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だけど、一緒にいたかった

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●悲痛
「はぁっ、はぁ……はっ……」
 仄暗い空の下、少女――リジーは息を切らして道を駆ける。その紫の双眸には、めいっぱい涙を湛えていた。
(「――あのひとは、花を摘んできたらお母さんを助けるって言った」)
 思い出すにも恐ろしい、つい先ほどの出来事だ。突然領主館の招集を受け、母と2人で赴いた。
 応接間に通され対面すると、突然領主――ヴァンパイアは、母の喉元に噛み付いた。
 母の肌がみるみる血色を失っていく様を、リジーにまざまざと見せつけながら。

「……逃げ、なさい、リジー……はやく、……」
「……お、おかあさ……」
 震えるしか出来ないリジーへ真っ青になりながらも訴えた母に、ヴァンパイアの女は一度その牙を首から離すと、不快露わに母の髪を掴んで眼前へ持ち上げた。
「……愚かね。逆らう立場にないと解っているの?」
 しかし直後、愉悦の笑みを浮かべてこう告げたのだ。
「でもいいわ、許してあげる。貴女の血は極上よ。だから……賭けをしましょう」
 上品に囁いて、やがて女の血の様に紅い瞳がリジーの視線と重なった。場にへたり込むリジーを嘲笑う様に、或いは蔑む様に見下して。
「お前、村への道は解るわね? 途中の花畑にだけ咲く白い花を一人で摘んできなさい。それが出来たら、お前もお前の母親も助けてあげる」

 だからリジーは走っている。領主館を飛び出して、村へ向かう道を、ひたすら白い花だけ目指して。
 選択肢は無かった。だってヴァンパイアに逆らうことは、即ち死ぬことだ。
(「……でも」)
 ――だけど、リジーは本当は解っている。
(「花を摘んで戻れても、きっともうお母さんには会えない」)
 目尻に湛える涙から、滴があとからあとから零れ落ちた。どうしてこうなったのだろう、と、問いは意味を為さないけれど――確かなことは、ヴァンパイアの気まぐれが働いたにせよ母の抵抗が自分を生かしてくれたこと。
 どうか逃れて、こんな世界でも生き延びてと、そう願ってくれただろうこと。
(「でも、お母さん……お母さんにも、生きてて欲しいよ」)
 だからリジーは花畑を目指す。もしかしたら、急いだならば間に合うかもと。絶望の中、そう在って欲しいという微かな希望を心に抱き、溢れる涙を拭いながら少女は道をただただ駆けた。
「――一緒に居たいよ、お母さん……!」
 やがて至る花畑に、ヴァンパイアが放った無数の魔物たちが蔓延ることも知らないままに。

 その日。領主館と花畑、離れた場所で――1つの母子の尊い命が、世界の理不尽に消え去った。

●予知
「お前達が手を尽くしても、母子が理不尽な死別から逃れることは出来んよ。……それを覚悟で向かえるか?」
 グリモアベース。右手の古びた煙管にグリモアの藍光を浮かべ、サモン・ザクラ(常磐・f06057)は猟兵達へと試す様に問い掛けた。
「ダークセイヴァー――ヴァンパイア支配下の世界。予知は聞いての通りだが、俺の転移でお前達が降り立つのは、領主館の前だ」
 正面から突入すると、玄関ホールにリジーという齢10にも満たない少女が駆けて来る。
 『リーシャ・ヴァーミリオン』と名乗るオブリビオンの言に従い、花畑を目指して領主館を飛び出す少女を――このままであれば、無数の魔物が蹂躙するという。
「リーシャというヴァンパイアは、娘を生かすつもりなど最初から無かったのだろうよ。だから花畑に魔物を放った。……母の血は己で喰らい尽くし、娘の命は配下にくれてやるためにな」
 そしてこの事実に理不尽と怒りを覚えても、オブリビオンの完全なる支配下に在って、無力な民にそれは全く意味を為さない。
 糧にならぬ怒りよりも、静かに耐えて生きること――そう在ることが当たり前の世界なのだと、サモンは淡々と口にした。
「だが、それでも娘の命を守ってやることは出来る。守った先に、……例え娘の望む未来が無かったとしてもだ」
 魔物を花畑へ放ったために、領主館の警備は幾分手薄になっている。だから、攻め込むには今が好機だ。しかし、戦いの先にリーシャが望む母との未来を迎えることは決してない。
 猟兵達が急いで向かったならば、急いでリーシャを打倒したならば、という話では無いのだ。リジーが駆け出したその時点で、……母は既に息絶えていたのだから。
 リジーが生きる母に会うことは、今生でもう二度と無い。
「リーシャ・ヴァーミリオンは決して楽な相手では無かろうよ。人間のことをおもちゃとしか思わぬ、無邪気に人々を蹂躙するヴァンパイアだ。しかし娘はお前達にしか救えんし、お前達でなければリーシャの討伐も叶うまい。後味の良い帰還にはなるまいが――」

 そこまで告げて言葉を切った竜人は、顔上げ視線交わした猟兵の瞳の強さに、紫紺の瞳を僅かに緩めた。
「……それでも、娘を救いたいと願うのだろうな。お前達ならば」
 それまで淡々と語ってきた声が、仄かに温もりを帯びた。サモンの右手の煙管に浮かぶグリモアの藍光は、少しずつその輝きを増していく。
「ならば俺ももう問うまい。お前達が往くその先を見届けよう。……心のまま進める様願っているよ」
 ――命守れても、今日の戦いの果てに、少女が望む幸せは待たないけれど。
 どうか、少女にも猟兵達にとっても救いある結末を――願うサモンに見守られながら、猟兵達は転移の光に包まれた。



 蔦(つた)がお送りします。
 宜しくお願い致します。

 さて、今回ご案内するのはダークセイヴァー。以下の構成でお送りします。

 【第1章】vs篝火を持つ亡者(10体ほど)
 玄関ホールでの戦闘です。
 【第2章】vsリーシャ・ヴァーミリオン(1体/ボス戦)
 騒ぎを聞きつけ、玄関ホールに現れます。
 【第3章】村での夜(非戦闘パート)
 一人になったリジーと共に、リジーの家で朝を待っていただくパートとなります。
 夜間のため騒ぐことは叶いませんが、眠れないリジーに付き添ったり、接触せずとも家を警護したり。能力内容は気にせずに、行動をご指定ください。
 なお、母の遺体は村人が引き受け、別所で安置してくれています。手を合わせ帰宅した後と把握ください。

 人1人救うことが簡単ではないこの世界で、無数に起こっている悲劇の内のたった1つ。決して明るくない未来が待つ少女を前に、皆様はどの様に行動しますか?
 いただくお心に応えられる様頑張りますので、何か感じるものがございましたら是非プレイングをお寄せください。
 戦いへ参加は出来ませんが、心だけはサモンが皆様の隣におります。第3章ではお声掛けいただけましたらお傍に参りますので、プレイングにてご指定ください。

 ※ 同行希望の方がいらっしゃる場合は、必ずお相手の名前・IDを相互にプレイングに記載ください。

 それでは。皆様のプレイングを心よりお待ちしております。
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第1章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

冴島・類
希望は必ずある
救いが必ず訪れる
…世界がそんなに優しくないことは知ってます
けど、たった一歩
一つの、芽を守ることで可能性が生まれることだってある

到着次第、リジーに亡者の攻撃が届かぬよう
割り入り、射線塞ぎ後ろにさげる

もう、大丈夫などは言わず
ただ、安心させる為
にこり笑い、危ないから後ろに下がっていてねと

戦闘時は炎は避けれるようなら避け
けれど、リジーに放たれた場合は庇い受け
巫覡載霊の舞を使用し
相手の攻撃を軽減しながら、攻撃を
当たらない場合は、フェイント、薙ぎ払いを使用し
体勢を崩して攻撃できるよう
相手の動きを注視し動く

火は長らく馴染みあるからね
燃やすなら、どうぞ此方へ
逆にぶった斬られても怨みは聞かないよ?


アウレリア・ウィスタリア
ヴァンパイアは「敵」
ボクは復讐者、だから守りきれない無念を胸に
ボクの「敵」を滅しましょう

【血の傀儡兵団】
傷つけた自分の手首から滴る血より召喚
集団には集団で挑みましょう
敵一体に対して複数で囲み物量で押し潰す
急いで殲滅するためにも
ボクも兵団の合間を縫い死角から拷問具を突き立て
敵の数を減らしていきましょう

愛しい母に会えない
そんなことはない
母は娘を守った、その事実は揺るがない
その心はあの子の胸に刻まれたはず

黒猫の面をしっかりと身につけ
子を守る母の思いを守るため、
それを踏みにじろうとするヴァンパイアに復讐するため
ボクは武器をこの手に取ろう


阿紫花・スミコ
現場につき次第、少女を追跡。戦う前に少女に一つだけ確認する。

「たとえこの場でキミの命を救ったとして、キミの明るい未来を約束してあげることはできないけれど・・・それでも、キミは抗う力を望むかい?」

少女に問う。答えがYESならボクの行動も決まる。

「なら、力を貸そう・・・反撃の時間だ!」


スーツケースからからくり人形「ダグザ」を解き放ち、亡者たちを攻撃。なるべく一か所に追い込むように戦闘を進める。

「これで決まりだ!」

人形の腰部の歯車がギシギシと音を立てて回転する、ダグザの持つ超重量の棍棒とともに。超高速の連続攻撃「スピニング・スイーブ」をお見舞いする!
(追跡、聞き耳、暗視、怪力、フェイント、なぎ払い)


白波・柾
伸ばされた手があるならば、その手を取り引いて歩き出す
願われた思いがあるならば、その祈りを聞き届けて正義の命ずる限りに応える
俺はそういう猟兵でありたい
たとえ、少女の望む幸せに繋がらなかったとしても
このままでは、少女も俺たちも間違いなく後悔するだろうからな
いざ―――参る

敵の影を踏まない、触れないように気をつけていこう
手近な敵に狙いを定めて
大太刀の間合いに入れば正剣一閃で攻撃していこう
猟兵の仲間たちとも連携して、数を減らしていけたらいい


鼠ヶ山・イル
強欲だなァ、リーシャって女は
普通はいっこ奪ったら満足するもんだぜ
ちょっとズルいんじゃないの?
……リジーのお母さんの大事なもん、てめぇだけに奪わせてばっかでたまるか

リジーが駆け出して行くところを邪魔させないように動くぜ
希望も何もない行動のために走るとしても、ま、危険な場所から離れるなら止める道理はねぇからな
オレの魔法でこんな亡者ども、蹴散らしてやる
【2回攻撃】で牽制も兼ねて手数で叩くぜ
とは言っても接近戦苦手だからな、誰かと一緒に戦えたら心強いんだが

昼顔の花言葉って知ってる?真昼の娼婦ってなァ、色っぽいだろ?
ま、最期にいい思いしていけよ


ノワール・コルネイユ
喩え明日が闇に閉ざされていたとして
それでもお前はまだ生きている
母が繋いだ命は続いて行くんだ

私は誰かを護りながら戦う、というのは不慣れだ
一匹でも多くの気を惹いてリジーの安全を確保するとしよう

【殺気】を散らしながら敵の懐へと飛び込み注目を向けさせるよう試み
ユーベルコードを攻撃回数重視で発動
手近な一体に仕掛けて、【2回攻撃】で更に手数を稼いで切り刻む
1匹始末したら次の近くの者へ狙いを移す

回避行動は1対1なら【見切り】、対複数なら【第六感】を頼りに行い
取り囲まれたら包囲を抜ける等で対策

何の慰めにもならんかもしれんが
吸血鬼は必ず始末してやる

お前の母の献身が無駄でなかったと、私達が証明してやる

(アドリブ可


多々羅・赤銅
よっ、嬢ちゃん!
母さんを守りに行くんだな。
そんな細い手足で一生懸命抵抗してんだなあ
いい子、いい子だ、たっとい命だ。

な。私もあたま来てんだ
(復讐ってえ訳じゃねえけどさあ
んなもん何の意味も無かろうが)
案内してくれるかい。


抜刀。少女に隠れていろと声を掛け鬼は駆けた。
身一つと刀一本、それから子を愛する故の怒りと鋭い殺意を引き連れて、斬って斬っての大立ち回り。
感、見切り、残像を駆使しつつも避ける隙など与えぬ程の捨て身まがいの突貫で、息つく間もなく。炎耐性もつ身体は、炎では止まらない。
万一少女を狙うなら、何を捨てても庇うべく炎を斬り裂き疾く駆ける
最優先は、少女に傷一つ負わせない事
退け。散れ。死に絶えろ。


クロト・ラトキエ
【トリニティ・エンハンス】の炎の魔力で攻撃力強化。
フック付きワイヤーのフック部を短刀代わりに攻撃――を『フェイント』にして、
『2回攻撃』と『破壊工作』の要領で敵集団の足元に鋼糸を這わせて仕掛け、『範囲攻撃』狙い。
脚を封じ、又は斬って、隙を作り、
お仲間のとっておきの一撃に繋げたく。

例えば篝火の炎が己を焼くなら、
その傷は痛むことでしょう。
けれどそれでも、僕は生きる道を選ぶ。
怒りが意味を為さなかろうと、
理不尽を甘受してやる謂れも無い。
…誰の心もがそうでは無いのでしょうが。
ともあれ、僕は全霊で八つ当たりを。

さぁ、奪われる覚悟はよいですか?


(微笑んでいても、楽しい訳ではないのです
(アドリブ・絡み歓迎です


ギド・スプートニク
少女よ、そこまでだ
此れより先、きみの目指す花畑には魔物の群れが待ち構えている
このまま向かえばきみは死ぬ
きみが自ら死を望むのなら私は止めない
だがそれでは、きみの母君は無駄死にだろう

私も嘗て、吸血鬼の手によって母の命を奪われた
母は命を賭して私を助け、私はおめおめと生き延びた
だがそれを恥とは思わぬ
母に助けられた命だからこそ、誇り高く生きねばならぬ

少女よ、自らの意志で選ぶのだ
苦しみを乗り越え、生きるのか
或いはすべてを投げ出し、死を選ぶのか

少女は身を挺して守りながら、亡者どもを駆逐する
死人は死人、死なせてやるのがせめてもの供養だ

力は敢えて温存しておく
下等な血吸い虫に身の程を教えてやらねばならぬからな


ジャハル・アルムリフ
母親か
幼子には世界のすべてに等しかろうな

止められぬなら出来得る限りを
せめて連中に、その無念の一端でも教えてやろう


*他猟兵がいれば連携も意識
数多い敵に死角を取られぬよう努める

着くと同時、少女の姿があれば後方
余波の及ばぬ位置へと庇い、代わり前へ
…暫し、目を閉じているといい

【餓竜顕現】で背後に通さぬ様、壁を兼ねた攻撃
黒剣で薙ぎ払い、弱った個体は他の個体の方へと蹴り飛ばし
他猟兵へ向けられる攻撃の妨害ともする

…唯一の、存在
その最期の願いだとしても
叶えられるのは己だけであるとしても
二度と会えぬと知って、自身は生きたいと願えるだろうか

今は切り捨て
少女の気配に前を見据える
嗚呼、邪魔だ
あの娘の視界から疾く消えろ


ヒビキ・イーンヴァル
……たった一人でも、救える命があるんなら諦めねぇよ
その後どうするかは、後で考える
考えるために、とりあえず目の前の亡者を叩き潰す

まずはリジーの保護
他の猟兵が既に保護してるなら、リジーと亡者どもの間に立って亡者の注意を引くように行動しよう
『蒼き焔よ躍れ、嵐の如く』で攻撃
『高速詠唱』からの『2回攻撃』で畳みかける
炎は全て別にして、色々な角度からぶつけていく
『範囲攻撃』で纏めて燃やすのも有りか
狙うならこっちに来い。全て燃やし返してやるよ

接近されたら、剣で対処
燃やすだけが取り柄じゃないんでな

世の中には「生き地獄」って言葉もあるくらいだ
生きるのと死ぬのと、どっちがいいかなんて簡単に決められないよな


狗飼・マリア
私、外道には残酷ですわよ?

今回のお相手はヴァンパイアなのもありますが悪趣味極まりないので、
屈辱と物理ダメージを食らわせてやりましょう(にっこり)

まず私は『アイテム:メイド108道具【メイド大砲】』に私自ら乗り込み、
館の外からダイナミック入場&攻撃します。
私は『UC:無敵城砦』を使って最強の弾丸となっているのでご安心です。

「ごめんくださいませ!メイドの弾丸の速達ですわ!!」

標準はどうするのかと言われますと玄関ホールだというのに室内で篝火を焚いている時点で狙ってくれといっているようなものですわ。

お屋敷にメイド型の穴を開けて、ついでに部下をのしてしまいましょう!


エレアリーゼ・ローエンシュタイン
『いい母親、だったんだな』
あの魔女…私達を生贄に差し出した、エル達のママとは大違い
ならせめて、優しいママの願い、一つだけでも
『果たしてやらなきゃ、な』

鞭での【なぎ払い】で複数の敵を巻き込んで
エルがなるべく敵の目を引き付ける間に、エルくん…もう一人の彼は
リジーを安全な屋敷の外まで連れ出して、守っていてくれる?

『ああ…お前も、本当はもう分かってるんだろ』
『母親の望んだ事と、あのクソ魔女の馬鹿げた命令…本当に従うべきなのは、どっちだ?』

後の加減は不要ね
【ブラッド・ガイスト】で鞭の棘を強化
スタンガンから引き出した【属性攻撃】も乗せて
中距離、篝火の影には触れない位置で
纏めて、引き裂いてしまえばいいわ


リーヴァルディ・カーライル
…ん。それでも私は彼女を助けたい
今、目の前で潰える命を見捨て、
この闇夜を終わらせる事なんて出来ないから…

少女を呼び止め花畑に行くのを阻止する
【常夜の鍵】に武器を収めておき、
防具を改造して自身の存在感を抑える呪詛を付与

可能な限り警戒されないように振舞う
私達が猟兵という怪物を狩る者である事を話し、
花畑に行っても母親は助からない事を告げる

……貴女の母親はもう、殺されている

…貴女も理解しているはず
吸血鬼が、私達との約束を守ると思う?

…貴女の母が助けた生命を、貴女は無駄にするの?


戦闘は他の猟兵に任せ、私は彼女の護衛
少女が危険な行動をとらないように見切り
第六感が危険を感じたら大鎌をなぎ払って武器で受け庇う


麻生・大地
【POW】

【レグルス・タイタンフォーム】で変形

玄関のドアを破砕して、ホールに突入。そのまま戦闘に突入します。
小細工を弄する必要はないでしょう、力の限り全力で暴れまわって、有象無象を蹴散らします。その際、仲間が戦闘の際に邪魔になりそうな障害物もついでに破砕しておきます。あとは、仲間のための遮蔽物になりながら確実に殲滅しましょう。
確かに、この世界にはどうにもならないことがそれこそ山のようにあるのでしょう。けれどそれは、この世界の支配者を気取る者たちにとっても同じことだと思い知ってもらいます。
「心の赴くままに暴れさせてもらいましょうか。宣戦布告状、どうぞお受け取り下さい」


エンジ・カラカ
アァ……遊びたいだけなンだ。
この薄暗い世界でずーっと遊んできた、ダカラ今日もまた遊ぶだけ。

でも、コイツが泣きそうなンだ。
ボロ布の下に隠れるオブリビオン、ちらりと覗く青い鳥。
なァ、早くあーそーぼ。
先制攻撃で人狼咆哮。
使える手段は使って一体ずつ確実に倒す。
味方との連携もモチロンする。

敵サンの攻撃は見きりで回避。
これだけの数なら一つ一つをゆっくり把握している暇はないなァ……。
支援に徹するのは得意、ケド、今回はさっさとヤるかー。
足の速さを生かして敵サンを翻弄するのもイイかもなァ……。


玖・珂
駆け出る娘の前に立ち声を掛けるぞ
花畑に咲いておるのは魔物だ、お主の命が摘まれることとなるぞ

全てを護ってみせる
そう大言出来る気概があればどんなに良いか

為ればこそ、――命ひとつは護ってみせよう

羽雲を傍へと呼び寄せ長杖を手にしたなら
フリーとなっている敵へ
片目に翠の花を咲かせつつ接近

火炎耐性とUCの軽減もある
炎が放たれても構わず長杖を振り下ろすぞ
亡者を増やされては面倒だ、手早く片付けてしまいたい
回避されたならば其のまま2回攻撃だ
懐へ向け零距離で電撃の全力魔法を放つ

……生き残るのは、運が良いのか悪いのか


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

母親が死んで子供が残る
ああ、嗚呼ー…どこにでもある
『どこか』で聞いたような話だ
かつてみた首だけになった自分の母を思いだし一度だけ目を閉じる
…とにかく、生きてなきゃ望む未来もその先の話もできねえ
とっととかたをつけてやる!

【望みを叶える呪い歌】を歌い
先制攻撃とばかりに斬撃を飛ばす
同時に駆け出し一回二回と連続で斬りつけ
なるほど予測されるのは厄介だ
…なら、追い付かないくらいのスピードで動きゃいいんだろッ!
靴に風の魔力を送り足元に作った旋風を炸裂
さらにスピードをだし
勢いのままに篝火を持つ腕を蹴りあげ武器を落とさせる
蹴った足を踏みつけるように地面に落とし軸足にし反動を利用するように剣でなぎ払う


アルバ・アルフライラ
ふん、逆らわなければ――等どの口が言う
結局どちらも生かす気は無かったではないか
…貴様等なんぞに娘を与える訳にはいかぬ
疾く消え失せるが良い

仕込み杖で描いた魔方陣より【雷神の瞋恚】を召喚
高速詠唱を用いて無数に、可能な限り広範囲に落としていく
亡者を麻痺させる事が出来れば僥倖であるが
死者、気絶中の者を新たな亡者へ変えられた際
前者ならば躊躇なく魔術で消し炭に変えられるが
後者は…操る亡者を倒す事で解除可能か試してみるしかなかろう

他猟兵へ支援は惜しまず死角を補うよう行動
敵の攻撃は見切り、第六感等で回避
回避が叶わずとも防御からのカウンターを仕掛ける
――容易く触れられると思うてか?

(従者、敵以外には敬語で話す)


イア・エエングラ
やあ、転んではいけないよう
きっと立つのも大変だろに、一番にかけて花を取りに行くの
優しい子ね
けれど行っては、だめよ
お母さまの祈りさえ、潰えてしまうのではかなしいもの

おやまあ沢山いらっしゃること
花畑にも大人げなく沢山いるのかしら
随分趣味の、悪いこと
一掃できないことの、憎らしいこと
囲まれては困るから、同胞の傍におりましょな
前へ出られる方へ前は任せて後方からと、いきましょう
沢山いる亡者たちの、全体見まわし手薄なところへ
黒糸威で間隙を埋めるといたしましょ
ひとつと残らず、きた場所へとおかえりよう

どうか、……泣かないでとも願えないから
手の届くうちくらいは、守れるように


都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎

少女が動揺し怯えているようなら
穏やかに笑んで名を呼び掛け
娘の盾となり保護
不意打ち、襲撃、死角に備えて第六感を研ぎ澄まし
見切り回避

母親の死への嘘は吐けない
然れど今
生ある少女と私達の命の温もりを伝える為に
そっと背に手を添える
紡いでいく現在を
未来を
潰えさせはしない

眠りを覚まされ呼び戻された亡者達
燈す篝火は貴方達にとって
何を照らすものなのでしょうか

過去の残滓は未来へは決して向かえぬ
ならば黄泉路を灯し
在るべき骸海へと還りなさい

放つ符は流星の如し
二回攻撃で確実に捕縛、味方の援護
まだ対峙する数が多ければ
花筐で範囲敵一掃

穢れなき清浄な白花の幻想は
凍れる雪片にも
散り逝く母親への弔いの餞にも似て


蒼城・飛鳥
…胸糞悪い話だな
人の心を、命を弄びやがって…!!

リジーが駆けて来たら他の猟兵と共に保護して守り抜くぜ
必要があれば全力で庇う

その子に指一本でも触れてみろ
篝火なんて生ぬるいもんじゃない
俺の炎がてめえらを灰も残さず焼き尽くしてやるぜッ!!

…リジーは花畑へ行きたがるかもしれない
希望を打ち砕きたくはねーけど…行かせる訳にもいかねーし、今だけの誤魔化しもしたくない
ヤツの言葉は全て嘘だと話して引き止めるぜ
「お前は俺らが絶対守る。だから、ここにいてくれ」

保護が出来たら、他の猟兵に合わせて不死鳥を放ち、迅速に数を減らしていくぜ!
間に合う間に合わないは関係ない
一刻も早くこの子の大事な母親を取り返さなきゃな!


クロード・ロラン
ああ、くそ。やっぱりヴァンパイアは胸糞悪いやつばっかりだな!
救える命が1つでもあるなら、俺はそれを取り零したくねぇ!

転移が完了したら、急いで玄関ホールへ
まず優先すべきはリジーの命だ、近くにいるなら手を引き守る
仲間の方が近ければ、亡者を咎力封じで抑え込みリジーの確保を手伝おう

リジー、聞いてくれ。あのヴァンパイアは、お前との約束を守るつもりなんてない!
花畑に行けば、お前も死ぬ。それじゃお前の母さんの願いは叶えてやれないだろう?
リジー、お前が果たすべきは、ヴァンパイアとの約束じゃない、母さんとの約束だ
だから、ここにいろ。お前のことは俺らが守って……そんで、あの女を俺らがぶっ飛ばしてやる!




 ――とん、と。降り立った屋敷の前で、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はそっと胸に右手を当てると、先に受けた問いを改めて心に問う。
(「『手を尽くしても、母子が理不尽な死別から逃れることは出来ない』。……ん。それでも私は彼女を助けたい」
 今、目の前で潰える命を見捨て、この闇夜を終わらせる事なんて出来ないから――伏せていた長い睫毛の下から紫の双眸が覗くと、リーヴァルディの上向く視線に、緩く弧を描く銀の髪がするりと優しく背を滑った。
 ……暗い空だ。この世界の在り様を示す褪せた色彩はとても悲しい。しかし『星砕丸』――その手に今は鞘に収めたままの妖刀を握る白波・柾(スターブレイカー・f05809)は、褪せた空の視界を閉じると、ただ1人で物思う。
(「伸ばされた手があるならば、その手を取り引いて歩き出す。願われた思いがあるならば、その祈りを聞き届けて正義の命ずる限りに応える。――俺はそういう猟兵でありたい」)
 たとえ、この戦いが少女の望む幸せに繋がらなかったとしても――このままではきっと、少女も柾や猟兵達も後悔するだろうから。戦いへと心を高めて橙の瞳を開いた柾は、歩き出したその先に、やはり褪せた空仰ぐ青年を見た。
 金と蒼、両色の瞳にそれを迎えるヒビキ・イーンヴァル(蒼焔の紡ぎ手・f02482)は強く拳を握り締めると、決意を確かな声に乗せる。
「……たった一人でも、救える命があるんなら諦めねぇよ」
 世界の理不尽、オブリビオンの気まぐれに母を奪われ、また命を脅かされようとしている1人の少女。救ったその先が如何に苦しく過酷なものであろうとも――手を伸ばせば届くのならば決して諦めたくはないと、ヒビキは空から視線を戻すと、強く、強く目の前の館を睨んだ。
「その後どうするかは、後で考える。考えるために――とりあえず目の前の敵を叩き潰す」
 強い意志持つその声を少し離れた場所に聞き、頼もしさに、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は美しき星煌く瞳を微かに緩めた。
 しかし戦いへ思い至ればやがてすぅと細められ、隣に在る従者だけに至る低音の声が空気を揺らす。
「……ふん、逆らわなければ――等どの口が言う。結局どちらも生かす気は無かったではないか」
 杖にも似て苛烈なる刃秘める『星追い』を握り締め、アルバは今日の敵への怒りをこう強く吐き捨てた。それを耳に受け止めながら、従者――ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は竜たる血族の鋭瞳を伏せ、今日救うべき少女を思った。
(「――母親か。幼子には世界のすべてに等しかろうな」)
 それを残酷にも目の前で奪った今日の敵を、ジャハルとて赦そうとは思わない。伏せた視界に武骨な己が手の平を差し入れると、声に乗せ放つ誓いと共にそれをぐっと握り締めた。
「止められぬなら出来得る限りを。せめて連中に、その無念の一端でも教えてやろう」
 歩き出す主従が伴い、やがて至ったのは館の玄関。木製の豪奢な扉の前には、既に1人の男が立っていた。
「確かに、この世界にはどうにもならないことがそれこそ山のようにあるのでしょう」
 麻生・大地(スチームハート・f05083)――傍らに愛機『可変試作型バイク【レグルス】』を停め、両手を包むグローブをぐい、と引いて直した男は、大きな扉を見上げると、ふっと軽く息を吐く。
「けれどそれは、この世界の支配者を気取る者たちにとっても同じことだと
思い知ってもらいます。――プログラム・ドライブ。レグルス・タイタンフォーム」
 告げて直後、大地の全身、そして愛機【レグルス】を強大なる魔力が包んだ。
 愛機がその継ぎ目から形を変え、大地の体を覆い一体化していく――それは強化のユーベルコード『レグルス・タイタンフォーム』だ。
 機密の部品を纏う体は、みるみるうちに3メートルを超える巨大なロボへと変化した。かといってギシリと金属軋む様な音や手応えは無い。全ての部品が、今や大地の体として自在に機能すると解った。
 その体、その拳を振りかぶって大地が狙うは――屋敷の玄関。木製の豪奢な扉。
「心の赴くままに暴れさせてもらいましょうか。宣戦布告状、どうぞお受け取り下さい」
 直後、突き出した鋼の拳が木製の扉を跡形もなく粉砕した。
 手荒い入場、だが小細工を弄するつもりも無かった。これを戦いの狼煙として、オブリビオンを打倒するのだ。
 静かだったであろう屋敷内に、破壊音が響き渡る――真っ先に突入したアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は、黒と白の翼を羽ばたかせ、舞う土煙を退ける。
(「ヴァンパイアは『敵』。ボクは復讐者、……だから守りきれない無念を胸にボクの『敵』を滅しましょう」)
 黒猫の仮面の下に隠す真っ直ぐな琥珀の瞳で、アウレリアは少女と敵の姿を探す。
 破壊された扉と壁や調度品の礫が散乱する玄関ホール。右手に奥へと続く通路。左手には2つの扉。正面には、上階へと続く階段。
 そして、その途中の踊り場に――。
「……な、なに……?」
 青い顔、息を乱して怯えた様子で立ち竦む、紫紺の瞳の少女が在った。


(「……この子が、リジー」)
 瞳の色から少女がそうと理解して、抱いた怒りにクロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)はその手をぎり、と握り締めた。
(「……ああ、くそ。やっぱりヴァンパイアは胸糞悪いやつばっかりだな!」)
 クロードの温かな陽色の瞳に映る子は――暗い灰色の髪に白い肌。その顔色は幼子には酷に思われるほど蒼白だった。華奢でいかにも頼りない小さな少女は、その仄暗い色彩の中大きな瞳の紫紺だけが鮮やかで――視線は現れた人影の中を彷徨い、戸惑う様に揺れていた。
(「救える命が1つでもあるなら、俺はそれを取り零したくねぇ!」)
 思いながら怒りに震えるクロードのその視界に――ふいに1つ影が過った。
 温みあるピンクの内に輝く空秘めた髪を揺らして宙を駆けたその人は、ふわりと軽やかにリジーの前へと着地する。
「――よっ、嬢ちゃん!」
 ――スタン! とただの一歩の跳躍で踊り場までの段差を超えた、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)。
 目の前に着地した女性の、その軽やかな登場に驚き見開かれたリジーの瞳。そこに映り込んだ赤銅は、膝を折った着地の姿勢のまま、顔を上げて少女の視線を受け止めている。
 ――右目だけで見つめるその赤茶色はとても、とても優しい。
「母さんを守りに行くんだな。……そんな細い手足で一生懸命抵抗してんだなあ。いい子、いい子だ、たっとい命だ」
 暗い灰の髪を撫でて赤銅が笑んで見せれば、その温かさにか少女の瞳がじわりと揺れた。だが同時に目的も思い出したのだろう、少女は込み上げた涙をぐっと耐えると、するりと赤銅の手を離れ、階段を降ろうとする。
「やあ、転んではいけないよう。きっと立つのも大変だろに、一番にかけて花を取りに行くの、優しい子ね。けれど行っては、だめよ」
 しかしすっと階段の途中に立って、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)が少女の行く手を遮った。びくりと肩を揺らし立ち止まったリジーは、どうして止めるの、と浮かべた涙でイアの藍瞳に訴える。
「お母さまの祈りさえ、潰えてしまうのではかなしいもの」
「花畑に咲いておるのは魔物だ、お主の命が摘まれることとなるぞ」
 何処か悲しく笑んだイアの横に、玖・珂(モノトーン・f07438)が歩み出た。優しい乳白に全身を包んだその姿は、唯一黒い瞳がリジーの視線を受け止めるが、――その必死さに胸を打たれる。
(「全てを護ってみせる。……そう大言出来る気概があればどんなに良いか」)
 どうにかして、この幼子の願いを叶えてあげたかった。母と共に過ごす未来――世界が違えば当たり前に在る日常と知ればこそ、叶えられない現実は悔やまれて。
 だから珂はリジーの手を取ると、引き寄せ外套の中に閉じ込める。
「為ればこそ、――命ひとつは護ってみせよう」
 ぎゅっと強く抱き締めた刹那、ごう、と炎が押し寄せた。抱き締めたのは守るため――リジーを庇い炎に背を向けた珂を、更に冴島・類(公孫樹・f13398)が射線に割り入り背に庇う。
(「希望は必ずある、救いが必ず訪れる、……世界がそんなに優しくないことは知ってます」)
 思う類の視線の先には、ホール右手の奥へ続く通路から押し寄せる篝火を掲げる亡者。炎に魔力を込める敵勢に正面から向き合って、類はひゅる、と薙刀を取り回し、真横に一文字、炎を払った。
(「――けど、たった一歩。一つの、芽を守ることで可能性が生まれることだってある」)
 リジーの命を救いたい。しかし、救ったその後その未来に大丈夫なんて無責任なことは類には言えない。世界の理不尽、不条理を知るにつけそんな言葉は徐々に曇って、厳しい現実には息が詰まる。
 ……それでも、生きることで未来に可能性は広がる筈だから。
「ねぇ、リジー」
 だから類は、背に守る珂の腕の中のリジーへ振り向き、にこりと笑んでこう告げた。
「危ないから、後ろに下がっていてね」
 今はただ、少女が安心できる様にと――白髪の男は言うなりとん、と珂の背を後ろへ押しやって、空に薙刀の刃先を滑らせる。
 ――ユーベルコード『巫覡載霊の舞』。
「火は長らく馴染みあるからね。燃やすなら、どうぞ此方へ。……逆にぶった斬られても怨みは聞かないよ?」
 刃が閃くその度に、その切っ先から衝撃波が亡者へ奔った。斬撃の合間を縫って再び襲い来る炎の奔流に類が命削る舞で対応するその間に――珂はリーヴァルディへリジーを託すと、五指に鐵纏う左手、その甲を真上に空へ掲げた。
「――羽雲!」
 叫んだそこに、大きな猛禽が舞い降りた。
 名を呼ぶ主の求めに応じて姿を現した白き精霊は、バサ、と翼を折り畳む最中、その威容から光を放って在りしかたちを杖へと変える。
 掴み取った長杖に魔力込め、珂が向かうは今まさに炎放たんと構える亡者。接近に気付いてか此方へと振り向いた標的に、しかし珂の駆ける足は止まらず、眼前へ杖を立てて掲げた。
 杖に巡る魔力の光。敵の炎至るその寸前に――珂の左目に翠の花が咲く。
「――さようなら」
 声が響いたその直後、ごう、と激しい炎の奔流が亡者の篝火から放たれた。珂に直撃と思われた猛攻は、しかし珂の前で杖によって2つに分かたれ後方へと流れていく。
 火炎への耐性も重ねた纏いし魔力――ユーベルコード『秘せずば花(イノチミジカシ)』。
(「……生き残るのは、運が良いのか悪いのか」)
 肌を焦がす熱量に耐えながら、珂はリジーの行く末を思う。されど、それもこの戦いを終えてからのこと。
 炎の圧力を耐え凌ぐと、珂は最上にまで魔力高めた長杖で亡霊を頭から斬り裂いた。


「お願い、行かせて! でないとお母さんが……!」
「リジー」
「お母さんが死んじゃうの! だから……!」
 遂に始まった戦いに今は背を向け、悲痛な声で訴える少女リジーを引き留めるリーヴァルディは、警戒を解きその心と向き合うために既に武器をユーベルコード『常夜の鍵(ブラッドゲート)』の中へと収めている。
 今此処に居るのはただ、リジーを救うために――だからリーヴァルディは少女の小さな両肩に触れ膝折ると、諭す様にゆっくりと首を振った。
「花畑に行っても、貴女の母は助からない。……貴女の母親はもう、殺されている」
「どうしてそんなこと言うの……!?」
 真っ直ぐなリーヴァルディの言葉に、リジーの語気が強くなった。しかしその表情、涙を湛えた紫紺の瞳に浮かぶのは動揺では無く拒絶の色。目の前で起こった悲劇を、受け止めたくない――信じたくないと、その瞳は訴えていた。
「……貴女も理解しているはず。吸血鬼が、私達との約束を守ると思う?」
「……っでも……でも!!」
 言葉に詰まりながら、それでも何とか否定しようとする少女の姿に、エレアリーゼ・ローエンシュタイン(花芽・f01792)は紅い瞳を悲しく揺らすと、これほど少女に思われる死した母の姿を思った。
「『いい母親、だったんだな』」
 その思考の傍らに、よく知る少年の声がする。姿の見えないその声の主へと頷いて、エレアリーゼは茨を模した黒の棘鞭を強く、強く握り締めた。
「あの魔女……私達を生贄に差し出した、エル達のママとは大違い。ならせめて、優しいママの願い、一つだけでも」
 瞑想する様に瞳を閉じて、全身の魔力を手繰る。力寄せるのは自分の目の前。すっと鞭持たぬ左手を前に翳すと、そこにふわりと温もりが重なった。
「――果たしてやらなきゃ、な」
 頭に響いていた少年の声が、現実世界に響き渡った。紅い瞳を開いた時、目の前にはもう1人、自分が左手に右手を重ね立っていた。
 『オルタナティブ・ダブル』――顕現した第二人格に「エルくん」と呼び掛ければ、もう1人の自分はにこっと笑う。
「エルくんは、リジーを守っていてくれる?」
「ああ」
 その答えにエレアリーゼもにこっと笑むと、くるりと反転、その遠心力で鞭を前へと解き放った。
「――後は加減は不要ね!」
 ピッと爪で鞭を握る右手の甲を斬り裂けば、皮膚を滑った血を贄に、鞭の棘がむくりと育ち鋭さを増した。『ブラッド・ガイスト』――殺戮に飢える武器の本質が、2体の亡者を絡み取る。
「纏めて、引き裂いてしまえばいいわ!」
 柄を強く引けば、締め付け、引き裂く鞭の棘――ローブに覆われ表情見えない過去の死霊が、その苦痛に身を捩る。
「おやまあ沢山いらっしゃること。花畑にも大人げなく沢山いるのかしら、……随分趣味の、悪いこと」
 ――そこに凄まじい速度で飛来した黒き槍が、1体の亡者の体を穿った。
 そのまま貫通、抜けて先の壁に突き刺さった槍の導き手はイアだ。
 ユーベルコード『黒糸威(セレンディバイト)』。透く蒼髪の美しいその男は、柔らかな口調とは裏腹に、指先で操る苛烈な一撃で亡者を幽世へと送り返す。
 一方、残るもう1体へは――。
「――其は荒れ狂う蒼き焔、我が意により燃え尽くせ」
 高速詠唱に練り上げられていく魔力が、蒼焔となって空に灯り、ヒビキの周囲を取り巻いた。『蒼き焔よ躍れ、嵐の如く(ワイルドハント・ブレイザー)』――苛烈に盛る焔のユーベルコードはヒビキの意のまま空中で無数に分かたれ、上下左右前後ありとあらゆる角度から、棘鞭に囚わるローブの亡者を蒼い炎で燃やし尽くした。
「狙うならこっちに来い。全て燃やし返してやるよ」
 技の最中肩に落ちた青みがかった赤髪を払い、ヒビキが挑発的に吐き出す言葉は階段の上、或いは右手の通路から現れし新手の亡者へ。続々と現れる敵影に――イアはふ、と1つ息吐くと、藍の瞳を冷たく細めた。
「一掃できないことの、憎らしいこと。ひとつと残らず、きた場所へとおかえりよう」
 そして、沸き立つ戦意を一瞬収め、見遣った先は、リジー。
 哀しく揺らいだ藍瞳に映る、リーヴァルディの胸を叩く小さな少女は未だ現実に抗っていた。『だけど』『でも』と理由にならない言葉を繰り返すその様はとても幼くて――子供だった。守らなければ散る小さな命。
(「どうか、……泣かないでとも願えないから」)
 その幼さを目にして、涙を止める言葉などきっと誰にも紡げまい。
 きっと――亡き少女の母を除いては。
(「……手の届くうちくらいは、守れるように」)
 ――だからせめて。今この時だけは母の代わりに守れるようにと、イアは亡者を打倒すべく、再びその手に魔力を手繰った。


「……お前も、本当はもう分かってるんだろ」
 離れて戦う本体をちら、と見遣り、エレアリーゼの半身はリジーの髪をそっと撫でた。
「母親の望んだ事と、あのクソ魔女の馬鹿げた命令……本当に従うべきなのは、どっちだ?」
「……っ!!」
 ぶんぶん、と首を振って、リジーはその言葉に抗う。知らないままでいたい。解らないままでいたい――そんな思いを感じるにつけ、蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・f01955)の胸には尽きぬ怒りが湧き上がる。
(「……人の心を、命を弄びやがって……!!」)
 キッと睨み付ける戦場には、まだヴァンパイアの姿は無い。未だ無数蠢く亡者――戦わなければと理解していて、しかし飛鳥は未だ動けなかった。
(「花畑へ、行きたい気持ちもよくわかる。希望を打ち砕きたくはねーけど……行かせる訳にもいかねーし」)
 そうさせたのはリジーへの思い。現実を否定し続ける幼い少女に、どう言えば事実を受け入れて貰えるのだろう――危険と知れている以上、花畑へ向かわせるわけにはいかない。止めなければと、その思いが飛鳥をこの場に留めていたのだ。
(「……今だけの誤魔化しもしたくない」)
 理由を、こじつけることもきっと出来た。でも、飛鳥だけではない、猟兵達は誰一人そうしようとはしなかった。
 何故なら飛鳥や猟兵達がリジーを守れるのは今日限りのことだからだ。守り抜いて、しかしその先の未来にリジーと共に在ることは出来ない。
 だから――痛む心を振り切って、飛鳥はやはり事実を告げた。
「……リジー。ヤツの言葉は全て嘘だ」
 本当なら、優しい言葉を掛けたかった。ただの一言でリジーを救える様な、とっておきの言葉があったなら良かったのに。いや、本当なら母親のことも助け出して、リジーに良かったなと言えたら良かったのに――。
 でもそれが出来ない覚悟を、猟兵達は抱いてこの地に立ったのだから。
「お前は、俺らが絶対守る。だから、ここにいてくれ」
 せめて必ず守るからと、そう強く決意を言葉にした飛鳥の横からすっと1つ手が伸びた。白肌の男の大きなその手がぽん、とリジーの頭から額にかけて触れると、その力だけで少女はかくんと膝を折る。
 母を救いたい強い気持ちだけで動いていた少女は、その体も心もとうに限界だったのだ。へたりと床に座り込んでしまった少女の頭から手は動かさず――ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は低温の声で語り掛ける。
「少女よ、そこまでだ。此れより先、きみの目指す花畑には魔物の群れが待ち構えている」
 自分自身の動かぬ体に驚いて、リジーは呆然とギドを見上げた。まるで魔法の様に動けなかった。そしてその間、あまりにも静かに、あまりにも淡々と紡がれる言葉は少女の鼓膜を否定の間もなく揺らして消える。
「このまま向かえばきみは死ぬ。きみが自ら死を望むのなら私は止めない。……だがそれでは、きみの母君は無駄死にだろう」
 母、とその言葉を聞いた瞬間、リジーの顔がくしゃりと歪んだ、いやいやと、まるで駄々をこねる様に首を振る少女――そもそもリジーは、こんな風に駄々をこねる様な年頃の子であった筈なのだ。
 それなのに、母を救わんと奔走する姿はあまりに大人びて気丈だった――その強さを信じればこそ、ギドはリジーへ淡々と、思う言葉を紡ぎ連ねる。
「私も嘗て、吸血鬼の手によって母の命を奪われた。母は命を賭して私を助け、私はおめおめと生き延びた。――だがそれを恥とは思わぬ。母に助けられた命だからこそ、誇り高く生きねばならぬ」
 リジーの今を自分に重ねる、なればこそギドの言葉は説得力を持って響いた。動かぬ体に染み込む様な低い声は父親の様な威厳を持ち、リジーの紫紺の瞳からはぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。
 それを見て、陽色の瞳を悲しそうに歪めながらも、クロードは言葉を継いだ。
「なぁリジー、聞いてくれ。あのヴァンパイアは、お前との約束を守るつもりなんてない」
 リジーの心落ち着かせる様に、そしてまた己が心にも言い聞かせるかの様に静かに語る今日もっともリジーに歳近い少年は、時折狼の耳を揺らしながら、懸命にリジーへ訴える。
「花畑に行けば、お前も死ぬ。でもそれじゃ、お前の母さんの願いは叶えてやれないだろう? リジー、お前が果たすべきは、ヴァンパイアとの約束じゃない、母さんとの約束だ」
 そっとリジーの頬に手を伸ばして、溢れる涙を拭ってやる。全て守れる大人に憧れ、でも直ぐにはなれないから――せめて安心誘うべく、ぎこちなくても笑って見せた。
 それが、今日のクロードの精一杯。
「だから、ここにいろ。お前のことは俺らが守って……そんで、あの女を俺らがぶっ飛ばしてやる!」
「……貴女の母が助けた生命を、貴女は無駄にするの?」
 そう在って欲しくないから、リーヴァルディはクロードに言葉を重ねた。その長い長い猟兵達の願いの様な説得は、ギドの言葉に締め括られる。
「……少女よ、自らの意志で選ぶのだ。苦しみを乗り越え、生きるのか、或いはすべてを投げ出し、死を選ぶのか」
 告げた最後に、ギドはすっとリジーの頭上の手を退いた。途端にリジーは地面へと両手を付いて、暫し呆然と床面を見つめる。
 ――やがて。ぽたりと頬から雫が落ちると、あとからあとから溢れ出た感情を包み隠さず、少女は声上げて泣き出した。
「……やだ……やだよぅ、おかあさん……!」
 その涙に、叫ぶ言葉に――見えるのは、母が帰らないことを否定出来なくなった少女の、傷付いた剥き出しの心。
 遂に少女はどうしようもなく悲しい現実を小さな体に、幼い心に受け入れた――。


 3メートルを超える巨体で全力の大暴れを見せる大地は、轟音と共に館の内装ごと亡者を薙いでは、有象無象を蹴散らしていく。
 『レグルス・タイタンフォーム』――その持続時間はあと少しだ。その間に戦闘の障害になりそうな礫や装飾を合わせて破砕しながら攻め続ける大地の傍らで、戦火がリジーへ至らぬ様立ち回っていた赤銅は、突如響いた少女の慟哭に思わずその足を止めた。
「…………」
 敵を払うとキン、と一度愛刀を鞘へと収め、今は遠方、背に庇っていたリジーの姿を確かめる。
 怪我などは1つも無い。しかし、ただでさえ小さな体を折り畳み泣き叫ぶその様はあまりにも痛々しかった。愛しい命。愛しい愛しい子――瞬間、赤銅の中で何かがぷつりと音立て切れる。
 かたり、と手に持つ鞘に納めた刀を微かに鳴らすと、赤銅はもう一度静かに少女へ背を向け、亡者へとこう告げた。
「……な。私もあたま来てんだ」
 先はとても優しかった赤茶色の眼差しは、酷く鋭いものへと変わった。戦場にこだました少女の悲痛で正直な叫びに――胸に宿した幼子への愛しさが、今日の敵への怒りと殺意に火を点け油を差したのだ。
(「復讐ってえ訳じゃねえけどさあ、んなもん何の意味も無かろうが」)
 一度は払った最寄りの標的へ一歩、一歩と迫る赤銅。気付き再び此方を向いた亡者は、対峙していた大地を離れ、赤銅へ向けて篝火を掲げる。
 しかしその明るさの中に在っても――一定距離で立ち止まり、抜刀の構えを取る赤銅の表情、その内に秘める激情には気付けない。
「……案内してくれるかい」
 刹那、赤銅の姿が掻き消えた。
 ――否。一瞬ののち、その姿は亡者を真横に斬り裂きなおも次へと駆けていた。斬る、駆ける、裂く、また斬る――身一つ、刀一本で猛然と戦場の亡者を追うその動きはあまりに早く、閃く刃は篝火を映して紅く戦場へ無数の斬線の名残を描く。
 あまりの猛威、その捨て身まがいの猛然たる攻めに、亡者が慌て炎を解き放とうとも、炎に耐性持つ身の上はその足、その斬線が場に留まることは無い。
 ――羅刹。その姿、正に鬼。
「……死に絶えろ」
 最後に一撃、『剣刃一閃』――亡者の体へ擦れ違い様に愛刀を滑らせた赤銅は、立ち止まるなり掴むその手を真横に払って刀身の汚れを振り払うと、静かに鞘へ刃を収める。
 駆け抜けたその道の後には、4体もの亡者の屍が横たわり、やがて風化し地に消えた――その光景を見届けたジャハルは、幾分広くなったホールを進み、リジーに余波及ばぬ位置で留まる。
(「……唯一の、存在。その最期の願いだとしても、――叶えられるのは己だけであるとしても。二度と会えぬと知って、自身は生きたいと願えるだろうか」)
 その視線の先には、師父たるアルバ。
 互いに軽口を言い合い、毒づきもする。繊細な輝石の体持つ美しきその男は、苛烈な性分から時に過剰なまでの魔力を放ち、体に罅入れる危うさもある――例えばいつか、そんな師の最期に触れる時。
 考えかけて、しかしジャハルは強く瞼閉じその思考を切り捨てた。今はその時では無い――少女の気配を、その命を背に負う今は。
 だから亡者蔓延る目の前を見据え、ジャハルはただ一言の魔術言語を解き放つ。
「――映せ」
 瞬間、床面から禍々しくも巨大な影がジャハルの背後に湧き上がった。徐々にかたちを為していくそれは――ユーベルコード『餓竜顕現(ガリュウケンゲン)』。
 鋼の鱗、半人の暴竜。その眼窩に眼球は無く――ジャハルがその手に黒剣くるりと取り直せば、現れし暴竜もまたそれに従う。
「……邪魔だ」 
 呟くが早いか、黒剣真横に払ったジャハルに従い、巨なる暴竜の黒剣が目の前を薙ぎ払った。例えその刃を躱せても、巻き起こる風まで交わしきれない亡者達は、次々と吹き飛び壁へ体を打ち付ける。
「あの娘の視界から疾く消えろ」
 言葉通りにリジーから脅威を遠ざけ、ジャハルは低く吐き捨てる。その様子が苛烈な気性を刺激したか――アルバもまた、全身全霊の魔力を込めた仕込み杖で空へ光の線を描いた。
「貴様等なんぞに娘を与える訳にはいかぬ。疾く消え失せるが良い」
 線の果てが線の始点に重なった時、空間へと固定描出された魔法陣は黄金に輝き――その周囲に、バチリと火花を巻き起こした。
 ユーベルコード『雷神の瞋恚(ディエスイレ)』。
「―――天罰と心得よ!!」
 杖掲げ威厳に満ちた声が至ると、空無き館の中に在っても、天から地目指す雷が激しく亡者を打ち叩いた。高速詠唱で繰り返す峻烈なる閃光は、館を、大地を激しく揺らし、亡者達を追い詰めていく。
 天災の様なこの攻めに、アルバの怒りが重なっている――天から落ちる雷の鉄槌をうまく避けながら進むエンジ・カラカ(六月・f06959)は、ニィと幾分緩く笑むと、猛攻の中に彷徨う亡者、その1体の背後をひらりと取った。
「アァ……遊びたいだけなンだ。この薄暗い世界でずーっと遊んできた、ダカラ今日もまた遊ぶだけ」
 雷に、亡者が戯れて見えるのだろうか――否、エンジの言葉はのらりくらりと、時に難解に、時に言葉遊びの様に亡者の周囲をくるくる回った。
 追えども追えども背後に現れ、亡者はその姿を掴めない。その様子こそが正に戯れているようだが――エンジにすれば、足の速さを生かして瞬時に亡者の背後を取り続けるだけ。
 惑わせ、翻弄して、――そして狩る。
「……なァ、早くあーそーぼ」
 ぼそりと呟くその声が、一際近く亡者の背後に現れた。振り向く亡者が遂にエンジの姿を捉えた時、その笑む口から放たれた猛き声は『人狼咆哮』。
 無差別なるその空気を揺らす吠え声に――至近で受けたその亡者は、そのまま床面へ倒れ込む。
「……んー、これだけの数なら1つ1つをゆっくり把握している暇はないなァ……」
 緩くそう呟いて、エンジはきょろりと辺りを見回す。
 仕留めたのは1体のみだ。だが、ある程度亡者の余力を削ることは出来た様だ。ややふらふらと蠢く敵が増えたことは僥倖ということにして、エンジは次なる獲物を見定める。
「支援に徹するのは得意、ケド、今回はさっさとヤるかー」
 屈伸の後にぐっと一度体を伸ばすと、ぺろりと乾いた唇舐めて、エンジは再び戦場の中へ掻き消えた。


「……リジー」
 亡者の数が元の半数よりも減った頃――嗚咽に震える少女の背中に、都槻・綾(夜宵の森・f01786)はそっと大きな手を伸ばした。
(「……紡いでいく現在を、未来を、潰えさせはしない」)
 労わる様に、その心に添う様に優しく少女に触れて笑んだヤドリガミは、今に生ある少女と自分達の命の温もりを伝える為、そのまま小さな体を引き寄せ痛み分かつ様に抱き締める。
 その体の温かく、しかし何と細く頼りないことか。
「やだ、いやだぁ、おかあさん……どうして、お母さん……!!」
 その腕に縋りつき、リジーはなおも泣き続ける。綾の温もりに安堵したこともあるだろう。だがそれ以上に――リジーを先からずっと見守っていたギドは、少女が泣き続ける理由、自分が告げた言葉が如何に酷なものであったかを、きっと誰より知っていた。
 だからこそ、受け入れた少女の強さに――今日のこの先は、少女を命賭して守る覚悟だった。
「……死人は死人、死なせてやるのがせめてもの供養だ」
 すっと音も無く立ち上がると、ギドは残る亡者を見据えて魔術詠唱を開始する。そのギドに代わる様に泣くリジーへと近付いた阿紫花・スミコ(人間の人形遣い・f02237)は、リジーが少し落ち着くのを見計らい、戦う前にどうしても確かめたかったことを、今ならとリジーへ問い掛けた。
「……ねぇリジー。たとえこの場でキミの命を救ったとして、キミの明るい未来を約束してあげることはできないけれど……それでも、キミは抗う力を望むかい?」
 日常を失ったばかりの少女に、今こう問うことは酷かもしれないけれど――でも必要だとスミコは思った。リジーがもし母を追って死を望むならば、救うことはただのエゴかもしれないからだ。
 今日終えた先の未来。如何に辛く苦しいものであろうとも――切り拓くのは他でもないリジー自身なのだ。選ぶのは、どんなに幼くあろうともリジーであって欲しかった。
 そして綾の腕の中の少女はその問いに、少しの間ののち、こくり、と小さく頷いた。――頷いてくれたのだ。
「……うん。なら、力を貸そう……反撃の時間だ!」
 にっこりと笑顔を浮かべて、スミコはリジーの髪を撫でると戦場へ身を翻した。その一連を見守ったヒビキは、再び金青両色の瞳でリジーを見遣ると、ふ、と僅かに笑んで思う。
(「世の中には『生き地獄』って言葉もあるくらいだ。……生きるのと死ぬのと、どっちがいいかなんて簡単に決められないよな」)
 だから、数々の説得の言葉があったとはいえ――悲劇に見舞われたあまりにも幼い少女が生きると選択したことに、ヒビキは何かとてつもない、命というものの強さを感じる。
(「――喩え明日が闇に閉ざされていたとして、それでもお前はまだ生きている。母が繋いだ命は続いて行くんだ」)
 心の中に少女が選んだ未来を思い、またそれを守った母を思ってノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は天を仰いだ。
 高く結う黒髪が、重力に逆らい肩の上に掛かって留まる。それをさらりと後ろへ優しく払うと、払ったその手で胸を押さえて、紅蓮の瞳を思索に閉じた。
 護りながら戦うことには不慣れだった――それでも今日は母子の絆と小さな命を救いたくて、ノワールは此処へ来た。
「……せめて一匹でも多くの敵の気を惹いて、リジーの安全を確保するとしよう」
 その小さくも強い命へ報いるべく――紅眼見開き、両手に長短2本で1対の剣を握ると、ノワールは戦場へと駆け出した。


「あの子に指一本でも触れてみろ、篝火なんて生ぬるいもんじゃない……俺の炎がてめえらを灰も残さず焼き尽くしてやるぜッ!!」
 リジーの守護をリーヴァルディとクロード、そしてエレアリーゼの半身に託した戦場――駆ける飛鳥はその手に蒼き炎の奔流を生み出すと、伸びた篝火の影を眩く照らして進む道を切り拓く。
「強欲だなァ、リーシャって女は。普通はいっこ奪ったら満足するもんだぜ」
 その隣を、伴うのは鼠ヶ山・イル(アヴァリティアの淵・f00273)だ。その手にルーン刻む美しき剣を掲げると、帯びた魔力が白く輝き、行く道へ名残の光線を描いた。
 ――その進路には、2体の亡者。
「ちょっとズルいんじゃないの? ……リジーのお母さんの大事なもん、てめぇだけに奪わせてばっかでたまるか」
「――駆けろ不死鳥ッ! その飛翔で全てを灼き尽くせッ!!」
 呟くイルの怒りの声に、飛鳥の熱い闘志が重なった。高く地を蹴り空へと舞って、飛鳥が繰り出した蒼炎の迸りはユーベルコード『ブレイズフェニックス』。
 大翼広げた蒼き不死鳥が、舞い降り敵を炎で包む。熱く高く、視界も奪う一面の炎に世界を閉ざされ、亡者達が身動きを取れないそこに――。
「――昼顔の花言葉って知ってる?」
 全方位から、突如炎を引き裂いて無数の剣が亡者を穿ち貫いた。花の劔――イルのユーベルコード、『昼顔の朝露』(ジュウゴページメ)。
 押し寄せる刃の怒涛は、飛鳥の炎との連携だ。視界奪って次手を隠す――接近戦が不得手なイルも、接近に気付かれなければ傍で幾らでも敵を蹴散らせる。
「真昼の娼婦ってなァ、色っぽいだろ? ま、最期にいい思いしていけよ」
 いっそ清々しいほどに軽薄な口調で言い放ち、イルは温度無き蒼の瞳で消えゆく2体の亡者を見遣ると、得意げに微笑んだ。
 ――やがて外から猛烈な勢いで接近する魔力の気配を察すると、飛鳥と共にその場から身を退いて。
「ごめんくださいませ! メイドの弾丸の速達ですわ!!」
 直後、壁砕き領主館を揺らす衝撃が、館の外から大きな轟音と共に階段付近に突撃した。
 イルと飛鳥、事前察知してもその回避はギリギリだった。すんでのところで跳躍した2人の目に飛び込んできたのは、自身を砲弾にして特攻した狗飼・マリア(人狼の剣豪・f09924)。
 その姿は、あれほどの衝撃であったにも関わらず――土煙がはけた先、可憐なメイド服すら無傷で階段に佇んでいる。
「『メイド108道具【メイド大砲】』の威力はいかがです? 私はユーベルコード『無敵城砦』を使って最強の弾丸となっているのでご安心です。……標準はどうしたのかと言われますと、玄関ホールだというのに室内で篝火を焚いている時点で狙ってくれといっているようなものですわ」
 にっこりと笑み、さも当然とばかりに語る少女は、『無敵城塞』の不動が解けるとスカートをつまみ、瓦礫の中の亡者達へと上品な礼をしてみせた。
 あまりにもダイナミックな入場だ。しかし予め壊された玄関の大穴から位置を確認していたリジーは無傷。
 そもそも傷付ける気は毛頭無かったけれど――マリアは突然の出来事に涙を止めて目を見開いているリジーににっこりと微笑みかけると、再び亡者の姿を見遣る。
 3体、巻き込んだ。うち2体の篝火が、見つめる間にふつりと消える。
「今回のお相手はヴァンパイアなのもありますが悪趣味極まりないので、屈辱と物理ダメージを食らわせてやりましょう」
 その結果ににっこりと笑み、マリアは残る亡者へ言い放った。
「私、外道には残酷ですわよ?」


 篝火の影に警戒しながらホールを駆ける柾へ、背後から炎の奔流が襲い掛かる。
「……っ、この程度……!」
 少し速度上げ距離を取ると立ち止まり、振り向き様に一閃。妖刀『星砕丸』がその長い刀身で炎の塊を叩き切ると、刃が生んだ空気の流れと消え失せた熱量が生む気流で視界が蜃気楼に揺れた。
(「そろそろか……」)
 駆ける柾は、別に敵から逃れようとしていたわけではない。自身を標的にした敵影を、1対1が叶う場所――大太刀の間合いへと誘導しようとしていただけだ。
 そして今、炎放った暗き亡者がじりじりと柾に近づきつつあった。だから地と平行に刃を構え刀身の長さで正確な間合いを計り、柾は神経を極限にまで研ぎ澄ます。
 ユーベルコード――『正剣一閃(セイケンイッセン)』。
「いざ―――参る」
 間合いに入った瞬間に、男は音無く長い刀身を亡者目掛けて突き出した。素早く前へと強く踏み込み、突き刺した切っ先を真横へと滑らすと。
 ――斬。肉を切り裂く確かな手応え。
 はらりとローブが床へ落ちると、中に居たはずの亡者は消えて、その一角を沈黙が支配した。その静かなる攻防の更に先で――スミコはスーツケースから解き放ったからくり人形『ダグザ』を操り、亡者達の一掃を狙う。
「キミたち、なかなか手強いね! でもボクの人形に勝てると思うのかい?」
 なるべく敵を一箇所に追い込む様にと立ち回るスミコの元には今3体の亡者達。それらがある程度位置固まった瞬間を狙い、スミコは『ダグザ』の仕掛けを起動した。
「これで決まりだ!」
 叫べば、人形の腰部の歯車がギシギシと音を立てて回転する。
 人には難しい超重量の棍棒を持つ『ダグザ』が、回転の遠心力も加えた超高速に乗せた打撃で敵の群れへと突撃する。ユーベルコード『スピニング・スイープ』――回転都度打撃加えるそのユニークな攻撃に、亡霊は蹴散らされ、内2体は壁に体を打ち付けると、そのまま動かなくなった。
 しかし――1体だけは生存している。
「――助力します」
 その時、凜とした声が後方からスミコの右横をすり抜けた。同時に左横からももう1人。同じ標的目指して駆けるは――右に黒猫の仮面纏いしアウレリア。そして左にはクロト・ラトキエ(戦場傭兵・f00472)。
 迫るその時、ごう、と篝火がクロトを襲った。しかし肌焼く痛みをものともせずに『トリニティ・エンハンス』――炎、水、風、三種の魔力を身に取り込むと、語る声は穏やかに、クロトは亡者へ距離詰める。
「――例えば篝火の炎が己を焼くなら、その傷は痛むことでしょう。けれどそれでも、僕は生きる道を選ぶ」
 その手に、フック付きワイヤーのフック部を握って。刃ではないけれど、今日の凶事に抗う様に、クロトはフックを短刀の様に亡者の肩へと突き立てた。
「怒りが意味を為さなかろうと、理不尽を甘受してやる謂れも無い。……誰の心もがそうでは無いのでしょうが、――ともあれ、僕は全霊で八つ当たりを」
 しかし、視線を奪うその攻撃はフェイクだ。幾度と抜き差すフックの攻め――その間足元には、景色に溶け込む鋼糸を巡らせ。
「……さぁ、奪われる覚悟はよいですか?」
 強く糸引くその瞬間、鋼鉄の線は亡者の足を絡め取った。斬り裂き、締め付け、足元へと視線を縫い留め――ギチリ、と音立てその拘束を強めると、クロトはふ、と微かに笑んだ。楽しくはなかった。例え気楽に笑んでいたって――その内心まで楽しいとは限らない。
 スミコから継ぎ、クロエが更に広げた好機に――アウレリアはガリ、と手首に噛み付くと、付けた傷から滴る血へと魔力を注ぐ。
「一滴、二滴……我が血は力、敵を切り裂く無数の兵団」
 落ちる傍から、血はまるで意志持つように、小さな人形をかたち作った。一撃でも攻撃喰らえば消滅する小さな刃。しかし、無数に用意したならその物量で圧し潰すことさえ叶う合わせの力。
 ユーベルコード――『血の傀儡兵団』。
(「愛しい母に会えない、……そんなことはない。母は娘を守った、その事実は揺るがない。――その心はあの子の胸に刻まれたはず」)
 心にそう強く信じてアウレリアが命じると、もがく亡者に無数の血人形達が脇目もふらず殺到した。
 ミシリ、ミシリと次第に重みを増していくその密集する圧力に、ローブの亡者は空へ手伸ばす。
 ――やがて。掲げたその手は何も掴めぬまま干からびて、いつしかさらりと風化し消えた。


 殺気を散らし亡者の懐へ飛び込むノワールは、『魔を祓う銀の剣(ミスリル・エッジ)』――選んだ2本の剣のうち、右手に握る短い刃で振るわれた篝火を受け止める。
 ――ガキン! 金属同士が競り合えば、互いの圧力に火花が散った。しかし所詮それは右手だけの攻防に過ぎない、ノワールの空いた左手には、刀身長い銀の剣。
「……何の慰めにもならんかもしれんが、吸血鬼は必ず始末してやる」
 間も無く終わる亡者との戦いの先を見据えてそう声紡いだノワールに、亡者はやや強引に篝火灯す杖を押し込み、その炎で焼き尽くさんとする。
 しかしくるりと体を軸とした回転でその打撃を横へ弾くと、ノワールは左右長短2本の剣で、篝火と亡者を斬り付けた。
「お前の母の献身が無駄でなかったと、私達が証明してやる」
 斬撃にぐらついた亡者に留めの蹴りを見舞わせて、ノワールは次なる敵を見据えて駆ける。その背中を見送ったセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、視界にちらりと少女を垣間見て過った記憶に思わず長い睫毛に青瞳を隠す。
(「母親が死んで子供が残る。ああ、嗚呼ー……どこにでもある『どこか』で聞いたような話だ」)
 脳裏に蘇ったのは消えない光景。首だけになった自分の母――その瞬間、母を目の前で失ったリジーとかつての自分が重なった。
 ――駆け出す。記憶も、遣り切れなさも、抱いた全て振り切る様に。
「……とにかく、生きてなきゃ望む未来もその先の話もできねえ! とっととかたをつけてやる!」
 タタタ、と軽やかに一定のリズムを刻む足が、ぐんぐん亡者との距離を詰めた。対する亡者が掲げる篝火は、セリオスの進路を読んで影を足元へと伸ばす――しかし、一歩手前で高く跳躍。
 影に触れぬ宙ならば、影手繰る敵の手中には決して落ちまい。
「歌声に応えろ、力を貸せ! 俺の望みのままに!!」
 体を捻り空中姿勢を整えたセリオスは、その最頂点で歌を奏でる。『望みを叶える呪い歌(アズ・アイ・ウィッシュ)』――根源の魔力を呼び起こすその旋律に、セリオスの体は魔力を帯びて蒼瞳に揃う蒼光を纏った。
「予測されるのは厄介だ。……なら、追い付かないくらいのスピードで動きゃいいんだろッ!」
 直上で振るった剣の一閃に、斬撃は亡者のローブと地面を抉る。そのままひらり、飛び越えた先で着地する瞬間を見計らい――セリオスは靴に風の魔力を留めると、地に旋風を炸裂させ、その衝撃で床面を蹴った。
「……っらぁ!!」
 着地がなければ影にも触れない――更に速度を増したセリオスは、その脚で真上に蹴り上げ篝火を空へと飛ばす。
 脚を上げたなら――後は重力に倣い、落とすまで。
「――とっとと退場しろよ。次が控えてんだ」
 灯を空へと失った亡者へと、セリオスは先ず振り下ろした踵、次に足首捻り踏みつける様にもう一打、亡者の体を脚で床面へと叩きつけた。
 ダァン!! と、硬い衝撃音がホールの中へ響き渡る――その中心地たるセリオスの上空には、くるくると亡者の篝火が回転しながら最頂点を目指して舞う。
 青磁の色彩持つ瞳でその灯を追い掛けながら、綾は1人思いに耽る。
(「眠りを覚まされ呼び戻された亡者達。……燈す篝火は貴方達にとって何を照らすものなのでしょうか」)
 しかし、問うたところで亡者は何も語るまい。オブリビオンは過去の残滓だ、未来へは決して向かえない――そうあってはならないから、猟兵達は此処に居るのだ。
「――ならば黄泉路を灯し、在るべき骸海へと還りなさい」
 ひらりとその手から放つ符は、魔力光帯び、ひゅっと流星の様にセリオスの足元へ流れる。満身創痍の亡者へと――吸い付く様に取り付けば、発動するは捕縛の魔術。
 ……さあ、弔いの時だ。
「『いつか見た――未だ見ぬ花景の柩に眠れ、』」
 新たにその手に取り出した符が、ふわりと無数、白い花弁と化してホールの中へ広がった。セリオスの足元から、或いは消耗激しい他の亡者も、包まれる程にそこから命の気配は遠のいていく。
 ――否。美しきこの光景は、もしかしたら綾から散り逝く母親への弔いの餞であったかもしれない。
 穢れなき清浄な白花の幻想が消えた時――ホールに在った亡者達は、空から落ちる篝火と共に、すべて跡形もなく消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『リーシャ・ヴァーミリオン』

POW   :    魔槍剛撃
単純で重い【鮮血槍】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    ブラッディ・カーニバル
自身に【忌まわしき血液】をまとい、高速移動と【血の刃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    魔槍連撃
【鮮血槍による連続突き】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 静けさを取り戻した玄関ホールに、今は猟兵達とリジーが居る。
 此処に初めて見えたあの瞬間と比べても、その顔からは蒼白さが消え、リジーは酷く落ち着いて見えた。――酷く、と敢えて表現するのは、その紫紺の瞳が何処か虚ろで遠くを見つめていたから。
 だが――その顔色が再びさっと曇るのに、そう時間は掛からなかった。

「……随分派手に壊してくれたわ。私の屋敷を荒らすなんて――お前達、死にたいの?」

 カツン、カツンと何処かで一定速度で鳴る足音。共に響いた声は甘く、リジーほどとはいかずとも年若さを感じさせた。
 その声と靴音を耳にした時、虚ろだったリジーの紫紺の瞳が恐怖に開かれ、体は小刻みに震え出す――それだけで、猟兵達はそれが何者なのかを理解した。

「光栄に思いなさい。この私――リーシャ・ヴァーミリオンへの不敬。その罪深さを、直々にお前達の体に刻んであげる」

 2階を目指し存在していた正面の階段。今は破壊され、積み重ねられた礫の山がその道を塞ぐけれど――それでも礫超えた先の上階に、遂にヴァンパイアは現れた。
 ひゅる、と音立て手に取り回すは、血の滴りし『鮮血槍』。人を娯楽道具か遊具としか認めず、無邪気に蹂躙するを喜ぶ如何にもオブリビオンらしいオブリビオン――それと対峙する猟兵達の背に隠れるリジーを目ざとく見つけたリーシャは、その表情から笑みを消すと、高圧的に言葉を放った。

「――あら。お前……何故此処に居るの?」
「………!」

 領主の問いに、リジーはびくりと肩を揺らした。声の出ない様子のリジーにリーシャも動かず、場はそのまま暫し沈黙。
 しかし――やがてその静寂を破り、リーシャは甲高い笑い声を上げた。

「――あっはははは!! そう、お前、行かなかったの! 花畑に! 行かなければ母の命は無いと――私はつまりそう言ったのにね??」
「………っ!!」

 リジーの悲しみ、恐怖、不安、それら全てを煽る様に――リーシャは館中に響く声でそう少女を嘲笑う。その言葉は、ただひたすらに幼いリジーを責めていた。

「まぁ、そんなことだろうと思ったわ! 安心なさいな――お前の母は、もうとうに私の糧となったの。だからお前にもう用は無いわ。……あぁただ、領民でありながら猟兵と共にいるのは気に入らない。だからお前も、そこの猟兵達と一緒にこの槍で殺してあげる」

 リジーへ向けて鮮血槍の切っ先を向けると、リーシャはふわりと跳躍し、ホール中央へ舞い降りた。
 ただの1体、だが打倒は簡単ではない――それでも、猟兵達に求められるのはリジーを守り、リーシャを骸の海へ還すこと。
 だから――鮮血振り撒き槍を取り回す女を目指し、猟兵達は床面を蹴った。
狗飼・マリア
※共闘・アドリブ歓迎ですわ。

怯えているであろうリジー様に優しく諭して避難させます。
「たくましくお生きなさい。私並に。私並に!」

「うふふふ!ご領主様とお見受けしました。」
「私はジャスティスユニオンズ所属のメイドヒーロー、狗飼マリアですわ!」

「いざ尋常に勝負!」

私は「残像」を駆使しながら、
【メイドキネシス】で瓦礫と
【アイテム:メイド投網】を相手に繰り出します。

メイド投網による「地形の利用」と「麻痺攻撃」で相手の行動を妨害します。

「攻撃方法の限定だなんて、舐めプでしょう?全力で正々堂々やるなら私はこのような手も使いますわ」

相手を妨害しつつ、他の猟兵の方々に始末をお任せいたします。

「今です皆様方!」


アウレリア・ウィスタリア
今は届かないかもしれない
それでもこの世界に、いえ、この少女に
リジーに希望の光を

ボクの「敵」
ヴァンパイア、お前を滅ぼします

相手は接近戦が得意のようですね
なので、ボクは距離を置いて戦いましょう
中遠距離から【今は届かぬ希望の光】を発動
七色の光剣で撃ち抜きます
仮に光剣を打ち落とされてもこの輝きに目が眩むはず
それは攻撃のチャンス
皆さん、この僅かな隙を見逃さないでください

母子を呼び出し互いに絶望を突きつける
そのような行為は許されるものではありません
ましてやお前の娯楽でなど言語道断です
親子の絆は、そんなもので汚して良いものではない
ボクはこの絆のためお前を「敵」と定め復讐する

アドリブ歓迎



「たくましくお生きなさい。私並に。私並に!」
 震えるリジーの背を鼓舞する様にポン、と叩くと、狗飼・マリア(人狼の剣豪・f09924)はリーシャ目指して前へ往く。
「うふふふ! ご領主様とお見受けしました。私はジャスティスユニオンズ所属のメイドヒーロー、狗飼マリアですわ!」
 にっこり笑んで自己紹介、長いメイド服の裾を翻して――走る速さに無数生じる残像は、リーシャを惑わす攪乱術。
「――いざ尋常に勝負!」
 やがて勝負を宣言した瞬間、ホールに散る無数の礫が一斉に宙を駆けた。ユーベルコード『メイドキネシス』――溢れるマリアのメイド力が、遠隔操作を可能としたのだ。
「……興味ないわ」
 しかしリーシャは動じない。見下す様に笑んだまま、くるり、掲げた『鮮血槍』を足元へ叩きつければ、割れ砕け舞い上がった礫が飛来する礫を退ける。
 しかしその間距離を詰めたマリアの手に在るものには気付かない。
「攻撃方法の限定だなんて、舐めプでしょう? 全力で正々堂々やるなら私はこのような手も使いますわ」
「……!?」
 気付いた時には遅かった。『メイド108道具【メイド投網】』――蟻までもを捉える目の細かなその網は、ばさりと上からリーシャを捕える。
 逃れようともがく、この時間こそがマリアの狙い。
「――今です皆様方!」
 叫び、射線を空ける様にマリアがリーシャと距離を取る。直後、静かに響いた声はアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)――後方で、虹の魔力を称える黒猫の面の少女。
「なにものにも染まり、なにものにも染まらぬ七色の光。貫け、天空の光剣」
 瞳閉じて詠唱するアウレリアの周囲の宙に、並ぶは7本の虹光剣。『今は届かぬ希望の光(セブンソードバレット)』――魔力が生成したそれらの切っ先がすっと音も無くリーシャへ向くと、アウレリアは長い睫毛の下から琥珀の瞳を覗かせた。
「母子を呼び出し、互いに絶望を突きつける。そのような行為は許されるものではありません――ましてやお前の娯楽でなど、言語道断です。親子の絆は、そんなもので汚して良いものではない」
 抱いた怒りを声に乗せれば、脳裏に浮かぶのは泣き叫んでいたリジーの姿。引き裂かれた母子の命――その絆のためにアウレリアは戦う。
「ボクの『敵』。ヴァンパイア、お前を滅ぼします」
 静かに宣言すると同時、手に持つ漆黒の短剣の切っ先の指示に従い、虹光剣が宙を疾走した。しかし着弾の直前に投網から逃れたリーシャは、軽い舌打ちの後に『鮮血槍』より滴り落ちる忌まわしき血を、ぐるりと体周囲に纏わせた。
「……舐めた真似を! 私を誰と思っているの!!」
 直後、そこから放たれしは血の刃。ドドド、と音立て射出されるそれらは虹光剣を弾き、また弾き、全て弾き――アウレリアの魔力は、その場に霧散して消えた。
 『ブラッディ・カーニバル』――血の宴は簡単には終えぬとでも言いたげに、リーシャはにこりと余裕の笑みをその顔に張り付ける。
 ――しかしそれ見てアウレリアが抱いた焦燥感は、直ぐに凪いで消え去っていった。
(「……今は、届かないかもしれない。それでもこの世界に希望を、――いえ」)
 圧倒的勝利を願って此処に居るわけでは無い。強敵とははなから解っていて、それでもアウレリアが戦うのは――ただ1人の少女のためだ。
「……リジーに希望の光を」
 呟けば、それだけで少し強くなれる気がした。
 この戦い、如何に長くなろうとも――必勝を心に誓い、アウレリアは再び前へと駆け出した。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。これだけの人数の猟兵がいてくれるなら、
正面戦闘は十分。リジーの護衛も、恐らく大丈夫…
…だから私は、搦め手を警戒する事にしよう

リジー。少しだけそこにいて…
貴女のお母さんを取り戻してくるから

目立たないように存在感を消して【見えざる鏡像】を発動
不可視化しながら敵味方の行動を見切り、敵を追跡していく

…あの吸血鬼が何もしなければ、それで良し
隙を突いて背後から刺せば良い…
だけどもし、彼女の母を盾にされた場合…。
この中の何人が攻撃の手を緩めず闘える?

防具を改造する呪詛の力を宿した大鎌をなぎ払い、
敵の服を吸血鬼の怪力でも一瞬では抜け出せない拘束具に改造
その隙に母の遺体を回収して後はリジーの護衛に加わる


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

おい、子供
リジー
お前、間違えるなよ
お前の母さんが死んだのはお前が見捨てたからじゃねえ
"アイツが殺した"からだ
燃やすべきは後悔でも自責でもねえ
アイツに対する"殺意"だ
その肩代わりは俺達がしてやる
だから…間違えるなよ

攻撃は最大の防御ってな
【青星の盟約】を歌い強化
速さをあげて一撃でも多くアイツにぶちこんでやる
ダッシュで駆け剣で一撃
続けざまに蹴りを2発
連続でたたみかけるが集中は切らさず
敵の動きをよく見て感じる
通常攻撃を見切り魔槍剛撃が放たれるのを待ち
放たれる予兆を感じたら地面を蹴り上空に回避
その隙を待ってたぜ!
飛び上がったそのままに空中で回転して勢いをつけ
炎の魔力を込めた全力を叩きつける!



 遂に開戦したリーシャとの戦いの中、リーヴァルディは亡者戦から傍に付いていた少女の怯えように、ぎゅっと握り繋ぐ手を強めた。
「……リジー」
 何と声を掛けたら良いのだろう。母の死を受け入れ、生きる未来を選択した幼いリジーが震える理由は――恐怖だ。
 支配世界の絶対君主、ヴァンパイアへの畏怖。逆らうことへの恐れ。それは、この世界に生きる無力な人であればこその当たり前に染みついた感情だ。簡単には覆せないものだ。
 そして今、その絶対君主からの言葉に、リジーは打ちのめされていた。
 『わたしのせいで おかあさんは 死んでしまった』――。
「――おい、子供」
 低く響いた呼ぶ声に、少女は蒼白な面を上げた。
 そこに立っていたのはセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)。視線だけ此方へ向く男の、戦いに赴く背中。
「リジー。お前、間違えるなよ。お前の母さんが死んだのはお前が見捨てたからじゃねえ。"アイツが殺した"からだ」
 蝕む、絶望と罪悪感――心に渦巻くそれらを見透かし告げられた言葉に、リジーは紫紺の瞳を見開いた。
 その表情に、やっぱりか、とセリオスは1つ息を落とす。
 此処は、支配が常態化された世界――その根付いた思考はそう簡単には変えられない。だからリジーは、ヴァンパイアの強制や言葉を無条件で受け入れてしまう。
 そうしなければ生きていけないと、無意識が働いてしまうのだ。
「燃やすべきは後悔でも自責でもねえ。アイツに対する"殺意"だ。――その肩代わりは俺達がしてやる。だから……間違えるなよ」
 だから、それを否定するために――ふい、と前向く背中で語って、セリオスはリーシャへ向かっていく。その背中を、リジーはじっと見つめていた。
 信じられないという顔だった。あんな恐ろしいものと何故戦えるのかと――少女の変化に、リーヴァルディはそっと膝折りリジーと対面、真っ直ぐ瞳を見つめて告げる。
「リジー。少しだけここにいて……貴女のお母さんを取り戻してくるから」
 繋ぐ手を放しながら、リーヴァルディは戦う時だと判断した。リジーに見せなければいけない。困難にも、立ち向かうことで拓ける未来があるのだと。
(「……ん。これだけの人数の猟兵がいてくれるなら、正面戦闘は十分。リジーの護衛も、大丈夫……」)
 戦う最中も、猟兵達はリジーの保護を最優先に動いている。傍に付き続ける必要は、きっとこれ以上は無い――少女へ背を向け、リーヴァルディは体の奥底に秘める魔力を呼び起こす。
 母の遺体は、どうやらホールの近くにはない――ならば、遺体がこの戦いに巻き込まれる危険はない筈だ。じわりと爪先から侵食する魔力を受け入れると、リジーの目の前で、リーヴァルディの姿が空間から魔法の様に消え去った。
 ――ユーベルコード『見えざる鏡像(インビジブル・ミラー)』だ。
 不可視化し、敵の背後取るべく駆け出したリーヴァルディの視線の先では、セリオスが剣でリーシャと打ち合っている。火花散り、交錯するその力は対等――あと一歩上を行くべく、セリオスは一度間合いから離れると、喉から強化の魔力を解き放った。
「星に願い、鳥は囀ずる! いと輝ける星よ、その煌めきを我が元に――さあ歌声に応えろ、力を貸せ!」
 『青星の盟約(オース・オブ・ディーヴァ)』。歌に引き出された根源の魔力が、セリオスに爆発的な加速力を生み出した。
 一瞬で取り戻した間合い。突然の速度変化に、リーシャの対応は追いつかない。
「……なっ!?」
「攻撃は最大の防御ってな!!」
 鼻が触れそうな距離から一閃、斬り上げた剣の一撃に、リーシャの白肌から鮮血が跳ねた。とはいえ傷は浅い――ならばと更に1歩踏み出したセリオスの左脚が、リーシャの腹部を強く打った。
「――っぁあ!!」
 女の体が、衝撃に吹き飛びホールの壁へと激突する。
 土煙立て、ガラガラと崩れる石の壁――しかし直後、それら礫を弾き飛ばし、女はそこから飛び出した。
「――くっ」
 鮮血槍による突撃――『魔槍連撃』。予兆を見定めるつもりだった。しかし、不意打つ土煙の中からの超高速の突撃はセリオスの脇腹を穿ち切り裂く。
「あっははは! ……傷付けたわね、この私を! 楽に死ねると思うな、猟兵!!」
 これは、決して楽な戦いではない――しかしそれでも前へと踏み出すセリオスの姿を、紫紺の視線が追い掛ける。
 ――戦う猟兵達を、リジーがじっと見つめていた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

阿紫花・スミコ
「あの子は覚悟を決めてくれた・・・」
このダークセイバーの地で、目を塞ぎたくなる残酷な現実の中で・・・あの子は前を向いて進むことを決意してくれた。それが容易いことではないことを、この世界で生まれたスミコはよく知っていた。
「なら、ボクがやることは一つだ。」
スーツケースからからくり人形「ダグザ」を解き放つ。
「キミにも奪われる者の気持ちを・・・味あわせてやるよ!」

人形を使って、ヒット&アウェイで攻撃を与えていく。他の猟兵とも協力して攻撃のチャンスを伺う。

「ここだ!」

人形の腰部歯車がきしみをあげて回転する!ダグザの持つ超重量のこん棒とともに!
スピニング・スイーブ、これでどうだ!


麻生・大地
【WIZ】
「僕は正義の味方などど思い上がる気は毛頭ないですけどね。それでもあなたの所業は許し難い外道です」
 戦闘開始時に【グラビティバインド】起動準備。まずは相手の性能を図るために戦闘をしながら【情報収集】します。
【高周波ブレード】で斬り抜けながら、手数重視で攻めます。ダメージを与えることが目的でなく、浅い攻撃を何度も執拗に繰り返して相手の手の内を暴けるだけ暴く【時間稼ぎ】の為です。
 相手の攻撃を捌ききれなくなったら、後方退避し【グラビティバインド】を起動、相手を磔にします
「地に這いつくばる気分はどうですか?上から見下ろすしかしてこなかったあなたに是非お聞かせ願いたいですね」


犬曇・猫晴
同行者:織譜・奏(f03769)

こんばんは、お嬢さん。
目論見が外れた気分はどうだい?
ぼくが予想するに、大層素敵な気分だと思うんだけども、もっと素敵な気分にさせてあげるよ

【POW】
槍ってのは普通だったら懐に入り込まれると駄目だからね。
見たところ体術が得意ってわけじゃないだろうし接近戦に持ち込ませてもらうよ。

とはいえ、懐に潜るのは一筋縄ではいかないだろうし、わざとダメージを受けて相手を油断させよう。
なぁに、少し掠ったりえぐれるくらいなら奏ちゃんが治してくれるから大丈夫。

もしも奏ちゃんを狙うなら隙を狙うとか言ってらんないや、直ぐに攻撃するよ

負傷・アドリブ歓迎


織譜・奏
【同行者】犬曇・猫晴(f01003)
ボスの登場ですね!遅れましたが皆さんのサポート頑張ります。
後味が悪くたっていいです。私達に出来る事があるならやりたい、それだけですから!

【WIZ】
UC『シンフォニック・キュア』で、歌声が聞こえる皆さんを支援します!
枯れるのも恐れず、叫びにも似た声を張り上げて、戦場の皆に聞こえるように。
歌が彼女の慰めになるかは分かりません。それでも歌わずにはいられないんです――。

敵がこちらに近づいてきたらダッシュで逃げます。あわわわわ犬曇さんこっちに来てます!!

アドリブ、絡み歓迎



「僕は正義の味方などど思い上がる気は毛頭ないですけどね。それでもあなたの所業は許し難い外道です」
 リーシャへ向け言葉を紡ぐ傍らに、麻生・大地(スチームハート・f05083)の体内では動力機関が蠢いて、心に伴い熱を帯びる。
「――動力機関【ティファレト】、重力コンバーター起動。拘束力場、展開」
 至近でなければ聞こえ得ぬ微かな声で起動言語を呟きながら、リーシャの動きを具に観察。今、女は――犬曇・猫晴(亡郷・f01003)と間合いを読み合い、打ち打たれての攻防を繰り広げている。
「こんばんは、お嬢さん。目論見が外れた気分はどうだい? ぼくが予想するに、大層素敵な気分だと思うんだけども」
「――えぇ、ええ! 最低だわ!」
 繰り出されるは鮮血槍、超高速の連撃はその1つ1つが非常に重い。何とかそれらを手刀や蹴りで受け止めながら、猫晴は自身の攻め手、そのとっておきを繰り出す瞬間を探っていた。
「お前達の様な下賤に、傷を刻まれるなんて屈辱よ! 下賤は下賤らしく従っていれば良い!」
「そうはいきません」
 その戦線に加わった大地もまた、肘から伸長した高周波のブレードで、手数を重視し攻めていく。ダメージが目的ではない。浅い一撃一撃を積み重ね、手の内を暴くための時間稼ぎ。
 しかし応じるリーシャの速度は更に速まり、2対1の攻防にも対応する適応力を見せつける。なかなか、隙を見せない――冷静の瞳でリーシャを見つめる大地には、もう解っていた。
 ただ打ち込むだけでは、恐らく何も変わらないだろうこと。リーシャの気を引く決定的な何か――それがなければ、戦線はこのまま長引くだけだ。
「……」
 その時、とん、と軽く猫晴の拳が大地に触れた。
 交わした視線、そこに――何か決意した顔があった。考えがあるのだと察した大地は後退し、猫晴の背を、動きを見守る。
 すると猫晴はぴたりと一瞬動きを止め、右肩にリーシャの突きを受け入れた――。
「つっ……!」
「――、あはは!」
 小さく呻いた猫晴の声と苦痛の顔、そして上がった紅い飛沫に、気を良くして女は嗤う。
「いいわ、もっと苦しんで私のことを愉しませなさい!」
 そのまま再度。今度は心臓突かんと女の槍が差し出された――しかし苦痛の表情から一転、強い眼差しにリーシャを捉えた猫晴は、躱した槍の柄を掴むと、脇に挟んで固定する。
 この瞬間を待っていた。わざとダメージを受けてでも、必要だったのは――懐に入り込めるだけのリーシャの隙。
「……もっと素敵な気分にさせてあげるよ」
 およそ30㎝、至近から繰り出す一撃は拳に込めたユーベルコード『穿風』。衝撃に、受けた肩の傷からもどぷりと血が溢れるけれど――そっくりそのまま返すかの如く、猫晴はリーシャの肩を撃ち抜いた。
「……っあぁああああああ!」
 悲鳴と共に、リーシャはざっと後ろへ後退、咄嗟に猫晴と距離を取る。
 荒い呼吸は2人ともだ。猫晴とて、直ぐに追撃には動けない――しかしそれを覚悟でこんな無茶を通したのは、疲労の体を直ぐに柔らかな旋律が包み込むと知っていたから。
「……支援します!」
 織譜・奏(冥界下り・f03769)の癒しの歌声――『シンフォニック・キュア』だ。戦場中に至る様にと、枯れも恐れず叫ぶ様に高らかに声を響かせ、旋律は猫晴、そして猟兵達の傷を塞ぐ。
(「歌が彼女の慰めになるかは分かりません、……それでも。歌わずにはいられないんです――」)
 最中、少女に思いを寄せれば、奏の金瞳は悲しげに伏せられる。
 少女が望んだ母を救えず、それはとても悔しくて、遣り切れなさには胸が潰れそうになるけれど――それでも奏は此処へ来た。
 例え今日の果てに得る結末が、遣り切れないままであったとしても。
「私達に出来る事があるならやりたい、それだけですから!」
 迷いない奏の歌に、遠く、リジーは聞き入っていた。血が舞う戦場、ヴァンパイアに逆らうこと、……それはとても怖いと眼差しでは語りながらも、真っ直ぐな美しい歌声に、恐ろしさは感じなくて。
「あの子は、覚悟を決めてくれた……」
 その様子をじっと見つめて、阿紫花・スミコ(人間の人形遣い・f02237)は呟いて、握り締めた手を震わせる。
 今戦場を、猟兵を見守る小さな小さな少女が、前を向いて進むことを決意してくれたこと。このダークセイヴァーの地で、目を塞ぎたくなる残酷な現実の中で――それがどれ程容易ならざることであったかを、スミコだって解っている。
 そして今、戦うことでそんな少女に前へ進む姿を示せるというのなら。
「なら、ボクがやることは一つだ!」
 叫びスミコはスーツケースからからくり人形『ダグザ』を再び解き放つと、リーシャへ向けて奔らせた。するとほぼ同時、リーシャへ接近した人影は――大地だ。
「地に這いつくばる気分はどうですか?」
 ユーベルコード『グラビティバインド』――念動力をコンバートした重力波がリーシャへ向けて解き放たれると、大地の放った言葉の通り、リーシャの体がズシリと強い重力を受けてぴたりと床面へ縫い留められる。
「……! な、に……を」
 言葉すら満足に放てぬ力場の中――『ダグザ』が間合いにリーシャを捉えた。
「ここだ!」
 叫ぶと同時、人形の腰部歯車がきしみをあげて回転する。
 ユーベルコード『スピニング・スイーブ』――人形の持つ超重量のこん棒が、回転の遠心力をも帯びてリーシャの体を幾度も打った。
 超重力に動けぬリーシャは、声の1つも上げられずに、ただ痛みに苦悶する。これは好機と、更なる一手を繰り出すべく猟兵達はホールを駆けた。
 ――戦いは今、少しずつ戦局を変えつつあった。
 猟兵達の連携による攻撃は、1人で戦うヴァンパイアを、次第に追い詰め始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

白波・柾
よし、ボスのお出ましか
さあ、俺たちと踊ろう
玄関ホールだが、俺たちのダンス会場としては似つかわしいだろう
いざ尋常に―――勝負だ

【殺気】【ダッシュ】【フェイント】を利用して
可能な限り有利になるように立ち回る
基本はヒットアンドアウェイ
あまり距離を詰めすぎても、距離を置きすぎてもいけない
行動しやすい射程を常に維持
大太刀の間合いに入れば正剣一閃で攻撃していこう
猟兵の仲間たちとも連携して、堅実に攻撃を積み重ねて行きたい


ヒビキ・イーンヴァル
『蒼き焔よ響け、天雷の如く』で攻撃
『全力魔法』を乗せて。最大の焔で敵の動きを止める
よく燃えてくれよ?
隙ができたら、そのまま剣を構えて突っ込む
こいつには一太刀は浴びせないと気が済まねぇな
敵からの攻撃は剣を使った『武器受け』で防御したいが、まあ今回はちょっとくらい怪我しても構わないか
あとは少しでも多く敵の動きを封じて、他の猟兵が攻撃しやすいように援護だな

へぇ、よく回る口じゃねぇかヴァンパイア
その口、さっさと閉じたくなるようにしてやるよ
てめえの声も言葉も、これ以上あのお嬢さんに聞かせたくないんでな
さっさと死んでくれ




「猟兵如きが……! この私を傷つけて、生きて帰れると思わないことね!」
「へぇ、よく回る口じゃねぇかヴァンパイア」
 幾分肩で息をする様になったオブリビオン、『リーシャ・ヴァーミリオン』――怒りを口にする女に、ヒビキ・イーンヴァル(蒼焔の紡ぎ手・f02482)はふ、と勝気に笑んで応える。
「その口、さっさと閉じたくなるようにしてやるよ。てめえの声も言葉も、これ以上あのお嬢さんに聞かせたくないんでな」
「お前こそ黙りなさい!」
 激昂し、リーシャが取り回すは鮮血槍。多少傷付いても、その攻めの威力が落ちることは無い――構えからの超高速で一気に間合いを詰められたヒビキは、その槍を咄嗟に剣で弾いた。
「――どうしたの? 威勢が良いのは言葉だけかしら?」
「……っ!」
 ニィ、と笑んだ女の無数の突きが、少しずつ角度を変えてヒビキに迫る。時に躱し、時に剣返す手首で何とかそれに対応しながら、余裕は持てずにじりじりと後退していく赤髪の青年は――しかしやがて、リーシャの背後に迫る影ににっと不敵な笑みを浮かべた。
「……それはどうだろうな?」
「――さあ、俺たちと踊ろう」
 突如背中に響いた静かなる男の声と殺気に、リーシャの視線がヒビキを離れた。
 咄嗟に後ろへ取り回したリーシャの槍と、現れた男の大太刀とが交錯、金属の打ち合う音がホールの中へこだまする。
 白波・柾(スターブレイカー・f05809)の――『正剣一閃』。
「玄関ホールだが、俺たちのダンス会場としては似つかわしいだろう。いざ尋常に―――勝負だ」
「踊るのはお前達だけで十分よ!!」
 標的が、柾へと移った――再び繰り出される連続の突きを長い太刀で1つ1つ払いながら、柾はつかず離れずの距離を維持してリーシャと幾度も刃を交わす。
 その間、一度後退したヒビキは、愛用の蒼剣を胸の高さへ掲げ持った。
「――其は荒れ狂う蒼き焔! 我が意を妨げるもの全てを阻め……!!」
 注いだ魔力が刃に満ちると、そこに蒼き焔が燃え盛った。金の右目がその光に青みを帯びて、蒼の左目は蒼炎映してよりその青を際立たせる。
 ユーベルコード、『蒼き焔よ響け、天雷の如く(ブレイズ・ディザスター)』。
「……よく燃えてくれよ?」
 全力魔法。持てる全ての魔力を注いでヒビキが放った蒼炎が、リーシャの周囲を取り巻いた。焔の結界――突然襲った灼熱に、リーシャの瞳が動揺に見開かれる。
「……なっ、何……!?」
 その最大の隙を、近距離で打ち合っていた柾が見逃す筈は無い。
「俺の一刀―――受けてみろ」
 顔の高さに構えた刀が、擦れ違い様にリーシャの体を真横に深く斬り裂いた。
 極限の精神集中から繰り出される、2度目の斬撃『正剣一閃』――一寸遅れて噴き出す血飛沫は柾の大太刀にも滴るけれど、その長い刀身をものともせず柾がひゅっと太刀を回すと、一瞬で穢れは払われ刃は青白い輝きを取り戻した。
「――生憎と此方は、1人で戦っているわけではないんだ」
 一度刀を鞘へカチリと収め、柾は静なる呟きを落とす。
 しかしそれもほんの一瞬。リーシャへ感じた手応えをより確かなものとすべく――柾は再び抜刀すると、大太刀をリーシャへ向けて突き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雷陣・通
父ちゃんが言っていたぜ、想い踏みにじるその罪は重いってな
人を玩具にする時間はもう終わりだ。魔物は死んだ、女の子は助かった、そして俺の様に援軍も来た
諦めるんだな

槍は厄介だ、残像と見切りで少しずつ近づいて二回攻撃でワンツーパンチ
右へ左へと動いて意識を逸らせつつ、地味に打撃を与えるぞ
相手の攻撃には見切りからカウンターを合わせて運動量勝負

狙うは魔槍剛撃のタイミング、叩きつけるってことは振り上げるってことだ、スライディングで一気に間合いを詰めて槍の内側に入る
狙うは『手刀』による武器破壊

「もう一つ父ちゃんが言っていた」
「弱い奴を不幸にする奴に上に立つ資格はないってな。それを止めるために空手がある!」


都槻・綾
少女の肩に手を添え
必ず護り抜く事を誓い、敵と対峙


愚か者ほどよく吠えて
優位のうてなに立ったつもりで
他者を見下し酔い痴れる

土塊の如く脆き足場は
何れ浅膚ごと飲み込むでしょう

槍の軌道も
抵抗できぬ者を狙う性根も読み易い
機先を制し放つ符
二回攻撃を駆使し捕縛

少女の盾となりオーラ防御
第六感で見切り

仇を屠っても
母の最期は生涯消えぬ残像として
胸に瞼に焼かれる痛みとなる
其れでも歩くとリジ―は頷いたから、

――いけ、

往け、逝け
手にした護符を闇裂く陽光纏う鳥に変え
暴虐の女王へと放つ、鳥葬

いとけなき少女が
無残な死を此れ以上見ることが無いように
骸が朽ち逝くのを幾多の鳥の翼で覆う

せめて後には
穢れを雪ぐ光の羽だけが降り残れば良い


クロード・ロラン
……出てきたな、ヴァンパイア
大鋏構え、リジーを庇うよう前に立ち

リジー、ここに残ったお前の選択は立派だ
あいつの言葉になんて、耳を貸さなくていい
そんでここからはもっと戦いが激しくなるから……
怖いなら、目を閉じて耳押さえといてくれ
大丈夫、お前には指一本触れさせねえから
少し待っててくれな

リーシャに向けては、怒りをぶつけるように叫ぶ
嘘つきのお前に、リジーを馬鹿にする資格なんてねぇよ!
リジーと、リジーの母さんを苦しめた、お前に!

リーシャがリジーを狙いそうな時は、間に割って入って庇ったり、
斬りかかることで注意を逸らそう
仲間達と連携し、隙が生まれるのを待って【咎裁ち鋏】で攻撃
お前の咎は、絶対許さねぇ!



「父ちゃんが言っていたぜ、想い踏みにじるその罪は重いってな!」
 蒼炎に巻かれるリーシャ目指して、熱い心を声に隠さず、雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)は前へと駆ける。
「ならばやっぱりお前達の罪は重いわ! 高貴なる私の想いを踏み躙っているのだから!」
「口の減らない……!」
 減らず口に、こう吐き捨てたのはクロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)だ。リジー庇うべくリーシャからの射線に立ち、狼耳と尾を持つ少年は――怒りぶつける様に声を荒げた。
「踏み躙ってるのはお前だよ! リジーと、リジーの母さんを苦しめたお前に……嘘つきのお前に! リジーを馬鹿にする資格なんてねぇ!」
「黙りなさい!」
 リーシャが叫んだその瞬間、その身を蝕んでいた蒼炎が弾け飛ぶ様に消え去った。代わりに纏うは赤き血潮――加速促し空舞う刃を齎すユーベルコード『ブラッディ・カーニバル』。
「領民は私に従え!!」
 言葉と同時、解き放たれたのは忌まわしき血の刃。無数に放射されたそれらは猟兵達と、そして身竦むリジーへ迫る。
「っ、リジー!」
 クロードは動けぬリジーを包み込む様に抱き締め、刃から庇う様に背を向けた――。
「……愚か者ほどよく吠えて、優位のうてなに立ったつもりで他者を見下し酔い痴れる」
 刃が来ると金瞳を閉じたクロードの、背に痛みは訪れなかった。代わりに感じたのは無数の光と、戦場には不似合いなほど穏やかな男の声だけ。
 振り向き、見上げた先に――リーシャへと向かい立つ、都槻・綾(夜宵の森・f01786)の背中が在った。
「土塊の如く脆き足場は、何れ浅膚ごと飲み込むでしょう――槍の軌道も抵抗できぬ者を狙う性根も、そんな逆上の下に在っては読み易い」
 呟く綾の重ね持つ符が、陽でも纏う様に輝いている――綾が守ってくれたのだと、理解してクロードは感謝を述べた。
「ありがとう……! リジー、怪我ないか?」
 抱き締めていたリジーを解放しその無事を確かめるクロードを背に、綾はじっとリーシャと向き合う。
 不快そうに視線を受け止める女は、槍持つ手とは逆の手を掲げ、纏う血液を無数の刃に変え再び空へと浮かび上がらせていた。
「一度で終わると思ったの? ――行け!!」
 掲げた手を前へと振り下ろした瞬間、血の刃は再び猟兵達へと襲い掛かる。しかし微かな詠唱言語ののち、綾が手にした無数の護符は陽光纏う鳥へと変わり一斉に飛び立った。
「――いけ、」
 それは、先も刃群から同様にクロードとリジーを守ったユーベルコード『鳥葬(ヨミシルベ)』。
 飛び交う刃が、次々飛翔する光鳥とぶつかり、相殺されて消えていく。
(「仇を屠っても、母の最期は生涯消えぬ残像として胸に瞼に焼かれる痛みとなる。……其れでも歩くとリジ―は頷いたから」)
 ふと少女を思いちらりと向けば、再びクロードに守られているリジーの瞳は、抱く腕の隙間から綾を見つめていた。眩い光を紫紺の瞳いっぱいに映して――そんな少女へ穏やかに笑むと、綾は更なる魔力を符に込め、次々空へと解き放つ。
 これ以上、リジーが無残な死を見ることのない様に――少女の明るい未来を祈り、綾が全ての血刃を撃つと、後には舞い散る符の破片がひらひらとまるで羽の様に魔力の残滓に煌いた。
 攻撃を悉く打ち消され、リーシャの紅瞳には明確な怒りが浮かんでいる。綾へと向かうその視線に立ち塞がる様に割り入って――通は拳をリーシャに向けて突き出すと、強気の声でこう語る。
「人を玩具にする時間はもう終わりだ。魔物は死んだ、女の子は助かった、そして俺の様に援軍も来た。……諦めるんだな」
「――諦めるですって? 馬鹿言わないで」
 しかしリーシャは全く退く気配など見せず、鮮血槍の構えを取った。あの構え方は突撃ではない。恐らくは、槍にて叩く『魔槍剛撃』――。
(「叩きつけるってことは振り上げるってことだ、解っているなら、対処のしようはある」)
 すっと通は半身引いて、手刀を前に構えを取った。距離詰め迫るリーシャが槍振り上げた瞬間を狙い、スライディングで更に接近のタイミングをずらすと、一気にリーシャの懐へ入る。
「いまだ!」
 通が差し出した鋭い手刀は、武器破壊を狙ったものの掲げた槍には届かない。しかし見えた人体急所――リーシャの頸部へと伸びると、その肌を強く払った。
 僅かに浅い、しかし動脈を掠めた一打は、その首元から激しく鮮血を噴出させる。
「――ぅあっ! ……よくも……!」
「もう一つ父ちゃんが言っていた。弱い奴を不幸にする奴に上に立つ資格はないってな。……それを止めるために空手がある!」
 どくどくと血の溢れる首元を押さえ身を退いたリーシャは顔を歪め、得意げに語る通を睨む。その眼差しは、明らかに冷静さを欠いていた――更に戦い激しくなると、予感がしたからクロードはリジーの両肩をぽんと掴み、思うままの言葉を掛けた。
「リジー、ここに残ったお前の選択は立派だ。あいつの言葉になんて、耳を貸さなくていい」
 真っ直ぐ見つめてこう告げれば、リジーはじっとクロードの金瞳を見つめる。怯えた様子はあるけれど、ちゃんと聞いてくれている――だからクロードはもう一度ぽん、と両肩を掴みなおすと、優しい笑みを浮かべて続けた。
「そんでここからはもっと戦いが激しくなるから……怖いなら、目を閉じて耳押さえといてくれ。……少し待っててくれな」
 すっと肩から手を離すと、クロードは大鋏を手に前へと駆け出した。
 先に自分とリジーを守った綾の大きな背中の様に――去り際に、背中越しにリジーへ今日の決意を呟いて。
「――大丈夫。お前には指一本触れさせねえから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレアリーゼ・ローエンシュタイン
あなた、彼女が妬ましかったんでしょう?
だってあなたには命を賭して愛してくれる人なんて居やしない
その身を案じる人だって
玩具はあるのかもしれないけど、遊び相手だって一人も居ない
誰も彼もがあなたを嫌いで
侍るのは枯れ木みたいな亡霊だけ

ああ、もしかして血が足りないとあなたも枯れ木になるのかしら
ね、我儘気取りのオバサマ?

挑発で気を引き、鞭での【フェイント】【2回攻撃】
拳銃の【クイックドロウ】も交えて
防戦一方でもいい
アレにとっては、エルも単なる玩具
それで構わないわ

本命は、充分注意を引いての【だまし討ち】…100本、全包囲からの【ランブル・キャンディ】
甘い甘い、ケーンの暴力
全部、一斉に、叩き付けるわ


エンジ・カラカ
アイツか?アイツがお前の敵?
復讐したいと願わなくてもコレが遊ぼう。
見返りはいらないサ。ちょうど遊びたいと思ってた。
賢い君、今回はアイツと遊ぶみたいだ。
あーそーぼ。

先制攻撃で敵サンの攻撃を封じるように動く。
アァ……チビはやりにくい。でもお前は頭の高いチビだなァ……。
上から下を眺める気分はどうダ?最高?
コレも上からお前を眺めてみたいなァ。

素早さを生かし、見切りで回避しつつ支援に徹する。
属性攻撃は賢い君の毒を。
更に二回攻撃で敵サンの隙を作りトドメは味方に任せる。
賢い君はお前を逃がさない。



「――アイツか? アイツがお前の敵?」
 言うなりひゅっとリジーの真横を飛び出し、エンジ・カラカ(六月・f06959)は前へと駆ける。
「復讐したいと願わなくてもコレが遊ぼう。見返りはいらないサ。ちょうど遊びたいと思ってた。――賢い君、今回はアイツと遊ぶみたいだ」
 何処か愉し気なその言葉と声は、両手に構える拷問具『辰砂』へ笑顔と共に送られた。
 その脚で目指すは標的・リーシャ。今女は、エレアリーゼ・ローエンシュタイン(花芽・f01792)の挑発に応じて槍振るっている――。
「あなた、彼女が妬ましかったんでしょう? だってあなたには命を賭して愛してくれる人なんて居やしない。その身を案じる人だって」
 撓る棘鞭でリーシャの進路を阻害しながら引き付けるエレアリーゼは、接近されても対応出来る程度の距離は保って立ち回る。
 挑発し、引き付け、距離を詰められたら懐から小型の愛銃を取り出し撃って――結果先ほどからリーシャはエレアリーゼに接近しきれず、後ろへ退くを繰り返している。
 だから、言いたい放題だ。
「玩具はあるのかもしれないけど、遊び相手だって一人も居ない。誰も彼もがあなたを嫌いで、侍るのは枯れ木みたいな亡霊だけ――ああ、もしかして血が足りないとあなたも枯れ木になるのかしら」
「黙りなさい……!」
 怒り故にかリーシャのエレアリーゼへ迫る速度が僅かに上がった。結果至った槍の穂先を咄嗟に愛銃の砲部で弾くと、エレアリーゼは更に挑発重ね、含み持たせた笑みを浮かべる。
「ね、我儘気取りのオバサマ?」
「――小娘如きがこの私を愚弄するな!!」
 言葉に乗せて突き出されたリーシャの槍が、躱したエレアリーゼのスカートを掠め、一瞬体を縫い留めた。その分遅れた後退に、リーシャはニヤリと笑み浮かべると、槍を再度エレアリーゼ目掛けて突き出す――。
「あーそーぼ」
「――!?」
 しかしその槍掴む腕は、突然伸びた赤い糸に囚われぐい、と真上へ引き上げられた。繋がる糸の先にはエンジ――ユーベルコード『賢い君(リユウノチ)』だ。
「アァ……チビはやりにくい。でもお前は頭の高いチビだなァ……」
 腕だけではない。今やリーシャの体中を、エンジの赤糸が取り巻いていた。他に投げた拷問具は床に落ちてしまっていたが、1つでも、一瞬でも繋ぎ止められればそれで良かった。
 今は、注意を退く必要があったのだ。耐えて、仲間がとっておきを繰り出す瞬間まで――。
「上から下を眺める気分はどうダ? 最高? ……コレも上からお前を眺めてみたいなァ」
 ニィイ、と赤糸の束縛は解かずに笑って、エンジはちらりとリーシャを挟んだ向こう、エレアリーゼの姿を見遣る。
「甘ーい舞台で踊りましょう、……壊れて砕けてなくなるまで!」
 立つエレアリーゼの上空に、無数の魔力片が浮かんでいた。やがて形を成したそれは、甘い甘いキャンディケーン。
 ユーベルコード『ランブル・キャンディ』。
「全部、一斉に、叩き付けるわ!!」
 その数100本。一斉に解き放たれたキャンディケーンは、ドドドと激しい音を立ててリーシャへと殺到した。
 周囲の床面ごと破壊する甘いケーンの暴力に、土煙が舞い上がる――見えないそこから赤い糸を引き抜いたエンジは、しゅるりと手に巻き取りながら、クッと小さく笑んで告げた。
「賢い君はお前を逃がさない。……なァ、あーそーぼ」
 まだ、終わりではない。土煙から感じる殺気に――エンジは逆に気配を遮断し、間合い計るべく床面を蹴った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴島・類
何時だって、壊す方が簡単で
ひとも、はなも
何もかも
その輝きを守る方が難しい

その得難さと
間に合わないかもしれなくとも…
共にと願い、歯噛みし走った
あの子の一歩の重さを解らぬなら

リジーへ向けた言葉への
怒りは静かに、胸の奥
彼女へは攻撃されぬよう【かばい】
届かぬ距離へ下げ
そっと、両耳を掌で塞ぎ
あんな言葉は…聞かなくて良い
必ず、生きて、帰すからと笑い
リーシャへ向かい


魔槍剛撃と突き警戒
重い一撃を【見切り】で避け

【破魔】込めた【なぎ払い】で連撃後の体制崩しを狙い
味方のフォローに

また、口を開き侮辱しそうになれば
【手向けの嵐】使用し
包み込むように攻撃し、言葉を遮る

もう…いい
喋るな
責める言葉しか知らぬ口は
要らないね


イア・エエングラ
そうっと、笑う声は遮りましょう
あれは、毒だもの
聴いてはだめよ
――何ひとつとて聴く必要はない
きっと、そう思うのは難しいけれど

ちいさな子にかまけている、場合かしら
ひとつ目論見が外れて、次は
お前が狩られる側だもの
なるべく彼女から意識を逸らすように
声を掛けよう笑って毅然と、いきましょう
確かに次に、還されるべくはお前だもの

おいで、とお招きするのはリザレクト・オブリビオン
騎士さまは彼女を、守ってね
蛇の子はあれを止めるのを、手伝ってな
ねえ朽ちるまで、ゆけるでしょう
悪意と攻撃の、そして添う優しい人たちの盾として
そうして遮るにはすこし足らないけど視界を塞いでいましょうな
この景色を、その目に映す必要はないもの


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と組み

あれが元凶か

…承知している
かの母親と同じ岸になど行かせんさ
娘と援護を頼むぞ、師父

リジーと師父を後方に護り自身は前へ
一駆け、先制狙いの【怨鎖】
攻撃その物のみならず
繋いだ鎖はリーシャの高速移動を妨害する為
一撃受ければ返す刃で害を

怪力で鎖を引き、師や他猟兵が狙う隙を作り
師父へと向ける攻撃を少しでも制する
危険あらば身を捨てて間に入る
今、誰を狙った?

そら、血が好きなのだろう
幾らでも受け取るがいい
膝をつくまで
磔刑となるまで巡らせてくれよう

貴様等の道理など聞く気はない
一秒でも早く、此処で消えろ


……領主が潰えても
あの親子は、もう共には帰れんのだな


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
一緒に居たい
娘の母親も、同じ想いだったろうさ
…然し、それはもう叶わない
嗚呼――決めたよ、ジジ
彼奴に安らかな死なぞ与えてなるものか

召喚するは【愚者の灯火】
高速詠唱で絶え間なく灯火を生み、吸血鬼へ
全力の魔術に宝石の身が耐えられずとも構うものか
態と急所を外し幾度でもその身を焦がそう
ジジへの魔術による援護も欠かさず
傷つけようものならば躊躇なく魔術を叩き付ける
何たる不敬か――誰の従者と心得る

槍による連撃は第六感、見切り等で予測
受け流す等して回避、その隙を突きカウンターも視野に

彼奴が地に這いつくばろうと攻撃の手を緩めはしない
灰すら残さず燃やし尽くしてくれる
…鬼には相応しい最期だろう?



「リジー」
 今は1人、ただじっと土煙の向こうを見つめる少女を気遣い、声を掛けたのは冴島・類(公孫樹・f13398)だ。
 振り向いた紫紺の瞳は相変わらず何処かに怯えを残しながらも、確りと類の視線を受け止める。――しかし。
「……お前達、たかが母子の命1つでよくもこれほど抗ってくれたわ!」
 直後、強い憎しみの声と共に土煙から無数の赤刃が飛び出せば――既に幾度目かのその攻めに、再びリジーは身を竦めた。
 すかさずその体を抱き上げた類は、少女の安全を確かとすべく地を強く蹴り跳躍したが――。
「……っ!?」
 空駆ける忌まわしき血刃は、執拗に類を追い掛ける。――違う。狙われているのはリジーだと、視線だけ振り向いて類は確信した。
 土煙の中から姿を見せた女が、憎しみの形相で見つめていたのは――リジーだったのだ。
「……ちいさな子にかまけている、場合かしら。ひとつ目論見が外れて、次は――お前が狩られる側だもの」
 気付いてリーシャを引き付けるべく、呟きイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)はその足元へと魔力線を奔らせた。
「――おいで」
 美しき黄金の光線が召喚の陣を描くと、そこから招くは死霊の騎士と死霊蛇竜。『リザレクト・オブリビオン』――騎士にリジー守るようにと命じたのちに、イアは蛇竜の背に触れると、優しき声音でそっと告げた。
「蛇の子はあれを止めるのを、手伝ってな」
 行先を指差した瞬間に、蛇竜は吠えるとリーシャへ向かって突進していく。その間にイアが騎士を追ってリジーの元へと駆け付ければ、類の腕の中でリジーは、次いで届いたリーシャの声にまたほとりと涙を落とした。
「私をこれほど怒らせた者は初めてよ、小娘! ――殺してやればよかったわ! お前も、あの母親と一緒に!!」
「……わ、わたし……死んじゃった方が……?」
「……!」
 ――幼い頃からヴァンパイアの支配世界に生きて、絶対君主の放つ言葉はきっとリジーには呪いの様に聞こえるに違いない。自分へ向けられる一言一言に身の震えを強くするその様子に――類はもう一度、少女を強く抱き締めた。
(「……何時だって、壊す方が簡単で。ひとも、はなも。……何もかも、その輝きを守る方が難しい」)
 胸に湧き上がる怒りは秘して。呪いの言葉を否定する様にポンポンと頭を撫でれば、零れ落ちるリジーの涙が類の服を濡らしていく。
(「その得難さと。間に合わないかもしれなくとも……共にと願い、歯噛みし走ったこの子の一歩の重さを解らぬなら……」)
 ――終わらせなければならない。リジーのために。強く願って、類はそっとリジーを離すとその両耳を掌で塞いだ。
「あんな言葉は……聞かなくて良い。――必ず、生きて、帰すから」
 穏やかに笑んだ類は、辿り着いたイアにリジーを託すと、くるり背を向けリーシャへ向かう。手には愛刀『枯れ尾花』――戦う決意を固めたその横顔を見送ると、イアはそっとリジーの髪撫で、連ねる様に言葉紡いだ。
「……そうっと、笑う声は遮りましょう。あれは、毒だもの、聴いてはだめよ。――何ひとつとて聴く必要はない」
 言いながら、しかしこの世に生きるリジーがそう考えることはきっと難しいだろうことも、イアは正しく理解している。
 いつかオブリビオンからこの世界を解放出来るまで――心に根付いた概念を覆すことは簡単では無いだろう。そして、今後もこの世界で生きるリジーが絶対君主の言葉に耳を塞げば、それは即ち死ぬことだ。
 ――だけど、今だけは。猟兵が守る今だけは、視界閉ざしてもこの命は守られる。
 そっとリジーを胸に抱き締めその視界を遮ると、イアは祈る様に瞳を閉じた。

「一緒に居たい、と、娘の母親も同じ想いだったろうさ……然し、それはもう叶わない」
 星宿す瞳を長い睫毛の下へと伏せて、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は共行く従者へ現実を語る。頷きそれに応じるジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)も――感情に乏しい表情の代わりに、鋭い視線を類と刃交わすリーシャへ向けた。
「……承知している」
「嗚呼――決めたよ、ジジ。彼奴に安らかな死なぞ与えてなるものか」
 鼓膜を揺らす師の声は低く、開いた瞳で強くリーシャを見つめる様子はその内心が如何に強く怒りに燃えているかを如実にジャハルへ教えてくれる。
 そんなアルバの言葉を受け、ジャハルは静かに前傾取ると、ただ一言言葉を返した。
「……娘と援護を頼むぞ、師父」
 ドン! と大きな衝撃と共に、ジャハルはリーシャを目指し駆け出した。瞬く間に遠のくその背を見送るアルバは、視線はそのままに、ただ1つ溜息を落とす。
 言葉少ななのはいつものことだが――その様子がいつもと何処か違うのは、恐らく今日の少女への情によるものか。
「――かの母親と同じ岸になど行かせんさ」
 事実、駆けるジャハルは確かめる様に呟いて、自らの肌に刃を当てた。
 そこから溢れる竜の血を――魔力で手繰り、狙うは攻撃と捕縛、その両を担う一手。
 ユーベルコード『怨鎖(エンサ)』。
「そら、血が好きなのだろう。幾らでも受け取るがいい――膝をつくまで、磔刑となるまで巡らせてくれよう」
 パキュン、と魔力に依って空を奔った血の滴が、細い紅線を描いてリーシャの胸を貫いた。正に中央――胸骨体を貫いただろうその血液はやがて、体内で爆発する。
「……かはっ……!」
 その衝撃に息詰まらせたリーシャは、口から鮮血を吐き出した。
 がくりと膝折り荒い息を整えるリーシャの胸の傷口から――ジャララ、と音立つ何かがジャハルの手元まで伸びている。
 赤黒き血で編まれた鎖。それは――リーシャの高速移動を阻害し、仲間を援ける手綱だった。
「――師父!」
「……ふん、心得ている。その身、灰すら残さず燃やし尽くしてくれる」
 ジャハルからの求めに応じて、既に詠唱終えたアルバはその杖先に炎を喚んだ。『愚者の灯火(イグニス・ファタス)』――猛る灼熱は重ねる高速の詠唱に次々と空へ出現し、無謀とも思う魔力量にはぴしり、と透く晶肌に時折微細な亀裂が奔った。
 しかしそんなことは些末とばかり、アルバは笑んで言い放つのだ。
「耐えられずとも構うものか。――彼奴が地に這いつくばろうと攻撃の手を緩めはしない」
 低音で言い前に勢い良く杖を翳すと、炎はアルバの周囲を離れて一斉にリーシャへ迫った。
 無数降って来た炎の雨に、ごう、と音立て燃えるホール――灼熱に気流渦巻くその中心から、ジャハルの鎖に繋がれたリーシャは逃れることが出来なかった。肌焼け焦がす苦痛にその身を苛まれて、女が上げる憎しみの声は――その全てがリジーへ向かっていた。
「あああの小娘さえ、生かさなければ……!」
 それが、――迫る1人の猟兵の逆鱗に触れるとも知らずに。
「もう……いい。喋るな」
 握るは短刀『枯れ尾花』――銀杏色の組紐飾りの付いた刃のその切っ先に持ちうる限りの魔力を込めて、類はその輝きを横へと払った。
 ――一閃。その間に刃はみるみる常春色の花弁となって炎の気流に空へと舞う。
 ユーベルコード『手向けの嵐(ハナアラシ)』。
「責める言葉しか知らぬ口は、――要らないね」
 静かに呟いた瞬間に、花弁は一斉にリーシャへと襲い掛かった。気付いて回避に動いたリーシャを、しかしジャハルの鎖が強く引き、その行動を戒める。
「貴様等の道理など聞く気はない。……一秒でも早く、此処で消えろ」
 吐き捨てるジャハルの声に、リーシャが強くジャハルを睨んだ。しかしその視線も殺到する花の中に埋もれると――一度後退し次なる一手を探りながら、誰にも聞こえぬ微かな声で、ジャハルはこう独言する。
「……領主が潰えても、あの親子は、もう共には帰れんのだな」
 言葉にした現実が、胸にぽつりと落ちて消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
驕らず侮らず、仕事を着実に完全に熟す。
それが傭兵…己の在り方。
故に。仕事に私情を挟むのは主義じゃない。
…が。

共に生きたい、生かしたい…そんな当たり前を願って。
怯える心で、震える足で、それでも行こうとしたあの娘を――
「――なぁ、アンタ。『そんなことだろうと思った』なぞ抜かしたか」

変わらず心掛けるは皆の援護。
魔槍の攻撃は、見切りを図り。
鋼糸を用いて腕や脚を封じるを狙いつつ…
槍の切っ先、リジーには向けさせません。
思い切り引いて向きを変えたく。
この女からはもう何も要らない。

八つ当たりと申しました。
えぇ、主義ではない……ですが。
「…喧しい。もう、お黙りくださいます?」
凪の笑みは雪華。
疾く、お還りなさいな


ノワール・コルネイユ
失われた者と、残された者と
その間にある絆が深ければ深いほど
残された者の悲しみは深まるものだ

その悲しみを癒す術を、私は知らない
だからせめて…この悪魔と邪悪な企みをここで終わらせよう

敵の動きを【見切り】で見定め
隙を狙ってUC発動
手足や武器を縛って拘束し、功撃を抑える様に狙う
既に弱って動きが鈍っているのなら
鎖に繋いだまま壁に叩き付けてやる

拘束時は【傷口をえぐる】痛みで【恐怖を与える】
戦意が削がれて動きが鈍れば重畳だ

お前が玩具の様に弄び、踏み躙った一人の女の悲愴な決意が。
運命を手繰り寄せた…未来を変えたんだ
後悔しようと、最早無駄だ

散々壊して、散々殺したんだ
その報いを受けるのは当然だろう
…地獄で待ってろ



 炎と花弁が取り巻くホール――積み上げた花弁の中から突如舞い上がった無数の血刃に、ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は2本1対の銀剣を構えた。
「――来る!!」
 叫ぶと同時に――ドドド! と空から弾丸の様に血刃が降り注ぐ。全猟兵に襲い掛かった凶刃――あらゆる場所へと駆けるそれらを1つずつ両刀で打ち払いながら、ノワールは舞い上がった花弁の中に立った人影を見出した。
「――はぁっ、はぁっ、はぁ」
 それは、肩で息をするヴァンパイア・リーシャ。纏った血で張り付く花弁を退けたリーシャは、差し出す手で空舞う血刃を操っている。
 ノワールは、膝折りぐっと身を低くすると、リーシャ目掛けて床面を蹴った。
(「失われた者と、残された者と。その間にある絆が深ければ深いほど、残された者の悲しみは深まるものだ」)
 血刃を躱し、凄まじい速さで駆けながら、ノワールは心の内にリジーと母の無念を思う――その悲しみを癒す術を、ノワールは知らなかった。
 でも、だからこそせめて此処で倒そうと思った。リーシャという1人の悪魔と、生かしておけば続く悲劇をここで必ず断ち切るために。
「――獲物はまず弱らせるに限る。そうだろう?」
 呟いたその手に、3色の鎖が顕現した。ユーベルコード『穢れた血を啜れ、怨嗟の鎖(ブラッドサッカー)』――銀、漆黒、そして血濡れのそれらは、擦れ違い様にリーシャへと放たれる。
 掛かったのは――1本。漆黒の鎖のみ。
 ギチリと締める鎖は傷を抉り、その痛みにリーシャは呻いた。すると集中途切れたためにか消えないまでも制御を失った血刃は、ぱたぱたと地に墜ちてその威勢を失っていく。
 こうなれば攻めるのみ。最後の血刃を手繰る鋼糸で打ち払ったクロト・ラトキエ(戦場傭兵・f00472)は、拓けた空間をリーシャへ向けて駆け出した。
(「驕らず侮らず、仕事を着実に完全に熟す。それが傭兵……己の在り方」)
 ――故に。クロトは仕事に私情を挟むのを主義としない。だから今日の戦いも、ただ戦ってオブリビオンを倒すのだと――終始そう在る筈だった。
(「えぇ、主義ではない……ですが。共に生きたい、生かしたい……そんな当たり前を願って、怯える心で、震える足で、それでも行こうとしたあの娘を――」)
 思えば、ギリ、と喰いしばる歯は軋んで、鋭い眼差しがリーシャを捉えた。
「――なぁ、アンタ。『そんなことだろうと思った』なぞ抜かしたか」
 怒りの形相で迫るクロトに、リーシャは絡む黒鎖を打ち砕くと、鮮血槍を構えて迎えた。振り下ろす一撃は躱しきれずに右大腿を穿つも――クロトは決して後ろへ退かない。
 ただ、しゅるりと放った鋼の糸が、ぎちりと鮮血槍を縫い留めた――始めから、これを封じるのが目的だった。
「……喧しい。もう、お黙りくださいます?」
 凪の笑みでこう告げたクロトの拘束に、リーシャは舌打ち強引に槍を引き抜く。拘束こそ解けたものの――その一挙動が生んだ隙を、ノワールは逃さない。
「――お前が玩具の様に弄び、踏み躙った一人の女の悲愴な決意が。運命を手繰り寄せた……未来を変えたんだ。後悔しようと、最早無駄だ」
 散々壊して、散々殺した。その報いを、この世界が与えられないなら――猟兵達が与えるまで。
「……地獄で待ってろ」
 両手に構えし長短2対の銀剣が、十字にリーシャを斬り付けた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒
アドリブや絡み等歓迎

キミはリジーちゃんのママを殺したの?
リジーちゃんの、ママを救いたい気持ちも
ママのリジーちゃんを救いたい気持ちも踏み躙って!
ボクは、許さないから!

櫻宵に撫でられて
気が落ち着いたなら筆を構えて警戒
野生の勘や第六感を働かせ、空中戦でくるりと攻撃を避けてオーラ防御で防ぐ
マヒ攻撃を乗せた炎の薔薇を描いて全力魔法で攻撃してくよ!
支援も任せてよね!
『黄金色の昼下がり』で動きを止めて櫻宵が踏み込む隙をつくる
さぁ!首をはねておしまい!

ボクだってママと一緒にいたかった
――いられないならせめて
悲しみをこれ以上深くしないように

君の絶望(クビ)を塗り替え(はね)たげる!


誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と
絡み、アドリブ歓迎

(フレズを優しく撫でて)
あらあら困ったお嬢ちゃんね
一体何人を踏み躙って殺してきたのかしら?
けどそれももうおしまいね
あなたの醜くて、美しい首。頂くわ

守るように前へでて彼女への攻撃を庇う
リジーもフレズも守りぬくわ!
第六感で攻撃を察知して見切りで躱し
残像でフェイントを
刀に破魔を宿らせて衝撃波を込めてなぎ払い、穿ち斬り伏せる
傷ができたなら重ねるよう抉り斬り
ねぇ、あなたも痛みを楽しんでみたらいかがかしら?
流石においたが過ぎるわよ
フレズが動きをとめてくれたなら、彼女にウインクを一つ
ダッシュで一気に踏み込んで『絶華』を叩き込んであげる

女の子は笑顔が一番なの


蒼城・飛鳥
黙れ(低く静かに)
気に入らねーだと?
それはこっちの台詞だ
これ以上、例え言葉一つでも、リジーを傷つける事は俺が許さねえッ!

フォースセイバーで斬りかかる
出来るだけヤツの興味を引くように苛烈にだ!
リジーの保護につく猟兵がいるとは信じてるけど、狙う余裕も与えたくねーからな!
血が欲しけりゃ俺の血でも吸ってみるか?
こちとらお前への怒りで全身煮えくり返ってんだ
燃えちまってもしらねーけどな!

それでも敢えて俺ら猟兵じゃなく、リジーを狙うような悪趣味を見せたなら、早撃ちで頭部を狙って即座にその動きを止めてやる
あんまり好きじゃねーけど、幼い頃に親父に叩き込まれたのはこっちでな
コイツを抜かせた事、後悔させてやるぜッ!



「あぁあああ……!!」
 ほぼ原型を留めない玄関ホールに、轟く悲鳴。刻まれたリーシャの十字傷から噴き出す鮮血が、とめどなくぱたぱたと床面に落ちる。
「……ッ、もう語るのも煩わしいわ! 私をこれほど傷付けて――許さない! 絶対に許さないから!!」
「……黙れ」
 激昂し叫ぶリーシャの言葉の全てを待たず、蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・f01955)はただ一言、低温の声を絞り出した。
 平時の熱さを押し殺して――しかしフォースセイバーを握る手は、この上ない強い怒りに震える。
「お前、リジーに何言った? 気に入らねーだと? それはこっちの台詞だ。……これ以上、例え言葉一つでも、リジーを傷つける事は俺が許さねえッ!」
「五月蠅い!!」
 言葉進む毎熱さを帯びた飛鳥の声が、リーシャの怒声とぶつかった。斬りかかる光剣と迎え撃つ鮮血槍とが、猛然苛烈に、火花散らして交差する――その光景を見つめながら、フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)は素直な怒りを吐き出した。
「キミはリジーちゃんのママを殺した! リジーちゃんの、ママを救いたい気持ちも、ママのリジーちゃんを救いたい気持ちも踏み躙って! ボクは、許さないから!」
 過去の自分とリジーを重ねて。さすれば自然と気は昂り、しかし叫んだフレズローゼのピンクの髪を、よく知る手が撫でつける。
「あらあら困ったお嬢ちゃんね。……一体何人を踏み躙って殺してきたのかしら?」
 誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)――窘める様な優しい手に、フレズローゼはふっと1つ、息吐き出して筆を構えた。その様子に上品に笑むと、櫻宵もまた破魔を帯びた刀を構える。
「……けどそれももうおしまいね。あなたの醜くて、美しい首。――頂くわ」
 すらり、と地と平行に顔の高さに構える刀。美しい構えを取った木龍の男は、その場から一瞬のうちに掻き消えた。
「リジーもフレズも守りぬくわ!」
 踏み込むと同時、リーシャ目掛けて突き出されたのはユーベルコード『絶華(ヨミジマイリ)』――気付いた飛鳥が身を退いた瞬間、その影から突貫した男の最上速の接近に、リーシャは身を躱す暇もない。
「ねぇ、あなたも痛みを楽しんでみたらいかがかしら?」
 懐に入り、その距離は30㎝。至近から十字傷を更に抉った櫻宵の斬撃に、リーシャは体を仰け反ると、再び激しい悲鳴を上げた。
「――うあぁああああッ!!」
 絶叫――館中に反響する凄まじい声量でリーシャは叫ぶと、怒り任せに鮮血槍を乱れ突く。
 あまりにも速いその突きを、見切って何とか捌く櫻宵の元へ――キラキラと愛らしい輝きが、魔法の様に漂った。
「支援も任せてよね! ――さぁ! 首をはねておしまい!」
 フレズローゼの筆が白いキャンバスに描く、それは無限時間に閉じ込めたお茶会――独自の感性が生み出した個性的なユーベルコードは、その名を『黄金色の昼下がり(ゴールデンアフタヌーン)』と云った。
(「ボクだって、ママと一緒にいたかった――いられないならせめて、悲しみをこれ以上深くしないように」)
 強く心にそう願って、キャンバスを飛び出したきらきら光る蝙蝠と紅茶と砂糖の乱舞の嵐がリーシャへ至る。終わらぬお茶会――その世界観へと閉じ込められたリーシャの体は、ぎしりと止まって動けない。
「――君の絶望(クビ)を塗り替え(はね)たげる!」
 びしっと指差しウインクを決めれば、大成功のその拘束に、櫻宵もフレズローゼへウインクを送る。しかしその効果は一時的だ、拘束は長くは続かない――思えば早く、飛鳥が再び前へ出た。
「血が欲しけりゃ俺の血でも吸ってみるか? ……こちとらお前への怒りで全身煮えくり返ってんだ、燃えちまってもしらねーけどな!」
 サイキックソードで上段からの先ずは一閃。次いでそのまま下から斬り上げ。続け様に繰り出す刃に、リーシャは一切反応出来ない。
 舞った血を躱した飛鳥は、さらに背後から一閃斬り付けようとして――。
 ガキン! と、不意にその刃はリーシャへ至らず硬い何かに弾かれた。身動き出来ぬリーシャの周囲に――渦巻き纏うは忌まわしき血。動けずとも、ユーベルコードが発動したのだ。
「はは! 空飛ぶ刃に無残に散れ!!」
 ひゅっと凄まじい速度で、血刃は空へと放出された。猟兵に守られてはいるけれど、この攻撃はリジーに至りかねない――ち、と舌打ちした飛鳥は、止む無く懐に手を差し込んだ。
 チャッと音立て構えたのは――一丁の銃。
「あんまり好きじゃねーんだよ! よくも抜かせやがったな……ッ!」
 『早撃ち(クイックドロウ)』――リジーの頭へ向けた銃口から、幾度と銃弾が放たれた。しかし拘束解けて笑んだリーシャは槍取り回しそれらを弾くと、ひらりと軽い身のこなしで間合いから離れていく。
「……っ、なら……!」
 即時切り替えた飛鳥は、次いで銃口を空へと向けた。
「幼い頃に親父に叩き込まれたのはこっちでな。――コイツを抜かせた事、後悔させてやるぜッ!」
 リーシャこそ射抜けずとも――ダンダンダン! と重厚な連射音が響き渡れば、パタパタと空から落ちるは血の刃。
 リジーは絶対傷つけさせない――決意の銃弾で空駆ける刃全てを撃ち捌くと、飛鳥はリジーを追い駆けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

玖・珂
虚言と分かっているのに、花畑へ行かせる者が何処におろうか
母を助けたいと希う娘の心が、行動が、我ら猟兵を喚んだのだ

血に塗れたお主に白い花は不相応だ
別の花を贈ってやろう

片目に咲かすは緋色の花
鐵纏う指を五弁の黒花と広げ敵を切り裂く

隙あらば其のまま黒爪で吸血するもよかろう
己が喰われる心地はどうだ?

敵の攻撃を受けてやる道理もない
挙動から情報収集し第六感も頼りつつ回避するが
もしリジ―を狙う、巻き込むような軌道であれば
受け止めかばう覚悟だ

先の戦いでリジーは抗う力を、未来を己で選んだ
なんと気丈な娘か
この先いつか、紫紺の瞳に光りが花と咲くよう

今はただオブリビオンを葬るぞ


ギド・スプートニク
よければ預かっていてはくれまいか
少女に外套を預ける
それは妻からの贈り物でな
あまり血で汚したくはないのだ

少女に代わって仇を討とうというつもりはない

教えておいてやろう吸血鬼
私はな
享楽のみで血を啜る貴様のような輩は、反吐が出るほど好かぬのだ

私は貴様らオブリビオンの如き歪められた存在とは違う
今を生きる吸血鬼として、貴様らを駆逐し新たな時代を築く責務がある
それが我が父の果たせなかった理念
母によって、そして妻によって生かされた、私の望み

故に滅びよオブリビオン
此方は貴様の生きていい世界ではない

吸血鬼として、人として、そして彼女の伴侶として
力のすべてをこの手に込める

武器にも魔法にも頼らずに
ただこの手で敵を穿つ


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

はッ…!ヘマしちまったぜ…
それでも膝を折るつもりはない
後ろにはリジーがいる
戦う以外で示す方法を知らない
だったら、やるしかねえだろ
肩代わりをしてやるっつってやられっぱなしじゃしまりが悪すぎるんでな!

血が流れるのも構わず
命を燃やすように
【望みを叶える呪い歌】を歌う
走り込み血の刃に斬撃をぶつけて相殺
そのまま攻撃の手を緩めず
靴に魔力を送り旋風を炸裂させて更に勢いをつける

たとえこの戦いで何かが変わっても
んなモン小さな変化だ
わかってる
それでもあがけば変わるものがあると知っているから
当たり前に染みついた
リジーのその価値観をぶっ壊す

全魔力を剣に集中
最高速度で叩き込む
さあ全力の一撃を食らいやがれッ!


ダレンヴェッダ・ゲトゥンクェス
俺は頭が悪いから、あの子を護る言葉一つ語れない
だけど、何もかも踏み躙り辱めて、なのに自分が傷付く覚悟を持てないあの人をそのままにはできない

武器は己の拳と大角に尾
両腕を尾で引き裂いて炎を纏い、角を盾代わりに真正面から捨て身で突撃

槍を振るう構えや重心を移す足運び、他の猟兵の攻撃を躱した後など
一挙手一投足に注意を払い【見切り】を駆使し敵に張り付き攻撃する
攻撃を受けても【カウンター】【2回攻撃】【生命力吸収】で食らいつき
拳振るう力尽きようとも、【怪力】でしがみつき少しでも動きを阻害する

それで自分ごと皆の攻撃に巻き込まれても構わない
自分の身一つ投げ出せないような【覚悟】じゃ、望んだ未来には届かない



「……よければ預かっていてはくれまいか」
 戦場の後方、叶う限りリーシャから離れた場所で――ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は纏う外套を外すと、ばさり、とリジーの頭上で手放す。
「えっ、わっ、……?」
 突然で驚いたのだろう、降る宵闇の外套を慌てて両手に掴んだリジーは、目を丸くしてギドを見つめる。しかし当のギドはといえば、その氷蒼の瞳は変わらず涼やか。
「それは妻からの贈り物でな、――あまり血で汚したくはないのだ」
 しかし声の何処か優しい音色に気が付くと、リジーはこくりと頷いた。大切なもの。大切な大切な何か――それを理解したのだろう、ぎゅっと抱き締める様に抱えた少女に目元を緩め、ギドは前へと歩き出す――。

「はッ……! ヘマしちまったぜ……!」
 赤く染まった脇腹に構わず、駆けるセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は今、リーシャと対峙しホールの中を縦横無尽に駆け回る。
「随分痛そうね? 楽にしてあげるわ!」
「――そう簡単にさせっかよ!」
 突き出された槍を身を反らし躱せば、穂先がちり、とセリオスの頬を掠めた。先に抉られた脇腹の傷だって深く、痛みが無い筈はない――しかし膝折るつもりはなかった。
(「後ろにはリジーがいる。……俺は、戦う以外で示す方法を知らない」)
 示したい――支配に屈せぬ強い心を。支配者リーシャとの戦い、掴むその勝利で以って、立ち向かうこと、折れる必要などないことをセリオスは少女に伝えたかった。
 例えこの戦いで変えることが出来た何かが、広い世界に在ってはごく僅かな変化に過ぎないとしても。それでも足掻けば、変わるものがあると知っているから。
「……だったら、やるしかねえだろ! 肩代わりをしてやるっつってやられっぱなしじゃしまりが悪すぎるんでな!!」
  下げた足で踏みとどまって、セリオスは前へと体を押し出した。迫る槍へと逆に向かい、リジーのために命を燃やす、その姿を前にして――ダレンヴェッダ・ゲトゥンクェス(誰が為に・f11128)は己が手見つめ、心掴む様に強く握る。
(「俺は頭が悪いから、あの子を護る言葉一つ語れない」)
 リジーの傷付く心を思えば、言葉の出ない悔しさに、握った拳がふるりと震えた。それでも今日、ダレンヴェッダは自分の意志で此処へ来たのだ。
(「……だけど、何もかも踏み躙り辱めて、なのに自分が傷付く覚悟を持てないあの人をそのままにはできない」)
 その視線を強くリーシャへと向けた時、生まれ持つ竜の尾が両腕を引き裂いた。
 そこから燃え盛るは地獄炎。リーシャへと解き放つそれは――ユーベルコード『ブレイズフレイム』。
 床面を伝い真っ直ぐと伸びた炎が、リーシャの足元で一際大きく勢いを増した。一瞬炎が奪った視界に、ダレンヴェッダは飛び込むと、両の拳でリーシャを襲う。
「……! 邪魔な……!」
 突然右側から伸びて来た拳に、リーシャは腰低く回避すると槍を腰に添わせ大きく振った。その一閃にばっとダレンヴェッダの腹部から鮮血が舞ったが――構うものか。ダレンヴェッダは踏み込んだ。
 自分の身一つ投げ出せないような覚悟では、望んだ未来には届かない。
「……止めてみせる!! 絶対に!!」
 もう一度、伸ばした拳がリーシャの腕を強く打った。鮮血槍が弾かれ、ガランと音立て床面を滑る――その好機を逃すまいと、セリオスが解き放つは、望み叶える呪い歌。
「さあ全力の一撃を食らいやがれッ!」
 二度目の強化の旋律が、セリオスの握る剣に根源の魔力を纏わせた。輝く刃でリーシャの肩を突き刺せば、最高速度の推進力を上乗せたそれは深々とリーシャの肉体を貫き、肩から左腕を斬り落とす。
「……ッひぎゃあああああアアァァッ!!!」
 ボトリと落ちた白腕が、血を噴き出しながらリーシャの激しい悲鳴を誘った。左肩押さえ、床に倒れのたうつ女の恐ろしいその声に――ギドはふん、と鼻を鳴らすと、リーシャの前に立ち止まる。
「少女に代わって仇を討とうというつもりはない。――だが」
 絶対零度。温度を持たぬ冷たい氷蒼の瞳が、リーシャを上から見下した。転がる左腕を蹴り飛ばせば、痛覚こそ既に通わぬ筈だがリーシャは再び悲鳴を上げる。
「――教えておいてやろう吸血鬼。私はな、享楽のみで血を啜る貴様のような輩は、反吐が出るほど好かぬのだ」
 嫌悪露わにこう告げれば、ギドの体内をどくり、と大きな鼓動が巡った。
 吸血鬼と人、そして妖精――ギドに流れる三種族の血が、秘めたる魔力を呼び覚ます。心臓がひとつ脈打つ度に、迸る熱が、心が、そして命がその血に伴い脈動し、どくり、どくりと古く高貴なる力を全身へ巡らせた。
 呪に蝕まれても、溢れ出る力に全身が歓喜する――ユーベルコード『高貴なる赤:血統覚醒(ノーブルレッド・トリニティヴァース)』。
「私は貴様らオブリビオンの如き歪められた存在とは違う。今を生きる吸血鬼として、貴様らを駆逐し新たな時代を築く責務がある。――それが我が父の果たせなかった理念。母によって、そして妻によって生かされた、私の望み」
 ガッと横たわる素っ首を左手に掴むと、ギドはリーシャを持ち上げた。
 強化された腕は、重力さえも感じさせずに軽々と女を空へ掲げる。女の腕失った左肩からはドボドボと血が床に落ち、掴む握力がミシリと首を圧すれば、女は足をバタつかせ抗いながらも――悲鳴の声と呼吸を失う。
「――故に滅びよオブリビオン。此方は貴様の生きていい世界ではない」
 そのまま――バキン! 女の白き華奢な首から頸椎の折れ砕ける鈍い音が響き渡った。ギドが投げ捨てる様に女の体を左へ払うと、地面に叩き付けられた体は首関節が在らぬ方向に折れ曲がる。
 それでも、生きている――ならば骸の海へと葬るべく、乳白色の影が駆けた。
「血に塗れたお主に白い花は不相応だ。――別の花を贈ってやろう」
 髪から肌、服、足の先に至るまで――玖・珂(モノトーン・f07438)の全身包む白さの中、その片目に緋色の蕾が花開いた。
 ユーベルコード、『秘すれば花(イノチミジカシ)』。
(「……花……花か」)
 己が命を削り咲く花が、珂の胸にリジーを思い起こさせる。絶対君主の恐怖の中、母を救わんとただ一人花畑へと走った少女。
「……虚言と分かっているのに、花畑へ行かせる者が何処におろうか。母を助けたいと希う娘の心が、行動が、我ら猟兵を喚んだのだ」
 そして先の戦いで、その少女は抗う力を、未来を己で選んでみせた。あの幼さで、何と気丈なことだろう――思う内、命削れど覚醒した力が全身に漲れば、珂はそれを鐵纏う五指へと集める。
 唯一黒く鈍く光る5つの爪が口を開けば、黒き花が咲く様に、女の頭を目指して伸びた。
「――この先いつか、紫紺の瞳に光りが花と咲くよう」
 リジーの明るい未来を切に願って。がしりと掴んだリーシャの顔は、最早その命が短いと知れるほど青白く生気を失っていた。
 虚ろな瞳からは涙の様に血が流れ落ち、支えを失った首は、引く力に皮膚が伸びている。騒がしく暴言を撒き散らした声は、どうやらもう紡げないらしかった。折れた頸椎が声帯に刺さりでもしているのだろう。
 命喰らいしオブリビオン――その命はもう、珂の手に咲く黒花の中。
「……己が喰われる心地はどうだ?」
 掴む傷から溢れた女の血を、命を、花がごくりと飲み干すと――やがて虚ろな女の紅瞳から、命の灯が消え去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『微睡みに溶ける』

POW   :    寝ずの番をする

SPD   :    寝具を用意する

WIZ   :    子守唄を歌う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 リジーと共に向かった領主館の2階。応接間に、リジーの母は眠っていた。

 髪や衣装に暗い色彩纏うその人は美しく、面差しは確かにリジーに似ていた。しかし触れた肌はひやりと冷たく、その肌は青白い。この世に生が無いと知れれば、その現実は苦しくも――決してリジーは泣かなかった。
 村へ至る道でもそうだ。途中、かの亡きヴァンパイアが向かえと命じた花畑に差し掛かって足こそ止めても、リジーは何も語らない。何処か虚ろな瞳で辺りの花を見回すと、直ぐまたその歩みを進めた。
 花畑に居たであろうオブリビオンの姿は見えない。主の消滅と共に消えたか、野生化し何処へか逃げたものかは知れないけれど――付近哨戒してみても居ない以上は、猟兵達にもどうすることも出来ないだろう。

 ――いずれ、泣くことも騒ぐこともなくリジーは無事村へと帰った。

 母の遺体は今、村の集会所に安置されている。そこでは今夜村の大人達が集まって、明日からのリジーの身の上を協議するのだという。
 帰還時、温かくリジーを迎えたあの村人達ならば、きっとこの先リジーを悪い様にはしない筈だ。だから――猟兵達がすべきことは、今宵のリジーを守ること。
 村人達がリジーの今後を話す間、共に在る様託されたのだ。

「……えと。助けてくれて、ありがとう」

 自宅へ着き、猟兵達を一先ず居間へ通したリジーはぺこりと深く頭を下げた。
 漸く、意志を持って動くリジーが見られた――猟兵達は安堵するも、その表情には何処か虚ろさが貼り付いて、幼い紫紺の大きな瞳はやがて悲しく部屋中を巡る。
 生活感の溢れる居間は灯りの類が全て消え、暖炉の炎も沈黙し部屋は夜に冷え切っている。此処に至るまでに見た家の中には居間の他に母子の寝室と大人でも2人がやっとの小さな浴室、キッチンなど、その備えは2人住まいの最低限だ。
 ただ1つだけ特徴を挙げるとすれば、廊下に天窓へ至る梯子が在った。屋根へ上がれるようだが――恐らくリジー1人では、重い天窓を開けることは難しい。
 少女の瞳からは家中の、生活のあらゆるものから母を思い出していると知れたが――灯りや暖炉の点火に調理、入浴など、幼いリジー1人では再現出来ないことが多過ぎた。

「えっと……あの。……家の物、使っていいです。ゆっくり、休んでいってください」

 だから、思考振り切る様にふるりと顔を横に振った後、リジーはそう言って悲しく笑んだ。

「……おかあさん、いないから。わたし、何もおもてなし、出来ないけど……」

 震える声を絞り出し、俯く少女は今になっても決して泣かない。
 だが、母喪った痛みを耐えて耐えて耐えて――やっとの思いで立つ少女には、この夜1つ明かすにも頼れるものが必要だ。
 夜と闇に包まれた世界、ダークセイヴァー。当たり前に昇る朝日が例えなくとも、朝は必ずやって来る。
 猟兵達は、居間に置かれた小さな毛布をそっとリジーの肩に掛けると、その震える手を取った。
エンジ・カラカ
本当に哀しいと涙も出ないって聞いたコトがあるなァ……。
コレはどうだったのか覚えていない。
本当は覚えているケド語るコトでもない。

おかーさんはどんなヒト?
優しい?怖い?おかーさんのご飯の味は?
チビのお前の好きな料理は?

泣こう。
泣いたら沢山眠る。
眠ったらまた泣く。
気が済むまで泣いたら、歩けばイイ
コレはそう思う。

夜はまだまだ長いンだ。コレは眠らない。
まだ眠りたくない。
チビ、お前の話をもっと聞かせてくれ。
コレが、お前が、眠たくなるまで。

ミンナで添うのもそれはそれでイイかもなァ。


冴島・類
眠れる状態ではないだろうけど…

他の方が彼女と話している間に
暖炉つけ、キッチンで
白湯でも何でも良い
暖かい飲み物だけでも用意し
彼女の元へ行き、手渡し
ごめんね、借りたよ

持て成しなんか考えなくて良い

例え、明日の為に
立って歩かないといけないとしても
胸から痛みが流れている時まで
無理をしなくても、いい

この夜は僕らが守るから
少し横になって
話をしないかい

君は、あの時…言ったね
死んでしまった方が…?って

その方が良かったなんてことは
絶対にない

絶対に、だ

掌を包み
瞳の奥に向け

生きていてくれて、ありがとう
抗ってくれたから
彼女が…繋ぎたいと望んだ命が、あるんだ
君は、お母さんの希望を
守ったんだよ

その後は
朝が来るまで眠らず番を


玖・珂
暖炉に火を点け温もりを
リジーが眠れぬようであれば声を掛けるぞ

挨拶がまだであったな、私の名は玖珂だ
宿をありがとう

……私には、母の記憶がないんだ
良ければリジー
おかあさんの事を聴かせてはくれぬか?

例えば、いつもならこの時間は何をしている
こんな事をして怒られた、褒められた
何でも構わぬ

よき母であったのだろうな

リジーがそうして覚えている限り
おかあさんは其処に、リジーと一緒だ

――今日はよく耐えて、よく頑張ったな

我慢しているようであれば泣いても良いのだと伝えよう
哀しい時は泣き、嬉しい時は笑う
抑え続けていては、心が死んでしまう
私はその様になっては欲しくないのだ

朝を迎える
或いはリジーが目を覚ますまで
ただ共にあろう


イア・エエングラ
お部屋に、火を、いれましょうな
静かで、穏やかで、やさしい空間
あたたかな時間の流れていたのだろうね
そっと先のように抱き留めたならただお傍に居ましょうな
ないても良いよ、でも言わずに、そっと

ずっとたくさん、憶えていてね
きっと、忘れず抱いていてね
――どれほど、悲しくなろうとも
たとえ埋まることがなくっても
リジ―のことを、一番愛している人がいることを

ねぇ、お話、できたら
リジ―のお母さんの話を、聞かせて、くれる?
ただ静かに、お傍にいるけれど
夜が更けるのを、待ちながら

そうして朝のくるまで、居ましょうな
これから何度でも、またあなたに、逢いに来るよ
花が咲いたら、季節が過ぎたら
だから、またお母さんの話を、聞かせてね


蒼城・飛鳥
こういう時どうすりゃいいのか
気の利いた行動が出来る程俺自身もまだ大人じゃねーけど
側に、いてやりてーよな

…どうして泣かねーんだ?
本当に辛い時哀しい時は泣いて、泣いて泣きつくしたっていいと俺は思うぜ
何なら俺の胸で泣いたっていいんだからな!(ば!と両手を広げつつ)
って、うぉ、ロリコン言うな!?蹴るな、おいっ!!(『状況考えなさいよ、このロリコンッ!』とアスカに蹴られつつ)
まぁ、俺じゃなくてもさ
胸を貸してくれる奴は、ここにはきっと大勢いるぜ
いいか、リジー
お前は一人じゃねーんだ
勿論、リジーの大切な母さんの代わりになんて、誰もなれはしねーけど
一人きりで立とうとしなくていいんだ
それだけは、忘れないでくれよな



「挨拶がまだであったな、私の名は玖珂だ。……宿をありがとう」
 寒さに冷えた手を引いて、微笑む玖・珂(モノトーン・f07438)は少女を椅子へと促した。
 使い込まれた2人掛けの木製椅子は、リジーが座るだけでもときし、と小さな音を立てた。続いて隣に珂も落ち着いたのを見届けて、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)はくるりと背を向けそっと暖炉の前へと至る。
「お部屋に、火を、いれましょうな」
 新たに薪くべ炎を灯せば、小さな部屋にはそれだけでふわりと揺れる光と温もりが広がった。静かで、穏やかで、やさしい空間――昨日までは母子2人、あたたかな時間の流れていたのだろうとそう思えば、イアはリジーの前に膝付き、その手をそっと優しく握った。
「――ねぇ、お話、できたら。リジ―のお母さんの話を、聞かせて、くれる?」
 自分よりも低い位置から柔らに微笑み掛ける美しき男の問いに、リジーは戸惑う様に顔を上げた。……お母さんの、とそう返る声は震えていて、珂は大丈夫と伝える代わりにそっとリジーの背に触れる。
「例えば、いつもならこの時間は何をしている? こんな事をして怒られた、褒められた、何でも構わぬ。……私には、母の記憶がないんだ。良ければリジー、おかあさんの事を聴かせてはくれぬか?」
 優しい声でこんな風に問い掛けて、イアも珂も、何もリジーの涙を促そうとしているわけではない。でも、泣いてもいいのだと伝えたかった。口を噤む必要は無く、忘れ去る必要だって無く――幼い少女らしくありのままの心を、声を、正直に聴かせて欲しかった。
「おかーさんはどんなヒト? 優しい? 怖い? おかーさんのご飯の味は? チビのお前の好きな料理は?」
 向かいの椅子にすとんと腰掛け、エンジ・カラカ(六月・f06959)もそう言葉を継ぎ笑い掛ける。リジーが悲しい筈なのに泣かない理由を――記憶の中に探しながら。
(「本当に哀しいと涙も出ないって聞いたコトがあるなァ……コレはどうだったのか覚えていない。本当は覚えているケド語るコトでもない」)
 自分の中に在る心当たりには背を向けて、エンジは再びリジーへ意識を向ける。リジーの場合、戦いの最中には泣いていた。ならば涙が出ないとは違うだろう。
 涙が枯れた、と考えることも出来たが――エンジはそうは思わない。
 母を守ろうと動いたリジーは、年齢よりずっと気丈で大人びていた。だからきっと、泣かない理由は――周囲を気にした少女の強がり。
「……どうして泣かねーんだ?」
「……え?」
 あまりに愚直なその問いに、リジーはぱっと顔を上げた。一言でも母のことを語り出したら泣きそうで――そう思っていた所で突然衝かれた核心に、紫紺の瞳を見開いて。
 立っていたのは、心配そうにリジーを見つめる蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・f01955)――こういう時どうしたらいいのか、気の利いた行動が出来る程飛鳥自身もまだ大人ではなかったけれど、せめて側にいたくて、そこに居た。
「本当に辛い時哀しい時は泣いて、泣いて泣きつくしたっていいと俺は思うぜ。……何なら俺の胸で泣いたっていいんだからな!」
 そう告げ飛鳥がリジーへばっと両手を広げて見せれば、召喚していたフェアリー型戦術指南AI『アスカ』が「状況考えなさいよ、このロリコンッ!」と声あげガスガスと飛鳥の足を蹴る。
 その様子に猟兵達も思わず苦笑し、一瞬部屋は和んだ空気に包まれるが――やがてエンジはもう一度、リジーへと笑い掛けた。
「――泣こう。泣いたら沢山眠る。眠ったらまた泣く。……気が済むまで泣いたら、歩けばイイ。コレはそう思う」
 強がる必要なんてないと、ニィ、と笑んだエンジの顔に、――声は静かなのに笑顔が齎す明るさに、リジーの胸に温かさが込み上げる。
 ……駄目だ。泣いちゃいけない。困らせちゃいけない。心に蓋をする様に、リジーはぐっと視線を落とした。泣いている場合ではないから。生きていかなくてはいけないから――強く在ろうと口を噤み、力を入れて涙を堪える。
 だが、その俯く視線の前に、後ろからすっと湯気立つカップが差し入れられた。
「……ごめんね、キッチン借りたよ」
 遠慮がちに告げた声は冴島・類(公孫樹・f13398)のものだった。カップの中身はただの白湯。だけど、ふわりと湯気がリジーの顔に触れると――その温かな刺激にか大きな瞳がみるみる揺れて、ほとりと1粒涙が落ちる。
 背に触れる珂の手が、手を握るイアの手が、飛鳥の広げた腕が、エンジの笑顔が、そして類の差し出したカップが――温かくて。
「――あ、……う……ッ」
 優しさに簡単に揺らいでしまうほど心が弱っていると解ったから、心を無にして耐えていたのに――一度溢れてしまえば止められなかった。望まず落ちる涙に両手で顔を覆ったリジーを、イアが正面から抱き締める。
 先の戦いの最中の様に――震える体をそっと包めば、珂もそっとリジーの小さな頭を引き寄せ、抱く様に頬を寄せた。
「――よき母であったのだろうな。……今日はよく耐えて、よく頑張った。リジーがそうして覚えている限り、おかあさんは其処に、リジーと一緒だ」
「……ぅう……っ」
「ずっとたくさん、憶えていてね。きっと、忘れず抱いていてね。どれほど、悲しくなろうとも、……たとえ埋まることがなくっても――リジ―のことを、一番愛している人がいることを」
 2つの温もりに包まれて、リジーの瞳から幾つも想いの滴が零れ落ちた。言葉にならず漏れ出る嗚咽は、静かな部屋にひっそりと消えていく。
 一度差し出したカップを下げてその背中を見守っていた類は、傍のテーブルにカップを置くと、そっと少女の背中に手を添えた。
「例え、明日の為に立って歩かないといけないとしても、……胸から痛みが流れている時にまで無理をしなくても、いい」
 する、とイアが抱く手を緩め珂が寄せていた体を起こせば、背から響く低い声にリジーが振り向き顔を上げる。
 その間も絶えず溢れて来る涙を類は伸ばした手でそっと拭うと、聞いて、と小さく少女へ告げた。
「君は、あの時……言ったね。死んでしまった方が……? って。その方が良かったなんてことは絶対にない。――絶対に、だ」
 背もたれ越しに手を伸ばしリジーの手を取った類は、その掌を大きな両手で包み込むと、屈んで近付いた翠瞳から紫紺の瞳の奥へと向けて、心からの感謝を述べた。
「……生きていてくれて、ありがとう。抗ってくれたから、彼女が……繋ぎたいと望んだ命が、あるんだ。……君は、お母さんの希望を守ったんだよ」
「……~~~っ!」
 感謝の中に想いを綴じれば、真っ直ぐ見つめた瞳から更に大粒の涙が零れた。その様子に思わず笑んで類が少女を抱き締めると、珂も笑って、再びリジーを横から類と一緒に抱き締める。
「――泣いても良いのだ、リジー。哀しい時は泣き、嬉しい時は笑う。……抑え続けていては、心が死んでしまう。私はその様になっては欲しくないのだ」
 押し殺していた心が見えたことに安堵して、珂がぎゅっとリジーを抱けば、小さな手はきゅっと珂の外套を掴む。頼ってくれている。心を預けてくれている――その様子からそれを感じ取った飛鳥は、にこっと笑んでリジーの背中へこう告げた。
「こんな風に胸を貸してくれる奴は、ここにはきっと大勢いるぜ。――いいかリジー、お前は一人じゃねーんだ」
 勿論、リジーの大切な母の代わりになんて、誰もなれはしないけれど。それでも今此処には猟兵が居て、村には真剣にリジーの未来を案じる村人達が居る。
 ――決して、リジーは孤独ではないから。
「一人きりで立とうとしなくていいんだ。それだけは、忘れないでくれよな」
 笑みの声で告げた飛鳥に、エンジもイアにも浮かぶ笑み。無論、リジーが母と生きた以前の様に笑えるのはまだ先のことになるだろう。それでも、戦闘後からの頑なに泣かないリジーに比べたらずっとずっと良いと思った。
 感情を押し殺して独り生きる――そんな無彩色の未来を迎えて欲しくは無かったし、きっと彼女の母もそれを望まない。
 だからこれは、リジーの未来への大きな一歩。
「……これから何度でも、またあなたに、逢いに来るよ。花が咲いたら、季節が過ぎたら。だから、またお母さんの話を、聞かせてね」
 今はまだ、言葉で母を語るには難しくとも。今夜でなくたっていい、生きる未来できっとまた会えたなら――そう願って、イアはリジーの背へと語る。
 ――しかし、エンジはもっと欲張りだった。
「夜はまだまだ長いンだ。コレは眠らない。まだ眠りたくない。チビ、お前の話をもっと聞かせてくれ」
 未だ続く長い夜。互いに、眠たくなるまで――傍に居るよと笑む存在の温かさが、リジーの心に染み渡る。
 涙を止められない様子のリジーに――夜の果てまで付き合おうと笑んだ類は、ぎゅっと少女の顔を自分の胸に押し付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

阿紫花・スミコ
明けない夜はない・・・でも、やってくる朝が希望に満ちた朝になるかどうかは保証のかぎりじゃない。それがこの世界(ダークセイヴァー)ならなおさらだ。
それでも朝はやってくる。
うつ向いて朝日を迎えるか、しっかりと前を向いて迎えるか、ただそれだけだ。
「あの子はきっと大丈夫だ。」
あの子は前へ進むと決心してくれた。悲しい現実から逃げずに抗うと決めてくれた。
あの子の今後は心配だけど、それはボクの役目じゃない。ボクはボクにできることをがんばるよ。この世界からオブリビオンどもを駆逐してやる!
屋根の上で登ってくる朝日を待ちながら、ボクはそう心に誓った。


ジャハル・アルムリフ
師父(e00123)と

どれ程考えても
泣くことも出来ない少女へと
向けるべき言葉は虚しく浮かぶばかり

せめて出来る事を

家の外に
有り合わせの木材で作ってきた
防犯も兼ねた風除けの柵を
隅には小さめに割っておいた薪を積んでおく
暗い世を
寒い冬を越す為
僅かでも足しになればと願う

内側の、師の菜園へは
師に貰った陽光降らす花の洋灯を吊り
陽なき地にも芽が育つよう置いてゆく
…帰ればまだ有る
許してくれるだろう、師父

【星の仔】も補助に
未だならば天窓にも梃子を使った引き環を
屋根には小さな風見鶏
瞳の部分に少女の母のそれと良く似た色の石を

独りの夜も
傍で見守ってやってくれ
誰より願った幸福あれと

その手を取るものがいるのなら
なあ、師父よ


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
揃いも揃って気の利いた言葉の一つも掛けられぬとは
…全く困ったものよな

娘を励ます心優しい者は沢山居ろう
…ならば私の出る幕ではない
屠る事に特化した我が魔術でも使い道はあろうよ
暖炉の火を付け易く、安全に使えるよう魔方陣を描く
気休めであろうと、せめて光とぬくもりは絶やさぬよう

外に赴いたら従者の作った柵内にささやかな畑を作ろう
…ジジ、お前も手伝え
夜闇の中でも育つよう生育促進の魔術を施す
軈て咲き綻ぶ花弁が娘に幸を運ぶよう
花燈を視線の端に苦笑
…全く、好きにするが良い

輪を引き、従者と屋根へ
冷たい風を感じつつ
夜の静寂に小さく優しく子守唄を響かせて
…優しき鶏が、リジーの心へ届けてくれれば良い



 家中は幾分温もりを取り戻しながらも、一度外へと出でてみれば、空には暗い夜の闇が横たわる。
 寒空の下、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は黙々と手を動かしていた。何をしていたかといえば、薪を小さく割っていた――リジーにも運べるサイズにしているのだ。
(「暗い世を、寒い冬を越す為、……僅かでも足しになればと願う」)
 サイズが小さくば、それだけ薪が燃え尽きるのも早かろう――だから沢山、沢山割った。隅に多量に積み上げたそれは軽く、嵐が来れば飛ばされてしまう可能性もあったが――ぐるりと家囲う様に巡る木製の柵が、家ごと風から守ることだろう。……これもジャハルの作だった。
 どれ程考えても、泣くことも出来ない少女へと向けるべき言葉は心に虚しく浮かぶばかりだ。――だからせめて、出来る事をしようとジャハルは思った。
(「揃いも揃って気の利いた言葉の一つも掛けられぬとは。……全く困ったものよな」)
 そんなジャハルの背を見つめ、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)も表へ出る。リジーの涙を囲い励ます心優しい猟兵達を見届けて――自分の出る幕ではないと、口は出さずにアルバはただ暖炉へ密かに魔法陣を仕掛けて来たのだ。
 火を付け易く、安全に使えるように。光とぬくもりは絶やさぬようにと――常は屠る事に特化したアルバの魔術も、今は優しく、リジー達を温めていた。
「……ジジ、お前も手伝え」
 そんなアルバがジャハルへ声掛け取り掛かるのは菜園作りだ。従者の作った柵の中、やがて咲き綻ぶ花弁が少女に幸を運ぶようにと――大地へ膝付き、生育促進の魔術を込めながら土を探るアルバへと、つい、と見慣れた光が近付いた。
「……帰ればまだ有る。許してくれるだろう、師父」
 見上げれば、菜園の傍らへ陽光降らす花の洋灯を吊るジャハル。そのあまりに不器用な請う言葉に――アルバはふ、と苦笑して、息を落とし頷いた。
「……全く、好きにするが良い」
 陽なき地にも、芽が育つよう灯を添え、作業を終えた2人は揃って空を仰ぐ。
 見上げたそこには、どこまでも深い夜の闇――。

(「明けない夜はない……でも、やってくる朝が希望に満ちた朝になるかどうかは保証のかぎりじゃない。……それがこの世界ならなおさらだ」)
 屋根の上に独り腰掛け、阿紫花・スミコ(人間の人形遣い・f02237)は空の闇を見つめていた。
 スミコにとっては生まれた地でもあるダークセイヴァー。恐らくは支配の世になって以来変わらぬ重く沈む様なその空は、幾度と時が朝を刻もうとも夜の帳を下ろしたままだ。
(「それでも朝はやってくる。うつ向いて朝を迎えるか、しっかりと前を向いて迎えるか、……ただそれだけだ」)
 そんな闇の世界の中で、絶望に落とされながらも前に進むと決意した今日のリジーの何と強かったことか。悲しい現実から逃げずに抗うと決めた少女の姿を思う程に――スミコの胸は熱くなる。まるで背でも押された様に、強く強く、心が前を向いていく。
 無論、リジーがこの世界で送るこれからは心配だが――それを見守るのは、きっとスミコの役目ではないから。
「――あの子はきっと大丈夫だ」
 だから信じて、自分に出来ることを頑張ろうとスミコは思う。見守れずとも、きっとそれがリジーの未来のためにもなるから。
「……この世界からオブリビオンどもを駆逐してやる!」
 今は未だ深い夜空を黒の瞳で見上げ、スミコはいつか昇る朝日を心に誓った。

 沈黙を続ける世界の中――カコッ、と重い天窓開く音が屋根の上に微かに鳴った。
 ジャハルとアルバ。大地での作業を終えた2人は、今度は夜空の中へと姿を見せた。天窓へと梃子を利用した引き環を取り付け、リジーが1人でも屋根へと登れる様にした上で――最後に彼等が贈るのは、今日の母子と同じ紫紺の瞳をした風見鶏。
 村人から聞いたのだ。永遠の眠りに閉じられ窺えなかったリジーの母の瞳の色は――娘と同じ紫紺色であったという。
 ユーベルコード『星の仔』――透明な翅持つ蜥蜴を補助にと空へ解き放ち、ジャハルは器用に屋根の頂上へ風見鶏を取り付けていく。
(「独りの夜も傍で見守ってやってくれ。……誰より願った幸福あれと」)
 願ってそっと手離せば、吹く冷たい風の中に風見鶏がきしりと鳴いた。
 ――ふと。その時耳に触れた低音の歌声にジャハルが振り向くと、そこにはアルバが腰掛けていた。
 夜の静寂の中に優しく、溶け入る様に静かに響いたアルバの歌声は、吹く風に乗って世界の中へ散っていく。
(「……優しき鶏が、リジーの心へ届けてくれれば良い」)
 今宵、少女が心穏やかに在る様願い――歌乗せた風にからりと、風見鶏が小さく鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
リジーは母に愛されていた
いえ、今でもずっと愛されている
(蔑まれ棄てられた私と違って)

ボクは歌うことしか出来ない
料理は知らない、洗濯やお風呂を用意する術も知らない
何も知らない
ボクはリジーの役にはたてないと思う

だけど、それでも歌を奏でよう
母に教わった子守唄ではないけれど
ボクの、私の記憶にはないけれど
それでも知っていた優しい歌を

恋に救われて幸せになった少女の、
平和を、愛を、すべてを救いたいと願った希望の歌を

今はまだその希望が見えないかもしれない
それでもアナタを愛した母は
アナタの幸せを願っているはずだから

さあ、歌おう
さあ、奏でよう
母へ自信を持って幸せだと伝えることができる
そんな未来に向けて

アドリブ歓迎


ギド・スプートニク
彼女は強く生きねばならぬ
闇に閉ざされた世界で、この先何年も、何年も

だがそれは、あまりに
少女には荷が重かろう

母を喪ったあの日
シゥレカエレカと出逢ったあの日の出来事を思い出す
私は、彼女のように
誰かの救いとなることができるのだろうか

少女にそっと語り掛ける

きみはまだ幼い
これからの人生、きみには数多の困難が待ち構えている
だが、それでも
きみはしあわせになるべきだ
きっとそれが、母君の望んだ唯ひとつのこと

そして出来得るならば、立派な淑女となるのだ
母君に負けぬ素敵な女性に

泣きたいならば好きなだけ泣くといい
流した涙の数だけ、きみは強くなれる

いい子だ、リジー
きっとまた会いに来よう
その時はまた
きみの話を聞かせてほしい


麻生・大地
「これは僕の自己満足の為なんだと、そう思われるでしょうねきっと…」
 リジーさんからお借りしたいものがあります。
お母さんと別れる直前、何か渡された物がなかったか。あるいは、以前贈られた物か。なんなら、【今までお母さんと住んでいた家】を対象にしてもよいでしょう。
【サイコメトリー】を使い、リジーさんのお母さんの思念を呼び出します。
あるいはとても残酷なことをリジーさんにしてしまうのかもしれません。思念は思念でしかありません。もう二度と会えないことを改めて突き付けてしまうだけかもしれない。しかし、赤の他人の僕がどんな言葉をかけたところできっと慰めにもならないでしょうから
【アドリブ歓迎です】



「……リジーさん」
 猟兵達の優しさの中に居るリジーへ、やや硬い声で声を掛けたのは麻生・大地(スチームハート・f05083)。
 少し落ち着いた様子のリジーは、呼ぶ声にやや不安げに首を傾げた。しかし声に大地の真剣さを察すれば、囲う猟兵達の手を離れ、大地の前へと歩み寄る。
「……」
 じっと見つめる紫紺の瞳に、大地は強く己が手を握り締めた。
(「これは僕の自己満足の為だと、そう思われるでしょうねきっと……」)
 ――そうだとしても止められなかった。赤の他人がどんな言葉をかけたってきっと慰めにもならないと――思えばこそ、大地は言葉掛けるより、もう一度母の姿をリジーに見せてあげたいと望んだ。
 ユーベルコード『サイコメトリー』。……物体に残る、残留思念を呼び出す力だ。
「お借りしたいものがあります。お母さんと別れる直前、何か渡された物がなかったですか? あるいは、以前贈られた物か――いや」
 語りながら、大地は気付いた。今少女が出会う母は、残酷な最期の時の姿ではなく――共に生きた幸せな日々の記憶であるべきだと。
(「……今までお母さんと住んでいた家。呼び起こす記憶は、ありふれた日常の景色でいい」)
 そっと掌で床へ触れ、大地は魔力を迸らせた。足元から突如舞い上がった気流に驚き、リジーは瞳を閉じるけれど――風去り見た先に立っていた人の姿に、驚いて思わず呟く。
「……おかあ、さん……?」
 目の前に、紫紺の瞳を綻ばせるリジーの母が立っていた。
 猟兵達も、大地も初めて見る生きた少女の母の姿――笑みの中、何か語るように口を動かしリジーを見つめているけれど、その声は聞こえない。……残る思念が弱かったのか、思念がそういうものであるのか、それは定かではないけれど。
「……お母さん……! うぁあ……!」
 もう一度、リジーの瞳に涙が溢れた。でも目の前に立つ母に、リジーは手を伸ばさない。
 景色を透かす母の姿は、実体なんて持っていない。ちり、と時折その姿は乱れて、今にも消えそうに揺れていた――もう二度と会えないことを受け入れた後だからこそ、少女は立ち尽くしたまま、浮かぶ思念の母の前でただ泣き声を張り上げた。
「……リジー」
 その紫紺の瞳を――そっと、伸びた大きな白い左手が覆い、そのまま後ろへ引き寄せる。
 その手、その背に触れる外套の温もりには覚えがあった。ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)――父親の様な大きな手を持つその人は、宥める様な低くも優しい闇色の声でリジーの名を呼びながら、心では何を語るべきか迷う様に揺れていた。
(「彼女は強く生きねばならぬ。闇に閉ざされた世界で――この先何年も、何年も」)
 強く在れと、語るだけなら簡単で、でもたった1人でこの闇夜の世界の中に生きること――歳幼い少女にはどんなにか荷が重いことだろうと、思えばギドの心は迷い、掛ける言葉を躊躇った。
 でも、そんな迷うギドの心にふと、――ぽつりと温かな光が灯る。
(「……ああ、そうか……」)
 瞑目したギドの脳裏に、母を喪い、妻と出逢ったあの日の出来事が蘇った。
 母を喪った今日のリジーとあの日の自分が再び重なる。そして、迷う今の自分と、あの日の妻が重なった。
 ギドは願う。あの日救ってくれた妻の様に、自分もリジーを救いたい。
 ギドは問う。妻の様に――私は誰かの、救いとなることができるのだろうか。
「……きみはまだ幼い。これからの人生、きみには数多の困難が待ち構えている」
 戸惑いながら、恐れながらも、ギドは思いを声に乗せた。
「だが、それでも、きみはしあわせになるべきだ。きっとそれが、母君の望んだ唯ひとつのこと」
 間違いかもしれない。救える確信なんて無い。でも、妻の様に救える者で在りたいと願うからこそ紡ぐ言葉は熱を持ち、リジーの鼓膜を揺らしていく。
 少女がしゃくりあげる度、左手濡らす涙が熱い――でも構わず、ギドは言葉の先を綴った。
「そして出来得るならば、立派な淑女となるのだ。……母君に負けぬ素敵な女性に」
 ――どうか、どうか幸せにと。未来を願う言葉で締めて、ギドはリジーを解放する。
 覆う左手を逃れた紫紺の瞳の前に、もう母の残像は無い。それを寂しく、悲しく思いながらも――くるりと少女は振り向くと、後方に立つ大地へ向けて、涙は留めず声を掛けた。
「――ありがとう。……お母さん、笑ってた」
 一瞬笑ったその顔は、だけど直ぐにくしゃりと崩れた。ギドがそっと両手広げればリジーはそこに飛び込んで、泣き濡れた顔をぐっと胸に押し付ける。
「……楽しそうに、うたってた。お母さん、いつもうたってくれてたの」
 その言葉に、アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)はああ、と琥珀の瞳を伏せた。
 浮かび上がった残留思念。音声こそなかったけれど、家という大枠を対象とした思念のスキャンであの映像が選ばれた理由は、リジーの母がいつも此処で歌っていたからなのだろう。
(「ボクは料理を知らない、洗濯やお風呂を用意する術も知らない。何も知らない。……ボクはリジーの役にはたてないと思った」)
 ――だけど。リジーの母が此処で歌っていたのなら、役に立てることがある。
 唯一アウレリアに出来ること――それは、歌うことだから。
(「リジーのお母さんと同じ歌を歌うことは出来ないけれど、……それでも歌を奏でよう。母に教わった子守唄ではないけれど。ボクの、――私の記憶にはないけれど、それでも知っていた、優しい歌を」
 すぅ、と深く息を吸い込み、アウレリアは優しい歌声を解き放つ。
 部屋中に響き渡る美しい旋律が、まるで家中を眠りへと誘う様に、或いは家中を幸せで満たすかの様に、優しく壁を震わせた。
 恋に救われて幸せになった少女の、平和を、愛を、すべてを救いたいと願った希望の歌。今はまだリジーには、その希望が見えないかもしれない。それでもリジーを愛した母は、リジーの幸せを願っている――そう信じるアウレリアの歌声を、リジーはギドの腕の中で涙の内に耳にした。
「……、おかあさん……っ」
 もう一度、少女は消え入る声で呟いた。しがみ付く手が強くなったことに気が付けば、ギドはそっと立ち上がり、少女を元居た椅子まで抱き運ぶ。
 座らせながら――紫紺の瞳を覗き込むと、言い聞かせる様にこう告げた。
「……泣きたいならば好きなだけ泣くといい。流した涙の数だけ、きみは強くなれる」
 泣き腫らした、酷い顔。でも、ぐいと目元を拭いながらこくりと頷く少女の強さに――ギドは出会った時の様に、ぽんと少女の頭に手を乗せた。
「いい子だ、リジー。きっとまた会いに来よう。……その時はまた、きみの話を聞かせてほしい」
 少女が見せた強さを見守り、アウレリアは歌い続ける。
(「蔑まれ棄てられた私とは違う。リジーは、母に愛されていた。……いえ、今でもずっと愛されている――」)
 だから、歌おう。
 さあ、奏でよう。
 リジーが母へ自信を持って幸せだと伝えることができる、そんな未来に向けて――アウレリアの歌声は、やがてリジーが泣き疲れて眠るまで、家中に優しく響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヒビキ・イーンヴァル
こういうのが日常的に起こる世界……
残酷、なんて言葉じゃ言い表せないな
少しでも被害が減るように努力するのが、個々人の限界か

もてなしなんていらねぇよ、リジー
お前の方が疲れてるだろうに、気にしないで休んどけ
……まあ、休めって言われて、休む気になれない気持ちもわかるが
家の物、使っていいんだな?
なら、温かい飲み物でも淹れてやるよ
ちょっとは気が楽になるだろう

あとは……そうだな、リジーの頭を撫でてやろうか
よく頑張ったよ
……泣いていいんだからな?
お前の親の代わりにはなれないが、今だけでも

人が目の前で死ぬのは、何度見たって慣れるもんじゃない
いや、慣れちゃいけない
大切な人なら尚更だ


クロード・ロラン
無事でいてくれてよかった
リジーは今つらいだろうけど……それでも俺は、そう思う
俺も故郷を失った時に何もかも失くしたけど
今は楽しいこともあるし、あの時ヤケにならなくてよかったと思うから

でもこういう話するの苦手なんだよなぁ
声掛けは得意なやつに任せて
俺はリジーが快適に休めるようにしよう

俺もダークセイヴァーで暮らしてた、この家の設備の扱い方もわかるはず
灯りをつけて暖炉も燃やして、明るく暖かく
風呂も沸かした方がいいかな
同じことしようとしてるやつがいれば、扱い方を説明したり協力するぜ
空気が暗くならないよう、なるべく明るく、声も出して

リジー、疲れてるだろ
ゆっくり寝ていいぜ
俺達、お前が起きるまで傍にいるからさ


クロト・ラトキエ
愛されていたんだとか、生きるんだとか。
忘れなくてもいい、泣いてもいい、とか。
上手く伝えることは、僕には出来そうに無くて。
だからそういうのは、もっと"ちゃんとした人"に任せようと思う。

「いっしょに、点けませんか?」
灯りとか、暖炉とか。
リジーがそういうの、覚えられる様に……というのもあるけれど。それよりも思うのは。
暗いとか寒いとか、そういうのは。気持ちまで冷やしてしまうから。

頑張ったですねとも、頑張ってとも。
弔って、ありがとうと伝えましょうね、とも。
言葉にするのはやっぱり憚られて。
ただただ苦笑して。
「ごめんね」と言うのがやっとのこと。

君のこれからがせめて、この夜に負けない明るいものであれば良いのに



「――あれ。リジー、起きたのか」
 廊下で居間から出て来た少女と出会い、ヒビキ・イーンヴァル(蒼焔の紡ぎ手・f02482)は声を掛けた。
 少し前に確かめた時、何人かの猟兵達と共にリジーは居間で眠っていた。つい先ほど起きていた猟兵が薪を取りに外へ出たから、もしかしたらその音でリジーは目を覚ましたのかもしれない。
「疲れてるだろうに、気にしないで休んどけ。……まあ、休めって言われて、休む気になれない気持ちもわかるが」
 夜は進んで、今は朝が近い深夜だ。起きるには少々早過ぎるけれど――深く眠れたのかもしれない、泣き腫れてこそいても、リジーの表情はすっきりしていた。沢山泣いて、泣き疲れて――安らかとはいかなくても、眠れたならそれでいい。ヒビキは笑むと、促す様にリジーの背を押し、その足でキッチンへ向かう。
「家の物、使っていいんだよな? なら、温かい飲み物でも淹れてやるよ」
 まだ夜は冷える季節だ。廊下も冷える――リジーには、少しでも温かく居て欲しかった。

「あれっ。リジー?」
 ヒビキと共に入ったキッチン。そう広くないそこには、クロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)とクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の姿が在った。
「リジー、疲れてるだろ。ゆっくり寝ていいぜ? 俺達、お前が起きるまで傍にいるからさ」
 明るい金の瞳を丸くして近付いてきたクロードが、気遣って声を掛けるが――リジーは首を横に振る。
 目が冴えてしまったのだと理解すれば、クロードは明るく笑った。
「……そっか。じゃあどうする? 風呂でも入るか?」
 リジーが快適に休める様にと、クロードは率先して家事照明など、家の中の整備を進めていた。ダークセイヴァーで暮らしていたから、設備の使い方は熟知している。
 小さな浴槽には湯を張ったし、見える灯りには火を付けて、少なくなった蝋燭は、未使用品を探し出して補充もした。お陰で、家中は今明るく温かく保たれている。
(「真面目な話するのは苦手だからなぁ。だから、声掛けは得意なやつに任せたんだけど」)
 リジーの辛さには胸が痛むけれど、無事でいてくれてよかったとクロードは心から思っていた。自分も嘗て故郷を失い何もかも失くしたけれど、今は楽しいこともあって、あの時ヤケにならなくてよかったと思うから――とはいえ、こんな想いを語るのはどうにも苦手で、此処まで終始裏方に徹していたのだ。
 それはきっと正しかった。信じた仲間達の声掛けで――リジーはどこかすっきりした顔をしていたから。
 しかし、風呂にもふるりと首を横に振られれば、クロードはどうしたものかと頭を掻いた。
「――いっしょに、点けませんか?」
 ふと、後ろから届いた声に振り向けば、クロトが消灯したままの灯りを手に此方を向いて立っていた。
 そっとリジーを小さなダイニングチェアに促すと、座らせた目の前のテーブルに灯りを置き、蓋の開け方の手順から見せていく。
(「灯りとか、暖炉とか。リジーがそういうの、覚えられる様に……というのもあるけれど。それよりも思うのは――暗いとか寒いとか、そういうのは。気持ちまで冷やしてしまうから」)
 かたん、と蓋を外して見せれば、リジーもうんうんと頷いた。興味深そうに覗き込む紫紺の瞳は、瞼を酷く泣き腫らしていて――目を開けるのも辛そうで、クロトは蒼の瞳を悲しく伏せる。
(「愛されていたんだとか、生きるんだとか。忘れなくてもいい、泣いてもいい、とか。……上手く伝えることは、僕には出来そうに無くて」)
 だから、クロードと共に裏方に徹していた。そういう声掛けは、もっと"ちゃんとした人"に任せようと思ったからだ。
 ――今だって、泣き腫らした顔を見ても、『頑張ったですね』とも『頑張って』とも。『弔って、ありがとうと伝えましょうね』とも。……言葉にするのは憚られて。
「――ごめんね」
 だから、そっとリジーの髪を撫で、ただただ苦笑しこう伝える。それがクロトに出来る精一杯だった。
「……?」
 突然の謝罪の言葉に、リジーは不思議そうに首を傾げる。
(「君のこれからがせめて、この夜に負けない明るいものであれば良いのに」)
 思っても、やっぱり言葉にするのは憚られて。クロトはリジーの髪を優しく撫でると、誤魔化す様に微笑んだ。

「――っし。リジー、出来たぞ。飲めばきっと温まるぜ」
 幾つかの灯りをクロトやクロードと灯した所で、ヒビキから掛かった声にリジーはその視線を上げた。
 ことりと、テーブルの上に差し出されたのは生姜湯だ。幼い子にも飲みやすい様にハチミツを入れ、少し冷ましたそれをリジーが受け取れば、腫れた目に湯気が染みたか少女は一瞬きゅっと瞼を閉じる。
 その様子を、向かいの椅子でテーブルに頬杖付いて見守るヒビキは――痛々しさに金青両の瞳を曇らせ、頬杖とは逆の手をリジーの頭へそっと伸ばした。
(「こういうのが日常的に起こる世界……残酷、なんて言葉じゃ言い表せないな。だが少しでも被害が減るように努力するのが、個々人の限界か」)
 ――ぽすん。と手をリジーの頭に乗せれば、生姜湯飲んでいたリジーの視線はヒビキへと向き、腫れた目をきょとんと丸くする。
 幾分悲しさは楽になった様子でも、その心の傷がこの短時間で癒されたとは到底言える筈も無くて――その頭を撫でながら、ヒビキは優しく語り掛けた。
「……よく頑張ったよ。…………泣いていいんだからな?」
 きっと仲間が何度も何度も同じ言葉をリジーへ掛けたことだろう。解っていても――ヒビキは敢えて繰り返す。
 優しくしてあげたかった。少しでも、寂しさを取り除いてあげたかった。
(「お前の親の代わりにはなれないが、今だけでも。……人が目の前で死ぬのは、何度見たって慣れるもんじゃない。――いや、慣れちゃいけない」)
 あまりにも残酷な光景を見た少女。誰かの死に触れるだけでも人は悲しみに暮れるのに――目の前で母の命を奪われたこの小さな子は、どんなにか傷付いたことだろう。本当なら、耐えさせてはいけない。
 こんな非道なる仕打ちを、決して許してはいけないのだ。
(「――大切な人なら尚更だ」)
 思う間、撫で続けるヒビキの手を――リジーは不思議そうに見上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
涙は悲哀を昇華するという
然れど
喪失の痛みが薄らぐ事もまた
罪悪感に繋がるかもしれず

天窓開いた屋根の上
少女と宙を眺めてみようかと

星詠みの書を開き
空と照らし合わせ乍ら
辿る天河の旅路

星が彩る岸辺から母君が見守っている
いつでも宙を仰いで御覧

ありきたりな言しか持たぬ
己の不甲斐なさに零しそうになる吐息を
淡い笑みに閉じ込め

書を少女へ贈る
今は読めぬ文字を
いつの日か読み解く事が出来るよう学び続けてみて欲しい
生きることの喜びの欠片となるように

百と二十の歳月を歩んでいても
私はひとの心に疎く
涙を持たない
悲しいと思うのに
貴女の為に泣く事が出来ない

もしいつか
貴女が涙を零せる時が来たら
自身を赦せる時が来たら良いなと
思うのです


逢坂・宵
リジーさん、あなたはお強いですね
僕はヤドリガミの身でありますから、あなたの悲しみを全て理解して差し上げられるわけではありません
けれど、あなたのこの再び立ち上がるまでの時間をご一緒することはできます
どうか、僕たちにそれをさせてくださいね

錬成カミヤドリで本体たるアストロラーベを複製して
リジーさん、星のお話をしましょうか
これはアストロラーベといって、星をみるための道具です
あの重く立ち込めた雲の向こうには、キラキラ輝く美しい星々があるんですよ
それはもう、素晴らしく……天の川という、星が集まって作った川が、空にかかっているんです
その星のどこかに、お母さまがいるかもしれません



「――あぁ、リジーさん。此処に居ましたか」
 居間から消えたリジーをキッチンで見付け、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は微笑んだ。
 飲み物を手に撫でられ不思議そうな顔をしていたリジーは、突然の訪問者にやはりきょとんと目を丸くした。しかし、その先に続いた言葉を聞けば、惹かれるものがあったのか、ダイニングチェアを飛び降りる。
「目が覚めてしまったんですね。では、良ければ僕と少し話しませんか? ……温かくして、外に出ましょう」
 ――それは、天窓の先。屋根の上への招待だった。

 ひゅる、と吹く風は冷たく肌を打つけれど、もこもこと毛布にくるまれたリジーは全く寒さを感じなかった。
 むしろ体がポカポカするのは、飲んだ生姜湯のお陰だろう――その様子に穏やかに笑むと、宵はリジーの手を引いて、安全な場所に座らせた。
「……リジーさん、あなたはお強いですね」
 すとん、と素直に従い屋根に腰掛けたリジーは、思い掛けない宵の言葉に紫紺の瞳で彼を見上げる。
 覗く藍の瞳は、空の闇の様に深かった。
「僕はヤドリガミの身でありますから、あなたの悲しみを全て理解して差し上げられるわけではありません。けれど、あなたのこの再び立ち上がるまでの時間をご一緒することはできます。……どうか、僕たちにそれをさせてくださいね」
 言いながら、宵はその手に複製した古き天文観測器――ヤドリガミの本体たるアストロラーベを復元する。
「これはアストロラーベといって、星をみるための道具です。あの重く立ち込めた雲の向こうには、キラキラ輝く美しい星々があるんですよ」
 宵の語る星の話は、リジーには聞いたこともないものだった。
 夜が覆うこの世界の、暗く重い雲の向こうに広がる煌きの空間。天の川という、空に掛かる星が集まって作った川――聞くだけでも素晴らしいと伝わる未知の輝きに思い馳せると、リジーは必死で空の向こうにそれを探してみたくなる。
 すると、見上げた視界に都槻・綾(夜宵の森・f01786)が優しく顔を覗かせた。
「リジー」
 名を呼び、そのまま宵とは逆側の隣へ腰掛けた男は、手に持つ書をぱらりと紐解いた。
「丁度いい。……これも星詠みの書だ」
 空に星は見えないけれど、開いた書には沢山の天体が描かれていた。
 天河の旅路、その1つ1つを指で辿れば、リジーは興味深そうに、紫紺の瞳でそれを追う。時折宵もさっき話した星座はこれ、と指を差して教えれば、リジーが少し笑った様に見えた。
(「涙は悲哀を昇華するという。……然れど、喪失の痛みが薄らぐ事もまた罪悪感に繋がるかもしれず」)
 沢山泣いて、元気になれたならそれもいい。だが、その先に再びリジーが沈むのを、綾はただ心配していた。しかし伝えたくともありきたりな言しか持たぬ己の不甲斐なさには心が沈んで、零しそうになる吐息を、淡い笑みに閉じ込める。
 それでも、宵、綾、共に――今日、星の話を選んだのには理由があった。
「この星のどこかに、お母さまがいるかもしれません」
 その言葉は、突然宵から紡がれた。「え」と顔上げ小さく応えたリジーへ微笑んで返した宵は、そっと書を閉じた綾へと言葉の先を託して頷く。
 綾も頷いて――リジーへ星詠みの書を差し出した。
「リジー。今は読めぬ文字を、いつの日か読み解く事が出来るよう学び続けてみて欲しい。……生きることの喜びの欠片となるように」
 そして男が静かに語るは、死した命は空へ昇り星になると、此処でない世界に伝わる逸話。
「星が彩る岸辺から、母君が見守っている。……見えずとも、必ず在る。いつでも宙を仰いで御覧」
 励ます様に紡いだ言葉に、少女は空へと視線を向けた。――だけど。見上げた空にはやはり重く暗い雲。見えぬその先に切なさが過ったのか表情に悲しみ浮かべた少女に、……綾は静かに、青磁の瞳を睫毛の奥へと閉じ込めた。
(「百と二十の歳月を歩んでいても、私はひとの心に疎く、涙を持たない。……悲しいと思うのに、貴女の為に泣く事が出来ない」)
 思えば胸が苦しくて、綾は少女と同様に、雲が覆う空を見上げた。――上向いても、零れる涙は持たないけれど。
(「もしいつか、貴女が涙を零せる時が来たら。自身を赦せる時が来たら良いなと思うのです」)
 少女の涙は、どうか自由で在って欲しい。今日戦い終えた時の様に、耐えに耐えること無い様に。
 ――見上げた夜空、雲の先の星に祈って、綾はもう一度瞳を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎
泣かせるのはきっと誰かがやる
なら…

リジー
いいか、これから先
お前が生きる方法を1つ教えてやる
選ぶかどうかはお前次第だけどな
ひとつの道として聞け

目線を合わせ

いいか
今日の事を理不尽だと思う心がまだあるのなら
母の仇を、アイツが滅んでもなお憎いと思うなら
殺意を燃やせ
もし再び現れた時に
もし別の驚異にさらされた時に
今度は自分の手で決着をつけれる様に
守れるように
殺意を燃やして自分を鍛えろ

握った拳を見てもう一度リジーを見る
無駄だと笑うヤツもいるだろう
けど俺だって…10年かけて力を手に入れた
本気で望めばお前がそうなれない保証はねえ

さっきも言ったがお前次第だ
お前が望むなら
【望みを叶える呪う歌】を教えてやる



 屋根の上――空を見上げて腰掛けるリジーを見つけ、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は駆け寄った。
「リジー。これから先、お前が生きる方法を1つ教えてやる。選ぶかどうかはお前次第だけどな、ひとつの道として聞け」
 唐突にも思える言葉は、朝が近付いていることを知るから。朝になれば、リジーとの別れの時が訪れる。
 その先を守ってあげたく思っても、それは決して叶わない。思えば自然語る口調は熱を帯びて、それを受け取るリジーの表情も、緊張帯びたものへと変わった。
 それでも真っ直ぐな少女の視線を受け止めて、セリオスはリジーへ語り掛ける。
「今日の事を理不尽だと思う心がまだあるのなら。仇のアイツを滅んでもなお憎いと思うなら、殺意を燃やせ。もし再び現れた時、――別の驚異にさらされた時だっていい。今度は自分の手で決着をつけれる様に、……守れるように、殺意を燃やして自分を鍛えろ」
 一気に語られたその言葉に、リジーは困った様に首を傾げた。でもセリオスは本気だ。今日の敵、リーシャ・ヴァーミリオンが再び現れる可能性が決してないとは言えないことを、セリオスだけではない、猟兵達全員が知っている。
 そして何より、リーシャでなくてもオブリビオン――ヴァンパイアが蔓延るこの世界では、戦えなければ蹂躙されてしまうから。
「無駄だと笑うヤツもいるだろう。けど俺だって……10年かけて戦う力を手に入れたんだ。本気で望めばお前もそうなれないって保証はねえ。望むなら――【望みを叶える呪い歌】を教えてやる」
 自身が持つユーベルコードを教えてでも、生き延びて欲しいと願えばこその強い言葉――しかしそれは幼いリジーには難解で、どうしても理解には至らない。
 でも、強く生きて欲しい思いだけは伝わった証拠に――リジーはこう言葉を返した。
「……ありがとう、……わたし、がんばるから」
 きっと負けずに生きるからと。数々の猟兵達の言葉の果てに、泣き腫らした瞳で微かに笑んで見せた少女に――セリオスは言葉を失うと、少女の小さな手を取って、ぎゅっと強く握り締めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノワール・コルネイユ
子供の泣き声は苦手だ
どうしてやればいいのか分からないし
私に出来ることも、きっと無いから

今夜は眠れそうにない
屋根の上で夜風に当たって、一晩明かすとしよう

母娘は二人で支え合い、二人で生きて来たとして
互いが、互いにとっての生きる糧であったのなら
母と切り離された彼女、その喪失感はどれ程の物なのだろうか

…私がどう思ったところで
過去は変えられる訳でもないだろうが
らしくない

泣きたいのなら、泣いたっていい
泣かない方が、ずっとずっと無茶なんだ

泣いて、泣いて
母への想いを馳せてやれ
これからお前が行く道は、母が切り拓いてくれた道なんだ
お前が忘れない限り、お前の母の記憶もまた続いて行くんだよ
少なくとも、私はそう信じるさ



 眠れそうにないからと登った屋根に、猟兵達とリジーの姿を目に留めて――ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は敢えて、離れた場所に腰掛けた。
(「子供の泣き声は苦手だ。どうしてやればいいのか分からないし、……私に出来ることも、きっと無いから」)
 思っても今、リジーは泣いているわけではなかった。寧ろ、一瞬笑んでも見えた。その強さには驚いて――だけど、きっと強がりだともノワールは思う。
(「母娘が2人で支え合い、2人で生きて来たとして。互いが、互いにとっての生きる糧であったのなら――母と切り離された彼女、その喪失感はどれ程の物なのだろうか」)
 ましてリジーは幼いのだ。少女の負った傷を思い、心を寄せてみるけれど――思ったところで過去は変えられる訳でもない。リジーの前に横たわるのは覆しようもない現実で、奇跡なんて起こらないとノワールは知っている。
(「……らしくない」)
 だから即座に思考を打ち消したノワールはその時――横に伸びた人影に気付いて、振り向き紅の目を瞠った。
「……リジー?」
 ――少女が、そこに立っていたのだ。
「どうした? 此処は屋根だ、1人で動くのは危ないぞ」
 危なくない様手招きをして、ノワールはリジーを隣に座らせた。
 酷く泣き腫らした顔は痛々しくあったけれど――その表情は、家へ帰って来るまでよりは幾分すっきりして見えた。
 沢山沢山――泣けたのだ。
「……リジー。泣きたいのなら、泣いたっていい。泣かない方が、ずっとずっと無茶なんだ」
 こんなにも唐突で残酷な母との別れを、こんなに幼い少女が泣かず耐えようとしたこと。強いと思った。だけどノワールは何故だろうと、無茶苦茶だとも同時に思った。
 大好きな人との別れに、涙すら流せない。少女が生きるこの世界がそうさせたというのなら――今他の何を覆せなくとも、これだけは伝えたかった。
「泣いて、泣いて、母への想いを馳せてやれ、リジー。これからお前が行く道は、母が切り拓いてくれた道なんだ。お前が忘れない限り、お前の母の記憶もまた続いて行くんだよ――少なくとも、私はそう信じるさ」
 想っていい。泣きながら進んでいいよと少女に笑んで、ノワールは空を見上げた。
 ダークセイヴァー。夜が支配したままの空でも、時は今、朝を刻む。
 ……猟兵達とリジーとの、別れの時が近付いていた。

 ああ、いつもとおんなじだ――ノワールにつられ見上げた空の変わらぬ暗さに、リジーの視界は涙に滲んだ。
 こうして今日も、明日も、明後日も。世界はいつもと同じ夜空の下で当たり前に続いていくのに――母だけは何処にも居ない。
 守ってくれたと知っている。生かしてくれたと知っている。解っていても、少女が記憶の中に微笑む母へと、悲しく掛ける言葉は1つ。
 お母さん、ありがとう。……だけど、一緒に居たかった。

 ――想うほどに。喪ったのだと受け止めた現実が、ただただ心に痛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月18日


挿絵イラスト