羅針盤戦争〜Before the Dawn.
「終の王笏島に向かいましょう。私達の力が、かの島に至る路を開いたのだもの」
為埒をつける時が来たと、ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)が振り向く。
蒼海羅針域(コンキスタ・ブルー)が導いた「終の王笏島」は、奇しくも渦潮を延々南下した大海の涯にあり、黄金に煌めく光環を冠した絢爛豪華な王宮が、オブリビオン・フォーミュラたるカルロス・グリードの威容を示している。
ニコリネは凛乎とした聲で言を継いで、
「皆に向かって欲しいのは、この黄金に飾られた王宮の広い敷地の何処かにあると思しき王宮武器庫……カルロスが広大な海から集めて来た数多のメガリスが収められた場所よ」
――王宮武器庫。
其はカルロスの王威を示す重要な場所にて、外部からは視えぬよう厳重に隠されており、島に上陸した猟兵らは、先ずは武器庫の場所を探らなくてはならない。
もしか猟兵なら、この部屋に納められた厖大なメガリスより溢れる力を感じて辿り着けるかもしれないと、皆々の精悍な表情を見た花屋は、然程心配する事なく説明を続ける。
「カルロスは数多あるメガリスの中から、とっておきのものを使ってくる筈」
ひとつ、あらゆる獲物を縛す『鉄鎖ドローミ』。
ひとつ、全ての行動を叶える『オーシャンオーブ』。
ひとつ、巨大な幽霊船を喚び召す『さまよえる舵輪』。
幽霊船には多数のコンキスタドールが乗船しており、彼等もまた様々なメガリスを手に攻撃してくるので、カルロス一体とはいえ、決して侮れない戦いとなろう。
そして、これらの凄まじい能力を持つメガリスは、猟兵の侵入を察知するや直ぐに先制攻撃を仕掛けてくるので、先ずは初撃を禦ぐ対策を考えなくてはならない。
厳しい戦いとなる事は分かっているが、猟兵を信じるニコリネは決して笑顔を崩さず、
「遂にカルロス・グリードの正体が暴かれた訳だけど、皆なら大丈夫! 彼が世界中から集めて来たメガリスにも勝る絶技でやっつけられるわ」
猟兵はただ広大な海を航海してきただけではない。
未踏の地を切り開く力を磨いてきたのである。
水平線の果てまで冒険した勇者たちを、海は決して裏切らないだろうと咲んだニコリネは、ここにグリモアを喚んで、
「カルロスを制した貴方たちが海の覇者になる――新しい世界の夜明けは近いわ」
と、ウインクして送り出すのだった。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ユーカリ)こあらと申します。
このシナリオは、『羅針盤戦争』における『終の王笏』カルロス・グリードとの決戦を描く、一章のみで完結するボス戦シナリオ(難易度:普通)です。
●戦場の情報
『終の王笏島』の豪華絢爛な王宮の一角、「武器庫」。
鎧兜を纏った騎士やバーディング(馬鎧)、あらゆる武器が展示された一室で、そのどれもがカルロスが手に入れたメガリスで、動き、使う事が出来ます。
床には大理石が敷かれ、上を仰げば見事な天井画が広がる内装は、トリノ王宮の「王宮武器庫」をイメージして頂ければ幸いです。
●敵の情報:七大海嘯『終の王笏』カルロス・グリード
数多のメガリスを操る、グリードオーシャンのオブリビオン・フォーミュラ。
全ての『王笏』の本拠地を制圧されない限り、カルロス・グリードが滅びることはありません。
●プレイングボーナス『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』
このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。シナリオ全体の参加者様の人数により一括のリプレイとなり、個別での描写が叶わない場合がございます。
また、このシナリオに導入の文章はございません。
●プレイングと採用について
早期完結を目指し、10名程度の採用とさせて頂きます。
当シナリオは、戦場となる王宮武器庫を探す必要がありますが、プレイングの冒頭に「🗡」を付記して頂ければ、メガリスの力に導かれ、捜索は不要となります。文字数の削減にご活用下さい。
またこのリプレイが完結すると、このシナリオの舞台(本拠地)ではない、七大海嘯支配下の別な島をひとつ解放できます。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『終の王笏』カルロス・グリード』
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POW : メガリス『鉄鎖ドローミ』
命中した【対象1体のユーベルコードを封じる鉄鎖】の【全長】が【対象を束縛するのに充分な長さ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : メガリス『オーシャンオーブ』
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【王宮にある大量のメガリス】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ : メガリス『さまよえる舵輪』
【様々なメガリス】で武装した【コンキスタドール】の幽霊をレベル×5体乗せた【空飛ぶ幽霊船】を召喚する。
イラスト:hoi
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
栗花落・澪
🗡
霊に破魔は天敵だよね
【高速詠唱】で【破魔】を乗せた【オーラ防御】で身を護り
召喚された幽霊達に接近されないようにしながら
他の仲間が戦いやすい戦場作りを優先
足元に破魔を宿した★花園を生成し
更に足裏から花を放出したまま【空中戦】で幽霊船に突っ込み
フラワーシャワーのように花を降らせる事で【浄化】による足止め
除霊まではいけないかもだけど…
攻撃は【聞き耳】で音を聞き分け可能な限りで回避
もし味方に魔族に属する人が居るならその手番終了を待ってから
これはダメ押しだよ
【指定UC】を発動
先に咲かせておいた花畑と合わせて戦場全てを破魔で満たし
僕の輝き、受け止めてね
光の【全力魔法】でカルロス本体を攻撃
篝・倫太郎
🗡
豪奢で綺麗で……
武器庫と言う名の博物館だな、こりゃ
蒐集家の側面もあるってコトか
まぁ、この戦いにはあんまり関係ねぇけど
先制対応
野生の勘や第六感も使って見切りと残像で回避
確実に『命中』させない為に念動力で射線を外したり
衝撃波と吹き飛ばしを乗せた華焔刀のなぎ払いで対処
間に合わない場合はオーラ防御でジャストカード
負傷時は激痛耐性で耐えて以降の攻撃には生命力吸収も乗せてく
以降の攻撃への対応も同様に処理
手をつなぐを代償に始神界帰使用
ダッシュで接近して先の技能以外に
鎧砕きもオマケに乗せた華焔刀で一撃
フェイントも織り交ぜて2回攻撃
既にダメージがある場合はそこ狙いの部位破壊
好きにさせるかよ、骸の海に還んな!
シル・ウィンディア
いろんなメガリス勢ぞろい?
でも、数だけ多くたって…
負けないからっ!
・対UC
幽霊さんが多いなら…
【残像】を生み出しつつ【フェイント】を交えた【空中戦】で飛び回って攪乱
敵の攻撃は【第六感】を信じて
動きを【見切り】【瞬間思考力】で最適な行動をとって回避もしくは【オーラ防御】
敵の射撃攻撃は
腰部の精霊電磁砲と風の【属性攻撃】の【誘導弾】で牽制しつつ相殺
但し、回避の妨げになるなら回避優先
・攻撃
詠唱を開始しつつ
一気に接敵してから
光刃剣と精霊剣の【二回攻撃】でヒット&アウェイ
当たらなくても、動きを邪魔できればそれでいい
離脱しつつ
【限界突破】の【魔力溜め】をしてから
【全力魔法】で《選択UC》
全部もってけっ!
バルタン・ノーヴェ
🗡
武器庫に到着デース! ハロー、カルロス!
この戦争もクライマックスが近づいて参りマシタネ!
今のお気持ちはどうデスカ?
返答の鉄鎖が向かってくるのに合わせて、ファルシオンで受け流し、激しく動いて回避しマース!
刺さらないのは当然デスガ、鎖に絡めとられないよう注意深く動きマスネ!
できるだけ派手に、注意を引く感じで。
防御に専念しながら攻撃の隙を伺っている……そう思わせるのがプランデス!
カルロスがワタシに集中した頃合いで、今ですよ「カモン! バルタンズ!」「バルルー!」
武器庫の鎧や武器の陰にスタンバイしたバルタンズの奇襲デース!
現地の武器を拝借して火力UP! 一斉攻撃デース!
あ。お駄賃は後払いデス。
メイスン・ドットハック
【SPD】【絆】
こっちにはメガリスに愛されたエィミーさんがおるけーのー
ならついて行くだけじゃけーのー
キャバリアKIYOMORIに搭乗して参戦
エィミーの誘導で武器庫までついて行き、カルロス発見後にすぐ様攻撃を開始
レーザー砲ユニット、ミサイル榴弾、LPL砲をカルロスや攻撃用武器に叩き込むが、能力で被弾必至だろう
それはメガリス消費の為であり、キャバリアの装甲で受け切る
散々やってくれたのー。今度はこっちの番じゃのー
先制後はUC「薔薇の魔女よ、雷と共に去れ」を発動して、エィミーのメガリスで包囲攻撃している中、帝竜ワームの最速の雷ブレスを叩き込む
これだけのことを避けられるほどのメガリスが残っておるかのー?
白斑・物九郎
🗡
【エル(f04770)と】
●POW
●対先制
・武器庫方角を意識しつつエルと固まり進軍、鉄鎖の襲来角度を絞る
・鉄鎖の襲来を極限まで集中し予期(野生の勘+限界突破)
・エルに向かう鉄鎖も合わせて二本、己が絡め受ける(ジャストガード+2回攻撃)
・【怪力】で鉄鎖を引き絞り「鎖の根元」――敵位置を割り出しエルに示す
●反撃
・エルの合体ユーベルコードに身を預けて迸り、鉄鎖の力の封印を図る
・鉄鎖による封印を封印
・つまり、コードが使えるようになる!
「180秒? 蹂躙するにゃ十分ですわ。
俺めのコトはキャプテンと呼べ!
ワイルドハント号、出航ォ!!」
・【砂嵐の王・死霊大隊Ⅱ】発動
・艦載武装の操作をエルに任せ畳み掛ける
エル・クーゴー
🗡
【物九郎(f04631)と】
●POW
●対先制
・物九郎の後方に続く
・物九郎の鉄鎖対処/方角指示を受け、直進性に強度の改修(武器改造+メカニック)を施した『L95式ブラスター』を「鎖の根元」目掛け発射(レーザー射撃+スナイパー)
●反撃
・「鎖を伸ばして来ている為に居所が明らか」――先のレーザーを以って「弱点実証」とし【狩猟の魔眼と砂嵐の王】発動
・物九郎はコードを封じられている
・だが己のコードは封じられていない
・ならば「己のコードで」物九郎を戦わせればいい!
「アイ、キャプテン。
ワイルドハントを開始します」
・敵コードの封印/物九郎の死霊大隊発動後は船に便乗、艦載武装を操り畳み掛ける(砲撃+一斉発射)
エィミー・ロストリンク
【SPD】【絆】
メガリスに愛されるって、それって呪われてるんじゃないかなー!?
確かに気配はわかるけどー!
キャバリア・アカハガネに搭乗して参戦
ロストオーシャンオーブの影響もあり、難なく武器庫を感知する
カルロス接敵後は、両腕のガトリングキャノンで弾幕でカルロスに対応
あらゆる行動が成功するカルロスであるが、敢えてメガリスを消費させる為に被弾覚悟で応戦、ラクチェの要石の鉄水も使って防御する
先制後、UC「呪われし財宝に愛されし姫君」を発動
ロストオーシャンオーブの消費型メガリスを解放し、カルロスの武器を模倣させ、100近いメガリス武器の全周包囲攻撃を敢行する
これがわたしのメガリスだよー! ありっかけだー!
緋月・透乃
🗡
ふむー、戦場は武器庫かー。どんなものを集めたのかにも興味はあるけれど、それよりもどんな戦い方をしてくるかのほうが興味があるね!
カルロス・グリードと自慢のコレクションか、私と愛用の武器達か、どちらが強いか勝負だよ!
先制攻撃への対処は鉄鎖ドローミに私以外の物を束縛させること。
向かってくる鉄鎖ドローミへ葉を巻き付けるようにシンカーキャロットを怪力任せに振り回すよ!力の勝負にもっていってしまおう!
とはいえそのままでは攻撃できないので、鉄鎖の変形が落ち着いてきたらシンカーキャロットを手放し重戦斧【緋月】に持ち替えすぐに突撃し、罷迅滅追昇を決めにいくよ!
シキ・ジルモント
航海の末に宝の山に行き着くとは良く出来ている
しかし、よくこれだけ集めたものだな
オーシャンオーブに防がれると分かってはいるが、その上で何度も攻撃を重ねる
オーブを発動させてカルロスが攻撃や代償に使用するメガリスの消耗を狙う
更にオーシャンオーブを奪うような様子をみせておく
奪取が失敗しても構わない、オーブへのアクションを警戒させられればいい
その上でオーブへ向かうように一気に距離を詰め、オーブを守る為にメガリスを発動させたい
ここでオーブへ向かってみせたのはフェイントだ
オーブを守った隙に、再度メガリスを使われる前に本体への攻撃を試みる
攻撃速度と命中率を重視した零距離射撃の距離から、ユーベルコードを叩き込む
鷲生・嵯泉
🗡
自らの奪った物の隠し場所に立て籠もろうとは……
全く簒奪者らしい、愚かで憐れな姿な事だ
先を取られる事、一度は仕方あるまい
五感で得られる情報全てに集中した第六感重ね
変化と攻撃の起点を戦闘知識で測り見極め
衝撃波をカウンターで当て威力を削ぎ、致命に至るは武器受けにて防ぐ
だが此れ以上を耐える気は無い
――貪詞虚消。喰い尽くせ、饕餮
刹那の時間とて……使用時間限界まで無駄にはせん
発動と同時、脚力に怪力回して一気に接敵
なぎ払いをフェイントに使い、死角からの斬撃で以って叩き斬る
如何な力を振るおうとも所詮奪った力
既に過去の残滓と化したものに此れ以上何をも渡す事なぞ出来ん
簒奪者に相応しい海へ、疾く潰え還るがいい
予知は絢爛(きらびやか)なる刀劔兵馬の寶庫を視たが、場所は知れず。
鐵甲船より『終の王笏島』に上陸を果した猟兵達は、メガリスの収蔵庫にてカルロスの力の根源たる武器庫を制圧すべく、会敵前より知覚を鋭敏く、島内の捜索に掛かった。
「ふむー、戰場は武器庫かー。どれだけのメガリスを集めたんだろうね!」
貪欲の海の王が蒐集或いは鹵掠したメガリスは、その数で王威を示そう。
ぴょんと身も輕やかに鐵甲船を飛び出した緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)は、カルロスが如何な力を持つ秘寶を集めたか、それらを使って如何なる戰いを仕掛けてくるかと、萌葱色の麗瞳に爛々と光を湛えつつ、光環煌めく王宮へ駆け往く。
「――僕は空から王宮の形状を調べるよ」
純白の翼を張り広げて風を摑むは、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)。
琥珀色の艶髪をふうわと躍らせて飛翔した佳人は、海岸から吹き付ける強い汐風に翼が攫われぬよう、低く、低く、黄金の尖塔を潜る様に滑空する。
澪が王宮の西を飛ぶなら、東を翔るはエル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)。
飛行用バーニアを展開すると同時、繊麗の躯に迷彩を描出した佳人は、電脳ゴーグルに燐光を走らせながら、島及び構造物のスキャンを開始する。
一陣の風となった彼女は、時折風の切る音と共に涼やかな佳聲を置こう。
「呪力の奔波を観測しました。二時の方向に発生源を確認」
「――俺めの勘と同じですかよ」
ハ、と口角を持ち上げる白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は地を疾って。
研ぎ澄まされた野生の勘もまた禍々しい力の渦動を捉えようか、天に坐す光環に黒髪の艶を彈きながら、搖れる前髪の奥に覗く烱瞳は犀利く、鋭利く進路を見据える。
天地を別っても揃いの金瞳は炯々煌々、玲瓏の彩を違えず。
二人は肌膚に触れるメガリスの力に、此度の獲物の大きさを圖るのだった。
終の王宮の広大な庭園に、二足歩行戰車型キャバリア『KIYOMORI』を駆るメイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)はお氣樂なものだ。
佳人は電脳魔術を展開しながら、花脣に飄々広島弁を囀り、
「こっちにはメガリスに愛されたエィミーさんがおるけーのー。僕は周辺をスキャンして地図におこしたら、ついて行くだけじゃけーのー」
「愛され……それって呪われてるんじゃないかなー!? 確かに気配はわかるけどー!」
時にスピーカー越しに電子音聲が跳ねる。
目下、通信を開いていたエィミー・ロストリンク(再臨せし絆の乙女・f26184)が、義姉の言に反應を示した様だが、事實、少女は厖大なメガリスの力を感知していよう。
スーパーロボット型メガリス『アカハガネ』を駆って先行する彼女は、王笏のメガリスの欠片で創られた『ロストオーシャンオーブ』が嚮導く方向に、メイスンより送出される地形情報を照合しながら、迷う事なく王宮武器庫へと向かっていく。
「見つけた……! あれが、王宮武器庫……!!」
時に光環の下を低空飛行していたシル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)が、瑠璃と煌めく麗瞳に呪力の根源を捉え、王宮の北東側に延びる離宮を目指す。
繊麗の躯は高度を落して馬蹄型アーチを潜ると、突き当りで大きな扉に迎えられた。
「武器庫に到着デース!」
つとバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は扉前に立つや、肉切り包丁のように無骨な『ファルシオン風サムライソード』を一閃ッ! 王宮の衛士が二人掛りで開ける重厚な扉を一太刀で破砕し、朦然と烟る空間に佳聲を投げた。
「ハロー、カルロス! お掃除に参りマシタ!」
ハロー! ハロー、ハロー……――。
王手を告ぐ聲が響き渡り、靜謐の音訪(おとず)れと共に視界が晴れゆく。
こつり、大理石と色石を用いた飾石張りの床面に跫を置いたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、壁一面に飾られる武器と防具、刀劔や銃器をぐるり見渡す。
穹窿状の円天井に描かれる絵画といい、室内は何もかもが壮麗で、
「……航海の末に宝の山に行き着くとは良く出来ている。然し、よくこれだけのメガリスを集めたものだな」
若しか此れは貪欲の王の侵略の證左(あかし)かと溜息を置く。
「えらく豪奢で綺麗で……武器庫と言う名の博物館だな、こりゃ」
餘りの美しさに嘆聲を添えるは、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
佳脣より零れたテノール・バリトンが幾重にも反響するのは、空間の広さの所為か――琥珀色の烱瞳を一巡りさせた倫太郎は、而して後、最奥に佇む男を視線を結んで、
「強欲の海を渡る略奪の王は、蒐集家の側面もあるってコトかな」
と、皮肉交じりに口角を持ち上げた。
然う。
武器庫に至った猟兵には、凄まじい数のメガリスが整然と並べられた部屋の最奥部に、この島の主たる男が待ち構えているのが視えよう。
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、その王らしからぬ輕挙を冷罵して、
「自らの奪った物の隠し場所に立て籠もろうとは……全く簒奪者らしい、愚かで憐れな姿な事だ」
と、赫緋の隻眼に睨め据える。
ここで高い天井に聲を響かせるは、七大海嘯『王笏』が終、カルロス・グリード。
『……凡そ叛徒は力無き故に武器庫を攻めたがるが、これらは唯の武具で無し。我が大海より集めし秘寶を呉れて遣る訳には往かぬ』
貪欲なる海、数多の海賊の頂に君臨するコンキスタドールの王が、猟兵らが予兆(ヴィジョン)で見た通りの姿で答える。
『――客人に非ざれば玉座で迎える義理も無かろう。ここで死骸を晒すが佳い』
其は冷嚴なる鷲の眼に獅子の聲。
宛ら抜身の劔の如く、碧光の睛(まなこ)で現れた精鋭を冷眸に睥睨したカルロスは、背にした巨大フレスコ画よりズズズ……ッと幽霊船を引き摺り出すと、片手にオーブを、逆手に戒めの鐵鎖を握って構え、
『盗人よ喜べ。これより王が直に処断(さばき)を與える』
と、先ずは巨船の砲門を開いた。
†
閃光火花を散らし、轟音と共に全開門した大砲を見据えるはシル。
青き佳瞳は凛然を萌すや、其が唯の砲彈では無いと見破って、
「いろんなメガリスが勢揃い……って事は、あの大砲もメガリスだよねっ!」
と、咄嗟に飛び立つや、我が軌道を捺擦(なぞ)る追尾彈に「やっぱり」と頷く。
魔力の源を追い掛ける砲彈を肩越しに確かめつつ、高く、高く、天井まで翔け上がったシルは、突如として身を反轉し、腰部に備えた精霊電磁砲『エレメンタル・レールキャノン』を発射ッ! 追尾彈と彈道を結んで相殺したッ!
凄まじい爆風が天蓋を搖らす中、更に甲板から海賊の幽霊達がラッパ銃を斉射するが、衝撃と痛撃に足止められるシルでは無い。
「ッッ……ッ、数だけ多くたって……負けないからっ!!」
繊麗の躯は煙幕を帯と靉靆(たなび)かせながら宙空を翔け、砲門が下を向かぬよう、銃口が仲間を狙わぬよう、飛燕の如く動き回った。
宙空に浮かぶ巨大な幽霊船に影を呑まれた嵯泉とて、烱眼の光は失わず。
劔士は緋の麗瞳に湛えた赫光と帯と引きながら腰を落とし、斬禍の刀『晶龍』を抜くや凍えるような闘氣を石床に滑らせた。
乗員のコンキスタドールが、船から身を乗り出してラッパ銃やピストルを撃ち込むが、五感を研ぎ澄ませた嵯泉は刃鳴一閃ッ、眼路に飛び込む銃彈を一刀に両断する!
一縷と亂れぬ呼吸は、低く冷たいバリトンを滑らせて、
「……如何な力を振るおうとも、所詮は奪った力に過ぎん」
先を取られる事、一度は仕方あるまい。
然し、命は勿論の事、一筋の創痍も許した憶えは無い――!
己が迸發(ほとばし)る冷氣に外套を揺らした嵯泉は、拇指球を踏み込めるや刃の如く鋭利い衝撃波を船の側面に叩き付け、コンキスタドールの霊魂を胴で別ッた!!
「乗員は全て幽霊……それなら、弱点は決まってる」
忌わしき死霊の怨念を聽き拾う澪は、蓋し幾許にも冷靜だ。
琥珀色の麗瞳は聢と彼等に視線を結ぶと、足元の『Venti Ala』に破魔の力を籠めるや、踵に小翼をつけたヘルメスの如く颯爽と飛び立ち、幽霊船に接近した――!
「除霊まではいけないかもだけど……魂を浄えたらいいなって……!」
敵も味方も関係ない。
ひとつでも多くの魂を、心を、救いたい――!
強い悪意が眞白の翼を射抜き、撃ち落さんと矢彈を浴びせるが、麗人は巧みにそれらを躱しながら、フラワーシャワーのように葩弁を降らせ、美し光彩に霊魂を慰める。
「せめて足止めになれば、みんなが戰い易くなるだろうしね」
必ず好機は音訪(おとず)れる。その時まで耐え抜く。
その力はこれまでの航海で十分に身に着けた自負がある。
繊麗の躯を淸浄なるオーラに包みつつ、メガリスの影響を受けぬ距離を保ちながら飛行を続けた澪は、仲間の為に損耗を惜しまず、己が魔力を万彩の花片に變えた。
『――ほう、我が王宮を暴いただけの事はある。唯の蠅では無いらしい』
幽霊船の大砲や船員の銃撃が中々命中を得ぬ事に焦れたカルロスが、自ら動く。
王はドローミ――魔狼フェンリルをも戒めた鐵鎖を伸ばして猟兵を捕らえんとするが、若しか彼等は足枷グレイプニルを用いたとしても御す事は叶わなかったろう。
「ハ、その鎖で俺を縛そうって言うのか」
常より不可視の縛鎖で災禍を戒める倫太郎が、佳脣の端に竊笑を湛える。
其こそ正に己が得意とする得物だと、優れた視力に鐵鎖の先端を捉えた彼は、念動力で射線をズラして命中を遁れると、華焔刀 [ 凪 ]を軸に高く跳躍したッ!
『ッ!!』
「噫、理解ってる。鎖には“返し”があるってな!」
伸びきったドローミが戻り様に描く軌跡は視ずとも判然る。
王の次手を読み切った倫太郎は、己の代わりに兵馬型メガリスを打擲(ぶた)せると、飜然(ヒラリ)舞う宙空で小気味佳く艶笑った。
命中を許してはならぬと、激しく動き回るはバルタンも同じで、彼女は飜然(ヒラリ)スカートの裾を揺らしては鐵鎖に刺されぬよう身躱し、或いは繊手に握るファルシオンに受け流しては束縛を拒絶む。
丹花の脣は片言に喋りながら、王の矜持に肉薄しよう。
「この戰争もクライマックスが近づいて参りマシタネ! ワタシのような雇われメイドが終の王と相見えるトハ!」
『女中(メイド)風情が、随分と端無く飛び回る』
カルロスは柳眉を吊り上げるが、バルタンはメイド服を着た熟練の兵士。
大瑠璃の佳聲を輕やかに囀りながら、派手な立ち回りに王の注意を引いたバルタンは、純白のエプロンに伸びかかる鐵鎖に傍らのプレートアーマー型メガリスを破壊させると、翡翠色の編髪をふうわと揺らして頬笑む。
「――扨て。今のお気持ちはどうデスカ?」
塊麗の微笑が、虎視眈々と攻撃の隙を伺う。そう見せかける。
『ッッ不遜な輩が次々と……!』
忌々しげに腕を振って鐵鎖を戻すカルロスが次に睨め据えるは透乃。
緋髪の麗人もまた王の威容を、手に持つ秘寶を墨々(まじまじ)と見詰めて、
「鐵鎖ドローミ……それが自慢のコレクションのひとつだね! 私が愛用する武器達と、どちらが強いか勝負だよ!」
勿論、負けるつもりは無いと頬笑むその内は、己以外の物を束縛させる策戰。
重くて巨大な『シンカーキャロット』の根の部分を摑んだ彼女は、怪力任せにぶんぶん振り回し、瞬刻に飛び込む鐵鎖に葉を撒き付けたッ!
『ッ! にんじん……そんな野菜で我がメガリスが止められよう筈が無い!』
「唯のにんじんならね!」
然う、見た目は可愛いにんじんだが、食用としては別途に『美味しい満腹にんじん』(生でも十分いける!)を用意する透乃にとって、今握れる其は頼もしい武器だ。
佳人は漸う變形し始める鐵鎖に負けぬようにんじんを引っ張って、
「力の勝負じゃ負けないよ!」
『くッッ……その華奢の何処にこれ程の力が……!!』
王も瞠目する程の握力と膂力で抗衡し、見事、彼を足留めるに成功した!
而してこの機を逃すシキでは無かろう。
歴戰の撃手は、凪の如く澄める青瞳に王の焦燥を映しながら狙撃ッ! 硬質の掌に包む『ハンドガン・シロガネ』の銃爪を引き、全彈を人体の急所に沈めんとした――!
「――――」
射角も飛距離も彈道も、全て計算した連射。
それでも王が仆れぬとは知っている。
『ッッ……オーシャンオーブよ、かの銃彈を避けよ』
障害物を潜り抜けた鉛彈は、然しメガリスの呪力を前に途中で暴発し、その延長線上にオーブを掲げ持つ王の白皙を暴く。
『銃も劔も、魔法も届くまい。我の行動は全て許され、他者の行動は全て拒絶まれる』
「――所詮、鹵掠(うば)ったもの。盗んだものは盗まれる宿命だ」
硝煙の靉靆(たなび)く向こうで冷たく言つシキ。
一瞬、王が眉を吊り上げたのを聢と視た彼は、奪取が目的と匂わせながら銃聲を重ね、防禦や攻撃に数多のメガリスを使うよう誘導した。
だが、未だ優勢にある王は気付くまい。
カルロスは鷹の目を鋭利く、嚴然と告いで、
『我が野望は如何な介入にも妨げられぬ。更なる侵略の為に貴様らを駆逐するのみだ』
猟兵を撃退し、“侵略形態”と荒ぶる海を再び制す。
而して猟兵の拠点に通ずる蒼海羅針域を開拓する。
諸有る貪欲が満たされるのだと、メガリス『オーシャンオーブ』を掲げたカルロスは、大小合わせて53万点に及ぶ呪いの力を一点に集中させた。
「被彈覚悟で相殺するけーのー」
損耗は免れぬと紫藍の機体を推進させるメイスン。
アバターAI『アメジストちゃん』に攻撃の威力と方向を予測させた彼女は、電脳魔術によりミサイル榴彈を精製・放出し、同時に荷電粒子砲搭載電脳兵器を展開! 並行して全方位対應LPL砲に迎撃し、オーブより放たれる呪詛の減衰を圖る。
周囲が閃光火花に白む中、モニタを見るメイスンの麗顔も玲瓏と耀いて、
「こっちはキャバリアやけーのー、えっとうメガリス使わんと毀(め)ぐれんじゃろ」
「メイスンお義姉ちゃん、援護するよー!」
時にKIYOMORI機より更に前進して應戰するは、エィミーのアカハガネ。
灼機に搭載した宝珠型メガリス『ラクチェの要石』にて鉄水の防壁を構築した少女は、更に両腕のガトリングキャノンを斉射して彈幕を張り、出力臨界、王に対抗する!
縦長の武器庫に二体のキャバリアが並び立てば、王もその異様に感嘆を零そう。
『宛如(まるで)鐵の壁だな。實に壊し甲斐がある』
その質量に見合うだけの攻撃をと、オーブは更なるメガリスを絞り出す。
凄まじい音の反響や衝撃波が機体を揺らし、鋼鐵の装甲を破損させるが、通信で繋がる二人の佳聲は冷靜に、
「あらゆる行動が叶うなら、わたし達のキャバリアも止めてみなよ!」
「集めに集めたメガリスを使う良い機会じゃけーのー」
消費(つか)え、浪費(つか)え、限りある貯蔵品を湯水の如く!!
失われし絆に結ばれた義姉妹メイスンとエィミーは、各部損傷を伝える赤色警告が次々と浮かぶコックピットで、強く靭く操縦桿を握り続けた。
――この時。
猛風が衝撃を掻き混ぜる嵐の中、物九郎が全き素手で鐵鎖を摑んだのは、極めて優れた感と勘――極限まで研ぎ澄ませた反應を反射と變えた集中の賜物だったろう。
これには朦然の渦中にドローミを投げた王こそ喫驚いて、
『何故、判然った』
「俺めなら然うした」
『――成程。では次は読めるか』
問えば物九郎は答える。應じる。
己なら“副官を潰す”と、告ぐより疾く爪先を蹴った物九郎は、エルへと向かう鐵鎖に腕を伸ばすや手首を外捻して絡め取り、一つを左拳に、一つを右脇に締めて張った。
「余裕で想定内ですでよ」
『ッ……!』
愧愧愧ッと歪に鏗鏘の音を立てた鐵鎖は、二人の王の間で角逐するか。
――いや、王は二人も要らぬ。
物九郎は靭やかな筋肉を張る左腕に虎縞模様を励起し、拡大させると、純然たる膂力で鐵鎖を引き絞り、薄く結んだ佳脣に低く冷たいテノール・バリトンを滑らせた。
「エル、射線が視えましたでよ」
「――Yes, Master. L95式アームドフォートを展開、全砲門を二時の方向に集中します」
而して應えるは束縛を逃れた鎧装人形。
電脳ゴーグルの燐光を全灯したエルは、物九郎が視覚化して暴いた鐵鎖の“根元”――つまりカルロスの位置に、直進性に強度の改修を施した『L95式ブラスター』を斉射し、精確精緻に王の心窩(みぞおち)へ幾条の光線を結んだッ!
『ずゥ……ッッ!!』
メガリスの甲冑は貫通を拒絶むも、其は呼吸と反撃を奪う十分な致命打と成り得る。
何より鐵鎖を伸ばした延長線上に王が居ると顕かにしたのだ。
王が選り抜ったメガリスの弱点を暴いたエルは、未だ衝撃が逆巻く嵐の中に、“門”を顕現させると、【狩猟の魔眼と砂嵐の王】(ワイルドワイルド・ハントハント)――鐵鎖に繋がれていた筈の物九郎を喚び出したッ!!
『ッ、如何云う事だ……!』
「――簡単な事でさァ」
何も手品や絡繰を披露した訳では無いと、複雑な魔法陣が描く門扉から顕れた物九郎がコックドハットの翳影に隻眼を覗かせる。
両手に鐵鎖を摑んだ物九郎はユーベルコードを封じられた。
然し束縛を逃れたエルのユーベルコードは封じられていない。
ならば「エルのユーベルコードで」物九郎を戰わせれば善い!
「――扨ァて、“おたく”は次が読めるか」
『…………ッッ!!』
彼はカルロスを「王」とは見做さぬ。
おたくと顎でしゃくった物九郎は、屈辱に戰慄く簒奪者の前で小気味佳く竊笑すると、大きく聲を張り上げた。
†
鐵鎖を封じられるのは180秒。物九郎が蹂躙するには十分な時間だったろう。
彼は左腕を掲げるや海賊のマントを翻し、
「俺めのコトはキャプテンと呼べ! ワイルドハント号、出航ォ!!」
解纜ッ、【砂嵐の王・死霊大隊Ⅱ】(ワイルドハント・ネクロトライブ)――!!
號すれば背の壁面からズズズ……ッと空飛ぶ幽霊船が舳先を現し、狩猟好きな幽霊猫達(ロシアンブルーやチンチラ、ペルシャなど)が船長を招くべく縄梯子を垂れ降ろす。
エルも心得たものだろう。
彼女も光学迷彩で海賊ルックにスキンを換装すると、マネギと共に肘を絞って敬礼!
「アイ、キャプテン。ワイルドハントを開始します」
と、船に乗り込むや、その手に艦載武装を掌握する。
これには同じく宙空に浮上した幽霊船が大砲を向けるが、物九郎は咄嗟に舵輪を回して面舵いッぱい!! 右旋回して晒した艦砲を、エルと幽霊の乗組員らに開門させた!
「撃(て)ェーッ!!」
傳聲管が物九郎の號令を喊び、間もなく轟音が寶物庫を揺する。
どぉんどぉんと、空気を叩く宙空で砲撃戰が始まり、戰局は急展開した。
而して180秒の後、同じく鐵鎖の束縛を逃れた透乃が間隙を埋めるように出る。
根の部分にビッシリと縛鎖が絡んだ『シンカーキャロット』――これも頗る凶悪な鈍器と變わり果てていたが、彼女の埒外の力を振るうには、もっと良い得物がある。
「これも重くて頑丈だよ!」
繊手が輕々と振り回すは、重戦斧『緋月』――石突に結ばれた双鈴をシャンと慣らして突撃した凄艶は、【罷迅滅追昇】――ッ! 彈ッと爪先を蹴るや、櫻花を鏤めた黒斧ごと火球となって敵懐に飛び込んだ!
花脣は好敵手に接近して愈々喜色を湛え、
「くたばれ、消え去れ、あの世の果てまで飛んでいけー!!」
『――ッッ!!』
時を動かした矢先のカルロスに猛然たるショルダータックルを当てると、その勢いの儘に戰斧を一閃ッ、下から上に掬い上げるように斧筋を振り抜き、メガリスの甲冑に護られた王を大きく後方へ吹ッ飛ばした――!
「これ以上好きにさせるかよ、骸の海に還んな!」
敗滅(ほろび)の刻限が来たと聲を張る倫太郎。
今や眼前の簒奪者を聢と「災禍」と捉えた羅刹の戰巫女は、己が血族の在り方に従って【始神界帰】――潜在する力を対価に、華焔刀に封じられた力を開放する。
琥珀と燿う麗眸は赫々と闘志の炎を焚べて、
「代償を惜しむ程、俺も吝薔(ケチ)じゃないさ」
仲間と繋ぎ合う手と、更に鎧を砕く技能を贄と捧げる。
而して凪と眠れる神力は、今こそ覚醒めて破魔の氣を迸發(ほとばし)り、力いっぱい薙ぎ払えば、美しい刃紋を映した様な疾風が、孤刃となって王に嚙み付いた――ッ!
『ぐっ……っ』
防禦に出た鐵鎖が鏘然と音を立てて千切れ、別れた部分が石床に叩き付けられる。
王は舌打ちして再び振り被り、
『ッッ、鐵鎖が……然しドローミは十分な長さを得るまで幾丈にも伸びる……!』
「それでいい、俺の狙いはメガリスじゃねえ」
『な、に――!!』
返す刀に繰り出る弓張月の風が叩くは、王の手首!!
メガリスは幾らでも伸びようが、其を持つ手は伸びまいと衝撃を叩き付けた倫太郎は、思いがけぬ激痛に鐵鎖を落とす王の喫驚の貌を見て、ニ、と嗤笑った。
『小癪な……ッ! メガリスひとつ落した處で王手を取った心算(つもり)かッ』
代わりは幾らでも在る、と次なる武器に手を伸ばさんとするカルロス。
貪欲の手が壁に飾られたブランダーバス型メガリスを取らんとした、正に須臾、其処に隠れていた“何か”と瞳が合った。
『な、んだ……この小っちゃいのは――!!』
「――カモン、バルタンズ! “Peek-a-boo”デース!」
喫驚の聲と同時、號令が室内に澄み渡る。
王とぱっちり眼を合せた小っちゃいバルタンが、ブランダーバスの銃爪を引くと同時、鎧や武器の陰に散らばって待機していた100体のバルタンが、一斉に銃爪を引いた!
「一斉攻撃デース!」
「バルー!」
奇襲を成功させたのは、【秘密のバルタンズ】(シークレット・サービス)!
バルタンが王を惹き付ける間に、至る処に潜伏してメガリスを掌握した自律型サポートロボット――二頭身のミニ・バルタンは、ピカピカの五百円玉をお駄賃に奉仕活動を行い一斉射撃――ッ! 合計101個のメガリスが、己を掠奪した王に牙を剝いた!!
『…………ぐッッ、あッ!!』
遠近を違えた様々な方向から魔彈を撃ち込まれ、豪奢な服に血を滲ませるカルロス。
「HAHAHA! 大成功デース!」
「バルバルー!」
「あ。お駄賃は後払いデース」
きゃっきゃと喜ぶバルタンズに、本体から素早く説明が足された。
「何を取っても、最早何にも為るまい」
此處に在る全てが端からお前の物では無かったと、嵯泉の言は頗る冷酷(ひややか)。
彼は今も砲音を轟かせる幽霊船の気配を頭上に感じ取ると、此れ以上は付き合わぬと、宙空に描いた召喚陣より牛身人面の魁偉を招き、猛る虎牙を暴かせた。
「――貪詞虚消。喰い尽くせ、饕餮」
其はユーベルコードも魔の術理も、欠片も残さぬ健啖の邪神。
強欲の腕がコンキスタドールを摑んでは屠り、千切っては喰らい、血を絞りながら敵船の戰力を削る中、嵯泉は我が怪力を両脚に注ぎ込んで一氣に接敵――ッ!
刹那の時間とて無駄にはせぬと、雪晶繚乱の刃が王を薙いだ!!
「既に過去の残滓と化したものに、此れ以上何をも渡す事なぞ出来ん」
『――ッッ、ッ――!!』
「簒奪者に相應しい海へ、疾く潰え還るがいい」
鮮血が牡丹の花瓣と舞う間に訣別を告ぐ嵯泉。
返り血を受け取る男の瞳に、もう「王」は映ってなかったろう。
時にして須臾。
好機を見出した澪が動く。
「これはダメ押しだよ。流れは僕達のものだから」
耐え抜いただけではない、魔力を振り絞って来たのは、正にこの瞬間の為だったとは、一面の床を見れば判然ろうか。
鏡面の如くメガリスを映し輝いていた大理石の床は、今や澪が降り注いだ花片によって芳しき花畑となっており、遍く悪を浄化する天上世界が玲瓏を湛えて光っている。
瀲灩たる光の波濤に花顔を照らした澪は、ここに凛乎と囁(つつや)いて、
「――僕の輝き、受け止めてね」
見よ、天上の光よ。
色彩(いろどり)美からずや【心に灯す希望の輝き】(シエル・ド・レスポワール)。
繊手に握る『Staff of Maria』は一帯に満ち満てる淸浄の輝きを集めると、黄金と煌めく一道の光芒に束ねて射放し、黒暗々と邪氣を放つメガリスの力を劈いたッ!!
『ッッ、我が舵輪が――!』
船を失う訳には往かぬと、オーシャンオーブを掲げてメガリスの力を集める王。
この隙に乗じて、シルが二条の光劔を宙空より差し込むが、メガリス製カタフラクトス(重騎兵)の突貫に閃刃を阻んだカルロスは、然しこの瞬間に少女の澎湃と溢るる魔力に触れておくべきだったろう。
馬影に遮られた可憐は、然し淸冽たる星眸(まなざし)を聢と王へと射ており、
「当たらなくても、動きを邪魔できればそれでいい――!」
代償にすべきメガリスを防禦に使った!
故に舵輪の損耗を補えなかった!
シルは青き虹彩に王の失策を捉えると同時、その花脣は常に精霊へと呼び掛けており、而して刻下、六芒増幅術で強化された六属性の精霊が、全てを撃ち抜く力と成る!
「わたしの全魔力、全部もってけっ!」
『ッッ――!!』
臨界突破、【ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト】――!!
繊臂が構えた六芒星魔法陣より放たれた極大魔力砲撃は、メガリスの重装騎兵を灼き、更に幽霊船の船底から甲板までを貫き、猶も威を失わぬ光の瀑布が天蓋を穿ッた!
『莫迦な……ッ!!』
空飛ぶ幽霊船が沈没する――ッ!!
大穴を開けた船底から落ちる破片に驚愕の色を隠さず、オーブを掲げるカルロス。
仮令(たとえ)船の竜骨が折れていようと修復出来るとメガリスの力を集めた王には、果してどれだけの力が集まったか――メイスンは有為(したり)顔で其を見詰めた。
佳人は紫水晶の瞳に王を映した儘、通信機越しに義妹に問うて、
「メガリスに愛されたエィミーさん、オーブに溜まった力はどれくらいかのー」
「うーん、それがね……あんまり感じなくなっちゃった……」
あれー? と語尾を持ち上げる義妹に、「そうじゃろーのー」と口角を持ち上げる。
王が武器庫に納められたメガリスを殆んど使い果たしてしまったとは、周囲の損壊と、我が機体にも刻まれる損傷の程度で知れよう。
53万点にも及ぶメガリスの呪力を“受け切った”のだと咲んだメイスンは、赤色警告が画面いっぱいに点滅する中、凄味を増した佳聲を機外に出力した。
「散々やってくれたのー。今度はこっちの番じゃのー」
「うんっ、今度はわたしがメガリスを使う番っ!」
刻下、『絆律鍵ロスト・リンク』を掲げたエィミーがモニタにカットインする。
秘鑰をアカハガネに接続した少女は、【呪われし財宝に愛されし姫君】(ドミネート・オブ・リンク)――ロストオーシャンオーブが生成した消費型メガリスを解放したッ!
辰砂の佳瞳を炯々と、一際の凛然を萌すエィミーの姿は王には視えまい。
然し百に及ぶメガリスが、同心円状に展開する景は否應にも眼路に迫り、
「これがわたしのメガリスだよー!」
『メガリスを奪うでなし、生む……だと――!!』
「ありったけの呪いをあげる!」
発氣して須臾。
其の全てがカルロスに射線を結び、王の威容を血に染め上げた――!!
『ぜぁああ嗚呼嗚呼ッッ!!』
衣を裂き、甲冑を断たれ、口の端より鮮血を零す王。
大海に眠る凡有る呪いを受けた王が膝を折るが、大理石張りの冷たい床に沈むには未だ尚早とは、機体眼部に碧光を湛えたメイスンが示そう。
時にKIYOMORIは妖し芳し薔薇の香氣を漂流わせて、
「――扨て、これだけの攻撃を避けられるほどのメガリスは……もうあるまいのー」
冷徹を告ぐ背には、閃雷と呪いに渦めく雲海。
その昏闇に召喚された「帝竜ワーム培養体」は、折に己が竜鱗を稲光に煌めかせつつ、首を擡げると同時、紫電を嚙み締めた口吻を開けてブレスを吐いた――!!
「無限竜ワームの最速の雷、最早躱せまいのー」
『ッッ……なんという……雷電の懸瀑……!!』
見よ、其こそ【薔薇の魔女よ、雷と共に去れ】(ブルーローズ・ライトニング)。
刹那に駆け疾った霹靂は王を打ち据え、薔薇は呪いとなり、而して後、夥多しい血量を噴き上げたカルロスが、己が作る血の海に輾轉(のたう)った。
『……くっ……ぁぁああ嗚呼ッッ!!』
覆らぬ劣勢に抗うように、己と同時に轉がったオーブへと手を伸ばすカルロス。
未だメガリスの枯渇を認めぬ王は、血に滑るオーブに新たな願いを、「我が勝利を」と願いを籠めんとするが、間を置かず接近したシキに慄(ゾ)ッと蒼褪める。
彼奴は慥かオーブを狙っていた男だ。
奪われてはならぬと、激痛に顔を歪めつつオーブを摑んだカルロスは、身を伏せた儘、朱殷に染まるオーブを掲げた!
『ッッこれは王のみに許される秘寶! 盗人ごとき触れられる呪いでは無い――!』
「噫、俺には不要の物だ。そのまま空虚(カラ)の力に縋っていると佳い」
『なっ……――ッッ!』
オーブへ向かってみせたのはフェイント――。
シキはカルロス目掛けて疾風と駆けるや、額面を持ち上げた瞬間の眉間に冷たい銃口を突き付けると、零距離でシロガネを咆哮させた。
『ッッ――ッ……!!』
素早く二回、銃爪を引き、二發を全き同時に発射する。
靜かな呼吸の裡に彈かれた【コンセントレイト・ラピット】は、唯の簒奪者と堕ちた男の頭蓋骨を砕き、脳天を貫いた。
而して鼓膜に迫る靜寂が煩く問おう。
果して王は、大海より來た猟兵に勝つ術があったか。
エルに我が居所を、弱点を秘匿し通せたか――否!
物九郎が操る幽霊船の砲撃を凌駕し得たか――否!
猛然と突貫する透乃の重い斧撃を躱せたか――否!
倫太郎が薙ぎ払った第二の風刃を読めたか――否!
バルタンが潜ませたミニ伏兵を見破れたか――否!
嵯泉が時を惜しまず振るった刀が視えたか――否!
澪が紡ぐ万丈の光華(ひかり)を禦げたか――否!
シルが放った極大魔力砲撃を止められたか――否!
エィミーがメガリスを生む事を知り得たか――否!
メイスンが喚べる竜の息吹に耐えられたか――否!
シキが真に狙う獲物を己と見極められたか――否! 断じて否!
まだ見ぬ大海を進む事を止め、異界より落ちて来る世界の力に頼り、集めたメガリスを力の源にするばかりの男は、それらが枯渇した後の攻撃に耐えられなかった。
而して王座より引き摺り降ろされたカルロスは、己が船の舵を握った猟兵が導く儘に、昏く、冷たい、骸の海へ沈むしかなかった――。
大成功
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