●背水の舵輪島
『まさか猟兵達の進行がこうも速いとはな。この舵輪島へ辿り着くのも、もはや時間の問題であるか』
ネルソンは意を決した表情の中、グラスに注いだコニャックを飲み干すと提督服を羽織りながら島の軍令室から外へ出た。舵輪島には子飼いの天使達が放し飼いにされており、珍しくも外に出た彼の姿を見つけると興味深そうに木々や建物の上から見下ろしている。
彼はそんな天使達を意に介さず、手にした愛用のライフルを片手に舵輪島の港へと着く。そして振り向けば、島中の天使たちが彼を見下ろしている。彼女らの視線を一身に浴びながら、天使達に号を下した。
『聞け、天使共。俺はお前達の奇跡には期待していない。だが、お前達は粒ぞろいだ。誇り高き天使の軍団だ』
おおよそ普段の彼ならば口に出さない言葉を聞いた天使達がざわめき立つが、提督の演説は続く。
『聞け、天使共。お前達の最大の武器は、その翼と魔法による推進力だ。見敵必殺のサーチ&デストロイ。それが全てだ。聞け、天使共よ。これより俺は今までの戦術を捨て、「最大戦力による最大火力」で、猟兵達を撃破しよう。お前達全てをこの俺の肉体に融合させる「決戦形態(トラファルガー・モード)」となり、俺は最強のオブリビオンとなって、この舵輪島へ侵攻する猟兵を迎え撃とう。さあ、天使共よ。俺の身体に集い、敵を撃滅するのだ!』
●グリモアベースにて
「七大海嘯の拠点の一つである舵輪島が発見されましたが、その主である七大海嘯『舵輪』ネルソンは既に島での迎撃体制を整えました。彼は島で決戦を挑む考えのようです」
シグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)は、これがネルソンとの決戦になると告げると、猟兵達に張り詰めた空気が流れた。
「背水の陣となったネルソンは、己の身体に天使軍団全てを自身の肉体に融合させた『決戦形態(トラファルガー・モード)』を発動させました。これにより己の身を艦、または軍と化させ、『死ぬまで痛みを感じず、あらゆる状態異常を無影響化』する力を得たのです」
あらゆる痛覚が働かないどころか、毒、麻痺、睡眠、混乱、石化等の搦め手は食らいはするものの、身体に宿す天使の加護により決め手となる効力は得られなくなったも同然である。痛みを感じぬ故に捨て身で先制攻撃を仕掛ける相手の攻撃をどう制するか、その後も攻撃の手を緩めない相手へ如何にして決定的な一撃を与えられるか、それが重要になるとシグルドは解説する。
「これにまでにない難敵となるでしょう。ですが、あなた達は数多くの戦いをくぐり抜けてきました。きっとあなた達であれば、この強敵を倒せる筈です」
そう言い終えると、シグルドは念じてフォースよりゲートを作り出した。
「では、これより皆様を舵輪島へとお送りします。ご武運をお祈りしています」
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
敗戦濃厚の戦況でも最後まで徹底抗戦を辞さない将の姿は、古今東西問わずに人々を魅了するものだと思う次第です。
そのような強敵が相手となりますが、今回もよろしくお願いします。
●シナリオ概要
今回のシナリオ難易度は「やや難」となります。
そして、プレイングボーナスは、敵の先制攻撃UCと「決戦形態(トラファルガー・モード)」に対抗する、です。
先制UCへの対処と決戦形態(トラファルガー・モード)による死ぬまで痛みを感じずに状態異常を無影響化する状態への対処を同時達成してからプレイングボーナスが成立しますので、その点をご注意下さい。
●戦場の情報
『舵輪島』にてネルソン提督と決戦します。
ネルソン提督はこれまでの戦術を捨て、「最大戦力による最大火力」で、猟兵達を撃破しようとします。ネルソンは天使の軍団全てを自身の肉体に融合させた「決戦形態(トラファルガー・モード)」となり、自身が最強のオブリビオンとなって攻撃を仕掛けてきます。
この状態のネルソン提督は『死ぬまで』痛みを感じず、あらゆる状態異常を無影響化します。
またこの戦いに勝利すると、七大海嘯支配下の島が解放されます。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』
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POW : 天使の銃
自身の【肉体に吸収融合した天使の軍勢】を【敵に応じた『天使武装』】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD : 聖守護天使
【手から現れる天使達】で攻撃する。[手から現れる天使達]に施された【瞳を覆う聖なる帯】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ : 天使槍兵団
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【舵輪の脚から現れた天使達が放つ光の槍】で包囲攻撃する。
イラスト:シャル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
久遠寺・遥翔
アドリブ歓迎
敵ながら天晴な奴だな
あんたみたいな奴は真っ向から乗り越えたくなった
天使武装による先制攻撃
これまでの【戦闘知識】と【第六感】を総動員してその長所短所を【見切り】
【残像】と【オーラ防御】を駆使して回避、最低でも直撃は避ける
UCでこちらも戦闘力を強化し高速飛行を可能にする
島上なら【空中戦】も可能なはず、真っ向から勝負だ!
真っ向勝負っていうのは取れる手をすべて使うってことだ
奴が痛みを感じないって言うなら焔の太刀で斬った箇所から【生命力吸収】の魔焔で内側を【焼却】する
気づかないうちに敵の限界を早めつつ俺の活力に変えさせて貰うぜ
我慢比べと行こう
最後は全力加速から貫いてさよならだ
あんたは強かった
舵輪島の港へ一陣の風が吹くと、波の音とともに木々がざわめき立つ。
この島に住んでいた全ての天使との融合を遂げた七大海嘯『舵輪』ネルソンは、この島への来訪者であり侵入者である猟兵の気配を察知した。
『…来たか、猟兵』
彼の前に現れたのは、異界の黒焔で編まれた鎧を纏う焔黒騎士フレアライザー、久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)であった。
「逃げも隠れも待ち伏せもしていないとは、敵ながら天晴な奴だな。あんたみたいな奴は真っ向から乗り越えたくなった」
遥翔が指摘するように、ネルソンは見晴らしの良い港の中央に佇んでいた。彼から放たれた思いがけない言葉にネルソンは笑った。だが顔は無機質そのもので、まるで表情を変えない人形が笑っているようにも思えてしまう。
『失敬。そう言われると光栄の限りである。では決戦形態(トラファルガー・モード)を今ここに成就し、その望みに応えよう。私の血肉となり宿りし天使共よ…天使武装を展開せよ』
ネルソンが宣言すると彼の周囲から白いモヤのような物が浮かび上がる。それは次第に鳥のような姿を型取り、鳥頭の鳥人めいたものが彼の前に降り立つと、その丸太のように太い脚が石造りの床を踏みしめて跳んだ。
──速い!?
遥翔の脳内に今まで培った戦闘経験と第六感が警鐘をけたましく鳴らせた。まるで軍鶏のような頭が冷酷な眼差しでこちらを一点と捕らえて、まるで猛獣のような鉤爪を伸ばした足先が彼の頭部を掠めた。なるほど、こちらに合わせた天使武装という訳か。一体この中に何体ものの天使を練り込めているのやら…そして、これをどうにかしないとあのスカした顔を殴りもできない。
「なら…天焔解放(オーバーフロウ)――フレアライザー・ヘヴンッ!」
鎧の隙間から編まれた黒焔と黄金の焔が噴き出し、焔黒剣に宿した焔が遥翔の体内に流れ込んでくる。体表の焔が鳥人を飲み込むと、それは焔に呑まれて消滅した。
──イケる。
確かな手応えを感じた遥翔が地面を滑るように飛翔して、手に焔の太刀を形成させる。真っ向勝負、ネルソンは不動のまま遥翔を睨んでいる。まるでやれるものならやってみろと言わんばかりにだ。
「望み通りに、斬って燃やしてやる!」
すれ違い様の一閃。斬った。手応えはあった。相手は幻の類ではなく、実体を持つものだ。そして、今頃は魔焔が内側から焼却しているはず。そう思えたが……彼、ネルソンは健在であった。訂正すれば、確かに斬った。しかし、その傷跡は衣服のみに痕跡を残して傷口は再生している。焔で燃えている形跡も見当たらない。
『…犠牲は一匹。傷の再生ならまだしても、焔の鎮火に命を尽きさせたか』
一体、あの人間の体にどれ程の天使…命を取り込んだのか。だが、彼は『犠牲は一匹』と確かに言った。死ぬまで痛みを感じず、あらゆる状態異常を無影響化する決戦形態……遥翔はその正体を攻略の糸口を憶測の領域ではあるが掴んだのであった。
成功
🔵🔵🔴
カタリナ・エスペランサ
決戦? 底が知れたと言うべきね
不退転を気取るなら好都合…全く、それにしても頭の中で喧しい
《属性攻撃+天候操作+弾幕》で嵐を起こし雷を降り注がせ物理的に《蹂躙・体勢を崩す》事で動きを阻害
《第六感+戦闘知識》で攻撃を《見切り》先読みして《空中戦》で回避するわ
さて――【失楽の呪姫】発動
天使、その姿への難癖で猛る魔神にも出番をくれてやるとしましょう
嗚呼、異教の者ども。我らの似姿を備えし贋作ども
その姿を我以外が従えるは赦さぬ
その姿が我以外に傅くは赦さぬ
墜ちよ。等しく塵芥と消えよ
《属性攻撃+範囲攻撃+蹂躙+略奪+エネルギー充填》
劫火の嵐にて贋作を喰らい
《属性攻撃+全力魔法+串刺し》
黒雷を槍と成し屠り尽くす
「決戦? 底が知れたと言うべきね」
戦場内にカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)の言葉が遮ると同時に、周囲には暗雲が立ち込める。嵐の到来が近い。今まで穏やかだった湾内は白波が立って、立っていられるのもやっとな強風になりつつある。
『スコールか? …いや違う。貴様の力によって天候が変えられたのか。だが、何も問題はない。我々にはな』
次第に激しい雨粒が両者を叩きつけあって視界不純の中、何かが動いた気がした。ネルソンの掌を通じて内部に宿る天使達が姿を見せ、風にはためかせながら目を覆う目隠しの布を外すと、行けという指示の下で彼女らは嵐の中で飛び立った。こんな嵐でも飛び立つものかとカタリナは内心疑問を抱きはしたものの、嵐により伺えない天使の素顔は彼女を確かに捉えていた。だが、天使の追撃の軌道を推察して先読みし、彼女はネルソンへと迫った。
「天使、その姿への難癖で猛る魔神にも出番をくれてやるとしましょう」
──嗚呼、異教の者ども。我らの似姿を備えし贋作ども。
その姿を我以外が従えるは赦さぬ。
その姿が我以外に傅くは赦さぬ。
墜ちよ。等しく塵芥と消えよ。
ある魔神の化身として後天的に“感染”した有翼の人狼…カタリナの体に宿る主神に叛き追放された魔神の魂が、劫火の嵐にて贋作を喰らいし黒雷を槍をネルソンへと落とす。
黒き稲妻はネルソンの心臓付近を焼き貫いた。人の身体が焼き焦げた臭いが嵐の風と共に鼻腔を擽らせる。
だが、彼はまだ動いている。天使を身体に宿した代償に、痛みを知らぬ身体となった彼はまだ動く。
「そんなに不退転を気取るなら好都合…全く、それにしても頭の中で喧しい」
先程からカタリナの耳元でしきりに何かが囁く。彼女は不機嫌な顔持ちのまま、それと暫し対面することとなるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・ステラガーデン
多喜と参加
やっかいな銃(POWUC)持ってるわねえ
私は多喜を狙う天使軍をどうにかするわ!そっちはお願いするわ!
【範囲攻撃、制圧射撃】による炎魔法で天使軍を焼き払うとするわ!
ただ相手の方が攻撃が早いから【激痛耐性と覚悟】を持って被弾覚悟でいくわよ!
その間本体からの攻撃は多喜に任せるわ!
あらかた天使軍が片付いたらUCの詠唱を開始するわ!
一撃で消し飛ばせるように十分魔力が組みあがればぶん投げるようにUCを放つわ!
避けられるでしょうね!でもそれも作戦のうちよ!!
戦いが無事終われば天使軍にやられたボロボロの身体でお互いもたれ掛かりつつ
さすがにお互い無理しちゃったわね!これが本当の協力ってやつかしらね?
数宮・多喜
【フィーナさんと参加】
へっ、やせ我慢もここまで来ると立派なもんだね。
けれども提督、おとなしく負けを認めて骸の海へ行っちまえ!
アタシとフィーナさんに天使たちがわんさか来るだろ。
フィーナさんの対応が厳しそうな氷の銃弾は、
アタシが『衝撃波』とSMG-P5udcの『弾幕』で迎撃する。
斬り傷やダメージは、『激痛耐性』で堪えるよ!
フィーナさんが決めに行ったなら、
なるべくその邪魔はさせない。
SMGでそのまま『制圧射撃』して完成までの時間を稼ぐよ!
……で、外したと思うだろ?
アタシが【災い拒む掌】で火球を受け止め、
提督の死角からぶっ放す!
魂の髄まで焼き消えやがれ!
あーマジで疲れた、フィーナさん肩貸してくれや…
テラ・ウィンディア
一人で軍に匹敵か
ならば挑もう!(キャバリア搭乗
対SPD
【戦闘知識】
天使達の陣形を把握
【見切り・第六感・残像・空中戦・武器受け】
動きを見切り可能な限り回避を試み
それでも避け切れないのは剣で受けて致命だけは避ける
対トラファルガー
痛みも感じず状態異常も効かない
良い
最大の力を発揮した相手なら全霊を以て己の武で挑むのみ!
UC起動!
【二回攻撃・早業・串刺し】
高速で距離を詰めて剣による連続攻撃から槍による串刺し!
【レーザー射撃・遊撃】
同時に背後からガンドライドによるレーザー射撃による猛攻(痛みが無い場合気づけるかな?
【重量攻撃・砲撃】
後はブラックホール砲による砲撃!
我が全霊!とくとあじわえー!!!
「へっ、やせ我慢もここまで来ると立派なもんだね。けれども提督、おとなしく負けを認めて骸の海へ行っちまえ」
未だ衰えぬ猟兵が作り出した嵐。それに海賊帽子を飛ばされないよう抑えながら、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)はネルソンに向かい啖呵を切る。
「まだ使ってないけど、やっかいな銃を持ってるわねえ。多喜、アンタを狙いに来る天使軍をどうにかするわ! そっちはお願いするわ!」
「ああ、わかったさ。てか、もう天使らはわんさか来てるんだけどね!!」
この嵐はネルソン自身も利用していた。手にしたライフルを指揮棒代わりとし、その銃口を向けながら彼は叫んだ。
『征け、天使共。貴様らがその義務を尽くす事を期待しよう』
その言葉と共にライフル銃を天使武装と化していく。宛ら黙示録のラッパを模したかのようなラッパ銃となり、照準を彼女たちへと合わせる。
『審判を下す時が来た。天使の銃に宿りし七人の天使共よ。神の怒りの如しその七つの鉢の災いを、猟兵共に与えよ!』
「そうはさせないわよ!! 耐えれるもんなら、耐えてみなさいよおおお!!」
天使の銃から放たれた審判の焔を、フィーナが予めこの嵐を上で作り出した上空に魔力を注ぐ巨大な炎の塊を急降下させて対消滅させる。熱を帯びた衝撃波が周囲に吹き荒れ、場に居合わせたテラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は愛機ヘカテイアに搭乗しながら、機体をも軋ませるその衝撃に耐えていた。
「キャバリアも吹き飛ばしちまうほどの威力じゃねぇかよ。これなら…最大の力を発揮した相手なら全霊を以て己の武で挑むのみ!」
そう息巻くとセンサーに多数の反応が感知される。ネルソンが放った天使の軍勢だ。先程の余波でいくつかは巻き添えさせたとは言え、まずはこれらをどうにかせねば。周囲の建物をも吹き飛ばす衝撃波を自身の念動力による衝撃波を持って凌いだ多喜が、手にしたSMGを持って天使の軍勢の迎撃にあたった。
「援護は任せな! あたしはコイツらの相手をして時間を稼ぐから、フィーナさんは次の一発を作り出してくれ!」
押し寄せる軍勢の中、一際巨大な異形のモノも姿を見せた。天使が融合しあい生まれた怪物と言って良いもので、人間サイズの天使ならまだしもSMGで相手するには火力が足りなすぎる。
「コイツの相手はおれに任せな!」
テラがキャバリアで使用するサイズにまで変化させた星刃剣『グランディア』で、その怪物に立ち向かう。部下の戦いぶりを見守るように、ネルソンはその様子を静かに眺めていた。先程放った必殺の一撃だったが、フィーナ同様に連発できるものではない。天使武装と化させた天使を弾丸に加工して放つ物で、こちらも再装填中の最中だ。両者の威力は先程の結果が全てを物語り、どちらが先に準備を整えるかが勝敗を決するであろう。
「…できたっ! さっきとは威力が落ちるけど、一撃で消し飛ばせるよう魔力が組みあがれば十分!!」
先に機先を制したのはフィーナであった。流石に天使の銃の攻撃を防いだ時のと同じ大きさとは言えないが、これでも高純度の魔力の塊だ。指先の上で作られた疑似太陽とも言える黒き火球を放った。
『…笑止。見え透いた手だ。そして、焦りすぎたな』
ネルソンの天使の銃のリロードは残り僅か。あと少し待てば先程とは結果が異なろうが天使の銃を牽制させる一手となり得たはずだと、彼は内心ほくそ笑んだ。そして何より、動きが見え透いている。フェイントを掛けたつもりであろうが、動作でその軌道がどうなるか手に取るように分かり得る。ならば、それを誘うだけ。
フィーナの一手を躱すと、背後から多喜の威勢のいい声が響いた。
「ははっ。まんまと引っかかったようだね! 正直、コイツが吸える攻撃で助かったよ……そぉらお返しだ! 魂の髄まで焼き消えやがれ!」
災い拒む掌…多喜自身の掌中に生み出した小規模の次元特異点によって受け止めた非実体のUCをコピーして放つというもの。先程の最大火力で放った攻撃ならまだしも、これなら多喜のサイズにも見合う。
だが、ネルソンはそれも予想していた。一手を放った後の保険の一手。軍略としてはサブプラントして初歩的な備えて当然の物。同時に天使の銃の装填は今しがた終えた。後は死角を取った多喜へ振り返り、再び審判の焔を放つのみ…だった。
身体を向かせようとしたが足の感触がない。視線を落としたネルソンが見たものは、焼き切れた片足だった。痛覚を喪った決戦形態であるが故、本来であれば気づく筈であったがフィーナが次弾を放ったと同時に、テラはヘカテイアに装着された小型浮遊自走砲台群『ガンドライド』によるレーザーを放っていた。無音の閃光は目の前の火球に気を取られたネルソンに悟られることなく、肉体の再生を間に合わせれないタイミングで脚を焼いたのだ。
『…まったく、神など居ないものだ。私は義務を果たせなかったか』
その言葉を残し、ネルソンは身体は業火に包まれた。瞬時で身体が炭化するまでの熱量をもつ黒き太陽の焔が彼を、彼と同化した天使の命を燃やし尽くさんとばかりに激しく燃え盛る。だが、それでも尚まだ動く素振りを見せるネルソンにテラは照準を合わせた。
「リミッター解除…グラビティリアクターフルドライブ…! ブラックホールキャノン…起動…! 我が全霊! とくとあじわえー!!!」
光をも通さない冥界の炎『ギガスブレイカー』。マイクロブラックホールが彼の体に残った天使の命を潰しきり、ようやく天使の加護と祝福を受けて仮初の不死の身体という名の呪いを受けたネルソンは塵となって骸の海へと還っていった。
そして戦いの余波で嵐は消え去り、姿を再び見せた太陽は何時しか傾いていた。夕日は地平線の彼方を黄金色に染め上げて黄昏れている。
「あーマジで疲れた、フィーナさん肩貸してくれや…」
「さすがにお互い無理しちゃったわね! これが本当の協力ってやつかしらね?」
限界を通り越して疲労感がどっと押し寄せる多喜に対し、こちらもよろよろながら肩を貸していたフィーナは背中を持たれ掛けさせる港の防波堤まで辿り着くと、足を投げ出し合いながらお互いに座り込んだ。夕日は彼女たちも染め上げ、そして徐々に沈んでいく。
猟兵達がここに到着するまで、ネルソンも港から広がるこの水平線を見ていたであろうが、彼が何を想い考えていたかは今となっては知る由など無い。唯分かるのは…。
「あー、戻ったら何か一杯引っ掛けたいね。冷たい生ビールとは言わずに、この際ラム酒でもいいからさ」
「同感。戻ったら奢るわよ?」
生と死の間から生還して痛みと疲労感で生の喜びをひしひしと体感する、明日を信じて限りある生命を謳歌する者達の喜びである。
大成功
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