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夢彩の絵空事

#キマイラフューチャー #猟書家の侵攻 #猟書家 #シュナイト・グリフォン #スカイダンサー

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#スカイダンサー


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●無彩
 ××遊園地。
 其処は誰からも忘れ去られてしまったかのような寂しい場所。
 かつては賑やかだったはずの門は崩れ、今はひび割れた瓦礫が折り重なるだけ。
 入口を横切っていくと、ひしゃげた看板が見える。風船やピエロの絵が描いてあったらしい板は色が剥がれており、記されていた文字はもう読めない。その看板を横目に進めば錆びた遊具が視界に入る。
 雨曝しのゴーカート。割れたミラーハウス、風に揺れて軋む観覧車。
 遊園地を取り囲むように巡らされていたジェットコースターのレールは、まるで希望が裂かれたように途切れてしまっている。赤く錆びた鉄からは血に似た匂いがした。
 此処にはもう以前の輝きは見えない。
 されど唯一、燈火が宿っている場所があった。

 それは遊園地の中央に位置するメリーゴーランド。
 サーカステントのような円形の屋根の下は奇妙に輝く秘密基地と化していた。
 メリーゴーランドの内部には乗り物として設置された色鮮やかなユニコーンや真白なペガサス、雄々しいグリフォンや凛としたヒポグリフを模した木馬が並んでいる。
 だが、まともな形が残っているのはたった一体だけ。その多くは角が折れ、翼が割れ落ち、色彩も褪せている。
「今宵もありあまる絶望を振り撒こうか」
 シュナイト・グリフォンは鷲の翼を幾度かはためかせる。
 遊具に腕を伸ばした彼は、角が折れずに残っている木馬を爪で撫でた。
 鋭い爪と獅子の下半身を持つシュナイトは遊園地の主として君臨する猟書家だ。彼の周囲に集まった配下、ジョン・ドゥ・キャット達は静かな視線を主に向ける。
「さあ、名もなき猫達よ」
 彼らは世界に馴染めなかった者達。それゆえにジョン・ドゥ――名無しとしてしか存在できない悲しい猫である。
 ニャア、と鳴いた猫怪人は頭を垂れた。
 彼らにとってのシュナイトは、意味のない生き物だった自分達に『世界に絶望を与える』という役割を与えてくれた主だ。双眸を鋭く細めたシュナイトは猫達に向け、悪夢の催しの開始を宣言していく。
「さあ、往け。今夜も絶対なる絶望パレードを始めよう!」

 災禍を運ぶ猫の葬列は進む。
 世界に満ちている絶望と踊り、希望を血と漆黒の色に塗り潰してしまう為に。
 希望など、ただの言葉遊び。――即ち、絵空事に過ぎないのだから。

●絶望の空と希望の夢
 嘗ては皆に希望を与える場所だった遊園は今や、絶望の源になっている。
 キマイラフューチャーにて猟書家のひとりが起こす事件を予知したと語り、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は仲間達に解決の協力を願った。
「シュナイト・グリフォン。それが彼の名前です」
 絶望遊園地の主として振る舞うシュナイトは、今宵に行われるイベント会場を襲う。
 其処は綺羅びやかなイルミネーションやライトで彩られたストリート。今夜、その場所ではスカイダンサー達によるショーが行われる予定だ。
「ステージで好き好きに踊って、パレードみたいに夜を飾る。そんな催しらしいのですが、シュナイトは配下のジョン・ドゥ・キャットを会場に送り込みました」
 パレードに重ねられるのは死と絶望を振り撒く葬列。
 まずは其処に向かって葬列を止めなくてはならない。シュナイトは観衆や生配信を見ている視聴者の前でダンサー達に無残な死を与え、世界に絶望を齎すと同時に新たな手駒を生み出そうとしているようだ。
「キャットさん達は一体ずつは強くありません。だからダンサーさんを守りながら戦うことも難しくはないはずです」
 皆さんなら大丈夫、と伝えたミカゲはその後のことを話していく。

「猫の葬列を止めたら、次は絶望遊園地と呼ばれている秘密基地に向かってください」
 次の戦場は敵の本拠地。
 シュナイト・グリフォンは遊園地の中央にあるメリーゴーランドの近くにいる。逃走する素振りもないので、そのまま直接対決を挑めばいい。
「彼は強い力を持っています。絶望の大鎌で思い出を奪って斬り裂いたり、記憶を読んで干渉してきたり、心を捻じ曲げてしまったり……とても恐ろしい能力です」
 それらは全て負の感情を撒く為のもの。
「彼は以前、世界に絶望していると語ったことがあるそうです。届かない希望を知ったからなのか、それとも知れていないのか。彼の心はわからないのですが、世界に仇を成す存在なら……倒さなければいけません」
 シュナイトが何故にその感情を謳うかは今は分からないが、猟兵達は立ち向かわなければならない。齎される絶望に。そして、自分自身の弱い心に。
「いってらっしゃい、皆さん」
 少年は仲間達を送り出し、祈るように両手を重ねた。
 絶望と希望。
 皆がどちらを掴み取ってくるのか。往く先を願うように、そっと――。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『キマイラフューチャー』
 こちらは二章構成の猟書家シナリオとなります。

 プレイング募集状況などはタグやマスターページにてご案内しています。
 お手数ですが、ご参加前にご確認いただけると幸いです。

●第一章
 集団戦『ジョン・ドゥ・キャット』
 時刻は夜。
 舞台は煌めくライトや光に彩られたストリート。ダンスパレードが行われている場面に敵が現れるので、一人一体、または一グループで一体の前に向かってください。避難誘導をするよりも戦いに集中した方が、ダンサー達が逃げる時間を稼げます。
 どの個体も無口気味。ニャアと鳴き、言葉を喋ることも出来るようです。
 世界に絶望している悲しい相手ですが、確り倒すことが正しい葬送となります。

●第二章
 ボス戦『シュナイト・グリフォン』
 舞台は絶望遊園地に移ります。
 シュナイトは基本的に、皆様が設定したユーベルコードの属性に対応する攻撃を行ってきます。POWやSPDの場合は、思い出の出来事や形状、相手がどんな人物であるかや名前等が分かるようなプレイングだと描写しやすくなります。
 直接攻撃の他、幻を打ち破ることでも敵にダメージを与えられるので、お好きな形で立ち向かってください。

●プレイングボーナス
 スカイダンサーに応援される(華やかですが戦力はゼロです)

 一章で応援して貰っていると二章でも力が湧いてきます。ボーナス利用は強制ではないので使うかどうかは皆様にお任せします。お心のままにどうぞ!
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第1章 集団戦 『ジョン・ドゥ・キャット』

POW   :    キャスパリーグの災禍
【凶事を呼び込む巨大な怪猫】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    ボイオティアの眼
【額に、全てを見透かす大山猫の目を開眼して】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ウルタールの猫葬列
【殺されて死んだ、無残な姿の猫たち】の霊を召喚する。これは【爪】や【牙】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

キトリ・フローエ

きらきらのイルミネーション、とっても綺麗ね
この素敵な光景を、絶望で塗り潰させたりなんかしないわ
スカイダンサーの皆が後で楽しくショーが出来るように
絶望なんて欠片も残さないくらい派手に行きましょう
あたし達に任せて!

きらきら光る守りのオーラの花びらで猫を誘惑
魔力を溜めつつ飛び回りながら猫の意識を引き付けて
ダンサーの皆が避難する時間を稼ぐわ

…あなたの絶望を祓う術をあたしは知らない
あたしに出来るのは、あなたを海へ還すことだけ

ベル、送ってあげましょう
杖に呼びかけ、一緒に戦う子がいれば動きを合わせて狙いを定め
全力籠めた空色の花嵐で攻撃を
イルミネーションに花の彩りを添えて
召喚された猫の霊も全部浄化してあげる



●星と空の導きを
 暗い夜を彩るのは綺羅びやかな光の数々。
 其処へ更に賑やかさと煌めきを与えるのはステージに立つダンサー達。
 これから始まるはずだったパレードショーを思い、キトリ・フローエ(星導・f02354)は辺りを見渡してみた。
「きらきらのイルミネーション、とっても綺麗ね」
 けれども、この景色をゆっくりと見ている暇は与えられない。希望を彩るための舞台は闇から迫り来るものに壊されてしまう。そんな未来を訪れさせないためにも、キトリは翅を広げて飛んでゆく。
「――いた! この素敵な光景を、絶望で塗り潰させたりなんかしないわ」
 物陰から出てきたジョン・ドゥ・キャットを見つけたキトリは花杖を構えた。
 ニャアと昏い声が響く。
 そして、ざわめく会場に猫の葬列が横切った。スカイダンサー達も妙な気配を感じ取ったらしく不穏な空気が流れる。一時的に催しは中止になるだろうが、後で楽しくショーが出来るように尽くすのが今のキトリ達の役目だ。
「絶望なんて欠片も残さないくらい派手に行きましょう」
「あの猫ちゃん達、なに……?」
「怪人よ! 大丈夫、あたし達に任せて!」
 キトリは身構え、ダンサー達を守る形で布陣する。
 ジョン・ドゥ・キャットは無残な姿の猫達の霊を引き連れながら、キトリに向かってきた。それなら好都合だとしてキトリはきらきら光る守りの力を花に変えていく。
 ひらりと舞った花びらで猫を誘惑して引き付け、魔力を溜める。
 翅を羽撃かせたキトリは素早く飛び回り、逃げて、とダンサー達に目配せを送った。皆が避難する時間を稼ぎながらキトリは猫に意識を向ける。
 ニャア、ニャア、と猫達は悲しげに鳴いていた。
 それは心の底から放たれているかのような絶望の鳴き声だ。かれらがどのような経緯を経て、そうなっていったのかは分からない。
 悲しい出来事があったのか、苦しいことがあったのか、何かを失ったのか。問い掛けても答えを求めることは出来ないだろう。
「……あなたの絶望を祓う術をあたしは知らない」
「それでいいさ」
 キトリがちいさく呟くと、ジョン・ドゥ・キャットが一言だけ言葉を返す。それはキトリを否定こそしていないが、解り合えることなどないと語っているようだった。
 頷いたキトリもそのことを理解している。
「あたしに出来るのは、あなたを海へ還すことだけ。……さあ、ベル」
 綻ぶ花杖に呼び掛けたキトリは魔力を強めていった。
 葬列の猫達は飛び回る彼女を追って爪を振るってくる。一見すれば愛らしい蝶々と遊ぶ子猫達のようでもあるが、これは真剣な戦い。
「送ってあげましょう」
 これが葬列だというのならば自分達が出来るのはひとつだけ。彼らが抱く悲しみを長引かせるのではなく、美しい花と共に葬ること。
 キトリは全力を籠め、夜の最中に空色の花嵐を散らせた。周囲で煌めいているイルミネーションに花の彩りを添えて葬送への道をつくる。
「全部、浄化してあげるわ」
 もう大丈夫。絶望を増やさなくとも、悲しみを抱き続けなくても良い。
 きらきらな世界に見送られて、どうか。
 キトリの舞わせた青と白の花は名無しの猫達を包み込み、星のように輝くちいさな道標を作り出していった。
 ニャア、と微かな鳴き声が最期に響く。
 その声はほんの少しだけ、それまでの悲しみから解放された声のように思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ハロゥ、ハロゥ
哀しい目の猫猫猫ダー。
賢い君、賢い君、猫。猫ダヨー。

アァ……絶望をしているのカ…。
絶望をしているなら希望だらけだなァ。
うんうん。なになに?アァ……そうしようそうしよう…。

相棒の拷問具の賢い君とお喋りするする。
賢い君は喋らないケド、気にしなーい。

絶望をしているなら導けばイイ。
絶望だらけで希望に満ちた牢獄は
いつもどこでも絶望が隣りにあって、反対側には希望がいた。

楽しかったなァ……。

薬指の傷を噛み切り、君に食事を与えよう。
赤い血の糸で猫を縛る。

キシシ。ニャア。
絶望をしていても遊べる遊べる。
ニャア。猫猫猫。
賢い君と、コレとたーっくさんあーそーぼ。

タノシイヨー。



●反対側の希望
「ハロゥ、ハロゥ」
 パレードショーの会場に現れた猫達に手を振り、軽い調子で挨拶を交わすのはエンジ・カラカ(六月・f06959)だ。
 その声に答えるように、ニャアニャアと猫達が鳴いている。
 彼らのうちの一体がエンジの方に向き直り、全てを見透かす大山猫の目を開眼していった。その眼差しは鋭く強いものだが、エンジは少しも怯みなどしない。
 むしろ猫の瞳を覗き込むが如く、じっと見つめていた。
「哀しい目の猫猫猫ダー。賢い君、賢い君、猫。猫ダヨー」
 指先で赤い糸をくるくると巻き取りながら、エンジは語りかける。対するジョン・ドゥ・キャットは冷たい目を向けてくるだけ。
 其処からは絶望を知った者としての深い感情が見て取れた。
「アァ……絶望をしているのカ……」
「……」
 ジョン・ドゥ・キャットは何も語らず、エンジの出方を窺っている。
 エンジはというと猫を見つめたまま身構えていた。赤い糸が周囲の綺羅びやかなイルミネーションを鈍く反射している。
 そして、エンジは名無しの猫に向けて自分なりの感想を告げた。
「絶望をしているなら希望だらけだなァ」
「……?」
 何も語らない猫は一瞬だけ不思議そうな顔をする。その反応には構わずに、エンジは腕に絡みついている賢い君に視線を落とした。
「うんうん。なになに? アァ……そうしようそうしよう……」
 賢い君は相棒の拷問具。
 それ自体は言葉を発したりはしないがエンジは気にしていない。彼女と喋っていた様子のエンジは次の瞬間、大きく地を蹴った。
 跳躍して一瞬で間合いを詰めた彼は名無しの猫の前に躍り出る。
「絶望をしているなら導けばイイ」
「……やめろ」
 そのとき、猫がはじめて言葉を喋った。エンジの動きを予測した猫は素早く身を翻すことで一閃を避ける。されどエンジは其処に追い縋り、赤い糸を解き放った。
 猫が不幸のどん底に落ちているというなら、後は上しか見えないはず。
 エンジだってそうだった。
 絶望だらけで希望に満ちた牢獄は、いつもどこにでも絶望が隣にあった。けれどもその反対側には希望がいた。
 闇から見る光は眩しくて、美しくて、そして――。
「楽しかったなァ……」
 エンジは双眸を細めて過去を思い返した。それから彼は薬指の傷を噛み切り、賢い君に食事を与えていく。
 尚も不思議そうにしている猫を見遣ったエンジは、腕を一気に振り上げた。
 刹那、赤い血の糸が猫を縛りあげる。
 ニャ、という声が響いたが既に何もかもが遅かった。
「キシシ。ニャア」
 チェシャ猫のように笑ったエンジは名無しの猫の鳴き真似をしていく。そうして賢い君は猫を縛り続けた。
「絶望をしていても遊べる遊べる。ニャア。猫猫猫」
 容赦なく、ただ相手を屠ってやるためだけにエンジは動いた。
 終わりこそが絶望から繋がる希望だと示し、彼は重い糸で持って猫を葬送する。
「賢い君と、コレとたーっくさんあーそーぼ。タノシイヨー」
 ねえ、ねえねぇ。
 そうやって何度か問いかけてみても名無しの猫は何も答えなかった。
 何故なら、彼の猫はもう――抱えていた絶望から解放されたのだから。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふええ、せっかくの素敵なパレードなのに見ていちゃいけないんですか?
うぅ、私達は猟兵だからパレードを邪魔する猫さん達をやっつけないといけないんですね。
でも、猫さん達が来るまで・・・。
これだけ観客がいるからしっかり警戒しておかないといけないんですね。

あ、あれが例の猫さんですね。
ここから先は行かせませんよ。
ここはお菓子の魔法で・・・って、ふええお菓子を取られてしまいました。
その額の瞳で私のユーベルコードが分かったみたいですけど、世界に絶望してお菓子を楽しむことができなければ、このユーベルコードの効果は得られませんよ。



●お菓子と猫
 夜を彩る光は眩くて賑やかだ。
 だが、これから始まるはずだったショーは、横合いから現れた名無しの猫の葬列によって止められていた。きらきらと光るイルミネーションはそのままだが、綺羅びやかなダンサーの踊りは中止になっている。
「ふええ、せっかくの素敵なパレードなのに見ていちゃいけないんですか?」
 フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は騒然としている会場を見渡し、わたわたと慌てていた。
 本当ならあのパレードを見ていたかったのだが、今はそのような場合ではない。
 頭の上に乗っているアヒルさんも帽子越しにフリルを突いていた。ジョン・ドゥ・キャットは今にもダンサーを襲いそうになっており、フリルは急いでステージの前に駆けていく。
「うぅ、私達は猟兵だからパレードを邪魔する猫さん達をやっつけないといけないんですね。せめて猫さん達が来るまでは、と思っていたのですが……」
 ジョン・ドゥ・キャット達の到着が早過ぎる。それゆえに戦わなければならないとして意を決し、フリルはパレードを横切ろうとする猫達の前に立ち塞がった。
「ダンサーさんも、観客さんも今のうちに逃げてください」
 ここは任せて欲しいと告げ、フリルはキマイラ達に呼びかける。そうすることで猫達の意識がフリルに向いた。
 その向こう側には猫の葬列を従えているジョン・ドゥ・キャットがいる。
「あ、あれが例の猫さんですね」
「……ニャア」
「ここから先は行かせませんよ」
 本体の猫の元に辿り着いたフリルはしっかりと立って強い視線を向けた。悲しみに満ちた目をしているが、相手はれっきとした敵だ。
 容赦は要らず、油断もしてはいけない。フリルは魔力を紡ぎ、時を盗むお菓子の魔法を発動させていく。
 だが、ジョン・ドゥ・キャットはお菓子に腕を伸ばした。
「ここはお菓子の魔法で……って、ふええお菓子を取られてしまいました」
「見ていたからね」
 すると相手は短い言葉を告げ、お菓子を手の中で握り潰す。どうやら額に開眼した瞳でフリルのユーベルコードを予測したようだが――。
「いいえ、それでは駄目です」
「?」
 フリルは首を横に振り、猫に宣言する。
 何故なら猫はフリルが出したお菓子を楽しんでいない。もし先程に食べていたとしても、絶望を覚えている相手がこれで満足するはずがなかった。
「世界に絶望してお菓子を楽しむことができなければ……ほら、見てください」
 フリルはジョン・ドゥ・キャットを指差す。
 その動きは魔法の効果によってゆっくりになっていった。今です、と呼び掛けたフリルは給仕を続けていき、他の猟兵が一気に名無しの猫を攻撃する。
 そして、暫し後。
「ふぇ……どうか安らかに眠ってくださいね」
 倒れて消えていくジョン・ドゥ・キャットを見送り、フリルはそっと瞼を閉じた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラプラス・ノーマ
遊園地ってーのはみんなが笑顔になる場所だってーのに
そっちが絶望のパレードを始めるってんなら
あたしは希望を持って行くだけ

さぁさ、みなさまご覧あれ☆
楽しいパレードがはじまるよっ
カラフルに塗られたダガーをジャグリング
ふふん、これは唯の手慰み
キミたちにはこっちをプレゼント♪
袖口に仕込んでいた他のダガーを猫に投げつけて、注意を引き付ける

えっへへ★
上手く決まれば拍手をねだる
ピエロは観られてこそ輝くんだからっ

ねこちゃん、ねこちゃん、此方へどうぞ
ダガーを増やしてジャグリング
ぴょんっと大きく飛んで照明の上へ
雨のようにダガーを降らせる

ピエロの前説はこれにて終わり
さぁさみなさんご覧あれ
猟兵による希望のパレードです☆



●パレードは此処から巡る
 絶望遊園地。
 敵の首魁が基地としている場所は今、そのように呼ばれている。
 ラプラス・ノーマ(見つめるのは30秒先の未来・f17180)はパレードショーの会場を見渡し、少しだけ肩を竦めた。
「遊園地ってーのはみんなが笑顔になる場所だってーのに」
 其処から解き放たれたのは葬列。
 しかもそれは、死を悼むものでも未来に思いを繋げるものでもない。絶望を振り撒くのならば相対するだけだと決め、ラプラスは前を見据えた。
 其処にはショーを邪魔するジョン・ドゥ・キャット達がいる。
「そっちが絶望のパレードを始めるってんなら、あたしは希望を持って行くだけ」
 決意と思いを言葉にしたラプラスは地を蹴った。
 絶望の猫は既に会場に乱入している。それならばダンサーに襲い掛かられる前に行く手を塞ぐだけだ。
 きらきらと光るイルミネーションを通り抜けて跳躍する。そうしてステージの前に立ち塞がったラプラスは片腕を胸の前に当て、軽くお辞儀をしてみせた。
「さぁさ、みなさまご覧あれ☆」
 明るい呼び声に引き付けられ、猫達がラプラスの方に視線を向ける。
 挨拶は上々だと感じた彼女は片手を大きくあげて手を振った。そして、幾本ものカラフルなダガーを取り出して空中に放り投げる。
「楽しいパレードがはじまるよっ」
 言葉と同時に宙に躍る刃が夜の景色を彩っていった。煌きを受けて輝くダガーがジャグリングされていく様にジョン・ドゥ・キャットは警戒を強める。
 ニャア、という威嚇を込めた鳴き声が聞こえたがラプラスは怯みなどしなかった。
 相手はこのダガーが投げられると思っているようだが――。
「ふふん、これは唯の手慰み」
 くるりと身体を回転させたラプラスは更にダガーを放り投げた。次の瞬間、その刃ではない方を一気に投げつける。
「キミたちにはこっちをプレゼント♪」
 袖口に仕込んでいた別のダガーを猫に投擲したラプラスは片目を瞑った。
 予想外の軌道で刃が飛んできたことでジョン・ドゥ・キャットは驚きを見せる。腕に突き刺さった刃を抜いた名無しの猫はラプラスを睨みつけた。
「えっへへ★ 見事に決まったことの拍手はくれないのかな?」
「この状態で出来ると思うかい?」
 ラプラスが陽気に問うと、ちいさく呟いた猫はダガーを地面に放り投げる。絶望を振り撒く猫と希望を描くピエロ。両者の在り方は対極だ。
「それは残念。ピエロは観られてこそ輝くんだからっ」
「…………」
 ラプラスが笑うと、名無しの猫は何も言わなくなった。無言のままで力を解放した相手は巨大な怪猫に変化する。キャスパリーグは災禍を運び、凶事を呼び込むもの。
 されどラプラスは軽く迎え撃つ。
「ねこちゃん、ねこちゃん、此方へどうぞ」
 更にダガーを増やした彼女はぴょんっと大きく飛び、ひといきに一番きれいな照明の上へと着地した。燃える焔のような赤髪を靡かせたラプラス。彼女が其処から降り注がせていったのは刃の乱舞。
 雨のように落ちていくダガーがラプラスを追ってきた猫に迫る。
 鋭い刃が名無しの猫を切り裂き、悪しき葬列を途切れさせてゆく。ニャアという悲痛な声が再び響いたが、ラプラスは敢えて明るい口調のままで凛とした声を響かせた。
「さぁさみなさんご覧あれ、猟兵による希望のパレードです☆」
 ピエロの前説はこれにて終わり。
 けれども猟兵の行進は此処から始まっていく。
 絶望を振り払い、悲しき命に小さな光を与えて、目指す場所はひとつ。
 それは――嘗ては希望が存在していたはずの遊園地。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

浅間・墨
ロベルタ(f22361)さんと。
「…私…補佐…を…願い…ます…」
この猫さん達の唯一の救いが斬ることだけならば。
かの国へ届けましょう。【黄泉送り『彼岸花』】で。
『兼元』の刃に破魔を。身体にオーラ防御を施します。

太刀が鈍ると不要な痛みや苦しみを与えてしまいます。
なので一撃で送りたい一心で刀を振るいたいと思います。
小さい対象なので斬るのは困難ですが首がいいでしょうか。
数が多いのでロベルタさんと連携し流れるように送ります。
送った後の亡骸を踏まないように注意しつつ移動迎撃します。

可能ならば後々で遺体を全て埋葬したいですね。
それまではそのまま放置してしまいます。…ごめんなさい。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)と連携。
愛剣の二刀流で猫さん達の命を絶つよ。
僕も墨ねーと同じく猫さんの首を狙う。

「目的を達成させてあげることはできないんだ」
ダンサーのねーちゃん達を背負うように前に立つ。
絶望してる子達に言葉はかえってダメだよねぇ。
多分。もし届いたとしても…止められないよねぃ?

可能な限り早業の2回攻撃やフェイントで攻めるじぇ。
猫さんの動きは見切ったり第六感で回避とか反撃する。
身体をオーラ防御で包んで猫さんからのダメージを抑える。
あ。戦う前に身体のパフォーマンスを上げておこうかな。
遺体をふんずけないように注意しておくねぃ。
墨ねーと埋葬するから。



●絶望から救う一閃
 煌めく数々の光、賑わうたくさんの声。
 歓声と音楽に乗せて軽やかなステップが刻まれ、舞台が彩られるステージショー。楽しい時間になるはずだったパレードは今、猫の葬列によって中断させられている。
「墨ねー、あそこ!」
 ロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)は会場に現れたジョン・ドゥ・キャットが率いる葬列を見つけ、隣の浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)に呼び掛けた。
「……私……補佐……を……願い……ます……」
 頷いた墨はロベルタに応え、太刀を確りと構える。
 ニャア、と鳴いたジョン・ドゥ・キャットはロベルタと墨に向き直り、静かな敵意をあらわにしていった。対するロベルタも愛剣の両手に構え、二刀流で以て相対する気概を見せている。
「猫さん達の命、絶つしかないんだよね」
「……はい」
 ロベルタの言葉に微かな声で答えた墨は猫に意識を向けた。
 この猫達の唯一の救いが斬ることだけならば、これから振るう刃に容赦や同情などというものは決して込めてはいけない。
(かの国へ届けましょう)
 胸の裡に思いを抱いた墨は真柄斬兼元の刃に破魔の力を宿していく。同時に己の身体に防御の力を巡らせ、ひといきに地面を蹴り上げた。
 ――黄泉送り『彼岸花』。
 其処から解き放ったのは森羅万象すら断ち斬ることの出来る一閃。
 狙うは首。
 何度も傷付けて必要以上の痛みを与える心算はなかった。太刀が鈍れば不要な痛みや苦しみが巡ることは墨にも分かっている。
 勝負は一撃。葬送するという一心で墨は刀を振るい、ロベルタも其処に続いていく。
 尚も猫はニャアと鳴いた。何かを訴えているようでもあるが、ロベルタは情けなどは抱かないと決めている。
「目的を達成させてあげることはできないんだ」
 彼らの目的は絶望を振り撒くことだという。どんな過去や背景があったのかは分からないが、どのような理由があってもそんなことは許してはおけない。
 墨が斬り込み、猫が避ける。
 その間にロベルタはダンサー達を背にして守り、避難の時間を稼いでいた。ありがとう、頑張って、という言葉が観客やダンサーから掛けられ、ロベルタは頷きを返す。
 そうして皆が無事に退避した後、猫に視線を向けた。
 ジョン・ドゥ・キャットの瞳は冷たく、まさに絶望している者の目だ。
「絶望してる子達に言葉はかえってダメだよねぇ。多分。もし届いたとしても……止められないよねぃ?」
 悲しそうな猫に何か言葉を掛けてやりたい気持ちもある。
 だが、きっとロベルタが予想した通りだ。墨も同じ思いを感じているらしく、こくこくと首を縦に振ってみせた。
 墨は少しだけ俯き、刃を切り返す。
 先程は避けられてしまったが、今度こそは。苦しむ暇すらなく葬るのだとして、墨はロベルタと共にジョン・ドゥ・キャットへと駆けた。
「墨ねー、いくよ!」
「……合わせ……ます」
 ロベルタから掛けられた言葉に小さな声を返し、墨は猫の動きに集中する。
 前髪の奥にある瞳は然と名無しの猫を捉えていた。ロベルタと連携した墨は葬列の猫霊に向け、流れるような太刀筋で以て刃を振るう。
 一閃によって葬送された猫達はその場に倒れ、跡形もなく消滅していった。
「あ……消えていっちゃったね」
 はっとしたロベルタは複雑な気持ちを抱く。元が霊体だったからか、オブリビオンであるからか、猫達は埋葬する遺体すら残らなかった。
 だが、これで亡骸を踏んだり荒らしてしまうことは避けられる。
「……、――」
 墨は無言のままだが、猫達にそっと祈りを捧げた。墨とロベルタは一撃で猫霊達を葬り、絶望から解放していく。
 ニャア、ニャア、と猫の悲痛な泣き声が響いている。
 それでも足も手も止めない。どれほど哀れに見えても、絶望を抱えたままこの世界に存在するよりは葬ってやった方が良いはずだ。
 対するジョン・ドゥ・キャットは巨大な怪猫に変化している。
 墨は兼元で、ロベルタは二刀で次々と標的を屠り、慈悲の思いを込めていく。
 連続攻撃からのフェイント。攻撃を受けそうなときは身を翻すことで避け、ときには刃で爪を受け止めていなす。
「まだまだいるなら、全力で攻めるじぇ。墨ねー、そっちはお願い!」
 ロベルタは葬列の猫を見据え、自らの身体をオーラで包み込む。墨はロベルタが右側から攻めるのだと悟り、自分は左から進むことを決めた。
 二人は葬列を率いる個体へと向かい、左右からの挟撃を行う。
「……ごめんなさい」
「これが僕達に出来ることだから、ごめんね!」
 刹那。墨とロベルタの一閃が鋭く重なり、そして――。
 ニャア、と最期の鳴き声が辺りに響き渡る。墨とロベルタが其々の得物を下ろしたとき、ジョン・ドゥ・キャットは地に伏した。
 消えていく猫を見下ろした二人は埋葬の代わりに冥福を願い、静かに瞼を閉じる。
 会場に煌めく光は、まるで葬送の灯のように輝いていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

相変わらず、この世界は派手で賑やかだな
フッ、こんな場所に絶望は相応しくないか

エギーユ・アメティストを装備、攻撃を見切りで回避し、早業でカウンターを叩き込む
紫水晶を煌かせる様に軽業を駆使して鞭を振るえば、周りからも派手に見えるだろう

お前に打ち込まれた世界を見限る程の絶望
それは余人には理解が出来ない程の重さだろうな…

UCを発動
怪猫に変化した敵を軽業で躱し、全力を込めた踏み付けを叩き込む
超耐久力を持っているならば、何度でも踏み付けるだけだ
理性を失っているならば攻撃も読みやすいからな

だが、それはこの世界を絶望に染めて良い理由にはならない
…せめて、お前の魂が安らかに眠れるように祈ってるよ



●明日の希望の為に
 此処はポップなサイバーパンクな未来的世界。
 この世界は明るい賑わいに満ちており、喧騒すらも心地良い。此度も華やかで愉快なパレードショーが行われており、キマイラ達は大いに楽しんでいた。
「相変わらず、この世界は派手で賑やかだな」
 キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)はきらきらと輝く光に包まれた舞台を眺め、この場所の賑わいを肌で感じ取る。
 しかし、ショーが始まって間もなく。会場には葬列を引き連れたジョン・ドゥ・キャットが現れ、催しを中止させるほどに侵攻してきた。
 光の当たらぬ影から現れた敵を見据え、キリカは身構える。
 彼らはこの場所に絶望を振り撒くために現れたのだという。そんな所業を放っておくわけにはいかない。
「フッ、こんな場所に絶望は相応しくないか」
 キリカはエギーユ・アメティストの柄を握る。蠍の尾めいた紫水晶が周囲のイルミネーションを反射してきらりと光った。
 その光に反応したジョン・ドゥ・キャットがキリカの方に意識を向ける。
 ニャア、と悲しげな声が響き渡った。その鳴き声は何処か悲しげに聞こえたが、キリカはウィップを振りあげることで攻勢に入る。
 対する名無しの猫はキャスパリーグの災禍の力を巡らせていった。
 凶事を呼び込む怪猫と化した相手は地を鋭く蹴り、素早い動きで以てキリカに襲いかかる。その軌道を読んだキリカは身を翻し、爪の一閃を避けた。
 だが、怪猫はその巨体からは想像できないほどの速さで追撃に入ってくる。
「速いな。だが――」
 こちらの方が上だと告げ、キリカは敵よりも疾くカウンターの一撃を叩き込んだ。
 跳躍からの蹴撃が炸裂する。黒の革靴はジョン・ドゥ・キャットの身を鋭く捉え、単純かつ重い一閃となっていった。
 更にキリカが腕を振るえば、鞭の紫水晶が煌めいていく。
 軽業の力を猫怪物に向けて駆使するキリカの姿は宛ら、猛獣使いだ。まるでそれすらショーのようで派手な立ち回りは周りを惹き付けていた。
 相手は恐怖や絶望を与えようとしているようだが、キリカはそのように立ち回ることによって希望を巡らせている。
 攻防が繰り広げられる中、キリカはジョン・ドゥ・キャットの瞳を見つめた。
「お前に打ち込まれた世界を見限る程の絶望、それは余人には理解が出来ない程の重さだろうな……」
 相手の眼差しから計り知れないほどの悲しみを感じ、キリカは頭を振った。
 理解してやることは出来ないだろう。それでも、絶望から脱却する為の道筋くらいは描いてやれるはず。
 迫ってくる怪猫を躱し、再び跳躍したキリカは全力を込める。着地と同時に猫の背を踏み付け、鞭撃を叩き込んでいく。超耐久力を持っていたとしても構わない。何度だって攻撃を叩き込み続けるだけだ。
「悲しみは伝わってくる。だが、それはこの世界を絶望に染めて良い理由にはならない」
 キリカはエギーユ・アメティストを振り上げ、名無しの猫に告げる。
「……せめて、お前の魂が安らかに眠れるように祈ってるよ」
 そして、一瞬後。
 振り下ろされた一閃は哀しき猫を貫き、その身を絶望だらけの世界から解放した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
夢を形にした遊園地で
絶望を振り撒こうなんて頂けないねぇ
パレードは明るいものを届けなくっちゃ

葬列のネコたちに向けて
やぁ、こんばんは共に踊ろうか
赤や漆黒の色に塗り潰させはしないんだけど
「骨噛み」で泥の怪物を呼び出して
ボク自身は槍も使うよ

希望や絶望ってなんだろうね
夜空とか星をよく思い浮かべるんだけど
意味や役割を与えられて喜ばしいなら
其れって希望を知れた、みたいな
まぁ君たちのことは何だっていいんだ
爪で抉って牙でも削られ
星の見えなくなったものに用は無いからねぇ



●星の瞬きは儚く
 遊園地とは夢と希望を与える場所。
 絶望という名は相応しくないと感じながら、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)はパレードショーが行われるストリートを眺める。
 既に会場には猫の葬列が現れていた。その始まりが夢を形にした遊園地だというのなら、其処から続く絶望の行進など実現させてはいけない。
「絶望を振り撒こうなんて頂けないねぇ。パレードは明るいものを届けなくっちゃ」
 たとえば、此処で行われるはずだったショーのように。
 エンデは葬列の進行を止めるべくして、ダンサー達を背に守る形で布陣した。
 ウルタールの猫葬列は哀しげな声をあげながら、一歩、また一歩と綺羅びやかな舞台に近付いてくる。ニャアニャアと響く鳴き声は切なさを感じさせるものだが、エンデは決して怯んだりなどしなかった。
 そして、彼は葬列の猫達に向けて軽くお辞儀と挨拶をしてみせる。
「やぁ、こんばんは。共に踊ろうか」
「……」
 猫からの返答はない。ただ、じっと見つめてくるだけだ。
 その瞳には深い悲しみや苦しみが宿っているように思えた。彼らは絶望を撒く為に此処に遣わされているものだ。
 どれほどの悲哀が其処にあろうとも、他者を侵していい理由にはならない。
 この綺麗なステージやストリートは光に包まれたままであるべきだ。赤や漆黒の色に塗り潰させはしないと心に決め、エンデは身構えた。
 夜に滲む影がゆらりと揺れる。其処から産まれていくのは泥と骨で創られた怪物。
 骨噛みの力でつくられた怪物は名無しの猫に向かって進んでいき、エンデ自身は騎士槍を構えて地を蹴った。
 角ある偶蹄類の頭蓋、或いはイヌ科の顎と猛禽の爪を伴う泥の怪物はジョン・ドゥ・キャットに攻撃を仕掛けていく。対する相手は此方の一閃を予測して避けていくが、回り込んだエンデが槍撃を確実に当てていった。
 空気ごと切り裂くような一撃を放ちながら、エンデはふとした疑問を零す。
「希望や絶望ってなんだろうね」
 言葉ではよく語られるが、それらは形のないものだ。
 エンデは夜空や星をよく思い浮かべて重ねているが、万人が同じものを思うわけではないだろう。それでもエンデは猫達に語っていく。
「意味や役割を与えられて喜ばしいなら。其れって希望を知れた、みたいな――」
「絶望とは孤独のことさ」
 するとジョン・ドゥ・キャットが一言だけ声を発した。それ以上の言葉は語らず、名無しの猫はエンデへと鋭い爪を振るい返す。その動きを見切ったエンデは泥の怪物を一気に嗾けてゆく。
「まぁ君たちのことは何だっていいんだ」
 名無しの猫は爪によって抉られ、食い込んだ牙で以て削られていった。
 貫かれて倒れた瞳は濁り、虚空を映しているだけ。戦う力を失って消えていく猫を見下ろし、エンデは静かな言葉を落とす。
「星の見えなくなったものに用は無いからねぇ」
「……――」
 消滅するジョン・ドゥ・キャットは最期まで何も語ることなく、抱えたままの絶望と共に過去の海へと沈んでいった。
 エンデは槍を下ろし、これで葬列は止められたのだと実感する。
 周囲に輝くイルミネーションは変わらず、深く巡る夜の色を眩く彩っていた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

世界に希望を与うような華やかな宴だね
ぱれーど…
うきうきなヨルにカグラは心を掴まれたようだ
君…踊れたのかい?
私も気持ちがはやる

人々を倖に導くその隊列に終を添える訳にはいかない
リルやサヨ、踊り手達を庇うように前へ
絶望は魂を濁らせておとしてしまう
何も見えないように塗りつぶしてしまう
救いはなかったのかと傷む心は裡に秘め

捕縛の結界で捕え斬り、絶望ごと切断を

サヨ、大丈夫?
きみの障りにならないか心配だ
なら、良い
何時だってそばに居ることを忘れないで

絶望に染ったその爪で
私達の希望を裂かせるわけにはいかない
絶望したものから更なる可能性を奪うこともあるまい
ただ最期には

世界を美しいと思える欠片を取り戻せたらいい


リル・ルリ
🐟迎櫻

わー!櫻、カムイ!
きらきらして綺麗なぱれど、だね
ヨルもうきうきして踊りたいみたい
僕も歌いたいな
きらきらした七彩は希望の彩

にゃあと聞こえれば尾鰭を抱き込み庇う

猫だ
瞳に光がなくて
生きているのに死んでいるよう

嗚呼と思う
彼らの瞳は、見た事がある

劇団にいた皆
生きていることこそが苦痛になって
逃れられない何かに捕まって
逃れることも捨てて凍った心

その心は僕も知っている
でも僕は諦めたくなかったんだ
諦めたら魂ごとしんでしまうから
だから
薄紅を請うように破滅を歌った
過去の僕

応援してくれるヨルにわらって歌う
「魅惑の歌」

駄目だ
この歌も踊りも希望の為にある
絶望してるからって他の人を巻き込んでいいわけ

─無いじゃないか


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

私、華やかな事はすきよ
励まして貰えるから
リルもヨルもうきうきじゃないの
カムイも?

新しいお客様はパレードには似合わないよう
濁った瞳に声に、八つ当たりのように希望を壊して、絶望に引き摺りこもうとするような
憐れとは思わないわ
ともすればそこに居るのは私かもしれなかったから

カムイ大丈夫よ
私は引き摺られたりしない
私の光(希望)はここに咲いている

ダンサー達を庇いながら、破魔の斬撃放ち薙ぎ払う
生命喰らう神罰巡らせ

─喰華

絶望したものなど味気なく不味い

パレードに桜吹雪を添えてあげる
希望も喪って何も見なくなったあなた達
綺麗に咲いて、散って舞って

最期に誰かの心に留まるよう
死こそが救いとは、思いたくないのだけど



●華と歌の標
 光が満ち、音が響き、夜は燦めく。
 明るい未来的な華やかさを宿す催しの最中、賑わう声が聞こえてくる。
「わー! 櫻、カムイ! 綺麗なぱれど!」
 行く先を示したリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)はふわりと游ぎ、後ろを歩いてきている二人に呼び掛けた。
「世界に希望を与うような華やかな宴だね。これが、ぱれーど……」
「とても綺麗ね。リルもヨルもうきうきじゃないの」
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は辺りを興味深く見渡し、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は燥ぐリル達が迷子にならないようついていく。
 櫻宵は華やかなことが好きだ。何故なら、暗く沈んだ心も励まして貰えるから。
 微笑んだ櫻宵はパレードショーを眺めているカムイの横顔を見遣った。
「あら、カムイとカグラも楽しそうね」
「噫、私も気持ちがはやる。うきうきなヨルにカグラも心を掴まれているね」
「二人とも、はやく!」
 カムイが静かな笑みを返すと、先を行っていたリルが振り向いて手を振る。
 その近くではヨルが音に合わせてぴょんぴょことダンスをしており、カグラもそれに倣って神楽舞をアレンジした動きで軽快に踊っていた。
「君……踊れたのかい?」
「ふふ! ヨルもカグラもすごいね。全部がきらきらしてるからかな」
 僕も歌いたい、と明るく笑ったリルは櫻宵の元に泳ぎ寄る。
 きらきらした七彩は希望の彩。だからもっと櫻宵に見て欲しいというリルの思いの現れが其処に見えた。
 だが、この賑わいと楽しさは突然の闖入者によって止められてしまう。
 ――ニャア。
 パレードを横切るのは猫の葬列。
 猫の鳴き声が聞こえたことで、敵の到来を察知した櫻宵達は即座に身構えた。
「新しいお客様はパレードには似合わないようね」
「人々を倖に導くその隊列に終を添える訳にはいかないな」
 櫻宵は屠桜を抜き、カムイは巫女と人魚、踊り手達を庇うように前へ出る。リルは尾鰭にじゃれつかれたりしてはいけないと感じ、鰭を抱き込んで構えた。
 戦闘態勢を取った三人に気付き、ジョン・ドゥ・キャットは敵意を向ける。
 その瞳には光が映っていない。
「……猫」
 嗚呼、と呟いたリルは、彼らは生きているのに死んでいるようだと感じていた。
 彼らの瞳は見た事がある。
 猫達の姿と重なって見えたのは劇団にいた皆。享楽の舞台に関わることで、生きていることこそが苦痛になり、逃れられない何かに捕まっていた。逃れることも捨てて凍った心で舞台に立っていた者達だ。
「絶望してるんだね。その心は僕も知っているよ」
「…………」
 猫は何も答えず、額に大山猫の目を開眼していく。その瞳で此方の動きを見切る心算なのだろう。だが、櫻宵は構わずに地を蹴った。
 濁った瞳に声。八つ当たりのように希望を壊して、絶望に引き摺りこもうとするもの。そんな相手を憐れとは思わない。
 櫻宵は猫達がダンサーに襲いかかる前に先手を取り、刃を振り上げた。
(――ともすればそこに居るのは私かもしれなかったから)
「サヨ、大丈夫?」
「平気よ、カムイ」
「きみの障りにならないか心配なんだ」
「いいえ、私は引き摺られたりしない」
「……なら、良い」
 櫻宵の一閃が猫を貫いた瞬間、其処にカムイが放った一撃が叩き込まれる。巫女を案じてはいても、カムイの太刀筋は真っ直ぐだ。二人が見事に敵を切り裂いていく最中、リルは澄み切った透徹の歌声を響かせていく。
 今も思うのは絶望を抱えていた団員達のこと。嘗てはリルも其処に居た。
 何にも疑問を抱かず、それが当たり前だと信じて――。
「でも、僕は諦めたくなかったんだ」
 諦めたら魂ごとしんでしまう。だから、薄紅を請うように破滅を歌った。
 もしかすればリルも彼らと違う意味で絶望をしていたのかもしれない。過去に黒耀の都市を水に沈めたのは、違う何かを見つけたかったからだろうか。
 リルの歌声は切なさを孕み始めている。
 カムイはそのことに気付いていたが、きっと彼なら平気だろうと信じた。
 絶望は魂を濁らせておとしてしまうもの。何も見えないように、最初から何もなかったのだと思い知らせるかのように、全てを塗りつぶしてしまう。
 救いはなかったのか、と傷む心は裡に秘めてカムイは結界を張り巡らせた。
「……サヨ」
 何時だってそばに居ることを忘れないで。
 捕縛の力が名無しの猫を捕えた刹那、カムイはその絶望ごと斬り伏せる。猫の爪は鋭かったが、絶望に染まったもので巫女に触れさせたりはしたくなかった。
「ええ、私の光は――希望はここに咲いているもの」
 櫻宵はカムイの呼び掛けに答え、ダンサー達を庇いながら破魔の斬撃を放つ。薙ぎ払う一閃で猫を吹き飛ばし、生命を喰らう神罰を巡らせた。
 喰華の力が敵を喰らっていくが、絶望したものなど味気なくて不味いだけ。
 櫻宵の刃に合わせ、カムイも更に
「噫、私達の希望を裂かせるわけにはいかない」
 カムイは猫の葬列が散らばらぬよう牽制していく。絶望したものから更なる可能性を奪うこともあるまいと考え、小さな猫霊達は一閃で葬った。
 彼らの姿を見つめるヨルは、きゅっきゅと声をあげて応援している。
 リルが歌い続ける魅惑の旋律は会場を包み込むように拡がり、恍惚と陶酔を齎す音色となって名無しの猫をその場に囚えた。
 だが、ジョン・ドゥ・キャットの眼差しは尚も絶望に向かっている。
「駄目だ、この歌も踊りも希望の為にあるんだ」
 絶望してるからといって他の人を巻き込んでいいわけが――。
「無いじゃないか」
 リルの宣言と共に歌が終幕に近付いていく。その声に併せて駆けた櫻宵とカムイが名無しの猫に刃の切っ先を差し向けた。
「あなた達のパレードに桜吹雪を添えてあげる」
 希望も喪って絶望以外に何も見なくなった猫達。綺麗に咲いて、散って舞って、最期に誰かの心に留まるように。
 死こそが救いとは思いたくないが、それでも。
 櫻宵の思いを感じ取ったカムイはひといきに力を解き放った。
 喰華と穢華。二人の力と権能に重なるように人魚の歌が響き渡り、そして――。
 ニャア、という声と共に名無しの猫がその場に倒れた。
 消えていく猫の霊、消滅していくオブリビオン。それらの終わりを見送りながら、カムイ達は願うように瞼を閉じた。
 ただ最期には世界を美しいと思える欠片を取り戻せたらいい。
 言葉にしなかった思いは、希望と絶望が重なる夜の狭間にとけてきえていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春・來晴
【春招】

私の腕と足を犠牲にしたのは戦う為に
だから何を言われたってへっちゃらでした

それに、絶望なんて私には似合いません
お母さんに誓ったんです
私は強くなるって

こうちゃん――
何かを思案してるこうちゃんに
眉を下げて表情を窺う

はいっ
けれどあなたは強い
どんな時だって笑っていてこうちゃんは格好良いんです!

折角ですから
ヒーローショーのように楽しんじゃいましょう

黄金のオーラを纏い
私は足をバネにして飛ぶ

にゃんこさんには申し訳ないですが
これでも喰らってくださいっ
回し蹴りをしてから、反対の足で更にもう一発

キラキラ光る星のような無数の独楽に笑顔を見せて
にゃんこさんあっちに沢山素敵なものがありますよっ

さ、楽しみましょう!


赤鉄・倖多
【春招】

おれは持ち主に福を招く
ずっとずっとそう言われてきて
多分、本当に少しだけ不思議な力を持っていた

でも本当は何もしていないのに
ありがとうって言われるのが少しだけ嫌だった

招くんじゃなくて、走って掴みに行きたかったんだ

でも、それでも俺は――
例えこの身体を失ったって絶望何てしないぞ

なあ、來晴
呼びかけ笑う
どんな表情をしてるか分かるから背中合わせに前を向く

ヒーローショー
いいな、さいっこうだ!

ガジェットショータイム
生まれるたくさんの刃付き独楽型のガジェット
宙を駆けるそれは敵の視線を釘付けにするだろう
來晴の攻撃の隙ができりゃいい!

勿論おれさまも行くぜ!
独楽の一つを思いきり投げつける

おうっ
たくさん楽しもう!



●掴む未来と望む色
 希望と絶望。それは即ち、幸福と不幸とも呼び替えられる。
 綺羅びやかな舞台の傍、赤鉄・倖多(倖せを招く猫・f23747)は思いを馳せていた。その中でふと脳裏に巡っていくのは、自分自身の在り方。
(おれは持ち主に福を招く、ずっとずっとそう言われてきた)
 きっと多分、本当に少しだけ不思議な力を持っていた。
 けれども物だった自分は何もしていない。自ら動いたわけではないのに、福を齎した相手に、ありがとう、と言われるのが少しだけ嫌だった。
 何故なら、その先に進みたかったからだ。
「招くんじゃなくて、走って掴みに行きたかったんだ」
 広げた手を見下ろした倖多は、自分以外には聞こえない声でちいさく呟く。言葉の通りに手の平を握り締めた彼はゆっくりと顔を上げた。
(でも、それでも俺は――)
 続く思いは言葉にはせず、倖多はこれから訪れるという猫の葬列を待つ。
 彼らは絶望を運ぶという。まるで自分とは正反対の存在だ。しかし、例えこの身体を失ったって絶望などしない。
 強く心に決めた倖多は賑わう舞台と通りに意識を張り巡らせていた。
 そんな彼の隣には、春・來晴(太陽・f27510)が立っている。彼女もまた、敵の到来を見逃さないようにしながら思いを巡らせていた。
 絶望というものは意外とすぐ傍にあるのかもしれない。
 けれども、自分の腕と足を犠牲にしたのは戦う為。だから何を言われたってへっちゃらで、今だって後悔はしていない。それに――。
「絶望なんて私には似合いません。お母さんに誓ったんです、私は……」
 強くなるって。
 自分に語り掛けるようにして來晴は頷き、隣にいる倖多の横顔を見た。
「こうちゃん――」
 彼は何かを思案しているらしく、少しだけ心配だ。來晴は眉を下げて彼の表情を窺ってみた。その視線に気が付いた倖多は笑みを浮かべる。
「なあ、來晴」
「はいっ」
 名を呼ばれた來晴は明るく、元気よく返事をした。そうして、二人は背中合わせになって辺りを見渡す。
 見なくたってお互いがどんな表情をしているかは分かった。だからこそ敢えて背を預け、これから始まる戦いに向けての思いを抱く。
 振り向き様に感じた倖多の雰囲気を思い、來晴は気を取り直した。
 心配な気持ちはあったけれども、彼は強いのだと知っている。
「ねえ、こうちゃん」
「何だ?」
「どんな時だって笑っているから、こうちゃんは格好良いんです!」
「そっか……。ありがとう」
 倖多は來晴に向け、嘗ての自分が告げられていた言葉を返す。その声に安堵を覚えた來晴は身構え、パレードの光が当たっていない路地裏を見据えた。
「折角ですから、ヒーローショーのように楽しんじゃいましょう!」
「いいな、さいっこうだ!」
 言うやいなや來晴は黄金のオーラを纏う。暗がりから猫の葬列が現れたことを悟り、機械の足をバネにして思いっきり飛んだ。
 倖多もほぼ同時に地を蹴り、舞台の煌きを背に受けながら跳躍していく。
 ニャア、と鳴き声が響いた。
 その声を耳にした來晴は、ぎゅっと心が締め付けられるような感覚を抱く。彼らは絶望に染まった猫であり、引き連れられた猫霊も無残な死を遂げたものだという。
 そのことを思うと苦しいが、此処で容赦することは正解ではない。
「にゃんこさんには申し訳ないですが、これでも喰らってくださいっ」
 一気に葬列に突っ込んだ來晴は脚撃を敵に見舞う。
 名無しの猫が衝撃に揺らいだ瞬間を狙い、回し蹴りからのもう一発。その勢いに乗せて空中に飛び上がった來晴に続き、倖多がガジェットを解き放った。
 高く掲げた手、其処から生まれていくのはたくさんの独楽。それも鋭利な刃が付いた攻撃型のガジェットだ。
「ほら、これでどうだ!」
「にゃんこさん、あっちに沢山素敵なものがありますよっ」
 宙を駆けていくそれらはくるくると回り、猫達の視線を釘付けにしていく。
 その間に來晴が身を翻し、名無しの猫の後ろに降り立った。ニャ、と驚く声があがったことで隙を感じ取り、來晴はもう一撃をお見舞いしていく。
「こうちゃんっ!」
「勿論、おれさまも行くぜ!」
 放った独楽が猫霊を蹴散らす中、倖多自身も独楽のひとつを思いきり投げつけた。刃が名無しの猫に突き刺さり、回転を止めた瞬間にもう一個を投擲する。そうすることで更なる攻撃が相手に降り掛かった。
 倖多の独楽は、まるできらきらと光る星のよう。
 來晴は笑顔を見せ、全力で猫達を散らしていく。絶望を抱いているからといって、同情や哀れみは要らない。希望を導く為の最期への道を照らしてやればいい。
 だからこそ、二人は明るい笑みを絶やさなかった。
「さ、楽しみましょう!」
「おうっ、たくさん楽しもう!」
 來晴と倖多は名無しの猫にも楽しみを与えるべく、星のように燦めく独楽と鋭く疾い一閃で以て立ち向かってゆく。
 この舞台に相応しい希望を、此処で示していくために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒久根・ジジ
キラキラした場所に君の姿があると
嫌なことを思い出しそうだ
忘れてたいのにさ

やぁ久しぶりだねジョン
なんて、何にも憶えちゃいないだろうけど
キミたちに始めて出会った日から
色んなものが壊れちゃったよ
ボクの悪夢のヒトカケラ

UCで装備した銃を扱いやすい片手銃に
装甲半分・攻撃力を5倍に
ボクへのダメージはどうでもいいよ
ダンサーを狙う奴に綿飴弾幕で目晦まし
固いスパボー製のニードルガンは鉛弾と同じ威力さ
全身串刺せば――ほら、もう動けないでしょ
最後に眉間を抜いて止めを

絶望を言い訳に壊した先には
新しい絶望が生まれるんだよ
だから今はもうオヤスミ
いつか必ず滅ぼしたげるさ

ああ、この先は遊園地か
苦手だよ
ボクが家族を――た場所だ



●災禍の葬列
 輝く光、賑わう舞台と通り。響く音楽と明るい声。
 視線を巡らせ、耳を澄ませ、荒久根・ジジ(ビザールイーター・f05679)は片目を眇めてみる。その煌めきは妙に眩くて、今の気分とは正反対だ。
 ジジの金の双眸には猫の葬列が映っている。
 それまで腰掛けていた塀から飛び下り、ジジは葬列の元になっている猫を見遣った。
「キラキラした場所に君の姿があると嫌なことを思い出しそうだ」
 意識の中に浮かんでいくのは、あのときの光景。
 忘れてたいのにさ、と口にしたジジは蜥蜴の尾を左右に振った。その向こう側では立ち止まった名無しの猫がジジを見つめ返している。
 だが、相手の瞳に此方の姿は映っていない。
 そのことには特に構わず、ジジは親しげに猫に語りかけた。
「やぁ久しぶりだねジョン」
「…………」
 ジョン・ドゥ・キャットは何も答えず、静かな敵意を向けてくるだけ。されどジジはそういった反応も既に予想していた。
「なんて、何にも憶えちゃいないだろうけど」
「……世界に絶望を」
 すると名無しの猫はたった一言、自分が行う目的を口にする。
 付き従っている主の為に動いているのだろう。猫は気紛れと思いきや、忠義が深いところだってある。ジジは軽く頭を振り、そっか、と答えた。
「もうそれだけしか残ってないんだね。こっちはキミたちに始めて出会った日から、色んなものが壊れちゃったよ」
 ――ねえ、ボクの悪夢のヒトカケラ。
 呼び掛けても猫は何も言わない。語り返す必要がないと思っているらしく、それでいいよ、とジジはちいさく告げた。
 そして、彼女は銃を手の中でくるりと回す。
 扱いやすい片手銃へと変えられたそれは、装甲が半分にされている代わりに力が倍に跳ね上げられていた。
 対するジョン・ドゥ・キャットは前足を地に付き、巨大な怪猫に変化する。
 威嚇の声があがり、ジジに向けて鋭い爪が振るわれた。切っ先が腕を掠め、痛みが走ったがジジはそんなことなどどうでもいいと感じている。
 理性を失くしたキャスパリーグは災禍を運ぶのみ。
 無差別な攻撃はダンサーに迫ったが、ジジは素早く銃を向ける。綿飴の弾幕が猫の前に拡がり、目晦ましとなっていった。
 更に銃口を差し向け、ジジは素早く銃弾を変える。
 相手が綿飴に撒かれている間に撃ち放ったのは固いスパボー製のニードルガン。攻撃力を増しているゆえ、それは鉛弾と同じ威力となっている。
「――ほら、もう動けないでしょ」
 鋭い弾丸がジョン・ドゥ・キャットの全身に突き刺さり、串刺しにしていく。
 そして、ジジは身動きが取れなくなった猫の眉間に狙いを定めた。
「絶望を言い訳に壊した先には新しい絶望が生まれるんだよ。だから、ね」
 今はもうオヤスミ。
 いつか必ず滅ぼしたげるさ、と告げた言葉が銃声に混じって消えていった。刹那、止めの一撃が名無しの猫であり続けたものを討ち穿く。
 倒れ込んだ猫は何も語ることなく、凶事すら呼び込むことも出来ずに消滅した。
 そして――。
 猟兵の活躍により、パレードショーを邪魔する者はすべて斃された。
 ジジはダンサー達が無事だったことを確かめた後、葬列が訪れた方向を見遣る。
「ああ、この先は遊園地か」
 次に乗り込むのは此度の敵の秘密基地となっている廃遊園地だ。ああいった場所は苦手だと呟いて肩を竦めたジジは、ゆっくりと息を吐く。
 だって、其処は。
(ボクが家族を――た場所だから)
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『シュナイト・グリフォン』

POW   :    こっちにおいで。この世界はお前に似合わない
【この世の絶望】を籠めた【巨大な鎌】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【前向きな心、大切な記憶、思い出の品】のみを攻撃する。
SPD   :    ○○はいないのに、何故のうのうと生きてる?
対象への質問と共に、【対象の記憶】から【創造した大切な人の分身】を召喚する。満足な答えを得るまで、創造した大切な人の分身は対象を【精神的に追い詰めながら其々の方法】で攻撃する。
WIZ   :    さぁ、絶望しよう。俺と一緒に踊ろう
【ぬいぐるみ達を召喚し、共に絶望のパレード】を披露した指定の全対象に【一緒に踊りたい、そして自傷したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エール・ホーンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●絶対なる絶望
 猫達は骸の海に還され、皆が集うストリートでの危機は去った。
 哀しき業を背負った絶望パレードの跡を辿り、猟兵達は其処から敵地に赴く。
 暗闇に沈むような、瓦礫が折り重なった廃遊園地。
 薄暗く、周りがよく見えない廃園の中心には幽かな明かりが見えた。その光を頼りに進んでいけば遊園地の中央に佇むメリーゴーランドに到着する。
 その場所で猟兵を迎えたのは、此度の首魁――シュナイト・グリフォンだ。
「やあ、よく来たな」
 片方の鉤爪を差し伸べてきた彼は、にこやかに笑った。だが、その瞳だけはどうしてか笑っていないように思える。
 彼は猟兵達を見据え、メリーゴーランドの屋根の下から歩み寄ってきた。
「どうしてあんなパレードを送り出したのか、何故に俺が世界に絶望しているのか、とでも聞きたいのか?」
 シュナイトは口の端を吊り上げ、頭を振る。そして、一言だけで理由を語った。
「覚えていないんだ」
 それから彼は、まるで劇でも演じるかのように話していく。
 オブリビオンとなった自分は既に一度は死した者。喉を掻き切り、腹を抉って命を手放した瞬間だけは覚えている。されど、どうして死を選ぶほどに苦しかったかは記憶から抜け落ちているのだという。
「絶望したことだけは確かだ。けれど、こうして蘇ったことで絶望は繰り返す。この世界はなんて酷くて、なんて滑稽なんだろうか」
 お前達もそう思わないか。
 過去が滲み、未来を侵す世界の仕組みについて語ったシュナイトは真っ直ぐな視線を向けてきた。そして、猟兵達を手招く。

 ――こっちにおいで。この世界はお前に似合わない。
 ――××はいないのに、何故のうのうと生きてる?
 ――さぁ、絶望しよう。俺と一緒に踊ろう。

 それは絶望を振り撒き、すべての命を理不尽を巻き込む為の言葉だ。其処からシュナイトの齎す力が巡り、猟兵達に襲いかかってくる。
 オブリビオンとは世界を滅亡に導くもの。
 彼もまた過去で現在を埋め尽くす存在であり、滅ぼさなければならぬ相手だ。
 猟兵達は此処で勝ち取らなければならない。
 絶望に負けない希望を。或いはそれ以上に強い其々の思いと、未来を――。
 
鳥栖・エンデ

辿り着いた廃遊園地で現れるのは
記憶から創造される分身、ねぇ
……やぁ、ミハイル。久しいね
最初の友だち、エンデの街を治めた領主サマ
騎士槍のグングニールを遺したのもキミだったね
何故のうのうと生きてるかって?
キミに置いていかれたからだよ

ネコ達が言うには、
絶望とは孤独のことらしいね
自ら選んで独り死んでいったキミは
絶望したことになるんだろうか
キミのこと星のようだと
想っていたんだけど
……今は昔のお話さ

「骨噛み」の泥から生まれるのは
夜の獣であるボク自身の一部であって
星すら喰らってしまえたなら
ずっと一緒にいられただろうか
覆らないのが現実ってやつだから
さっさと過去にお帰りよ

さようなら、ボクだけのひかり



●星屑と夜の帳
 辿り着いた廃遊園地。
 折れて途切れたレール、割れてしまった鏡。どれだけ磨いても綺麗になることのない看板。其処には既に終わってしまったものが多く見られた。
 メリーゴーランドだけが、嘗ての賑やかな煌めきの名残を灯している。
 エンデはシュナイト・グリフォンを見据え、相手の出方を窺った。下手に攻撃に出ればあの大鎌の返り討ちに遭うことは理解出来ている。
 それゆえに身構え、揺らめく力を敢えて受け止めることに決めていた。シュナイトが此方を見遣ったとき、記憶が読まれていく感覚が巡る。そして、彼が知らないはずの人物の名が紡がれた。
「――ミハイルはいないのに、何故のうのうと生きてる?」
(これが記憶を読む力、ねぇ)
 言葉と共に、瞬く間に目の前に人影が現れる。
 偽物であると解っている故に驚きはしなかった。だが、エンデの記憶から作り出された存在は実に精巧だ。
「……やぁ、ミハイル。久しいね」
 エンデは片手を上げ、友人の名を言葉にした。
 彼は最初の友だちであり、エンデが居た街を治めていた領主でもある。エンデが持つ騎士槍、グングニールを遺していったのもミハイルだ。
 その姿を見ると街を思い出してしまう。幻影と解っているというのに胸が締め付けられるような感覚に陥った。これもおそらく相手の力なのだろう。
 そして、どうしてお前だけが生きているのかという旨の質問が彼から繰り返された。
「何故のうのうと生きてるかって?」
 騎士槍を握ったエンデは遠き日々の面影を懐う。
 幸いの白き竜は託され、今はエンデの傍に在る。そのことが示すのは、問いへの返答にも成り得ることだ。
「キミに置いていかれたからだよ」
 エンデは頭を振り、此処に立っている理由を語る。
 先程の猫達が言っていたことが胸裏に過ぎった。エンデは目の前に佇むミハイルを見つめたまま、更に言葉を続ける。
「絶望とは孤独のことらしいね。自ら選んで独り死んでいったキミは、絶望したことになるんだろうか」
「…………」
 ミハイルの幻影は何も答えない。返事をしないことがエンデの心を追い詰めることにもなると知っているからだろうか。それとも、記憶の中の彼がエンデの求める答えを持ち合わせていないからか。
「キミのことを星のようだと想っていたんだけど」
「…………」
 やはりミハイルは何も言わない。ただ、エンデを見つめる視線だけは逸らされていなかった。エンデは肩を竦め、瞼を閉じる。彼は自分の心が映し出したものでかなく、本物からは遠いもの。
 幻影は此処で断ち切ると決め、エンデは閉じていた瞳をひらいた。
「……今は昔のお話さ」
 静かな宣言と同時に骨噛みの泥が蠢いた。其処から生まれるのは夜の獣であるエンデ自身の一部。ケモノの爪にカイブツの牙、そして――ヒトの業。
 怪物達が幻影に迫っていく中、エンデは思う。
(星すら喰らってしまえたなら、ずっと一緒にいられただろうか)
 キミを星として己の中に宿せたら。
 けれども全ては過ぎ去り、終わってしまったこと。
「覆らないのが現実ってやつだからね。さっさと過去にお帰りよ」
 過去の残滓に向けて骨の爪が振り下ろされる。
 星屑のように散った影。夜の帳の中に沈む欠片。霧散するように消えゆくミハイルの影を見つめたエンデは瞬きすらせず、その終わりをそっと見送った。

 ――さようなら、ボクだけのひかり。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
UCを発動
高速移動で接近して強力な念動力を敵に叩き込む

敵のUCで出てくるのは私の親友【セリュ・レグルス】だろう
輝くばかりの豊かな金髪と電子的な煌きを見せる緑の虹彩
そして透き通るほどの白い肌を持つ…猟兵だったサイボーグの女性だ

セリュ…
なぜ私だけ生きている?か…
それは貴女を失ってから、ずっと考えている事だよ
貴女を犠牲にして生き残る事は運命だったのか?
いっそ、私も貴女の元へと思った事もある
けど…私は前に進み続ける
運命と言う言葉に逃げる場所はない
私は生きて、この絶望を抱いて戦い続ける
私が憧れ続けた、貴女のように
だから…さよならだ

それでも、また逢えて嬉しかったよ

全てを振り切るように、幻影ごと敵を撃ち抜く



●今も貴女を
 廃遊園地に佇むシュナイト・グリフォン。
 相手が巡らせる絶望の力が届く前に、キリカは強く地を蹴った。その際にメリーゴーランドに灯る明かりがキリカの瞳に映る。
 それは嘗ての遊園地にあった賑やかさの残滓のようだ。
 されどキリカは敢えて気にかけることなく、敵の姿だけを見据える。
 ――コード【épique:La Chanson de Roland】承認。
「起動しろ! デュランダル!」
 キリカが声を紡ぐと同時にリミッターが全解除されていく。目にも留まらぬ速さで駆けた彼女は一気にシュナイトの前にまで迫った。
 相手も大鎌を構えたが、キリカが動く方が疾い。強力な念動力が叩き込まれ、相手の体勢が大きく揺らいだ。しかし、これはまだ一撃目。すぐに刃を差し向けたシュナイトがキリカへの反撃に移っていく。
 刹那、キリカは己の中から何かが読み取られたという感覚をおぼえた。
「――セリュはいないのに、何故のうのうと生きてる?」
 シュナイトが知らぬはずの名前を言葉にする。
 キリカがはっとしたとき、目の前に奇妙な影が現れた。これも敵の能力だと分かっていたが、実際にそれを目にすると動きが止まってしまう。
 影は見る間に形を変えていく。
 気が付けば、キリカの前にはサイボーグの女性が立っていた。
 輝くばかりの豊かな金髪が夜風を受けて揺れる。此方を見つめている瞳は電子的な煌きを見せていた。緑の虹彩、透き通るほどの白い肌。
 間違えるはずがない。彼女そのものにも思える幻影が其処に居る。
 ――セリュ・レグルス。
 猟兵だった彼女はもうキリカの傍にはいない。失った過去から作り出された幻影はキリカをじっと見つめている。
「セリュ……」
 キリカは自分の中に巡る力を抑え、彼女の名を呼ぶ。
 どうしてキリカだけが此処に生きているのか。先程のシュナイトが問いかけたように、彼女からも質問されている気がした。
「なぜ私だけが……か」
 キリカは頭を振り、胸元に手を当てる。
 苦しい。まるで心の奥に鉛でも撃ち込まれたようだ。しかし気を強く持ったキリカは地を踏みしめ、セリュの姿をしっかりと瞳に映す。
「それは貴女を失ってから、ずっと考えている事だよ」
 貴女を犠牲にして生き残る事は運命だったのか。今も胸裏に不穏な疑問が巡っている。いっそ、自分も貴女の元へ――。そう思ったこともあった。
 セリュの幻影は静かに双眸を細める。そして、キリカにしか聞こえない声で囁いた。
『     』
「――!」
 キリカの瞳が見開かれる。何を言われたのか、どんな言葉を囁かれたのかは彼女しか知らない。ただ、心の痛みを切り開かれ、抉られるようなものだった。
 だが、そのことで分かったことがある。あれは本当のセリュなどではない。
「けど……私は前に進み続ける」
 運命という言葉に逃げる場所はない。それゆえに此処で立ち止まって膝をつくようなことは出来なかった。それに決意は固まっている。
 そして、キリカはこれまで抑えていた力を解除しはじめていく。
「私は生きて、この絶望を抱いて戦い続ける」
 ――私が憧れ続けた、貴女のように。
 この絶望すら連れて行くと決めたのだから、無意味に逃げるようなことだけはしたくない。してはいけない。絶対に、とキリカは誓う。
「だから……さよならだ」
 ヴェートマ・ノクテルトの力が最大に解放され、念動力が再び戦場に巡っていく。幻影のセリュごと消滅させてしまうほどの力は激しく迸る。
 あれは偽物で、何を語られても語ってもキリカの後悔にしかならない。きっと本当の彼女もそんなことは望んでいないだろう。それでも――。
「また逢えて嬉しかったよ」
 消えていく影から決して目を逸らさず、キリカは淡く笑む。
 そして――彼女は全てを振り切ってゆくかのように、幻影ごと敵を撃ち貫いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタさん(f22361)と。
シュナイトさんの言葉の内に寂しさというか哀しさを感じます。
例えばですが…『寂しいから一緒に居て欲しい』という感じのを。
先程の猫さん達にも本当は…。

貴方の言葉はわからなくもないですが…私には不要なものです。
何も恥じることはしていませんので絶望は遠慮しますね。私は。
無言のまま。問いに答えることなく国綱を鯉口を切って構えます。
構えたままであなたの全てを否定するように見つめます。
【黄泉送り『彼岸花』】で貴方の全てを断ち切ってみます。
絶望も。この世界からも。全てを。

居合の構えでシュナイトさんを見守り刀には破魔の力を籠め。
鎧砕きと鎧無視攻撃と貫通攻撃を乗せ斬ります。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)。
そっかぁ…でもこの際にーちゃんの絶望はどーでもいいねぃ。
それに世界が醜いとか滑稽とかはまだ僕には何とも言えないよ。
え?それは僕が何も躓くことなく幸福な生活を送ってるから?
「そーだといいけど…残念。僕は絶望の世界の住人なんだな♪」

そんなにーちゃんには【魔女の一撃】をプレゼントするじょ!
しかもッ!重量攻撃と鎧砕きと鎧無視攻撃と乗せた一撃だじぇ♪
おまけに二回攻撃で零距離射撃からのクイックドロー蹴りも追加。

にーちゃんに向かう時に色々言われるけどあまり気にしないよ。
だって。そんなことにーちゃんが決めることじゃあないからねぃ♪
「墨ねーの一撃で、闇に還れ…!!」



●二人で拓く未来
 この廃遊園地はまるで壊れた世界の象徴のよう。
 寂しい空気が満ちているこの場所で、彼は世界に絶望していると語った。
 メリーゴーランドに宿る灯だけが辺りに光を燈している今、廃遊園地は物悲しい雰囲気に包まれている。大鎌を構えたシュナイト・グリフォンの動きを捉えながら、墨は彼が抱く思いについて考えを巡らせていた。
 シュナイトの言葉の内には寂しさがある。或いは哀しさだろうか。
 たとえば――寂しいから一緒に居て欲しい、というものにも思えた。
(先程の猫さん達にも本当は……)
 しかし、墨はその思いを言葉にすることはない。もし伝えたとしてもシュナイトは首を縦に振ることはないだろう。そのことはよく分かっている。
 墨は無言のまま、シュナイトの問いに答えはしない。
 ただ国綱の鯉口を切って静かに構えるのみ。そして、オブリビオンとしての相手の全てを否定するように見つめる。
 ロベルタも警戒を強めながら、シュナイトの出方を窺った。
「そっかぁ……でもこの際にーちゃんの絶望はどーでもいいねぃ」
 世界は醜く滑稽だと語られたが、ロベルタはそう感じてはいない。相手にとってはそうなのかもしれないので考え自体を否定することはしなかった。
 けれども、ロベルタはまだ何とも言えない。
「どうでもいいか。……そうか」
 シュナイトはちいさく呟き、巨大な鎌を振りあげる。
 鋭い一閃が振るわれると察したロベルタは墨に視線を送った。そうして次の瞬間、一気に地を蹴り上げて刃を避ける。
「それは僕が何も躓くことなく幸福な生活を送ってるからだって思う? そーだといいけど……残念。僕は絶望の世界の住人なんだな♪」
 墨もこくこくと頷き、衝撃の余波をいなしていった。
 彼の言葉はわからなくもない。しかし、シュナイトの考えは墨にもロベルタにも不要なものだ。鎌から放たれた力は前向きな心だけを切り裂こうとしてくる。だが、ロベルタはそれすら振り払ってゆく。
「そんなにーちゃんには魔女の一撃をプレゼントするじょ!」
 ロベルタが地を蹴り、身体のバネを活かした一点集中の鋭い蹴りを敵に見舞う。其処に続いて墨が黄泉送りの力を発動させた。
 墨はこれまで、何も恥じることはしていない。それゆえに彼が齎す絶望もパレードも遠慮するだけだ。
 彼岸花を咲かせるかのような一閃が振り下ろされ、敵を切り裂く。
 ロベルタと墨の見事な連携攻撃はシュナイト・グリフォンを貫いた。だが、彼はそれだけで倒れるような相手ではない。
 強敵であることを改めて実感しながら、ロベルタは更なる一撃を叩き込みに行く。
「まだまだッ!」
 一撃目に続き、ロベルタは容赦などしない。重量を乗せて鎧さえ砕いて防御を無視する鋭い攻撃はシュナイトに痛みを与えていく。
 更におまけにもう一撃。零距離射撃からの華麗な蹴りが披露されていった。
 ――貴方の全てを断ち切ってみせる。
 墨も刃を振るい続け、森羅万象の物質を断つことができる切れ味で以てシュナイト・グリフォンを追い詰めていった。
(……絶望も。この世界からも。全てを)
 彼と対話が出来たとしても、双方が解り合うことはきっと出来ない。だからこそ断ち切ることが最善だと知っている。墨は居合の構えを取り、シュナイトを攻撃する機会を着実に判断していった。
 刀には破魔の力を籠め、攻撃毎に相手を一気に貫く。対するシュナイトは静かな眼差しを向け、此方に呼び掛けてきた。
「こっちにおいで。この世界はお前達に似合わない」
 ロベルタはその言葉に対して揺らぎはしない。立ち向かう時に色々と言われることは最初から分かっており、あまり気にしないと決めていた。
「そんなことにーちゃんが決めることじゃあないからねぃ♪」
 ロベルタが抱く思いは変わらない。
 ただ真っ直ぐに前を見据え、世界を守る役目を果たしていくだけだ。幾度目かの蹴りを見舞いながら、ロベルタは墨を呼ぶ。
「墨ねー!」
「……はい」
 微かな声で、けれどもしっかりとロベルタに応えた墨は一気に地面を蹴り上げた。ロベルタも墨と共に駆け、シュナイトへと渾身の一撃を振るい――。
「この一撃で、闇に還れ……!!」
 刹那、左右から解き放たれた二人の攻撃がシュナイト・グリフォンを深く穿った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


厄災が通り過ぎた後のようだ
…残念だ

絶望に見舞われて尚も立ち上がるひとの生命の煌めきが私はいっとう好きだ
此処には無いようだね

繰り返す絶望の絲を断ち切ろう
重ねた絶望と痛みの漄
答えに辿り着けるのかな

可愛いぬいぐるみだ
そなたの友達かい?
…寂しいのかな
孤独は魂を侵す故に

裁ち切るようになぎ払いサヨとリルを守るように結界を張り
絶望ごと切断するよう刀を振るう
私が傷つくのは構わないが
巫女や同志を傷付けさせない

私は絶望などしないよ
私の希望はこうして隣で咲いている
必死に立ち向かい抗っている
かれの神である私が絶望など出来ない

刈り取らせないよう守るのは当たり前

噫、往くよ
サヨ、リル
斯様な厄は約されていないのだから


リル・ルリ
🐟迎櫻


舞台には理由があるように
君が僕らに絶望をもたらそうとするのにも理由があるんだと思うんだ

君は絶望した理由をしりたいの
苦しみの輪舞曲を踊りながら
たくさんの人の絶望に触れて

みつかった?君の落し物

世界は残酷だよ
泣いたって苦しんだって時の秒針は進んでく
立ち止まり諦めたものからおいていかれる

泡沫が弾けて
懐かしい姿が現れる─とうさん
そうだね、とうさん
僕は貴方がいなくても泳いでる
匣舟の行方に迷いながら歌っている
いきている
貴方がくれた命を生きて歌っている

大好きな貴方の分まで歌うと決めた

カナンとフララが飛んで
ヨルがきゅと応援してる

櫻宵、カムイ!
いくよ!
僕の未来絆ぐ二人を呼ぶ
絶望に浸る暇なんて
僕らにはない


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


崩れ壊れて忘れられたような遊園地、本当は皆の笑顔で溢れているはずなのに
そうね
まるであなたの心のよう

あなたの後悔は絶望を忘れたことなのかしら
絶望に絶望してあなたは何処に堕ちていくのかしら
取り戻したいの?

きいてみただけ
私は絶望なんて
あなたに与えられるイタミなんて要らない

命を刈る大釜が、私の心を削っていく
大切な人達と過ごした日々を
師から託された願いを、約束が桜と共に散っていく
カムイ……!
呼ばれた名に顔をあげる

カグラが…師匠もみてる
カムイやリルを守る

私がこの世界に相応しくないのなんて百も承知よ!

それでもまだ
私は生きている

リル……
ええ、いきましょう
カムイ、共に

もっと愛して
愛したいからとまれない



●其の希望はさくらいろ
 壊れて崩れたのはひとつの世界。
 遊園地という夢を宿した場所は今、廃墟と化している。この場所が何故このような惨状になったのかは誰も知らない。知っている者がいるとしても此処には居ない。
「……残念だ」
 まるで厄災が通り過ぎた後のようだと感じて、カムイは肩を落とす。
 カムイがいっとう好きなもの。それは、絶望に見舞われて尚も立ち上がるひとの生命。しかし、此処にはその煌めきがみえない。
 崩れ壊れて忘れられたような遊園地も、本当は皆の笑顔で溢れているはずなのに。
 メリーゴーランドの前に立つシュナイト・グリフォン。
 彼を見つめた櫻宵は哀しげな瞳をしている。世界に絶望していたのだと語ったシュナイトもまた、猟兵達を見据えていた。
「そうね、まるであなたの心のよう」
 彼の後悔は絶望を忘れたことなのだろうか。絶望に絶望して、シュナイトは何処に堕ちていくのか。櫻宵の裡には疑問が浮かんでいた。
「取り戻したいの?」
「君は絶望した理由をしりたいの?」
 櫻宵に続けて、リルも問いかけてみる。
「…………」
 シュナイトは答えない。答えられないと表した方が相応しい。何故に希望を絶ったのかという理由は彼にも分からないことなのだろう。
「きいてみただけよ。だって、私は――」
 絶望なんて抱かない。彼に与えられるイタミなんて要らない。
 櫻宵が屠桜を構える最中、リルは思う。
 舞台が形作られることに理由があるように、彼が此方に絶望をもたらそうとするのにも理由があるはず。されどシュナイトは苦しんでいる。絶望という思いと儘ならぬ感情に縛られ、望んだはずの死から解放されないまま。彼は苦しみの輪舞曲を踊りながら、たくさんの人の絶望に触れたのだろう。
「みつかった? 君の落し物」
「さあね」
「そっか……。世界は残酷だよね」
 リルが再び問うと、シュナイトは片目を閉じた。とぼけているのではなく、本当に分からないといった仕草だ。
 少しだけ俯いたリルは世界の在り方を思う。どんなに泣いたって苦しんだって時の秒針は進んでいき、立ち止まって諦めたものからおいていかれる。残酷だとしか呼べない事柄だってたくさんある。
「此処には無いようだね」
 カムイは首を横に振り、此処で終わらせることが今の正解だと判断する。
 繰り返す絶望の絲を断ち切ること。
 重ねた絶望と痛みの漄で、彼がいつか答えに辿り着けるように。
 そして、其処から絶望の力が巡っていく。シュナイトはカムイ達に向け、ぬいぐるみ達を召喚していく。
「可愛いぬいぐるみだ。そなたの友達かい?」
「いいや、どうだったかな」
 絶望のパレードを広げるようにしてぬいぐるみ達は行進してくる。カムイが問いかけてみてもシュナイトは曖昧な言葉を返すのみ。
 彼は寂しいのだろうか。
 カムイは識っている。孤独は魂を侵し、寂しさや苦しみを呼び込むものだと。
 パレードを裁ち切るようにぬいぐるみを薙ぎ払い、カムイは櫻宵とリルを守る結界を張り巡らせてゆく。
 だが、それすら擦り抜けた絶望の力が襲いかかってくる。
 リルの周囲で泡沫が弾けた。
 一瞬だけ空気が歪んだかと思うと、目の前に誰かの影が現れはじめる。
『……リル』
「――とうさん」
 自分を呼ぶ声が聞こえ、リルの胸は懐かしさでいっぱいになった。過去の記憶から作り出された偽物だと分かっていても呼び掛けられた声がいとおしい。
『何故、お前だけがのうのうと生きてる?』
 しかし、影は彼が絶対に言わないようなことを問いかけてきた。心に痛みが齎されたが、リルはぐっと堪える。
「そうだね、とうさん。僕は貴方がいなくても泳いでる」
 匣舟の行方に迷いながら歌っている。
 いきている。貴方がくれた命を生きて歌っている。だから、大好きな貴方の分まで歌うと決めた。リルが真っ直ぐに影を見据えると、傍にカナンとフララが訪れた。
 きゅ、という声も聞こえる。ヨルも蝶々達も、惑わされないでと告げてくれていた。
「大丈夫だよ」
 宣言と共に、リルは光の歌を謳っていく。
 破魔の歌声が遊園地に響き渡っていく中、櫻宵はシュナイトと斬りあっていた。鎌と刀が衝突する甲高い音が辺りに木霊する。
 命を刈る大鎌は振るわれる度に櫻宵の心を削っていく。
 桜が散って、深い闇に沈んでいくかのように思い出が切り裂かれていった。大切な人達と過ごした日々が、師から託された願いが、約束が――。
 刃に切り裂かれ、はらりと舞う桜と共に散っていくかのようだ。
「噫――」
 次の一閃で心が割れる。櫻宵がそう感じた、そのとき。
「サヨ!」
「カムイ……!」
 ぬいぐるみを蹴散らしたカムイが大鎌を喰桜で受け止め、弾き返した。呼ばれた名に顔をあげた櫻宵が見たのは、絶望ごと切断するよう刀を振るうカムイの凛々しい姿だ。
「私が傷つくのは構わないが、巫女や同志を傷付けさせない」
「ふふ、流石はカムイだね」
 リルも幻影を歌で跳ね除け、櫻宵の傍に游いでいく。
 カムイもリルも絶望などしない。自分達の希望はこうして隣で咲いていて、決して枯らさせはしないと決めていたからだ。
 必死に立ち向かい、抗っているかれの神であるカムイが絶望など出来ない。
 それゆえに刈り取らせないよう守るのは当たり前。カムイとリルが櫻宵の両隣に布陣していく様を、カグラとカラスが見守っている。
(カグラが……師匠もみてる。駄目ね、私もカムイやリルを守らなきゃ)
 櫻宵は自分を取り戻し、屠桜を構え直した。
 心はすぐに揺らいでしまうが、それも櫻宵らしさだと二人が認めてくれている。
「私がこの世界に相応しくないのなんて百も承知よ!」
 強く言い放った櫻宵は不可視の剣戟を振るっていく。それでもまだ生きているのだから、抗い続けるしかない。たとえこの裡に宿る愛呪が、己の身を滅ぼす切欠になったとしても――二人が傍にいる限りは。
「櫻宵、カムイ! いくよ!」
 其処にリルの声が響き、櫻宵はしっかりと頷いてみせた。
「リル……ええ、いきましょう。カムイ、共に」
「噫、往くよ。サヨ、リル。斯様な厄は約されていないのだから」
 カムイもその声に応え、シュナイト・グリフォンの力に立ち向かっていく。
 未来を絆ぐのは三人一緒に。
 絶望に浸る暇なんて自分達にはないとして、リルは光の歌を紡ぎ続ける。喰桜と屠桜を振るう櫻宵とカムイも、ただ真っ直ぐに剣戟を打ち込んだ。
 
 かれらにとって希望は絵空事ではない。
 何故なら、此処に愛があるから。
 もっと、もっと愛して。愛したいから、未だとまれない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
自分で自分を終わらせることを選んでしまったくらい
世界に、…すべてに絶望してしまったのに
どうしてそんな絶望を抱いたかは覚えてないなんて
…何もわからないのに、覚えていないのに
あなたは、オブリビオンとしてここにいるのね

…もしかしたらあたしも、あなたみたいに
自分で終わらせることを選ぶほど絶望してしまったら
あなたとおんなじ風に、オブリビオンになってしまうのかしら

…いいえ
あたしはあたし、あなたとは違う
何度蘇ろうとも還してあげる
それに、あなたが見せるパレードは全然きらきらしていないから
ちっとも楽しくないわ!

破魔の力を籠めた夢幻の花吹雪でぬいぐるみごと範囲攻撃を
…ごめんなさいね
あたし、あなたとは一緒に踊れない



●あなたに花を
 世界に絶望を抱いていた彼の生は終わるはずだった。
 しかし、この世の仕組みは終幕を赦してはくれなかった。一度目の死を経ても、忘却と共に巡る命。世界そのものに囚われたシュナイトの瞳には絶望が映っている。
 キトリは胸が締め付けられるような感覚をおぼえていた。
 自分で自分を終わらせる。そうすることを選んでしまったくらいに、彼は――。
「世界に、……すべてに絶望してしまったのに」
 どうしてそんな絶望を抱いたかは分からないという。それは心が空っぽであることよりも辛く苦しいことなのではないだろうか。
「……もう自分でも何もわからないのに、覚えていないのに。あなたは、オブリビオンとしてここにいるのね」
 彼自身も思い出せない底知れぬ感情。
 それが絶望パレードの正体なのだと感じて、キトリは掌を強く握り締めた。
 希望が見えないから絶望を謳う。嘗ての生で知っていた賑やかな歌や踊りに乗せて、自分が唯一抱く感情を振り撒いていく。
 滑稽だと彼は先程、語っていた。シュナイトは自分自身すらもそのように評しているのかもしれない。
「……もしかしたらあたしも、あなたみたいに」
 キトリの言葉が途切れる。
 もしも、自分で終わらせることを選ぶほど絶望してしまったら。生きている意味などないと感じてしまったとしたら。
(あなたとおんなじ風に、オブリビオンになってしまうのかしら)
 飲み込んだ言葉。これを声にしてはいけない気がした。それゆえに続きは紡がず、キトリは緩やかに頭を振る。
「……いいえ」
 彼が語る絶望と、自分が思い浮かべた絶望は同じものではないはず。花杖を両手で握り締め、キトリはシュナイト・グリフォンを見つめた。
「あたしはあたし、あなたとは違う」
「絶望パレードを続けよう。さぁ、俺と一緒に踊ろう」
 静かに宣言したキトリに対し、シュナイトは両翼を広げながら誘う。すると、其処から兎や猫、犬のぬいぐるみが召喚された。キトリに飛び掛かり、仲間に入れようとしてくるぬいぐるみは見た目以上に厄介そうだ。
「何度蘇ろうとも還してあげる」
 翅を羽ばたかせながら、ぬいぐるみの攻撃を避けたキトリは首を横に振った。可愛らしいパレードではあるが、見ていてもわくわくはしない。
 キトリはベルにそっと触れ、周囲に光の花を顕現させてゆく。
「それに、あなたが見せるパレードは全然きらきらしていないもの。こんなのちっとも楽しくないわ!」
 絶望には染まらない。それだけは御免だと示し、拒絶の意志を見せたキトリは夢幻の花吹雪を周囲に巡らせていった。
 破魔の力を宿す花々は哀しきパレードを彩る。倒すことしか出来ずとも、このぬいぐるみ達やシュナイトに夢の彩を魅せるために。
「……ごめんなさいね。あたし、あなたとは一緒に踊れない」
 花よ咲け、舞い踊れ。
 どうか、あなたが辿るいつかの未来に本当の終わりが訪れますように。
 キトリが降らせる花は華やかに、絶望を覆すちいさな希望に繋がっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒久根・ジジ

鎌は避けずに受け

やぁシュナイト
踊ろうよ
ボクの思い出/絶望を覗くかい?

小さい頃
遊園地のオープン記念
パパとママと弟と訪ねて
でもそれはオブリビオンの罠だった

悲鳴
血飛沫
逃げる人々
正に絶望のパレード

両親は失踪して
ー嘘、死んだんだ
バラバラになって

残ったボクらは
ゴミ捨て場に閉じ込められ
何日も助けを待って

でも2人とも無傷で助かった!
ー違う、ボクがギギの右腕を齧った
ひもじくて苦しくて
気づいたら、血が

歪んだ記憶の底で
本当の記憶が嘘だと叫ぶ

嫌だ
まだ向き合いたくない
忘れて居たい
でも

最近ね
帰りたい場所が増えたんだ
賑やかで楽しいお城

皆にまたご飯作らなきゃ
だから

UCで鮫牙を鋭くして
食い千切ろう

ああ、君は食べても辛くないや



●絶望/真実/希望
 廃遊園地に満ちる空気は昏くて重い。
 振り下ろされる鎌がジジに迫り、シュナイトが紡ぐ呼び声が耳に届く。
「――こっちにおいで」
 この世界はお前に似合わない。絶望に染まり、絶望を受け入れ、共にパレードを。そのように語ったシュナイトの一閃がジジの心を引き裂いていく。
「やぁシュナイト。いいよ、踊ろうか」
 されどジジは敢えて心をひらいた。過去が読めるのならば読ませておけばいい。
「ボクの思い出を……いや、絶望を覗くかい?」
 逆に彼を誘うようにして、ジジは片手をシュナイト・グリフォンに向けた。そして、其処から切り裂かれていく記憶は――。
 ジジがまだ幼かった頃。
 或る遊園地はオープン記念を迎え、とても賑わっていた。
 パパとママと弟、そしてジジ。みんなで訪ねた場所には希望と夢が満ちているように思えた。でも、それはオブリビオンの罠だった。
 目の前で血飛沫があがる。
 悲鳴が響き、逃げる人々に押されて弟が転んだ。パパ、ママと呼ぶ弟の声を聞いてジジは走った。何とか弟の右手を必死に掴んで、強く握って駆け出す。だが、背後からは誰かの断末魔が聞こえ続けていた。
 それこそ、正に絶望のパレード。
 混乱の中で必死に生き延びたけれど両親は失踪してしまった。
「――嘘、死んだんだ」
 行方不明になったのだと思いたかった。バラバラになってしまっただけで、また会えると信じたかった。けれどもバラバラになったのは両親達の亡骸。あの断末魔も知らない人の声だと思いたかったが、両親のものだった。
 遺されたジジ達はゴミ捨て場に閉じ込められた。其処で何日も助けを待って、とても辛い思いをしたけれど二人とも無傷で助かった。
「――違う」
 シュナイトの力によって記憶が剥がれていく。ジジの中にあったのは偽りの記憶であり、本当は自分がギギの右腕を齧っていた。
 ひもじくて苦しくて、気が付いたら血の匂いがして、それから――。
 歪んだ記憶の底で大切だと思っていたことが滲んで、本当の姿になっていく。嘘だと叫ぶ心すらも絶望の鎌によって切り裂かれていくかのようだ。
(……嫌だ、いや、嫌だ)
 まだ向き合いたくない。忘れていたい。
 パパとママはまだ何処かで自分達を探してくれているはず。弟のギギも最初から左利きだったはず。
 けれども記憶は真実に塗り替えられていく。偽りの過去が消えてしまう。
「ああ、でも……」
 ジジは心を引き裂く痛みを感じながら、ふらりと前に踏み出した。此処で潰れてしまうことは簡単だ。膝をついて嘘の過去や絶望に浸っていればいい。まだ無自覚なフリをして振る舞っていればいいだけ。
 しかし、ジジはそうすることを拒んだ。
「最近ね、帰りたい場所が増えたんだ」
 其処は賑やかで楽しいお城。あの場所はすごくて楽しくて良いところだ。
 そうだ、皆にまたご飯作らなきゃいけない。たったそれだけのことであっても、日常と呼べる時間が今のジジにとっての大切なものだ。
「だから……食い千切るね、その絶望」
 己の中にある力を巡らせたジジは鮫牙を鋭く尖らせる。
 シュナイトが切り裂いてくれた嘘は此処に置いていこうと決めた。本当の過去を抱いたジジはひといきに地を蹴り、反撃を見舞っていく。
「ああ、君は食べても辛くないや」
 あの大鎌で前向きな心まで砕かれてしまったのかもしれない。
 それでも、戦い続けるジジは笑っていた。もうあの頃とは違う。自ら歪めたものに縋り、嘘で塗り固めるだけの自分ではないのだから。
 そして――絶望パレードの終幕が近付いてくる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

赤鉄・倖多
【春招】

來晴の言葉に頷く
どんなことがあっても、過去があっても
ひとの希望を奪うなんて、絶対にダメなんだ

おれは來晴みたいなヒーローじゃないから
自ら絶望を選ぶやつに手を差し伸べるなんてできないけど

でも、哀しいことがあったんなら
そんなこと、なければ良かったのになって思うよ――

視界が歪んで、浮かぶのは
おれがずっと共に過ごしたあの…

『お前なんか、何の幸運を招いたりもしないのに』

視界が、滲みそうになる
哀しいのか?おれは
違う、そのひとは、そんなことを言うひとじゃ…

…にゃはは
だからおれは今、こうしてるんじゃないか
いいよ、おれさまは、幸運なんて招かない猫だ!

回転木馬に負けずにくるくる
廻る希望の独楽を、お前に


春・來晴
【春招】

絶望を振りまくなんて許せません!
あなたにも辛い過去があったのかもしれませんが
皆さんを巻き込むのは良くないです

あなたは何故そこまでして絶望で溢れさせたいのです?
この世界が酷いから?理不尽だから?
……あなたは希望を探すことが出来なかったのですね

なんでこんなにも悲しいのだろう
零れる涙をそっと自分で拭い

なら、私達があなたの光になります。希望になります
だから、これ以上自分を痛めつけないで

あなたが照らしてくれたメリーゴーランドのように
光はとても儚くてで温かいものです
真っ暗の中でも探せばきっと見つかる……

そんな未来があったらとても素敵でしょ?
――ね。私はヒーローになれてますか?

皆の憧れるヒーローに



●光射すみちゆきを
 語られる希望など絵空事。
 いま此処にある絶望こそが真実であり、世界の理。青の瞳を眇めたシュナイト・グリフォンが振り上げた刃が軋み、薔薇の装飾と鎖が揺れる。
 下ろされた刃は夜の冷たい空気ごと猟兵を切り裂いていった。
 絶望を込めた一閃。記憶から幻影を生み出す力。パレードを続けるぬいぐるみ達。
 廃遊園地に広がる絶望の力を感じ取りながら、來晴は心を裂く痛みに耐える。
「絶望を振りまくなんて許せません!」
 前向きな思いが崩されていく感覚が巡っているが、來晴は抵抗を止めなかった。身体ではなく心に作用する一閃に対抗できるのは己の気持ちと思いの強さしかない。
「許さなくてもいい。俺は思う儘に動くだけ」
「あなたにも辛い過去があったのかもしれませんが、皆さんを巻き込むのは良くないです。誰も絶望なんて求めてませんから!」
 來晴が強く宣言する中、倖多もその言葉に頷いた。
 彼の過去には何かがある。誰かを救うためか、それとも自分の気持ちに区切りを付けたかったのか。それは想像するしかない。だが――。
「どんなことがあっても、過去や絶望があったとしても、ひとの希望を奪うなんて、絶対にダメなんだ」
 倖多は独楽を解き放ち、迫り来るぬいぐるみ達を蹴散らす。
 他の猟兵に向けて放たれた子達だが、倖多の方にも訪れていたのだ。ごめん、とぬいぐるみに謝った倖多は、かれらが來晴の行く先を邪魔しないよう対抗していく。
 倖多の援護を頼もしく感じながら、來晴はシュナイトとの距離をはかる。
「あなたは何故そこまでして絶望で溢れさせたいのです?」
「……」
「この世界が酷いから? 理不尽だから?」
「それも忘れてしまったな」
 來晴の問いかけに対して、シュナイトは明確な返答をしなかった。明らかな悲哀は見せていないが、彼の言葉には寂しさのようなものが感じられる。
「……あなたは希望を探すことが出来なかったのですね」
 來晴は悲しげにそっと俯いた。
 そして、次の瞬間。顔を上げた來晴は地面を強く蹴りあげる。黄金のオーラを纏った彼女は一気に加速することでシュナイトに迫った。
 來晴とシュナイト。双方の一撃と鎌が戦場で交差する。真っ直ぐに相対していく來晴の様相はまさにヒーローだ。
 その姿を見つめる倖多は自分と彼女の違いを思う。
 自分は來晴みたいなヒーローではない。それゆえに自ら絶望を選ぶ相手に手を差し伸べることはできない。けれど、でも、と考えることもある。
「哀しいことがあったんなら、そんなこと、なければ良かったのになって思うよ」
「俺もそう思うよ」
 皆に、あの子に、悲しい出来事が起きなければいい。忘れてしまえばいい。
 倖多の声に反応したシュナイトはそんな風に語った。あの子という彼の呟きが気になったが、そのとき――倖多の視界が不自然に歪みはじめる。
「何故のうのうと生きてる?」
 シュナイトからの問いかけの言葉がトリガーとなり、倖多の記憶から幻影が作り出される。それは徐々にはっきりとした形になり、倖多の瞳に映った。
 その影は、倖多がずっと共に過ごしたあの――。
『お前なんか、何の幸運を招いたりもしないのに』
 不意に声が聞こえて、視界が滲みそうになる。目元を押さえた倖多はその影から目を逸らしてしまった。
(哀しいのか? おれは……)
 戸惑いが生まれる中、影は倖多を責めるような言葉ばかりを紡いだ。その度に心が抉られる感覚が巡り、言い知れぬ痛みが胸に突き刺さっていく。
(違う、そのひとは、そんなことを言うひとじゃ……)
「こうちゃん!」
「……來晴?」
 倖多が絶望めいた何かに呑まれそうになったとき、來晴の声が耳に届いた。此方を正気に戻そうとして呼び掛けてくれた來晴も心を切り裂かれながら戦っている。
 その瞳からは涙が零れていたが、彼女は目元を拭った。
 幻に囚われそうになっていた倖多は我に返り、來晴の隣に駆ける。なんでこんなにも悲しいのかは來晴にも倖多にも分からなかった。
 きっと、シュナイトはこれ以上の悲しみを抱えている。
 ただ苦しくて哀しくて辛い。この気持ちこそが、彼が絶望のパレードを広げようとしている理由のひとつなのかもしれない。
「なら、私達があなたの光になります。希望になります」
 だから、これ以上自分を痛めつけないで。
 來晴がシュナイトに呼びかけると、倖多がはたとした。先程の幻に語られたこと。それは本当だ。招かないから掴みに行く。そう願ったから――。
「……にゃはは」
 軽く笑ってみれば、なんて簡単なことなのだろうと思えた。
「だからおれは今、こうしてるんじゃないか。いいよ、おれさまは、幸運なんて招かない猫だ! それでいい!」
 身構えた倖多は再び独楽を解き放ち、シュナイトへと差し向ける。
 彼が笑ったことで、來晴もちいさな希望を感じた。どれほど心を裂かれたとしても負けない。膝をついたりはしないと決めた。
「あなたが照らしてくれたメリーゴーランドのように、光はとても儚くてで温かいものです。真っ暗の中でも探せばきっと見つかる……」
「そうだ、真っ暗なだけじゃない。ここに光があるだろ!」
 ないと思うなら掴みに行けばいい。
 或いは希望を託した誰かが迎えに来てくれるかもしれない。
 來晴の言葉に続き、倖多はシュナイトに呼びかける。たとえ絶望が何度も繰り返されるのだとしても、いつか必ず。
「そんな未来があったらとても素敵でしょ?」
「そう、かもしれないな。あの子の……」
 來晴が問いかけると、シュナイトは遠い目をしてメリーゴーランドを見遣った。あの子、と彼が語った誰かについては聞けないだろう。
 何故なら、続く戦いの中で消耗したシュナイトの身体は消えかけていた。
 ぬいぐるみ達は既に消滅している。彼が生み出した幻影も薄れ、刃を振るう腕にも力が入っていない。
 もう終わりが近い。
 そう感じた來晴と倖多は頷きあい、攻勢に入っていく。
 ――ね。私はヒーローになれていますか。皆の憧れるヒーローに。
 言葉にしない思いを強く胸に抱き、來晴は駆けた。倖多も廻り続ける回転木馬に負けないよう、くるくると回る独楽を華麗に操っていく。
「廻る希望の独楽を、お前に」
「絶望に、さよならを」
 そして、二人の声が重なった瞬間。
 パレードの主は光に貫かれ、骸の海に還る路がひらかれる。倒れゆくシュナイト・グリフォンの身体が地に触れると同時にメリーゴーランドの動きが止まった。


●絶対の希望
 戦いを終えた猟兵達は彼の最期を見守る。
 電飾がひとつ、ふたつと消えていき、やがて全ての光が闇に沈む。絶望パレードは終幕を迎え、シュナイトは何の言葉も遺さずに消えた。
 彼は未だ絶望している。
 何度も巡る望まぬ生に。そして、絶望しか覚えていない己に。
 けれどもいずれ、彼にも真の最期が訪れるはず。
 運命と宿縁が繋がる日がいつなのかはまだ誰も知らない。それでも、そのいつかは絵空事では終わらない。
 本当の終演が訪れた刻に巡りゆくのはきっと、ゆめいろの――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月21日
宿敵 『シュナイト・グリフォン』 を撃破!


挿絵イラスト