羅針盤戦争〜ふぁふぁふぁ
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『邪剣』のピサロ将軍は激怒していた。かの邪知暴虐な猟兵達から必ずや自分は逃げねばならぬと決意したのだ。
ピサロにはこの戦争の結末は解らない。ピサロは七大海嘯である。剣を振り、侵略して暮らしてきた。なので損益分岐ラインに対しては人一倍に敏感であった。
「金にもならぬ事に関わってなどいられるか! ――おい、そこのお前! ボブ!」
ピサロは配下のオブリビオンを呼びつけた。それは白いふわふわした羊であり、黄金の壺に足を揃えて乗っていた。
「お言葉ですがピサロ様、ボブと言うのは俺ではなく、過去、俺を飼っていた少年の名前で――」
「おぉっと、黙れ、黙れ! お前が喋ったら下手したら大変なことになるんだ! それにお前が喋る事って嘘ばっかだろ!」
「ふぁふぁふぁ」
黄金壺の上でこじんまりと座る羊は囁くような声から一転、軽やかに笑った。
「それでだ、ボブ。お前にはある島を占拠してもらいたい。そこを抑えたらこっち側が有利になる要所なのだ。ああ勿論、金目の物を一切合切奪ってくるのを忘れないように」
「ふぁふぁふぁ」
そこまで言ってから、ピサロは気付いた。
「待てよ……? お前のユーべルコードだったら金目の物を奪わなくても作れるな? “相手が価値のあると思っている物を宝石に変えられる”んだから……。まあちょっと物騒な宝石になるけど、それくらいトンデモな方が他所の世界でも価値があるだろ!
――よし、お前は特に気にかけている私の配下だ! 私が“界渡り”する時は、お前も連れて行ってやろう!」
「ふぁふぁふぁ」
「なあに、あの島には猟兵はいないからお前でも楽勝だ。無論、ただのオブリビオンではなく七大海嘯である私の直々の配下であるお前なら、猟兵が来たとしても楽勝だ」
「ふぁふぁふぁ」
ただ、と。
「“猟兵達がやって来て現地の海賊と協力したら”さすがのお前でも危ない。十分気を付けるように。――あ、あとその壺の中身も大事にしろよ! 溶けてるとはいえども純金なんだから! お前豪快に使うときあるからなあ……。そのくせ私以上に価値を過信してる時があるし……」
ともあれ、
「――そういうわけだから、行ってこい」
ピサロはボブを海に蹴り落とした。
「ふぁふぁふぁ」
荒れる海の上、黄金の壺に乗った白い羊が、離れた島に向かってふらふらと流されていった。
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「“羅針盤戦争”……。グリードオーシャンの命運を賭けた“戦争”は、各所で行われています」
猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。言葉と共に広げるのは海図だ。中央に渦潮を配置したそれは、猟兵達が探索した蒼海羅針域の海図に他ならなかった。
「そして、その蒼海羅針域にある島の一つが制圧されましたの」
海図上の一つの島に目印を付ける。
「占拠したのは七大海嘯『邪剣』のピサロ将軍の配下であるオブリビオン、“ボブのふわふわの宝物”ですわ。しかもただのオブリビオンではなく、七大海嘯麾下の中でも精鋭ボスですの。この島を奪われた「地元の海賊」と協力し、この敵を撃破して、海図を広げてくださいまし」
また、とフォルティナは言う。
「もし『邪剣』ピサロ将軍が逃走に成功したら、このオブリビオンを連れて行くようです」
タイムリミットはあの予兆に記されていましたわね、と付け加えながら。
「この島にいる海賊はどうやらオーソドックスな海賊なようですわ。カトラスや短銃、大砲で武装し、鮫魔術師やセイレーン、冒険商人なんかも同行したこの世界固有であり、だからこそよくいる海賊ですわね。
そしてオブリビオンは島に来て早々、彼らに対して様々なユーべルコードを使ったようですの。
海賊のキャプテンのスキャンダルを暴露し、“炎上”させることで失脚させたかと思うと、次は船を本当に炎上させて……。
混乱した海賊達に言葉を投げかけたかと思うと、次の瞬間には彼らの持ち物を血肉を食らう宝石に変えて……。
足下の宝石壺を開いたら、そこから燃えて爆ぜ散る宝石が飛び出した……」
しかし、
「かのオブリビオンを撃破するには、現地の海賊の協力が必要不可欠ですの!
失脚し、大怪我をし、価値あるものも奪われ……。意気消沈しているそんな彼らをどうやって鼓舞し、自分達に協力してもらうか。それが重要ですわね。
――それでは、転移の準備は宜しいですの?」
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
不慣れなところもあると思いますが、よろしくお願いいたします。
●目的
・敵オブリビオンの撃破。
●説明
・グリードオーシャンで戦争イベントが始まりました。蒼海羅針域の外に潜むオブリビオン・フォーミュラ他の元へ到達するため、猟兵達は戦っています。
・逆に敵は、蒼海羅針域を破壊するために中央の渦潮を狙ってきました。これを破壊されると猟兵達はグリードオーシャンへ来ることが出来なくなってしまいます。
●プレイングボーナス
以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……海賊達と協力する。
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 ボス戦
『ボブのふわふわの宝物』
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POW : 本当は怖い皆の輪(マワルジンギスカン)
攻撃が命中した対象に【触れると燃え移る消えない炎】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する「様々な意味での炎上」】による追加攻撃を与え続ける。
SPD : 耕され永年私財となるべし(メリディアンボイス)
命中した【艶やかに囁くような声】の【調べ】に、【欲する言葉を与えられた者】が【所有する価値あるものが、血肉を喰らう宝石】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
WIZ : ボブと羊と不思議な壷(ジャラフワダブルアップ)
【燃えて爆ぜ散る宝石壺の内容物】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を輝き燃える宝物で満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:まめのきなこ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ミアミア・メメア」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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ボブのふわふわの宝物は周囲を見た。
「ふぁふぁふぁ」
この島はアックス&ウィザーズかダークセイヴァーか、いずれにしろ木造の建築が多いこと以外はボブのふわふわの宝物にとって些細な事だった。
「――――」
よく燃えたからだ。
制圧はすぐに完了し、この島を統治していた海賊らの反抗も治まった。
あとはこの島を拠点として周囲の島々に睨みを利かせ、金目の物を徴収するだけだった。
クネウス・ウィギンシティ
※アドリブ・絡み歓迎
「宝の山ですね、一攫千金」
【WIZ】
自作の消火器(【メカニック】)を持って転移。海賊に語りかけます。
「この宝石を売り払えば人生だってやり直せる、船だって何隻も買えるゴールドになりますね」
「処理する道具は幾らでも作れるので、後は人手と商人が居れば巨万の富が手に入るのに」
お膳立てして動かないならそれも良し、反応するなら技術力を提供します。
「GEAR:BUILD TO ORDER。そのオーダー、聞き届けました」
粉末式強力ジェットABC消火器(サンプル有)を地元の海賊人数分、UCで受注生産します。
後は海賊達と消火器を手に敵へカチコミを掛けます。
「全てを取り戻しに行きましょう」
リーヴァルディ・カーライル
…で?このまま黙って泣き寝入り?
…やられたらやり返すのが海賊の流儀だと思ったけど、
どうやら私の思い違いだったみたいね?
…それとも、貴方達が海賊では無かっただけかしら、負け犬さん?
…心配しなくても敵の戯れ言は私が封じてあげる
貴方達は心往くまでリベンジマッチを堪能すれば良い
…等、海賊達を煽ってやる気にさせて、
海賊達から聞き出した戦闘知識から敵UCの発動を捉え、
大鎌に魔力を溜めてカウンターでUC発動
…お前の能力は事前に調査済みよ
どんな戯れ言であれ耳に届かなければ意味はない
…さあ、私に続きなさい
指向性の超音波を乱れ撃ち敵の声を打ち消して懐に切り込み、
超音波振動で切断力を強化した大鎌を怪力任せになぎ払う
●
「……これは、宝の山ですね」
やって来たクネウスは、島に対してそう感想した。
彼の視界の中、島のあちこちが輝いている。それは火炎という意味でもあるが、その“火元”も輝きを発しているからだ。
「燃え爆ぜる純金をばら撒き、それが宝石に変化したと……」
そして、
「――貴方達は、それに手酷くやられたようですね」
「……あぁ?」
傍でうなだれる海賊達へ言葉を投げ捨てた。彼らは苛ついた表情でクネウスを見上げたが、
「――――」
唾を吐き捨てて、それきりだ。
……私に殴りかかってくるかとも思いましたが、言い返してくることすらしませんか。
心が折られている。闘志を潰され、反骨という感情が文字通り骨抜きにされたようだった。
しかしクネウスは構わなかった。
足元の宝石を見下ろしながら、
「この宝石を売り払えば人生だってやり直せる、船だって何隻も買えるゴールドになりますね」
間髪入れず、手に持っていた消火器をぶちまけた。
「……!?」
気体の圧力が解放される突然の音に驚いた海賊達が目を見開いた。恐らくこの島の元の世界――周囲の様子から、ダークセイヴァーかアックスウィザーズ――であれば、見たことがない代物だろう。
粉っぽい宝石を拾い、付着した白い消火剤を吹いて飛ばす。
「――粉末式強力ジェット内蔵ABC消火器。処理する道具は幾らでも作れるので、後は人手と商人が居れば……」
巨万の富が手に入るのに、と言い、海賊達の反応を見た。
「……っ」
様々な感情が内包している、複雑な表情だった。それは即ち、彼らの頭の中で複雑な逡巡が生まれているということに他ならない。
クネウスは思う。どうですか、と。
……お膳立てはしました。これでも動かなければ、私一人でやるだけですが。
技術力は提示したのだ。後は相手次第だった。
自分達の周囲を見回す海賊達は、今になって、この場にそれなりの人数が集まっていることに気付いたようだった。その中には船に同行する冒険商人もいるようで、
「…………」
彼が一際逡巡しているようだった。頭の中で算盤を弾き、リスクとリターンを計算しているのだろう。
この中で答えを出せるとしたら、彼だ。
「――――」
そして、彼が口を開いた。
答えは、
「……駄目だ」
拒絶だった。
「俺達はやれない」
「何故ですか」
「消火したところで、何になる」
「富と、そして敵へと至る道を得ることが出来ます」
「そして?」
「敵を倒せます」
首を振られた。
「……アイツには、敵わない。親切心で言ってやる。逃げな」
それだけだった。彼らはまた俯き、
「…………」
立ち上がっていた者も、また座り込んだ。
……駄目、ですか。
クネウスはそう判断すると、消火器を片手に踵を返した。
その時だった。
「……で? このまま黙って泣き寝入り?」
「――――」
声が聞こえた。女の声だった。
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リーヴァルディは、そこにいた全員が自分を見たことを知った。海賊と、恐らく猟兵だ。彼らの視線を一身に感じながら、言葉を続けていく。
「……やられたらやり返すのが海賊の流儀だと思ったけど、どうやら私の思い違いだったみたいね?」
溜息を一つ。
「――――」
落胆、侮蔑、失望。そこに籠められた感情は様々だが、それは受け取る側が判断することだ。
リーヴァルディはただ、彼らがそれを聞き漏らさらないよう殊更に大きく吐くだけだった。
「……それとも、貴方達が海賊では無かっただけかしら、――負け犬さん?」
「――――」
海賊からの視線の性質が、変わった。
「嬢ちゃん……、それに兄ちゃんも。俺らは、機嫌が悪いんだ」
「……で? このまま黙って泣き寝入り?」
「……!」
言葉を繰り返せば、一気に周囲の雰囲気が剣呑に跳ね上がる。
しかしそんな空気を平然と受け流し、リーヴァルディは言葉を畳みかける。
言う。
「やる気が出てきたみたいね? なら、私がその背を後押ししてあげる。炎の心配は無くなっても、他の心配があるのでしょう。――敵の戯れ言は私が封じてあげる。つまり、貴方達は心往くまでリベンジマッチを堪能すれば良い」
さあ、と。
「どうするの?」
●
オブリビオン、ボブのふわふわの宝物は周囲の様子が変わったことに気付いた。
「ふぁふぁふぁ……」
海賊達が、こちらへ向かってくるのだ。しかし、彼らは以前とは違った。
「――GEAR:BUILD TO ORDER。そのオーダー、聞き届けました」
彼らを先導するように長身痩躯の男が、猟兵がいる。その猟兵が唱えるように何かを呟いたか思うと、
「――――」
男の掌から緑の光が発せられ、宙にシルエットが浮かび上がった。間違いなく、ユーべルコードだった。
浮かび上がった影は、やがて形を得ていく。それは見たことも無いような道具であり、海賊達全員の手に渡った。
「……!」
そして、海賊達はその道具をこちらに向けてきた。自分にとってその道具は未知だった。どのような価値があるか解らなかった。
「――――」
なので探った。ユーべルコードを抜き打ち気味に発動したのだ。
「……!!」
足下の壺から、燃え爆ぜる影が一気に放たれた。それは壺の中に封じられていた溶解した純金だった。
高熱の飛翔体が、一直線に男達の元へ向かっていく。
「――構え!」
男達は向かってくる純金や、既に地面で燃え盛っていた宝石へそのラッパのような先端を向けた。
「発射!」
しかし、己はその結果を見ることが出来なかった。
「……!」
男が命じた次の瞬間、吹き絞るような音と共に海賊達が白い煙に包まれていたからだ。
濃霧。そう言えるような光景だったが、海からの風で直に晴れていった。
「――ふぁふぁふぁ!」
そこにいたのは、無傷の男達だった。あの奇怪な道具で、炎を無力化したのだ。
携行であれだけの熱量を冷却できる。それは宝と呼ぶに相応しい能力だった。
「――――」
欲しい、と。そう思った。
なので己は通用しないユーべルコードとは別、新たなユーべルコードを選択した。
「なあ、お前達よ――」
海賊達を穏やかに見て、口を開いたのだ。
“耕され永年私財となるべし”。
艶やかに囁くような声の調べが、彼らの欲する言葉を与えていく。
「――――」
そのはずだった。
「……!?」
声が、発せられていない。
何故。
●
「…………」
リーヴァルディは家屋の屋根上に立って、オブリビオンを睥睨していた。
「“囁く”前に、対象を穏やかに見る……。あの海賊達から引き出した情報の通りね」
その手に持っているのは彼女の武器である大鎌だった。魔力が込められたことで活性化したそれをオブリビオンへ向けている。
湾曲した刃のその先では、オブリビオンが怪訝な表情をしていた。おもむろに口を開けると、もう一度ユーべルコードを発動しようとしたが、
「……お前の能力は事前に調査済みよ」
大鎌から震えるような波が放たれた。周囲の大気へ伝播し、音として響くものを何と言うか。
音波だ。戦場を、文字通り波打っていく。
「どんな戯れ言であれ、耳に届かなければ意味はない」
オブリビオンの放つ言葉と同位の波長は、彼の敵の口から出てくるはずの言葉を塗りつぶすように打ち消していった。
「……!」
己の言葉が無効化されている。オブリビオンはその時になってやっとリーヴァルディに気付いたようだったが、
「――――」
見上げた屋根上にはもう、彼女はいなかった。
「――さあ、私に続きなさい」
動き出していた。背後から、殺気立つ海賊達を引き連れ、
「ええ。全てを取り戻しに行きましょう」
クネウスも呼応して動き出していた。
クネウス達は消化器の噴射することで全員の道を確保し、リーヴァルディは超音波を乱れ撃つことで常に発声を許さず、そしてついに、オブリビオンの懐へ潜り込んでいった。
「――!」
大鎌の震えが、一気に跳ね上がった。
今まで放たれていた音は聞こえなくなり、大鎌自体はよく目を凝らせば、残像が僅かに見えるほどの高速振動に切り替わっている。
超音波。人の可聴域を超えた震えによって切断力を強化した大鎌を、リーヴァルディは振りかぶると、
「……!」
己の怪力に任せて、オブリビオンの胴体を薙ぎ払った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エミリィ・ジゼル
なるほど。話は聞かせて頂きました
海賊の皆さまは随分と苦労されたみたいですね
こんなイロモノ…もとい、ゲテモノのオブリビオンに狙われて…本当にかわいそうに
ですがもう安心です。わたくしが着たからには大船に乗ったつもりでいてください
というわけで、まずはサメぐるみを着ましょう
なんですかその「何を言ってるんだお前は」みたいな顔は
いいですか、このサメぐるみは優れものなんです
着るだけでパワーアップし、肌触りもよく、寝つきがよくなり、なによりジンギスカンの匂いが移らない。あと無料。
というわけでこれを着てわたくしと一緒に戦いましょう!
て感じで説得して、海賊と一緒に大砲をぽこじゃか打って敵を撃破します
勝堀・円稼
宝石にゃ!?金目の物をネコババし放題にゃんて乗るしかないこのビックウェーブに!
ネコババのコツは人混みに紛れることにゃ!
そのためにも現地の海賊たちに猫被って近付いて、ちょろっと猫なで声で甘えれば野郎共なんて肉盾にできるにゃす
渋るなら視聴者から巻き上げたお金をチラつかせて成功報酬とか言っておくにゃ
どうせここでお別れだからにゃ!んな~っはっは
羊のくせに炎上させてくるにゃんて生意気にゃ
だったらこっちから炎上してやるのにゃ!
【大¥上ラッキーハプニング】を海賊たちの前で発動にゃす
人目が多いほど資金回収出来て強化!
既に炎上済みなら怖いものなしにゃ!
投資して闘志を燃やした爆¥ガントレットでジ・エンドにゃー!
エドゥアルト・ルーデル
ボブ!ボブじゃないか!いや知らんが!
まずはこの負傷してしょぼくれた海賊達に活を入れる!ほい【パンジャンドラム】!スムーズに爆破!回復!
やられっぱなしで良いのか貴様ら!こいつはブレイブマイン、貴様らに勇気と力を与える物だ!安心しろ!やられても何度でもコイツでぶっ直してやるでござる!
まあ本当はBrave Mine(勇敢な私)ではなくBrave Mine(華やかな地雷)でござるが
という訳で元気を取り戻し体の良い鉄砲玉と化して突撃する海賊共
まあ壺でやられるので都度パンジャンを飛ばして回復と地形を直して…またやられて直して…ええい面倒でござる!ボブと海賊を纏めて轢いてやる!!しねぇ!!!
夕月・那由多
なんかすげー惨状になっとらん?
現地の者と仲良く…よし
炎上しとる者を助けて味方を作ろう
●やること
【化術】による【変装】や、『ナユタの瞳』による【読心術】と【情報収集】に加えて『ヨモツヘグイへの誘い』による【催眠術】も用い、スキャンダルとかをいい感じに勘違いだった事にしつつ、海賊たちの信頼や人脈をかっさらう!!!
UC『魂喰-祓-』で害意も取り除けば話は聞くじゃろ
炎上するたびにこんな感じの情報合戦してやるぞい
真実【属性攻撃】の攻撃じゃ(ヤケクソ)
そして信仰(?)さえ集めてしまえばこっちのもの…
システム上の根拠はないが、信仰をわらわの神パワーに変えて、【怪力】パンチじゃー!
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アドリブアレンジOKです
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ・改変大歓迎】
ふぁふぁふぁ
ふぁふぁふぁ?
ふぁふぁふぁ
まずは海賊さんに協力してもらおう。気分が落ち込んでいる時は当然…芋煮だよ!
海賊さん達の前で私特製の芋煮をどでーんと用意!
「勇敢なる海賊たちよ!美少女であるこの私が来た以上、オブリビオンに如何ほどの戦力が残っていようとそれは既に形骸である!敢えて言おう!山羊であると!
芋煮を食べて英気を回復した私たちの前に、オブリビオンは勝てないと私は断言する!ふぁふぁふぁ!」
と言ってみんなに芋煮を配るよ。怪我人は芋煮ポーションで回復
そうして勢いで仲間になってもらった後は、山羊に【芋煮ビット】ぶっかけて皆でタコ殴り!芋煮のお肉にしてやろう。ふぁふぁふぁ
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
ふぁふぁふぁ?
ふぁふぁふぁ…
ふぁふぁふぁ!
みんな!みんなはそれでいいの!?悔しくないの!
かつてボクの友達もこう言ってた!
一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ?
すべてが失われたわけではない――
まだ不撓不屈の意志、復讐への飽くなき心、永久に癒やすべからざる憎悪の念、降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!
敗北を喫しないためにこれ以外何が必要だというのか?
え、そういうの無理?んもー
しょうがない
以下メッセージをUCで【パフォーマンス、言いくるめ、催眠術、肉体改造、ドーピング】をレベル940にして
燃やせーー!奪えーー!追い払えーー!
そして殺せ!できるだけむごたらしくね!
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「――なるほど、話は聞かせていただきました」
地面に蹲った海賊達は、声をかけられたことに一拍遅れて気づいた。
自分達に、影が落ちている。
「……?」
見上げる。姿は逆光でよく解らなかったが、影は人で、背丈は約百五十センチメートル。だが、やけに横に膨れていた。
着ぐるみを来た女だった。
●
「海賊の皆さまは随分と苦労されたみたいですね」
エミリィは、海賊達に近づいていった。彼らに向けて己の足を進めていくのだ。そうして進めながら、視線を向けるのはしかし海賊ではなく、遠くにいるオブリビオンだった。
「あんなイロモノ……もとい、ゲテモノのオブリビオンに狙われて……、本当にかわいそうに。ええ、心の底からそう思います。同情を禁じ得ません」
ですが、と己は言う。
「もう安心です。わたくしが来たからには大船に乗ったつもりでいてください」
「……大船、ねえ……」
皮肉気な海賊の声も無理はなかった。
……彼らの船は、ゲテモノの手によって燃やされてますからね。
こちらを信用できない、そんな様子を隠すこともせず、海賊は言葉を投げ捨ててくる。
「どうするよ、変な恰好のお嬢さん。大船と自称するアンタに、何がある?」
「はい、この着ぐるみがあります。というわけで、まずはこのサメぐるみを着ましょう。さあ、さあ。――なんですか、その「何を言ってるんだお前は」みたいな顔は」
海賊達がこちらを異常者を見る目で見てきた。
だが、
「いいですか」
己は一切構わず言葉を続けた。
「このサメぐるみは、優れものなんです」
「悪徳商法か」
「失礼な。世に蔓延るそれらとは違い、このサメぐるみはちゃんと効果があります。まず、着るだけでパワーアップします。それに肌触りもよく、寝つきがよくなり、なによりジンギスカンの匂いが移らない! それに無料! ここまで説明すればもうお解りですね? というわけで、これを着てわたくしと一緒に戦いましょう!
――なんですかその「何を言ってるんだお前は」みたいな顔は」
再び、異常者を見る目で見られた。
おかしい……。
本気でそう思う。海賊側からしてみたらメリットしか無いはずなのだ。
なのに拒絶される。
……説得っていうのは道理じゃいかない行為ですね。
と、そんな風に思っていると、
「――ボブ! ボブじゃないか!」
何か既知の声が聞こえてきましたね……。
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「知り合いですか?」
島に来たエドゥアルトは先着のメイドに尋ねられた。なので答えた。離れた位置にいるオブリビオンを改めて見ながら、
「……いや? 知らんが」
「そうですか。わたくしもです」
異常者が増えたような目で海賊達がこちらを見てくるが、一体どういう事でござるか。
と、そんな彼らを見ていたら気づくことがあった。
「む!? おぬしら、よく見れば怪我してるではござらんか! 火傷に裂傷に……ああ、こりゃ酷い! ええと、こんな時は……」
「気を付けてください海賊の皆様。弱っているときに近づいて来るのは悪党の常套です」
人聞きの悪いことを言うメイドでござるな……、と思いながら、己が取り出したのはパンジャンドラムだ。
「……!?」
「ほい爆破!」
見慣れぬ巨大物体に驚き、後退る海賊達だったが、こっちがパンジャンドラムを投げて爆発する方が圧倒的に早い、というか速い。
「――!」
海賊が集まっていた場所を中心に、カラフルな爆発が立ち昇った。大きく、派手な爆発だったが、しかし、それは何も生まなかった。
「――――」
破壊や突風。およそ“爆発”という現象に付随して当然の結果が、起こらなかったのだ。
むしろその逆だった。
「傷が……!?」
「治っている、だけではないでござろう? ほれ、燃えていた地形だって!」
「本当だ! 元通りになっている!」
互いや周囲を見て驚く海賊達へ、己はすかさず声を張った。
「そうだ! やられっぱなしで良いのか貴様ら!」
「――!?」
パンジャンドラムを掲げながら、声を張り続ける。
「こいつはブレイブマイン、腑抜けの貴様らに勇気と力を与える物だ! 安心しろ! あの羊にやられても何度でもコイツでぶっ直してやるでござる! だからこれから貴様らは鉄砲だ――、勇者として! 突撃するんでござるよ!!」
「おお……!」
「ちょっとお待ちください海賊の皆様。何故その怪しいヒゲ男の方へ信頼度を上げるのですか」
「いや……、だって、ヒゲの旦那は少なくとも俺達の傷とか治してくれたし……」
「なるほど、サメぐるみが胡散臭いと……?」
まあ本当はBrave Mine(勇敢な私)ではなくBrave Mine(華やかな地雷)でござるが……、と思っていると、
「んにゃ――!?」
叫び声が聞こえた。
「じ、地面が……! 燃え盛っていたけど宝石でいっぱいだった地面が! 地面が……、元通りになってるにゃ!?」
騒ぎを見ていた人ごみの中から転がるように出て、元通りになった地面に這いつくばる女がいた。
既知の姿だった。名をメイドが呼んだ。
「勝堀様。どうされましたか。落穂拾いでもしに来たのですか」
「あ、あたしのマイニング計画が……!」
「落穂というか露天掘り狙いだったようでござるな……」
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円稼は激怒していた。地面に落ちている宝物を拾い放題という、一生に一度あるかないかの金策の機会が減ったからだ。
「にゃ、にゃんて事をしたんにゃすか……!」
「何って……、負傷者の治療と不動産の原状回復でござるが?」
「まあ、まだまだ他の場所にも残っているんだからいいじゃないですか勝堀様。――あ! ほらほら、見てください海賊の皆様! 燃えている宝石の上でも、このサメぐるみを着ていたら! 無傷! 無傷でいられるのです! 胡散臭くない……!」
ヒゲの言い分にも分がある気もするが、メイドが地面を転がりながら営業し始めたので慌てて自分も立ち上がった。
海賊達の元へ飛び込んでいく。
「にゃあにゃあ、海賊の皆様? 皆様? 怪我と物件が元通りになったとしても、それはマイナスがゼロになったじゃありませんかにゃあ? ……プラスにしたくないかにゃあ? 儲けたくありませんかにゃあ?? ――もし! もしそうだったら! 今だけ! 今の皆様だけ対象のサービスがありますにゃ! あのゲテモノと戦うときに、ちょーっと、ちょーっとだけあたしのお願いを聞いて欲しいんですにゃ! そうしたら豪華報酬を差しあげますにゃ~~!」
「悪徳商法ですか勝堀様。人が真っ当な営業をしてる横で……。――へい、一着お待ち!」
「凄い猫撫で声にござるにゃあ……」
「は? 今何か言いましたかヒゲ」
「反応が厳しいでござるにゃあ……!」
外野がうるさいにゃすが、海賊達の注目の大部分は今、こっちに集まっている。
むふふ……。野郎共なんてチョロいにゃ~……。
少し甘えた声で媚びれば、“これ”だ。内心で笑いが止まらない。
だが、
「――でもよ、アンタさっき金に困ってそうだったけど報酬? 出せるのかよ?」
疑われている。恐らく先の怪しい二人に振り回されて疑心暗鬼になってるのだろう。可哀そうににゃ……。
「にゃんだ、そんなことですかにゃ……」
なので、もう一押しだ。肩を竦めながら、首を振って答える。
「大丈夫、安心してくださいにゃ。実はあたしは他に事業もしていてにゃ? お金には余裕があるにゃ。さっきの露天掘りは……まあ、ちょっとしたサイドビジネス? みたいなもので、軸足は別にありますにゃ。ええ、本当本当、大丈夫大丈夫、安心していいにゃ」
「あーーーー……、ああいう……、ああいう感じの人、いるでござるよね」
「いますよねえ。――へい毎度!」
「にゃふふ、外野が何か言っているにゃすが、ああいう放言より確かで大事なものがここにあるにゃ……。――それはコレ! ほら! このコイン! 見えるにゃ? 純金にゃ! 純・金! 本物にゃ! 事業が順調な証拠にゃ! 成功したらこれをあげるにゃ! ちょっとあたしと敵の間に立って時間を稼いでくれたらいいだけにゃ。本当にゃ!」
「おお……!」
コインを見せびらかすと、目の色が変わった。本当にチョロい連中だった。いつの間にかサメぐるみを着ているのも含めて。
「肉壁扱いでござるよあれ……」
「そういうヒゲは彼らを鉄砲玉にしようとしてた気もしますが、サメぐるみの魅力を知った今の彼らなら何でもできることには同意です。――あ、大砲使えるのは私の方に来てください。この着ぐるみは耳栓も付いてるので安心ですよ」
外野が何か言って一部を引き抜いたが、こっちとしてはその場限りの肉壁が欲しいので問題にゃーい。
「んな~っはっはっはっは!! さあさあ皆様! 自分が倒すべき敵を見――」
るにゃ、と言おうとしたが、
「――――」
実際見てみたら言葉を失った。
「――ふぁふぁふぁ? ふぁふぁふぁ……。ふぁふぁふぁ!」
オブリビオンのそばに、“ふぁ”一音でコミニュケーションを取ろうとしてる異常者がいたからだ。怖いもの知らずかにゃ?
「――ふぁふぁふぁ。ふぁふぁふぁ? ふぁふぁふぁ」
しかも二人も。
●
ルエリラはロニと共に、オブリビオンへ話し掛けていた。
「――ふぁふぁふぁー?」
己が話しかけると、
「――ふぁふぁふぁ」
向こうも笑って返事をしてくれている。
だが、
……どうしよう。
何言っているか全然解らないのだ。
隣のロニはどうかな、と思って見てみれば、
「……?」
まずい。笑顔で首を傾げている。雰囲気的に自分よりかは向こうの言葉を解っているような気もするが、多分五十歩百歩。
「ふぁっ……、ふぁっ」
ロニの袖を引く。
「ふぁ?」
別にふぁで返事する必要無いんだよ?
ともあれ、
「ふぁ、ふぁ。ふぁふぁふぁ? ――ふぁふぁふぁ~」
オブリビオンに一礼して、自分達は一旦海賊達の元へ向かった。
「ふう……。……皆、何でそんなドン引きみたいな顔で出迎えるの」
「こ、怖いからにゃ……」
「そうかな~? 向こう、笑っててあんまり怖くなかったよ?」
「やっぱ怖いもの知らずかにゃ……」
「そうだね……。確かに相手はオブリビオン、それも七大海嘯直属の精鋭っていう恐ろしい相手だよね……。ほら、皆この芋煮を食べて元気を出して。何でそんな食べ難そうな着ぐるみ姿なのかは解らないけど。でもまあその姿の方が芋煮も美味しく感じるからね。いいことだよね。思い出になるよ。
――そして、勇敢なる海賊達よ!!」
「!?」
流れるような動作でサーブした芋煮を食べていた海賊達は、突然の大声に動揺したが、構わず続ける。
「美少女であるこの私が来た以上、オブリビオンに如何ほどの戦力が残っていようとそれは既に形骸である! 敢えて言おう! ――山羊であると!!」
闘志を鼓舞する演説だ。すると、
「お~、そうそう! そうだよ! 皆はそれでいいの? 悔しくないの?」
「……!?」
ロニも加わった。
二人で、海賊達に言葉を送っていく。
「いい? かつてね、ボクの友達もこう言ってたよー!
“一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ? すべてが失われたわけではない――。まだ不撓不屈の意志、復讐への飽くなき心、永久に癒やすべからざる憎悪の念、降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ! 敗北を喫しないためにこれ以外何が必要だというのか?”
……って!」
「そうだ! 芋煮を食べて英気を回復した私達の前に、オブリビオンは勝てないと――」
「私は断言する!」
断言した。
芋煮を掲げて。
その後、海賊達の反応を伺ってみたが。
「……!? ……!?」
あまり手応えが無い、というか何か混乱の最中だった。
「……あれ? えーっと、……以上! ふぁふぁふぁ!」
「え? いきなりそういうの言われても無理? んもー」
「勝手に始めて勝手に自分の中で納得しながら芋煮食わせてきたかと思ったら、演説ぶち上げてアジり始めましたよあの二人」
「あ、あの二人あたしより目立っとる……! マズい! カメラ、カメラこっちにゃ!」
「うーむ……、怪我治して、服と飯の世話して、報酬チラつかせて、扇動して……。いやあ、拙者的によく知った光景でござるなあ! 何か懐かしい!」
何か好き勝手言われてる気がするなあ……、と思っていたらさらに乱入者が来た。
「――お前達!」
知り合いだった。
……あー、まあ、他の皆も知っているといえば知っているんだけど……。
猟兵も海賊達も、彼を知っているといえば知っているし、知らないといえば知らない人物だった。
「おお、出てきた。……いつバラしたら面白いかなー?」
ロニだけが、自分と同じ正確な理解度だった。
「キャプテン……!?」
海賊のキャプテンだった。
●
「ふぁふぁふぁ」
ボブのふわふわの宝物は笑っていた。愉快だったからだ。
この島に猟兵達が来ていることなど、既に気付いている。向こうも営業や爆発など派手に動いているし、そもそも直接こっちと接触してきた者達もいる。あれは予想外だったし、ふぁだけで何言っているかさっぱり解らなかったが、愉快だった。
何より女子供だ。なので、一旦見逃した。豪奢に着飾った自分は、精神も高貴であらねば。羊の王といえる自分にとって寛大な対応は当然だった。
すると、
「……!?」
連中の中でざわめきが広がった。何かと思えば、己も知っている相手だった。
一人の海賊が声を挙げる。
「キャプテン……!」
言う通り、島に到着してすぐ無力化した男だった。この島の海賊の長であり、自分はあの男が部下に隠していた秘密を暴いて“炎上”させてやったのだ。
男は失脚し、海賊団を追われた。
何故、もう一度現れたのかは解らない。
だが、
「ふぁふぁふぁ……」
海賊達が男へ向ける反応は解る。
……“何をしに来た”、“どの面を下げて戻ってきた”……。
大体そんなところだろう。
一蹴されるのだ。
「…………」
吐息した。
解りきってて、面白くないからだ。
価値が無い。
そのはずだった。
「――待ってたぜ、キャプテン!」
次の瞬間に起こったのは割れんばかりの喝采だった。
「――――」
何故。
その一語が己の脳内を回ったが、そこに嫌気や不快は無かった。むしろ逆、好奇の感覚だった。
今、海賊達は己の指導者を取り戻し、活力を取り戻している。しかも猟兵達から戦う力を与えられている。
両者の関係は密接だった。
「…………」
己の上役は言っていた。猟兵と海賊が結託したら注意しろ、と。お前の手に余るからだと。
現状はその通りに進んでいる。
しかし、
「ふぁふぁふぁ」
己としては非常に興味深かった。
己は価値を重んじる。彼らが何故そうなったのか、この後何をするのか。己の知らないことは未定の価値がある。
それに戦術的にも、連中が関係を深くすればするほどこちらが有利になる。連中同士の間に“価値”が生じるからだ。
あの着ぐるみも、回復する派手な爆弾も、約束された報酬も、芋が入った汁も、何もかもが得難い物となり、己はそこを突けばいい。
「――ふぁふぁふぁ!」
愉快だった。
●
いけとる……!? いけとるか……!?
那由多は周囲の反応を慎重に探っていた。
今、己は変装している。変装した相手はこの島で“炎上”した者。すなわちキャプテンだった。
自分はこの島に来てまず、炎上して団を追われた彼に接触、協力を申し出た後、術でその姿に化けた。
事前に“瞳”で部下達の心を読心して情報収集し、キャプテン本人からも聴取した結果、
……ちょっとこのスキャンダル、大きすぎるというか……、その、名誉回復? はちょっと今すぐは無理じゃな……!
そういう結論になった。なので、次に己が取った行動は、
「さてさて、材料は、と……」
料理だった。
“ヨモツヘグイへの誘い”。
体外に排出されるまで、相手を催眠術下における手製の料理を作るのだ。
「えーっと、水と芋と……」
出来上がったのは芋煮だ。すぐに再度の読心で情報収集し、ルエリラを見かけた場所へ他の海賊に見つからないよう急行。
どうやら彼女はロニと一緒にいるようだった。
「ん? 誰、おじさ――、……んン? もしかして那由他? いや、勘だけど。当たり? やったー! ――で、どうしたの? ボク達今からオブリビオンに会いに行くんだけど……」
速攻でバレたし、急行して本当に良かったと心の底から思った。
「え? 那由他なの? ……“この芋煮を、海賊達に食べさせて欲しい?”……まあ、私も芋煮食べさせるつもりだったけど。……うんうん、山形も仙台も、そしてこの島で出来た芋煮もまた芋煮だね……」
芋煮を軸に事情を説明したら凄く話が早かった。
何か勝手に納得してくれとる……!
ともあれ後は、
「――キャプテン、俺達が悪かった!」
「俺達の勘違いだったのに、アンタを追い出すような真似を……!」
折を見て登場するだけだ。即ち、芋煮を食べた後だった。
「お、おう! いいってことよ!」
どうやら催眠の様子は順調なようだった。しかし皆、サメぐるみを着てるのが不思議というか、わらわ間違いなくそんな催眠かけとらん。読心するのは怖いからやめておく。
と、ともかく……! 根本的な解決にはなっておらんが、まあそこらへんはキャプテンと海賊達、当事者同士の問題じゃろう……。
今、重要なのは何か。それを皆に伝える。
「野郎共! 俺が来たからにはもう大丈夫だ!」
ここが一つの正念場だった。拳を振り上げて、熱弁する。
「この島を、俺達を滅茶苦茶にしたアイツを倒しに行くんだ!」
一瞬、場は沈黙した。
だが次の瞬間、
「……!」
海賊達は呼応した。してくれた。皆が声を挙げ、残った武器を掲げてくれたのだ。
いける、そう確信できた瞬間だった。
●
島に住む全員は見た。
「……!」
この島を統治していた海賊達が、再び立ち上がった姿をだ。普段は乱暴で騒がしい彼らは今、着ぐるみを着た不思議な恰好で、燃え盛る地面を平然と踏み進めていた。
「そうだ――!」
誰かの声が聞こえた。
「燃やせ――!」
焼損した家屋の上に立つ、ピンク髪の少年からだった。
「奪え――!」
ポケットから出した菓子を海賊達に振り撒きながら、笑っていた。
「追い払え――!」
不確かな足場の上で踊るように身を振り回すその姿は、心底楽しんでいるようにも、狂乱してるようにも見えた。
「――――」
そして、
「――そして殺せ! できるだけむごたらしくね――! アハハハ!」
「……!」
ほら貝の音が、戦場となった島に鳴り響いた。やがて、その音は別の音に掻き消された。
「――!!」
海賊達が天にも届くような雄叫びを挙げて突撃していき、大砲が砲撃の轟音を響かせたからだ。
「アハハハ! この音、ボク嫌ーい!」
戦闘が、始まっていく。
●
エミリィは後方で砲兵を指揮している立場だったので、戦場の様子がよく解った。
陣形としては逆三角形。後衛が砲兵率いる自分のみで、
「前衛はヒゲ、勝堀様、ルエラ様、そしてキャプテン様ですね」
「ボクは屋根の上で応援してまーす!」
現状としてはそんな感じだ。
しかし、
「……あの人、本当に海賊のキャプテンなんですかね……」
自分の第六感:30が何かそわそわしている。ともあれ、彼ら四人が海賊達を引き連れて突撃していくが、現状、全員が現地集合でぶっつけ本番の連携だ。
「まあ後は流れで。――というかこのサメぐるみ着ていたら、皆様そこまで酷い傷負うこともありませんからね! 安心!」
「そんにゃわけで、皆突撃するにゃ――!」
「……!」
前衛全てが、加速していった。
「でも流石に、先程撃った砲撃の方が先行で着弾しますね」
オブリビオンのいる場所目がけて、砲弾の雨が降り注いでいった。
「――!!」
砲弾が地面を打ち鳴らす重奏を聞きながら、己はその現場から視線を外さなかった。
「相手のユーべルコードは、“攻撃が命中した対象に【触れると燃え移る消えない炎】を付与”です。なので触れない距離で、近づかずに対処すれば良いわけです。さて、結果は……」
「――――」
己の視界の先で、弾着した砲弾群が燃え散らばっていた。
「……衝撃で壺が割れて、内容物に触れたことで攻撃判定食らいましたかね?」
ダメージを与えたという紛れもない証拠だったが、同時に敵の反撃も受けたということでもあった。
砲弾群は、砕けた物も含めて周囲に散らばっている。このサメぐるみを着ていると戦闘力が増強するので、燃え裂かる破片を踏んだとしても炎熱への耐性があるが、
「“炎上”したときの戦闘力も……増えますかねえ。どんな感じでしょう」
見てみたいような、その逆のような。
●
エドゥアルトは前方を見た。突撃する海賊達とオブリビオンの間に、燃え盛る砲弾群が散らばっている。
あれは他の炎とは違うでござるな……。
今まで自分達が踏んできた炎とは、違う。具体的に言うとWIZじゃなくてPOWの炎だ。発動したユーべルコードが違えば、その結果も変わってくる。
地雷やトラップと同じで一見見分けがつかないが、だからこそ対策としては、
「一帯を元通りにすればいいんでござるよ!」
突撃していく海賊達の頭上を越す軌道で、パンジャンドラムを投げた。ただでさえ不安定なパンジャンドラムの挙動は不整地でさらに荒れたが、爆発してもこちらにとってはメリットしかない。なので気軽に投げて地面を正常化させるが、
「ふぁふぁふぁ。慎重にばら撒けと言われた気もするが……、割れたからにはなあ」
「ヒゲの旦那! 壺から攻撃が止まらん!」
オブリビオンの割れた壺の中から、燃え爆ぜる宝石がどんどん出てくる。
こちらは爆発で地形を大規模に正常化できるが、しかしあまり連発はできないのだ。
……めっちゃ疲れるんでござるよね、これ。
ユーべルコードの特性上、疲労が増加していくのだ。投げる腕に乳酸が溜まってきている。一方、敵からすれば適当に宝石をばら撒けばいい。
こちらが大規模に正常化したとしても、ほんの少しでも残っていたら海賊達は進軍に躊躇いが出てしまい、
「……っ」
乱れる。
自分の前の部隊はそんな様子で、そして己は疲労していて、
「ええい、面倒でござるなあ! ボブと海賊を纏めて轢いてやる……!! ――しねぇ!!!」
「い、今、旦那しねって――、ぐえー!」
起爆しないように調整したパンジャンドラムを、海賊達の頭を越す軌道ではなく、背後から轢き潰す軌道で投げた。アンダースローだった。
●
「――!!」
パンジャンドラムは行った。他のどの海賊達よりも先行し、荒れた戦場を突き進んで行く。
起爆機構が取り除かれたので、近くの海賊達を轢き飛ばそうと、地面の炎上宝石を踏んだとしても、爆発しなかった。
「――――」
ただ炎上するだけだった。そして“炎上”しようにも、パンジャンドラムは既に似たような経緯を得ていたからだ。
燃え盛る大質量として、ただ突進していった。
「ふぁふぁふぁ……!」
無価値ではないと、証明しに行くのだ。
行った。
●
円稼は激怒していた。己が持つ自立飛行するカメラが、持ち主である自分を映していなかったからだ。
「ちょ、カメラこっち、こっち! 何であんなヘンテコ兵器撮ってんの! メンズが求めるのは美少女なはず……!!」
「つまり……私? ――あ、この配信をご覧の皆さん、芋煮を食べてね」
「違う……!」
「ん? あ、ボク撮られてる? イェーイ、イェーイ。アハハハ!」
「美少女じゃない……!」
ウロウロしているカメラにツッコんでたら、何故か応¥や声¥がどんどん増えていった。合わせてコメントも来る。
《その調子で》
「“その調子で”も何もさっきから私、カメラに映ってねーんだわ!! ――って、あたしの部隊だけ遅れてる!」
他の三人が引き連れる海賊達は、パンジャンドラムに続いて各々の対策で前進していた。
《後方メイド面で失礼します。早く前線押し上げてください勝堀様》
「……! ……!」
「マズいって、マズいって……!」
毒コメが来たので一丁バトルしてやろうかと思ったら周りの海賊達に止められた。
《ほう、彼らの“炎上”に対する戦闘能力というか、リスク意識も強化されているようで何よりです。――私の着ぐるみのおかげだということを努々お忘れなく》
どうしてくれようか。
《[PR] 【今だけ!】貴方もこんなサメぐるみが欲し――》
退室処理してやった。
「――ていうか、こんなことしてる場合じゃねーんだわ……!」
かくなる上は最終手段だ。敵は羊のくせに炎上させてくるようだが、つまりそれは、“炎上”が攻撃としてこちらの打撃になると思っているのだろう。
ふふ……。甘いにゃ! だったらこっちから炎上してやるにゃ……!
どうするか。
「…………」
己は、気づかれないように首のリングを軽く操作すると、
「……あ、あー! ト、トラブルでスーツの投影機能が故障してしまったにゃー!」
嘘だ。今、自分の操作で設定を変えたのだ。配信で肌を見せてしまえば、それは大きな“炎上”となる。そして既に“炎上”していたとすれば、敵の“炎上”に振り回されることはない。そういう狙いだった。
「マ、マズいにゃー! BANされちゃうにゃー! ネットニュース載っちゃうにゃー! い、いやーん! カメラ、カメラこっち見ちゃ駄目にゃー! 海賊達もだにゃー! いやーん! 雄々しい海賊達の前であたしの柔肌が露わにぃー! 露わにぃ――」
「――――」
海賊達が冷静に着ぐるみを脱いでこちらへ差し出し、カメラを身体で隠し始めてくれた。
《その調子で。――勝堀様。……しかし、筋骨隆々で雄々しい肌してますねえ……》
複アカ使ってきた奴と半裸で一丁バトルしてやったにゃ。
●
何やっとるんじゃあいつら……。
キャプテンに化けている那由多は海賊達と共に駆けていた。隣、円稼の部隊が何やら騒がしい。
「思ってたのとは違ったけど“炎上”して資金回収出来たからまあよし……! ――ほら、突撃するにゃ! 突撃~!」
よく解らんが円稼達は“炎上”対策が出来たらしい。エドゥアルトはパンジャンドラムで、ルエリラはその後ろを追随しながらポーションをばら撒く。かくいう自分達はと言うと、
「はっ……! 思い出した! キャプテン、そういえばアンタあの時――」
「馬鹿野郎! 敵の術に嵌るな!」
“炎上”する度、味方を殴り飛ばしていた。だがそれは、実際に殴打しているわけではない。
ユーべルコード、“魂喰-祓-”。
神気を籠めた手が他者の害意だけを抜き取るのだ。今回であれば、“炎上”で増幅されたこちらへの害意だった。
「――――」
鉄拳一発。だが海賊の身体は傷つかず、呆気に取られたような表情を一瞬した後、彼は頭を振って意識を取り戻す。
「あ、あれ……?」
喝を入れ、奮い立たせる。
「しっかりしろ! 敵はこっちを瓦解させようと、重点的に狙ってるんだ!」
そうだ。正確にはこの部隊ではなく、それを率いる己を狙っている。
「ふぁふぁふぁ」
砲撃とパンジャンドラムの突撃によって身体から血を流し、壺はもう原型を保っていない。しかしオブリビオンは依然として、こちらへ好奇の視線と探るような攻撃を向けていた。
「……!」
壺の中の溶けた純金、魔力を持った宝物。攻撃方法は様々だった。飛び出すそれらに触れたそばから、自分は続々と“炎上”していく。
如何にサメぐるみを着たキャプテン直属の精鋭達といえど、集中砲火される自分達のリーダーを見ると疑惑が膨らんでいく。
「……なあ、キャプテン。アンタが攻撃を受ける度、俺の中でアンタのあの噂が真実味を帯びてきて……!」
「勘違いだ!」
「で、でも……、改めて言われると何か俺も気になって……!」
「黙れ!」
「キャプテン! 本当の事を教えてくれよ!」
「この拳が真実だ……!」
殴って、殴って、殴りまくる。そうすることで海賊達の害意を摘み取っていった。痛みが無いとはいえ荒っぽい方法だが、それが逆に海の男達にとって効いた。
「ああ……! 一生アンタについていくぜ!」
尊敬、従属、忠誠。
様々な感情や思念が“キャプテン”という男を通じて、自分に向けられてきた。
……それ即ち、信仰がわらわに集まっとるということ! ……多分!
ちょっと違う気が自分でもするが、彼らのキャプテンへの想いを、己の物としていく。
「おお……!」
感情を信仰に、そして信仰を神としての力に変換し、拳に宿していった。
「ふぁふぁふぁ……!」
こちらの力の増大を知ったオブリビオンが、一際愉快そうに笑った。
拳を、天に掲げる。
「ついて来い……!」
その直後だった。
「……!?」
背後の空から、鉄鍋が飛来した。複数だった。
全てオブリビオンの頭上へ位置取り、その内容物をぶちまけたことで中身入りだったことを知る。
芋煮だった。
●
「……ふう。ここまで近づけば脳波コントロールでいけるよね。――さあ、皆。タコ殴りで、山羊を芋煮のお肉してやろう」
「そうだそうだー! 殺せー! 捌けー! アハハハ! ――さっきあげたお菓子もそろそろ効いてくるし」
……今、最後に何かさらっと言ったけど、どんなの食べさせたんだろう……。
「んー……、ドーピング?」
「あれ、心読めるの?」
「いや? これも勘。当たり? やったー!」
瞬間。
「ぉお……!!」
海賊達から獣のような咆哮が聞こえてきた。
●
海賊達はキャプテンと行った。ずっと走り通しだったが、疲れは無かった。それは不思議な着ぐるみのおかげでもあったし、奇異なポーションと奇怪な爆弾による回復のおかげでもあったし、
「おお……!」
身体に力が漲っているからだ。着ぐるみの効果だけでなく、胃の中から全身へ。活力と少年の言葉が広がる。
「――――」
燃やせ、と。
奪え、と。
追い払え、と。
そして、
「――殺せ……!」
「ああ……! 行くぞお前達!」
溶けた金属に、芋煮の汁や具材が触れたことで水蒸気爆発が起こった戦場へ、自分達の長と突っ込んでいった。
湿度と高熱で陽炎のように歪んだ空間の中、大笑いする敵が見えた。
「ふぁふぁふぁ! ふぁふぁふぁ……!! ふぁふぁふぁふぁふ――」
爆発の中心、歪んだ姿はキャプテンの“神々しい”拳でまず吹き飛ばされた。
続いていく。
「……!」
カトラスを、短銃を、鮫魔術を。ありとあらゆる手段を使って、敵に押し込んでいった。
もう、自分達と猟兵の敵ではなかった。
大成功
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