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それを愛と云えましょうか

#ダークセイヴァー #殺戮者の紋章 #闇の救済者

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●絶望の夜が来る
「この領地は滅ぶわ。当然、残った領民は一人残らず皆殺しね」
 数日後の日付と共に伝えられたその言葉に、男は驚愕と同時に心のどこかで『ついに来たか』と言う思いを感じてもいた。
 普段は滅多に見せぬ程険しい顔をした目の前の『領主』が、ダークセイヴァーを支配する吸血鬼の中でも変わり種の類と言える彼女が、しかしどう言い繕った所で人々を苛むヴァンパイアである事は分かっていた。その気分一つで自分達は容易く命も尊厳も奪われるのだろう事も。
「な、何故……」
 それでも、早すぎる。これまで必死に調べてきた彼女の情報から考えても、彼女が自分達に与える命令や責め苦から考えても、こんな性急に終わりを与えようとするのはおかしい。間違いであって欲しいと言う少なからぬ願望も交え、問い正す。
「何故? ……それは勿論、私が貴方達を愛しているからよ」
 そこでようやくその顔に笑みが戻り、年端も行かない少女の容貌に人外の妖艶が灯る。俄かに潤み出した目を細め、口の端を上げ、ヴァンパイアはその身を男に寄せた。抱きすくめ睦言を囁くかの様な距離まで。
「私はね。貴方達が、人が愛おしいの。その喜びも、苦しみも、欲望も、絶望も……弱さも強さも愚かさも賢さも……その輝き全てを。見たい。触れたい。味わいたい……だから」
 スッとその声が低くなる。甘やかな響きに成り代わり、酷くひび割れた声で。
「ただ絶望に一方的に磨り潰されて鏖何て、赦さない」
「……?」
 男には言葉の意味が分からず、けれど途方もない寒気を感じて後ずさりを始める。
「私兵を集めなさい。準備していたでしょう? レジスタンス組織を呼びなさい。渡りを付けているでしょう? 彼らを伝手に外からの力も募りなさい。仮にそれで連絡が繋がらなくても、貴方達の覚悟と輝きはきっと彼らを呼ぶ。アレらはそう言うモノだから」
 迫力に押された男が引いただけ踏み込み、吸血鬼の姫は畳みかける様に言葉を重ねる。責める様に。或いは急く様に。
「貴方達の力、知恵、努力、繋がり、巡り合わせ、全て全て全ての輝きを以て抗うの。抗って抗って、出来るのであればその光が絶望を覆す奇跡を私に……いいえ」
 不意に言葉と足が止まった。
 数秒程の、死んだような沈黙がその場に落ちる。
「……この世界に、見せて御覧なさい」
 続いた言葉は、何処か優しい響きすら持っていた。

●希望の朝を守れ
「吸血姫エレーネ。こいつはダークセイヴァーを支配するヴァンパイアとしては可也の変人だ」
 集まった猟兵達に対し、ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)は珍しく最初からお嬢様ぶった猫を被らず、素のままの態度だった。ただずっと目線だけが妙に彷徨っている……要するに目を合わせようとしない。
「人間の、特に元々支配階級だった貴族とか地主とかそう言う奴に領の運営を任せるんだ。もっと言うなら、実質的な自治権を与えている」
 何だそれ。猟兵達に戸惑いが広がる。
「人の側に出来る事を大幅に認めてるんだよ。その上で、領主として弾圧をしたり理不尽な命令をしたりする。下らない理由で領民を殺したり、苛んだりもする。が……頻度は正直他のヴァンパイア領主よりずっと低い。寧ろ優しく接したり物を教えたりする事すらある」
 どうしてそんな事をするのか。そんな疑問の声が上がる。当然だろう。
「一つは、人のあらゆる面を堪能する為。もう一つは、反乱を促す為だ」
 グリモア猟兵の説明は一層難解だった。前半は未だ、先に聞いた情報の中で当人が語った言葉にも合致する。だが後半は突然言われても意味不明だ。
「地力を保つ、或いは力を蓄える余裕を与えた上で。長い時間をかけて、ゆっくりゆっくり真綿で首を絞める様に圧制し続けるとな。人間てのはその内、反撃したくなるんだよ。命を賭けての逆襲だ。そしてアイツは、絶望に相対するその勇気と意志をこそ『人の輝き』だと言って求めている」
 だからそのオブリビオンは時に、己に恨みを持つ者をわざと生かして逃がしたりもすると言う。
「ま、だが当然これまでの反乱は全て失敗で、結果的にエレーネは幾つもの領を滅ぼしているんだけどな」
「なんだそれ……結局マッチポンプなのか?」
 尤もらしい理屈を付けて結局は滅ぼす為に弄んでいるのか。そう問う猟兵に、ハイドランジアは未だ視線を合わせないままに肩をすくめ、知らねーと返した。
「ただ、当人は愛しているからだと言ってる。意味不明な理屈だが……兎も角人の反抗に自分が敗けて滅んだって構わないんだとよ。……後、時々優しくしたりするのも、どうも演技とかじゃなくて本気みてーだな」
 愛しているから全てを求める。喜びから苦しみ、その滅びや己に対する勝利迄も。
 それを愛と言えるのか、認めれるのか。何れにしてもその行いは恐ろしく一方的で、身勝手で、そして歪だ。
「そのいかれたヴァンパイアが、唐突に自領の人間の代表に最後通牒を突き付けた。指定の日に、集めれるだけ集めた戦力で抗って見せろと」
 それは、普通であればただの死刑宣告だろう。
 だが、絶望に覆われたこの世界に今は希望がある。『闇の救済者(ダークセイヴァー)』……猟兵の庇護や人類砦の増加により千人近くの戦闘集団へと成長したレジスタンス組織。彼らの援軍が、その戦いに一縷の勝機を生む。
「そこにお前ら猟兵が加われば、きっと勝てる。……ただ、まあ、お前らの仕事はその後の方が重いんだが」
 絶望の世界に燃え上がりつつある反抗の篝火の気配。それに沸き立ちかけた猟兵達を、エセ淑女の言葉の後半が踏み止まらせた。
 どう言う事だと眉根を寄せる顔に、ハイドランジアはゆるゆると首を振る。
「『第五の貴族』が刺客を用立ててやがんのよ。人族鏖(じんぞくみなごろし)の指令を受けて、既にその領に向かって来てる」
 地底都市の支配者階級『第五の貴族』。『紋章』と呼ばれる寄生虫型オブリビオンを使い、地上世界を影から支配している超越者達。何が彼らを動かしたのかは分からない。だが現時点で既に『殺戮者の紋章』を授けられたオブリビオンが領に迫っている。滅びと絶望のカウントダウンは始まっているのだ。
「そいつが領に現れるのは丁度決戦の翌晩だ。放って置けば、吸血姫に勝とうが負けようが領は滅ぶし領民は皆殺しになるな」
 領民達を守る為、そして暗闇の中にやっと現れた希望の灯を残す為。猟兵達はそれを倒さなければならないのだ。
「何せ『第五の貴族』直属の刺客だ。正直滅茶苦茶な難敵だと思うが、何とか返り討ちに……勝ってくれ」
 それを猟兵達が断る筈もない。
 ……ただ、一つだけ。
「なあ、ひょっとしてなんだが。ヴァンパイアはそれを……」
 確認する言葉はしかし遮られる。
「さっき言ったろ。知らねー」
 化け物の考えなんて俺に分かるかよ、と。
 そう言い捨てグリモアを輝かせた女は、結局最後までその目を逸らしたままだった。


ゆるがせ
 お世話になります。ゆるがせです。
 愛の定義はまあさて置き、ダークセイヴァーでの戦いとなります。

●レジスタンス組織『闇の救済者(ダークセイヴァー)』
 ユーベルコード使いこそ殆ど居ませんが、ダンピール等他種族とも融和し、優秀な黒騎士や咎人殺しも集結した、優れた戦闘集団です。
 下記第1章と第2章の時点までは戦闘に彼らが参加し、戦力になります。
 言葉を掛けたり連携等取りたい場合はプレイングにどうぞ。

●第1章:集団戦『レッサーヴァンパイア』
 吸血姫がこれまで滅ぼしてきた領地で彼女に屈服した者達です。彼女の道程と被害を物語る様に大量に居ます。
 エレーネからすると『人では無くなってしまった者達』なので、ヴァンパイアになってしまった時点で割と興味が薄い存在です。つまり気軽に使い潰します。
 この戦闘までは、領地の代表者の男(貴族の血筋で、領地と民衆達に対し強い責任感を持っています)が集めた私兵が参加しています。一般民衆は避難を促され既に逃げているので気にしなくて構いません。エレーネも全く止めませんでした。

●第2章:ボス戦『吸血姫エレーネ』
 強力なヴァンパイアです。
 人を愛していると語り、その輝きを見たがります。特にこの戦いに置いてはガンガン煽って来るでしょう。
 尚、彼女にとっての『人』とは多分にその精神性を基準とします。種族が神だろうが妖怪だろうがラスボスだろうが、心や魂が人であると彼女自身が判断すれば人扱いで愛します。それが猟兵であっても例外はありません。
 逆に『超越者』と認識した相手は種族問わず特に愛しませんが、同類的な親しみを見せます。……ただし、『人』を見下す『超越者』は彼女の逆鱗に触れ得ます。

●第3章:ボス戦『絶望の集合体』
 人族鏖(じんぞくみなごろし)の指令を受け『殺戮者の紋章』を授けられた『第五の貴族』直属の刺客です。
 レッサーヴァンパイア全部と吸血姫エレーネを合わせたよりもずっと強力な存在のため、闇の救済者はこの戦いには参加しません。と言うか参加させたら余波で片端から死にますので、寧ろ彼らと領民達には決して気付かれない様にして下さい。
(と言っても特にプレイング的な工夫は必要ありません。特に指定が自動的に、無ければ夜にこっそり抜け出し街の外で迎撃となります)
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第1章 集団戦 『レッサーヴァンパイア』

POW   :    血統暴走
【血に飢えて狂乱した姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    ブラッドサッカー
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    サモンブラッドバッド
レベル×5体の、小型の戦闘用【吸血蝙蝠】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。

イラスト:慧那

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●立ち向かう
「……エレーネ様の為に」
 ソレの言葉には、凡そろくな感情も入っている様には聞こえなかった。
 レッサーヴァンパイア。吸血姫エレーネの血の接吻を受け下位のヴァンパイアと成り果てた元人間……『人の弱さ』をも愛するかのヴァンパイアは、彼ら彼女らかつて愛したのだろう。支配される快楽に、全てを委ねる安楽に、強き者に屈服する享楽に飲み込まれた。その瞬間までは。
「……血をよこせ」
「……こうべを垂れよ」
「ああ、ああ、喉が渇く」
 けれど今となっては最早意志も意思も薄く、喉の渇きと従属の悦び以外には何も感じないかの様な虚ろの群。吸血姫は最早、愛する所か興味も殆ど持って居ないだろう。
 陣形を組むどころかろくな整列もせずただ漫然と居並ぶレッサーヴァンパイア達は、軍団としては野生動物にも劣る烏合の衆だ。きっと指揮所か、ろくな指示の言葉も掛けられていない事が容易に見て取れた。
 ただ、では彼らが容易い敵手かと言われれば。それも否である。
「……」
 戦えぬ民衆が逃げ去り、ほぼ無人となった街の中に佇む吸血鬼の影。影。影。影。影。影。影。影。影。影。影。無数と言うにも尚あまりに多いその物量。
 かのオブリビオンは、これ迄一体どれだけの数の命と魂をその牙の餌食にして来たと言うのか……。その大軍を前にすれば、地方の一つの街など容易く飲み込まれ数刻と持たず死の巷に変わるだろう。

 いいや、けれどそれも否だ。
 今この街に残って居るのはその殆どが只の人間。けれど、ヴァンパイア達……そしてこの世界中に纏わりつく絶望の全てと戦う事を決めた人間達なのだから。
「武器を構えよ!!」
 叫びが響く。
 それは策を練り作戦を組み戦友達を導く指揮。
「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」
 そして返されたのは鬨の声。
 強き意志の声。勝利を誓う意思の発露。
 果敢なき只人達の。
 勇敢なる只人達の。
 何よりも弱く誰よりも強い彼らの雄叫び。この絶望の世界を覆すのだと、この長き夜を終わらせるのだと、皆でそう決めた。決意と覚悟の歌声。
 この魂が、この熱き炎が、亡者の群等に負ける物か!

 そして戦いは始まる。心亡き強者と心強き弱者との戦いが。
ブラミエ・トゥカーズ
吸血鬼であることは隠さない。

知恵と勇気を束ねて挑まれるのは吸血鬼として喜ばしい事であろうな。

敵は血に飢えた眷属であるか、
余の眷属(罹患者)はここまで品が悪くは…悪いな。

ただの人が真正面から挑むのは看過できぬ、猟兵として手は貸してやろう。

【WIZ】
愛しき怨敵共よ。
正真正銘の吸血鬼狩りであるぞ。
幾度も余を滅ぼした手練手管をこちらの世界にも見せてやるが良い。

属性:対吸血鬼
人の軍に参列させる。
面制圧を目的とした攻撃で蝙蝠に対抗する。
命を惜しまず正義と憎悪の下に吸血鬼に抵抗する。
血は大蒜臭い。
吸血鬼化すると即座に仲間が殺害。
ブラミエもそこは手伝う。

領主よ、見えておるかな。
余の自慢の怨敵共の姿は。

アレ絡歓


ハロ・シエラ
元々は人間であったのに、今や人間には攻撃され、吸血鬼からは使い捨ての扱い。
最早人の身に戻す事も叶わないのであれば、せめてここで終わらせるのが私の役目なのでしょう。

さて、ここには戦士たちがいます。
彼らにとっては人型のレッサーヴァンパイアよりも吸血蝙蝠の方が厄介でしょうか。
ならば私は【破魔】の力を込めたユーベルコードで蝙蝠を【焼却】しましょう。
102個の炎を【瞬間思考力】を駆使して操り、露払いをします。
炎に手一杯で剣を振るう余裕は無くても、いくらかの炎を合体させればオブリビオンも【浄化】できる程の火力になるはず。
また、炎で目立って敵を【おびき寄せ】られれば、戦士達も敵を攻撃しやすいでしょうしね。



●災厄を灼く炎
「知恵と勇気を束ねて挑まれるのは吸血鬼として喜ばしい事であろうな」
 戦の始まりつつある中、敵首魁に共感する様な事を呟いたのはブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)。彼女もまたヴァンパイアである。
 但しカクリヨファンタズムに属する西洋妖怪としてのヴァンパイア。寧ろその根幹は病であり、赤死病や転移性血球腫瘍ウィルス……様々に呼ばれ得る伝染病の被害と恐怖が生んだ伝承、それに銘打たれ形を定義された概念。オブリビオンであるこの世界のヴァンパイアとは起源から違うのだが……只人にそれを見分ける事は出来まい。
「ヴァンパイアにはそう言う奴が多いのかね」
「エレーネだけじゃないのか」
 だが、その場に居る戦士達は意に介さない。それはそうだろう、彼女はそもそも最初から己が吸血鬼である事を隠さなかったのだから。
 その上で、全ての兵が受け入れた。ダンピールとも融和し猟兵と言う存在に多少の慣れのある『闇の救済者』達は未だしも、正真正銘只人たるこの領地の兵士達ですらだ。
「ただの人が真正面から挑むのは看過できぬ、猟兵として手は貸してやろう」
 そんなブラミエの言葉に反発をする事すら無く戦力として受け入れている。それは、人を愛していると唱え時に善意すら向けるエレーネと言うヴァンパイアに長年接して来たからと言うのもあるのだろうが、それ以上に、それ以前に、『今は形振り構っている場合では無い』と全ての戦士が認識しているからだ。
 今この時味方であるなら誰でもどんな存在でも構わないと、そう積年の恨みも怨念も押し退けて判ずる程に、眼前に迫る絶望が巨大なのだ。
「血を。血を。血を」
「あああ、あああああ」
 下位とは言え吸血鬼。曖昧な言葉を発しながら暴れるレッサーヴァンパイア達はしかし、確実に此方の兵達よりも強く、強き戦士である『闇の救済者』の面々ですら一対一であれば遅れを取る。それが、数多蠢き襲い来る。
「血に飢えた眷属であるか、余の眷属(罹患者)はここまで品が悪くは……悪いな」
 無秩序に暴れ、狂乱する敵手達の有様を前にブラミエは眉根を寄せる。病たる己に苛まれた彼女の眷属の有様が頭を過る位には、この下位ヴァンパイア共の様子は品性に悖る。
「元々は人間であったのに、今や人間には攻撃され、吸血鬼からは使い捨ての扱い」
 そこに少し違う角度からの感想を述べたのはハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)だ。ダークセイヴァーに生まれ、幼少より吸血鬼と戦う為の剣を学ばされていた彼女からすれば、元人間である彼等は被害者であるとの認識が濃いのだろう。
 己を育んだ村が吸血鬼達に滅ぼされた日、もしもその手に剣が握られなかったなら……そんな『もしも』の自分の姿が彼等の可能すらある。そう思えば、彼らをこのままにして置ける筈もない。
「最早人の身に戻す事も叶わないのであれば、せめてここで終わらせるのが私の役目なのでしょう」
 言葉と共に両手を広げるハロの周囲に、ポツリポツリと白いゆらめきが浮かび上がる。一つ、二つ、三つ、四つ……次々に展開されて行くそれらは聖なる力を帯びた炎。その数、百と二。
「私の炎が、魔を払います!」
 ユーベルコード【クロスファイアー】の聖炎が、開かれたばかりの先端の露払いを担うべく戦場を舞い始める。
「……? うう……」
「うあ……」
 そこに籠められた清浄なる破魔の力を感じたのか、レッサーヴァンパイア達は怯んだように動きを止め、人の兵達はその眩い灯火の群に目を見開く。
「恐るべき人よ。愛しき無知よ。己の善にて邪を蹂躙する正しき者よ。怨敵共よ、吸血鬼狩りを始めるが良い。汚れた敵は此処にいるぞ」
 そして灯火がもう一種。
 朗々とした旧き病の詠唱に答え、幻の如くけれど確かな実体を持ってぞろりと現れた騎士の群。その手に松明と火矢を持ち、邪悪と汚れの全てを許さぬ異端狩りの騎士団。
「愛しき怨敵共よ。正真正銘の吸血鬼狩りであるぞ。幾度も余を滅ぼした手練手管をこちらの世界にも見せてやるが良い」
 ユーベルコード【歪曲伝承・魔女狩りの灯(セイギトキョウフノナノモトニ)】。御伽噺は時を経て変じ、伝承は人の世の利に拠って歪む。だが元がどうであれ彼らが掲げる焔の義はきっと変わるまい。即ち、吸血鬼滅ぶべし。
 邪悪を許さぬ二つの炎が戦列に加わり、かくて両軍は本格的に激突する。

●弱く強き者達
「彼らにとっては人型のレッサーヴァンパイアよりも吸血蝙蝠の方が厄介でしょうか」
 此処、この戦場には数多の戦士達が居る。けれど彼らの殆どは只人であり、人外との戦いの経験はどうした所で猟兵には圧倒的に劣る。訓練も基本的に人同士で行うしかない。レッサーヴァンパイア達よりも彼等の操る吸血蝙蝠……ブラッドバッド達との相性が悪いだろうと言うのがハロの判断だ。
「面制圧だ。白兵する迄の間を封殺せよ」
 ブラミエもまた、人の軍に参列した騎士達に火矢を次々放たせ、レッサーヴァンパイア達が吸血蝙蝠を放つ機会自体を大幅に削っている。具体的に狙い撃つのではなく制圧する事でその反撃や行動を封じ、術に対抗する。その戦略は或いは彼女自身が受けて来た手管なのか。
「あああ熱い。熱い。おのれ……」
「殺せ、奴らを殺せ……」
 勿論それだけで滅ぶヴァンパイアでは無い、刺さった矢を乱暴に折り火の手を振り払って召喚を成すが。
「そちらは私がお相手いたします!」
 現れた蝙蝠の群が次の瞬間白い炎に包まれて焼却される。ハロの操るクロスファイアーの炎。齢十三の少女は己が瞬間思考力を駆使し、その102個もの炎全てをて同時に操って居るのだ。
 そして白い炎は戦場に置いても良く目立つ。意志も知性も薄れていると思しきレッサーヴァンパイア達は時に上手く誘導され、おびき寄せられ、その迎撃に穴をあけられている。
「うおおおお!」
「引くな! 武器を振るえ!!」
「隊列を乱すな!」
 ブラミエの召喚した騎士団が制圧し、その隙間をハロの炎が埋め、そして人の戦士達の剣が、槍が、槌が、吸血鬼達に届く。隊列を組み、指揮と号令の元戦えば、実力で劣ろうとも獣同然のレッサーヴァンパイア達に負ける道理はない。知恵を駆使し力を合わせる、それこそが人の力。
「ガアアアア!?」
 蝙蝠だけで無く、その全身を焼かれたヴァンパイアが断末魔を上げた。
 数多の炎を操るハロに剣を振るう余裕はない。彼女の二つ名を表すレイピアとダガーは未だ振るわれず、その霊力と炎の力も変形の機能も行使されてはいない。
「でも、いくらかの炎を合体させれば……!」
 1つの炎で無理ならば、2つ、3つ、幾重にも重ねた炎の行使。その火力はオブリビオンを浄化し切るに達し得るのだ。
 そしてそれで燃え尽きずとも、人の戦士達が怯まず武器を振るう。
「くそ、此処まで……か」
 力及ばず斃れる者とて居る。そして敵はヴァンパイアだ、死者はそのまま取り込まれ敵へと変じてしまい得る。
 けれど、だから。
「眠るが良い」
 いっそ静かな声音の言葉と共に、ブラミエは魔女狩りの聖剣と詠われた己の剣を納刀する。その一閃は、レッサーヴァンパイアと化し置き上がった戦士の首を一撃で落としている。<浄剣・ウィッチバインド>……集めた信仰に反しそれは只の人殺しの剣。化け物に変えられ様とする戦士を眠らせるには何と皮肉な武器か。
 彼女の召喚した騎士達は命を惜しまない。正義と憎悪の下に吸血鬼を駆逐する。吸血鬼化した仲間を躊躇せず殺し、その血にさえ仇敵の弱点を仕込み、ただただ己の全てを使い戦う。
「怯むな! 進め!!」
 そして勿論、今この世界に生きる戦士達の覚悟とて彼らに劣る物では無い。仲間が化物になり、他の仲間に殺され様ともその足を止めることなく刃を振るう。
 己達の居場所を守る為、誰かの命を守る為、この世界に希望の光を齎す為、己の命を使い切る覚悟とて固めた戦士達。
 騎士達と戦士達は混ざり合い、どちらが上でも下でも無く共に戦い敵を屠る。その血風の交差の中を聖なる白い炎が奔り、魔を焼き尽くす。
 ブラミエは僅かに目を細めた。
「領主よ、見えておるかな。余の自慢の怨敵共の姿は」
 その声は誇る様に。そして、讃える様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●吸血姫の愛
 ミラーズ、ケルカトル、トローズ、ケミィ。ああ、アストルすらか……生前は強き闘士だった。病さえ得なければ最後まで人を徹せただろう位には。
 眷属達が滅びて行く。次々に、愛しき人の軍勢に屠られて行く。
 繋がりを通して全てを見ながら、その人たる力の証明に乙女の様に胸を高鳴らせながら、それでも矢張り吸血姫は心の何処かで一抹の寂寥感を覚えても居た。
 レッサーヴァンパイア達への興味は薄い、と言って全くの零と言う訳でもない。
 アレ等は最早文字通りの骸、人としての意思も感情も人格も薄れ殆ど残ってはいない。……けれど愛した者達の骸だ、或いは墓だろうか。何にせよ、喪われれば少々の寂しさ位は覚える。
 アレンドロ、チュージアもか……生前はいがみ合って居た政敵同士が、化物としては共に逝くと言うのは中々皮肉な話だ。
 何れにせよ、どうあれ、主たる自分が滅びれば彼らも滅びる。であればせめてもこの最後の戦いに添える花となるのが一番と言う物だ。
「……見ているとも。勿論見ているとも。全て。全て」
 愛していたのだから。愛しているのだから。
レディ・アルデバラン
なるほど、心根は違えども、なんとなく親近感を感じる吸血姫ですわね。
見た目とか。そう見た目とか。

(スーっと息を吸い込んで、とても可愛らしい声で兵達に呼び掛ける)
只人よ、その意気や良し!
わたくしが来た以上、貴方達には万の軍勢が加わったと知りなさい!
さあ、魔王の娘たるわたくしの名の元に、集え異形の軍勢!
(パチンと指を鳴らす)

(燃え盛るLv分=10体の魔物が現れる)

(10体。10体?)

(集まる視線)

……えへんえへん。
数は少なくとも、一騎当千の兵でしてよ!さあ、やっておしまい!

もちろんわたくしも戦いますわよ!心無き吸血鬼など鎧袖一触ですわ!
(身の丈より大きなバトルアックスを振り回す)


七那原・望
【果実変性・ウィッシーズホープ】を発動。
アマービレでねこさん達をたくさん呼び、闇の救済者達の戦闘の支援や魔法攻撃による連携、【結界術】による防御などを【動物使い】でお願いしておきます。

これはあなた達が明日を勝ち取る為の戦いです!
諦めたり、絶望する事は許されません!
そして何よりあなた達の命は何より尊いもの。だから生きる事を諦める事は許さない!
もしもの時は無理をせず、ねこさん達に護ってもらいながら戦線を離脱してください。
さぁ、生き延びましょう!

闇の救済者達を【鼓舞】し、士気を高めます。

【第六感】と【野生の勘】で敵や吸血蝙蝠の動きを【見切り】回避。
【全力魔法】やセプテットの【一斉発射】で【蹂躪】を。



●戦士達は死なず
「なるほど、心根は違えども、なんとなく親近感を感じる吸血姫ですわね」
 薄い胸を張り、戦場を睥睨しながらそう言ったレディ・アルデバラン(第九地獄の悪魔姫・f31477)は、デビルキングワールドは第九地獄の魔王の娘。
「見た目とか。そう見た目とか」
 見た目だけじゃないかと、左右の守りを固めていた戦士達が苦笑した。黒のドレスに赤のマニキュア、幼い容姿、なるほど確かに共通項は多いレディではある。
 世界からの加護により戦場に居る事への違和感こそ感じられてはいない物の、その年若さ自体を認識されていない訳では無い。デビルキングワールド基準の邪悪と共謀と冷酷無情をアピールしながら、実際の所根っこの善人さが滲み出ている彼女は戦場に置いて味方からどうしても気を使われていた。
「ちょっと! 稀代の悪女に対して失礼ですのよ!」
 当然、レディ自身は甚く不満げにむくれる。
「悪気がある訳では無いなのですー」
 そんな彼女の不満を取り成す様に掛けられる言葉と、触れる小さな手。
 振り返り見やっても目は合わない、いとけないその顔には封印の目隠しが施されているのだから。それはこの場に居るもう一人の猟兵の少女、七那原・望(封印されし果実・f04836)。レディを更に下回る8歳。……つくづく、世界の加護による認識阻害は大した物である。
「二人とも、無理はしないでくれよ?」
 2人の少女に対し気遣いの言葉を向けるのは、領で集められた兵達も『闇の救済者』も同じだ。
「そもそも元々これは俺達の問題なんだ。だから……死ぬのは俺達だけで良い」
「全くだ、こんな勝ち目の薄い戦いに君達みたいな小さな子が……」
 未だ薄くながら絶望に纏わり付かれたその言葉が、どうやら幼いとすら言える少女の何かしらの琴線に触れた。
「……っ?」
 クルリと顔が向けられる。
 人懐っこく楽しい事と撫でられる事が好きな愛らしい少女の顔の、しかも目隠しで覆われ見えない筈の視線。それに何故か怯み、大の男達が一歩下がる。
「わたしは望む……ウィッシーズホープ!」
 シュルルと振るわれるは黄金の林檎と片翼の装飾が飾る王笏<翼望・シンフォニア>、詠唱に答え召喚されるは黄金に輝く勝利の果実、或いは真核。ユーベルコード【果実変性・ウィッシーズホープ(トランス・ウィッシーズホープ)】。
「これはあなた達が明日を勝ち取る為の戦いです!」
 果実に集まり篭められているのは、三千世界の人々の願い。
 その力に強化され、少女の黒いドレスが煌めき側頭を飾るアネモネの花が美しく薫る。
「諦めたり、絶望する事は許されません!」
 そして何より、それまでの幼さの抜けぬ何処か天然な言動が一転、大人びた朗々とした声に変わっている。それは士気を高め力を与える鼓舞の声。
「そして何よりあなた達の命は何より尊いもの。だから生きる事を諦める事は許さない!」
 諦めを否定する、勇気の賛歌。
 その言葉と共に振るわれるのは鈴のついた白いタクト<共達・アマービレ>。その涼やかな音の響きに誘われる様に、望の友達達……色とりどりな数多の魔法猫が現れる。
「もしもの時は無理をせず、ねこさん達に護ってもらいながら戦線を離脱してください」
 その言葉を証明する様に猫達は動く、行使される魔法は戦士達の身を護る結界。そして連携の攻撃術式。何とも愛らしい、けれど力強い援軍達。
「……これは、参ったな」
「全くだ。確かにこれで死んだらとんだ弱虫になる」
 戦士達の声に力が篭る。ヴァンパイア達の余りの多さに僅かに忍び寄っていた心の影を押し退けた、何処かすっきりとした声。そりゃあそうだ、此処までお膳立てされて未だ怯えていたのでは面目と言う物が立たない。
「さぁ、生き延びましょう!」
 少女の気遣いと、心優しいその言葉を。けれどそんな物は必要無いのだと証明するこそが恩返しだ。そう心に決めた戦士達は。声を揃えて揃えて叫ぶ。
「「「応とも!!!!!」」」

●化物達は討ち果たされる
「只人よ、その意気や良し!」
 そこに可愛らしい声が呼び掛けた。兵達が見回せば、少し高い位置に立つ彼女はレディだ……皆の意識が望に集まっている間に目立つ位置に移動していたらしい。
 デビルキングワールドの魔王とは、カリスマと人望が物を言う立場だ。その娘である彼女は、その機微を修めているのだろう。皆の注目が自分に集まるのを待ってから、スーっと息を吸い込んで、また物凄く愛らしい声を戦場に響かせる。
「わたくしが来た以上、貴方達には万の軍勢が加わったと知りなさい!」
 自信に満ち溢れた表情と言葉、良く通る声、それはなるほど上に立つ者の資質。
「さあ、魔王の娘たるわたくしの名の元に、集え異形の軍勢!」
 パチンと指を鳴らせば、発動するはユーベルコード【炎の魔王軍】。魔王たる物の扱う、自軍招喚の術式。
──ゴォォォオオ!!
 燃え上がった炎の中から現れる魔物達。一様に炎を纏った異形の彼らの数、実に十。
「……」
 十。10体である。才覚は十分なれど実戦経験に欠け、未だその力磨かれぬレディに呼べる。これが精一杯であった。兵達がレディを見る。
「……」
 意志が薄いせいもあるのだろうが、ヴァンパイア達も追従する様にレディを見る。
「……」
 魔法猫達もレディを見る。視線の隠された望の存在だけが救いだろうか。
「……えへんえへん」
 魔王の娘は咳払いをした。
 そして改めて胸を張る。この程度の逆境に負けていては魔王は務まらないのだ。
「数は少なくとも、一騎当千の兵でしてよ!」
 堂々大宣言。まあ、うん。確かに一騎当千が10体で万の軍相当である。嘘は言って居ない。戦士達の目元が少し緩む。
 幼き鼓舞によって勇気づけられ、ちょっと間の抜けた檄によって余計な気負いも抜けた。結果的に、理想のコンディションになったのかも知れないなと。戦士達は二人の少女を見る。或いはその二人こそが戦士達を導く戦乙女か。そうであれば尚の事、その力を存分に振るわねば嘘と言う物だろう。
「さあ、やっておしまい!」
 だからこそ、レディのその声に応えたのは召喚された魔物達だけでは無く。その場の人の兵達全員だった。

「ガアア!?」
 ヴァンパイアがまた一人斃れる。最後に放った吸血蝙蝠の群は只の一匹も望には当たっていない。第六感と勘による見切りは、視界に頼らない故に尚の事か細密な回避となる。
 戦士達の刃に刻まれ、怯んだ所を魔法猫達の援護魔術がトドメを刺す。
「放て!」
 一体が倒れた事で開いた隙間に、望の全力の魔法が撃ち込まれる。
 シンフォニアの力か、魔女の力か、或いは絆を通した竜騎士の力か、放たれた魔法は複数の吸血鬼達を一度に焼き怯ませる。
「心無き吸血鬼など鎧袖一触ですわ!」
 そこに踊り込むのはレディだ。
 黒いドレスを靡かせて武器を振るうその姿は丸で舞踏の様にも見える。が、振り回しているのは彼女自身の身の丈を超える大きさのバトルアックス。踊りは踊りでも死の舞踏が披露され、ヴァンパイア達をいっそ無造作に解体して行く。
 魔王として最前線で武器を振るうのはらしくないのからしいのか……少し悩む所ではあるが、勿論主人立つ彼女だけが戦っている訳では無い。一騎当千と評した彼女の言葉を嘘にするまいと、10体の魔物達もまたその炎を燃え上がらせ奮戦している。
「オオオオオオオ!!!」
 そこに現れたのは一際大柄なレッサーヴァンパイア。生前は重戦士だったのだろう、レディのそれに劣らぬ大斧を振り被り突撃して来る。
「合わせるべきなのですー」
 間延びした声とは裏腹に望の判断と行動は迅速かつ的確。<銃奏・セプテット>その銘に相応しく七種で構成された銃が宙を舞い、一斉射撃にて蹂躙する。レッサーヴァンパイアの突撃がわずかに緩む。
「もちろんわたくしも行きますわよ!」
 レディがその大斧を振るい、吸血鬼の大斧を迎え打つ。
 若き少女の姿であれど、彼女は強壮である事著しいデビルキングワールドの悪魔なのだ。轟音と共に刃が噛み合い、戦士の突撃が止められる。
「今だ!」
「一斉に行けー!!」
 動かぬ巨体を前に外す道理はない。魔物達の炎が、猫達の魔法が、そして何より、戦士達の刃が、人の力が数多にその身を貫く。
 倒れ行くレッサーヴァンパイアの戦士は最断末魔すら漏らさず、既に事切れていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●吸血鬼の愛
 アレッサンドロが滅された。
 生前はユーベルコードを扱える迄となった……と言うかそもそもその力に目覚めたからこそ家族と友人を処刑し、当人のみを逃がした者の一人だ。悪趣味故では無い、そうする事で罪悪感と憎悪からより強い輝きを持つ復讐者となる事を期待して。黒斧握る彼はその期待に最も応えてくれた人間の一人だった。
 レッサーヴァンパイアとなっても尚、その力は頭一つ抜けていた筈……それを滅した。種族が何であるかは問題でない、恐怖を拭い未熟を覆し力を合わせ、あの恐るべき戦士を打倒した……正に人の所業。
「……ぅ」
 熱い吐息と共に、思わず声が漏れた。何と言う美しさか。何と言う強さか。何と言う輝きか。熱く火照る己が頬に振れ、暫しその想いに耽溺する。
 眩しい。ああ、眩しい……何て眩いのだろう。目が溶けてしまいそう。
シャルロット・クリスティア
甘言に乗せ、反乱を促す……か。
私の知る男は、それすらも届かぬ絶望を味わうためにそれを成しましたが、あの領主は、果たして……。

……いえ、不倶戴天の相手の考えなど、推し量るだけ無駄です。
行きましょう。只人が安心して眠れる夜を手に入れるために。

旗槍を手に、正面から挑みます。
敵の知能は低い。私が目立てば、狙いもこちらに逸れるでしょう。
そうすれば、闇の救済者たちもその分動きやすくなる。
私自身は、打ち倒すよりも敵の注意を惹き、倒れず戦い続けることを第一に。
理性を失えば、攻め手は激しくとも単純になる。冷静に当たれば見切れない相手ではない。

解放の旗、未だ折れず此処に在り。
我々皆の手で、人の底力を示しましょう!


豊水・晶
人を愛するヴァンパイア、歪んだ愛が求めるのは、対象の全て。
うーん、歪んでいますねぇ。愛は愛でも愛玩動物に向けるような愛情だと思いますが、ヴァンパイアにとっては人間などそれぐらいの認識なのでしょう。まあ、それも一つの愛の形ではありますが、やられる方はたまったものではないので満足して負けてもらいましょう。
その前には、まず目の前のものをどうにかしないといけないのですが。
指定UC発動、数が数なので範囲攻撃で蹂躙します。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



●正義と勝利を誓う
「甘言に乗せ、反乱を促す……か」
 呟いたシャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)の声は苦かった。このダークセイヴァーの片田舎、反ヴァンパイアの抵抗運動組織に属する両親の間に生まれた少女は、霊物質(エクトプラズム)によって構築した悪霊と成り果てて長い。……両親と共に粛清され、一度命を落としたから。
「私の知る男は、それすらも届かぬ絶望を味わうためにそれを成しましたが、あの領主は、果たして……」
 思い返す様に呟く。ダークセイヴァーの支配者たるヴァンパイアは民衆を弄ぶ、時にこれ見よがしに希望を育て、それを絶望で塗り潰す事で愉しむ類も居るだろう。彼女の知る『男』もまたそうで、では此度の吸血姫はそれとどう違うのか。或いは同じなのか。
「人を愛するヴァンパイア、歪んだ愛が求めるのは、対象の全て」
 言葉を継いだのは豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)。それはグリモア猟兵から齎されたオブリビオンの目的にして本願。その言葉の通りであれば、彼女が求める物は絶望ではない。或いは絶望を含むがそれが全てではないと、そうなる。
「うーん、歪んでいますねぇ」
 柔和な表情の竜神は、夜の貴族の愛を一言でバッサリ切り捨てた。
「愛は愛でも愛玩動物に向けるような愛情だと思いますが、ヴァンパイアにとっては人間などそれぐらいの認識なのでしょう」
 下に見ているからこその愛なのだろうと、そう結論付ける。
 強き竜の神の一柱として己を信仰する農村を守り、しかし完全には守り切れず力を喪った彼女からすれば。超越者と言う括りで見れば近しい様で、しかし根本から違うこの世界のヴァンパイア達の思想には少なからず思う所があるのかも知れない。
 竜神のそんな言葉を受けたシャルロットは少し険しい顔で思案を続けかけたが、すぐに首を小さく振った。
「……いえ、不倶戴天の相手の考えなど、推し量るだけ無駄です」
 何れにせよ彼女が倒すべき敵でしかない以上、今はもっと大切な事がある。そう気を取り直す。
「まあ、一つの愛の形ではありますが、やられる方はたまったものではないですからね」
 満足して負けてもらいましょう。と、晶もまた己が得物を構える。水を纏った水晶の如く煌めく刀身の二刀は、晶自身の角から削り出した……即ち竜神に由来する神武の刃。
「その前には、まず目の前のものをどうにかしないといけないのですが」
 視線の先に蠢くレッサーヴァンパイアの群。首魁たる吸血姫は彼らを打倒した先に居る。
「行きましょう。只人が安心して眠れる夜を手に入れるために」
 その道程の途中にどれだけの困難が遮ろうとも、それが歩みを止める理由にはならない。実は人見知りがちなシャルロットだが、戦いに置いては冷静沈着を通す事を旨としている。この鉄火場の中で戦友となる晶と戦士達の顔を見回し、詠唱する。
「小さき灯は揺らげども、未だ消えることはなく」
 理不尽に屈せず立ち向かうと、正義の誓いは旗と共に此処に立つ。
 湧き上がる力の奔流を前に晶の目がスッと細められる。それが生命体の埒外の力、猟兵の奥の手たる真の姿の顕現だと見て取ったから。
 銃使いらしい出で立ちは、白花と羽根で飾られた帽子を頂く美麗なる姿へと変わる。手には銃ではなく細剣と……それから旗槍。その紋章に銘は無く、ただ過去を砕く青き輝きを纏う。
 ユーベルコード【解放の旗を此処に掲げよ(リベレイターズ・フラッグ)】。人の強さ、希望の輝き、その象徴とも見える旗印が今、戦場に現れた。

●はためく希望と守り花
 正道は曲がらずと言わんばかりに、シャルロットは真正面から敵軍に挑む。
 だが、旗槍を振るうその勇姿は無策ではない。
「敵の知能は低い。私が目立てば、狙いもこちらに逸れるでしょう」
 戦士である『闇の救済者』達も、領地の兵士達も、士気は高く化物の群に怯んだりはしない。けれど、吸血鬼達は精神論だけで打ち砕けるほど容易い敵でも無いのだ。
「ガアアアアアア!!」
 血統暴走。血に飢え狂乱したレッサーヴァンパイア達の攻撃はその全てが強力無比。直撃を受ければ戦士達とて無事では済まない。故にこそ亡霊の少女はその注意を己に惹き寄せる。そうすればそうした分だけ、仲間達は動きやすくなるのだから。
「そこです!」
 旗槍の一撃に打ち払われたヴァンパイアが、しかし怯まずその爪を振るう。
 だが、その一撃をシャルロットは難なく躱した。
「甘い!」
 飢血の狂乱に暴れる吸血鬼達は正にバーサーカーと言える激しい攻め手を誇る。だがその反面、理性を失えばその動きは単純になる。冷静に当たれば見切れない相手ではないと。打ち倒すよりも、攻撃を引き寄せたまま倒れず戦い続けることを第一にと立ち回る。
 歳不相応な程に正確なその戦場勘と判断。死して尚戦い続ける乙女の道程に、どれだけの戦いがあったと言うのか。
「アアアアアアア」
「チヲ! チイイイヲオオオ!!」
 だが、数が多い。どれだけ正確に動きを読めど、物量で圧し潰されれば対抗のしようが無い。そうならぬ為の立ち回りは充分であれど、仲間達の為に己一身に敵の目を寄せれば、自ずと限度が……。
「守るべきものをちゃんと守らなきゃ」
 まるで音楽の様に美しく響く声と、一陣の風。
 風に乗って戦場を踊るは無数の花びらの群。美しく透き通ったそれは、水晶の花びら。
「ギャッ!?」
 吸血鬼が悲鳴を上げた。何時の間にかその顔がズタズタに切り刻まれている。
「ア……?」
 美しい花びらがすり抜けた後、間の抜けた声を漏らした化物の首が……コロリと落ちた。
 ユーベルコード【瑞玻璃の渦流(ミズハリノカリュウ)】。竜の神の手にある武具は美しい花びらへと姿を変え、しかしその花びら達は神敵供を一切合切纏めて蹂躙する。
 流れ揺蕩う水晶と謡われる神器遣いを中心に直径200m近く。その空間は今、化物達にとっての死の間合いとなった。
「愚か者は飲み込まれて砂となる」
 一説に、竜神とは自然の象徴で擬人化にも喩えられる。優しく、大きく、寛容で、残酷な。
「あぁ……! ありがとうございます!」
 礼儀正しく感謝を述べながら、シャルロットはその期を逃さず間合いを取り直す。
 周囲を舞い散る必殺の花弁に切り刻まれ、レッサーヴァンパイア達の動きはより散漫に。本来は脅威であるはずの吸血蝙蝠の群も花弁の前に千切れて落ちるばかり。こうなれば再び追いつめられるシャルロットではない。
「解放の旗、未だ折れず此処に在り!」
 力強いその言葉。化物達は気を惹き、戦士達の士気を高める朗々とした声。
「我々皆の手で、人の底力を示しましょう!」
 応える戦士達の凱歌は吸血鬼達の声を押し退け、戦場に響き渡った。
 人を開放せよと。絶望を踏破せよと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●夜の貴族の愛
 アミカ、ラトアート、ミゲル……次々と滅びて行く。
 見よあの奮闘。聞けあの凱歌。
 底力とはよく言った物だ。追い詰められ牙を剥く、その牙の鋭い事、そして美しい事。弱き者が強き者に抗うその強さより尊い物がこの世にあると言うのか。彼らは今この時、明らかに我等より輝ける存在なのだと確信する。
「……………」
 それを。
 それをそれを只捩り合わせた絶望の塊で踏み躙り貶め消し去ろうと言うのか。
 許さない。ふざけるな許さない許さない許さないモグラ共。
 全ての同朋が尊ぼうと私だけは尊ばない。
 その存在がどれだけいと高き上位であったとしても私は従わない。
 この身が粉々の灰に砕かれ様とも、その最後の一粒となるまで呪ってやる。
 私は、お前達よりもずっと尊くいと高き存在を知っているのだから。
シキ・ジルモント
彼等が希望を信じて奮起するというのなら共に戦いたい
同じ世界で生まれた者として、そう思っている

屋根の上など高所に陣取り、敵と味方の動きを把握したい
ユーベルコードの効果と併せて視覚や聴覚での情報も利用、劣勢の味方を探して加勢する

敵の数を警戒
銃の攻撃範囲を利用して移動時間を短縮、頭を狙い迅速に片付け(『スナイパー』)、敵を手早く減らす事を意識する
「闇の救済者」には射撃で倒しきれない敵や、物量に任せて強引に抜けてくる敵を攻撃するよう頼みたい

気を失った味方が居るなら敵を近づけないよう警戒
抱えてその場を離脱するか、射撃によって敵を遠ざける
覚悟をもってこの場に集まった者を、ヴァンパイアなどに堕とさせはしない


春乃・結希
UC発動
味方を焔に巻き込まないようにする為に
広げた翼で前線を飛び越え、敵軍の真っ只中へ
これがみんな、エレーネに…絶望に負けた人…
でもそれはきっと、そういう運命だったから
例えヒトだった者だとしても、もう助けることも出来ないのなら全部、海に還す
希望へ向かう光の、邪魔をするな

翼から焔を撒き散らしながら地上へ【焼却】
負傷をブレイズキャリバーの焔で補いつつ【激痛耐性】
間合いに入った者から叩き潰す
『with』と『wanderer』
この世界で旅する時もずっと一緒で、いつも私を支えてくれた
だから今日だって、絶対に勝てる【勇気】

エレーネ…あなたがこの人達を愛しているように
私も、希望へ向かう人達が、大好きなんです



●心のままに奔る者
 戦場に突如、猛火が上がった。
 炎を纏い、放ち、大きく広がる緋色の翼。その中心に居るのはブレイズキャリバーたる春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)。
 解き放たれたのはユーベルコード【拒絶する焔(キョゼツスルホノオ)】。その炎が拒絶するのは絶望、或いは他ならぬ己を嫌い否定してしまう自身の弱さか。
「巻き込むといけんね」
 己が翼から広がる焔を見上げ、小さく呟くと結希は飛び立った。翼を羽搏かせその手に最愛の獲物を握り、前線を飛び越え翼から焔を撒き散らしながら敵軍の真っ只中へ。
「ガアアアアア!?」
「ギギギギギ」
 降り立った時には放たれる炎は巨大な渦となり、彼女を中心に半径100m足らずに広がる巨大な炎獄と化している。焼き尽くされ断末魔を上げるヴァンパイア達。『絶望なんて、全部全部、消えてしまえばいいのに』と嘆き、ただただ自分を照らしてくれる光を求める想いの火は、絶望に負け意志も己も摩滅させた化物共には熱すぎるのだ。
「これがみんな、エレーネに……絶望に負けた人……」
 ズラリと並ぶレッサーヴァンパイアの群を目に、思わず暗い声を漏らす。ユーベルコードとして結実する程に絶望を拒否する彼女に、その姿はどう映るのか。
「でもそれはきっと、そういう運命だったから」
 割り切る様にそう結論付ける。
 例えヒトだった者達だとしても、もう助けることも出来ないのなら全部、海に還すのだと。そう覚悟を決めて大剣(こいびと)の柄を握る手に力を籠めた。
 炎に焼かれながら、それでも群がって来る吸血鬼の群。痛みを知らぬ様に、熱さを感じぬ様にただただ血を求めにじり寄る大群を前に。
「希望へ向かう光の、邪魔をするな」
 それは訣別と決意の言葉。長き夜に喘ぐこの世界を救い、希望の朝を目指す戦士達の為、かつてヒトだった者達を、焼き尽くし打倒し尽くすのだと。

「……くっ!」
 だが、並み居る軍勢のど真ん中に突撃したのだ。己を中心に火を撒き散らす力を考えれば最高効率の運用とも言えるが、その代償は軽くない。
「ガアッ!」
 血の渇きと炎の明るさに狂乱した吸血鬼達は只管に暴れ、その密度と暴威は猟兵の力を持ってすら防ぎ切れる物では無く、程なく旅人の少女はその全身に幾つもの傷を受ける事となっている。
 それでも。
「死なない限り、負けませんよ」
 口の端を上げ不敵に笑って見せる。負傷した箇所はブレイズキャリバーの焔で補い、痛みは培った激痛耐性で堪える。そして間合いに入った物から順に斬る。斬る。斬る然して叩き潰す。
「アア、アアア」
「血、血、血ィィィ」
 それでも終わり無く群がる亡者の群。
 されど心は折れない。あくまでも絶望を拒み、戦い続ける。その心の支えは渾身を籠めて振るう黒き大剣<with>と脚力を強化しその機動を支えるブーツ<wanderer』>。自由気ままに世界を渡り歩く根無し草である彼女と常に共に在り、何時も支えてくれた物達。
「だから今日だって、絶対に勝てる」
 信頼と絆が勇気を生む。愛が強さを紡ぐ。それが依存であろうと、自己暗示であろうと、実に繋がるのであればそれは力だ。
「ギアッ!」
「……ァ……!」
 だが想いは全能では無い。焼き滅ぼしたヴァンパイアの影からもう一体、そしてそれとは逆から三体が一斉に迫る。
 二体は炎と大剣でそれぞれ屠れた。だがそれでも未だ二体……思わず身を固くした結希の目前で一方の側頭部が銃声と共に弾け、もう一方の脇腹に突撃槍が叩き込まれた。
「間に合った……! ったく、援護射撃さまさまだ」
「ようやく追いついたぞ嬢ちゃん!」
 領地の兵士達、そして『闇の救済者』の戦士達。振り返れば突出した結希を孤立させるまいと、只管真っ直ぐ突き進んだ突撃の軌跡。
 光りは全てを照らす物だ。それはつまり、結希自身とて例外では無い。どれだけ効率が良かろうと強かろうと、彼女一人で戦わせ続ける事を良しとする様な戦士はそもそもこの戦場に来やしないのだ。
「エレーネ……あなたがこの人達を愛しているように。私も、希望へ向かう人達が、大好きなんです」
 その顔はどんな感情の発露で、その言葉はどんな思いの現れだったのか。
 それを知るのは彼女だけで、けれどそこで戦うのは最早彼女一人だけでは無い。

●理を以て想いを通す者
「やれやれ……無茶をする」
 仲間同士の合流が叶った事を見て取り、小さく安堵の息を吐いて視線を動かしたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が立つのは鐘楼の上。
 敵と味方の動きを把握するのに最適の高所を最速で見つけ、陣取る。その判断と技術は、口で言うは易いが実行に移すのは困難極まる筈。だがシキは何と言う事も無いとばかりの冷静な顔のまま視線を巡らせ、ヴァンパイアの群を前に劣勢になった『闇の救済者』の戦士を確認。一瞬で狙いを付け<ハンドガン・シロガネ>の銃弾を放つ。
「ギャッ!?」
 突然頭部を弾かれ、牙を剥いたままのヴァンパイアがそのまま倒れ伏した。
 ハンドガンで狙撃等、本来は尋常の所業では無い。だがそもそも猟兵とは尋常の存在では無く、威力重視の実用的な造の銃の飛距離と、彼自身のスナイパーとしての超絶技巧が常識を覆す。
 そして次の援護先を探し、見つけ、再び引き金を引く。
 作業の如き速度と精密さを支えるのは……その頭の上でピンと立てられた狼の耳。
 ユーベルコード【ワイルドセンス】。人狼である彼ならではの鋭い五感、そして野生の直感。それは従来なら予知めいた行動予測と高精度回避として結実する能力。それを応用し戦場の把握に転用、視覚や聴覚での情報と組み合わせて広範囲を把握しているのだ。
「次だ」
 銃の攻撃範囲の戦いが安定したと見るや即座に移動を開始し、先んじて目星をつけていた索敵と射撃のポイントへと走り、最低限の移動時間で新たな地点に陣取る。
 淡々と完璧に己が仕事をこなす。正確に頭部を狙い迅速に片付け、敵を手早く減らすそのストイックさはいっそ作業めいているが。その実彼の動機は相応にウェットな物である。そもそも人狼である彼は此処ダークセイヴァーの生まれなのだ。
「彼等が希望を信じて奮起するというのなら共に戦いたい」
 ……同じ世界で生まれた者として。
 それがこの戦場で彼が銃把を握る一番の理由。
「グオオオオ!」
「デカブツか……おい、トドメは頼む!」
 声を掛けられた『闇の救済者』の戦士が少し驚きながらも頷いた時には、その銃弾が大柄なヴァンパイアの両の脚を正確に撃ち抜いている。バランスを崩した化物はなるほど銃で殺し切るには丈夫で、場合によっては攻撃を無視して強引にシキの元まで突撃してくる恐れもある。だが、機動力を奪ってしまえば戦士達の餌食である。
「……!」
 そんな終始冷静なガンナーの目に、初めて強い警戒が過った。
「……ぐ、ぅ」
 その五感が捉えたのは戦士の窮地。どうやら槌を持ったレッサーヴァンパイアの一撃に意識を刈り取られたらしいその兵は地に伏し、その身体にヴァンパイア達が群がっている。
 ブラッドサッカー、人の戦士であるその身を化物に貶め己達の仲間に引き入れる心算なのだ。倒れ伏したその背に手を伸ばし……
 射撃、その上で撃ち砕く。
 射撃、その頭部を撃ち抜く。
 射撃、隣のヴァンパイアを撃ち、射撃、その隣の化け物を屠り、射撃、射撃射撃射撃射撃。装弾も迅速に次々に撃つ、撃つ、撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。敵共を近づけるまいと。少しでも遠ざける様にと。他の戦士が動けないままなら、十分な間合いを確保した後自ら抱えて離脱するべく救助に向かう心算だ。
「覚悟をもってこの場に集まった者を、ヴァンパイアなどに堕とさせはしない」
 それは戦士への敬意であり尊重。
 猟兵も只人も無く。今この戦場で共に戦う全てが戦友であり、同志。
 この地を、希望の明日に辿り着かせる為の。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●ひとでなしの愛
 それを知ったのはオブリビオンとして蘇ってから。失われた過去の化身として骸の海から染み出てから。世界を滅ぼす、世界の敵と成り果ててから。
 美しいと思った。眩しいと思った。素晴らしいと思った。強いと思った。欲しいと思った。近付きたいと思った。触れたいと思った。奪いたいと思った。奪われたいと思った。睦みたいと思った。そう思えば、美しくない部分も、眩しくない面も、素晴らしくない所も、弱さも同じだけ尊く感じた。全て。全て求めたいと思った。
 その時点では。それは多分、未だ恋だったのだろう。

 愛になったのは、それが叶わない想いだと分かってから。
 それでも求める事を止めれない、止めたくないと、そう思ってから。
 止めないと、そう決めてから。
リインルイン・ミュール
ヒトが未来の為に立ち上がるなら、それを支えるのも仕事です
ワタシはヒトの為のケモノですからネ!


攻撃役は概ね足りていると判断しまシタ
なのでUCで紡ぐのは「望まぬ今に抗う心」「己の手で未来を掴む意志」「誰かの為と奮い立つ魂」の歌
猟兵その他を問わず。共感による治癒効果だけでなく、心の力になると信じて

とはいえ蝙蝠は来ますカラ、歌いつつ拳や剣を振るい、襲われたら拙い状態のヒトがいれば庇います
処理が追い付かなくなったら、少しだけUCの歌を止め
面(シンフォニックデバイス)で増幅した、エナジーと軽い衝撃波を伴う声を発しましょう
これで消滅するなら良し、そうでなくとも耳の良い蝙蝠なら動きを鈍らせる事は出来るかもデス


紫・藍
歌うのでっす!
祈りを込めて大きな声で!
愛を。勇気を。優しさを。悲しみを。寂しさを。温かさを
笑って泣いて歌うのでっす!
皆々様が諦めてしまった人間を、歌うのでっす
おじょーさんが離した手を藍ちゃんくんが掴むのでっす!
変わるということは終わるということではないのでっす!
癒やすのは乾きと魂の摩耗
砕くのは暴走し剥き出しになっているおじょーさんの血統!

生かせないのは分かってるのでっす
それでも最後にもう一度変わるか変わらないかを選べるのなら。
だからこの歌は藍ちゃんくんによる鎮魂歌でっす


届いてますか、おじょーさん
弔いは遺族の為にもあるもの
この歌は皆様の唯一人の遺族であるおじょーさんへと向けた歌でもあるのですよ?



●戦うモノ達の為の歌
 朝より始まった戦いは長期に渡り、太陽は天頂に至っている。
「ギシャアア!」
「血血血血血血血チチチチチチチチチチチ」
 エレーネの眷属達は昼夜すら意に介さず無尽蔵に暴れ続ける。勿論、無限のエネルギーを有するわけではないだろう。だが、狂乱に染まった彼らは疲労も傷を無視していた。
「はぁ……はぁ……」
 一方、戦士達は只人だ。長き戦いは疲労を蓄積させ、負った傷口からは命が零れる。際限なく戦い続ける事等できる筈がないのだ。
 けれど。
 ──♪ ♪♪♪ ♪♪♪♪ ♪♪
 歌が聞こえる。
 折れかけた膝を支え、傷付いた心身を慰撫する歌。 
「……おお」
 深手を受けよろめき今にも斃れそうだった筈の戦士が、その場に踏み止まり驚いた顔で己の身体を見下ろす。切り裂かれた皮鎧と服はそのままに、傷が塞がっていたからだ。
 その歌は治す。比喩ではなく、実際の治癒効果を伴って。
「ヒトが未来の為に立ち上がるなら、それを支えるのも仕事です」
 ユーベルコド【シンフォニック・キュア】。その歌声で魔法の根源を制御するシンフォニアの神秘。その旋律と声に共感した一切衆生を遍く癒す詠唱歌。
「ワタシはヒトの為のケモノですからネ!」
 歌い手の名をリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)。不定形の身体を言葉の通りに獣の姿に象り、如何なる理由によってか『顔』の形を作れぬ故に獣頭を象った面を被ったブラックタールの女性。
 攻撃役は概ね足りていると判断し、彼女は紡ぐ。猟兵その他を問わず、今を生くる全ての者達に寄り添う歌を。
 純なる想いが織り込まれたそれは『望まぬ今に抗う心』の歌。また『己の手で未来を掴む意志』の歌。そして『誰かの為と奮い立つ魂』の歌。その歌が吸血鬼の支配の中にある今に抗い、自らの力と命を賭けて戦う事を選んだ戦士達の心を打たない筈はない。その魂を奮い立たせない筈がない。
「未だだ! 未だやれるぞ!」
「……負けてたまるか!」
 戦場の其処彼処で、戦人達がその心を燃やす。よろめく脚を踏み締め直し、緩んだ拳を再び握り、俯いた顔を上げ前を向く。ユーベルコードとしての治療効果だけではない。リインルインの歌は彼らの心の力となっていた。
 また、ブラックタール自身も歌うだけではない。大型の籠手を装着した拳や黒銀色の銀剣を振るい、時に念気の力場を振るって友軍の援護を行っていた。励まし守り援護するその存在は戦場に置いてとても大きい。
「ア、ア、ア……!?」
 ヴァンパイア達にゆっくりと動揺が広がりつつあった。意志も感情も薄い彼等だが、逆に言えば僅かなりとも情緒は残って居るのだ。自分達が不死の化け物の群だと言う自認もあれば、相対した只人は程なく餌として貪り食い殺されるのが常だとも認識していた。
 それがどうして、彼らは倒れないのか。死に絶えないのか。人の紡ぐ言葉と歌が人の魂を震わせ強くするその理が、僅かに残った魂の残滓では理解できないまま、ただ戦士達を蹂躙しようと一斉に吸血蝙蝠の群を放つ。
「おっと、いけナイ」
 その膨大な数に、歌いながらでは防ぎ切れないと判断したリインルインが歌を一旦止める。その恐るべき牙の群も、<星蒼の欠片>と名付けられた増殖型ナノマシンを体内に備える彼女からすれば致命傷には至るまい。だが只人の戦士達はそうはいかない。
「──!!」
 放たれたのは歌では無く、エナジーと衝撃波を伴う声。彼女の被る面<並白の面>はその実、蒸気魔導式拡声器でもある一種のシンフォニックデバイス。その機能に拠って増幅された音撃は広範囲の蝙蝠達を砕き、鈍らせた。
 引き換えに彼女の歌が僅かに途切れた訳だが……しかし問題ない。
「間奏の様なものデス。それに……」
 想いを紡いでいるのは自分だけでは無いと……歌を再開する前の僅かな間に耳を澄ませる。戦場に響くもう一つの歌声を聞く為に。

●消え逝くカレ等の為の歌
 ──♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ ♪ ♪♪♪♪♪♪
 擬獣の歌姫の癒し歌とは別に響く歌声。離れては別個に、近づいては互いに合わせ混ぜ、時には競い合う様に、或いは増幅し合う様に歌われるその旋律。
「歌うのでっす! 祈りを込めて大きな声で!」
 その名も<ソウル・オブ・藍ちゃんくん!>と銘打たれた己専用のカスタム楽器を奏で、マイクを握り、歌う彼は紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)。姫だけど彼、男の子。
「……」
「…………ァ……ゥ」
 ギザ歯の並ぶその口から紡がれる歌声もまた戦場音楽として戦士達を鼓舞してはいる。だが、主眼はそれでは無い。それを示す様に旋律に反応し、動きを鈍らせているのは寧ろ化物達の方だ。
 藍は歌う。愛を。勇気を。優しさを。悲しみを。寂しさを。温かさを。
 心と魂を篭め、笑って、泣いて、歌う……彼らに向けて。
「……ァア……?」
「皆々様が諦めてしまった人間を、歌うのでっす!」
 人では無くなってしまった彼等に向けて。
 かつて吸血姫に伸ばされた手。それは誘惑の囁きであったのか、それとも絶望の爪であったのか……何れにせよ。その誘いに負けレッサーヴァンパイアと化した彼等の手を、エレーネは興味と共に離している。
「その手を藍ちゃんくんが掴むのでっす!」
 そんな意志を籠め、歌は紡がれる。
 ユーベルコード【藍音Cryね(アイ・ネ・クライネ)】。歌い手である藍のあるがままの祈りと願いと心が籠められたその歌声は、世界の何よりも優しい攻撃である。悲しみや恐怖を癒し、ただその原因のみを廃する奇跡の歌。
「…………」
「…………ゥ…………」
 心と魂の殆どを喪った吸血鬼達の悲しみと恐怖、それが何であるのか分かる者は居ないだろう。藍自身ですら、実際に心魂を喪って居ない以上そその全ては理解し得ない。
 けれど。
「変わるということは終わるということではないのでっす!」
 化け物と成り果てても、想いの大半を摩滅させ様とも。どれだけ変わり果ててもそれは未だ終わりでは無いのだと。
 乾き摩耗した魂の欠片でも残って居るのであれば、それを癒やす。
 そして。
「砕くのは暴走し剥き出しになっているおじょーさんの血統!」
 一つだけ確かなのは、彼ら彼女らが吸血姫エレーネの手に拠って吸血鬼に変じたのだと言う事。であれば一つだけ確実に原因と言えるのは、彼女の血の影響。
 それを一部なりとも砕けばどうなるのか。
「……ァあ。ああ……ワたシは……ワタ……ワワワワワタタタタタ」
 それはただほんの僅かだけの事。人間性の最後の一欠けらが僅かに零れ、直ぐ狂乱の化け物に戻ってしまう。……かれど最期にほんの少しだけ、自分が何であったのかを思い出せるのなら。それに意味はきっとある。
「……躊躇うな!」
「今この“チャンス”を逃すな!」
 それは暴れまわる吸血鬼達に現れる明確な隙でもある。それを戦士達は逃さなかったし、逃すべきではないと考えた。剣が、槍が、矢が、槌が、彼等を最後へと送る。
「生かせないのは分かってるのでっす。……それでも最後にもう一度変わるか変わらないかを選べるのなら」
 だからこの歌は、藍による鎮魂歌なのだ。
 彼らそれぞれが結局レッサーヴァンパイアとして逝ったのか、それとも『誰か』として逝けたのか。それは分からないし、それに意味があるかも誰にも定義できまい。
 それでも藍は歌う。弔いの歌を。彼らの為に……それから、吸血姫の為に。
『届いてますか、おじょーさん』
 弔いは遺族の為にもあるもの。人ならざる者に成り果てた彼らの最後の遺族は誰かと言うなれば……唯一人だけ。
『この歌は、おじょーさんへと向けた歌でもあるのですよ?』
 ダンピールのプリンセスは心を込め歌い続ける。あなたに届けと。皆に届けと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●エレーネの愛
 美しい歌が聞こえる。人の賛歌、勇気の賛歌、輝ける参加。
 綺麗だなあ……本当に美しい。本当に。本当に。……翻って自分はそうではない。
 妬み憎む事が出来れば違ったのだろう。でも出来なかった。
 貶め引きずり落とそうと思えれば良かったかも知れない。でもそれも嫌だった。
 憧れてしまったのだから。
 けれど手を伸ばせど届かない。届かせてはいけない。届いたとしても、待つのは終わりだけ。自分は最早そう言う存在で。憧れたのはああ言う存在だ。共に在れる筈も無く、だからこそ愛おしいのだ。泣いても枯れても叶う事の無い夢を求めて。求めて。求めて。
 それで、ただ一つだけ。憧れたその輝きを間近に在れる方法があるならば。触れる事は叶わなくても、面と向かって見つめる事の出来る手段があるならば。
 今更、道理も倫理も心情も知らない。知った事か。
 ……ねえ。だって、私は化物なのだもの。
リーヴァルディ・カーライル
…かつての貴方達は、この地の
領主に抗う者達だったと聞く

…そんな貴方達が領主と同じ吸血鬼に成り果て、
傀儡として救済者達の前に立ちはだかる…

そんな今の在り方は貴方達とて望んでいないはず

せめてもの手向けよ。その不本意な生から解放してあげるわ

UC発動して102本の魔刃に光の魔力を溜めて武器改造を施し、
2本の魔刃は双剣として敵の攻撃を受け流しカウンターで迎撃するのに用い、
残りの全魔刃を今までの戦闘知識から連携させて空中戦機動の早業で乱れ撃ち、
光刃のオーラで防御を無視して切断する光属性攻撃で敵陣をなぎ払う

…刃に満ちよ光の理。我に叛く諸悪を悉く浄化せしめん

…その血の宿業を断つ。眠りなさい、安らかに…


ニクロム・チタノ
レッサーヴァンパイア達たくさんいるね?
みんな反抗を忘れてしまったんだね?
ボクはキミ達のボスに反抗しに来たんだ!
キミ達のことはここで解放してあげるね。
とはいえ一人一人倒してたらキリがない、領主もいるし体力は温存しないと
ここは敵の注意を惹いてたくさん集まってきたとこをグラビティエリアで一掃する!
生き残りはレジスタンスのみんなとさっさと倒して領主の元に向かうよ
さあ、これより反抗を開始する!
どうかチタノの加護と導きを



●抗うと言う事
 戦いは長引き、戦場に折り重なった敵味方の骸は数多。
「レッサーヴァンパイア達たくさんいるね?」
 それでも未だ地平線を埋める程に並び揺らめく虚ろの群を前に、ニクロム・チタノ(反抗者・f32208)は己が得物にこびり付いた血糊を振り払いつつ表情を変えず呟く。
 雪の様な白肌、赤い瞳に銀髪のツインテール……丸で妖精の様なその容姿に反比例する様に泰然とした無表情。それはレプリカント故か、或いは単に彼女の性格か。
「……かつての貴方達は、この地の領主に抗う者達だったと聞く……そんな貴方達が領主と同じ吸血鬼に成り果て、傀儡として救済者達の前に立ちはだかる……」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)もまた表情を揺らがせない。ニクロムに同じく透き通るような白肌と銀髪を煌めかせ、紫瞳の目をただ僅かに細めるのみ。
 けれど吸血鬼達に向け語り掛けるその声に僅かならずの感情が籠って聞こえるのはきっと気のせいではない。ダンピールの吸血鬼狩りとして戦い続けてきた彼女からすれば、目前の死者の群は到底許せる存在ではないのだから。
 ……それに、彼等の中にはほんの少し前まで肩を並べ戦っていた者達が混ざっているのだ。どれほど猟兵達や戦士達が心を砕こうとも、全ての骸の尊厳を守り切れる筈もなく、ブラッドサッカーの魔手を受け化け物に成り果てたかつての仲間達。
「みんな反抗を忘れてしまったんだね?」
 しかしそれは、今この戦場に居る吸血鬼達全てに共通する事でもある。今日であれ、何時かの過去であれ、彼らの全ては人間であり、或いはリーヴァルディの言葉通り領主であるエレーネに反抗していた者達。それが、ニクロムの言葉通り今や反抗の心を喪い暴君に従うままの下僕。
「アアアア、アア」
「チヲヨコセチヲ血をチヲ!」
 虚ろの群は牙を剥く。それはニクロムの言葉に対する返答ではないが、肯定も同然ではあるだろう。
「ボクはキミ達のボスに反抗しに来たんだ!」
 レプリカントの少女の表情は動かず、その心情は読み取れない。だが元々口数の少ない彼女が続けては言葉を発している事自体が、何らかの感情を顕している可能性もある。構える妖刀、銘は<反抗の妖刀>。彼女を選び加護を与えたと言う『反抗の竜チタノ』に与えられた得物。ニクロム・チタノと言う名の少女は、何処までも反抗と言う言葉に彩られている。
「こんな今の在り方は貴方達とて望んでいないはず」
 リーヴァルディの人生もまた、反抗の道程だった筈だ。長く吸血鬼の支配の下にあるダークセイヴァーの世界で吸血鬼狩りといて生きている、其れはつまり世界を支配する権力全てに抗する事に他ならないのだから。
「キミ達のことはここで解放してあげるね」
「せめてもの手向けよ。その不本意な生から解放してあげるわ」
 抗う者たる銀髪の乙女二人は、最早抗う心を喪ってしまった化物共に向け声を重ねる様に同時に宣言する。
 それは手向けの言葉。そして必殺の誓いと覚悟。

●為遂げると言う事
「一人一人倒してたらキリがない、領主もいるし体力は温存しないと」
 倒せど斃せど尽きず補充すらされる敵軍に、ニクロムがこれでは消耗するばかりだとブレイクスルーの必要を呟く。そして求めるだけでなく策をとその足を前に踏み出しかけたが、しかしリーヴァルディが頷きを返すのを見て動きを一旦止めた。
「……確かにそうね」
 短く同意したダンピールの黒騎士は、其れ迄振るっていた得物……伝承の吸血鬼狩人の名を内包したマスケット銃を慣れた仕草で仕舞う。弾丸である精霊結晶を使い切ったから? 違う。戦意を喪ったから? 勿論違う。打破案となる手があるからだ。
「……この刀身に力を与えよ」
 武器を納め無手となったリーヴァルディの周囲に現れるのは魔力結晶の刃。それも総数102体にも及び、その全てが魔法増幅能力を付与された魔刃の大軍。
 ユーベルコド【吸血鬼狩りの業・魔刃の型(カーライル)】。鏡の如く光を反射するその刃の群は必殺の剣であり、魔法の増幅器たる杖でもある。その内2本を両の手に握った吸血鬼狩りは、その身をフワリと飛翔させた。
「ちょうど良い」
 様子を見た甲斐があったとニクロムが一つ頷く。スッと伸ばした手の指先が指し示すはレッサーヴァンパイア達が集中し、劣勢に立たされている戦士達の立つ地点。口数少なく、視線で語る。
「無事で」
「どうかチタノの加護と導きを」
 互いに短い言葉だけを交わし、意図を汲んだ黒騎士は飛び去り、ブレイズキャリバーはその場に残る。。
「グガガガ!」
「血ァオオオオオ」
 だが、それまで実力の突出する猟兵二人がかりで支えていた戦線である。
 当然これまで散々レッサーヴァンパイア達の注意を惹いており、集まって来る敵戦力は多い。増してその片割れが去ったのだ、人格と意志の薄い化物達の目にすら、それは好機に映るが道理。沢山と言うのも生ぬるい数の亡者が反抗者の少女に向け殺到し……。
 そして勿論、それは彼女の狙い通りだった。
「沈め超重力の海底へ」
──ガッウォン!!
 鈍く、そして恐ろしく重い轟音が響き渡る。
 音源は大地。ニクロムの周囲一帯の地面が冗談の用に凹みクレーターと化したのだ。
 であれば当然、その場に居た全ての吸血鬼達は。
「──ァァ!?」
「ギギ……ゥ……ウ」
 メキメキと鈍い音がする。グシャリ、ゴリュリとグロテスクな音がする。ろくな断末魔も上げれぬままに潰れて行く化物達は目に見えぬ力場に圧し潰され、あっという間に一掃される。
 ユーベルコード【重力の海(グラビティエリア)】。それはニクロム自身が元よりその身に持ち、『反抗の竜チタノ』によって目覚めた超重力波の力。その威力は高く強力だが、無差別攻撃であるが故に友軍の間近では使い難い広範囲制圧技。
 だがリーヴァルディが飛び去った今、自ら突出する必要もなくこの場に無事に立っているのはニクロムのみ。遠慮も会釈もなく、重き棒六の波を思う存分放つ事が出来る。
「さっさと倒して領主の元に向かおう」
 生き残りを確認するべく周囲を見回す。生き汚く蠢く吸血鬼達がチラホラ見え、範囲の外からもワラワラと集まって来るのが見えた。レジスタンスたる戦士達に任せるには未だ未だ多く、もう数度は放つべきかなと呟いて。
「さあ、これより反抗を開始する!」
 更に亡者共の注意を惹くべく声を上げ、ニクロムは蒼焔を燃え上がらせた。

●悼むと言う事
 空を舞うリーヴァルディが辿り着いた先。その背後で重力の波が荒れ狂う今、そこは最後の激戦区と言える地点だった。
「負けるな……もうひと踏ん張りだ」
「勝利は目の前だぞ……!」
 励まし合う戦士達も疲労と消耗は否めない。だが、だからこそ現れた援軍は正しく守護天使の一軍が如し。
「……刃に満ちよ光の理。我に叛く諸悪を悉く浄化せしめん」
 刃の雨が降る。増幅された魔力が荒れ狂う。光刃のオーラは吸血鬼達の守りをすり抜け、その肉体と汚された魂魄を直接切断する。俗に言う所の光属性攻撃であるその武威は、夜の亡者の群達には覿面に相性が良い。
 勿論、ヴァンパイア達とて刻まれる一方ではないが。
「ガァ……!」
「……ん」
 振るわれた錆び槍の一撃を、黒騎士はいっそ無造作に切り払った。続く別の化物の一撃もまた、魔刃の腹で受け流す。双剣として手に持った二本は、彼女自身の身を守る為にその輝きを瞬かせ。
「ァガ!?」
 カウンターの一撃がその敵を屠る。
「ギャッ」
「……ォゴ」
 並行し、宙を舞う百の魔刃達は戦場を飛び交う。空中戦機動の早業による乱れ撃ち、亡者に避け得る物では無かった。
 吸血鬼狩りとして、リーヴァルディの戦闘知識は対吸血鬼としての精度に特化していると言って良い。その地盤の上に構築された100+双剣の連携。ましてそこに戦士達の奮闘が加われば……。
「……その血の宿業を断つ」
 見る見る内に押し込まれる戦線。なぎ払われる敵陣。屠られて行く化物達。
「うおおおおお! もう少し! もう少しだ!」
「渾身を篭めよ!!」
 希望が見えた戦士達の奮闘もまた著しく。油断なく、緩まず、屠る。打ち倒す。明日の為に。今この時の希望の為に。
 音を立ててまた一体が崩れ落ち。ふと気づけば残る化物はどれもチラホラと遠く、その数は最早僅かばかり。それは誰の目にも明らかな勝利の確定であり。
「眠りなさい、安らかに……」
 未だ実感が沸かずいっそ戸惑う戦士達の中、リーヴァルディ・カーライルと言う名の少女は小さく別れの言葉を告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『吸血姫エレーネ』

POW   :    夜天の鬼
【その身に備わった圧倒的な怪力】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    紅血の姫
自身の【白肌を飾る血紋】が輝く間、【優雅に舞い切り裂く四肢と翼】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    不死の王
自身の【内に溜め込んだ血と命か、下僕達のそれ】を代償に、【蝙蝠や魔犬等の眷属の群】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【不浄の力を纏った爪や牙】で戦う。

イラスト:らいらい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハイドランジア・ムーンライズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●我儘な愛のままに
 不意に。
 僅かながら少数残るレッサーヴァパイア達が一斉にその動きを止めた。
── ッ。 ッ。 ッ。 ッ。 ッ。
 怪訝な顔で、しかし警戒を禁じ得ず周囲を見回す戦士達の耳に届く足音。
 そして現れたのは小さな人影。
 血の赤と夜の黒のドレス。ヌルリと煌めく銀髪。白い肌。優雅に着こなしたドレスは地面すれすれでふわりと浮かび、その布地に土や汚れを着けさせない。
「吸血姫が……地を、歩いている……」
 誰かが呻く様に呟いた。
 領地に生きる者達にとって、彼女は常に居心地のいい椅子や下僕に腰掛け、或いは何らかの術か力場に拠ってか中空に浮かび寝そべる姿しか見ない。生粋の貴人だった。
「対等なのだから、同じ地平に立つべきでしょう?」
 その貴人が、その柔い唇を笑みの形に歪めそんな言葉を紡ぐ。
 大半の者が耳を疑った。領民は勿論、『闇の救済者』の戦士達もそうだ。吸血鬼が、人を見下し塵芥か玩具としてしか扱わないオブリビオンが、仮に戯れであったとしてもそんな言葉を吐くとは、と。
 ……そして猟兵達は知っている。それが戯れではない事を。
「貴方達は最早、今この時最早奴隷では無い。下僕でも無い。劣等でも卑小でも弱者でも無い。だって戦いの舞台に上がったのだもの。相対する彼我に上下等は無く、互いに同等の敵手。違うかしら?」
 歌う様に。讃える様に。朗々と唱えられる言葉。明らかな賞賛と、僅かに濡れた色気を含んだ甘やかな声。細められた目元は紅潮し、その貌には明らかな好意が浮かんでいる。
 好意。いや、愛なのだろう。少なくとも彼女自身はそう定義する想い。
「その勇気と覚悟に報酬をと思うけれど……アテがないのよね。普段なら、貴方達が力尽き潰えた後も、その勇姿を永久に覚えて置くと誓うのだけど……この状況ではちょっと無理だから」
 物憂げに呟き、少し幼い仕草で苦笑して見せるその様に反応したのは猟兵達のみ。永世者である彼女が永久を約束できないと言う。それは、つまり。
「せめて、そうね……避難した領民達。滅ぶ前にせめて彼らが逃げ切るまでの時間は稼ぐと、そう誓ってあげる」
 続く言葉に更に目を見張る。この女は矢張り、迫る絶望を……

「所で」
 思考を遮る様に。一際良く通る声をヴァンパイア領主は上げた。
「私はね、愛とは一方的な物だと思って居るの。少なくとも、私のはそう」
 それは演説の様に。或いは歌謡の様に。何らかの魔力を通しているのか戦場全てに掠れず届く自分語り。
「私は人を愛している。人がそれを認めなくても、愛では無いと言っても、ただ愛している。己が飢え乍ら幼子にパンを与える優しさを、守ると決めた物の為その命を燃やし尽くす信念を、闇夜の暗さに怯え乍らそれでも前に進み続ける強さを、金銭の魔力に憑りつかれ他者を蹴落とす浅ましさを、その時その時の苦労を厭い毎回言動を変える二心を、怠惰に溺れ易きに流れる弱さを」
 陶然と蕩けた表情の中、口の端から覗く牙をその舌先がチロリと舐める。
 潤んだ目元、睫毛が小さく震え感極まりつつあるその感情の高まりを表していた。
「全て。全て。全て。何もかも。……始めは、輝きに恋し美しさに憧れたとしても、それはあくまで切っ掛け。一度愛に目覚めてしまえば、良きも悪きも全てが愛おしいと思えるの。いいえ、いいえ、或いは人の闇もまた人の輝きで、醜さもまた美しいと言えるのかも知れないわ。人は人であるが故に美しく、私とは違う。それは悲しい事だけど。でも、だからこそ……嗚呼、嗚呼……愛してる……」
 それは最早悦楽の吐息に近く、己の身を抱きすくめる様にすぼめた肩と顔を覆う両手が、感極まりフルフルと小刻みに震えている。
「けれど。だからこそ、私を愛してくれなんて言わないわ。受け取ってくれとも、愛させて欲しいとも求めない。愛するの。それだけなの。……それだけなのよ」
 一方的で身勝手で幼子の駄々の様な愛。
 スッとその両手がスカートの裾を摘み軽く持ち上げる。片足を斜め後ろ内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げる。そして背筋は伸ばしたままのお辞儀。美しい所作のカーテシー。
──ぞ ぞ ぞ ぞ ぞ ぞ ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ
 同時、動きを止めていた下位吸血鬼達と、既に斃れ伏したその骸達から一斉に赤黒い何かが漏れ出た。それは止める間もなく戦場の中空を奔り、一斉に吸血姫のスカートの内へと集まり入って行く。
 数秒の間の後、カサリと。
 酷く軽い乾いた音と共に全てのレッサーヴァンパイア達が崩れ落ち、そのまま粉微塵に砕けて風に消えて行った。理屈では無く感覚で、そこにはもう何も残って居なかったのだと見て取れる。血も、心も、魂も。
 しかし当のエレーネ本人はそれで強化されたと言う風でも無く、寧ろ少し反動を受けた様に顔を顰めよろめき。けれど直ぐに姿勢を立て直し、戦士達を真っ直ぐに見る。
「……私の全てで愛します」
 愛の言葉と、頬を染めたいっそ淑やかな笑顔。
 相手に何も求めず、ただ己の中の愛のみを捧げる一方通行の想い。
「さあ、はじめましょう」
 それが戦士達に向け、今。
ブラミエ・トゥカーズ
初めまして、未来の敗北者よ。嘗ての敗残者からの馳走である。
余の”招き”に応じくれぬかな?
一杯くらいは良かろう?
麗しき姫君よ。
余自身よりも余の怨敵共の方が好みであったかな。

シンパシーを感じている。

【WIZ】
従者:過去に勧誘したDS産『付き従う者共』一体。
道具:屋外ティーセット一式(輸血液パック付き)
お茶会を開く。
楽しまない者の行動速度低下。
提供する血は飲みやすく癖がない

生血は無沙汰故、供されるなら嬉しく思うぞ。

眷属蝙蝠等は従者が捕え絞って紅茶へ。

余はかつて人に恋された事もあるぞ。
その少年に退治されたが。
貴公にもそういった者はいたか?

妖怪は人が大好きで、
こっそり隣に存在するのだ。

アドアレ絡歓迎



●それは愛に辿り着きましたか
「……不味いぞこれは」
 戦いの檄音の中、誰かの呻き声が漏れ聞こえる。
 レッサーヴァンパイア達を廃し、後はエレーネ単身。連携を取り、多数で囲んで封殺すれば勝利危うからず……等と、都合の良い算段をしていた訳では無い。
──ァウ ァウ ァウ グァウ
 実際調べ上げた情報に猟兵達からの教授も加え、かの吸血姫が無数の眷属を扱う事は把握し勘定に入れていた。事実、既にこの領地の兵士達は前線からほぼ引いている。勿論臆病風に吹かれた訳では無く、怪我人の搬送と後方からの援護に専念しているのだ。猟兵達は勿論『闇の救済者』に比べても数段実力の劣る自分達では、対領主の激戦に置いては寧ろ足手まといになる。そう判断しての元からの作戦通りである。
──キィ キィ キキィ キィ
 その目算は当たっていた。影から染み出る様に現れた蝙蝠や魔犬の群は如何にも強く、領兵達では鎧袖一触だった可能性が高い。が、『闇の救済者』達であれば連携を取れば何とか対抗出来ている。
 では何が不味いか。数だ。多過ぎるのだ。
 騎士鎧を着た戦士に向け、赤黒い涎を垂らし黒い犬が飛び掛かる。
 それを側面から大槌で叩き落した戦士に、鋭い牙を剥いた蝙蝠の群が群がる。
 魔術の炎が蝙蝠達を撃ち落とすが、それと同時に貴重なユーベルコード使いの戦士の影の中から魔犬が現れその咢をグパリと開き……。
 最初は領主の影から、次にそうやって現れた自身達の影から、やがて周囲の建物や木々の影から、遂には戦士達の影から現れる様になった眷属達。その全てを相手どっていては、いかな猟兵と『闇の救済者』達とて本丸であるエレーネに回す手が足らずにいた。
 血と魂を代償に呼んだとは言え、眷属である魔物達より彼女が弱いなどと言う事は在り得ない。手空きとなった彼女が横あいからその力を振るえば、猟兵は未だしも戦士達の命は雑草を引き抜くが如く刈り取られてしまう。全滅とまでは無理でも、せめて眷属の数を減らす迄の間。エレーネを引き付けて置ける存在が必要となっていた。
 だから。
「初めまして、未来の敗北者よ」
 男装の麗人のその声は、戦士達に取り天使の囁きが如き福音だった。彼女の正体を考えれば、それは少々皮肉な話ではあるけれど。
「……ああ、そう言えば貴女が居たんだったわね」
 それまでウットリと戦いを見回していた吸血姫が振り返った。丸で旧知の友人に会ったかの様な笑顔と物言い。けれど勿論、初対面。
「嘗ての敗残者からの馳走である。余の”招き”に応じくれぬかな?」
 吸血の暴君を敗北者と呼び、己を敗残者と称するはブラミエ・トゥカーズ。その背後にあるのは上品なティーテーブルと茶器……信じられない事に一式のティーセット。つまり戦の最中にお茶会を開こうと言うのだ、この吸血鬼は。
「一杯くらいは良かろう?」
 あまつさえ、それが当然と言わんばかりの態度で席を勧める。ある意味で正気の沙汰では無い。だが、だからこそ化物と言う正気の沙汰の外側の存在に取っては、円滑に共感を生む態度なのかもしれない。
「故郷と本質は違えど、御同輩のお誘い。蹴飛ばす程礼儀知らずにはなれないわね」
 こう見えても、子供に礼儀作法を教えた事もあるのよ。そう笑って席に着くその仕草は、なるほど淑女の作法に適った瀟洒なそれだった。
 そして激しい戦いのど真ん中、奇妙なお茶会は始まる。
「麗しき姫君よ。余自身よりも余の怨敵共の方が好みであったかな」
「あらご謙遜、貴女も素敵よ凛々しい王子様。確かに私が愛するのは彼だけれど……彼らに似合うのはお茶の席より、誇りと魂輝かす戦場だわ」
 男装のブラミエの麗人ぶりを誉めそやし、そう語る吸血姫の目は少し細められ、愛おし気な視線の先では戦士達が身命を賭し戦っている。
 ブラミエもまた、違いないとばかりに首肯する。病に起源を持ちその根幹は伝承と恐怖に拠って成る妖怪の彼女だが、それでも同時に同じヴァンパイア。只人には分かりようも無いオブリビオンの精神性に彼女だけが相通ずる何かを、シンパシーを感じている。
「あら……彼は此処の子ね?」
「分かるかね。以前、勧誘したのだ」
 紅茶……と言うには余りに赤い液体をティーカップに淹れた存在を見てエレーナが微笑む。言葉の通りダークセイヴァー産の化け物である従僕。それはブラミエのユーベルコード【名告げる事を禁じられたモノ(ケイヤクガイロウドウ)】によって屋外ティーセット一式と共に召喚され力を与えられた存在。それは戦場を飛び交う吸血姫の眷属の蝙蝠達を無造作に捕え絞り殺し、輸血パックの中身と合わせ供される紅茶を作っている。
「癖が無くて飲みやすいわね」
 たが、エレーネは意にも介さなかった。
 実の所、従僕に厳正な契約によって己に互する程の力の供与を行っている間、ブラミエ自身は戦えぬ身である。……つまり、ブラミエは総合的な戦力を減らさないまま、結果的にどの道戦えない自分の身柄一つで敵の最大戦力たるエレーネを足止めしているのだ。吸血姫はその事に果たして気付いているのか居ないのか、操血の術を見せ新鮮な血液を空いたお互いのカップに2杯目を注いでいる。
「御馳走になるばかりでは悪いわね。もう1杯目位は付き合いましょう」
「ほう。生血は無沙汰故、有難い」
 喜ぶブラミエの態度も相変わらず自信に溢れたまま。互いに和気藹々としている様な、或いは本音が見えぬような。貴族らしいと言えば貴族らしい歓談。
「余はかつて人に恋された事もあるぞ。その少年に退治されたが」
 惚気とも自慢とも取れる恋物語。『我等は人が大好きで、こっそり隣に存在するのだ』と、そう語る妖怪の王子様の言葉。
「……まあ、それは素敵ね」
 夜族の姫君はクスクスと笑い目を細める。羨ましいわと続けられた言葉が掛かるのは、恋された事に対してか。最後に退治される事で終わった事に対してか。
「貴公にもそういった者はいたか?」
「…………」
 吸血姫は少しだけ物憂げな顔をした。
「どうかしら。そこそこは懐いてくれた子、好いてくれた子は居た様に思うわ。けれど私が……私は、オブリビオンだから」
 そう言って少し困った様に笑う顔は、到底永世者の超然としたそれには見えず。寧ろ見目相応の、四方山事に思い悩む少女の様で。
 やがて再びカップの底が見え、束の間のお茶会は終わる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
その気持ち、その言葉は本物なのかもしれませんね。
だからこそ、相容れないです。

【果実変性・ウィッシーズラブ】を発動。ねこさん達には引き続き闇の救済者達との連携をお願いします。

【第六感】と【野生の勘】で敵の行動を【見切り】、セプテットやオラトリオで牽制しつつわたし以外に攻撃をする余裕を奪い、敵の攻撃がギリギリ当たらない間隔をキープしながら回避。
【カウンター】【クイックドロウ】で【全力魔法】を叩き込みます。

愛とはどちらか一方が無理矢理押し付けるものじゃない。
お互いに捧げ合い、お互いの幸せを祈り合う。そんな優しいものなのです。
だから愛を謳いながら彼らを傷付けた時点で失格です。

約束は護ってもらいますよ。


シャルロット・クリスティア
吸血鬼の思考はつくづく理解しがたいものですね。
もっとも、貴方とて理解すらも求めてもいないでしょうが。

貴方が貴方の都合で動くのであれば、私も私の都合でお相手しましょう。

吸血鬼の身体能力は侮れないものではあれど、その小柄な体躯は誤魔化しはきかない。
まぁ、小柄なのは私もですが。こちらは旗槍によるリーチの差がある。
懐に入れない立ち回りであれば、その怪力も活かしづらい。
それに何より、私たちは立ち上がった皆の未来を背負っている。
その後押しを受けたこの旗は、そう簡単には手折れない。

……私はすでに死した身です。
それでもなお、人とともに歩もうと思うのは傲慢でしょうが……貴方は、それも愛というのでしょうかね。


ハロ・シエラ
敵の言う愛も、考えも私には分かりません。
分かる事は相手が吸血鬼であれば戦わねればならないと言う事。
出来る事も人として戦い、斬る事だけです。

吸血鬼の力強さは身をもって知っていますが、妙な術を使われるよりはマシですね。
闇の救済者達が戦ってくれるのなら、射撃などで援護してもらいましょう。
私は接近戦を挑みます。
ただ打ち合うだけであれば私も【怪力】による【武器受け】などで凌げるでしょう
敵の怪力による一撃には、起こりを【見切り】後方に【ジャンプ】して敵から大きく離れながら回避し、ユーベルコードでダガーを槍にして【カウンター】の突きで対処します。
レイピアを印象付けておけば【だまし討ち】にもなるでしょう。



●それを理解できる者など居るのでしょうか
「吸血鬼の思考はつくづく理解しがたいものですね」
 先の戦いと変わらず旗槍を構え、シャルロットは切り捨てる様にそう言った。その身を亡霊と成り果てさせても尚、人の側に立ち戦う彼女からすれば、愛していると言いながら化物として人を苛み続けるエレーネの在り方は理外の物なのだろう。
「貴女の言う愛も、考えも私には分かりません」
 シャルロットに同意する様に、ハロもまた理解しかねると明言する。その手に持たれているのは呪われた短剣<サーペントベイン>。聖炎は対多数にこそ生きる術式、今こそは首魁たる吸血姫にその武威を集中させるべきと言う判断なのだろう。
「そうでしょうね。その方が良いわ」
 続け様に否定され、しかしエレーネはさもあり何とばかりに微笑む。言葉と共に一歩一歩、軽やかだが決して急かぬ足取りで猟兵達へと歩み寄る。
「その気持ち、その言葉は本物なのかもしれませんね」
 しかしそこに肯定の言葉を聞きつけ、あらと首を傾げた。見やった先に在るのは金の瞳……では無く封印の目隠しとアネモネの花。七つの銃<銃奏・セプテット>を展開した望だ。
 もっとも望とて理解できるとは言って居ない。ただ、理解は及ばずとも感覚として、印象として、本気である事を感じ取る事は出来るのだろう。視覚に頼らぬこのオラトリオであれば尚の事なのかも知れない。
 だけど。
「だからこそ、相容れないです」
 続いた言葉は、ある意味でより一層の隔絶を篭めた否定だった。
 いっそ虚言であるなら、寧ろ其処を是正する事で歩み寄りの余地があるのかも知れない。だが逆に本物であるなら、本音であるなら、その上で理解できぬ理屈と害を振り撒くのであれば……なるほど話し合いの余地は無いのだろう。
「悲しい事ね」
 少しだけ眉根を寄せた吸血姫の口元は、けれど僅かながら笑みの形に切り上がっている。
「貴方とて理解すらも求めてもいないでしょうが」
 その悲しみを否定する様に、解放の旗持てし乙女の言葉がそう断言する。
「貴方が貴方の都合で動くのであれば、私も私の都合でお相手しましょう」
 シャルロットの力強き宣言に、夜の姫は目を細めて一層笑みを深くする。ユーベルコード【解放の旗を此処に掲げよ(リベレイターズ・フラッグ)】の術式を使ってとは言え、真の姿での戦いを継続し続ける彼女は正しく消えぬ灯。その過去を砕く輝きを前に、過去から零れ落ちた産物たるオブリビオンは何を思うのか。
「分かる事は相手が吸血鬼であれば戦わねればならないと言う事」
 敵を識る事は出来ずとも、何を為さねばならないのかは分かると。ハロはその手の中のレイピアを握る。その銘を<リトルフォックス>、名の通り妖狐の霊力と炎の力を放つ精気食らいの細剣。
「出来る事も人として戦い、斬る事だけです」
 それは真面目な彼女らしい実直な言葉と理解。為さねばならぬ事と、為す事が出来る事。その二つが一致するならば、最早迷う余地は無い。
「わたしは望む……ウィッシーズラブ!」
 翼を広げた望の詠唱。その姿は華やかなドレスめいた衣装へと変わる。己の右側頭に咲く赤いアネモネを模した飾りを幾つも飾った、アース系の世界で言う所の魔法少女の様な装いにツインテールの髪型。
 吸血姫の目が好まし気に笑った。それはその見目の愛らしさに対するのみではなく、その全身を強力な魔法が強化し飛翔の力を与えている事を見て取ったからだ。
 ユーベルコード【果実変性・ウィッシーズラブ(トランス・ウィッシーズラブ)】。愛の銘が示す通り、そのコードは愛の強さに応じ効力を増す。そしてこのオラトリオのシンフォニアの持つ愛は、友人達とそして最愛の夫に向けたとてもとても強い物。その事も、愛を語る化物は看破したのか……それとも気づいてはいないのか。それは分からない。
「……嗚呼」
 だが何れにせよ、己が前に立ち塞がった三人の猟兵が恐るべき強敵だとは認識したのだろう。吸血姫の歩みが一度止まる。
 否定されてもその貌は歪まず、武威を見せつけられてもその表情は蔭らず。寧ろ蕩ける様に笑みを深くしていく。目前の彼女らが、力も意思も強き彼女らが、愛しい故に。
「来て……嗚呼、いいえ。私から」
 辛抱溜まらぬと言わんばかりの濡れた声を漏らし、オブリビオンは再び動き出す。
 ダン! と言う凄まじい轟音は踏み込みの足音。跳ぶ様に、翔ぶ様に駆け、吸血姫は愛しの猟兵達へと向かい来る。

●それは愛として不適なのでしょうね
 三人の猟兵は、吸血鬼のその膂力を己達に向けさせる事を選んでいた。
「吸血鬼の力強さは身をもって知っていますが、妙な術を使われるよりはマシですね」
 ハロはそう割り切り、長髪を靡かせ接近戦を挑んでいる。『闇の救済者』達に対しては射撃などの援護を依頼した上で。
「ねこさん達、引き続き連携をお願いします」
 望もまた、先に召喚した魔法猫達へ『闇の救済者』との連携を指示し、自らは吸血姫の攻撃を引き付けるべく七つの銃の射撃を繰り返している。その距離こそ、翼をはためかせ夜天の鬼の四肢がギリギリで届かない距離をキープしているが。その動きの主旨は、敵手から己以外を攻撃する余裕を奪おうとする牽制攻撃。
 そうして誘った攻撃を、遠い間合いに加え第六感と野生染みた勘がその動きを見切り回避。そこに隙を見つければ高速装填したカウンターの魔法を全力で叩き込む。
 有効ではあった。しかし見目幼い少女が、自らの身を囮にするも同然のその戦略。その勇気こそを寿ごうとばかりにエレーネはその爪を振り上げる……。
「……っ!?」
 その腕を生成色の影が切り裂いた。浅いとは言えダメージを受け一歩下がる化物が見たのは、望が振るう実体のある影<影園・オラトリオ>。
 これもまた彼女の武器、或いは仲間達。
「吸血鬼の身体能力は侮れないものではあれど!」
 その隙を逃すまいと振るわれるのはシャルロットの旗槍だ。どれだけ怪力を誇ろうともその小柄な体躯は誤魔化しはきかないと、己が得物の長さを最大限生かして戦う。
 まぁ、小柄なのは私もですがと内心呟きはするものの。素手で戦う吸血姫とのリーチの差は本当に大きい。懐に入れない立ち回りを心がける事でその力を活かせぬ様に封殺して行く。
「人の知恵。技。素敵よ、でも……!」
「っ!」
 振るった旗を、化物の手が掴み取った。不味いと判断したハロが踏み込み槍とは逆の手に握るレイピアを突き込む。同時、望の放った銃弾がエレーネの白肌を蹂躙する。
「化物はね。丈夫で力持ちなのよ?」
 だが怯まず、揺らがない。クパリと口を開け笑い。希望の旗をへし折らんと力を籠める。
 けれど、危機を前にしたはずのシャルロットもまた、揺らがなかった。
「私たちは立ち上がった皆の未来を背負っている」
「……何?」
 吸血姫が、凡そ初めて動揺の顔を見せた。
 握ったその旗がビクともしなかったから。ミシリとも鳴らず、余りに固かく、そして重かったから。
「その後押しを受けたこの旗は、そう簡単には手折れない!」
 領主の矮躯が宙を舞った。旗に、それを振るうシャルロットに跳ね上げられて。
「ハ、ハハハハ!」
 翼を動かし空中で急制動を掛けようとしながら、心底愉快気に笑う。不躾に握った己の掌を灼いた希望の熱さと不滅さに、心まで焼かれたかの様に。
「じゃあ、これならどうかしら!」
 その興奮のまま、空中を縦に旋回した吸血姫はそのままハロに向かう。その手の得物はレイピア。これまでの打ち合いでこそ、少年兵として鍛えたその腕力と技術によってその攻撃を防いていたが……旋回と加速による勢いを付け、化物の膂力を存分に篭めたこの一撃を止めるには心もとないだろうとの突撃だ。
「疾く!」
 だが歴戦の兵たるハロはその意図を見切り、バックステップのジャンプによりその一撃を回避。空ぶった吸血鬼の一撃が地面に大穴を穿つ。
「連れないわね。そんな遠くちゃ貴女の剣も届かないじゃない」
 それが悲しい事であるかのように眉根を寄せ、エレーネは距離を取ったハロを追うべくその身を構える。言葉通りレイピアの届く距離では無く、シャルロットは先の吸血鬼の膂力を引っ繰り返した先の反動から態勢を戻し切っていない。望の牽制はその頑健さを頼りに無視し、一気に距離を詰めてもう一撃を見舞う心算なのだ。
 しかし。
「いいえ、そこは私の間合いです!」
「……ぁ!?」
 この一瞬には未だ攻撃は来ないと、踏み込みの加速にばかり意識を割いた吸血姫の腹部をカウンターの一撃が強襲した。それは3m近くの長さを持つ三叉槍、そんな物、誰も持って居なかった筈なのに。
「私の槍は、お行儀良くありませんよ!」
 それが握られているのは不敵に笑ったハロの手。
 ユーベルコード【サベイジ(サベイジ)】。剣豪の少女の持つ呪いの短剣<サーペントベイン>は、持ち主の魔力によって変形し3つの毒牙を持つ伸縮自在の槍へと変じる。
 それ迄にレイピアの間合いを印象付けられたからこその会心の騙し討ち。
「……御見事。正に今を生きている人の強さだわ……」
 毒による物か刺突による物か、口から溢れた血潮を拭い。オブリビオンは賞賛の笑顔を見せる。
 よろめいたその隙を逃さず迫るシャルロットの旗槍を、今度は慢心せずその手で弾き防ぐに留め。今度は自分が大きく跳び退いて間合いを取る。
「……私はすでに死した身です」
 幼少時、その両親と共に鬼籍に入った亡霊の少女は。吸血姫の呟きにそんな言葉を返す。
「それでもなお、人とともに歩もうと思うのは傲慢でしょうが……貴方は、それも愛というのでしょうかね」
 それは或いは、長く天涯孤独の身であり。生者の中に混ざる死者である彼女の、その生真面目さと強がりの下に隠された傷口なのかも知れない。
「……さあ? 私は化物よ。人の愛を判定できる様な存在じゃないもの」
 オブリビオンの返答はいっそ素っ気なく。けれどその声音は優しい、酷くチグハグな物だった。
「貴女が愛だと思うなら、愛だと言えば良いのよ。私はそうしている。後……ね、少なくとも私は、貴女が愛しいわ」
 それはその化物に取って、『自分に取ってお前は人だ』と言う宣言と同義である。今を生き強き輝きを持つ人であると、そんな貴女の事を愛していると。
 熱烈な告白と言えるのかもしれない。そしてそれは紛れも無い本音でもあるのだろう。だがしかし、それは矢張り余りに一方的で独善的な感情。
「愛とはどちらか一方が無理矢理押し付けるものじゃない」
 幼いのに何処か大人びた声。望の声。
「お互いに捧げ合い、お互いの幸せを祈り合う。そんな優しいものなのです」
 それは確信の声。
 少女がその身に咲かせる赤のアネモネの花言葉は『君を愛す』。その愛を、比翼連理の灯火とも称すべき、愛する旦那様に捧げている彼女だからこそ断言できる。紛れも無くこの世に存在する一つの愛の形。
 エレーネは無意識に一歩下がる。少女の目隠しの下の瞳が、己を真っ直ぐに射抜いている気がしたから。
「だから愛を謳いながら彼らを傷付けた時点で失格です」
 それは丸で判決の様に。断罪の様に。果実の少女が放った言葉に、オブリビオンは。
「……そう」
 何も言い返さず、ただ少し悲し気に目を逸らしただけだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


●それを何と呼びましょうか
 別に、貸されたノルマがある訳では無い。何人殺せとか、これこれこれ位弾圧しろとか、一定以上苦しめていないと駄目とか、そんな意味不明な事を言われた事がある訳では無い。ただ、恐らくモグラ共は気に入らないと思っているのだろう位には思って居た。近隣の領地の同類にもちょいちょいと嫌味を言われても居た。どちらも、知った事では無かったが。
 決定的だったとしたら、昔から時折位の頻度で近隣に現れた同類(オブリビオン)を屠って居た事ではないか。別に喧伝する事も無かったが、特に隠蔽もしていなかったので、何かの機会に知られたのだろうなと思う。それなりに強力な個体も居たし、影の支配者気取りのモグラ共からしたら許せない被害もあったのかも知れない。心底どうでも良いが。
 知った事では無いしどうでも良い。そもそも別に人間に与している心算は無い。
 余裕を与える様にしていたのは、輝かしい魂を持った人間をすり減らして生ける屍に等したくない。そう言う只の自分の都合だ。
 同類を殺していたのはもっとシンプルに、只あいつらが心底気に入らなかったから。私の知らない所で人を殺したり苛んだりも許せないし、私が愛する彼等を見下し貶める等万死に値する。
 ただ……まあ、客観的に見てと言うか。彼らの立場から想像すれば……確かに放っておけないのは道理なのかも知れないな。人間に力を蓄える余裕を与え、時に人間を守る様に見える挙動をする領主……うん。私でも粛正するなそんなの。無理も無いか、無いな。

 不合理なのは自覚している。ただ他にやり方を知らないので、この様にして居たと言うだけで。同類からも人からも憎まれ理解も許容もされない有様だと言う事も理解できる。別にそれは良いのだ。分かった上でやっているのだから。
 ただ、一つだけ悲しくて、どうしても我慢できない事があるとしたら……
シキ・ジルモント
ユーベルコードを発動、獣人の姿へ
吸血姫の一撃を闇の救済者に届かせない為に前線で行動、危険であれば庇う
共闘は積極的に行うが、こればかりは彼らが食らえばひとたまりもない

強化した行動速度なら先手を取れずとも反応はできる筈
攻撃の軌道を読み受け流すか、威力を殺ぎつつ受け止めて直撃を防ぎたい
リーチを利用した蹴撃や、獣人の姿となったことで鋭さを増した爪を振りぬき、反撃を試みる

言う必要は無い、が…「あんたが愛したものは必ず守ると約束する」と吸血姫へ告げる
…この後起こる事を知っていたなら、わざわざ領地の住人の危機感を煽って俺達を呼ばせたのだと解釈している
奴の思い通りに動くのは癪だが乗ってやる、後は任せてもらおう


紫・藍
高速飛翔で距離を保つ?
藍ちゃんくんは藍にいける藍ドルでっすので
しかと受け止めさせてもらうのでっすよー?
同じ地平なのでっす!
イズヒアなのです!
藍ちゃんくんも藍するまでなのですから!
それに避ける暇があるならその分も全身全霊歌うのでっす!
絶望に相対する勇気と意志“だけではない”輝きを魅せるのでっす!
それはこの先に来たるもの
おじょーさんが見ることのできない明日に育まれるもの
おじょーさんだけでなく、闇の救済者や領民の皆様に
いいえ、ダークセイヴァーの全てに響き渡らせるのでっす!
歌を!
文化を!
ヒトは!
こんなにも!
素敵なものを紡げるのだと!
それがダークセイヴァーを照らすということ
それが

藍ちゃんくんでっすよー!


レディ・アルデバラン
前言撤回ですわ!こんな化け物じみた愛、わたくしと似ても似つかない!
わたくしは悪を愛するのであって、そういう突き抜けたのとは……ええと、無理強いはいけないと思いますわよ!!

まったく油断できない相手というのは肌で感じましたから、早々に切り札を使いますわ。
「暁ト宵闇ノ盟約」……わたくしの最強のユーベルコード。
わたくしの生まれ持ち身に纏った邪悪さを代償に
『戦士達の生命を護る』。
鋼鉄の悪魔の加護を戦士達に与え、堅牢な鎧と盾でエレーネの攻撃が致命傷になるのを防ぎますわ。
全員生きて帰ってこその反逆ですわよ!
反動でわたくしはしばらくいい子になりますが……まあ、皆を信じておりますし?(白くなりつつ)



「なるほど、貴方達は……」
 その声は密やかに小さく。けれど妙な程にハッキリと、猟兵達の耳朶に響いた。

●守る事は愛でしょうか
 遡るならば、起点は恐らく吸血姫の一撃だ。
「さあ、受け止められるかしら!」
──ゴゥン!
 その轟音は鈍く重く、無造作に振るわれた一撃に撥ねられた『闇の救済者』の戦士は木の葉の様に舞い飛んでから地にグシャリと落下する。
 辛うじて息がある物の、最早戦えぬ有様の戦士を他の戦士が救助に走る。
「矢張り、こればかりは彼らが食らえばひとたまりもないか」
 悔やむ様な声。魔犬の群を押し退け、前に出て来たのはシキだ。
「見て呉れを気にしている場合では無いな」
 そう呟いた彼を最初、エレーネは少し怪訝に見つめた。眷属の感覚を通し彼が後衛を得意手とするのだろう銃使いである事を知覚していた彼女からすれば、そのシキが戦士達を守る様に己の目前に立った事に違和感を禁じ得なかったのだ。
 だがその銀髪が全身に広がるが如く美しい毛並みが生じ、シキの姿が銀の狼獣人に変じるに連れその目が納得と好意に染まる。
「人狼病の感染者。心身共に強き戦士……」
 ユーベルコード【アンリーシュブラッド】。銀狼と化したその手では最早銃は使えず、戦いは近接戦闘に限られてしまう。だがそれと引き換えにシキは強靭な肉体から放たれる膂力と圧倒的な速度を得る。
 ゴウと鈍い風切り音を響かせその鉤爪が閃き、吸血鬼の爪と打ち合って互いにわずかに仰け反り合う。
「……押し負けてない!」
 思わず快哉を上げる『闇の救済者』の戦士、だがシキは獣と化したその目を尚も理性的に細めた。
「軌道を読んで威力を殺いだだけだ」
 決して己を過大評価せぬ言葉。だがそれは強化された速度を得た彼にのみ可能な業。故に前線は自分に任せろと指示を放つ。
 指示を受けた戦士達は少し口惜しそうな顔をするが、その気遣いから彼に己達の危機を庇わせては本末転倒だと、一つ頷いて身をひるがえした。共闘は積極的に行うが、自らが前線に上がる事で吸血姫の一撃を『闇の救済者』達に向けさせ無い様にする。それがシキの判断。
「すまない、任せた!」
 そして不死の王のばら撒いた眷属の数はまだまだ多く、それらを放置するわけにもいかない。また、それまでのシキがやって居た様に射撃武器を使った援護とて可能だろう。それもあって戦士達は納得し従ったのだ。共闘の形は肩を並べるのみではない。
「変ね。貴方達の力を安く見る気は無いけど……それでも手応えが不自然に硬いわ」
 一方の領主は、鋭い爪の先を己の唇に当てて少し不思議そうな顔をしている。事実、先程その一撃を受けた『闇の救済者』の戦士の息があった事自体、想定外の慶事に近い。戦士とは言えその殆どが只人なのだ。爪の一振りで首が飛ぶ方が自然な可能性まである。
「バレてしまっては仕方ありませんわね! この魔王の娘の権謀術策!!」
──ダン!
 巨大なバトルアックスの柄を地面に叩き付け、堂々と胸を張って宣言したのは勿論レディ・アルデバランその人だ。黒のドレスに鉄具、そして漆黒の髪を靡かせ……いや、その装備と髪が、端から少しずつ薄れ純白へと漂白されて行っている。
「……貴女、それどうしたの?」
 シキの一撃をバックステップで躱したエレーナが首を傾げる。
「まったく油断できない相手というのは肌で感じましたから、早々に切り札を使いましたのよ。悪の頂点に立つ者は果断たるべきですもの!」
 自信に溢れまくったドヤ顔でそう宣言するその幼い顔に、しかし溢れる威厳が魔の力を伴って溢れ出ていた。ユーベルコード【暁ト宵闇ノ盟約(イーヴィルサクリファイス)】、それは彼女が最も重視する物を代償に事象をねじ曲げあらゆる事を成功させる術式。
「わたくしの最強のユーベルコード。わたくしの生まれ持ち身に纏った邪悪さ(主観)を代償に鋼鉄の悪魔の加護を戦士達へ!」
 吸血鬼の目が少し丸くなる。その驚きは何も、目前の少女の言動が一貫してちっとも邪悪に見えなかった事とか、その邪悪さって色味の黒さと同期している物なんだと思った事とか、そう言う理由ばかりでは無い。
「貴女は己のアイデンティティを使って迄、彼らを守るの?」
 第三者視点でどれだけそうは見えなくても。言動を少し見て居れば彼女が己の『邪悪さ』に誇りと重きを置いているのは誰にでも分かる。己の存在そのものに近いそれを代償と捧げる事は、断じて軽い行いでは無いだろう。
 故にこそ、その力によって与えられた堅牢な鎧と盾は、エレーネの攻撃が致命傷になるのを防ぎ、戦士達と猟兵達の生命を護っている。
「全員生きて帰ってこその反逆ですわよ!」
 吸血姫の言葉に対し、悪魔姫の返答は一切の迷いも衒いも無かった。
「反動でわたくしはしばらくいい子になりますが……まあ、皆を信じておりますし?」
 力の脈動と共に色の抜けて行く己の髪をチラリと見つつ、実は面倒見の良い悪魔の少女はニコリと笑う。その言動が既にユーベルコードの反動から来る物なのか、それとも彼女生来のものかは……まあ一目瞭然ではあるだろう。
「……」
 エレーネは、少し思案した風だった。
 勿論、戦場で呑気に考え込める間などありはし無い。側面から放たれたシキの一撃を腕で止め、その黒い翼を振るってその脚を払う。
「その献身は、どう言う事かしら」
 握った拳が瞬間音を超える。パンと乾いた音を立てて空気を破り放たれた拳は、バランスを崩した人狼の腹部に真っ直ぐに伸び。
「イズヒアなのです!」
 上方から現れたその藍色に防がれた。

●心繋げるは愛でしょうか
「空を舞えるのに、降りて来たの?」
 己の拳をしかとその手で受け止めた藍に、吸血姫は問いを向ける。
 彼が今、高速飛翔にて飛び込んで来た事を把握しているのだ。
「藍ちゃんくんは藍にいける藍ドルでっすので、しかと受け止めさせてもらうのでっすよー?」
 独特の言い回しに、エレーネは少しだけ眉根を寄せるが。
「同じ地平なのでっす!」
 続いた言葉にああと呟いて少し苦笑した。飛翔の力によって間合いを取って有利に戦う。それは他ならぬ翼を持った吸血姫にだって出来る事なのだ。そうすれば猟兵達は兎も角、その殆どが飛行手段を持たぬ『闇の救済者』達は更なる苦戦を強いられた筈だ。……それを、最初に対等だからと地に付いて戦う事を示し今も通しているのは彼女自身である。
 同様に、藍もまた此処に居る。同じ高さに立ち。
「藍ちゃんくんも藍するまでなのですから!」
 堂々とそう宣言する。言葉の意味は分かり難いが、何となくその意図は分かる気がして化物はクパリと笑った。そして抱きすくめる様に両の腕を振るいその爪にて刻まんとする。しかし。
『望まれたなら、いつだってすぐ其処に』
 それは、鋼鉄の悪魔の守護とはまた別の、それに重なる様に藍を守る守護。青い鳥の羽根を見た気がした、美しい虹色を帯びた白を見た気がした、何れにしてもそれは藍に迫る爪を押し留め。
「これなら、どうだ?」
「砕けなさいな!」
 その隙を逃す猟兵達では無い。シキの蹴撃とレディの斧がその身体を吹き飛ばした。
「……随分と強力ね。避ける様子も無かったのは自信があったからかしら?」
 その身を二転三転と転げさせながらも遅滞なく起き上がり、土ぼこりを無造作に拭いながらオブリビオンは改めて藍を見る。
「いいえ! 避ける暇があるならその分も全身全霊歌うからなのでっす!」
「は?」
 思わず漏れた声に、返って来たのは果たして確かに歌声。
 藍が歌い出したのだ。何処からかの演奏の乗せ、ヘッドセットマイクを通して。歌を途切れさせぬままに意志を伝えるのは、猟兵が世界に与えられた言語疎通の加護の応用か、或いは異能でも魔法でも無くただただ尋常では無い程に研ぎ澄まされたその歌唱技術の賜物か。
「絶望に相対する勇気と意志“だけではない”輝きを魅せるのでっす!」
 それは威力では無い。けれど力のある何か。絶望と希望の終りの見えぬ鬩ぎあいの、けれどその先に必ず来たるもの。
 歌、芸術。
「おじょーさんが見ることのできない明日に育まれるもの」
 夜天の鬼の一撃が、けれど呆気なく抑え込まれる。吸血鬼自身が先に零した通り、それは強力な加護。友からの贈り物、ユーベルコード【¡Aquí hay Ai!(アイチャンクン・イズ・ヒア)】。『音楽と文化を愛する思いの強さ』に比例した力を与えるそのコードは、弛まぬ研鑽を歌に傾ける藍には最強の矛であり盾となる。
「はは、中々厳しい事を言ってくれる!」
 その貌を少しだけ歪め、エレーネは踊る。ただ打ち据えられるだけでは無い、その爪を振るい翼を広げ歌姫の少年に暴威の嵐を差し向ける。
「そこだな」
「お友達は傷付けさせない!」
 だが、獣と化しても尚冷静なアーチャーと、漂白された悪魔ならぬ今だけは天使姫の一撃がそれを封ずる。
「おじょーさんだけでなく、闇の救済者や領民の皆様に……いいえ、ダークセイヴァーの全てに響き渡らせるのでっす!」
 歌を。
「……この世界全部に。フフ、それは大きく出るわね……」
 歌が。過去から零れ落ちた化物の膝を付かせる。
「文化を! ヒトは! こんなにも! 素敵なものを紡げるのだと!」
 それが何時かダークセイヴァー(この世界)を照らすという事を。彼は信じている。決めている。
「それが藍ちゃんくんでっすよー!」
 理屈や理論を超える迄に鍛え抜かれた文化の極みがその身を縛る。それでも尚、オブリビオンは白くなった巨大戦斧の一撃を払い、銀の閃光と化し迫る狼の突撃にカウンターの爪を振るった。
「あんたが愛したものは必ず守ると約束する」
 その爪を、軌道を読んだシキの爪が受け流す。そして交差の瞬間、振りぬき首筋を薙いだもう一方の手の爪とその耳に届いた告げる言葉。
「……っ」
 浅くない傷口から漏れる血を抑え、振り返る吸血鬼。数歩先で止まり、振り返る人狼の青い目。
 この後起こる事。『第五の貴族』からの刺客。絶望の来訪。吸血姫はそれを知って、わざわざ領地の住人の危機感を煽って俺達を呼ばせたのだと。シキはそう解釈している。
「思い通りに動くのは癪だが乗ってやる、後は任せてもらおう」
 言う必要は無い。無いが、それでも伝えて置く。それは彼の性根の部分の人の良さかも知れないし、生真面目さかもしれない。
「……なるほど」
 伝えられたエレーネは。操血の術を扱える筈の夜の姫は、首からの出血を流れるままに放置し。ボソリと呟く。
「貴方達は、後の事を考えているのね」
 その声は密やかに小さく。けれど妙な程にハッキリと、猟兵達の耳朶に響いた。

●触れ合う事も愛でしょうか
 ユックリと見回し、声の届く範囲に猟兵達のみがいる事を確認してから、オブリビオンは改めて言葉を続けた。
「貴女は、犠牲無く勝つと決めている。私を相手に」
 その紅い視線を向けられたレディが、反射的に戦斧を握る手に力を籠める。けれど吸血姫は何の事は無く視線を巡らせ今度は銀狼を見る。
「貴方は、戦力を使い潰す気が無い。この後の事を知った上で、それを知らせていない……つまりその戦いに置いては戦力にならない筈の彼らを、なのに守って戦っている」
 その目を笑みに細めたその表情はいっそ艶めいていた。
「あなた……ええと、貴方に至っては。この戦い自体が道の途中に過ぎないのね。その目はもっと先、この世界全体の明日を見ている。命を削り合う修羅場の中で、文化、文化だなんて……」
 クスクス笑って、クルリとその身を一回転。ふわりと舞ったスカートが丸で花の様に開き、閉じる。そうして夜の貴族たる姫はいっそ愛らしい仕草で小首をかしげると、両手を大きく開く。
「つまり、私の事など勝って当然で、勝ち方を選べる相手で、勝った後の事を考えれる相手。それだけじゃない。私を超えるだろう絶望にすら、戦士達を守り消耗した上で勝つ気」
 猟兵達は最初、その身を固くした。彼女が勘気を放つのではないかと思ったから、軽んじられたと怒り狂い力任せの一撃を放ってくるので無いかと感じたからだ。けれどその予感は即座に薄れて消える。
「……それで良い」
 吸血鬼のその目が、余りに優しく穏やかだったから。
「それで良いの。そうで無くちゃいけない。強欲で、何一つ諦めなくて、執拗なまでに希望に手を伸ばし続ける……貴方達がそうだからこそ……」
 途中で不意に言葉が途切れる。噛みしめる様に、或いは祈る様に瞑目する化物の王。
「愛しているの。私の事何て眼中にない貴方達。それで良い。それが良い……だから」
 その目が開かれる。
 その赤い瞳が、情欲に燃えていた。悦楽に輝いていた。慈愛に狂っていた。
「それに相応しい強さを! 輝きを! 私に示して下さいな!!」
 響いたのは愛の言葉。
 ねじくれ歪んで狂った愛の叫び。
「前言撤回ですわ! こんな化け物じみた愛、わたくしと似ても似つかない!」
 レディの悲鳴と同時、紅い颶風と化した吸血姫が戦場を駆ける。
「あやー!?」
 咄嗟に庇った藍の横やりとレディ自身のユーベルコードの守りが無ければ、或いは漂白されて脆くなっていた戦斧は砕けていたかもしれない。それだけの威力がその瞬間さく裂し、そのまま走り抜ける。
「わたくしは悪を愛するのであって、こういう突き抜けたのとは……ええと、無理強いはいけないと思いますわよ!!」
 それでもレディは魔王の娘だ。レッサーヴァンパイアの群との戦いで実戦経験を積み一気に花開いた勝負勘はただ一方的にやられるだけを良しとはしない。
 白くなったが故が素なのか、随分と真っ当な指摘と共に投げられたバトルアックスは狙い過たずオブリビオンの脇腹を強襲し。
「やれやれ、ハードだな!」
 緩んだ速度であれば対処できぬ道理はないと。シキの爪が威力を殺ぎつつ受け止めて直撃を防ぐ。鍔迫り合いの如き態勢でお互いの顔が近付き、冷え冷えとした理性の青の瞳と燃え滾る熱情の赤の瞳が真っ向から睨み合った。
「……有難うね」
 その癖、ボソリと零したのは男にだけ聞こえる声量の懐っこい一言なのだから。
 流石はオブリビオン、性質の悪い事だと。そう言えるのかも知れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニクロム・チタノ
うん、そうだねボクはキミを愛さないキミの愛は本物で歪だけど美しい
でもキミの言うとうり一方的な圧政だから、ボクはキミに反抗しないと
私もこの思い貫くから!
すごい力だ、地面が沈んでる!
でも反抗の妖刀も負けてないよ、なんてったってチタノがボクくれた誇りだからね!
とはいえ身体能力では相手が遥かに上このまま戦っていたらやられる・・・
ならば、攻撃してくる瞬間に全重力を掛けて隙を作るカウンターで深手を負わせる!
キミを倒して反抗の意志を見せてやる、チタノどうかボクに反抗の加護と導きを


春乃・結希
愛のカタチはそれぞれ違うから
あなたが間違ってるなんて思わない
私はヒトを愛せないから、少し羨ましくさえ思います

wanderer…ごめんね。ちょっと無理させるかもやけど…付き合ってね
エレーネの攻撃に蹴撃を合わせ、相殺を狙う【怪力】
完全には防ぎ切れないだろうし、反動も返ってくるはず
でも、そんな事は【覚悟】の上
『恋人』の一撃を叩き付ける隙を見つけるまで、もてばいいから

ああ…やっぱり強いなぁ…
愛の力は何よりも強いって、誰かが言ってました
あなたは本気でこの人達を愛しているから、私の大好きな想いでは勝てないかもしれない
…だけど私にも、愛するものがあるから
with--私に力を貸して。【重量攻撃】【カウンター】


豊水・晶
ああ、やはり私は貴女を嫌いにはなれないようです。
確かに貴女は人間を愛しています。その存在の全てを、酸いも甘いも清濁合わせて飲み込むほどに。惜しむらくは、貴女が理不尽として、立ちはだかってしまったこと。愛するものが輝く様というのをもっと見たいというのは理解できますが、寄り添うだけでも十分に見ることが出来るというのに。あと、愛は一方通行ではないですよ。こちらからしっかり歩みより誠実に愛してあげれば、彼らなりの愛を返してくれるのです。この後の事は任せなさい。必ず守って見せますから。だから貴女は骸の海で奴が来るのを待っていなさい。

アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



●愛する事とは何でしょうか
「ああ、やはり私は貴女を嫌いにはなれないようです」
「……あら?」
 敵対存在たる猟兵の一人が漏らした肯定的な言葉。それに不意を打たれたかのように、吸血姫がその動きを止め首を傾げる。
「確かに貴女は人間を愛しています。その存在の全てを、酸いも甘いも清濁合わせて飲み込むほどに」
 言葉の主は晶だ。種としては若い部類であったとしても、人と比べれば圧倒的に長き時を生きて来た竜神。領主からすれば、親愛なる同種として見るだろう存在たる彼女はその美しい瞳を真っ直ぐにオブリビオンへと向けている。
「天の化身にお墨付きを貰えるとは、少なからず自信を持って良いのかもね」
 その言葉に喜んだのか、何となくか、脚を掴み釣り上げていた戦士にとどめを刺す事を止めた吸血鬼は、ただ無造作に投げ捨てるとコロコロと笑う。
「愛のカタチはそれぞれ違うから、あなたが間違ってるなんて思わない」
 だが続けて結希からもそんな言葉が届き、その顔をキョトンとさせる。
「私はヒトを愛せないから、少し羨ましくさえ思います」
 続けたその言葉に篭っているのはどの様な感情か。その愛を漆黒の大剣へと向ける少女の言葉に、偽りや世辞の色は見えない。
「キミの愛は本物で歪だけど美しい」
 そこに更にニクロムからもそんな言葉が出る。
「あ、その。思いの外に嬉しいのだけど、少し戸惑うわね……」
 竜神だけでなく、自身が人と数える2人の少女に迄認める様な言葉を向けられた吸血姫は、ある種これ迄で一番困った様子を見せた。一方的で独善的で害悪を伴う愛だ、正面から肯定された事等滅多に無いのだろう。
「でもキミの言うとうり一方的な圧政だから、ボクはキミに反抗しないと」
 それもあってか、妖刀をチキリと鳴らしてそう続けた反抗の少女に、化物は苦笑めいて破顔した。
「そうですね。惜しむらくは、貴女が理不尽として、立ちはだかってしまったこと」
 ニクロムの言葉を受けて、晶がそう続ける。
 その手に二振りの刃、水纏う水晶めいた刀身を持つ<瑞玻璃剣>。レッサーヴァンパイア達に対しては術式を通して猛威を振るったその神器を、エレーネは少なからぬ警戒を持った目で見つめ。
「先にも言ったでしょう。愛される事は求めてないのよ私」
 前傾にて突撃し、一瞬でその間合いを詰める。
「うん、そうだねボクはキミを愛さない」
 だがその横合いをニクロムの一撃が襲い、その態勢を大きく崩す。
「愛するものが輝く様というのをもっと見たいというのは理解できますが」
 仲間の奮戦を信頼しているからこそなのだろう。晶はその柔和な表情を崩す事すら無く、言葉を続ける。
 人を守り人を見つめ続けた竜神は、ある意味に置いて誰よりもこのオブリビオンの気持ちを理解し得る存在の一人と言えるのかもしれない。
「寄り添うだけでも十分に見ることが出来るというのに」
 舞う様に優雅に、その脚が踏み込まれる。流れるような動作で右の刃が背後側へと引き絞られる。
 エレーネとてそれを黙って受ける気は無い、翼をブンと振り回す反動で態勢を整え直し、反撃かカウンターを合わせようと。
「受けてみて」
 するも、そこに結希の『恋人』が振るわれた。その踏み込みは怪力を持つ吸血鬼のそれよりも尚速く、回避所か辛うじて直撃を防ぐ事で精一杯だった吸血姫はその場でたたらを踏む。
「あと、愛は一方通行ではないですよ」
 諭す様な言葉と共に、竜神の腕がぶれる。
──キンッ
 甲高い音。いっそ軽く細い音。
 水墨画等に昇龍図と言う画図の類型がある。『竜が天に上る様』、鯉や蛟が龍へと成る様であったり、単に上天へと昇る龍の姿を描いたものであったり……何れにせよそれは、描画芸術の題材として長く愛される程に美しさを持つと定義づけられた情景。
 神速の一閃を見れる物だけが、その時それを彼女に見せて貰えたのかも知れない。
──グズリ
 鈍く湿った音が漏れる。一拍の間を置いて、オブリビオンのその身が左右にズレて行く。
 ユーベルコード【彗閃 竜昇のひらめき(スイセン・リュウショウノヒラメキ)】。その一撃は如何なる物も切断する。勿論、強力な吸血鬼たる領主の身体でさえも。
「こちらからしっかり歩みより誠実に愛してあげれば、彼らなりの愛を返してくれるのです」
 袈裟懸けに両断され、ゆっくりと左右に別れ崩れ落ちつつあるその身を前にそう言葉を〆る。それは神たる彼女の実体験なのかもしれない。オブリビオンと猟兵、本質は正反対なれど存在としての長さは近しいモノとしての手向けの言葉。
「やったか!?」
 後方より弓矢にて援護を行っていた戦士の一人が、思わずと言った風に声を漏らす。
 だから。
「……それは、きっと、そうなのでしょうね」
 エレーネのそんな声が響いた時、只人の戦士達は一様に絶句してしまった。
「多分、貴女は正しいのだと思うわ。けど……私には、それは思いつかなかったし。多分、思い付いても、出来なかった。過去はね、今には追い付かないから」
 ポツリポツリと零される言葉は悲しげで物憂げだったが、苦しそうでは無い。
 両断され別たれ様としていた筈の身体を、ドロリと粘性染みた質感となった血液が橋渡ししている。無造作に伸ばされた手が、その半身をもう一方の半身に引き寄せる。
「未だ、この後の事は任せられませんか?」
 必ず守って見せますからと、確認する様に晶が問う。猟兵達に動揺は無い。吸血鬼、不死の貴族、これ位はやるだろう。この程度では屠れぬだろう。それ位の心構えは其々にあるのだ。
「貴女もそう言ってくれるのね、有難う。でも、そうね。駄目。未だ駄目」
 未だ繋がり切っていない身体が動き踏み込み、その小さな拳が振るわれる。その一撃は未だ本来の威力を持たず、竜鱗にて編まれた<瑞玻璃衣>はしなやかにその威力の大半をいなすが、それでもその重さに一歩は下がる羽目になる。
「だって、私は化物(オブリビオン)なのだもの」
 それは先にも聞いた気のする言葉。
 言い訳にも泣き言にも聞こえる、何処か呪わし気な言葉。

●愛に貴賤はあるのでしょうか
「すごい力だ、地面が沈んでる!」
 時に元のまま、時に癒着はしていない半身を半ば剥がしながら暴れる異形の暴威。その一撃をギリギリで躱したニクロムが関心の声を上げる。
 空ぶった一撃は地を穿ち、其処には成る程ちょっとしたクレーターが出来上がっていた。
「でも反抗の妖刀も負けてないよ」
 なんてったってチタノがボクくれた誇りだからね!
 そう言い切った手に握られている妖刀が、不意に一層の輝きを迸らせる。
「私もこの思い貫くから!」
 反抗の竜たるその存在が、ニクロムと言うレプリカントの少女に取ってどれ程の意味と価値を持つのか。言動から推察する事は容易で、具体的に知る事は困難だろう。それは彼女の本質を詳らかにすると言う事に程近い。
 だからこそ、その全てを絶対の自信を籠めて叫べるのは彼女自身だけであり。その思いと代償として捧げられた命がその封印を解く。
「これは、竜が二匹目と言うべきかしら……!? 大した物ね」
 その一撃を片腕で防いだエレーネがしかしそのまま吹き飛び、裂けた己の二の腕を見下ろしながら感嘆の声を漏らした。
 見やればその妖刀は最早刀では無く剣、ユーベルコード【ならば反抗の覚悟を示せ(アブソリュートチタノ)】。形すら変え真の形状と力を晒したその武威は、それまでとは正に段違いとなっている。
「とはいえ身体能力ではあなたが遥かに上」
「あら、試してみたらいいじゃない?」
 このまま戦っていたらやられる。と、慢心せず呟く反抗者の呟きに、吸血姫が煽る様にクスクスと笑い。見たいのだろう、その威力を。感じたいのだろう、真っ向から。故にエレーネはその腕を大きく振りかぶり。
──ガォゴゥン!!
 その渾身の一撃を、結希の脚が蹴り止めた。
「wanderer……ごめんね。ちょっと無理させるかもやけど……付き合ってね」
 謝罪の言葉は、吸血鬼の一撃と打ち合い相殺したそのブーツ。蒸気魔導による脚力強化を為すそれは、ただ履いているだけでも旅人の少女を強力にサポートし。或いはその力を戦いに転用したならば。
「……へえ」
──ガッッッ!
──グゴゥッ!!
──ドゴゥッ!!!
 ユーベルコード【wanderer(ワンダラー)】。超強化された脚力による高速かつ大威力の蹴撃が、何処か嬉し気に連撃を放つエレーネの怪力を、相殺する。相殺する。相殺する。
 勿論、化物の膂力を完全には相殺しきれず。その反動は結希の筋肉を苛み、骨を軋ませる。ずっと続ければ程なくその脚は砕けるだろう。
 でも、そんな事は覚悟の上。
「素敵、素敵よ貴女! 痛みも酷いでしょうに、怯みもしない!」
 賞賛しながらも、だからこそ吸血姫はその手を緩めない。
 だがそれで良いのだ。彼女が愛し何よりも信頼する『恋人』の一撃。その隙を見出す迄の間だけ、その脚がもてば良いのだ。
「ああ……やっぱり強いなぁ……」
 けれど、知らずその口から感嘆の声が漏れる。
「愛の力は何よりも強いって、誰かが言ってました」
「どうかしら……」
 蹴りには蹴りをと思ったのか、クルリとバレエの様にその身を回して蹴りを放ったエレーネは、しかし少し悩む様な顔でポソリと返す。
「あなたは本気でこの人達を愛しているから、私の大好きな想いでは勝てないかもしれない」
──ガゴドッ!!
 遠心力の乗ったその蹴りに愚直なまでに合わせ、その威力を殺しながら結希が続ける。『希望へ向かう人達が大好き』だと彼女は言った。しかし確かに、それを愛とは言わなかった。
 大好きという言葉は、果たして愛よりも軽いのか。それとも。
 そして聞き様によっては弱気にも聞こえ得るその言葉に、人の強さを愛する化物がどう返すのか。
「キミを倒して反抗の意志を見せてやる!」
 その答えの前に、ニクロムがその拮抗を打ち破った。湧き出る力の奔流にツインテールの銀髪が荒れ狂い、全力を以て振るわれた超重力はエレーネの攻撃の瞬間に叩き込まれた。
 猟兵は一人で戦っている訳では無く、力を合わせる事もまた人の強さ。
 カウンターとなった事も合わせ、その瞬間吸血姫の動きが完全に止められた。
 それはニクロムがこじ開けた余りに大きな隙。
「骸の海で奴が来るのを待っていなさい」
 晶の二刀が閃き、その両腕が切り落とされる。その不死性を思えばすぐにでも繋がるのだろうが、しかしこの一瞬。腕を使った防御は完全に封じられ。
「チタノどうかボクに反抗の加護と導きを!」
 防ぎ得ぬニクロムの一撃は、真っ直ぐにその腹部を貫いた。<反抗の剣>に変化したその威力は不死身の化け物にすら深手を与える。
「グブッ……!」
 血と空気を吐き出し、さしものの吸血姫も余裕を喪ってその身を翻そうとする。忘れ様も無く、まだもう一人いるのだから。つい数秒前、大好きな想いでは勝てないかも知れないと言った彼女。しかしそれは矢張り、弱気の吐露などでは無く。
「……だけど私にも、愛するものがあるから」
 彼女の、彼女なりの愛の表明。その強さの根源。己を理想に仕立て上げる……逆に言えばそれだけの力を成せるだけの愛。
「<with>──私に力を貸して」
 その一撃は重く、オブリビオンの身体の半ば迄を粉々に砕いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


●これを愛と云えましょうか
 触れたかった。せめて見つめたかった。少しでも近づきたかった。だから慈しんだ、苛んだ、気遣った、苦しめた、与えた、奪った。そうする事で自分は貴方達に関わる事が出来る。貴方達に関わって貰える。
 ……けれど本当は、あなたたちは私なんかに係わなくても良いの。寂しいけれど、それが一番良い。
 逆に、貴方達が何の想いも意思も感情も無く、ただ飲み込まれて消えてしまったなら悲しい。そんな事をする存在は許せない。それだけは我慢できない。
 過去が、今を塗り潰すだなんて。

 私達(オブリビオン)は『過去』の化身。遥か昔に失われた、既に終わった存在。どれだけ走っても、手を伸ばしても、『今』には決して届かない骸の怪物。
 今は過去に戻らない。帰らない。美しい者も醜い者も賢い者も愚かな者も強い者も弱
い者も全て、全て、何一つ決して過去に返ったりはしない。だから美しいの。
 だから、ねえ。どうか、私(過去)なんて顧みないで。どうか、出来る事なら立ち止まらないで。貴方達(今)は前だけに進んで、そうして『未来』へ行くの。どうか……
 私は、貴方達の姿をただ見続ける。
 私は、終わりから貴方達を想い続ける。
 私は、未来へと進む貴方達に焦がれ続ける。
 ずっとずっと、永遠に。
 愛し続ける。
リインルイン・ミュール
ワタシもヒトは好きですが、愛かと問われると判りません
アナタのそれも好意の一種と思いますが、愛かどうかは判りませんネ


攻撃の矛先はヒトビトより此方優先と予想しますが、庇いに入れる準備をしつつ先手は譲ります
相手の攻撃は念動力で僅かでも軌道を逸らし、その上で武器受け・受け流し対応
それでも9倍となれば一撃は貰ってしまうハズ、そこは激痛耐性で堪えながら怯んだ演技

追撃をかけてきたらUC発動、重力で動きを鈍らせて印を準備
同時に身体を変形させ、獣の姿では有り得ない位置から槍に変形させた剣で貫く騙し討ち
重力と剣で稼いだ時間で印を当てましょう

力を削いでヒトに近付けて。ワタシの慈悲はここまで、トドメは仲間に任せマス


リーヴァルディ・カーライル
…お前にどんな理由があり、どんな過去があったにせよ、
今を生きる人達を害する愛とやらを認めるつもりは無い

…お前は此処で朽ち果てなさい。闇を切り裂く光に灼かれて…!

今までの戦闘知識から敵の攻撃を先読みして見切り、
怪力任せに大鎌を投擲して敵の機先を制して牽制しつつ、
"写し身の呪詛"の残像と入れ替わる早業で攻撃を受け流し、
自身は闇に紛れて敵の死角から切り込みUCを発動

…さあ、吸血鬼狩りの業を知るがいい

両掌に光の魔力を溜め両手を繋ぎ形成した光刃をなぎ払い、
太陽のオーラで防御を無視して吸血鬼を切断する光属性攻撃の斬撃を放つ

…お前に言われるまでも無い。殺戮者の紋章を持つ刺客も狩るだけよ。何時も通りに…ね



●愛だとしても、愛でないとしても
 命無き者の王と謳われる夜の怪物。その不死性を如実に表す様に、エレーネの砕かれた身体は粉微塵になっても尚、宙を舞って元の位置に纏わりつきその身体の形を象る様に捩り合わさる。
「……に憎ま……様に……………処…を」
 だが、流石にダメージが深刻なのだろう。吸血姫はどうも少し意識を混濁させているらしく、ある種の走馬燈でも見ているのだろう。何処か虚ろな目のまま譫言を零している。
「……ド…………は……遅……のね、本……の子……ら」
「グッ!?」
 だがそれでも、或いはだからこそ振るわれるその暴威は一層に激しく。また一人の戦士が再生したばかりのその腕の怪力に薙ぎ倒された。怪物はそのまま圧し掛かる様に迫り、その首を握り潰そうと手を伸ばす。
「あな…は……私を殺せるかしら……? 愛しい、私の……」
「ワタシもヒトは好きですが、愛かと問われると判りません」
 不意に掛けられた言葉と同時、その腕を黒銀色の銀剣が両断した。
「アナタのそれも好意の一種と思いますが」
 其処に立っていたのは獣の形を象る液状生命体。尾の先で巻き取る様に握られたその銀剣の銘を<真銀の尾>。切り落とした腕が繋がる前にと打ち払い吹き飛ばした籠手の銘を<灰青の腕>。その動きに迷いや遅滞は無く、使い手であるリインルインが予めの準備通りに動いている事を示していた。
「愛かどうかは判りませんネ」
 その愛に対し肯定とも否定とも取れる言葉を掛けられ、オブリビオンはようやくその目の焦点を合わせた。遠くに転がった己の手を一瞥だけしてから改めてブラックタールの女を見やる。
「難しい事、かしら?」
「凡その人類種が悩み続けている命題だと思いますネ」
 仮面故に表情の変わらぬその代わりにと、その大仰な身振りに分かりませんとの意を篭めリインルインは肩を竦めて見せる。
「……淑女教育のレッスンよりも?」
「あー、どうでしょう。ソレも中々難しそうですし?」
 未だ僅かに朦朧とした様子でクスクスと笑う吸血鬼と、マイペースに相手をして見せる紡黒のケモノのやり取りの間に、襲われていた戦士は化物の間合いからの離脱を成功させていた。
 目の端でそれを確認して、リインルインはこればかりは内心でだけ喜色を浮かべる。
『攻撃の矛先はヒトビトより此方優先と予想します』
 最初からそう判断していた彼女の読みは実際当たっており、エレーネは『闇の救済者』の戦士達より猟兵を……と言うかより強い者を優先して狙う傾向が強かった。
 だからと言って半ば乱戦となった戦場の中、一切只人が狙われないと言う道理も無い。その事実も見越していたリインルインは、敵手に先手を譲る事で確実に庇いに入れる様に準備して置く立ち回りを徹底し、幾人もの戦士の頓死を防いでいる。
「……お前にどんな理由があり、どんな過去があったにせよ、今を生きる人達を害する愛とやらを認めるつもりは無い」
 リインルインとは真逆にハッキリとした否定。
 振り返ろうとした化物の首を黒の大鎌の刃が薙いだ。その銘を<過去を刻むもの>、それはエレーネと言う女を刻む武器として何と相応しい名だろうか。
「……強い、良い目だわ。それに、正しい」
 転がり落ちる寸前で己の頭部を掴み止め、無造作に首に乗せ直しながら吸血姫は寧ろ嬉し気に微笑んだ。
「……お前は此処で朽ち果てなさい。闇を切り裂く光に灼かれて……!」
 闇から届くその甘い声を一顧だにせず、リーヴァルディは決然と叫んだ。

●何れにしても、それは終わる
「さあ、一緒にダンスは如何?」
 損傷は蓄積している。再生を繰り返し続けるその身体は所々が治り切らず、肉片と骨片を血液が繋いだままの腕を振るう場合すら多々ある。
 それでも尚、それは紅血の姫。いっそ優雅な仕草と愛らしくすらある動きで、けれど圧倒的な速度と威力を以てその四肢と翼が荒れ狂う。
「ワタシは四足なんですケド?」
 困った様な声音で言いつつ、しかしブラックタールのサイキッカーは芸術的と言える程の綿密な技巧を組んでいる。迫る右手の軌道をその<砂丹の念>の力場で逸らし、すり抜けた其処に翼が迫るのを籠手で受け流し、続く足技を銀剣で弾く。その死の舞踊の型を次々といなし対応しきる。
『それでも9倍となれば一撃は貰ってしまうハズ』
 だがそれ以上にリインルインが恐ろしいのは、それだけの事を為遂げて見せながら冷静に算段を着け次の手を考えている事。
「アアッ!?」
 避け切れず脇腹を襲った拳の一撃に、悲鳴を漏らし怯む。
 だがそれは演技だ。実際にはその液状の肉体と鍛えた激痛耐性がその苦痛を抑えきり、その心は微塵の揺らぎも無い冷静そのもの。
「旧き星海より出で、地を這うもの。その身に抱く災禍の星、標に灼かれ、今こそ堕ちたり」
 追撃にと踏み込んだ吸血姫の耳が、その詩に気付いた時にはもう遅い。
「昔に紡いだ詩魔法です、多分」
 過去の記憶を持たぬケモノが曖昧な事を言って笑い、術式は始まる。
「ガッ!?」
 そのサイキックエナジーは肉眼で視認が可能な程に凝縮され、実に10t近い重さに相当する重力としてオブリビオンの動きを押し縛る。
 だがそれだけでは終わらず、リインルインが今度は印を組み始める。
「させるとでも……ッ!?」
 揺らぐ意識の中でも、それを完成させてはいけないと分かったのだろう。圧し掛かる重みを押し退ける様にしてエレーネはその爪を閃かせ。しかし死角から迫った槍の一突きにその胸を貫かれ絶句する。
 誰か槍など、それも何処から……。吸血鬼が混乱したのは其れまでのダメージの蓄積のせいでは無い。振るわれた槍は<真銀の尾>が変じた物、振るったのはその背から普段にない触腕を発生させたリインルイン。獣の姿を取れどその正体はタールの如き液状生命、分かっていても戦いの中染み付いた先入観はその可能性を忘れてしまう。常日頃の姿すらも仕込みとする騙し討ちが、1画目の印を完成させる時間を稼いだ。
「それでも未だ……」
「させないのはこちらも同じ」
 貫かれたまま前に進もうとする怪物を、怜悧な声は遮る。
 その瞬間、エレーネは無視する心算だった。再生が可能な一撃より術の妨害が優先だと考えていたのだ。
 なのに反射的に回避してしまったのは、それが怪力任せに投擲されたグリムリーパー、リーヴァルディがこの戦いに置いて使っていた筈の大鎌だったからだ。主たる武器を投げつけると言う荒業が敵の機先を制し牽制し、完成した印は2画。
「得物を手放して、どう防ぐつもり!」
 術を紡ぐケモノを背に庇い立つ黒騎士に、吸血の鬼は真っ直ぐに手刀を突き立てた。呆気なく突き刺さりその胸を腕まで貫通、即座に抜くと同時に引き裂かれる。
 生身であれば明らかな致命傷。けれど。
「んな……! 残像!?」
 目を見開いたエレーナの言葉通り、その姿が薄れて霧散して行く。
 その銘を<写し身の呪詛>。呪術に拠って想像された残像は、使い手たるリーヴァルディの早業をもって自信と入れ替えられ、攻撃を受け流す。
 そして3画。
「ワタシの慈悲はここまで、トドメは仲間に任せマス」
 完成したユーベルコード【回帰の道行き示す言祝ぎ(ピルグリメイジ・リチュアル)】、魔力を帯びた言葉により具現化した3つの印は、吸血姫の力を封じる。
「慈悲……?」
 その再生が鈍り、見るからに動きがぎこちなくなりながらエレーネは疑念の言葉を零した。力を削ぎ、人に近付けるその行為の意図に気付かぬままに。
「……さあ、吸血鬼狩りの業を知るがいい」
 そして死角より囁かれた声に。それ所では無くなってしまう。
 吸血鬼狩りの言葉。ダンピールの乙女の断罪。
 振り返ろうとして、勿論間に合わない。残像で惑わし闇に紛れていたリーヴァルディ、得物を投げ無手となった筈のその両掌に光刃。
「……奥義、抜刀」
 繋いだ両手の中に溜めた光の魔力で形成されたそれは、吸血鬼の弱点とされる太陽のオーラで出来ている。そして振るわれた斬撃は【吸血鬼狩りの業・破邪顕正の型(カーライル)】、その名の通り、吸血鬼を狩る為の、吸血鬼を屠る事に特化した奥義。
「……?」
 一閃を受けた筈の己の身体に傷一つない事に、吸血姫がその顔に疑念を浮かべ。
 一瞬後、悲鳴すら上げれないままに崩れ落ちた。思い出した様にその身体が、受けた斬撃の通りに切断され2つに別たれる。その身体が再生しない、血も繋がない。
 吸血鬼因子のみを攻撃するユーベルコード。純度の高い吸血鬼たるエレーネに取って、それは全ての防御と抵抗を無視しその存在その物を根底から斬る天敵の一刀。
「ハ、ハハハ。素晴ら…い、凄まじ……この力…ら、この光なら、きっとあの絶望も……」
「……お前に言われるまでも無い」
 ヴァンパイアを狩る事。ただそれだけに己を捧げていた少女は、一切の迷い無くそう返した。

●けれど、それは続く
「自分が滅ぼされる時は、きっと……と興奮して。夢中の絶……中で悦びながら逝くのだと思って居た……けど」
 含蓄のある言葉でも無く、傲慢な遺言でも無く、狂愛の詩でも無く。
「……実際は、随分と……ええ、こんなに。こ……に……」
 それは確かに、酷く穏やかで静かな末期。
「……ぅ…………。……」
 永くこの領地を苛み君臨し続けた領主の最期。
 何時の間にか『闇の救済者』の戦士達が、そして領地の兵士達が集まっていた。
 粉微塵に砕けて文字通り消滅して行くその姿を前に、けれど不思議と勝鬨は上がらない。ただ誰もが噛み締めている。長き苦難と憎悪に満ちた闇は、その解放を前に喜びさえ呼び起こさせないのか。こんなにも巨大で重い現実を咀嚼するのには、時間が掛かるとでも言う様に。
「……今この瞬間抱いた想いを大切ニ」
 普段その言葉を言う時の高いテンションとは違い、落ち着いた声音でリインルインが呟いた。彼らの想いは彼らにしか分からない。長く強い喜楽に比べ怒哀の感情が希薄な傾向があった彼女には尚の事だ。それは、少しの変化を経た今とて同じ事。
「……」
 リーヴァルディが小さく呟くのは祈りの言葉か、それとも翌晩に使う戦略の算段か。吸血狩りの少女は戦いの気構えを解かない。猟兵達だけが知っている翌晩、本当の意味でこの領地の命全てを守る為の戦いが待っているのだから。
 不意に、その紫の目を光が照らした。朝日の光。長引いた戦いの末、何時の間にか日を跨いでいたのだ。新しい朝が来る。絶望の夜を運ぶ明日が来る。『第五の貴族』が齎す、殺戮者の紋章を持つ刺客がやって来る。
 けれど猟兵は、リーヴァルディは揺らがない。灰は灰に。塵は塵に。
 例え何が来ようとも。
「狩るだけよ。何時も通りに……ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『絶望の集合体』

POW   :    人の手により生み出され広がる絶望
【振り下ろされる腕】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に絶望の感情を植え付ける瘴気を蔓延させる】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    粘りつく身体はぬぐい切れない凄惨な過去
いま戦っている対象に有効な【泥のような身体から産み出される泥人形】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    過去はその瞳で何を見たのか
【虚ろな瞳を向け、目が合うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【幾千という絶望な死を疑似体験させること】で攻撃する。

イラスト:井渡

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●絶望が其処に居る
 それが何であるか、誰にも分からない。
 けれど、それが何であるか、誰だって一目で分かる。
『……』
 それは一切の言葉を話さない。疎通が適い相通ずる可能性と言う希望は存在しない。
 そもそもそれに口があるのだろうか。影の様に曖昧で、軟泥の様に判然としないその巨体は、物音ですらろくろく立てはしない。何の情報も入って来やしない。知る事で何かしらを理解出来るかも知れないと言う期待は常に踏み躙られる。
──グァウ グァ ァウ ウォオオン!
 吠え声。獣が飛び掛かる。
 一匹ではない、数多と群なしその牙と爪でもってソレに襲い掛かっている。幾分かが同時に、又幾分かがタイミングをずらし隙間を埋め、只人であれば無惨な死は免れないだろう連携。
 それを、ソレはただ『見た』だけだった。
 クシャリと、酷く軽く脆い音を立てて全ての獣が倒れ伏した。少し離れた中空を舞っていた別の獣達すらもポタリポタリと地に落ちて……その全てが絶命している。
『……』
 何事も無かったかのように、ソレは真っ直ぐに歩みを進める。脚があるかすら良く分からない。
 目がある事だけは分かる。それから骨の様に白い手もある。けれど他の全てがハッキリしない。その外観から、それの正体や仕組みを看破できる者など居ないだろう。
 けれどソレを目の当たりにした時、誰もが直感的にソレがどういう存在かを理解する。余りにも自明で、疑う余地のない事実だから。
『……』
 それを、人は絶望と呼ぶ。

●希望が此処に在る
 避難していた領民達はその日のうちに戻った。
 長く全てを縛っていた筈の絶望が消えたと言う事への驚きと、その倍を超える喜び。戦いの余韻に麻痺していた面もあったのだろう、戦士達もまた時を置けば喜びを実感出来、その祝宴は夕刻迄続いた。
 英雄だと讃えられた兵達は、『闇の救済者』の戦士達が居たからこそだと笑い。戦士達は、猟兵達がいなければ結局吸血姫に皆殺しにされていただろうと首を振る。謙遜も高潔さもあるのだろうが、其れよりも何もよりもただただ勝者と言う立場に立った経験が無いからだろう。誰もが馴れぬ賞賛に戸惑い、手柄を他に押し付ける。領民達は当然、そんな彼らを一層の好感を以て褒め称える。なんとも拙く、そして何より微笑ましい。勝利あってこその笑い話。
 ……。
 夜はヴァンパイア達の時間だからと、そう言って宴の終了を促したのは猟兵の誰かだったか。或いは『闇の救済者』だったか。それとも領民の代表の男だったか。何れにしても、それは猟兵達に取って都合の良い事。
 皆が寝静まった夜、こっそりと抜け出す。
 望み得なかったはずの自由と言う温もりに包まれ、もしかしたら生まれて初めて穏やかな眠りを享受している。そんな皆を起こさぬよう、音も無く外へ出る。
 絶望と夜の世界に芽吹いた光。それを途絶えさせない為の戦いに赴く。
 皆の為に、けれどその皆に知られぬまま。死地へと進む。
 それは猟兵故の使命感か。個人的な信念や想い故か。もしかしたら大した理由など無いのかも知れない。けれど、そのどれであっても、そのどれでもなくても、別に良いのだ。
 大事なのは彼らが成す事。そして彼らが今『何』であるのかと言う事。
 それを、人は希望と呼ぶ。
ハロ・シエラ
これはまたスケールの大きい敵ですね。
だからと言ってここで退く訳にも行きません。
後ろに貴族とやらが控えている以上、これはまだ前哨戦に過ぎないのですから。

さて、どうやらあの目が危険な様ですね。
ダークセイヴァーの夜は元々暗いですが、闇の【属性攻撃】で【範囲攻撃】を行い更にそれを深めましょう。
その【闇に紛れる】事で私を視認出来ない様にします。
こちらからも敵を視認する事は出来ませんが、この巨体であれば【第六感】によって気配を察知するくらいはできるでしょう。
ただ、泥や影の様なこの敵に剣では分が悪そうです。
ここはユーベルコードで起こした風に【破魔】の力を乗せ【吹き飛ばし】ながら【浄化】して行きましょう。


七那原・望
吸血姫が危惧していたのはこれですか。
彼らがこの敵に喰い潰されないようにと思っての行動だったのでしょうね。
もちろん、彼女を肯定するつもりはないですけどね。

【第六感】と【野生の勘】で敵の行動を【見切り】回避を。
常に【浄化】【結界術】を展開し、瘴気も防ぎましょう。
攻撃を回避したら【全力魔法】【Lux desire】を【カウンター】【クイックドロウ】【零距離射撃】で叩き込み、【浄化】しましょう。

ようやく結実した小さな希望なのです。
多くの人の犠牲も、歪んでいたとはいえ彼らへの吸血姫の寵愛も、絶望なんてくだらないもので汚させる訳にはいかないのです。
だから、消え失せなさい。お前なんて誰も求めていません。


ブラミエ・トゥカーズ
日光で焦げる為、
宴中は屋内で宴の歓喜や覗きに来る者を驚かせた感情を食べつつうたた寝。

【POW】
さて、これより余等の時間であり、子供は家で夢見る時間であるな。
めでたし、めでたし終わった御伽噺の幕引きであるならば、希望に寄り添い共にあるのも自由であろう。
貴公(私)はオブリビオンではなく只の吸血鬼なのだから。

ザマを見るがよい、絶望よ。

蝙蝠や返杯の血を取り込んでいた事により、吸血姫エレーネに変身。
記憶は共有し、人格等々は変身元に準ずる。

再生と防御力に任せ、腕を真正面から掴み砕き、地面への攻撃を封じる。
人の手に希望を生み出した吸血姫の腕である。

一夜の幻想であっても吸血姫は希望と踊ったのだ。

アドアレ絡歓迎



●幻と知ってそれでも
「吸血姫が危惧していたのはこれですか」
 蠢く巨大なソレを見上げ、望が息を吐く。
「彼らがこの敵に喰い潰されないようにと思っての行動だったのでしょうね」
 もちろん、彼女を肯定するつもりはないですけどね。と言い捨てつつも、その声にある種の納得が滲んでいた。
 目前に現れた猟兵達を前に、速度を上げも緩めもせずただ淡々と同じ速度で歩みを進めるソレ。草木を踏み潰し鳥獣を飲み込み全てを等しく一顧だにせずただ蹂躙して行く絶望の集合体。こんな物に人々が鏖にされたなら……なるほどそこに光も感情も想いも何も在ったものではあるまい。
 何もかも全てが無感動に無意味に零に均らされるだけ。
「これはまたスケールの大きい敵ですね」
 並び立ったハロもまた、この有様なら確かに領地全てを食い尽し得るのだろうと頷く。事実その威容ゆっくりと脈動し、少しずつ大きくなっていく様に見えた。
 だが、勿論。
「だからと言ってここで退く訳にも行きません」
 一歩下がる様子すら見せず、少女達は絶望に相対する。
 それは強がりではない。覚悟であり、意志だ。誰かが憧れ愛した人の強さ。
「後ろに貴族とやらが控えている以上、これはまだ前哨戦に過ぎないのですから」
 そのソード&ダガーの二つ名に相応しく、漆黒の髪の少女は絶望のその先の戦いを見据えている。この化物に『殺戮者の紋章』を授け人族鏖を命じた黒幕、遠くない未来に討ち果たすべき敵。後の事、後の事を考えているのだ。誰かが讃えた様に。
 銀の髪の少女も頷き、<真核・ユニゾン>を手に取る。目の隠れた果実の少女の表情を伺い見る事は難しい。それでも常のそれより大きく変性した黄金の実を持つ手に震えは無く、迫る絶望に敗北する未来など微塵も見てはいない。
 絶望とは要するに希望のない様子の事。であれば今この時の彼女達こそがその相反、天敵である。
「さて、これより余等の時間であり、子供は家で夢見る時間であるな」
 では彼女は何であろうか。
 暗い夜闇の中を迷いなく歩み出して来た貴人。オブリビオンでは無い、けれど人でもない夜の住人ブラミエ・トゥカーズ。
 少し細められた瞳が思い返すのは、領地での宴。日光に灼かれる身体の彼女は屋内に篭ってうたた寝を。けれどそれと同時に、カクリヨファンタズムの妖怪として人々の感情を摂取していたのだ。時に様子を見に来た者の驚きや、その寝姿に見惚れる感情等も交えるものの、その殆どの感情は宴の歓喜。
 その身を以て堪能した感情達が、人々にとって現状が如何に幸福な結末かを伝えて来る。今宵『子供達』が見る夢はさぞ良い物だろう。
「めでたし、めでたし終わった御伽噺の幕引きであるならば」
 だからこそ、だろうか。
 幽世の吸血鬼はもう一つの夢を紡ぐ。
「希望に寄り添い共にあるのも自由であろう」
 これがハッピーエンドの後の後日譚なのであるならば、その程度はきっと許されるだろうと。そう言って笑うその貌が、身体が、幻の様に一瞬クニュリと歪んで、変わる。
「貴公(私)はオブリビオンではなく只の吸血鬼なのだから」
 ザマを見るがよい、絶望よ。と、そう哂う言葉の最後、辛うじて残って居たブラミエの声質が完全に変わり切り、其処に立つ姿、声、纏う雰囲気、全てが別人となる。
 ハロが小さく、感心とも警戒とも取れない息を漏らす。
 視覚を封じられている望は、それ故にこそ僅かに戸惑った様だった。視界以外の五感を以て知覚するが故に、その姿が完璧な『本人其の物』と成っている事を把握したからだ。
 つい昨日に戦ったばかりの、吸血姫エレーネの姿に。
「……お節介な事ね王子様」
 その物言いもまた、オブリビオンの筈の彼女の物。
 ユーベルコード【吸血鬼幻想・血潮に宿るは人の遺志(ザマヲミヤガレバケモノドモメ)】。ブラミエ自身が吸血した誰かの姿かたちと人格を写し取り変ずる術法。そう、戦場の中の束の間の茶会にて、ブラミエはエレーネの眷属を紅茶に変え、返杯を受けている。彼女の血を得ているのだ。
 常であればその銘通り、命そのものを内包する血液を通して得た心と魂の欠片を基に、人の遺志をこそ再現しその決意を以て化物を打ち倒させるのだろう。だが此度、彼女は彼女を喚んだ。記憶を共有し、人格を再現し、一時的にとは言え己を捨ててまで。
「…………」
 その貌に浮かぶのは如何なる感情か。
『一夜の幻想であっても吸血姫は希望と踊ったのだ』
 そう言う事に、なるのだと。
 共有している記憶が、再現されたその人格にブラミエの真意を伝える。
「……そう、ね」
 今この時のみの幻であれ、時と共に儚く消える夢であれ。御同輩と親しんだ吸血鬼の御膳立てにより、この戦いの間だけ人の側に立つ事となった化物は。
 拳を握った。
「誘われたなら、踊らなくてはね」
 そうして、戦いは始まる。
 猟兵とオブリビオン、希望と絶望の。

●今そこにある望みと奇跡
『……』
 オブリビオンは終始無感動である。猟兵達が立ち塞がろうとも、恐らくは元より標的の内だったのだろうとは言え、滅びた筈の吸血姫の姿が現れようとも。
 何も思わず何も感じず、ただただその手を伸ばし、圧倒的な絶望のみで全てを押し潰そうとする。異様に細く長いその腕は瘴気を伴い蔓延させる絶望の腕。
「おっと」
 振り下ろされたそれを望が難なく躱す。視覚以外の五感所か第六感や勘迄利用する感覚の鋭さは、巨体かつろくな知恵も持つようには見えないその化物の動きを完璧に見切っていたのだ。
「そこなのですー」
 続けざまに振り下ろされる腕を次々と避けながら、それだけでは無く翼の少女は術式を編む。それは浄化の結界術、展開されるそれが瘴気を打ち消し、その地を穢す事を許さない。
『……』
 腕が当たらぬのならと判断したのだろう、その巨大な目がオラトリオを睨もうとグルリと動き。
「さて、どうやらその目が危険な様ですね」
 死角からの声。
 突然叩き付けられた暴風。破魔と浄化の力が籠められ、空を裂く風の刃にその目は頭部毎大きく削られる。
 無尽蔵な力の補充により直ぐに再生するものの、当然発動する筈だった術は不発に終わり、望の姿もその視線の外に出てしまっている。
『……』
 であればその下手人をと振り返る巨体。けれどそこには既に何も居らず、見つけ出そうと視線を巡らせても。見えるのは夜の深い深い闇ばかり。
「ダークセイヴァーの夜は元々暗いですが……」
 一方、下手人……ハロはその闇に紛れたまま小さな呟きと共に術式を編み、闇属性の力で周囲を更なる闇に落としていた。目が存在しているのであれば、それは当然視覚で知覚しているのだ。であればそもそも視認出来なくしてしまえば良い。
 今、絶望に肉薄しているもう二人の内、望はそもそも視覚に頼っていない。ブラミエ≒エレーネは吸血鬼で夜闇には馴れがあるし、そもそも。
「淑女の! 扱いが! なってないわね……!」
 ベキリゴキンと鈍い音を響かせ、吸血姫はオブリビオンのその白い腕を掴み圧し折っている。引き換えに別の手に叩き伏せられ頭蓋を砕かれるが、怯まず引き続き掴んだ腕を握り砕こうと力を籠める。ブラミエの人格が戻れば『人の手に希望を生み出した吸血姫の腕である』とでも言うだろう事を認識し、大袈裟ねと少しはにかんだ苦笑をしながら夢の産物たるヴァンパイアはその腕を振るい続ける一歩も引こうとしなかった。
 そして地面への瘴気の蔓延を避ける意図もあるのだろう。オブリビオンの攻撃全てを防ぐか喰らうかし続けており、明らかに一切避ける気が無い。
 とんだパワープレイだ。不死性と怪力が強みの彼女が格上の巨体を相手取るならばこれが合理なのか、それともブラミエのコードの効果によりその防御性と再生力が大幅に底上げされている事を受けてか。何にせよ彼女は戦いが始まってからずっと敵と至近距離で肉薄したままだ。アレならどれだけ視界が暗くなっても関係が無いだろう。
 残る問題はハロ自身だが。
「私はこちらから視認する事は出来ませんが」
 術に拠って散々闇を深めて置いてアッサリとそう言う。事実、ハロの視界はほぼ闇に閉ざされ文字通り一寸先まで何も見えやしない。
 しかし。
「この巨体であれば気配を察知するくらいはできるでしょう」
 その言葉と共に、果たして少女の赤い瞳が見えぬ筈のオブリビオンの方を向く。吸血鬼が絶望と盛大に潰し合う鈍い音も合わせ、その位置を大まかに把握する事は、歴戦の元少年兵であり、探索者でもあるハロには容易い事なのだ。
 構えたその手の周りに風が起こる。大雑把にさえ位置が分かれば、後は先の様に暴風で全て吹き飛ばしてしまえば良いのだ。近接して戦う吸血鬼は矮躯、心持ち巨体の上方を向けて放てば直撃の恐れはない。
「そもそも、泥や影の様なこの敵に剣では分が悪そうですからね」
 逆にこの風。かつての難敵の技を自己流にアレンジしたユーベルコード【嵐の出撃(ライディングオンザウィンド)】ならば、その地の気流すら乱す嵐によって広範囲を一度に削り取れる。
──ゴォ  ンッ!!
 重く鋭い風切り音。続くは切り裂き音、放たれた一撃がまた絶望を大きく削ったのだと確信し、ハロは僅かに笑う。そして手を緩めず、次弾となる風を編む。全ての絶望を浄化し切って退けるまでと、次々に。
『……』
 絶望は。この期に及んでも何の感情も浮かべはしなかったが、しかし現状が芳しくない事は認識していた。纏わり付く様に離れない吸血姫は只管この腕を破壊し、闇の向こうから襲う暴風はこの身体を大きく刻む。翼の乙女には攻撃が当たらず魔法の反撃はジワジワと削り取って行く。
『……』
 そこで絶望はようやくただ磨り潰すだけでは無理だと判断し、先ず数を減らすべく狙いを一つに絞る事にした。潰しても潰しても果てぬ獲物と、そもそも見つけれない獲物を狙うのは不合理、つまり狙うべきは残る一人……望。
 闇の中であっても、潜んではいない望の白い翼は辛うじて視認出来るのだろう。その巨大な瞳がゾロリと空を舞う幼い少女の方を向く。
 そして跳んだ。
「はあ?」
 突然己の前から消えた敵を目で追い。ヴァンパイア≒ヴァンパイアが少し呆れた様な声を漏らす。無理もあるまい、山の様な巨体が軽やかに宙を跳んだのだから。
 冗談の様な絵面、けれどその目的は冗談では済まされない。一直線に望を狙ってその巨大な全身で突撃し全ての手を振り上げて居るのだから。
「ようやく結実した小さな希望なのです」
 だが、幼き猟兵はそれにすら平然と相対した。翼をはためかせ、上方へと一気に飛ぶ。
『……』
 その感覚を総動員したギリギリの回避。己の突撃が外れた事を認識した絶望が、己の直ぐ上に居る獲物を見上げ、せめても共に地に引きずり落とそうとその手を改めて伸ばす。
「多くの人の犠牲も、歪んでいたとはいえ彼らへの吸血姫の寵愛も、絶望なんてくだらないもので汚させる訳にはいかないのです」
 迫る手を、しかし望は避けようとしなかった。必要無いからだ。
 その手の中の黄金の実が輝き出す。願望に応じ奇跡を起こす勝利の果実が、全ての望みを束ね膨大な光生む。
 ユーベルコード【Lux desire(ルクス・デザイア)】。
 全力の魔法の行使、突撃へのカウンター、そして至近距離。全ての要素がその威力の高さを示している。絶望は焦りを感じただろうか。それとも変わらず無感動のまま、己の対極とも言える望みの光を見返したのか。
「だから、消え失せなさい。お前なんて誰も求めていません」
 拒絶の言葉と共に放たれた光の奔流は、オブリビオンの巨大な全身をすらも飲み込み切り。ダークセイヴァーの世界を束の間白く照らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
闇の救済者にも領民にも手出しはさせない
この地に希望を育てる為には彼らのような者が必要だ
『絶望』を前にしても泥人形がどんな姿を取っても怯む事は無い

泥人形がこちらに有効な物だとして、それは今対峙している人である俺に対してだ
狼の姿に変身しユーベルコードを発動、泥人形が狼の姿に対応する前に増大した速度で間を走り抜ける
敵の懐へ潜り込むように駆け白い腕のような物を足場に跳躍、空中で人の姿に戻って銃を構え、目を狙って射撃を撃ち込む
ここなら泥人形の邪魔も入らないだろう

この距離は危険だろうか
いや、これを斃せるのなら構うものか
ダメージを受けても足は止めずに体が動く限り戦い続ける
…必ず守ると、約束してしまったからな


紫・藍
藍ちゃんくんに有効な泥人形でっすかー。
誰を模すかなど一択でっしょうし、模されたところで、藍ちゃんくんをあやややするなど不可能なのでっしてー。
その辺りのことをこれでもかとダメ出し&惚気けたいとこでっすが。
そもそもでっすねー、いま戦っている対象が藍ちゃんくん達だけだと捉えてらっしゃるのが間違いなのでっすよー?
猟兵の皆様だけではないのでっす。
領民の方々。闇の救済者の方々。エレーネのおじょーさん。かつておじょーさんに抗った人々。
過去から今へ、今から明日へと紡がれる皆々様の想いを込めたこの歌こそが、絶望の幕を引くのでっす!
藍ちゃんくん達に刻まれたおじょーさん達の傷痕/祈りものせて

アンサンブルなのでっす!



●祈りと希望の大合奏
 猟兵のユーベルコードの一撃で四散したオブリビオンは、しかし即座に其々の欠片が蠢き一つに最集合して行く。だがその程度では誰も動揺はしない。
 だが、問題なのはその過程で融合せず、其処に残った肉片……或いは泥片と言うべきか。それらはグズリグズリと形を歪めその粘り付く身体を人型へと変じて行く。
「……っ」
 それは『ぬぐい切れない凄惨な過去』と評される泥人形達。前にしてそれでも尚、シキは怯む事は無かった。敵対する存在……この場合は猟兵達に対し有効な姿になるのだと、前もって知っており、そして。
『闇の救済者にも領民にも手出しはさせない。この地に希望を育てる為には彼らのような者が必要だ』
 そう心に決め、覚悟していたのだ。だから泥人形がどんな姿を取っても、どんな絶望を前にしても、怯んだりはしない。
『……』
 ただ、それでも心が動かない道理も無かった。
 泥人形達が模ったその姿は彼がかつて共に育ち、信頼していた仲間達のそれなのだから。……そしてそれは同時に、シキを裏切り結果的に今日の彼のスタンスを作り上げる事となった存在であり、もう会えない人々。
『……』
『……』
『……』
 それが何体も。何体も。何体も。次々と増えて行き数え切れぬ程その形を作りユラユラ、ユラユラと近付いてくる。勿論、彼の仲間が無数に大量に居た等と言う事は無い、同じ顔が幾つも幾つも並んでいる、本体と同じく言葉を発する事も無くただ淡々と迫って来る。その顔は一様に動かず、表情の違いは単に作成時のブレ幅に過ぎない事が見て取れた。
「……ッ」
 噛み締めた犬歯が微かに軋む。怯んだわけでは無い、怯む訳が無い。『操り手が使い方を理解できれば強い』泥人形だと聞いていた。だがこのオブリビオンは確実にその使い方を全く理解できていない。ただその能力で漫然と作れるだけ作り、ただ駒として進軍させているだけなのだ。こんな物は正真正銘ただの土塊だ。
 だが、不愉快だった。だからこそ、凄まじい気分の悪さだった。
「藍ちゃんくんに有効な泥人形でっすかー」
 藍の声も、何時もハイテンションな彼には珍しく少しだけ低い。
「誰を模すかなど一択でっしょうし、模されたところで、藍ちゃんくんをあやややするなど不可能なのでっしてー」
 あやややと言う表現が示す意味合いはさておき、迫る泥人形は果たして大方は予想取り。互いに心を通わせ合い想いを繋げた相手……と、数は少ないながら親しい友人の姿を模した者、幼少時にその容姿を揶揄って来た者迄いる。その節操の無さはなるほど、これもまたこのオブリビオンが自身の能力を全く有効に活用していない事実を示していた。
 ただ矢張り、その相手が大量に粗製乱造されてただただ迫って来ると言う絵面は……さしもの彼の広く深い藍(愛)を持ってしても、正直受け入れがたい有様と言わざる得なかった。
「その辺りのことをこれでもかとダメ出し&惚気けたいとこでっすが」
 ただ模すだけで何が出来るものか、その『カタチの持ち主』と猟兵の間にある感情はその全てがそれぞれに違い。一つ一つが何よりも深い。かつて人狼の男が味わいその魂を錬磨した激情が、ダンピールの少年が大切な人達に向ける藍情が、ただの粗悪なデュープの群でどうこうなる筈がないのだ。
 もういっそその指摘を大義名分の切欠に、思う存分惚気話をぶつけてやろうかと考えかけた藍。けれど溜息一つでその思い付きを押し退け、子供に諭す様な声を出す。
「そもそもでっすねー、いま戦っている対象が藍ちゃんくん達だけだと捉えてらっしゃるのが間違いなのでっすよー?」
『……』
 どれだけ丁寧に諭された所で、優しく教えられた所で、オブリビオンにそれを理解できる事は無いだろう。それはきっと藍も承知の上で、それでも言う。
 言葉にする事。心を込めて声に出す事。それが歌になる。
「猟兵の皆様だけではないのでっす」
 そして歌は希望を紡ぐ。誰かが讃えた様に明日の更な後先の為に育まれるモノ、未だ見ぬ誰かと誰か、或いはもう居ない誰かと今いる誰かの間すら繋げ得る、人の生み出す文化。その極み。
「領民の方々。闇の救済者の方々。エレーネのおじょーさん。かつておじょーさんに抗った人々」
 それは絶望の産物を押し流す音色。影を照らして消し、泥を乾かし土へと戻す奇跡。
「過去から今へ、今から明日へと紡がれる皆々様の想いを込めたこの歌こそが、絶望の幕を引くのでっす!」
 世は幸福だけでなく、良い事ばかりでは無い。けれど、だからこそ希望は輝く。この時この戦い迄の道程で、絶望に相対した全ての存在と想いを込めたその歌を浴び、泥人形達がグズグズと崩れて行く。
「藍ちゃんくん達に刻まれたおじょーさん達の傷痕/祈りものせて」
 アンサンブルなのでっす!
 宣言と共に始まる歌、ユーベルコード【オール猟兵大勝利、希望の時 代の幕開けなのでっす!(アンサンブル・カーテンコール)】。
『……』
 絶望は相変わらずろくな反応を返さない。反応が無いからこその絶望でもある。けれどその芯が確かに、ギシリと微かに軋む音を立てた。

●誓いと約束の守護獣
 泥人形の数は減じ、けれどまだまだ無数に並び迫る。
「……なるほど」
 迫る手を冷静に躱しながら、シキはどうもこの異様な数の多さにも意味はあるのだと気付く。
 運用はお粗末でも、作成段階に置いては相対した敵に『有効な』スペックを成すその性質は正しく機能していたのだ。シキも藍も共にその身のこなしに秀でており、生半な動きでは捉える事すら難しい。
 ……だから数で逃げ道を塞ぎ押し潰すのだと。確かにそれは有効だろう。
「だが、それは今対峙している『人』である俺に対してだ」
 そう言うや否や、シキの肉体が変異を始める。人狼である故の『人でない姿』と言う手札、人の姿に対して有効にと調整された泥人形達のスペック計算を大きく狂わせる狼の姿。
 そして狼はその瞳を光らせ、獲物である泥人形とそしてその向こうの絶望を睨む。
『……』
『……』
『……』
 泥人形達はあくまで眉一つ動かさず、銀の毛並みの狼となったシキを蹂躙するべく迫るばかりだ。けれどその狙いが、動きが、明らかにズレ始めた。姿勢やサイズや、そして何よりも圧倒的に増大した速度。
 ユーベルコード【イクシードリミット】。変身と共に解放された人狼の獣性は、シキの身体のリミッターを外し高速戦闘モードとでも言うべき何段も上の機動力と鋭さを実現する。それは、シキ自身の身体への深刻な負担と引き換えだが……故にこそ凄まじい。
「      !」
 獣の声が響き渡り、次の瞬間その影すら踏ませずその身が走り抜ける。
 それまで隙間も無い程に並び足並みを揃えて襲って来て居た泥人形達、けれど姿と動きの変わったシキに未だ対応できていないが故に出来た、そのズレ。その間を潜り抜ける様に駆け、あっと言う間に絶望の集合体の懐へと潜り込む。
『……』
 勿論、オブリビオンとてそれを放置したりはしない。
 その白い手がフワリと振り上げられ、次の瞬間には空気を切り裂くが如き速度で振り下ろされる。だがその緩急の速度も野生の速さを捉えるには一歩及ばず、寧ろシキはその腕を足場に高く跳躍した。
「ここなら泥人形の邪魔も入らないだろう」
 一瞬出遅れて見上げた絶望の瞳が見たその姿は、しかし既に人のそれ。跳躍の間に人間の姿に戻ったシキは何時の間にか、その手に愛銃<ハンドガン・シロガネ>を握っていた。
「ここだな」
 発砲。狙いは絶望が己に向けたその瞳。撃てるだけの銃弾を叩き込み、やがて中空で綺麗な弧を描いたその身が着地するのは絶望のすぐ背後。
「この距離は危険だろうか」
 あくまで冷静に自問する。背後を取ったとて油断しないそのスタンスは正しい。
 何故ならオブリビオンの影や泥の様な身体の、その表面を滑る様にその目と腕が裏側に回って来たからだ。尋常な生物では絶対に在り得ぬような稼働で前後を逆転させた化物がその腕を振るう。
「……いや、これを斃せるのなら構うものか」
 油断はせずとも咄嗟に躱し切れる物では無く、掠めたその一撃が切り裂いた出血を左手で押さえ。しかしガンナーの男はダメージを避け得ぬこの距離を維持する事を決める。
 先程彼自身が言った言葉の通り、この距離であれば泥人形の邪魔はほぼ入らない。
「全ての想いと傷と祈りと希望を込めて! 今ここに終幕をなのでっすよー!」
 そして、聞こえ来る藍の歌声は変わらず力強く、その言葉の通り泥人形達の終わりは近いだろう。任せて良い筈だと判断し、シキは脚を止めずけれど逃げる事無く戦い続ける。
 血を流そうとも、骨を砕かれようとも。時に獣として、時に人として、寿命すら奪うとされる『人狼病』の病変すらも利用し使いこなし、その身体が動く限り戦い続ける。
 男は信用を重んじ、一度受けた仕事は完璧にこなすべく取り組む。
 そして。
「……必ず守ると、約束してしまったからな」
 交わした誓いを守る。それは決して裏切らぬ、彼の強さ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
こんなものに、愛したヒト達が壊されるなんて
そんなん絶対嫌ですよね
コレも人の想いが作り出したもの
それなら、ヒトが倒せないなんてことは無いから
エレーネがいくら焦がれても進めない未来を
私達は歩いて行くために

恋人を抱きしめ、深く深く暗示をかける
貴方は私の世界。貴方だけが私の希望
私の愛は、貴方だけのもの

お願い、withーー私の側にいて

真の姿解放
振るわれる腕をwithで弾き【武器受け】
瘴気を翼の羽搏きで吹き飛ばす【焼却】
心にあるのは、勝利への意思だけ【勇気】
絶望が入り込む隙なんて、無い

UC発動
あなたの全てを拒絶する。私が大嫌いなモノだから

エレーネが愛した。私が大好きな。
希望が生きる世界から、消えてください


豊水・晶
あんなものがこの世に存在するなんて。うっくっ。遠くから見ているだけで、ありとあらゆる絶望という感情を無理やり体に流し込まれるような不快感を感じます。気持ち悪いですが、あちらに貴方を待っている方がいらっしゃるので、ご案内させていただきますね。

真の姿解放。

指定UC 神罰 浄化 破魔 蹂躙発動

人々の安らかなる平和な日常のため、そして約束を果たすために、骸の海へ還りなさい。



●絶望を終わりへと送る為に
「あんなものがこの世に存在するなんて……」
 数多の銃弾と重撃を受けても尚そこに鎮座し続ける異形のオブリビオンを前に、晶が青い顔をしたのは決して恐怖からではない。嫌悪感からだ。
「こんなものに、愛したヒト達が壊されるなんて。そんなん絶対嫌ですよね」
 結希もまたその悪感情を隠さず、その黒い瞳に深い敵意を篭めて呟く。それは誰かの想いへのある種の納得。
「うっくっ」
 水晶の女神が堪らずと言った様子でえずいた。
 人の形に収まれど、彼女の本質は竜神。それも村とは言え確かに人々の信仰を受けその力としていた存在……信じる心も、仰ぎ見上げる崇敬も、そして祈りの念も、その全ては未来を見据えた希望の側の所作であり。絶望はその対極、相対し吐き気を催すのも当然の道理なのだろう。
「遠くから見ているだけで、ありとあらゆる絶望という感情を無理やり体に流し込まれるような」
『……』
 不快感を訴える竜神を前に、その巨影は無感動にその視線を巡らせる。何も感じていない様で居て、けれど目前の存在が処理すべき敵である事と、己の内に溜め込んだ絶望がその相手に有効である事は理解しているのだ。
 その虚ろな瞳を向けられた存在は、その認識に幾千の絶望をねじ込まれる。それは文字通りの蹂躙であり概念としての凌辱、其れは確かに竜神の魂を苛み打ち砕くに最も適した攻撃だろう。
 だが、猟兵であり神である晶が絶望に対し只無抵抗である筈もない。
「気持ち悪いですが、あちらに貴方を待っている方がいらっしゃるので」
 死の疑似体験を与える視線が弾かれる。物理的で無い物の筈の視線を防いで見せたのは、それもまた物理的なそれではない力の奔流。晶の身体から漏れ出るその奔流はその全身を纏う様に巡り、その形はヌルリと変化し白く長く美しく伸びて行く。
「ご案内させていただきますね」
 猟兵達の持つ奥の手、真の姿。
 其処に顕れたのは煌めきを纏った美しき白龍。美しいと言う形容詞に置いては共通なれど、その方向性も形も普段とは全く違うその姿。しかしその水晶の鱗と角、そして左右で色の違う瞳の色が、それが晶であると示していた。
『……』
 絶望は、それでもあくまで特別な反応を見せなかった。だが、その危険度は理解できたのだろう。その白い腕を伸ばし、竜鱗をその拳で砕かんと振り下ろす。
──ガッ!!
 その腕を漆黒の一閃が下方より叩き上げた。両断こそ免れた物の、盛大にベキリと圧し折れたその腕は当然狙いを大きく逸らし不発となる。
「コレも人の想いが作り出したもの」
 竜神に気を囚われた絶望のすぐ下に結希。その手に握るは愛用の大剣……否、心の支えであり最愛の恋人、彼女自身が決めた標<with>。
「それなら、ヒトが倒せないなんてことは無いから」
 宣言する様に、表明する様に、言葉を紡ぐ結希に白い腕が迫る。
──ヒュゴッ!!
 だが今度は竜の操る水撃がその一撃を弾く。
 絶望の集合体は集合体であるが故に収束した一つ。曖昧なその身体を歪め、削られても折られてもたちどころに再生するが、あくまで一つ。同時に幾つもの事は出来ない。
「エレーネがいくら焦がれても進めない未来を、私達は歩いて行くために」
 故に、力を合わせる猟兵達を前にその隙を許してしまう
 旅人の娘が、届かないモノに憧れ続けた誰かの願いを。だからこそ、届く己達は全うするのだと、そう誓う隙。そしてその手の漆黒の大剣を抱き締め、己の中の真を呼び起こす時間を。
「貴方は私の世界。貴方だけが私の希望」
 抱き締めた恋人。彼女の強さの源、証、そして寄る辺たるその感触を身体で感じながら、結希己自身に深く深く暗示をかける。貴方と一緒なら私は強い。何も怖くない。
「私の愛は、貴方だけのもの」
 その姿が変わる。
 レッサーヴァンパイアと戦った時見せたそれよりもずっと赤い、紅い、炎の翼。瞳も血の様に赤く輝き、同じ色の焔が足首を覆う。その代わりの様に、その装束が、髪が、抜ける様に白く白く、何物にも染まらぬ純白へと変わる。
「お願い、withーー私の側にいて」
 そしてその恋人もまた白く。柄の端から剣先まで全てが真白き大剣、それは<with>であり<with>では無く、彼女と共に彼女の望みのままに物語を終わらせる剣、<Close with Tales>。
『……』
 絶望は無言のままその身体と腕を大きく広げた。真の姿となった猟兵2人、それを揃えさせてしまった己の失策を知ったから。そしてその失点を生めるには、即時の圧殺以外に道は無いと。そう判じたから。

●清き蹂躙と焼き尽くす拒絶
 絶望は着実に圧倒されつつあった。
『……』
 振り下ろされるその手の勢いは凄まじく、そこから滲み出る絶望の瘴気はあらゆる物を苛み穢す瘴気だ。しかし。
「心にあるのは、勝利への意思だけ」
 結希は勇気をもって恐れず踏み込み、共にあるパートナーの一閃によって弾く。
 あらぬ不幸へと吹き飛ばされた腕から、瘴気が周囲に零れ落ち地を穢すが。
「絶望が入り込む隙なんて、無い」
 広がった紅き翼の熱と炎が瘴気を焼き尽くし、その残滓を羽搏きが吹き飛ばす。
 ならば恐れずとも防げず、剣では弾けぬ物量で。そう判断したのだろう、絶望がその巨体を倒れ込む様にブレイズキャリバーへと迫らせる。
『守るべきものを守るため、穿て』
 響くは竜の声。放たれるは神の水。その勢いに押され、半ば強制的にその姿勢を戻された絶望の眼前。蛇体をくねらせた竜神は構えを取る。それは古き水墨画や画図に見るが如し、正に神話伝承に伝わる龍の図。
『神の水に射たれ、その者の犯した罪を浄めたまえ。さすればその者七宝となりて、天に誘わん』
 その手にあるは八大竜王が持っていたとされる宝珠、<天竜護法八大宝珠>。そこに秘められた膨大な力が、祝詞の様な詠唱と共に水気として練られて行く。圧縮に圧縮を重ねられたその水気は、それまで竜神が放った水撃とは比べ物にならぬ程重く凝縮されて行く。
『人々の安らかなる平和な日常のため』
 それは竜神の落とす神罰である。
『そして約束を果たすために』
 魔を祓い浄化する、清浄なる水の裁きである。
『骸の海へ還りなさい』
 ユーベルコード【瑞玻璃の息吹(ミズハリノイブキ)】。全てを穿ち砕く水の炸裂は、周囲一帯を広く満遍なく蹂躙する。巨体の絶望が避ける隙間など勿論なく、防ぎいなす余裕等微塵も無く、その身体を掘削するが如く砕き散らす。
『……』
 勿論、絶望とて一方的にやられ続ける筈も無く。砕かれた欠片を集め、順次再生して行こうとする……が。その殆どが叶わない。竜神の権能に曝され浸食された欠片が結晶化して居るからだ。
『……』
 そこで焦りを覚える感受性など絶望にはない。だがこの状況が不味いと言う事は認識できる為、急ぎ宙を舞い水流を操る竜神を止めるべくその身を捩り。
「あなたの全てを拒絶する。私が大嫌いなモノだから」
 業炎の天使が如きその威容を前に、その動きを確かに数秒止めた。
 感情が無くとも、人格が無くとも、それが致命的であると分かれば。迷う。困る。或いは……皮肉極まる事に『絶望』すら感じる可能性もあるのだろうか。
「エレーネが愛した。私が大好きな」
 世界を渡り歩く根無し草、言ってしまえば一言だが。そんな生き方が出来る人間は限られている。多くの人間は己の居場所を定め、其処を最良の地と決める。それをせず常に歩み続けると言う事は……とどのつまり、世界全てを美しいと愛せる心を持たないといけないのかも知れない。
「希望が生きる世界から」
 紅い翼から無数の羽根が放たれる。それは彼女の拒絶の意思。全てを破壊する焔。
 ユーベルコード【Seraphic Feather(セラフィックフェザー)】。
「消えてください」
 降り注ぐ火焔の雨が、結晶化により態勢を崩した絶望の傷口を更に撃ち抜く。その高熱がその全身を焼き尽くさんと燃え広がる。
『……』
 絶望は悲鳴を上げない。
 けれどその身を捩り、水に穿たれ炎にて焼かれた残骸と融合できず蠢く有様は、傍目に明らかな苦痛と致命的に近い損傷を確信させる物だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リインルイン・ミュール
また後方支援ですが、その分の仕事はしますヨ

本来は一度歌えば良いのですが、敵も地形変化を持ってますから、基本はUCの歌唱を継続しつつ攻撃回避に専念
これは希望もつ生命への祈りであり鼓舞。守ろうという意志でなくとも、未来を掴もうとする意思がある……この場にいる皆さんであれば問題なく適応出来るでしょう

極力目(ヒトと同じ目ではないですが)を合わせないように、駄目だった時は自分を鼓舞して耐えます
痛いだけの死なら耐性でどうにか、他も色々でしょうが挫けるわけにはいきまセン
過去を蔑ろにはしませんが、それらの上に今がある。今ある希望を未来に繋ぐ、よりよい明日を掴む、それを望むヒトビトの為にワタシは歌い続けるのです



●生命を寿ぐ讃美歌
 戦いは激化の一途を辿る。
 猟兵達も、『第五の貴族』の刺客であるこのオブリビオンが強力な存在である事は分かっていた。それ相応の覚悟を決め、その全力を以て戦っている。強力なユーベルコードを放ち、絶望を否定し、その力を封じる。だがそれでも尚、絶望の集合体は脈動を繰り返し無尽蔵が如くその存在を蠢かせ続ける。
 埒外の力を持つ猟兵達とて疲労はするのだ。
 まして傷を負えばその血を喪い、大技を放てば相応の力を消費する。消耗は士気を下げその精神を蝕むだろう。
『……』
 それこそが絶望側にとっての付け目となる。
 感情も言葉も無く、ただただ延々と淡々と迫り続ける巨体。その際限の無さに希望は霞み絶望が膨れ上がる。そこに白い手が伸びて……絶望の集合体と言うオブリビオンの常套手段だ。
 だが、此度はそうはならなかった。
 猟兵達は未だ意気軒高、動きも鈍らずその四肢を俊敏に働かせ戦い続ける。
『………………』
 絶望が、その目を忙しく動かし周囲をジックリと観察し始めた。
 感情を持たぬその存在は疑念を感じない、そんな情緒は持ち合わせていない。しかし、相対する排除対象が想定外の継戦力を見せれば、その原因を探知しようと言う判断はする。彼らは何故未だ戦えるのか、彼らを未だ力強き戦士足らしめているのか。
 何の、誰の仕業だ。
『……』
 それで絶望はようやく、リインルインの歌声に気付く。
 不定のケモノが歌うその歌。それはもう一つの歌と違い、オブリビオン自身に対して働きかける物では無かった。それ故に絶望は認識できなかった。気付けなかった。感情を持たぬ希望の対極たるその存在には、歌が与える力の存在等、理解しようも無いのだから。
「しかと踏みしめ歩む脚に、明日を掴まんと伸ばす手に、力を。過去へ抗い牙剥く心に、未来照らす光は降る」
 それは絶望を否定する希望の歌では無く。希望を掴み取ろうとする命の輝きを讃える祈りの歌。
 ユーベルコード【明日を望むものへの祈歌(フェイス・サーム)】。サイキッカーであるリインルインが正の思念を織り込み紡ぐその歌声は、猟兵達の心と身体の両方を力強く支える。諦めぬ生命の背を押す讃美歌が、戦い続けるその魂と力を向上させる。
「また後方支援ですが、その分の仕事はしますヨ」
 歌の合間、飄々とそう言うブラックタールの歌い手はマイペースな調子だ。
 しかし実際の所、それは言う程容易い仕事ではない。何せ彼女は、この戦いの間中ずっと歌い続けているのだから。
「本来は一度歌えば良いのですが……」
 そのユーベルコードの加護は戦場全体に残留し、環境その物を変化させる。『過去』を還し未来を掴む意志を込めたその歌声が一たび響き渡れば、其処は猟兵達を力づけるフィールドと化す。
 だが……ブラックタールの知覚が瘴気に穢された地表を見やる。そしてまたその声を響かせる。
『……』
 紡がれた歌声がその絶望を希望へと塗り替える様を、オブリビオンも知覚した。
 言ってしまえば地形変化。絶望の集合体がその地を己のホームグラウンドに塗り潰す都度、猟兵達の浄化の手の届かぬ範囲のそれをリインルインが処理していたのだ。歌い続け、そこをその祈りと歌に見合うだけの魂を持った者だけが適応出来る地に変える事で。
「これは希望もつ生命への祈りであり鼓舞。守ろうという意志でなくとも、未来を掴もうとする意思がある……この場にいる皆さんであれば問題なく適応出来るでしょう」
 歌の力は彼女自身をも支えているのであろうが、それでも戦いながら意志と心を注いだ歌唱を続ける事が楽な筈もない。だが紡黒のケモノはその苦痛と疲弊をおくびにも出さず、ただ戦線を支え続けていたのだ。
『……』
 だが勿論、絶望にその献身を讃える心の持ち合わせなどはない。
 原因が知れたならそれを排除すればよいと、その虚ろな瞳でその仮面を捉える。
「これはこれは……」
 リインルインはこれまで、歌う事を優先し攻撃の回避に専念していた。そしてその巨大な瞳からの視線が強力な精神汚染攻撃の類だと知っている以上、極力その目を合わせないようにも心掛けていたのだ。人間やそれに類する種と同じ目を持たぬブラックタールの彼女は、それで上手くその邪視をいなせていたのだ。
 だが意識して目線を向けられれば、その巨大な目からの視線を避け切る事は不可能に等しい。
「……凄まじい。けれど、挫けるわけにはいきまセン」
 液状のその身体が少し揺れる。
 送られてくる幾千の死、絶望的な死、苦痛の死、悲嘆の死、死、死、死、死死死死死死死死死死死。三千世界のあらゆる死の疑似体験が、その精神を蹂躙しその内に沁み込んで来る。
 痛みの死であれば耐性がある。呪詛を耐える事にも自信がある。けれど、数多の死は余りに多種多様であり慣れる事も耐える事も許さない。
「過去を蔑ろにはしませんが、それらの上に今がある」
 にも拘らず、リインルインは歌う事を止めなかった。
 仲間達を、そして己自信を鼓舞するための歌。それを継続し、只管に膨大なその死を耐える。
「今ある希望を未来に繋ぐ、よりよい明日を掴む」
 サッパリというより執着心が薄く、嫌な事はすぐに忘れてしまう。そんなスタイルでふわふわと生きる彼女に取って、その心に直接押し付けられる末期は果たしてどの様な概念であるか。どう考えても恐らく相性の良い責め苦では無いだろう。
「それを望むヒトビトの為にワタシは歌い続けるのです」
 けれど、耐える。誰かの為に、知っている誰かの為に、リインルイン・ミュールが想う全ての人々の為に。
 歌は止まない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レディ・アルデバラン
(まだ白い見た目のまま)
さて、第五の貴族でしたかしら?
暗躍するのは悪の習いとはいえ、寄生虫で操った手下を使い、姿も見せないとはカリスマの欠片もございませんわね!
そのようなチンケな悪、わたくしが踏み砕いて差し上げますわ!

「悪目立ち」で気を引きつつ、戦いで形成された瘴気の地形ごと【グラウンドクラッシャー】で破壊して地の利を奪い返しますわ。
時には単純で圧倒的な暴力が解決策となる、お父様もそう仰っておりました!
このレディ、全力を以て整地させていただきますわよ!
作戦とはいえ土地をめちゃくちゃに……悪いのでは?(色が戻る)

寄生虫の詳細を確かめたいですけれど、野放しも危険ですわね。無理そうなら潰しますわ。


リーヴァルディ・カーライル
…貴方達の絶望そのものを否定する気はない
だけど、その想いをぶつける先は今を生きる人々では無いはずよ

"精霊結晶"を砕き展開した濃霧で敵の視界を閉ざしてUCを受け流し、
自身は"精霊石の耳飾り"で得た第六感で敵の姿を暗視し、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUC発動

…必ず、貴方達を死に追いやった者達と相対する時が来る
その時に余さずまとめて叩き付けてやる為にも、
貴方達の絶望は私が預からせてもらうわ

…さあ、過去を刻むものよ。その力を解放せよ

大鎌に死者の想念や呪詛を引き寄せる"闇の引力"を宿し、
数多の絶望を大鎌に降霊して魔力を溜め敵の弱体化を試み、
自身のUCの影響下に無い紋章の位置を見切り闇の斬撃波を放つ



●絶望の暗闇を見通す心
 戦いも佳境に入ったと言えた。
 オブリビオンの巨体に蓄積した損傷がそれを示している。
『……』
 だが絶望は何も言わない。どれだけ傷を受けようと、どれ程消耗しようと。猟兵達の数多の攻撃を受け、その全体を心なし薄れさせながらこの期に及んでも尚、何も言わない。それは、そもそも感情が存在しない怪物だからなのもあるだろう。だが、もう一つ解釈の余地はある。
「……貴方達の絶望そのものを否定する気はない」
 黒の大鎌を手に、リーヴァルディはそんな言葉をオブリビオンに投げかける。
 それの名は『絶望の集合体』、絶望その物の凝縮である……と、同時に。それはつまり何処からか絶望を集めて作り上げられた存在だと言う事。その過去に、確かに居るのだ。誰かが。望みを喪い倒れた誰かが。
「だけど、その想いをぶつける先は今を生きる人々では無いはずよ」
 銀髪の黒騎士の言葉は決して甘くはない。けれど彼女だけが、オブリビオンの始まりの向こう側に居る『誰か』に気づいた。ヴァンパイアと言う名の過去(オブリビオン)を否定し狩り続けた彼女だが……或いは、だからこそ。それが過去から零れ落ちた存在である事に誰よりも対面し続けた彼女だからこそなのかもしれない。
 誰かが聞けばその誠実さに苦笑するのかも知れない。それを優しさだと判じ、柔く、柔く。
「さて、第五の貴族でしたかしら?」
 一方で、黒……くはない。ユーベルコードの後遺症で抜けるような白に漂白されたままの少女、レディは対照的に。先の未来を見ている。刺客であるオブリビオンを倒した後、その終わりの向こうに居る黒幕。倒すべき敵手を見ている。
「暗躍するのは悪の習いとはいえ、寄生虫で操った手下を使い、姿も見せないとはカリスマの欠片もございませんわね!」
 魔王と言う数多の民を率いる存在の娘であり、それを誇りとしている彼女なればこそ。先の先を見据えると言う事なのだろうか。絶望と言う名の恐怖の現れを前にしても尚、悪魔姫は傲岸不遜なその態度を崩さない。
 誰かが聞けばきっと笑うのだろう。本当に、徹底して後の事を考えていると讃えて。
「そのようなチンケな悪、わたくしが踏み砕いて差し上げますわ!」
 主である『第五の貴族』を侮蔑されたから……と言う訳でもないのだろうが、その堂々とした悪目立ちぶりに意識を引かれたのだろう。絶望の白く長い手が伸ばされる。
 すべてを砕き、瘴気にて汚すその絶望の腕(かいな)が少女に迫り。
『……』
 その半ば、突然の濃霧に遮られ対象を見失った。
「……必ず、貴方達を死に追いやった者達と相対する時が来る」
 一寸先すら見通せない霧の向こうから騎士の乙女の声がする。
 探せど探せど見つからない。ダンピールは一か所に留まらず、かつ視界の無い中でも相手の位置を把握しているかの様に的確に動き、その視線を受け流し続ける。
 いや、事実把握しているのだ。リーヴァルディの耳に輝く<精霊石の耳飾り>、それは精霊との交信に拠り第六感の視界を得るアイテム。そしてこの閉ざされた視界もまた、『霧』と言う自然現象を凝縮して作られた<精霊結晶>を砕く事で生み出した物。
 絶望は今、吸血鬼狩りの術中に居た。
「その時に余さずまとめて叩き付けてやる為にも、貴方達の絶望は私が預からせてもらうわ」
 霧の闇の中、紫色の筈の瞳が紅く輝く。それは吸血鬼の血を引くダンピールとしての呪われし祝福、吸血鬼化の徴。その生命力が左手から闇色のオドとして溢れ出す。
 逆の手から溢れるは自然の力たる精霊のマナ。不可視のそれは引力。
「……さあ、過去を刻むものよ。その力を解放せよ」
 ユーベルコード【限定解放・血の教義(リミテッド・ブラッドドグマ)】。
 闇と引力、二つの力が合成され、グリムリーパーと称される大鎌に宿される。
『……』
 感情持たぬブリビオンが、しかし戸惑う様な反応を示した。己の中の要素が引きずり出される、そんな感覚に気付いたからだ。
 死者の想念や呪詛を吸収して力にする<過去を刻むもの>が、宿した"闇の引力"に引き寄せた数多の絶望を喰らいその身に溜め込む。それはオブリビオンの存在その物、奪われれば当然弱体化する。
「……ん」
 だが、武器越しにとは言え幾千の絶望を受ける事が容易い筈も無い。まして扱っている術式は制御が難しく暴走しやすい物。……にも関わらず、リーヴァルディは身じろぎ一つせず、ただ吐息に混じる程小さく一声漏らした程度。
「……土は土に」
 そして聖句を零した時、その目は精霊を通しオブリビオンの中の『殺戮者の紋章』を見据えている。それは『第五の貴族』から与えられた寄生虫型オブリビオン……つまり『絶望』では無い。彼女の編んだユーベルコードの影響下に、其処だけが入らない。
 そうして見つけ出したその一点を狙い、闇の斬撃破が濃霧を切り裂き放たれた。

●無体な迄の希望をどうぞ
 それは、与えられた命令に忠実だった。
 それが与えられた命令は『人族鏖(じんぞくみなごろし)』、より具体的に言ってしまえば、指定の土地の全ての知恵ある命を殺し尽くせと、そう命じられている。
 そして命令に忠実故に過剰なほど執拗にそれを熟す。道の途中、一般的なそれより知性が高めだったと言うだけで獣達を丁寧に蹂躙し、時間を無駄にした位には。
 そんなソレが身体の大半を砕かれ、与えられた力の源たる紋章にすら傷を入れられ、程なく力尽きるだろう程に消耗した時。命令の遂行が叶わぬと、感情を持たぬが故に正確に理解した時。どうするか。
 単純だ。一人でも多く殺そうとした。何処までも忠実に、全て行えないなら出来るだけの最大を行おうと。
「時には単純で圧倒的な暴力が解決策となる、お父様もそう仰っておりました!」
 だからそれは、誇らしげに胸を張る少女を狙った。
 勿論只の少女では無く、異世界の悪魔。吸血鬼狩りがオブリビオンの力を奪いその力の源を狙って斬撃を放っている間、レディと言う名の彼女はその巨大な戦斧を振り回しオブリビオンの身体と周囲の地形を滅茶苦茶に砕いていた。
 ユーベルコード【グラウンドクラッシャー】。シンプルかつ強力なその破壊は、文字通り一振り毎に大地を打ち砕く。
「このレディ、全力を以て整地させていただきましたわ!」
 勿論、無意味な破壊では無い。濃霧の中、見えぬ敵を砕こうと絶望の集合体はその腕を只管に振り回し、周囲に瘴気を振り撒いた。そのまま大地とその周囲を瘴気で満たせば、濃霧と違って己の中から溢れる力故にある程度の知覚も叶った筈だった。
『地形ごと破壊して地の利を奪い返してやりますわ!』
 そう宣言して有言実行した鋼鉄魔神の娘が居なければ、だが。
 レディ自身が濃霧でろくに周囲が見えて居なかった事もあるだろう。野放図かつ無尽蔵な破壊は周囲一帯を瓦礫の山と亀裂の谷に変えていた。
 その山の上、やり遂げたと言わんばかりのその笑顔は油断している様に見える。それはそうだろう、オブリビオンの身体は砕けて散った。きっと勝利したと思って居るに違いない。
 そう考え、元の巨体からは見る影もなく矮躯迄削れたソレは。今だ薄っすら残る濃霧の中をのたくり少女の白い姿目掛け奔る。残された絶望をその口に、目に、心に注ぎ込んでやる為に。
 瓦礫の合間を縫って、滑る様な高速で飛び掛かり。
「作戦とはいえ土地をめちゃくちゃに……悪いのでは?」
──パシン
 小気味よい音を立てて、レディの手がその身体を掴み止めた。今更極まる惚けた事に思い至りながら、それはもう無造作に。
「寄生虫の詳細を確かめたかったのですよね」
 あまつさえ、手に握ったオブリビオンを矯めつ眇めつ観察し始める。うーんと呑気な声を零しながら、しかしその手は絶望の残骸(最早そう言う方が正しい)を逃がさない。
 レディのその服と髪の色が黒に戻って行く。それは絶望の影響か、それともただの時間経過か。
『……』
 オブリビオンは理解できなかった。
 後の事を考え、元々『寄生虫型オブリビオン』を探していたから接近に気付いた。それは良い。
 だが、絶望そのものであるオブリビオンのこの身体に、視線所では無く直に触れて、何故平気の顔をしているのだ。この娘は。
「持ち返ればもう少し詳しく……でも野放しも危険ですわね」
 オブリビオンは気付かない。と言うか知りようが無い。
 レディは12歳の子供だ。それも絶望に閉ざされたダークセイヴァーでは無く、住民の埒外な強さと素っ頓狂な生命力が明後日の方向に吹き飛んだデビルキングワールドの生まれ。それも一地域を治める魔王の娘として育ち、その世界基準に置ける正しさを標榜し、表には出さねど面倒見の良い根っからの善人に育った少女。
 元人間のレッサーヴァンパイア達を気にする様子も無く真っ向蹂躙し、吸血姫の狂愛にドン引き、仲間達の命を何よりも優先する。良くも悪くも子供である。
『……』
 オブリビオンには分からない。
 人が生み出す絶望の罪何か気にしない。ぬぐい切れない凄惨な過去何か気にしない。幾千という絶望な死なんて気にしない。まだ知らないからかも知れないし、知った上で気にしないと押し退けているのかも知れない。そんなつもりすら無いかもしれない。
 誰かがこんな結末を見たらどんな顔をするだろう。
 ……もしかしたら、威厳を投げ捨てて爆笑するんじゃあないだろうか。
「無理そうだし潰しますわ」
 絶望の天敵は希望であり、子供とはその塊だ。無限の未来その物が、何よりも単純で、何よりも重い、無敵の武器。残骸まで削れた絶望に勝ち目などある物か。
 決着の一撃は音も無く、けれどその絶望を根底から──

●それを何と云いましょうか
 戦いの後、猟兵達は何も言わずに立ち去った。
 何も知らぬ領民達にわざわざ『第五の貴族』の恐怖を伝え、怯えさせる理由などありはしない。
 戦士達にも対してもそれは同様で、彼らの尽力と希望は地表のヴァンパイア達にだけ向けて貰えれれば充分だろうと。ただ後日、改めての御礼の書簡が届いた。文面上は領主の打破に関してのみではあったが……共に肩を並べて戦ったのだ、或いはもしかすると彼らにも何かしら気づく所があったのかも知れない。
 そうしてこの地での戦いは終わった。
 猟兵達は勿論、『闇の救済者』達の戦いもまだまだ続くのだけれど、この地に置ける英雄譚は紛れもなく一区切り。人々はこの圧政からの解放を、夜の王の打倒を、人の勝利をこれから語り継いで行くのだろう。
 希望の叙事詩。正義を示す英雄譚。未来を勝ち取る御伽噺。
 曰く、『勇気ある者達は力を合わせ、邪地暴虐なる化物を討ち果たしこの地に自由と誇りを取り戻しました』と。王道に余計な枝葉は必要ないとばかり、シンプルに。そこに第二の戦いは存在せず、まして化物の心の内など入る余地はありはしない。

 それで良い。それが良い。
 これは希望と正義と未来と、そして何よりヒトの物語。誰かの望んだ、明日の話。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月31日


挿絵イラスト