●しあわせ
太陽は既に傾いて、世界を橙に染め上げる。
パシャ、パシャ。
その中で佇む男は一人でカメラを構えて写真を撮り続けていた。ただ写真を撮っているなら何も思われなかったかもしれない。けれど、撮っていたのは影だった。それを下校中の少女は不思議に思って男の方へと近寄って行く。
「ねえ、お兄さん何をとっているの?」
「ん?」
男の体の半分の程しかない少女は彼を見上げながら尋ねた。カメラから顔を外し、立ち上がったまま少女を見下ろす。男のその顔は笑顔であるものの、少女から見れば逆光で暗く見え何処か胡乱な表情に見えたかもしれない。
「お兄さんはねえ、しあわせを撮ってるんだよ」
「しあわせ?」
「そうしあわせ。祖父さんみたいに俺は才能が無かったから、俺は笑顔を撮るのができなくてさ。でもどこかにしあわせはあるんじゃないかなって探してるの」
何を言っているんだろうこの人。顔には出さずに少女はふうん、と相槌を打っただけで男が何を撮っていたのか、暗闇の中を見つめるも何も見当たらなかった。
「お兄さん、影をとってて楽しい?」
「楽しいよ」
「でもお兄さん、最近ふしんしゃが出てあぶないから早く帰った方が良いよ」
それは少女の周りと言うよりは、子供たちの周りで噂されていた話。
子供ばかりを狙う不審者がいて、それは暗闇の中に引きずり込んでしまうのだとか。その噂話は人から人へと伝わる内、次第に尾鰭が付いていった。食べられてしまうとか。噛まれるとか。そんな人は何処にもいなくて幽霊だとか。軽口を叩く子供達の間では野犬の仕業だとか。……そんな風に言われていた。
「ハハッ、良い子だね。そんな良い子には何を撮ってたか教えてあげる」
男の口から見えた白い歯は静寂を切り裂いた。
「ねえ、これ見て君は笑ってくれる?」
暗闇の中から引き摺り出したのは、少女と然程変わらないかそれよりも幼い少年。シャツの襟元を引っ張って立たせながら夕陽灯る場所へ放り出すと少年の泣きじゃくる声がより一層響いた気がした。
「ねえ、笑ってよ。笑え、笑え。――笑え、って言ってるだろ」
手にしたカメラのレンズを二人に向かって、男は大きく振りかぶった。
●しあわせ?
ぱしゃ。一年・色(彩無・f09805)は猟兵たちに向けてカメラのシャッターを切る。しかしカメラのレンズは蓋が付いたままでカメラの液晶画面には真っ暗な画面だけが映し出された。カメラから顔を外すとううん、と蓋を外した事に気付かない顔が眉間に皺を寄せている。
「弱いのを狙うってのはゲームでも鉄板だけどさぁ。だからといってリアルにおいて手出したらおしまいだっつーの」
そう思わない? 同意を求める様に首を傾げながら椅子の背もたれに肘をついて寄り掛かる。
「あの子たちはその後すぐに逃げたから大丈夫。安心して。……ただまあ、なんつーか。それはそういう負の感情を糧に動いてるし、敵対したとしても負の感情に揺らがない様にね」
大丈夫だろうけど、と目を伏せて色は呟く。
「あの手この手で揺らがせようとして来る筈だよ。自分をしっかり保ってくれよな」
自分の話を聞いてくれて集まってくれた猟兵たちは皆強いと信じているからこそ出てきた言葉を吐きながら、掌で携帯ゲーム機型のグリモアがくるりと回る。
「自分を保てば、出来るって信じてるからよ」
さけもり
さけもりです。OPをご覧頂き、有難うございます。
受付開始はMSページ、タグ、Twitterをご確認下さい。
●第一章:集団戦『ルリハ』
幸せな世界の中へと引き摺り込む病原体を持った青い鳥です。
世界の何処かで囀りながらいる筈です。
幸せの世界の中に身を委ねるも、抗うも良し。はたまた幸せな世界の中へと引き摺り込まれる前に倒してしまっても良し。
幸せの世界に引きずり込まれるのであれば、貴方の見た幸せな世界を教えて下さい。
何れにしろ、UCのご指定もお忘れなく。
●第二章:夕闇鬼ごっこ
夕闇の闇が誰かに見えて、その中で誰かが追い掛けて来ます。
誰かでなくとも、恐れているものなど、逃げたいものを教えて下さい。
追い掛けて来る何かが既存のPCさんかな、と思うものであればプレイングをお返しします。
●第三章:ボス戦『『写真屋』観月・望実』
OPに出てきた男です。鬼ごっこで辿り着いた先での戦闘です。
第1章 集団戦
『ルリハ』
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POW : セカンダリー・インフェクション
自身に【病源体】をまとい、高速移動と【病源体】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : アウトブレイク
【伝染力の高い病源体】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : スーパー・スプレッダー
【病源体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にばら撒くことで】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:龍烏こう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●シアワセ
ピーチチチチ。ピィーチチチチ。
グワァ! グワァ!
チュン。チュンチュン!
同じ個体の筈の青い鳥の口からはそれぞれ違う鳴き声を出された。中には人の言葉を喋る鳥もいるものの、それは一つの言葉だけを言い放つ。
「シアワセ! シアワセ!」
甲高い声で鳥は謳う。それは果たして『幸せ』なのだろうか。『死合わせ』と彼らは言っているのかもしれない。
彼等は「病」を撒き散らす鳥。それは人に限らず、機械も、液体も、結晶も、生あるものなら何もかも死に至らせる。
青い鳥がバサバサと翼を羽ばたかせれば、目に見えぬ病気を振り撒こうと猟兵たちの辺りをぐるりと回る。
それに触れてしまえば、吸い込んでしまえば病に罹ってしまうことだろう。
――夢を見る病に。
辺り一面が人の望む風景に。時間に。場所に成る。
「ピィ」
一羽の鳥が降り立つ。その一鳴きを合図に、鳥は、シアワセを呼び込むため飛び立っていく。
それは、シアワセを呼ぶ青い鳥かもしれないし、そうではないかもしれない。
鳥の鳴き声が、羽ばたきが、遠くに響いて行く。
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≪補足≫
・個別での返却を予定しております
・幸せな世界に引きずり込まれて身を委ねたり、抗う場合には幸せな世界を教えてください
・幸せな世界に引きずり込まれる前に倒してしまっても構いません(この場合幸せな世界には入れません)
・どちらかお好きな方を選んでください
・いずれにせよUCの指定をお忘れなく、元の世界に帰れないかもしれません
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フィーア・アリスズナンバー
幸せna、夢。わたしには、勿体naい物ですね。
それdeも、叶うのであれば……もうiちどだけ、姉妹達が生きteる世界が、見たい。
シアワセの青い鳥、どうkaわたしをつれteって。
アポカリプスヘルの、研究室。
似た顔の十の姉妹。博士を交えてアリスの為に戦って、明日の未来の為に、色んな人たちと生きて……
苦しくてもアポカリプスヘルの未来を信じて生きた、夢。
でも、わかっているんです。これが夢でしかない事を。
幸せな夢でした。でもいつかは目覚めないといけません。
限界突破した出力のUCで、わたしごと体にある病原体を壊します。
今のわたしはデッドマン。魂の衝動ある限り生ける屍。
生きるのは、何もなくなった現実だから。
●シアワセな研究シツ
壊れた機械に幸せna夢など勿体naい。だって壊れた機械は夢を見naいのだから。
フィーア・アリスズナンバー(4番目の甦り・f32407)はそれでも叶うのならばと青い鳥に手を伸ばす。もう一度だけ、姉妹達が生きている世界が、見たい。
「シアワセの青い鳥、どうkaわたしをつれteって」
願う? 乞う? と首を傾げた青い鳥はフィーアをシアワセな研究室へと導く。アポカリプスヘルの、研究室。けして綺麗とは言い難く、すみっこは埃が溜まって薄暗いその部屋の中にフィーアと似た顔の9人の姉妹たちが居た。創造主たる博士を交えて、アリスの為に、明日の未来の為に、荒廃した世界の中でも諦めず戦ってきた。その暮らしは苦しくてもアポカリプスヘルの未来を信じて姉妹達と共に励まし合っていたからこそ過ごせた夢の様な日々。
――そう、これは夢。
「でも、わかっているんです。これが夢でしかない事を」
フィーアの過ごしたあの研究室も、博士も、9人の姉妹達はもう無い。それに気づいてしまってからはこの幸せは、幸せではない。
「……幸せな夢でした」
同じアリスズナンバーズの姉妹たちと笑い合った時も、辛くて悲しくて投げ出したい時も在った。夢の最中にあった自分の体は綺麗なまま。けれど本当のフィーアの体は、死者として蘇った筈の体は、今も尚首を傾げてはフィーアの様子を窺う鳥へと手を伸ばす。
「でもいつかは目覚めないといけません」
壊れた機械は夢を見ない。これは、フィーア・アリスズナンバーという嘗てフラスコチャイルドだった少女の夢。
フィーアの掌の中に大人しく収まった青い鳥はチチチ、と鳴いて首を左右にかくりかくりと傾げる。何かおかしなことでもあったのかと尋ねるかのように。何も無い、とフィーアが首を左右に振るう。だって、死体に夢も何も、無いのだから。
空いた片腕がごとり、と音を立てて千切れれば掌の中から電流が鳥の体を縛り付ける様に這い、バチバチと音を鳴らしながら光が体を包み込んでいく。
「チ、チチ……!」
「今のわたしはデッドマン」
掌の中でぐたりと倒れた鳥を解放し、フィーアはゆっくりと落ちていく鳥を見つめた。
「魂の衝動ある限り生ける屍」
ゆっくりと落ちていく鳥は、地面にヒビを作り、夢であった世界を割っていく。
「生きるのは夢ではなく、何もなくなった現実だから」
もう、壊れた機械は夢を見ない
大成功
🔵🔵🔵
津崎・要明
はは!はははははっ!!
俺は今サイコーに『幸せ』な気分で笑ってる
ついに、ついに、ここまで来たんだ
最初は一人だった。この「可住惑星構築計画」を始めたときは。
あり得ないと笑われた事もあった。
でも、少しずつナカマが出来て、色んなアイデアが集まって、
今目の前に俺たちが望んだ、新しい故郷の景色がある!
擬態しないタールのままでクルクル廻る。
夢、みたいだ。
…ゆ、め?
視線を下げると俺が組んだマシンがあった。井加るス…
まだほとんど機能が無い、ほぼサラッピンの俺のマシン。
ここで判定です?
・ヤバい。ダマされるとこだった。
または
・何か…大事なことを、忘れてる気がした(暗転)
●シアワセな宇チュウ船
「はは! はははははっ!」
やり遂げた。この広い宇宙に笑い声は響いていく。津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)は俯き、両手を握り喜びに身を震わせた。
「ついに、ついに、ここまで来たんだ」
悲願とも言える「可住惑星構築計画」は最初は一人だった。不定形の液体に何が出来よう。そんなものできっこないと笑われた日だってあった。そんな事無いと否定し、一人で進めていたこの計画は、少しずつ仲間が出来た。
「ロマン溢れる話だね」
「それはこうしたらもっと良いものができあがるのでは?」
「だったらそれはこうしよう!」
次々に様々なアイディアが集まって、今目の前には自分たちが望んだ新しい故郷の景色ができた。広大な広い空の海に、誰もいなかった土地を見つけて、最初は僅かな材料から。それを段々と増やしていって、可能性を広げて行った。失敗した事もあった。けれどそれでもめげなかったのは、自分の悲願を果たす為。仲間がいたからやってのけられた事だと仲間たちの手を取り喜んだ。
人の姿でなくとも、獣の姿でなくとも、液体のままでも過ごせる理想の世界。たぷん、と不定形の液体はくるくる廻って踊り出して空を見る。星々が瞬いては流れて行く。願いを乞っていた星々は今ではこんなにも近くて、夢が叶ったみたいだと感じた。
「夢、みたいだ」
ぽつりと呟き、吐き出された言葉に要明は不安になる。……ゆ、め?
視線を下せば要明が組んだ筈のマシンがそこにあった。ほとんど機能が無い、真っ新な要明のマシン。不定形の液体は頭をかくりと傾げて、頬の辺りをぺたぺたと手先で触れて行く。どうしてそんなものがあるのだ? サラッピンのマシンで此処まで来た? 本当に? 一人でしか乗れないのに?
「あれ、あれ? 俺、何か忘れてない……?」
この計画を始めて、仲間と一緒に来た筈だけれど、その仲間たちは何処にいる?
辺りを見回してもその姿は無い。マシンがあった形跡も、来ている気配も無い。
あれ、あれ。ぺたり、ぺたりと顔を触って行く。
「ピィ」
「あ、」
シアワセ告げる青い鳥が一鳴きすれば、要明の目の前が真っ暗になっていく。
――そんな仲間なんて、どこにもいなかったじゃないか。そう気づいた頃にはどぷん、と不定形の液体の体は静かにひび割れた地面の中へと吸い込まれていった。
成功
🔵🔵🔴
日向・陽葵
ん……どこここ? そだ、アキさんのボイレコ再生すれば夢か現実か判るかも。えっと何々ー
……陽翔の仕事中じゃんこれぇ!? は、待っ嘘嘘嘘マジで!?
あたしが戦わないといけないの。マジで陽翔寝たのマジでか銃のエイム力には自信ありですが実戦投入が急すぎてビビるやばこわ!!
つーか、ここマジでどこ。何し、て……え
(その髪型、よく似合ってるね)
なに、なんで囲われて。よいしょ受けてんのあたし
(髪が素敵、服も素敵。格好良い色合い、貴方は素敵な存在です!)
あ、あざっす……ん、カワイーじゃなくてカッコいい……
何それ。嬉しいはずのに、見透かされてる気がしてすごくイヤ。頭痛いし
鳥の鳴き声? ……あたしの幸せって、何だろな
●シアワセなカコイ
ぱち、と日向・陽葵(ついんてーるこんぷれっくす・f24357)が目を開けたら知らない場所だった。人が歩いていて、ざわざわと雑談の声がする。全く見知らぬ場所。此処が何処だか調べるよりも先に懐にしまってあるボイスレコーダーを取り出す。此処が何処か、教えてくれる自分の声であるものの、自分とはまた違ったトーンの声が流れ出した。
「えっと何々――……陽翔の仕事中じゃんこれぇ!? は、待っ嘘嘘嘘マジで!?」
信じられないと肺から盛大な溜息を吐くと同時に、ううんと頭を抱えだした。
「あたしが戦わないといけないの。マジで陽翔寝たのマジでか」
だってそういうのは陽葵ではなくて、陽翔が得意とする事なのだから。今更それをやれって言われても。信じられない。銃のエイム力には自信があるけれど、実戦なんてした事無い。普段から勇気の無い陽葵だけれどより一層慄く。
「つーか、ここマジでどこ。何し」
「その髪形、良く似合ってるね」
「髪の毛、ツートンカラー素敵だね!」
ざわざわと大衆が陽葵の周りに人が集まってくる。男女、年齢問わずの輩が周囲に集まってくるが顔がぼんやりとしていてよく見えない。
「え。なに、なんで囲われて」
よいしょを受けている自分に目を丸くする。
「髪が素敵、服も素敵。格好良い色合い、貴方は素敵な存在です!」
けれどどこか、嬉しい自分もいて満更でもなく、困った様にはぁ、と溜息を吐きながら軽く頭を下げた。そんな謙虚な所も素敵! という声も聞こえてきて一層混乱する。
「あ、あざっす……。ん、カワイーじゃなくてカッコいい……」
どうしてか引っ掛かる言葉がある。嬉しいはずの言葉の中に、引っ掛かる言葉。
「何それ」
だって、自分がしたい恰好をしているだけ。別によいしょを受けたいがためにツインテールをしているわけではないし、髪を染めているわけではない。自分がしたい恰好をしているだけ。なのに何で。どうして。変なの。
「見透かされてる気がしてすごくイヤ。頭痛いし」
「ギャア、ギャア!」
「鳥の鳴き声?」
「ギャア!」
騒がしい鳴き声に陽葵は片手で頭を抱える。シアワセの青い鳥。手を伸ばしても、届かない。
「……あたしの幸せって、何だろな」
ぽつりと呟いた陽葵の声は、鳥と雑踏の泣き声に踏みつぶされて微かに消えて行った。
大成功
🔵🔵🔵
銀・麟
獲物は鳥?
青い鳥なのに不幸をよぶんだ?
まだ眠たくないの、別に見たいユメなんてないし
この矢は全てを無慈悲に凍らせるわ、病気をバラマク害鳥は狩らないとね
オブリビオンは狩る、すべてね
さぁ、狩りの時間よ
●コウフク論
「獲物は鳥?」
ふうん、と呟きながら銀・麟(人間のアーチャー・f32588)は眼鏡のブリッジを軽くあげた。眼鏡越しに見えた青い鳥たちは、狩人たる彼女にとっては目の前の小さな鳥は獲物にしては不足無し。レンズを通して見る鳥たちは小さくとも、その正体は病をばら撒く病原菌の類。――害獣はからなければならないと冷たい瞳が鳥たちを見据える。
「青い鳥なのに不幸をよぶんだ?」
「シアワセ! シアワセ!」
それでも鳥たちはは怯えずに喚く。幸福は此処に在る。シアワセはそこに在ると。けれど麟はその言葉に耳を傾けない。眠たくもないし、夢が見たいわけではない。夜色の衣を纏う彼女は眠ったりもしない。
「凍てつけ」
喚く一匹の鳥の喉元に矢が突き刺さり、触れた瞬間に凍って行く。ぴき、と凍結したのを見るなり他の鳥も羽ばたこうとした。危機を察知する能力は鳥そのもの。しかし、その矢は麟を中心として周囲に広がって行き、やがて鳥たちの体に突き刺さる。ばたり。ばたりと地面に落ちて行くのを麟は見送るとそれでももがいて鳴くのを止めなかった鳥へと近づいて行った。
「コウフク! コウフク!」
「それは降伏、ってことでいいのかな」
きっと鳥が言うコウフクとは幸福かもしれない。けれど麟に見下ろされている鳥の言うコウフクとは降伏の様にしか聞こえなかった。
「病気をバラマク害鳥は狩らないとね」
腰に携えたダガーは鳥の急所を一突きで貫く。今も尚生あるオブリビオンがいるかもしれない。先程使ったダガーを仕舞い、麟は辺りを見回す。
――全部狩らなければ。それが狩人たる自分の役目なのだから。
「さぁ、狩りの時間よ」
黒の狩人は黒衣を靡かせながら矢を弓に携える。一匹一匹仕留めるこの弓は、狩人たる母から学んだもの。一匹たりとも逃したりしない。
「君たちが降伏するまで、ね」
矢再び、軌道を描いて放たれた。
大成功
🔵🔵🔵
花菱・真紀
しあわせ…?
姉ちゃんがいてゲームしたり映画観たり。
うん、それが俺にとって幸せだった。
それはたぶん今でもそうで。
だからこうやって目の前に現れるのは姉ちゃんだ。
時間が経っても…いいや時間が経てば経つほど姉ちゃんとの時間が懐かしくて。
お菓子を並べてジュースを準備して。
テレビの前を陣取った姉ちゃんが一緒に遊ぼうって誘ってる。
これが当たり前だったはずだったのに涙が出るほど嬉しい。
…けれどこれはUDCの罠だ。
こうやって人を陥れていくのが手口だ。
分かってる。だから…
UC【匿名の悪意】発動。
●シアワセな1シツ
自分の名前を呼んでおいでおいでと花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)を手招いたのは居る筈の無い姉の姿だった。ゲームソフト、映画のパッケージを並べて今日はどれにしようかと尋ねる姿に真紀は違和感を覚えながらも、それを何でも無いと無視をしていた。
「姉ちゃん、俺今日はこれがいい」
これ、と指を差したのは『都市伝説怪奇ファイル』のタイトルが書かれたパッケージ。良いよ、と頷いた姉が円盤を取り出して再生をすればテレビの前のラグの上に座る。チープな映像。あからさまに作り物と分かるような映像。分かっていてもそれが楽しかったのは、自分がそういうものが好きだからというよりも、姉と一緒だったから。
――それが真紀にとっては幸せだった。今も尚、いる筈の無い姉の姿と一緒にこうして過ごせる日々は確かに幸せだ。
見終わった円盤を取り出しながら次は何をしようか? そう尋ねる姉に今度はゲーム、と指を差す。テレビの前を陣とって、コントローラーを握って。ジュースとコントローラーが汚れない様に片手で摘まめるお菓子を用意して。――懐かしい日々がそこにあった。
「あっ今のアイテム強化素材だから取って!」
それ早く言ってよ、と真紀の方を見る姉の姿はテレビに映された敵の姿に気付かず、攻撃され倒されてしまった。
「あーっ終わっちゃったあ」
終わる。そう、これは嘗ての幸せな世界。此方が倒さなければやられてゲームみたいに、終わってしまう夢。
また遊ぼう。手招いて誘う姉の誘いを真紀はうん、と尋ねてしまいたくなる気持ちを抑える。当たり前だった日常が目の前にあってこんなにも嬉しいのに、涙が出てくる。
「……けど、これはUDCの罠だ」
その誘いに乗ってはいけない。ぽろぽろと零れ落ちる涙を見送りながら、袖で涙を拭う。
分かっている。だから。
「チチチ」
幸せな世界で枝に止まって囁く鳥に向かって、手を伸ばし、悪意が含まれ過ぎた口撃が放たれる。――匿名という名の仮面を被った悪意の言葉は、鳥を地面へと叩き落とす。
『幸せなんてどこにもあるわけがないw』
『大体そんなの小学生までだって(笑)』
『さっさとトイレ行って寝ろ』
「シアワ、セ……?」
真紀の顔を見上げながら鳥は首を傾げる。シアワセだった? その問いに真紀は答えず地に落ちてひび割れた世界を見た。
「こうやって人を陥れて行く罠は、幸せなんて言わないんだ」
それは偽りでしかない、と。
大成功
🔵🔵🔵
豊水・晶
アドリブ◎
私の幸せ。
猟兵を続ける過程で様々な方に出会いふと疑問に思ったのです。自分は神として人を護ることが幸せで今もそうです。しかし、神ではなく私としての自分の幸せは何なのだろうと。考えてしまった。
鳥の鳴き声が聴こえたと思ったら、ぼやけた人影が見えました。
視界に納めた瞬間。この方は大丈夫、と思ったのです。その方はこちらに近づき優しく私を抱きすくめ、何か甘い言葉を。頭が、思考が蕩けるような言葉を紡ぎました。夢だったから良かった。不鮮明で不明瞭な夢でなくては堕ちていた。そう思った瞬間もとの場所へ。頭上には青い鳥。自分の知られざる幸せに困惑しつつ指定UC 浄化 破魔を使用して打ち落とします。
●シアワセなトリイ
霧に包まれた神社の鳥居の下で、神として祀られていた竜神の豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は鳥居を見ながらその場に立ち止まる。辺りには何も無く、古びた神社が後ろにあるのみ。どうして此処に。人々を幸せにしていた神の役割は終わったというのに。
「――私の幸せ」
猟兵を続ける過程で様々なものと出会い、晶は疑問に思った事がある。神として人を護ることが幸せで、今だってそう。“神”ではなく、『豊水・晶』としての幸せとは一体何だろうと。
何事も無く平和に過ごす事? 親しい友に囲まれて一生を過ごす事? 愛しいものと結ばれる事? 子孫を残して大勢に囲まれて大往生する事?
「ピィーチチチチチ」
「鳥……」
青い鳥はこんなところにいただろうか。ぼんやりとした表情で見上げていると悩んでいた思考は遮断されて、鳥居の上で鳴いた鳥は羽ばたいて行く。晶が飛び立った鳥を見送った先に、ぼやけた影はかつん、かつんと音を立てて石畳を歩いてきた。
姿は見えない。ただぼんやりと影が人の形をしているだけ。けれどこの人は敵ではないと分かる。一歩一歩近づいてくるその影は、手を伸ばして晶の体を優しく抱きしめる。耳元で言葉にならない愛の音を囁く。
「 」
その言葉は雑音交じりで言葉としては聞こえないけれど、晶には分かった。頭が、身が、思考が蕩ける様な言葉。竜神韻が霞み、揺れる。本当に欲していたのは、幸せはこれなのではないかと思ってしまう程に。
「……夢だったから良かった」
不鮮明で不明瞭な夢であったから堕ちずに済んだ。現実だったら――。影の抱擁を振り払って天竜護法八大宝珠を取り出し、影を縛り付けて空間に叩きつける。
ピシ、とひび割れた空間から飛び出すと影は消え、鳥は元の世界でも囀る。
「シアワセ! シアワセ!」
どう? 違った? 首を傾げる鳥の仕草に晶は考える。
「あれが私の幸せ……」
自分が望んでいたかもしれないその欲望が本当にそうだとしたら……少し恥ずかしくて、少し照れくさい。けれど天竜護法八大宝珠を構えるのを止めない。
「シアワセ? シアワセ?」
「そうかもしれませんが……でも、違う」
天竜護法八大宝珠を揺らし、周囲の水素が固まり、水晶の様に透き通る氷となって鳥に放たれる。純度の高い氷は病を打ち破り、周囲の病原体も浄化していった。青い鳥は、地に堕ちやがて静かになって囀るのを止めた。
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
しあわせ、幸せ?
アオい鳥さんはシアワセを探してるの?
頭上をぐるぐるするアナタに、
落ち着いてと手伸ばし――ぱっと変わった景色
あら?と辺りを見回せば
其処には大好きなアリス達の姿
そうね。これが、いばらのしあわせ
皆と過ごせるイマがね、とっても幸せなの
イロんな世界を巡れる体が在って、
アリスを笑顔にするお手伝いが出来て…
オネーチャンにもなれたのよ
それとね…聞いてる?鳥さーん!
コレはアナタが見せてくれた夢なのでしょう?
お勤めに来たのだから
皆がココにいるのは可笑しいもの
でも、やさしい夢ね…有難う
そろそろ帰らなきゃ
そう、思える様になった事も
きっと幸せで
アナタもおかえり?
迷わぬよう、沢山咲かせた花弁を導にと贈って
●シアワセな世カイ
「シアワセ! シアワセ!」
青い鳥は城野・いばら(茨姫・f20406)の頭上をぐるぐるして、シアワセを謳い病を撒き散らす害鳥にいばらは手を伸ばす。
「シアワセを探してるの?」
そんなものどこあるのか分からず探しているのか、落ち着いてと声を掛けた途端。バサバサと飛び立った鳥の羽ばたきがいばらの周囲の風景はゆっくりと姿を変えていった。
「あら?」
だってさっきまでいばらはアオい鳥さんと居た筈なのに。鳥に向けて伸ばした手を収めて、辺りを見回す。ぐるり、と見回せばいばらの事を呼ぶ、彼女の大好きなアリス達の姿が見える。
「まあアリス! 今まで何処に行ってたの? 心配していたのよ」
此処にずっと居たわよ、ねえ。そう微笑みながらアリス達は顔を見合わせる。変な夢でも見ていたのよ。一人のアリスが言うとそうだったのかもしれないといばらは困った様に笑って寝ぼけていたのかもしれないわと目を伏せた。
「そうね。これが、いばらのしあわせ」
遠くでチチチ、と鳴き声がする。何処かにいる鳥は、確かにいばらにシアワセを持ってきたかもしれない。
嘗ていばらのいた世界には、大好きなアリス達はいた。お城の美しい城を彩っていた庭園の薔薇は足が埋もれて動けなかったけれど、お喋りで、花の姿でアリスたちを元気にすることはできた。――でもそれは、昔の話。
いばらの現実は、大好きなアリス達はいないし、残虐非道なオウガの支配から抜け出すために土に埋もれた足は抜け出した。お喋りは相変わらずだけれど、人の姿を得た今では色んなお洋服が着れたり、アンブレラを広げて風に乗って何処にでも行ける。
「イロんな世界を巡れる体が在って、足は何処にでも向かえるわ。アリスを笑顔にするお手伝いが出来て……オネーチャンにもなれたのよ」
マイペースで天真爛漫。ちゃんと務められているかは分からないけれど、と苦笑いしながら青い鳥を探す。
「それとね……聞いてる? 鳥さーん!」
鳥はいばらの声に反応するようにいばらの近くの止まり木へと足を下した。
「コレはアナタが見せてくれた夢なのでしょう?」
「ピィ」
「皆がココにいるのは可笑しいもの」
だけどいばらにとってはやさしい夢だったから。
「有難う」
その気持ちだけは受け取っておくと鳥へ指を伸ばした。
「そろそろ帰らなきゃ」
そう思える様になった事もきっと幸せで。指先から零れ出た白い薔薇の花弁は鳥のアオを優しく包んで塗り潰していく。
「アナタもおかえり?」
迷わないように、優しい夢を見る様に。静かに瞼を閉じるのをいばらは見送った。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『夕闇鬼ごっこ』
|
POW : 全力ダッシュで逃げる
SPD : カーブを曲がって逃げる
WIZ : ちょこまか逃げる
イラスト:シロタマゴ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●とおりませ、とおりゃんせ
バサバサバサバサ。シアワセを謳った青い鳥は一斉に羽ばたき、飛び立っていった。
幸せな世界に囚われていた者も世界がパリンとひび割れ、現実へと引き戻される。
夕陽差し込むUDCアースの住宅街。
人は見当たらず、遠くで青信号を伝える電子音の通し道歌が聞こえる。――しかし、信号なんて、どこにも見当たらない。
かつん、と響いた音が聞こえただろうか。石の転がる音ではない。足音だ。その足音はかつん、かつんと近づいてくる。
一歩、一歩また歩めばその足は距離を詰めてくる。離れようとも、離れられず。だがけして此方に近付こうとしない。
後ろを振り向けば、足だけだった夕陽に溶けた影がゆっくりと形を成して作られていく。
――それは、人だろうか。物だろうか。それとも?
さあ、鬼ごっこの始まりだ。足がもつれない様に。どうか追い付かれない様に。
恐れるな。振り切って、逃げ切れば。逃れられるかもしれない。
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≪補足≫
・個別での返却を予定しております
・夕闇の闇が誰かに見えて、その中で誰かが追い掛けて来ます
・誰かでなくとも、恐れているものなど、逃げたいものでも可能です
・追い掛けて来る何かが既存のPCさんかな、と思うものであればプレイングをお返しします
・辿り着く先は皆さま一緒の場所になります(詳細は3章の断章にて)
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花菱・真紀
何か…いいや誰かが追いかけてくるのが見えてゾクリとする。それに俺はくるりと踵を返して逃げ始める。
カツンカツンと聞こえる足跡は決して早くなくてむしろゆっくりなのに決して距離が離れることはない。焦らすように近づいてくる。
UDCの罠がどうとか笑える。
友人だと思ってたやつの嘘に気付けず罠にハマったりなんかした俺なのに。
それが結果的に姉の死につながるだなんて。
『宿敵』として倒したはずの男
俺は…まだそいつの事を怖いだなんて思っているんだな。
逃げる。逃げる。だけど今度こそは逃げ切る。
●邂逅
夕陽傾く世界に放りだされた真紀はゆっくりと足を踏み出した。静かな住宅街には通し道歌の電子音。暗闇の中に見えたそれは――いいや、いる筈がない。背筋がゾクリと凍るのを感じた。たらりと一筋の汗が真紀の額から流れていく。
「誰だ?」
声を掛けても応えは無く、その姿が鮮明に見えてくる前に追い付かれないよう駆け出す。
機械音の通し道歌はよく聞き慣れたものだったのにも関わらず、何処か不気味な音として聞こえるのはノイズが混ざっているからだろうか。――否。かつん、かつんと聞き覚えのある靴音が真紀の耳を通ったからだ。その足音は、いやあるわけがないと駆け出している最中にもちらりと後ろを振り向く。そこに嘗て対峙した男が、都市伝説を伝う唇の端をにたりと釣り上げ笑っているように見えた。
近づいてくるその足はゆっくりな筈なのに、真紀に確実に近づいている。
「……ハハッ」
この世界にはいる筈の無い男を目の当たりにした真紀の顔から笑みが零れる。――UDCの罠がどうとか笑える。友人だと思ってたやつの嘘に気付けず罠にハマったりなんかした俺なのに。
これが罠? だとしたら……。
「随分趣味が悪い罠だな」
真紀の頭の中で駆け廻ったのは、今目の前にいるそれが結果的に『姉の死』に繋がったこと。――でも、これ姿かたちを真似たもの。それから逃げなければならない事だけは理解できる。
「お前は、あいつじゃない」
そうだと分かっているのに真紀の体からは汗が止まらず、震えが止まらない。頭では違うと理解していながらも、真紀はまだ、倒した筈の男の幻影を未だに怖いと思っている。
首を横に振るい、邪念を振り払う。追いついてはいけない。これは鬼ごっこ。それに触れられたら――どうなってしまうのだろう。都市伝説が好きな自分にとっては興味が無いわけではない。
「今度こそは逃げてやる」
けれど、今此処でそれに掴まるわけには行かない!
履き慣れたスニーカーを踏み鳴らして、真紀はそれから背を向けたまま駆けて行く。
成功
🔵🔵🔴
津崎・要明
誰だ?
幻影を振り払いながら、音の方を見た
ヤベェ、まだちょっとクラクラする
さっきのが敵の仕業なら、近づいて来るのもきっと敵だろう
観念なさい?
残っているのはあなただけよ。
嬲るように、いたぶるように、ゆっくりと近づく音
ブラックタールの俺は音を立てずに逃げてるハズだった、
仲間たちも
なのにアイツは。
幼い頃の記憶がフラッシュバックする
おもいだしたくない
っだが!今、俺は猟兵なんだよ。お生憎ってなぁ!
真直ぐ逃げると見せかけ反転、敵をすり抜けて背後に逃げる
【真の姿】亜空間に隠された古代タール文明遊牧船のメモリバックアップユニット(自律式ナノマシンで構成される)淡く発光し、ノイズが入る
●手馴れた逃亡
不定形の黒き液体の要明はその暗闇に誰かを見た。
「誰だ?」
その暗闇は足元からゆっくりと女の形を作っていく。手には拳銃を持ち、その銃口を要明へ向けた。まるで、『観念なさい』と言っているかのように。両手を上げるも要明の瞳はそれをじっと睨みつける。 嘗ての故郷から抜け出した反逆者たちの中で残ったのは要明だけだとしたら。自分を追い詰めてきたそれに向かって、諦めるわけにはいかない。
かつん、かつんとヒールを鳴らす音は時々ぐりっと地面を踏みあげる。――まるで、地に這いつくばる要明を踏みつぶす様に。
「音を立てないで逃げた筈だったんだけどなぁ……」
自由自在に形を変えられる液体――ブラックタールである要明は上手く逃げた筈だった。手錠を嵌められたとしても、檻に入れられても、水槽に入れられても。静かに抜け出し、今の今まで逃げてきた。それは要明の仲間たちもそうだった。けれど、それは何時の間に要明の仲間たちを追い掛けて、捕まえて、今も尚要明の目の前にいる。
「ああ、いやだ」
幼い頃の記憶が流れ込んできて、思い出させやがる。目の前にいるそれを気にせず要明は頭を抱えた。幼い頃から共にいた仲間たちがいなくなったところなんて思い出したくもない!
「っは」
けれど、今は違う。
「今、俺は猟兵なんだよ」
要明の体が淡く光り出し、ノイズが混ざる。柔らかな液体だったナノマシンは鋼鉄の船のバックアップユニットへと姿を変えた。
――亜空間に隠された古代タール文明遊牧船。嘗て様々な宙を見た。星を見た。その記憶を保ち続けるのが要明の正体。
「お生憎ってなぁ!」
それでもブラックタールであった頃の技が使えない訳ではない。
真っ直ぐに逃げると同時にそれが追い掛けて来るのを視認し、壁にぶつかり弾んでそれの後ろへと駆け抜けていく。その軽業に反応できずにいたそれは、壁に激突し、暗闇に逃げた要明の姿を見失った。
大成功
🔵🔵🔵
フィーア・アリスズナンバー
……夢は、oわりましたね。
此処は現実……でsuが、まda後ろになにかいる。あれは――
――無数の、オブリビオン。正確には、私の消えた姉妹達。
追いかけてくる。手を伸ばして追いかけてくる。
一度こちら側だったお前が、そちらにいるなと、戻そうとしてくる。
嫌だ。やめてくれ。私はもう生きているんだ。生きてしまっているんだ。
今更そちら側には戻れない。
わかっているんです。一度オブリビオンだったわたしが、彼女たちに追いかけられるのは。
彼女達だって、生き返りたいのだから……
deも、今は……waたしの道naんです。ごめん。さよなら……!
UCを起動。片腕を犠牲に地面を蹴り、一気に逃げましょう。
●夢跡
「……夢は、oわりましたね」
しあわせな夢だった。けれど先程千切れた腕は今も繋がっている事にフィーアは現実に戻って来た事を痛感した。
「此処は現実……でsuが、」
まだ、後ろに何か居る。振り向いた先に居たのは、――無数の、オブリビオン。基、フィーアの消えた姉妹達。
どうして。お姉様。貴女だけが。今も、生きているの?
それは言葉を発しなかったけれどフィーアの目に映ったのは、口をぱくぱくと開けながら、そう自身に問うている様に見えたのだった。
手を伸ばし、失くした体を、姉妹を元に戻そうと――オブリビオンへと戻そうとゆっくりと追い掛けて来る。一度此方側だったお前が、そちらにいるな。お前も、此方側だろう。フィーアの足へと手を掛けようとした手を跳ね除ける。
嫌だ。やめてくれ。私はもう生きているんだ。
――生きてしまっているんだ。その魂に激しい「衝動」を、刻んでしまった以上、動き続けるしかない機械の少女は今更そちら側には戻れないと首を横に振るう。
「わかっているんです」
一度オブリビオンだったフィーアが、彼女たちに追い掛けられるのは。彼女たちもまた、フィーアの様に生き返りたかった。けれどそれが叶わなかった少女たちは自身の家族に、姉妹に乞う。貴女の様になりたい。生きたいと。再び彼女と苦しくても辛くても笑い合える日々を、過ごしたかった筈。それはフィーアとて同じ。博士と、姉妹達と、過ごしたかったあの夢は本心から来るものだった。
「deも、今は……waたしの道naんです」
その道を邪魔しないで。片手を姉妹達の幻影へと向けて、電撃を放つ。びりびりと電流は幻影に走り、フィーアの片腕はごとりと地に落ちた。それをすぐに拾い上げて、地面を蹴り駆け出す。千切れた片腕からはぽたり、ぽたりと落ちる血液をフィーアだと思った幻影は、それを只管掻き集める。
「ごめん。さよなら……!」
嘗ての姉妹達に別れを告げ、フィーアはその場から立ち去って幻影たちのいる夕闇を後にした。
成功
🔵🔵🔴
銀・麟
足音、ふーん狩人を追い詰める気なんだ?
私は森で生きてきた、だから周りがよく見える、角を曲がって壁を飛び越える、ついてこれるかしら?
よく見たら嫌なカタチをしてる
子供の頃私を追い詰めた猪みたい、今度は絶対捕まらないんだから!
さぁ、遊びの時間よ?
●追われる狩人
こつり、こつりと足音が近づいてくる。耳に入ってくる音からして一人。音の大きさからして質量は人間。恐らく男。数々の場数を踏んできた麟にとってはそれぐらい容易い事。
「ふーん狩人を追い詰める気なんだ?」
後ろは振り向かない。――本来であれば、後ろを見せた時点でその獲物は狩られるもの。だけれど狩人たる麟にはその才も、その技能もある。只の人間に気後れなどはしない。
森で生きてきたからこそ、麟の視野は広い。普通の人間よりも広いそれを持った麟を捕まえる事は容易くない。角を曲がり、壁を蹴飛ばし、飛び越える。男の幻影は驚きながら麟がくるりと宙で舞うのを見送る。
「ついてこれるかしら?」
その目の端に捕らえた幻影は麟からしたら嫌な形をしていた。幻影は確かに男の形をしていたけれど、その中に一人では捕らえ辛かった大きな獣だったり、毒が利きにくくしぶとく動き回る獲物だったり。――確かに麟とて最初から狩りが上手かったわけではない。その苦い思い出と、嫌な記憶しか残らないそれを幻影の中に見た。
それは子供の頃、自身を追い詰めた猪。何所までも追い掛けて来るしぶとさ、そして真っ直ぐに自分を狙ってくる巨体だった。魔除けとして使われるその形をした目は麟にとっては苦い思い出の詰まった物だった。
「今度は絶対捕まらないんだから!」
狩人として成熟した今なら。どうすれば、どう動けば獲物として狙われた自分が捕まらないかなんて分かり切っている。
「さぁ、遊びの時間よ? 思う存分、楽しみましょ」
駆け出した足は、猪の目が遠く見えないところまで去っていった。
成功
🔵🔵🔴
日向・陽葵
SPD
(逃げたいもの:2020年4月15日公開の宿敵)
現状維持しか思い浮かばないなあー幸せ。安上がりだけどお得感あるなあたし
さて鳥の次はぁ……は?
なんで。動いてんの。首無いのに、あの女
何で。何でだ。国は、ばっちし締め殺したじゃんか。もうあたし、王冠持ってないよ。アキさんも、陽翔もヒナも懺悔終えたし
処理が未了だった? 火葬場の罪骸は全て南海に撒いたよね。海に——オブリビオン化はない、ないわ
いやあるけど居るけど!? うわ速、蝶って速く飛べんの!? ヒール折ってでも全直疾走で逃げまあっす!
……待って。そもそもあの女、あれ? 誰よあいつ。滅したはずの故郷で見た覚えがない
でも、あの女は。あれは、オウガだ
●それも良いのかもしれないけれど
「現状維持しか浮かばないなー幸せ」
元の世界に戻ってきた陽葵はぼんやりと空を見上げた。それで良いのかと問われたら良いのかもしれないと薄ら開いた唇と瞳を閉じた。安上がりではあるけれどお得感はある。今に満足している事はそれだけで満ち足りているのだ。絶賛する声だって別に悪くはないと思うけれど、それを特別ヨイショされるように持ち上げられるのは何処かこそばゆくて落ち着かない。その中の言葉は全て陽葵にとって耳障りが良いものとは限らないし、何より勝手な決めつけだってある。――だったら普通の幸せが、善い。
「さて鳥の次はぁ……は?」
ひらり蝶が舞う。白い蝶は夕陽に溶けず、白いベールの中の鳥籠からひらりひらりと舞っていた。紋白蝶にも見間違う程の白い蝶の主はマーメイドテールのドレスの裾を引き摺りながら陽葵へと近寄って行く。
「……何で。何でだ。ばっちり締め殺したじゃんか」
白い袖は陽葵を手招く様に揺れて、袖は己の頭を差し示した。頭にあった王冠は何処? それとも何処かに隠したの? 懐を指し示しては無い頭をかくりかくりと傾けた。
「もうあたし、王冠持って無いよ。……アキさんも、陽翔もヒナも懺悔終えたし」
終えた筈だった。処理が未了だった? 火葬場の残骸は全て南海に撒いた筈だ。だからそれが目の前にいるわけがないのだ。海――その海が骸の海、のわけがないか。再度オブリビオン化したとしてもそれは有り得ないと陽葵は首を横に振るう。
ぶわりと生暖かい風が吹けば陽葵に向かって白い蝶たちは背中を押される様に勢いよく飛び出す。
「やば、」
あれに追いついたら、今度は間違いなく喰われる。ピンヒールを勢いよく折り、疾り易くなった足は全力で駆け出し、角を曲がる。追い風を味方に付けた蝶たちはその角を曲がり切れず陽葵のが曲がった角を通り過ぎて行く。
「行った?」
それでも足を止めず、白い蝶が通り過ぎたのを見過ごすとぜえぜえと肩を上下させながら呼吸すると苦しかった肺は脈を打ちながら緩やかに落ち着きを取り戻していく。
――そもそもあの女、あれ? 陽葵の記憶にない女だった。滅したはずの故郷で見た覚えがないあの女は、自分に記憶が無ければ別の人格の誰かが覚えていた女かもしれないが――陽葵は人格の共有なんてできないから。
「誰よあいつ」
しかしひとつ分かるのは。あの女は。確かにオウガだった。
成功
🔵🔵🔴
城野・いばら
まっカなお空がクロに染まってく
何だか胸がざわざわするわ
それにこの音楽はなぁに?
――ね、アリスは何かしっている?
未だ夢見てるのかなって
頬抓ってみるけど、アリスは其処にいて
そうして気付いてしまったの
アリス、…どうしてペンキを持っているの?
白薔薇と塗料のお伽話は、ちっとも愉快じゃない
ペンキを持ったトランプさんはお断り!
でも、もしも
アリスがいばらを塗り替えようとしたら?
ソレは考えたくないifを写したようで
大好きなアリスの願いは叶えたい
けど、けど…困ってしまう
この件は…
一旦持ち帰らせてくださいぃ
気分は全然元気じゃないけど
日傘拡げて
兎に角、筆の届かぬ方へ広い所へと
時に追われる兎さんもこんなキモチなのかしら
●赤いペンキと黒いお空と白い薔薇
「なんだか胸がざわざわするわ」
いばらが見上げた空は赤が黒に染まっていくところだった。いばらが見た事のあるお空は時に暗くて雨が降るけれどこんなに昏くなる事は無く、聞き覚えの無い不安定な音楽は胸をざわつかせて落ち着かず胸の辺りを抑えてみるけれど収まる気配は無い。
「まだ夢を見ているのかしら」
隣にいるアリスだったら、何か知っているかもしれない。アリスは何でも詳しいから聞いてみようと思った頭をゆるく振って、手で押さえて髪型を整える。寝癖がついていたとしたらアリスに失礼だもの。未だ夢を見ているかもしれない瞼を擦り、頬を抓って眠気を覚まそうとするも走るのは痛みだけ。
「ねえアリス」
お空はどうして昏いのかしら。この音楽はなあに? 聞こうとしたのに。それがその手に持ったモノが全部を塗り潰していった。
「……どうしてペンキを持っているの?」
ブリキのバケツに入ったペンキと刷毛は暗くてよく色が見えない。赤か黒か。少なくとも、いばらの目には白には見えなかった。
「白薔薇と塗料のお伽話はちっとも愉快じゃないわ」
ペンキを持ったトランプさんは勿論お断り。……でも、もしも。アリスがいばらを塗り替えようとしたいのだとしたら。眉間に皺を寄せた表情は愁いを帯びる。
「それは……考えたくないわ」
だって、それはいばらがいばらでなくなってしまう。
大好きなアリスの願いは叶えてあげたいけれど、けど。
「この件は……一旦持ち帰らせてくださいぃ」
気分は全然元気ではないけれど、ぱっと日傘を開いて、日を遮れば準備は万端。アリスが刷毛を構えて塗り潰してしまう前に。地面を蹴ってふわりふわりと風に乗って浮かべばアリスと呼んでいたそれから遠ざかって行く。それもまた、いばらを追い掛けるけれど空飛ぶ薔薇には手も、刷毛も、ペンキも届かない。
「ごめんねアリス……置いて行ったりして」
でもその刷毛とペンキは良くないの。良くない。ふわり、ひらりと風で揺れる服を抑えながら広い場所へと、空を往く。
「時に追われる兎さんもこんなキモチなのかしら」
あの兎さんは時計ばかりを見ていた気がした。自分は時間よりもお日様を追い掛けている方が好きだからその気持ちはよく分からないけれど。ふわり、ふわりと揺れて空を舞う。
大成功
🔵🔵🔵
豊水・晶
全身が黒く口の歯だけが異様に白い。枯れ木のような細い体を鎌のような四つ足で支え、うねうねとうねる触手が至るところから伸びている。
あっ…ひっ!
違う。あれは違う。自分に必死に言い聞かせるも恐怖が体を、心を支配していく。例え幻であろうとも、それを見ただけで理解させられた。私はまだ弱いままだと。
村を襲った二回目の邪神の侵攻。尖兵として送られてきたそれに私たちは蹂躙された。私が護るべき人も土地も竜脈も、そして私自身さえも。恐怖で頭が回らない。逃げなければ遠くへ、奴らに追い付かれれば最後。また蹂躙されてしまうから。戦力で遠くへ。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。
●誰そ彼時に見ゆるのは
それは邪な神の一つ。全身が黒く、歯だけが異様に白く、枯れ木の様に細く長い体は鎌の様な四つ足で立っていた。うねる触手はその体の至る所から伸びて、空に近い触手は空を切るが地面に近い触手は辺りをぺたり、ぺたりと触っていた。――暗くて見えないのだろうか、その歪な形をした邪神は辺りを探りながら晶に近付いてくる。
「あっ……ひっ! 違う。あれは違う……!」
髪を振り乱しながらも自分に言い聞かせるも、恐怖が体を、心を支配して行く。がたがたと震える体を抱えるも震えは止まらず、心臓の高鳴りは増すばかり。――例え、それが幻であっても。それを見ただけで体が、心がそうなってしまうのは……。分かっている。ゆっくりと息を吐き出し、心を落ち着かせた。
「私はまだ弱いままだ」
初めて村を襲ってきた時はまだ良かった。力を付けていなかっただけか、はたまた地の利を生かした戦いができたからか対処できた。けれど二回目は。知恵を付けたのか。それとも力を付けたのか定かではないが、尖兵として送られた際に圧倒的な暴力の前に捻じ伏せられた。人も、土地も、竜脈も、自分自身さえも。
そんなものは二度と味わいたくない。失いたくない。けれど体は恐怖で動いてくれない。
「動け……動けっ……!」
震える体を、膝を、足を叩き、動けるようになればそれに背を向けて走り出した。遠くへ、遠くへ行かなくては。
「もう二度と、やられてたまるものかっ……!」
此処に居る筈のないそれから逃げる為に二本の足は走り出す。何もできずに踏み躙られるのはもう嫌だ。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『『写真屋』観月・望実』
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POW : はい、笑って笑って
レベル分の1秒で【カメラから感覚を鈍らせ精神を消耗させる光】を発射できる。
SPD : ねえ、笑ってよ
【暗闇から触れるとトラウマを誘発する狂気 】の霊を召喚する。これは【暗闇の中へ引き摺り込む手】や【暗闇の中に融解するため切り裂く爪】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 笑えって言ってるだろ
戦場全体に、【嫌な記憶を思い出させるフラッシュと写真 】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:瓶底
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠琴平・琴子」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●幸せは底
祖父さんが学校でずっと写真を撮ってる間、笑わなかった子がいる。孫の自分が言うのもなんだが、祖父さんは笑顔が撮るのがとても上手だったから不思議だった。だから自分が写真を撮れば、その子の笑った顔を撮れば祖父さんを越えられるんじゃないかって。だってそれって凄い事じゃないか! 祖父さんが出来なかった事を俺がやり遂げるなんて!
「それって、とっても凄い事だよなァ」
柔和な祖父さんと比べて自分は笑うのが下手くそだし、人の笑顔なんて撮れなくていつも怯えさせてばかり。その事に気付いたのは祖父さんのカメラを持って写真を撮り始めた頃だった。でも、それと同時に気付いた事がある。
――愉しい。怯える顔を撮るのが、愉しいと。祖父さんにはできなかった事を自分ができていると感じる度に劣等感が優越感に成っていく。
「笑って」
カメラを構える度に。
「笑えって」
フラッシュを炊く度に。
「笑えって言ってるだろ!」
シャッターを切る度に。
「笑え、笑えよ、なあ。笑えって」
そう思うのに、笑わない被写体が悪い。そうに決まってる。俺は祖父さんの孫なんだから。そんな事できない訳がないんだ。
だけど今日も、カメラの中には怯えた顔ばかりが写ってる。その画面に、反射した自分の顔が笑っていたのに気付いたのは、何時からだっけ?
●シアワセはソコ?
追い掛けて来るそれから逃れた先に彼らが辿り着いたのは古ぼけた写真館だった。外に向けられて飾られた写真立ては全て埃が被って傾いていて、ポスターは色褪せて読めない。透明な窓ガラスは雨風に吹かれて泥が付いていてもう既に手入れがされていないのが目に見えて分かるだろう。
古びた蝶番がきい、と音を鳴らして開けた扉は三十人程入っても平気な大きな撮影室だった。撮影用の白いウォールペーパーは破れており、大人数で撮る様に用意されたであろう段差は壊れて放置されていて、この場所が既に使われていない事を証明しており、触れれば壊れてしまう程脆くなっている。
「今日の被写体はお前たちか」
こつ、こつと足音を鳴らして溜息をつきながら入ってきたのはカメラを片手に携えた観月・望実だった。
「つまんなさそうな被写体。お前たちはちゃぁんと笑ってくれるわけ?」
仮にも商売道具であるはずのカメラを片手で肩をとんとんとする姿はカメラを持って生業とする人に見えるものの――UDCという人の形をした化物でしかない。
「怯えた顔。泣きっ面。……そろそろ飽きてきた頃なんだよね。それもメチャクチャ良いんだけど笑った顔が撮りたいわけ」
分かる? と首を傾げた観月は不気味な薄ら笑いを浮かべる。
「被写体は、カメラマンの事理解してくんねえとコッチだって困るわけ。わかんねえって言うんだったら――痛い目見ても知ってもらうからよ!」
手にしたカメラが映し出すのは果たして。
銀・麟
あなたカメラマンなの?ふーん
私、カメラに撮られるの嫌いなの、だから絶対撮らせてあげない。ケムリでも撮ってれば?
ケムリの中でも私射てるから
この弓(蒼月)からは、絶対に逃れられない!
●煙対鏡像
「あなたカメラマンなの? ふーん」
鏡像を映し出すカメラを眼鏡のレンズ越しに冷たい眼差しで見下ろすと男は下品な微笑みでカメラを構えようとしたが、素早く麟の爪先が球体を投げつけた。からん、と音を立てて地面に落ちれば火の付いた導火線が球体を爆ぜさせ、男の周りを煙が包み込んでいく。
「なっ、何だっ!? 煙!? ふざけた小細工しやがって……!」
「ふざけた小細工なんかじゃないわ、ちゃんとした罠よ」
「何だとっ!?」
辺りに撒き散った煙を大きく吸い上げたのか大きく咳き込みながらも腕を大きく振り回し、煙を散らそうにも散って行かず、カメラを振り回す。多少の煙は散っても視界は遮られたままだった。
「私、カメラに撮られるの嫌いなの、だから絶対撮らせてあげない」
「クッソ! なんっも見えねえ!」
「ケムリでも撮ってれば?」
男が地面を踏み鳴らすとシュパン、と頬を矢が掠める。その正体を知ろうにも目には捕らえられず、頬を拭うとぬるりと鮮血が手にべったりと付いた。
「うわあ!!」
「なんだ、まだ生きてるの」
「てめぇ……何処だよ! 隠れてるなんて卑怯じゃねえか!」
「卑怯? ケムリの中でも私射てるから。全然卑怯じゃないわよ」
狩人たる麟にとっては使えるものは全部使い、それを利用して、立ち回るのは普通の事。尚且つ、視界が不良であろうとも、獲物の位置が不明確であっても、耳を立ててその音の響き・大きさで位置を把握して射止めるのが狩人である。それを幼い頃から教わり、学んできたから麟はできるのである。それを何も知らない、ただの人として生きた筈だった男なんて格好の餌でしかない。
「凍てつけ」
例え視界が晴れていなくても。位置が不明確であっても。音が一つあればいい。それは確実に場所を突き詰めてくれる。氷を纏った矢は男に向かって放たれる。それは、嫌いと蔑む冷たい眼をカメラに、男に向けられたものと同じ。冷たい眼と矢は男の手に、身体を凍てつかせて動きを鈍らせていった。
大成功
🔵🔵🔵
津崎・要明
真打登場ってか
バトルデータ記録装置を起動して敵を視る
オマエ、UDCだろ?
俺は満面の笑みを浮かべる
しかも写真屋って願ったりだろ
「エート、急な申し出ですんませんけど、俺と宇宙に行かないか?」
あ、やべ、今絶対デンパだと思われたわ
でもUDCエンジニア、UDCの協力求ムなのだ。
「可住惑星構築計画」活動記録撮ってくれるヤツが欲しい
きっと苦労するけど、すっごい沢山笑顔も撮れると思うんだ
どうだろう?
ま、取り敢えず止めてからかな?
「ツルガー」から「手裏剣」射出
一斉発射、範囲攻撃、乱れ撃ちで包囲網形成UC発動
なあ、新しいカメラに買い換えて出直そうぜ
(連携アドリブ歓迎です)
●鏡像対影
「真打登場ってか」
人の形を取りながらバトルデータ記録装置のゴーグルを嵌め、機動させながら要明は敵を視る。お、と声を漏らしながらゴーグルを外すとにやりと満面の笑みを浮かべた。
「オマエ、UDCだろ?」
「……だったら何? それが? 今関係あるわけ?」
男はいらつきながら足元でとん、とんとゆっくりリズムを刻む。その顔はいらつきの表情を隠しもせずに剥き出しであった。
「関係ありだね」
要明の見立てが間違いでなければそのカメラは故郷である宇宙やUDCアースの現行版と比べてしまえば多少性能が落ちているらしきもの。しかし要明が求めているのは高性能であれば嬉しいけれど、別にそれは重視しない。
「エート、急な申し出ですんませんけど、俺と宇宙に行かないか?」
「……ハ?」
唐突な申し出に男はいらつきの表情が抜け落ち、呆れた顔へと変わっていく。その代わり様に要明はあ、やべと声を漏らした。今絶対デンパだと思われた。突拍子も無い発言をすれば誰だってそうなるだろう。けれど、要明には叶えたい夢があった。それを叶える為の布陣を作るため。この際使えそうなモノなら何でも良い。だが、今目の前にはUDCエンジニアならぬUDCそのものがいる。それが協力してくれたら自身の野望には一歩近づく。
「俺はUDCの協力求ムなのだ。そしてお前は写真家。俺の『可住惑星構築計画』活動記録を撮ってくれるヤツが欲しいし、それにはピッタリだ」
「へえ。惑星。へえ」
「きっと苦労するけど、すっごい沢山笑顔も取れると思うんだ。どうだろう? 悪い話じゃないと思うが!」
賛同してくれるのであれば、この手を取って欲しいと人型の手を差し出す。俯いて、要明の姿を見下ろしているのかと思った。けれど男はその手を取ろうとしないし、表情は眉間に皺を寄せて唇を釣り上げて嘲笑していた。
「バッカじゃねえの。惑星に行く事なんてしねえっての」
パチンと指を弾けば暗闇から這い出る尖った爪が要明の体を切り裂こうと向かって行く。げ、と声を漏らした要明は一歩後ずさったものの目の前の男と同じUDCの肉から作り上げた加利ツルガーから手裏剣を作りだし、射出する。一斉に出し、暗闇の爪に当てるだけでなく男の周囲にも撒き散らす。これで男は逃げられない。
「メカニックの朋友たる、汝デンキなる者よ。我が力となりて敵を打て!」
自分で作り上げたUDCマシンの雷撃発生装置を掌に構え、地面へと押し付ける。人の形を保っていた姿は不定形の液体へと地面に触れぬよう、雷撃に触れぬよう、姿を変えた。バチバチバチと音と光が爪と男に襲い掛かり、そのカメラにはレンズにヒビが入ったかのように見えた。
「く、そがあ……」
未だ痺れて動けぬ体は地面に膝を付き掛けるも屈したりしなかった。体は傷つきながらも、未だに笑顔を撮る事に執着している瞳をしていたのだから。
大成功
🔵🔵🔵
豊水・晶
アドリブ、絡み◎
まだ、震えはおさまりませんか。
あんなものを見たあとで笑えるわけがないのですが、彼自身何か薄気味悪い感じがします。
「笑えと言われても、私達が笑顔になるような話題がないのであれば難しいですね。人の感情に合わせて、それを相手に伝える役目を持つのが笑顔などの表情です。楽しくも面白くもないのに笑う理由などありません。」
「逆に、今の貴方は愉しそうですが一体何をしようと為さっているんでしょうね。」
「何か危害を加えようというのなら全力で抵抗させていただきますのでご容赦ください。」
何だかすごく嫌な感じがするので何かされる前に潰します。
指定UC発動 見切りと軽業で一気に距離を詰めて攻撃します。
●狂気対玻璃
武者震いでは無く、恐怖からくるモノは未だ晶の体を震わせていた。がくがくと震える体に触れてしまえば崩れ落ちそうではあったが、敵である男を目の当たりにして逃げるわけにも崩れるわけにはいかないと持ち堪える。
「鬼ごっこ、楽しかったぁ?」
男は厭らしい笑いで晶に目線を合わせるも、唇を噛み締めた彼女に睨み返されてしまい、下品な笑みはより一層深みを増したかのように見えた。
「楽しいわけ……ないじゃないですか……」
「そんな元気があるなら上等じゃん。はいはい、笑ってー」
「笑えと言われても、私達が笑顔になるような話題がないのであれば難しいですね」
カメラを構えた男に晶はきっぱりと断る。男の顔がひくりと引き攣ったのが目について一つの考えが浮かびあがった。――この男、このまま話を続けたら本性を露わにするのかもしれない。
「人の感情に合わせて、それを相手に伝える役目を持つのが笑顔などの表情です。楽しくも面白くもないのに笑う理由などありません」
「俺が笑えって言うんだから、ソッチは笑ってりゃいいの」
「逆に、今の貴方は楽しそうですが一体何をしようと為さっているんでしょうね」
「俺はッ、写真屋なんだよっ! 写真屋が人の写真を撮って何が悪いわけ!?」
悪いわけではない。――けれど、その態度は、その表情は、その姿勢は。けして写真家としては相応しいものには思えなかった。笑顔になってほしいのであれば、それに相応しい身振り、楽しませようという態度がある筈。なのにこの男にはそれが無かった。それが微塵も感じられない。ただ自分の為に行えという我が侭でしかない。晶には癇癪を起こしている子供の様に見えた。
「何か危害を加えようというのなら全力で抵抗させていただきますのでご容赦ください」
「五月蝿いなァ! 黙って笑ってりゃあ良いんだよ!」
忠告はした。けれどその声は男には届かない。理解しようとする心がある人であったのならばきっとその声は届いたのかもしれないけれどUDCと心を通わせることなどできる筈も無く。男が影に手を入れ、何かを引っ張り出して喚び出そうとするのを冷たい眼で見た。晶は説得するのを諦めた様に目を伏せ、その唇をゆっくりと開いた。
「――数多の竜が空を渡るが如く」
ふわり空に浮かんだ体は天を翔る竜の如く。生温かった空気は冷たくなり晶の髪を、服の裾を揺らして相手の動きを見切り、軽くなった体は距離を詰めた。
「――刹那の間に幾閃と」
暗闇から這い出る狂気が出る前に。瑞玻璃剣の一刀は影を地面に縫い付ける玻璃となり。もう一刀は男の頭へと振り下ろされる。
「は?」
頭の上から降ってくる一刀に反応できる達人でもない。元はただの人だった。だから避けようとしても完全に避けきれず頭を、肩を、手を掠めて行く。
「貴方に笑顔なんて撮れるとは思いませんね」
人を、神を、笑顔にするどころか恐怖に陥れるなんて。それで笑顔の写真が撮れるわけではない。信仰あってこその神だった者は、多くの笑顔を知っていたし、どうしたら生まれるのかが分かっていた。
嘗て神であった竜神の晶は男の体から流れ出るどす黒い液体を眺めながら否定の言葉を呟く。
「貴方にはきっとできない事ですよ」
大成功
🔵🔵🔵
日向・陽葵
飽きもせず、よく言うよね。ヨイショにおべっか美辞麗句。写真まで、付けちゃってさあ……ははっ
あーヤダなー、ヤダ。ビビるのも無理ないっしょこんなの。何もかも
逃げたい。逃げれるんだよね、スタンガン。押し付けられちゃう
……っああもう!! 陽翔って毎回こういう目に遭ってるわけ!? あはっ涙でできちゃったけどこれ恐怖か嘆きか嬉しみかどれかどれでもいいか!! あっはははー乾いてんな、感情
塗り潰して上重ねちゃえ。好きな色でさ。全部全部もう一回を繰り返せば無問題じゃん!
要らないんだよこんな思い出。こんな。こんな笑えない国
我が身可愛さで見殺しを甘受する国なんて。全員殺さないと。見殺された仏は、報われなかったじゃん
●光対黒
「君さ、凄い恰好してるね。良いねそれ。ねえ、もっとそういうの撮ろうよ」
パシャリ。陽葵に向かってフラッシュがたかれると辺り一面は陽葵の写真が張り付いた空間になる。逃げようたって、ぐねりと曲がりに曲がった迷路はそう簡単に出られるわけがない。
「は、」
飽きもせずよく言うと思った。ヨイショにおべっか。美辞麗句並べて。――おまけに写真まで付けて。ちやほやされて褒められて。ビビらないわけがないじゃん。
「……ははっ」
吐き出したのは笑いと、一抹の不安。どうして自分がそんなに褒められるのか。少しも分からない。自分は、ただやりたいことを。したい恰好をしているだけだというのに。
「ねえ、君はちゃんと笑ってくれる?」
どうかなあ。様子を伺いながらも手元にあるカメラを弄る。よりいい写真を撮るためならばカメラもちゃんと弄らないといけない。けれど男のカメラはレンズの長さを変えるだけで、カメラの設定だって適切なものとは思えない設定ばかり。
「あーヤダやー、ヤダ。ビビるのも無理ないって」
色んな事があって。意味も分かんなくて、できる事なら今すぐにでも逃げたい。懐にあるスタンガンを体に押し付ければきっと誰かが助けてくれる。誰かって? 陽葵の中にいる人格の誰かが助けてくれるかもしれない。……でもまた自分が、陽葵自身が呼び出されるかもしれない。それは運任せで時任せでもあるけれどそんな痛い事も何回もしてられない。だって怖い。痛いのも嫌だ。何も味わいたくない。
「……っああもう!! 陽翔って毎回こういう目に遭ってるわけ!?」
頭を掻き、振り乱しながら叫ぶ。大人しかった陽葵の突然の叫びに男は肩を跳ねあがらせた。
「うっわビビった……なーに。そんな声出せんの。はー。……君、面白そうだ」
「面白くなんかないよ」
ただ洋服が好きで。したい恰好をして。大学に行って。人格が入れ替わったりもして、他の人格に感情を明け渡した、感情が四分の一しか無い多重人格者。
「あはっ、涙でてきた」
陽葵は人間であるから、感情が揺さぶられれば涙だって出てくるものの、それが恐怖か。嘆きか。嬉しさのどれかなのかは分からなかった。薄っぺらくて、乾いている感情ではあるけれど、体は反応を示す。
「何時撮ったの? あたしの許可も無く? ははっ――ウケんな」
手にした記憶召喚銃は男に向けた。う、と言葉に詰まった男は慌てて両手を上げるもその銃口は空へと向けられ、空砲の音が鳴り響いた。
「ぜーんぶ塗り潰して上重ねちゃえばいーじゃん」
空に放った空砲は真っ黒な雨となって空から弧を描きながら写真へと被弾する。真っ黒な泥水だった。べちゃっと写真に被弾しては陽葵の顔を、体を、塗り潰していく。
「てっ、めぇ……! 俺の写真を!」
「あたしの大好きな黒。こっちの方がやっぱ良い」
べちゃ。べちゃ。べっちゃりと写真に被弾していく度に男の顔が引き攣っていった。自分の撮ったであろう写真が塗り潰され、その度に男の顔が青ざめて行くのに陽葵は笑いそうだった。
「要らないんだよこんな思い出。こんな。こんな笑えない国」
べた。べた。べったり。黒い衣装を身に纏った陽葵の写真が殆ど塗り潰されて、地面に散っていく。散った写真の上に陽葵はヒールの折れた靴で踏みしめた。
「我が身可愛さで見殺しを甘受する国なんて。全員殺さないと」
ぺた。ぺた。ぺたりと泥の付いた靴で男に近寄る。空に向けていた銃口は男の額へと向けられた。
「――見殺された仏は、報われなかったじゃん」
ねえ? 同意を求める声に反応は無く。かちりと安全装置を外し、引き金を引く。
飽きれた世界にさようなら。
大成功
🔵🔵🔵
フィーア・アリスズナンバー
……笑え、deすか。そう言ってる割niは、笑った顔を映すのは好きsoうじゃありまseんね。
笑った顔がhoしければ、幾らでもあgeますよ。
ほra、ニッコリと。
でも、あnaたは永久に納得しnaいんでしょうね。
感覚を鈍らseる攻撃に対して、限界突破で鈍った分をチャージ。
わtaしが攻撃を受けてる内に、木馬さんから一気にUCを起動して、そのカメラを狙いmaす。
カメラを壊したら、接近戦に持ち込んで怪力で動きをとmeます。
貴方のレンズは、こんなことで幸せを映せるのですか?
ただ聞きたかった。UDCに聞いても意味がないのに。
そのまま、答えを聞いたら殴り抜けます。
●笑顔対笑顔
「……笑え、deすか」
そう言う割には笑った顔を映すのは好きそうじゃいと思ったのは、男の足元に散らばった笑顔ではない写真の数々。けれどお望みであれば――。
「笑った顔がhoしければ、幾らでもあgeますよ」
ほら、ニッコリと。フィーアが目を伏せて唇を釣り上げるもすぐにその顔は笑顔ではなくなった。
「――でも、あnaたは永久に納得しnaいんでしょうね」
「そーだねェ……でも。笑ってくれたんだから、そのお礼はしないとさ」
カメラを構えてシャッターを切った男は、フィーアをレンズ越しに捕らえた。パシャリ。音が鳴ったと同時にフィーアから感覚が奪われる。今の光は、五感の内の感覚を鈍らせるものだった。がくり、と崩れ落ちそうになる足を叩き、地面を踏みしめて耐えた。
「BETは、最大」
木馬の体の中からガシャンと音が鳴る。その口からは細身の銃口が突き出て、一斉に弾丸が放たれる。盛大な行進曲に男は慄き、体を低くするが一斉に放たれた弾丸の中には男を追いかける誘導弾が膝に着弾した。
「ぐあッ! 何したてめェ!」
「何っte、こういう事deすよ」
ガシャンと木馬の中に素早く収納された銃口は姿を消したかと思えば、木馬は口を開けたまま。光を集めて、その矛先はカメラへと向けられた。
「では、show down」
手札を明かそう。その掌の中――もとい、木馬の口の中にあったのは光。ただの光ならばカメラのフラッシュで掻き消せた。けれど。熱を含んだ光はフラッシュだけでは掻き消せない。その光の矛先が自分のカメラだと言う事に気付いた男はカメラを庇い、ビームキャノンを体で受ける。
熱い。体が焼ける感覚に、もしかして体に穴でも空いているのではないかと錯覚するような熱さに男の身が悶える。
「ッぐ、うゥっ……!」
地面に転がる非力な男の体を力で捻じ伏せ、動きを止めた後にフィーアは疑問の言葉を投げかけた。
「貴方のレンズは、こんなことで幸せを映せるのですか?」
「幸せ? ッハ、幸せね……そんなもん知るかよ。俺は笑顔が撮りたいだけ。幸せが撮れるなんて、そんなん結局写真を見た人によるし、不確かなもんじゃん」
「そうdeすか」
この問いで何か引き出せるものがないかとか。そんな打算は無かった。ただ単にフィーア自身が聞きたかっただけ。UDCに聞いたところで意味はないかもしれない。けれどそれでも聞きたかったのだ。この男が何が目的で、何を表現したかったのか。
その答えに得られるものは無かった。それに苛立ったわけでも恨みがあるわけでもないが拳を握り、男の顔を殴る。
「そこに、笑顔haありましたのに」
――彼女だけが、笑顔を作ってくれたというのに。男はシャッターチャンスを逃したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
被写体…撮る?
飾ってあった姿絵の事かしら
笑顔がほしいの?
それが望みならと
魔法の紡錘回してUC発動
描き紡ぐのは
にこにこ笑顔の兎さん
まだまだ続くよ
笑いと言えば三日月お口の縞猫さん
謎々好きなずんぐり卵さんに
いつも眠たげ鼠さんも笑えばきっと可愛いの
どのコも素敵でしょ
アナタに向かって皆でチーズ!
全ての光は防げないかもだけど
こっちよあっちってアナタの視線をお誘いし
猟兵のアリス達への攻撃をかばう盾となれたら
いばらも笑顔が好きよ
笑ってくれると嬉しくなるの
でもそれはムリに咲かせるものじゃない
アナタのやり方は…ペンキと同じだわ
不思議な薔薇の挿し木を伸ばし
アナタを捕縛したら生命力吸収
怒ってばかりのアナタにおやすみを
●住人対一人
「笑顔がほしいの?」
いばらの国には写真なんてないから、被写体。撮る。もしかして姿絵のこと? そう首を傾げながら不思議そうに目を丸くした。
「それがお望みなら」
頭を軽く下げて、魔法の紡錘・トロイメライをくるりと回せばいばらの想像力ショータイムの始まり。先端が空を指し示し、動き出すところを男はじっと見つめながら何を描かれるのかカメラを構えた。
「どんな笑顔を見せてくれるわけ?」
「それは見てからのお楽しみよ」
――暫くして。
できた! といばらが両手を挙げればにこにこ笑顔の兎さんのできあがり。にこにこ。ぴょん、と跳ねる兎はいばらの周囲をぐるりと駆ける。
「まだまだ続くよ」
それでもいばらの想像ショータイムは続いて行く。今度は笑いと言えば三日月お口の縞猫さん。謎々大好きなずんぐり卵さん。いつも眠たげ鼠さん……は笑えばきっと可愛いはず! そう信じて描き出したいばらの国の住人たちは、全部いばらの信じた無敵の住人達。
「どのコも素敵でしょ」
どうかしら? そう手を広げて並んだ兎、猫、卵、鼠たちはいばらを囲むように、盾のように立ちはだかる。
「へぇ。撮らせてくれるの?」
男がカメラを構えるのを見て、こくと頷けばパシャリとシャッターが切られる。ふら、と体がよろめくも確と立ち上がればいばらの国の住人たちは心配したもののいばらが平気と呟けば各々好きな様に散らばった。
兎は野を駆け回って、全然止まらない。三日月口の縞猫はニヤニヤ笑っているけれど姿を消したり、表したり。謎々大好きずんぐり卵さんは喋れないから謎々が出せずに不機嫌のまま。いつも眠たげ鼠さんは……寝ている。これでは笑顔なんて撮れっこない。
「なんッ何だよ!」
イラつきながら地面を何度も蹴る。近くにいた兎は驚きながらいばらの元へと駆け戻った。
「いばらもね、笑顔が好きよ」
しゃがんで怯えた兎の背中を優しく撫でながら、優しく語りかける。
大好きなアリスたちも、同郷の子たちも、笑ってくれるととても嬉しくなる。花咲くように、ぱっとそれぞれ違う咲き方をする様に笑顔にだって様々な形が合ってもいい。――けれど。
「でもそれはムリに咲かせるものじゃない」
それは嘗ていばらの国で行われた、残虐な行為と似ている。白い薔薇を赤いペンキで塗り潰す様なもの。いばらは首を横に振って、男の意見を否定した。
不思議な薔薇の挿し木を地面に刺し、そこから男の足元に掛かるように枝が伸びる。足元から男の体をぎゅうぎゅうと縛り上げた。枝には棘がない。けれど、枝の切っ先は男の体に軽く突き刺さり体力を奪っていった。
「何、を……」
「怒りん坊のアナタ、少しはいい夢を見るといいの」
良い夢が、見られるといいわね。うとうとしながらがくり、と項垂れた男におやすみを告げた。
大成功
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花菱・真紀
似てるな。なんて思った。
けれどこいつはあいつみたいに口達者じゃないみたいだ。笑顔だって不器用だ。
笑えだなんて。お前の写真じゃ無理だよ。
被写体が写真家の心を理解しろだなんて…きっとそれがわかるからみんな笑顔になれないんだよ。
本当にお前は笑顔が撮りたいのか?
少なくともお前の歪んだ笑顔の前じゃ顔だって引き攣るさ。
人を撮るのが嫌なら景色や動物を撮ったっていいのにそれでも人を撮ろうとして癇癪を起こされちゃたまったもんじゃない。
…UC【匿名の悪意】発動ーー。
これが世間の意見てやつだ。
っ、トラウマなんてもう慣れた!【狂気耐性】【呪詛耐性】
●悪意対無悪意
似ていると思ったのは、何故だろう。目の前に居る男は以前対峙した男の様に口達者でもなさそう。ただ笑えとしか言わない。笑い方だって不器用だ。あれはもっと口で、笑みで、本当に人を死に至らせて貶める怪物のような男だった。けれど、悪意を持って人を傷つける事に関しては似ているのかもしれない。
「そんな堅っ苦しい顔しないでさあ、笑ってよ。笑えって」
辺りにばら撒かれた写真は被写体の顔が怯えているもの。泣いているもの。その中に笑顔なんてなかった。――それでいて笑えだなんて。地面に落ちた写真の数々を見下ろしながら真紀は噛みしめた口を開き、拳を握った。
「お前の写真じゃ無理だよ」
「……はァ?」
被写体が写真家の心を理解しろだなんて無理に決まっている。ましてや歪な笑顔を携えた男にそんなものは無理だと真紀は首を横に振るう。滲み出る歪さを、漂う胡乱さを、隠そうともしない男にそんなものができるわけがないと否定した。
「お前、自分の顔見た事あるか?」
「あるよ。鏡で毎朝起きた時に顔洗って見ないわけ?」
「お前のそんな顔じゃ、笑えないんだよ」
男の動きがぴたりと止まって、笑みが崩れて行く。は、と吐き出した息は再び嘲笑染みた表情を作るが口元はひくっと引き攣り、焦りの色が滲み出た。胸に手を当ててそんな事無いと自信を奮い立たせても、真紀の目には情けない姿に映る。
「俺が笑ってるんだから、撮られる方だって笑うに決まってんだろ?!」
「少なくともお前の歪んだ笑顔の前じゃ引き攣るさ」
現に真紀は目の前にいる下劣な男の表情でちっとも笑えていないのがその証拠。ぎりっと歯を食いしばり男はその場の壁を叩く。脅しの為ではない。――苛立ちによるものだった。
「ああうぜえ、うぜえ……。お前が悪いんだからな。俺を怒らせたお前が。良い気になるなよ!」
撮るのなら別にそれに拘らなくとも、景色や動物を撮ったっていいのにそれでも人を撮ろうとして。真紀の目にはそれを断られて、癇癪を起こす子供の様に見えた。
再びダン、と壁を叩けば暗闇の中か這いずり出たのは影の手だった。真紀の体を、腕を、足を掴もうとして尖った爪先が襲い掛かろうとする。――それは、自分の姉を殺したあの場面を映しだした。
「っ、トラウマなんてもう慣れた!」
狂気も呪いも。全部耐えてみせると、男の口からはへえ、という言葉が苛立ちの声に混ざって呟かれる。
「俺は耐えたぞ。――今度はお前の番だ」
『写真家なのにまともな写真が撮れないなんてダッサ』
『笑顔を撮りたいのに撮れないなんて向いてないんじゃ?』
『写真家辞めちゃえばぁ? 人間の写真まともに撮れないなら証明写真撮影機の方がマシっしょ』
真紀が指を差せば、匿名の仮面が男の周りに浮かんでは笑いながら、呆れながら、何気ない言葉で悪意無き悪意の言葉を頭に響かせながら心に傷をつけて行く。
「うっせえ……うっぜえ……」
がくりと膝を崩して、地面を殴り、頭を抱える男を真紀は冷たい眼で見下ろしていた。
「悪意を持つと痛い目みるんだぜ」
「クソッ……!」
額に汗を滲ませながら胸を掴んで、男は暗闇の中へと体を崩して闇の中へと溶けて行く。その体は跡形もなくなった。
●そうして噂は、いつしか。
「ねえ知ってる? 写真館の男の噂」
いつしか移り変わって、また巡り続ける。
「ねえ、君は笑ってくれる?」
パシャリ。シャッターの音が聞こえた気がした。
大成功
🔵🔵🔵