16
薄色Memoir

#サクラミラージュ #藤の花

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
#藤の花


0




●亡き面影
 春も終わりに近付くけれど、幻朧桜は淡い花弁を優雅に散らす。
 其の膝元では、白と紫の色彩を持つ藤の甘い香りがふわりと漂う。
 花の名所なのか、周囲には天を見つめる人影がひとつ、ふたつ、みっつ―。
 其の中でも、一際異質な空気を纏う少女が、ひとり。
 ぼんやりと天上を見上げる姿は、周りの人影と差異は無い。
 姿形は學徒兵そのもの。けれど、黒曜の瞳は、恐ろしい程に何も映してはいなかった。

 ―ひゅっ。

 息を呑むような音が小さく響いて。次いで、からんと手にした杖が乾いた音を立てて倒れる。
 顔色は血の気が引いて、何処か青白い。
 落ちた杖を手にする事なく、足を引きずりながら女性が學徒兵の少女へとゆるり近付く。
『…あ。…あぁああああぁぁ…』
 震える喉から出たのは、言葉では無く戦慄き。

 ―此れは、奇跡か。其れとも、妄執か。

 あの日、取り零してしまった友が。
 あの日、失くしてしまった命が。
 あの日から鳴り止まぬ後悔が。

 其れが今、目の前にある。

『今度こそ、今度こそ。……もう、絶対に間違えない』

 其の選択こそが、間違いと分かっていながら。
 此の選択こそが、自分が行うべき贖罪なのだと。

 この出会いは、きっと私への罰。
 悪い事だと知りながら、此の手を取らざるを得ない、私の。

 ふわり、と一陣の風が吹いて、藤の花がゆらりと揺れる。
 気が付けば、少女と女性の姿は、其の場から掻き消えていた―。

●追想に沈む
 緋と空の蝶が、寄り添うように室内を舞う。其の中心で、神宮時・蒼(迷盲の花雨・f03681)は小さく息を吐いた。
「……皆様に、報告が、あります」
 うろ、と双眸違う色彩の瞳が僅かに揺れる。
「……サクラミラージュで、影朧を、匿う、人が、います」
 影朧は、不安定なオブリビオン―。どんな理由があれ、其れを匿う事は罪である。
 今は大人しくとも、何時、一般人に危害を加えるかも分からぬ存在。
「……どうやら、其の影朧と、匿っている方…、女性の方、なのですが、知己の、よう、なの、です」
 彼女たちが、どのような過去を持つのか。何故、影朧を匿うに至ったのか。其処まで読み取る事は出来なかった。
 けれど。女性の方は、何処か苦しそうであった、と蒼は言う。
「……皆様には、影朧の、居場所を、特定して、欲しい、の、です」
 願わくば、此の二人を、救ってほしい、とも。―影朧は桜の精の力を借りれば、転生する事が出来る。
 でも、きっとそれだけが救済ではない筈だ。
「……現場は、桜藤公園、と呼ばれる、場所、です」
 永久に散らぬ幻朧桜と、天を彩る藤の花。空を見上げれば、一面の花が視界を埋め尽くす。
 今だけしか見る事の出来ない、幻想風景。
 周囲には此の風景を見る為に、ちらほらと人が訪れているよう。
 想い出の場所なのだろうか―、件の二人は此の公園で花を見ている。
 はたから見れば、異質な二人である。見つけるのは容易であろう。
 なので、少し花見に耽っても、問題は無いだろう。

「……どのような、想いを、抱えて、女性は、影朧を、匿ったのか、わかりません」
 だけど、死者は、二度と戻ってこない。それは、自然の摂理で、誰にも変えられぬ掟。
 例え、影朧が其の姿を模していても、其れは仮初のカタチ。
「……けれど、善き結末を、と、願って、しまうのは―」
 其れは、きっとヒトの業。でも、此の想いは、内に宿る灯火は。きっと、悪い事では、ないと、そう思うから。
「…それでも、皆様なら、叶えてくれると、信じて、います」
 そうして、静かに、蒼は転送の準備を始めた。

 此れは、奇跡か。其れとも、妄執か。
 其の答えは、誰にも分からない。


幽灯
 幽灯(ゆうひ)と申します。
 気が付けば桜が散っていました。でもまだ間に合う!
 と言う事で、今回は、サクラミラージュのお話をお届けします。
 マスターページの雑記部分にプレイング受付日と締め切り日を記載させていただきます。
 お手数ですが、一度マスターページをご確認くださいませ。

●一章
 桜藤公園にいる影朧の少女と、其れに付き添う女性への接触と説得。
 場所は分かっているので、のんびりお花見する余裕はあります。
 此の章では、蒼に何かありましたらご用命ください。

●二章
 説得の成否に関わらず、彼女たちは桜散る領域へと攫われます。
 懐かしい影、二度と会えぬあの人との逢瀬の時間を。

●三章
 ボス戦です。
 影朧の少女との戦闘です。
 この戦いの果てに、何が待ち受けるのか。
 其れは幸せか、はたまた。

 複数名様でのご参加は4名まで。
 ご一緒する方は「お名前」か「ID」を記載してください。
 それでは、良き冒険になりますよう。
73




第1章 日常 『うたう花の園』

POW   :    花々が生い茂る場所へと散策する。

SPD   :    花弁や春風につられ、花見を楽しむ。

WIZ   :    春が訪れゆく景色を静かに見守る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●天上の花
 高い位置に咲く桜の花が、さわりと揺れる。
 それに合わせて、藤の花が、しゃらりと靡く。
 頭上に広がるは、紫と白の天幕。其の中に、幻朧桜を思わせる桃色の花も咲いていて。
 まるで、夜明けの空を切り取ったかのような光景だった。
 藤棚の隙間から、光る桜の花弁がゆっくり舞っては、空気へ融けた。
 何処かの世界の言葉を借りるならば。―そう、極楽浄土。
 周りの人々は、例外なく空を見上げて、感嘆の息を零す。
 けれど、其の中に一組。今にも泣きそうな表情で、空を見上げる姉妹のような二人。
 正確には、泣きそうなのは姉のような女性だけで、隣に佇む妹にも見える少女は、無表情に虚空を見つめるのみ。
 きっと、彼女たちこそが。
 今は、一時の逢瀬に心を酔わせ、見守るべきか。
 其れとも、悪は悪だと、問い詰めるべきか。

 貴方が選んだ選択肢は―。
 
外邨・蛍嘉
人格:蛍嘉のまま。

さてと、ここに藤の花を見にきたんだけれど。こうして桜と藤を同時に見られるのは、他ではできない贅沢だねぇ。

基本は、話しかけつつも見守るスタンスさ。
…無理に引き裂くのは私の柄じゃないし。でも、放ってもおけない。

こんにちは。ここは素敵な場所だね。きみたちは…この花たちが好きなのかな?眺めるのが好きなのかな?
…私は、好きだよ。藤も桜も。こうして見ていると、落ち着くというか。
兄からの贈り物(白藤の髪飾り)も、藤の花模してたしね。
ふふ、藤の花は『女性』を示すってこともあるくらいだからね。



●花信風
 ふわり、と優しく吹いた風が春の薫りを僅かに運ぶ。
 白藤色の隙間から覗く桜の花は、色彩の薄さも相まって何処か儚さを含んで。
 ほう、と紅を引いた唇から小さく感嘆の息が漏れるのも無理はない。
 幻想的な風景に、心動かされつつ外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)の視線はゆるりと件の二人へと向く。
 どう見てもこの風景に心を動かされた様子ではない二人へ声を掛ける者は、誰一人としていない―筈だった。
「こんにちわ」
 ふわりと淡く微笑んで。けれど声音は穏やかに優しい色を含ませて、蛍嘉はそっと二人へと声を掛けた。
 姉のような女性の肩が大げさな程にびくり、と揺れた。
『…あ』
 けれど、其れには敢えて触れずに蛍嘉は言葉を紡ぐ。
「ああ、驚かせるつもりはなかったんだ。すまないねぇ」
 小さく笑って、ゆるりと空を見上げる。風に戦いで、藤と桜の花がゆらりと揺れた。
「ここは素敵な場所だね。…きみたちは、この花たちが好きなのかな?眺めるのが好きなのかな?」
 妹のような少女は尚もぼんやりと空を見上げるばかり。
 おずおずと、視線が彷徨って。何処か悼みを湛えた瞳を携えながら、女性が応える。
『……わたし、は……』
 其の様子をじっと見つめながら、蛍嘉はゆっくりと落ちてきた花びらを掌で受け止める。急かさず、辛抱強く。只々、答えを待つ。
『……この場所で、花を眺めるのが、好きだった、んです』
 ぽつり、ぽつりと、女性は言葉を紡ぐ。
「……そうかい」
 はらはらと、静かに花の雨が降る。
「……私も、好きだよ。藤も桜も。こうして見ていると、落ち着く、というか」
 しゃらりと揺れる、白い藤の髪飾りを思い出す。もう、二度と会えぬと思った、魂の片割れ。
 そんな彼がくれた、大切な、大切な想い出の宝物。
 ゆらり、と女性の瞳が切なさに揺れる。何処か泣きそうな表情は其のままに、けれど涙は決して流さず。
『わたし、この場所が、好きだったんです。…この子との、…咲楽との、想い出の場所だから』
 名を呼ばれた少女が、ぴくり、と小さく肩を揺らす。
 ―けれど、其れに女性が気付く事は無く。
(思ったよりも、複雑な事情がありそうだね…)
 場に集った三人の女性を慰める様に。藤の花の甘い香りが、周囲に漂った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス
別れのために出会いがある、
だけとは思わないけれど
影朧と彼女が出会った意味と
悔やまない選択の助けになるといいね

桜と藤の咲く光景で
寄り添うふたりにいつかの影をみて
影朧は新たに発生しうるものであって
時の止まった嘗ての想い人ではない
其れでも出会って共に在ること望むなら
選ぶ権利があるのは当事者たちだけ

似姿の相手とどんな時間を過ごしたでしょう
どんな別離があったでしょう
思い出すのは自分のみ、
気持ちは分からないでもないからね

手離すにしても永遠を望むにしても
選ぶ其れは、嘗ての再演ではなく
今を生きるキミの妄執に過ぎないとしても
選んだ道ゆきを肯定しよう



●薫風
 春は、出会いの季節。されど、同時に別離の季節でもある。
 小さく息を吐いて、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)は目を伏せる。
(それだけとは思わないけれど)
 此の出会いが二人に如何なる決断をもたらすのだろうか。
 物事には、全て意味がある。だから、きっと影朧と彼女が出会った事にも意味はあるのだろう。
 女性が、今なお後悔に囚われているというのなら。今度は、悔やまぬ選択が取れるように。
 轟、と一陣の風が吹いて、地面に、空に漂う花弁がぶわりと舞い上がる。
 さわさわと枝葉の擦れる音が響いて、視界が藤と桜に埋め尽くされれば。一瞬、別の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る。
 寄り添う二人の姿に、今は影に眠る片割れを重ねかけて、コッペリウスは小さく首を振る。
「ねえ」
 口元は、淡く笑みを称えて。二人の背中に、コッペリウスは声を掛ける。
 別離の寂しさは、痛い程に理解している。
 けれど、現実とは無情な物。どれだけ心を砕こうと、時は待ってくれない。
 予期せぬ再会だったのだろう。―だからこそ、女性は此処から動けないのだ。
 頭では理解していても、心が事実を否定するから。だから、選ぶ事が出来ない。
 声を掛けられた女性は、ゆっくりとコッペリウスへ視線を向ける。―同じように、少女も、咲楽も。けど、直ぐに興味を失ったのか、視線は天へと持ち上げられた。
「…貴方は、此の場所でどんな時間を過ごしたのでしょう」
 ―どんな、別離があったでしょう。
 きっと、其れは、別れを知るからこそ出た言葉。離れる辛さを、知っているからこその、言の葉。
『……わたし、學徒兵だったんです。…任務に出る前に、咲楽と約束、したんです』
 また一緒に、此処に来ようね、って―。
『……でも、其の約束は、叶わなかった。―足を負傷して、動けないわたしを庇って…』
 其のまま、逝ってしまった。
『きっと、咲楽はわたしを恨んでる。…だから、転生出来ずにこうしてここにいるのでしょう』
 あの時、足を怪我しなければ。
 あの時、すぐに処置をしていれば。
 尽きぬ後悔は、今も女性を蝕んでいる。
「…そう」
『分かってます。此れが私の自己満足だと。でも』
 あの日、潰えてしまった命が目の前にある。例え、自分が彼女の手に係っても―。
 そう、続けようとした言葉は、コッペリウスに遮られる。
「手離すにしても永遠を望むにしても」
 選ぶ其れは、過去の再演ではない、と。
「其れが、キミの自己満足だとしても。ワタシは、其れを否定しない」
 例え、今を生きるキミの妄執だとしても。人は、間違いながら、いつか、正しさに気付く事が出来る強さを持つから。
 ―だから。
「ワタシは、キミの選んだ道ゆきを肯定しよう」
 其れに。
「ワタシは、咲楽の事を知らないけれど」
 彼女が転生せずに留まっているのは。
 ―きっと、恨みの感情ではないと、思うから。
「未練なんて、人それぞれ。けれど、其れが恨みだけだとは、オレは思わないよ」

 ―そっと、咲楽が落ちる花弁に手を伸ばす。
 その傍らで、コッペリウスの言葉を聞いた女性は、呆然とした表情を浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白神・ハク
【雨白】

桜と藤だって。綺麗だねェ。
花を見ながら歩くなんてことはあまりしないんだよね。
永遠に散らない桜だって。
一年中桜が咲いているのも変だけど綺麗だなァ。

あれが噂の二人かな?
んふふ。僕は人間が好きだけど人間のことは全然分からないなァ。
お姉さんは何か分かる?
桜と藤の花が綺麗だから二人で見ている訳ではないでしょ。
もしかして綺麗だから見ているの?
お姉さんも分からないのかァ。
人間っておかしいね。

空を仰げば藤の花が広がっていて綺麗だな。
今日の天気が分からなくなっちゃうくらいに綺麗だよ。
しばらくあの二人を観察しよっか。
あの子の感情は美味しそうだけどあの子の気持ちは僕には分からないからね。


雨・萱
【雨白】

我も見慣れておるのは梅や桃だからのお。
桜や藤は見慣れぬが。共に散り揺れる様は美しいの。
永遠に咲く桜は不変の神々のようじゃ。つまりは我々と似たようなものなのではないか。

我も人間の心は分からぬ。
じゃが周りにおる多くの人間は感嘆の声を上げておるぞ。
あの二人も花を見て楽しんでおるのでは――はて。双方とも浮かぬ顔ではないか。
綺麗なものを見ると人間は泣いたり惚けたりするのかのお。
人間は変わっておる。

雨降る空が我の最も好むところではあるが……
桜花弁散り藤房揺れる空も悪くないの。
うむ。全く想像もつかないが故。
迂闊に声をかけるのは避けた方が良かろう。
何やら二人の感情は塩辛そうだのお……



●万朶
 季節は移ろい、花は散っては新緑へと変じていく。さわりと、花弁が揺れては軽やかな音が周囲に響く。
 桜と藤の樹々に遮られて、晴天輝く空の光は、柔らかく淡い光へと其の姿を変えて。
 見上げた先に空が見えないのは、何とも不思議な気分である。
「桜と藤だって。綺麗だねェ」
 きょろきょろと、白神・ハク(縁起物・f31073)は物珍しそうに空を見上げる。
 普段、幽世の迷宮を歩く彼にとっては、地に咲く花を見る事は滅多に無いのだろう。
 ましてや、空を彩る花など、他所でも見る事は恐らく無い。
「我も見慣れておるのは梅や桃だからのお」
 どちらも春を告げる花ではあるけれど、咲き誇るには時期が違って。
 色合いは似ているのに、本当に不思議である。
 けれど、と雨・萱(天華ウーアーリン・f29405)は言葉を続ける。
「桜や藤は見慣れぬが。共に散り揺れる様は美しいの」
 嘗て、真逆の世界ならば。―枯れ落ちて、色の無い世界なら、萱はずっと見てきた。
 ずっと、ずっと。僅かな天の恵みを祀ろう為に。たった一人で。
「永遠に散らない桜だって」
 そんな思考を遮る様に、ハクがそっと藤の花弁に手を伸ばした。淡く輝く桜の花弁が、ゆっくり降り落とされた。
 ―永久に枯れぬ、幻朧桜が舞う世界・サクラミラージュ。世界の在り方はそれぞれであるけれど、今はただ、単純に綺麗だと。
「永遠に咲く桜は不変の神々のようじゃ」
 不変たる其の姿は、東方妖怪である彼と、彼女にも当てはまる事、なのだけれど。
「ふーん。あ、あれが噂の二人かな?」
 然したる興味を示さず、彼方此方を見ていたハクの赤い隻眼が、ぼんやりと虚ろう二人の姿を捕らえる。
「僕は人間が好きだけど人間のことは全然分からないなァ」
 くふくふと笑いながら、お姉さんは分かる?と傍ら歩く萱へと問う。
「我も人間の心は分からぬ」
 硬石膏色の瞳を閉じて、小さく首を横に振る。だって、彼らは人ではなく、妖怪。
 感性だって、当然其方に寄るのだろう。
 改めて、周りを観察してみても、周囲にいる誰もが天上を見上げて、恍惚の表情を浮かべている。
 でも、あの二人の表情は憂いに満ちていて。見惚れている、と言うよりも。
(むしろ真逆も真逆。負の念が渦巻いておるのう)
「桜と藤の花が綺麗だから…、は何か違うよねェ」
「感性とやらが豊かであれば、綺麗な物を見て人間は泣いたりもするようだが…」
「え、そうなの?」
「詳しくは我も知らん」
 嗚呼、何と矮小で愚かしい生き物よ。…全く。
「人間っておかしいね」「人間とは変わっておる」
 どちらともなく、小さく笑い声が漏れて。同じ思考に行きついた事が可笑しくて。
 本当、人間とは変な生き物だ。

 はらり、はらりと花弁が降る。まるで、雨の様に。温度を持たぬ、柔らかな色彩の春の花雨。
 淡い藤色の花弁が、萱の銀糸のような髪をふわりと彩る。
「雨降る空が我の最も好むところではあるが…」
 小さく息を吸い込めば、胸を満たすのは甘やかで優しい香り。此れも存外、悪くはない―。
 つい、と空を見上げれば、まるで夜明けの空を思わせて。
 人間の事は分からないし、きっと此れからも理解しきれないだろう。
 けれど、此の景色を作った事は、それだけは。ぼんやりとだけど、分かるような気もする。

 美しく、綺麗な物を感じるのに、種族はきっと関係ないのだ。

「もうしばらく、あの二人を観察しよっかァ」
「うむ。全く想像もつかないが故、迂闊に声をかけるのは避けた方が良かろう」
 そうして、二人は歩き出す。美しい世界を。一人ではなく、二人で。
 きっと、一人では此処まで綺麗だと感じる事は無かった。二人、だからこそ。
(あの子の感情は美味しそうだけどあの子の気持ちは僕には分からないからね」
(何やら二人の感情は塩辛そうだのお…)
 零れたハルと萱の言葉は、ほんの少し、不穏な言葉が含まれていたけれど。
 でも、それもまあ、一興である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
【SPD】
可なら蒼同行
蒼へ
君は2人を救って欲しいと願った
そこで、一つ考えて見て欲しい
君にとって
彼女達の救済とは何だろう
ヒトの業と、己が罪
【決して離れない】藤の花
この2つの事件の鍵が
象徴の様に俺には思えた
君が今、その胸に抱く
物ではなく、ヒトの想いの灯…『心』の象徴にね

情報収集で女性達の居場所探り
其々に自己紹介後言の葉を(コミュ力)

女性
貴女が彼女と今いる事
其れは必然なのでしょう
ですが彼女と居続けても
貴女の罪を
貴女自身は許さぬでしょう
努々、お忘れなく

影朧
君は何故
今、彼女の前に現れた?
彼女を迎えに来たのかい?
だが君がその手を握る限り
彼女が彼女を赦す事は無いだろう
…何
只、似た話を視た事のある罪人の戯言さ



●青陽
 淡色揺れる藤の花。其の藤を隠す様に幻朧桜は凛と咲き誇る。
 ぼんやりと空を見上げる案内人たる少女の傍らに、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)はそっと寄り添う。
 足音に気付いてか、そっと双眸色彩が異なる瞳が、優希斗を見上げた。
『……どうか、なさい、ました、か、北条様…?』
 前と比べて、物としてではなく、ヒトらしさを纏うようになった少女へ。誰かを助けてほしいと願う、未だヒトに為りきれぬ君へ。
「君にとって彼女達の救済とはなんだろう」
 思わぬ言葉に、ぱちくり、と瞳が瞬いた。さわり、と木々の擦れる音が小さく響く。
 今回の事件は、ヒトの業が生み出したようなもの。
 決して離れないと言う藤の花言葉と、女性が犯したという罪―。
 静かに、言葉を待つ。うろ、と視線が彷徨って、幾度か彷徨った後。ふ、と小さく優希斗が笑う。
「すまない。困らせるつもりはなかった」
『……。……ボクは―』
 ―お二人が悔いなく分かりあう事が出来たら、と。
 ぽつりと零された言葉は、もはやただの物が抱く思いではなく。きっと此れは、ヒトの想いの灯。心の、一片。
「そうか」
 はらり、はらりと花弁が落ちる。其れは花の雨の様に。しばしの安寧の時を―。

 少女と別れた後、周囲を見回せば存外、二人は早く見つかった。
「失礼。俺は、北条・優希斗と言う」
『え、あ、ご丁寧にありがとうございます。私は純香と申します。此の子は咲楽、です』
 今日は、いろいろな人に声を掛けられる日だと、内心でそっと女性―純香は息を吐く。
 分かってる。分かっているのだ。此れが、悪い事だと。
(でも、誰もわたしと咲楽を引きはがそうとしないのは、何故、なのだろう)
 声を掛けてきた人々が、猟兵である事も解っている。ふ、と疑問が沸き上がる。
 そんな考えを見透かしたかのように、優希斗はそっと言葉を重ねる。
「純香さん、咲楽さんと一緒に在る事。其れは必然なのでしょう」
 けれど、其れは儚い、一時の夢。どんなに嘆こうと、罪を犯そうと、死者は決して蘇らない。
 ふ、と漆黒の瞳が、ぼんやりと空を見つめる咲楽へ移る。無機質だった瞳は、何処か薄く色が灯ったようで。
「君は何故、彼女の前に現れた?」
 ゆらり、と咲楽の視線が優希斗へと向けられる。
『……』
 言葉を忘れてしまったかのように、ただ、じっと見つめる。
「君がその手を握る限り、彼女が、純香さんが自分を赦す事はないだろう」
 諭すような物言いに、咲楽の視線が、そぅっと純香へと向けられ、交わる。―出会ってから、初めての邂逅だった。
『………ゆ、る…す…?』
 其の呟きは、風に攫われて。誰の耳に届く事なく消えてしまったけれど。
『なん、で…』
 愕然とした表情を浮かべる純香へ。
「……何、ただ、似た話を視た事のある」
 大切なものを失った、其の自覚はあるのに。其れが何か分からない。
 ―罪人の戯言さ。 
 
 それぞれの罪を抱えながら、其れでもヒトは、歩き続けなければならない。
 だって、時間は停まってはくれない。永久に進み続けるものだから―。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
アドリブ絡み◎
綺麗な藤棚ですねぇ。空と桜と藤の花。見事な調和です。
あ!お団子。
すみません、そのお団子50本ください。
ふぅ、花見と言えば団子ですよね。と、遊びはこれくらいにして占星術で件の方の場所を占います。

こんにちは、素晴らしい花見日よりなのにお顔が暗いように見えてしまって、声をかけさせてもらいました。
よろしければあちらでお茶でも?

独り言なのですが、気持ちを整理するには、言葉にして吐き出した方が良いそうです。常に最善の選択があるわけではなく、最悪の選択の方がありふれている。そんな中で後悔しないなど不可能です。ただ、今の貴女の目の前には良い結果の選択肢があったりします。お話してみませんか?



●花樹
 ふんわりと、藤の甘い香りが漂ってくる。空を見上げれば、雲一つない快晴が、藤と桜の枝の隙間からほんの僅かに見えた。
 さわさわと、枝葉の揺れる音が、耳に心地良い。そんな空気を、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は胸いっぱいに吸い込んだ。
 春が満ちる様な、不思議な感覚がこみ上げる。其れと同時に、花の薫りとは違う、甘い香りを感じて。
 きょろりと周囲を見回せば、其処には。
「あ!お団子!」
 季節の移り変わりを色で示した三色団子。花より団子とは、先人はうまい言葉を思いついたものである。
 公園の端の方、目立たぬように小さな露店が幾つか見られる中で、晶は迷わず団子の露店へと歩を進める。
「すみません、そのお団子50本ください」
 にこりと朗らかな笑みを浮かべていた店主が、ぎょっとした表情で晶を見つめる。
『5本、の間違いじゃなく?』
「はい、50本でお願いします」
 輝く笑みを浮かべて、慌てたように準備を始める店主を横目に、そっと空を仰ぐ。
 花見には、絶好の日和である。
 ほんのり甘い団子を全て胃の中に収めて、小さく感嘆の息を吐く。
「花見と言えば団子ですよね」
 件の二人の場所は、既に占星術にて把握している。ただ、のんびりとお団子を食べていただけでは無い。
 迷うことなく、桜と藤の咲く花の回廊を進む。言葉を交わす事無く、花を見上げる二人の傍らにそっと寄り添って、声掛け一つ。
「こんにちは、素晴らしい花見日よりなのにお顔が暗いように見えてしまって…」
 ―よろしければ、あちらでお話しませんか?

 人気の少ない、木々の陰に設置された椅子に座って、二人の表情を眺める。
 何処か思いつめた女性、純香と、無色だったはずの瞳は、何処か色を取り戻し始めている少女、咲楽。
「これは独り言なのですが…」
 無音の空間に、ぽつりと晶が声を落とす。
 気持ちを整理するには、言葉にして吐き出したほうがいいそうです、と。
 人は、言葉を交わし意思疎通を図る生き物である。二人の関係は未だ分からぬけれど、其れでも空白の時間が二人には存在する。
「貴女が何に悩んでいるのかは私には分かりません。けれど、何かを悔いている事だけは分かります」
 けれど、どうあがいても、人は間違う生き物。選択肢は星の数ほど存在して、どれが正解かは誰にも分からない。
 最善と呼べる選択肢よりも、最悪の選択の方がきっと世の中ありふれている。
 だけど、其れは誰もが同じ。猟兵である晶だって。
「私も、たくさん後悔したんです。悩んで、悩んで―。そうして今の私があるんです」
 数多存在する選択肢の一つ。
「貴女の悩みをお話してみませんか?」
 真摯に、純香の瞳を見つめて。晶は問う。吐き出す事も、大切だと。
 其の言葉に、彼女が出した答えは―。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『影法師を追いかけて』

POW   :    ただひたすら追いかける

SPD   :    現われそうな場所に先回りする

WIZ   :    もう一度現われるのを待つ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花影揺れて
 ―簡単な任務だと聞いていた。けれど、現実は甘くなかった。
 ―単体であると報告を受けていた影朧が、複数現れたのだ。
 ―任務を請け負っていた學徒兵たちでは、戦力が足りなかった。たった、其れだけの事。
 ―襲い来る影朧が、純香の身を裂かんと肉迫するのを。彼女はただ、呆然と眺めていた。片足は抉られ、逃げられそうにない。
 ―肉を断つ音と共に、赤い花が眼前を舞う。
 ―目を見開く純香の前で、咲楽は。

 どんな表情をしていたのだろうか。

 約束を、した。また、お花見しようね、と。
 大事な、大事な友達を。不注意で、怠慢で亡くしてしまった。
 あの時、ああしていれば。後悔は尽きぬまま、時ばかりが過ぎた。
 今日は、あの子の命日。
 何の気なしに訪れた公園で、あの頃と寸分違わぬ咲楽が、いた。
 見間違い、かと。そう、思ったけれど。
 揃いである桜の花のちりめん細工が。風に揺れているのを見て、確信した。
 彼女は、あの子であると。きっと、私を責めに来たのだろう。お前のせいで、私は死んだのだと。
 けれど、予想に反して、咲楽は決して喋らなかった。意識が宿ってないとでもいうだろうか。

 此れは、罰か。―其れとも、償いか。

 次は。次こそは、彼女を、一人きりで死なせない。

 其れが、間違った選択だと知りながら―。

●桜吹雪と藤吹雪
『私、は…』
 震える声が、小さく響いた。
 次なる言葉を紡ごうとした純香の手を、咲楽がそっと引いて。
 先ほどまで人形のような少女の瞳に、光が宿る。
『……だめ』
 ぽつり、と落とされた声は、思いの外、周囲へと拡がって。
 ざぁ、と一際強い風が吹き荒れる。其れは、周囲の花弁を巻き上げ、桜色と薄色の吹雪となる。
 視界一面が淡い色に染まり、思わず目を閉じる。
 風が収まったのを感じて、目を開けば、周りに人の気配は無く。
 くるりと周囲を見回しても、純香も咲楽の姿も、花を見に来ていた観光客の姿は見えない。
 
 ゆらり、ゆぅらりと、影が揺れる。

 貴方の、大切な人の影を模って―。
 懐かしい、あの人と。さぁ、何を語る?
 でも、気を付けて。想い出に囚われてしまえば。

 もう、現世に戻る事は叶わないから―。
外邨・蛍嘉
懐かしい人…ああ、あの灰色髪に橙瞳は、我が夫たる燕司(えんし)
古鳥家から婿入りしてきた、一つ年下の人
歩き巫女集団にも、男手は欲しかったからね。それを統括してた家が古鳥
まあ、あそこは長子相続徹底してたから、義姉(同い年)が当主になってたんだけど

燕司も、忍の修行はしてたからね。だから、話があった。繋がりも強くしたいという思惑だよ
外邨の血は、私が残すって決まってたし

ねえ、燕司。故郷壊滅したあの日、きみは私より先に死んだ…悔しかった?そっか。そうだよね
あー、三十年かな!うん、いってくるよ


「蛍嘉…ええ、悔しかった」
「しかし、私は貴女を止めることはしませんから。何十年夫としていたと?いってらっしゃい」



●いと恋しき
 花吹雪が収まったのを感じてそっと目を開く。
 無音、静寂―。音の無い空間が、無限に広がる。くるりと周囲を見回しても、生き物の気配は無く。
 否、静かに揺れる桜と藤の枝葉の下に、ぼんやりと揺らぐ影があった。
 其れは次第に人の形を成して。―ふわり、と灰色の髪が揺れる。
「……っ」
 思わず、蛍嘉が息を呑む。開かれた瞳は、煌々輝く黄赤色。湧き上がる感情が胸を締め付ける。
 見間違える訳が無い。此の感情の名を間違える筈も無い。
「ああ、ああ…。…懐かしい人…。我が夫、燕司…!」
『…蛍嘉?』
 昔に、亡くしてしまった、愛しき人。
 嘗て、蛍嘉が統括していた歩き巫女と呼ばれる組織―。其の名の通り、大半は女性であったけれど、当然男手が必要になる事もあった。
 其れを統括していたのが古鳥家である。通例であれば、男子が家を継ぐのだろうけれど、古鳥家は長子相続が徹底していた為、跡目争いが起こる事は無かった。
 彼の人も、忍の修行は行っていた。それ故に、蛍嘉へ縁談の話が舞い込んだ。
 何時の世も、家同士の繋がりを強くしたいと言う思惑は同じ。
 もともと、外邨家の血筋は蛍嘉が残すと決まっていた。幸せだった、のだと思う。
 ―里が襲撃される、あの日までは。
 何処か、切なげな笑みを浮かべて、一歩、また一歩と蛍嘉が燕司へと歩を進める。
 同じく、燕司も蛍嘉の姿を認めて、ぱちり、と瞳を瞬かせる。
 さわり、と風が吹いて。花木の枝が小さく音を立てて揺れた。
 ざわり、と巻き上がった花弁が周囲を漂って、花雨になって降り注ぐ。
「ねえ、燕司」
 先に言葉を発したのは、蛍嘉。口元に、淡い笑みを称えて、燕司は静かに続く言葉を待つ。
 そっと目を閉じれば、あの日の惨劇が鮮明に目の奥に蘇る。
 暑い、夏の日だった。じりじりと焦げる様な熱が、殺気が肌を刺して。
 鉄錆の匂いが、ツンと鼻を指して。むわりとした風が肌を撫でた。
「……きみは私より先に死んだ…。悔しかった…?」
 其の問いかけに、同じく、故郷が滅んだ時を、自分が没した時を思い出したのか、燕司の表情に僅かに悔しさの色が浮かんだ。
『…ええ、悔しかった」
 ぐっと、握りしめた拳に力が入る。その手を、蛍嘉がそっと握る。
「そっか、そうだよね」
 思い半ばで、潰えてしまった。其の無念さを、きっと此れから先、蛍嘉は一生忘れる事はないだろう。
 そのうえで、彼女がどう動くかも、共に過ごした彼ならば、きっと分かっている。
『しかし、私は貴女を止めることはしませんから』
 其れが、例えどんな修羅の路であろうと。歩き巫女を統括していた、あの凛とした表情を、凛とした佇まいを、そっと脳裏に思い浮かべて。
 ふっ、と小さく燕司は笑う。
『何十年、貴女の夫であったと?』
 何処か、茶目っ気を含んだ物言いに、釣られて蛍嘉も笑みを零す。
「あー、三十年かな!」
 言葉にすれば、其の年数の重みが、長さが。其れだけの時を、この人と共に在ったのだと、生きたのだと教えてくれる。
 ならば、言葉にせずとも伝わっているはずだと。此れはきっと、二人が寄り添って生きたが故の絶対的な信頼―。
 だったら、伝える言葉は一つでいい。
『蛍嘉。…いってらっしゃい』
 最後に、ぎゅっと優しい抱擁を一つ。
 もう二度と会えない筈だった、長くを共に歩いた愛しき人。
 きっと、次に逢うのは、全てが終わった時。無念を抱いたまま、生きて、生きて、生き抜いて。
 ほんの僅かな未練を残して、生を全うした、後。
「うん、いってくるよ」
 其の時は、たくさん話をしよう。きみが居なくなった後の話を。
「話したいことはたくさんあるんだ」
 だから、今は戦いに身を窶す日々に戻ろう。
 くるり、と燕司に背を向けて、蛍嘉は歩き出す。其の様子を、燕司はただ静かに見守るのみ。
『…いってらっしゃい。…また、会う日まで』

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス
元眠りの神として
夢を見せることはあれど
自分でみるユメのような光景って
こういう機会でもなければ
表立つこともないよなぁ

別に
影の中であっても
居ることがわかるのなら
オレはそれで構わないのだけれど
彼女のように似姿でも
再会を望むものだろうか
……約束があるのなら

叶えたい約束、かぁ
その為にかえってくる
たどり着くことを願う
……人生の目的のようだと思うのなら
オレたちが再会して得るものなんて

わかっている、だから
此れは何れ覚める夢として
散る花と共に紛れるのが良いよ
キミと共に現世へ戻る事など、
初めから望めないのだから

オレは独りかえろう



●白昼夢
 人の喧騒は消え、静寂が辺りを包み込む。周囲を彩るのは、薄色と桜色。
 淡い色彩が舞う中、思い出すのは嘗て眠りの神として、夢を見せていた頃の懐かしき記憶。
 眠りの神として君臨していた頃。人の願望を形として夢を魅せる事はあれど。
(まさか、夢を見る側に回る日が来るとは―)
 此れこそが、ユメのような光景とでも言うのだろうか。幻想に囚われなければ、きっと二度と経験する事の出来なかった現象。
 ふわり、と淡い色彩の花弁が、コッペリウスの影へと降り積もる。
 決して、影は揺らぐ事は無く、反応も皆無ではあるけれど。けれど、間違いなく、片割れは影の中に。
 語り合う事も、触れ合う事も出来ないけれど。
 ―それでも、微かにでも存在を感じ取る事が出来るのならば。
(オレはそれで構わないのだけれど)
 けれど、ヒトは、そうでは無いのだろうか。
 其れが、仮初の姿でも。
 其れが、中身が伴わぬナニカだとしても。
 それでも、会いたいと願う気持ちは、想いは。充たされるのだろうか。
「叶えたい約束、かぁ」
 交わす事は簡単で、果たす事は難しい、事象。言葉は、呪となり、因果となって魂へ刻まれる。
 言い換えるならば、運命、とも。
 とは言え、生きる意志、糧となるのならば、ヒトにとって約束とは大事な物なのだろう。
 別離と再会。
 もう二度と手の届かぬ場所にいってしまった、アナタ。
 胸を締め付けられるような、掻き毟りたくなるような空虚さは識っている。
 片割れは、今も影の中で眠っている。永久に醒める事の無い、眠りを。
「……オレたちが再会して、得るものなんて……」
 もしも。
 もしも、再会した、其の時は―。
 そんな場面が、一瞬コッペリウスの脳裏に過ぎったけれど、直ぐに被りを振る。
 在り得ない、と。
 そんな日が来る事なんて二度と無いと、分かっているのに。
 なのに、願ってしまったのは、あの人間が抱く想いに多少なりとも引き摺られてしまったからなのか。
 砂が掌を零れる様に、そんな可能性は万が一にも在り得ないと言うのに。
 願う事も、求める事も。とっくの昔に遣り尽くした。だからこそ得た結論。

 此れは、何時か醒める夢。泡沫の記憶、願望。刹那の、夢。
 ならば、この胸を占める切なさも、恋しさも全部。
 ”決して離れない”言葉を持つ、薄色咲き誇る此の空間に置いて行こう。
 こんな想いなど、最初から無かったかのように。ふぅ、と小さくコッペリウスは息を零す。
 きっと、目が覚めれば全部元通り。
 神であったオレではなく、砂ノ精のワタシに。
(オレは独りかえろう)
 ざぁ、と強い風が吹き込んで。雪の様に花弁がふわりと降って。
 後に残ったのは、末路わぬ姿を持つ―――。
 彼が、其れに気が付く事は無かったけれど。
 おやすみなさい、と小さく呟かれた其の言葉は風に紛れて消えた。

 同じ夢を見る事は、叶わない。夢は夢のまま。ぱちん、と弾けて―。

大成功 🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
【SPD】
お二人が悔いなく分かりあえれば…か
ならば、その願いの為に俺は征こう
でもそんな俺の…
『俺』の前に現れるのは君達か
影法師:過去の記憶を辿る夢に見る、嘗て『俺』が救えなかった仲間達
あの時『俺』は、君達を救う為の道は指し示したが
皆が救われる道を
掴み取らせる事は出来なかった
何よりも…
君達が不帰らずの戦場に向かう時
俺は君達を、死出の旅に送る事しか出来なかった
赦しを乞うつもりは無い
だが君達の死の『罪』は、永遠に俺の中に在る
だから俺は、その『贖罪』を果たしたい
その為に
君達よ
俺に咲楽と純香の行先を教えてくれ
教えぬならば力尽くでも押し通る
この『瞳』は未来を視る瞳
彼女達の望む未来を切り開く力になる筈だから



●宿雪
 すっかり人の気配が遠ざかった其の場所で。はらはらと静かに花雨は降り注ぐ。
(お二人が悔いなく分かりあえれば…か)
 此の現象を予知した、ヒト為らざる娘の零した願い。其れを、優希斗は小さく口にする。
「ならば、その願いの為に俺は征こう」
 只の器で在った彼女が零した、彩の伴った想い。―其の灯が、消えないよう切に願う。
 そんな優希斗の決意を察してか、ざわり、と全ての音が無へと帰す。
 ぼんやりとした影は、やがて鮮明に人の形を写し取る。
 ”自分”ではない誰かが体験した、過去の記憶。
 ―幾多に拡がる並行世界の、可能性の一つ。戦う力を持たぬ、別の世界の自分。
 ゆらり、ゆぅらりと、影は色彩を伴って。
「俺の前に現れるのは、君達か」
 救いの道は指し示したけれど、願い叶わず亡くしてしまった、彼女たち。
 ふわり、と彼女の、彼の髪が風に揺れる。
 表情は、何処か塗り潰されてしまったかのようで見る事は、叶わない。
「あの時の俺は、皆が救われる道を掴み取らせる事は出来なかった」
 耳の奥に、誰かの心を突き刺すような慟哭が響いて止まない。
 瞳に映る、無念に零れる涙を、絞り出すような嗚咽が目から離れない。
 予知した未来を伝えるだけ。其れがどんなに歯痒かったか。
 戦う力を持たぬ己を、恨んだ事も。無いとは、言えない。
(俺は君達を、死出のたびに送る事しか出来なかった)
 戦いに赴く彼らの背中を見つめ、何度無事を祈ったか、きっと数え切れない。
 小さく息を吐き、優希斗は彼女たちを見据える。
 ゆらり、ゆらり。
 虚ろう影は、静かに揺らめくばかり。其の揺らぎに、感情の音は乗せられていない。
 助けられる、助けられた筈の命を救えなかった事。
 其れは、己の罪として。永久に優希斗の中に存在し続けるだろう。
 何よりも、彼自身が赦しを得るつもりがないのだ。それが、例え別の世界に存在する、別の自分の罪だろうと。
 己に課した、贖罪。
 もう二度と、掌から零れる命が無いように。其の為の、戦う力も、今此処にある。
 故に―。
「君達よ」
 其の言葉に、小さく影が揺らぐ。腰に携えた刀の、蒼月・零式の鯉口を切りながら、影を真っ直ぐに見据えて、強い意志の籠った瞳で、優希斗は告げる。
「俺に咲楽と純香の行先を教えてくれ」
 道を阻むというのならば、力尽くでも。例え、目の前の彼らが己が罪の象徴だとしても。
 漆黒の瞳が、空を写し取る蒼の色彩を帯びる。
 ゆら、ゆら―。
 そっと、影が道を開ける。緩やかに持ち上げられた手が、ある一点を指し示す。
 何の障害も無く、道を譲られた事に優希斗の瞳が僅かに見開かれる。
 影からは、何の感情も読み取れない。―そう、彼に対する、恨みの感情すらも。
 そっと瞳を閉じて、優希斗は彼女達へ小さく頭を下げる。
 そうして、指し示された道を駆ける。
(――ありがとう)
 そんな言葉が、風に流れて聞こえた気がした。
(――あなたは、優しいデスから)
(――きっと、あなた様は、背負い続けるのでしょう)
 見知らぬ誰かの腕ではなく、愛しき人の腕の中で果てられた事。
 其れはきっと、何よりも幸せな事だった。
 此れは幻想か、はたまた妄想か。
 ふわり、と花弁を残して影は消える。
 今度は、正しく未来を掴めますように。願いを込めて。
 其の願いを、優希斗が知る由もないけれど。
 ただ、彼は駆ける。
 彼女達の望む未来を切り開く力となる為に。

(今度は、絶対に間違わない)
 そう、強い決意を秘めて―。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨・萱
【雨白】
我に懐かしく慕わしく、逢いたいものは無い。滅してやりたい奴ならおるがのお
この美しき景色とは不釣り合いじゃ
故に――現れるならばハクの懐かしき者じゃろう
この薄ぼんやりした小さき者は、ハク。そなたの『懐かしきもの』かえ。
我に見えるのは桜と藤の象る小さき人の子の形のみ
細かな特徴はとらえられぬがこれは人の子だとわかる程度
此れは人の子か。神のおぬしと如何様な関係がある?

桜と藤でできているように見えるせいか
将又人のこと知ったからか
猶の事。儚いものよの。

…よいのか。
おぬしの知己となればと珍しく神妙にしておったのだが。
まあ。おぬしが好いというのならばよいのであろ。
よいのであればと扇で風を起こす


白神・ハク
【雨白】

懐かしいなァ。名前も姿もはっきりと覚えているよォ。
僕のだァい好きな人の子だ。
人間は僕ら妖怪よりも寿命が短いからねェ。
僕がサムライエンパイアで縁起物として拝まれていた時に出会ったんだァ。
お姉さんには見えるかな?
小さくてかわいい子供だよ。僕がイイコトを齎すから毎日僕を拝みに来ていたんだ。

死んじゃったけどね。また会えて嬉しいなァ。
……もう死んじゃっているから今更会えてもね?僕は目の前の子供に縋ったりはしないよォ。
ニセモノの感情を食べても満足出来ないね。
お姉さん。片付けちゃおっか。僕の大切な人はもう居ないんだよ。
予想外の反応だったかな?僕は偽りの幸福には慣れちゃっているからねェ。



●供花
 静かな、静かな、音の無い空間。
 はらり、と落ちた花弁は、果たして本物か、それとも造り物か。
 空間の先に、路は見えず。ただ静かな白が広がるのみ。何処か物珍しそうに萱はくるりと辺りを見回すけれど、直ぐに飽きたのか、視線を傍らのハクへと向けた。
「我に懐かしく慕わしく、逢いたいものは無い」
 けれど、過去の仕打ちを思い返せば。―嗚呼、嗚呼。忌々しい。願うならば、此の手で。微塵に割いて、跡形も残らずに。
 そのように思考が持っていかれるけれど、眼前に降る花雨が、萱の思考を在るべき場所へと引き戻す。
 意識の空間か、幻術か。人気の無い景色の、何とも美しい事。故に、そのような物騒な思考は切り捨てるべき、と。
 つい、と隣のハクへ視線を向ければ、花嵐が吹き、花弁が人の形を成す。
 ゆらり、ゆらぁり。模る姿は幼子の、其れ。
「懐かしいなァ。名前も姿もはっきりと覚えているよォ」
 嘗て、白蛇であった頃。―神の御使い。縁起物。
 幸を齎す物を、人間は大事に、大切に祀り上げた。
「お姉さんには見えるかな?」
 そう言葉を落として、すっと目線を合わせる様にハクは膝を折る。
「この薄ぼんやりした小さき者は、ハク。そなたの『懐かしきもの』かえ」
 小さく首を傾げながら、目の前のヒトガタを視るけれど、花弁で出来た影にしか萱は見えない。
 姿形を知っている者とそうで無い者では、見え方に差異があるのだろうか。
 彼女には、人の形を取ったナニカにしか見えなかった。
「神のおぬしと如何様な関係がある?」
「小さくてかわいい子供だよ。毎日毎日、僕を拝みに来ていたんだ」
 ―まァ、死んじゃったんだけどね。
 まるで、明日の天気の話をするように。何て事の無いように、ハクは語る。
 そっと手を伸ばし、小さな頭を撫でながら。遠い昔の、現世に在った頃へと想いを馳せる。
『―――』
 小さな子供が、口を開く。ゆらりと纏う雰囲気は、何処か嬉しさを孕んで。
 ほんの少しの懐かしさが、ハクの胸中を占める。けれど、目の前のコレは、終わってしまった出来事の一つ。
 懐かしい過去に想いを馳せても、其れはもう二度と戻ってこないと知っているから。
 例え、大好きな人の子の姿を取ってしたとしても。彼にとっては、其れが全て。
「人の命の、何と儚い物よの」
 妖怪である萱たちと、人間の寿命は異なる。
 此れまでに何度、永久の別れを繰り返してきたのか。―其れ故の、慣れ、なのか。
「お姉さん、片づけちゃおっか」
 そんなハクの言葉に、萱の瞳が零れんばかりに見開かれた。
「……よいのか?」
 何とか絞り出せた言葉は、短い。
 そんな彼女の様子に、ふわりと笑って。
「僕の大切な人は、もう居ないんだよ」
 死んでしまったら、其れでオシマイ。別れなら、とうの昔に済ませている。―其れに。
「ニセモノの感情を食べても満足できないし、ね」
 もはや崇拝と呼べるほどの、熱烈な信仰とも呼べた其れ。
 あの時のような感情を、きっと目の前の子からは得られない。
 所詮は、影。紛い物の、影法師。
 はぁ、と大きな溜息が、隣の萱から発せられる。
「おぬしの知己となればと珍しく神妙にしておったのだが……」
 其れも不要であったか。扇で口元を覆って、小さくからりと笑う。
 幼子の頭を撫でていた手を戻し、腰を上げる。
「予想外の反応だったかな?」
「いいや。…まあ、おぬしが好い、というのならば」
 そうであった、こやつはそういうやつであったわ。そう、思い直して。
 ふわり、と風が場を翻り。陰であった幼子は、花弁を散らして、跡形も無く消え去った。
「さァて、行こうか、お姉さん」
 憂いも愁いも、浮かぶ感情は何もなく。あの頃の幸福は、もう訪れないと知っているから。
 だから、ハクは振り返らずに前を歩く。その後ろを、萱が続く。
 此れから先、二人にどんな出会いがあるのか。
 其れが、どのような変化を齎すのか。誰にも知る由は無いけれど。
 行く先に、幸があらん事を。
 二人が立ち去った後。ふわりと恵風が吹いて、そして―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『阿傍學徒兵』

POW   :    サクラ散ル
【軍刀が転生を拒む意思が具現化した桜の魔性】に変形し、自身の【使命感と転生を拒む意思以外のすべて】を代償に、自身の【攻撃範囲と射程距離、高速再生能力】を強化する。
SPD   :    サクラ咲ク
【日々の訓練で鍛え抜かれた四式軍刀の斬撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【軍刀から伸びる桜の枝々による拘束と刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    サクラ舞ウ
【帝都桜學府式光線銃乙号の銃口】を向けた対象に、【目にも止まらぬ早撃ちから放つ高出力の霊力】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は煙草・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花影
 ざぁ、と強い風が吹き荒れれば、元の公園へと意識が引き戻される。
 人の喧騒も、桜と藤の花雨が降り注ぐ様子も、全ての音が戻ってくる。
 つ、と視線を戻せば、眼前に咲楽と純香の姿は無く。
 慌てて周囲を見回せば、一際大きな幻朧桜の根元へと走る―とは言っても、純香の足が悪いのか、其の歩はゆっくりではあったけれど―二人の姿。
 意志なぞ無かった筈の咲楽が、何を切欠に動き出したのかは分からないけれど、彼女は彼女也に何か思う事があったのだろうか。
 幻朧桜の根元では、淡い光を放つ花弁がふわりと降り注ぐ。
 急ぎ駆け付ければ、息を切らしている純香の姿。
 がくり、と膝を付いた彼女を見下ろす咲楽の瞳には、何の感情が宿っているのか分からない。
 ―と、その手が純香へと伸ばされて。

 ぽん、と頭へと乗せられた。

●散り花、跡を残さず
 労わる様に、慰める様に。
 咲楽の手が、純香の頭を撫でて、そっと離れる。
 くるりと幻朧桜の樹を見上げて、ぽつりと言葉を落とす。
『ごめん、ごめんね』
 ―やくそく、まもれなかった。
 其の言葉に息を呑む音が響いて。口を開こうとするけれど、其れは声には、音にはならず。
 ぎゅ、と懐に忍ばせた二人の思い出。もう古びてしまったちりめん細工を強く、強く握る。
『なんで…、…何で?…悪いのは、貴女が、しんでしまったのは、私のせいなのに…』
 何で、咲楽が謝るの…?それじゃ、まるで―。
 此れから私がしようとしている事が、間違っているみたいじゃないか。
 はらはらと、純香の瞳から涙が零れる。
『ううん。あたしが死んだのは、あたしの力が足りなかったせい。純香ちゃんのせいじゃない』
 依然、幻朧桜を見上げながら。けれども、小さく首を振って。
『こんなに後悔してるなんて思っても無かった。純香ちゃんは、挫けても凹んでも最後にはしっかり自分の足で立ち上がれる人だったから』
『……で、でも…』
『あの時、あたしは純香ちゃんを助けられて良かったと思ってる。此れは紛れもない本心。でも、あたしの行いで、重荷を背負わせてしまった』
 悲しみに暮れる貴女を、見ていられなかった。そう思ったら、此の場所に居たのだと。
『此れは、きっと神様がくれた奇跡の時間。最後の言葉を伝える為の、時間』
 くるりと振り返った咲楽は綻ぶような笑みを浮かべて。
『最後なんて、言わないで。…わたしも、私も、そっちに』
『生きて』
 言葉を被せる様に、強く、強く咲楽が告げた。
『自死なんて選ぼうものなら追い返しちゃうから』
 懐に忍ばせた、刃の存在に気が付いていたのか、と純香は呆然と呟く。
『生きて、大往生して、思い出話をたくさん聞かせてほしいな』
 そうしたら、また来世。一緒にお花見しに来よう。
『あ、あぁああぁぁ―』
 嗚咽が周囲に響き渡って。其れを優しい目で見つめながら、咲楽は猟兵たちへと向き直る。

『さて。―猟兵さん。今のあたしが、此処に居ちゃいけない存在だって言うのは分かってる』
 けれど―。
『あたしだって、元・學徒兵!』
 そんな簡単にはやられないよ!
 にっこり笑って、腰の軍刀を抜き放つ。
 此れはきっと、咲楽の、彼女の弔い合戦。
 此れはきっと、純香の、彼女の未練を断ち切る闘い。

 さぁ、刃を取って、最後の戦いを―。
白神・ハク
【雨白】

お姉さん。来ちゃったねェ。
僕らは戦わなきゃいけないんだって。
んふふ。困っちゃうね。やる気満々だよォ。
僕は人間の感情が大好物だからなァ。でもねェ。欲しいのはこの感情じゃないよ。
お姉さんはどうかなァ?
強い子にはイイコトを齎すよォ。幸運の連鎖で攻撃をするんだ。
僕の幸運は目の前に現れるよ。あの子に幸運をたァくさん与えるんだ。

幸運が降りかかりすぎるとどうなると思う?
不幸が一気に来るよォ。イイコトばかりが起こったら大変だよ。
お姉さんもそう思うでしょ。次はお姉さんの番だよォ。
お姉さんはこの感情が気になるんだね。僕はそろそろ別の感情が見たいなァ。
人間は面白いよねェ。どうやったら別の感情が見れるかな?


雨・萱
【雨白】
ほう。
あれは生への執着ではないな。
自らの終わりを受け入れているのか?
面白いの、ハク。
人間の考えることはわからなくて面白い。

ははあ。おぬしの幸運にはそういう仕掛けがあったのだな。
まあ幸も不幸も神の気紛れ。
幸ばかり続くのは何やら特別扱いのようで気味が悪いものなのかもの。

我はこの人間の感情を知りたいのぉ。
味見させてもらおうか。
潔く己の運命を受け入れるのは何故か。
ここら一帯を雨で包んでおぬしに呪いをかけよう。
その雨がかかる間におぬしの生命は削れてゆく。
削られていくおぬしを満たす感情はなんじゃ?
未練があるなら吐きだしてしまえ。
我はおぬしの心が知りたい。
たとえ理解はできなくともの。


北条・優希斗
連携・アド可
先程視た『過去の記憶』の光景と、目前の咲楽を見つめながら
―すまないな
本当だったら君の魂を浄化するのが、『俺』の果たすべき役割だが
今の俺は、君を斬ることで、君の魂が転生する未来を祈る事しか出来ない
友の自死を止める
君がその心残りを果たした事を胸に刻んでね
だから、せめて――
その弔いの為に
純香さんの『未来』を守り
君の魂が転生され彼女の元に戻る未来を信じて
君を斬る罪を俺は背負おう
先制攻撃+UC
UC+見切り+残像+ダッシュ+早業+地形の利用+第六感で初撃回避
軽業+ジャンプ+ダッシュで懐に入り
カウンター+2回攻撃+早業+薙ぎ払い+鎧無視攻撃+串刺しで反撃
…来世は幸せな未来が訪れる事を信じて―眠れ


コッペリウス・ソムヌス
転生させる桜の使いではなく
奇跡の時間を与えるような神でもない、
単なる夢と眠りを齎すものだけれど
望まれることは聞き届けたい主義でねぇ
いま此処にいる影朧、
キミの想いが聴きたいな

攻撃の手が止まないようなら
刻の剣を持って防戦し
多少のケガくらい構いはしないよ
ヒトほど脆くは出来ていないものでね
それで、キミは彼女の目の前でまた
消えていくのが本望かな?
生者の後追いを止めるのも
共に逝こうとするのも
幸せのカタチは其々だろうし
キミとして存在した爪痕くらいは
遺せたのかもしれないね

その言葉は祝福か呪いとなるか
消え去ることが望みなら
別れの形を選ぶなら
耳を塞いで、祈ってあげよう
晩鐘の音は死者のために
おやすみなさい


外邨・蛍嘉
武器:藤色蛇の目傘、藤流し

さっき夫と似た話したから、どちらの気持ちも良くわかるんだよねぇ。
まあ、最後は思いっきりってやつだね。
なら、それには応えないとね!

初手にUC使用しつつ、足元へ向かって藤流し投擲。地にも藤があるのも、いいだろう?
藤色蛇の目傘を開いて、盾兼ね射線妨害しておかないとね。
まあ、放つ前に銃口向けなきゃいけないみたいだから、見逃しはしないと思うけれど。

蛇の目傘開いたまま押し込んで、一瞬で刀に変形させて、すぐに銃持つ方を切り上げる。
防がれても、二の手に藤流し投擲があるんだけどね。軍刀は蛇の目傘対応してるし。

思い出話ってのは、楽しいものじゃないとね。



●桜花流転
 別れを経験したことのない生き物なんて、果たしているのだろうか。
 其れがどんな物事であれ、出会いがあれば別れがあるのは、必然。
 悔いる事もあるだろう。
 嘆く事もありだろう。
 けれど、其の想いは何時か昇華される日が来る。其れがどんな形であれ。
 此処に集った者たちは、そういった出来事を幾つも繰り返してきた者たちだから。
(どちらの気持ちも、よくわかるんだよねぇ)
 戦いに身を窶しながら、今は無き彼を見送った蛍嘉だから、咲楽と純香の気持ちは、痛い程に理解出来る。
 決別の意思を固めた者の、強さも。―また知っている。
 ぱちん、と差していた蛇の目傘を閉じて。
 遠い、遠い誰かの記憶を思い出しながら、優希斗はそっと瞳を閉じる。
 ―魂の浄化。彼であり、彼ではない、誰かの役割。
 でも、今此処に在るのは、名を同じくする誰かではなくて。かちり、と静かに鯉口が斬られて。
 今なお埋まらぬ喪失に、気付かない振りをしながら、コッペリウスはぼんやりと、はらり降り続ける花雨を見上げる。
 桜の精でも無ければ、奇跡を起こせるような力を、彼は持たない。コッペリウスが司るのは、眠りと夢。
 眠りとは、安らぎ。全ての生き物が最終的に辿り着く、到達点。
 それが、影朧にも適応されるかどうかは分からないけれど。
「望まれることは、聞き届けたい主義でねぇ」
 さぁ。キミの想いは一体なぁに?

 そんな彼女たちから、少し離れた場所で。ハクはくふくふと笑いを零す。
「僕らは戦わなきゃいけないんだって」
 ―困っちゃうねェ。やる気満々だよォ。
 同じく、薄く笑みを浮かべながら萱は静かに咲楽の在り方を観察する。
「あれは生への執着では無いな。…面白いの、ハク」
 永き時を生きてきた、妖怪たる二人だからこそ。人間とは、生に執着するものではなかったか、と。
 けれど、アレは自らの終焉を受け入れている。もう片方は、未だ心に悩みを抱えているようではあるけれど。
 此れだから、人間と言う生き物は、不可解で。それ故に、面白い。
 面白ければそれでいい。抱く価値観は違うけれど、悩んで、悩んで、悩み抜いた咲楽と純香の抱く感情は、一体どんな味がするのだろうか。
 苦い?辛い?
 美味しい?美味しくない?
 なら、今から食せばいいだけの話。たった、其れだけの事である。

 未だ泣き崩れる純香に。咲楽は、解れ一つないちりめん細工を握らせる。
 片や、年季が入り、色褪せ古びたちりめん細工。
 片や、解れ一つなく、色鮮やかなちりめん細工。
 二つの細工の、経てきた年数の違いが顕著に見て取れた。ふ、とほんの一瞬、切なく笑んで。
『これだけは、汚したくないから。大事な物だから』
 純香ちゃんが持ってて。
 例え、其れが一時の。此の戦いが終わるまでの間だとしても。後には、何も残らぬと分かっていても。
 其れは、咲楽の矜持。意味の無い、我儘。けれど、思い出してほしい、と。此の細工を揃いで買った時の事を。
 国を護らんと、互いに誓った、あの日の事を。そう願って。
 すらり、と桜花刀を抜き放ち、討つべき影朧になってしまった彼女は、真っ直ぐに猟兵を見つめ、―表情を消した。
 
●藤花想起
 一歩踏み込んで、桜花刀を大きく薙ぐ。怪しく輝く桜花刀の軌跡は、桜の花弁と共に掻き消えて。
 ガキン、と鈍い音を立てて、繰り出された斬撃を優希斗が抜き放った青く輝く魔刀で受け止める。
 桜花刀から伸びる魔性の枝が、迫る優希斗の動きを阻害せんと伸ばされるけれど、真横から飛んできた棒手裏剣が枝を大地へと縫い留める。
 大地に刺さった棒手裏剣から、ぶわり、と甘い香りが一面に広がる。
 咲き乱れる藤の花に、咲楽の瞳が目一杯に見開かれる。
「大地に咲く藤の花ってのも、味があるだろう?」
 未だ咲き拡がろうとする花の基を絶たんと、起点たる棒手裏剣に向かって弾丸を撃ちだすけれど、藤の花は停まる事を知らぬように尚も広がった。
「わァ。これは圧巻だねェ、お姉さん」
 無邪気にはしゃぐように、ハクが萱へ振り返る。
 噎せ返るような、花の香り。―これは、黄泉路へ旅立たんとする咲楽への手向けか。
『くっ…!』
 桜花刀を振り払い、後ろへ後退。咲楽が光線銃を構えるけれど、追撃は許さないとばかりに其の足元に、蛍嘉の棒手裏剣が突き刺さる。
 小さく舌打ち、一つ。
 ―ぽつ、ぽつ。
 不意に、降り注ぐ雫が頬を濡らして。空に視線を向けるけれど、其処には澄み渡る空しか存在せず。
 ざぁ、と降る雨は、萱が齎した呪い。 雨を齎す為に贄にされた、在りし日の。
 黒の軍服が雨を吸って、ずしりと重くなる。同時に訪れる倦怠感。
「その雨がかかる間におぬしの声明は削れてゆく…」
 抱く想いは、無念か。其れとも。
 流れてくる感情の味を、萱は知らない。
「この感情の名は、何と言う?」
 ぽつりと落とされた問いかけに、答える者は無く。
 人の感情は複雑で、完全に理解する事は難しい。だから、答える事が出来ない。
 ステップを踏むように、咲楽が迫る魔刀を躱す。
 多少の傷は覚悟の上か、無造作に光線銃を撃ちだせば、桜色の光線が目を焼く。
 ぱさ、と蛇の目傘が開かれて、蛍嘉が光線を防ぐ盾とするけれど、一点集中で狙われた傘の一部が焼け焦げ、じり、と頬を焦がす。
「せぇ、の」
 どん、と叩き込まれたハクの一撃は、大地を抉る。ぱらぱらと、むき出しになった地面は、呪いの雨を吸って色を濃くした。
 尚も降り注ぐ雨に、目に見えて咲楽の動きが精彩を欠く。
 弾き損ねた弾丸が、肩を掠って。じわり、と肉を焼く感覚に、コッペリウスが僅かに顔を歪める。
 けれど、神である彼には、この程度の傷は痛手にはならず。
「キミは……」
 小さく呟かれた言葉は。
「彼女の前で、また消えてしまうのかい」
 はらはらと涙を零す純香をちらりと視線の端に捕らえて。再び、喪失を彼女に与えるのかい、とただ純粋に問いかける。
『……そ、れは』
 迷いは一瞬。
 けれど、其れは蛍嘉にとっては十分すぎる、隙。
 蛇の目傘を一瞬で刀へ変じさせ、振り上げる。狙うは、光線銃を持つ、手。
 はっとしたように、桜花刀を自身の前へと戻すけれど、蛍嘉の刃が迫る方が早かった。
 ぼたり、と地面に赤い華が、鮮やかに咲いて。
「……すまないな」
 ぽつりと落とされた言葉は、悼みを伴って。共に在れれば、と思う。
 だが、咲楽はオブリビオンで、純香は生きている人間だ。
 奇跡のような時間は、永久には続かない。咲楽とて、何時まで彼女の意思が人のままで在るかも分からない。
(君の、君たちの事は忘れない。―こんな奇跡があった事を)
 踏鞴を踏んだ、咲楽の頸を絶たんと、姿勢を低くした優希斗が一気に距離を詰めては、刀を揮う。
 咄嗟に、身体を後ろへずらしたけれど、完全に避け切る事は叶わず。
 胸元に、横一文字の傷が刻まれる。血液混じりの水滴が、ぴちょん、と波紋を広げた。
 はぁ、と吐き出した息は、何処か荒い。
「んふふ、強い子にはイイコトを齎すよォ」
 ―どんな幸運がお望みだい?
『あたしの、幸運は…、もう叶ってる!』
 そんな咲楽の言葉に、ハクは思わず瞳を瞬かせる。
『もう、逢えないと思ってた友人に、形はどうあれ、逢う事が、出来た』
 そんな言葉に、純香がばっと顔をあげる。
 絞り出すような言葉を耳にした萱が、其の瞳を僅かに細める。
 己が死んだ事を理解してながら、尚も友を想う其の気持ち。ほろ苦さが、口内に広がる。
『もっと、いろんな事を、いろんな場所に行きたかった。―生きたかった』
 顔をあげた咲楽の表情は。
『でも、友達を護れた事は、あたしの誇り』
 軍人になって、大事な誰かを護りたい。そう思った心もまた事実で。
 そんな言葉を聞いたハクが小さく笑う。
(本当、人間っていろんな感情がごちゃごちゃしてて、面白いねェ)
 傍らに立つ萱も同じように思っているのだろうか。その表情は、いつもと変わった様子は見られないけれど。
 そんな思考に沈んでいれば、彼方もどうやら決着の時。
 上段から切りかかる刃を優希斗弾いて、其のまま袈裟がけに胴を薙いで。
 背後から蛇の目傘を刀に変じさせたままの蛍嘉が背後から腹部を貫けば。
 ぐらり、と傾いて。とさり、と軽い音を立てて藤花の上に倒れ込んだ。
 雨は降れども、青い空が、眼前いっぱいに広がって―。
 ぷつり、と咲楽の意識は暗転した。

 ゆら、ゆらと、意識が揺れる。
 薄く目を開けば、泣きながら笑う、ともだちの姿。
『ごめん。……ごめん。私が、ずっと後悔してたから』
 きっと、貴女は迷いなく逝けなかった。でも、もう大丈夫。次があるなら、今度は。
『…またね、咲楽』
 ああ、なんだか、とても、ねむい。でも、これだけは。
『……うん、…また、ね……』
 そっとコッペリウスが自身の耳を塞ぐ。
 其れは、眠り誘う祈りの形。終焉へ誘う晩鐘の音を。
 帰ろう。在るべき場所へ。還ろう。輪廻の輪に―。
「おやすみなさい」
 眠りの神が導く夢は、きっと、二人にとっての最善を移すのだろう。
 そっと、優希斗が漆黒へと戻った瞳をそっと伏せる。
「……来世は、どうか幸せに。二人の未来に、幸があらん事を」
 ふわり、と風が吹けば、はらはらと咲楽の身体も花弁となって吹き散れる
 遺された純香の肩を、蛍嘉がそっと抱く。
 離れた位置で、ハクは空を見上げる。気付けば雨は止んでいた。
「僕、人間の事はよく分からないけど。次は二人が会えるといいねェ」
「……そうだな、ハク」
 ふぅ、と萱の唇から紫煙が吐き出される。意味は分からないけれど、死者への手向けとして、誰かがやっていたのを薄く覚えている。
 
 生きる意志を湛えた瞳を涙に濡らしながら。
 君の言葉を胸に、未来を生きていく。
 ―おやすみ。また、逢おうね。
 祈りはきっと、いつか届くだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月27日


挿絵イラスト