羅針盤戦争〜生を彩れと、亡者は願う
●命を、心を、魂を
命は限りあるから美しい。
その力を手にした時から、戦というものがどこか味気ない、モノクロ写真のように見えていた。
目を閉じていても勝てる。斬られた方向へ斬り返せばいい。こちらは死なず、相手は死ぬ。命のやり取りが存在しない、一方的に奪うだけの戦。
殺し尽くし、奪い尽くしたが、それは楽しいからではない。そうすべきだと、義務感のようなものに囚われていたから。
「……だが、それも終わるか」
フライング・ダッチマンはぽつりと漏らす。愛鳥ゼンタは何も悩み事がないかのように優雅に空を飛んでいる。
「猟兵共よ……待ちわびたぞ」
それは、初めて自分の命を奪うかもしれない存在。気を抜けば斬られ、散らされる。だから燃やす、身を、魂を。
「さぁ……われを殺せるか? 猟兵よ……!」
死ぬ気で来い、と言わんばかりに、フライング・ダッチマンは右手の中の青炎を握りつぶした。
●散らせよ猟兵
「まだ余力を残しているようですね……ですが、もうすぐです」
ロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)は時間の無い中集まってくれた猟兵に、羅針盤戦争の大まかな進行状況を伝えていた。
その中でピックアップしたのは鬼火島。フライング・ダッチマンが本拠地とする島だ。多くの猟兵達が乗り込み戦いを繰り広げているが、もう一押しが足りていない。
「初めての方にもわかるよう最初からご説明しますね。私がご案内するのは、七大海嘯『鬼火』フライング・ダッチマンが本拠地とする鬼火島での決戦です」
七大海嘯の本拠地を暴き、倒す。それが本戦争の目的である。オブリビオン・フォーミュラの討伐が最重要とされるが、その他の七大海嘯も倒すか倒さないかで今後のグリードオーシャンの状況が変わってくる。
倒せるならば倒しておきたい。そのためロザリアは、集う猟兵達へ声を掛けるのだ。
「フライング・ダッチマンの特徴ですが、彼は蘇生のユーベルコードを所持しています。そのため普通に戦うだけでは倒すことができません。重要なのは『迷いなき心』……一言で言ってしまうのは簡単ですが、それを示すには、皆さんの心構えや覚悟といったものが重要です」
迷いなき心を示せ。この問いに正しい解法というものは存在しないだろう。それぞれが、それぞれの思う方法で示さねばならない。
「また、フライング・ダッチマンは皆さんより先に攻撃を仕掛けてくるでしょう。その対策を考えておくことで、五分……あるいは、それ以上の戦いが見込めるかと思います」
強敵と渡り合う方法はこの二つを十分に備えて臨むこと。たとえ熟練の猟兵でも、これに手を抜いては勝てるものも勝てない。
「グリードオーシャンを救うのは皆さんの力です! どうか、宜しくお願いします!」
沙雪海都
沙雪海都(さゆきかいと)です。
賞金額も10万Gの大台を突破してきましたね……いやはや凄い。
●フラグメント詳細
第1章:ボス戦『七大海嘯『鬼火』フライング・ダッチマン』
大切なことは二つです。【迷いなき心】を見せること。そして【先制攻撃ユーベルコード】に対処すること。
この二点を考慮していれば何とかなるかもしれないし、何とかならないかもしれません。
そこはまあ、皆さんの頑張りと時の運です。
OPはシナリオごとに変えてますけどここはもう変えることないっすよ。
●MSのキャパシティ
戦争ということもありますので、全てのプレイングを採用することが難しい場合も出てくるかもしれません。
その際はご容赦頂きたく、また戦争期間中はシナリオ運営を継続して参りますので、採用に繋がらなかった方については次の機会をお待ちいただければ幸いです。
合わせプレイングはお受けできません。申し訳ないです。
でも複数採用リプレイとかは気まぐれで書いたりするのでソロ希望の方は明記しておいてください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『鬼火』フライング・ダッチマン』
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POW : 鎖付き骸球
【『燃え盛る邪悪な魂』の集合体である骸球】が命中した対象を燃やす。放たれた【骸球の『口』から溢れ出す】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ブルーフレイムカトラス
自身に【怨念の青き炎】をまとい、高速移動と【カトラスからの青炎】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 冥鳥の羽ばたき
【飛び回る愛鳥ゼンタが青炎の羽】を降らせる事で、戦場全体が【生者を蝕む青き炎の海】と同じ環境に変化する。[生者を蝕む青き炎の海]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:爪尾
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
鬼火で料理したら美味しそうだね♪
その鬼火、頂戴☆
事前に「肉体改造」で耐火性と断熱性、防刃性、捕食能力を獲得・強化!
「敵を料理する」迷いなき心を魅せるよ!
敵のUCの骸球を『お肉へっど(たん)』でパクっと「捕食」!「オーラ防御」もして万全!
捕食したら【選択UC】で食べたUCをどばーっと吐き出して「カウンター」!
炎が消去されても、骸球がぶつかる衝撃は防げないよね!
ついでにそのまま『鬼火』に圧し掛かって食べちゃえ♪
UCを食べた時に『鬼火』の力の一部を取り込んでしまおう!
今後役に立つかもしれないし!料理とかで!
勝利の暁には、幽霊肉を鬼火で焼いて「宴会」だよ☆
●料理とは心技体が不可欠
「亡者の魂……食らうがいい!」
フライング・ダッチマンが放った骸球。じゃららと伸びた先に繋がったそれがラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(ハラペコかわいいコックさん(可食・高栄養・美味)・f31483)に飛んでいく。
ゲルの体は適度な歯ごたえで美味そうだ、と骸球の口はジャキジャキと開閉するが、それを凌駕する巨体の口が。
パクッと。
食べた。骸球を。食らえとは言ったが、まさか本当に「食らう」とは。
口内では骸球がどばどばと炎を吐き出し周囲を焼こうとするが、ゲル状で水分が多そうな割になかなか焼けない。
こんな時のために耐火性は十分に高めてある。ちょっと熱めのお風呂に浸かっているような気分だった。熱いがまあ許容範囲。
「何をしている、骸球よ!」
炎の効果が薄いので鎖を思い切り引っ張ると、すぽんと口を押し開けて骸球が飛び出した。べとべとだ。べとべとが飛び散っている。
「美味しいものを食べたしー、お返し!」
むぐむぐ、とクジラの形をしたゲルの口が動き出し、ぷっ、とスイカの種を飛ばすように吐き出されたのは、なんとフライング・ダッチマンが持っているものと同じ骸球だ。
「力を写し取るか……猟兵!」
左腕のカトラスでズバッと骸球を斬り捨てる。扱いは手慣れたものだが、
「むー、もっとだぞー☆」
ぷぷぷぷぷっ、と骸球の連射が飛んできた。ラヴィラヴァが行うコピーは、時間制限はあれど回数制限はない。時間ある限り骸球をこうして飛ばし続けることができるのだ。
「ぬぉ……むんっ……ぅぉごっ!?」
二度、三度と斬って落としたがとうとう捌ききれなくなって顔面に命中した。仰け反ったところにごすん、ごすんと続けて命中。吐き出される炎は効いていないようだが、骸球の衝撃のダメージからは逃れられない。
「そーれっ♪」
ゲルがぶよんと揺れて宙に上がった。よろめくフライング・ダッチマンの頭上へ全身ダイブだ。どすんと着地し下敷きにしたところで、あむっと頭をいった。
「うごぉー! 食うな! 食・う・な!」
頭を噛みつかれるフライング・ダッチマン。そのままもにょもにょずるずるとラヴィラヴァはすすっていくが、左腕のカトラスが長さで引っかかる。
「うぅ~……ぁいた!」
そしてチクチクとゲルに刺さってくるのはゼンタの嘴だ。ゲルを突き、むにっと咥えるとぶちんと千切って主の救出に励む。
「ぬぅー……ぅん!!」
ラヴィラヴァがゼンタに気を取られている内にどうにか抜け出すことに成功したフライング・ダッチマンは慌てたように距離を取る。
「逃げちゃった……でもいーもんね、火は貰っちゃったし」
もにょもにょしている間に力の一部まで捕食する。ラヴィラヴァは宙に青い炎をぼぉぉぉと出してみた。なかなかの火力。
料理の為なら、敵の力でも容赦なく奪いにいく。それは究極の目的――「敵を料理する」心に通じる。
フライング・ダッチマンはべとべとを焼き払うが、未だその体には骸球の衝撃の跡がじんと残っていた。
成功
🔵🔵🔴
外邨・蛍嘉
迷いなき心か。私は迷ってなんかいられなかったからね!
ふふ、『今を生きる者の守護者』だもの。
先制へは、場への適応で対処しよう。何せ、私はこう見えても悪霊だからね。可能さ。
物理攻撃も来ると考えれば、防御用の結界術を、藤色蛇の目傘で張っておくね。
反撃は【巫覡藤繚乱】を使って、藤流しを敵の足へ向かって投擲!
ま、避けられてもいいんだよ。敵の強化は消え、私が有利になる地形になるだけだからね!
藤色蛇の目傘を、剣のように扱うよ。
ひたすら真っ直ぐに、『外邨蛍嘉』として生きてたんだよ、私は。…人を時に導く、そんな歩き巫女の長。
だから、悪霊になっても、『今を生きる者の守護者』として、いられるんだよ。
●汝は生者を何とするか
「ゼンタよ! 今一度……飛べ!」
先の戦いではフライング・ダッチマンの窮地を救ったゼンタが今度は大空に舞い、青炎の羽を散らす。戦場はにわかに生者を蝕む炎の海となった。
「……ぬ、猟兵、お前は……」
その中で平然と立っている外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)の姿は殊の外奇異に映る。
「生者を蝕む……だって? そんなもの、悪霊の私にはこれっぽっちも効きやしないね」
「悪霊……ならばわれに似たるか? なるほど……ではこれでどうだ!」
陸上競技のスタートダッシュが如き飛び出しを見せると、フライング・ダッチマンはカトラスを構え振り上げた。
環境変化はあくまで布石。攻撃手段は他にありと睨んでいた蛍嘉は藤色の蛇の目傘を広げる。その形を象るように展開された防御用結界は蛍嘉とフライング・ダッチマンを断絶した。斬り下ろされた刃を受ける結界は鉄壁のようにフライング・ダッチマンの前に立ちはだかる。
「ぬぐぐ……」
結界に刃を押し込もうとするが、目と鼻の先にいる蛍嘉までの道は閉ざされている。その隙に蛍嘉は藤流しと呼ばれる棒手裏剣を取っていた。
「こういうこともできるのさ」
下手から放るように投擲された棒手裏剣。それこそ至近だ。狙いは外さない。
「うごっ! おぉっ……」
海賊服を破り腹に刺さる。フライング・ダッチマンが狼狽えた様子を見せて離れたところへ追撃の乱れ撃ちだ。足や腕に次々と面白いように突き刺さる。ごくわずか外れた物も炎の海という環境を打ち消し、蛍嘉の戦闘力を高める藤の花で埋め尽くしていく。
新たにゼンタが羽を降らそうと、決して燃えない藤の花。そこはもうフライング・ダッチマンの場所ではない。
「ひたすら真っ直ぐに、『外邨蛍嘉』として生きてたんだよ、私は」
時には人を導くこともした、歩き巫女の長。その精神は悪霊となった今でも受け継がれ、今を生きる者の守護者として蛍嘉は存在する。
「迷いなんて端から無いよ、迷う暇すら与えられなかったからね」
と付け加えて放たれた三本の棒手裏剣がフライング・ダッチマンの両肩と胸に突き刺さってデルタを作り上げた。
「ぐおおぉぉぉ……悪霊となりて尚、生者に与するか猟兵ぃぃぃっ!!」
蛍嘉が与えた傷は確かなものとしてフライング・ダッチマンの体に刻まれていた。
大成功
🔵🔵🔵
空桐・清導
POWで挑む
命の美しさを戦いからしか見れなかったのか
なら、全力でアンタを倒すぜ
それがアンタの救いになると信じて!
そして、オレの帰りを待つ
みんなのために死ぬ気もねえ!
迷わず一直線に駆け抜ける
骸球は真正面から光焔で迎撃する
熱く燃える意思の炎で邪悪な魂を浄滅
燃え盛る炎は[オーラ防御]で防ぐ
オレは無敵のヒーローブレイザイン!
アンタの諦観も、
そして殺戮も此処で終わらせる!
[気合い]と共に自分の[限界を突破]して、懐に入り込む
骸球だか何だか知らねえが、
そんなもんに頼ってるならオレの方がツええ!
UCを発動して意思の力を更に巡らせる
幾度となく光焔を纏った拳打を叩き込む
全力の光焔を収束させて叩き込んでトドメだ!
●命、燃やすぜ!
命とは多彩な輝きを放つものだ。戦いの中で燃やし、時に散ることはその一面と言えるが。
「命の美しさを戦いからしか見れなかったのか……なら、全力でアンタを倒すぜ」
空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は一直線に駆けていた。迷いなど振り切った。元より何を迷うのか、と問いたくなるほどに清導は清々しく己が拳を信じている。
フライング・ダッチマンを骸の海へと還す。そして清導自身は、彼を待つ皆の元へ。フライング・ダッチマンにとってその行いが救いとなるか――真実はともかく、確信して立ち向かう限り、清導に敗北はない。
「受けて立とう! 猟兵よ!」
フライング・ダッチマンも清導の姿勢に何かを感じ取ったのだろう。骸球を鷲掴みにすると、清導の体の軸に重なるほど真っ直ぐに投げ放ってきた。
対し、清導が握り締めるのは不屈の闘志。燃え滾るエナジーが光焔となりその手から溢れてくる。
「はっ!」
両手で抑え込むように骸球を受け止めた。表面はざらざらとした感触だが鉛のような重圧を感じた。ガチガチと開閉する口の奥底、真っ暗闇から青炎が吐き出される。
「オレは無敵のヒーローブレイザイン! アンタの諦観も、そして殺戮も此処で終わらせる!」
熱く燃える意思のオーラが青炎を弾き、意思から生まれた炎がじゅく、と骸球を溶かし始めていた。
「――っだああぁぁっ!!」
口に生え揃う牙を折るように骸球を殴りつけフライング・ダッチマンへと送り返す。その後ろをぴたっと貼り付くように疾駆する清導。太腿、ふくらはぎの筋肉は焼き切れそうな熱を帯びていたが、清導は己の限界すら超えていく。
飛んでくる骸球をフライング・ダッチマンが右手で弾いた時には、深く体を沈み込ませた清導が眼下に。
「骸球だか何だか知らねえが、そんなもんに頼ってるならオレの方がツええ!」
ボッ、と炎が立ち上がるように清導の全身を黄金のオーラが覆う。
「ぉおおおっ――」
フライング・ダッチマンが返すのは嘆きのような声だった。清導は目の前の炎に向けて、己が光焔を叩き込む。
相手は幽霊――だが、確かな質量を拳に捉えた。
「っぐぉ――」
「オラオラオラオラオラ――オラァッ!!」
連打、連打、連打! 光る拳の軌跡が幾度となくフライング・ダッチマンの腹に打ち込まれ、最後の打ち上げの一撃は、フライング・ダッチマンを空へ連れ去るように飛ばす。
「が……はっ!!」
ずしん、と全身を強打する格好で仰向けに落ちたフライング・ダッチマン。カトラスの刃が地面で跳ねて、痙攣のようにフライング・ダッチマンの体を震わせる。
「……っぐ、はぁ……はぁ……」
清導の全身が酸素をくれと悲鳴を上げていた。額にはじわりと汗が滲み、滴となってぽた、ぽたと地面に円形の跡を残す。
「どうだ……これが、迷いなき、心……オレの、意思だ!」
「……見事……クカカッ」
フライング・ダッチマンは乾いた笑いを残す。清導との攻防において被ったダメージは相当なものだった。
大成功
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ミュゲット・ストロベリー
…ん、ミュゲには過去の記憶はないわ。だけどハッキリしてることが一つだけある。ミュゲは戦うために生まれた存在よ。だから、戦うことに迷いなんてない。目の前に敵がいたら倒す、それだけよ。
敵の先制攻撃は、【結界術】と【オーラ防御】による防御と、【衝撃波】による相殺で防ぎきるわ。
防ぎきったらすかさず反撃に移るわ。
術式を解放、霊剣ミストルティンを構えて全力のUCを放つわ。
code : Mistilteinn・解放。この一撃の元に、沈め。
ミュゲのやるべきことは変わらないわ。これまでも、これからも。
●全霊を以ってその一撃を
自分は何のために存在するのか。そう問われた時、即座に、明確に答えられる者は多くなく、それは自然なことでもある。
何者も移り行く時の中で己を見定め、その役を知り、それに相応しくあろうと足掻く。そして辿り着いたとしてもそれは人生の終着ではなく――途上であっても、まして出発点に立っていなくとも、何者にも非難されるべきではない。
ミュゲット・ストロベリー(ふわふわわたあめ・f32048)は過去を持たない。世界とは時に残酷で、確かにそこに在ったという証左を、当人から奪ってしまうのだ。
しかし――いや、故に、と言うべきか。数多を持たぬからこそ、ミュゲットの瞳はたった一つの事実を見つめ続けている。
――ミュゲは戦うために生まれた――。
世界は、やはり残酷だ――そう断ずるならば、それはミュゲットという個への冒涜であろう。
彼女は自らの意思で、そう在り続けているのだから。
フライング・ダッチマンは何も知らぬ衆目に比べれば、ミュゲットという存在に対し平等だった。カトラスを振り上げる所作に躊躇いはなく、青炎はその身を焼き尽くさんと燃え上がっている。
「……ぅぬぁっ!!」
頭をかち割らんと高速で振り下ろされる刃にミュゲットは結界術とオーラ防御の二重の守りを両腕で支えて耐える。それでも剣圧だけで防御壁ごと叩き潰されそうな状態だが、ミュゲットの二本の足は必死に持ちこたえていた。
フライング・ダッチマンとて、これまでの消耗で全力とはいかず。故に実現した拮抗だったか。
「倒れぬか……ならば……!」
カトラスの剣身に青炎が纏わりつき、ミュゲットの頭上から防御壁を伝い滝のように流れてくる。青炎地獄が生み出され、空気が強烈に加熱された。
炙り焼きか、叩き潰されるか――その二つの選択を、ミュゲットは頑なに拒絶する。
「んんっ!!」
両手から放った衝撃波で青炎を弾き散らした。円形にばばっと火の粉が散っていく。カトラスまでも一瞬宙に浮かせると、
『……お前に相応しい最期、見せてあげるわ』
その手に握る。擬似神装――霊剣ミストルティン。
「code : Mistilteinn・解放。この一撃の元に――沈め」
首元に突きつけられた、冷たい刃のような声だった。燃える青炎、その最も輝く場所へ、霊剣を突き立てろ――。
「ぐ――ぉぉぉおおおっ!!!」
刹那の迷いすらなく、ただ命を刈り取るためだけに振るわれた一撃。
喉元に刺さる霊剣。この感覚――そうだ、これが待ち焦がれていたものだと、フライング・ダッチマンは事切れる寸前に悟る。
「クカ……カカ、なる、ほど……忘れていた、ぞ……」
フライング・ダッチマンが大の字に倒れると同時に霊剣は消えていた。それから空気が萎むようにフライング・ダッチマンの体は鎮火して、猟兵達との魂のぶつかり合いに決着がつく。
「ミュゲのやるべきことは変わらないわ。これまでも、これからも」
それはフライング・ダッチマンへの手向けの言葉でもあり、ミュゲットの迷いなき意思を明確に示すものだった。
大成功
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