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学園ミステリー〜集団失神事件を阻止せよ〜

#UDCアース #学園シナリオ

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#学園シナリオ


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●悲劇的な結末〜ある日のニュース〜
 今日午前6時42分頃、賽玉県川畝市の白穢土川(しらえどがわ)の河川敷で三人の女性の遺体が発見されました。
 遺体で見つかったのは、いずれも私立白穢土高校二年生の川島 トモナさん、上野 カナさん、北村 カスミさんで、3人は一昨日の夜から行方不明になっており、捜索願が出されていました。
 いずれも外傷はなく凍死と見られ、死後6時間程度が経過していた模様です。3人は失踪後誰にも目撃されておらず、何者かに連れ去られた可能性もあると見られています。
 また、白穢土高校では、前日の夕方に集団失神事件が起こっており、賽玉県警の特別捜査本部では事件との関連を調べています。
 それでは解説委員の本郷さんに今回の事件について解説していただきます。
「ええ……この事件はですね……」

●失われし者の思念
 時を凍らせることができたら、あの子を助けられるかな?
 あの子の命を未来に保存することができたら、必ず救えるよね。
 うん、だからどんなことをしてもこの儀式は成し遂げなきゃいけないの。

 あの子は私たちの「アイドル」だった。
 春の陽光のように温かな笑顔と天使のように澄んだ歌声に、何度癒やされ励まされただろう。

 だからあたしたちはあの子を失わないために邪悪な力にすがることも厭わなかった。
 儀式を成し遂げることができたらあの子を救える。そう信じて疑わなかったのだ。

 狂気に取り憑かれていたわたしたちは自分たちの愚かさに気づく前に、あのバケモノに殺された。
 後悔してもしきれない。わたしたち、ホントに馬鹿だった。みんな、巻き込んでゴメンね。

 せめてもう一度あの子に会いたい。
 あの子の笑顔をもう一度見たい。
 もう一度あの子の歌を聞きたい……聞きたいよぉ……。

 想いの残滓は昏き闇の中に静かに消えていく。すべては後の祭り。彼女たちは永遠の悔恨を抱きながら闇の中を彷徨うことになる。

●グリモアベースにて
「まるで私たちへの挑戦状……いや、これはSOSのメッセージなのかしら」
 グリモアベースのミーティングルーム。グリモア猟兵の紡木原慄(f32493)は自らに届いた事件の結末を伝えるニュースの概要と謎のメッセージを猟兵達に伝え終えると、深いため息をついた。

 予知として届いたのは「声」だけだった。突然視界が暗転し、暗闇の中で音声だけが聴こえてくる。3人の少女たちの告白。告白が終わると少女の声は女性アナウンサーの声に変わり、さらに解説者とおぼしき男による事件の詳細説明が始まり、それが終わるとようやく視界が元に戻った。
 UDCアースの日本を舞台にした奇妙な予知。
 それはUDCの妨害のせいなのか、それとも発信者の事情なのか、原因は定かではない。
 いずれにせよ白穢土高校でUDCが召喚され、犠牲者が出ることは疑いようがなかった。

「予知というには少々心許ないけれど、幸いまだ事件は起こっていないわ。だから皆さんには事件発生当日の『白穢土高校』に潜入し、悲劇的な結末を阻止してほしいの」
 慄は依頼の概要を伝えると、手元の手帳に視線を落とす。
「それからこれは予知の中で解説委員が話していたことだけど……」
 そう前置きし、慄はこれから発生する事件について補足を加える。

 今回の事件で遺体で発見された3人は小学校から同じ学校に通う幼馴染で、事件前の一週間は部活を休んで放課後の図書館に入り浸る姿が目撃されていた。
 一方、集団失神事件は午後6時前後、校内に残っていた生徒数十名によって引き起こされている。突然、校内の各所で一斉に悲鳴が上がり、駆けつけた教職員が倒れている生徒たちを発見した。被害者は一様にずぶ濡れで、衣服には泥汚れがいくつもあったという。

「被害者が倒れていたのは調理実習室、理科室、シャワー室、トイレ、廊下の水飲み場……全員水場の近くだったようね」
 ちなみに、被害者は搬送先の病院で意識を取り戻したものの、精神的なショックの影響でまともに口を利ける状態ではなく、詳しい証言は得られていない。
 警察は学校関係者にも事情を聞いており、集団での薬物使用の疑いも取り沙汰されているという。

「おそらく、校内に顕現したUDCに襲われたのね。UDC組織が捜査に介入して情報工作もしてるようだけど隠しきれてないわね。箝口令を敷いても口が軽い人はいるものだから……」
 愛用のボールペンを指先で器用に回しながら、慄は眉をひそめる。
 情報操作に長けたUDC組織と言えど、発生した事件そのものをもみ消すことはできない。おそらく『被害者』はUDCに襲われ、少なからず怪我もさせられている。心と体の傷が癒えて社会復帰できるまでには長い時間を要するだろう。慄はそう推察しているようだった。

「集団失神事件の発生時刻はわかってるから対処しやすそうだけど、それでも一筋縄ではいかないかもね」
 事件が起こるのは午後6時前後。その前に生徒たちを下校させれば被害は食い止められるが、下校する生徒が急に増えると、異変を察知した「敵」が強硬手段に出る恐れもある。下校させなくても事件発生までに生徒たちの安全確保ができていればよいだろう。
 ただし、集団失神事件を阻止してもUDCの召喚が阻止できるとは限らない。黒幕の正体や儀式の全容を解明するための調査も並行して進める必要がある。

 一通り説明を終えると、慄は胸の前で手を組んで目を閉じ、UDCアースにつながる扉をイメージする。猟兵達の背後にグリモアの光が集まり、ほどなくして禍々しい色をした洋風のドアが具現化した。
 そして、彼女は旅立つ猟兵達を静かに見渡し、見送りの言葉を紡ぐ。
「これは普通の女子高生だけで起こせる事件ではないわ。おそらく、邪神教団の関係者が事件の背後で糸を引いてるはず。今ならまだ間に合うわ。お願い、彼女たちが虚無に墜ちる前に助けてあげて……」


刈井留羽
●ご挨拶
 はじめまして、刈井留羽です。第一作目はミステリー風の学園シナリオをご提供します。

●第一章についての補足
 猟兵達が転送されるのは、集団失神事件が起こる当日の昼です。翌日に遺体で見つかる3人の女子生徒は前日の夜から行方不明になっています。
 潜入作戦はUDC組織にサポートしてもらえるので、生徒や保護者はもちろん、身分証明書が必要なメンテナンス業者など、様々な職業に扮して潜入が可能です。
 潜入した猟兵は通信端末で即座に情報共有できるので、後のリプレイでこれまでの調査状況が引き継がれます。

●その他・連絡事項
 アドリブは展開上、必要と判断したときのみ使います。
 一章は断章なし。二章、三章の前に断章を執筆します。(プレイングは断章投稿後受付)
 途中参加も歓迎します。
 新人なので欲張らずに早期の完結を目指してシナリオを進めていきます。
 いただいたプレイングはできる限り採用を目指します。不採用の場合にはMSの力不足と思ってください。
 参加人数不足の場合には、シナリオ完結のためにサポートをお願いさせていただきます。
 戦闘などで仲間との連携を意識したプレイングが届いたときには積極的に連携描写を致します。
 二章、三章の戦闘パートは学校という舞台を活かしたプレイングにボーナスがつきます。
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第1章 冒険 『UDC召喚阻止』

POW   :    UDCの発生原因となりそうなものを取り除く

SPD   :    校内をくまなく調べ、怪しげな物品や痕跡がないか探す

WIZ   :    生徒達に聞き込みを行い、UDCの出現条件を推理する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リック・ランドルフ
失踪に失神。どっちもろくでもない。学生達が巻き込まれていい事件じゃないな。失踪の方は起きちまったが、失神はまだ。何としても阻止して三人を見つけないとな。


水場付近で事が起こるってことは水関連のUDCか?

いや、そう決め付けるのは早計か。
だが、水が関係しているのは確かだ。

この時間に残っている生徒となると、部活や委員会活動の生徒達だよな

となれば、ここはUDC組織に頼んで、水道業者に扮させて貰って廊下の水呑場を調べるか

廊下の水呑場に点検中の看板を設置して生徒達を近寄らせないようにする

もし生徒が来たら、【言いくるめ、話術】で引き返させる


で、指定UCを発動し、水道に触れる。何か仕掛けてられてるなら分かる筈だ



 地味なグレーの作業着を着込み、手には工具箱。作業着と同色の帽子を目深にかぶる男が一人、白穢土高校の本校舎2階の廊下を歩いていた。
 集団失神事件の原因が水に関連するUDCだと睨んだリック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)だ。彼は水道工事業者に扮して潜入し、怪しまれずに水場の調査をすることにしたのだ。
 UDCアースの刑事である彼なら、女子高生の失踪事件の捜査員として正面から堂々と赴くこともできただろうが、黒幕に異変を察知されるリスクを考慮したのかもしれない。それは被害者を出さずに集団失神事件を絶対に阻止するという、猟兵刑事としての確固たる信念からの行動といえるだろう。
 
 今は5時間目の授業中なので、廊下は閑散としている。リックは邪魔が入らずに落ち着いて調査ができる時間を選んで行動を開始したのだ。
 教室の前を通り過ぎるたびに、教鞭をとる教師の声と、教師の質問に応じる生徒の声が聞こえてきた。こんな平穏な学び舎で学生たちがUDCに命を脅かされる理不尽さを強く感じ、リックは奥歯を噛み締める。 

 ほどなくして、被害者が失神していたという水飲み場の前までたどり着くと、早速リックは現場検証を始める。
 目の前にあるのはステンレス製のシンクに5つの蛇口がついた何の変哲もない水飲み場。さらに周囲との位置関係を把握するために廊下の先に目をやると、スーツ姿の中年男が腹部を押さえて男子トイレに駆け込んでいくのが見えた。
 教職員用トイレを使わないことに違和感を覚えるも、リックはすぐに水飲み場に視線を戻す。彼は「シロ」だ。大方、生徒用トイレを使わざるを得ないほどの「緊急事態」に見舞われたのだろう。
 刑事として培った洞察力でそう判断したリックは、ユーベルコードを発動させながら水道の蛇口に触れる。
「あんまり得意じゃないんだけどな、こういうのは」 
 彼が今、発動させている特殊能力は、触れた対象の秘密や隠し事を引き出すというものだ。
 その原理は定かではないが、リックは触れた対象に「見えない手」を伸ばしてその対象に入り込み、情報を掴んで持ち上げるというイメージで能力を行使しているようだ。
 それは人間のように嘘や隠し事をする生物だけでなく、意思を持たない物体にも効果を発揮する。水道に仕掛けがしてあれば瞬時に把握することができるだろう。
 
「異常なしか……それならこっちか……」
 リックは排水口を鋭い眼差しで見つめながらつぶやくと、しゃがんでシンクの下を覗き込む。
 排水口から伸びているのは下水道につながる排水管。彼は再び能力を発動させ、触ってみる。
「こっちもダメか……いや、下に何かが……」
 見えない手の指先に、微かに禍々しい気配を感じた。排水管のずっと先にUDCがいる。そう確信したリックはさらに意識を集中させ、奥の様子を探っていく。
 すると次第にUDCの気配が大きくなり、唐突に何かが弾けた。排水管が振動し、排水口から汚水が吹き出す。
 反射的に排水管を離し、身構えるリック。だが、彼を襲ってくる者はいなかった。
「俺から逃げた……のか?」
 再び排水管に触れてみたがUDCの気配は完全に消えている。汚水の噴出は目くらましと考えるのが妥当だろう。リックは憮然とした表情で考察していたが、唐突に男の間の抜けた叫び声があがる。
「うわっち!」
「男子トイレか」
 リックが慌てて駆けつけると、スーツ姿の中年男がバツの悪そうな顔で口を開く。
「突然、トイレの水が逆流して溢れてきたんです……すみません、こっちも直していただけますか?」
 おそらくUDCの目くらましの余波を食らったのだろう。とりあえず修理のことを承諾し、冴えない中年男をトイレから退去させると、リックは嘆息をもらす。
「やれやれ、UDCが潜んでいるのは下水道か……こいつはなかなか厄介だぜ」
 集団失神事件に関わるUDCは容易には手を出せないところに潜伏している。しかも相手は校内の排水管を自由に移動でき、その時が来るまで逃げ回るつもりのようだ。
 とりあえず生徒たちが水飲み場に近づかないように「点検中」の看板を立てて回りつつ、UDCの発生源を探ってみるか。
 リックはこれからの行動方針を決め、即座に動き出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

まあ、気になりましたのでねー。学舎というのはよくわかりませんが(戦国乱世出身)、なんとかなりますよ。

身分は古文の臨時教員でー。…ここの地名からして気になりますけどね。
それとなく人払いの結界でも張りましょうかー。

さて、図書室に向かいましょう。教材にできそうな本を探すふり。彼女たちは何を探し、読んでいたのか。それがわかればいいんですけどねー。

…失われたものは、二度と帰ってこない。たとえそれが、どんなに大切なものであったとしても。



●図書館の本
「学舎というのはよくわかりませんが、なんとかなりますよ」
 戦国乱世出身の馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は現代日本の学校には詳しくはない。
 しかし、悪霊の彼は死の匂いを感じさせる奇異な地名を持つ土地で起こる不可解な事件に興味を持ったらしく、古文の臨時教師として白穢土高校に赴任することになった。
「さて、図書館に向かいましょうかー」
 グリモア猟兵の予知に出てきた3人の女子高生。彼女たちは行方不明になる前に図書館に入り浸っているところを目撃されていた。手がかりは図書館にある。そう目星をつけた義透は図書館に向かうことにしたというわけだ。
 
「ここは大きい調理場でしょうかねー。とりあえず【人払いの結界】をかけておきましょう」
 図書館に向かう途中で義透が見つけたのは、いくつもの調理台とシンクが並んだ部屋。要するに調理実習室だった。
 先発の猟兵の調査でUDCが出現する可能性が高いのは水場の排水口であることが既に判明している。通信端末で連絡を受けた義透は廊下を歩きながら抜け目なく水場のある部屋がないかを確認していたのだ。
 彼はその後も部屋を覗きながら移動したものの、排水口のある部屋には遭遇せず、いつの間にか目的の図書館に到着していた。
 
 図書館に入って早々、貸出受付に座る学校司書の女性が怪訝な目を向けてきたが、義透は教材にできそうな資料を探しているふりをしながら、本棚の海へとさりげなく移動してやり過ごす。
 幸いまだ六時限目なので図書館には生徒の姿は全くなく、事件発生まではまだ余裕はあった。義透は焦らず急がずのんびりと貸切状態の図書館を見て回ることにした。
「彼女たちは何を探し、読んでいたのか。それがわかればいいんですけどねー」 
 実は白穢土高校の学校図書館は県内有数の蔵書数を誇っている。一人で何の手がかりもなく、短時間で目当ての本を探し当てるのは至難の業だったが、義透はほんの数分でその場所を見つけてしまう。
「怪しげな本がたくさん並んでますねー。このあたりに何かありそうな気がしますよー」 
 郷土史コーナーのさらに奥にあるオカルト書籍コーナー。そこは暗く淀んだ霊気が満ちる陰気な場所で、まともな生徒は決して近づくことはなかったが、悪霊である義透は逆にその場所に自然と引き寄せられていたのだ。
 
 怪しげな伝承が記された本がぎっしりと詰まった本棚。義透は背表紙を一通り眺めると、一冊の本のタイトルに目を留める。
 「ほほう、私と同じ忍者ですかー。気になりますねー」
 奇妙な共感を覚えて手に取ったのは、『汚泥の忍者〜魔術と忍術の融合を試みた男の悲惨な末路〜』と、見るからに怪しすぎるタイトルの本。それでも義透はこの本が絶対に正解だと言わんばかりに読み始める。
 「ふむ、これが貪欲に力だけを求めた人間の成れの果てですかー。酷い有様ですねー」
 義透は人間の形を失い、汚泥の塊のようになった怪物の挿絵が描かれたページを開き、感想を漏らす。
 挿絵の下には、汚泥の忍者の正式名称と詳細情報が記載されていた。
 
 
【咎忍『水綿』】

 この醜悪な怪物は元々は咎人殺しの忍であったとされる。法ではさばけぬ極悪人を力を持たぬ復讐者の代わりに惨殺せしめ、多額の報酬をもらう裏稼業。人間の醜悪さを嫌というほど見てきた彼の心は時とともに荒んでいく。
 一方、職業柄、常に刺客に狙われる彼にとって肉体の衰えは死活問題だった。異世界の魔術と忍術を融合させようと考えたのは最初は生きるためだったのだろう。しかし、その決断は彼をさらなる狂気へと染めていく。

 罪のない人々をさらい、魔術の生贄として虐殺する日々。
 いつしか人間の命は彼にとって、虫けら同然となっていた。
 生きるための手段はやがて力を得ることへの偏執となり、その狂気は肉体が朽果てても失われなかった。
 残されたのは、生あるものの矜持すら喪失したヒトの成れの果て。
 人の世を見境なく荒らし回った彼は退魔師に討たれると、今度は簡易な儀式で召喚される「眷属」と化し、邪神を崇拝する者たちの「善き友」として重宝されるようになったのである。


「これが史実なのかは怪しいところですが、ご丁寧に召喚方法まで書かれてますねー」
 義透は一言つぶやき、なおも読み進める。
 

 咎忍『水綿』は、人間の血液と霊気を含有する川底の泥を混ぜ合わせた泥団子を依代とし、邪神の加護を受けた『護符』を身に着けた術者が呪文を唱えることで召喚される。
 水錦は護符を持つ者の命令に従うが、力を持たない未熟な術者が護符を用いれば、生命力を奪われ、寿命を縮めるであろう。

 
 召喚方法の最後の一文を読み終えると、義透の表情がわずかに曇る。
 護符がなければ汚泥の忍者が召喚されることはない。
 しかし、下水道に潜んでいるUDCが「汚泥の忍者」ならば、「護符」は誰かの手中にあるということになる。それが未熟な術者、たとえば行方不明になっている女子高生ならば、一刻を争う事態といえるだろう。
 義透は慣れない通信端末を操作し、潜入している猟兵たちと情報を共有をすることにした。 
 「……失われたものは、二度と帰ってこない。たとえそれが、どんなに大切なものであったとしても」
 しみじみと紡がれたのは、この事件の行く末を案じた言葉なのか、それとも彼自身の追憶の言葉なのか、それは義透にしかわからなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

政木・朱鞠
行動【WIZ】
まずは敵を知ることかな…わずかな情報でも組み合わせれば大きなヒントになるはずだから、まずは生徒に接触を試みるよ。
【化術】で見た目の年齢を下げて新入生っぽく変装して、「先輩に七不思議とかオカルトに興味のある子」の【演技】で曖昧な話でもOKという前提で噂話などを生徒に聞き込みしておこうかな。
『忍法・繰り飯綱』を潜入させて盗み聞きで犯行の手口などを【情報収集】させて貰おうかな。

少しあざと過ぎるけど、敵の目に止まるよう敢えて『ちょっとおバカさんなオカルト好き』としてちょっと派手目に動くことで意識された方がより深い情報を得る切っ掛けになる?…という曖昧な狙いがあるかな。

アドリブ連帯歓迎


椚・みどろ(サポート)
エロ系依頼には使わないで欲しいです

怪奇人間の悪魔召喚士×シャーマン、16歳の娘さん
元奴隷なので身体の発育は悪い

口調は
普段は素(あたし、呼び捨て、か、だろ、かよ、~か?)で
依頼中、他人と関わる時は仕事なので頑張って(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、なの?)です
焦ったりすると素が出ます

自分を助けてくれた師匠(今は失踪)の存在が大きく、大抵の行動は師匠の言いつけ通りにやっています
(「師匠が言ってたんだけど~」と引用したり、思い出したり)

ユベコは基本アスモデウス召喚を使います
この契約も師匠譲りです


ミリアリア・アーデルハイム
うーん、高校で「歌う」といえば部活動でしょうか
何か手がかりが見つかるといいのですけど。

新入生として潜入し、3人が所属した部活を特定。SNS等チェックする
念のため、他にも歌と関係がありそうな部活動(合唱、軽音など)を見学して歩く

・歌が上手な学生について尋ねる
・願いを叶えるおまじないについての怪しい噂を集める

行方不明の3人の無事を「祈り」ながら、「情報収集」「失せ物探し」

情報をより多く集めるために【ゴッド・クリエイション】で2年生女生徒(+知性)を作成
こちらは行方不明者の情報をメインに聞き込み

「なんかあいつ怪しくない?ほら、最近...」
 ・行方不明の3人と最近接触した人物
 ・最近行動が不審な人物



●「あの子」の行方

 椚・みどろ(一願懸命・f24873)は、グリモア猟兵の話を聞いた後からずっと気になっていたことがあった。
 「あの子」とは一体、誰なんだろう。グリモア猟兵に届いたという3人の少女のメッセージ。彼女たちは自らの愚かさを後悔し、最後に「あの子」への想いを口にした。
 予知の世界でどうやら3人は大きな過ちを犯し、バケモノに殺されてしまったらしい。
 そして、彼女たちは自分の存在がこの世から消え去る間際に「あの子」のことを考えたのだ。

 少女たちにとって「あの子」とは、みどろにとっての「師匠」と同じような存在なのだろう。
 しかし、「あの子」は影朧になった師匠のように存在が不確かで行方知れずなわけではない。
 
 おそらく「あの子」は少女たちと同じ世界に確かに生きていて、会おうと思えば会える場所にいる。
 会いたいなら、会える場所にいるのなら、会えばいい。
 遠くにいるのなら、通信端末で話せばいいし、言葉を交わし合えばいい。
 言いたいことを言わずにウジウジしてるから思い詰めてしまうのだ。これは全部、師匠が教えてくれたことだった。
 
 奴隷として過酷な幼少期を過ごしたみどろは、学校という小さな社会のことはほとんど知らない。
 でも生徒になって潜入すれば3人の少女が大切に思う「あの子」を知ってる人が必ずいて、連絡手段を教えてくれるはずだと漠然と考えていた。
 そして、みどろは白穢土高校の制服に袖を通し、3人にとって大切な人、「あの子」を探すために行動を開始するのだった。

●聞き込み

「行方不明の女の子たちも心配だけど、まずは敵を知ることかな。私は私の得意な方法で調査してみるよ」 
 白穢土高校に潜入し、生徒たちが活発に動き出す放課後まで待っていた政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は、猟兵たちが持つ通信端末の全体通話で、自分の行動方針を宣言する。

 情報収集に長けた忍である朱鞠は、たとえわずかな情報でもジグソーパズルのピースの如く組み合わせれば、事件を解決する大きなヒントになりうることを知っていた。
 どんな曖昧な情報でもいい、今は事件の真相に近づけるピースを少しでも多く集めよう。
 行動方針を決めた朱鞠は【化術】で十代後半の世間知らずな女子高生に変身し、放課後の生徒たちの中に紛れ込む。

「あっ、あの子たちなら教えてくれそうかな?」
 朱鞠が最初に目をつけたのは、二次元オタクっぽい女子三人組。下校しようとする彼女たちに玄関ホールで声をかける。
「すみませぇん。せんぱぁい、お聞きしたいことがあるんですけどぉ。お時間、よろしいですかぁ」
 少し舌っ足らずで間延びした喋り方。「萌え」を掻き立てるアニメ声。恥ずかしげに頬を赤らめ、子犬のような人懐っこい瞳で「先輩」を見つめる朱鞠は、おバカでカワイイ後輩女子にすっかりなりきっていた。
 少々あざと過ぎる気もするが、彼女にはちょっと目立つキャラを演じたほうが注目を浴び、情報も入ってきやすくなるだろうという思惑もあったのだ。
「わたしぃ、オカルトに興味があるんですけどぉ。知り合いからぁ、この学校にオカルト書籍コーナーがあるって聞いたんですよぉ、知ってますかぁ」
 天然っぽい口調を崩さずに、朱鞠は猟兵仲間から仕入れた話題を振ってみる。オカルトに興味のある相手なら知っているはずだろう。
「オカルト書籍? 知らないなぁ」
「知らなーい」
「同じく」
「そうですかぁ。他を当たってみますぅ」
「役に立てなくてごめんねー。あたしたち、怪談とかにあんま興味ないんだよねー」
 新入生らしく礼儀正しく頭下げ、先輩たちを手を振りながら見送る朱鞠。
 最初はハズレだったが、朱鞠はめげることなく、事件解決の手がかりになる情報を求め、ひたすら聞き込みを続けるのだった。

●3人の部活動とSNS

 失神事件の前日に失踪し、翌日に遺体として発見されている3人の女子高生。彼女たちの死は予知されているが、まだ確定してはいない。
 どうかご無事で。それは神の慈愛を感じさせる長い祈りだった。
「この祈りが彼女たちに届けばよいのですが……」
 ようやく祈りを終えて、神妙な顔でつぶやいたミリアリア・アーデルハイム(かけだし神姫・f32606)は、新入生に扮装し、行方不明の少女たちの身辺調査を開始する。
 今月は新入部員獲得のために、どの部活でも新入生の見学を活発に受け入れている。ミリアリアは部活巡りをする新入生たちに紛れ込み、順調に調査を進めていく。
 
 陸上部所属でボーイッシュ系女子の川島トモナ。手芸部所属で料理上手と評判の上野カナ。吹奏楽部所属でパソコンで作曲もできる北村カスミ。
 3人とも、去年の秋から部活動を休みがちになり、最近ではほとんど部活に顔を出さなくなっていた。
 その同時期に合唱部に所属していた当時一年生の女子生徒「朝井ヒナ」が病気を理由に退学している。行方不明の3人と彼女は幼馴染の関係だという。 
 
「ヒナさんのご病気は……」
 ミリアリアが空き教室でメモ帳を開いて情報を整理していると、制服姿の赤髪の少女が隣の席に座り、口を開く。
「かなり重い病気らしいよ。学校で急に倒れて大変だったみたい」
「あら、ご同業の方ですね。お初にお目にかかります。ミリアリア・アーデルハイムと申します。どうぞお見知りおきを」
「どうも。私は椚みどろって言います。通信端末でちょっと話したよね。少し情報交換しない?」
「そうですね。時間もずいぶん迫ってきましたし、急ぎましょう」
「ありがとう。あのね、私はずっと『あの子』のことを調べてたんだけど……」

 みどろは白穢土高校に転校生として潜入し、失踪した女子高生たちが死の間際にまで考えていた「あの子」に関する情報収集を続けていた。
 それでわかったのは、朝井ヒナが去年の秋に現代医学では治療法が確立されていない深刻な難病を発症し、既に白穢土高校を辞めているということだった。
「現在は遠方にある病院近くの学校に通ってるという噂だけど、誰も連絡先を知らないの。どうしよう……」
 みどろはヒナに連絡して3人と会わせるつもりだったという。
 今回の事件は3人の少女たちの、ヒナへの歪んだ感情が引き金になっている可能性が高い。それなら狂気に取り憑かれた彼女たちの心を動かせるのはヒナの言葉だけだろう。
 そのためにヒナと連絡を取り、行方不明の少女たちに彼女の言葉を伝えよう。それがみどろがこの事件に向き合うことで出した結論だった。

「連絡先……でしょうか。それならこちらが手がかりになるかもしれません」
 ミリアリアは通信端末を取り出してUDCアースの若者に人気のあるSNSに接続する。情報収集のときに教えてもらえたのは川島トモナのURLだけだったが、彼女のコメント履歴をたどるとすぐに朝井ヒナものと思しきアカウントが判明する。すぐにURLを共有し、みどろも自分の端末で同じサイトを閲覧する。
「写真だけでなく、動画も投稿できるSNSのようですね」
「うん、この動画で歌ってる子がヒナさんってことでいいのかな……」
 投稿動画のページには動画のサムネイルがいくつも並んでおり、そのすべてが「アイドルひなたんが●●を歌ってみた」というタイトルだった。
「可愛くて、歌声もすごく綺麗。国民的スタアみたい……」
 みどろは一般人とは思えない輝きを放つ少女に目を奪われていた。ミリアリアはその間も端末を操作し、情報収集を続ける。
「この動画は行方不明の少女たちと一緒に撮影したようですね。概要欄を見てください」
 ミリアリアに指摘され、みどろは動画の概要欄を見る。
 そこには撮影者・tomoP、衣装協力・Kanakana、音源制作&Mix・kasumiNとクレジット表記がしてある。それぞれ、川島トモナ、上野カナ、北村カスミのアカウントIDなのだろう。
 朝井ヒナはまさに3人にとっての「アイドル」だったのだ。
「動画投稿は去年の8月で止まってます。メッセージ投稿は9月23日まで……あっ、新しいメッセージです」
 ミリアリアは驚きの声を上げ、新規メッセージを確認する。


 お久しぶりです。ずっと更新できなくてごめんなさい。実は今、私の親友のトモナ、カナ、カスミの3人が昨日から行方不明になってるんです。彼女たちは家出して親に心配かけるような子ではありません。何か事件に巻き込まれたのかな……本当に心配です。
 この投稿を見てくれた皆さんにお願いがあります。
 この3人について知っていることがあったら、どんな些細なことでもいいのでコメントください。


 メッセージには3人と一緒に撮影した写真が添付されていた。私服の4人の少女が一緒に映る写真。
 朝井陽菜を囲むように写ってるのが行方不明となった3人の女子高生だろう。それぞれの頭の上にピンク色の手書き風の文字で名前が表示されている。
 背が高くてポニーテールの少女がトモナ。ふくよかで温和そうな少女がカナ。銀縁の眼鏡をかけた知的そうな少女がカスミ。彼女たちは一様に笑顔で、UDCに関わるようには見えなかった。


「お幸せそうですね……」
「そうだね、3人を助けてこの笑顔を取り戻してあげなきゃね。私、ヒナさんにコメントしてみるよ。突然だから信じてもらえるかわからないけど、絶対に説得してみせるから」
 みどろは通信端末をじっと見つめ、その一途な思いを言葉に変えていく。

●怪しい人物

 机で通信端末とにらめっこを始めたみどろを残し、空き教室を出たミリアリアの前に、一人の女子高生があらわれる。
「おかえりなさい。どう? 不審な人物の目撃情報はありましたか?」
 女子高生は微笑を浮かべたまま無言で頷く。彼女は神の力の行使によって創り出され、知性を人間以上に強化された有能な協力者である。ミリアリアは部活見学に向かう前に彼女を創造し、不審人物の目撃情報の収集を頼んだのだ。

「白衣をお召しになった30代くらいの男性が、水飲み場に貼られた『点検中』の札を剥がして、それを……破り捨ててたんですか!?」 
 協力者の報告を受けていたミリアリアは驚き、語気を強める。
 詳細を尋ねると、その男は生物教師の『望塚鳴章(もちづか・なるあき)』という名前で、数日前から、『髑髏のような文様が掘られた木製のペンダント』を常に身につけるようになったという。
 さらに、望塚は約一週間前、行方不明になっている川島トモナと話す姿が目撃されている。
 トモナは真面目な顔で授業に関する質問していたようだが、その内容が突拍子もなかったので、覚えていた生徒がいたらしい。
「人間の体を生きたまま冷凍保存することが可能なのか……でしょうか?」
 望塚は大学で生物の冷凍保存の研究をしていたらしく、その日も授業でヒトの受精卵を冷凍保存する技術について熱弁を振るっていたという。

「……これは有力な情報ですね。皆さんと共有しておきましょう」
 ミリアリアは通信端末を操作して情報共有を済ませ、この生物教師の捜索に当たるのだった。

●最後のピース

 朱鞠はその後も聞き込み調査を続けていたが、成果は芳しくなかった。
 情報のピースをたくさん拾い集めることには成功しているが、そのどれもが異なるパズルのピースで一つに組み合わせられないというのが現状だろうか。
 刻々と迫るタイムリミット。今のやり方に行き詰まりを感じ始めた朱鞠は、廊下の階段に腰掛けて一休みし、情報を整理することにした。

「コオリオニ。とりあえず七不思議系のネタはこれだけかな」
 一般に「こおり鬼」と言えば、鬼に触れられると、その場で動けなくなるというルールで行われる鬼ごっこの一種だ。
 ところが、この学校に伝わる怪談話は少々異なる。
 
 深夜の学校を徘徊する裸足の少女。それがコオリオニなのである。深夜の学校でコオリオニに出会い、悲鳴を上げてしまうと、トモダチと勘違いされて追いかけ回される。
 彼女に捕まれば生きたまま氷漬けにされるが、朝になると解凍されるので死ぬことはないという。

「う〜ん。この話、なにか気になるのだけど……決め手に欠けるのよね」
 朱鞠は考えながら、ふと情報共有用の通信端末を確認してみる。すると、みどろとミリアリアが少し前に共有した情報が表示された。
 現代医学では完治できない難病の少女、人間の冷凍保存、そして、コオリオニだ。
 朱鞠の頭の中で情報の欠片がつなぎ合わされ、事件の全貌がぼんやりと浮かび上がる。
「そうなると、私がこれから調査すべきは図書館だね。時間もないし急がないとね」
 早々に結論を出すと、朱鞠は一刻も早く「コオリオニ」について調べるために図書館へと駆ける。

 図書館に到着すると、朱鞠は脇目も振らずに先発の猟兵が発見した「オカルト書籍コーナー」に向かう。
「陰気なところね。嫌な霊気が濃密に漂ってる。ここを知らない子が多いのはこのせいね」
 聞き込みがはかどらなかった原因を分析しつつ、本棚の背表紙に視線を走らせる。
 しかし、何度タイトルを確認してみても、「コオリオニ」やそれに関連するような本は見当たらない。

「ここにはないようね。他の場所か……誰かが借りてった可能性もあるかな」
 それなら司書に頼んで本の貸出履歴を確認してもらえばよさそうだ。
 しかし、貸出カウンターには学校司書はおらず、代わりに図書委員の女子生徒が座っていた。
「申し訳ございません。司書の神林は急用で早退しました。今日は私が代理を務めさせていただいています」
「そうなの? 私、コオリオニの本を探してるのだけど、あなた、知らない?」
 朱鞠が尋ねると、女子生徒は怪訝な顔をした。
「どうしたの?」
「あ、いえ……お探しの本が帰り際に神林さんに閉架書庫にしまっておいて欲しいって、渡された本だったので……」
「お願いします。その本を私に見せてください」
 神剣な表情で頭を下げて頼み込む朱鞠に気圧されるように、女子生徒は引き出しから一冊の本を取り出す。
 その本のタイトルは「コオリオニの宴」。それを見た朱鞠は安堵のため息をついたのだった。

●コオリオニの宴

 コオリオニは悲しき少女の霊である。
 コオリオニは『オトモダチ』を凍らせ、保存する力を持っている。
 少女が凍らせた人間は成長を止め、若さを保ったまま安らかな眠りに就くことができるだろう。

「これが噂の出処なのね。疫病が流行したときに村の守り神のコオリオニ様が顕現して流行が収まるまで村人全員を冬眠させてくれたなんて伝承もあるのね……どれも胡散臭いな」
 ページを次々にめくり、流し読みをしながら、朱鞠は感想を述べる。
 そして、彼女はようやくお目当ての「コオリオニの宴」の手順が書かれたページを見つける。その概要は以下のとおりである。


 「コオリオニの宴」は三人の未婚の巫女によって執り行われる儀式。宴は『逢魔が時』に、潤沢な水を湛えた池の水辺で行われる。
 三人の巫女は邪神の加護を受けた「護符」を首から下げ、自らの血を染み込ませて乾かしておいた和紙で作った「鬼の形代」を持ち、池の周囲に描いた魔方陣の周りに立つ。
 立つ位置はそれぞれ子(北)・辰巳(南東)・羊申(南西)の方角とし、そこから鬼の形代を水面に浮かべる。
 そして、『死の危機に直面した人間が発する悲鳴』とともに呪文を唱えれば、コオリオニが召喚されるという。
 
 人間の悲鳴はコオリオニにとってオトモダチの呼び声だ。コオリオニは悲鳴を上げたオトモダチから生気をもらい、覚醒める。いわば人間の悲鳴はコオリオニの活力源であり、覚醒の鐘。正しく召喚するためには大騒動を起こさねばならない。
 

 おそらく3人の少女たちは、難病の朝井ヒナを病気の治療法が確立される未来まで冷凍保存しようとしている。そのための手段が「コオリオニの宴」なのだと、朱鞠は推理した。
 しかし、召喚したUDCが彼女たちの頼みを素直に聞いてくれるはずはない。誰かに言いくるめられたとしても、正気を失い、正常な判断ができていないのは明らかだった。

 宴までのタイムリミットが迫っている。朱鞠は思考を巡らせ、情報を整理していく。
「校内の生徒たちが悲鳴を上げると、生気を奪われて失神する……そういう術式なのね。そのための脅かし役が汚泥の咎忍ってわけね……儀式の場所は池。術式の効果から推察すると校内に魔方陣がありそうだけど……」

 術式の予想有効範囲は校内全域。魔方陣があるのは、池もしくは池のように水を溜めておける場所だろうが、それがどこかわからない。
 時間がない。手がかりはないだろうか。
 朱鞠が仲間に助けを求めようと通信端末を手に取ったとき、チャットの通知音が鳴り、潜入中の猟兵の一人から「人払いの結界」が何重にもに張られている怪しい場所があるとの情報がもたらされる。
 そこは夏季にだけ開放される屋上プールの階段へと続く通路だった。
「コオリオニの宴が行われるのは屋上プールね……手が空いてる人はそこに集合よ!」
 朱鞠は通信端末で潜入中の猟兵たちに呼びかけるのだった。



 気づけば時刻は午後5時50分過ぎ。事件発生まで10分を切っていた。
 猟兵たちが情報共有に使っている通信端末の全体チャットには、様々な情報が慌ただしくもたらされる。
 
 椚みどろは朝井ヒナと連絡がついたが、なぜか放送室を探しているようだった。
 ミリアリア・アーデルハイムは、生物教師の望塚の足跡を追っていた。
 集団失神事件の阻止に動く猟兵たちからは、「咎忍『水錦』」が下水道で大量に増殖してるようだという懸念材料がもたらされたが、同時に人払いの結界や通行禁止の看板を使って水場を避けて下校できるルートが確保されたとの朗報もあった。
 
 潜入した猟兵たちは、自らの出来うる限りの行動を取り、一丸となって大惨事を防ごうとギリギリまで奔走していた。
 そして、午後6時。果たして猟兵たちは事件を阻止できるのであろうか。
(第二章の断章に続く……)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『咎忍『水綿』』

POW   :    忍法・沼鉄砲
【腐食性のヘドロ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    忍法・濁り霧
自身に【毒性のある瘴気】をまとい、高速移動と【不快な臭いの毒ガス】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    忍法・水泥ヶ淵
【千切った体の一部】を降らせる事で、戦場全体が【沼底】と同じ環境に変化する。[沼底]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●追い詰められた男

 男は屋上プールへと続く階段を全速力で駆け上がっていた。
 心臓は既に限界を越え、破裂しそうだが、追っ手は背後まで迫っている。
 
 おいおい、あんな奴らが邪魔が入るなんて聞いてないぞ。
 まるでこちらの動きを予知していたかのように、あらわれやがった。
 研究用に封入しておいた「水綿」のアンプルを咄嗟に投げつけて時間をかせいだが、奴らはあっさりと退けたようだ。
 計画は台無しだ。だがプランAがダメでもプランBがある。
「鬼」を復活させることができれば、奴らなどひとたまりもないはずだ。
 それにしても「術士」の逃げ足は早すぎねえか。不測の事態に対処するのもオマエの仕事だろうが。
 術士は今頃、お社で高みの見物をしているところか。まったくいいご身分だぜ、あのクソアマは。

 教団の捕獲部隊の到着も遅い。「鬼」の召喚が成功したら捕獲して研究所に運ぶ手はずだったのに……。
 男の脳裏に嫌な考えがよぎる。もしや、俺は教団から切られたのか。
 いや、それは絶対にない。「鬼」を使いこなし人体冷凍保存技術を確立できるのは俺だけだ。
 教団の古参幹部には老人も多い。延命につながる技術は喉から手が出るほど欲しいはずだ。
 絶対にない。絶対にない。絶対にない。絶対……まさか奴等が動いたのか。

 男はようやく悟った。若手幹部が率いる改革派『黒穢土』が動いたことを。
 教団幹部の主導権争いが激化しているという噂を耳にしたことはあったが、研究以外に興味を持たなかった彼は、自らの身に迫る危険を見逃していたのだ。

 「クソッ、裏切りやがってぇぇぇ!」

 追い詰められた男は、憤怒の形相で叫ぶ。
 全身から溢れ出るような怒気は、狂気を増長させ、肉体から苦痛を取り払う。
 男の胸では木製の髑髏が不気味に笑っていた。「護符」の過剰な使用により、男の魂は疲弊していた。
 そして、彼は最後の命の炎を燃やし尽くすかの如く速度を上げ、階段を駆け上っていく。


●コオリオニの宴〜屋上プールにて〜

 午後六時。昼から夜へと移り変わるこの時間は、古来より「逢魔時」と呼ばれ、異界の存在に遭遇しやすい時間とされている。
 茜色の空に宵闇が少しずつ広がっていく。西の空には上弦の月が浮かび、人間たちの愚行を見おろしていた。
 
 藻が繁殖し、緑色に濁った水を湛えた屋上のプールの周囲に描かれた魔方陣。
 その縁に直立するのは3人の少女だ。彼女たちは自らの血で赤黒く染まった鬼の形代を水面にゆっくりと浮かべると、首にかけた髑髏の意匠のペンダントを握りしめた。
 
 コオリオニの宴の始まりである。
 あとは校内から悲鳴が上がれば、事前に暗記しておいた呪文を唱えるだけだ。
 少女たちは儀式の成功を確信していたが、待てど暮らせど騒動が起こる気配はない。

「悲鳴が上がらない?」
「どうして……このままじゃ、儀式が失敗しちゃうよぉ」
「二人とも落ち着いて……大丈夫、先生が失敗するはずないから……」
 
 彼女たちは知らない。猟兵たちの活躍で計画が頓挫してしまっていることを。
 こうして「コオリオニの宴」は失敗した……かに思われた。
 ところが……。

――チトニクトタマシイヲササゲヨ、チトニクトタマシイヲササゲヨ、チトニクトタマシイヲササゲヨ……

 少女たちの頭の中に直接語りかけてくるような声。それは亡者の如くしわがれていたが、有無を言わさぬ強制力を持っていた。
 首から下げたペンダントが禍々しき光を放ち、彼女たちに残された正気を狂気へと塗り替えていく。

 校内に潜んでいた邪神教団の「術士」が、儀式を完遂するために動き出したのだ。
 それは、何らかの原因で条件が整わず、儀式が失敗しそうになったときのみに発動される代替プラン。

 狂気に染まった信者の血と肉と魂を捧げ、強引に召喚を成し遂げる禁忌の呪法。
 それは高位の術士だけが自らの寿命を削ってのみ使うことができるものだった。

 術士の力で正気を奪われた少女たちは虚ろな瞳で何もない空間を見つめ、不気味な笑みを浮かべながら、自らのすべてを捧げようと一歩前に出る。
 3人の前には邪悪な光を湛える水面。少女たちは一斉にポケットからカッターナイフを取り出す。
 そして、それを首に押し当て――――られることはなかった。
 彼女たちの体が何かに反応し、その動きを止めたからだ。

 校内のすべてのスピーカーから流れる、天使の歌声。
 歌声は途切れ途切れで、声量は元気なときに比べて明らかに落ちていたが、3人の親友たちに向けた、魂を震わせるような歌声だった。

「ヒナ……」
「ヒナちゃん……」
「私たちのアイドル……」
 3人の手からカッターナイフが滑り落ち、微かに震える唇から声が漏れる。
 彼女たちの虚ろな瞳から堰を切ったように涙が溢れ、彼女たちの心を覆っていた狂気が洗い流されていく。
 
――チトニクトタマシイヲササゲヨ、チトニクトタマシイヲササゲヨ、チトニクトタマシイヲササゲヨ……

 しかし、術士が再び正気を奪おうと、しわがれた声で語りかけてくる。

「「「うるさい!」」」
 
 ヒナの歌声が聞こえないでしょ。3人は苛立ち紛れに叫ぶと、首から下げていた「護符」を引きちぎり、投げ捨てた。術士とのリンクが切れた少女たちは脱力し、崩れるように座り込む。
 3人が宵闇に染まる空をぼんやりと見上げ歌声に耳を傾けていると、唐突に歌声が途切れ、涙声の少女の言葉が響く。

「トモナ、カナ、カスミ……ごめんね。3人がわたしのことでそんなに思い詰めてるなんて全然知らなくて……わたし、こんな体になって、みんなの負担になりたくなくて、みんなに嫌われるのが怖くて……みんなのこと、遠ざけてた。でもね、今はわたし、希望は絶対あるって信じられるんだ。みんなにこんなに大切に思ってもらえる私が、病気なんかに負けるわけないよね。だからお願い、これからもわたしを応援して!」
 朝井ヒナが発した本心の言葉は、3人の心に確かに届き、完全に正気を取り戻した少女たちは声を上げて泣き出した。
  
 しかし、少女たちの心が解放されても、コオリオニの宴はまた終わってはいなかった。
 鬼の形代が浮かぶ水面も、邪悪な光が満ちたままだ。
 すると、ひとときの平穏を打ち破るように、喧騒が近づいてきた。複数人が階段を昇る足音。荒々しい息遣い。そして、屋上のドアが弾けるように開いた。
 猟兵たちに追われるように入ってきたのは白衣の男、生物教師の望塚鳴章だ。
 追いかけてきた猟兵たちはプールサイドに座り込む少女たちを救出し、階下へと運んでいく。

「うがあぁああああ! 何もかも台無しだ。クソッタレがぁぁぁああああ!」
 顔面を血の色に染め、猛獣の咆哮のように怒りをぶちまけると、幾分冷静になった男は首から下げた「護符」を握りしめながら空に向かって叫ぶ。
「おい、クソアマァ、聞こえてるんだろぉ。プランCだ。てめえの望みどおり、俺のすべてをくれてやる! とにかく『鬼』を呼び出して、俺の計画を台無しにしやがったゴミクズどもを…………ぶち殺してやる!」 
 そして、全身を狂気を纏った白衣の男は解剖用のメスを取り出し、自らの首を切り裂いた。
 ザックリと裂けた首筋から吹き出す鮮血。男は薄ら笑いを浮かべながらヨロヨロとプールサイドに歩いていき、邪悪な色に染まる水面に身を投じた。
「ヒギィィィィィィ!」
 それは人間が発したものとは思えない、耳を劈くような悲鳴だった。それはまぎれもなく、コオリオニを召喚する呼び声。 

 こうして生贄が投じられ、水中で穢れた血と肉と魂、さらに男が断末魔とともに迸らせた狂気が交わり、プールに周囲に描かれた魔方陣が禍々しき光を放ち、空間を断絶する強力な結界が周囲に張られる。
 UDC召喚の術式が発動したのだ。
 とはいえ、これは妥協に妥協を重ねた不完全な召喚。召喚完了までもうしばらくかかるだろう。
 こうなってしまえば、猟兵たちに止める術はない。護符を介して術式を発動させる術士は安全な場所にいる。探し出して儀式の邪魔することは不可能だった。


 男の凄絶な死を見せられ、唖然とする猟兵たちの前に、もう一つの脅威が立ちふさがる。 
 召喚主の憎悪と狂気は、咎忍『水綿』の増殖を促し、さらに召喚主が絶命したことでその制御を失ったのだ。
 水綿たちは本能のままに血肉を求めて排水口から飛び出し、人間たちを襲おうとしている。

 生徒たちは猟兵たちが事前に確保していた、水場を通らない安全なルートを通って下校を完了しつつあるが、教職員など、まだ学校に残っている者も大勢いる。校内の安全確保のために早急な駆除が求められる。
 
 猟兵たちは何人かの見張りを屋上に残し、校内のUDCの駆除に向かうのだった。


●待ち構える汚泥の忍者

 校内のとある水場の床は、ぬかるんだ泥にすっかり覆われていた。既にここは「咎忍『水綿』」の巣と化している。
 突然、排水口を発射台にして汚泥の塊が飛び出す。それは放物線を描いてぬかるんだ地面に落下していく。

 グシャリ。腐った果実が潰れされたような不快な音がして、泥の塊が吐瀉物のようにぶちまけられた。
 有機物を豊富に含む汚泥で構成される、粘性と弾性を兼ね備えた不定形のUDC。 
 それはナメクジのようにズルズルと地面を這いずりながら、粘液の触手を垂直に伸ばしていく。
 伸ばした触手の先端の一つが風船のように膨張し、黴が生えた卵のような頭部が形作られ、そこに不気味な光を帯びた2つの「目」があらわれる。

 排水口から出現したのは下水道で増殖した水綿のうちの一体。
 だが、その背後には無数の目があった。残忍な光を宿す、異形の眼光。よく目を凝らすと、地面だけでなく、天井や壁面に張り付いたまま蠢く、数え切れないほどの水綿の存在が確認されるだろう。
 それらは不気味な光沢を放つ頭部を鎌首のようにもたげ、威嚇するように触手を振り回し、獲物を待ちかまえていた。
 
 
●マスターより(補足情報)
 第二章に登場する集団敵は『咎忍『水綿』』 です。
 なお、以下の情報には独自解釈が含まれますので、他のシナリオでの再現性は保証されません。

・不定形タイプの怪物である水綿は、伸びたり、縮んだり、膨らんだりして形を変えますが、単細胞生物のように核(コア)を破壊されると、絶命する(骸の海に還る)UDC怪物だと解釈しています。
・核の位置は常に眉間(2つの目のようなものの間)にあるようです。

・白穢土高校の下水道で分裂を繰り返すことで個体数を増やした水綿は、排水口から次々と飛び出し、本能のままに襲ってきます。
・水綿は調理実習室、理科室、給湯室、シャワー室、トイレ、廊下の水飲み場などの排水口のある場所に巣を作っていますが、猟兵が近づくと襲いかかってくるので、戦いやすい場所まで誘導して戦うことも可能です。

・水綿との戦闘は悪臭がする泥で汚れる可能性があります。戦闘中に衣服を汚したくない場合には、対処法をお書きください。
 ちなみに、水錦が消滅すると、その個体の攻撃に由来する汚泥やヘドロは一緒に消滅しますが、それとは関係のない一部の泥は残るようです。

・学校という場所を活かしたプレイングにはボーナスがつきます。

◎二章からの参加も大歓迎です。まだ不慣れですが、皆様に喜んでいただけるように頑張ります。
リック・ランドルフ
…とんだ置き土産を残していったもんだなおい。 血痕って拭き取るのに苦労すんだぜ全く。

(やれやれと溜息を吐きながら校内の廊下を駆ける。目的地は先程自分が確認した水飲み場)

(途中、廊下は走ってはいけないって壁紙が視界に入ったり)

(時と場合によるよな、と言い訳しながら速度を上げる。普段銃弾の雨やら爆発から逃げてきた【逃げ足】を活かして)



まだ居るんだろ?なら出てこいよ。それともビビって出てこれないか?


安い挑発をかましながら敵が出てきたら更に廊下を駆け出す。行先はこの廊下の先、行き止まりだ。


ここならお互い攻撃を外さないよな。じゃ、勝負と行こうぜどっちの手が速いかな――!(早業、ロープワーク、地形の利用)



●袋の鼠
「……とんだ置き土産を残していったもんだなおい。 血痕って拭き取るのに苦労すんだぜ全く」
 屋上プールでの召喚の儀式では大量の血が流れた。プールサイドに付着した男の血痕は簡単には取れないだろう。
 リック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)は、刑事としての経験上知っている後片付け作業の大変さを想像し、やれやれと嘆息する。
 ともかく急ぐとするか。彼は一刻も早く現場に向かうために廊下を駆ける。

 そして、到着したのは2階本校舎の廊下にある水飲み場。そこは彼が白穢土高校に潜入して最初に調査した場所だったが、現在は咎忍『水綿』の巣窟へと変貌を遂げていた。
 床はタールを塗りたくったように隙間なく深緑色の泥で覆われており、壁と天井にも広範囲に同色の泥が付着している。水飲み場周辺は、一見して地底洞窟のようにも見えた。
 
 目を凝らしてみると、泥溜まりの中に無数の「目」が残忍な光を放ち、異形の怪物たちが汚泥に「擬態」しているのがわかる。
 徐々に、縄張りを広げながら、そこを通る人間を待ち構えているのだろう。
 このまま放置しておくわけにはいかない。早急な対処が必要なのは明らかだったが、ぬかるみに足を取られ、大幅に動きを制限されるこの場所で戦うのは得策ではない。
 そう判断したリックは安い挑発の言葉を大声で投げかける。 
 すると、殺気立った水綿が泥溜まりから何匹か顔を出し、威嚇するように鎌首をもたげる。
 ここにはまだまだ潜んでいるはずだ。リックはさらに挑発するべく、声を張り上げる。

「まだ居るんだろ?なら出てこいよ。それともビビって出てこれないか」
 
 執拗な挑発の言葉に、水綿の群れ全体に殺気が拡がったことを察したリックは、即座に踵を返す。
 彼の背後で泥を跳ね上げるように移動を始める水綿の群れ。
 それらは殺気と瘴気をまとい、床、壁、天井をそれぞれ滑るように疾駆し、走り出したリックを追跡する。
 
 廊下を疾走するリックの目にふと、壁の貼り紙の文字が飛び込んでくる。『廊下は走らないこと』か……まあそれは時と場合によるよな。
 刑事であるリックは規則を破ることに多少の抵抗感を感じつつも、自分を納得させ、腕の振りを大きくして更に加速する。

 しかし、水綿たちの移動速度は予想以上に速かった。
 体力に自信があるリックだが、早くも筋肉が悲鳴を上げ始める。
 背後をチラリと振り返ると、仲間の殺気に当てられた水綿の群れがトイレから飛び出し、リックを追う水綿の軍勢に加わったようだった。
 異形の怪物たちは、さらに勢いづいたように速度を上げ、リックとの距離を縮め始める。

「それは速すぎねえか? だが、俺は銃弾の雨を何度もくぐり抜けてきてるんだぜ……俺の逃げ足は、こんなもんじゃねぇんだぁあああ!」
 
 肉体の限界は確実に近づいていたが、リックは雄叫びを上げ、我武者羅に地面を蹴ってさらに加速し、迫ってくる水綿の群れを引き離す。
 そして、廊下の行き止まりまで走り抜けたリックは壁を背にして振り返る。
 ようやく「敵」を追い詰めた不定形の怪物たちは壁、天井、床に大量に蠢き、獲物の命を奪わんと臨戦態勢を整えようとしていた。
 まさに「袋の鼠」だった。ここまでくればもう逃げ場はない。絶体絶命のピンチだ。
 しかし、追い詰められていたのはリックではなく、水綿たちのほうだった。

 背水の陣。壁を背にすれば、背後から狙われることなく心置きなく戦える。
 そして、リックは逆境に立たされたときこそ、真価を発揮するタイプの人間なのだ。
 意を決した猟兵刑事は眼光鋭く、異形の怪物たちを睨みつける。
 その覇気に、本能的に危機を察知した水綿たちが静止し、わずかに隙が生じた。

 俺の死に場所は俺自身が決める。不退転の覚悟とともに背負う巨大な十字架を、リックは自身の目の前に突き立てる。

「ここならお互い攻撃を外さないよな。じゃ、勝負と行こうぜどっちの手が速いかな――!」

 それは紙一重の差だった。頭部を膨らませ、毒ガスを吐き出す寸前の水綿たちに、捕縛の鎖が絡みつき攻撃を封じていく。
 間一髪で間に合ったユーベルコードの発動に安堵のため息をつき、リックは捕縛した水綿の群れにトドメを刺すべく、愛用の拳銃を構えるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

馬県・義透
『疾き者』のまま。
武器:漆黒風

なるほど、裏で動かしてる人がいましたかー。ですが、今はそれは後回し。
コオリオニ…鬼ねぇ。私と彼(第二『静かなる者』)がこの依頼に惹かれたのは、そういう理由ですかー。

真の姿…『風絶鬼』(2020年12月19日分)の方にて。意趣返しですよ。
さて、潜入で教師やってるときにある程度は把握しましたよー。

廊下の水飲み場に立ち寄り、そのまま近くのトイレへ。
ええ、前後挟まれますよねー。それが狙いなんですが。
鬼蓮よ、舞いなさいな。狙った敵のみを引き裂きますからねー。範囲広いですよー。

風属性の結界術でちぎった身体も散らして。沼底にはさせませんし、泥濡れにもなりませんよー。



●鬼
「コオリオニ……鬼ねぇ……私と彼がこの依頼に惹かれたのは、そういう理由でしたかー」
 事件の真相を知った馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は、なんだか意味深な台詞を残し、校内で縄張りを広げている咎忍『水綿』の駆除に向かう。
 古文の臨時教師として潜入調査をしつつ、「人払いの結界」を使って生徒の下校ルートの確保に協力していた義透は、危険な水場も把握していた。彼は「開かぬ目」でいつも抜け目なく周囲を観察しているのだ。
 
 他の猟兵の戦いぶりを見つつ、義透が到着したのは、本校舎一階廊下の水飲み場。そこは水場の中でも一番玄関に近く、要注意ポイントの一つだった。
 案の定、水飲み場の近くは泥溜まりとなっており、多数の水綿の気配も感じられるが、義透は全く表情を崩さずにそこに向かって飄々と歩いていく。それはまるで諸国漫遊の旅をする武士のような佇まいだ。
 義透はおもむろに懐から取り出した棒手裏剣『漆黒風』を、泥溜まりに向かって投げつける。それは怪物に命中せずに地面に突き刺さっただけだったが、彼の霊力が残留する投擲武器は、怪物たちに「敵」の存在を認知させ、敵対心を煽るのに十分な効果を発揮していた。
 
 泥溜まりの中から、ニュルリ、ニュルリと異形の怪物たちが顔を出し、群れとなって大移動を開始する。
 義透は水綿の群れの移動に合わせ、自らの目印となる霊気を大気に漂わせながら、少しずつ後退していく。 
 
 その後も忍び歩きで音もなく移動し、ときおり棒手裏剣を投げつけて気を引きつつ、一定の距離を保ちながら水綿の群れを引き連れていく義透。
 そして、彼が唐突に飛び込んだのは、多数の排水口が存在するトイレである。
 当然、そこも既に泥溜まりが出来ており、排水口から次々と湧いて出る水綿の軍勢と鉢合わせすることとなった。
 背後には自らが引き連れてきた水綿の大群。完全に挟み撃ちの格好になるも、義透は全く動じていない。 
 
 不意に義透の力がどっと膨れ上がり、彼を取り巻くように一陣の風が吹いた。
 風が止むと、そこには前頭部に緑色の二本角を戴く「鬼」がいた。義透の真の姿の一つ、『風絶鬼』だ。
 「鬼」は普段は開かぬ目を見開き、自らを取り巻く咎忍たちを見据える。

「鬼蓮よ、舞いなさいな」
 
 冷厳たる言葉が放たれ、渦巻く颶風ととともに無数の『鬼連』の花びらが舞い踊る。
 花びらはあたかも手裏剣のごとく鋭く回転し、縦横無尽に汚泥の怪物たちを切り刻み、容赦なく屠っていく。
 核を砕かれ、泥しぶきをあげ、蒸発し、骸の海に還っていくおぞましき汚泥の怪物たち。
 追い詰められた水綿たちは苦し紛れに己の肉を千切り、汚泥の雨を降らすも、強力な風の結界を身にまとう『風絶鬼』の体に触れること能わず。

 四天境地・風。そのつけ入る隙のない広範囲攻撃の餌食になり、跡形もなく水綿の軍勢が消滅すると、「鬼」は再び目を閉じ、普段の柔和な表情に戻るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

政木・朱鞠
これが「勝ちさえすればそれが常道」と基礎を蔑ろにした末路って事なんだね…。
一刻も早く命を冒涜した咎でお仕置きしてやりたい所だけど…痕跡が残るのはちょっと良くないから後始末のしやすいシャワー室の誘い込んで仕掛けを開始するよ。
貴方には無用な災禍を生んだ咎で骸の海へ一旦帰って貰うよ。

戦闘【POW】
毒ガスや悪臭とかは厄介だけど…『忍法・煉獄炮烙の刑』のコントロール可能な炎で水綿達を丸焦げにしてやりたいかな…。
得物は急所への【貫通攻撃】を狙って刑場槍『葬栴檀』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】【生命力吸収】の合わせで間を置かずダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎



●シャワー室
 白穢土高校には兎にも角にもシャワー室が多い。
 すべての運動部の更衣室にシャワー室が併設されており、シャワーヘッドと同じ数の排水口もある。合計すればその数はゆうに五十は越えるだろう。
 とはいえ、運動部の生徒たちは既に下校済みだ。人間の匂いを嗅ぎつけて排水口から異形の怪物があらわれる可能性も低い。それならばそこは後回しにして他の場所を優先させるべきだ。
 潜入中の猟兵たちがそう結論付けようとしたとき、少しでも可能性があるのなら、被害が拡がる前に誰かが見回りに行くべきだと提案した者がいた。
 理由はわからないが、咎忍『水綿』の駆除に並外れた意欲を示している政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)である。
 それなら発案者のキミが行くべきだろう。そんな話の流れになり、朱鞠は単身で運動部の更衣室を巡回をすることになった。
  
 運動部の更衣室を一通り巡り、遭遇した水綿はたったの2体。それらは朱鞠が持つ刑場槍『葬栴檀(そうせんだん)』の一突きで葬られていた。
「思ったとおり、こっちにはほとんど出てきてないのね。これで少しはやりやすくなるかな」
 他の猟兵も来ておらず、邪魔が入らないことを確認した朱鞠は口元に笑みを浮かべ、本当の目的のために動き出す。
 
 まずは「拷問部屋」の確保だ。その条件は、できるだけ人目につかない広い場所で、「痕跡」を消しやすい場所。
 それならば、男子サッカー部の更衣室が良さそうだ。この学校はサッカーの強豪校らしく、最大の部員数を誇る男子サッカー部の更衣室と併設のシャワー室は運動部の中で一番の広さだ。
 その上、できるだけグラウンドに近い場所に設置するためか、本校舎と渡り廊下でつながる別棟に位置している。秘密裏に行動するには最適な立地だった。
 そんなふうに拷問部屋を決めた朱鞠は、早々に男子サッカー部の更衣室へと移動し、シャワー室に水綿を呼び寄せる秘伝の仕掛けを施し、外に出てしばらく待つことにする。


 15分後。水綿の出現を警戒して見回りをしていた朱鞠が戻ってくる。
 更衣室のドアの前で聞き耳を立てると、幾つものも水音が重なり合い、多数の咎忍たちがひしめき合っているのを感じられた。
「あれ? シャワー室から出てきてる? これはちょっと掃除が必要かもね」
 朱鞠は男子サッカー部のシャワー室に、まだ下水道に潜んでいる咎忍たちをおびきよせ、奴らを根こそぎ葬ろうという計画を立てていたのだが、予想以上の数をおびき寄せてしまっていたようだ。
 彼女は長槍の『葬栴檀』を構え、更衣室に飛び込む。
 
 更衣室には、床に1体、壁に2体、天井に2体の合計5体の咎忍がいた。シャワー室のドアがわずかに開いており、その隙間から出てきたようだ。
 咎忍たちは朱鞠の存在に気づくと、鎌首をもたげて威嚇する。数の上では有利だが、咎忍たちも本能的に彼女が自分たちの「天敵」であることを察知しているのだろう。警戒しているのか、なかなか襲ってこない。
 とはいえ、前座の処理に時間をかけている余裕はない。
 
 朱鞠はまず天井に貼り付く一体に不意打ちの突きを食らわせ、屠る。
 すると、左右の壁に陣取っていた二体が反撃とばかりに泥の鉄砲を発射する。
 二方向から高速で飛んでくる腐食性のヘドロ。朱鞠はそれをバックステップで躱すと、左壁の一体を一突きで葬り、右壁の一体を石突で穿つ。二体を戦闘不能にしたものの、朱鞠の足元はがら空きだった。そこへ瘴気をまとった咎忍が地面を滑り、突進してくる。
「うわっ!」
 咄嗟に跳躍し、間一髪で躱す朱鞠。さらにその隙をついて天井に貼り付いていたもう一体が瘴気をまとい、飛び込んでくる。弾丸のように飛翔する咎忍。それを朱鞠は葬栴檀の柄で反射的に弾く。
 重力に従って地面に落下した咎忍を着地とともに串刺しにすると、朱鞠はそのままの穂先で、地面を這って突進してくる残り一体を突き刺すのだった。
 
 葬栴檀の長い刃に串刺しにされ、断末魔の悲鳴を上げることなく、骸の海に還っていく二体の咎忍。先に倒した三体も黒い煙を上げ、この世界から消えていく。更衣室を制圧した朱鞠は、安堵のため息を吐く。
「ふぅ、少し危なかったね……さてと、お仕置きの時間といこうかな」
 続いて彼女が向かったのはシャワー室。そこは既に咎忍たちの巣窟となっていたが、朱鞠は冷ややかに微笑むと、早々にユーベルコードを発動させる。

『私の紅蓮の宴…篤と味わいなさい……貴方の罪が煉獄の炎で燃え尽きるその時まで……』
 
 炎を帯びた拷問器具がシャワー室の中央に召喚される。それは蔓薔薇のような鎖をシュルシュルと伸ばし、室内に巣食う異形の怪物たちに次々と絡みつき、その動きを封じ、煉獄の炎で焼いていく。
 しかし、鎖から噴き出す炎の火力は抑制され、すべてを焼き尽くすまでまだまだ時間がかかりそうだった。
「ぐぼぉぉ……ぐぼぉぉぉ……ぐぼぉぉぉ……」
 絶妙な火加減でジワジワと炙られた水綿が、いかにも苦しげな音を出す。体内の液体成分が沸騰したのだ。
 水綿は苦痛に喘ぐように、ジタバタと頭部を動かして巻きつかれた鎖から逃れようとするが、もがけばもがくほど、鎖がキツく締まり、薔薇の棘のように鋭利な炎が深く内部組織へと突き刺さり、さらなる苦痛を与える。

 それはできるだけ長く痛みを持続させるための、無慈悲で拷問的な攻撃だった。
 
「貴方には無用な災禍を生んだ咎で、骸の海へ一旦帰って貰う……でも楽には逝かせないよ」

 忍の掟を破り、大勢の人を殺めた報いは、蘇るたびに受けてもらう。
 咎忍『水綿』は、既に理性も知性も失い、宿敵すらも忘れた単なる「怪異」に近い存在である。
 何度骸の海に還しても、再び召喚され、蘇ることだろう。
 それならせめて、その体に地獄のような苦痛を覚え込ませ、こちらに戻ってくる気が削がれるようにしなければいけないと、「咎忍殺し」は思う。

 そして、すべての咎忍が黒焦げになり、骸の海に還るのを見届けると、朱鞠は「拷問部屋」を後にするのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

早臣・煉夜(サポート)
わ、わ、敵がいっぱいです
どんな方だろうとも、容赦なんてしませんですよ
僕はそのために作られたんですからね

妖刀もしくはクランケヴァッフェを大鎌にかえて
どちらかもしくは両方を気分で使って攻撃です
妖剣解放を常時使用して突っ込みます
怪我なんて気にしません
この身は痛みには鈍いですから
死ななきゃいいんです
死んだらそれ以上倒せなくなるので困るです

僕は平気なのですが、なんだかはたから見たら危なっかしいみたいですので
もし、誰かが助けてくださるならお礼を言います
ありがとーございますです

勝利を優先しますが、悲しそうな敵は少し寂しいです
今度は、別の形で出会いたいですね

なお、公序良俗に反する行動はしません
アドリブ歓迎です


八重森・晃(サポート)
『滅び<スクイ>がほしいのかい?』
 ダンピールのウィザード×聖者、14歳の女です。
 普段の口調は「母親似(私、君、呼び捨て、だ、だね、だろう、だよね?)」、怒った時は「父親似(私、お前、言い捨て)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
 スペースノイドのウィザード×フォースナイトの女性です。
 普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


藤堂・こずゑ(サポート)
あまり見た目妖狐っぽくないけど、妖狐なの

右目を何とか見せない、見ない様に生きてるわ
妖狐な部分は出したくないから…

依頼に拘りは無いわ
誰とでも連携し、どんなのでも遂行してみせるわよ
日常パートはアンニュイな感じでクールに過ごすわ
一応喜怒哀楽はあるつもり

戦闘パートは古流剣術で挑むけど…
流派は忘れちゃった
マイナーだから廃れちゃったみたい

振るう刀は宵桜(ヨイザクラ)ね
可愛いでしょ

大気の流れを読んで攻撃したり避けたり、後の先を得意とするわ

UCはどれでも使用し、攻撃するUCばかりだけど…
他の猟兵との連携などで避けて敵を引き付ける必要がある時は『流水の動き』を使ってね

後はマスター様にお任せするわ
宜しくね


ミリアリア・アーデルハイム
避難誘導される学生に交じって、避難完了を見届け、
水まわりで、まだ手が回っていなさそうな場所に向かう

教職員用給湯室、温室内観察池、給食室 など

戦闘力には余り自信がないので、同行者があると助かります

基本は「万里鏡」を使用して現地の様子を偵察し、可能そうなら不意打ち
浄化、掃除で泥沼化を排除
UCに「神罰」を足して攻撃

自らの意思も持たず、召喚されたばかりの哀れな化け物ではありますが
人々を害する以上ゴミ認定です。
きっちりお掃除して差し上げましょう!!



●籠城する水綿
 猟兵たちの活躍により、下水道で繁殖していた「咎忍『水綿』」の駆除は着々と進んでいた。
 水綿は簡易な儀式で呼び出せる雑兵に過ぎない。精鋭部隊である猟兵たちとの力の差は歴然だった。
 もうすぐ、校内の水綿を駆逐できる。誰しもがそう思った矢先のことだった。
 調理実習室に異形の怪物たちが立てこもっているとの報せが入ったのは……。

 仲間の巣を次々と潰された水綿たちは、このままでは全滅は不可避だと本能的に悟り、生き残りを図るために残存勢力を集中させ、最後の抵抗とばかりに「籠城戦」を始めたというわけだ。
 屋上プールでは魔方陣の中で邪悪な力が膨れ上がり、強力なUDCの召喚の瞬間が刻一刻と迫っている。
 心置きなく戦うためには早急な事態収束が求められる。 
 とはいえ、それぞれの持ち場もあり、現状では校内に散った猟兵が集まるのを待って総攻撃をかけるのは現実的ではない。
 そこで手が空いた猟兵から志願者を募り、UDC組織の技術班の協力を得て突入作戦が決行されることになったのである。
 
●お掃除は好きですか?
 白穢土高校に新入生として潜入し事件の真相解明に尽力したミリアリア・アーデルハイム(かけだし神姫・f32606)は、事件に巻き込まれた生徒の安全を第一に考え、水綿の大量発生後は下校する生徒たちに紛れ込み、水場を避けた安全な下校ルートへの誘導を手伝っていた。
 幸い、水綿に襲われることなくすべての生徒たちの下校が無事に完了し、安全を確保することができた。これで生徒たちが被害に遭うことはないだろう。
 ミリアリアは安堵すると、校内に残る水綿の駆除に動き出す。
 とはいえ、一階と二階の駆除はほとんど終わっているようだった。彼女の出る幕はなさそうだ。
「あと水場といえば……教職員用給湯室、温室内観察池、給食室あたりでしょうか……」
 潜入調査で把握した水場。その中で水綿の巣になりそうなのはどこだろうか。
 校内を移動しつつ思案していると、背後からアンダーリム眼鏡をかけた人が良さそうな女性――高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)――が声をかけてくる。
「ご同業の方ですね。あなたもお掃除にいらっしゃるのですか?」
 唐突にかけられた言葉にキョトンとするミリアリア。満面の笑顔で彼女を見つめる茉莉。二人の間にチグハグな空気が流れる。
「……とにかく、いきましょうか。今は『お掃除大好き仲間』が一人でも多く必要なんです!」
「お掃除大好き仲間……でしょうか?」 
 事情はよくわからないが、お掃除の仕事があるらしい。
 お掃除が好きな人に悪い人はいない。ミリアリアはそんな謎理論で自分を納得させ、彼女についていくのだった。

●作戦会議
 白穢土高校本校舎2階にある被服実習室。
 作戦決行のための『物資』が運び込まれたその部屋で、水綿籠城事件を解決すべく、木製の大きな机に調理実習室の見取り図を広げ、それぞれの席に座る5人の猟兵たち。
 そして、事件の対策班の班長を任された茉莉がにこやかな表情で席についた四人を見回し、口を開く。
「『お掃除大好き倶楽部』の皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます」
「僕ら、お掃除大好き倶楽部になってるですか?」
 銀髪の少年が首をかしげる。彼はオブリビオンを狩るために生まれ、調整された個体、早臣・煉夜(夜に飛ぶ鳥・f26032)である。
「そうね、いつの間にかそうなってるわね。私、お掃除は好きでも嫌いでもないのだけど……」
 煉夜の疑問に応じたのは、長い黒髪で右眼を隠した和服の少女、藤堂・こずゑ(一閃・f23510)。一見してそうは見えないが、彼女は妖狐一族の末裔である。
「まあ、別に構わないだろう。いずれにせよ、私たちの『部隊』の名前は必要だったのだから」
 二人の言葉を受け、漆黒の髪と紫の瞳が印象的な大人びた少女が口を開く。彼女は八重森・晃(逝きし楽園の娘・f10929)。いろいろと闇を抱えてそうなダンピールの少女である。
 3人は全員十代の少年少女だが実力は確かな猟兵だった。


 茉莉に連れてこられたミリアリアも席についていたが、突然放り込まれた作戦会議に、ただただ戸惑うしかない。
「あの、すみません。私、全然事情をお聞きしてないのですが……」
 不安になって尋ねると、3人の少年少女の視線が彼女に集中する。実はミリアリアはこの中で一番の年長者である。
 しかし、元々童顔で高校の制服を着ているせいもあり、今は3人と同年代にしか見えない。
 年長者の威厳も全くなかったが、3人は逆に親しみを感じたらしい。
「あなたのお名前は?」
 こずゑが代表して名を尋ねると、ミリアリアは恥ずかしげにはにかみながら、自己紹介をする。
「皆さん、私、ミリアリア・アーデルハイトと申します。仲良くしていただけると嬉しいです」
 それはまるで転校生の自己紹介のようだったが、場の空気はそれをきっかけにすっかり緩んだ。少年少女と『お掃除大好き倶楽部』の会長の茉莉は、彼女に対して改めて自己紹介をし、本題に入ることとなった。


「ということで、皆さん、あまり時間がありませんので、手早く作戦会議を済ませましょう。まずは調理実習室の見取り図の確認からですね」
 茉莉は机の上の紙を指差しながら説明を始める。

 調理実習室は、シンクつきの調理台が10台ほど置かれている教室2つ分程度の広さの部屋。出入り口は両端に引き戸が1つずつある。出入り口の正面には窓があり、侵入経路は出入り口または窓ということになる。
 探知系のユーベルコードを持つ猟兵の調査によると、内部に立てこもってる水綿は100体以上で、特に入口付近に折り重なるように密集し、戸が開かないようにしているという。
「100体以上ですか?わ、わ、敵がいっぱいです」
 敵の数の多さに素直に驚く煉夜。隣に座るこずゑは、目を閉じてしばし考えると、口を開く。
「それよりも、『密閉空間』に立て籠もってるというところが厄介ね」
「うん、敵は毒の瘴気を吐き出すから、迂闊に踏み込むと全滅もありそうだね」
 こずゑの言葉を、晃が補足する。
 一方、ミリアリアはまた別の視点で物事を考えていた。
「それだけの数だと、床は泥で相当汚れているでしょうね。お掃除しがいがありそうです……」
 お掃除のことはともかく、地面はぬかるんでいて動きが大幅に制限されるだろう。
 不利な状況で水綿との戦いを強いられることも予想された。

 一通り意見が出ると、茉莉は足元に置いてあったダンボール箱を机の上に載せた。
「問題点は、皆さんがおっしゃった通りです。そのために今回は、UDC組織の技術班から、いろいろと装備をお借りしました。今回はこれを着て戦っていただきます」
「これ、なんです?服みたいですが……」
「レインコート……それからブーツもあるわね」
「……でもこれは長くは持ちそうにないね」
 煉夜、こずゑ、晃が箱の中の装備を手に取ってそれぞれ感想を漏らす。
 UDC組織の技術班が提供してくれたのは、毒の瘴気や腐食性の泥を防ぐことが可能だという、フード付きレインコート(雨合羽)とレインブーツ(長靴)だった。
「試作品ですので、耐久性に課題があるようです。長時間の使用には適していないでしょう。被弾もなるべく避けたほうが良いのでしょうね」 
「あの……後ろの箱は何でしょうか?」
 ミリアリアの視線は、装備の説明をする茉莉の背後に向けられていた。
「これはお掃除道具です。これはですね……あ、その前に役割分担を決めておきましょう。皆さんの能力を教えていたけますか?」
 掃除道具の説明を後回しにして、茉莉は全員の能力を聞き取り、ノートに書き込んでいく。
 そして、作戦の役割分担は、侃々諤々の議論を経て決まるのだった。


●作戦決行
 本校舎三階。調理実習室の前の廊下は閑散としていた。
 室内にはいくつもの水音が重なり合い、水綿たちがひしめき合っている気配が感じられるも、外に出てくることはない。
 水綿籠城事件の対策班、もとい、「お掃除大好き倶楽部」の五人は、漆黒のレインコートとレインブーツを身に着け、調理実習室から少し離れた廊下に集合した。
 決行を前に、お掃除大好き倶楽部会長の高階茉莉が、今回の作戦の実行手順を簡単におさらいする。
「今回は皆さんの能力から判断し、シンプルな正面突破がベストだという結論に至りました。『戸』と『窓』を破壊する許可はいただいてるので、ためらわずに破壊しても大丈夫です」
 その他の設備はできるだけ壊さないようと言われているが、多少壊れてもUDC組織がなんとかしてくれるだろう。とにかく全員で生き残ることが大切なのだと、茉莉は念を推す。
「というわけで、作戦の実行手順は、まず出入り口の扉の1つを破壊し、入口付近に立ち塞がるであろう『障害物』の排除。障害物を排除し窓への射線を通したら、晃さんに窓をすべて破壊していただきます。密閉空間が解消され、水綿が怯んだところをみんなで突入し、残存個体の各個撃破を狙います」 
 要するに奇襲によって動揺する敵をそのまま速攻で殲滅させる作戦だった。
「それから戦闘時のポジションの確認ですが、前衛が煉夜さんとこずゑさん、後衛が晃さん。そして、『お掃除係』が私とミリアリアさんです。晃さんには私、こずゑさんにはミリアリアさんがついてサポートします」
 お掃除係。最初は総ツッコミだったが、茉莉がその意図を説明するとみんな納得してくれた。
 水綿の巣窟での戦い。床は泥でぬかるみ、地の利は向こうにある。窓を破壊して換気ができても新たな毒ガス攻撃があるかもしれない。それに対処するための「お掃除係」だった。

「これを使うんですよね。すごく個性的なデザインですが……」
 おどろおどろしい形のヘッドがついたスティックタイプの掃除機を掲げるミリアリア。デザインはクロウラー型のUDCをモチーフにしたものらしい。
 吸引力は市販品の数十倍、小型ながらも容量は20リットルと驚愕の性能。UDCの肉片や瘴気を吸い込むことも可能だという。
 しかし、この道具は「お掃除スキル」を持ってないと使いこなせない。
 メンバーの中で【掃除】の技能を持つのは、茉莉とミリアリア。二人にしかできないポジションだったのである。
 
 そして、おさらいが終わり、茉莉の表情がにわかに険しくなる。
「それでは作戦決行です。では『お掃除大好き倶楽部』の副会長のミリアリアさん、一言お願いします!」
「え? 私が副会長? そんなこと、聞いていないのですが……」
「本当にお掃除が大好きなのは、ミリアリアさんだけですしぃ、お願いしますぅ」
 ふわりと表情が緩み、手を合わせて懇願する茉莉。そんな顔で甘えられたら、誰も断ることはできない。
 ミリアリアは気を取り直し、『お掃除大好き倶楽部』のメンバーを一人ひとり見渡しながら、掃除機を掲げる。

「自らの意思も持たず、召喚されたばかりの哀れな化け物ではありますが、人々を害する以上ゴミ認定です。きっちりお掃除して差し上げましょう!!」
 歯切れのいい言葉に一同の士気が上がり、作戦は実行に移されるのだった。

●突入
「それでは、いきますです!」
 調理実習室の扉から少し離れて立つ煉夜の手には、クランケヴァッフェの【グレイ】が握られていた。黒い流動性の「何か」で構成された可変武器は、彼の背丈ほどの長さの大鎌の姿に変化している。
 その強力な一撃は岩をも切り裂くとか、切り裂かないとか。いずれにせよ扉の破壊を担うポジションとして、彼以上の適役はいなかった。

 煉夜は足を前後に開いて腰を落とし、姿勢を低くして体を大きくひねると一旦静止し、目を閉じて呼吸を整える。
 気合の声とともに、大鎌が振るわれ――――ドガシャン!
 左下から右上へと放たれた斬撃。それは派手な衝撃音とともに引き戸二枚を両断し、扉に貼り付いていた多数の泥の怪物を骸の海に還す。
 そして、猟兵たちの目の前にあらわれたのは、巨大な泥の塊。侵入を阻止しようと集まってきた水綿の集合体だ。
 天井まで届くほどの巨体に模様のように散らばるのは、無数の「目」。それは残忍な光を放ち、全身から威嚇するように瘴気を立ち昇らせている。
 「ミリアリアさん、お願い!」
 茉莉の指示とともに、ミリアリアが前に出て、ユーベルコードを発動させる。


『氷獄に現の花が咲くならば柵木に花を告うものか…咲け!』


 紡がれた詠唱の言葉とともに突き出された両掌。そして、水綿の集合体の周囲に現れたのは『氷の花』だった。
 中空に舞う氷花は、またたく間に泥の巨塊を包み込み、蒼き炎へと変わる。
 華麗かつ苛烈な蒼き炎。水綿たちは高温の炎に焼かれ、皮膚が剥がれ落ちていくかのように瓦解する。黒焦げになった水綿の遺骸。それらは床の泥溜まりへと次々と落下し、黒い煙を上げて骸の海に還っていく。
 そして、中心まで到達した炎がすべてを焼き尽すと、丸焦げの塊はバランスを崩し、崩れ落ちながら後ろに倒れていった。
 障害物が取り除かれ、背後の窓が視界に入ると、二丁の拳銃を構えた晃が前に出た。

「次は私の番だね」

 ユーベルコードが発動し、風属性魔法の力を帯びた無数の弾丸が放たれる。それは空気を切り裂きながら飛翔し、水綿の群れが張り付く窓ガラスに接触し、無数の穴を穿ち、同時に風の魔法が弾けた。
 粉砕されたガラス片と水綿の死骸を激しく巻き上げる風の渦。そして、その風は室内の淀んだ空気を解放し、新鮮な空気を室内に呼び込んでいく。

「今です、突入してください!」

 茉莉の号令とともに、煉夜が室内へと飛び込んでいく。
「ここからは僕の出番ですね。どんな方でも容赦しませんよ。僕はそのために作られたんですからね」 
「待ってください。私も行きますから!」
 泥で汚れるのも厭わずにフライング気味に飛び出す煉夜を、二本の掃除機を左右に携えた茉莉が慌てて追いかける。
「私たちも行くわよ。ついて来れる?」
「はい、大丈夫です。戦闘は余り自信がないので、精一杯、サポートさせていただきます!」
 こずゑがミリアリアに声をかけ、水綿の巣に飛び込んでいく。ミリアリアも一本の掃除機を抱えて追いかける。

 そして、残された晃は静かに部屋の角に移動し、マスケット銃を構えると、天井に張り付き虎視眈々と獲物を狙う水綿たちに風の魔法を放ち、次々に仕留めていく。
 もっと大胆に広範囲魔法を使用することもできるが、仲間や建物に被害を与えかねない。
 この仲間たちは強い。彼らに「滅び」が訪れるのはまだまだ先のことだろう。私はここから戦いの顛末を見守りながら、自分の役割をこなすだけだ。晃はただ淡々と後方支援に徹するのだった。

●戦い(1)
 最初に突入した煉夜は咎忍『水綿』が密集する外周を大鎌を振り回しながら駆け抜け、突然の襲撃に動転したように、瘴気をまとってなりふり構わず殺到してくる怪物たちをひたすら薙ぎ払う。
 首を跳ねるような生々しい音を立てながら、切り裂かれていく水綿の群れ。
 返り血のように降りかかる汚泥すらも気にせず、煉夜は機械的に敵を屠っていく。
 
 茉莉は処刑人のように水綿を屠る少年の間合いに入らないように気をつけながら、床の泥溜まりの掃除を楽しんでいた。強力な吸引力を持つ掃除機。奇怪な形のヘッドで一撫ですると、綺麗なフローリングの床面があらわれる。
 水綿の肉片も瞬時に吸い込む掃除機の性能の高さに、内心で胸を躍らせていた。
 一家に一台UDC掃除機。作戦が終わったら、この掃除機、一台いただくことはできないでしょうか。
 そんなことを考えながらも茉莉は一切掃除の手を緩めず、確実に敵に有利な地形を減らしていく。

 一方の煉夜は大鎌での咎忍駆除を続けていた。
 大鎌から繰り出される大ぶりの斬撃は一撃一撃が重く、広範囲だ。なりふり構わず襲ってくる敵には効果抜群だったが、その分、周囲の索敵がおろそかになり、足元も死角になってしまう。
 そして、彼は地面を滑るように高速移動する咎忍たちの急襲を受けることとなる。
 
 そこへ割って入ったのは、掃除に夢中になっているように見えた茉莉。
 地面を滑り突進してくる咎忍二体を左右の掃除機で一体ずつ吸引すると、そのまま持ち上げ、スイッチをオフにして放り投げる。その先は、晃の射程範囲。
「晃さん、お願いします!」
 晃はうなずき、風の魔法を放つ。二体の咎忍は中空で風の刃に刻まれ、肉片を飛び散らせながら骸の海に還っていく。
「危ないですよ。今の煉夜さんの戦い方、少し危なっかしいです」
 柔和な笑みを浮かべながら、やんわりと注意をする茉莉。
「ありがとーございますです。僕は多少の怪我は平気なんですが……でもここでの戦いは妖刀のほうがいいかもです」
 多少の怪我は気にしない戦闘スタイルの煉夜は、よくこうした懸念を抱かれることが多い。自分の体はそういうふうに作られてるのだから心配無用なのだが、心配してくれるのは素直にありがたいと思う。
 だから、心配されないようにもう少し安全に敵を屠ろうと、攻撃の隙が小さい妖刀に持ち替え、水綿の駆除を再開するのだった。
 
●戦い(2)
 煉夜に少し遅れて室内に飛び込んだこずゑは、調理実習室の中央に向かって駆け上がる。
 部屋の中央は全方位を見渡せる位置であり、逆に注目を浴びやすい位置でもある。
 ここで自分が敵を引き付けておけば、他のメンバーが動きやすくなるだろう。
 こずゑは冷静に状況を分析しつつ、退魔刀の『宵桜(ヨイザクラ)』を正眼に構え、周囲に目を配る。
「ハッ!」
 気合の声とともに近くのシンクの上の一体を薙ぎ払うと、背後の調理台の影から二体の水綿が現れ、ヘドロを吹きかけてくる。飛んでくる泥の塊を軽やかに避けると一体目に切り込み、返す刀で二体目を切り伏せる。
 さらに、足元を狙って飛び込んでくるもう一体を飛び退いて躱し、地面をこするようにして斬撃を打ち込んで仕留めたこずゑは、シンクの上からガスを噴き出そうと頭部を膨らませる水綿を発見し、一突きで屠る。
 五体の咎忍を手早く仕留め、こずゑは次なる獲物に視線を向けるのだった。

 「……こずゑさん、すごいです」
 ミリアリアはこずゑの流麗な剣技に驚嘆しつつも、慣れない掃除機を使って泥まみれの床の掃除を続けていた。
 茉莉の見様見真似で操作しているが、彼女のようにスムーズに操作ができない。これでは水綿が現れても対処できないのではないか。そんな不安もよぎる。
 「それにしてもこの道具……すごい吸引力ですね。すぐ綺麗になります。でも私にはいつも使ってる箒のほうが……」
 思わず本音が漏れかけ、口をつぐむ。そして、ミリアリアは気を取り直して自分の役割をこなすのだった。

 調理実習室中央ではこずゑが水綿たちの攻撃を一身に引きつけるかのように、戦場で舞い踊っていた。
 敵が動く際の大気の流れを読み取ることで相手の攻撃の軌道を読み取り、最小の動作で躱す【流水の動き】。
 回避強化のユーベルコードを発動した彼女に触れられる水綿はいない。
 しかし、目立ちすぎたのが災いしたのか、こずゑのところには水綿が大挙して押し寄せるようになる。
 
 水綿たちの怒涛の攻撃を弾き、いなし、回避しながら、高速で斬撃を繰り出し、屠っていくこずゑ。だが、体力は確実に消耗し、次第に息遣いが激しくなっていく。
 こずゑの様子を不安げな顔で見守っていたミリアリアは、決断を迫られていた。
 「ここままではこずゑさんが……でもこの道具では勝てないでしょう……それなら!」
 意を決したミリアリアは掃除機を放り出し、念のため背負ってきた愛用の『職人謹製棕櫚箒』を手に取り、正面に構える。
 そして、彼女の箒の先に【浄化】の光を宿し、こずゑに殺到する水綿の群れに突撃する。
「えい、えいっ!」
 その攻撃はまだ拙かったが、懸命に箒を振り回して浄化の光を帯びた穂先をぶつけ、水綿を追い払う。浄化の光が異形の怪物の邪悪な力を中和し、その力を弱めているのだ。
 さらにミリアリアは、こずゑを狙って飛んでくるヘドロの塊も箒の穂先で弾き返し、水綿の大群を怯ませることにも成功する。
「本来はこういう使い方をするものではないのですが……ゴミ掃除のためには仕方ありません!」
「なかなかやるわね。援護、お願いね」
 攻撃の手が緩み、呼吸を整えたこずゑが声をかけてくる。ミリアリアは水綿の群れを鋭く睨みながら、力強く頷く。
「はい、承りました!」
 魔を払う日本刀を凛々しく構えるこずゑと、掃除用具である箒をぎこちなく構えるミリアリア。その姿は傍から見れば滑稽に映るかもしれないが、水綿たちにとっては大きな脅威となっていた。

●殲滅完了
 調理実習室の「大掃除」は終わろうとしていた。床の汚泥は「お掃除係」の活躍でほとんどなくなり、地の利を奪われた水綿たちは部屋の端に追い詰められている。
 お掃除大好き倶楽部の面々、特に前衛で水綿と対峙していた煉夜とこずゑの消耗は激しかった。
 煉夜に至っては腐食性のヘドロを浴びまくり、レインコートがボロ雑巾にようになっている。
 
 「もう一息です。がんばりましょう!その前に……」

 懐から絵本を取り出し、天使が描かれたページを開く茉莉。ユーベルコードが発動し、ページ全体から光がほとばしり、天使が召喚される。中空に浮遊した天使は、慈雨のような光を仲間たちに降らせる。それは仲間たちの傷を癒やす治癒の光。
 天使の加護を得た煉夜とこずゑは、残りわずかとなった咎忍『水綿』を駆逐するべく、戦場を駆ける。晃も後方から風の魔法を放って援護し、ミリアリアも浄化の光を宿した自分の箒で応戦する。
 そして、すべての水綿が骸の海に還り、『お掃除大好き倶楽部』は、無事に作戦の成功を勝ち取ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『氷結幽鬼少女『ルリ』』

POW   :    オトモダチと私の邪魔をしないで!
【全身を更に氷で覆った姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    キライキライみんな大っ嫌い!
【慟哭と共に雹の嵐】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    貴方は…私のオトモダチだよね…?
【問い掛けに靡く親愛】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【凍り付いた髪の後ろに居るナニか】から、高命中力の【凍て付いていく白い光線】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はサフィ・ヴェルクです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●とある少女の物語
「あたし、ルリちゃんのこと大好き! 毎日辛いことばかりだけど、一緒に頑張ろうね!」
「うん、ユキちゃんのこと、私も大好きだよ。私たち、ずーっと、ずーっと一緒にいようね。約束だよ!」

 どんなときでも一緒にいようと約束した唯一無二のオトモダチ。それはこの世に生を受けたことすら呪いたくなるような苦境に置かれた少女にとって、ただ一つの「救い」だった。

少女は物心ついたときから、邪神を崇拝する怪しげな教団の研究施設にいたという。
病室のような無機質な部屋に住み、来る日も来る日も実験体として酷使される日々。
そんな孤独で過酷な生活の中で出会ったのが、同じ境遇にある同い年の少女だった。
ところが、彼女は過酷な実験の影響で徐々に衰弱していった。終わることなき絶望と苦痛。心身ともに疲弊し、無情にもUDCを召喚するのための「依代」になることも決まってしまう。

 オトモダチを失いたくない。友への思いが溢れ、ルリは懇願する。
「お願いします!ユキちゃんの代わりに私を使ってください!」 
 願いは聞き入れられ、オトモダチを守るためにルリは氷を操るUDCを降臨させる依代となった。

 ところが、彼女のオトモダチは"最初から存在してはいなかった"のである。
 ユキちゃんは童話の中の少女。そして、孤独な少女が自らの中に作り上げた、"架空のオトモダチ"。それは彼女を用いた人体実験の成果でもあった。
  
 降臨したUDCはルリの中のオトモダチに成り代わり、その存在を根こそぎ奪い去った。
 そして、オトモダチを失った少女の心は壊れ、孤独な死を迎えたという

 それは悲しき輪廻の始まり。骸の海に還っても何度も蘇り、満たされぬ孤独とともに彷徨う少女の物語は終わることはないのだ。

●血の涙を流す少女
 「咎忍『水綿』」の駆除を終えた猟兵たちは、召喚の儀式が終わったとの連絡を受ける。
 
 男の陰惨な死によって召喚されたUDC。それは「コオリオニ」という名前からイメージされる怪物の姿とは、正反対ともいえる儚げな少女の姿だった。
 青白い肌にボロボロの患者衣。臀部を覆い隠すほどに長い青髪は、一度も櫛で梳かしたこともないかのように乱れに乱れ、靴も履いていなかった。
 腕と脚は枯れ枝の細く、腕をだらんと垂らし、風に吹かれてゆらゆらと痩躯を揺らながら歩く姿は、柳の木のようだった。
 しかし、儚げな少女がまとっているのは紛れもなく邪悪な瘴気だ。
 不気味な笑みを浮かべる少女の凍りついた瞳が映し出すのは、言い知れぬ孤独と冷酷な殺意。
 その体温は極寒の海よりも低く、全身から吹き出す冷気は、生きとし生けるものすべてを凍結させる危険なものだ。

「オトモダチ……ナンデ……ワタシノ……オトモダチ……イナイ、イナイ……イナイノォォォォ!」

 オトモダチを渇望し、血の涙を流す少女。凍てつくような吹雪を周囲に生じさせながら、自らの孤独を憂い、嘆き、泣き叫ぶ。
 彼女にとってオトモダチとは、同類であるUDCと生きたまま凍らせた人間の氷像。無論、オトモダチはここにはいない。
 
 吹雪が止むと、少女の急所の位置には氷塊が張り付き、乱れた長髪の毛先に鋭利な氷の刃が形成される。
 そして、少女は驚愕している見張り役の猟兵たちを見渡し、狂気的な笑みを浮かべる。
「イタァァアア! ミィィツケタッ、オトモダチィィ! イッパイ、イルゥゥゥ! ワタシト、アソボォォォォ! オトモダチニ、ナロォォォォォォォ!」
 不完全な召喚。そして、想定外のアクシデントにより、彼女の自我はあらぬ方向へと歪められていた。
 
 教団組織に見限られ、計画を台無しにした猟兵たちに激しい怨恨を抱いたまま、自ら命を断った憐れな男の怨念。
 それは、自我が不明瞭なまま不完全な復活を遂げた「氷結幽鬼少女『ルリ』」に変化をもたらした。
 彼女の魂に刻みつけられたオトモダチへの渇望。それは同年代の少女にのみ向けられていた。
 しかし、男の怨念は、猟兵たちこそがルリの孤独を埋めてくれる「オトモダチ」であると誤認させ、歪んだ欲望を猟兵たちにぶつけるように仕向けたのだ。
 
 見張り役の猟兵が態勢を立て直すために一時撤退すると、氷結幽鬼少女『ルリ』は猟兵たちを追いかけて校内に足を踏み入れる。

 猟兵を生きたまま氷漬けにし、「オトモダチ」にするために、校内を徘徊する少女。
 強大な力を持つUDCを校内で迎え撃つべく、態勢を整える猟兵たち。
 猟兵たちは「敵」の姿や言動に惑わされず、一刻も早く討滅することを改めて決意する。
 自分たちにできるのは、憐れな少女に再び安寧の眠りを与えることだけなのだと、自らに言い聞かせながら。


●マスターより(補足情報)
 さて、邪神教団に人生を壊された悲しきUDC【氷結幽鬼少女『ルリ』】との決戦です。設定は重いですが、あまり可哀想になりすぎないように、描写するように心がけます。
 (以下の情報は独自解釈が含まれますので、他のシナリオでの再現性は保証できません。)
・ルリちゃんは猟兵たちを孤独から救ってくれるオトモダチだと思い込み、生きたまま凍らせようと、追いかけてきます。
・猟兵たちは校内を徘徊するルリちゃんを発見して戦いを挑めるので、戦闘場所を指定したプレイングも可能です。
・ルリちゃんはオトモダチと遊ぶような態度で攻撃を仕掛けてきます。遊んであげても構いませんが、その攻撃には殺意があるので、本気で戦いつつ遊んであげてください。
・ルリちゃんはオトモダチに抵抗され、大ダメージを受けると泣いてどこかに行ってしまいます。
・名前を名乗るとルリちゃんが名前を呼んでくれます。
・学校の施設をうまく利用したプレイングにはボーナスがつきます。
・途中参加も大歓迎です。

・猟兵たちは、少数で少女の足止めをして時間稼ぎをしながら、戦力を集結させ、とどめを刺す計画を立てているようです。先に挑む猟兵は足止めのために、単身(少数)で少女に挑むという形式が多くなると思います。

◎プレイングの最後にボス撃破後の行動や台詞などをお書きいただければ、エンディングで描写させていただきます。

※断章公開が遅くなってすみません。公開前に4名様が挑戦中になったのは仕様のようです。サポートシステムの仕様を把握できてなかったようです……。
リック・ランドルフ
…お友達か。生前がどんな境遇でどんな死因かは知らないが。(空き教室で遭遇したのは姪と同い年。 いや、少し上ぐらいの少女。UDCとはいえ、男にとって彼女は)

…いいぜ、遊ぼうじゃねえか

俺の名前はリックだ。お前は? そうか、ルリか。…いい名前だな。それじゃルリ。遊ぼうぜ (自己紹介。友達になるなら大事だ。倒す存在。それでも目の前の少女を覚えておく為にも)

鬼ごっことかどうだ?俺が鬼やるからルリは逃げる!それでいこう。(有無を言わさずにそういって黒板に顔をつけ、早口で)

(カウントを終える)

(勝負は一瞬、逃げるか突っ込んでくる友が動くと同時に自身も動く。そして友を抱き寄せるように掴む)(覚悟、激痛耐性)



●記憶
「……お友達か。生前がどんな境遇でどんな死因かは知らないが……」
 白穢土高校本校舎3階の空き教室。見張りの猟兵たちから復活したUDCの情報を得たリック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)は一人物思いに耽る。
 一方の『氷結幽鬼少女『ルリ』』は本校舎3階の薄暗い廊下を一人、オトモダチを探し歩いていた。
「オトモダチィィ……ドコォォォ………イナイノォォォ……」
 少女の表情は凍りついているが、肩を落とし、裸足でひたひたと歩く姿は、迷い子のようにひどく心細げで、邪悪な魂を持つUDCには全く見えなかった。
 灯りのついてない部屋の前で立ち止まっては首をかしげ、再び廊下を歩き出す少女。
 そして、少女はようやく煌々と灯りのついた空き教室を見つけた。そこには、オトモダチの気配が確かにあった。
「イタァァァ! オトモダチィィィ!」
 少女は悲鳴のような声を上げて駆け出すと、嬉々とした様子でその部屋に飛び込んだ。
「よぉ、意外と早かったな」
 教卓の上にワイルドに座り、入ってきた少女をリックは見据える。
(若いな……同い年か、いや少し上くらいか……)
 不意に脳裏に浮かんだのは溺愛する姪の顔。姪は会うたびに仲のいい友達のことを楽しげに話してくれる。この少女も普通に生きられたなら本物の友達をつくり、楽しく遊ぶこともできただろう。
 リックはこういう事件に遭遇するたびに運命の残酷さを呪いたくなる。UDCとはいえ、男にとって彼女は……。
 そして、リックは少女と正面から向き合うことを決断した。
 
「俺の名前はリックだ。お前は?」
 不器用に笑顔を作りながらリックは自分の名を告げ、相手の名前を尋ねる。ルリは彼に一歩一歩近づきながら自分の名前を答える。
「ワタシィィ……ルリ…………」
「ルリか……いい名前だな……今日から俺とルリは友達だな」
 リックの発した「友達」の言葉に、少女の口元がわずかに緩む。
「……リック、ルリノ、オトモダチィィィ……アソボォォォ」
「ああ、遊ぼうぜ。鬼ごっことかどうだ?俺が鬼やるからルリは逃げる!それでいこう」
 早口でそう言うと、リックはルリの返事を待たずに黒板に顔を伏せてカウントを始める。
「オニ、オニィィ、ゴッコ? オニ、ゴゴゴッコ……オニィィィ……ゴゴッコ……」
 ルリは彼の周りを裸足でペタペタと歩き回りながら、狂ったようにわめき出した。
 少女が鬼ごっこの意味を理解していないのは明らかだ。それでもリックはカウントを止めることはなかった。
「……7……8……9……10!」
 10まで数えて顔を上げたリックの正面、3メートル程度離れた位置には、氷の鎧を身にまとったルリが立っていた。
「おいおい、そうくるのかよ!」
 完全武装の相手に思わず腰が引けそうになるが、リックは即座に覚悟を決め、「友」を静かに見つめる。
 友は全力で受け止めてやらなきゃな。勝負は一瞬。ユーベルコードの発動のタイミングをはかりながら、両手を広げるリック。
「オニィィィィィ! ゴッコォォォォォ!」 
 そして、少女はニタリと笑うと地面を蹴った。
「んぐぁあ!」
 胸で頭突きするように飛び込んでくる少女をリックはなんとか受け止める。
(くそっ、アバラが何本か逝ったか……痛え、気を失いそうだ……だが、俺は……これしきの痛みには負けねぇ!)
 リックは歯を食いしばり、そのまま少女を抱き寄せながら、「もう一つの手」を伸ばし少女を掴む。
 すると、光ともにリックの脳裏に情報が流れて込んでくる。

 それは鮮明な映像だった。

 御見舞の花がたくさん飾られた明るい病室。
 病院のベッドで半身を起こす若い女性に「赤ん坊」が抱かれている。
 傍に立っているのは優しそうな男性。彼は赤ん坊にゆっくりと手を伸ばすと小さな頭をそっと撫でる。驚いて泣き出す赤ん坊。焦った顔の男性を見て、女性は幸せそうに笑う。
(まあ、この赤ん坊がルリなんだろうな。人が良さそうな両親。どこからどう見ても、幸せな家族の光景だ……)

 不意に場面が切り替わる。
 小さなベッドに寝かされる乳児。乳児は眠れないらしく目を開け、手足をバタつかせている。平穏な日常だ。
 しかし、にわかに場は騒然となる。複数の足音、銃声、女性の悲鳴。
 そして、目出し帽をかぶった黒ずくめの男たちが視界に現れ、乳児を乱暴に抱き上げると、仲間の男たちも別の乳児を抱き上げているのが視界に入る。
(人身売買組織に保育施設が襲撃されたのか。酷えことしやがる……)
 
 そして、場面は再び切り替わり、今度は場面は白を基調とした冷たい雰囲気の部屋に変わる。

 青い患者衣を着せられ、ベッドと本棚だけの殺風景な部屋で熱心に絵本のページをめくる幼き少女。
 彼女はやがて大きな瞳に涙を浮かべ、しゃくりあげるように泣き出す。
 ルリは誰かに愛情をかけられることなく育ち、孤独に苛まれながら育ったのだ。だが、これはあくまでも過去の出来事。今となってはどうしようもないことだ。
(クソッ、俺にはなにもしてやれねぇのか……)
 リックがそんな思いを抱いたとき、突然、空中から少女を見おろしていた視点が切り代わり、いつの間にか彼は泣きじゃくる少女の前に立っていた。少女は驚いたように顔を上げる。
 夢か現か幻か……。幼いルリと目が合ったリックは、姪が幼かった頃を思い出し、その小さな頭を優しく撫でてやる。
 
 掌に感じる確かなぬくもり。それをきっかけにしてリックの意識は浮上し、現実に引き戻される。 
「パパ……」
 彼の胸の中で、ルリは無意識につぶやき、「血の涙」を流していた。
 しかし、少女の魂と不可分の存在である氷のUDCは、彼女に浮上した「記憶の残滓」を異物と見なした。
 少女は突然、リックを突き飛ばし、自分を傷つけるすべてのものから身を守るかの如く、全身をさらに分厚い氷の鎧で覆い尽くす。
「いやぁああああああ!」
 そして、頭を抱えて悲鳴を上げながら、少女は猛吹雪を放ち、その場から忽然と姿を消してしまうのだった。

「行っちまったか……まあいい。随分足止めもできたからな……」
 壁に背を預け、何かをやり遂げたように満足げに微笑むリック。 
 ルリはUDC、倒すべき敵だ。とはいえ、男にとって彼女は……このまま放っておくことはできないタイプだろう。骸の海に還さなきゃいけないにしても、せめて誰かがルリのことをしっかりと覚えておいてやらないとな。リックの真意は彼にしかわからないが、そんな声が聞こえてくるようだった。
「痛てて……これじゃ、何日か入院だな……また心配かけちまうな……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
足止め、しますかー。…ええ、あなたに任せます。

※人格交代
『疾き者』→『静かなる者』
冷静沈着な霊力使いの武士
真の姿:雪解鬼(21/1/3納品)
武器:白雪林

戦闘場所は階段ですかね。彼女が上で、私が下。その方がやりやすいんですよ。
氷には氷を。早業先制攻撃による【四天境地・『雪』】を。そして、二の矢に破魔+水属性攻撃の霊力矢を。

大雑把にいえば私も氷ですし、何より生きてはいませんので。親愛を抱くこともないでしょう。
長年の付き合いがある身近な人(『疾き者』。この人だけ忍)が隠していた孤独に気づけなかった、私が。

二人も鬼がいたんです。惹かれるのは当然でしょう。正確には堕ちかけ(風)と、追いかけ(林)ですが。



■氷と氷
 白穢土高校本校舎二階。三階とつながる階段の下で仁王立ちする男が一人、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)である。
 彼は強力なUDCが召喚されても、長旅の途中で茶屋に立ち寄ったときのようにリラックスした雰囲気だった。
「足止め、しますかー」
 それでも仕事の手は抜かない。自分の行動方針を口にすると、義透はしばし無言になる。傍から見れば静かに佇んでいるように見えるかもしれないが、彼の内部では今まさに、4人の悪霊たちによる話し合いが行われているのだ。
 ちなみに、現在、表に出てきているのは4人の中で「唯一の忍」である外邨義紘。彼は戦友たちから『疾き者』と呼ばれている。
「……ええ、あなたに任せます」
 ようやく話がついたようだ。『疾き者』は、今回の任務の担当者に入れ替わる。
 表に出てきたのは、梓奥武・孝透。彼は戦友たちから『静かなる者』と呼ばれている。
 そして、『静かなる者』が選んだのは、氷結幽鬼少女『ルリ』と正面から戦い、武人として足止めすることだった。
 階段下で待ち構えていた彼は幽鬼が近づいてくる気配を感じ、力を開放する。
 雪解鬼。『静かなる者』の真の姿である。それは氷の角を持つ鬼だった。開眼した瞳は瞬時に凍りつき、氷のように冷たい長髪をなびかせる姿は、敵と共通する点も少なくない。
 しかし、両者は似て非なるもの。邪悪な力で世界を滅びに向かわせるオブリビオンと、それを阻止するために戦う猟兵。まぎれもなく、一線を画した存在だ。
 それならば、同じ凍結の技を行使する者同士、雌雄を決せねばならぬだろう。

「いざ、参らん!」

 敵の接近を察知した義透は、気合を入れ、雪のように白い長弓『白雪林』を構える。視線の先は2階と3階を結ぶ階段の踊り場である。
 すると、上階から次第に少女の声と足音が近づいてくる。
「オトモダチィィィィ……オトモダチィィィ……クルシイヨォ……ドウシテェ……ドウシテェ……ワタシノ……オトモダチィ……ウゥゥゥ……」
 しかし、その様子は明らかにおかしかった。オトモダチを探して徘徊してるだけだった少女は、今は呻吟するような声を発しながら、凍えるような冷気を漂わせ、全身のほとんどを覆う、分厚い氷の鎧を身にまとっている。その姿は「幽鬼」と呼ぶにふさわしいほど、凶暴に見える。
 
 それでも幽鬼が踊り場に降り立ち、その姿を視認した義透は、迷いなく矢を放つ。
 四天境地・『雪』。放たれた氷雪属性の矢は空中で分裂し、群れとなって虚空を貫き、幽鬼の体に殺到する。
 分厚い氷を突き破る氷の矢の群れ。全身を覆う氷塊の鎧が砕け散り、鮮血混じりの氷の雨が降り注ぐ。それはしばらくの間、義透が狙う幽鬼への射線を遮っていた。
「コンナノォォ……イラナイィィィ!」
 氷の雨の中で耳を劈くような少女の声。それとともに全身に突き刺さった氷の矢が弾け、傷口から吹き出した鮮血が床に流れ落ちるも、即座に傷口が凍結し止血されていく。
 そして、幽鬼は全身に深手を負いながらも、なんとか倒れることなくその場に踏み止まり、義透を睨む。
「アンタナンカ、ダイッキライ! ウワァァァァアアン!」 
 氷の矢が弾けた後も時間凍結の影響が残り、動きを制限されながらも、幽鬼は怒りを爆発させるように泣き叫ぶ。雹混じりの暴風が吹き荒れ、同時に幽鬼の存在が急速に薄れていく。
 逃さんと、二の矢を放つ義透。今度は破魔と水属性の力が宿る霊力矢だ。それは青白い軌跡を残し、敵に向かって一直線に飛んでいく。
 そして、霊力矢が幽鬼の肩を穿った刹那、その姿はどこかへ消えてしまう。残されたのは幽鬼が流した鮮血と散乱する氷片。
「大嫌いですか……そうでしょうね。私にはあなたに好かれる謂れはありません……」
 敵の気配が完全に消え、静寂に包まれた階段の前で、『静かなる者』は無表情でつぶやくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
討つことでルリちゃんの救いになると信じて『遊ぶ』ことしか方法はないのか…祈りを冒涜する教団への怒りと自分の無力感しかないね。
今は敵として討たせて貰うけど、転生の出口で人としての幸福を取り戻せるよう祈っているよ…だからオヤスミナサイだよ。

戦闘【POW】
遊ぶ前にキチンと名乗らせて貰うね…そして、逃げ側も抵抗することを宣言して遊びを開始するよ。
足止めのため武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
心情的な攻撃だけど…『忍法・咎狐落とし』でルリちゃんに不要な邪霊と本来のルリちゃんの意識を切り離せれば良いんだけどね…。

アドリブ連帯歓迎


ミリアリア・アーデルハイム
お友達…なんだか嬉し恥ずかしって感じですね?
じゃあ私とは「追いかけっこ本物どーれだ」をしましょう
私とあなた。
命がけではありますが、今だけは本当の同級生のように。

廊下から中庭まで箒に乗ってスピードを上げたり下げたり
急に曲がったりしながら飛んで行きます
箒の周りには屏氷万里鏡を巡らせ、周囲の風景や残像を映して
高命中でも自分には当たりにくいようにして

追いついて来たならば急反転して
浄化の祈りをこめたUCを捧げましょう
ふわりと花冠を冠せるように

お友達にお花を贈るの。あなたの寂しさが燃え尽きますように
本当はもっと明るくて温かい色のお花をあげたかったのですけれど…
ごめんなさい、私にはこれしかなくて。


水鏡・怜悧(サポート)
詠唱:改変・省略可
人格:アノン
NG:エロ・恋愛
「楽しめそうだ」「美味そうだな」「ヒャハハハハ」
行動優先順は1.NPC含む他者の救助、2.攻撃。ホントは敵を喰う方を優先してェんだけど、ロキが煩せェからな。
UDCを纏って獣人風の格好で戦うぜ。速度と勘を生かして攻撃を避けつつ、接近して爪で切り裂くか噛みついて喰うのが得意だ。UC使った遠距離攻撃もするが、銃はちょっと苦手だ。牽制に使ったりはするけどな。
技術的なヤツとか、善悪論とかは苦手だし、興味もねェ。楽しく殺して喰えれば満足だ。喜怒哀楽は激しい方だが人として生きた経験は短けェからな。価値観とか常識は知らねェよ。まァヤバイときはロキが止めるだろ。



●氷の邪霊
 薄暗い廊下を裸足でひたひたと足音を立てながら、徘徊する少女。
 足止めに出撃した猟兵たちとの戦いで心身ともにかなりの深手を負っているはずなのだが、その姿はまるですべてがリセットされたかのようにまっさらだった。少女の魂を住処とするおぞましき氷の邪霊の仕業なのだろう。
 少女の傷だけでなく、痛みも、苦しみも、悲しみも、さらに少女を惑わす記憶すらも一切合切吸い取り、何事もなかったかのようリセットにしてしまう。
 ただし、その代償は決して小さくはないのは、誰の目からもわかりきっていることだ。少女との戦いは静かに進行し、最終局面へと至る。

 
「あ……見つけた」
 白穢土高校本校舎一階を巡回していた政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は、少女にばったりと出くわす。その距離10メートル。
 しかし、少女は空き教室の戸を開けて覗き込んでいるため、まだ彼女には気づいてはいない。
 朱鞠は警戒心を抱かせないように忍び足で少女に近づいていく。すると、距離2メートルのところで、少女がからくり人形のようにぎこちなく振り向く。
「オトモダチィィ……ミィィィツケタァ!」 
 凍りついた表情から心情はほとんど読み取れないが、よく見ると口元がわずかに緩み、なんだか喜んでいる様子。
 しかし、油断してはならない。相手からは人ならざる者が発する邪気が発せられているのだ。朱鞠は警戒をしつつも自己紹介をする。
「私の名前は、朱鞠。あなたの名前は?」
「……ワタシィィ……ルリ……シュマリ、アソボォォォォ!」
 遊びの誘いとともに殺気を発し、臨戦態勢を整え始めるルリ。その全身からは凍てつくような霊気が放たれ、氷塊が張り付き、急速に氷の鎧が形作られていく。猟兵との遊びで何度もひどい目に遭ってるせいか警戒心が上がってるようだ
「うわっ、ち、ちょっと、早すぎない?じゃあ、ルリちゃんが鬼ね。私は逃げるし、反撃もするからね……じゃあ、行くよ!」
 朱鞠は後ずさりをしながらも、律儀に自分の行動を宣言すると、踵を返して駆け出した。
 

 朱鞠は廊下を駆けながらも、少女について考えていた。
 あの少女はおそらく氷の邪霊の器にされたのだ。その魂は邪霊に完全に侵食され、既に邪霊と少女は不可分の存在となっている。因縁を持たない者では、彼女の魂を歪んだ輪廻から解放することはできない。そのことは十分に理解している朱鞠だが、内心では憐れな境遇の少女に同情し、複雑な想いを抱えていた。

(討つことでルリちゃんの救いになると信じ、遊んであげることしか方法はないのか……)

 遊んであげることは孤独な人生を送ってきた少女を慰める行為なのかもしれない。
 そして、彼女の魂を救えない私ができるのは彼女を討ち、骸の海に還してあげることだけなのだ。
 朱鞠は自分への無力感を抱えながら、「遊び」という名目の戦闘に突入する。

●動き出す捕食者
「ヒャハハハハ! コイツはオレ向きの相手だぜ。少女が獣に喰われる童話もあることだし、喰ってもいいよな!」
 そんな暴論を吐きながら校内を徘徊する氷結幽鬼少女『ルリ』を捜索するのは、狂気的な光を宿す紫色の目をした少年。彼は遺伝子デザインされた生体兵器で、多重人格者の水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)……の人格の中で最も粗野な『アノン』である。
 アノンは生き物はすべて食べ物だと認識する危険な人物だが、理性的な別人格であるロキが彼を制御しているため、任務中に問題行動を起こすことは少ない。
 しかし、今回の敵の容貌は、アノンの本能を刺激するものだったらしい。任務に俄然やる気を出したアノンは自らの「野生の勘」を頼りに少女を探すのだった。


●乱入者
 忍の修行で鍛えた軽やかな身のこなしで、廊下を風のように走る朱鞠。氷の鎧を纏い、廊下を高速で滑走するルリ。その距離数メートル。鈍重な氷の鎧をまとうルリの予想外の速度に、朱鞠は舌を巻く。
「ルリちゃんは足が速いんだね……でも私、抵抗するって言ったよね!」
 朱鞠は背後に気を配りながら、「拷問具『荊野鎖』を取り出した。それは蔓薔薇の如く鋭利な棘がついた拷問用の鎖。朱鞠はそれを鞭のように振るう。狙いは足元だ。その攻撃は命中し、幾つもの棘が厚い氷に包まれた脚部に深く突き刺さり、鎖が絡みつく。態勢を崩すルリ。そして、彼女は盛大な衝突音を響かせ、床に叩きつけられた。

 思わぬ妨害で、ルリは土下座をしているかのように顔面から床につんのめっている。
 とはいえ、この程度ではほとんどダメージがないだろう。案の定、すぐにルリは起き上がる。
 そして、朱鞠は彼女から距離を取り、追撃をかけようとした刹那、背後から猛然と飛び込んでくる黒い影。
 それは獣の耳を生やした少年だった。
「コイツは、もらっていくぜ。オレが喰っ……骸の海に還してやるから任せろ!」
 朱鞠があっけにとられている間に、少年はルリに突進し、彫像を抱きかかえるようにして拐っていく。
「オトモダチィィィィィイイイイ!」
 少女の悲鳴はすぐに遠くなり、朱鞠だけがその場に残される。
「あの子……一応、仲間だよね。目的はよくわからないけど、とりあえず追いかけないと!」
 突然のアクシデントに見舞われた朱鞠は、ようやく平静を取り戻し、見知らぬ獣人の少年を追って駆け出すのだった。


●黒き獣と少女
 閑散とした玄関ホール。水鏡怜悧の人格の一つであるアノンは、連れ去った少女を降ろすと、捕食者の残忍さを秘めた赤紫色の瞳を輝かせる。
「ここなら誰にも邪魔されねェだろ。やろうぜ!」 
「オトモダチィィ……ワンワン……ワンコォォ……アソブ、アソブゥゥゥ!」
 氷結幽鬼少女『ルリ』は獣人の姿のアノンを見て、ぴょんぴょんと無邪気に飛び跳ねる。その態度とは裏腹に、少女から放たれるのは冷酷な殺気。同時に、体には分厚い氷塊が貼り付き、瞬く間に氷の全身鎧が再構築される。
「言っとくがなァ、オレはワンコじゃねェ!」
 相手の殺気に触発されるように殺気を滾らせて吠えると、アノンは地面を蹴る。遅れて地面を蹴る少女。
 獣の爪と氷の拳が衝突し、氷の拳が砕け、獣の爪が軋み、飛び散った氷片が舞い落ちる。ほぼ互角の一撃。反動で弾き飛ばされた両者は再び地を蹴り、激突する。

相手の力を試すように2、3回と正面からぶつかると、アノンは相手の攻撃パターンが読めてきた。
アノンが右爪で攻撃すると相手は左拳を突き出し、左爪で攻撃すると右拳を突き出す。要するに鏡のように攻撃に対抗しているだけなのだ。遊んでいるつもりなのだろうか。 それなら、対処法は一つ。

アノンは再び地面を蹴って、右爪を前より早いタイミングで前に突き出す。すると少女の左拳が動く。アノンはその瞬間を見計らい、体をひねって右爪を引きながら相手の拳を躱し、左爪で相手の体を斬り上げる。カウンター気味に繰り出された一撃は、深々と相手の胸を切り裂き、氷片と鮮血が宙に舞う。さらにアノンは体勢を崩した相手を突き放すように前蹴りを食らわせると、少女はそのまま後方に弾き飛ばされ、派手な音を立てて壁に激突する。
 しかし、少女は何事もなかったように立ち上がる。鮮血が流れる胸部の傷も瞬時に凍結され、砕かれた氷の鎧も修復された。

 怯んだ相手に追撃を加えようとしていたアノンは、その再生力の高さに驚き、足を止める。
 少女の痩躯からは想像がつかないような硬くて重い一撃。砕いても砕いても再生する氷の拳。フェイントでボディを狙っても、砕けた鎧はすぐに再生する。

(あの氷がジャマくせェな……時間をかけ過ぎてジャマが入る前にさっさと喰っちまうか!)

 即断したアノンは地面を蹴り再び飛び込んでくる少女を跳躍して躱すと、ユーベルコードを発動し、黒き獣の姿に変貌を遂げる。

『食らいやがれ!』

 叫びとともに、爆撃機と化した黒き獣は玄関ロビーを縦横無尽に飛翔し、複数属性攻撃による空爆が始まる。上空から放たれる攻撃の源は体内に取り込んだ「銃型魔導兵器」。銃型魔導兵器には事前に火と風の2つの属性を設定してある。
 結果、黒き獣から放たれるのは火の弾丸と風の弾丸による絨毯爆撃だ。属性攻撃は一発の威力こそ低いが、火の弾丸で生じさせた炎の中で風の弾丸が炸裂すれば、「炎の嵐」が引き起こされる。それがアノンの狙いだった。
「ウゥゥゥ……アツイィィィ……アツイィィィ……」
 地上に取り残された無防備な少女を襲う高温の熱風。広範囲の爆撃で逃げ場はない。追い詰められた少女はうめき声を上げ、氷塊の鎧が急速に溶け、青白い肌が炙られていく。そして、ついに力尽き、膝から崩れ落ちた……かに見えた。

「ワァアアアアアン!ワンコォォォ……ダイキライィィィィィ!」

 全身を憤怒で震わせながら泣き叫ぶ少女。彼女は膝をついたまま踏みとどまり、氷片混じりの暴風を発生させる。飛翔するアノンは異変に気づきすぐさま着陸するも、残されたのは少女のいた場所を示すような氷塊のみ。
「チッ、逃したか……そんでも、かなりの傷を負ってるよな……今度こそ、喰ってやるぜ!」
 アノンは気を取り直し、再び獲物を追うのだった。


●空飛ぶ魔女と凍結少女
 白穢土高校の一階の別棟にある体育館では、猟兵たちが集結しつつあった。体育館に氷結幽鬼少女『ルリ』を誘い込んで閉じ込め、逃げられる前に全員の集中攻撃で殲滅する計画。それは冷静かつ効率的な戦略ではあったが、猟兵たちとの戦いで既に満身創痍の少女には、過剰な攻撃であることは否めないだろう。
 
 体育館でその計画を聞いたミリアリア・アーデルハイム(f32606)は、体育館への誘い込み役に志願する。
 無情な集中攻撃に加わるよりも、猟兵たちとお友達になりたいという、少女な孤独に寄り添いたいと思ったからだ。

 そして、彼女は一階の廊下で少女と遭遇する。
 薄暗い廊下を青い患者着を着た少女は心なしか疲れた様子だった。途中に空き教室もあったが覗くこともなく、肩を落とし、うつむいてトボトボと歩く姿は、母親を探して彷徨う迷い子のようだ。
(あの子……本当に寂しそうですね……)
 ミリアリアは初対面した少女に同情の目を向ける。すると、少女は何かに救いを求めるようにミリアリアに駆け寄り、口元をわずかに緩める。
「オトモダチィィ……ワタシ、ルリィィ……」
「あら、ルリちゃんってお名前なのですか。可愛い名前ですね。お初にお目にかかります。私はミリアリア・アーデルハイムと申します。私と……お友達になっていただけますか?」
 ミリアリアは自己紹介をし、友達になってくれるように申し出る。その頬は少し赤く、なんだか照れくさそうだ。
「オトモダチィィ…………ルリ、ミリアリア……アソブゥ……アソブウゥゥ……」
 ルリは遊びをせがみながらも、しっかりと氷塊を体に貼り付けて臨戦態勢。彼女が殺気を発し始めたことにミリアリアは気づいていたが、笑顔を絶やさずに愛用の『職人謹製棕櫚箒』を取り出してまたがる。
「はい、遊びましょう。それでは私とは『追っかけっこ本物はどーれだ!』ゲームをしましょう!」
 唐突に始まった謎のゲーム。それは箒で空を飛ぶミリアリアをルリが追いかけて捕まえるだけの単純なゲームだったが、ミリアリアも簡単には捕まるつもりはない。

 少女から逃げるために箒に乗って浮かび上がり、廊下を飛翔するミリアリアの周囲には、無数の氷の欠片。それらは鏡のように研磨され、周囲の景色をあらゆる角度から映し出す不思議な氷の欠片、『屏氷万里鏡』だ。
 
「私は簡単には捕まりませんよ。頑張ってついてきてくださいね」
 ミリアリアは振り返り、少女がついてきているのを確認しながら速度を上げる。完全武装のルリはミリアリアの声がしたほうへ滑るように移動するも、次第に氷片に映る鏡像に幻惑されていく。

「アソボォォォ!」
 ルリは追いついたミリアリアに氷の拳を突き出す。ガシャンと威勢のいい音を立てて氷の鏡が割れ、粉砕された氷片が飛び散り、ミリアリアの姿が消滅する。
 しかし、その先には箒で浮遊するミリアリア。ルリは何度もその姿を追いかけて拳を叩きつけるも、そのたび氷片が砕け散り、その先にミリアリアの姿があらわれる。
 また、幾つもの氷片に映し出され、目まぐるしく変化する景色がルリの遠近感と方向感覚を狂わせ、追跡を困難にする。
 こうして氷の鏡による幻惑作戦は功を奏し、追いかけっこはミリアリアの圧勝かと思われた。ところが……。

「オトモダチィィィ、イナイノォォォ!」
 
 我慢の限界に達して理性を失ったルリが、全身をさらに分厚い氷の鎧で覆い、速度を上げたのだ。理性を失った彼女の視界には氷の鏡は映っていない。ルリは猟兵の「気配」だけを頼りに廊下を滑走し、氷の欠片を次々に突き破りながら、獲物を猛追する。
 虚を突かれたのはルリを誘導するようにゆっくりと飛んでいたミリアリア。慌てて箒の速度を上げるも、地面を震わせるように疾走する少女に、ジリジリと差を詰められていく。
 追いつかれる。ミリアリアが敗北を覚悟したときに聞こえたのは女性の声。
「こっちだよ!」
 声が聞こえたほうに目を向けると、視界に入ってきたのは渡り廊下とつながる中庭。ミリアリアは渡り廊下を速度を上げて直進し、体を大きく倒し直角に曲がると、中庭に飛び込むのだった。

●葬送
 そこは広い中庭だった。地面に芝が隙間なく繁茂していて、レクリエーションにも使われる生徒たちの憩いの場だ。夜更けだが、ささやかな星明りと校内から洩れ出る灯りで仄明るく、破損しそうな障害物もない。戦いの場としても適しているようだ。
 獣人の少年に拐われたルリを探す朱鞠は、中庭から校舎の様子をうかがっていた。校舎に取り巻かれるような位置にある中庭。そこは廊下を行き交う人の流れを把握するのに都合のいい場所だった。
 ここにいると別館の体育館方面に猟兵たちが続々と移動しているのが手に取るようにわかる。そこにルリが誘い込まれれば……確実に決着がつくだろう。
  
 その前に咎人殺しの自分がやるべきことは一つしかない。成功するかわからないが、行動あるのみだ。
 戦線を離脱し、静かな中庭に身を置きながら朱鞠は悲壮な決意を固める。
 すると、不意に遠くでガラスが連続で割れような音が聞こえた。一階の廊下で誰かがルリと追いかけっこをしているのだ。
 徐々にこちらに近づいてくる物音。そして、朱鞠は廊下を箒に乗って高速飛行をする女性を見つける。ルリは理性を失ったようになりふり構わず女性を追跡していた。追いつかれるのも時間の問題だろう。
「こっちだよ!」
 朱鞠は逃げる女性に向かって叫び、荊野鎖を構える。

 弾丸のように飛び込んでくる箒にまたがった女性。その後ろを追いかけてきたルリは勢いのままに渡り廊下を通過し、急停止する。朱鞠はその瞬間を狙って鎖を振るう。鎖についた無数の棘が氷に覆われた体に深く突き刺さり、巻きついた鎖が少女の体を拘束すると、少女はそのまま強引に中庭へと引っ張り込まれた。

「ルリちゃん、久しぶりだね」
 朱鞠は明るく挨拶をするが、理性を失った彼女には届かない。
「ウゥゥゥゥ……ウゥゥゥゥ……」
 猛獣のように唸り声を上げ、蔓薔薇の拷問具の拘束を力づくで解こうとする少女に、朱鞠は冷酷なまなざしを向ける。
「あなたには、炎の中で自分の咎を悔いてもらうよ!」
 朱鞠が冷たく言い放ったのは、少女の中に潜む「邪霊」への言葉だった。

 ルリの魂は邪霊に支配されている。邪霊は罪のない少女を盾にし、自らは安全なところで監視しているのだ。ルリを解放してあげることはできなくても、せめて彼女に苦痛を与えている「元凶」には、骸の海に還る前に相応の痛みと苦しみを与えなければならない。それが「咎人」に罰を与えることを生業とする自分のやるべきことだと、朱鞠は思った。

『咎に巣食いし悪狐の縁……焼き清め奉る!』

 忍法・咎狐落とし。それは肉体を傷つけず、「咎人としての魂」のみを攻撃する浄化の炎を籠めた一撃。
 ルリの魂は純粋無垢そのものだ。咎を背負うのは、彼女を狂気に染め、殺戮に向かわせようとしている邪霊のみ。それならば、浄化の炎で焼かれるのは邪霊だけだろう。
 そして、朱鞠の思惑は、見事に的中した。

「ヒギャァァァァァ!」

 ルリの口から彼女のものとは思えない"野太い悲鳴"が発せられる。それは咎人としての業を背負う邪霊の阿鼻叫喚。
 しかし、まだルリの体には力が残っていた。邪霊は苦しみながらもルリに命令を出し、氷混じりの暴風を起こそうとしている。冷気が周囲に充満する。それはまぎれもなく、姿を消す前の予兆。
 あとほんの少し、ダメージが足りないのだ。このままではまた逃げてしまう。そうなれば再び少女に余分な苦痛を強いることになる。朱鞠は箒から降り立ったミリアリアに向かって叫んだ。
「お願い! このままルリちゃんに引導を渡してあげて!」
「……はい!」
 突然のことで驚きながらも、ミリアリアはユーベルコードを発動させる。
 少女の頭上に出現する無数の氷の花。青く冷たい色をした花の群れは円環を成し、優しき慈愛の光を放ちながら、少女の頭部にふわりふわりと降りていく。それは少女に贈られた氷花の冠。
「本当はもっと明るくて温かい色のお花をあげたかったのですけれど……ごめんなさい、私にはこれしかなくて」
 ミリアリアは憂い顔でつぶやくと、手向けの花冠を蒼き炎に変える。
 邪霊の断末魔とともに、蒼き炎に包まれる少女の体。それは氷塊の鎧を瞬時に溶かし、その存在すべてを焼き尽くしていく。


 ミリアリアは送り火のような炎を見つめながら、孤独な少女へ祈りを捧げる。

 (あなたの寂しさが炎とともに燃え尽きますように……。)

 そして、朱鞠は黒炭と化し、黒い煙を上げて骸の海へと還っていく少女を見つめ、別れの言葉を紡ぐ。

「転生の出口で人としての幸福を取り戻せるよう祈っているよ……だからオヤスミナサイだよ」

 そう、少女は再び邪霊とともに蘇る。猟兵たちにできるのはいつかの未来でルリの魂が解放され、人としての幸福を取り戻せるように祈り、願うことだけなのかもしれない。
 ともかく、これで任務は完了だ。朱鞠とミリアリアが仲間の猟兵に連絡しようと、通信端末の操作を始めたとき、獣人の少年がやってくる。
「遅かったか……さすがのオレでも丸焦げの肉は喰えねェぜ……」
 がっくりと肩を落とし、物騒な台詞を平然と発するアノン。朱鞠とミリアリアは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべるのだった。

●宴の後
 猟兵たちの活躍により、白穢土高校での事件は一人の被害者も出さずに解決した。
 屋上プールで陰惨な死を遂げた生物教師の望塚鳴章は表向きは急病で退職したこととして扱われ、事件の真実も彼の死とともに闇の葬られた。
 現地のUDC組織は望塚の背後にいる教団を探ってるものの、めぼしい成果は上げられていない。

 事件の中心となった川島 トモナ、上野 カナ、北村 カスミは、難病の朝井ヒナとともにSNSでの動画投稿を再開し、難病研究支援のための募金活動を始めたという。
 難病の少女が困難な状況に立たされていることは変わらないが、猟兵たちに救われた少女たちは、今回の事件を契機に未来に向かって前向きに生きることにしたようだ。

 一方、白穢土高校には次なる事件の火種はまだくすぶっている。
 白穢土高校の図書館にあるオカルトコーナー。UDC組織に怪しい書籍は押収されたものの、その出処はわかっていない。
 学校関係者に邪神教団とつながりがある人物がいる可能性もある。捜査の進展が待たれるだろう。 
 解明されない謎を残したまま、この事件はひとまず幕を閉じるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年04月23日


挿絵イラスト