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灰時雨

#サムライエンパイア #戦後 #俺たちの宿敵シリーズ

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#戦後
#俺たちの宿敵シリーズ


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 里を渡る長い山道には、人目の寄り付かぬ脇道がある。
 人知れぬ神社に繋がるというその道を見つけたものは幸いであるという。
 その道を見つけた行商の一団の中には、噂話に明るい者が居た。
 第六天の魔王を自称する信長の乱が治まって久しく、天下は泰平の世へと流れ始めていた。
 長く続いた戦国に傷ついた人々の営みは急速に繁栄の兆しを見せ、流通を担う商人は、西へ東へと奔走する日々が続いている。
 運ぶ物資は日を追うごとに増え、行商とて人手を集って山も越えるも珍しくはない。
 人手も増えれば懸念も増すというもの。
 ひと気はないが、静かで厳かにも感じる神社に、商人たちは旅路の無事を願うのだ。
 年が明けてはや一か月。雪に混じって梅の花が舞う境内には残雪がいくらか目につくのみで、人の気配は感じられなかった。
 こんな場所を訪れるのは、よほど目ざといか、隠れ潜む者のみであろう。
 いつしか、体を休めていた商人たちは、編笠の一団に囲まれていた。
「……荷を、置いていって貰おう。その首ごとな」
 化外の者たちは、件の信長軍の討伐を境に数を減らしている筈であったが、全く消えたわけではない。
 逃げ惑う商人。追う編笠衆。
 一人、二人と、凶刃に倒れる中、最後の一人となった商人は、追い詰められた瀬戸際に、女の声を聞く。
「──」
 声、というよりかは、言葉ならぬ歌を口ずさむものであった。
 後一手というところまで追い詰めた手を止める編笠が振り向くより早く、目深にかぶった笠が首ごと落ちた。
「──」
 風を切る一閃に遅れて、白い髪が靡き、石畳を踏む素足がじゃりと音を上げる。
 白い鬼だった。
 残雪の中ですら映える美しい白い女の鬼が、身の丈ほどもある刀を肩に担ぎ、
「ふふふ」
 鈴を転がすように微笑めば。
 いつしか、白雪は霙に変わり、緩やかに境内を灰色に染め始めていた。

「サムライエンパイアには、猟書家のお話もありますが……今回は、別件のようですね」
 グリモアベースはその一角にて、グリモアによる予知の話をする刹羅沢・サクラ(灰鬼・f01965)は、いつもよりも歯切れ悪く、なにか考えながら話す内容を思案しているようであった。
「皆様も知っての通り、信長軍無き後も、サムライエンパイアにはいまだ数こそ減りましたがオブリビオンの脅威が残っております。
 今回は、行商の一団が立ち寄った山奥の神社で、編笠をかぶった化外の者に襲われるようです」
 行商は5人ほどで、それを囲うほど編笠衆はある程度の規模を持っている。
 当然、戦う術を持たぬ行商は、猟兵の介入がなければなすすべなく殺されてしまう。
 ところが、そこへ更に乱入してくるオブリビオンは、行商どころか編笠衆すら構わず斬り殺してしまうらしい。
「羅刹の白い鬼。恐らくは、噂に聞くばかりの刹羅沢の白鬼、それに間違いないと思います」
 その戦いぶりに、サクラは覚えがあるようで、少しの逡巡の後、彼女の苗字ともなっている郷の話をはじめた。
「あたしの故郷、刹羅沢に今はもうあたし以外の羅刹はいませんが、かつて『刹羅沢の鬼』といえば、白鬼の事を指していました」
 刹羅沢の鬼は、本来、名を持たない。戦に於いて優れた功を上げた者にのみ、色が授けられるという。
 灰の色を持つサクラをはじめ、色持ちの鬼は数あれど、音に聞こえし『刹羅沢の鬼』はただの一人きり。
「伝説に謳われるのみの白鬼が現れたのは、あたしが最後の刹羅沢の鬼となったからかもしれません。本来であれば、あたしがつけるべき決着なのでしょう……」
 しかし、グリモアによって見た予知に当人が介入することは許されない。
 また、因縁を持つ当人が介入できない以上、かの白鬼を完全に討伐することはかなうまい。
「あたしが予見しておきながら、その場に行かれぬことは本当に歯がゆい事。この因縁に皆様を巻き込んでしまうことも、心苦しい事この上ない」
 刀の柄を掴むサクラの手が、力み故に白みを帯びる。
「しかし、皆様であればこそ、かの白鬼を確実に倒せることでしょう。あたしはそう信じています」
 そして、切り替えるように一度瞑目すると、現場の仔細へと移る。
「今回、舞台となる神社は、鬼払い、すなわち厄払いの御利益があるそうです。予知の時分までは余裕がありますので、詣でてみてはいかがでしょうか。
 この場所で鬼を倒すことにより、本当の鬼払いとなることでしょうし」
 行商や編笠衆がやって来るよりも前に、猟兵たちのみで遅めの初詣というのも悪くないかもしれない。
 それが終われば、行商が到着し、編笠衆が襲ってくるようである。
「あの鬼は、戦の気配を察知し、最後にやってくるはずです。編笠衆と戦っていれば、いずれ顔を合わせることになるでしょう」
 そして一通りの説明を終えると、サクラは猟兵たちを送り出す準備に取り掛かる。
「化外に堕ちた以上、彼の者は敵。遠慮などなく、どうぞ倒してください。……母を」


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 なかなか採用されないなら自分で宿敵を採用しよう!
 と思った矢先に、フラグメント採用されてしまったので、慌てて作りました。
 一度くらいは、自分の手で脚光を浴びせてあげたいメアリー・スーまっしぐらでございますが、そんな感じで猟書家シナリオでもなんでもない、普通のサムライエンパイアのシナリオです。
 今回は日常→集団戦→ボス戦というシナリオフレームを使わせていただいております。
 最初は神社の参拝。そこへ編笠衆が行商を襲いに来るので倒しましょう。その次はボス戦ですので、倒してください。
 色々意味深に語ってはいますが、いつもよりも宿敵に対して色々好き勝手出来る以外は、普通のシナリオですので、気兼ねなくご参加くださいませ。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 日常 『祈りを捧げて』

POW   :    今年の抱負を語る

SPD   :    今年の抱負を思う

WIZ   :    今年の抱負を唱える

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

紬雁・紅葉
そう、これは
鬼やらいの追儺の儀…

幽か笑み

鬼が鬼を祓う…まるで戯れ言葉のよう
ですが、"剣神"の巫女として
御鎮めします

礼儀作法降霊を以て祓え御参り

そして一心に祈るうち
『宿敵』
ふと浮かび上がる顔

『森の酒鬼…彼奴、今もどこかで穢れを撒いて居るのか…?』

一息、息吹

惑うべからず
揺らさず斬る

『彼奴が私を求める以上、何れ出会うは必定。その時に逃さず逸らさず斬り祓う』

『母子が敵手として打ち合う…何と哀しき宿業』

一筋、涙

『ええ、布都主。承知しております。先ず刹羅沢の白鬼、並の手合いではない。故にお召しに相応しい…かならずや、御許に…』

柏手、一拍

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



 はらはらと風の隙間を縫うような、音なく落ちる音がはるか遠くに聞こえるかのように。
 山奥にぽっかりと浮き上がったかのような形で、さびれた神社があった。
 衣羽とささやかに記された札があるばかりで、人の参拝も絶えてしまったような寂しさを感じさせる古びた鳥居をくぐれば、冬間の褪せた色合いの林の中に、視界の開けた境内は眩しくすら映った。
 山の奥と感じさせない日当たり。
 なるほど、敷地を囲う様に植えられた梅の花が映えるわけだ。
 日の当たりは、晴れていればもっと眩しく見えたろうか。
 薄く広く雲のかかった空からは、身を締めるような肌寒さを形で物語るかのように粉雪が舞っていた。
 山中だけあって、冷え込みはなかなかのものだが、粉雪に混じる梅の花弁は、情緒を感じさせる。
 少し前まで戦乱の最中にあったとは思えぬ静けさ。
 人も魔も感じさせぬ。自然に埋没しつつある孤独の世界。侘しさ。
 なんとも小規模ながら、静謐さとほんの少しの懐かしさからくる居心地の良さを覚えたのか、紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)は、拝殿へと至る石畳に浮島の如く残る雪をさり気なく避けながら、口元にかすかな笑みを浮かべる。
 そして目前の賽銭箱やらを目にして、ふうと息をつく。
 参拝客として詣でるべきか。
 しかしながら、紅葉は戦巫女。その出生はともかくとして、剣神を奉る御社のあった山に住まっていた。
 ここへ無病息災を願ってやってきたわけでもない。
 かの白鬼を討つべく、依頼を貰ってやってきたのだから、願いでなくてもいい。
 とかく、巫女という性分が、ただの神頼み、されど神頼みを許しはしない。
 そう、これは、鬼やらいの追儺の儀……。
 神職に携わった者が捧げるのは、願いではなく、祈り。
 今の紅葉からすれば、それは誓いともいえる。
 口の端からふっと息が漏れる。別に、不真面目なつもりはなかったが、羅刹として角を戴く身から、鬼払いなどと。
 言うなれば、鬼が鬼を祓うというようなものだ。それがすこしおかしくて、自嘲気味の笑みが漏れた。
 それもひと時の事。
 周囲の雪を払い、神前に捧げるが如く神妙な振舞いで以て、“剣神”の巫女として精一杯の礼を参る。
 無心に、深く深くその身を沈めるように礼を奉納する祈りの中に、ふと夢中に至る筈の脳裏に、影がよぎる。
 不吉な赤く黒い人影。その姿を、紅葉はどこか懐かしくも思い、近づきがたい気持ちも同時に抱く。
「森の酒鬼……彼奴、今もどこかで穢れを撒いて居るのか……?」
 細く鋭くなる目元が、夜気のように冷たく侍ろうと舞う梅の花びらを弾いたかのようにも見えた。
 脳裏の奥でこっちに来いと誘う幻が、紅葉を揺るがそうとする。
 瞑目し、ゆっくりと息吹。
「彼奴が私を求める以上、何れ出会うは必定。その時に逃さず逸らさず斬り祓う」
 奉じるが如く両手に乗せた古い拵えの古い剣。
 紅葉の半身ともいうべき剣を、握りしめているわけでもないのに、剣呑な気配を帯び始めたのを鎮める。
 惑うべからず。
 揺らさず斬る。
 鎮めた己の心が、やがて水鏡のように静かになっていくと、今度は別の鬼の姿を脳裏に浮かべる。
 白い髪。黒曜石のような二本角。蛇を思わせるようなちょっと変わった目つきは、体格こそ異なるが、グリモアを手に此度の依頼を案内するあの猟兵と似ていた。
 彼女がどのような存在であるのか、詳しく聞く暇はなかった。
 彼女が意図して最後に母と呼んだそれが、どれほど前の人物なのか、知ることもないだろう。
 ただわかるのは、予知を見る限り、あれとわかり合うのはもはや不可能であると云う事。
 暴力と血の気配しか感じない、恐るべき鬼。討つべき鬼。ああしかし、
「母子が敵手として打ち合う……何と哀しき宿業」
 その頬には、いつしか涙が伝っていた。
 人の宿命には、いつだって悲喜劇がついて回る。
 喜びばかりならいいのに。同じかそれ以上に、過酷を強いるのが命の法則なのだろうか。
 ならばせめて、その一端でも担うが、神職たる役目ではないのか。
「ええ、布都主。承知しております。先ず刹羅沢の白鬼、並の手合いではない。故にお召しに相応しい……かならずや、御許に……」
 紅葉が奉じるは、あくまでも剣の神。そして彼女は神職なれど、その身は羅刹。
 一拍、打ち鳴らす手に熱を感じるその横顔は、静寂に微笑んだものとは別の笑みが浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泡夢・雪那
他PCとの絡み◎
アドリブ◎

あらかじめUC【夢現】を使って未来を見ておくつもりだ
尤もそれは『私が望む』ようなベクトルの掛かった信用ならない未来だが
私は夢予知と呼んで愛用している

●夢現のうちに

神社に参れば、同行者はおらず私一人か
それでいい、頼りとするは己のみと決めている
それに他人と無駄話を交わすのも苦手だ

参拝に作法がある事は知っている、それに則るとしよう
だが祝詞の奏上については知らないな
神頼みにする事など無いのだが、無下に断る理由もなし

●今年の抱負

この身は未熟だ、猟兵活動を通じて武の道に邁進しなければならない
今回はその手始めとなるだろう

●夢現から覚醒後

夢現のうちに見た未来を参考に行動するつもりだ



 灰色の雲行きに白い雪がちらついて、頬を冷たくさすような風に乗るのは、薄紅を帯びた梅の花びら。
 日も高い時刻のはずだが、あいにくの天候もあって、足を運んださびれた神社の境内はひどく閑散とした印象を覚えた。
 泡夢・雪那(夢魔皇姫・f32415)が訪れているのは、そんな、誰の形跡もない神社である。
 黒いパンツスーツ。黒川の手袋。色白の肌と真っ赤な瞳以外は黒で統一した服装は、さながら仕事の出来そうな社会人のようでもあるが、一般的な社会人が普段使いするには、少々値が張りそうな着こなしでもあった。
 生真面目な性格を表すかのような、仕立ての行き届いた折り目の綺麗なスーツを着込む雪那は、これでもさる魔王の血脈である。
 【夢現】を自在に操るというその潜在的な能力を用いれば、未来予知に近い芸当もかのうであるというが……しかし、まだ若い方であるらしい彼女の能力は、未だ発展途上。その力は、あくまでも自分にとって都合のいい先の未来を見せるにとどまる。
 さて、それはそうと、人影のない神社にやってきたはいいが、作法やそれに連なるあれこれにそれほど詳しいわけではない。
 真面目に予習してくるべきだったかもしれないが、しかし情報にあふれる現代でこそ、何が正しいのか精査するにも労力と時間がかかろうというものである。
 幸いにして他の猟兵とかち合うようなことはなく、自分ひとりらしい。
 下手を打ったところで笑う奴はいないだろう。
「それでいい。頼りとするのは、己のみと決めている」
 なまじ魔王という巨大な存在が身内にいるならこそ、その子供である自分はそれ以上に邁進せねば。
 それに他人と無駄話を交わすのは苦手だ。
 決して、箱入り娘などと言わせはしないし、コミュ障などという謗りを許すつもりはない。
 話が逸れかけた。
 余計なことはいい。
 誰か来る前に、参拝を済ませてしまおう。
 山登りでわずかに弾んだ呼吸を整えるかのように一つ深呼吸を行うと、作法に則って二礼二拍手一礼、という具合に手早く卒なく参拝を済ませる。
 二礼二拍手一礼という作法に至るにも、割合長い歴史があったりするのだが、そんなものはこの際関係ない。大切なのは、正しい作法を礼を持って行うという気持ちの問題だ。
 真面目な性格をしているからこそのこだわりであった。
 ただ、祝詞の奏上など、そこまでいくとよく知らないし、そもそもそこまでやっていいものか。
 そもそも身一つで戦うことを決めた雪那からすれば、神頼みというのも本来は必要性を感じないものでもあった。
 しかし考え方を変えてもみる。
 これは誓いだ。
 抱負を抱き、敢えて口にすることで、曲がらず進む意思とするのだ。
「この身は未熟だ、猟兵活動を通じて武の道に邁進しなければならない。
 今回はその手始めとなるだろう」
 見ていろ。と、握りしめた拳を突き出す。
 ぞわ、と。背後におぞましい気配。
 とんでもなく恐ろしい、巨大な敵の気配が迫り、雪那の背筋を凍らせる。
 もう来たのか。ちょうどいい。
 振り向きざまの拳を一閃。いわゆるターンパンチというやつだ。
 雪模様を切り裂き、振り抜いた拳が空に舞う花びらを捉え、小さくはじける。
 ──と、そこまで夢想したところで、手からあふれる雲のような魔法の霧が、現実へと引き戻していく。
 ここまでの行動は、彼女のユーベルコードによって見た都合のいい未来、夢予知の範疇であった。
 拝殿に背を向けて拳を突き出した姿勢のまま、頬を汗が伝うのを感じる。
「……気負い過ぎかな。でも、夢現の中ですら、あれほどの気配か……油断はできないな」
 まだ見ぬ鬼の気配。その予感だけを肌身に感じながら、戦う価値のある相手かどうかをシミュレートしていく。
 これは誓いだ。
 この程度で、止まってなどいられない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天道・あや
うし!それじゃあ、サクラさんの分まで、頑張るとしましょう、今回は!

…でも、その前にー、本番で力みすぎないよう、リラックス等を兼ねて、神社で参拝させて貰いまショータイム!

えーと、まずはお賽銭を投げて…これで大丈夫だよね?(UDCアースの硬貨を投げる)

で、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼

えー神様、仏様。今年も皆が未来へ踏み出せるよう、良かったら背中を軽く押したりして下さい

勿論、あたしも押しますが、一人より二人の方が効果UPしそうですし
それにどっちかっていうとあたしは前から引っ張るタイプだし

それともう1つ図々しいですが、お願いがあります

サクラさんがお母さんの背中を乗り越える際に無事、帰ってこれますように



 山中の神社には人影もなく、あいにくの雪模様だったが、雲が薄いのか比較的明るく感じる。
 冬の色の褪せたような、山眠る中にあって、唐突に開けた境内にはうっすらと色づいた梅の花が咲いており、それが明るく感じさせるのだろうか。
 それとも予知に見た鬱々とした惨劇の光景を見た後だからだろうか。
 粉雪と梅の花弁が舞う神社の様子に、天道・あや(目指すぜ!皆の夢未来への道照らす一番星!・f12190)は晴れやかな心持であった。
 猟兵として活動する内であっても、地道なアイドル活動の地盤もあってか、その交友関係は広い。
 依頼者であるサクラとも、まぁ浅からぬ付き合いがあったりなかったりするわけで、その宿敵の出現ともなれば、手を貸さずにはいられなかったのだろう。
「うし! それじゃあ、サクラさんの分まで、頑張るとしましょう、今回は!」
 鳥居をまたいだところで、見回した境内の雰囲気にわくわくしたものを感じなくもないが、それはひとまず置いておいて、雪もちらつく中でふーんす! と鼻息荒く意気込めば、白い呼気が生まれては霧散する。
 別に丑年だから特有の気合を入れたというわけではないが、敢えて今回はと念を押したのは、彼女なりの抱負を持っての事だろうか。
 とまあ、そのままずんずんと歩みを進めるところで、自分でも気負い過ぎていると感じたのか、拝殿にまでたどり着いたところで、あやはすうっと深呼吸。
「……でも、その前にー、本番で力みすぎないよう、リラックス等を兼ねて、神社で参拝させて貰いまショータイム!」
 リラックスと言いつつ、かえって意気込んでしまうのは、もはやご愛敬。
 うっかりしたものでユーベルコードまで発動してしまったが、物の弾みで呼び出してしまった【魔王軍(バンドグループ)!デスメタロック団!!】の面々は、主である魔王(この場合はバンドリーダーであるあやのこと)に召致され、気合の入ったメタルな衣装に楽器をひっさげて出てきては見たものの、どうやらここは録音スタジオでもステージでもないらしいことに困惑しているようだった。
「ああ、ごめんごめーん。まだ出番はちょっと先かも。あ、でも、どうせだから、皆さんも一つお参りしていきましょう」
 申し訳なさそうに、しかし明るい表情で魔王軍四天王の皆さんも一緒にと、参拝を促してみる。
 あや本人に自覚はないようだが、魔王と崇拝するリーダーからのお誘いを無碍にするわけにもいかない。
 悪魔が神に祈るというのも奇妙な話だが、バンドメンバー皆で願掛けというのも実に青春である。
 ちなみにどうでもいいが、楽器をひっさげてとはいうものの、ドラム担当はドラムセットを持ち歩くわけにもいかないので、スティックだけを手にしている、メタルのPVでよく見かけるちょっぴりシュールな状態である。
 ダサい? かっこ悪い? メタルのPVはダサい方がいいんだよ。(デスメタロック団はポップバンドです)
 それはともかくとして、悪魔の皆さんに率先して参拝の一例となるよう、あやは頭の片隅に残っている参拝の作法の知識を引っ張り出す。
「えーと、まずはお賽銭を投げて……これで大丈夫だよね?」
 と財布からUDCアースでおなじみの五円玉を取り出し、ふと世界が違うことに思い至るが、まあそんなことを言い出したら悪魔の皆さんは共通通貨のDとか使い始めそうだから、間を縫って一括ということで構わず硬貨を放って、鈴を鳴らす。
 二礼二拍手一礼。と、わざわざ口に出してゆっくりと行えば、四天王の皆さんもそれに倣って参拝を終える。
「えー神様、仏様。今年も皆が未来へ踏み出せるよう、良かったら背中を軽く押したりして下さい」
 なんともシュールな光景だったが、これもまた青春。
 無論、今回の目的はそれだけではないのだが。
 魔王たるあやの抱負に、本人のあずかり知らぬところで四天王の皆さんはじーんと胸を熱くする。
 その心根の優しさばかりでなく、その胸の内をある程度は知っているからだろう。
 もちろん、あやの人間性、明るい彼女のことだ。本人もその誰かの背中を押すことを積極的に行うだろうし、引っ張ってもくれるだろう。
 音楽で通じ合った仲間には、それがわかるのだろう。
 気軽に何でも欲しがるのでなく、勇気を求める辺りが実に彼女らしく、そしてアーティストは貪欲にも更に願いを述べる。
「それともう1つ図々しいですが、お願いがあります」
 なんと貪欲な。罪深い……さすがはリーダー。などと、よく聞こえない称賛を浴びる中、あやは今度こそ言葉には出さず、今年ではなくこの先の事を願う。
(サクラさんがお母さんの背中を乗り越える際に無事、帰ってこれますように)
 今、この先、これからこの場所で出会う彼女のことでなく、かのグリモアを手にした猟兵が、別の機会にあの白鬼に遭遇した時、無事に帰ってこれるように。
 また、あの怪物と同じものにならず、無事に帰ってこられるようにと。
 願わずにはいられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロス・フレイミー
神社への御参りは…放浪生活中に一度訪ねたきり、のような気がします。

たしか参道の真ん中は通ってはいけないんですよね。聞いたことがあります。
そして、ええと…手水所で清めて…本殿の前に行って…お賽銭を入れてから…鈴を鳴らして…二礼、二拍手、一礼でしたっけ。

…よし。
(心の中で『大きな怪我なく、無事に過ごせますように』と祈る。)

…こういう場所での参拝は心が落ち着きますね。



 山の天気は変わりやすいときく。
 明るい薄い雲からちらつく粉雪も、気分次第ではより暗くもなるだろうし、雪の雨脚も強くならないとも限らない。
 自然現象の大きなうねりというものは、やはり簡単には予想できるものでもなく、気まぐれという言葉が似合うのだろう。
 そしてそれは、クロス・フレイミー(狭間の剣士・f31508)もまた同じような気まぐれも手伝って、この場を訪れたとしても何ら不思議はなかった。
 いや、或は、何か望みを向けての旅路であったろうか。
 神社の境内は静かで、粉雪の降り積もる音すら、梅の花弁が風に泳ぐ音すら聞こえるかのような静けさだった。
 まさか、これより先にこの場で、オブリビオンによる殺戮が巻き起こるなどとはとても思えぬほど穏やかな静寂がそこにはあった。
「たしか参道の真ん中は通ってはいけないんですよね。聞いたことがあります」
 鳥居の脇を通るようにしてくぐる。
 たしか、鳥居やそれに連なる参道というのは、神の通り道と言われている。
 それゆえに、参拝に訪れるならば、その道をあけて通るべきという話を、どこかで聞いたことがあった。
 別に卑屈になったわけではない。
 クロスのその生まれは少々特殊であり、自身の成り立ちを半端と思わなくもないが、こうして生れ落ちて両親亡き後も、なんだかんだと放浪しながら生きている。
 人生に荒波を望んだわけじゃないが、左右で色の違う瞳や堕天使の翼は、嫌でも目立つし、平凡な装いを心掛けたとしても、猟兵という選ばれた存在に選定されてしまっては、ある程度の苦労は望むと望まざるもなく降りかかってくる。
 そんな現状に諦観というわけではないが、成人する前にしては枯れ気味の落ち着きを身に着けてしまっているのは、傍から見たら人生を損しているように見えるのかもしれない。
「ええと……手水所で清めて……本殿の前に行って……」
 手水屋はどうやら見当たらない。この工程は省いてもいいかもしれない。それとも井戸でも探すべきか。
 まあいいか。
 がらんとした拝殿を前に、賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らすと、いかにもさびれた神社らしいノスタルジックな気分になる。
「お賽銭を入れてから……鈴を鳴らして……二礼、二拍手、一礼でしたっけ」
 どこかで聞きかじった知識を掘り起こしつつ、気まぐれと生真面目との狭間で参拝を行う。
 真摯に向き合う気分にもなるだろうし、礼節を重んじる気分にも、この雰囲気ならなるかもしれない。
「……よし」
 言い知れぬ満足感と、『大きな怪我なく、無事に過ごせますように』という普遍的な無病息災を願いつつ、ここから先の命運をさり気なく祈る。
 憂いも気負いもない。心の静けさだけが、寂しさすら感じる程だった。
 風が吹き、粉雪と花弁が舞えば、首に巻いたマフラーが靡き、鞘内のままの刀を握る手が冷える。
 いずれも両親の残したものである。
 生きている者が、亡き者の名残を背負っている間は、その者の心の中に生き続ける。
 だから、こんなところで立ち止まるつもりなど、毛頭ない。
「……こういう場所での参拝は心が落ち着きますね」
 戦いに挑む心意気としては、いささか冷え過ぎたろうか。
 いや、この静けさにはこれくらいがいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
協力、アドリブOK。

神社の静謐な様子は好ましいな。手を合わせて祈ったりはしないが。何故と問われれば、なにせ神というのは気まぐれで、理不尽な死から救うかも分からないものだからね。なれば自らどうにかするものさ。鬼払いとて我が手で成そう。
嗚呼、しかし白を赤く染めるのはとても愉しそうじゃないか。フフッ。
(指先を爪で切れば残雪に血を落とし火を灯す)



 静かな山の、静かな林の囁きの中に、硬質な靴音が石段に刻まれる。
 この世界にはなかなかないロングブーツに、金属を仕込んだ靴音は、敢えて気を遣わずに歩めば、それだけで威圧的な音を立てる。
 それだけに、雪の落ちる音すら聞こえそうな静けさの中では、敢えてその静寂を切り裂くような靴音を鳴らすことで、逆に静けさを実感するものだ。
 ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は、そこが神聖な場所とあっても、その在り方を変えることはないだろう。
 それは、彼女の生まれや育ちに依るところのリアリストな側面がそうであるとも言えるが、安易に神に平伏しない心意気があるからこそ、芯の強さを得ているとも言える。
 その存在を否定するわけではない。
 が、仮にもし、神が人を作りたもうものならば、自分のような異端的な闘争心を育んだ成り立ちを仮にも許したろうか。
 それとも、世界が多彩に増えすぎたせいで、いちいち面倒見切れなくなってしまったのだろうか。
 石の参道には昨夜の積雪が溶け残っており、島のようにせり出ている。
 それらを何ら気にすることなく踏み抜いて我が道が如く拝殿まで歩いていけば、神社本殿はがらんとしていて、やはり人の気配もなければ、ただただ静かな空気だけが漂っていた。
「神社の静謐な様子は好ましいな。手を合わせて祈ったりはしないが」
 呟いた言葉がやけに響いて思えるほどに、ここは静かだ。
 わざわざ神の存在や、その信仰を否定したりはしないが、祈ってやる義理もない。
 何故ならば、なにせ神というのは気まぐれで、理不尽な死から救うかも分からないものだから。
 全知なれど全能ならず。我感ずれど関せず。
 とにかく運命の神というのは、運命に寛容すぎるのだ。
 あらゆるものに喜びと悲しみを得ることを許すだけの存在に、都合よくああせいこうせいとは、虫が良いというものだ。
 目に見えぬもの、この手に手繰れぬものならば、頼る価値はない。
 この手に流れる血潮が、相手の脈動を感じるからこそ、生きている実感があるのだ。
 目に見えぬもの、この手で汚せぬものならば、美しくも醜くもなりはしない。
 その程度の者なのだ。
「なれば自らどうにかするものさ。鬼払いとて我が手で成そう」
 悲劇も喜劇も、自分自身が決める事。
 敢えてこの戦いに目に見えぬ誰かの手など借りぬ。
 今度の相手はどれほどの強敵だろう。
 あの白い鬼は、どれほどの使い手であろうか。
 予知を見ただけでは、まだまだ図り切れぬものもあるのだろう。
 大切に、美しく、葬ってやろうではないか。
 嗚呼しかし、と握りしめる拳の、その爪先が皮膚を裂いて、白んだ手に血が滲む。
 【葬送黒血】その手に浮いた黒い血が残雪に零れ落ちると、雪を溶かすほど赤熱した血液が火を灯す。
「白を赤く染めるのはとても愉しそうじゃないか。フフッ」
 浮かべた笑みに応えるかのように揺れる火の輝きは、彼女の闘争心をそのまま表しているかのようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『編笠衆』

POW   :    金剛力
単純で重い【錫杖】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    呪殺符
レベル×5本の【呪殺】属性の【呪符】を放つ。
WIZ   :    呪縛術
【両掌】から【呪詛】を放ち、【金縛り】により対象の動きを一時的に封じる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちが一足先に山奥の神社に詣でている頃、その神社へ至る古びた参道には、商人の一団がのんびりと歩みを進めていた。
 山道は緩やかではないが、この繁忙期で鍛えられた商人たちの足取りに疲れた様子はない。
 とはいえ、これからの旅も長い。
 いつ、どのような災いが訪れるとも限らないため、この先の神社で旅の安全を願おうというところだった。
「いやはや、此度の行軍も長くなりそうですな、旦那」
「はっは、行軍とは穏やかじゃないねぇ。しかし、泰平の世に於いては商売こそ戦いかもしれんか……まさに、商人の群雄割拠というわけだの。これまでの戦続きじゃ、考えられんほどの平和な戦だが……」
「そういえば、旦那は戦地にも物を売って回ったこともあったとか」
「若い頃の話よ。20年以上も前の事……今も昔も怪物がおったものだが……」
 白髪の混じった初老の商人は、他の者たちよりも年上だったが、若い者にも引けを取らぬ体格をしており、その足取りは誰よりも健脚であるように見えた。
 その実、年をとっても各地を転々と物を売って歩いているような偉丈夫であるその商人は、若い衆の言葉の通り、その昔は合戦場にも出て物を売っていた。
「それでももう、そりゃあ怖くてできん。そういう時代でもないが、あの時、あの戦場で、あの怪物を目の当たりにしてからは……合戦に出ることはやめたのよ」
「旦那にそこまで言わしめるたぁ、よほどの化け物だったんで?」
「お前さん、鬼島津を知っとるか?」
 目を細めてあくまでも朗らかな調子で問う初老の商人の語る武将の名は、若い者でも知っている程の有名武将である。
「そりゃあ、噂くらいは……」
「島津義弘公……彼のお方の武勇はお若いお前さんも知っとるだろうが、その弓の話を知っとるか? 義弘公の弓は、それはもう強い弓で、一つの矢で5人を貫くと言われておった」
 怪物揃いの薩摩武士。その中でも鬼と称えられる者として、商人は敢えて彼を引き合いに出した。
「……わしの見た鬼は、刀のひと振りで5人を斬った。いわば、そういうものを、目の前で見ちまったのよ」
 懐かしむような、子供が不思議な夢を見たときの話でもするかのように語る商人に、他の若い衆は息を呑む。
「笑っちまうことに、その綺麗な鬼を見ちまってからよ。自分の命も顧みずにただただ、家を大きくするため金儲けのため、合戦場にまで伸びてた足が、竦んじまうようになったのさ」
 
 しゃらり、と金属の擦る音が聞こえ、思い出話に花咲かせていた商人たちは、はっと我に返る。
 気が付けば、神社に辿り着いた辺りで、商人たちは既に囲まれていることに、その者たちが手にする錫杖の音がするまで気づかなかった。
 石突が地に打ち鳴らされ、錫杖がしゃらんと音を立てると、そこから逃げる道がない事を思い知らされる。
「ついとらんのう。昔話など、するもんじゃなかったわ」
 初老の商人がぼやきながら、なんとか活路を見出せまいかと辺りを見回すが、逃げ道として敢えて堤の甘い先として開放されているのは、神社の境内だけだ。
 神社の敷地内は、それこそ袋のネズミだろう。
「……荷を、置いていって貰う。その首ごとな」
 編笠の向こうから、くぐもった声が聞こえてくる。
 おおよそ、人の気配のしないそれは、化外の類であった。
天道・あや
おーーっと!そうは問屋が卸さナッシング!


荷物が、商品が欲しいならお金を払って買わないと駄目なんだぜ!



…え?何、この空気?あたし間違った事言ってなくない??





……と、とにかく!泥棒、万引きは多分この世界でも犯罪!

メッ!させて貰うぜ!


商人さんよし!商品よし!…あたしよし!じゃ、いっくぞー!


まずは商人さんから切り離す!【ダッシュ】で相手の集団に突っ込んで、敵の注意を惹く!【存在感、おびき寄せ】


敵が攻撃してきたら…神社だし、辺りのものが壊れたら不味いよね!だから敵の攻撃は受け止める…!【グラップル、激痛耐性】



か、かなりグラビティな一撃…!

でも負けないぜ!【限界突破】



それじゃ、次はこっちの番!UC発動!


火土金水・明
「やれやれ、荷物だけでなく商人さん達の命まで奪おうとするのは許すわけにはいきませんね。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【コキュートス・ブリザード】を【範囲攻撃】にして、『編笠衆』達をを纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】【呪詛耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。



 がしゃり、がしゃり、と石段を叩き割らん勢いで、錫杖の石突が地を打つ。
 商人たちを囲んだ編笠衆が、表情もうかがえぬままその意を通さんと距離を縮めてくるのを、ただただ見守る事しかない。
 騒音に苛まれた商人の一人が、その音と恐怖に耐えかねて錯乱して飛び出そうとするのを、年かさの商人が辛うじて引き留めるが、それだけだ。
 どうしようもない絶望感。
 それが一同を取り囲む物理的脅威として降りかかろうというまさにその瞬間、
「おーーーっと! そうは問屋が卸さナッシング!」
 ぎゅいーん! と、聞きなれない音が、錫杖の騒音に割って入り、よく通る声が周囲全てを瞠目させる。
 その視線の先、石段を上った先にこぢんまりと佇む鳥居の下には、天道あやがギターを肩から下げて、なにやらポーズをキメていた。
 虹色の光沢を放つエレキギターは、彼女のサウンドソルジャーとしての能力が具現化されたサウンドウェポンの、その数多ある形状の一つであるが、サムライエンパイアにあまり馴染みのないその楽器の音色と形状は、珍妙というほかになかった。
「荷物が、商品が欲しいならお金を払って買わないと駄目なんだぜ!」
 生来からなのかアイドル活動として身についたものなのか、明るい調子で商売人と問屋という、高度なウィットを利かせた口上で編笠衆の注目を浴びるあやだったが、その反応はいまいち薄いようだった。
 加えて、商人たちの反応も、その多くが呆気に取られているようで、身じろぎもできない気まずい空気が流れ始める。
 さしものあやとて、その空気が妙な重みを伴ってきたことには、あれっと首をかしげてしまう。
「……え? 何、この空気? あたし間違った事言ってなくない??」
 若干キレ気味なのはご愛嬌。
 場を盛り上げるためのMCなど、あやからすればお手の物であり、場を巻き込んでのライブならなかなかの好物である。
 ここで少なからず合いの手が入ってくれたら言う事は無いのだが、
 と、贅沢なお願いかなーと内心で鼻を鳴らすあやに応えたのか、ぱちぱちとたった一人分の拍手が沈黙を破る。
 山道のほうからやってきたのは、全身黒で固めた魔法使いのようであった。
「やれやれ、荷物だけでなく商人さん達の命まで奪おうとするのは、許すわけにはいきませんね」
 黒いとんがり帽子、黒い外套、そして黒いハイレグ……ハイレグ?
 とにかく、やや肌色面積の多いせいか、コントラストの映えるウィザード火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)が、拍手を送る相手、あやとの間に編笠衆を囲む形となったことで、それぞれの視線がばらばらと逸れることになった。
 この機を逃す手はない。
 とにかく! 泥棒、万引きは多分この世界でも犯罪!
「メッ! させてもらうぜ!」
 勢い勇んで口調を荒げつつ、あやが石段を蹴って駆ける。
 素早い駆け足はダンスレッスンの賜物か。商人たちを庇いだてるかのように、敢えて囲みの中に飛び込んだあやは、再びギターをかき鳴らす。
「商人さんよし! 商品よし! ……あたしよし! じゃ、いっくぞー!」
 囲んでいた状況から、敢えて敵中に飛び込み、あまつさえ楽器を演奏して目立つような、一見すると何も考えていないかのような目立つ立ち回りであった。
 本当に何も考えていないにしても、わざとらしく目立っているように見える行動に、明もすぐにピンときたらしい。
 いきなり出てきて騒ぎ立てて、獲物である商人たちを庇いだてするあやの存在は、嫌でも目立っていた。
「──滅!」
 その煩わしい存在を許すわけにはいかない編笠の一人が、鋭い踏み込みで錫杖を突き出してくる。
 仏法僧の祭具である錫杖。しかし金属の部品を取り付けた長柄と変わらぬそれは当然、強く打ち付ければ立派な武器である。
 楽器しか持たぬ小娘など、喉笛を一撃……できる筈であった。
「ぬーん!」
 鋭い一撃は、しかしあやの片手、さらに言えばギターピックを手にしたままのOKサインのような形の手で受け止められていた。
 珍妙な姿に映ろうとも、あやも猟兵、その身体能力は常人の域を超えている。
 とはいえそれはオブリビオンである編笠衆も同じこと。
 鋭い一突きを完璧に耐えきったあやであったが、逃した力はその両足を伝い、石段を罅割れさせる。
「ぬぐぐ、か、かなりグラビティな一撃! でも、負けないぜ!」
 半身を開くように踏み込んで、受けた錫杖を掴んだままもう片手で杖の中ほどをすくい上げる。
 そのまま釣り上げるようにして背負投げの要領で編笠を放り投げる。
「! 殺ッ!」
 早くもあやが尋常ではないと悟った他の編笠衆が次々と呪縛術で絡めとろうとするのだが、
 そこへ明が割って入る。
「ぐ、ぐわー」
 すごく棒読みの悲鳴を上げて呪縛術をまともに受けた明が膝を折るが、直後にへたり込んだその姿が掻き消える。
「残念、それ残像です」
 次の瞬間には、含み笑いの明があやの傍らに立ち、氷の魔法で反撃に転じていた。
「やつらを引き離しましょう!」
「そう来ると思った」
 短いやり取りで、あやと明は何をするかをすり合わせ、即座に行動に移す。
「それじゃあこっちの番! うおおお! 右よし、左よし、正面の壁よし! ぶち破って未来へ!!」
 テンションを上げたあやは、ギターをかき鳴らして、何事かをわめき散らしながら敵陣へと突入していく。
 まるでそれが【これがあたしのロックスピリッツ!】と言わんばかりに。
 それがまるで阿修羅の如き暴れっぷりであった。
 誰もが彼女から目が離せず、編笠衆ももはや商人を襲うどころではなく、知らず知らずのうちに神社の境内へと押し込まれていく。
「あらあら、そっち行っちゃだめ」
 その暴れっぷりを遠巻きに見送りつつ、明もまた音楽に身体を揺らしつつ、あやの誘導から外れそうになった、或は狙いを変えようとする編笠を迎撃すべくユーベルコードを発動させる。
「我、求めるは、冷たき力……コキュートス」
 無数の氷の矢を生成する【コキュートス・ブリザード】によって、数に任せた大雑把な範囲攻撃が、編笠たちの退路を断つ。
 それらは、生半可な氷の礫などではなく、足に受ければ足を凍てつかせ、身体を蝕むものであり、かといって錫杖で受けて守ろうにもそれを突き破って体を撃ち抜く。
 射線から逃れるしかないのだが、範囲で放たれるそれは、場合によっては躱すこともままならない。
「少しでもダメージを与えて次の方に」
 などと言ってはみるものの、当たったらだいたい戦闘不要に陥っている辺り、明も手加減無用であるようだ。
「2×3がーーーロック!! イエーーーイ!!」
 神社のほうから絶叫のようなあやのシャウトが聞こえてくる。
 そろそろ止めてあげないと、神社が危ないかもしれない。
 テンションが上がりまくったあやが、ぶっ壊れないのをいいことに自身のギターを振り回して編笠どもと大立ち回りを繰り広げるところに、ひときわ冷たい風が通る。
「あー。冷たいっ! あー、きもちいー……ハッ!」
 まさに冷や水を浴びせられたかのように、あやは失いかけた理性を取り戻すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロス・フレイミー
※協力およびアドリブ歓迎

んん、敵襲…ですか。
面白くなってき…おっと、いけません。(ぼそりと呟く)

被害を出さないためにも、敵襲の始末に移りましょう。

【妖刀・一閃】に【魔力溜め】をしつつ、【目立たない】ようにこっそり敵に近づきます。
そして、気づかれる前に【ダッシュ】で接近、【指定UC】で攻撃。飛んでくる呪符は【妖刀・一閃】に溜めた雷の魔力を火種として焼き払いつつ、呪いを【浄化】しましょう。

…化外の者も、叩き切ってしまえば、それまでです。


泡夢・雪那
共闘OK
アレンジ・創作OK
台詞はマスタリング希望

「バニーガール」を撃ち鳴らして注意を惹き
貴様ら、只の追剥ぎには見えないが――何者か?
銃口を編笠衆に向け、必要ならば牽制を
その隙に行商達に避難を促す

――行商達は避難したか
仲間と共闘するのは構わない
が、気の利いた連携は期待しないでくれ

では始めよう
階段を利用、敵より上段に身を置き
「魔王の瞳」で敵を見据えて、行動の妨げとなる暗示をかけながら戦う
錫杖をさばく、脇に抱えるなどして隙を作り
懐に踏み込んで攻撃

夢を斬らせて現を断つ
「魅惑のオーラ」の残像で敵UCを誘い
「覇気」纏う手刀を一閃、首を落とす



 打ち鳴らす錫杖の地鳴りのような騒音に隠れて、雪の降りが強くなってきたことに、髪が濡れてきた辺りでようやく気が付いた。
 どうやら、乾いた粉雪ではなく、湿り気を帯びたぼた雪に変わりつつあるらしい。
 このままあの予知の通りに天気が変わるとするなら、いずれは霙に変わるのだろう。
 あんまり冷えるのは困るな。
「んん、敵襲……ですか」
 やや緩んだ空色のマフラーをまき直し、クロス・フレイミーは握りしめた刀を抜き放ちつつ、石段の方へと歩みを進める。
 口調こそ気だるげなものを感じさせるものの、
「面白くなってき……おっと、いけません」
 マフラーに隠れる口元の歪みと共に漏らした呟きは、かすかな愉悦を含んでいた。
 風に泳ぐマフラーと同じように、放浪生活は厳しくもあるが、慣れてしまえば淡く味気ない。
 けれども、たまには生き残るために身に着けた術を振るう時もある。
 穏やかな流浪の旅も悪くない。しかし、少年は幾つになっても手にした刃物を振るいたがるものだ。
 何故ならば、命を削り合う局面でこそ、その形を色濃く感じるからだ。
 何故ならば、生きるために会得した技術が、世界と整合する快感を覚えてしまうからだ。
 生きるための無法が、それを振るっている間だけは、何者にも許されているからだ。
 生きることは許されること。きっと、神なる存在がそこにおはすのならば、その罪をお咎めになるやもしれない。
 上等だ。こちとら堕天使なのだ。生まれながら罪を負っている。
 傍目にはあくまでも冷静沈着に、クロスの闘争心だけが昂揚していく中で、唐突に空を裂く破裂音が耳朶を打つ。
「貴様ら、只の追剝には見えないが」
 階下の編笠衆、そして石段に差し掛かったところのクロスが視線を集める先には、黒いパンツスーツ姿の泡夢雪那が、手にした拳銃を空に向けてカッコイイポーズを決めているところであった。
 なぜそこでキメる必要があったのか。
 クロスだけが疑問に思うところであったが、銃声にすっかり静まり返る間を逃すことなく、雪那は構わず硝煙を上げる銃口を編笠衆に向ける。
「──何者か」
 疑問符であると同時に、どういう扱いをするかと言う事も断定するかのような。
 グリップに淫らな「バニーガール」の意匠が特徴の銃を構える雪那のそれは、そんな冷ややかな目つきであった。
「何者かなんて、敵で十分ですよ」
「こういうのは気分だよ、少年」
 水を差すようなクロスの登場にも、雪那は揺らぐことなく自信満々に応じる。
 やってみたかったらしい。
 事実、クールな装いで銃を構える雪那の姿は実に様になっていた。
 そしてそれは、ただ形から入ったアマチュアのそれではなく、地道な鍛錬から裏打ちされた本物の技術の賜物であり、余裕の受け答えの最中にも、牽制に銃弾を撃ち出せば、商人たちに襲い掛かろうとした編笠衆の足元に火花を散らす。
 その隙の無さを前に、いよいよ編笠衆は、二人を敵と認定したらしい。
 スマートな手腕と言えるその行動には、さしものクロスも認めざるを得ない。
 シンプルなクロスの思想からすれば、商人の事はひとまず置いといて、やられる前にやることを考えたろう。
 ともあれ、これでやりやすくなった。
「──行商たちは避難したか」
「腕は確かみたいですね。お手伝いしますよ」
「共闘か。構わないが、気の利いた連携は期待しないでくれよ」
「それはお互い様。腕を信じましょう。その銃のデザインはいただけないけど」
「なんだ、お気に入りだぞ。マフラー少年」
 戦いの空気の高まる中で、お互いの本質に薄々と共通するものを感じたのか、悪態のようなものを吐きつつ、クロスと雪那は一度だけ拳を突き合わせて距離を取る。
 お互いにお一人様。好き勝手にやる分には一人と変わらない。
 ただまぁ、お互いを間違って撃ったり斬ったりはしない程度には、気を付けておこう。
「では始めよう」
「始末に移りましょう」
 二人同時に行動に出た。その違いは、実に顕著であった。
 編笠衆に呪詛めいた視線を送られるのは、妙に目立った行動をとった雪那だけであり、クロスはその身に帯びた殺意を一瞬のうちに絶ち、気配を薄くする。
 敢えて目立つように銃を使った雪那の狙い通りでもあったが、図らずともクロスも奇襲を仕掛けるべくそれを利用した形となった。
「見たな。この眼を」
 衆目が注がれるその中心で、雪那の赤い瞳がぎらりと光沢を放つ。
 魔王から受け継ぎしその瞳は、人を魅惑する、言うなれば支配の力の一端である。
 その瞳の輝きに魅入られたとき、【夢幻】を見ることになる。
 桃源郷か、或は偽りの悟りの境地なのか。いずれにせよ、この場には存在しない、彼らにとって都合のいい幻を。
「む、お……?」
 気が付けば編笠衆の一人が膝をついていた。
 意気軒高と人を襲う破戒僧に、理由など無い筈だった。
 殺しの愉悦に浸れるその一瞬の為に、道を踏み外した化外の者にとって、この場にそれ以上のものは必要なかった。はずだった。
 或は武を求め、道を究めんと人を殺める道に入ってしまった狂人であったろうか。
 いずれにせよ、戦場で我を失い夢を見るほど前後不覚になるような事は無い筈だった。
 そこへこつこつと革靴の音が鳴り、膝をついた編笠の前で止まると、編んだ藁越しに硬質な銃口が付きつけられる。
 マズルフラッシュ。
 倒れる編笠の一人を他所に、その光で幾人かが正気を取り戻す。
「おっと、流石に楽はできないか。まあ……夢幻の醒めないうちに――」
 雪那が言い終わらぬうちに錫杖が突き出される。
 そのまま受けるのではさすがに危ないので、頑丈なグリップでその戦端を逸らして流し、突き出た錫杖を巻き取るかのような動きで懐に入り込み空いた手を振るう。
 初っ端から銃を使ったことから勘違いされそうなところだが、ゴッドハンドでもある彼女の本領は、徒手による暴力である。
「──死ねたなら、楽だったな」
 覇気を帯びた手刀が一閃され、編笠が首ごと宙を舞う。
 夢を斬らせて、現を断つ。
 さすがに脅威を感じたか、これには編笠衆も距離を取り始めるが、
「ぎへっ!?」
「ぐおおっ!?」
 雪那の徒手の範囲外に出ようとした編笠衆が次々と、まるで雷に打たれたかのように体を痙攣させて倒れていく。
「手応えがない……何かしました?」
 倒れた編笠の近くから溶け出るようにして、刀から黒い雷を迸らせるクロスが姿を現す。
「目的のためなら、手段を選ぶな。と、マキャベリも言っていただろ」
「まあ、いいですけど」
 唐突に表れたように見えたクロスもまた脅威を覚えたか、編笠衆は離れた位置から次々と呪符を投げつける。
 しかし、それらはクロスの手にする妖刀・一閃から迸る黒い雷に煽られると瞬時に火がついて燃えてしまう。
 呪いを含め、相手に飛んでいく筈の呪符だったが、クロスは曲がりなりにも天使の血を持っている。
 堕したとはいえ、生半可な呪詛は浄化されてしまうのだ。
 加えて、身を隠している内に刀に帯びた魔力が続くうちは、彼は雷そのものと言ってもよかった。
「仕掛けてきたからには……覚悟はできてますよね?」
 その身に帯びた雷の余韻を残し、尾を引くように、クロスはまさに雷光の如く疾駆する。
 【妖刀術】黒光雷轟。
 黒い稲妻と化したクロスの目にも留まらぬ踏み込みを前に、編笠衆は反撃すらままならず、切り伏せられると同時にその身を焦がす。
「……化外の者も、叩き切ってしまえば、それまでです」
 血糊を払うその一閃にすら、雷の尾を乗せて、切り伏せた熱量も一瞬で醒めてしまったように、静かな声を漏らす。
 やはり、集団で襲う時点で、個々の力量はそれほどでもないのだ。
 緩い倦怠が、クロスを蝕んでいくのを感じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
共闘、アドリブOK。

ふむ、前菜として申し分ない。「茸頭」からまずは血祭りに上げてやろう。

迫る呪符は回避しきれなければ刺剣で突き払ってみよう。
近接すればUCで連続刺突、狙う一撃は編笠の中の頭部。血で咲くは赤い茸か。あまり華がないな。
だがそれゆえメインの美味が引き立つというもの。フフッ。
さて、ご老体の目には我々がどう映るのやら。怪物かはたまた勇者か。


紬雁・紅葉
まぁ、骸なのに業腹な♪
横から何もかも攫おうとは…所詮鼻つまみの呪者…(クスクス笑み)

鎮めるに能わず
斬り祓うのみ♪

羅刹紋を顕わに戦笑み
十握刃を顕現

残像忍び足で正面からゆるゆると接敵
射程に入り次第破魔雷属性衝撃波UCを以て回数に任せ範囲を薙ぎ払う

敵の攻撃は躱せるか見切り
躱せるなら残像などで躱し
さもなくば破魔衝撃波オーラ防御武器受け等で防ぐ
何れもカウンター破魔雷属性衝撃波UCを以て範囲ごと薙ぎ払い吹き飛ばす

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

恐れに乗じ穢れを撒き散らし
闇にほくそ笑む呪者共…

比良坂を転げ
疾く速く
去り罷りませ!

終わったら商人達に
今の内お逃げなさい

「その方」を向き
羅刹紋が明々と輝く…



 戦いは、いつだって戦う前から半分ほど終わっている。
 それは戦いの単位にもよるものだが、敵の認識が始まった瞬間からがそれであるならば、相対した時から合うまでに半分は終わっている。
 俗に戦略というそれが明確に形を成すほどに、勝率は高まるものである。
 逆説的に、戦略というものは、戦いの最中であるより、戦いの前に決している。
 尤も、戦略通りに事が運ぶほどの仔細に及ぶ、読みの深い策を事前に立てられるかどうか。それ自体が問題でもある。
 現実に想定外はいくらでも起こりうるし、雑な戦略ほど想定外は起きやすい。
 ひと気の寄り付かない神社に、足休めに来ようという行商を待ち受けていた編笠衆。
 その戦略は、まず数の面において優勢であった。
 神社に差し掛かって、数に任せて追い込んでいけば、撃ち洩らす心配など無い筈だった。
 この雪足ならば、視界も助けを呼ぶ声も届くまい。
 そう、合点していた筈であった。
「まぁ、まぁ」
 商人たちを追い詰めていた筈の編笠衆は、神社の境内にて、圧倒されていた。
 くすくすと含み笑い。もう片方は、やや退屈すら感じさせる余裕の笑みである。
「骸なのに、業腹な」
 紬雁紅葉は、その口元を覆い隠すように巫女装束の袖を寄せれば、
「なに、湿ってくれば茸頭が湧いてくるものだ。前菜として申し分ない」
 ネフラ・ノーヴァは、愛用の刺剣の切っ先を軽く爪弾くように弾いて、相対する編笠衆を値踏みするように切っ先を向ける。
「あら、健啖ですこと。しかし察するに、あれは毒茸。横合いから搔っ攫う鼻摘みの呪者なれば」
 穏やかにすら見える笑みのまま、紅葉の掌中から七色の光沢を帯びる刃が顕現する。
 かつて八つ首の蛇を討伐したという伝承に謳われる十握刃は、実体のない輝きそのものを刃としているかのような不可思議な剣であった。
 災厄を齎す大蛇をも断つそれを振るう戦巫女の戦笑みに、羅刹紋が浮かび上がる。
「鎮めるに能わず。斬り祓うのみ」
 戦いの昂揚を帯びた紅葉の声色は、既に祝詞を歌い上げるかのような響きがあった。
 刀を手に、術を手に手に、いつの世も邪を払い続けてきた戦巫女には、その存在の証明ともいうべき戦いは、祈りにも近い。
 痺れるように甘い闘争心を肌身に感じる。
 不謹慎な欲求がネフラの心に火を灯しそうになるが、相手が違う。
「美しいな。食材が霞む前に、連中を血祭りにあげてやらねば」
 退屈が雑味を生む。
 感嘆すべき戦に邁進する精神性が傍らにしか無いのは、実に勿体ない話だが、血にまみれる事に愉悦を覚えるという、クリスタリアンの中でも特異な資質を持つネフラにとってもまた、戦いはどんな惨憺たるものであっても好きものであった。
 命の削り合いに美醜は付き物。その在り様がいかに一方的で醜くあろうとも、戦いに邁進する心意気はいつだって美しい。
 花の愛しを守るため。花の愛しを疎んずるばかりに。そこに白い花があるから。
 美しく咲く、美しく散る、儚く手折る。
 そこにまるで宝石の輝きを見るかの如く、ネフラは一人、戦いに身を投じる。
「──そういえば、聞いたことがある」
 ネフラの乳白色に淡い緑を溶いたような玉髄にも似た髪が揺らぐ。
 手にした血棘の刺剣の、その血のように赤い柄本だけがぼた雪の中で尾を引く。
 吸い込まれるようにその切っ先が編笠衆の編笠を貫いた。
 突き刺すのと同じ呼吸のもとで引き抜く動作も行うので、突いた瞬間にはネフラの手元は胸先まで戻っており、その次の瞬間には、刺された編笠ののぞき穴からは血が噴き出した。
「毒キノコは、旨味が多いそうだが」
 が、その先は言わなかった。
 綺麗に花散るかと思いきや、思ったほどの手応えを感じなかった。
「ふふ……でしたら、所望してみますか?」
 星が散るような彩の斬閃。
 無造作に踏み込んだかのように見える紅葉の一閃をまともに受けて、上体を斬り飛ばされる。
 【九曜八剱・大蛇断】実体のない刃は、その範囲を無尽蔵であるかのように伸ばし、その更に後方の編笠まで切り伏せる。
「フフ、それで腹を下したら、メインディッシュを食べ損ねるじゃないか」
 おおこわい。と肩をすくめるネフラは、やけに嬉しそうに凄絶な戦場の中に於いて笑みを浮かべる。
 まったく、どちらが鬼だろう。
 交差するように立ち位置を入れ替え、それぞれの後方から迫っていた編笠を討つ。
 ネフラの剣には、編笠が飛ばしてきた呪符が串刺しになり、それにも構わず呪いごと押し返すように編笠を突き倒す。
 弧を描くように振り下ろされた編笠の錫杖を、紅葉は真正面から受けると見せかけ、コマのように反転して軸を逸らせば、遅れて靡く装束に隠れていなした勢いのまま振り払われる十握刃の煌めきが編笠の銅を両断する。
 雪の中で舞うように剣を振るうその姿に焚き付けられるものがあったのか、ネフラもまたユーベルコードを発動させる。
「血の花を咲かせるがいい……!」
 息を食む刹那、眩くすら映る刺剣の連続突きが繰り出される。
 【染血散花】一人、二人、三人と、ぼた雪を切り裂く余韻でしか見えぬほどの刺突に血の赤が混じり始めてようやく、赤く染まる残光が、その速さを物語る。
 助け舟を出す必要はなさそうだ。
 戦の空気に昂りながらも、紅葉は戦況を見ながら剣を振るっていた。
 しかし、自分のみならず、ネフラもまた血の戦場に一人で踏み込んでいく修羅の如きものと理解した。
 あの方の剣もいずれは……。と、危うい思想に陥りかけるが、そればかりはいけない。まだ。
 祈りに雑念は不要。
 いくら斬ったか。それでもまだ編笠は残っている。
 ならば詠おう。
 呪われし宿業に。此度の不運に。
 手にした刃の輝きが増していく。
「恐れに乗じ穢れを撒き散らし
 闇にほくそ笑む呪者共……

 比良坂を転げ
 疾く速く
 去り罷りませ!」
 雷の如き一閃が、並み居る編笠達を蹴散らした。
 その業が、また現世を侵さぬよう、簡素ではあるが破魔の祈祷を捧げると、
 ネフラのほうもその身をいくらか返り血に染めながら、片を付けたらしい。
「茸だからか。あまり華がないな。フフッ、だが、これでメインの美味も華やぐというもの」
 まさに人心地、というには少々気をやりそうな光景であったが、ひとまずの脅威は去ったようだ。
 そこでようやく、二人は、凄惨な有様の境内の隅で石灯籠にしがみつくようにして腰を抜かしている商人が残っていたことに気づいた。
 この期に及んでまだ逃げきれていなかったのは不運でしかないが、幸いにして足腰に力が入らぬ以外は手傷の一つもなさそうだ。
 見れば、その商人は齢を重ねてはいるが、なかなか屈強そうな体格をしている。
「お逃げなさい。もっと恐ろしいものが来る前……今のうちに」
 その貌に羅刹紋を浮かべながらにこやかに、勤めて淑やかに促す紅葉であったが、この血の畔を見て正気を保つ常人はなかなか稀有だろう。
 転げるようにしてこの場を去る商人を見送りながら、ネフラは肩を揺らす。
「さて、ご老体の目には我々がどう映るのやら。怪物かはたまた勇者か」
 皮肉のようにも聞こえるそれは、しかし自嘲を含むものではなかった。
 誰かの在り方を完全に理解できることは、稀である。
 それでも、戦いの内で、血が飛び交う中でわかり合ってしまうのは、幸か不幸か。
 或は、本当に恐ろしい者でも見たかのような商人の姿に、自分もまたそうであることを望んでいたのか。
「嗚呼……感じますね」
「ほう、キミもか」
 紅葉の身体に浮いた羅刹紋が、肌を裂かんばかりに疼くのを感じる。
 死を賭して戦う羅刹が見せる痣が力強く浮き出る時。
 もっと恐ろしいもの。その存在を、風が運んでいるかのようだった。
 ぼた雪が重さを増して、ざらざらと音を立てるようになってきた。
 それでも、その降りしきる音が消えたかと錯覚するほど、それは存在そのものが威圧的だった。
 引き寄せられるかのように、二人は「それ」を目にする。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『白鬼』

POW   :    颶風雷刀
予め【斬馬刀を担ぐ】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    あふなわるや
【自己暗示の祝詞による無念無想の境地】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    無明無月
自身の【狂気に染まる瞳】が輝く間、【暴風の如く振るわれる斬馬刀】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠刹羅沢・サクラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ──。
 白いぼた雪が灰色の霙に。
 それまで静かだった雪音が、時雨の如く神社の屋根を穿つ。
 それでも、重たい雨脚が騒がしくなり始める中にあっても、言葉ならぬ声が耳朶を擽る。
 人知れぬさびれた神社を囲う様に現れた編笠衆が、既に骸なって転がる境内には、溶け残った雪の畝が、霙に叩かれ穿たれて崩れ、
 降り立つ素足が、石畳をじゃりと均す。

 白い、鬼だった。
 参道に、神社の屋根に、まだかすかに残る雪の白。
 散り始めの梅の淡い白。
 その中にあって、それは尚も映える白い鬼だった。
 着崩した着物の白もそうだが、はだける細い手足にはうっすらと朱を帯びてもなお、白く映えて見えた。
 目を焼くほどの白。ややもすると、見惚れてしまいかねない、天女のそれと語る者が、或は居るかもしれない。
 それでも、詩的には言い表せぬ、その気配。
 見る者に死を連想させる、戦う者の持つ特有の存在感。
 それは、ただ、彼女が枝切れのように軽々しく担ぐ斬馬刀のせいではないだろう。
 ──。
 気の振れたような鼻歌。
 事実、その鬼は正気ではなかった。
 この凄惨たる血の畔の中で、その羅刹は鈴を転がすように微笑んだのだ。
「いないなぁ……まあ、いいか」
 どこを見ているのか定かでないような、蛇のような眸子がゆるりと細くなり、歪む口元はさながら童女の様であった。
「ねがえばいつか、きっとあえる」
 争いの中にしか存在し得ない。
 或は、戦いの中にあれば、いつかきっと待ち人来る。
 そう信じて疑わぬ狂気の笑みのもと、鬼は呪いのように祝詞を上げる。
「あふなわるや……」
天道・あや
……

…………

…………………




初めまして!天道・あやです!サクラさんの…友達?いや、仲間?…と、とにかく、サクラさんには何時もお世話になってます!!


よし!挨拶終わり!それじゃー


一つ、付き合って貰いますよ?

右よし、左よし、あたしよし。いざ、勝負!!


見た目からしてパワーファイター、近接攻撃だけ見た…と、言いたいけど、サクラさんのお母さんなら忍術やら暗器を使ってきてもおかしくはない

よし、まずは相手の出方を疑う!

相手の周りを【ダンス、足場習熟】するように動きながら攻撃を【見切り、挑発】する!

相手が仕掛けてきたらこっちも仕掛ける!デカい武器なら懐に入れば上手く使えない筈!【ダッシュ、激痛耐性、属性攻撃雷】



 白い世界が灰に染まりつつある時雨の中で、浮きたって見えるほどの白装束。
 狙いをすますその瞳は、まるで獲物を前に舌なめずりするかのように、出方を伺うものだった。
 圧倒するような存在感。そして、波一つ立たない湖面のような静けさが、奇妙であった。
 暴力的な気配を感じさせるのに、驚くほど殺意を感じない。
「……」
 うっすらと笑みを浮かべたまま、今か今かと様子を伺う白鬼の、その毒気の薄さに天道あやは、思わずぼうっとしてまう。
 その顔が誰かに似ているからだろうか。
 はたまた、その誰かに重ねた面影のせいで感慨を抱くことになったのか。
「……」
 ていうか、若すぎないかとか。
 これが一児の母? わかくね?
 とかなんとか思ったりもしたが、考えてもみれば、オブリビオンは言うなれば捨てられた過去のなれ果て。
 彼女が現代に蘇っているとすれば、何十年か前のサムライエンパイアの歴史から消え、そのままの姿でオブリビオンとして出現していてもおかしくはない。
 案外、この姿の白鬼は、あやの知る猟兵と年が近いのかもしれない。
 だとするならば、成長というかスタイルの差はどこから来るのだろう。
 だっていろんな場所が、わがままだよ、この白鬼。
「……」
「おきてる?」
「はっ」
 思考の深みに入り込みそうになったあやが、なんと白鬼のほうからの声掛けに我を取り戻す。
 敵を相手にボーっとしすぎたようだ。相手がおかしくなければ、先手を取られていたかもしれない。
 そんなちょっぴりずれた感覚に、妙な既視感を覚えつつ、ならば戦場の習いにも付き合ってくれる可能性を考える。
「初めまして! 天道・あやです!」
「……ああ、おなまえ。そういえば、みんな、なのってた」
 力強い発声に、白鬼は呆気にとられたようだったが、どこか夢見がちなたどたどしさを残す言葉で何かを思い出しているらしい。
 指先を唇に這わせて思案する顔つきは、最初に受けた印象よりも幼く見えた。
「ごめんね。わたしにはなまえがないの。だから、ただの白鬼。おぼえなくてもいい」
 多くの者は、その名を知る前に錆と消えるから。
 それでも、名乗ることが珍しかったのか、白鬼は楽しげに微笑む。
 思ったより話せる。
 奇妙に感じつつも、あやは尚も言いたいことをぶつけてみる。
「サクラさんの……友達? いや、仲間? ……と、とにかく、サクラさんには何時もお世話になってます!!」
「サクラ……サクラって、だぁれ?」
「ッ!」
 無機質な、或は無邪気な疑問符を浮かべて白鬼は首をかしげる。
 そのあまりの無垢な問いに、あやは思わず息を詰まらせる。
 刹羅沢の鬼は、名を持たない。
 この依頼を持ちかけた刹羅沢サクラとて、それは例外ではなく、自らをサクラと名乗ったのは猟兵になる少し前の事だった。
 つまり、この母子は、お互い名前を呼び合うことはない。
 それでも思案する白鬼は、その名を反芻する内に、その目に理性を宿していく。
「さくら……さくら……ああ、桜鬼」
「え?」
「あの子は、桜の色を貰ったのね。綺麗な色で、本当に良かった……」
 頬を緩ませるその横顔、独り言のような呟きには、これまでにない、慈愛のような感情を確かに感じた。
 しかしそれ以上に、目の前のあやにはいろんな感情が駆け巡る。
 どうしてそうなる。とか。
 どうしてそんな風に笑うのか。とか。
 どうしてこんなに致命的に、違うのか。とか。
 ままならない感情が、むずむずと頬の上らへんまでこみ上げてくるが、それを嚙み潰すようにしてあやはかぶりを振る。
 気合を入れ直すために両の頬をぱしんと叩き、
「よし!挨拶終わり!それじゃー
 一つ、付き合って貰いますよ?」
 ぐっと拳を握って構えるあやを目にして、ようやく白鬼は先ほどの戦う者の笑みに戻り、担いだ斬馬刀をおろす。
 だらりと両手をおろしたような、構えとも言えないような立ち姿。
 無造作なようでいて、凄まじい重さのはずの斬馬刀の切っ先は地についていないのを見れば、それが戦うための構えであることがわかる。
 細かい感情は後回し、今は、ここで激しく燃え上がる大きな感情を呼び覚ます時だ。
「右よし、左よし、あたしよし。いざ、勝負!!」
 たんっと、勢い勇んで踏み込む……と見せかけて、間合いを取りながら出方を見る。
 なにしろ、あの巨大な斬馬刀だ。
 あの見た目からすればパワーファイター。近接攻撃しか持っていないとも考えられる。
 とはいえ、間合いは広いだろうし……あやの知る彼女の娘、刹羅沢サクラはああ見えて忍者である。
 暗器や忍術を使わぬとも限らない。
 そこを踏まえた上での、あやの戦略とは……ダンス!
 的確に間合いを詰めるのでは、一発で意図を探られる。相手は恐らく、それだけの戦場を一人で潜り抜けてきたのだ。
 自身の出来る術を用い、あやは最大限に、この鬼に格闘で勝ろうというのだ。
「~♪」
 軽快な音楽を口ずさみ、武道とも競技ともつかぬ足運びで、その身振りはまるで体を大きく目立たせるためであるかのように、時に優雅に、時に激しく振るわれる。
 一見すればあや自身は渾身の笑みで行っているそれが、まさか戦術とは思うまい。
「ふぅん……あ、もうちかいんだ」
 じわじわと、無駄なようにも見える身振りと足さばきで白鬼の周囲を踊って回るあやが、距離を詰めてくるのが、白鬼にも理解できたらしい。
 興味深げに、肩を揺らして拍を取っていた白鬼が、唐突に斬馬刀の刃を返して振り上げる。
 下げていた切っ先の分だけ、伸びてくるように見えたその無造作な一撃を、直前にターンすることであやは回避する。
「ふひー、本物だぁ」
 回避した拍子にまくれ上がった髪の毛先が持っていかれる。
 その風圧と身近に感じた質量は、まぎれもなく本物であり、小学生が学校帰りに拾う棒切れのように振るえるようなものではない筈だった。
 恐るべき羅刹の膂力と、感じるよりも前に、あやは攻撃に即応し、ターンの勢いのままダッシュでその懐へと踏み込むのだが、
「あははっ!」
 巨大な武器の間合いの内側。そここそ勝機。
 誰もが思うはずだ。愛用する本人ですら。
 事実、得物を持つ手は、その間合いの内側ではほぼ機能しない。
 だが、何のために白鬼は片腕で大刀を振るうのか。
 楽し気に笑う鬼の左拳と、あやのダッシュ込みの拳とがかち合った。
「うぐぐぐ、サクラさんも、ただ拳で殴る技を持っていた!」
 まさかそんなシンプルな技が似ているとは。
 だが、だからこそ、知っているからこそ、この結論には至り得た。
 痛みも知っている。かち合うことも予想できた。
 その身から迸るエネルギーが雷となって、白鬼に伝播する。
 たまらず離れようとする白鬼に、更に追撃を加えようと、あやはさらにテンションを上げ、ユーベルコードを発動させる。
 【テンション&歌う気&踊る気、MAX!】よっしゃいくぜと気合を入れて、格闘にも似たダンスでさらに畳みかける。
「あっははははは!!」
 気の振れた笑みと、狂気に染まる瞳は、戦いが好きでしょうがないという輝きを宿していた。
 もはや、お互いがよく見えないかのような、暴風すら巻き起こす斬馬刀の連続攻撃と、それらを踊る動きで躱し、あるいはいなして流す、鬼とあやとの攻防は、さながら二人でステージに立っているかのようでもあった。
 やがて、がぁん! と鉄同士がぶつかるような激しい衝突音と共に、二人は距離を取る。
 踊るための足場を確かめていたあやはすぐにステップを取り戻し、
 対する素足の白鬼は、石畳に積もる霙をじゃりじゃりと物騒な音を立てて引っ搔いて止まる。
「ふふふふ、すごいなぁ……こんなになってるんだ……あなたがそうなら、きっと」
 その身に幾つか打撃を貰いながらも、白鬼はひどく嬉しそうに笑う。
「いたたた……さすがに、何度も殴り合えないかな。もうひと頑張り」
 さすがに、真正面から斬馬刀を受けるのは危険。
 間合いの内側にもかかわらず、最終的には拳で斬馬刀を打ち払ってなんとか距離を取ったが、これで仕切り直しだ。
 だが、内側を取っていたからこそ、致命傷を避けたともいえる。
 痛む手足に活を入れて、あやはまだまだ力の限り踊る決意をするのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネフラ・ノーヴァ
アドリブ、共闘OK。

狂ってなお美しい白、素晴らしいじゃないか。戦場の中にしかあり得ぬものを探すもの同士、さあ、存分に赤く染め合おう。
超高速には超高速を。UCを発動して対抗、危険を顧みず馬斬刀を躱しながら踏み込む。組付くほどに間合いを詰めれば刺突の一閃、類稀なる花を咲かせてみせよう。



 ばらばらとあちこちを穿つ霙の湿った音が、静かだった神社を騒がせる。
 緩慢にすら思えるほど浮ついた夢見がちな白鬼の目つきは、火の入った炉のように爛爛と輝いてきた。
 胸が躍るようだった。
 ネフラ・ノーヴァは、いつだってルーツを探している。
 生まれや育ちは記憶を辿れば済む話だが、それらの環境だけが今の自分を形成したものなのだろうか。
 いわゆる、持って生まれた性というもの。
 世界を知り、物心を得て、自分なりに世界との付き合い方を成り立てて、常識を得ていく中では、決して生まれない筈の衝動が、その宝石のような心を焦がしてならない。
 同類、言うなれば、クリスタリアンとして生まれ、同じように育ったはずの者は、穏やかな心をしていた。
 成長する内に、そういう性質を持って生まれた種族なのだと感じた。
 では、この身に生じ続ける闘争心はなんなのだろうか。
 血の通った地球人とて、その身が宝石で構成されるクリスタリアンとて、無茶をすればその身は砕ける。
 それなのに、ネフラは胸の奥から生まれ出でる衝動のまま、刺剣を構えずにはいられない。
 幾多の戦場、身を砕く戦いを経てもなお、戦い続けてきた。
 時には深い手傷も負った。それすらも利用して、戦い、勝ってきた。
「狂ってもなお美しい白。素晴らしいじゃないか」
 低く、足を前後に、地を這うような体勢のその背に大刀を担ぎ、その身が濡れる事など気にすることもなく、ただじっとネフラを見つめ返してくる白鬼の静けさに、
 敢えて真正面から刺剣を構えて臨む。
 淡い緑、羊脂玉種の白濁を帯びた緑の瞳と髪が揺れる。
 対するは新緑のような深く鮮やかな緑の瞳。肌や髪の白が強すぎて目立たないが、蛇のようにも見えるその瞳に、己の姿を錯覚する。
「野暮なことを訊くようだが、なぜ、戦い続けるんだろう?」
「うふふふ……それをきっと、あなたはしっている」
 にい、と口の端が裂けたようにつり上がる。
 蕩けた様な口ぶりは、現実を見ていないかのような浮ついたものを感じさせるが、だからこそ揺さぶりをかける様にも聞こえる曖昧な言葉も、裏がないことを察する。
「その剣を握って、如何に、思った? 胸の中に何が沸き立った? こうして向き合ってしまったなら、わたしたちは止まれない。
 花は咲かないと、実らないの。実るために花は咲くの。
 貴女が抱く気持ちと、花が実りを宿す衝動に、どれだけ違いがあると思うの?」
 弓を引き搾るように、雄弁にワインの蘊蓄を垂れるかのように、戦いへの矜持を、ただ狂気のままに剣を振るう狂った妄言を、壊れた笑みのままに白鬼は告げる。
 まるで、焚き付けるかのように。
「一理、あるかもしれないな」
 感化されたわけではない。
 しかし、そうまで言われては、応えたくもなる。
 ちりちりと、刺剣の切っ先から電気が奔る。
 プラズマ流体化する勢いでその身に帯びた血紋で循環する血液が電気を生む。
 静止したままで超音速。人は呼吸を止めても、体内の循環器を止めることまではできない。
 完全に静止できない状態でも、動きを止めている間は止まっているということになっている。
 逆に言えば、動いている間もそれは同じなので、等速のそれをテンポアップすれば、動きも数倍に跳ね上がるという話だ。
 クリスタリアンに臓器があるのかとか、そういう些細な問題は今は置いておこう。
 即ち、身体に流れるクロックを上昇させ、超伝導化すれば素早くなるという凄まじいパワープレイが【電激血壊】の一端である。
 雷のような伝達速度を得たネフラのそれを待っていたかのように、白鬼は笑みを強める。
「あふなわるや……」
 いつか聞いた祝詞。何かの宗教を齧って自己暗示のスイッチにしたのか、とろんと光を失うその瞳が何も見なくなったのと同時に、膨大な殺気がネフラを押し付けようと溢れ出す。
「いいだろう。戦場の中にしかあり得ぬものを探すもの同士、さあ、存分に赤く染め合おう」
 身の内から溢れ出んばかりのパワーを、脚力に割り当て、
 そうして二人は、ほぼ同時に加速する。
 何も聞こえない。何も見えない。それでも、息遣いだけは妙に生々しく聞こえる。
 超高速の中にあっては、世界は鈍化する。
 斬馬刀を担いだまま猛スピードで突撃する白鬼の姿を真正面から見据えるネフラは、その一撃が見えていた。
 担いだ状態からの振り下ろし。
 受けるのは危険。躱すのが適切だが、超高速の中にあって、その切っ先が加速して、まったくの無駄なく横の斬り払いに転じたことに、ネフラは心中で舌を巻く。
 フェイントではなく、おそらくそういう技なのだ。
 最初の一撃は見せかけなどではなく、斬っていようがいまいがかまわず次も、次の次も斬っている。
 大の男が持つことにも苦労しそうな斬馬刀を、隙なく振るうという幻想。
 それを目の当たりにしても、ネフラは向かっていく。
 その射程圏内に入り込めば、生半可な打ち込みでは逆に粉微塵にされるだろう。
 【電激血壊】には剣先を射出する事も可能ではある。
 だが、それでいいわけもない。
 その切っ先を見切れている内は、躱し続けることもできるだろう。
 だが、いつまでも相手の射程で戦うのは効率的ではない。
 暴風のような斬馬刀の乱舞の中を、着実に進み、引き、さらに進む。
 その歩みが遅いわけではなく、あくまでも鈍化した超高速の世界の中の話。
 まともにくらえば一撃で5人の猛者をも武器ごと真っ二つにできる斬馬刀の質量を、無数に繰り出され、それらを驚異的な動体視力で回避していく。
 狙うはただの一瞬。
 剣が届くほど、いや組み付くほどの距離。
 致命に届く一突きが繰り出せる距離。
 そこに至るまでが遠く、目の前の白が何十倍にも大きく感じる。
 それでも、ネフラの頬にはいつしか笑みが浮かんでいた。
 どうしようもない戦いの空気の中で、どうして胸が躍るのだろう。
 花が咲くような尊さを感じるのだろうか。
 疑問は尽きないが、血が沸き立つ衝動は、きっと正しく、美しいものに違いない。
「類稀なる花を咲かせてみせよう」
 雷電の如き神速が一縷の穴を見出した。
 突き出された一閃と共に、超伝導で発した電磁砲の如く、剣先に集約され、射出される。
「かっ!?」
 息の洩れる声は、どちらのものだったろうか。
 暴風のような攻防は止み、吹き飛んだ白鬼が幾つかの石灯籠を破壊しながらようやく止まる。
「っははは、夢が醒めちゃった……やるなぁ。ふふ」
 斬馬刀を石畳に突き立てて即座に起き上がる白鬼の肩には、細い銃創のような痕が残っていた。
 無念無想の境地へ至る自己暗示が解け、白鬼は気だるそうに体を起こしながら、手傷に構う様子もなく、ふたたび刀を担ぐ。
「神速に……追いつくか。面白い」
 島のような巨人すら貫いたユーベルコードの一撃が、完璧に斬馬刀の制空権を奪い取ったかのように思えたが……。
 白鬼の肉体が予想以上にタフだったのか。
 否、斬馬刀の柄が、致命に至る一撃を直前に受け流した。
 愕然とすべきなのかもしれない。
 しかしネフラに湧き上がる震えは、恐れなどではない。
 ユーベルコードの使用に、ネフラの肉体もまただるさを覚えるが、血が沸き立つような昂揚は、諦めを許容しない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紬雁・紅葉
ええ、これなるは
ああ、これこそは
羅刹紋を顕わに深く戦笑み

御託宣です
先制UC発動

天羽々斬を鞘祓い十握刃を再顕現

善き哉
この布都主が案内仕ろうぞ

残像忍び足で正面からゆるゆると接敵
射程に入り次第破魔神罰雷属性衝撃波UCを以て回数に任せ範囲を薙ぎ払う

敵の攻撃は躱せるか見切り
躱せるなら残像などで躱し
さもなくば破魔衝撃波オーラ防御武器受けUC等で防ぐ
何れもカウンター破魔神罰雷属性衝撃波UCを以て範囲ごと薙ぎ払い吹き飛ばす

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

待ち人、吾等に非ず
されど遠からず見えん

だが、今は吾がうぬを連れて行く
"剣神"布都主の引導、受けるが良い!

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※


クロス・フレイミー
※アドリブ、連携等歓迎

更なる敵襲…随分と大きな刀をお持ちで。
これは攻撃が当たればひとたまりもないですね。

まぁ俺のやることは変わりません。
敵は叩き切る…それだけです。

【闇に紛れる】ように移動することで敵のターゲットにならないよう、敵の背後に移動しましょう。
【妖刀・一閃】への【魔力溜め】も【目立たない】ように行わなくてはいけませんね。

タイミングを見て、【ダッシュ】で接近、【指定UC】で攻撃しましょう。
攻撃されそうになったら【妖刀・一閃】で【受け流し】をして挙動をそらしましょう。
雷による【マヒ攻撃】で少しでも敵のスピードが遅くなればなお良しといったところですが…。



 さながら、雪の積もった地面に牡丹の花が落ちるかのように、白い鬼の負傷は明らかだった。
 銃創のような手傷は、しかし急所を外しているらしく、致命傷にはまだ遠い。
 好機とみるがいいのだろう。しかしながら、注意しなくてはならない。
 手負いの獣は恐ろしいものだ。
 荒れ狂う暴風のような殺意が、ざわざわと全身の毛を逆立てるような感覚を呼び起こす。
 穏やかさすら感じた当初の気配は、もう微塵も感じない。
 沸こうとする心音を、呼吸を落ち着かせることで、気配を殺したクロス・フレイミーは人知れずに宥めすかす。
(随分と大きな刀をお持ちで……)
 半ば呆れも混じる、彼の戦術分析は、死線の中にあったのらくら生活からくる、いわば生活本能といってもよかった。
 ただの一人で放浪するというのは、時に格上とも喧嘩しなくてはならない場合もあると言う事である。
 自分よりも上の技量を相手取る場合、当然ながらリスクが伴う。
 相手の力量をただしく視るというのは、一人で生きていく上では欠かせない能力、或は知恵である。
 あの斬馬刀、あの暴風のような女。真正面から当たってはひとたまりもない。
 無理を通して打ち合う? それも不可能ではないかもしれないが、質量差は試すまでもなく仮定の上ですら如実を揺るがさない。
 能力がどうとか、そういうのとは違う。だから知恵と称した。
 黙っていれば無機質でいて甘くも見える横顔に、歪んだしわが浮かぶ。
 青空を切り出したかのようなマフラーの奥でつり上がる口の端が、緩む相好が、細く下がるオッドアイの目尻が。
 馬鹿馬鹿しい真似をしでかそうと、囁きかける。
(誘うなよ。そんなにむき出しにされちゃ、襲い掛かりたくもなる)
 根源的な闘争心が、理性の蓋をこじ開けんとするのを、クロスは形見の品であるマフラーを、妖刀を握りしめて押さえつける。
 今じゃない。もう少しだけ我慢しろ。馬鹿な一騎打ちなんて仕掛ける必要はない。
 自分のやる事は、さっきまでと変わらない。
 敵は叩き斬る。それだけ。
 飢えた獣のような暴力の気配に当てられるその身を、どうにかこうにか鎮めて、クロスは妖刀に魔力を込め始める。
 この気配で気づかれてしまうだろうか。
 いいや。あの鬼は、別の方に夢中なはずだ。
 それと気づいたからこそ、敢えて気配を殺し、目立たぬように身を潜めて、研ぎ澄ました一撃の為の下準備をしているのだ。
「ええ、これなるは
 ああ、これなるは」
 未だ勢いを止まぬ霙の中でも、歌うような声は境内によく響いた。
 紬雁紅葉は、俯きがちに、敢えてその羅刹の角を見せるかの如く、目の前で笑う白鬼を見据える。
 その貌に浮かぶ羅刹紋が、じくりじくりと疼くのは、剣神を奉る巫女の通力か。
 或は、同じ羅刹が殺し合うべく対峙したからか。
「うわぁ、こわい。このおにはつるぎをもっているんだ。いくつもいくつも、うちにもそとにも」
 笑う白鬼にも紋が浮かぶ。血のような、隈取のような羅刹の貌が露になり、しかしながら笑うその様相は、まるで牡丹餅を手にした童女のようにひどく無垢に見えた。
 ああ、嬉しいのだ。喜んでいるのだ、この鬼は。
 何かを探し続けるその孤独な白い影は、向かい風を何よりも喜ぶ。
 頬を撫でる風が心地よいように、戦巫女が戦巫女たらんと笑むその身が奉じた幾多もの刃の記憶を肌身に感じ、手向かう事に歓喜している。
 ならば、応えてやろう。
「御託宣です」
 戦の気配、過剰なまでの戦意。それに戦巫女の祈祷が成就し、大蛇を断つ刃、天羽々斬・十握刃の鞘を祓い封を解けば、緋緋色に見紛う光沢が顕現する。
「掛けまくも畏き布都主の遍く剣とす御力お越し畏み畏み申し賜う……!」
 【巫覡載霊の舞・八威刃】はそれによって成る。
 神霊をその身に降ろすのが巫女の術であるならば、それもそのはずだが、神がその身に降りるということは、同時に紅葉もまた神の側に近づいていくことでもある
 剣神を奉る彼女がその身に宿すは、神代にうたわれるもの。すなわち、
「善き哉、この布都主が案内仕ろうぞ」
 厳かな空気を纏う紅葉は、もはや別人のような気配で、周囲に浮かぶいくつもの刃からもう一本を選んで手に取り、ゆるりと足を踏み出す。
「ふふふ、おにがかみにばけた」
 嘯く白鬼の目が狂気に染まる。
 紅葉の踏み込みは、緋袴ゆえにその足取りを不覚的にするが、一見すると緩やかなようで、足音すら忍ばせる特殊な歩法はまるで滑るように白鬼に肉薄する。
 振るわれるは無造作な斬撃。しかし、神を降ろしたその一撃は、絶大な加護を得ている。
 邪なる剣士、まつろはぬ刃、戦に狂う者。
 それらをいくつもいくつも鎮め、調伏していった剣の神の一撃。
 一回の剣士に過ぎぬ白鬼には、過ぎたるものであろう。
 しかしそれを、
「あはは、こんどは、神様が相手かぁ! あははは!」
 楽しげに、障害を喜ぶように、真正面から白鬼は斬馬刀で打ち合う。
 凄まじい破魔と衝撃波、神罰の雷がこもったそれを受けるのは至難であろうに、打ち据えられ、弾かれるほどに、鋭く、速さを増して応じ、あまつさえ反撃にも転じてくる。
「あるいは、うぬの相手がただの凩であろうとも、そうして迎え撃つのであろう」
「左様、今世に月無くば、現世に光無し」
 無明無月。相手が何者であろうとも、構うことはなく。
 そこに在れば斬れるという盲信のもと、一念が夢現をも違わず斬るかの如く。
 範囲を斬り飛ばす衝撃波を、破魔を、雷を、ただの儚い盲信を辿り続けた狂気が迎え撃つ。
 風が鉄を斬るだろうか。或は、風前の灯火は風を呑んで燃え上がるだろうか。
 無謀を絵にかいたかのように、神へ手向かう白い鬼の姿に、いつしか紅葉の頬は濡れる。
 道を踏み外して、気の振れた先にまで行こうとする者は、こうまでひたむきになれるものか。
 左肩のみに咲いていた赤い花が、もはや白鬼をそうでなくしてしまったかのように、着物を赤く染めている。
 十重二十重に連ねた、奉じられた刃の猛攻を、只の一人、只のひと振りが無傷で抗えるはずもなく。
 しかし、満身創痍の白い鬼は、なおも多くの剣の一撃を払いあげ、刀を担ぐ。
「あふなわるや……」
 痛みも、身体の鈍化も、すべて忘れる魔法の言葉。無念無想の境地に至る、無敵の呪術。
 一呼吸もあれば、次の次の戦いを始められることだろう。
 だれかが、その瞬間を狙ってでもいない限りは。
「──覚悟は、できていましたよね?」
 背後からやってくる薄い影のようなか細い気配に、思わず白鬼は斬馬刀を薙ぐ。
 青い雷のように見えた。
 もしくはこの場に灰色の時雨でなく、青く晴れていたいたならば、それはまさしく、青天の霹靂。
 それまで気配を消していたクロスは、鬼が次の行動に移る一瞬の呼吸を見ていた。
 その最大の隙をつくべく、今の今まで魔力を妖刀に込め、横に伸びる雷のように、背後から迫ったのだった。
 【妖刀術】黒光雷轟。黒く迸る雷光が青く見えたのは、その身に帯びたマフラーが尾を引いて見えたからだろう。
 倍以上もある斬馬刀の一撃とかちあったクロスの妖刀・一閃が、その斬り払いに太刀打ちできるものだったろうか?
 ただの打ち合いならば、結果は見えていたろう。
 しかしクロスの十分な距離を使った雷光の踏み込みと、片や咄嗟に取った振り向きざまの方手打ち。
 羅刹の膂力を以てしても、それは押し切ることはできなかった。
「……三人がかりで来るんだもの。参ったなあ」
 力でぶつかった次の瞬間、拮抗していたかのように見えた攻防は、雷が折れ曲がるかのような軌道を取るクロスの脱力からの受け流しが斬馬刀を逸らし、そのまま雷光が白鬼を切り伏せた。
 体の芯を捉えた一撃を貰えば、いくら戦場をかけた歴戦の鬼とて、往生の際を悟る。
 だがそれでも、まだ斬り足りぬと踏み止まり、大刀を担いだ先に、紅葉の姿があった。
「待ち人、吾等に非ず
 されど遠からず見えん」
 輝きを抱いた十握刃を構える紅葉が、その少女の面差しに似合わぬ重みのある言葉を継げる。
「だが、今は吾がうぬを連れて行く
 "剣神"布都主の引導、受けるが良い!」
 振り下ろされる一撃を受けようとする白鬼は、手に奔る黒い雷が動きを阻害していることに気づく。
 ああ、やられた。
 あの少年。刀ごと、三つの匂いのするあれらを斬ってやろうと思ったのに、世の中うまくいかぬものだ。
「ふふふ、まいっちゃうよ」
 不遜に笑い、やがて激しい輝きと共に、衝撃波が境内の石畳を捲れ上がらせる勢いで叩き割る。
 後には、何も。
 いや、黒曜石のような角を一本、形跡として残すばかりで、白鬼は消えて失せた。
「三人、三人って……とっくに一人だよ、俺は」
「あの方には、そう見えていたのでしょう」
 黒い雷の余波で、刀を握る手が納刀した後にも、焦げ付いたように痺れを覚えつつ独り言ちるクロスに、強大な存在感をいつの間にか霧散させていた紅葉が剣を納めて空を見上げる。
 霙はいつの間にか浅い雨脚と変化していて、今は降りやもうとしていた。
 その先ぶれか、雲が切れ間を見せ始めていた。
 あのグリモア猟兵は、白鬼を母と呼んだ。
 ともすれば、形見を背負って生きているクロスの姿に複数の形を見てもおかしくはない。
 気が触れた白鬼が、化外の何かを見たか。それとも、母ゆえに何かを見たのか。
 今となっては、それを確かめる相手も居ない。
「灰時雨も、すぐそこ迄でしょうか」
「雨宿りをする必要も、なさそうですね」
 まだ肌寒い風には、うっすらと梅の甘い匂いが混じっていたようであった。
 とはいえ、霙の中で暴れまわったおかげでびしょ濡れである。
 いつまでもそのままではいられない。
 猟兵たちは、晴れ間を覗かせる空を背に、神社を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月10日


挿絵イラスト