29
或る咲良な一日

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




●透明な櫻のような娘
 透櫻子は死んだ。
 誰にも知られること無く、ひっそりと。
 すぐに誰かが気付いていたら、蘇生できていたかもしれないのに。
 けれど、知られなかった。
 その日の透櫻子の体調が頗る良かったせいだ。
 だからあんな理由で透櫻子の心の臓が止まってしまってしまうだなんて、想像できるはずもなかったのだ。

 まさか、そんな。病弱な一人娘が、萌えに萌えてしまった末に心臓が止まってしまっただなんて――きっとお父様だって未だにご存知ないはずよ。私(わたくし)もそういう本はまだ読んだことがないし……屹度知っているのは私自身とお天道様だけだわ。
 初めまして、ごきげんよう。私、幸春・透櫻子(みはる・とおこ)と申します。生前は病床の身なれど、今は自由に外を歩き回れる身を得ました。理由はその……お恥ずかしいのですが――あっ! ごめんあそばせ。ちょっと待ってらして! 今、とても素敵な殿方とご令嬢が……! えっ、あっ、あそこのあの書生さんと學徒兵さん……もしかしてそういう? 殿方同士で? す、素敵……ぇえ!? ちょっと待って、あちらのお嬢様同士はおそろいの絹紐(リボン)を揺らして……と、尊い! 尊いわ!

「ああー、素敵! 素敵だわ! なんて世界は素敵なのかしら!」
 観劇用双眼鏡(オペラグラス)を手にした少女は片手を頬に押し当て、頬を薔薇色に染め、カフェーの二階席からぐっと身を乗り出した。
 身体が弱かった彼女の世界は、いつも自室から見える通りの風景と書物。思い通りにならない身体では身を乗り出すことなどせずにただ見つめているだけだったが、今では元気にこうして――
「あっ」
 身を乗り出しすぎた透櫻子は二階の窓から転げ落ちてしまった。
 影朧としての透櫻子は、あまりにも弱かった。今こうして落ちてしまっただけでも、透櫻子の存在は危うく、散ってしまいそうだ。
「つ、辛い……」
 透櫻子はボロボロと大粒の涙を零す。
 辛い、辛いのだ、とても。
「私、まだ……」
 涙で歪む世界。そこに未だ果たせぬ想いを馳せた透櫻子の手に、力が籠もる。
 まだ、まだだ。まだ死ねない。まだ、消えられない。
 透櫻子は今にも消えてしまいそうな身体で立ち上がる。
 世界にはこんなにも素敵なもので溢れているのに、堪能できないのは辛い!
 まだ見ぬ美男美女や異性同性の萌える恋愛を見るまで、死ぬに死にきれない!
 ――どうか力を貸してくださいな、皆さん!
 どうかどうか、私を萌えさせて!

●尾鰭のいざない
「……と言う訳で、お前たちには一日帝都で自由に過ごして貰いたい」
 春の休暇だと思ってくれていいよ。桜色の乳飲料に挿した太めの吸管(ストロー)に口を付けた雅楽代・真珠(水中花・f12752)は、吸管を通って口内へと運ばれてきた木薯(キャッサバ)粉の澱粉を丸めた甘味をもちもちと食んだ。甘くて美味しく、サクラミラージュでのお気に入りだ。
「自由に帝都で過ごせば、件の影朧――幸春・透櫻子は救われることだろう」
 帝都を脅かす影朧は即座に斬るのが掟なのだが、帝都桜學府の目的は『影朧の救済』なのだ。その影朧が無害で、もう先が長くないのなら救済が優先される。救済するには、影朧が抱いている執着を果たさせてやればいい。
「執着を果たした影朧は、光りながら消滅するよ」
 透櫻子の執着は――ずばり、『萌え』である。
「萌え、とは――感情の萌芽のことを言うらしい。僕が調べてみたところの情報だから少し外れているかもしれないけれど……綺麗、美しい、愛らしい。何かを目にして抱いた好意的な感動や情動……みたいだね」
 萌えることにより、透櫻子は満たされる。
 萌えることにより、透櫻子は救われる。
「透櫻子は……何だったかな。ええっと……『雑食』というものらしい」
 チラリと見たメモには、『雑食。異性でも同性でも主従でも禁断でも何でも美味しく頂ける』と書いてあった。好き嫌いがないことは好ましいことだと真珠は頷いた。
 狙った行動を心がけてくれると透櫻子は喜ぶだろうが、透櫻子のことを気にせず普通に過ごしてくれてもいい。萌えポイントに何かがヒットすれば透櫻子は勝手に萌えるし、引っかからなくとも他の人に萌えていることだろう。
「自由にとは言ったけれど、透櫻子の側でなくてはならないよ。お前たちの行動を透櫻子がこっそりと見ているからね」
 透櫻子が見たい場所の希望も聞いてある。
 朝は、待ち合わせ広場の大時計のある大通り。お洒落なカフェーやパン屋、花屋などが店を連ねている。時計台の下でのデエトの待ち合わせや、穏やかな休日の朝のカフェーで楽しむ人や、早朝の動物の散歩、焼きたてのパンの香りを体験してみたいのだそうだ。
 昼は、大通りを通っていける大きな百貨店。ここで揃わぬものはないと言わんばかりの品揃えに、屋上には小さな遊園地を有している。回転する自動木馬に豆汽車、回転茶器等が年齢を問わず人気なスポットで、屋上で爽やかな風を感じながら食べる桜アイスクリンは絶品なのだとか。百貨店内にある純喫茶『ちぇりぃ・ぶろっさむ』で昼食や軽食を頂くのも流行のひとつだ。金魚鉢型のパフェ鉢に入った様々な色のゼリーパフェが人気なのだそうだ。
 夜は、大通りを抜けてた先にある広々とした公園。ぼんぼりの灯りに照らされた夜の幻朧桜の並木道。ところどころに屋台もあり、甘酒や桜ラテ、桜餅を始めとした軽食が売られている。夜桜を愛でながら歩きながら食べても、ひとところに落ち着いて宴会をしても楽しく過ごせることだろう。
「夜に行く公園ではね、『咲良結び』という事が行えるよ」
 公園の中央にある桜の大木。これは幻朧桜ではなく、八重咲きの花を付ける通常の桜だ。この時期だけに行える『咲良結び』は、桜へ近づけば屹度解る。
 薄紅の八重咲きの花を咲かす桜には、白くて細い何かが垂れている。
 それは、リボンだ。
「誰かのことを願い、誰かのことを想い、桜へ願いを託すんだ」
 桜の枝に負担を掛けないように、結ぶリボンは決められている。1cm幅程の太さの白いリボンである。公園の入り口で配られていたり、屋台の店員が配っているため、思いついた時に受け取れる。
「桜に結ばなくてもいいよ。いっしょに来た誰かに結んでも良い。絹紐の花を咲かされても良しと相手が思うのならば」
 最近流行した書物に咲良結びが描かれたらしく、都民には此方が人気だ。桜ではないからリボンの種類は問われず、意中の相手を思って百貨店で買った天鵞絨やレヱス等の気に入りのリボンを相手に結ぶのだと言う。友達に、恋人に、家族に。愛しさや感謝、これからの友情を胸に、手や髪、首。相手の所有物へと贈り合う。
「遠くへ行かなければ好きにして」
 それじゃあ送るねと、淡く輝く金魚と蓮とを手のひらの上へと踊らせた真珠が、ふと思い出したように花唇を開く。
「そうそう、透櫻子が読んだ書物では『赤はふたりだけに通ずる所有の証』と記されていたそうだよ」
 お互いに婚約者を持つふたりの、秘めた恋心の行く末の話だったそうだ。


壱花
 OPが長くてすみません、壱花です。
 これは、とある春の一日の出来事。
 突発性トキメキ症候群で亡くなってしまった少女を救って下さい。

 のんびり進行なため、再送が度々生じたりします。
 受付・締切・再送等、TwitterとMS頁、タグにお知らせが出ます。
 送信前に確認頂けますと幸いです。

 グループでのご参加は【4名まで】。
 ソロ参加の場合、何気ない貴方の日常に透櫻子は萌えます。
 カップル参加の場合、大いに萌えます。
 三角関係の場合、うわー尊いー! どう応援すれば!? と萌えます。
 ダブルデートの場合、違いに萌え萌えします。
 デートする2名+出歯亀の場合、出歯亀さんは冒頭に👀を。
(※出歯亀さんのソロ参加は出来ません)

●幸春・透櫻子(みはる・とおこ)
 激しいトキメキに心臓が耐えきれなかった乙女。
 オペラグラスを片手にトキメキを探すことに彼女は忙しいので、透櫻子の事を気にしなくて大丈夫です。夜まで見届けたら、満たされて消えます。
 基本的に、推しは遠くから見守っていたい派。透櫻子から近寄る事はありませんが、ソロ参加さんが声を掛けたり、デートを見守る出歯亀さんが透櫻子と一緒に居る等は可能かと思います。

●舞台
・第1章:朝、大通り
・第2章:昼、百貨店
・第3章:夜、桜を楽しめる公園

●その他
 各章のPSWはあくまで一例に過ぎません。自由に行動してくださって大丈夫です。
 3章のみ、お声掛けいただいた場合に限り、真珠が登場します。

【第1章のプレイング受付は、4/6(火)朝8:31~でお願いします】


●迷子防止とお一人様希望の方
 同行者が居る場合は冒頭に、魔法の言葉【団体名】or【名前(ID)】の記載をお願いします。また、文字数軽減用のマークをMSページに用意してありますので、そちらを参照ください。

 それでは、皆様の素敵な萌えるプレイングをお待ちしております。
150




第1章 ボス戦 『命短し萌えよ乙女』

POW   :    ……無理……尊い……!
小さな【恋愛小説のページ】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【恋愛小説の舞台で少女を胸キュンさせること】で、いつでも外に出られる。
SPD   :    あっ待って……! なにそのシチュ……萌える!
戦場全体に、【萌えるシチュを見せないと出られない空間】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    転生パロとかパラレル設定は最高……!
対象への質問と共に、【転生パロの二次小説】から【パラレル設定の空間】を召喚する。満足な答えを得るまで、パラレル設定の空間は対象を【設定に従わないと行動ができなくなること】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はクレイオ・カンパーナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●美しい朝
 チュチュンチュン、チチチ。
 夜のカアテンを取り除き、明るい陽光が大通りを照らす。朝特有の清々しい空気に、鳥たちは喜び、早朝から店を開けた花屋の花々はツヤツヤと煌めいている。
 ――なんて素敵な朝なのかしら。
 思わずほうっとため息をついた透櫻子は、次の瞬間、素早くオペラグラスを握りしめていた。

 ごきげんよう、皆さん! 私、幸春・透櫻子と申します!
 今日は私に残された最後の一日! 悔いなく幸せに過ごすために協力をしてくださる方々を見つけたから、今日は最高な一日になることは確約済み。私、今か今かとカフェーのテラス席や路地の影からこっそり皆さんをお待ちしています!
 けれど私のことは背景の一部、壁か天井、観葉植物かお座布団程度に思ってくださいまし! あなたが向ける視線は私宛ではないの。ほら、もっと素敵な方が隣にいるでしょう? 居ない? では、花に向けて下さい。パンに向けてください。芳しい珈琲の香りに愛おしげに瞳を細めて、柔らかく小さく吐息をこぼしてくださいませ! 透櫻子はそっと見守りたいわ!
 あ、待って! あの老紳士、お父様よりも厳ついのにあんなにたくさん愛らしい子犬を連れて! ハッ! 目深に被った帽子! 屹度周りの人には知られたくないのね! けれど可愛い愛犬たちの散歩はしなくてはいけない! ああああ、なんて最高なの!? 辛い、尊い、今すぐ昇天してしまいそう! いいえ、駄目よ透櫻子! 生前みたいにトキメイて倒れたりせずに、今日は最後まで見届けるんだから! って、待って待って待って!? 愛犬だけに向ける笑顔!? ……無理……尊い……!
 ああ! 朝からの萌えは健康にいいって本当なのね!
佐那・千之助
クロト(f00472)と
主従関係の設定

御主人様。こうしてのんびりできるのも今日が最後ですね
明日は御主人様の大事なお見合い
その後はお忙しくなるでしょうから

大切な大切な御主人様。
ずっと仕えていたいけれど
彼の幸せな結婚生活を笑顔で見守る自信はなくて…
従者失格。だからもうお暇を頂くつもり
今日が終わったら切り出そう

つい主のお顔をじっと見て
想いを伝えたい…なんて
馬鹿げたことを考えてしまうけど
…なんでもありません
敬慕溢れる笑顔で翳りは見せず
最後までよき従者であろう

花屋の花々に目を惹かれ
天国とはこういう所なのでしょうか…!
わ…これすごく綺麗…
こっそりお買い上げ。
店主さん、これを一輪ください
はい、ラッピングも…


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)の、僕は主
…って設定で。

彼の言に苦笑い。
そう言わないでおくれ。
確かに、こんな自由も稀となるでしょうけど。

返事はどこか漫ろ。
この先なんて、疾うに全て、家に決められている。
…心に愛おしいひとを秘めたまま。
僕は、他の誰かと添えるのだろうか…?

視線ひとつに気付いただけで、思わず笑顔になってしまう。
どうかしましたか?
声を掛ければ、笑顔を返してくれる。
ずっと共に居てくれた…
ずっと共に居たいと思うのは――

解ってる。ひどい主。
これは僕の独り善がり。叶わぬ夢。
そっと胸に仕舞って、
君は本当に花が好きですね。
でも天国は大袈裟です。と笑いながら…

いっそ花と変われたなら、最期まで君に添えるだろうか




 佐那・千之助(火輪・f00454)は、主人であるクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の後を一歩遅れて歩く。主の姿を視界に入れ、いついかなる時もお守りするのが従者の務め。例えそれが、今日で最後になろうとも。
 朝も早くから散歩に出たいと口にした主人がそう願う理由は、察している。彼は明日、見合いを控えている。上流階級の結婚というのは、家同士の結婚だ。そこに彼の意思はなく、全ては彼の頭上で話し合われ、既に決められている。
 だからだろう。澄んだ朝の空気の中を行くと言うのに、クロトの足取りは物憂げだ。
「御主人様」
 声を掛けるべきか否か、家を出てからずっと悩んでいた。けれどこうして二人きりで何処かへ出掛けて過ごすのも、これで最後かもしれない。そう思った時、自然と言葉が溢れていた。
「こうしてのんびりできるのも今日が最後ですね」
「……そう言わないでおくれ」
 僅かに振り返ったクロトは、苦く笑う。確かにこんな自由も稀になるだろうが、一緒にいれば最後という程でもないだろう。含まれた意味合いに気付かぬまま、クロトは視線を前へと戻した。
 クロトは明日、見合いをする。見合いをして、そして結婚を成すのだろう。
(僕は、他の誰かと添えられるのだろうか……?)
 心には、既に愛おしいひとが住んでいる。しかし、クロトの胸に誰がいついていようと、家には関係ない。添えられるかどうかではなく、添わねばならない、である。
(……大切な大切な御主人様)
 一歩分斜め後ろから、彼を見続ける。見守るよりも強く、思いを篭めて。
 千之助には、彼の幸せな結婚生活を笑顔で見守る自信がなかったのだ。だからもう、『今日が最後』と、そう決めていた。今日が終わったら、お暇を頂こう。そう思ってこの日を迎え、そして主の散歩に付き従っていた。
(想いを伝えたい……なんて)
 なんて馬鹿げた考えだろう。そんなことをしてどうなる。主を困らせるだけだ。
「どうかしましたか?」
「……なんでもありません」
 クロトが笑顔で振り返る。熱がこもった視線で見つめすぎたかと内心ひやりとするものの、心を隠すのは従者の作法。敬慕溢れる笑顔で翳りは見せず、最後までよき従者であろうと千之助は努めた。
(僕がずっと共に居たいと思うのは――)
 歩を進めれば、思考も進む。散歩は思考の良い運動だ。室内で停滞していた思考が導き出した言葉に、思わずクロトは自嘲した。
 この思いを口にすれば、彼は側に居てくれるかもしれない。けれどそれは、主としての命令だから、だろう。ひどい主だ。ただの独り善がり。彼は従者で、自分は主人。その垣根を越えてはいけないと、幼い頃から誰よりも知っているのはクロト自身なのに。――叶わぬ夢だからこそ、願ってしまうのだ。
「天国とはこういう所なのでしょうか……!」
「君は本当に花が好きですね」
 思考に沈む間に、花屋の前へと来ていたようだ。思わずと言った調子で上がった声に天国は大げさだと笑って返したクロトは、ついと花へと視線を向ける。
(いっそ花と変われたなら、最期まで君に添えるだろうか)
 また思考に沈みゆくクロトが気付かぬ内に、千之助はこっそりと花屋の店主へと声を掛ける。声を落として花を指差し、これを一輪ください、と。
 そうしてまたどうぞと手渡されたなら、上品に包まれた花を後ろ手に、一等大切な主を追いかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】♢

全く、何度言っても半徹夜するんですから
どう感じるかは知りませんが、君は人目を惹きますからねぇ

浮かずに歩くと人混みに埋もれるんですよね、困ったことに
何時も通り手を繋いで、カフカに人混みを任せてカフェーへ
ホットケーキと紅茶を頼んでバターとメイプルシロップはたっぷり

んふふ、君、甘い物大好きですものねぇ
最初から欲しがると思っているから、自分の一口より大きく切って口の前に差し出した
同じようにお返しされると可笑しそうに笑みを滲ませてぱくり

ふふ、君もなかなか大胆ですこと
いえ、だって……ねぇ、可愛いカフカ、此処、外ですよ?
顔を真っ赤にして甘えた物言いをする子が愛らしくて、笑いながらまた手を取った


神狩・カフカ
♢【彼岸花】

ねむ…
おれァ遅くまで原稿書いてたンだぜ
萌え、か
そういや貰ったファンレターに書いてあったような
意味はわかったけどよ
おれたち見てそう感じてくれンのかね?
ま、やるだけやってみるか

とりあえず腹減ったから朝飯食おうぜ
いつも通りはぐれないよう手を繋いでカフェーへ
甘いもの…いや、おれはサンドウィッチとコーヒーにするかな
いつも通り二人で食事をしていれば
段々と仕事だということも忘れ寛ぎ始めて

はふりのも美味そうだな
差し出されてぱくり
ん、美味ェ
ほれ、とおれのもお返し

優雅な朝飯だったな
ごちそうさん
…え?
あっ、いや…おれはいつも通り…
…なんで言ってくれねェのさ!
自覚してしまえば顔が熱くなってきて…
あーもう…




「ねむ……」
 ふあ、と大きく開きかけた口を手で隠した神狩・カフカ(朱鴉・f22830)を見上げた葬・祝(   ・f27942)は、呆れたように目を細めた。
「全く、何度言っても半徹夜するんですから」
「おれァ遅くまで原稿書いてたンだぜ」
 不可抗力ってもンだ。
 締切は待ってくれないと両手を上げて肩をすくめ、それにしてもと考えるのは此度の、こうしてわざわざ朝から外出なんぞをせねばならなくなった依頼の件だ。
 ――萌え。その感情を覚えたことはないが、貰ったファンレターに記載されていた事があったから、意味は知っている。けれど、それはカフカが紡ぐ文章に対してのものであり、カフカ自身を見てそうは思うのだろうか。
「どう感じるかは知りませんが、君は人目を惹きますからねぇ」
 ゆるりと首を傾げたカフカに、祝は小さく笑った。
「ま、やるだけやってみるか。――とりあえず腹減ったから朝飯食おうぜ」
 ん、と差し出された手に、祝の手が触れる。祝の背は大きくはないから、浮かずに歩くと人混みに埋もれてしまう。屋台の並ぶフェスティバル等だったら抱き上げてもらった方が良いが、街を歩くくらいなら手だけで充分だ。いつも通りに手を預ければ、カフカが悠々と人の波の中を泳ぎ、目的地まで安全に連れて行ってくれる。
「私はホットケーキと紅茶を頂きましょう。君は?」
「おれァ甘いもの……いや、おれはサンドウィッチとコーヒーにするかな」
 外からよく見えるオープンテラスのあるカフェーへと落ち着いたふたりは注文を済ませ、何となくちらりと路地や他の店に目をやる。あのどこかに、今回の仕事の依頼人の影朧がいるはずだ。何処にいるかはわからないが、見られていると始めから知っているのはなんとも落ち着かないものだ。
 けれどそれも、最初の内だけ。
 注文した料理が運ばれ、いつも通りふたりで食事をしていれば、段々と仕事だという認識は薄れていく。
「はふりのも美味そうだな」
 玉子たっぷりのサンドウィッチを手に口にすれば、ゆっくりと向けられた瞳が、またゆっくりと笑みを刻む。
「んふふ、君、甘い物大好きですものねぇ」
 端からカフカが欲しがることを織り込み済みでホットケーキを頼んだ祝は、たっぷり掛けたメイプルシロップとバターが染み染みのパンケーキを自分の一口よりも大きく切り、更に生クリームもたっぷり乗せてからカフカの前へとパンケーキを刺したフォークを差し出してやる。
「どうぞ」
「ん、美味ェ」
 塩気のあるものを食べていたからだろうか。殊更美味に感じる。
「ほれ」
 お返しに差し出されたサンドウィッチに可笑しそうに笑みを滲ませ、祝もぱくりと頂いた。何処かから見ているであろう透櫻子には恋人同士の甘いひとときに見えていることだろう。
「ごちそうさん」
 もう一口どうですかと薦められるままに何口か頂いて、綺麗にサンドウィッチもホットケーキも無くなったテーブルに向かって手を合わせれば、ふふっと祝が笑う。
「君もなかなか大胆ですこと」
「……え?」
「いえ、だって……ねぇ、可愛いカフカ、此処、外ですよ?」
「あっ、いや……おれはいつも通り……」
 思わず慌ただしく周囲へと視線を送るカフカの姿に、祝の笑みが濃くなる。
「あーもう………なんで言ってくれねェのさ!」
 顔の熱を自覚して狼狽える愛し子はとても愛らしくて、これだから手放せない。
 次の場所へいきましょうかと笑って再度取った手は、先程よりも熱かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】♢
梓、梓、俺あの店に入ってみたい
梓の服を引っ張って指差した先には洋食を取り扱うカフェ
「お洒落なカフェでモーニング」
って一度やってみたかったんだよねー

へぇ、朝から沢山のメニューがあるんだね
俺は、お店イチオシのフレンチトーストにしようっと

フレンチトーストにはバニラアイスと苺が添えられていて
もうこの時点でお洒落度がカンスト
女子みたいにはしゃいで写真撮りまくり
おっと、アイスが溶ける前に食べなきゃ
外はカリカリで、中はプリンみたいにぷるぷる
凄いよこの食感、梓も食べてみなよ
一口分フォークに刺して、対面の梓にあーんと食べさせる

家でもこんなお洒落な朝ご飯食べたいな~
梓が作ってくれないかな~


乱獅子・梓
【不死蝶】♢
説明を聞いても頭にハテナが浮かぶ影朧だな…
まぁ、お言葉に甘えて今日一日のんびりさせてもらうとしよう
戦わずに済むならそれに越したことはない

綾にねだられるがままにカフェに入店
たまにはリッチな気分を味わうのもいいだろう
じゃあ俺は…この具沢山オムレツにしよう

オムレツにナイフを入れれば
中から赤や緑といった色とりどりの野菜と
そしてトローリとしたチーズが顔を出す
これはニクい演出だな

綾から差し出されたフレンチトーストもあーんと受け取る
(もはや恥じらいも無い

おいっ、俺に作らせる気か
…でもたまにはこういう手の込んだ朝食もありかもしれないな
仕方ない、いつ作りに行ってやろうかと考える俺だった




 萌えとは、一体……。
 いや、それもあるけれど……萌えて消滅ってどうなのだろうか。
 グリモア猟兵の言葉を何度思い起こしても、頭に浮かぶのは疑問符ばかり。いいのか? と疑問が浮かべば、いやいいのだろうと即座に打ち消す。今日は一日楽しんでこいと言われたのだ、半分休暇だと思って愉しめば良い。
 うーんっと首を傾げながら歩む乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)を見て、また真面目なこと考えてるんだろうなーっと灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は思った。気にせず楽しめばいいのにね。
「梓、梓、俺あの店に入ってみたい」
 梓の服を軽く引っ張り、指差し示すは可愛らしい黒板を外に置いたカフェー。黒板には洋食の文字とモーニングの文字が大きく書かれ、パンケーキやトーストのイラストが可愛らしく描かれている。
「『お洒落なカフェでモーニング』って一度やってみたかったんだよねー」
「たまにはリッチな気分を味わうのもいいな」
 先日、デビルキングワールドでちょっといいホテルに泊まったのだが、ほぼ徹夜だったために豪華な朝食はろくに喉を通らなかったのだ。それを思い起こせば、お洒落なカフェでモーニングという言葉はとても魅力的なものに思えた。
「俺は、お店イチオシのフレンチトーストにしようっと」
 西洋文化を取り入れた内装の可愛い店内に入りメニューを開けば、朝だと言うのに沢山の料理を取り扱っていた。うーんっと少し悩んだ綾がメニューの文字を指差し、梓は? と聞いてくる。
「じゃあ俺は……」
 指差した『具沢山オムレツ』の文字に、ガッツリ系だねーっと綾が笑った。
 程なくしてふたりの眼前に届けられたホカホカと湯気立つ料理はどちらも美味しそうで、美味しそうだとどちらともなく笑みが零れ、ナイフとフォークを握る手にも期待が篭められる。
 ふっくらと柔らかな黄色へとナイフを入れれば、パプリカの赤とブロッコリーの緑が顔を覗かせる。同時にとろりと溢れ出すチーズが広がって、ふわりと漂う香りに笑みが深まった。ニクい演出だと良い心地で口へと運べば、玉子とチーズの濃厚な味が広がる。朝の産みたて卵を使っているのだろうか。これは朝でないと食べられない味かもしれない。
 一口一口ゆっくりと堪能する梓の隣では、フレンチトーストの可愛らしさにお洒落度がカンストしてる~っとはしゃいだ綾がパシャパシャと角度をずらしたり拡大したりと何枚も撮影し、満足そうにスマホを眺め、それからハッとした顔でナイフを握る。ゆっくりしていたらバニラアイスが溶けてしまうし、苺に熱が入ってしまう。美味しいものは美味しいうちに食べねば勿体ない!
 サクサクとナイフを入れれば、カリカリの外側に反して中はプリンみたいにプルプル。卵液をよく染み込ませ、低温でじっくりと丁寧焼いたのが解る一皿だ。
「凄いよこの食感、梓も食べてみなよ」
 一口分に切ってフォークに刺して差し出せば、梓は慣れた様子でぱくり。
「ん、美味いな」
「でしょー? あ~、家でもこんなお洒落な朝ご飯食べたいな~。何処かの優しい誰かが作ってくれないかな~」
「って、おい。俺に作らせる気か」
 優しい誰か、なんて。そんなの目の前にいる人しかいない。
 ぺろりと舌を出す綾にアイス溶けるぞと促しながらも、でもたまにならいいかもしれないな、と梓は思う。手の込んだ朝食は特別感があるし、一日の始まりがより良いものになるような気もする。
(それに、零と焔も喜ぶだろうし)
 綾のためだけじゃないぞと己自身に言い訳をし、いつ作りに行ってやろうか、必要材料は……と考え始める梓だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
サクラミラージュでデェトですよ藍!
いつもは和装ですが、今日はハイカラにワンピースと帽子を着てみました。
似合っていますかね?
ふふっ、今日はおもいっきり楽しみましょうね。
ギューモフモフナデナデ

さて、お散歩しながらお買い物ですよ。
ふむふむ、この世界ではこのような衣装が流行っているのですね。
えっ、似合うから買ってこい?
いや、これはちょっと。スカート短くないですかね。つっ次!行きましょう。
あら?あれは屋台でしょうか。ちょうど良いので、少し休憩して行きましょうか。

はぁー、平和ですね。藍、貴方とこれて幸せです。あの時出会ってからたくさん助けて貰いましたね。
これからも頼りにしていますよ。チュッ。




 爽やかな風が、朝の気配を連れて頭上を通り過ぎていく。
 つば広の可愛らしい帽子をそっと抑えて眩しがるように瞳を少し細めて太陽を見上げた豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は「いいお天気」と微笑んで、腕に抱いた式神の『藍』へと「良いデェト日和になりそうですね」と笑いかけた。
 今日の晶の姿はいつもの和装ではなく、ハイカラにモダンなワンピースとつば広の帽子。腕周りや足がなんだか少し落ち着かないような気もするけれど、いつもと違う装いはとても楽しい。
「似合っていますかね?」
 藍へと問いかければ、身振り手振りで似合っていると伝えてくれる。一生懸命な様子が愛おしくて、ギュッと抱きしめて藍へと頬を寄せた。
「ふふっ、今日はおもいっきり楽しみましょうね」
 腕に抱いた藍を撫でたりモフモフしながら大通りを進み、開いたばかりの店へと適当に入ってみれば、そこはどうやら洋服店のようだ。晶が今着ているワンピースと似たものや、それよりももう少しハイカラなものまで揃っている。
 帽子やワンピースを当てて見ては、どうですかと藍へ問えば、どれも似合っているらしく、返ってくるのは色良い返事ばかり。買ったらどうかと薦められたけれど、これは少し丈が短いような気もする。
「つっ、次! 次、行きましょう」
 ササッと元の位置に戻して、そそくさと店を出た。
「次はどこへ行きましょうか?」
 藍を抱えて大通りをテクテクと歩き、休憩でもしましょうかとちょうど良いベンチを見つけたところで、その近くに屋台を見つけた。
「はぁー、平和ですね。藍、貴方とこれて幸せです」
 屋台を覗いて温かなお茶を買い、ベンチに座ってひとここち。
 初めて藍と出会ってから、色んな事があった。たくさん助けて貰ったし、今日はこうしてデートもしている。
「これからも頼りにしていますよ」
 もふもふな毛へとそっと顔を寄せ、親愛の証を貴方へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
SPD判定

萌え、感情の萌芽。なるほど。
仕事柄感情に触れる事は多いけど、どちらかというと不安と希望、時に激情が主だから少し不思議というか不可解というか。

今日はどうしようかな。
とりあえずカフェーで一息つきながら今日の予定を立てる事にしようかな。
カフェオレを頼んでメモ帳引っ張り出して、うーん、必要なものとかなかったっけ?
折角だし日用品とかの買い物じゃなくて、せっかくこの間初戦闘こなせたんだしちょっとしたご褒美的なものがいいな。確か昼は百貨店だっけ。

うう、しかし悪意がないとはいえ、それでもこの視線(圧)はちょっと辛い……。
思わずフードを深くかぶり直しそうになる。




 サクラミラージュの朝は、サクラミラージュで暮らしている夜鳥・藍(占い師・f32891)にとっては、いつもそこにあるものだ。
「さて、今日はどうしようかな」
 とりあえず、どうしようか。
 大通りに開いている店を、首を動かしてゆっくりと眺め、うんと頷く。
 カフェーで一息つきながら今日の予定を立てる事にしよう。
 いつもどおりに店奥に行きかけて、いけないいけないと引き返す。帝都で占い業を営んでいる藍は、たまにこうしたカフェーの奥まった場所を借りて客の相手をすることもある。それに――そうでなくとも、藍は人見知りなのだ。お茶をしてゆっくり過ごす時でも店の奥のほうがなんだか落ち着く。
 けれど今日は、ひとに見られるのが依頼だ。『萌えたい』のだと聞いている。
 オープンなテラス席へと腰を落ち着け、店員にカフェオレを頼んだ。
(萌え、感情の萌芽。なるほど)
 カフェオレが届くまでに思うのは、どこかで見ているであろう乙女のこと。
 仕事柄感情に触れる事は多いけど、いつも触れるのはどちらかというと不安や希望。時に激情。だからなんとも不思議で不可解な依頼であった。
(萌えてくれるのかな……)
「お待たせしました、カフェオレです」
「あ、ありがとうございます」
 うーんっと悩みかけた頃に届いたカフェオレを口に含み、思考を切り替える。
 メモ帳を取り出して、必要なものは無かったっけ? と首を傾げる。この後は百貨店にいくことになるから、せっかく出し日用品じゃない買い物をしたい。
「せっかくだし、ご褒美的なものがいいな」
 先日、初めての戦闘をがんばったのだ。自分へのご褒美も大切だ。
(……それにしても)
 視線が気になる。
 普段人目につかないようにしている身としては、とても気になる。
(フードを深くかぶっちゃだめかな。……だめかなぁ)
 身を竦めたくなりながら、視線に耐え続ける藍であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルデルク・イドルド
ディル(f27280)と
こう言う感じの依頼は初めてだな…聞く限りディルとずっとデートしてればいいみたいな感…!?デート…そうかデートか!あーディルとは初デートって感じになる訳か。自覚したら恥ずかしいな。

ん、ディルはパン屋からのいい匂いに惹かれてるみたいだな。パン買って散歩しながら食べるか?
お行儀は悪いが俺達は海賊だからななんて悪戯っぽく笑って。
(クロックムッシュとカフェラテを買って大通りをゆったりと食べながら散歩)
ふふ、ほら、ほっぺについてるぜ?

(向こうから歩いてくる散歩中の犬にソワソワするディルに)
触らせてもらわないのか?…今日はアルといるから…?…まったく無自覚だから厄介だよな。


ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と
もえ?もえってなんだ?
よくわからないけどアルと遊べるなら楽しい依頼だなっ!

おおっ、ここのパン屋からいい匂いするっ
どのパンも美味しそうだ、アル買って食べよう!
オレはこのメロンパンっていうのがいいっ
アルはどのパンにする?
サクサクでほわほわで美味しいなっ♪
(パンくずを口の端に付けながら食べ)
ん、付いてたか?へへっ、アルありがとなっ

朝は犬の散歩してるやつが多いんだなぁ
(犬を触りに行きたくて少しソワソワして)
ん?いや、今は行かねぇよ
だってアルと一緒にお出かけなんだから
今日は一日アルと一緒にいるっ♪




 萌え。萌えとは、一体なんなのだろうか。
 軽くグリモア猟兵から説明を受けたけれど、なんだかよくわからなかった。けれど今日は一日アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)と遊べるということだけ理解したディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)は楽しげに、弾むように大通りをアルデルクとともに歩いた。
 その隣を歩くアルデルクはと言うと、ディルクよりもちょっぴり脳内が忙しい。デートしてればいいだけの依頼だなんて簡単だな、なんて最初は思った。次いで、デート!? と脳が理解して、デートだと! と脳内の思考担当アルデルクが総動員でガタッと立ち上がったような心境になった。
(あーディルとは初デートって感じになる訳か)
 デート、初めてのデート、初デート。そういえば、一度もしたことがない。
 そう自覚した途端、とても恥ずかしくなったのだ。
 ちらりと傍らの宝を見れば、彼はただ楽しげだった。だからアルデルクも、彼の楽しさが最後まで続く一日をともに楽しもうと思う。
「おおっ、ここのパン屋からいい匂いするっ」
 軽い足取りで大通りを進めば、スンスンと小動物めいた動きで匂いを追ったディルクがパッとパン屋を覗き込む。焼きたてなのだろう。暖かな湯気と牛酪(バター)の香りが店内から漏れ出ていた。
「パン買って散歩しながら食べるか?」
「そうだな、アル。買って食べよう!」
 食べ歩きなんてお行儀が悪い。しかし、アルデルクとディルクは海賊だ。海賊だからな、なんて悪戯っぽく笑えば、明るい笑顔が賛成を唱えた。
 朝の、それも開いたばかりのパン屋に並ぶパンは、どれも焼きたてだ。サクサクなビスケット生地のメロンパンは冷めた時よりも甘い香りが強く、甘い香りに誘われるようにディルクは「オレはこれにするっ」と指をさした。
「アルはどのパンにする?」
「そうだな、俺は……」
 仏蘭西(フランス)生まれのトースト――クロックムッシュとメロンパンを手に、二人は大通りを再び歩く。カフェラテも欲しかったアルデルクであったが、大正文化のサクラミラージュにはカフェラテを作るための機械はまだ海外から導入されておらず、どの店にも無かったので代わりに珈琲を大通り沿いに見つけたカフェーでテイクアウトした。
 クロックムッシュを豪快に食めば、トロリとチーズが溢れ出す。糸を引くチーズと、重みで垂れそうになるチーズと苦戦しながら食べられるのも、焼きたての醍醐味だろう。ボリューム満点なクロックムッシュを食むアルデルクの隣からは、サクッと心地の良い音が聞こえてきている。
「サクサクでほわほわで美味しいなっ♪」
 サクッと食んで、ほわっはふはふ。
 焼きたてのメロンパンは、外はカリッとサックリ。中も、冷めた時よりもふわふわだ。食感にも味にも大満足なディルクは笑みを咲かせて美味しそうに頬張る。
「ふふ、ほら、ほっぺについてるぜ?」
「ん、付いてたか?」
 伸びた手がディルクの口元の『お弁当』を浚っていき、アルデルクの口へと消えた。
「へへっ、アルありがとなっ」
 取ってくれたことに感謝を告げてから前を向く。
 早朝の、大通り。朝早くからカフェーで珈琲を楽しんだり、自分たちのようにパンを手にしていたり、それから犬の散歩をする人たち……と、いくつもの姿が見えた。
 番犬だろうか。大きくて元気そうな犬たちが前方からやってくるのを見て、二人は道を譲るように脇に寄る。
「触らせてもらわないのか?」
 犬が向かってくることに気付いてからハッハッハッハッと犬の息遣いが傍らを通り過ぎていく間、ずっとディルクの視線は犬を追っていたことにアルデルクは気付いていた。ディルのことだから触りに行きたいのだろう? と首を傾げてみるが、アルデルクの予想とは反してきょとりとした視線が向けられる。
「ん? いや、今は行かねぇよ。だってアルと一緒にお出かけなんだから」
 明るく笑うその笑みが、どれだけアルデルクを救うかディルクは知らないのだろう。
 無自覚って、本当に厄介だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
推しの同担拒否勢とか掛算の前後論争とか
知らなくても良いことはたくさんあるけれど

(私は貴女の今持つ望みを、満足してもらいたいと思っています。その上で。それに劣らぬ歓びがあることも、知っていただきたいのです)

帝都を舞台として聖地巡礼出来そうな恋愛小説を数冊探してカフェへ持参
オープンテラスでゆったり小説を読みつつティータイム
時折頬を染めながら
ゆっくりサンドイッチやマカロンを摘まむ
1冊読み終わったら余韻を楽しむように本を抱きしめてから次の本へ

実際は読書の合間にUCで透櫻子の様子を観察
彼女の推しと萌えを分析

(壁になりたい、は至高だけれど。推しを語り合い仲間に機会を託す歓びも、貴女に知って貰いたいのです)


一年・彩
♡♢
同士の予感を察知…!

分かる、分かるわー
この世界には萌えと尊み溢れて何度でも拝んじゃうよねー

お早う透櫻子さん!
あのね彩は一年・彩って言うの!
今日は透櫻子さんと一緒に萌えを探そうと思うんだけど良いかな?
じゃーん!これは彩の双眼鏡!
舞台で推しの顔を良く見れる奴が此処で役に立つとはねー
ご一緒させて下さいなお姉様…なーんてね!

アッネコチャン!
ふわふわで可愛いけど誰かに拾われたり…ん?
不良少年がネコちゃん拾い上げて…えっそのままお持ち帰り!?
動物病院行った先で同級生の女の子が不良少年の優しさに気付いて…やだ、ラブの予感でときめきが止まらないね!?

透櫻子さんは薄い本とか書いたりしないの?
読んでみたいなあ




 大通りに面したカフェーのテラス席。その片隅でオペラグラスを手に、ひっそりと――息を殺すような静けさで微動だにしない亜麻色の髪の乙女が居た。ぎゅうと握られた手は彼女の強い感情を現しているのか時折震え、きゅうと唇は噛み締められている。
 そんな彼女へ、声を掛ける者が居た。
「お早う透櫻子さん! あのね彩は一年・彩って言うの!」
「は! ひゃ、ひゃいっ!」
 透櫻子が慌ててパッと振り返った。透櫻子は影朧として本当に弱すぎて、近くに人が寄ってきていることすら気付いていない様子だ。隣に座ってもいいかと尋ねる一年・彩(エイプリルラビット・f16169)に慌ててコクコクと頷き「少しでしたら……」と少女の姿を伺った。
「今日は透櫻子さんと一緒に萌えを探そうと思うんだけど良いかな?」
 そう口にする彩を見て、透櫻子は少し考え首を傾げる。
「ご一緒させて下さいなお姉様……なーんてね!」
 自身の双眼鏡を取り出して見せれば、双眼鏡を持つ手へと透櫻子の手が伸びた。
「私は今日『見る』ためにいるの。彩さんは――私に素敵なあなたを見せてはくださらないの?」
 今日集まった人々は『透櫻子に見られること』もしくは『自分の同伴者に見られること』を承知して来てくれている。それ以外の人が、ただ他の人を見に来ることは許されていないはずだ。
「私、あなたの素敵な日常を見たいわ。あなたが街に溢れる風を感じているところを見たい。美味しいものを口にするあなたを見たい。――それが、以前の私が出来なかったこと」
 話は、体調の良い日に女中と出来た。
 だから今日は、この最後の一日は、本の中でしか知らなかった世界が実際にあることを『見に』来たのだ。
「私の最後のお願い、聞いてくださるかしら?」

 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は静かに紅茶の入ったカップを傾ける。春らしい桜模様の可愛らしいソーサーを片手に、楚々とした姿で一口。適温で蒸された茶葉が開いて抽出した優しい味に、ほうと吐息を零した。
 一人がけの丸いティーテーブルの上には、サンドイッチやマカロンと言った軽食とティーセット。そして幾冊かの帝都を舞台とした恋愛小説。どれも有名な恋愛小説で、同好の士がその表紙を見れば『あら、聖地巡礼ね』と微笑ましく思うことだろう。
 たった今一冊読み終えて、紅茶でひと心地つき……愛おしむように読み終えたばかりの装丁を撫で、そうして余韻を楽しむように抱きしめた。愛おしさがぎゅうと詰まった一冊に思いを馳せるような面持ちで。
 暫く余韻を楽しめば、別れを惜しむようにまた撫ぜて、次の本へと手を伸ばす。
 時折微笑染めながら軽食摘みつつ、本を楽しむ朝の優雅な一時。
 ――に、見せかけて。
 実際は読書の合間に『蜜蜂』たちで透櫻子を観察している。桜花の喚ぶ蜜蜂たち――《蜜蜂の召喚》は、桜花の代わりに離れた対象の様子を見聞きしてくれる。そうして先程からこっそりと透櫻子の様子を伺っていたのだった。
 推しの同担拒否勢とか掛算の前後論争とか知らなくても良いことはたくさんあるけれど、知ってもらいたいこともある。それは、推しを語り合う歓びだ。けれど先刻聞いた会話からすると、どうやら彼女はそれを望んでいない様子。たくさんの事を成そうとするには、一日しか残されていない透櫻子の時間は少なすぎるのだ。たくさんのトキメキを『見たい』と願う彼女は話すことよりも見る事を優先するだろう。
 けれど夜になって、彼女が満たされて消える間際ならば。
 見ることに満足した透櫻子も今日の感動を誰かと分かちあいたいと思うかも知れない。
『アッネコチャン! 不良少年がネコちゃん拾い上げて……そのままお持ち帰りなシチュエーション!?』
『不良……ヤの付くご職業な方とかかしら? 私は真面目そうな学徒兵さんが雨の日に拾って行くところを見てみたいです』
 文字を追う振りをして視線を上げれば、透櫻子が少女と話している姿が視界に入る。
 これは見ることも叶わないのですが……と、透櫻子は透明に微笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
萌のために…そう
朝を任されろ、と。はいはい
……記録書写で、俺の、死んだ恋人を呼ぶ
紫を含んだ青の長髪に鮮やかな林檎色の瞳
白いワンピース姿の、可愛らしい人

これを再会に含めていいものか…
でもまぁ、お前の顔を忘れない内に会うのも、悪くはないか
いいよ、喋らなくて。今日は…姿だけでいい
あぁ、お前がちゃんと笑ってくれるのに、俺が不愛想なのは駄目だよな
今日は幸せな思い出を、楽しむよ
それじゃ、行こうか。アシュリー

頭一つ分違う彼女の歩幅に合わせてエスコート
カフェーで軽く朝食を取って、散歩がてら大通りに並ぶ店を眺めて歩こう
花屋で季節の花を一輪だけ包んでもらって
パン屋で昼に食えそうなもの一緒に選んで
のんびり、過ごそう




「萌えのために……そう」
 送られた帝都の路地裏にて、エンティ・シェア(欠片・f00526)はひとり、薄い唇を開く。
「朝を任されろ、と。はいはい」
 周りに他に人はいないけれど、独り言を口にしているわけではない。内なる自分――身体をシェアしている他の人格と話をしているのだ。
 損な役割であったならば恨み言のひとつやふたつ口にする『俺』だが、今日はそう言った仕事でもない。桜の都で、のんびりと一日を過ごせばいい。その、朝を任された。それだけだ。
(これを再会に含めていいものか……)
 傍らで、白いワンピースが揺れる。紫を含んだ青の長髪に鮮やかな林檎色の瞳の、《記録書写(オモイデ)》から現れた、愛しい、死者の幻影。
 形の良い唇が開きかけて、それをふるりとかぶりを振って制する。
「いいよ、喋らなくて。今日は……姿だけでいい」
 瞬いた林檎色が、柔らかく微笑う。一緒に居ることを、会えることを喜んでくれているように思えて、胸の奥が痛むようなここちがした。
 彼女が微笑んでくれているのに、無愛想ではいけない。今日はデートなのだ。幸せな思い出を作る日だ。記憶の中に存在する面影と新たに紡ぐ思い出が、果たして『思い出』と呼べるものであるのかはわからない、けれど。
「それじゃ、行こうか。アシュリー」
 肘を差し出せば、白い繊手が蝶のようにひらりと止まって。
 頭一つ分違う彼女の歩幅に合わせ、ゆっくりと帝都を歩む。
 最初に向かうのは、大通りに面したカフェー。二人分を注文して、一人で食べる。
 いつもより少し豪華な朝食を摂ったら、腹ごなしの散歩がてらに大通りに並ぶ店々を眺め歩いて、彼女に気になるものはないかと尋ねた。
 香ばしい牛酪(バター)の香りが漂ってきたら、釣られるようにパン屋へ入った。種類豊富に焼きたてパンの並ぶパン屋で昼食を買い、広場のベンチで食べようかと語らった。
 いつもよりのんびりと時が過ぎる気がするのは、傍らの彼女のせいだろうか。
 チラリと視線を向ければ、穏やかな笑みだけが返ってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グリュック・ケー
♢♡
どういうこと、面白すぎる。
せっかくの黒衣だし、これは一肌脱ぐべきだな。

初々しいカップルに敢えてぶつかりドキドキの接近☆を作ってみたり、
花びらをより一層まき散らして「髪に花びらが…」ってシチュを演出したり、
なんならパン渡すからちょっと咥えて走ってもらおうかな。

演出されるのは嫌?でもまあ、きっかけを作っているだけだから。

やることなさそうならとりあえずプリン食べてようかな。カフェやパン屋に拘りのプリンが売っていればいいんだけど。




 どういうこと、面白すぎる。
 グリモアベースで仕事の話を聞いた時、グリュック・ケー(なんか黒い・f32968)はそう思った。しかもさくら咲く帝都で一日普通に過ごすだけのお仕事だ。
(せっかくの黒衣だし、これは一肌脱ぐべきだな)
 グリュックは楽しさを隠さずにゲートをくぐった。
(――さて、と)
 けれどどうしようかな。
 帝都に降り立って、辺りを見てみる。
 初々しいカップルに敢えてぶつかりドキドキの接近☆ を作ってみたり、花びらをより一層まき散らして「髪に花びらが……」ってシチュを演出したり、なんならパン渡すからちょっと咥えて走ってもらおうかな……なんて考えたけれど、それは一人の時間や二人きりの時間を思い思いに過ごす人々にとっては迷惑なことだろう。
 日常を過ごせばいいと聞いている。
「だったら……」
 やることはひとつだ。
「この辺りで、美味しいプリンが食べられる店はない?」
 路行く人に声を掛け、美味しいプリン探しの旅に出るだけだ!
 大通りに面したカフェーのプリンは、まろやかなとろみのある柔らかめのプリン。カラメルは少し苦めだけれど、ちょんっと乗った生クリームで程良い。
 そんなプリンに舌鼓を打っていると、「そういえばあそこのパン屋のプリンパンがさー」なんて声が他の席から聞こえてきた。
 ――プリンパン!
 グリュックの次の行き先が決まってしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【🐰🍭💊】
…その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。
どうせ選ばれねェんだし、サッサと帰った方が良いんじゃねぇか?
病弱な割に口は達者で悪い男
軽薄なのにアンニュイと独特な雰囲気を纏う

キャピったうさぎとはまさに正反対
上から下までメールを流し見て
ふーん…イイんじゃねーの。
どこか上から目線の捻くれ者
…素直に褒めてんじゃん。
お前が可愛くないことなんてなかったろ?

…ほら行くぞ
メールの手を取って白うさぎを出し抜く気満々

お前の好きな服でも見に行くか
それとも映画?散策なんてのも悪くねェ
二人きりならもっと良かったろうに

なぁんて、恋愛ドラマみたいな三角関係を演じてみせる
さて、どこかで見てる視聴者は満足したろうか


メール・ラメール

【🐰🍭💊】
姿を見付ければ笑顔で手を振り
ふたりのやり取りは楽しそうにくすくす

折角のデートだもん
袴にブーツ、この世界らしい装いで
あとね、簪挿してきた!
この前買ったばかりなの、似合う?
もう!
ジェイちゃんはウサギさんを見習って、もうちょっと素直になってもいいと思うな!

ジェイちゃんに手を取られればちょっと驚き
ウサギさんにも手を繋がれれば思わず頬を染め
まっ、って、えっと、ええと
両手繋がれたら保護者と子供では、と思いつつ
お買い物も甘いものもぜんぶぜーんぶ連れてって!なんて
今日はめいっぱい我儘な女の子として振舞っていいかしら

演技だと分かっていても思った以上に恥ずかしい
口には出さないけれど顔に出そう!


真白・時政

【🐰🍭💊】

ンも~せっかく今日こそメルちゃんと二人きりでデート出来ると思ったのにィ
なんでジェイくんまでいるの~?
お待ち合わせ場所の大時計の下でぷりぷりシながらあっかんべー
メルちゃんの姿が見えたらコッチだよ!ってニコニコ
大きく手を振ってキミにアピール♥

サクミラコーデなメルちゃんもカワイ~!
リボンの簪なんてあるンだねェ
とォ~っても良く似合ってるヨ♥

アッ!抜け駆けズル~い!
ウサギさんともオテテ繋いで
今日はドコに行く?
カフェでパフェ食べたりお気に入りのアクセ探したり
メルちゃんの行きたいトコどこでも連れてったげるヨ
む~それはコッチのセリフ!

タノシーキモチは態度に隠して
三角関係のラブコメを見せたげる




 爽やかな朝の空気に包まれた大通りの大時計前広場で、小さな雀が二羽、時計の上でチュチュンと挨拶を交わし合う、穏やかなひととき。
 その下で待ち人を待つ人々の顔はみな、今日一日の楽しみを胸に表情を明るく――しているはずなのだが、そうではないワケアリな人たちもどうやらいるようだ。
「ンも~せっかく今日こそメルちゃんと二人きりでデート出来ると思ったのにィ……なんでジェイくんまでいるの~?」
「……その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
 表情にも口調にも不満を隠さない、白い男と黒い男。感情的に真白・時政(マーチ・ヘア・f26711)が口にすれば、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は虚弱そうな見た目に似合いな静かな口調で、けれど辛辣に皮肉を返す。どうせ選ばれないのだから、泣きべそかく前にサッサと帰れば? と、軽薄そうな笑みを添えて。
「おめでたいジェイくんには残念なおシラセだけどォ、メルちゃんはウサギさんを選んでくれるヨ」
 時政も負けじとアッカンベーッと舌出し対抗すれば、視界の端に愛しい彩がチラついた。ふたりの待ち人、メール・ラメール(砂糖と香辛料・f05874)の姿だ。いち早く彼女に気付いた時政は「あ♥」と表情を明るくして顔を向ける。ムカつくジェイくんなんて無視無視! メルちゃんの方が大事だもんね!
「メルちゃ~ん! コッチだよ~!」
 ジェイへ向けていた悪態も同時にポーンっと吹き飛ばして、二人の元へと向かってきているメールへと大きく手を振れば、楽しげにくすくすと笑みながら手を振り返してくれる彼女の姿が愛らしい。
「おはよ、メルちゃん。今日はサクミラコーデ?」
「おはよう、ウサギさん、ジェイちゃん。折角のデートだもん」
「サクミラコーデなメルちゃんもカワイ~!」
 袴をちょんと摘んでブーツを見せてから、簪も挿してみたのとくるんと回って見せれば、時政は両手を合わせていつも以上にニコニコ笑う。
「この前買ったばかりなの、似合う?」
「とォ~っても良く似合ってるヨ♥」
「ふーん……イイんじゃねーの」
 素直に可愛いと褒める時政とは違い、ジェイはどこか上から目線。興味ありませんな態度で上から下まで流し見て、たったそれだけしか言葉をくれない。
「もう! ジェイちゃんはウサギさんを見習って、もうちょっと素直になってもいいと思うな!」
「……素直に褒めてんじゃん。お前が可愛くないことなんてなかったろ?」
 勿論、むくれる時だってお前は可愛い。
 突然の素直な言葉に瞬いている間に、「ほら」と手を取られて少し引かれれば、メールの身体は春風にそっと背を押されたように半歩だけジェイの方へと寄った。
「アッ! 抜け駆けズル~い!」
 ウサギさんともオテテ繋いでと、ギュッ! 反対の手はウサギさんの!
「まっ、って、えっと、ええと」
 ジェイと時政に両手を繋がれた形になったメールは思わず頬を染めて少し慌てるも、この状況は保護者に囲まれた子供のように見えなくもない。
「今日はドコに行く? カフェでパフェ食べたりお気に入りのアクセ探し?」
「お前の好きな服でも見に行くか? それとも映画? 散策なんてのも悪くねェ」
「メルちゃんの行きたいトコどこでも連れてったげるヨ」
「……二人きりならもっと良かったろうに」
「む~それはコッチのセリフ!」
 メールが口を挟む間もなく口を開いた二人が、にらみ合う。
「ちょっとジェイくん、もっとメルちゃんから離れてヨ」
「は? それはこっちのセリフだ。暑苦しい」
「もう! ふたりとも! 今日はめいっぱい楽しく過ごすんだから、喧嘩しないで!」
「だぁってェ、ジェイくんがウサギさんのことイジメるんだもん」
「……言ってろ」
 片手でえんえん泣き真似をする時政から、ジェイは付き合ってられないとプイッ視線を逸す。色も違えば性格も違う。まるで水と油のようなふたりだ。
 そんなふたりの間のメールは、ショートケーキのような柔らかな緩衝材。
 仲の悪いふたりの手をギュッと握って視線を奪い、そうして明るく可愛く笑ってやるのだ。
「お買い物も甘いものもぜんぶぜーんぶ連れてって!」

 なんて、恋愛ドラマのような三角関係は勿論演技だ。
 恥ずかしさが顔に出ていないかドキドキしているメールはその表情が正反対なふたりへのトキメキに見えていますようにと願い、楽しいことが大好きな時政は楽しい気持ちが態度に出てしまわないように隠して、普段とあまり変わらないようでいて口の悪さに磨きをかけたジェイはこっそりとどこかで見ているであろう透櫻子を満足させれるように、と。三者三様に演技を続けていく。
 今日はまだまだ始まったばかり。ドキとキュンに溢れる三角関係ラブコメで楽しませて、そうして自分たちもめいっぱい楽しもう!
 三人の足は軽やかに、同時に石畳を蹴るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
あめいろ

萌えは健康に良いには同意ですとも
んふふ、ティアとの時間は至福ですよう
ずーっとあまーいお菓子を食べてるみたい
ぎゅうっと手を繋いで参りましょう

しずくくんもかじゅーのおねーさんも!
あっちにオススメのお店があるんですよう

ココア、を飲むにはあたたか過ぎますね
ぱちぱちしゅわーり
さくらんぼを乗っけたクリームソーダが飲みたいです

クリームを溶かしながら食べるのが好きなんですよねえ
ティア、こっちこっち
ほっぺたにクリームが付いてますよう
ちょちょいっと手招きして掬い取りましょ

あーんとひと口
あなたからの甘味はとびきり美味しく感じます
ふふー、幸せな時間ですよう

しずくくん苦労人ですねえ
おふたりも楽しそーで何よりです


ティア・メル
【あめいろ】

んに?萌えってなーに?
よくわかんないけど
楽しい時間を過ごせばいいんだよね
ぼくとの時間は楽しい?
えへへへへーやった
手をぎゅうっと繋いで

雫ちゃん、藍!
ふたりとももっとこっちにおいでよ
円ちゃんが選んだお店なら間違いなしだね

ぼくもおんなじやつ!
ぱちぱちのソーダ水に親近感
さくらんぼを円ちゃんの方にのっけて
ふふふープレゼント

早速一口飲めば
程良く甘さが弾けて眸をぱちくり
んにに、美味しいんだよ
あう どこどこ?
目を閉じて、ん!っと円ちゃんの方に顔を寄せる
擽ったくて淡く笑んだら
アイスを一口掬って円ちゃんの口元に
あーん
どう?美味しい?

雫ちゃんも藍も仲良しだねー
んふふ、よきかなよきかなってやつなんだよ


岩元・雫
あめいろ👀

ええ…(困惑)
其様な理由で影朧に変ずる子が居るの…
居て堪るかと思うけど居るんだな じゃあ仕方無い

前往く二人の懇ろを、察せぬ程に鈍くも無い
お邪魔しないよに行こうかしら
ぐえ、
あゐ!!ふらふらしない!一寸!!

着いた先の座席から何から、御二人さんに沿おうとも
おれはジンジャーエールね
だって絶対胃凭れするもの
此方の話
気にしないで

――睦まじいこと
好い事だ
邪魔に為らない程度に眺めて
秘かに笑む
如何様なかたちでも、其を見るのは好き
誰かに芽生う正の情が、確かに在ると安堵するから

…其れで、
何であんたはおれに寄越すの
良いってば、自分で食べ……
ひと口が大きいし!!
もがッ

――見てるなら、笑ってないで助けてよ!!


歌獣・藍
あめいろ👀
まぁ、まぁ。
2人とも本当に
幸せそう
そうね、邪魔しないように…
!しずく!こっち!
(手を引いたつもりが
服のフードを引っ張って)
みて!綺麗な髪飾り!
しずくに似合いそうね!
まぁ!こっちは簪!素敵だわ…!
しずくはどれが気になるかしら
ひとつだけなら、あゐねぇさまが
プレゼントしてもいいわよ!(ふふんっ)

おまたせしてごめんなさい
このお店に入るのね?
私はアイス2倍のクリームソーダにしようかしら…!

みんなで楽しむこの時間は
様々な『アイ』で溢れてる
この時がだいすき

ほら、しずく。
アイス、丸々ひとつあげるわ!
せっかくだし、あーん。よ!
もう、遠慮しない…でっ!!!(思い切り突っ込む)

あぁ、本当に愛しい時間だわ




 チュチュンと鳴く雀が飛び立つのを見送り、百鳥・円(華回帰・f10932)はそこかしこで待ち合わせしたり散歩をする人々を色違いの瞳に映す。みんな幸せそうで、みんな楽しそう。
「萌えは健康に良いには同意ですとも」
 わかりますと頷けば、傍らの愛しい桃色がんにっと首を傾げる。萌えってなーに? よく解らなかったティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が、大きな瞳で教えて教えてと見上げてくる顔へと瞳を向ければ、途端に愛しげに柔らかな色となる。彼女との時間は、いつだって甘い甘いお菓子のようだから。
「んふふ、ティアとの時間は至福ですよう」
「んに?」
 答えになっているような、いないような?
 けれど円が楽しいと言ってくれるのなら、ティアも楽しい。嬉しい。
「えへへへへーやった」
 幸せそうに笑顔を咲かせ、ぎゅうと手をつなぎ合って二人は歩む。
 ――その、いくらか後方。
「まぁ、まぁ。ふたりとも本当に幸せそう」
 微笑ましげに頬に手を当ててふたりを見守る歌獣・藍(歪んだ奇跡の白兎・f28958)が同意を求めるように傍らを見れば、耳鰭をぴるっと動かした岩元・雫(亡の月・f31282)が浅く頷いた。ふたりの懇ろを察せぬほど、鈍くはない。だから今日はこうしてふたりとは距離を少しだけ置いて、邪魔をしないようについていくつもりだ。
 それにしてもと雫が思うのは、今回の依頼の影朧のことだ。話を聞いて、正直困惑した。だってそんな、其様な理由で影朧に変ずる子が居るだなんて。人の悩みや執念、大事なものは、その人にしか分からない――ということなのだろう。
 ぼんやりと前のふたりの背中を見ながら歩いていたものだから、雫は藍が何かに反応していることに気が付かない。そして藍も藍で、髪飾り売りの露天に目を奪われているものだから――ちょっとした不幸が起きた。
「しずく! こっち!」
「ぐえ、」
 手を引くつもりが、引いたのは雫のフード。ぐいと首が締まった雫はカエルような声を発してしまった。
「みて! 綺麗な髪飾り! しずくに似合いそうね!」
「……あゐ」
「まぁ! こっちは簪! これも素敵だわ……!」
「あゐ」
「しずくはどれが気になるかしら。ひとつだけなら、あゐねぇさまがプレゼントしてもいいわよ!」
 何と言っても姉さまですもの。頼ってくれていいのよ。
 さあ可愛くねだってみせてと雫へとドヤ顔を向けたら、「ふらふらしない!」と怒られた。えええ、しずくってばいらないの!?
「ああ、もう。ふたりが待ってくれているよ」
「雫ちゃん、藍! ふたりとももっとこっちにおいでよ」
「しずくくんもかじゅーのおねーさんも! あっちにオススメのお店があるんですよう」
 大きく手を振って呼ぶティアと、にっこり笑って手招く円。
 ほらいくよと、名残惜しげに「しずくに似合うと思うのに」と簪へと未だ視線を向ける藍の手首を掴み、雫はふたりのもとへと駆けていく。

 円の案内でたどり着いたカフェーは、家具や食器に力をいれている店だった。
 ふたりの邪魔をする訳にはと離れた席へ着こうとする雫を引っ張って、四人はひとつの机を囲む。
「ココア、を飲むにはあたたか過ぎますね」
 開いたメニューをふたりで覗き込み、うーんと悩むのはほんのすこし。手書きのイラスト付きの可愛いぱちぱちしゅわーりなクリームソーダが誘うから、これにしますと指をさす。
「さくらんぼを乗っけたクリームソーダが飲みたいです」
「ぼくもおんなじやつ!」
「アイスの量も増やせるようですねぇ」
「まぁ! では私は、アイス2倍のクリームソーダにしようかしら……!」
「おれはジンジャーエールね」
 だって絶対胃凭れするもの。
 小さく零した声を耳聡く拾った藍が首を傾げるのを、気にしないでと手を振り背もたれへと身を預けた。
 店員が注文を聞きに来て、暫く待てば四人の前にそれぞれの硝子容器が置かれる。どれも小さな泡が弾け、しゅわしゅわと気持ちの良い音を立てていた。
 ソーダ水の身体を持つティアはなんだかちょっぴり親近感を抱きながら、さくらんぼへと手を伸ばす。最初に食べる派なのかしらと円の視線が追う中、摘まれた赤い果実は円のクリームソーダの上へと乗せられる。
「おじょーさん?」
「ふふふープレゼント」
 ニッコリ笑うティアを見て、円はあらとかまあとか声を零し、そうしてふわり、ありがとうございますと微笑み、赤いさくらんぼがふたつになったクリームソーダへと銀色の匙を差し入れた。
「んにに、美味しいんだよ」
 程良い甘さが、ぱちぱち、しゅわわ。
 刺激も心地よいと笑うティアの傍らでソーダにクリームを溶かしながら食べていた円は、あらと声を上げる。
「ティア、こっちこっち」
「んに?」
「ほっぺたにクリームが付いてますよう」
「あう……どこどこ?」
 優しい手招きに、ん!っと瞳を閉じて顔を寄せれば、柔らかな指先が頬を撫でてクリームを掬い取っていく。きれいになりましたようの言葉に瞳を開けて微笑めば、さっきよりも少しだけ、頬が熱を帯びたよう。
「円ちゃん、あーん」
「あーん」
「どう? 美味しい?」
「ええ。あなたからの甘味ですもの。とびきり美味しく感じます」
 お返しにあーんっと食べさせるのもまた、幸せなひとときだ。
(――睦まじいこと)
 そんなふたりをチラと見ながら、雫はジンジャーエールを口にする。邪魔にならないように視線だけを動かして眺めるふたりはとても幸せそうで、それはとても好い事だと思う。ストローに添えた手のひらで隠した笑みは安堵にも似て。
「ほら、しずく。アイスをあげるわ!」
 ティアと円の様子を穏やかに眺めていたのに、突然傍らから匙を向けられる。
 向けられた匙の上には、ドーンっと存在を示すアイスクリーム。しかも一口サイズではなくまぁるいひとつ丸々だ。
「え、いらないけど」
「いいのよ、しずく。はい、あーん」
「良いってば、自分で食べ……」
「もう、遠慮しない……でっ!!!」
「もがッ」
 アイスクリームひとつは流石に大きい。無理やり口に突っ込まれれば、次に牙を向くのはアイスクリーム頭痛だ。雫はたまらず机に突っ伏した。
「雫ちゃんも藍も仲良しだねー」
「しずくくん苦労人ですねえ」
 そんな雫を、ティアと円は微笑ましげに見ているし、藍は雫にあーんが出来てとても嬉しげだ。
「――見てるなら、笑ってないで助けてよ!!」
「んふふ、よきかなよきかなってやつなんだよ」
 アイスクリーム頭痛を耐えながら顔を上げた雫に、にぱぱと楽しげにティアが笑った。ふたりだけの時間も楽しいけれど、みんなでワイワイする時間もとても楽しい。
 楽しくて愛しくて美味しい時間は、様々な『アイ』で溢れている。
 けれどまだ今日は始まったばかり。
 さあ、もっともっと愛おしいひとときを!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花邨・八千代
【徒然】
夫婦になってから初めての!デエト!
んふふ、かぁいく袴姿でおめかししちゃったぜ
これは布静も惚れなおしちまうかもなー!

と、思って待ち合わせ場所にいたらナンパ男に遭遇するとは…

「わりーけど旦那待ってるとこなんで」
「えっ、いや人妻だから俺」

やだこのナンパ男クソほども引かねェ
しつこーいめんどーいドつきたーい!
しかし怪力645をここで揮う訳にも…

「あ、布静!」
ひょいと抱き込まれて腕の中
ナンパ男を追っ払う姿に、なんつーかこう…
ちょっと、きゅんとしちゃったり?

「いやいや?今日も俺の旦那さんは男前だなーって思ってたとこ!」

なんだかムズムズするな、こういうの
誤魔化して腕にしがみ付く

「デート行こ、布静!」


薬袋・布静
【徒然】
久々のデートやし、何時と趣向を変えよか
中に詰襟シャツ着て、八千代がえらい気にとったインバネスコート着てくか

と、めかしこみ時間前に既に居る嫁が
遠目から見ても分かる通りナンパされていた

「やから、一緒に行くぞ言うたやん……阿呆」
「すまんなぁ、うちの嫁さんになんの用事か知らへんけど、これからデートやねん。馬に蹴られたく無けりゃ――とっとと往ねや、クソ餓鬼」

ナンパ男の手を捻り、丁寧に対応しようとしたが我慢の限界
嫁を片手で抱き寄せ懐に閉じ込める
追い払った後は改め腕の中の嫁を見下ろす

「別嬪さんや……わざとナンパされに行っとるやないんやろうなぁ…人がキレ散らかしとんのワクワク顔で見よってからに…」




 思わず花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)は半眼となった。
 つい先刻までは「夫婦になってから初めての! デエト!」とルンルン気分で通りを歩いて待ち合わせ場所に来たというのに。椿の描かれた可愛らしい袴姿におめかしして、「これは惚れなおしちまうかもなー!」なんて想う相手の顔を想像してくふふっと笑っていたというのに。
「ねーねー、お姉さん」
「あん?」
 待ち人ではない男に掛けられた声に、急激に気分が萎んでいくのが解る。
「お姉さん可愛いね。俺と遊ばない?」
 何だこの定型文のようなナンパは。お前もっとセンスくらい見せてみろよ。
「わりーけど旦那待ってるとこなんで」
「えー、旦那持ち? いやー、解るよ、お姉さんくらい可愛いと放っておかないよね」
 そういうことなんで。
 と、離れてくれれば良いのに、このナンパ男、全く引かない。
「でもさー、旦那といつも一緒だと疲れない? たまにはさ、違う男と遊びたくならない?」
「ならんけど……」
 正直、相手をするのも面倒くさい。思いっきりドツけば追い払えるかなぁなんて想うけれど、自分の力が強すぎることを八千代は理解している。男に揮う訳にも、かと言って時計台や地面という公共物に揮う訳にもいかない。
 どうしたものかなー。

「やから、一緒に行くぞ言うたやん……阿呆」
 待ち合わせの時間前に指定場所で薬袋・布静(毒喰み・f04350)を待つ嫁の姿――と、遠目にもナンパしていると解る男の姿を見つけ、布静はポツリ、毒を吐く。時間前にしっかり待っているところが八千代らしいとは思うが、布静の可愛い嫁は自分の容姿を理解していない。わざとナンパされに行っとるやないんやろうなぁなどと思いたくもなる。
「なー、いいでしょ、お姉さん。退屈はさせないし、旦那よりもいい思いさせちゃうからさー」
「あーもー、しつ……」
 我慢の限界と大きく口を開けた瞬間、八千代の視界にひらり、インバネスコートの裾が舞う。
「すまんなぁ、うちの嫁さんになんの用事か知らへんけど、これからデートやねん」
「あ、布静!」
「ヒッ」
 ナンパ男の背後から近寄った布静が、八千代の髪に伸ばされようとした手を捕まえ、そのまま捻り上げる。その上、長身の男に背後から覗き込まれたナンパ男は、大きく震えて思わず息を呑みこんだ。
「馬に蹴られたく無けりゃ――とっとと往ねや、クソ餓鬼」
 ドスを効かせた低い声。
 ナンパ男が振り払う動作をする前に離してやり、その手でそのまま八千代を抱き寄せ、腕の中へと閉じ込める。俺のもんやとにらみを効かせるまでもなく、ナンパ男は「失礼しましたーーーーっ」と逃げていった。
「別嬪さんや……人がキレ散らかしとんのワクワク顔で見よってからに……」
「いやいや? 今日も俺の旦那さんは男前だなーって思ってたとこ!」
 じーっと見上げてくる視線に応じるように腕の中の嫁を見れば、八千代はハッとした表情をしからバンバンと布静の腕を叩く。ちょっときゅんとしちゃってた、なんて言えない。
 むずがゆいような、心がくすぐったいような気持ち。それは決して嫌ではないけれど、面と向かって伝えるのも、相手に悟られるのも少し恥ずかしくて、つい、誤魔化してしまう。
 腕の檻をするりと抜け出して布静の腕にしがみつくと、その腕をぐいっと引っ張り駆けるように弾んで歩き出す。
「デート行こ、布静!」
 夫婦になってから初めてのデートなのだ。今日はめいっぱい楽しもう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レオナール・ルフトゥ
冬月 (f24135)と

萌え…?人間観察が好きってことかな。
楽しませてあげたいけれど、いまいちピンとこない。
冬月は毎日楽しそうだし、彼女を観察すれば楽しい気持ちになれるかと誘って参加



朝から元気だね、冬月。
ああ、いい香りだ。パンはもちろんのこと、サンドイッチの具材も美味しいね。

食べたばっかりで踊るとお腹痛くならないかい?
僕は見ているだけにしておくけど、ほどほどにね。
あと、周りの人にぶつからないように気を付けて。


冬月の踊りは自然と目が惹きつけられる。
ラジオ体操は…どうかな。やっぱり生き生きとして楽しそうだね。


十字路・冬月
レオ(f08923)と一緒だけど絡みもアドリブも大歓迎!
レオナやレオナールとも呼ぶよ。

朝から外食もいいよねっ
パンがすっごくいい匂いするし、買って外で食べよう。色んなパン買って食べ比べしようよ!

そんな真剣に食べなくても。パン作りにも挑戦するの?
レオナの料理美味しいからなー、楽しみ!

あー、すがすがしい!踊りたくなってきたなー
一緒に踊らないかい?
あ、朝だからラジオ体操にしとく?ラジオ体操も好きだよっ
皆でやろうよ!

レオはちょっと、心のオカンと似ている気がするなあ…何かこう、保護者してるとことか…




「朝から外食もいいよねっ」
 大通りに漂う甘い牛酪(バター)の香りは、焼きたてのパンの香り。謳うように口にして、くるくるくるりとステップを踏むように十字路・冬月(人間のスカイダンサー・f24135)は歩んでいく。
 朝から元気な冬月を見て、彼女を誘って良かったと思い微笑んだレオナール・ルフトゥ(ドラゴニアンの竜騎士・f08923)は、「前を見て、冬月」とだけ声を掛け、彼女の後をゆっくりとついていく。
 今回の依頼は、とある影朧を萌えさせることだ。だが、レオナールにはその萌えというものがイマイチ理解できなかった。一応グリモア猟兵が説明してはいたけれど、彼自身もよくわかっていなかった様子だったのだから仕方がない。いつも楽しそうな冬月を見れば、きっと影朧だって楽しくなるはずだ。その効果は期待が出来る。冬月と少し一緒に歩いただけで、レオナールは楽しい気持ちになっているのだから。
「ね、レオ。買って外で食べようよ」
 くんくん、すんすん、いいにおい。パン屋を外から覗いて、ほら美味しそうだよと冬月が指をさす。本当に、どれも美味しそうだ。
 反対する理由なんてひとつもなく、あれもこれも選びきれないから色々買おうと口にする冬月に任せたら、本当に沢山のパンを抱えることになった。けれどどれもひとつずつだし、レオナールと冬月は二人でいるのだから食べられない量ではない。
「ああ、いい香りだ。パンはもちろんのこと、サンドイッチの具材も美味しいね」
 まずは香りを楽しんで。それから具材のもひとつひとつ味わって。
 パンに真剣に向き合っているように見えるレオナールに、冬月は楽しげに笑う。
「そんな真剣に食べて、パン作りにも挑戦するの?」
 もしそうなら、食べさせて。だってレオナの料理はとっても美味しいのだから!
 美味しいねと笑いあいながら食べれば、パンが無くなるのもあっという間。
「あー、すがすがしい!踊りたくなってきたなー」
「食べたばっかりで踊るとお腹痛くならないかい?」
「大丈夫だよ。レオも一緒に踊らないかい?」
「僕は見ているだけにしておくけど、ほどほどにね」
 周りの人にぶつからないように気をつけてと彼女を送り出す。
(レオはちょっと、心のオカンと似ている気がするなあ……)
 お兄さんというか、保護者というか、なんかそんな感じだ。
 はぁいと良い子の返事をしてから、くるり、くるり。
 軽やかにステップを踏んで、冬月が踊る。
 冬月の踊りはいつだって楽しげで、レオナールはいつだって自然と目が惹きつけられる。生き生きとして楽しそうで、ずっと見ていたくなる。
「あ、朝だからラジオ体操にしとく?」
 それならレオナールも出来るのではと閃いて踊りながら声をかければ、レオナールはゆるりと首かしげ。ここに来るまでやっている人を見ていない。ラジオ体操をする彼女も矢張り楽しそうだと想像するけれど、この世界にその文化はないのかもしれないねと柔らかく笑えば、くるり、くるり、猫のようにステップを踏んで、「そっかぁ」と冬月がまた笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
♢【森】折角だから、立襟シャツ、萌える若葉色の着物、花曇りの袴、帽子に丸眼鏡の書生風衣装を借りて待ち合わせ場所へ

行き交う人々の向こうにいてもすぐに見付けられる
黒くて大きい、僕の愛しい人
「ぶらっどー!」
猛禽の足でぴょんぴょん跳ねて手を振って
尻尾をふりふり笑顔で彼の許へ

へへへ、似合う?
ブラッドも――(まじまじ)
いつもと違って新鮮、かっこいいよ

お仕事以外でお出かけするの、久しぶりだね
ぷっぷー!(お仕事でも、デートだもん)

色も違う、種族も違う、性別だって――、
僕達は唯一無二、人生の伴侶
ねえ、君の瞳にはどう映る?

もしかして、緊張してる?
指絡め駆け出して
今日はいっぱい楽しもうね!

彼女へ視線、内緒の人差し指


ブラッド・ブラック
♢【森】別々の貸衣装屋で衣装を借り、時計台でサンを待つ
自身は帽子+暗い色の着物に黒い外套を羽織った出で立ちで

馴染みの無い世界、サンの提案で折角だからと着込んだ衣装
明るい場所に唯一人で居るのは居心地が悪い

愛し子の声、霧が晴れる様
何時も真っ白なサンが春色を纏っていて、途端に微笑ましくなった
「眼鏡(きょとん)
嗚呼。春色も、良く似合っている。可愛らしいよ」

「一応此れも仕事だがな」
世界の加護があるから俺の容姿は気にされんだろうが
視られるのはどうにも落ち着かん
……俺は、俺達はどう見えているのか
親子か、師弟か
何故かサンが膨れている

「では、行こうか」

緊張、しているのか?
不意にぐいと引かれて其れ処ではなくなった




 石畳を蹴る足は、跳ねるように軽やかに。
 猛禽の足の爪がカツカツと音を立てるのも気にならない。
 行き交う人々に溢れた大通りの時計台広場。
 たくさん人が居ても、いつだってすぐに見つけられる――僕の愛しい人。
 僕だけの、黒くて大きい、あなた。
「ぶらっどー!」
 黒くて大きくてとても立派なのに何処か居心地悪そうに収まっていたブラッド・ブラック(LUKE・f01805)は、人混みがあってもその声を正確に拾った。帽子の影に隠れるように潜んでいた瞳――骸骨の眼窩の奥で焔が揺らめいた。
 今日は馴染み深い暗い世界ではなく、明るく――そして春の香りがする穏やかな世界。そんな場所は慣れなくて、早くあの子が来ればいいと、あの子の姿が見たいと、そう思っていた。あの子にはきっと春が似合うから、折角だから貸衣装屋に寄ろうと提案された言葉に従ったのだ。
 顔を上げれば、大きく手を振りながらサン・ダイヤモンド(黒陽・f01974)が近寄ってくる。ぴょんぴょんと跳ね、尻尾も大きくフリフリ、極めつけは太陽のように眩しい笑顔。大きく手を振る度にいつもより袖口の大きな萌える若葉色の着物が揺れている。
「ブラッド、お待たせ」
 貸衣装屋には素敵な着物が沢山で悩んでしまったのだと、ブラッドを見上げて笑う立襟シャツの覗く若葉色の着物に花曇りの袴を合わせたサンは、まるで春を連れてきたかのようにブラッドの目に映る。
「――眼鏡」
「へへへ、似合う?」
 きょとんとしたブラッドへ、度は入っていないんだよと告げて。
「嗚呼。春色も、良く似合っている。可愛らしいよ」
 好いた相手に褒められるのはとても嬉しい。ありがとうと返して、サンも「ブラッドも似合っているよ」と口にしようとして――思わずマジマジと見つめてしまう。
 今日は厳つい甲冑ではなく、暗い色の着物に黒い外套姿だ。示し合わせた訳ではないのに、お互い帽子を被っているのがお揃いみたいでいい。ブラッドは体格がいいからか、貫禄を感ぜられた。
「……似合わんか」
 少し見つめ過ぎてしまったみたいだ。サンの反応が無いことに不安を抱いたのか、ワントーン落ちた声が溢れたのを、慌てて否定する。
「ううん、すっごく似合ってる! いつもと違って新鮮、かっこいいよ」
 笑って隣に並んで、腕を取る。
 腕を見比べれば、全て違うのがよく分かる。黒くて大きくて、サンとは全部が違う。色も、種族も。けれど唯一無二で、サンとブラッドは人生の伴侶。
 見ているであろう『彼女』には、どう見えているのだろうか。
 親子? 師弟? それとも――。
「お仕事以外でお出かけするの、久しぶりだね」
「一応此れも仕事だがな」
「ぷっぷー!」
 お仕事でもデートはデート。頬を膨らませての駄目出しは、どうやらブラッドへは通じなかったようだ。きょとんと不思議そうな顔でサンを見返してくる。……ちょっと、可愛い。
「では、行こうか」
「うん! ――もしかして、緊張してる?」
 指を絡めた手を引かれ、内緒話をするように小さく言葉が落とされる。
(――緊張、しているのか?)
 どうなのだろうかと考えようとする思考は、舞い散る桜花のようにすぐに何処かへ飛んでいく。「今日はいっぱい楽しもうね!」とそのまま手を引いたサンが駆け出したからだ。
 隣に居るだけでも嬉しいのに、今日はデートなんだ。笑みが咲いて咲いて、咲きやまない。ブラッドの手を引っ張って、サンは石畳みを跳ねるように蹴った。
 こっそりと立てた人差し指と視線を、何処かへ向けて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


そろそろ頃合だろうか?
少し遅れて約束の場所へ行く
同志リルから借りた少女漫画なる書物通りに

待たせてごめんね
サヨ、リル
リルに手を振り返し、満開の桜を纏うサヨへ笑む
噫、今日も私の巫女は愛らしい
手が触れたものだから握り絆ぐ
桜の角も満開で愛おしい
きみが笑っている
それだけで私は
うまれてきてよかったと思う

まずはどこに─?

サヨは私が食べたいの?光栄だね
私はきみに殺されても死なぬと決めたから構わないけれど…リルの前や大衆面前ではよくない
暫し悩み─流石、同志
手馴れている…!
合わさる視線にありがとうと頷く

金魚鉢に?其れは素敵だね
なら私は白いものを

幸福な一日の幕開けだ
その前にパン屋も覗いてみよう
いい香りがする


リル・ルリ
🐟迎櫻
👀◇

櫻、擽ったいぞ

櫻がちょっと変なのは前からだけど
どう変なの?
それは、恋煩いってやつだ
わかるぞ
僕も罹患した
もう治んないぞ

あ!カムイだ!
大きく手を振って神を迎える
皆ででぇとだよ
二人を見つめながら笑みを深める
櫻が戀をできたなら良かった
哀しみと絶望と痛みしか無かった君の戀が
幸いになればいい
本当は影で二人を見守っていたかったけどそうもいかない

彼の戀は猟奇的だ
戀した相手を喰い殺さずにはいられない
だから

櫻!
カムイの代わりに、ぱへ食べよ
ぜりぱへ、があるんだって
すかさず気を逸らしカムイと視線を交わし頷く

僕へは愛でカムイへは戀ならば
二つでひとつ戀愛になる

ぱへ、僕は桃のにする
さぁ行こう!
ぱん?
僕もみる!


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


逢引の待ち合わせって何でこんなに緊張するの?
リルの尾鰭を戯れにつつき桜の花弁を数えて鼓動を誤魔化し
神の訪れを待つ

リル…私最近
変なの

カムイをみたり触れたりすると動悸と息切れがして、気がつくと彼のことを考えてしまう
体温の上昇と共に角の桜が綿あめみたいにこんもり狂い咲くの
え?!
治らないの?そんな!

カ、カムイ!
目を逸らし恥じらいながらよく来たと迎える
ほんに笑顔がかぁいらしい神様だこと
ちょんと手をつついて─握られたわ!
あああリル!どうしましょう
私…カムイを喰い殺したくて堪らない

え?ゼリーパフェ?
あらかぁい
私は赫い苺がいいわ

ええ!
二人の手を握り桜街を歩む
パン屋さん?いいわね
焼きたては美味しいのよ




 誰かとの待ち合わせというものは、妙に緊張したりする。普段会わない人と久方ぶりの再開の時は勿論、愛しい人や親しい人との逢瀬の約束なんて特にだ。
 そわり、そわり。
 己が角の桜の、花弁の枚数を数える。ひいふうみい……ご。いつもどおり変わらぬ五枚。胸に手を当てれば鼓動がいつもよりトクトクと疾く、落ち着き無く横髪に指をくるくると絡める。それでも何故だが気が逸り、傍らのリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の尾鰭をつんつんとつつき――それでもまだ、落ち着かない。
「……櫻、擽ったいぞ」
「あ、ごめんね、リル。リル……私ね最近……」
 もじ。言いづらそうに言いよどむ誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)に、リルは首を傾げる。何だかこの顔を知っている気がする。少し前まで鏡の中に住んでいた顔だ。
「私、変なの」
 櫻宵が変なのは、今に始まったことではない。
 そっと視線を逸し、ぴるると耳鰭を動かして空気を読んで言葉を飲み込む人魚。「どう変なの?」と櫻宵の顔を覗き込めば、頬はほのかに色づき、瞳が少し潤んだ――まるで恋する乙女めいた桜龍がそこにいた。
 あのねと言い淀んだ口が迷いながら口にするのは、『ある神』のこと。
 彼を見たり触れれば動悸と息切れがし、体温が上昇する。気がつけばいつも彼の事を考えてしまっていて、角の桜もこんもりと綿あめのように満開になってしまっている。
 はあ……。物憂げにため息をつく櫻宵を見て、リルはキリッと眉を上げ、指をひとつ立てる。リルはそれを『知っている』。
「それは、恋煩いってやつだ」
「え!?」
「僕も罹患したことがある。もう治んないぞ」
「治らないの? そんな!」
 経験者は語る、というやつだ。

 そんな二人が待つ時計台が見える路地。そこからひょこりと顔を出した朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は、そろそろ頃合いだろうかと時間を確かめる。『待ち合わせ場所には少し遅れて向かう』。同志たるリルから借りた少女漫画なる書物にそう書かれていた。『ばいぶる』というものなのだとかで、これを正しくなぞると『テッパン』なるものが踏めるのだそうだ。テッパン……熱そうな響きである。
「あ! カムイだ!」
「カ、カムイ! そ、その、今日はよく、そう、よく来たわね」
「待たせてごめんね。サヨ、リル」
 大きく手を振って迎えるリルに手を振り返し、何故だかまごつきながらも満開に桜を咲かせている櫻宵へと柔らかく笑む。噫、今日も私の巫女は愛らしい。
(なんてかぁいらしい笑みなの!)
 ――トゥクン!
 高鳴る胸を誤魔化すようにちょんと彼の手をつつけば、カムイがその手を握る。
 櫻宵の頭上でぶわわと桜吹雪が起きたが、カムイは満開の角が愛おしいとしか思わない。仄かに染まる頬も、自分に会っただけで向けられるその笑みも、その全てが愛おしく、それだけでうまれてきてよかったと思えるのだ。
(ふふ!)
 そんな二人を見つめて、リルは笑みを深める。櫻宵が戀を知ったのだ。哀しみと絶望と痛みしか無かった彼の心に春が来ているのだ。これほど嬉しいことはない。
 どうか幸せになってほしくて、本当は今日は二人を影からこっそりと見守っていたかったけれど、そうもいかない理由(わけ)がある。
「あああリル! どうしましょう! 私……カムイを喰い殺したくて堪らない……」
「サヨは私が食べたいの? 光栄だね」
 櫻宵の戀は猟奇的で、そしてそれをカムイは受け入れてしまう。一応カムイの方は大衆面前ではよくないとは思っているようだが、そういう問題でもないとリルは思う。
 だから。
 ――僕がしっかりしないと!
「櫻! カムイの代わりに、ぱへ食べよ。ぜりぱへ、があるんだって」
「え? ゼリーパフェ? あらかぁい」
(――流石、同志リル! 手馴れている……!)
 既に櫻宵の心のなかにはパフェが住み着いたようだ。赤い苺が食べたいと楽しそうに口にする彼の横からリルはカムイと視線を交わし、「よし!」と「ありがとう」を頷き合う。
 カムイへは戀で、リルへ向かう櫻宵の気持ちが愛ならば、二つでひとつ戀愛になる。それでよくて、それがいい。ずっとずっと戀を知ってもらいたかったから。
「ぱへ、僕は桃のにする」
「私は白いものを」
「メニューを見てから決めてもいいのよ」
「考える時間はまだたっぷりあるもんね」
 さぁ行こうとリルは櫻宵の空いている方の手を取り軽く引っ張り笑みを向ける。それに、ええ! と大きく頷き返した櫻宵はカムイの顔を見て、行きましょうと艶やかに微笑んだ。
 三人で手を繋いで、三人で歩む桜街。
「パンのいい香りがするね」
「パン? あら本当。焼きたてのいい匂い」
「のぞいていく?」
「いいかな?」
「勿論よ、焼きたてのパンはとっても美味しいのよ」
 美味しそうな香りに誘われるのも、三人揃えば楽しさも倍増である。
 さあ、幸福な一日の幕開けだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

萌え…はよく分からねぇけど
救われるならいいじゃん

ついでに
折角だから
恋人っぽく距離詰めたい
そっちが主目的とかじゃない
多分

書生姿で待ち合わせの時計台の下へ

うわっ
…可愛い
けど何で隠してんの?
そっと頬に触れようとし覗き込もうと
え、演技だよ演技
…いや
そっぽ向きごにょごにょ
近くで顔見たかったと言うか
えと
似合ってるし可愛いし
俺の瑠碧を見せびらかしたかったというか

真っ赤になり誤魔化すように
あっ
朝何か食べた?
俺カフェーでオムレツ食べたい!
後折角だしカフェラテ
…砂糖入れれば平気かな?
手差出し

外でいい?
席に着き
瑠碧姉さんは何か食う?

来た来た
オムレツとろっとろで美味そう
一口食う?
差出し
…おお
照れた顔でぱくり



泉宮・瑠碧
【月風】

萌え、とは…?
心臓に悪いらしいと、把握

世界に合わせて、袴姿ですが
羞恥と人の視線は苦手なので
ケープのフードを被り
時計台で俯いて待ちます

…理玖
姿が見えて安堵し…ふぇ?
頬の手と顔の近さに赤面し
ぴゃぁと変な声
…何の演技、です…?

ごにょごにょ以下を聞いて、更に赤く
…俺のって…瑠碧って…
…理玖だけが、可愛いと、思ってくれたら
それで良いので
私も、ごにょり

え…朝はパンとスープ、で…
理玖の様子に、つい、くすくす
では、カフェーに行きましょう
カフェラテは、ミルクもありますし
苦くは無いと、思います

はい、と手を取り
書生姿を一度見上げ
内心
お似合いに見えたら良いなと

私は…プリンがあれば
理玖にも差出し
一口ずつ、ですね




 空は晴れやかに朝の気配を漂わせ、雀は朝の訪れをチュチュンと鳴いて喜んでいる。世界は新しい一日を寿ぎ、人々は新しい一日の始まりを楽しんでいた。
 石畳を蹴る足が軽い。いつもと違う、書生風の姿だから気分的に……というのもあるが、今日は一日デートだからだ。時計台の下で待ち合わせをして、それから一緒にお出かけだ。
(できれば恋人としての距離が一歩でも……いや、二歩でも三歩でも縮まったらいいなぁ……なんて、)
 ほわりと浮かんだ考えに、いやいやいやいやと頭を振って否定した陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、これは仕事だから! と気を引き締める。――時計台の下で待つ恋人の姿を見れば、あっという間に仕事と言う概念が吹き飛んでしまったけれど。
「うわっ……可愛い」
 おはようとか、待った? とか、そんな声がけもなく、第一声がそれだ。いやでも、仕方がない。普段と違う和装。少しレトロな袴姿に、可愛らしいケープ。可愛い以外の何者でもない。
「……理玖」
 視線を避けるためにフードを被って俯いていた泉宮・瑠碧(月白・f04280)が顔を上げる。ホッとしたような顔がまた可愛い。「可愛い……」とまた口から溢れてしまったけれど、これまた仕方がないのだ。
「でも何で隠してんの?」
「……ふぇ?」
 頬へと伸びた手に目を丸くすれば、覗き込もうと寄せてきた理玖の顔が近い。思わずぴゃぁと上がった声に、理玖は慌てて手を引いた。
「え、演技だよ演技」
「……何の演技、です……?」
「……いや、近くで顔見たかった……と言うか、えと、似合ってるし可愛いし、俺の瑠碧を見せびらかしたかったというか」
 そっぽを向いてのごにょごにょとした小声を拾い上げたエルフ耳が真っ赤に染まる。
 ――俺の、瑠碧。
「……理玖だけが、可愛いと、思ってくれたら、私はそれで良いので……」
 フードを引き下げたい気持ちで、熱を自覚する頬を抑える。鏡が無くても解る。お互いに、真っ赤だ。お互いがお互いの鏡のようであった。
「あっ、朝何か食べた?」
「え……朝はパンとスープ、で……」
「俺カフェーでオムレツ食べたい!」
 下手な誤魔化しだ。全然上手じゃないけれど、それがまた彼らしい。くすりと笑った瑠碧は緊張の取れた顔で、カフェーにいきましょうと理玖へと頷き返した。
「カフェラテ、あるかな」
「どうでしょうか……カフェオレならあると思いますけど」
「じゃあカフェオレで。………砂糖入れれば平気かな?」
 カフェオレを作るためのエスプレッソマシンが日本に導入されるのは昭和からである。無いのではないかと代案を提案した瑠碧へと声を掛けながら自然な動きで手を差し出せば、「はい」と瑠碧が慣れた様子で手を取った。
 時計台を離れ、ふたり並んで街を行く。ふたりの頭上をふわりと抜けた風を追うようにチラリと理玖を見上げた瑠碧は、彼に知られない内に視線を戻す。
(お似合いに見えたら良いな……)
 街行くカップルたちのように、一枚の絵のようにあれたら、と。
「あ、あった。外でいい?」
 同意が返ってくれば椅子を引いて瑠碧を先に座らせ、自分も席へ着き「何か食う?」と彼女に見えるようにメニューを開いた。
 プリンとオムレツを素早く注文をし、お互いの服装についての会話を弾ませながら待つこと数分。ふたりの眼前に、美味しそうな卵料理がふたつ届いた。
「おお、美味そう」
 ふわとろ卵のオムレツと、生クリームの乗ったプリン。それぞれ口にして美味しいと微笑みあってから、理玖は瑠碧へとスプーンを差し出す。
「一口食う?」
 ぱくりと口にして微笑んだ瑠碧からもスプーンが差し出され、理玖は照れながらもぱくりと口にした。
「……甘」
 プリンってこんなに甘い食べ物だっただろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】
相棒と待ち合わせた時計台
ううん、そんなに待ってないから大丈夫

残念でした
友達同士じゃデートって言わないし
手も繋がないんだよ
そう言って「べ」と舌を出す
照れ隠しも入ってるのは内緒

なに、寝坊でもしたの?
しょうがないな
じゃあどこか寄ろう
あのパン屋さんなんてどう?
焼きたての美味しそうな匂いがする

せっかくだからオレも何か買っていこうかな
桜あんぱんっていうのにする
わ、なつめは随分たくさん買ったんだね
ちゃんと全部食べ切れる?
手伝ってあげようか?

べ、別に欲しい訳じゃないけど…
くれるなら貰う
うん、美味しい
食べさせて貰ったのにこっそりどきどきしつつ

え、なつめも!?
うん…
じゃ、じゃあどうぞ…


唄夜舞・なつめ
(時計台の下に待つときじを見つけて)
お、いたいた。
待ったか?
そっか、よかった。

今から『でーと』ってやつ
すんだろ?
ほら、行こーぜ。
(そっと手を差し出して)
…えっ、
そーなの?相棒でもダメ…?
(ほんの少し残念そうに)

なー俺、朝食えなかったから
何か食いてーんだけど……
ン、ぱん?
なんだそれ、美味いのか?
へぇ、じゃあ食う!

…うわ、すっげー種類。
色んなの買って‪こーかんすっか!

おばちゃんさんきゅなー!
おぉ。すげー、ほかほかだ。
結局ほとんどの種類買っちまった。
だーいじょうぶ!全部食えっから!

ン、欲しいのか?
ほら。(ときじの口元に差し出して)
うめーか?…なァ、俺にも。

んーーー、うめぇ…!!!




「お、いたいた」
 一人きりで人の多いところに居るのは落ち着かなくて、顔を伏せて時計台で相棒を待っていた宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はその声にパッと顔を上げた。見慣れた顔が親しげに笑い、待ったか? と尋ねてくるのに、髪を揺らしてふるりと首を振る。
「そんなに待ってないから大丈夫」
「そっか、よかった」
 明るい笑顔のまま、ほいっと唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が手を差し出して。
 十雉は、手と彼とを見比べる。
「今から『でーと』ってやつすんだろ? ほら、行こーぜ」
「残念でした。友達同士じゃデートって言わないし、手も繋がないんだよ」
「……えっ、そーなの?」
 べ、と舌を出して答えたのは、照れ隠しも入っている。けれどなつめはそうとは知らず、少し残念そうに眉を下げて肩を落とした。
「相棒でもダメ……?」
「駄目駄目」
「ちぇー」
「ほら行こーぜって言ってたけど、行き先はもう決めているの?」
「そうだなー。あ、俺、朝食えなかったから何か食いてーんだけど」
 いい? と尋ねれば、くすりと笑みが返って。
「なに、寝坊でもしたの?」
 そう口にしながらも、十雉は大通りを見渡して何か食べれる場所を探す。時計台すぐ近くのカフェーは待ち合わせの後に向かった人が多いのか混んでいる。それなら他の……と視線を彷徨わせたところで、ふわり、牛酪(バター)の香ばしい香りが鼻先をくすぐった。
「じゃあ、あのパン屋さんなんてどう?」
「ン、ぱん? なんだそれ、美味いのか?」
「きっとなつめも気にいるよ」
「へぇ、じゃあ食う!」
 十雉がパン屋へ向かって歩き出し、なつめがそれを追いかける。近付けば近付くほど焼きたての良い香りが漂って、美味そうな匂いと笑うなつめに、十雉はパンの匂いだよと教えてやった。
「……うわ、すっげー種類」
 パンってこんなにあるのか!
 あれもこれも美味しそうで、ひとつに絞ることなんてできない。十雉が桜あんぱんを購入しなつめは……と見たら、「全部くれっ」と店員に言っているところだった。
「おばちゃんさんきゅーなー! 見ろ、ときじ。おばちゃんが一個さーびすしてくれたぞ」
「よかったね、なつめ。……なつめ、随分とたくさんだけどちゃんと全部食べ切れる?」
「だーいじょうぶ! 全部食えっから!」
 広場のベンチまで移動して腰を下ろすと、なつめはうめーうめー言いながら早速パクパクとパンを食べていく。十雉はそんななつめを本当に大丈夫なのか……と見ていたのだが、
「ン、欲しいのか?」
「べ、別に欲しい訳じゃないけど……」
 誤解されてしまった。
「ほら」
 パンを口元に差し出されれば、遠慮がちになつめを見てから、はむ。
「うん、美味しい」
 美味しいけど、ちょっとドキドキしてしまう。
「うめーか? ……なァ、俺にも」
「え、なつめも!?」
「くれないのか?」
「うん……じゃ、じゃあどうぞ……」
「やった!」
 おず……と控えめになつめの口元へと桜あんぱんを差し出すと、なつめは十雉の手を固定するように握って、遠慮なくがぶりとパンに齧りつく。
「あ、ちょっと」
「んーーー、うめぇ……!!!」
 餡に混ざる微かな塩気が絶妙だ。
「……ン? ときじ、何か言ったかァ?」
「……いや、うん、なにも」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【BAD】👀

今日の私は……そう……
「モエ」を――得に来た

「モエ」……「とうとい」……
知らない単語が沢山だが、私はそれを知っている
人類の幸福を見守るときの気持ち
私の存在になど気付くことすらなくて良い
そう、これが
人類への、「とうとい」愛……

その中でも私の妹とその恋人はいっとう美しい
見ろレディ、あの愛らしい顔を
あの二人はな、いつも気を張っているんだ
妹の方など、兄の私にすらあんな顔を見せたことはない
素顔を見せられるのは互いだけ――そう
こうして二人で日常を過ごしている
そのときだけなんだよ

将来的には妹の恋人にも私の弟妹となって欲しい
その日が楽しみでならないよ
結婚式の準備は……任せて欲しいと思っている……


ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
なんか今回の影朧、俺らがデートすると
消滅できるらしいよ
なんかどっかから勝手に見てるんだってさ
可愛い女の子が見てるぶんにゃ無害だし。許してあげて?ダーリン

さて、それじゃあエコー
俺に夢中になって、一緒にお出かけと行こーよ
んー!美味しそ
この世界、食べ物はどれも良いンだよねぇ
うわー……パンケーキ!食べたい!
ほんと?桜フレーバーうまいんだよこの世界、飲み物とかも

へへ、――なんか、普通にデートしちゃってんね
俺ねぇ。こーして、好きな子と
朝から出かけて、美味しいご飯食べるの
ちょっと憧れてたんだよね
あはは!気が早いって
でもいいね、次も考えちゃおっか

……いつもよりオンナノコっぽいでしょ
エコーの前だけだよ


エコー・クラストフ
【BAD】
デートすると消滅する……? なんで……?
……まぁ、事情はわかった。よくわからないけど。人がデートしてるのなんかそんなに見たいもんなのかな……
余計な邪魔とかしないなら別にいいけど

……そうだね。見られてるって意識しなければ、ただ珍しい世界でいつもどおりデートするだけだし
へぇ。ボクあんまりこの世界の食事には詳しくないんだよね……どれがオススメか教えてもらってもいい?

そっか。でも、言ってくれればこんな機会じゃなくてもいつだってデートするよ?
知っての通り、ボクは朝早いほうだしね
なんなら、次のデートの予定も立てようか

ボクも、肩肘張らずに素でいられるのはハイドラの前だけだよ。……ありがと、ハイドラ




「なんか今回の影朧、俺らがデートすると消滅できるらしいよ」
「デートすると消滅する……? なんで……?」
 事情はよくわからないけれどわかった。影朧だし、そういうこともあるのだろう。
「可愛い女の子が見てるぶんにゃ無害だし。許してあげて? ダーリン」
「余計な邪魔とかしないなら別にいいけど」
 ちょっと何処かから熱視線が注がれているだけで、普段どおりのデートをすればいいだけだ。気にせず楽しもうとハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)がエコー・クラストフ(死海より・f27542)の腕を引いた。
「俺に夢中になって、一緒にお出かけと行こーよ」
 石畳の大通りを少し進めば、様々な店が見えてくる。カフェーやパン屋の前には黒板が置かれ、それを覗き込めば可愛らしいタッチでメニューのイラストが描かれている。
「んー! 美味しそ」
 ふわふわと膨らんだパンケーキに、牛酪(バター)とシロップがトロリ。可愛らしくも美味しそうなイラストにハイドラは瞳を輝かせ、ここで食べていかない? とエコーを誘う。
「この世界、食べ物はどれも良いンだよねぇ」
「へぇ。ボクあんまりこの世界の食事には詳しくないんだよね……どれがオススメか教えてもらってもいい?」
「ほんと? 桜フレーバーうまいんだよこの世界、飲み物とかも」
 二人の頭上には晴れやかな澄んだ春空が広がり、温かな風が何処からかふわりと花弁を運んでいく。花の都、桜の都、帝都。普段訪れないこの街で、ふたりは今日の日を楽しもうと微笑いあった。

 ――兄は見守っていた。
 Q.何処から? A.最初から。グリモアベースから。
 ふたりには内緒だが――敏い妹のことだからバレているかもしれないが――実はふたりよりも後方にもうひとり着いてきている。
「――今日の私は……そう……『モエ』を――得に来た」
 ふたりにバレないような小声で傍らの亜麻色の髪の乙女へ、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)はそう語る。
 モエ……とうとい……ニルズへッグにとっては知らない単語だった。今までは。しかしその感情を味わうことは今までもあり、此度、その感情の名前を知ったのだ。
 人類の幸福を見守るときの気持ち、自分の存在になど気付くことすらなくただただ見守らせて欲しいと思う気持ち。
 そう、これこそが!
「人類への、『とうとい』……」
 こっそりとカフェーを覗き込む。ニルズへッグはどれだけ街に人が溢れていようとも、カフェーに客が溢れていようとも、妹たるハイドラとその恋人エコーを見つけることが出来る。何故なら妹とその恋人はいっとう美しいからである。
「見ろレディ、あの愛らしい顔を。あの二人はな、いつも気を張っているんだ。妹の方など、兄の私にすらあんな顔を見せたことはない」
 それは兄として少し寂しい気がするけれど、だが! とニルズへッグは拳を握る。
「素顔を見せられるのは互いだけ――そう、こうして二人で日常を過ごしているそのときだけなんだよ」
 ふたりが一緒にメニューを眺めたり、食べ物や飲み物をシェアしたり、美味しいと微笑み合う姿を見守り、そっと合掌する。これが、とうとい。全世界に圧倒的感謝を伝えたい。ありがとう。
 将来的には妹の恋人にも弟妹となって欲しいと願っているニルズへッグは、その時が楽しみでならない。
「結婚式の準備は……任せて欲しいと思っている……」
「まあ、それは……! ドレスとドレスにするかとか、おふたりの好みも聞いておかなくてはいけませんね!」
「ドレス……!」
 より明確に結婚するふたりの姿を想像したニルズへッグの背後に、ピシャリと雷が落ちた。

 そんな兄のことは知らず、カフェーを出たハイドラはへへっと楽しげに笑う。
「俺ねぇ。こーして、好きな子と朝から出かけて、美味しいご飯食べるの。ちょっと憧れてたんだよね」
「そっか。でも、言ってくれればこんな機会じゃなくてもいつだってデートするよ?」
「なんなら、次のデートの予定も立てようか」
「あはは! 気が早いって。……でもいいね、次も考えちゃおっか」
 ハイドラが望んでくれるのなら、いつでもエコーは時間を作るし、いつだって一緒にいたいと願っている。それが朝だろうと夜だろうと関係ない。何かをしたいと思ってそこに自分の姿を思い浮かべたのなら、いつだって呼び出してくれていい。
 ふたりだけの時に見られるハイドラは、いつもよりオンナノコっぽい。
 エコーもエコーで、ハイドラの前だけでは素の自分でいられる。
 それが愛おしくて、切なくて。
 ああ、大好き。
 そんな時間をくれるアナタへ、ありがとうと微笑いあう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
【暁星】
待ち合わせをするなんてどれくらい振りかな
吸い込む空気すら新鮮で、自然と振り返す手も力が入る気がして
お待たせ千鶴!…そういえばそうかも、君のお店に行く時もふらっと行くしねえ

わあ、道理で良い匂いがするなあって思ったんだ
パンはやっぱ焼き立てが美味しいよね、食欲そそるなあ…!
俺からはね、コレっ(肉球柄がお皿ににてしてし入った桜シフォンケーキを差し出して)
やっぱりこの世界らしいスイーツ食べたくて……半分嘘です千鶴を思い出して買いました(早口)

と、とーにーかーくっ
パンが冷めない内に食べよ…(差し出されたパンを反射でもきゅり)
は。犬科の習性が…!えい、お返しだ(小さく切ったシフォンを指で差し出し)


宵鍔・千鶴
【暁星】

時計台の下
爽やかな空気を吸い込み
待ち人が来たるまで

あっ、ヴォルフ
おはよう、こっちだよー(ぶんぶん)

なんだか朝早くから会うのって珍しいかも
ふふ、ちょっと早めに着いたからパン屋さんで焼きたてパン買って来たんだ
一緒に食べてくれる…?

広場のベンチに座り
紙袋からたくさん
ふかふかのパン並べ

お勧めされたのはね
たまごサンドと
みるくぱんにフレンチトーストもあるよ
どれが良いかなぁ
わ、甘い匂い
桜シフォン…!
気持ちが嬉しくてお返しに
ヴォルフ、くちあけて
はい、あーんってパン差出し
反対にきみの指先のケーキを
素直にぱくり
うん、美味しい…あまあまだ

萌えは解らないけど
仲良しが透櫻子は好きみたいだからね
見せつけちゃおうか




 大きく息を吸い込めば、朝の爽やかな空気が胸を満たした。朝特有の、少しひんやりして、しかし澄んだ空気が心地よい。ちらと頭上にある大きな時計を見上げれば、カチコチと規則正しく時を刻む針が動いている。もうすぐ、待ち合わせの時間だ。
 そろそろ姿が見えても良い頃だろうか。
「あっ、ヴォルフ」
 行き交う人々の中に、待ち人を見つけた。
「おはよう、こっちだよー」
 大きく手を振る宵鍔・千鶴(nyx・f00683)を時計台の下に見つけたヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は、彼に手を振り返しながら小走りに近寄る。待ち合わせをするのは久しぶりで、彼に近付くにつれこういうのもいいなぁと改めて思った。
「お待たせ千鶴!」
「なんだか朝早くから会うのって珍しいかも」
「……そういえばそうかも、君のお店に行く時もふらっと行くしねえ」
 会えたことにお互い笑みを深くして、「待った?」「待ってないよ」なんてよくある会話を交わしあう。
「千鶴、それは?
 千鶴が抱えている紙袋へとヴォルフガングの視線が向かったことに気付いた千鶴は、ああこれ? と軽く掲げて。
「ふふ、ちょっと早めに着いたからパン屋さんで焼きたてパン買って来たんだ」
「わあ、道理で良い匂いがするなあって思ったんだ」
 焼きたてのパンの香りは、食欲をそそる。ついふらりとパン屋に入ってしまっても仕方がないことだ。「一緒にたべてくれる……?」と小首を傾げる千鶴に勿論と大きく頷いて、あそこで食べようかと広場のベンチへと向かった。
 ふたりがけのベンチに並んで座り、膝の上に紙袋から出したパンを並べていく。
 たまごサンドにミルクパン、フレンチトーストに桜あんぱん。
 どれもふっくらとして美味しそうだ。
「お勧めされたのはね、」
 丁寧に指をさして説明してくれる千鶴の横顔を、ヴォルフガングは愛おしげに見る。丁寧だなぁとか真面目だなぁとか、やっぱり甘いものを選ぶんだなぁとか。そういうところが可愛いなぁ、とか。いくつもの思いに満たされて、幸せなここちがする。
「実はね、千鶴。俺も買ってきたんだ」
 取っ手のついた紙の箱をそっと差し出して、開けてみてと促して。
 開けばふわりと香る甘い匂いに、猫の足跡が描かれた紙のお皿の上に鎮座するふかふかの桜色。
「わ、甘い匂い。桜シフォン……!」
「やっぱりこの世界らしいスイーツ食べたくて……半分嘘です千鶴を思い出して買いました」
 仄かに頬に朱を乗せた千鶴に、説明が早口になってしまうヴォルフガング。
 嬉しいよと喜んでくれるその顔が見たかったんだ。
「と、とーにーかーくっ パンが冷めない内に食べよ……」
「ヴォルフ、くちあけて」
「あ」
 素直に口を開けて、差し出されたパンをもぐっ。
 犬科の習性である。
「えい、お返しだ」
 ふかふかの桜シフォンケーキを指で一口サイズにちぎって差し出せば、千鶴もぱくりと食べてくれる。
「うん、美味しい……あまあまだ」
 過ごす空気も、甘くておいしい。
 ――透櫻子に見せつけちゃおうか。
 悪戯猫のように千鶴が笑ってパンを差し出してくるから、いいねと笑ってもう一口。
 最後の一口まで食べさせ合うふたりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城野・いばら

萌え…それが影朧さんの元気の源?
双眼鏡を覗く姿がね、キラキラして見えたから
気になっちゃったの
貴女の好き…もえ?が知りたくなって
路地で楽しそうにしてる影朧さんにね声かけちゃう
パン屋さんで買ったフルーツサンド、
一緒に食べませんかってお誘いつきで

いばらもね、アリスを見るの好きなんだぁ
楽しそうなお顔とか、
笑ってくれると嬉しくなるの
…そんなアリス達を愛しいと想うキモチと、
恋は違うのかしら
王子様とお姫様の物語みたいなの?
違う?
あのね、よかったら
貴女の好きを教えてほしいな

知識も経験も無い喋り花には、
あまりにも深い情動は難しいかもだけど
お話に花咲かせる貴女はとっても素敵で
キラキラいっぱい
聞かせてくれて有難う




 明るく陽光が降り注ぐ帝都。年中桜が咲く世界ではあるけれど、春の訪れはやはり嬉しいものなのか、大通りを行き交う人々の顔にも笑顔が溢れている。
 明るい大通りからひとつ入った路地。そこは少し薄暗く、薄暗いからこそ人々に気付かれずにじっくりと観察出来る、実に良いスポットであったりする。
「萌え……それが影朧さんの元気の源?」
「ひゃい!?」
 真剣にオペラグラスを覗き込んでいた透櫻子は、突然掛かった声に飛び跳ねんばかりに驚いた。声を掛けた城野・いばら(茨姫・f20406)もあまりの驚き様に驚き、驚かせてごめんなさいと口元を抑えた手のひらの下から謝った。「双眼鏡を覗く姿がとてもキラキラして見えたから、気になっちゃったの」と。
「フルーツサンドは好き? よかったら、一緒に食べませんか」
 パン屋で買った、宝石みたいにキラキラ輝く大きな果物が可愛く挟まれたフルーツサンド。掲げて見せれば、透櫻子の瞳が瞬いた。食べ物を必要としない身体だけれど、甘いものは大好きなようだ。胃腸が弱ると生クリームは受け付けなくなるの、とは透櫻子の談である。
「喜んで」
 微笑んだ透櫻子が少し離れた場所にあるベンチを指差して、ふたりで並んで座る。フルーツサンドを分け合い頬張れば、果実の瑞々しさとクリームの甘さが口いっぱいに広がった。
「いばらもね、アリスを見るの好きなんだぁ」
 楽しそうな顔に、嬉しそうな顔。微笑ってくれると嬉しくて、心が温かくて、嬉しい。想像するだけで嬉しくなるといばらは微笑んで、「それは恋とは違うのかしら」と疑問を口にして首を傾げる。
「これはあくまで本の中のお話ですが……」
「王子様とお姫様の物語みたいなの?」
「ええ。親しく向ける愛情よりも、胸が激しく高鳴りを覚えるものだとか」
 そうなの? と首を傾げるいばらへ、その時になったら解るそうですよと透櫻子は咲った。いつかあなたにもその時が来ますように、と。
「あのね、よかったら、次は貴女の好きを教えてほしいな」
「私の好きは……」
 開かれた唇から零れるのは、主に本の事。文字で紡がれる世界と白い部屋だけが全てだった透櫻子は、死を迎えてから新たな好きを探している最中だ。
 私とあなたは少し似ているのかもと微笑んだ彼女がベンチを立つ。
「ごちそうさま。好きを探しにいってきますね」
「キラキラなお話を聞かせてくれてありがとう」
 新しいキラキラを見つけたら教えてね。
 好きなものを追いかける彼女は、とても輝いて見えた。
 キラキラ、キラキラ。
 世界もひとも、とてもまぶしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●きらきら大通り
 ごきげんよう、皆さん! もう名前を覚えてくださったかしら? 透櫻子です!
 朝も早くからお集まり頂いてありがとうございました。私、とっても堪能させて頂いたわ! この世の春って、こういうことだったのね!
 早朝、誰も居ない時間にひっそりと大通りを歩むふたり……。主従のように見えたけれど、あれは『ワケアリ』と私の勘が告げていました。そう、あれは……禁・断・の・恋! そうじゃなかったら、何だというの!? 尊い、尊いわ!
 落ち着いて、透櫻子。深呼吸、深呼吸よ。すうーはあー……はい。
 人が増えてきてからは、時計台の下で待ち合わせをする人がたくさんになりましたの。やっぱり皆さんはあの時計台の下で待ち合わせをするのね。本に書いてあった通りでした。そして、『軟派』と言うのでしょうか。私、少し驚いてしまいました。このサクラミラージュでのお声がけと言えば、桜の木の下に佇む女性に殿方が声を掛ける……が一般的でしょう? 女性からのお声がけははしたないとされていますもの。縁を求める女性は桜の木の下で待っているのに、時計台の下だなんて……随分とハイカラ(軟派)な殿方もいらっしゃるのね。これは新聞にも文芸誌にも無い出来事でしたわ。
 待ち合わせをしていた皆さんのやり取り……とても、とても……そう、とても尊かった…………。あっ、いけない、私ったらつい遠い目を。だって本当に尊かったんですもの。あの、待ち合わせ相手を見つけた時の輝く笑顔。子犬のように駆け寄る姿……きっと尾があったら大きく振っていらっしゃいましたよね!? 実際に振っていらっしゃいましたよね!? 透櫻子はばっちり逃さず見ておりましてよ! 大きく手を振って知らせる方も好きですが、控えめに手を振られる方も透櫻子は好きです! あの、控えめな手……きっとあの小さな振りの中には沢山の葛藤や情動が潜んでいるに違いないわ……絶対にそうよ。だってあんなの……ああ、無理、駄目。尊い……。
 だぶるでえとのような仲の良い関係も捨てがたいのですが、矢張り三角関係はいい……! 断言できるわ! 一人の人間を挟んで、相手を取り合ったり、自分の方を見て欲しいって思う関係性! いい! いいわ! 私はどちらを応援しような悩んでしまうし、慕われている方はどちらを選ぶのかしら……もしくはおふたりとも対象外なのかしら……ど、どうなのかしら。私とても気になってしまうの。ああ、目が離せなくてずっと見ていたい!
 カフェーでの皆さんもとても素敵。何気なく過ごす姿が日常を感じさせてくれて……ああ、私は本当に『外』に居るのだと、今『生きて』いるのだと、感ぜられました。生前の私なら胃腸が受け付けてくれなかったであろう、甘味。優雅に紅茶や珈琲を頂く皆さん。幸せそうに料理を食べる皆さん。…………誰かと一緒にカフェーに行くと9割の確率で食べさせ合うことも判明したわ。いつもお家ではそうしているのかしら? 自然に口にしてしまってから照れてしまうお顔の愛らしいこと……しかしながら、照れないのも『日常』を感じさせてくれてとても良かったの。ああ、いつもそうやって食べさせ合っているのね。ええ、ええ。そう。ふぅん。あなたの家の観葉植物になりたいわ!
 パン屋さんに誘われる姿も愛らしくて、私もついていきそうになりました。けれど透櫻子には使命がありました。それは、パン屋さんから出てくる皆さんの表情を逃さず見ること! なんてまあ、キラキラで愛らしいお顔をされているのでしょう。お隣の方の表情を見まして? 『うちの子可愛い』ってお顔! 『パンついてるよ』ってお顔! ああああああー、もっともっと見せてくださいまし!!!
 ……………………ふう。私、こんなに素敵な朝は初めてです。
 お昼の皆さんも楽しみにしておりますね。私はこっそりと見守っておりますので、どうかお気遣いなく!


●穏やかな午後
 大通りを歩いていくと、ひときわ大きな百貨店が見えてくる。
 王冠と獅子と蔦の絵柄がマークの百貨店へ近付けば、重厚な扉の前のドアボーイが恭しく開いてくれる。ひとたび扉をくぐったなら、そこに広がるのは別世界。高級感溢れる品々が、あなたたちを待っている。
 影朧が街を歩けば住民たちが避難をするのが常なのだが、帝都桜學府の通達とグリモア猟兵からの連絡もいっているため、周囲の人々も透櫻子が訪れることは承諾済みである。彼女が穏やかに最後の一日を迎えられるよう協力的で、彼女を害する事件が起きる可能性は一欠片もない。
 さあ、午後は何をして過ごそうか。
花邨・八千代
【徒然】
「布静ー!すごいぞ、広いぞここ!」
「いっぱい店がある!桜夜に土産買ってこーぜ!」

百貨店に入った途端、広がるおしゃれ空間!
駆け出しそうなのを手を引かれて止められても視線はきょろきょろ

「布静、ここ屋上に遊園地あんだって!あと喫茶店も!」
「俺どっちも行きたいなー、どっちから行く?」
「じゃあじゃあ、遊園地から!」

早く早く、と急く足は止められない!
それでも不意に、引かれた手に柔い感触
周囲へ向けていた意識が一気に繋いだ手に向かう

「ぇっ…と……ごめん…?」

顔と耳が燃えるように熱い
乱れた歩幅を直し、手を繋ぎ直した
もう周りを見ている余裕なんてない

「……一緒に行こうな」

そうだな
デートはふたりでするもんだ


薬袋・布静
【徒然】
「折角粧し込んどんのに大声出さんの…」
「そうやね、嬉しいな…うんうん、買って帰ろか」

はしゃぐ犬の如く興奮気味に喜ぶ嫁を嗜めつつ
繋いだ手を軽く引き制御する

「八千代、遊園地も喫茶店も逃げんから落ち着き?」
「そやねぇ…腹減ってんなら、喫茶店からにしよか。違うなら遊園地行こか」

未だに視線を泳がせ落ち着きなくあっちやこっちに動き出しそうな嫁
はしゃぐ気持ちは分かるが面白くない
繋いだ嫁の手の甲に口付け意識を奪う

「なぁ、俺にも興味持ってや」

意識がこちらに向き満足
手を指を絡めるよう繋ぎ直し
二人きりを楽しむようゆっくりと向かう

「ええよ、俺で頭いっぱいになったようやし」
『おん、“一緒に”行こか俺の別嬪さん」




 大きな扉を開ければ別世界。
 モダンな制服に身を包んだ店員たちが恭しく頭を下げて迎えてくれる。
 入り口ホールの天井は吹き抜けとなっており、とても高い。天井にキラキラと飾り立てる装飾が絵を描いていることに気付いた八千代はキラキラと瞳を輝かせ、大きく口を開いた。
「布静ー! すごいぞ、広いぞここ!」
「折角粧し込んどんのに大声出さんの……」
 一緒に扉をくぐって入ってきた布静が眉を顰めて注意をするが、八千代は全然気にせずキョロキョロと辺りへ視線を向けている。彼女が全力で駆けていってしまったら、きっと布静は追いつけない。はしゃぐ子犬のようにウロウロしないようにと、布静は繋いだ手を軽く引いて傍らに留めおいた。
「いっぱい店がある! 土産買ってこーぜ!」
 キラキラの瞳に見上げられれば、それ以上の注意は出てこない。そうやねと同意を示し、彼女が行きたい方向へと向かわせた。
「布静、ここ屋上に遊園地あんだって! あと喫茶店も!」
 歩みながらキョロキョロと周りを楽しげに見ていたキラキラな瞳が布静に向けられる。前見て歩きやと注意をしかけて、布静は口を閉ざす。彼女の瞳に自分が映るのは、嬉しいことだ。さり気なく他の人に八千代がぶつからないように手を引いた。
「八千代、遊園地も喫茶店も逃げんから落ち着き?」
「俺どっちも行きたいなー、どっちから行く?」
「そやねぇ……腹減ってんなら、喫茶店からにしよか。違うなら遊園地行こか」
「じゃあじゃあ、遊園地から!」
 パッ、と。
 せっかく向けられた瞳が、すぐに前を向いた。
 ――面白くない。
 はしゃぐ八千代は可愛い。瞳をキラキラと輝かせて、楽しそうに笑う。それをずっと見ていたいと思う。けれど、『自分以外に向けられる興味は面白くない』。
「八千代」
「あ?」
 なんだとかどうしたとか、問う言葉が出るよりも素早く手を引いて。
 長身の男の口元へと引き上げられた手の甲に、温かくも柔らかな感触。
 見上げる瞳は、彼の瞳に映る自分は、目を丸くして驚いている。
「なぁ、俺にも興味持ってや」
「ぇっ……と……ごめん……?」
 自分の手で顔が半分隠れた彼の表情だとか、話す度に触れる唇だとか、いろいろな想いが突然ぐるぐると襲ってきて、顔が、耳が、燃えるように熱い。
 布静のことで頭がいっぱいになったであろうその表情に満足し、にこりと笑みを見せた布静が指を絡めて手を繋ぎ直す。
「ええよ、俺で頭いっぱいになったようやし」
「……一緒に行こうな」
「おん、“一緒に”行こか俺の別嬪さん」
 デートはふたりでするものだ。
 一緒に歩いて、一緒に過ごして、一緒に同じものを見て。
 八千代の心だけが走っていたら、同じものは見えない。
 それに気付いた八千代は、改めて「ごめん」と口にして。
 絡めた指にぎゅうと力を篭める。
 俺の気持ちはいつだってここにいるよ、と言うように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペペル・トーン
ふふ、大きなお店に行くのは初めてでワクワクしてしまうわ
私はデパートの支配人だもの、視察よ、視察

お店を眺めて、足を留めたのは香水店
いつかの手紙が纏っていた、クチナシの香に綻べば
綴った日を思い出すように小瓶を1つ、選び取り
そうね…それから、白いリボンも欲しいかしら
お花が連なっているものがいいのだけど、どこにあるかご存じ?
ああ、リボンはね、素敵な人へ贈り物なの
それ以上は、内緒よ
何だか聞かれるのは、こそばゆいけれど嬉しい心地ね
喜んでくれるかしら
どんなお顔をするかしらって考えると
待ち合わせが楽しみになってしまうの

今頃、貴方はそんなこと思ってないでしょうね
知っているわ
いいの。私が思うだけで満ちる心地だから




 大通りに立つ立派な佇まいは、誇りと歴史を感ぜられる。ドアボーイたちも洗練されており、彼等が手をかける扉も綺麗に磨き上げられていた。
 これほどの規模ではないものの、ペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)はデパートメントストアの支配人だ。ワクワクと弾む心に、今日は視察なのよと言い聞かせて扉を抜けた。
 天井は高く、綺羅びやか。
 品良く並べられた商品たちはお澄まし顔で、誰かに迎えられるのを待っている。
 化粧品売り場で歩を進めれば、春らしいデザインの物が多く視界へ飛び込んでくる。
 ふと足が止まったのは、香水が視界に入ったから。繊細な香水瓶と、香りをイメージしたイラストが添えられていた。
 そのひとつへと、手を伸ばす。
 それは、いつかの手紙が纏っていた、梔子の香。
 嗅げば綴った日を思い出す、思い出の香り。
「そうね……それから、白いリボンも欲しいかしら」
 近くの店員に声を掛け絹紐売り場へと案内してもらえば、想像以上にたくさんの絹紐で溢れていて探し出すのは大変そうだった。こういう場合は聞いたほうが早い。
「お花が連なっているものがいいのだけど、どこにあるかご存じ?」
「はい、ございますよ」
 こちらですと案内してくれた店員は「贈り物ですか?」と尋ねてくる。普通に贈るならば化粧箱にいれた可愛いラッピングを。咲良結びで贈るのならば……と、梱包の有無をどうするかを尋ねてきた。
「ええ。素敵な人と待ち合わせをしているの。それ以上は内緒よ」
 用途を察した店員は「好い一日になりますように」と簡易包装をして手渡してくれ、ペペルも「あなたにも」と応じてその場を後にする。
 ほんの少しのやり取り。けれど胸の内を誰かへ零すのはなんだかこそばゆく、そしてそれは嫌なものではない。
 ――喜んでくれるかしら。
 買ったばかりの絹紐と香水を、大切に抱え込む。
(今頃、貴方はそんなこと思ってないでしょうね)
 知っている。けれど、それでいいのだと思う。
 弾む心地が笑みを咲かせ、待ち合わせへと向かう足を弾ませる。
 ああ。貴方との待ち合わせが、とても楽しみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルデルク・イドルド
ディル(f27280)と
お昼は百貨店で買い物か…宝飾品売り場も充実してるな。
(これが似合うとディルクに言われたのはシンプルなシルバーとダイヤの指輪)
あぁ、悪くないな。俺だけ買うのも何だからな揃いで買うか?
(言ってペアリングな事に気付き再び脳内が忙しくなるが嬉しそうなディルクに逆に落ち着き)
ん、じゃあ、同じデザインの指輪を二つ。
ディルはー壊してしまいそうだからペンダントに付けるか…俺は…(店員から指ごとの意味などを聞き左手の人差し指に決め
(『自分を見てほしい』そんな意味をもつ指に嵌めようとしていると)
(ディルクが指輪をとると自分の指に嵌めてさらにそこにキスを落として)
そう言うのどこでっ!


ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と
え、この建物に色んな店が入ってんのか?!

んー…なんか面白い店とかねぇかな?
……あっ!アルっ、あの店行こう!
アルを連れて宝石店にいくぞ

ほら、この指輪アルに似合いそうっ
(シルバーリングに小さいダイヤが嵌め込まれたものを指して)
おそろい?そうだな、2人でお揃いのにしようぜっ!
んー…オレは指だと潰しちゃいそうだし、アルに貰ったネックレスに通しておこう
アルは…そこに付けるのか?

指に嵌めようとしている指輪を取り上げて
アルの手を下から支えながら反対の手で指に指輪を嵌め
最後に指輪にキスをして笑って
「うん、やっぱりアルによく似合うな」




 大通りから見ても目立つ、大きな建物。
 その中には沢山の商品が溢れかえっているが、経営するのはひとつの企業である。種類で分けられた沢山の売り場があるのだと聞いて、ディルクは思わず「え!」と声を上げた。
 瞳をキラキラと輝かせながらあちらこちらに視線を送って面白いもの探しをしだしたディルクの傍らで、アルデルクは案内板を見遣る。たくさん並ぶ売り場名の中から宝飾品売り場の場所を確認し、フロアの具合からして充実していそうだと何の気なしに思ってしまうのは職業柄のせいだろうか。
 特に行き先をきめていなかったから、ひとまず向かうのは宝飾品売り場のあるフロア。様々なものに興味を惹かれているディルクがはぐれないように意識を向けながら歩けば、何か目にとまるものがあったのだろう。ディルクが「あっ」と声を上げた。
「アルっ、あの店行こう!」
 通路からも見えた宝石の煌めきに誘われて、アルデルクを連れて行った。
「ほら、この指輪アルに似合いそうっ」
 この煌めきに惹かれたのだと指差す指輪は、シンプルながらも丁寧にカットされたダイヤモンドが煌めくシルバーリング。サイズ違いのふたつの指輪が並んでいるところから、ペアリングなのだろう。
(流石ディル、いいものを選ぶ……って、ペアリングじゃないか!?)
 好いた相手と揃いの装飾品を身につけるという行為は特別な気持ちになれる。それが指輪であるならば、尚更だ。ワーッと騒ぎ出す脳内の感情を表に出さないように全神経を表情筋に総動員させたアルデルクは、努めて涼しい顔を維持しながら涼やかな声を出す努力もする。
「あぁ、悪くないな。俺だけ買うのも何だからな。……揃いで買うか?」
「おそろい? そうだな、ふたりでお揃いのにしようぜっ!」
 パッと向けられた嬉しそうな顔が眩しい。アルデルクにとってはこの笑顔こそが宝で、宝石よりも輝く存在だ。
 見守っていた店員へと声を掛けて同じデザインの指輪をふたつ頼めば、店員は丁寧に指ごとの指輪の意味を説明してくれ、どのサイズにいたしましょうと尋ねた。
「んー……オレは指だと潰しちゃいそうだし、アルに貰ったネックレスに通しておく」
「俺は……」
 左手の人差し指に、静かに触れる。
 ――自分を見てほしい。
 用途からサイズを決めたふたりの元へ、店員が指輪を持ってきてくれた。揃いの箱に入れた紙袋を受け取って宝飾品売り場を離れれば、早速ペンダントにつけるとディルクが箱から取り出し、それに倣ってアルデルクも買ったばかりの指輪をつまみ上げる。
「アル」
「ディル?」
 その手から、ディルクが指輪を奪う。
 不思議に思って彼を見れば、悪戯な笑みとぶつかって。
 下からするりと取られた左手。
 人差し指に触れるひやりとした銀環。
 そこに熱と、手の甲へさらりと柔らかな髪が触れ。
「うん、やっぱりアルによく似合うな」
 指に嵌めた指輪にくちづけを落としたアルデルクの宝石が、嬉しげに咲う。
 はくり。知らず開いた唇が言葉を飲み込んだ。
(――そういうの、どこでっ!)
 きっと問い詰めれば船で見たとか返ってくるのだろうけれど。
 ああ、もう。本当に油断ならない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

千之助(f00454)を伴い。
向かうは宝飾店。
彼の位置からは見えないかな…
一品求めて。

君は?何か用は無かったです?
では、屋上に出ましょうか。
良い天気ですし。

流石に齢も立場もありますし、自動木馬や回転茶器は辞しますが…
何処かに掛けて一休みでも。
アイスクリンを君ヘ。
口にしている間に…
先程求めたイヤーカフを彼に着け。
この主は強引なのです。
これなら髪に隠れるし…
…忘れずいて欲しい、とも。

あの父の事。
婚姻など表向き。
無用の次男など、良家の相手と添わせ…
子を成すを待つ迄も無く僕を葬り、効果的に相手から全て奪う。
そんな算段でしょう。
…いつか、そう遠からず。

君は、家からお逃げなさい。
そしてどうか、幸せに――


佐那・千之助

御主人様(f00472)から少し距離を。
もしや見合い相手への宝石を?と思うと複雑で。…駄目な従者。

いえ。私に過ぎた素敵なものは、見ているだけで十分ですから

御主人様、回る茶器が…!え、結構ですか?はい…。
ああ、甘味なら私が買ってきますのに…!
私に?そんな、あ、ありがとうございます…
美味しい…あ、私の好きな苺味…
…冷たいのに頬に熱が。
更に耳に触れられ、最早真っ赤に硬直して
御主人、様?…さっきのお店では、私に…?
もう上がりすぎた体温でアイスを溶かしそう
だったけれど…

主の言葉に凍りつく
…いけません
貴方が失われるなんてあってはならない
絶対、駄目です…
嫌です!
涙に濡れたアイスを置いて
彼の手を強く掴んだ




 行きたいところがあります。
 そう告げたクロトが千之助を伴い向かったのは宝飾品売り場だった。
 ひとりで見たいからと千之助を離せば、見合い相手の心象を良くするために贈り物を買い求めるのだと思った千之助は極力主を視界にいれないようにする。警護対象でもある主から視線を逸らすなど、常ならばしないのに。けれど今は、そんな主を見ていられなくて。
 彼が此方を向いていない隙にと一品求めたクロトは用が済むと、千之助へと声を掛ける。
「君は? 何か用は無かったです?」
「いえ。私に過ぎた素敵なものは、見ているだけで十分ですから」
 贈る相手もいませんし。
 自然な笑みを浮かべようとしたのに、浮かんだのは乾いた笑み。割り切れない、駄目な従者だ。
 少しだけ何か言いたげな表情をしたクロトは、しかして口を開くことは無く。ふいと逸した視線をヱレベヱタアへと向けた。
「良い天気ですし、屋上にでましょうか」
「はい……」
 ちゃんとしなくてはと思うのに、クロトが購入した宝飾品が気になり、気が沈む。
 しかし、それも屋上へと上がれば吹き飛んで。
「御主人様、回る茶器が……!」
 楽しげな音楽の下でくるりくるりと廻る自動木馬に回転茶器。いかがでしょうと視線を向ければ、眉を下げた笑みが「おひとりでどうぞ」と告げていた。
「ここで待っていてください」
「御主人様?」
 従者を置いてどこへ行くのか。けれど命令は護らねばならない。どうしたものかとくるりと踵を返した背を視線で追いかけていたら、その背は売店へと行き着いた。すぐにクロトはアイスクリンを手に戻ってくる。
 アイスクリンが欲しかったのなら自分が買ってきたのにと主張をするが、「どうぞ」とひやりとした存在がその手に渡されて。
「え。私に? そんな、あ、ありがとうございます……」
 本当に頂いていいのかとチラチラと主を見ながら口に運べば、広がるイチゴ味。千之助の好きな味だ。
 今日の春らしい暖かさにはアイスクリンの冷たさが心地よい。
 溶ける前にと口にする、そんな千之助の頬へと伸びる手。
 あっと思った時には、耳へと冷たく硬い感触。
「これなら髪に隠れるし……」
「御主人、様? ……さっきのお店では、私に……?」
 顔に集まる熱を自覚しながらアイスクリンを置いて耳へと手を伸ばせば、触れる硬い感触は――先程の宝飾品売り場で買い求めていたイヤーカフだと解る。
「――あの父の事だ」
 クロトは、父の事をよく理解しているつもりだ。婚姻などは無用の次男を始末するための仕掛けのひとつに過ぎない。良家の令嬢と婚姻を結ばせれば、大量の持参金が入る。婿入りをさせ事業を継がせて実権を握りさえすれば、後はもうクロトは用済みだ。
「僕はきっと、葬られるでしょう。……いつか、そう遠からず」
 ――だから、君は。
 寂しげな、けれど慈愛に満ちた瞳が千之助へと向けられる。
「君は、家からお逃げなさい」
「嫌です!」
 この方が失われていいはずがない。どうして最後までいっしょにと望んでくれないのか。どうして逃れる術をいっしょに考えてくれないのか。
 駄目な従者に、酷い主。ああ、ひどくお似合いだ。
 千に割かれたような心がはたはたと涙を零す。
 必死に伸ばした手で強く掴んだ彼の手は、ひどく熱いように思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
昼は、僕ですか
…それなら、屋上遊園地に行きます
連れて行ってやりたかった子が、いるんです
血も悲鳴もない、陽の当たる、優しい娯楽施設に
僕の、弟分を
僕と同じ髪と瞳。服装はそこらの子供と似た感じで買ってやります
流石に、襤褸は場違いですから

記録書写で呼び出して身なりを整え
ここでは「兄さん」と呼びなさい
…おいで、セシル
今日はここで遊ぶ日です
どれが気になりますか?時間の許す限り、堪能していきなさい
あぁ、命令ではないですよ
…一緒に?はぁ、僕も一緒に乗れるようなら行きましょうか
可愛い我儘を聞いてやるのも、兄貴分の務めです

楽しいですか?
…楽しいですよ、僕も
君を、生かしてやれなかった後悔が、少し晴れた気がします




 スイッチを切り替えるように、パチリ、と表面の意識が交代する。
 午後からは『僕』の番のようだ。
 ドアボーイたちに恭しく扉を開けてもらって百貨店の中へと足を踏み入れたエンティが、まずはと足を向けるのは子供服売り場だ。
 近くの店員に用件を伝えれば、それでしたら……と丁寧にいくつかの提案をしてくれる。その中からエンティが手にしたのは、シャツと膝丈ズボンのセットだった。今日はこれから屋上遊園地にいくつもりだから、動きやすいほうがいいだろう、と。
 そうして洋服を購入したエンティは周りに人が居ない試着室へと向かい、《記録書写》で幼い少年を呼び出した。同じ髪と瞳をもつ、エンティの弟分。記憶のままの襤褸を纏う姿は流石にここでは場違いだからと買ったばかりの服を着せてやった。
「ここでは『兄さん』と呼びなさい」
「はい、兄さん」
「……おいで、セシル」
 手を差し出し、繋ぎ、屋上へと少年を連れて行く。
 視界が広く、空の青さを感じて心地よい屋上には、幸せな笑顔と賑やかな声で満たされていた。遊具は軽快な音楽を鳴らして動き、小さな子どもたちは親といっしょにそれに乗って楽しんでいる。
 血や悲鳴しか知らず、陽の当たる場所とは無縁だった少年には、ここで何をすればいいのかわからない。おず、と向けられる視線に、エンティはああと返して。
「今日はここで遊ぶ日です」
 時間の許す限り堪能していきなさいと静かに告げられても、少年にはどう遊べばいいのかすらわからない。
「あの……兄さんも一緒がいいです」
「……一緒に?」
 ついと遊具で遊ぶ子等へと視線を向ける。あの中に、自分も……?
 しかし、可愛い我儘を聞いてやるのも、兄貴分の務めだ。いいでしょうと頷いて遊園地の一部になりにいった。
「楽しいですか?」
「はい。……兄さんは?」
「……楽しいですよ、僕も」
 良かったですと陽の光の下で晴れやかに少年が微笑う。
 それは彼が生きている内に終ぞ見られなかったものだ。
 生かしてやれなかった後悔が、少し、晴れた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】♢

今度は百貨店ですか
……ふむ、カフカ、ちょっといらっしゃい

逃げられないように繋いだ手を引いて、服を物色するとしましょうか
カフカ、何着せても似合いますからねぇ
んふふ、フォーマルのかっちりした服装も良いですけど、そろそろ暑くなりますから、麻系の緩い室内着なんかも良いかもしれませんね
君、身長に合わせるとどう考えても腰周りが緩いんですよね……本当に細っこい子なんですから

何か言いました?
聞こえません
はい、これ着て来てください
やです
やーでーすー
良いじゃないですか
私のものがとびきり綺麗にしている方が楽しいでしょう、私が
君、映えるんですもの

ふふ、知ってますよ
君、何だかんだ、結局甘いんですから


神狩・カフカ
【彼岸花】♢

いいねェ百貨店
ハイカラなもんが揃ってて飽きねェや
って、なんだ藪から棒に
おいおい、おれはあっちが見てェ…仕方ねェなァ…

服が見たかったのか?
子ども服ならあっち…おれの服かよ
お前さんに選んでもらわなくたって
服くらい自分で見繕えるぜ?
って、全然聴いてねェな…
しかも随分と楽しそうなこって
まァ、悪い気はしねェけどよ
お前さんのセンスも悪くねェし…
お、おれの体型のことはいいだろ!
仕方ねェだろ!
筋肉も脂肪も何故か知らんが付き辛ェんだから!

いや、さっきからずっと話しかけてたが?
…これ?
ちょっと派手じゃねェか?
あー!わかったわかった!
ったく、そう言えばいいと思ってよ

…結局言うこと聴いちまうおれもおれだが




 扉を開けば煌めく世界。沢山の品物が品よくお澄まし顔でお座りし、誰かの手に取られるのを今か今かと待っている。そこは、帝都に住まう民たちのあこがれの場所だ。
「……ふむ、カフカ、ちょっといらっしゃい」
「って、なんだ藪から棒に」
「いきますよ」
「おいおい、おれはあっちが見てェ……」
 ハイカラの物がたくさん詰め込まれた宝箱のような百貨店。目に楽しいものはたくさん溢れており、色んな場所へと足を運びたくなる。あっちと指をさすも、ぐいっと繋いだ手を引いて祝が促す。おまけにニコリと有無を言わさぬ笑顔付きだ。
「……仕方ねェなァ……」
 問答をしても疲れるだけだし、注目を浴びるだけ。祝の笑顔が折れる気はないと告げている。自由を残された片手で頭をワシっと掻いたカフカは大人しく祝についていくことになった。他に見たいものは、祝を満足させてから見て回ればいい。時間はたっぷりとあるのだから。
「服が見たかったのか?」
「カフカ、何着せても似合いますからねぇ」
 子供服ならあっちと指をさしかけたが、どうやら祝の目的は自身の服ではなくカフカの服のようだ。服の波の中をスイスイと泳ぐように歩き、目指すは紳士服売り場。
「これはどうですか? これもいいですね」
「お前さんに選んでもらわなくたって服くらい自分で見繕えるぜ?」
 フォーマルな服を持ってきて、カフカに当ててみる。なかなか似合うと頷いてから、次は色違い。こちらもいい。
 けれどそろそろ暑くなるからと麻系のゆるい室内着なんかも良いかもしれない。
 次々と服を当てていく祝の耳には、カフカの訴えは届いていない様子。随分と楽しそうに、あれでもないこれでもないと服を持ってきては顎に指を掛けて真剣な顔をする。
「君、身長に合わせるとどう考えても腰周りが緩いんですよね……」
 楽しそうだしいいか、なんて思っていたらこれだ。
「お、おれの体型のことはいいだろ!」
「本当に細っこい子なんですから」
「仕方ねェだろ! 筋肉も脂肪も何故か知らんが付き辛ェんだから!」
 クワッと口を開けて言い返してみたが、祝は涼しい顔。
 チラとカフカを見上げ、ゆうるり首かしげ。
「何か言いました?」
「いや、さっきからずっと話しかけてたが?」
「聞こえません。はい、これ着て来てください」
 手にしていた服をはいっと胸に押し付けて、試着室はあちらですと指で促してくる。
「ちょっと派手じゃねェか?」
「やです。やーでーすー」
「あー! わかったわかった!」
 着てくれないと嫌だと駄々をこねられれば、カフカはそれに従うしか無い。甘いことは自覚している。……それを祝がよく知っているから、厄介なのだ。
「良いじゃないですか。私のものがとびきり綺麗にしている方が楽しいでしょう」
 私が。
 緩やかに瞳を細めて微笑うその顔に目を奪われる。
「君、映えるんですもの」
「ったく、そう言えばいいと思ってよ」
 着てくるとぶっきらぼうに告げて、カフカは背を向ける。
「早く帰ってきてくださいね」
 私が選んだ服を纏う君を見たいのです。
 背に掛けられた声を聞き止め、振り返らぬままひらりと手を振り応える。
 ――悪くない。
 そう思うからこそ、実に厄介なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
あめいろ

あーっという間に午後ですの
憂う事なんてぜーんぶ忘れて
一日をたーんと楽しみましょ

ティアが居れば何時何処であったとしても
わたしは楽しくて嬉しい気持ちですがね

ちゃあんと着いて来てます?
二人もこの帝都を楽しんでいってくださいね

このお店に入るのは初めてだったり
せっかくだからステキなひと品を選びたいです
うーん、そうですねえ

あなたを縛る鎖は必要ない
囚え離さない檻も要らない
その気になれば解けてしまうもの

涙のチャームが揺れるリボンを、ひとつ
後ほどあなたへと贈りましょう
今はまだ、なーいしょ

しずくくんには黄水晶
おねーさんには藍玉を
わたしからのプレゼントです

贈り物ってワクワクしますよねえ
夜になるのが楽しみです


ティア・メル
あめいろ

んふふ、そうだね
せっかくの機会だもん
ぱーっと遊んじゃおっ

もう、円ちゃんったら
嬉しい事言ってくれるんだから
でもね、ぼくもおんなじだよん
円ちゃんが居てくれるなら
いつどんな時でも楽しいよ

雫ちゃん、藍ちゃん
ちゃんと着いて来てねーっ

プレゼントかあ、いいねいいね
何がいいだろう
円ちゃんはおしゃれだからね、何でも似合うよ

円ちゃんには自由がよく似合うから
ぼくに直接縛り付ける物は渡したくない
でも独占欲をワンポイント
いつどんな時でも思い出してって気持ちを込めて
口紅をひとつ

えへへへー今はまだ内緒
お互い後で、ね

雫ちゃんにはアイシャドウを
藍ちゃんにはチークを
ぼくからのプレゼントだよ

どんな反応を貰えるのか
ドキドキ!


岩元・雫
あめいろ👀

影朧の為を考えるなら、おれ居ない方が良いのでは?
……冗談だって
ちゃんと着いて行くよ、大丈夫

百貨店の中
興味を持って見るのは初めてかも
とりどり綺羅々々、眩い場所だ
三者三様、華が咲むのは『尊い』こと

なぁに、あゐ
……其様な顔しないで頂戴
あんたが選ぶ物なら、貰ってあげる
代わりに、後で交換こね
貰うだけは肌に合わないの
折角なら、ふたりも誘って皆で遣ろっか
あんたには、幸せの四葉が好く似合いだよ

選ぶのは
まどかに桔梗
ティアに撫子
あゐには藍の、爪紅を
色は違えど、揃いの品を
口にするには気恥ずかしい様な
感謝と共に指先へ贈る
白い箱と絹紐で梱れば
自然と笑みが綻んで

――贈り物を考えるのって
此様なに、楽しかったんだ


歌獣・藍
あめいろ👀

まぁ、しずくったら
お魚さんなのに
『つれない』こと、いうのね。
…お魚さんだから言うのかしら?
とにかく行きましょう!

しずく、しずく。
(裾を引っ張って)
本当に、欲しいものないの……?
(うるるる)
!本当?!
まぁ!交換こ!素敵!
じゃあ私は……これ!

選んだのは持ち主によって
色が変わる耳飾り
皆、何色に染まるのかしら
しずくには泡
てぃあには飴玉
まどかには
宝石をモチーフにした飾り
ねぇしずく
私はどれがいいと思う?
四葉…!『アイ』を示すはぁとが四つも!じゃあ、それに…!

どちらも素敵…!ありがとう!
大事にするわ!
ずっと、ずっと…!

こどものように無邪気に笑って
爪紅と耳飾りを
大事にぎゅうと抱き締めた




 建物の屋根が綺麗。お花屋さんの花が瑞々しくて美しい。行き交う人々の笑顔が素敵。
 大通りを歩けば沢山の幸せを見つけ、午前はあっという間に過ぎてしまった。
 けれど今日はまだまだ時間がある。
「憂う事なんてぜーんぶ忘れて、一日をたーんと楽しみましょ」
 指を絡めたティアの手をぎゅうと握って微笑めば、んふふと同意の笑みが返る。
「せっかくの機会だもん。ぱーっと遊んじゃおっ」
「ティアが居れば何時何処であったとしても、わたしは楽しくて嬉しい気持ちですがね」
 今日だけじゃなくて、いつも。あなたに会えるだけで、毎日が特別。
「もう、円ちゃんったら。嬉しい事言ってくれるんだから」
 ぴょんっと跳ねるように腕に抱きついて、そっと近づいた距離をもう少し詰めるように顔を近付け、あなたにだけ聞こえる声で耳朶へと言葉を落とす。
 ――ぼくも円ちゃんが居てくれるなら、いつどんな時でも楽しいよ。
 視線を合わせてから微笑み合って、くすくすとふたりは笑い合う。
 訪れた百貨店でもふたりは楽しげで、仲睦まじくて。
 ふたりの時間を邪魔しないようにと気を遣って距離を保ちながら、雫はその背を見る。
「影朧の為を考えるなら、おれ居ない方が良いのでは?」
「まぁ、しずくったら。お魚さんなのに『つれない』こと、いうのね」
 お魚さんだから言うのかしら? 釣られてしまったら私も困ってしまうもの。
 冗談だと口にする雫の隣で藍は首を傾げてしまう。姉さまとしてそれはとっても悲しくて。
「ちゃあんと着いて来てます?」
 くるりと円が振り返る。気付くと空けた距離が更に開いてしまう。
「雫ちゃん、藍ちゃん。ちゃんと着いて来てねーっ」
「行きましょう、しずく!」
「ちゃんと着いて行くよ、大丈夫」
 裾を引かれた雫も、空いた距離を詰めに小走りでふたりを追いかけた。
 通路を歩きながら左右にキョロキョロと視線を送れば、様々な品物が目に入る。春めいた物が前面に推されているが、それ以外の物だってお澄まし顔で品良く座って誰かが迎えてくれるのを待っている。
「しずく、しずく」
「なぁに、あゐ」
 ちょんちょんと裾を引いて、藍が呼ぶ。
「本当に、欲しいものないの……?」
 傍らを見れば、うるっと藍色の瞳が潤んでいる。大通りでおねだりしてもらえなかったのが尾を引いているのだろう。今度こそ! 絶対! プレゼントしたい!
「……其様な顔しないで頂戴」
 流石に捨て置くことはできなくて、小さなため息とともに眉を下げた。
「あんたが選ぶ物なら、貰ってあげる。代わりに、後で交換こね」
「本当?! まぁ! 交換こ! 素敵!」
 へにょりと伏せられていた兎耳が、ピョンっと元気に立ち上がる。
「ねえ、まどか、ティア。提案があるのだけれど、聞いてくれる?」
「プレゼントかあ、いいねいいね」
「それでは交換するまで内緒にするために、暫し別行動といたしましょう」
 とびきりのステキなひと品を選んできますねと円が微笑んで、四人はふたりずつに別れた。

「あゐ、決まった?」
「私は……これ!」
 難しい顔をして藍が何かを見ているから尋ねてみれば、藍は素早く指をさす。
 それは、持ち主によって色が変わる耳飾り。何色に染まるのだろうかと考えれば、ワクワクする。雫には泡、ティアには飴玉、円には宝石。ひとつひとつ迷いなく手にしたけれど、その手は中空でピタリと止まってしまう。
「ねぇしずく、私はどれがいいと思う?」
 皆へのプレゼントは決まったけれど、せっかくだから自分にもお揃いを! と思ったら、自分のが決まらなかった。
「あんたには、幸せの四葉が好く似合いだよ」
「四葉…! 『アイ』を示すはぁとが四つも!」
 これにするわと大切に摘み上げた。
「しずくは?」
「もう決めてあるよ」
 商品たちの間を泳ぐように進み、手にするのは爪紅。円には桔梗の、ティアには撫子の、藍には藍色の。それぞれ違う色の爪紅を、口にするには気恥ずかしい様な感謝をと共に指先へと贈るのだ。
 会計で白い箱と絹紐で梱れば、自然と笑みが溢れ出す。
(――贈り物を考えるのって、此様なに、楽しかったんだ)
 皆、喜んでくれるだろうか?
 先に手渡した藍がぎゅうと抱えて喜んでくれているのだから、きっと皆も――。

「ティアはどんなのにしますの?」
「えへへへー今はまだ内緒」
「では、購入してから落ち合いましょう」
 近くの売り場で、円とティアはまた後でと手を振って。
(うーん、そうですねえ)
 ひとりになった円が思うのは、まずはやっぱりティアのこと。
 ティアを縛る鎖は必要ない。囚え離さない檻も要らない。だって、その気になれば解けてしまうものだから。
「これにしましょう」
 蝶のようにひらりと舞った指先が選び取ったのは、涙のチャームが揺れる絹紐。それから、雫への黄水晶と、藍への藍玉。満足気に手にしたみっつの品物を見て、円は会計へと向かった。
(円ちゃんには何がいいだろう)
 彼女はお洒落だから、何でも似合う。一番似合うのは自由だから、自分に縛り付けるような物は渡したくはない。
「でも、これくらいならいいかな?」
 独占欲のあらわれを、ひとつ。
 鏡で見る度、ぼくを思い出して。
 そしてその色を、ぼくへと移して。
「ティア、決まりました?」
「んにに、流石円ちゃん。ナイスタイミングだよ」
 円への口紅と、雫へのアイシャドウ。それから藍へのチークの会計をちょうど済まし終えたティアはパッと振り返る。愛しい姿に自然と笑みが溢れた。
 ぴょんぴょんと跳ねるように近寄って、またぎゅうと身を寄せれば、おかえりなさいと返る言葉がとても嬉しい。
「それでは待ち合わせ場所へ向かいましょう」
「はーい」
 ワクワクして、ドキドキして、嬉しい笑みを零して。
 それぞれの贈り物を選び終え、ひとところに集まりに向かう。
 贈り合う夜が楽しみだと、愛しい贈り物をぎゅっと抱きしめて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
ゴージャスなデパートは誘惑が多い!
いやこれはなエコー、俺欲しいものがいっぱいあるんだよ
服も欲しいし靴も欲しいし時計も欲しいしアクセも欲しい!!なんならコスメも買って行きたい
ハイ……我慢しま――あ、そーだ
エコー、ちょっと提案
俺がひとつお前にプレゼント買うから
お前からも俺に選んでプレゼントして?
選びきれないんだもんさぁ

俺からはエコーに懐中時計
腕時計もいいけどね
折角だからアンティークっぽいの
俺たちの時間は無限だけど
今ってのは有限だから
大事にしよーねってことで
手袋!あー、気にしてくれてたの?
えへへ、ありがと。大事に使うよ
黒革でかっこいいねぇ

――あ、いや。なんでもない
……なんか視線感じたような


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【BAD】👀
バレたらエコーに殺される――それだけは強く感じている
故に、そう
今の私は壁であり名もなきエキストラであり惣菜コーナーの弁当
二人を見守る兄としての気配は全て殺さねばならない――!

プレゼントに時計か
調べたところによれば、あれは同じ時間を共に刻もうという意思の表れ
そして時計とは常に身に付け気にかけるものでもあり
つまりある種のプロポーズともいえる(発想の飛躍)
ハイドラ、やるな……

エコーは手袋
私を捕まえてという意味があるらしいな
普段手を握るエコーが贈るところが実に小悪魔的で
つまりある種のプロポーズと……

……?
今ハイドラがこちらを見たような
いや気のせいだな、うん
気のせいということにしておきたい


エコー・クラストフ
【BAD】
随分大きい店だね……何でも売ってる店って感じなのか
まったく。無駄遣いはダメだよハイドラ。ちゃんとどれかに絞らないと
……え、ブレゼント? それは……別に、いいけど……。じゃあ、ちょっと選んでくるね

……指輪なんかも売ってるんだな
指輪……いずれはハイドラにプレゼントする予定の指輪……
いや、無いな。こんな形で贈るのはムードがなさすぎる。他のものを探そう……

へぇ、時計。いいね、オシャレだし
それじゃ、ボクからはこれ。えーと……手袋
ハイドラって爪綺麗にしてるでしょ? だから、戦闘の時とか剥がれちゃわないように指先を保護するタイプのやつ

ん、どうかした?
……何でもないならいっか。デートの続きしよ?




 ひとつの企業がたくさんのブランドの商品を詰め込んで人々を呼ぶ百貨店は、まさに宝箱。客たちのニーズに応え、欲しい物が欲しいだけ、ここには全てが揃っている。それはもう、あっちにもこっちにも――と、ハイドラの顔の動きが忙しくなるくらいに。
 そんな彼女をチラと見たエコーは、はあと息を吐いて「まったく」と呆れた声を零す。
「無駄遣いはダメだよハイドラ」
「いやこれはなエコー、俺欲しいものがいっぱいあるんだよ」
 服も靴も時計もアクセも欲しい。あれ全部春の新作だろう!? あ、あのコスメも初めて見るやつだ!
 許されるなら今すぐにでも駆け寄って手に取ってみたい。けれど今日はエコーとのデートだから、エコーを放り出したりなんてしない。これでもグッと堪えてはいるのだ。
「ちゃんとどれかに絞らないと」
「ハイ……我慢しま――あ、そーだ。エコー、ちょっと提案」
「何?」
「俺がひとつお前にプレゼント買うから、お前からも俺に選んでプレゼントして?」
「……え、ブレゼント? それは……別に、いいけど……」
 やった! と浮かべたハイドラの笑みが可愛くて、そんなことで喜んでくれるならと思えてしまうし、ハイドラもハイドラでエコーが贈りたいと思ってくれた品物には自分で買ういくつもの品物よりもずっとずっと価値がある。
 それじゃあまた後でと別れて、ふたりは暫しの間離れることとなった。

 ――ニルズヘッグは大いに悩んだ。今の所、今日一番の悩みだ。
 突然ふたりが離れていってしまったものだから、どちらに着いていけばいいのか分からない。
(……くっ! 私がもうひとり居れば!)
 面倒を見ている仔竜を喚び出せば、どちらかを見てきてもらうことは出来る。だが、確実に敏い義妹に見つかりエコーには殺されるだろう。それに、やはり自分で見たい。壁であり名もなきエキストラであり惣菜コーナーの弁当としてふたりを見守り、心のアルバムに保存したい。何度だって脳内再生してこの幸せを噛み締めてやろうとも。そのためには、気配は全て殺さねばならない――!
 太い柱に隠れてハラハラとしているニルズへッグを、店員たちはスルーしてくれている。はじめてのおつかいに着いてきた父兄の方か、今日訪れると聞いている影朧の関係者だと思ってくれている。
(……っと、エコーの方が先に売り場に入っていったか)
 もう少し悩んでいてくれよ、ハイドラ!
 そう願いながらエコーを追いかけた先、そこは宝飾品売り場の一角だった。
 じいっとガラスケースを覗くエコーの瞳には、いくつもの煌めきが映り込んでいる。
(指輪……いずれはハイドラにプレゼントする予定の指輪……)
 エコーの涼やかな瞳に熱が籠もる。けれどそれを贈るのは今ではない。もっと良いタイミングで、完璧なセッティングをして贈るべきだろう。
 そっとその場を離れたエコーの後方で、ニルズへッグはぐうと胸を抑えた。
 と、尊い……。

 暫くの後、プレゼントを手にエコーとハイドラのふたりは合流する。――勿論、極力背景と一体化を測った兄も見える範囲に居る。
「はい、エコー。俺からはコレ」
 ハイドラがエコーのことを思って購入したのは懐中時計だった。腕時計でもいいけれど、あえての懐中時計。今日の日の思い出になるように、桜が彫り込まれたアンティークなものだ。
「へぇ、時計。いいね、オシャレ」
「俺たちの時間は無限だけど、今ってのは有限だから。大事にしよーねってことで」
 ニルズへッグが調べたところ、時計を贈るということは『同じ時間を共に刻もう』という意思の表れなのだとか。そして時計とは常に身に付け気にかけるもの、つまりある種のプロポーズともいえる――そこまで考えて、くっと胸を抑えた。
(ハイドラ、やるな……)
 我が妹ながら流石である。
「ボクからはこれ。えーと……手袋」
「手袋!」
(――手袋には『私を捕まえて』という意味があるらしいな)
 これもまたある種のプロポーズではなかろうか。
 兄が何でもプロポーズに結びつけているとは露知らず――ちょっと意外だ、とハイドラはぱちりと瞳を瞬かせた。その瞳を見てうんと頷いたエコーが口を開く。
「ハイドラって爪綺麗にしてるでしょ? だから、戦闘の時とか剥がれちゃわないように指先を保護するタイプのやつ」
「あー、気にしてくれてたの? えへへ、ありがと」
 エコーのそういう気遣いが嬉しい。黒革でかっこいいねぇと笑って、ハイドラは胸元で手袋をぎゅうと抱きしめた。
(!!! これが、モエ……!!!)
 これ程までに手に汗握り胸が高鳴ったことがあっただろうか。いや、ない。たぶんない。
 ああ、ついてきてよかった!
「……ん?」
 唐突に、ハイドラが辺りを気にするように顔を動かした。何か今……視線を感じたような?
(……今ハイドラがこちらを見たような)
 すぐさまサッとマネキン集団の中に隠れたニルズへッグの脈が早まる。見つかる、イコール死だ。ニルズへッグはふたりの結婚式を見るまではなんとしても生きねばならない。
「どうかした?」
「――あ、いや。なんでもない」
「なんでもないなら……デートの続きしよ?」
「そうだな」
 手を繋いだふたりは咲いあい、睦まじい午後を過ごすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】♢
お買い物も気になったけど
何より俺の興味を引いたのは屋上遊園地

ティーカップのアトラクションもあるよ
乗ってみようよ、梓
以前UDCアースの遊園地でもティーカップに乗ったけど
あの時は調子に乗ってハンドル回しすぎて
すっごい速さになったんだよね~
焔と零も目回してたよね
はいはい、今日はそんなことしませんよ

その後はベンチに座ってアイスクリンを頂く
普通のアイスとは違うシャリシャリ感が癖になる

UDCアースにも屋上遊園地付きのデパートあるようだけど
今ではもう片手で数えるほどしか残っていないとか
ここの遊園地はこれからもずっと続くといいよね

よーし、次は『ちぇりぃ・ぶろっさむ』でゼリーパフェ食べに行こうか


乱獅子・梓
【不死蝶】♢
品揃え豊富な百貨店よりもまず遊園地に行きたがるとは…
遊園地やさっきのカフェでのはしゃぎっぷりを見ていると
こいつの中身って成人男性じゃなくて
小学生くらいの女子では??と思うことが度々

ああ…カップが高速回転してその遠心力で
危うく焔と零がふっ飛ばされそうになったな…
今日はハンドル回しまくるんじゃないぞ
お利口に外の景色を眺めていなさい

大人の事情ってやつなんだろうけど
子供たちや、当時遊んでいた大人たちにとっても寂しいだろうな
長い間時が止まったようなこの世界なら
これからも残り続けるかもしれないな

え!? 今アイス食ったばかりなのにまた食うのか!?
パフェ以外にもあれこれ注文する未来が見える…




 買い物よりも何よりも、まず興味は屋上遊園地で。綾と梓のふたりは百貨店に入るなり、カシャカシャと柵を引くヱレベヱタアに乗り込んで、真っ直ぐに屋上を目指した。
(こいつの中身って成人男性じゃなくて小学生くらいの女子では??)
 綾の年の成人男性と言えば、酒や煙草だったり、ちょっと洒落たものだったりに興味を持つはずなのに、最初に向かうのが遊園地。そういえばさっきもカフェーで燥いでいたし……と考えれば、常日頃から何度も考えている考えが浮かんでしまう。
 けれど面倒見の良い梓は、はいはいと彼についていってやるのだ。
「あれ乗ってみようよ、梓」
 アレ、と指差す先にあるのは回転するティーカップのアトラクション。以前訪れたUDCアースの遊園地にあったものよりも小さい規模のものだ。
 そう、以前も乗ったことがある。けれどその時は綾が調子に乗って回転させすぎて、世界が回っているのか自分たちが回っているのかよくわからないくらいだった。梓の大切な仔竜たちは目を回してしまったし、危うくどこかへポーイと吹き飛ばされてしまいそうだったのだ。
 ああ、あれ……と思い起こした梓は、ひとつ釘を刺しておく。
「今日はハンドル回しまくるんじゃないぞ」
「はいはい、今日はそんなことしませんよ」
(「お利口に外の景色を眺めていなさい」って……梓ってばまたお母さんみたいなこと言ってる)
 適当に良い子の返事を返してティーカップに乗って楽しくくるくると回ったら、あー楽しかったとベンチへ座り、「梓アイス買ってきてー。せっかくだから桜のやつねー」とおねだりを。
(やはりこいつ……)
 女児では?
 物言いたげな視線は向けるだけ。太陽が近く、そして風を感じる屋上で食べるアイスクリンは絶品だろうと、梓は大人しくアイスクリンを買ってきてあげる。
 この時代のアイスはまだ、UDCアースのアイスほどの滑らかさはない。少しシャリシャリとした食感が楽しくて、アイスクリンを食べている間も綾はご機嫌だった。
 身体を撫でていく風が心地よく、綾の隣に座らず立ったままアイスクリンを口にして空を眺めていた梓は、「そういえばさ」と口を開いた綾へ「ん?」と視線を向ける。
「UDCアースにも屋上遊園地付きのデパートあるようだけど、今ではもう片手で数えるほどしか残っていないんだってね」
「ああ、そうらしいな」
 安全性がどうのとか、採算がどうのとか、そういう大人の事情でこの世界よりも先の文明では減っていく。こうして賑わう当時を知っている大人たちは、そうして喪われていくことを見ているはずだ。それはきっと、とても寂しいことだろう。
「ここの遊園地はこれからもずっと続くといいよね」
「長い間時が止まったようなこの世界なら、これからも残り続けるかもしれないな」
 梓も綾も、同じことを考えていたのだろう。続く言葉はどこかしんみりとして、けれど穏やかだ。
「ん、ごちそーさま」
 最後の一口を収めた綾が立ち上がる。
「よーし、次は『ちぇりぃ・ぶろっさむ』でゼリーパフェ食べに行こうか」
「え!? 今アイス食ったばかりなのにまた食うのか!?」
「ほら梓、置いていっちゃうよー?」
 パフェ以外にもあれこれ注文する未来が想像に容易い。
 はぐれたら迷子のお呼び出ししてあげるねーなんて笑いながら歩いていった綾の背を、梓は追いかけていく。迷子になるのはお前だろ! と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ


賑わい華やぐ百貨店
恒なら好奇と目移りするが
そわりと摘まむ鍔を下げ
目立たぬよう、潜むよう

願わくば、こんな所を
ひとに知られたくないが
何処かで眺める嬢を思えば
得も言えぬ心地に成りつつ

爪先は、リボンの並ぶ場へと
いろとりどりの、ものたち
遠目に眺めては心惹かれど
並ぶひとには混じれないまま

――ンン、参ったなあ
咲良結びが人気であれば
当然、売り場も賑わうものか
どうにも僕は場違いなよう

ひとり、静かに眸伏せるさなか
店員の声掛けあらば、慌てて
視線彷徨わせ乍ら、訥々と

恋人と逢う約束をしていてね
その、咲良結びで彼女に贈る
真赤なリボンを探してるんだ
素敵な御勧めって、あるかな

無事に得たなら、頬緩めて
待ち遠しさに心躍らせよう




 ――次は喫茶店に行こうか。
 なんて話す家族連れの横を、邪魔をせぬように身を引いて。
 歩き去る男は、摘んだ帽子の鍔を下げた。常ならば好奇に瞳を輝かせ、人や物、それぞれの持つ物語に惹かれる男の、男らしからぬ行動。帽子と抑える手とで隠される表情は、複雑な其れ。これだけ人が多いのだから、知人に見られることはないだろう。けれどやはり気になるのは――何処かで見ている本日の主役。兎穴には落ちず、窓から落ちた、影朧のお嬢さん。
(……見られているのだろうなあ)
 どうにも感じるむず痒さが、口元に表れてしまう。
 それでも、男――ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の爪先は正しく目的地へと向けられる。
 そうして訪れたリボン売り場。特別催事扱いとなっているのか、ワンフロア丸々、絹紐の彩が揺れている。大振りなリボンを飾った女学生が自分の着物の意匠に似たリボンを選び、品の良い老夫婦がお互いの顔を見て手に取りあい微笑み合っている。
 桜は潔く散る。つまり、『咲良結び』の時期は短い。その短い期間で佳いリボンを手に入れようと人が集うのは必然ではある。のだが――どうにも自分は場違いな気がして、その輪に入るのを躊躇い、遠巻きに眺めることしか出来ずにいた。
 どうしたものか、と眸が落ちていく。せっかくここまで来たのだ、いかない訳にはいかぬのだが――。
「何かお手伝いできることはございませんでしょうか」
「――恋人と逢う約束をしていてね」
 悩む素振りに気付いた店員の声掛け。慌てて店員へと顔を向けたライラックは、僅かに視線を彷徨わせながら口開く。
「その、咲良結びで彼女に贈る……真赤なリボンを探してるんだ」
 素敵ですねと微笑んだ店員がそれでしたらと薦めてくれるのは、細めのレヱスリボン。よくよく見ればレヱスの中央には薔薇が連なり、真赤な大輪を咲かせてくれる。
「素敵な御薦めをありがとう」
 鍔を摘んで礼を送り、その場を後にするライラック。
 見られていることなど抜け落ちて、足取りはどこまでも軽い。
 ああ、彼女に遭うのが楽しみだ。どんな顔をしてくれるのだろう。
 思い浮かべるその相貌に、自然と柔らかな笑みが溢れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟迎櫻


何、櫻
心臓が除夜の鐘みたいになってるの?
戀する君も可愛いなぁ
まるで乙女だね
カムイも罪な神様だよ
君は師匠のことも大好きだったものな…わかるよ
わかるから鰭をくるくるするのを、やめるんだ
破ける

わぁ!ほんとに金魚鉢にはいってるね!
僕は桃だよ
綺麗な桜金魚だ
ぱくぱく食べながら、あーんしあうカムイと櫻を録画する
うんうん可愛い
君が幸せそうに笑うのが嬉しいんだ
可愛いから録画した

ん、僕にもくれるの?
ありがとう!ふふー、美味しいや!……ん?僕も櫻を愛してるけど、僕は不味いし食べられたら死ぬからダメだよ
獲物を捉える目をして─カムイ…ないす!
桜あいすなんて、丁度いいじゃないか
次はそれを食べに行こうよ!

勿論だ!


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


桜華絢爛、私の巫女はこの瞬間も美しくて可愛らしい
角に桜をこんなに咲かせて
咲かせたのが私だなんて噫…生まれてきてよかった

視線が交わる度にほほ笑みかける
少女漫画にも書いてあった
リル、私は間違ってはいないだろう?
同志に目配せすれば鰭が…
サヨ
リルの鰭が可哀想だ

之がゼリーパフェなるもの…洒落ているね
私のは白金魚だよ
ヨーグルトの味がする
サヨ……食べさせてあげる
雛鳥のようで愛い
私にも?ありがとう
甘酸っぱい─……(苺の味の、口付けを思い出し真っ赤になって目をそらす)
…心臓が五月蝿い

(は……!リルが食べられそうに)
サヨ、桜のアイスクリンなるものもあるようだよ
なんだか熱い、次はこれにしよう

そう三人でいこう


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


早鐘うつ鼓動がやまない
触れられた場所が熱をもつ
カムイと目が合えば優しく笑ってくれる
優しい私の神様
師匠と同じ顔、同じ声──噫!心臓が破裂しそう!

私はリルの尾鰭をくるくるすることしか
どうしようリル!

あ、ゼリーパフェきたわ
綺麗な宝石ね
真っ赤な苺─あなたの彩よ
甘酸っぱいそれを一口食べて
カムイにもアーンしてあげる
私にも頂戴、あなたの白を
ヨーグルト味かしら?美味ね!

リル……何撮ってるの?!
それよりリルもはい!あーん!
かぁいい人魚だわ!
……リルもかぁいくて美味しそうよね
私、リルのことも愛しているわ
ふふ、ひとかじりくらいなら──まぁ!美味しそうな桜アイスクリン!

次はそれを食べに行きましょ!
3人でね!




 ステンドグラス調の窓から入り込んだ陽光がキラキラと照らす中、窓の外をスッと通り過ぎていった小鳥を追って、カムイはふと外へと視線を向けた。
 ぱちり、と瞬いた瞳。長いまつ毛が白皙に影を落とす。
 ――噫……私の神はなんて美しい。
 所作のひとつを取ってもそうだ。洗礼されていて、つい視線は追いかけてしまう。
 そんな彼の視線が、自分に合わさる。――とくん。それだけで胸が高鳴り、頬に熱が集まってしまう。合わさった瞳が穏やかに細められて、あ、笑ってくれた……なんて思った瞬間には頭上で宴会が出来そうなくらいに桜がポポポポポと咲いた。
(――角に桜をこんなに咲かせて……噫、生まれてきてよかった)
 瞳が合った途端に咲いたのだから、咲かせているのは自分で間違いない。彼の感情で花開く桜花を見れば、彼の気持ちが佳いものだというのが解る。
 ――噫……私の巫女はなんて愛らしい。
 見つめ合うふたりは、春の中。……ここは百貨店内にある純喫茶『ちぇりぃ・ぶろっさむ』だけれど。給仕をした店員が『あのお客さんたちが帰ったら箒とちりとりが必要かしら』と視線を向けていても気にしない。桜満開、桜華絢爛。
「どうしようリル!」
「何、櫻」
 とくとくと早鐘を打つ心臓は、暴れすぎて口から飛び出てしまうのが先か血管が耐えきれずに破裂するのが先か……とすら思える。心臓が除夜の鐘みたいよぉなんて、ひっそりこそこそ隣に座るリルの服をぐいぐいと引いて、櫻宵はリルへと助けを求める。
 まるで、恋する乙女だ。そんな君も可愛いけれど。
 チラリと視線を向かいの席へと向ければ、朱を纏う神がにこりと微笑む。途端にぶわりと桜が吹雪く。……罪な神様である。
 そして彼が、目があう度に微笑むのには理由がある。これも『ばいぶる』に載っていた『テッパン』なのだ。
 櫻宵の気持ちを知っているリルは仕方のないことだとうんうんと頷いて、その気持わかるよと櫻宵に優しく声を掛ける。
「わかるから鰭をくるくるするのを、やめるんだ」
「サヨ、リルの鰭が可哀想だ」
「噫! ごめんなさいね、リル。つい……」
 リルの尾鰭は繊細だ。ドレスのように広がるそれを何処かに引っ掛けて破いてしまわないように気をつけている。それなのに櫻宵はいつも手をもじもじとしたかったり、のの字を描きたい気分の時はついついいじってしまう。謝りながら優しく撫でれば、いいよと言うように尾鰭がふわりと優しく頬をくすぐった。
「あ、ゼリーパフェきたわ」
「わぁ! ほんとに金魚鉢にはいってるね!」
「之がゼリーパフェなるもの……洒落ているね」
 櫻宵の前には苺の、リルの前には桃の、カムイの前には白――ヨーグルトの、それぞれ違う色のゼリーの入った金魚鉢が置かれる。
 キラキラ輝くゼリーの中には、寒天で作られた金魚が泳いでいる。これもゼリーと同様に色ごとに違う色の金魚が泳いでいて、実に可愛らしい。
「ん! おいしい!」
 ひんやりと冷やされているゼリーが、つるんと喉を滑っていく。いくらでも食べれちゃいそうで、動かすスプーンも止まらない。
「サヨ……食べさせてあげる」
「あら、いいの?」
(――は! らぶの気配だ!)
 唐突に、リルは使命を思い出した。いけないいけない、ゼリーパフェで頭がいっぱいになって使命を忘れてしまうところだった。
 眼前では、カムイが自身の金魚鉢にスプーンを差し入れて控えめに掬っている。櫻宵が美しく唇が開いて食べられる量だ。それが櫻宵の唇に消えていく前に、リルはスプーンを置いて懐からスマートフォンを取り出してカメラを立ち上げる。録画開始のボタンを押すと、ぺこんと音がした。
「ヨーグルト味かしら? 美味ね! はい、カムイ。あなたにも」
「私にも? ありがとう」
 真っ赤な苺はあなたの彩よと微笑んでスプーンを行き来させて食べさせ合う。口を開けた時の愛らしさ、口に含んだ時の愛らしさ、それからお互いに微笑み合う姿。最高だ。リルは満足気に尾をパタパタ揺らした。
「あら? カムイ、どうしたの?」
「……いや、」
 苺のように赤くなった顔を、口を抑えて半分隠して目を逸したカムイ。甘酸っぱい苺の味の接吻を思い出していることなど露知らず、櫻宵は不思議そうに目を瞬いた。
「それよりもリル」
 何を撮っているのかしら!
 写真も録画も、盗撮防止に必ず音が鳴る。気付いているのだからねと向けられた視線に、「可愛いから録画した」と悪びれなく言ってやる。実際に悪いことではない。カムイだって「噫……リル、後から見せておくれ」と言っているのだから。
「もうふたりとも……はい、リル。リルも、あーん!」
「僕にもくれるの?」
 当たり前よと人魚の口へと赤を運べばにっこりと笑顔が咲く。
 それが可愛くて……食べたいな、だなんて思ってしまう。
 獲物を見つめるような瞳に身の危険を感じたリルの耳鰭がぴるると震えた。
「僕は不味いし食べられたら死ぬからダメだよ」
「ふふ、ひとかじりくらいなら──」
「サヨ、桜のアイスクリンなるものもあるようだよ」
 屋上に行けば食べられるそうだよと助け舟を出せば、まぁ! と瞳を輝かせて櫻宵の意識は無事に逸れてくれた。
「次はそれを食べに行こうよ!」
「いいわね、食べにいきましょ!」
「ふたりとも、アイスクリンは逃げないよ」
 まずは目の前の金魚鉢をゆっくり攻略して、それから屋上へ行こうと咲いあう。
 勿論、三人いっしょにね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
♢【森】
ブラッド見て見て、大きなカップ!動いてる!人が入ってるよ!
僕達がお茶になるの?
うん!乗る!

わあ!(キャッキャ)
僕も回していい?わーい!
ぶらっど~!風が気持ちいいね~!

回ると風が気持ち良くて、楽しくて
ぐるぐるぐるぐる夢中で回す、超高速


大丈夫…?
ブラッドはここで休んでて
僕アイス買ってくるよ
冷たいもの食べたら少しすっきりできるかも!

ブラッド、桜アイスクリンだよ
本当?よかったあ…
ん~!冷たくて美味しい~!

…きっと、そのまま食べても美味しいんだろうけど
あなたと食べるとどうしてこんなに美味しいんだろう
ね、ブラッド

微咲んで見遣れば、突然の
初めての、彼からの

心臓がどうしようもなく高鳴って
きっと僕も桜色


ブラッド・ブラック
♢【森】
あれはティーカップ――此処では回転茶器だったか
乗ってみるか?

確か、此のハンドルを回すと(回転するカップ
嗚呼、遣って御覧

はは、……ん?
お、おおお、……!!

カップに喜ぶサンが楽しそうで微笑ましかった、が
……速い、速過ぎる
遠心力で躰が千切れ飛ぶかと思った(タール的に


サン、少し休んで宜いか……?

流石にふらつくので暫しベンチ休憩
……サンは矢張り若いな
俺ももう少し若ければ……いや、若くてもあの速度は平気ではない気が

嗚呼、有難う
大分楽になってきたよ
うむ、美味い
桜の風味が素晴らしいな

――風も、桜の匂いがする

愛し子の呟きに愛されている実感と愛おしさが満ち満ちて
微笑む其の額にそっと口付けをした

嗚呼、本当に




 くうるり、くるり。世界が回る。
 くるくる、くるり。カップが廻る。
 くるくるくるくる――びゅんびゅん、囘る。
(……速い、速過ぎる!)
 これは危険なのではないだろうか。他の人からは無表情に見えるであろう顔の、その眼窩の奥で、チカチカと焔が揺らめいた。
 何故こんなことになったのか――。
 そう、屋上の遊園地にサンが行きたいと言ったからだ。
「ブラッド見て見て、大きなカップ! 動いてる! 人が入ってるよ!」
 青い空を頂いた屋上で見た遊具に、サンは燥いで嬉しげに振り返った。無邪気な様が愛らしく、簡単な説明をして「乗ってみるか?」と口にした時の、あの一層華やいだ顔。あれもまた愛らしかった。
 サンが選んだカップに一緒に乗って、こうするのだと実演して見せれば、サンの顔はまた華やぐ。こどものように高く明るい声を上げて喜んでいた。――そこまではよかった。
「僕も回していい?」
 眩しい笑顔に「嗚呼、遣って御覧」なんて言ったのは、少し間違いだったかも知れない。
 わーい! と喜ぶサンを微笑ましく見つめていられたのは最初の内だけだった。すぐにびゅんびゅんと勢いを増し、世界が回っているのか自分たちが回っているのか解らない。
「ぶらっど~! 風が気持ちいいね~!」
 遠心力でタールの身体が千切れ飛ぶのではないかと案じるブラッドに反して、サンの笑顔はやはり、太陽のように眩しかった。
(――ハ)
 意識を遠くに置いていたら、明るい音楽が鳴り止んでいた。楽しかったねと笑って先に茶器から降りたサンが「もう一回乗るの?」と首を傾げている。いけない、降りなくては。
 しかし、踏み出した足はどうにも覚束ない。世界がまだ回っている気がする。
「……サン、少し休んで宜いか……?」
「ブラッド、大丈夫……?」
 サンに寄り添われてなんとか向かったベンチに腰を降ろすと、やっと地面がぐにゃぐにゃしていないような気がしてきた。
「ブラッドはここで休んでて。僕アイス買ってくるよ」
 心配そうな顔でブラッドを見ていたサンがパッと顔を上げて走っていく。あの回転でも平気そうに駆けるサン――ブラッドが思っている以上に彼は逞しいのかもしれない。それが若さのせいかと思うも、きっと自分が若くとも同じ状況だろう。壊してしまわないか悩んだ日々が、ふと胸を過る。サンの逞しさに気付かなかった――いや、手から離れていくことを恐れて気付きたくなかったのかもしれない。
「ブラッド、桜アイスクリンだよ」
 揺れていない地面を見つめていたブラッドは、はいと差し出されたアイスクリンに顔を上げ、謝辞とともに受け取った。
 冷たいアイスクリンは、とても優しい味がした。
「大分楽になってきたよ。サンのおかげだな」
「本当? よかったあ……」
 心配を飛ばしたサンは、美味しそうにアイスクリンを口にする。
 口内に広がる優しい桜の風味。
 身体を撫でていく心地良い風にも桜の気配。
 ――佳い世界だ。
「……きっと、そのまま食べても美味しいんだろうけど、あなたと食べるとどうしてこんなに美味しいんだろう」
 このひと時が愛おしくて微笑み見上げれば、額に何かが触れる気配。
 ぱちりと瞬いた瞳。
 遅れて桜色に染まる頬は、どうしようもなく高鳴る胸に春が来た証。
 初めて贈る、初めて貰う、愛しい印。
 嗚呼、本当に。
 お前が、あなたが、愛おしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【🐰🍭💊】
高級百貨店はどこも煌びやかで
顔色は優れないが所作は場に合わせ
スマートに淑女をエスコート
こういう場所では紳士的な方がサマになる

なァ?お前そういうの向いてなさそう
その手離せよ。エスコート役は二人もいらねぇだろ
にっこり嫌味な笑みを白ウサギに向ける

似合うもの、ねェ…
選べと言われてもお手上げ状態
白うさぎとメールは雑貨とか好きそうだが
俺はちっとも興味がない

二人の世界に嫉妬なんてするわけないだろ
これが大人の余裕ってヤツだ。お分かり?

綺麗にセットした髪の端が乱れていたら
指先伸ばしてさり気なく直してやる

握らされた包みに視線を落として
フッと口元緩めれば人差し指を唇に当て
秘密のポーズ
二人だけの、な


メール・ラメール

【🐰🍭💊】
やっぱり変わらず手を引かれ
ま、迷子にはならないよ!?

どのお店もステキで目移りしちゃう
ウサギさん詳しいのね、メルちゃんは七宝繋ぎとかもスキよ
頭上で火花が散りそうになったら、くいくい腕を引いて
ねえねえ、アタシに似合いそうなもの選んでくれると嬉しいな?

目に留めたのは雑貨屋さん
ナイショでお揃いと言われればくすくす笑い、指をまるっと
彼に似合いそうな和柄のヘアピンとポシェットを交換こ
早速肩から掛ければ動くたびに鳴る鈴の音がカワイイ

さり気無く優しくしてくれたジェイちゃんには
不器用ねと笑ってこっそり小さな包みを握らせて
中身は煙草ケース
お揃いじゃないけどプレゼント
ウサギさんにはナイショにしてね


真白・時政

【🐰🍭💊】
ヒトもお店もキラキラたっくさん
デモ一番輝いてるのはメルちゃんだネ
ジェイくんこそ今にも倒れそォだしお家で寝てたらァ?

今は矢絣柄の着物がトレンドなんだって
七宝繋ぎもまんまるでカワイイよねェ~
オッケー!ピッタリの見つけたゲル
ドッチがお似合いなの選べるか勝負ネ!

お店を物色シながらジェイくんの隙見て
ナイショでオソロイシヨっかって耳打ち
ウサギさんが選んだのはおっきなリボンがカワイイがま口ポシェット!

渡す前にコッソリ付けた鈴を鳴らして
キミが喜んでくれたらイイナのきもち!

ウサギさんにもプレゼントくれるの?
似合う?って屈んで
プレゼント貰ったウサギさんに嫉妬シちゃって負け惜しみはカッコよくないヨ




 ドアボーイが恭しく重い扉を開いたなら、そこに広がるのは別世界。
 どこもかしこも煌めいて見える内装に、品よく頭を下げて迎えてくれる店員たちもどこか煌めいて見える。
 ――でも、一番輝いているのは彼女だ。
 繋いだ手の中の、一回り小さな手。細くて華奢で、守ってあげたくなるような。
 ふたりの系統が違う紳士に、護られるようにエスコートされるお嬢さん。彼女の小さな歩幅に合わせてスマートにエスコートをするジョイは、不健康な顔にフッと笑みを作った。
 ――こういった場所は、俺の方が似合う。
 確固たる自信がある。メールの頭越しに白くて目障りな糸目ウサギへと顔を向け、にっこりと笑ってやる。
「その手離せよ。エスコート役は二人もいらねぇだろ」
「ジェイくんこそ今にも倒れそォだしお家で寝てたらァ?」
 バチバチバチバチバチ!
 メールの頭上で火花が散る――三秒前。
 こんなに人が居て、しかも優雅な高級百貨店で喧嘩なんて、絶対にいけない! 周りの人たちの空気も乱しちゃうし、注目されちゃうし、店員さんには顔を覚えられて目を光らされてしまうかも! 迷子にならないから手を離してくれても大丈夫、なんて言える空気でもなさそうだし、ここは……!
 その間、二秒。素早く考えを巡らせたメールは、「ねえねえ」と繋がれたままのふたりの手を、ぎゅっと握って意識を向けさせた。
「アタシに似合いそうなもの選んでくれると嬉しいな?」
「オッケー! ピッタリの見つけたゲル!」
「似合うもの、ねェ……」
 パッと明るく声を上げた時政に反して、ジェイは気のない感じで頭を掻く。
「ドッチがお似合いなの選べるか勝負ネ!」
 なんて声は、聞こえているのか聞こえていないのか。いや、『聞いていない』のだろう。雑貨屋さんが気になるかもっと口にしたメールの手を引いて、スタスタと歩いていく。
 雑貨売り場へ向かう間も、小物やお洒落が好きな時政とメールは楽しげに言葉を交わす。通路を歩きながら市場のチェックをして、最近のトレンドは矢作柄なんだね、と。次に見かけるのは、七宝繋ぎだろうか。まんまるで可愛い。
「メルちゃんはドッチが……あっ、今のはナシナシ! 矢絣柄だとメルちゃんドコカいっちゃう!」
 ずぅっとイッショにいよーネ。
 ニコニコの笑みを向けられたメールは、「うん、三人で」とジェイと時政の手をぎゅっとして、雑貨売り場へと入っていく。
 雑貨を手に取って見るために手を離して、三人でキョロキョロと見て回る。
 時政とメールは楽しげだが、ジェイはちっとも興味のない素振りでついていくだけ。
 そんなジェイなものだから、こっそり内緒話をする隙きはたっぷり。
「ナイショでオソロイシヨっか」
 なんて秘密のお誘いをすれば、楽しげにくすくすと笑ったメールが指でこっそり丸を作った。
 内緒なお揃いは、こっそり秘密なプレゼント交換。プレゼントだから、勿論渡すまで品物も内緒。あっちを見てくるねと離れた時政を見送って、メールはジョイと雑貨棚の間を歩いて回った。
「メルちゃんに似合いそうなの、あったヨ♥」
 再び合流した時政がはいっと手渡すのは、大きなリボンが可愛いがま口ポシェット。
「わ、カワイイ」
 早速肩から掛けてみれば、動く度にチリリと鳴る鈴はウサギの形。
 お散歩が楽しくなっちゃいそうと笑ったメールは、
「それじゃあアタシの番ね。アタシからはコレ」
 和柄のヘアピンを大きな彼の手へと乗せれば、わァと喜んだ時政が早速髪につけてみる。
「どォ、メルちゃん。似合う?」
「うん、とっても」
 仲良くニッコリ笑い合う。
 そんなやり合いに満足した時政は、ふたりを静かに見ていたジェイへと、ふふんと勝ち誇った笑みを向けた。
「プレゼント貰ったウサギさんに嫉妬シちゃってるんデショ」
「二人の世界に嫉妬なんてするわけないだろ」
「負け惜しみはカッコよくないヨ」
「これが大人の余裕ってヤツだ。お分かり?」
 お前に興味はないと言いたげに視線を逸し、ジェイはメールの髪へと指を伸ばす。ポシェットを掛ける時に乱れてしまったのだろう髪の端を、ちょいちょいと指先でさり気なく直してやれば、降ろしたままの手の方へとそっと何かが握らされた。ジェイの手に収まるサイズの、何か。それは煙草のケースなのだが、彼にも開封の楽しみを覚えてほしいから開けてみるまで内緒。
 メールへと視線を向ければ、唇だけが『ナイショ』と動いて。
 意を汲んだジェイは、時政に見えない角度でそっと唇へと人差し指を当てた。
 秘密の印も、笑みも、メールだけに向けるもの。
「さ、ウサギさん、ジェイちゃん。次へいこっ」
 置いてっちゃうよ? とメールが歩き出す。
 ウサギさんと、ナイショをひとつ。
 ジェイちゃんとも、ナイショをひとつ。
 今日はふたりをふりまわす女の子なのだから。
 甘いお砂糖だけじゃない、ピリリととびきりのスパイスを添えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】
オレは帝都の人間だから馴染みがあるけど
なつめは百貨店って来たことある?
なんとなく高級感があるよね
ちゃんと行儀良くしてないと駄目だよ

そうだ、屋上に遊園地があるんだよ
小さいのだけどね
行ってみようか?

遊園地って1人だとなかなか来ないから新鮮だな
噂を聞いてずっと気になってたんだよね、桜アイスクリン
食べてもいいでしょ?
それ食べたら好きな乗り物に乗っていいからさ

百貨店にいる人ってみんな幸せそう
家族で手繋いで歩いて遊んで、にこにこしてさ
ちょっとだけ羨ましいけど…
でも今はなつめで我慢してあげるよ
ね、相棒

無邪気で強引な竜神に手を引かれていく
今、オレもあんな風に幸せそうな顔してるかな


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

ひゃっかてん?
聞いたことねーな
…確かに金持ちそーなヤツらが
来てそうな場所だなァ?
行儀良くってお前…
子どもじゃねーんだから
大丈夫だっての

屋上に遊園地……?すっげー!
おぅ!行こうぜ!!!
(ぱたぱた尾が揺れる)
ま、遊園地は一人で
行くもんでもねーだろーしな

さくらあいすくりん?
それも美味いのか?
じゃあ俺も食う!
おっちゃーん!
コイツに2段のと俺に7段くれ!

んま!今朝ときじにもらった
桜のパンみてー!

何事もなくぺろりと食べ終え
立ち上がればときじの手を掴む

クク、じゃあ
我慢してもらってる分
飛び切り
楽しませてやんねーとなァ!
そォら、いくぞ!!!

グイ、と無理矢理手を引けば
遊園地の乗り物へ向かって
走り出した




「オレは帝都の人間だから馴染みがあるけど、なつめは百貨店って来たことある?」
「ひゃっかてん?」
 大通りを歩きながらの問いに、鸚鵡返しの問い。やっぱり知らないかぁと口にした十雉が或れだよと指差すのは、大通りに面した大きな建物。綺麗な身なりの人々が次々に訪れては、ドアボーイたちが恭しく一例をして迎え入れている。
「ちゃんと行儀良くしてないと駄目だよ」
「行儀良くってお前……」
 子どもじゃねーんだから大丈夫だっての。
 行くぞときじ! とスタスタと歩いていくなつめを、十雉は笑って追いかけた。
「おお、すげーな、ここ!」
 中に入ればどこもかしこも洗練されていて、綺羅びやか。知らないものがたくさんあると、つい先刻の言葉は何処へやら、子どものように瞳を輝かせる。
「そうだ、屋上に遊園地があるんだよ」
「屋上に遊園地……? すっげー!」
「行ってみようか?」
「おぅ! 行こうぜ!!!」
 尾が、バタバタと揺れた。相当彼のテンションが上がったことを察しながら、こっちだよと十雉はヱレベヱタアへと向かう。カシャカシャと柵を引くヱレベヱタアにもまたなつめは瞳を輝かせて、見ていて飽きることがない。
 視界が広く開けた屋上についたふたりを、爽やかな風が出迎える。桜香る穏やかな春の午後の屋上は賑やかで、ひとりで佇んでも充分楽しそうに思えるが、やはりひとり客は少ない様だ。
「なつめ、あれ食べない? 桜アイスクリン」
「さくらあいすくりん? それも美味いのか?」
「噂を聞いただけだからわからないけど、たぶん美味しいよ」
 それを食べたら好きな乗り物に付き合ってあげる。
 どうかな?
「じゃあ俺も食う!」
 言うが早いかなつめはタッと駆け、売店で注文をする。
 おっちゃーん! コイツに二段のと俺に七段くれ! えー、倒れる? じゃあ倒れない限界で! ありがとおっちゃーん! おらときじ、買ってきてやったぞ!
 十雉がお礼を言うよりも早く自分の分へとかぶりついたなつめが「んま!」と声を上げる。朝に十雉くれた桜アンパンを思い出す。そうかこれが桜味! なんてひとつひとつに驚いて、声を上げて、納得する元気ななつめ。そんな彼を微笑ましげに見ながらも、十雉の瞳はどこか遠い。
 屋上に溢れる、幸せな笑顔たち。けれどそれは、屋上だけでなく百貨店全体で見られる。家族で手を繋いで歩いて、大きくなったねと言いながら服を買って、今日はご馳走だねと揃って食事をして、そうして屋上で遊んで皆ニコニコ。それがちょっとだけ羨ましくて、憧れてしまう。
「でも今はなつめで我慢してあげるよ。ね、相棒」
「クク、じゃあ我慢してもらってる分、飛び切り楽しませてやんねーとなァ!」
 アイスクリンを食べ終えたなつめは、笑いながらベンチを立って十雉の手を掴む。
「なつめ……?」
「そォら、いくぞ!!!」
「ちょっと、なつめ!」
 唐突にグイと引かれる手。
 駆け出す足。
 非難をするように彼の名前を呼んだけれど、それは唐突さに驚いただけだ。彼はいつも驚かせてくれて、そして引っ張っていってくれる。無邪気で、嵐のようで、逆らえない。
 驚いた顔が笑みになり、十雉も今、憧れの景色とひとつになる。
 遊園地に咲くいくつもの幸せ笑み。そのひとつとなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
……早起きして、珈琲、頂くはずだったのに、寝坊した
スロースタート、でも、ガンバルゾー

おおー、帝都の百貨店
UDCアース、の、ハロッズや、セルフリッジズと、同じくらい、すごーい
(ゆっくり歩いて見回して、夏の新作に沸く化粧品売り場を通り過ぎて香水コーナーへ)

(手に取ったのは薄青のガラス瓶に、黒いシフォンのリボンが蝶結びされたボトル。結び目に揺れるのは銀にサファイアを一粒あしらった剣のラッキーチャーム。ラベルの銘は『Queen Gwendolen』)
私と、同じ名前の、古代のブリテン女王
(試香紙から薫るのは白薔薇と橙の花。それに混じって強さを演出する香根草)
……これ、下さい
私も、グウェンドリン、なんです




 早起きをして、小鳥の声を聞きながら朝日を浴びて飲む一杯の珈琲。そこにはちょっとした『特別』がある。
 寝坊しちゃったと肩を落としたグウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)は、けれどと顔を上げる。休日にお洒落をして百貨店へ出かけるのもまた、特別であるのだから。
 朝から大通りに行けなかった午前の分、うんと可愛くおめかしをして。
 そうして訪れた百貨店。
 遠くから見るよりも近くから見上げる大きさに、「おおー」っと思わず声が溢れた。UDCアースにある某有名高級百貨店と同じくらいに、すごい。すごく大きくて、すごく楽しそうだった。
 運ぶ足取りは、ゆっくり。様々な商品をじっくりと見回しながら歩き、その足は化粧品売り場を通り過ぎて香水コーナーへ。
 沢山の愛らしくも美しい香水瓶が並ぶ中、手が惹きつけられるように真っ直ぐに伸びていく。指先が触れたのは、薄青のガラス瓶に、黒いシフォンのリボンが蝶結びされたボトル。結び目に揺れるのは銀にサファイアを一粒あしらった剣のラッキーチャーム。ラベルには銘が書かれている。
 ――『Queen Gwendolen』。
 グウェンドリンと同じ名前の、伝説上のブリテン女王。
 傍らに置かれた試香紙を手に取れば、白薔薇と橙の花の香りが鼻先をくすぐって――その奥に混ざるのは香根草だろうか。優美さの中に力強さを感じる香りに、グウェンドリンは運命めいたものを感じた。
「……これ、下さい」
 私も、グウェンドリン、なんです。
 その言葉に店員はまあと瞳を瞬かせ、それから祝福するようにゆっくりと微笑んだ。
 本日は素敵な出会いとなられたようですね、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
【暁星】

買い物!
独りでは余り来ないし…
凄く楽しみだ
差し出された其の手に
信頼と掌を預けてうん、って
表情やわこく

店内の品物は魅力的でうろちょろ
だ、大丈夫、迷子にならないよ
紳士モノのエリアで
臙脂色にワンポイント、狼シルエットの刺繍のタイ見付け
そうっと差し出す贈物
おまけは星屑ネクタイピン
きみの眸とよく似合う

…わ、猫の時計だ…!可愛い

俺の方こそ、ヴォルフが初めて見た事ない景色を
俺に見せてくれた
導いてくれたよ

枷というならば
其れはヴォルフだって
(偶に無邪気に笑う年長のきみの翳りを見たことが在るから)

有難う、この時計でまた
俺は新しい時間を刻める
黒猫が齎す幸運も嬉しいけど
きみが一緒に居てくれる方が幸せ!


ヴォルフガング・ディーツェ
【暁星】
さあ、次はめくるめくお買い物だ!楽しんでいこうね、千鶴(少年めいた砕けた笑顔で行こ!と手を差し出し)

中に入ればソコは正に一つの世界
靴、服、雑貨、家具、食べ物に内装
あらゆる逸品に目が輝いて

折角だから千鶴に何か贈りたいな…(ふと見たショーウィンドウ。黒猫の懐中時計に目が留まり)…コレにしよう

君にはいつも助けられてばかりだ
時計は色々な意味があるけれど…願いたいのは君の健やかな時間

俺が知らない痛み、苦しみ…そして血の業
君には沢山の枷があるような気がして
だからこそ祈りたいんだ、君の幸いを。君が優しく笑える時間を

黒猫は幸運の象徴なんだってさ
…今だけは犬じゃなくて、猫科であれば良かったな、なんてね




「さあ、次はめくるめくお買い物だ! 楽しんでいこうね、千鶴」
 パッと明るく破顔して、傍らの君を見る。
 独りではあまり来ない場所だと大きな建物を見上げていた千鶴は、その声につられるようにヴォルフガングを見て、そして見つけた少年のような笑みに紫眼を蕩かした。
 行こ! と差し出された手に乗せる手のひらは、信頼の証。手を引いてくれる君となら、きっと何処だって楽しい。
 百貨店の中は、宝箱のよう。靴、服、雑貨、家具、食べ物に内装。あらゆるあらゆる逸品が目に飛び込んできて、それを見るだけでもとても楽しい。瞳を輝かせるヴォルフガングの傍らの千鶴も、ついふらりと惹かれるようによろうとして――く、と手を引かれた。
「だ、大丈夫、迷子にならないよ」
「じっくり見たい物があったら一緒に見よう」
「ん、そうだね」
 そうしてふたりで見て、感想を言い、笑い合う。
「あ、これ」
「ん?」
 紳士服売り場でふと足を止めた千鶴の視線の先には臙脂色のタイ。狼シルエットの刺繍のワンポイントがちょっとお洒落で一目惚れ。
 買ってくるねと側を離れた千鶴はすぐに会計を終えて戻ってくる。
「はい」
「俺に?」
「うん」
 おまけにと忍ばせた星屑ネクタイピンは、きみの眸によく似合うと思ったから。
 大事にするねと受け取ったヴォルフガングは、俺も何か贈りたいなと当たりを見て。
「……コレにしよう」
 千鶴と同じように少し離れ、お会計。
 戻ってきたヴォルフガングの手には手のひらよりは大きいくらいの箱が乗せられていた。そのまま千鶴の手の上に乗せて、開けてみてと促せば、
「……わ、猫の時計だ……! 可愛い!」
 黒猫の懐中時計を見て、千鶴の瞳にタイピンのような星が散るようだった。
「君にはいつも助けられてばかりだ」
「俺の方こそ、ヴォルフが俺を初めて見た事ない景色を見せてくれた。導いてくれたよ」
 時計を贈るという行為には、様々な意味がある。気にして欲しいだとか、いつも側にいたいだとか……。けれどそのどれよりもヴォルフガングが願うのは、千鶴の健やかな時間だ。
「俺が知らない痛み、苦しみ…そして血の業。君には沢山の枷があるような気がして――だからこそ祈りたいんだ、君の幸いを。君が優しく笑える時間を」
「枷というならば……其れはヴォルフだって」
 いつも年長さを感じさせず無邪気に笑ってくれるヴォルフガング。今日だって楽しげに少年のように笑ってくれている彼が、稀に陰りを見せることを知っている。
 落としかけた顔をぐっとあげて真っ直ぐに見つめたヴォルフガングの表情は穏やかで、千鶴は口に仕掛けた言葉を飲み込んだ。
「有難う、ヴォルフ。この時計でまた俺は新しい時間を刻める」
「うん。黒猫は幸運の象徴なんだってさ。……今だけは犬じゃなくて猫科が良かったな、なんて」
「今だけなんだ? だったらいつものヴォルフでずっと側にいてよ」
 いっときの黒猫が齎す幸運よりも、きみが一緒に居てくれる方がずっといい。
 ずっとずっと、幸せだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

凄ぇ
サクミラでも屋上に遊園地とかあるんだなぁ

瑠碧姉…瑠碧は大丈夫?
敢えて言い直し
た、たまにはいいだろ!
照れた顔
何か乗れそう?
遊園地久しぶりだし何か乗りたい
大丈夫なら付き合ってくれよ
手差し伸べ
回転茶器へ

ぐるぐる回るんだけど
…大丈夫?
おー回る回る
もう少し早くしていい?
いやそんな鍛えるような乗り物じゃねぇし
少しだけ回転早め
…こっちの方が安定するだろ
赤くなりつつ肩に手を回そうと

いい?
二人乗りとかねぇのかな…
小さく呟き
まぁいっか
追いかけっこみたいだな

あー楽しかった
って俺ばっか堪能してる?
少し照れ臭そうに
休憩しようぜ
桜アイスクリンを2個頼み
共にベンチへ

瑠碧可愛い
表情緩め
あー旨
…確かに風気持ちいいな


泉宮・瑠碧
【月風】

高級も、百貨店も
不慣れなので…
屋上に出れば、ほっ

名の言い直しには、少し赤面
…私、お姉さんなのに
上目で軽く拗ねて、動揺を隠しつつ
カクリヨの遊園地で
自動木馬だけ乗った事があって…大丈夫です

機械音は苦手ですが…
此処はベルや声掛けでしょうか
理玖の手を取り一緒に

回るカップは
三半規管が、鍛えられる様な…
どちらも訊かれたら頷き
まだ平衡感覚は、保てます
遠心力で少し身体が傾ぐので
理玖に軽く肩を預け

…次は
木馬も行って、みます?
鞍からして、お一人用かと…
あ、すぐ隣なら、ありますよ

久し振りと聞いたので
理玖の様子は微笑ましく
桜アイスクリン…!
瞳を輝かせて受け取り、ベンチへ
おいひい…
心地よい風と、隣は理玖で…幸せ




 百貨店の屋上遊園地は賑わいでいる。屋上遊園地全盛期のサクラミラージュ。以降の文明世界では廃れていることを思えばどこか寂しい気持ちを抱くも、綺羅びやかで不慣れな店内から開放された心地で瑠碧はホッと息をついた。
「瑠碧姉……瑠碧は大丈夫?」
「……私、お姉さんなのに」
「た、たまにはいいだろ!」
 敢えての言い直しに、お互いの頬に熱が集まる。動揺を隠しての上目での拗ねた顔は、きっとあまり効果を発揮してはいないだろう。
「何か乗れそう?」
 理玖にとっては久方ぶりの遊園地。大丈夫そうなら何かに一緒に乗れたらいいな……と期待を込めて瑠碧を覗い見れば、「カクリヨの遊園地で自動木馬に乗った事があります」と控えめな同意が返ってきた。
「そっか」
 パッと笑みを浮かべた理玖が差し出した手を取り、ふたりはくるくると回る回転茶器へと向かった。
 二人で好みの柄を選んで茶器の一部となったらなら、ジリリリリ……とベルが鳴る。明るく楽しげな音楽とともに茶器は回りだし、あちこちの『お茶仲間』が楽しげに笑い声を上げた。
 理玖も回してみてもいいかと問えば、やはり控えめな同意が返り、ハンドルをぐぐっと回してみる。視界が、回る。カップよりも下の台が先に回っているから風景は先に回っているのだが、それ以上にぐるぐると世界が回り始めた。
「三半規管が、鍛えられる様な……」
「大丈夫なら、もう少し早くしていい?」
「まだ平衡感覚は、保てます」
「いやそんな鍛えるような乗り物じゃねぇし」
 小さな頷きに笑って回転を早めたら、遠心力に瑠碧の髪が攫われて――それがまた綺麗だな、なんて見惚れてしまう。回る世界に気を取られないくらい、瑠碧しか見えていない。
「……こっちの方が安定するだろ」
 距離を詰めて、彼女の肩を抱きしめるように手を回す。熱が集まる頬は、そっと身体を預けてくれた彼女にはきっと見えていない。――と、思いたい。
 音楽が鳴り止んで、ハッとしたように慌てて離れた理玖が先にカップを降りた。熱が離れるのを少し寂しく思う瑠碧の目の前に、手が差し伸べられる。降りる時に足がふらつかないようにとの気遣いだろう。彼のくれる小さな優しさに、瑠碧は綻ぶように笑ってその手を取った。
 次に向かうは、自動木馬。
 二人乗りは馬車しか無かったため隣り合う馬を選び、木馬での追いかけっこを楽しんだ後は、ちょっと休憩を取りたくなる。
 売店で桜アイスクリンをふたつ買い求め、「あー楽しかった」とベンチに並び座っての小休憩。心から楽しげな理玖を見るのは楽しくてつい微笑んでしまう瑠碧だが、堪能しまくっているところが子供っぽく感じた理玖は恥ずかしさを隠すようにアイスクリンへかぶりつく。
「あー旨」
「おいひい……」
 キラキラと瞳を輝かせ、美味しそうに頬張る姿はいつ見ても可愛くて。
 頬が緩んでしまうのは甘味の美味しさのせいだけではない。
 口内に広がる味とよく似た香りを纏った風が、ふたりの髪を穏やかに揺らしてゆく。
 心地よい風を感じながら、隣り合う幸せを噛み締め合うふたりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
ウィンドウショッピングを続けながらUC「蜜蜂の召喚」
吟味しつつ透櫻子の服装を確認
似合いそうな赤い天鵞絨のリボンと白いレヱスのリボンを探す
リボン購入が済んだら可愛いメモ帳と書きやすい可愛いペン探し可愛くラッピングして貰う

それが済んだら純喫茶『ちぇりぃ・ぶろっさむ』へ
混んでいたらプレゼントを嬉しそうに撫でながら待つ
汚れないよう向かい側の卓上に置き嬉しそうに眺めながらお勧めの軽食とゼリーパフェ堪能
合間にもちょこちょこUCで透櫻子の様子を確認

(楽しんでいますか、透櫻子さん。貴女がその楽しみを書き留めて、誰かと共有したいと、また同じことをして今度は誰かと語り合いたいと思えますように)
贈り物を優しく撫でた


夜鳥・藍
♢♡SPD判定

久しく足を踏み入れなかったからちょっと気後れしそう。
小さい頃、視線が気にならなかった頃は両親とこんな場所に来てたけど、家を出てからはとんと縁がなかったから。
雑貨を中心に見ていこうかな。

目に留まったのはコンパクトタイプの丸い手鏡。表面は青みある黒地に細かい螺鈿による天の川のような模様が描かれた物。宙の模様。
店員さんに声がけして開いてみて自分を映し出す。
映る自分はとても嫌いで、でも確固たる自分だと言える姿で。
両親弟とは違う種族だから嫌い。でも誰かのコピーじゃない自分だけの姿。
うんこれにしましょ。
螺鈿だからちょっとお値段張るけど、これから猟兵のお仕事頑張ればいいんだし。


ハズキ・トーン
♢♡
おやまあ、観察…いやいや、見守るのが好きだって?
実は私もだよ。自覚のない恋、その感情は親愛?それとも…
ってやつ、いいよねぇ。

でも彼女ほどすべてを慈しむことはできてなかったよ、私もまだまだ。
敬意を払い、私も初心に返るべく一緒に観察を…
ああ、違うね。私が楽しむべきだった。

それならせっかくの百貨店、買い物を楽しまなきゃ。
やはり仮面を見てしまうね。

おやこれは繊細な彫りの…これはまた可愛らしいうさぎの…
この仮面はどうやって前を見るのかな。
みな魅力的で、選ぶのが難しい。
それに、仮面は見ているだけで楽しいねぇ。
何故人は仮面をつけるのか?顔を隠した時に出る本音…それもまた魅力のひとつだよ、ふふふ。


ラング・カエルム
♢♡
好意的な感動や情動…だと、よいだろう!
このラン様をしかと、あますところなく、どの角度からでも観るといい!

透櫻子とやらの邪魔をする輩はいないとは思うが、もしいたのなら私が、直々に、友好的に!話をつけてやるから安心しろ、はっはっは。

ゼリーパフェだと?よし、そこに行こう。どんなサイズだろうと全て胃の中に収めてやる。
うむ、美味。だがゼリーだからかのど越し爽やかすぎて食べた気がせんな。どれ、純喫茶での珈琲と軽食も格別だろう、それも頂こう。

なに?屋上では桜アイスクリンがあると?大丈夫だ、甘いものは別腹だからな。牛に胃は4つある。私が5つくらい持っている可能性もあるということだ。


城野・いばら
♢♡
透櫻子とお話しできて楽しかった
でもね、ね
また知りたいが出来ちゃったから
お店で買った本抱いて、目指すは屋上

文字を追いかけるのは…少し苦手だけど
似ていると笑った貴女の世界
見てみたくなったから
ベンチに掛けて、抱えていた本開く

店員さんに尋ねて選んだ、人気の恋愛小説
其処には王冠を被った王子様も
ドレスを着たお姫様もいなかったし
くちづけは、呪いを解く魔法でもないみたい
いばらはしらない
ココロの表現も沢山あって
これが、アリス達が見ている世界なのね

その時、っていつかしら
いばらにも出来る?
特別なキモチ
…私の、アリス

考えたら胸がざわざわ
堪らなく、頬が熱くなって
ひゃぁってパタパタ、本で扇ぐ
…いばらだけ夏が来たみたい




 百貨店には、何でも揃っている。それが客の求めるものなら、何でも。
(――あら)
 買い求めた本を抱いた城野・いばら(茨姫・f20406)は、屋上で読もうと向かう最中、珍しい品を見つけてふと足を止めた。こういうものも扱っているのね、と緑の瞳に映すのは沢山の仮面たち。物語で読んだ仮面舞踏会を思わせるものもあれば、これまた物語の中の暗殺者のようなものから道化師のものまで。そこに立つ人を見つけれは、やはり需要があるのだろう。
 どんな物語があるのかしらと気になってしまうけれど、今は腕の中の店員御薦めの恋愛小説が「早く読んでー」と言っている。うしろ髪を引かれながら、いばらはその場を後にした。
 装飾品売り場の片隅に飾られた仮面たち。客層は多い方ではないのか、ひっそりと。それゆえに落ち着いてゆっくりと見て回れる空間だ。
 今いる客も、ひとりだけ。
 仮面売り場に溶け込むように佇む、仮面の男――ハズキ・トーン(キマイラの聖者・f04256)は、人が来ないことをこれ幸いに、じっくりゆっくりと仮面とのひと時を楽しんでいた。
「おやこれは繊細な彫りの……これはまた可愛らしいうさぎの……」
 仮面の上に、ぴょんとついた長い耳。仮面はつけていてこそ意味のあるものだから、うっかり耳が重くて落ちた……等とはならぬよう、耳は短め。狐面よりも丸い鼻先が愛らしい。
「この仮面はどうやって前を見るのかな」
 掛けられている仮面に顔を近付けてみても、穴らしきものが見えない仮面。左右から覗き込んで首を傾げていれば、隅で密かに待機していた店員がそっと動いた。
「宜しければご試着してみてください」
「おや、いいのかい?」
 仮面は眺めるだけでも楽しいけれど、普段から仮面を装着しているハズキにはつけてみる方がやはり楽しい。
(彼女に見えない角度でつけた方が興味が唆られるかな)
 ひとの居ないこの場所では、透櫻子が隠れていても何処に居るのか解ってしまう。
 試着を楽しむ度に透櫻子がそわそわと動くのを鏡越しに確認し、ハズキは笑みを佩く。隠されたものが見たくなった彼女がもう少し近づいたら声を掛けてみるのもいいかもしれない。「あなたも試してみませんか」なんて。
 機嫌よく口角を上げて仮面を試着したり眺めているハズキを観察する透櫻子――の近くの観葉植物からも透櫻子を見ているものがいた。
 ――ひとではなく、蜜蜂である。
 蜜蜂の羽音を聞くだけで怖がる者も多く、飛んでいれば見つかってしまう。そのためこっそりと観葉植物から蜜蜂を通し、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は透櫻子の様子を確認しながら、買い物を楽しんでいた。
(透櫻子さんの着物は桜色。でしたらこちらのリボンがお似合いでしょうか)
 彼女に似合いそうな赤い天鵞絨のリボンと白いレヱスのリボンを手にし、会計を済ませた。蜜蜂が報告してくる透櫻子の姿に時折くすくすと笑みを零している間に、桜花の手には目当ての品物が全て揃う。桜の絵柄が入ったメモ帳に、流行っている小説の中に似た物が出てきたとかで年頃の乙女に人気だという愛らしいペン。それらを可愛く包んでもらい、桜花は雑貨売り場を後にした。
(……どれも、とても素敵)
 雑貨売り場を出ていく桜花とすれ違った夜鳥・藍(占い師・f32891)の瞳は、様々な雑貨の上を滑らかに映していく。可愛いペンに、ノート。懐中時計に、用途のわからない飾りまで。歩く度に映す世界が変わっていくような心地がして、どれを見てもとても楽しい。『久しく足を踏み入れなかったからちょっと気後れしそう』なんて、大通りから百貨店を見上げて思ったのが嘘みたいだ。
(少し、思い出してしまいますね)
 ひとの視線が気にならなかった小さな頃は、買い物に出かける両親についていきたいとせがんだものだ。両親に手を引かれて見て回り、一緒に食事をして帰る。家を出てからは百貨店にはとんと縁がなかったけれど、こうして歩けば蘇る記憶に胸が温まる。
 は、と。思わず息を飲み込んだ。
 ――一目惚れ。その言葉は、こういう時に使うものなのだろう。
 青みある黒地に細かい螺鈿による天の川のような模様が描かれた、コンパクトタイプの丸い手鏡。宙の模様だと、少し離れていても解る。
 惹かれるように手を伸ばしかけ、押し止める。螺鈿細工だから、きっと少し値段の張るものだろう。近くの店員を呼び止めてから、藍は改めて手鏡へと手を伸ばした。
 開けば映る、己の顔。
 藍は、自分の姿が嫌いだった。
 家族とは違うその姿を、鏡は藍に突きつけてくる。
 何故家族と姿が違うの? 本当は血が繋がっていないの?
 先祖返りというものがあることを知っても、家族との『違い』は藍には受け入れられなかった。
 けれど、この姿が藍なのだ。藍だけにしかない色。藍だけにしかない個性。何処にも埋没しない、自分だけの姿。
「うん、これにしましょう」
 少し値段は張るけれど、その分猟兵の仕事を頑張ればいい。
 ぱたんとコンパクトを閉ざした藍は、会計へと向かった。

「なに? ゼリーパフェなるものは沢山種類がある、だと?」
 純喫茶『ちぇりぃ・ぶろっさむ』でメニューも見ずにゼリーパフェを頼む! と口にしたラング・カエルム(ハイカラさんの力持ち・f29868)は、座した席から店員を見上げて眉を跳ね上げた。
「なれば人気な味が良いな。ふたつ……いや、みっつほどいただこうか!」
「当店のパフェは大きめとなりますが、大丈夫でしょうか……?」
「うむ、構わん構わん。持ってきてくれ!」
(随分と豪快な方がいらっしゃるようですね……。猟兵でしょうか)
 はっはっはと笑う声を聞きながら、近くに座していた桜花は匙でゼリーを掬い口へと運ぶ。彼女の向かいの卓には購入した包みが置かれ、それを眺めながらのひと時である。店員おすすめのふわふ厚焼き玉子の玉子サンドの皿は先程下げてもらったから、二人がけの席のテーブルにあっても狭くは感じない。
(楽しんでいますか、透櫻子さん。貴女がその楽しみを書き留めて、誰かと共有したいと、また同じことをして今度は誰かと語り合いたいと思えますように)
 意識はまた、蜜蜂へいく。
 どうか、気に入ってくれますように。
 贈り物へと手を伸ばし、撫でながら彼女のことを思った。
 つるん、と。口に含んだゼリーが喉を滑り落ちていく。
「うむ、美味」
 たかがゼリー、されどゼリー。
 けれどやはり、たかがゼリー。
 ピンクと緑と黄色のゼリーパフェは、ラングの眼前で確実に――すごい勢いで減っていく。ラン様曰く、ピンクはなんか桜っぽい感じで、緑はちょっとパチパチして、黄色は酸っぱ爽やか……な、お味だ。
 一応透櫻子とやらの邪魔をする輩はいないか? と護衛をこっそりといていたラングは腹を空かせていた。まあ護衛の必要はなかったし、珍しいものがあれば食べるラン様なのだがな! はっはっは! うむ、美味!
 あっという間にぺろりと完食したら、物足りんなぁと軽食を頼み、珈琲も頼む。純喫茶での珈琲と軽食も格別に良きものだ。
 コーヒーカップをカツリとソーサーへ戻してほうと息吐く優雅なひととき。ふと視線を上げた先に、それを見つけた。大部分が空色とピンク色で締めているポスター。そこには――。
「なに? 屋上では桜アイスクリンがあると?」
 今食べ終えたばかりだが、大丈夫だ。甘いものは別腹。――今食べたのも甘いものだが、珈琲によってリセットされているはずである。たぶん。
 次はそこへ往くぞと、ラングは次なる目的地を屋上と定めたのだった。

 そして、その屋上。
 遊園地の賑わいとは離れた一角のベンチで心地よい風を感じながら、いばらはぺらりと頁をめくった。
 店員御薦めの人気恋愛小説は、普段いばらが読む物語とは違うもの。
 絵はなく、文字ばかり。
 王冠を被った王子様も、ドレスを着たお姫様もいない。
 くちづけは呪いを解く魔法ではもなく――それならどうしてするのかしら。
 いばらの知らない、いばらの分からない、世界。
(これが、アリス達が見ている世界なのね)
 ふわふわの綿あめみたいな曖昧な表現ではなく、こころを緻密に描く描写の数々。
 恋を知らなかった少女が、恋を知っていくお話。
 ――その時。恋を、知る時。
(いつかいばらにも『その時』が来るの?)
 恋に落ち、恋に惑い、恋に振り回され、恋が結んで愛になる。
 その時いばらは誰に恋をするのだろう。
「……私の、アリス」
 浮かんだ言葉が、ぽろり。兎穴に落ちるように落っこちた。
 言葉がバタつきパン蝶みたいにバタバタ飛んでいく。
「ひゃあ、い、いばらったら……!」
 突然夏が来たみたいに熱くなってしまった頬を冷まそうとパタパタと本で扇ぎ、そうしてたまらず本で顔を隠した。ちょっと扇いだくらいでは、この熱は冷めそうもなくて。
 ――私だけの、アリス。
 いつか『その時』が来たら、きっともっと、世界はきらきら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『うたう花の園』

POW   :    花々が生い茂る場所へと散策する。

SPD   :    花弁や春風につられ、花見を楽しむ。

WIZ   :    春が訪れゆく景色を静かに見守る。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●うきうき百貨店
 ごきげんよう、皆さん! 透櫻子です!
 午後からは皆さんと百貨店にお邪魔させて頂きました。自由に歩き回らせて頂き、百貨店のオーナー様には感謝しかありません。百貨店を自由に歩くというのは、私の夢のひとつでした。先にお伝えしてあるとおり生前の私は床に就いてばかりの身。体調がよく床離れ出来たとしても外へ行くなど以ての外。何かあっては周りに迷惑を掛けるだけですもの。
 それなのに、今日! 私は華麗に百貨店を満喫! ああ、本当に! なんて素晴らしい日なのかしら!!!
 家には外商さんが来てくれますが、百貨店には何があるのか知らなかった私。本当にたくさん色んなものがあるのね。仮面まで売ってるだなんて、吃驚しました! 矢張り或れは、帝都の皆さんは『マスカレヱド』をなさるということ? 演劇やオペラでも幾度も扱われている題材ですものね。試着される方をこっそりと見ていたのですが、こう……もうちょっと、あとちょっと……みたいな感じでした。お顔を隠して愛の告白をした場合、お相手はお相手を認識できているのかしら。はっ、恋仲でしてたら接吻とかでわかったり!? まあ、素敵! どうして接吻で解るのかとかまでは小説に書かれていなかったけれど……それくらい親しい相手ってことよね。はぁ~~~、素敵。尊いわ。
 そうそう、雑貨で人気なのは懐中時計なのかしら。素敵な紳士が上着の内側からスッと取り出し、パチンと開いて時間を確認する……素敵ですものね。わかるわ。そして時計を贈るという行為には沢山の意味がありますよね。私の読む本では独占欲の現れで表現されることが多いかしら。相手の時間を自分だけのものにしたい、時間を気にするようにいつも自分を気にして欲しい、あなたの時間に自分も刻んでほしい……うっ! くふっ! いくらでも思いついちゃう! 俺が短針でお前が長針!? 一時間に一度の逢瀬のために頑張るあなたも素敵!!!!

 ~ 暫く時計について語っているので暫くお待ち下さい。 ~

 ……お待たせしてしまってすみません。そうそう、誰かのための一品を買い求めている方も多く見られました。贈り物というのは、悩む時間も贈る時間も素敵なもの。特に相手を思って悩めるお顔……なんて素敵なのかしら。何時間でも見守っていたい……でも、贈る瞬間の顔もとても素敵で……お相手様のお顔で二度美味しくて、透櫻子は今にも消えてしまいそう……。ああ、でも。プロポーズの瞬間まで見守っていたい……今すぐ此処に教会が建ってもいいと思うの……。――ハッ! 百貨店って、全てが揃っていますよね……! 指輪も扱われていますし、お花もドレスも……そして、産着まで!! どうしてそこに気が付かなかったの、透櫻子! 百貨店は人生そのものが詰まっているじゃない!
 純喫茶『ちぇりぃ・ぶろっさむ』での金魚鉢のゼリーパフェ。あれもとても素敵でしたね。生前の私の部屋は、金魚鉢もない殺風景なものだったの。父が死という概念を遠ざけたかったのでしょう。人より命の短いものは――私に死を見せるものは取り除かれていたのです。それなのに、まあ、ふふ。あんなに可愛い金魚鉢があるだなんて。色とりどりのゼリーを泳ぐ金魚の愛らしいこと。ゼリーを美味しそうに口にされる皆さんのお顔もとっても素敵で、お腹いっぱ――いえ、萌える心は満腹になっても萌え放題ですのでいくらでも摂取可能だわ! ……喫茶店というところは本当に素敵な空間ですよね。美味しいものを食べて、皆さん満ち足りた表情になる。心地よい音楽が流れていて、思い思いの時間をのんびりと過ごせる場所。ああいうところでいつも世の恋人たちは愛を語らったり、ただ瞳を見つめ合っていたり、言葉もなく手を重ねあったりしているのね……。生まれ変われるのなら、喫茶店の観葉植物になりたいわ。
 それから、屋上! すごいですね、屋上! 透櫻子は初めて屋上へいったの! お父様に知られたら、きっと怒られてしまうわね! ふふ!
 遊園地の楽しげな雰囲気、遊具で年齢を忘れてはしゃぐ姿。全てをたっぷりと堪能させて頂きました。ふふふ! 私まで笑顔になってしまいます、ね! 遊ぶ笑顔と、桜アイスクリンに綻ぶ笑顔の違いもとても素敵でしたの。あれもきっと、そうね。『君にだけ見せる姿』ってやつよね、きっと。少し背伸びした君の遊園地で見せる年相応の姿……いつもは凛々しいあなたの遊園地で崩れる姿……遊園地で働かれている方はあんなにも素敵なものを毎日見ているというの? 心臓大丈夫? はちきれてしまわない? 私のように心臓が止まってしまわないのかしら……。きっと特別な訓練を受けているのね。きっとそうよ。でないとあんな……あんな……無理ッ!!!
 …………………………ふう……。お昼の皆さんに見惚れていたら、もう日が落ちてしまいました。充実した一日と言うのは、こんなにも早く時間が過ぎてしまうのね……。
 皆さんの姿を見させて頂くのも、後少し。最後まで、どうぞ宜しくお願いします。夜はどんな素敵な姿が見られるのかしら。

●美しき夜
 落ち始めた美しい夕日に気付いて百貨店を離れ、大通りを歩きゆく。
 暮れゆく世界は美しく、そして一日の終りへと静かに向かっていくよう。
 公園に着く頃には夕日は落ちきって、ぽつぽつと灯る暖かなぼんぼりの灯りに照らされた夜の幻朧桜の並木道が、あなたを優しく迎えることだろう。
 桜の芳しい香りに交じる、食べ物の香り。幻朧桜の並木道とは別の横道にずらりと並ぶ屋台通りの他にもぽつりぽつりと屋台が見える。
 並木道を抜けて奥へと向かう人々の手には、揺れる絹紐。
 逆に、公園から出ていく人々の手や髪、腕には、結ばれた絹紐。
 人々は桜に負けぬ笑顔を咲かせ、幸せそうに桜を愛でている。

 ――咲良に、なぁれ。

 誰かのことを願い、誰かのことを想い、誰かが口にした。
アルデルク・イドルド

ディル(f27280)と
絹紐を桜の木にっていうよりは俺はディルに結びたいかな?
ディルも俺に結んでくれるのか?
ふふ、ありがとう。
(言いながら自身も赤い絹紐をディルの手首に結ぶと所有の証に満たされて)

(自然と2人で手を繋いで)

桜は一度だけグリードオーシャンでも見たがこの世界の桜は特別綺麗に見えるな。
あぁ、でもやっぱりあの時と一番違うのはディルが隣にいることかな…だから特別なのかもしれない。
(ふといつもは屋台に興味を示すディルクが自分と同じ歩幅で歩いてることに気付き)
ディル。屋台はいいのか?
今日は俺と歩きたい?ーーっそうか。
(心が満たされて照れながらも幸せそうに笑んで)


ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と
今日は朝から色んな所をアルと出かけられて楽しいなっ

おお~っ、夜の桜ってこんなに綺麗なのか?
なんか花が光ってるみたいですっごいな!
なんかリボン配ってるけどあれなんだ?
さくらむすび?
ふぅん、じゃあオレ赤いのがいい
桜じゃなくて相手でもいいんだろ?
ならオレはアルにオレの色をあげたいから
(アルデルクの手首に結んでから手を繋ぎ)

お、アルからもおんなじ色だ!
へへっ、おそろいだな♪

屋台も色々あるけど、今日はアルと一緒に歩きたい気分
(歩幅を合わせて歩き)
アルと一緒にこの桜をずっと見てたいからな




 今日は朝からずっと一緒。朝には一緒にパンを食べ、昼には百貨店で『お揃い』を手に入れた。一日を一緒に過ごすのは今日だけのことではないけれど、いつもと違う場所へふたりで出掛けてずっと一緒というのは、矢張り特別だ。
「夜の桜ってこんなに綺麗なのか?」
 ぼんぼりに照らされる桜を見上げたディルクが、おお~っと感動の声を上げた。夜の闇にふわりと桜自体が光っているみたいで、とても綺麗だ。昼の桜も綺麗だが、夜も綺麗。すごいなと燥いだディルクがアルデルクへと笑みを向けた。
「桜は一度だけグリードオーシャンでも見たがこの世界の桜は特別綺麗に見えるな」
 ディルクへと笑みを向ければ、そうなのかと瞳が瞬く。「ああ」と短く応えるが、その理由にアルデルクは思い当たるものがある。あの時とは違うもの――今日はディルクが隣にいること。ひとりで見ればディルクにも見せたかったと思うし、ともに見れば同じ感動を共有できる。美しい景色の中で、彼が動く。それだけで特別なのだ。
「あ、アル。なんかリボン配ってるけどあれなんだ?」
「咲良結びというやつじゃないか?」
「さくらむずび?」
「グリモアベースで説明を受けただろう?」
「アルと一緒に一日遊べるって事しか覚えてない」
 嬉しいやら、おかしいやら。プッと小さく笑ったアルデルクは説明をしてあげた。
 色んな所で配っている白い細いリボンを、奥の桜へ結んでもいいというものだが――。
「ふぅん、じゃあオレ赤いのがいい。桜じゃなくて相手でもいいんだろ?」
 小説になぞって赤を贈る流行。それをするには百貨店で買わねばならない。
 戻って買いに行ってもいいかと問うディルクに、「ディルは赤い絹紐を俺に結んでくれるのか?」と確かめるように口にするアルデルク。
 ティルクはうんと頷いて、
「オレはアルにオレの色をあげたい」
「……俺も、ディルに結びたい」
 アルデルクの懐から、するりと現れる赤い絹紐。「無駄になるかも知れないけれど一応ふたつ、買っておいたんだ」と手渡して、ディルクの手首に所有の証。
「お、ありがとうアル、流石だな!」
 ディルクもアルデルクへと結び返し、ふたりの手首に同じ色が揺れる。
「へへっ、おそろいだな♪」
 同じ色を重ねるように自然と手を繋ぎ、再び歩き始めるふたり。
 幻朧桜の並木道は、両側からアーチのように桜が天を覆って美しい。
 見上げながら、綺麗だなと時折言葉を零し、同じ速度で歩むひと時。
 そしてふと、アルデルクは気がついた。常ならば屋台や興味を引くものに向かっていくディルクが、同じ歩幅で傍らにいることに。
「ディル。屋台はいいのか?」
「今日はアルと一緒に歩きたい気分だからいいんだ」
「俺と歩きたい?」
「アルと一緒にこの桜をずっと見てたいからな」
「――っ」
 じんわりと胸の中が春めいた暖かさで満たされていく。
 幸せが、表情へと溢れてやまない。
「……そうか」
 絹紐よりも柔らかな声が、桜の香りの中に穏やかに落とされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬袋・布静
【徒然】
「ん?…なん物騒なお誘いやんけ」


手を引かれるまま桜の下へ導かれてみれば
“らしい“誘いで笑う

屈むと首に結ばれる赤いリボン

「お前の色で首輪とは、随分と情熱的な愛情表現だこと」

首元の赤に触れ、愛おしさに緩む頬
壊れ物に触れるように八千代の頬に触れては一撫でし
人目も気にせず頬に唇を落とす

「気が合うなぁ…俺も八千代にしたい事あんねん」

白と赤のリボンを取り出し、それぞれ真っ二つに裂き組み合わせ編み込み二つの紅白のリボンへ
一つを八千代の左手薬指に結ぶ

「ん、出来た。俺からはココに俺のやって“しるし“つけようか」
「もうわかるやろ」

もう一つのリボンを八千代に渡し
“俺にもしたって”――そう貪欲に愛を強請る


花邨・八千代
【徒然】
百貨店から手を繋いで公園へ
こっそり買っていた真っ赤なリボンを懐に忍ばせる

公園の桜の下まで来たら布静の手を引いて呼ぶぞ

「布静、ちっと面貸s……じゃねぇや、屈んで」

身長差のせいでいまいち格好つかねぇなぁ
屈んでもらったら布静の首に赤いリボンを結ぶ

「来るときから絶対布静のここに、この色結ぶって決めてたんだ」
「俺のって、しるし」

頬にちゅーされて、恥ずかしいやら嬉しいやら
照れている間に編み込んだリボンで薬指を結ばれて

「ぬぉおう……!」

紅白リボンの指輪に益々照れが加速した
恥ずかしくて唸っていれば自分にも、とリボンを渡される

「……もう、嫁いでんスけど」

負けた気がして、ちょっと強めに薬指へ結んでやった




 腹を刺激する香りに囚われること無く、まろい頭が半歩前をいく。どことなく急ぐような足取りだが、急いでいる訳ではない。そわそわとしている彼女の心の動きは繋いだ手のひら越しにも伝わり、とてもわかりやすい。
 そんな彼女――八千代が、目的の桜の前でくるりと振り返った。
「布静」
「ん?」
「ちっと面貸……じゃねぇや、屈んで」
「……なん物騒なお誘いやんけ」
 口吻たいけど背が足りない、なら愛らしい。けれどそんな愛らしい誘いとは無縁の彼女の口ぶりこそが彼女らしくて愛らしく、布静は望まれるまま、八千代の視線に合わせて屈んでやる。
 本当は名前を呼んですぐに結ぶとか、不意打ちで結ぶとか、そっちの方が様になるのだけれど。埋まらない身長差を彼に埋めてもらい、しゅるり。微かな衣擦れの音とともに八千代の懐から現れたのは血色にも似た真赤なリボン。
 ふわり。布静の首裏に素早く手を通し、結んでやる。
「俺のって、しるし」
 首に咲いた赤い華に、満足気に笑みも咲く。
「お前の色で首輪とは、随分と情熱的な愛情表現だこと」
「来るときから絶対布静のここに、この色結ぶって決めてたんだ」
 首元で存在を主張する赤に触れて愛おしげに笑んだ布静は、その手をそのまま八千代の頬へと伸ばし、柔らかに撫でる。大切な宝物。愛おしい龍玉のように触れ、くすぐったがられる前に顔を寄せ、頬へと柔らかに唇を落とす。人目なんて気にしない。俺のもんやと見せつけてやればいいのだ。
「気が合うなぁ……俺も八千代にしたい事あんねん」
 頬から僅かに離しただけの距離で囁やけば、言の葉を紡ぐ度に唇が触れ、八千代の頬にカーッと一気に熱が集う。人目があるとか、そんなことを考える余裕もなくなって、布静しか視界に入らない。
 取り出した赤と白のリボン。それをふたつに切り裂き、編んで作ったふたつの紅白。
「ん、出来た。俺からはココに俺のやって“しるし“つけようか」
 ひとつは八千代の左手薬指へと。恥ずかしさと嬉しさで頭がいっぱいになっている間に、きゅっと結んでやった。
 残ったもうひとつは、「ぬぉおう……!」と照れを更に加速させて唸っている八千代へと差し出して。
「もうわかるやろ」
「……もう、嫁いでんスけど」
 そのリボンをどうして欲しいのか。
 わかるやろと差し出すそれを、八千代は少し口をムズムズとさせながら受け取ってやる。負けた気がしてムッなりたがる唇と、恥ずかしさと嬉しさが綯い交ぜになって落ち着かない。
 ――俺にもしたって。
 貪欲に愛を強請る愛しい男の指へ、強くその彩を残してやった。
 紅白のおめでたい色が、揃いの指に。
 それもまた、咲良色。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白神・ハク
シャト/f24181

尊いにも色んな種類があるよねェ。
僕には視線の意味が分かるかな。すごく美味しい感情だよォ。
でもシャトの苦手な感情かもね。
美味しい美味しい人間にはありがちだよ。

白い色は大好きだよ。でも僕は赤色の方がもっと好きかなァ。
んふふ。シャト、それはエモいとはちょっと違うかなァ。
相対して殺し合うだけじゃダメだよ。
もっとドロドロでぐちゃぐちゃした感情を向けなきゃエモくはならないよ。
僕は感情が大好きだからねェ。

僕は結ばないよ。
僕はお願いを叶える蛇。僕のお願いが叶ったら僕の役目が無くなっちゃうでしょ。
日常から萌えを見出すのが彼女の仕事だよ。
どんな萌えを見つけてくれたのかなァ。

お姉さんは面白いね。


シャト・フランチェスカ
ハク/f31073

ハクは尊いって何か知ってる?
身分が高いとか貴重とか
それとは違うニュアンスの視線を感じてさ
…確かに甜過ぎるのは厭かも

見回せば屋台の店員と目が合い
白いリボンを受け取る

己の頭にも咲く因縁の花
この樹に託すなら再会の宿願を

逢いたい子たちがいるんだ
生生流転、世界を巡って
いつか相対したらきっと殺し合う
こういうの「エモい」って言わない?
ハクはひとの心に詳しいみたい
その舌で沢山味見したのかな

きみは?
なんだかウロボロスみたい
願いを廻す蛇なんだ

透櫻子は本当に普通の遣り取りからも
萌えなるものを見出してくれたかな
空想好きなら仲良くなれたかも

彼女の命だって巡るから
来世は文筆家の好敵手だったりしてね




「ハクは尊いって何か知ってる?」
 アーチのように途の両脇から桜が枝葉を伸ばす並木道。歩みを止めずにシャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)が気になっていたのだけれどと口にすれば、傍らの長身がちらと赤い眼差しを寄越してくる。
「身分が高いとか貴重とか。それとは違うニュアンスの視線を感じてさ」
「尊いにも色んな種類があるよねェ」
 ビシバシと感じる視線の方へとあえて顔を向けないように意識して、白神・ハク(縁起物・f31073)はへらりと笑いながら答えてやる。すごく美味しい感情だ、と。それはとても好ましいものだから。
「でもシャトの苦手な感情かもね」
「……確かに甜過ぎるのは厭かも」
 でも文豪の君は読者からそういう手紙を貰ったりするんじゃないの? なんて言葉を交わし合いながら辺りを見渡せば、あちこちに見える屋台が気になって。ひらりとした何かを他の客へと手渡しているのを興味深く見ていたせいだろう。屋台の店主が手招きをした。
「白いリボンを貰ったよ。きみは?」
 手渡された細めの白いリボンをハクへと見せる。ハクも要るかと問えば、「僕は赤色の方がもっと好きかなァ」と否のいらえ。赤色は配っていないし、それにハクは結ぶつもりもないのだから。
 願いを叶える立場の者は、願われる存在であって、願う存在ではない。
 それに。
「僕のお願いが叶ったら僕の役目が無くなっちゃうでしょ」
「なんだかウロボロスみたい。願いを廻す蛇なんだ」
 なるほどと相槌を打ち、シャトはリボンを手に桜の樹へと手を伸ばす。
 己が頭上にも咲く、因縁の花。託す宿願は、再会の。
「逢いたい子たちがいるんだ」
 そう、口にして。樹から垂れるリボンをひとつ増やした。
 生生流転、万物は移り変わる。人も物も魂も、廻り巡って。そうしてその果てにいつか相対したのなら、きっとその時は――どちらかの終焉。決着。
「こういうの『エモい』って言わない?」
「んふふ。シャト、それはエモいとはちょっと違うかなァ」
 もっとドロドロでぐちゃぐちゃした感情を向けなきゃエモくはならないよ。
 訳知り顔で笑むハクは、どうやらひとの心に詳しい様子。
(その舌で沢山味見したのかな)
 話す度にちらりと覗く舌。ひとの感情が大好きな白蛇が味わったのかも、なんて思ってしまう。想像するだけ、だけど。
「彼女はどんな萌えを見つけてくれたのかなァ」
「この遣り取りからも萌えなるものを見出してくれているのかな」
 ふたりの関係は、どう見えただろう。
 ふたりの間に、何を空想したのだろう。
 それは透櫻子に尋ねてみなければ解らないが、彼女の想いを空想して、仲良くなれたかもなんてシャトは思った。
「来世は文筆家の好敵手だったりしてね」
「お姉さんは面白いね」
 影朧も救われれば、命は廻る。
 いつかそうなったら面白いねと、舞い散る桜のその先へ想いを馳せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
アドリブ◎
今日は楽しかったですか?百貨店はご遠慮しましたが、ここでなら貴方と気兼ねなく過ごせますね。(藍とレジャーシートの上で寝そべり夜桜を楽しむ)
星と桜、この世界では当たり前の光景でも今日は何だか特別に見えます。
くちゅっ
うう、少し肌寒くなってきました。藍温めてください。(抱き枕というかお腹側に引っ付く)
ふう、温かいです。
あっそうだ。これ買っておいたんでした。(赤い絹紐を藍の左前足にまきまき)
さっき甘酒を頂いた屋台の方からこっそり渡されたんです。
これでお揃いですね。(左手首にまきまき)
これからも一緒にいてくださいね。貴方はもう私のものなんですから。誰にもどこにもいかせたりなんかしません。




 風が運んだ桜花弁が、頬を撫でた。
 茣蓙に寝そべり桜を見上げれば、視界は桜と夜空で埋まる。
「今日は楽しかったですか?」
 頭を動かして傍らを見れば、『藍』がこくりと頷いて機嫌良さげに目を細めている。
 星と桜。それはこの世界では毎日見られるものだけれど、何故だか今日は特別に見える気がした。
「一日中貴方と一緒に居たからかしら?」
 ねぇ、藍はどうおもいますか?
 くすくすと笑って藍の鼻先をツン。
「少し肌寒くなってきましたね、藍」
 なんて口にすれば、――くちゅっ。早速くしゃみが出てしまった。
「藍……あら。ふふ。藍は優しいですね」
 温めてとお願いしようと思ったのに、藍が先に動いてくれた。ぴったりと寄り添ってくれる身体が温かくて、愛おしげにその毛を撫で、暫し人々との賑わいと桜のざわめきに耳を傾ける。
「あっ、そうだ」
 藍を連れていくには百貨店は人が多いような気がしたから遠慮して、昼間は大通りの出店を中心に見て回って過ごした。その時購入した赤い絹紐を取り出して、藍の左前足へと巻いて、
「私にはこっちです」
 甘酒を購入する時に渡された白い絹紐を左手首に巻けば、お互いの左側に絹紐が揺れる。
「これからも一緒にいてくださいね。貴方はもう私のものなんですから」
 ――誰にもどこにもいかせたりなんかしません。
 藍の額に、唇を落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
【金猫】
夕辺と手繋いでゆったり歩こうか

おう やはり夜桜は独特で良かね
可憐ながら妖しか佇まいよなあ
うちの奥さんもそがん二面性がたまらんと

ほ〜〜〜う 願掛けか
桜に託す言うんもいじらしかばってん
おいどん(俺達)はダイレクトに率直に「これが欲しい」と印ばつけましょ
へっへっへー夫婦ん考える事は同じばい!
さあさ尻尾と耳ば寄越さんね
藍色のビロードリボンを二カ所キュッキュとな
本当は身体中ば包帯リボンにしたかとこやが
ん いいよ もっとキツく絞めてよ
それくらいが俺の好みなんだ
はは リボンにヤキモチと来たか
それでこそ夕辺だよ

お前は本当に欲深で、余裕が無うて
生まれる前から俺に誂えたような女やね


ロキ・バロックヒート
【金猫】
👀

夜だし周りは暗いけど暗視で見えるかな
街灯にちゃんとスポットライトの役目果たしてって念じつつ
物陰からだけどこんな堂々とデバガメしていい機会なんてないよね

やぁ透櫻子ちゃんこんばんは
あの二人見て見てって指差す
神様イチオシの恋人っていうか夫婦だよ
こないだ恋人になった~って報告もらったんだけど
あ、小さい頃から知ってる狐の娘にね
いつの間にか結婚するってさ
子どもの成長って早いもんだよねぇ
あんなイケメンな彼ができるなんて

あっ、ああ~
やだあの子首にリボン絞めちゃってる…
首寄越せって大胆だな~
尻尾と耳に結んじゃうなんてあっちも欲張りだよね
どう見ても相性ばっちりじゃん

どっちも幸せになってくれると良いなぁ


佐々・夕辺
【金猫】
夫の有頂と二人そぞろ歩き

綺麗な桜ね……
むやみに明るい光じゃなくて、ぼんぼりで飾り付けているのが風流を感じるわ
まあ、二面性だなんて ふふ
女の子は誰しも、表と裏があるものなのよ

…あ! 見て有頂
桜の木にたくさんリボンが結んである
あれが咲良結びなのね
…なーんて、実は知っていました
ちゃんとリボンも用意したのよ!
貴方に似合う金色の絹のリボン

さあ、こっちを向いて
首に巻いてあげる
貴方は私のものだから
きちんと首輪をしなければいけないわ
私の欲しいもの、手に入れた

まあ、尻尾と耳?
貴方も妙なところが好きねえ
…ふふ、ドマゾさん
でも駄目よ、リボンの跡に私が嫉妬してしまうから




「綺麗な桜ね……」
 見上げる桜の天蓋は、夜であっても美しい。いや、夜だからこそ更に美しく感じるのかも知れない。ぼんぼりの穏やかで暖かな灯りに優しく照らされて、夜闇に薄紅がふんわりと咲いている。
「可憐ながら妖しか佇まいよなあ。うちの奥さんもそがん二面性がたまらんと」
「まあ、二面性だなんて。ふふ、女の子は誰しも、表と裏があるものなのよ」
 小さく笑った佐々・夕辺(凍梅・f00514)は夫たる日東寺・有頂(手放し・f22060)に手を引かれ、ふたりは幻朧桜の並木道を抜けていく。
 夫婦水入らずの穏やかなひと時。ふたりのことは桜だけが見守っている――はずなのだが、実は後方にギャラリーが居る。透櫻子が居ることはふたりとも織り込み済みだが、透櫻子以外の人物がそこにはいた。
「あの二人はね、神様イチオシの恋人っていうか夫婦だよ」
 透櫻子と一緒に屋台の影から、見てと夕辺と有頂を指差すロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)に、透櫻子はお知り合いなのですかと首を傾げる。
「あの狐の娘の方を小さい頃から知ってるんだけどさ、こないだ恋人になった~って報告もらったと思ったら、もう結婚してたんだよねぇ」
 神様のロキからすると、ひとの生涯はあっという間だ。こないだまでこぉ~んなに小さかったのにさぁと手で高さを示しながら、だからこそひと時たりとも目を離してられないんだよねなんて微笑う。ひとの子はあっという間に年をとって、居なくなってしまうのだから。
 そんな風にギャラリーが増えている事も知らず、有頂と夕辺のふたりは八重桜の下へと辿り着く。「見て、有頂!」と夕辺が指差す先には、枝に結ばれた細めの白い絹紐が時折吹く風に揺れていた。
「あれが咲良結びなのね。……なーんて、実は知っていました」
 事前調査済みなのよ、と胸を張ってみせる新妻に有頂は微笑う。どこまで可愛いんだろうね、うちの奥さんは。
「ちゃんとリボンも用意したのよ!」
「おいどんはダイレクトに率直に『これが欲しい』と印ばつけましょ」
 懐からジャーンっと金色の絹紐を取り出した夕辺に合わせ、俺も用意しとーとよと有頂も藍色の天鵞絨リボンをふたつ取り出した。
「あら、有頂も?」
「へっへっへー夫婦ん考える事は同じばい!」
 桜に願いを託すというのもいじらしくはあるけれど、お互いにお互いの気持ちを結びたい。夫婦として結ばれているけれど、より強く、これは己のものだと、証を刻みたくて。
「さあ、こっちを向いて」
 まずは私からと、夕辺は有頂の首へと手を回し、
「貴方は私のものだから、きちんと首輪をしなければいけないわ」
「ん いいよ もっとキツく絞めてよ」
 キュッと金色のリボンを結ぶ手へと手を伸ばし、もっとお前を刻みつけてと有頂が乞う。
「……ふふ、ドマゾさん。でも駄目よ、リボンの跡に私が嫉妬してしまうから」
「はは、はは リボンにヤキモチと来たか。お前は本当に欲深で、余裕が無うて、俺に誂えたような女だね」
「それはお互い様なのよ」
 ツンっと顔をそむけた夕辺を見て、違いないと笑う有頂はとても幸せそうだ。
(あっ、ああ~~~~~)
 その現場を目撃したロキは、慌てて両手で口を抑えて膝をついた。
 やだあの子首にリボン絞めちゃってる……。首寄越せってこと? 全て自分のものって他の人達へアピールしてるってこと? すごい大胆じゃん……。いつの間にそんな大胆な子になっちゃったの? 恋人出来ると女の子は変わるって聞くけど、あのイケメンな彼に変えられちゃったの?
 八重桜の下のふたりに、また動きがあった。
「次は俺の番ね。さあさ尻尾と耳ば寄越さんね」
「まあ、尻尾と耳? 貴方も妙なところが好きねえ」
「本当は身体中ば包帯リボンにしたかとこやが」
「え……」
 その発言だと、途端に変態くさくなる。
 若干引いたような顔をするのも一瞬。有頂にならと頬を染める夕辺に本当にうちの奥さんは~と再度思いながら、変な気を起こさない内にキュキュッと尻尾と耳とに証を結んだ。
「似合う?」
 大きくはたりと尾を動かす夕辺が可愛くて、有頂は幸せな笑みを重ねていく。

「……どう見ても相性ばっちりじゃん」
「そうですね、お互いに独占欲が強いように見えます」
 夕辺の耳と尻尾に結んだ有頂を見て思わず声に出したロキに、透櫻子も頷いて返す。
「ふふ、とてもお似合いですね」
「そうだねぇ。どっちも幸せになってくれると良いなぁ」
 神様が見守ってるんだからさ、幸せになってくれないとねぇ。
 八重桜の下、再び繋ぎ直される手を見つめ、道化のかみさまが微笑った。
 咲良であれ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

歌獣・藍
あめいろ👀
まぁ、本当に綺麗ね
お団子…だめ?
そう、わかったわ…

ずっと渡したくて
そわそわしていた贈り物
渡す瞬間はどきどきで
喜んでもらえると
心がぽかぽかするの
気に入って貰えるかしら

皆に貰ったものを
ぎゅうと抱きしめ『アイ』を
めいっぱい感じる

ありがとう!大切にするわ!

…しょうがないわね

こっそりしずくの元へ近付けば

2人には内緒よ?

そう言って
しずくの服の腕の部分を
捲り上げれば
自分の手首に巻いていた
リボンを結んでおろす
咲良結び…は
わからないけれど
アイがあれば問題ないわ

…いいのよ
予備があるから

その変わり
見えてしまった
手首の傷のことは
黙っていて頂戴ね

貴方にも
皆にも
ーーー私にも
『アイ』が沢山降り注ぎますように


岩元・雫
あめいろ👀

夜桜浮ぶ公園、ね
適当に何か買ってゆこうか
御団子は止めときなさい
持ち歩くには危ないよ

桜の下、贈り合う品はとりどり眩い
煌めく宝石、瞼の光、耳飾る泡
――有難う
大事にすると、胸中で誓えば
一名程、勇み足に渡してしまった其れを差し出して
喜んで呉れたら、嬉しいな
華を彩る爪先の花色
屹度似合うと、思うから

誰かへ咲良を結ぶ資格は
おれには無いと、知っている
けれど、箱へ結ぶでは足りなくて

屋台のお人に聲を掛けて
真白い絹紐を貰えたなら
皆の代わりに花へと結ぶ
幻朧世界で散る八重桜
哀しく愛しいその花へ
参つの華に祝福あれと

…ばか
其処迄して、おれに結ぶなんてさ
ほら、
黙ってるって、約束するから
早く予備寄越してよ
結んだげる


百鳥・円
あめいろ

あわい灯りのやさしいこと
はいはーい、甘いものが欲しいですよう
飴細工とかありますかね?

贈りものって好きなんですよねえ
いただいた時の喜び
渡す瞬間の表情や仕草
それらを見留めるのが至福なんです

じゃじゃーん
まどかちゃんからのプレゼントですの
どうぞ受け取ってくださいな!
黄水晶と藍玉の祝福を、あなたたちへ

わあわあ、ふふふ
擽ったいですけど、嬉しいです
大切にしますよう

さて、本日の結びとしましょうか
ティア、こっちへ

ゆうらり揺れる涙のかたち
淡い彩りのリボンを、あなたの横髪へ
やさしく愛おしげに結びましょう

わたしからの贈り物です
よおくお似合いですよ

あなたからの痛みなら歓迎ですが
……うん、痛くない。しあわせですよ


ティア・メル
あめいろ

優しい灯に照らされる愛おしいひと
ちらりと盗み見て
楽しくてしあわせなこの時間を噛み締める
ぼくも甘いもの食べたいなあ
飴細工ならありそうだよねっ

贈り物!
んふふ こんなに貰っていいの?
胸にぎゅうと抱いて
大切にするね

ぼくからもプレゼントだよ
貰ってくれる?
ありがとう
弾けたような笑顔に心満たされる

呼ばれるとたたっと近くに寄って
なーに、円ちゃん
そっと触れられる指先
いっとう愛おしい君のあまいかおり
ふふりと頬が緩んでしまう

えへへへへーありがとう
どうかな?似合う?
ぼくも結びたい

屋台の人に声をかけて
紅い絹紐を貰い
円ちゃん、手出して?
円ちゃんの左手に優しく結ぶ
どうかな?痛くない?
―――うん、とっても綺麗




 燃え盛るような陽は顔を隠し、夜の静寂が訪れる。
 けれどぼんぼりに照らされた夜闇に桜の浮かぶ公園では、集う人々によって穏やかながらもまだまだ静けさを感じさせない。
 ぼんぼりの優しい灯りに惹かれるように円は桜を見上げ歩き、彼女と手を繋ぎながら歩くティアは、そんな円の顔をこっそりと見上げて盗み見る。柔らかな灯りの中の愛おしい人。そしてその隣に居る自分。胸に訪れる多幸感が溢れて止まない。ずっとずっとこの時が続いて欲しいと思えるのは、とてもしあわせなことだ。
「適当に何か買ってゆこうか」
 後方から掛かった雫の呼びかけに、円の頭上の耳がピンっと立つ。
「はいはーい、甘いものが欲しいですよう」
「ぼくも甘いもの食べたいなあ」
「私はお団子が食べたいわ!」
「御団子は止めときなさい」
 すかさずはいはいはーいっと元気な女性陣たちが挙手をして、雫はくすりと笑みを浮かべながらも藍へ釘を刺すのを忘れない。
「お団子……だめ?」
「持ち歩くには危ないよ」
「そう、わかったわ……」
 みたらし団子ののぼりを見つめてシュン。けれど串物は歩きながら食べて喉に……なんて危ないし、ひとの行き交う場所だから誰かにぶつかって着物を汚すことにだってなるかもしれない。
 今は、特に。百貨店で買った『大事なもの』を抱えているのだ。他に注意力を散らしてしまうのはよくないかも知れない。シュンとウサ耳を垂らした藍だが、腕に抱えた贈り物を視界に映せば心が軽くなる。ああ、早く渡したいな。皆喜んでくれるかな。いつ渡せるのだろう? やっぱり八重桜の前でかしら! あゐのアイを喜んでくれますように!
「飴細工とかありますかね?」
「飴細工ならありそうだよねっ」
 帰りに買って帰ろうか、なんて話ながら楽しく歩を進めれば、気付けば件の八重桜の前で。
 それじゃあと皆の渡す瞬間の仕草や表情が見えるようにと円になって、大事に抱えてきた贈り物を渡し合う。贈ったものを相手が開けてくれるまでの、ワクワクとそわそわ。贈られたものを開ける瞬間のワクワクと喜び。暖かな、とてもおいしい気持ちで溢れる瞬間だ。
「じゃじゃーん、まどかちゃんからのプレゼントですの。どうぞ受け取ってくださいな!」
 黄水晶と藍玉の祝福を、雫と藍へ。
「ぼくからもプレゼントだよ。貰ってくれる?」
「ありがとう! 大切にするわ!」
「――有難う。僕からも、之。喜んで呉れたら、嬉しいな」
 煌めく宝石、瞼の光、耳飾る泡。どれも嬉しく抱き止めて、大事にすると胸中で誓いながら差し出すのは、藍には先に贈ってしまった華を彩る爪先の花色。色違いの爪紅に、女性陣たちの声が華やいだ。
「んふふ こんなに貰っていいの? 大切にするね」
「わあわあ、ふふふ。擽ったいですけど、嬉しいです。大切にしますよう」
 笑顔が弾け、アイが溢れている。
 それぞれの腕に、胸に、笑顔に、たくさんの愛しさと煌めきが、満ち満ちて。
「さて」
 プレゼント交換とその余韻を楽しんだ頃。円がポンとひとつ手を打ち、空気を切り替えた。
「ティア、こっちへ」
「なーに、円ちゃん」
 円の元へ、たたっとティアが駆けていく。
 手を伸ばせば抱きつける距離に立って見上げれば、穏やかな色を映した瞳がティアだけを見つめて、やさしい手がそうと伸ばされる。触れる指先はいつだってやさしくて、愛おしい彼女のあまいかおりが一層濃く香る。胸を満たして全身を満たす、あまい高揚。どうしたって頬は緩んでしまう。
「わたしからの贈り物です」
 横髪に、涙の揺れる淡い彩りのリボン。手を伸ばして雫型に触れれば、胸の内にまた幸せが膨らんでいく。ああ、こんなにもしあわせで、どうしよう!
「えへへへへーありがとう。どうかな? 似合う?」
「よおくお似合いですよ」
「ぼくも結びたい。……ちょっと待っていて」
 絹紐を持ってはいないから近くの屋台へ行き、配られている白い絹紐を貰ってくる。紅いのはないのか残念……と戻ってきた所で、「あっ」と閃いた。
「円ちゃん、さっきあげた口紅、ちょっと借りてもいい?」
「ええ、どうぞ」
「んにに、ありがとう」
 口紅を預かってから円の手を取り、左手首に結ぶ。
「どうかな? 痛くない?」
「あなたからの痛みなら歓迎ですが……うん、痛くない。しあわせですよ」
「それじゃあ最後の仕上げ」
 自分の唇に紅を乗せ、円の左手首――白いリボンに唇を落として魔法を掛ける。
 それはこの世にただひとつの『ぼくの』の証だ。

 円の元へと駆けていったティアを見送った雫は、八重桜とそこに集う人々へと視線を向ける。
 誰かを想い、願い、桜へ託す人々。
 誰かへ咲良を結ぶ人々。
(おれにはそんな資格……)
 無いと、知っている。けれど、箱へ結ぶでは足りなくて。
 屋台の店主から真白の絹紐を貰い、八重桜へと結びに行く。皆へと結ぶ資格はないと結べぬ想いを、万年桜の咲くこの世界で春にしか咲かない哀しくも愛しいその花へと託す。――参つの華に祝福あれ、と。
 そんな雫を、藍は見守っていた。
(……しょうがないわね)
 まったくしずくったら。あゐねえさまはお見通しなんだから!
 絹紐を結び終えて八重桜を見上げる雫の元へこっそりと近寄って、「しずく」と小さく名を呼んだ。振り返り視線が合えば、「ふたりには内緒よ?」と微笑をひとつ。手首にいつも結んでいる藍色のリボンを解いたならば、彼の袖を捲くりあげて彼の手首に結び直す。
 ――貴方にも、皆にも……私にも。『アイ』が沢山降り注ぎますように。
「……ばか」
「……いいのよ、予備があるから」
 いつもリボンで隠している手首の傷。それが雫には見えたことだろう。
 其処までしてと彼は云うが、藍がそうしたかったのだ。
「その変わり、黙っていて頂戴ね」
 大丈夫、と。いつもどおりの顔で笑って見せれば、ずいと手が差し出される。
「しずく?」
「ほら。黙ってるって約束するから、早く予備寄越してよ」
「しずく~~~~~~」
「……自分で結べば?」
「待って、待って。はい!」
 慌てて取り出した予備を彼に渡して結んでもらえば、手首に揺れる同じ色。
 戻ってきたティアと円が「あらあら」「んふふふ」と笑って。
 プイと顔を逸らした雫が「ほら、飴細工買いに行くよ」と告げて。
「はーい」と元気な声が、桜の下に優しく響くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ】♢

桜ラテと桜餅を買って
やっぱり食べすぎかな…!?英もどう?
うん、でも欲しくなったら言ってね?
人が食べてるものは美味しく見えるから、欲しくなったりする事あるもんね

わぁ、いいの?嬉しい!可愛い色だね
差し出された絹紐に笑みを浮かべて、続く言葉には思わず目を瞬きながら英の顔を見上げた
手渡されて終わりくらいに思ってたから

結ってくれるの?じゃあ、はい
髪を横に纏めて編んで、英に向き直る
見える所がいいな、落としたら大変だから

へへ、ありがとう。英が選んでくれた事が一番嬉しいよ

どう?似合うでしょ?
冗談で言ったのに頷くから
つい照れてしまう

私もあげる
親愛の気持ちを込め英の腕に紺の絹紐を結う
…半分は照れ隠し


花房・英
【ミモザ】♢

桜ラテ片手に、桜を見る
最近、出かけてる度に何か食べてないか?
俺はラテだけでいいよ、寿にあげる

食べ物じゃなくて悪いけど、これ貰ってくれる?
尋ねながら差し出すのは桜色の絹紐

髪に結んでもいい?
承諾してもらえたなら、寿の髪に絹紐を

ふと、あの日の赤くなった白薔薇を思い出すけど
やっぱり恋はまだ分からない
ただ今の不確かな安らぎを留めおきたくて
感謝と、これからも側に居てほしいと思いながら結う

俺はセンスとかないし流行りも分かんないけど、見つけた時に似合う気がしたから
願いを言葉にするのは何故だか憚られるから、言い訳の様に告げる

うん、似合う
赤くなった頬に不思議と満たされて
腕に結われる絹紐を見つめた




 ひらりと風に舞った桜が、いっとき休むように黒髪に触れた。
 桜ラテを手にしていない方の手で前髪を弄れば、はらりと落ちてまた風に乗って飛んでいく。桜餅を買って戻ってきた太宰・寿(パステルペインター・f18704)が「お待たせ」と笑いながら戻ってくる姿に振り返り、軽く頷き返してから並び歩いた。
「ん~、おいしいっ」
 桜ラテと桜餅。両手を彩る桜色。
 どちらを口にしても寿は幸せそうに微笑う。
「最近、出かけてる度に何か食べてないか?」
「えっ!?」
 なんて。ちょっとした意地悪だ。素直に慌てる寿の姿に、花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)は思わず小さく吹き出した。
 けれど真剣に両手のふたつの桜色と睨み合った寿は「食べすぎかな……」と考えて英にも桜餅を勧めるも、「いいよ」と断られて。それでも欲しくなったら言ってねと、もう一口ぱくり。
 寿は本当に美味しそうに食べる。今日は屋台の人の手作りの桜餅に、暖かな湯気を揺らす桜ラテ。朝に囲む食卓の時だって、英と過ごす時は、いつも。
「食べ物じゃなくて悪いけど、これ貰ってくれる?」
 桜餅を食べ終わり、桜ラテも飲み終えた頃を見計らい、声を掛ける。ん? と見上げてきた寿の手から桜ラテのカップを抜き取り、己のカップと合わせてゴミ箱へと捨てて――尋ねながら差し出すのは桜色の絹紐。
「わぁ、いいの? 嬉しい! 可愛い色だね」
「髪に結んでもいい?」
「……え?」
 きょとんと見上げてしまったのは、手渡されて終わりと思っていたから。
「結ってくれるの? じゃあ、はい」
 ぶっきらぼうに見えて、結構面倒見が良いことを知っている。それじゃあお願いするねと髪を横に纏めて編んで、英へと向き直った。頭の後ろみたいな、見えない所じゃないところがいい。せっかく結んでくれるのなら視界に収まる場所がいいし、それに、落としてしまったら大変だから。
 英の手が柔らかな亜麻色の髪に触れる。――ふと、あの日赤くなった白薔薇を思い出すけれど、やっぱり恋はまだ分からない。あの時よりも少しは役に立てているとは思うけれど、まだまだ『今』を手放すのは怖くて――感謝と、これからも側に居て欲しいと思いながら、桜色を結んだ。
 願いを口にすること無く、花のように内に秘め、最後にひと撫でしてから手を離す。
「出来たよ」
「わあ、ありがとう」
 結んでもらった絹紐を見て、髪束を摘んで揺らして微笑う。
「どう? 似合うでしょ?」
「うん、似合う。似合うと思ったから、これにした」
 冗談で言ったのに、返ってきたのは真っ直ぐな言葉。
 ぱちりと瞳の前で星が瞬いたような顔をして、寿の頬が赤くなった。
「私もあげる」
 その頬を隠すように、パッと寿が動いて英の腕を取る。
 結ぶ絹紐は紺色。彼に似合う色を自分も用意していた――とは、何故か言えなくて。いつもなら言えるのになぁ、なんて思いながらも結ぶ、親愛の証。
「ありがとう、寿」
 仄かに見える頬の朱に不思議と満ち足りた心地を覚えて、そっと落とした言葉を桜花を運ぶ風が浚っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪白・雫
生きたものには触れられない…
どうしてリボンを受け取ったらよいのか
遠巻きに恐ろしくて声を掛けられず
隙を見てやわい霜風に運ばせ、この手に
ごめんなさいと小さく呟き

成る丈人の少ない通りを歩きます
…夜は好き
月の光は優しくて
冴えても熱くない、から

すれ違う人々の満ち足りた様子に瞼伏せ
横目に捉えてしまう 靡く愛のいろ
この手の中にあるものは
なにいろでもなくて
遠い昔だったら
わたしにも…

幾十もの白を纏う貴方
指先が触れぬよう慎重に
愛らしいその枝花を
うっかり凍らせてしまいたくはないもの
託すものは、なにも
ただ…二度と誰も傷つけませんようにと

全てを壊し 凍らせたわたしが
愛すること 願うこと 幸せになること
許されない、から…




「まいど。熱いから気をつけて」
 桜ラテを提供している屋台の店主が笑顔で客たちに対応し、桜ラテを渡す時に「よかったら」と白いリボンを手渡していた。次から次へと客が訪れ、笑顔で「咲良な夜を」と挨拶をして暖かな湯気をくゆらせ離れていく。
 そこへ、少しひんやりとした風が吹く。
 白いリボンがひとつ、風に乗って運ばれていったことに、店主は気付かず忙しく働いていた。
「……ごめんなさい」
 やわい霜風がひいらりと運んできたリボンを手に載せた雪白・雫(氷結・f28570)は、離れた場所から小さく謝罪を口にした。生きたものには触れられないから、どうやって受け取ろうかと先程からずっとひとりで悩んでいたのだ。
 揺れる白いリボンを手に、横道へ入る。幻朧桜の並木道は人通りが多いから、ぶつかってしまっては大変だ。人が少ない通りは賑わいからも遠ざかって静かで、並木道よりも幻朧桜が少ないからか桜の天蓋に覆われておらず、美しい月が足元を照らしてくれている。
 雫とは違う理由だろうが、この道を選ぶ者も居る。すれ違った睦まじいふたりの腕と髪に、赤。靡く、愛のいろ。雫の手の内にある色とは違う、いろ。
(遠い昔だったら、わたしにも……)
 そう思ってしまうのは詮無いことだろうか。
 目蓋を降ろし、自戒する。
(全てを壊し凍らせたわたしには、許されないことです)
 愛することも、願うことも、幸せになることも――。
 だから、人々に愛される八重桜に託すものはない。
 ただ、二度と誰も傷つけませんように……と、祈りを篭めて手を伸ばす。
 指先が少しでも触れないように、慎重に。
 人々が愛し、願いを託す愛らしい枝葉を凍らせないように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
ぐーぜん。寝坊して、飲みそびれた、けど、ラッキー
(朝に行きたかった喫茶店が、偶然キッチンカーを公園に出していた。ブラックコーヒーを飲みつつ考え込む)

(公園のベンチに座り。すんすん、と、香水を付けて貰った手首に鼻を近付け)
結局、香水以外にも、色々、買っちゃった
(傍らの紙袋には香水の他にも、濡羽色の偏光パールのアイシャドウ、天青石をイメージしたというマニキュア、ete…)

トキメキ、とか、ドキドキ、って、何だろう、な
本で読むしか、私は、恋愛……と、いうもの、を、知らないし
(目を伏せる。己の身は大鴉のUDC生物と融合している身体だ。半分、ヒトでは無い)

大鴉、は、一生つがいを、変えないって、いうけど……




「あ、ラッキー」
 朝に行きたかった喫茶店のロゴが入ったのぼりを見て、思わずグウェンドリンは声を上げた。咲良結びが出来る期間は夕方に店を締めてからは公園で出張販売をしているのだろう。寝坊して飲みそびれてしまったブラック珈琲にありつけて、グウェンドリンはホウと幸福なため息をついた。鼻孔を擽る芳醇な香りに、程良い酸味が心地よい。
 ベンチに座り珈琲を楽しんで、ひとここち。
 湯気をくゆらす紙カップに口をつけて――ふわり。珈琲以外の香りが薫る。
「……あ」
 手首につけて貰った香水の香りだ。
 思わず顔を寄せ、香りを嗅ぐ。心が薔薇のようにふわりと広がる心地がした。
「結局、香水以外にも、色々、買っちゃった」
 二人がけのベンチ。自身の傍らに置いた紙袋には、香水以外にも桜コスメたちがはいっている。濡羽色の偏光パールのアイシャドウ、天青石をイメージしたというマニキュア、桜の香りのするチーク……等々。それらを思うと使う時が楽しみで、心がひとつ弾むよう。
 ベンチにひとり腰掛けて、珈琲を飲みながら桜並木を歩んでいく人々を眺める。
 複数人で歩んでいる人々の手や髪には赤いリボンが結われているのを見つけて、つい、目で追ってしまう。
(トキメキ、とか、ドキドキ、って、何だろう、な)
 恋愛というものは、本でしかしらない。
 己の身は大鴉のUDC生物と融合している身体で、半分はヒトではない。
 そして大鴉は一生つがいを変えないと聞くから、グウェンドリンは一生大鴉と一緒なのだろう。
(大鴉ごと、好き、に、なってくれるひと、いるのかな)
 ドキドキを知るなら、そのひとがいい。
 桜を纏う風を感じながら、そっと珈琲へと唇を落とした。
 嗚呼、おいし。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

千之助(f00454)に手を引かれ、
辿り着いた桜の園。

あんなに泣くとは…
少しは心鎮まれば
…と、
暇乞い等と唐突な申し出。
差し出された紫の意に。
漸く気付く。

嗚呼。
僕らは随分不器用に、同じ想いを抱いていたのですね。

ならば尚。
帰るも帰らぬも、死出の旅路。
君を連れて行く事は…
そう、思うのに。
桔梗を、絹紐を、拒む事が出来ず…
あまつさえ…それを嬉しいと思ってしまうなんて。

手首に、まるで手枷ですね、なんて
微かに泣き笑い。
髪を結う赤の紐を外し、彼の薬指へ。
…君の『幸せ』を、願った僕が蔑ろにはできません。
けれど、いざという時は…君は、生きて。
それが僕の倖い。

彼の手をとり…
そう。
桜に攫われた事にでもなればいいのに


佐那・千之助

御主人様(f00472)の手を離したのは八重桜の前。
大切に隠し持っていた紫の桔梗を手に

今夜、暇乞いをするつもりでした
想いを込めたこの花を受け取ってもらえたら
それだけでもう十分だと…。
…暇乞いの理由は、
花に視線を落とし。言えなくて。頬が熱い。

…同じ?
御主人様…?まさか…そんな
夢のような言葉。嬉しくて…

…不敬をお許し下さい
赤の絹紐を主人の白い手首へ結ぶ。
先のお言葉通り私は逃げます
ただし貴方を連れて
もうあの家へは帰しません
貴方なくして私の『幸せ』はありませんから
それから…御主人様のことも。幸せにしたい、です

薬指の赤が幸せで
その命には従えませんと首を振る
貴方と共に生きたい
彼の手を引き、桜の向こうへ…




 手を引いた千之助が、一歩前を行く。
 従者は常に主人の背中を追う者で、クロトに背を見せることはない。彼の背中を見るのが新鮮で、けれどそうすることで彼が泣いた顔を隠していることを知っているクロトは、案じる視線を彼の背中へと投げかけながらついていく。
 足が止まり手を開放されたのは、八重桜の前。
 意を決した面持ちで振り返り、何度も飲み込んだ言葉を口にする。
「今夜、暇乞いをするつもりでした」
 クロトの瞳が見開かれる。風による桜のざわめきが聴覚を支配して、全てが遠のいたような心地がした。
 ――何故。
 言葉を発せない唇だけが、震えながら形だけを作る。
「これを、受け取って頂けないでしょうか」
 懐に隠し持っていた紫の桔梗を取り出して、視線を花へと落とす。大切に持っていたとは言え、上着の下。よれてしまった花は、今の自分自身のようだった。
 暇乞いの理由は、全てこの花に。
 桔梗の花言葉は――。
(……嗚呼)
 なんて、愚かなのだろう。
 彼の真っ直ぐな気持ちに気付かない自分も、諦めることに慣れすぎている自分も、恰も劇の配役のひとつと化して全てが愚かしいということに気付こうとしない自分も。
「……僕らは随分不器用に、同じ想いを抱いていたのですね」
「……同じ?」
 信じられない気持ちで覗い見えれば、困ったような笑みが向けられる。
「御主人様……? まさか……そんな」
 息を呑んで、瞬いて。
 夢のようだと思えば、欲を覚えてしまう。
「……不敬をお許し下さい」
 桔梗をクロトに握らせるとラッピングに使われていた赤い絹紐を解き、クロトの手首へと結ぶ。
「先のお言葉通り私は逃げます。ただし貴方を連れて」
「……まるで手枷ですね」
「貴方なくして私の『幸せ』はありませんから」
 その逃避行は、死出の旅路。どう足掻こうと結末は解りきっているのに、桔梗を、絹紐を、拒むことが出来なかった。これが本当に手枷なら、無理やり連れて行かれるのだと言い訳になり得ただろうか。
 ――いいや、なり得ない。
 すぐさま否定する心が、全てだ。
 終着点が解っていると言うのに、この心は歓喜に震えているのだから。
(……酷い主だ)
 桔梗を千之助へ預け、後頭部――髪紐へと手を伸ばす。
「……君の『幸せ』を、願った僕が蔑ろにはできません」
 クロトの薬指へ、赤い髪紐を括る。伴にと、確かな約を結ぶように。
「けれど、いざという時は……」
 君は、生きて。
 それが、それだけが、クロトの願い。
 喪われる命は、ひとつでいい。
 君と僕とのどちらかならば、君さえ生きていてくれるのなら、僕は喜んで死ねるだろう。
「その命には従えません」
 酷い主だ。どうして今になってまだそんな事を言うのだろう。
 薬指に結ばれた赤によって得られた幸せが、薄れていく。
 貴方と共に生きたいのだと、どうしてもそれが出来ぬのなら共に死にたいのだと、解って貰うにはどうすればいいのか。
 けれど今はそれよりも、この場を離れることが先決だ。朝からの外出。とうに気付かれ、既に見張りが就いているはずだ。
 これから歩む生の命題を胸に千之助はクロトの手を引き、人に紛れるように駆けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


楽しかった一日ももう終いとは
少し切ない気もする

サヨ、寒くはない?
しなやかな手をとって胸の辺りで握りしめる
この鼓動の音が届くだろうか?
今日は何度見られただろう
照れた顔も可愛らしい

リル、しっかり撮れたかい?
サヨとリルが出かける時は今度は私がその、すまほほほほんとやらを使いこなして撮るよ

サヨとリルにも感謝しているよ
厄災であった私がこんな風に……戀をして、更にその気持ちを認められて
通じ合えるなんて思わなかった
厄災の愛は禍を齎す故に
…ありがとう、私に幸いを齎してくれて

咲良結びをしようか

リボンはふたつ
感謝を込めて白をリルの珊瑚角に結んで
愛を込めて赤をサヨの桜角に結ぶ

二人がずっと倖であるように祈るよ


リル・ルリ
🐟迎櫻
◇👀

ふふー!ぜりぃぱへも桜あいすも、甘々でおいしかったなぁ
でも一番甘かったのは──頬を染めたり瞳を潤ませたり角にこんもり桜を咲かせたり…そんな櫻の姿

よかった
また踏み出せて
君の戀を受け止めて幸を結んでくれるのは、死んでも死なないカムイだけなんだから!
そんな信頼感と安心感
だから僕も応援するんだ
僕のことだって櫻は大事にしてくれる
独占なんて、しなくていい
僕らの幸せの形はここにある

ばっちりだよ、カムイ
次はカムイがすまほほほほんで撮って

勿論だよ、カムイ
君も…君こそ幸せにならなきゃ許さないぞ!
愛を叶えてさ

りぼんだ!
桜色と白のリボンを両角に揺らしてご機嫌に歌う
白をカムイの手首に
赤を櫻に結ぶ
お揃いだね


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


心臓が弾けてしまいそう
カムイ?!
手を握られ生命の鼓動を教えられる
今すぐ抉り出してしまいたいくらい愛おしいわ!

荒ぶる戀心に抗っていたらぽぺんという音が
リルったら!また撮ったのね!
私変な顔してない?
顔をあげればすごく嬉しそうに笑っていてくれて
その眼差しも深海より深い心にも─救われているのね
紡がれる言葉が嬉しくて
戀も愛も歪なものしか与えられない私なんて幸せになってはいけないと
思っていたのに

ありがとう

愛している
戀している

心からの言葉を咲かせましょ
角に揺れる二つの赤いリボン

白を結ぶ二人に桜色のリボンを結ぶ
リルは角に
カムイは…首はダメ?
あなた達二人の色彩がまじりできた、桜色よ


之がしあわせなのね




 楽しい時間というのはあっという間で。
 過ごしている間はその時間がずっと続いていく気がするのに、夜の帳が降ろされれば時間の経過にハッとする。ああ、もう。今日が終わってしまうのだ、と。
 ――終わりの時間の巫女も美しい。
 ぼんぼりの優しい灯りの下の櫻宵の姿に、カムイはホウっとため息をつきたくなる。
「サヨ、寒くはない?」
「カムイ!?」
 唐突に手を取られた櫻宵は思わず声を裏返らせて。
 しなやかな手を取って、温めるように胸のあたりで握りしめられば――とくとくとくとく。早鐘を打ち続ける鼓動が、櫻宵にも伝わる。
 ――私と同じ、速さを刻む音。
 好いてくれている証。
 生きている証。
 噫、今すぐ抉り出してしまいたいくらい愛おしいわ!
(って、駄目よ。駄目! こんなところでスプラッターなんていけないわ!)
 血桜を咲かせるのは戦場か、ふたりっきりの場所でしっぽりとしなくては!
 ああ、でもちょっとぐらいなら……。そろりと胸へと潤んだ視線を向けてしまう。
 ――ぽぺん!
「あ! リルったら! また撮ったのね!」
「ふふー!」
「リル、しっかり撮れたかい?」
「ばっちりだよ、カムイ」
 今日の櫻宵は、頬を染めたり瞳を潤ませたり角にこんもり桜を咲かせたりと忙しい。その姿は、今日食べたゼリーパフェや桜アイスクリンよりも甘くて、リルとカムイの心を満たすものだった。
 カムイが後ですまほほほほんに送っておくれと口にするのを聞いて、櫻宵は慌てて頬を抑える。
「私変な顔してなかった!? 綺麗に撮れてた!?」
「勿論だよ、櫻。君はいつだって綺麗だし、可愛いよ。ね、カムイ」
「そうだとも。私の巫女はいつだって愛らしい」
「そ、そう?」
「僕はね、君が踏み出せていることが嬉しいよ」
 踏み出せずにいた櫻宵が、前を見てくれている。戀を知ってくれた。彼の戀は鮮烈で、リルには受け止められない。死んでしまったら、彼は悲しんでしまう。けれど、カムイは違う。カムイは死んでもしななくて、絶対に櫻宵を手放さず受け止め、幸を結んでくれる。
 強い信頼と安心感。
 ふたりを見ているとリルは胸が暖かくなるし、嬉しくなる。応援したくなる。
「僕は、幸せだ」
 心からそう思える。櫻宵はリルとカムイを分け隔てなく大事にしてくれて、ふたりはリルの傍にいてくれる。独占なんて、しなくていい。三人いっしょがいい。三人じゃないと駄目なんだ。それが、リルと櫻宵とカムイ、三人の幸せの形なのだから。
 深い湖の瞳が真っ直ぐに抱いてくれる気持ちは深く、心地よい。何度だって櫻宵を見つめて、真っ直ぐと想ってくれるその心に救われている。戀も愛も歪なものしか与えられない自分なんて幸せになってはいけないと思っていたのに、そんなことはないよと両手を握って、何度だって教えてくれる。
(教えてあげるって言ったのは私の方だったのに)
 だから、自然と言葉が溢れていた。
「ありがとう」
 愛おしくて、幸せで。
 あなたが、あなたたちが居てくれることが幸せ。
「……ありがとう、私に幸いを齎してくれて」
 カムイも静かに唇を開く。ふたりが居なければ、厄災であったカムイがこんなにも温かな気持ちを抱く日が来ることはなかっただろう。厄災の愛は禍を齎すものであるのに……戀をして、受け止められて、認められて――ふたりへの感謝を抱かぬ日がないくらいだ。
「咲良結びをしようか」
「リル、こっちを向いて」
「ん!」
「ありがとう、リル」
「リル、愛している」
「ありがとう、ふたりとも!」
 両角に桜色と白のリボンを結ばれたリルは幸せな気持ちでいっぱいになる。嬉しい気持ちを旋律に乗せて歌いながら、僕も僕もとカムイの手を取った。
「愛を叶えて幸せにならなきゃ許さないぞ!」
「私の神様、戀している」
「ありがとう、サヨ、リル」
 白を手首に、桜色を首に。そっと首元に触れ、幸せだと微笑むカムイの表情はいつもよりあどけない。
「愛しているよ、サヨ」
「ふふ! お揃いだね」
 櫻宵の桜角には、ふたつの赤が結ばれて。
 白と赤に、ふたりの色彩を混ぜた桜色。ふたつのうち、どちらかが欠けてもなりたたない。
 桜色。それが、しあわせの形。
(噫、之がしあわせなのね)
 やっと、わかった。
 あなたたちがいて、わたしがいて、いっしょにあれるこの時が。
 噫、私、しあわせよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
お待たせ、ペペル嬢(f26758)
夜の桜は二人で楽しみに

それにしても君にランタンを贈ったのが君の誕生日だったなんてね
改めておめでとう。気に入ってもらえたなら嬉しいよ
可愛らしいリボン、結ってもらえるなら喜んで
結ばれた小指の飾りを見つめれば、自然と笑みがこぼれる

私もね、百貨店でリボンを買ってきたんだ
共に桜を愛でに行くなら君に、とね
緑の生地に白の水玉
クリームソーダなリボンで、女学生のように君の髪を彩りたい
君が健やかに笑っていてくれますようにと、願って
こそばゆい気持ちは多分お揃いだ
とても愛らしく似合っているよ、ペペル嬢

願いをもらった小指を差し出し、指切りを
次も、また
そうやってささやかな約束を重ねよう


ペペル・トーン
桜彩る素敵な夜ね、エンティちゃん(f00526)

この間のお礼にリボンを用意したの
枝に結ぶのもステキだけど…
ね、貴方に結んで構わない?
花の香抱く白花のリボンを小指へ
貴方がずっと幸せで満ちるように
そっとお顔を見上げれば
同じように綻んで

お礼なのにまた贈られてしまったわ
でも、とても嬉しいわ
どこに、結ぶのかしら
僅かに瞬いて、可愛く結ぶのよ?と笑っても
頬赤らむのは隠せなくて
だって、誰かが髪に触れるなんて初めてで
こそばゆい気持ちで、溶けてしまいそう
ちゃんと、似合ってる?
今、幸せな心地だから、その目に映していてね

素敵な心地を続けたくて
結んだ願いを重ねるように、小指を絡め優しい約束を
また、一緒にお出かけしましょ




「お待たせ、ペペル嬢」
「桜彩る素敵な夜ね、エンティちゃん」
 笑顔とともに声を掛け合うふたりは、桜の下。
 夜に会おうと待ち合わせをしていたエンティが先に来ていたペペルへと待たせてしまったかなと近寄れば、緑の髪が揺れて彼の言葉への否定を露わにした。
「あの、ね。エンティちゃん」
 これ、この間のお礼に……とペペルが差し出すのは、梔子の香りを纏う白花のリボン。この間のお礼と聞いて、エンティにも思い浮かぶ物がある。先日彼女の誕生日に贈ったランタンのことだ。お礼にと言うことは気に入ってくれたのだろう。
「枝に結ぶのもステキだけど……ね、貴方に結んで構わない?」
「勿論、喜んで」
 ――貴方がずっと幸せで満ちるように。
 願いを込めて、ペペルはエンティの手を取った。
 どこに白花を咲かせてくれるのかと見守れば、エンティの小指に甘い香りの白花が咲く。自然と綻んだエンティの顔をそっと見上げたペペルも、彼の柔らかな表情に同じように笑みを咲かせた。
「私もね、百貨店でリボンを買ってきたんだ」
「あら、私のお礼なのに」
「共に桜を愛でに行くなら君に、と思ったのだけれど」
 貰ってはくれない?
 問う瞳に、「これではいつまで経ってもお礼が返せなさそうね」なんて、ペペルはくすりと微笑う。選んでくれた彼の気持ちが、素直に嬉しいから。
「良ければ君の髪を彩る栄誉も頂きたのだけれど……いいかな?」
 どこに結ぶのかしらと思っていれば、そんな言葉。瞳の奥でぱちりと泡が弾ける心地で、くるりと背中を――髪を、向けてやる。
「……可愛く結ぶのよ?」
 後頭部しか、きっと彼には見えていない。
 けれど、しゅわしゅわと沸き立つような気持ちに耳まで赤らむのを自覚して。
(こそばゆい気持ちで、溶けてしまいそう)
 誰かが髪に触れるのなんて初めてで、それも突然言われるだなんて、心の準備が全く出来ていないのだから仕方がない。……そう。これは突然だからだわ、なんて心の内で言い訳をしながら、意識は髪に触れる彼の手に向かっていた。
 ――君が健やかに笑っていてくれますように。
 緑の生地に白の水玉。クリームソーダのようなリボンは、百貨店で一目惚れをしたものだ。リボンを見ればペペルの姿が想像できて、思わず手に取ってしまったもの。それを女学生のように彼女の後頭部へ飾れば――うん、思っていたとおり、よく似合う。
「ちゃんと、似合ってる?」
「とても愛らしく似合っているよ、ペペル嬢」
 手の離れる気配にくるりと振り返れば、穏やかな笑み。
 お互いの瞳の中に映る、こそばゆい気持ちを互いに抱いた表情。
 しかしそれは、喜びの幸せ色。
「次も、また」
「ええ。また、一緒にお出かけしましょ」
 白花揺れる小指を差し出せば、幸せそうに笑んだペペルも小指を差し出して。
 願いを重ねるように小指を絡め、ささやかな、けれど優しい約束を。
 幾度も『また』が来るように、願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

幻想的で綺麗だなぁ
並木道の幻朧桜見上げつつ

お、この木だな
桜と一緒にリボンが咲いてる

…そっか
嬉しそうに表情緩め
えーと
結んでいい?
そっと瑠碧の髪に触れようと

…1度結んだ位じゃ上手くなんねぇなぁ
前に結んだのは彼女の誕生日の時
四苦八苦しつつ手にした一束にくるくる巻いて縛る
…うーん
やっぱ不格好だなぁ

そう簡単に上手く出来ねぇな
大切にしたいのに
しょっちゅう泣かしちまう
それと同じだ

だけど
側に居たい
だからちょっとずつでも
一緒に前に進めたらって
そう強く願う

嬉し泣きかよ
…そんなら一杯泣かしてぇ
ぼそりと

見直して
前よりちょっとはマシか?
手を放そうとし留まり耳元で囁く
…好きだよ瑠碧

瑠碧も結ぶ?
照れ隠すように腕出し


泉宮・瑠碧
【月風】

幻朧桜…
春の時季は、更に満開に感じますね
咲良結びの樹に、揺れる組紐も綺麗…

結ぶ…あ
自分の髪を結っていた空色のリボンを解いて理玖へ
青だけれど…
結んでくれるのなら
誕生日に貰った、理玖のリボンが良いです

苦戦する様子に
貰った時も同じだったと思い出して

…あの時は姉貴分で
いつか理玖は、誰かの元へ去るのだと
淋しかったけれど
…私なんかを
想ってくれているとは、思わなくて

結ぶ理玖の言葉を聞いて
泣くのは、私が弱いからで…
嬉しい時も、泣きます

一杯…お、お手柔らかに
と返せば囁かれて真っ赤に
…私も、好きです

は、はい…結びます
理玖の傍に居たい
不格好でも、日々を積み重ねて
ずっと…
願いを籠めて白い組紐を愛しい人の手首に




 幻朧桜の咲く帝都は、花の都。いつ来ても桜が咲き誇り、美しい。――けれど、春の時季は普通の桜も春を謳い、更に桜たちが咲き誇っているように思える。
 両脇から枝を広げる、幻朧桜のアーチ。見上げればどこまでも闇の中に桜色の屋根が広がり、ぼんぼりが美しく照らしてくれている。綺麗だなぁと見上げる理玖の口が開きっぱなしなことに気付いた瑠碧はくすりと笑い、彼女の笑みに気付いた理玖がどうした? と瑠碧を見る。なんでもないと首を振り、それでもくすくす笑みは止まらずに。楽しく並び歩けば、気付けば件の八重桜の前。
「お、この木だな」
「絹紐も綺麗ですね……」
 風が吹く度、結ばれた白い絹紐が揺れる。
 それがまた美しく、人々は愛おしげに桜を見つめている。
「理玖。あの、これ……もし結んでくれるのなら、理玖のリボンが良いです」
「……そっか」
 手渡すのは、髪を結っていた空色のリボン。
 誕生日に彼が贈ってくれた、瑠碧の宝物。
 それが良いのだと言われたら、理玖の胸にじわりと嬉しさが滲んでいく。彼女と居る時はいつもそうだ。何気ないことが嬉しくて、いつも胸が満たされる。
「えーと、結んでいい?」
 髪に触れる前に尋ねて、確かな頷きが返ってきてから、触れる。
 瑠碧の髪を結ぶのは、二度目だ。一度目は、彼女の誕生日の時。柔らかな髪は掬った傍から滑り落ちていき、髪質の違いというものを知った。
(……一度結んだ位じゃ上手くなんねぇなぁ)
 懸命に、けれど引っ張らないように気をつけながら彼女の髪を束ね、くるくるとリボンを巻きつけてみた。けれどやはり、不格好だ。
(理玖がまた苦戦してる……)
 誕生日に結んでもらった時、あの時は今と関係が違った。瑠碧はただの姉貴分で、いつか理玖は誰かの元へ去るのだと思っていた。それが淋しいと気付いて、けれど自分なんかを想ってくれているだなんて思わなくて――。
「……大切にしたいのにしょっちゅう泣かしちまうし」
 上手く結べねぇなと頭を掻いての独り言。
 かなり苦戦をしいられているようだ。
「泣くのは、私が弱いからで……嬉しい時も、泣きます」
「嬉しくても泣くの?」
「……はい。涙腺が、弱くて」
「……そんなら一杯泣かしてぇ」
「え……っと、一杯……お、お手柔らかに」
 小さな呟きに、本日何度目かの頬に熱。
 先程よりも上手く結べたことに満足を覚えた理玖にも、その頬は見えている。
「……好きだよ瑠碧」
 離れ際にそう耳元に囁やけば、耳まで赤くなりながら「……私も、好きです」と言葉が返ってきた。
「瑠碧も結ぶ?」
「は、はい……結びます」
 言葉の余韻もなく、ずいっと腕を出すのは照れている証拠。
 彼も同じ気持ちなのだと気付いて微笑んだ瑠碧は、理玖の手首へと白い絹紐を結ぶ。
 ――理玖の傍に居たい。
 不格好でも、日々を積み重ねて、ずっと……。
 そうあれますようにと、願いを籠めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【BAD】👀
うむ。
私の弟妹(暫定)は桜もまた似合って良い
穏やかな時間だ……私は……そうだな……この樹と同一だ
あの二人の優しい時間を引き立てる舞台の一部
それが今の私……

紐を結ぶのが流行とは、良いものだな
赤にしたのか
運命の糸の色……最早何を言うこともないな……
睦まじく声を交わす二人……これが『えもい』という感情……(胸を押さえる)
どうかこの二人に永遠の幸福があると良い

このまま、二人が幸福な時間を過ごすのを永遠に見ていたいな……
ん?あっ 今エコーと目が合っ――
うわー!!違うんだエコー!!兄ちゃんはただ二人を見守る桜みたいなもんで
あー!!許してくれー!!殺さないでくれ!!助けてくれー!!!


エコー・クラストフ
【BAD】

夜の桜は朝とか昼とは違うね。陽の光があるときは、自分が主役! と言わんばかりの感じだけど、夜になるとすごく静かに思える
お互いに紐を? ふーん、そういうおまじないかぁ
それじゃ、ボクからはこの赤い紐。……ハイドラも、ボクに赤い紐をくれる?
運命の赤い糸、ってあるよね。お互い結んでおけば、いつでもお互いを見つけられるかもしれないから
……咲良になぁれ
はは、ちょっと恥ずかしいね……

何もなくても、ハイドラと一緒にいるだけで楽しいね
景色も綺麗だし、静かだし、ボク結構この世界のこと気に入ったかも
……ん? 兄貴? あっ(発見)
まさか……今までずっと見て……奴が……
こ……殺す!!!!!!!!!!!!


ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
どこみても桜だらけだと思ってたが
夜になるとまた見え方が違うな
ああやってお互いに紐結ぶのがトレンドなわけね
エコー、やろーよ
赤色のがいいな。独り占めしてくれる?
邪魔にならないように
髪の毛に結んであげるね
――咲良に、なぁれ。
こっちの世界でのおまじないフレーズだってさ

人ごみよりも、二人きりの静かさが好きだ
祭りの灯を遠くから見てるほうが落ち着く
……ウーン、タコ焼き。オオサカに負けず劣らずおいしい…
なんかちょっといいムードになってきたな
くっついちゃおっかなって――ねえ、エコー
……さっきから何か、妙なんだけど
この気配、……兄貴がいるな!?
兄貴ッ――逃げ……ワーー!!エコー!!ストップストップー!!




 ――うむ。私の弟妹(暫定)は桜もまた似合って良い。
 幻朧桜の並木道に身を隠したニルズへッグがこっそりと覗うのは、愛しく可愛い妹たちの姿だ。寄り添いあいながら楽しげに桜を愛でる姿に、胸に何とも言えぬ感情が押し寄せてくる。それは足元を擽る小波のようでいて、けれども大きな口をパクリと開けて飲み込んでくるような大波のようにも思える。穏やかに浸っていたいような、飲み込まれて感情のままにこの激情を語り明かしたいような、そんな心地にさせられる。
 妹という存在は偉大だ。ふたりを眺めているだけで日々の疲れを吹き飛んでいく。あのふたりの優しくも穏やかな時間を見守るためならば、人という存在をやめてもいいかな……なんて思えてくるほどだ。
(私は……この樹と同一だ。あの二人の優しい時間を引き立てる舞台の一部。それが今の私……)
 嗚呼、妹たちよ……。兄にいつまでも見守らせておくれ……。

「夜になるとまた見え方が違うな」
「陽の光があるときは、自分が主役! と言わんばかりの感じだけど、夜になるとすごく静かに思えるね」
 兄が後方に潜んでいるとは知らず、エコーとハイドラのふたりは仲睦まじく桜花の天蓋の下を歩いていく。向かう先は、噂の八重桜の下。そこに流行りのものがあるのだと、ハイドラがエコーの手を引いて。
「っと、見えてきたぞエコー」
 あれだと指差す先では、幾人もの人々が細めの白い絹紐(リボン)を桜の枝へと結びつけている。それ以外にも、一緒に来た相手へと用意してきた絹紐を結ぶ姿も窺えた。
「ああやってお互いに紐結ぶのがトレンドなわけね」
「お互いに紐を? ふーん、そういうおまじないかぁ」
「エコー、俺たちもやろーよ」
 ――赤はふたりだけに通ずる所有の証。
 ならば、ハイドラは迷わず赤を選ぶ。
 配られている絹紐は白のみだから、赤いもの、赤いものと所持品を探してみる。
「お、あった」
 贈りあったプレゼントの、梱包の絹紐。
「運命の赤い糸、ってあるよね」
 結んでおけば目印になって、きっといつでもお互いを見つけられる。
 邪魔にならないように結ぶねと、エコーの髪へと結んで。
「――咲良に、なぁれ」
 こっちの世界でのおまじないフレーズだってさと笑い、俺にもちょうだいと強請る。
「独り占めにしてくれる?」
「……咲良になぁれ。……はは、ちょっと恥ずかしいね……」
 けれどハイドラの表情を見れば、恥ずかしくてもやってよかったと、そう思えた。

(――ぐぅっ!)
 そんな二人の姿を見て突然胸を抑えたニルズへッグに、近くを通りかかった透櫻子が心配をする。私みたいに萌えに心臓が耐えきれないのでは!? と思ったようだ。
 しかし、このニルズへッグと言う男、妹たちの結婚までは死ねない身。どんな萌えが襲おうと、『えもい』を習得して膝を着こうが、生き延びねばならぬのだ。
 ふたりの永遠の幸せを願い、いつまでもこのふたりを見ていたい。
 なんとか激しい萌えを落ち着かせ、またこっそりと窺えば――ふたりは屋台の方へと移動している。たこ焼きの屋台でひと舟買い、仲睦まじくふたりで分け合い、美味しいと笑い合う。そんな妹たちも100点満点。早く教会が来い。
「……ウーン、タコ焼き。オオサカに負けず劣らずおいしい……」
 時折ふーふーと冷ましてからあーんっと食べさせ合えば、ふたりの距離も近づいて。
 食べ終えてもこのままくっついていたいなぁなんて思――……、
「――ねえ、エコー。……さっきから何か、妙なんだけど」
「妙?」
「なぁんか視線を感じると言うか、気配を感じると言う、か……」
 気配?
 ハッとしたハイドラが、バッと振り返る。
「この気配、……兄貴がいるな!?」
「……ん? 兄貴? あっ」
 突然振り返ったふたりに、どうしたんだとニルズへッグが思うのも束の間。バッチリと目が合――ってしまった。確 実 に バ レ た !
「まさか……今までずっと見て……奴が……」
 いつから見ていた?
 今だけなんて絶対にありえない。
 だとしたら最初からだ。最初からずっとふたりの後をつけて、あんなこともそんなことも、ずーーーーっと……!
「こ……殺す!!!!!!!!!!!!」
「うわー!! 違うんだエコー!! 兄ちゃんはただ二人を見守る桜みたいなもんで!!」
「兄貴ッ――逃げ……ワーー!! エコー!! ストップストップー!!」
 首切り鋏を手に地を蹴ったエコーは、止まらない。ハイドラの声が既に聞こえていないのだろう。慌てて逃げ出したニルズへッグを無表情で追いかけ、切断せんとする。
「あー!! 許してくれー!! 殺さないでくれ!! 助けてくれー!!!」
 美しい桜並木に哀れな悲鳴が響き、人々が道を譲る。
 其れに感謝する暇もない。
 ニルズへッグは、死にものぐるいで駆ける。駆けて駆けて駆け抜ける!
 可愛い妹たちの結婚式に参列するまでは、首と身体を分かれさせる訳にはいかないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【🐰🍭💊】
もうごっこ遊びはお終いでいいか?
どっかでお嬢さんは満足してんのかねぇ
俺の演技力もなかなかだろう?

おー…気が利くじゃん……ありがとよ
はいはいお優しいですね〜と受取り

立ち並ぶ屋台は縁遠くて物珍しい
花より団子ってこのことか?
白うさぎが言う"アレ"へ視線を向け
食べ歩きには向かないチョイスに勘弁と肩を竦め
見るからに甘そうな誘いは丁重にお断り
じゃあフランクフルトにするわ…
ビールがあれば最高なんだけどな
今回は我慢ってことで

いつ見てもこの世界の桜は見事だな…
咲良結びのリボンはいつの間にかさっさと結び終えて、何かを願ったかは腹の中
ふは、ドラマのヒロインみたいで良かったろ?
退屈しない一日だったな


真白・時政

【🐰🍭💊】
今日はとォ~っても楽しかったねェ~
ウンウンきっとウサギさんたちのお芝居楽しんでくれたと思うヨ

お疲れサマってメルちゃんに渡すのはあったかい桜ラテ
仕方ナイからジェイくんの珈琲も買ってきてあげたヨ
ウサギさんってばヤサシーんだからァ~

ネネネ、ウサギさんリンゴ飴食べたァい
あ、わたあめも!
お姫様用のちっちゃいヤツはウサギさんが買ったげるネ
アッチコッチ、おいしそォなにおいにスキップでもシそーなウサギさん!
ジェイくんも何か食べたらイイのに~
選ばないとアレにスるよってもつ煮込みのお店を指さす

折角だカラ咲良結びシて帰ろっか
おっきくてキレーな桜を見上げてお願いスるのはみんなのコト
また遊びにいこーネ


メール・ラメール

【🐰🍭💊】
早速ポシェットを肩に掛けてご機嫌
あら!メルちゃんはふたりと一緒で楽しかったよ?
演技じゃなくて、ほんとにね
とってもとってもドキドキしてしまいました!
ちょっと悔しいのです、むむう

ウサギさんの気遣いと桜ラテにほのぼの
じゃあアタシ、ウサギさんにリンゴ飴買ってあげる!
ジェイちゃんは何か食べたいものある?
アタシ?イチゴのクレープが食べたいな
ジェイちゃんも一口食べる?
甘くて食べられなさそうだけど!とけらけら笑って

咲良結びでお願いしたいこと…
いっぱいあって決められないから、
リボンはこっそりポシェットに仕舞って
また遊びに来るときは普通にね、普通に
いや、うん、だってとっても恥ずかしかったもの!!




 楽しい時間はあっという間。
 燃えるような太陽が空の彼方に落っこちて闇色の帳が降りてきたのなら、舞台の幕引き。本日の公演『三角関係』にお付き合い頂き誠にありがとうございましたと、アナウンスが入る頃合いだ。
 とっても楽しかったねェと笑う時政に、うんうんとメールが大きく頷く。楽しさを表す跳ねるような足取りが、真新しいポシェットをも跳ねさせた。
「メルちゃんはふたりと一緒で楽しかったよ」
「どっかでお嬢さんは満足してんのかねぇ」
「ウンウンきっとウサギさんたちのお芝居楽しんでくれたと思うヨ」
「俺の演技力もなかなかだろう?」
「とってもとってもドキドキしてしまいました!」
 可愛くて我がままなお姫様と、彼女を取り合うふたりの青年のお芝居。メールはいつもと違う自分にムズムズして、自分を取り合うふたりにたくさんドキドキした。これはお芝居と何度も言い聞かせた、とまでは恥ずかしくて言えない。だって悔しいじゃない。ふたりとの経験値の差っていうの? それが見えてしまう気がするし、自分だけトキメキっぱなしだった、なんて!
「あれ? ウサギさんは?」
 今日一日の言動を思い返して、思わず熱くなってしまいそうな両頬を抑えている間に、白い彼の姿が見えない。ジェイがアッチと指差す方向から、温かな湯気を昇らせる紙コップを手に時政が小走りに戻ってきた。
「メルちゃん、お疲れサマ~」
「わあ、ウサギさんありがとう!」
「仕方ナイからジェイくんにも買ってきてあげたヨ」
「おー……気が利くじゃん……ありがとよ」
「ウサギさんってばヤサシーんだからァ~」
「はいはいお優しいですね」
 差し出される桜ラテと珈琲が、太陽とともに下がり始めた気温で冷えた指先を温めてくれる。
「ネネネ、ウサギさんリンゴ飴食べたァい」
「じゃあアタシ、ウサギさんにリンゴ飴買ってあげる!」
「わァ、イイの? それじゃあ、お姫様用のちっちゃいヤツはウサギさんが買ったげるネ」
 甘いものが大好きなふたりは目当てのノボリを見つけて歩いていき、ジェイは物珍しげに屋台を眺めながらゆっくりとふたりの後を追う。
「この飴、着色してあるだけじゃナイんだってェ~」
「あ、本当。桜の味!」
 大きさ違いのピンクのりんご飴を齧って、美味しいねと笑い合う。
「ジェイちゃんも一口食べる? 甘くて食べられなさそうだけど!」
「答えが分かっているなら聞くな」
 けらけら、んフフ!
「わたあめも食べヨ」
「アタシはイチゴのクレープも食べたいな」
(花より団子ってこのことか?)
 楽しげに笑ったふたりが次の甘味を求めて動き出すのを、ジェイは静かに見守りながらただついていく。騒々しすぎれば勘弁だが、楽しいのは何よりだ。
「ジェイくんも何か食べたらイイのに~」
「俺は別にいい」
「モ~、選ばないとアレにスるよ」
「じゃあフランクフルトにするわ……」
 アレと指差された『モツ煮込み』のノボリに食べ歩きにくいだろと肩を竦めて、その隣のフランクフルトの屋台を指差した。一緒にどうですか合いますよと勧められる麦酒に惹かれたが、今回は我慢。時政がくれた珈琲もまだ残っている。一口噛めば溢れる肉とは違う香りに、桜の葉が練られていることを知った。
「折角だカラ咲良結びシて帰ろっか」
 たくさん買って、たくさん食べた頃に時政の提案。否やを唱える者はいない。
 三人で八重桜の下に向かって、メールの手が届きそうな枝がある位置で桜を見上げる。早速桜へと手を伸ばした時政が手を伸ばし皆のことをお願いしながら結ぶ横で、メールは枝を撫でるだけ。
 乙女のお願いは尽きぬもの。メールの頭にはあれやこれやとたくさんのお願いが浮かんでしまって、ひとつになんて決められない。ふたりに言えば、きっと全部願えば? なんて云うだろうけれど何だかそれも欲張りみたいで恥ずかしいから、リボンはこっそりとポシェットにしまうことにした。
「また遊びにいこーネ」
「また遊びに来るときは普通にね、普通に」
「普通がイイの?」
「いや、うん、だってとっても恥ずかしかったもの!!」
「ふは、ドラマのヒロインみたいで良かったろ?」
 もう、からかわないでっ! と見上げたジェイの頭の高さの枝には、ちゃっかりと結ばれたリボンがあって、願いをわざわざ口にするような彼ではないけれど、彼なりに楽しくすごせたのだろう。
「やり残しはないか?」
 ないなら帰ろう。くるりと踵を返したジェイが歩き始めるが、
「あ、待って! あの鯛焼きも食べたいかも!」
「白い身体に桜餡!? オイシソォ!」
 ふたりは新たに見つけたノボリへ一直線。
「……まだ食うのかよ」
 肩を竦めてふたりの後を追う。
 悪い気はしていないし、アイツらといると退屈はしないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】

ふぅん、奇遇ですねぇ
赤は所有の証、なんて
まあ、もうとっくに所有印は刻んでいますけど
思い出すのは寵印の彼岸花
既に縛って留めて手放す道なんてたったふたつしかない
私が消えるか
この子が幸福になるのを見届けるか

……もう少し結んでおきましょうかねぇ
君は直ぐ優しさでふらふらしますから
笑ってカフカの右手首に赤い組紐を己の鈴と同じ花結び
どうか君に幸あれと、厄災には似合わぬ願いを

……っ、びっくり、しました
封印を解かれれば本来の姿に
不思議そうに、結ばれた髪紐に思わずきょとんと言葉もなく

何時か、手放す日が来るのが当然だと思っているのに
……思って、いる、のに

(……嗚呼、手放したくなくなったらどうしてくれる)


神狩・カフカ
【彼岸花】♢

一番見慣れた赤が所有の証かい
なんつーかできすぎてるよなァ
作家らしく表現するなら運命ってところか
空いた手で思わずなぞるのは
隣の妖が己に刻んだ彼岸花

おれが優柔不断みてェな言い草だな
右手に咲いた赤をじっと見て

…お前さんが何考えてるか知らねェが
妖の鈴を外してやれば
出逢った頃から見慣れた青年の姿
このほうが目線があって疲れねェや
己の髪を解いたなら、それではふりの髪を結んでやる
それは奇しくも赤い紐
…おれの髪に馴染む色がこれだからってだけサ
別に他意は…いや…
一呼吸置いたなら彼を見据える

似合わねェことされると調子狂うンだよ…
…いつも通りおれのこと好きにすりゃいいだろ

おれはお前から離れるつもりはねェよ




 淡い色の桜の樹の下で、濃い赤を贈り合う人々。
 人々の顔はどれも幸せそうで、嬉しそう。
 赤を、『所有の証』を、受け取ってもらえた喜びからだろうか。
「ふぅん、奇遇ですねぇ」
 口元に袖を当てた祝がチラリと視線を送るのは、言わずと知れた傍らでムスッとした顔をしてみせたカフカである。袖で隠しきれていない笑みが、なんだか腹が立つ。
「なんだよ」
「いえね、別に」
 赤い、所有の証。似たようなものがカフカには刻まれている。
 幼い日に己を畏れなかったという理由で刻んだ寵印の彼岸花。
 君は私のものだと縛る証。
 手放す道はふたつだけ。
(私が消えるか。この子が幸福になるのを見届けるか)
 さて、どちらが先なのでしょう。
 くすくすと楽しげに笑う祝を胡乱げに眺めながら、カフカの手は思わず寵印をなぞっていた。
「君、手をお出しなさい」
「……なんでェ」
「折角ですので、私たちも或れをしましょう」
 或れ、と袖でさすのは、桜の樹の下の男女の姿。
 証なんてもうあるだろうと言うのは簡単だ。簡単だが、この妖はやると決めたらやる。長い付き合いから心得ているし、先だっての百貨店だってそうだった。
 差し出された手に、素直でよろしいと祝が微笑った。
「……もう少し結んでおきましょうかねぇ」
 カフカの右手首に赤い花を咲かせてやる。
(どうか君に、幸あれ)
 厄災には似合わぬ願いは、口にしない。この子に伝わらなくてもいい。この子が幸福になったのなら、己は手放すのだから。
「君は直ぐ優しさでふらふらしますから」
「おれが優柔不断みてェな言い草だな」
 開けば叩かれる軽口にはそう云うが、花結びに結ばれた赤い紐を見つめる顔には不満の色は薄く――悪くないと思ってしまったカフカはそっと白皙に睫毛の影を落とした。
「……お前さんが何考えてるか知らねェが」
「何も悪いことは考えていませんよ」
「そうかい」
 シュッと紐を引き、妖の鈴を外してやる。
「……っ、びっくり、しました」
 突然封印を解かれた祝の丸い瞳が、同じ目線。出逢った頃には見上げた姿が、同じ高さになったのは何時からだったろうか。
 祝が驚いている間に自身の髪紐を解き、それで祝の髪を結んでやる。
 その色は、赤。
「……おれの髪に馴染む色がこれだからってだけサ」
 きょとんとした顔で不思議そうに髪紐を見る祝に、まるで言い訳みたいにそう口にして……いいや、これは言い訳だ。
(似合わねェことされると調子狂うンだよ……)
 眼前の男を見る。幼子ではない、男。
 絡め取ったのも己ならば、手放すのも己だと思い上がっている男。
 だからこの際、ハッキリと告げてやる。
「おれはお前から離れるつもりはねェよ」
 くしゃりと歪む表情に、男の困惑が解る。
(……嗚呼、手放したくなくなったらどうしてくれる)
 ひとつ白星を上げた心地で有言実行するかの如く男の手を取り、桜並木の通りへと戻っていく。
 お前、桜ラテも好きだろ? と、いつもより強引に手を引いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レオナール・ルフトゥ
♢♡
冬月 (f24135)と

本当に普段通りだったんだけど、これでいいのか少しばかり悩む。
でも、満足しているとのことだし、いいのかな?


次は公園か、百貨店には行かなかったから今日はずっと外だね。
屋台の食べ物もおいしそうだね、店で食べるものとはまた違う趣もあるし。
…食べ物の話題ばっかりだね、僕たちは。

人が多いから、踊るのはまた今度ね。
ほら、奥に『咲良結び』があるみたいだよ。屋台の人にもらって行こうか。桜に結ぶみたいだ。
え?僕に?
ありがとう、じゃあ僕も冬月に。君がこれからも楽しく踊れるようにね


いつか君にも赤を渡す相手ができるだろうけれど。今は家族としてもらっておくね。
いや、でも髪はやめて…


十字路・冬月
レオナ(f08923)と一緒!♢♡
レオとも呼ぶよ

屋台だよっ
美味しそうだねえ
屋台ってさ、なんか全部制覇したくなるよね。
意外にいいお値段してるから難しいけど…
まずはどれ食べる?お腹一杯になったら踊れば大丈夫だよねっ
美味しい食べ物の話は大切だよー。屋台の味もマスターしてねレオ!

ふんふん、このリボンを結べばいいんだね?誰かのためにかあ。せっかく一緒にいるんだし、レオのことをお願いしよう。レオが楽しく料理できますように、一緒にダンスしてくれますように…

友達とか家族に贈っていいんだって。レオナに結んどこうかな。リボンつけていたら面白そう…じゃなくて、かわいい…まあいいや、似合うよ!髪に結んであげる!




 朝から大通りに並ぶ店を見て回り、お腹が空いたらカフェーのテラスでランチにして。今日はずっと外だねとレオナールが笑えば、レオナとずっと一緒で楽しいと冬月が笑った。
 幸せで、穏やかで、充実した一日。普段どおりの何気ない休日を過ごしてしまった感があるけれど、これで本当にいいのかな……なんて少しばかりなやむけれど、チラリと見かけた件の影朧の乙女はとても生き生きとしていた。これでいいのだろう。
(こういうので救えるのなら、いつでもこうならいいのに)
 戦場に身を置くことの方が多い猟兵の身なれど、平和的に解決できる方がレオナールの性質に合っていた。
「見て、レオ。屋台だよっ」
 大通りを抜けて公園に入り、そうして桜並木を見上げながら歩を進めよう――としたところで、早速レオナールが屋台を見つけた。
 日が落ちて気温が少し下がったからか、屋台からホコホコと温かな湯気が昇っている。立ち寄る人々はみな笑顔で、何が売られているのかは解らないが『美味しそう』だと思えた。
「まず、どれ食べる?」
 屋台で買って外で食べる食事は、店で食べるものとはまた違った趣がある。イベント事に出店している屋台は出店料のこともあってちょっと高い気はするけれど、それでも食べたいなと思える魅力に溢れている。
「全部を食べるのはお財布的には厳しいから、食べたいものを選ばなくちゃ!」
「……食べ物の話題ばっかりだね、僕たちは」
「美味しい食べ物の話は大切だよー。屋台の味もマスターしてねレオ!」
 ニコッと笑った冬月は、早速すみませーんっと屋台に突撃していった。お腹いっぱいになってしまっても踊ればお腹が空くから肉料理の元へ一直線!
「鶏つくね、おいしかったね!」
 この気持ちを踊りで表現できそうと腕を振る冬月に「今日は人が多いからまた今度見せてね」と微笑ったレオナールは、ほらと指をさして彼女の興味を浚う。
「ほら、奥に『咲良結び』があるみたいだよ」
 桜に結ぶ絹紐を屋台の人にもらい、お互いの手のひらには白くて細いリボンがひとつずつ。
「ふんふん、このリボンを結べばいいんだね?」
 誰かのことを想い、願いを託す咲良結び。
 誰かのためにかあ。
 ちらりと見上げれば、どうしたのと言いたげにレオナールが微笑む。
「レオナ、屈んで」
「ん?」
「友達とか家族に贈っていいんだって。だったらレオナに結んどこうかなって」
「え、僕に?」
 うんと頷いた冬月は、レオナールの髪へと手を伸ばす。
「いや、髪はやめて……」
「かわいい……じゃなくて、似合うのに!」
「僕も冬月に結ぶから」
 ぶうと頬を膨らました冬月が、その言葉だけでパッと笑顔になる。
「レオが楽しく料理できますように、一緒にダンスしてくれますように……」
「君がこれからも楽しく踊れますように」
 手首に揺れる、おそろいの白。
 いつかお互いに赤を渡す相手が出来るかもしれないけれど、今は家族としてリボンを揺らそう。
「よし、レオナ。次は何食べよっか!」
 咲良になぁれと聞こえる声を背に、冬月は踊るような足取りで屋台へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【花結】♢

真白が揺れる並木路に
逢えた君の姿を眺めて
指先で眦柔く撫ぜれば
赤滲むことに、眸細め

君に赤を添えるのを
泪に先越されたけれど
素敵な贈り物があるんだ
少し座ってくれるかい
緩やかに長椅子に導いて

僕から贈る赤は足首へ
元も、今も、色のない場
染め直すも、彩付けるも
“僕のもの”としたいから
其処に色を添えたくて

嘗ては曖昧に滲む恋色で
白薔薇を染めたものだが
今贈る赤薔薇は
恋心に染まり切るよう

ね、僕も恋うていい?
君の所有の証が欲しいな
眸留まる赤に頬が緩む

ああ、その度に嬉しく思い
君を想い、幸を綴ろうか
赤結ぶ手を頬添え
翳す帽子で他の視線遮り
触れるだけのくちづけを

互いに秘するでなく
誰かに秘するような
ないしょが、ふたつ


ティル・レーヴェ
【花結】♢
逢えたあなたの姿をみとめ
愛しかんばせから得る安堵
裡解すよな眼差しに
伝う雫は眦染める

あなたの傍では
儘と在れるがこそ
零れる全てが大切、と
撫ぜる指先に頬寄せて

導かれし儘
贈られる証に詞に
己の全て
あなたに染まり満ちてゆく

届く“欲しい”の言葉も
裡を擽り
あなたに贈る欲張りな証は
ふたり
よく見える所に結びたい

だから
ペン握り幸綴る其処
この身に触れ繋がる其処
利き手の手首へ赤結ぶ

眸映す度実感なさって
あなたは“妾のもの”なのだと
そして同時に
あなたの染めた薔薇色が
妾をもまた染めていると

初めて重なる唇どうし
密やかに交わされる其れに
ふるりと身を震わせて
愛しの熱で潤けた眸は雄弁に

妾は“あなたのもの”よ
今も先も、ずっと




「やあ。お待たせしてしまったかな、ティルさん」
 幻朧桜で桃色に染まる並木道に見つけた愛しい彩へと声を掛ければ、上げられた顔は安堵の色に染まった。
 あなたに逢えるのが楽しみですこぅし早く来てしまったのと口にするよりも先に、零れ落ちるのは透明の雫。
 胸の内にも桜が咲いたかのように愛しさが溢れて、眦濡らし溢れ落つ。
(嘗ての己ならば、彼女の涙ひとつに狼狽えていただろか)
 胸に溢れる愛おしさと喜び。同じものを抱いているのだと思える今となっては、頬濡らす雫ひとつでさえ愛おしいもの。伸ばした手で柔らかな頬を包むように眦を撫でれば、年齢を感じさせる手にあなたの傍では儘と在れるがこそ零れる全てが大切と頬が預けられて。
「ティルさん、素敵な贈り物があるんだ」
 ライラックがティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)の手を取り導くのは、桜の並木道添いのベンチ。
「少し座ってくれるかい」
「うん、ライラック殿」
 導かれるままに座れば、傅くようにライラックが膝を地につけた。
 ティルが驚くよりも先に、そっと足首へ触れられて。
「染め直すも、彩付けるも“僕のもの”としたいから」
 嘗ては曖昧に滲む恋色で白薔薇を染めた。けれど今手にするのは、恋心に染まりきった赤薔薇。
 ――此処を僕のものと、証を贈らせてくれるかい?
 囁くような声に、既に赤に染まりきったティルはこくんと小さく頷くだけで精一杯。
 足首にキュッと結ばれた赤薔薇からも、全身へと熱が駆け巡るよう。
「ね、僕もこうていい?」
 ――君の所有の証が欲しいな。
 彼女の隣に腰掛けて、顔寄せ強請るはあまやかな証。
 それは、愛をちょうだいと言われていることに他ならず、
「妾も贈りたいと思うていたの」
 蕩けてしまいそうな想いを胸に、欲張りな証をあなたへ贈る。
 贈る場所は決めてある。妾は欲張りだからと、ふたりからよく見える場所。
 ペン握り幸綴る其処。この身に触れ繋がる其処。彼の大切な其処。
 手を出してと告げて、赤を結ぶのは愛しい彼の利き手。
「眸映す度実感なさって。あなたは“妾のもの”なのだと」
 ――そして同時に、あなたの染めた薔薇色が妾をもまた染めていると。
 真っ直ぐに見上げる眸が愛おしい。
 真っ直ぐな詞が、想いが狂おしい。
「君を想い、幸を綴ろうか」
 贈られた赤が揺れる手を伸ばし触れるのは、真赤な林檎のような頬。
 嗚呼、それが。本当に食べてしまいたいくらい愛おしいものだから。
 翳す帽子で遮って、ないしょをふたつ、重ねよう。
 初めて重なる唇にふるりと羽を震わせて、けれどあまやかに受け入れて。
(妾は“あなたのもの”よ。今も先も、ずっと)
 愛しの熱で蕩けた眸は雄弁に菫色へと語り、熱に解けるように緩やかに閉ざされた。
 そうすれば、ほら。
 世界はあなただけ。

 ――Under the Rose.
 想いを隠した薔薇の下。
 隠した恋慕を暴いたのは君だから。
 隠す口吻は帽子の陰で――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
♢【森】
どうか透櫻子へ桜の加護があるようにと
白いリボンを八重桜へ結ぶ
「透櫻子、満足できたかな」

彼の言葉が僕の中の雲を晴らして
「うん、きっとそうだね」
にこりと咲んで、更に祈りを強くした


「ふふ、そう。だから僕も赤を選んだのよ」
赤は僕達にとっても特別な色
お祝いの日に彼がくれた1本の赤い薔薇
意味は『愛している、あなたしかいない』
誕生日にくれたのは108本
思い返すだけで幸せ

そして彼の命を繋ぐ、僕から贈る愛(血)の色

手招きして彼の角に赤いリボンを結び
「へへ」
その可愛らしさと嬉しさと
ちょっぴりの気恥ずかしさにふにゃりと咲んで

彼からのリボンを角に
言葉には幸せと歓び溢れ

うん――!

抱き付いて
ブラッドだって僕のもの


ブラッド・ブラック
♢【森】
サンと二人、少女の幸いと無事の転生を願い
八重の桜に白いリボンを結ぶ

「嗚呼……、――いや。きっと満足できただろう」
他にも猟兵は居たのだ
己の自信の無さを口にして徒にサンを不安がらせる必要も無い
ほら、此の笑顔が正解だ


「赤はふたりだけに通ずる所有の証、だったか」
書物の二人はどうなったのだろう
俺達の行く末は――
先に俺の寿命が尽きる事も
子孫を残せぬ事も
お互い理解し其れでもと決めた事

ならばもう迷う事も無い
俺はお前から奪った可能性の分だけ
誰よりもお前を愛し、幸せにすると誓っている

サンからのリボンを角へ
お返しの赤いリボンはサンの金剛石が如き角へ

見詰め頬撫で告げる
「愛している。お前はずっと俺だけのものだ」




 ぼんぼりの優しい灯りのもとに咲く桜は、夜闇に照らされて。
 美しさよりも暖かさを感じる光景に瞳を輝かせて幻朧桜の並木道を抜けたサンとブラッドは今、ふくふくと花弁を重ねた八重桜を咲かせる桜の樹の下にいた。
 道中で得た白いリボンをふたり並んで枝へと結び、願うのは今にも消えてしまいそうな儚――くも元気な乙女のこと。
 どうか桜の加護がありますように。
 そして無事の転生と、その先の生が幸いに溢れたものでありますように。
「透櫻子、満足できたかな」
 リボンを結んだ後も八重桜をジッと見つめ、サンが心配そうに言葉を零す。
「嗚呼……」
 透櫻子を傍で見ては居ないから、ブラッドには解らない。こんな己の行動を見ていて楽しいのかすらも解らない。己が透櫻子だとしたら、サンだけを見ていたほうが楽しいのではないか……?
 しかし、今日集っている猟兵たちはたくさん居る。徒にサンを不安にさせる必要はなく、彼が喜ぶ回答を誰よりも知っているのはブラックのはずだ。
「――いや。きっと満足できただろう」
「うん、きっとそうだね」
 にこりと咲んだサンが、結んだリボンへ手を合わせた。
 祈りを重ねるサンが満足するのを待ってから、ポツリと口にするのは『咲良結び』のこと。先程から友人や恋人、家族といった関係であろう人々が視界に入ってきている。
「赤はふたりだけに通ずる所有の証、だったか」
「ふふ、そう。だから僕も赤を選んだのよ」
 書物の行く末は知らない。簡単に聞いた内容的に、悲恋のような気もする。
「ブラッド」
 手招きをした手で少し屈んでと示したサンの望むとおりにしてあげる。ブラッドの角は頭の天辺から生えている訳ではないから結べるのだが、それでも高い位置に結ぶのは大変だ。それに、リボンの花を咲かせるのだ。綺麗に結びたい。
「へへ」
 無骨な角に、可愛いリボン。
 綺麗に結べたことへの喜びと、誰からも見える位置に『僕の』の印を結んだ気恥ずかしさに、ふにゃりと頬が緩んでしまう。
 赤は、サンにとってもブラッドにとっても特別な色だ。
 お祝いの日に彼がくれた一本の赤い薔薇。――『愛している、あなたしかいない』。
 誕生日にくれたのは百八本。――受けて光る、左手の銀環。約束の証。
(――そして彼の命を繋ぐ、僕から贈る愛(血)の色)
 愛おしい、赤。
「サン」
 立ち上がったブラッドに、白い頭を向ける。小さな角を彼の指先が擽り、迷いを見せずに赤いリボンが結ばれる。
 これまで、たくさんのことをお互い理解し、其れでもふたりで添うことを決めた。迷って後ろを見ることは簡単だ。けれど彼の手を離せないと気付いた時から、未来なんてものは決まっていたのだ。後は覚悟をするだけで、その覚悟も、疾うに決めている。
(俺はお前から奪った可能性の分だけ、誰よりもお前を愛し、幸せにすると誓っている)
 角にリボンを結んだ手を降ろし、するりと柔らかな頬を撫でて告げる。
「愛している。お前はずっと俺だけのものだ」
「うん――! ブラッドだって僕のもの」
 ぴょんっと跳ねたサンがブラッドに抱きつく。所有の証を揺らして、しあわせいっぱいに微笑んだ。
 抱き締めて、抱き留めて。今宵もたくさんの愛を唄おう。
 八重桜の樹の下で、もう人目なんて気にしない。
 どんな場所でだってお前だけしか目に入らない。
 お前だけが、俺の光。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】♢
わぁ、桜モチーフの食べ物がいっぱい
桜餅とー桜の鯛焼きとー桜ラテとー
あれもこれもと屋台でお買い物
座れる場所を確保してプチ宴会
いやー見事にピンク色だね
食べる前にまた写真を撮りまくり

そうそう、咲良結び用のリボン貰ってきたんだ
桜の枝じゃなくて人に結んじゃってもいいんだよね
というわけで梓、覚悟ーっ
素早い動きで梓の髪の毛に結びつける
あははは、かーわいいー
外される前に写真撮らなきゃ

俺のお願い事?
あー、何も考えてなかったや
「来年もまたここに来れますように」?
「今年も色んな場所に遊びに行けますように」?
そういう願いはわざわざこれに込めなくても
きっと叶っちゃうだろうしね
梓が連れて行ってくれるからね


乱獅子・梓
【不死蝶】♢
綾は見た目の割に可愛いものが好きだから
こういう屋台にテンション上がるんだろうな
案の定はしゃいでいるし
はぐれないようについていく
桜ラテを頼む綾の横で俺は桜の甘酒をチョイス
本当は甘酒じゃなくて本格的な桜の日本酒を
ぐいっと行きたいところだが

えっ!?ちょ、まっ……
抵抗する間もなく髪に結ばれるリボン
無駄に猟兵パワー発揮しやがって…
しかもご丁寧に蝶々結び
俺のナリでこれは不審者すぎるだろ…!

このリボン、願いを込めて結ぶらしいが…
綾はいったい何を願ったんだ?
返答を聞いてずっこける
ヒミツ~って誤魔化されるのかと思ったら
まさか考えてすらいなかったとは…
確定事項のように言う綾に苦笑しつつも
否定はしない俺




 ぼんぼりの灯りに夜の桜が優しく照らされる。照らす灯りは、ぼんぼりのものだけではない。屋台でも焚かれた灯りが、桜色に染まる公園を一層明るく賑わせていた。
(綾は見た目の割に可愛いものが好きだから、こういう屋台にテンション上がるんだろうな)
 梓がそう思うのは、屋台の傍で揺れるのぼりのせいだ。
 白地に桜が描かれた桜ラテののぼり。
 桜色の地に白い魚が描かれた桜鯛焼きののぼり。
 可愛らしくも美味しそうなそれらに、綾が惹かれないわけがなかった。
「梓、梓。あれ食べよう、桜餅」
 俺買ってくるねと買いに行って戻ってきたと思ったら、桜餅どころか鯛焼きの包みや桜ラテや桜甘酒も手にしている。それをちょっと持っていてと預けたと思えば、桃色の飴で硬めたイチゴ飴と薄紅色の綿菓子、しょっぱいものも欲しくなると思ってーと焼きそばまで買ってきた。
 流石に食べ歩ける量ではないから、『ご自由に』と書かれた茣蓙へと移動して。茣蓙の上に並べれば気分はプチ宴会。
「いやー見事にピンク色だね」
 パシャっと写真を撮り、満足気に笑った綾が「梓はどっちがいい?」と桜ラテと甘酒を差し出してきたから、梓は桜甘酒を手に取った。本当は桜を浮かばせた日本酒をグイッと行きたいところだが、綾がニコニコ笑って可愛いを連呼しているからまあいいかと甘酒を煽れば――これが結構いけた。
「お。この甘酒、ほのかに桜の味がするぞ」
「え、ほんと? 一口ちょーだい」
「ん。ほら」
「おお、本当だ。桜の塩漬けも浮いていて良い塩梅」
 可愛いだけじゃなくて美味しいなんて最高だ。
「そうそう、咲良結び用のリボン貰ってきたんだ」
 白い鯛焼きも中の桜あんが美味しいと梓に勧めた綾が、屋台で買った時にねと梓にも白いリボンを手渡してくる。折角だから結ぼうよ、と。
「それじゃ、結びに行くか?」
「梓、覚悟ーっ」
「えっ!? ちょ、まっ……」
 立ち上がろうとしかけた梓に素早く飛びついて。
 狼狽えている内に髪に結びつけてやる。勿論可愛く、蝶々結びだ。
「なっ、おま……!」
「あははは、かーわいいー」
「俺のナリでこれは不審者すぎるだろ……!」
 パシャシャシャシャ!
 外されてしまう前に素早く連写して、綾はご機嫌。
 口をわなわなとさせながら、梓はリボンを外そうと髪へと手を伸ばす。が、
(くっ、コイツ……! 蝶々結びする前にご丁寧に固結びしてやがる……!)
 真剣に解く梓を、綾は笑いながらパシャパシャと撮っている。ぐぬぬ、憎たらしい!
「そういえばこのリボン、願いを込めて結ぶらしいが……綾はいったい何を願ったんだ?」
「俺のお願い事? あー、何も考えてなかったや」
「考えていないのか……」
 思わずかくっと片方の肩が落ちた。てっきりヒミツ~と誤魔化されると思っていたのに、まさか考えてすらいなかったとは……。
「んー、『来年もまたここに来られますように』? 『今年も色んな場所に遊びに行けますように』? でもそういうのは願わなくても、きっと梓が連れて行ってくれるからなー」
 行きたいと願えば、梓は着いてきてくれる。そうでなくてもきっと、行きたいだろ? って連れて行ってくれる。今までがそうだったから、きっとこれからもそうに違いない。
 苦笑しつつも否定しない梓へ、綾は「でしょ?」と首を傾けて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

遊園地、楽しかったなァ!
…お。さくららて、だってよ
ときじこーいうの好きそう
あったけーの飲みながら
ゆっくり桜並木を歩こうぜ

夜桜を堪能しつつ
隣の相棒の歩幅に合わせて歩く

キレーだなァ
…お、これが例の桜か
結ばれたリボンが
枝垂桜みてー。

…ときじ。
名前を呼べば
ちょいちょいと手招きして

俺さ、お前にリボンやろうと
思ってたんだけどよ
色を間違えちまった
俺がお前に渡したいのはこっち

しゅる。と髪を括っていた
赤いリボンを取れば
あの暗闇を彷徨った日
思い切り噛み
治っていない手の甲の傷へ
巻き付ける

ばァか、お前だからやるんだよ

…なぁ、『俺だけの』光に
なってくれっかな

俺も
お前がいねェと…

ン、さんきゅ
あぁ、お前もだからな


宵雛花・十雉
【蛇十雉】

すっかり日が暮れたね
夜に見る桜もオレは好きだな
え、桜ラテ?
いいね、今日は食べ物もとことん桜づくしだ

相棒と並んでのんびり歩く
こういう静かな時間もいいね

ほんとだ、結ばれたリボンがたくさん
人の想いの数だけリボンも咲いてるんだね

ん、どうかした?
呼ばれれば素直に寄っていって

傷を隠すように結ばれていくリボンを見守る
なつめのリボン、いいの?
オレがもらっちゃって

オレが『ひかり』だなんてさ、今でも自信ないんだ
だってたぶん、なつめがいないとオレは夜の闇のままだから

なつめの角に白いリボンを結ぶ
本当は桜の枝に結ぶつもりだったんだけど
なつめにあげるよ
だからずっと、いなくならないでね




 童心に帰って遊園地を満喫すれば、あっという間に日が暮れて。
 夕日の落ちていくのを綺麗だねと屋上から見届けてから、ふたりは大通りへと戻り、公園までのんびりと歩いていった。
「……お。さくららて、だってよ」
 十雉が好きそうだとノボリに目を留めると、「え、桜ラテ?」と矢張り十雉が反応し、想像通りの反応になつめはフハッと吹き出した。
「あったけーの飲みながらゆっくり桜並木を歩こうぜ」
「いいね、今日は食べ物もとことん桜づくしだ」
 早速桜ラテをふたつ買って、日とともに落ちていった気温に冷えた指先を温める。ハフとつく息は湯気をともない空へと上り、追いかけるように見上げるのはぼんぼりで暖かな色に照らされた桜の天蓋。
 腕が触れ合いそうな距離で歩いていけるのは、互いに気兼ねしていない証。
 同じ歩幅でのんびり歩きゆけば、いつの間にか立派な八重桜の前へとたどり着いていた。
「キレーだなァ。……お、これが例の桜か」
 桜色宿す枝から垂れる、白いリボン。
 それが噂の咲良結びが行われる桜の証。
「ほんとだ。人の想いの数だけリボンも咲いてるんだね」
 たくさんのリボンが結われ、枝垂れ桜のように咲いている。人の想いや願いを載せたリボンが、時折吹く風に穏やかに揺れていた。
「……ときじ」
「ん、どうかした?」
 ちょいちょいと手招くなつめに首を傾げ、十雉は素直に彼の傍へと寄る。
「俺さ、お前にリボンやろうと思ってたんだけどよ」
「うん?」
 色を間違えたと笑うなつめが彼らしくて、十雉も笑う。
 けれど、しゅる。と音を立ててなつめの髪をくくっていた赤いリボンが解かれれば、もしかしてと十雉の瞳が丸くなった。
「俺がお前に渡したいのはこっち」
 十雉の手を取って、彼の手の甲へと赤いリボンを巻きつけていく。
「なつめのリボン、いいの? オレがもらっちゃって」
「ばァか、お前だからやるんだよ」
 そこは、光が失われたカクリヨで、思い切り噛んだ噛み跡だ。
 あの時の血のような真赤な色が、治りきっていない傷跡を隠すように巻きついて、キュッと結ぶのを十雉は嫌がること無くただ見つめていた。
「……なぁ、『俺だけの』光になってくれっかな」
「オレが『ひかり』だなんてさ、今でも自信ないんだ。だってたぶん、なつめがいないとオレは夜の闇のままだから」
 あの暗闇の中でだって、彼が手を引いてくれないと何もできなかった。ばかときじって叱って、導いてくれる彼のほうが光みたいなのに。
「俺も、お前がいねェと……」
 けれどきっと、お互い様なのだ。なつめは十雉がいるからこそ頑張れる時だって多い。ひとりでは無理でも、お前がいるからと普段以上の力を出せたり、前に進まないとと足掻いたりすることができるのだから。
「ありがとう、なつめ」
 結んでもらった赤を見下ろして、ぎゅっぎゅと手を握って。
 以前よりも短くなった前髪の下で、なつめの目を真っ直ぐに見て笑う。
「本当は桜の枝に結ぶつもりだったんだけど、なつめにあげるよ」
 彼の白い角に手を伸ばす。梔子の花を咲かせた白い枝のような角に、何にも染まっていないリボンをキュッと結んだ。
「結べたよ」
「ン、さんきゅ」
「ずっと、いなくならないでね」
「あぁ、お前もだからな」
 角のリボンを揺らして、なつめが微笑う。
 その笑顔が当たり前だと告げてくれるから、十雉も似た顔で柔らかに微笑うことができるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
【暁星】
楽しい時間は掛ける様な速さ
消える影法師、代わりに灯る煌きが瞬いて
君に貰った星が輝く時間がやってきたんだ

君の手にくるり巻いた絹は傷付けぬ様に
でも少し堅くても許してくれるかい?
そうして傍に寄り、しっかと結ぶ最中に目線の変化に気付く
…千鶴、俺より背が高くなっていたんだ
その成長が眩くて、でも不思議と寂しくはない
不思議だな、前は置いていかれる事ばかり目に入ったのに
…きっと、君との未来を信じさせてくれたからだ
本当に、久し振りに泣いてしまいそうだ

立役者の透櫻子にも礼を
お陰で大切な子を独り占め出来て幸せだったよ(照れ臭そうに結んだ絹紐を持ち上げ)
…待っているよ、未来で
今度は友達として語り合おう、約束だ


宵鍔・千鶴
【暁星】

共に過ごした時間は
気が付けば夜空星が俺達を照らし
瞬きは優しくて

白い絹紐が己の手にそうと巻かれ
俺に、巻いてくれるの?
ん、大丈夫だよ
解けて仕舞っても嫌だし
…どうかした?
きみの眼差し首を傾げ
!ああ、本当だ。ふふ、少しだけね。
未だ育つよ、屹度
身長は直ぐに追い越してしまうかもしれないけど
置き去りに、なんてしない
先の未来は理解らないけれど
変わらないものは確かに在るから
一緒にゆっくり歩いて行こう
お返しね、ってきみの腕にも絹紐をくるり
ふわり零れた桜色の咲み

あ、透櫻子だ
きみは今日一日楽しく過ごせたかな
来世はもっとたくさん好きなことに没頭出来たら
そのときは、きみの噺
お茶でもしながらのんびり聞かせてくれる?




「見て、ヴォルフ。星が瞬いているよ」
 白魚が如くほそりとした指さす天は暗く、金色の煌めきがいくつも輝いている。楽しい時間が過ぎ去るのはあっという間で、夜空の煌めきに時間の流れを知った。朝には今日はたくさん一緒に居られると思ったはずなのに、もう夜だ。
 君に貰った星が輝く時間だねとヴォルフガングが囁く声は穏やかだが、夜の暗さに少し沈む。一日の、終わりが来てしまう。一緒に居られる時間が、終わる。きっと明日も明後日も、ねだれば君は一緒に居てくれるだろうけれど、またねって別れる時間は寂しさを伴う。
 だからかな。君に何かを残したかった。
「俺に、巻いてくれるの?」
「少し堅くても許してくれるかい?」
「ん、大丈夫だよ」
 簡単に解けてしまわないくらい、キツイくらいで丁度いい。千鶴の手に、白い絹紐が優しく、けれどキュッとしっかりと結ばれていく。
「あれ」
「……どうかした?」
 何かに気付いた様子のヴォルフガングへ、千鶴が首を傾げる。
「……千鶴、俺より背が高くなっていたんだ」
「ああ、本当だ。ふふ、少しだけね。未だ育つよ、屹度」
 成長期だからねと微笑ってみせる千鶴が眩しい。けれどそこに寂しさはない。あるのは、君の成長への喜びだ。
「不思議だな、前は置いていかれる事ばかり目に入ったのに……きっと、君との未来を信じさせてくれたからだ」
「先の未来は理解らないけれど変わらないものは確かに在るから、一緒にゆっくり歩いて行こう」
 置き去りになんてしないよと口にして、千鶴はヴォルフガングの腕へと手を伸ばす。時に老獪なくせに、この狼がその実寂しがり屋なことを知っているから。
「お返しね」
 ヴォルフガングの腕にくるりと絹紐を巻いて、ふわり咲良に微笑う。
 ぼんぼりの暖かな灯りの中に落ちた、桜色の咲み。
 その笑みが眩しくて。君の気持ちが嬉しくて。
(本当に、久し振りに泣いてしまいそうだ)
 君が眩しくて、愛おしくて。君こそが星ではないかと思う。
 暗い夜の明ける暁に見える一等星。
 いつだって君は、光をくれる。

「あ、透櫻子だ」
 八重桜の下での咲良結びを終えて幻朧桜の並木道を引き返すふたりは、これから最後に咲良結びをしにいくのであろう亜麻色の髪の少女とすれ違った。
 千鶴の声に振り返る透櫻子は少し驚いた顔で、けれどふたりの姿に瞳は柔和に細められる。――主にその視線はふたりに結ばれている絹紐へと注がれているようだが、気のせいだろう。たぶん。
「あら、まあ。うふふ。ごきげんよう」
「きみは今日一日楽しく過ごせたかな」
「はい、とても。おふたりは?」
「お陰で大切な子を独り占め出来て幸せだったよ」
 透櫻子の視線がふたりの顔と絹紐とを行き来して、そうでしょうともと言いたげな満足そうな笑みでうんうんと何度も頷かれる。たぶん今、彼女の脳内はとても忙しい。
「……待っているよ、未来で」
「そのときはきみの噺、お茶でもしながらのんびり聞かせてくれる?」
「今度は友達として語り合おう、約束だ」
 ふたりは透櫻子が無事に転生できると信じてくれている。それを願ってくれている。
 それが解るからこそ透櫻子は桜のように柔らかに微笑んで、ふたりと同じ、それを事実だと疑わない声で口にした。
「それではまた、来世でお逢いしましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
♢♡

透櫻子を視野に収めながら移動
透櫻子が誰か又は桜に咲良結びしようとするまで待つ

「透櫻子さん、私も貴女にお願いしたいことがあります。貴女の手首に咲良結びをさせてほしいのです」
赤い天鵞絨リボンを巻いたプレゼントを差し出しつつ白いレヱスのリボン見せ

「貴女が今日1日私達を見ていたように。私達も貴女を見ていました。1日を共有した貴女と、縁を持ちたいと思ったのです。どうぞ、開けて下さい」

「貴女の呟きは刹那でも、書き留めれば永遠になります。読んだ方とも想いを共有し、今日の楽しみを今度は誰かとも分かち合えるよう…転生を望んでほしいのです」
UCで皆の願いを透櫻子へ

「お還りを、お待ちしています…何時か、また」


夜鳥・藍
♢♡wiz

八重咲の桜は好き。小さくとも華やかな花でとても綺麗。
花が重いのか枝がたわんで近い位置に枝が降りてくるからより花が見やすいし。
屋台で甘酒を貰って程よい場所に座ってリボンが結ばれた桜を見上げる。
私にはリボンを結ぶ相手もいないしね。……いたらいいなとは思うけど、でも今はいない方がいいの。
だけどそうね。願いをかけるぐらいなら。
屋台でリボンを貰って桜の元へ。
私じゃない私。私として生まれる前の誰か。
その人の想いや願いが……成就とは違うかな、きちんとした結果になりますようにって願いリボンを桜に結ぶ。
形を成さなくても一つの区切りをつける事が多分大事だと思うから。
そしてそれが私の役目だと思うの。


城野・いばら
♢♡
認識が変われば世界も変わる
買った本に書いてあった言葉
読んでる時は意味が解らなかったけど…今は
桜さん並ぶ夜の道を、
仲良く歩くアリス達を見ると
恋と恋で繋がっているのかなと考えてしまう
つながる、手…ぁ、そうなのね
ふれあうことでキモチを確認しているのだわ

はっ!今のいばら、透櫻子が観ているものと同じ?
…あのコは今日を楽しめたかしら
慌てん坊さんみたいだから
ケガしてないか心配

通り掛った屋台で頂いた咲良結びのリボン
そうだ、透櫻子のことをお願いしよう
あのコの想いが満たされますよう
そうして
生まれ変わった先で、
貴女も素敵な恋と出逢えますように

その先で、またあえたら
次は私の萌えも聞いてね
特別を、教えてくれて有難う




 ぼんぼりの灯りに優しく照らされる幻朧桜の並木道。仲良く歩く人々とすれ違う度にチラリと視線を向けてしまう。
(あのアリスたちは恋と恋で繋がっているのかな)
 手を伸ばしたくなる気持ち。触れたくなる気持ち。繋がりを求める気持ち。
 様々な描写で描かれる、恋という気持ち。
 それはああいうことなのか、とつい目で追ってしまう。
 ――『認識が変われば世界も変わる』。それは、いばらが購入した本に書いてあった言葉だ。読んでいる時には意味が解らなかったそれが――今なら解る気がした。何故手を繋ぐのか、どうして寄り添うのか。好きだから、恋をしているから。ほら、きっとあのアリスたちだって――。
(はっ! 今のいばら、透櫻子が観ているものと同じ?)
 思わずパッと両頬を抑えたら、前方から向かってきた老夫婦に微笑ましげな表情をされてしまった。……少し恥ずかしい。
(……あのコは今日を楽しめたかしら)
 窓から転がり落ちてしまった透櫻子は少し慌てん坊のうっかりアリス。自然とくすっと笑みを浮かべ、それから心配をした。
(そうだ、透櫻子のことをお願いしよう)
 そうと決まればと、いばらは屋台にリボンを貰いに行った。

 ふっくらとした八重咲きの桜たちが、細い枝葉にたわわに連なっていた。細い枝には花が重いのか、枝垂れ桜のように枝先が下を向き降りてきているから、花が顔に近く、より美しく見えるようだ。
 八重桜が見えるベンチに腰掛けた藍は屋台で購入した甘酒で手を温めながら、リボンが結ばれた桜を見上げる。
 たくさんの人々の想いや願いが結ばれる八重桜。
 その下では互いに結び合う人々もいるけれど、藍にはそんな相手はいない。
(……いたらいいなとは思うけど、でも今はいない方がいいの)
 けれど、願いをかけるぐらいなら。
 塩漬けの桜が浮かんだ甘酒を飲みきって、紙コップを捨てるついでに屋台でリボンを貰う。そうして八重桜の前に行って、手を伸ばす。
(私じゃない私。私として生まれる前の誰か。その人の想いや願いが、きちんとした結果になりますように)
 形を成さなくても一つの区切りをつける事が多分大事で、それが藍の役目だと思うから。
 願いを篭めて結べば、傍らでは白い髪が揺れている。
(あのコの想いが満たされますよう。そうして生まれ変わった先で――)
 いばらも咲良を咲かせ、願う。透櫻子のことだ。
 結び終え、ふと傍らを見れば亜麻色の髪。
(あ、)
 結び終えたところの彼女と、ふと、目があった。透櫻子に微笑まれる。
「透櫻子! 今ね、貴女のことを願っていたの」
 貴女も素敵な恋と出逢えますように、って。
「あら、私もなの」
 皆さんが素敵な恋と出逢えように、って。
 あなたにも、と。視線を藍に向けて微笑んで。
「今日はありがとう。私、とっても楽しかったのです。皆さんのおかげよ」
 満ち足りた表情でいばらと藍へ微笑みかける透櫻子に、声を掛ける者がいた。
「透櫻子さん」
 今日は透櫻子をずっと見守っていた桜花だ。公園に入ってからも、彼女が視界に入る位置を保ち、楽しい時間が過ごせるようにと見守っていた。付かず離れずの距離を保っていた……そんな彼女が近寄って、お願いがあるのですと口にする。
「貴女の手首に咲良結びをさせてほしいのです」
 これは貴女への贈り物ですと赤い天鵞絨リボンを巻いた箱を渡し、結ばせてほしいのはこちらと白いレヱスのリボンを揺らした。
「まあ。頂いてもよろしいの?」」
「ええ。貴女のために選んだものです。貴女が今日一日私達を見ていたように。私達も貴女を見ていました。一日を共有した貴女と、縁を持ちたいと思ったのです。どうぞ、開けて下さい」
 箱の中に収まっていた可愛いメモ帳とペンに、透櫻子あらともまあともつかない声を上げた。それから嬉しそうにありがとうございますと礼を述べて、腕にぎゅうと抱き留める。
「貴女の呟きは刹那でも、書き留めれば永遠になります。読んだ方とも想いを共有し、今日の楽しみを今度は誰かとも分かち合えるよう……転生を望んでほしいのです」
 真っ直ぐに告げられる想いに、透櫻子はまあと瞬いて。
 それから楽しそうにふふふと微笑う。
「それは、勿論です。だって世界はこんなに素敵なのだもの。一度の人生で終えるなんて勿体ないです。だから……私からもお願いをしてもいいですか?」
 あなたたちも、といばらと藍へと視線を向け。
「もし、私が生まれ変わったら。きっと私は私ではなくて新しい私です。それでも出逢ってくれたなら、私とお友達になってくださいな」
「透櫻子、次は私の萌えも聞いてね」
「はい、あなたの物語を書き留めておいてくださいね」

 ――嗚呼、満足。

 ホウと幸せなため息を着いた透櫻子の髪の先が、キラキラと光の粒子となり世界に溶け始めている。
 一歩近付いた桜花が手首にリボンを結ぶのを愛おしそうに見つめた透櫻子は、とびきりの笑顔で微笑った。
「さようならば、またお逢いしましょう」
「お還りを、お待ちしています……何時か、また」
 透櫻子が消えていく。
 たくさん胸をトキめかせ、人を愛し、いつかの約束を結んで。
 優しいぼんぼりの灯りで照らされた桜の中に、透明になっていった。

 ――咲良に、なぁれ。

 ざあと吹いた桜吹雪の中、そんな言葉を最後に残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト