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誓いが悔いに変わる時

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●契
「僕はきっと、君を護るためにこの力を手にしたんだ」
 とあるユーベルコヲド使いの少年が、強い意志とともに放った言葉。王道の、あるいは陳腐な、物語ではよくよく見かける、手垢のついたような言葉である。
 しかし多く使われるということは、余程無理な文脈でもなければ感動的で、効果的な言葉でもあり、登場人物自身たちにとってみれば、自分が向ける、自分に向けられるその言葉には、陳腐ではない、強烈な意味がある言葉。
「――――!」
 護られる少女は思う人の名を呼び、感極まって潤んだ瞳を揺らしながら頷いて見せる。出立するその背を――よく知るはずの、而して見違えるほどに大きく強い背中を、心配と信頼と共に見送る。必ず戻ると言うその約束に、祈りと希望を込めながら。

 果たして、少年は帰らず少女は誓いに縛られて。
 果たして、少女を遺した少年は悔いへと成った。

●楔
「気分が乗ッて強くなンなら世話ァねェやなァ」
 ため息混じりに言うのは、グリモア猟兵の我妻・惇である。集まった猟兵たちに向けて情感たっぷり皮肉たっぷりに、とある少年少女の別れの顛末を語ってからの、この言葉である。どうにもお気に召さない予知であったらしい。
「まァ、要は影朧にやられたガキが影朧になッたンで、ブッ倒してくれッてだけの話なンだけどな」
 身も蓋もない要約ではあるのだが、実際に解決すべき内容としてはその通りなのだ。

 現れる影朧は、元来非常に精強な武人であるが、少年の悲しみや後悔と結びついた上ではその限りでないらしい。傷つき弱った儚いそれは、繁華な通りに出現するため、放っておいたり対応が遅れたりすると、そこで暮らす住人たちへ少なからず被害を及ぼすものである。逆に、早急に接触することさえできれば、人々の避難を待つこともなく、それほどの苦労もなく倒してしまうことができるだろう。
 影朧事件の解決というだけなら、それだけで充分に要件を満たしてはいるのだが……。

「どォも、何かの目的があるらしくてな。倒した後も健気に歩いて先へ先へと向かうンだわ」
 またもため息を混ぜながら、男は語る。倒されてなお、傷ついた影朧はどこかへ向かい、商店の立ち並ぶ大通りを歩くのだ。当然周囲の人間は驚いたり恐れたり、あるいは牙を剥いたりもするかもしれない。
「慰めるのも、俺らの仕事なンだッてな」
 たしかに実際のところ、それは戦闘よりも大仕事となりそうなのは事実である。影朧自身が力尽き、生きる希望を失ってしまったら、彼はその場で消滅し、救済の機会も永遠に失ってしまうのだ。守ったり励ましたりしながら目的地へと向かうというのは、簡単なことではないだろう。

「ほンでまァ……行きたい所ッてェのも、約束の場所とかそォいう事なンだろォな」
 遺した人に誓った場所、彼女が待つかもしれない場所。そこで、再び会うことができたなら――会えたら何を、伝えようか。
「つまるところ、最後は……約束破ッて気まずいガキの、仲直りのお手伝いッてワケだ」
 やはり身も蓋もなく結論して、惇は皆を送り出しはじめる。


相良飛蔓
 お世話になっております、相良飛蔓です。今回もお読みいただきありがとうございます。うちの今年のお花見はこんな感じです。

 第1章では傷ついた影朧との戦闘です。戦いながら少年と言葉を交わすことも一応できますが、あんまりそちらに傾くと普通にざっくり行かれますので、適宜戦ってあげてください。

 第2章は冒険、商店街を影朧を保護したり先導したりしつつ、まっすぐその先の目的地へ向かいます。影朧は悲しみとか後悔とか猟兵にやられた傷とかで心身もろもろ不安定になってますので、言葉をかけて励ましてあげたり、人々の迫害から守ってあげたり、無事に歩き切れるようにとにかく支援してあげてください。
 なお、影朧からは攻撃を行いません。猟兵が人々を攻撃するとヘイトが全部影朧に行くので、傷つけずに守ってあげてください。

 第3章は日常……と言いつつ影朧対応中につきグリモア猟兵は行けません。少年の伝えたい言葉を代弁してあげたり後押ししてあげたり、素敵な言葉を紡いであげてください。ざっくりふんわりと伝えたい言葉の正解らしき内容を考えて用意はしてありますが、ぶっちゃけ僕を泣かせたら大成功だと思ってもらって大丈夫です。

 そんな感じで、よろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『名も喪われし大隊指揮官』

POW   :    極天へ至り、勝利を掲げよ
【槍先より繰り出される貫通刺突】【斧刃による渾身の重斬断】【石突きの錘を振るう視界外殴打】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    ヴァルハラに背くは英雄軍勢
戦闘用の、自身と同じ強さの【完全武装した精鋭擲弾兵大隊】と【戦車・重砲を備えた混編機甲部隊】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    アーネンエルベの魔術遺産
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔術兵装で分析し、性能を強化した状態で】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

万象・穹
人は死してから、後悔があれば現世に幽霊となって現れるとよく言うけれど、サクラミラージュではそれが顕著ね。

私の声は聞こえてるのかしら。
アナタは影朧になってしまった、グリモア猟兵の話を聞く限り、よほどの未練があるんでしょう。
その槍、何のために使うものなのか、今一度よく考えるの。迷っては駄目。

……けれど、無自覚に襲いかかってくるなら抑え込まないといけないわね。

影朧からの攻撃は、魔眼で『見切り』、更に『神威羽の波濤』で光の錯視を作り出して、私の存在そのものの認知を狂わせることで攻撃を回避してみるわ(催眠術)。

UCで無数の剣戟を刻み、防御の隙も与えないように立ち回る(破魔・浄化)。

(アドリブ等歓迎)



●虚
 人は死してから、後悔があれば現世に幽霊となって現れる――境界に棲まう万象・穹(境界の白鴉・f23857)にとっては、さしたる疑いや幻想を抱くようなことではない、ごく自然に受け入れられる話と言えるだろう。
 サクラミラージュにおいては、後悔は影朧という形をとって、より強くより容易く人々の前に現れる。穹はたいした表情の変化を見せることはなくも、そんなことを感心していた。
「私の声は聞こえてるのかしら」
 潜みもせずに目の前に立つ白い人影に今まで気付かなかったかのように、呼び掛ける声に影朧はぴくりと肩を震わせる。遠巻きに怯える姿や逃げる声もあり、今更たった一人に驚くこともないだろうに……形を成した武人の姿に似合わぬ程に、その視野は狭いらしい。
 これまた今更に、斧槍を構えて迎え撃とうとする仮面の武者に、穹は続けて語り掛ける。
「その槍、何のために使うものなのか、今一度よく考えるの」
 未練のために現世に戻ってしまった少年……だった影朧。無念を晴らすことが、悲願を果たすことが目的であるのなら、その刃を他者に差し向け、傷付ける理由などはないはずだ。グリモア猟兵より伝えられた過日の少年の誓いを思えば、そんな理由も必要も。

 再び肩を小さく震わせて、今度は頭も小さく揺らせたかと思うと、それは得物を構え直して、自身を見据える白い姿へと挑みかかった。その刃には間違いなく、彼自身の意志が乗っている。
 精彩を欠く、されど渾身の突撃を、後足の一歩で半身をずらして少女は難なく躱してみせた。続き素早く流れるように繰り出されたる石突が、視界の外より襲うを見越して少女は跳んで退いて避け。引いた分だけ大きく踏み込み、振り下ろしたる斧刃の重きは――白き姿を二つに割った。

「僕、は」
 訊ねた者はたった今いなくなり、聞く者もなく頼りない少年の声は先を紡がない。地面に刺さった凶刃を、俯き見つめる影朧の頭に、而して声がまた掛けられた。
「迷っては駄目」
 弾かれたように持ち上げられた仮面の奥に瞳があるなら、眩い程に白い姿を瞭然と映したことだろう。穹の纏う神威羽の波濤は光を操り、敵する影朧に偽りの姿を見せていた。切り裂かれた猟兵はおらず、刃は虚空を薙いだのみ。智恵に力に驕れるものを、鴉は容易く欺くのだ。
 殺した筈の少女の姿に狼狽するような彼に向け、穹は反撃を繰り出す。防ぐに用いた白光を今度は刃に宿らせて、自身も光条の如くにまっすぐ駆けると、先の言葉を実演するように、無数の剣戟を、あるいは閃光を、一切の迷いなく打ち込んで見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



 女の子の声は、僕に向けられていた。行かなきゃいけない僕の前に、立っている。行かなきゃ、いけないのに。
 何のために槍を使うかなんて、決まってる。使い方なんて知らないけど……知らないはずだけど。
 握った槍だって、それを振るう腕だって、前に進む足だって。僕の全部は帰るために、もう一度会うために。それを邪魔するのは、きっと僕の敵なんだ。敵であるなら殺さなければ。護り、勝利し、帰すために。

 僕は、あそこに帰りたいだけなんだ。
 何をおいても帰さねばならない。
 僕は、こんな事して胸を張れるのかな。
 どんな事をしても勝たねばならない。
「僕、は」
 僕は、どうしたいんだろう。
シリン・カービン
「まったく、身も蓋もない」
惇の物言いに嘆息。
まあ、やることはその通りなのですが。

影朧…この世界のオブリビオンが生命の輪廻に戻れるのなら、
それは私としても望ましい。

影朧の性に引き摺られて周囲を害せぬよう、
適度に弱らせて本人の意思を呼び起こすのは道理。
なので、サクサク狩っちゃいます。(身も蓋もない)

大がかりな部隊を召喚出来るようですが、
周囲への被害は避けたいところ。
となると、
「矛先は空へ向けてもらいましょう」

宙へ駆けあがり、部隊の注意を引きつつ残像・フェイントで回避。
上空からは丸見えの彼を狙撃します。

部隊が消えたら彼が消えない程度に連射を。
この程度、我慢して下さいね。
…辛いのは、これからですから。



●化
「まったく、身も蓋もない」
 グリモア猟兵の言い草に嘆息しながら現れたのはシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)だ。言い方とか印象とか、そういうものがあるだろう。まあ……
(やることはその通りなのですが)
どう言い繕ったって、今できることは影朧を倒すことだけなのだ。
 狩り人である彼女は、守り人でもあると言える。生命の均衡を守ることもその責務の一つであり、自然の理を外れたオブリビオンを再びその輪に戻せるのなら、それは望ましいこと。
(影朧の性に引き摺られて周囲を害せぬよう、適度に弱らせて本人の意思を呼び起こすのは道理)
 そして最適な戦略を導き出すための注意深く合理的で徹底的な思考は、シリンの性格としても生業としても当然あるべきものであってーー
「なので、サクサク狩っちゃいます」
 合理の末に身も蓋もない結論に至るのもまた、ある意味では当然至極と言えるわけで……。

 勿論、シリンが敵を侮っているわけではない。手負いの獣がいかに恐るべきかなど彼女はよく知っている。それでもその口から出た言葉が、対するものにとって挑発的に聞こえたのも、否めないことだろう。
「やれるものならやってみるがいい」
 受けて影朧は低く怒気を孕んだ声を返し、号令した。因りて召喚されたのは、麾下の誇るべき、そして今は亡き英雄軍勢。在りし日の戦列はその無数の重砲、戦車砲、擲弾砲の砲口を差し向け、その軽侮への非難を一斉に吐き出そうとしている。直接受ければ、人の身ではひとたまりもないだろう。さりとて避ければ背後にある町や人には甚大なる被害が齎されるのも必定である。不規則に跳び回って掻き回しても、まき散らす災禍はきっと変わらない。
 居並ぶ軍勢の装甲は影朧を守る盾であり、砲身は人々の喉元に突き付けられた矛であり。

 だからこそ、侮れぬからこそ侮るような言葉を掛けたのだ。挑発的に注目と敵意を一身に集め、それらが火を噴くより早く
「矛先は空へ向けてもらいましょう」
シリンは宙へ駆け上がった。
 放たれた砲弾を巧みに躱し、遮る物のない空にあってなお在処を紛わせる程に翻弄し、天に弓ひく軍勢の上を、踊るように跳び回る。そうして多勢を惑わせながら、自身は確と照準を定め、戦車砲よりはるかに小さな銃口よりの弾丸が、地上部隊に堅牢に守られるはずの指揮官の肩を、空より襲いて過つことなく撃ち抜いた。

 影朧自身が傷を受けると、間もなく軍勢と砲弾は消え失せる。揺らぐその身にしかし狩人は容赦なく、次なる魔弾を撃ち込んでいく。消滅を厭いつつも力を削ぐように、矢継ぎ早に淡々と。
「この程度、我慢して下さいね」
消えてもらっては困るのだ。そうなればそれこそ、身も蓋もない。
「……辛いのは、これからですから」
 冷徹にも見えるその瞳が、僅かに憐憫に揺れる。

成功 🔵​🔵​🔴​



 簡単に言う。精兵達が簡単に倒される筈がないし、簡単に死して良い筈がない。もう、二度と。
「やれるものならやってみるがいい」

 これより先に、このうえ辛いことなどあろうものか。戦友達が空しく散り、押し潰されていくあの絶望や屈辱より、辛いことなど。

 でも
 だから
 泣かせるのは、嫌だな。
 絶対に、勝たねばならないのだ。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
さて、さて、昔の事もこれからの事も、
とりあえず今をどうにかしないと始まらないね。
それじゃあ、やるとしようか。

相手の攻撃は斧槍の三連撃ね。
刺突は斧で受けて逸らして、斧刃の斬撃は見切って避けて、
石突きの一発くらいは頭で受け止めてしまっていいかね。
ぶん殴られた頭を【再生逆撃】で再生しつつ、お返しに頭突きを叩き込むとしようか。

少しは目も覚めたかい?
アンタは、暴れる為に彷徨い出たわけじゃないだろう。



●今
「さて、さて、昔の事もこれからの事も、とりあえず今をどうにかしないと始まらないね」
 過去に囚われ身動きができなくなるのも、先行きの闇に足を竦ませ踏み出せなくなるのも、何も変化がないという点においては違いがないことだ。人であろうと化生であろうと、意思があるなら死んでいようと、やれることをやるしかないのは等しく変わらないことである。
「それじゃあ、やるとしようか」
 暢気なような口調でそんな風に言いながら、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は影朧の側へと踏み出していく。ただやれることをやるために。

 彼女の中で脈動する巨獣の心臓は、その身に強大な力を生む。伝えられた獣竜の脚は強く重く大地を蹴って、一直線に敵へと向かう。単調な突進に合わせるように影朧より放たれた裂帛の刺突は、猟兵の怪力でもて振るわれる重厚な骨斧に容易く弾かれ跳ね上げられた。
 眼前に迫った相手に対し、逸らされた刃を無理矢理御すると、影朧は全霊で振り下ろす。卓越した技量と精神力によって放たれたであろうその攻撃は、ペトニアロトゥシカの右目によって迅速に確実に捉えられ、やはり身体能力に任せた強引な挙動によって躱されてしまう。
 信じられないことではあるが、影朧にとっては好機に見えた。無理のある回避はその後に隙を生み、間隙を与えない攻撃であれば次撃をやり過ごすことは不可能となる。その戦技は確実な追撃を可能とするだけの力は持っており、彼は会心の一撃を予定通りに正確に、猟兵の頭に叩き込んだ。斧槍の石突は、確実に頭蓋を叩き割り、彼女を倒すことだろう。

「その程度じゃ、あたしは死なないよ。」
 頭部を僅かに変形させながらも、ペトニアロトゥシカの視線は一切揺らぐこともなく、縦長と横長の一対の瞳が仮面の奥を見据えていた。強烈な一撃に強靭な脚は撓むことも屈することもなく、力を蓄え逆に踏み込み、撃ち込まれた凶器を物ともせずに、飛び込む。
「お返しだよ」
 振りかぶられた歪な頭部は、眼前に迫った時には変哲のない綺麗な頭部となっており、その一瞬後には強靭で強烈で脅威的な凶器となった。

 頭突きを受けて兜ごとへこんだ頭部を庇い、たたらを踏んだ影朧の、猟兵は逃がさず襟首を掴み自らの眼前へ引き寄せた。不意を突かれた上に彼女の並外れた膂力である。そう容易くは抜けられない。
「少しは目も覚めたかい? アンタは、暴れる為に彷徨い出たわけじゃないだろう」
 抵抗の難しい状況ではあるが、それでも一瞬明確に、彼の抗する力が止まる。一瞬のことではあろうとも、確かに心は揺らいでいるようだ。
「早く、行かなきゃ」
 力は再び強くなる。しかし僅かに違うのは、震える声と見据える先。求める先は、彼女にはまだわからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



 なぜ、終わっていない!
 確実に殺した、確実に倒した、勝ったはずだ、救えたはずだ、それなのに!

 生きるために生かすために、殺さなくては倒さなくては、一人残らず完璧な勝利を、敵は殺せ敵は殺せ敵は殺せ敵は

「早く、行かなきゃ」
 殺したり勝ったりは、本当に大事だったのかな。
 すべてを殺さねばすべてに勝たねば、大切なものは守れはしない
 僕は生きて帰りたかっただけ。そりゃあ皆には悪いかもだけど
 生きて帰せねば、誰に顔向けできようものか

この手を、離して。僕は行かなきゃ。
鈴桜・雪風
嗚呼
この世はいつもこんなことばかりですわね
美しく咲いた蕾から、風に吹かれて散っていく
花の事情などお構いなしに

相手は槍術の心得がある様子
しからばこちらは間合いの内に一歩踏み込んで活路を見出すのみ
穂先の刺突を見切って脇へ抜けさせ、そのまま傘で視界を塞ぎつつ仕込み刀を抜刀
傘は投棄
斧槍を押さえて下に流す……これで重い穂先が地に落ちて数瞬攻撃不能
「それだけあればあなたを斬るには十二分。素っ首貰い受けましょう」

戦があれば勝者と敗者に分かれるは道理
ですが敗れた方は、道理では納得できぬこともまた真実
「お付き合い致しましょう。あなたが納得を見つける道行きに」



●折
「嗚呼 この世はいつもこんなことばかりですわね」
 切なげに言う声音。
「美しく咲いた蕾から、風に吹かれて散っていく。花の事情などお構いなしに」
 紡ぐ言葉の通りに、美しい花の散りゆくを見やるように、遣る瀬無さに目を細める様子の少女は鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)、桜の精である。救うべき影朧の荒ぶる様に、思うは怒りか、憐れみか。暗き淀みに春をもたらす風のごと、華やかな桜の傘を掲げた猟兵は颯と歩み出す。

 寄らば当然とばかりに、影朧は斧槍の穂先を差し向ける。そこに立つ相手が可憐な少女であれ敵する武人であれ、その目にはおし通るべき障害にしか見えていないのだろう。くるりと回る傘の下、首元目掛けて一閃の走る。
 槍が雪風を捉える寸前、その細首はくるりと回り、踊るように攻撃を躱した。伴い巡った傘も舞い、武者の視界を鮮やかに彩り、桜吹雪に互いを隠し。
 斧槍をもたげて傘を除ければ、持ち主の手を離れていたそれはするりと抛られ地に落ちて、現れたるは一歩踏み込む彼女の姿、握られたるは一振りの刀、桜の花傘の仕込みである。長柄武器の影朧にしてみれば、詰め寄られたるは分の悪い、牽制を兼ねて振り下ろしながらその場を一歩下がろうと試みる――当然その一撃も、致命の重さではあるのだが。
 迫る攻撃を、雪風はしかしその嫋やかな細腕で、その細らかな一刀で、逸らしてくるりと抑え込み、勢いを殺すこともなく叩き下ろさせてしまった。仮面の下には、僅かなりとも驚愕が浮かんだことだろう。
「それだけあればあなたを斬るには十二分。素っ首貰い受けましょう」
 逡巡なれども、それは殺すに充分なのだ。この影朧とてそれはよくよく知っている。落とされた攻撃を起点としながら、容易に動かぬもどかしい得物を強引に繰って蹴上げれば、石突は遅れて猟兵を襲う。首元目掛け走る一閃を押しとどめるほどの力はなく、長柄は容易く切り落とされた。而してそれは僅かな足止めの時を生み、寸でのところで持ち主の首を深手ながらも繋げて見せたのだった。

 矛を落とし、低くに睨む影と、刃持て、見下ろす花。勝者敗者の別は瞭然たるものである。それはきっと影朧自身も、見える前より分かっていただろう。自分が、いずれであるか。
「勝たねば なんとしても」
 割り切れようはずがないのだ。それを怨嗟の糧として、この世に再び生まれたものが、認めよと言われて割り切れようはずが。
「お付き合い致しましょう。あなたが納得を見つける道行きに」
 散り残ったる徒花に、終を求める影朧に、雪風は再び刃を向けた。

成功 🔵​🔵​🔴​



「勝たねば なんとしても」
 強ければ、たとえ首が切り離されても生きていれば、もっと殺せたのに。もっと勝てたのに。きっと名将でも英傑でもなく、敗将敗兵であったから、負けて、死なせて、帰る場所を奪った。
 膝を折ったごときで、首を裂かれたごときで、再び負けるなど、認められるものか。

 じゃあ、ここで頑張ってたらみんな許してくれるの? 君の勝ちだよって、言ってくれるの? 悪いけど、きっとみんな気にしてないよ。
 
 僕は
 帰りたい
 ほら、ね
鈍・小太刀
正面から対峙
攻撃を注意深く見切り、回避
カウンターで武器落とし

護るための力
そうだね
君はきっと護る為に精一杯戦って、死んだんだ
厳しい戦場だった?
でもこの先に君を待つ人が居るという事は
護る事、出来たんだね

だったらそんな情けない顔しないの
彼女、増々心配しちゃうよ?
大体大見え切って行ったんならさ
最期まで格好つけなさいってのよ

(以降延々ダメ出し

てかそんな武器持って何すんの?
槍で彼女も突くつもり?
ましてや戦車とか
ロマンチックの欠片も無いったら

その力は人の命を容易く奪う
分かってるでしょ?
君はもう影朧なんだよ

女の子とのデートに殺気はいらない
会いたいって気持ち一つで十分よ
急がば回れ
先ずは一旦落ち着けっての

桜花鋭刃



●七
「そうだね。君はきっと護る為に精一杯戦って、死んだんだ」
 斧槍を握り直し、切り取られた石突を見る間に復元して見せた影朧が、頼りない足取りで立ち直り、その手に抜き身を提げた鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)が見ていた――見守っていた。視線には憐みなどではなく、成し遂げた者への労りばかりが湛えられている。
『厳しい戦いであったか』――それは問うにも及ばない。命をも失ったのだから。しかし、それでも。
『大切なことだったのか』――当たり前だ。命を賭してまで臨んだのだから。しかし、もう。
「でもこの先に君を待つ人が居るという事は……護る事、出来たんだね」
 優しく呼びかける声に、仮面の影がはっとした。弟を持つ姉の姿か、少年らしき影朧の中に、届く言葉を見つけたか。

 それから一拍、構え直すと轟と風切るかの如く、斧槍の刃が小太刀を襲う。大きく薙ぐを退いて避け、切り替えて突くを打って往なし、紙の一重の最小限にて見切って躱して前に立つ。続く石突の追撃が、いよいよ小太刀を捉えんとするも、やはり彼女は見切ってのけて、打ち上げたるを半身引き……
 影朧の攻撃の軌道と勢いに合わせるように、猟兵がその太刀をぶつけてやれば、長柄は持ち主より逃げるように、くるりと回ってからんと落ち、再びその手を離れてしまった。今その彼の目の前には、傲然と見下ろす少女が、ひとり。背丈は低いはずなのに、間違いなく、見下ろしている。
「てかそんな武器持って何すんの?」
 今その目に浮かんで見えるのは、労りや優しさではないようにも見える。

「ねえ、何すんの? 槍で彼女も突くつもり?」
 確かに守るためには要らないだろう。影朧である彼の周り以外は至って平和に見える場所である。何故かと言われれば、なんとも言えない。
「ましてや戦車とか、ロマンチックの欠片も無いったら」
 こちらに関してはもっと何も言えない。騎馬や車ならまだしもとして、戦車なんかで意中の人を迎えるのなら、マッチョイズムも良いところ。沢山並べて行進するのは、凱旋パレードか市街戦、もちろんどちらもお呼びではない。ついでにそれを一人でやっても滑稽なばかりで――
「君はもう影朧なんだよ」
 ここに至って、小太刀は少しだけ悲しそうに。たった一人でも人々を脅かし、多くを傷つけ壊すことができるものに、なってしまったのだ。持つべき物も、言うべき言も、在るべき姿も失って、それに気付いた“少年”は、とても小さく見えた。
「そんな情けない顔しないの。彼女、増々心配しちゃうよ?」
 影朧の様子にふっと少女は可笑しそうに笑うと、その背を叩いて押すように、
「女の子とのデートに殺気はいらない、会いたいって気持ち一つで十分よ」
 願いと祈りを籠めた剣にて、優しくそれを、切り伏せた。


 何を、言っているのか。
 まだ戦いは終わっていない。待つ人の、守る人の元にまだ帰せていない。刃も砲も、戦うために、終わらせるために、必要なものであるはずだ。

 こんなの見せたら、また泣かせちゃうかもしれないな。でも、何もないのはやっぱり怖いよ。お土産どころか、僕自身だって持ってこられていないのに。

 でも、きっといいんだ
 駄目だ、無理だ
 もう少しだから
 もう少しだから

 ありがとう、あとは一人で帰れるから。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 斧槍を落とし、膝をついた影朧は、時間をかけてどうにか立ち上がった。その手に凶器はもう握られていない。歩みを進めようとすれば、その体はぐらりと傾いた。支えに立たねば、たびたび転んでしまうだろう。砂粒のように身を零し続けるそれは、放っておいては目的地まで辿り着けないかもしれない。

 その上さらにもう一点、彼は気を付けなければならない。通りに沿って遠巻きにする人々は、必ずしも協力的ではない。影朧に奪われ、傷つき、恐れる者もあるだろうか。脅威を拒む口さがない言葉も、振り上げられる怒りの拳も、精一杯の投石も、たとえば色々なものが投げつけられるかもしれない。それらは人間が人間に向けることもある敵意、人間が人間の心を殺すこともあるものである。

 心は折れる僅か前、姿も失せる僅か前。それでも健気に歩めるそれの、目指すところは遥か先。常なる脚なら目と鼻の先、けれどそれには遥か先。されど立ち、あるいは這って、進もうとする。
「行かなきゃ……」
 彼に対する情か興味があるならば、その行く末に付き合って、守り導いてやろう。
万象・穹
覚悟をもって突き進むのならば、私もまた同様に、アナタの道を繋ぎましょう。

トラブルがあった場合は間に入って止めに入る。『見切り』で何かしら察知、間に入って刀でガード……罪を憎んで人を憎まず、そう言うでしょう?

【ゴッド・クリエイション】で自分が創造した鴉羽の繁殖力をあげて『オーラ防御』、壁として周辺からの人々からの攻撃を遮断してみましょう。

アナタの槍は、まだ折れていない。何かのために、自分の存在を賭けるその意志、絶対に繋ぎ止めてみせるわ。

……伝えたい言葉か。それとも与えたいモノか。どちらにしろ、その意志は価値のあるものだから。
……怠惰に堕落に、全てを諦めて生きていた私よりも、ずっとね。



●照らすもの 導くもの
「覚悟をもって突き進むのならば、私もまた同様に、アナタの道を繋ぎましょう」
 万象・穹は先を進む。迷える者を導くべく、行くべき道を照らすべく。向けられる多くは、怯える目や訝しむ目、怒る目や憂える目など、あまり好意的ではない視線だ。一度に向けられれば、なに恥じることのない人間であっても目を伏せたくなるような、そんな一面の針のむしろである。今後ろにいる影朧に、首を巡らせ周囲を見渡すだけの余力もないのだけは救いであろうが、それでももし言葉が届けば、拳が届けば……悪意が届けば、彼の心は折れてしまうかもしれない。
(……伝えたい言葉か。それとも与えたいモノか。どちらにしろ、その意志は価値のあるものだから)
 それを届けるためだけに存在を続けているのなら、少なくとも彼にとっては価値ある意志なのだろう。そしてその人にとって価値があれば、心の価値などそれで充分なのだろう。
(……怠惰に堕落に、全てを諦めて生きていた私よりも、ずっとね)
 良くも悪くも、想いの価値は他者が定める物でもない。さりとて自ら哂うなら。

 不意に、小さな石が飛んできた。事故的に蹴り上げたようなものではもちろんない、手に掴み上げ、意図的に投げかけられたものである。標的は勿論、傷ついた影朧だ。
 穹は間に滑り入り、差した刀を小さく掲げ、受けて弾いて防いでやる。飛んできた方をちらりと見ても、目を逸らしたか伏せたのか、誰かの背中に隠れたか、どの人であるかの特定は難しそうだ。
 顔のない悪意は伝染しやすいもので、大小多少にちらほらと、それらは徐々に増えてくる。いちいち弾き返すにしても、捌ける数には限度もある。それならば、一度に対処するしかあるまい。
 猟兵がユーベルコヲドを行使すれば、影朧の周囲が白い光に包まれた。白鴉たる穹の羽が、無数にぶわりと散り広がったのである。この世界には多く見られる無数に舞い散る桜色に、よく似た風情の白い旋風は、飛び来る悪意を全て残らず払ってのけた。こうなればたとえ煉瓦でも投げつけられたって、無尽の柔らかな要塞が欠片だって通しはしないだろう。尤も――
「……罪を憎んで人を憎まず、そう言うでしょう?」
 このように言われて静まった中、ひとりだけさらに投げつけるのも、なかなかに度胸がいるだろうが。

「アナタの槍は、まだ折れていない。何かのために、自分の存在を賭けるその意志、絶対に繋ぎ止めてみせるわ」
 一面を舞った眩い羽に視線を上げて、怯える視線を見つけてしまった少年に、穹は振り向き言葉をかける。何かのための彼のため、心を歩みを、その槍を、ただ真っ直ぐに折らせぬために。

成功 🔵​🔵​🔴​

ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
ひとまず大事は無くなったかな。
後はまあどう転ぼうが大差は無いけれど、
だったら良い方に転がった方が気分も良いかねえ。

とはいえ自分が傷ついたかも分からん性根じゃあ、
傷ついた者にかける言葉なんて思いつかないし。
後悔で彷徨い出たと言うんなら、
今度は後悔しないようにするといいと言うのが精いっぱいかね。

後は、ゆるりと付き添って歩いていこうか。
大仰に構えたら見る人が何事かと不安に思うかもしれないし、
気負わず落ち着いていよう。

それでも何か手や口を出そうとする者が居たら、
第六感で先んじて【蛇喝恐瞳】を使って止めさせようか。
相手の目を見て微笑んで、口の前に指一本立てて、
静かにしてもらうよう仕草でお願いするよ。



●誘うもの 導くもの
「ひとまず大事は無くなったかな」
 ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストードがのんびりとした口調で言う通り、影朧が引き起こす事件そのものは解決したと言って良いだろう。瀕死の彼が再度暴れて、壊したり傷つけたりを行う可能性は低そうに見えるし、あとはどう転んでも大した差にはなるまい。精々が、その本懐を遂げて消えるか、志半ばに消えるかの違い程度。
「だったら良い方に転がった方が気分も良いかねえ」
と、やはりのんびり結論しつつ、猟兵はゆるりと歩みを進める。隣で重い足を引き摺りながら、懸命に体を前へと運ぶ影朧に合わせ、実にゆっくりと。

「今度は後悔しないようにするといいよ」
 さしあたって、ペトニアロトゥシカが付き添う彼に掛けられるのは、そういった言葉だけである。彼女の鈍らな心は、与えられる衝撃に非常に強く、よっぽどでなければ……否、よっぽどのことであっても傷つけられることはない。もしかしたら傷つくのかもしれないが、自身でそれを分からない。
 そんな“傷つかない者”が、傷ついた者にどんな言葉をかけてやれば良いかなんて、理屈はともかく感情的に分かるものではない。下手なことを言ってトドメでもさしてしまったら、それこそ気分は最悪だ。
 だからただ『後悔しないように』。アドバイスとも励ましとも言い難い、ともすれば投げやりにも聞こえるその言葉こそが、彼女なりの精いっぱいの激励なのだろう。

 周囲に緊張感を与えぬようにと普段と変わらず暢気な様子の彼女の傍らにも、やはり悪意が投げかけられる。害意を持って踏み出そうとする者もあり、恐怖を口に乗せようとする者もあり、ペトニアロトゥシカの横長の瞳孔はその多くを捉えていた。
 それらが形になる前に、成果を結ぶ前に、猟兵は周囲を見渡した。ぐるりと見やったその瞳は、それぞれに違ういつもの色ではない。鋭く細い瞳孔を持つ、血のように赤い蛇の目である。群衆より踏み出そうとした蛮勇の足はそこで止まり、言葉を吐き出そうとした口も開いたまま止まる。ペトニアロトゥシカの行使した蛇喝恐瞳は、見た者を強い恐怖に捕え、宛ら蛇に睨まれた蛙のように、身動きの自由を奪ってしまったのだった。

『静かにね』
 と言うように、かしましく騒ぐ子どもにするように、彼女は口元に指を一本立てて、微笑んで見せた。人懐っこくうっすらと細められた赤い光は、敵意も悪意もなく、友好的なものである。恐怖心満載の人々にとっては、今まさに牙を立てんとする捕食者のように見えたかもしれないが。

成功 🔵​🔵​🔴​

シリン・カービン
斃れそうな彼の支えは他の猟兵に任せ、
私は人々に対処し場を整えます。

【スプライト・ハイド】で姿を消し、この場を見渡せる高所へ。
人々が怒りや恐怖を抱けば、精霊が騒ぐはず。
不穏な動きを見つけ次第、精霊に密かに制してもらいます。

口さがない言葉を放つ口には、風の精霊が砂埃を。
怒りの拳を挙げる人には、水の精霊が通り雨で冷や水を。
石や物を投げつける輩には、光の精霊が窓の反射で目眩まし。

『悪戯な自然現象』で気勢が削がれたところに
心地良い春風を吹かせれば、少しは心穏やかになるでしょう。

落ち着いて見ればわかるはず。
そこにいるのは、ただただ願いを果たさんと必死に歩く、
一人の少年であることが。

後は、あなた次第ですよ。



●乱すもの 導くもの
 シリン・カービンはひとり、通り沿いの屋根の上にあった。付き添う者ばかりが多くある必要はないし、任せられるなら別の対処を行う方が効率的でもある。そんなわけで、姿も消せるし気配も消せる隠密の得意な彼女は、自らの適所として要所を一通り見渡せるこの場に陣取っているのだ。
 いたずら妖精、スプライト・ハイドの力を借りて姿を消したシリンが見下ろす周囲には、少なくはない人がいて、その殆どの方向から精霊たちを通して抱いた恐怖が感じられる。さらには、影朧がゆっくりと覚束ない足取りで近づいてくるにつれ、群衆の感情が膨れ上がり、自衛の意思を伴う“悪意”として形を成していく。それは程なく拳となり、罵詈となり、影朧へと狙いを定め……

「うわっぷ」
「つめてっ」
「なんだあ?」
 そこかしこから、まばらに間の抜けた声が上がる。悪意を伴う動きに対して、シリンの指揮のもと精霊たちが制圧行動を行っているのだ。とはいっても物々しいものではない、ほんの可愛い“悪戯”であり、たまたま起こった自然現象と思えるようなものである。
 良くない言葉を投げかけようと開いた口には、突然の旋風が砂塵を運び、威を振らんとして拳を上げれば、急な通り雨が頭を冷やし、狙いを定める目元には、窓より光が眩ませる。そうして口は言葉ではなく砂を吐き、拳は解かれ身を庇い、きょとんとした顔で周囲を見回しはじめる彼らは、随分と毒気を抜かれて見える。彼らに合わせて騒ぐ精霊もいくらか落ち着いたようだ。

「落ち着いて見ればわかるはず。そこにいるのは、ただただ願いを果たさんと必死に歩く、一人の少年であることが」
 姿かたちは確かに影朧だが、その心根は今やシリンの言う通り、ただの少年のそれである。相対した猟兵には、戦う力を持った猟兵には、それと知るのは難しくないことである。しかしそうと思わずに見れば、それは傷つきながらもまだ立って歩く、影朧である。知らなければ恐れるし、恐れがまたその目を塞ぐ。
 ただ一度、恐れることなく見つめてやることができれば。屋根上に潜んだ猟兵のとうてい届かぬその言葉は、彼女の友たる精霊の起こした春風により、微かに人々へ運ばれていく。

「後は、あなた次第ですよ」
 励ますような祈るような、そんな短い彼女の言葉も、暖かく柔らかく少年の傍へ。彼女自身は少年に背を向け、次の見守る楼へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈍・小太刀
会いに行くんでしょ?
ほら、手だって肩だって貸すからさ
確りしなさいよ
今日の主役は君なんだから

波音で影朧や人々の心和らげ
影朧を庇い支えながら
共に歩き導く

護る為に戦って戦って戦い切ったなら
これは勇者の凱旋よ
もっと胸を張りなさい
そして聞かせてよ
君の英雄譚

そうね先ずは名前から
君は何を決意して戦地に向かい
何を想い戦ったの?
どんな仲間達と出会い
どんな敵と戦ったの?

思い出を語る彼の言葉は
彼が彼の人生を生き抜いた証
後悔してる?
良い事ばかりじゃないし
死という代償は大きい
でもそれ以上に大切なモノを守り切れたなら
選んだ道はきっと間違ってない
私はそう思うよ

頑張った彼に
頑張ってる彼に
心からのエールを
帰る場所はもうすぐそこ



●目指せるもの 導くもの
「会いに行くんでしょ? ほら、手だって肩だって貸すからさ、確りしなさいよ」
 鈍・小太刀の言葉は、やはり変わらず表面的にはややトゲトゲしい言い草だが、支える力も労わる声も、不器用ながらも優しさに満ちた彼女らしいものである。
 その宣言の通りに影朧の引きずる重みの負荷を強制的に自らへと預けさせれば、互いの距離は非常に近いものとなる。そうすることで彼に向けられた攻撃は多少なりとも躊躇され、抑制されているらしい。それを知ってか知らずか、小太刀はさらにユーベルコヲド・海の調べを使用し、波音にて影朧にも人々にも心の安らぎを与える。近くにあった恐怖や怒りはじんわりと和らげられ、静穏が広がった。
 対象の多さに比例して使用者を疲弊させる能力は、立ち並ぶ群衆を相手にしては当然に少女の体に甚大な影響を与えている筈であるのだが、その表情は涼しげに、不敵に笑顔すら浮かべている。
「護る為に戦って戦って戦い切ったなら、これは勇者の凱旋よ。もっと胸を張りなさい」
 そして勇者を支える者もまた、胸を張って誇るべきなのだ。ならば自身も笑わねば。それより何より、笑いたいから、笑うのだ。
「今日の主役は君なんだから」
悲劇だったかもしれないそれを笑い飛ばし、
「聞かせてよ、君の英雄譚」
綴り足される大団円を思い切り笑い迎えるために。

「そうね、先ずは名前から」
と、戸惑う影朧に小太刀が促しても、彼はなおも言葉に詰まる。暫くの後に返した答えは
「分からない、憶えてない」
何を想い、どんな仲間と、どんな敵と……生前の過去を問う殆どの質問に対して、その答えは明瞭でなく、問われるたびに欠落した自己の要素を認める少年の纏う雰囲気は些か不安そうだ。
「君は何を決意して戦地に向かったの?」
 しかし、その問いに関してだけは。
「もう一度、笑って見せてほしかったんだ……だから、守って、帰って……」
やはり取り留めなく纏まりもない言葉ではあるが、混濁した記憶の中でも明確に強烈に残っている感情は、薄れることなく口を衝くらしい。そしてその感情は、即ち。
「後悔してる?」
 返事はない。少しだけ増した、俯いた彼の足取りの重さ、支える肩に受け持つ重さが答えだろう。
「大切なモノを守り切れたなら、選んだ道はきっと間違ってない。私はそう思うよ」
 でも、だから、小太刀は諦めない。彼の心が挫けるならば、その分こちらで引っ張ろう。頑張った彼は、頑張っている彼は、そうして報われて良い筈だ。自らの疲労を何するものと、体を無理矢理に動かして、やはり不敵に笑って進む。意地を張るとは、きっとこういうことなのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴桜・雪風
影朧になってまで帰りたい場所がある
その事自体は、悪しきことではないのです
無念、心残り、後悔
それらを晴らせるよう、正しい方向に導くのが桜の精の役割ですわ
「だから、ここから先はわたくしが道案内を致しましょう」

【影絵眼鏡】を起動
街の人々を怖がらせないよう、影朧の彼に幻影をかぶせ偽装すると同時に
彼自身にも優しい街の様子を幻影で見せて落ち着かせます
後はわたくし自身が彼に声をかけて無事戻れるように誘導すると致しましょう
【その導きは幻灯のように】
「あなたが帰りたい場所には、どなたが待っているのです?さあ、少し思い出して下さいな。あなたを待つ人のことを。わたくしにも聞かせて下さいませんか?」



●欺くもの 導くもの
「影朧になってまで帰りたい場所がある……その事自体は、悪しきことではないのです」
 傷ついた魂に癒しを与える者である桜の精、そのひとりである鈴桜・雪風はそう考える。悪しきを為すことが悪いのであり、抱えた無念や心残り、後悔が悪いわけでは当然ない。而して、そうと断じて思い切るのもまた容易いことではないだろう。倒す力も癒す力もなければ、恐れる他にできることは多くはない。
「だから、ここから先はわたくしが道案内を致しましょう」
 負の感情を拭い去り、正しく導くのが桜の精の役割である。そのために、正しきばかりを見せるのが、正しき道とは限らない。

 雪風の携える幻灯機・影絵眼鏡は人々の目に虚像を映して見せる。影朧の姿を今一度生きた人間のように、恐るべくもない傷ついた少年のように、幻影をかぶせて偽装する。上映開始を目の当たりにした人は、目を擦ったり凝らしたり、呆気に取られたり首を傾げたり、思い思いに脅威の消失に驚いている。元の姿を見損ねた者も、痛ましい姿に眉を顰めたり気遣わしげにしたりと、概して悪意的な感情は見受けられないようだ。
 幻影は住人たちだけでなく、影朧の目にも映し出されていた。彼の中では、周囲の人々の顔に訝しげな色は浮かばず、皆が柔らかな笑顔を浮かべている。あるいは生きて故郷に帰れたなら、本当に受け取れたものかもしれないが――それでも、幻でも、少年にとっては癒しと励ましになるものだ。僅かに持ち上げられたその顔に、雪風も穏やかに笑んで見せた。

「あなたが帰りたい場所には、どなたが待っているのです?」
 そう、尋ねる。影朧になってまで求めるものならば、それを思うこと自体が彼の進む力になり得るだろう。曖昧になってしまっているのなら、思い出すように促してやれば、さらに力になるかもしれない。
「さあ、少し思い出して下さいな。あなたを待つ人のことを。わたくしにも聞かせて下さいませんか?」
 灯のように、標のように、その行く道を照らし、導き。彼自身の輝きを取り戻させるために、雪風は寄り添い、言葉を掛け、拙い言葉を紡ぐを助ける。
「大切だって……やっと、伝えられたんだ……なのに、約束、破っちゃって……」
 訥々と語られる言葉は、大きな後悔や慚愧の中にも確かに親愛が感じられるものだ。
「だから……帰って、ちゃんと、謝らなきゃ……他にも、もっと……」
伝えたいことが、あったのだろう――あるのだろう。その足取りは、僅かながらも力強いものとなる。案内人はやはり優しく笑いかけ。
「それでは、きっと帰らなくてはいけませんね」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『桜の街に何を問う』

POW   :    胸の内より溢れる情熱を言葉にする

SPD   :    耳に残る、ロマンの音を言葉にする

WIZ   :    目の前に広がる鮮やかな世界を言葉にする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 目指した場所に辿り着いたらしい影朧は、足を止めて見上げた。そこにあったのは、見事な桜の大樹。通りを抜けた外れの一角に、柵に囲まれ祀られるように、それは立っていた。
「違う……」
 声には色濃い戸惑いがあった。帰りたかったのは、ここに間違いはないはずなのに、周囲の街並みも、人々の姿も、懐かしい桜木の姿も。そして、待つはずの人さえも――
「いや、そうじゃないんだ」
 不安そうに辺りを見渡した彼は、少し離れたそこに目をやると、安心したような竦んだような、複雑な声音で呟いた。視線の先には、幼い子どもに囲まれた、年老いた女性の姿があった。あまり開かない目はよく見えていないのだろうが、楽しげに話す元気な声に頷いては微笑んでいる。
「そんなに、経ってたんだ」
 街並みが変わるほどに、木が幾回りも育つほどに、少女が斯様に老いるほどに、自分は帰らずにいたらしい。少年はそんな風に思い至ると、彼女に向って再び歩みだした。

「なんて言おう、なんて言ったら良いかな……」
 と、猟兵たちの耳に切羽詰まった独り言が聞こえてくる。歩みだしたは良いものの、どうやら何も纏まってはいないようだ。格好つけて出て行った手前、格好良く再会したいのは少年らしい見栄ではあるが、そのために考えすぎたかコジらせすぎたか、思考回路が機能を停止してしまったらしい。
 かくて、伝えたいことをしっかり伝えて思い残すことなく旅立ってもらうには、猟兵の手助けが必要となった。彼の気持ちを汲んで言葉を紡いであげるなり、背を押す言葉で勇気付けるなり、あるいは女性に働きかけるのも、方法としてはアリかもしれない。とにかく彼の口からは、彼の聞かせたい『格好良い再会の言葉』は生み出されそうもないことだけは、確かなようだ。

 このままでは些か情けないことになってしまう。それはそれで悪くはないかもしれないが――
「このひとたちが、せんせーのまってるおともだち?」
 子どもたちはどうやら、彼女の子や孫ではないようだ。ノープランの少年の、最後の戦いが今はじまる。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
今更飾った所で仕方無い気もするけどねえ。
まあ、したい様にするといいさ。

さて、何を言うかはともかく、
頭が回らない事は対処法を教えられるかな。
考えようとしても頭が回らないってのは、
だいたい物事を纏めて考えすぎてるのが原因だよ。

まずは今までにあった事を思い出す。
次に、それで何を感じたか、今どう思っているかを考える。
そして最後に、これからどうなって欲しいかを決める。

一つずつ、言葉に変えていけば、頭も回ってくるはずさ。

後は、子供たちの相手をしてようか。
隅の方で【豊穣樹海】を使って、
色々な果実の成る木を一本出して子供たちに食べさせてよう。

さて、さて、いい方向に転がると気分良く帰れるけど、どうなるかねえ。


鈴桜・雪風
あらあら、ここまで来てそれでは格好が付きませんわ
仕方ありません、少々おせっかいと参りましょう

「さあ、彼女を見守ってきた桜の木。力を貸してくださいませ」
【あの桜の木の下で会いましょう】を発動
彼と彼女の心をつなげましょう
見た目は『影朧』と『老婆』でも、心だけはあの時の『少年』と『少女』と変わっていないはずです
「親切心で助言致しましょう。取り繕おうと思わず、まずは自分の中にある一番強い気持を伝えてみるとよろしいですわ」
「ここまで来た貴方の中にある、一番大きなもの。それはなんですか?」

あとは無事彼が浄化されるのを祈りましょう
ことが収まったら、あの女性に軽く事情を説明して帰ります
「では、よい輪廻の旅を」


シリン・カービン
今は互いに変わり果てた姿ですが、
昔の面影があった方が話しやすいでしょう。

幻朧桜に手を当て、樹に宿る精霊に問います。
「覚えていますか、この少年と少女が会ったあの日のことを」

桜の精霊の声が降り、あの日あの時の桜の記憶が蘇る。
影朧はあの日の少年の姿に。
老女はあの日の少女の姿に。
そして、この場はあの日あの時のままに。

子供たちの手を取り、少し離れて見守ります。
訃報が届いても約束を信じて待ち続けた彼女なら大丈夫でしょう。
それに、二人の再開にそれほど年月は要しない。
彼が正しく逝って待っていれば、
やがて短い老い先を終えて彼女がやってくる。

今生で叶わなかった夢を、来世に持ち越すだけの話。
…まったく身も蓋も無い。



●心の人になかりしか
「今更飾った所で仕方無い気もするけどねえ」
 それでも格好つけたい男の子も少なくないものではあるが、生憎とペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストードにはピンと来ないらしい。幸か不幸かあまりよく見えていない女性には、負傷や消耗のために動きが悪い影朧の様子も、かてて加えて緊張のために歩くのが突発的にへたくそになった少年の様子も、はっきりとは見えていないため、かろうじて格好はつけられているのかもしれないが……
「あのひと、あるきかたヘンだよ」
「ブリキのおもちゃみたい」
もしかしたら手遅れかもしれない。
「まあ、したい様にするといいさ」
 そういうものならそういうものなのだろうし、彼自身が後悔を重ねることなく、伝えたいことを伝えられれば良いのだろう。そこに合理や理屈はきっとそれほどには重要でないのだし。

「さて、何を言うかはともかく、頭が回らない事は対処法を教えられるかな」
 感情の機微やドラマティックな演出なんかには明るくはないペトニアロトゥシカだが、一般的な理屈の範囲であれば手伝えることはある。影朧の仮面に隠れた表情は未だ伺えないままだが、猟兵の方へ顔を向ける挙動からは、不安げに縋るような視線がどうしてか感じられる。少年はどうやら表情も感情も非常に豊かであったらしい。
「考えようとしても頭が回らないってのは、だいたい物事を纏めて考えすぎてるのが原因だよ」
 指摘を受けて頷く彼の伝えたいことは、指摘の通り確かに多岐に渡っているらしく、そしてその指摘によってひとつ増えた考えごとのためにまた考え込み――器用ではない少年のため、猟兵はもう少し説明内容を展開する。
『まずは今までにあった事を思い出す』
『次に、それで何を感じたか、今どう思っているかを考える』
『そして最後に、これからどうなって欲しいかを決める』
と言った具合に、思考を整理しやすいよう、噛んで含めるように説明する。のんびりとした彼女の語り口調もまた、心を落ち着かせるのに一役買ったことだろう。
「一つずつ、言葉に変えていけば、頭も回ってくるはずさ」
 徐々に様子の落ち着いてきた彼に加えて一言助言をすると、ペトニアロトゥシカは傍を離れていく。思い人との再会に保護者同伴なんて、それこそ格好がつくまい。

●彼岸に花のなかりしか
「あらあら、ここまで来てそれでは格好が付きませんわ。仕方ありません、少々おせっかいと参りましょう」
 傍らを歩く者もいなくなり、いよいよひとりで決戦とあいなった影朧の緊張した様子を見やり、微笑みながら鈴桜・雪風は桜の大樹へ手を添える。
「さあ、彼女を見守ってきた桜の木。力を貸してくださいませ」
桜の精のユーベルコヲドは、桜木に働きかけ、影朧と老女の心に働きかけ。

 あくまで当事者たる二人を主役とするように、シリン・カービンはまた大樹の傍にて気配をそれに溶け込ませていた。
(昔の面影があった方が話しやすいでしょう)
 桜の大樹へ手を添えて、宿る精霊に問い掛ける。
「覚えていますか、この少年と少女が会ったあの日のことを」
森人のユーベルコヲドは、木の精霊に働きかけ、その持つ記憶に働きかけ。

 舞い降る花弁は影朧と老女を互いの目に馴染んだ姿へと映し、鳴り降る精霊の声は在りしのこの地の姿を呼び起こした。互いの懐かしい姿は互いの目に焼き付くように忘れえぬ物として残っているのは確かだが、やはり実際に“そう”である方がやりやすいものではあるだろうか。
「え、こ、これは……」
さしあたっては、突然現れた若々しい両手に戸惑い、その手で自身の顔をぺたぺた触る少年は、年相応のいくらか幼い表情でもって狼狽えていて
「ふふっ」
と、それを見ておかしそうに笑う懐かしい少女の様子に気付き、顔を真っ赤にして固まってしまったので、気持ちを伝えるにはどちらが最適かは微妙なところかもしれない。

「親切心で助言致しましょう。取り繕おうと思わず、まずは自分の中にある一番強い気持を伝えてみるとよろしいですわ」
 少年は雪風のアドバイスにハッとした様子で、両頬を叩き、改めて背筋を伸ばし、真剣な表情で彼女をきっと見つめ直す。緊張に乾いた喉を鳴らす彼の、背を押すようにもう一言。
「ここまで来た貴方の中にある、一番大きなもの。それはなんですか?」
 悔恨ばかりの存在となって紡ぐべき言葉を見失い、立ち戻りつつも思いの大きさゆえに言葉を失い、何人もの世話焼きのためにここまで漕ぎ着けることができた少年。本当にこれが、最後の助けであるのだろう。優しく寄り添い助けてきた雪風は、今ひとたびは優しさゆえに突き放す様に距離を取る。彼が紡ぐべき言葉は、彼の言葉であるはずだから。

「ただいま」
 ゆっくりと離れる彼女の背に、照れくさそうな、消え入りそうな、小さな声で届いた言葉。結局のところ格好の良い言葉ではないが、飾らない、正真正銘に真っ先に伝えたかった言葉なのだろう。

●死人に口のなかりしか
 積もる話もあろう二人を二人きりにするうえで、ペトニアロトゥシカは女性を取り巻いていた子どもたちを引き受けていた。自らの肉体の一部を植物に変え、自らの生命力で急速に成長させるユーベルコヲド・豊穣樹海は、彼らの興味を引くのに非常に適した能力であった。
 最初こそ大好きな『せんせい』が見慣れない若い姿に変わったことに驚いたり見とれたりしていたのだが、さらに別の、しかも著しく動きのある不思議な現象に目を奪われ、そのうえに
「生えてるのは好きに食べていいよー」
と色とりどりの美味しそうな果実まで饗されては、育ち盛りの幼い子どもらが抗えようはずもなく、賑々しくも温順しくしてくれている。
「さて、さて、いい方向に転がると気分良く帰れるけど、どうなるかねえ」
 揶揄うような少女の表情もくるくると変わる少年の表情も、いずれも明るく楽しげで、この分だときっと大丈夫そうではあるが……なにぶん難しい、人の心のことである。

 シリンもまた子どもらの傍に付き、遠くに見守っていた。彼女の鋭敏な感覚を以てすれば、いずれも弾んだ声音から、話運びが順調であることは明らかに察せられることであった。近付く互いの別れに言葉が途切れたり表情が曇ったり、その度にもう少し見ないふりをして取り繕う、切なそうな瞬間も、また同様に。
(二人の再開にそれほど年月は要しない。彼が正しく逝って待っていれば)
 しかしシリンは敢えて励ましたりはしない。惜別も寂寥も、二人の間の悔恨を溶かす大事な二人の時間である。わざわざ口や手を出すのも野暮というものであろう。
 それに、その別れは特段に悲観するようなことでもない。行方も安否も知れない少年を待ち続けた少女は、待った時間相応に年老いている。所詮は人の身の儚い時間、間近の転生を控えた少年が待てない時間ではない筈である。少なくとも、半生以上を待った彼女に比べれば。
(今生で叶わなかった夢を、来世に持ち越すだけの話)
 今度は彼が待つ番だ。そうすればまた、新しい帰るべき場所ができるのだろう――なんということはない、妙に意地を張ったり悩んだりせずに、さっさと帰れば良かったのだ。
「………まったく身も蓋も無い」
 合理的でも効率的でもない、得たのは結局本当にただの仲直り。嘆息が出るのも無理はない。しかしまあ……若者というのは得てして感情に振り回され、非効率的で理不尽で、遠回りの多いものなのだ。

 しばらくのやり取りを経て、ひとしきり手を握り合い、言葉もなく見つめ合ったふたりは、やがてそのまま別れて行った。少年の……影朧の姿が懐かしい桜木に迎えられるように消え失せ、少女も再び老いた姿へと戻って行った。
 それから雪風は彼女の元へ歩み、支えながら子どもたちの所へと導く短い道すがら、少年の事情を簡単に伝えようとする。最後に別れてすぐに命を落としたこと、後悔に囚われて影朧となったこと、自身を取り戻して再び会いに来たこと――猟兵たちが影朧と対峙してからの、ごく短い間の出来事である。耳を傾けていた彼女は
「私は待つなんて約束してませんよ。そんなこと気にしなくても良かったのに」
と、先ほどと同じように笑った。晴れやかな表情の女性には、ことさらのフォローなどは必要なさそうである。見届けた雪風も優雅に微笑んで告げる。
「では、よい輪廻の旅を」

「あら、この子たちのこともあるし、私はまだまだ長生きしますよ。きっちり約束させたし、せいぜい待たせてやらなきゃね?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年03月22日


挿絵イラスト