は決して良くはないが、それでも遠くで火の手が上がっているのが分かる。今のところ散発的な被害に留まっているのは幸いか。
「傾国の寵姫……ねぇ」
「ハハハ、若様が籠絡されたらしいな。まあ、そういう相手じゃ仕方ねーさ」
 アレクサンドルが笑いながらフォローする。実際、オブリビオンと化した寵姫の魅了はまさしく魔性のもの。並の人間が気を強く持つ程度で対抗できるものではないだろう。
「そこまで美人だってんなら、是非、一度そのご尊顔を拝んでみたいね」
「拝むついでだ、取り返しがつくうちに若様の目を覚まさせてやろうぜ」
 このまま目的地を目指せば、黒縄華妃とはいずれ必ず顔を合わせることになるだろう。

 だが、まずは目の前の刺客だ。突如響き渡った蹄の音へと目を向ければ、馬に騎乗した一団がそれぞれ剣や長刀を手にして奇襲を仕掛けてきた。岩陰で待ち伏せしていたのか。
「なに、折角だ。領主サマには面白いモンを見せてやろうか」
 こちらと並走しながら距離を詰める刺客を前にして、カイムは指を弾いてみせた。それを合図にユーベルコードが起動、数頭の『迅雷の猟犬(ライトニング・チェイサー)』が出現する。馬の勢いを殺さないだけのスピードと、悪意を持つ対象をどこまでも追跡する執念深さを持つ紫雷の猟犬……最も接近していた刺客がまず餌食となった。飛びかかる雷犬を躱すことなど出来ずに、炸裂する紫雷を浴びて敢えなく落馬する。
「なるほど、驚くべき技よ。だが、とどめは刺さぬつもりか?」
「俺は人間相手の殺しはしねぇ。依頼はあくまで護衛だ、問題ねぇだろ?」
 カイムの視線を受け止め、鵬遷は僅かに思案してから「良かろう」と答えた。
「どのみち金で雇われた刺客、見逃したところで後顧の憂いにはなるまい」
「そうこなくちゃな。これで存分に力を振るえるってわけだ」
 次の悪意を嗅ぎつけた雷犬が、新たな獲物めがけて牙を剥く。

「それにしても、よっぽど親父殿には帰って来て欲しくないみたいだな」
 執拗に迫り来る刺客の攻撃を捌きながら、アレクサンドルが嘆息する。
 それだけ鵬遷がこの地の人心を掌握する上で重要な存在で、黒縄華妃にとっては邪魔だということなのだろうが、それにしても随分と手が込んでいるなという印象だ。
「よそ見をする暇があるのか! 死ねぃ!」
「おっと、悪い」
 刺客が完全に不意を打ったつもりで振り下ろした剣は、しかしアレクサンドルの体を傷つけることはなかった。素手であるはずのアレクサンドルの手刀に触れた瞬間、剣は中程から斬り飛ばされ、そのまま地に転がっていたのだから。
 アレクサンドルのユーベルコード『万象斬断』は、魔力を込めた手足で触れたあらゆるものを切断する。鋼鉄を鍛えて造られた剣であろうと、例外ではない。
「この世に切れないモノなど存在しないぜ、勉強になったろ」
 刺客を容易く無力化し、アレクサンドルは馬を加速させながら再考する。
「傾国って言うなら、親父殿ごと魅了してみせるぜって度量を見せて欲しかったがなぁ」
 もしかすると、この執拗なまでの攻勢は黒縄華妃の臆病さの裏返しかもしれない。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

紅・麗鳳
なんとも残酷な話ですわ。
もし鵬信様とやらが私を知っていれば、そんな悪女に篭絡される事など無かったでしょうに――。

だって私の方が美しい筈ですから!

雪膚花貌、繊腰皓腕、回眸一笑して百媚を生じるという言葉の本当の意味を教育しに行って差し上げますわ。


馬は自前のまーちゃんに騎乗していきます。

基本、鵬遷様と並走しつつ周囲を警戒し、伏兵からの不意打ちなり飛び道具は方天戟で払って防ぎましょう。

特に大勢潜んでいそうな場所や仙術の使い手には先行して駆け抜け、仕掛けられる前に羽衣の毒を吸い込ませますわ。
即ち、【宝貝解放「天香酔骨」】

お味方には効かないよう調整しておきますが、不安でしたら目口鼻を塞いでくださいまし。


堆沙坑・娘娘
拱手、礼と共に名乗り、挨拶。
相手は領主ですので流石にある程度は畏った口調で。
礼節を重んじる姿勢を見せることで従者の方々を多少なりとも安心させられればよいのですが。

一行には気持ち先行する形で走ってついていきます。
そして刺客・罠に適していそうな箇所を見つけたらとにかくユーベルコードを叩き込みます。刺客が岩場や木陰に隠れていようと【貫通攻撃】で貫いてやりましょう。罠は地形ごと破壊します。
もし結果的に何もなかったとしても、刺客や罠を警戒しながら慎重に進むより、怪しい箇所はゴリ押す方が速く進めますからね。怪しい箇所では毎回やります。

速度最優先です。

では鵬領主、最速最短で文字通り突っ切らせていただきます。


セルマ・エンフィールド
この世界ではこうして挨拶をするのが作法とのことでしたね。しばらくは一緒に過ごすことになるでしょうし、礼儀は抑えておきましょう。拱手で挨拶をし、護衛をおこないます。

予知では鵬遷さんはオブリビオンに捕らわれるとのこと。まだオブリビオンのいる町までは距離がありますが、どこのタイミングで襲われたかは不明ですし気は抜けませんね。

【氷の獣】を召喚、半径10kmを巡回させて隠れた刺客や術者を見つけ出します。
刺客を見つけたら複数体で囲み、追い立てさせて私の射程まで刺客を誘導させ、「フィンブルヴェト」の氷の弾丸で足を撃ち抜き捕縛します。
オブリビオンであれば容赦はしませんが……誑かされただけかもしれませんからね。



 岩場地帯を突っ切ると、目的地はいよいよ目の前に迫りつつあった。
 今のところ足止めはほぼ受けていない。これなら日が沈む前に領内へ入れそうだ。
 敵にこちらを迎撃するための時間を与えないのは大きなアドバンテージとなり得る。
 あとは何事もなく、残る暗殺者の襲撃を凌ぎ切れればよいのだが。
 そう考える一行の前に、いよいよ最後の難所が待ち構える。
 天を衝く左右の奇峰と、その岸壁に挟まれた逃げ場のない谷間の一本道。
 敵にとっては攻めやすく、味方にとっては守りにくい、天然の要害地帯。
 罠があるものと理解した上で、一行はそれでもこの道を進まなければならない。

「全くもう、しつッこいですわ!」
 紅・麗鳳(梟姫・f32730)の振るう方天戟「桃宴」が、海棠色の残影を残しながら周囲の刺客を薙ぎ払った。乗り手を失った馬はみるみるうちに失速し、遠ざかっていく。
「なんたる膂力! 鵬遷め、まさかここまでの豪傑を手勢に加えていたとは……!」
「もう少し華のある褒め方は出来ませんの!?」
 失敬な物言いの新手を即座に馬上から叩き落とすと、麗鳳は汗血馬「まーちゃん」の手綱を握り直した。これだけの強行軍、既に一行の馬には疲労の色が見えるものもいるが、まーちゃんは消耗している様子もなく速度を上げる。汗血馬の面目躍如だ。
「いよいよなりふり構わなくなってきていますわね。暗殺が聞いて呆れますわ」
「向こうもそれだけ後がなくなっている、ということです」
 麗鳳のぼやきに答えつつ、堆沙坑・娘娘(堆沙坑娘娘・f32856)は己の脚力で汗血馬と並走する。両手に構えるのは唯一にして無二の武装であるパイルバンカー。小柄な体躯に不釣り合いな重武装を難なく携行しながら、娘娘は視線を上げて鵬遷を仰いだ。
「鵬領主、この谷間を抜ければ相手の攻勢も一旦弱まるのですね?」
「そのはずだ。この先は開けた地形となり、暗殺者共が潜める場所も限られよう」
「では、このまま最速最短で突っ切らせていただきます。今しばしのご辛抱を」
 娘娘の言葉を受けて、鵬遷が鷹揚に頷く。娘娘の礼節ある受け答えに交換を持っている様子だ。傍に控える従者達も、もはや猟兵達に不安を感じている者などいない。
 信頼は無事に勝ち得ているようだ。娘娘は頷き返し、更に足を速めた。
 その背中を、冷気を放つ氷で出来た狼達が追いかけてゆく。

「あと少し、とのことですが。最後に何か大仕掛けがあってもおかしくないですね」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は冷静にそう考えながら、氷の狼達に指示を出す。ユーベルコード『氷の獣』で作り出した狼は主の命令を忠実に聞くだけでなく、狼らしい強力な嗅覚をも備えている。
 この特性を活かして数匹を先行する娘娘達の護衛に当て、セルマ自身は愛銃フィンブルヴェトを構え直した。こうやって移動しながらでは狙撃手らしい一撃必殺は困難だが、狙撃が出来ない状況に合わせた戦い方というのもある。
「仮にオブリビオンであれば、容赦はしませんが……」
 氷の狼達に追い立てられ、たまらず隠れ場所から飛び出してきた刺客の足を、セルマは沈着冷静に氷の弾丸で撃ち抜いてゆく。出血多量で死ぬことはないが、痛みで立ち上がることは出来ないであろう箇所を正確に撃たれ、刺客は呻き声と共に倒れ伏した。
「……誑かされただけの人間ならば、命を奪うまでもないでしょう」
 と、その時、セルマは氷狼を通じて遥か前方の違和感に気付いた。仙術の匂いが狭い範囲に集中しているだけでなく、人間もその範囲を中心に集まっている。
「……これは」
 セルマが狼達に指示を出すよりも先に、大地を揺るがすほどの轟音が鳴り響く。
 こちらを直接狙った仙術の罠、ではない。もしもそれだけ近くで起動したのであれば、事前に察知した猟兵達が対処出来ないはずがないからだ。こちらの索敵範囲よりも遠くで何が起きたのか……しかしそれは考えるはずもなかった。左右にそびえる岩盤の一部が爆破され、これから一行が通るはずの進路を転がり落ちた巨岩が塞いでしまう。
「思ったよりも、派手な手を使いますね」
 だが、突破できない障壁ではない。猟兵は、ユーベルコードはそのためにある。
 セルマは己の役目を引き続き遂行すべく、愛銃を構え直した。

「なるほど。こちらの進路を絶ち、袋小路に追い込んで叩くつもりですか」
 娘娘が推測した通り、あらかじめ周囲に潜んでいたのであろう刺客達が、巨岩のバリケードの周囲に次々と姿を現した。強引に包囲状態に持ち込んで戦力差を覆すだけでなく、最悪でも進路を塞ぐことでこちらの足止めは出来ると踏んでいるのだろう。
「もっとも今のわたくし達は譬ばを竹を割るが如し。止められるものではありませんわ」
 麗鳳が躊躇いなく手綱を操り、汗血馬のまーちゃんが一気に加速する。鵬遷一行を置き去りにして単騎で先行し、敵の包囲陣形の只中に突っ込もうとする形だ。その後を、娘娘が巨大なパイルバンカーを構えたまま顔色一つ変えずに追いかけてゆく。
「巻き込まないよう調整しておきますが、不安でしたら目口鼻を塞いでくださいましね」
 一旦振り返って娘娘へ目配せすると、麗鳳は迷うことなく敵陣に突入した。そして各々武器を握った刺客達が一斉に殺到せんとするその時、彼女が纏う羽衣がはためく。
「天香酔骨(テンシャンスイグゥ)――五蘊総じて癡と堕ちなさい!」
 この羽衣こそが宝貝「酔骨嬌衣」。放たれるのは無生物すら力を弱める魔性の毒。
 魅了を伴う甘い痺れが、逃げ場のない地形に布陣していた刺客を一斉に襲う。常人がこれだけ吸い込んでしまえば、もはやまともに立っていられるはずがない。
「天網恢恢、疎にして漏らさず。それじゃ、大岩のほうはお任せしますわよ」
「任されました」
 一足飛びに踏み込んだ娘娘が、巨岩を前にしてその得物を構えた。
 小柄な体格に似つかわしくない無骨で巨大な杭撃ち機――すなわちパイルバンカー。この武装ひとつで数十年もの間ひたすらに戦い続け、遂にはパイルバンカー神仙拳の開祖となるまでに極めたからこそ、彼女は今こうして「堆沙坑娘娘」と呼ばれている。
 巨岩の最も脆い点を見極め、衝撃を殺すべく両足で構え、杭の狙いを定め、そして。
「貫く」
 ユーベルコード『断气(ドゥァンチィー)』。これらの動きを瞬きひとつの間に成し遂げ、放たれた一撃は狙い過たず巨岩を打ち貫いた。内部で炸裂する莫大な闘気によって、見上げるほどの巨岩は文字通り粉々に破砕され、谷間の風に乗って消えていく。
 そして拓かれた道の先には、目指し続けた風景が広がっていた。

   ▼  ▼  ▼

 一行が領地に足を踏み入れた時には、既に空は夕焼け色に染まりつつあった。
「ここまで来れば、我が屋敷までは一息だ。待っておれよ、信」
 息子の名を呼ぶ鵬遷の姿を見つめ、麗鳳は溜め息をつく。
「なんとも残酷な話ですわ」
「息子さんは気の毒ですが、まだ間に合うはずです。そのために来たのですから」
 セルマが至って冷静に応えるが、当の麗鳳は大きくかぶりを振った。
「いいえ、そうではなく。もし鵬信様とやらが私のことを知っていれば、そんな悪女に篭絡される事など無かったでしょうに――だって、私の方が美しい筈ですから!」
 セルマは思わず麗鳳の顔を見、そのまま二、三度ほど目を瞬かせた。
「雪膚花貌、繊腰皓腕、回眸一笑して百媚を生じるという言葉の本当の意味を、未だ真実の美を知らぬ鵬信様へ教育しに行って差し上げますわ」
 どうやら本気らしいと理解して、セルマはそれ以上何も言わずに麗鳳の後を追う。
 いずれにしても、目指す場所は近い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『刀刃拳門下生』

POW   :    刃化
【剣と拳を組み合わせた拳法、刀刃拳の技】が命中した対象を切断する。
SPD   :    舞刃演武
自身の【体を一振りの剣に見立て、空を舞う剣】になり、【舞う様に攻撃する】事で回避率が10倍になり、レベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    鍛磨
【身を鍛え、心を研ぎ技の切れ味を磨いた】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 暗殺者の襲撃を突破して辿り着いた領内は、不気味なほどに静まり返っていた。
 この地は領主の館を中心に市場や職人の工房が集まり、外縁は農地で占められている。
 猟兵達が足を踏み入れた辺りは一面の麦畑で、本来ならば農民達が働いているはずだ。
 だが周囲には人影ひとつなく、吹き抜ける風を除いて物音を立てるものもない。
 それでも注意して観察すれば、そこかしこに放り出された農具が転がっている。
 農民達は危機を察して身を隠したのだろう。内乱の火がここまで広がる、その前に。

 沈みゆく夕日が風景を橙色に染め、道を急ぐ一行の影を長く伸ばしてゆく。
「ここから屋敷までは開けた道が続く。先ほどのような奇襲は容易くあるまい」
 そう語る鵬遷の言葉はしかし、何処と無く端切れの悪さを残している。
 容易く奇襲は出来ない、だがそれには「人間であれば」という条件が付くはずだ。
 超常なる力は常識などあっさりと覆す。此度の敵は、そういう相手なのだから。

 果たして、夕暮れの道をひた走る猟兵達は、音もなく近づく気配に気付く。
 青々と茂る麦畑の合間を縫って、殺意が自分達を静かに包囲しつつあるのを感じる。
 張り詰めた空気が限界に達しようとした時、それらは一斉に名乗りを上げた。

「天上天下の分け隔てなく、血を求むるが刀刃拳!」
 白一色の拳法着、口元を覆う覆面、そして抜き放たれて鈍く輝く直剣。
 独特の歩法で容易く馬に追いつくのを見れば、並の人間で無いのは瞭然だ。
「刀刃拳だと? あれはとうの昔に断絶したと、そう伝えられておるはず……!」
 鵬遷が呻く。この世界の事情に詳しいならば、伝え聞いた者もいるかもしれない。
 乱世の影に刀刃拳あり。彼らは人剣一体の境地を是とし、手足の如く刃を振るう。
 だがあまりに多くの兇手を輩出したがため、遂には使い手諸共に滅ぼされたと。
 その使い手達が目前に迫る――考えるまでもない。過去の残影、オブリビオンだ。

「当代領主、鵬遷よ! 華妃様の命により、その首貰い受ける!」
 刃そのものが舞い踊るかのような軽やかさで、拳士達が一斉に飛びかかる。
 この者共を討ち滅ぼさなければ、黒縄華妃の元に辿り着くことは出来ない……!
馬県・義透
『不動なる者』のまま。

奇襲にあらず、強襲か。
そういえば、他人格が刀刃拳伝承者と交戦しておったの…。
あれの門下生集団ということか。

さて、人数が多いな…ふむ。対多数戦は、わしの領分ではないのだが、護衛もある。
念のため、鵬遷殿と従者たちに防御用結界を張ってはおくが。

【四悪霊・『解』】にて、『我ら』の場にしてしまおう。
お主たちの運は地に落ち、攻撃すれども当たらず、回避しようにも避けられずよ。生命力吸収しておるから、活力も低下しておるだろうからな。
強制的に全力を出せぬようにしたわけだ。

わしは黒曜山を盾のまま叩きつけたり、四天霊障によって押し潰したりだな。

悪霊を抜けると思うなよ…?


サンディ・ノックス
時間もないし容赦しないよ
骸の海に逆戻りしてもらうね

UC伴星・傲慢な飛輪を発動
魔力によって肉体の一部を飛輪に作り替える
(魔力の根本・源になるのはお前達などに後れを取らないという傲慢な思念)
馬に乗せてもらって自力で移動はしないから多めに肉体を変換しても問題はない
素早く動く多数の者達を武器の量で牽制・攻撃しよう

集中して奴らの動きを観察、敵の行動方針も早めに見抜きたい
標的をわかりやすく狙い攻撃するのか、動き回って翻弄しながら不規則に攻撃を行うのか
標的は鵬遷さんただ一人なのか、周りの従者ごと殺していくつもりなのか
それらによって始末する敵の優先順位は変わる
落ち着いて危険度の高い敵から切り刻み被害を抑えたい



「奇襲にあらず、強襲か」
 鵬遷を目掛けて複雑な軌道で迫り来る刃を漆黒の盾で弾き返し、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)――『不動なる者』は四方へと目を走らせた。
 周囲は既に包囲されつつある。その布陣に加えて敵の身体能力を考えれば、馬で振り切るという手が通じないのは明らかだ。この場で強引に乱戦へと持ち込み、その混沌の最中で領主一人を殺せれば良し……黒縄華妃はそう考え、この拳士達を差し向けたのか。
「やはり猟兵! 我らにとって不倶戴天の仇敵なれば、成敗するより他はなし!」
「何が成敗だ。こっちは時間もないし、容赦はしないよ」
 オブリビオンへと昏い視線を向けながら、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は瞬時に己の肉体を魔法物質へと変換させる。創り出すのは無数の飛輪。引き続き鵬遷の従者に手綱を任せて馬上で戦うならば、自分自身の機動力は捨てても問題はない。その分の肉体をも武器へと変換し、間髪入れずにそのひとつを抜き撃ちで放つ。
「この程度の小技ひとつで……!?」
 咄嗟に身を躱した拳士の声は、周囲を埋め尽くす漆黒の刃を前に掻き消えた。

   ▼  ▼  ▼

 足を止めれば不利と見たか、刀刃拳の門下生達は独特の構えから軽やかに跳躍し、空中を舞いながら迫り来る。動き続けてこちらの狙いを絞らせないつもりだろう。
 予想通りであるとはいえ、状況はなし崩しで乱戦へと突入しようとしている。
「さて、人数が多いな……ふむ。対多数戦は、わしの領分ではないのだが」
『ならば、わしと代わるか兄者! 彼奴らの動きには見覚えがあるからのう!』
「そういえば刀刃拳の伝承者と一戦交えておったな……だが、護衛は終わっておらぬよ」
 別人格の一人と会話を交わしながら、義透は盾へと変化させた『黒曜山』を渾身の力で叩きつけた。懐に飛び込もうとしていた刃がへし折れ、使い手が呻きと共に吹き飛ぶ。
「護りの結界があるとはいえ、一人づつでは埒が明かぬか」
 周囲を旋回しながら黒盾の隙を狙う拳士達を睨み、義透は内に秘めた呪詛を解き放つ。
「我らの悪霊たる所以を見せよう――四悪霊・『解』!」
 一瞬にして周囲を支配するのは、『我ら』と名乗る四人の怨念。非業の死を遂げた悪霊達の昏き呪詛が、生命力もろともにオブリビオンの運気を簒奪していく。
「お主たちの運は地に落ち、攻撃すれども当たらず、回避しようにも避けられずよ」
「おのれ、奇っ怪な技を……何っ!?」
 死角からの突破を試みる門下生の一人。だがその直後、他の拳士が「不運にも」空中で接触した。思わぬ事態で両者共に体勢を崩した瞬間、四天霊障が纏めて叩き潰す。
「その程度の執念で、悪霊を抜けると思うなよ……?」
 言葉の内より滲み出でる気配は、紛うことなき悪霊のそれだ。

   ▼  ▼  ▼

「敵の動きが鈍った……!」
 悪霊の呪詛に運気を吸われた門下生の一人へ、漆黒の飛輪が殺到する。文字通り八つ裂きとなって地に落ちた敵へは目もくれず、サンディは周囲の観察に意識を向けた。オブリビオンが本来の力を発揮できていない今なら、その方針を推測するのは難しくない。
(敵は一見、出鱈目に動きつつ不規則に斬り込んでくるように見える)
 人剣一体の境地とはよく言ったもの。まさしく剣の切っ先までを己の肉体同様に振るうことで、刀刃拳の門下生たちは舞い踊るように攻撃を仕掛けてくる。その動きに対応できなければ、徐々に追い詰められていくしかない……かのように思える。
(だけど、よく見れば分かる。狙いは遷さん一人だ。それが分かれば軌道も読める!)
 サンディに閃きが走ったまさにその瞬間、拳士たちが同時に三方向から一気に距離を詰めた。対処困難な同時攻撃。だが、今のサンディには魂胆が手に取るように分かった。
「二人はフェイク、本命は一人! だったら、重点的に刻んであげるよ!」
 左右の敵はそれぞれ牽制して足止めし、ただ一人突っ込む形になった中央の拳士へと無数の飛輪を殺到させる。鵬遷目掛けて突き出された剣が寸刻みに切断され、その使い手もすぐに後を追った。動揺を見せた左右の拳士を、サンディは返す刃で切り刻む。
「傲慢だろうと『お前達などに後れは取らない』。骸の海に逆戻りしてもらうよ」
 その傲慢な思念が生み出した刃が、呪詛の領域を縦横無尽に舞い踊る。
 時には邪悪さすらも猟兵の武器なのだと、オブリビオン達は否応無しに思い知った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクサンドル・バジル
刀刃拳ね。ククク、分け隔てなく血を求めるって?
そりゃ滅ぼされるわな。それじゃあ、もう一回滅ぼしてやろう。
今は封神台はねぇ、骸の海に直行だぜ。

下馬してオド(オーラ防御)を活性化して戦闘態勢へ。
鵬遷から引き離すようにゴッドハンドの体術で刀刃拳に相対して派手に暴れます。派手に暴れることで刀刃拳の拳士達を可能な限り自分に引き寄せた瞬間に魔力を解放。『神魔審判』により滅ぼします。
残りはまあ他の猟兵がやるだろと魔力を解放したまま鵬遷の元へ。
鵬遷およびその護衛達が負傷していれば『神魔審判』の力で癒します。
その後は積極的に打って出ずに鵬遷を狙う奴を仕留める感じで。


厳・範
半人半獣のまま。
刀刃拳…あの流派か。
使い手の一人とは、すでに交戦したことがあるが…。門下生もオブリビオンになっていたのか。

麒麟たるわしを、有難がられるのを見たのでな。
【声焔】にて、門下生たちを燃やしてくれよう。その炎はオブリビオンのみを焼くからな。
門下生たちの間では延焼しようが、他には延焼せんのよ。わしが自由に消せるしな。

相手のUCは、当たると怖い。言い換えると、当たらぬなら問題ない。
優先的に剣と拳を燃やすようにもしよう。

わしらはこの先に用があるのだ。ここでやられるわけにはいかんのよ。



「ええい、猟兵なれども血は流す! 血を求むるが刀刃拳、ならば敗れる道理無し!」
 幾人もの同胞が地に倒れ伏すのを目にしながらも、刀刃拳の門下生たちは怯むことなく攻勢を続けようとしていた。その言葉の端からは、己の流派への盲信が垣間見える。
「ククク、分け隔てなく血を求めるって? そりゃ滅ぼされるわな」
 己の馬から飛び降り、アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)はふてぶてしい笑みを浮かべた。同時に内なる魔力「オド」が活性化され、アレクサンドルの全身を覆う。
「貴様ぁ! 大陸全土に比類無き、我らが流派を愚弄するか!」
「比類があるから敗けたんだろうに。どれ、それじゃあもう一回滅ぼしてやろう」
 そう言うが早いか、アレクサンドルの豪腕は拳士の腕を捉えた。剣を振るう間もない一瞬でその腕を捻り、勢い任せで地面に叩きつけて粉砕。その背後から飛びかかってきた新手へとカウンターの後ろ回し蹴りをぶち込み、追撃の拳で軽々と吹き飛ばす。
「おいおい、天下無双が聞いて呆れるな」
 アレクサンドルは憤怒に燃える拳士たちを引きつけ、鵬遷から引き離していった。

   ▼  ▼  ▼

「攻勢が弱まったか……しかしあれが、冥府より舞い戻った者達の力とは」
 オブリビオンの脅威を目の当たりにして、鵬遷が口惜しそうに呟いた。
「あれらは世に仇なす魔性、人の手には負えますまい。ここは我らにお任せを」
 厳・範(老當益壮・f32809)は半身を黒麒麟の姿に変えたまま、鵬遷と従者達へと声をかけた。人間の刺客が相手では怯むことのなかった鵬遷だが、流石に相手が悪いだろう。
 拱手して一礼し、背に従者達の眼差しを浴びながら、範は蹄を蹴立てて戦場へ向かう。
「刀刃拳……あの流派か。使い手の一人とは、すでに交戦したことがあるが……」
 以前に相対したのは、既に刀刃拳の修行を終えて一人前の兇手となった伝承者だった。
 目の前の敵は本来ならば修行の最中である門下生であり、実力としては伝承者より数段劣る。だがその代わりに数がいるのが厄介だし、あの剣捌きはひとたび受ければ致命的であることには変わりない。これ以上鵬遷たちに近づけるわけにはいかないだろう。
 幸いにして門下生たちの一部は、既に猟兵達の機転によって一行から離れる方向へと誘導されつつある。その中にあって未だ鵬遷を狙う拳士たちを目掛けて疾駆しながら、範は大きく息を吸い込んだ。脳裏に、自分へ向けられた従者たちの眼差しが蘇る。
(麒麟たるわしを、有難がるのを見たのでな。ゆえに今、瑞獣たる意味を教えよう)
 本性である黒麒麟の姿となった範が発する声――ユーベルコード『声焔』。それは骸の海より甦りしオブリビオンだけを焼き払う瑞獣の嘶き。その炎は門下生から門下生へと燃え移り、それ以外の一切を巻き込むことなく次々と延焼してゆく。
「麒麟が何だというのだ、その声を止め……」
 火の海を突っ切って懐に飛び込もうとした拳士が、剣を握る腕ごと焼き尽くされてその場に崩れ落ちる。剣の間合いさえ見切れるのであれば、決して恐ろしい技ではない。
「わしらはこの先に用があるのだ。ここでやられるわけにはいかんのよ」
 仇なす者を焼き払いながら、炎の中を麒麟が駆ける。

   ▼  ▼  ▼

「そろそろこっちの方は、爺様たちに暴れてもらっても良さそうだな」
 敵をちぎっては投げの大立ち回りを演じていたアレクサンドルの目にも、周囲を薙ぎ払う麒麟の炎は焼き付いた。ここは任せて、鵬遷たちの様子も見に行きたいところだ。
「余所見をしている場合か! 死ねい!」
 剣先を躱して距離を詰め、敵の頭を鷲掴みにしながらアレクサンドルは笑う。
「おっと、死ぬのは俺じゃない。今は封神台はねぇ、骸の海に直行だぜ」
 瞬間、解き放たれるオド。周囲に纏っていた膨大な魔力、そして内より溢れ出た更なる魔力が破壊と消滅を呼ぶ。ユーベルコード『神魔審判』。派手な戦闘と挑発によって引きつけられていた刺客たちは、膨張する魔力を前に抵抗すら出来ず滅せられてゆく。
「残りは、まぁ、他の連中がやるだろ」
 周囲に『神魔審判』を展開したまま、アレクサンドルは鵬遷たちの元へと向かった。
このユーベルコードは、絶大な威力の破壊と再生を同時に行えるところに強みがある。  破壊と再生は表裏一体。まさしく「味方には生を、敵には死を」だ。
「……とはいっても、領主殿御一行は元気そうで何よりって感じだな」
 幸い、鵬遷たちは傷一つ負っていない。彼らを護るは瑞兆か、あるいは神魔の加護か。
 しかし戦いは未だ続いている。更なる危機を防ぐべく、アレクサンドルは急いだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
おっと…早速のお出ましか。馬に追いつくなんざ頑張るねぇ。
華妃様の命により、か。魅了されたってクチじゃ無さそうだ。

再度、UC。生み出した紫雷の猟犬を数匹、鵬遷の援護と護衛に付けて。
…相手が過去の化物じゃあ、遠慮は要らねぇよな?今度は加減は抜きだ。派手に爆発して紫雷の鎖で繋ぐ。【運転】で走らせながら、左手の【怪力】で鎖を手繰って引き回す。手すきの猟兵にパスしたら上手い具合に始末付けてくれるかもな?
空いた右手は鵬遷に飛び掛かる連中を【クイックドロウ】で銃撃するのに使うぜ。
一先ず落ち着いたら鵬遷に聞くか。
それで?刀刃拳?っつーのは俺は知らねぇが、この世界の曲芸か何かかい?
何でもないことのように、な。


紅・麗鳳
黒縄華妃とやらの飼い犬ですか。
然らば尋ねたき事があります。

わたくしと黒縄華妃、美しいのはどちらかしら?
問いつつ、【国色無双】にて迎え撃たせて頂きますわ。

華妃の方が美しい?
不好! 刀身ごと【怪力】で【なぎ払い】吹き飛ばしますわ。

わたくしのが美しい?
好! 笑顔で【誘惑】し、夢見心地の内に首を刎ねてあげましょう。

沈黙、もしくは言葉を濁します?
この孺子! 真の美しさに心服せず主への義理立ても出来ぬのは何より不実と知りなさい!

敵が空を舞うなら私も【空中機動】で対抗しましょうね。
今趙飛燕と讃えられる(予定)我が足捌き、骸の海への土産となさい。

ふ、これだけ華麗に決めれば私の美姫としての名が轟く筈――。


堆沙坑・娘娘
鵬領主、お下がりを。

『暗刃』禍凶と同門ですか。しかし彼と比べればまだまだ暗殺者としては未熟なようですね。

気の起こりを読み、一斉に襲われようと攻撃を回避。
そしてこちらからの反撃は「先の先」での【貫通攻撃】。つまり敵の気の起こりを感じた瞬間、敵が攻撃動作に移る前に叩き潰します。
これが『暗刃』相手であればそう上手くは行かなかったでしょうが、この連中は刺客の癖に暗殺術がおざなりに過ぎます。そもそも奇襲もせずに声を上げ姿を晒して襲いかかるなど、黄泉に脳味噌を忘れてきたのですか?

とにかくなるべく敵を攻撃動作にすら移させずに倒すように立ち回りを続け、鵬領主一行に戦闘の被害を飛び火させないように努めます。



「『暗刃』禍凶と同門ですか。しかし彼と比べれば暗殺者としては未熟なようですね」
堆沙坑・娘娘(堆沙坑娘娘・f32856)が分析した通り、目の前の刺客たちは未だ刀刃拳の門下生に過ぎない。刀刃拳の皆伝を受け、兇手として悪名を馳せた使い手たちに比べれば、練度も経験も足りていない。だが、どれだけ同志が倒されようともまるで戦意を失わずに挑んでくるさまは、受ける印象としては狂信者のそれに近い不気味さがある。
「刺し違えてでも華妃様の命は果たす! 哈ッ!」
 回転し、宙を滑るように攻撃を仕掛ける拳士。その不規則な軌道は、しかし殆ど同時に発せられた数発の銃声によって絶たれた。銀の銃弾が刃を弾き、本体に風穴を開ける。
「華妃様の命により、か。魅了されたってクチじゃ無さそうだ」
 右手に双魔銃オルトロスの片割れを握ったまま、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は余裕をもって敵を睥睨する。敵は少なくとも、黒縄華妃によって自由意志を奪われているわけではない。単なる主従契約か、自ら忠誠を誓ったのか、あるいは魅了抜きでも心酔しているのか。いずれにせよ使命を果たすまで退くことはないだろう。
 続けてユーベルコード発動の構えを取るカイムの前に、躍り出る影がひとつ。
「つまりは黒縄華妃とやらの飼い犬ですか。然らば尋ねたき事があります」
 軽やかな足取りで進み出た紅・麗鳳(梟姫・f32730)が、堂々と敵に問う。
「紅・麗鳳。敵は未熟な拳士といえど、容易く主君の情報を売るとは思えません」
「いいえ、娘娘さん。わたくしが問うのは直截簡明、ただの人界の理に過ぎませんわ」
 娘娘の静止をやんわりといなし、麗鳳はこちらを取り囲む拳士へと改めて尋ねた。
「――わたくしと黒縄華妃、美しいのはどちらかしら?」
 実際には一瞬の間。だが、それにしてはやけに長く感じる沈黙を経て、
「……何を訊くかと思えば、美貌で華妃様に敵う者など」
「不好!!!」
 口を開いた不運な拳士が言葉を紡ぎ終える前に、その体はへし折られた剣の破片を散らしながら遥か遠方へと吹き飛んでいた。その場には花柄の方天画戟の残像だけが残る。
「なんたる愚人! 忠義に曇った目では、真の美を見極められはしないようですわね!」
 得物を豪快に振りかざし、麗鳳は宙空を蹴って敵陣へ飛び込んだ。

   ▼  ▼  ▼

「……経緯はどうあれ、敵は混乱しています。私たちも続きましょう」
 巨大なパイルバンカーを軽々と構え、娘娘が敵中へと一気に突入する。
 敵の集中攻撃など意に介しはしないとばかりに、迷いなく淀みない足取りで。
「ま、好機には違いねぇ。猟犬たちにはもう一暴れしてもらおうか」
 娘娘の小さな背中を見送り、カイムは再び指を弾いた。ここまで鵬遷一行を護衛し続けてきた『迅雷の猟犬』が再び召喚され、雷鳴混じりの唸り声を上げる。
「さて、相手が過去の化物じゃあ、遠慮は要らねぇよな?」
 ここに至るまでの道中では、人間の暗殺者をむやみに殺すことのないよう、威力を抑えて戦わざるを得なかった。だが、相手がオブリビオンであるなら話は別だ。
 猟兵の合間を縫って接近しようとする門下生の一人、その匂いを嗅ぎ取って、雷犬の一体が迅速に駆けつける。牙を剥いて素早く噛みつき……そしてそのまま爆破!
「人間相手じゃ使えなかった爆発からの紫電の鎖、味わいな!」
 爆破した対象から延びる鎖を、カイムは片腕で力任せに手繰り寄せた。引きずられて悲鳴を上げる敵を鎖ごと振り回し、そのまま味方の位置へと狙いを定めて投げ飛ばす。
「上手い具合に始末付けてくれればいいんだが」
 だが、結論から言えば、カイムが合図を送る必要はなかった。
 落下地点にはその時もう既に、パイルバンカーが射出体勢を整えていたのだから。

「あらゆる気の起こりの先を読み、こちらは更にその先をゆく……」
 すなわち『先の先』。娘娘のユーベルコード『幽灵(イォウリィン)』は、ほんの僅かな気の動きから相手の行動を読み取り、その先読みに対応することを可能とする。
 あえて言葉を交わさなくても、鎖に繋がれて後方から投擲された敵の落下位置は手に取るように分かる。そしてどの時点で攻撃すれば、一撃で仕留められるのかも。
「……貫く」
 完璧なタイミングでパイルバンカーが撃ち出された。一発で沈黙した敵から杭を引き抜くと、娘娘は躊躇うことなくその場で一歩下がり、斜め上方に向けて再射出する。
「隙あり……何っ!?」
 不意をついたつもりだったのだろう。娘娘の背後から飛びかかった拳士は狼狽の表情のまま、対空狙いのパイルバンカーに貫かれた。その者は己の気が先読みされているなどとは考えもせず、不意打ちを何故かわされたのかすら理解できなかったに違いない。
 これが以前相対した刀刃拳の伝承者なら、ここまで上手くはいかなかっただろう。
 明暗を分けるのは刺客としての練度の低さ。あまりにも暗殺術がおざなりに過ぎる。
「そもそも声を上げ姿を晒して襲いかかるなど、黄泉に脳味噌を忘れてきたのですか?」
 娘娘の辛辣な一言に、しかし反論できる相手がいようはずもない。

   ▼  ▼  ▼

「一旦距離を取れ! 体勢を立て直すのだ!」
 刃を閃かせて宙を舞いながら、門下生の一人が地上へ向けて声を張り上げた。
 己の流派に対して過剰な自信を持つ彼らから見ても、現状の旗色の悪さは認めざるを得ないのだろう。体勢を立て直せばどうにかなる、と捉えているということでもあるが。
「お待ちなさい。あなた、先ほどのわたくしの問いに応えていませんわね」
 自身も一旦距離を取ろうとする拳士の退路を塞ぐように、麗鳳が流麗な空中機動で回り込んだ。拳士は内心冷や汗を流しながら、なんとか活路を見出すべく思案を巡らせる。
(自分と華妃様、どちらが美しいかだと? そもそも戦いと何の関係があるのだ!)
 それに、どちらと答えようとも相手が自分たち刺客を見逃すわけではあるまい。
(ならば正解は沈黙……! 考えている振りをして反撃の気を伺えば)
「この孺子! 真の美に心服せず主へ義理立ても出来ぬのは何より不実と知りなさい!」
 だが拳士のそんな甘い考えは、麗鳳の前では容易く打ち砕かれる。
「そんな理不尽な話が――!」
「美なる一人あり、清揚にして婉たり! 美しさとはそれ即ち『理』なのです!」
 今趙飛燕を自称する足捌きが生み出す、宙を流麗に舞い踊るがごとき一撃。
「そして邂逅して相遇う、我が願いに適えり……これで美姫の名は轟くはず」
 満足して鵬遷たちの元へ降下する麗鳳を、先に戻っていたカイムと従者たちが迎えた。
「よう、お疲れさん。大した暴れっぷりじゃねぇか」
「まったくです! 麗鳳殿こそまさしく豪腕無双の大豪傑に違いありますまい!」
 予想外の称賛に固まる麗鳳を労いつつ、鵬遷は改めて感嘆の声を発した。
「それにしても、猟兵の力とは凄まじきものであるな。まさか刀刃拳の使い手をも……」
「刀刃拳?っつーのは俺は知らねぇが、この世界の曲芸か何かかい?」
 カイムが何でもないことのように尋ね、鵬遷は思わず笑みを漏らした。
「本当に頼もしい限りよ。これならば、この先の黒縄華妃が相手であろうとも……」
 鵬遷は顔を上げ、残る敵を見やる。戦場の趨勢はいよいよ決しつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…失われた古の武人をも手駒としますか。

貴方がた全てがただ衝動に呑まれるのみの兇手であったと、
そう断じる事は致しません。
或いは貴方がたも華妃に籠絡された身なのでしょう。

されど、父子が治め良き世へと導かんとする地を害す者に与し、
過去より今を脅かすとあらば。
――我が武を以て今一度、その刃を折らせて頂きます。


UCを発動、残像にて相手の動きに追従するが、
深追いはし過ぎず相手の攻める瞬間の隙を狙う

野生の勘、落ち着き、見切りにて相手の動きを予測し、
相手が距離を詰めてくれば怪力、カウンターにて白刃取り
部位破壊にて剣をへし折りグラップルで相手を捉え、再びの飛翔を許すことなく
怪力、2回攻撃を用いた拳打にて仕留める


セルマ・エンフィールド
拳法が主流の世界も多くありませんし、あまり見かけない動きですね。
数もいますし白兵戦で対応するのは骨が折れそうです。

敵はオブリビオン。加減する必要はありませんが……鵬遷さんたちがいる以上、あまり無差別の攻撃はできませんね。

ならばこれで。ちょうどおあつらえ向きでしょう。
【鎖す氷晶】を使用、1000本を超える宙を舞う氷晶の刃の『弾幕』で敵の集団を切り裂きます。回避も防御も許す数ではありません。

最短距離で強行突破できれば比較的傷は浅くて済むでしょうが……最短距離での突撃など、ただの的です。
【鎖す氷晶】で撃ち漏らした敵は「フィンブルヴェト」からの氷の弾丸で迎撃していきます。



 こんなはずではなかったと、刀刃拳の使い手はもう何度目かの悔いを繰り返す。
 元々は難しい使命ではなかったはずなのだ。ただ無力な領主ひとりを始末するだけの。
 その護衛に猟兵が加わっていると知らされた時も、またとない機会だと喜びさえした。
 ここに集った門下生たちは、かつて刀刃拳の免許皆伝を許されぬまま命を落とした身。
 闇刃の二つ名で恐れられた兄弟子のように、誰もが戦場で己の功夫を証明したかった。
 それに猟兵を打ち倒して華妃様へ力を示せば、刀刃拳再興の芽もあるかも知れない。
 刀刃拳が天下無敵の流派である以上、この使命は千載一遇の好機だったはずなのだ。
 だからこそ、現実を嘆かざるを得ない。こんなはずではなかった、と。

 そして今、生き残った刀刃拳門下生たちは、荒れ狂う氷嵐を前に攻めあぐねていた。
「白兵戦では骨が折れる相手なら、ちょうどおあつらえ向きでしょう」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が展開した『鎖す氷晶』の領域。
 一千本を超える氷晶の刃のひとつひとつが複雑な軌道を描きながら飛び交い、侵入者を切り刻む刃の嵐となって敵を阻む。その数と密度は、いかに武術を鍛錬したからといって対応できるものではない。躱すことはおろか、切り払うことすら困難だろう。
「怯むな! 力尽きるより先に一太刀を見舞えればそれで善い!」
 しかしそれでも、拳士たちは己を鼓舞しながら次々に氷刃の嵐の中へ飛び込んでゆく。これだけの被害を出しながらも撤退しようなどと考えもしないのは、ここで退けば僅かに残った流派への誇りすらも失うと、無意識にでも気付いているのか。
「……理由はどうあれ。最短距離での突撃など、ただの的です」
 セルマは愛銃フィンブルヴェトを構え、狙いを定めた。無数の刃が飛び交うこの戦域を突破するために、敵は目的地への最短経路を選ばざるを得ない。だがそれは刀刃拳の強みのひとつである独特の歩法や空中戦による優位を、自ら封印しているも同然だ。
 スコープを覗きながら、セルマは冷静に銃爪を引いた。拳士たちは普段の機動力で狙いを散らすことすら出来ずに、一人また一人と氷晶の嵐の中で力尽きてゆく。

「くそ、同門の骸を盾にしてでも進め! 刀刃拳の恐ろしさを見せてやれ!」
 単独での突破はもはや不可能と悟ったか、門下生たちは最後の手段に打って出た。
 すなわち、密集しての一点突破。狙撃による各個撃破の危険さえ減らせば、生き残った誰かが鵬遷の命を奪えるだろうと考えているのか。もはやその戦術は特攻に近い。
 だが、命をも投げ売って進まんとする刺客たちの前に、小柄な影が立ち塞がる。
「貴方がた全てが衝動に呑まれるのみの兇手であったと、そう断じる事は致しません」
 月白・雪音(月輪氷華・f29413)は、非道の暗殺拳と悪名高い刀刃拳の使い手に対しても、真摯に向き合う姿勢を崩さなかった。事実、彼らはただ殺戮を楽しんでいるというわけではない……黒縄華妃の手駒となった理由など、今や確認のしようもないが。
 或いは貴方がたも華妃に籠絡された身なのでしょうと、雪音は続ける。
「されど、父子が治め良き世へと導かんとする地を害す者に与し、過去より今を脅かすと
 あらば――我が武を以て今一度、その刃を折らせて頂きます」
 氷刃の嵐の只中で、雪音は静かに構えを取る。彼女にとって武器足り得るものは、ただひとつ……極限まで磨き上げ、鍛え上げた、人間業の窮極たる『拳武』のみ。
「……名も知らぬ拳の使い手よ、刀刃拳が罷り通る!」
 敵が一瞬だけ拱手の構えを見せたのは、雪音の言葉に感じるものがあったのか、それとも武道家同士への僅かな経緯か。いずれにしてもあくまで一瞬、後はただ相対する者の命を奪う兇手として、刀刃拳の使い手たちは各々の剣を握り挑みかかってくる。
「致し方ありません。それならば、せめて……」
 もはや刺し違えるつもりであるかのような斬撃に、しかし雪音は逆に懐へ踏み込むことで対処した。刃へと速度が乗る直前に白刃取りにて抑え込み、そのまま身を捻って刀身を折り砕く。瞬きひとつの間に敵の武器を無力化すると、雪音は更にもう一歩踏み込む。
「……せめて我が戦の粋、骸の海への土産となさいませ」
 雪音の細腕が相手を捉えると、体格に勝るはずの門下生は容易く宙に浮いた。そして間髪入れずに打ち込まれるのは渾身の一撃――更に追撃。防御すら許さない神速の剛拳。
 目で追うのも難しいほどの一瞬の交錯を経て、刺客の体は木の葉のように吹き飛んだ。
 極限まで積み上げた武の極致に敵の功夫が及ばぬならば、敗れる道理はない。

   ▼  ▼  ▼

 そして。
「……華妃様、面目次第もございません……」
 遂に最後の拳士が力尽きてその場に倒れ伏し、骸の海へと還っていった。
 これで全ての刺客は退けた。だが既に日は沈み、周囲は闇で覆われつつある。
 一行は再び馬に跨り、領主の館を目指して再び走り始めた。
 全ての元凶を討ち滅ぼし、この地をもう一度人の手に取り戻すために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒縄華妃』

POW   :    働け、下僕共よ
レベル×1体の【配下の下級役人】を召喚する。[配下の下級役人]は【公権力】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    妾に逆らう屑虫共を、一人残らず吊るしてくれよう!
【傾国の寵姫としての体裁】を脱ぎ、【世界を滅ぼすオブリビオンの本性を現した姿】に変身する。武器「【絞殺縄鞭】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ   :    ああ、なんと頼もしいお方♪
【黒縄華妃に籠絡された武侠や権力者】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はジュリア・ホワイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 刀刃拳の使い手たちを一掃し、猟兵たちは鵬遷一行と共に屋敷へと急いだ。
 麦畑を抜けて郷の中心に近づくほどに、混乱の度合いが強まるのを肌で感じる。
 まだ民衆にまで被害は及んでいないようだが、それでも方々で火の手が上がっている。
 戦っているのはどちらもこの地を守るべき兵。これでは同士討ちも同然だ。
 そして、そんな無益な争いを安全な場所から見て愉しむ者が、すぐ先にいる。

 一行が目的地に辿り着いた時には、既に高く昇った月があたりを照らしていた。
「者共、矛を収めい! この鵬遷の目の前で、これ以上の蛮行は許さぬぞ!」
 出会い頭に兵を一喝し、鵬遷は気炎を上げて猟兵たちと屋敷の広大な庭へ向かう。
 そこでは領内の惨状とはおよそかけ離れた、豪華絢爛な宴が催されていた。
 贅沢の限りを尽くした美食珍味の数々が並び、歌と踊りが争いの音を遠ざける。
 そんな宴の輪の中心で、身なりの良い青年にしなだれかかる女がひとり。

「信! 無事か!」
 鵬遷の呼ぶ声に、青年――鵬遷の一人息子、鵬信が顔を上げる。
 どこか虚ろな表情の鵬信が口を開く前に、隣の女が媚びた声色で遮った。
「あら。御壮健で何よりですわ、お義父様……妾の歓待、お気に召したかしら」
 怒りではち切れそうな鵬遷から視線を外し、女は傍らの猟兵たちへ冷たい目を送る。
「はぁ……ここはもう既に妾の庭。土足で踏み込むとは無礼と思いませんこと?」
 女――黒縄華妃が着物を脱ぎ捨てると、代わりに影が装束となって肢体を覆う。
 同時にどこからともなく伸びた黒縄が鵬信を縛り上げ、屋敷の中へ引きずり込んだ。
「鵬信様は後回し。不埒者を始末した後、じっくり骨抜きにして差し上げます」
 くすりと笑う黒縄華妃の周囲で死の影が渦巻き、中から次々と人影が現れる。
 それらは生前の部下である役人たちであり、あるいは籠絡された武将や侠客たち。
 過去の残滓に過ぎない彼らは、華妃の号令ひとつで手足のように動くだろう。
「たとえ醜い屑虫も、首を括って吊るしてやれば、枯れ木の花にはなるでしょう。
 ようやく手にした妾だけのための国を……みすみす手放してなるものか!」
 黒縄華妃の美貌が僅かに歪み、その邪悪な執念が実体を持って襲いかかる――!
馬県・義透
『不動なる者』のまま。
真の姿に(21/3/11納品)。…一気に若返ったな(想定が十二歳。『不動なる者』は享年:四十五)

さて、護衛も最後まで、といこうか。
ここは貴殿の庭ではない。好きにしていい場所ではない。
ああ、呼び出されるのも過去の残滓か。やりやすい。

早業にて四天流星を念動力で操り牽制にし、防御用結界術を構築。
黒曜山を剣形態へ。そして【四天境地・山】を発動。
過去の残滓を盾にしても、避けようとしても無駄である。これは未来への斬撃、黒曜山にて見た未来の貴殿の位置にあるもの。

また、わしへの攻撃は内部三人が操る四天霊障にて弾く。迂闊に近づくと、そのまま押し潰されよう。
見た目で侮るなかれ。痛い目を見るぞ


紅・麗鳳
あれが黒縄華妃……。

ふーむ。
確かに秀麗な顔立ちをしていますが、とんだ小物でしたわね。

ここは貴女の国ではなく、鵬遷様が治め、領民たちの暮らす土地でしょう。
形ある美しさでわたくしに勝るものは稀でしょうが、形なき美もまた至極。

この地の景色の明媚さも、常なら暢気に笑い合っていたろう民の営みも、そして父子の絆も。

その価値を認めぬ料簡の狭さ、まったくもって美しくありませんわね!

後は問答無用。
【佳人必勝】の理を叩き込んでやります。

武侠だの権力者だのは方天画戟を旋回させ、【怪力】任せの【なぎ払い】でぶっ飛ばしましょうね。

反撃は地を蹴っての【空中機動】で回避し、そのまま彼らを踏み台に華妃へ突撃し、一撃を。


サンディ・ノックス
俺達も丸め込もうとしてくるなら綺麗だねって乗ってあげたのに
敵意むき出しだから遊ばずにさっさと駆除してあげよう
虫は俺達だって?勝手に言ってなよ
お前って顔は綺麗だけど人々への行いを見ればわかる通り魂が腐りきってるじゃないか
ああ、でも鵬信さんを盾に使わないのは褒めてあげる

真の姿開放
金眼の赤い竜人に変身
この姿になると魔力による肉体変化も容易になるなと頭の片隅で考えながら
女が呼びだした過去の残滓ごとUC伴星・強欲の両鎌槍で薙ぎ払う
さあ敵達はどこまで逃げ切れるかな
打ち落とすなどの抵抗する姿を見ているのも愉しいよ

俺に仕掛けてくる連中は黒剣で応戦
敵の出方を見ながら戦力を削り、女の余裕を奪っていきたい



 闇の底から現れる影、影、影。役人の影、武侠の影、英雄豪傑の影すら見える。
 それらはかつて、一人の寵姫によって籠絡された者どもの成れの果て。
 単体のオブリビオンですらなく、骸の海から浮かび上がった泡沫に過ぎない。
「ああ、力強き殿方たち。最も働きを見せたお方には、妾の愛を差し上げますわ」
 宙空に腰掛けて虚ろな者たちを見下ろし、黒縄華妃は陶然と嘲笑う。

「あれが黒縄華妃……」
 傲慢な笑みを浮かべるオブリビオンを品定めするように見上げ、紅・麗鳳(梟姫・f32730)は少しばかり失望したような声色で、包み隠すことのない感想を呟いた。
「ふーむ。確かに秀麗な顔立ちをしていますが、とんだ小物でしたわね」
 黒縄華妃の眉が僅かに吊り上がったが、他の猟兵たちも誰一人として異を挟もうとはしない。この場にいる皆が、多かれ少なかれ、似たようなことを感じていたのだろう。
 顔立ちは良いがそれだけだ――その美しさには、心動かされるものが備わっていない。
「……妾を前にその言い草、やはり虫けらに美の何たるかは分からぬようですわね」
「勝手に言ってなよ。お前って顔は綺麗だけど、魂が腐りきってるじゃないか」
 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)が一言で切り捨てる。人々を戯れに争わせ、彼らが傷つき苦しむ様を見て歓びとする、その在り方を見れば分かる通りと。
「これ以上の問答は必要あるまい。さて、護衛も最後まで、といこうか」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が、後方へ退く鵬遷と従者を庇うように進み出た。去り際に鵬遷が呟いた「頼むぞ」という言葉に頷きを返し、前を見据える。
「……その愚かしさ、妾の黒縄に縊られてから悔いるがいい……!」
 黒縄華妃が縄を鞭のように振るうと、周囲を固める配下が一斉に動き出した。

   ▼  ▼  ▼

 迫り来る過去の存在たちを前にして、義透は『不動なる者』の真の姿を開放した。
「……一気に若返ったな」
 思わずそう独りごちるほどには劇的な変化。齢十二かそこらの華奢な少年となった義透は、その小柄な体躯に似合わぬ素早さで呪いの鏢『四天流星』を牽制として放つ。
「ああ、呼び出されるのも過去の残滓か。やりやすい」
 この地の民を手駒とするならばいざ知らず、骸の海から現れたものであれば一片の呵責も必要ない。義透は防御結界を構築し、不動なる者という名に相応しく敵を迎え撃つ。

 一方、サンディは背中に出現させた赤い竜の翼で空中に舞い上がった。その碧眼は今や金色に輝き、翼と同じ赤い鎧に覆われた姿はそれまでよりも大人びて見える。
 上空から俯瞰すれば、敵の動きは瞭然だ。まず下級役人たちが城壁や楯を造り出し、それを即席の砦として武将や侠客たちがこちらに攻め入るという算段か。
「敵意剥き出しだね。俺達も丸め込むつもりなら、綺麗だねって乗ってあげたのに」
 地上に設置された楯の影から射掛けられた矢を玉桂の小刀で切り払い、拳法の足運びから跳躍攻撃を仕掛けてくる侠客を暗夜の剣で一刀のもとに両断する。まずは相手の出方を伺いながら徐々に力を削いでいく……一気に攻め立てるのは、その後でも遅くはない。

 地上では、麗鳳が並み居る武将たちを相手取って大立ち回りを演じていた。
「雪膚花貌とはまさにこの姿! 真の美の何たるかをご覧なさいな!」
 そう口にしながらも、類稀なる膂力をもって旋転させた方天画戟「桃宴」は、竜巻のごとく荒れ狂って周囲の兵たちを木の葉同然に吹き飛ばしてゆく。揺るぎない力と、それを支える自信。ユーベルコードの域にまで高められたその信条は、常識を覆す力を持つ。
「なんと野蛮な……! 妾の庭を土足で穢す害虫共を、早う始末するのです!」
 麗鳳の自信がよほど気に障ったか。華妃が縄をぴしゃりと打つと、新たに現れた武将の影が巨大な偃月刀を振りかざして迫り――しかしその刃は届くことなく宙で静止した。

「ここは貴殿の庭ではない。好きにしていい場所ではない」
 割って入ったのは少年の姿の義透。そして刃を食い止めたのは彼以外の三人格。彼ら四悪霊の怨念が具現化した四天霊障が強靭なはずの偃月刀をへし曲げ、そのまま使い手である武将ごと呪怨の重圧によって押し潰して、骸の海へと逆戻りさせてゆく。
「妾が妾の国を好きにして、いったい何が悪いとおっしゃるの?」
 華妃が続けて差し向けた武侠を軽やかに回避し、麗鳳は真っ直ぐに視線を向けた。
「ここは貴女の国ではなく、鵬遷様が治め、領民たちの暮らす土地でしょう」
「今はその鵬遷の嫡男たる鵬信様のもの、そして鵬信様のものは妾のもの」
 臆面もなく言い放つ黒縄華妃。鵬信の名を聞いてサンディが屋敷へと目を走らせると、彼は黒縄で縛り上げられ床の上に転がされていた。現状、危害はあたえられていない。
「ああ、その鵬信さんを盾に使わないのは褒めてあげる」
「当然でしょう? 鵬信様は妾の傀儡となる大切なお方、傷でも付けては一大事ですわ」
 華妃の返事は予想通りに自分本位で、分かり切っていたことではあるが万が一にも鵬信への愛情などありはしない。サンディは小さく溜め息をつくと、肉体を変化させる。

「そろそろ、そんな余裕は剥ぎ取らせてもらおうか」
 魂喰いたる赤の竜人の姿は、自身の肉体をより容易く変換することを可能とする。生成された魔法物質が創り上げるのは『伴星・強欲の両鎌槍』――強欲の魂を基とした、その数一千本に達する漆黒の十字槍。戦場を包囲したそれらは、穂先を地上へ向けて。
「さあ、どこまで逃げ切れるかな」
 サンディの言葉と共に、敵陣目掛けて殺到する刃。降り注ぐ槍の雨が地上の至るところを穿つに至ってようやく、黒縄華妃の顔から不遜な笑みが消えた。
「何をしている! 妾を愛しているのなら、今すぐ盾におなりなさい!」
 返事を聞くより先に華妃の黒縄が配下を纏めて縛り上げ、槍の雨を遮る肉の盾を作り上げた。だが所詮はその場凌ぎ、全方位からの飽和攻撃を耐え切れるはずもない。
「くぅっ、この愚図共! 進んで妾の身代わりにもなれぬのか!」
 傷を負いながら配下の悪態をつく姿を見て、サンディは思わず頬が綻ぶのを感じた。
「妾の肌に傷をつけて……ただ縊り殺すだけでは飽き足りませんわ……!」
 なおも手近な配下を操って時間を稼ぎつつ戦場から離脱しようとする黒縄華妃。
 その姿を泰然と見据え、義透は巨大な盾となっていた『黒曜山』を今一度、本来の形である漆黒の剣へと変えた。それは未来を映すものにして、映された未来を斬るもの。
「父子が治めしこの地にて、父の技をここに再現せん――」
 狙いを未来へと定め、義透は『黒曜山』を振るう。『四天境地・山』は先読みの極致。敵のこれより向かう先を斬る、それ故に見えず防げず躱せもしない必殺の斬撃。
「……っ!! た、盾になれと言ったでしょうに!!」
 盾に隠れたその場所を斬るから防ぎようがないなどとは思いもせず、苦痛を怒りで掻き消さんとばかりに黒縄華妃が喚いた。その動揺が生んだ隙を縫い、麗鳳が敵の配下を踏み台にして、方天画戟「桃宴」を振りかぶりながら一足飛びに距離を詰める。
「形なき美もまた至極。この地の景色の明媚さも、暢気に笑い合っていたろう民の営みも、そして父子の絆も。その価値を認めぬ料簡の狭さ、全くもって美しくありませんわね!」
 ユーベルコード『佳人必勝』。より美しい者が勝つ――それがこの世の摂理。
「心の醜さが顔に滲み出ている限り、わたくしに勝てる道理はありませんわ!」
 揺るぎない想いを乗せて放つ一撃が、黒縄華妃の華奢な体を吹き飛ばす。
 瓦礫の中で苦痛と屈辱に歪むその顔は、確かに美しいとは言い難いものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

厳・範
半人半獣形態に。
さて、猟兵としてはもちろん、瑞獣としても負けるわけにはいかぬな。

どこがお前の国だ(口が悪くなるお爺)
ここは、お前が好き勝手していい国ではない。屑虫はそちらだ。

【使令法:胡蜂】を使用。出番である。
猛るそやつらは、オブリビオンならばすべて刺す。言い換えれば、今を生きる者を刺すことはない。
猛毒であるからな。苦しいであろうよ。

公権力がなんだ。わしは権力から程遠い仙人であるし、蜂たちは言わずもがな。
長年の修行で、誘惑も効かぬぞ。

まあ、直接攻撃は、焦熱鎗でいなしていこう。時おり、仙術も交えて弾くようにもするが。

恐ろしきは傾国能力をこのように使う者よ。オブリビオンならば、尚更質が悪い。


セルマ・エンフィールド
家主に対してであればともかく、侵略者を相手に無礼も何もないでしょう。
オブリビオンならばどんな性質の者であろうと撃つのみ。ですが……個人的にあなたのようなタイプは故郷の吸血鬼を思い出してあまり好きではありませんので、容赦はしません。

彼女の生前の部下……オブリビオンかその一部のようなものでしょうか。ならば今回も加減は不要ですね。
両手のデリンジャーからの【ヘイルバレッジ】で、武侠や権力者を撃ち抜いていきます。鎧を着ているものもいるでしょうが、倒れずとも凍ってしまえば動くことはできないでしょう。

動くものがいなくなれば「フィンブルヴェト」に持ち替え、『スナイパー』の技術と氷の弾丸で黒縄華妃を狙います。



「……ふ、ふふ。本当に無礼な者たちですこと。妾の国には相応しくありませんわ」
 受けた傷を足元から滲み出す影で覆いながら、黒縄華妃は尚も余裕を繕って見せる。
 その華奢な肢体に似合わない耐久力は、やはり骸の海より蘇った者ゆえか。
 そして、どれだけ傷を負いながらも、その傲岸不遜な態度は変わりない。
「……どこがお前の国だ。ここは、お前が好き勝手していい国ではない」
 厳・範(老當益壮・f32809)は吐き捨てるように呟いた。その姿はこれまでの道中と同じく、半身を黒麒麟へと変えたまま。ただ口にした言葉にだけ、普段の年長者らしい落ち着きの裏に感情が覗く。焦熱鎗を油断なく構えて、範は華妃へと厳しい視線を向けた。
「この地はいずれ鵬信様が、妾に譲ってくれる手筈ですもの。同じことですわ」
 黒縄華妃が臆面もなくそう言い放つのを聞き、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)はほんの僅かに顔をしかめた。この人を人とも思わず己のために利用し、欲しいものは自分が手に入れて当然だと信じて疑わない傲慢さには、見覚えがある。
「オブリビオンならばどんな性質の者であろうと撃つのみ。ですが……」
 思い出すのは、故郷ダークセイヴァーに跋扈する吸血鬼。人々の営みを踏み躙ってその上に君臨しようとする姿は、否応無しに目の前の黒縄華妃の姿と重なる。
「……あなたのようなタイプはあまり好きではありませんので、容赦はしません」
「あら、お生憎様。妾も、お前たちのような無教養者は嫌いでしてよ」
 華妃が鞭のように黒縄を打ち、それを合図に配下の者たちが一斉に突撃を敢行した。

「この者たちも全て過去の残滓か。恐ろしきは傾国の力をこのように使う者よ」
 周囲に群がる役人たちを浄化の炎を纏った鎗で薙ぎ払いながら、範は呟いた。このように大勢の人間を死後に至るまで虜にする力と、それを国盗りに用いようとする悪辣さ。そんな存在が過去から幾度となく蘇るのだから、オブリビオンとは尚更質が悪い。
「オブリビオンかその一部のようなものでしょうか。ならば今回も加減は不要ですね」
 マスケット銃の間合いの内側にまで一気に踏み込んで来ようとする武将を前に、セルマはスカートを翻した。その中に仕込んだホルスターから二丁のデリンジャーを引き抜き、間髪入れずに目の前の敵へ向けて銃爪を引く。放たれるのは通常の拳銃弾ではなく氷の弾丸。ユーベルコード『ヘイルバレッジ』は、連射する弾の一発一発に凍結の力を与える。
「鎧で弾丸を防ごうと、その上から氷漬けにしてしまえば……」
 目の前の武将は全身を氷に覆われて地に倒れた。頑強な鎧であればデリンジャーの弾丸くらいは止められるだろうが、着弾と同時に凍結させてしまえば戦闘不能も同然。セルマは続けざまに氷結弾を放ち、群がる敵を次々に氷塊へと変えていく。

「くっ……屑虫の分際で、随分と粘りますわね」
「屑虫はそちらだ。それに本来、虫とは役に立たぬものではない」
 後方の黒縄華妃へと睨みを利かせつつ、範もまた状況を打破すべくユーベルコードを使用する。『使令法:胡蜂(フーフォン)』――召喚されるのは猛毒のスズメバチ。地鳴りのような羽音を立てる蜂たちは、オブリビオンという外敵を排除すべく猛り狂う。
「さあ、出番である。この世ならざる者のみを刺すがいい」
 百匹近い数の蜂の群れは黒雲めいて動き、剣を構えて範を包囲しようと迫る役人たちを纏めて飲み込んだ。続けて悲鳴と闇雲に剣を振り回す音、そしてその剣を取り落とす音。
 蜂たちが飛び去った後には、青褪めて猛毒に苦しむ役人たちが転がるばかりだ。
「仙人にして瑞獣たるわしが、権力などに屈するはずがなかろうが」
 範が焦熱鎗で指し示す方向を目掛け、蜂の群れは進路上の敵を毒針で指しながら飛んでゆく。その先にいるのは、迫る羽音に表情を強張らせる黒縄華妃に他ならない。
「あの忌々しい虫共を妾に近づけるな! 何としてでも防げ――」
 銃声。配下を怒鳴りつけつつ自分は交代しようとした黒縄華妃が、不意にその動きを止めた。彼女の片足が瞬時に氷で覆われ、地面に固定されていたからだ。周囲を護衛する武将たちの間隙を突いて氷の弾丸が撃ち込まれたのだと、華妃はすぐには理解できない。
「また自分だけは安全な場所に移るつもりでしょうが、逃しません」
 遠方から愛銃フィンブルヴェトのスコープを覗き、セルマは冷静に狙いを定める。狙撃手の本領発揮――次の照準は、より確実に致命的なダメージを与えられる急所。
 再度の銃声が響き、氷結弾が黒縄華妃を撃ち抜く。そして負傷と凍結で身動きの取れなくなった彼女へと迫る無数の羽音……胡蜂の大群が、怒涛のような唸りを上げて襲う。
 華妃の甲高い悲鳴は、程なくして蜂たちの羽音で掻き消された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…異な事を言うものです。
先んじてこの地を踏み躙る無礼を働いたのはそちらで御座いましょう。
治世を掠め取られるは戦の世の常なれど、
過去が今に手を伸ばし脅かすに足る道理は無し。

今この時にも民を守り、同士と刃を交える兵もまたこの地の民。
この地の未来は、今に生きるヒトの子が繋ぐものなれば。
――今此処にて、貴女を討たせて頂きます。


UC発動にて、野生の勘、見切り、瞬間思考力で相手の攻撃を予測し残像にて回避、
巻き付く縄は怪力にて引き千切る
近付く事が困難ならばアイテム『氷柱芯』を飛ばし巻き付け
怪力にて振り回し、引き寄せた後にグラップル、2回攻撃、殺人鬼としての技術を用いた
急所狙いの無手格闘にて止めを刺す


アレクサンドル・バジル
ハハハ、坊ちゃん籠絡して好き勝手やってる奴が無礼とかどの口で言うんだ?
しかし、どんな美女が出てくるかとちょっとは期待したんだがなあ。
まあ、いいか。滅ぼしてやるぜ。(特に評価はせず)

ゴッドハンドの体術に紫微天尊のUCを織り交ぜて戦います。
敵POWUCに対して
役人はちょい場違いだなぁと『紫微天尊』タッチ。
操作で同士討ちさせたり、爆破したりします。
しかる後に黒縄華妃へと間合いを詰め、正中線、体のど真ん中に紫微天尊の一撃を。(怪力×貫通攻撃)



「……どいつもこいつも、妾への愛に乏しき愚図ばかり……!」
 黒縄華妃の足元に横たわる、彼女の矛となり盾となって倒れ伏した配下たち。
 半ば崩れて影へと還りつつある彼らを冷淡に見下し、華妃は忌々しげに吐き捨てた。
「所詮はかつて妾の首を括った国の者どもか。愚かな国に相応しき不佞の輩よ……。
 故にこの新たなる国は、今度こそ妾だけを愛し、妾だけに尽くす者たちの地に!」
 既に少なからぬ傷を負い、傾国の寵姫としての仮面すら剥がれかけた彼女を突き動かすものは、生前の未練と歪んだ自己愛が渾然となって生まれた執念、あるいは怨念か。
「だがその前に妾を敬わぬ無礼なる者は、妾自らの手で首縊りにしてくれよう……!」
 その怨念が実体をもって撚り合わさった黒縄が、凶々しい殺意を込めて振るわれる。
 首筋を狙って伸びたそれを咄嗟に見切って残像と共に回避しながら、月白・雪音(月輪氷華・f29413)は赤い瞳で真っ直ぐに黒縄華妃の歪んだ美貌を見据えた。
「異な事を。先んじてこの地を踏み躙る無礼を働いたのはそちらで御座いましょう。治世を掠め取られるは戦の世の常なれど、過去が今に手を伸ばし脅かすに足る道理は無し」
「全くだ。坊ちゃん籠絡して好き勝手やってる奴がどの口で言うんだ?」
 素手での拳打のみで立ち塞がる敵の配下を散らしながら、アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)も同調した。対する黒縄華妃は片眉を僅かに吊り上げ、こちらを睨む。
「鵬信様は真に美しきものの価値を知り、それに尽くす歓びを知っただけのことですわ」
「美しきもの、ねぇ。……まあ、いいか」
 アレクサンドルはそれ以上特に言及することなく拳を握り直したが、その態度は黒縄華妃を苛立たせたようだ。周囲で沸き立つ黒い執念の渦が、一層闇を深めたように見える。
「屑虫に審美眼を求めるのが間違いでしたわね……ならば虫は虫らしく醜く死ね!」
 黒縄が武器へと変じた絞殺縄鞭が、明確な殺意をもって大気を裂いた。

   ▼  ▼  ▼

 傾国の寵姫である黒縄華妃は誘惑と籠絡に長ける一方、決して戦闘経験豊富なオブリビオンではないはずだ。それにも関わらず、彼女が振るう鞭は鋭く的確にこちらを狙う。
 絞殺縄鞭という武器は、縛り首を歓びとした黒縄華妃の生き様が形を成したもの。それ故に彼女にとっては己の体も同然であり、手足のように操れるということなのか。
 それに加えて、影より蘇る配下たちも変わらず厄介だった。主人である華妃には半ば見限られていながらも、過去の残滓に過ぎないがゆえに迷うことなく命令に従う。

「しかし、なんだ。生前の部下だか何だか知らんが、役人はちょい場違いじゃねぇか」
 オドを纏ったアレクサンドルの拳が、下級役人の一体を鋭く打ち据えた。同時に流し込まれた魔力が敵の肉体へと浸透する――ユーベルコード『紫微天尊』。それは魔力を流した対象の自由を奪い、あるいは破壊し、自在に操作することをも可能とする。
「生かすも殺すも気分次第……おっと、元からそういう扱いだったか?」
 冗談めかした台詞に呼応するように、乗っ取られた下級役人が抜剣した。そのまま手近な同僚を見つけるやいなや、腰だめに構えた剣で無防備な背後から一気に刺し貫く。
「そして頃合いを見て起爆、と。ただの役人よりはよっぽど戦場に馴染むだろ」
 他の配下をも巻き込むように爆破して、アレクサンドルは黒縄華妃の懐へと向かう道筋を作り出した。だが空を切り裂く鋭さで振るわれる絞殺縄鞭がそれ以上の接近を拒む。その隙を突いて別方向から距離を詰めようとした雪音にも、別の黒縄が素早く伸びた。
「……このようなか細き紐で、私を括れるとお思いですか」
 しかし首に巻き付こうとした直前、黒縄は音を立てて千切れた。雪音が引き出した人間業の極致の前では、オブリビオンが振るう首縊りの罠であろうと単なる紐に等しい。
「今この時にも民を守り、同士と刃を交える兵もまたこの地の民。
 この地の未来は、今に生きるヒトの子が繋ぐものなれば――」
 真摯な意志を込めたワイヤーアンカー『氷柱芯』が絞殺縄鞭の間隙を縫って伸びる。アンカーは華妃が鞭を絡ませようとするよりも先にその体へ巻き付き、雪音はそれを渾身の力で引き寄せた。力比べにすらなることなく黒縄華妃の華奢な体が宙を舞い、そして。
「――今此処にて、貴女を討たせて頂きます」
 雪音の極限まで鍛え抜いた拳が正確無比に急所を捉えた。そして悲鳴を上げながら木の葉のように吹き飛ぶ黒縄華妃へと、今度はアレクサンドルが一足飛びに距離を詰める。
「こいつもおまけだ。滅ぼしてやるぜ」
強力無比の打撃と共に紫微天尊の魔力が正中線ど真ん中に打ち込まれ、そのまま内側から爆破した。くぐもった呻きと共に崩れ落ちる華妃を横目に、思わず独りごちる。
「……しかし、どんな美女が出てくるかと、ちょっとは期待したんだがなあ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
まぁ…黙ってりゃそこそこ可愛らしい顔付きしてるんじゃねぇか?
けど、喋ると最悪だ。縛り首が見たい、とか趣味に関してもイカれてる(肩を竦め)

性悪とはいえ、女。過去の化物だとは分かっても女には優しい男なのさ、俺は。――最も本性を現してくれるなら別だ。そっちの方が何倍も戦い易い。
絞殺縄鞭の動きを【見切り】、躱しつつ【挑発】するぜ。
おいおい、屑虫はねぇだろ?こんな色男を捕まえてよ。(ウインク飛ばし)
ハハッ、理性は残ってるか?今のアンタの顔、鏡でアンタ自身に見せてやりたいぜ。
頃合いを見て、UCの踏み込み急加速による【串刺し】を放つ。
覚えときな。男が惚れるのは外見だけじゃねぇ。此処も大事なのさ(左胸を指す)


堆沙坑・娘娘
身外身の法にて分身し、鵬領主一行を守らせながら敵に立ち向かいます。
分身たちを鞭で薙ぎ払われたりする可能性を考えたら悪手かもしれませんが、今の私は空間知覚能力等も強化されているので、分身の犠牲を最小限に減らすような立ち回りが可能なはずです。
そして戦いの中で人質にされることを防ぐために鵬信を取り返します。

鵬信、今の黒縄華妃の姿をよく見なさい。過去の妄執に囚われたあの醜い姿を見てもまだ目が覚めませんか?
…力に抗えと、私のような力ある者が無力な者に言うのは無責任な話かもしれません。
しかし、あなたは責任ある立場に生まれた人間。責務を果たしなさい。

黒縄華妃には特に何も言うことはないので【貫通攻撃】。



「……これが、猟兵たる者たちの戦いぶりか……!」
 鵬遷が、思わずそう口にした。彼と従者たち一行は、既に直接的な被害が出ないような距離にまで退いている。それでもなお、感嘆せざるを得ないほどの光景だったのか。
「鵬領主、あまり前には出ませんように」
「分かっておる。儂も足を引っ張ろうとは思わぬよ」
 周囲の守りを固める堆沙坑・娘娘(堆沙坑娘娘・f32856)の忠告に、鵬遷は大人しく従った。彼の傍らには既に複数の娘娘……正確には「堆沙坑・娘娘の分身体」が護衛として控えている。ユーベルコード『增殖』 によって生み出された分身は、空間知覚能力とマルチタスク思考能力の強化によって、より柔軟で高度な動きが可能となっている。
 そんな分身たちに護衛を任せ、本体の娘娘は油断なく黒縄華妃の動きを観察していた。既に既にダメージが蓄積し、周囲に対する注意力を欠いているように見える。今なら問題なく可能なはずだ……彼女に籠絡された鵬遷の息子、鵬信の身柄の奪還が。
「追い詰められた黒縄華妃が人質にしようとする前に、救い出さなければ……」
 娘娘は巨大なパイルバンカーを構え、鵬信の元へと一足飛びに走った。

   ▼  ▼  ▼

(……オーケー、こっちは任せとけ)
 屋敷の方向へと走る娘娘の姿をひと目見て、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はその目的を理解した。そして鵬信を奪還するためには、黒縄華妃の注意を惹き続けている必要があるということを。幸い、挑発はカイムが大の得意とする分野だ。
「……あと少し、妾が求める理想郷まで、ほんのあと少しだというのに……」
 息も絶え絶えの状態でありながら執念で立ち上がる黒縄華妃は、実際いつ鵬信を盾にすることを思いついてもおかしくない。これまで彼を危険に晒そうとしなかったのは、あくまで「戦いの後で利用価値があるから」であって、華妃自身の命が危ういとなれば彼のことも平然と切り捨てるだろう。その濁り切った精神性は、既に十分理解している。
「黙ってりゃそこそこ可愛らしい顔つきなのに、喋ると……いや喋らなくても最悪か」
 カイムはそう言って肩を竦めてみせ、その直後に一歩半ほど後退した。次の瞬間、絞殺縄鞭が直前までカイムのいた空間を裂くように走り抜ける。咄嗟に間合いを見切って回避したが、剥き出しの敵意を孕んだ視線は変わらずにこちらへと向けられている。
「屑虫の分際で、妾の癪に障ることばかり……!」
「おいおい、屑虫はねぇだろ? こんな色男を捕まえてよ」
 ウインクを飛ばしてみせると、敵は目に見えて激昂した……やりやすい。

   ▼  ▼  ▼

(あちらは上手く、黒縄華妃を挑発してくれているようですね)
 直接言葉を交わす余裕はなかったが、こちらの意図を見抜いていてくれて良かった。
 娘娘は内心胸を撫で下ろしつつ、屋敷へと踏み込んだ。幸い屋敷中を探すまでもなく、鵬信は黒縄で体を縛られた状態で庭に面した大広間に転がされていた。パイルバンカーの一撃で縄を切断すると、鵬信はぼんやりした顔でのろのろと体を起こした。
「……華妃? 華妃はどこだ……?」
 半ば夢を見ているかのような様子で視線を彷徨わせていた鵬信は、やがて屋敷の外へ目を向けた。その先では本性を晒した黒縄華妃が、今まさに猟兵と戦っている。
「鵬信、過去の妄執に囚われたあの醜い姿を見てもまだ目が覚めませんか?」
 娘娘は静かに、はっきりと力強く諭した。既に判断力が損なわれるほどの魅了を受け続けた彼に、言葉が届いているのかは分からない。それでも気のせいかもしれないが、歪んだ顔で悪意を振りまく華妃を見る横顔には、僅かに感情が浮かんでいるように思える。
「……力に抗えと、私のような力ある者が無力な者に言うのは、無責任な話かもしれません。しかし、あなたは責任ある立場に生まれた人間。責務を果たしなさい」
 責務、という言葉を聞いて、鵬信がゆっくりと顔を上げた。娘娘は頷きを返し、そのまま彼の体を抱え上げて屋敷を脱出する。ひとまずは、黒縄華妃の手が届かない場所へ。

   ▼  ▼  ▼

「おのれ……この期に及んで、尚も妾を愚弄するか!」
「性悪とはいえ、女。過去の化物だとは分かっても女には優しい男なのさ、俺は」
 縦横無尽に振るわれる絞殺縄鞭の連撃を、カイムは挑発を交えながらも回避し続けてゆく。黒縄華妃に当初の余裕は既になく、あるのは剥き出しの醜い自尊心だけだ。
(――そうやって本性を現してくれるなら別だがな。そっちの方が何倍も戦い易い)
 目の前にいるのは女ではなく、膨れ上がったエゴの怪物。絞殺縄鞭を振るうために自ら理性を削ぎ落とし続け、もはや傾国の寵姫たる姿とは程遠い有様となった怪物だ。
「ハハッ、今のアンタの顔、鏡でアンタ自身に見せてやりたいぜ」
「黙れぇっ!!!」
 力任せに振るわれた鞭は、空中で盾となった無骨なパイルバンカーによって弾き返された。その杭打機を小柄な体躯で軽々と振り回し、娘娘はカイムの隣へと着地する。
「おう、お疲れさん。若様は無事かい?」
「おかげさまで。あとは本命を叩くだけです」
 ならば、もはや加減も時間稼ぎも必要ない。カイムはその手に神殺しの魔剣を握った。
「何をごちゃごちゃと……まとめて首を括られる気にでもなったか?」
「生憎、貴女に対して語ることは特にありませんので」
 そう返した時には既に、娘娘は敵の懐に飛び込んでいた。渾身の力を込めたパイルバンカーの射出と同時に炸裂した闘気が、黒縄華妃の手から絞殺縄鞭を弾き飛ばす。
「アンタの夢もこれで終わりだ。受け取りな!」
 そして、神速の踏み込み。カイムが放つ『紫雷の一撃』が、華妃の急所を貫いた。

「ほ、鵬信様……愛しき妾を助けてくださいましね……?」
 致命傷を受けた黒縄華妃が縋るような目を向けた先で、鵬信がそっと首を振る。
「もう良い、華妃。もう終わりなのだ」
「……口惜しや。たかが一人の男さえ、思うがままに出来ぬとは……」
 怨念で自らの身体を支えることも出来ず、その場に崩れ落ちる黒縄華妃。
「覚えときな。男が惚れるのは外見だけじゃねぇ、此処も大事なのさ」
 左胸を指し示すカイムに曖昧な笑みを浮かべ、傾国の寵姫は骸の海へと還っていった。

   ▼  ▼  ▼

 こうして、一人の寵姫による国盗りは終結した。
 内乱の傷跡は領地の中心部に留まり、民への被害は最小限に抑えられたと言っていい。
 逃げ隠れた農民たちもいずれ戻ってくるだろう。ここは離れがたい土地なのだから。

「父上、このたびの件は私の不徳が致すところ……いかなる処罰も受け入れましょう」
 跪いて恥じ入る息子へと鵬遷は鋭い視線を向け、不意にふっと表情を緩めた。
「しばらく家督は譲れんな。信よ、当面は儂を傍で支え、為政の何たるかを学ぶがいい」
「は……! この地を受け継ぐに足る男となるよう、精進いたします!」
 領主の父子はこれからも、この地を善く治めてゆくことだろう。

 鵬遷の館にて歓待を受け一晩を明かした猟兵たちは、翌日の朝に出立した。
 振り返れば切り立った山峰、泰然と流れる大河、遠くたゆたう深い霧。
 明媚なる風景に別れを告げ、猟兵たちはそれぞれの場所へと帰ってゆく。


                 【華妃、一顧にして城を傾けること】終

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月26日


挿絵イラスト