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春呼ぶ竜と冬の町

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●春が来ない町
『その竜は住み着いた土地に春を連れてくる』
 旅人は竜の不思議なちからを、そう表現した。土地柄、客人が滅多に訪れることのないこの雪の町では、異邦の地から訪れる人間は手厚くもてなされる。町にひとつしかない宿に集まっていたのは、まだ外の世界を知ることのない幼い子供達。
 ぱちぱち。赤く燃える暖炉の前で、旅人は夢のような物語を語った。自分が旅した不思議な土地の話や、手に汗握る冒険の話。そして町外れにある樹海で目にしたという竜の話に、今までも楽しげに話を聞いていた子供達が、一層瞳を輝かせてみせた。
「そのりゅうがきてくれたら、このまちにもきれいなおはながさく?」
 五つほどの少女が期待に満ちた眼差しでそう口にする。旅人は諭すように目を細めると、見上げる少女の目線までしゃがんでから、言い聞かせるようにそっと頭を撫でた。
「嗚呼、きっと。――だけれど、その竜を探しに行ってはいけないよ」
 その竜は春を連れてくる。
 どんな土地にでもきっと美しい花を咲かせる。
 淡い春色の鱗を纏った容姿はまるで、春の祝福そのもの。
 けれど――。その竜は近頃、各地で町を襲っている。凶暴化の理由は分からない。
「……はるの、りゅう」
「……」
 しょんぼりと溢した少女の傍らにいたのは、兄だった。
 妹想いの少年が、その竜を探しに町を出て戻ることはなかった。

●序幕
「――その町に季節はないんだと」
 常に雪に覆われている町で、芽吹く花を間近で見るのは困難に等しい。だから子供が憧れを抱くのもおかしなことじゃない。グリモア猟兵である浮世・綾華(❂美しき晴天❂・f01194)は、夢をみせたかったのも分かるケド、旅人君も余計なことしてくれちゃったもんだよネ。などと悪態を吐きながらも今回の事件について説明をはじめる。
「事件が起きるのはアックス&ウィザーズのとある冬の町。妹に綺麗な花を見せてやりたくて、兄である少年が町の外にある樹海に迷い混んだ。だけどお目当ての竜を見つける前に、山神様に見つかっちゃってたって話」
 雪と氷で覆われる樹海に葉は芽吹かない。その場所で見つけた緑が茂る大木は少年にとってひとすじの光だった。春への希望だった。――まあそれは、絶望だったのだけれど。
「剣と魔法の世界ってだけあって、そいつがまた勇敢でさ。親父の剣をかっぱらってきたもんだから、山神に立ち向かおうとしてる。わりと頑なで、自分が倒す! って勢いみたいだ。だからまず、お前らにしてほしーのは、少年の説得と安全の確保」
 説得が叶ったなら、ひとりで町まで戻るのは容易い。その道のりでちょっとした敵が現れても、冒険者に憧れて鍛練をしてきた少年は自分でどうにかできるようだと続ける。
「旅人の話が本当なら、その奥にグラスアボラスがいるはずだ」
 そちらへの備えも万全に。それじゃあ、協力してくれる奴はよろしく頼むぜ。そう締め括ったかと思えば、付け足すようにして。
「……戦いのあと、珍しい光景もみれそーだから、お楽しみに」
 口元に指先をあてて、ふっと笑った。


紗綾形
 はじめまして。紗綾形(さやがた)と申します。
 初シナリオです、頑張ります。

 【一章】少年説得、山神戦。
 【二章】グラスアボラス戦。
 【三章】樹海での日常パート。
 グラスアボラスが育てた花が、氷上に咲いていたり、氷に閉じ込められていたりという景色がみられます。少年やその妹、町の子供たちをつれてお話をしたり、お友達同士でお好きな花を探したりと思い思いに過ごして頂ければ幸いです。

 共闘等の場合はご一緒される方のお名前とID、グループ名等を記載願います。
 三章では、お声かけ頂いた場合のみ綾華がお相手させて頂きます。
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第1章 集団戦 『荒ぶる山神』

POW   :    握り潰す
【人ひとり覆い隠すほどの掌】が命中した対象に対し、高威力高命中の【握り潰し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    踏み潰す
単純で重い【地団駄】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ   :    叩き潰す
【大きく振りかぶった拳】から【地震】を放ち、【その振動】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

終夜・嵐吾
花を咲かせる竜の話はいくつか聞いておるんじゃ。
狂暴化せんかったら……良き友になれるであろうに。
それがもう敵わんのは少し、残念じゃ。

少年を探し見かけたらば、やぁ少年よ、と気さくに声をかけ。
ちぃと道に迷ってな。樹海の先の竜に会いに行くんじゃがどっちに行けばええのかわかるかの。
なれも往くなら話し相手がおると嬉しい。共に参らんか?

頑なであろうから、簡単にはかえってくれん……ように、思える。
しかし敵わぬと少年が分かれば、帰るよう背を押して。
敵わぬと知れば引けるのも勇敢なる者のできることよ。

戦闘は狐火で。
樹木じゃからの、大人しく燃えておくれ。
傷を受けた者がおれば生まれながらの光。

他に猟兵もおったら協力を。


糸縒・ふうた
●絡 改変等歓迎

妹のために、って気持ちは立派だけど
勇敢なことと無謀なことは別なんだぜ

まずは少年を見つけることを最優先に
森は歩き慣れてるけど初めての場所だからしっかり警戒しつつ
オレ自身と【疾風】の感覚を共有しながら探索

見つけたら一緒に戦うよ! って声をかけて
怪我をしていたり
狙われそうだったら【疾風】の背中に乗せて安全確保

基本は【疾風】にお願いしつつ
隙をみて【人狼咆哮】で牽制することも忘れないよ

帰ったら、みんなにちゃんと怒られるんだぞ
そのためにもまず、コイツを倒そう


ジロー・フォルスター
「くく、勇敢だな。少年」

まずは安全確保
【地形の利用】の観点から、まずい場所なら銀の鞭の【ロープワーク】で少年の体を引き寄せる

攻撃から少年を【かばう】、【武器受け】の『禍祓陣』
一瞬陣を展開し【カウンター】で炎の【属性攻撃】を叩き込むぜ

実力を示さないと少年は話を聞かない気がするんだよな

目の前の危機を退けてから【医術】と聖痕で怪我を診る
聖者の気配と【コミュ力・優しさ】で話しかける

「一体、何しにここまで来たんだ?」

少年の言葉で動機を聞く
その気持ちは否定しないさ

「お前のその腕前、相当な鍛錬を積んできたんだよな。なら、段階を飛ばして難しい技に挑めばどうなるかも分かるよな」

同じ目線で【言いくるめ】てみよう


ヴェルベット・ガーディアナ
少年と言えど礼は欠かさないようにお話ししなければなりませんね。勇敢で優しい子。だけど君が死んでしまっては家族が悲しみます。そしてそれはきっとこの土地の寒さに負けないほどの悲しみ。心が凍えてしまいます。だからどうか一緒に戻りましょう。【礼儀作法】【優しさ】

ボクは少年を守ることに専念したいので【戦乙女の審判】で戦乙女を召喚します。乙女よボクのために戦って!
少年に危害が及びそうになったらシャルローザで攻撃をそらしますがもしもの時はボクが身を呈して庇います【オーラ防御】がボクらを守ってくれるはず!


忍冬・氷鷺
【●絡】
永久の冬に覆われた町
そこに生きる子供がみたあたたかな夢
…伝えてやらないとな
どんなに小さくとも抱いた夢は叶うのだと
嘗て俺自身がそうであった様に

風の様に走り急ぎ現場へ
敵を視認次第、【雪牙】を投擲し此方へと視線を逸らす
少年への説得は同胞の猟兵達に願うとしよう
…俺からは上手く伝えられる気がしないからな

揺らす巨体目掛けて氷刃裂破を見舞う
氷刃で傷ついた部分を狙い、傷口をえぐる様に刃を重ねていく
多少の傷は生命力吸収で補い、
付かず離れずの距離を保つよう心がける

俺が出来るのは彼等を守る盾となり剣となる事
幼気な子供の心に芽吹いた春への希望
いかな神であろうとも、摘み取らせはしない

そら、お前の相手はこちらだぞ



 樹海の入口へと召喚された猟兵達は、早々に少年の捜索へと移った。
 永久の冬に覆われた地域。それはこの場所と同じような故郷を持つ、忍冬・氷鷺(春喰・f09328)にとって心のよすがである。だから、想ったのだ。そこに生きる子供が、そこでしか生きたことのない子供がみた、あたたかな夢を。
「……伝えて、やらないとな」
「そうじゃな」
 降る粉雪のように落とされた小さな言葉。それを聞き流すことなく優しく拾いあげたのは終夜・嵐吾(灰青・f05366)。灰青のふさふさとした尾を揺らしながら、もこもこと雲のように地を埋める白を踏み歩く。
「花を咲かせる竜の話はいくつか聞いておるんじゃけど、狂暴化せんかったら良き友になれるであろうに」
 それが敵わないのは少しばかり残念だと、刻印が刻まれた瞼を穏やかに閉じる。一歩、一歩と進む足元から響く音は、まるでその白の鳴き声のように寂し気に聞こえた。
 しんとした空間。雪は音を吸収するという。
 歩くその音に混じった異音にいち早く気づいたのは、雪の世界に慣れた白の男。
「――向こうだ」
 氷鷺の銀の双眸が向いた方向を、猟兵達は一斉に振り返る。
 地が、揺れた。はじめは小さく。次第に大きく。
 ぴょこんと反応してしまった耳のせいで、僅かに持ち上がった帽子をきゅ、と両手で被り直した少年、糸縒・ふうた(朱茜・f09635)は、生命力を共有した相棒である影の狼の頭をわしと撫でた。
「行くよ、疾風」
 雪の上であろうが問題はない。その速さはまさに韋駄天の如く。されど警戒を怠ることはなくその場所へ向かって真っすぐ。真っすぐに駆けた。

 大地が揺れていた。似た白であっても、雲の上にいるようなふわふわとした揺れではない。ドド、ずず。何かを引きずるような音だった。巨体から生えた根が抉りながら這えば、大地を覆った分厚い白の衣は容易く剥がれ、捲れあがる。
 ――最初は一体。かかってこいと向けた、父の剣。喉仏が上下した。少年は息を飲む。その肌はすっかり色を無くしている。こわい、こわいと思うのに、それに勝る思いがあるから剣を下ろすことはない。切っ先が震えたのは気のせいに決まっている。
「お前なんか、お前なんか! ぜんっぜん怖くねーんだからな――」
 そう口にした瞬間。
 ――大きな影が、少年を覆った。
「え」
 しかし。近づく音に気づけなかったはずの少年の身体が、ふわりと浮いた。抱き上げて回収したのは、誰よりも早くその場所に駆け付けた人狼。
「危機一髪! 怪我はない? 勇敢なことと無謀なことは別なんだぜ」
 人好きのする笑みで、にっかりと八重歯を覗かせたふうたがそう声をかける。
「お、おおおまえ! だっ誰だよ!?」
 よほど吃驚したのか、その明るい声に気が緩んだのか。
「わ! ちょ、落ち着いて」
 状況を理解できていない様子の少年は、異常な程にどもりながら手足をばたつかせて。ふうたが必死で宥めようとするも、雪の上に転がり落ちそうになって。
「勇敢だな。少年」
 くく、と口角を上げながら颯爽と姿を現したのはジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)だ。グラスの奥の瞳を細めると銀の鞭を少年に絡め、しなやかに引き寄せてから解放してやった。
「あ、ありがとう……」
 さくっと雪の上に降り立つ少年。根は素直なのだろう。思わず礼を口にしてしまってから、すぐにはっと表情を強張らせる。
「だからお前たち、何なんだよ……」
「やぁ少年よ。ちぃと道に迷ってな」
 わしらは冒険者じゃよ。怪しい者じゃない。追って現れた嵐吾がのんびりとした口調でそう説明すれば、毒気を抜かれた様子で、そ、そうなのか? と瞳を揺らした。そしてこれだけは放すまいと握りしめていた剣を一度下ろして。
「樹海の先の竜に会いに行くんじゃが、どっちに行けばええのかわかるかの」
「あ。おれもそいつを探しに来たんだ。でも、どこにいるのかはわかんなくて」
「ならば共に参らんか?」
「そのためにはまず、この子達をどうにかしなければなりませんね」
 そう呟いたのはヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)。プラチナブロンドの三つ編みを揺らした彼女は、子供だからと言って礼を欠かしてはならないと少年に向かって名乗り、軽やかに一礼する。大人を頼ることなく、こんな場所までひとりでくるような少年だ。子供扱いをされるよりも好印象を感じたのか、或いはその聡明さを感じ取ったのか。おれはアルセニー。そう素直に名乗り返してみせた。

 皆が少年を保護している傍ら。疾風にも負けぬ、風のような走りでその場を訪れていた氷鷺は、山神の数を減らすべく奮闘していた。少年の説得は他の猟兵達に任せ方がいいと判断したからだ。
 抱いた夢は叶う。嘗て自身がそうであった様に。
(「それを俺からは、上手く伝えられる気がしないからな」)
 男ひとり、簡単に握りつぶせてしまう程の手が頭上に影を落としても、氷鷺が冷静さを失うことはない。白銀の瞳が、冷たく光る。揺らす巨体目掛けて見舞うは、大気中の水分を凍らせて生成した無数の氷刃。自分が出来るのは、少年を、仲間を守る盾となり剣となる事。
 鋭い氷刃は難なく手を貫いて頑丈な岩肌のような本体さえも傷つけていく。そして追い打ちをかける如く捲り返った岩肌を狙い刃を重ねれば、軈て。地を揺らし白に散って。
「幼気な子供の心に芽吹いた春への希望。いかなる神であろうとも、摘み取らせはしない」
 味方に目を向ける隙なんて与えない。お前の相手は、此方だぞ。

 ヴェルベットは穏やかさの中にも己の意志をしっかりと宿した表情で、山神と呼ばれるその大樹を見据える。しかしながら自分がすべきは少年を守ることと決めていた。
 速さでは負けない。ふうたの疾風が駆けて駆けて、山神の動きを翻弄していく。強化されたスピードに巨体の山神が追い付くことはなく、タイミングを見計らって鋭い牙で爪で攻撃した。体力は確実に削っている。ふうたが合図を送れば、召喚されたヴェルベットの戦乙女が光の矢を放った。力の弱まった巨体はそれに圧倒される。もう一度。今度は何処から? 風を切る音を耳にした頃にはもう遅かった。動きの鈍った巨体がその光から逃れられることはない。天から降る、鋭い光の矢にボロボロと崩れ落ちる他になかった。
「ねえ、君が死んでしまっては家族が悲しみます。そしてそれはきっとこの土地の寒さに負けないほどの悲しみ。心が凍えてしまいます。だからどうか一緒に戻りましょう」
「ああ、帰ったら、みんなにちゃんと怒られるんだぞ」
 背後の少年に語り掛ける。ヴァルベットの言葉は穏やかに、けれどもやはり礼は忘れずに。ふうたは明るく、その子供の警戒を解くように。
「あんたら、おれの町に行ったのか? でも、おれは、あいつに、花をっ」
 そう言いかけた少年を襲おうとする拳。ヴェルベットがオーラ防御を試みたが、それはじりじりと破られようとしている。
「っ、おれだって」
 少年が、握った剣を振り上げた。それは微かに敵の拳の軌道を変えるが、それだけにすぎず。少年へ危害が及びそうになるならばと供え、敵を見据えていた青い瞳。身を呈してでも守ろうと決めていたヴェルベットが、落ち着いた様子でそれを見過ごしたのは。
「一体、何しにここまで来たんだ?」
 彼に、ジローにその役を委ねることが最善だと判断したからに他ならない。
 少年を庇い、再び大きく振りかぶったゴツゴツとした拳と交差する手甲。後、瞬きの間、禍祓陣を展開すれば。無敵状態となったジローは敵の攻撃の勢いを利用してその身体に炎を放つ。その熱に、ジリと焦げ付く匂いに。山神は荒れ狂い、雪を、地を抉って向かい来る。
 やはり炎が有効か。元よりその攻撃で挑むつもりではいたが、彼の戦いをみて確信を得た嵐吾も、淡い狐火を浮かび上がらせて。
「樹木じゃからの、大人しく燃えておくれ」
 ひとつひとつは小さくとも、其々を茂る葉へ、幹へ、根へ。灯りを灯すように。或いは弔うように。最後には本体へと向かわせれば、咆哮と共に身を捩りながら巨体はじりじりと燃え上がり、周辺の雪さえも溶かしながらやがて灰へと姿を変えた。
「大人しく瞬く間の出来事に少年は呆気にとられた様子で。しかしむ、と口を尖らせて。
「……おれだって、戦える。だってあいつに、妹に、たくさんの花を見せてやるんだ」
 きっと自分では無理なのだ。それはこの猟兵――冒険者達をみていれば、嫌でも分かってしまった。この人たちは強い。
「さっき、攻撃の軌道を変えただろ? お前のその腕前、相当な鍛錬を積んできたんだよな。なら、段階を飛ばして強い敵に挑めばどうなるかも分かるよな」
 そして優しさも持っている。いっぱいいっぱいの自分とは違う。けれど。
「敵わぬと知れば、引けるのも勇敢なるものの出来ることよ」
 嵐吾がそう背中を押すも、少年は剣を抱いて俯いてしまった。
 はく、と開きかけたのは冷え切った唇。
 音はなく、空気が白く濁るだけと思えた。けれど。
 猟兵達の言葉に、僅か。心を解いて――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​


●その春のためならば
 どうして、どうしていなくなったの。
 どうしておれをひとりにしたの? どうして、なんで。

 気づいたときには、ひとりぼっちになっていた。
 両親は雪崩に巻き込まれていなくなった。引き取ってくれたのは、親戚の夫婦。優しい人たちだ。けれど、一度凍てついた心は簡単には溶けない。この齢の少年が受け止めてなくてはいけない事実として、それはあまりにも大きくて。

 さみしい。さみしい。さむい。なあ、父さんたちは、もっと寒かったのかな。

 ぽとり、熱が落ちる。涙ではなかった。少年は泣かないと決めていたから。だったらそれは、何? じわり滲む。膝を抱えていた指を、きゅうと掴むのはちっぽけなてのひら。
 顔をあげれば、頬を色づかせたまるっこい女の子がいた。綺麗に編まれた三つ編みを揺らし、こてりと首を傾げて。

『ねえ、あなたが、おにいちゃん?』
『――は』
『あなたが、きょうから、あーにゃのおにいちゃんになってくれるこ?』
『……っ』

 にぃと見せられる歯。たどたどしい言葉。
 ああ、何で、こんな言葉に。
 それでもその暖かさに。温もりに。
 溶けてゆくのだ。
 ――いとも、たやすく。
リク・ユズリハ
「家族」のために勇気を出せるのはとってもすごいこと
きれいなものを見せたい
よろこぶことをしたい
キミの気持ち、すっごく分かる
ボクもそんな「家族」がいるから
でもでも、妹さんは、キミがいなくなったら絶対絶対悲しいよ!
誰かに頼ることができるのも強い心、だよ
ボクたちに任せて!
きっとキミや妹さんの願いを叶えてみせるから
可能なら手をつないで優しく一生懸命説得を試みる

山神様との戦いは他の猟兵さんと連携しよう
らいおんさんに乗って【おひさまビーム】で援護っ
【ひつじさんのマーチ】でひつじさんたちにも手伝ってもらおう
山神様に隙ができたとき
ひつじさん合体!足元に全力ごっつんこ!の2回攻撃!
バランス崩してくれたらいいな…


白波・柾
少年のその気持ちはとても良いことだ
できるだけ尊重してやりたい
……だが、危ないことはわかっているだろう
君はまだ剣の握り方も、体のこなし方も慣れきってない
いきなり実践というのは、大切な人たちに今生の別れを告げに行くのと同じことだ
もう会えなくなるということだ
だから、特訓を積んで胸を張れるぐらい強くなったら
その時は勇者を目指してみるのもいいかもしれないな

【叩き潰す】がかなり厄介そうだ
できるだけ発動させないように、早めに倒し切りたい
手近な敵に狙いを定めて
大太刀の間合いに入れば正剣一閃で攻撃していこう
猟兵の仲間たちとも連携して、数を減らしていけたらいいな


五条・巴
優しいお兄さんだ。
でも、自分の力量を理解しておくのも大事なことだと思うな。
少年が自分でも倒せると、そう思うなら僕は援護するけれど・・・。

僕は山神の攻撃が少年に及ばないよう庇うよ。
他の仲間も説得を試みてくれるだろうし、攻撃を相殺することに集中。
SPD、WIZの攻撃範囲が広いからライオンライドで少年と近くにいる猟兵まとめてのせて回避

一人で出来ることは限られてるんだ。力をつけるか、仲間と協力するか・・・。一人で突っ走らないで。妹さんや周りの人に悲しい思いをさせてあげないように、考えてね。


オズ・ケストナー
やさしいおにいちゃんだね
急がなきゃ

おにいちゃんを見つけたら安全なところまでつれてきて
目線の高さを合わせて話をするね
うん
きっとね、花が見られたらいもうとさんもよろこんでくれるよ
でもね、一緒に見たいおにいちゃんがケガをしていたら
いもうとさんはうれしいよりかなしくなっちゃう

戦いはわたしたちにまかせてくれる?
そのかわりね、安全になったらいもうとさんをエスコートしてきて
おにいちゃんにしかできない役目だもの
ね?

彼を見送ったら戦うよ
斧を蒸気で加速させて叩きつけ
いつもは攻撃を武器で受けるけど
なんだかいやな予感がする
なるべく避けるね
わわ、踏まれたらつぶれちゃう

ぜったい花にたどり着くんだから
シュネー、手伝って

●絡



 たどたどしく紡がれた話に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はその穏やかな表情を更に解くように緩ませ微笑んだ。はいっ。と差し出せば誘われるように、反射的に重ねられた小さな手をとり、ふわふわと雪の上を駆ける。まだすべての山神を撃破したわけではない。少しは安全だろうと考えた岩陰。そこにしゃがみこんで細められた子猫の青と呼ばれる虹彩が、少年の心理を刺激したのだろうか。逸らされることなく、重なった視線。
「きっとね、花が見られたら、いもうとさんもよろこんでくれるよ」
 ――でもね。
 膝を抱えて、こてりと見上げる。
「一緒に見たいたったひとりのおにいちゃんがケガをしていたら、いもうとさんはうれしいよりかなしくなっちゃう」
 元から同じ場所にいたように、同じ目線でそう伝える。
 ――次に地面が揺れた時。山神が此方に向かい来る前に。
 オズはとんっ、と軽やかに立ち上がって。
「戦いはわたしたちにまかせてくれる? そのかわりね――」
 此処が安全になったら、この場所にエスコートすればいいのだと。それは兄にしかできない役目だ教えられれば、幼い心は揺れた。
「おれにしか、できない」
 繰り返される言葉。たんぽぽみたいな表情を向けこくんと頷いたオズは、ふわり風に揺すられる綿毛の様に巨体へと向かう。
 君の相手は、わたし。シュネーも、手伝って。
 雪のような髪の大切なひとと、雪を踏み、駆けて、駆けてゆく。
 身の丈程ある斧型のガジェットで蒸気を噴射し加速させれば、その勢いは威力はぐんぐんと増し。大きく振りかぶるように持ち上がった太くてのろまな地団駄を受ける前に、その大きな足に一撃。よろりと揺らめく。咆哮する。崩れ落ちる、沈む巨体。
 少年はオズに釣られるように岩場から一歩、足を踏み出していた。
 向かい来るはその衝撃を物語る巨体の破片。
 ぎゅっと目を閉じる。――痛く、ない。
 少年を守るように抱きしめる小さな身体は――リク・ユズリハ(おひさまの子・f01768)。少年と同じほどの齢の子供だ。
 額から垂れ落ちる紅の雫に、片目を閉じるもおひさまのように温かに笑う。痛みを感じていないわけではない。キミを守れて良かったと、心からそればかりを思うから蜂蜜色の瞳は甘く微睡む。
「きれいなものを見せたい。よろこぶことをしたい。キミの気持ち、すっごく分かる。ボクもそんな、家族がいるから」
 家族も。もしかしたら家族のような存在かもしれない時折夢に見る温かな誰かのことも。そんなひとたちがいるから、リクは識っている。危険を顧みずここにいるわけではないから。冒険を重ね、手にした強さがあるから、今こうして此処にいるのだと。ぎゅっと繋がれる手は、あの日の春にも似て。心が溶けてゆく。頬に落ちる赤を、汚れることも気にせずに身に着けていたマフラーで拭っていた。
 リクが屈託なくありがとう! と笑うから、ばかじゃないの。と潤ませた瞳。ごめんと謝罪を贈ろうとした頃には、もうリクは黄金のライオンに飛び乗っていた。
「ら、らいおん……? はじめて、みた」
「ふふ。ボクたちに任せて! きっと願いを、かなえてみせるから!」
 駆けた先には沈む巨体。這い上がろうと雪を掻く姿が、リクには少しだけ可哀そうにみえたりもして。ごめんねと呟きながら、指さす先に向かう、おひさまのひかり。巨体は砕け、大気に舞うのに。叫びをあげることなく浄化されるようにも見えたのは。その巨体も嘗ては太陽の下、安らかに息をしていたからなのかもしれない。
「す、っげえ……」
 そのやりとりをみていた白波・柾(スターブレイカー・f05809)が、そうだろう。と少年の肩を叩く。彼も少年の気持ちはとても良いことだと感じたひとり。
「――でも、危ないということもよく分かったはずだ」
 少年の過去を聞いた。厳しく聞こえるかもしれない。しかしもう、少年がその言葉から耳をふさぐことはない。ぜんぶ、柾の言う通りだったのだから。
「いきなり実践というのは、大切な人たちに今生の別れを告げに行くのと同じこと」
 ひとつ、頷く少年に告げる。
「――もう、会えなくなるということだ」
 また、ひとつ。ひとつ。こく、こくと。
 頷く少年の瞳から温い雫がつうと伝って、頬を冷やしていく。
 あの日の悲しみを忘れずとも、心まで冬に埋もれてしまわなかったのは、あの手のおかげだったのに。
 夜明けの色を思わせる双眸が柔らかに滲む。純真であるがゆえ、嘘のない真っすぐな言葉だから。少年の心にもより深く刺さる。
 同じ、想いをさせようとしていたのか。そう認識した途端に、零れる涙は止まらなくて。ごしごしと拭っても意味をなさなくて。
「……まか、せる。あんたらに、まかせるから――だから、たのむよ……」
 ぐぐ、と唇を噛んだ少年に、五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)が柔い微笑みを絶やさずに囁いた。優しいお兄さんだね、と。
「――大丈夫。ちゃんと自分の力量を理解したんだ。それはこれからの君にとって、きっと大切な力になると思う」
 どうやら君への援護は、必要なさそうだね。そう呟くと先ほどリクが乗っていたそれより、少しだけ大きな黄金のライオンを召喚して、華麗に騎乗する。
「つ、つよい冒険者はらいおんを出せるんだな……」
「ひとりでできることは限られてるんだ。僕だって、そう。だからもう、ひとりで突っ走らないでね」
 巴の言葉をしっかりと耳に入れながらも、二度目の驚きに、涙はすっかり引っ込んでいた。おれもいつか、らいおんを――などと考えているなんて、その場にいた猟兵達の誰も知る由もなく。
「送っていく必要はあるかな」
 ライオンを走らせ、細い髪を耳にかけながら振り返った巴が最後に尋ねれば、少年は首を横に振った。
「そう。じゃあ、またあとで」
 夜空のような瞳を細めて向かう先。
 彼を無事に帰路につかせる為にも、為さねばならないことがある。
 叩き潰すが厄介だと踏んだ柾の考え通り、大きく振りかぶった拳が雪ごと大地を殴りつければ、ぐらぐらと揺れる。その振動に次に来るであろう攻撃に対する反応速度が遅れてしまう。しかし、その攻撃範囲の広さを危惧していたのは巴とて同じ。ライオンライドによって強化された瞬発力で予測した方向へ瞬時に駆けて、三日月の意匠を持つ紫弓を構え、放った矢で攻撃を相殺していった。そうして巴がその巨体を翻弄すれば、精神を研ぎ澄ます時間と、確かにできる隙が与えられる。大太刀の間合いに入れば、一撃で終わらせる。お前などに裂く時間などはないと、電光石火の如く。その一振りは巨体を、真っ二つに切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
旅人さん酷いなぁ。
子供達は好奇心旺盛なんだよ?

勇敢なのは良いことだけど、
もし、君の身に何かあったら
妹さんは何て思うかな?きっと悲しむよ?

大丈夫!必ず倒して、
君達を良い所に連れていってあげるから!だから、今は妹さんの所に行きな?

攻撃されたら怖いからまずは、
少年も含めて【オーラ防御】しようかな?

【忍び足】で、バレないように敵に近づいて、

山神だからきっと
火に弱いよね?【炎属性】の
「火の輪」で燃やしちゃおう!

燃やしている間、この【鎧も砕い】ちゃう「大玉」で潰しちゃうよ!

もし、攻撃仕掛けてきたら
この俺の自慢な翼で逃げよう!

アレンジ大歓迎!


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
うむ、この場合連携というものが必要になりそうだな?
では俺は敵を食い止め、倒す役に回るぞ!

敵の意識を少年と説得している人たちから遠ざけるよう、【ダッシュ】で敵の周囲を移動。
敵の攻撃をあえて誘い、【残像】+【ジャンプ】でアクロバットに回避。攻撃の隙を突いて【ダッシュ】で距離を詰め、【先制攻撃】+『雪娘の靴』でケリをつける!
植物は冷気に弱いだろうからな、この俺にかかれば容易いことだ!

さあ、お前の相手はこの俺だ! 彼には指一本触れさせんぞ!

(アドリブ、他PCさん方との絡みなどおまかせ)



「必ず倒して、君たちに素敵な景色をみせてあげるからねー!」
 少年にぶんぶんと手を振るのはモノクロピエロ、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)。旅人さんは酷いなぁ。子供って、好奇心旺盛なんだよ? などとぼやきながら、何故だか得意げな様子で腰に手を当てた。勇敢なのは良いことだけど、もし彼の身に何かがあれば、家族がきっと悲しむだろう。だから君は妹さんのところへ。そんな想いは他の猟兵たちと同じ。
「ふむ。この場合は連携というものが必要になりそうだな?」
 ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)がひょいっと手を目の上に当てながらきょろりと見回せば、何だかんだ戦闘準備は万全と、大きな輪っかを背に忍ばせたクラウンと目が合って。
 自分にどんな過去があるかは分からない。けれども、天真爛漫に、無邪気に。自由に世界を謳歌する。
 自分がどんなに他人にバカにされたとしても、ほら笑って! そうやって全く気にとめずにおどけて見せる。
 そんな二人が手を汲めば、この冬の冷たさも和らぐような空気に満ちはじめる。
 現れたのは一体の巨体。それを見上げる小さな天使と、ダンピール。
 行けるか? と八重歯が光る。
 勿論! と翼を揺らした。
「植物は冷気に弱いだろうからな! この俺にかかれば容易いことだ!」
「えっ? あっ! そうなの!? おれ、てっきり火でぶわわってした方がいいのかなって! ああっー! ちょっと待って! 俺の! 火の輪ーー!」
 ころころと雪を溶かしながら巨体へと向かう火の輪。
 それを追うクラウン。
 ころころ火の輪。
 それを追うクラウン――。
「お、落ち着くのだ……って、んん!?」
 すかーん!
 クラウンの様子に気をとられ、ばねの様に高く飛び跳ねたヴァーリャの蹴りもその青葉を掠めるのみに留まってしまう。
 ――しかし、どんな偶然だろう。
 クラウンが放った火の輪が溶かした雪を、ヴァーリャの雪娘の靴が凍り付かせ、本来よりも広い範囲の氷のフィールドを発生させた。その上ではヴァーリャの戦闘力は何倍にもはねあがる。
「おお。なんだかよく分からんが、すごく戦いやすくなったな!?」
 そしてもうひとり。あの滑稽な戯れは全部、道化師遊戯で身体能力を強化する為だったんだよ、と。
「ふふん! 俺も無敵状態!」
 その言葉と共に大玉に変形させた黒剣の上。自慢の翼をはためかせて飛び乗ると、ごろごろごろごろ。氷の上では勢いも増すばかり!
「おっとっと。どう? 鎧だって砕いちゃうこの大玉! 勿論威力も抜群だよ!」
 ドガガとぶつかれば大きく仰け反る巨体。クラウンの言葉通り、ばりばりと砕かれる半身。
「よし! トドメはこの俺が決めるぞ!」
 すいすいと他の猟兵までも魅了するように、華麗に氷上を滑る。
 その根の周辺を、煽るようにくるり踊れば。
 誘われるがままに振り被らんとする岩のような手が掴んだのは、少女の残像にすぎず。大きく跳ねて、もう一度。今、このフィールドで技を外すなんて有り得ない。ここはヴァーリャの舞台だ。
 ――自分の能力の意味を、少女はまだ知らない。理由も、何も。もしかしたら、これからも知ることはないのかもしれない。でも確かに今、この場所では利用できる技術で、ヴァーリャがヴァーリャであるからこそ為せることがある。
 その靴が残りの半身を気破った。
 そんな一幕を経て。

 猟兵達はその樹海に、漸くひと時の静寂を取り戻す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『息吹の竜『グラスアボラス』』

POW   :    フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●春を呼ぶ竜
 その日は、普段は重力のままに流れ落ちる水さえも、凍り付いていた。ゴツゴツとした断崖絶壁。そこに浮かぶ小米花の群生、麗らかな季節に蕾を開く。絡めとる氷瀑のもと。

 ――ひら、ひらり。

 蒼く沈む水仙を閉じ込める氷鏡の上。敷き詰められるのは鮮やかな花弁の絨毯。四葩が折り重なった花束のような雨の花はそこかしこに贈られて。

 ――ひら、ひら、ひらり。

 その春は、あらゆる季節の花を抱き締め世界を織り成した。降り立つ主を祝福するように舞う吹雪。今は彼だけの為にしかない。

 ――サアアアアア。

 広げた風切る白緑染み透る虹色が。
 高く、高く、天に鳴いた。
 淡い春を。

 夢みた季節の吹雪を、引き連れて。
オズ・ケストナー
わあ…
きれいという言葉は飲み込む
それは次まで取っておくね

あの兄妹と、友達と
花を見るよ
きみの咲かせた花を

どうして暴れるようになっちゃったのかな
みんなで春を見ることができたかもしれないのに

ごめんね
早く終わらせるね
斧をぎゅっと握って
倒さないといけないと知ってるから怯まず進むよ

相手の攻撃は【武器受け】狙いで飛び込む
ちょっとくらい痛くたって平気だから

かなうなら最後に
ミレナリオ・リフレクションを使ってみたい
一度だけ、きみの魔法を分けて

きみが咲かせた花を倍に
花はすぐに消えてしまうかもしれないけど

いっしょに花を見ることができないなら
いっしょに花を咲かせた記憶があったらすてきだなって
そう思っちゃったんだ

*蒲公英



 雪にも芽吹く新緑を辿れば、視界を占める絶景。
「わあ……」
 白い吐息をふわと溶ける。その景色に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は思わず零れ落ちそうになった言葉を飲み込んだ。きれいという言葉は、今はまだそっと秘め。胸に手を当てる。――わたしはね。あの兄妹と、友達と。
(「花を見るよ。きみの咲かせた花を」)
 だから、ごめんね。早く、終わらせるね。
 ぎゅうっと斧を握れば、キィンと鳴いた竜へ向けるガジェット。とある神の名を持つそれは、彼を導く標になれるだろうか。
 竜の、群青を砕いたような白群の眸がオズを認める。
 大翼を羽ばたかせもう一度鳴く竜に、口を結んだ。本当は戦うのは、得意じゃないけれど――。きみを倒さないといけないことは分かっている。だから、怯むことなく、進むよ。
 蒸気で加速し、雪上をゆく。勢いよく向けられる翼はその淡い色合いに似合わぬ固い鱗で覆われていた。打ち付けられる攻撃を、身の丈程ある武器で受け止める。その重さに、関節がギギ、と音を立てた。だいじょうぶ、ちょっとくらい痛くたって、平気だから。
 そして瞬間。大きく口を開け、空気を吸い込む竜。放たれるであろう攻撃を除けようとはしなかった。
「――ね。一度だけ、きみの魔法を分けてほしいな」
 竜の息吹に向かいオズが発動したのは、彼のそれと同じもの。攻撃を受けることはなくも、勢いでぺたんと尻もちをついてしまう。早く立ち上がらなければ――。力を込めようとした手元。

 ――ふれた綿毛が、空に飛びたった。

 広がるのは、一面の蒲公英の絨毯。小さく綻ぶその花が、紛れる綿毛が、ぎっしりと敷き詰められて。オズは瞬き、大きな瞳を慈しむように細めた。竜の力が増していく。でもそれは、オズにとっても同じこと。
 
 いっしょに花を見ることができないなら、いっしょに花を咲かせた記憶を。
 花はすぐに消えてしまうかもしれないけれど、それでもきっと、わたしは忘れないよ。

成功 🔵​🔵​🔴​

糸縒・ふうた
●絡 改変等歓迎

コイツだって、好きで色んなところを襲ってるわけじゃないと思うんだ
だって、こんなに、こんなにきれいな春を連れてくるんだもん!
どうせなら、春を連れてきてくれてありがとう、って、言ってやりたいな

周りのお花や舞う花びらを避けるのは中々に難しそうだし
本当は燃やしたりしたいところだけど……

オレには出来ないことだし
やっぱり、出来ることなら荒らしたくない

だって、お花だって何も悪くないんだもん

【疾風】にそうお願いしつつ距離を詰めていくぜ

もし羽ばたいたら全身のバネを使ってジャンプ!

知ってた?
狼だって、結構高くまで飛べるんだぜ

かわいくて、あったかくて
オレはキミが連れてきてくれる春の花が、すき



 糸縒・ふうた(朱茜・f09635)は思う。その竜も、好きで町や人を襲っているわけではないと。何故ならばそれは。こんなにもきれいな春を連れてくるのだから。
 それはふうたの純真。そして隠しきれない優しさは、行動にも現れて。
 周りの花や、舞う花びらの攻撃を避けるのは難しい。本当ならば、燃やしたりして戦闘を有利に運びたい。でもふうたは思うのだ。それは自分にはできないこと。それに何より。
「やっぱり、出来ることなら荒らしたくない。だってお花だって、何も悪くないんだもん」
 そんなふうたの想いを、願いを。受け止めるのはやはり、陰から生まれた相棒だ。その気持ちは分かっている、と。撫でた手のひらに応えるように頬を寄せた疾風に、ふうたは目を細めた。騎乗する背は温かくいつだって力をくれる。
 竜が、尾をくねらせた。ぶん、と風を切る。出来るだけ花を荒らさないようにと、たったと大股で跳ねるように走り、避ける狼。
 そうして竜が、黄色の絨毯から飛び立とうと淡く色づく翼を大きく揺らせば。
 竜胆の――紫の花びらが、嵐のように舞う。ふうたが考えた通り、すべてを避けるのは難しい。掠った花弁が、寒さで淡く染まった頬を切る。それでも。
 疾風が走り抜ければ、巻き起こる風が、花びらの軌道を変えていく。
 この竜が春に祝福されているのだとしたら。
 少年が味方につけるのは――風。
 攻撃を避けきれば、ふうたに向かおうと飛び立つ竜を前に、ひとつ、ふたつと氷瀑の壁を蹴って駆けあがる。――さあ行くよ。最後に全身のバネを使って、高く高くジャンプして。
「知ってた? 狼だって、結構高く飛べるんだぜ」
 快活に笑ったかと思えば、少し悲しげにまぁるい眉を下げて言う。

 かわいくて、あったかくて。
 オレはキミが連れてきてくれる春の花が、すき。
 キミは倒さなければならない相手だけれど。
 それでも。だからこそ告げよう。

「――春を連れてきてくれて、ありがとうっ」

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴェルベット・ガーディアナ
アドリブ絡可
きっとそれは少年の願いを叶えるにたる存在。なのでしょうね。息吹が花を咲かせる様は美しいというのに。護衛用精霊銃で【二回攻撃】【援護射撃】【属性攻撃】
息吹を【見切り】ます。息吹でできた花びらを踏みにじりかりそめの春を終わらせましょう…【輪廻に導く光】『この光が死を超えて輪廻に導かんことを』
冬が終われば春がくる。この地に花は咲かなくてもどうかのアルセニーさんの心に優しい花を…【祈り】

…戦いが終われば竜が咲かせた花は消えてしまうのかな?残るならばアルセニーさんの妹さんにも見せてあげたいね。


白波・柾
ボスのお出ましか
何とも不思議なドラゴンだが……倒さねばならぬのなら仕方がない

『ガーデン・オブ・ゲンティアナ』がなかなか厄介そうだ
できれば半径に入りたくはないが、入ってもいいように備えておくしかないな

【殺気】【ダッシュ】【フェイント】を利用して
可能な限り有利になるように立ち回る
基本はヒットアンドアウェイ
あまり距離を詰めすぎても、距離を置きすぎてもいけない
行動しやすい射程を常に維持
大太刀の間合いに入れば正剣一閃で攻撃していこう
猟兵の仲間たちとも連携して、堅実に攻撃を積み重ねて行きたい



 飛び立つことを抑止された竜は、一度地へと身を落とした。風圧に、花びらが舞い上がる。春の竜を、取り巻くように。
「何とも不思議なドラゴンだが……倒さねばならぬのなら仕方がない」
「ええ……きっとこの竜は、少年の願いを叶えるにたる存在。なのでしょうね」
 樹海を完全に自分の世界とする主に、白波・柾(スターブレイカー・f05809)は、ボスのお出ましか、と零した。ヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)が彼の言葉に頷く。
 先程の戦いを見ていた。厄介なのはあの竜胆の吹雪。小さな花びら全てを避けることが難しいのなら、出来るだけ彼の間合いには入らないように雪原を駆けるも、いざとなればと万全を期する。
 柾は雪上であってもその機動力を生かし、間合いギリギリのところまで敵に近づき、殺気を放った。お前の相手は此処にいると、自分の存在を知らしめるように。
 その強い殺気に、身を翻す竜。夜明け色の双眸と視線が交われば、僅か。怯んだように身を竦ませる。彼に攻撃が及ばぬように、向かう銃弾が尾を掠めた。――ヴェルベットの精霊銃だ。
「援護します」
「嗚呼、助かる」
 不愛想に、生真面目に言葉を返した。そんな態度にもヴェルベットは柔く目を細めると、もう一度。放った光の銃弾に込められるのは精霊の加護。
 光が注ぐ。天から、惜しみなく。
「この光が死を超えて輪廻に導かんことを」
 淡い色の鱗が、弾けた。それが花びらの如く散って、散って。竜が鳴く。そんな姿すらも。
「……綺麗だな、お前は」
 真っすぐに。律する前に零れ出ていた言葉。綺麗だ。感情を心に留め、戦う。それもまた、猟兵である自分たちの宿命であり、正義だと信じ疑うことはないから。
 大太刀の間合い。精神を集中させる。絶対に外すことはない。
 尾の傷に重ねるように刃を振るった。尾が砕け、切り離される。研ぎ澄まされた刃を受けた竜は、自分のそれが地に落ちたことすら気づいていなかったかもしれない。痛みは与えない。落ちた尾を白群の眸が捉える。竜が、嘆くように咆哮した。
(「息吹が花を咲かせる様は、こんなにも美しいというのに」)
 それはかりそめのもの。終わらせなければならないもの。
「戦いが終われば、あなたが咲かせた花は消えてしまうのかな」
 もし、もし残るのならば――。
(「アルセニーさんの妹さんにも見せてあげたいね」)

 髪に絡まる花びらをそっと摘まんでひらり。風に乗せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
とっても綺麗な龍だね!
なんで凶暴化しちゃったんだろう?
倒すの躊躇っちゃうけど……ごめんね?

【忍び足】でバレないように近づいて、
攻撃されたら怖いから【オーラ防御】もしようか!

龍の前でマジックをしちゃうよ!
俺の大好きなフリチラリアの
大量の花びらからなんと!
【黒剣】が出てくるよ!不思議だね!

それをキャッチして、飛びながら
黒剣をジャグリングのように回して
狙いを定め、龍に黒剣を投げよう!

ラストは黒剣を【鎧も砕く】大玉に
変形させて、自由自在に操って
龍にドカンと一発当てるよ!

勿論、種も仕掛けもございません!

アドリブ大歓迎!



 ゆっくりそそそと忍び足。他の猟兵達の戦闘に紛れ、竜の背後に近づくクラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)は、翼をぎゅっと縮こまらせて。
(「バレないように、バレないように――」)
 けれども重なる視線。揺れる白群青の双眸がクラウンを捉え逃さない。
 吐き出される息吹。舞う幾百の花びらは、毒々しくも眸奪われる、紫苑の斑模様だった。
 あわや、攻撃を受けるところだった。でも、勿論備えはある。身に纏うはオーラの光。
(「なんで狂暴化なんて、しちゃったんだろう? 倒すの、躊躇っちゃうよ」)
 雨の様に降る幻想的な花びらを手のひらに受け取って、呟く。
「フリチラリア……」
 その花を知っている。それはショーで自分が観客へと捧ぐ、ありったけの想いと同じ形をしていた。だからその花びらが、攻撃手段として自分へ向かっていることが、ちょっとだけ哀しかった。クラウンは俯き、瞼をとじる。そして顔を上げた時には、きらきらの笑顔を竜に向けた。
 無防備に無邪気に。落ちた花弁をいっぱいに掬い上げて空に、竜に向かって放てば。彼の視界に現れるのは一本の黒剣。そこには何もなかったはず。竜は小さく吼える。身を捩らせ、翼で攻撃を試みようにも、身軽に跳ね、黒の剣をひょいひょいとジャグリングしながら軽やかにかわしていくクラウン。
「どうだった? 俺のマジック!」
 楽しかったなら、いいなあ。そんなふうに思いながら、ごめんねと小さく呟いて。
 舞う大量のフリチラリア、それは自分の大好きな花。
 『人を喜ばせる』。そんな意味を持つ花。
 フィナーレは黒剣を大きな玉へと変化させて。鎧も砕くそれを、くるくるくるり。魔法をかけるように指先一つで操る。雪上で速度を増していく。
「勿論、種も仕掛けもございません!」
 大きな音を立て、花びらを舞わせながら。
(「もし君が生まれ変われたなら。今度はもっと喜ばせて、笑わせてあげたいな」)
 鎧をも砕くその大玉は、竜の鋭い爪をバキバキとへし折った。

成功 🔵​🔵​🔴​

五条・巴
花も、君自身も綺麗だね。
でもごめん。
春を連れてきてあげたいんだ。
あの子達の為にも、暖かい景色を見せたい。

【援護射撃】と【2回攻撃】で隙を作るよ。
クリティカルな一撃を出せる訳では無いからね、皆と協力して。
“ 明けの明星”で竜の上から矢の雨を降らせよう。
飛べないように、攻撃がこちらまで来ないように。

さあ、雪融けは近い。
おやすみ。

(花→月下美人)
●絡


ジロー・フォルスター
気乗りはしねえが…
倒す事になったとしても、暴れる原因くらいは突き止めてやりたい

【世界知識】を元に【情報収集】
【地形の利用】と【医術】で周りの環境や竜に妙な所が無いか見る
竜の血が手に入るなら【吸血・生命力吸収】して【呪詛耐性・毒耐性】も調べてみるか
【祈り】か【医術】『生まれながらの光』で対処できるといいんだがな

【動物と話す】は通じるか…?
「何か理由があるなら話してくれ」

それでも無理ならやるしかねえな

範囲攻撃が多いからな
『生まれながらの光』の【高速詠唱】で味方の怪我を癒す
自身は【防具改造】で強化した防具と【オーラ防御】【激痛耐性】で凌ぐ

花畑の上に立ったら【ロープワーク】で鞭を絡め動きを封じてみるか


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
あれがグラスアボラス……人を殺めてしまう前に、俺たちが終わらせなければ!

まずは翼を凍らせて飛べなくさせることを狙い、【ジャンプ】で出来るだけ高く飛び上がり、翼に向けて【2回攻撃】+氷の【属性攻撃】。手数を増やした攻撃を繰り返す。
もしジャンプで届かない距離にあれば、翼を狙い遠距離からの【属性攻撃】or【全力魔法】。
飛べなくなったところで、【先制攻撃】+『亡き花嫁の嘆き』で素早く威力の高い一撃を放つ!

『春』は『冬』が眠らせる……これでは逆になってしまうな?
だけど……育ちすぎた『春』は間引かなければならない、そうだろう?

(引き続きアドリブ、絡みなど大歓迎。花はスノードロップのイメージです)



 竜がダメージを負う。そんな姿を目にとめながら、ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)は考える。竜を倒すことに気乗りはしない。しかし、倒さなければならない相手だというのなら。暴れる原因くらいは突き止めてやりたいと。
 陽光を苦手とするジローは、グラス越しに戦場を、竜を観察していたが、猟兵達が負わせた以外の傷は見受けられなかった。
(「怪我をしていたわけでも、身体に異常があるわけでもなさそうだな」)
 それでもジローが諦めることはなかった。彼の、聖者の本質がそうさせるのだろうか。この竜の行動に、存在に理由が伴うのなら。ただ倒すだけというのは性分ではない。

 今にも動き出しそうな氷瀑の中に閉じ込められた小米花の群生。
 そのもとに飾られる四葩の花束。
 分厚い氷の膜に、閉じ込められる蒼の水仙。

 ジローが思考を巡らせる中、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)が竜に向かった。飛ばれるのは厄介。自慢の靴で高く跳ねれば、今度はその足でいち、にとステップを踏むように与える氷結攻撃。吐き出される花の刃が、ヴァーリャの頬を、腕を裂く。避けようにも迫るそれは、じりじりと彼女を追い迫るも。
「大丈夫か」
「この程度、なんてことはない! だが恩にきるぞ」
 ジローの身から放たれる生まれながらの光が、ヴァーリャの傷を瞬時に癒した。
 そして方法は違えど、歴戦を戦士である彼らが考えることは同じ。五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)の援護射撃が竜に届けば、ヴァーリャの攻撃は通りやすくなる。絶え間ない攻撃。片足、それから尾を負傷させた竜は、翼を振りかざし攻撃を回避することにおわれる。
 ――翼が、凍り付いていく。淡い白緑染み透る虹色が。
 あの花々のように、氷に閉じ込められていく。
 竜が鳴いた。高く、天に吼えた。
 おわ、と声を上げてその場から一度引く雪娘。
 ジローはオーラ防御をふたりを守るように展開させ、及ばない部分は鍛え上げた耐性で補う。
 吐き出される息吹。広がった花の絨毯はやはり、彼らの愛するものの姿をしていた。

 舞い落ちる雪に似た愛らしい雫。何かを待つように佇む希望の華。
 満月の一夜しか咲かない神秘的な美しさを持つ、月下美人。
 雪の上でそれらは混じり、そしてそれぞれに贈るように綻んだ。

「わ、これ……俺の――」
「……月下美人」
 花を撫で、呟いたふたりの声に、ジローは最後の祈りにも似た想いを込めて言葉をかけた。何か理由があるなら、話してくれ。竜は返さない。でもジローは分かっていた。感じていた。それはその場にいた巴も、ヴァーリャも同じ。
(「優しいお前が人を殺めてしまう前に、自分達が終わらせなければならない」)
(「花も、君自身の心も、本当に綺麗だね」)
 時間は消費されていく。この美しい竜も例外ではなく、過去の骸にすぎない。それでも想いを捨てきれなかったのだろうか。自分が芽吹かせた春のもと、人の喜ぶ姿と共に在りたかったのだろうか。想像することしかできないけれど。

 今にも動き出しそうな氷瀑の中に閉じ込められた小米花の群生も。
 そのもとに飾られる四葩の花束も。
 分厚い氷の膜に、閉じ込められる蒼の水仙も。

 ぜんぶぜんぶ、訪れた冒険者にささげたものなのだとしたら?
 ――否。例えそうだとしても。

 竜がこたえた気がした。ぼんやり。ジローの耳に届く音。
『――キミのすきな花は?』
 嗚呼、ごめんな。鞭を放てば、花畑の上で拘束する。巴の放った矢は明けの明星の如く輝いて、彗星のように竜へと注いだ。春は冬が眠らせる、これでは本来の自然の摂理とは逆になる。けれど。
「……育ちすぎた『春』は間引かなければならない、そうだろう?」
「さあ、雪解けは近い。――おやすみ」
 靴裏に精製した鋭利な氷のブレードが竜へと向かう。既に氷かけの片翼は、ダイアモンドアストのようにきらきらと砕けて散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リク・ユズリハ
●絡 ひまわり

あれがボスさん…春の竜さん、なんだね
お花を咲かせる力はとっても素敵だけれど…
…ううん、やっぱり、悪いことするのは、だめっ!

怪我したところにちょんと触れ
キミの優しさ、識れたのがすっごく嬉しかったから
よーし!あの子と、妹さんと、町のひとたちが
あたたかな春を迎えられるように、がんばるぞっ

ボクは他の猟兵さんたちの援護を
らいおんさんの背中に乗って【おひさまビーム】を主に
ボクの第六感とらいおんさんの野生の勘で
2回攻撃・マヒ攻撃も狙いながら
猟兵さんたちには当たらないようにっ
攻撃を受けそうな猟兵さんがいたらダッシュで近寄って一緒に回避

おひさまのひかりが、春の竜さんの心にも届きますように…!


終夜・嵐吾
ああ、綺麗じゃの。どの花も己が咲いておることを誇っておる。
ほんに見事な、花の園よ。あらゆる季節の花ばかりなど良き揺篭じゃな。
今日は、なれは眠っておるが良いよ、虚ろの主よ。
花好きのなれははしゃぎすぎてやりすぎるからの。
ああ、なれの好むダリアもそこに。

はるのりゅう、か……そう呼ばれるままであればよかったのにの。
その吐息の生み出す花畑。そこへわしの狐火落とすはちと心苦しいのだが致し方ない。
なれを倒さんとならんのじゃ、悪いの。
あの勇敢な少年の為にも、な。

協力できる猟兵がおれば共に。
狐火を、グラスアボラスの視界を奪うように操って攻撃の機を作るように心がけよう。
他、癒しが必要なれば生まれながらの光にて。



 竜が綻ばせた花たちが風に揺れる。
「ああ、綺麗じゃの。どの花も、己が咲いておることを誇っておる」
 雨のように降る花びらが、終夜・嵐吾(灰青・f05366)のてのひらに一枚、その身を預けた。その戯れに、僅か。目を細める嵐吾は、お行き。とそれをもう一度風に乗せ。
 この冬の地で、決して芽吹くことのなかった小さな無数のいのち。それらは踊るように楽しげに、歌うように優しく。今この戦場で、穏やかな風と共に在る。
「ほんに見事な、花の園よ。あらゆる季節の花だけでなく、その者の好む花まで咲かすとは。――ほんに心地の良き揺篭じゃな」
 そんな嵐吾の言葉に、リク・ユズリハ(おひさまの子・f01768)はこくりと頷いて。
「お花を咲かせる力はとっても素敵。ボクらに贈ってくれるのも。だけれど……」
 悪いことをするのはだめ。その温かさは確かに感じるのに、彼の贈り物は時に刃となって、人を傷つける。魔法にも似た力は人を魅了し、そして彼の夢の中で眠ることになるかもしれない。そんなことはあってはいけないのだ。今日此処に訪れた、あの少年が間違いを起こしそうになったように。
 リクは山神との戦いで負った額の傷にちょこんと触れた。マフラーが汚れることも厭わず、拭ってくれたあの少年の優しさを思い返す。迷いを、掻き消すように。
「リク君と言ったか。平気かの?」
「わ、ありがとうっ!」
 小さな猟兵に合わせてしゃがみ込み、柔い表情で問う。聖なる光を翳し、嵐吾は少年の負っていた傷を癒してみせた。リクがおひさまの笑顔を向ければ、僅かに疲労を負うも。そんな素振りを見せることはなく。
「お兄さんのおかげで元気になったし、がんばるぞっ」
 あたたかな、本当の春を迎えられるように。ぐっと両手を握るリクの様子を微笑ましく思いながらも。
 さて、と竜を見据え構える。猟兵として、自分たちにはやらねばならぬことがあるから。
 竜へと狐火を向かわせる嵐吾の援護を目的に、リクは召喚したライオンの背に乗り、駆けた。ひだまりの名を持つトンファーを模した獣奏器で、彼にダメージを蓄積させていく。尾、片足、そしてその大きな翼を一枚失った竜の動きは既に俊敏さに欠け、その速さに追いつくことはない。
 それでも、羽ばたいた。力を振り絞るように。
 傷を負った片翼はもう美しいと呼べるものではないけれど。
 浮遊する竜が、大きく吐き出した息吹。それを己の勘で察知していたリクが、嵐吾の手を引いて。乗り込むライオンの上、攻撃を、風圧を避けるように腕で顔覆ったふたりが視界を開けば。
「わっ、わあ」
 すごい、おっきな、ひまわりがいっぱい! みて! とばかりに指さしはしゃぐリクの髪を嵐吾がそっと撫ぜた。リクはくすぐったそうに目を細めて、それから少しだけ悲しげに笑った。
(「――はるのりゅう、か」)
 そう呼ばれるままであれば良かったのに。美しい淡い朱華を琥珀の双眸に捉える。
(「なれの贈ってくれた花畑に、わしの狐火を落とすはちと、心苦しいが」)
「なれを倒さんとならんのじゃ、悪いの」
「ごめんね、でも」
(「おひさまのひかりが、春の竜さんの心にも届きますように」)

 一方は、花弁を燃やし、雪をも溶かすほどの熱い無数の炎。
 一方は、彼を癒すような、それでも確実にその命を削る太陽の。
 ふたりの想いが、攻撃が、竜に向かい、溢れる光。

 キィンと小さく鳴く声。姿はもう、そこにはなかった。
 視界を塞ぐ鮮やかな花の吹雪は、冬を溶かすほどに暖かだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『樹氷の世界』

POW   :    仲間たちと共に樹氷を眺める

SPD   :    氷の世界を写真におさめたり、描いたりする

WIZ   :    物思いに耽る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達が竜と奮闘している間。彼らに心を動かされた少年、アルセニーは自分が暮らす町へと辿り着いていた。扉を開ければ、酷く心配した様子の母親に抱きしめられて、ごめんとひとつ呟いて。そんな様子を不思議に思ったのか、駆け寄った妹、アーニャは少年の袖をひょいと引く。
「おにーちゃん、どこいってたの? おさんぽ?」
 にぃと笑う表情は、あの日と変わらない彼の春。
 その問いに正直に答えるには、彼女にはまだ少しだけ早いから。
 かがんで、ぎゅうと手を握る。柔らかい。温かい。
「うん。ちょっとな」

 ――春を探しにいってきたよ。
 そんな言葉を、そっと胸に秘めて。


 主が消えた樹海は静けさを取り戻すも、その春は今はまだそこにある。

 今にも動き出しそうな氷瀑の中に閉じ込められた小米花の群生。
 そのもとに飾られる四葩の花束。
 分厚い氷の膜に、閉じ込められる蒼の水仙。
 それから猟兵達に贈られた花々や、花びらの絨毯。
 
 淡い枝垂桜が粉雪と戯れる。
 氷穴に入れば氷柱に閉じ込められる花の、幻想的な景色が広がる。

 芽吹く花々は本来そこにあってはならないものかもしれない。
 それは偽りの春なのかもしれないけれど。

 少しだけ、折角芽吹いた花が散ってしまう迄の少しだけの間。
 折角この冬の地に芽吹いた春を、愛でられたなら――。
馬駒・つの
あ~~やち💥
お仕事してるって聞いたから来ちゃったぞ👍♥️🐿️
振り向きざまにほっぺむに、イタズラ動画をちゃっかり収める
はいっそのままキメ顔チャレンジ!😎
…え~やってよお!

あやちの予知が忙しくなってもつのとも遊んでね!?
一緒に行きたいとこたくさんあるんだもん😼
焼肉とか、しゃぶしゃぶとか、すき焼きとか
もつ煮、串焼き、シュラスコ…

言いつつきらきら氷の景色に興味は移ろう
けどスマホを構える前にうーんと迷い顔🤔
この景色を撮ってずうっと未来まで残してあげるのと
今だけここだけで咲かせてあげるのと…
お花はどっちが幸せかなあ?なんてね
あやちならグリモアとかゆーのでお花の気持ち分かるしょ、たぶんっ💮
●絡



「あ~~やち💥」
 お仕事してるって聞いたから来ちゃったぞ👍♥️🐿️と振り向きざまの綾華の、大して柔らかくもない頬をむにっとつついたのは馬駒・つの(◊♛タッタ・ラッタ♛◊・f00249)。
「あ? って、つのちゃんじゃーん」
「え~~顔こわ~😂はいっ、そのままキメ顔チャレンジ!😎」
「えー。じゃあこんなでどー?」
「はいっカット~🎬むむ、おおー! ばっちり! あざまる水産っ🙆」
 勢いに流されるままにキメてみせれば。つのの手には、スキとセカイがぜーんぶつまってる💞きらきらデコった✨🎀つのすまが握られていた。撮影成功~🎊!(#つのイタズラ動画 #あやちん実況 #A&W)みんならぶりつ♥️🔁よろ~😊。
「あやち、予知が忙しくなってもつのとも遊んでね!? 一緒に行きたいとこたくさんあるんだもん😼」
「フツーに遊ぶ遊ぶ、そんな可愛いこと言われたら――」
 焼肉とか、しゃぶしゃぶとか、すき焼き🥓🍲💕……もつ煮、串焼き、シュラスコ……。ふふふ~。はじけるような笑顔。にぃっと魅せらえる八重歯。
「奢るだろ、いくらでも……!」
「あやち太っ腹~😙💰💰💰」
 うっと顔を抑える。もはや完全につののペースである。
 でも折角だから。今はこの景色を堪能しようとるんるんぴょこぴょこ🐰。
 今日は樹氷の探検隊。
「つのはあやち隊員を引き連れてジャングルの奥地へと向かった――」
「つーのーちゃん、ジャングルじゃないかんネ」
「そだったー😂 樹氷~~🌨️🌲🌨️🌲!」
 言いつつ氷の景色に興味は移ろうけれど。スマホを構える前にうーんと迷い顔🤔。
「どったの」
「あのね。この景色を撮ってずうっと未来まで残してあげるのと、今だけここだけで咲かせてあげるのと……お花はどっちが幸せかなあ? なんてね!」
 覗き込むよう首を傾げれば、返った言葉がちょっぴり意外で。けれども、そんなふうに思えることが、彼女の魅力のようにも思えて。照れ隠しなのか、単に思ったままを口にしたのか、綾華には分からなかったけれど。柔く、緋色の目を細める。
「あやちなら、グリモアとかゆーのでお花の気持ち分かるでしょ、たぶんっ💮」
「グリモアってそーゆーんじゃないからな? 嗚呼、でも――。つのちゃんにそんなふうに思って貰った時点で、この花たちはすっげー幸せだと思うぜ」
 そーかな?😳 と問うつのに絶対! と笑って。
「な。つのちゃんの好きな花、探しにいこーぜ」
「行く~~✨」
 そしてジャングルの奥地へ――あれっ🤔💭。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴェルベット・ガーディアナ
アドリブ絡可

あぁ、小さいけれど間違いではあるけれでここにあるのは確かに春ですね。
花は美しくそして可愛らしく。
栞にでもできればなんて思うけれど氷の中の花は取ることは難しいでしょうか。

ふふ、シャルローザ、綺麗だね。キミに似合う花も咲いているよ。ボクにはどの花が似合うかなぁ…なんて…ボクには花なんて似合わないか…ボクはいつも愛でる側だからね。



 骸の海から染みだした優しい怪物が生み出した、この世界においては間違いである季節。しゃがみこみ、雪上に芽吹く命を見つめ、ヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)は、雪が降るように柔らかい音を落とした。
「――それでも、ここにあるのは、確かに春ですね」
 小さくとも、仄かに暖かい。きっとこの地に住む者達は、今日という日を忘れることはないだろう。真白の雪の上に柔らかい色を纏って芽吹く花はそれはそれは美しく思えて。
 ――ふと。視界に入ったのは、花の上に並べられた、小さな小さな雪の兎たち。町の子供たちが作ったのだろうか。耳も花も、全部が様々な花びらで彩られていて愛らしい。氷柱の中に咲く花も、みているだけでヴェルベットの心は凪いでゆくけれど。
 ――栞にでもできれば、なんて思ったりもして。
「氷の中の花を取ることは難しいかな?」
 傍らの、雪と同じに。絹糸のような純白の髪と衣を纏う、青い瞳の少女の頬を撫で、語り掛ける。
「綺麗だね、シャルローザ。キミに似合う花も咲いているよ」
 ほら、この花なんてとっても似合う。嗚呼、でもこの花も、この花も――。真白の彼女にはどんな花だって似合うように思えて――そんなことを考えていれば、自然と表情も緩んでしまう。
「ボクにはどの花が似合うかなぁ……なんて」
 そう口にしてみるけれど。ボクには花なんて似合わないかとも思って。何故ならば自分はいつも。
「愛でる側、だからね?」
 長い睫毛が伏せられる。氷に閉じ込められた花。決して触れることができない、愛らしい姿。ヴェルベットはその隔たりを、壁のように感じたけれど。
 青い宝石が見つめる先。小さなその淡い花が、貴女に似合うと言いたげに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

糸縒・ふうた
■リル(f10762)と一緒
● リルとのみ絡 改変等歓迎

見て見て、冬なのに春も夏も冬もある!
リルと一緒に見たかったから、一緒に来られてうれしい!

氷の中なのになんで咲いてるんだろ…不思議
オレもこんな光景は見るの初めてだ

オレはいっぱい着込んでるから平気だけど
リルは寒くない?
じゃあ、オレのマフラー貸してあげる

雪と桜と戯れるリルは楽しそうでこっちまで嬉しくなっちゃう
でもなんだか消えちゃいそうで不安になって

游ぐリルを捕まえて
うん、しっかりこの手で握ってる
だから、いなくならないで

オレはどの季節も好き!

これから本物の春を見つけに行こう
夏も、秋も、冬も
今まで知らなかったこと、たくさん一緒に知って行こう


リル・ルリ
■ふうた(f09635)と一緒
✼アドリブ等歓迎

「わぁ、すごい!ふうた、氷の中に花が咲いている」
こんな光景、見たのははじめてだ!
紅潮する頬に好奇心に煌めく瞳
どうなっているのだろうと氷柱に近づき不思議そうに眺めてはつつき

「僕は寒寒さには強いんだ。ふふ、春が閉じ込められているみたい。あれは枝垂れ桜?」
雪と桜
綺麗だと微笑み、鼻歌交じりで粉雪と花弁とに戯れて遊ぶ
あちこち游ぎ行ったり来たり

捕まえられればキョトンとした後
なら消えないように捕まえてて
なんて微笑む

「ふうたは春すき?僕はまだ
みたことないんだ。はる」
僕の湖はいつも冷たくて薄暗い

今一時の春かもしれない
本当の春も一緒に観よう
うん、廻る四季を一緒に
約束だ



「見て見て、冬なのに春も夏も冬もある!」
 ふうたの言葉の如く、今この場所には、四季折々の花々が芽吹いていた。リルと一緒に見たかったから、一緒に来られてうれしい! その瞳がきらきらと瞬けば、ああ、僕もだ。なんて言いたげに柔らかく微笑む表情。
 氷柱の花を見つければ、こんな光景ははじめてだと紅潮する頬に好奇心に煌めく瞳。どうなっているのだろうと近づく。ふうたもリルに続けば、その前でじっくりと観察するようにしゃがみこんで。
「オレも、こんな光景は見るの初めてだ」
「ふふ。それじゃあ、お揃いだ?」
 氷柱をつんつんとつついたリルが顔を上げ、薄花桜の瞳を細めれば、ふうたは嬉しそうに八重歯を見せ頷いた。綺麗なものを見つける度、心が躍るみたいに。同じように――それ以上に君とお揃いなことが嬉しい。無意識か、彼の前だから気にしていないのか。ふうたのふわふわの尻尾がぴょこぴょこと揺れる。
「……ふふ、春が閉じ込められているみたい」
「オレはいっぱい着込んでるから平気だけど、リルは寒くない?」
 心配そうにたずねるふうた。
 僕は寒さには強いんだ。その優しさだけで、心に灯る光がある。だけれど。嬉しかったから。その純粋を無下にしたくはなくて、ありがとう、と受け取り、首に巻いてみせた。ふうたは笑う。ただ、彼の心配をしただけなのに、そんなリルの優しさにも触れて。心がじんわりと滲むのも、お互いさまだ。
「ねえ、あれは枝垂れ桜?」
 雪と桜。本来なら共に存在することはない。リルは、綺麗だと微笑むと、鼻歌交じりで舞い降る粉雪とひらひら踊る花弁と戯れるように。あちこち游ぎ、行ったり来たり。
 そんなふうに楽しそうに雪と戯れる彼を眺めて、嬉しいなと思うのに。なんだか消えてしまいそうで不安にもなって。
 ――手を、伸ばす。そして游ぐリルのつめたい手をそっと捕まえて。
 すればリルは雪の中を、花の中を游ぐことをやめた。そしてキョトンと向ける表情。
 ふうたに掴まれたところから滲む熱。
「なら、消えないように捕まえてて」
 リルは思う。出会った日から、変わらず温かな手だ、と。
「うん、しっかりこの手で握ってる。だから、いなくならないで」
 そんな春の温もりを繋ぎながら、雪と花の中で重ねる会話。
「ふうたは春、すき? 僕はまだ、みたことないんだ。はる――」
 ――僕の湖はいつも冷たくて薄暗いから。
「オレはどの季節も好き!」
 リルの問いに、ふうたは答える。そして両手をぱっと広げて、描く君との未来を思うように瞳を煌めかせながら。
「これから本物の春を見つけに行こう。夏も、秋も、冬も。今まで知らなかったこと、たくさん一緒に知って行こう」
 本物の春、四季折々の花々。リルが好きだと言っていた桜、薔薇、そして鬼灯。花だけじゃなくてもっと、もっと。
 玻璃の水槽の中ではみられなかった世界を。眩しくても、きっと大丈夫だ。だって、ふうたがいる。
「うん、廻る四季を一緒に。――約束だ」
 僕らを巡り合わせてくれた、あの道しるべ。月や星や、雲のように。
 見上げるばかりだった穹が、愛しいものとなったように。

 ――世界を彩るたくさんの景色を、君と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジロー・フォルスター
竜の残した春を維持してみる
『禍祓陣』に植物と人を守る【オーラ防御・氷結耐性】の力を周辺へ

(花か…【医術】では学んだが)

このローズマリーは孤児院の庭にあったな…懐かしい
陣を維持しつつ町の子供達と【コミュ力】で話してみるか

「綺麗だろ。それはお前たちが冬を知ってるからなんだぜ」

もしもずっと春の土地があればこの花は当たり前になる
雪や氷を見れば感動するだろうさ
白銀の世界も、氷上を滑って遊ぶのも、家の中の暖かさも、冷たく厳かな朝の空気も、凍るように澄んだ星空も…他の地域には滅多に無いかもしれないな

「くく、大人になるのは案外すぐだ。だから子供の内に楽しんでおけよ。外に出てお前たちの故郷の話ができるようにな」



 其々が冬に芽吹いた春を満喫している中、ひとり。ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)は竜の残した春を維持することはできないかと孤軍奮闘していた。
 聖痕から出でるオーラの光と、その寒さに耐え得る能力を、彼は自分の周辺、数十メートルに展開させる。すれば、僅か。氷の中で咲く花が太陽の下に存在するように、鮮やかに見えたのは気のせいだろうか。それでも少しでも長く、この地に住む人々が、子供達が。このひと時の春を味わうことができるようにと陣を維持しながらも。己もこの春を味わおうかと目を向けた先。グラス越しの視界にも分かる。
「……懐かしいな」
 ぽつりと零す。その花、ローズマリーは、ジローが大勢の『人間の兄弟』と育った、あの孤児院の庭に咲いていた。しゃがみ込み、ゆるりと撫でる氷柱。あの庭にあったものとはまるで違うけれど、それでも。この地の子供達はそんな花を、綺麗だと感じるのだろう。
 子供と触れ合うことには慣れている。普通の子供達ならば少し。少しだけ身構えてしまいそうな容姿だとしても、関係ないくらいには。
「その花、きれー!」
「なんて花? はじめてみた!」
「……ああ、これはローズマリーって言うんだ。綺麗だろ。それはお前たちが、冬を知ってるからなんだぜ」
 子供達と同じ目線の高さで答える。ジローの言葉に、寄ってきた二人の子供が首を傾げた。
「意味わかんない!」
「どうゆう意味?」
 子供は本当に正直で素直だ。面倒見の良いジローはグラスの奥の瞳を細めながら、彼らの頭をわしゃと撫でる。
 もしもずっと春の土地があれば、この花はお前たちにとって、いつでもそこにある、当たり前になる。そうしたら今度は、雪や氷を見れば感動するだろうさ。白銀の世界も、氷上を滑って遊ぶのも、家の中の暖かさも、冷たく厳かな朝の空気も、凍るように澄んだ星空も。
「……他の地域には滅多に無いかもしれないな?」
 ジローの言葉に、子供達は嬉しそうに、笑顔を取り戻す。
 その希望を灯すような言葉が、彼の聖者の本質。
「くく、大人になるのは案外すぐだ。だから子供の内に楽しんでおけよ。外に出てお前たちの故郷の話ができるようにな」
 うん、分かった。自分たちが住む地を誇るように得意げに。
 そんな子供たちにつられるように、ジローも笑みを深めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
ふわあ…すごいぞ、『冬』と『春』が同時に来た…!

さて! 仕事も終わったし、この素敵な景色を堪能しようではないか!
あ! そうだ綾華! 今日は俺たちを転送してくれてありがとうな。綾華がよければだが、一緒に景色を見ていかないか?
他の人もいるならその人とも交流を深めるぞ!

雪や氷の中で咲いている花ももちろん素敵だが…俺は氷穴の中が気になるな!
ふふふ、俺は寒さには強いほうだからな。もちろん氷穴の中にいてもへっちゃらだぞ!

グラスアボラスはいなくなってしまったが…こうして春として生まれ変わったと思おう。…こうして形として残ってくれて、よかったのだ。何もないのは、悲しいからな。

(アドリブや絡みなど大歓迎)


五条・巴
皆、お疲れ様。
頑張ったご褒美に、こんなに綺麗な景色が見られるなんて役得だね。

先ほど咲いたのは月下美人。僕よりあの花に似合う人、月下美人が好きな人を、知ってる。
不思議とあの時、あの人に背中を押されたような、そんな気分だった。

勝手な想像でしかないけれど、そうであったらいいなと願いながら、綺麗な氷と花々をゆっくり見て回るよ。
花の一番美しい時を切り取って美しく見せてくれる樹氷、花がうらやましいよ。
色とりどりの花を見ながら、今度自宅の庭にも同じ花を咲かせようかなって考えふらふら。
この場の再現はできないけれど、毎年その花が咲くたびに、今日の事を思い出したい。

●絡。アドリブ歓迎



「ふわあ……すごいぞ、『冬』と『春』が同時に来た……!」
 静けさを取り戻した地での冬と春の共演。
 雪娘のヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)にとっては、この地の寒さもなんのその。きらきらわくわく! 今にも走り出しそうなくらい楽しげなヴァーリャの様子に、相も変わらず、穏やかにプルシアンブルーを細めたのは五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)だ。
「お疲れ様。頑張ったご褒美に、こんなに綺麗な景色が見られるなんて役得だね」
「本当にそうだな! 仕事も終わったことだし、この素敵な景色を堪能しようではないか!」
 そんなヴァーリャの片目に映ったのは、紅の羽織りを纏った男。おーい! と手を振れば振り返る緋色の双眸が、見知った少女を捉えて。
「綾華! 今日は俺たちを転送してくれてありがとうな」
「いーえ? むしろヴァーリャちゃんとか――えっと、お前とか、みんなが来てくれて助かった」
「ふふ。自己紹介、していなかったね。僕は五条巴。よろしくね」
 お前、等と自分に視線を向けた綾華にも、柔らかい口調でそう返す巴。
「俺はヴァーリャだ! 巴に綾華、二人さえよければだが、一緒に景色を見ていかないか?」
「俺はいーケド?」
「僕も仲間にいれてくれるなら、嬉しい」
 巴の言葉に、勿論だ! と元気よく拳を上げるヴァーリャ。
 それじゃあまずは何処を見て回ろうか。巴が問えば、自分は氷穴が気になると雪んこが二人を導いて。樹氷を進んだ先、真っ暗な洞窟でも大丈夫なようにと、この地に住む人々が三人へと手渡す暖かなひかりが灯るランタン。それは彼らの願いか、硝子には繊細な花々の細工が施されていて。それを手に氷穴へと足をすすめる。ひんやりと冷たい空気に、綾華は身を縮こまらせた。
「外より寒くねえ? ふたり、ヘーキなん?」
「ふふふ、俺は寒さには強いほうだからな。もちろん氷穴の中にいてもへっちゃらだぞ!」
 えへんと得意げに言い放つヴァーリャに、そりゃあ良かったと白い息を吐いて。
「確かに寒いよね、でも、それよりも――」
 巴がランタンを持ち上げた先。冷たい洞窟の奥、鋭い氷柱達と共に垂れ下がる藤紫。からんと石が転げれば、崖のように途切れた岩の下、広がる一面の――。
「――綺麗」
「おおぉ、本当だな!」
 いくつもの水晶のような氷の中に、閉じ込められる様々な花たち。一番美しい時を切り取って美しく見せてくれる樹氷、花がうらやましいを思わずにはいられない。巴は目を細め、続ける。
「ねえ、ここ、降りられるかな?」
「そんなに高くねーし、ゆっくり下りればヘーキじゃね」
「うむ、それじゃあ行ってみるか」
 綾華の言った通り、その岩場をゆっくりと下って。降りた先の様々な花々を眺め。
 今度、自宅の庭にも同じ花を咲かせようかな、なんて考えたのは。この場の再現はできないけれど、毎年その花が咲くたびに、今日の事を思い出したいという想いから。
 ふらふら歩けば、そのうち先ほど贈られた花を見つけ、その前でしゃがみこむ。
「どうかしたか?」
 ヴァーリャが尋ねる。いや、と睫毛を伏せた。巴は、自分よりこの花に似合う人、月下美人が好きな人を、知ってる。不思議とあの時、あの人にそっと背中を押されたような、そんな気がしたのだ。
「あ、ヴァーリャちゃんの時、咲いてた花じゃん」
 今度は綾華が指さすスノードロップ。それを見つめてヴァーリャが思い出すのは、やはり。あの時それを贈ってくれた、春の竜で。
「グラスアボラスはいなくなってしまったが……こうして春として生まれ変わったと思おう」
 彼はいなくなっても、残るものがある。
 こうして形として残ってくれて、よかった。ヴァーリャは思う。

 だって、骸から出でてまで、届けたかったのかもしれないあの竜の春が、何も残らないのは、きっととても悲しいことだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
わぁ、とっても幻想的で綺麗な景色だね!
綾華、良ければ俺と一緒に見ない?

綾華はさ、何の花が好き?
俺はね『フリチラリア』って言う花が一番好きなんだ!ここでも咲いてるんじゃないかな?

でも、俺が一番好きな花に匹敵する程、ここで咲いてる
お花達の事も大好きになるかも!

こんな景色を見ちゃうと、
走りたくなっちゃうね!
綾華!追いかけっこだ!

あ、でも花の絨毯が散っちゃうね……
ちょっとだけ……ダメかな?

ダメなら、寝転んで大の字になって景色を見上げる!綾華も一緒にどう?
きっと気持ちいいよ!

この景色を目に焼き付くしたいな!

アドリブ大歓迎!
めちゃくちゃ遊んでOKだよ!



「わぁ、とっても幻想的で綺麗な景色だね!」
 戦闘中も目にしていた景色。けれども改めてゆっくりと眺める樹氷と花々の共演に、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)は瞳を輝かせながら雪を踏み歩く。折角の景色だけれど、自分はどうやって楽しもう? そんなこと考えていると、春の竜との戦闘を共にした、見知った友人の姿を発見。お疲れ様じゃのーと特徴的な口調で告げた相手に、そっちもおつかれさまー! とぶんぶん。大きく手を振り返すクラウン。
 そうして彼を見送った後、自分をこの地へと導いた猟兵の姿が視界に入って。
「綾華、良ければ俺と一緒に見ない?」
「ん? おー、まあいいケド?」
 ひらり、羽織りの紅を靡かせて男は頷いた。なつっこく駆け寄る自分よりいくらか年下に見える青年。犬みてえ。なんて思ったのは秘密。声に出しても良かったが、一先ずは心に仕舞って。
「ねえ、綾華はさ、何の花が好き? 俺はね『フリチラリア』って言う花が一番好きなんだ! ここにも咲いてるかな?」
 好きな花ねえ。問いにふむりと思考を巡らせる間、クラウンは自分の好きな花の名を口にする。
「なあ、それってもしかして、お前の頭のやつ?」
 指さし問えば、そう! と元気いっぱいに頷くクラウン。良く分かったね! だなんて感心したように、あんまり嬉しそうに笑って見せるから、綾華もつられるようにしてふっと零した。
「あっ。でもね。それに匹敵するくらい、ここで咲いてる子たちも大好きになりそう!」
 だってだって、こんなにも綺麗で。
「こんな景色を見ちゃうと、走り出したくならない?」
「そうネ。走り――って……は?」
「綾華! 追いかけっこだ!」
「え、お前、待」
「はやくはやく……あっ、わああ!」
 そんな走ったら転ぶぞ。言い終わる前にズサァっと音を立てて雪にダイブすることになったクラウン。やれやれと白い息を吐きながら近づいた綾華は、そっと手を差し伸べて。
「ダイジョブ?」
「っふ、あはは! うんっ、大丈夫!」
「すっげ、花だらけ」
 敷き詰められた花の絨毯の上。髪にも身体にも、いっぱいに花弁を纏ったクラウンは、鼻も頬も寒さで赤く染めながら、黄色い瞳を細めくしゃり。何だかおかしいね。ころころ笑いながらも差し出された手を掴み、起き上がるのかと思えば――ぐっと引いた。
「え、うわ」
「あはは! 綾華も一緒に、この景色を目に焼き付けよう?」
「……おっまえなぁ~。 まあいいケドさ」
 隣にごろんと転がった。仕方ない奴、なんてぼやくくせ、楽し気な声色は隠しきれず、表情は緩み。
 大の字に寝転んで見上げる景色。
 花の絨毯を、少しだけつぶしてしまうのはごめんねと思いながら。
 この冬の地の春を、もうちょっとだけ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルファルド・リヤ
【WIZ】

オブリビオンを召喚。
それは氷の使者、うつくしき氷の鳥。
おまえに良く似合う世界ですね。

うつくしき世界に閉じ込められた花々は嘗ての景色を思い起こさせて、
おまえたちも何時かは起きるのでしょうか。

春が来ると心臓が痛む。春が来ると心臓が溶けてしまう。
春が来るのはとても嬉しいですか?
そう問うたとて返事など返っては来やしないけれど
いつか起きる日が来たときは一番におはようといいましょう。

約束は嫌いですけどね。
いつかとける日が来たならば、おはようを告げたならば。
今度はおやすみを告げましょう。
だって、氷職人なのですから。

最期に触れることが叶うなら、その花を撫でましょう



 いつか目覚めた時のように、彼は氷の中にいた。
 正しくは雪、でも平たく言えばそれも小さな小さな氷の粒。
 そんな冷たい世界で、アルファルド・リヤ(氷の心臓・f12668)は、リザレクト・オブリビオンを使用し、氷の使者を呼び出してみせる。穢れなく透きとおった氷晶の翼が、アルファルドの頭上に羽ばたいた。――うつくしき、氷の鳥だ。
「おまえに良く似合う世界ですね」
 見上げ、愛おしげにその灰の眸を僅かだけ細める。
 そして鳥を傍らに、雪上の花の絨毯を歩いた。
 うつくしき世界。季節の共演。その世界に閉じ込められた花々は、嘗ての景色を思い起こさせる。
 ――おまえたちも、何時かは起きるのでしょうか。
 その意味は、アルファルドしか知り得ない。
 春が来ると、心臓が痛む。
 春が来ると、心臓が溶けてしまう。
 比喩だと思うのなら、それでもいい。アルファルドは考える。
 ――春が来るのはとても嬉しいですか?
 そう問うたとて、返事など返って来やしないけれど。
 遠くのほうで、町の子供たちや、この春を生み出した竜と戦った猟兵達の、楽しそうな笑い声がひびく。その音は、自分とそれを隔てる距離よりも、もっともっと遠くにあるように感じた。
「――いつか起きる日が来たときは、一番におはようといいましょう」
 約束は嫌いですけどね。静かなその場所に、ふわりと零す声。
 いつかとける日が来たならば、おはようを告げたならば。
 今度はおやすみを告げましょう。
 ――だって、自分は、氷職人なのですから。
 目の前に咲く氷柱の花を柔く撫でた。嗚呼、冷たい。
 でもこの花のように――本当の春がこんなふうに、冷たかったならば。
 心臓が痛むことも、溶けてしまうこともないのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮舟・航
SPD

もう戦いは終わった……ですよね、それならば。

(絵を描く右手は、傷つけるわけにはいきませんから)
右手を庇う緊張を解いて、アックス&ウィザーズの世界を見渡す

まさしく、「現実離れしている」と思った
ファンタジーって、こういうものを言うんだろうとも
氷の中に咲く春をスマートフォンで撮って回ります
何かを描くときの資料にもなりそうですし


――あ、あの長身は。
浮世君。どうも。 ひら、と手を振って

久しぶりですね。前も、確か雪の日でしたか
会った時と違って、今日は暖かい雪の日ですけど……

ね、見ました?不思議な景色ですね
永く続くものじゃないでしょうけど、そういうものに人は美を感じるんでしょう

君もそう思う?


【●/絡】



 猟兵の仕事。それは浮舟・航(未だ神域に至らず・f04260)が得意とするものではない。けれどもこうしてこの地に来たからには、彼女なりに自分が出来ることをしようと立ち回っていた。
 春の竜との戦闘の際には庇っていた右手。戦いが終わればその緊張をふっと解く。それは彼女にとって、自分の、何よりも大切なもの。ペンを握るための――大好きな、絵を描くためのものだから。
 他の猟兵達のように、それ以上に、航にとってこの景色は価値のあるものだ。普段はUDCアースで暮らす航に、如何にもファンタジーらしいこの光景は、何かの絵を描く時の資料にもなり得るから。
 そう考え、氷の中に咲く春を取り出したスマートフォンで撮って回れば。視界に映るは、数回の偶然を重ねた長身の男。
「浮世君」
 聞き覚えのある声に振り返れば、どうも、とひらり。手を振る少女。
「おお。航ちゃん、おつかれさん」
「そちらこそ。――久しぶりですね。前も、確か雪の日でしたか。前会った時と違って、今日は暖かい雪の日ですけど……」
「そーネ。いやでも、あん時はあん時で、夕陽が綺麗だったからさ。寒かったケド、あったかく感じた気もする。あ、そうだ雪だるま! 近所の子供らがすげー喜んでたよ。綺麗だって」
 綾華がそう笑えば、航は僅かだけ眸を細める。やるからには、と丁寧に作り上げた雪だるまだ。それが褒められるのは、素直に嬉しいと感じた様子で。
「ここでも作るか? 雪だるま」
「――いえ、今日は」
 悪戯っぽく言う表情は、相手の否定を予想していたようなもので。それでも。分かっているなら尋ねなければいいのに、だなんて、綾華の性質をほんのりと知っている航が口にすることはなく。
 現実離れしている、花と雪の舞う地。氷柱の中に芽吹くいのち。
「ね、見ました? 不思議な景色ですね。永く続くものじゃないでしょうけど、そういうものに、人は美を感じるんでしょう」
 竜が芽吹かせたこの春は、数日後には――もしかしたら明日には、以前の寂しい冬景色に戻っているかもしれない。
 君もそう思う? 降る雪を手のひらに、すぅっと溶ける様子を見つめながら問う航に、答えようとする綾華の手には花びらが一枚。
「――俺はさ、花は等しく、美しいと思う」
 例えそれが、永遠を約束された花であっても同じ。
「それは、どうゆう……」
「なあ、航ちゃん。 絵、描いてよ」
 航の問いを遮るように、目を細める。舞い落ちた花弁を掬って、ふわりとそれを放ってみせた。ひらひら、ひらひら、視界を遮る、鮮やかな色。
「わ……」
「航ちゃんにこの世界がどうみえてんのか、教えて」
 ……まあ、構いませんけど。淡々と返すように見えて、少しだけ色が灯ったように見えた瞳に、綾華は笑う。例えば美しい景色が、儚いものであるから美しかったとしても。彼女が描く、消えることのない永久のキャンバス上の世界も。
 ――きっと美しいに決まっていると。そう、思うから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
春をさがしにおいでって伝えるね
かわいい兄妹に
まずは自己紹介

一緒に行こう
アヤカも行こうっ

なにいろが好き?
二人の笑顔を近くで見られたらうれしいな

二人の好きな色の花をいっしょに探して
アヤカはなにいろが好き?
じゃあ、だれが最初にみつけられるかっ

もし好きな色を聞かれたら
うーん、て考えて
聞いてくれた相手の目の色を答えるね

わたしね、きれいな色が好き

冠にすることはできないけど
お花に囲まれて笑ってるアーニャはおひめさまみたい
よろこんでくれてよかったね、アルセニー

蒲公英があったら
アヤカ見て見て
グラスアボラスといっしょに咲かせたんだよ

あっ
綿毛
あったかい部屋の中で育てたら咲かないかな
包んで二人にも渡すね
咲いたらいいな



『春をさがしにおいで』
 春の竜との戦いを終えた後。少年とその妹、そして町の人間に声をかけて、この樹氷に招いたのはオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)だった。「いいの?」と首を傾げた少年に、オズは答える。もう、だいじょうぶ。彼らを傷つけるものは、樹氷には存在しない。そこにあるものは、彼らがゆめにみた、やさしい世界だけ。
「こんにちは。わたしはオズ、それからこっちはおともだちのアヤカ!」
 しゃがみこんで二人の目線に合わせてから。何故かとなりの綾華の紹介までして、ちょっぴり得意げだ。
「あ、さっきの……えっと、おれはアルセニー。ほら、アーニャ」
「こんにちはっ。おずとあやかは、おにーちゃんのおともだち?」
 三つ編みをゆらして、へらぁと笑いながら小首を傾げる。アルセニーは彼らに助けてもらったことを思い出して、少しだけ照れくさかったのか。頬が染まっていたのはきっと寒さのせいだけれど、首に巻いたマフラーをきゅっと持ち上げて口元を隠した。それでも妹の問いには、こくんとひとつ頷いて。
「ねえ、よければいっしょに行こうっ」
「いくっ、いこ。おにーちゃん!」
「わ、アーニャ、そんなに慌てなくても」
 オズとアルセニーの手を取ってぱたぱたと駆け出す少女。可愛くって、楽しくって。ふふと目を細めながら振り向くオズは、綾華へと手を差し出した。
「アヤカ、アヤカも行こうっ」
 振りほどかれることなんて考えてもいないふうに、自然とその手をとるのだ。
 仕方のないやつ。綾華も笑う。そして四人で、あの花の絨毯へ向かう。
「きれい、きれいだねえ!」
 雪上に敷き詰められるように咲いた花畑。氷瀑の色彩。見渡す限りの春。夜空に光る一等星のように、瞳を瞬かせる妹につられ、兄もその景色を映し感動したようにわぁっと口を開けた。
「ねえ、ふたりはなにいろが好き?」
 オズの問いに、少女はむむと考え込むようにして。
「……いっぱいすきなのあるけどねえ、いまはむらさきいろ!」
「おれもアーニャと一緒」
 それじゃあ、その色を探そう! だれが最初に、みつけられるかな? 競争だなんて言えば、みんなで花畑と戯れるようにして。最初にその花を見つけたのは、オズだ。だけれど――。
「わたしはこっちを探すから、アルセニーはあっちを探してみたらどうかな?」
 必死にその色を探すアルセニーの背中を押すように。
 お目当ての色を見つけた少年は「みつけた!」と、今までで一番嬉しそうに笑った。
「お、スゲーじゃん」
「わああ! おにーちゃん、すごい! きれいだねえ」
 その花だけではとても冠にすることはできないけれど。花に囲まれて笑う少女はお姫様みたいで。その隣にいる少年は、彼女をエスコートする騎士のようだと。
「よろこんでくれてよかったね、アルセニー」
「……うん。なあ、オズは、何色がすきなんだ?」
「わたし? わたしはね、ぴんく色が好き。――きれいな色が好き」
 オズの言葉にアーニャはにぃと歯をみせて笑う。その色は、アーニャが大好きな兄の瞳と同じ色。
 ――あーにゃも、ぴんくいろ、すき! きれーだもんね。
 オズは頷いた。嬉しそうなアーニャをみれば、自分の心にも春が芽吹いていく。アルセニーの気持ちが、少しだけ分かったような気がした。それから。
 それじゃあ、今度はぴんく色。オズの好きな色を探そうと提案する兄妹に、ふたりの優しさにまた嬉しくなって。
 ――ぴんく色を探す中、見つけたのは小さな黄色の群生。
「アヤカ、みてみてっ」
 これね、グラスアボラスといっしょに咲かせたんだよ。ぺたりと膝をついて、愛おしげにそれを眺める。
「――なんか、そっくりだな」
「……そっくり?」
 ふと、表情を和らげ、零れて落としてしまった言葉。嗚呼、そう。これは内緒だった。勘違いをさせたままでも、心が痛むことはない。「いや、何でも」と小さく首を振れば、「そう?」と気にしない様子で笑う。だってほら、小さく綻ぶその姿は、やっぱりそっくりだから。
「――ふふ。あっ、綿毛。あったかい部屋で育てたら咲かないかな?」
「大切に育てたら、咲くでしょ、多分」
 自分のためにと、いっしょうけんめいになってくれるあの兄妹たちの為に。咲いてくれたらいいなぁと、思う。その綿毛を優しく摘み取って、大切に包んだ。
 ――ふたりの部屋に、小さくとも優しい春が芽吹きますように。
 そう、願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
ジナ(f13458)とキトリ(f02354)と
ひとりでは勿体無いじゃろ?と誘って
もし、クラウン君(f03642)の姿を見かけたら手をふって挨拶を

は~、これはすごいの!
氷の中に閉じ込められた花々よ
年中の花をこうも一度に見られるとは眼福
ジナとキトリはどの花が好きかの?
わしはのー、全部好きじゃ!

お、そこのネモフィラはなんだかキトリみたいじゃの
そっちのデルフィニウムはジナじゃ
…なれらふたりとも青いの。おそろいのようで似合いじゃ

うん?わしは薔薇かの?梅?
それは……わしがイケメンじゃといっとるのじゃな(キリッ)(ざんねん)

ふふ、わしもなー、なれらと一緒をちゃんと覚えておくんじゃよ
またどこかいこうなぁ、皆で


ジナ・ラクスパー
嵐吾様(f05366)、キトリ様(f02354)とご一緒に

こちらにいらっしゃいませんか?
花のお姫様のようなキトリ様を肩にお招きして
ふふふ、お揃いなんて光栄なのです

大きなひまわりは小さなお姫様の椅子のよう
嵐吾様はれっきとした大人の男性なのですが…つい
愛らしい梅を二輪ほど添えたくなるのです
どのお花も好きですけれど、似合うといわれた青い花が嬉しくて
帰ったらきっと名前を探しますね!
キトリ様の銀糸のような髪には紫陽花にヤグルマギク…ううん
悩む時間も楽しいのです

氷に閉ざされた四季の花たち
秘密の花園が春まで留まることはないけれど
この心には、春を越えてもずっと

お連れくださってありがとうございますね、嵐吾様


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)とジナ(f13458)と

氷の中に咲く花って不思議な光景ね…
ジナの肩に留まって、一緒に散策!

どの花もきれいだって思うけど
あたしはあのおひさまみたいにきらきらしてる大きな向日葵!
ジナにはやっぱり青い花かしら?
お花の名前は詳しくないけど、あれなんてどう?(ブルースターを指さして)
髪に飾るなら、もっと明るい色のお花が似合うかも?
うん、こうして考える時間はとても楽しいわ!
ふふん、お揃いで可愛さも二倍でしょ(えっへん)
嵐吾は…薔薇…の華やかさも似合いそうだけど、梅の落ち着いた感じかしらね

いつか氷が溶けて花が消えても
ここに咲いていた命の息吹を、二人と一緒に見た花を
あたしは覚えていたい



「は~、これはすごいの!」
 氷柱に咲くもの、雪の上を埋める彩り。春の竜が作り上げた、四季折々の花々を視界に、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は感嘆の息を漏らした。年中の花をこうも一度に見られるとはなんと眼福なことか。友人たちと共にその景色を楽しもうと向いた先、見知った顔をみつけ、お疲れ様じゃのー、と手を振れば。ぶんぶんと無邪気に手を振り返すモノクロのピエロが、お互い楽しもうね! と駆けていくのを見送って。
「こちらにいらっしゃいませんか?」
 花のお姫様のように愛らしい姿の妖精、キトリ・フローエ(星導・f02354)を招いたのはジナ・ラクスパー(空色・f13458)。それじゃあ、お言葉に甘えて。ステンドグラスのように鮮やかな翅で宙を舞い、ひょいっとジナの肩に舞い降りてみせる。そんな微笑ましい様子に嵐吾は微笑んで。さて、と雪を踏み歩く。三人で、この冬の地の春を味わおう。
「ジナとキトリはどの花が好きかの? わしはのー、全部好きじゃ!」
 嵐吾は問うた後、その整った風采に似合わないくらい懐っこい言葉を口にする。
「どの花もきれいだって思うけど、あたしはあのおひさまみたいにきらきらしてる大きな向日葵!」
 ひらひらと舞う花を指先で撫で戯れるようにしてから、ぽすんと降り立つ眩しく美しい花。キトリが座れば、花は忽ち童話に出てくるようなお姫様の椅子のように思えて、ジナは金色の瞳を柔く細めた。
「お、そこのネモフィラはなんだかキトリみたいじゃの。そっちのデルフィニウムはジナじゃ」
「そうね、ジナにはやっぱり青い花かしら? お花の名前は詳しくないけど」
 ――あれなんてどう? そう指さしたのは小さくも、淡い青の星が集まったような姿をしたブルースター。でも、髪に飾るなら、もっと明るい色のお花が似合うかも? なんて思ったりもして。
 ジナも嵐吾と同じように、どの花も好きだと考えていたのだけれど。
 二人に似合うと言われたことが、とてもとても嬉しくて。
「帰ったらきっと、名前を探しますね!」
 柔い花弁の重なり合うデルフィニウムと、小さな星の集ったそれ。ふたつの青い花はジナにとって今日から特別なものになる。
「キトリ様の銀糸のような髪には紫陽花にヤグルマギク……ううん」
 睫毛を伏せて、矢車のように広がる花びらが特徴の菊を撫でた。
 嗚呼、でもやっぱりあの花も、この花も。
 ――そんなふうにとても悩ましいけれど。
「ふふ、悩む時間も楽しいのです」
「うん、こうして考える時間はとても楽しいわ!」
 この色が似合いそうだとか、この形が愛らしいだとか。花言葉まで考えたりすれば、もっと幅は広がってゆく。それでも、だから楽しい。彩りの花と、大切な友人達に囲まれて。
「なれらふたりとも青いの。おそろいのようで似合いじゃ」
「ふふん、お揃いで可愛さも二倍でしょ」
 えっへん。と愛らしく両手を腰に当てて見せるキトリに、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「そうゆう嵐吾は……薔薇、の華やかさも似合いそうだけど、梅の落ち着いた感じかしらね」
「うん? わしは薔薇かの? 梅?」
 こてり、こてり。どっちじゃろ? と首を傾げる。
「嵐吾様はれっきとした大人の男性なのですが……」
 つい、愛らしい梅を二輪ほど添えたくなるのです。
「それは……」
 ふふふふ。顎に手をやりながら、ふわりと得意げに揺れる尾。
「わしがイケメンじゃといっとるのじゃな」
 なれらは分かっておるな!
 顔は良い。顔は良いのだ。だけれど、その発言がどうにもいけない。
 黙っていればその言葉の通りなのに――。

●この春は記憶となって
 好きな花を探したり、似合いの花を探し合ったり。そうしてあの春の竜が芽吹かせた、本当は存在してはいけなかった景色の中でジナは告げる。
「お連れくださってありがとうございますね、嵐吾様」
「此方こそじゃ。なれらと一緒に来れて、楽しむことが出来た」
 在るはずのなかった景色の中で、キトリは願う。
「ここに咲いていた命の息吹を、二人と一緒に見た花を。あたしは覚えていたい」
「ふふ、わしもなー、ちゃんと覚えておくんじゃよ」
 いつか氷が溶けて花が消えても、ここに咲いていた命の息吹を、三人で一緒に見た花を。
「またどこかいこうなぁ、皆で」
 どこからか、舞い降る梅の花びらが、嵐吾の灰の髪へと落ちた。それに気づいたジナが手を伸ばすようにすれば、嵐吾は不思議そうに目を細め、屈んでみせる。

 氷に閉ざされた四季の花たち。
 秘密の花園が春まで留まることはないけれど、この心には春をこえてもずっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月17日


挿絵イラスト