4
羅針盤戦争〜ヒートビート

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #ピサロ将軍

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン
🔒
#羅針盤戦争
🔒
#七大海嘯
🔒
#ピサロ将軍


0





「さて、どうしたものかな」
 将軍は海図を見下ろし思案する。
 やるべき事は決まった。逃げの一手だ。だが、単に今後の戦いを只管避け続けるだけで無事に逃げ果せられるかと言えば、当然そんな事はない。そんな楽な相手ならそもそも今負けてはいない。最終目的へと至るには、適切な道を辿らねばならぬ。
 その為に必要なものとは何か? まずは時間だ。細部をどうするにせよ、とりあえずは足止めの戦力が要るのは間違いない。
 では次、それをどこに差し向ける? あまりに露骨では敵に本拠の所在を教えるようなもので、かと言って離れ過ぎては意味がない。そして。
「全く、船一つ動かすにも相応の金が掛かると言うのに!」
 ただでさえ実入りの少ない戦いなのだ、これ以上の無駄な出費は抑えねばならぬ。何としてでも赤字を減らせる海域を選ばねば。将軍は嘆き、天を仰いだ。
 ああ、防衛戦とは虚しいものだ。どうせ一戦交えるのなら、やはり私は侵略がしたい。


「称号で呼ぶか否かの境目ってどこなんでしょうね?」
 よく分からない台詞を吐きながら、カルパ・メルカが首を傾げた。
 一体何の話かと問われれば、近頃新たに確認された七大海嘯の最後の一角、『邪剣』のピサロ“将軍”の話である。尚当然ながら呼び名云々は本題ではないので今は脇に置いておく。本題は、彼女が『黄金艦隊』を率いてとある島の周辺海域に現れた、という話だ。
 件のとある島は、遥かな昔にスペースシップワールドから降って来たとされる、とても小さな島だ。経年劣化が進んでおり、そう遠くない未来に水底へ没すると言われている。海賊の襲撃や大型海洋生物の衝突などで、その短い寿命が更に年単位で縮む、とも。
 そして、ピサロ将軍は『界渡り』の力を以て異世界への逃亡を望んでいる。察するに、恐らくは猟兵が食い付こうと食い付くまいと足止めが成立する、そういう手だろう。
「なので、皆様にはその目論見諸共やっこさんをブッ飛ばして頂ければな、と」

 さて、それでは戦術の話に移ろう。
 まずはサラッと流した黄金艦隊なるものの説明だが、これは魔法黄金製の帆船群により構成される部隊である。単に見た目が金ピカなだけではなく、並の船舶を遥かに凌駕する超硬度を誇る強大な軍勢だ。それぞれが猟兵達を現場近くへ運ぶ鉄甲船より一段か二段、あるいはそれ以上に格上の存在と見て間違いない。
 こうなると大将首だけを狙い撃ちたいところだが、しかし敵は七大海嘯。『八艘飛び』なるユーベルコードを駆使し、ピサロはそれら艦隊を足場とした高速機動で敵船へと襲い来る。足場が万全の状態では姿を捉える事すら儘ならないレベルであり、どうやらまずは厄介な艦隊から封じる必要がありそうだ。
「海上は飛行やら転移やらが阻害される糞マップですので、その辺りもご注意下さい」
 敵の先制攻撃、特殊な環境、考慮すべき要因の多い面倒な戦場。
 とは言え、付け入る隙がない訳ではない。敵は今回本気で戦う気はなく、あくまで時間稼ぎに徹するつもりのようだ。遣りようはあるだろう。いや、そうでなくてはならない。でなければ敵拠点での勝利など夢のまた夢。
「吉報をお待ちしてますね」
 そして、皆ならばそれができる。グリモア猟兵はそう言って、緩く笑った。
 優勢のまま折り返し地点を過ぎた羅針盤戦争、後半もこの調子で行きたいところだ。


井深ロド
 “大帝”の表記ゆれが気になって夜も眠れない、井深と申します。
 細かい事は気にせずにお付き合い下さい。

 プレイングボーナス……敵の先制攻撃+八艘飛びに対処する。
55




第1章 ボス戦 『七大海嘯『邪剣』ピサロ将軍』

POW   :    ケチュアの宝剣
【黄金太陽神の神力】を籠めた【ケチュアの宝剣】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂】のみを攻撃する。
SPD   :    黄金艦隊砲撃陣
【各艦に刻まれた黄金魔術印】によって、自身の装備する【黄金艦隊】を遠隔操作(限界距離はレベルの二乗m)しながら、自身も行動できる。
WIZ   :    邪剣烈風斬
【超高速移動によって生じた激しい風】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。

イラスト:もりのえるこ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リーヴァルディ・カーライル
…敗北の先にある勝利を目指しているのでしょうけど、
異世界に災厄の芽を渡らせはしない

お前は此処で朽ち果てよ。新世界を観る事も無くね

第六感を頼りに敵の微かな殺気や闘争心を捉え、
過去の戦闘知識を元に敵UCを見切り最小限の早業で攻撃を受け流し、
"影精霊装"の闇に紛れる魔力で陽光を遮断して吸血鬼化してUC発動

…無駄よ。たとえ姿が捉えられなくても当たりはしない

…来たれ、この世界を覆う大いなる力よ
悪しき諸霊より逃れたる奇跡を此処に再現せよ…!

大鎌の刃に水属性攻撃の魔力を溜めて海に突き刺し、
"水属性の地割れ"を起こし敵艦隊の周囲の海を切断して船を沈め、
敵の動きが鈍った瞬間に懐に切り込み大鎌をなぎ払う



 風が叫び、波が狂う。
 グリードオーシャンの海原は今日もいつも通りの大荒れで、しかしいつもと違うものが一つあった。風の声と波のさざめきとの合間、別の何かが紛れている。それは何か硬質なものを叩く時に発する音だ。例えるなら、ブーツの踵が甲板を蹴り付けるような音。
 姿は見えず、しかし確かにその存在を感じ取り、リーヴァルディ・カーライルは静かに思考する。音に混じる殺気、闘争心は極々僅かで、だが皆無ではない。敗北を受け入れて諦める様子とも、自棄を起こして暴れる様子とも違う。現状の不利を正しく認識した上で尚勝利を目指している、そんな気配。
「……ッ」
 やがて、その勝利のビジョンがただの幻想ではないと示すかのように、凄まじい衝撃が娘を襲った。『八艘飛び』の超高速移動が作り出す颶風は天然自然の嵐を遥かに上回り、グリムリーパーの黒刃を激しく揺さぶる。神域の加速と変幻自在の軌跡は、歴戦の猟兵の身体能力を以てしても追い切れるものではない。二度、三度とリーヴァルディの五体が風に遊ばれて。
「……無駄よ」
 しかし、少女は平然と告げた。その声に疲弊の色はない。
 道理だ。邪剣の烈風を浴びたものは彼方へと飛ばされ、拒んだものは地に沈む。どちらとも異なる結果ならば、それは凌いでみせた証左に他ならない。
 視界は未だピサロの影を捉えてはおらず、だが戦いとは肉体の性能だけで行うものではない。培った経験が教えている。近しい速力は白騎士の鎧が見せてくれた。『三つ目』程に手数はなく、アルバドラーダ程の体躯もない。故に、接近の瞬間さえ見切れば最小限の所作で防ぎ切れる。最小限だからこそ次に繋がる。何度来ようと問題はない。
「たとえ姿が捉えられなくても当たりはしない」

「ほほう、だが当たらぬというだけでは勝つ事はできぬぞ?」
 『邪剣』もまた平然と返した。
 元より目的は時間稼ぎ。千日手になろうとも支障はないのだ。ピサロはあくまで冷静に戦場を俯瞰する。この状況が延々と続くならば足止めが成立するからそれで良し、焦れて仕掛けてくるならば反撃が刺さるからそれも良し。
 ほら、このように。
 猟兵が動いた隙を突き、烈風が四度喰らい付いた。今度も防がれたが、構いはしない。敵が今まで防御姿勢を保てていたのは船上で身構えていたからだ。その足が地面を離れた瞬間ならば、体勢を崩し海へと沈める程度は容易い。
 無理をして打ち倒す必要はない。一時戦域から離脱させれば、それだけで戦況は優位に傾く。あれが浮き上がって来る間にもう一人。将軍は帆柱の上から次の獲物を見定めて。
「……来たれ、この世界を覆う大いなる力よ」
 次の瞬間、世界が震えた。

 リーヴァルディの瞳が燃える。それは焦りを含んだ色ではない、戦う力を宿した色だ。その身は大きく宙に投げ出されて、しかしそれでも尚問題はなかった。将軍の目標が敵を穿つ事ではなかったように、彼女の目標もまたそれではなかったからだ。猟兵の手の中、振り上げられた鎌刃が目指す先にあるものは、海。
 ピサロは速く、艦隊は堅い。だが何一つ支障はない。元より狙いはそれではない。
「悪しき諸霊より逃れたる奇跡を此処に再現せよ……!」
 リーヴァルディの瞳が燃える。比喩ではない。その紅色はヴァンパイアの力の顕現。
 ――限定解放・血の教義。
 衝撃が奔り、大鎌の一閃が水面を貫いた。それはあたかも地割れの如く。海が割れる。地震が大地を別つかのように。巨大な裂け目が大海を切り分け、深く深く奈落が覗く。
 コンキスタドールが如何に並外れた操船技術を持とうとも、しかし船舶とは海上を往くものだ。地の底を進むようにはできていない。ぐらり、黄金艦隊の隊列が崩れた。一隻、二隻と、逃げ遅れたものから昏い深淵へと誘われて消える。
「――……!!!!」
 姿勢を崩した艦の上、ピサロが声にならぬ叫びを上げた。戦力の、資産の価値を冷静に判断できるが故に生じた一瞬の隙。僅かな、しかし彼我の速力の差を確かに縮める隙。
 そして、それを逃さぬが故に彼女らは埒外の存在なのだ。
「お前は此処で朽ち果てよ。新世界を観る事も無くね」
 異世界に災厄の芽を渡らせはしない。この世界に残しもしない。
 猟兵が跳んだ。“過去を刻むもの”が七大海嘯を刻む。深く、深く。刃が告げる。この世界に過去の亡霊の居場所はない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)

敵は先手を撃ってくる、高速移動をする。
此方は海の上では空を飛べず転移もできない。
やれやれだな、出来ることが限られ過ぎている。

【SPD】を選択。
砲撃で此方を撃ってくると見える、が 飛んで回避も出来ない環境下だ。

――なら敢えて「無抵抗」を選ぶとしよう。

(ザザッ)
電脳体を本機達の搭乗する船を包む程に拡散。
【範囲攻撃】
砲撃が飛来するなら好都合。
 ノイズ
"砂嵐"発動。

無抵抗にて受け入れた砲撃を無効化しつつ解析。
仰角調整、目標確認。
――では、返礼だ。
頂いた砲弾は其方に其の儘返すとしよう。

Fire.(ザザッ)
【カウンター×一斉発射×砲撃×スナイパー】


シノギ・リンダリンダリンダ
あはは。私はこの戦争で、七大海嘯が困ってる姿を見るのが大好きで
困ってる姿を見てるだけで、
もっともっと困らせたくなってしまうんですよ

金色に光る船に乗りながら海域へ
相手の艦隊の攻撃はこちらも砲撃で反撃、それでも相手の攻撃は船に当たるだろうけど
こっちも魔法黄金製なのだから構わない
別の戦場で鹵獲した黄金艦隊
魔力を流して数を増やしたら、【略奪:邪剣黄金艦隊】の開催です

邪剣の黄金艦隊に混ぜるように展開、邪剣が八艘飛びで降り立ったら適当に動いて混乱させたり、船から攻撃したりする

黄金艦隊が自分のモノだけだと思いましたか?
侵略が、略奪ができるのが自分だけだと?
あはは。邪剣。愚かですね?



 此方は海の上では空を飛べず、転移もできない。対する彼方は空を飛ぶ以上の超高速で自在に海上を移動し、更にはその速度のまま先手を打ってくる。加えて言えば此方の足場は標準的な鉄甲船で、彼方の足場は特別仕様の黄金艦隊。
 ――やれやれだな。
 内心深く嘆息して、猟兵は眼前に横たわる困難を改めて数え上げた。二、四、六、八、十。どうやら帆船がきっかり八艘という訳ではなく、あの八は漠然と数量が多い事を意味するようだ。十五、二十、三十……いや待て、それにしたって幾ら何でも多過ぎる。先刻既に何隻か沈んでいた筈だろう。艦隊の布陣を再確認。
 ――なるほど。
 できる事は限られているが、選択の自由が全くない訳でもないらしい。ならば本機にも上手く利用させて貰うとしよう。奇襲の準備は密やかであればある程良い。
『此れよりミッションを開始する。オーヴァ』
 宣言は荒波とノイズとに呑み込まれて。やがて黒鎧の姿も揺らいで消えた。

 金。金。金。見渡す限りの金。強欲に満ち満ちた大海に、名に相応しき金色が居並ぶ。
 迫り来るは黄金。七大海嘯の一角、『邪剣』ピサロ将軍率いる黄金艦隊。
 迎え撃つは黄金。大海賊、シノギ・リンダリンダリンダ率いる黄金艦隊。
「ほう、それは如何なる手品かな、猟兵?」
「黄金艦隊が自分のモノだけだと思いましたか?」
 将軍の問いに、海賊が返した。嗚呼、全く愚問だ。お前とて配下を従えているだろう。それを嗜むのが世界でお前ただ一人だけなどと、まさかそんな戯けた勘違いをした訳でもあるまいに。
「侵略が、略奪ができるのが自分だけだと?」
 そして、二者が一つの宝を求めた時、それを手にするのは無論、私だ。海の宝は等しく私のものだ。否、海だけではない。全世界の全ての宝は、何れ例外なく私のものとなる。故に。多少頂く順番が前後したとて、さしたる問題は、ない。
「これは私のものです。そして、それも私のものです」
 海賊が嗤う。略奪の開始がここに告げられ、二つの黄金が相食んだ。

 轟音が響いた。
 両軍、初手は砲撃から。紛い物の実力は如何程のものか、まずは小手調べと将軍は距離を置いて艦砲射撃で様子を探る。海面から巨大な水柱が十、二十と立ち上り、既に十全に狂っていた激浪がその凶行を更に一回り甚だしいものへと変えて。波濤の陣は徐々にその包囲を狭め、やがて幾つかの直撃弾が猟兵の座乗艦の門戸を叩く。将軍閣下などと御大層な肩書きを名乗るだけあり、その手際は鮮やかだ。
 だが。
「あぁ、なんて乗り心地の良い船なんでしょう!」
 ドールの声には僅かな焦りもなく、むしろ喜びの色を乗せてそう叫んだ。
 流石は同じ魔法黄金製だ。凡百の帆船ならば一発掠めるだけで大破沈没間違いない砲弾の直撃を幾度もその身に浴びて、しかしその航海には聊かの差障もない。これは良いものを貰った。素晴らしい。
 この感謝は相応の品を以て示さねば。鹵獲艦隊は返礼の砲撃を激しくして、同じだけの衝撃が本家黄金艦を揺さぶった。そして。
「そうか猟兵! ここで略奪をしても構わぬと、お前は私にそう言うのだな!?」
 『邪剣』もまた、喜びを以て応じた。敵が真に黄金艦隊であるならば、奪い取ればそれがそのまま己が艦隊の一員になるという事だ。俄然やる気が出てきた、そう猛る。彼女らの精神にはどうやら近しい部分があるらしい。
「これでつまらない戦とはおさらばだ!」
 予定と異なる展開に、ピサロは歓喜に身を打ち震わせて叫び。
「■■■■!」
 予定と異なる展開に、対するシノギは常よりも下品な表現で罵倒の卑語を吐き出した。
 似た者同士の相反する感情が絡み合い、戦局は急速に混迷を極めていく。

 遠方からの砲撃。突撃しての衝角。隊列に割り込んでの攪乱に、生身による蹂躙。様々な戦術が溟海を彩り、やがて戦況は傾き始めた。
 優位に立ったのは、七大海嘯。
 互いの艦隊が同じ性能でも、運用において元祖に一日の長があったか、シノギが魔力による戦力補充を駆使しても彼我の数量差を引き離す事ができず。そして何よりも、ピサロ本人の働きが響いていた。船上を縦横無尽に跳ね回る神速は、未だ翳りを見せる事なく。黄金魔術印による識別だろうか、敵味方が入り交じる混沌の中だと言うのに、期待した程に敵船の床を踏んでもくれない。
「同じ艦隊では、私には敵わぬよ」
 『邪剣』が告げれば、艦隊は再び砲撃陣の形を取った。楽しかったがここまでだ。一挙に突き放して終わりとしよう。号令と同時、数多の砲列が一斉に火を吹いて。
『――では、倍の艦隊ではどうだ?』
 今度ははっきりと、ノイズ交じりの声が耳に届いた。

 黄金に目が眩んだのだ。
 ピサロが識別していたのは、己の刻んだ魔術印と、それ以外。高速戦闘においては特に判断材料の増加が命取りに繋がる。複雑な艦隊戦においては適切な判断だと言って良い。そう、それ自体に問題はない。問題があったとすれば、そも艦隊戦に興じた事だ。
 一時。ほんの一時の昂りが将軍に判断を誤らせた。時間稼ぎの最中に侵略の喜びを思い出す事がなければ、それを見落としはしなかった。“それ以外”の中には、他者の刻んだ魔術印だけではなく、印を持たぬ鉄甲船も含まれているという当然の事実を。
 跳躍の瞬間、『邪剣』はその姿を見た。黄金の中に密かに潜む鈍色を。その表面に吹き荒れる埒外の“砂嵐”を。静かに佇むジャガーノート・ジャックの姿を。
 気付けていれば他の未来もあったろう。例えば将が直接乗り込んでいれば、それだけでこの反撃は実現しなかった。嗚呼、だが最早遅い。瞬後、砲弾の鬼雨は過たず全ての敵船へと降り注ぎ。
『――解析完了、複製実行』
 そして、“ノイズ”が地平線を埋め尽くした。
 それは偽りの黄金艦隊。オリジナルと同一である鹵獲艦隊とは全く異なる、正真正銘の紛い物。電磁ノイズが生み出した一時の幻。
 だが、真と贋との境界など、その内に秘める威の前には何の意味も持ちはしない。
『仰角調整、目標確認』
 “砂嵐”で乱れる帆船群の中、砲塔の姿だけがくっきりと見えた。偽りだけの存在が、しかし真の艦隊と寸分違わぬ動きで標的を狙う。当然だ。攻撃の様子は飽きる程に見た。再現は完全。原型が優秀な働きを示したが故に、この砲撃は外れはしない。
『――では、返礼だ』
 頂いた砲弾は、其方に其の儘返すとしよう。
 ――本機だけでなく、仲間も其の儘返すだろうが。
『Fire.』
 ザザ、と。ノイズが走り、次いで号令が下された。
 三つの黄金が次々に叫び、真昼より尚明るい輝きが曇天の大海原を照らし出す。

 そして、色彩が世界を染め上げる。
 黄金はやがて鮮やかな朱へと変じた。朱は昏い蒼へと。海原を埋めた金色が一つ、また一つと海へと還る。将の力は絶大で、しかし倍の軍勢を押し返すには手数が足りず。金が蒼へと移ろう毎に、その勢いはネズミ算式に加速する。戦況が覆る事は最早ない。
 艦隊への攻撃は成功。では『邪剣』に対してはどうか。鉄甲船の上、ジャックの視線が戦域を走り。
「あはは」
 望む姿を見付けるより一足先に、機械人形の声が成果を告げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木霊・ウタ
心情
侵略者をむざむざ逃がすかよ
侵略に憑りつかれたその妄執ごと
海へ還してやろうぜ

先制
宝剣を受けて崩れ落ちる俺

で太陽神の神力とやらを
魂の内の地獄の炎へ取り込んでやる
地獄の炎を舐めるなよ

さて此処からが反撃タイムだ

戦闘
正しく将を射んとすればって奴か

爆炎で跳躍
黄金艦隊に飛び移り
大焔摩天の紅蓮の光刃で
船を真っ二つに

なんたってこの艦隊の力の源
太陽神の神力とやらのおまけつきだ
流石の斬れ味だろ

これを繰り返して沈没させていき
足場を制限したら
将軍の来る方角は限られる

ならそのすべての方向を
大剣と紅蓮の剣風で薙ぎ払えばいい

眼を閉じ八艘飛びの拍子に合わせて
無心に剣を振るい
鋼と炎とが将軍を砕き焼却

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに



 稲妻が天を斬り裂いた。
 否、それは稲妻ではない。空は今にも泣き出しそうな暗く昏い色を湛えていたが、その堰は未だ切られていない。その正体は、敵だ。紫電の如き速度で海原を駆けるそれこそが此度の相手、七大海嘯ピサロ将軍。
「正しく、将を射んと欲すれば、って奴か」
 旧い諺を思い出し、木霊・ウタは舌を巻いた。
 馬どころの話ではない。彼我の速度差は馬と人、兎と亀などといった譬えで表せる領域を遥かに超えて、事前にその情報を知っていて尚『邪剣』の早業は猟兵の目に留まらぬ。埒外の異能を備える猟兵の動体視力を以てしても、だ。ただ、時折船上に届く跳躍の快音のみが、辛うじて敵の実在を知らせている。
 否。のみ、ではない。
 直後、音ではないものがその存在を訴えた。じわりと、ウタの中に何かが拡がる。鍛え抜かれた身体が傾ぎ、固い床に膝を打ち付けて、そこで漸くその正体を理解した。
 これは、痛みだ。
 いつの間に斬られた? どこから? 心中の問いに言葉を返すものは誰もおらず、だが代わりとばかりに狂える激痛が体内で主張した。常ならば痛みと共に噴き上がる紅炎は、しかし終ぞその姿を見せる事なく。冷たく、静かに、生命だけが削られていく感覚。
 これがケチュアの宝剣の秘めたる神力。これこそが黄金太陽神の権能。
 ぐらり。ウタの視界が力なく地へと沈み。
「……反撃タイム、だ」
 しかし、未だ終わりではない。

 猟兵は理解した。彼我の間を隔てるものは速度の差だけではない。攻撃においても七大海嘯は一流だ。そして眼前に横たわる巨大な壁は速度、火力だけでなく、その戦術、戦略の面でもまた同様。万が一、億が一にも勝ちの目があるか疑わしい。
 だが、だからこそ立たねばならぬ。
 ぴくりと、微かにウタの足が動いた。あれは侵略者だ。ここで逃せばあれは外の世界を侵しに往く。その苛烈なる暴威で以て、過去の妄執が今を生きる人々を襲う。
 故に、今ここで断たねばならぬ。
 ゆらりと、ウタの五体が起き上がる。宝剣の神力が魂のみを傷付けるというのなら、今この瞬間肉体には何の被害もない。立てる筈だ。何もできず寝ている場合ではない。戦力で及ばぬなら心で打ち克て。身体が炎を放たぬのなら、その奥に眠る魂を燃やせ。
「――地獄の炎を舐めるなよ」
 轟、と。獄炎が噴き上がる。暴風逆巻く溟海の上、しかしそれが吹き消される事は最早ない。火種は既に焚べられた。
 今、第二の太陽が昇る。

 轟炎が爆ぜた。速力では雷に及ばず、しかしそれよりも熱く、激しく、荒々しい。何人にも触れる事敵わぬ熱量に満ちた跳躍は、戦士の五体を敵の直上へと運ぶ。地獄の異能を以てしても『邪剣』の影は捉えられず、だが今はこれで良い。狙うべきは将ではなく馬。それは未だ変わらない。
 ウタの頭上、大焔摩天の巨剣が掲げられた。“橙”の光刃が空を裂いて天上へと奔る。天の黄金を薪として、地の紅蓮が新たな顔を見せる。より明るく、より凶暴なその顔を。
「オォォォオオッ!」
 そして、その牙は眼下へと向けられた。それは最早剣ではない。光の滝とでも呼ぶべきもの。輝きは雪崩となって金色の帆船へと降り注ぎ、魔法金属の加護を衝き破る。如何に堅かろうと、無駄だ。幾ら耐えようとも打ち倒すまで続けるのみ。奔流は帆を圧し切り、砲列甲板を穿ち、バラストを塵にして、やがて船底を貫いた。深海の暗黒が大穴から這い出して、黄金は奈落へと沈み行く。
 一閃一殺。
 そして無論、猟兵がその猟りを一度で終わらせる筈もない。輝きが続け様に海を灼き。
「随分と好き勝手をしてくれるな、猟兵」
 やがて、二度目の邂逅の時が来たる。

 ウタは静かに瞳を閉じた。
 狙っていた程に馬を射れてはいないが、仕方ない。こういう状況にも即時に対応できるからこその将であり、そういう敵だからこそ己は戦いに臨んだのだ。逃げる道はない。
 否。逃げるのは彼方で、それを海へと還すのが此方だ。
「ここまできて、むざむざ逃がすかよ」
 位置は概ね把握した。完全に、ではないが、纏めて薙ぎ払えばそれで良い。後は拍子を合わせるのみ。心を無に。静かに刃が掲げられ、そして。
「――――!!」
 橙の輝きが再び天を裂いた。獄炎と陽光とが喰らい合い、海を、世界を震わせる。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

白斑・物九郎
●POW



ワイルドハント、白斑物九郎
黄金艦隊を狩りに来た


●対八艘飛び
・敵艦隊の展開状況を観察
・ピサロが足掛かりにする船を【野生の勘】で見定め、それらの航行を乱すよう【天候操作】で『嵐』を招来


●対先制
・無手と見せ掛け、敵攻撃の到来直前に『心を抉る鍵(真)』を『モザイク状の空間』から突如抜く
・間合いを狂わせつつ、仕掛けて来る緩急を【殺気】から気取り【ジャストガード】敢行、鍵の先端パターン部で宝剣を絡め受ける

・そのまま魔鍵を振るい(怪力+なぎ払い)、敵の剣へ【武器落とし】を仕掛ける


●反撃
・船首/衝角でピサロを轢くよう、嵐を速力に転化させた亡霊船を繰り出しざま、黄金艦諸共搭載火砲の斉射に掛ける(船上戦)



 爆音が耳を劈く。
 砲声ではない。それは稲妻だ。電光の如き神速の譬えではなく、正真正銘天然の霹靂。辛うじて踏み止まっていた雲居の涙腺が遂に決壊して、暴風と波濤の二重奏に豪雨と落雷が参入する。鼓膜を叩く騒音は、更に一回り耳障りなものへとその声量を進化させた。
「――ワイルドハント、白斑物九郎」
 そのノイズ塗れの戦場で、しかし言葉ははっきりと届いた。
 狂飆より尚よく通る声で猟団の長が告げる。未だ獲物の姿は確認できていないが、構う事はない、言ってしまえ。どうせどこかから見ているだろう。何事も、立場というものは明確にしなくてはならない。
「黄金艦隊を狩りに来た」
 俺めが狩人で、テメェが獲物だ。敵陣へと歩みを進めた白斑・物九郎がそう告げて。
「ほう、どこぞで聞いた覚えがあるな。お前も手配書に載っていたか?」
 言葉は思いの外に近くから返った。
 乗り込んだ黄金艦、その船首。細身の人影がゆらりと立ち上がる。
「ならばこちらも名乗ろう。七大海嘯が一、『邪剣』ピサロ!」
 油断か、余裕か。それこそが戦の習いと言わんばかりに、姿を晒して将が応じる。一時両者の視線がぶつかり合い。
 やがて、嵐の行軍がここに始まる

 視線が外れた。
 目を逸らした、訳ではない。物九郎は変わらずそこを見ている。ではピサロが? それも違う。彼女も変わらずそこを見ている。動いたものは目線ではなく、立ち位置。
 儀式は終わり、開戦の時だ。瞬きの間もなく、七大海嘯の姿が掻き消えた。これこそが邪剣の誇る神業、『八艘飛び』の超高速機動。黒風白雨に黄金の艦列は大いに乱されて、しかし疾風迅雷の歩法は変わらぬ足取りで空を踊り、変わらぬ速度で標的を狙う。埒外の異能でも追い切れぬ、不可視の強襲が猟兵に迫る。
 そして、衝撃の快音が響いた。
「……ほう!」
 将軍が眼を見開いた。音もなく敵の身に吸い込まれる筈の神力の刃が、突如として空中に現れた巨大な鍵によって止められている。彼我の間合いがモザイク状に歪んで見えた。なるほど、そこから取り出したか。得心し、否、問題はそれではない。
 位置を気取られた。
 何故、と考える暇はない。侵略者は即時離脱を選び。
「ハ」
 だが遅い。物九郎が獰猛に嗤う。
 敵は速いが、しかし“見えて”いた。雨を斬り裂き残した軌跡が、船を蹴り付け残した音が、何よりも狩る側の立場で得た経験が、喉笛に喰らい付く理想の経路を教えている。敵は速いが、だがそれだけだ。変わらぬ速度? 論外だ。本来ならそれは変わらなければならぬもの。緩も急もない直球を捉えるなど、獣の神経を以てすれば造作もない。
 魔鍵のブレードが太陽神の宝剣を絡め取る。武器を奪わんとした仕掛けは、手放すまいとするピサロによって阻まれて、だがこれで良い。一瞬だが、確かに足が止まった。それで充分。ここは既にワイルドハントの距離。
 ――天国にて狩りはならず、故に今ここを狩場と定める。

 大きいもの程、強い。単純な理屈だ。
 例外はある。多大にある。殊に猟兵の巷において顕著であり、だがそれで原則が覆ったとは言い難い。質量とは力だ。それは超常の技芸が飛び交う戦場においても変わりなく。
「――!?」
 暗雲の落とす影を更に昏いものに塗り替えて、それは上から現れた。
 それは、船だ。死霊の大隊を運ぶ亡霊船にして、陸を進み空を往く埒外の船。異界の空は飛翔を阻むが、しかし構いはしない。元より狙いはその眼下にある。船首がピサロへと向けられ、そして。
 宙船が、落ちた。
「轢き潰せ」
 船舶の重みは人のそれに勝る。嵐の後押しと位置の力とが合わされば、相手が同じ船であろうとも。めきり。黄金の戦場へと衝角が深く突き刺さる。ばきり。何かの砕ける音。ぐしゃり。何かの潰れる音。壊れたものは一体何だったのか、識別を拒むかのように異音が続き、識別の意義を奪うかのように、暴威が足元の全てを塵に変える。
 幽霊達が揃って猛り、だが、これで終わりではない。
 長が告げた。未だ足りぬと。最初に言った筈だ、黄金艦隊を狩ると。全てをだ。寛容はない。見渡す海の上、金色の影は数多残っている。
「狩り尽くせ」
 そして、砲列が火を噴いた。爆音が轟く度、煌めく溟海が黒く黒く染まっていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

イコル・アダマンティウム
「おー、金ぴか」
ちょっと……趣味悪い?

格闘特化の愛機、キャバリアに搭乗して出撃する、よ
水面は<ダッシュ>で走る、ね<水上歩行>

【対邪剣烈風斬】
機体で受けて、転移を拒否しない
「ん、先に……戻ってて」
転移場所は、所属団の格納庫

僕自身は[RS-Bイジェクトモジュール]で脱出する、よ
<継戦能力>
「まだ、やれる」
黄金艦隊に跳び乗って
将軍が近くに来るのを待つ、ね
<見切り>

【対八艘飛び】
将軍が来たら[覇気解放]
覇気を解放して、戦場のユーベルコードを無効化する、よ
高速移動もユーベルコードなら、止まる
「止まって」

【攻撃】
<ジャンプ>して、一気に距離を詰めて
殴る、よ<暴力>
「時間稼ぎは、させない」
真っ向から勝負



 高波を掻き分けて青い機影が海上を行く。酷い大時化の中、しかしその足取りは軽やかだ。暴走衛星が目を光らせる下で生まれたキャバリアにとって局地の移動は日常のもの。この程度では悪路の内には入らない。脚部の推進装置で幾度か海面を蹴り飛ばせば、直にお目当てのものをセンサーが捉えた。
「おー、金ぴか」
 【T.A.:L.ONE】のコックピットで、イコル・アダマンティウムは思わず呟く。
 如何にこの愛機が極端な思想に基づいて生まれた特化機だとは言え、それでも最精鋭のキャバリアである。兵器として充分な性能を備えたその眼は、視界良好とは言い難い環境にあっても周囲の情報を精緻に読み取り、乗り手へと伝えた。即ち、黄金艦隊の情報を。具体的に言うならば、物凄く金ぴかな映像を。
 感嘆の声を漏らしながらイコルは考える。魔法黄金がどうのこうのと聞いたから、多分これはただの成金趣味ではなく、ちゃんと意味のあるものなのだろう。と思う。思うが。いやでも、そう、例えばもしTALONEが全身この色だったとしたら?
「ちょっと……趣味悪い?」
 やっぱり金ぴかはないのでは? そう思って。
「「はあぁぁぁぁぁぁああ!?!??」」
 直後、遺憾の意を表するかのように叫び声が上がった。
 うっかり感想が口から漏れてしまった。イコルはそそくさと外部通話装置のスイッチを切り替える。何故だか敵だけでなく猟兵の声も混ざっていた気がするが、忘れよう。今はそれよりも集中すべき事が他にある。
 敵が来ていた。機兵の眼が僅かに一瞬その残像を捉えて、しかし追い切れぬ。凄まじい速力。まさか先の言葉が逆鱗に触れたとかいう訳でもないだろうが、ともあれ『邪剣』の神速は異界の技術を遥かに凌駕して、ピサロ将軍が烈風と共にTALONEを襲う。
 そして。次の瞬間、猟兵は嵐の只中にいた。

 降り注ぐ雨が赤髪を湿らせて、吹き上がる飛沫が衣服を濡らした。慣れ親しんだ操縦席では感じる事のなかった、肌に直接外気の触れる感覚。
 ぐるりと周囲を見渡して、しかし青い巨影は見当たらない。脱出装置で排出された主人を残し、一瞬にして掻き消えてしまったようだ。これが邪剣烈風斬の転移効果か。
「ん、先に……戻ってて」
 攻撃を引き受けた愛機へと、イコルは労いの言葉を掛ける。ちゃんと騎兵団の格納庫に飛んでくれただろうか。もし実家の方に行っていたら、お爺ちゃんたちが心配しそうだ。そう思い。
 ともあれ、一手凌いだ。海面に散らばる金ぴかの残骸に上手く着地して、それを足場に猟兵は残る帆船へと跳び移る。
「まだ、やれる」
 愛機はしっかりと役目を果たして、じゃあここからは僕の仕事。
 役者は黄金の舞台へと上がり、第二ラウンドの幕が開く。

 イコルは静かに将軍を待つ。まだやれる、が、やれる事の種類はそう多くはない。自分の眼で将軍の姿を捉える事はできず、自分の脚で将軍に追い縋る事もできず。今はただ、待ち構える以外に道はない。
 故に、ただ待つ。
 雨の音が耳を打った。違う。これではない。風の音。波の音。雷の音。違う。これでもない。傷付いた船が軋む音。海面のガラクタが沈む音。身体の奥で有機部品が脈打つ音。誰かが、船を蹴り付ける音。
 ――これだ。
「止まって」
 言葉と共に、膨大な覇気の奔流が戦場を駆け抜けた。オーラバースト。範囲内におけるあらゆる埒外の力を――八艘飛びを、邪剣の技を、そして己がユーベルコードの発動をも阻む諸刃の秘儀。
 直後、新たな音が耳朶に触れた。近くで人が落下した音。困惑を伴った声。即ち、襲撃の不発を示す響き。
「なに……ッ!?」
 ピサロの声に、困惑の色が混じった。力を失った事への、ではない。問題は、その機。猟兵は己の影すら捉えてはいなかった。見えぬものを見切れる筈はない、と。その判断は誤りではなく、実際イコルの赤い瞳には何も見えてはいなかった。だが。
 そも、彼女が見る必要はなかったのだ。既にTALONEが“視て”いたから。
 戦線離脱までの僅かな一瞬、だがその一瞬の間に『邪剣』の接近と攻撃とが確かに観測されていた。映像に残る姿こそ掠れていたが、しかし始端と終端の情報さえあれば速度の逆算は不可能ではない。合わせるタイミングは接触の瞬間ではなく、敵の影が同じ足場の上にありさえすれば事足りる。
 故に、この見切りは成る。そして、それは反撃の成立と同義。

 赤毛が跳ねた。
 彼我の距離は開いていたが、この娘は猟兵だ。間合いは一歩でゼロへと還り。
「――――!」
 将軍が急ぎ反応して、しかし遅い。双方共にユーベルコードを使えぬ、ただそれだけの公平な条件ならばまだ七大海嘯が上を行っただろうが、だが一方的に不公平を押し付けるのが闘争というものだ。一時生じた隙をレプリカントが逃す事はなく、古流武術の香りを乗せた一撃が侵略者へと突き刺さる。そしてそれは、ただの一撃で止まりはしない。
「時間稼ぎは、させない」
 イコルの優勢は僅か九十秒。だが、今のピサロには永遠にも等しい九十秒。一度傾いた天秤はもう二度と、水平には戻らない。
 拳が、蹴りが。殴打が、刺突が。あらゆる暴力が敵を穿つ。そして。

「……全く、カルロスがあのザマでなければな」
 これだけやり合って報酬の一つもなしとは。ああ、全く徒労だ。そんな悪態を最後に、第二ラウンドが終わりを告げる。そして、これが最終。次の演目は黄金の船団と共に燃え落ちて、『邪剣』と共に海へと還る。この島で戦いの幕が上がる事は最早ない。
 ここに嵐の音は止み。
「――お腹すいた」
 小さく、平穏を告げる音が鳴って、やがて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月22日


挿絵イラスト