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革命前夜

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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●終末世界の黙示録
「クソったれッッ!! 誰が! いつ! イカれた死体どもをキャンプファイヤーの燃料にして良いと言った!!」
 ――家に帰るまでが遠足ならば、拠点に帰るまでがオレたち奪還者のお仕事だ。
 事実、今まで幾多もの廃墟に潜り込み、振り返りたくもない程沢山の絶体絶命の危機を乗り越えてきた。
 しかし、どうにも飽きが来たのか。今回ばかりは「略奪の女神サマ」とやらはオレたちを見捨てる決心をしちまったらしい。
「あれか、サマーキャンプの余興か? だが、残念なことに良い子はおねんねの時間だ。とっくの昔にな!」
 舌打ちと共に、迫りくるゾンビどもの群れにショッピングカートをぶつけたって、気休め程度の足止めにしかならない。
 あっという間にカートを乗り越えると、警察犬だって尻尾を撒いて逃げ出すほどの忠実さで、オレらの後ろを追いかけてくるのだから。
「だからとっととくたばりやがれ!」
 イカレゾンビどもによる、歴史上最恐と謳われた監獄よりも抜かりない警備の目を掻い潜りながら、食料や物品を頂戴してくる。たったそれだけの作戦だ。それこそ、普通の猿でも分かるほどに。
 見つかったらそこでゲームオーバー、命がけのかくれんぼだ。実に単純な話じゃないか。
 そして、鬼に見つかった哀れな犠牲者にいちいち足を止める程、オレらや拠点に余裕があるワケじゃない。次にイカれたアイツらに仲間入りするのが、自分ではないことを祈るまでだ、メーデー。
 物資が足りなければ、待っているのは、拠点の皆でお手々を繋いで仲良く虹の橋を渡るエンディングくらいなものだ。実に滑稽な喜劇じゃないか。反吐が出そうだ。
「これだけド派手に燃やしてどうしろって言うんだ? マシュマロでも焼いて、洒落たクラシックをバックにダンスを踊れと? ――生憎、マシュマロも音楽も揃いに揃って外出中だっつーの!」
 物資も、危険も。どちらも、噂以上のものであった。
 それでも、確かに順調であったのだ――突如として、廃墟の一角が炎に呑み込まれるまでは。
「やあやあ、そんな青白い顔してどうしたのかな、お嬢さん。鉄分が足りてないのかい?
 もし良ければ、情熱的な炎のカーペットを踏みしめながら、Shall we dance? ――なんて言うとでも思ったか!!」
 イカレゾンビ共の中には、爆発物の類を扱う変異種を見てはいない。もっとも、オレがまだ遭遇しちゃいねぇだけかもしれないが。
 となれば……想像したくはないが、仲間の誰かがとちったに違いない。火気厳禁の物品に火を近づけさせたか、あまりの劣勢に錯乱してゾンビを火種にキャンプファイヤーを始めようとしたのか、物資搬出用のトラックを横転させたか。
 何にしたって、廃墟が炎上して、オレらの存在が奴らに露呈した事実は変わらない。
 オレに向かって手を伸ばしてくるゾンビ女を蹴とばせば、腐敗した内臓が破裂したような、経験したくもない実に嫌な感触を靴底が捉える。内臓がぐちゃりと溶けるなんて、知りたくなかった真実だ。
「絶ッッ対に! 生き延びてやる!!」
 前方にはとぐろを巻く炎の大蛇に、後方にはイカレゾンビども。
 遮る物の無くなった天井から覗く星空は、憎らしいほどに美しかった。


「……突然呼び出してすまない。悪いけど、時間が無くてね。突然だけど、キミたちには今からアポカリプスヘルに行ってもらいたい」
 いつものマイペースさは何処へ行ったのか。少しばかり緊張したような面持ちで、影杜・梢(月下故蝶・f13905)はグリモアベースに集まった猟兵達に呼びかけた。
「アポカリプスヘルのことは知っているよね?
 ……そう、奪還者が命懸けで物資を拠点に持ち帰って生き延びている、あの世界のことだよ」
 数年前に突如として現れたオブリビオン・ストーム。黒き災厄の竜巻は世界の大半を切り裂き、呑み込んだ物や人を禍々しい『過去』へと変貌させていっている。
「廃墟に忍び込んで、物資を持ち帰る。これが奪還者達のお仕事だ。忍び込む廃墟も本来なら、見極め無ければならないはず。
 ……だけど。彼らの場合は、よほど拠点に余裕が無かったのかな。周囲一帯で噂になるような、物資も危険も桁違いな廃墟に忍び込んだらしい」
 それで結果として、全滅の危機に瀕している、と。梢は静かな声音で、そう言いきった。
「まあ、難攻不落と噂の廃墟に潜り込んだ奪還者達だって先鋭揃いだ。
 途中までは敵に気付かれることもなく、上手く動けていたみたいなんだけどね。でも、想像以上の光景に仲間の一人が取り乱して――そこから先は、あっという間さ」
 濃密な死の気配に我を忘れたのか。横転し炎上したトラックに、瞬く間に広がる火の手。自分達の身に何が起きたのかも分からぬまま、散り散りになって逃げる奪還者達。そして、それを追いかける数えきれないほどのゾンビの存在。全滅までは、秒読みだ。
「奪還者達が潜り込んだ廃墟は、大型の複合商業施設だよ。スーパーとか専門店街とかが入ったショッピングモールが本館で、その横に小規模な遊園地や植物園が入った新館が立っている形になっているね」
 途方に暮れてしまうほどに広い商業施設の中で、奪還者達が潜り込んだ場所は本館の1階――スーパーマーケット部分であるらしい。それと同時に、スーパーマーケット部分が火元でもある。
「現場に着いたら、まずは火災の鎮火と奪還者達の救出を最優先で行ってもらいたいんだ。物資の運び出しも頼みたいところだけど、余力があればで良いよ。
 奪還者達は、れほど遠くには逃げていない……いや、逃げられないはずだ。ゾンビもいるし、色々と燃えてるからね。皆、スーパー部分の何処かには居ると思うよ」
 火災の鎮火と奪還者達の救出が済み次第、今度は商業施設に巣食うゾンビの殲滅をして貰いたいと梢は告げる。
「この商業施設、踏み込んだかなりの数の奪還者達が戻ってきてなくてね。『奪還者殺し』として有名な廃墟みたいだ。これをきっかけに、後顧の憂いは断つよ」
 ゾンビたちは商業施設全域に巣食っている。敵軍の中央に飛び込むも、気付かれぬように一体ずつ確実に仕留めるも。作戦や戦闘方法は任せるから、施設内の好きな所で存分に戦って欲しいと付け加えた。
「あんまりド派手に戦ったら建物が崩壊してしまうかもしれないから、それだけ気を付けて」
 戦闘に夢中になるあまり崩れた建物の下敷きになって圧死なんて、ナンセンスな冗談はやめてくれよ?
 漸くペースが戻ってきたらしい。梢は軽口交じりにグリモアを展開し、今一度猟兵達の姿を見渡した。
「すまない。本当なら、もう少し早く予知できれば良かったんだけど。六番目の猟兵であるキミたちなら、絶体絶命の危機ですら逆転できると――そう、信じているよ」
 ふわりと転移すれば、ほら。目の前に広がるのは、火の手に呑まれ始めた巨大な建物の存在だ。


夜行薫

 お世話になっております。夜行薫です。
 今回は、普段とは雰囲気の異なる依頼のご案内を。
 カッコよく戦う皆様が見たいと思いました。血塗れになりながら敵陣中央でヒャッハー! したり、ゾンビに気付かれないように目的を達成したり、アクション要素が強めなシナリオかと思われます。
 ゾンビに容赦は不要ですので、思う存分に。

●運営について
 受付/締め切り共にタグとMSページでお知らせします。3章以外、断章追加はございません。
 OP公開時点では一度の募集で書き切れる分だけの採用を予定しております。
 その為申し訳ないのですが、問題が無くとも不採用になる可能性があります。

●依頼について
 敵であるゾンビに限られるのですが、ゴア等刺激の強い描写がある場合がございます。(※「利き腕の負傷を厭わずに戦う」等、プレイング内に具体的な記載がない限り。あまりにも刺激が強い場合は、さらっと描写になります)
 刺激の強い描写は苦手だよって方は、プレイング内に「×」と記入して下されば。

●舞台について
 大型複合商業施設の廃墟です。
 スーパーの他に専門店街と飲食店街、映画館。小規模な遊園地と水族館、植物園も存在していました。
 3階建てショッピングモールである本館に、小規模遊園地、水族館と植物園が入っている新館が隣接している形です。
 劣化や損傷は少なく、営業当時の様相を色濃く残しています――が、施設内は、無数のゾンビが蠢く巣窟と化しております。(※難攻不落の巣窟と化しているため、物資の類は十二分にあるようです)

●第1章:『大炎上』
 目標:火災の鎮火及び、奪還者達の救出。奪還者に代わって物資を運び出せればなお◎。
 当該範囲:複合商業施設本館、1階スーパーマーケット部分。
 ※炎&略奪者と特別共演中のゾンビさんにもお気をつけください。

●第2章:『ゾンビの群れ』
 目標:商業施設内に巣食うゾンビの殲滅。
 当該範囲:複合商業施設・全域。
 数体~十数体のゾンビを相手に戦う集団戦となります。
 お好きな場所で思う存分に戦闘を繰り広げてください。こんなゾンビと戦う等、指定も可です。
 場所やゾンビの指定が無かった場合、ショッピングモール内で一般的なゾンビとの戦闘となります。

●第3章:『荒野の日常』
 静寂を取り戻した施設内で自由に過ごす日常章となります。
 戦利品で宴会するも、静かに廃墟を散策するも。ご自由に。
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第1章 冒険 『大炎上』

POW   :    消火活動を行う

SPD   :    物資の運び出しを行う

WIZ   :    生存者の救出を行う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎
WIZ

現場は1階スーパーマーケット部分、って事だったね
広い施設みたいだけど、火災現場がわかってるならありがたい!
手持ちの飴を媒体に固有結界・黄昏の間を発動、水の疑似精霊を召喚
水の疑似精霊の力で火災現場の消火活動を行う

それと同時にゾンビに襲われている略奪者を見掛けたら救助しよう
略奪者を【かばう】よう立ち回り、【破魔】を付与した刀でゾンビを一閃!
重傷者は【医療】の知識を動員し治療を試みる
回復効果の【属性攻撃】を付与した札を貼り付け応急処置
歩けるくらいにはなってもらえれば

衰弱している人がいたら、自身の生命力を少しだけ譲渡
衰弱者へに向け自身の生命力を載せた波動を放出、【生命力吸収】させる




 幸いにも現場と火元は判明している。ならば、一直線にそこへ向かえば良いだけの話だ。
「広い施設みたいだけど、火災現場がわかってるならありがたい!」
 転移が終わるか終わらないかのうちから、鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)の右足は自然と前へと踏み出されていた。
 どうにかしなければいけないという使命感と、一人も犠牲者を出したくないという平和を願う心。燃え盛る炎よりも一際熱い情熱が、ひりょの足を動かしている。
「場よ変われ!」
 ひりょは走りながら仙桃飴を取り出すと、自身の持つ能力を発動させた。
 ゆらゆらと揺らめく炎の明かりをその身に映しながら、くるりくるりと糸が解けるようにして、仙桃飴が解けていく。
 そして、絹糸のような光沢を宿す幾重もの糸に戻った仙桃飴は、今度は小さな人形のような形を編み始めて――変化が終われば、そこに居たのは水の疑似精霊達だ。
 炎の中に生まれ落ちた水の疑似精霊達は、ひりょの駆ける少し先を飛行しながら移動し、空中から水を撒き始める。
 ふわりと疑似精霊が手を翻せば、清涼な水流が一筋、もう一筋と。
 幾筋もの水の流れは、ひりょの行くべきを方角を指し示す――それはまるで、導のように。
「……っ! 間一髪だね!」
 暗闇のなか、片足を引きずるようにして必死に逃げる奪還者の姿をひりょは見逃さなかった。
 負傷した右足が上手く動かないのか、這うように逃げているのは青年。しかし気ばかりが早まったのか、足が縺れ――後ろには背の高い商品棚。前にはゾンビ。
 命の危機が間近に迫ってもなお青年はナイフを構えて敵意を見せつけているが、ゾンビに致命傷を与えるには心ともない。
 今まさに、ゾンビが青年に噛みつき引きずり回そうと手を伸ばす――その直前に、ひりょは青年とゾンビの間に割って飛び込んだ。
「もう大丈夫だよ」
 前に立ちはだかる形で青年を庇い、伸ばされた腕を抜刀した刀で受け止める。
 死んでいるせいか力のリミッターが外れているようだ。死体とは思えぬほどの怪力を勢いと共にそのままお見舞いするだけの、単純で重々しい一撃。
 あまりの重さに刀を持つ手が震えるが、ひりょは歯を食いしばってゾンビの攻撃を受け流した。
 行き場の失い、斜め後方へと向かっていた力の流れ。攻撃を受け流されたゾンビが体勢を崩した瞬間を見失わず、ひりょはゾンビの首に目掛けて一閃を放った。
 仰け反るような体勢で、露わになっていた首筋。真っ直ぐに放たれた一閃は、ゾンビの胴と頭を二分にし――ごとり、と。鈍い音を立てて丸い何かが床に落ちる。それが、数秒にも満たない戦闘の最後だった。
「た、助かった……。ありがとうございます……っ」
「足はどうかな。少し見せてね」
 助かったという実感に全身から力が抜けた青年の右足を、ひりょは注意深く観察していく。
 見た目に反して、傷自体はそれほど深くはないようだ。感染症に気をつけさえすれば、大丈夫だろう。
「さあ、此処は危険だから安全なところまで一緒に行こう」
 回復効果の属性を付与した札を青年の足に張り付けたひりょは、にこりと微笑んで手を差し出した。
 とりあえずは一人。ここからが正念場だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
まずは奪還者の人達を探さないとね
…しかし、この火の手は早めに抑えないとね

隠れられそうな場所にあたりを付けてから炎の中に進んでいくよ
オーラ防御に水の属性攻撃を付与して対炎対策
通り道がふさがれているなら
風精杖から水の属性攻撃の誘導弾を進路上に向かって撃ち出して道を作るよ

奪還者さん達を見つけたら
その人達にも水の属性攻撃のオーラ防御を付与していくね

もし、周りを炎に囲まれたら…
高速詠唱で隙を減らした
エレメンタルドライブ・ネレイドで一気に鎮火しつつ
奪還者さんの体力も回復させるね

余裕があれば、物資回収の援護、または回収をしてくね

特別共演者が出てきたら
左手に構えた光刃剣と杖の誘導弾で牽制しつつ
撤退援護だね




 静かに。だけど、激しく。
 何もかもを等しく呑み込みながら行進する火の間を縫って、ゆらりと揺れ動く影が一つ。
 確かな目的を持って進んでいく力強い影の持ち主は、シル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)だった。
(「まずは奪還者の人達を探さないと。……しかし、火の手も早めに抑えないとね」)
 獰猛な炎を一手に引き受けて、暗闇の中で確かな輝きを放つのは、シルが生み出した水のオーラだ。
 シルの身体を薄膜のようにそうっと包み込む水のオーラは、火や煙からその身を護ってくれている。
「隠れられそうな場所は……」
 奪還者達を追いかけて遠くに行ったのだろうか。ゾンビと一度も遭遇していないことが、逆に恐怖を与えてくる。
 もしこんな環境で、自分が真っ先に敵から隠れるとしたら。
 そんな気持ちになってぐるりと周囲を見渡せば、レジの真下や、陳列棚の陰が目に留まった。
 そう。カゴを防具代わりに手に持って。きっと、逃げたくとも逃げられないから。陳列棚の陰に蹲る三人の女性達みたいに息を殺して――あれ、女性達みたいに?
「あの、大丈夫ですか?」
 幸いにも、床には疎らに商品が散らばっているだけで、通路が塞がれていることは無かった。
 足音を殺しながらも、可能な限り早く駆けて。最短距離で近づいたシルは、怯えて蹲る三人に声をかける。
「助けに来ました!」
 小声で、それでも確実に女性達に伝わるように。
 突然声をかけられた女性達が声を漏らし――慌てて両手で口を塞いだのも一瞬の話。シルの姿を視界に入れると、ふっと小さく安堵の息を吐いた。
「動けますか?」
「はい、何とか……」
 シルは片膝をつくと、手早く女性達の状況を確認していく。
 身体は埃や泥に塗れてはいるが、目立った外傷は存在していないようだ。撤退に支障は無いだろう。
 女性達に向かって優しく手を翳したシルは、三人の身体を水のオーラで覆わせて。
「これで、動きやすくなるはず」
「ありがとう、ございます」
 安心させる為にも努めて明るく微笑めば、三人の纏う雰囲気が幾分か柔らかくなった。
 奪還者達を見つけたのなら、後は安全な場所に撤退させるだけだ。
 しかし、周囲にゾンビの気配は感じられない。撤退のついでに物資を回収するのなら、今がチャンスだろう。ならば――。
「目に付く物資だけでも、回収していこうか」
 周囲の警戒を引き受けたシルが杖を構えて油断なく見渡している間に、三人は近くの商品棚に残っていた必要な品々をバックパックに放り込んでいく。小さくも頼もしいシルの存在が大きな支えとなっているのか、物資を回収していく手つきは淀みが無い。
 千里の道も一歩より。少しでも多くの物資を持ち帰ることが出来たのなら、それだけ拠点の余裕も生まれるだろうから。
「もう大丈夫そうかな?」
「はい。何から何まで……」
 ありがとうございますと告げる三人に、「困った時はお互い様だから」と明るい笑顔で返して。
 どんな時も、笑顔で。そしたらきっと、道が開けるはずだから。
「残念だけど、降壇の時間だよ!」
 撤退する途中で特別共演者とバッタリ出会ってしまったけれど、それも想定の範囲だった。
 左手に構えていた光刃剣が空中に鋭い青緑色の軌跡を刻めば、その一瞬後にはもう、ゾンビさんは力なく床にひっくり返っているのだから。
 何かあったのかと不思議そうに後ろを振り返った三人に、シルは「何でもないよ?」と手を振り返す。
 シルのお陰で、彼女の居る周辺は火の勢いが弱まりつつあるけれど、いつまた炎が大きくなるか分からない。
 火が弱まっている今のうちが狙いだと、シル達は撤退を急ぐのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒木・摩那
◆■
『奪還者殺し』とはまた凄い二つ名の場所があるものです。

今、そこで救出を待っているのであれば、それを救い出すのが、猟兵としての努めです。
救援に駆けつけます。

現場は炎上中ということなので、耐火性のボード『アキレウス』で炎を乗り越えて、奪還者の捜索を行います。
奪還者達を発見したら、壁や倒壊物などの障害物をUC【墨花破蕾】で蟻の群れに変換して、取り除き、避難路を確保します。

奪還者達を救出したら、蟻達には引き続き、物資の運び出しもやってもらいます。
蟻は力持ちですから、こういうことは得意です。




 幾らゾンビの巣食う廃墟とて、最初からそうでは無かったはずだ。
 物資を狙いにいった奪還者がゾンビに襲われてゾンビになり、また別の奪還者が襲われて――そうして、難攻不落の廃墟と化してしまったのだろう。真似したくもなければ経験したくもない、とんだ負のスパイラルである。
「『奪還者殺し』とはまた凄い二つ名の場所があるものです」
 窪んだ壁に、不自然にヒビの入ったガラス窓。床に染みついたベットリとした赤黒い液体に、かなり前に頭を撃ち抜かれたのか、カラカラに乾いて干からびたゾンビの骸。
 ゾンビ達とは遭遇していないが、至る所に戦いの痕跡が見られた。
 マジカルボード『アキレウス』にのって炎のサーフィンをしながらマーケット内を進んでいく黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が思わずそう呟いてしまうのも、無理はないことだろう。
 いつゾンビに遭遇してもおかしくない状況なのだが……摩那にとっては動く死体よりも、黒光りするアレの方がよほど恐い。
 隠れる場所と食料のいっぱいあるところイコール、”アレ”の天国である。人間のゾンビの痕跡しか残っていないが、”アレ”のゾンビが居ないとは限らない。ゾンビ化はしていなくとも、生身の”アレ”なら余裕で生息していそうだ。
 食料いっぱいパラダイスな此処で巨大化とかしていたら、我を忘れて攻撃する自信がある。
(「救出を待っているのであれば、それを救い出すのが、猟兵としての努めですから」)
 “アレ”と遭遇しないことを全力で祈りつつ、摩那は大きなうねりを放った気まぐれな炎の津波を乗り越えた。
 火元が近いせいか、摩那の捜索している周囲一帯は炎の勢いが他と比べて幾分か激しい。
 殆どの奪還者達は逃げ出しているだろうが、取り残されている者がいないとは限らない。
 何度目かの大波を乗り越えるために少し高めにジャンプをしたところ――チラリ、と。炎の隙間から、身を小さくして蹲る奪還者達の姿が、摩那の瞳に映り込む。
「どうやら、あちらみたいですね」
 クイッと両足を使ってボードの進路を三時の方向へと切り替えれば、カート置き場に置かれた数十のショッピングカートと後方の壁、炎に挟まれて、右往左往している奪還者達が確認できた。
 金属性のショッピングカートは炎の熱を直に取り込み、触れるのも致命的な熱さになっている。カートの隙間を縫って逃げる前に、「上手に焼けました!」な末路を辿るのがオチだろう。
「また凄いところに逃げ込みましたね。今から救出します」
 宣言と共に摩那の立つ床を中心に、徐々に黒い染みのようなものが現れたかと思うと――それは、瞬く間に「蟻」の形をとり始めた。
 生み出された黒い模様はカートまで辿り着き、ショッピングカートを端から蟻へと変化させていく。
「さあ、避難路はこちらですよ」
 障害物と化していたショッピングカートを取り除いたら、後は炎の侵略されていない場所を辿って逃げるだけだ。
 数十のショッピングカートを蟻に変化させた今、数にはかなり余裕がある。
 蟻の群れを二手に分けた摩那。一方は出口までの避難路を示すと同時に、怪我で動けない奪還者を運ばせて。もう一方は、物資の運び出しを担当させた。蟻は力持ちだ。運搬には最適である。
 行き道と同様にボードを操り、避難路の先導を行う最中で――棚の陰から飛び出してきた何かを轢いた気がしたが、きっと気のせいだろう。物資や負傷者を運搬する蟻や、救助した奪還者達も構うことなく、摩那の後ろに続いているのだし。
 それにちょっと動くだけの死体なら、摩那にとってはいちいち気を留めるものではないのだ。……“アレ”が出ない限りは。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◆
奪還者殺し、な
帰ってこれなかった奴らは
もれなくここの警備員に就職させられているんだろう

ここは手分けして動くのが効率がいいだろう
俺は火事の対処に尽力、綾には奪還者の救出を任せる

UC発動し、水属性のドラゴン達を召喚
多数は大型で、少数は小型の形状のドラゴン
大型ドラゴン達が広範囲に水のブレスを放って消火していき
小型ドラゴン達は狭い場所に入り込んで
小さな火種が残っていないかチェック

火の勢いが落ち着いてきたら
手の空いているドラゴン達の背に
物資をくくりつけて運び出してもらおう

もしも自力で動けない生存者を発見したら
物資と同様にドラゴンに乗せて運んでやる
お前はまだ生きているんだ、見捨てはしないさ


灰神楽・綾
【不死蝶】◆
餌に釣られてのこのこやってきた侵入者を
ただ殺すのではなく、警備員…ゾンビにすることで
より強固な要塞が出来上がっていったわけだね

UC発動
飛翔能力で素早く飛び回ったり
なるべく高い場所から見下ろしたりして
まずはスーパー内の構造を把握していこう
闇雲な行動は逆に時間がかかる可能性があるからね

内部構造を頭に叩き込んだら
UCの紅い蝶を要所要所に留まらせて
出口までのルートを示す道標とする
奪還者達を見つけ次第、この紅い蝶を目印に出口へ向かうよう指示

襲いかかろうとするゾンビや
進路を塞ぐ邪魔なゾンビはDuoで斬り倒していくよ
深追いはせず、奪還者達の脱出ルートの確保を最優先
お楽しみはあとにとっておこう




「奪還者殺し、な」
 死と血と灰と、それから炎。この廃墟では、それが全てであった。此処では生者である自分達の方が、異端者であるのだろう。
 ポツリと零れ落ちた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の呟きは――梓自身の耳に入ることすらなく、廃墟の中に吸い込まれて消えていく。
 周囲からは地獄の亡者達の呻き声と言われてもおかしくない声が、先程から不気味に響き渡っている。
 『奪還者殺し』の二つ名に違わないのだろう。この通路を辿った奪還者達は、忠実な警備員であるゾンビ達によって過激な歓迎を受けたようだ。
 点々と続く戦闘の痕跡は、火の少ない方へ。火に呑み込まれるか、煙に巻かれるか。それとも、ゾンビに食われるか。命懸けの鬼ごっこだ。
「帰ってこれなかった奴らは、もれなくここの警備員に就職させられているんだろう」
 そして、結果的に難攻不落の廃墟が創り上げられた。
 鼠算式に増えたゾンビの数は、今はどれほどまでに膨れ上がっているのか。考えたくもなければ、数えたくもない話だ。
 警備員としての雇用期間は無期限であり、解雇の心配はない……言い換えれば、どれだけ願っても、退職することは赦されない。
 死んでも、何なら肉体の一部が欠損しても働き続ける。そんな未来は誰もが遠慮するだろう。
「餌に釣られてのこのこやってきた侵入者をただ殺すのではなく、警備員……ゾンビにすることで、より強固な要塞が出来上がっていったわけだね」
 古いものもあれば、新しいものもある。マーケット内の血痕や戦いの痕跡は、静かに犠牲者が多くいることを示し出していた。
 この廃墟が出来上がるまで。淡々とその事実を述べながら、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、「店内案内図」と表記された看板の表面をなぞった。
 親指と人差し指を擦り合わせれば、先ほどなぞった際に付着した埃がふわりと舞い上がる。
 哀れな犠牲者に何かを思うには、綾は戦場に身を置き過ぎていた。精々「可哀想だな」くらいで、今更、警備員と化した彼らに思うことは無い。
「これ以上、就職を斡旋しなくて良いよね。人手は十二分足りてる訳だし。ね、梓?」
「ああ、そうだな。そっちは任せた」
「うん、任されたよ」
 綾が梓の瞳を真っ直ぐに覗き込めば、梓がいつもかけている黒いサングラスのレンズに自分の姿が映っていることに気付く。
 鮮やかな炎がちらつくばかりの薄闇で、そしてレンズ越し。それでも、梓はしっかりと綾の姿を視界の中心に捉えていた。
 視線を交わして、頷き合って。言葉は要らない。一瞬の交錯の後、梓と綾は二手に分かれた。
「少々厄介だが、仕事の時間だ」
 梓の召喚に応えて、廃墟に姿を現したのは百を超えるドラゴンの群れ。大半は人を運べるくらいの大型のものだが、ちらほらと小型のドラゴンの姿も視認できる。
 水属性を持つ彼らにとって、消火活動は得意分野だ。現場監督者である梓の指揮の下、大型のドラゴン達は一早く火が激しく燃えている場所へと赴き、水のブレスを放っていく。
 突如現れた滝のような水のブレスに、最初は対抗していた炎も――時間が経過するにつれて、水の勢いに押されていった。
「細かい所は頼んだぞ」
 一部が崩壊した壁の瓦礫や、棚の裏、ちょっとした奥まった場所なんかも。小柄な身体を生かして隙間にするりと潜り込んだ小型のドラゴン達は、小さく燻っている火を見つけてはトドメをさしていく。
 どれほど小さな火であっても、それが再び炎上する原因になってはいけない。
「なるほど。内部はこうなっている訳だね」
 梓やドラゴン達が消火に勤しむ姿を見下ろしながら、綾は能力を発動させて、天井スレスレを飛翔しているところだった。
 紅い蝶が集まったかのような翼をはためかせ、室内に充満していた煙を外へ外へと押しやりつつ、マーケット内を俯瞰して内部構造を頭に叩き込んでいく。
 闇雲に動き回っては、逆に時間がかかってしまう。全体を把握してから動く方が、遥かに効率が良い。
「なら、避難ルートはこうやって……」
 出来る限り梓達が消火した場所や、火の気配が少ないルートを選び、等間隔で紅い蝶を向かわせる綾。ぼんやりと紅く発光している蝶を見失うことはまず無いだろう。
 混乱しているせいか、同じところをグルグルと回っていた奪還者や、迷子になっていた奪還者に声をかけ、蝶を目印に出口へ向かう様に指示を出す。
「営業時間は終了したよ。お帰りはこちらー」
 奪還者達が避難していく様子を異変がないか見守りながら――警備員(ゾンビのすがた)が駆け付けた時には、大鎌「Duo」を用いて撃退した。
「はいはい。就業時間もとっくの昔に過ぎてますよー」
 少し離れた場所から全力疾走してきた警備員(ゾンビのすがた)へと、綾はすかさず大鎌を投げつける。
 右腕を切り落とされた警備員(ゾンビのすがた)は、突如バランス感覚の変わった身体にふらつきながらも……分が悪いと判断したのか、Uターンして暗がりの中へと消えていった。
 弧を描いて手元へと戻ってきた大鎌をキャッチしながら、綾は警備員(ゾンビのすがた)の去った方向を見る。後追いして一戦交えたいところだが、お楽しみは後で。今は、人命救助が最優先だ。
「お勤めご苦労様でしたっと。……あ、梓。梓の近くに、重傷者発見」
「なんだと?」
 ドラゴン達の活躍もあって、梓の居る周辺は殆ど鎮火されてきている。
 手の空き始めたドラゴンの背に物資を括り付けていた梓だったが、上空から伝えられた不穏な情報に、思わず手を止めた。
 綾から伝えられる案内のまま、マーケットの一角へと向かえば――散乱したペットボトルに、盛大な血の跡。そして、ダンボールの下敷きになっている男性の姿が確認できた。
 ペットボトルの入ったダンボールが落下し、その下敷きになっていたところをゾンビに襲われたのだろうか。
 急いでダンボールを退けた梓は、血塗れの男性に応急処置を施した。
「……助かる、のか?」
「そうだ。お前はまだ生きているんだ、見捨てはしないさ」
 出来るだけ揺らさないようにしてドラゴンの背に乗せれば、男性が薄ら目を開けて梓に問いかける。
 心配ないとハッキリと告げる梓に、男性は安堵の息を吐き出した。
 誰も死なせはしない。その心意気を胸に、梓と綾は奪還者救助に全力を尽くすのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリスティア・クラティス

■(可能な範囲で…!)

『チマチマするのは性に合わない!』『一撃で全部吹っ飛ばしたい!』
しかし今はゾンビと『Shall we dance?』している場合ではないわっ。奪還者達の救助と逃亡援助にあたりたいと思うところっ。

まずは学習力で、可能な限り早く立地状態の状況把握!さわりが分かれば十分ね。
商業施設ならば、もしかしたら天井のスプリンクラーは動くかも?ダメ元で、きらめく宝石の一つで、建物が壊れない程度に微弱な火の属性魔法を一つ天井の機械にぶつけてみましょう。動けば御の字!

最後は奪還者の救出!これは簡単、ゾンビと追い回されている奪還者の間に割り込んで――受けなさい!チート級絶対防御【指定UC】!!




 地道に奪還者達を捜索して、地道に炎を消して回って。そしてまた、地道に必要な物資を詰め込んで、ゾンビ達を一体一体倒して回って……。
 奪還者のお仕事や人命救助には意外と忍耐が求められるものであった。
 この無駄に広い商業施設を隅から隅まで? そう、隅から隅まで。
 何処に居るのかも分からない奪還者達を追いかけて? そう、人命救助が最優先だ。ローラー作戦になる。
(「――チマチマするのは性に合わないのよ!」)
 そこまで考えたところで、アリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)の思考回路は早々に白旗を掲げた。
 今回の作戦と商業施設の地図を頭に叩き込んで、思考すること僅か数秒。過去最速の敗北戦だった。
「一撃で全部吹っ飛ばしたいものね!」
 ゾンビに奪還者達に、物資に棚に、ダンボールに。都会のビル群もかくやに物品が乱立する、このごちゃごちゃとしたマーケットを一撃で全部吹っ飛ばせば、さぞ気持ち良いに違いない。
 でも、「一撃必殺!」を有言実行してしまえば、この廃墟が秒で瓦礫の山に帰すわけで。ゾンビに襲われるよりも、甚大な被害が出ることは間違いない。
 マーケット内部に踏み込んでそれほど時間は経っていない。しかし、早くもアリスティアの脳はオーバーヒートしつつあった。
『ア“アァ……ヴァア……!』
「救助と逃亡援助の邪魔よ! 今はあなたと『Shall we dance?』している場合ではないわっ」
 出合い頭にセールワゴンの物陰から『Shall we dance?』した青年ゾンビを、アリスティアは半ば反射的にアリスランスで薙ぎ払い、一撃で吹き飛ばす。
 救助と逃亡援助にはスピードが重要だ。呑気にゾンビのお誘いに乗っている暇はない。
『ヴ、ア……』
「しつこい男は嫌われるのよっ。知らないのかしら」
 吹き飛ばされ、身体から腐った血液を流しながらも――青年ゾンビはまだ何か言いたげにアリスティアへと手を伸ばしていたが、勢い良く突き立てられた目の前にアリスランスに、遂に何も言わなくなった。
「商業施設ならば、もしかしたら天井のスプリンクラーは動くかもしれないわね?」
 アリスティアの興味は、ついさっき振ったばかりの青年ゾンビから、天井のスプリンクラーの方へ。
 廃墟と化して久しい為、メンテナンスを受けていない設備が今も作動するかは不明だが、物は試しだ。
 ダメ元で、と。微弱な火属性を宿した宝石を天井の感知機にぶつけてみるが――ウンともスンとも言わなかった。
「まあ、そう上手くはいかないものね……。となれば、奪還者の救出に専念するのみだわ!」
 もとより動けば御の字! な作戦だった。
 アリスティアは即座に思考を切り替えると、マーケット内を進んでいく。先ほどの青年ゾンビが来た道筋を辿っていくように。
「あら、お仲間を発見したわ」
 気付かれないように壁から様子を伺えば、火の少ない方へと逃げる奪還者達を執拗に追いかけているゾンビの群れが視認できた。
 先ほどの青年ゾンビは、あの群れから逸れた一体だったのだろう。
「そこまでよ! ――受けなさい! チート級絶対防御【堅牢たる幻影水晶】!!」
 ゾンビの群れに不意打ちを与える形で壁から飛び出したアリスティアは、ゾンビと奪還者達の間にするりと割り込んで水晶の壁を展開させる。
 ゾンビ達は勢い良く透明な水晶の壁に飛び掛かると――案の定、思いきり衝突して、べちっとはじき返された。
「さあ、今のうちに逃げるわよ!」
 あのゾンビ達、恐らく頭はよろしくない。アリスティア達を追いかけようと見えない水晶の壁にタックルを繰り返し、その度に身体のあちこちが衝撃でダメになっていってしまっている。
 放っておいても勝手に全滅するだろう。今は、奪還者達を安全な所へ。
 突然の出来事に呆気に取られている奪還者達に大きな声で指示を出し、我に返させたアリスティアは、そのまま出口まで奪還者達を導いていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ウィリアム・バークリー
これはまた大火事ですね。一つ試してみましょうか。
「全力魔法」「範囲攻撃」氷の「属性攻撃」「竜脈使い」でPermafrost。
この施設全域の床面を凍結させて、火災に対抗します。熱を急激に奪えば、炎も鎮まるはず。その間に、奪還者の皆さんに避難していただけば。

『スプラッシュ』抜刀。『ビーク』、戦闘準備!
ゾンビたちは遠距離からIcicle Edgeで対処します。
ゾンビたち、凍った床面ですっ転んでもらえませんかね? まあ、少なくとも攻撃の回避に支障が出るのは間違いないでしょう。

ぼくが氷柱を打ち込んだ後に『ビーク』が吶喊して、「吹き飛ばし」や「2回攻撃」でゾンビの数を減らします。

そろそろ引き上げますかね。




 奪還者救助として並行で消火活動が行われているが、激しい火の手は健在だ。
 未だに炎が大口を開けて物資やショッピングカートや、ワゴンやら。目に付く物を片っ端から、真っ赤な口の中に放り込んでいっている。
 しかし、幾ら非常事態とはいえ、焦ってしまえば元も子もない。
 半分近く火に呑み込まれつつあるスーパーマーケット部分をぐるりと見渡したウィリアム・バークリー(“ホーリーウィッシュ”/氷聖・f01788)は、頭の中で冷静に作戦を組み立てていく。
 もとより氷結魔法を得意とするウィリアムだ。自身の周辺に広がる炎を抑え込むことなど、彼にとっては朝飯前である。
「これはまた大火事ですね。一つ試してみましょうか」
 ウィリアムの呼び掛けに応えるようにして、突如とマーケット内に吹き荒れるのは――視界を奪う程の猛吹雪だ。
 マーケット内部全域を対象に繰り出される白き悪魔の行進は、施設の床を圧倒的な冷気で永久凍土へと変化させていく。
(「熱を急激に奪えば、炎も鎮まるはず」)
 猛吹雪が訪れたのは一瞬だったが、吹雪が去った後も、凍り付いた床と肌を刺すような冷気はその場に留まり続けている。
 吹雪は炎の侵略を押し返し――奪還者達の逃げる時間を作ることに成功しただろう。
「ビーク、戦闘準備!」
 主であるウィリアムの呼ぶ声に、勇ましい鳴き声が施設の外から響いてくる。
 鳴き声がマーケット内に木霊した瞬間からそれほど間を置かず、ウィリアムのすぐ隣にふわりとグリフォンのビークが降り立った。
 ウィリアムはルーンソード『スプラッシュ』を構えると、ビークの鳴き声に引き寄せられ、あちこちから姿を見せ始めたゾンビの群れに相対する。
 「ここから先は通しません!」
 ゾンビ達との距離がそれなりに離れているこの場では、一早く攻撃した者勝ちだ。疎らに姿を見せるゾンビ達に狙いを定めると、ウィリアムは氷柱の槍を放っていく。
 ウィリアムの魔法によって造られる氷柱の槍は、直接触れずとも傍に居るだけで、冷気のあまり身が凍えてしまうほど。
 そんな極めて低温の冷気を纏った氷柱の槍が一本、また一本を放たれ――壁に、床に。ゾンビ達を串刺しにしていった。
 氷柱の槍に胸部を貫かれたゾンビは、壁に磔にされて動かなくなり。氷柱の槍と共に氷像と化したゾンビは、ウィリアムに向かって手を伸ばす格好のまま、固まってしまっている。
「出口はあちらですよ!」
 ウィリアムとビークがゾンビ達を引き受けている間に、周辺で身を隠していた奪還者達が出口の方へと逃げ始める。
 奪還者達が避難していく様子を視界の端に捉えながら、ウィリアムは再びゾンビへと向き合った。
「ああ、そんなに急げば――まあ、そうなりますよね」
 奪還者達を逃がすまいと、走り出したゾンビもいたが……凍った床で体勢を崩し、その瞬間を見逃さなかったビークに吹き飛ばされてしまう。
 凍りついた床で足をとられ、思う様に動けないようだ。ウィリアムの放つ氷柱の槍は、面白いほどに命中した。
 氷柱の槍に囚われ動きを封じられたゾンビ達を、ビークが吶喊し次々にトドメを刺していく。
 氷に囚われてもなお、ゾンビ達は『ウガウ……ッ!』と抵抗を止めないが、動くだけの体力がある者も、ビークの鋭利な嘴と強靭な脚の前では無力だ。
「さて、そろそろ引き上げますかね。ゾンビももう、この辺りには居ないようですし。奪還者達の護衛でもしましょうか」
引き寄せられたゾンビを粗方討伐しきったところで、ウィリアムは「おいで」とビークを手招いた。
 ビークの背にひらりと飛び乗れば、奪還者達を出口まで安全に護衛する頼もしい騎士に早変わりだ。
 ビークの手綱を操って、ウィリアムは奪還者達がゾンビに襲われぬよう、彼らと共に出口を目指していく。

成功 🔵​🔵​🔴​

柊・はとり
◆■
危険を冒して一縷の望みに賭ける根性は嫌いじゃない
だがそういう役は死なない奴にでも押し付けとけ

天候操作とUCで消火優先
俺を呪う探偵の宿命がきっちり働く事を祈る
大洪水でも起きそうな豪雨が降り始めれば
後は殺人事件が起きる前に止めるだけだ

内部では聞き耳による追跡で救助対象の声を拾いながら
火の勢いを見つつ【第一の殺人】を使用
属性攻撃の吹雪で炎を相殺していく
人を巻き込まない程度に手加減

開かない扉や敵には鍵開けや切断で対処
小さな声も聞き逃さず
炎を強引に突破してでも救出に
特に火をつけた本人は
探偵の俺が助けないといけない
おい犯人
まさか死ぬ気じゃないだろうな

平気だ
誰も死なないし俺は死なない
だからあんたも生きろ




 窮地に立たされるほど、一発逆転のチャンスに賭けたくなるものだ。人間と言うのは、そのような存在だ。
 しかし、その賭けが狙い通りの結果を生み出すことは、殆ど存在しないと言って良いだろう。
 冷静になって考えてみればわかる。一発逆転のチャンスというものは、総じてリスクが大きすぎるのだ。
 結果ばかりに囚われてリスクのことを考慮しないから、失敗する訳で。
 しかし、と。柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は、そこで思考に一度ピリオドをつける。
「危険を冒して一縷の望みに賭ける根性は嫌いじゃない。だが、そういう役は死なない奴にでも押し付けとけ」
 例えば――自分のような、死んでも死なないような奴に。
 わざわざ一つしかない大事な生命を溝に放り投げる必要など、何処にも無いのだから。
(「俺を呪う探偵の宿命がきっちり働く事を祈る」)
 はとりに与えられたのは、探偵としての宿命だった。それは、呪いとも呼べる宿命で。
 犬も歩けば棒に当たる。はとりが出歩けば、殺人事件に遭遇する。己の宿命を嫌悪してもなお、事件ははとりへと降りかかる――まるで、無意識のうちに殺人事件を吸い寄せてしまっているかのように。
 はとりにとって、この宿命は忌むべきものだ。故に、犠牲者が出る前に事件を終わらせる。何があっても、絶対に。名探偵の名にかけて。
「後は殺人事件が起きる前に止めるだけだ」
 はとりの魔力と天候を操る能力に呼応して巻き起こるのは、大洪水でも引き起こしかねないほどの豪雨だった。
 篠突く雨が少しずつその身に宿す温度を下げて。やがて、豪雨はすべてを飲み込むほどの猛吹雪へと姿を変える。
 殺人事件の舞台は整った。後は、人が死ぬ前に止めるだけだ。
 巻き込まれた一般市民の避難は、仲間に任せよう。しかし、この商業施設に火をつける発端となった犯人だけは。
(「特に火をつけた本人は――」)
 盛大に壁を破壊し、マーケットの一部にめり込む形で横転している物資搬出用の大型トラック。これが全ての元凶であり、奪還者達の作戦を狂わせた大元なのだろう。
 トラックが爆発炎上したせいか、トラックを囲む火の手はその腕を高く高くへと伸ばし、腕に抱いた全てを黒い消し炭に変えていっている。
(「探偵の俺が助けないといけない」)
 代償は、自分自身の身体の一部分。代償が大きければ大きいほど、それに比例して吹き荒れる猛吹雪も激しさを増す。
 少し先の視界すら真白に覆われてしまう程の苛烈な吹雪は、激しく燃え上がる炎を包み込んでいった。
 吹雪が激しさを増すごとに、身体の何処かの感覚の無くなっていく。けれども、名探偵は死なない。死ねない、と言うべきか。死んでもまた、蘇るのだから。
「おい犯人、まさか死ぬ気じゃないだろうな」
 運転席から響いていた、ひしゃげたドアを叩くドンドンというくぐもった物音も、少しずつ弱く小さくなっているように思えた。
 ガソリンを燃料に燃え盛る炎が完全に鎮火するまで、もう少しかかりそうだ。今は炎の鎮火を待つだけの時間が惜しい。
 その身が火に晒されるのも厭わず、はとりは火の中に飛び込んだ。
「……も、オレ、死んで……。こんな、こんな火が……」
「平気だ。誰も死なないし俺は死なない」
 横転の衝撃でひしゃげたドアを魔剣『コキュートス』で切断させると、はとりは運転席を覗き込む。
 運転席には、男が一人、血塗れの状態で転がっていた。
 割れたフロントガラスを浴びて全身に傷が出来ているが、意識は保っているようだ。
「だから、あんたも生きろ」
 誰も死なない。死なせない。名探偵がこの場に存在している限り、誰一人として。
 仲間達を危険に晒した責任をとってトラックと心中、なんて言い出しかねない”犯人”を運転席から引きずり出す。
 男を背負い込んだはとりが向かうのは、施設外の安全地帯だ。仲間達も死なせない。だから生きろと、男に繰り返し伝えながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐】
あいにく夏報さん、放火はともかく消火は得意じゃない訳で
ここは人命救助に徹するか

『くちづけの先の熱病』
拾った刃物で手首を切って、まずは自分に不死性を付与
炎の中に突っ込んで、奪還者の人々にも釣星や銃を使って『攻撃』を仕掛け、同様に不死性を付与していく
もちろん無害な箇所を狙うし、彼らも嘘を吐いてる余裕なんかないでしょう
これで持ち堪えてくれれば……

いや、うん、こんなことしてりゃ当然ゾンビと間違えて反撃されるよなあ(逃げ足)
うわっ散弾銃はやめて散弾銃は洒落になんない――

あっホタルくん
見て見てこれゾンビのコスプレ
……なんて言ってる場合じゃないか
僕はいいから、この人たちの逃げ道作りをひとつ頼める?


風見・ケイ
【🌖⭐】

(転送時から螢に)
モールにゾンビは付き物だが、開幕からこの有様は飛ばしすぎだろ
俺は燃やすのは得意でも消すのは苦手――(ゾンビの頭を撃ち抜く)――でもないか

炎には耐性があるから、エスカレータの途中に陣取って狙撃
ゾンビにゃ二度撃ち《DOUBLE TAP》がルールだ
おい、散弾銃はゾンビ向きじゃねえぞ、――ッ(銃を撃ち落とす)

まーた滅茶苦茶やってんな夏報
……コスプレっつーのはガワだけのはずだろ
ったく、放っておくと慧が飛び出そうだ
OK、出来るかわからんがやってみよう

『がらくた集め』
水鉄砲じゃねえか!
ポンプレバーを動かして引鉄を引けば、炎もゾンビも消し飛んで、
……よし、道が開けたな(目を逸らす)




 ショッピングモールと言えば、ゾンビ。ゾンビと言えば、ショッピングモール。
 だがしかし、目の前の光景はゾンビものにありがちな、最初の異変だのパンデミックの起きる過程だのを描いた序盤を吹っ飛ばして、いきなりクライマックスなのではないか。
「モールにゾンビは付き物だが、開幕からこの有様は飛ばしすぎだろ」
 ゾンビものにありがちな、拠点の侵略、炎上、自動車の横転、追いかけっこなどなどが一度に引き起こると、丁度目の前のようなカオスな光景が出来上がる。
 三流と称されるチープな映画でも、まず採用しないであろうこの状況。
 時期外れなパーリーナイを全力で楽しむゾンビから気配を隠しつつ、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)は複雑な表情を浮かべる。
「俺は燃やすのは得意でも消すのは苦手――」
 転移と共に、ケイの人格は螢に切り替わっていた。
 挨拶代わりに飛び掛かってきたゾンビの眉間を、反射的に撃ち抜いていた螢。
「――でもないか」
 消すのは苦手だと思っていたが、どうにもそうでは無いようだ。
「あいにく夏報さん、放火はともかく消火は得意じゃない訳で」
 螢の隣で、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)もまた、好き勝手に振舞う炎を若干遠い目で見つめていて。
 うん。放火は灯油や……勿体ないが、度数の高いお酒なんかを適当にぶちまけて火でも放てば、それだけで終わる訳で。後は勝手に周囲の物を巻き込んで、激しく燃え上がるから。
 けれども消火は、放火のように簡単な話ではない。
「ここは人命救助に徹するか」
 ここはもう一方の人命救助に徹した方が上手くいく。
 そう判断した夏報は、近くに落ちていたナイフを拾い上げる。奪還者の誰かが逃げる最中に落としていったものだろう。
 ナイフを拾い上げた夏報は、その刃を自身の手首に宛がうと――躊躇いなく切り裂いた。
 ナイフに付着した鮮血がポタポタと滴り落ちるが、夏報は興味無さげに刃を二、三度振るい、纏わりついていた血液を振るい落とす。
 先程の唐突な自傷行為とも捉えられかねない攻撃は、能力を発動させるためのきっかけに過ぎない。
 自身の能力によって不死性が付与された身体。これで夏報は、死ぬことが無くなった。
 不死性が付与されたことを確認した夏報は、燃え盛る炎の中へと真っ直ぐに突っ込んでいった。その足取りに、少しの躊躇いも見せぬまま。
 立ちはだかる炎の壁や波を物ともせずつき進めば、極彩色が揺蕩う炎の海の真ん中に、取り残されている奪還者達の姿があった。
「これで持ち堪えてくれれば……」
 商品ワゴンに乗って炎の手招きをどうにか凌いでいる状態だが、このままでは炎の海に落下するのも時間の問題だろう。
 そう判断した夏報は、奪還者達に『攻撃』を仕掛け、不死性を付与させていく。
 戦闘用フックワイヤー『釣星』を操り引っ掻き傷をつけたり、腕を掠める程度に銃で撃ったり。
 手首、足、皮膚の表面。狙うのは無害な箇所ばかりだ。動きに支障が出ては困るから。
 実のところこの不死性は、嘘を吐くたびに、激痛と共に粘膜を灼く呪詛の炎に蝕まれるのだが……。
(「彼らも嘘を吐いてる余裕なんかないでしょう」)
 言葉遊びに興じている暇はないのだ。だから、心配は不要だろう。
「撃った傍から湧いてきやがるな……」
 夏報が炎の海の真ん中で人命救助に奔走している一方で、螢はエスカレータの途中を堂々と陣取って狙撃に専念しているところであった。
 炎が容赦なく螢の髪を擽り、こちらにおいでとしきりに手招きを繰り返しているのだが。生憎、炎に耐性を持つ螢には、そんなお誘いも効果が無い。
 周囲よりも高く、三百六十度見渡せることが出来るエスカレータの中腹は、実に狙撃手向けの立地であった。
 気配を消して、エスカレータから視認できるゾンビに照準を当てて。
 引き金を引けば、銃口から放たれた銃弾がクリーンヒット。そう間を置かずに、頭を穿たれたゾンビが床に倒れ伏す。
 しかし、そこで安心する螢ではない。
(「ゾンビにゃ二度撃ち《DOUBLE TAP》がルールだからな」)
 倒したと思って倒しきれなくては困る。確実に仕留めるためにも、一発目が命中したところに螢はすかさず二発目を撃ち込んだ。
「いや、うん、こんなことしてりゃ当然ゾンビと間違えて反撃されるよなあ」
 手にはワイヤーフックと銃。炎の海を歩いてもへっちゃらで、血と灰に塗れつつある夏報が――奪還者達にゾンビと間違われるのは、おかしくない話だった。
 不死性を与えるとはいえ、奪還者達に『攻撃』もしていたのだから。
「うわっ。散弾銃はやめて散弾銃は洒落になんない――」
 ワゴンの上の奪還者の一人が散弾銃を構えたのを確認した夏報は、慌てて螢の近くまで撤退していく。
「おい、散弾銃はゾンビ向きじゃねえぞ、――ッ」
 そして、螢も散弾銃を構えた奪還者を見逃してはいなかった。
 狙いは今すぐにでも散弾銃をぶっ放そうとしてた奪還者の一人。手元に狙いを定めて、的確に散弾銃を撃ち落とす。
 散弾銃が最大の威力を発揮するのは50メートル辺りが限度だ。弾の装填にかかる時間が比較的に長く、弾数も少ない。ゾンビ向きとは言えない。
 それに、夏報が散弾銃の餌食になってしまうのが許せない。それだけの話だ。
「まーた滅茶苦茶やってんな、夏報」
「あっホタルくん。見て見て、これゾンビのコスプレ……なんて言ってる場合じゃないか」
「……コスプレっつーのはガワだけのはずだろ。ったく、放っておくと慧が飛び出そうだ」
「僕はいいから、この人たちの逃げ道作りをひとつ頼める?」
「OK、出来るかわからんがやってみよう」
 血やら灰やらに塗れたまま、がおーっとポーズをとってみせる夏報。散弾銃で撃たれそうになっていたことすら、スリリングな遊びと捉えていそうだ。
 能天気なゾンビ達に紛れてパーリーナイを楽しむ夏報を、螢は呆れた視線で射抜いていた。
 夏報に呆れつつも、頼まれ事はキッチリとこなす螢である。
 能力を発動させて、玩具の兵器を召喚させてみれば……。
「――って、水鉄砲じゃねえか!」
 カラフルなプラスチックが目を惹いて、ディフォルメされた可愛らしいながらも凶悪そうなボディ。おまけに、タンクを背負う形のかなり本格的なヤツだ。
 そう、それは何処からどう見ても水鉄砲で――思わず、螢も全力で突っ込んだ。
 物は試しだが、半信半疑。ポンプレバーを動かして引鉄を引けば。
「……よし、道が開けたな」
 水鉄砲で炎もゾンビも面白いほどに吹き飛んだ。ワゴンの上に取り残されていた奪還者達も、無事に避難を始めていく。
 水鉄砲でゾンビも炎も消せてしまったという事実に、螢はそっと目を逸らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム
まずは鎮火をしなければなりませんね
水の【属性攻撃】を込めたディアボロスでの
【なぎ払い】を何度も打ち込み、

水で火を散らしていきましょう
効果的であれば、属性攻撃を風も加え打ち込みます

そうしながらも、奪還者さんたちを探しますね
もう大丈夫です!私たちが助けに来ました――

追いかけるゾンビ等は蹴散らしましょう
私は戦士。【覚悟】と共に戦う者
怯むことはない

【衝撃波】で多くのゾンビを巻き込むよう
【力溜め】た【鎧砕き】の攻撃を打ち込みます

敵からの攻撃は【オーラ防御】ではじき、
奪還者さんたちへの攻撃は必要あれば【かばう】
タフなゾンビがいれば、《轟鬼羅刹掌》で沈黙させます

余裕あれば、【怪力】を生かし物資の運搬をします




 猟兵達の活躍により、炎の勢いも弱まってきていた。並行して行われている奪還者達の救助活動も順調だ。
 マーケットの大炎上が収まるまで、あともう一押しというところだろう。
 しかし、荒ぶる炎を完全に鎮火させなければ、残った火種から再び炎上してしまうかもしれない。
「まずは鎮火をしなければなりませんね」
 炎が弱まっている今のうちに、追撃を重ねられたら効果的だろう。
 仲間達の後に続くべく、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は大型武器『ディアボロス』に水を纏わせると、草刈り宜しくあちこちへと貪欲に手を伸ばす火の腕を薙ぎ払ってかき消していく。
 一度で火の手が弱まったと、油断はせずに。二度、三度と薙ぎ払いを撃ち込んでいけば、『ディアボロス』を振るった場所一帯が完全に鎮火された。
 自身の周囲が鎮火されたら、今度は少し離れたところを。
 風も加えて、少しでも広範囲に水が届くように。ユーフィは『ディアボロス』を握り直す。
「もう大丈夫です! 私たちが助けに来ました――」
 炎を切り裂いて道を作りながら、レジやラックの真下、物陰に、逃げ込めそうな奥まったところまで。
 逃げ遅れた奪還者達が残っていないか、詳しく探していく。
 そうしてマーケット内を哨戒していたところ、ユーフィの耳にドタバタと慌ただしく走る複数人の足音が届いた。
 行く手を阻む炎を持ち前の怪力を生かして叩き斬って、通路に散乱したダンボールや崩れた棚を薙ぎ払い、最短距離で駆け付ければ――ゾンビの群れに追いかけられ、逃げ惑う奪還者達の姿があった。
(「私は戦士。覚悟と共に戦う者。怯むことはない」)
 煙を吸い込み、咽ながらも奪還者達の足が止まることは無い。ゾンビと奪還者の間にその身体を割り込ませたユーフィは、挨拶代わりの一閃を放った。
 溜められていた力が、一斉に解き放たれる。ユーフィの持つ腕力と大型武器特有の重量を生かし、手加減も無しに繰り出された激しい横薙ぎは、一陣の突風となってゾンビ達を吹き飛ばした。
「タフなゾンビもいたものですね」
 あるゾンビは頭からダンボールの山に突っ込み、またあるゾンビは火の海の真ん中まで吹き飛ばれ――その姿が黒く焼かれて、ボロボロと崩れ落ちていくところまでは確認できた。
 しかし、生前の身体のせいか、突然変異でも起こしたのか。よろめきながらも、ユーフィの攻撃を耐え抜いたゾンビもいたようで。
 タフなゾンビに対しては、体勢を立て直される前に鬼の力を宿した拳をゾンビの頭部に叩き込み、完全に沈黙させた。
「さて、周囲にゾンビも確認できなくなりましたね。物資の運搬でもしましょうか」
 ユーフィが切り開いてきた道は、この地点から出口まで一本道で続いている。元来た道を辿れば良いだけの話だ。
 怪力を生かし、一度に沢山の物資を抱え込んだユーフィは、よろめくことも無く元来た道を辿り始める。
「あの、先ほどはありがとうございました……! 私たちも、運搬のお手伝いを……!」
 ユーフィに助けられた奪還者達も尊敬の眼差しで彼女を見つめ、口々にお礼を告げた後、持てるだけの物資を持って撤退を始めていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高吉・政斗
◆■
今回は戦車型(FECT)で突入、結構大きいねココ。
徒歩で移動しながら索敵すっか…って見つけたよ例の奪還者…ってゾンビも入んじゃん、いっぱい入るじゃん…もう物資確保の邪魔。

…なので群がってるゾンビ共をホイと一発ずつ、序に例の奪還者にも一発。
…サテ労働力の確保完了。コイツらには働いてもらう。
(入力機を使い)

・奪還者
捕り合えず持てるだけ物資を牽引車に詰め込んで乗ってね。
・死体連中
彼(奪還者)をあらゆる脅威から守れ。

物資の運び出しは任せな~さいっと。
戦車型で来てるからね?大きくて長い牽引車つけてるからね?
ソコに物資やら序に負傷者もとやらも突っ込んで置けっと。
まぁ殿と魁は俺とFECTに任せてなっと。




 複合商業施設と言うこともあってか、スーパーマーケット部分だけでもそれなりの面積を占めていた。
 手元の日に焼けた案内パンフレットを拾わなければ、迷ってしまうかもしれない。
「結構大きいねココ」
 恐らく、かなり昔に此処へ忍び込んだ奪還者が、改造バンか何かでぶち開けたのだろう。
 ……そして、誰一人戻らなかった、と。壁の大穴の横に、錆びた改造バンが止められたままだったのだから。
 そんな、先人たちがぶち開けた大穴から通称FECTと呼んでいる鉄鋼製可変形戦闘車――今回は、戦車型だ――で、内部に突入した高吉・政斗(剛鉄の戦車乗り・f26786)は、目の前に広がるマーケット内部と案内パンフレットを照らし合わせていた。
「徒歩で移動しながら索敵すっか……」
 奪還者達を捜索して、物資を運搬するためにも、マーケット内部を探索しなければ意味が無い。
 弱まる火の手に「探索に専念できそうかな」と思いつつ、政斗はマーケット内部を歩いて行く。
「って見つけたよ。例の奪還者……」
 と、マーケット内部に侵入してそれほど経たずに、前方からなんか賑やかな一団が向かってきていることに気が付いた。
 カートをぶつけ、棚を倒し、商品を投げつけて。生き延びてやると全力疾走で逃げる奪還者の男に、その男を追いかける大量のゾンビの群れ。
「ってゾンビも入んじゃん、いっぱい入るじゃん……もう物資確保の邪魔」
 これだけのゾンビをトレインできるのも、ある種の才能なのだろうか。
 勝手に周囲をウロウロされる分には構わないが、襲い掛かってくるのだから、物資確保と救出の邪魔でしかない。
「労働力としては役に立ちそうだけどさ」
 数が多い上に、そのままでは邪魔なだけ。ならば、役に立ってもらえば良い。
 政斗は銃を構えると、精神・電子操作機械装置弾生成機能が銃の口径に合わせて――極小針型のアンテナ弾を生成していく。
 結果的とはいえ、男が良い感じに囮になっている。こちらに辿り着く前にゾンビの群れに一体一発ずつアンテナ弾を撃ち込むことに、さほど時間はかからなかった。
「オレは絶ッ対に! 捕まらないからな!!」
「あー……。おーい。そっちは炎が……」
 残るは例の男だが、ゾンビに追われ続けていたせいか、テンション・ハイを決め込んでしまっているらしい。
 政斗の制止も聞く耳を持たず、ゾンビから逃れるために炎の海にダイビングを決めそうだったので、すかさず一発お見舞いしておいた。
「……サテ労働力の確保完了。コイツらには働いてもらう」
 全てにアンテナ弾が着弾したことを確認すると、政斗は入力機を使って男とゾンビに指示を出す。
「物資の運び出しは任せな~さいっと」
 男には持てるだけ物資を持ってもらい、牽引車に乗るだけ詰め込んでもらった。
 ゾンビ達には、男の護衛を命じる。あらゆる脅威から、彼を守るようにと。
「って、言った傍から」
 倒れてきた棚に押し潰されそうになった男を、ゾンビ達が救い出す。
 護衛をつけていたことは正解だったようだ。政斗はため息を吐きつつ、手の空いているゾンビに物資の運搬や負傷者の探索を新たに命令した。
「ソコに物資やら序に負傷者もとやらも突っ込んで置けっと」
 ありとあらゆる物資に、動けずに蹲っていた数人の負傷者。
 長い牽引車の中は、たちまち物や人でいっぱいになった。
「そろそろ良いかな。まぁ殿と魁は俺とFECTに任せてなっと」
 最後に男が乗り込んだことを確認すると、政斗はFECTのエンジンをかける。
 物資確保も負傷者の救出も、どちらも上々の結果だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

丸越・梓
◆■

奪還者の救出を最優先に行う。

事前に地図を確認できるのならば頭に叩き込み
パニックになっている奪還者がいれば冷静に宥めつつ、
火に呑まれかけている奪還者が入れば自身の危険も厭わず退路を確保しながら迷わず飛び込もう。
彼らの救助に加え、奪還者を連れ逃げる最中に物資の回収も忘れず

この手が届く限り、否無理やり届かせてまで一人でも多くのひとを助ける。

また、ゾンビの群れから奪還者たちを身を挺して庇う。
火に関してはスプリンクラー等あればいいんだが…。
自身で事前に地図を確認できなかった場合には此処で奪還者達に内部構造を尋ね
彼らは安全な場所で待機させてからスプリンクラー等鎮火装置を起動させに走る




 今はゾンビの巣食う廃墟と化してしまったこの商業施設も、かつては沢山の人々で賑わうとても活気に満ちた場所だったに違いない。
 商業施設の出入り口には、文明崩壊前と変わらずに、案内パンフレットがひっそりと佇んでいた。
 すっかり日に焼けて皺になってしまった案内パンフレット。もう手に取る人物などいないというのに、これからも客を待ち続けて、日々を過ごしていくのだろう。
(「……誰一人として」)
 そんなうちの一つを手に取った丸越・梓(月焔・f31127)は、短期間のうちに隅から隅までマーケット部分の地図を叩き込んだ。
 内部の造りを把握しておいた方が、救助の際に動きやすい。それに、地図には避難経路や鎮火設備が記入されているのだから。
 地図を頭に叩き込んだ梓は、マーケット内部へと静かに足を踏み入れた。仲間達により火災は徐々にその勢いを無くしていっていたが、内部にはまだゾンビが巣食っている。
 逃げ遅れた奪還者が居るのなら、絶対に助け出さなくては。
(「この手が届く限り――否、無理やり届かせてでも」)
 多少の無理など、もとより想定内の範囲だ。そこに助けを求める人物がいる限り、梓は地を這ってでも救出に向かうのだろう。
 孤児院の弟妹。或いは、警察官として伸ばした手が届かず、指先を掠めて落下していた幾つもの命。かつて、救えなかった生命に対する、せめてもの罪滅ぼしだというように。
 ――これで己の罪が消える訳ではないことは、梓自身、重々理解している。
「囲んでいたゾンビは全て討伐した。だから……降りて来い」
「僕は降りない……! 降りないからな!? ゾンビに食われるくらいなら、焼け死んだ方がマシだっ!!」
 何処をどうやってしたら、“そこ”まで辿り着いてしまえるのか。
 全く持って不可解でしかないが、現にそれを達成してしまったのだから仕方がない。
 天井近くまである、背の高い商品棚。その天辺までよじ登り、一向に降りようとしない青年に梓は真摯に説得を続けていた。
 喚き散らすせいでゾンビを大量に引き寄せてしまっていたところを梓が発見した。それは、今より少し前の話だ。
「だから! ゾンビがっっ!!」
「ゾンビなら――もう、大丈夫だ。仮に襲撃があっても、俺が護る」
 だから降りてこい。
 先ほど、己の身も顧みず果敢にゾンビの群れに飛び込み――その身一つで、勝利を収めた梓。
 拳銃を手に静かに告げる梓に、ようやく落ち着きを取り戻したのか、青年はこくりと頷いた。
「――危ないところだったな」
 商品棚によじ登っていた青年だけではない。
 火に呑み込まれかけている奪還者を見つければ、迷うことなく火に飛び込み、その身を間一髪のところで助け出した。
 奪還者達を出口まで先導し、動けない者は背負って運び。帰路の最中に、物資の回収も忘れない。
 まるで見えない何かに突き動かされているかのように。梓はその身が傷付くのも厭わず、人命救助に奔走していた。
「スプリンクラー等あればいいんだが……」
 助け出した奪還者達全員を安全な施設の外まで運んだ梓だったが、それで休む彼ではない。人命救助の後は、消火活動だ。
 長年放置され破損しているのか、反応の無い感知器やスプリンクラーの類は諦め、梓は他の鎮火装置を起動させるためにマーケット内部を走り回る。
 防火シャッターは錆び付いていたが、力に物を言わせて無理やり降ろした。使用期限の切れていなかった消火器を用いて、残っている火種を完全に鎮火させて回る。
 少しでも誰かが傷付く可能性がある限り。梓はその手を差し伸べ続けるのだろう。“嘗て”に想いを馳せ、力の及ばなかった己を責めながら。
 ――猟兵達の活躍により、火災が鎮火したのは、それから少しした時分のことだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シル・ウィンディア
あらま、ゾンビさん達沢山だね…
さて、がんばりますか!

普通のゾンビや動物ゾンビなら動きに注意して対応できるよ
フェイントをかけつつ、残像で攪乱回避してから
光刃剣と精霊剣の二刀流で斬り裂いていくよっ!

ふぅ、これくらいならまだまだいけるよ
…え?ちょ、ちょっと待って、こんなのゾンビになるのっ!?

大きな虫さんゾンビ…

大きな虫?

…やだーーっ!こっち来ないでーっ!!(虫が大の苦手)

涙目になりつつ
腰部の精霊電磁砲の誘導弾を乱射しつつ…

高速詠唱で隙を減らして、多重詠唱で術式強化しつつ魔力溜め
全力魔法で限界突破した、エレメンタル・ファランクスっ!

影も形も残らず消えちゃえーーっ!!

…はぅ、こ、こわかったよぉ~




 ショッピングモールと言えば、吹き抜け。吹き抜けと言えば、ショッピングモール。
 その例に漏れず、この商業施設も一階から三階までをドドン! と盛大に吹き抜けが貫いていた。
 三階からちょっとした広場兼ステージを担っている一階部分を覗き込めば、数えきれないほどのゾンビさんがワラワラワラ……。
「あらま、ゾンビさん達沢山だね……」
 現場把握の為に気配を殺して、三階から施設内全域の様子を伺っていたシル・ウィンディアだったけれど、想像以上のゾンビさん密集具合にちょっとばかり引いていた。
「さて、がんばりますか!」
 気合を入れ直したシルは、気配を殺したまま三階を彷徨っているゾンビに向かっていく。
 ゾンビが微かな気配に気付いて後ろを振り返った瞬間を狙い、シルは光刃剣を振り下ろした。
 ゾンビの身体を大きく斬り裂いてまずは一撃! 間髪置かずに精霊剣による追撃で横薙ぎをお見舞いすれば、声を出す間もなくゾンビは床に崩れ落ちる。
「まずは一体っと」
 順調な滑り出しをみせたシルは、そのまま三階を我が物顔で彷徨うゾンビ達を斬り裂いていく。
 大声を張り上げたり、瓦礫の欠片を遠くに投げたりしてフェイントをかけてから、不意をついて両手に持った愛用の剣でバッサリと。
「ふぅ、これくらいならまだまだいけるよ」
 何体目からのゾンビを斬り裂いたシルは、ふと誰かに見られているような、微かな視線を感じた。
 まるで、自分が隙を見せる瞬間を今か今かと待ち侘びているような……。
「……え? ちょ、ちょっと待って、こんなのゾンビになるのっ!?」
 一度違和感に気付いた以上、放っておくことはできなくて。
 恐る恐る視線をする方を向けば、そこにいたのは。
「大きな虫さんゾンビ……」
 とうの昔に枯れ果てた観葉植物の陰に隠れるようにして。
 一階から三階。かなり距離があるのにも関わらず、じいっとシルのことを見つけている――……気がする。
 いや、違う。気がするんじゃない。確かにじっと見つめている。
 黄色と黒のツートンカラーに、赤茶色の液体が付着した大きくて凶悪な顎。茶色かかった半透明の翅はちょっとやそっとじゃ破けないだろうし、御尻の毒針は静かにその存在を主張している。
「……大きな虫?」
 そう。それはとっても大きなスズメバチのゾンビ。
 そのままじっと見つめてみれば、向こうもじっとシルのことを見つめてくる。こてんと首を傾げれば、あっちも同じような動作をして。
 少し覗き込むようにすれば、あっちもぐっと顔を乗り出してきた。
 そして、数秒かもしれないし、数時間だったかもしれない、微妙な沈黙が突然去ったかと思うと――大きく翅を広げて、真っ直ぐこっちに向かって飛んでくる。
「……やだーーっ! こっち来ないでーっ!!」
 スズメバチゾンビが一直線に飛んできたことで、シルは漸く我に返った。
 実は、シルは虫が大の苦手。それこそ、小さなアリさんでもダメ。それが何十倍も大きくなって襲い掛かってこれば、全力逃亡も仕方ないこと。
 それに嫌な予感が正しければ、スズメバチゾンビさん、わたしの顔に止まる気でいる!?
「エレメンタル・ファランクスっ!」
 ゾンビに気付かれないようにとか、施設が壊れないようにしなきゃとか、そういうことはすっぽりと頭の中から抜け落ちていた。
 ほんの少しでもスズメバチゾンビさんに触れられたくない!
 その一心で展開されていくのは、吹き抜け全部を覆ってしまうほどに強大な魔方陣。
 緻密で繊細な紋様が瞬く間に輝く光で織られていって――そこから放たれるのは、シルの全力魔法だ。
「影も形も残らず消えちゃえーーっ!!」
 火の勢いが一際強いのか、真っ赤な色に染まった魔力砲撃。
 太陽が落ちてきたのかと錯覚してしまうほど、赤く眩しい光の暴力だ。
 一直線に放たれたそれは、飛んできたスズメバチのゾンビさんを丸呑みにするだけでは留まらず、周りに居たゾンビさん達も次々に呑み込んでいく。
「……はぅ、こ、こわかったよぉ~」
 魔力砲撃が全てを焼き払っても、安心はできない。
 上、下、左右をぐるりと見渡して。スズメバチのゾンビさんが居ないことを確認してから、シルは安堵感からへたり込む。
 何だか色々とやり過ぎてしまった気もするけど……スズメバチのゾンビさんは、灰すら残らず消し飛んだから、ひとまずは一安心?

成功 🔵​🔵​🔴​

黒木・摩那
◆■
奪還者の救出も終わって、次はいよいよここに巣食うゾンビ達の大掃除です。

しかし、さすがはゾンビ。奪還者殺しというだけあって、数が尋常じゃないですね。見渡す限りのゾンビです。
普段ならば敵の懐に飛び込んで範囲攻撃と行きたいところですが、ゾンビ相手にはやりたくないですね。

ここはこちらも数で対抗しましょう。

UC【炎兵召喚】を使います。
ファイアーアント呼び出し、蟻を整列させて、ゾンビを焼き払います。

汚物は消毒だっていうじゃないですか。

せっかく消火したばかりで、また火事にしたら怒られてしまいます。
お掃除が終わったら、蟻達には防火壁を作ってもらって延焼を防ぎます。


鳳凰院・ひりょ
◆■

よし、戦いやすい広い場所で多数のゾンビを相手に戦おう!
広くて周囲を破壊しないように気を配る心配が少ない所なら思いっきり戦えるだろう

こっちが見つけにくい敵へも対応が出来るUC絶対死守の誓いを使って迎撃戦だ!キャバリアと契約した際に、光と闇の疑似背霊に力を貸してもらえるようになった!その力を今ここで!

これなら相手がこちらの闇の波動の射程圏内に入れば攻撃を開始するからね
奇襲対策にもなる
敵を全滅させて、これ以上この場での被害が増える事のないようにするんだ!

とはいえ、闇の波動で大暴れしまくるのは施設への被害が心配だ
敵に【捕縛】効果を付与するに留めて、身動きの取れない敵を【破魔】付与の刀で無双しよう!




 塵も積もれば何とやら。
 ゾンビも積もれば……考えたくはないが、みっちりとひしめき合う訳で。
 一年分だけじゃあ済まされない。恐らくは、何年分かのゾンビさんが溜まりに溜まっているこの商業施設。
 商業施設全域の大掃除が完了すれば、とても達成感があることだろう。
「しかし、さすがはゾンビ。奪還者殺しというだけあって、数が尋常じゃないですね」
 『奪還者殺し』の異名は伊達ではない。
 オブリビオン・ストームに呑み込まれた際に不幸にも商業施設にいた一般人に加え、今までこの廃墟の餌食になってきた奪還者達。鼠算式に増える一方のゾンビ達の総数は、恐らく三桁に到達していることだろう。
「見渡す限りのゾンビです」
 みしっとひしめき合っているが、見えているだけが全てではない。暗がりに、家具や商品の下に。一体いれば百体いる。そう思わなければならない。
 黒光りするアレとゾンビの思わぬ共通点を発見してしまったことに多少げんなりしつつも、ゾンビを射抜く黒木・摩那の瞳に宿る闘志は衰えを見せてはいなかった。
「そうですね。潜んでいる敵にも注意しないと……」
 壁の角に隠れていた鳳凰院・ひりょもまた、摩那の言葉に相槌を返す。
 二人がじっと息を殺して観察しているのは、少し離れた先にある一階のちょっとした広場兼ステージになっている催事会場だ。ライブの途中だったのか、破れた横断幕や、ステージマイクが隅に転がったまま放置されている。
 遮る物も少なく見通しの良い広々としたあの場所は、思いきり戦うにはうってつけの場所だった。
 ライブの最中でゾンビと化してしまったのだろうか。ステージ周辺にたむろするゾンビの数が妙に多いのは、それが原因なのかもしれない。
「普段ならば敵の懐に飛び込んで範囲攻撃と行きたいところですが、ゾンビ相手にはやりたくないですね」
「同感です。何の感染症を持っているかも分かりませんし、ゾンビに食われる趣味は無いですから」
 血やら灰やら、後は何やらよく分からない液体に塗れた彼ら。あと、見間違いじゃなければ、身体にハエみたいな何かがウゴウゴしてるし、菌類っぽい何かを生やしてるゾンビもいた。
 普段ならば敵群のど真ん中に飛び込んで無双する摩那も、今回ばかりは躊躇った。
「ここはこちらも数で対抗しましょう」
 そう言うが否や、摩那はファイアーアントを召喚させる。
 呼び掛けによって地中から出てくるのは、子馬サイズのファイヤーアント達。
 唐突にはい出たファイヤーアント達に、ゾンビ達はゆらゆらとそちらの方向へと引き寄せられていた。
 こちらへと引き寄せられるゾンビに構うことなく、呼び出したファイヤーアントを一列にずらっと整列させた摩那が、「では」と短く命じれば。
「汚物は消毒だっていうじゃないですか」
 仔馬サイズのアント達が一斉に顎を開けば、瞬間、吐き出されるのは激しい熱気の孕んだ炎の流れ――火炎放射だ。
 先程までスーパーマーケット部分で好き勝手に振舞っていた炎の悪魔が、今再び姿を得てこの場に現れた。
 一列にならんだアント達によって、押し寄せる炎の壁となった火炎放射。幾ら感覚が無い分火に鈍いゾンビとは言えど、それでも限度がある訳で。
 壁と化して襲い掛かってくる千度を超えた紅色の激流に、アントに興味を抱いた哀れなゾンビ達は一瞬で呑み込まれた。
「あのゾンビ達が一瞬で……。ですが、俺も負けてませんよ!」
 アント達の火炎放射により一瞬で黒い消し炭と化したゾンビ達を視界の端に収めながら、ひりょもまた光と闇の疑似精霊に呼びかけていた。
 先の一撃でゾンビ達がこちらに気付いたらしい。ゆっくりとだが、吸い寄せられてきている。そうなれば、もとよりひりょの作戦であった迎撃戦の出番だ。
「キャバリアと契約した際に、光と闇の疑似背霊に力を貸してもらえるようになった! その力を今ここで!」
 ひりょの呼び掛けに応えてその姿を現したのは、光と闇の疑似精霊達だ。
 契約したキャバリアと同じく、光の疑似精霊は天使の片翼を、闇の疑似精霊は悪魔の片翼をその背に生やしている。
 光の疑似精霊はファイヤーアント達の背後につき、ゾンビ達と戦うアント達の回復を。闇の疑似精霊はステージ上を旋回するように飛行して、物陰に隠れたゾンビを発見するなり闇の波動を放っていった。
「これなら相手がこちらの闇の波動の射程圏内に入れば攻撃を開始するからね」
 上階から落下してくるゾンビに、ステージの床を突き破るゾンビに。感覚が無い故の奇想天外な不意打ちや奇襲に対しても、闇の疑似精霊達はひるまない。
 一度彼らに発見されたら、その瞬間が終わりだ。
「あと、奇襲対策にもなる」
 ひりょの背後から迫り来ていたのは、小柄な地を這うゾンビ。
 小柄で音を立てないせいで見つけにくいが、上空からは丸見えだ。ひりょの合図と共に、闇の波動が小柄なゾンビを撃ち抜いた。
「敵を全滅させて、これ以上この場での被害が増える事のないようにするんだ!」
 潜伏しているゾンビは想像以上に居るようで、広場のそこかしこから闇の波動が放たれている。
 全滅させておきたいところとはいえ、闇の波動で大暴れしまくるのは施設への被害が心配だった。
 闇の波動でその場に敵を縫いつけて、捕縛する程度に留めるようにひりょは闇の疑似精霊へと伝えて。
「その調子ですよ。そのままガブリと」
 闇の波動によって身動きがとれなくなったゾンビ達を、摩那の指揮の下アント達が頭を噛み砕き或いは、消し炭へと変えて葬り去っていく。
 捕縛されたゾンビ達も抵抗として手を伸ばたり、噛みついたりしてするお陰で、アント達に傷が出来るが――光の疑似精霊達が瞬く間に癒していった。
「これ以上の被害は押さえたいからね。喰らえ!」
 破魔の力が宿った刀を抜刀したひりょもまた、身動きの取れないゾンビ達を斬り倒していく。
 首筋をスッパリ斬り裂かれたゾンビに、等間隔で斬り刻まれたゾンビ……の、欠片に。ひりょの駆けた後には、ゾンビの骸しか残らない。
「どうやら、残りは先のゾンビで全てみたいですね」
「終わりましたね。お疲れ様です。――そうでした。せっかく消火したばかりで、また火事にしたら怒られてしまいますね」
 乱戦が終息した広場に立つのは、摩那とひりょの二人だけだ。他にはゾンビだった破片と、アント達の放った火が少し燻っていた。
 再び火事にしては怒られると、アント達が防火壁を作っていく。
 広場に密集していたゾンビは殲滅させたが、他の場所にはまだいるのだろう。火が完全に鎮火するまでの間、二人は暫しの休憩をとるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
このゾンビたち、オブリビオンでいいんですよね? いや、あまりにも他で見るオブリビオンと違うので。

皆さんが戦っている間に、攻撃の準備を進めます。

『スプラッシュ』に影朧エンジンとスチームエンジンを接続。トリニティ・エンハンスで攻撃力アップ。Spell Boost。魔導原理砲『イデア・キャノン』に仮想砲塔展開。積層立体魔法陣起動。Mode:Final Strike! Idea Cannon Full Burst! 「高速詠唱」「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「衝撃波」も上乗せして、Elemental Cannon, Fire!!

皆さん、ちゃんと避けてくださいね? 巻き込まれたらごめんなさい!




『アアァァ……』
『ウ、ア……』
 身体から流れる血液に、生気の感じられない肌、伸ばされる手。来ている服も、その表情も。
 多少の違和感に目を瞑れば、それは“人間”そのものの姿をしている。
 竜や幻獣、魔物に実体を持たないもの達。オブリビオンには、人型以外の容姿を持つものも数多く存在している。
しかし、目の前に群がるゾンビ達は死んでいることを除けば、“一般人”であることに違いないのだ。
「このゾンビたち、オブリビオンでいいんですよね?」
 ウィリアム・バークリーの口から、思わず零れ落ちる疑問が一つ。
 目の前のゾンビ達は、本当にオブリビオンなのだろうか。オブリビオンに操られているただの死体や、未知の感染症・寄生虫に寄生された犠牲者と説明された方がしっくりくる気もするのだが……。
 しかし、紛うことなく目の前に居るゾンビ達は「オブリビオン・ストーム」によって蘇ることになったオブリビオンなのだ。死体を放置すると高確率で新たなゾンビになるため、この世界では火葬が推奨されている。
「いや、あまりにも他で見るオブリビオンと違うので」
 ゾンビの他にも変異したラットだったり、暴走ロボットだったり。この世界は、一風変わったオブリビオンも多い。
 「オブリビオンだ」と答えた仲間の回答に若干の驚きを露わにしつつも、ウィリアムは攻撃の準備を進めていく。仲間達がゾンビの注目を引き付けている今が、絶好のチャンスなのだから。
 ルーンソード『スプラッシュ』に接続させるのは、影朧エンジンとスチームエンジンだ。更にそこに、トリニティ・エンハンスを発動させて攻撃力をアップさせる。
 ウィリアムが狙うのは一撃必殺の特大魔法だ。だからこそ、盛大に魔法を放っても大丈夫そうな、商業施設の中庭に来た訳で。
『Spell Boost。魔導原理砲『イデア・キャノン』に仮想砲塔展開。積層立体魔法陣、起動。』
 ウィリアムの掛け声に合わせて展開されるのは、魔導原理砲『イデア・キャノン』だ。
 仮想砲塔が展開されると、その先端に光速で幾層にもなる光の魔法陣が生み出されていく。
『――Mode:Final Strike! Idea Cannon Full Burst!』
 魔法陣の層が多くなるほどに、周辺にはヒンヤリとした空気が漂い始めた。
 周辺の精霊力を吸収・圧縮しレーザー光として発射させる魔導原理砲『イデア・キャノン』に、ウィリアムの氷魔法が合わさって、急速に周囲一帯の温度を奪い去っていく。
『Elemental Cannon, Fire!!』
 直視できない程に眩い光に包まれる魔導原理砲『イデア・キャノン』。精霊力を圧縮して圧縮して、爆発する一歩手前で――ウィリアムは、集束されたその力を、一気に解放した。
「皆さん、ちゃんと避けてくださいね? 巻き込まれたらごめんなさい!」
 ウィリアムの声が最後まで仲間に届いたのか、それは定かではない。
 ルーンソード『スプラッシュ』に乗せられて上へ上へと放たれるのは、超新星爆発を思わせる、何処までも大規模な光の津波だった。
 何もかもを焼き尽くすような勢いで放たれた光の衝撃波に、一瞬、世界から音が消える。
 光の衝撃波は止まらない。襲い掛かってきていたゾンビの群れを焼き払っても、中庭に散乱していた瓦礫の全てを吹き飛ばしても。
 圧倒的な光と熱のレーザー光は、空の向こうへと飛び立って――それから少しして、上空から盛大な爆発音が響いたのち。
 世界に漸く、音が舞い戻った。
「少し派手にやりすぎてしまいましたか?」
 中庭に群がっていたゾンビ達を一瞬で焼き払い、進行方向上にある物体を吹き飛ばし、空へと飛び立った光の奔流。
 ウィリアムの放ったレーザー光が通った軌跡だけ、全ての物が無くなっていた。
 味方にも当たらなかったのだから――問題は何もない。
 見れば、ゾンビ達もかなりの数が減っていた。塵すら残らず消し飛んだのだから、再び復活する心配も無いだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆
わぁ、満天の星だ
ここでお弁当広げてお月見ならぬお星見なんていいかもね
梓のお手製弁当があれば最高だったんだけどなー

梓と共に訪れたのはショッピングモール屋上
もちろん星空鑑賞しに来たわけじゃない
広さはかなりある、邪魔な壁や天井も無い、
伸び伸びと戦うにはうってつけの場所

自身の手を斬りつけUC発動
両手にDuoを構え、Phantomを纏いながら敵の群れの中に突っ込む
星灯りしか無いこの闇の中、
紅く光る蝶を連れてすばしっこく動く俺に
ゾンビ達は自然と注目して集まってくるだろう
複数纏めて薙ぎ払っていく

いい感じに集まってきたかな?
じゃあお掃除は任せたよ、梓
素早くその場から離れ、彼にバトンタッチ


乱獅子・梓
【不死蝶】◆
…確かに、この世の地獄のようなこの場所に
不釣り合いな程に見事な星空だ
今回はUターンして弁当作ってこいだなんて
お願いは聞かないからな
というかゾンビの残骸に囲まれて弁当食うのもどうなんだ

なんて、もう仕事が終わったような雑談をしているが
屋上にはゾンビが現在進行系でわらわら居るし
続々と新しい奴らも入ってきている

綾が敢えて目立つような動きで
ゾンビ達の引きつけ役を買って出たのを察し
俺は成竜の焔の背に乗って、時が来るまで上空から様子を伺う

了解だ、ちゃんと避けろよ綾!
UC発動し、大量のゾンビの群れに目掛けて
広範囲・高火力の焔のブレス攻撃を浴びせる
灰も残さないような灼熱の炎で火葬してやる




 古来、空は星々の所有物だった。
 息を吐くことも惜しくなってしまう程、ぎゅっと固まり合って。我が物顔で揺蕩い、幾千幾億の光を放つ。
 文明の発達と共に、居場所が夜空の端へと押しやられてしまっただけで。
 文明が崩壊し、星が再び空の所有権を取り戻した今――頭上には、遥か太古の時代と同じような星空が広がっていた。
「わぁ、満天の星だ。ここでお弁当広げてお月見ならぬお星見なんていいかもね」
 文明崩壊後という世界の現状と、周囲に響き渡る合唱のような呻き声に目を瞑れば、さぞかし楽しい一時が過ごせたに違いない。
 七夕には少し早いけれど、織姫と彦星の一年に一度の逢瀬を地上から見守りながら。
 七夕っぽい和風なお弁当に、ゆっくりと移り変わる星空を楽しみながら、流星を探したりなんかもして。
 感嘆の息を漏らしつつ、遥か上空に煌めく星に灰神楽・綾が手を伸ばす。
「梓のお手製弁当があれば最高だったんだけどなー」
「……確かに、この世の地獄のようなこの場所に不釣り合いな程に見事な星空だ」
 赤茶色に染まった地面の染みやら、錆び付いた自動車やら、先ほどから自分達を囲んでいるギャラリーやらを上手にシャットアウトし優雅な星空旅行に旅立っている綾とは反対に、乱獅子・梓は周囲のあれこれが気になって仕方がなかった。
 カエルの合唱ばりに『ウガアァ……』とゾンビ達の呻き声が響き渡っているのだし。
「今回はUターンして弁当作ってこいだなんてお願いは聞かないからな」
 先手必勝。梓とて、同じ手は二度と喰らわない。
 綾が何かをいう前にぴしゃりと釘を刺して置けば、空を見上げた格好のまま、数秒ぴたりと固まった――戦闘後にでも『お願い』を発動させる気満々だったらしい。
「一生に一度のお願い! でもダメ?」
「綾の『一生に一度のお願い』は、何回でも発動可能だよな?」
「……そんなことないってー」
 若干の間の後、みょーにニコニコとした笑みで答えた綾に梓はため息をつく。
 梓が言わずとも、忘れた頃にしれっと再発動させるつもりだったのだろう。
「というかゾンビの残骸に囲まれて弁当食うのもどうなんだ」
「今の状況だと、俺達の方がゾンビのお弁当になりそうだけどねー」
 戦闘後のように呑気に日常会話を繰り広げている二人だが、実はまだ戦闘前なのである。二人の話し声に引き寄せられるようにして、現在進行形でゾンビ達が集まってきていた。
 遮る物のない広々とした商業施設の屋上で、遠慮なく戦闘を繰り広げる為に此処に来たのだが――。
「星空が綺麗だったからね。仕方ないね」
「そうだな。これは『お前の方が綺麗だよ』って返さなきゃいけないお決まりのパターンだな?」
「その台詞、いくら何でも古くない?」
「……気のせいじゃないか?」
 何でも無いことのように言い合いながらも、お互いの意図をくみ取って、着々と勧められる戦闘準備。
 綾が日常動作の一つであるように己の腕を斬り、モノクロの床に鮮血が滴り落ちる。その一方で、梓は焔に目配せすると、焔は静かに大空へと飛び立ち、その身体を成竜のものへと変化させていく。
 一対の大鎌『Duo』に己の血液を吸収させた綾がゾンビの群れに飛び込んだ瞬間が、戦闘の始まりだった。
「ちゃんとついてきてね」
 ひらりひらり。
 星明かりばかりの屋上に、突如として生まれたのは紅い光の数々だった。
 綾と共にだだっ広い屋上を駆ける無数の紅く光る蝶々は、一際目を引き、ゾンビ達の注目を一身に集めている。
 それこそが、二人の狙いであるとも知らずに。
 紅い蝶に魅せられた哀れな死体達は、重力を感じさぬ軽い身のこなしで走っていく綾を追いかけ始める。
「さすが綾だな。かなり上手く立ち回っているようだが」
 派手に動き回る綾の陰で、一切音を立てずにひっそりと行動に出ていたのは梓だった。
 大きな成竜の姿になった焔の背に飛び乗り、今は上空から綾とゾンビ達の追いかけっこを見守っている。
 羽ばたく音も鳴き声も出さずに梓の意図をくみ取ってここまで行動できた焔を労わりながらも、梓の視線は自然と綾の姿を追っていた。
 万一にも追い詰められるようなことがあれば、その時には助けに入るつもりだが。
「ひとまずは合図があるまで待機だな」
 焔に話しかければ、鳴き声の代わりにグルグルと喉を鳴らして返事が返ってくる。
「ごめんね。お触りは厳禁なんだ」
 声の調子は軽く、しかし、大鎌を振るう手つきは迷いなく。
 大鎌が振るわれたかと思えば、綾に近づき過ぎたゾンビ達の身体が一瞬で真っ二つに分けられた。
 良い感じの距離を保ちながら、それとなく誘導して。
「なんか、カマキリにでもなった気分だね」
 何度薙ぎ払われても、哀れな彼らは気付かない。自分達が掌の上で転がされていることに。
 遅れて飛び出てきたゾンビには、そのまま真っ直ぐに刃を突き立てた。
 追う者達と追われる者と。果たして、どちらが『捕食者』であったのだろうか。
「いい感じに集まってきたかな? じゃあお掃除は任せたよ、梓」
「了解だ、ちゃんと避けろよ綾!」
 闇夜に紛れ、上空を焔の背に乗って飛んでいる梓の居場所も、綾にはすぐに分かった。
 上を見上げて頷き合えば、口元にブレスを溜め始めた焔が急降下してやってくる。
「じゃあ、頑張って避けてね」
 避けられるとは、思えないけど。
 手を振ってにこやかにゾンビに「お別れ」を告げた綾が屋上から去った、その直後。
 上空から、無数の隕石が落下した――少なくとも、屋上に取り残されたゾンビ達の目には、そう映っていた。
「――紅き竜よ、世界を喰らえ!」
 屋上を支配したのは、焔の口から放たれた灼熱の業火だった。
 高火力のブレス攻撃は地球に飛来した隕石のように屋上に散乱していた瓦礫や自動車の残骸を巻き上げ、ゾンビ達を一秒とかけずに焼き払っていく。
 炎の放つ圧倒的な光量は瞬く間に星々を宇宙の果てに押し返し、周囲一帯が真白に染め抜かれた。
「綾、燃やされてないだろうな?」
 灼熱の業火が再び地獄に舞い戻った後の屋上に、ゾンビの骸は小指の先すらも残されてはいなかった。
 残っているのは高火力のブレス攻撃あまり、べたっと溶けた液体状のガラスや金属類が在るばかりで。
 真っ黒に煤けた屋上に焔を着地させた梓は、遮る物が一切無くなった屋上に呼びかける。
「俺が燃やされる訳ないって知ってたでしょ、梓?」
「そうだな」
 屋上の端からひょっこりと姿を現した綾に、梓はきっぱりと言い切ってみせた。
 「絶対に成功する」と確信していたからこその作戦だったのだから。
 ゾンビ達は居なくなった。二人して星空を見上げれば、頭上の存在は変わることなく煌めいていて。
「ねえ、梓ー? ところでおべん、」
「今回はUターンもお願いも、おねだりにも応じないからな」
 皆まで言い終わる前に、綾の声を梓が遮った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
【🌖⭐】
ビルの中にある水族館の方がデカいんじゃないか?
行ったのは慧だし高校の話だから曖昧だが
ああ……初めての水族館で観るのがゾンビなんて、どこのZ級映画なんだか

OK.
任せたし、任せろ
小魚すらいないおかげで見通しは悪くないが、ヤツら数だけは多いからな
……いや、出来なくはない
内緒にしておくよ……言ってやった方がいいとは思うが

ライフルで狙撃、という距離でもない
狙いは最低限、損傷させて血を撒き散らす
足の速い奴もいるみたいだが――視えてるぜ
『終りゆく星』で足を破壊……焼くと止血になっちまうな
――夏報!
クライマックスらしく派手に行こう

あとはパンクでも流しておけば完璧なんだが
はは、慧が焼き餅焼きそうだしな


臥待・夏報
【🌖⭐】
他の施設と抱き合わせならこのくらいの規模が妥当じゃないかな
……ホタルくんは来たことないの? 水族館
(『三人』分の記憶と認識、どういう仕組みになってるのかは詳しく知らないんだよな)

奇襲とかされたらやだし、背中合わせで行動しよう
君はあんまり無理しない印象だから夏報さんも安心だなあ
あ、今の風見くんには内緒ね
内緒に出来ないんだっけ?

じゃあ、ホタルくん
血祭りをお願い

……供物はこのくらいで十分!
床一面に血と臓物のミステリーサークルを描き拡げ
仲間外れは誰なのか
ゾンビたちを呪詛の炎で焼き尽くす!

あーあ、ひどい絵面
こりゃホタルくんとちゃんとした水族館デートしなくちゃいけないな
ふふ、これも内緒にしとく?




 水族館の一角は、青に沈んでいた。
 ひび割れて欠けた深い青色のタイルの床に、生物の居ないがらんどうの水槽。割れたガラスに、苔の生えた水に浮かぶ――恐らくは、水生生物の骨。
 水槽の前に立てられた生物の名前と生態の説明が、嘗てここに何かが居たことを静かに告げていた。
 恐らくは、親子連れが週末に訪れて楽しめることがコンセプトであったのだろう。イルカやシャチといった大きな海獣類が居ない代わりに、通路の両脇には可愛らしい生物の名前が続いているのだから。
「ビルの中にある水族館の方がデカいんじゃないか? 行ったのは慧だし高校の話だから曖昧だが」
「他の施設と抱き合わせならこのくらいの規模が妥当じゃないかな」
 幸か不幸か、今のところゾンビの気配は微塵も感じられない。
 通路の両脇に並ぶ小さな水槽群を一瞥し、風見・ケイ――螢が、冷静に呟いた。
 螢に記憶は無いが、別人格である『慧』が見て来た水族館は、規模も水槽ももっと大きかった気がするのだ。
 此処のように熱帯魚ばかりではなくて、ぬいぐるみのようにふわふわしたアザラシやペンギンなんかも居た気がする。……水族館そのものよりも、ふわふわばかり印象が鮮明なのは気のせいだろうか?
 無感動に呟いてみせた螢に、すかさず臥待・夏報が「それは言わないお約束」とばかりに返事を返した。他施設と抱き合わせだったら、それほど大規模にはできないだろうから。
「……ホタルくんは来たことないの? 水族館」
 そう、蛍は先程「慧だし」と言っていた。それに水族館を語る口調も何処か、伝聞めいたものが殆どで。
 微かな疑問を抱いた夏報がそのまま疑問を投げかければ、「ああ」と想定していた答えが戻ってくる。
(「『三人』分の記憶と認識、どういう仕組みになってるのかは詳しく知らないんだよな」)
 共有しているのか、共有していないのか。『三人』の反応は、そのどちらとでも取れるのだ。
 『三人』の記憶と認識については夏報も気になっていたが、今まで聞いていなかった。
 何となく、触れてはいけないような気がするから。
「……初めての水族館で観るのがゾンビなんて、どこのZ級映画なんだか」
「あれれ。もしかしなくても、夏報さんたちオープニングで犠牲になる名も無きモブAとBだったりしてね?」
「一秒出演できれば万々歳の役割のアレだろ。ま、犠牲者じゃなくて主人公じゃないか? 映画が始まる前に終わらせる」
 水槽のガラスに突き刺さって絶命しているサメのようなタコのような何かに、通路の端で伸びているゾンビの骸。
 目に入るものはとっくの昔に動きを止めたものばかりで、動いている存在が居ないことが、逆に不気味だった。
 それでも、確かに動いている死体も存在しているのだろう。奥から微かに響いてくるのは不気味な声。
 声から察するに、十体二十体は余裕でいるはずだ。
「奇襲とかされたらやだし、背中合わせで行動しよう」
「OK.任せたし、任せろ。小魚すらいないおかげで見通しは悪くないが、ヤツら数だけは多いからな」
 割れたガラスや水槽越しに蠢く死体の群れが絶妙に見え隠れしていて、実にホラーな雰囲気である。
 夏報と螢は、視線を交わすとそれぞれ武器を構え、背後と正面を警戒しつつ進み出す。
「君はあんまり無理しない印象だから夏報さんも安心だなあ。――あ、今の風見くんには内緒ね。あれ、内緒に出来ないんだっけ?」
「……いや、出来なくはない。内緒にしておくよ……言ってやった方がいいとは思うが」
 夏報と螢の間に密かに増えていく秘密事たち。
 夏報によって良い感じに遊ばれている気がしなくもない慧を若干不憫に思いながらも、螢がそれ以上何かを思うことは無い。
「じゃあ、ホタルくん。血祭りをお願い」
「分かった。足の速い奴もいるみたいだが――視えてるぜ」
 通路を進むにつれて、より濃くなる血と死の匂い。
 その元凶である彼らとは、ライフルで狙撃、という程離れている訳でもない。
 狙いは最低限にして、損傷させて血を撒き散らすことを目的に。
 螢の右腕が燃え上がり、右腕と同じ色を宿した炎が瞳と銃を覆っていく。
「……焼くと止血になっちまうな」
 一発、二発。炎を纏った銃弾が、ゾンビの足を穿っていく。
 倒せなくとも良い。体勢が崩れれば、それで準備は整うのだ。
 ゾンビが床に倒れ落ちた衝撃で、腐敗した内臓や身体の一部分やらが床に撒き散らかされる。
 一層濃さを増した死臭に顔を顰めながらも、螢の狙いがブレることはない。
「……供物はこのくらいで十分!」
 血と臓物が絵の具で、大きな深青のタイルがキャンパスだ。
 深海色の床を上から塗り重ねていくのは、床一面に広げられた血と臓物の類。
 螢の狙撃によって撒き散らかされたゾンビの物も用いながら、夏報は禍々しいミステリーサークルを描き拡げていく。
「――夏報! クライマックスらしく派手に行こう」
 チープなZ級映画も佳境だ。夏報の後ろに迫っていたゾンビの頭部を打ち抜きながら、螢は叫んだ。
 クライマックスらしく、ド派手に、雄々しく。ゾンビ達を一体残さず倒すために。
「そうだね。そろそろ良いかな――悪いね、借りたら返せないんだ」
 螢の合図を受け、夏報がミステリーサークルの最後を描き終える。瞬間――ゾンビ達に纏わりついたのは、毒々しい色彩を宿した呪詛の炎だった。
 腐敗した肉の焼ける刺激臭に、大きくなる呻き声。ゾンビ達を包み込み、地獄へと誘う呪詛の大火。下手なパニック映画よりも酷い有様が、目の前に広がっていく。
 炎に呑まれてもなお、呻き声をあげながら伸ばされるゾンビの手を、夏報はワイヤーフックで払い落した。一緒に焼かれるつもりは、全く無いのだから。
「あーあ、ひどい絵面」
 ゾンビ達が呪詛の業火に丸呑みされた後、その場に残ったのは「如何にも戦闘後です」な惨状だった。
 熱を孕みぐつぐつと煮えている血液に、焼き焦げて焼け残った臓物に、そこら中に飛び散ったゾンビの肉体の欠片たち。
 自分で言うのも何だが、あんまりな絵面に夏報は肩をすくめた。
「あとはパンクでも流しておけば完璧なんだが」
 エンディングテーマにパンクを流せば、堂々のハッピーエンドで終幕しただろうに。
 久しく手入れされていないこの施設。音響設備が壊れていることを残念に思いながら、螢は戦闘後の一服に入る。
「こりゃホタルくんとちゃんとした水族館デートしなくちゃいけないな。ふふ、これも内緒にしとく?」
「はは、慧が焼き餅焼きそうだしな」
 最初の水族館が生物の居ない、ゾンビだらけの廃墟だなんて味気が無い。折角なら、ホタルくんには大きな水族館を見てもらいたい。
 その一心から生み出された楽しそうなお誘い。何処の水族館に行こうか。でも、風見くんは内緒に。
 また一つ、重ねられるのは秘密の約束。
 多分、秘密がバレたら、焼かれた焼き餅は真っ黒に焦げて……それから、破裂するまで膨らむだろう。
 そっぽ向く慧。何故だか容易にその姿が想像できて。慧がそっぽ向く姿を想像した螢は、思わず込み上がってきた笑いを慌てて押し殺すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

高吉・政斗
◆■
救出者を近くの岩場に待機)

よっし!連中殲滅すっか!
(っば!っとFECTに乗車&特殊発動機よるタイヤ換装済みの高速ダッシュ)
っとしまった大穴(個別名:例の先人達の大穴)から連中がワラワラ出て来やがった。ん~…でもこれなら戦いやすいな丁度ヨシ!(数発狙撃銃で撃つ)

ってか何体か馬鹿でかい(体の一部が肥大化)のが入るな、!!?あの野郎、砲弾弾きやがった!、クソ、このままじゃ拉致があけない…なら……思う存分埒を空けてやる…か。(UC起動、大きさは【中】)

戦車兵装を使って殲滅だ存分に味わえ。
(砲・機銃・バルカン砲・擲弾砲を駆使して)

巨体連中は兵装の効き目が弱そうだ…新しいエモノで打った斬ってやるぜ?




 連中に罪はない。しかし、後顧の憂いは絶たなければならない。
 これ以上の被害を防ぐためにも、ゾンビは殲滅させなければならない。
 物資調達と奪還者達の救出が無事に完了した手前、次に控えていた大掃除も綺麗に終わらせたいところだ。
 この岩場なら、岩が盾となり障害ともなり、連中も早々辿り着けないだろう。
 それにもとより、連中を岩場まで通させるつもりもないのだ。
 高吉・政斗は救出した奪還者達を近くの岩場に待機させると、っば! っと勢い良くFECTに飛び乗った。
「よっし! 連中殲滅すっか!」
 準備に抜かりはない。特殊発動機によって、既にタイヤはそれ専用に換装済みである。高速ダッシュでFECTを走らせ、商業施設周辺を忠実な騎士のようにうろついているゾンビを殲滅――させようとしたところで、ある異変を捉えてしまった。
「っと、しまった大穴から連中がワラワラ出て来やがった」
 大穴。またの名を、先人達の大穴。
 そこからゾンビ連中が、働きアリ宜しく出てきているではないか。
 お仕事に熱心なのは良いことだが、政斗としては有り難くない。なんせ、いらぬ仕事が増えるのだ。何なら、ゾンビ連中には全力でサボってていただきたいところである。
 そちらの方が戦いやすいし、仕留めやすい。
「ん~……でもこれなら戦いやすいな丁度ヨシ!」
 とはいえ、出てきてしまったものは仕方がない。順に倒していくだけの話だ。
 それに、大穴から出てくる連中を迎え撃つだけなら、戦いやすいのではないか?
 大穴から出てきたばかりの彼らは、闇に紛れる政斗とFECTの存在に気付いていない。
 先手必勝とばかりにスコープを覗き込み、狙撃銃の引き金を引けば――弾が頭を貫通したゾンビが、体液やらべちゃっとした何かをまき散らしながら地面に倒れ込む姿が見えた。
 続いて、今しがた倒れたゾンビの後ろに居た数体も同様に。政斗は迅速な手つきで葬り去る。
 お次は、警戒しつつ大穴から出てきた筋肉ダルマのようなゾンビを。ゾンビを――……?
「ってか何体か馬鹿でかいのが入るな、!!?」 
 大穴から出てきた存在に、思わず引き金を引く指が止まった。
 のっしのっしと荒れた荒野に踏み出されるのは、ぶよぶよとした巨大な足。顔は小さく、殆どの面積を巨大な四肢が占めている。
 我が物顔で商業施設からはい出てきた彼らは、「我こそが支配者なり」とこれまた我が物顔で荒野へと赴こうとしていた。
 足に、手に、或いは腕全体が。馬鹿でかい何体かのゾンビはいずれも体の一部が肥大化しており、一筋縄ではいかなそうだ。
 野放しにしておいたら、被害はこの商業施設だけでは済まなくなる。何が何でも、倒さなくてはならない。
「あの野郎、砲弾弾きやがった!、クソ、このままじゃ拉致があけない……なら……思う存分埒を空けてやる……か」
 肥大化ゾンビを絶命させるために放たれた砲弾も、分厚い肉の鎧の前では礫と同然だった。ぶよんと弾かれ、肥大化ゾンビは何事も無かったかのように進んでいく。
 政斗にだって、考えがある。拉致が空かないのなら、力にものを言わせて空けさせるまでだ。
「WRF起動!」
『【対象機器との融合を開始……融合、完了】』
 自身の能力を発動させた政斗は、戦車と融合し高機動可変戦闘形態に変形する。
 砲、機銃、バルカン砲に擲弾砲。出し惜しみはしない。戦車兵装を惜しみなく使用した殲滅戦だ。精々、一秒でも長く生き延びられることを祈れ。
「存分に味わえ」
 戦車兵装によるフルコースを。はい出てきたばかりのゾンビ連中に局地的豪雨のように降り注ぐのは、一斉砲撃だった。
 闇夜に響き渡るのは砲の放たれる音ばかり。ゾンビが呻き声を発する前に、放たれた砲弾が連中をただの死体に戻していく。そこで繰り広げられるのは、圧倒的で一方的な――制圧戦だった。
「巨体連中は兵装の効き目が弱そうだ……新しいエモノで打った斬ってやるぜ?」
 跳躍。政斗は遠く離れていた連中との距離を一瞬で詰めた。
 政斗自身が「巨体連中」と呼ぶゾンビに向かって不敵な笑みを浮かべた瞬間――巨体化したゾンビは悟った。この世には己が幾ら力をつけても、叶わぬ存在がいるのだと。
 それの目の前では、自身など新しいエモノの実験台でしかないのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

果敢に斬り込み
オブリビオンたらしめる根源を次々断つ
自分がどれだけ負傷しようが構わない
けれど膝をつくことと諦めることは自身に決して赦さず
その最中
「…っ」
──子どものゾンビが、虚な顔で手を伸ばし
それはまるで母を探して泣いているようで
……刃は向けられなかった
いや、向けたくなかった

「──おいで」

納刀し、代わりに手を差し出す
泣くように呻き声をあげながら俺の手へ噛み付き
然し苦痛の声も表情も出さず
「……大丈夫、大丈夫だ」
そう言って、その小さな身体をそっと抱きしめ
優しく背を撫でる

…君がもう迷子にならぬよう
安らかな眠りへ導くように
もう悪い夢なんて見ないよう
──祈るように。




 ――これが、己の罪の重さだ。
 目の前に飛び込んでくる生きの良い生者を喰らおうと手を伸ばし、牙を突き立てる腐りきった死体の群れと。
 身体中から血や何かの体液を滴り落しながら、容赦なく噛みついてくるゾンビの群れに果敢に斬り込んでいく丸越・梓と。
 果たして、どちらが修羅なのか。その解は出そうにない。
 動く死体は激しい飢餓感のままにその手を伸ばし、梓は決して満たされぬ運命に縛られている彼らを解放させようと我武者羅に、しかし鋭い太刀筋で刀を振るう。
(「……どれだけ負傷しようが構わない」)
 己の行動で、彼らを救えるのであれば。この身など、幾らでも放り出してやる。もとより、そのつもりだ。
 どれだけ鮮血を流せども、どれほどの傷を負えども。
 梓がその動きを止めることは無い。
(「――まだ、」)
 動かす度に鮮血が溢れ出す傷口が熱を孕んでも。度重なる負傷に痛みを通り越して、感覚が音を上げたように痺れても。
 梓は止まらない。
 痛みに呑まれ膝をつくことと、諦めること。それだけは、赦されないのだから。
 ゾンビの群れに斬り込んで、それほど時間は経っていないはずだった。その短期間の間に、どれほどの傷をこの身に受けたのだろう。数さえも朧げになってしまう程だった。
 けれど、まだだ。まだ足りない。彼らの痛みを知るには。彼らの苦しみを感じるには。
 孤児院の弟妹に、部下であり友でもあった男のこと。そして、警察官として歩んできた今までに救えなかった人々。
 彼らが負った痛みや苦しみは、こんな比ではないはずだ。
 動く死体が与える痛みも傷も。この身に刻むには――“優しすぎる”。
「……っ」
 そして刀を振るう戦いの中で――ふと、目が合った。
 まだ年端もいかない少年のゾンビだった。
 本来ならば眼球が在るはずの場所にはぽっかりとした暗闇が在るばかりで、そこには何もない。ただ、落ち窪んだ空洞だけが、静かに梓を見上げていた。
 眼球が無くとも、既に亡くなっていても。それでも、確かに梓は少年と目が合ったのだ。
「──おいで」
 虚ろな顔で伸ばされるのは、枯れた若木のように白くカサカサした腕。
 それは何処か、母を探して泣いている様にも見えて……否、実際にゾンビになる直前まで、そうであったのかもしれない。
 突如として訪れた混乱の最中、母と逸れ。独りで彷徨い。そして、そのまま……。
「……大丈夫、大丈夫だ」
 梓は刀を鞘に収めると、刃の代わりに手を差し出した。
 刃は向けられなかった――いや、向けたくなかったのだ。
 今は紛うこと無き、オブリビオンなのであっても。とうの昔に死に絶えた身体であっても。
 それでも、彼が子どもであることに違いは無いのだ。
 大人に守られることも、恐怖に支配されずに日常を過ごすこともできないまま。
 母親と逸れ、死の影に怯えてながら最期を迎えて――そのまま、救いも無く“動かなくなる”日まで、永劫に近い時間を過ごすなんて。
 そんなこと、あんまりじゃないか。あまりに、救いが無さすぎじゃないか。
「……大丈夫だからな。俺が、護ってやるから」
 縋り泣くように呻き声をあげながら、梓の手へと噛みつく少年のゾンビ。
 鋭く伸びた犬歯が肌を割き、血が滲む。しかし、梓の表情は柔く、優しい微笑みで少年を見守っていた。
 自由な片腕を少年の背に回し、そっと抱きしめて。優しく、背を撫でていく。
(「……君がもう迷子にならぬよう」)
 どうか。安らかな眠りを。
 悪い夢を見ないように。母親の元へ、無事に辿り着けるように。
 祈りを込めて、彼を見送るのだ。
『――おにいちゃん、    』
 少年が動かなくなるまで。
 そして、動かなくなってからも。梓は彼のことを抱きしめ続けていた。
 暫くして梓が少年からそっと手を放した、その瞬間――誰かが梓のことを呼んだ、気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

柊・はとり
◆■

結構な傷を負いはしたがいつもの事だ
それで誰かが助かるなら幾らでも死んでやる

このクソ兵器の威力は些か手に余るから
閉所での戦いは避けたい所
大型商業施設なら中庭的な所もあるだろう
血の臭いでゾンビ共を誘い出してから
そこまで走って逃げる

ほら新鮮な肉だ
捕まえてみな
【第四の殺人】を発動し
敵を挑発しつつ中庭へ移動

死角からの敵襲は第六感で見切り
致命傷は避けるが多少の負傷なら好都合だ
一歩踏み出す度狂おしい激痛が走るが
継戦能力で何とか耐える
ゾンビから走って逃げるなんて
まるで俺が生者みたいだ

誘き寄せに成功したら
UCのなぎ払いで一気にカウンターを決める
悪いが亡者には手加減できない
過去を振り返ってたら死ぬ時世なんでな




 この肥溜めみたいな世界で誰かが死ぬのは、ハッキリ言ってしまえば日常風景だった。
 この商業施設に巣食っているようなゾンビ、暴走した機械、突然変異した動植物。そういった存在に屠られるか。或いは、病気や仲間割れで死を迎えるか。死に方だけが違うばかりだ。
 廃墟から奪還者達が物資を命懸けで奪ってくることもいつものことならば、「オブリビオン・ストーム」が発生することだって。
 そして、柊・はとりが現場に赴くたびに――世間一般では『重傷』と称されるような結構な傷を負うことも、いつものことである。
(「それで誰かが助かるなら幾らでも死んでやる」)
 繰り返される己の死で助かる命があるのなら。代わりに、生き永らえることの出来る人が居るのなら。
 はとりは何度だって死ぬのだろう。
 己が代わりに。それを繰り返してもう何度目なのだろうか。両手で数えきれないほどには、死んだ気がする。
 『オブリビオン・ストーム』を引き起こした犯人さえ捕まえることが出来たのなら。その時は、全ての被害者が救われるのだろうか――誰一人として、欠けることなく。
(「このクソ兵器の威力は些か手に余るからな」)
 このクソ兵器――はとりは左手に握る『コキュートス』を一瞥した。
 苦痛と負担を要求することだけは得意分野の偽神兵器だ。過剰な威力のあまり、敵味方区別なくはとりの一人勝ち――という事態だけは避けたいし、何ならはとりの方から願い下げである。
 閉所での戦いを避けるため、はとりは商業施設の中央に位置する中庭を目指してひた走っていた。
 はとりの後ろには、両手に収まりきれぬほどのゾンビの数々。走るはとりに手を伸ばし、一目散に駆けてくる。
「ほら新鮮な肉だ。捕まえてみな」
 先の負傷による、新鮮な血の臭い。
 それを存分に活用しながら、はとりは中庭にゾンビを引っ張っていく。一歩踏み出す度に身体中を全力で駆け巡る痛みは、気合でねじ伏せて。
「さあ、掛かってこい」
 『コキュートス』を構えて、はとりはゾンビの群れを迎え撃った。
 これ以上ゾンビによる被害者を出させないためなら、何だって利用するつもりだ。己の肉体も、この傷や血液も。それから――死さえも。
 全ての物を凍てつかせるかのように。冷気を纏いながら光り輝くのは、『コキュートス』だ。
 夜空を冬色の光で斬り裂きながら、はとりは向かってきたゾンビを思いきり薙ぎ払う。大剣の重量を生かし振りかぶった勢いそのままに刀身を叩きつければ、ゾンビは面白いほどに吹き飛んだ。
「多少の負傷なら、寧ろ好都合だ」
 コキュートスで吹き飛ばされ、片腕を斬り刻まれても。ゾンビ達は猛攻を止めない。止める理由もない。感覚が無いのだから。
 血の臭いと騒音に引き寄せられたのか、見覚えのないゾンビが背後から襲い掛かってきた。
 はとりの肩へと容赦なく噛みつき、肉を引き千切ろうとしてくるニュービーを叩き落とし――はとりは駆ける。
 とうの昔に動くだけの死体と化してしまった彼らは気付かない。はとりの心身が傷つくごとに、自分達が不利になっていることを。
(「ゾンビから走って逃げるなんて、まるで俺が生者みたいだ」)
 奪還者救助の際の負傷と、この戦闘で新たに負った傷。二つが嫌なタッグを組み、激痛の津波となって感覚を開けずに襲い掛かってくるが、はとりは何とか耐え抜いていた。
 ゾンビの攻撃を避けながら、ふと思う。己はまだ、生者なのだろうか。
 肉体的には死んでいるが、目の前の彼らのように理性や思考――己を失ってはいない。
 己の立ち位置はどうなるのだろう。解の無い哲学的な問題に取り組むには、聊か場違いではあるのだが。
「悪いが亡者には手加減できない。過去を振り返ってたら死ぬ時世なんでな」
 立ち止まるな。振り返るな。そこに待っているのは、完全な死のみだ。
 己が何者であっても、何であっても、何になっても――はとりは前を向いて進むのみ。
 『名探偵』として、人々を救うために。
 一際眩い光を放つ『コキュートス』。カウンターとしてはとりが放った渾身の一撃が、ゾンビの群れを飲み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『荒野の日常』

POW   :    廃墟の街を散策する。

SPD   :    周囲の砂漠を散策する。

WIZ   :    星空を眺めて過ごす。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「さて、乾杯といこうじゃねぇか。オレらの無事と、救世主サマらの健闘を称えてな!!」
 パチパチと焚き木の爆ぜる音がする。
 商業施設から少し離れた広い空き地では、奪還者達による宴会が開かれていた。
 久方ぶりに見る、長期保存可能なレーション以外の食品を前に、誘惑に負けるのも無理はないことだろう。最初は搬出された物資の確認と把握を行っていたらしいのだが――いつの間にか、ちょっとした宴会に早変わりしてしまっている。
「少しくれぇチョロまかしたってバレねぇだろよ。この辺りの食品なんざ、賞味期限が一週間後なんだからな!」
 火災は鎮火された。ゾンビは討伐された。奪還者達も、無事だ。
 少なくとも暫くの間は、この商業施設がオブリビオンの巣窟に変わることは無いだろう。
「オレらが無事なのも、アンタらのお陰だ。ありがとな! グリなんとかっていう拠点には、つえぇヤツが沢山いるんだな?」
 例え荒廃した世界であっても、平等に時は流れていく。
 戦いの後に訪れた暫しの平穏の合間をどう過ごすかは、猟兵達の自由だろう。
 絶賛宴会開催中の奪還者達は猟兵達を快く招いてくれるだろうし、周辺の星空や砂漠を眺めながら過ごすのも悪くない。
 静けさを取り戻した商業施設を散策してみるのも面白いかもしれない。
 今日という日も、直に終わる。今日一日をまた無事に生き延びられたことに、感謝を込めて。
ウィリアム・バークリー
年齢の関係で、お酒の席に混ざるわけにも行きませんし、どうしましょうかね。
とりあえず、グリフォンの『ビーク』の背に乗って、その辺りをぶらぶらしてみましょう。

降るような星空って言うんですよね。でも、それもオブリビオン・ストームで文明が崩壊したからこそであって、この世界の人に話したら怒らせそうな話です。
ビークの背に仰向けになって、星々を観察しましょう。
知ってる星座が一つも無いのが、異世界にいるってことを強く意識させてくれます。

どうしよう? このまま眠りに就こうかな。
ビーク、何かあったら起こしてね。それじゃ、おやすみ。
これで、目が覚めたら、もうグリモアベースかも。――それも悪くない。




 荒れ果てた砂漠に生まれ落ちたのは、小さな一つの灯火だった。
 砂漠で唯一の光源である焚火を中心とする賑やかな宴の輪からは、楽しそうな話し声が響いてきている。
 食料品や医療品を最優先で搬出する作戦――とは言いつつも、ちゃっかり酒類を持ち出したしっかり者が居たようだ。奪還者達の中には、既に出来上がってしまっている者も何名か確認できた。
「年齢の関係で、お酒の席に混ざるわけにも行きませんし、どうしましょうかね」
 今年の九月で19歳になるウィリアム・バークリーは――ギリギリアウトな年齢だった。
 成人を迎えていたら、宴会に少しでも顔を出そうと思っていたのだが、年齢はどうしようも出来ないのだから仕方がない。
 どうしようかと考えつつ、「とりあえず」とグリフォンのビークを呼び出して夜間飛行を楽しむことに決めたのだ。
「行きましょうか、ビーク」
 ビークの羽ばたきに巻き上げられて、周囲に舞い上がるのは乾いた砂埃だった。そこに、夏も近くなった季節特有の花や植物の香りといった物は少しも感じられなくて。
 性質さえまるきり異なるこの世界の風と自然に、ここが異世界であるということを思い知らされる。
 ビークの背に乗って手綱を握れば、地上の焚火があっという間に小さくなっていった。
 ゆらゆらと揺れる焚火を中心に、地平線の果てまで地上を見下ろしてみたが、周囲には先ほど仲間達と共に救った商業施設が在るばかりで、他には何もない。
 崩れかけた建物の廃墟群と、何処までも果てしなく広がる砂漠と、時々ゴツゴツとした岩場が見つけられるだけだった。
「降るような星空って言うんですよね」
 何も残っていない地上の代わりに、一際存在を主張して煌々とした輝きを放っていたのは頭上の星空だった。
 大きい星に、小さい星。燃えるように輝いているものから、静かに光を放っているものまで。
 星空が直ぐ近くまで迫ってきているような。そんな感覚に襲われてしまうほどの満点の星空を、ウィリアムはビークの背中という特等席で眺めているのだ。
(「でも、それもオブリビオン・ストームで文明が崩壊したからこそであって、この世界の人に話したら怒らせそうな話ですね」)
 皮肉なことに、この世界本来の星空を取り戻したのはオブリビオン・ストームだったりする。
 少しの間思案したウィリアムは、この星空の美しさを自分一人の胸中にしまい込んでおくことに決めた。
 奪還者である彼らには、前を向いて進んでもらいたいのだから。
「知ってる星座が一つも無いのが、異世界にいるってことを強く意識させてくれますね」
 ビークのふわふわとした背に仰向けになって寝転がれば、一層星空との距離が近くなった。
 星空なんて小さな頃から知っているはずなのに、違う感覚を感じてしまうのは、これが異世界の星空だからなのだろう。
 天の川の流れ方もウィリアムの知っているものとは微妙に異なっているし、知っているはずの星が居なくなっていたり、代わりに、見覚えのない一等星が目に飛び込んできたり。
「この世界では、星々はどう繋ぐのでしょうね」
 この世界の星座なんて、一つも知らない。
 ウィリアムが思いつくままに星と星を線で結んでいけば、星座っぽく見えなくもない……ような。
 グリフォンにイルカ、カメに――。ウィリアムは、沢山の星座を作り出していく。
(「どうしよう? このまま眠りに就こうかな」)
 星空を眺めて思考の海を揺蕩っていれば、自然とやってくるのは心地良い眠気だった。
 星空もひとしきり楽しんだところだし、このまま眠ってしまうのも悪くない。
「ビーク、何かあったら起こしてね。それじゃ、おやすみ」
 相棒に声をかければ、返事として頼もしい一鳴きが返ってくる。
 ビークなら、何かあったら直ぐに起こしてくれるだろう。頼もしい相棒の存在に、ウィリアムはそっと目を閉じる。
(「これで、目が覚めたら、もうグリモアベースかも。――それも悪くない」)
 ウィリアムが眠りに落ちるまで、異世界の星々は彼のことを見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
◆■
POW

携帯出来る食料とかがあれば少し奪還者の皆さんからもらい受けて、商業施設内を探検してみようかな?
結構大きな施設という話だったけど、戦闘でそれどころじゃなかったしね

もうゾンビは出てこない、とはわかっているものの、閑散とした静かな商業施設というのは、こういう世界だからこそ見て回れる場所なのかもしれない

施設内を歩きながら、この施設内がかつて活気があった頃、皆がどう過ごしていたのかな…と思いを馳せてみるのもいいかもしれないな

なんにしても、奪還者の皆さんを救う事が出来て本当に良かった
少しでも俺の力が誰かの助けになるのなら…、助力は惜しまないつもりだから




 少し日に焼けた銀紙を捲れば、途端にボロリと崩れる長方形の固形レーション。
 ファストフードのような美味しそうな香りを纏う、こんがり焼かれたそれに釣られるまま一口噛み締めれば――口の中に広がったのは、美味しそうな香りとは正反対な、しっかり乾いたパサパサとした感触だった。
 口の中の水分が一瞬でもっていかれる感覚に、鳳凰院・ひりょは思わず無言でペットボトルの蓋を開ける。
 奪還者達である彼らは、この携帯食料を愛用しているらしい。
 ――最も、「愛用している」というよりは、「愛用せざるを得ない」という状況であるのだが。
「あー……うん、これは何ともだね……」
 彼らが何処か嬉しそうな、悪戯を企むような雰囲気でこの携帯食料を分けてくれた理由が分かった気がする。
 チョコレート、プレーン、ドライフルーツ等々……味のバリエーションは豊富にあり、携帯食料にしては美味しい部類に入るのだろう。
 しかし、一瞬で口の中が砂漠になるのだ。味は良いのに、そこだけがネックだった。
「結構大きな施設という話だったけど、戦闘でそれどころじゃなかったしね」
 レーションを商業施設探索のお供として、少しずつ砕いて口の中に放り込みながら、ひりょはのんびりと施設内を散策している最中だった。
 火災やらゾンビやらに追われ、今までゆっくり見て回る機会の無かったこの施設の中。
 全てが終わって再び探索してみれば、何処か物悲しいような、不思議な雰囲気に包まれている。
「こういう世界だからこそ、見て回れる場所なのかもしれないな」
 床に散乱したチラシや、衣服、食料品と言った品々に、枯れて枝だけになった観葉植物。エスカレーターが動くことは二度となく、電気が途絶えて久しい今となっては唯の階段と化している。
 施設の一階中央に設けられた噴水も干上がっていて、嘗ての面影は見られない。全てがゆっくりと灰色の過去に呑み込まれていっているのだ。
(「皆はどう過ごしていたのだろうかな……」)
 ファストフード店では、トレーと食べ物だった何か、ノートや筆記用具がテーブルの上にそのまま放置されていた。学生達がテスト勉強を兼ねて集っていたのかもしれない。
 荷物と洋服がかけられたままの試着室に、本棚に収まったままのマンガや小説たち。
 歩いて施設を巡る度に、ひりょが出会うのは“嘗て”この場所で一時を楽しんでいた人々の面影と残滓だった。
 きっと皆が、思い思いに買い物を楽しむ憩いの場所で在ったに違いない。
(「なんにしても、奪還者の皆さんを救う事が出来て本当に良かった」)
 しかし、この商業施設が憩いの場所であったのも嘗ての話。今ではすっかり寂れた、偶に奪還者が訪れるだけの物悲しい場所となってしまっている。
 すっかり石造りのオブジェクトと化してしまった枯れた噴水に腰掛けながら、ひりょが想いを馳せるのは、今日出会った奪還者達のことだった。
「少しでも俺の力が誰かの助けになるのなら……、助力は惜しまないつもりだから」
 平和だった過去の想い出を胸に抱きながらも、それでも前を向いて歩き続けているのだ。
 彼らが愛用しているこの携帯食料も、滅びゆく最中に、どうにか知恵と工夫を凝らして生み出されたものだったに違いない。
 少しでも生き延びる可能性を高めるために。味は二の次で、栄養や保存性に主眼を置いて。
 地獄のようなこの世界が、少しでも早く復興できるように。
 そのためなら幾らでも力を貸そう。今日のように、一人でも多くの人を助けられるように。
 彼らから譲って貰った携帯食料を齧りつつ、ひりょは決意を新たにするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
◆■
ゾンビの大掃除も終わって、ショッピングセンターも静かになりました。
これでしばらくはゾンビも出てこないでしょう。

しかし、建物をこのままにしておけば、ゾンビはわかなくても、違うものが出てきて、結局奪還者殺しが復活してしまいそうです。建物が壊れたり、防火壁が増えたりで、構造が複雑なんですよね

せっかくですから、もう少し手を加えて、悪者の巣窟にならないようにしておきます。

まず、壊れた壁や柱をUC【墨花破蕾】で、蟻に変換して除去。さらに光と風を通すように窓を増やしてリフォームします。




 ゾンビが殲滅された今、この建物の中で動くものといえば、奪還者と猟兵のみとなっていた。
 ゾンビの骸もすっかり纏めて火葬され、所々に血痕や争った痕跡が残るのみとなっている。
「これでしばらくはゾンビも出てこないでしょう」
 オブリビオン・ストームによって再び動く死体として復活することが無いように、死体は纏めて火葬された。
 ゾンビの元となる身体が無いのだから、暫くは安全……のはずである。
 しかし、黒木・摩那には少しばかり気掛かりなことがあった。だからこうして、静寂を取り戻したショッピングモールに再び戻ってきていたのだ。
「しかし、建物をこのままにしておけば、ゾンビはわかなくても、違うものが出てきて、結局奪還者殺しが復活してしまいそうです」
 摩那が軽く施設内を見渡しただけでも、気になるポイントが散見される。
 例えばこう、なんか隅っこの方で静かに繁栄している毒々しい色をした植物とか、なんかチラッと姿を見せたネズミと呼ぶには大きい何かとか。
 ゾンビものあるある。ハッピーエンドを迎えたように見えて、実は他の生物が誕生していました! という流れ。あれはフィクションだから輝くもので、ノンフィクションであるこの世界で再現されたら堪ったものではない。
「建物が壊れたり、防火壁が増えたりで、構造が複雑なんですよね。フラグはしっかりへし折っておきませんと」
 脅威となるような生物が住み着かなくても、「オレたちさえ良ければ!」な奪還者殺し(人間のすがた)が平和になったモールに住み着く可能性だって十分にある。放置されたままの崩壊した壁や柱や家具なんかは、そのまま武器としても使えてしまうだろう。
 複雑な構造は、それだけで命取りだ。もっと見通しが良くて、光と風の入る空間に。
 後顧の憂いを根元からしっかり破壊させるために、摩那は商業施設のリフォームに取り掛かった。
「せっかくですから、もう少し手を加えて、悪者の巣窟にならないようにしておきましょうか」
 摩那があちこちに放置されている壁や柱といった残骸に手を翳せば、火災鎮火の時と同じように摩那の立つ足元を中心に黒い染みのようなものが生み出されて。
 黒い染みのようなものはそのままスイっと瓦礫に潜り込むと――瓦礫を蟻に変換させて、周囲に散らばり始める。
 本日、始終を通して大活躍の蟻さんたちだ。
「瓦礫は外に運びましょう。あと、等間隔で窓も設けますね」
 酸を持つ蟻にかかれば、硬いコンクリートも柔らかなスポンジ同然だった。柔らかくなるまで蟻酸で溶かして、それから蟻に変換させるなり、蟻に砕いて貰って少しずつ瓦礫を外へと運び出す。
「もう少し大きくても良さそうでしょうか」
 遮る物のない、光に満ちた広々とした空間。それが、摩那の目標だった。現場監督と化した摩那の下、商業施設の大規模な改修工事が進められていく。
 崩れかけた家具を撤去させ、作動したままの防火扉を元の状況に戻して。床に放置されたままの食料品や物資も使えないと判断すれば蟻に変え、使えそうな物は蟻に頼んで奪還者の元へと届けてもらった。
 瓦礫だけでも数えきれないほどの蟻が生まれ、その蟻をまた部下として使役させて。
「瓦礫やゴミで気づかなかったのですが、これほど広かったのですね」
 崩れた壁やら柱やらを退けるだけでも、天と地のような変わり具合だ。
 通路を防いでいた物資や瓦礫は全て撤去され、何かあった時も逃げやすいだろう。
 リフォームのついでに、ゾンビの後継者になりそうな生物も殲滅させておいた。正体不明の毒々しい植物は蟻酸によって除草され、瓦礫の下に巣を作っていた大きすぎるネズミは蟻が噛みついて退治して、摩那が纏めて焼き払った。
「よし、リフォームも完了です」
 壁に設けた窓から吹き込むのは涼しい夜風と、明るい星明かりだ。これなら光源に乏しいこの世界でも、光を確保することができる。
 壁に新設した窓から焚火に集い宴会を楽しむ奪還者をこっそりと見守りつつ、摩那は大仕事を無事に完了させた達成感を味わうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム
無事に猟兵として
務めを果たすことができたようですね

それでは宴を行うならば、楽しませていただきましょう
私は【大食い】!たくさん食べますので、
どんどん持ってきてくださいねっ
食べること、鍛えることが明日の【怪力】を生むっ!

もりもり食べたら盛り上げるため、剣舞でも披露しましょうか
色っぽく踊ることはできないので、
自前の大型武器を軽々扱う姿を見てもらいましょうっ!

宴が終わりましたら、
一人周辺の星空や砂漠を歩き物思いを
崩壊した世界、私たちが敗北すれば他の世界もここと、
いえそれ以上に酷い状況となるのでしょうね
猟兵として負けられない想い新たに――
そして、この世界もまだ終わってはいない
人々とともに頑張らねばです!




 銀紙を捲る音に、プルタブを開ける音、それから楽しげな話し声。焚火を中心に開かれている宴会は、光と音で溢れていた。
 ゾンビに襲われて、或いは、煙に巻かれたり、炎に呑み込まれたりして。今、目の前で焚火を中心にちょっとした宴会を開いている彼らは、本来なら死ぬはずの運命を持っていた人々なのだ。
 それを仲間と共に救うことが出来たのだ。これ以上の喜びはないだろう。
「無事に猟兵として務めを果たすことができたようですね」
 地獄のようなこの世界で暫しの息抜きに羽目を外す彼らを静かに眺めたユーフィ・バウムは、そっと胸を撫でおろす。
 猟兵としての務めを果たせたこと、彼らが無事であることに、心の底から安堵して。それから、意識を切り替えた。
 憂う時間は終わったのだ。宴を開くというのならば、思いきり楽しまなければ。
「私は大食い! たくさん食べますので、どんどん持ってきてくださいねっ」
 ユーフィが意気込みと共にそう宣言すれば、「おおっ!」と周囲の奪還者達が歓声を上げる。
 猟兵達の協力によって十二分過ぎる程に集まった物資。中には保存期限が目前のものや、包装が傷付いていて早めに片付けなくてはいけないものも見受けられた。しかし、食べきるには少々辛い分量で――彼らも頭を悩ませていたところだったらしい。
 ユーフィの宣言は渡りに船。他にも大食いに自身のある数名の奪還者が名乗り上げれば、ちょっとした「大食い選手権」の開催だ。
 パサパサとした携帯食料に、フリーズドライのサラダ。次々に運ばれてくる料理は種類も味もバラバラだ。
 パサパサの次に、油の乗った肉類。奪還者達の手も遅くなるなか、ハンバーグといったコッテリした料理もスピードを落とさず食べていくユーフィの勇姿に、溢れんばかりの拍手が送られる。
「食べること、鍛えることが明日の怪力を生むっ! 腹が減っては戦はできぬ、ですよ!」
 その決め台詞が、ユーフィの優勝を告げる合図となった。
 グッとサムズアップを返せば、盛大な拍手がユーフィに送られて。
 競い合って料理を食べていた奪還者達は、もう食べられないらしく、だらしなくその身体を伸ばしている。
「色っぽく踊ることはできないのですが、代わりに自前の大型武器を軽々扱う姿を見てもらいましょうっ!」
 食べるだけ食べたら、次は宴を盛り上げる番だ。大剣『ディアボロス』を片手に携えたユーフィは、すくっと食後とは思えない足取りで立ち上がると、『ディアボロス』を空中に突き出し、剣舞の構えをとる。
 薙ぎ払い、突きに。迷いなく繰り出される鋭い太刀筋は、焚火の明かりを反射させて何処か妖しげな雰囲気を纏っている。
 『ディアボロス』を上空へと放り投げ、一回転させて見事キャッチすれば、奪還者達の息を飲む音が聞こえてきた。
「大型武器を軽々扱うとは、心底頼もしいな」
「また困ったことが起こりましたら、いつでも呼んでくださいね!」
 最後に大型武器の重量を生かした、見事な叩き切りを披露して、ユーフィの剣舞は閉幕だ。
 すっかり奪還者達と打ち解けたユーフィは、少しの間雑談を交わした後、「離れたところで一服してくる」という奪還者達に交じって宴を抜ける。
(「崩壊した世界、私たちが敗北すれば他の世界もここと、いえそれ以上に酷い状況となるのでしょうね」)
 流れる夜風は穏やかなものなのに、虫の鳴き声も、木々の騒めきも聞こえない。宴には存在していた音が、砂漠には存在していない。
 そのことに寂しさを覚えながら、ユーフィは一人周辺を散策して物思いに耽っていく。
 きっと、猟兵達が負けた世界は「こう」なってしまうのだ。全てのものが死に、音も明かりも、何もなくなって。唯、星空と砂漠が広がるだけの……何もない世界に。
「そして、この世界もまだ終わってはいない。人々とともに頑張らねばです!」
 満点の星空を仰ぎ、ユーフィは誓う。世界に選ばれた猟兵として、人々と共に戦うことを。
 猟兵として負けられない想いを新たにした彼女を、星々が優しく照らしていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
解釈お任せ

_

……彼らも猟兵たちも、無事でよかった。
侮っているわけでは決してない。
けれど、やはり無事であることに内心安堵の息を吐く。
遠目にて賑やかな奪還者達に瞳細めるも
音を立てず気配を消してその場を離れ
隠れ残るオブリビオンがいないか、
念のための見廻りをしに行く。

宴会の賑わいから遠ざかり、己の足音が静かに響く。
……思い出すのは、先程戦ったゾンビらのこと、そして散って逝った数多の奪還者達のこと。
ずきりと傷が痛む、血が滲む
それでも
眠る彼らが、少しでも安らかであるよう願いを込め
小さく口ずさむのは子守唄。

──不意に窓の外を見る。
星が一筋、夜空を流れていった。




 誰かが死んでも、誰も死ななくとも、変わらずに世界は回り続ける。
 例えこの世界から生物が全て居なくなったとしても、変わらずに朝は訪れるのだろう。
 いつ死んでもおかしくない世界で、偶の安息があっても誰も咎めないだろうから。宴の輪は夜が更けるにつれて賑やかさを増していっていた。
「……彼らも猟兵たちも、無事でよかった」
 夜に紛れて、ひっそりと賑やかな宴会の席を見守っている男がひとり。
 この時ばかりは、きっと誰もが現実のことを忘れているのだ。丸越・梓は、無礼講の宴会を遠目で眺めて、そっと双眸を細めた。
 侮っているわけでは決してない。
 幾ら実力があっても、運に見放されれば、それでお終い。一瞬の不運で、どんな猛者も死にいく世界なのだ。
 誰もが死んでもおかしくない地獄のようなこの世界だからこそ、梓は心の中でそっと安堵の息を吐いた。皆が無事で良かった、本当に。
(「……念のための見廻りといくか」)
 隠れているオブリビオンが居ないとも限らない。それに、新たなオブリビオンと化す存在が、主であったゾンビの不在に気が付き、そっと悲劇の根を伸ばし始めているかもしれない。
 宴に水を差さぬよう、音を立てずに気配を消して梓はその場を後にする。向かう先は、先ほどの商業施設だった。
 少しの間のこととはいえど、梓が賑やかな宴の場に居たことに――終ぞ、誰も気付くことはなかった。
(「……先ほどの少年も、今まで犠牲になった奪還者達も」)
 コツコツと割れたタイルに反響するのは、梓が刻む等間隔の足音だけ。
 静まり返った商業施設に動く者は誰一人として存在せず、ただ、梓の黒い影が長く伸びているばかりだ。
 仲間の猟兵が後片付けをしたのだろう。散らかっていたガラクタや瓦礫の類は撤去され、争いの跡が微かに残るのみの「ごく普通の廃墟」と化していた。
 星明かりが照らし、風が通り抜けるだけの静かな廃墟の姿に戻ったこの場所は、火災やゾンビの惨劇が嘘のように思えてしまうくらいで。
 歩きながら梓が思い出すのは、先ほど戦ったゾンビのことと、それから、散って逝った奪還者達のことだ。
(「それがこの世界の理なのかもしれないが……」)
 強者も弱者も関係なく、唯、少しでも長く生き延びた者が勝者となる。個々人の心情も、友人や家族が居ようと、全て関係なく。
 それはそれで世界の在り方として、正しいものなのかもしれない。動物の世界は、生き残ったものが勝つのだから。
 しかし、と。梓は思う。
(「……眠る彼らが、少しでも安らかであるように」)
 歩く度にジクジクとした痛みを放っているのは、先ほどゾンビと戦った際に出来た傷で。
 処置は施されているものの、真白い包帯にジワリと赤い血が滲んでいく。
 脈動の度に身体中を支配する鈍い痛みは、自分が生きているという紛れもない証なのだ。
(「どうか、彼らが次こそ――」)
 幸せな、安らかな生を祈って。
 救えなかった人々の安らかな眠りと、幸せな来世を祈るのは……きっと、今を生きる者の義務だろうから。
 一瞬でも人生が交わった彼らのことを、忘れないために。
 硬い足音に交じるようにして静かな廃墟に響いていくのは、優しく柔らかな子守唄だ。
 子守唄を口遊む度に浮かんでは消えていく、梓が今までに出逢い、指先を掠めていった人々の顔。孤児院の弟妹、部下であり友であった男と、刑事として関わった人々と――そして、ここで見送った少年のこと。
 少年の身体は冷たかったが、確かにその身体には「生き残ってやる」という意思のようなものが感じられたのだ。それが例え、生前の残留思念でも、ゾンビと化した影響によるものだったとしても――紛れもなく彼は、生きようとしていたのだ。
 どんなに苦しくても、最期まで。
(「――彼らの想いを無駄にしないためにも、俺は」)
 足音が止まる。唄が終わる。
 不意に、誰かが自分の後ろに居るような気がして。立ち止まり、窓の外を見た梓の視界いっぱいに――流星が一筋、燃えるような輝きを放って通り過ぎていった。
 誰かが死んでも、死ななくても。世界は回るし、明日は来る。時にこの世は残酷だと慟哭しても、それでも――生きなければ。
 まだ助かるかもしれない人々を、救うために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆
宴会の賑わいからは離れて
梓と再びショッピングモール屋上へ
より空に近い場所から星を眺めたいからね

ずっと見上げていると首が疲れちゃうから
思い切ってコンクリートの上に大の字でごろん
焔がしっかりお掃除してくれたからゾンビの残骸も残ってないしね
ほら、梓と焔と零も一緒に寝転ぼうよ

一際強くぴかっと光って移動する星を発見
…あ、今のもしかして流れ星?
流れ星見つけたら何かお願い事すればいいんだっけ?
それじゃあ、梓のお手製弁当が食べられますように(早口で3回

差し出されたクッキーを幸せそうにかじり
お弁当とは違うけど、早速お願い事叶っちゃった
ねぇ、新作はココア味とかかぼちゃ味のクッキーなんてどう?


乱獅子・梓
【不死蝶】◆
おい、コンクリートの上に寝たら痛くないか?
ツッコミつつも、誘われるがままに俺もごろん
俺と綾の間に焔と零もごろん
この並びは川の字ならぬ…何だろう

願い事か…俺なら星に何を願うだろう
一昔前なら、自分の命を顧みない綾を見兼ねて
「俺が見ていないところで綾が野垂れ死にませんように」
とか半分冗談半分本気で願っていたかもしれない
だが今は、もうそんなことを願う必要はない気がする

なんて真面目なこと考えてたのに
綾の願い事を聞いてずっこける
わざわざ流れ星に願うレベルなのかそれ…!?
あーもう、今はこれで我慢しなさい
常備しているクッキー(アイテム)を差し出す
また言葉巧みに俺に作らせようとしているなこいつ…




 賑やかな宴の場も、少しそこから離れてしまえば、辺りを包み込むのは星空と砂漠だけだ。
 廃墟群が時折闇夜の中に浮かび上がるだけで――何もないからこそ、頭上に瞬く幾千幾億もの星空に自然と視線も吸い込まれる。
 恐らく、この周辺で一番空に近い場所で。緩やかな終末の星空を眺める影が、四つあった。
「より空に近い場所から星を眺めたいからね」
 空に瞬く幾千幾億もの宝石を、なんだかんだ言って傍に居ることが日常となりつつある乱獅子・梓と一緒に二人占めできるなんて。これ以上の幸せがあるのだろうか。
 ごろんごろんとそんな音が聞こえてきそうなほどに、灰神楽・綾は屋上の広い広いスペースで何度も転がってみる――下に何も敷かず、コンクリートのままで。
「おい、コンクリートの上に寝たら痛くないか?」
 最初は、透明なビニールシートか何かが敷いてあるのかと思いましたとも。闇夜に良い感じに紛れて、目立ちにくくなっているだけなのかとも思いましたとも。
 それでも、何度己の目を擦ってみても――綾は直にコンクリートの上で、ごろりと寝そべっている。
 これには梓も思わず真顔で突っ込んだ。
 大の字で伸び伸びと手足を伸ばして。まるでコンクリートが最高級ホテルのベッドであるかのような振舞い方である。「寝惚けてないか?」と、綾のことが少し心配になった。
「焔がしっかりお掃除してくれたからゾンビの残骸も残ってないしね。ほら、梓と焔と零も一緒に寝転ぼうよ」
「……そういう問題じゃなくないか?」
 コンクリート・ベッドの上で上体だけを起こして、おいでとにこやかに手招く綾。
 確かに、屋上一帯は焔のブレスによって殺菌・消毒済みである。ゾンビはおろか、どんな病原体も全て死滅しているに違いない。それでも、ゴツゴツとした小石やら砂やらは変わらずに残っている訳で。
 「そうじゃない」と思いつつも、綾のお誘いを断り切れない梓は誘われるまま、コンクリートにごろりと寝そべった。
「……おい。本当に痛くないのか?」
 寝転んだ途端、挨拶代わりに梓の背中に突き刺さる小石の数々。
 慌てて身体が触れる位置に存在している小石を手で払いつつ、梓は綾に問いかける。痛覚が麻痺してるんじゃないかという、そんな心配を心の奥で抱きながら。
「あれ、小石除けずに寝転んだの?」
 ――幸か不幸か。梓の心配は一瞬で掻き消えることになったのだが。
 「梓ってばチャレンジャーだね」と呑気に話す綾に一瞬でも殺意が抱いたことは、きっと星空も許してくれるに違いない。
 見れば、焔と零もそれぞれ尻尾や翼の羽ばたきで小石や砂を吹き飛ばしている。
 綾はちゃっかり小石を払い除けていたなんて、言われなきゃ気付かないのだから。
「この並びは川の字ならぬ……何だろう」
 若干腑に落ちない感覚に陥りつつも、梓は綾の隣に寝転んだ。その間に焔と零もごろんと横になって、夜空に煌めく星々の舞台を見上げている。
 三人並べば川の字だが、四人並べば――何と言うのだろう。
「うーん。なんだろうねー。まあ、何だって良いんじゃないかな」
 並びよりも星空を楽しもうという綾に、梓も「そうだな」と相槌を返して視線を星へと向けていく。並びを表現するのにぴったりな言葉が無くとも、綾や焔、零と一緒に居られるのだから。
「……あ、今のもしかして流れ星?」
 同じような星空でも、世界によって星座の名前も、星の並びも異なっていて。
 アポカリプスヘルの星空を楽しむ二人の視界を、一際強い光を放ちながら流れ落ちる星が横切っていく。
 一際強い光を放つ流星が始まりとなり、夜空を斬り裂くように流れていくのは、流星のシャワーだ。
「願い事か……俺なら星に何を願うだろう」
 頭上を流れ去っていく流星雨を眺めながら、梓が思うのは願いのことだ。
 綾に出逢うまでと、出逢ってからと。色々あったし、これからも色々あるのだろう。
 一昔前なら、自分の命を顧みない綾を見兼ねて――「俺が見ていないところで綾が野垂れ死にませんように」とか。半分冗談、半分本気で願っていたかもしれない。
(「だが今は、もうそんなことを願う必要はない気がするな」)
 綾に出逢って自分も変わったし、綾も自分に出逢って変わったのだろう。そしてこれからも、成長し続けるのだ。お互いの進歩をすぐ近くで見守りながら。
 だから。今はもう、そんな心配をする必要はない。心の底から、そう思うのだ。
「そうだ。流れ星見つけたら何かお願い事すればいいんだっけ? それじゃあ、梓のお手製弁当が食べられますように」
 梓のお手製弁当が食べられますように。
 早口で三回。もしかしたら、それ以上繰り返されたかもしれない、綾の何より大事な願い事。
(「一瞬だったが、綾の呂律は光速を超えていたんじゃないか?」)
 思いもよらぬ場面で綾の本気を垣間見た梓は、若干引きつつも――流星に願う肝心の願い事がそれなのかとズッコケる。
「わざわざ流れ星に願うレベルなのかそれ……!? あーもう、今はこれで我慢しなさい」
 流星雨に照らし出されて浮かび上がるのは、綾の満面の笑みだった。じーっと無言の圧力で、梓が何かくれないか期待した視線を向けている。
 言葉がダメなら、表情で。少し気を抜いたうちに、新技を覚えていたようだ。キラキラとした純粋な表情に、梓も陥落した。
 梓が常備している桜型のクッキーを差し出せば、一瞬でクッキーが綾の口の中へと消えていく。
 心底幸せそうな顔でクッキーを頬張りつつも、「おねだり」を忘れない綾はちゃっかりしてるのだろう。
「お弁当とは違うけど、早速お願い事叶っちゃった。ねぇ、新作はココア味とかかぼちゃ味のクッキーなんてどう?」
(「また言葉巧みに俺に作らせようとしているな、こいつ……」)
 褒めて相手の気分が良くなったところで、本命のお願いを発動させる高等テクニックだ。何処でそんなこと覚えて来たと頭を押さえながら、梓はそっとため息を吐いた。
 しかし、綾は自分の料理に対して絶対的な信頼を寄せている。それはもう、悪戯として利用できそうなくらいには。
(「新作と称して唐辛子やワサビを練り込んだクッキーを渡しても、何の疑問も抱かずに食べるんじゃないか?」)
 試してみたくもあるが、後が怖い。でも、変な所で聡いから気付くんじゃないかとか、そんなことを思いながら。
 二人と二体、星空を見上げる一時はゆったりと過ぎていく。
「梓、見て見て。なんか変な動きをしてる星があるねー。あっちにいったり、二つに分裂したり……」
「ん? んん? ……綾、お前何が見えてるんだ? 未確認飛行物体みたいな星なんて、何処にもないぞ?」
「――え?」
 何気ない日々がこれからもずっと、続くと良い。
 それはきっと、二人と二体共通の願いだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐】
宴会、行かなくていいの?
お酒飲めるよ?

……そっか
だったらも少し焚き木の光から離れよう
せっかく星が綺麗なんだから、暗いところの方がいいでしょ
あと夏報さんを怪人酒飲みマンみたいに言うのはやめなさい

……ふふ、約束は僕も内緒にしておくね
それじゃあまた――

(瞳を覗き込んだまま)

――おはよ、風見くん
いい夢見れた?
あはは、僕らのやつより楽しそうじゃん

(真っ暗な砂漠で星を見ながら)
うーん、ここまで来ると見渡す限り何にもない
世界に二人って感じだな
……いや、この場合四人になるのか?

ホタルくんのカッコ良さには敵わないけど
なかなかの名コンビだったでしょ
なんだか嬉しいな
君たちの、仲間に入れてもらえてるみたいで


風見・ケイ
【🌖⭐】
ああいう空気は苦手なんだ

夏報こそもっと飲みたいんじゃ……い、いいのか?
酒が飲めるんだぞ?

……そろそろ今日のデートはお開きだな
力を使いすぎて眠いし、この星空はあいつにも見せてやりたい
続きは次回……これは内緒だったな――

(眠るように瞼を閉じて――開くのは青と赤)
(見慣れた瞳が目の前に。記憶を手繰り寄せれば、燃える施設に血まみれの水族館)
――おはよう、夏報さん
……サメとクリオネのゾンビが戦ってた

日本じゃ見れない景色だね
(胸に手を当てる)……確かに、二人ともここにいるから
君と螢が背中合わせで、映画みたいでカッコよかった
ふふ、妬いちゃいそうなくらいにね
不束者達だけど、これからもよろしく
なんてね




 宴と言えばお酒。お酒と言えば宴である。
 それに、ここは異世界なのだ。きっと、アポカリプスヘル特有の珍しいお酒だって飲めるに違いない。
 酒飲みやお酒好きにとっては、見過ごすことの出来ない絶好の機会――なのだが。
「宴会、行かなくていいの? お酒飲めるよ?」
 「本当にいいの? 後で飲みたかったって言っても知らないよ?」と念には念を押して。
 臥待・夏報は、風見・ケイ――螢のままだ――に問いかけるが、返ってくる答えは皆一様に「いいんだ」という、螢らしからぬ答えだった。
「夏報こそもっと飲みたいんじゃ……」
「……そっか。僕はホタルくんがいいのなら、別にいいよ。
 だったらも少し焚き木の光から離れよう。せっかく星が綺麗なんだから、暗いところの方がいいでしょ」
「い、いいのか? 酒が飲めるんだぞ?」
 そう問いかける螢の声が驚きのあまり震えてしまったのも、無理はないだろう。
 夏報と言えばお酒。お酒と言えば、夏報である。その夏報が、お酒の飲める機会を自ら手放したのだ。
 明日は隕石が降るんじゃないか。信じられないものを見るような瞳で、螢は夏報を見つめている。
「本当に夏報だよな? ゾンビにすり替わってたりしないよな?」
「何失礼な想像してるのさ。此処に居るのは紛れもない本物の夏報さんだよ?」
 生者に擬態する変異種が存在してもおかしくないと真面目に考察を始めた螢を、夏報は慌てて現実に引き戻す。寡黙な狙撃手は味方であるから頼もしいのであって、あらぬゾンビ疑惑で額を二度撃ちされては堪ったものではない。
「その反応……確かに夏報だな」
「だからそう言ったじゃん。あと夏報さんを怪人酒飲みマンみたいに言うのはやめなさい」
「怪人酒飲みマンじゃなかったら、一体何になるんだ」
 残念ながら、螢の頭に刷り込まれた「夏報=お酒」の等式を消すには今更過ぎた。
 怪人酒飲みマンの言い訳は聞き流されつつ、二人の足取りは焚火から少し離れたところへと。
 砂漠唯一の光源である焚火から距離を置けば、二人を包み込むのは柔らかな星明かりだ。
 同じ星空を仰ぎ見れば、夜の闇を斬り裂いて地上に訪れるのは星の雨。長い長い尾を引いて地上に訪れる光の雨は、どんな願いでも叶えてしまいそうな程、眩しく煌めいていた。
 快晴時々流星雨。二人占めにするには勿体ないくらいの、とても美しい星空だ。
「……そろそろ今日のデートはお開きだな」
 互いの願い事は胸に秘めたまま、視線は星空から地上へと舞い戻る。
 楽しい時間はあっという間で。名残り惜しいが、そろそろ本日のデートはお終いの時間だ。
「力を使いすぎて眠いし、この星空はあいつにも見せてやりたい。続きは次回……これは内緒だったな――」
「……ふふ、約束は僕も内緒にしておくね。それじゃあまた――」
 デートは今度の約束で。この夜の続きはまたの機会に。
 夏報が螢の瞳を覗き込んだまま「おやすみ」と「またね」と告げれば、眠るように瞳がゆっくりと閉じられる。
 そうして再び瞼が開かれれば――見知った青色と赤色が、夏報のことを出迎えた。
「――おはよ、風見くん。いい夢見れた?」
「――おはよう、夏報さん」
 螢、改め慧へとバトンは渡された。
 目を開いて最初に飛び込んできたものが夏報の顔のドアップだったことにも驚かず、慧は落ち着いた声音で「おはよう」を告げる。
 夢のことを尋ねられ、そのまま慧が記憶を手繰り寄せれば――蘇ってくるのは、燃える施設に血塗れの水族館。イベントが盛りだくさんで、なかなかに大変だったようである。
 あと、何故だか慧の頭の片隅に住み着いて離れないのが、誰も居ない水族館で血みどろの争いを繰り広げるサメゾンビとクリオネゾンビの姿だった。サメは下半身がタコのような状態でクリオネに巻き付いていたし、巨大なクリオネはその頭を盛大にバッカルコーンさせて、サメに噛みついていた。
 Z級映画でも採用しないであろう謎なシチュエーションである。ツッコミどころ満載の記憶に、何処から何処までが夢なのやら。
「……サメとクリオネのゾンビが戦ってた」
 若干の宇宙猫っぽさを感じさせる表情で結論だけを呟いた慧。あの光景はどう説明したら良いのか。扱いに困るシロモノだ。
「あはは、僕らのやつより楽しそうじゃん。で、どっちが勝ったの?」
「僅差でクリオネが勝ちましたね。噛みついた後、盛大にサメを放り投げて」
「そうか……。サメタコ、放り投げられて突き刺さったのかもしれないな……」
「サメタコ、ですか?」
「ううん。何でもないよ」
 一瞬、夏報の頭を水槽のガラスにぶっ刺さってたサメタコな珍妙ゾンビの姿が遮ったが――きっと気のせいだ。そのはずである。
「それにしても……うーん、ここまで来ると見渡す限り何にもない」
「日本じゃ見れない景色だね」
 降り注ぐ流星雨に、遠くに見えるのは砂漠に呑まれた廃墟群。
 滅びに瀕した終末世界は、驚くほどに何も無かった。真っ黒な砂漠に、星が揺蕩っているだけで。
 星明かりを一身に浴びながら、夏報は呟く。
「世界に二人って感じだな。……いや、この場合四人になるのか?」
 二人と言いかけて、それから四人と言い直した。
 見た目は二人。だけど、『ケイ』として三人いるから――合計で四人になる。誰一人として欠けさせることには、いかないのだ。
「……確かに、二人ともここにいるから」
 自身の胸元に手を当てて。夏報の言葉に、慧は納得したように頷いた。
 自分の中に二人居るから、確かに四人だ。
 世界に四人。砂漠と星空を四人占めに。それはなかなかに世紀末で、ロックで――そして、幻想的なシチュエーションだった。
「ホタルくんのカッコ良さには敵わないけど、なかなかの名コンビだったでしょ」
「君と螢が背中合わせで、映画みたいでカッコよかった。ふふ、妬いちゃいそうなくらいにね」
 背中合わせで進む夏報と螢。息の合ったコンビネーションに、迫りくる大量のゾンビ。背中合わせになってゾンビと戦うワンシーンは大ヒット映画のクライマックスみたいで。
 慧はクスリと微笑みつつも、その場に居られなかったことが、ほんの少しだけ悔しかった。
「なんだか嬉しいな。君たちの、仲間に入れてもらえてるみたいで」
「不束者達だけど、これからもよろしく。なんてね」
 今日も四人だったし、明日以降もきっと四人だ。これからも、色々な所に行って――そうして、想い出を増やしていくのだろう。
 今度は何処に行こうかなとか。そんな他愛もない会話を繰り広げながら、一人と三人は終末世界の星空を見上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
まぁ、あれだけ大変な目に合ったんだから、少しくらいなら罰は当たらないよね。

宴会にはちょこっと顔を出して、食べ物と飲み物を頂いてから、少し離れたところに移動するよ。

他人仕事終わったご飯はおいしいよねっ♪

綺麗な星空だなぁ…
世界が変わっても、綺麗な星空は、変わらないんだよね…。
虫ゾンビとか、かなり怖かったけど…
でも、この人達を助けられてよかったよ。
しばらく、星空を見上げてのんびり過ごしてみるね

荒野の世界、ここに生きる人達は、とっても力強いよね
でも、必死で生きていて、それでも笑顔が出てくるのは、ほんと強いよね

わたしも見習わないとね
お母さんみたいに、笑顔で勇気づけられるように、がんばらないとっ!




 火災にゾンビの襲来に。
 今日だけでどれほど命の危機に瀕したというのだろう。
 猟兵達が居なければ、今生きていられた奪還者は――果たして、存在したのだろうか。
「まぁ、あれだけ大変な目に合ったんだから、少しくらいなら罰は当たらないよね」
 今だけは、死にかけたことも、此処が文明が崩壊した終末世界であるということも綺麗に忘れ去って。
 飲めや食えやの大騒ぎのしている奪還者達の宴に、シル・ウィンディアはひょっこりと姿を現した。
 今日くらいなら、神様だって少しくらいは見逃してくれるはず。
 そんな気持ちで宴会の輪に加われば、奪還者達はにこやかにシルのことを招き入れてくれた。
「あなたは、火災の時の……本当に、ありがとうございました!」
「困った時はお互い様だから、気にしないで下さい」
 火災の際に救出した奪還者の女性が、シルを見かけるなり駆け足で近づいてくる。
 そのまま深くお辞儀をされ、「良かったら」と手渡されたのは、食料とペットボトルに入った飲み物だった。
 その後も奪還者達との会話を少し楽しんだシルは、宴の場から少し離れた岩場に移動する。
 人一人分くらいの高さがある平らな岩にジャンプして飛び乗れば、その分だけ夜空に瞬く星との距離が近くなった。
「ひと仕事終わったご飯はおいしいよねっ♪」
 見渡す限り砂と灰色に覆われた世界。時折遠くで渦を巻いているように見える竜巻のような何かは、オブリビオン・ストームだったりするのだろうか。
 夜も更け、気温も徐々に下がってくる頃合い。奪還者から分けて貰ったレトルトシチューは丁度良いくらいに温められていて、大仕事を終えたばかりのシルの身体を満たしていく。
「綺麗な星空だなぁ……。世界が変わっても、綺麗な星空は、変わらないんだよね……」
 あっという間に空になってしまったお皿を傍に置いて。
 宝石箱のように美しい頭上の星空に目を向ければ、数えきれないほどの星々がシルのことを出迎えてくれた。
 何処の世界でもきっと、星空の美しさは変わらない。
 果てしない距離を旅して、地表に降り注ぐ星明かりの数々。長い旅路の果てにこの地に辿り着き、そして今、夜空を見上げているシルと出会ったのだ。
「虫ゾンビとか、かなり怖かったけど……でも、この人達を助けられてよかったよ」
 さすがに、あの時はとても驚いた。
 思わず、虫ゾンビのことを思い出してしまい――少しだけ身震いした身体を温めるように、温かいお茶を両手で抱き込んだ。
 虫さんゾンビ。もう絶対に二度と会いたくない存在だけど、苦手な相手と戦えたその分だけ、更に強くなれた気がするから。
「荒野の世界、ここに生きる人達は、とっても力強いよね」
 星がゆっくりと沈んでは、また別の星が天頂を目指して昇ってきて。
 のんびりと星空を見上げながら、シルが思うのは今日出会った奪還者の人たちと、それからこの世界で生きている人々のこと。
 荒野の世界。文明が崩壊して、訳の分からないモンスターや暴走した機械に追いかけられて。死後もゾンビになってしまう可能性を思えば、安らかな眠りすら信じられなくなってしまうのに。
「でも、必死で生きていて、それでも笑顔が出てくるのは、ほんと強いよね」
 沢山の絶望と、それからほんの少しの希望。
 宴の場にいた人達は皆、一生懸命生きようと笑顔で頑張っていたから。
「わたしも見習わないとね」
 奪還者の人たちに負けていないくらい、笑顔で人々を勇気づけられるようにするためにも。
 まだまだこれからで、勉強することは沢山あるのだから。
「お母さんみたいに、笑顔で勇気づけられるように、がんばらないとっ!」
 夜空を揺蕩う星のように――静かに、けれどとても熱く燃えるのはシルの決意だった。
 新しく結び直した決意の赴くままにシルが星空へと掲げた拳を、優しい闇がそっと包み込む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
◆■

飯…は気にはなるが
まあ食わなくても死にはしないし
騒ぐのも得意じゃないし
自分の手当てがてら負傷者の様子でも見に行く

肩すげえ歯形ついてる…キモ
軽い応急処置程度は出来るが
専門家がいたら任せるし
人手が足りなければ手伝う
あんた達も少しは休んだ方がいい
差し入れ持ってきたからなんか食えよ

後は怪我人や病人でも食えるものを
戦利品から見繕って持ってくか
俺が助けた奴の様子も気になるし

水置いとくぜ
誰も死んでないってよ、良かったな
この通り俺も無事だし
気にすんな…は無責任すぎるが
生きてりゃいずれ挽回できるだろ

誰のどんな命にも意味があると思う
それまで自棄だけは起こすなよ

駄目だ腹減った…
レトルトカレー位なら食っていいよな




 愛用せざるを得ない携帯食料。不動の人気を誇るレトルト食品に、貴重な嗜好品であるお酒や煙草。搬出された物資の内訳は実に様々らしい。分類するのも一苦労のようだ。
 宴会の誘惑にも負けず、「予定されていた仕事」を着々と熟している奪還者達の会話を小耳に挟めば、そんな情報を得ることが出来た。
(「飯……は気にはなるが、まあ食わなくても死にはしないし」)
 腹は減るが死なないのだから、無理に食べる必要もない。
(「『どろっと濃密・焼きそばパン味』か……分類はどちらになるのやら」)
 奪還者達が引き気味に騒いでいる。飲み物なのに食べ物だと。
 名前の響きから察するに恐らく「ゲテモノ」の類に入るだろう。
 何処かの誰かとは違い、そのようなゲテモノに好奇心のまま飛びつくようなほど命知らずではない。
(「騒ぐのも得意じゃないし」)
 世界が今のようになる前は、日常風景だった光景。
 繰り返される他愛ない会話、教室の隅で巻き起こるくだらないバカ騒ぎに、コンビニで発売された「ゲテモノ」に盛り上がるクラスメイトたち。
 しかし、はとりは騒ぐことは得意ではない……騒ぎに巻き込まれることはあったが。
 自分の手当てがてら負傷者の様子でも見に行こうかと、はとりは宴の場を立ち去った。
「肩すげえ歯形ついてる……キモ」
 宴会の裏、砂漠の片隅に広げられたテントで重傷者達の手当てや看病が進められていたのもまた現実だ。
 ゾンビに噛まれた傷の処置をしようと服を脱いだ途端――目に飛び込んできたのは、肩に綺麗に刻まれたゾンビの歯形で。
 こんなにくっきりとつくのか。それほど思いきり噛まれたのか。
 一秒でも早く消えることを全力で祈りつつ、はとりは歯形をした傷に包帯を巻いていく。このまま放っておけば、じきに癒えるだろう。
「あんた達も少しは休んだ方がいい。差し入れ持ってきたからなんか食えよ」
 医療職に就いていたというスタッフが怪我人のケアに当たっており、漸くひと段落着いたところだという。
 食べ物をとりに行くことすら億劫と言う彼らの代わりに、はとりはスタッフには甘いものを、怪我人には消化に良いものを持ってくると――そのまま纏めてずいっと突き出した。
 安定のぶっきらぼうな態度だったが、はとりの配慮は伝わったようだ。「ありがとう」というお礼の言葉に、「ああ」とだけ返事を返す。
(「俺が助けた奴の様子も気になるし」)
 食べ物を手渡したついでに、トラックを横転させた「犯人」の居場所を聞き出すとそちらに向かう。
「水置いとくぜ」
「ありがとな……って、キミは……! あの時、オレを助けた、」
 ぼんやりと天上を見つめていた男は、突然現れたはとりの存在に我に返った。
 驚きのあまり身体を急に動かしてしまい、傷の痛みに呻いている。
「誰も死んでないってよ、良かったな」
「ああ……キミ達が助けてくれたお陰だ。本当に……感謝しても、しきれない、くらい……ッ」
 男の痛みが一通り引いたところで、淡々と告げる。
 誰も死んでいないことを。火災は無事に、鎮火されたことを。
「この通り俺も無事だし。気にすんな……は無責任すぎるが、生きてりゃいずれ挽回できるだろ」
 肩の痛みを押し殺しつつ、無傷を示すためにひらひらと掌を振ってみせる。
 男が関わっているのは、炎上までだ。ゾンビのことは関係ない。余計な心配をさせたくはなかった。
 傷を負っていないと。何でもないことのように。それが、はとりに出来る精一杯だったのだから。
 手で顔を覆った男が見ていたかは分からないが、この言葉が少しでも、救いになるのならば。
 人生は長い。どんなことが起ころうと続いていく。地獄のようなこの世界だが――男も、はとりも、皆歩み続けなければならない。
「誰のどんな命にも意味があると思う。それまで自棄だけは起こすなよ」
 事件を解決してそれで終わり、ではない。犯人や被害者、巻き込まれた人々のアフターケアをしてまでが、『名探偵』の仕事なのだから。
 静かに涙を流しながら、何度も力強く頷いてみせる男を見――ふと、考える。自分の人生の意味を。彼女の人生の意味を。
(「駄目だ腹減った……。レトルトカレー位なら食っていいよな」)
 男はいつの間にか眠ってしまったらしい。結構なことだ。睡眠は何よりの薬に、生きるための糧にもなるのだから。
 そのまま思考の海に沈み始めたはとりだったが……他ならぬ自身の空腹が、思考の終わりを告げる。
 腹が減っては出来ることもできなくなってしまう。
 レトルトカレー位なら、と。はとりは少し日に焼けたパッケージに手を伸ばすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月30日


挿絵イラスト