羅針盤戦争〜悪戯なローレライ
桜花島にまで猟兵たちが到達したことを知った時、七大海嘯が一人『邪剣』のピサロ将軍は言い切った。
――ならば、私のやるべき事は決まっているな。
――勿論、逃げの一手だ!
彼女の本領は、侵略。
故に彼女は逃亡を選択したのだが――。
「で、結局逃げそびれたのよね。ザマァミロだわ――あら、やだわたくしったら」
右手は愛くるしい人形を抱いて埋まっている。即ち、ハーモニック・ロマンティカ(職業プリンセス・f30645)の人の悪い微笑みを支えるのは左手だ。
鍵のように曲げた中指の背を下唇のラインに当て、ハーモニックは人差し指を頬でリズミカルに弾ませて失言を誤魔化す。
「というわけで、邪険島でピサロを殴れるようになったけど。ごめんなさいね、今回の案内は他の島の方なの」
ピサロを追い詰める事は重要だ。
けれど再生を繰り返す彼女のひとりによって危険に晒されている島を見捨てることもできない。
●悪戯なローレライ
そこは蒸気と魔法の発達に支えられた島。
そして魔法黄金製の超硬度を誇る「黄金艦隊」を、高速機動ユーベルコード「八艘飛び」で飛び移るピサロに対抗するのにうってつけの蒸気機械を有す島。
「見た目は拡声器そっくりなのよ」
ハーモニックの語気が興奮気味なので想像はつくと思うが、件の蒸気機械はただの拡声器ではない。
「聞いて驚け、なのよ! 込めた想いと歌で、波を操っちゃうんですって!!」
波を操るとは? と首を傾げる猟兵たちに、ハーモニックは猫のように目を細める。
「よくぞ聞いてくれたわ♪」
曰く、想いは波に属性を与え、歌は波のコントロールに影響するのだとか。
具体的に言うと、熱い想いを込めれば波は沸騰し、冴えた想いを込めれば波は鋭くなるといったようなものだ。
そして上質な歌声は波を正確にピンポイントで操り――。
「へたく――あんまり上手じゃない歌声だと制御不能の大暴れなの!」
心に棘を穿ちそうな単語をうっかり発しかけたハーモニックは、何事もなかったように控えめな表現に変え、「だから誰にでもチャンスはあるってこと」とにんまり口の両端を吊り上げた。
歌で波を操り船に影響を及ぼす――まるで伝説のローレライのようだ。
「この蒸気機械の本来の役割は、安全に漁を行うために荒れた海を鎮めることなんだけど、使えるものは使っちゃいましょう。島を守る為に」
ピサロの足を止めるには、彼女が渡る黄金艦隊をどうにかする必要がある。
その艦隊に対しての秘策こそ、蒸気機械の拡声器。
「歌の得意な子は遠慮なく美声を披露してちょうだい。苦手な子も、たまには腹の底から歌っていいんじゃないかしら。きっとストレス解消になるわ。それに――旅の恥はかき捨てって言うでしょ?」
いってらっしゃいな。
転送の為に手を振る男の顏には、微塵の悪気も浮かんでいなかった。
七凪臣
※当シナリオは『邪剣』ピサロ決戦シナリオではありません。襲撃の方なので、ご注意下さい。
お世話になります、七凪です。
羅針盤戦争シナリオ、お届けします。
●プレイング受付期間
受付開始…2/20 8:31から。
受付締切…任意のタイミング。
※導入部追記はありません。
※受付締切はタグとマスターページでお知らせします。
●シナリオ傾向
爽快戦闘系。
場合によってはギャグ展開も。
●プレイングボーナス
敵の先制攻撃+八艘飛びに対処する。
●採用人数
シナリオ完結を優先する為、全員採用はお約束しておりません。
今回は成功度(或いは失敗度)達成最低限を予定しています。
●他
お一人様当たりの文字数は700~1000字になります。
歌の上手さは技能値を参考にしますが、自己申告でも可です。
ご縁頂けましたら、幸いです。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『邪剣』ピサロ将軍』
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POW : ケチュアの宝剣
【黄金太陽神の神力】を籠めた【ケチュアの宝剣】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂】のみを攻撃する。
SPD : 黄金艦隊砲撃陣
【各艦に刻まれた黄金魔術印】によって、自身の装備する【黄金艦隊】を遠隔操作(限界距離はレベルの二乗m)しながら、自身も行動できる。
WIZ : 邪剣烈風斬
【超高速移動によって生じた激しい風】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
イラスト:もりのえるこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
誘名・櫻宵
🌸神櫻
★
ひょええぇエエ!!な、波がうねっているわ!?
ヒイイイファァアーー!!
ァァァ無理ーー!
カム、カムム!!どうにかして!海よ!何でここは海なの?
ハミング?!カムイ、これが歌に聴こえるの?
わ、私だってね。やる時はやるのよ
歌はまぁ中の下くらいだけれど!
そして直ぐに忘れて頂戴
生命力吸収の神罰を込めて歌う、謳う
祝いの言葉を呪文のように
荒れ狂う波で船を捉えて、触れたものを桜にかえる桜海の歌を!
カムイは…懐かしい子守唄だわ
カムイの歌声が心地よくてついつい眠くなりそうになるわ
波で囲って歌ごと薙ぎ払い、衝撃波を放ち斬ってやるわ!
あースッキリした!
大声で歌うのもたまにはいいわ
カムイの歌声、私…だーいすきよ!
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
★
まるで小鳥が囀り……宛らハミングしているかのようだね、サヨ
突飛な声もその様に動き回っては落ちるのではという慌てようも愛しくて笑みが零れ
大丈夫
しがみつかなくても、波にきみを渡しはしない
しかし歌か
同志たる人魚のように歌えればよかったけれど…私は子守唄しか歌えない
きみが全く眠らない
途中までしか知らない子守唄
サヨの歌は初めて聞くかもしれないな
嬉しくて、合わせるように声を重ねる
忘れるわけないよ
サヨの歌はとても上手で可愛らしい
厄災を鎮め眠らせるための
厄神の子守唄
吹き荒ぶ風を約されていないのだと否定する
波で逃れるものを絡め捕縛し
下す神罰で浮力も神力も泡沫の様に打消す
君を守るよ
黄金が桜と咲く様も美しい
●笑顔と桜と黄金と
誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が手にした途端、拡声器のラッパ部分に桜が咲いた。
――まあ!
粋な演出に、芯に灯暉く櫻宵の瞳が喜色に彩られたのは一瞬の事。
「ひょええぇエエ!!」
きっかけはただの感嘆だったのに。マイクに拾われた櫻宵の声は海原をビリビリと刺激して、
「な、波がうねってるわ!?」
櫻宵が一声発する度に――というより発する毎に、波は荒れに荒れて荒れ狂う。
「ヒイイイファァアーー!!」
「ァァァ無理ーー!」
『無理なのはこっちだああああああ!!!!』
聞えた気がする怒号は、多分ただの幻聴だ。しかしそんな訴えのひとつも吼えたくなるくらい、洋上の黄金艦隊も波にいいようにもみくちゃにされている。
で、そのあらぶり具合が櫻宵にとっては恐ろしくて堪らない。だって海の上の船だ。もし自分がアレの上に居たら、まともに立っていられないだろうし、きっと最後には海に放り出されてしまう。
「カ、カ、カム、カム、カムム!! どうにかして!」
海よ、何でここは海なの!? と櫻宵に言葉の理不尽をぶつけられ、ゆっさゆっさと荒波真っ青な勢いで揺さぶられるのは朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)だ――が、愛しの巫女が相手のこともあり、長い髪が嵐みたいにもみくちゃになっていてもカムイの顏から慈しみの微笑が消えることはナイ。
「まるで小鳥が囀り……宛らハミングしているかのようだね、サヨ」
「え!?」
櫻宵、縋るように両肩を鷲掴みにした男――つまりはカムイの顏をマジマジと見た。
「……ハミング、ですって?」
尋ねる櫻宵の声は、衝撃に語尾が震えている。
「カムイ……これが、歌に聴こえるの?」
「歌でなければ何だろう? サヨの唇が紡ぐ音色は、私にとっては全てが歌だよ」
「…………」
カムイの断言に、二の句を継げずに櫻宵は絶句した。あれ? もしかしてカムイが歌だと認識しちゃったせいで、櫻宵の一言一句(ほぼほぼ奇声)に蒸気機械な拡声器が反応してしまったのだろうか。
「……………念のために、もう一回。ねえ、カムイ。これも歌かしら?」
「春を謳歌する小鳥のようだね」
にっこり。むしろあなたの方が春めいているわと櫻宵がツッコミたくなる笑顔で、カムイは迷うことなく是を唱えた。
まぁ、それはそうだ。だってカムイにとっては、櫻宵のとっぴな声も、慌てふためく挙動不審ぶりも、想像だけで海に落ちることを恐怖する様すらも、愛しくてたまらないものなんだもの。
「大丈夫、しがみつかなくても波にきみを渡しはしない」
カムイの愛の深さを、櫻宵は十二分に理解しているつもりであった。実際、正しく理解しているだろう。それでも畏れ入る時は畏れ入る。
「――ええ、ええ……ええ、そうね。ありがとう」
櫻宵が縺れそうになる舌の上にようやく乗せた謝意に、カムイは華やかに微笑むと、そこでようやく意識を『海』と『目的』に切り替えた。
「しかし歌、か……」
『歌』と耳にしてカムイが真っ先に思い出すのは、同志たる人魚だ。
(彼にように歌えればよかったけれど……私は子守唄しか歌えない)
細めた眼の奥に、カムイは思い出を懐かしむ。あの時、今は並び立つ櫻宵はカムイが唯一知る歌である子守唄に、眠る素振りさえ見せてくれなかったものだ。
だが、それもやむを得なかったのかもしれない。だってカムイは子守唄を途中までしか知らなかったのだから。
「――そういえば、サヨの『歌』は初めて聞くかもしれないな」
耽溺しかけた遠い時間からカムイが浮上すると、櫻宵が「う」と言葉に詰まる。
口から転げ出る音全てではなく、改まっての『歌』の求めに、櫻宵の心臓は先ほどまでとは違った意味でドキドキと脈打つ。
「わ、私だってね。やる時はやるのよ」
中の下程度の自覚が櫻宵にはある――日頃、耳にしている歌が極上すぎて、自己評価が下がっているだけやもしれぬが、先ほどの波の荒ぶりからしておそらく妥当な評価だ。
「直ぐに忘れて頂戴!」
だから、念押す。
「忘れるわけないよ、サヨの歌はとても上手で可愛らしい」
念押したけど、意味はなかった。
案の定のカムイの応えに、櫻宵は一度がっくりと肩を落とし――腹を括る。要は、音色を注げば良いのだ。あとは蒸気機械が上手くやってくれる。
「夢見るように、蕩けるように、――」
命を喰らう神罰を込め、櫻宵は歌い、謳う。
「――、――、――」
すぐさま重なったカムイの歌声に、櫻宵は目を見張る。
(……懐かしい子守唄だわ)
憶えていた。忘れる筈もない。でもあの頃と違って、カムイの歌声の心地よさに眠りたくなった。
「――いいえ、眠るのは私じゃない」
「嗚呼、そうだとも。私が君を守るよ」
蒸気と魔力の力を経て海へと広がった櫻宵の歌が、波間に浮かぶ船という船を桜に変えて征く。
そして櫻宵が咲かせたものよりほんのり緋色がかった桜をまとわせたカムイの拡声器から放たれた歌は、風を否定し、波で逃れようとする者を絡げ取ろうと広がって往く。
「あー、スッキリした!」
足場を失ったピサロの挙動など、捉えるに容易いもの。カムイの歌に折角の風を封じられてしまったことも大きいが。
斯くして渾身の衝撃波を目標の横っ面にぶちかました櫻宵は、晴れ晴れと笑う。
「大声で歌うのもたまにはいいわ」
さすがに七大海嘯は一撃では沈み切らない。そして同じ遣り口が二度通じるはずもない。
「黄金が桜と咲く様も美しかった」
ピサロの黄金と、櫻宵の桜と。舞台を次なる誰かに譲る間際、カムイは消えいく余韻を余すことなく味わう。
されどカムイにとって稀有なる光景よりももっと美しいのは――。
「カムイの歌声、私……だーいすきよ!」
はにかむ櫻宵をカムイは黄金よりも眩しいものとして、心に刻む。
大成功
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ガラティア・ローレライ
〈先制攻撃対策〉
私の住処?そんなのこのピュグマリオーンに決まってるじゃない!
という訳で邪剣烈風斬を喰らってもすぐに戦場に戻れるように近くの海岸に《ピュグマリオーン号》を停泊させておくわよ
近接戦は『覇気』を纏わせたバトルアンカーで攻撃を防ぐわ
〈戦闘〉
艦隊を潰せば足が止まるんでしょ?
それにこの機械、このガラティア様の為にあるようなもんじゃない!
呪歌のローレライの由来その耳にしっかり刻み込みなさい!
サウンドメガリスで増幅した『大声』で『歌唱』した【荒ぶる海嘯のローレライ】で周りの黄金艦隊を沈めて八双跳びを封じるわよ!
あとは突っ込んでくるピサロを『砲撃』するなり『覇気』を駆使した接近戦するなり
●呪歌のローレライ
「猟兵とやら、棲家へ帰って大人しくしているが良い!」
淡く紫に色付いた髪が、海風にふわりと靡く。その優雅さとは裏腹に、振るわれる黒剣の一閃は鋭く疾い。
「――そうね、大人しく帰るわ」
ガラティア・ローレライ(呪歌のローレライ・f26298)はピサロ将軍が邪剣から放つ烈風の斬撃を、抗うことなく受けた。
敢えて晒した無防備に、ガラティアの身は強制的に『棲家』へと転送される。
が、その棲家でこそガラティアは声を上げて笑った。
『呪歌のローレライ』の異名を持つ女海賊であるガラティアの棲家は、海賊船。そしてその海賊船ピュグマリオーン号は、メガリスのボトルシップ。
即ち、すぐさま戦場に戻れる場所に停泊させておくなど朝飯前。むしろ狙えば、より標的に近しい位置を取ることだって出来る。
「さあ、反撃よ!」
ダメージの一切を喰らわなかった身軽さで、ガラティアはピュグマリオーン号の甲板に走り出た。あとは覇気を纏わせたバトルアンカーで、自らの足場でもある海賊船を固定するだけ。
「なん、だと」
黄金艦隊に紛れ込んでいた一隻の上に姿を表わした『棲家に帰らせた』はずのガラティアに、七大海嘯の一人が眼を剥く。
取るに足らない一隻だと目もくれなかったのがピサロの運の尽き。
「艦隊を潰せば足が止まるんでしょ?」
手にした途端、ラッパ部分が水のように透けた拡声器のマイク部分を、ガラティアは口元へと寄せる。
歌を波を操る力に換えるだなんて、まるでガラティアの為にあるような機械だ。
「呪歌のローレライの由来その耳にしっかり刻み込みなさい!」
――世界の果てより零れ落ちた私の歌声は。
全霊を賭けて、ガラティアは歌う。
――平原を舐め尽くし山並みを海に浮かべるわよ!
腹の底から張り上げているにも関わらず、僅かも音のブレない歌声は海上を朗々と渡り、今まさにピサロが居る船周辺の波に影響を及ぼす。
物理法則に反して、垂直に津波が沸き上がった。
飲まれた船は回避の余地なく、舵を失い突き上げられ、真っ逆さまに墜落する。
起きた余波にピュグマリオーン号も揺れるが、ただそれだけだ。
「全砲門開け――撃て!」
ガラティアの一声に、魔法のガレオン船が砲弾を放つ。
黄金艦隊と運命を共にして引力に身を任せるより他ないピサロには、それらを躱す術はなかった。
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
歌うのは…好きですが
恥ずかしいのでフードを被り
顔は隠し気味に
拡声器を手に
平穏を願う、穏やかな歌を
本来の使い方の様に、波を穏やかにします
ピサロの風に関しては風の精霊に願って
散らしたり、止めて貰い
波を抑える効果と共に一帯を凪にします
そのままでは、船は殆ど進まない様にして
ピサロの居る付近の船だけ
こちらに引き寄せる様に波を動かします
具体的に言うと
跳んだ先の足場になる船だけが
ピサロからすいっと逃げる様な
そして
上手く着地出来そうな時は光輪晶壁でピサロを止め
その間に足場になる船を移動したり
氷の槍を撃ち出したりして
一時停止が解けたら…その先に、足場が無い様に
穏やかな歌を、緩やかに子守唄に代えて
…おやすみなさい
●凪の歌
泉宮・瑠碧(月白・f04280)は目深に被ったフードの端を、更に摘まんで引き寄せた。
「……ぅ、ぅ」
俯いた唇から、恥じらいが漏れる。
(歌は、好き……ですが)
静かな森の水辺で木漏れ日を浴びながら、精霊たちを聴衆にリラを爪弾き歌うのは、とても心地好い。
でも今の瑠碧の手にあるのは拡声器で、歌を『聞かせる』のは波だ。その波の上には無数の黄金艦隊と敵将ピサロが居る。
考えれば考える程、瑠碧の白い頬は朱に色付く。
とは言え、いつまでも躊躇ってはいられない。だって此処には歌い、そして戦う為に来たのだ。
「……ま、ぁ」
意を決した途端、拡声器のラッパ部分に白い花が咲いた。愛用のリラに咲くのと同じ花だ。
蒸気機械の粋な演出に、瑠碧の緊張も緩む。あとは最初の音をまろび出すだけ。
「――母なる海よ、」
優しい歌声が海風に乗った。平穏を願う、柔らかな音色が一帯に響き渡る。
すると海から波と言う波、風という風が消えた。
「なっ、!?」
突然のベタ凪に、東雲色の髪のオブリビオンの足が空を踏む。瑠碧へ放った烈風の斬撃が消し去られ、波に揺れる艦船を想定して進めた歩が狙いを外したのだ。
いや、艦船は揺れていた。ピサロが次の足場と定めていた一隻だけが不自然に。
「お前、何を――」
弘法も筆の誤り、或いは、河童の川流れ。
水辺だから河童の方が似合いだろうか――渡り歩いた何処かの世界で耳にした覚えのある、水の精霊にまつわる言葉が浮かんで、消える。
いずれにせよ、過信は毒だ。ほんの少し波にお願いを聞いてもらっただけで――具体的には、此れと決めた艦船だけピサロの進路から逸れるような流れに変えた――、七大海嘯のひとりも無様に海へと落ちるのだ。
しかしそれを瑠碧は笑わない。笑おうとは思わない。
「其は枷にして、水晶が如き檻……」
敵対していても、彼女はかつて人であった命。
「拘束より、逃れることなかれ」
遍く命の平穏を祈り、願い、謳い、瑠碧は重力に引かれゆく女を光輪の拘束によって宙に留めると、向けた指先から凍てつきを撃つ。
始まりはただの冷気であったそれは、やがて氷の槍と化して飛び、オブリビオンを穿った。
「……おやすみなさい」
還さねばならないから、討つ。
ようやくフードを肩へと落とし、瑠碧は子守唄に代えて穏やかに歌う。
その旋律は、堕ちた魂を安寧の眠りに導く一助となるだろう。
大成功
🔵🔵🔵
アリエ・イヴ
★アドリブ◎
真っ正面から受けでもしたら
怒りそうなヤツがいるんでな
先制攻撃を覇気を纏った剣で武器受け
そのまま受け流し
蹴りを入れて距離をとる
1度距離をとったら追いかけるのはまぁ難しいだろうが
飛び回る先を無くしてやればどうだ?
【楽園の守護者】の上に立ち
まずは1撃砲を放つ
ローレライじゃねえが海賊だって歌うんだ
波の音を楽しみながら
普通よりは少しだけ上程度
それでもよく響く声で海への愛を、情熱を
高らかに歌い上げよう
強く、激しい波が起ころうとも
俺のハニルバニアは揺らがない
艦隊が崩れたら
もうどこにも逃げられねえだろ
ようやく、じっくり会えて嬉しいぜ、ハニー?
今度はこっちがやる番だ
覇気を纏い
深く踏み込み切りつける
●海賊の歌
弾ける波に、誰かの顏が過った。
勿論、海中に『誰か』が居るわけではない。時化を前にした緊張感が見せた幻だ。
「――ふ」
(安心しとけ、この俺が海に沈むわけがないだろ)
正面から猛然と吹く風に髪を、コートを煽られながら、アリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は不敵に、そして尊大に鼻で笑うと、如何なる時にも切れ味の変わらぬカトラスを構える。
「ほう、逃げぬか」
人影に過ぎなかった黎明色の女は、瞬く間に輪郭を明らかにした。
彼女――ピサロ将軍がアリエを間合いに捕らえるまで瞬きの隙さえ要らない。だがその刹那にアリエは全霊を注ぐ。
「逃げはしない、が。躱さないとは言ってないぜ」
――真正面から受けでもしたら、怒りそうなヤツがいるんでな。
口許には状況を楽しむ弧を描いたまま、アリエは痛いほど目を見開いて――肉体ではなく魂を傷付ける黒剣の切っ先が描く軌跡を、見切る。
(ッ、)
流石の七大海嘯だ。カトラスの刃を当てることで直撃は逸らしたにも関わらず、アリエの頭にはハンマーを打ち下ろされたような衝撃が走る。けれど、それだけだ。
内心の舌打ちを、アリエは躍動へのきっかけに変え、剣圧に押されたふりで後方へ半歩跳ぶ。そのまま、女の形(なり)をしたオブリビオンの腹へ蹴りを喰らわせる。
アリエの反撃に、ピサロの口角が上がった。
獲物を食い散らかすコンキスタドール(征服者)の貌だ。しかしアリエは、自由の海を往く海賊。
「さぁ、往こうぜ。勝利への航路を!」
蹴撃の余韻で開いた距離に、アリエは楽園の守護者――海賊船ハニルバニアの実体を伴う分霊体を召喚する。
「――な!?」
出現したデカブツに、ピサロの足も止まった。そこにアリエは全てを合わせる。
「主砲、撃て!」
轟音と共に放たれた砲が、ピサロの顏を掠めた。外れたのではない、外したのだ。何故なら其れはただの牽制に過ぎないのだから。
「知ってるか? ローレライじゃねえが海賊だって歌うんだぜ」
剣を腰に佩き、代わりに蒸気拡声器とやらを手にした。途端、ラッパの部分に船首像めいた女神の彫刻が浮き上がったのに、アリエはますます気を好くする。
「お代は要らねえよ」
――歌う。
腹の底から。海への愛を、情熱を。朗々と、高らかに。
そして海賊に贈られた親愛の歌に、海は歓喜に震え、大波を起こす。
「っく、この程度の嵐に我が艦隊が負けるものかっ」
「別に負けて貰う必要はないぜ、少しばかり乱れて貰えれば十分だ」
密集した艦船は波に翻弄されて衝突しあう。そうして動きが不規則になってくれさえしたら、後はアリエの独壇場だ。
黄金艦隊にはお上品な海が似合いだが、海賊船には荒れた海こそ似合うから。
「ようやく、じっくり会えて嬉しいぜ。ハニー?」
姿勢を立て直しきれぬピサロの正面に跳び入り、アリエはぺろりと唇を舐める。
「今度はこっちの番だ」
ピサロは鑪を踏む甲板の揺れをものともせず、アリエは覇気を纏わせた剣を海風のように閃かせながら深く鋭く踏み込んだ――。
大成功
🔵🔵🔵
境・花世
拡声器に籠める歌声は優しいハミング
波は気付かれない程度に少しずつ沈んで
そこだけ穏やかな海路に見えるだろう
――掛かった!
敵を十分に引き付けた瞬間に、
急激なクレッシェンドで始まる1サビ
あてどない一人ぼっちカラオケで鍛えたこの喉、
自慢じゃないけど実は結構高得点!
高揚感のままに膨れ上がる波は、
沈んだ分を一気に揺り戻して
敵を巻き込み、船と船とをぶつけ
この歌、すきなんだ、ロック
世界への怒り、絶望、痛み
わたしがそんなものを抱いてるわけもないのに
不思議なほど声は高らかに迸って
波はもっともっと踊って
クライマックスを歌い終えても少し物足りないから
アンコールが来たことにして、
さあ、ほら、今度は花吹雪を添えてもう一回
●燃焼オンステージ
ハンドル部分を握り締めたら、ラッパの部分に薄紅の八重牡丹がふわりと咲き綻んだ。
(成程、流石は蒸気魔法の賜物だね)
思わぬ演出に口角を上げた境・花世(はなひとや・f11024)は、そのまま優しいハミングを海へと送り出す。
歌詞のない、でも瞼の裏に恵風吹く景色が浮かぶような音色に、一部の海面だけがぽかりと春の日だまりめく。
凪いだ水面に陽光が降る。
きらきら、きらきら。宝石の粉を撒いたみたいだ。照り返しを受ける黄金の艦隊も、他より煌めき輝く。
光は分り易く人の気を惹くものだ。そこが穏やかな海であったなら、荒波が日常な船乗りたちは、休息と好奇心を満たす為に舵を切るだろう。
それは既に猟兵たちと幾度か切り結んだ将軍ピサロも同じ。
(――掛かった!)
甘い花が香りそうな髪の翻りを目で追い続けていた花世は、獲物が罠にかかったのを確信し、すうと息を腹いっぱいに溜め込んだ――そして。
「――!!!」
急激なクレッシェンドで始まる1フレーズを、思い切りよく叩き込む。
全開にした喉が、ビリビリと震えている。でもその振動が心地よい。
(一人ぼっちカラオケで鍛えたこの喉、自慢じゃないけど実は結構高得点なんだよ!)
一人カラオケは今やトレンド。他人の目を気にせず歌えるし、ストレス発散にはもってこい。だからあてどない「ぼっち」に寂しさを覚える必要なんてないもん――なんて靄が花世の胸中にあったか否かは定かではないが、何れにせよそんなあやふやなものはシャウトの前では些末事だ。
「っ、ちいッ!」
(もう遅いよ)
聞えた舌打ちに花世は内心でほくそ笑み、声を、歌を、咆哮を、魂ごと叩きつける。
(この歌、すきなんだ、ロック)
花世のハミングに、海はただ凪いだだけではない。静かに静かに波を引かせ、沈んでいたのだ。
そうして密やかに作り上げられたセンターステージには、今や観客と言う波と艦船が一気に押し寄せ、てんやわんやの大盛り上がり。
ひしめき合う艦船同士が激突し、火花を散らして甲高い声を上げる。まるで悲鳴だ。
(ロックにお似合い――)
スタンド席の特設ステージに一人立ち、世界への怒り、絶望、痛みを凝集させた歌(ロック)に、花世は全霊を注ぐ。
でも何故だろう。そんな『負』を花世が抱いているわけもないのに。なのに、なのに、歌えば歌うほど、花世の声は高らかに迸って波を躍らせ荒ぶらせる。
「まさか、この私が、私が――」
「知ってる? セイギのミカタに倒される悪いボスは、口を揃えて同じ科白を言うんだよ」
余力少ないコンキスタドールに成す術がなかったのは必然かもしれない。
しかし船の墓場から這い上がった敵将へ、花世は遠慮なく微笑みかけた。
「アンコールにはお応えしないとね!」
軽く握った拳で海空を突き、花世はありったけを振り絞る。
――おやすみよ。
――おかえりよ。
心臓を叩くサウンドに薄紅の花吹雪が舞う。
ライブのフィナーレを華やげる彩は、ひたすら足元を揺らがされるピサロへも容赦なく降り注ぎ、尽きる間際の命をさらに燃やさせた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
★
僕は歌
歌は得意なんだ!
よーし!ヨル、歌うぞ!
逃がさない
どこにもいかせない
今この瞬間、この海は船は島は──僕の舞台だ!
弾ける泡沫を、寄せては引いて命を歌う漣の音を伴奏に
共鳴する歌声に祈りをこめて
波も風も、僕の歌の一部になったようだよ
何処までも響く歌が心地いい
何より自在に動かせる
歌の海を泳ぐように、揺蕩い戯れて
海ごと誘惑するように歌ってみせよう
波を操り船を絡めて水底へ沈めおとす
何処をみているの?
何処へいくつもり?
離しても逃がしてもあげないよ
ヨルのお歌も上手なんだから!
ふふー、今の僕
何だか海の魔女のようかな?
魔物、とは言われたことあるけれどね
波の腕と共に踊い抱かれ
水葬の果て、静かに眠りにつくといい
●ローレライの海
(歌は得意なんだ!)
月光ヴェールの尾鰭で砂地を攫うリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は、得意げに胸を張る――が、リルの歌は『得意』の域を優に超える。
リル自身が歌だといっても決して過言ではないだろう。
だが歌を愛する人魚には、それを恣意的にひけらかすような心づもりは欠片もない。
「よーし! ヨル、歌うぞ!」
硝子細工めく儚く美しい顔(かんばせ)に、英気と鋭気と勇気を漲らせ、リルはヨル――ペンギンの雛そのものな式神をぎゅっと腕に抱き締め前を向く。
眼前に広がる海原には、まばらに黄金の艦船が浮いている。それでも身軽なコンキスタドールなら渡ることは可能だろう。
「逃がさない、どこにもいかせないぞ」
此処は母にとって懐かしの海だ。リルの魂の源に関わる海だ。不安要素は髪の毛の先ほどだって残せやしない。
「――、――――」
伸びやかな声を紡いだ途端、グリードオーシャンの一画――全容からみれば、極めて限られた区域だが――はリルだけの、リルの為の舞台と化す。海も、船も、島も、全て。
ヨルが握っているからか、蒸気機械の拡声器はペンギンの嘴色になっている。
(かわいい)
目を細めるのに合わせ、音程を揺らす。すると海全体が白く波立った。
弾ける泡沫にリルの鼓動が躍る。リルが泳ぐ浜辺まで押し寄せた波に呼吸を誘われ、引いていくのに肺いっぱいに酸素を取り込む。
いや、リルが海と共鳴しているのではない。海がリルに共鳴しているのだ。
(波も風も、僕の歌の一部になったようだよ)
滅多にない心地よさに、リルは歌唱の翼を全力で広げる。何処までも何処までも歌が響いていく、音が及ぶ限りの海と共に征ける。
――何処をみているの?
大波にバランスを崩したピサロを海中から見上げ、リルはコンキスタドールを手招く。
もちろん、『見えて』いるわけではない。それは海面が視せてくれた鏡像であり、艦船の狭間で跳ねる波。
――何処へいくつもり?
リルの小悪魔な微笑みに、海水が身も心も蕩かす魅了の媚薬に変化する。
――離しても逃がしてもあげないよ。
「っ、この海の魔女(ローレライ)め!!!」
はっきりと聞こえたピサロの悪態に、リルは機嫌よく頬を桜色に染めた。
「ねえ聞いた? 今の僕、本当に海の魔女のようかな?」
息継ぎの間に尋ねると、拡声器を一生懸命かかげているヨルが「ぴぃい」と鳴く。
それが是を意味するのか、それとも否を意味するのかは分からないけれど、鈴を転がしたような音色に、リルの喜びは加速する。
「ふふ、ヨルのお歌も上手!」
――魔物、と言われたことはある。
――魔女、と言われたことはない。
でもどっちでもいい。歌で、この海を守ることができるのなら!
(波の腕と共に踊り抱かれて――)
「――っ、があっ」
沈み行く艦船ごと、ピサロ将軍は波に囚われた。
(水葬の果て、静かに眠りにつくといい)
「ッ……ッ! ……、……。……――」
藻搔いても、逃げられない。
足掻いても、海はコンキスタドール(征服者)を逃がさない。
そうして海を蹂躙しようとしたオブリビオンは、海に呑まれて命を泡沫のように散らした。
大成功
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