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あおぞらにさよならを

#UDCアース #外なる邪神 #プレイング受付中 #ボス戦 #戦争シナリオと並行してまったり進行

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●さめぬ夢よこんにちは

 みなさんどうぞ、おやすみなさい。
 会いたい人、会えない人。
 夢のなかなら、出会えます。

 あおぞらに、背を向けて。
 ゆっくりゆっくり、ねむりましょう。
 かなしいことなど、ございません。

 あおぞらいろの、ひとしずく。
 二度と見られぬ、空のいろ。
 あおぞらにさよならを。
 すてきな夢にこんにちはを。

 すてきな夢をありがとう。
 感謝をこめて、いただきます。
 夢を、心を、あおぞらといっしょに。


「最優先対処事項(レッド・アラート)……だそうです、先輩方。」
 いつになく緊張した声色で、伊能龍己((鳳雛・f21577))は静かに頭を下げた。手元にはノートの他に、件のUDC組織から貸出されたものであろう資料コピーを持っている。
「UDCアースの建物に、不思議な『空色』としかいえないものが降ってきました。隕石とか怪物とかじゃなくて、色としか言えないようなやつっす。その色はひとつの建物を中にいた人ごと飲み込んでしまって、次は周りに出ていくんじゃないかって感じなんですけれど……」

 それだけの異常現象の原因が、タダの色であるはずもない。そう言わんばかりの難しい顔をして、龍己は静かに溜息をつく。そうして、猟兵達に資料のコピーを見るよう促した。
「降ってきた『色』について、UDC組織さんに資料がありました。それによると、色は『外なる邪神』というUDC怪物の欠片だとされています。それが、すっごく危なくて……」
 『外なる邪神』の欠片は人間、動植物、自然環境……この世の全てを「発狂」させ、染め上げて、自分の肉体として取り込む危険な物体。『空色』は、まだ降り注いだ建物内を染めるだけだが、放っておけば莫大な被害が出るだろう。

「『外なる邪神の欠片』を宿してしまったUDC怪物を倒せば、色の浸食は治まります。ですが、色に染まっちゃった場所が、なんだかおかしくなっているんすよね」
 龍己はグリモアを操作して、予知した映像を映し出す。どこかの公民館……なのだろうそれは、空が切り抜かれたような異様な建物と化していた。

 みなさんどうぞ、おやすみなさい。
 会いたい人、会えない人。
 夢のなかなら、出会えます。

 歌うような、誘うような声。ぼう、と白い雲から魔法陣が浮かんでは消えていく。

「声の主がその、『外なる邪神』の欠片を取り込んだUDC怪物です。元々そいつは幻覚を見せて心を食べるやつなんですけど、欠片を得たことで強化されたみたいで。幻覚を見せる魔法陣が、こっちを邪魔するように建物に浮かんでいるっす」
 如何なる幻覚があるかは、不思議な声が表している。会いたい人、会いたくても会えない人。幻覚に囚われれば強く望む光景が見え、戦意を削いでくるのだ。
「……その。俺も振り払えるかって言われたら自身ねーんですけど。止まってしまったら嫌な予感もするんで、気を強くもって振り切ってくださいっす」

「振り切った先には、空色に染まったUDC怪物の群れが待ち構えています。おそらくはその時に建物にいた人達、だと思います。その時間帯は丁度、宗教団体さんが建物を借りていた、みたいで。……みんな、UDC怪物になっちゃったっす」
 白雲たなびく建物内に、無数の腕が固まったような異形の影が差す。空色の腕はゆらゆらと揺れ、何かを求めるように手を伸ばしていた。花瓶を掴んではバランスを崩し、窓を割っては破片を拾い。空色にそまった破片を手の中で弄ぶ様子が映っている。

「この腕さんたち、こっちを引き込みにくることに特化しているんすけどね。それに加えて、色を浴びた物を自分と同じUDCにする能力を持ってるっす。時間はかかるみたいっすけど、もしかしたら先輩方も影響があるかもしれないっす。……くれぐれも、掴まれないように気をつけて」
 出来るだけ早く全滅させるか、浸食する前に走り切るか。なんらかの対策が重要だろう。

「色の落下地点は、奥の講堂がある場所っす。そこにいるのが欠片を取り込んだUDC怪物、『夢の現』ってやつです。腕さんみたいに色を浴びせて複製をつくることは無いんすけど、さっきの魔法陣の比じゃねえくらいの夢が待ち構えているっす。……囚われないように、足が止まらないように。警戒が必要っすね」

「心が揺らぐようなことが、たくさんあると思いますけど。……先輩方なら大丈夫って、信じてます」

 水鏡のグリモアが、澄み切った青空を映しだしている。


佃煮
 目を閉じれば青空が見えない。目を開ければ夢が見えない。
 どうも、佃煮です。当シナリオは振り切るぜ!の気合が大事。意志のちから、だいじ。

●本シナリオについて
 第1章:夢を振り切れ『幽冥Farewell』
 空色の建物に突入する章です。
 魔法陣が広がっており、そこに一歩踏み入れたら強く望む居たい景色が見えてしまいます。会いたい人に会えたり、やりたかった事ができたり。
 うれしい幻ではありますが、戦意や体力などを削ぐやべーブツです。
 対抗策がある人には、プレイングボーナスがあります。

 第2章:VS『深淵に至る亡者』
 空色の建物を進んで、腕さんこと『深淵に至る亡者』との集団戦です。
 たぶん宗教団体のみなさんだったものです。
「色彩を浴びた物品(生物非生物問わず)を発狂させ、自分と同じUDCにする能力」を所持しています。変化に時間はかかりますが、下手したら猟兵も影響を受けかねないので迅速な殲滅がカギ。

 第3章:VS『夢の現』
 落下地点の講堂にて、『夢の現』とのボス戦です。
 たぶん宗教団体のボスさんだったものです。
 複製を作る能力はありませんが、かなりの強さを誇っています。
 目覚めている人の精神すら喰らってみせる、強力な現実改変の幻にご注意を。

 では、プレイングお待ちしています。
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第1章 冒険 『幽冥Farewell』

POW   :    揺るがぬ心を強く持ち打ち勝つ

SPD   :    足を止めずに幻惑を振り払う

WIZ   :    力尽くで幻を消し去る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

佐々・夕辺
★アドリブ等歓迎

ぱちりと目を開けたらそこは真っ暗な空間だった
おかしいわ、私は真っ青に身を投じたはずなのに

「夕辺」
――お父さん?
「そうよ」
――お母さん?

素朴な顔をした人間の夫婦
私は先祖返りで妖狐だったけど、厭わずに育ててくれた
大好きな両親、……だけど

ちがう。

ちがうわ、貴方たちはお父さんお母さんじゃない
だって二人は、“私のお腹の中”にいるんだもの
傷一つない訳がない、そうでしょう?

「どうしたの? 夕辺」
五月蠅い
「こちらにおいで、夕辺」
五月蠅い
お前たちなんか、食べてすらやるもんか!

友である管狐を一斉射撃
情報通りなら建物の中だと思うけど
崩れてしまわないかだけが心配だわ



 ──あおぞら──さようなら。
 ──こんにちは。いらっしゃい。

 はっきりと、乗り込むこちら側を認識したような声が響いて。
 白い雲の魔法陣が、一人を飲み込むように広がった。

 ──ようこそ。

●ただいま、そして

 佐々・夕辺(凍梅・f00514)は、大きく瞬きをした。

 瞼を開けたはずなのに、辺りはひどく暗かった。
 先程までは確かに、青空色の建物へ突っ込んだはず。なのに予知にあったような建物の風景はどこにもない。自分の両手が辛うじて輪郭を保って見えるぐらいの暗闇が広がっている。

(まるで、迷子になったみたい)

 深夜に歩く森の中。村のどこか。そのどれとも違う。光もなく音もなく、どこか生ぬるい空気の漂う空間は記憶にあるような暗闇ではない。それなのに不思議と、どこか懐かしい気持ちになるのが気味悪くも思えた。
 ああ、どうしてだろう。心細い。ひとりで、もう真っ暗で、帰らなくちゃいけないのに──?

「夕辺」

 優しい声に呼び止められて、思わず振り返った。そこには素朴な、温和そうな顔をした夫婦が立っており、暖かな眼差しと目が合う。思わず口をついて出た声は、夕辺自身が驚くほどに震えていた。

「お父さんと……お母さん?」
「そうよ、夕辺。おかえりなさい」

 佐々夕辺は妖狐であるが、この夫婦には狐耳はない。先祖返りで娘だけが異なる容姿であったが、佐々の夫婦──夕辺の両親は、それを厭わずに育ててくれた。いつ迎えにきてくれたのだろう。そう思って、
「ただい……」
 言いかけて、声が止まる。そうして夕辺は、首をゆるりと横に振った。
 ちがう。ちがうのだ。両親が迎えにくるはずがない。だって、だって。

「……ちがうわ。貴方たちは、お父さんお母さんじゃない」
 思い出す。生まれ育った村を酷い飢饉が襲った日のことを。
 骨と皮だけになり果てた知り合いが、近所が、倒れたきり動かなくなる様を。
 そうして、自分の家族も酷い飢えに蝕まれたことを。
 そうして、弱っていく自分を見た、両親は……

「だって二人は、“私のお腹の中”にいるんだもの。傷一つない訳がない、そうでしょう?」

「どうしたの? 夕辺」
「こちらにおいで、夕辺」

 返ってきたのは、ひどくやさしい声だった。二人が困ったように笑う様まで、駄々をこねた子どもに対する親のそれだ。迷子になった娘を探しに来たような、そんな。
 ただ、答えを返さないその様が、幻であることを更にはっきりと認識させた。
 夕辺はぺたりと耳を伏せ、頭を抱えるかたちできつく塞ぐ。
 会いたい人を利用した、悪意のある罠。その様にただ、怒りが沸いた。

 うるさい、うるさい。
 お父さんとお母さんの声で、そんなことを言うな。
 飢えた私を生かして送り出してくれた、お父さんとお母さんの姿を、声を。
 化物が、利用するんじゃない!

──お前たちなんか、食べてすらやるもんか!
 叫びと共に、管狐の群れが夕辺の周囲にぶわりと現れる。直後、幻を掻き消すように管狐達は両親の幻へ、一斉に突撃した。

 すぅ、と暗闇が消えていく。両親の姿もいつの間にか、どこかへ消えていた。代わりに眩しい程の青空に染まった壁が、夕辺を出迎える。
「建物の中だったから心配だったけれど……壊れてはなさそう、ね」

 止まるわけにはいかない。自身の血肉で送り出してくれた両親は、きっと止まることを望まない。ひとつ呼吸を整えて、夕辺は建物の奥へと進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

剣持・司
気付けば私は実家のリビングにいた
…何故ここに?
ふと背後から人の気配を感じて振り向けば

行方不明だった弟がいた
弟は照れ臭そうに「ただいま、姉さん」と言ってきた

怪我をした様子もなく、無事な弟の姿を見た私は、感極まり、堪えきれずに…

渾身のボディーブローを弟に叩き込んだ

やはり幻か
まあ本物でも同じことをしてたが

家族を心配させた者を許してやるほど私は優しくはない
両親や下の弟達がどれだけ心配してたことか…
それに「あの事件」を越えて弟は『悲劇に泣く人達を守れるくらい強くなりたい』と私に言って失踪した
何の成果もあげず幻のように現れたら半殺しにするところだ

それよりも…

よくも私の大切な家族の姿を使ったな
この罪は重いぞ



 ──また、ひとり。
白雲の中からあらわれたのは、眩しく光る魔法陣。
 ──あおぞらにさようなら
視界を白に、いや空色に染め上げんとするその光を、退く事なく真正面から迎え撃つ。
 ひとりの意識が、幻に沈む。沈んだきりにはなるまいと、そんな目をして。

 ──ただいま
 照れくさそうな誰かの声が、ドア越しに聞こえる。

●おかえり、ではなく
「……ん? なぜ、私はここに」
 かくん、と。頭が傾いで、目が覚める。
 意識を取り戻した剣持・司(正義を名乗る者・f30301)の視界に入ってきたのは、実家のリビングの景色だった。
 目を擦り、身を起こせば窓の外はすっかり日が落ちているようで、そのぶん部屋の明かりが眩しく映る。ふと壁を見れば、夕暮れと夜の間ぐらいのような、曖昧な時間帯を掛け時計の針が示していた。

 そろそろ、帰ってくるだろうか。
 いなくなったあいつは、帰ってくるのだろうか。
 ……なぜだ? 
 なぜ私は、そう考えた?

 そう、思った直後のこと。扉が開く音に、靴を脱ぐ音。だれかの帰宅を端的に表すその音が近づいてくる様子に、司は静かに目を向ける。
 続く声に、思わず目を見開いた。
「ただいま、姉さん」
「……!」
 おかえり、と。昔のように言おうとしたが、震える喉からは言葉が出て来ない。ふらり、立ち上がる。覚束ない足取りで向かった先にいたのは、司の弟だった。怪我もなく無事に帰ってきた、長く行方不明だったはずの弟。
 照れくさそうに、長い不在を詫びるようにぎこちない笑みを浮かべた彼を見て、司は何かを確信したように、大きく瞬きをした。弟に近寄り、ぽん、と肩を叩く。不思議そうに首を傾げた彼に見えない様にしながら。

 司は拳を握りしめ、渾身のボディーブローを放った。

「ぐふぅっ!?」
「やはり幻か。……まあ本物でもきっと同じことをしていたが」
 どう、して。膝から崩れ落ち、輪郭を幻らしくぼやかした弟の口がそう動いた。それに司は静かな溜息を返し、冷たいまなざしで幻を見下ろす。
「家族を心配させた者を許してやるほど、私は優しくはない。そういうことだ」
 弟がいなくなった時、両親も彼より下の弟達も、身を裂かれるような心配があった。姉である司も残された家族見ていた側であるが故、手放しで喜ぶ人間でもない。
それに。
「幻のお前は知る由もないだろうがな。「とある事件」を越えた弟は『悲劇に泣く人達を守れるくらい強くなりたい』と私に言って、姿を消した。……そこまでの覚悟を持って消えたあいつが、何の成果もあげず幻のように現れたら半殺しにするところだ」
 幻が、どこか悔し気に煙のように消えていく。司はそれを静かに見送って、この様を見ているであろう元凶を睨みつけた。
「よくも、私の大切な家族の姿を使ったな」
 この罪は、重いぞ。

 周囲の幻覚が溶け、青空色の眩しさが目を刺すように広がった。
 依然として朗々と響く声を辿り、司は建物を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファン・クロウフォード
純白のオイルライターを握り締めて魔法陣の中へ

親し気に名を呼ばれる
同じ年頃の数人の男女と俺と同じ銀髪をした年配の女性の姿
幼い頃の友人たちと母親だ
再会を喜ぶ笑顔と明るい笑い声に包まれて
息が詰まる程の懐かしさと嬉しさが胸に沸き上がる
自分がどれほど皆との再会を望んでいたか思い知らされる
幸福そうな皆の姿に、心が満たされる程に
握り締めたライターが冷たく痛く存在を主張する

誰一人存在しない、と
真に会いたい人はいない、と
ありえない幻の未来だ、と

恋人から貰った純白のライターに炎を灯す
愛おしい青い炎が幻影を燃やし焼き尽くす光景を強く念じる
助けを乞う幻影にはハンマーを弓に変化させ星霊落としで応える
魔法陣ごと砕いてやる



 ──あおぞらに、あおぞらを、空、を
 かつり、靴音を響かせて、また一人建物へ足を踏み入れる。
 握りしめた手の中のオイルライターだけが、しっかりとした冷たさを持ってそこにあるような気がした。
 ──あおぞらに、さようなら
 魔法陣に、一歩踏み入れる。手の中に現実との楔を持って。

 ──あなたが、あいたいひとは

●ふゆぞらにただいまを?

「っ──、」
 うたた寝から目覚めたように、頭の芯がぼんやりとする。眩しくて数度、目を顰めて。ようやく目がはっきりとしてきた頃には、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)の目には冴え冴えとした空気の銀世界が映っていた。
 ぴりぴりと耳を撫でる冷気も懐かしい、極寒の故郷。大神殿の佇む地。ラファンはその大神殿の柱にもたれて眠ってしまっていたらしく、ふらり、ふと聞こえ出した賑やかな声に誘われるように立ち上がる。かつかつと階段を降り、暫く歩けば賑やかな声はいっそう大きくなった。
 さてどちらが先に気がついたのか。立ち話をしていた同年代の男女が、ラファンを見つけるや否や顔色をぱっと明るくさせて、話しかけてくる。
「ラファンか? 久しぶりだな、俺覚えてる?」
「元気そうでうれしいなあ、丁度今あなたの話をしていたところなんだ」
 幼い頃から会っていない、友人達。年月が経とうとも彼らはラファンのことを覚えていて、昔の延長線のように話しかけてくる。ラファンもまた、気心知れた口調でそれにこたえた。朗らかで楽しく、ちょっとお節介な性格までかわらない。
「ああ、ひさしぶり。二人とも」

 なにも、かわらない。手の中が冷たい。

 昔の面影を残した彼らに再会できたことに、ラファンは知らず穏やかな笑顔を浮かべていた。そんな様子に友人達も嬉しそうに、折角だから、と話しかける。
「そうだ、おばさんにも会ってあげてよ」
「久しぶりだもんなあ、……あ、おーい、ラファンが帰ってるって!」
 あら、ほんとう。穏やかな女性の声が、加わった。すぐに分かった。故郷で静かに過ごしていた、母親だと。
 母はラファンの方をまっすぐに見て、穏やかに笑う。無事で帰省してきた息子を心底で喜ぶように。今晩は好きなものを作ろうかしら、というその様まで、優し気で。
 息が詰まり、涙がにじむような懐かしさを覚える度に。
 元気な友人達と、帰りを喜ぶ母親を見る度に。

 手の中で、ライターが冷たく存在を主張する。
 現実はここだ、と。

 ほんとうは、誰一人ここに居る筈が無い。
 ありえない、幻の未来だ。

「……ごめん、二人とも。ごめん、母さん」
「ラファン、どうしたの?」

 ……ごめん。
 幻に、というより。それは叶わぬ再会をどこかで望んでいたラファン自身に向けた言葉だった。
 一呼吸おいて、ライターに炎を灯す。青い炎はうねり、広がり。
 助けを乞うように口を開きかけた友人を包んで、
 目を見開いた母親を包むと。燃やし尽くすように、青を濃くしていく。

「魔法陣ごと、砕いてやる」
 その言葉を証明するように、ぴしり、と空間にヒビが入った。
 青い火の粉が空を舞い、すべてを燃やし尽くしたあとは。抜けるような青空が広がっていた。

 白い雲の魔法陣は、もう全て消えたようだ。

 さわり、さわり。影が猟兵達を手招いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『深淵に至る亡者』

POW   :    私は此処にいる・俺は待ってる・僕は望んでいる
技能名「【おびき寄せ】」「【誘惑】」「【手をつなぐ】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD   :    僕は君の仲間だ・私はあなたと一緒・俺はお前と共に
敵を【無数の手で掴み、自らの深淵に引きずり込ん】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ   :    俺は幸せだ・僕は全部理解した・私は誰も赦さない
【妄執に魂を捧げた邪教徒の囁き】【狂気に屈したUDCエージェントの哄笑】【邪悪に巻き込まれた少女の無念の叫び】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラファン・クロウフォード
【箱2】最も信頼する戒が隣にいる。心強い。落ち着いて腕の怪物を観察。俺の記憶にある仇の大腕はないな、残念。敵は出来るだけ多く倒す。腕と攻撃は残像と見切りで回避し、カウンターで反撃。大王イカを最大数召喚し敵に攻撃指示。ノコとドリルで塊の中心部を斬り貫け。空色はイカ墨で染め返せ。二刀流のアカツキとタソガレの2回攻撃で氷結属性の斬撃波を撃ちこむ。戒と動きを合わせ効率よく駆逐する。講堂への道筋が開けたなら、大声で戒に戦闘終了を告げ、講堂目指して全力で走る。大王イカに追っ手の押さえを任せて、戒と手を繋いで逃げ切る。逃げきれたら安心して笑ってしまいそうだ。この先に何が待っていても、二人なら、きっと平気だ。


瀬古・戒
【箱2】
やっほ、お前の恋人でーすお邪魔するよん。あ、俺、幻覚じゃねーからな? こんなトコに彼を独りにさせたくなくて気が付いたら走ってた、なーんてのは黙っとこ
うわぁ、手…元を辿ればヒト、だよな。救う、なんて綺麗事言えねぇけど、せめて俺が青い炎で葬ってやるよ…どうか安らかに
手に捕まれねぇように鬼ごっこだなこりゃ。俺が動きを鈍らせるからラファン、後は頼んだ。2丁拳銃構え凍てる炎の弾丸で床とその手を縫い付けるように氷結。容赦なく撃ちまくって睡蓮の花畑作ったろ。空色建物に空飛ぶイカ沢山に青色睡蓮…不思議水族館みてー
素敵空間だけど長居は危険
ラファンの手をとり走る。ははッ、何処でもお前と一緒ならへーきさ



 ざわ、ざわ。揺れている。

 青空色の腕の群れが揺れるさまは、まるで招くようで、無いはずの風にふかれるようで。──講堂への道を塞ぐ、ようで。ゆるやかに、肘や手首を動かしている。

 ざわざわ、ざわ。


「うわっ、わんさかいやがるな……」
 急いで走ってきたせいか、やたら息が上がってしまう。それをなんとか落ち着かせつつ、瀬古・戒(瓦灯・f19003)は開け放った扉の遠く向こうで蠢く腕達を静かに観察した。
(元を辿ればヒト、だよな。)
 花の茎が手だったら、そうなるのだろう、と思う。根っこを彩るカッターシャツの袖、スーツの袖、ぼろのスウェットの袖。男の物も、女の物も。おそらくグリモア猟兵の少年が言う「建物にいた人達」だったものの痕跡を見て、少し複雑そうに目を伏せて、すぐに意識を切り替える。視界の端で腕を観察する白い人影に、戒はひらりと手を振った。
「やっほ、ラファン。お前の恋人が手伝いにきたよっと」
 戒のその様子に、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)も目端をふにゃりと和らげて、手を振り返して合流する。
「……あ、言っとくけど俺は幻覚じゃねーからな? 戻れたようでなにより」
「ああ、ありがとう戒。ライターもだが、お前が来てくれるのも心強い」
 戒はそれに、照れるじゃねーかと冗談めかして笑う。こんな場所に彼を独りにさせまいと急いできた……という理由は、黙っておきつつ。

「よぉし、長居をすると厄介なんだったか? 手に捕まれねぇように鬼ごっこだな」
 じわり、こちらへ手のひらを向けた腕達に、二人は各々の武器を手に向き直る。二刀のナイフに、二丁の銃。太陽無き青空にぎらりと光るそれの柄を、しっかりと握りしめる。

「早く道筋を開こう。……残念なことに、見知った腕は無いようだしな」
「元凶が会いたいヒトの夢見せるヤツでも、そこまでは無理なんだろうなー」

 そんな軽口を皮切りに、手の群れの殲滅が始まった。

 手の群れがもごりと蠢いた。かと思えば、内側から聞こえる何重にも入り混じる声と共にある手は拳を握り、ある手はこちらを引き込もうと手を伸ばす。声は言葉として聞き取れないが、怨嗟であり、歓喜であり。手から僅かに見える袖とも相まって、嫌でも人だったものを想起させるようなもの。
(救う、なんて綺麗事言えねぇけどさ……!)
 せめて、どうか安らかに。そう内心で呟いて、戒は引き金を引く。
 怨嗟の声を切り裂くように、伸ばす手を払いのけるように。青い炎が、銃声と共に飛んだ。
 火の粉と共に出現した青い睡蓮が腕を埋め、空色の指先は虚しく空を切る。もがく腕に更に青炎の銃弾を撃ち込みながら、戒はラファンにひとつ目配せをした。
「こっちで動きを鈍らせるから、頼んだ!」
「……ああ、任された!」
 ラファンもまた、引き込もうと伸びた腕にナイフを突き刺して、のけ反った腕を勢いのまま両断する。ぴっ、と瓦礫の欠片を払って、そのまま巨大な影を召喚した。
「なんか、水族館みてぇになったな……」
「色彩を塗り替えられるか、と思ってな」
 その影を見て、戒はそうぽつりと零す。水槽のライトアップに似た色合いの睡蓮咲き誇る花畑に、真っ青な建物。それと……イカ。
 影──ラファンに呼ばれた大王イカ達のドリルが、唸りを上げて腕の塊へ突き刺さる。空色に染まった花瓶が形を崩しかければ、すぐさまイカ墨が黒く染め返す。ほんの僅か、増殖の片鱗が止まった横で、また睡蓮が花開いた。
 直後、凍れる斬撃が腕の塊を切り刻んで、短時間だけ講堂への道が開く。
 掴みとった好機を逃すまいと、ラファンは戒へ手を差し伸べる。しっかりと、握り返された感触は確かに暖かい。
「走るぞ、戒!」
「ああ!」
 大きな扉に手をかけて、一気に開けば薄暗い通路が見える。そこに寸前のところで駆けこんで、扉を閉めた。客席に続く通路だろうそこで、ラファンと戒はほっとして笑いあう。この先に待つ者は未だ動く様子がないが、何が待っていようとも二人ならきっと大丈夫だ、と。
 握っていた手を放し、二人は、こつんと互いの拳を合わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

剣持・司
醜態だな
あれは単に求め続けてる者達の手だ
何もかも足りないから、自分達の場所に他の全てを引きずり込もうとしているのか
お前達が元はどんな人物だったかは知らない
だが、お前達のような奴らを捨て置くわけには、いかない
正義を、執行する
まずはアサルトウェポンによる制圧射撃を行って奴らを撃ち、動きを止めたところにブレイバーの斬撃波で両断していこう
奴らに触れるのは、絶対に不味いからな
奴らが自らを強化して攻撃してきたらこちらも【剣神招来陣】を発動!
分身達による数の差による攻撃で圧倒し、分身の内の10体ほどと一緒に光の属性を込めた斬撃波を同時に奴らに撃ち込む!(破魔、浄化、属性攻撃)



 ざわり。ぐしゃり。……ざわり。

 地を這いつくばるように手を広げた腕達が、また無音で肘を立ち上げる。
 物欲し気に手を伸ばし、手当たり次第に何かの破片を空に染め。
 薄らと怨嗟の声をその中から響かせる。

 その様はどこか、駄々をこねるようにも見えていた。


「……醜態だな」
 あさましい、というか。醜いというか。
 宗教団体の何某が色で変わってしまったものだからか、縋るように動く手。それを見て、剣持・司(正義を名乗る者・f30301)は形のいい眉根を静かに顰めた。
 何もなくて、だから死に物狂いで求め続ける手。持っている者でもそうでなくても、引き摺りこんでも満たされないであろう無数の手。人だった名残を残す袖口すらも空色に染まり、更に他の猟兵の突破跡だろうか、やや煤けて見えた。
「お前達が元はどんな人物だったかは知らない。……だが、お前達のような奴らを捨て置くわけには、いかないのでな」
 元がどんな者であれ、今は敵であり悪である。
 ならば正義を為すことに、躊躇いはない。

 司は、静かに手の群れへ銃器……アサルトウエポンの口を向ける。さわさわと蠢く手から人の声がし出したのを、遮るように。制圧射撃を放った。
(手を取るわけにはいかない。ましてやあいつらに触ることなど)
 穴だらけになった手がぐたりと伸び、ぐらつきながらも起き上がる。跳ねのけたカーペットの端が空色になったかと思えば、新たな腕へとなりかけようと、して。
「させん」
 聖剣ブレイバーの斬撃波が飛び、手を広げようとした腕を斬り伏せた。へたりこむ腕を盾にまた別の腕が、引き込もうと手を伸ばす。だが。
「こちらも数で押させて貰おうか」
 ──邪なる空色が、眩しい光に塗り潰される。
 闘気の翼を生やした分身が、腕達をまとめて切り裂いたのだ。たまらず腕の群れは動きを止め、ばらばらに崩れてゆく。不意打ちのように這っていた群れもまとめて、別の分身が聖剣を振るって片づける。

「悪いな、私は止まるわけにはいかないんだ」
 分身と自身の聖剣で薙ぎ払った後を、司は走る。
 そのまま、講堂へ続く扉を開ける。眩しい青空から一気に薄暗くなった通路で、司は静かに剣の柄を握り直した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリミネル・ルプス(サポート)
関西弁の元気な肉体武闘派人狼。
人狼の身体能力と鍛えた格闘技で戦う。
痛み等の耐性用いての潰し合い上等。
体内に蓄積させた糖原物質を使用した搦め手も使う。
周囲(空間、物質)の匂いからの状況把握推察も可能。

基本は『生き残る事』だが、オブリビオンは許さない姿勢。
特に命や尊厳を踏み躙る系統には本性(真の姿など)が出る。
【ネタ、絡み、合わせなど歓迎です】
【肌の露出やエッチな事には羞恥心はあまり無い。彼氏持ちで一線は超えさせない】

・真の姿時
身体能力の向上と体の変化。
戦闘思考が先立ち、やや、残忍(確実にトドメ刺す)



「おぉっ、と。なんや眩しいと思っとったが」

 一面に青空色が広がってこそいるが、そこに太陽が無いせいだろうか。転移したクリミネル・ルプス(人狼のバーバリアン・f02572)の赤い目にいきなり眩しい陽光が射すことはなかった。壁や天井は分かるような室内のはずなのに、青空広がる屋外のような空間。不思議で不気味な戦場に顔を顰め、彼女は大斧の柄を握りしめる。そうして、片手で斧の重量を御すると駆けだした。

 見据える先は蠢く手の群れ、そしてその先の講堂へ続く扉。やることは単純明快だ。──一直線に駆け抜けて、扉へ。んであの不気味な青空が仲間を増やさないうちに蹴散らす。
「なんやうだうだと言っとるけど、ウチを引き摺りこむにはのろすぎるな」
 腕たちからの怨嗟の声を聞いてもなお、彼女は獰猛な笑みを見せた。ぐわ、と掴もうとした腕を蹴り飛ばし、その勢いのままに斧を振るう。
 手首を境目に数本の手を両断し、バラバラ、落ちる手を弾き飛ばして先へ。血と呪毒に塗れたそれと怨嗟の声を遥か後ろに、彼女は走る。
「殺された親に会えた?」
 声に、僅かに眉をひそめる。
「ほーん、でもなあ」
 偶然だろう。偶然、だが。思い留めることも少なくなった昔をなぞるような声。あなたにもこっちにと必死に蠢く腕。だが、彼女はそれにも止まらない。
「会えても、それで安心はせえへんな」
 ぐずぐずと過去に留まるなんて、以ての外!
 ぱちん、と腕の塊を内側から弾けさせて、やっと扉に自らの手がかかる。滑り込む直前思い切り斧を振り抜けば、腕の塊はバラバラに裂けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『夢の現』

POW   :    夢喰み
【対象の精神を喰らうこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【戦意の喪失】で攻撃する。
SPD   :    魂攫い
【深層の欲望を見抜く視線】を向けた対象に、【欲を満たし心を奪う空間を創り出すこと】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    心砕き
いま戦っている対象に有効な【対象が最も苦手とする存在】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルメリー・マレフィカールムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 そこは一面の青空だった。
 客席も、ステージも、砕けた講演台も。転がったマイクも。
 そこは歪んでいた。
 まぎれもなく現実なのに、空間がぼやぼやと揺らいでいた。

「さめぬ夢よ、こんにちは」
 そこには山羊のどくろを深くかぶったUDC怪物が立っている。
 布の中で蠢く細い触手は、醒めるような青空色だった。
瀬古・戒
【箱2】
俺の記憶は3年だけ
病院で目覚めるまで手を握ってた紺鼠長髪の目付き悪いヤンキーみてぇな男、ハクロ
退院し次に会ったんは霊安室、そこで旦那って知った
全部隠して死んだムカつくヤツだったけど…握る手は優しかった
…愛煙の煙草の香も再現するたぁやるねぇー?でも、癖は?戦い方は?…無理だろ、俺も知らねぇもん
記憶無くとも身体が悲鳴上げてら…涙止まらねぇちくしょう
ん?へーき、目にゴミ入っただけだし…
お前こそと強く手を握り返し笑ってみせる
幻は地獄の炎で燃き消す
「囚われるな」遺言通り俺は彼と生きてくよ
バイバイ

時間稼ぎは任せろ、山羊も殴りたかったし
つか、イイ女出しやがって
ラファンは俺が幸せにすっから…安心しろよ


ラファン・クロウフォード
【箱2】赤銅色のドレッドヘアと猛禽類の金瞳。白銀のガントレットを装備した女格闘士。俺の格闘の師で最愛だった人、山焼けのシエラ。彼女の歩いた後は血まみれの人の山が積みあがるという噂の通り、短所は短気、長所も短気。人を助けて死ねるなら本望だと口癖のように言っていた正義の人。溺れた子供を救い命を落とした彼女は満足している、自分に言い聞かせた。幻影でも懐かしく嬉しい。戒の手を握り励ます。心を強くもとう、互いに。死を越えなければ出会えなかった、最愛の人。戒との未来を掴む為に。防御と回避に専念し高速詠唱、幻影とボスが直線状に並ぶよう誘導。笑って、さよならを。重力で押し潰して動きを封じ、破壊光線を叩き込む



 山羊のどくろが、カタカタ揺れる。
 まるで笑うかのような微かな音。それが空気を揺らしたかと思えば。
「おいで、おいで、まぼろしよ。過去をフォークに、あおぞらといっしょに。猟兵のゆめをいただこう」

 どくろの中の声と共に、ぐにゃり、空間が大きく歪む。
 渦を巻いたのは、ふたつ。


「この期に及んでまだ精神攻撃か?」
 そんな夢の現を睨みつける、瀬古・戒(瓦灯・f19003)の指からちらりと火の粉が舞った。青い火が飛ぶ指を隠すように力を籠め、拳銃を持つ。だが、歪む空間から出てきた像を見るなり、かたりと手が震えた。
 一歩、一歩。像は空間から出るように進んで、戒と目線が合う。紺鼠色をした髪と、鋭くもどこか優し気に、真っ直ぐにこちらを見る目。なにもかも既視感の塊で、病院で目が覚めて初めて見た光景とよく似ている。
 ああ、よりによっておまえの幻か。溜息すらもつけなくて肺が痛い。

「……おいおい、ハクロまで再現するたぁやるねー?」
 幻でもまた見られるとは思わなかった。そう軽口を叩くも表情は引き攣り、目の前がひどくにじむ。ぼろぼろと、涙が出て止まらない。
「大丈夫か、戒……!」
「へーきへーき、……てオイ、そっちにも来たぞ!」

 軽口すらも震えている。
 明らかに内心の、戒自身でさえ記憶にないなにかが悲鳴を上げている。
 そう思えるくらいの動揺に、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)が駆け寄ろうとして。もうひとつの歪む空間に阻まれた。その幻の揺れる赤銅のドレッドヘアと、ラファンが呼びだしたそれによく似た眩しい色のガントレットを見て。彼もまた紫目を見開く。
「シエラ……さん」
 応えるように、幻が笑った。

 病院以前に過ごした記憶もないのに、目覚めるのを待っていてくれたこと以外殆ど知らないのに。好きなものといえばある銘柄の煙草が浮かぶぐらいのものなのに。……記憶を失っているのに、しっかりと動揺はするらしい。失う前の自分がぼろぼろ泣いて、それが他人事より遥かに熱をもって伝わってくるような、そんな。そう、戒は涙を拭って荒い息を吐く。
 ハクロの──旦那の幻は何も動かず、応えず。静かに沈黙していた。
 だがそれに向けたはずの引き金にかけた指は震え、苦し紛れに操った炎はラファンの知己であろう女性に、振り抜いた拳圧で掻き消される。かたかた、笑う山羊のどくろが見えた。
 今の所、こちらが攻撃を止めれば向こうも止まる。なるほど、徹底的に防戦し、戦意を削ぐことに尖っている。動く気が失せた者を食らうのだろう。そう思えた。
 だが止まる訳にはいかなくて、長い溜息ついでに戒はラファンに話しかける。拭った涙がひどく熱をもっていた。
「あのお姐さんラファンの知り合い?えげつないわ強いわでイイ女すぎんだろうよ」
「……俺の格闘の師だったからな、あのひとは。懐かしい」
 気が短い性分で、勝気なひと。人を助けて死ねるなら本望だと口癖のように言っていた正義のひと。命を落とした切欠も、誰かを助けてのことだった。満足した死だと思えば、前に立つ赤銅色の髪の幻がいっそう像を揺らめかせる。
「……イイ女じゃねえか、シンプルに妬くわぁ。響きが師匠だけじゃねえって感じだろ」
 懐かしげに呟くラファンに戒がそうツッコんだら、肩の荷が少し軽くなった気がする。過去ではなく現在に意識が行ったからだろうか。幻の像が揺らいだことも、二人の意識の置き所と無関係ではない。そう、確信が持てた。

 ラファンは戒に近寄り、講堂に入る前と同じ様に彼女の手を握る。突破口が見えた今、静かに歪みかけた精神に支柱を足すように、話しかける。
「戒、心を強く持とう。過去ではなく、今を見て。……彼は、」
「気になってんじゃねぇか。……旦那、だってさ。でも全然覚えていなくて、そいつが死んでから知ったんだけど」
 ハクロは、戒が目が覚めるまで傍にいた。次に会った時は霊安室の冷たい灯りの下だった。目覚めたら記憶が無くて、知りたい事も山ほどあったが。それを隠して逝ってしまった。幻だと分かっていても、戦意が鈍る。
「……そうか」
 シンプルに妬くな、と。
 先程の戒と同じ響きで冗談めかして呟いたラファンに、思わず戒は笑みをこぼした。ああ、彼は少しずつ、自分も知らない過去の楔を解こうとしている。
「あいつさ、囚われるな、って言ってたんだよ。だから」
 言葉通りに。
「死を越えなければ縁もなかったろうからな。越えて、先に進もう」
 わらって、さよならを。

「じゃあな、ハクロ。シエラさんも。ラファンは俺が幸せにすっから」

 今度こそ、狙い違わず。戒は青い凍てる炎を操って、講堂のステージを一気に包む。ラファンの詠唱が響く中、幻影と山羊のどくろを一気に巻き込めるように、炎を動かして。
 ぐらり、炎と共に歪むは重力場。夢の現が辛うじて目線を向けた先には、白銀の光線が迫っていた。
「……さようなら。その魂、救われんことを」

 白銀に光る光線が、幻達と夢の現をまとめて飲み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雫石・凛香(サポート)
アドリブ・MSの解釈による下記に沿わない動きも歓迎
貴方の書く雫石凛香が見たいです

オブリビオンへの恐怖で眠れなくなった姉のために戦う妹キャラ
性格はクール枠。冷静に物事を見て、必要そうな行動をとれます
敵への態度は苛烈。相手に事情があろうと容赦なし
子供故の短絡さもあり、口が上手い相手だと挑発に乗せられるかも…

魔剣【鞘】という凛香の意思に従い姿を変える剣での形状変化による攻め手の多さとスピードで勝負するタイプ
逆に相手の攻撃を剣で受ける行為はパワー不足でほぼ不可能

UCは基本的に妖剣解放のみ
高い機動力で相手をかく乱し、衝撃波でヒット&アウェイが基本戦法

動きを封じることで先の展開が有利になれば剣戟結界も使用



 山羊のどくろが、煤けて欠けた。
 ぼろぼろと骨の破片を落とし、ぐらりと角の端が傾ぐ。
 わななくような震える声は、空腹にさいなまれるかのようで──
「どうしたことだ。食べられない。あおぞらといっしょに、ゆめが」
 要領を得ない言葉と共に、あおぞらいろの触手が床を打つ。



 ああ、やはり許せない。自分の空腹のことばかり考えて、夢を食らうことを非道だとも思わないような、怪物。大切な姉の穏やかな眠りを脅かしかねない存在。倒さねば。
 【鞘】の柄をきつく握り、雫石・凛香(鞘の少女・f02364)は夢の現と相対する。
「おや、あなたもゆめをみに」
「寝惚けたこと言ってんじゃないわよ」
 先程までの憔悴が嘘のような落ち着いた声。自分の与えるものが正しいと信じ切ったような口ぶり。元が宗教団体の人間だったからかもしれないが、不可思議な色に寄生されようともここまで凪いで見えるのも、異質だ。背筋が泡立つような感覚を押さえ、凛香は【鞘】を引き抜く。様々に変化する刀身の最初は、細く冴えた光を零す長刀。
 オブリビオンである以上事情なんて考えていられないが、特にこういう手合いの、見透かしてくるような輩の話はきいてはいけない。そう感じ取って、結論づけて。【鞘】をしかと構えた手伝いに渦巻く怨念が、煙のように講堂の舞台から零れ落ちた。
 そのまま夢の現へ、刀身を振り抜く。長刀でも届かない範囲だが、関係ない。
「【鞘】、応えて」
 その声に呼応したように、刀身は自在に形を変え、時に鋭い衝撃波を伴ってどくろの首を狙う。
「そうか、そうですか。……ああ、おなかがすいた」
 目が覚めるような青空色の細い触手が、両断されて散らばっていく。かたかたと山羊のどくろが空を食むように動いた。そうして、がらんどうの眼窩が凛香を真っ直ぐに見据える。
「……!」
「おなかが、すいた」
 空間がぼやりと揺らぎ、凛香の耳に届いたのは──よく聞いた、ここにはいない筈の姉の声。だいじょうぶよ、だいじょうぶ。わたしのためにきずつかないで。
 反射的に、凛香の手が震える。ここで動揺すれば夢の現が更に精神を食いにくる。そう、分かっているのに。一瞬だけでも動揺してしまった。
 だが、ほんとうの姉はちがう。大丈夫と言っていても落ち込む様子や、思い悩む様子。そんな姉を見たくないから、凛香はそもそも剣を振るっていた。
「そっくりに真似してくるじゃないの」
 好機とばかりに飛んできた青い触手を切り捨てて、吠える。
「でも、お節介よ。あんたを斬って、帰って本物を聞くわ!」
 【鞘】の生み出す衝撃波が飛び、どくろが更に欠けていく。表情も分からないそれを、凛香は不気味なものを見るようににらみつけていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

古峰ヶ原・美琴
連携・アドリブOKなの
SPDで挑戦

物陰からチラチラとボスを確認
おっきくておっかないドクロなの
化術で霧を作って講堂内の視界を悪くするの
次に、化術でわたしの幻影をいくつも作ってアチコチからボスに接近させるの
更に、化術で幻影の影に化けてボスに接近するの
幻影に視線を向けても、何も起こらなくて、ボスはきっと驚くの
クスクスクス、イタズラ楽しいの
ボスに近づいて、金色の鱗をしたヤマタノオロチに変身なの
九つの大蛇の首を操って、締めあげて、噛みついて、頭突きして攻撃なの
燃え盛る業火、枯れ果てた大地、悲鳴と呻き、血と肉の焦げる匂い
化術で地獄の景色を再現するの
これが、わたしの欲を満たす場所なの
地獄にようこそなの♪



 ひときわ大きな音を立てて、山羊のどくろの下顎が落ちる。
 カタカタと笑う声も無くなったのははたして、笑う顎が無いからか。
それとも着実に追い詰められていることの証明だろうか。



 ちらり、ちらり。
 両断されて飛んできた山羊角に慌てて身を引き、舞台袖でおそるおそる覗き込む小柄な姿。
 彼女は空色暗幕の影に隠れ、こっそりと様子をうかがっている。金毛の猫耳をそばだてて、注意深く。
(おっきくて、おっかないドクロなの)
 がらんどうの眼窩から注がれる視線に、するする動く青空色の触手。おまけに不思議な幻まで作り出す。そんなオブリビオンは、直接的、物理的な怖さというより不気味にも思える。
 だが内心の呟きとは裏腹に怖がり慄く様子はない。観察を終えた彼女──古峰ヶ原・美琴(灯る焔・f28138)は静かに、潜めていた身を起こした。柔らかな猫耳が、ぴんと立つ。
 ふわり、白雲よりも薄い霧を作りだしたのは彼女の化術だ。それを何重にも折り重ね、視界を遮るように手繰ると。一気にそれを解き放った。
「……?なんだ、空が」
 ぽっかりと開いた穴であっても、目として機能していたらしく。夢の現の虚ろなまなざしが、唐突に霧立ち込める講堂内を見渡した。防戦をとる性質もあるのだろう、霧の発生源である美琴には気づかぬまま、どこから来るかとどくろ頭がゆっくりと動く。
(今のうちなのっ)
 美琴は鈴をお守りのように握りしめ、更に化術を使う。現れたのは、そっくりな幻影たち。彼女らは講堂内のあちこちに現れると、タイミングをずらして夢の現の周囲へ近づいていく。
 本人も、するりとどこかへ消えていた。
「……なぜ、ゆめが、欲望が……?」
 夢の現にもし瞼やまともな目があれば、驚きに見開かれていたのだろう。視界の悪い中、眼窩を人影に向けようとしてもなにも起こらないからだ。人ではない幻影に視線を向けたところで、欲望はなにひとつ奪われない。
(ようし、わかんないことだらけになってきたの)
 くすくす、と美琴は笑う。既に舞台袖から離れて、彼女のいる場所は──視線の行かない、幻影の影。化け術を使って、影に変じていたのだ。
(イタズラたのしいの。次もおもいっきり驚かせちゃうの)
 にこっ、と影の中でほくそ笑み、幻影のひとつと共に美琴は夢の現へしっかりと接近する。
 ヤマタノオロチの骸魂を自らに呼び寄せて、おどかしのクライマックスは──、
「──!」
『ふふっ、びっくりしたの!』
 金の鱗を持つ、八岐大蛇。霧を晴らす勢いでしゅるりと伸びた、九つの大蛇の首がしたたかに夢の現を打ち付け、噛みつき、暴れ出す。
 周囲の霧が形を変え、夢の現が見たのは地獄だった。大地を焼き尽くす業火に、焦げた血肉の像。つんざくような悲鳴と苦痛の呻き。火車がひとを運ぶ、地獄だ。
「これが、わたしの欲を満たす場所なの。地獄にようこそ、なの♪」
 欲望を見抜く視線が見せたものなのか、美琴の化術の再現なのか。後者であり、前者でもある。呆然と地獄を見上げる山羊のどくろを、大蛇の頭がひときわ大きくかち割った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファン・クロウフォード
※アドリブ、連携歓迎
夢はいらねぇ。自分に都合のいい夢は腹いっぱいだ。それに、夢のような目標を叶える為に邁進する方が俺の性分にあってるようだ。とりあえずの目標は、怪物、おまえを二度殴る、だ。指輪の封印解除。ウルスエクレールを振るって先制攻撃。氷結属性の斬撃波を放ち髑髏頭を氷漬けにして目潰しし視野を奪う。残像と見切りで攻撃を回避し、天の火の飛翔能力で急加速し髑髏頭との間合いを一気に詰める。夢は一人で見るもんとは限らないだろ。ここにはいない人々の夢も残さず食べろ。信者たちの無事を願う大勢の人々の想いの全てを武器に宿して髑髏頭に氷結属性二回攻撃。掬い上げる一撃、叩き落とす一撃。食い過ぎて腹を壊すかもな



 自分に都合のいい夢は、もういらない。
 そんな夢に巻かれて留まるのは、ある意味目の前の現実から逃げることとも同じだから。
 ぬるま湯みたいなそれは、先へ進むには不都合だ。

 都合のいい悪夢(いろ)に微睡むような山羊のどくろには、わからないだろう。


「夢を見るより、夢のような目標を叶える為に進む方が。……どうやら、俺の性分にあってるようだ」
 がらがらと骨を崩れさせる夢の現の眼前に再び立ったのは、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)だった。静かな怒りを滲ませるように青光零す指輪の嵌まった手できつく拳を作り、封印を解く。
「直近の目標は。……怪物。おまえを二度殴る、だ。」
 指輪の光が集まって、徐々に武器の形をとる。しかと柄を握りしめたのを合図に現れたのは、原初の炎纏う大槌だ。重たげなそれをものともせず、ラファンは軽く重心移動のように踏み込むと、思い切り振り下ろした。氷の斬撃波が講堂の床を割りながら、夢の現を飲み込む。ぱきぱきと首元まで凍り付いた山羊のどくろは、眼窩の視線を動かせない。
「逆に動きを止められた気分はどうだ、怪物」
「こしゃく、な──」
 苦し紛れに精神を食らわんと触手が襲い来るが、ラファンは動きを見切ると第一波を躱し、第二波は凍り付かせて防ぐ。
 さらに。逆に足場として凍り付いたあおぞらを使うと、ラファンは更に追撃を試みる。手を、足を。握る大槌さえも。自らを、青い炎で包み込む。講堂内の温度が急に下がり、布切れさえも凍り付いた直後。彼にばさりと生えたのは、青空よりも濃い青炎の翼。散る火の粉は他に燃え移ることなく、どうしてか、ほんの少し大気を凍らせて落ちて行く。
 翼さえも青空に染めようと触手が伸びるが、それよりも速くラファンは飛ぶ。加速力をつけたまま、確かに山羊のどくろに狙いをつけて。思い切り、大槌を振り上げる。掬い飛ばすような一撃を夢の現はまともにくらい、色のおちた跡であろう穴開きの天井に向かって突き飛ばされる。
「夢は一人で見るもんとは限らないだろ」
 ここにはいない人々の夢も、残さず食べろ。
 伝わり、力のように集めていくのは無辜の人々の想い。色が降ってきた日を境に消えたであろう信者たちの無事を祈る、誰かの想い達。それを、かたり、ともう咀嚼することもなくなった顎と、山羊の頭に。まとめて突っ込むように、ラファンは追撃の槌を振るって夢の現を叩き落とした。
「食い過ぎて腹を壊すかもな」
 ぼそりと呟いた言葉は、夢の現に聞こえていただろうか。山羊のどくろは砕けながら、そのまま講堂の床を突き破り──

 完全に、沈黙した。


『外なる邪神の欠片』を宿したUDC怪物は倒され、青空色が消えていく。
 様々なものを飲み込み、沢山のものを狂わせようとした邪神の力。だがそれが起こす惨劇は、猟兵達によって最小限で防がれたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月04日


挿絵イラスト