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禍つ字の街

#UDCアース #外なる邪神

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#UDCアース
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#外なる邪神


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●色彩の雫
 ある快晴の日。
 空の一点が、突如として暗く滲んだ。
 穴にも似たその暗点から滴った雫は、音も無く墜ちていった。
 真っ青な空を、深々と、きらきらと、黒に輝く尾で裂きながら。
 あらゆる色を内包した闇が、一つの街へと舞い降りていった。

 そして。
 水面にインクを垂らしたように、灰色の地に色彩の環が描かれる。
 色づいた万物から滲み出した線と点が、その表面を這い回る。
 そこに秘められた記憶と曰くの結晶たる「文字」達が。
 ちかり、ちかりと瞬きながら、色に染まらぬ者を待ち受ける。

 色彩が齎した「理」の変質。
 かつての塔が悶えるように揺れ動き。
 かつての道で文字の群れが乱れ飛ぶ。

 それは神の再臨を迎える無声の舞踊。
 神の御力を謳う、禍の祝詞。

●グリモアベース
「ああ、急にお呼び立てしてすみません。何しろ突然の事で」
 猟兵達を出迎えたのは、白ネズミを肩に乗せた男、ラヴェル・ペーシャ(ダンピールのビーストマスター・f17019)の慌てた声だった。
 彼にとっても急な招集だったのか、ばたばたと資料をかき集めながら席を勧め、自らも椅子を引き寄せる。
「今回はUDC組織からの緊急依頼も出ています。とにかく、まずはこれを」
 そして挨拶もそこそこに彼が差し出したのは、不思議な光景が描かれた一枚の紙片だった。

 開けた空間と、両側に立ち並んだ直方体ないし多面体。それらの間からねじれた棒が並び立ち、青い背景を区切っている。
 直方体群の大きさは一定では無く、いずれも生物的な雰囲気を宿しており、またそれらの表面には鈍い光沢を放つ斑点が規則的に埋め込まれていた。
 だが何よりも目を引くのは、そのヒステリックで陰鬱な色彩。赤銅色から紫・藍・灰褐色、暗緑色や黄土色と、絶え間ないグラデーションが物体全てを塗り潰している。
 背景の鮮やかな青色が、それらの薄暗い色合いをより一層際立たせていた。

「……絵?」
 覚えず、猟兵の一人が言葉を漏らす。
 なるほど、一面を埋め尽くす奇抜な配色と歪なオブジェクトの数々は、遠目には前衛芸術のようである。
「それは絵画などではありません。写真です」
 だが、ラヴェルは首を振りながら呟くと、改めてこちらへ向き直った。
「先程、UDCアースに邪神が落下しました。正確に言えば、その肉片が」

 ラヴェルによれば、ここはほんの数時間前までは単なる一市街でしかなかったのだと言う。
 何の変哲もないその寂れた街を、天から降り注いだ不可思議な「色彩」が一瞬で塗り替えてしまったのだ、と。
 それこそ、UDC組織の古文書で「外なる邪神」と総称されるUDCの肉片であった。
「古文書が示す所によれば『肉片は宇宙より飛来し、生物・無生物、自然現象に至るまで森羅万象全てを狂気に陥れ、ことごとく外なる邪神の肉体へと作り変える』……だそうです」
 即ち、非常識な表現だが、これは「発狂」した街角、と呼ぶべきだろう。元凶の邪神については未知数だがその危険性は言うまでもなく、UDC組織も最優先対処事項――レッド・アラートとして猟兵に処分を依頼してきている程の異常事態だ。

 そこまで語ると、ラヴェルは張り詰めた空気を切り替えるように軽く息を吐いた。
「幸い、住民達の避難は何とか間に合いました。目立った異変も街の一部に限定されています。肉片を排除しさえすれば、まだ取り返しは付くはずです」
 次いで、より大きな紙面が机上に広げられる。例の街の地図らしく、侵食の度合いで色分けされた円が描かれていた。
 肉片の在り処はその中心。ほぼ真っ黒に塗られた辺りの、廃工場に偽装された教団のアジトである。
 ところが、そこへすぐに乗り込む訳にはいかない、とある事情があるようだ。

「予知によれば、状況はこれから更に悪化していく事になります。侵食はじわじわと、しかし同時多発的に進行し、やがてこの写真のような場所が街のあちこちに出現します。最後には一帯が狂気に呑まれ、街は消滅するでしょう。それを防ぐには、侵食の起点である『祭具』を破壊する他ありません」
 原理は知る由も無いが、どうやら街の各所に配置されている祭具が、件の色彩と同質の力を放っているらしい、という。
 とは言え、場所そのものは不明であり、後は現地に行って調べるしかない。ただし厄介な事に、この街には廃屋、廃工場、空きビル、果ては旧校舎や幽霊団地まで疑わしい建造物は数知れず、片っ端からとなればまず時間が足りなくなるだろう。
 そこで、手掛かりとなるのが「都市伝説」だ。

 元々噂がある場所を選んだのか、人払いの為に噂を流したのか、それとも儀式を執り行う姿や声が噂を呼んだのか。理由はどうあれ、都市伝説の舞台に祭具は隠されているのだという。
 大まかな場所さえ絞り込めれば、後は侵食を辿れば良い。この地の都市伝説を調べる事が祭具への近道、という訳だ。もちろん、より効率的な方法があれば話は別だが。
 ラヴェルが言ったように、残っていた住民は予知を受けたUDC組織によっておおむね保護――あるいは隔離されている。その大半は精神汚染を免れており、直接の面会も許可されているそうだ。余りのんびりとはしていられない状況だが、情報収集に訪れてみる事が結果的には早期解決に繋がる事もあるだろう。

 住民の避難状況まで説明が進んだその時、白ネズミがラヴェルの手を離れ、何か言いたげに最初の写真を前脚で叩いた。ラヴェルも軽く頷き、拡大鏡をこちらへ手渡しつつこう続ける。
「すみませんが、もう一度その写真をよく見て下さい。地面や壁面に文字のようなものが刻まれているのが分かるでしょうか」
 文字、と言ってはいるものの、存在を知られている言語にはいずれも当てはまらない、奇妙な線の集合体である。おまけに毒々しい色の上で無秩序に散らばっている為に、解読はおろか個々の区別さえ困難だった。
「これらは邪神の力が発現したものです。普段はただ物の表面で動き回っているだけの現象ですが、限定的ながら『その物や場所に縁の深い物体、事象』を作り出し、操る力を秘めているようです」
 例えば病院なら注射針やメス、道路なら車、といった具合か。単に物が飛んで来るに留まらず、床や天井など、文字が記されている地形そのものが操作される可能性もあるという。

 そしてこの写真に写っている以上、祭具の周囲にも同様の文字が出現していると考えるのが妥当である。正確な在り処を特定できない限り強行突破する事も難しい。万全を期すならば、事前に防衛策を講じておきたい所だ。
 また、縁深い事象とやらに都市伝説も含まれるなら、それにまつわる攻撃を受ける事になるだろう。調査を進める段階である程度の想定をしておく事が、咄嗟の判断の役に立つかもしれない。

「くどいようですが、祭具が放っているのは『全てを発狂させ、作り変える』危険な色彩。皆さんと言えど、長時間浴びれば何が起こるかも分かりません。処分するだけならば杞憂でしょうが……どうも嫌な予感がします。どうか、お気をつけて」
 そんな不穏な忠告と共に、転送の門は開かれた。


ピツ・マウカ
 どうも、ピツ・マウカと申します。オープニングがやや長いので要約すると、『現代の一市街に落下し、全てを奇怪に変形させる色彩を放つ邪神の肉片を排除してください』となります。肉片の落下地点は廃工場に偽装された狂信者のアジトで、その周囲はこの世のものとは思えないような風景になってしまっています。

 第一章の目標は「都市伝説などを手掛かりに祭具の隠し場所(大体でOK)を突き止める」となります。その他の情報を元にしても構いません。そこまでがクリア条件なので、後はプレイングボーナス(後述)を狙う、取り残された人がいないか探索、などなど、自由に文字数をご活用下さい。
 なお、祭具の近くでは侵食が進行しており、敵アジト周辺同様に異常な空間となっている他、「そこが舞台となっている都市伝説、もしくはその場所自体」に関連した攻撃が発生します。有効な対策があればボーナスです。

 都市伝説・攻撃の内容は指定頂ければ助かりますが、特に無ければこちらで決定します。マスターページにていくつか例示していますのでご参考までに。
 ※敵アジト周辺にも同様の現象が起きていますが、そちらへのプレイングは不要です。

 なお、第二章は祭具周辺での集団敵との戦闘、第三章は敵アジト内でボスとの戦闘になります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『寂れた街のアーバンレジェンド』

POW   :    怪しく暗い場所を重点的に探す。

SPD   :    人の動きや地図から予想を立てる。

WIZ   :    魔術的な探索によって状況把握する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●UDCアース・S市

『――の皆さんにお知らせしま……』

 猟兵が降り立った先は、拍子抜けするほど平凡な市街の一角だった。
 足元のアスファルトにはうっすらと色が付いているように見えなくもないが、それとて普段ならば気にも留めなかっただろう。
 目立った異変が一部に留まっている、というのは嘘では無さそうだ。

 だがひとたび眼を上げた時、「それ」がほんの目と鼻の先にまで迫っている事もまた疑いようの無い事実であると思い知らされる。

『――へ避難をしてください。繰り返します、先程……』

 前方高く広がる青空が、一筋の黒い帯によって真っ二つに分断されている。
 肉片が墜ちる際に描いた軌跡がまだあのように残っているのだというが、まるで実際に聳えているのでは無いかと錯覚する程にその色は濃く、深い。
 それを囲むのは、色彩に染まった廃工場の煙突である。元の面影を残してはいるが、鱗めいた表皮を様々な色に煌めかせながらゆっくりと微動する姿は、既に現世を離れた事を如実に示している。
 そして、それら狂った列柱の根元に、敵は潜んでいるのだ。

『――危険が迫っています。速やかに……』

 避難を呼び掛ける放送のひび割れた声が、物音ひとつ、人影ひとつ無い街に響き渡っていた。
春乃・結希
廃ビルの屋上から手を振るヒト
だけど見に行くと誰も居なくて
下を覗き込むと後ろから押されて…(アレンジ可です)
という話を、住人の方から聞きました

廃墟、良いよね
どんなヒト達がここに居て、どうやって使われてたのか、想像したりして
…これだけ色鮮やかだと、情緒も何も無いけどね

軽く探索しつつ階段を登り屋上から見渡せば
極彩色の街が眼下に広がって
…趣味悪くない…?
なんて景色を眺めているとお話の通り突き落とされて
わっ!…はー、伝説は本当やった。それか邪神の影響で本当になってしまった、のかな?
落ちながらしみじみしつつ、UCで飛んで戻ります

屋上の真ん中にあったけど、とりあえずスルーしてた祭具をwithで壊しておきます



●歪んだ廃墟
 こつこつと響いていた足音が止む。
 赤茶けた道の先には、一つの廃ビルがあった。

 外壁は廃油を被ったような濁った虹色で、上に行く程にその色調は濃くなってゆく。
 屋上の辺りに至ってはどす黒い錆色に染まると同時に妙な光沢を帯びて、呼吸を思わせる規則的な収縮と弛緩を繰り返し、ぐにゃぐにゃと波打つ窓の斑を輝かせていた。
「……ここかあ」
 呟きと共に、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は地図を下ろし足を止めた。

●都市伝説「廃ビルの上で誘う人影」
「何だか大変な騒ぎですね。皆バタバタしててろくに説明も無いし……っと、そうそう。妙な噂でしたっけ?」

 結希が避難所で出会った住人。世間話の体を装ってそれとなく話題を都市伝説に誘導した所、声を潜めながらもどこか面白そうにこんな話を始めたのだった。

 曰く、彼の会社から少し歩いた路地に、一つの廃ビルがある。その屋上に、こちらへ手を振る人影が現れるという。
 けれど、気になって上ってみても、そこには誰も居ない。
 もしや飛び降りたのでは、そう思って下を覗き込むと――。

●通称「亡霊ビル」
 古びたガラス戸を押し開けると、大量の埃が吹き込んだ空気に舞い上がる。
 思わず顔をしかめつつ、結希は背の荷を下げ、包みを解く。顔を覗かせた漆黒の刀身の表面を撫でるように優しく手で払うと、彼女は大剣『with』と共に青紫色の通路をゆっくりと歩き始めた。

 二階、三階、四階。
 結希は一階ごとにフロア全体を眺めながら、少しずつ階段を上っていく。
 いくつかの小部屋の鉄扉が並ぶ、細長い廊下がある。
 そうかと思えば別の階は仕切りを取り払われ、柱だけが立ち並ぶ広い空間となっている。
 とっくに寿命を終えた蛍光灯が天井や床で静まり返っている。苔が生え、そして枯れた流し台がある。事務机や棚や電化製品が置き去りにされている。

(うーん……)
 階を巡る最中、結希はふと立ち止まってぐるりと目を走らせた。
 それら主を待ち続けているような物品や場所にはある種の雰囲気がある。普段なら、ここに居たヒト達、ここの在りし日の姿、そういった想像に浸る事もできただろう。
 けれど今は、あらゆる情報に先立って目に飛び込んでくる色が、どんな印象も掻き消してしまう。
(……これだけ色鮮やかだと、情緒も何も無いね)
 余り見詰めていると、それこそ正気を失いそうだ。
 結希はもう一度短く息を吐き、大剣を握る手に力を込めた。

 階を上るにつれ、壁や階段の角は丸みを帯び、人工的な直線はどこからも消え失せていく。より一層濃くなった色の中、生体めいた壁面の上で写真に見た文字が光を宿し始める。
 そして――錆色の屋上。

(屋上から見渡せば)
 結希はゆっくりと縁に歩み寄り、眼下を望む。

 都会ならばそれ程高くも無い廃ビルからの眺めは、しかしある意味では絶景と呼べた。
 隣のビルも、近くの路地や木々や電信柱も、本来あり得べからざる色合いに染められつつある様が見て取れる。
(極彩色の街が眼下に広がって――)

 その光景を一言で表すと。
「……趣味悪くない……?」
 などと独りごちている彼女の背に。
 突如、衝撃が走った。

 直後、結希は奇妙な浮遊感を知覚し、それから「突き落とされた」のだと把握する。それも一瞬の内に、何の前触れも無く。
 咄嗟に身を捻りながら振り向き様に見上げれば、自分の居た場所に黒い人影が見える。音も気配も持たない、居なかった筈の人影が。
「……はー、伝説は本当やった。それか邪神の影響で本当になってしまった、のかな?」
 聞いた通りの展開にしみじみ呟くその間も、結希は急速に地面へと近付いていく。

 しかし、風を切るその身体に突風が集ったかと思うと、彼女は受け止められるようにして空中にふわりと静止した。
 そのまま結希は体を包む風を操り、今度は上空へと体を運ぶ。
 ただし落ちる時よりも、遥かに速く。

 結希が舞い戻った時、そこに人影は無く、そこの全てが一変していた。
 タイル張りの面影を残す「表皮」が海面の如くうねり、警報を思わせる激しい明滅を伴う文字達がその表面を這い回る。
 先程までの静寂な仮面を脱ぎ捨て、敵意を露わにする生物そのものがそこには居た。

 結希は鳴動する廃墟の上空でぴたりと静止すると、黒剣の切っ先を定め。
 解き放たれた矢のように、屋上の中央、最も濃い色に染まった黒点目掛け急降下する。

 ――ざわ。
 文字が一際強く輝き、同時に視界の端に無数の影が映る。
 だが結希が纏う烈風と、何よりも彼女自身の速度は、それらを呆気なく置き去りにして。
 衝撃と共に、『with』は深々と地面を貫いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リサ・ムーンリッド
結名っち(f19420)と、多喜(f03004)さんと三人で
●心情
ほうほうなるほど、作り変わる!
その変化の源たる設計図は邪神の深層から来るものかそれとも完全なランダムなのか
肉体とするからには何かしらの最適化がある可能性も…いやぁ興味深い
というわけで祭壇探しだ

●都市伝説
死体洗いのアルバイト…というので大学病院を探してみよう
主な警戒は多喜さんに頼る
私は『初歩的な魔法』を活用するよ
火で灯りを確保したり風を流して風が持ってくる匂いに【医術】と【薬品調合】の知見を活かしてホルマリン…都市伝説に関係する場を探そう
怪物の死体…?ハハハまさかそんな
もし敵意ある何かが出たら、逃げつつUCの魔法で反撃


数宮・多喜
リサ(f09977)さんと、
結名さん(f19420)との3人で。

しかしまあ、大学や病院なんて都市伝説や怪談の本場じゃないのさ。
お二人さんも物好きだねぇ……って、
ついて来てるアタシも人の事言えないか。
しかし死体洗いのバイトなぁ……
凄い金になるとかヤバい出所の死体があるとか、
とにかく話題にゃ事欠かないんだよな。
用心の為に二人とは【超感覚探知】のテレパスを繋いで、
不意打ちされないようにする。
あらかじめスマホに『情報収集』しておいた見取り図なんかで、
地下の方へ案内するよ。

ヤバい出所の死体……まさかUDC組織か邪教が絡んでて、
UDC怪物なんかの死体なんかも保存してたり?
……ハハハいやいやまさかねぇ?


紫野崎・結名
リサ(f09977)さんと、多喜(f03004)さんの三人で
●心情
暗くて、不気味…
多喜さん、お久しぶり、です
リサさんが、私が必要って…どういうことかな?

●都市伝説の探索
みんなで、建物に入ります
私は【狂気耐性】で変なものは見えにくい、かも…
…道中は『愉快な楽しい音楽隊』を召喚して【楽器演奏】で、自分やみんなを【鼓舞】します
歌で精神の【浄化】を試みたりして狂気の侵食の【時間稼ぎ】できるといいな…

♪お出かけ前は、おめかししましょ
♪明るい空に負けないように
♪気持ちも明るく、見せつけたくって
♪お洋服も輝くの
♪旅はここから、さあ行こう、おー

びっくりしたら『黒い天使』が出て【咄嗟の一撃】が出ちゃうかも…



●三者三様
 無機質な通路。
 電灯の薄明かりに照らされ、暗闇と緑や赤色に染まった壁面とが交互に続いている。
 その中を進む、三人組。
「いやぁ、興味深い! 作り変わると言うが、その変化の源たる設計図は邪神の深層から来るものかそれとも完全なランダムなのか……」
 リサ・ムーンリッド(知の探求者・エルフの錬金術師・f09977)が興奮気味に紡ぎ続ける言葉が廊下に響く。
「暗くて、不気味……」
 同じくきょろきょろと視線を左右に振りつつも、紫野崎・結名(歪な純白・f19420)はか細い声を上げる。

「しかしまあ、大学や病院なんて都市伝説や怪談の本場じゃないのさ。お二人さんも物好きだねぇ……って、ついて来てるアタシも人の事言えないか」
 そんな後ろの対照的な二人をちらりと見つつ、先頭で警戒に当たる数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)が誰ともなく零した。

●都市伝説「死体洗いのアルバイト」
 ここが舞台となっている都市伝説は「死体洗いのアルバイト」。
 解剖、その他の目的の為、ホルマリン漬けの死体を洗浄する――そんなアルバイトが極秘に雇われている、という話である。

「どれどれ、階段は……っと」
 多喜がスマートフォンのディスプレイに表示された見取り図を片手に、人の気配が失せた病院の内部を先導する。
 少し歩くと、地下へ続く階段が姿を見せた。多喜によれば、その先は配電室や倉庫など、一般の患者には無関係な施設が並んでいるらしい。
 階段奥の古い金属扉には『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙が張られ、何とも厳めしい雰囲気を放っている。大方、これが人目を惹いて噂を呼んだのだろう、というのが、避難所で保護された看護師の談であった。

●D病院地下
「よし、少し下がっていてくれるかな」
 借り受けた鍵によって地下への入口が開かれたその時、リサが前へと歩み出た。
 指を小さく振ったかと思うと、沈殿した地下の空気が途端に流れ始める。
「ふんふん……なるほど、こっちか」
 それきり、リサは目を閉じて空気を嗅ぎ分けていたようだが、しばらくして一つの方向を指し示した。
「えっと……あっちには何があるんですか……?」
 足を踏み出しながらも疑問を口にした結名に、リサはにっと口角を吊り上げる。
「微かだが、間違いない。『死体洗い』の都市伝説には欠かせない、ホルマリンさ」
 その指先に、懐中電灯代わりの火炎が灯った。

 無人の廊下。
 リサが特定した方角と、多喜が得た見取り図を元に三人は進む。
 ドアの無い小部屋もいくつかあるが、この暗がりで、まして本来の色を失った今、少し覗いただけではその目的が医療用か、それとも調理か何かの用途なのかも判然としない。
 それらの入口の上に突き出た案内用のプレートさえ塗り潰されて読み取れなくなってゆく。
 一歩一歩が硬質なタイルでは有り得ない弾力ある感触に変わりつつあり、いつからか彼女らの声に交じって響いていた三人の足音も鈍くなっていた。

 そして、彼女達は角の一室へと到達したのだった。
「……やっぱ、無い」
 手元のスマートフォンを凝視し、多喜はそんな呟きを繰り返す。
 見取り図では『倉庫3』と記された、決して大きくは無いスペース。実際、内部も概ねその通りではあった。棚には標本らしき瓶が忘れられたようにひっそりと並んでおり、リサが嗅ぎ分けた臭いの元もこれかと思われた。
 だが、奥に積まれた箱を動かした所、壁の先にはぽっかりと――三人が並んで歩ける程の穴が開いていたのだ。

 写真にあった風景を彷彿とさせる、赤紫や黄土色に染められた横穴。
 穴は地鳴りに似た音と共に伸縮を繰り返し、湿っぽい異臭を吐き出している。方形に近い楕円状のそれは、通路というよりは巨大な生物の食道、といった様相であった。
 てらてらとした表皮にはあの「文字」が這い回り、行く手の闇を微かに照らしている。

「こんな所に、道……?」
「地図にゃ無いが、こりゃ進むしかない、か……」
「これは……邪神の肉体として生まれ変わる時、必要な空間が足りなければこうして自ら拡張するという事なのだろうか……」
 足を止め、中の様子を伺う三人。
 とその時、彼女らの頭に一つの可能性がよぎった。

 都市伝説の中には、死体洗いのアルバイトが極秘である理由を「表沙汰にはできない死体を扱うから」とするものがある。
 ――もしや、この道は元からあったものでは無いだろうか。そしてこの先には――。
「……まさかUDC組織か邪教が絡んでて、UDC怪物なんかの死体なんかも保存してたり?」
 多喜がぽつりと漏らし、直後に自らで否定する。
「……ハハハいやいやまさかねぇ?」
「ハハハまさかそんな……」
 だが彼女の声も、それに応ずる二人の笑いも、どこか虚ろだった。

 ともあれ、この先に祭具がある事だけは間違いない。
 足の裏の感触、腐肉にも似た臭気、空気の唸る音、灯りの位置を変える度に変化する肉壁の色。
 五感全てを刺激するそのただ中に意を決して入り掛けた所で、結名がおずおずと二人を制する。
 その背後には、いつの間にか現れた人形達がずらりと並んでいた。彼女がふっと手で合図を出せば、一糸乱れぬ動きで手の楽器を奏で始める。
 そして、彼らの明るい音楽に合わせ、結名は歌を歌い出した。

 ♪お出かけ前は、おめかししましょ
 ♪明るい空に負けないように
 ♪気持ちも明るく、見せつけたくって
 ♪お洋服も輝くの
 ♪旅はここから、さあ行こう、おー

 彼女の声はまるで空気を塗り替えるように、地下の空間に満ちる雰囲気を一変させてゆく。
 ともすれば狂気に侵され掛けていた精神が癒え、先程まで横穴が纏っていた不快感が薄らいだのがはっきりと感じられる。
 二人の表情が和らいだのを見て取った結名は、歌を続けながらも小さく頷いたのだった。

 人形の楽団を引き連れながら歩く三人は、やがて周囲の悪臭にツンとした刺激臭が混じっている事を感じ取った。
 同時に、前方がぼんやりと、それでいて怪しげな光に満たされているのが見える。

 その源はすぐ先の出口――開けた空間にあった。
「これ……」
 果たして文字が作り出したのか、それとも元からここにあったのか。
 そこには、空っぽの浅いプールらしき堀が殆ど広間の幅一杯に広がっていた。
 それを挟んだ先に、様々に移り変わる色彩を放つ本のような物体が鎮座している。

 ――ざわ、ざわり。
 彼女らが足を踏み入れた瞬間、広間に輝いていた文字が一斉に震え、眩く光る。
 すると、濃紺、深緑……殆ど黒一色に染まったプールの底や天井が、ぼこぼこと盛り上がったかと思うと、無数の人の形を為し始めた。
 文字で埋め尽くされた彼らの表面は何か液体に覆われているらしく、滴り落ちた雫がぴちょん、ぴちょん、と音を立て。
 人型は――屍は四肢が絡まるのにも構わず、一斉に三人へと這い寄ってきたのである。

「ひっ!」
 結名の短い悲鳴が上がると同時に彼女の影から顔を持たない天使が飛び出し、敵の一体を切り裂いた。
「こ…来るなっ!」
 続いてリサの慌てたような詠唱が、それでも正確に敵を射貫く。
「今だっ!」
 ある程度敵を散らした所で、多喜が二人に呼び掛け走り出す。
 彼女は屍の群れの間を縫って、祭具へと突き進む。絡みつこうと伸びる黒い腕の数々は、たとえ死角からであろうとも捉える事はおろか指一本さえ触れる事もできない。
 リサと結名もそれに続き、水溜りを蹴立てながら駆ける。多喜とテレパスで繋がった事で、彼女と同様に敵が予備動作に入るよりも速く、全ての攻撃を察知し、そして避けてゆく。

 プールの反対側に辿り着いた彼女らは、祭具を破壊せんと手を伸ばす。
 その直前、敵との間合いを測る為に振り返った時、天井から一際大きな肉塊が這い出そうとしている所であった。
 それが、到底ヒトとは――いや、この世界で生きていた者の亡骸とは思えない形状をしていたように見えたのは、気のせいだろうか。
 それを確かめる間も無く、奇怪な色彩を垂れ流す本は破られ、死体の群れは文字となって空気に溶けていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

曾場八野・熊五郎
なんでも人面犬とかいう、文字通り賢い犬の面汚しみたいのがいるらしいので〆てくるでごわす
道路を走ってて追い抜かれると事故るとかいうヤンキーみたいな奴なので公道ドッグレースでごわ(噛み引っ掻き体当り有の速度勝負)

奴がいるという物陰近くでカブのクラクション鳴らしてスタートの合図でごわ
狭い道は『悪路走破・ジャンプ』で切り抜けて大通りに出たらUC+『ダッシュ』でぶっちぎるでごわす
潔く消えないようなら反転して畜生に向かって最高速で突撃&デストロイでごわす
奴は不運と踊っちまったでごわ……

始末をつけたら神器とやらを探すでごわす
あん畜生の匂いを『追跡』すればそのうち見つかるじゃろ



●二匹の獣
 繁る木々に日を遮られた、片側一車線の山道。
 隣町から市内へ至るこの道も今はひっそりと静まり返り、輝く文字が我が物顔に、日差しの届かぬアスファルトを這い回っている。
 繰り返す町内放送を除くと、音を立てているのは狂気に堕ち蠢動する道自身と、そして一つの排気音のみ。

 クラクションが二度鳴らされ、無人の世界にこだまを返す。
 文字の瞬きがそれに応じる。
 その時、二匹の獣が疾走を開始した。

●都市伝説「人面犬」
 この道を走行していると、後ろから犬が追いかけて来るという。
 犬は信じられないスピードで、そのままこちらを追い抜こうとしてくる。

 もしその犬に出会ったら、決して追い抜かれてはいけない。
 その犬は追い抜いた後、こちらを振り返ってにやりと笑い掛ける。そしてライトに照らされたその顔を見た者は、必ずやハンドルの操作を誤り事故を起こしてしまう。
 その犬は、人の顔を持っている――人面犬だった。

●S市・山道
 曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)が操る歴戦のカブは瞬く間に加速し、色彩に染められた樹々や家屋が、飛ぶように現れては消えていく。
 速度制限も、それを示す標識が黒く覆われている今だけは咎める者もいない。
 しかしちらりとミラーを見やれば、びっしりと文字に覆われた黒い人面犬はすぐ後方に位置を付けていた。
 まだ全力では無いらしく、カブの後部にその人間の頭部をぶつけ、挑発と妨害を仕掛けてきていた。

「賢い犬の面汚しめ……覚悟するでごわす」
 熊五郎がハンドルを握る手に力を込めれば、カブは重力を無視するかのような常識外れの加速を見せる。
 文字通り人間離れした反射神経で、決して走りやすくは無い狭い悪路も、殆ど減速せぬまま最低限のハンドル操作で突っ走る。

 その最中、突如として前方に急角度のS字カーブが現れる。そのままガードレールを突き破る――かに思われた瞬間。
 カブの前輪が浮き上がりウィリーの体勢を取ると、悪路の段差を利用した大ジャンプを繰り出した。
 空中で90度反転した熊五郎は青空を駆け、カーブの先へと激しく着地したのである。

 ショートカットを成し遂げた熊五郎だったが、その離れ業は人面犬にも火を点けてしまったらしい。
 走りながら男と犬との中間のような声で吠えると、暗い橙色の道が波打ち、S字カーブに勾配がついてゆく。丁度競輪のバンクのように整えられたカーブを人面犬はトップスピードで駆け抜けようというのだ。

 勝つ為ならば手段を選ばぬと言わんばかりの敵の姿がこちらに迫り来る。
 火花が散る程の着地の反動から脱した熊五郎は、カブのアクセルを回す。
 間も無く曲がりの多い箇所は終わり、前方ではいくつかの道路が合流する大通りに至ろうとしている。
 熊五郎の直線勝負――それは、ここまでの道程で見せた加速を遥かに凌ぎ。
 一瞬にして、人面犬を置き去りにしたのである。

 誰の目にも勝敗は明らか、にも関わらず人面犬は消える気配が無い。
 熊五郎は大きく息を吐き、ゆっくりとカブを反転させ、もう一度アクセルを掛ける。そして再び、今度は人面犬に向けて。
 フルスピードで突進した。

 全ての決着が着いた。
 熊五郎は文字の欠片となって粉微塵になった人面犬の残り香を辿り、今しがた走り抜けた道をもう一度走り出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

俺が向かうのは旧校舎
都市伝説は『天国の鏡』
三階踊り場にある大きな鏡にて
黄昏時に一人で
「天使様、どうか私を天国に連れて行ってください」
と三度唱えると異世界に行けるという何処にでもありそうな話
その噂自体に恐れは抱かないが
民間人が巻き込まれてしまうことだけは絶対に避けねばならない
迅速丁寧に探索しつつ件の鏡の前にて
思い詰めた顔で鏡を見る女子生徒に声を掛けようとしたその時、鏡から数多の手が這い出て
咄嗟に娘の腕を引き庇い、然し武器は彼女を怖がらせないよう出さずに蹴りのみで蹴散らす
怪我はないか確認した後、腰が抜けた彼女を一言断ってから軽々横抱きにして脱出を試み
祭具は粉々に蹴り砕く



●黒い踊り場
 およそ正常では有り得ない姿に変貌した階段の踊り場。
 その中に、最も黒く染まり、それでいて最も原型を留めている大鏡の前で、色に染まらぬ少女が佇む。
 その姿を観察するように、壁面に記された文字は一様にゆっくりと瞬いている。
「大丈夫、大丈夫……」
 彼女はぶつぶつと呟いた後、意を決したように鏡を見詰め、息を吸い込んだ。

●都市伝説「天国の鏡」
 現在は使われていない、古い木造校舎。
 移転の際に備品等は新調される事になったそうで、内部はほぼ使われていた当時そのままの姿で残されている。
 都市伝説の起点は、その中の一つである。

 三階の踊り場に据え付けられた、通称「天国の鏡」。天使の装飾が施された飾り枠の、旧校舎そのものに劣らない年代物と噂される大鏡である。
 黄昏時、その前に一人で立ち、呪文を三度唱える事で異世界へと連れて行ってくれる、という都市伝説があった。

●S市立高等学校・旧校舎
 じゃり、と踏みしめた土は褐色に染まり。
 丸越・梓(月焔・f31127)は当の旧校舎の前へと辿り着いていた。
 校舎全体が苔むしたような緑から青みがかった灰色で、外から見た限りではどこが色彩の源かを推測する事はできない。
 それにしても、寂れてはいるが建物自体に朽ちた箇所は殆ど無いようである。
 彼が話を聞いた生徒は、旧校舎がいつまでも取り壊されていない原因を件の鏡に仮託していたが、大方差し迫った危険が無い為に放置している、というのが実情だろう。
 歩を進める間も梓が観察と分析に思考を巡らせていた、その時だった。

「……ん?」
 梓の眼が、ふと足元の地面に注がれる。荒れた砂地のせいではっきりとしないが、そこに旧校舎へと続く足跡があるように見えるのだ。
 怪訝そうに眉を顰めながらも扉へ近寄ると、素人でも開錠できそうな安っぽい南京錠が転がっている。
 何者かがここを訪れている事を知った梓は、顔色を変えず、それでも眼前の校舎をきっと見上げるのであった。
 旧校舎から戻る足跡は、無い。

 色彩に歪められた校内で、梓は足早に、それでもくまなく探索を進めていく。
 腐食を思わせる汚らわしい色に染められた黒板や机が並ぶ教室、色に汚損された古い紙ばさみが残された教職員室、そして空の棚ばかりが寒々しく並ぶ図書室へ。
 自分の知る都市伝説は一つ。しかし、他にこの地に隠された都市伝説が無いとは断定できない。そして「先客」がそこへ向かっていない、とも。
 ――もし、その人物が民間人だったら。
 自らの心に忍び込もうとする焦りを殺しつつ、梓の足は三階へと至ろうとしていた。
 果たして、そこに先客の姿はあった。
 板の継ぎ目は襞の如く、高い位置に取り付けられた窓は濁ったステンドグラスか、あるいは金属板に似て、その全てが黒に近い色彩の中で蠢動している。
 それらの中心に「天国の鏡」は据えられているようであり、そしてその前には一人の少女が佇んでいた。
 異常そのものの光景の中、あたかも日常から切り取られてきたように。

 余りにも場違いな存在である少女は緊張と恐怖に全身を強張らせ、それでも鏡の前から動こうとしない。
 彼女が都市伝説を実行しようとしている事を一目で見て取った梓は、制止の言葉を掛ける為に口を開く。

 しかしそれを遮るように、鏡の黒い表面に光り輝く文字が浮かんだ。同時に凍り付くような無機質な声が響いた。
 少女の顔は見えないが、決して彼女が出したものでは無いだろう。声は一つでは無く、そして到底人が出せるものでも無かったから。

『天使サマ、ドうか私をテン国につレテ行ってクダさい』

 その声は脳裏に響いただけなのか、それとも実際に発せられたものなのか。
 自らに問うよりも早く、梓は半ば無意識に撓む床を蹴っていた。
「……誰っ!?」
 その音に少女がびくりと振り返った瞬間。

 ――ぐわり。
 壁に嵌められた鏡の中から現れたのは天使とは似ても似つかぬ、悍ましき「手」の群れ。

 鏡よりも深い黒色の手が四方八方から少女の肢体へと迫る、その寸前。
 間一髪、梓の手が彼女の腕を掴み引き寄せると、間近な一本に強烈な蹴りを見舞った。
 その脚を絡め取らんと、数多の手は次々に伸ばされる。梓は少女を庇う不利な体勢のままそれらに立ち向かう。
 隠し持った刀を使えばいとも容易く切り裂けただろう。だが、この極限状態において、これ以上彼女を怯えさせる事は出来ない。
 時に力づくの攻防を経て、やがて一瞬の隙を突いた梓の一撃が鏡を打ち砕いたのであった。
 間髪入れず砕けた鏡を外すと、その裏の壁には書物らしき祭具が隠されていた。それを破壊し、改めて少女へ向き直る。

「怪我は無いか?」
 恐怖で声を上げる事さえ忘れたような少女に問いかけた。無言の頷きと共に立とうとしているが、どうやら足腰が言う事を聞かないらしい。
「……腰が抜けたか。ここは危険だ、悪いが少し我慢してくれ」
 梓はそう一言断ると、少女を横抱きに抱え上げ、狂った旧校舎から少女を連れ出す為に歩き始めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルムル・ベリアクス
アドリブ歓迎

肉片だけでこの有様とは。「外なる邪神」、何という脅威なのでしょうか。

わたしが【情報収集】したのは街外れの小さな池の話。昔水難事故があったそうです。
呼び声に惹かれて近づくと水の中に引き込まれてしまうとか。
単なる都市伝説を信じるほうではありませんが、今回は別ですね。

池に近づくにつれ景色が塗りつぶされていき、祭具の存在を確信します。
視界に入るだけで憂鬱になる色ですね。
桟橋の先端にあるのが祭具でしょうか?
近づこうとしますが、毒じみた色彩の水が身体に絡みつき、引きずり込まれそうになります。
予め池の前に設置しておいたフォーチュンカードからUCを発動。
水を蒸発させて振り払い、祭具を攻撃します。



●淀んだ水
 町外れにある池。水はどろりとした朽葉色、周囲の草木や地面は赤銅色に変わり果て、皆一様に静まり返っている。
 濡れ羽色の髪の男がその様を遠くから眺め、ぼそりと呟いた。
「肉片だけでこの有様とは。『外なる邪神』、何という脅威なのでしょうか」

●都市伝説「人喰い池」
 昔、この池で水難事故があった。
 以来、この近くを一人で歩いていると、誰かに呼ばれる事があるらしい。
 それに誘われるまま、池に架けられた桟橋を
 水の中に引きずり込まれ、二度と戻ることは出来ない。

●K池公園
 ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は、避難所で聞いたそんな都市伝説を思い返していた。
 普段なら、そんな怪談めいた噂を信じる事も無かっただろう。
 だが事実であろうと無かろうと、これから向かう場所に祭具があれば、それは間違いなく自分の身に降りかかる。それも、相当の悪意を加えて。
 これから相手取ろうとしている邪神とは、そういう存在なのだ。
 そして、足元の土や木々に混じる「色彩」が、その予想の正しい事を語っていた。

 黄色みがかった植木の道をすり抜け、灰褐色の土を踏みしめ。
 池が近づくにつれ、その物が本来持っていたはずの色合いが、悪趣味な色合いに塗り潰されてゆく。
 ――祭具は近い。そして、危険も。
 ルムルはカードの束を取り出し、最も禍々しく多彩な色に染まる桟橋を慎重に進み始めた。

 凪いでいるにも関わらず、水を吸ったように、どす黒くぶよぶよと膨らんだ桟橋は不気味に揺れ動いている。それは丁度、芋虫が見せる規則的な収縮に良く似ていた。
 元はごくありふれた板の橋だったのだろうが、今や色はおろか感触さえも木とは程遠く、その動きと相まって何かの生物と考えた方が自然な程だ。
 一足ごとに色調を増していく足元を見れば、そこには「文字」が踊っている。
 いや、橋の上だけではない。黒々とした水面にも、やはり同じく文字が瞬いているではないか。
「なるほど、万物を作り変える、か……」
 ルムルが古文書の言葉を反芻しながら、桟橋の先端に至ろうとした、その時だった。
 目を凝らすまでもなく、周囲に広がっていた文字が激しく瞬いた。

 突然水面がぼこぼこと沸騰したかのような膨張を見せ、次の瞬間には水柱となってルムルに飛び掛かってきたのである。
 紫紺色、錆色、暗緑色、日の光を浴びた水は毒々しくも様々な色に煌めきながら、意志を持ってルムルの肢体に絡み付く。
 そして彼の身体をぐわと持ち上げ、そのまま池の底へと引きずり込み始めた。

 だがその時、文字が放つ光を掻き消すような真紅の閃光が迸る。
 その源はルムルが歩いてきた方角――彼が予め設置していたカードの束。
 そこから現れた炎の魔杖は赤い筋を残しながらまっすぐに飛来し、彼を捕らえる水の腕を貫いた。

 水とは思えない悪臭を放ちながら目まぐるしく色を変えるその姿は、まさしく触手が苦しんでいるかのようである。
 そこへ二の矢、三の矢が直線的な軌道を描きながら触手に突き刺さり、その高熱を以て瞬く間に蒸気へと還してゆく。
 体積と共に力を失った水を振り払ったルムルは、その一本を操り、桟橋の先端に輝いていた祭具を貫いたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『写本・魂喰らいの魔導書』

POW   :    其方の魂を喰らってやろう
【複製された古代の魔術師】の霊を召喚する。これは【触れた者の絶望の記憶を呼び起こす影】や【見た者の精神を揺さぶる揺らめく光】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    その喉で鳴いてみせよ
【思わず絶叫をせずにはいられないような幻覚】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    魂の味、これぞ愉悦
自身の肉体を【触れる者の魂を吸い脱力させる黒い粘液】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●侵食の祭具
 都市伝説の中心部に安置されていた祭具は、全て厚表紙の古い書物のような形を取っていた。
 見た事も無い――いや、ここを訪れてから嫌と言う程目にしたあの文字が、禍々しい光を讃えた紙面の上で活発に泳ぎ回っている。
 ページを引き裂く、あるいは刃物で傷つけると、祭具は血を吐き出すが如く色彩を噴き出しながら急速に色褪せていく。
 猟兵を取り囲んでいた文字達もその途端にぴたりと動きを止め、無意味な線と点に解けたようだ。
 少し様子を伺ってみても、もう攻撃が起きる様子は無い。

 だがその一方、変貌してしまった周囲の地形は何一つ反応を示さない。不自然なまでに平穏に、邪神から授かった肉体をくねらせているのだ。

 まだ祭具が残っているのでは――。
 その対比を怪しんだ猟兵が足を戻し掛けたその時、機先を制するかのように声が響いた。

『この地の<物語>の罠を破壊すれば満足するかと思ったが、猟兵とは予想より鼻が利くようだな』
 どこからか、今しがた破壊したものと酷似した書物が宙に現れる。
 しかし、一つ異なるのは、そこからは先程のものとは比べ物にならない程の激しい色彩が撒き散らされているという点である。

『もう少し色彩が深まれば記憶の具象に留まらず、文字と事象の因果を覆せたものを――まあ良い』

 書物はひとりでに開き、一際深い色が――あの肉片の軌跡を思わせる黒が吐き出されたかと思うと、人の形を為した。
 古めかしい衣装に身を包む黒一色の男は、傲然とこちらを見下し、口を開く。

「万一歯向かうと言うのならば教えておいてやろう。文字は複製と相性が良い。……斯く言う我も写本でな」
 その男が指を持ち上げると、侵食された地形が次々に剥落し、同じく書物の形を取った。
 そして、その全てから、やはり同様の人影が生まれていく。

「其方らがこうなるのも時間の問題と言う訳だ。せいぜい焦るが良い、猟兵よ!」

 彼らからは絶え間ない色が全方位に照射されている。
 黒紫に混じる真紅。濃紺に差す深緑。毒々しいオーロラのような光線が肌に触れると、ぞくりとするような寒気が走る。

 全てを作り変える色彩。不穏な忠告が、頭をよぎる。
紫野崎・結名
リサ(f09977)さんと、多喜(f03004)さんの三人で
●心情
ひああああ…な、何かでた!
と脅えていたら、リサさんがモノは考えようだと言ってきました
赤や緑がキラキラで綺麗…?そうかな…そうかも…?そうだね!

●戦闘
等と言いくるめられていると、多喜さんから気持ちが落ち着く音楽を聞きたいってリクエストされたのでUC『休息のソナタ・ダ・カメラ』を【楽器演奏】します
音楽は、心に響いていろんな気持ちにしてくれる…特に室内ソナタはお部屋でゆっくり聞く曲だから、気分も休まって鼻歌も出ちゃうよ
心が落ち着けば幻覚にも負けない
【破魔】と【浄化】の効果も出ますようにと、【祈り】も込めて演奏です


リサ・ムーンリッド
結名っち(f19420)と、多喜(f03004)さんと三人で
●心情
本体はっけーん
現象が文字になったときは本能のまま行動しているケースかと思ったけれど、どうやら思考と意志がしっかりあるらしい
であれば、質問のしがいがあるというもの

●戦闘
ここは適材適所、攻撃への対処は二人に任せよう
私はUCによる質問を投げて【精神攻撃】を与えよう
写本は書き写される過程で誤読や誤字脱字、勝手な加筆が生じやすいそうだね。機械的な印刷やコピーでさえ、文字が潰れたり誤作動を起こすことがある
つまり…君たちは本当にオリジナルと同じなのかい?
と、複製の手法と欠点への質問や品質への疑問を心ゆくまま問いかけるよ


数宮・多喜
そのままリサ(f09977)さん、結名さん(f19420)と3人で。
おいでなすったな、邪神……いやこいつらは眷属か!
雑魚にゃアタシらは用が無いんだよ!

アタシがやろうとするのは、厳しい博奕さ。
だから結名さん、気持ちが落ち着くナンバーを頼むよ。
アンタらが色彩を重ねに重ね、因果を覆そうとするのなら。
重ねた物を引っぺがし、「元」を暴いていこうじゃないのさ。
狂気と呪詛にまみれた「色」だ、思わず叫びそうだけど。
耐性と、結名さんのソナタの調べで正気を保ち、
奴らの邪念(えのぐ)の一つ一つまで、解きほぐしてやる。
そうすりゃアンタらは、単なる喋る本に成り下がりさ。
リサさんからの校正で、さっさと絶版になりやがれ!



●楽曲、思考、言葉
「ひああああ…な、何かでた!」
 降って湧いた敵の群れと色彩の奔流に、紫野崎・結名(歪な純白・f19420)の泣きそうな声が洞内にこだまする。
 しかし、その恐怖を宥めるようにリサ・ムーンリッド(知の探求者・エルフの錬金術師・f09977)が肩を優しく叩いた。
「モノは考えようだ。見てみろ、赤や緑がキラキラで綺麗じゃないか」
「そうかな…」
 そう言われるなり、結名の表情は不安、疑問へくるくると移り変わり、最後には安堵へと落ち着いた。
「そうかも……? そうだね!」
 いとも容易く言いくるめられた彼女へ、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)も呼び掛ける。
「結名さん、気持ちが落ち着くナンバーを頼むよ。……奴らが重ねた『色』の元、アタシが暴いてやる」
「落ち着く……それなら」
 一呼吸整えた後、結名が手の楽器に指を滑らせ、場に新たな曲が満ちる。
 それは先のものと同じく空気を塗り替える、しかし今度は張り詰めた心身を平静に戻す、緩急ある室内ソナタ――ソナタ・ダ・カメラであった。
 しかし、存在自体が健全とはかけ離れた黒の男達には、その恩恵を受ける事はおろか尋常に活動する事さえ叶わない。
 曲調にそぐわぬ不穏な人影、そして侵食する色彩の波は、速度を急速に衰えさせたのであった。

 何が起きているのかと分析する隙を与えぬまま、多喜の瞳が不思議な輝きを宿す。敵方と此方との間に電光に似た光が閃き、彼女の脳裏にビジョンを送る。
(――本当に、これで不死が得られるんでしょうか?)
(勿論ですとも。さあ、この書を読みなさい……)
 まず現れたのは、指導者然とした老紳士と複数の人々の姿。
「……これじゃない」
 しかし、服装や景色を察するにどうやら現代らしく、眼前の敵とはかけ離れている。
 生贄――恐らくは最初に配置されたはずの「オリジナル」の写本に供された人々の記憶を読んだのか。
 多喜は苦々しく顔をしかめつつ、より深層を探ろうと試みる。

「無粋な詮索はそこまでにしてもらおうか」
「この邪魔な楽曲も、どこまで続くか見物であるな」
 だが、それよりも早く、敵の群れが一際邪悪に輝く。ひとつひとつの光の帯が複雑に絡み合い、三人の視線に虚像を纏わせる。
 と同時に、視覚以外の五感にも不可思議な力が加えられて、幻視はよりリアルな実感を伴う「幻覚」へと昇華されてゆく。

 文字は未だ沈黙している。だというのに、気が付けば辺りは再び黒き死体に埋め尽くされていた。
 床のものは脚に縋り付き、絡み付きながら苦悶の声を漏らす。天井や壁のものは鈴なりになって手を伸ばし、さながら黒い針山のようである。
 どこを見ても、瞳の無い双眸がじっとこちらを見詰めていた。
「文字に頼らずとも、この程度ならば容易い事よ」
「さて、其方らは怪物を期待しておったな。望み通り、とくと堪能するが良い!」
 亡者に塗れた空間の中、更にその一角が奇怪に膨張する。亡者を振るい落としながら、新たな影が生まれてゆく。
 巨大な顎。鱗。触手。翼あるいは鰭。
 先程はちらとしか見えなかったシルエットが、より鮮明に、より醜怪に。揺らぎながら、見る者の想像力と恐怖を糧に成長しようとしていた。

 しかし、それが完成する事は無かった。
「心が落ち着けば幻覚にも負けない。ね?」
 この状況においても未だ続いていた結名のソナタに、楽しげな緩急の中でも一際大きな変化が現れた。
 展開部を迎えたソナタが心に染み渡り、狂気の洞が快適な室内であるとさえ感じるまでの安らぎに包まれる。
 それと同時に、幻覚は精神への侵入口を塞がれたかのように現実味を失っていったのだ。

「――さて、そろそろ質問しても良いかな?」
 リサの余裕ある声が、微かに残る亡者の呻きを断ち切るように紡がれてゆく。
「写本は書き写される過程で誤読や誤字脱字、勝手な加筆が生じやすいそうだね。機械的な印刷やコピーでさえ、文字が潰れたり誤作動を起こすことがある」
 意図を測りかねるように、黒の男達は身構える。その間も怪しげな光で幻覚を編み直そうと試みているようだが、今度はリサの言葉が敵の攻撃を遮った。
「つまり……君たちは本当にオリジナルと同じなのかい?」
「……愚問であるな」
 口調こそ強気ではあるが、その言葉の影には一抹の翳りがあるようである。黒い輪郭が、僅かに滲む。

 その隙に、多喜は再び念波を操り敵の解析を試みる。
 すると先程とは違い、まさに書かれている文章を辿るが如くすらすらと、敵の本質、使命、記憶、思考、欲望が頭の中に流れ込んできた。
 敵と多喜との間に、思念の道が拓かれたのである。
(捉えたよ。今度こそアンタらの邪念<えのぐ>の一つ一つまで解きほぐしてやる)
 色彩を媒介する為の祭具。
 この色彩を漆黒に至らしめ、文字が紡ぐ全てが現実となり得るまで、肉片の色をこの地に送り続ける為に。
 侵食を進める根源的な欲求は、永遠の命。原典もまた、不死を求める魔術師が自らの魂を封じ込めた魔導書である。
 世界を色彩で染め上げた暁には、その存在が神の文字によって永久に刻まれ、永遠の存在となるであろう。その誘惑と生贄を用いた儀式が、祭具に宿る呪詛を眷属として生まれ変わらせた。
 敵の正体を明かす度、彼らが放つ濁った色彩が少しずつ色褪せてゆく。目も眩むような暗い光の波は、いつしか薄紅や淡青が主となっていた。

 その間もリサは、次々に、好奇心の赴くままに言葉の矢を放つ。
 誰がどのように写したのか。その目的は。原典が秘めていただろう魔力はどのように写したのか。
 間違いなく、完璧に写されたのか。どこかに綻びがあったのでは無いか。
 ――写本<君たち>は、君たち自身が思う程に、正しくそこに在るのか?
 それは無視を許さない強制力を持って、写本の存在の根底を無邪気に、そしてじわじわと追いつめてゆく。
 膨らみ続ける疑念は暴走し、やがて敵自身の精神を削っていった。黒い群体が徐々に霧散し、その内側から古びた書物がばさりばさりと落下し、床へ溶けるように沈んで消える。

「……フ、ハハハ。何を疑問に思う必要がある」
「我はここに在る、そして永遠に在り続ける! それさえ確かであれば、後はどうとでもあるが良い!」
 精神を削り切る直前、虚勢のような宣言と共に残った数体が腕を振り上げた。
 だが、放たれたのは最後の足掻きとしても余りに弱々しい数度の明滅。多喜が繋いだ思念の道は敵の思考を探るに留まらず、その思考回路へ干渉していたのだ。
「諦めな。アンタらはもう、単なる喋る本さ。リサさんからの校正で、さっさと絶版になりやがれ!」
 多喜の宣告がソナタの調べと共に洞内に響き、絶望の表情を浮かべた最後の一体が空気に溶ける。
 それきり、周囲は暗闇に閉ざされた。
 今度こそ、色彩は失われたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
うぇ…趣味悪度が更に増しましたね…
なんだか目も疲れてきました
ちょっと休憩していいですか…

withを抱きしめ目を瞑る
めちゃくちゃな色を見なくて済むように
withと旅して集めた、楽しかった思い出を心に浮かべる
希望へ進む為の色を背に生やす為に

UC発動
周囲の色彩を焔で塗り潰す【焼却】
もう、目を開けても大丈夫
私の嫌いなものを拒絶する色だから
その程度の絶望、私の心に触れる事も出来ません
ビルから離れようとしても、翼で追いかけ
withを叩き付ける【空中戦】

黒い男を見ながらふと思いました
こんなに色を溢れさせてるのに…
所詮あなたはコピー、他の色は選べないのかな
…私は黒も好きですけどね
だってwithも黒いですし



●希望の翼
 屋上の床板は書物を模ると次々に空へ浮かび上がり、いくつもの黒い人影が空中に現れる。
 それに飽き足らず、彼らはその身体から発せられる色彩を収束させ、自らの周りに幾人もの複製を召喚し始めた。
 瞬く間に夥しい数へと増えたそれら全てが陰鬱な色彩を撒き散らし。
 たちまちの内に、ビルの上は激しい光と影が目まぐるしく交差する、狂気的な光景に覆われた。

「うぇ……趣味悪度が更に増しましたね……。なんだか目も疲れてきました、ちょっと休憩していいですか……」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は目頭を抑えながら、そっと黒い大剣の切っ先を下ろす。そして敵に向けるべき武器であるはずのそれを、自らの腕の内に抱いたのだ。
「……何だ、もう諦めるか。それともこの光景に目が眩んだか?」
「いずれにせよ、無駄な抵抗をせぬとは感心な事だ。そのまま生まれ変わりの時を大人しく待つのだな」
 その行為を戦意の喪失と受け取ったらしい敵は、自らの複製で結希を取り囲み、全方位から悍ましい色彩と光線を浴びせかけてゆく。

 閉じた瞼の裏でさえ、心を乱す輝点が無数に揺れる。総毛立つような不気味な感覚が纏わりつき、そこに忌まわしい記憶を呼び起こす光景を作り出そうとする。
 それを打ち消すように、結希はより強く大剣を抱きしめた。
 共に旅をしてきたwithの感触を確かめるように、その黒い刀身が秘める記憶を辿るように。
(そう、一緒なら――)
 次第に邪悪な残像が薄れ、withとの旅路が蘇ってくる。集めた思い出の一つ一つが、心を縛ろうとする絶望を断ち切ってゆく。
 その時、結希の背には燃えるように鮮やかな、緋色の翼が現れていた。

 広げられた翼から焔が迸り、灼熱の炎風が吹き荒れる。
 彼女を包む幻光と暗影、そして汚濁した色彩。それら全てを眩い緋色で塗り潰し、その元凶と共に焼き尽くしてゆく。
「小癪な真似を……!」
 仕留め損なった敵の悪態に、開かれた瞳。
 だが、凍てつくような光を直に目にしても、もう彼女の心は曇らない。
 絶望を拒絶し、希望へと進むための色は、背中で煌々と輝き続けている。

「口惜しいが、ここは一旦退くべきか」
「この地はまたの機会を待つとしよう。其方も、それまで無為に時を潰すが良いわ」
 分が悪いと悟ったか、敵は口々に負け惜しみのような言葉を残し飛び去ってゆく。一時的に身を隠し、再びここで増殖と侵食を繰り返す腹積もりなのだろう。
 しかし翼を羽ばたかせ、結希もまた空中へと身を運ぶ。焔の残光を青空に残しながら黒い人影に追い付くと、今度こそwithの刀身をその背へと叩き付けた。
「な……ッ」
 翼を翻して急転回し、勢いそのままに絶句する敵へ二の太刀を。更に別方向に逃げた最後の一体が身を隠すより速くその頭上へと翔り、垂直に剣を振り下ろす。
(こんなに色を溢れさせてるのに……)
 その寸前にも変わらず色彩を振り撒く男の姿に、結希はふと思う。
(所詮あなたはコピー、他の色は選べないのかな)
 色彩の奥にある、黒一色に染まった身体。重量と速度を兼ね備えた一撃は、中枢を成していた祭具諸共にそれを両断した。
「……私は黒も好きですけどね。だってwithも黒いですし」
 その呟きが終わる前に、敵の淀んだ残影は空気に溶けるように消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

ひ、と少女は怯えた声を漏らし
そんな彼女を背に庇いながら魂喰らいの魔導書を見据え
…例え因果を覆したとて、それでどうする
今一つ理解し得ぬ彼らの目的に思考を巡らせ
そして後ろの少女へ視線のみ振り向く
「……怖がらせてすまない」
だが、と
「君に指一本触れさせない。必ず護ってみせる。
だから──俺を信じてくれ」
目を丸くし、涙浮かべながらも小さく頷いた彼女にフと微笑み
桜吹雪と共に顕現させるは刀──『桜』
主人ではなく
然し共に戦場を征く《伴》

今まで絶望を何度も味わい
大事な人を喪ったその大罪を背負いながら
もう二度と
護るべき命を、心を零さない為に

──振るう、一閃



●背負うもの
 皮膚を剥ぐような音と共に浮かび上がる壁の肉片。
 宙に浮かぶ、影法師のような幾人もの人影。
 そこから撒き散らされる総毛立つような色彩。
 歓喜か威嚇か揺れ続ける、校舎だったもの。
「――ひ」
 少女の口から声にならない悲鳴が漏れる。
 見開かれた目の中で、安心を与えてくれる何かを探すようにくるくると瞳が揺れ動く。
 無論、そんな物は無い。この色彩に飛び込ませる程の何かから逃げようと、彼女が足を踏み入れたのは、日常や常識や生命を容易く破壊する、悍ましい領域なのだから。
 ――否。たった一つ、そんな世界から庇うように立ちはだかる背中があった。

「……怖がらせてすまない」
 目的の見えぬ敵に対峙したまま、彼はちらと少女の方を振り返り、静かに語り掛ける。
「だが、君に指一本触れさせない。必ず護ってみせる」
 だから――俺を信じてくれ。丸越・梓(月焔・f31127)の声はあくまで冷静に、確信さえ与えるような響きを持っていた。

 少女は涙を浮かべながら小さく頷く。
 そこに自らの置かれた状況への理解は感じられず、ただ縋るような心境なのだろうと察せられる。
 だが、少なくとも彼女の瞳は焦点を取り戻した。それを見届けた梓は微笑みを返し、片手を虚空に伸ばす。

 途端、手の先で桜吹雪が舞う。梓はその花弁の内から、一振りの刀――戦場を征く伴、『桜』を掴み取った。
「何かと思えば、それは刃物か? 間合いというものを知らぬらしいな」
「面白い。これを切れるものならば切って見せよ」
 影法師は互いの色を織り成し、更なる複製を作り上げる。現れた人影は激しい明滅を繰り返し、白い光の球体、そして影を作り出す。

 暗い虹色の光の幕を背景に、光と影が瞬き毎に移り変わる。
 吐き気を催すような視界はやがて、目の前の景色とは関係無く、自らの過去を走馬灯のように映し始める。

 喪った命――償えぬ罪。
 何度も味わった絶望が、また心に蘇る。
 自らの足跡に付いて回る暗い影が立ち上がり、刀に込める力を緩めろと囁き掛ける。

 だが、梓は姿勢を崩さない。
 一刻も早い決着を付ける為、その一瞬を見逃さぬ為。
 大罪を負ったその背の後ろで怯える命を、放っておけば壊れてしまう心を、救う為に。

(もう二度と、護るべき命を、心を零さない為に――)

 明滅のタイミングが一瞬遅れ、視界が戻る。
 その瞬間、抜刀の音――或いは、納刀の音が微かに響く。
 それが聞こえた時、屋内のおよそ全てを間合いに収める一閃は既に終わっていた。
 一直線上では無かった筈の敵の群れは、抵抗はおろか気付く暇さえないまま、その核である祭具を両断されていたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルムル・ベリアクス
アドリブ歓迎

この色彩、認識しただけで身体が凍りつくような……!?忌まわしい邪神の一部になどなる気はありません。あなた達を倒せばこの侵食は止められるはず!

悪魔よ、力を借ります。
UCを発動し、審判の世界を顕現させて戦場である池周辺を地獄の炎で包み込み、色彩をかき消そうと試みます。
その間に黒き悪魔たちの一斉攻撃で敵を引き裂きます。(悪魔の描写はお任せします)

悪魔はわたしを【かばう】でしょうが、それでも色彩の影響を受けるかもしれません。
精神統一しつつカードからの悪魔召喚に集中し、狂気に抗います。
精神を汚染されかけようとも、邪神への憎しみで己を奮い立たせます。



●極光の空、獄炎の湖
「さて。改めて問おう」
 淀み切った汚泥のような湖面や地表が剥がれ、次々と黒き人影が現れては悍ましい色彩を投げ掛ける。
「我らが神を受け容れる気は無いか。見た所、其方も表ならざる神に近しい者のようだが」
(この色彩、認識しただけで身体が凍りつくような……!?)
 ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は反射的にカードの束を取り出し、常軌を逸したその光景に思わず身を強張らせる。
「忌まわしい邪神の一部になどなる気はありません。あなた達を倒せばこの侵食は止められるはず!」
 敵の言葉を遮り、ルムルは光り輝くフォーチュンカードの一枚を抜き放ち戦闘の意志を示す。
「……有難い。これで魂を喰らう口実が出来た」
「後の事は気にせずとも良いぞ。肉体の方は余さず染め尽くしてやろう」
 黒い魔導士達はそれに対しても余裕を崩さず、上空へと舞い上がると円陣を組み、それぞれの色を織り混ぜてゆく。
 まるで、空も、太陽さえも狂気に落ちてしまったかのように、怪しい色が降り注ぐ。
 極彩色の天蓋。それが目の錯覚なのかどうかさえ、その内からは伺う事が出来ない。

 同時に、ルムルもまた一枚のカードを空に放つ。
 カードが生んだ光の環の内から出でるは、雄山羊の頭、蝙蝠に似た翼、鉤爪と三又槍、そして燃える尾を備えた悪魔の群れであった。
 悪魔達は尾を振り乱しては炎を散らし、仮にも水である筈の湖面をも業火に包んでゆく。
 顕現した異質な、それでも不思議と心を癒すその空間では一面が赫々と燃え盛り、濁った色彩を赤色に染めてゆく。
 そして最後に数匹の悪魔がルムルの頭上に留まり、彼を色彩から守る傘となった。

 残った悪魔達は、色彩に満ちた上空へと一斉に飛び立ち攻撃を開始する。爪と槍を振るい、影のような敵の身体を易々と引き裂いてゆく。
 だが、徐々にその勢いは衰えていった。見ると、敵は人の形状を失い、黒い粘液と化している。
 粘液は踏み込みの甘い刺突や斬撃では断ち切れず、却って悪魔に絡みついてその動きを封じてしまう。すると悪魔はもがき苦しみ、やがて力尽きたように地に墜ちていくのだ。
「少し癖があるが、異形の魂も中々の味よ」
「思いもよらぬ大盤振る舞い、礼を言うぞ」
 魂を、喰らっている――。ルムルは眉間に皺を寄せ、更に悪魔を呼び寄せた。

 召喚の数や速度から言っても、形勢はややルムルが押している。
 だが、色彩という武器がある敵は回避に専心し、時間を稼ぎ続ける。色彩の影響か、手足がかじかむように痺れ、カードを繰る指や集中力を鈍らせてゆく。
 自らを守る悪魔の横顔も、不気味な色に染まりぼこぼこと泡立ち始めている。
 だがその時、一筋の色彩がルムルの目を射った。瞬間、彼は激しい感情に襲われる。
 感じた事の無い、しかし彼が知っているものと同質の――「邪神」の力の知覚。
 彼の心は、忌まわしい記憶への憎しみによって奮い立ったのである。

「――悪魔よ、今こそ裁きを!」
 光の環が、力に満ちる。
 悪魔は雲霞の如く湧き出し、裁きの業火は天蓋を裂く。
 浮上した審判の世界は、色彩の極光を跡形もなく呑み込んだ。


●黒い聖堂
 祭具を全て破壊すると、今度こそ周囲の地形の蠢動は沈静化していくようであった。それでも異常な光景である事に変わりは無いが、少なくともこれ以上の悪化は無いだろう。

 もちろん、それはあくまでこの場所に限った話だ。
 その証拠に、尖塔を備えたドーム――まさに聖堂らしい風貌を備えた廃工場へと近付くにつれ、周囲の侵食は再び激しさを増してゆく。

 祭具の時と同様、当然に今回も文字の襲撃があると予想された――が、いざその領域に足を踏み入れても、それらはゆっくりと瞬くばかりで何らの攻撃も仕掛けては来なかい。
 しかし、その様は沈黙と言うよりは、例えば番犬が主人の指示を待ち構えているような、どこか統制された警戒感を纏っていた。
 それでも、ここで立ち止まる訳にはいかない。祭具を全て破壊した今、最初の起点である肉片が如何なる反応を示すか、誰にも分からないのだから。

 廃工場は外観、内部に至るまでほぼ黒一色に染められていた。あらゆる物体は爛れたように境界を失い、気孔や管めいた外見に作り変えられている。
 肉片に突き破られたらしい屋根の割れ目からの日差しに、肉壁の膨大部と化した機械や天井から垂下した照明が、炭化したような細かい輝きを返しているのが見える。
 床はすぐ入口で崩れ落ち、教団の地下礼拝堂と思しき空間が、下方、変色した瓦礫の中に広がっていた。

「『媒介』の出口が消えたので、そろそろだと思いました。複製は得意だが、片割れが破壊されれば力を失うのがこれの欠点だ。あなた方が真っ直ぐここに来れば良し、手当たり次第に探し回れば尚良しと考えていましたが、裏目に出ましたね。あれには随分金と命を費やしたのですが」

 その陽だまりの中心に、やはり全身が黒に染まりながらも人間の姿を留める老紳士、そしてその隣に、彼の背丈ほどの高さの「肉片」が佇んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『碑文の断片』

POW   :    災の章
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
SPD   :    妖の章
【猟兵以外のあらゆる存在が醜悪な怪物】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    神の章
【召喚した邪神の一部が、動く物に連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は桑崎・恭介です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「さておき、御覧なさい。美しい文字でしょう? これらは『神の御色』の祝福を受けた物に限り、紡いだ言葉を実現させる奇跡の御文字なのです」

 ゆっくりと鼓動を続ける肉片は、筋肉、あるいは心臓を連想させる。鼓動の度に外膜が透け、あの悪趣味なオーロラに似た光が表出する。
 それが纏う色彩は、陽炎のように周囲の輪郭を歪めながら立ち昇り、聳え立つ残影の基部を成していた。
「物質の記憶や謂れからこれを精製する祭具――媒介の祭具の近くに似たものがあったでしょう、あれでさえこの数分の一しか作り出す事は出来ませんでした。それがどうです!」

 男はこちらを見上げながら、さながら舞台俳優といった調子で朗々と語り掛けてきていたが、その内に興奮を抑えきれなくなったらしく、最後には絶叫するようにこう宣言した。
「ぬばたまの夜の如く深まった御色、そして綺羅星の如く瞬く御文字! そこで紡がれる全てこそが事実となり、万象の摂理と因果はそれに劣後する! 世界に満ちるあらゆる文字、それらが至るべき究極の姿ッ!」

 言うが早いか、何を思ったか、男は不意に肉片に腕を突き立てた。
 すると肉片が内包していた色彩が――強烈な光が迸るように全身を駆け巡り、彼の体をぼこぼこと奇怪に変形させてゆく。
 光は文字の形へと収束し、膨張に耐え切れなかった衣服の間から露わになった肉体を覆い尽くしていった。
 そんな中、当の本人はと言うと、急激な変形に顔を歪めながらも自らの腕や胴に現れた文字を必死に読み取ろうとしているようだった。
「『雄弁にして不言』、『不死であり不生』……『神の代弁者』……? ああ、ああ! 光栄です、神よ!!」
 ぶつぶつと呟いていた男が狂喜に満ちた声でそう叫んだ瞬間、男の肥大した両腕が突如逆さに折り畳まれる。

「ぐぎャあッ! ……ハハハハ、今こそ文字が、真に世界を支配――ガああッ!」
 続いて上腕部、両脚。まるで見えない巨大な手に丸められるように、宙に浮いた男の身体は瞬く間に凸部を無くしてゆく。
 男はなおも悲鳴交じりの狂気じみた笑い声を上げていたが、それも頭が胴へと折り込まれるまでの事だった。
 沈黙した肉団子はいくつかの塊に分かたれながら、徐々に角ばった形に整えられてゆき。
 やがて空中で静止したそれは、最早人間でも怪物でも無く、石碑の断片、としか思えぬ姿と成り果てていた。

 石に似た表面には今までとは異なる、整列した「文章」が浮かんでおり。
 その文面が光を放つと、周囲に満ちる文字もまた光を返す。
 あたかも、待ち望む主の降臨に立ち会った信者達のように。
紫野崎・結名
リサ(f09977)さんと、多喜(f03004)さんの三人で
●心情
わあー…石になっちゃった…
まわりの壁の文字と、石碑さんの文字、かわりばんこに光ってお話ししてる…?
ひゃ…リサさん笑顔が怖い…
異様な空気に、はやくかえりたい…とやる気を失っていると多喜さんが励ましてくれました
…うん、がんばる

●戦闘
これしか、できないから…
と、【演奏】を【歌唱】を開始
UCを使用して焦りと不安を増幅させる音楽を文字たちに微かに残っているかもしれない魂に捧げるよ
【恐怖を与える】ことでミスを増やしたり動きを鈍らせたり【精神攻撃】したり
あと、【目立たない】ようにあまり動かないようにしたい…


リサ・ムーンリッド
結名っち(f19420)と、多喜(f03004)さんと三人で
●心情
事実は実際に起こる事柄を指す名で、行為や現象ではないのだけれど…まあそんな事より
タンパク質が珪質へ…いや石灰質かな?
その変化はどのように引き起こされたのか。そもそも見た目通りの石なのか
わくわくするじゃないか!さあ、実験を始めよう

●戦闘
UCを使用
魔力を注いで成長させたホムンクルスをけしかけよう
邪神のサンプルもくれるの?ラッキー
酸、アルカリ、神経毒、壊死毒、への反応で構造と主成分を推測できるかな
圧力をかけて強度も確認したくはある
ここが安全ならゆっくり顕微鏡での観察とスケッチもしたいんだけどなぁ


数宮・多喜
そのままリサ(f09977)さん、結名さん(f19420)と3人で。
うーわ、因果応報とは言うけれど……
こんな報い、望んでいたのかねぇ?
ま、リサさんがこの状況に大興奮なのはわかる。通常営業だなありゃ。
だから結名さん、いつもの感じなんだ、この苦境も難なく切り抜けられるさ。
そう『鼓舞』しながら異変に相対するよ。

迂闊に動くと、周囲の変容に巻き込まれてしまいそうなんでね。
身体を動かさずに放てる電撃の『属性攻撃』の『衝撃波』で
リサさんのホムンクルスや結名さんへの攻撃に『カウンター』するように凌ぎ続ける。
そうして周囲に静電を満たせば、この場は【超感覚領域】に早変わりさ!
星辰と因果が揃う前に、疾く去りやがれ!



●旋律、電撃、大実験
 黒い表面から様々な色味を帯びた暗い光を放つ石碑。その文面が放つ光に呼応する周囲に密集する文字達。
「わあー……石になっちゃった……。まわりの壁の文字と、石碑さんの文字、かわりばんこに光ってお話ししてる……?」
「うーわ、因果応報とは言うけれど……こんな報い、望んでいたのかねぇ?」
 紫野崎・結名(歪な純白・f19420)、そして数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は何とも言えぬ面持ちで、変貌を遂げた男の成れの果てを眺めやる。
「タンパク質が珪質へ……いや石灰質かな? その変化はどのように引き起こされたのか。そもそも見た目通りの石なのか」
 一方、リサ・ムーンリッド(知の探求者・エルフの錬金術師・f09977)はわくわくするじゃないか!と興奮しきりの様子である。
「ひゃ……リサさん笑顔が怖い……」
 場の異様な空気と彼女の抑えきれない好奇心にやや尻込みしつつある結名に、多喜が軽い調子で励ましの言葉を掛けた。
「あー、通常営業だなありゃ。ま、だから結名さん。いつもの感じなんだ、この苦境も難なく切り抜けられるさ。」
「……うん、がんばる」
 にっ、と微笑む多喜に、結名もおずおずとキーボードを構え、頷きを返した。

 突如、石碑の一節が鋭い光を放つ。
 すると足元の文字達が号令を下されたかのように床を滑り、一瞬にして三人の間に整然たる列を成した。
 直後、そこを中心に地形が激しく蠢き、文字列は色彩を噴き上げながら急激に隆起してゆく。

 だが、それと同時に結名の歌が始まった。
 地下空間の中で無数の反響を含みながら、急き立てるような歌が広がる。
 それは敵の心を惑わせ、周囲全てに対する不安と恐怖を掻き立てる旋律。
 耳は無くとも、その曲調からは逃れられなかったようだ。過剰に膨れ上がった警戒心は文字、碑文、そして地形の膨張まで、全ての動作への集中を削ぎ鈍らせてゆく。
 その隙に、彼女らは足元から現れつつある「何か」から距離を取る。
 やや遅れて、肉塊とも汚泥とも取れる、七色の泡と光る文字を湛えた円錐状の柱が眼前で聳え立った。

「おっと、邪神のサンプルもくれるの? ラッキー」
 しかし、それが形成された時、既にリサの周囲でも無数の召喚物が肉体を得ていた。
 一見すれば、人。
 それぞれの形状は一定では無く、携える器具もまた多様。そして彼らの肉体は形を成してなおも増大を続け、腕、脚、それらをより装備を扱うに適した姿へと変化させてゆく。
「さあ、実験を始めよう」
 リサの声を合図に、解き放たれた彼らホムンクルスは一切の恐れも無く突進を開始した。

 邪神の一部と思しき柱はブクブクと蠢きながらそれを待ち受ける。結名の歌が与える恐怖を振るい落とすように全面を覆う文字がびくりと騒めき、一斉に瞬く。
 瞬間、その頂部が分かれ、それぞれが目にも留まらぬ速度で槍のように繰り出された。一本がホムンクルス達の肉体を貫く――寸前、破裂音と共に軌道が逸れる。

 回避を確かめる間も無く、第二、第三の触手は既に攻撃に移っていた。
 それは、言わば反射的な攻撃の惰性。頼るべき感覚は絶えず響く結名の歌声に搔き乱され、決して正確な狙いとは言い難い。いや、とうに狙いなど付けていないのかも知れない。
 それでも夥しいホムンクルスの群れに対してならば、十分に命中を期待できた筈だった。
 ところが、大量の刺突は全て紙一重で外れていた。
 微動だにしない多喜の掌で電光が閃けば、触手のぬめついた表皮が放つ色彩も白く染まる。
 肉の穂先は床や壁を抉り、文字めいた象をただ刻み続けるに過ぎなかった。

 嵐のような攻防の奥で、結名の歌声が一層高まった。
 触手の群れが幻覚に囚われたようにびくりと反り返り、柱への道が開かれた一瞬。
 膨張した上腕を備えたホムンクルスが跳躍し、瞬く間に拘束具を嵌め邪神の動きを縛る。
 そのまま後続のホムンクルス達が波涛となって邪神、そして碑文の断片を呑み込んだ。
 針が突き立てられ、また内容物を噴霧される度、表面がぎらぎらと目まぐるしく色を変え、あるいはただ悶え、時には毛のように逆立たせる。
 その反応は注射器によって異なるようであり、全てがリサの好奇心を更に煽り立てる材料、ホムンクルスを呼ぶ糧となっていた。
「なるほど、毒物に対する反応は対照的か。酸の反応を見る限り碑文はやはり珪素が主成分かな? よし次だ」
 リサが指を振ると、今度は巨大な万力に似た器具を持ったホムンクルス達が現出する。

 しかし、それが到達するよりも速く。
 網の目のように絡み付いたホムンクルスの間、拘束用の金属環の下から覗く邪神の表面で、力を振り絞るような痙攣が走る。
 すると柱の基部が突如として変形し、蕾を思わせる形を取ったかと思うとその中心から数本の触手が射出された。
 だが、それよりもなお速く、周囲に満ちる空気がバチバチと音を立てる。
 疾走する触手の頂部が色彩とは異なる白い光を帯び、同じく地下空間の至る所に光が収束してゆく。
「静電は満ちた! 星辰と因果が揃う前に、疾く去りやがれ!」
 多喜の掌から放たれる電撃と、今まで彼女が放っていた電撃の余波が呼応する。
 瞬間、蜘蛛の巣のような軌跡を描いてそれらが結ばれ、目も眩むような閃光、轟音と衝撃が黒い四方を揺るがした。

 肉の焼け焦げるような臭いが充満する。
 視界を染める白い光が褪せて、爛れ捩れた触手が力なく倒れ伏す。
「本当ならゆっくり顕微鏡での観察とスケッチもしたいんだけどなぁ。さあ、最後は強度試験だ」
 その間も真っ直ぐに駆けていたホムンクルスは碑文の断片を抑え込み、流れるように器具を絞ってゆく。
 抵抗する暇も無く宛がわれた器具は石碑の限界強度を超え、その一つを破砕したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルムル・ベリアクス
アドリブ歓迎

数多の人々を手に掛けてきた成れの果てがこれですか。随分と落ちぶれたものですね。届かぬ声と分かっても言わずにはいられません。

襲い来る邪神の一部には、UCで召喚したコルヌダマエを取り付かせ無力化。敵本体との勝負に持ち込みます。

濃い色彩に長時間耐えるのは厳しいでしょう。形振り構っていられません。真の姿を開放!わたし自身である仮面のみが変化します。魔炎を纏った数mの鳥の骨格のような、悪魔の如き怪物となり、肉体を取り込み【かばう】で守ります。
嘴や鉤爪、炎の【乱れ撃ち】で傷を恐れず戦い、侵食されきる前に決着をつけます。

人々を守りたいという信念。邪神の狂気にも塗り潰せないものがあると知るがいい!



●色に染まらぬ骨
 ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)の視線の先で、一部を失い形を崩された碑文の断片が、自らの色彩の靄に包まれながらゆるゆると自転していた。
 その様には、人としての自我や幸福などは微塵も感じられない。
「数多の人々を手に掛けてきた成れの果てがこれですか。随分と落ちぶれたものですね」
 もう届かないと知っていても、言葉が漏れる。

 届いていない――はずだ。
 だとすればそう、偶然にも。彼の口が閉じるか否かという内に、断片の一節がぎらりと光を放ち、ほぼ同時にその背後で文字が煌めく。
 するとその中心がさざ波を打って歪な膨張を見せ始める。数秒の後、歪な球状に肥大した巨大な突出部が姿を見せた。
 それはつい先程に現れ、そして消え失せた肉の柱とは全く異なる風貌でありながら、それでも存在を一にするモノであると確信させる、胸を搔き乱す色を内に湛えていた。

 その全容を認識する間も無く文字が鋭敏に動き回り、何やら意味ありげな模様を描く。
 すると突出部は上下に分かれ、顎の如き様相へと変化する。喉奥とでも言うべき部位からは目を射るような色彩と、一つ一つが人の背丈ほどもありそうな無数の針状突起が零れ出た。

 だが、その切っ先がルムルを狙うよりも速く、彼のカードも光を放った。
 光の奥から這い出すは、四方を覆う黒とはまた異なる、深い闇のような黒煙。それはルムルを庇うように彼の前方で塊を成すと、その至る所に目玉を開く。
 煙の悪魔『コルヌダマエ』は一瞬にして突出部に迫り、自らの身体でそれを包み込んでしまった。
 表面で蠢いていた文字の光さえも黒煙の奥に閉ざされ。寸前に見せた痙攣的な戦慄きを最後に、突出部は完全なる沈黙を命ぜられたのである。

 一方、ルムルの姿にも変調が訪れていた。
 仮面が瞬く間に変形し伸長してゆく。
 鳥の頭骨に似たそれはあたかも再生するように、彼の肉体を呑み込み、巨大な鳥の骨格に似た形状を成してゆく。
 暗い炎を纏う悪魔の如き異形。それは、仮面の――ルムル・ベリアクスの、真の姿であった。

 恐るべき咆哮を上げ、悪魔は魔炎の翼を広げて一直線に碑文へと翔る。
 すると石碑を包む色彩の靄に触れた瞬間、奇妙な衝撃が走った。あの祭具が放っていた、照射し塗り潰すような色彩とはまた異なる、吐き気を催す感覚。
 言うなれば、そう。染み込み、「書き換え」られるような。感情と理性を狂わせる、本能的な忌避を呼び起こす感覚。
 だが、ルムルは緩めかけた速度を更に高め、宙に浮いた石碑に向けて巨大な鉤爪を見舞う。
 そのまま身を翻し、もう一つの断片に戦槌の如き嘴を振り下ろした。

 砕けた石碑の断面から汚濁した色彩が噴き出し、頭骨の眼窩を射る。脳裏が極彩色に染まり、思考の代わりに「文字」が踊る。
 目くるめく七色の狂気と輝く文字を浴びながら、それでもルムルは碑文を穿ち、削り、砕き、焼き払う為に地下空間を飛び続けた。
(私は人々を守る、私は……っ!)
 骨の下に眠る青年の肉体を色彩に晒さぬよう、その身を盾にして。
 人の世界へと伸びる色彩を、この地で滅ぼす為に。

『――邪神の狂気にも塗り潰せないものがあると知るがいい!』
 やがて距離を取ったルムルは、破れた天井近くまで飛び上がる。
 そして開かれた嘴から迸った巨大な火球は、碑文の光を焼き尽くし。
 砕片の数々を、跡形もなく消し飛ばしたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
解釈お任せ

_
(少女を避難させた後)

……異様なその光景に
喉が緊張で乾き嫌な汗が背を一筋伝う
けど目は逸らさない、逸らしてはいけない
決して怯むこともなく
鋭く見据えるは石碑の断片

…もっと早く身体が動いていれば
彼の行動を止められただろうか
自身の無力さに悔悟と嫌悪が募る
然し今その罪に苛まれるべきではない
己の成すべきことを全力でやるだけ

他猟兵らの動きを確りと把握しつつ、連携を意識して立ち回る
──捉えたその一瞬の隙、指先は既に我が伴…《桜》の柄。
放つは一閃、狙うは根源。
……俺にはこんなことしか出来ない。
その罪も何もかも背負って、我が一刀にて──断つ。



●終止符の一閃
 大半を失った石碑の表面は無数の傷に覆われ、とめどなく流れ出ていた色彩も喘ぐような途絶えがちなものとなっていた。
 それでも、碑文は自らの断片同士をパズルのように組み合わせ、不格好な塊となって欠損した部位を補っているようだ。

 妄執のままに、狂信のままに。自らの身を厭わぬその姿を、丸越・梓(月焔・f31127)は捩れた石柱の裏から見据えていた。
 汗が背を伝う。早鐘のような動悸が鼓膜を震わせる。
 それは、決して緊張の為だけでは無かった。
 
 脳裏に先程の光景が蘇る。
 文字の命ずるまま、あり得べからざる姿に作り変えられた「人」。
(……もっと早く身体が動いていれば)
 敵の動きを睨むその鋭い眼差しが、知らず歪む。

 不用意な突入で敵を刺激する事への懸念。罠や奇襲への警戒。敵が独白する情報の分析。経路の把握。そして何よりも、たった今彼の内に流れ込んだ「肉片」の存在。
 あの状況の中、そこに明確な手落ちがあったとは考えられない。
 そもそも、既に黒く染まり切った彼を救う事は、最初から出来なかったのかもしれない。
 それでも、彼を止める方法が――救う道が、あったのではないか。答えの出ない自問が、間断無く梓の胸に去来し心臓を締め付ける。
 目の前で喪われた命。それを救えなかった罪。
(――また、だ)
 ぎり、と、唇を噛み締める。

 無論、それに意識を囚われていた訳では無い。
 激しい戦闘の最中、梓は堆い瓦礫や変貌した柱を利用し、今や碑文の間近にまで迫っていたのだ。
 先程少女を救ったその手に、今は『桜』の柄が収まっている。
 伴の感触を確かめるように、自らを叱咤するように、それを強く握り締めた。
 
 そして、石碑がぐらりと揺れ動いたかに見えた時、梓は既に地を蹴っていた。
 だがその直前、彼は足元の文字が放つ光を見た。
 それに呼応した碑文が、地下空間全てを照らす程の鮮烈な光を放つ。
 稲妻の如く走る文字が列を為し、縦横に数珠繋ぎとなった文章が四方に張り巡らされる。
 瞬間、黒い地面が割れ、業火の網が噴出する。
 それは頭上から、壁から、同時に湧き出しており。
 全ては紅の怒涛となって、梓を呑み込まんとしていた。

 しかし、それよりも僅かに速く、身を躍らせた梓の脚が碑文の影を踏みしめる。
 敵本体を巻き込む事も厭わず、押し寄せる炎の渦の猛烈な熱の中。
 放たれた、一閃。

「……すまない」
 
 抜き放たれた刀の切っ先は、何者をも傷付けてはいなかった。
 だというのに、肉薄していた炎は一瞬にして掻き消え、石碑は激しく脈動しながら奇怪な変形を始めていた。
 表面に描かれた文章が切れ切れに光り、無地だった側面や背面に乱雑な線が浮かんでは消える。
 それは更なる変身と言うよりは、むしろ自らの形を必死に留めんとしているかに見えた。

「俺にはこんな事しか出来ない。何もかも俺が背負う、だから……」
 ――おやすみ。
 梓の静かな呟きが聞こえるか否かという内に、岩の砕けるような音が響いた。
 それは、碑文が無数の砕片に化した音であった。

成功 🔵​🔵​🔴​


●色彩の波紋
 崩れ落ちた碑文が、断末魔を思わせる閃光を放つ。
 光は波紋のように周囲の文字へと広がり、彼らはもがき苦しむような激しい震えの中、一様に同じ形状を取った。
 元より読み取れはしない、けれど推し量る事は可能であった。

 爛れたような天井や瓦礫を覆っていた色彩と文字が、無数の光の粒子となって空中に溶け出してゆく。床や壁から剥がれては浮かぶそれらの粒は余りに弱々しく、物に触れた途端、雪のように掻き消えてしまう。
 そして、あらゆる歪んだ輪郭が、元あっただろう形に徐々に整えられていく。

 はっと、黒い塔のような残像の帯を見上げれば、やはり青空に滲みながらその色が茫然と輪郭を失っていく様が見て取れた。
 空は夕刻近くの仄かな茜色と、滲み出す異界の色彩との中で、丁度夜明け時のように様々な色合いを一瞬毎に見せ続ける。
 薔薇色や浅葱色、檸檬色、菫色。
 その全ての色はやがて、無色な空気の中に、本来あるべき色の中に溶け込んでいった。

 水面に垂れたインクが、やがて薄れて見えなくなるように。

●エピローグ・沈黙した文字
『単なる点や線や簡略な図絵、それらをある規律に基づき連続させる事で、文字はある力を得る。完璧に組み立てられた文章を読む時、最早我々は文字を見てはいない。彼らを通し、彼らの紡ぐ世界を見ているのだ――』

 地下聖堂にあっただろう祭具や書物は激しい戦闘の余波か、それとも色彩らと共に消えてしまったのか、何一つ残ってはいなかった。
 だが、狂信者の潜伏先には、彼らの目的を推察できるものもいくつか保管されていた。

『蜃気楼のように現れるその世界へと我々を導く力。紡ぎ手が糸を作り出してはいないように、その力は文字そのものが秘めている。筆者の技量とは畢竟その力をどこまで引き出せるかに過ぎない――』

 名の知られた古代の哲学者が数字に神秘を感じたように、その者たちは「文字」に神秘を感じた。
 文章を読んだ時、自分の脳裏には何故その情景や理論が描かれるのか。文字を文字たらしめるものは何なのか。
 出発点は、そのような無邪気な探究心であったようだ。

 だが、それは時代を下るに従って過激な思想を帯びる事となった。
 あの「神」の存在を知った事も、その傾向に拍車をかけた一因だろう。
 自らの世界を顕現させる、文字の存在。それは彼らにとって、彼らの思想を肯定する神託に見えたのかもしれない。

 ともあれ、彼らの目論見は打ち砕かれた。残るは事後処理のみである。
 特に汚損の激しかった廃工場は、不自然な地下の空洞を除いて概ね元の姿を取り戻した。
 だが、文字の力を失った各都市伝説の舞台はそうもいかない。元に戻りつつあるそれらも、目下の所は隠蔽や解体を余儀なくされるだろう。
 市街地で起こった事件故に、インターネット上の巡回を緩める事は出来ない。カウンセリングの必要もある。
 暫くの間、UDC組織の職員は忙殺される日々を送る事になりそうだ。

 そんな支部内で、猟兵の報告を書類にまとめていた一人の職員が、ふと呟いた。
「……これも、文字、なんですよね」

 電子画面の上で、身動ぎ一つせずに整列している文字。
 この世界で情報を媒介し、記録し、人の営みの歯車を回す為に増え続ける文字。
 もしもそれらが、あの文字達のように動き回ったら――。

 そんな懸念が一瞬脳裏を掠めたが、それこそ杞憂というものだろう。
 邪神との接点は、断ち切られたのだから。

 空は、青。
 崩れ落ちそうには無い穏やかな晴天が、こちらに無言の肯定を返していた。

最終結果:成功

完成日:2021年07月03日


挿絵イラスト