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ことはりの海石榴

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #望月鈿女 #メガリス #戦巫女 #弥助アレキサンダー #魔軍転生

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●望月鈿女
 今は昔、望月の家に女童が生まれた。望月家は武家でありながら不思議な力を持つ巫女が時折生まれる家で、女童もまた、さふであつた。
 幼少の頃より才覚に溢れ、特に芸事の才は際立ってゐた。美しい舞が得意な女童は女となり、幼名から改名する際に、芸能の女神であり、エンパイア最古の踊り子の名を与ゑられる。
 女は幼き頃より巫女として日々神に祈りを捧げ、舞を磨き、己を厳しく鍛え上げ、『戦巫女の祖の一人』となつた。
 人々に愛され、人々を愛し、世界を愛していた。
 世の人々を多く救ふため、女は戦巫女として旅に出る。
 その先で、不幸は起こつた。訪れた寂れた村で、女は海神への人身御供とされてしまつたのだ。
 海へと落ちてきた女を、哀れな娘を、海神は愛した。愛し慈しみ、寵愛と加護を与えた。女もまた、海神を愛した。祈りを捧げ、仕ふるべき神だと。
 ――然れど、女の心は癒やされることは無かつた。
 幾度も夢に見るは、錘を付けて海に落とされた日。
 理不尽だと、神を呪つた。
 許さなゐと、人を呪つた。
 既に脚は無ゐのに、錘の重さを幾度も思い出す。

 やがて女は思ふやうになる。
 己と同じ宿命を辿る巫女がゐるやもしれぬ、と。
 悪しき――憎き人々から、巫女たちを救ってやらねばならぬ、と。
 その時分には、女は狂気に飲まれてゐた。

 あはれにもことはりから外れ、女は巫女たちを救わんとす。
 女――名を、鈿女と言ふ。

●尾鰭のいざない
 ――『望月鈿女』と言う女のことを知っている?
 そう前置いて、黒い人形に抱かれた白い人魚が語るは、鈿女と言う女の――『戦巫女の祖の一人』の生きた、その涯。
「最近になって、各地の神社仏閣が襲撃されるようになった」
 みなまで言わなくても解るよね、と雅楽代・真珠(水中花・f12752)が視線を向ける。勿論、犯人は先程話した望月鈿女という女だ。
「どうやら、昨年から騒ぎを起こしている猟書家幹部なようだ。――鈿女は、ひとを憎んでいる。『クルセイダー』の目論む『江戸幕府の転覆』を実現すべく、呪いの秘宝――メガリスを探しているよ」
 本当にサムライエンパイアにもメガリスが実在するのかは定かではないのだが、彼女はあるとしたら神社仏閣だろうと踏んでいるようだ。
 また、神社仏閣は江戸幕府を霊的に守護すしている為、それを破壊すると云うのも目的のひとつだ。神社仏閣を破壊して、ついでにメガリスもあれば一石二鳥といったところだろう。
 そして、それとは別に。
「望月鈿女はね、戦巫女たちを『救う』ためにも行動しているよ」
 古来より人身御供となるのは、巫女が多かった。そうさせないように救うが、守れないのならば殺めることで救済する。後輩である戦巫女たちを心から案じているが故の行動だ。
 狂ってしまったんだ、と真珠が静かに口にした。狂ってしまった彼女には、言葉は通じるようで通じない。彼女の信念を変えることは神にも出来ぬことだった。しかし彼女は、真っ先に戦巫女を狙うわけではない。それ以外が憎いから、先にそちらの排除に動く。そのため、敷地内に居る戦巫女たちが猟兵たちより先に狙われることはない。
「お前たちに行ってもらいたいのは、伊勢国の『椿大神社(つばきおおかみやしろ)』。猿田彦大神を祀る数多の社の本宮だ。そこにある『招福の玉』と言うものがメガリスなのではないかと思っているようだ」
 人々から「椿さん」と親しまれている神社だ。絵馬は椿が描かれ可愛く、白無垢と紋付袴の夫婦守や椿の形に折られた椿恋みくじ、神様に念押しの出来るかなえ守等も人気だ。
 椿大神社内には別宮である『椿岸神社』もある。こちらでは猿田彦大神の妻神である天之鈿女命が祀られている。
 招福の玉は椿大神社の本殿よりも、椿岸神社の近くにある。台座の上にある玉を撫でながら「払え給え、清め給え、六根清譲(ろっこんしょうじょう)」と三度唱えながら祈ると、心の中に幸せを招き、念願が叶えられる……と言われている、玉だ。
「参道で現地の戦巫女たちとともに戦ってもらうよ。三の鳥居までは近付かれてもいいけれど、三の鳥居だと猿田彦大神の御陵が近い。二の鳥居から三の鳥居の間で戦って貰うのがいいかな。――言わなくとも解ると思うけれど、神社の領域だ。地面を抉ったり周囲の建物を薙ぎ払ったり、そういった派手な行動は出来るだけ控えて」
 敵だけを調服して。出来るでしょう?
 無邪気ささえ感じられそうなほどにいとけなく、人魚は微笑んで。
「それから、望月鈿女は配下を連れている」
 それは古椿の化生だ。生者をたたり、災いをもたらす化け椿の名は『たたり椿』。一体一体が『超・魔軍転生』により、魔軍将「弥助アレキサンダー」を憑装したオブリビオンだ。それにより大きくパワーアップをしているため、通常の配下とは思わず一人一体撃破を目標にしてもらえればいい。
「弥助あれきさんだぁ……確か、頭が焦げていた奴だ。あれも確か、エンパイアに由来のあるメガリスを所持していたね」
 本体は既にエンパイアウォーで死んでいるし、メガリスの所持もしていない。彼の魂が大幅強化しているだけである。
 あと何を言っていなかったかな、と指折り数えた真珠が、あ。と思い出したように顔を上げた。
「椿大神社の椿の見頃にはまだ早く、今は蕾の状態だよ。しかし、敵が神社の結界を破ると、参道の椿たちが一斉に咲く。それが戦いの始まりの合図だ」
 つまり、配下のたたり椿に対しては、椿が咲くまでに自身に加護を掛けて挑むことが出来る。一人一体撃破を目標にと前述しているが、工夫次第では二体倒せるかもしれない。現地にいる戦巫女たちとも協力するといいだろう。
 そんなところかな、と上向けた手のひらの上に蓮が咲く。淡く光る金魚を蓮の上でくうるり泳がせて。
「椿の花のように、上手に首を落としておいで」
 執事人形の腕に抱かれたまま、ゆうらり白い尾鰭を揺らすのだった。


壱花
 長いオープニングに目を通してくださってありがとうございます!
 サムライエンパイアから『猟書家』幹部シナリオをお送りします。
 戦巫女の祖の一人である骨人魚になった神妻を倒してください。

●シナリオについて
 このシナリオは【二章構成】です。
【第1章のプレイング受付は、公開されてから、三月三日23:59まで】です。
 採用人数は、再送無しで書ききれるだけ、となります。
 受付等の案内は、タグ・MS頁・Twitterに出ます。

●プレイングボーナス
『戦巫女と協力して戦う』
 猟兵ほど強くはありませんが、神社仏閣に詳しいです。
 指示して頂ければ、出来る範囲で協力してくれます。

●迷子防止とお一人様希望の方
 同行者が居る場合は冒頭に、魔法の言葉【団体名】or【名前(ID)】の記載をお願いします。また、送信日も同じになるようお願いいたします。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『たたり椿』

POW   :    花さくように
【椿色の斬撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    根腐れて絶え
自身に【怨念】をまとい、高速移動と【触れたものを腐らせる呪いの花弁】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ぽたりと首落とし
【自在に伸びる髪】が命中した対象を切断する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エンティ・シェア
神聖な場所だ。礼を欠かぬよう努めようか
それにしても、椿の花をゆっくり眺められないのは惜しいねぇ

戦巫女の子は、薙刀を使えるようなら援護を頼みたい
私は、基本は華断で牽制をするよ
群がらせて目眩ましを
あるいは巫女の盾として、たたり椿が伸ばす髪を断っていこう
髪は女の命だと言うけれど、武器として使うならば覚悟の上、だろう

巫女達ばかり表立って戦わせるのは忍びない
それに、彼女達には招福の玉とやらを守ってもらいたいからね
そちらに近づこうとしている敵が居るなら、優先してもらいたい
その分、私が時折「僕」と代わって、拷問具で近接戦も挑もうか
少し血腥いが容赦しておくれ
分が悪ければ素直に距離をとって、また橘を舞わせるよ




 葉を揺らして吹いた風が、髪を優しく揺らして。
 まるでなにか見えない存在が頭を撫でていったような優しさに、エンティ・シェア(欠片・f00526)は矢張り此処は神聖な場所なのだと改めて思った。
 此処に御座す神は――いや、神々は――きっと見ている。礼を欠かぬよう、恥ずかしいところも見せぬよう努めようか、とエンティはいつもどおりの笑みを浮かべた。
 どこか清々しいような、清浄だと言える空気が、破られる。
 二の鳥居が見える参道の両脇の椿が、ぽぽぽぽぽぽぽ、と一斉に咲いていく。それは美しく――美しいからこそ、いけないものだと解るものだ。
 だからだろうか。ああ、惜しいな、なんて思ってしまうのは。ゆっくりと眺められないのが惜しくて、でもゆっくり愛でる時間もないことを理解しているから、椿を愛でるためにも早く仕事を終えようと白い花弁を風に乗せた。
「君たちは、薙刀で援護を頼めるかい?」
「はい、お任せください」
 緋袴に鉢巻、たすきを巻いた戦巫女たちが、身の丈以上の薙刀を手にしっかりと頷いた。エンティが求めたのは、主に『招福の玉』の守護だ。エンティや他の猟兵たちの間をすり抜けてたたり椿が進んでしまった場合は、玉へ近付かないように牽制をしてもらうことだ。少しでも時を稼いでくれたのなら、きっとエンティや他の猟兵たちが敵を仕留めに動けるだろうから。
 エンティが装備する武器はよっつ。その内のひとつ、拷問具だけは橘の花弁には変えていないから、いつもよりは花弁の数も少ないだろうか。音もなく伸びた黒髪を断ち切るのは少々胸が痛むような気もするけれど、武器として使うのならば覚悟の上だろうと断ち切っていく。――切っても切っても伸びるから、『たたり椿』たちにも気には止めないだろうが。
 触れれば断ち切る《華断》を警戒してか、距離を取って髪を伸ばすたたり椿たちを仕留めるには、エンティが踏み込まねばならない。
 ――やれやれ、頼むよ。
 踏み込むその瞬間に閃いた輝きは、愉悦の色。
 鎖をチャララと鳴らした『僕』が鮮やかに首を切り裂いて。
 木霊だからか、血で神聖な場所を汚すこと無く。
 ぽとり、大きな椿がひとつ、参道へ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦


…俺は神社の産まれだ…順当に行けば神主にでもなってただろう。そう思って巫覡の技も身につけてはいるけれど。
人身御供。悪しき因習だ。だがそう一言で切り捨てられるものがまだこの世界にはあるだろう。
『救おう』と思う何かが狂った眼には映るのだろうね。

椿は俺も好きな花だ。話を聞くに素敵な神社のようだからこんなことがなければ大切の人と訪れたいような場所だね。

さぁ、椿が咲いた。戦いの時間だ。
寺社の物を傷付けないように【防御拠点】で守りつつ。【破魔】と【祈り】を込めて薙刀で【なぎ払い】
使う技はUC【狐火・椿】
さぁ、ぽとりと首を落とそうか。


天御鏡・百々
巫女を救うなどといって、巫女の仕える神社を狙うとは……
矛盾した行動をとるのは狂ったオブリビオンらしいな
ともあれ、神聖なる神社を狙う罰当たり共は、我が成敗してくれよう!

戦巫女達には祈祷なりで援護して貰うとしよう
真摯な祈りは我が力となるはずだ

椿が咲く前に『巫覡載霊の舞』を発動し光を纏う
これで敵の攻撃が当たっても軽減出来るな

後は真朱神楽(武器:薙刀)にて攻撃だな
神社の建物に敵を近づけぬように立ち回り
敵だけを切り裂いて討伐していくぞ
(破魔117、なぎ払い35、武器受け15、鎧無視攻撃15、祈り10、神罰5)

●神鏡のヤドリガミ
●元々神社に御神体として祀られていたので、神社を狙う敵は許せません




 大きな鳥居を抜ければ、鎮守の森。その向こうに見える厳かな屋根は社殿であろう。
 それを望み、懐かしいと思ったのは、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)が神社の生まれだからだろう。順当に行けば神主にでもなっていたはずの彼は、今現在神主ではない。――だからこそ、懐かしいと思ったのだろう。
「巫女を救うなどといって、巫女の仕える神社を狙うとは……」
 彼の傍に立つ天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)もまた、思うところがある。彼女は天光神社に御神体として祀られている身。神社を荒らすと聞くだけでまず浮かぶのは、不敬だと罵る念である。巫女や神主たちが清め、エンパイアを護るために祈りを重ね、人々の信仰を集める場所を狙う等……しかもそれを、戦巫女の祖の一人が行う等、許せるはずもない。
 巫女を救うために神社を狙うのは矛盾だと考える百々だが、実際にはそうともいえない。巫女を『救う』とは、神の生贄にされないようにすることだ。神社であろうが関係ない。そこに神がいるのならば、仕えるに値する神であるかどうかと、囲む人間たちの状況による。神が生贄を求めるのならば神を殺すし、人が生贄を勝手に差し出そうとするのなら人を殺す。ただ、それだけだ。
 由緒正しい神社の奥で大切に祀られていた百々が知らなくとも無理からんことだが、その因習は古来から続く悪しきもの。正しいものだけではなく、またそれを正しいと思う者も、自分たちが助かるために平気で他人を犠牲にする者たちが居ることも、理彦は知っていた。それを成そうとする者たちにもまた、言葉は通用しない。信じているのか、信じていたいのか、それとも自分の罪から目を背けたいのか、は解らぬが。
(――『救おう』と思う何かが狂った眼には映るのだろうね)
 人の目にも、神の目にも、『彼女』の目にも。
「汝等、祈祷を頼めるか?」
「はい、お任せください」
 戦巫女たちの祈りは、百々の力となってくれる。くれぐれも近付きすぎぬようになと戦巫女たちへと声を掛け、百々は二の鳥居へと視線を向けた。
 敵が神社の結界を破り一の鳥居を抜けたなら、すぐに二の鳥居とその先の参道へと姿を現すだろう。
 まだ、椿は咲いていない。敵の姿も、まだない。来るのは時間の問題だが、百々はその前にと自身の敬う神へと祈りを捧げ《巫覡載霊の舞》を舞った。
 神霊体となり淡く光を纏う百々を見て、理彦は綺麗なものだ、と思う。椿も、そこに居る人々も。みな美しいものだ。参道を見れば、鳥居を見れば、この神社が如何に人々から愛されているのかが解る。
(こんなことがなければ大切の人と訪れたいような場所だね)
 仕事を無事に終えたら誘ってみるのもいいかもしれない。
 くゆる煙を思い浮かべ、ふと口元が緩みかけた、その時――。
 ぽぽ、ぽぽぽぽぽ。
 そんな音が聞こえそうになるくらい一斉に、参道の両端の椿が開花する。
「さぁ、椿が咲いた。戦いの時間だ」
「神聖なる神社を狙う罰当たり共は、我が成敗してくれよう!」
 神聖な空気で満ちていた『場』が崩された。すぐにぞろりと『たたり椿』たちが二の鳥居から姿を現す。
「ここは傷つけさせないよ」
 この地を護ると願い込め、理彦が拠点防御の結界を張った。彼を中心とした幾らかの半径内を拠点とし、彼が倒れるまではそれは維持されるだろう。
 その間に、戦巫女たちの祈りを背に、百々が地を蹴った。
 真っ直ぐにたたり椿へと向かい、薙刀『真朱神楽』を振るってたたり椿から伸びる髪を叩き切り、返す刃で衝撃波を放ち切り裂いた。神社の建物には敵を近づけさせぬと、此処を通さぬと、小さな背中からはそんな気概を感ぜられた。
「っと、」
 伸びる髪を、理彦も素早く斬り伏せて。
 ぽぽぽと咲いた《狐火・椿》を、その黒髪へ咲かせてやる。
「さぁ、ぽとりと首を落とそうか」
 理彦と百々。ふたりの戦巫女は同じ得物を手に、背を預け合い戦った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小結・飛花
♢♡

あゝ、うつくしき花の方。
なぜそのやうなお姿をとられるのですか。

あたくしは花を好いております。
冬の花。椿のあなたはうつくしいでしょう。

たたり椿と仰るのですね。

うつくしき花はうつくしいままに
首を落としてしまいましょう。
他に方法は御座いません。

たたり椿。

【藤に杜鵑】おいでなさい。
たたりの名を持つうつくしき花の御方。
あたくしに咲いた姿を見せておくんなまし。

杜鵑を喚びましょう。
椿の花はすきかしら?
あたくしは好いておりますから、ひとくち下さい。

戦巫女の御方。
あたくしたちを人気の少ないところへ連れて行って下さい。

たたりは撒き散らさぬ方がよいでしょう。
あんないは任せましたよ。


月舘・夜彦
羅刹に恨みを持つ者、京の結界を破ろうとする者、人々を洗脳する者
どの猟書家も目論見を阻止しなければ、この世界は大きく揺らぐ

万が一メガリスが存在しており、敵に渡るとなったら我々の脅威となりましょう
必ず阻止しなくては

敵の攻撃範囲は広く巻き込まれる可能性がある為
戦巫女達には後衛にて援護を要請

自分から近い敵に2回攻撃の斬撃で単騎撃破を狙う
援護で身動きが出来ない敵が居る時はなぎ払いにて複数の敵を巻き込む
斬撃波に警戒、視力による注視・第六感にて敵の変化を確認
速やかに納刀し、早業の抜刀術『八重辻』にて範囲攻撃を凌いで同時に反撃

負傷は激痛耐性と継戦能力にて戦闘を続行し、刃に生命力吸収を付与
回復しながら立て直す




 赤い花が、参道を染めた。
 参道の両脇を、そして参道の玉砂利を。
「いらっしゃいましたね、うつくしき花の方」
 咲いた、咲いた、赤い冬の花。うつくしい椿の花は、小結・飛花(はなあわせ・f31029)の好きな花のひとつだ。二の鳥居をくぐって現れた『たたり椿』たちは静々とした足運びで――けれど確りと素早さも持って参道を進んでくる。
 飛花の前に立つ長身の男――月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)はたたり椿たちを真っ直ぐに捉え、すらりと『夜禱』を抜いた。
 世界をまたに掛けての猟書家の暗躍は目覚ましい。羅刹に恨みを持つ者、京の結界を破ろうとする者、人々を洗脳する者。このサムライエンパイアだけでも沢山の猟書家たちと数多の配下たちが暗躍し、江戸幕府の転覆を目論んでいる。江戸幕府が転覆すればどうなるか。世界は大きく揺らぎ、人々は窮地に落とされ、罪無き人々の命が喪われる。
 そうはさせぬためにも――故郷たるエンパイアのためにも、猟兵たちは猟書家たちの目論見を必ず阻止しなければならない。参拝者が触れられる場所に置かれた『招福の玉』がメガリスである可能性は限りなく低い。しかし、万が一という事もある。
(必ずや阻止してみせましょう)
 護るために刀を振るう。そのために夜彦は此処へ訪れたのだから。
「或れは祟りを撒く化生でしょうか」
「そうやもしれませんね」
 花は芳しい香りを辺りへ撒くものだから。
 でしたら、と飛花は戦巫女たちへと視線を向ける。
「戦巫女の御方。あたくしたちを人気の少ないところへ連れて行って下さい」
「それでしたら、此方へ。案内致します」
 猟兵も敵も神社の戦巫女も、ひとところに固まっていては動きも取りづらい。弓を背負った戦巫女へ夜彦が視線を向ければ、その視線を汲んで頷きを返した戦巫女が矢を番え、たたり椿へと破魔の矢を放った。
 矢はじゅうと穢れに侵され、ぼろりと消える。憑装によって強化されているたたり椿に戦巫女の攻撃はほぼ効果が無いが、意識を向けさせる事は出来る。飛花が声を掛けた戦巫女を先頭に、飛花、弓を持った戦巫女、そして夜彦が殿に着いて駆ければ、たたり椿の幾体かが一行の後を追う。
 ――参道の、脇道。
 既に武器の合わさる音や戦巫女たちの祈り、他の猟兵たちが戦う賑々しさから抜けたそこは、しんと静寂のみが横たわっていた。
 ここいらでよいでしょうかと殿の夜彦が足を止めて振り返れば、先導していた戦巫女たちも後続の異変に気付いて足を止めて振り返る。敵に対して前後が入れ替わり、殿だった夜彦が前衛を務める形となった。
 振り返ってすぐ夜彦は地を蹴って、最短距離の敵へと斬り掛かる。その背中越しに、飛花はひたと真っ直ぐにたたり椿へと視線を向けて。
「あゝ、うつくしき花の方。なぜそのやうなお姿をとられるのですか」
 問いと同時に《藤に杜鵑(ウヅキ)》を発動し、おいでなさいと杜鵑を呼んでたたり椿たちへと向かわせた。
 問いに返るいらえはない。憑装によって魔軍将「弥助アレキサンダー」の魂が話すことは可能だが、それではたたり椿としての答えとは違うものだろう。
 たたり椿たちは、嘗ては大人しく害のない古椿だったが、悪しき木霊となり蘇った。生者を憎み、たたり、災いを成す存在となった。その由を知る者は既になく、たたり椿たちも硬い蕾のように言葉を零さない。
 故に。言わぬのが、たたり椿の答えである。
 花は花として、言わぬが花。秘してこそ香るのが、花である。
「……そう。でしたら、うつくしき花はうつくしいままに、首を落としてしまいましょう」
 飛花の声に応じるように、鶯のようにホーホケキョと伸びやかに鳴けない杜鵑はケッケキョッキョキョキョキョと、テッペンカケタカと鳴いて。
 怯んだたたり椿を見逃さず、夜彦の刀が走る。ひとつ切り結び、僅かに身を引いた隙間に次のたたり椿が押し寄せる。視界の端に淡く椿の色が広がるのを見止めれば、速やかに納刀し――《抜刀術『八重辻』》。
 素早く抜き放たれた刀が爽やかな音を立てて再び鞘へと収まれば、ぽとり。鮮やかな赤が地に落ちた。椿は首を落としても尚、美しい。
「椿の花はすきかしら? あたくしは好いておりますから、ひとくち下さい」
 あたくしにも取ってきて下さいなと口にする飛花に応じるように、杜鵑がケキョと短く鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヲルガ・ヨハ


嗚呼
本当にすくわれたかったのは
果たして、誰か

人形の腕の中憂いげに尾を揺らし


戦巫女を労い尋ねる
椿の咲くは、参道沿いだけか?
こうなってしまっては
ぽつりと咲く一輪たりとて
その花落とさねばなるまい

日がな社に遣える巫女ゆえ
誰より詳しい筈
思い当たる処あるならば
案内と後方援護を頼み
なければ奥へ向かう花を落とす

人形のかいなを離れ
無防備に手招き、誘惑すれば
結界術と煙の如きオーラ防御とで花弁凌ぎ

茂に潜みし”おまえ”が
グラップルで椿の動きを留めたなら
【雲蒸竜変】を


往くぞ、”おまえ”よ

すくいを止め、教えてやろう
われが軍神であったらしいゆえに
魂が識っている

人の子らはわれらが思うより
しぶとく、つよくあるものなのだから




 ――嗚呼。
 女の吐息が、面紗を揺らす。
 黒い肌の人形の腕の中にある白い女――ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)は憂いげに息を吐き、衣から覗く龍尾を揺らした。
 ――本当にすくわれたかったのは……果たして、誰か。
 ヲルガは以前の己を知らない。しかし、忘れてしまうことが救いになることがあることを知っている。海に落とされた女が全てを忘れてしまっていたのなら、今の状況は無かったことだろう。
 かもしれない、を思うても詮無きこと。
 またたきひとつで思考を切り替えると、人形は戦巫女へと歩を進めた。
「申し」
 緊急時であろうにも、戦巫女たちは落ち着いて各自割り振られた持ち場に着き、警戒にあたっている。うら若き娘が多い中、そうあれるのは日々の鍛錬の成果であろう。そう労いったヲルガが「椿の咲くは、参道沿いだけか?」と尋ねてみれば、少し考えた戦巫女の娘は「あるにはありますが」と口を開く。
「そちらは一の鳥居から二の鳥居の間にある横道から神霊殿へと続く道になります」
 神霊殿前には多くの戦巫女たちが詰めている。二の鳥居と三の鳥居の間の参道の横道からいけば、二の鳥居の手前から続く道と神霊殿前の広場が交わる辺りに出られるのだと、戦巫女の娘が述べた。
「気になるようでしたらお連れいたします」
「頼む」
 どうしましょうと尋ねる娘に、ぽつりと咲く一輪たりとて落とさぬ訳にはいかぬ、と頷きをひとつ。戦巫女仲間の何人かに着いてきて下さいと頼んだ戦巫女の娘を先導に、ヲルガを抱いた人形は後を駆けた。
 人形の肩越しに見た参道には、既に椿の花が咲いている。神社の守護に集まった人々の間から、緋袴とは違う赤がいくつも覗いていた。――然れど、あちらはあちらで倒してくれよう。
「おお。居ったな」
 居なければ居ないで、杞憂に済むなら良しとは思っていたが。
 ぽつりと咲いた赤い花に戦巫女と人形が足を止める。
 薙刀を持った娘が前へ出ようとするのを腕の一振りで止め、ヲルガはひらりと人形のかいなから游ぎ出る。衣を揺らし游ぎ、無防備に手招きすれば、『たたり椿』がヲルガをひたと見つめた。
「これより先は通さぬ」
 ヲルガが言葉を放つと同時に漂う芳香は、怨念籠もりし花吹雪。
 ふうと息吐き煙を纏い、結界術とともに花を煙に巻く。
 その間も、静々とたたり椿が近寄る。一歩、二歩。三歩――歩みは止められた。
 ヲルガが気を引く間に茂みに潜んだ”おまえ”が組技を決めている。
「ようやった。往くぞ、”おまえ”よ」
 ふたりでひとつの連続攻撃――《雲蒸竜変》。
 椿の首がぽとりと落ちるまで、然程時を要しなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
♢♡

ね、戦巫女様。
このお社のことは好きですか?
…変な質問でしたかね。

けれど。
今はもうない社の神体であったわたくしは。
今もある社に仕えるあなた方にそれだけを聞きたいのです。
その答えが「是」であるなら、わたくしは行きましょう。
誰かの居場所を守る理由なんてそれだけで十分ですから。

化生の進軍を見下ろせるような場所はありますか?
そこに陣を張りましょう。
そして共に戦ってください。
射撃戦を仕掛けますから弓があれば一番良いかと。

展開――【錬成カミヤドリ】。

我が本体の複製を九十、空に揃えて並べて機を待ちます。
椿の花が咲いたならすぐに終わらせましょう。
矢雨を背に、ただ首のみを狙って――
ほら、ぽとり。


冴島・類
♢♡

救う為に殺めること
招福の玉を奪うこと

どちらも、させるわけにはいかないね
神域を侵すのも、曾てなら厭うただろうが
狂気に飲まれたなら、それを断つために
まずは椿の君を

巫女さん達には、弓が使えたら
無理ない距離にて、牽制をお願いできたら
瓜江は、彼女らに髪が及ばぬようかばわせるよう

僕は、薙ぎ払いは周囲への被害考えて控え
弓の攻撃に気を逸らした隙をつき
髪の反撃に捕らわれぬよう見切り、避けながら距離を詰める

周りに移らぬよう
充分詰めたところで、焚上にて怨念喰らう火を刃に纏わせ
低い位置から首へ一気に突く

なるべく至近で、致命を与え
周りにはたたりも被害も撒かせたくない

椿は好きだよ
ただ…ひとをのろうものは別だ
左様なら




「ね、戦巫女様。このお社のことは好きですか?」
 穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)に問いかけられた戦巫女の娘は、思わずきょとんとした顔を返した。
「……変な質問でしたかね」
 その表情に神楽耶は眉を少し下げ、聞いてみたかったのですと口にした。
 今はもうない社の御神体であった神楽耶が、本当に聞きたかった相手はもう居ない。けれどまだ、今も現存する社に仕える者たちならばどう答えるのだろう、と。そう、思ったのだ。聞いてみたい、と。
「そう、ですね。当たり前の事過ぎて、少し驚いてしまいました」
「当たり前、ですか?」
「はい。私はこのお社の近くの生まれで、幼い日からこのお社で過ごしてきました。友達と境内で遊んでは親に罰当たりと叱られて、いつしか修行を積むようになり――そうして今、お仕えさせて頂いております。好きでなければ、出来ぬことだと思います」
「……ええ。ええ、そうですね」
 この場所を愛してるひとがいる。――この場所を守ろう。
 誰かの居場所を守る理由なんて、それだけで十分だ。
(――本当に、そう、だね)
 神楽耶と戦巫女の娘の問答を聞き、神社と縁深い冴島・類(公孫樹・f13398)も同じ気持ちを抱いた。
 此処は、本当に良い神社だ。地域の人々に愛され、戦巫女や宮司たちにも愛されている。それは、見れば解ることだ。木々や参道、鳥居に灯籠。全てが人の手で綺麗に清められている。
 そんな社を穢す者たちが来るのだと云う。結界を破壊し、土足で踏み込み、奪い、殺していく者たちだ。
(救う為に殺めること、招福の玉を奪うこと。どちらも、させるわけにはいかないね)
 嘗て戦巫女の祖であった女は、謂わば類の先達でもある。彼女もきっと、先程の娘のように神を愛していたのだろう。神に仕え、安寧を願い、そうして旅に出て不幸にあった。狂気に飲まれる前の彼女を思えば、必ず負の連鎖は断たねばならぬ。類は静かに拳を握りしめた。
「化生の進軍を見下ろせるような場所はありますか?」
 神楽耶が戦巫女に問うも、ふるりとかぶりを振って返される。神社の境内はほぼ平地だ。遠くの山に奥宮はあるが、登山を敢行せねばならぬし、そこへ行っても見下ろせる訳でもない。
「でしたら、無理ない距離にて、牽制をお願いできますか」
「畏まりました。どうぞ、ご武運を」
 娘が弓を背負った戦巫女たちと少し離れるのを見送った。その時――。
 ぽ、ぽ、ぽぽぽぽ。
 赤い、花が咲いた。
「先、往きます」
 神楽耶へと一言置いて、姿を見せた『たたり椿』が伸ばす髪を短刀で斬りつけた類が前へ出る。類の相棒――『瓜江』は共に駆けず、その場に留まる。万が一、戦巫女等へ髪が伸びた際、庇えるようにと。弓を番える彼女等が咄嗟に髪を防ぐことは難しいだろうから。
 素早く髪を躱し、駆けて、駆ける。全てを避けきれなくてもいい。浅い傷ならば気にせぬし――それは、類の技の威力も増す。避けきれず捕らわれそうな時だけは斬り伏せて短刀――『枯れ尾花』へ《焚上》にて怨念喰らう浄化の炎を纏わせた。
 腰を低くし、踏み込む。
 ――椿は、好きだよ。ただ、ひとをのろうものは別。
「左様なら」
 低い位置から首へと一息に突いた短刀の炎がたたり椿の生命力を奪い、グッと横へと振り抜けば、ぽとり。大きな椿の花が、地に落ちた。
「前方、来ます」
 神楽耶の声とともに、類が後方へ跳ぶ。ひと呼吸でも遅かったら危うかっただろう。類が椿を落とした場所が放たれた椿の花弁でじゅうと穢れた。
「これ以上穢させはしません。すぐに終わらせらてあげましょう」
 既に、中空には数多の刀が狙いを定めて浮かんでいる。
 神楽耶の複製体の刀――その数、九十。
「ともに大切な場所を守りましょう」
 その声とともに、刀とともに、矢雨が降る。
 ぽとり、ぽとり。
 艶やかに咲いたまま、椿の花は地に落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『望月鈿女』

POW   :    巫覡載神の舞
対象の攻撃を軽減する【寵愛と加護を齎す海神を降した神霊体】に変身しつつ、【万象を裂く花弁を操る神楽舞、強烈な水流】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    貴方様の罪が赦されるとお思いですか?
対象への質問と共に、【対象の人生が全て書かれた巻物】から【罪状を読み上げ、罪に適した変幻自在な神霊】を召喚する。満足な答えを得るまで、罪状を読み上げ、罪に適した変幻自在な神霊は対象を【精神的に追い詰めるのに最も効果的な手段】で攻撃する。
WIZ   :    貴方様は犯した罪の数を覚えておいでですか?
【抗えない、魂を絡め取るような玲瓏たる声】が命中した対象の【喉の内部、咽頭や食道】から棘を生やし、対象がこれまで話した【嘘、食事を含む奪ってきた生命】に応じた追加ダメージを与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠雅楽代・真珠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花散りて、首落つる
 ぽとり、ぽとりと。
 地に花を咲かせた椿は、体と共に消えていく。
 そうして全てのたたり椿が消えた後、ゆうるりと二の鳥居をくぐる女の姿が見えてくる。
 水干に烏帽子、青袴。骨ウツボが泳ぐ千早。
 いにしえの遥か時を越えて現れた白拍子。
 袴から魚の骨をチラと覗かせて、女は取り分け急ぐ様子も見せずに宙を泳いできた。
「嗚呼、椿たちが……。椿を倒してしまわれたのですね。勇ましい御方方」
 雑面の下で女が語るも、雑面はそよぐことすらしない。神妻となった女の素顔は、彼女を愛する海神のみへ見せるものゆえ、加護が重ねられているのだろう。
「お初に御目文字叶います。わたくしは、『望月鈿女』。此の国に生を受け、此の国を憂う者。是迄に罪を犯した事の無い方、命を奪った事の無い方をわたくしは悪とは思いませぬ」
 そうであるならば、背を向けても何も致しませぬ。
 女――望月鈿女は詩歌を吟じるように、美しい声で静かにどうぞ退場をと言葉を紡いだ。
「わたくしはこの先にある『招福の玉』とお社へ参ります。巫女の皆様は、道を開けて下さい。そうしていただければ、悪いようには致しませぬ」
 しかし、そうでないのなら――。
 凪いだ海のような穏やかさの中に、さざなみが立った。


======================
⚠ MSより ⚠
 戦巫女の祖の一人にして猟書家、『望月鈿女』戦となります。
 少しだけ、捕捉を。
 ・戦巫女たちの生死は成功判定に影響しません。
 ・プレイングボーナスは二章にも適用されます。
 ・戦巫女たちは一章同様、頼まれたことをしてくれます。
 ・「守りに徹しろ!」と言っておけば猟兵たちの戦いに手を出さぬ事こそが支援と考え、自身の身や神社の守護に専念します。

 敵の攻撃ですが、SPDとWIZは声による攻撃ですので(此度の戦場では)先に食らう事になります。
 POW:打たれ強いし、痛いです。
 SPD:どんな罪で、何が見え、何がどう攻撃してくるのかを教えて下さい。
 WIZ:喉の中から5cmくらいの黒い棘がグサグサ生えてきます。痛いです。
======================
逢坂・理彦

戦巫女さん達は守りを固めて敵の攻撃を凌ぐように。それに彼女は罪を犯したことの無いもの命を奪ったことが無いものは背を向けても構わないと言っているし戦巫女を無理に襲ったりはしないだろう。

さて、俺の罪…故郷の里を守れなかったことか?
力を付けるためにがむしゃらに戦ったことか?
復讐の為に宿敵を殺めたことか?
それとも生きるために食事をしてきたことさえも罪と言うだろうか?
ならばその罪受け入れよう。受け入れた上で俺は戦う。

UC【日照雨・狐の嫁入り】を発動

俺は…貴女こそ罪を犯すべきではないと思うよ。




 ざわり、と。戦巫女たちの間にもさざなみが生じた。
 たたり椿の時には生じなかったさざなみの正体は、困惑だ。
 いにしえより続く伊勢国の大神社の戦巫女たちは、戦巫女の歴史等も学んでいるのだろう。現れた女の名に、信じられないと言いたげに唇が開かれた。それでも、お社に害を成すものは敵だと、己を律して薙刀の先を向ける。
 よく修練を積んでいるのだと伺えて、理彦は浅く笑んだ。
「戦巫女さん達は下がって、守りを固めて」
 戦巫女たちを『望月鈿女』から隠すように間に入った理彦は、肩越しに戦巫女たちへと声を掛ける。鈿女が積極的に彼女たちを襲うようには見えないけれど、お互いに使う技の余波での被害はあるかもしれない。――それに、理彦の行おうとしている攻撃は相手を選べない。彼女たちには出来るだけ安全な場所に居てほしかった。
 そっと理彦へと雑面が向けられる。ふと目に止まった――と言うよりも、何かが気になった、感じで。
 首をゆるく傾げた鈿女の手に、突如巻物が現れる。結び目が勝手に解け、重力に従ってはらりと広がり、鈿女の手の内から溢れていく。
「……そう。貴方様の罪は……」
 雑面の隙間から見ているのだろうか。まるで読み上げるような仕草をした鈿女が、理彦へと再度雑面を向ける。
「貴方様の罪が赦されるとお思いですか?」
 貴方様の罪、それは。
 ――郷里を守れなかったこと。己が力をつける為に、他を顧みずに戦ったこと。
 理彦がかつて守れなかった人々が、力をつける際に犠牲になった者たちが、武器を手に現れ斬りつけてくる。
(復讐のために殺めた宿敵や食事のために奪った命は罪ではない、のか――)
 襲いかかってくる人々を切るのは、簡単だ。救えなかった人の命を、姿を、今度は自分の手で殺めればいい。
「赦される等とは思ってはいないよ」
 理彦を大切に思う誰かが聞いたなら、きっとそれは罪ではないと言うかもしれない。仕方のない事だと、慰めてくれるだろう。理彦もそう、思おうとした時もあったのだから。
 けれど、仕方のないことなんてなかった。これは罪だ。
 そう理彦が思っているからこそ、巻物にはそれが罪として記されていた。
 かつて守れなかった人々の刃が理彦を斬りつける。理彦は罪を受け入れる。
「けれど、俺は」
 空を見上げる。美しい程に晴れている。
「俺は、罪を受け入れた飢えで戦うよ」
 唐突に、理彦を斬りつけていた者たちが何かに打たれたように消えていく。
 ――《日照雨・狐の嫁入り》。
 見えない雨のような矢が、理彦を中心とした範囲に無差別に降り注ぐ。
「俺は……貴女こそ罪を犯すべきではないと思うよ」
 本日は晴天。所により、矢の雨が降ることでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小結・飛花
♢♡

ならぬのです。
あたくしたちはあなたを止めなければならぬのです。
あたくしはあなた方を守り抜ける自信がございません。
水鬼として彼の地に生を受けました。
あやかしはおろか、ひとを護るなぞしたこともございません。
ですから身を隠しなさい。社をまもりなさい。

言の葉もつうじないのですね。
そちらさんの信念を曲げる事は致しませんが、あたくしたちにも譲れぬ物があるのです。
【菖蒲に八橋】花を喰らい身を活性化させます。
水には水を。そちらさんの喉を狙います。
椿の花が泣きましょう。

そちらさんにはあたくしの声も届かないのでしたね。
あゝ
なんとかなしきこと




「ならぬのです」
 得物を手に一歩前に出るべきか悩む戦巫女たちの前に出た飛花は、そう口にした。
「あたくしはあなた方を守り抜ける自信がございません」
 告げる口調は、水面を揺蕩う花のように穏やかに。
 ただ静かに、偽らぬ飛花の真実を。
 水鬼として彼の地に生を受けた飛花は、あやかしはおろか、ひとを護ることなど今まで一度もなく、だからこそ守り切る自信がないのだと、無い袖は振れぬと口にした。――例え守れたとしても、きっと飛花は同じ選択を取っていたことだろう。守りきれるという慢心は、驕りは、水面に浮かぶ小花を掬い上げるようなものだ。指の隙間から溢れた花は、還らない。
 ひたひたと満たされた水の上に落ちた水滴が生み出した波紋の如く、戦巫女たちへと伝播していく。
 ――身を隠しなさい。社をまもりなさい。
 静かな飛花の言葉に、戦巫女たちは「はい」と静かに頷いて。
「……鈿女さまを、どうぞよろしくお願いします」
「えゝ、任されました」
 戦巫女たちが身を引く音を背に、飛花はどこからか菖蒲の花を取り出して、花喰らい。季節違いの花に、鈿女の意識が向けられる。
「貴方様は引いてはくださりませぬのですか」
「そちらさんに譲れぬ物があるように、あたくしたちにも譲れぬ物があるのです」
「そうですか……」
 返る静かな声は、憂いを帯びている。
 菖蒲の花を喰らえば、常よりも体に溢れる力。空気中から水分を集めると、鈿女の喉を狙って射出した。水には水を。水鬼の身なれば、水を操るのは得意だ。
 しかし、その水は鈿女の扇の一振りでかき消えて。
「全ての巫女たちのため、通らせていただきます」
 花と、水。
 水と、花。
 同じようで違う力。
 お互いに譲れぬこころ。
 幾度も幾度も重なり合っては離れるも、決して交わることはなく。
 ――あゝ、なんと。
 なんとかなしきこと。

成功 🔵​🔵​🔴​

月舘・夜彦
貴女が望月鈿女
憂うのは、人の犠牲を良しとする世か
それとも悪しき、憎き人々が存在する世か
貴女の行動からすると後者か
生憎、私は罪を犯した者
いや……罪の有無に関わらず、貴女を阻むでしょう

戦巫女達は離れて防御に徹底するよう指示

私の罪は決して許されるものではない
この世の悪は全て裁き切れず、時に人や物を使って逃げ果せる
そんな彼等を裁き続けた
何度も、何度も……彼等にも家族や慕う者が居たとしても

彼等が刃を向け、責めようとも
その罪の意識に潰れてはならない
悔やむことこそ真の罪、悪を裁くは別の悪
人を憂うも、人の尊さを知るからこそ全を悪としてはならない
それが私と、貴女の違い

抜刀術『神嵐』
破魔の力を刃に宿し、霊を祓う




「貴女が望月鈿女」
 女の名を静かに口にすれば、白い雑面が夜彦へと向けられた。気配は凪いだまま、鈿女という女が雑面の下でどんな感情を宿しているのかもわからない。
 鈿女が憂うのは、人の犠牲を良しとする世か。それとも悪しき、憎き人々が存在する世か。――彼女の行動からすると後者であろうか、と夜彦は思った。きっとそうである世を憂いてはいるのだろうが、仕方がないのだと皆のためだと大義名分をふりかざした時、人はどんな非道だって行うのだ。そういった人々もいることを、長く生きてきた夜彦が知らないわけもなく。
「生憎、私は罪を犯した者」
 これより先は一歩も通さじと、夜彦は一歩前へ出る。
「……罪の有無に関わらずとも、貴女を阻むでしょう」
 戦巫女たちへは離れて防御に徹するようにと肩越しに指示を出し、視線はひたと鈿女へと向けたまま『夜禱』を一度鞘へと収める。
「そう、貴方様には罪が……罪の自覚がお有りなのですね」
 いつの間にか巻物が鈿女の手に握られている。どこか夜彦に似て、夜色の背に月色の和紐の巻物だ。はらりと解ければ、夜彦の罪が溢れ出す。
「貴方様の罪が赦されるとお思いですか?」
 ぞろりと現れる、いくつもの影。
 それは、夜彦が斬ってきた――裁き続けた人々――その家族や、大切な人々だ。
 悪事を企てるものは総じて往生際が悪く、人や物を使って逃げ果せ、裁きの網の目からするりと逃げようとする。そうして網の目をくぐって来た者たちを夜彦は裁き、斬ってきた。幾度も、幾度も。彼等にも家族や慕う者が居ることを知っていながら、それが正道であるからと、信じて。
 ――夫を返して。
 ――あの人と添い遂げるつもりだったの。
 ――お父ちゃんが帰ってこないよう。
 大切な人を喪った人々が、不釣り合いな刃を手にして。お前のせいだと口にして、泣きながら斬りつけてくる。
「私の罪は決して許されるものではない」
 然れど、その罪の意識に潰れてはならない。
 泣かれようと、罵られようと、傷つけられようと、夜彦は悔やまない。悔やむことこそ真の罪、悪を裁くは別の悪だと心に芯を置いているから。
「人を憂うも、人の尊さを知るからこそ全を悪としてはならない」
 鞘を握り、柄へと手を掛ける。
「それが私と、貴女の違いです」
 静かに振り抜いた刃は蒼銀に光り、神霊ごと斬り伏せんと斬撃を走らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヲルガ・ヨハ
♢♡

喰らいあい高めあう
命の遣り取りこそ、生の証左
統べてを糧とし、ゆえにわれが在る

激痛耐性をも越えるか
それでも、凛と
気力で以て抗い、足掻く

戦巫女に問い
護りたいと願へば肩を並べよ
その代わり

われは夜半のヲルガ
忘却されし軍神
なればこそ、
戦場(いくさば)に身を賭す子らに幸ふ

銀の霹靂の結界、煙のオーラ防御
あまねくすべ用い
われと"おまえ"で巫女を害するを庇い護る
傷つくものあれば
土塊とわが血とまじないで造りし"おまえ"に
まなざし一つ、UCを齎す

みよ
脆くもつよき、人の姿形を
おまえの眼差しも
こうであった筈だろう?

銀の尾で、強かに薙ぐ
咲いたなら
花は落つるがさだめ

哀しみの泥濘より
すくわれるべきは、おまえだ

そら、お休み




 余すことなく剪定を終え参道に戻ったヲルガは、望月鈿女と邂逅することとなった。戻る折に再度人形の腕の中に戻った身を人形の胸から離し、土塊と血とまじないで作ったその胸をトンと押して宙へと踊り出る。
 ツと視線を巡らせれば、たたり椿には凛然としていた戦巫女たちに困惑の色が見られた。無理もない話だ、まさか自分たちが目指すべき頂きに居た者が、お社を狙って居たとは思うまい。
「護りたいと願へば肩を並べよ」
 張った声を掛けるは、戦巫女たちへ。
 いくつかの瞳が、引き寄せられるかのようにヲルガへと向かう。
「われは夜半のヲルガ、忘却されし軍神。なればこそ、戦場(いくさば)に身を賭す子らに幸ふ」
 恐るることなかれ。おまえたちにはわれがついている。
 静かさの中に宿る力強さに、幾人かの戦巫女たちが得物を握り直したようだ。
「……死地へと背を押すのでございましょうか?」
「われは軍神ゆえに」
「そう、ですか。貴方様は大層罪をお持ちのご様子――貴方様は犯した罪の数を覚えておいでですか?」
 鈿女が口にした途端、花が咲いた。
 細い喉に棘を生やした、美しくも艶やかな、鮮血の、花。
 喉の内部から生えた棘が白い肌を突き破り、面紗と襟の隙間から血を垂らす黒棘が覗く。胸元まで血で汚しながら、喉奥から迫り上げてくる衝動のままに体を折れば、カハッと音を漏らして血と棘が吐き出された。
 痛みへの耐性はあると自負があっても尚、酷い痛みだ。それでも、だ。揺れた体を支えんと伸ばす人形の腕を払い、ヲルガは凛と在る。
 喰らいあい高めあい、命の遣り取りこそ、生の証左。統べてを糧とするいくさがみ。命を奪った者が受けた痛みも、統べて。
 得物を手にした戦巫女たちの傍らに在り、漂わす煙にパチリと銀の霹靂帯びさせて、持てる全てで巫女たちを庇い護る。戦わんとする者たちに、守護と加護を。
 ――みよ。脆くもつよき、人の姿形を。嘗てのお前もそうであっただろう。
 喉は潰され声は出ず、面紗で覆った顔からは表情すら伺えない。けれどその奥で、ヲルガは強く思う。人の子等は神達が思うよりも、ずっとしぶとく強い。
 嘗て人の子だった者よ。後輩を救いたいと足掻く者よ。
 哀しみの泥濘よりすくわれるべきは、おまえだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

天御鏡・百々
流石は猟書家
先ほどのオブリビオンとは格が違うようだな
然らば、巫女殿達は後ろに下がり、守備に徹するのだ
此奴とは我が応対しよう

罪を問うか
神器たるこの我が、如何ほどの罪を犯しているというのか
ヤドリガミとなりて10年
嘘などついた事は無く、食事の殺生も程が知れよう
多少棘が刺さろうとも、仮の身体故大事には至らぬ

『合わせ鏡の人形部隊』を発動
鏡像兵達に望月鈿女を攻撃させるぞ
人形にその声は届かぬぞ

我はその後ろから天之浄魔弓(武器:弓)から放つ光の矢で攻撃だ
(破魔117、誘導弾25、浄化21、鎧無視攻撃15、スナイパー10)
汝が妄執、この矢にて撃ち貫いてくれよう!

●神鏡のヤドリガミ
●本体の神鏡へのダメージ描写NG


穂結・神楽耶
──いいえ、望月様。
多くを殺してきました。
多くを喪わせてきました。
この身に罪がないなどと口が裂けても申せません。
だからこそ、わたくしはこの社を守るべく貴女の敵と立ち塞がりましょう。
いつかあなたを襲った理不尽と同じに成り果てた貴女の為にも。

戦巫女様方は『招福の玉』の守護を。
こちらはわたくしにお任せください。

喉が裂けても、腹を突き破っても。
腕が動くなら止まる道理はありません。
空に舞え、我が複製──【神遊銀朱】。
神妻たるとあらば、あなた自身に戦闘経験はそう多くない。
正面からの囮が五本。
側面からの突きが三本。
背後からの薙ぎ払い二本で囲みます。

どうかお休みくださいませ。
あなたの幸いは、きっと水底にこそ。




「──いいえ、望月様」
 罪無き者は去るが良いと口にした『望月鈿女』へ向かい、神楽耶は一歩前へと出る。草履の下で、小さな玉砂利がザリと音を立てた。嘗ては均等の大きさで美しかった玉砂利が小さくなったのは、それだけ参拝者がいるということ。この神社が人々に愛されているということ。流れた年月は、人にも、神にも、物――ヤドリガミにも、等しく積み重ねられる。
 神楽耶は多くを殺してきた。多くを喪わせてきた。手を伸ばしても救えなかったことも多かった。死を、嘆きを、悲しみを、想いを積み重ねてきた。
 そして、積み重ねたその先に、今の神楽耶が在る。
「この身に罪がないなどと口が裂けても申せません。だからこそ、わたくしはこの社を守るべく貴女の敵と立ち塞がりましょう」
 いつかあなたを襲った理不尽と同じに成り果てた貴女の為にも。
 真っ直ぐに視線を向ける神楽耶の視線は鋭い。鋭いが――その奥に優しさめいたものが揺れている気がする。鈿女は神楽耶へと雑面を向け、何か言いたげに少しの間を挟んだが、ふるりとかぶりを振った。互いに譲れぬものがある以上、問答は必要ないと判じて。
「巫女殿達は後ろに下がり、守備に徹するのだ。此奴とは我が応対しよう」
「戦巫女様方は『招福の玉』の守護を。こちらはわたくしにお任せください」
 一歩前へと出た百々と神楽耶の声が重なり、戦巫女たちはふたりへ「お任せします。お社を、そして鈿女さまを」と返して距離を取る。背を向けて駆けていった者は、招福の玉の元へと向かったのだろう。
 刀を手にした神楽耶と弓を手にした百々が、ジリ、と僅かに近寄って――僅かに、視線を交わす。タイミングを合わせ、同時に、神楽耶は地を蹴り、百々は《合わせ鏡の人形部隊》を発動させた。
「貴方様は犯した罪の数を覚えておいでですか?」
 そこへ響く、静かな声。
 同時に、ふたりの乙女の喉に、赤い花が咲いた。
 喉内から生え、白い柔肌を切り裂いて現れた、血に塗れた黒い棘。
(――罪を問うか)
 長い時を鏡のまま過ごしてきた百々が、仮初の身を得て流れた刻は十年。大切に扱われ、祀られ敬われ、誰かの為となる嘘すら吐いたことのない百々だが、清い身なれど食事の殺生や猟兵としてオブリビオンを骸の海へと還してきている。
 しかし、程が知れる程度だ。無益な殺生はしていない為、すぐに仮初の身を解かねばならぬ大事では無し、精々喉が潰れる程度だろう。
 喉を抑えて咳き込むも、その間も人形部隊を鈿女へけしかける。喉の棘を抜くか否かの判断は一瞬。抜けば出血が嵩むであろうし、空いた穴から入る空気で呼吸もおかしくなるかもしれない。棘は抜かずに、痛みに耐えて百々は幼い手で『天之浄魔弓』を握り、頭上へ両手を持ち上げた。
 一方、神楽耶は、百々の比ではなく鮮血を迸らせていた。刀のヤドリガミの神楽耶は、百々とは奪ってきた命の量が違う。刀は斬るためにあり、敵を葬るためにあり、命を奪うために在る。同じ御神体なれど、その身に映せる者なれど、鏡と刀はその在りようが天と地ほどにもかけ離れていて。
 ベシャリと足元を血が汚す。幾つかの棘を吐いて、吐いた血と喉に生えた棘とで口元から胸を汚し、それでも神楽耶は視線を鈿女を逸らさない。思わずぐらりと体が由来だが、地を強く踏みつけ踏ん張り耐える。足も止めない。グポッと血が迫り上げてきても、喉が裂けても、腹を突き破っても、腕が動くなら止まる道理はない。斬ると決めたなら、斬るのみだ。
(――どうかお休みくださいませ)
 あなたの幸いは、きっと水底にこそ。
 刀の切っ先を向ければ、複製刀が中を舞う。
 正面からの囮が五本。
 側面からの突きが三本。
 背後からの薙ぎ払い二本。
 そして、百々の弓手と馬手の間に光が生まれ、開くようにゆっくりと降ろされ、弓が引き絞られる。
 人形を扇と水で払う鈿女に、光の矢と幾つもの刀が放たれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
戦巫女の祖と相対するならば、私も転じておこうかな
真の姿を模した姿へ化けて
巫女達に、魔力で作った花を一輪ずつ渡しておくよ

――さて
お社へ向かわせるわけには行かないんだ
彼女達が大切に守ってきたものを掠め取ろうなんて、頂けない

彼女も花弁を操るならば、それに混ぜて橘の花を再び舞わせよう
これは先の花とは異なる、魔力でできたただの花吹雪
彼女の目眩まししかできないね
強烈な水に、押し流されてしまうかも
それでいい。私が操るものは、ただの、力のない花でいい
私を退けたと油断した時に、巫女達に花を投げさせよう
一片触れればそれでいい
水に炎は相性が悪いかな
それでも、構わない
君を、燃やし尽くすよ
私の巫女殿を捧げた、業火でね


冴島・類
♢♡

貴女のいつか
狂う迄に至った悲しみや憎みを
否定する気もないけれど
今、しようとしていることを
到底良しとも思えない

巫女さん達へは己>神社で守護をお願い
場よりも、貴女たちの命は替えられぬものだから

先んじて来る問い
広がる、助けるに届かなかった命達
血色の手が幾重も重りのように、足を捕らえようとする
何故どうしてを問う嘆きの輪唱

捕まらぬよう、見切り駆けるが
刃を向けるのは躊躇い

完全なる善など絵空事の中でしか、ない
貴女へ向ける刃も自分も、到底清いものではない
罪は、あるでしょう
それでも、破魔の力込め霊を跳ね返す為に写しを喚んで

反撃受けようと近づき、見えぬ表情に向け
憎しみは、重かろう
僅かでも軽くなるよう祈り、斬る




「あなた方は己のことを第一に考えてください」
 お社や鳥居、鎮守の森は、傷ついても時間を掛ければ取り戻せるものだ。由緒正しきものばかりだからその重ねてきた歴史は失われてしまうかもしれないけれど、ひとが居て、ひとが祈り、そしてまたひとが作れば、新たな刻を重ねていける。
 けれどひとは、喪われてしまったらそれまでだ。命に替えはない。
 だからこそ類は、戦巫女たちへお社よりも自身を護るようにと声を掛けた。
「おや、冴島殿」
 他の猟兵たちが戦っている間にと、戦巫女たちへ花を配り歩いていた男が声を掛けた。長い黒髪に猫耳と尻尾をぶら下げた、和服の男だ。
「えっと、」
 どちら様でしょうか、とも言えなくて。
「ああ、私だよ。エンティ。こう、どろんとね」
「ああ」
 あなたでしたかと目を丸くする類に、人差し指を立てた両手を重ねて口にしエンティは「持っていておくれ」と最後の花を戦巫女へと渡した。
「――さて。お社へ向かわせるわけには行かないんだ」
 参道を静々と泳いできた『望月鈿女』へと視線を向けて、引く気はないよと伝える。他の人の大切なものを掠め取るだなんて、相手が誰であろうといけないことだろう? と薄く笑って。
「僕も、貴女を通す気はありません」
 鈿女の『いつか』――狂う迄に至った悲しみや憎みを否定する気もないけれど、彼女が今しようとしていることを到底良しとは思えない。狂ってしまったがゆえにそうであるのなら、誰かが止めてやるべきなのだ。
 ひたり、と。雑面が類へと向けられる。雑面の下の表情は見えないが、きっと憂いているのだろう。「貴方様の罪が赦されるとお思いですか?」と問う声は、静かに沈んでいる。
「――っ」
 類の罪――それは、助けられなかったこと。
 ひたり、ぬるり。
 血色の手がニュッと地面から生えて、類の足へと手を伸ばす。触れて、ずるりと何かに滑べるように足首をなぞり、力尽きたように手が落ちる。息を呑んで地を見れば、いくつもの血色の手が生えてきた。いくつも、いくつも、いくつも。何故こちらへ来ないのか、と。地の底へと類を誘う。
 手だけではない。何故どうしてと声が聞こえる。どうして助けてくれなかったの。どうして、どうして。嘆きの輪唱が耳奥に響いて、「冴島殿」と声を掛けてきたエンティの声が遠い。手を、声を、全てを振り切るように、地を蹴り駆ける。刀は、抜けない。救えなかった人に刀を突き立てるのは躊躇って、跳ね返す為に写し身を呼んで。
 そこへ、ひらり。橘の花が舞う。
 エンティが魔力で編んだだけの、力の無いただの花だ。目眩ましに……と舞わせたものだが、鈿女は雑面をしており、そもそも視力に頼っていない。けれど魔力を帯びた物を警戒してか、舞うように扇を振るい、花を水で押し流した。
 伸びる手を振り切るように、類が突っ込んでいく。素早く短刀を抜き、『枯れ尾花』を片手に鈿女へ迫った。彼女へ向ける刃も自分も、到底清いものではない自覚がある。罪は、あるのだろう。けれど、それでも。
「……何故」
 こうするしか道はなかったのか。憎しみ慣れていなかったその身には、憎しみは重かろう。それなのに憎み続け、メガリスを求めるのか。
「メガリスの力があれば、全ての巫女も救われましょう」
 雑面の下で、微笑んだような気配がした。
 鈿女が背負った憎しみの錘が僅かでも軽くなるように祈りながら振るった刀と、鈿女が振るう扇はどちらが早かっただろうか。
 屹度、同時だ。
「っ!」
「さあ、巫女たち。花を贈っておくれ」
 吹き飛ばされて転がった類を支えながら、エンティは戦巫女たちへ告げる。
 花を渡しながら伝えたこと――『鈿女殿へとその花を投げてほしい』。そのタイミングは今だ、と。
 戦巫女たちは、祈りを籠めた花を鈿女へ贈る。
 ――どうか貴女様の心がやすらぎますように。
 ――鈿女様が正しい場所へいけますように。
 花は、ひとつ届けばいい。ひとつに触れさえすれば、たちまち業火が立ち上る。水と炎では相性が悪く、鈿女が水を操れば消せたことだろう。
 しかし。
「あゝ」
 戦巫女たちの祈りに鈿女が手を伸ばす。
 戦巫女たちが願うこころへ。
 ひとつ触れて、ふたつ触れて、みっつ、よっつ。
 炎の渦に巻かれた鈿女の姿は、やがて見えなくなる。
 炎に飲み込まれる人影、それは嘗てのエンティの巫女の姿にも似ていた。

 炎が消えた後、そこにはことはりから外れた戦巫女の姿はなく。
 参道脇の落ちた椿の花が、ころりと風で運ばれてくるのみであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月08日


挿絵イラスト