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羅針盤戦争〜その毒は純情に似ていた

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●メロディア・グリード
 薔薇の花に飾り立てられたドレスの裾から増殖する肉体がこぼれ落ちる。
 同じ顔、同じ体、同じ声。
 いくつもいくつも溢れて、見る間に海を満たしていく。
 彼女たちの心の中で繰り返されるのは同じ思い。

 あの男を、死なせる訳にはいきません。

 そして皆して、言い訳めいた言葉を継ぐ。

 これは、あの男を想っての事では無い。
 だから、命を賭しても問題は無いのです……。

●グリモアベース
「七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの予兆は見たかな」
 書物の仮面(怪奇録・f22795)が尋ねる。
 そう、あの殖え続ける肉体を持った姫君だよ。

「とある海域が全てチョコレートやキャンディとなってね」
 それがおびただしい数の分身体へと変わるんだ。
 メロディア・グリードは甘い菓子で出来ているのだよ。
 どこぞの童謡みたいだね。

「戦争に勝つには、この何百体・何千体の分身体を一掃しなくてはいけない」
 数は多いがね。彼女らはとても脆い。
 なにしろ、チョコレートやキャンデイで出来ているから。
 しかし、その攻撃力は侮れないものがある。
 油断をしないようにね。

 菓子の甘い香りに誘われてはいけないよ。
「あれは毒入りの菓子だ」
 相手は当然、毒を使った攻撃を仕掛けてくるだろう。
 尚且。
 波しぶきや、潮風だって、もはや毒なのだ。
 その場にいるだけで、強力な効果を及ぼして。
 猟兵達は変調をきたし、さまざまな症状が出るだろう。

 たとえば。

 幸せなのに何故か泣きたくなるような不安に襲われたり。
 恥ずかしくてたまらないような、面映い心地になったり。
 胸を焦がすような、狂しい心の痛みにさいなまれたり。

 君はその時、訳もなく涙を流すかもしれないし。
 又は多幸感に笑みが止まらなくなるかもしれない。

 それはまるで、初めて恋した一途な乙女みたいにね。
 ――そんなことぐらいって思ったかい?
「情緒を乱すんだ。立派な毒だよ」

 それにしてもおかしな症状さ。
 秘めた心が溶け出してしまったのかもしれないね。
 溺れてしまわないように、気をつけて。


鍵森
 戦争シナリオです。
 チョコレートの海が舞台となります。

●毒
 敵が使用するユーベルコードに関わらず任意で毒に掛かります。
 まるで激しい恋をした時のような症状がでるでしょう。
 この毒の効果は当シナリオ特有のものとなります。

●プレイングボーナス
 一斉攻撃を受ける前に、可能な限り多くの「増殖する私の残滓達」を倒す。

●採用人数
 採用人数が少数になる場合がございます。
 早期シナリオ完結を優先させて頂きますことご了承ください。
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第1章 集団戦 『増殖する私の残滓『スイート・メロディア』』

POW   :    スイート・エンブレイス
【甘い香りと共に抱きしめること】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    キャンディ・ラプソディ
【肉体を切り離して作った毒入りキャンディ】を給仕している間、戦場にいる肉体を切り離して作った毒入りキャンディを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    チョコレート・ローズ
対象の攻撃を軽減する【融解体】に変身しつつ、【毒を帯びた薔薇の花型チョコレート】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

久遠寺・遥翔
アドリブ歓迎

イグニシオンに【騎乗】
さらに【結界術】でコックピットブロックを覆い毒の流入を防ぐ
【水上歩行】によるホバー移動で海域に【ダッシュ】で侵入
敵には近寄りすぎず一斉攻撃が始まる前に【先制攻撃】によるUCで
コックピット内で変身しつつキャバリアを介して戦場全ての残滓に焔を放つ
弱い焔だがチョコを溶かすには十分だ

解け残っている連中から左掌の火炎放射による【範囲攻撃】で【焼却】し、できるだけ数を減らすぜ

万全の防御を敷いていても多少は染み出てくる毒を【第六感】で知覚する
なるほど、気持ちはわかる
けれど悪いな、その毒はやっぱり俺には効かねえよ
なんでってこいつは恋の病って奴だろ?
そんなもんとっくにかかってる



 チョコレートの海上を白い機体が滑りこむように侵入する。
「ここだ、イグニシオン」
 久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)が言い。
 天使を思わせる美しい機体は、敵の攻撃が届かぬ上空へ飛翔し、炎めいた翼を広げるように空中で静止した。

 上空からメロディアの分身体が海を埋め尽くす光景をコクピット内から一望して。
「数は多いが、これなら……」
 遥翔の全身が漆黒と黄金の焔に覆われると、その姿はフレアライザー・ヘヴンへと変身する。
 敵軍を一望できる上空にいるからこそのアドバンテージ。
 敵がより密集する箇所を狙うことが、遥翔には可能だった。
 放たれるのは、黄金の焔。

「天より降り注げ、浄化の焔ッ! 天焔弾(コスモスフレア)ッ!!」

 遥翔からキャバリアを介して生み出された焔が花火のように弾けて空に輝く。
 放たれた焔が小さく散って、金色にきらめきながら降り注ぐ。火の雨と言うには、それはあまりに美しい。
 そしてその熱に触れれば、チョコレートやキャンディで出来た身体はひとたまりもない。
 遮蔽物もない海の上だ。メロディアにそれを躱すことは出来ないだろう。
 黄金に染まるような空を見上げたその表情に、命を賭した者の覚悟があっただろうか。
「弱い焔だがチョコを溶かすには十分だ」
 呟く声に確信がこもる。
 それでも彼女らを突き動かすものは余程に強いのだろう。
 抱擁のために両腕を広げるその姿は、なにかを守るために立ち塞がるようでもあった。
 その姿は小さな熱の前に、次々ともろく溶けて、崩れていく。
「……攻撃が来る前に、できるだけ数を減らさないとな」
 海域を埋めるほどの軍勢なのだ。焔の範囲が及ばず、逃れた敵も多い。
 遥翔は左掌に力を込めた。第二波を見舞わんと焔を集約する。

 ふっと。

 その時、海から立ち上った風になにかが混じって吹きつけた。
 オーラを展開させた防御は、塵一つ通さないはずだ。
 しかし万全の防御を敷いてなお分厚い装甲に染み入るように、忍び込んできた気配。

 毒だ。

 遥翔はその鋭い感覚で捉え、知覚する。
 緊張が走ったと同時。胸の中にカッと熱いものが込み上げた。
 途端に全身が熱に浮かされたように高揚し、胸の鼓動が早くなる。
 毒が全身を駆け巡るのが解った。けれど。
「ああ、そうか」
 遥翔は納得したように呟く。
 そして命を賭して立ちはだかった女の気持ちを理解した。
 これは確かに病のようなものなんだろう。
 だとしても。
「その毒はやっぱり俺には効かねえよ」
 もしかすると毒を使う本人すらも自覚していないかもしれない。
 メロディアに投げかけるように、つぶやく。
 こいつは、恋の病って奴だろ?

「そんなもんとっくにかかってる」

 ……今頃なにしてんだろうな。
 思いを馳せたその目元が本人も知らぬうちに優しく細められる。
 脳裏に浮かぶ面影が、こちらを振り向いたような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニィエン・バハムート
【先制攻撃】の【範囲攻撃】。
無限に増殖する爆鳴気炎と爆鳴気の爆発による【衝撃波】で敵を【蹂躙】。自分の身に襲いかかる衝撃と爆音などは【オーラ防御】で防ぐ。

ああ!ああっ!?何故涙が溢れて止まらないんですの!?
絶え間無く続く爆風と爆音、爆発の光のせい?いいえ、それはオーラで防いでいますわ!なら何故?この私が戦っている最中に悲しんでいるとでも!?ある意味念願とも言える敵と戦っているのに!?
…だからですの?ここに来て私は何か後悔を…いいえ、いいえ、いいえ!!!
これは後悔などではありませんわ!奴らを倒すほどに、真なる竜王の称号に近づくことを想う涙!
そうっ!これは歓喜の涙に決まっているんですのよ!!



 爆発が起こっていた。

 赤赤とした炎が巻き起こって、辺り一帯に爆風の衝撃が走る。
 敵を吹き飛ばす攻撃だ。
 チョコレートもキャンディも。
 溶かして崩して、跡形もなく消し飛ばしていく。
 無限に増殖する爆鳴気炎と爆鳴気が、メロディアの増殖スピードを上回る勢いで爆発を引き起こしている。
 全て上手くいっていた。それなのに。
「ああ! ああっ!?」
 堪らずニィエン・バハムート(竜王のドラゴニアン(自称)は、悲鳴のような声を上げる。
 動揺を抑えきれず取り乱し、泣き叫んでは頭を振り乱した。

 絶え間なく続く爆音も爆風も熱波を帯びた光も、オーラの力で防いでいるはずだ。
 敵が寄せ付ける隙も与えず、自分には傷一つもない。
 泣く理由なんてなに一つ無い筈だ。
 それなのに――。
「何故涙が溢れて止まらないんですの!?」
 まるで感情の制御ができない。
 熱い涙が込み上げては、勝手に流れ出していく。
 理由もないのに、激しい不安が襲うのだ。
 けれど、痛みのせいでも恐怖のせいでもないのだとニィエンは思う。

「……この私が戦っている最中に悲しんでいるとでも!?」

 目の前にいるのはある意味念願とも言える相手。
 竜王でもある姫君。
 彼女と戦うことは、ニィエンにとって特別な意味を持つ。
「……だからですの?」
 自分が涙を流す理由があるとするならば。
 それは、相手がメロディアだからなのだろうか。
 竜王と戦い倒す、それが叶う今になって。
 どうしてこんなにも揺さぶられるのか。
「ここに来て私は何か後悔を……いいえ、いいえ、いいえ!!!」
 ちらりと過ぎったかすかな疑念を振り払うように叫んだ。
 そんなはずがない。
 後悔。
 そんなことがあっていいはずがない。
 自分が目指すものの為に、ここまで来た事を。
 この戦いを、後悔する事は。
 絶対に、ない。
 だからこれは、この涙は。
「奴らを倒すほどに、真なる竜王の称号に近づくことを想う涙!」
 とめどない涙を流しながら吼えるように告げて。
 その身体から溢れるオーラが、一際強い輝きを放った。

 ニィエンの周りに電気がほとばしり、水がうねる。
 練り上げた魔術が熱量を増して膨れ上がり、大気にほとばしる。
 これは竜王の息吹だと、ニィエンが定めた魔術。

「そうっ! これは歓喜の涙に決まっているんですのよ!!」

 放たれた魔法が、天地を割るような轟音と共に爆発を起こし。
 チョコレートの海が砕けて、炎の熱気が迫りメロディア達の体は崩れて消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
★靴に風魔法を宿す事で海面、もといチョコレート面と反発させ
【水上歩行】を可能にして行動

★杖を回しながら
【高速詠唱】で紡ぐ氷魔法の【属性攻撃】の【範囲攻撃】で
命中したチョコ全部ガッチガチに固めちゃう

【聞き耳】で僅かな音も逃さず聞き取り
攻撃のために動いたメロディアさんに即反応
【ダンス】のように軽やかな動きと氷魔法で相殺、回避を

毒を受けたら不安に苛まれ、涙がほろりと
まるで恋人に置いて行かれるような
一人になるような
悲しい、寂しい
でも…慣れてるから

恋を知るまでは孤独だった
恋を知ってからも一方的だった
悲しみは何度も経験した
だから

自分の心には負けない
【指定UC】を使用し
全力での【氷魔法】でまとめて攻撃を



 靴に掛けた魔法によって、チョコレートに触れることなく栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は降り立った。
 変身し、豪華絢爛なドレスを纏ったその姿は、可憐な乙女のよう。
 それを自覚しているがゆえに顔を薄っすら赤く染めて、
「やっぱり、はっ恥ずかしい……早く終わらせなきゃ」
 澪はそう呟いた。
 だが、強大な敵と戦うには変身するしか無いのだ。
 戦いをなるべく早く一瞬で終わらせようと素早く魔法呪文を紡ぎながら、聖なる杖を振り空気を蹴って駆け出す。

「ここから先は、通さない」
 澪の耳に女の声が聞こえる。無数に重なった声は、メロディア達のもの。
 一斉に攻撃態勢に移るメロディアの群れが、目の前に立ちはだかる。
「させない!」
 先に魔法を放ったのは澪だ。
 完成した氷の魔法は広範囲に広がって、チョコレートやキャンディで出来た身体を凍らせる。
「さあ、ガッチガチに固めちゃうよ」
 息をつく間もなく、即座に次の呪文を紡ぐ。
 軍勢はまるで大波のように押し寄せ迫ってくるのだ。
 怯まずに、睨めつけて。
「僕は捕まらないよ」
 相手の一挙一動に注意をはらい僅かな音を聞き分け。
 メロディアの手が触れるスレスレのところを避け相手を翻弄し。
 注意をひきつけては氷の魔法による攻撃を続ける。
 途方も無い集中力を必要とする動作だが、澪は一瞬たりとも気を抜かない。
 舞い散る花びらをまとって、踊るように戦場を駆け巡った。

 ――やがて何百という軍勢を退ける頃には。
 澪の周りは、氷原のような景色となっていた。
 他に動くものもない、真っ白で冷たい世界に澪は立っている。
「あと、どれくらいで終わるかな……」
 氷原の向こうを見やれば、まだ戦いは続いているようだった。
 そちらへ行こうと、動いた瞬間。

 澪の足元から、一輪の薔薇の花が氷を割って伸び生えた。
 凍ったはずのメロディア達が放った執念の一撃。
「……くっ!」
 飛び退こうとした足に、薔薇の棘がかすめた。
 刹那。脳髄を揺さぶるようなチョコレートの甘い香りが身を包む。
 足元がゆれる様な錯覚を澪は感じた。
 強い不安。わけもなく込み上げてきたそれが、心をかき乱し。
「あ」
 こらえる間もなく涙がこぼれた。
 あとからあとから、勝手に溢れて止まらなくなる。
「これ、は……」
 恋人が去って、自分を置いていく。
 まるでそんな事が今起こっているような気さえした。
 毒のせいだと、自分でも解っているのに去来する夢想に現実が塗りつぶされていくようだ。

「……っ」
 誰かの名前を呼びそうになった唇が震える。
 知っている。澪はこの気持を経験したことがある。
 一人になってしまう瞬間の、胸が引き裂かれるような心の痛み。

 悲しい、寂しい。
 強い感情が渦巻くように膨れ上がり、どうしようもなく己を支配する。

「でも……、慣れてるから」
 泣き声にならないように、しゃくりあげそうになる喉を抑えて声にする。
 そのあまりにも悲痛な声を聞く者はいない。
 凍えた世界に一人だ。
 ぬれた頬を拭うのも後回しに、澪は頭を上げて前を向く。

 恋を知るまでは孤独だった。
 恋を知ってからも一方的だった。
 悲しみは何度も経験した。
 だから。

 だから……。
 乗り越えられない苦しみじゃない。
 そう、言い聞かせるように紡ぐ。
「自分の心には、負けない」
 強い意志の込められた声。

 どっ、と溢れるように辺りが揺れた。
 新たなメロディアの群れが澪へ襲いかかろうとしている。
 澪は唇をかみしめ、全身全霊の力で迎え撃つ。

 冷たい氷が、メロディアを飲み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可

愛とか恋とか……人と深く深く関わるのは……ああ、怖気がする
この身、この血にそんな事は許されないし望まない

この嫌な感覚を振り払うようにUC【赫の激憤】を発動。この毒に蝕まれている今は少しだけ、血の暴走に身を任せたい

闇を纏って海面を『ダッシュ』で移動
近距離は大鎌に変形させた黒剣を振るって『範囲攻撃』で纏めて刈り取り
遠距離には鎖を縦横無尽に伸ばしてこれも纏めて攻撃
武器の射程を活かして敵の射程30cm以内には近寄らせないように注意するが、近付かれた場合は『怪力』に任せて素手で殴り倒す
普段ならそんな事はしないが、少し余裕がない
多少のダメージは『激痛耐性』『継戦能力』に任せて戦い続ける



 息を詰める。それは僅かな抵抗だった。
 けれどチョコレートの海の只中で蔓延する甘い香りを防ぐ事は難しい。

 愛とか恋とか……人と深く深く関わるのは……。
 ああ、怖気がする。
 クロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)は嘆息する。
 この身、この血に、そんな事は許されないし望まない。

 十分に身に沁みて解っていることではないか。
 それなのに。
 毒の巡った脳髄が、妄言をささやくのだ。
 ひとりにしないで、と。
 正体のない空虚な想いだ。
 思考はまったく理屈が通っておらず、どろどろと理性を奪い去る。
 さびしくて、悲しくて、心の奥で小さな泣き声がしているような気がするのも錯覚だ。
「すべて、毒のせいでしょう」
 頭を振って、愚かな思いを追い出したかった。
 許されない。望んでなどいない。その言葉を繰り返す。言い聞かせるように、あるいは叱咤するように。

 闇を纏ったクロスは、まとわりつく甘ったるい気持ちを振り払うように駆け出した。
 チョコレートの海に広がるメロディア達の群れが大波のように迫ってくる。
 クロスは黒剣を眼前のものを刈り取る大鎌へと変えて迎え撃った。
 所詮は人の形をした菓子だ。根こそぎ纏めて薙ぎ払えば、なんと脆く崩れていくだろう。ぬめるような切り口からは、血の代わりに甘い香りが立ち昇る。
 得体のしれない高揚を戦いへの興奮とすり替えるように。
 クロスは大鎌を振るい続けた。遠くの敵へは鎖を飛ばし、誰も自分に近づけないように立ち回る。

 それでも、一人でも道連れにして海の中へ沈めてしまおうとしたのか。
 クロス目掛けてメロディアの一人が、体が砕けるのもいとわずに飛び込んできたのだ。決死の覚悟で抱擁する様に両腕を伸ばし、抱えて自分ごと海中へ飛び込もうとするような動きだった。
 自分を殺すためなのだと頭では解っていた。
 なのに。
 誰かが"自分を抱きしめようとしている"そう感じた瞬間。
 プツン、と何かが弾けた気がした。
「俺に、触るな……!」
 叫び、考えるよりも先に拳を突き出していた。ぐしゃり、と女の体が潰れて割れる。
 普段のクロスならばそんな事はしないだろう。毒にの影響に違いない。
 全身の血が熱く燃えているようだった。
 荒々しく乱暴に殴り倒し、拳を振るって叩きつける。
 血に蝕まれるままに力を解き放ったクロスは、その身を暴走するままに委ねた。
 今だけは、そうしていたい。
 闇に隠した己がどんな姿をしているかと考える余裕もない。

 毒によってもたらされた気持ちは、恐ろしくも甘美であたたかく。
 幸せなものであればあるほど。
 自分には一生必要ないものだと振り払わなくてはいけない。
 誰かを愛し、求めることを「――俺は、……許されない!」。
 思考外で叫んだ声をクロス自身ですら聞いてはいないだろう。
 まるで、傷ついた心が悲鳴を上げているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
この胸騒ぎは何ですか
忙しなく脈打ち続ける心臓の音
耳障りでしかありません

ああ、なんて気分が悪いのだろうか
恋とはこの世で一番忌み嫌うもの
わたしが理解をしたくないもの
だと言うのに、わたしが身をもって味わうだなんて
吐き気がする

甘いチョコレエトが、こんなにも忌々しい
全て振り切って払い除けてしまおうか

爪に、翼にと隠した鋭い刃を放とう
チョコレエトもキャンディーも必要ない
今はブラックコーヒーで口直しをしたい気分だ

いっとうに求め狂う心など必要ない
全てを壊してでも欲する感情が、大嫌いだ

身も心も歪み歪んで
収まりをみせるまで甘い香りを払い除けよう
一度たりとも味わいたくなどなかった
此度限りだ。二度目だなんて懲り懲りだよ



 そこは、まるでチョコレートの薔薇園。
 菓子で満たされた海原の一面に、咲き乱れたチョコレート・ローズ。
 それらは全てメロディアが生み出した毒の花だ。
 風が吹くとなめらかな波が花を揺らして、甘い芳香を漂わせる。
 融解体となった女達は、薔薇の根本で海の一部と混じり合い揺蕩うように待ち構えているのだ。
 海域への侵入者を、あの男を害そうとする者を、沈めるために。

 近づいただけで、甘い芳香がどっと押し寄せる。
 その場所へ百鳥・円(華回帰・f10932)は降り立つ。

 この胸騒ぎは何ですか。

 はじめは強烈な違和感から起こった。
 じわりと、その疑問がやがて確信に変わるに連れて。
 長いまつげに縁取られた双眸を見開いて、円は怒りに体を震わせた。

 己の意志に反して、心臓の鼓動は忙しなく脈打ち、異様な高揚が駆け巡る。
 とくとくとく。耳障りな心臓の音。
 煩わしくてたまらない、厭わしい、気持ちが悪い。
 考えるのもおぞましい事が自分の身に起こっている。

 恋。

 この世で一番忌み嫌うもの。
 わたしが理解をしたくないもの。
 一途に誰かを想い、求めてやまず、傍にいてほしいと願う。
 それを、よりにもよって、わたしが身をもって味わうだなんて。
「吐き気がする」
 口元に手をやった。
 この不快感を全て消し去りたい程の嫌悪。
「甘いチョコレエトが、こんなにも忌々しい」
 足元が揺れた。海に溶けていたメロディア達が姿を現したのだ。
 波が人の形をとって、何処までも深く溺れてしまえと迫る。
 四方八方から海の中へ引きずり落とそうとする腕が伸ばされた。

 ピシリ。
 空気に亀裂が走ったような音があった。
 パシリ。
 円の翼から、爪から、全身から空気の刃が放たれる。
 鋭い拒絶。
 来るな、触れるな、そばへ近寄るな。と。
 まるで心を具現化したように放たれる刃が、メロディア達を切り裂く。
 何度も何度も何度も。
 菓子でできた身体が割れて粉々になっても止まらない。
 いまの円には、誰も触れることは出来ないだろう。

「チョコレエトもキャンディーも必要ない」
 メロディアの身体を裂く度に血の代わりに吹き出す菓子の芳香。
 くらくらとするような濃密な匂いが舌先に触れてくる。
 唇を噛む。
 ブラックコーヒーで口直しをしたい気分だ。
 とびきり熱くて真っ黒で苦いものがいい。

 全て振り切って払い除けてしまおう。
 身も心も歪み歪んでいくのも構わずに見えない刃で切り裂き続ける。
 全ての薔薇の花が跡形もなく消えて、辺りに満ちる甘い香りが無くなるまで。

 わたしに。
 いっとうに求め狂う心など必要ない。
 全てを壊してでも欲する感情が、「大嫌いだ」。
 こぼした声は己の意志に反して切ない響きをしていて。
 まるで愛を謳ったようだ。
 濃密な毒を浴びた円の頬は赤く染まり、潤んだ瞳は揺れ、唇が震えた。
 全ては毒の所為。解ってはいても嫌悪が募る。

 一度たりとも味わいたくなどなかった。
 人を虜にする甘美な感傷。
「此度限りだ」
 断言をしよう。
 二度目だなんて懲り懲りだよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルデルク・イドルド
アドリブ歓迎
情緒を乱す毒…いまいちイメージが湧かないな。自分がそう言うのに縁がないってのもあるかもしれないが…。

(自分の船で海域に近づくと甘い匂いに胸が掻きむしられような気分に)
ーーっ
はぁ、ちゃんとした恋心ってのはやっかいなんだな。
あいつへの思いは間違いなく恋で愛で
だからー幸せすぎて涙が出る。
(ポロポロと涙を流しながらUCを発動)
UC【海賊の舞台】
チョコレートを再び海上に書き換える。

匂いを遮断しょうと【結界術】と【オーラ防御】展開。
涙を拭いながら【属性攻撃】海で引き続き攻撃

あいつもいつか恋や愛を理解する時がくるんだろうか…



 情緒を乱す毒。
 そうは聞いていてもイメージは湧かなかった。
 自分はそういったものに縁がないからだろう。
 センチメンタルな感傷は、海賊には似合わない。

 モナ・リザ号が行く先はチョコレートの海域だ。この世界で幾つも奇妙な海を見てきたアルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)だが、中でもこの海は異様な光景だった。
「あれは……チョコレートの薔薇か?」
 なめらかに揺蕩うチョコレートの海に無数の花が咲いている。
 メロディアのユーベルコードによって生まれた毒の薔薇は、花びらを開いて甘くとろけるような芳香を漂わせていた。
 あそこに、分身体であるメロディア達も潜んでいるはずだ。
「ただの菓子の海ならあいつも喜んだかもしれないがな」
 甲板に立って海の様子を眺め、アルデルクは肩をすくめた。

 不意に吹き抜ける風の中に甘い香りが漂う。
 船上に居たアルデルクにもその匂いは届いた。
 瞬間。
「――っ」
 はらりと一筋の涙が頬を伝い落ちていた。
 アルデルクはその事に気がつくと、驚いた様子で瞳をまたたく。
 胸を掻き毟られるようなこの気分はどうしたことだ。
 あたたかい涙があとからあとから零れ落ちる。
 声が聞きたい。
 顔が見たい。
 触れたい。
 今すぐ……会いたい。
 沸き起こる願いは、擽ったるような感情は、ただ一人へと向いていて。

「……ははっ」
 涙を流しながら、アルデルクは笑った。
 縁がないと思っていたのに。
 胸を押さえて握りしめた掌の中に、硬いネックレスの感触がある。
 咄嗟に掴んでいたらしい。
「ちゃんとした恋心ってのはやっかいなんだな」
 ため息交じりに呟く声は、優しい響きをしていた。

 あいつを思う度に溢れ出るこの気持は、間違いなく愛で、恋だ。
 この気持はどうしようもなく幸せで、だから涙が止まらないんだろう。
 無邪気な笑顔がちらついて離れない。
 あいつもいつか恋や愛を理解する時がくるんだろうか……。
「……」
 その相手が自分であれば良い、と激しい想いが頭の隅をよぎる。
「なんてな……」
 この身勝手な独占欲は、毒の所為に違いない。

 海上に振動が走り、船が大きく揺れた。
 接近する船を狙ったのだろう。薔薇の中から姿を現したメロディアの軍勢が、融解体となって海と同化し大波のようにモナ・リザ号へと迫ろうとしている。

「じゃあな、メロディア。ここは俺達の舞台だ――あんたには退場してもらうぜ」

 アルデルクは掌をかざした。指輪が煌めき、その光が海へと降り注ぐ。
 同時に自身を包むように展開された結界とオーラが毒からアルデルクを守った。
 深海石の光は戦場を青い海へと変え。薔薇の花も海と同化していたメロディアも飲み込み塗り替えていく。

 やがて毒は抜けてこの気持も収まるのだろう。
 頬を伝う涙をアルデルクは思い出したように袖で拭った。
 赤くなった目元を見られたら、泣いた事がバレてしまうだろうか。
 気づかれたとしても問題はない。
 なんでもないと、笑って答えられるはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シノギ・リンダリンダリンダ
なんだか変な海域ですが…まぁお前が変なんですし問題はないですよね

どんな毒も、己に眠る数多の呪詛が、狂気が、毒そのものが打ち消してくれる
こちとら、数多のお宝のおかげで呪詛毒がドールのガワを被って生きているようなものです

ですが、この高揚感はなんでしょう
きっと桜花。お前へのサプライズプレゼントが楽しみでならないからでしょう

【一大海嘯】を解放
90体以上の王笏を召喚する。様々な形態の王笏を
残滓といえど、戦闘力はある。こちらも同じ
各々の武器で、戦法で、邪神で、戦い方で、桜花を蹂躙します
相手の攻撃とかも王笏ガードで防ぎましょう

あぁ桜花。嬉しいですか?お前の男の手で落ちる、今の心境は?
ねぇ、どんな気持ちです?



「なんだか変な海域ですが……」
 青い海を甘いチョコレートへと変貌させるとは。
「まぁお前が変なんですし問題はないですよね」
 シノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)は、甘い菓子のメロディアを指して、挑発的な視線を投げかけた。

 チョコレートやキャンディ、それも毒まみれの菓子だなんて。
 悪趣味もいいとこですね。なんて。
 人のことは言えないかもしれません。
 海上に生やされたチョコレート・ローズを毟り、シノギはそれを握りつぶした。
 一層強い毒入りの芳香が匂い立つ。
「効かないですよ、こんな毒」
 私の方が余程、猛毒なのだからと、軽い足取りで歩きながらのたまう。
 シノギの身体に満ちる呪詛が、狂気が、毒が、どんな毒も打ち消している。
 数多の宝を集める内に染み付いたそれらは身体と同化していて。
 もはや毒がドールのガワを被っているような状態なのだという。

 けれどその時、シノギの胸には言いようのない高揚感が起こった。
 不思議そうに一度瞳をまたたいて、すぐに肩をすくめる。
 きっと桜花。お前へのサプライズプレゼントが楽しみでならないからでしょう。

「さあ」
 プレゼントですよ、桜花。
 海上を埋め尽くすようなメロディアの軍勢に向かって、シノギは両腕を広げた。
 ユーベルコードが発動される。
 空間を割るようにして召喚されるのは王笏カルロス・グリード。その残滓。
 一体ではない、およそ90体はあるだろうか。
 もはや自分の意志などなく、操られるがままに力を振るう兵士達だ。
 なんとも哀れで、滑稽な姿だと思いませんか。
「手伝ってくれるのですよね、お前たち?」
 シノギの言葉に反応して、王笏はガクンと揺れるような頷きをする。できの悪い人形遊びのような光景。

「きさま」と、女達が呆然と言う。
 何百という視線が、王笏を見つめている。
「あぁ桜花。嬉しいですか?」
 くすくすと、いたずらが成功したような子供のようにシノギは笑った。
 突き出した親指を、下へ向けて指し。
「お前の男の手で落ちる、今の心境は?」
「貴様ああああぁあああああああああッッッ!!!!」
 起こるのは、絶叫。
 シノギ目掛けて一斉に向かってくるその一軍はまるで大波のようだった。
 押し迫るメロディアを、王笏が迎え撃つ。
 圧倒的な勝負だ。王笏の力の前に脆い身体は粉々に砕けて溶けていくのみ。

「ねぇ、どんな気持ちです?」

 守るべきものに蹂躙されるその心に浮かぶのは。
 はたして怒りか、絶望か。
 あるいは、思いも寄らない感情があっただろうか。

 尋ねる声に、答えはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェフィーネス・ダイアクロイト
(私も毒を使い分ける身だが情緒を乱す毒だと?
…下らん
だが棄てた過去や柵が今も尚、私を蝕む事実は消えやしない
此れでは
何の為に海賊になったのか解らない)

温い自分に吐き気
狂い始めた歯車は、再び榛色を菫青(め)に宿してから

実に下らぬ
甘美であればある程、此の毒はよく回るようだ

チョコの海に自分の船浮かべて乗る
UC使用
レインコートや傘など防壁になる物を創造
無性に張り裂けそうな狂おしい激情に苛まれ
苦しげに胸押さえ
船を自動操縦に変更
二丁拳銃で正確に制圧射撃・蹂躙
船の大砲で大量の敵を一掃

全て毒の所為
零した涙も
行き場の無い想いも
熱も
まやかし

Shit,screw you!

金は私を裏切らない
忘れたい

自身すら偽り覆い隠す



 その時、空は晴れていた。

 海に浮かべた船の上、シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)はチョコレートと化した海原を冷たく見つめた。
 あれがすべて毒菓子なのだという。
 取り込めばただちに情緒を乱すのだという。
「……下らん」
 毒を使い分ける者として、シェフィーネスは様々な効能を熟知している。
 その上で吐き捨てた。
 胸のなかに、暗澹と広がる感情がある。
 置き去りにした過去や柵が、今も尚彼を蝕むのだ。
 その事実が否応もなくつきまとって離れない。

 此れでは。
 何の為に海賊になったのか解らない。
 他者を必要とせず、一人で生きられる強さを選んだ。
 この毒はそんな自分の対極にある。
「私には必要のない感情だ」
 誰を求めるような毒など。吐き気がする。
 温い自分が忌々しい。

 毒が海の姿をしているなら、身を守るものは雨具が良いだろう。
 暫し、瞼を伏せて想像を馳せ、【空想の現】を用いれば、なにもない場所から開いた傘が次々と現れる。
 屋根のように壁のように、シェフィーネスを覆う色とりどりの傘はまるで大輪の花のよう。袖を通したレインコートは、鎧代わりになるだろう。

 まるで嵐の中へ乗り込むようだ。
 船はひとりでに動き出し、シェフィーネスを乗せて滑り出す。
 チョコレートの海域にひとたび飛び込めば、濃密な香りが吹き付けた。
「――ッ」
 狂い始めた歯車が、きしんだ音を立てて動きだすように。
 それはジリジリと廻り始めた。
 眼前に広がる榛色を菫青(め)に宿して、シェフィーネスの表情が微かに歪む。
 恐ろしく狂おしい激情が渦巻いて。
 たまらず胸を押さえ、苦しげに息を吐いた。
「実に下らぬ」
 強かな呟きは、妖しい熱を帯びている。

 海面が盛り上がり、あふれるように何百というメロディアの軍勢が現れた。一艘の船を沈めてしまえと押し迫るその姿はまるで大波のようだ。
 シェフィーネスは両手に構えた拳銃でそれを迎え撃つ。
「消えろ」
 抱擁するように両手を広げる女達へ弾丸を撃ち込む。
 硝子よりも脆いその身体は銃撃を受け粉々に打ち砕かれて、散っていく。
 手を休めずにただ引き金を引き続ける。
 なにかを振り切るように戦うその姿は鬼気迫るものがあった。

 もろく女達の体から飛沫が飛び散って。
 返り血すらチョコレートなのかと悪態を吐く。
 身体が割れて溢れる毒はますます強くなるのだろう。
 毒は、甘美であればあるほどよく巡るらしい。
 甘い菓子の香りで溺れ死にそうな程にあたりへ満ちていく。

 シェフィーネスは、大きく息を詰めた。
 毒を飲み込むまいとしたのだが、まるで泣き出すまいとするような仕草になる。
 自分が惨めで弱々しい姿をしている気がする。
 大雨に濡れて一人彷徨うような錯覚が心をますます惑わせて。
 頬を、あたたかい雫が伝い落ちる。
「……Shit,screw you!」
 罵りと共に船から大砲の砲撃が始まる。
 大きな爆発が起こり、メロディア達の群れはやがて一掃されるだろう。

 金は私を裏切らない。唱えるように繰り返した。
 血を吐くような声で、なにかを求めようとする心を律する。
 全て毒の所為だ。
 両目から溢れる涙も、行き場のない想いも。
 この熱もすべて。
 まやかしに過ぎない。

 翻弄される惨めな姿を、誰にも晒すことは出来ない。
 覆い尽くして、誰の目にも触れぬように。

 晴天に差した傘の中、シェフィーネスは肩を震わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

音海・心結
💎🌈
※アレンジ歓迎

ふぅん
恋に似た感情ですか
しかも、激しいらしいですよ
みゆは恋をしたことがないので、よく分かりませんが

……すごく甘くて美味しそうな香り
思わず食べたくなりますね
ねぇ、零時
どうせ毒を受けるなら、一緒に食べてみませんか?

(ぱくり)

体が焦がれるように熱い
零時が傍に居ると思えば、それだけで
み、見ないでくださいっ
恥ずかしさのあまり強がって
でも、離れれば寂しくて不安で

……どうすればいいの?
心の中で問うても答えは返ってこない

苦しくて
自分が自分じゃないみたいで
これが、恋……?

彼に触れられれば
心が、体が
蕩けてしまいそう
少しだけそうしていてください
流れる涙は嬉し涙
幸福感に包まれ、情緒が安定してくる


兎乃・零時
💎🌈
※アレンジ歓迎

恋の毒かぁ
前も似た毒を別の戦争で浴びたけど…激しい恋?
どんなのだろ

お腹が思わず減っちまうよな
良いぜ!心結が食べんなら俺様も食べるさ!
毒にそう何度も敗けるもんか!
(パクリ

(敗けた

何故だかやけに恥ずかしい
心結見てるだけでドキドキして全部熱い
…見ちゃ、駄目か?
それはとても寂しい

てか前よりドキドキしすぎて痛いんだけど…
激しい恋ってこんななるの!?

と、ともかく今はこの姿を敵に見せるつもりは無いもん!
UC!
心結をぎゅっとして
……少しだけで良いの?
…いや違うそうじゃねぇ
纏まらない思考のまま
こっそり「紙兎パル」に別働体として援護射撃してもらう

…ん?あれ、俺…毒《恋》を楽しんでるのか……?



「ふぅん」
 音海・心結(瞳に移るは・f04636)は不思議そうな表情で首を傾げた。
 隣に居る兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)も、前にも似た毒を浴びた時の事を思い浮かべる。
「恋の毒かぁ」
「しかも、激しいらしいですよ」
「へえ……激しい恋? どんなのだろ」
「さあ。みゆは恋をしたことがないので、よく分かりませんが」
 どんなものなんでしょうね。心結は微かな好奇心を浮かべて瞳を瞬いた。

 チョコレートの海と化した場所は、不安定ながらも人が上に立てるほどの固さを持っていて、二人は足元に気をつけながら先へと進むと、チョコレートの薔薇が咲く場所へ足を踏み入れていた。メロディアがユーベルコードで生み出した毒の薔薇だ。
 まるで職人が丁寧に作り出したかのようなチョコ細工の花々は美しく、そしてどれも美味しそうに見える。
 心結は吸い寄せられるように一輪の薔薇を見つめた。
「……すごく甘くて美味しそうな香り」
「お腹が思わず減っちまうよな」
 零時は同意するように頷く。
 その言い方が可笑しくて、心結は思わず笑ってしまった。
 不意に浮かんだ好奇心はどんどん膨らんでくる。
 そのまま微笑んだ顔を向けて、
「ねぇ、零時」
 心結は内緒のいたずらをするように無邪気な声で言った。
「どうせ毒を受けるなら、一緒に食べてみませんか?」
「え?」
 驚くような提案に零時は、ぱちくりと瞬く。
 確かにいずれは毒の影響を受けると聞いてはいるが、だからといって自分から毒を食らうのは躊躇われる。
 しかし返事を待たずに、心結は薔薇から花びらを一枚抜き取った。平べったいチョコレート菓子はなめらかな光沢を持ち、誘惑的な甘い香りを放つ。
 おいしそうだ。
「良いぜ! 心結が食べんなら俺様も食べるさ!」
 零時は手を差し出し、心結から半分に割った花びらのチョコレートを受け取り。
「毒にそう何度も敗けるもんか!」
 自信たっぷりに言った。
 二人は向かい合ったまま、同時にチョコレートを口に入れた。
 そして。
 敗けた。と零時は思った。

「あっ……」心結は思わず小さな声を上げた。
 口の中で溶けたチョコレートが飲み込まれると、全身をなにかが駆け巡り。
 体が焦がれるように熱くなる。
 目の前にいる零時の顔は赤くなっていて。さっきまで、平気だったのに。その瞳で見つめられているのだと感じた途端に恥ずかしくたまらなくなった。
「み、見ないでくださいっ」
 たまらずに後退った心結の言葉に、零時は自分でも驚くほど悲しくなる。
「えっ……見ちゃ、駄目か?」
 それはとても寂しい。
 離れないで、もっと近くで心結を見つめていたい。
 それだけで胸のドキドキはずっと高鳴って。
 全部、熱い。
「てか前よりドキドキしすぎて痛いんだけど……激しい恋ってこんななるの!?」
 初めてのことに二人はただ翻弄されるままに狼狽える。

 苦しくて。
 自分が自分じゃないみたいで。
 どうすればいいの? 心結は心のなかで何度も自分に問う。
 目が合うだけで恥ずかしいのに、離れれば不安で、寂しくて。
「零時」
 そばにいて。そう言いたいのに言葉を紡げない。
 素直になるのが怖くて、つい後ろを向いてしまう。

 けれど同じ毒を飲んだから、零時は心結の気持ちが解った。
 寂しげな後ろ姿は、とても切なくて。
 可愛い、と思わずにいられない。
「と、ともかく今はこの姿を敵に見せるつもりは無いもん!」
 零時は心結を引き寄せるように後ろから抱きしめた。
 ユーベルコードによって、二人の姿は透明になる。
 誰の目にも触れさせない。ぎゅっと抱きしめる腕が、そう訴える。

 熱い。
 心が、体が蕩けてしまいそう。
 背中越しに感じるぬくもりと力強さに、心結はやがてそっと体を預けた。
「少しだけ……そうしていてください」
 回された腕にそっと手を添えて、小さな声で呟く。

「……少しだけで良いの?」
 掠れた声で零時が囁く。
 腕の中で心結の体が揺れるのがわかった。
 答えはなくて、でも、嫌がる様子もなくて。
 ……いや違うそうじゃねぇ。と心の中で零時は慌てた。思考がうまく纏まらず、思いもよらぬ行動をとってしまう。
 けれど、どこかでその駆け引きを望んでいる。
 ……ん? あれ、俺…毒《恋》を楽しんでるのか……?
 その疑問に今はまだ答えはなく。

 不意にドォッ、と海が揺れた。
 メロディア達の一群が、海の中から浮かび上がるように姿を現した。
 融解体となったその姿は、波のようになって海上のものを飲み込もうとしている。
 しかし行く手に待ち構えていたのは、宙を舞う白桜の花弁。それは空中で白いリボンに変わり、メロディア達に巻き付いてはその脆い体を締め砕く。
 その攻撃を助けるように、そっと影から式神である紙兎パルが飛び回り援護している。

 透明になった二人は抱き合ったまま攻撃を続けた。
 いつのまにか心結の頬を涙が伝い落ちていた。
 幸福感に包まれ、心は次第に安らいで、嬉し涙があふれて止まらない。



 やがて、海は元の姿を取り戻すだろう。
 驚異が退けられたあとの海は、とても穏やかなものに違いない。

 毒の影響は長く続くようなものではないはずだけれど。
 夢から覚めた直後のような、淡い余韻があるかもしれない。
 口の中に残る甘さは、純情にも似た味なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月20日


挿絵イラスト