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唇ゆるした仲なのに

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●一反木綿は一般性癖
「駄目っ、もめ太郎さん……!」
 木綿を裂くような悲鳴は、しかし甘い色を帯びている。
「もめ子さん、僕はもう我慢できない……!」
 震える布にそっと布を這わせると、もめ子は思わず布をよじった。布と布が触れ合う感触が全身の布を駆け巡る。そんな彼女の布元に布を寄せ、もめ太郎は低い声で囁く。
「好きだ――君のことが好きなんだ。他の木綿にこんな気持ちになったりするもんか。もめ子さん、今、最高に可愛いよ……」
「もめ太郎、さん……」
 その言葉に、もめ子は布を潤ませて。
「私も……私も、もめ太郎さんのことが好き! 貴方になら、食べられちゃったっていい……!」
「もめ子さん……!」

●心安らぐグリモアベースの映像をお楽しみください
「状況は理解していただけたかな?」
 なにひとつ分かんねえんだよなあ。
「やっぱり駄目か。カクリヨファンタズムでいつものどんちゃん騒ぎ――じゃねえや、世界の崩壊が始まっている。至急対処してほしいかなって」
 お葬式を通り越して地獄のようなムードの漂う聴衆に、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はへらりと笑いかけた。

「簡単に言うと、幽世から『毒』の概念が失われた」
 それがどうしてあんな、目に毒な事態になるというのか。
「たとえば『味』の概念が失われると、食べ物が塩味ばかりの空しい世界になるらしいんだけど……今回はいわばその逆だな。あらゆるものがとても美味しく感じられる。どう考えても食べ物じゃないものを食べても、お腹を壊すこともない」
 ――『毒』と聞くと、むしろ無くなったほうがよいもののように思えるかもしれない。しかし世の中には『食べていいもの』と『食べてはいけないもの』がある。そうした線引きがあるからこそ、世界の秩序は保たれている。
 その概念が失われると、ひいては食に関する善悪の区別までもが失われる。……巻き込まれた現地の妖怪たちは、紙であろうが石であろうが、隣を歩く恋人であろうが、構うことなく口に入れようとする状態だ。
「特に、魅力や愛着を感じているもの――『可愛い』ものを食べたいと思う傾向があるみたいだよ。そこ、微妙な顔をするんじゃない。君たちも転送され次第同じ影響を受けるんだぞ」
 幸いにも、と言ってよいのか。異変の中心地は大規模な妖怪商店街であり、魅力的な品物には事欠かない。今のところ、妖怪たちの多くは人形や食器などの雑貨に舌鼓を打っているようだ。しかし、それらが食い尽くされれば――美食の快楽に支配され、倫理が崩壊した世界で、いったい何が起こるだろうか。
「つまり、意外と一大事だよ。気を引き締めてお願いね」

 アルバム型のグリモアを開き、転移を行うその前に。
「そうそう。向こうでまず襲いかかってくる敵は、異変の混乱のなかで骸魂に飲み込まれてしまった一般妖怪だ。基本的には倒せば救出できるけど、度を過ぎた真似は控えてね」
 どんなに可愛い子が居ても。
「――食べちゃ、駄目だぞ? それじゃあ出発進行だ」


八月一日正午
 お久しぶりです! わたぬきしょーごです(嘘)。
 今回はカクリヨファンタズムからゆるゆるテンションでお届けします。
 各章、冒頭に状況説明の無人リプレイを投稿します。それと同時にプレイング募集開始です。その他詳細な執筆スケジュールはMSページにてアナウンスいたします。

●1章・2章
 突然『毒』の概念が失われた妖怪商店街での戦闘です。1章は漂う骸魂に飲み込まれた妖怪たちとの集団戦、2章は元凶とのボス戦になります。
 オープニングの説明通り、あらゆるものがとても美味しく感じる状態になっています。味には全く差がないので、『可愛い』と思うものを特に食べたくなるようです。『格好いい』とかでもOKです。
 飲み込める大きさのものであれば、材質や形状を無視して食べられます(というか、気を抜くと食べてしまいます)。毒という概念がないのでお腹は壊しません。
 ぶっちゃけどんちゃん騒ぎしてるだけでも話は進みますが、公序良俗があまりにも崩壊してるとマスタリングが入ります。

●3章
 異変解決後、妖怪商店街での日常になります。
 食べ残された商品の片づけを手伝ったり、たくましく営業再開しているお店を見て回ったり、ご自由にお楽しみください。
 ご指定のある場合のみ、臥待も同行しますよ。
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第1章 集団戦 『ねこまたすねこすり』

POW   :    すねこすりあたっく
【もふもふの毛並みをすり寄せる】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ねこまたすねこすり仲間】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    いつまでもすねこすり
攻撃が命中した対象に【気持ちいいふかふかな毛皮でこすられる感触】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する心地よい感触】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    きもちいいすねこすり
【すねこすり】を披露した指定の全対象に【もっとふかふかやすりすりを味わいたい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●子猫吸引健康法で誰でもマイナス15kg
 感情を糧とする妖怪たちにとっては、お祭りもまた生活必需品。
 ここは年中お祭りムード全開の妖怪商店街。迷宮のような通路に縁日さながらの店舗が並び、アップテンポの笛の音が購買意欲を煽ってくる。昔から変わらぬ店構えの老舗もあれば、ころころと中身を変える流行の店もある。タピオカ屋からわらびもち屋に変わっても店主は同じだったりして、けれど細かいことは誰も気にしない。そういう場所だ。
 つまりどんちゃん騒ぎは元からなのだが、それを差し引いたとしても、――『毒』の概念が消失した妖怪商店街は、大混乱の渦中にあった。

「ゆめかわ~」
「映え映え~」
 最も賑わっているのは商店街の中心、イベントブース。折しも現在『ほっこり北欧妖怪雑貨フェア』の真っ最中である。北欧妖怪って何? 勝手に新種族を作るなという話なのだが、まあそのへんは商売なので適当だ。
 可愛らしいぬいぐるみや、素朴な造形のカトラリー、そのほか正直用途のわからない謎の置物エトセトラが――君たちの目にはとても美味しそうに映ることだろう。正確に言えば世界の全てが美味しそうに見えるので、最終的に外見で判断することしかできないのだ。
 もちろん、フェアの商品以外にも魅力的な品はいくらでもある。貴方の好きなものは絶対どこかで見つかる。それが妖怪商店街。
 ひょいぱく、ひょいぱく、一般妖怪たちが夢中で雑貨を口に運ぶ。早くしないと無くなってしまう。そんな焦りに抗ってもいいし、負けてしまうのも一興かもしれない。

「かさ子さん……!」
「かさ太郎さん……!」
 ネーミングセンスどうにかならないの? というのはさておいて。妖怪にしろ猟兵にしろ、モノより他者との繋がりを重視する者もいるだろう。
 ……などと表現すれば綺麗に聞こえるが。唐傘小僧と唐傘小娘がぺろぺろぺろぺろ睦み合っているところなぞ、どう見ても公衆の面前で繰り広げていい絵面ではない。食べちゃいたいくらい可愛いよってか! 慎みを持てバーカ!!!
 筆者取り乱しました。
 一応のところ、生き物相手には舐めたり甘噛みしたりといった行為で留める理性がはたらく余地があるようだ。『毒』の概念が失われても、殺生は善くないという感覚は残るらしい。しかし、このまま異変が続いて倫理の崩壊が進めば、やがてはその一線も破られることになる。爆発しろとか死語を言っている場合ではない。
 なので君たちもほどほどにするんだぞ。

 そして、猟兵たちに立ちはだかる最大の敵――。
「にゃーん」
 ネコチャンです! かわいいねー!
 商店街の路地裏には猫又がいっぱい住んでいるけど、普段はとっても恥ずかしがりや。こんな風にナデナデしたら逃げていっちゃう。でも今はなんと『すねこすり』の骸魂に飲み込まれているので、逃げるどころか積極的にすねをこすってきます! 最高か?
 はー、やはり人類は愚か……唐傘小僧も愚か……モフモフのみがこの世の救い。ちょっとかじられたりしても全然気にならない。筆者のあんよ美味しいでちゅかー? 良かったでちゅねー! ぺろぺろぺろぺろ。すーはーすーはー。
アン・カルド
夜刀神君(f28122)と。

前に言ったことがある…喰らうことは究極の愛の形だ、そうでもしないと僕らは一つになれない、ってね。
僕は大切な相手になら喰うのも喰われるのも悪くはないと思ってるが…夜刀神君はどうだい。

そうか、それは夜刀神君らしい愛の形かもね。

おっと、問答をしている場合じゃないや…食べたくなるほどかわいい猫のおでましだ。

かわいいものにはかわいいもの、【縫包】。

夜刀神君、食べるならまだ害の少ない方にしておこう…って大丈夫かい?羽根に何か引っかかってたりしたかな…

おや、猫の方が先に食べ出したね。
ああ、ハラ綿が撒き散らされて唐突なスプラッタ…これはかなりかわいくない、おかげで食欲減退だ。


夜刀神・鏡介
アン(f25409)と

愛の形……ときたか。それで一つになれるとしても、俺は喰うのも喰われるのも遠慮したいな
完全に一つになるよりは、大切な人と一緒に歩き、触れ合っていたいからな

敵……猫も中々に可愛らしい。確かに確かに食べちゃいたい程可愛い。なんて言い回しもあるが、しかし実際に食べようとは……等と言いながら、アンの羽根に手を伸ばし
いや待て、俺は何をしようとした。深呼吸をして切り替える。変な事をする前に片付けよう

……ああ、流石に縫い包みと言えども喰われている所を見るのは少々気持ち的にくるものがある
食い気もなくなった所で伍の型【赤雷】。動き回る猫の本体を傷付けないよう慎重に、骸魂部分だけを貫き攻撃



●ディスコミュニケーション以上理解者未満
「前に言ったことがある」
 どんちゃん騒ぎの商店街を、有翼の娘がゆっくり進む。翔べば早い、という訳にも行かない。純銀相応の質量を持つ羽根は、むしろ彼女を地上へと縫い留める。
 通りを眺める表情はどこか眠たげだ。ぬりかべの恋人同士が互いの角を食み合う姿を見かけても、眉を顰めるでもなく、頬を赤らめるでもなく。
「……喰らうことは究極の愛の形だ、そうでもしないと僕らは一つになれない、ってね」
 今ここで繰り広げられているのは、『前』のような血塗れの惨劇ではなく――むしろ間抜けな光景だけれども。アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)の銀の瞳は、全く毛色の異なる事件に共通の理を見出していた。
 肌という壁を破って、腹の底で溶かして、己の一部と変えてしまう。愛という感情を一種の独占欲とするならば、それを叶える手段として補食に勝るものはあるまい、と。
「愛の形、……ときたか」
 一方。彼女から半歩ほど退がった位置を保って、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)もまた平然とぬりかべたちの前を通り過ぎた。こちらはこちらで、授業で当てられた学生のような、謎かけを投げられた弟子のような、真面目くさった顔である。
 アンが首だけで振り返ると、両の翼がしゃらりと鳴った。
「僕は、大切な相手になら喰うのも喰われるのも悪くはないと思ってるが……夜刀神くんはどうだい」
「それで一つになれるとしても、俺は喰うのも喰われるのも遠慮したいな」
 苦みのない、微笑。
「完全に一つになるよりは、大切な人と一緒に歩き、触れ合っていたいからな」
 成程、人の世を生きる上では真っ当な回答である。その声色も、表情も、きっちりと襟の詰められた学生服風の軍衣も、倫理の崩壊した幽世ではどこか浮いていた。
「そうか、それは夜刀神くんらしい愛の形かもね」
 これじゃあまるで僕だけが、狂った世界にあてられているみたいじゃないか。……なんて拗ねた気持ちも沸くけれど、それも不思議と心地よかった。
 翼を引き摺るゆえに遅くなりがちなこちらの歩みに、彼は合わせてくれている。確かに、悪くないひとときだ。
「おっと、問答をしている場合じゃないや――」
「にゃーん!」
「食べたくなるほど可愛い猫のおでましだ」

 ――ふたりの前に立ちはだかるのは、何匹かのねこまたすねこすり。略してねこねこ。
「敵……」
 なんて言葉は似合わないな、と、鏡介は少し思案して。
「猫も中々に可愛らしい」
「本当に逃げないねえ。警戒心がないみたいだ」
「にゃんごろ~」
 サバトラ柄の個体がアンの足元に擦り寄って、ころりとお腹を見せてくる。そのあまりにも無防備な仕草が、妙に、食欲をそそる。
「夜刀神くん、食べるならまだ害の少ない方にしておこう」
 そう言う彼女も、ふかふかすりすりを文字通り『味わいたい』気持ちを抑えているのだろうか。鏡介の鼻先で、重たげな翼がそわそわ揺れた。――金属と羽毛の質感を併せ持つ彼女の羽根は、よく練った飴にも似た独特の光沢がある。
「確かに、食べちゃいたい程可愛い。なんて言い回しもあるが。しかし実際に食べようとは……」
 などと言いながら、自分の手元に目をやると。
 ……ほとんど無意識のうちに、まるで野花でも摘むように、指先が彼女の羽根へと伸びていて。
「いや待て」
「うん?」
 俺は今、何をしようとした。
「……って、大丈夫かい?」
「大丈夫。……アンに言ったわけじゃないんだ」
「そう?」
 羽に何か引っかかってたりしたかな――と、不思議そうに小首を傾げる彼女から視線を外す。深呼吸をして切り替える。……世界が崩壊するほどの異変を、少々甘く見ていたか。無関係のつもりでいると、いつの間にやら飲み込まれる。
 変な事をしてしまう前に片付けよう。

「もぐ……もぐ……にゃーん」
 さっきのサバトラねこねこはといえば、アンのスカートにじゃれついて、その裾を齧っているところであった。
「流石に服を食べられる訳にはいかないな――かわいいものにはかわいいもの、『縫包』」
 ライブラの愉快話、縫包《ヌイグルミ》の章。
 魔導書から召喚される大量の動くぬいぐるみは、場の雰囲気に合わせて全員ネコチャン仕様だ。
「にゃん? にゃーん!」
 ねこねこたちも仲間が増えたと思ったのだろう。大喜びでふわふわもこもこの海へと自ら埋もれていく。
 そうやって、しばらくじゃれて、やがてそれらが仲間ではなく、生命のない玩具だと認識すると――。
「おや」
「うーん」
 当然、食事の時間が始まった。
 あむあむと布地にかぶりつく。牙で破れた箇所から弾けるように綿が零れる。あらゆるものが美味であることは変わらないので、柔らかく口当たりの良いほうにねこねこたちが惹き寄せられる。
「ああ、ハラ綿が撒き散らされて唐突なスプラッタ……」
 散乱していく布地も綿も、美味しそうには見えるのだが。なんというか、それが却って生々しい。
「これはかなりかわいくない、おかげで食欲減退だ」
「……ああ、流石に縫い包みと言えども……喰われている所を見るのは、少々、気持ち的に来るものがある」
 動くぬいぐるみというところもよろしくない。引き裂かれながら手足をばたばたさせている様子は、ちょっとした有害コンテンツだ。ある意味、生命の神秘かもしれない。
「しかしまあ、お陰で食い気も醒めたな」
 鏡介が、使い込まれた刀を抜く。――呼吸さえ整えば、為すべきことは定まっている。ねこねこたちは綿の食感にすっかり夢中だし、動き回るとは言っても単調で読みやすいものだ。
 本体を傷付けないよう慎重に、彼らを取り巻く骸魂だけを削ぐように。

「稲妻が如く――」
 五の型、『赤雷』。

「うにゃんっ」
 ……猫又が、びくりと震えて地面に伏す。
 すねこすりの骸魂から解放されると同時に、元の臆病な性格を取り戻したのだろう。いくらかの綿を咥えて、目にも留まらぬ速さで路地裏へ駆けこんでいく。
「あんなに懐っこかったのに。少し残念だな……」
「そうも言っていられないだろう」
「まあね」
 しゅん、と垂れるアンの翼をちらりと見て。――この異変は一刻も早く終わらせよう、という決意を固める鏡介であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神代・凶津
皆、雑貨を食ったり恋人と舐め合ったりしてんな。
せっかくの機会だ。なんか雑貨かじってみるか、相棒?早くしないと無くなっちまうぜ?
「・・・しませんよ。そもそもちゃんと自分を律してれば、そんな誘惑に抗うのは難しくありません。」

と、このモフモフは敵か。素早く片付けるとしようぜ相棒・・・相棒?
(巫女はモフモフを抱き上げると、ぺろぺろぺろぺろ、ちゅぱちゅぱ、すーはーすーはー、し始めた)
相棒ーーーーーーッ!?
自分を律する云々はどうしたあああッ!!?
「可愛いでちゅねぇー。」
もはや律する所かキャラ崩壊してんじゃねえかッ!?
(この後、鬼面が体の主導権を奪ってモフモフを妖刀でずんばらりしました。)


【アドリブ歓迎】



●即落ちもまた日本の伝統芸能ですからね
 毎日お祭りがモットーの妖怪商店街には、縁日によくある店がだいたい揃っている。
 射的に型抜き、金魚すくい。そして誰もが視線を惹かれるであろう、流行りのキャラクターが並んだお面屋さん。
 その賑やかな一角を、涼しげな瞳で眺める巫女装束の女性が一人。
 つややかな黒髪の流れる後ろ頭にも、真っ赤な鬼の面がひとつ。プラスチックの量産品とは一線を画す、重厚な造りの逸品だ。
「皆、雑貨を食ったり恋人と舐め合ったりしてんな……」
 それもそのはず。――『彼』こそが神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)、長年の相棒である巫女を伴って世界を巡る、意志持つ仮面なのである。

「せっかくの機会だ。なんか雑貨かじってみるか、相棒?」
 なにせ、周囲は世界崩壊レベルのどんちゃん騒ぎだ。射的の景品はあらかた食い尽くされているし、店に寄ってきた幼い妖怪たちは型抜きを爪楊枝ごと食べている。
「型抜き屋の奥さん、俺はもう……!」
「だめっ、私にはあの人が……!」
 店主たちもそれを咎めるどころか、お互いを舐め合っている始末。
「早くしないと無くなっちまうぜ?」
 どうせ元からこの惨状だ。猟兵の仕事ついでにひとつふたつ、『可愛いもの』を食べても罰は当たるまい。
「……しませんよ」
 しかし。相棒と呼ばれた女性は、眉を動かすことすらなく、ただ『美味しそうな』商品を眺めるのみだ。
「そうか? 随分と熱心に見てると思ったが」
「これは……著作権について考えていただけです」
 どことなくカバに似た北欧妖怪のお面と、緑の三角帽子をかぶった北欧妖怪のお面。……確かに色々と問題のありそうなデザインが並んでいるが、幽世にUDCアースの法律は通用しないようだった。
「そもそもちゃんと自分を律してれば、そんな誘惑に抗うのは難しくありません」
 概念の消失などと言っても、要は食欲を我慢すればよいだけの話。これも巫女としての修行の一環と思えば、彼女にとっては容易いことである。
 視線を外して、踵を返せば、新たな店が目に入った。
 ――金魚すくいの店に群がる、大量のねこまたすねこすり。略してねこねこの群れの姿が。

「と、このモフモフは敵か」
 骸魂に飲まれた妖怪は一時的にオブリビオンと化してしまう。彼らの場合、やりすぎない程度に倒せば骸魂である『すねこすり』が剥がれ、本体の『猫又』が救出できる。
 幸い、ねこねこたちは水槽の中の金魚を捕るのに夢中なようだ。
「素早く片づけるとしようぜ相棒――」
 凶津の呼びかけに応じるように、巫女はモフモフのねこねこをまとめて抱き上げる。……抱き上げる?
「……相棒?」
 ぺろぺろぺろぺろ。
 ちゅぱちゅぱちゅぱ。
 すーはー、すーはー、すーすーはー。
「相棒――――――ッ!?」
 流れるように美しい敗北であった。まあ仕方ない、縁日には綿飴も欠かせませんからね。ちょうどそれっぽいのが居ましたからね。そういう問題じゃない? いいじゃないですかモフモフは正義なんだから。
 舐めれば究極の甘味が舌に拡がり、唾を飲みこめば脳が痺れる。思いっきり吸うとかすかに野良猫のにおいがするものの、それもまた極上のスパイス。惜しむらくは、凶津のほうは完全に置いてけぼりという点か。
「自分を律する云々はどうしたあああッ!!?」
「可愛いでちゅねぇー。おしゃかな美味ちいでちゅかー?」
「もはや律する所かキャラ崩壊してんじゃねえかッ!?」
 ねこねこのお腹にすっかり埋まった巫女の顔面は、おそらく、皆様にはとてもお見せできない状態となっていることであろう。
「ああもう体貸せ――ッ!」
 彼女の名誉を守るため、埒の明かない状況にオチをつけるため、鬼面がぐるりと回って巫女の顔を覆い隠す。若干の抵抗を示す宿主からなんとか主導権を奪い、やけくそ気味に無銘の妖刀を抜く。
 この後、凶津が無事にモフモフをずんばらりして、骸魂を引っ剥がすことには成功したのだが――いつも無口な相棒が、しばらく口を利いてくれなかったことも言い添えておこう。

成功 🔵​🔵​🔴​

豊水・晶
うう、よだれが止まりません。
ごめんなさい、藍。少しだけ、耳だけ舐めても良いですか?
え?だめ。ご主人を舐めさせろ?
わっぷ!?
こら藍そんないきなり、わっぷ。
ああもうほら、オブリビオン倒しにいきますよ!

あう、ネコチャンカワイイ。あっ、こっちに集まって…ええ!もふもふの山!
わー!
哀れもふもふの津波に飲み込まれてしまった。
ふふっあはは、ちょっと!くすぐったいです。そんなとこ舐めないでください。あははは、離れなさーい。指定UC発動全部水で押し流す。
ふぅふぅ、疲れた。
そういえば加減を考えずにやってしまいましたが、大丈夫でしょうか?特にもふもふに絆されて世の理を悟っていたような人間の方とか?


カイム・クローバー
※アドリブ歓迎

…俺が今まで見て来た中でも、トップクラスにヤバイ世界消滅の危機だ。ほら、心なしか天のお声(筆者様)も色々ネジが外れ掛かってる気がするしよ?

猫は俺も好きだぜ。…が、このまま放っておくとそのキュートさに狂っちまうヤツも出て来そうなんでね。
こっちも仕事だ。少し扱いは荒いが、悪く思うなよ?
魔剣を顕現。んでUC。燃やすつもりは全くない。目くらましや視界を奪う為のちょっとした派手さの演出さ。猫の動きを止めて、背後から掴んで軽く振ったら気絶しそうじゃねぇか?
魔剣も銃も正直、あの見た目じゃ気が滅入る。
後は積荷をワザと崩して猫の足を止めるのに利用したりとかにも使えそうだ。……店主には迷惑だろうが。



●第四の壁を越えていけ
「ママーっ、くすぐったいよー!」
「ふふ、可愛いわねえ」
 妖怪商店街を訪れる客はカップルだけではない。子供向けの遊び場や玩具が並ぶ一角には、仲睦まじい親子連れの姿が散見される。ちなみに今のは轆轤首の母娘だ。
 ……時間が経つにしたがって、妖怪同士で舐め合ったり甘噛みしたりといった行為に及ぶ者が増えてきている。商品が喰い尽くされているのも一因ではあるが、何より倫理の崩壊が進んでいる証拠だ。
 この状況を打破できるのは、君たち猟兵しかいない!
「うう、よだれが止まりません……」
 いきなり駄目そうですねこれは。
 ――玻璃の髪に宝玉めいた二色の瞳、滅多なことでは揺らがぬ柔和な笑み。豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)が本来纏っている筈の竜神としての気品すらも、幽世のどんちゃん騒ぎにかかれば崩壊寸前だった。
「ごめんなさい、藍……」
 唇をかたく結んで、傍らの獣に肌を寄せる。無意識に、ごくりと喉が鳴る。
 藍というのは式神の名だ。元は狼の姿だが、今は大型犬ほどの抱き着きやすいサイズで顕現してくれている。公私共に晶を支えてくれる健気なパートナーであり――当然のごとく、かわいい。世界一かわいい。目に入れても痛くないほどかわいいが、今は口に入れてしまいたい。
「少しだけ……、耳だけ舐めても良いですか?」
 耳の先端あたりなら多分、倫理的にセーフ。特に根拠はないがそういうことにした。しかし、晶の切なお願いに対して、藍はふるふると首を横に振る。
「え? だめ……?」
 動物特有の澄んだ瞳が、『ご主人を舐めさせろ』と訴えていて。
「わっぷ!?」
 一秒も経たずにその通りになった。
「こら藍そんないきなり、わっぷ」
 まっしぐらである。けして普段から『待て』のできない式神という訳ではないのだが、藍だってご主人が大好きな気持ちは人一倍、もとい狼一倍なのだ。
 こちらも我慢の限界だったのだろう。覆いかぶさるように抱き着いて、嬉しそうにぺろぺろ顔を舐め回してくる。……そんな姿も、やっぱりかわいい。
「あっ、耳、耳は駄目です……!」
 そして前言撤回――耳は良くない。色々と。

「妖怪どころか猟兵までも、か……」
 そんな惨状……惨状? を見ながら、双眸を鋭く細める青年が一人。
 ――カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、邪神案件を中心に活動している便利屋だ。しかし猟兵としてもかなりの歴戦であり、あらゆる世界で解決してきた事件は枚挙に暇がない。そんな彼からすれば、この程度の異変で正気を保つことなど造作もないのだろう。
「……俺が今まで見て来た中でも、トップクラスにヤバイ世界消滅の危機だ」
 え、この流れでそこまで言います? 貴方が?
「いやほら、まず絵面がヤバいし。心なしか天のお声も色々ネジが外れ掛かってる気がするしよ?」
 いえいえそんな、天のお声だなんて。わたくしはギャグ時空にあてられて自我の芽生えたしがない地の文に過ぎません。お気になさらず続きをどうぞ。
「会話が成り立っていいモンなのか……?」
 それは……その……。
「にゃーんっ!」
 あっナイスタイミングでネコチャンの群れです! かわいいですよー!

「ああもうほら、オブリビオン倒しにいきますよ!」
 藍による全力の愛情表現からは辛くも逃れられたようで。物足りなそうな相棒を宥めつつ、気を取り直して瑞玻璃杵を構える晶。
「にゃん?」
「あう、ネコチャンカワイイ」
 しかし彼女を待ち受けていたのは、更なるもふもふの罠であった。ねこまたすねこすり、略してねこねこ。まんまるの身体に人肌を求める心を宿した彼らは、よく懐いた子猫のように擦り寄ってくる。
「あっ、こっちに集まって……」
「にゃにゃにゃにゃ」
「ええ! もふもふの山!」
 どうしよう。こんな小さな命に向かって、武器を振り回したりできようものか。……なんて逡巡する間にも、辺り一帯はもふもふの山になり、もふもふの海になり。
「わー!」
 羨ましくも――いや、哀れにも、もふもふの津波に飲み込まれてしまう晶であった。

「猫は俺も好きだぜ」
 あくまで余裕の笑みのカイムは、その手の内に『神殺し』の魔剣を顕現させる。
「……が、このまま放っておくと――そのキュートさに狂っちまうヤツも出て来そうなんでね」
 約一名手遅れっぽかったんですけどそれは……クールに決めてらっしゃるところに野暮ですかね。
「にゃー……?」
 猫という単語を聞いて、自分が呼ばれたと思ったのだろうか。何匹かのねこねこがカイムの足元へ寄ってきた。普段の臆病な猫又であれば、武器を見ただけで怯えて逃げていただろう。骸魂に飲み込まれているぶん、少し強気なのかもしれない。
「こっちも仕事だ。……少し扱いは荒いが、悪く思うなよ?」
 ステップで距離を取り、刀身が当たらぬように注意を払って、――無慈悲なる衝撃《インパルス・スラッシュ》。
 可愛らしいねこねこたちを燃やすなんて、本当に無慈悲な真似をするつもりは全くない。放たれた黒銀の炎は彼らの頭上を通り過ぎ、売れ残りセールのワゴンや、店の看板を軽く燃やして、……瞬時に消える。
 ただそれだけの目くらまし、視界を奪う為のちょっとした派手さの演出だ。
「にゃッ!?」
 しかし元々臆病なねこねこたちには効果覿面。震えあがって動きが止まったところを背後から掴み、脳を揺らすイメージで軽く振る。
「……にゅ~……」
「よし、これで気絶させられそうだな……」
 もちろん、非効率的な方法である。炎で直接灼いたほうが何十倍も早いだろう。骸魂に憑かれていれば簡単に死ぬこともない――としても、まあ。
「正直、この見た目でそりゃ気が滅入る」
 怯えて逃げていく姿を見るだけでも、まるで弱い者虐めのような気分になってくる。
「っと、逃がす訳には行かねえな」
 二発目の衝撃で積み上げられた在庫を崩し、ねこねこたちの逃走ルートを塞ぐ。……これも銃を使えば早いのだろうが、さっきと同じ理由で却下だ。

 一方その頃。
「ふふっあはは、ちょっと! くすぐったいです」
 炎上騒ぎに気付いていないねこねこ達、そしてしっかり藍も加えて、晶は相変わらずもふもふに揉みくちゃにされていた。
「そんなとこ舐めないでください。こらっ藍もっ、ネコチャンもっ」
 この世の天国にいるような満面の笑顔だが、猟兵としての仕事は忘れていない。一応、さっきから振り払おうとはしているのだが。脚からねこねこを退ければ藍が腕にじゃれつき、腕から藍を退ければねこねこが脚にじゃれつき、その度にくすぐったくて堪らない。いつまでやっても埒が明かなかった。
 かわいくて、おいしそう。野良猫らしい獣のにおいが、白米の炊ける甘い香りのように思えてくる。……こちらの感覚が壊れてしまうまえに、この状況をなんとかしなければ。
「あははは、ふっ、ごめん、ね、――離れなさーい!」
「にゃーっ!?」
 竜神の権能、龗《オカミ》の激昂。――彼女の角と同色の水晶きらめく激流が、ねこねこ達をまとめて押し流す。
 そして崩れた積荷に堰き止められて、折り重なるようにして気を失っていく。妖怪といっても猫は猫、水は大の苦手であった。
 ……最後まで傍らに残ってくれた藍を抱えて、晶は大きく息を吐く。
「ふぅふぅ、疲れた……」
 加減を考えずに水流を召喚してしまった。ねこねこ達を傷付けず無力化するには、良い手だったと思うのだけど。
「大丈夫でしょうか?」
「……そりゃ店主には迷惑だろうが……」
 見渡す限り、商店街は嵐の後のような有様である。散らばった積荷の中身は後で片付けることになるだろうが、そうなる前に食い尽くされてしまう可能性もある。
「ま、この騒ぎじゃあ仕方ねえって。……客連中は俺の『演出』で逃げてたみたいだし、そっちの心配も無用だぜ」
「そう……ですか? 確か、いらっしゃいませんでした? もふもふに絆されて世の理を悟ったり……虚空からやたら親しげに話しかけたりしてくる方が……」
 気、気のせいじゃないですかねっ?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

佐藤・和鏡子
……これも愛の形なのでしょうか?
(露店で買った北欧料理の形を象った玩具をかじりながら)
看護用モデルとしてこうやって飲食も行え、感覚もあるなど、人間に寄り添えるように作られていても、こういうところでは人と機械の距離を感じてしまいますね。
ガジェットショータイムでマタタビエキスの噴霧器を作って辺り一面にばら撒きます。
いくら骸魂でも猫の生物としての特性からは逃れられませんから。
マタタビエキスで興奮させ、すねこすりと遊んだり、私のすねをこすらせることで消耗させることで骸魂を追い払います。
(靴を脱いで素足になってすねをこすりやすくします)
『おいで。私の足ならいくらでもこすって良いですよ』


ルネ・プロスト
※ルネは大したぬいぐるみ狂い故不意にぬいぐるみに接する機会あらば←のようにもなる(いつもは頑張って自重してる)が、今回はただのにゃんこであるためかわいいなーとは思うものの、でもやっぱりぬいぐるみの方が一京倍かわいいよねといつものすかした無表情のまま通常運転で思うのでしたまる

Q.要約すると?
A.ぬいぐるみこそ至高の存在

というかルネ人形だから元々毒効かないし三大欲求もないから、全部美味しく食べられる以外いつもと変わらないね?(金属片ばりばり

さって味見も済ませたし、街の覗き見続けようかな
……すねこすり達?
ビショップ達の張った雷の結界(属性攻撃&オーラ防御)に突っ込んで哀れ感電真っ黒焦げだよ(目逸らし



●やさしさの対象
「にゃーん」
「くっ……」
 説明しよう。ルネ・プロスト(人形王国・f21741)は死者の魂を宿すことで知性を獲得した異端のミレナリィドールである。死霊と人形はみんなお友達。生命無きもの、造られたものとしての同族意識がある故か――いや、そのへんのシリアスを全部差し引いたとしても――大したぬいぐるみ狂いであった。
 連れ歩く駒盤遊戯《ドールズナイト》たちの無骨にして繊細な造形もまた美しいけれど、ふわふわもふもふの可愛らしさはまた別腹。じゃなくて別格。
 そして、今まさに商店街の曲がり角より現れたるはねこまたすねこすり、略してねこねこである。こんなまんまる毛玉の不意打ちを喰らおうものなら、どうしたって心が揺れる。瞳から星が飛び散りもする。
「しかし今回は――ただのにゃんこ」
「にゃーん?」
「……ただのにゃんこ」
 二回言った。
 現実離れした丸っこさではあるものの、所詮は生命体の範疇である。いつものすかした無表情はしっかり保った。ほんとだよ。
「そりゃかわいいなーとは思うよ? 思うものの、ってやつだよね。ほら、計算し尽くされた縫製のさ、曲線美とか、白銀比の良さには敵わないよね。やっぱりぬいぐるみの方が一兆倍、いや一京倍かわいいよね、と、思うのでしたまる」
「要約すると……?」
「ぬいぐるみこそ至高の存在」
「なるほど」
 おおむね通常運転のルネの隣で、もう一人の少女が当たり障りのない相槌を打った。
 同じミレナリィドールとはいえ、佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)は看護用モデルとして設計された存在である。良くも悪くも偏った趣味嗜好を持ち合わせていない。だからこそ、あらゆる思想に共感的な態度を取ることもできるのだが。
「愛の形はひとそれぞれ、ですよね」
 文学的な表現に言い替えつつ、和鏡子は手にした雑貨を一口かじる。
 北欧風のジャガイモ料理を象った、おままごと用の玩具である。一応しっかり金銭を支払って購入した品だ。『毒』の概念が失われた商店街はもはや売り買いどころの騒ぎではなく、渡した貨幣はすぐさま店主に食べられてしまったけれど。
「……これも愛の形なのでしょうか?」
「おやつ感覚でかじるのは、愛とはちょっと違う気がするけど」
 そう言うルネも、元は食器であった金属片をばりばりかじっていた。ちなみにこっちは勝手に拝借した品だ。
 ……確かに、とても美味しいとは思う。味覚の鈍いルネからすると新鮮な体験である。しかしまあ、物珍しいという以上の感情は特に湧いてこない。
「というかルネ達人形だから元々毒効かないし、三大欲求もないから――全部美味しく食べられる以外いつもと変わらないね?」
「ええ」
 和鏡子にも飲食を行う機能があり、美味しいという感覚がある。患者の心に寄り添うためだ。……しかし、彼らと同じように、美食に狂うことまではできない。そういう風には、造られていない。
「こういうところでは、人と機械の距離を感じてしまいますね」
「人間と人形は別のものだよ」
 何を今更、と言いたげな顔で、ルネは最後の一片を口に放り込む。
「さって味見も済ましたし、街の覗き見続けようかな――」
 涼しげに歩みを進める人形たちの目の前に。
「にゃーん!」
「にゃにゃーん!」
 先程の塩対応にリベンジしようと言わんばかりの、ねこねこの大群がお出ましである。

「かわいい猫ちゃん達ですが……骸魂を追い払うのが先ですね」
 あくまで穏やかな調子で、和鏡子は愛用の救急箱を開く。――お馴染み、ガジェットショータイム。今回召喚されたのは、消火器によく似た円筒状の謎装置だ。
「毒ガスかなにか? 毒の概念がなくても効くのかな」
「いえ、これは『もっと素敵なもの』です」
 トリガーを引くと同時、辺り一面に真白い霧がばら撒かれる。細かな水滴はあっという間に揮発して、花のような甘い香りがその場に漂った。
「にゃっ……」
「にゃあ~~~ん!!」
 途端に色めき立ち、大興奮でその場を転がり回るねこねこ達。いくら妖怪でも、骸魂に飲まれていても、――猫の生物としての特性からは逃れられない。
「マタタビエキスか……。確かに適量なら毒じゃないよね」
 へにゃへにゃになったすねこすりを避けつつ感心していると、僧正人形《ビショップ》が恭しく手を差し伸べてきた。足をかけて、肩へと座る。ねこねこ達は全員腰砕けなので、上に登れば安全だ。
 そんなルネとは対照的に、和鏡子は自ら靴を脱ぎ、こすりやすいよう素足を差し出す。
「おいで。私の足ならいくらでもこすって良いですよ」
「にゃーんっ」
「にゃー!」
 歓喜の大合唱である。埋もれてしまうのではないかと思うほどの勢いを受け止めて、しかし慈愛に満ちた表情は崩さない。身体的にも、精神的にも、耐久力は人一倍。その気になればいつまでだって倒れることなく立っていられる。……彼らの好きなだけ遊んであげて、骸魂が力尽きるまで消耗させるのが和鏡子の作戦だ。
「よしよし、順番ですよ」
 喉を鳴らして擦り寄ってくるねこねこ達の姿はかわいいものだ。食べちゃいたいくらいに、という表現をすることだってできる。
 しかし、和鏡子の思考回路に、予知で視せられたような衝動は生まれない。
 それは己が機械だからか。『魅力』や『愛着』という言葉の示す本当の意味を、未だ知らないからなのか。
 小首を傾げて、それを尋ねてみようかと思った相手は――いつの間にやらしれっとどこかに消えていた。

「よくやるなあ……」
 もちろん、あんなまだるっこしい捨て身作戦に加わるつもりなどルネにはなかった。そりゃモフモフだし、ちょっとだけいいかなとは思いはしたけれど、どうせすぐに飽きるに決まっている。
 マタタビに夢中のねこねこの群れから離れ、のんびりと商店街の物見遊山を続ける構えだ。
「にゃ~ん」
 時折、そんなルネのすねを目指して飛び掛かってくる子が居るものの。
「にゃッ!?」
 僧正人形たちの展開する雷の結界に突っ込む形となり、哀れ感電真っ黒焦げである。……まあ、ほら、死にはしないらしいし。非人道的行為じゃないし。それでもちょっと気まずいので、微妙に目は逸らしておく。
 同じように優しくしてやる必要はないはずだ。――そう振る舞うために造られたらしい彼女と、ルネとは違う人形なのだから。自分の意味も、目的も、今はまだわからないけれど。
「あの子はあの子、ルネはルネ」
 そんなことより、食べられそうになっているお友達が居たら助けてあげないと。
 人間や妖怪と違って、人形は声を上げられない訳だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

フンフンフン
可愛くてイイ感じで美しいものほどおいしそうに見えるってことだね!
つまり…
わぁい猫くん妖怪くんたちがいっぱいでボクが大ピンチ!
あはははははくすぐったいよー!

[餓鬼球]くんはどう思う?あ、このいい感じの反り具合のセコイアの樹食べてみる?
「――――」
そっかー あ、この石灯籠なんてどうかな!
「――――」
うーん…
元から何でも食べるし何食べても美味しいとしか言ってくれないから違いが分からない!
あ、じゃあイイ感じにパクッと咥えてペロペロして骸魂だけ吸い取っちゃってね
ダメッ!ほらちゃんとペッ!して!ペッ!
よーしよしいい子いい子!
後で好きなもの食べさせてあげるからね!


風見・ケイ
ちょい待ち
僕から毒をとったらただの馬鹿力やん
慧ちゃんは僕が行くん心配しとったけど、最近出番も少なかったしこういう時に出演しとかんと(転送)

――僕は風見、荊……やったような……
自分が薄くなったというか半分になったというか
僕も何言うとるのかわからんけど
骸魂を倒せばなんとかなるんやっけ……こんな僕に出来るんか……?
慧ちゃんが正気を失いそうなん出てきたけど僕はそれどころやない
胃も半分になったみたいに食欲も湧かん

うっ(向こう脛)……捕まえた
いい感じの力加減でぎゅっと、待ってモザイクかけんと大丈夫やから
するっと骸魂だけ剥いて
はい、さいなら
慧ちゃん自身に(キャラ崩壊で)モザイクが必要になっとったかもしれんな



●当番回に命を懸けろ
「ちょい待ち」
 そんなことを言われても、クソ依頼は急に止まれない。オープニング開始三行でブチかましたら後はもう流れよ。
「いや一反木綿は別にええんよ、僕から毒をとったらただの馬鹿力やん」
 風見・ケイ(星屑の夢・f14457)の持つ戦闘用人格、殲滅担当の『荊』――彼女の能力はまさに『毒』であり、加えて行き過ぎた護身術による人体破壊が持ち味である。貴重な攻撃手段をひとつ奪われるのは、存在意義を削り取られることに等しい。
 そんな荊が、なぜ大人しくグリモアベースで予知を聞いていたのかというと。
「最近出番も少なかったし……」
 多重人格者共通の切実な問題だった。
 何せ最近は主人格こと慧ちゃんがやたらと身体を張りたがるので、集団戦担当としての地位が危ぶまれつつある。そもそもカクリヨに出向くと慧ちゃんが遊んでるだけで話が終わりがちだ。荊だって遊びたい。カクリヨ系居酒屋で飲み明かしたい。
 ……無論、当の慧ちゃんは明らかな人選ミスを心配していたし、眠っているはずの意識からむにゃむにゃ小言が聴こえるけれど。ほら、逆境でこそ輝くみたいなやつで、キャラを立てていこうというか。
「こういう時に出演しとかんと――」
 毎度お馴染み転移の光が、荊を包むのであった。

「フンフンフン……」
 グリモアの導いた先の妖怪商店街で、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は楽しげに鼻を鳴らしていた。
 彼が飛ばされたのは書店通り、比較的落ち着いた雰囲気の一角である。
 背の高い並木に石畳、文具コーナーに並ぶ北欧妖怪雑貨。人によっては地味と感じるかもしれないが、ひとつひとつの装飾の趣味が良い。感覚派のお子様のように見えて、ロニは芸術のわかる神様なのだ。
 魅力と食欲が結びつくというのも、そんなにおかしなことじゃあない。ライオンはウサギを殺すとき、獲物を可愛いと思っているという話。
「つまり……可愛くてイイ感じで美しいものほど、おいしそうに見えるってことだね!」
「……おいし……そう……?」
 はしゃぐロニのすぐ横で、もう一人の猟兵は狐につままれたような顔をしている。鮮やかな青色の瞳は、かわいいだとかおいしいだとかいう以前に、――若干、焦点が合っていない。
「そういえばおねえちゃん前にも会ったよね、名前なんだったっけ?」
「――僕は、風見、荊……やったような……」
「記憶喪失キャラの人だ!」
 キャラ立てには成功した荊であった。方向性はだいぶ間違っているが。
「なんか自分が薄くなったというか、半分になったというか……僕も何言うとるのかわからんけど」
「喋り方も違くない?」
「それはまた別の……事情が……ああもう説明も思いつかん」
 思考が宙に浮いて、あちこちに飛ぶ。他のふたりならばこの状態を泥酔具合で喩えたかもしれないが、荊はザルの部類なのでほとんど未知の感覚であった。毒という概念が消失しただけでこの有様、というか、むしろ荊にとってはこれが毒である。
「よくわかんないけど、オブリビオンを倒せばなんとかなるやつじゃない?」
「そうだっけ……?」
「どの世界もだいたいそうでしょ」
「言われてみると確かに……でもこんな僕に出来るんか……?」
 オブリビオン。なんか骸の海がどうとかで、とにかく怖いものだったことは憶えている。あんまり酷いことはするなと言われたような気がするけど、こんな不安なときに怖いものが出てこようものなら、もう滅茶苦茶に壊してしまうかもしれない。最悪、何も出来ないかもしれない。
 思い悩む荊と、既に彼女への興味を失くして文具コーナーを見物しているロニのところへ。
「にゃーん!」
 噂をすればなんとやら、当のオブリビオンが飛び掛かってくるのであった。

「わぁい!」
 悲鳴……悲鳴? と共に、まずはロニがモフモフの大群に飲み込まれる。
 ねこまたすねこすり、略してねこねこ。愛くるしい丸い体に、柔らかい毛並み。可愛いし、おいしそうだし、まず肌触りが気持ちいい。すねばっかりを集中してこすってくるのがもどかしいくらいだ。この快楽に逆らう意味が全くわからないので、されるがままに身を任せる。
「にゃーん」
「にゃにゃーん」
「猫くん妖怪くんたちがいっぱいでボクが大ピンチ!」
「絶対本気で言うとらんやろ……」
 荊はといえば、全くモフモフどころではない。そりゃ可愛いけども。慧ちゃんが正気を失って、値段も見ずに即購入しそうなやつだけれども――まず体調が最悪なので、食欲なんて全く湧いてこない。お腹いっぱい食べた帰りに焼肉屋の前を通ったときのような胃もたれ感である。もしかして、胃まで半分になってるんじゃないのか。欧米で流行りのダイエットか。
「にゃーんっ」
「うっ」
 あげく、すねこすりあたっくを向こう脛にもらって呻く始末。このユーベルコードでまともにダメージ喰らってる人筆者初めて見ましたよ。
「あはははははくすぐったいよー!」
 大抵はこんな感じで、モフモフを堪能する人ばかりである。
 ……とは言っても、ロニだってさすがにいつまでもこうして巫山戯ている訳には行かない。頃合いを見計らい、そこそこの大きさの球体を召喚する。上に登って、ぺったりと腹ばいになって小休止。
「ふー大変大変。そだ、餓鬼球くんはどう思う?」
 そう、いつも神様の影から雑に大量召喚されている球体くんたちであるが、実はそれぞれ個性があるのだ。オブシディアンブルーの光沢にガタガタとした白い歯が並んでいるのが餓鬼球くん。
 この子は見た目通りになんでも食べる。元から捕食という機能を持つ彼(?)にも、概念消失の影響はあるのだろうか。
『――――』
「まだよくわかんない? じゃ、このいい感じの反り具合のセコイアの樹食べてみる?」
 レジャー施設にありがちな、場違い感の拭えない街路樹である。普段なら丸呑みできる大きさになってから食べるところを、今日は道幅に配慮した大きさのまま、根元を一口。
「にゃーッ!?」
 ずずーん、と、当然のごとく倒れる巨木にねこねこたちは大慌てだが、ロニも餓鬼球くんも些末なことは気にしていない。
『――――』
「そっかー。あ、この石灯籠なんてどうかな!」
『――――』
「んにゃーッ!?」
 右往左往するモフモフの海を泳いで、一人と一個は次なる獲物へと進む。

「ったく、捕まえた」
 一方の荊は、先程激突してきたねこねこの尻尾を掴んだところである。探偵的な意味ではなく、物理的な意味で。
 弁慶の泣き所を打たれた恨みは深い。きっとこれからネコチャンは手厚い可愛がりを受けて、見るも無残なカーペットにされてしまうのであろう。モザイクかけときますか?
「いや待って大丈夫やからそこまでやないから、ってか僕さっきから誰と話しとるん?」
 存在が薄らいでいるせいで、聴こえないはずの声が聴こえているのかもしれない、と、いうのはさておいて。
「えいっ」
「にゃっ」
 滑りやすい毛並みを逃さぬように抱き込んで、いい感じの力加減でぎゅっと絞める。そうやると纏わりついた骸魂だけがするっと剥ける。首を捩じ切るときの動きをイメージしたが、意外と応用が利くものだ。
「なんや巨峰みたいやな……はい、さいなら」
 うっかり食べ物を連想しても、やはり食欲は湧いてこない。……最初はどうなることかと思ったものの、意外とこの場は自分が出てきて正解か。
 螢ちゃんは多対一には向かないし、慧ちゃんは――この手の精神攻撃には滅法弱い。これを精神攻撃と言っていいのか知らないけれど、全く勝てる感じがしない。
「……キャラ崩壊でモザイク必要やったかも」
 存在が薄れるだけならまだ良い方だと思いつつ、荊は二匹目の骸魂を剥く。

『――――』
「うーん」
 石灯籠だとか鳥居だとか、謎の秘宝館の看板だとか、いい感じの装飾を一通り喰らい尽くして。
「元から何でも食べるし、何食べても美味しいとしか言ってくれないから違いが分からない!」
 そもそも餓鬼球くんには元から毒の概念が無さそうなので、当然といえば当然の結論であった。それでも十分満足したロニは、足元のねこねこ達の存在を思い出す。
「あ、じゃあイイ感じにパクッと咥えてペロペロして骸魂だけ吸い取っちゃってね」
『――――』
 こうすれば、骸魂から解放された猫又だけが無事に吐き出されるはずだ。
『――――』
 吐き出されるはずのまま、十秒ちょっと経過する。
「……いやそれはさすがにダメッ! ほらちゃんとペッ! して! ペッ!」
『――――』
「よーしよしいい子いい子! 良かった良かった!! 後で好きなもの食べさせてあげるからね!」
『――――』
「なんでもいいって? 可愛いこと言うじゃん」

 ……などと仲睦まじい一人と一個の様子を見て、荊は深い溜息を吐く。
「球体くんにまでキャラ立て負けとる気がしてきた……」
 そんなことないよ、大丈夫だよ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

揺歌語・なびき
【❄🌸】
来なきゃよかった
たからちゃんを目隠しでラブシーンから遠ざけ
ぐっ反論し辛い

わぁいネコチャンだー!!
こっち寄ってくるあぁあ~かわい~
すりすりかわいいねぇ…人類は愚か
ちいさいいのち…最高…え、たからちゃん寝て

やばい
動悸がひどい、唇を噛む
いつも抑えてる衝動が
概念の死んだ悪影響とないまぜになる

この子は知らないんだ
おれが可愛いと思ってるのが
どういう意味かなんて

知らしめてやりたい
口に含んだら、さぞ

アァア!?(自分を殴る

…おはよ(抱っこ
うん、うん
わかってる…大丈夫…ではないけど
おれは大人なので我慢できる…

そう!おれは!大人なので!(猫吸う彼女を抱っこしスゥー
いや全然駄目だこれ
でも舐めてないだけえらい


鎹・たから
【❄🌸】
前が見えませんが、とても危険なのですね
なびき、たからは美味しくありませんよ

ネコです、ふあふあのちいさなネコです
あなた達も妖怪なのですね
ふあふあならたからのネコ達も負けませんよ

…(スゥー
ハッ、いけません
なんという強敵でしょう
これでは眠ってしまいま(スゥー

(むくり
…なびき
いくらたからがかわいいからといって
食べてはいけません
我慢してください

いえ、たからはかっこいいのですが
なびきはたからがかわいいので
仕方ないでしょう

ですがあの
なびき
吸うならネコを(猫を抱っこし宇宙猫顔

だっこはあとです
なびきはえらいので我慢できるはずです

…駄目そうですね
食べるのを我慢できてるので
だっこは許可します(宙猫嗾け



●大人だから駄目なんじゃないですかね?
「なめ太郎さん……!」
「なめ子さん……!」
「お味噌汁の具かなにかかな?」
 カクリヨ流のネーミングセンスにやる気のないツッコミを入れ、揺歌語・なびき(春怨・f02050)は本日何度目かの溜息を吐く。
 視線の先の路地裏では、垢舐め同士のカップルが二人の世界に突入しているところだった。まさに種族の本領発揮とばかりにものすごいことになっており、まあ、詳細な描写は控えておく。
「来なきゃよかった」
 骸の海のお隣だからといって、こんな地獄絵図が許されてよいものだろうか。本当になんで来たんだっけか。よもや大いなる意志が自分を虐げているのでは――なんてことが、ある訳もなく。
 腕の中に納まる少女、目隠しをした手のひらの奥の雪色の瞳が、妖怪商店街の話を聞いてきらきら輝くのを見たからだ。
「前が見えませんが」
「見たら危険だからね。もう少し我慢してね」
 無理な姿勢を維持しながら歩く様は、傍から見るといびつな二人羽織だ。
 しかし彼女に案内してやるべきは、可愛い北欧妖怪雑貨フェアである。間違っても特殊性癖全開のラブシーンなどではない。百歩譲って一般性癖だとしてもだめ。絶対だめ。
「とても危険なのですね。大丈夫ですよ、たからは案内板で道を覚えてきました」
「たからちゃんえらい!」
「完璧です」
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)の生きる世界は、綺麗なものと、斬ってしまえる悪に分かれていなければならない。そのどちらとも言い難いひとの欲望なんて、この子には――。
 思わず強めに抱き込むと、大人ぶった澄まし声が返ってくる。
「なびき、たからは美味しくありませんよ」
「ぐっ」
 そうじゃない。そうじゃないと言いたいけれど、反論し辛い。まあ一番の危険地帯は通り過ぎたし、次の角を曲がったら放して大丈夫かな。……と、タイミングを伺っていると。
「にゃーん!」
 こちらが曲がるより先に、かわいい刺客が雪崩れ込んできた。

「わぁいネコチャンだー!!」
「ネコ?」
 それもただのネコチャンではない。ねこまたすねこすり、略してねこねこの群れである。
「にゃーん、にゃーん」
「こっち寄ってくるあぁあ~かわい~」
 さっきの地獄絵図との落差も手伝って、なびきの顔もついつい綻ぶ。目隠しがようやく解けて、たからもまた、眼前に広がる天国に息を呑む。
「ネコです。ふあふあのちいさなネコです」
 球体に近いフォルムに、骸魂由来とはいえ破格の人懐っこさを備えた究極生命体。それが敵意も警戒心もなく、ふたりの足元に擦り寄って、毛糸玉のように積み重なる。
「ネコ、ネコさん、あなた達も妖怪なのですね」
 一応、倒すべきオブリビオンの一種ではあるのだけれど。エンパイアに出る物の怪たちとは根本的な気配が違う。その一匹を拾い上げて、たからはじっと視線を合わせる。つぶらな瞳が、物怖じせずに見返してくる。
「にゃー?」
「ふあふあならたからのネコ達も負けませんよ」
 団地で飼い始めたばかりの子猫たちは、あんまり構うと逃げてしまう。こんなにじっくりと吸わせては――いえいえ、優劣をつけるわけではありません。あの子達が可愛いことには変わりなく、しかし野良猫特有の香ばしいにおいもまた格別……。
「ハッ、いけません」
 全く気付かないうちに吸引を始めていた。この魅力、もはや魔力の域。
「なんという強敵でしょう、確かに見たら危険でした」
「そうじゃないけど、そゆことでいいや~」
 なびきはなびきで、たからより積極的にねこねこのお腹へと顔を埋めていた。飲み込まれた猫又は元より、骸魂それ自体もさしたる咎のある存在ではない。海へと還って頂く前に遊んだって罰は当たらないだろう。
「すりすりかわいいねぇ……人類は愚か……垢舐めも愚か」
 忘れたい現実も山ほどあることだし。満足いくまで堪能したら、一時の夢から醒めればいいだけのこと。
「ちいさいいのち……最高……」
「これでは眠ってしまいま……す……」
「たからちゃん? え、たからちゃん」
「すぅ」
 そんな大人の打算をよそに、いつだって全力投球のたからは全力で夢の世界へと旅立っていた。
「いやこれ本当に寝て、ちょっと」
 くらりと傾ぐ身体を反射で受け止める。受け止めてから、まずいと気付く。
 ……もしもこのまま倒れても、大した怪我にはならなかっただろう。あたり一面がもふもふ毛玉の海と化しているからだ。むしろ、今、この場で、最も危険な存在は。
「や、ばい、」
 心臓が跳ねて、唇を噛む。口から飛び出しそう、だなんて、可愛らしい言葉じゃ表せない。――吐きそうだ。ひっくり返りそうな臓腑は胃のほうだ。
 見慣れた寝顔、額を隠す前髪に、細い頸。抱えた猫の毛並みに埋もれた唇が、ほんの少しの酸素を求めてゆるく開く。その全てが、いつも抑えている衝動が、『毒』という概念が死んだ悪影響とないまぜになる。
 ――可愛いものを食べたい、だなんて、紐解いてしまえばどちらも獣の本能だ。
 ああ、この子は知らないんだ。行き場のない猫を飼うのと、男の想いに応えることの違いも分かっていないような子だ。おれが、きみを可愛いと思っているのが、一体どういう意味かなんて。
 いっそ、知らしめてやればいいのではないか。いつまでも目隠しをして歩いて行ける訳がないんだ。保護者のふりなんてかなぐり捨てて、その耳朶を口に含んだら、さぞ――。
「アァア!?」
 何かしようとしていた右手で力いっぱい自分を殴った。気持ち的には手枷と猿轡で拘束した。ユーベルコードの代わりに欲望を封じられたと思う。許されざる者を決めるのは神ではない。
「……なびき」
 むくり、と身動ぎの感触がして、眠たげな瞼がひらく。
「……おはよ」
 その躯を抱え直して、これは他意のない抱っこだという体裁にする。
「いくらたからがかわいいからといって、食べてはいけません」
「うん」
「我慢してください」
「うん」
「いえ、たからはかっこいいのですが。なびきはたからがかわいいので仕方ないでしょう」
「わかってる……大丈夫……」
 ――いや、大丈夫ではないけれど。
「おれは大人なので我慢できる……」
 わかってないのはきみのほうだ、なんて、子供みたいなことは言わない。

「ですが、あの……」
 なびきの腕の中、ねこねこを抱えたままのたからは、理解しがたいものを前にした小動物の顔をして。
「なびき、吸うならネコを……」
「はっ!?」
 全く気付かないうちに吸引を始めていた。この魅力、もはや魔力の域。
「だっこはあとです。なびきはえらいので我慢できるはずです」
「にゃー」
「ネコさんもそう言ってます」
 差し出されたねこねこと、真面目くさった顔を見比べて。
「そう! おれは! 大人なので!」
 選ばれたのは、たからちゃんのかわいいつむじでありました。ほのかに花の香りがして実に良い――いや全然駄目だこれ。ごめん。でも舐めてないだけえらい。倫理、ぎりぎり崩壊してない。
「……駄目そうですね」
 などと言って呆れ調子のたからはたからで、再びねこねこを吸い始める。たからが猫を吸い、そのたからをなびきが吸う。まさに吸引健康法の食物連鎖。宇宙の摂理。
 そんな穏やかで危うい時間が、長いような短いような数秒続いて。
「食べるのを我慢できてるので、だっこは許可します――が」
『ニャ――ン!』
 モフモフの海に、更なるネコチャンの大合唱が召喚される。
「たからはなびきよりえらいので、猟兵の本分を忘れていませんよ」
「にゃー!?」
『ニャーッ!』
 七色のオーラを纏った宙猫の群れが、ねこねこたちに嗾けられる。
 名残惜しいが、仕事は仕事だ。可愛いキャットファイトであれば、猫又たちも楽しみつつ、いずれは骸魂から解放されるであろう。
「なびき、この子達ならどうですか? 光るので可愛いですよ」
「たからちゃんのほうが可愛い」
「そんなはずは」
 たからが抱っこから解放されるのは、それより後になりそうだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファン・クロウフォード
【箱2】アドリブ歓迎。戒と恋人同士。ぺろぺろカップル激しいな。目のやり場に困るが、嫌いではない。え、離れるのか?いつも以上に距離とるのか。何かプレイを思いついたんだな。さすが、戒だ。かっこいい、かわいい、いただきます。食べないよ。戒は大きいから口に入りきらない(舌なめずり)え?いただきますは、ダメなのか。じゃあ、いただかれますで…(恥じらい)って、ネコマタにまっしぐら だ とぅ!?モフモフな胸毛が、ピンクの肉球が、フカフカな尻尾が、こんなに、こんなにも憎く思える日が来ようとは。心を鬼にして星霊落としで全員全部殲滅だ。燃やし尽くせ、俺の嫉妬魂っ!なんかスッキリだ。戒、頬っぺた腫れてる(ぺろっと)


瀬古・戒
【箱2】アドリブ歓迎
ラファンとは恋人同士

うひゃぁ一反木綿と傘の妖怪がぺろぺろって。んえ?同じ影響受ける?ははッ、まっさかぁー
…マジだ…コレやべぇ
ストップ!!ラファン、俺の半径2m以内に近づくんじゃねぇ!ふわふわの髪が綿飴に見えて、ど、どどど、どうにかなりそう
何考えた?落ち着け、俺!(己を殴る)ラファンも落ち着け!俺はUDCアースの日本育ちなんだニューヨーカーみたく路上できゃっきゃする趣味は…ふぁっ!?ネコチャン、だと最強かモフモフか神じゃん最高モフ
だぁぁ!しっかりしろ俺(己を殴る)だめだこんな世界さっさと直さねぇと、スマン冷たいぞ…許せ
ぺろ?…ひゃ、わ、ラファン待て!待てしてくれ頼む!殴るぞ!



●付かず離れずぐらいのときって楽しいよね
 妖怪商店街、中央広場。
 大きくひらけた円形空間を軽食の屋台が縁取って、真ん中あたりはイベントブースとなっている。先述の通り、今は『北欧妖怪雑貨フェア』なる、いかにも可愛らしい催し物が開催中だ。
「もめ太郎さん……好き……」
「僕もだよもめ子さん……」
 当然カップル客も多いっていうか、冒頭の貴方がたこんな目立つ往来にいらっしゃったんですね。

「うひゃぁー」
 白昼堂々繰り広げられる乱痴気騒ぎを前にして、瀬古・戒(瓦灯・f19003)は思わず顔を覆った。覆いつつ、視線はしっかり妖怪たちを向いている。手指を補う地獄の炎とガントレットの隙間から、ちらちら透けて見えるのだ。
「一反木綿と傘の妖怪がぺろぺろって……」
「ぺろぺろカップル激しいな。――目のやり場に困るが、嫌いではない」
 そんな戒の数歩後ろで、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)は平然とした様子である。ヒーローズアースに暮らす彼からすれば、むしろ懐かしさを憶えるくらいの光景だ。タイムズスクエアでよく見るやつだ。なんだかんだ直視している戒とは違って、カップルから自然に視線を外すやり方もしっかり心得ている。
「で、戒はどうだ?」
「んえ?」
「何か変わったところはあるか?」
 そういえば、猟兵も妖怪たちと同じ影響を受けるとかなんとか、グリモアベースで言っていたような。
「ははッ、まっさかぁー……」
 カップル同士かというと、まあ、その、晴れてその通りになったばかりの身ではあるのだけれど。別にほら、ああいうノリのカップルという訳ではないし。ラファ太郎さんとか言わないし。キャラじゃないし――と笑いつつ、肩をすくめて彼へと振り返る。
「…………」
 思っていたより距離が近かった。
 背丈がそんなに変わらないから、自然と目と目の高さが合う。通じた視線を確かめるように、すっ、と小首を傾げる仕草は――格好いいというよりは、やっぱり、可愛い。
 真っ白ふわふわの髪なんか、大きめに作った綿飴みたいだ。お祭りめいた雰囲気も相まって余計そう見える。そうとしか見えない。心なしか、ざらめの甘い香りが――。
「……マジだ……コレやべぇ」
 本能的に危険を察知すれば、判断は一瞬。ラファンから離れるように後ろへ跳躍。
「ストップ!」
「えっ」
「ラファン、俺の半径二メートル以内に近づくんじゃねぇ!」
 両手のひらを前に突き出して制止する。……この場合の『危険』というのは、彼ではなくて自分の方だ。
「離れるのか? いつも以上に距離取るのか」
 よく分かっていない風でありつつ、素直に従ってくれるところがまた可愛い。そんな些細な感情が、何時の間にやら生物としての衝動に置き換わり、だんだん境目が無くなっていく。確かに、これは、只事じゃない。
「ど、どどど、どうにかなりそう」
「わかった。何かプレイを思いついたんだな」
「んああぁあプレイとか言うな!!」
 これ以上三大欲求を混乱させるな。いや、三大欲求て。今、俺は何を考えて……
「落ち着け、俺!」
 己のこめかみを全力で殴る。物理的に脳を揺らしでもしなきゃ、思考が明後日に飛んでいきそうだ。
「さすが、戒だ。かっこいい」
 そんな七転八倒を繰り広げる戒の姿を、ラファンは感心して見守っていた。おそらくこれが己との戦いというやつだろう。かっこいい。でも、普段とは打って変わってあたふたしているところは、ちょっとかわいい。
「――いただきます」
「ずああああ!!」
「食べないよ。戒は大きいから口に入りきらない」
「小さかったら!?」
「小さかったら……」
「あッ答えなくていいからな!? ラファンも落ち着け!」
 舌なめずりをしながらラファンが一歩寄ると、冷や汗を流して戒が一歩退がる。保とう、ソーシャルディスタンス。
「え? いただきますは、ダメなのか。じゃあ、いただかれますで……」
「恥じらうな! 可愛いから! 大体俺はUDCアースの日本育ちなんだ、ニューヨーカーみたく路上できゃっきゃする趣味は……」
 助け舟を求めて左右を見渡しても、まさにきゃっきゃしている一反木綿や唐傘小僧が視界に入るばかり。そうこうしているうちに、段々と壁際に追い詰められているような気もする。万事休すか、腹を決めなきゃダメなやつか、と、戒の目が泳ぎはじめた正にその時。
「にゃーん!」
「ふぁっ!?」
 ねこまたすねこすり、略してねこねこの大群が、中央広場に押し寄せてきた。

「ネコチャン、だと――」
 商店街の各所で猟兵たちが暴れたため、生き残った個体が広場へと逃げ戻ってきたのだろう。
 戒の足元に擦り寄り、一斉にじっと見上げる。ぼくわるいねこねこじゃないよ、と、潤んだ瞳が訴えている。
「――最強かモフモフか神じゃんモフっ」
「えー!?」
 戒の中で張りつめていた何かが容易く決壊した。ネコチャン相手であればラファン相手にどうこうするより無難であろう、という意識もあったのかもしれない。くるりとラファンに背を向けて、毛玉をまとめて抱きかかえる。
「ネコマタにまっしぐら、だ、とぅ!?」
 黙っていられないのはラファンの方である。そんな、いつも気だるげでかっこいい戒が。あんなに緩んだ顔なんて、俺にも見せてくれたことないのに。いやもちろん俺達これから少しずつ距離を縮めていけたらっていう段階だけど、小動物なんかに敗北を喫するとは。
 いや、ラファンだって猫のことは好きだ。というか、かなりの猫好きの部類だ。路地裏で見かけた野良に逃げられるたびに切なくなるし、お迎えを夢見ながらも写真で我慢しているのだ。あのモフモフな胸毛が、ピンクの肉球が、フカフカな尻尾が、こんなに――こんなにも憎く思える日が来ようとは。
「俺の髪だってモフモフなのに!」
 野良と違ってシャンプーだってしてるのに! モフモフところかペロペロしてくれたっていいのに!
「燃やし尽くせ、俺の嫉妬魂っ!」
 心が鬼になりもするというものだ。可愛らしいねこねこたちへの情けと甘さを代償に、指輪より召喚された大槌が――星霊落とし《アストラル・ストリング》の大弓へと形を変える。
「泥棒猫め――っ!」
 どこかで聴いたようなセリフとともに、無数の矢が商店街に降り注いだ。

「だぁぁ!」
 そんなラファンの願いと祈りが通じたのか、戒もようやくモフモフの海から顔を上げる。埋もれすぎて窒息しかけていたのは秘密だ。
「しっかりしろ俺!」
 もひとつついでに己を殴る。一応、ラファンも真面目に戦っているみたいだし。ここで自分だけが仕事を忘れる訳にはいかない。というかだめだ、こんな世界。さっさと直さないと己の殴りすぎで脳震盪を起こしてしまう。
「にゃー?」
「スマン、冷たいぞ……」
 心配そうに擦り寄ってくるねこねこを一撫でして、――その手指から、地獄の炎を流し込む。
「にゃッ」
「うぅ、……許せ」
 火遊《ヒアソビ》の蒼炎は、熱いのではなく、冷たい。猫はどっちも苦手だろうが、焼くよりは安らかだろうと思っておきたいところだ。
 この調子で広場一帯に炎を広げれば、ねこねこたちの退治はおおむね完了だ。他に逃げた個体が居ても、本気を出したラファンの攻撃範囲と命中力なら狩り漏らしなど出ないだろう。
 ほっ、と一息を吐いた途端、冷えた背中に誰かの体温が乗る。
「つかまえた」
 妙に上機嫌なラファンである。後ろから、抱き着くように身体を寄せて。
「撃つだけ撃ってなんかスッキリだ。……ん、戒、頬っぺた腫れてる」
「ひゃ、わ、」
 ぺろっ、と、頬に当たる熱の感触に、――戒はいよいよ悲鳴をあげた。
「わー! ラファン待て! 待てしてくれ頼む!」
「……『してくれ』……?」
「そこだけ抜き出すんじゃねぇ殴るぞ!」

 大変残念なお知らせですが。
 元凶のオブリビオンを倒すまで、概念消失の影響はまだまだ続くのです。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『元祖鉄板や『おっちゃん』』

POW   :    積み重ねた歴史の重み
単純で重い【鉄板や型の部分で相手を潰すのしかかり 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    百人前お待ちどぉ!
非戦闘行為に没頭している間、自身の【体 】が【鉄板料理に適した温度の熱を帯び】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ   :    出来立て食いねぃ!
【空腹 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【焼きそば、たこ焼き、今川焼き、たい焼き】から、高命中力の【熱々の麺、蛸の触手、餡子】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は甲斐嶋・詩織です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●短い睡眠時間でもみるみる学習・金運アップ・528Hz自然音
 ここはカクリヨファンタズム。
 骸の海に程近く、UDCアースにおいて忘れ去られた存在が流れ着く狭間の世界。

「へいらっしゃい!」
 元祖鉄板やのおっちゃんは、縁日屋台の鉄板に宿る職人たちの残留思念が寄り集まって生まれた妖怪である。
「もうかりまっか!」
 寄せ集めなので地域性は適当そのものである。関西風も広島風も焼きこなし、丸いやつの名称論争に中立を保つイカしたおっちゃんだ。
 頑固者で喧嘩っ早いところはあるものの、年中お祭り騒ぎの妖怪商店街においてはそれもまた個性という名の華。軽食屋の一角に居を構えてからは、妖怪たちの小腹を満たし、皆に親しまれる、充実した幽世生活を送っていた。
 ……はず、だったのだが。
「お昼どうする? 鉄板や?」
「えぇ~、もっと映えるとこ行こうよ」
「じゃ、あの変な名前の高級食パン屋さんとか」
「いいねぇ~~映える~~~」
 UDCアースで死語と化し、忘れられはじめたことが影響しているのか――妖怪商店街は今空前の『映え』ブーム。
 粉とタレの配合に心血を注ぎ、茶色いグルメを焼き続けてきた元祖鉄板やは、現在進行形で苦戦を強いられているのだ。

「映え……映えとはなんだ? 全く近頃の若いもんは……」
 あんどん油をかっ喰らいつつ愚痴を垂れても、客が離れたという現実は変わらない。
 このままでは自分ひとりが時代に取り残されてしまう。一念発起したおっちゃんは、飲まず食わずの完徹で『映え』について研究した。RGBにCMYK、明度に彩度、ヒストグラムにトーンカーブ。解像度や拡張子と格闘を繰り広げたが、それを鉄板焼きにどう活かせばいいのかは全くわからない。
 ――そんな苦行が三日三晩に達したある朝、おっちゃんは朦朧とした頭で『北欧妖怪雑貨フェア』に出向いた。

「これが……映え……」
 ごった返すカップル客。若い女の黄色い歓声。今の彼には得られない全てがそこにあった。その眩しすぎる光景を目の当たりにしたとき、彼に天啓が降りたのである。
「映えてるモンを焼けば……映えるんじゃねえのか……?」
 もう寝たほうがいいと思うよ。
 実際のところ彼に降りたのは天啓ではなく骸魂であり、彼の狂気は瞬く間に幽世を飲み込んだ。可愛いと美味しいの両立、映えるものへの嫉妬が、世界の全てを食材へと変えた。

「百人前お待ちどぉ! 出来立て食いねぃ!」
 軽食屋から猟兵たちを襲うのは元祖鉄板やの新商品、美味しそうな『雑貨焼き』のフルコースだ。熱々の麺によく似た毛糸玉に、かわいい蛸のぬいぐるみ。餡子の詰まった北欧柄のマグカップ。どれも映え映えの出来である。
 まあ美味しいには美味しいのだが、こんな異変が続いてはいよいよ頭がおかしくなってしまう。君たちはおっちゃんをブン殴っても良いし――正論で目を醒まさせてやっても良い。
 彼の狂気に骸魂が呼応している限り、倫理の崩壊は止まらないのだ。
ラファン・クロウフォード
【箱2】かっこよくて可愛い戒は具材としても魅力的に違いない。横取りされないよう腕の中に大事に確保。戒も内心で耐えていたのか。同じ気持ちで嬉しい。戒がマテというなら、ヨシと言うまで俺は待てる(忠犬モード)俺に影を落とすモノは戒を除いて拳で排除。映え?よくわかんね。けど、雑貨使って美味いもんを作るおっちゃんの腕前がすげぇのわかる。鉄板職人達から受け継いだたこ焼きを食べたい。今川焼も広島焼きも。今作ってるもんが違うって思ってんだろ?おっちゃんキラキラしてない。映えてないて言うんだよな?いいじゃん、他人が何言おうが、ブレずに好きと愛を貫けば。鉄板焼きはおっちゃんの恋人みたいなもんだろ。大事にしようぜ。


瀬古・戒
【箱2】
元祖鉄板屋のおっちゃんどーにかする前に、ラファンの腕の中から脱出しねぇと……俺も色々ヤバイ!ぁぁいい匂いするッ!可愛い顔して力強いとかヘタすると一番の敵はコイツじゃ?ラ、ラファン…俺は、だな…概念消失の影響にのまれて、じゃなくて、俺の意思でお前に…ええとそのアレコレしてぇの。…だからおっさん止めるまで…待てる、よな?
おい、おっさん!映えるのは簡単だネコチャン型にすんだ!最強ップリはさっき見たろ?鉄板熟練のおっちゃんならネコ型に焼くんは余裕だろ?例えばお好み焼きなら青海苔、ソース、マヨで縞、ぶち模様、ヒゲとか描くんだ。俺も食いてぇ!焼いてくれ!アカンそうならそのド頭撃ち抜いて冷してやんよ



●愛があるかが大事なんですよ
 可愛いものは美味しい。
 戒はかっこよくて可愛い。
「だったら具材としても魅力的に違いない――」
 ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)としては大真面目な三段論法である。
 ねこねこたちの去った中央広場では、今回の騒動の元凶――元祖鉄板やのおっちゃんが猛威を奮っている。具体的には、北欧妖怪雑貨を次々と鉄板で焼いている。映えるものを鉄板で焼けば映える鉄板焼きが完成するからだ。そんな狂気の論理が通用するほどに、世界の崩壊は進んでいた。
「映えるモン……映えるモンはねえか……」
 実際、おっちゃんの思考能力は連日の徹夜によって死滅しているので、美男美女というだけで雑貨と同様こんがり焼かれてしまう危険は否定できない。ましてやそれがカップルとなれば、問答無用で映えの郎党と見做されることだろう。映えの郎党ってなんだ? それは誰にも分からない。
 つまりラファンの警戒心は、存外、的を射ているのだが。
「横取りされないようにしなきゃ……」
「お前も微妙に食材扱いしてくんのやめろ」
 そんな彼の腕の中で、瀬古・戒(瓦灯・f19003)は別種の危険を感じていた。

 イベントブースのワゴンの陰、ひとまずおっちゃんから死角となる位置に身を潜め、ラファンは戒をしっかり抱きかかえていた。
 誰よりも何よりも大切な存在を、敵に奪われることのないように――という状況だけ見れば、戦場において二人の絆を感じさせる一幕と言ってよいのだが。問題は概念消失の影響が猟兵にも及んでいることだ。どちらかというと、確保されているという表現が近い。
「大丈夫、俺は……食べるなら、大事に食べる」
「なんッにも大丈夫じゃねえんだよなあ!?」
 ラファンの声に宿る熱は、見境なく映えを求めるだけのおっちゃんの比ではなかった。
「やっぱおっちゃんどーにかする前に、ここから脱出しねぇと……!」
 思いっきり身を捩っても、腕が解ける気配はない。
 体格にあまり差がないからこそ、ラファンのほうも全力だ。戒が暴れるたびに動きに合わせて抱え直す。抜け出そうと手を伸ばすと、その手首をぎゅっと掴んで肩へと引き寄せる。互いに本気で傷付ける気がない以上、動きの鋭さよりも純粋な腕力が勝つのだ。
 押して引いてを繰り返すうちにバランスが崩れ、――結局、胸板に顔を埋めるようなかたちになって。
「いや、これだめ、無理、俺も色々ヤバイ」
「戒も……?」
「ぁぁいい匂いするッ!」
 石鹸だかシャンプーだかわからん甘い匂いもするし、それでいて男らしい肌の匂いもする。ずるい。
 大体こんな可愛い顔して、こういう時に限って力強いとか、ヘタすると一番の敵はコイツなのでは。主にコイツのせいで俺の倫理が崩壊しているのでは。
 戒の欲求だってそろそろ限界だ。唸ったり叫んだりしているのがせめてもの抵抗というやつで、――本当は今すぐにでも、目を閉じて、全身から力を抜いてしまいたい。
 嫌じゃないのだ。嫌じゃないのが一番性質が悪い。ずっとこのままでいたいけれど、そしたら多分、『このまま』じゃあ済まない訳で。
「ラ、ラファン……」
「うん」
 名を呼べば、彼は言葉を待ってくれる。じっとこちらを見ていてくれる。視線は合わせられそうにないけれど、まずは上がった息を整えて。
「俺は、だな……。概念消失の影響にのまれて、だとか、そういうんじゃなくて……」
 ――後から言い訳の利くような、一時の勢いなんかじゃなくて。
「俺の意志でお前に……ええとアレコレしてぇの。分かる?」
「アレコレって?」
「そこは分かれよ!?」
 分かっているんだかいないんだか、いまいち判然としない表情をして――しかし、そんなラファンのほうだって、まあアレコレと我慢はしているのだ。やっぱり人前でしていいことには限度があるし、それはそれで、一人占めしている感じがしないし。
 戒もそうやって、内心で耐えていたのなら。
「同じ気持ちで、嬉しい」
 肩を離して一定の距離を取り、改めて顔を覗き込む。今度は戒も視線を合わせて、少し安心したように溜息を吐く。
「……だから、おっさん止めるまで……待てる、よな?」
「戒がマテというなら、ヨシと言うまで俺は待てる」
 基本的には素朴で素直なラファンの姿に、猫もいいけど犬もいいよなあ、なんて戒が思っていると。
「喰らえカップル客! 積み重ねた歴史の重み――!」
「げ」
「来たね」
 おっちゃんののしかかり攻撃が、隠れ場所だったワゴンを吹き飛ばした。

 巨大な身体が視界を埋め尽くし、長方形の影が落ちる。このままではほんの一秒足らずで二人はぺしゃんこになり、映える鉄板焼きの具材にされてしまうだろう。本当に映えるのかなあそれ、というのはさておきとして。
 今、戒を護るには、抱きしめているだけじゃあ足りない。
 先に動いたのはラファンだ。元から低い姿勢を利用し、身体を沈め、下から上へと殴り抜く。不安定な体勢に拳を喰らったおっちゃんは、ほとんど抵抗できずに反対側に仰け反り、盛大に地面へと倒れた。
「ぐあッ! 雑貨が……焼けない!?」
 そして、それはただの拳ではない。極寒の地を守護する神としての力、森羅万象を凍結する冥府葬送《デッドリー・クラッシュ》。これでしばらく、鉄板は熱を持つことはないだろう。攻撃は最大の防御なり、という訳だ。
「そもそも雑貨焼いてどーすんだ!」
 至極真っ当なツッコミを入れながら、戒もラファンの傍らに立つ。
「仕方ねえだろ、……今日び映えねえモン出しても、客は来ねえんだ……」
 仰向けのまま力無く空を見上げるおっちゃんの目には、隠しようもない疲れが滲んでいた。もちろん寝不足なので普通に寝たほうがいいのだが、それでも消えない焦燥があるからこそ、彼は追い詰められているのだろう。
「映え? よくわかんね」
 そんなおっちゃんの姿に、ラファンも拳闘の構えを解く。
「雑貨使って美味いもんを作るおっちゃんの腕前がすげぇの、わかる。けど――俺は、鉄板職人達から受け継いだたこ焼きを食べたい」
 気が狂って編み出した雑貨焼きですら、絶妙な火加減で美味しそうに見えるのだから。彼が真剣に作る本物の鉄板料理は、概念崩壊の影響などなくとも最高に美味しいはずだ。
「今川焼も、広島焼きも。――おっちゃん、今作ってるもんが『違う』って思ってんだろ? だっておっちゃんキラキラしてない。そういうの、『映えてない』て言うんだよな?」
「ぐ……」
 図星であった。いくら見映えのする食材で形を取り繕っても、作る側に気持ちがなければ意味がない。それは何も料理に限らず、職人たる者の真理である。
「そりゃ俺だって本当は、自慢の味で勝負してえよ」
「いいじゃん、他人が何言おうが、ブレずに好きと愛を貫けば」
「けど……客が来ねえんじゃ、どうしようもねえ……。このままじゃ店を畳むしか……」
「おい、おっさん!」
 そこに、戒が割って入った。地獄の炎を見せつけるように、びし、と指を突き付ける。
「ンな事しなくても映えるのは簡単だ! ――ネコチャン型にすんだ!」
「ネ、ネコチャン……?」
「最強ップリはさっき見たろ?」
 ねこまたすねこすり、略してねこねこ。人の心を狂わせる彼らの魅力は前章を見ての通りだ。映え界隈でも動物ものは安定感があり、SNSを選ばず老若男女を惹きつける。
「鉄板熟練のおっちゃんならネコ型に焼くんは余裕だろ? 例えばお好み焼きなら青海苔、ソース、マヨを使って、縞、ぶち模様、ヒゲとか描くんだ」
 あの丸っこいフォルムなら再現も簡単だろう。鉄板焼きは色合いが地味なところが難点だが、猫の毛並みだと考えれば相性は抜群だ。伝統の味を変えることなく目立つ新メニューにできる。――そして、戒にとっては、何よりも。
「俺も食いてぇ! 焼いてくれ!」
 そんな目玉商品があったら通う。世界の壁を越えて通う。ポイントカードがあったら満杯にする。そんな熱意が伝わったのか、おっちゃんも太い眉毛を寄せて思案する。
「俺に……描けるのか? 女子供が喜ぶような……ネコチャンが……?」
「丸描いて耳つけるだけだって!」
「修業ばかりで女房がいた試しもない、俺に……?」
「だったら尚更、鉄板焼きはおっちゃんの恋人みたいなもんだろ。大事にしようぜ」
 戒、ラファン、双方の励ましを受けて。おっちゃんの瞳に炎が灯る。
「そこまで言うならやってやらあ! 必殺、お好みネコチャン焼き!」

 おっちゃんが雄々しく立ち上がると同時、生地が、ソースが、マヨネーズが宙を舞う。鰹節と青海苔の吹雪が降り注ぐ。
 そして、鉄板の上に現れたのは。
 ――なんとなく味気ない真円に長すぎる耳、絶妙にそこじゃない位置に目鼻口の描かれた、ネコチャンと言われればそう見えなくもないお好み焼きだった。

「…………」
「…………」
「やっぱり駄目かぁ――ッ!?」
「俺は……好きだよ……」
「うわぁ――!!!」
「落ち着けおっちゃん! 練習すれば画力は上がるから! な!?」
 鉄板焼きの技術に絵心が追い付いてこなかったらしい。両名による苦笑混じりの激励も空しく、おっちゃんは手近なマグカップに餡子を詰めて焼き始めてしまうのであった。アカンですねこれは。
「ええい将来に期待だ! そのド頭撃ち抜いて冷してやんよ――!」
 戒は二丁の回転式小型拳銃を抜き、燐火睡蓮《リンカスイレン》の凍てつく炎を籠める。この弾丸が命中すれば、またしばらくは雑貨焼き攻撃を封じることが出来るだろう。
 鉄板に蒼い睡蓮が咲く。
 ……おっちゃんの自分探しは、まだ長丁場になりそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
【❄🌸】
(抱っこしつつ唸る
ぐうぅぅ
しんどい、動悸がひどい

最近UDCじゃタピオカ屋が潰れると大体からあげ屋になってるんだよな…
とかどうでもいいこと考えてないとやってらんない
おれはいらない…
今なんか食べても焼け石に水になる、それは最悪

ってああ大丈夫!?
猫舌なんだから無茶しないの!
たこ焼きは冷たい飲み物と一緒にってうっかわいい
いやまって、これ
最悪の状況

…たからちゃん
本当にごめん

噛んでいい?
少しだけ
それで、終わらせるから

白い頸筋に、痕がつく
最低だけど
それで飢餓感が少し消えた

彼女を抱えたまま飛び出して
奔流の直後、華に体を明け渡す
だけどこの子だけは
何処にも落としたりしない
その意識だけは、誰にも渡さない


鎹・たから
【❄🌸】
(抱っこされ
これには事情があるのです
なびきは今とてもがんばっているのです

たからは鉄板焼きも映えていると思いますよ
踊る鰹節も、マヨネーズのお絵描きも素敵です
ということでたこ焼きをひとつください
なびきはたい焼きがいいですか?

熱いです…どれだけふぅふぅしても熱いです…(涙目
大丈夫です、たからは熱いたこ焼きも食べられまひゅ

ふぁい?(やっと咀嚼し飲み込む
…わかりました、おじさんをすくうためです
少しだけですよ
…んっ(ちょっと痛い

しっかり抱きついたまま、雪と霰の奔流を熱々の鉄板へ
あなたは少し頭を冷やすべきです
その後、ネコ型のたい焼きや今川焼をつくりましょう
きっと映え映えです

なびき、いい子でしたね



●いっこ上のやつ見て反省してほしい
「事情は聞かせてもらいましたよ」
 混沌を極める中央広場に、鎹・たから(雪氣硝・f01148)が降り立った。UDCアースから失われてしまった正義を、滅びゆくカクリヨファンタズムに届けるために。
「映えるメニューを作りたいあまりに、こんな事件を起こしてしまったのですね。がんばって研究したことはえらいと思います」
「ぐうぅぅ……」
 正確に言えば、降り立ったのは彼女を抱えた揺歌語・なびき(春怨・f02050)であるのだが。生憎こちらはまるで使い物にならない状態だ。まっすぐ伸びたたからの背中に顔を埋め、唸るばかりの移動手段と化している。
「アンタは――いや、アンタらは何モンだ? カップル客には見えねえが」
「これにも事情があるのです。なびきは今、とてもがんばっているのです」
 あまりにも不揃いな二人組の登場におっちゃんも当惑気味である。言っておきますけど、これ、貴方が概念を消失させた所為ですからね。

「しんどい……」
「もう少しの我慢ですよ」
 動悸がひどい。酸素も足りない。唾液だけはやたら出るのに、喉の奥は渇いた感触がする。この異常な食欲自体は世界崩壊の影響だけれど、それをここまでの苦痛に変えている原因は――揺歌語なびきという男の内側にある。その自覚を保っていることは、果たして幸なのか不幸なのか。
「映え……お友達に紹介してもらったことがあります。タピオカ屋さん、最近あまり見かけませんが」
「あれ潰れると大体からあげ屋になってるんだよな……」
 学友との微笑ましいエピソードを聞かされても、まるでやる気のないコメントしか返せなかった。いつもだったらにこにこと相槌を打ってあげるのに。
 確かああいうのって、脱サラした中高年を騙して、セミナー代やテナント代で搾り取って、流行りが過ぎた頃合いをみて路頭に迷わせるんだっけ。そんな感じの恨み妬みがスマートフォンに泳ぎ着いてたような気がする。そんなんだからUDC-HUMANなんて生まれるんだよ、とか、どうでもいいこと考えて意識を逸らしていないとやってらんない。
「現世でからあげが流行ってんなら……次はからあげが流行るのか……?」
 おっちゃんはおっちゃんで何やら迷走しているが、雑貨焼きよりはまだマシな方向性かもしれない。……しかし、今はたまたま睡眠不足で血迷っているというだけで、彼の本分は鉄板焼きであるはずだ。
 たからはあくまで、まっすぐ諭す。
「そう、茶色くたってからあげは人気です。たからは鉄板焼きも映えていると思いますよ。タレだってタピオカと同じくらい、つやつやしていて綺麗です。踊る鰹節も、青海苔も、マヨネーズのお絵描きだって素敵です」
 友達との大事な思い出に、家族が家族になるまでの記憶。美味しいごはんの湯気の香りは何より心をあたためる。――たくさんの想いに裏打ちされたたからの言葉は、おっちゃんの胸を強く打った。
「本当にいいのか、俺の鉄板焼きを食ってくれるのか」
「ええ、ということでたこ焼きをひとつください。ぬいぐるみではなくて、おじさんの自慢の味を」
「おう――おうよ!! ……ところで嬢ちゃん、後ろのツレは大丈夫か?」
 そういえば、と、澄んだ瞳をなびきへ向けてたからは思案する。やっぱり彼は、甘いものを選ぶだろうか。
「なびきはたい焼きがいいですか?」
「おれはいらない……」
 気遣いを嬉しく思う余裕すらない声だった。なびきにとっては、その嬉しさが、いとおしさへと擦り替わるほうがずっと危険なのだ。……こんな状態で『他の何か』を口に入れても、まさしく焼け石に水でしかない。
 それは、最悪。今も十分最悪だけど。できるだけ単純な言葉選びで思考を空にして、小さな体にしがみつく。

「おっしゃ、そこまで言うなら出来立て食いねぃ!」
 練りに寝られた配合のふわとろ生地が宙を舞い、おっちゃんの腹部の窪みでくるくる踊る。サッと塗られたタレが豊かに香り、皮がパリっと焼けていく。
 外はさくさく、中はあつあつ。一人前六個セットのところを一個おまけして、出来立てのたこ焼きがたからの元へと放たれる。ちなみに皿はちゃっかり北欧風だ。
「ありがとうございます」
 すっかり液状化したなびきを一旦横へと置いて、正座して、空いた両手をぴったり合わせて。爪楊枝に刺した一粒を、念入りにふぅふぅと冷まして。
「ではいただきま、ふ、みゅ」
 唇が触れて数秒、――目尻にじわりと雫が浮かぶ。
「……熱い……です……」
「ってああ大丈夫!?」
 たからちゃんの涙の気配はあらゆる状況に優先するので、なびきは瞬時に固体へ戻った。跳ね起きて、小さな両肩に手を置くと、小刻みな震えが伝わってくる。
「大丈夫です、たからは熱いたこ焼きも食べられまひゅ」
「食べたあとに皮剥けちゃうやつだからね!? 猫舌なんだから無理しないの!」
「そんな……やっぱり映えねえ料理は食ってもらえねえのか……」
「あとそこの鉄板ほんっと面倒くさいね!? ああもう、たこ焼きは最初のひとくち気を付けて、冷たい飲み物と一緒にゆっくり、って、うっ」
 かわいい。
 潤んだ瞳、額の汗、恥ずかしそうに染まった頬。焼けた舌を冷まそうと浅い呼吸をする唇。我に返った瞬間に、その全てが一度に脳へと飛び込んできた。彼女の口の中よりも熱く茹った脳へと、だ。
「いやまって、これ」
 さっき言ったばかりの、最悪の状況じゃあないか。

「……たからちゃん」
 名前を呼ぶ。名前だけで呼び捨てないところに、保護者としての距離がある。
「ふぁい?」
 ようやっと咀嚼を終えて、白い頸筋がこくりと動く。ほとんど同時にこちらも唾を飲む。
 この子はこんな間近でも、建前みたいな距離を信じているんだろうな。唇と唇のあいだの僅かな空間に、なんにもないと思っている。
 本当になんにもないのなら、下らない異変にかまけてちょっとじゃれあったって、こんなには苦しくならない筈だった。だったらいっそ、そういうことにしたほうがいいんじゃないか。一口かじって、苦しくない振りをしてしまえば、なんにもないことにできるんじゃないか。
「本当にごめん」
 裏切っているということすら、おれはいつまでも隠そうとする。
「噛んでいい? 少しだけ。それで、終わらせるから」
 ぱたり、と彼女が瞬くと、溜まった涙が流れて消えた。こちらを見上げる瞳はいつもの雪色だ。疑いの色ひとつない。
「……わかりました、おじさんをすくうためです。――少しだけですよ」
「うん、本当、少しだけ」
 引き寄せる。喉笛に牙を立てるのはおそろしいからと言い訳をして、強めに唇で挟む。それでも少し、歯の先が当たった。
「……んっ、」
「ごめん」
 きみはちょっと痛いと思うだけだろう。肌に残った赤い痕なんて気にも留めずに、明日も学校に行くんだろうな。……最低だけど、そんな想像で飢餓感が少しだけ消えた。

「うおおぉぉ……俺は一体どうすれば……!」
 そんなセンシティブな一幕を知ってか知らずか、それとも直視を避けていたのか。おっちゃんは広場の隅っこにうずくまり、わなわな震えて加熱している。染み付いた油が、煙となってあたりに立ちこめる。
「さあ。後は迷えるおじさんをすくうだけですよ」
「本当に血迷ってるだけなんだよなあ」
 そういう自分も散々情けないところを見せたし。最後くらいは仕事をしないと。――たからをしっかり抱え直して、煙の奥へと跳躍する。腕の中、彼女は右手をしっかりなびきの背に回して、左掌を正面に突き出して。
「――あなたは少し頭を冷やすべきです」
 マガツの力が、終雪《シマイユキ》――天より注ぐ雪と霰に姿を変えて、商店街を吹き抜ける。文字通り頭を冷やす、というだけではない。たからが用いている限り、それは慈悲を以って為される浄化の力だ。
 その奔流が体を包んだ直後、なびきは己の裡の華へと呼び掛ける。
 こんな茶番の道化役なら、喜んで明け渡してやろう。目の前の敵を滅ぼさない程度に痛めつけろ。たとえお前がひとの血を啜る狂った徒花であろうとも、――餓えた狼よりはましだろうから。
 だけど、この子だけは。
 何処にも落としたりしない。お前になんか任せない。その意識だけは、誰にも渡さない。

「んがッ!!」
 ――腕だけは大事にたからを抱えたまま、なびきの肉体は超高速の蹴りを放つ。安全な温度まで冷えてしまえばただの鉄塊だ。UDCの齎す膂力の敵ではない。
「しばらくお休みするのも、いいかもしれませんね。その後、ネコ型のたい焼きや今川焼をつくりましょう」
「ネコ……?」
「名付けて、究極のスーパーネコチャン焼きです」
「ス、スーパーネコチャン……?」
「きっと映え映えです」
 ねこまたすねこすりのような形のまんまる大判焼ならば、具材だってたっぷり入るし大人も子供も大喜びだ。大ヒット商品となるに違いない。おっちゃんが疑問を呈しているのはおそらくその部分ではないのだが、たからは自信満々で胸を張っていた。
 そのまま地に足を付けて、力の抜けた男の体を肩で支えて、後ろ手でそっと頭を撫でて、髪を梳く。
「なびき、いい子でしたね」
 ……この子もまあ、普通にこういうことするとこありますから。意識はなくて正解だったかもですね。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルネ・プロスト
言いたい事は多々あるけど、先ず言わせてもらうとさ
何食べても体に害無くて、何食べても同じ美味しさならさ
……それ、もう焼く意味なくない?

百歩譲って焼く事で食感が良くなるのなら兎も角
雑貨の類は焼いたところで食感は良くならないんじゃないかい
この現状は君のアイデンティティを瓦解させかねない状態だと思うのだけど

そもそも映えとは写真映り、見映えの事だろう?
なら少し工夫すればいけると思うのだけどね
焼きそばなら具材を大き目にしたり全体の色合いを明るめにしたり
今川焼きやたい焼きなら食用色素で皮に色を付けたり変わり種を出してみたり
素人意見でしかないけどさ
うん、だから早くそのたこさんぬいぐるみを焼くのをやめるんだ早く


風見・ケイ
めっちゃ熱苦しいのが来たし、ここは螢ちゃんの出番やろ
――ええ……これ僕回なん?

今も食欲は湧かんけど(見渡して)
……ちょうどよかったかもしれへん

お、この青い薔薇の串はちょっと気になる
せやけど……言うほど映えてるか?
食材に頼りっきりやし、おっちゃんはそれでええんか?
ていうか見映え重視やったら変に焼いたり餡子詰めたりせんでもようない?
そのままで美味しいみたいやし、むしろ映えの邪魔しとるやろ

なんて適当に煽れば怒って突っ込んでくるかな
右手なら鉄の温度じゃどうにもならんけど手袋は焦げるし……鉄板の窪みに警棒ひっかけておっちゃんの勢いを使ってぶん投げる

うーん、もっと鉄をどうにかできそうな気ぃするんやけど……



●無意味な改変して自作発言するみたいなアレ
 無力な女が、あらゆる不条理に立ち向かうために。風見・ケイ(星屑の夢・f14457)の体には三つの心が存在する。
「く……ここで引き下がる訳にもいくめえよ! 百人前! お待ちどぉ!」
「めっちゃ熱苦しいのが来た」
 今回の場合、不条理と言ってもギャグ時空という意味においての不条理なのだが。
 騒動の中心へと辿り着いた荊を出迎えたのは、乱れ飛ぶ雑貨焼きだった。雑貨焼きって何やねんという話だが、鉄板で雑貨が焼かれているので雑貨焼きである。慧ちゃんは結構こういう力押しに弱いから、やっぱり出て来なくて正解だったような気がする。
「そもそも誰も待っとらんのにな。ま、ここは螢ちゃんの出番やろ――」
 たとえ相手がぬりかべの鉄バージョンみたいな生命体であろうとも、戦闘時の基本指針は変わらない。大将格が相手なら、狙撃屋である螢の領分だ。瞼を閉じれば、青から赤へ、朝から夕へ。瞳の色が移り変わる――。
「え?」
 移り変わらないんだなコレが。
「ええ……これ僕回なん?」
 当番回というものは、雑な理由で他メンバーが欠席するのが世の定め。そういうわけで、慧ちゃんと螢ちゃんは海外へ出張に行きました。
「主人公の両親か!? ああもうツッコミきれへんわ!」
 お後がよろしいようで――と言いたいところだが、荊の戦いはこれからだ。

「今も食欲は湧かんけど……」
 とりあえず、中央広場の様子を見渡してみる。
 いつの間にやら棚やワゴンの配置が整え直され、焼きたての商品がずらりと並んでいた。北欧妖怪雑貨に留まらず、周辺の店から見映えのするものをかき集めているらしい。ちゃんと食事を提供するつもりがありそうなところが逆に怖い。
「……ちょうどよかったかもしれへん」
 まともに付き合っていては本当に頭がおかしくなってしまう。ほどほどに心の距離をとりつつ、棚の中身に目を滑らせていく。
「お、――これはちょっと気になる」
 青い薔薇が数本、串焼きに見立てて竹筒に挿してある、
 藍染に近い落ち着いた色味が、ちょっと焦げているところに枯れたような趣がある。手にとってみるとどうやら元は造花のようだ。……これは、まあ、インテリアとして悪くないかもしれない。
「映えてるか!?」
「まあ少なくとも……今おっちゃんが焼いとる蛸のぬいぐるみよりは……」
 たこ焼きってそういうことと違くない? なんて疑問はひとまず飲み込んで、花弁を一枚食んでみる。もちろん、美味しい。形状の持つ印象のせいか、さっぱりとして胃にも優しいような気がする。
「せやけど……言うほど映えてるか?」
 確かに花は綺麗だけれど、それは、花が綺麗なだけだ。
「食材に頼りっきりやし、――おっちゃんはそれでええんか?」
「なッ……」
「おっちゃんの作品やない、っていうか……」
「全くその通りだよ」
 おっちゃんが何か言い返すより先に、冷たく鋭い声が響いた。
 動物型の森の友達《フォレストドールズ》を引き連れて、死霊令嬢――ルネ・プロスト(人形王国・f21741)が、不機嫌の滲んだ顔で腕組みをして立っている。
『流石お嬢、こんな茶番の中でも氷のように冷静でいらっしゃる!』
「今はその軽薄な太鼓持ちを許してやろう、小鳥人形《タトゥルバード》。……まずは交渉の時間だ」
 頭上で跳ねる伝令役を小突いて、その指先をおっちゃんへと向ける。
 ――人形王国・折衝勅命《ドールズキングダム・ネゴシエーションドールズ》。少女と小鳥、温度の異なる二つの声が、瞬く間に会話の流れを支配した。

「なんだい嬢ちゃん、味に文句があるってのか」
「言いたい事は多々あるけど、先ず言わせてもらうとさ」
 竹筒から薔薇を一本摘み上げて、荊と同じように食んでみる。
「何食べても体に害無くて、何食べても同じ美味しさならさ」
 ミレナリィドールの身であるルネに、元より『毒』の概念はない。画一的な『美味しさ』など、彼女にとってはやがて飽きのくる刺激に過ぎない。――という個人的な身体の事情を抜きにしても、根本的な問題として。
「……それ、もう焼く意味なくない?」
「はッ……!?」
 鉄板焼きという概念の全否定であった。
「そうそう、見映え重視やったら変に焼いたり餡子詰めたりせんでもようない?」
「いや、それじゃ俺が料理をする意味が」
「なくない?」
「ないな」
『ないですね!』
「ぬあぁーッ!?」
 メインターゲットである女子たち(プラスアルファ)から、ダメ出しの三段活用である。おっちゃんは返す言葉もなく口をぱくぱくさせているが、たとえ許しを乞うたとしても消費者からの貴重なご意見は止まらない。
「そのままで美味しいみたいやし、むしろ映えの邪魔しとるやろ」
「だけどよ……しっかり火を通さねえと食品衛生上の危険が」
「全然ないんよなあ……」
 わざとらしく、肩をすくめたりしてみる。――こうやって適当に煽っておけば、そのうち怒って突っ込んでくるかな、というのが荊の算段だ。大仰な仕草でおっちゃんの視線を誘導しつつ、こっそりと警棒のストラップを指に引っ掛ける。迎え討つ準備は万端、というところで。
「百歩譲って、焼く事で食感が良くなるのなら兎も角」
 そんな荊の横をすり抜け、ルネがおっちゃんへと詰め寄っていく。彼女の側はまだまだ語り足りないらしい。
「雑貨の類は焼いたところで食感は良くならないんじゃないかい。木材や布は焦げたら映えないし、マグカップはそもそも陶器だし」
「それは……その……」
「素材に頼りきりなのに、その素材に対する理解もないとは」
「う……」
 立て板に水とばかりに言葉が続く。つかつかと鳴る靴音からは、幼き暴君の貫禄が伝わってくる。
「粉もので培った技術も活かせない以上、――この現状は、君のアイデンティティを瓦解させかねない状態だと思うのだけど」
「とっくに瓦解しとるように見える」
 おっちゃんは無言で動かなくなった。じゅうじゅうと雑貨の焼ける音だけが、沈黙の中で際立っていた。

「そもそも映えとは写真映り、見映えのことだろう?」
 もしかしてまだ死体蹴りするん? という荊の視線を余所に、ルネはおっちゃんの正面に陣取って仁王立ちをする。
 荊としては死体を蹴ってまだ生きていたら怖いので、確実に首を折っておきたいところだ。しかし鉄板の首がどこにあるのか分からない。せめていつでも殴れるように構えておく。
「なら少し工夫すればいけると思うのだけどね。焼きそばなら具材を大き目にしたり、全体の色合いを明るめにしたり」
「ド正論」
「今川焼きやたい焼きなら、食用色素で皮に色を付けたり。餡の代わりに中身を変えた変わり種を出してみたり」
「よく見るやつ」
「――素人意見でしかないけどさ。少なくとも、他人の作品を盗むよりはましじゃないかな」
 ルネのトドメの一言に、場に張りつめた糸が切れた。
「悪ぃか――ッ!!! お前に一体何が分かる――ッ!!!」
「うわっ逆ギレや!」
 のしかかり攻撃付きの量級の逆ギレだった。最悪である。
 荊はすかさずルネとおっちゃんの間に入る。鉄の温度が、直接触れずとも頬に伝わる。……このくらい、星の熱に比べたら何ともないけれど。手袋が焦げてしまったら、この後遊ぶ予定が台無しだ。
「ったく……っ」
 警棒を短く持って、蛸のぬいぐるみが焼かれている窪みに突き入れる。重力と膂力が、拮抗して、止まる。
「いいトシして恥ずかしくないんか!」
「ああ。だから早く――」
 一方のルネも本気だ。自らを圧し潰そうとする鉄塊を臆することなく睨み据え、――転がり落ちたぬいぐるみを両手で受け止めて。
「そのたこさんぬいぐるみを焼くのをやめるんだ早く」
「重要なのそこ!?」
 何を言う。もちろん最重要事項だ。最初から最後まで、ルネはたこさんの救出のために動いている。後で修理のための材料を調達してあげないと。
「とにかく早く」
「はいはいっ」
 後はテコの原理の応用だ。警棒の接したところを支点に、おっちゃん自身の勢いを利用して、軽めの力でぶん投げるだけ。
「ぬわ――ッ!」
 軽めといっても荊基準だが。おっちゃんは広場の反対側まで吹き飛んで、積み上げられたワゴンの山に突っ込むのだった。

 一息吐いて、手袋に包まれた右手とにらめっこ。
「うーん、もっと鉄をどうにかできそうな気ぃするんやけど……」
 そう……何か、触れるだけで致命傷になるような。鉄に限らずあらゆるものを溶かしたり焦がしたりできるような、そんな都合のいい概念が存在したような気がするのだけれど、気のせいだろうか。
『お嬢はお優しいですねえ。最初からぬいぐるみを助けるのが目的だったとは』
「うるさい」
 ルネのほうに視線をやれば、人形たちを総動員して全てのたこさんを回収している真っ最中だ。最初に助けた一匹を大事に抱えて、無表情なりに満足げな表情である。
「……ま、ええか」
 たぶんいつもの自分だったら、ぬいぐるみもどうにかしてしまっただろうし。
 今回は、馬鹿力だけで良かったのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アン・カルド
夜刀神君と。

話の飛躍の仕方が凄い、見た目の善し悪しも料理の大切な要素なのは事実ではあるが…

とにかく夜刀神君、熱々のもので火傷しちゃあたまらない、食べやすいものを召喚するからそれで空腹をなんとか…ぬいぐるみか子猫か、蛞蝓はオススメしない。

…え?は、羽根?夜刀神君になら食べてもらって構わないけど…味の感想は言わないで。
じゃ、じゃあ僕は代わりに夜刀神君の髪でももらおうかな…こういうのはギブアンドテイクってことで。

おっと、ドキドキしてて敵の事を忘れてた、危うくペシャンコだ。
ま、これで当てやすい位置に来てくれた、【書換】。
君の中の映えを塗りつぶした、たまには初心を思い返すのも悪いものじゃあないよ。


夜刀神・鏡介
アン(f25409)と

えーと……多少は美味そうに見えなくもないが、しかしやりすぎはいただけない
なるほど、先に何か食べて空腹を紛らわすのはいい考えかもしれない
だが、何が食べたいかって……(先程手を伸ばしかけた事を思い返して、つい)羽根?いや、今のはなかったことにって、良いのか
……な、なら折角だから(この空気に飲まれて若干おかしくなっている)……甘い
え、俺の髪って……いや、羽根を貰ったし断る訳にもいかない。短刀で軽く切って渡した所で敵の事を思い出す

……よ、よし、さっさと片付けよう。攻撃がアンに向かないよう前に出て、のしかかりを誘って回避
アンの一撃で敵が動揺したなら一気に接近して【砕牙】で攻撃



●火傷しそうなのはこっちなんですけどね
 ここまでのあらすじ。
 妖怪商店街を襲う一大SNS映えブームにより、深刻な経営難に陥った『元祖鉄板や』。店主のおっちゃんは三日三晩の徹夜で画像加工を学んだものの、それを鉄板焼きに活かす術を見つけることはできなかった。
 追いつめられた彼はほっこり北欧妖怪雑貨フェアを襲撃し、カクリヨファンタズムのすべてを食材へと変えてしまう。カップル客に希求するには、もはやフォトジェニックな雑貨を鉄板で焼くしかないのだ!
「話の飛躍の仕方が凄い」
 寝てないやつの言うことなんて大体そんなもんですよ。
「それにしたって、見た目の善し悪しも料理の大切な要素なのは事実ではあるが……」
 こんがり焼けた手のひらサイズのファブリックボードを眺めつつ、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)は首をひねっていた。
 確かに、北欧らしいシンプルな色使いの布地は素朴で可愛らしい。ケーキなどの菓子類ならば、こういう方向性のデコレーションも映えるだろう。
 しかし一般的に料理の見映えといえば、素材を新鮮に見せたり、出来立ての状態を想起させたりすることではないか。そもそも布が焦げているのはどうなのか。理論的に考えようとしてみたが、やっぱり感覚的におかしい。
 ……おかしいと、思うのだけど。自分では正しいと確信していることであっても、他者には理解されない場合も往々にしてある訳で。はっきり断言する前に、隣の意見を伺ってみる。
「夜刀神君はどうだい。ありかな? ファブリックボード焼き」
「えーと……」
 アンの差し出した正方形の物体をまじまじと見て、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)も同じように首をひねった。
「多少は美味そうに見えなくもないが、しかしやりすぎはいただけない」
「だよね……」
「まあな……」
 料理の善し悪し以前の問題として、余所の売り物をひっくり返して勝手に焼くのは駄目だろう。勢いで世界を崩壊させてしまうのはもっと駄目だ。きわめて常識的な判断である。
「ところで、これは本来何に使うものなんだ? 鍋敷きかと思ったんだが、どうやら違うみたいだな」
「ああ、単に壁に飾るんだよ。布の模様をそのまま楽しむ」
「掛け軸のようなものか」
 サクラミラージュの日本に生まれ、質実剛健そのものの修業生活を送ってきた鏡介からすれば、そもそも馴染みの薄い雑貨である。アンの披露した知識に素直に感心し、可愛いものに詳しいあたりは流石女子だな、と、納得したりもして。
 噛み合わないわりに妙なところで真面目なふたりは、互いのペースで頷き合った。

「とにかく夜刀神君、まずは作戦会議だよ」
 アンは自ら書き上げた魔導書、『銀枠のライブラ』を開く。彼女にしか理解しえない記述の羅列の中には、奇妙で愉快な術式がたくさん詰まっている。
「敵はこちらの空腹を鍵に、熱々の雑貨焼きを飛ばしてくるらしい」
 どんなに胡乱な状況であろうとも、何らかの対応策を見つけることができるはずだ。たぶん。
「火傷しちゃあたまらない、食べやすいものを召喚するからそれでなんとか……」
「なるほど、先に何か食べて空腹を紛らわす、と」
 なかなかいい考えかもしれない、と、鏡介もその作戦に同意を示す。
 ……『毒』の概念が消失しているので、その気になれば足下に転がっている石ころだって食べられる。しかし、おそらく、何かを口に入れて飲み込むだけでは不十分なのではないか。あらゆるものが同じように美味しいと感じるからこそ、無意識に他の要素で優劣をつけようとする。可愛いものが食べたくなるというのは、つまりそういう理屈だろう。
 ――腹だけではなく心まで満たせるような、何らかの魅力が必要なのだ。
「たとえば、ぬいぐるみ」
 ぽん、という小気味のいい音と共に、動くぬいぐるみが現れた。短い手足で挨拶をしてくる姿はとても可愛らしいが、……正直、さっきのスプラッタ劇場を思い出すだけである。
「あの、ここはもう少し……」
「じゃあ子猫かな」
「にゃーん」
「可哀想じゃないものにしてくれ」
「そうか……。蛞蝓だったら出せるけど、あんまりオススメはしないよ」
 選択肢の振れ幅が極端であった。
 困り顔でページをめくるアンに悪気はないようで、重たげな銀の翼がまたもやしゅんと垂れている。表情よりも、仕草のほうがわかりやすい。
 そう、先程手を伸ばしかけた、この翼。
 商店街を見渡せば、綺麗なものなんて数え切れない程にある。……だったらどうして、その中のたったひとつに、ああも惹きつけられたのだろう。
 なんて、ろくでもない衝動のことを思い返していたものだから。
「もう具体的に聞こうか。夜刀神君、何が食べたい?」
「羽根?」
 ――突然の問いに、つい口を滑らせてしまったのだ。

「……え?」
 思いがけない返答に、目を白黒させたのはアンの方である。
「は、羽根?」
「あ、いや、今のはなかったことに」
 鳥か何かの羽根を召喚しよう、という話ではないことはわかった。それなら彼もこんな風に狼狽えたりはしないだろう。何より、アンは、背の翼へと注がれる視線にはとりわけ敏感なのだった。
 ――この身体の中でいちばん、唯一と言ってもいいくらい、自信を持てるところだから。
 下手に顔や体つきを誉められるより、羽根を誉められたほうが嬉しい。よく綺麗だとは言われるけれど、食べたいとまで言われたのはもちろん初めてで。
「本当に気にしないでくれ」
「夜刀神君になら、食べてもらって構わないけど……」
「って、良いのか」
「ま、毎日ちゃんと手入れしてるから。きっと大丈夫」
「……な、なら、折角だから」
 いったい何が大丈夫でいったい何が折角なんだか、当人たちも全く分かっていない。倫理の崩壊したカクリヨの空気に飲まれて、若干おかしくなっていることだけは確かだ。
「味の感想は言わないで」
 生え揃った銀の羽根から、手渡す一片を選ぼうとすると――待ちきれないと言わんばかりに、鏡介の指がそれを手折った。あ、と抗議の声を挙げる間もなく、彼の口へと消えていく。
「……甘い」
「言わないでって!」
 普通なら舌に乗せても冷たいだけの金属を、今、彼の体はどう受け取ったのだろう。ほんの少しの好奇心は、限界寸前の恥ずかしさに押し流されて掻き消えた。
「じゃ、じゃあ、僕は代わりに夜刀神くんの髪でももらおうかな……」
「え、俺の髪って……」
「妥当なところだろう? こういうのはギブアンドテイクってことで」
 血の通わない、身体の一部。象徴的な意味合いも含めて、おおむね等価な条件のはず。
「……羽根を貰ったし、断る訳にもいかないな。むしろ釣り合うか不安だが」
 逡巡を見せつつも、鏡介は短刀を抜いて己の髪の先を切る。まるで頓着のない軽い動きだ。――黒髪、綺麗なのにな。もっと大事にすればいいのに。
 なんてことを思うのも、少々のぼせているからだろうか。おずおずと差し出した手のひらに、はらり、髪が落とされて――。
「居たなカップル客! 出来立て喰いねぃッ!」
「あ」
「おっと」
 ドキドキしてて両名すっかりお忘れのようですが、これは一応ボス戦なのですよ。

 髪を渡したばかりの手を引いて、鏡介はアンを後ろにかばう。のしかかりの初撃が彼女に向かないように、自ら前へと踏み込んで。
「食らえ積み重ねた歴史の重み――!!」
 横に転がるようにして危なげなく回避する。……誘った通りの方向に来てくれるのだから容易いものだ。
「……よ、よし、さっさと片付けよう」
「ああ、危うくペシャンコだ」
 まずはさっきの雑念を振り払わなければ。鏡介が呼吸を整える間に、アンが魔導書の頁を選ぶ。
「ま、これで当てやすい位置に来てくれた。――ライブラの愉快話、『書換』」
 彼女が取り出したのは銀の羽根ペンだ。空中に黒い線を引けば、倒れ伏すおっちゃんの背にインクの飛沫がひとしずく、ぽたりと落ちる。
「な、なんだ……?」
「――君の中の『映え』を塗りつぶした」
 小さな点は意志を持つ粘菌のように拡がって、奇妙な幾何学模様を描き出す。それと同時に『何か』が失われていく感覚に、おっちゃんは大きな動揺を見せる。
「映え……!? 俺には映えが分からねえ……!」
「君は最初から分かってなかった気もするが。たまには初心を思い出すのも悪いものじゃあないよ」
 アンの絡め手が齎した隙を、鏡介は逃さない。
 ひと続きの動きで接近、抜刀。そのまま肆の型、砕牙《サイガ》へ移る。抜いた勢いの一撃、続く三連続の斬撃が、おっちゃんの鉄の身体を――否、彼を取り巻く骸魂を噛み砕く。

 鏡介がトドメを決めている裏で、アンは握りしめていた手のひらをそっと開いた。……おっちゃんのせいでいくらか落としてしまったけれど、幾筋か、鏡介の髪が残っている。
 どんちゃん騒ぎはそろそろお開きの気配がするし、味わうのなら、今のうち。
「ん、…………」
 感想は、ひとまず胸に秘めておく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
映え、ね。ただ写真写りが良いだけじゃねぇ。年頃の女性や子供を魅了するデコレーションや想像も付かない工夫や創作…それが映え、さ。(手頃な席に足を組んで座る)

俺も一つ頼むぜ。アンタの魂を込めた自信作を食いたい。
差し出された映えを意識した『雑貨焼き』は悪いが断るぜ。……おいおい、聞こえなかったのか?俺はアンタの『自信作』を食いに来たんだ。
映えてるモンを焼く…目の付け所は悪くねぇ。だが、そこにアンタの魂はあるのかい?粉とタレの配合に苦心した、焼き加減を考えた、客への出し方を工夫した…それが詰まってるのはアンタの鉄板料理の方じゃないのか?

良い味だ。俺一人で味わうのは勿体無いぐらいだ。
ツレでも呼ぶとするか


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

はふはふっ
はふはふっ
おっちゃんこれおいしーね!
でもこれ映え関係無くない?

そーだ!タイ焼きとかたこ焼きとか作ってよ!
それはもう時代に合わないって?違うよ…それは違う…!(というようなことをそれっぽく言おうと思ったが続きが思い付かないのでやめる)
●申し訳程度のUC使用で料理スキルを1000にする
あ、ボクも焼く―
えーいいじゃん食べたくなったんだもん!

はふはふっ
はふはふっ
おっちゃんこれおいしーね!

●おすそわけ
ほらみんなも!おいしいよ~?食べなよ!
さあ百人前お待ちどぉ!

ふぅー食べた食べた
餓鬼球くんもおいしかった?そう!よかった!
あ~くちくなったら眠くなってきたよ~…😴


神代・凶津
あの鉄板のおっちゃんが今回の事件の原因か。
可愛い見た目って訳じゃないから相棒も正気を失わずに済みそうだ。
「・・・私は正気なんて失ってませんが?」
いや、さっきの乱れきった相棒は暫く忘れられねえよ。
「・・・誤解を招くような言い方はやめてください。」

おっちゃんののしかかり攻撃を見切って避けて隙を晒した瞬間
「・・・破邪・鬼心斬り。」
その『映え』を意識し過ぎて歪んじまった想いを断ち斬ってやる。
そんな一時の流行り廃りに惑わされてんじゃねえぜッ!
アンタの味が本物ならいずれ客も戻ってくる、違うか?

世話のかかるおっちゃんだぜ。
事件が解決したら鉄板物奢ってもらうとしようぜ。
勿論普通のヤツをな。


【アドリブ歓迎】



●お客様が第一でやっております
「雑貨焼き……雑貨焼きとは……?」
 寝不足の隈が刻まれた目に、答えの出ない問いを浮かべて、おっちゃんはもはや惰性で北欧妖怪雑貨を焼いていた。ぶっちゃけそのへんは書いてる筆者にも全然わかりませんからね。雑貨焼きって何?
 ともあれ。猟兵たちがボコボコに論破しまくった甲斐あって、彼の心は確実に弱ってきているようだった。骸魂に囚われている限りは奇行を続けるだろうが、解放までもう一押しといったところだろう。

 ――そんなおっちゃんの情けない体たらくを、遠巻きに伺う姿があった。凛とした佇まいの巫女が、ひとり。
「あの鉄板のおっちゃんが、今回の事件の原因か」
 固く結ばれた彼女の唇より先に、額の鬼面が声を発した。
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)とは『彼』のことであり、依り代である女性は凶津の妹分、兼、相棒の神代・桜だ。時代がかった服装で浮世離れした雰囲気の持ち主だが、こう見えてUDCアース出身のうら若き乙女だったりする。
「可愛い見た目って訳じゃないから、相棒も正気を失わずに済みそうだ」
「……私は正気なんて失ってませんが?」
 そう、現代人であれば、ついつい可愛いネコチャン相手に吸引を試みるような一面もあって当然。大丈夫です、お見せできない感じの顔はマスタリングしておきました。口調がめためたに崩壊していたのは隠せませんでしたけど……。
「いや、さっきの乱れきった相棒は暫く忘れられねえよ」
「……誤解を招くような言い方はやめてください」
 公序良俗を守りつつ、二人はおっちゃんの元へと歩を進める。ところどころの棚に並べられた『雑貨焼き』を、桜は怪訝そうな目で眺めて。
「可愛い雑貨なのでしょうが、食べ物としては言うほど魅力的でもないですね。自分を律していれば何ともありません」
「それがフラグにしか聞こえねえから困るんだよな……」
「ですから変な言い方はやめてくださいと」
「悪ぃ悪ぃ、まあ確かに、こんな妙なモン喜んで食う奴なんて――」
「はふはふっ」
「相棒――ッ!?」
 流れに既視感がありすぎて一瞬焦る凶津であったが、……今のは、桜の声ではない。視線を低い位置へ落とすと、十歳くらいの少年が満面の笑みでマグカップ焼きを頬張っていた。
「な、なんだ子供か……」
「私じゃないですからね……」
 親からはぐれた妖怪の子だろうか。猟兵がここまで堂々と職務放棄してオブリビオン製の料理に舌鼓を打っている訳がないし。でもこの子、さっきグリモアベースで見たような? いやいや、まさか。

 ――お察しの方もいるかもしれないが、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は終身名誉お子様枠だ。いつだって自由奔放である。
 気が向かなければ戦わないし、もっと気を惹くものがあったらもう絶対に戦わない。たとえ戦うとしても真面目にはやらない。世界がひとつ壊れちゃうのはできれば防いでおきたいけれど、こういうノリの時はたいてい他の猟兵が敵を何とかしてくれるものだ。神様は世界の摂理にも詳しい。
「はふはふっ」
 よって連携歓迎の構えをとって、自分はひたすら雑貨焼きを堪能することにした。正確には、このヘンテコで面白い状況を、だ。
「ん~~」
 マグカップに詰まった熱々の餡子を吐息で冷まし、ファブリックボードを端からかじって歯触りを楽しむ。蛸のぬいぐるみは何故か品切れしていたけれど、ロニはおおむね満足であった。
「おっちゃんこれおいしーね!」
「そうか!? わかるか!?」
 屈託のないロニの言葉に、項垂れていたおっちゃんが身体を跳ね上げる。
「ボク北欧にもお友達いるから! これ玄関の魔除けの模様だよね!」
「お……おう!? そう……なのか?」
 若干理解が追い付かないものの、ここにきてほぼ初めての純粋な高評価。死にかけていたおっちゃんの表情に生気が宿る。
「でもこれ映え関係無くない?」
「ぐわ――ッ!」
 儚い生気であった。美味しく食べてくれた客からさえもこの指摘。根本的なコンセプトが間違っている以上は何をやっても無駄。

「まーいっか、餓鬼球くんも食べなよ~」
『――――』
 残酷な評価をした当人のロニは、大して気にせず引き続き雑貨焼きを楽しんでいる。しかし、おっちゃんの尊大な羞恥心と臆病な自尊心は既に限界に達していた。
「そもそも映えって何なんだよ……。突然流行り出しやがってよ……」
「――映え、ね」
 思考が振り出しに戻ってしまったおっちゃんに、背後から声を掛ける何者かの姿がある。
「いいか? 映えってのは、ただ写真写りが良いだけじゃねぇ」
「お前は一体!?」
「便利屋Black Jack。俺が受けるぜ、その依頼」
 手頃な席に浅く腰掛け、悠々と足を組んで――カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は迷える依頼人にウインクをしてみせた。

「年頃の女性や子供を魅了するデコレーションや、想像も付かない工夫や創作……それが映え、さ」
 ……手頃な席とはいっても、もはや中央広場のフードコードは無茶苦茶な有様だ。そのへんで拾ってきた段ボールが椅子代わりである。それでも足が長くて顔が良いので結構映える。そんなカイムの話術の心得には、確かに妙な説得力があった。
「お、おお……」
 おっちゃんも素直に感銘を受ける。この男ならあるいは、映える加工を伝授してくれるのではないか。
「俺にゃ女房も子供も居ねぇ。元になった職人たちも、一生嫁が来ないか、来ても逃げられるかだ……。どうすりゃ女子供が喜ぶんだか、さっぱり……」
「そりゃあ、やり方ひとつだろ。本当にいい品には老若男女が集まるモンだぜ」
「しかし、俺ぁ普通のたい焼きたこ焼き焼くしか能がよぉ……」
 ぐちぐちと続く弱音に、ロニがふと顔を上げた。こんな姿をしているが、彼とて芸術を愛する神。創作の道に迷える羊にがつんと言ってやることが、
「そーだ! たい焼きとかたこ焼きとか作ってよ!」
 特に無かった。単語が耳に入ったら、そっちも食べたくなっただけだった。
「俺も一つ頼むぜ。アンタの魂を込めた自信作を食いたい」
「――合点だ! 出来立て食いねぃ!」
 蛸はあいにく切らしているので、とりあえずはたい焼きだ。北欧風の魚を象ったクッションをこんがりと焼く。北欧風なので鯛ではなくて別の魚かもしれないが、そこはまあ誤差の範疇として――。
「悪いな」
「なッ!?」
 差し出されるどころか焼き始められたばかりの『雑貨焼き』を、神殺しの魔剣を顕現させて叩き斬るカイム。文字通りの一刀両断である。オーバーキルじゃないですか?
「何しやがる!」
「……おいおい、聞こえなかったのか? 俺はアンタの『自信作』を食いに来たんだ」
「ふつーのやつがいいー!」
 カイムはやれやれと首を振り、ロニは口を尖らせる。
 ――今どきの映えるメニューではなく、何の変哲もない昔ながらのたい焼き。思いもよらないリクエストに、おっちゃんは戸惑いを見せる。
「そんなもん、もう時代に合わねえなよ……」
「違うよ……それは違う……!」
 そんなおっちゃんの前に進み出て、ロニは潤んだ片眼で訴える。こんな姿をしているが、彼とて永い歳月を生きる神。歴史の重みを何よりも重んじる信念が、
「…………」
 特になかった。それっぽいことを言おうと思っても続きが思い付かなかった。美味しいんだったら何でもいいんじゃないかな、とか、口に出したら大変そうなのでやめておく。
「さっきから何なんだお前は――ッ!」
「わー!」
 しかしそんな配慮も空しく、おっちゃんは苛立ちの矛先をロニへと向けた。口に出さずとも顔に出ていたので仕方ない。
 ――怒り任せののしかかり攻撃が炸裂するかと思われた、その瞬間。
「見てらんねぇな……ッ!」
 素早く割って入った影が、ロニを抱えて横へと跳ぶ。
 桜であった。凶津の面を深く被って、一心同体の臨戦態勢だ。

「女子供に手を上げるんじゃ、映える映えねぇ以前の問題だッての」
「……私は子供じゃありませんが?」
「わかったわかった、行くぜ相棒」
 説得で事が済むなら、と、しばらくは遠巻きに見守っていた凶津と桜だが。年甲斐もなく暴れ出すようなら話は別だ。ロニを安全な場所に下ろして、無名の妖刀を抜く。
 感情的な攻撃ゆえに、おっちゃんが晒した隙は大きい。所詮、相手は素人だ。
「……破邪・鬼心斬り」
 霊力を籠めて一閃。刀身が、まるで紙でも切るかのように鉄塊の肉体を軽く断つ。
 ――否、肉体である鉄には瑕ひとつない。桜はその奥に潜む『鬼』を――『映え』を意識し過ぎて歪んでしまった、彼の想いを斬ったのだ。
「そんな一時の流行り廃りに惑わされてんじゃねえぜッ!」
 檄が飛ぶ。
「――アンタの味が本物なら、いずれ客も戻ってくる、違うかッ!」
「俺の……味……?」
「そう、アンタの味、アンタの魂だ」
 呆然と立ち尽くすおっちゃんに、カイムは重ねて言葉を掛ける。
「映えてるモンを焼く……目の付け所は悪くねぇ。少なくとも工夫はしてる。……だが、そこにアンタの魂はあるのかい?」
 職人たちから受け継いだ、鉄板焼きに懸ける想いはそこにあるのか。生地は只の小麦粉ではないし、タレはただの味醂醤油ではないだろう。その配合に苦心して、焼き加減を考えて、最も美味しい状態で客へと運ぶ、その真心。
「……それが詰まってるのは、アンタ自身の鉄板料理の方じゃないのか?」
 返す言葉もなく、かといって簡単に頷けるわけでもなく、おっちゃんは膝を衝いて崩れ落ちる。

 ……重い沈黙を破ったのは、ロニの能天気な声だった。
「あ、おっちゃんが焼かないならボクが焼くー」
 思い立ったら即行動である。動かないおっちゃんに歩み寄って、彼の身体に勝手に油を塗っていく。
「……他人が勝手に焼いていいものなんでしょうか」
「えーいいじゃん、食べたくなったんだもん、ふつうのたい焼き!」
 辺りをきょろきょろと見渡すロニに、すっ、と、おっちゃんが何かを差し出した。ファブリックボードでもマグカップでもない、ーー生地が一杯に入った、古びたバケツだ。
「秘伝の配合だ。好きに使え、……使ってくれ」
「やったー!」
「待て、油が温まる前に流すんじゃねえ。まずはだな……」

 おっちゃんの指示に従いつつ、ロニは鉄板の窪みに生地を流し込んでいく。
 料理については一通りくらいの知識しかないけれど、一は全、全は一。自己流のこだわりがないぶん、アドバイスのひとつひとつを素直に吸収する。彼にとってはそれが精いっぱいで、神にとっては、それで十分。
 固まりきってしまう前に餡子を入れて、ひっくり返して、数分蒸らす。――綺麗に入った鱗の模様は、初挑戦とは思えない出来栄えだ。

「はふはふっ」
 一番乗りは調理者の特権である。最初の一個を、ロニは心行くまで頬張って。
「はふ、はふっ、――おっちゃんこれおいしーね!」
 ただそれだけの言葉に、おっちゃんは、静かに漢の涙をこぼす。
「……俺が、間違っていたんだな。有難うよ、坊主。さっきはすまん」
「なんのこと? ほらみんなも! おいしいよ~? 食べなよ!」
 概念崩壊が続いている以上、味には差がないのだけど。手塩にかけて焼いたという愛着は、どんな『映え』にも代えがたい。
「さあ、百人前お待ちどぉ!」
 食べきれないくらいの幸せは、おすそわけするのが一番だ。

「全く、世話のかかるおっちゃんだぜ」
「その通りでふ」
 凶津も、桜も、あつあつのたい焼きに舌鼓を打つ。鬼面である凶津のほうはどうやって食べているのかという話だが、それはまあ、不思議な力でだ。
「事件が解決したら鉄板物奢ってもらうとしようぜ。勿論、普通のヤツをなッ!」
「ああ、普通だが、――良い味だ」
 カイムもまた、たい焼きを飲み込んで目を細める。見た目は地味でも、味は同じだとしても、間違いなくおっちゃんの魂が籠っている。五感ではなく、心が腹に沁みてくる。
「俺たちだけで味わうのは勿体無いぐらいだ。……ツレでも呼ぶとするか」
「兄ちゃん、そりゃ気が早いぜ? 見たトコまだ異変は終わってねえみたいだ」
 ……おっちゃんは、ほぼ改心しているように思えるのだが。骸魂を剥がすにはまだ何か足りないのだろうか。もしかしてこの流れで叩っ斬らないといけないのか。それは流石に気まずいな、なんて、大人たちが顔を見合わせている横で。
「ふぅー食べた食べたっ、餓鬼球くんもおいしかった?」
『――――』
「そう! よかった! あ~くちくなったら眠くなってきたよ~…」
 ちょうどいい大きさの餓鬼球くんを抱き枕に、うとうと船を漕ぐロニの姿を見て――三人は同時に思い至る。
 あとは、おっちゃんを寝かしつけるだけなのだ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
屋台で買う物って何だか特別美味しく感じるというか、たまに思い出して食べたくなる懐かしいの味って感じですよね。見かけるとついつい買ってしまいます。
おっちゃんの苦悩は理解できます。私も映えというのはわかりません。
寝てないのなら寝なさい!
睡眠で頭もすっきりすれば、良いアイデアも浮かぶでしょう。
UC発動!
おやすみなさい良い夢を。
膝枕で起きるまで待ちます。

その間に、ちょっと商品食べても良いですかね。さっきから美味しそうな匂いと音が……じゅる
おっと!手が勝手に…
なっなんですか藍!もちろんお代は払いますよ。だからそんな目で見ないでください!
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。


佐藤・和鏡子
……睡眠不足で判断が大分おかしくなっているようですね。
根を詰めても身体に悪いだけですから、少し休んだ方が良いですよ。
(昏睡のユーベルコードを使用します)
私は看護モデルなので飲食業は素人ですが、さっき出てきた猫又やたこのぬいぐるみなどかわいい物をモチーフにした鉄板焼きを作るというのはどうでしょうか?
これなら、型を作り替えるだけでいけますから。
素人の私でもこれぐらい考えつくのに、プロのあなたがここまで判断がおかしくなるのが、過労と不眠の恐ろしさ。
ゆっくり休んで目が覚めたら元の鉄板焼き屋に戻ってくれると良いのですが。



●たったひとつの冴えたやり方
 妖怪商店街、ひいてはカクリヨファンタズムを襲った異変――『毒』という概念の消失と、それに伴う倫理の崩壊。
 猟兵たちが力を尽くした甲斐あって、一連の騒動は収束しつつあった。おっちゃんを飲み込んだ骸魂が、その力を失いつつあるのだ。
「俺は……俺は一体何を……」
 そもそも、本体であるおっちゃんがあらゆる意味で疲れ果てている。三日三晩寝てませんしね。
「職人たちから受け継いだ伝統を、俺は裏切っちまったんだな……」
「そう思うことができるなら、やり直せると思いますよ」
 呆然自失の彼を見かねて、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)が歩み寄る。穏やかに微笑む彼女の佇まいを前にして、おっちゃんは思わず頭を下げた。
「竜神様……。こんな俺にも情けを掛けてくれるのか」
「いえいえ、情けだなんて大層なものじゃないです。ただ、いい匂いがするなあと思って」
 鉄板から漂うタレとダシの香りに、自然と頬が綻ぶのだ。笑顔を作っている訳でも、神として接している訳でもない。
「屋台で買う物って何だか特別美味しく感じるというか、たまに思い出して食べたくなる懐かしい味って感じですよね」
「ああ……、祭りは、いいモンだ」
「たこ焼きも、焼きそばも、見かけるとついつい買ってしまいます」
 あらゆるものが美味しく感じる世界だからこそ、付加価値が必要になる。それは見た目の可愛らしさや、組み合わせの奇抜さだったりするかもしれないけれど、――呼び起こされる思い出だって、立派な価値だ。
 かつて豊泉晶場水分神が祀られていた農村にも、賑やかな祭りがあって、暖かい食卓があった。名前や具材が違っても、素朴な味と選ぶ楽しさは全国共通。
 昔から変わらないからこそ、誰もに伝わる良さだってあるというもの。
「ありがとうよ……。竜神様みたいなお客も居てくれるっていうのに、俺ときたら流行ばっかり追っかけて」
「……その苦悩は理解できます。私も映えというのはわかりませんから」
 外見上は同年代の女子たちと、ときどき話が噛み合わなかったり……、というのは兎も角として。
 晶も妖怪たちと同じく、人間とは異なる時間を生きる存在だ。忘れられていく寂しさも、時代に置いていかれる焦りも、痛いぐらいに知っている。けれど、嘆いてばかりもいられない。
「それでも皆を信じて、自分にできることを続けていくしかないんです」
 居なくなったお客さんだって、いつかは懐かしい味に惹かれて戻ってくるかもしれない。その時に、最高の鉄板料理を振る舞うために、愚直に努力するしかないのだ。
「――合点だ! 俺ぁ心を入れ替えたッ!」
「その調子です!」
「まずは責任取って商店街を片付けるッ! 不眠不休でだッ!」
「その心意……気……、あ、いや、不眠不休はちょっとどうかと」
 騒動の元凶であるおっちゃんが活動している限り、カクリヨの崩壊は止まらない。それ以前の問題として、片付けなんて作業をできる健康状態にはとても見えない。立ち上がった拍子に段ボールの山が崩れたし、足取りは明らかにふらついている。
「あの、一旦お休みになられては……」
「いいや、心配ねぇよ竜神様。二日過ぎたあたりからちっとも眠くならねえんだ。何十時間でも働ける……」
 倒れる奴特有の妄言を吐き、あくまで散乱した瓦礫を片付けようとするおっちゃんを。
「――昏睡《コーマ》、投与します」
 大量の白煙、医療用麻酔ガスの放射が迎え討つ。
「身体が……動かねえ!?」
「それが正常な状態です。……睡眠不足で判断が大分おかしくなっているようですね」
 睡眠に限った話ではない。人体は極限状況に置かれ続けると、飽和して意味をなさなくなった危険信号を遮断する。妖怪にも似たような現象はあるだろう――というのが、佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)の判断だった。つまりおっちゃんは、眠すぎて眠い自覚すらできないだけである。
「根を詰めても身体に悪いだけですから、少し休んだ方が良いですよ」
「そうですそうです。寝てないのなら寝なさい!」
 徹夜で作業なんかしたってロクなことはない。生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えであった。

 おっちゃんを取り巻く骸魂が、最後の抵抗とばかりに暴れる。それに引導を渡すのは、攻撃ではなく、癒しの力だ。
「……おやすみなさい、良い夢を」
 水晶のようにきらきら光る霧が広がり、中央広場全体を『竜の寝所』へと変える。其は晶の神力によって造りあげられた安全圏。何人たりとて侵すことの叶わぬ、安らかな寝床。
 ぐらり、と倒れるおっちゃんの重い身体を、まずは和鏡子が全身で受け止め、続いて晶が手を添える。そのままゆっくりと横たえて、ふたり並んで膝枕をするような形になった。
「これで一件落着ですね。睡眠で頭もすっきりすれば、良いアイデアも浮かぶでしょう」
「ええ。私は看護モデルなので、飲食業は素人ですが……」
 あくまで控えめな前置きをしつつ、和鏡子は思考を巡らせる。
 ……寝る前にある程度不安を解消してあげたほうが、上質な睡眠を得られるはずだ。おっちゃん本人に考えさせるより、こちらから話しかけるほうがいいだろう。絵本の読み聞かせと同じ原理である。
「たとえば、さっき出てきた猫又のような、かわいい物をモチーフにした鉄板焼きを作るというのはどうでしょうか?」
「俺ぁ……、俺ぁ絵心がねえんだ。可愛いものなんて作ったことがねえ……」
「今川焼きは型を使いますよね。絵心のある誰かに手伝ってもらって、型を作り替えればいけるのでは?」
「他の……誰かに?」
「たこのぬいぐるみだって、そのまま店に飾ったほうが子供は喜ぶと思いますよ。ひとつ譲ってもらえばいいじゃないですか」
 素人の和鏡子でも、これぐらいの案は考えつく。客商売に関してはプロである筈のおっちゃんが、ここまで判断がおかしくなるのが、過労と不眠の恐ろしさ。……そして、何より、その睡眠不足に至った原因は。
「一人で抱え込むのは良くないです。誰かに相談したっていいんですよ」
「そう……だよな……そうだったんだ」
 気持ちに整理がついたのだろう。やがておっちゃんは、大音量のいびきを立て始めた。 

「――あれっ、僕はいったい何を」
「きゃああっ、もめ太郎さんのエッチ!!!」
「ぐはっ!?」
 ……どんちゃん騒ぎが、次第に収まっていく。概念消失の影響が薄れ、妖怪たちも正気を取り戻しつつあるようだ。
 ある者は目を白黒させ、ある者は笑い飛ばして、それぞれの日常へと帰っていくのだろう。まあ、この程度の世界の崩壊は、彼らにとっては日常の一部なのかもしれないが。
「ゆっくり休んで目が覚めたら、元の鉄板焼き屋に戻ってくれるといいのですが……」
 おっちゃんの心身の傷が癒えるまでの間、晶と和鏡子は膝枕のまま待つことにした。ふたりとも外見よりは丈夫な身体をしているし、藍も隙間に身体を挟んで、支えるのを手伝ってくれている。
「その間に、ちょっと商品食べても良いですかね……?」
 膝枕自体は負担ではないのだが、さっきから美味しそうな匂いが続いているのが難点だ。じゅる、なんて、はしたない音も立ててしまう。
 おっちゃんの身体の鉄板で、何故か、たい焼きが焼けている。謎の雑貨焼きではなく、淡白な生地にたっぷりと餡の詰まった――彼自身の自慢の味だ。
 手に取ってみるといい具合に温かい。薄い皮から蒸気が抜けて、焼き立てとはまた違うパリっとした食感がある。
「おっと! 手が勝手に……」
 質問をしておいて、答えを聞く前に食べていた。返事をするべきおっちゃんは泥のようにぐうすか眠っていらっしゃるので、冷めきってしまう前に美味しく頂くのが正解だと思っておこう。そういうことにしておこう。
「なっなんですか藍!」
 無垢な獣の真っ直ぐな目が、妙な罪悪感を煽ってくるけれど。
「うう、藍の目が冷たい」
「おそらく大丈夫では? 後でお代を払っておきましょう」
「も、もちろん! 払いますよ。……だから藍、そんな目で見ないでください!」

 世界に倫理が取り戻されて、おっちゃんが商売人に戻ったとしても。
 力を尽くして戦った猟兵たちの団欒を、咎める者など誰もいない――はずである。たぶん。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『おいでませ、妖怪商店街!』

POW   :    なんだか美味しそうな物が売ってる…買い食いしよう!

SPD   :    なんや珍しい物が売ってんなぁ…それなんぼするん?

WIZ   :    何やら妖怪の子供達が遊んでるぞ…混ぜて混ぜて!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●365日変わらぬ笑顔をお届けします
 ここはカクリヨファンタズム、妖怪商店街。
 ちょっと概念が消失したり、世界が崩壊しかけたりもしたけれど、お祭り騒ぎが終われば次のお祭り騒ぎが始まる場所。
 商品が食べ散らかされたり、カップル客がところかまわずイチャついたりしたせいで、店舗はどこも片付けの真っ最中。しかし、その合間にも営業を再開している店がほとんどだ。『ほっこり北欧妖怪雑貨フェア』の看板には、『世界存続おめでとう!』『食べ残し売り切りセール!』などの文字列が手書きで加えられている。……商魂たくましいというか、なんというか。
 仕事ついでに片付けを手伝うのもいいし、ひと遊びしてから帰るのもまた良いだろう。残り物には福があるともいうし、思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれない。

「おっちゃんがそんなに悩んでいたなんて……」
「鉄板やには世話になっとる、何でも相談しとくれよ!」
「お、お前ら……!」
 骸魂から解放され、寝て起きてすっきりして、おっちゃんも元気を取り戻しつつある。元は実直な人柄であるし、周囲の妖怪たちの反応も温かい。
 鉄板やの営業再開には少し時間がかかるかもしれないが、恩人である猟兵たちには喜んで鉄板料理を振る舞ってくれることだろう。もし新メニューの相談を受けたら、親身になって聞いてあげてほしい。

「にゃーん」
 アッネコチャン! かわいいねー!!!
 ……最後くらいは冷静にいきましょう。普段は恥ずかしがりやの猫又たちも、猟兵たちが自分たちの世界を救ってくれたことは理解している様子。
 もしかしたら、ちょっと撫でたり吸ったりするくらいは許してくれるかも?
 ほら、人によっては、唇許した仲なんですから。
アン・カルド
夜刀神君と。

とりあえず、後片付けしようか夜刀神君。

全く変な依頼だったね夜刀神君、毒がなくなったからってなんでもかんでも食べていい依頼なんて、僕は多少物事に毒のある方が好みなんだけどね夜刀神君、まぁ食べ物なら当然毒はない方がいいんだけどね夜刀神君。

……で、でさぁ夜刀神君、話を詳しく思い返してみるとね、可愛いものを食べたくなるって話だったじゃないか、でね、さっきは僕の事…じゃなくて僕の羽根を食べたいって言ってくれただろ?
……これってさ僕の事、多少憎からず思ってくれてる、って考えていいの…かな?

もし、もしそうなら、嬉しいよ夜刀神君、僕は人にそう思われることが少ないから。

…あ、羽根のおかわりいるかい?


夜刀神・鏡介
アンと

……そうだな、ちょっと片付けでもしようか
……この世界で妙な事が起きるのは日常茶飯事だが、本当に妙な出来事だった。……ああ、そうだな。……俺もそう思う。……本当にそうだな(思い返して煩悶中)

……あ、あれは勢いというか、あの場の空気に飲まれていたというか。いや、別に適当な事を言った訳じゃなくて。あの時は本気で食べたいと……(自分で傷口を広げた事で逆に冷静に。深呼吸だ)

ああ、憎からず思っている事は否定しない……いや。そうだな。友人として少なからず好意を抱いていると言おうか

世界が元に戻ったんだから、おかわりは食べられないだろ。気持ちだけ受け取っておこう。
あれ、そういえば俺の髪の事……いや、いいか



●今はまだ、このままで
 悪いんだか、悪くないんだか、よく分からない夢が醒めて。
「終わった……か?」
「終わった、ね?」
 そう言い交わすふたりの視線は、斜めに交差してすれ違う。
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はきらきら輝く銀の翼の一片を見て、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)は左だけ短くなった彼の髪先を見て、――互いに、何かを確かめるように頷いた。
 世界の崩壊は防がれた。溢れ出していた骸魂は海へと還って、商店街のどんちゃん騒ぎも次第に収まって、幽世にまた束の間の平和が訪れる。
「とりあえず、後片付けしようか夜刀神君」
「……そうだな、ちょっと片付けでもしようか」
 猟兵たちの戦いが終わっても、滅茶苦茶になった店舗や商品が一瞬で元に戻る訳ではない。……まあ、そのほとんどは妖怪たちが面白可笑しく食い散らかした結果である。正気に戻った面々にとりたてて悲壮感はなく、むしろ祭をやり遂げたような雰囲気が漂っていた。
「お、手伝ってくれるんか! こっち頼むよ!」
 陽気な化提灯の店主が、すぐに鏡介とアンを迎え入れる。
 彼らにとっては片付けだって祭のようなものだから、随分気軽なものだった。

 中央広場で行われている片付けは単純明快だ。北欧妖怪雑貨を拾い集め、美品、訳あり品、廃棄品に分けて段ボール箱に詰めるだけ。
 それを手伝っているうちに、おのずと役割分担が定まっていく。鏡介は箱を抱えて往復する力仕事を担当し、アンは座り込んで品物を見定める作業に集中する。各々仕事をこなしながら、とりとめもない会話を交わすぐらいの余裕もあった。
「しかし、全く変な依頼だったね夜刀神君」
「ああ」
 ――『毒』の概念がなくなったからって、なんでもかんでも食べていいだなんて。
「……この世界で妙な事が起きるのは日常茶飯事だが、本当に妙な出来事だった」
 鏡介にも理屈はわかる。毒という概念が消失するということは、食べたものが身体に害を為すという現象が消失するということだ。……理屈というより、言葉遊びのようにしか思えないけれど。その言葉遊びが現実となるのがカクリヨファンタズムである。
 かといって、一足飛びに食欲の箍が外れてしまう点は少々解せないが。禁じられていなければ、何でもやってしまうのが人間という生き物の性なのだろうか。
「僕は多少物事に毒のあるほうが好みなんだけどね夜刀神君」
「……ああ、そうだな。……俺もそう思う」
 あるほうが好みどころか、ないと危険だ。越えてはならない一線を保つ『何か』が、『毒』という概念のうちに含まれているのなら。ところでさっきから夜刀神君多くないか?
「まぁ食べ物なら当然毒はない方がいいんだけどね夜刀神君」
「……本当に、そうだな……」
 やっぱり駄目だ。毒にも薬にもならない相槌を打つだけでいっぱいいっぱいだ。――彼女が視界に入るたびに、異変のさなかに自分の晒した醜態が思い返される。身体を動かせば煩悶も吹き飛ぶだろうと思ったのだが、なんだか客観的になってしまって、完全に逆効果なのだった。
 アンの前に新しい段ボール箱を積んで、そそくさと背を向けようとすると。
「……で、でさぁ夜刀神君?」
 調子っ外れに上擦った声が、そんな鏡介を呼び止める。
「話を詳しく思い返してみるとね、可愛いものを食べたくなるって話だったじゃないか」
 グリモアベースでは確かにそういう説明を受けた。魅力だとか。愛着だとか。際限なく欲望を満たせる飽食の世界のなかで、ある種の感情こそが判断基準となるのだ、と。
「でね、さっきは僕の事……じゃなくて、僕の羽根を食べたいって言ってくれただろ?」
「……あ、あれは勢いというか、あの場の空気に飲まれていたというか」
 早口で言い訳を並べる。視線を合わせることができない。けれど、彼女の反応が見えないままだとそれはそれで不安でもあった。……今の言い草に、何か無礼なところはなかったろうか。
「いや、別に適当な事を言った訳じゃなくて。あの時は本当に食べたいと……」
「本当?」
「……本当……」
 焦って盛大に自爆した。明らかに傷口が広がった。
「それってさ、僕の事、――多少憎からず思ってくれてる、って考えていいの……かな?」
 続けて背後から致命打が来た。額を伝う汗の感触がくっきり分かる。
「もし、もしそうなら……」
 ……むしろここまで言われてしまえば、逆に冷静になってきた。
 少なくとも、アンの言葉に怒りや呆れの色はない。そもそも異変にあてられていたことについてはお互い様だ。下手に自分を取り繕うと、彼女の想いまで疑うことになってしまう。
 ここから先は斬り合い以上の真剣勝負だ。深呼吸を、ひとつ。
「ああ」
 否定はしない。
「……いや。そうだな。友人として少なからず好意を抱いている、と、言おう」
 毒にも薬にもならない返事だと思われるかもしれないけれど。
 それ以上を考えるのは、祭りの名残が身体からすっかり抜けた後にしよう。

「――嬉しいよ、夜刀神君」
 振り返ると、不器用に笑うアンの姿があった。
 彼女は表情を作るのが苦手で、こういう時に口角の上がり方が微妙だったりする。けれど、背中の銀の翼は、本当に嬉しそうにゆらゆら揺れている。そういうところが――。
「僕は、人にそう思われることが少ないから」
「そうか?」
 可愛いと、思うのだけど。
「……あ、羽根のおかわりいるかい?」
「世界が元に戻ったんだから、おかわりは食べられないだろ」
 翼への視線をそう解釈するあたり、感情が仕草に出ている自覚はないらしい。気持ちだけ受け取っておこう、と、苦笑いで彼女を制すると――なんとなく、いつもの調子が戻ってきた。

「……あれ」
「ん?」
 そういえば、今のやりとりで思い出したが――渡した髪は、どうなったのだろう。
 直後におっちゃんが突っ込んできたせいで有耶無耶になっていた。あの時、落としてしまっただろうか。それとも気付かないうちに食べていたのだろうか。その機会を逸してまだ懐に持っている可能性もある。
「……いや、いいか」
 一度渡したものの処遇を気にするのは、あまり潔くないし。
 うっかり感想なんて聞かされようものなら、また妙な心地になるだろうから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ラファン・クロウフォード
【箱2】鉄板のおっちゃん、元気を取り戻して本当に良かった。ぬおぅ!自分は今まで何て事をしたんだ。狂気と入れ違いで恥ずかしさがどっとキター記憶を消してえぇー(嫌な汗だらり)黙々とテキパキと片付けに全集中して落ち着こ。つか、マグカップの数多っ。北欧知らない奴が描いたのかな。絵柄が謎すぎて、大好きだ。面白マグカップ土産にどうだ?注いだ飲み物が消える不思議なカップ。妖怪だった、うわぁ!?ネコノミ焼き食いたい、戒も食べるよな。二人前頼む。猫の顔は自分で描くからノッペラボウでいいよ(食べ残したら呪われそうなホラーな絵心)可愛いキスにクラリ。壁に追い詰めてドン。こんなことされちゃ、俺、マテができなくなるよ?


瀬古・戒
【箱2】
おっちゃん元気になって何より
店の片付け手伝うぜ
謎マグカップいーな、買ってい?
作ってくれた猫型お好み焼き…ネコノミ焼きごちそーさん、旨かったぜ
今時は、不器用も武器になるんだぜ?ネコノミ焼き(修行中)でメニューにしたら良いんでね?「#おっちゃん頑張れ」ってなるて、俺も応援してるし
て訳でまた作ってくれよ食い足りねーの
自分で描けんのいーな…それ芸術、ぶははッ!

概念消失の影響に飲まれ手出さなかった俺を褒めてぇけど、今も消えない衝動は…
…ラファン、1分付き合え
建物の隙間に連れ込んでマフラーずらして首筋に口つけ1分
よし、跡ついた
へへ、マフラー外せない身体にしたったザマミロ仕返し
は、ちょ待て、待って!



●左右のバランスが難しい
「おし! クダ巻いてても仕方ねぇ。まずは店を開けねえとな!」
 世界崩壊の爆心地こと、元祖鉄板やのおっちゃん――彼もすっかり、いつもの明るさと根性を取り戻したようだ。猟兵たちの尽力と、良質な睡眠の賜物である。
 まずは無理せず、自分の店の片付け作業に取りかかることとした。……まあ、散らかっている原因の半分くらいは三日三晩の徹夜だったりするのだが。残り半分は雑貨焼きの試作品が散乱しているせいである。
「ん、おっちゃん元気になって何より」
 古めかしい暖簾をひょいとくぐって、瀬古・戒(瓦灯・f19003)が店内に顔を出す。
「店の片付け手伝うぜ」
「何から何まですまねえなあ」
「いいってことよ!」
 骸魂を海に還した後、平和な日常を取り戻すのもまた猟兵としての使命である……なーんて堅苦しい建前は抜きにして。これから常連として通わせてもらう予定の店なのだ。手伝わない理由は全くない。
「うん、本当に良かった」
 そんな戒の後ろに続いて、ラファン・クロフォード(武闘神官・f18585)もおっちゃんへと笑いかける。確かに派手ではないけれど、ほっとする雰囲気のある良い店だと思う。雑貨焼きさえ片付ければ。
 映えるものを焼いて食べようだなんて、本当に変な騒動だった。改めて、今回の経緯を思い返して――。
「…………」
 思い返して。
「ぬおぅ!?」
 ――自分は今まで何て事をしてたんだ、と思い至る。
 そう、前章までの振る舞いからは全く想像できないが、本来のラファンはやや純情な青年なのだ。ステータスシートにもしっかりとそう書いてあり、筆者はぶっちゃけ大いに困惑していた。
 概念消失のもたらした狂気と入れ違いに、正常な倫理のもたらす気恥ずかしさが押し寄せる。
「ど、どっとキター記憶を消してえぇー……」
「今やっと来たのかよ」
 呆れた様子で肩をすくめる戒の姿に、数時間分の嫌な汗がだらりと流れ落ちるのだった。

 ……とりあえず、片付けに全集中してどうにか落ち着くことにする。
 深呼吸、壱ノ型。黙々と、テキパキと、食べ残された雑貨焼きを分別していく。焦げたファブリックボードは訳あり品の箱へと入れ、マグカップは餡子を取り除いて綺麗に拭いていく。蛸のぬいぐるみは何故か一個も見当たらなかった。
「つか、マグカップの数多っ」
 映える雑貨といえばマグカップ、お土産物といえばマグカップと言わんばかりの圧倒的な品揃えだ。果たして世の中にこんな数のマグカップが必要なのだろうかと疑問に思うほどの量である。やはり、日頃使うものに図柄が描いてあるだけという手軽さが人気の秘訣だろう。
「でもこれ、北欧知らない奴が描いたのかな」
「ラファンでもわかんねえの?」
「わかるような、わかんないような……、たぶんこれが雷の神……?」
 ハンマーを持ってヘビを追いかけ回しているのでおそらく雷の神だろう。上半身裸で虎柄のパンツを履いているのはちょっと変だけど。
 他にもねじり鉢巻きをしたクラーケンだとか、カバに似た二足歩行の生物だとか、全体的に絵柄が謎すぎる。極寒の地を守護する神であるラファンからすれば、どれもトンチキ極まりない。
「この感じいいなあ、大好きだ」
 神は寛容でもあった。細かいことは気にしないとも言う。
「面白マグカップ土産にどうだ? ほら見て戒、これ不思議だ。熱い飲み物を注ぐとね……」
 磨き終わったカップをひとつ手にとって、おっちゃんから差し入れられた茶を注いてみせる。
「知ってる知ってる、絵が消えたりするやつだろ」
「注いだ飲み物が消える」
「意味ねえな!?」
 急須いっぱいぶんの茶が虚空へと消えた。内部を覗き込んでみると――カップの底の大きな目玉が、ギョロリとラファンを睨み返してくる。
「うわぁ!?」
「この謎マグカップいいな、買ってい?」
「これを!?」
「ああ、そいつァ化け湯呑だよ。たまに紛れ込んでやがるんだよな……」
 カウンター向こうの厨房で、おっちゃんは慣れた様子で茶を沸かし直す。戒とラファンをちらりと見て、ばつが悪そうに俯いて。
「金はいらんよ、持ってけ持ってけ。――お前さんらにゃ迷惑掛けッ放しだからな」
「気にすんなって、ほら、作ってくれた猫型お好み焼き……ネコノミ焼き。ごちそーさん、旨かったぜ」
 画力はやや微妙だったし、概念崩壊の影響で味の差は判然としなかったけれど。それでも、あの一枚からは職人としての心意気が伝わってきた。
「あ、俺もまたネコノミ焼き食いたい。戒も食べるよな」
「じゃ、二人前頼むわ」
 作業は一段落したということにして、カウンターへと寄っていく。浅く座って頬杖をつけば、気分はもう常連客。
「いや、だが、アレはまだ修行中で……」
「今時は、不器用も武器になるんだぜ? いっそ『ネコノミ焼き(修行中)』でメニューにしたら良いんでね?」
 正直に修行中だと白状すれば、みんな暖かい目で見守ってくれるだろう。完璧な作品を造る技術だけではなく、目標を持って努力する姿も尊ぶべきものだ。それもまた『可愛い』であり、それもまた『映え』である。
「#おっちゃん頑張れ ってなるて、絶対ホットワード入りするて」
 俺も応援してるし、と、屈託のない笑顔を浮かべる戒。
「て訳でまた作ってくれよ! 食い足りねーの」
「――おう!」
 こうして元祖鉄板やは、無事に営業を再開した。

 ……ネコノミ焼き(修業中)の出来映えはというと、やっぱり形が微妙である。長年お好み焼きを焼いてきた手癖が抜けていないのか、真円に近くてどうにも生き物感がない。まだまだ発展途上だ。
 あとは猫の顔を描くだけである。ソースとマヨネーズを構えたまま硬直しているおっちゃんに、ラファンが助け船を出す。
「自分で描くから、のっぺらぼうでいいよ」
「あ、それいーな」
 そういう趣向があれば子供に人気が出そうだし、大人だって普通に楽しい。
 戒の瞳が輝いているのを見て、ラファンも俄然張り切った。客席の自己調節用ソースを手に取って、さらさらと猫の顔を描き上げていく。
「む……」
 鼻が一つ。目が二つ。ヒゲが三本……いや六本? どっちだろ。とりあえずW型の可愛い口を描いておきさえすれば――。
「……ってそれ芸術、ぶははッ!」
「むう」
 正面顔と横顔が混ざって名状しがたい何かになった。立体を再構成した近代的な表現なのか、それともホラーに出てくる継ぎ接ぎの怪物なのか。どちらにせよ、北欧妖怪マグカップをとやかく言えない絵心である。
「最高、これ、食べ残したら呪われそ」
「むう……」
 これなら思わず写真を残したくなるし、SNSに投稿したくもなるだろう。

 味はもちろん、普通に美味い。脳が痺れるような刺激はないけれど、ダシと醤油の香りが心地よく鼻に抜けていく。
 食欲っていうのは本来こういうものだよなあ、と戒は再確認する。可愛いものを食べたいだなんて異常な感覚だったのだ。概念消失の影響に飲まれた勢いで、ラファンに手を出したりせずに踏みとどまった自分を誉めたい、けれど。
「…………」
 彼の横顔をじっと眺める。絵の出来栄えに不服げだった表情が、ネコノミ焼きを頬張った瞬間にゆるりと綻ぶ。かわいい。
 ――世界が元に戻っても尚、今も消えない衝動は。
 ごちそうさま、と手を合わせて、貰ったマグカップでお茶を一杯いただいて、戒は静かに切り出した。
「……ラファン、一分付き合え」

「なになに?」
「いいからこっち」
 この後も商店街の片付けは続くのだし、早めに済ませたほうがいいだろう。さっき一旦木綿を見かけた建物の隙間にラファンを連れ込んで、周囲の人通りを確認して。
「わ、」
 ゆったり巻かれたマフラーを軽く引っ張ってずらす。反射的に喉仏が動くのを見て眼を細め、――その横の、細い首筋に口づける。
 この後は、どうするんだっけか、歯形を付けたら痛いだろうし、ゆっくり時間をかけて吸えばいいのか。一分って約束だったな、六十秒なんて数えてないけれど、たぶん、きっと、このぐらいで、
「――よし」
 雪みたいに真っ白な肌に、しっかりと朱の跡が残った。
「へへ、マフラー外せない身体にしたったザマミロ仕返し――」
「…………」
「ラ、ラファン?」
「…………」
「あ、あー、らふぁ太郎さん?」
「可愛い」
「えっ」
 ――今の行動はどっちかというと、戒としては格好良い系でやっているつもりだったのだが。そんな彼女の思惑とは関係なく、マフラーに添えていた手が掴まれる。
「は、ちょ待て、待って!」
 こういう時に限ってラファンは力が強い。あっという間に壁に追い詰め返されて、もう片方の腕で退路を塞がれる。
 額と額がくっついて、間近で瞳を覗き込まれる。異変に酔っていた時とは違う、本気の目だ。
「――こんなことされちゃ、俺、マテができなくなるよ?」

 え、ええと、やや純情……まあいいや。カメラ暗転させときますね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐藤・和鏡子
ユーベルコードで医療用ロボットを呼び出して片付けを手伝ってもらいます。
医療用ロボットなら手先も器用なので片付けにも応用できますから。
もちろん、私も片付けに参加します。
片付けが終わったら本来の鉄板料理をご馳走になりながら、おっちゃんに先ほど話した人形焼きのアイデアを提供するつもりです。
型を変えれば形は思いのまま、中身を変えればスイーツからお惣菜まで自由自在、ポテンシャルはかなり高いはずですから。
(睦み合うカップルたちを見ながら)……いつの日か、私も誰かを愛し、この身でその愛を受け入れる日が来るのでしょうか?
(この身体はそれが出来るぐらい人に近いことを最近知りました)



●参考資料拝読しました
 ――カクリヨファンタズムには、UDCアースから忘れ去られたものたちが集う。
 そう言われると古めかしい世界だと思われるかもしれないが、実際に訪れてみると近未来的な造形があちこちに見られたりもする。それは過ぎ去りし二十世紀に人類が見ていた夢。科学のもたらす残酷な現実に直面する前の、無邪気だった時代の名残。俗に、これをレトロフューチャーと呼ぶ。
「さあ、あなたたちの力が必要です」
 つまり、百体近い小型ロボットがアームを伸ばして闊歩する景色も、案外妖怪商店街の愉快な日常の範疇なのである。たぶん。
 その中心で指示を出す小柄な少女――佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)もまた、夢と科学の申し子だった。

 彼女の呼び出した機医《メディカルボット》は、その名の通り、医療行為の補助を想定して造られたロボットだ。
 ……とはいっても、今回の騒動で怪我をした者はほとんど居ない。『毒』の概念がない世界で食べたり飲んだり舐め合ったりしていただけなのだから当然ではある。
「あの後もめ子さんにめちゃくちゃ殴られました」
「打撲……でしょうか? 布の端がほつれてますね……」
 怪我人が全く居ない訳ではないが、まあ肉体的には軽傷だろう。
 おっちゃんの睡眠不足も無事に解消したことだし、和鏡子は商店街の片付けに注力することとした。
 災害救助の要領で機医を展開し、至るところでで細々とした作業を手伝ってもらう。もともと、簡単な外科手術ぐらいはこなせる器用な子たちだ。割れ物の片付けだって朝飯前。小型機なので、重量のあるものは運べないのが難点だが――。
「この棚はどうします?」
「ちょいと接いだら使えるなあ、修理屋に持ってくか」
「でしたら、私が置いてきますよ」
 そこは和鏡子が対応すればいい。子供のような体躯には、患者のひとりやふたりなら軽々と抱えられる膂力があるのだから。
 何事も、見かけで判断してはいけないということだ。

「お、嬢ちゃん。さっきはすまんな」
 そんな和鏡子に、元祖鉄板やの屋台から声が掛かる。
「おっちゃん、お元気になられたようで良かったです」
「疲れたろ、何か食ってけ」
 和鏡子の身体は損傷はしても疲労することはないのだが、ここで好意を無下にするのも失礼だと判断する。ちょうど作業に一区切りがついたところでもあるし。
「ではお言葉に甘えて――」
 覗き込んだ店内から芳しい匂いが漂ってくる。醤油に、味醂に、ダシは煮干しの類だろうか。ついつい分析してしまうけれど、総合的に言えば『美味しそう』だし――何より、彼本来の鉄板焼き料理が帰ってきたことが喜ばしい。
「嬢ちゃんの言ってたような、猫又のやつはねえけどよ」
「聴こえてらしたんですね」
「寝ちまう前に、ぼんやりな。鯛焼きでいいか?」
 さすがに金属の型を新しく作るのには時間がかかるだろう。目の前で焼かれているのは、餡子がたっぷりのオーソドックスな鯛焼きだ。
「甘いものもいいですけど。肉体労働の後には……、しょっぱいもの、ですかね」
 電解質の調整なんてこの身体には必要ないのに、そんな言葉が口をついて出た。
 不思議なことに、なんとなく、醤油の気分になったのだ。

 おっちゃんから焼きそばをご馳走になりつつ、和鏡子は先ほどの猫又焼きのアイデアに想いを馳せる。鯛焼きのように形を作るのを、人形焼きと言うのだったか。
「型を変えれば形は想いのままですし、中身を変えれば、スイーツからお総菜まで自由自在です」
「甘いものと辛いものじゃ、生地も変えないといかんな」
「成程、そういうものなんですね……」
 専門外の知識には素直に感心する和鏡子である。鯛焼きの生地ひとつ取っても、彼の長年の経験が活きているのだ。
「それでも、ポテンシャルはかなり高いと思います。猫又焼き」
 鉄板の上に残ったキャベツを集めて、最後の一口をいただいて。
「発売を楽しみにしてます。――焼きそば、ご馳走様でした」
「おうよ! お代は結構!」

 ……挨拶を済ませて暖簾をくぐると、路地裏に動く影がある。
「なめ子さん、まだ足りないよ……」
「もう、なめ太郎さんったら……」
 概念消失の影響はもうすっかり抜けているはずだが、まだ睦み合うカップルが路地裏に散見される。まあ、これはこれで正常な状態なのだろう。猟兵が混ざっているようにも見えたが気にしてはいけない。
 そんな彼らを、和鏡子は何秒かじっと見つめてしまった。以前なら、健康で何よりとしか感じなかった光景を、だ。

 ――いつの日か。
 私も誰かを愛したり、この身でその愛を受け入れる日が来るのでしょうか?

 最近、ほとんど偶然に知った事実なのだが――この身体は、それが『できる』ぐらいに人に近い構造をしている。看護用ミレナリィドールという使用目的に対して、明らかに過剰な機能が搭載されている。人形なのだから多少粗末に扱われても問題ないと思っていたのに、少々想定外だった。
 この設計に、意図があるのか。それともパーツの流用などの都合でそうなっているだけなのか。あれ以来、時々考え込んでしまう。
 そもそも、ここで言う愛とはなんだろう。
 少なくとも、おやつ感覚でかじることとは違うらしい。
 ……『可愛い』ものを食べたくなる世界の中で、何の違いも感じなかった和鏡子にとって――それは、もう少し遠い物語なのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
アドリブ絡み◎

招きねこねこ(きゅぴーん)
おっちゃん!招きねこねことかどうですか。本物は食べ物を扱う関係上難しいでしょうが、陶器やぬいぐるみなら問題ないのでは。可愛いは正義です。

新しいメニューのご提案でしたら、ねこねこたこ焼きとか幽世にいるケサランパサランをモチーフにしたケサパサたこ焼きとかどうでしょう。絶対良いと思います。(ふんす)
とりあえず、招きねこねこは試しに作って貰ってきます。お代はこちらで持ちますので。

ふふ、試作品いくつ作りましょうか。
私の分とーグリモア猟兵の方にも1つと。あー残念だなー最初に聞こえた声の方にもあげられたら良かったのに。本当に残念ですね。


カイム・クローバー
ツレ…つまり、夏報を誘って鉄板焼きを味わうぜ。
注文した百人前、食べ切らなきゃな。新しいのを頼むのはその後だ。

夏報が来る前に少し店を離れて酒を購入しておく。缶ビール?瓶ビール?とにかく、大量のビールと鉄板焼き。
飲み仲間だってのに、実は今まで飲んだことが無かったから、良い機会だと思って。勿論、映えとか気にするようなタイプじゃないと思うから、おっちゃんは気楽に構えててくれて良いぜ。俺が知る中でも一、二を争うほど庶民的な飲み屋が似合う女だからよ、な!(ウインク)

新メニューなぁ…。ホットケーキとかどうだ?知ってるか?
夏報に写真撮って貰ってそれを使ってチラシを作って配ったりしたらどうだ?(巻き込んでいく)



●そりゃ越えていけとは言いましたけども
「つーわけで、約束通りツレを呼んできたぜ」
 続いて元祖鉄板やの暖簾を潜るのは、満杯のポリ袋をひとつ抱えたカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。その高らかな宣言通り、彼の背後には小柄な女の姿があった。
「どういう約束なの……?」
 グリモア猟兵、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)。天の声からどんなに無茶苦茶な予知を言い渡されようと、やる気のないコメントと共に猟兵たちを転移の光で包むお助けキャラである。オブリビオンとの戦闘中は安全な位置で待機している必要があるが、仕事さえ終わってしまえば彼女も自由時間だ。
「鉄板焼きやってるって聞いて来たんだけど」
「ああ。まずは注文した百人前、食べきらなきゃな」
「百人前!?」
 そう、――戦闘という名のどんちゃん騒ぎの末に振る舞われた鯛焼きは、とてもその場で食べきれるような量ではなかったのだ。雑貨焼きなどという胡乱な物体は別として、ちゃんとした食べ物を粗末にするのはいかがなものか。
 まずは出された品を平らげるのが筋というもの。新しいものを頼むのはその後だ。摂取カロリーについては……考えては、いけない。
「もしかして夏報さん、戦力として呼ばれたんじゃ……」
「そう言うなって、味については俺が保証するぜ? それにだな――」
 屋台の空いたスペースに、カイムはどさりと手荷物を下ろす。
 金属とガラスがぶつかる軽快な音。不透明な白い袋から顔を出すのは、色とりどりのスチール缶に昔なつかしい褐色瓶。その表面にきらきら輝く結露の雫。
「ビールあるじゃん!」
「ああ、大量のビールと鉄板焼き。――合うだろ?」
 夏報が到着するより前に、最寄りの酒屋で購入したものだ。UDCの日本で最も目にする酒だけあって種類も多い。とにかく、あるだけ買ってきた。
「うんうん、ビールくらいなら実質水だよなー。これなら炭水化物と一緒に飲んでも無罪かなー」
 ちょろいことこの上ない反応だった。
 カイムの話術の心得が鮮やかだからか、それともこの女が常にアルコールに飢えているからか。……まあ、たぶんその両方である。

「お、ビールか。グラス出してくるか?」
「頼むぜ」
「お願いしまーす」
 屋台風という形式ゆえ、他店からの持ち込みも特に問題ない。おっちゃんのもてなしを有難く受けつつ、二人は並んで席につく。
「カイムくんが庶民的な店にいるのって新鮮かも……」
「飲み仲間だってのに、実は今までこういうの無かったからな」
 内装の持つ雰囲気も手伝って、なんとなくしみじみとしてしまう。
 片や裏方業務中心のしがないUDCエージェント、片や組織に属することなく邪神と戦う便利屋稼業。世界が同じでも生き方が違う。依頼では頻繁に顔を合わせ、野暮用を任せたりする間柄ではあるけれど、そういえば互いの普段の姿はあまり知らないのだった。
 カイムとしては良い機会だと思ったし、何よりおっちゃんの鉄板焼きには暖かみのある会話が似合う。
「きみ、ホテルの最上階でワイン飲んでるイメージだもの」
「そりゃ流石に気合入れてる時だけだな、いつもはもっとこう……コンポタコーラとか……」
「コンポタコーラ」
 飲み会は、始まってしまえば楽しいものだ。

 おっちゃんが二人分のグラスを持って戻ってくれば、あっという間に度数低めのペールエールが一本空く。
「鯛焼きと酒、なかなかイケるね」
 焼きあがってから時間は経っているものの、一流の鉄板焼きは冷めても美味い。餡子の甘さもしつこくない。鉄板で温め直せば、いい感じに水分が飛んでトーストのような香ばしくまた絶品である。
「姉ちゃん、普通の鯛焼きでいいのか? 猫の顔とか、そういうんじゃなくて」
「猫?」
「あー、おっちゃんは気楽に構えててくれて良いぜ」
 二十代中盤、いかにもな年頃の女性客が相手だからか、おっちゃんはいささか不安げだった。自分の料理は地味なのではないかという意識が少し残っているのだろう。しかし、そこはカイムとしても織り込み済。
「夏報は俺が知る中でも、一、二を争うほど――庶民的な飲み屋が似合う女だからよ」
「それ褒めてる?」
「な!」
「ウインクで力押ししようとするんじゃありません! ……ま、否定はできないけどね」
 映えだとかバズだとか気にするようなタイプの人間が、スマートフォンも手にせずに酒ばかり飲むはずもない。
「食べ物に動物の顔って、個人的にはちょっと苦手だな。目が合う感じするし、どうせ崩さなきゃいけないと思うと」
「ああ、確かに、そう思う奴もいるよな」
「でしたら!」
 唐突な明るい声とともに、暖簾がめくりあげられた。
「みなさん、招きねこねことかどうですか!」
 ねこまたすねこすり、略してねこねこ。あれだけ連呼した甲斐あって、少なくとも一人には覚えて帰ってもらえたようだ。……と、いうのは置いといて。豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は弾むような足取りで店内へと乗り込んでくる。
「食べ物以外にも可愛いものがあったら、食べちゃうのが可哀想だって人にも安心です。でも、あんまり関係ないものを飾っても不自然ですから……」
 時代の流れには合わせたい。しかし、あまり本質から離れすぎても迷走している感じが出てきて逆効果。そのジレンマは晶にもよく理解できる。そうして考えに考えたあげく、路地裏の猫又たちと目が合って、きゅぴーんと閃いたとっておきのアイデアこそが――招きねこねこ。
「成程、初心に返って商売繁盛の御祈願か……」
 おっちゃんの反応も悪くない。もう一押しと言わんばかりに、晶はカウンターへと身を乗り出して。
「本物のねこねこさんは食べ物を扱う関係上難しいでしょうが、陶器やぬいぐるみなら問題ないのでは。可愛いは、正義です」
 ええ、モフモフのみがこの世の救いです。
「可愛いは正義……さすが竜神様、ありがてえお告げだ」
「お告げってこんな感じでいいモンなのか?」
「どっちかというとセールストークっぽい」
 ひそひそと囁き交わすカイムと夏報をよそに、晶は懐から最終兵器を取り出した。
 毛足の長い真っ白なファー生地。手のひらサイズのまんまるフォルム。小さな目鼻が刺繍され、フェルト製の小判を抱えた、招きねこねこ試作品第一号である。
「試しに作って貰ってきました。お代はこちらで持ちますので。――仕立て屋さん、おっちゃんが元気になるならいくつでも作る、って仰ってましたよ」
「そうか、……ありがとよって、伝えといてくれ」
 おっちゃんはそれを両手で受け取って、棚の上へと丁寧に飾る。彼を心配しているのは、猟兵たちだけではないのだ。
「ふふ、決まりですね。試作品いくつ作ってもらいましょうか……。あとは私の分とー、そうだ、グリモア猟兵の方にもひとつ」
「夏報さんにも?」
「どうぞどうぞ、依頼のお礼もありますし――」
 ありますし?
「そうした方がいいような気がして。……あー残念だなー、最初に聞こえた声の方にもあげられたら良かったのに」
 ぎくり。
 いや……ギャグ時空もそろそろお開きですし、そんなに自我出してませんよ? 出してなかったと思います。
「本当に残念ですね」
 気のせいじゃないですかね。

 閑話休題。
 なんだかんだとメンバーが増えるのもまた醍醐味ということで、三人になった飲み会は続く。百人前の鯛焼きも残りわずかになってきた。
 そろそろ次の注文を、と、三人でお品書きを回し見る。そこには『ネコノミ焼き(修業中)』『ネコ人形焼き(準備中)』といった猟兵考案の新メニューが早くも書き加えられていた。
「お好み焼きと人形焼きがあるのなら、ねこねこたこ焼きとか」
「猫で一通り作れそうだな、猫以外に何かあるか?」
「うーん……ねこねこ以外でモフモフ……あっ、ケサランパサランをモチーフにするのはどうでしょう。略してケサパサたこ焼きです。絶対良いと思います」
 ふんす、と意気込む晶とは対照的に、夏報はグラスに口をつけたまま静かに相槌を打っている。……こういう時に意見を言う奴ではないのは承知だが、それでは席を囲んでいる意味がないな、とカイムは思う。
「夏報は? なんか案あるか?」
「え、ええ? 正直このままで普通に美味いしなあ。もっとシンプルでいいと思うんだけど」
「シンプル、か。ホットケーキとかどうだ? おっちゃん知ってるか?」
「おうよ。――しかし、ちと地味じゃあねえか? それこそ茶色いぞ」
 ……おっちゃんの思い浮かべる『ホットケーキ』は、昭和の家庭のおやつとして出てくるような類だろう。近年流行りの、円筒型に焼き上げて眩暈がするほどクリームを乗っけるようなものではなく。
「写真出せるか?」
「おっけー」
 すぐさま虚空から写真を取り出す夏報を見て、今度はカイムがきゅぴーんと思いつく。
「写真だ写真! 夏報得意だろ。それを使ってチラシを作って配ったりしたらどうだ?」
「えっ、あっ、これは得意っていうか、体質っていうか」
「ねこねこの写真も出せます?」
「きみはモフモフからちょっと離れて!」
 多くの人を巻き込みながら、元祖鉄板やリニューアル計画は進んでいく。
 ――こうして皆が盛り上がることこそが、この店の持つ魅力の証拠なのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルネ・プロスト
乱痴気騒ぎももう仕舞い、か
なんだかんだ終わってしまえば寂し……くはないな
早くも次のどんちゃん騒ぎを迎えてるし
泥酔明けに迎え酒飲む飲兵衛みたい
まぁ先刻までの常軌を逸した馬鹿騒ぎでも無し
活気溢れて賑やかな分には悪くないか

ぬいぐるみの修繕材料の調達は駒盤遊戯達にお願いするよ
ついでにこのペテン師(小鳥人形)も連れてくといい
こいつにとって値引き交渉はお手の物だからね
余った予算は好きに使えばいいさ

道化師団は改造系技能でルネの味覚を人並みまで調整
駒盤遊戯達の買出し中、ルネは一眠りしたおっちゃんの鉄板料理を食べてようかな
次があるかも分からぬ一期一会の縁だしね
彼自慢の料理、味わわずに帰るのは勿体ないだろう?



●人形はあなたのごはんじゃない
 陽が落ちる頃にもなると、商店街の後片付けはあらかた完了していた。
 とりあえず広場と通路が確保できれば、いつも通りに買い物客を迎えることぐらいはできる。路地裏に積み上げられた廃材や、食い荒らされた店の内装についてはまた追々。何ごとも、細かいところは一晩寝てから考えたほうがいいものだ。
 妖怪たちは思い思いに夕食をとったり、敷物やワゴンを並べて仮店舗を開いたりし始めている。
「乱痴気騒ぎももう仕舞い、か」
 ルネ・プロスト(人形王国・f21741)率いる駒盤遊戯《ドールズナイト》の一団が、往来を邪魔しないよう一列になって進んでいく。守護僧正《ビショップ》の肩に座れば、中央広場の光景を一望できる。もちろん、膝の上にはたこさんも一緒だ。
「なんだかんだ終わってしまえば寂し……くは、ないな」
 祭りの後の静けさなんてものとは無縁の場所だ。なにせ、妖怪商店街は毎日がお祭りなのだから。
「かーッ働いた働いた、働くと腹が減るなあ」
「アンタさっきたらふく掛け軸食ってたろ」
「美人画は別腹ってな、せっかくだから鉄板やに行くか」
 むしろ、早くも次のどんちゃん騒ぎを迎えている。
 力仕事を終えた店主たちも、睦み合っていたカップル客も、本当の意味で腹が減ったらやることはひとつ。――広場周りの飲食店は、ひとまとまりの巨大な宴会の様相を呈していた。
「泥酔明けに迎え酒飲む飲兵衛みたい」
 酒飲みは、この世のすべてを酒を飲む理由付けにする。感情を糧にする妖怪たちもまた、日々を面白可笑しく生きる理由を常に求めている。世界の崩壊の危機ですら、彼らにとっては程良い刺激なのだろう。
 ……ルネ達も盛り上げ役の大道芸人と間違われているフシがあり、時折拍手が飛んできたりする。見世物じゃないぞ、とは思いつつ、そんなに嫌な気もしなかった。
「まぁ、いいか。先刻までの常軌を逸した馬鹿騒ぎでも無し」
 活気溢れて賑やかな分には、非日常めいた日常も悪くない。

 さて、飲食店以外にも、この騒動で繁盛している商売がある。
 修繕を請け負う職人達だ。紙、木材、割れた器の金継ぎなどなど、素材ごとに必要とされる技術は異なってくる。
 ぬいぐるみの場合は、もちろん布だ。ルネ自身に裁縫の心得があるので、材料を調達するだけでいいのだが。
「ごめんねえ、今、ファー生地が品薄で……」
 裁縫店をあたっても、たこさんに使われているのと同じ布が見つからない。
 改めて、たこさんぬいぐるみの状態を見る。愛嬌のあるとぼけた顔、暖かみのある赤色。なめらかで触り心地のいい布地。ずっと撫でていたくなる魅力があるが、その肌は焼け焦げてところどころに穴が空いてしまっている。……やはり、一刻も早く直してあげたい。
『ところで蛸に毛が生えているとはこれ如何に?』
「うるさい小鳥人形。可愛いからいいだろう。……うーん、まずは裏から当て布をして、後から色味の近い毛糸を植毛するか」
 完全に同じ布を探すよりは現実味のある計画だ。そうと決まれば実行あるのみ。僧正の肩から降りて、人形たちに向き直る。
「とにかく布という布、あと、できれば赤い毛糸。――調達お願いできるかな?」
 彼らは死霊憑依によって自律行動する人形なので、簡単なおつかい程度なら難なくこなしてくれる。十分な予算を手渡して、ついでに頭上に留まった小鳥人形を指さして。
「このペテン師も連れてくといい。値引き交渉はお手の物だろう」
『有り難きお言葉です!』
「本当にそう思ってる? ま、余った予算はみんなで好きに使えばいいさ。くれぐれもこいつに独り占めさせないように」
 主の言葉に恭しく応え、駒盤遊戯は商店街に散っていく。たこさんを片手に抱えて、ルネはひとつ伸びをする。
「後は……、道化師団《パーティドールズ》。少し調整を頼めるかな」
 自分の足で、身体ひとつで、行っておきたい場所があるのだ。

「へいらっしゃい!」
「邪魔するよ」
「って、じょ、嬢ちゃんか……」
 元祖鉄板やの暖簾をくぐったルネの姿に、おっちゃんは心持ち一歩退く。ちょっと前にギタギタのメタメタに論破されたのだからまあ当然の反応である。
「構えない構えない、ルネは料理を食べにきただけ」
 おっちゃんが一眠りして正気に戻れば、ちゃんとした鉄板焼きが食べられるはず。――店の外まで客が溢れるほどの繁盛っぷりが、その期待を裏付けていた。
 棚に飾られた招きねこねこの姿を見て、ルネの鋭い目元が綻ぶ。この様子ならぬいぐるみを焼くような愚行には二度と及ぶまい。
「席はあるかい?」
「お陰様で見ての通りだ。しばらく待てば空くと思うが」
「じゃ、テイクアウトは? 食べ歩いてる人たちを見たよ」
「ていく……お持ち帰りか、ちょいと待ってな」

 薄っぺらいプラスチックの透明容器に、爪楊枝。
 人によっては安っぽく感じるだろう包装も、ルネにとっては物珍しい。
 ――あまり、ひとつところに留まるということはしないのだ。あらゆる世界の、あらゆるものを見たいと思う気持ちのほうが強いから。商店街も、鉄板やも、次があるかも分からぬ一期一会の縁。
 だからこそ、おっちゃん自慢の料理を味わわずに帰るだなんて勿体ない。爪楊枝に一粒刺して、早速一口。
「あ、む」
 熱い。慌てて息を吐いて冷まして、慎重にもう一口。ソースの塩味が舌に拡がって、とろりとした生地がその上に流れ込む。これも熱い。けれど、砂糖とは違う素朴な甘みが後から来る。
 ……物を食べるのにこれだけ苦労するものなのか。まあ、これも一興か。この瞬間のためだけに、感覚を人間並みに調整しただけの甲斐はあった。
 半分になった球体から、蛸の足がちらりと覗く。
「うん、――食べるなら本物に限るよね」
 たこさんぬいぐるみも、頷いているような気がする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・絡み歓迎!

●おすそわけ
あ、夏報おねえちゃんだー!
お姉ちゃんも白樺人形焼きとか食べに来ればよかったのにー!

フフーンちゃんとあぶれたお兄ちゃんお姉ちゃんたちににお土産用意してあるよ!
じゃーん!おっちゃん特製のタイ焼き……風ブリトーだよっ!
さくじゅわの揚げ鶏とシャキサクの野菜をふわふわトルティーヤに包んで―
たっぷりのエンチラーダ・ソースと、とろっとろのチーズをぶしゃーっ!
でんぷんと油とお肉の全力全開!美味しさとカロリーで人は殺せるんだって証明してくれる一品だよ!

大丈夫。人類発生以来ほとんど期間でちょっとぽっちゃりの方がモテテる!
(今後10年100年のことは保証されない人類史観的な見方)


風見・ケイ
なんや珍しい物が売ってんなぁ…それなんぼするん?
え、たっか……ちょっとまけてや
まとめて4つ買うから、な?

こっちは慧ちゃんので、こっちは螢ちゃんので、こっちが僕の
二人が思い出しやすいようにしっかり覚えて……

――はい、これは夏報ちゃんに
なんやろねコレ……外国の妖怪なんて全然わからへんけど、かわええやろ
あとで慧ちゃんにでも聞いてみて
今日は僕回やからね、このまま新しいお祭り騒ぎに乗っかってく
……これくらいの役得はええやろ

おっちゃんさっきはかんにんな、たこ焼きちょーだい
んー、やっぱりこういう茶色のが映えてると思うわ
夏報ちゃん達もおひとつどーぞ

お、アンタはさっきの猫か
……まんまる茶色で、なんだか美味そう?



●色気も食い気もほどほどに
「なんや珍しい物が売ってんなぁ……それなんぼするん?」
 フラグメントの選択肢はあくまで一例っていつも言ってるじゃないですか。なんで完全に一体化しちゃってるんですか。そういえばどうして関西弁なんですか。
「一個三千円になります」
「え、たっか……」
 ――世界崩壊の危機が過ぎても、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)の瞳は青いまま。存在意義の半分を無事取り戻した『荊』のままである。
 戦闘用人格なんて名乗っているものの、戦闘にしか興味がないなんてことはない。北欧妖怪雑貨だなんて聞き慣れない言葉を耳にすれば、その正体を自分で確かめてみたくもなる。
 まあ、実物を前にしても、よく分からないことに変わりはないのだが。
 異変前より小規模になって再開された『ほっこり北欧妖怪雑貨フェア』。その中で荊の目を惹き付けたのは、ビビッドカラーの陶器の貯金箱だった。目がふたつ付いているので何かの動物だろう。妖怪かもしれない。
「お金貯めるんにお金払うってどうなん……」
「まあまあ、可愛いじゃないですか。貯めている間の楽しさに価値があるんです」
「ん-」
 可愛いと感じたことは否定できないし、楽しむ時間にお金を掛けるのも悪いことではないように思えてくる。商売人は話が上手い。
 いやいや、しかし。お金を貯めてまで欲しいものがある訳でもないし。猟兵の報酬があれば大概のものは手に入るし。この貯金箱が満杯になる日なんて、そもそも来るかもわからないし――。
「……ちょっとまけてや」
 買おう。使えるのかもわからない貯金箱みたいなものが、自分達にはもっと必要な気がする。一つだけだと『僕』のものだと思われるかもしれないから、他の二人にもお土産にしよう。
「ええやろ、まとめて三つ――」
 財布を開けて。
「四つ買うから、それで一万。な?」

 ――手提げ袋に、古新聞にくるまれた貯金箱が四つ。
 このままではどれがどれだか分からないので、色の名前を書いた付箋を貼ってもらった。『ローズ』、『ターコイズ』、『ライラック』。素直に赤青紫でええやんと思わなくもないが、これも一種の映えなのかもしれない。
「ええと、こっちは慧ちゃんので、こっちは螢ちゃんので、こっちが僕の」
 人格同士である程度記憶は共有できるのだし、メモを残すほどのことでもないだろう。後で二人が思い出しやすいようにしっかり覚えておく。後は、残りのもう一色。
「――と、おったおった」
 中央広場の飲食店スペースは妖怪たちの打ち上げ会場と化している。その一角に、ぽつんと尋ね人の姿があった。
「てかもう飲んどるん?」
「う?」
 地面に座り込んでいた彼女は、缶ビールに口を付けたまま顔を上げる。相変わらずの様子に苦笑いをしつつ、隣にひょいと腰を下ろして。
「――はい、これは夏報ちゃんに」
 最後の一個は、『アッシュグレー』だ。
「えっ、なになに?」
「これは北欧妖怪雑貨」
「北欧妖怪雑貨ってなに?」
「夏報ちゃんに分からんのなら僕にも分からん……」
 予知したグリモア猟兵にすら分からないのだから、もはや完全に正体不明である。そのあたりの適当さ加減もまたカクリヨファンタズムの持ち味ということで。
 夏報が新聞紙を半分ほどくと、灰色の貯金箱が顔を出す。この色味だとゾウに似ている気もする。
「本当になんやろねコレ……」
「マンモス……? 北欧って寒いし……」
「外国の妖怪なんて全然わからへんけど、かわええやろ。――あとで慧ちゃんにでも聞いてみて」
 多分、かわいいものについては彼女のほうが詳しいだろう。そう思って何気なく口にした言葉に、夏報は小さく首を傾げる。
「ええと……これ、風見くんから?」
「ううん、僕から。――今日は僕回やからね」
 妙ちきりんな異変に巻き込まれたという話だけじゃあ終われない。お酒だって飲みたいし、友達とだって遊びたい。新しいお祭り騒ぎに乗っかって、『僕』の思い出も作りたい。
「ほんと? ……ふふ、嬉しいな、大事にするね」
 このくらい、役得したっていいはずだ。

「へいらっしゃい!」
「おっちゃんさっきはかんにんな、たこ焼きちょーだい」
「おう、ぬいぐるみじゃないやつな!」
 すっかり満員御礼となった元祖鉄板やは、テイクアウト中心の営業にシフトしていた。定番メニューはその場で手渡される。おっちゃんも自虐ネタを飛ばせる程度には元気そうだ。
 ありふれたプラスチック容器の中で、つやつやと輝くソース。湯気に合わせて踊る鰹節。青海苔と紅生姜の彩りもお祭りらしくて賑やかだ。
「んー、やっぱりこういう茶色のが映えてると思うわ」
 珍しいものもたまには楽しいけれど、食べ物はやっぱり見慣れたものが一番だ。美味しいものだと、一目で分かる。
「夏報ちゃんもおひとつどーぞ」
「じゃ、ひとつだけ。夏報さんさっき大量に鯛焼き食べててさ……」
「あ、夏報おねえちゃんだー!」
 噂をすればなんとやら。
 ――鉄板やの厨房から、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)が身を乗り出した。彼の身長では、背伸びしないとカウンターに隠れてしまうのだ。
「それと記憶喪失キャラの人!」
「その話もう止めとこ?」
「ロニくんじゃん、お手伝いなんて偉いなあ」
 おっちゃんとお揃いの赤いハチマキに小さなエプロン、返しゴテを握った姿は、立派なお子様店長である。
 本人的には単にマイブームだから好きに料理をしているだけで、どうせそのうち飽きるのだが。少なくとも今のところは、押し寄せる客を捌く戦力として機能しているようだ。
「お姉ちゃんも白樺人形焼きとか食べに来ればよかったのにー!」
「夏報さんはグリモア猟兵のお仕事あるからね。あんまり前には出られないんだ」
「んもー。そんな真面目ぶってるからあぶれちゃうんだよー」
「何に!?」
 夏報の疑問はさておいて、ロニはふふーんと胸を張る。
「あぶれたお姉ちゃんたちのために、ちゃんとお土産用意してあるよ!」
「だから何に!?」
 カウンター下の保温器から、ロニは取って置きを出す。それは夏報が先程さんざん食べた鯛焼き――ではなくて、鯛の型押しがされた何かだ。一時期流行った長方形の魚拓みたいな鯛焼きに少し似ていなくもない。
「じゃーん! おっちゃん特製の鯛焼き……風ブリトーだよっ!」
 それって北欧じゃなくて南米じゃないですか。
「美味しそう美味しそう、ロニくんが作ったの?」
「そ、見て見て」
 返しゴテを使って、ブリトー鯛焼きを一匹割る。何層にも重なった薄焼きの生地の中から、分厚い揚げ衣と、まるごと一本ありそうな鶏もも肉が顔を出す。瑞々しいサニーレタスの葉脈を、溢れ出した大量の油が伝う。
「まずは! さくじゅわの揚げ鶏とシャキサクの野菜を、おっちゃん直伝生地で作ったふわふわトルティーヤに包んでー」
「…………」
 優しいお姉さんヅラに徹していた夏報の表情が、みるみるうちに強張っていく。
「あの……その……揚げ油……」
「贅沢にゴマ油使ったよ!」
「そういうことじゃなくって」
「さらに! ここに! たっぷりのエンチラーダ・ソースと、とろっとろのチーズを」
「ええっ……」
 夏報が言葉を選んでいる間もロニは止まらない。地獄めいた赤いソースと、フォンデュ風に溶かされたチーズは、どちらも小鍋いっぱいに用意されている。
「ぶしゃーっ!」
「うわーっ!」
 覆水盆に返らず。でんぷん、油、ついでにお肉の全力全開。美味しいことには美味しいのだろうが、カロリーで人は殺せるのだと証明するために生まれてきたような一品が爆誕した。
「大丈夫! 野菜もあるし! 人類発生以来ほとんど期間でちょっとぽっちゃりの方がモテてる!」
 人類史観的な見方をすれば全くその通りである。今後十年百年のことは保証されないし、今現在の消化器官の具合は考慮されないが。
「イバラくん! た、た、助けて!」
「確かに夏報ちゃんもっと肉つけたほうがええんちゃう?」
「そういう問題じゃないんだよお! あのねえロニくん、日本人は胃腸が弱いし、現代人には生活習慣病リスクというものが」
「人類発生以来ぜんぶ期間で、そういうこと言う人はモテない!」
「こいつ……!」
 悲しいかな、これも全くその通りなのである。

 ……結局、ブリトー鯛焼きはお持ち帰りと相成った。なんだかんだ断る気にはなれなかったし、その場で無理をして体調を崩すのもそれはそれで失礼だろうし。
「うう、少しずつ食べよう……」
「ま、僕も食べるから。慧ちゃんに怒られん程度にね……」
 そうやってふたり並んで歩いていると、足元に擦り寄るような気配がある。
「にゃーん」
「お、アンタはさっきの猫か」
 ブリトーの美味しそうな匂いに釣られて来たのだろうか。唐辛子の効いたエンチラーダ・ソースは無理だろうけど、たこ焼きくらいなら少しあげても大丈夫かもしれない。そう思いつつ、声のほうへと視線を落とす。
 まんまるの体、茶色い毛並み、頭の上だけ色の濃い独特の模様。……あまりにも、さっきまで食べていたものとそっくりである。
「……なんだか美味そう?」
「にゃっ!?」
 すねこすりに憑かれていないただの猫又はとても臆病である。食べ物を貰えるどころか食べ物にされる危険を察して、一瞬で路地裏へと消えてしまった。
「ふふ、イバラくんも猫にはモテないな」
「別にモテなくてええもんね」
 そういうのは、僕の担当ではないし。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
【❄🌸】
なびき、体はどうですか?
元気なら良いのです

淡い色やオシャレな柄でゆめかわ
…む、なんでもと言われても
無駄遣いはいけません

目に留まったのは小さな木の人形
フェルト生地のお洋服
ちょこんとしてかわいいです

なびき、なびき
この子達、とても素敵です
サンタのお手伝いなんて、とてもえらいです
たから達の家にも、幸運を招いてくれそうでしょう?

はっねこです
物陰から現れたふあふあの猫又達
たから達はこわくありませんよ

我が家のねこと同じように撫でれば
二本の尻尾がゆらゆら
だっこもいいのですか?ありがとうございます

はい、そうですね
なびきはたからがかわいいので
今回は大変でし



あの、なびき
まだ概念が

えっ
それはどういう

ふぇ


揺歌語・なびき
【❄🌸】

北欧フェアを見てく

うん、大丈夫
それより欲しいものあった?
なんでも買ったげるよぉ

随分無様だったし
それくらいしないと釣り合わない
まぁひどい目に遭わさずとも
ねだってくれたら買うんだけど

このカトラリーセットかわいいな
うちにある奴古くなってきたし
買い換えても…ん、なあに?

あ、それニッセだ
サンタを手伝う幸運の小人
…北欧妖怪ってやっぱ妖精のことか
いいよ、家にお迎えしよ

あっねこちゃん!
かわいいねぇ

猫又を抱えるきみが初めに幸いをくれたのは
いつのことだっけ

たからちゃん
あのさ、すきだよ
おれはたからちゃんが一番かわいいから

唇は頬に寄せる

概念のせいじゃないよ
おれは、正気

帰ろっか
うちのねこちゃん達も寂しがってる



●あーあ
 後片付けも完了し夜を迎えた中央広場は、西側、東側に分かれ、混迷を極めていた!
 ……なんてことは、特になく。規模を縮小して再開された北欧妖怪雑貨フェアと、余った面積を利用した鉄板焼きの大宴会に二分されているだけである。どちらもそれぞれの賑わいを見せており、購買意欲を煽るチープな祭囃子が広場全体を包んでいた。
 妖怪たちと猟兵たちが飲み交わす大宴会は、とても楽しそうではあるけれど――未成年には一足早い雰囲気なのは否めない。
 そういうわけで、揺歌語・なびき(春怨・f02050)の足は自然と北欧フェアのほうへと向いていた。彼に手を引かれる少女の意識もまた、可愛らしい雑貨たちに注がれている。
 薄く雪をかぶったような淡い色彩。子供の描いた絵のように見えて、くっきりと洗練されたオシャレな柄。映え。ゆめかわ。そんな言葉をも超えた素朴な魅力。
「なびき、体はどうですか?」
 それでも、自分の興味より先に、人への心配を口にするのが鎹・たから(雪氣硝・f01148)なのだった。
「うん、大丈夫」
「元気なら良いのです」
 なびきとしては概念消失の影響を抑えこむだけでも一苦労だったし、かなり消耗してしまったのは事実だけれど。正気に戻ったという意味においてはもう大丈夫だ。
 声に滲んだ疲れの色は、たからにも伝わってしまったかもしれない。
 けれど、単なる疲れなら、楽しい時間を過ごしてゆっくり癒せばいいのだ。たからもそれ以上を問うことはしなかった。
「それより欲しいものあった? なんでも買ったげるよぉ」
「……む、なんでもと言われても」
 少女の視線が、夢見るようなパステルカラーの海を泳ぐ。クッションに、マグカップ。ちょっと焦げたファブリックボード。名前も用途も分からない見慣れぬ品物の数々。
「無駄遣いはいけません」
 そんな言葉が出てくるのは、欲しいものを全部買う想像をしてみたからだろうに。健気だよなあ、と、なびきは苦笑する。
 今回の依頼では随分と無様を見せたし、端から端まで買ってあげるくらいしないと釣り合わないのにな。本当に、ひどい目に遭わせてしまった。この子はひどい目に遭っただなんて少しも思っていないのだろうし、それが、一番、ひどい。
 まぁ、埋め合わせの意図がなくとも、ねだってくれたらいつだって何でも買ってあげるのだけど。
 だからさっきの言葉だって、何の埋め合わせにもなっちゃいないのだ。ただしたいようにしているだけだ。
 ……ふらふらと隣の棚に惹かれて歩くたからの姿を、なびきはそっと見送った。あんまり後ろにくっついていたら、自分のほうが子供みたいだ。

「…………!」
 たからの目に留まったのは、数万円する木彫の置物ーではなくて、その隙間を埋めるように並んだ小さな木の人形。
 白樺の枝の樹皮を活かして削り出された円い顔。フェルト製のとんがり帽子とお洋服は、深い森を思わせる緑色。ちょこん、と佇む存在感がなんとも素朴で可愛らしい。派手ではないが、だからこそ先の騒動で食べられずに残っていたのかもしれない。
 一人摘んで、そっと手に乗せてみる。焼き印で捺された点と線の目鼻が、こちらを見上げているような気がする。
「なびき」
 振り返ると、そこに彼の姿はない。
 ぱちくりと瞬いて、たからは辺りを見渡した。

 一方。
「このカトラリーセットかわいいな……」
 なびきはといえば、すっかり日用品コーナーに入り浸っていた。
 布の敷かれた木枠の中に、スプーン・フォーク・ナイフの類が一揃い。ぽってりとした木目の持ち手に、艶消しの金色がよく馴染んでいる。ステンレス製で耐久性もばっちり。
 うちにある奴もそろそろ古くなってきたし、この機会に買い換えてもいいな。捨てるほど傷んではいないのだけど、たからちゃんの手の大きさにはもう合わないから。団地で譲り先を探さなきゃ――なんて、若干所帯じみた思考を巡らせていると。
「なびき、なびき」
「……ん、なあに?」
 少し離れた棚のところで、たからが手を振っている。爪先立ちで両手を上げてゆるしたからのポーズである。かわいい。
「この子達、とても素敵です」
 一切の思考を中断して彼女の元へと向かう。まるで友達を紹介するかのように、揃えた指で小さな木の人形たちが示される。
「あ、それニッセだ」
「にっせ」
「サンタを手伝う幸運の小人。……北欧妖怪ってやっぱ妖精のことか」
 ここで言う『妖精』とは、アックス&ウィザーズで見られる羽持つ小人のことではない。昔話に出てくるような、ちょっと不思議な隣人たち全般を指している。西欧妖怪というのも似たような概念のようではあるし、なびきには薄々目星がついていた。
「確かに帽子がそっくりです。赤くないので気付きませんでした」
 手のひらの上の一人とまじまじ見つめ合うたから。それを見て目を細めるなびき。
「サンタのお手伝いなんて、とてもえらいです。幸運の小人さんなら――たから達の家にも、幸運を招いてくれそうでしょう?」
 ――おねだりをする時にまで、自分一人の話をしないんだもんな、きみは。
「いいよ、家にお迎えしよ。その子がいい?」
「あ、えっと」
 棚に残った数体の人形たちを見比べて、彼女は少し口ごもる。……ちょっとぐらいの贅沢は、こっちから押しつけておこう。
「みんな一緒に揃えてあげよう。ニッセたちも、家族と離れちゃさみしいもんね」

 ーー幸運、か。
 幸運と表現すれば、それは珍しい巡り合わせのことだろうし、幸福と表現すれば、それは欲望が満たされることだろう。幸いと一口に言ってもその意味するところは様々だ。
「はっねこです」
「あっねこちゃん!」
 仲良く紙袋の中に納まったニッセたちは、早速幸運を招いてくれたらしい。
 物陰から顔を出したのは、最早すねこすりではない内気な猫又達だった。黒と、三毛。奇しくも我が家の二匹と同じ組み合わせ。
「ふあふあです……」
「かわいいねぇ、こっち見てるねぇ」
「本当は恥ずかしがり屋さんなのですよね。たから達は怖くありませんよ」
 屈んで両手を広げれば、まずは黒猫がたからの元へ寄ってきた。好奇心が旺盛な子なのだろう。
 まんまるの身体は、どこまで頭でどこから背中なのかちょっと分かりにくい。とりあえず家猫と同じように撫でてやれば、二本の尻尾が気持ちよさそうにゆらゆら揺れる。これで合っているらしい。ころん、とお腹も見せてくれた。
「だっこもいいのですか? ありがとうございます」
 腕に座らせるようにして抱き上げる。小さないのちが、重たくて、ぬくい。
 そんな黒猫の様子を見て、三毛もおっかなびっくり近付いてくる。たからの足下にちんまりと座って、順番待ちの体勢だ。
「ふふ、ちょっと待っていてくださいね――」

 ――ああやって。
 当然みたいに誰もに愛を分け与えるきみが、おれにはじめに幸いをくれたのはいつのことだっけ。腐りゆく春みたいな泥濘に、透明な硝子の光を差してくれたのは。
 痩せた子猫みたいだった躰は、ずいぶん綺麗な白になった。おれたちは家族になって、きみだけが大人になろうとしている。
「たからちゃん」
「ん。なびきも順番待ちですか?」
 さっきの醜態を揶揄っているわけじゃない。きみは素直にそう尋ねているだけだろう。
 おれはきみより大人だから、洒落た言葉で返そうとした。聞こえがよくて、それでいて言い訳の利く伝え方をしようと努力した。なんてことない、いつもの努力だ。
「あのさ、すきだよ」
 疲れていたのかもしれないし、疲れてしまったのかもしれない。
「おれは、たからちゃんが一番かわいいから」
「はい、そうですね。なびきはたからが可愛いので」
 まるで全部わかっているかのような顔をする。
 その瞬間喉に詰まった感情は、たぶん、愛おしさとは呼べないものだ。もしかしたら、それとは真逆の、――たくさんのさいわいをくれたいのちに、向けてはいけない何かだった。
「我慢するなびきはえらいです。今回は大変でし――、ん、」

 うまく飲み込めたと思う。
 だから、唇は頬に寄せた。

 しなやかな肩がびくりと強張る。腕に力が籠ったからか、黒猫が一声鳴いてぽたりと着地する。
「あの、なびき、まだ概念が」
「概念のせいじゃないよ」
 あれは世界の仕組みが変わるだけで、人の内側にあるものが変わる訳じゃない。きみは賢い子なんだから、ほんとうによく考えたら簡単にわかるはずでしょう。思い込みが邪魔をしているだけだ。丁寧に、慎重に、目隠しをしてきたのはおれだ。
「――おれは、正気」
 今、きみが初めて見た、この表情がおれの正気だ。

「えっ、それは、どういう」
 手をつなぐ。無防備な指と指の間に、するりと指を潜り込ませて絡め取る。
「帰ろっか」
「ふぇ……」
 いつの間にか、おれの前ばかり歩くようになったきみが――戸惑うように一歩遅れてついてくるのが、どうしようもなく心地良かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
事件はこれにて一件落着ってな。
『ほっこり北欧妖怪雑貨フェア』なんてのもやってるし少し覗いてみるか、相棒。・・・相棒?
(巫女の視線の先にネコチャン)

・・・相棒。
「な、何ですか。まだ何もしていないでしょう。」
猫又を見る目が獲物を見る目だった。
異変も解決したんだから醜態を晒したら目立つぜ。
ほら、相棒も言ってた自分を律するってやつだよ。
「私と猫ちゃんは唇ゆるした仲なのに・・・。撫でる位なら問題ない筈です。」
まあ、それくらいなら逃げないんじゃね?
「・・・おいでおいで」
(ネコチャンに優しい笑顔で手招きする巫女)


【アドリブ歓迎】



●タイトル回収へのご協力誠にありがとうございます
「事件はこれにて一件落着、ってな」
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の言葉通り、妖怪商店街はすっかり落ち着きを取り戻していた。
 つまり、賑わっているということである。舞台役者のようによく通る鬼面の声ですら、買い物客や大宴会の喧噪に紛れて溶けていく。
 中央広場に点在する、安っぽい電飾の灯りに照らされて。
 相棒の巫女――桜のいつもの仏頂面も、心なしか満足げに見えた。彼女も楽しげな祭の空気を肌で感じているのだろう。けして序盤の乱れっぷりがもたらす錯覚などではない。そう信じたい。
 
 通りには敷物とワゴンで作られた仮店舗が並び、次々と営業を再開している。『鉄板や』含む飲食店は後片付けを終えた面々に自慢の料理と酒を振る舞い、『ほっこり北欧妖怪雑貨フェア』も売り切りセールの真っ最中。……どういう訳か、回収されたファブリックボード焼きが目玉商品として掲げられている。『概念消失の思い出にどうぞ!』などと謳って強気の値段設定だが、それはただの訳あり品では?
「商魂たくましいこって……。どうだ、少し覗いてみるか相棒」
 さっきは雑貨焼きに対して微妙な反応をしていたが、ちゃんとした雑貨であれば話は別だろう。年頃の娘が気に入るような品が見つかるかもしれない。
「それとも鉄板料理食いに行くか? 新メニューもあるらしいぞ」
 鯛焼きだったらたらふく食ったが、焼きそばやお好み焼きも味わっておこうか。おっちゃんにも一言くらい挨拶しておくべきだろうし。
「……相棒?」
 返ってくるのは、沈黙ばかりだ。
 拗ねている訳でも、呆れている訳でもあるまい。そういう場合はすぐさま辛辣なコメントが返って来るはずだ。桜は普段から無口だが、思うところがある時は饒舌になる性質なのだから。
 嵐の前の静けさとでも言うべきこの気配には、なんというか、非常に既視感がある。
「にゃーん」
 彼女がじっと見つめる先に意識をやると、――恥ずかしがり屋の猫又が一匹、ファブリックボードの影から顔を覗かせていた。

「……相棒」
「な、何ですか。まだ何もしていないでしょう」
「猫又を見る目が獲物を見る目だった」
 未遂であっても前科持ちには違いがない。不審な女性がネコチャンににじり寄る事案が発生している。こうしている間にも数センチずつ距離を詰めている。モフモフだから仕方がない、などと容疑者が供述するやつだ。
 二人のやりとりに不穏なものを感じたのか、ぴゃっ、と猫又が縮みあがった。茶色い毛並み。頭の部分が濃い特徴的な模様。何か怖い思いでもしてきたのか、どことなく怯えた様子である。
 ぷるぷる、ぼくわるい猫又じゃないよ。たこやきでもないよ。――そう訴える潤んだ瞳は、むしろ捕食者を狂わせる。
「……相棒」
 返事がない。これは限界が近そうだ。
「異変も解決したんだから、醜態を晒したら目立つぜ」
 ぐ、と喉に言葉が詰まる感触が伝わってくる。……一応、桜にも醜態を晒した自覚はあるようなので、凶津としてもこれ以上突っ込んでやるのは止めておく。
 兄が妹を宥めるように、言い聞かせるように、ゆっくりと。
「ほら、相棒も言ってたろ? 自分を律するってやつだよ」
「私と猫ちゃんは唇ゆるした仲なのに……」
「そりゃまあその場の勢いだ、今は事情が違うだろ」
 どんちゃん騒ぎは、とうに幕を下ろしたのだ。
 食べていいものと食べられないものの区別はつくし、猫又だってすねこすりの骸魂に飲まれてはいない。あの時と同じ感覚で接してはただの無理強いになってしまう。
 目の前にいる相手のことをよく見て、考えて、思いやる。――それが、倫理というものだ。
「撫でる位なら、問題ない筈です」
「まあ、それくらいなら逃げないんじゃね?」
 猫又も猫又で、逃げ出しはせずにじっと桜を伺っている。
 あまり見かけることのない顔ぶれへの好奇心なのか、骸魂から解放してくれたことに対する感謝なのか。きっと、向こうにも伝えたい気持ちがあるはずだ。
 だとしたら、後は応える桜次第。

 そう、自分を律するとは、澄まし顔で知らないふりをすることではない。
 怖がらせないよう膝をついて、できるだけ視線の高さを合わせて。手のひらを広げて、肩から力を抜いて。
「……おいで、おいで」
 優しい笑顔で、手招きをする。
 猫又は嬉しそうにぴょいと跳ねると、短い手足でとてとてこちらに寄ってくる。巫女服に包まれた桜の膝に、おっかなびっくり、頬ずりをする。
「ふふ、可愛いでちゅ……可愛い、ですね」
 小さな体をそっと抱き上げて――猫の額に、唇を当てる。
 それはこの一連の騒動のなかで、一番控えめな口づけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月14日


挿絵イラスト