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羅針盤戦争〜暁の行方

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #カルロス・グリード #オブリビオン・フォーミュラ #五の王笏島

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 波がざわめく。
 広大なるグリードオーシャンの海ですら、受け止めきれぬ狂暴が目を醒ました。
 逞しい外殻がその体を覆い、誇示するようにエネルギーが揺らめく。あふれ出る力を噛みしめるように強靭な手のひらを握り、――悍ましき竜たる力が宿った男が地平線を見た。
「汝らが王である」
 うぞり、うぞり、島が蠢く。
 木々をかき分ける古の白骨が、獲物を求めて鳴らない喉の代わりに空洞へ空気を通した。
 ――おぉおおおおおおおおおおおおお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおお……。
 狂竜の力に応ずるように、亡き彼らの吼える音が島を震わせた。
「往くぞ。水平線に――暁すらも、沈めてしまえ」
 王たる彼を、悦ぶように――。


「おう、お疲れさん。さっそく説明に入るぜ」
 ヘンリエッタ・モリアーティ――その中の一人であるヘイゼルと呼ばれる彼がタブレットを取り出す。
 グリモアベースは羅針盤戦争の真っただ中であった。広大なる世界に在る島々が発見されつつはあるが、そのたびに新しく脅威も現れる。
 油断を許さぬ状況であるのには間違いあるまい、集まった猟兵たちにまず一礼してから続ける。
「ベルセルクドラゴンを覚えてるか」
 スリープ解除の画面から、ホログラムが作られる。画面の照明を明るくしながらヘイゼルは続けた。
「暴れん坊で学習力の高いやつだった。帝竜戦役――アックス&ウィザーズのやつだったな」
 念のために、と竜を時計回りに回転させる粒子の隣に、かの狂える竜のステータスを映す。
 狂竜、狂暴そのものでありながら戦いに関して吸収力が高く、猟兵たちと戦う時などはその強さによりたかぶる程獰猛な竜は、実際に戦った者たちならば理解できただろうか。
「今回、戦うのはベルセルクドラゴンの超高速の思考力と、戦闘力を兼ね備えた――」
 竜の隣に男の姿が浮かび上がる。
 粒子がその形を作り、彼にまがまがしい鎧を着せた。人面竜のようなちぐはぐが、歪さを伴った暴威の象徴である。
「カルロス・グリードだ。んでゆかいな仲間たちってところか?ホラーチックだけどな」
 頭をがしがしと掻きながら、ヘイゼルは猟兵たちの反応を見た。
 夥しいほどの白骨が、カルロス・グリードの周りに従えられている。どれもこれももはや亡き者であるはずなのに、まるで王を歓迎するかのようにきしむ体を動かすではないか。
 再現ホログラムで縮小された全容からも見て、――充分に兵力足りえる量を見ただろう。
 五の王笏島には、大量の「白骨化した古竜(スケルトン・エルダー・ドラゴン)」が存在し、カルロスの命令に応じて直接攻撃を猟兵たちにしかけてくる。
「忙しいし、難しい戦いになるぜ。作戦準備は慎重にな」
 つまるところ――猟兵はこの数をさばきながら、かの王を倒さねばならぬというのだ。
 激戦が予想されるであろう。島の周りは海で、敵にも猟兵らにも逃げ場はない。強大な力と知恵と、数のぶつかり合いは避けられぬ。
 ふつり、と粒子が消えたのは、ヘイゼルがタブレットを再びスリープモードにしたためだ。
「でも、お前たちなら絶対に勝つ。そうだろ?」
 に、と笑う彼の顔には緊張よりも期待のほうが上回っていた。
 猟兵たちは、すでにこの「オリジナル」を攻略している。鎧になった程度で、「できない」未来などあるはずないと感じていたのだ。
「さあ。準備と作戦は万全か――頼むぜ、猟兵(Jaeger)!」

 真っ赤な亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、空間の裂け目を広げていく。
 猟兵たちの目の前に現れるのは、果たして狂乱の戦禍か。それとも、明日を迎える地平線か――。


さもえど
 さもえどです。
 ベルセルクドラゴンのフィギュアがほしいです。
 プレイングボーナス……『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処し、同時に「白骨化した古竜」にも対応する。』
 敵は必ず先制攻撃してくるうえ、白骨化した古竜たちへの対処も必要となっております!なかなかシビアな激戦が予想される難易度ですね。
 プレイング募集は常時ですが、採用数は成功数+できるだけ、と言った具合です。公開されて翌日には完結かな~という気持ちでございます。
 負傷など大丈夫!歓迎!というかたは、★をプレイングのどこかに記入いただけますとそのようにさせていただけます。
 それでは、皆様のかっこよくて熱いプレイングを心よりお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『七大海嘯『五の王笏』カルロス・グリード』

POW   :    アリエント・ドラゴーン
【鎧から放射される凶暴化ブレス】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    エスパーダ・ドラゴーン
【鎧の身体強化】による素早い一撃を放つ。また、【肉体をドラゴン化する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    イーラ・ドラゴーン
【自身または竜に対する敵意】を向けた対象に、【負傷の分だけ威力を増す狂える竜のオーラ】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:hoi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

百鳥・円


あの早口は耳から抜けていくよーな心地がしましたが
懐かしいですねえ
無いなら無いでちょっぴり寂しいものです

とりあえず戦闘前に糖分補給ですん
宝石糖は言わばひとの心
んふふ。ご馳走さまです
相手が相手ならこちらも頭を使わなきゃ

とんっと避けるよりも空中へ行きましょ
空はわたしのテリトリーです
ぎりぎりまで引き付けて飛び立ちます
一から十まで心を読めるとは思ってないですが
右を狙うなら左へ、逆ならその逆へ
素早く計算しつつ立ち回りましょ

せっかくセットした髪型も衣装も汚れるのは嫌ですが
しーっかりと立ち向かわなければ、ね!
全力魔法と一緒に敬礼もキメちゃいますよう

操るのは風の力です
古龍たちをぐるーりとまとめてしまいましょ!


モーラン・ヴァッカ
ワハハ所詮はただの爬虫類!“ジーニアス”の装甲には多分効かぬ
うっわ熱っ!?機体へのダメージフィードバック普通に入って来るのであるが!?

しかぁし!こんな時でも入れる保険こと追加装甲が“アイギス”!
これさえあればキャバリアがイカれずそのまま戦闘続行可能!
なお操縦者へのフィードバックダメージは考慮しないものとするである。
ブレスを防ぎつつ吶喊!“ノーベル”を起動して肉薄するであーる!

こっちである、クソダサドラゴンコスプレ野郎!
ベルセルクだかベヘリットだか知らんであるが、貴様のルールになんぞ従ってやらんのである!
なぜならばァ!貴様も小生もここで爆発するのであるからな!!
小生の爆撃を食らうがいいであーる!


水衛・巽

多少懐かしく感じる名前が出てきましたが
こちらは句読点の使い方を弁えているようで何よりです

式神使いにて青龍を召喚し、常に白骨古竜を警戒
先制攻撃は第六感で方向と速度を予測
青龍を限界突破させた結界術で強化し耐える
古竜は無理に相手をせずひとまず高速詠唱での呪詛と霊符で拘束

狙いは受け止め直後
高速移動の後なら体勢くらいは崩れるはず

それは当然こちらも同じでしょうがそれは織り込み済
あえて隙を作って誘い、
リミッター解除した青龍の水流で古竜とまとめて押し流します
周りが海ならいくらでも水を使えるので

弱点さえわかればあとは共有するだけ
個と個の戦いならまだしも独りで複数に争いを挑むのは
あまり賢いやり方ではありませんね




 思い出せば遠いようで、昨日のような心地すらした。
 脳の処理が優れているからか、あれほどに口を動かしたとしても誰かと会話するためのものではなく、ただ結果ばかりを語り続け――しかし正確で正当な戦いを敵ながらに繰り出してきたのを覚えている。
「懐かしいですねぇ」
 砂浜に足先で絵を描くわけでもなく、代わりに不規則な図形を描いていたのは百鳥・円(華回帰・f10932)であった。
 ひとつひとつの挙動に気を遣っているのは、カルロス・グリードからも視れば十分に理解できる。
「我に観察されぬよう心掛けている」
「ええ。あなたの今の状態は、観察に優れてるってもう知ってますしねぇ。わざわざ見えてる地雷踏まないですよぅ」
 ころころと舌先で金平糖をもてあそんでいる。
 潮風が円の髪の毛を撫でていった。トリートメントのよく行き届いたふわりとした太陽の色にも近い髪が静かな場に揺蕩う。
「時間稼ぎか」
「あら、気づいちゃいました?」
 ここまでのやりとりはわずか一分にもならぬ。
 円がカルロスの目の前にわざわざ現れてから、両者はただお互いを観察しているのだ。
 カルロスにとってはこの時間こそ利益であるが、ならば円の利とは何か――この一分の間に彼女が白骨に襲われていないことであろう。
「――竜らが貴様に届かぬのはおかしいのでな。仲間が潜んでいるだろう」
「占い師にジョブチェンジしたほうがいいんじゃないですかぁ」
 イエスの代わりに皮肉を返す。
 太陽光に後頭部を照らされている心地ばかりではない。うなじを伝う汗は緊張によるものだ。
 どんどん円の心臓は脈拍を速めていくが、代わりに体も温まるというものである。血流が良くなって血色のよい乙女の顔は徐々に表情をあらわにしていく。
「佳いか」
「はい?」
 カルロスの問いに、円が機嫌のよい声で返事した。
「――もう佳いかと言っている」
 滾る。
 目の前の王からあふれるのは紛れもない殺意であった。突き刺す様な視線に肌で感じるひりひりとした死の心地が、円の口をゆがませる。
 にいいい、と口角を持ち上げて獰猛な顔をした。
 美しい姿を保つのだって理性と、計画と、金と時間がかかるのであるが――此度ばかりは円も「逃げる」わけにはいかない!
「はは、なぁんだ。そんなこと聞いちゃうんですか?」
 たっぷりの人の心を歯で噛み砕く!
 がりり、と顎で粉砕した甘味を飲み干して、夢魔は嗤ってやるのだ。大きな羽を広げて、己の領域へとこの王を誘うように!!

「理性的すぎて――つまんないンですよねぇっ!!」

 水衛・巽(鬼祓・f01428)が、まず己の脇腹を狙った子竜と思しき頭蓋を呼び出した青龍に防がせる。
「砕け!」鋭い命令と同時に粉砕する骨くずには目もくれぬ。巽の役割は、ここで古の竜どもに消耗されないことだ。
 幸い――数多くの竜の中でも小型ばかりが巽の体を狙ってくるのは、絡繰りがある。
「大物さんには大物さんを、ですか」
「ワハハハハハ!!!所詮ッ――ただの爬虫類!!」
 巽が走りながら空を見た。モーラン・ヴァッカ(“ジーニアス”・f30084)の運用するキャバリアが大型の竜と取っ組み合いを始めていて、たちまち相手の骨を粉砕する。
 殴れば砕け、蹴れば折れ、しかし亡者ゆえに痛みはわからぬのだろう。巽にまるで自爆特攻ともいえる攻撃を仕掛けてくる彼らを相手する必要が減ったのは、モーランの派手さのおかげであった。
 モーランの計算のうちである。
「もつ。もつはず――であろう、なァジーニアス!」
 >System rog...
 ダメージ損傷率_2%。
 計画の遂行に問題はありません。
 電脳体がにんまりと笑い、確信を拳に宿す。「撃てェ!!!いや、殴れェ!!ワハハハハ!!かまうものかかまうものかァ!!!」
 円にこの古竜どもをけしかけぬ。モーランのプランは完璧であるはずだ――稀代のマッドサイエンティストの頭脳に白骨が勝てるはずもない!!
 ぶうん、と機械が腕を振るうたびに、巽の視界に粉々になった骨たちが降る。かわす必要はない。青龍が主を守るのだから、あとは所定通りに進むだけだ。
「留まってもらいますよ」
 ――たし、と白骨に札を貼れば、がしゃがしゃと崩れ落ちていく。
 地面に転がるそれを飛び越えながら、巽は出来る限りカルロスに気配を感じられないよう四角へと入りこもうとしていた。
 島には森があり、白骨はモーランがわざわざ大声をスピーカーで増幅させて陽動している。ここまでの計画は問題がないはずだ。
「ジーニアス、次である!次次!!」
 安全であるはずだ。
 モーランが確信をもって進めるこのプランに、二人は重ねて乗る形となる。
 カルロスの虚を少しだけでも作れればよい。ならば、ベルセルクドラゴンと肉薄したことのある円がまず注意を惹き、その死角を巽が補い、青龍の力で押しつぶしてしまえば確実に勝てるはずだ。
 ――問題あるまい。どこにも欠陥はないはずだ!
 しかし、天才の脳にはあることだけが気がかりであった。愛機であるジーニアスは、成功確率を「98%」と断言するのである。
 システムのエラーを考えさせるような数字だ。たった2%とはいえ「失敗する」と相棒が計算したことに、モーランは聊か疑念を抱いた。
 ――何の計算を間違えている?
「これで百体目ェ!!! これ何体あと倒せばいいんであるか!!?」
 破砕音とともに揺れるコックピッドで、天才は叫ぶ。まるで、たった2%を振り払うかのような大声だった。

「理性的すぎるといったか」
 空中に飛んだ円を見上げて、カルロスは感情の起伏も見られない声で言った。
「ええ、とっても退屈です!!」
 追ってこない――ならばと挑発ついでに急降下からのかかと落としを上空から物量とエネルギーを込めて奮う!!
 ずううん、とおおよそ円の体重では感じられない振動とともに、カルロスへと直撃した。その脳天にはヒールブーツのかかとが確かに振り下ろされている。
 そう。
 振り下ろされているのだ。
「――?」
 血ひとつ流れていない!
 円が目を見開いたのも無理はなかった。わざわざ頭蓋を狙ったのは、そこが「竜」ではないからだ。

「 な ら ば 応 じ よ う で は な い か 」

 ぞ、わ―――――ッ。
 円の全身に駆け巡ったビジョンは、殺される自分の姿だ。
 八つ裂きにされて、美しい体すら破裂したような光景を脳が思い描く。たまらず、カルロスの胸を蹴りくるんと服を翻して後退した。質量と速さに応じて、砂浜には一直線に円が退いた後が残る。
 うぞ、うぞ、うぞ。
 カルロスの顔面が、どんどん変容する。

「貴様の望む姿になってやろう。我は王である。王たるもの、王らしい姿でもてなさねばな――」

 解 放 、 【 エ ス パ ー ダ ・ ド ラ ゴ ー ン 】 ! ! 

 円の目の前に現れたのは、かつての狂竜もはやそのものと言ってよいだろう!
 ゴアアア、と口の端から漏れ出す熱気はこの気温ですら白くさせる。ぎらぎらと輝く瞳が円を見た。そして――。
「いッ――――――――!!?」
 突撃!!!!
 風圧ののちに音が追い付いてくる。踏み込みとともにソニックブームを生みながら突撃するその姿に円がカードを切った!!
「あァっぶない、ですねぇ!もう」
 【獄幻螢】。
 円が口の中で人の心を噛み砕けば砕くほど、その行動を確実に成功させる。円の頭脳をより解放させ、反射神経をも限界まで引き上げさせたものだった。
 故に、瞬きよりも早い速度に順応できたのである。横に体をスライドさせるだけで、まず突撃は防げた!
「今ッ!!」
 鋭く円が叫べば――海がざわりとうごめいた。
 操るのは巽である。確実にカルロスの死角に入りこんだ彼が、円の光景に唖然としていた意識を取り戻した。
 まずい。しかし、やるしかないのだ。
 明らかに巽では目視できなかったのである。もはやベルセルクドラゴンと化したかの王の姿を視認できたのは、円に突撃してからの事であった。
 躱したらしい円の動きも目で確認できない。人間である巽の目ではこの戦いに追い付けない!
「――疾く暴け」
 致命的な弱点が、わからない――!!
 しかし、突撃からの一瞬の虚は弱点と呼べるはずである。故に、巽は海を操った。【青龍瑕瑾】――波がかの暴威を飲み込む!!
 水柱が上がり、ぱぁんと風船の爆ぜたような音が響いた。円が飛びあがり、空から見定めている。
 仕留められた心地がしないのは、巽も同じであった。命ずる印を結んだ指先が震えている。
 ――なんでこんな時まで情けないんや。

「そこか」

 水柱が割れる。カルロスは、拳を突き出しただけだ。
 それなのに、風圧で巽の潜んでいた茂みがかき分けられた!木々は折れ、巽のみを残して空中に舞ったのを目視して――。
「我はもう『理解した』のだ」
 眼前に。
「あの女が匿っていたのは貴様だな」
 狂竜がいる。
「 人 間 め 」
 突き出された拳が――巽の額へと向かうッッッッッッ!!!!!

 巽が次に感じたのは、額への猛烈な死の予感ではなく、鋭く脇腹に走った痛みである。

 そのまま横に吹っ飛んで体が回る。ごろごろと右に回転しているらしいのはわかるのに、前なのか後ろなのか方向感覚は機能していない。
 ――耳を風圧でやられたのだ。三半規管が麻痺してキイイイイイイイィイイ――――……ンン……と耳鳴りが頭を覆う。
「ァい、ッた――」
 そして。
 転がった体と、霞む視界で見た事で理解した。己は横になってしまっている。
 しかし茂みには入り込んだらしい。草がぼうぼうと生えていて、血を乗せていた。己をかばう様にして上に乗る誰かの重さがある。
 ――円であった。
「ッつ、うッぐ」まだ体を動かせる自分に驚く。生命の危機でアドレナリンが出ているために痛みを感じないのだ。すぐさま体を起こそうとするのに、平衡感覚が狂ってうまく起こせない。
 もたもたとしている間に円が呻いているらしいのが、籠った耳の中で聞こえた。
「だい、ッじょぶですか」
「――へい、きです。あなたは?」
 円の横腹が、えぐれてしまっている。
 ありとあらゆる行動に成功した。間違いなく、円は成功したのだ。――『水衛・巽』をかばうという選択に成功した。
 口の端から唾液と泥と血を混ぜた粘っこい液体を垂らしながら、円はすっかり化粧の崩れた体で巽をのぞきこもうとする。
「ァあ、――ふ、ッふ、よかった。死なれ、ちゃね、ァの゛ッ、――夢見、わるいンでッ」
 どうしよう。
 まず、巽の頭で埋め尽くされたのはその言葉で。
 ――それは、ジーニアスのシステム警告で現状を知ったモーランも同じであった。
「う、ぉおおおおおおおおおお!!!!!こっちである、この、ッ――クソダサドラゴンコスプレ野郎ッッッッッ!!!!!!」
 ジーニアスが走る!
 ずうんずうんと体を揺らし、骨たちを押しのけ、砕け散らせながらドラゴンの体に向かって突撃した!!
「ほう。機械か――考えやすいな」 
 直進してくる大きな機械は、カルロスからすれば確かに的であろう。
 か、ァッ―――とディスプレイが真っ白に染まる。輝度に耐え切れずモーランが目を瞑らされた。

 【 ア リ エ ン ト ・ ド ラ ゴ ー ン 】 ! ! ! 

 噴出される熱の量に、エラー音でジーニアスが悲鳴を上げる!!
 警告、警告、警告!!!埋め尽くされる赤い文字にモーランが全身から汗を流した。
「うっわ、熱ッッッ!!!!」
 想定外の熱源も、「計算されている」のだと天才の脳が察知した。しかしこのままでは――その脳もただのたんぱく質にされてしまうことは必須である。 
「ジーニアスッッッッ!!!!追加装甲、アイギスを装備しろッッッッ!!!」 
 鋭く命令すれば、モーランに応ずる。ジーニアスはさらに装甲を重ねて、竜の体を握ったッッ!!
「熱かろう?」
「っっっっっがぁああああああああああッッッッ――――――!!!!!!」
 しかし噴出される炎熱の勢いは止まらない!!
 ジーニアスに体を握りつぶされようとしていても、カルロスはさして同様した様子もなく――ジーニアスを燃やす!!!
 モーランの躰全身に痛みが走った。激しいダメージに体を弓なりにのけぞらせ、上がる体温に体中から滝汗を流し後頭部を座席に押し付けてもだえ苦しむ!
 >System rog...
 ダメージ損傷率_95%。
 予測演算にエラーが発生しました。_直ちに行動を修正してください。
 操縦者へのダメージフィードバック_致命的です。
 コックピッドから脱出してください。_メインエンジンへの損傷を確認。
 ▲▼!!DANGER!!!▲▼
 ▲▼!!DANGER!!!▲▼
 ▲▼!!DANGER!!!▲▼
 ▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼▲▼!!DANGER!!!▲▼

「―――ゥうるさい゛ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

 があん!と強くモーランが操縦機のパネルを蹴った。
「ベルセルクだかベヘリットだか知らんであるが、貴様のルールになんぞ従ってやらんのである!!!!計算に過ちなどない!!なぜなら小生は、――狂気の天才科学者ドクター・モラン故なぁああああ!!!!!」
「――む?」
 ジーニアスの損傷は異常のはずだ。
 もはや溶けた装甲から内部のパーツがむき出しになっている。火花が散り始めて、爆発すら目前であろうに――。
「まさか」
「気づいたかァ?はっははは!!!やはり小生の頭脳にはついてこれんだか、爬虫類同然よなァ――」
 ばち、ばちばち、と火花が散る。ドラゴンの姿になったカルロスの目が見開かれた――。
「貴様も小生もここで爆発する」
 観察しきれなかった。
 この天才は「狂っている」のだ。
 超速の思考力を以てしても、「異常」を知り尽くすことなどできない!!カルロスが放った炎熱を伴ったまま燃え盛るジーニアスから響く狂笑が、王を飲み込む!!!
「な、ッ――放せ」
「はははははははははッッッッ――――」
「 放 せ ェ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」
「わァ――――――ッッッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッ!!!!!!!」

 ――――――――Set.
 【Destruct System】。

 
 爆発があった。
 火柱が頭上に昇る。竜たちが声にならぬ悲鳴を上げた。
 雲すら引き裂くほどのエネルギーを確認して、巽は円に肩を貸していた。
「いけますか、もう少しだけ」
「ッふふ、えぇ、――ゆめを、ッみ゛せるのが、しごッと、なのでェっ」
 巽も平衡感覚が戻っていない。
 ぐらぐらとする視界の中で、何度も何度も群がる骸を止める。青龍が巽を補うようにするりと横を泳げば、海が見えた。
「――お願いします」
 血だまりが出来ている。
 円の内臓は幸いにも損傷していないようであった。しかし、出血量は異常である。
 この状況で意識があるのは「なにもかもに成功する」からだ。――この戦いは円たちの勝利で終わる。

「くそッ――――」

 体中の鎧を溶かされながら墜落したカルロスの姿が砂浜にある。
 煙にまみれた体は無理もあるまい。己の熱とモーランの起爆ですっかり焦げて燃えてしまっていたのだ。
 煤まみれどころかダメージを負った鎧にすらイライラとした舌打ちをくれてやったその姿に――雨が降る。
「――?」
 先ほどまで晴れていた。
 幾ら海とはいえ天候がこれほど異常に変わることは稀だ。
「せっかく思考力があっても、科学的な知識がないと対応しきれないでしょう。あなたの弱点はそれですよ――」
 空を見上げていた彼に、巽の声が響く。視線を向ければ、ぼろぼろになった彼の姿と、その隣で座りこむ円の不敵な笑みがある。
「どういうことだ」
「海には障害物がない」
 びゅおう、と強い海風が吹く。
 するどい風は、円の力があってこそだ。二人に近づこうとする古龍たちをあっという間にばらばらにしてしまって、カルロスの呼吸すらも止めさせる。
 風圧が強すぎて息ができないのだ。噎せて呼吸を確保しようとするカルロスを、穴だらけになった着物の袖で鼻を覆いながら巽が続ける。
「まッ――さか―――ッッッ」
 冴えた青色の瞳が、風圧で立てぬ王の姿を見下ろす。
「ええ」
 ひどい雨が降り、みるみる巽と円と、――カルロスから体温を奪っていった。

「台風は怖いですね」

 熱された海面に、円の強風を乗せる。もとより熱されにくい海面がかき混ぜられて。海水面から蒸発した水を通してエネルギーを得たものを冷やす。そして雲を作り――冷やさせ、熱帯低気圧を作った。
 かきまぜる円の風があれば、循環する。移動し、雲は嵐を呼ぶのだ。――暴威には暴威を食らわせる。
「極度の大雨付きです。どうぞ、流されてください」

 巽が手を掲げる。
 大雨の海面から、巨大な青龍が立ち昇った。
 ――焦りで熱された頭が雨で冷静になる。巽は、カルロスを見ても恐怖をもう感じない!!!

「が―――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 ごお、う―――。
 風圧を伴った巨大な青に押し出されて、吹き飛ぶ。カルロスが島の奥へ奥へと木々を折りながら埋まるのを見て、ようやく巽は膝を折った。

「ほらやっぱり、うまく、――いったでしょぉ」
 血を飲み込みながら、円がかすれた声で笑う。
 王の呪詛めいた声が、島に響いた――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鷲生・嵯泉

ニルズヘッグ(f01811)
口だけでは無かった筈だが其の印象しか無いな……
まあ――又斃すだけだ

来ると解っている攻撃相手なら幾らでも覚悟は叶う
起点を計り、視える攻撃全てになぎ払いと衝撃波重ねて威力を削り
少しでも負荷を軽くする事に努めよう

……全く。お前に託されるものを無碍になぞ出来る訳がなかろう
幾ら補えると云えど見過ごせるか、莫迦者が
出来るだけ私の後ろにいろ
……良い返事だ

――祕神落妖、顕現せよ一目連
灰の竜より齎された呪詛を飲み込み、悉くを侵し腐食させる大竜巻と化せ
逃がしはせん、何処へ逃れようと巻き込み引き裂いてくれる
否、逃れようとした所で呪詛によって腐り堕ちるだけ
其れも過去の残滓には相応しかろう


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム

嵯泉/f05845と

あー、凄え早口の奴?
ん。叩き返してやろう

一撃目には呪詛をぶつける
敵意で誘導出来るのであれば、呪いは盾にうってつけだ
蘇った者への怒り、生きる者への憎悪
全てで防いでくれよう
白骨化した古竜も同じ
呪詛の天幕と氷の属性攻撃を使って、遠隔で足止めだ

仕込みは充分
――私が呪詛を操るんだと思ったろう?

満願蕾開、【黎明】
呪詛の命令権を全て嵯泉に
私自身は無防備になるが、四肢くらいなら焔で補える
蛇竜の黒槍と氷の障壁で嵯泉への攻撃を出来る限り逸らす
私も致命傷だけは第六感で避けるけど――
分かったよ、ちゃんと後ろにいる

ただの呪詛の塊だけど、おまえなら上手く使ってくれて
――無碍にはしないって、信じてるよ




「なるほどやはり――口だけのようだ」
 斃せる。
 島の奥まで誘導されてたたきつけられた王の躰というのは、ダメージを隻眼で目視できる程度には損傷が目立っていた。
 鎧はところどころ剥げ、存在は揺らめいている。熱量で焦げたにおいが、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の鼻をつんと突いていく。
 苛烈なる赤色は、ちょうど王が水圧で押しやられて磔になった崖の上で見下ろす形となった。
 まさに獲物を狙う猛獣である。ちきり、――刀の鍔を親指で押した。
「ん。じゃあ作戦通りだ」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、彼の傍に立ちながら――白骨した古竜たちを溶かしてしまっている。
 果敢にも二人につっこもうとする白骨は掌で触れてやる。解放されるようにばらばらの粒子に解けて、呪いを溶かされて消えていくのだ。
 いっそ幻想的でもある丁寧な葬送に、嵯泉は目線だけ向けていた。
「叩き返してやろう」
「――出来るだけ私の後ろにいろ」ニルズヘッグを制するような言葉であった。
 嵯泉は、この男の性分をよくわかっている。命を安く売る男だ――事実丈夫なことも理解しているが、人間である嵯泉とてやはり彼が損壊するのは見ていていい気分になるほど悪辣でない。
「分かったよ、ちゃんと後ろにいる」嵯泉ならばそう言うであろうともニルズヘッグはわかっていたのだ。
 はっきりとした返事は渋ることもなかった。ケロイドまみれの左手をふらりと振って見せて、従順なものである。
「いい返事だ」
 薄く笑った声に、大きな尻尾が揺れた。

「ぐ、ぅ―――ッ」
 カルロスといえば、すっかりダメージは深刻であった。
 ドラゴンの鎧はほどけてしまい、基礎の部分しか残っておらぬ。スピードを出せるほどの余力を作るにはしばし時間もかかろう。
 しかし、この男は王である。負傷を得てなおぎらぎらとした瞳の色は途切れてはいなかった。
「上かァッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
 ビリリ、と空気の震える咆哮――――ッッッッ!!!!!!!!
 ヒリつく殺気を受けて、カルロスは見上げる!己に向かって一直線に落ちる金色を見たッッ!!!
「遅いッッッッ―――――!!!!!!!!」
 確かな質量をもって、まず嵯泉の奇襲である!!
 上から落下すると同時に彼の跳躍を含めた怪力が加算され、さながら速度は弾丸であった。
 上着をはためかせながら落ちる金色を、カルロスは感知する――そして、振られる刀を両手で受け止めた!!
「なッ」声を上げたのはニルズヘッグである。
 思わず身を乗り出してしまいそうになるのを自制した。ここで姿をあらわにしては、カルロスに感知されてしまう。
 ニルズヘッグの役割は嵯泉の補助である。代わりに己は無防備になってしまう計画だが――故に「言いつけは守らねば」いけないのだ。
「受け止めるのかよ――」しかし、あの嵯泉の豪速と怪力を用いた振りを白刃取りしてしまうのだ。
 風圧が一度収縮し、膨張――暴風が巻き起こる!!!前髪を風にかき上げられながら、己の躰ですら浮いてしまいそうになるのを感じていたニルズヘッグだ。
 ぐしゃぐしゃと悲鳴を上げて散っていく骨どもにはもはやかまけてられぬ。しかし、嵯泉と王の間に割って入っては事態が余計に混乱する!
 嵯泉にも動揺がなかったわけではない。
 完璧な奇襲であった。しかし、この程度で殺せるとも思っていないのだ。――唯一の誤算は、この王のポテンシャルである。
「成程、伊達に王ではないか」
「我は王である――貴様は何だ?」
 顕 現 、 【 イ ー ラ ・ ド ラ ゴ ー ン 】 ! ! ! ! 
 嵯泉の体が吹き飛ばされる!!狂える竜のオーラの発現はまさに隕石が落ちたようであった。
「さ、」声を上げてはならない。ニルズヘッグが出かかった盟友の名を飲み込む。
 まだだ――せめて彼の衝撃を和らげてやらねばと、術式を組む。超高速の思考力に気づかれぬよう短時間で呪詛を練り上げる。
 願うのだ。
 ――、彼 を 護 り た い と ! ! 

 【黎明】。嵯泉が地面に打ち付けられる前に、タール状の呪詛が彼と地の間に入り込みバウンドさせる。反発を生かして嵯泉が立ち上がり――王を見た。
「まるで鬼だな」
「いいや、竜だ」
 まるで燃え盛るシルエットが狂竜そのものである。
 角のような形まで丁寧に再現してみせて、その力に酔いしれているらしい。カルロスが己の腕にまとわりつく炎のオーラを誇らしげに見てから、顔面をオーラで覆った。
 蜃気楼が周囲に起き始めていた。あまりの熱量に嵯泉の肌がちりちりと痛む。
「――笑わせるな。私の知っている竜は貴様のような軟弱ではないものばかりだ」
 当然のように垂れる汗をぬぐうこともないまま、嵯泉は再び刀を構えた。
 向かってくるというのならば覚悟はできている――!!ど、う――っと駆けてくる竜の轟爪をまず、刀で弾き退けた!!!
 ち、ィイイイ――――――――……んと鋭く響いて、火花が幾つも咲く。
 鋼と爪がぶつかり合いながらも、嵯泉の周りを渦巻くタールが彼を護る。防ぎきれない膝蹴りをぶよりと黒が飲み込んだときに、カルロスは確信した。
「もう一人いる」
「――、」
「図星か?」
 瞳孔が狭まる。
 嵯泉の激情が瞳に渦巻いたのを見て、王は喜悦にオーラをゆがませた。いびつな腕が炎に渦巻いて、崖めがけて放出される!!
「ニルズヘッグ!!!!!私のことはいい、防げッッ!!!!」 
 咆哮が届くかどうかはわからぬ。しかし、嵯泉の一瞬の虚に――鋭く王の上段蹴りがこめかみに入るッッッ!!
「がッ」
「嵯泉!!!!!――わ」
 攻撃を防ごうとしたタールが遅れをとったのがすべての結果であった。
 追い付かない。
 超高速の思考力の間に行われる暴威を前には、「マテ」をされたニルズヘッグでは追い付けないのだ。
 どうしたらいい、――どうすべきだ? 彼を護る為には己と彼、どちらを護ればいい!?
 頭を思わず両手で押さえて、視界を狭める。判断しろ、一刻も、――炎熱をどうする!!

「何?」 

 氷の天幕が、崖に現れた。
「私を見ろ」
 王が声のする景色を見る。嵯泉が立ち上がるまでの時間はまだある。
 いくら怪力を持ち合わせているとはいえ、所詮人間だと思っていたが――頭蓋が砕けなかっただけ幾分か丈夫であるらしい。
「私を見ろと言ったんだ」
 響く。
 呪詛の混ざる声が響いて――ばきばきと氷は割れた。
 かの狂竜の炎熱を防ぐほどの純度の高い術式である。やり手の術師であることはわかったが、その姿を見てようやくカルロスの中で合点がいった。

「なるほど、お前も竜か」
「―――、私 を 見 ろ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」

 ォ、オオオ――――――――――――――…………。
 響き渡るニルズヘッグの咆哮とともに、呪詛が渦巻く。膨大な量はまさに怒りの象徴であり――。
「私の敵意を吸っているのか?」
 よみがえった者への怒り。
 生きる者への憎悪。
 ニルズヘッグが古竜たちの力を吸っていたのは今このためにあるッッ!!
 島を覆いつくすほどの暗黒が発芽した。まるで樹々のように繁るそれらを見やり、王はまた燃え盛る体で爆破エネルギーをためる。
「小賢しい」
「小賢しくなければ術師でないのでなァ」
 明らかにこの呪詛はカルロスに向けられたものだ。口から吐かれる声すら、真新しい黒になる。
 さてどこからくるか、と――王が身構えた時だった。

「どうなっている」
 想定より早く、嵯泉が立ち上がっていた。
「信じてたよ」
 ニルズヘッグがその様子に微笑んだ。
「……全く。お前に託されるものを無碍になぞ出来る訳がなかろう」遠い距離にいるのに、何を言ったかはわかってしまえる。
 嵯泉が彼の意志を悟って、ぐらつく視界を正した。気迫があたりの空気に奔り――落ち葉は砕ける。
 ――これは願いだ。
 嵯泉が勝ち、この王が負ける。
 そう願っている。呪ってなどいない、だから、誰にも跳ね返らない。
 金色の体を守るように呪詛が一人の男に収縮していく。真っ黒なローブに身を包まれたような嵯泉が刀を構え、王と再び対峙した。
「 往 く ぞ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」
 鼓膜すら破壊するような音圧とともに、王に切り結ぶ!!!
 振り上げられた刀の速度も先ほどとは比にならぬ重さを持っていた。右腕を盾にしてカルロスはその一撃を防ぐが――。
「ッづ、ゥ―――――――!!?」
 じゅうっと鱗が焼かれている!!
 ぶくぶくと泡立つ右腕を諦めるわけにはいかない。ならば左足をと蹴り上げるかかとから嵯泉は逃げる必要がない。
 がうんッッッッ!!!!!と顎に踵が当たっても、弾かれてしまう。樹の枝が巻き上がる程度で、嵯泉へのダメージには成り得ないのだ。
 じろりと赤い瞳が、王の顔を見下ろしている。その顎を――真っ黒なタールが守っていた。また王の鎧を溶かそうと、じくじく泡立つ。
「どうなっている、何だこれは」
「お前には分からぬものだ、過去の残滓よ」
 呪詛が、とぐろを巻いている。
 嵯泉が左で刀を振った。弾かれたカルロスが後退すれば、陣形は成る。
 ――顕現せよ。
「私が何かと問われたな」
 これぞ、満願蕾開。
「――人間だ」

 【祕神落妖】、一目連!!

「ぐぅう、う、―――――――――ぉおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!バカな、馬鹿なッ――!!!!」
 計算しつくしたはずだ!
 超高速の思考で上回ったはずであるのに、カルロスの体は呪詛を伴った竜巻に呑まれる!!
 体中を溶かされながら崩れていく様はまさに蛇に呑まれた獲物のようで、ニルズヘッグはその光景を見て心底――。
「きれいだ」
 穏やかな顔で、見送っただろう。真っ黒な竜巻が天まで伸びた――。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
★◎
暁無き世も乙ですけどね…
お勧めはしないので。
邪魔、致しますね?

白兵なれば、体幹、身の沈み、踏込み、接近から繋ぐ一撃…
飛び道具なら、視線、鎧の状態、得物に手足の挙動…
素早い一撃、と云えどノーモーションなんて神の業ではありますまい。
僕に出来るのは常に…
視得る全てを見切り、知識経験に照らし、回避或いは次手に繋ぐ事。

周囲は骨だらけ、鋼糸張る場に不足無し。
一足で躱せぬなら糸引き速度を水増し、
先制を往なせたら。
より広く、より多く、範囲攻撃を仕掛けるなら――

誰もがオールラウンダーである必要は無い。
…我“々”、なのですから。
僕が狙うは骨古竜。即ち、道拓く為の
――拾式

どうか先へ。
あのコスプレ王は…頼みますね


鳴宮・匡
【冬と凪】


――任せていいんだな?
オーケー、ならいい
こっちはこっちの仕事をする

ヴィクティムが王笏に向かい合う間、古竜に対処する
白骨化してるなら主要な関節の位置は丸分かりだ
脚部の関節を狙撃して足を挫き、進軍を鈍らせるよ
殺しきる必要はない、足止めで構わない
すぐに――でかいのが来るからな

血の刃が辺り一帯を薙ぎ払ったら役割交代だ
すぐにお替わりの古竜が来るだろうが
僅かの間は、王笏一人に集中できる
その一瞬で見極めるよ
相手がどう動き、何を狙ってるのか
何処を守りたくて、何を恐れてるのか

見極めたら、外さない
――よく視ること
それだけを、ただ一心に磨いてきたんだからな
他人の力でいきがるようなやつに、遅れなんか取らない


ヴィクティム・ウィンターミュート
【冬と凪】

何、任せておけよ
アイツが居ねえときは、スリリングなポジションは俺が務めるもんだろ?
死が俺を焦がれて抱きしめたがってるのさ
応えてやらなきゃな…「NO」ってさ

来いよカルロス…ベルセルクドラゴンのことだ
いきなり全身全霊、ドラゴンの力を開放して来るんだろうさ
だから変身の時にタイミングはつかめる
──さぁ、鼻先の死を感じようか
何も考えず、何もせず…手を広げて、待つだけさ

そう、そして『Dainslaif』は成った
邪魔な古龍どもは、こいつで斬り払うとしようか
さぁ、もうノイズは無くなったぜ
龍殺しの準備は出来てるかい?なんて愚問か
借り物しか頼れるモンが無い哀れな男に、「さよなら」を突きつけてやりな




「――任せていいんだな?」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)の確認は、それがすべてであった。
 彼は人間である。先の戦闘を見ていても、あの苛烈さとまともにやりあっては、己は持たぬだろうと理解していた。
 ガラクタ同然の骨たちには鉛玉で圧倒できるが、異常な質量相手では己はほとんど勝ち目がない。
「あんなにカンカンだけど」呆れたような声で次弾装填、ノールックで相棒につかみかかろうとする翼竜らしき骨を撃ち砕いた。
「――――おのれ、おのれおのれおのれおのれッッッッ!!!!!!!!!!!」
 狂える王の声がこだまする。
 先ほどの呪詛の竜巻に持ち上げられたあの姿はどこに行ったのだっけと匡があたりを見回せば、声の咆哮はわかった。
「劣勢を楽しめないうちじゃあベルセルクドラゴンにゃなりきれないだろうね。何事もそうだ、やるなら徹底しないとな」
 サイバーデッキにタッチして周囲スキャンをはかる。ソナーがあたりを覆いつくし、ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)の脳にマップを描いた。
「任せておけよ。アイツが居ねえときは、スリリングなポジションは俺が務めるもんだろ?」
 ――鋼の姿はここにない。
 匡からすれば、己こそ前に出るべきではとも思える。確かにヴィクティムは優秀だが、今までのキャリアから考えればまだ肉体的には匡のほうが動けそうなものだったが――。
「死が俺を焦がれて抱きしめたがってるのさ」
 ナルキッソスのようなことを言いながら、ヴィクティムは鼻で笑う。
「NO、って応えてやらないと」
「――オーケー、ならいい。こっちはこっちの仕事をする」
 余計な感情は、今は置いておく。自分から苛烈なところに行くから死がやってくるのではないかと思えたが、このヴィクティムとて愚かでない。
 だから匡に出来るのは、「成功するだろう」と信じてお互いに命を預けあうことだ。
 白骨化しているのならば生物として無防備である。ヴィクティムと軽口めいたことを言い合いながらも、派手に銃撃の音を鳴らしながら――関節を砕く。
 二人の周囲だけ古竜の勢いがどんどん衰えていくのを、カルロスも感じ取ったらしい。
 ヴィクティムのソナー内での熱源反応がひときわ大きくなった。
「ふゥ――――――………………」
 まず、大きく息を吐く。
 それから、肩を軽く回した。ばきばきと体をほぐして、殺気に応ずる。

 ――さぁ、鼻先の死を感じようか。

 匡は、己の耳を疑った。
 いいや、――封じられたといっていい。
 「あれ」がこちらにやってくるのはわかっていた。だからヴィクティムから離れて、代わりに彼を護るための鉛を撃ち続けていた。
 最初から銃撃を繰り返したのはヘイトを向けるためだ。敵の注視をヴィクティムに注ぐことがこの作戦のかなめとなる。
 理解していた。――理解していたのだが。
「ッ、」
 耳の痛みをかみ殺す。全身から生命への警笛として汗が噴き出してきた。
 にじむような冷たい汗に体が凍えそうになる。――感じるな、と思おうにも足がおぼつかない。
 風圧で、耳をやられたのだ。鼓膜の奥が震え、何も聞こえない。耳に触れれば片側から血が出ている。
 匡の武器は射撃の腕もだがその五感もである。うち一つを封じられて、脳が警笛を鳴らしていた。死を恐れるのは生物として当然である――が。
 ――ヴィクティムの姿がない。
 土煙とまるで大砲でも通ったかのような大きな円がある。樹の腹を抉り、地面を乱し、白骨らすらも打ち砕いたのであろう痕跡が残っていた。
 ふらつく体に鞭打って、走ろうと試みる。
 ヴィクティムの狙い通りに事は進んでいるのだ、ベルセルクドラゴンの姿を模倣したカルロスは彼に「直撃した」。
 ここまでは作戦通りである――問題は、その威力!!
 風圧だけでここまでの破壊力である。どれほど豪速でぶつかったのか、ヴィクティムは無事なのか。
 ぼたぼたと垂れる赤い血が煩わしい。だというのにしっかりと己の手は拳銃を握りしめている。行かねば、と匡が体中の沸き立つような熱量を感じながら前に歩いた時、腕が支えた。

 ――大丈夫ですか?

 見上げた先の口が、見慣れている。動きが、言葉を確かにした。
「兄、さん」

 ばき、ばきばきばきばきばきばきめきききききききッッッッ――――――――――!!!
「う、ぶッ――――――――」
 ヴィクティムが鼻腔から血を流す。
 頬いっぱいにした空気を吐き出せば真っ赤な霧が出た。
 この速さ、そして強さは計算外だッッ!!ベルセルクドラゴンの姿を模倣したカルロスの突撃は、まだ止まらぬ!
 青年のみぞおちを殴りつけたまま、押す、圧す、蹂躙する――――――ッッッ!!!!!!!
 ヴィクティムのサイバネたちがエラーを吐き出す。
 このままでは破壊されると警告を続ける。
 ――――――だというのに数字での計算が追い付かぬ!!
「貴様らぁあああああああああああああああああああああああああ――――ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
 怒りを前には、正しい数列で出来たヴィクティムにとって「正しい時間」でしか発動できないッッッ!!!
「この我に、王たる我にこのような愚弄ッッッその命で払ってもらうぞッッッッ!!!!!!!!!!!!」
 皮肉一つでも吐いてやりたいが、今口を動かせば舌を噛み切ってしまいそうだ。
 かわりに目玉が飛び出ないよう、しっかり瞼を閉じて口を開き――ヴィクティムは意識を集中した。
 痛みを感じるというのなら痛みの接続を切ればいい。壊れたところは再起動しろ!!己の体に命令を下し続けながら、反逆者は猛攻をその一身で受け止めているッッッ!!!!
 血まみれの顔面で、青い瞳で王をにらむ。
 怒りと激しさでも超思考力は生きているらしい。しかし、脳まで冷たいヴィクティムよりは些か熱すぎる――。

「 く た ば れ 」

 ヴィクティムが吐き捨てるとともに、【Reuse Program『Dainslaif』】は為った。
 ぱ、ッ―――――――――――きぃいいいいいいいい…………んっっっっ―――――。
「な」
 カルロスを覆っていたベルセルクドラゴンの模倣が砕け散る。
 素体のみとなった彼の姿があらわになった。猛追をしていたはずの体は勢いを失い、ヴィクティムが体を反らせば地面に伏せることになる。
「なんだ、これは」
「いいザマだぜ」
 ほとんど真っ赤に染まった顔で、ヴィクティムがにたりと笑う。
 彼の両腕からうぞりうぞりと――無数の刃が生える。まがまがしい姿を前に、カルロスの顔が引きつった。
「貴様」
「そのツラはなんだ、ええ? 王様よォ――――!!!!!」
「我 を 見 下 ろ す な ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 王の咆哮と共に――、無数の古竜たちが沸き立つ!!!
 果敢にヴィクティムに挑む彼らが砕け散る中、カルロスが再びその体に模倣を纏おうとするのを鋼糸が縛り上げた。
 ぎちぎちと軋む己の四肢に、カルロスが怒りをむき出しのまま叫ぶ。「新手か―――!!!」

「ああ、いえ、ずっと居ましたよ」
 暁無き世も乙だとは思える。
 しかし、――お勧めはできないのだ。ばらばらに砕け散る骨のカーテンから、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が姿を現した。
「骨ばかりですから、鋼糸を少々。お邪魔いたしますね、王」
「お前も人間か――我にお前が立てつくのか!!」
「おや、怪力でいらっしゃる」
 怒り任せに鋼糸を血を噴き出しながらも断ち切る姿はまさに獰猛。とはいえクロトはそれに怯えた様子がない。
 もとより、クロトはこの王に己で勝とうとおもっていないのである。
「消し飛ばす――――」体を低く撓めて、狂竜の姿をまとう。予備動作がクロトに見えれば、対処はたやすい。
 しかし、問題はやはりその速度なのだ。――クロトが突撃の一瞬のすきに、クン、と確かに鋼糸を操る。
「速度があって助かります」

 ど、う――――ッッッ!!!!!

 クロトが横転する。三回、四回、血をまき散らしながら転がっていった。が、――すぐに左手で立ち上がる。
 服の煤を払う暇はないが、目的の達成は確かに腕の感覚に合った。やはりやんわりとした笑みを浮かべて、風圧でずれた眼鏡を正す。
「ぅうううううおおおお゛ぉおお゛ぉお…………ッッッ!!」
 もだえ苦しむのは王のほうであった。
「貴様、この糸をいったい――」
 血まみれになったのはカルロスである。鱗の隙間から血を噴出させ、あっという間に血だまりをつくってしまっていた。
 これも今までの猟兵たちによる攻撃の結果であろう、幾分か柔くなったのをクロトが確認して、勝利の刻を確信する。
「怒りで思考を忘れていますね。言ったでしょう、ずっと居ましたと」
 やはり、所詮模倣なのだ。 
 血まみれの右腕と、左手でゆるく指を動かせば【拾式】が姿をあらわにする。王に降り注ぐ骨たちが証言するのは、おびただしい鋼の量だ。
「私ではあなたの致命には至らない。気に入らないおもてなしはできますが」
 ばらばら。
「しかし、誰もがオールラウンダーである必要は無い」
 がらがら―――――。
 ヴィクティムと己の刃が王を護ろうとする骨たちを砕いていく。
 腐った骨のにおいで鼻がやられそうになるのを、腕で鼻と口を隠しながらクロトが告げる。
 死んだはずの骨どもを殺すことなどもはや片腕で事足りるのだ。いくらでも湧き出ようが、――「彼」が「視る」時間を与えるにはこの一瞬で佳い。

「さあ、――どうか先へ」

 ずっと見ていた。
 ヴィクティムを押しこむその姿を。
 クロトに突進するその姿を――見た。
 どこも弱点には成り得ぬ。しかし、やはり――必ず頭を護っているように思えた。
 脳が欠損すればどんな人間も「正常に思考はできまい」。この手合いの一番恐れるべきポイントは、まぎれもなくその「賢さ」に違いないのだ。
 だから、鉛玉が向かうべき場所はたった一つである。
 骨どもに守られるその横顔めがけて、樹に凭れた匡と――殺気を感じたカルロスとの視線が交錯する。

「にんげ、―――」
「遅れなんか、取らない」

 【千篇万禍】。
 鋭い撃鉄の音と、血煙が舞う。
 ドラゴンの装甲を破った一撃が、――王の頭蓋を穿った。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

コノハ・ライゼ


あは、お久しぶりぃ?とでも言えばイイかしら
ケドそーゆーのナントカの威を借るって言うンでしょ、違うっけ?

とはいえ厄介なのには違いない
竜のオーラは避ける為でなく懐へ飛び込む為の道を見切って
踏み込み駆けながら敵意を呪詛に籠め纏い、白骨達を誘い込ンで(誘惑)その身で盾となってもらうわ
モチロンオーラ防御で自身をかばって可能な限り威力を削ぐのも忘れない
痛みナンてこの後のお楽しみを思えば無いも同然(激痛耐性)なのよ

カウンター狙い更に踏み込んで【焔宴】喚ぶ
ねぇ折角だもの
同じように持て成してあげる
叩きつける勢いのまま2回攻撃で傷口抉りしっかり料理といきマショ
その身を、鎧を、焼く焔から
生命力をいただくわねぇ


アムブネ・サレハ
異なる世界とは如何なものか
物見のつもりで覗けば忙しないこと
暫く戦にはとんと縁がなかった
久方ぶりだ、眠気覚ましにはよかろ

先制を避けられぬなら後の先狙いか
初撃を受け切るまで
王に負傷与えず守りに全力を注ぐ
オーラ及ぶ側、自らの前に結界を凝らせ厚く
面で捉えず衝撃は出来うる限り受け流して

時惜しみ喚ぶは死と再生の蛇アウサル
…疾く
冷えた鱗を身の内に引きずり寄せ
…疾く、巻き戻せ!
私と、猟兵達の欠けた血肉を
溢れる魔女の命数を幾らでも啜れ
速やかに反撃へ移るために

ただ生憎と錆び付いた腕だ
露払いへ専念し、首魁を討つ役は任せよう
腕はらえば波状に滅びの風
脆い骨共を塵に王への道を開く
なあに道筋を整えるは得意とするところよ
◎★


ガイ・アンカー


鎧だが…竜狩り、いや、反逆か?どっちでもいいか
ここが正念場ってのには変わりねえ…やってやるさ

先制は【嵐海の航海者】で予測、回避
白竜骨は鎖を絡ませ周りを巻き込むようにぶん回し
引き寄せ、攻撃の盾代りにして被害を最小限に抑えさせよう
攻撃が激しい上に周りには白竜骨
まるで嵐だな
だが、奴が思考するものであれば
予測できない嵐ではないはずだ
ならば、超えてやろうじゃねえか…この嵐を!!

狙うは攻撃をいなした時に起こる隙
白竜骨や攻撃を回避し、鎖と錨で逸らしながら
嵐の切れ間を探すように視る
見切れたら
流れに添わせるように鎖を奴に絡めさせ一瞬でも捕縛させてやる
そしてそこへと切り込むように
錨の重量攻撃を叩き込んでやろう!




 砕け散った頭蓋から――炎熱が燃え滾る。
「ァあ、あ゛」
 空けた穴を塞ぐように顔面を覆いつくす。体中を狂える竜の力で守るようにして、その強さをどうにかして保とうと必死なのだ。
 まだ潰えぬ、まだ滅ばぬ、まだここで終わるわけにはいかぬと―――――。

「あは、滑稽だねぇ」
 それを見て、最後の牙としてやってきたのはコノハ・ライゼ(空々・f03130)だ。
 飄々とした彼の声には、余裕はあれど緊張も忘れてはいない。
「虎の威を借る、だと思ってたけど――化けの皮が剝がれるのほうがお似合いヨ」
「ぐぅう、う、ぅうう――――…………」
 言語も放せぬほどのダメージであるらしい。かなり「調理しやすい」状態といえるだろう。
 しかし、手負いの時が一番獣というのは激しいものだ。ライゼの昂ぶりが余計に増すように、狂竜の姿を借りるカルロスもまた殺意を増していた。
「正念場にゃ代わりねぇ――なァッ!!」
 ガイ・アンカー(Weigh Anchor!・f26515)が己の錨を鎖とともに振り回す。ライゼに襲い掛かろうとする古骨は打ち砕き、また――無数を相手に立ち回っても疲れ一つ見せない。
「嵐みてェなやつだ、お前は」
 目視する限りで、もはやカルロスは虫の息といえるだろう。
 故に、この暴威は災害に等しい。海で生きる上、最も恐れるべきものだ。ガイの体に緊張が走るのも無理はない。
 しかし――臆するような彼でもないのだ。ずうん、と己の錨を砂浜に振り下ろした。突き刺したそれに片足を乗せて、吠える。
「さァ来いッッッ!!!超えてやるよ、――お前という嵐をよォッッッ!!!!」
 響き渡るガイの後ろで、アムブネ・サレハ(怠惰の魔女・f32144)がこの戦局を見た。
 苛烈の応酬、その果てである。異なる世界とは如何なものかと、物見のつもりでやってきたが戦に縁がなかった彼女からすれば、鮮烈なまでに派手で激しく忙しない。
 もとより怠惰を愛する彼女からすれば、雄々しく吠えるガイも戦いに昂るライゼのこともよく分からぬ――それはまだ己が寝ぼけているからだろうか、とひりつく戦場に愉悦の笑みを描いた。
「悪くはない」
 目覚ましにはちょうどよいだろう。
「とはいえ、――生憎と錆び付いた腕だ、私に出来ることは梅雨払いだろう。よいか?」
 人の言葉すら通ずることもなく、あとはただ其の身が亡ぶまで破壊を続けようとするカルロスの様相に、サレハはおそらく真正面からも戦うことは出来ぬ。
 全盛期ならばともかく、この目覚めたての躰では太刀打ちも難しい。だからこそ、仲間たちに問う必要があった。
 ――痛みを伴うだろうと。
 そのサレハの申し出に、ガイはひとつ瞬きをしてから、どんと胸をたたく。
「応ッ――なァに、海にゃどんなトラブルもつきものさ。何せ、常に波で揺れるんでな」
 かははと明るく笑ってやってから、構うものかと日に焼けた彼が「大丈夫だ」と頷く。
「お料理だって油がハネちゃうことだってあるしねェ――易いもんよ。ごちそうが食べれるなラ」
 舌なめずりをするライゼも、野性を捨ててはいない。強者の力が欲しい、血が欲しい、その在り方を食らいたい――がらんどうの狐は隠しきれぬ獣性を横顔に快く赦してくれた。
 ならば、応じぬ手はあるまい。

「来るぞ」

 サレハの耳が、ひくりと動く。

 ――突撃であった。
「ッオぉ、お――――――――――――――――!!!!?????」
 まず、狙われたのはガイである!
 ベルセルクドラゴン――とももう呼べばいいかわからぬ。確かな質量と速度でぶつかってきた狂える竜は、確かに狂ってしまっていた。
 精神が痛みを凌駕しているッッ!!大口を開けて、「がぁあ、あ、アア、ぁあああ――――――――!!!!」と吠える彼の顔にはもはや王の風情すら残っていない。
 しかし、徐々に徐々に――錨がきしみだし、ガタガタガタガタ―――とガイの両腕を震わせる!!
「なんッッッッて質量だ、この野郎――――ッッッ!!!好いぜ、来いよッッッ!!!とことん超えてやるからよォオオ゛オ゛オッ!!!!!!!」
 衝撃波を海ながら迎え撃ったその質量を、あえて押さずに引く。
 波と同じだ。押す必要があるときもあるし、引く必要もある。高波にはわざわざ乗らねば良いし、風の流れを読めばよい。
 今日は帆を張るかどうかを決めるのと同じことだ――相手が風をまとって突撃するというのなら、それを反らす!
 ぢりりりりりりりりッッッ――――と錨に傷が無数に走る!しかし、ガイは砕けないッッッ!!!!
 進行方向を反らされた竜が、どどうと砂浜を駆けて衝撃で海を割る。
「滅茶苦茶よな」
 サレハは、その肉薄を間近で見たが――一つも反応できないでいた。
 あまりにも早すぎる。苛烈すぎて、鮮烈で、死がまさに其処にある!!!
「だから狩り甲斐もあるってもんでショ!」
 次は、硬直したサレハにむけたものだ。狂えるオーラを纏うカルロスの顔はもはや正気ではない。
「ァ、ああ、あ、ォ」ぶつぶつと理性の鎖がちぎれる音がライゼにも聞こえて――サレハの前に躍り出る!
「お兄サン、おねがいッ!」
「――あいよ、面舵いっぱァアアアア――――――いッッッ!!!!」
 ぶうんと錨を振り回して場をかき回せば、骨たちは崩れて目くらましになった――というのに!
 正気を失った狂爪が眼前まで迫るスピードが速すぎる!!
 ライゼが己のオーラを纏い、誘い込んだ白骨を壁替わりにしてもその威力は衰えないのだ。それでもサレハに直撃させるわけにはいかぬ。両腕をクロスさせ体を守り、その攻撃を受ける―――ッッッ!!
「ぃ、ぎッ」思わず悲鳴が零れた。「っ、ひひひ、は、」そして笑いがあふれる。
「ははははははッッッ――――――!!!」
 サレハを背で守りながら吹き飛ばされる!二人の体に血が無数に走ったのを見て、ガイが目を見開いた。
「お前」
 予測できない嵐などない筈だ。
 ――必ず超える。
 全員無事で、荒波を超えるべきだッッッ!!!
「お前ェエエエエエエ―――――――――ーッッッッ!!!!!!!!!」
 さぁ行け、【嵐海の航海者】!
 先ほど攻撃は一度いなしてやった。体の損傷も特にみらない――問題ない!
 ガイがしっかり踏み込んで、砂を撒き上げる。潮のにおいで死の香りをかき消すのだ。ずううんと踏み込んだ力強い彼の背から、鎖を伴った錨が振り下ろされる!!
「―――ぎッ、ぅ」
 がっちりと鎖でガイが王の体を防いだ!燃えさかる体を離すものかと、熱の伝わる鉄で掌が灼けようとも――構わぬ!

 ――――疾く。
 冷えた鱗を身の内に引きずり寄せた心地がする。
 サレハが己の横顔にまとわりついた砂粒を感じていた。
 目の前ではガイが王を拘束する。しかし、拮抗状態だ。このままでは鎖が溶けるのが早かろう――。
 己の上で倒れこむのがライゼだ。サレハをかばってなお相手の強さに狂笑した彼も、ここで終わっては楽しくあるまい。
 もっともっと戦わせてやらねばと、掌を握る。漆黒の手袋で砂を掴んで、ぎりりと歯をかみしめた。
 ――――疾く、巻き戻せッッッ!
 魔女の命など、いくらでも啜れと願って――【守護の呪い】は、作用した。

「うう、ゥ―――?」
 喪われた理性の果てでも、感じる違和感はあるらしいカルロスである。
 場に満ちた血潮のにおいが引いた。まさか風向きが変わったというわけでもないのに、すっかり消え失せてしまったのだ。
 違和感を本能で感じた彼が動揺を顔に移すものだから、――狐は嗤う。
「あァッハハハ」
 手にしたのはフライパンだ。
「ねーェ、折角だもの」
 血のあかしひとつなく、ライゼが「美しい姿のまま」立っていた。
 まるで時間を逆行したかのような光景、その仕組みを理解していないのはカルロスのみである。
「きさま、―――」その視線は、サレハに向けられた。
 サレハの躰からあふれる呪いは、「再生」である。負傷した仲間たちをまるで「巻き戻した」かのような再現に、脳を欠損させた王は追い付かぬ!
 とん、とん、と己の肩でフライパンを持ち直しながら、ライゼが笑っていた。
 にたりにたりとしながら先ほどの痛みを思い出す。
「ざっぱり行かれてびっくりしたわぁ、ああでも、良い味だった」
 くるん、とフライパンを持ち直して――。

「同じようにもてなしてあげる。その頭、随分やわらかそうねェ――――ッッッ!!!」
 【焔宴】を脳天に叩き込むッッッッ!!!!!
 じゅわぁあああああああああ―――――ッッッと灼ける脳にはフランベが行われているのだ、縛られた体で叫ぶ竜の頭をより燃やしてやった。
「やかましいッての」ががん!と鋭く二回目の殴打!! いよいよ耐え切れず逃げ出そうとする王から堕ちた獣が、鎖を焼き切る!!

「頭が弱点、なるほどな」
 ――逃がすわけがあるまい。
 ぼうぼうと燃える彼の体に、ずずん―――――――としっかり錨が突き刺さった。炭同然の体が崩れ、声にならぬ悲鳴が炎に呑まれて消えていく。
「じゃあ、しっかり潰させてもらうぜ。――反逆? 竜狩り? いや」
 もう一度、と大きな錨を持ち上げて――。
     オマエ
「俺たちは嵐を超えた、それだけだ」

 ガイが、その頭蓋を錨で打ち壊す。
 砕け散った頭蓋とともに、炎ごと狂乱が消え去った――。
 風に連れられてきっと海に戻れぬだろう。火の粉が、炭すら燃やしてしまっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月16日


挿絵イラスト