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不連続猟兵殺人事件

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●文豪×締切×借金+編集者&ファン
 それは届いたのだ。

 それは、借金と締め切りから逃れようとする者の手に。
 それは、原稿を取り立てに向かおうとする者の手に。
 それは、半ば信者に近い支持者の手に。
 それは、エトセトラエトセトラ。

 何が届いたのかって?
 それは、山奥にある温泉旅館への招待状。
 受け取った者は皆、口を揃えた。

 『今そんなとこ行っている場合じゃない』

●文豪って逸話調べると割と……
 グリモアベースの片隅で、微かに薬品の香を纏った娘――キサラが、筆文字で『役者急募』と書かれたチラシを笑顔で掲げていた。
「ああ、これ? そのままの意味だよ」
 怪訝な視線を感じたキサラは、チラシを懐にしまいながら、説明補足の為に口を開く。
「いやね? ちょっとサクラミラージュで影朧主犯の連続殺人事件が起こるのが視えたものだから、事前に阻止してきたんだけれどもね?」

 キサラ曰く。阻止したけれど主犯の影朧も倒したいから、現場に向かい被害者役をやってきてほしいとのことだそうだ。
「えっとだね、どうやら主犯の影朧は文豪や編集者、おまけに文豪のファンや借金取りに旅館への招待状を送ってたんだよね」
 今度は茶封筒をキサラは袖口から取り出すと、猟兵達へそれを見せる。
「中の文面は要約すると『温泉旅行が当たりました』、だよ。滅茶苦茶に怪しいから誰も信じなかったし、それに受け取った誰もがそれにかまってられないみたいだったから、招待状をすぐ手放してくれた」
 この招待状を手に旅館に向かい、ちょっと愉しんだりしつつ被害者役をしてきてくれとキサラは言う。

「まー、招待状が届いた人達は文豪とか、借金取りとか編集者とかファンとかとかとかだったからね……それっぽい役をやれば影朧はあっさり騙されるって」
 要約。招待状が届いた者達は、文豪と追っかけ(追いかける理由は様々)である。
 ちなみにどの役もフリで全く無問題。
「そうそう、旅館はね。若女将が一人で仕切っているんだって。何でだろうね?」
 明らかに何か知っているような顔でキサラは嘯く。
 旅館に滞在すれば、影朧が仕掛けた死のトリックが猟兵達を襲うことになる。それを敢えて喰らい、死んだフリをするのだそうだ。
「ああ、影朧は死んだフリで誤魔化せるから。死んだフリすれば、ひょいっと顔出すから。顔を出したらサクッと倒して来てくれよ」
 そう言うと。キサラはそれじゃ行って来なよと、猟兵達を送り出した。


雪月キリカ
 お目にとめていただき有難うございます。はじめまして、もしくはまたお会いしました。雪月です。
 さっつじんかーん。です。ネタ依頼です。劇です。お芝居です。

 繰り返しますがネタ依頼です。アドリブ、アレンジがマシマシです。
 何が返ってきても笑って許せる方向けです。(超大事)
 解釈違いすら楽しめる方向けでカオス成分多め。
 化学反応させる為一括返却を予定しています。再送の可能性が高いので、再送OKであればどーんしてくださいまし。

 一章は日常『犯人はこの中にいない』になります。
 どんな役になるのか。また、どんな行動をしようとするのかをプレイング記載していて抱く形になります。
 まだ誰も死なないです。此処は登場人物紹介の段階ですから。

 二章は冒険『取り立ての時間です』になります。
 ここでは一丁死んだフリしましょー。
 この章では皆様に死んだフリをしていただきます。影朧の死のトリックが襲い掛かって来ますが、それはおまかせでもでっち上げでもどちらでも。
 実は自分が殺したんだと高笑いパターンしても良いです。ただし死んだフリしていただく為に金ダライが降って来たり何かが爆発したりしても問題無ければ。(避けられない死んだフリ!)
 もしくは後追いパターンとか。とか。

 三章はボス戦「毒殺ノ冥土」との戦闘になります。
 なんか釈然としないけれども死んでるしと、影朧がひょいっと現れます。
 どさくさ紛れにアタックしたり、お兄ちゃんどいてしたり、扉バァンしたり。
 深いことは考えたらいけません。ネタ依頼ですから。いいね?
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第1章 日常 『犯人はこの中にいない』

POW   :    こんな所にいられるか! 発狂して立て籠ったり、無謀な脱出を試みそうな役をやる。

SPD   :    きっと『あの時』の罰だ……怪しい行動言動で事件を混乱させそうな役をやる。

WIZ   :    犯人はあいつだったのか! 決定的な証拠を見つけて口封じされそうな役をやる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その旅館は、桜の花弁が舞い散る静かな山奥に佇んでいた。
 玄関口では、若女将がせっせと掃き掃除に励んでいる。
 若女将は訪問者に気付くと、『招待状をお持ちでしょうか?』と訊ねてきた。
 渡されていた招待状を見せれば、若女将は『では御部屋にご案内します』と部屋へ導く。

『此処は文豪サマが執筆によくいらっしゃるんですよ。静かで、作業が捗るからだそうで……』
 世間話をしながら部屋へと案内する若女将は、ある戸に手をかける。
『お客様の御部屋は此方になr……』
 若女将が開いて見せた戸。その向こうは、押し入れの戸、畳、窓に天上に至るまで、張り紙だらけだった。

『進捗どうですか』
『締切迄あと○日』
『原稿下さい原稿下さい原稿下さい(以下エンドレス』
 等々……他様々な感情の篭った張り紙が何十枚も。

 若女将は戸を勢いよく閉める。スパァン!! と、戸がぶつかる景気の良い音が響いた。
『あら、私としたことが御部屋を間違えてしまいましたわ。ささ、お客様こちらが正しい御部屋です』
 改めて案内された先の部屋は八畳ほどの和室。
 この部屋だったら、ゆっくりとくつろげそうだ。
 ――しかし何故、床の間に新鮮な檸檬が飾られているのだろうか。

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 ※どうでもいいかもしれない情報。
 張り紙部屋の他のパターンには『金返せ!』とか、『○○先生○○先生(文豪の名前エンドレス)』とかもあります。
 あと全室、何故か檸檬が床の間に飾られています。
朱酉・逢真
深山さんと/f22925 生き物との物理接触禁止
心情)さァさ深山の兄さん、温泉旅行だぜ。死ぬまで余裕があるそゥだから、温泉行ったらいかがだい。俺ァ《宿(*からだ)》が疫毒のカタマリなンで行かれンが、渓流沿いに露天があるそうさ。かの川端某先生も、そォいうお宿で作品書いてたそうだぜ。ああ、黒猫も飼ってたと聞く。ぴったりじゃねェか。戦争でお疲れだろ。愛猫とゆっくり羽伸ばしなィ。
行動)俺ァ編集のマネごとするさ。
「深山先生、原稿しあげるまで帰しませんぜ。ひとっ風呂浴びるンはご自由ですが、逃げねェでくださいよ」
「風呂案内の前で待ってます、もし逃げなすったら、先生の部屋を張り紙部屋に変えてもらいますンでね」


深山・鴇
朱酉君と/f16930

いまだかつてこんな胡散臭い温泉旅行があっただろうか…?
猫を連れて行ってもいい、と聞いて(御影を肩に乗せている、ちょっと伸びているが気にしない/めちゃくちゃ伸びる猫です)
まあ温泉に罪は無い、知っちゃかめっちゃかになる前にちょっと楽しむくらいはいいだろう
朱酉君は…入れないとして、御影と入るかね。さすがに温泉に浸けるわけにもいかねぇから、桶かなんかでちゃぷちゃぷさせよう

さて、リフレッシュしたら作家のフリだ
御影を膝に煙草を片手に、のらりくらりと理由を付けて執筆を後回しに
「逃げるなんてそんな、なぁ?」
猫に話し掛けて笑う(フラグか?)
「そりゃまた、お札を張り巡らせた部屋の話みたいだ」



●某文豪に刺すと書かれ借金と踏み倒しでも有名な
 そこは渓流沿いにある秘湯。旅館『水本館』から少々歩いた場所にある、掛け流しの天然温泉。
 せせらぎの音を聞きながら、その湯に浸かる色男。
 水も滴る良い男。その名前は深山・鴇(黒花鳥・f22925)。
 皆様お待ちかねであったかはさておき。開幕トップスピードで湯煙サービスシーンである。
 さて、何故鴇が現在湯に浸かっているのか。それはちょっとばかし話を遡ることになる。
 
 それは強欲な海での大戦が終わった頃。鴇は朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)に一つ、話を持ってこられたのだ。
「さァさ深山の兄さん、温泉旅行だぜ。戦争でお疲れだろ。愛猫とゆっくり羽伸ばしなィ」
(「いまだかつてこんな胡散臭い温泉旅行があっただろうか……?」)
 鴇は肩に乗せた愛猫――御影を撫でつつ。直感的に疑念を抱いたものだから、その旅行の詳細について問うた。
 すると逢真は口角上げて。実は影朧絡みの温泉旅行であると正直に告白したのだ。
 しかし影朧が動き出すまで余裕があると。影朧を騙す為に、文豪や編集のマネゴトをする必要はあるのだが――それまでは普通に温泉に入ったりすればいいんじゃないかということで。
「俺ァ《宿(からだ)》が疫毒のカタマリなンで行かれンが、渓流沿いに露天があるそうさ」
 逢真は湯でも水でも浸かったら色々と大変なことになる故に、それに同伴出来ないのは致し方ない。だがそれにしても、猫を連れていけることはかなり大きかった。
「……しっちゃかめっちゃかになる前に、ちょっと楽しむくらいはいいだろう」
 温泉に罪はない。そして猫OKなのだ。猫OKは重要だ。鴇が誘いに頷けば、逢真は更に口角を上げた。
「かの川端某先生も、そォいうお宿で作品書いてたそうだぜ。ああ、黒猫も飼ってたと聞く。ぴったりじゃねェか」
 
 おわかりいただけただろうか。つまり、まだ芝居に入る前。オフシーンなのである!!
 鴇の愛猫である御影は、平坦な岩に置かれた桶の中でちゃぷちゃぷと湯に浸かっていた。
 そして縁に頭を預け、渓流を流れる薄紅の花弁と――時々花弁に混ざり流れてくる虹っぽい色をした何かを興味津々の瞳で追っている。御影が桶から飛び出ていかないのは、それらが流れている水は冷たいと理解しているからだろう。
 そろそろ湯から上がるかねと、鴇が御影を桶から上げようとすれば。御影の胴がみょいんと伸びた。尻尾と後ろ脚が桶の湯に浸かっているままだった。
 どうやら御影はまだ花弁を目で追っていたいらしい。鴇はやれやれと苦笑しながら、あと少しだけだと御影を桶に戻した。

 ……あと少しだけと言いつつも、それなりに時間は過ぎてしまった為。湯から上がった一人と一匹は、待ちくたびれた逢真に「溶けちまったんでねェかと心配しましたぜ」と、揶揄われたとか。

●此処から先お芝居モードです
 場面はガチャリと移り変わる。其処は客室『煙々羅の間』。
 座布団に座る鴇は膝の上に御影を乗せ、片手に煙草を燻らせている。鴇の周囲には甘いチョコレヱトの香りが漂っていた。その正体は煙草の煙である。
 鴇から少し離れた場所では逢真が正座し、じとりとした視線を鴇に向けていた。
「深山先生、原稿しあげるまで帰しませんぜ」
 今の二人は文豪と編集者の関係だ。
 のらりくらり、理由をつけて書くことを後回しにせんとする鴇を、逢真が執筆を促しつつ逃亡防止の為に監視している真っ最中である。
「……書く前に風呂はいいか?」
 既に風呂に入った後だろうというツッコミは無しだ。今は芝居の時間なのだから。
「ひとっ風呂浴びるンはご自由ですが、逃げねェでくださいよ」
「逃げるなんてそんな、なぁ?」
 鴇は膝の御影へと向け笑う。猫に話しかけるのはフラグ? それを言っちゃあいけない。
「風呂案内の前で待ってます、もし逃げなすったら、先生の部屋を張り紙部屋に変えてもらいますンでね」
「そりゃまた、お札を張り巡らせた部屋の話みたいだな」
 肩に御影を乗せると、笑い飛ばして客室から出ていく鴇。その後を逢真が追う。

 ――ご存じだろうか。笑い飛ばすという行為は、猫に話しかける以上にとんでもない死亡フラグであるということを。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ミレニカ・ネセサリ
【屋台の集い】

※せっかくなので【演技】で普段のお嬢様口調ではない、普通の少女のような口調で話している

大ファンである良馬先生が旅行に行かれる
そう灯夜さんから聞いて、
面白そうなのでついてきたけれど……

先生をあの部屋に閉じ込めたら、待っている新作を早く読めるかしら
どう、先生? 個室に興味はない?
パトロンだもの、望まれるならいくらでも出すわ(からかい半分に)

それにしても、八畳って新鮮ね
お屋敷とは全然違うわ
先生のお部屋よりは広いかしら……?
灯夜さん、旅館というのはみんなこういった感じなの?

ああ、今はレニと呼んでちょうだいな
お父様たちは今、娘(ミレニカ)が女性の友人のところにいると思っているの。ふふふ!


久賀・灯夜
【屋台の集い】の皆と参加

「先生! 先生がここでなら書けそうな気がするって言うから遠路はるばるやって来たんですよ!
今度こそ原稿仕上げてもらいますからね!」

眼鏡なんかかけて、真面目な新人編集風な感じで潜り込んでみる
破天荒な作家先生と、自由なパトロンのお嬢さんに振り回されてる感じで……って、普段とあんま変わらなくね、これ?

「えーと、普通よりは少し手狭ですかね? でも一人で集中して執筆するのにはちょうどいいのかも。
ミレ……じゃなかった、レニお嬢さんにとっちゃ大抵の部屋は狭いかもしれませんけどね」

てかこれ、いわゆる缶詰部屋ってやつじゃ……女将さんにさり気なく聞いてみる


鏑木・良馬
【屋台の集い】
作家役を演ずるか!
良かろう俺に…いや私に任せるが良いッ!

素晴らしき憩いに静かなる空間……
分かるかね灯夜君。
このような環境で思考をクリアに整えた時に素晴らしき創作が浮かぶのだとッ!

……うむ、一瞬地獄の如き部屋が見えた気がするのだが。
分かるかね灯夜君。
時にはあのような追い込みも必要であろうが、今はソレは不要であると。
個室といえどあのような部屋は勘弁願いたいものだ。

それにしてもレニ嬢、お父上を欺くとはなかなかにしたたかな!
私もその期待に応えうる作品を仕上げねばなるまいッ!

……それにしても何故檸檬なのだ?
女将よ、これはお香の代わりか何かかネ?



●人質にされた某文豪は、殴ってもいいと思う
「分かるかね灯夜君。このような環境で思考をクリアに整えた時に、素晴らしき創作が浮かぶのだとッ!」
 破天荒作家の鏑木・良馬(マリオネットブレイド・f12123)は若女将に先導されながら。この素晴らしき憩いに静かなる空間であれば、筆が進むのだと。後ろをついて歩く久賀・灯夜(チキンハートリトルブレイバー・f05271)へ語り掛ける。
「先生! 先生がここでなら書けそうな気がするって言うから遠路はるばるやって来たんですよ!」
 ずれた丸眼鏡の位置を直しつつ。生真面目な新人編集の灯夜は良馬へと少々強めに言葉を返した。その良馬の隣には、そこが定位置と言わんばかりに。ミレニカ・ネセサリ(ひび割れレディドール・f02116)が並んでいる。
(「面白そうなのでついてきたけれど……」)
 ミレニカは灯夜から、良馬が旅行に行くと聞き出してついて来た。ついて行けば現在良馬が書き進めている、新作の第一読者になれるかもという考えのもとにだ。
 ミレニカは良馬の大ファンでありパトロン。パトロン特権で良馬の新作第一読者になるのはいつもの事。今回もその例に漏れない為である。
「今度こそ原稿仕上げてもらいますからね!」
「分かるかね灯夜君。待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかね」
 フッと良馬は虚無的に笑みそう零す。灯夜は後ろを歩いているのでその表情は見えていないが、ありありと目に浮かんでいた。
「そう言うならば本気で書いて下さいよぉおー!!」
 ……とまぁ、その様なやり取りをしてる内にどうやら部屋に着いた様で。若女将が襖に手をかけた。

●缶詰は出られないから缶詰なのである
『お客様の御部屋はこちらに……』
 開いた襖のその隙間から、溢れて来たのはどんよりどろりとした重苦しい空気。しかもそれは冷たく、何故か纏わりついてくる。
 部屋の中を窺えば封印の御札の如く、張り紙が至る所に貼られていた。
『先生の原稿を待っている人が居るんです』
『向き合ってください。原稿と』
『逃げたら何も進みませんよ?』
 等々……執筆を促す数多の張り紙が上下左右東西南北。
 良馬と灯夜の顔からさっと血の気が引く。ドン引きであった。しかしミレニカは顔色一つ変えず口許に手を当て、「あら、こういう部屋もあるのね」と呟いた。
『……失礼いたしました。御部屋を間違えてしまいましたわ』
 襖はすぐにぴしゃりと、若女将の手によって閉められる。
「……うむ、一瞬地獄の如き部屋が見えた気がするのだが。」
「てかこれ、いわゆる缶詰部屋ってやつじゃ……」
 灯夜はそれとなく若女将に問うてみる。すると若女将はふふと笑み、
『そうとも言いますねぇ……ですが相当な理由が無い限り、使われることは無いでしょう。中からは襖、開きませんし』
 中からは開かない=入ったら出られない。
 つまりガッチガチのガチ缶詰部屋である。
 文豪が良く訪れると若女将は言っていたが、このような部屋があるということは、どちらかといえば連行されているのではないのだろうか。そんな推測が良馬と灯夜の脳内を駆け巡った。

 改めて若女将に正しい部屋へと案内されながら、良馬は口を開く。
「分かるかね灯夜君……時にはあのような追い込みも必要であろうが、今はソレは不要であると」
「使わずに済みたいんでしたら、書くしかないですよ」
 灯夜は思う。あの部屋を使う時というのは、多分編集も追い込まれているのかもしれないと。
「どう、先生? 個室に興味はない? パトロンだもの、望まれるならいくらでも出すわ」
 クスと笑い、良馬へと訊ねるミレニカ。あの部屋に良馬を閉じ込めたら、待っている新作が早く読めるかもしれない。
 けれどその持ちかけはからかい半分だった。だって、良馬の顔は青いままだから。
「個室といえどあのような部屋は勘弁願いたいものだ」
「じゃあ、早く新作を書き上げて貰うしかないわね」
 ミレニカが無邪気に笑んだその時、若女将が『こちらが正しい御部屋でございます』と『天邪鬼の間』の襖を開いた。

●理解したら正気度直葬
 八畳一間のその和室は、三人で詰めるには少しばかり手狭であった。
「それにしても、八畳って新鮮ね。お屋敷とは全然違うわ。でも先生のお部屋よりは広いかしら……?」
 ミレニカは手荷物を部屋の隅に置きながら。旅館というのはみなこのような感じなのかと、灯夜へ問う。
「えーと、普通よりは少し手狭ですかね? でも一人で集中して執筆するのにはちょうどいいのかも」
 灯夜は部屋を見渡しながら答える。それを聞いたミレニカは「へぇ、そうなの」と返すと、思い出したように両指先を合わせた。
「ああ、今はレニと呼んでちょうだいな。お父様たちは今、娘が女性の友人のところにいると思っているの。ふふふ!」
 実は両親を欺いての同伴とは、何という強かなお嬢様だろうか。
「ミレ……じゃなかった、レニお嬢さんにとっちゃ大抵の部屋は狭いかもしれませんけどね」
 灯夜は平静を装いつつも。ミレニカの両親が真実を知ったら、怒りの矛先は娘ではなく自身に向くのではなかろうかと冷汗を流していた。

 一方、良馬は床の間の檸檬を見つめていた。
(「……何故檸檬なのだ?」)
「女将よ、これはお香の代わりか何かかネ?」
 疑問を抱いた良馬に訊ねられた若女将はまた、ふふふと笑う。
『檸檬はですね、得体の知れない不吉な塊から身を護る魔除けでございます』
 魔除けということはつまり、この旅館は『出る』のだろうか。
 余計なことを良馬は聞かない。何故なら、知らない方が幸せな場合もあるということを知っている。
 世の中には理解すると発狂してしまう存在が居る。それ等への対処は、理解しない事しかない。それと同じだ。
 若女将は笑んだまま、『では、ごゆっくり』と襖の戸を閉めた。それを見送った良馬は先ほど聞いた事を振り払うように、ミレニカへと声を掛ける。
「それにしてもレニ嬢、お父上を欺くとはなかなかにしたたかな! 私もその期待に応えうる作品を仕上げねばなるまいッ!」
 スイッチの切り替えは、大事なのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

薬師神・悟郎
クロウ(f04599)

今日の俺は楼・菊杜の編集者だ
地味なスーツに眼鏡、へこへこしながら敬語で話す影の薄い地味な男
承知しました先生。編集者としての役目を演じてみせましょう

今後に使う道具を大量に詰め込んだ荷物を持ち込み、怪しまれれば
「おや、貴方は楼先生をご存じない?楼先生ほどの男前な大作家先生だと必要なものも多いんですよ」とクロウを指し言いくるめ

彗星の如く表れた若き才能!
立てばイケメン、座ればハンサム、歩く姿はマダムキラー
派手に紙吹雪を撒きたいが、片付けてもらえるだろうか?

先生の猫なで声によるイケボの破壊力は正に凶器
探索ついでにフェロモンで淑女の腰を木っ端微塵にする事件を起こすおつもりでしょうか?


杜鬼・クロウ
悟郎◆f19225
アドリブ歓迎
ツッコミ担当

お洒落な文豪の格好でお任せ
HNは楼・菊杜(ろう・きくと)
推理小説家
ヘビースモーカー
口調は普段と同様

被害者役ねェ
面白そうじゃねェの
俺は普段なら絶対に出来ねェ文豪になりきってみっか
小説とか文学的なコト俺には無理だし寝ちまうし
悟郎は俺の編集者ヤれ!

「着いたか
へェ、立派な旅館だが若女将一人?まァ、イイか
集中して執筆出来そうだわ
アリバイに煮詰まっちまってよ
備えあれば憂いなしだ(荷物見て
よせやい盛りすぎだろ(満更ではない

なァ、着いたばっかだし一風呂ぐらいイイだろ?(猫撫で声
お前も長旅疲れたろ?
ハ、その瞬間を書き留めておけよ
おら、さっさと行くぞ」

旅館内を探索し温泉へ



●形からって結構大事
 これはグリベで説明を受けた後くらいの回想である。
「面白そうじゃねェの。俺は普段なら絶対に出来ねェ文豪になりきってみっか。悟郎は俺の編集者ヤれ!」
 小説を書いたりするのは、どうしても睡魔が襲ってきて無理だとしても。役としてならば、勢いさえあればなんとかなる。ここは推理小説家になりきって、楽しんでみるとするかと杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は即決すると。共に説明を受けていた薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)に編集者役を任せた。
「了解しました。先生、編集者としての役目を演じてみせましょう」
 悟郎は何処からか取り出した眼鏡をスッとかけると、その瞬間からクロウの専属編集者となりきった。
「眼鏡どっから出したんだよ」
 ……それはおそらく、四次元的なところから。
 以上、回想終了。
 しかし、役を任されたその瞬間に編集者になりきった悟郎は。もしかすると、役者の素質があるかもしれない。

●旅館の名前は某所の一文字違い
「先生、此方が今回宿泊する旅館になります」
「着いたか。へェ、立派な旅館だが若女将一人?」
 臙脂の長着を鉄紺の帯で締め、肩には紺鼠の羽織を掛けたクロウが、木造二階建て旅館『水本館』を見上げた後、掃除していた若女将へと視線を向けて見定める。
「まァ、イイか。集中して執筆出来そうだわ」
 クロウの傍らには眼鏡を掛け、地味な灰色のスーツを身に纏う悟郎が控えている。悟郎は鞄を背負っていたが、悟郎が霞んでしまうのではと思うくらいに鞄は大きかった。
 というより、悟郎が地味だったのだ。妙に影が薄いのだ。
 若女将は、竹箒を手にしてクロウへと『招待状はお持ちですか』と首を傾げて問うてきた。悟郎はすすっと若女将の前に出ると、招待状を二通見せる。
 若女将はここでやっと悟郎の存在に気が付き、内心『動く鞄じゃなかった……!』と思ったそうな。そう、鞄に気を取られていて悟郎に全く気付いていなかったのである。
『では早速部屋に御案内を……それにしても、お荷物が多いのですね?』
 若女将は沢山の荷物を見て、一体何に使うのだろうかと怪訝な顔をする。
「備えあれば憂いなしだ」
 クロウは悟郎に持たせた荷物を見やりながら言い切るが、それだけだと少しばかり説明が足りなくて。不足を補う為に悟郎は、訝しむ若女将に更にずずいっと迫る。
「おや、貴方は楼先生をご存じない? 楼先生ほどの男前な大作家先生だと必要なものも多いんですよ」
 自身の眼鏡のブリッジを指先でくいっと上げた悟郎は、クロウを指差すと突如力説を始める。
「彗星の如く表れた若き才能! 立てばイケメン、座ればハンサム、歩く姿はマダムキラー……その名も、楼・菊杜大作家先生です!!」
 言い切った悟郎はいつの間にか取り出した扇子を扇ぎ、クロウの周囲に手品の要領で盛大に紙吹雪を舞わせた。
 若女将は勢いに気圧され仰け反りつつ『そ、そうなのでございますね……すみません、私最近の文豪様に疎くて……』と。とりあえず納得する。
「よせやい、盛りすぎだろ」
 紙吹雪を肩や頭に頂いたクロウこと楼先生はそう言いつつも、その顔は満更でもないご様子。
「ちとばかしアリバイに煮詰まっちまってよ。いつもと違う環境ならピンと何か頭に浮かぶかもしれねェと思ってな?」
『まぁ、そうなのですか。此処ならきっと、新しい案が思いつくでしょう』
 そう笑いながら若女将は、二人を客室へと案内し始める。

●部屋の名前が妖怪なのは趣味です
 ここは客室『百々目鬼の間』。若女将に案内された二人は、この部屋へと通された。
 床の間の檸檬の背後には、『偉大なる落伍者となり蘇るだらう!』という謎の掛け軸が掛かっていた。
「なァ、着いたばっかだし一風呂ぐらいイイだろ?」
 大きな荷物を部屋の隅にどっしと置く悟郎へと。クロウは煙草片手に壁に寄りかかりながら、破壊力抜群の猫撫で声でおねだりする。
「お前も長旅疲れたろ?」
(「このイケボの破壊力は正に凶器……!」)
 悟郎でさえ、ぐっとキてしまうのだ。仮に支持者の仔猫ちゃん達がこの場に居たなら、瞬殺されること間違いなしである。
「まさか旅館内を歩くついでに、そのフェロモンで淑女の腰を木っ端微塵にする事件を起こすおつもりでしょうか? 今回取材も兼ねてますので、事細かに書き記しますよ?」
「ハ、その瞬間を書き留めておけよ」
 取材と悟郎が言ったのは、編集部で『楼先生密着二十四時!!』という取材特集を組んでいるから(という設定)である。
「おら、さっさと行くぞ」
 煙草を灰皿に押し付けたクロウが身を翻し、悟郎がその後に続く。クロウの煙草の残り香が、悟郎の鼻先をくすぐった。

 因みに。盛大に撒かれた紙吹雪は、部屋案内から戻った若女将がせっせと掃除しました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神狩・カフカ
【朱の社】
へいへい、おれは熱狂的信者から逃れて缶詰にされる文豪役と…
これいつもと変わらなくねェか???
ま、正体を偽るのが常だからな
おれも演技は得意ってもンよ
つーかはふりが弟役だァ?
ほぉーん…ンじゃ腕前見せてもらおうじゃねェの

はふりの演技に怪訝な顔をしそうになるのを必死に抑えて
おう、いい宿じゃねェか
さすがコノエ編集様様だなァ
これなら集中できそうじゃねェか…って
うわ、なんだこの部屋
おれの名前が部屋中に…コノエ、片付けといてくれや
これじゃ集中できねェよ!

おれも桜見に行きてェ…駄目か
ンじゃ、はふりのことはコノエに頼むぜ

おい、その見本って昔のおれのことか???
そうやって再現されると凄ェ複雑なんだが!


葬・祝
【朱の社】

さて、役どころとしては、文豪の幼い弟、ということで
一人置き去りに缶詰めになる訳に行かずに連れて来た、とは言っても、幼い少年にとっては兄と兄の知り合いとの旅行と大差ないでしょう
精々、無邪気に遊びましょう
人真似で作った人格なので、演技は得意な方ですよ

カフカと手を繋いで、燥ぐように小走りに
何時もと違って、わざと足音を立てるのも忘れずに
すごーい!と目を輝かせてわらえば、髪飾りの鈴がちりんと鳴った

広いねぇ、兄さん
此処にお泊まりするの?
荷物置いたら桜見に行っても良いかい?
コノエさんも一緒に行こ!

遊ぶ気満々の少年のように見えれば上々
落ち着きのない明るい子供は見本があるのでやりやすいですよ


朱葉・コノエ
【朱の社】
…私は大天狗様を淡々と缶詰させる担当編集…ですか
大天狗様をそのような形式で呼ぶのは少々違和感を感じますが…必要なことでしたら仕方ありません
あまり演技は慣れませんが少しでも溶け込めるようにいたしましょう

大天狗様、祝様の演技を目の当たりにしつつも変わらず冷静に演技を行います
大て…カフカ先生。こちらが本日泊まる部屋になります
当分の間、先生にはこちらでじっくり書いていただくことになりますので

花見も駄目です、先生
完成するまでは外に出すわけにも行きません
…弟君を遊ばせたいのは山々ですが今は書いていただくほかありません
その間、弟君の面倒は引き受けますので

…大天狗様はこのような子供時代だったのですね



●本当に新たな客人は訪れていたのだろうか
 せっせと掃き掃除する若女将の耳に、ちりちりんと鈴の跳ねる音が聞こえて来た。
 石畳を蹴りたったと足音響かせて。燥ぎながら小走りする葬・祝(   ・f27942)が、苦笑する神狩・カフカ(朱鴉・f22830)の手を引きやって来たのだ。
「すごーい! 兄さん。此処にお泊まりするの?」
 祝は古き良き木造二階建ての旅館を前にすると、瞳をきらきらと輝かせ無邪気に笑う。髪飾りの鈴も呼応するようにちりんと鳴った。
 旅館は高層ではないが奥行きはあるようで、中々に広そうだ。
「おう、いい宿じゃねェか」
 カフカも旅館を見上げると満足そうに頷く。実のところ祝の演技に怪訝な表情になりそうだったのだが、それを必死に抑えていた。
 少し遅れて、朱葉・コノエ(茜空に舞う・f15520)もカフカらに合流する。
 若女将の前にコノエは出て、三人分の招待状を見せる。カフカ、祝、コノエの分だ。
 招待状を若女将は確認すると、早速三人を部屋に案内しようとして。しかし新たに客人が訪れたのを認めた為に、あたふたし出した。
 コノエは若女将に、客室を教えて貰えば自分達は大丈夫という旨を伝える。若女将は申し訳なさそうな顔をして礼を言うと、コノエらに部屋の名前と道順を書いたメモを渡した。

●沈黙は何とやら
 ここから先はコノエの回想。さてどんな役をやろうかと、ちょっとしたすり合わせの時の話だ。
「役どころとしては、文豪の幼い弟、ということで」
「おれは熱狂的信者から逃れて缶詰にされる文豪役と……これいつもと変わらなくねェか?」
「……私は大天狗様を淡々と缶詰させる担当編集……ですか」
 カフカは文豪、コノエは編集者。そして祝は文豪の弟役といった具合に役を決めた三人。
「ほぉーん……ンじゃ腕前見せてもらおうじゃねェの」
 カフカは弟役をやれるのかねェと言わんばかりの、挑戦的な視線を祝へ投げかける。
「落ち着きのない明るい子供は、見本があるのでやりやすいですよ」
 そう言うと祝はカフカをじっと見返した。祝の視線を追って、コノエもカフカの方を見る。
「おい、その見本って昔のおれのことか?」
 まさかと思い、カフカは祝へと問い質す。けれども祝は視線を逸らし、沈黙だけを突き付けていた。

 以上、回想終了。
(「……大天狗様はこのような子供時代だったのですね」)
 無邪気に駆けまわる祝を見、コノエは心の中で呟いた。幼き頃のカフカにも、このような頃があったのかと沁沁する。
(「そうやって再現されると凄ェ複雑なんだが……!」)
 あの時の沈黙はやはり肯定だったのか!
 一方のカフカは気恥ずかしいような、懐かしいような。非常に何とも言えぬ心持ちであったとさ。

●多分伏線になる。多分
 旅館の入り口を潜った三人は、部屋へと歩を進めていた。
「さすがコノエ編集様様だなァ」
 演技を続けながらカフカは、廊下の窓から見える渓流を眺める。
 桜舞い散る、喧騒から離れた山奥の旅館。聞こえる音は渓流のせせらぎ。集中してモノを書くのに適している場所である。
「広いねぇ、兄さん」
 祝が隣を歩くカフカを見上げる。祝的にはおそらく他意は無いのだろうが、カフカは妙に部屋まで距離がある気がしていた。何だかさっきから同じところを歩いているような……。
 本当にこの道順で大丈夫なのかとカフカがコノエに尋ねようとした時。コノエが一つの部屋の前で足を止めた。どうやら無事着いたようだ。
「大て……カフカ先生。こちらが本日泊まる部屋になります」
 いつもの呼び方が出てきそうになったものの。コノエはすぐに言い直し、『八咫烏の間』の襖をスッと横に滑らせる。
「これなら集中できそうじゃねェか……って、うわ、なんだこの部屋。おれの名前が部屋中に……」
 開かれた襖の向こう。畳の上や文机、襖に窓と。『カフカ大先生』だの『カフカ神』だのと、兎に角カフカの名の書かれた貼り紙が部屋の至る所に貼られていた。
「コノエ、片付けといてくれや。これじゃ集中できねェよ!」
 半ば悲鳴に近い指示を受けたコノエは、べりっとばりっと。次々、貼り紙を剥がす。その姿を見た祝もちりんと鈴を鳴らし、「お手伝いするよ」とぺりっと剥がす。
 祝も貼り紙を剥がしているのに、自分だけ何もしていないことに罪悪感を憶えたカフカも。貼り紙剥がしに混ざり始めた。
「貼り紙を全部剥がして、荷物置いたら桜見に行っても良いかい? コノエさんも一緒に行こ!」
 祝はカフカへとにこり笑んで訊ね、コノエも共にと誘う。
「おれも桜見に行きてェ……」
「花見も駄目です、先生。完成するまでは外に出すわけにも行きません」
 貼り紙を剥がしながらカフカが願望を呟けば、コノエが冷静に却下する。
「駄目か」
「……弟君を遊ばせたいのは山々ですが、今は書いていただくほかありません」
 さり気に祝の花見の誘いも断ったコノエ。カフカが逃亡しないように、目を離す訳にはいかないのだ。だってコノエは、カフカの担当編集なのだから。
「え、駄目なのかい……?」
 しょんもりしながら祝はコノエを見る。コノエは淡々「申し訳ありません」と、一言謝罪を口にした。

 しばらくして、貼り紙は全て剥がされた。テープ跡だらけではあるが、先の貼り紙だらけの部屋よりは幾分マシである。
「当分の間、先生にはこちらでじっくり書いていただくことになりますので」
 だがその間、祝の面倒は引き受けるとコノエはカフカに言う。
「ンじゃ、はふりのことはコノエに頼むぜ」
 それを聞いたカフカはひらり手を振ると。二人に背を向け文机へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

永倉・祝
文豪と編集者ってだけですでに事件が起きそうな感じですよね…『まぜるな危険』と言うか『会わせるな危険』みたいな。
僕は経験はないですがスランプとかってどうしようもないじゃないですか。それでも〆切は伸びてはくれませんし。
生活費に借金。息抜きに借金って感じで借金も雪だるま式に…。
あと、文豪さんって意外と破天荒な方が多いから…僕は違いますよ。

と言うわけで文豪の僕が文豪役で旅館を訪れようかと。ちょうど執筆明けだったので息抜きがてら温泉にみたいな感じで。
何度も言いますが…僕は至極真っ当な文豪ですからね?
…どちらかと言うと別人格の方が…いえいえなんでもありません。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)とは敢えてでなく別行動。
役か。役は…そうだな。口封じされそうな役でいい。

案内された部屋に通されてから若女将に一つ質問を投げる。
失礼だが気になることは聞かないと落ち着かない性質でな。
「…ところで女将。
広そうな旅館を一人で切り盛りするのは相当大変そうだな?」
女将の表情を観察しながら問う。まあ興味本位なだけなんだが。
「そうか。すまない。人を何人か雇えば楽だろうに…と思ってな。
おせっかいが過ぎた。忘れてくれ」

【小さい援軍】達に協力して貰い若女将の身辺を調査してみよう。
決定的な証拠を発見できるかもしれない。
「…あ。それからな」
露の様子と行動も密かに探ってくれ。接触しなくていい。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。敢えて別行動。
役は黒衣の令嬢のことを慕う女中さん。…えへへ♥慕う~♥

お嬢様より先に七時間前に来たけれど一向に連絡もないわ。
暇だし旅館の隅から隅までウロウロ意味なくお散歩するわね。
おぢょうさまレーダーに反応があるからいるはずなんだけど…。
「…はっ?! もしかして!」
『あの時』の罰が…今になって?…でもあれは…。あれは…。
あの時の『あれ』の始末は誰にも見られていないはずよ!
でも…もし『あれ』をみられていたら…あたしは…お嬢様は…。
「お嬢様が…危ないわッ!! おぢょうさまッ!」
って言いながら旅館をウロウロするの再開するわ。
きっとレーちゃんどこかに泊まってるはずですもの♪


アイグレー・ブルー
ノリノリで入り込んでいるので普段よりテンション高いです。自由にお願いします

『わたくしはとある作家様のファンであります……!
わたくしでも楽しめる推理物は貴重であり、その作家様が執筆に利用なさっているお宿に往けるとの事でこれはいい機会であるとこちらに参りました。温泉も初めてなので是非楽しんでみたいと思っております。
嗚呼これがあの方が跨いだ敷居、気分転換に観たかもしれないお庭、お食事ももしかしたらお品書きが一緒かもしれませんね!!実質食事を一緒にしたことになるのでは?!
ついには限界を迎えて襖にそっと指で穴をあけて執筆風景を覗こうとしてしまうかもしれません……!どの部屋にいるかは存じませんが』


神代・凶津
被害者役とは中々面白そうじゃねえか。なあ相棒。
「・・・遊びじゃないんだから。」

常に鬼の面を付けて巫女服を着ている謎の文豪って設定でいこうぜ。
「・・・小説なんて書いた事ありませんよ?」
振りでいいんだよ相棒。
それっぽい雰囲気だしてりゃバレねえって。

旅館に着いたら散策しながらこれから起こる事件の核心に近そうな雰囲気を出しながら相棒が意味深な事をとりあえず呟いてみりゃいいんでない?
こう、伏線っぽく?

「・・・あの時もこんな天気だった。」
「・・・檸檬」
「・・・そう、そう言う事だったの。」

中々いいんじゃないか。
俺?俺は時折カタカタ動く呪いの面の役とか?
「・・・意味あるんですか、ソレ?」


【アドリブ歓迎】


雪丸・鳳花
たのもう!
役者を探していると聞いたのだが!
芝居を愛し、生業とするのを志す演劇部の学生だが、構わないだろうか!!

ならば!
ボクは文豪のファンとなろう!
文豪を神と崇め、いささか盲目的で狂信的な常識に囚われないファン!
編集者や借金取りに負けぬファンとなろう!
ボクが文豪を追う理由!
ああ、それは!
活字に飢えているから!
文豪がこの旅館にいる事も無論調査済み!
次の作品が待ちきれなくて仕事場に押し掛けたのだ!
文豪役の元にUCで駆けつけよう!
この旅館全体が舞台だ!
ああ!この場の登場人物も若女将すらもボクの魂を込めた演技で魅了してみせよう!
ハッハッハ!
必ずやこの舞台を成功させようじゃないか!


アドリブ歓迎


真宵蛾・小鳥
役:文豪目指してコンクールに応募する御嬢様。今回は次の投稿作品の資料集め兼取材。

「ここが多くの文豪様が数々の作品のインスピレエションを授かった御宿、趣が所々から溢れているのが感じ取れます。きっとわたくしも次は受賞できる気がしてきました」

【行動】お庭や家具、飾られてる美術品などをスケッチして回ります。
物書きは、絵も描けて当たり前。バンカラ思想は、古臭いでしょうか?

旅館で働いてる方たちにも御願いしてスケッチさせてもらいます。

(誰を犯人役にして誰に死んでもらいましょうか?)考えるフリ。

そこらかしこを血の海に変えて、最後に残るのは探偵と犯人の2人だけそして二人は抱き合うように崖下に落ちて、そして・・・


渡・冥
事件解決の為とは言え、なんで僕がこんな事を。
演技とか苦手なんだけどなあ。しかもこんな山奥で。
……それもこれも先生方が締め切りを守らず逃げ回るせいです。
羽を伸ばしに来た?
ならばその羽、毟り取らせて頂きましょう。

締切、お忘れですか?
進捗……聞くまでもないですね。
いえ、いいんです。私は原稿さえ頂ければ。
今から書いてください。死ぬ気で。
この心地良い環境なら筆も進むことでしょう。
それが無理なら……そうですね、首でも頂きましょうか。
次の先生方に見せれば締め切りを守って頂ける事でしょう。死ぬ気で。

部屋を順に見て回りましょう。
この剣の出番が無い事を願いながら。
さあどこに隠れおいでです?


虹川・朝霞
なるほど、殺人事件の役者…しかも確定被害者…。
面白そうですね!!

文豪のスト…げふん、熱心なおっかけファンということにしましょう。
そう、その文豪が書く作品にでてくる主人公の相手役の男、それが自分がモデルだって思い込んでる系の。
もちろん、主人公は文豪だと思って。
性別?種族?関係ないですね系もある。

ええ、その文豪がこの旅館へ行くと聞き、どうしても俺も行きたくて。
そこに招待状が届いたんですよ!とはしゃぎ気味。

だって、この旅館。二人の旅行にも最適でしょう…?
招待状の送り主も、それを望んでるのでしょう…?

ところで、この檸檬はいったい?(ちょっと素が出る)


霧鵺・アギト
僕は学者。演技には自信がない。
だが文豪らしく振舞ってみようとは思う。
できる限り。

なりきる為にはまずは対象の事を知らないといけないだろう。
幸いなことに調べ物は得意だ。
色んな資料を読み漁るのは楽しいしな。

……
………
…………文豪には変わった者しかいないのかな?

なんだか真面目に文豪のフリをするのも馬鹿らしく…。

せっかく静かな環境に来れたんだ。
自前の研究資料でも持ち込んで纏めたりしよう、そうしよう。
とりあえずは与えられた部屋で普段通りの僕の生活をしておけば、きっと湯船の雑菌の数を調べすぎて風呂に入れなくなった文豪のように見えるんじゃないかな?


シエラ・バディス
うーん…
それっぽい無難な役なら…作家先生の追っかけファン辺りかな?
この招待状の場所に来れば会えると聞いて!……といった具合で。

棺桶の中に武器を仕舞って、隠すように本を積み上げて……ついでに外装も革張りに偽装して、本好きのファン風に演じてみようかな。

旅館に着いたら先生を探してふらふらと歩き回ってみて、他の人達を確認していこう。
お風呂なんかもあるだろうけど、それは入るにしても人がいない時だね…

さて、どうなるかな?


ケルシュ・カルハリアス
※アドリブ・連携OK
※WIZ判定

同じ創作する者として、文豪として動いてみようかな。もちろん鮫好きの文豪だよ。

文豪だから…街で暴れる鮫の群れ、鮫対怪獣の頂上決戦、鮫に恋した乙女が織りなす禁断のロマンス、帝都を騒がす怪人ならぬ怪鮫など、とにかく鮫絡みの作品を書いてみます。

あと他の人、特に編集者役の人がいたら【ブームの仕掛け人】視点から【コミュ力】と【情熱】を持って鮫小説の流行の予感を語ってみるかな。こういうのがあったらそれっぽく見えるかもしれない。

…にしても張り紙が多いですね。あれ、『目指せ発行百兆部』?『一億部は通過点』?
…スケールが大きいなあ。



●時折現実に戻りつつ回る舞台
 さて此処は山中の温泉旅館、『水本館』。
 その一室『猫又の間』にて。文豪、永倉・祝(多重人格者の文豪・f22940)はふかふかの布団に包まれて、幸せな夢を見ている最中だった。
 何故、祝が此処に居るのか。それは少々遡る。
 締切に追われ追われて追い付かれる前。なんとか原稿を完成させ、その引換えに原稿料を手にした時。
 其処へ何だか仕組まれたみたいに、祝の許へと温泉旅行の招待状が舞い込んできた。執筆明けで疲れていた祝が、それに食いつかない訳もなく。原稿料片手に喜び勇んで現地に飛んだ、という訳である。
 決して原稿料の気配を感じたらやって来る借金取りから逃げてきた訳ではない、とは本人談。
 文豪、スランプというものがある。だが締切は待ってはくれない。原稿落とせば原稿料は入らぬ。
 そうなったなら生きる上で足りぬ金は借金で賄うしかない。生活費に息抜きの遊興費その他諸々……と、祝は借金を繰り返し。それは雪だるまだったはずなのに、今では坂道を転がり常に迫りくる雪崩と化していた。
 だが祝はこう言い切る。
「借金は錬金術です」
 吹っ切れている。これは誰が窘めても聞く耳を持たないだろう。
 さて場面を戻そう。
 祝がすやすやと休む部屋。その襖を勢いよくスパァンと開ける者が現れた。
 それは締切破りジェノサヰダアの異名を持つ渡・冥(ジェノサイダー・f00873)だ。
 冥は殺気を祝へ一点集中させ、氷よりも冷たい視線をざくざく向ける。
 刺さる尋常ではない殺気に祝はひゃあと飛び上がると、勢いよく後退る。ゴン、と壁に頭をぶつけてしまったが、痛みに構っているどころではない。
 壁にぶつかった衝撃で、床の間の檸檬の位置が僅かにずれる。
(「何故編集がここに居るんですか……!」)
 行先は誰にも告げていない筈なのに、何故。
 これが締切破りジェノサヰダアなのかと、顔に出さないようにしながら祝は内心慄く。
「締切、お忘れですか?」
 にっこり笑んで穏やかな声音で問う冥。だがその瞳は一切笑っていなかった。
「進捗……聞くまでもないですね」
 部屋を見渡して、冥は書きあがっている原稿が無いか探すのだが。それは一切見当たらない。
「その、息抜きがてら温泉に……」
「つまり羽を伸ばしに来たと? ならばその羽、毟り取らせて頂きましょう」
 おずおず口を開いた祝へと、冥はじろり、赤い瞳を向けた。
「今から書いてください。死ぬ気で」
「でも其方の原稿の締め切りはま」
「この心地良い環境なら筆も進むことでしょう」
 冥は祝の話に聞く耳を持ちやしない。彼は締切破りジェノサヰダア。如何なる理由があっても、原稿を取り立てる存在だもの。
「それが無理なら……そうですね、首でも頂きましょうか。次の先生方に見せれば締め切りを守って頂ける事でしょう。死ぬ気で」
 言い切ると冥は「では打ち合わせに行かねばならないので」と、部屋から静かに出ていく。最初の勢いの良い襖開けは、おそらく祝を起こす為のものだったのかもしれない。
 祝は泣く泣く文机に向かおうとした。したけれども、布団が『私を置いて行くの?』と縋った眼で見てきた(様に見えた)のだ。
 そんな眼で見つめられたなら、潜り込むしかない。祝は今一度、全てを受け止める布団の腕の中に抱きすくめられる。
 もう一度夢の世界へ一名様ご案内。ふかふか布団の誘惑には、誰も抗えやしないのだ。

●鮫文豪と熱狂的ファン
 冥は打ち合わせする相手の許へと足を向けていた。その者もまた同じ旅館に滞在しているのだ。
 『影鰐の間』の襖を冥はコンコンと軽く叩き、打ち合わせ相手が部屋に居るか確認を取る。少し待てば、襖がすっと横に開いた。
 すると中から小さな鮫……ではなく、鮫コスチュームを纏う鮫好き文豪のケルシュ・カルハリアス(鮫絵師・f29842)が顔を出す。
「いらっしゃい! ささ、入りなよ!」
 ケルシュに促されるまま部屋の敷居を跨ぐ冥。取り立てではなく打ち合わせに来たので、先程みたいな殺気を放つことは無かった。
 何故か部屋の壁や押し入れの襖に何やら貼り紙が貼られていたが、冥は特段気にも留めず目を通さなかった。
 視線を泳がせ見つけた文机の上には、分厚く原稿が置かれていた。ケルシュは勢いのままに一気に執筆するタイプなのかもしれない。
「こちら、拝読しても」
 冥はケルシュに確認を取る。もし読まれたくない原稿だった場合、相手を不快にさせてしまうからだ。
「どうぞどうぞ、ぜひ読んで!」
 しかしその心配は不要であった。ケルシュ曰く、大雑把にまとめるならば、原稿は鮫のセルフアンソロジヰだそうだ。
 目次を見るに、街に突如現れ暴れ始める鮫の群れの話に始まり、鮫対怪獣の頂上決戦。
 そして鮫に恋した乙女が織りなす禁断のラブロマンスが語られ、帝都を騒がす怪人……ではなく怪鮫の話に終わる。
「次は絶対鮫ブームが来る!!」
 原稿に視線を落とす冥へと、熱意を持ってケルシュは語る。
 原稿を手に取り見つめ、冥は思惟する。確かライオンの夢を見る老人の小説にも、鮫が登場していた。
 もしかすると、イケるかもしれない。
 流行は仕掛けなければ流行らぬ。流行らせるならば様々なフレーバーがあった方が良いだろう。
「ではまずは鮫アンソロジヰをやってみましょうか。一人よりも多数の作家が書けば、ブームの火が勢いよく着くd」
「ハッハッハ! 必ずやこの舞台を成功させようじゃないか!」
 冥は原稿用紙を捲り読み始めようとして、しかしそれは突如現れた何者かにより奪われ叶わなかった。
「この原稿の第一読者は僕さ!!」
 冥の手から原稿を奪ったのは、しゅばっと突如現れた雪丸・鳳花(歩く独りミュージカル・f31181)。
「神文豪ケルシュ先生の次の作品が待ちきれなくて、部屋に押し掛けさせて頂いたのだ!」
 鳳花は冥には目もくれず。呆気にとられているケルシュへと一気に迫り、屈むとその手を取って力強い握手をする。
「ケルシュ先生!! お会いできて誠に恐悦至極!!」
 そして鳳花は語りだす。いかに自身が活字……特に鮫小説に餓えていたのかを。
 鮫小説を求め本屋巡りをしていたが、中々出会えなかったことを。
「しかし!! ある本屋で見つけたケルシュ大先生の小説を立ち読みした際!! ボクは衝撃を受けたのだ!!」
 まるでその場に居るかのように目に浮かぶ鮫の精細な描写に鳳花は、目尻に熱いものを感じたという。
「描写だけではない! 鮫知識の豊富さにも深く感銘を受けた!!」
 小説の登場人物が語る鮫知識は豆知識から専門的なものまで幅広く、逆に考えればそれを語らせるにはかなりの鮫知識を持っていなければ出来ない。
 それが出来るということは、本当にケルシュは鮫を愛しているのだなと。甚く感動した旨を鼻声になりながらも鳳花は伝える。
「僕の作品でこんなに熱くなってくれるなんて……凄く嬉しいよ!!」
 ケルシュは目から溢れそうになった雫を拭うと。押し入れの貼り紙の方を指差し、声高に目標を掲げる。
「目指せ鮫アンソロジヰ発行百兆部!!」
 それに続くように鳳花も入り口の襖の張り紙を指差して、
「一億部は通過点!!」
 と、ノリノリで後に続く。何故そう宣言したかだって? 貼り紙にそう書いてあったからだ。
 二人が燃えている一方で、一人蚊帳の外に冥は居た。
(「……いえ、いいんです。私は契約と原稿さえ頂ければ」)
 冥は水を差すことをしない。契約と原稿さえ手に入れることが出来るなら、他に何があっても割とどうでもいいのだ。

●愛読書のタイトルは即興
 若女将に客室まで案内されながら。グリッターが集束して来る頬を両手で押さえるアイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿す・f20814)は蕩けかけていた。
 アイグレーと若女将が歩く廊下の硝子窓の向こう側には。鯉が泳ぐ小さな池と、よく手入れされた桜の樹が見える。
「嗚呼これがあの方が気分転換に観たかもしれないお庭……!!」
 アイグレーは愛読書である推理小説、『スペース☆書生の事件簿』の作家が執筆に利用しているという旅館の招待状が手に入り、これはとてもいい機会だと喜び勇んでやってきたのだ。
『お客様は当旅館をご利用になるのは初めてになるのですね。良い思い出になれば幸いに存じます』
「勿論!! とっても良い思い出にしたいと思っております!」
『ああ、かけ流し天然温泉がございますので、お部屋にお荷物を置いた後にゆっくり浸かるといいかもしれませんわ』
「わたくし温泉も初めてです……! 是非楽しませていただきます!」
 それを聞いて、ふふと若女将は微笑むと。『さ、此方がお客様の御部屋になります』と、『木霊の間』の襖を開いた。

「この机で作家様は執筆をされたかもしれないのですね……!」
 案内された客室にアイグレーは一人になると。文机を撫で呟いて、想像に耽る。
(「はっ、お食事ももしかしたらお品書きが一緒かもしれませんね!! 実質食事を一緒にしたことになるのでは?!」)
 アイグレー、只今絶賛空想妄想暴走中。
「もしかしたら作家様も今、何処かのお部屋に宿泊しているかもしれません……!!」
 ついに限界点を越えたアイグレーは部屋から飛び出ると。直感的に『此処ですね!』と思った客室の襖に、指でぷすりと穴を開けて覗き込んだ。

●ちょっと現実に戻るんじゃ的な
 場面を切り替え、ここは『文車妖妃の間』。この部屋では霧鵺・アギト(叡智を求めし者・f32015)が文机に向かい、本を開いていた。
 アギトは学者で、演技には自信が無かった。けれどもできる限りは文豪らしく振舞うべく、文豪について調べている真っ最中だった。
 そう、なりきる為にはまず、対象について知らねばならない。幸いにもアギトは調べ物が得意で、資料を読み漁るのは楽しく思えるタイプだった。
「……」
 事前に資料館で借りてきた文豪についての伝記や、逸話集に目を通すアギト。
 それらには、掻い摘むとこのような話が記載されていた。

 ――睡眠薬を多量に服用して酩酊状態になり、カレー百人前注文した文豪。
 ――酔った勢いで文豪仲間とガス心中未遂をした文豪。
 ――4メートルにも及ぶ受賞懇願の手紙を書いた(尚賞は取れず)文豪。
 ――年齢を重ねる度に筆名を改め、ある時周囲に「ええ加減にせい」と窘められ改名を止めた文豪。

「…………文豪には変わった者しかいないのかな?」
 アギトは小さく呟いた。頭痛がしてきて、こめかみに手を当てる。
 そして。そのアギトの姿をじっと見つめる瞳があった。

(「あぁあああ先生……! 執筆に行き詰っていらっしゃるのでしょうか?!」)
 それは襖に穴を開け、覗き込んでいたアイグレーだった。穴の向こうに背が見えて、それはきっと愛読書の作家様だという勘違いが絶賛炸裂している所であった。
 今すぐにでも襖を開けて、何かお手伝いできることがあればと傍に行きたいアイグレー。けれどもいきなり押し掛けたら不審者MAX。
 どうすれば良いのかと悩んだ末、アイグレーは若女将に差し入れをお願いすれば良いのではと思い至る。
(「こういう時はきっと糖分! 糖分が良いに違いありません!」)
 アイグレーは急ぎ、若女将を探しに走り出した。

●林太郎先生の事かー!
 視点はアギトのものに戻って。
 真面目に文豪のフリをするのも馬鹿らしくなってきたが、もしかしたら、変わっているからこそ読者を引き付ける文章を書けるのかもしれないとアギトは思い始めていた。
 とりあえずアギトは『変わっている』文豪のフリはせず、普段通りにすることにする。
 せっかく静かな環境に来ることが出来たのだ。アギトは持ち込んだ自前の研究資料を纏めたりしようと決めると、本を閉じて研究資料を文机の上に広げ始めた。

 そうしてしばらく資料を纏めていたら、襖を叩く音が聞こえた。アギトは一体何だろうかと思いつつも『どうぞ』と声を掛ける。
 開いた隙間から顔を出したのは、盆を持った若女将だった。
『失礼します。こちら差し入れの饅頭茶漬けになります』
 突然の差し入れよりも、饅頭茶漬けという言葉の方にアギトの意識は向いていた。
 この不思議な茶漬けが大好物な文豪の話も本で読んだが、まさか現実に出されるとは思っていなかったのだ。
 けれども無下に断ることは出来ず。割られた饅頭の乗る器と茶の入った急須の乗る盆を受け取ったアギトは、それを見つめ暫し悩んでいた。

●遠足で眠れないのと同じような理由
「暇ねぇ……」
 そう呟いたのは神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)。露はこの場の誰よりも早く旅館に到着し客室に通された人物である。
 露は只今、旅館内を歩き回っている真っ最中。彼女はとある黒衣の令嬢お付きの女中なのだが……その令嬢の姿はない。
 というのも。露は令嬢との二人での遠出ということで張り切り過ぎて、その令嬢より七時間も早く先に旅館を訪れていたのだ。
(「うーん、お嬢様から一向に連絡が無いわ……」)
 客室だけでなく、受付や脱衣所前にまで飾られている檸檬を不思議に思いながら歩いて回り。露は旅館の庭に辿り着いた。
 からら、ころろと蛙の鳴く声が聞こえる。どうやら蛙が庭のどこかに居るらしい。露は池の前にしゃがみ込むと、その中で泳ぐ鯉を眺める。
(「おぢょうさまレーダーに反応があるからいるはずなんだけど……」)
 おぢょうさまレーダーとは露の特殊スキルである。黒衣の令嬢の存在を感知すると、髪の一部がぴょこぴょこと動くのだ。
 確かに髪は動いていた。しかしその動きはどうも心許ない。
「……はっ?! もしかして!」
 まさか、『あの時』の罰が今になって? と、露は不安に駆られる。
(「でもあれは……あれは……あの時の『あれ』の始末は誰にも見られていないはずよ!」)
 あり得ないわと首をぶんぶんと振る露。けれどもそれでは不安はぬぐい切れない。
 しかし仮に、仮にもし『あれ』を見られていたら……。
(「あたしは……お嬢様は……」)
「お嬢様が……危ないわッ!! おぢょうさまッ!」
 露は令嬢と早く合流すべく、脱兎の如く旅館内を駆け回り始めた。
『お客様ー! 旅館内では走らないでくださいましー!』
「あ、は~い」
 若女将の注意に露は気の抜けたような返事をしつつも。全く速度を緩めることは無かったのだった。

●何かの下に凶器が埋もれているのはお約束
「その……この招待状の場所に来れば会えると聞いて!」
 大好きな作家先生に会いたくて会いたくて、異国の地から遠路遥々ここまでやって来たといった風体で。シエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)は入り口で掃除をしていた若女将へと、招待状を握りながら声を描ける。
『まぁ、大きなお荷物を背負いながら異国から……長旅でお疲れになっているでしょう、まずはゆっくりお休みになっていってくださいね』
 実際は転移で来ているので全く疲れてはいないのだが……まぁ、遠路であったのは多分嘘ではない。
『お客様、随分と大きな……鞄? ですね?』
 若女将はシエラの背中の鞄――実は棺桶へと視線を向けていた。今現在棺桶は革張りにされているので、少し変わった形の大きな鞄となっていた。
「あ、この中には沢山の本が入っているんだ」
 シエラはその場で鞄を地に置き、中を開いて見せる。中にはぎっしり、沢山の本が詰め込まれていた。
『本当に本がお好きなので御座いますねぇ……』
 その本達を見て、若女将は感心する。しかし本達の隙間から、小さく陽光に反射する何かが見えていた。シエラはそれに気がつき、「あっ、不味い斧が……」と内心冷やりとしたのだが、若女将は全く気がついていない様子。
 それを見て、ほっとしながらシエラはぱたんと鞄を閉じる。
『では、ご案内いたしますね』
 鞄をシエラが背負いなおせば。若女将はシエラを客室まで導くのだった。

 客室まで案内される途中。「おっ嬢様ー!!」と言いながら猛スピードで駆け回る少女や、とある客室の前で「何かお手伝いできることがあれば……!」と悩む少女、「さあどこに隠れておいでです?」と客室の襖を片っ端に開けまわる青年をシエラは見かけたりした。
 彼女達も旅館の宿泊客なのだろう。そんなことを思いながら、シエラは若女将が開けた『覚の間』の奥へと入る。
「お風呂って……どれくらいの時間なら空いているかな?」
『そうですねぇ。夜だと混んでしまいますが、今の時間であれば殆ど居ないと思いますよ』
 現在は昼少し過ぎくらいの時間だった。確かにこの時間帯、湯に浸かる者は居ないだろう。
「お風呂に行くがてら、ふらふらっと先生を探してみようかな」
 シエラは鞄を部屋の隅に置くと、大浴場へと足を向ける。この旅館の湯はかけ流しの天然温泉だそうで、ちょっと楽しみだった。
 その途中、シエラは若女将に先導される黒衣の少女とすれ違った。
(「あれ、こんなに早く他のお客さんを案内できるのかな……?」)
 少し疑問を抱いたが、若女将しか知らない近道があるのだろうと。シエラは自身を納得させた。

●そしてそれを見つけるのもお約束
 シエラがすれ違った相手はシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)だ。
 彼女こそ露が慕う黒衣の令嬢。静かな読書の時間を愛する娘である。
 シビラは若女将に導かれるまま、『件の間』の敷居を跨ぐ。だが不意にシビラは若女将の方を振り向くと、問いかけた。
「……ところで女将。広そうな旅館を一人で切り盛りするのは相当大変そうだな?」
 シビラは気になることは聞かないと、落ち着かない性質であった。
 大きな旅館に何故、若女将一人なのか。それがどうも、シビラは引っ掛かっていたのだ。
『え、ええ。一人だと確かに大変ではありますが……結構気楽ですよ?』
 若女将は目を逸らし少したじろいだ。何か隠しているような様子を、シビラは見逃さなかった。しかしここで問い詰めるような真似はしない。
「そうか。すまない。人を何人か雇えば楽だろうに……と思ってな。おせっかいが過ぎた。忘れてくれ」
 興味本位の質問だったのだが、若女将の反応はちょっとした収穫だった。
『そのお気遣い感謝いたします。では、ごゆっくりと』
 どことなく逃げるように、若女将は部屋の襖を閉める。
 それを見送ると。シビラは手乗りシビラ達を喚び出して、若女将の身辺を調査する様に命じた。やっぱり何か、引っ掛かるのだ。

 暫くして、手乗りシビラ達は思わぬものを持って戻って来た。
 持ってきたそれは、シエラの鞄の中にあった斧とスコップなのだが……何故か手乗りシビラ達は見つけて持ってきてしまったのだなあ。
「これは一体……まさか女将、これで他の……? うっ……」
 突如シビラは頭を手でおさえた。何か、忘れていた記憶が蘇るような……しかし蘇らせてはいけない気がする記憶だ。シビラは深呼吸して自身を落ち着かせる。
「……あ。それからな」
 そして改めて手乗りシビラ達に密命を課した。
 旅館内のどこかに居る露の様子を、接触せずこっそりと探ってきてくれと頼んだのだ。

 ――そうして。暫くして戻って来た手乗りシビラの耳打ちに、シビラは不思議そうな顔をしたそうな。

●きょうきはきょうき
「実はですね、憧れの文豪がこの旅館を訪れると聞きまして……それで、どうしても俺も行きたくて」
 そう燥ぎながら女将へと語るのは、虹川・朝霞(梅のくゆり・f30992)。朝霞は今、若女将に客室まで案内されている最中だった。
『あら、お客様はその文豪様が大好きなので御座いますね』
「ええ大好きです! それでどうやったら行けるかと頭を抱えていたら、丁度そこに招待状が届いたんですよ! もう本当に嬉しくて、天に舞い上がれると思いました」
 随分な燥ぎ様だなと、若女将は内心思った。少し違和感を抱いてしまうくらいには。
「だって、この旅館。二人の旅行にも最適でしょう……? 招待状の送り主も、それを望んでるのでしょう……?」
 若女将へと問う朝霞の瞳には光が無かった。多分事前に吸った幻覚作用のある霞の影響を受けている為だと思われる。
 今の朝霞は熱心(意訳)な文豪の追っかけ支持者。熱心過ぎて、支持している文豪の作品に出てくる主人公の相手役は、自分がモデルであると思い込んでいる系の支持者だ。
 勿論、主人公は文豪であると思っている完璧にそっち系の支持者である。
『そ、そうなのでしょうねぇ……』
「愛には種族も性別も関係ないんです……きっと相手もそう思っている筈です。魂の底で繋がっているんですから」
 若女将は無難に同意しておく。ここは否定したら不味いと、直感で判断したのだ。滅茶苦茶に引いていたが、それを顔に出すことはしない。それがもてなしのプロである。

『……さ、此方がお客様のお部屋になります』
 若女将が案内した客室は『水虎の間』。朝霞は客室に入ると部屋を見渡し、そして床の間の檸檬の存在に気が付いた。
「ところで、この檸檬はいったい?」
 少しばかり素に戻りながら、朝霞は若女将に訊ねてみる。
『その檸檬は、得体の知れない不吉な塊から身を護る為の魔除けで御座います』
「得体の知れない不吉な塊……」
 朝霞は何処かで聞いたことがあるような……と首を傾げた。けれども直ぐ、頭の片隅にそれを追いやったのだった。

●すれ違い勘違い
 しゃっしゃとスケッチブックに鉛筆を走らせながら、真宵蛾・小鳥(コトリと落ちた其の箱は・・・・f32483)はほうと溜息を吐く。
「ここが多くの文豪様が、数々の作品のインスピレエションを授かった御宿……」
 只今小鳥は旅館入り口近くにある開けた談話室の椅子に腰かけ、瞳に捉えた家具や景色をスケッチしている最中であった。つい先ほどまでは、庭のスケッチもしていた。
 階段の踊り場で見た、黒衣聖母像は……その微笑みに不気味なものを感じてスケッチしなかったけれども、それは些細な事だろう。
 小鳥は文豪を目指すお嬢様。今回旅館を訪れたのは、コンクールに応募する作品の資料集めと取材の為である。
 入り口近くのこの談話室は、若女将が忙しなく動き回っている様子がよく分かる。一人ですべてをこなして、とても大変そうに見える。しかしその顔に疲れの色は滲んでいなかった。
「きっとわたくしも次は受賞できる気がしてきました」
 若女将の働く姿を見て。頑張って書こうと、小鳥は自身に気合いを入れる。
 そこにスッと、巫女服の娘が現れて。窓の外を見上げて呟いた。
「……あの時もこんな天気だった」
 その娘は神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)。常に鬼の面を着け、巫女服を纏う謎の文豪だ。
 小鳥は凶津につられて外を見る。とても良い天気だった。
 突然、凶津の着ける鬼の面がカタカタ動いた。小鳥は驚き目を見開く。凶津は小鳥を驚かせてしまった事に気が付き、「……ああ、ごめんなさい。これ、勝手に動くの」と謝罪した。
(「この文豪の方ほどになると、オーラでお面を動かす事が出来るのですね……!」)
 実際のからくりは違うのだが、小鳥は感心する。
 凶津は外へと視線を戻すと、この旅館に来る前のことを思い出し始めた。

●時間は少し戻るんじゃ
 それはグリベでのことだ。
 旅館では凶津と名乗っているが、その凶津の名は、娘が着けているヒーローマスクの方であって。娘の名は桜である。
「中々面白そうじゃねえか。なあ相棒」
 説明を聞いていた凶津は桜に、行ってみないかと持ち掛けていた。
「……遊びじゃないんだから。それに……小説なんて書いた事ありませんよ?」
「振りでいいんだよ相棒。それっぽい雰囲気だしてりゃバレねえって」
 フリでOKって言ってたじゃねえかと、凶津は桜を言いくるめる。
「旅館に着いたら、相棒が意味深な事をとりあえず呟いてみりゃいいんでない? 俺は時折カタカタ動く呪いの面の役してっからさ」
「……意味あるんですか、ソレ?」
 本当に大丈夫なのだろうかと桜は思いつつも。旅館に足を向けたのだった。

●旅館に戻るよー
「……檸檬」
 凶津こと桜は、談話室の机に置かれた檸檬を手に取ると。静かに目を閉じる
「……そう、そう言う事だったの」
(「ああ、この方はきっと過去に何かあったに違いありません……!」)
 檸檬を手に意味深な発言をする桜を見て、小鳥はきゅっと胸が苦しくなってきた。
 けれども、この感情も執筆の糧になると。その糧を昇華すべく小鳥は、スケッチブックをぱたんと閉じて、自室である『アマビエの間』を目指し駆け出す。
(「……あの子、盛大に勘違いをしたかもしれないですよ?」)
(「んあー、まあ大丈夫っしょ」)
 桜と凶津は小声でそんなやり取りをしながら、小鳥の背を見送っていた。

 自室に戻った小鳥は、原稿用紙を前に文机の上で頬杖を突く。
 バンカラ思想作品は……古いかもしれない。ならば、ここは推理ものが良いだろうかと小鳥は思惟する。
(「……さて。誰を犯人役にして、誰に死んでもらいましょうか?」)
 まだ、詳細は決まってはいない。けれども場面は頭に浮かんでいた。
 そこかしこは血の海となり、最後に残るは探偵と犯人。そこに胸がきゅっとなるエキスを加えて……。
 二人は崖の上で対面するけれども、抱き合うように崖下に落ちて。そして――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『取り立ての時間です』

POW   :    踏み倒す。力技だ。

SPD   :    身を隠すに限る。もしくは逃走。

WIZ   :    もう少し待って頂けませんか? 交渉する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 月がせせら笑う夜の下。桜の花弁ちらちら落ちる屋根の上。猫がおわあと鳴いている。
『おわあ、この旅館の若女将は……』
『シィイイット!!』

 ――タタタタタタッ!
 ――ドタドタドタッ!

 動物の駆ける足音と、人(?)の駆ける足音が屋根に響いた。

*******************************************

 この章では皆さまに死んだフリをしていただきます。
 全員死んだフリしなければ影朧が出てこないので、生きていたら金ダライが降ってきたり何かが爆発したりします。

 影朧のデストラップ(でっち上げでもおまかせでも)に掛かって死んだフリ……という感じですが、後追いなり、実は私が犯人からの影朧デストラップ発動の変則でも。ネタ依頼ですので。

 皆様のお部屋の階については、一階二階、どちらでもご自由に。
 時間帯は夜です。
 以下、旅館のちょっとした纏めになります。

 旅館『水本館』は木造二階建て(多分)。すぐそばには渓流がある。
 内湯と露天風呂有り。天然温泉かけ流し。
 庭が有り、そこには鯉の泳ぐ池がある。蛙も鳴いている。
 階段の踊り場には微笑む『黒衣聖母像』が立っている。成人女性と同じくらいの大きさ。
 客室だけでなく、至る場所に檸檬が置いてある。魔除けらしい。
 何か『得体の知れない不吉な塊』が出るらしい。
 貼り紙部屋こと缶詰部屋は一度入ったなら、中から襖は開かない。
 若女将おすすめ間食は『饅頭茶漬け』。

 ……上記以外にも、旅館に在りそうな部屋や施設は大体あるでしょう。リネン室とかボイラ室とか。
 追記。
 生きていたら金ダライや何かが爆発……というのは、強制昏倒させるという意味です。
 けれど敢えて金ダライや爆発を受けに行くのもありです。それくらいじゃ猟兵は本当に死なない死なない。
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
若女将に案内された二階の部屋で私は一人で過ごす。
窓際から外を眺めつつ身辺調査の結果に思いを巡らそう。
まだ死ぬには早い時間だろうから暇つぶしに考える。

目の前のこれが女将の所有しているものだとしてだ。
使用目的はなんだろう。旅館で使っているものなのか?
災害時の備品が妥当だと思うが…ふむ。よくわからんな。
魔術的や呪術的な品かといえばそうでもなさそうだ。
丹念に調べたもののやはりよくわからなかった。
それにしても。
露はまだ私を探して旅館じゅうを徘徊しているのだろうか。
まああの子のことだ。危険な目に遭ってはいないだろう。
…。
さて。そろそろ死ぬ準備をしておこう。
適当に緑茶による毒殺でいいか。


神坂・露
レーちゃん(f14377)。
よーやく強い反応があったわ。確かこっちの方で…。
お部屋で転がった湯飲みの前で倒れてるお嬢様発見!
「お嬢様ッ! そんな…遅かっ…たわ…♥」
駆けよってから思いっきりぎゅぅーって抱きしめるわ。
「あたしがしっかりしてないから…あたしが…」
レーちゃん…じゃなくてお嬢様の顔とか髪を撫でて。
うん。やっぱりレーちゃんって凄くすっごく綺麗よね。
お肌白くてつやつやしてるし髪は滑らかで高級糸みたい。
いいなぁ~。あたしもこーなりたい。
…あ。そうそう死なないと。
「おぢょうさまあぁ! あ、あたしも貴女の元へ!」
転がってた湯飲みに残ってたお茶を飲んで倒れるわ。
勿論レーちゃんの隣で倒れて死ぬわ~♪



●茶葉に仕込んだパターン
 シビラは二階に位置する自室の広縁(古い旅館の窓側にある例の応接スペース)の椅子に腰かけ、窓の外の景色を眺めていた。
 窓のすぐ側には桜の花が咲いている。光源は部屋の照明と月明かりのみゆえ、ライトアップされた桜のような華やかさはないけれども。これはこれで味のある景色だった。
 シビラは視線を桜から机の上に置いた斧とスコップへと向ける。これらの道具は、昼間に手乗りシビラ達が見つけて来たものだ。
(「目の前のこれらが、女将の所有しているものだとしてだ」)
 使用目的は一体何だろうか。これらは、旅館で使っているものなのだろうか?
 もしそうだとしたら災害時に使用する備品が妥当だろうと、シビラは思う。しかしうまく理由の糸が繋がらない。
「……ふむ、よくわからんな」
 仮に防犯用だとしても、斧は行き過ぎだろう。
 まさかと思ったシビラは斧とスコップを手に取り、魔力の残滓が無いか等を丹念に調べてみたものの、その類は一切無かった。斧とスコップは魔術的、もしくは呪術的なアイテムでは無いらしい。

(「それにしても……露はまだ私を探して旅館中を徘徊しているのだろうか」)
 お付きの筈の露は、まだシビラと合流していなかった。しかし露のことだから、危険な目に遭ってはいないだろう。それに、時間が掛かろうと必ず自分を見つけ出す筈だ。
「…………」
 少し喉が渇いたシビラは椅子から立つと。主室の机に置いてある急須を手に取り、湯飲みに緑茶を注ぐ。
 おそらく茶でも飲んでる時に襖を開けて来るに違いない。そんなことを考えながら、湯飲みに口をつける。
「……ぐっ」
 突然。シビラはことりと湯飲みを取り落とすと、胸を押さえてその場にぱたりと倒れ伏した。

●後追いは好物です
「確かこっちの方で……」
 旅館の廊下を駆ける露の髪の一部が、ある一点を指してアンテナの様にびぃいんと伸びていた。
 そう。ようやく露のおぢょうさまレーダーに強い反応が現れたのだ。
 髪は『件の間』をさしていた。露はその客室の前に立つなり、襖を勢いよく開ける。露の瞳は、畳の上に倒れるシビラの姿を捉えた。
「お嬢様ッ! そんな……遅かっ……たわ……」
 つんのめりそうになりながらも露はシビラに駆け寄ると。その身体を思い切りぎゅうと抱きしめる。
 シビラの身体は、まだ温かかった。
「あたしがしっかりしてないから……あたしが……」
 露は慈しむようにシビラの頬や髪を撫でる。やはりお嬢様は……シビラは凄く、すっごく綺麗だと思う。肌は白く艶々として、髪は滑らかで高級糸みたいだ。
(「いいなぁ~。あたしもこーなりたい」)
 撫でながらつい素に戻りそうになったところで、露はハッとする。そうそう、役を演ずることに戻らなければ。
 一体誰が『あれ』を見てしまったのだろう! 誰にも見られていないと思っていたのに、実は見られてしまっていたのか! 自分の不手際のせいでお嬢様に魔手が伸びてしまった!!
 シビラのすぐ側に、まだ中に緑茶が残っている湯飲みが転がっていたことに露は気付く。
 きっとこの緑茶の中に毒が仕込まれていたのだろうと露は直ぐに察すると、ふるふると手を震わせながら転がる湯飲みを手に取った。
「おぢょうさまあぁ! あ、あたしも貴女の元へ!」
 これを飲めば、直ぐにお嬢様の許へと行けるはず。覚悟を決めてぐいっと湯飲みの残りを飲み干すと、露は「うっ……!」呻いてシビラの隣に倒れ込む。
 シビラの後を追った露の表情は、至極幸せそうだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神代・凶津
次は死んだフリだな。
よし、影朧が仕掛けて来やすい隙を作ろうぜ。

引き続き、謎の文豪オーラを振り撒きながら(時折カタカタ動く面)旅館を散策して渓流の端の方まで進んで相棒が意味ありげな台詞を適当に呟きながらわざと隙をさらすぜ。

「・・・この招待状、送り主はやはりあの事件の。」
(あの事件ってどの事件だ、相棒。)
(「・・・知りませんよ。適当でいいって言ったの貴方でしょう。」)

こんな推理ドラマなら次のシーンで死んでるわ、って雰囲気を出して影朧のデストラップを誘うぜ。
仕掛けられたら渓流に落ちていくぜ。


「・・・転身。」
渓流に落ちきるまえに風神霊装で飛翔して、後は影朧が姿を見せるまで隠れているぜ。


【アドリブ歓迎】



●アタックオブザレモンボム
 桜は旅館近くを流れる渓流沿いを歩いていた。
 旅館内を散策していたら、廊下の窓から渓流が見えて。少々の思惟の後に足を向けたのだ。
 時折カタカタと音を立て、桜の鬼の面が動く。夜中道を歩いている時に遭遇したら、巫女服を纏っている事も相まって怖いかもしれない。
「……この招待状、送り主はやはりあの事件の」
 渓流の端に辿り着いた桜は足を止めると。懐から招待状を取り出して呟く。
 それに答える者は居ない。ただ水の流れるさらさらとした音だけが闇に響いていた。その音に彩を添えるように、またも面がカタカタと動いた。
(「あの事件ってどの事件だ、相棒」)
(「……知りませんよ。適当でいいって言ったの貴方でしょう」)
 鬼の面――凶津と小声でやり取りをしていたら。足元に何かがコロ……と転がって来た。
「……檸檬」
 目を凝らして見れば、それは檸檬だった。何故此処に……と疑問に思ったところで。その檸檬が『ジジジ』と音を立てている事に二人は気付く。更によく見れば、導火線と思しきものが伸びていて、しかも火がついていた。
 つまり。檸檬は爆弾であった。
 桜はその場から急ぎ飛び退く。その僅か後、檸檬がピカッと輝いた同時に勢いよく爆発した。間一髪である。
(「奴さんマジで殺る気満々じゃねえか」)
(「軽口叩いている場合ですか……」)
 軽く笑った凶津に桜は口をとがらせる。が、その間にも何処からか放られ跳ねる檸檬爆弾が、次々にやって来る。檸檬ではなく檸檬爆弾だからね、良い感じにぴょーんと跳ねて追尾するんだよ。
 ぴょんぴょんと蛙の様に跳ねてくる黄色い悪魔達は桜を囲み、退路を渓流方向に限定させた。これぞまさしく背水の陣。
 苦し紛れ(のフリ)に桜が渓流へと踏み出せば、その背を追って悪魔達は跳ねあがる。
 渓流へと落ちる寸前、桜は唇を「……転身」と動かす。爆弾を放った主がそれに気付くことは無かった。夜で暗かったし。
 ――バッシャアアン!!
 大きな音を立て発生した水柱。それは桜が落ちた事によるものか、爆弾によるものか。
 断然後者ではあるのだが。水柱が落ち着いた時、桜の姿は跡形もなく消えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ケルシュ・カルハリアス
※アドリブ・連携OK

そろそろ襲撃してくるかな?なら準備をしないと。出来れば影朧を驚かせて隙を作れたらいいんだけど…。

缶詰部屋は密室になるんだ。ならまずは張り紙を元に【フィッシュモデルクラフト】で喰らい付こうとするホホジロザメの模型を配置。次に【アート】で部屋と模型に血液表現をする。もちろん僕も血塗れだよ。

仕上げにこの状況と似た描写が書かれた、血が付いた原稿用紙を床に。僕は「鮫だぁーーーーーッ!!!」って断末魔を上げてから鮫の口に頭を突っ込む。

こうして密室で鮫に襲われた作家の凄まじい末路が出来たかな。
部屋を汚すのは申し訳ないけど、これくらい奇妙な状況があってもおかしくないよね?



●鮫は何処にでも現れる
「そろそろ襲撃してくるかな?」
 ケルシュは自室から出ると、缶詰部屋へと足を向ける。
 影朧が襲撃してくるのならば、その前に死んだフリして一泡吹かせてやろうという算段だ。
 ちなみに缶詰部屋、各階に幾つか存在している。おそらく缶詰されるのは常に一人だけではないということだろう。
 缶詰部屋へとケルシュは入るなり。室内の貼り紙を剥がしてそれをもとに、本物と見紛う程に精巧なホホジロザメの模型を作り上げる。そして模型を、押入れを突き破って現れ、喰らいつかんとしている風に配置する。
 その後にサメ筆を取り出し、ホホジロザメと部屋に血液表現を加える。勿論、被害者役となるケルシュ自身も血(絵具)塗れである。
(「部屋を汚すのは申し訳ないけど、これくらい奇妙な状況があってもおかしくないよね?」)
 ケルシュはいい笑顔をして額を拭うと、仕上げに赤く汚した原稿用紙を床にばら撒いた。
 これで舞台は整った。ケルシュは大きく息を吸うと、叫ぶ。
「鮫だぁーーーーーッ!!!」
 叫び終えたケルシュは、ホホジロザメの口に頭を突っ込む。
 こうして、ひとつの缶詰部屋はサメ部屋へと生まれ変わったのだった。

 黒い影は次の標的のもとへと向かうべく、旅館内の影から影へと移動していた。
 しかし突然ケルシュの絶叫が聞こえて来たものだから、急いでその方へと向かう。
 悲鳴が聞こえてきた部屋は缶詰部屋だ。原稿を書き過ぎて幻覚でも見始めたのだろうかと思いながら、影はそっと襖を開け、中を覗き見る。
 部屋の中は真っ赤な血飛沫で染め上げられていた。一体何事かと大きく襖を開けて足を踏み入れれば、くしゃりと何かを踏んで。影はそれを拾い上げる。
 それは血で汚れた原稿用紙だった。
 ――例え陸であろうとお構いなしだったのだ。
 ――此処なら出てくることもあるまいと、旅館の一室で友人と共に一息ついていた時。押入れの襖を突き破って鮫は現れ、我が友人の頭へと喰らいついた。
 原稿の文章を読んだ黒い影はなんとなしに押入れの方を見る。
 視線を向けた先では。押入れを突き破った血濡れのホホジロザメが、ケルシュの頭に喰らいついていた。
『――――!!!』
 思わず声をあげそうになった黒い影は、必死にそれを押し殺す。
 ――え、え?! 鮫の仕掛け作った憶えないんだけれど?! ていうか標的一人死んでる?!
 生きていられる筈のない量の血を流すケルシュを見た黒い影は。混乱して襖を開けっぱなしにしたまま、走り去ってしまうのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧鵺・アギト
文豪の死といえばパッと自殺が思いつく。
だが温泉宿といえば殺人事件だ。
…うーむ、この選択とてつもなく悩ましい。
ということで、この部屋の中でどちらともとれる感じで死んでおくとする。

僕が持っている紫色のよく分からない薬品。
先程差し入れて貰った饅頭茶漬けに仕込んで、毒が入っていた体で死んでみよう。
別にこの薬品は毒薬ではないが…その辺はもう雑で良し。

しかし死んだフリも意外と大変だな。
動いたらダメというのが退屈で…。

※アドリブなんでもOKです!



●ネタ空間なので脱出は割と容易です
 アギトは文机の上に置いた饅頭茶漬けの前に座り、眉間に皺を寄せていた。
 饅頭と緑茶ならば理解できるのだが。そこに白米が加わり茶漬けとして出されると、どうしてこう拒絶反応が出てくるのだろう。
 人間の心理というのは不思議なものだな。なんて思いながら、アギトは鞄の中からスッと薬瓶を取り出す。瓶の中は紫色をした液体で満ちていた。
 その瓶の蓋を取り払うと、アギトは紫色の液体を饅頭茶漬けにびしゃびしゃと注ぐ。饅頭茶漬けはとんでもなく毒々しい色にイメチェンをさせられた。
 文豪と言えば自殺。しかし旅館と言えば他殺。ならば、自殺他殺のどちらでも受け取れるように死んで見せようじゃないか、という理由からだ。
 ……しかし、匙で掬うのすら躊躇われる紫饅頭茶漬けの色。紫芋味のスイーツですと言われても、誰もが結構ですと断るだろう。
 アギトはそれをひとさじ掬い、躊躇うようにしばし見つめた後。意を決して口に含んだが亜光速で噴き出して、文机の上に突っ伏した。
 五分、十分、十五分と。時間は刻々過ぎて行く。その間、アギトは一切動かなかった。
「…………」
 一応断りを入れるが、死んでいない。フリである。
 死んだフリというのは、楽なようで意外と大変なものだった。というより、退屈だった。
(「一体どれくらいこうしていればいいのか……」)
 なるべくならこの時間が短く済むことを、アギトは願ってやまなかった。

 昼間開けられた襖の穴から、突っ伏すアギトを窺う黒い影が。実はこの影、アギトが突っ伏して三十分したあたりから覗いていた。
 黒い影は手に、赤い丸ボタンが付いた小箱を持っている。
 ――先生、ネタ考案に飽きてふて寝してしまったのですね……ならとっておきのネタをくれてやりますわ。
 凄まじい勘違いをしている黒い影は、ポチっと手の中のボタンを押した。
 すると突然、床の間に飾られていた檸檬がカッと光り輝いて、轟音と共に勢いよく爆発した。
 ネタ空間効果で客室外に被害は及ばなかったが……客室内はボロボロになった布団や、砕けた机の残骸など瓦礫だらけになった。しかも檸檬が爆発したからか、辺りにはべっとりと檸檬汁が飛び散っている。
(「一体何が起き……! というか重い……!」)
 客室内で死んだフリをしていたアギトは。檸檬汁に塗れたまま、暫し瓦礫の下に埋もれることになったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シエラ・バディス
オブリビオンの事がなければ、落ち着ける良い旅館だね…

早めの温泉を満喫しながら渓流や周りの景色を楽しみつつ、上がってからは作家先生方を遠目に拝んでそのまま夕食へ。
2階の部屋に戻ったら無くなった荷物を見て、偽装棺桶から荷物が失くなっているのに気付いて大慌てしてる所を背後からブスリとひと突き…
サスペンス物には良くある光景だね。

そしてそのまま死んだ振り……トラップやらなんやらの気配がなくなったタイミングで、首を縫い止めている縫合糸抜いて部屋の中央の檸檬の所にシエラが正座して、膝の上に首を置いて猟奇殺人現場にしたら怪しまれるかな……



●サイボーグだからできること
 時は少し遡る。渓流沿いにある露天風呂でシエラは、ほくほくとしながら湯に浸かっていた。
 花弁が流れる渓流は、手を伸ばせばすぐに届いてしまう程に近い。渓流沿いに咲く桜の景色と温泉を存分に楽しんだ後、シエラは湯から上がる。
 旅館内に戻ってからは遠目に作家陣の姿をそっと拝み、食堂へと足を向けて豪勢な天ぷら御膳を頂いた。揚げたての天ぷらは非常に美味だった。
「オブリビオンの事がなければ、落ち着ける良い旅館だね……」
 食後のお茶を啜りながら、シエラはほうと溜息を吐く。
 そうして温泉旅行を存分に満喫し、自室に戻ろうとした時。廊下で黒い装いの小人達が、見覚えのあるものを運んでいるのが見えた。
 まさかと思いその背を追ったが、廊下のつきあたりを曲がった際に見失ってしまった。
(「急いで部屋に戻って荷物を確認しないと……!」)
 シエラはこのまま小人達を探すより、荷物の確認をする方が先だと判断すると。小走りで二階の自室へと向かう。

「あっ……棺桶の蓋が開けられてる……!」
 自室に戻ったシエラは、革張りの鞄に偽装していた棺桶の蓋が開かれているのを目にした。
 棺桶の中には本でカモフラージュされた斧とスコップが入っている筈で。それはちゃんと有るだろうかと、大慌てで本を放りながら探すのだが……。
「無い……無い……!」
 そう、見つからないのである。つまりあの小人達が運んでいたのは、シエラのスコップと斧だったのだ。
 どうしようと慌てふためくシエラの背には、音も無く黒い影が迫っていた。

 ――どすっ。

 注意力が散漫になり、影に気付くことが出来なかったシエラは。背後から刃物で刺されてしまった。
「かはっ……」
 そのまま前のめりにシエラは倒れ込む。黒い影はシエラが動かないことを確認すると。静かに、けれど足早に去って行った。

(「……もう大丈夫かな」)
 影の気配が無くなったところで、シエラはゆっくりと身体を起こす。
 しかし無暗に動かず、まず室内を見回し罠が仕掛けてないか確認する。……それらしいものは無いようだ。
 何故シエラが生きているか。それはシエラがサイボーグだからである。
 シエラは自身の首を縫い留めている縫合糸を抜き、離れた頭部を小脇に抱えた。
 そう、シエラはサイボーグ。首と胴が離れても一切問題ない。
 部屋に鎮座していた檸檬を退け、其処に正座すると。シエラは膝の上に自身の首を置き、改めて死んだフリをする。
 刺殺現場は、猟奇的殺人現場へと生まれ変わったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渡・冥
もう夜ですか。
原稿はまあ、あの感じなら大丈夫でしょう。
鮫も広く人気です。きっと売れる事でしょう。

気分転換に館内を散歩でもしましょうか。
逃亡防止の見回りも兼ねて。
見付けたら処……捕獲しましょう。

しかしこの旅館、妙ですね。
謎の檸檬に怪しい女将。
作家を追い込む夥しい貼り紙……は良い事言ってるので良し。
……そして先程から少々騒がしいような。

この聖母像にでも祈っておきましょうか。
私の目の黒いうちは先生方が逃げず倒れず、
無事に原稿を進められますよう。

で、部屋に戻った僕は過労で倒れ、二度と目を覚ましませんでした。ということで。演技疲れた。

……それでも罠が襲うなら素直に食らおう。
後で仕返しはするけど。



●芥川龍之介の『黒衣聖母』が元ネタ
「もう夜ですか」
 ここは客室『隠れ座頭の間』。冥は窓の外に見える世界が、闇に包まれていたことに気付く。
 時が進むのは早いものだ。冥はふと、先生方の原稿の進捗はどうだろうと頭に浮かぶ。
(「原稿はまあ、あの感じなら大丈夫でしょう」)
 ノリノリだった文豪を思い出すと、冥はそう思いなおして。そのような心配を頭の片隅に追いやる。鮫も広く人気だ。きっと売れることだろう。
 気分転換に館内を散歩兼逃亡防止の見回りをしようと。冥は襖を開けて廊下へと出る。
「もし見付けたら処……捕獲しましょう」
 予測可能ではあるが、何言いかけたんだとツッコんではいけない。

(「……しかしこの旅館、妙ですね」)
 巡回兼散歩をしながら、冥は引っかかりを感じていた。
 あちらこちらに魔除け名目で飾られている檸檬に、怪しい若女将。
 それに、作家を追い込む夥しい貼り紙……これについては良い事を言っているので良しとして。
「……それに、先程から少々騒がしいような」
 そうなのだ。先程から爆発音や絶叫。大急ぎで駆け回る足音が、冥の耳に入って来ていた。
 だがそれらを気にしないことにする。見に行ったら面倒ごとに巻き込まれる気がしたからだ。
 階段の踊り場に差し掛かった時。冥はそこに誰かが佇んでいる事に気が付いた。しかし全く動かない。よく見れば、それは黒衣聖母の像だった。
 像を前に、冥は「ふむ」と考える。
(「この聖母像にでも祈っておきましょうか」)
 もしかするとご利益があるかもしれないという、軽い気持ちだ。
 跪いて両手を組み、冥は祈る。

 ――私の目の黒いうちは先生方が逃げず倒れず、無事に原稿を進められますよう。

 祈り終えた冥は、自室へと足を向ける。
 そして襖を開け、一歩踏み入れるなりその場にばたりと倒れ込むと。一ミリたりとも動かなくなった。
(「演技疲れた……」)
 冥は過労で倒れ二度と目を覚ますことは無かったという体で、死んだフリをしているのだ。

 だがしかし。宿泊客を狙う黒い影は死んだかどうか判断できなかった様で。
(『……寝てるのか死んでるのかわからないし、念のため金ダライ落としとこ』)
 手の中のリモコンのボタンをぽちりと黒い影が押せば。天井からひゅるっと金ダライが冥の頭蓋目掛けて一直線。それはガァンと音を立て見事命中する。
 冥は動かなかった。ここで反応してしまっては全てが水泡に帰してしまう。故に動かず耐えるしかなかったのだ。
(「……後でキッチリ仕返ししよう」)
 死んだフリをしたまま。冥は心の中のやることリストに『仕返しする』と書き込むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久賀・灯夜
【屋台の集い】の皆と参加

「いい加減にしてくださいよ先生! やる気がないならこっちにも考えがありますよ!」

そう言って偽物のナイフを取り出して良馬さんに迫る
折角だから殺人事件っぽい感じで行ってみるぜ

もみ合いになった末、良馬さんを刺し殺してしまう(演技)
そこをミレニカちゃんに目撃されてしまうっていう流れで

「レニお嬢さん……? こ、これは違うんです!」

血まみれのナイフを持って、倒れた良馬さんを目の前に
ミレニカちゃんに向かい青ざめた顔で言う

言い訳をしながらもなんやかんやでミレニカちゃんに殺されてしまう(演技)
……死んだふりって結構難しいな! 頑張って動かないようにするぜ


鏑木・良馬
【屋台の集い】

うーむ…筆が乗らん
人、これをスランプと言うッ!
これは少々休憩が必要なのではないかね?
お茶を入れてきてくれるというレニ嬢の後ろ姿を見てふと思う
彼女を誘い少々散策に出るのも良きかな

いや何、落ち着くのだよ灯夜君
私とてやる気がないわけでは――
…何を構えているのかネ!?
馬鹿な事はやめたまえ、そのような事をして閃きが湧いてこようものかッ!

後ずさりすれど背後の扉は何故か開かず
……うむ、そういえばここ缶詰部屋だったな
さっきレニ嬢はすんなり出ていった気もするが作家識別機能でも付いてるのか

などと考えている余裕もなく、抵抗虚しく刺されよう
こんな事もあろうかと腹部に仕込んで置いた血糊をぶちまけて倒れる


ミレニカ・ネセサリ
【屋台の集い】
お部屋にお二人を残して、席をはずすわ
先生の執筆が捗るよう、お紅茶を淹れてくるの

そうしてお紅茶を手に戻ってきたのだけど……
灯夜さん……? そこに倒れているのは、先生……?
いったい、何をなさったの?
よ、よして! 来ないで! あっ(揉み合いの最中、反射的に素で拳が出る)
(すかさず迫真の【演技】でなんやかんや灯夜を殺してしまうふりをする)

……わ、私、違うの、そんなつもりじゃ……!
なんて言いながら、気が動転したふりをして部屋を飛び出します
そうして階段から足を滑らせて転落、打ち所が悪くて……という流れ
落下時は然り気無く受け身を取って落ちますわ
これはスタントのオファーが来てしまうのではなくて?



●ナイフは勿論刃部分が下がるやつ
 此処は旅館にいくつかある缶詰部屋の一つである。
 この部屋で貼り紙達に見下ろされながら。良馬が文机に向かい頭を抱えていた。机の上に置かれた原稿用紙は白紙のままだ。
「うーむ……筆が乗らん。人、これをスランプと言うッ!」
 これは少々休憩が必要なのではないかねと、振り返りざまに良馬は提案する。
「それなら先生の執筆が捗るよう、お紅茶を淹れてくるわ」
 座布団に行儀よく正座し、原稿の完成を待っていたミレニカは。給湯室へと向かう為に席を外す。
 そのミレニカの後姿を眺めながら、良馬はふと思った。
「彼女を誘い、少々散策に出るのも良きかな」
「いい加減にしてくださいよ先生!」
 ミレニカと同じく座布団に座り原稿の完成を待っていた灯夜は、だん! と床を殴る。
 良馬が心の中で呟いたと思っていたそれは、思い切り言葉として口に出ていたのだ。
「やる気がないならこっちにも考えがありますよ!」
「いや何、落ち着くのだよ灯夜君。私とてやる気がないわけでは――」
 慌てて良馬が手を振り取り繕う前で。灯夜は懐に手を突っ込むと、銀色に輝くナイフを取り出した。まさかのシロモノに、良馬は目を見開く。
「……何を構えているのかネ!?」
「閃かないなら、無理やり閃かせるまでですっ!!」
 立ち上がった灯夜は、手のナイフを良馬へ突き付ける。
「馬鹿な事はやめたまえ、そのような事をして閃きが湧いてこようものかッ!」
 灯夜からは目を離さぬまま、良馬は出入口の襖へじりじりと後退る。背中に襖が当たった感覚がして、後ろ手のまま開けようとするも。それは何故か開くことは無かった。
(「……うむ、そういえばここ缶詰部屋だったな」)
 ミレニカは先ほどすんなり出て行った気がするのだが、この部屋は作家識別機能でもついているのだろうか。
 なんて、実際は考える余裕なく。八畳という狭い部屋なのだ。良馬の目前に灯夜がすぐ迫っていた。
「先生、書いて下さいよ……!」
「ではそのナイフを捨てたまえ灯夜君……!」
 このまま素直に刺される訳にはいかないと、必死に良馬は灯夜のナイフを奪い取ろうとする。しかし灯夜は意地でも手放そうとしなくて、終いにはもみ合いになり――。

 ――さくっ。

 良馬の腹に、ナイフは突き刺さってしまった。
「がっ……!」
「えっ……?」
 刺さった箇所から、だぱだぱと血が零れ落ちる。良馬がよろめけば、ナイフは抜けて。しかし栓でもあったナイフが抜けた事で、更に血が噴き出した。
 ばたりと床に倒れた良馬を前に。返り血を浴びた灯夜は一人、呆然と立ち尽くした。
 
●血は勿論血糊です
 そんなつもりじゃなかったのだ。ただ驚かせようと思って誤って、だから意図的じゃなくて――。
「灯夜さん……?」
 名を呼ばれ、灯夜はハッと我に返る。
 紅茶を淹れていたミレニカが戻って来たのだ。手にしていた茶器は地に落ち、ガシャンと音を立て割れた。灯夜が振り返れば、ミレニカは驚愕した瞳で灯夜を見つめている。
「そこに倒れているのは、先生……? いったい、何をなさったの?」
「レニお嬢さん……? こ、これは違うんです!」
 灯夜の顔からさっと血の気が引いて行く。しかし何が違う? 現状が物語っているではないか。
 良馬は腹から血を流し倒れている。灯夜は血まみれになり、血の付いたナイフを握っている。どこからどう見ても灯夜が良馬を刺殺した現場だ。
 ミレニカは怯え、数歩後退る。
「あっ……! レニお嬢さん待ってください!!」
「よ、よして! 来ないで!」
 背を向けようとしたミレニカの肩を、血で汚れた手で灯夜は掴む。「ひっ」とミレニカは喉を引き攣らせ、その手を振り払わんと身を捩る。
「やめて! 離して! ……あっ」
 つい、本当につい。ミレニカは灯夜に素で右ストレートを喰らわせてしまった。
「ぐふっ……!」
 殴られた灯夜は綺麗に宙を舞って畳に沈む。その衝撃で灯夜の手からはナイフが零れ落ちた。
 先生は死んでしまった。もう二度と、新作を読むことは叶わない。何故、どうしてこんな……こうなってしまったのは、目の前の……つまり――。
 ミレニカの中で、何かが切れた。

 ――先生の仇!!

 ミレニカは落ちたナイフを拾い上げると、畳に転がる灯夜の胸へと突き刺した。
「ぐぇっ……!」
 灯夜の胸から溢れ、広がってゆく赤を目にして。ミレニカは正気に戻る。
「……わ、私、違うの、そんなつもりじゃ……!」
 気が動転したミレニカは、襖を開けっぱなしにしたまま部屋を飛び出した。

 どうしよう、どうしたらいいのだろうと。混乱したままミレニカは旅館の廊下を駆け抜けていた。
「きゃっ?!」
 そして階段を駆け下りようとして、足を滑らせ虚空へと舞ってしまった。重力に従ったミレニカはゴロゴロと転がり落ち、その勢いのまま頭を床へ叩きつける。
「うぅ……」
 小さいうめき声を漏らしたミレニカは、それを最後にピクリとも動かなくなった。

●死者の胸中
 缶詰部屋に取り残された二人は、一ミリたりとも動かない事に必死だった。
(「まさか素の拳が飛んでくるとは思ってなかったけど……それにしても死んだふりって結構難しいな!」)
(「鈍い音がした気がするのだが、灯夜君は大丈夫なんだろうか」)

 一方階段。さり気なく落下時に受け身を取って死んだフリをしたミレニカはというと。
(「これはスタンドのオファーが来てしまうのではなくて?」)
 と、心の中で鼻を高くしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

虹川・朝霞
デストラップはお任せ。
さて、死んだふりですね!

(演技続行)
ふふ…ふふふ。旅館の部屋に、文豪の写真は貼らない。それが俺のポリシー。
だって、うっかり他の人に見られて、魅力に気づかれたらねぇ…?
俺の部屋は一階だったようです。よく見ると、池に面してますね…?鯉がいるんですかね。

さあ、旅館内うろうろして文豪先生探し。居なくてもいいんです。
だって、今度一緒にきたとき、案内できるでしょう…?

うろうろしてれば、デストラップの一つや二つに惹かれるでしょう。
だって、隅々まで探し見て、くわしくなろうとしてるんですから…。

引っかかったら、呻き声上げて死んだふり。
ああ、あの話にも、こんなのあったな…と思うふりもしつつ。



●金盥だけじゃないんです
「ふふ……ふふふ。旅館の部屋に、文豪先生の写真は貼らない。それが俺のポリシー……」
 霞効果ばっちり残存中の朝霞は、部屋で一人笑っていた。怪しさ全開である。
 ちなみに部屋に写真を貼らないのは。うっかり誰かに見られた時に、その文豪の魅力に気付かれたら困るからという理由である。
 いや、その前に不審者として見られてしまうのでは? というツッコミは無しである。
 ふと窓から外を見れば、自室が池に面している事に朝霞は気が付いた。しかし夜なので池の中はよく見えなかった。
(「鯉がいるんですかね?」)
 部屋から出て回り込めば、庭の方に向かえそうだ。ちょっと行って池の中を覗いてみようかと、朝霞は部屋の外へと出る。
 そのまま旅館内をうろうろと歩き回り、目的の文豪先生を探して回る。だが悲しいかな。どうやら館内には居ない様子で。
(「文豪先生、急に予定が変更になってしまったんですね……ええ、わかっていますとも」)
 ならば今度一緒に訪れた時スムーズに案内できるように。隅々まで詳しくなるべく旅館を探索するのみ。
 今回は次の為の予行演習だと、朝霞は頭の中を切り替えた。とってもポジティブである。

 自室の向かいに位置する旅館の庭に朝霞は辿り着くと、其処へと下りて池の中を覗き込んでみた。
 やはりよく見えなかったものの、蛙がからら、ころろと鳴く声がしていた。よく耳を澄ませてみれば。何かを喋っているようにも聞こえた。
『宿泊客は何の為に居るか。からら』
『それは被害者になる為である。ころろ』
(「……はい?」)
 何で蛙が喋るのか。それはネタ空間だからである。
『大変だ、からら』
『ヤツが来る、ころろ』
 ぽちゃん、ぱちゃんと。池の中に何かが飛び込む音がした。おそらく蛙だろう。それにしてもヤツとは……?

 ――ひゅおっ。

 何かが空を切る音が聞こえ、思考を中断し顔を上げた朝霞の眼前には――紐で吊るされた檜桶が迫っていた。
 檜桶の出番は温泉ではと思った瞬間。檜桶は朝霞の額をスコォンと殴り飛ばす。
「あだっ……」
 見事に殴り飛ばされた朝霞は軽く宙を舞うと、地面に仰向けに倒れた。
(「ああ、あの話にも、こんなのあったな……」)
 ――確かこの後、主人公が見つけてくれるんでしたっけ。
 薄れゆく意識の中で、朝霞は文豪先生が自身を見つけてくれることを夢見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
これが露天風呂……ほわぁ……とても温かくていいきもちであります ふふ …
はっ、わたくしただ温泉を楽しんでいるわけではありませんよ……!ちゃんと依頼のことは考えてるでありますっ


入浴中に遺体となって発見されちゃう感じで参ります。湯けむりには殺人とダイイングメッセージがつきものと聞きました
これは所謂さぁびすしぃんとなってしまうのでは?!こちら全年齢というやつです…全体的にわたくし自身意味は解ってないでありますが
ご安心くださいっ!わたくし、いい感じに全身溶けておくであります……!でろでろに人の形を保ってなければ恐らくセーフであります

あっ、温泉のお湯とは混ざらないですしちゃんと集めて戻れるので大丈夫です



●よいこのだいろくりょうへい
「これが露天風呂……ほわぁ……とても温かくていいきもちであります……」
 アイグレーは渓流沿いにある露天風呂で。かけ流しの温泉と夜桜を楽しんでいた。
 身体は芯から温まり、なんとなくお肌のツヤツヤが増した気がする。
「ふふ……」
 ひらりはらりと湯船に舞い散って来る桜の花弁をアイグレーは目で追うと、ふにゃりと笑んだ。
(「はっ、わたくしただ温泉を楽しんでいるわけではありませんよ……!」)
 突然アイグレーはふるふると首を振る。温泉を満喫するのは影朧を誘き出す為に必要な過程、ちゃんと依頼のことは考えている。
 湯けむりには殺人とダイイングメッセージがつきもの。ここは温泉満喫中に遺体となり発見されるパターンで死んだフリで行ってみようかと考えて、どう発見されたら良いか小首を傾げる。
 そう、この依頼はよい子に見せてもOKな全年齢向け(殺人事件が起きているが)。遺体発見がさぁびすしぃんとなってしまうのは避けなければならない。しかしさぁびすしぃんの意味を、実のところアイグレーはよく分かっていなかった。
 ここでアイグレーはひとつの話を思い出す。『スペース☆書生の事件簿』で読んだ茹でガエルの話だ。
 蛙を熱い湯に入れればすぐに飛び出すが、水からどんどん温度を上げていくと熱湯になっているのに気付けずそのまま……という話である。
(「これでありますっ……!」)
 ぐっとアイグレーは拳を握ると、静かに自身の身体を温泉に融解させてゆく。

『さーって、次の標的は露天風呂に……』
 宿泊客を次々手にかける(場合によっては既に死んでいたりしてるが)黒い影は、露天風呂へと向かっている最中だった。
 いくつか成功させてるし、今回も失敗しないぞと気合を入れて。影は露天風呂に繋がる扉をカララと開ける。
 その目に入って来たのは。露天風呂の湯船に、タールの様な黒いものが沢山浮いている光景だった。
 タールの様な黒いものの正体は、とことんまで自身の身を融解させたアイグレーだ。
(『んなっ……?! 私が来る前に何がっ……?!』)
 影は湯船に駆け寄り、誰か浮かんでいないか確認するも。それらしい者は浮かんでいない。
(『まさか溶けっ……! でも今は詳しく確認する時間が惜しい……』)
 まだ次の標的が控えているのだ。此処で時間を食うより、次の標的に向かう方を優先させた影は。滑らぬ様に気を付けながら、露天風呂から去って行った。

 尚。アイグレーはでろでろに温泉に溶けてはいるものの。混ざることは無い上にタールの身を集めればきちんと元に戻るので、読者は安心してほしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪丸・鳳花
なるほど!次は死んだフリか!
任せたまえ!
ボクの演劇人生をかけて!
迫真の演技で若女将も影朧も満足させる死に様をお見せしよう!

神と崇める文豪の生原稿を読んだ熱狂的なファンは!
一旦落ち着きを取り戻し、本来の招待状の目的である温泉を堪能するんだ!
温泉旅館で事件が起こるなら!
死に場所は露天風呂しかない!
だが裸体はダメだ!センシティブ!
浴衣を着こなす姿をお見せしよう!

露天風呂の縁で!頭を打つ!
興奮冷めやらず、足を滑らせたのだ!
ボクの死に様は華やかであって欲しい!
血しぶきの代わりにバラの花びらを撒こう!
口からも血は出さない!花びらだ!
やはり死んでも綺麗でいたいものだよ!
これがボク流の死に様さ!



●この世は全て舞台
 神と崇める文豪の生原稿を読んだ事で昂った精神を落ち着かせるべく。鳳花は自室である『白沢の間』に戻っていた。が、やっぱり落ち着かなくて暫く畳の上でゴロンゴロンと悶えていた。
 だが不意に視界に入った窓の外。つい先ほどまで太陽が出ていたと思っていたのだがそれは既に沈み、現在は月が昇っていた。
「はっ……! ボクとしたことが!! 夜になっていた事に気付かなかった!!」
 鳳花が旅館を訪れた目的は、文豪に会うこと以外にもう一つあった。それは温泉を堪能することだ。
 時間というものはあっと言う間に過ぎ去ってゆく。過ぎた時間を帰ってこないと切り捨てるなら、『現在』より早い時間というものはない。
 室内をよく見れば。白地に紺の捻じれ麻の葉文様の浴衣が備え付けられているではないか。
「旅館と言ったら浴衣! この舞台衣装に着替えてからが本番だ!!」
 刹那で浴衣に着替え、肩にタオルを掛け身支度を整えた鳳花は。勢いよく襖を開け廊下に出ると、ずびしっと露天風呂の方向を指差す。
「善は急げだ! いざ行かん露天風呂!!」
 浴衣をサラッと着こなして。花道を進むが如く、しゃなりしゃなりと廊下を歩く鳳花の背には。眩い後光が射していた。

 そして場面は露天風呂前の扉へと移り変わる。
 タァンと扉を横に滑らせ現れた鳳花は浴衣のままだった。向かう最中に昼間読んだ原稿を思い出し、またも精神が昂り。頭の中を作品の事で一杯にしたまま歩いていたのだ。
「やはり直筆生原稿というのは熱が違った!!」
 興奮冷めやらぬ鳳花は床を蹴り、バレエダンサーの如く宙へと舞い上がる。月と星と桜が鳳花の観客だ。だが、ここは露天風呂。足元がとても滑りやすくなっております。
 着地の際、鳳花はつるりと足を滑らせて。露天風呂の岩場に頭をごすっと打ち付けてしまった。
「うっ!!」
 だが頭を打ち付けたその瞬間、突如鳳花は眩く輝いた。すると鳳花から赤いバラの花弁がぶわっと現れて辺りを彩る。よくよく鳳花の顔をみれば、唇にバラの花弁が寄り添っているではないか。
 天然のタイル上に倒れる鳳花の身や、その周囲に花弁はひらひら舞い落ちてゆく。それはCDジャケットや、写真集の一ページにも見える死に様で。
 露天風呂は瞬く間に事故現場から、華々しい舞台へと生まれ変わったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【朱の社】

んふふ、死者が死んだ振りをするって面白いですよねぇ
人の子の悲喜交々は見ていて面白いでしょうから、転がり落ちるような悲劇を見て楽しみたい、と言うのなら仕方ありません
最初の引鉄を引いて差し上げます
ふふ、所詮、劇は劇、ですけどね?

子供らしく、彼方へ此方へ興味の赴くままに
興味が向かうのは実際事実なので好き勝手見て回りましょう
コノエが追い付けない、見失ってしまいそうな感じで

わ、あれ何だろう?
コノエお姉さーん、先行ってるねー!

……あっ、

二階へ駆け上がり、何かに躓いて段差を踏み外す
罠が仕掛けられていたのは見付けていましたからね
哀れ、落ち着きのない子供は階段から落ちて首の骨を折ってしまいましたとさ


神狩・カフカ
【朱の社】

お次は死んだフリか…
まあ何したところで死にゃしねェ身体だが
痛ェのは嫌だしな…ま、それっぽくやるサ
そンじゃ手筈通り頼むぜ?

コノエに呼ばれて行ってみれば
なっ!?はふり…!?
そんな…さっきまであんなに元気で楽しそうにしていたのに
どうして…お前!目を離さないでくれって言ったじゃねェか!
お前が…ちゃんと見ててくれれば、こんなことには…
死んで償うって…ああ!くそ!
お前が死んだところではふりは戻ってこねェっつーのに…
おれだけ残してみんないなくなりやがって…
一人でかわいそうに…
すぐに傍にいくからな…
うっ…!と手首を切ったふり
赤いインクをド派手に零してはふりの隣に倒れる

…ちょっとわざとらし過ぎねェか?


朱葉・コノエ
【朱の社】
次の指令は死んだふりを行う事…
…劇とは言え、大天狗様を追い詰める真似というのは気が引けますが…
これが犯人をおびき出す引金となるならば…実行いたしましょう

先生の弟君が何処かへ行ってしまわないようにお目付けをしていると、途中で何処かへはぐれてしまいます。
「祝様、どこへ行かれたのですか?」
辺りを探しながら祝様がどこにいるか呼び掛けると、二階で声があがります
咄嗟に目を向ければ時すでに遅し…そこには階段から落ちた祝様の身体が

申し訳ありません、先生…
私が見張っておくなどと言っておきながらこのような結果に…
…だから…せめて…せめて、私の命で償いを…

そのまま首を斬る振りをして先生の前で倒れます



●監視カメラは仕掛けられておりません
 様々な場所で絶叫や爆発が起きている頃。『八咫烏の間』では、畳の上で示し合わせが開かれていた。会話が外に漏れぬ様に身を寄せあい小声で、だ。
「お次は死んだフリか……」
 死には痛みや苦しみがつきまとう。何をしたところで死ぬことの無い神の身体でも、それらは嫌なものなのだ。
 カフカは少しばかり苦い顔をする。だが反対に、祝は随分と楽しそうな顔をしていた。
「んふふ、死者が死んだ振りをするって面白いですよねぇ」
 祝は悪霊。つまり既に死んでいる身である。死者が死んだフリ。それは死んでいるのでは? という野暮なツッコミはしてはいけない。
「最初の引鉄を引いて差し上げます。ふふ、所詮、劇は劇、ですけどね?」
 これは劇。フィクションだ。細かい事を気にしてはいけない。
 悲劇も喜劇も、観客席から見ている分にはとても愉快なもの。演者も愉しみながら役をこなせば良いのだ。だってフィクションは愉しんだもの勝ちなのだから。
「劇とは言え、大天狗様を追い詰める真似というのは気が引けますが……」
 相変わらずコノエは落ち着いていた。次の指令は死んだフリ。それに至るまでの展開には、コノエの気が引けてしまう場面もある。しかし、
「これが犯人をおびき出す引金となるならば……実行いたしましょう」
 指令を下されたなら、忠実に実行しなければならないとコノエは受け入れる。
「……ま、それっぽくやるサ。そンじゃ手筈通り頼むぜ?」
 カフカが言えば、祝とコノエは舞台となる場所へ向かう。
 二人を見送ったカフカは、昼間に見覚えあるオッドアイのヤドリガミを見かけたことを思い出した。だが仮にすれ違ったとしても。あっちはあっちでやっているだろうからと、スルーしておくことに決めた。

●身近なデスゾーン。その名は階段
 初めて来た広い旅館。それは子供の祝にとって、未知の世界だったのだ。
 旅館内に飾られている檸檬の数を数えたり、庭で鳴く蛙の声に耳を傾けたり。途中重苦しい空気が漏れ出る部屋に入ろうとしたけれども……寸の所でコノエに阻止されたり。
 とにかく興味の赴くまま、祝は旅館内を冒険する。
「祝様、少々お待ちになってください」
 その祝を見失わぬ様、コノエが後をついてお目付けをしている。祝は先生の大事な弟君なのだ。一人で何処かに行ってしまったら大変な事になる。
 けれどもそんなコノエの心を祝は知らず。好きな様に、落ち着き無くあちらこちらを行ったり来たりして。ついに祝はコノエの視界から消えてしまった。
「……祝様、どこへ行かれたのですか?」
 まだそこまで遠くには行っていない筈だと、コノエは辺りを探しながら呼び掛ける。

「わ、あれ何だろう?」
 その頃、祝は階段を見上げていた。視線の先には黒衣聖母の像がある。
「コノエお姉さーん、先行ってるねー!」
 姿の見えぬコノエへと、祝は大きく呼び掛けると。もっと近付いて像をよく見る為に、階段を駆け上がる。
 そしてその途中。祝は何かに蹴躓いて階段を踏み外してしまった。
「……あっ、」
 バランスを崩した祝は、階段から転げ落ちて――。

 ――ごきん。

 コノエは祝の声がした方へと向かっていた。
 直ぐに合流しなければと急ぐその耳に、嫌な、鈍い音が聞こえた。それは骨が折れたような音。
 コノエは「まさか」と、咄嗟に階段へ目を向けるも。時既に遅し。
 階段前の床に。あらぬ方向へと首を曲げた祝が、目を見開いて転がっていた。

●使用している血液は熱で消える赤インクです
 コノエに呼ばれ、連れられたカフカが目にしたのは、変わり果てた弟の姿だった。カフカは弾丸の様に祝へと駆け寄り、その身を抱き起す。
「なっ!? はふり……!? そんな……」
 その身体はとても冷たく、唇は言葉を紡ぐ事も無く。死をカフカに叩き付けていた。
 さっきまであんなに元気で楽しそうにしていたのに、何故このような事になったのか!
「どうして……お前! 目を離さないでくれって言ったじゃねェか!」
「申し訳ありません、先生……私が見張っておくなどと言っておきながらこのような結果に……」
 淡々と謝罪するコノエへと、カフカは非難の視線を浴びせる。
「お前が……ちゃんと見ててくれれば、こんなことには……」
「……だから……せめて……」
 コノエは何処からか取り出した小刀を。自身の首へと当てがう。それが意味する事をカフカは察して、目を見開いた。
「せめて、私の命で償いを……」
 止める間もなく、コノエは自身の首を斬り裂いた。鮮血が噴き出し、辺りは赤く染め上げられて。手放された小刀がからんと落ちるとほぼ同時に、ばたりとコノエはカフカの前に倒れた。
「死んで償うって……ああ! くそ!」
 コノエが死んだところで、祝が戻ってくることは無い。ただカフカ一人が残されるだけだ。
「おれだけ残してみんないなくなりやがって……」
 抱いていた祝を横たえると。カフカは落ちる小刀を拾い上げ、その刃を反対の手首に当てる。
「一人でかわいそうに……すぐに傍にいくからな……」
 躊躇う事無くそれを横へと滑らせれば、カフカは「うっ……!」と呻いて。
 裂傷から血を盛大に床へと零すと。祝の隣にどさりと倒れ込んだ。

(「……ちょっとわざとらし過ぎねェか?」)
 床に倒れるカフカは胸中で零す。
 でもそれくらいが、お芝居では丁度良いんです。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
悟郎◆f19225
アドリブ◎

…気に食わねェ朱鴉を見掛けた気ィするが無視無視
決してサボりたくて温泉行きたいと言ったンじゃねェぞ

ゆっくり温泉に入り酒を飲む
悟郎を手伝わず

この湯も気持ちイイが、悟郎の宿の温泉の方が俺は好きだなァ
しかしレモンが魔除け扱いたァ初耳だ
何だろうなアレ

舞台は整ったか?
じゃァ派手に…お前、何で服着てンだよ
ココ温泉だろ?不自然じゃねェか脱げや
え、オイちょ、待て!違うだろ!?
俺だってお前のコトは友達として…悟郎クーン聞いてる?

あらぬ誤解を生んだ

結局脱ぐのかよ!
あの茶番はなンだったンだ

輪切りの檸檬(顔パック?)を乗せて耽美な感じに死ぬフリ
薔薇だけにバラバラ
UCの焔の蝶で原稿用紙を燃やす


薬師神・悟郎
楼・菊杜先生演じる『クロウ(f04599)』と

舞台は温泉
クロウが支度を終える間、俺は現場を整える
真っ赤な薔薇を大量に温泉に散らし、彼の顔に貼る檸檬を輪切りも用意
…これだけだと優雅なバスタイムだな
現場に御札もばら蒔き、意味不明な不気味さも演出しよう

え、俺も脱げなんて…
仕事とはいえ、奥さん以外の女性に肌を見せるのはちょっと…
貴方のことも良い友人としてしか見れないし…そっち方面の期待には応えられそうにない
しどろもどろな様子からすまない、とそっと目を逸らす
俺の中でクロウに新たな誤解を生み、残したままー

さて、俺も温泉に相応しく脱ぎ
血(らしきもの)で『ふぇろもん』というダイイングメッセージを残し死んだフリ



●夢中になっている最中にレプリカ作ってます
 此処は男性露天風呂。源泉かけ流しに偽りのない此処では、大袋を抱えた悟郎がスーツとサンダル姿でせっせと舞台を整えていた。
 抱えていた大袋からどさーっと真紅の薔薇の花弁をタイル上と湯船に散らし、最後の一枚まで散らしたところで。白いトレイに乗る檸檬の輪切りを取り出して、それを岩場に置く。
 大袋の中がどういう構造をしているのか聞いてはいけない。ネタ空間特融の四次元的なアレだから。
(「……これだけだと優雅なバスタイムだな」)
 舞台を眺め、パンチが足りないと思った悟郎は。大袋から原稿用紙と御札を何枚も取り出すと、それらを一帯にばら撒く。
 一人納得したように悟郎が頷いている中、楼先生ことクロウはと言うと。悟郎を手伝わずゆっくり温泉に浸かり、お猪口に注がれた日本酒を愉しんでいた。
(「……気に食わねェ朱鴉を見掛けた気ィするが無視無視」)
 確か旅館に眼帯をした神が居たような気がしないでもない。けれども此処はスルーするのが正解だと、クロウは判断を下した。
 クロウは決して、執筆をサボりたくて温泉行きたいと言ったのではない。だが文豪というのは様々な理由をつけ、執筆を先延ばしにするものである。
「この湯も気持ちイイが、悟郎の宿の温泉の方が俺は好きだなァ」
 長屋の傍に在る、海を臨める露天風呂を思い出しながら。クロウは手の中の日本酒を呷る。
「しかしレモンが魔除け扱いたァ初耳だ。何だろうなアレ」
 岩場に置かれた檸檬の輪切りを一枚取ると、クロウは悟郎へと声を掛ける。だが五郎は舞台を整えるのに夢中になっていて、耳に届いていない様子だった。

●温泉旅行に誤解はつきもの
「舞台は整ったか?」
「はい、先生。完璧に整いましたよ」
 酒を飲み終えたクロウが悟郎へ訊ねれば。悟郎はずれた眼鏡の位置を直しながら頷いた。それを認めたクロウは「じゃァ派手に……」と言いかけて、そこで気付いた。
「お前、何で服着てンだよ。ココ温泉だろ?」
 そう、悟郎はスーツとサンダル姿のままだった。
「不自然じゃねェか脱げや」
「え、俺も脱げなんて……仕事とはいえ、奥さん以外の女性に肌を見せるのはちょっと……」
 クロウの言葉に間違いはない。間違いはないのだが、悟郎は違う意味に受け取ってしまったようで。
「貴方のことも良い友人としてしか見れないし……そっち方面の期待には応えられそうにない」
「え、オイちょ、待て! 違うだろ!?」
 しどろもどろになりながら悟郎は、申し訳なさそうに「……すまない」と。そっとクロウから目を逸らす。悟郎の中でクロウへの新たな誤解が生まれた瞬間だった。
「俺だってお前のコトは友達として……悟郎クーン聞いてる?」
 そっち方面を察したクロウは誤解を解こうと試みるものの。その種は残ったままだった。

●冷静に現場を想像してみてほしい
「さて、俺も露天風呂に相応しい男になるべく脱いできます」
「結局脱ぐのかよ!」
 さっきまでの茶番は何だったんだと思いながら。クロウは悟郎が脱衣所にこもっている間に、焔の蝶を放ち悟郎に撒かせた原稿用紙のみを燃やす。御札を燃やさないのは意味不明さを増長させる為だ。
 そして岩場に寄りかかり肩まで湯に浸かると、頬と瞼の上に檸檬の輪切りを乗せる。湯船には薔薇の花弁と――切断された四肢が浮かんでいた。
 しかしご安心頂きたい。この四肢は悟郎が作り出したレプリカの四肢。湯船に浮かぶ薔薇の花弁で、ぱっと見クロウ本人の四肢を誤魔化せるようにしてあるのだ。

 少しの間を置き脱衣所から露天風呂へと戻って来た悟郎は、ふっと空を見上げる。
 何かが夜空にキラッと輝いた。一体なんだと目を凝らせば、それは。
 ――金盥だった。
 誰かが投げ込んだのだ。悟郎がそれを金盥だと認識した瞬間にはもう眼前。避ける間も無くごすっと喰らった悟郎は、流れた血液(ニセモノ)で『ふぇろもん』と書き残すと。静かにタイル上に沈んだ。

 こうして人気文豪が呪術めいたバラバラ殺人の被害に遭い、第一発見者の担当編集が何者かに金盥で襲撃され奇妙なダイイングメッセージを残した――という現場が完成したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

深山・鴇
朱酉君と/f16930

猫OKというだけで推せる温泉旅館だが、女将が影朧ではな……(残念)

さて、ではフラグも立てたことだし、しっかりうっかり突然死でもしてみるとするか!
風呂の中で死ぬのは発禁となってもあれだなしな
そうなると脱衣所か……っと、御影? 何か面白いものでもあったか?
猫の視線を追えば脱衣所の天井にわざとらしいまでに設置された金盥が――!
「嘘だろ」
そんな古典的な、と考えていたら御影が檸檬にじゃれてあれがそうなってこうなって、派手に響く金盥の音と共に、床に倒れ死んだふりだ
あとは朱酉君がなんか上手くやってくれるだろう
あ、御影、背中に乗るんじゃない、顔がにやけるから(猫は背中に落ち着いた)


朱酉・逢真
深山さんと/f22925
心情)なンてこった、先生が死んじまった。こりゃ後追うしかねェ。だが俺は疫毒のカタマリ、血を流すワケにゃいかねェぜ。
行動)速足で先生ンとこへ(体力ナシなので走らない・速足でも息切れ)
「どうしやした先生…し、死んでる」
「なんてこった、これじゃア俺が編集長に殺される」
ふらっと外でたとこで倒れて、眷属《虫》からヘビを喚んで首に絡ます。もとより冷たく息せぬ身、動かなけりゃ立派な死体さ。先生が死んだショックで外出たらぐうぜんヘビに襲われて死んだってていさ。倒れたとこの草枯れっけど見逃しとくれ。いま笑わンよにってので精一杯なンだ。金盥って。嘘だろ。みー子はあくびしてっしよ。カオスか。



●にゃんこ御影に悪意はない
(「猫OKというだけで推せる温泉旅館だが、女将が影朧ではな……」)
 鴇は脱衣所で猫じゃらしを左右に振りながら、内心残念がっていた。
 既に皆さんご存じの通り、この旅館の若女将は影朧である。
 ていうかね。怪しい招待状の宿泊先である旅館を一人で切り盛りしていて、でも宿泊者全員猟兵で。逆に若女将以外の誰かが影朧だったらとてもヤヴァイですよ。
 溜息を吐く鴇の心の内など知らない顔で、御影は猫じゃらしにしゅっしゅと猫パンチを喰らわせていた。
 だが、せっかく死亡フラグを立てたのだ。ここはしっかりうっかり突然死して影朧を誘き出そうと、鴇は気持ちを切り替える。
 しかしうっかり浴場で死んだフリして、見せられませんの看板が立ってしまったらあれである。
(「そうなると脱衣所か……」)
 さて、ここでどう死んだフリするかと思惟しかけて。御影が静かな事に気付いた。何かを見つけ、それを見つめている様子だ。
「……っと、御影? 何か面白いものでもあったか?」
 御影の視線を鴇は追う。その先には天井があり、そこには――。

 ――わざとらしく、金盥が設置されていた。

「嘘だろ」
 鴇は呟かずにいられなかった。此処は大正ではなく昭和なのか? そんな古典的な罠に今時引っ掛かる者が……まで考えて御影に目を向けると。都合よく転がっていた檸檬にじゃれつき、転がしている姿が目に入る。その檸檬から、細いワイヤーらしきものが伸びていた。
 まさかと思い鴇がワイヤーの伸びる先を目で追えば……天井の金盥に繋がっているではないか。
「みっ、御影! それにじゃれつくんじゃない!」
 このままじゃれつかせたら御影の真上に金盥が落ちてしまう。それは駄目だと慌てた鴇は、御影へとダッシュをしてしまった。
 当然、驚いた御影はその場から飛び退く。その際後ろ足で思いっきり、檸檬を蹴飛ばした。

 それにより何が起こったか。
 まず。御影キックにより檸檬と金盥を繋いでいたワイヤーは切断され、金盥は重力に従い落下し始めた。
 次に。ダッシュで御影のもとに駆け寄ろうとした鴇が、御影が元いた場所におさまった。つまり金盥の真下である。
 最後。金盥は鴇の脳天へと、ガァン! と音を立て見事に落下した。

 あっという間の出来事であった。鴇は「うっ……」と呻くと、その場に倒れ死んだフリを決めこむ。金盥はカランと音を立て床に転がった。
 まさかこのような形で死んだフリをすることになるとは思わなかったが、まあ丁度良い。ただ頭に鈍い痛みが残っているけれども。
 そろーっと、御影は鴇の様子をロッカーの影から窺っていた。暫しじっと見つめた後御影はトコトコ近付くと、鴇の背中へと飛び乗った。
(「あ、御影、背中に乗るんじゃない、顔がにやけるから」)
 肉球の感触に緩む頰を必死に抑えながら、鴇は死んだフリを続行するのだった。

●猫は背中で
 風呂案内の所で鴇を待っていた逢真は。脱衣所からガァンと音が聞こえてきて、一体何が起きたんだと速足で脱衣所に足を踏み入れた。
 ちなみに速足なのは、それでも息切れを起こすのに走ったら体力ゲージが一瞬でゼロになりかねないからである。
「どうしやした先生……し、死んでる」
 逢真が脱衣所で目にしたのは。金盥を傍らに倒れる鴇の姿だった。鴇の背では御影がふみふみとマッサージを行っていた。
「みー子、まさか……」
 その問いに御影はふみふみの足を止めると、逢真に欠伸を返す。それを見た逢真の身体は、震えていた。
 二、三歩。後退ると、逢真は鴇の死体(死んだフリだけど)に背を向ける。
 相変わらず速足であったが、その足は旅館の出入り口へと向かっていた。

「なんてこった、これじゃア俺が編集長に殺される……」
 ぜぇぜぇと息を切らしながら。逢真は旅館の出入り口の敷居を越え、外へと逃げ出していた。
 その顔は必死な様に見えて、けれども何か堪えているような、ほんの少し複雑な表情だった。
 そこに「シャーッ!」と鳴きながら、逢真の首目掛けて紐状の何かが突如絡みついた。
 蛇だ。偶然(実際のところ逢真が眷属《虫》で喚んだ蛇だけれども)通りかかった逢真の息の根を止めんと、飛び掛かったのだ。
 ギリギリと首を絞めつけられた逢真は、暫し苦しんだ(フリだけど)後、その場に倒れた。逢真の身に触れた草花が一瞬でしおしおと枯れたが、それはこの際気にしないことにしよう。
 逢真は元々冷たく息せぬ身である。そのまま倒れていたら立派に死体……なのだが。今は身体の震えを堪えることに必死だった。
(「金盥って。嘘だろ。みー子はあくびしてっしよ。カオスか」)
 死んだフリするのは分かっていたけれども、まさか金盥で鴇が死んだフリする事になるとは予想していなかった。
 あの身体の震えは、編集長に殺される恐怖ではなく。笑いを堪える為の震えだったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『毒殺ノ冥土』

POW   :    危険なティータイム
【猛毒入り紅茶】を給仕している間、戦場にいる猛毒入り紅茶を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    毒を食らわば体内まで
【ティーカップ】を向けた対象に、【対して、その体内に猛毒を発生させる事】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    アフタヌーン・ポイズン
戦闘中に食べた【毒】の量と質に応じて【、より強力な猛毒を精製する事で】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『はぁー……切り盛りはまぁ慣れてるとして、つい素の口調がが出そうだったわ』
 旅館の大広間(大宴会場)にて。宿泊客を手にかけていた黒い影……若女将こと影朧『毒殺ノ冥土』は。緑茶を手に座布団に座り、天井を見上げていた。
『今回は文豪とその関係者仲良く昇天計画だったけれど……こなすのに結構骨が折れたわね』
 中には既に死んでいた宿泊者や、行方不明になった宿泊者も居たけれども。まぁ最終的に死んでくれればオールオッケーだしと、影朧は緑茶を啜る。
『私は毒殺ノ冥土……もてなしを尽くし、天国へと昇天させる冥途の使い』
 この影朧、もしかすると何件かの昇天計画を実行してきたのかもしれない。
『これ飲み終わったら旅館の掃除して、次の昇天計画考えなくちゃ』
 影朧は軽く言っているけれども、計画を実行されると割とヤヴァイです。

*********************************************

 大広間は戦闘するのに充分な広さがあります。あと昇降装置付きのステージあります。
 話は聞かせてもらった!! (襖スパァン)とか、オマエノシワザダタノカ……とか。
 とにかく、お好きな様に登場して影朧と戦闘してください。ネタ依頼なので細かいことは気にしませんし、遊んだもの勝ちです。
(本当は導入もっと長かったけれども、時間置いて読み返したら内容重かったのであっさりネタ向けに直したという)
神代・凶津
(式神【鬼乗せ船】を旅館の外で召喚し乗員の鬼霊を引き連れて大広間に現れる)
かくして巫女文豪は渓谷で命を落とし、呪われた鬼面がその死体を乗っ取ったのであった。伏線回収ッ!
と言う訳で俺が新しい身体を手に入れた目出度い日だ。野郎共、今夜は無礼講だッ!好きに騒ぎなッ!手始めにそこの若女将の命を頂こうかッ!

宴会の開始だッ!
鬼霊が担いだ大砲を手当たり次第ぶっぱなして景気付けながら大暴れさせるぜ。
その間に若女将に妖刀で襲いかかるぜッ!

ケッケッケッ、その命をヨコセエエエエッ!!
(「・・・これじゃどっちが影朧か分からないよ。」)


【技能・式神使い、集団戦術、恐怖を与える】
【アドリブ歓迎】


霧鵺・アギト
ほおー……僕をレモン塗れにしたのは…貴様の仕業か…?
恨み辛み酸っぱみ(?)
絶対に許さない…。

レモンは爆発させるための物じゃない!
この紅茶に入れて楽しもうではないか!!
とりあえず出された紅茶を飲む!!
僕には【毒耐性】があるから多分大丈夫だろう!!!
半分ヤケクソだ!!!!

そんなこんなで相手の様子を伺いつつ、
隙を見てメイドの目を狙ってレモン汁をぶっ掛けるぞ!
貴様には絶対レモンで仕返ししてやると決めていたのだー!!
どうだ、地獄の目の痛みを味わうが良い…!

あ、目潰ししてる間にUC発動しとこう。
貴様の次の計画は御破算だ。
残念だったな(キリッと)

アドリブなんでもどうぞ!


雪丸・鳳花
舞台もそろそろフィナーレを迎えるね!
猟兵による壮大な演劇はどうだったかな!
若女将改め影朧!
キミは華々しく散る運命にあるのさ!
最期まで舞台の一員としてよろしく頼むよ!

昇降装置付きのステージで華麗に登場しよう!(UC使用)
ある時は熱狂的なファン!
またある時は可憐な死体!
しかしてその実態は!
舞台をこよなく愛す学生猟兵さ!

影朧!キミの計画もここまでだ!
【空中浮遊】で舞うように【2回攻撃】
【存在感】を発揮し、敵を惹きつけよう!囮役は慣れてるから任せたまえ!

敵の攻撃を【見切り】、間に合わない時は【オーラ防御】や【念動力】で襖や机を盾にしよう!
ボクのステージを最期まで楽しんでくれたまえ!


共闘、アドリブ歓迎



●初っ端からドデカかった
『はぁー……お茶美味しいわねぇ……』
 ――ドガッシャーン!!!
 緑茶を啜っていた若女将の平穏を、突然凄まじい轟音と揺れがぶち破った。驚いた若女将は湯呑を落とし、盛大に緑茶を溢してしまう。
『ななな、何なのよ一体?!!』
 振り返ってみれば、何故か巨大な船が大広間に突っ込んでいた。
『ここ一応山奥よね?! 何で船が突っ込んできてるの?!!』
 まぁ、それはごもっともなのだが。ネタ依頼でそんなことを気にしたら負けなのだ。
 そして若女将は気付いた。その船首に鬼面を付けた巫女が、腕を組みドォンと立っている事に。
『あ、あんたは確か渓流で爆殺した筈!!』
 驚愕し目を見開く若女将。鬼面の巫女こと桜――いや、今は桜の身を借りる凶津が、ぐりんと若女将の方へと向いた。
「かくして巫女文豪は渓谷で命を落とし、呪われた鬼面がその死体を乗っ取ったのであった。伏線回収ッ!」
『な、なんだってー?!!』
 あっさりと騙される辺り、若女将は割とちょろい。まぁ、死んだフリで騙せるから本当にちょろいんだけれども。
「……と言う訳で俺が新しい身体を手に入れた目出度い日だ。野郎共、今夜は無礼講だッ! 好きに騒ぎなッ!」
 凶津と共に船に乗っていた鬼霊達が、拳や得物を振り上げ「うぉー!!!」と雄叫びをあげると。続々船から飛び降りた。大広間のスペースについてはご心配なく。ネタ空間なので五百人くらい余裕余裕。
『チッ、こんなことになるんだったら寺生まれの人でも雇っておくんだったわ!!』
 爪を噛み、若女将は苛立った。そういう問題では無い気がする。
「宴会の開始だッ! 手始めにそこの若女将の命を頂こうかッ!」
 テンション爆上がりモードの鬼霊達は、大砲を手当たり次第にぶっ放しまくった。開始早々滅茶苦茶である。
『あー、もう!! 掃除が大変になるでしょぉおおおお!!』
 この若女将、何かずれている。

●人はみな役者
 そんな中、ステージがウィー……と音を鳴らした。昇降装置が動いているのだ。
 爆発音やら食器類が砕ける音やらで聞き取り辛いが、若女将の耳はそれを逃さず拾った。
 ばっと若女将がその方を向けば。ステージにスポットライトが当たる。
「ハッハッハ! 冥府から舞い戻って来たのだ!!」
 ステージの奈落から、鳳花が姿を現した。浴衣姿に、煌びやかで大きな羽根を背負って。
『ヅカなの?! ねぇヅカなの?!』
 若女将、ツッコめるところはツッコむらしい。
 けれども鳳花はツッコミを受けてもどこ吹く風。威風堂々と昇降装置からステージへと移る。
「ある時は熱狂的なファン! またある時は可憐な死体! しかしてその実態は!」
 一歩、また一歩進むたび、背負う羽根はわさわさと揺れる。そしてタンとステージを蹴り、大広間の畳の上に軽やかに舞い降りた。
「舞台をこよなく愛す学生猟兵さ!」
「いいぞーねーちゃん!」
 鬼霊達からの声援を受けながら。鳳花は両手を広げ、バァンとポーズを決める。
「舞台もそろそろフィナーレを迎えるね! 猟兵による壮大な演劇はどうだったかな!」
『……そういうことだったのねーっ!!』
 鳳花のネタばらしに、若女将は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をすると。間を置いて全てを理解した。
「若女将改め影朧! キミは華々しく散る運命にあるのさ!」
 ビシッと鳳花が若女将を指差せは。若女将は『散って堪るかァ!』と叫び、懐からティーカップを取り出す。
「そうはさせない!」
 だがそれが鳳花へと向く前に。鳳花は宙を舞い若女将との距離を一気に詰めて、素早く革命剣でカップを叩き落とした。ガシャンと音を立てカップは砕け散った。
『あっ、結構お高いのに……』
「隙あり!」
 割られてしまったカップに若女将が気を取られている隙に。鳳花は若女将の身体を革命剣で斬りつける。
『痛ぁっ?!』
「カップに浮気などしないで! ボクのステージを最期まで楽しんでくれたまえ!」
『割っておいて何を言うかー!!』
 ツッコむ若女将に。ゆらぁりと一つの影が近付いていた。

●レモンティー美味しいよね
「ほおー……僕をレモン塗れにしたのは……貴様の仕業か……?」
『はっ、あんたは爆散させた部屋の!』
 若女将の前に現れたのは。全身を木くずや煤に塗れさせ、ほんのりと檸檬の香りを纏うアギトだ。檸檬の香りと書くと綺麗なイメージが付くが、実際は檸檬汁塗れになった事で染みついた香りなのでなんというか、うぬ。
「恨み辛み酸っぱみ……絶対に許さない……」
 酸っぱみとは何ぞ。というツッコミは無しだ。実際檸檬は酸っぱい。
「レモンは爆発させるための物じゃない!」
『いいえ檸檬は爆発させるものよ!! マルヅェンを木っ端微塵にする為のものよ!!』
 反論した若女将はアギトの前に、紅茶の注がれたカップとソーサーを叩きつけるように置いた。
「ならこの紅茶に入れて楽しもうではないか!!」
 半ばヤケクソのアギトは。半分に切った檸檬を握ると力をこめ、檸檬汁をぶしゅっと紅茶に注ぐ。アギトがヤケクソになるのはしょうがない事だ。何故なら、せっかくまとめた資料が爆散したからである。
「いただきます!!」
『はいどうぞ!!』
 アギトはぐいっと一気に紅茶を呷った。それを認めた若女将はにやりと笑う。だが、若女将が求める結果には……ならなかった。
『なんで昇天しないのよおおお!!』
「その程度の毒で僕が殺せると思ってたのかぁあああ!!」
 フハハと高笑いするアギトに若女将はエプロンの裾を噛む。両手と口が塞がったその隙を見逃さず、アギトは若女将の眼前に檸檬を掲げると。一気に残りの檸檬汁を搾りだした。
『目がァ!! 目がぁああああ!!!』
「貴様には絶対レモンで仕返ししてやると決めていたのだー!!」
 両目を押さえ、ごろんごろんと畳の上で若女将は悶える。檸檬は酸性。目に入るととんでもなくキッツイんだこれが。
「どうだ、地獄の目の痛みを味わうが良い……!」
『うぉおおん……!』
 女性としてそれはどうかとツッコミを喰らいそうな呻き上げる若女将。
 アギトはまだ視界を奪えているうちにと。ラプラスの悪魔を若女将に向け放つ。空間に羅列された光の数式は、真直ぐ若女将へと走るとその身を燃やす。
『檸檬汁の次は火なのぉおおお?!!』
「貴様の次の計画は御破算だ。残念だったな」
 キリッとアギトは格好をつける。だがその顔には脂汗が浮かんでいた。死なないにしても、毒はアギトの身をしっかり蝕んでいたのだ。
 アギトはその場にばたんと倒れ込んでしまった。

●踏んだり蹴ったり
『くっ……目の恨みはらさでおくべきか……!!』
 煤だらけになりながらも、何とか鎮火に成功した若女将は。手を震わせながらアギトへと手を伸ばす。しかしその背後には鳳花と、無銘の妖刀を握る凶津が。
「影朧! キミの計画もここまでだ!」
 鳳花が念動力で机を浮かし、若女将に突撃させて吹き飛ばせば。凶津が追い打ちをかけるように飛び掛かる。
「ケッケッケッ、その命をヨコセエエエエッ!!」
(「……これじゃどっちが影朧か分からないよ」)
 確かに桜が思う通り、何も知らぬ人が見たら絶対勘違いを起こす光景だった。
 だが今はそのような第三者は存在しない。凶津は勢いに任せ、若女将の身体をざんと斬り裂く。
『みぎゃんっ』
 バッサリと斬られてしまった若女将は。畳の上に突っ伏したのだった。

 因みに、毒により撃沈したアギトは鬼霊達に介抱されることになった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

虹川・朝霞
(めっちゃ痕がついてる)
いやー、痛かったです。お陰で霞の影響も抜けましたが。

さて、あとは黒幕の影朧をどうにかするだけですね!
ふふ、【幻霞】の活用方法は、なにもあれだけじゃないんですよ…。

足だけ霞にします。ふよふよ漂い浮けます。さらに狭い場所もそのままいけます。
つまりは「うらめしや~」です!
行動速度遅いと、なおさら「うらめしや~」感が凄い。
気づいたときには幻覚作用も働いてるはずですから、相手には俺が増えて見えるんじゃ?

ええと、相手の知ってる俺になるでしょうから。
目に光のない俺が、『文豪先生も手にかけるおつもりですね…?ならば』とか言って。
しかも、行動速度普通。

なにそれホラー。演じたの俺ですけど。



●助けて寺生まれ
「いやー、痛かったです。お陰で霞の影響も抜けましたが」
 額にくっきりと檜桶の痕をつけた朝霞が、どんちゃん騒ぎ真最中の鬼霊達の隙間から現れる。
 目を覚ます前はクレイジーな文豪ファンだったが、今はすっかり普通の朝霞自身だ。
「さて、あとは黒幕の影朧をどうにかするだけですね!」
 そうなんです。既にいろいろと滅茶苦茶な状況だけれど、どうにかして貰うんです。
 どう影朧に仕返しをしようかと、朝霞は少し首を傾げた。
 そして案を思いついた朝霞は幻霞を発動させると。足だけを霞に変化させる。
 何せ、一度死んだフリをしている。ここは一丁幽霊になってみようと朝霞は思いついたのだ。

『いたた……遠慮なくざっくり斬ってくれたわね……』
 身体を斬り裂かれた若女将は、服の上から身体に包帯を巻いていた。流石に傷口開きっぱなしは『見せられないよ!!』に引っかかるからである。
『もぉおー、何なのよ……猟兵が来るなんて思ってるわけ無いでしょぉ……』
「う……めし……や……」
 ぶつぶつと愚痴をこぼす若女将。その耳に、蚊の鳴くような声が聞こえてきた。反射的に若女将はその声が聞こえてきた方を向く。
(『あいつは、檜桶で殴り殺したはずの……!!』)
 若女将が見たのは、殺したと思っていた朝霞の姿。
 しかしよく見れば、その朝霞には足が無かった。
『つまり、幽霊?! んなっ……大人しく成仏してなさいよぉおお!!』
 ゆらりゆらりと近付いてくる朝霞に背を向けて、若女将は全力で走り逃れんとする。

『撒いたかしら……?』
 振り返って朝霞を引き離せたか確認する若女将。そこには朝霞の姿はない。しかしフラグというものが世界にある訳で……。
 安心した若女将が前を向けば。目に光の無い朝霞が、ふよふよと浮いていた。
『うわぁあああああ!!』
 絶叫する若女将。実際は幻霞効果で狭い隙間にも入れるようになった事で、通気口を利用し先回りをしただけなのだが。
 だがパニック下で想像力を働かせることは……殆ど無理である。
「文豪先生も手にかけるおつもりですね……? ならば……」
 するとどうだろう。朝霞の姿が何人にも増えたではないか。しかも先程よりも行動速度が……上がっている。
『えっ……えっ……あわわ寺生まれヘルプミィイイー!!!』
 朝霞が増えたのも幻霞効果である。正確には、霞を吸った若女将が複数の朝霞の幻覚を見てしまっている。
 大声を出せばその分酸素が必要になる。つまり息を吸う。空気と一緒に霞も沢山取り込む。
「「「う~ら~め~し~や~」」」
『あわわわわもっと増え……きゅう……』
 視界一杯の朝霞に迫られる幻覚を見た若女将は、目を回してその場に倒れ込むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宵蛾・小鳥
女将さん、あなたが事件の黒幕だったんだね。
(天井の上から、天井板を外して、頭をにゅっと出す)

(実はネタ書き出し中の気分転換で行った、脱衣所で、すのこを踏み外して、勢いよく跳ね上がるすのこに額を打ち付けて、しばらく気を失ってたみたいだけど、気づいたら周りが静かなので異変を察し、天井裏の断熱材の上に隠れていたのさ)

たとえ世間の目は逃れても、小鳥の蝶吹雪からは逃げられないよ。

【戦闘】幼い魂の蝶の群れを雪雪崩の様に嗾け(けしかけ)て、逃亡阻止しつつ重ねて呪詛UCでの攻撃。
ついでに、鼻の辺りと口の中に蝶の群れを突撃させて、毒を食べれない様にするね。

働き者の女将さん、短い間だったけどお世話になったよ。



●幽霊と呪いはどちらが怖いのだろう
『………ハッ!! 夢……だったのね。そうよ幽霊なんて居ないわ。幽霊なんて嘘よ』
 きょろきょろと当たりを見回した後。怖がってない、平気よと言い聞かせ。若女将は身体を起こす。
 その時、天井の板が何やらガタンゴトンと音を立てた。
『ヒエッ……』
 若女将の肩が大きく跳ねた。怖くないとか言いつつ、やっぱり怖がっている。
 突如天井に四角い穴がぽんと開いたと思うと。そこからにゅっと、少女が逆さに顔を出した。
「女将さん、あなたが事件の黒幕だったんだね」
『あ、あんたは文豪を目指していた御嬢様……! 一体今まで何処に……!!』
 では、小鳥が一体どこに消えていたのか説明しよう。
 実はネタ書き出し中の気分転換に、小鳥は温泉に入ろうとした。
 だが。脱衣所ですのこを踏み外し、勢いよく跳ね上がったそれに額をコォンと打ち付けて。暫く気を失っていたのだ。足で忍法畳返しようとして失敗したのと同じアレである。
 ハッと気づいた時には既に周りがシンと静まり返っていたので、「これはもしや……」と異変を察知した小鳥は。犯人――影朧が来ない内に天井裏の断熱材の上へと隠れていたのだ。
『見かけによらずアクティブね?!』
 小鳥はふふんと笑い、天井裏から大広間へひょいと降り立つと。自身の周囲に白く透き通る蝶達を呼ぶ。
「たとえ世間の目は逃れても、小鳥の蝶吹雪からは逃げられないよ」
 ひらひらりと舞う蝶達は、小鳥の本体に集められた幼い魂達。
 小鳥の「行って」の一言で、蝶達は雪崩の様に若女将へと迫り行く。
『わっ、ちょ、蝶で周りが見えなっ……!』
 蝶達に集られ、若女将は身動きが取れなくなる。手で払っても、蝶の数が多くて焼け石に水だった。
『こうなったら新薬ならぬ新毒を精製して一帯にばら撒いもががっ?!』
 その為に手持ちの毒を摂取しようとした若女将。だが鼻付近と口の中に、蝶の群れは突撃して。新毒の精製を絶対に許さなかった。
 蝶達に気を取られている間、小鳥は若女将へと呪詛を放った。その呪詛は若女将に、不慮の事故を齎すもの。
 ほら早速、何処からか焼酎瓶が若女将の足元に転がって来た。勿論若女将は絶賛視界不良続行中。
 ちょっと動いた若女将は見事焼酎瓶を踏み、その場で転がり尻餅をついて。
 その直後。何処からか現れた金盥が若女将の脳天をガァアン! と思い切り殴った。
『んぐっ?……!!』
「働き者の女将さん、短い間だったけどお世話になったよ」
 まさか自身が行っていた殺害方法を喰らうとは思っていなかった若女将。自分で喰らってみるとかなり痛いのだなと思いながら。前のめりで畳の上にばたりと倒れ込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ケルシュ・カルハリアス
※アドリブ・連携OK

鮫から逃げる主人公は大広間にたどり着いた。だが壁や畳、天井を突き破り、数多の鮫が襲いかかってくるではないか!
…なんて話の続きを考えてました。でも本当は鮫作家じゃなくて鮫絵師猟兵なんですよね!というわけで。

こんな風に【ウイングサメ】を大広間に突撃させて【集団戦術】で攻撃させます。僕は鮫の後ろから水の【属性攻撃】をしながら隙を見て【チェイスサメ】で追い討ちをかけます!
あと元は絵の具の鮫だから毒は効かないよ。

追い詰めたら【イカリノサメビーム】!!!

文章と絵画、手法は違うけど表現者に危害を加えるのは許せないです!!



●鮫は如何なる場所でも現れる
『うぅん……頭がガンガンするわ……』
 気絶から覚めた若女将は、ゆっくりと身体を起こした。頭がガンガンする理由は二日酔いなどではなく、金盥頭部直撃によるものだ。
「鮫から逃げる主人公は大広間にたどり着いた」
 目覚めたばかりの若女将の耳に、聞き覚えのある声が。
 その方を向けば。鮫に喰われて死んでいた(と思っていた)筈のケルシュが、血塗れのまま歩み寄ってきているではないか。
『ヒェッ……』
 思わず血の気が引く若女将。けれどもケルシュは気にせず言葉を続ける。
「だが壁や畳、天井を突き破り、数多の鮫が襲いかかってくるではないか!」
 言い終えた瞬間。大広間の壁や天井をぶち破って、背に翼の生えた鮫集団が現れた。鮫達は若女将を目に留めると、猛スピードで突撃してゆく。
『キャアアアア鮫ぇええええ?!!』
 猛ダッシュで大広間を逃げ回る若女将。しかも何故か鮫と共に波が迫っていた。
「……なんて話の続きを考えてました。でも本当は鮫作家じゃなくて、鮫絵師猟兵なんですよね!」
 愛用の筆を振るい、水の属性攻撃から波をざっぱざっぱと発生させながら。ケルシュがネタばらしをする。
『此処は山なのよ!! 鮫はお呼びじゃないわ!!』
 ……のだが、鮫から逃げることに必死な若女将の耳には届いていない様子だった。

 逃げながら若女将は。新しく毒を精製し、ばら撒いて鮫達を悶えさせてやろうと内心企んでいた。
 けれどもそれは難しいことだった。足を止めた時点で鮫に喰われてしまうから。
『くっ……どうすればこの映画的状況から脱することが……きゃんっ』
 考え事をしながら走っていれば足元が疎かになる。若女将は転がっていた空のコップをごりっと踏み、すてんと転んでしまった。
 ――あっ、これ喰われる。
 大きく開かれた鮫の口を目の当たりにし、若女将は覚悟した。しかし鮫は寸でのところで止まり、若女将を喰らうことをしない。
 そこにケルシュが近付いて来た。
「文章と絵画、手法は違うけど表現者に危害を加えるのは許せないです!!」
 少し強張りつつも。ケルシュは若女将を指差しビシッと決める。すると開かれた鮫の口内へと、次第に光が集束していった。
『えっ、まさか、そんな有り得ないでしょ?!』
 若女将はまさか鮫がビームを撃ってくるとか冗談だろうと、けれども瞳に映る現実がそれを否定しているから本当なのかと。目を白黒させていた。
「鮫がビームを出してもいいでしょ!」
『宇宙戦艦とかなら理解出来るにゃわーーっ!!』
 言い終わらぬ内に。エネルギー充填完了した鮫から放たれたサメビームが、若女将を吹っ飛ばしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
「おぢょう様を傷つけたの、貴女だったのね!!」
え?負傷してない?うん。そーなんだけど雰囲気で?

あれ?レーちゃん隅の方で座ってお茶飲み始めたわ。
え?女将影朧さん相手にするの面倒だから戦わないの?
むぅ。折角。折角カッコよく(露視点)登場したのに…。
まあいいわ。あたしが淹れるわ♪レーちゃんの中居だもの♥
「お待たせいたしました、おぢょう様♪」
お茶淹れた後は何時ものようにレーちゃんにくっつくわ。
「ねえねえ、味はどうどう? おぢょう様?」
えへへ♪

「あれ? レーちゃんどこいくの、いくの?」
どこかに行こうとするレーちゃんについてくわよ。
温泉って答えたからあたしもいくわ♥わーい♪


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
「やはり君が影朧だったか」
凝った登場はせずに普段と変わらない口調で女将に一言。
他に何か感想はないのか?と女将に言われ…そうだな。
残念なのはここが影朧の所有する場所だったことだけだな。
何故か微妙な表情を女将にされたが。はて。なんだろう?

まあ影朧は他の者達が相手をするだろうから私は特にしない。
邪魔にならない様に大広間の端で日本茶を淹れ直して飲む。
部屋では零してしまって勿体なかったからな。今度は堪能。
「ふむ…。製法が異なるだけでこれだけ変わるんだな…」
茶葉を購入して帰るのもいいな。茶を取り扱っている店は…と。

もしこちらに襲い掛かってきたら対応しよう。
【禍の魔杖】を行使し撃退する。



●復活おぢょうさま
「やはり君が影朧だったか」
 至って普通に大広間の襖を開けて登場したシビラは、若女将を見据えるといつも通り淡々と一言。
『?!! え、他に何か感想無いの?!』
 訊ねられたシビラは顎に手を当てると、僅かに思惟し口を開いた。
「……そうだな。残念なのはここが影朧の所有する場所だったことだけだな」
『いや、ほらもっと違うこと……』
「……はて。なんだろう?」
 シビラの答えを聞いた若女将は物凄く微妙な表情をした。どうやら違う答えが欲しかったらしい。
「おぢょう様を傷つけたの、貴女だったのね!!」
 襖を勢いよく蹴破って、露が大広間に乱入してきた。
『あの子全ッ然傷付いて無くない?!! っていうか襖蹴破らない!!』
「え? うん。そーなんだけど雰囲気で?」
 指摘してきた若女将に、露はけろっとした顔で返す。確かに雰囲気は大事だ。若女将は納得してないけれども。
 露が登場したのを認めたシビラは。若女将に背を向けて大広間の端へとスッと向かうと、急須に茶葉と湯を入れ始めた。
(「あれ? レーちゃん隅の方で座ってお茶淹れ始めたわ」)
 首を傾げた露はシビラの許へと小走りすると、「どうしたのレーちゃん?」と声を掛けてみる。
「まあ、影朧は他の者達が相手をするだろうから私は特にしない」
 ようは他の猟兵に丸投げということだ。
「え? 女将影朧さん相手にするの面倒だから戦わないの?」
 それを聞いた露は頬を膨らませる。折角カッコよく(露視点で)登場したのに、ちょっと勿体無い。
 けれどもシビラは露の心の声など知らぬ顔で、良い感じに日本茶が抽出されるのを待っている。自室では零してしまい勿体無く思っていた茶を、今度こそは堪能しなければと真剣に。
「まあいいわ。ねえ、そのお茶はあたしが淹れるわ♪」
 おぢょう様がお茶を味わいたがっているならば、女中たる自分が淹れなければ。
「そうか。任せる」
 シビラがそれに頷けば、露は急須を手に取り湯飲みに注ぐ。日本茶の香りが湯気と共にほんのりと漂った。
「お待たせいたしました、おぢょう様♪」
 出された湯飲みを手に取ると、シビラはずずーっと日本茶を啜る。
「ねえねえ、味はどうどう? おぢょう様?」
 それを隣で見ていた露は。ぎゅむっとシビラにくっつくと小首を傾げて訊ねる。
「ふむ……製法が異なるだけでこれだけ変わるんだな……」
 くっつかれている事を特に気にせずシビラは答えた。それを聞いて露は「えへへ♪」と笑う。
 日本茶は紅茶と同じ植物から作られているのに、それとは違った色と味わいで。けれども嫌いではない味だった。
 これは茶葉を購入して帰るのもいいだろうと、シビラは電脳ゴーグルから展開した電脳世界の海を泳ぎ、近辺に茶を取り扱っている店が無いか探してみるのだった。

●温泉旅行は平和な方がいいよね
 ――若女将はその間、絶賛放置状態だった。
 けれどもこのまま放っていくわけにもいかなくて。茶器を手に取ると二人へと突撃する。
『そうは問屋が卸さないわよぉおおお!!』
「……喧しいな」
 だが。シビラが幾つもの紅剣を喚び出して。若女将へ向け容赦なく放った。
 紅剣達は若女将を串刺しにせんと、予測不可能な軌道を描きながら迫って。若女将はアクロバティックな動きをしながら、何とかそれを躱していた。
『ちょ、待っ、これ危なっ?!』
 その隙に。シビラは日本茶を飲み終え立ち上がると。大広間から出て、何処かへと向かおうとする。
「あれ? レーちゃんどこいくの?」
「……土産に日本茶の茶葉を扱っている温泉旅館だ」
 露がついて行きながら聞けば、ぶっきらぼうにシビラは答える。
「あたしもいくわ。わーい♪」
 改めて。殺人事件など起きないきちんとした温泉旅館へと、二人は向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
がらぴっしゃん!(襖
若女将殿が影朧だったなんて…!(推理力皆無
おかげさまでほかほかです!フルーツ牛乳もキチンといただいたであります…!

わたくしのUCに包まれてのプラネタリウムでのお茶会ははいかがでしょう
ちなみに毒耐性がありますので、へっちゃらですよ
スペース☆書生の事件簿にも犯人がプラネタリウムで追い詰められて自白するシーンがございます!そう某崖の上のシーンのように
「わたくしは思いました。様々な昇天計画を立てられるのであれば猛毒の瓶をインク瓶に変え、文豪ノ冥土さんになれば良いのでは?」
と犯人を説得するような流れを作りましたがこのUC一定時間で解けてしまうので……
あ~犯人共々ぺしゃんこであります…



●湯上りのフルーツ牛乳は美味しい
 ――がらぴっしゃん!!
「若女将殿が影朧だったなんて……!」
 大広間の襖を勢いよく横に滑らせて、驚愕に瞳を見開くアイグレーが大広間へと参戦した。
 因みに参戦という表記にさせて頂いたのは。大広間はどんちゃん騒ぎを通り越し、ほぼ乱闘劇場と化しているからである。
『でろっでろになってたからまぁ死んでるだろうと思ってたあんたも生きていたのね?!』
 既に結構ボロボロな、けれどもまだまだ体力はある若女将が。アイグレーを見て指差した。
「おかげさまでほかほかです! フルーツ牛乳もキチンといただいたであります……!」
 ちゃっかり浴衣に着替えて、片手に牛乳の空き瓶を持つアイグレー。しっかりと温泉旅行を満喫していた。
『それは良かったわね! お口直しに紅茶でもいかがかしら!!』
 若女将は机にティーセットを用意すると、半ば乱暴にポットからカップへと紅茶を注ぐ。
「あ、ではプラネタリウムでのお茶会ははいかがでしょう?」
 アイグレーは銀河を掬ったような液状の髪を大きく展開させると、若女将と自身を殻のように覆った。
『えっ、何々、何で髪が!?』
 髪で作られたその中は。何処を見ても星が煌めく、プラネタリウム空間となっていた。そしてこの中にいる限り、どの様な攻撃も通ることは無い。例え大砲が直撃しても、だ。

 星達が見守る中。アイグレーは机の上に置かれた紅茶を手に取ると、ひと口飲んで若女将に語り掛ける。
「わたくしは思いました。様々な昇天計画を立てられるのであれば猛毒の瓶をインク瓶に変え、文豪ノ冥土さんになれば良いのでは……? と」
 スペース☆書生の事件簿にも、犯人がプラネタリウムで追い詰められて自白するシーンがある。アイグレーはそれを再現しているのだ。
『ふふ……そういう道もあるのかもしれないわ……けれど、けれど私の手はもう……』
 その言葉を聞いた若女将は両手で顔を覆い、畳の上に崩れ落ちる。そう、サスペンスドラマのラストで見る崖上シーンの如く。
 だが突然、ぱきぱきという音が辺りに響いた。若女将は一体何が起きているのだと、きょろきょろ辺りを見渡す。
「そういえばこの殻、一定時間で解けてしまうのでありました……髪のセットが崩れるのと似たような感じであります」
『ちょっ、嘘でしょ……?』
「このままだと共々ぺしゃんこでありますねー」
『暢気に言ってるんじゃないわよって上! 上ぇえ!!』
 見上げれば、どんどん星々が近くなってきている。『あ、でも綺麗かも』と若女将が思ったのも束の間。どっと落ちて来た星々達に、アイグレーと共に抱き潰されてしまうのだった。

「やっぱり、小説みたいには上手くいかないでありますねぇ……」
 崩れた殻の隙間から、ひょこっとアイグレーは顔を出すと。頬杖をついてうーんと唸るのでありました。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渡・冥
先生方が亡くなられたと……。
それでは私は誰から原稿を頂けば……。
(周りで生きてる先生方は見ないふりをして)

……おや、女将。
そうだ。貴女に原稿を貰ってきて頂きましょう。
やって頂けるなら寝てた所に金盥が落ちてきた件は不問としましょう。
(死んだふりは気付かれなかったようなので無かったことにしている)

(魔法剣を抜き)
……ではちょっと逝って来てください。
帰って来なくてもいいですが原稿だけは寄越してくださいね?

あとはひたすら斬りましょう。
壁際に追い込みましょう。
影を食い込ませましょう。
刺さる棘は盥の恨みと思って我慢してください。

紅茶を楽しめ?
ならあなたに頭から掛けて差し上げましょう。
楽しいですね。



●楽しみ方は人それぞれ……だから、うん
「先生方が亡くなられたと……それでは私は誰から原稿を頂けば……」
 周りで生きている文豪役だった方々は見ないフリしつつ。冥はふらふらと大広間を歩いていた。
 すると冥の目に、若女将の姿が入った。
「……おや、女将。そうだ。貴女に原稿を貰ってきて頂きましょう」
『げっ、なんだか関わったらヤバそうな編集!! あんたも猟兵だったのね……!』
 ヤバそうな編集というのは心外だなと思いつつも。冥は言葉を続ける。
「やって頂けるなら寝てた所に金盥が落ちてきた件は不問としましょう」
 にこやかに、死んだフリに気付かれなかったのを無かった事にした冥。
『そんなの絶対お断りよ!』
 若女将の返事を聞いた冥の笑顔が、フリーズした。
 スッと冥の顔が暗くなったかと思うと。スラリと魔法剣を抜き出して、それを若女将の喉元へと突き付ける。
「……ではちょっと逝って来てください」
『へっ? ……ちょっと落ち着きなさいよ!』
 話し合って解決しようと、冥を説得する若女将。けれども冥は聞く耳を持たなかった。
「帰って来なくてもいいですが、原稿だけは寄越してくださいね?」
『帰って来ずにどうやって原稿を寄越させるの……ってひゃあっ!!』
 ブゥンと冥の剣が振るわれて、若女将は慌てて頭を下げる。遅れた髪が斬られ、ぱらりと床に落ちた。
 けれどもそれ一回に留まらず。冥は若女将を斬り裂かんと次々剣を振るう。
『やっぱりヤバイ奴だった……!』
 何とかギリギリのところで躱しながら、若女将は冥から逃げようと駆け出す。
「逃げられるとお思いですか?」
 じっとそれを目で追う冥。すると手に持つ魔法剣の影が棘へと姿を変え、若女将へと向かっていった。
『うっわ何それずるくない?!』
 半ば弄ぶように棘は若女将を追って、じりじりと壁際へと追い詰めていく。けれどもそれに若女将は気付けなくて。気が付いた時には目の前には棘、背には壁だった。
 冷汗を流しながら、『これが所謂背水の陣』などと思ったのもつかの間。次の瞬間には棘にざくざく刺されまくっていた。
『うわいったぁ!!』
「刺さる棘は盥の恨みと思って我慢してください」
 冷たく言い放つ冥。ちょっと怖い。
『ここは楽しくお茶でも飲みながら……』
「紅茶を楽しめ?」
 ぶすぶすと棘に刺されながら、若女将は冥の前に紅茶を差し出した。
「ならあなたに頭から掛けて差し上げましょう」
 紅茶のカップを手に取った冥は。容赦なくその中身を若女将の頭にぶっ掛けた。
『うわっちゃぁああああ!!』
 熱々の紅茶を浴びた若女将は畳の上をのたうち回る。
「楽しいですね」
 若女将が転がる様を見下ろす冥の目は、全然笑っていなかった。
 涙目になりながらそれを見た若女将は、『なんだこいつ悪魔か』と内心思ったそうな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
深山さんと/f22925
心情)ふぅ――…。そォだな。そのとおりさ、大将。笑うのを我慢すンのァ、なぁンでこんなに疲れンだろか。マ・今回はあばらにヒビで済んだ。軽傷、軽傷。さァて戦いだ。っと、その前に。
行動)(突如暗転し流れ出すオーケストラ&スモーク)(スポットライトが昇降機を照らす)(乗って降りてくる黒猫御影) 俺ァ深山の兄さんの影ン中、潜んでいるよ。こォんなことになりゃア、みー子に意識いって隙生まれンだろ。そォすりゃ兄さんがが決めてくれらァ。兄さんが遅くされっちまったら、相手もおンなじだけ遅くすっから安心しとくれ。
ひ、ひ。そりゃもちろん。


深山・鴇
朱酉君と/f16930

やっと影朧のお出ましか
金盥を食らった甲斐?があるってもんだ、そうだろう朱酉君
君まだ笑ってるのか?またアバラが折れるぞ
御影は賢いから適当な所に避難するだろう、目一杯暴れるとするかね!

君、昇降装置乗るかい?スモークも焚くと一層…え?先客?
「マジか」
そこには堂々たる御影の姿が――!
ちょっと、ちょっと影朧は待っててくれ、写真を(スマホで連射)
コホン、気を取り直して

割かし杜撰な昇天計画だが、これ以上は困るんでね
先制攻撃といかせてもらおうか
腰を低く落としての抜刀態勢から、一気に距離を詰めての【剣刃一閃】
お前さんの毒は遠慮させてもらうとするよ、朱酉君の毒の方がよっぽどきついだろう?



●過呼吸注意報
「やっと影朧のお出ましか。金盥を食らった甲斐? があるってもんだ、そうだろう朱酉君」
「ふぅ――……そォだな。そのとおりさ、大将」
 大広間の外で、鴇が同意を求めれば。逢真は長く息を吐いた後に肯く。
 しかし、笑うのを我慢するのは何故こんなに疲れるのだろうか。笑い死にという言葉があるのも理解できる。
「マ、今回はあばらにヒビで済んだ。軽傷、軽傷」
 あばら骨にヒビが入るのは軽傷とは言わない気がするのだが……。神だから大丈夫だろう。
 つい逢真が鴇の死に様を思い返してしまえば、またも襲い掛かる笑いの波。肩を震わせ口許押さえてしゃがみ込み、その波が落ち着くのを待つ。ちょっと肋骨が痛いけれども。
「君まだ笑ってるのか? またアバラ折れるぞ」
 しゃがみ込んだ逢真を見下ろしながら、鴇がしょうがないなとため息を吐く。逢真は波が落ち着いたところで立ち上がると、襖に手を掛けた。
「さァて戦いだ」
「目一杯暴れるとするかね!」
 御影は賢いから適当な場所に避難するだろうと考える鴇の前で、逢真は大広間への襖を横に滑らそうとして――思いついた。
「っと、その前に……」
 大広間にはステージがあるのだ。それはゲストを喚ぶのに打ってつけの舞台装置、活用しない手は無かった。

●御影 on stage
 大広間の入り口を潜った先は、混沌だった。
 巨大な船が大広間に突っ込んでいたり、鬼霊達が大砲ぶっ放してどんちゃん騒ぎしていたり、飲み過ぎた(違う)のか介抱されている猟兵が居たり。
 何か面白そうなものが無いか、鴇がステージの裏側を見れば。そこには昇降装置に繋がる階段があった。
「君、昇降装置乗るかい? スモークも焚くと一層……」
 その時。突如大広間は暗転し、オーケストラの演奏が流れ始めた。それにステージに早速スモークが焚かれているではないか。
 そしてスポットライトの点灯音がし、ウィーン……と昇降装置が動き出した。
(「え? 先客?」)
 一体誰がと首を傾げる鴇は大広間側に戻り、その者が誰か確かめんとする。その間に逢真は、鴇の影の中に静かに潜り込む。
 ステージ上では、彼岸に住まう名音楽家達がガチ演奏をしていた。彼らは逢真が喚んだゲスト達だ。流れる演奏に引っ張られ、コーラス参加してしまいそうになる。
 スポットライトの光に包まれ、天から降りてくるその者を認めた鴇は。目を見開いた。
「マジか」

 御影だった。

 御影は昇降装置に堂々と、しかし行儀よく坐していた。
『何で猫が降りてくるのよぉお!! てゆうか誰よ楽団呼んだの!!』
 若女将がツッコミに現れた。無駄に広い空間から探す手間が省けたネ。
「ちょっと、ちょっと影朧は待っててくれ、写真を……」
 鴇は若女将に待ったをかけると、いそいそとスマホを取り出して。御影の堂々たる姿を切り取らんと、パシャパシャ写真を撮りまくる。
 その間、若女将は素直に待機していた。愛猫撮影に水を差すようなことは、何となく出来なかったのだ。

●技能値見た時数字にも拘ってるなぁと思いました
 ――暫くして。
 撮影会を無事終えた鴇はコホンと咳払いをすると、気を取り直して戦闘モードに入る。
「割かし杜撰な昇天計画だが、これ以上は困るんでね」
『ずさっ……これでも結構手にかけてるんですけど!!』
 若女将は給仕セットをどこからともなく取り出すと。ポットに茶葉を入れ、手荒に準備をし始めた。しかしその動きは、逢真が喚んだ音楽家達の演奏を全く聴いていない故に非常に遅かった。
「お前さんの毒は遠慮させてもらうとするよ」
『ちょ、人が淹れる紅茶に酷くない?!』
 実際毒入りなので、鴇の言う事は間違っていない。
 まだポットに湯を注ぎ終わらぬ内に。鴇は腰を低く落とし美濃の柄を握ると、流れる音楽が最高潮に達した所でだんと駆け出す。
『ちょ、ストップ、私も写真撮影で待ってあげたでしょ?!』
「まぁ、その恩はあるんだが」
 相手は影朧。鴇は耳を貸さずに一気に若女将との距離を詰める。
 間合いに入ったところで赤い鞘から刀を抜き放てば、乱れ刃が煌めいて。目にもとまらぬ速さで、若女将の身体をざんと斬り捨てる。
「朱酉君の毒の方がよっぽどきついだろう?」
「ひ、ひ。そりゃもちろん」
 演奏が終わると同時にばったと倒れ込む若女将を背に、鴇は自身の影の中に潜む逢真へと話し掛ければ。
 見えなくともどんな表情をしているか、目に浮かぶ答えが返って来た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエラ・バディス
さて、このまま待って片付けなり掃除なりで影朧が部屋にくるのを待とうかな。

部屋の真ん中で黙々と死体のふりをして待機、犯人が来れば部屋の有様にきっと驚いてくれる…はず。
驚かしたついでに首無しのまま歩み寄ってホラー感を追加しましょう!
そうすれば隙が出来るはず!

その瞬間を狙って、体に隠していた操り糸を手繰り切りかかります。(操縦・切断・部位破壊)


選択UCで攻撃回数を増やし、部屋の中の小物をガタゴトと糸で動かし倒しながら、地に響くような低い声で「ドウシテ……ドウシテ……」と延々と繰り返したらより効果的かな?
サスペンスだと思ったらホラーだった! ……なんて小説とかでやったら怒られそうだね。



●推理は理屈が通って、ホラーは通らない
『こんなところに居られるもんですか! 私は退散させていただくわ!!』
 若女将はどさくさに紛れて大広間から退散する。
 ――何だ何だ何なんだ、この混沌は何なんだ!!
 けれども若女将は思い出す。客室で刺殺したあの感触を。
 手応えがあったし、流石に死んでいるだろう。けれども、やっぱりなんだか気になって。若女将はとある客室へと足を向ける。
 若女将が目指したのは、シエラの客室だった。

 そーっと襖を開いて、若女将は中へと入る。
(「静かだし、この部屋の客だけはきちんと殺せたみt……」)
『うわぁあああああああ!!!』
 突然大絶叫する若女将。若女将が客室に入って、見たもの。それは部屋の中心に鎮座するシエラの首なし死体(フリ)だ。
 シエラは黙々と、ずっと待っていたのだ。犯人は事件現場に戻ると言う。何やかんやあってまた来るだろうと思っていたら、実際に犯人こと若女将は戻って来た。
「私、死体損壊まではしてないのに……! 何で……!」
 そこに更に恐怖の追い打ちをかけるように。シエラはスッと立ちあがると、若女将へと歩み寄る。完全にホラーだった。
『あわ、あわわわわわわわ……』
 想定外のガチホラーに若女将は腰が抜けて、その場にぺたんと座り込む。
『あたっ!』
 若女将の頬に痛みが走る。何か鋭いものが切り裂いたのだ。
 すると客室の中の檸檬、掛け軸、襖がガタゴトと音を立てて動き始めた。
『これってポルターガイスト……ってわぁあああ来ないでぇええ!!』
 実際はシエラが身体に隠していた操り糸を手繰り、若女将の頬を切り裂いたり小物類を揺らしていただけである。だが、若女将は完全にパニックになっていたので、細かいところに目を配らせる余裕などなかった。
「ドウシテ……ドウシテ……」
 地を響かせるような低いシエラの声が客室に拡がる。そしてひゅんひゅんと、操り糸が空を切り。若女将の身体をサクサク切り裂く。
『みぎゃーっ!! かまいたちなの?! かまいたちなのコレ?!!』
 殺し過ぎてきて魔なるモノを呼び寄せてしまったのだろうか。これは本当に寺生まれを呼ばないとまずい旅館になってしまったのでは? と。若女将の頭の中でぐるぐるしていた。その若女将の真横で、壁が綺麗に切断される。それを見た若女将が、次こうなるのは自分だと思った瞬間。生存本能が若女将の身体を動かした。
『まだ……まだ死んでたまるもんですかぁああ!! あっ、ティーセット大広間に置いてきたわ!!』
 血で汚れたまま大広間の方へと若女将はダッシュする。そっちはもっと死亡フラグがビンビンなんですが。
「サスペンスだと思ったらホラーだった! ……なんて小説とかでやったら、怒られそうだね」
 そんな若女将を見送りながら、シエラは呟く。
 実際怒られるよね、それ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏑木・良馬
【屋台の集い】
灯夜の後ろを追うように、腹の刺し傷(偽)血の跡を引きながら這いずり
女将の傍まで着いたところで思い切り立ち上がる

そう――最早言い逃れはできんぞ女将よ
この俺の食事に毒を盛り殺害したことは他ならぬこの俺が証人であるッ!

…腹の傷?はてなんのことやら。
この期に及んで言いがかりと言い訳とは見苦しいぞ

既に一度毒殺されている俺に毒が通じると思わぬことだッ!
大体文豪など常に編集から毒を受けてるようなものだしな

…実際には気合で耐えることになるのだが、まぁ何とかなろう
後は毒防御に用意万端な灯夜をできるだけ盾にしつつ
揺さぶりを与えられれば後は皆で叩くのみ
こちらには毒はないが、花の名を持つ刀で斬りかかろう


久賀・灯夜
【屋台の集い】の皆と

皆の突然の乱入に驚く女将に、背後から歩み寄って

「罪のない文豪やその関係者を、その手にかける為に呼び寄せた……そう、真犯人はあんただ、女将さん!」

丸眼鏡を取って、びしっと指を突き付ける。
き、決まった……一生に一度は言ってみたい台詞だよな!


「普通におもてなししてれば皆からも感謝されてただろうに,
どうして物騒な事考えちまうかなあ!」

食べ物に毒を盛るってのは特に最悪だぜ
Flame Signで防御力を上げ、毒の耐性を無理やり上げて(プラシーボ効果含む)
出来るだけ皆が毒を食らわないように庇いながら、隙を突いて倒してもらう

「この2人に食べ物の毒なんて食らわせらんねえ、気張って行くぜ!」


ミレニカ・ネセサリ
【屋台の集い】
御用改めでしてよ!
(突然外から、愛用ガントレット装備済みの状態で窓を割ってダイナミック入室)
(スタントのような着地を決める)
何故、死人がここにと?
決まっておりますわ、黄泉より戻ってまいりましたの
(凛々しい表情だが、内心一度やってみたかったとか思っている)

あなたの悪事は聞かせていただきました
探偵と証言が揃ったのであれば、もうその先はおわかりでしょう?

【毒耐性】で最低限身を守りつつ、UCを使用して紅茶を頂いてみせましょう
速度の落ちぬうちにティーセットを狙います
わたくし、毒入りのティータイムは好きではありませんの
殴りたくなる顔を思い出しますので!
(UCによる強化で思いっきりブン殴る)



●そう、豪快に
 ――ガッシャーン!!
『今度は何だってのよ!! もう旅館の大広間は瀕死状態よ!!』
 大広間の窓が爆風を受けたように盛大に割られると同時に、ミレニカが大広間へとダイナミックに突入してきた。ミレニカの両腕には、愛用のガントレットであるDiamond Damselが装着されている。
「御用改めでしてよ!」
 ミレニカはスタントマンの如く華麗に着地するとスッと立ち、若女将を静かに、凛々しく見据える。
『あんたは階段下で頭を強く打って死んでた筈の……!』
「何故、死人がここにと?」
 困惑する若女将へと、ミレニカは凛々しい表情のままに言葉を続ける。
「決まっておりますわ、黄泉より戻ってまいりましたの」
 実は内心一度やってみたかったという本心はおくびにも出さず。ミレニカは腕を組む。
 ミレニカに気を取られる若女将のその背後。すっと灯夜が歩み寄っていた。
「罪のない文豪やその関係者を、その手にかける為に呼び寄せた……」
 気づいた若女将が振り返れば、灯夜はかけていた丸眼鏡を外す。
「そう、真犯人はあんただ、女将さん!」
 灯夜は若女将へ向け、びしっと人差し指を突き付ける。
(「き、決まった……!」)
 一生に一度は言ってみたい台詞を言い切ったことで、灯夜は内心ガッツポーズをしていた。わかるぞその気持ち。
「普通におもてなししてれば皆からも感謝されてただろうに。どうして物騒な事考えちまうかなあ!」
『だってそれが影朧である私の役目だもの!』
 追い詰められた犯人のようにばっと手を振る若女将。その耳に何かを引きずるような音が聞こえてきた。
 ――ずり、ずり。
『な、何……』
 少しばかりホラーなその音の主は、血の跡を引き畳を這う良馬だった。
「そう――最早言い逃れはできんぞ女将よ」
 良馬は若女将の足元まで辿り着いたところで思いきり、それこそ腹の出血なんて全く知らぬ様に立ち上がる。
『うわぁああゾンビィいい!!』
 若女将が叫んでしまうのも無理はない。死んでいたと思っていた者がのそりのそりと這ってきて、いきなり立ち上がればそりゃあ、ね?
「この俺の食事に毒を盛り殺害したことは他ならぬこの俺が証人であるッ!」
『いや盛ってないしー!! ていうかあんた絶っ対毒じゃなくて腹部からの出血多量で死んでたでしょ?!  なんか殺人事件でよくある感じに死んでたでしょ!?』
「……腹の傷? はてなんのことやら。この期に及んで言いがかりと言い訳とは見苦しいぞ」
 ツッコむ若女将に、腹を血糊で赤く染めた良馬はとぼけて返す。
「あなたの悪事は聞かせていただきました。探偵と証言が揃ったのであれば、もうその先はおわかりでしょう?」
『ふ、ふふふ……自首しろってことかしら。それならお茶を頂いてからでも遅くないと思わない?』
 宴会机の上に、若女将は三人分のソーサーにカップを用意すると。ぞれぞれのカップに紅茶を注ぎ始めた。

●最後に勝つのは思いの力
『さ、どーぞどーぞ召し上がれ?』
 すすっと紅茶を差し出す若女将。良馬とミレニカはカップを受け取り、ずずっとそれを口に含む。
 それを認めた若女将がによーんと笑った。
『ふっふっふ、それは毒入り! あんたらの身体を内側から壊していくわよ!!』
「既に一度毒殺されている俺に毒が通じると思わぬことだッ!」
 文豪というものは、常に編集から毒を受けているようなもの。この程度の毒で倒れると思ってかと良馬は笑う。
 だがしかし、実際は気合で耐えていただけであった。摂取しすぎるのは危なかったりする。
『えっ……そんな嘘でしょ……』
 でもミレニカには効いているだろうと、若女将はミレニカの方へと視線を移す。しかしミレニカもピンピンとしていた。
「わたくしが子供だましの毒で倒れるとでも?」
 何とも無い二人を見て動揺した若女将は。思わず茶器を取り落とし、数歩後退る。

「この二人にこれ以上毒なんて食らわせらんねえ、気張って行くぜ!」
『Start Getting Ready...』
 灯夜のベルトに装着されたSpine Spicaから音声が流れると同時に。煌めく火の粉が現れる。灯夜は現れたそれを纏い、庇うように二人の前に立つ。
『ふ、ふふ……こうなったらアッツアツの毒入り紅茶をぶちまけてやるわ!!』
 若女将はカップを取ると、その中身を三人へとぶちまける。
 しかし灯夜が高速居合刀『Daybreaker』を瞬時に抜き、降り掛からんとする紅茶を斬り裂いて軌道を逸らす。
 それでも裂く際に少し、紅茶は灯夜に掛かってしまった。
(「大丈夫……! 何ともない、何ともないぜ……!」)
 偽薬効果も駆使し、灯夜は毒耐性を底上げさせていた。気を強く持っていれば、毒で倒れることは無い。
「わたくし、毒入りのティータイムは好きではありませんの」
 すっ、と。ミレニカは前へ出ると。弾丸の如く若女将へと駆け出す。
 紅茶を飲む前にVit_Smilingを発動させておいたことにより、身体能力が増大していた。
「殴りたくなる顔を思い出しますので!」
 一瞬で懐に飛び込むと、ミレニカは若女将にアッパーを叩き込む。
『ごふっ……』
 爆発と共に高く若女将は舞い上がり、けれど重力に引き戻され畳に落ちゆく。
「締めは文豪だったこの俺が決めよう!」
 若女将が畳に落ちきる前に、良馬は霊刀【緋メ桜・天】を鞘から抜く。
(『そろそろ体力限界来てるけれど、容赦はしてくれないのね……!』)
 若女将の心の声は、誰にも届くことは無い。
 良馬がタイミングを見計らい、踏み込んで若女将を一閃すれば。緋い花弁がひらりはらりと大広間を舞ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
クロウ(f04599)と

広間の天井に忍び込み、息を潜めて機会を伺う
そんな俺達はタオル一枚
誤解されそうな格好であるが大真面目だ

俺達が敵に後れを取るとも思えんが、いつもと違う軽装である以上素早く且慎重に行動せねば

好機を見逃さず薔薇と共にド派手に登場するクロウの影に隠れ、敵の注意が逸れた瞬間を狙い部位破壊を試みる

「誰にも見付からず事を終える手っ取り早い方法とは何か」
質問と共に烏を飛ばす
答えは目撃者…この場で言うと女将を消すことが正解だが、さて分かるかな

以降、烏にはティーカップを向ける行動が出来ないよう臨機応変に立ち回ってもらい
俺は自分やクロウの頼りなくも最後の砦であるタオルを含めたファローに動こう


杜鬼・クロウ
悟郎◆f19225
アドリブ歓迎

(何故こんな格好で天井裏に潜んでいるかって?
登場シーンはド派手に格好良くが常套だろ!
あと服着てる時間なかった…コトにして
出オチ?何のコトやら)

悟郎、抜かるなよ

文豪役だったので剣は所持無
UC使用
普段より軽い刀の柄を握る
潜めた声で頃合い見計らう
天井をぶち破り登場
薔薇の花弁を撒き唐菖蒲の炎で先手必勝

黄泉の国より蘇った菊杜センセのお通りだぜ、おらァ!
ン?何を見たって?
ぐ…動きが
当たらねェッ

炎を散らばらせ
悟郎の前へ立ち塞がり烏と並ぶ

ちィ…こうなったら
根比べと、いこうや

毒の紅茶少し飲み短期決戦へ
普段以上に小回りが利く分、敵の攻撃掻い潜り一気に懐へ
光速の一閃で穿つ

タオルは無事か



●一歩間違えばお巡りさん待ったなし
 大広間の天井裏にて、二人の男が息を潜めていた。クロウと悟郎だ。
 しかしその姿は、タオル一枚という半裸だった。一見ギャグかと思うかもしれないが、二人は至って真面目である。
 何故二人がそのような格好で天井裏に潜んでいるか。
 曰く。登場シーンはド派手且つ格好良くが常套だから、らしいのだが……ぶっちゃけ出オチである。
 せめて服を着ていれば多分、いや、何も言うまい。
 悟郎はいつもとは違う軽装であることから素早く慎重に行動せねばと考えていた。いろんな意味で危険だからね。特にタオル気を付けないとね。
「悟郎、抜かるなよ」
「勿論」
 頷く悟郎の肩には、バラの花弁がたくさん詰まった袋が担がれている。大広間に登場する際にばら撒くためだ。
 クロウは炎連勝奉を炎の刀へ姿を変えさせる。普段よりも軽くて、力加減を間違えてしまいそうなそれの柄をしっかりと握ると。勢いよく足元に突き刺す。
 すると放射状に炎のひびが入り、二人を支えていた板は崩壊した。

●さらけだしちゃダメって思った
「黄泉の国より蘇った菊杜センセのお通りだぜ、おらァ!」
 ばら撒かれる多量の赤い薔薇の花弁と共に、クロウは大広間へと乱入した。花弁を撒いているのは、クロウの影に隠れる悟郎である。
 ひらひらと二人のタオルが靡くが、今のところガードは緩まず職務を全うしていた。緩んだら『見せられないよ!』の危機がやってくるので冷や冷やである。
 燃える天井板や唐菖蒲の炎もばら撒きながらド派手に登場する野郎共に、若女将は驚愕の表情を浮かべていた。主に半裸だったことに対して。
『わーっ!! キャー!! 何でタオル一枚だけなのよ!! って、見えっ!!』
「ン? 何を見たって?」
 手のひらで目を隠しながら、一人わーきゃー叫ぶ若女将。畳へと着地したクロウは若女将が何を見たのかがわからず、首を傾げていた。
 若女将が自ら視界を塞いでいるその隙を見逃さず。悟郎は温泉でのお返しだと言わんばかりに、金盥をフリスビーの如く若女将の向う脛へと投げ付けた。
 過たずゴォンと金盥は直撃し、若女将は痛みに悶え転がる。
『弁慶の泣き所は……!』
 半泣きの若女将へと音も無く悟郎は近付くと、問うた。
「誰にも見付からず事を終える手っ取り早い方法とは何か」
 問うと同時に、悟郎が身に着ける鏡片の珠と翡翠色の宝玉を連ねた首飾りの玉が融け合って。玻璃の鴉が喚び出された。
 鴉は若女将へ真直ぐ飛ぶと、その鋭利な羽根で若女将の身体を裂いてゆく。
「さて、分かるかな」
『えっ、あたっ……全部爆散させること? いたっ!』
「違うな」
 質問の答えは、この場合は若女将自身だ。求める答えを出せなかった若女将は、玻璃の鴉に裂かれ続けることになる。
『ちょ、このままではいられな……! きゃん!』
 ざくざくと裂かれながら、若女将は懐からカップを取り出す……のだが。使う前に鴉によって叩き落とされるのだった。

●タオルは頑張った
 至る所に切り傷を作りながら、若女将は考えていた。
 こうなったら相手の動きを遅くするしかない。自分にはそれを可能にする業を持っているから多分逆転できる筈、と。
 突如若女将はダァンとティーセットを畳に準備すると、カップに紅茶を注ぎ始めた。
『あんた達……毒入り紅茶はお好き……?』
 悟郎の鴉が紅茶を叩き落そうとするが、飛行速度はやけに遅く。難無く若女将はひらりと躱す。鴉含め、悟郎とクロウの動きも非常に遅くなっていた。
「ぐ……動きが……当たらねェッ」
 振るわれるクロウの刀を余裕綽々で若女将は避けると、見下したような笑顔で若女将は告げる。
『んふふふ。毒入り紅茶を楽しまないならば、あんた達はずーっとノロマのままよ』
「ちィ……こうなったら……」
 クロウは炎を散らばせると、庇うように悟郎の前に立ち鴉と並んだ。
 ゆっくりとずれかけているクロウのタオルを、悟郎はゆっくりと直す。
「根比べと、いこうや」
『えー、毒入り紅茶飲んじゃうのー?』
 楽しそうに口許を歪めながら、鼻歌混じりに若女将は新しい紅茶を淹れると。『どーぞ』とクロウへ差し出した。
 それをクロウは受け取ると、少し躊躇った後に口をつける。毒を承知の上での行動だ。
 紅茶を口に含んだ瞬間、身体が軽くなったのをクロウは感じた。「今だ」とクロウは刀を握り直し、若女将の懐へと素早く踏み込む。タオルはまだ頑張っていた。
 握る得物は軽いお陰で、いつも以上に小回りが利いている。勢いのままにクロウは刀を振るい、降り注がせた炎と共に。若女将の身体を目にも留まらぬ速さで穿った。
『何で……何で私の最期に視るものが半裸野郎どもなの……』
 穿たれた若女将の身体は色を失なったかと思うと、一瞬で崩壊して。最後にはさらさらとした塵が残っただけだった。

「タオルは無事か」
 塵となった若女将を背にクロウが言ったその瞬間。タオルの緊張が解けたのか、一気に結び目が緩んだ。
 悟郎の救いの手は無情にも届かず、タオルは重力に従いひらり舞う。
 無事かという台詞。それはフラグというものだ。


 その後昇天計画に利用されていた旅館『水本館』は、寺生まれのなんとかさんが荒ぶる霊達を鎮めた後。新たなオーナーに買い取られ、ひっそりと文豪缶詰用に営業を再開したらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月07日


挿絵イラスト