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会いたい、会えない、会えない

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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 竜神は、ふと1人の少女を思い出していた。

 邪神との戦いを経て崇め奉られるようになったのも遠い遠い昔のこと。
 信仰を喪い、古く壊れた祠に辛うじて存在しているだけのものとなっていた時に。
 ある日から、毎日、少女が祠へやって来るようになった。
 最初に来た日のことはよく覚えていない。
 確か、誰か大人が一緒だったか、とも思う。
 だがそれから少女は、欠かすことなく毎日、祠を訪れた。
 晴れの日も。曇りの日も。雨の日も。雪の日も。
 幼かったその手が大きくなるにつれ、祠が少しだけ整えられて。
 小さくも素朴な野の花が、毎日飾られるようになった。
 その信仰心が僅かながらも竜神に力を与え。
 何年後だったか、少女に話しかけることができるようになった。
 喜んだ少女は、祠で毎日あったことを話していくようになる。
 特に気の利いた返答ができたわけではない。
 そうか、と頷いていただけの時の方が多かったと思う。
 それでも、少女は嬉しそうに様々なことを竜神に話して聞かせ。
 いつの間にか竜神も、そんな少女の話を聞くことを楽しみにするようになっていた。
 相変わらず祠を訪れる者は少女以外になかったけれども。
 それでも少女が来てくれるならと。
 少女のために何かをしたいと、竜神は望むようになり。
 唐突に、そんな日々は終わりを告げる。
 少女がぱたりと祠に来なくなったのだ。
 少女に何があったのか、竜神には分からない。知る術もない。
 ただ、途絶えた信仰は、蘇りつつあった竜神の力を再び喪わせて。
 そして竜神は、幽世にその身を移し、そこで眠りについていたのだ。

 その眠りの中で思い出された、1人の少女。
 もう一度会いたい、と願いながら。
 もう二度と会えない、と感じていて。
 会ってはいけないと、分かっていた。
 会いたい。けれども会えない。会うことは許されない。
 会いたい。会えない。会えない。
 諦めたつもりでいた。諦めようと言い聞かせていた。
 けれども、それは強い思いとなっていて。
 長い年月を経た今、幽世に流れ着いてきていた過去の中に。
 あった。少女と過ごした日々の思い出が。
 楽しいことがあったのだと、元気に笑いながら話してくれた姿が。
 失敗してしまったと落ち込んで、傍らで泣き続けていた姿が。
 もっと頑張らなければと、祠に寄りかかって本を読んでいた姿が。
 好きな人ができたのだと、はにかむように微笑んだ姿が。
 眠る夢の中に、そして目覚めたその目の前に。
 待ち望んだ姿が、浮かび上がる。
 寝ぼけたようなぼんやりとした瞳のまま、少女の姿に手を伸ばした竜神は。

「そちらに、連れて行ってくれ」

 呟いた、刹那。
 記憶の中に飲み込まれ、周囲を漂っていた骸魂とも融合し、オブリビオンと化した。
 頭に2本の角を生やした長い白髪の少女の姿となった竜神は、暴走するように燃え盛る炎を周囲に纏い、炎を映したように燃える赤い瞳で静かに周囲を見回す。
 『焚きつけるもの』ヴォルヴァドス。
 本来の心を骸魂に抑え込まれたまま、竜神の少女は炎と破壊を振り撒き始める。

 それが、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)の見た光景。
 予知として語られた、カタストロフへと至る未来。
 だが、それをみすみす見逃す猟兵は、いない。
 思い出を纏い暴走するオブリビオンを止めるべく、猟兵達はグリモアベースからカクリヨファンタズムへと向かった。


佐和
 こんにちは。サワです。
 会いたくても会えない、こんな時だから。

 第1章では竜神の少女の元へ向かいます。
 行く手には魔法の霧が立ち込めており、思い出の光景が見えます。
 それは猟兵自身の思い出。しかも、ありえないほどに満たされた、蕩けるように幸せなものに歪められてしまっているものです。
 進むには、行く手を阻む『やさしくてひどいゆめ』を打ち破る必要があります。
 どんな思い出の幻覚を見るか、どうやって打ち破るか。
 貴方の想いをどうぞ綴ってください。

 第2章は『焚きつけるもの』ヴォルヴァドスとのボス戦です。
 骸魂に飲み込まれてその意志はほとんど外に出ていません。
 倒すことで骸魂から解放し、元の竜神へと戻すことができます。

 第3章は、助けた竜神と共に、その地で行われていた風鈴まつりへ足を向けます。
 風鈴を飾り、その音色を楽しむ静かなお祭りです。
 オブリビオンを倒した後もしばらくの間、思い出の中にあった存在が、まるで本当にそこに居るかのように残っています。
 竜神の、大切な友人の少女も。
 猟兵の、思い出の中に居た誰かも。
 共にひとときの時間を過ごし、そして最後の別れを告げることができるでしょう。
 穏やかな時間をお過ごしください。

 それでは、貴方だけの思い出を、どうぞ。
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第1章 冒険 『やさしくてひどいゆめ』

POW   :    自分で自分をぶん殴り、正気に戻る

SPD   :    状況のありえなさを見破り、幻覚を打ち破る

WIZ   :    自身の望みと向き合い、受け入れた上で幻覚と決別する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 霧が広がり、思い出の光景が辺りに満ちる。
 古びた祠。荒れた場所。
 でもそこに、野の花がそっと手向けられて。
 会いたかった少女がそこに立っている。
 かつてのように、竜神に笑いかけて。
 かつてのように、竜神のすぐそばで。
 そして、その手を伸ばし、竜神の手を取り優しく握りしめる。
 それは、かつてはできなかったこと。
 祠の中に在るだけの力しかなかった竜神は、声を出すことが精一杯だったから。
 今のように、少女と近しい年頃の、少女と似た姿をとることができなかったから。
 だから。
 竜神は初めて、少女と手を繋ぐ。
 歓喜が竜神の中に満ちる。
 だけど。
 その奥底で、小さく小さく残る心。
 もう少女に会うことはできないと理解していて。
 もう少女に会ってはいけないと感じていて。
 今少女と手を繋げているのが、骸魂に飲み込まれてしまったからだと分かっていて。
 小さく小さく、抗う。
 カタストロフを呼び込む存在となってしまった自分に。
 念願が叶った歓びに暴走している自分に。
 抗う。けれども。
 抗いきれずに竜神は、蕩けるように幸せな『やさしくてひどいゆめ』に囚われていく。

 私を……止めて……お願い……
 
アリス・レヴェリー
……なるほど、ね
わたしがこうして目覚める前。眠るわたしが識る記憶
綺麗な工房……わたしを造った父、その傍にいる先に造られた姉……そして彼女はきっと、妹……皆の顔はこの夢でも影のようで見えないけれど、優しく笑っているのでしょう
この光景が本当なら、とても満たされたものなのでしょうね

けれど、わたしはもう他のもので満たされているから
孤独に目覚めなければ出会えなかった人達、皆が生きる世界、増え続ける愛しい思い出……本当に、本当に大切な幻獣の友達

だから謳うわ。夢から目覚め、竜に会うに相応しいわたしを

だからお願い……どうかやさしく見送って。どうかひどく追い出して
わたしは、皆が居ないのに幸せになってしまったから



「……なるほど、ね」
 霧が広がったと思った瞬間、景色を変えた周囲を見て。
 アリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)はぽつりと呟く。
 そこは、アリスが造られた人形工房。
 アルダワにある、アリスが目覚めた場所。
 けれども、今見えている工房は、アリスが知る場所よりも綺麗だった。
 いや、綺麗と言うには数多の道具や細々とした部品が散らばっていて。作業台にはいくつもの傷が刻まれ、床にも消せないほど染みついた汚れが見える。
 でもそれは、誰かがミレナリィドールを作っているからこそ。
 そこを工房としてしっかり使っているからこその乱雑さ。
 よく見れば、汚れの中には塵も埃もなく。一見乱雑に散らかっているようだけど、部品も道具も、作業しやすい位置に置かれ、そして大切に扱われていることが分かるから。
 アリスが目覚めた時の、誰も居ない工房にはない活気があるから。
 だからこそ、綺麗な工房だった。
 そして。
 その綺麗な景色を生み出す男の人の姿が工房の中に見える。
 熱心に部品を調整して。器用に道具を操って。
 その人に、大事に大事に造られているミレナリィドールは。
(「……多分、わたしの妹」)
 その人が作業する傍らにいる、完成したミレナリィドールは。
(「わたしの姉」)
 同じ工房で造られた何体ものミレナリィドール。
 そのうちの1体が、アリス。
 でも、アリスが目覚めた時には、姉妹は誰もいなくて。
 今目の前で作業をしている男の人も……アリスを造った父も、いなくて。
 アリスが見た工房は、こんなに綺麗ではなかった。
 長く誰も作業をしていなかったかのように。
 ずっと放置されていたかのように。
 アリスの知る工房は、汚れ寂れていたから。
(「本当に、こんなに綺麗な工房だったのかしら」)
 アリスは青い瞳をそっと伏せた。
 目覚める前、眠るアリスが識る記憶を手繰るように。
 今見たばかりの父の姿を。姉の姿を。妹の姿を。
 思い出し、脳裏に焼き付けるかのように。
(「こんな風に優しく笑っていたのかしら」)
 父も。姉も。妹も。
 皆の顔はどれもよく見えないけれども。
 作業をする父も。眠る姉も。造られていく妹も。
 皆穏やかな空気を纏っていたから。
(「この光景が本当なら、とても満たされたものなのでしょうね」)
 アリスは思う。
 その一方で。
「でもわたしは、もう他のもので満たされている」
 誰も居ない工房で孤独に目覚めたからこそ、出会えた人達がいる。
 独りだったからこそ、アルダワからアックス&ウィザーズに渡り。
 愛しい思い出を幾つも幾つも増やしていけたのだから。
 本当に、本当に大切な友達に会えたのだから。
「ダイナ」
 猛る金獅子。気高き王。
「ムート」
 揺蕩う白鯨。優しき王。
「アルテア」
 煌めく星鷲。美しき女王。
 歩んできた中で絆を結んだ幻獣達を想い。
 そして、竜に会うに相応しい『わたし』であることを望めば。
 このやさしく歪んだ思い出を、見続けることはできないから。
「お願い……」
 アリスは、父に願う。
「どうかやさしく見送って」
 アリスは、姉妹に祈る。
「どうかひどく追い出して」
 だってアリスは、父も姉も妹も居ないのに幸せになってしまったから。
 皆との思い出を目の前にしても、自分で積み上げた日々を選んでしまうのだから。
 だから、アリスは謳う。
 夜明け齎す揺籃歌を。
 目覚めを見送る夢の謡を。
 やさしい過去ではなく、独りで目覚め、進んできた今を見て。
 その先に繋がる未来へさらに進むことを誓って。
 アリスの歌声が、人形工房に響いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
会いたいのに会えないのは辛いよな
可哀そうに

竜神も骸魂も滅びなんて望んじゃない
止めてやろう

行動
弦を爪弾きながら進む

響きが霧をかき回せば
映るのは俺が出会った人たちの
実際にはなかった思い出だ
…人じゃないのもいるけど

大切な人の命を奪ってしまった
十歳の女の子は
今も両親と幸せに暮らしている
甘えてとびきりの笑顔だ

過去の化身達
妖精や精霊、人形
竜に魔導士…
歪む前の嘗ての心と姿で
今の世界と人々を慈しみ
穏やかに暮らしている

…確かに魅力的だけど
歩みを止めるわけにはいかない
まだ間に合うかも知れない人たちがいるからな

一気に演奏を激しく
内から膨れ上がった獄炎が風を呼び
霧を蒸発させ吹き飛ばす

幸せな夢をありがとな



 霧の中にギターの音色が響く。
 弦を爪弾きながら進むのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
「会いたいのに会えないのは辛いよな。可哀そうに」
 予知として聞いた竜神の切ない願いに想いを寄せて。
 その瞳に、穏やかで優しい、そして悲しい色を宿して思う。
 大切な人に会いたいと思うのは当然のこと。
 会えないからこそ会いたいと願いが強くなってしまうのも当たり前だ。
 それでも、竜神は、世界の理に抗ってはならないとその気持ちを抑えていて。
 叶わぬ願いの辛さを抱えて、耐えていたのに。
 その目の前に現れたのは『やさしくてひどいゆめ』。
 ……ウタの周囲の霧にも、そのゆめが見えていた。
 幾度か助けた小麦色の髪の女の子が、家族と一緒にいる。
 優しく穏やかなおかあさんの美味しそうな料理を前にして。
 朗らかで楽しいおとうさんに甘えるように笑いかけて。
 双子のようにそっくりな女の子と仲良く隣同士で座って。
 何の憂いもなく、幸せそうに暮らしている。
 特別なことなどない、ごく普通の家族団欒のひととき。
 でも、ウタは知っている。
 大好きな両親の命を、女の子がその手で奪ってしまったことを。
 女の子の中の邪悪な別人格が、女の子の大切なもの全てを奪ってしまったことを。
 だからこそ、女の子はアリスラビリンスにいたのだと。
 ウタは現実を知っている。
 でも、霧が見せた思い出は。
 そんな悲劇など起こらない、普通の幸せが女の子に続いた、そんな光景。
 会いたくても会えない両親に女の子が会えて。
 大切な存在を何1つとして奪われることのない。
 やさしくて、だからこそひどい、ゆめ。
 ウタがそこから視線を反らせば。
 その向こうに見えたのは、大きな三つ編みを左右に揺らす別の女の子。
 真っ白だった本に、楽しくて優しい物語をたくさんたくさん書き込んで。
 絵本となったそれを皆に褒められ認められ、沢山の人に読んでもらって笑っている。
 他にも、数多の幸せが見えた。
 黄金を身に纏う妖精が、黄金を探し、見つけてはその美しさを皆で分かち合う光景。
 人々の願いを叶える竜が、吉兆の存在として、歓迎されている光景。
 美しい白薔薇を大切そうに摘んだ女性が、女王様に褒められて喜んでいる光景。
 綺麗に咲いた1本の黒薔薇が、その美しさに満足して、嬉しそうに咲き続ける光景。
 万華鏡のように美しい人形が、彼を作り上げた主と共に穏やかに過ごす光景。
 獣の姿をした炎の精霊が、溶岩の流れる火山帯で、のんびりと寝そべっている光景。
 ウサギ耳の獣人が、帝竜との戦いなどないまま、仲間達と楽しく暮らしている光景。
 皆が皆、幸せそうに笑っていて。
 それぞれの世界で、人々を慈しんで、穏やかに暮らしている。
 そんな過去の化身達の、オブリビオンとして人々を脅かすことのない、幸せ。
「……確かに魅力的だな」
 それは、オブリビオンを哀れにも思い、猟兵としてせめて安らかな終わりを与えてやりたいと常に願っているウタにとって、理想の光景。
 ここにいれば、悲しい出来事は起こらない。
 この夢に浸っていれば、人々もオブリビオンも幸せでいられる。
 けれどもウタは。
 その偽りの幸せにゆっくりと首を左右に振った。
「でも俺は、歩みを止めるわけにはいかない。
 まだ間に合うかも知れない人たちがいるからな」
 真っ直ぐに力強く前を見据えて。
 爪弾いていたギターの弦を、一気に激しくかき鳴らした。
 猛々しく直情的な、ウタの想いを写したように雄々しい旋律と共に。
 ウタの中から地獄の炎が膨れ上がり、燃え上がる。
 眩い紅蓮は風を呼び、そしてその熱で霧を蒸発させて、吹き飛ばす。
 そうすれば見えてくる、カタストロフへと進む世界。
 切ない願いが引き起こそうとしている、望まぬ終末。
「竜神も骸魂も滅びなんて望んじゃない」
 だからこそ、止めてやろうと。
 ウタは晴れていく霧を、消えていく理想の光景を見て。
「……幸せな夢をありがとな」
 小さく呟いてから、また前へと進みだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
アドリブ絡み◎
こう言う幻覚を見せる類いにも慣れてきましたね。
いったい今回はなに…を…。

あぁ、この記憶ですか。
懐かしいですね。

私を助けてくれたあの人。今は、一体どこで何をしているのやら。日替わりで容姿が変わるなんて出鱈目にも程があります。ですが、私を竜神ではなく意志持つ一つの存在として扱ってくれたのは、彼が始めてだったかもしれませんね。それに気付く余裕が私にはありませんでしたが。

甘やかされてぐずぐずになっちゃってますねぇ。うう、口の中が甘いです。
他の方に見られていたらと思うと。
記憶を消してもらうしかないですね。

まあ、幻覚とわかっているのです、こういった道もあったかもという感じで通り抜けましょう。



「こう言う幻覚を見せる類いにも慣れてきましたね」
 広がる霧を落ち着いて見つめながら、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は穏やかとも言える口調で呟いた。
 猟兵として経験した様々な出来事の中では、さほど驚くようなことでもない。
 過去を、偽りを、願望を、幻を。
 様々な光景を晶は見たことがあったから。
「いったい今回はなに……を……」
 この霧にすらも慣れた様子で、あっという間に包み込まれて。
 その目の前に、謎の男性が現れた。
「あぁ、この記憶ですか。懐かしいですね」
 それは、幽世へ逃げ延びた晶を助けてくれた男。
 豊泉晶場水分神として祀られ、信仰されていた村が、邪神の襲撃で廃れ。その邪神への生贄にされかかったところを、命からがら逃げ伸びた時に出会った、あの人が。
 晶に向けて優しく微笑んでいた。
 その姿は、見知ったものだったけれども。
 見慣れたものではない。
 何しろ、男の姿は日によって変わっていたのだから。
(「出鱈目にも程があります」)
 それすらも懐かしく思い出し、晶は微苦笑を零す。
 今は行方不明となっている男を探し出し切れない一因がそれなのだろうとも思う。
 日替わりで容姿が変わる相手を、どう探せというのか。
(「……今は、一体どこで何をしているのやら」)
 それでも、会えば分かると晶は確信しているし。
 いつかは見つけると、願っている。
 だからこそこうして、霧の中に姿を見たのか、と理解して。
 それでも。歪められた思い出だと分かっていても。
 男が目の前にいる。そのことに晶の頬は緩んでいた。
 そして、ゆっくりと男の手が伸びて、晶の長く美しい髪に触れる。
 さらりと流れる、流れ揺蕩う水晶のように煌めく髪を、撫でるかのように絡めながら、手はゆっくりと上へと上り。
 2色の瞳を細める晶の頬をそっと包むように、添えた。
 伝わって来る優しい感触。
 気遣うような、慈しむような、穏やかな温かさ。
 甘やかされているな、と感じながら。
 甘えてしまっているな、と自覚して。
 添えられた手に、晶は頬を寄せ、預ける。
(「うう、口の中が甘いです」)
 弱いところを見せてしまっていることに、少し恥ずかしく思いつつも。
 弱いところを見せられる相手だったことに、今更ながらに気付く。
 だってこの人は、晶を、竜神ではなく、意志を持つ1つの存在として扱ってくれた、初めての相手だったのだから。
(「あの時は、それに気付く余裕がありませんでしたが」)
 竜神ではない、ただの晶として。1人の女性として。
 男の側に晶は寄り添って。
 その優しい温もりに、身を委ねる。
 満ちていく幸せに、晶は浸っていく。
 けれども。
(「これは幻覚……分かっています」)
 幸せに蕩けながらも、きちんと冷静な自分もいて。
 周囲に他の誰もおらず、誰にも見られていなかったことを確認して。
(「こういった道もあったかも、ということです」)
 頬を包む手に、自身の繊手を添えると。
 手を抱きしめるように両手で覆い、頬を摺り寄せてから。
 男の手を、顔から引きはがす。
 そして晶は、驚きの表情を見せる男にふわりと微笑んでみせて。
 温かな手を、そっと押し返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、これで何度目でしょうか?
確かにどこか懐かしいとは思うんですけど、この風景が何なのか分からないんです。
私もみなさんみたいに懐かしんでみたいです。
その為にも私の扉を見つけ出さないとですね。
さあ、アヒルさん行きますよ。



 過去を、偽りを、願望を、幻を。
 映し見た経験があるのは、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)も同じだったけれども。
「ふええ、これで何度目でしょうか?」
 こちらは、変わった周囲の景色に思いっきり戸惑っていた。
 シンプルな造りの机と椅子が幾つも等間隔に並ぶ、誰もいない、少し広い部屋の中。
 机が向く前方の壁には、暗い緑色の大きな木の板が張り付けられていて。
 その右側の壁には、前と後ろとに引き戸の入り口がそれぞれ1つずつ。
 逆の左側の壁は、ずらりと窓が並んで、外の景色を見せていた。
 ガラス越しに見えるのは、土がむき出しの、広く開けた平坦な土地。
 ぐるりと周囲を木に囲まれてはいるけれども、草も花も生えていない広場は特徴的で。
 何の障害物もないそこを、少年少女が元気に走っている。
「確かにどこか懐かしいとは思うんですけど、この風景が何なのか分からないんです」
 机と机の間を歩きながら、ぽんぽんと、机の天板をそっと叩いて。
 木でできたそこに、使い込まれたような傷がそれぞれついているのを見つめて。
 俯くような顔の動きに合わせて、銀色の長い髪がさらりと肩から流れ落ちる。
 アリス適合者であるフリルには、アリスラビリンスに迷い込む以前の記憶はない。
 もしかしたらこの景色は、フリルが探している『自分の扉』の繋がる先、戻るべき元の世界のものなのかもしれないけれども。
 記憶のないフリルには、本当にそうなのかが分からない。
 印象としては、猟兵として巡った数多の世界の中では、UDCアースのどこかかなと思うけれども。本当にUDCアースの景色なのか、確信はない。
 分からない事だらけのフリルは。
「私もみなさんみたいに懐かしんでみたいです」
 窓際の、前から3番目の机の椅子を引いてそこに座って。
 机の上に、持っていたアヒルちゃん型のガジェットを乗せて、窓の外を眺めた。
 クッションも何もない、背もたれと座面だけが木でできた金属製の椅子は、決して快適ではないけれども。その座り心地はどこかしっくりきて。
 やっぱり元の世界なのかもと思うけれども。
 その確証がないまま、俯いていくフリルに、ガジェットが一鳴き、声をかけた。
 弾かれたように顔を上げたフリルは、じっとこちらを見つめるガジェットを見て。
 その白い姿を両手でそっと持ち上げると。
「その為にも、私の扉を見つけ出さないとですね」
 がたん、と椅子を引いて立ち上がる。
「さあ、アヒルさん行きますよ」
 再び歩き出したフリルの背を押すように、ガジェットがまた一声、鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・トゥジュルクラルテ
アリスも、事故で、グリードオーシャン、いた、時、お姉ちゃんと、離れ離れ、だった、から、寂しい、気持ち、わかる、です。
竜神様の、寂しさ、少し、でも、和らげる、したい、です。

(猫キマイラの男性と兎キマイラの女性が現れ)
…お父さん、お母さん?
…違う。二人は、もう、いない。それに、二人は、アリスたちを、…愛す、ない、だった、です。
だから、そんな、風に、優しく、笑う、ない、です。
(ちゃんと、家族になりたかった。愛されたかった。ううん、今も愛されたいと思ってる。でもそれは叶わない)
アリスの、家族は、お姉ちゃん、だけ、です。
友だちも、仲間も、片思いの、人も、できた、です。
だから、アリスは、大丈夫、です。



「一緒、いた人、離れ離れ……」
 アリス・トゥジュルクラルテ(白鳥兎の博愛者・f27150)は霧の中を1人で歩きながら訥々と言葉を紡いでいく。
 思いを寄せるのは、予知で話を聞いた竜神と少女。
 ずっと傍に居たいと願って。
 でも、不意の別れが訪れてしまった2人。
「アリスも、同じ。事故で、グリードオーシャン、いた、時、お姉ちゃんと、離れ離れ、だった、から……寂しい、気持ち、わかる、です」
 アリスを突き飛ばした姉の必死な顔と。冷たい水に沈んでいった自分の身体。
 流されて流されて。気付いた時には、独り、だった。
 今はまた姉に会えて。お互いの気持ちを確かめ合って。
 姉妹として互いに寄り添い、仲良く過ごしているけれども。
 離れていた間の寂しさは、忘れられないから。
 もう二度と姉と離れたくないと思っているから。
「竜神様の、寂しさ、少し、でも、和らげる、したい、です」
 姉と同じウサギの耳を、姉と違って下に垂らして。
 少しだけ悲し気に、アリスは微笑む。
 そこに、そっと2本の手が伸ばされた。
 悲しむアリスを慰めるように、寂しいアリスを慈しむように。
 優しく手を差し伸べる、ネコキマイラの男性とウサギキマイラの女性。
 見覚えのあるその姿に、アリスや姉と同じウサギキマイラに。
 アリスは赤い瞳を見開いた。
「……お父さん、お母さん?」
 呆然と呼びかける声に、朗らかに優しく微笑むネコキマイラの父。
 愕然と零れ落ちた声に、穏やかに優しく微笑むウサギキマイラの母。
 望み願った両親の姿に、アリスの赤い瞳が涙に揺れる。
 けれども。
「……違う」
 アリスはぎゅっと目を伏せ、首を左右に振った。
 垂れたウサギ耳と、仄かなピンク色に輝く白い髪を振り乱して。
「2人は、もう、いない」
 自分に言い聞かせるように告げる。
 もう会うことはできない相手なのだと。
「それに、2人は、アリスたちを、……愛す、ない、だった、です」
 決して会うことのできない相手なのだと。
 見たことがない程に優しく微笑む両親を見て。
 こんな風に笑いかけて欲しいと願っていた光景を見て。
 望み願った両親の姿に、アリスの赤い瞳が涙に揺れる。
 ちゃんと家族になりたかった。
 愛されたかった。
(「ううん、今も」)
 愛されたいと思っている。
(「でも、それは……叶わない」)
 もう両親はいないから。
 そして両親は、アリスを、姉を、望んだように愛してはくれなかったから。
「だから、そんな、風に、優しく、笑う、ない、です」
 思い出の中にない笑顔。
 でも、願望の中に思い描いていた笑顔。
 その光景に、アリスは赤い瞳を揺らして。
「アリスの、家族は、お姉ちゃん、だけ、です」
 でも、惑わされずに、本当に大事なものを抱きしめる。
 華奢な両手で自分の身体を抱きしめながら。
 アリスは、両親に報告するように、告げた。
「友だちも、仲間も、片思いの、人も、できた、です。
 だから、アリスは、大丈夫、です」
 迷いのない真っ直ぐな赤い瞳で、前を見て。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
とっても懐かしいユメを見た。
小さな農村に広がる、いつもの景色。
私はまだ十三かそこらで、傍には年の近いふたりの姿。
からかうと面白くて、でも頼りになる人狼の男の子。
おさげ髪の、優しいオラトリオの女の子。
いつも一緒だった。ずっとこんな風に、笑っていたかった。

魔法の霧を裂いて、剣を振り抜くわ。

ごめんね。まだ二人の所へは行けない。
私、生きなくちゃ。
二人の分も、できるだけ世界を見て回らなくちゃ。

だって約束したもの。
「いつか、連れて行ってくれ」
そう言って私に託してくれたの、あなただものね?

思い出に背を向け、誰にも顔は見せず。
……さ、行かなくちゃ。
優しくて甘いユメよりも、
まだまだ二人に見せたい世界があるの!



 そこは小さな農村だった。
 特別なものなどない、ごくごく普通の穏やかな村。
 畑を耕し、種を撒き。芽吹きに、青葉に、実りに喜ぶ。
 何の変哲もない日々が繰り返され、平坦な時間が過ぎていく。
 愛おしい景色。
 そこに、明朗な小麦色の肌で笑い、灰の髪を揺らす少女がいた。
 年の頃は13かそこら。傍らには年の近い友人達。
 人狼の男の子をからかって面白そうに笑いながらも、その亜麻色の瞳に信頼を宿し。
 オラトリオの女の子に急に抱き着いて驚かせながら、優しく揺れるおさげ髪を見る。
 いつも一緒の3人組。
 ずっとこんな風に、共に居れると思っていた。
 ずっとこんな風に、共に笑っていたかった。
 けれども。
 その光景を切り裂くように、剣が振り抜かれた。 
 成長し、大人の女性となった少女が……リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)が霧を裂いて姿を現す。
「ごめんね。まだ2人の所へは行けない」
 とっても懐かしいゆめに、小麦色の肌で微笑みながら。
 元気に灰の髪を揺らして、亜麻色の瞳に少しだけ哀しみを宿して。
 リグは、友人達に語りかける。
「私、生きなくちゃ。
 2人の分も、できるだけ世界を見て回らなくちゃ」
 このままここで、3人で居られたらしあわせだろう。
 このままここで、3人で笑い合えたらしあわせだろう。
 けれどもそれは、やさしくて、ひどいゆめ。
「だって約束したものね」
 哀しみの中に、忘れられない言葉が蘇る。
『いつか、連れて行ってくれ』
 そう言って託してくれたことを、覚えている。
 リグに繋いでくれた想いを、なかったことになんてできないから。
 もう一度、リグはいつも背に負っているくろがねの剣を、振るった。
 霧を、ありえない程に満たされた光景を、切り散らして。
 くるりと、リグは背を向ける。
「……さ、行かなくちゃ」
 優しくて甘いユメよりも。
 まだまだ2人に見せたい世界があるのだから。
 リグは迷いなく前を見て。
 でもその顔を、友人達にも、誰にも見せないまま。
 真っ直ぐに、進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
・元の記憶
数年前
アルダワ学園留学初日
義兄が都市の入口まで見送りに来ている
「頑張れよ」と優しく笑む義兄
頷く自分

・偽りの記憶
義兄が突然、自分を抱きしめる
「行くな!
お前の事、愛してる
間違いなく俺の妹なんだ!」
「私も、私もやっぱり一緒に居たい!」
泣き崩れる自分

…あの時、そうだったならと何度思っただろう
私の前から消える覚悟だった義兄も
「義兄の迷惑になってたんだ」と思い違えた自分も
あの時に踏み止まれていたら

「もう、いいの」
震える声で、偽りの義兄の前に
貴方が抱える希死念慮も、私からそれから遠ざけようとした事も知ってる

優しい嘘は終り

私は貴方を…いえ、本物の勇介義兄さんを助けに行かなきゃいけない
だから道を開けて



 今日からアルダワ魔法学園での生活が始まる。
 留学初日、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)はその入り口に立ち、大きな歯車と数多の蒸気が特徴的な都市を眺めていた。
 まずはこれから生活する寮に行くべきか。それとも先に学園に顔を出せばいいのか。
 これからのことを無理矢理考えて。
「頑張れよ」
 かけられた声に振り向けば、見送りに来ていた義兄が優しく微笑んでいた。
 行き場を失った幼い海莉を拾い、今日まで共に生活してきた義兄は。両親も親族も、養父母も友人も、全てを殺され失った海莉にとって、唯一の『家族』。
 ずっと一緒にいたいと望んでいたけれども。
 大切な大切な存在だったけれども。
(「私は、義兄さんの迷惑になっているんだから……」)
 そう思って、海莉は、アルダワ魔法学園への留学を決めた。
 赤の他人の自分が、義兄の邪魔をしてはいけないと。
 子供のような我儘で、これ以上の迷惑はかけられないと。
 そう思い違えて。
 寂しさを心の奥底に頑張ってしまい込んで。
 海莉は、微笑む義兄に頷いた。
「いってきます」
 別れの言葉を告げると、くるりと踵を返し。
 新しい学園に、1人きりの生活に、海莉は足を踏み出す。
 これが義兄との別れ。
 海莉の前から消えてしまう義兄を、最後に見た思い出。
 だったけれど。
『……行くな!』
 駆け寄る足音が聞こえたと思った瞬間、海莉は義兄に後ろから抱きしめられていた。
『お前の事、愛してる。お前は間違いなく俺の妹なんだ!』 
 力強い腕。しっかりと伝わる温もり。
 全身でその存在を感じた海莉も、振り返ると手を伸ばして。
「私も、私もやっぱり一緒に居たい!」
 義兄に抱き着いて、泣き崩れる。
 ずっと共に居ようと伝え合うように。
 決して海莉の前から消えはしないと言うように。
(「ああ、何て……」)
 その温かさを感じながら。
 心に満ちる幸せを噛みしめながら。
(「何て優しい嘘」)
 海莉は涙を流したまま、その黒瞳を開いた。
 あの時そうだったならと、何度思っただろう。
 義兄が自分を引き止めてくれたなら。
 自分が思い違いをしていなかったなら。
 去り行くその足を踏み止まれていたなら。
 この温もりは、今も共にあったのかもしれない。
 でも。
「もう、いいの」
 海莉は、震える声で義兄から身を離した。
 この義兄は偽り。
 辺りに漂う霧が見せる、やさしくてひどいゆめ。
 だって、海莉は知っているから。
 義兄が抱えている希死念慮も。
 それから海莉を遠ざけようとした事も。
 今の海莉は知っているから。
「私は貴方を……いえ、本物の勇介義兄さんを助けに行かなきゃいけない」
 真っ直ぐに力強く前を見据える黒瞳に、圧されるように霧が薄れる。
「だから道を開けて」
 そして海莉は、数歩横にずれた義兄の側を駆け抜けた。
 しっかりと前を見て。
 艶やかな漆黒の髪を揺らして。
 幸せな幻覚に囚われることなく。
 優しく微笑む義兄の姿に振り向くことなく。
『頑張れよ』
 海莉は、走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『焚きつけるもの』ヴォルヴァドス』

POW   :    私を……止めて……お願い……
自身の【骸魂に抑え込まれている良心の抵抗】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    銀禍戦塵『タイラント・アームズ』
【身体を包む『銀色の靄』が様々な武器や防具】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    煌竜狂乱『ディザスター・ブレイズ』
【魂まで焼き尽くす炎のドラゴンオーラの頭部】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リミティア・スカイクラッドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「何をしに来たの?」
 それぞれに霧を乗り越え、集まってきた猟兵達を見回して。
 頭に2本の角を生やした竜神は、長い白髪を揺らして問うた。
 華奢な少女の姿をしているけれども、暴走しているような炎を周囲に纏い。
 赤い瞳も、炎を映したかのように、強く燃えている。
 そして、その細く白い左手が握るのは。
 傍らで微笑む少女の手。
 竜神が会いたいと願っていた存在。
 思い出から歪んで生み出されてしまう程に、待ち望んだ相手。
「また私からこの子を奪うの?」
 それでも。
 偽りだと分かっていても。
 目の前に現れた幸せに、竜神は囚われて。
 繋いだ手に、もう離さないと力を込める。
 やっと会えた。
 やっと触れ合えた。
 願いが叶った今を握りしめて。
「嫌よ。もう離れない」
 竜神が生み出した銀色の霧が少女を抱いた。
 微笑んだままの少女の姿が、霧の向こうに溶けるように消え。
 竜神が迎え入れるように両手を差し出す。
 自身を飲み込んだ数多の記憶と同じように、少女を受け入れて。
 融合した骸魂と同じように、少女と一緒になって。
 オブリビオン『焚きつけるもの』ヴォルヴァドスとなった竜神は猟兵達を見据えた。
「連れて行ってもらうの」
 まるで竜が暴れるかのように、炎を燃え上がらせて。
 まるで少女に寄り添うかのように、銀色の霧で身体を包み込んで。
 竜神はカタストロフを呼び込む。
 過去の中にしか少女がいないのなら。
 自身も世界も滅んで、全て過去になればいい。
 心も願いも歪ませて。
 竜神は、自ら望んで暴走する。
 自身を、世界を、滅ぼすために。
 だけれども。

 私を……止めて……お願い……

 燃え狂う炎の中で、微かにそんな声が聞こえた気が、した。
 
豊水・晶
アドリブ絡み◎
竜神にとって信仰とは、存在そのものを保ってくれる命と同じもの。己を喪いかけていたその時に、僅かにでも捧げてくれた信仰。命の恩人ですよね。
そんな恩人が急に会いに来なくなり、力は衰え幽世へ。
困惑、疑念、焦燥、いろいろあったと思います。貴方が望んでしまったのはしょうがないことだと思います。
でも、だからといって世界の法則を曲げてはなりません。辛くても苦しくても私達は前に進まなければならない。
貴方の燃え盛る想いも燻る感情も、焚き付けた者ごと水で流します。
UC発動浄化と破魔を籠めて攻撃します。
力ずくでも止めて見せます。私の役目そして、そう願う声が聴こえる限り。



 周囲を炎で取り囲み、少女に縋るかのように銀色の靄でその姿を抱く竜神を、豊水・晶(f31057)はじっと見据えた。
「そうですね。竜神にとって信仰とは、存在そのものを保ってくれる命と同じもの」
 同じ『竜神』という種族である晶は、その境遇に同調し。
「己を喪いかけていたその時に、僅かにでも捧げてくれた信仰。
 ……命の恩人ですよね」
 2色の瞳をふっと伏せる。
 そんな恩人が急に会いに来なくなり。
 力の衰えで、古く壊れた祠に居て待ち続けることすらできなくなり。
 幽世で眠っていた竜神の心には、様々な思いがあったのだろう。
 困惑。疑念。焦燥。他にもいろいろ。
 その混じり合った数多の思いの中で。
「貴方が望んでしまったのはしょうがないことだと思います」
 会いたい、と。
 きっと、晶も望んでしまっただろうと思う。
 そっと自身の頬に触れ、そこに温もりを思い出しながら。
 竜神の気持ちを肯定する。
「でも、だからといって世界の法則を曲げてはなりません。
 辛くても苦しくても、私達は前に進まなければならない」
 伏せていた瞳を力強く見開き。
 改めて、炎に、銀色の靄に、覆われた竜神の姿を見据える。
 抜き放つのは、瑞玻璃剣。
 晶が己の角を削って作り上げた、水纏う剣。
 水晶のようなその刀身を、魅せるように竜神へ向けて。
「だから、貴方の燃え盛る想いも燻る感情も、焚き付けた者ごと水で流します」
 振り抜きながら、その封印を解除する。
「竜は降り川猛き悉くを流しゆく……降竜川奉」
 静かな詠唱と共に、込められていた大水下りの力が放たれ。
 竜神の身体を包む銀色の靄を飲み込むように、水の竜が襲い掛かった。
 しかし靄は、強固な盾を象って。
 超耐久力で水に抗い、止めるけれども。
「力ずくでも止めて見せます」
 晶は、瑞玻璃剣を握る手に力を込め、猛き流れを増していく。
 それこそが、暴走する竜神を止めることが、晶の役目だから。
 そして。
 それを願う声が、確かに晶には聴こえたから。
(「願われている限り、私はそれを叶えましょう」)
 流れ揺蕩う水晶は、己の寿命を惜しむことなく。
 ただ真っ直ぐに願いに向き合い、そしてその願いを叶えようと力を尽くす。

大成功 🔵​🔵​🔵​


私を……止めて……お願い……
 
アリス・レヴェリー
竜神から竜人となるあなた、人形から竜人となるわたし
大切な存在を失い過去を見つめるあなた、大切な存在に囲まれ未来を見上げるわたし
向きは正反対、だからこそ相対している訳だけど……不思議な親近感を覚えるわ

だってわたしは、あなたに贈れる言葉を持ってない
わたしが前に進めるのは、ダイナの御する大地と炎が、ムートが操る魔法と叡智が、アルテアが司る星と翼が、この三度の炎から護ってくれている……皆が寄り添ってくれているから
もしわたしが孤独だったら、きっと抗えないもの

【身に纏う親愛】は尾の先、変じるは進み続ける四つの意思を載せた時の針――だからごめんなさい。わたしはあなたを理不尽に貫いて、未来へと連れていく……!



 竜神から竜人となるあなた。
 人形から竜人となるわたし。
 大切な存在を失って過去を見つめるあなた。
 大切な存在に囲まれ未来を見上げるわたし。
 竜神と相対するアリス・レヴェリー(f02153)は、その正反対の向きを感じ。
「……不思議な親近感を覚えるわ」
 正反対だからこその近しさに、ふっと青い瞳を細め、優しく微笑んだ。
 けれども、竜神に向かうその表情に溢れるのは哀しみ。
「だってわたしは、あなたに贈れる言葉を持ってない」
 竜神と同じように、過去に大切な存在を、父や姉妹を失っているアリスだけれども。
 今、アリスを囲み、共に在りたいと望むのは。
「わたしが前に進めるのは……」
 竜神が纏う炎がドラゴンを象り、その顎を開いてアリスに襲い掛かってくる。
 そこに放たれたのは、ダイナの炎。
 大地と炎を御する金獅子の雄叫びに、ドラゴンオーラは相殺され。
 新たに創り上げられた炎のドラゴンが、別方向からアリスへ向かう。
 そこに降り注ぐのは、ムートの魔法。
 魔法と叡智を操る白鯨の煌めきに、ドラゴンオーラは撃ち抜かれ。
 それでもまだアリスの魂を焼き尽くすのを諦めないと、三度ドラゴンが生み出される。
 そこに吹き荒れるのは、アルテアの星。
 星と翼をつかさどる星鷲の羽ばたきに、ドラゴンオーラは吹き散らされ。
 炎から護ってくれた大切な友達に囲まれて、アリスは立っていた。
 それこそが、アリスの望む今。アリスの望む未来。
「……皆が寄り添ってくれているから」
 だからアリスは過去に囚われることなく。
 花咲く草原で、ダイナと額を寄せ笑い合い。
 白い雲の中から、ムートに乗って青い空へ泳いで。
 穏やかな夜に、アルテアの翼に包まれて身を寄せて。
 過ごしてきた今を抱く。
「もしわたしが孤独だったら、きっと抗えないもの」
 ダイナが、ムートが、アルテアが、もしアリスの傍にいなかったなら。
 アリスも竜神と同じように願ってしまっていたかもしれない。
 竜神が少女を求めたように、父を、姉妹を、求めてしまっていたかもしれない。
 でもアリスには、共に足跡を刻んでくれる気高い金獅子がいる。
 悩むアリスの胸中を照らす、優しい白鯨の教えが共にある。
 迷うアリスを導く、美しい星鷲が標として共にある。
「だから、ごめんなさい」
 絆を結んだ幻獣達と、魂を重ねて。 
「寄り添う獣、愛する友よ……誓いて詩う、わたしと共に!」
 アリスはその姿を変える。
 星空を映したような翼を背に広げ。
 金色の長髪より鋭く輝く2本の角を頭に生やし。
 時計の針を思わせる金属の装飾を先につけた白い尾を揺らして。
 大切な少女と共に、竜人となった竜神に。
 大切な友達と共に、竜人となったミレナリィドールは思う。
(「わたしはあなたを理不尽に貫いて、未来へと連れていく……!」)
 進み続ける4つの意思。
 それを乗せた、未来を刻む時の針を揺らして。
 ふわり、とその身を浮かせたアリスは、竜神へ飛び迫った。

大成功 🔵​🔵​🔵​


私を……止めて……お願い……
 
木霊・ウタ
心情
たとえ幻でもずっと一緒にいたい相手、か
本当に大切な人なんだな
気持ちはわかるぜ

けど
竜神も骸魂も世界の滅びを望んじゃいない
世界を救うぜ

竜神&骸魂
確かに聞こえたぜ、あんた達の声が

安心してくれ
俺達が止めてやる

戦闘
爆炎噴出で一気に間合いを詰める

炎が生む気流で
立ち塞がる霞を掻き消し吹き飛ばし
竜の炎も炎で相殺しつつ獄炎に取り込んで火力upだ

突進の勢いのまま
更に刃も爆炎で加速

収束した炎で紅蓮の光刃をなし
大焔摩天を一閃

オブリビオンとして世界を滅ぼす未来を灰に

その子はあんたの心の中に
今も確かにいるんだろ

なら生き続けなきゃな

竜神と骸魂を分離

事後
鎮魂曲を奏でる
骸魂の安らかを願う



 少女の姿をした2つの存在が寄り添うのを見て、木霊・ウタ(f03893)は呟く。
「たとえ幻でもずっと一緒にいたい相手、か」
 少女のうち片方は、思い出から歪んで生み出された幻。
 そしてもう片方は、骸魂に飲み込まれたことで少女の姿を得た竜神。
 また会いたいという願いが叶い。
 このまま一緒に居たいと望んでしまうほどに。
 やさしくてひどいゆめ。
「本当に大切な人なんだな。気持ちはわかるぜ」
 霧の中で見てきた数多のゆめが繰り返されたているかのような光景に。
 偽りの幸せに、ウタはまた、ゆっくりと首を左右に振った。
「けど、竜神も骸魂も、世界の滅びを望んじゃいない」
 銀色の靄の中に姿を消していく少女を見て告げる。
 少女をも飲み込んで、暴走する竜神を見て告げる。
「確かに聞こえたぜ、あんた達の声が」
 小さくか細い良心の声。
 それは、竜神のものであり、骸魂のものでもあると信じて。
 誰も世界を滅ぼしたい者などいないと、言い切って。
 銀色の靄を纏い、炎のドラゴンオーラで周囲を囲む竜神を、その燃えるような赤い瞳を真っ直ぐに射抜くように見据えて、笑う。
「その子はあんたの心の中に今も確かにいるんだろ?
 なら、生き続けなきゃな」
 幽世に流れ着いた少女の思い出を取り込まなくても。
 連れて行って欲しいと望んで骸魂に取り込まれなくても。
 竜神の中に、きっと、少女はいる。
 そしてそれこそが、竜神が大切にしなければならないものだと思うから。
 ウタは地獄の炎を噴出して、竜神との間合いを一気に詰めた。
 携えるのは『大焔摩天』。刃に刻まれた焔摩天の梵字が見えない程に獄炎を纏い、紅蓮の光刃となった大剣を構えて。
 突進の勢いに爆炎の加速を加え。
 銀色の靄を吹き飛ばして、竜の炎を炎で相殺して。
 むしろ、吹き散らした炎を獄炎に取り込みすらしてさらなる加速を得て。
「安心してくれ。俺達が止めてやる」
 ウタは生命賛歌を籠めた一撃を、放つ。
 オブリビオンとして世界を滅ぼす未来を焼き喰らうように。
 誰も望んでいないはずのカタストロフを灰に還すように。
 大焔摩天を振り抜いて。
 竜神の無事と骸魂の安らかを、ウタは願ってそっと瞳を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


わたしを……止めて……お願い……
 
南雲・海莉
リグさん(f10093)と

二度と離れたく無い
そうね、私だってそんな人がいる
(UDCアースの依頼で見た、両親達の幻を思い出し)
それでもまだ彼岸を超えてはダメだから

攻撃を見切り、剣で受けながら味方の攻撃を庇う
「頑張れ」って言われたなら、私は今、ここにいる皆を
カクリヨのひと達もあなたも全て守ってみせる!

リグさんが肉薄したところで下がり、UC使用

絶望も悲しみも生きるためには必要
だから削ぐのでは無く、本人の希望と勇気を持って抑える為に
陽光の属性を宿した剣風を起こし、
リグさんの言葉に重ねて温かな感情を呼び起こさせる

大切な気持ち、いっぱい吐き出しても大丈夫
受け止める
その上で、あなたと一緒に過去を止めてあげる


リグ・アシュリーズ
海莉さん(f00345)と

声。確かに届いたわ。
がんばって絞り出した本当の気持ちに、報いなきゃね。

黒剣の剣風で霧をはらいながら戦うわ。
傷つけたくないけど、少女部分しか実体がないなら
やむを得ないかしら。
剣を受け止められたら力比べするように押さえ、
動きの止まった竜神に言葉を。

ありありと浮かぶくらい、姿が焼き付いてるのね。
まぶしくて、切なくて、あたたかい貴方の思い出。
世界が終われば、この子とも永遠にさよならになる。
そんなのって、ないじゃない!

力で押し負けても、後退がてら諦めずに砂礫の雨を放ち。
海莉さんの後に、更に言葉を続けるわ。
愛してくれたその子に誇れる姿でいなくちゃ。
あなたの形を、取り戻すのよ!



 もう二度と会えないと思っていた人に会えて。
 もう二度と離れたくないと思う。
「そうね、私だってそんな人がいる」
 少女と手を繋ぐ竜神を見て、南雲・海莉(f00345)は小さく苦笑した。
 先ほどの霧の中で見た義兄ではない。
 だって、義兄には絶対にもう一度会うと。探し出し、助けてみせると誓ったから。
 もう決して会えない、という存在ならば。
 殺された両親と友人達。
 かつてUDCアースの『黄昏』に見た幻を思い出して、海莉はそっと黒瞳を伏せる。
 強く育ったと誇らしげに口元を崩し、頭を撫でてくれた父達。
 綺麗になったと嬉しそうに微笑み、心配ねと僅かに首を傾げた母達。
 いつも一緒に遊んでいた友人達と、見守ってくれていた先生達。
 忘れたことなどない大切な人達と再会できた……幸せでデタラメな夢。
 このまま共にいたいと、二度と離れたくないと、思わなかったといえば噓になる。
 海莉だけが取り残され、行けなかったそちら側に、連れて逝ってと、願わなかったといえば嘘になる。
 それでも海莉は『黄昏』が見せた世界に背を向けた。
「それでもまだ彼岸を超えてはダメだから」
 送り出してくれた皆の笑顔が海莉の背を押す。
 例え幻だとしても、間違いなく海莉の支えとなって。
 だから海莉は、真っ直ぐに顔を上げ、竜神を見据えた。
 その様子に、ふふっと優しく微笑んだリグ・アシュリーズ(f10093)は。
「それは貴方も分かってるのよね」
 海莉の決意を指し示しながら、竜神へと向き直り。
「声。確かに届いたわ」
 しっかりと、頷いてみせる。
 カタストロフを呼び込みながらも、それに抗おうとする微かな良心。
 小さな小さなその声のために、くろがねの剣を抜き放って。
「がんばって絞り出した本当の気持ちに、報いなきゃね」
 野太刀『紋朱』をすらりと引き抜いた海莉と共に駆け出した。
 武骨な鉄塊のような鋭い切先で。光の加減で朱に煌めいて見える刃で。
 靄を払うようにしながら、竜神へと迫る。
 少女の幻をも飲み込んだその姿こそ、華奢な少女のもので。
 白く長い髪も、白く柔い肌も、弱く美しく見えるけれども。
 周囲を囲むドラゴンは、実体のない、剣では斬れない炎のオーラだから。
(「本当は傷つけたくなんてないけど」)
 内心で苦々しく思いながら、リグは線の細い少女に武骨な剣を向ける。
『……ちを……めて……おね……』
 そこにまた、小さな小さな声が聞こえた、と思えば。
 竜神は、剣を受け入れるかのように、その切先を望むかのように、両手を広げる。
 防御も反撃もない、無防備な姿。
 止めて欲しいという願いを見たリグと海莉は。
 迷いを捨て、竜神の白い肌に幾重にも赤い線を描く。
 けれども。
 深い傷を刻む前に、竜神の左腕が海莉の紋朱を弾き飛ばし。
 右手がリグのくろがねの剣を軽く受け止めた。
 両手で押し込むリグを、華奢な片手で抑える竜神。
 その力が次第に強くなっていくのを感じ、リグも負けまいとさらに力を込める。
 唐突な力比べ。それはつまり、竜神とリグが近い距離で対峙し、止まった状況だから。
 きっと今なら声が届くはずと。リグは語りかける。
「ありありと浮かぶくらい、姿が焼き付いてるのね」
 それは、先ほどまで竜神の傍にあった少女の姿。
 まぶしくて。切なくて。あたたかい。
 何度も夢見て。何度も願った。かけがえのない思い出。
 竜神が何よりも大切にしていたものなのに。
「でも、世界が終われば、この子とも永遠にさよならになる。
 そんなのって、ないじゃない!」
 思いと共に力をぶつければ、反発するようにリグは弾かれて。
 力に圧し負けたそのまま後ろに飛ばされた。
 しかしそこに、リグが竜神の動きを止めている間に先に後ろに下がっていた海莉が、離れたその位置から紋朱を振り抜く。
 紋朱の切先で描いていた太陽のルーンが、その刃に陽光の属性の魔力を籠め。
 剣風を起こし、竜神を襲う。
 刃を当てずに絶つのは、絶望。だけれども。
(「絶望も悲しみも、生きるためには必要なの」)
 だから、絶望の全てを削ぐのではなく、当人の希望と勇気をもって抑える為に。
 海莉は、竜神の温かな感情を呼び起こす。
「大切な気持ち、いっぱい吐き出しても大丈夫。
 全部、私達が受け止めるから」
 リグの言葉に重ね。穏やかに微笑みながらも、強い決意を漆黒の瞳に輝かせて。
「その上で、あなたと一緒に過去を止めてあげる」
 覚悟を告げた。
 そこにリグが、飛ばされ崩れた体勢のまま、尚も諦めずに剣を振るい。
 地面を抉るような破砕撃で放つはダスティ・レイン。
「愛してくれたその子に誇れる姿でいなくちゃ」
 雨のように竜神へと向かう無数の砂礫に、強く言葉を乗せて。
「あなたの形を、取り戻すのよ!」
 リグは、竜神の心への道を、切り開く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


わたしを……止めて……お願い……
 
フリル・インレアン
ふええ、神様が過去だけを、そして特定の誰かだけを望んではいけませんよ。
寂しかったのかもしれませんが、神様と人では寿命が違いすぎます。
うれしい出会いがあったのなら、それはちゃんといい思い出にしていかないとね。
これからまたいい出会いがあった時に懐かしんでばかりいたら新しい出会いに失礼ですからね。

それにこんなこと望んでいないのでしょ。
お洗濯の魔法で強化効果と一緒に一時の気の迷いを落としてあげます。もう一度考えなおしてみませんか?

私もその時が来たら、ちゃんとアヒルさんとお別れしないといけませんね。



 戦場の隅の方で、大きな帽子のつばをぎゅっと引き寄せて、ふええ、と身を縮ませていたフリル・インレアン(f19557)だけれども。
 おずおずと見つめていた戦いの行方に、そして重ねられていく皆の言葉に、次第に伏せていた顔が上がっていく。
「……神様が過去だけを、そして特定の誰かだけを望んではいけませんよ」
 極度の人見知りなフリルが、いつの間にか真っ直ぐに竜神を見ていて。
「寂しかったのかもしれませんが、神様と人では寿命が違いすぎます。
 うれしい出会いがあったのなら、それはちゃんといい思い出にしていかないと」
 いつもの怯えたような瞳ではなく、穏やかな微笑みさえ浮かべて。
「これからまたいい出会いがあった時に懐かしんでばかりいたら、新しい出会いに失礼ですからね」
 そうですよね、と手元のアヒルちゃん型のガジェットを見下ろす。
 過去の記憶を失った、アリス適合者のフリル。
 でも、きっと、その失った過去を嘆いていたら。過去ばかりを見ていたら。
 アリスラビリンスで新しく出会ったこのガジェットと、こんな風に一緒には居られなかったかもしれない。
 もしかしたら。過去ばかりを願っていた竜神は。
 新しい出会いを失っていたかもしれない。逃していたかもしれない。
 フリルはそう思うから。
 攻撃の狭間に開けた道を、一気に駆け抜けた。
 炎も靄も消えていた一瞬に、竜神のすぐ前に飛び込んで。
「それに、こんなこと望んでいないのでしょ」
 そっと伸ばした繊手が、竜神をぽんぽんぽんっと軽く叩く。
 発動した『身嗜みを整えるお洗濯の魔法』が、強化効果をはたき落とし。
 一緒に、一時の気の迷いも洗い流して。
「もう一度考えなおしてみませんか?」
 はっと顔を上げた竜神に微笑んで見せた。
 そのまま後ろに飛び退いて、空いた間に向かう幾つもの攻撃。
 それを竜神は受け入れたかのように見えて。
 その身から骸魂が離れていくのを見て。
 フリルの手の中で、ガジェットが一声鳴いた。
(「そう、ですね」)
 ふっとフリルの微笑みに、哀しいものが混じる。
 今は未来へ繋がると共に、過去になるもの。
 いつかきっと、ガジェットと共にいる今が、過去になる時が来るから。
(「私もその時が来たら、ちゃんとアヒルさんとお別れしないといけませんね」)
 自身が竜神に告げた言葉を思い出しながら。
 フリルはぎゅっとガジェットを抱きしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


わたしたちを……止めて……お願い……
 
アリス・トゥジュルクラルテ
アリス、耳、いい、です、から、ちゃんと、聞こえた、ですよ。
大丈夫、です。止める、です。

自分の、周囲に、防御の、結界術を、張って、優しさと、祈りを、込めて、愛聖歌を、歌唱、して、骸魂を、浄化、する、です。
死んだ、人、には、会える、ない、です。
でも、生まれ、変わる、すれば、また、会える、です。
その時、胸を、張って、誇れる、ような、自分で、会える、ように、しないと、その人に、笑う、されちゃう、ですよ?
だから、自分の、気持ちに、嘘、つくの、やめる、です。
彼女と、ちゃんと、お話、して、自分の、気持ち、話す、して、彼女の、気持ち、聞く、して、お別れ、する、です。
またね、て。



 燃え狂う炎の中で、微かに響いた、小さな小さな声。
「アリス、耳、いい、です、から、ちゃんと、聞こえた、ですよ」
 ウサギの耳を持つキマイラのアリス・トゥジュルクラルテ(f27150)は、その垂れ下がったふわふわで大きな耳を誇るように、微笑んだ。
 届いていますと。
 叶えてみせますと。
 竜神と、そしてそれを飲み込んだ骸魂に、伝えるように。
「大丈夫、です。止める、です」
 アリスは、すうっと息を吸い込んで。歌を紡ぐ。

 嗚呼 愛しき女神
 我らの想いを夢見た彼の者に 届け給え
 愛に飢えた子どもに無償の愛を
 愛を知らぬ我らに女神の愛を……

 聖なる魔力の籠った、愛の女神の聖歌。
 優しさと祈りの込められた美しい旋律が響いていく。
 それは、小鳥の囀りのように小さく、星の囁きのように微かで。
 決して強く奏でられてはいない、細やかな歌声だけれども。
 3体の幻獣が、燃え盛りドラゴンオーラとなった炎を受け防ぎ。
 瑞玻璃剣から生み出された水の竜が、銀色の靄を流していく。
 その中で確かに響き、伝わっていった。
「死んだ、人、には、会える、ない、です」
 歌うその中で、アリスは語る。
 それは辛い現実。
 アリスがもう両親に会えないのと同じ。
 どんなに望んでも、アリスが両親に愛されることは決してないように。
 その痛みに耐えるように、アリスは胸の前でぎゅっと手を握り。
 竜神へと振るわれる、武骨な黒剣と朱い野太刀とを見つめる。
「でも、生まれ、変わる、すれば、また、会える、です。
 その時、胸を、張って、誇れる、ような、自分で、会える、ように、しないと、その人に、笑う、されちゃう、ですよ?」
 紋朱の剣風が、太陽のように温かく竜神へ向かい。
 くろがねの剣の抉った大地が、無数の砂礫に強い言葉を乗せて竜神に降り注ぐ。
「だから、自分の、気持ちに、嘘、つくの、やめる、です」
 そうしてできた一筋の道を走る、大きな帽子。
 そっと伸ばされた繊手は、竜神を優しく叩いて。
 ぽろぽろと、竜神の赤い瞳から雫が零れた。
 アリスはその全てを見守り。
 そして優しい結末を望む。
「彼女と、ちゃんと、お話、して。
 自分の、気持ち、話す、して。
 彼女の、気持ち、聞く、して。
 ……お別れ、する、です」
 獄炎を纏って飛び行く大焔摩天の紅蓮の光刃が竜神を斬り裂き。
 涙を流す少女の姿が2つに分かたれる。
 竜神と、骸魂とに。
 そして見開かれた竜神の赤い瞳の目の前に、星を抱く白き竜人が飛び込んで。
「またね、て」
 祈るように手を握り、浄化の愛聖歌を奏でるアリスの前で。
 白い尾の先で煌めく未来を刻む時の針が、骸魂を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『思い出綴り』

POW   :    高い場所に飾り付ける

SPD   :    近い場所に飾り付ける

WIZ   :    風鈴の音色を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 オブリビオンから戻った竜神と、カタストロフを防がれた世界。
 取り戻せた平穏に、猟兵達はほっと息を吐くけれども。
 その表情はどれも晴れやかとは言い難いものだった。
 それもそのはず。
 少女の姿を保ったままの竜神は、その赤い瞳を憂いに染め、骸魂が消えたその空間をじっと見つめたままだったのだから。
 しばしの沈黙は、物悲しい雰囲気に覆われ。
 しかしそれを打ち破ったのも、竜神だった。
「ありがとうございました」
 くるりと猟兵達に向き直り、丁寧に頭を下げる竜神。
 改めて猟兵達が見たその顔は、確かに哀しみが残っていたけれども、微かに強さを感じさせる、しっかりと今を受け入れたもの。
 だからこそどう声をかけていいか、迷う猟兵達の耳に。
 ちり……ん。
 小さな小さなガラスの音が届いた。
 猟兵達の不思議そうな様子に、ああ、と竜神も気付き。
 少し見下ろす位置に流れていた、大きくも穏やかな川を指し示した。
「風鈴まつりです。川の傍に沢山の風鈴を飾り付けて、涼しい音色を聞きながら懐かしい思い出を語る、近くの村のお祭りで……」
 辺りを覆っていた霧のせいか、全然気付いていなかった川に猟兵達は驚き。その川辺に生えた木々に、祭りのために造られたのであろう背の高い竹柵に、幾つもの風鈴らしき影が揺れている景色を興味深く見つめる。
 そこにはちらほらと、住民らしき妖怪の姿も見え。
 風鈴を配り歩く者がいれば、受け取った風鈴を吊るす者がいる。
 風鈴の間をゆるりと歩く者がいれば、川辺に座って音色を楽しんでいる者もいる。
 思い思いに過ぎてゆく、ゆったりとした時間。
 そんな穏やかな祭りに注意を向けていたから。
 猟兵達は、竜神の変化にすぐには気付かなかった。
 驚きに目を見開き、言葉を失ったように音を紡がぬ口を開き、唐突に走り出す竜神。
 川辺に駆け降り、風鈴の下で手を掴んだ相手は。
 つい先ほどまで竜神の傍にいた少女だった。
 霧の影響がまだ残っていたのか。それともオブリビオンとしての力の残滓か。
 原因は分からないけれども、確かにそこにいる、大切な思い出。
 でも。
(「大丈夫」)
 竜神は、会いたかった少女の手を握りながらも、穏やかに微笑んでいた。
(「もう、間違えない」)
 その胸には、猟兵達から送られた数多の言葉がある。
 助けてくれた猟兵達の、温かな気持ちがある。
 もう、囚われたりしない。
 だから、今の竜神が願うのは。
「お別れを、言いたかったの」
 後悔のない最後の一時を共に過ごす、ただそれだけ。
 過去を変えられるとは思っていない。
 でも、その過去を抱く自分の心なら、少しだけど変えることができるから。
 竜神は別れの時を、望む。
 その哀しくも優しい光景を、猟兵達も、優しく哀し気に見守って。
 ちり……ん。
 猟兵達の前にも、思い出の光景がまた紡がれた。
 今度は歪められることなく。
 でも少しだけ手を伸ばすことが許された、郷愁に満ちた日常。
 それはきっと、しばらくすれば消えてしまうものだけれども。
 確かにそこに、猟兵達の前に在るから。
 ちり……ん。
 静かな川の流れと風鈴の音色が、思い出を綴っていく。

 どうぞ、悔いなき一時を。
 
木霊・ウタ
心情
過去の色々な人との出会いと
そして別れが今の俺達の一部となっていて
だからこそ未来へ向き合い進んで行けるんだよな

竜神も
そして俺もそうだ

行動
川岸をゆっくりと散策

キラキラ光を反射する川面を眺め
風鈴の音色に耳を澄ませながら
今ある
この時をしっかりと味わうぜ

この穏やかなひと時が
猟兵の一番の報酬だもんな

ちらっと眼をやれば
あの子や
オブリビオンたちの姿が見えるけど
皆もう俺の一部だ

だから風鈴の音色に導かれるように
すっと消えていくだろう

最後まで見守ってバイバイってしたら
邪魔にならないところに腰を下ろして
せせらぎと風鈴に合わせてギターを爪弾くぜ

うん
今日もいい日だ
きっと明日もそうだ



 川岸へと降りた木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は、涼やかな風鈴の音色に耳を澄ませながらゆっくりと歩き出した。
 辺りに満ちるのは、ゆったりとした穏やかな時間。
 ゆらゆらと風に揺れ、時折音を響かせる綺麗な風鈴と。
 さらさらと流れ続け、キラキラ光を反射する川面。
 そして、ウタと同じように、そんな一時を楽しむ住民達。
(「これこそが、猟兵の一番の報酬だもんな」)
 カタストロフから守りきれた『いつも通りのこの世界の光景』に、ウタは微笑む。
 風鈴の音色が小さく響き。
 川の流れが絶えず囁く。
 その中で、竜神は大切な少女と手を握り。
 きっと、お別れを告げている。
 少し哀しい、でも優しい景色。
 他にも、住民達に混じって、ウタの知る姿が幾つも見えていた。
 幾度か助けた小麦色の髪の女の子は、両親もおらず、1人でそこにいる。
 失ってしまった家族と過ごす幸せはもうないし。
 悲劇による憂いを少し帯びているように見えるけれども。
 飾られた風鈴を1つ1つ眺めるその表情は、楽しそうな笑顔だった。
 大きな三つ編みを左右に揺らす少女は、座り込んで真っ白い絵本を捲り。
 黄金を身に纏う妖精は、金色の風鈴の周囲を飛び回っている。
 流星龍は眠ったまま空を漂い。獣姿の炎の精霊が川岸で丸く寝ころび。
 白薔薇のドレスの女性が、機械の翅を持った黒薔薇ドレスの少女が、ふらりと散策し。
 万華鏡のように煌めく美しい人形が、ガラスの風鈴を物珍しそうに見ている横で。
 ウサギ耳の獣人が、杖で風鈴をつついていた。
 それらは全て、過去にウタが出会った者達。
 助けたアリスや、骸の海へ送ったオブリビオンの姿。
 その出会いと、そして別れは、ウタの一部になっていて。
(「だからこそ、未来へ向き合い進んで行けるんだよな」)
 それはきっと、竜神も同じ。
 出会いがあって、別れがあるからこそ、今の自分がここに在る。
 嬉しさも哀しさも全てが自分の一部なのだから。
 ウタは足を止め、思い出が映し出された川岸を、じっと眺めた。
 真白い絵本を閉じて立ち上がった少女の姿が。
 金色の風鈴を手に入れようと手を伸ばした妖精の姿が。
 1つ、また1つと静かに消えていく。
 まるで風鈴の音色に導かれるように。
 流星龍が。炎の獣が。白薔薇が。黒薔薇が。
 万華鏡の人形も。ウサギ耳の獣人も。
 そして、風鈴越しにこちらに気付いて微笑んだ、小麦色の髪の女の子も。
 すっと消えていく。
 またきっと、どこかで会えるだろう。
 またきっと、どこかに染み出してくるのだろう。
 それでも。
 それがウタの過去であり、ウタの未来だから。
 消えゆくその姿を見送り、バイバイ、とウタは手を振った。
 せせらぎと風鈴の音が静かに響く中で。
 全ての思いでが消え去って。
 尚も続く、風鈴祭り。
 ウタは邪魔にならなそうなところを見つけて腰を下ろすとギターを手にし。
 周囲の音に合わせるように、静かで優しい旋律を爪弾き始めた。
「……うん。今日もいい日だ」
 きっと、明日もそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ちり……ん。
 
アリス・レヴェリー
竜神さんともお話はしてみたかったけれど、今の二人はとてもお邪魔できないわ……それに、わたしにとってもこの時間は――

――相変わらずお顔は見えないのね。でも、いいわ。なんとなくわかるもの
目覚めたわたしは皆に出会ったことは無いけれど、眠るわたしはずっと……それこそ、生まれた時から一緒に居たのでしょう
だからこそ……識らないけれど、憶えてる

歌うことは、純粋なわたしという人形に与えられた機能……だから今だけは猟兵でも幻獣の友でもなくただの娘として、妹として、そして姉として歌うの
きっと皆が眠るわたしに歌いかけてくれた……聞き覚えもないのに馴染むこの詩を

これは、あの夢の中で聞いた詩
今も尚、【霞む記憶に響く詩】



「竜神さんともお話はしてみたかったけれど……」
 手を繋ぐ竜神と少女を遠目に見て、アリス・レヴェリー(f02153)は残念そうに言いながらも、むしろ嬉しそうに微笑んだ。
 向かい合う2人が浮かべるのは、笑顔。この後の別れを知っている竜神には憂いの色も見えたけれども、それでも今の逢瀬を大事にしようとしているのが伝わってくるから。
「とてもお邪魔できないわね」
 だからアリスも笑顔で竜神達を見守る。
「それに、わたしにとっても……」
 そして視線を反らした先。
 竜神とは別の方向に。
 アリスにとっての大切な時間が待っていた。
 そこに佇むのは、花柄の風鈴にそっと手を伸ばす姉。
 雲の描かれた風鈴を覗き込んでいる父。
 父に抱かれたまだ未完成な妹は、星が煌めくような風鈴にその顔を寄せて。
 アリスが目覚めた人形工房に、かつていたはずの人々が笑っている。
(「……相変わらずお顔は見えないのね」)
 それは、アリスが皆に会ったことがないからか。
 目覚めた時にはすでに独りだったアリスにとって、識らない人達だからか。
 でも。それでも。
(「いいわ。なんとなくわかるもの」)
 穏やかな雰囲気に。優しい気配に。
 アリスは微笑みを浮かべた。
 識らないけれど、憶えてる。
 眠るアリスがずっと……それこそ生まれた時から一緒に居た人達。
 だからアリスは。
 脳裏に浮かんできた、名も知らない歌を歌い出した。
 それは霞む記憶の片隅にあるもの。
 ある日見た夢の中で聞いた、荒唐無稽な詩。
 その夢すらも幻だったのではないと思ったこともある、識らない歌詞。
 聞き覚えもないのに不思議と馴染む調べ。
 でも、今なら分かる。
 これはきっと。
(「きっと皆が眠るわたしに歌いかけてくれた……」)
 家族の思い出。
 歌うアリスの声を聞いてか、姉妹達も風鈴の傍で歌い出す。
 父の傍に佇んで。父に抱かれて。
 アリスを見つめて微笑みながら、歌声を重ねていく。
 歌うことは『アリス・レヴェリー』という人形に与えられた機能。
 純粋なミレナリィドールとしての能力。
 だから、今だけは。
 猟兵としてではなく。
 幻獣の友でもなく。
 ただの娘として。
 妹として。姉として。
 父に作られたうちの1体のミレナリィドールとして。
 記憶にない歌を。
 身体が覚えている詩を。
 歌う。
(「……わたしは、幸せです」)
 生み出してくれてありがとう。
 一緒にいてくれてありがとう。
 この過去があったからこそ。
 独りの時があったからこそ。
 大切な友に出会えたのだから。
 感謝と共に、今を、未来を、失った家族へ伝えるように。
 重なっていた歌声が、ただ1人だけのものになっても。
 アリスは微笑み、歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ちり……ん。
 
リグ・アシュリーズ
ひまわり色の浴衣に着替えて、夕涼みがてら風鈴市へ。
故郷では着た事のない、華やかな袖をふり。
どう、似合う?なんて、二人の友人にくるりと振り向いてみせるわ!
……幻だから喋れないとは思うけど。
馬子にも衣裳なんて言ったらぶっ叩くわよ?

もう心の整理は、済んだようなものだけど。
まだ居てくれるなら、甘えちゃおうかしら。

二人だったらどれが好きかな、なんて考えながら風鈴を選ぶわ。
私が何するにも付き合ってくれた、気の優しい二人。
同じものに立ち向かって、最期まで一緒だった。
私だけが残った意味を悩む暇すら世界は与えてくれなくて、
ずっと言えずにいたけれど。

あのね。ベン、カロライナ。

大好きよ。これからも、ずっとずっと。



 ひまわり色の浴衣に着替えたリグ・アシュリーズ(f10093)は、川岸の一角でくるりと回るように振り向いて見せた。
 背に流れる灰色の髪と一緒にふわりと揺れる袖には、繊細な白い線でひまわりの花が描かれていて。同じように大輪の花を咲かせた裾からすらりと伸びる元気な素足にも、下駄の鼻緒にひまわりの花がそっと飾られている。
「どう、似合う?」
 問いかけるその笑顔もひまわりの花の様。
 そんなリグが嬉しそうに楽しそうに尋ねた先には、揺れる風鈴と2人の友人がいた。
 人狼の男の子と、オラトリオの女の子。
 いつも一緒にいた2人。
 目の前に現れた、懐かしい思い出。
 霧の中で見せられた惑わしの幻とは違い、リグの知る通りの姿で、リグを過去に捉えようとすることもなく、ただそこに在るだけの残滓。
 幻の友人達は、故郷では着たことのない華やかな浴衣に微笑んで。
 それぞれに開かれた口からは、何の音も零れ出なかった。
(「幻だから喋れないのかな」)
 思い出を映し出す力が霧程に強くないからか。
 思い出の中に今と同じ状況がないからか。
 それとも、リグがそうあるものと思っているからか。
 分からないけれども、声を紡がぬまま2人は口を動かして。
「あっ。馬子にも衣裳って言ったでしょ!」
 からかうような男の子の表情に察して、ぷくっと怒って見せたリグは、ぶっ叩くわよ?と握った拳をぶんぶん振るう。
 楽し気に逃げ出す男の子の横で、女の子も嬉しそうな笑顔を弾けさせていた。
 他愛のないやりとり。
 かつては当たり前だった光景。
 もう心の整理は、済んだようなものだけど。
 まだ居てくれるというのなら。
(「甘えちゃおうかしら」)
 リグは、もう作れるはずもなかった新しい思い出を紡いでいく。
「ねえ。風鈴、選びましょ」
 女の子の手を引いて、男の子を誘うように笑いかけて。
 向かうのは、風鈴を配っている妖怪の元。
 川辺の竹柵に飾られている物とは違い、所せましとぎゅうぎゅうに並び吊るされた風鈴を覗き込むと、好きなのをどうぞ、と髪だか髭だか分からない程ふさふさな妖怪が、ほとんど見えない顔で穏やかに告げた。
 色も模様も全て違う、時折形すら違うものが混じり並ぶ風鈴。
(「2人だったらどれが好きかな」)
 あれがこれがと目移りしながら、そんなことを考えてリグは選ぶ。
 いつもからかいからかわれていた男の子は、少し変わった面白い柄に喜ぶだろうか。
 おさげが可愛い優しい女の子は、天使を連想させる鳥や羽根の柄が似合うだろうか。
 悩む時間も楽しんで、これ! とようやく1つを手に取れば。
 その左右にそっと並べられる2つの風鈴。
 男の子が差し出したのには、リグが着ている着物と同じひまわりの花が大きく咲き。
 女の子のには、リグが普段着けている黒革のチョーカーに揺れる宝石のような蒼穹の色の雨雫が、ぽつぽつと水玉のように描かれていた。
 リグと同じように、風鈴を選んでくれた2人。
 何をするにも付き合ってくれて。
 同じものに立ち向かって。
 最期まで一緒だった。
 気の優しい友人達。
 ずっと笑い合っていたかった。
 ずっと共に居れると思っていた。
 でも、リグだけが残されて。
 1人だけ残った意味を悩む暇すら世界は与えてくれなくて。
 ずっとずっと言えずにいたけれど。
「あのね。ベン、カロライナ」
 3つ並ぶ風鈴を見つめていたリグは、大切なその名を呼びかける。
 当たり前にずっと続くと思っていた平穏な日常の中で、何度も呼んだ名を。
 でももう呼ぶことのできなくなった名を。
 大切に大切に、噛みしめて。
 そして、当たり前すぎて言葉にしなかった気持ちを。
 いつでも伝えられると思っていたのに、伝えることができなくなった思いを。
 声に、紡ぐ。
「大好きよ。これからも、ずっとずっと」
 揺れる風鈴のその向こうで。
 男の子と女の子の口も、無音のままリグと同じ形に、動いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ちり……ん。
 
南雲・海莉
「海莉」

その声に振り返れば、あの時のままの義兄がいる
「お祭り、行かないか?
…本物じゃなくて、ごめんだけど」
笑顔で頷く
…自分は泣きそうに引きつっていたかもしれないけど

風鈴を並んで眺めて歩く
何度も夢見てた
こうして二人で同じ物を見て、言葉を交わして、笑う
そんな時を

「これまでよく頑張ったな」
義兄の声音と表情に
自分は直ぐにその唇を人差し指で塞ぐ

諦めないから
例え義兄さん自身がもういいと言っても

「そっか
『俺』は海莉が知ってる以上の事は知らない
助けてやれない
…だけど」

「どうか俺を、俺の父さんも赦して、俺の大切な人達を守ってくれないか
(淡く苦く柔らかに笑み、ゆっくり消えていく)」

任せて
ありがと…私の中の義兄さん



「海莉」
 川岸に降りてきた南雲・海莉(f00345)は、かけられた声にはっとして振り向いた。
 そこにいたのは、数年前に海莉の前から姿を消した義兄。
 別れたあの時のままの姿で。優しくもどこか哀し気に微笑んで。
「お祭り、行かないか?
 ……本物じゃなくて、ごめんだけど」
「うん。義兄さん」
 誘いの言葉に、海莉は笑顔で頷いた。
 いや、海莉は笑顔のつもりだったけれども、もしかしたら、泣きそうに引きつっていたかもしれないし、声も少し震えてしまっていたかもしれない。
 でも、義兄はそれに気付かぬふりをしてくれて。
 だからこそ、海莉は義兄の隣に立てた。
 どちらからともなく足を踏み出し、川辺をゆるりと歩き出す。
 そこには背の高い竹柵が幾つも幾つも、でも狭苦しくなく並んでいて。いろいろな柄の風鈴が、互いに絶対に当たらないくらいゆったりとした間隔で飾られ、川面からそっと流れてくる風に揺られていた。
 その景色はとても綺麗だったけれども。
 同じ物を義兄と一緒に見ている、そのことに海莉は微笑んで。
「学園生活はどうだ?」
「問題なく過ごせてるわ。学食のひよこーん、美味しいのよ」
「おいおい、ちゃんと勉強してるんだろうな?」
 他愛のない言葉を交わして、笑い合う。
 ああ、何度夢見ただろう。
 義兄と共に過ごすこんな時間を。
 そのために、海莉は学び、識り、戦い……傷ついてきた。
「これまでよく頑張ったな」
 ぽつり、と穏やかに義兄が呟く。
 その顔に浮かぶのは、嬉しそうにも泣き出しそうにも見える、優しく寂しい微笑。
 そして、何か続きを言おうとしたその唇に。
 海莉はそっと人差し指を当て、言葉を塞いだ。
「諦めないから」
 真っ直ぐに義兄を見上げて、告げる。
「例え、義兄さん自身がもういいと言っても。私は、義兄さんを諦めない」
 それは義兄に宣言するようであり。自分に誓うようでもあり。
 どちらにしても、揺らがぬ心で海莉はきっぱりと言い切った。
「そっか」
 ふっとため息交じりの息を吐いて、後ろに下がった義兄は。
 先ほどよりも苦く、でも先ほどよりも柔らかく微笑んで。
「『俺』は海莉が知ってる以上の事は知らない。助けてやれない。
 ……だけど」
 海莉と同じ漆黒の髪をさらりと風に揺らして。
 海莉と同じ漆黒の瞳に願いを宿して。
「どうか俺を、俺の父さんも赦して、俺の大切な人達を守ってくれないか?」
 微笑んだ義兄の姿が、ゆっくりと消えていく。
「任せて」
 応えながら、海莉は分かっていた。
 きっと今の義兄は、海莉にこんなことを頼まない。
 海莉に赦されることも、守られることも、望んでいると口にしない。
 だからこそ、この義兄は海莉の元から去った本物ではなく。
 霧が歪めて見せた、甘く優しく酷い夢でもなく。
 思い出の中の、義兄。
 海莉は、誰もいなくなった川辺をじっと見つめて。
 ぎゅっと胸元でその手を握り締めて。
(「ありがと」)
 聞けた言葉を、響いた希望の音色を、大切に大切に、抱いた。
(「ありがと……私の中の義兄さん」)

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ちり……ん。
 
アリス・トゥジュルクラルテ
竜神様たちは、もう、大丈夫、ですね。
よかった…。

…やっぱり、いない。
お父さんも、お母さんも、アリスに、会う、したい、わけ、ない、から、来る、はず、ない。
わかってた、のに…どうして、探す、した、だろう。
来ると、したら、それは、きっと、骸の海、から。
…実際、お母さんは、オブリビオン、なった。
きっと、それを、倒す、のは、お姉ちゃん、だから、その時は、アリスが、お姉ちゃん、守る。
いつも、守る、される、ばかり、だから、今度、こそ、アリスが、守る。
…少し、くらい、お母さんと、話、できる、かな?
ううん。お姉ちゃんが、一番、大事。

お別れ、する、みんなの、ために、愛聖歌を、浄化、ない、ように、歌う、です。



 幾つもの風鈴が揺れる川辺を、アリス・トゥジュルクラルテ(f27150)のおっとりとした赤い瞳が彷徨った。
 一度、目を留めたのは、少女と手を繋ぐ竜神の姿。
 会いたいと思っていた相手との再会に嬉しそうに微笑んで。でも、偽りの幸せに囚われることなく。あり得ないはずの一時を、奇跡の温もりを、大切に噛みしめながらも。現実から目を反らさず、未来に向かうための別れを、望む。 
 その姿に、アリスはふわりと微笑んで。
「もう、大丈夫、ですね。よかった……」
 そしてまた、迷子のように赤瞳を彷徨わせた。
 きらきらと煌めく穏やかな川面。さわさわと揺れる川辺の木々の緑。
 合間に、風鈴の静かな音色が絶えず響き。
 それらを楽しむ人々とその思い出が、そこかしこに密やかな笑顔を咲かせる。
 その中を、アリスは何度も何度も、見回して。
「……やっぱり、いない」
 元々垂れているウサギ耳を、さらにぺたんとさせた。
 分かっていた。
 アリスも姉も愛することのなかった両親が、アリスに会いたいと思うはずがないと。
 例えこのまつりが思い出の光景を紡ぐものだとしても、両親と一緒にまつりを楽しめるような思い出はアリスの中にないのだと。
 分かっていた。
「わかってた、のに……どうして、探す、した、だろう」
 曇る瞳に、霧の中で見た父と母の姿が思い出される。
 2人で寄り添うように並び、優しく慈しむようにアリスへ笑いかけていた、ネコキマイラの男性とウサギキマイラの女性。
 あれは歪められた夢だったと、分かっていたのに。
 あんな風に父と母が現れることなんてないと、理解していたのに。
 それにきっと、現れるとしたら。
「骸の海、から……」
 実際に、母はオブリビオンとなった。
 父は分からないけど、多分同じなのだろう。
 そしていつか、オブリビオンと猟兵として、対峙する日が来るのだろう。
(「その時は……少し、くらい、お母さんと、話、できる、かな?」)
 愛されなかったから。
 愛されたかったから。
 どんな形ででもアリスは微かな望みを抱いてしまうけれども。
 再会の時は、母を倒さなければならない時であり。
 そして、母を倒すのは自分ではなく姉だ、と思う。
 アリスよりも姉の方が母との因果が強いと感じているから。
 アリス以上に、姉は母と戦うことになるだろうと思う。
 だからこそアリスは。
「その時は、アリスが、お姉ちゃん、守る」
 母よりも、姉を選ぶ。
 アリスにとって一番大事なのは、姉。
 いつもアリスを守ってくれる姉を、今度こそアリスが守りたいと。
 過去に得られなかった愛を望むより、愛してくれる姉との未来を願いたいと。
 アリスは胸の前で両手を組み、祈るように目を伏せて。
 そこに、ギターの音色が聞こえてきた。
 風鈴の音と川のせせらぎを打ち消すことなく、むしろ一緒に演奏しているかのように。
 静かに優しく爪弾かれる調べ。
 その音色を聞きながら。
 アリスは、すうっと息を吸い込んで。
 歌声を、重ねた。
 かつてこの胸に託された、愛の女神の聖なる魔力を。
 川辺で一時の再会を紡ぎ、お別れしていく皆への想いを。
 そして愛されなかった自身と姉の、紡ぎ出されなかった思い出を。
 美しき調べに乗せて。
 アリスは、愛おしい世界を、歌う。
 
 嗚呼 愛しき女神
 我らの想いを夢見た彼の者に 届け給え
 愛に飢えた子どもに無償の愛を
 愛を知らぬ我らに女神の愛を……

 竜神に歌った時と同じ歌は、少し違った響きで川辺に染み渡っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ちり……ん。
 
「お別れを、言いたかったの」
 大切な少女を前に、竜神は精一杯言葉を紡ぐ。
 あの時伝えられなかった思いを、今度こそ伝えようと。
 あの時急に訪れ、そうと分からなかった別れを、ちゃんとやり直そうと。
 過去に区切りをつけるべく、竜神は少女の手を握る。
 ありがとう。毎日来てくれて。
 ありがとう。花を飾ってくれて。
 ありがとう。たくさん話をしてくれて。
 ありがとう。力を与えてくれて。
 ありがとう。
「……友達になってくれて、ありがとう」
 そして。
「さようなら」
 これからもずっと、忘れない。
『その子はあんたの心の中に今も確かにいるんだろ?』
 でも、縋りつくことはしない。
『辛くても苦しくても、私達は前に進まなければならない』
 過ごした日々を大事に抱いて。
 失った辛さから目を背けずに。
『愛してくれたその子に誇れる姿でいなくちゃ』
 竜神は、前を向く。
『生まれ、変わる、すれば、また、会える、です』
 会えない中にも希望を見出して。
 会えないことばかりを考えるのではなくて。
『これからまたいい出会いがあった時に懐かしんでばかりいたら、新しい出会いに失礼ですからね』
 会いたい、と竜神は願う。
 新しい未来に。
 少女と過ごした過去の、その先に待つモノに。
 会ってみたい、と思えるようになったから。
「またね」
 そっと手を離すと、少女は竜神に微笑んで。
 その口を竜神と同じ形に動かしながら、姿を消した。

 ちり……ん。
 
フリル・インレアン
ふわぁ、最後にちゃんとお別れが言えてよかったですね。
このユーベルコードは野暮ですよね。

私もその時がきたら、ちゃんとお別れを言わないといけませんね。
ふえ?その時が本当にくればだけどって、どういうことですか?アヒルさん。
ふええ、その時はアヒルさんも認める立派なレディになった時って、私の扉を見つけた時じゃないんですか。
扉を見つけてもアヒルさんが通さないってひどいですよ。



「ふわぁ、最後にちゃんとお別れが言えてよかったですね」
 少し離れたところに座り込んで、竜神の別れをそっと見守っていたフリル・インレアン(f19557)は、小さくぱちぱちと拍手を送る。
 竜神どころか、膝の上に置いたアヒルちゃん型のガジェット以外の誰にも聞こえない祝福に、があ、と鳴き声も小さくかぶせられた。
「……このユーベルコードは野暮ですよね」
 苦笑するフリルが用意していたのは『果たされなかった想いを叶える恋?物語』。自身を依代として憑りつかせることで、幽霊との最期の別れをもたらすこともできる能力。
 でも確かに、今の竜神には必要なさそうだったから。
 消えゆく少女を見送る竜神の顔に、憂いを含みつつも微笑みが浮かんでいるのを見て。
 ふと、フリルはその姿に自身を重ねた。
「私もその時がきたら、ちゃんとお別れを言わないといけませんね」
 膝の上のガジェットに、包み込むようにそっと手を当てて呟く。
 アリス適合者であるフリルは、アリスラビリンスに迷い込んだ者。
 記憶を失っているけれども、元の世界がどこかにあるはずで。
 そこへ戻るための『自分の扉』をフリルは探し続けている。
 だから、扉を見つけられたなら、フリルは元の世界に戻ることになるだろうし。
 アリスラビリンスで偶然出会い、それからずっと一緒に居るガジェットとも、きっとお別れになるのだろうと思う。
 毎日当たり前のように会っていた相手と、急に会えなくなる。
 大切な人に別れを告げている目の前の竜神は、いつかの未来のフリルだから。
 竜神を鼓舞したからには自分も頑張らねばと。
 今の竜神のように悔いのない別れができるようにと。
 フリルは決意を込め、ゆっくりと頷いて。
 それを見上げたガジェットが、があ、と鳴いた。
「ふえ? その時が本当にくればだけど、ってどういうことですか? アヒルさん」
 目を瞬かせながらガジェットを見下ろすフリル。
 フリルには『自分の扉』など見つけられない、とでも言うのだろうか。
 それともガジェットは、フリルの扉について、何か知っているのだろうか。
 元の世界に二度と帰れない、と言われた気がして、おろおろするフリルだけれども。
 ガジェットはさらに、があ、と鳴き声を響かせ。
「ふええ? その時は、私がアヒルさんも認める立派なレディになった時……?
 って、私の扉を見つけた時がお別れの時じゃないんですか!?」
 フリルはあわあわしながらも抗議の声を上げた。
「扉を見つけても立派なレディでなければアヒルさんが通さない、ってひどいですよ」
 さらに続いた鳴き声に、フリルの混乱が増すけれども。
 これも、かけがえのない大切な一時。わいわいと紡がれていく日常。
 その先にあるはずの別れは、まだまだ遠いようだから。
 遠くあれと、ガジェットも願っているようだから。
「ひどくない、って……いたっ。痛いですよ、アヒルさん。
 やめてくださ……立派なレディになったらやめる、ってそんな……」
 いつものようにガジェットのくちばしに突かれたフリルは、いつものように大きな帽子のつばをぎゅっと握って引き寄せて、いつものようにガジェットの名を呼びながら、いつもの困ったような顔で、身を竦めた。
「ふええ……」

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ちり……ん。
 

最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト