羅針盤戦争〜深海の姫、空の騎士
その島は、高度なテクノロジーを有している。
それを支えているのが海中深くにあるシステムコア、通称アンドロメダだ。
何故、そんな重要なものが海中深くにあるかというと、この島が『落ちて』きた時に、そうなってしまったのだ。
アンドロメダはこの島の中枢であり、人々の暮らしを支えるもの。
此れまで、アンドロメダが脅威に晒されることはなかった。何故なら、独自の防御機能が付近の海流を乱し、システムコントロール権限を持たぬ第三者を寄せ付けることがなかったからだ。
●襲来・森羅冠す『オルキヌス』
「さすがにね、オルキヌス相手じゃ分が悪かったみたい」
可愛らしい人形を抱いた、うつくしい女性を装う男は、頬に手を当て困り果てた溜め息を吐く。
オルキヌスとは、森羅の巫女達が信仰する神そのものであり、かつて「七大海嘯」の一体。全長50mはあろうかという、恐るべき巨躯の海獣だ。
成る程、確かに海流という防御が役に立たないのも納得である。
「というわけで、今度は皆にこのオルキヌスを退治して欲しいってワケ――ああ、そんな無理を言うなって顔をしないで? 大丈夫、どんな人でもアンドロメダのおかげで海上戦ならちょちょいのちょいなのよ」
ふざけた口調だが、性別が紛らわしい男――ハーモニック・ロマンティカ(職業プリンセス・f30645)は至って本気だ。
海上戦が容易な理由は、やはりアンドロメダにある。
海岸線から約30メートルの位置まで、重力コントロールによる足場を海面に形成することが可能だからだ。
「つまり、派手に海上で暴れてオルキヌスを引き付けちゃえば、こっちのものってこと」
実体を持たない足場ゆえ、臨時でシステム認証を受ける猟兵以外に影響は及ばない。オルキヌスにとってはただの海のままということだ。
「ああ、もちろん。海中で戦うというのもありよ。でも海中はアンドロメダの領域。足場を形成している間はシステムがピーキーになるから、攻撃手段は歌や音楽によるものが望ましいわね」
今回も厄介なお願いをして申し訳ないわね、とハーモニックは少しだけ申し訳なさそうな顔になり、念の為にと繰り返す。
「やりやすいのは海上戦。猟兵のみんなは、海面上をいつも通り普通に歩けるわ。その分、オルキヌスをめいっぱい引き付けられるよう、派手に戦ってね」
「水中戦闘が得意な子は、海中戦もOKよ。ただし攻撃手段は歌や音楽系のものを使うようにしてちょうだい」
足場が形成されているとはいえ、海は海だ。その特性を活かす工夫をしたら、より効果的に、そしてオルキヌスとの戦いを有利に進められるだろう。
ここから先はあなた達にお任せだと、ハーモニックは見つめる相手を試す笑みを浮かべ転送準備に入る。
「海に入れる子がいたら、実際にアンドロメダが見れるといいわね。女神像の腕に抱かれた、綺麗な宝石みたいって話よ」
七凪臣
お世話になります、七凪です。
羅針盤戦争シナリオ、お届けします。
●プレイング受付期間
受付開始…2/11 8:31から。
受付締切…任意のタイミング。
※導入部追記はありません。
※受付締切はタグとマスターページでお知らせします。
●シナリオ傾向
海上・海中戦を楽しめたらいいな感。
リズミカル純戦系。
●プレイングボーナス
海上・海中戦を工夫する(敵は先制攻撃しません)。
●採用人数・作業日関連
書ける範囲で頑張りますが、全員採用はお約束しておりません。
予めご了承下さい。
●他
お一人様当たりの文字数は700~1000字になります。
ご縁頂けましたら、幸いです。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 ボス戦
『森羅冠す『オルキヌス』』
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POW : 冥海銀河オルキヌス・オルカ
【支配下にある海の生物】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[支配下にある海の生物]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 海帝覇濤ディープブルー
敵より【海に適応した生態をしている】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
WIZ : 回帰狂濤ティクターリク
攻撃が命中した対象に【「海に帰りたい」という強迫観念】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【肺から海水が湧き出す呪い】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:山庫
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「曾場八野・熊五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リル・ルリ
★
海の中で戦うんだね!
よーし!任せて!僕はやるぞ!
ぐんと潜って海の中
わぁあ大きい
さち、って魚だっけ?
と、ヨル!近寄りすぎて食べられないようにね
纏う水泡で攻撃をいなしながら
距離をおきつつ近寄って
ヨルの鼓舞にやる気も灯る
歌おうか!
水中が得意なのは君だけじゃないんだから
囀る歌唱に破魔を宿し歌声張り上げ
歌う、「氷楔の歌」
僕には牙も刃もないけれど
この歌だけが、唯一の武器で
唯一の盾
戦うことだって得意ではない
この海の世界のどこかには
かあさんの故郷があるんだ
守るよ
僕はかあさんと、とうさんの息子なんだから!
海面に追いやられたらにじゅうまる
きっと海面にいる仲間が次なる一撃を与えてくれると信じてる
さぁヨル、いくよ!
●先駆けの人魚
――システム認証を解除します。
おかしな固い声が脳内に直接響いたかと思った途端、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は重力の足場から海の中へと放り出される。
「わ、あ!」
気泡よりももっと小さな不思議な粒が、夜空の星のように瞬く海だ。その幻想的な光景に一瞬だけリルは歓声をあげると、ぐんっと月光ヴェールの尾鰭で水を掻く。
「水の中は得意だよ! 任せて!」
僕はやるぞと士気高く息巻いて、リルは雛ペンギンの姿を取る式神――ヨルと手を繋いで深く深く潜る。
リルは人魚のキマイラだ。海は故郷に等しい――いや、『等しい』だけではない。
(この海の世界のどこかには、かあさんの故郷があるんだ)
巨大な影を探す視線を、リルは少しだけ更に遠くへ馳せる。世界を覆う海だ。どこまでも見晴るかせるはずもない。それでも、繋がる場所に居るのだという事実が、リルの闘魚としての魂を鼓舞する。
――守る。
――守ってみせる。
「だって僕は、かあさんととおさんの息子なんだから!」
リルが発した強い聲に、水が揺らぐ。そこから拾い上げた違和感にリルは身を捻り――迫る影を見つけた。
「って、わぁあ大きい」
向こうもリルに気付いたのだろう。最初は拳台だった影が、あっという間に山と見紛う大きさになった。そして明らかになった魚影に、リルは得心と疑問を同時に胸に抱く。
(さち、って魚だっけ?)
邂逅を果たしたオルキヌスは、『シャチ』によく似ている。サイズはリルのよく知るものとは比べ物にならないけれど。
そして。
「ヨル! 近寄りすぎたら食べられちゃうよ――あ、さちはお魚じゃなかった」
今度は追われる立場で泳ぎつつ、リルはペンギンを狙うシャチの獰猛さから種別を思い出し、慌ててヨルを懐へと引き寄せた。
もちろんオルキヌスは魚類で哺乳類でもなく、このグリードオーシャンの古き神たる存在。
だからといって、負けるつもりはさらさらない。
「さぁヨル、いくよ!」
纏った無数の気泡で、オルキヌスの突進の衝撃をリルは幾らか殺し、今日一番の力で尾鰭を撓らせた。
「凍てつく吐息に君を重ねて」
「氷の指先で爪弾いて」
――踊れ、踊れ、氷華絢爛。
がんばってと言うみたいに海に似合いの翼を、ヨルがばたつかせている。そのリズムに合わせ、リルは魂を震わせ謳う。
リルには牙も刃も、オルキヌスのような立派な体躯もない。
(けど、僕には歌がある)
唯一の武器であり、唯一の盾である歌。そしてその唯一は、絶対無比のもの。
「君の熱」
「全て喰らい尽くすまで」
腹の底から張ったにも関わらず、リルの歌声に濁りはなく、どこまでも澄み、美しく凛然と海に響く。
正しき者が耳にしたならば、感銘を以て酔い痴れる歌だ。されど邪を打ち破る力をも持つ歌は、オルキヌスを苦しめ藻搔かせる。
と、その時。リルの腕から飛び出したヨルが、主の足元に寄り付き、懸命に水を蹴った。
歌う事に全力を注ぐリルでは、姿勢を制御することは難しい。代わりにその役を担ってくれたのだ。
リルとオルキヌス。正面に相対す姿勢から、下からリルが見上げる体勢に入れ替わると、オルキヌスは歌から逃れようと上へ上へと泳ぎ出す。
そこには数多の猟兵が待ち受けているにも関わらず!
(やった、にじゅうまるだ! ヨルははまなる!)
得手ではない戦いで最良の結果を勝ち取ったリルは、オルキヌスの姿が太陽の光と混ざる瞬間まで見届け歌い、心の中で大きくガッツポーズした。
大成功
🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
★
大きな生き物だ
其れに水上を歩めるとはなかなか心が踊る……サヨ
そんなにしがみつかれては歩けないよ
私の巫女はこの瞬間もまた実に可愛らしいけれど
大丈夫。沈んだらすぐに助けるよ
さて海底のかれを引き寄せようか
水底から見る私達はどのように見えるのだろうね
小さな餌のように見えるのだろうか
震える巫女を抱えて見切り躱し
海ごと切断するような斬撃を叩きつける
震える巫女は可愛らしいが……ほら、サヨ
大丈夫だよ
── 再約ノ縁結
きみを傷付ける何もかもは約されない
狂い咲くように舞い上がる水泡と桜花弁に、絡め取り自由を奪う枯死の捕縛…神罰を重ねよう
サヨ、次に顔を覗かせたなら共に
心と共に重ねなぎ払う斬撃に笑む
海へおかえり
誘名・櫻宵
🌸神櫻
★
はァァ……海の上を歩くだなんてぇ……絶対沈むフラグじゃないのよぉ…
カタカタ震えながらカムイに全力でしがみつく
怖くないのよ?これは武者震……やだ!沈む前に助けて!
神様たすけて!
きっと美味しそうなのが浮いてる位にしか思われないわよう…なんか腹たってきたわ
私が喰らうのはいいけど
何故でかい魚に食べられねばならないの?
海の藻屑になるのは私じゃない
あいつよ!
カムイの腕に抱えられたまま
恐怖は殺意にかわる
絲華──ありったけの力を込め
ド派手に斬撃を叩きつける
爆ぜるような水面に桜化の神罰を巡らせ
生命ごと喰らい抉るように荒立たせ
ええカムイ
共に!並び立つ信頼と頼もしさ
渾身の力込め薙ぎ払う
いいから沈みなさい!
●神罰
足場といっても、陸を歩むのとは程遠い感覚だ。例えて言うなら、弾力性に頗る富んだゴム板の上を行く心地。
「はァァァァァァ…………」
覚束ないことこの上ない足元に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は盛大な溜め息を吐く。
「海の上を歩くだなんてぇ……………」
あまり泳ぎは得意ではない櫻宵だ。導き引いてくれる手がないなら、ごぼごぼと溺れて沈める自信がある。悲しいことに。
「っ! これっ、これっ、絶対に沈むフラグじゃないのよおおおおおっ」
「――サヨ」
見ないようにしていた足元へ、不安のあまり視線をやってしまって、櫻宵は盛大に震え上がると、傍らを悠々と往く朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)に全身でしがみついた。
だってそこは透明なのだ。海中と海上を隔てる境がないのだ。
「そんなにしがみつかれては歩けないよ」
見た目には、純粋に水の上に立ち、歩いている。その何とも稀有な経験に心を躍らせていたカムイは、歯が噛み合わないくらいに震えているサヨの頭をぽふりと撫でた。
しかしそのカムイの余裕ぶりが、櫻宵の自尊心をチクリ。
「こ、こ、こわくないのよ? これは、これは、……これは、そう、むしゃぶるいなんだからっ」
舌っ足らずになっている櫻宵の明らか過ぎる強がりに、カムイは朱砂の眼を愛おし気に細める。
(私の巫女は、実に可愛らしいな)
許されるなら、このままずっと愛でていたい。とは言え、『此処』へは遊興で訪れたわけではない。
「あああああやだ! 沈むわ!! 沈む前に助けて、神様!!」
爪先を洗った波に完全に気を動転させた櫻宵が、これでもかという力でカムイの躰を絞る――ではなく、抱き締める。この時、櫻宵が発した『神様』が自分だけを呼ぶものではないと知りつつ、カムイは己が巫女を本格的に宥めにかかった。
「大丈夫」
まずは落ち着いた声。
「沈んだらすぐに助けるよ」
それから顔を覗き込んで桜霞の視線を絡め取り、力強く微笑む。すると怯えばかりだった櫻宵の目に、まずは恥じらいが差し、そしてそれは時を置かずして理性へと転じる。
「水底から見る私達はどのように見えるのだろうね」
まだか細い理性の糸を、カムイはすかさず手繰った。
「……きっと美味しそうなのが浮いてる、くらいにしか思われないわよね」
「そうだね。しかも小さな餌だろうね」
「――なんだかものすごーっく腹がたってきたわ!」
櫻宵の意識が、怯えから怒りに切り替わる。スイッチを入れたのは、カムイの話運びだ。とはいえ、腹が決まったら櫻宵は強い。
そのことをよく知るカムイは、迫る気配に櫻宵を抱いたまま、足元の柔軟性を活かして高く跳ねた。
「あいつよ! 海の藻屑になるのは私じゃない!!」
一瞬前まで二人が居た海上から姿を表わしたオルキヌスに、櫻宵の双眸に殺意が爛々と灯る。
それを確かめて、カムイはそっと腕を解いた。
「―― 人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は」
仮初の足場へ戻り往きながら、カムイは一句一句を深く刻んで力を放つ。其れは災厄を討つ神罰。体躯の巨大さ故に躱しようのないオルキヌスは、反撃に繰り出した呪いが発動しないことに、再び海中へと帰って往く。
「きみを傷付ける何もかもは約されない」
言ったろう、と微笑むカムイに、再び危うい足場に戻った櫻宵は、鋭利で獰猛な闘志を滲ませ、はっきりと是を頷いた。
「ありがとう」
溺れることが怖くないと言ったら、其れは嘘だ。けれども櫻宵は一人ではないし、海は恐ろしいばかりではない。
櫻宵の震えが、オルキヌスを呼ぶ疑似餌になった。しかし水中に在って、巨大な海獣を彼らの元へ押し上げた誰かがいたのも、また真実。
「サヨ、次に顔を覗かせたなら共に」
一度は海へと戻ったオルキヌスも、消された力を取り戻す為にカムイを狙うだろう。つまり今度はカムイが餌になる番で、カムイと櫻宵が力を合わせる好機。
「ええカムイ。今度は共に!」
すらりと血桜の太刀を抜き、櫻宵は呼び水となるよう海面を叩いた。
海を割る水飛沫が上がる。それを押し広げるように隆起した海面は、かつては七大海嘯のひとりに喩えられしモノ。
「征くわ」
いつ崩れるとも知れぬ水の山の頂点を目指し、櫻宵が走り出す。
その背を頼もしく見守り、カムイも朱砂の太刀を抜く。
「――咲いて」
刹那の頂きに辿り着いた櫻宵が、桜花を纏った剣閃を上段から繰り出す。それに合わせて、カムイも神罰の一閃を放つ。
「沈みなさい!」
「海へおかえり」
櫻宵は苛烈に。カムイは穏やかに。
音色は異なれど、還そうという意志は一つ。重なった旋律と斬撃に、命を喰らう桜嵐が竜巻となって海上を吹き荒れ、古の神ごと蹂躙した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
――冥府。
成る程、名に違わぬ威容。
とはいえ。
古来、冥界へ呑まれんとする姫をお救いするは、騎士物語の定番ですし?
…柄じゃ無いですが。
海面上を、敢えて駆ける。
足音、水音、蹴立てて上等。
相手が視認よりもソナー宜しく音で知覚するなら、より引き寄せられる様。
…冥府の魔物殿と同じ程強き意思で動く配下は、さて如何程在るものか。
波、海面の隆起。敵意、視線、音に視覚。
見切る全てを、繋げるは回避に反撃。
躱した流れからワイヤーを掛け、派手に叩き付け海へお帰し。
又はUCで攻撃力強化した鋼糸にて引き斬り、断ち落とし、
水面を紅にくくるか…
己が役目は姫君より此方へ意識を向ける事と心得え。
魔物退治は…騎士様にお任せ致しますね
●前座
オルキヌス――良く出来た名だとクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は思った。
死の領域、或いは冥府。
「成る程、名に違わぬ威容」
先行した二人組に後れをとった巨大海獣が、海上で身を撓らせ、また潜っていく一連の流れを目に、クロトは平たく呟き――くっと口の端を吊り上げる。
「古来、冥界へ呑まれんとする姫をお救いするのは、騎士の物語の定番ですし?」
オルキヌスの置き土産である波に揺れる足元を力強く踏み、クロトは道化めかした笑みを顔に貼り付けた。
生贄の姫君に、それを狙う海獣。そこへ救世の騎士が現れるのは物語の定石だ。
(……柄じゃ無いですが)
あまりの似合わなさに漏れる自嘲は、胸の裡のみに。己が思考とはいえ、余計なことに時間を費やす暇があるくらいなら、クロトは走る。
高度テクノロジーの結実たる仮初めの足場は、まるでよく弾む鞠のようだ。その軟性と弾力を即座に計算し、クロトは水音を高く跳ねさせた。
これみよがしに蹴立てた一歩に、海水の粒が不格好な王冠を模る。そうして落ちた水滴は、さぞや分かりやすい標となるだろう。
オルキヌス。其れはUDCアースでシャチの学術名として知られている。事実、オルキヌスはシャチによく似た外見をしていた。
それに眉間にひとつしかない眼は、彼の海獣が視界を頼りにしていない証。オルキヌスが制する配下も同様の特性を持つに違いない。
(視認よりもソナー宜しく音で知覚するなら、――)
思惑を込めて、クロトは足音を立てる。いっそ無駄というほど響かせ、分かりやすい目印を海中に知らしめる。
多くのオルキヌス配下が、クロトの挑発に吸い寄せられるだろう。
(……冥府の魔物殿と同じ程強き意志で動く配下は、さて如何程在るものか)
期待ではなく、策巡らせることにクロトの胸は疼き、沸く。一人間でしかない自分が、どこまで通用するか――計算するなというのは、クロトのような手合いには無理な話だ。
長く戦場に留まる術は知っている。
生き残る術も心得ている。
徐々に足元に集まり来る気配へ、クロトが視線を遣ることはない。透ける足場は、海中に蠢く海獣の姿をよく捕捉させてくれる。一度、見てしまえば、無意識に数えてしまうだろう。キリがないと理解しつつ。
つまり、視ることは無駄な労力。
「――」
無言でクロトは意識を引き絞る。ピンと四方へ張り伸ばされたピアノ線のようなそれは、一瞬を見極める導線。
「――俺の役目は雑兵の意識を攫うこと」
あらゆる冥府の使者から姫君を遠ざける為に、クロトは四本の鋼糸を海面に流す。
直後、ぼこぼこと盛り上がった箇所目掛を、クロトは鋼糸で繰り取る。
「魔物退治は……騎士様にお任せしますね」
柄では無いと言った。
自分に向くのは、前座だ。本命が危うげなく本懐を果たせるくらいの地均しはしてみせる。
数は無数だ。油断する隙は無い。直下から飛び出す魚影は跳ね躱し、海上を跳ねて迫る個体は身を捻りいなす。
纏う漆黒を眩い青の世界に翻して、クロトは引き絞った鋼糸で海面を赤く染め征く。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
自分で何かしなくても海上を歩けるって不思議だね
【聞き耳】で海中の音を聞き分け常にオルキヌスの位置や動きを特定
1番手っ取り早いのは雷かなぁ
自分まで被害を受けないよう【高速詠唱】で氷魔法
足場の一部を凍らせそこに乗り
オルキヌスのいる海中目掛けて雷魔法の【属性攻撃】を
敵の攻撃はとにかく当たらないよう
【ダンス】の要領でステップと
★靴に風魔法を宿す事で増した跳躍力で回避重視
万一のために【呪詛耐性】を混ぜた【オーラ防御】も纏って
少しでも顔を出した瞬間もう一度雷魔法
感電により動きを止めた一瞬の隙をつき
第三の目があった位置に【指定UC】
この技は追尾式
何処に逃げても威力を殺す事なく目標を追いかける
例え、海中でもね
●Orage de fleurs
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は軽やかに海面を蹴る。その仕草は、少女めいた澪の容姿とは裏腹に、実に少年的だ。
澪の爪先から飛び散った滴たちが、グリードオーシャンの太陽を浴びて眩しく煌めく。
その自然さは、まるっきりただの水のようだ。
「――ただの水だったね」
過った仮定を、澪は笑って覆す。柔らかい土を思い出させる感触だが、此処は海の上で、一帯を満たしているのは正しくただの海水で間違いない。だからこそ、自分で何かをしているわけでもないのに、普通に歩けることが不思議で、面白い。
髪に咲く金蓮華に雫を飾り、澪はくすりと小さく笑う――けれど、笑顔の奥では目まぐるしく策を巡らせる。
敵は海中だ。そこには本命以外の海獣も数多いるだろう。しかし幸いなことに、今は別の猟兵が有象無象たちを引き付けてくれている。
つまり澪は心置きなく、狙いに集中できる。
(手っ取り早いのは雷かなぁ)
思い付いたら、澪の行動は早かった。
海を往く風に刹那、澪の声が混ざる。余人には聴き取れぬ速さで結ばれた詠唱に、まずは澪の足元に氷の大地が出現した。
「これで大丈夫、と――あとは」
澪は僅かな揺らぎさえ聞き逃さないよう、聴覚に全神経を集中する。そして些細な物音も拾う耳は、澪の期待に応えた。
「――そこ!」
水中を移動する何か巨大なものの『心音』を目印に、澪は雷撃を放つ。迸った電撃に、小魚たちが浮かび上がってくるが、氷の地面に立つ澪自身は余波を免れる。
そして火山口から溶岩が溢れるように突き上がった水面目掛けて、澪は脇目も振らず走り出す。
ぼこりと不意に湧いて出た水泡は、雷に打たれた巨大海獣――オルキヌスが吐いた息だ。重力で構成された足場をも容易く攫いそうなそれに、澪は履いた靴に風の魔力を送ると、踵に生えた翼で空へ舞う。
ダンスの要領で踏んだ中空でのステップに、長い琥珀色の髪がふわりと躍る。だが心地よい余韻は長くは続かない。澪の挑発に応え、ついに巨大海獣が海面に顔を出したのだ。
念の為に足先に呪いへの耐性を付与したオーラ壁を展開すると、澪はオルキヌスの体表をなおも翔け駆ける。目指すのは浮上の最中に見つけた、眉間の眼だ。目立つ特徴は、逃さない為の良い標になる。
「香り高く舞い遊べ」
最後は風に煽られた羽のように高く跳び、澪はぴんと伸ばした指先でオルキヌスの眉間を指し示す。
結ばれた見えない糸に、花の嵐が巻き起こる。其れは獲物を何処までも追うオラージュ・ドゥ・フレア。逃げ往く先が海の中だろうと関係ない。
「行けるところまで行っていいよ。威力は全く変わらないからね」
脅威を察したオルキヌスが、巨躯を捩らせ海中深くに潜っていくのを澪は透明な足場ごしに眺める。
海を泳ぐ鮮やかな花たちは、やがてオルキヌスの眉間の眼に纏わりつくと、そこを千々に引き裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
★
アドリブ、共闘歓迎
海上での足場を頼りに、同じく海上で戦う皆様の援護を
祈りを捧げ、共に歌うは【涙の日】
天より降り注ぐ聖なる光
人々には鼓舞と癒しを
そして海の魔物には神罰の光輝を
呪詛も狂気も、わたくしの願いを阻むことは出来ない
だって、わたくしの故郷は海ではないもの
帰る場所はただひとつ
最愛の旦那様の傍に
勇気を胸に強く願いを込め、覚悟を決めて
この唇から紡ぎ出すのは愛の歌
海水と共に吐き出す苦しみと嘆きじゃないわ
姫君(アンドロメダ)を襲う海の怪物……
そんな神話がどこかにあったわね
ならば猟兵たちはさしずめ勇者ペルセウス
苦難も呪いも跳ねのけて
歌いましょう、ここに新たな愛と勇気の英雄譚を
●新たなる英雄譚
――主よ。
地上と同じとまでは行かなくても、重力で形成された足場も、祈りを捧げるために膝をつくには十分だ。
むしろ耕したての畑めいた柔らかさがあるだけ、華奢な体躯には優しいかもしれない。
(いいえ、そんな安寧を私は望んでおりません)
純白の翼をドレープのようにゆったりと広げ、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は両手を組んで空を仰ぐ。
――御身が流せし清き憐れみの涙が、この地上より諸々の罪穢れを濯ぎ、
聖句を唱える声は、かつて天使の歌声と称されたものだ。
大切に、大切に――市井の困窮など知らず、真珠の粒を真綿で包むかの如く大切に育てられたのは、もう過去のこと。
世の在り様に疑問を抱いた少女は、やがてオブリビオンに領地を滅ぼされ、追われる身となり、数多を経て猟兵となった。
――善き人々に恵みの慈雨をもたらさんことを……。
ヘルガの祈りがひとつの結びを迎えた刹那、抜けるような青い空から放射状に光の柱が伸びる。まるで天使の梯子だ。厚い雲など空にはないのに。
(嗚呼、主よ)
齎された神の恩恵に、ヘルガは天を仰いだまま瞼を落とす。
優しくも神々しい光は、ヘルガのユーベルコードの顕現。遍く邪を打ち払う捌きの光であり、正しき行いをする者たちを鼓舞し癒す慈しみの光。
水底まで届こうかという光輝に、海中でオルキヌスが身悶える。それにより起きた波に、足場も大きく揺さぶられた。それでもヘルガは祈ることを止めない。
(わたしの願いを阻むことは出来ない)
思念の欠片のようになって届いた呪詛を孕んだ波に、しかしヘルガは凛然と抗う。
(だって、わたくしの故郷は海ではないもの)
海へ還ろうと誘う声も怖くない。だってヘルガの帰る場所はただひとつ。ヘルガをオブリビオンの魔手から救ってくれた、最愛の『旦那様』の傍らのみ。
(わたくしが歌うのは、愛の歌。海水と共に吐き出す苦しみと嘆きじゃないわ)
何処かの世界に、アンドロメダという姫君が海の怪物に襲われそうになっている神話があるのを、ヘルガは知っている。
その姫君を救ったのは、大神の息子である勇者ペルセウス。
(この地に集いし猟兵たちが、ペルセウスの如き救世主となりますよう――)
(その為であれば、わたくしは幾らでも、どんな苦痛に晒されても、祈り続けます)
ヘルガは祈り謳う紡ぐ――新たな愛と勇気の英雄譚の幕開けを。
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
「デッカい敵さんだなぁ…。まぁ、食いではありそうだけど。」
地獄顕現【悪魔大王】のUCを発動し、魔人モードで戦う。
んでもって、周囲の海を万物凍結で凍らせて敵さんの動きを鈍らせる。
なるべく攻撃はくらいたくはないし、動きを鈍らせた敵さんにとっとと攻撃をしていこうかな。
強化された悪魔の見えざる手と血飲み子で攻撃していき、できた傷口に頭を突っ込んで全力吸血ってな感じで。
呪いに侵されたら、酸素がなくても活動できる様に身体を再生し続け、強迫観念は吸血衝動で塗り潰して行く。
「海に帰りたい…じゃねェ、血だ。喉が渇いて渇いて渇いてしょうがない。」
●満ちる
「デッカい敵さんだなぁ……。まぁ、食いではありそうだけど」
神とも崇められたオルキヌスへ対しての、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の初見の感想は、欲望に従順で俗なものだった。
しかし莉亜にとってオルキヌスは畏敬の念を抱くでも、畏怖する相手でもない。ただ単純に、度を超した巨体を有す敵であり、血を遠慮なく頂ける補食対象でしかないのだ。
だから気負いなく、莉亜は嘯き歌うように地獄を顕現させる句を紡ぐ。
「悪魔大王さんの力をちっとばかし奪わせてもらうよ」
変化はまず髪と目の色に現れた。金の遊びが入る紫の髪が、紫の双眸が、常しえの闇を煮詰めたかの如き黒になって、さらに長身の男の背には三対で計六枚の悪魔の翼が生えた。
「――それじゃあ、征こうか」
狂鬼乱舞の手前な口振りで短く呟くのが悠々とした時間の最後。
魔人と化した莉亜は、感慨のひとつも浮かばぬ眼で足元を一瞥すると、浮上途中にあったオルキヌスごと一帯の海を凍結させた。
とはいえ、さすがの巨大海獣の動きは止まらない。でも、鈍るだけで莉亜には十分。
禍々しい翼で空の高みへ一瞬で至った莉亜は、今度は猛然と落下し、そのエネルギーをも味方につけて白い大鎌で氷の大地をかち割った。
衝撃と斬撃が、オルキヌスの鼻先まで届く。噴き上がった血に、白い刃が赤く濡れ、莉亜は至極満足そうに唇で弓張り月を描く。
「……悪くないじゃん」
白刃と共有した味覚に、莉亜の内側が震える。
常ならば抑え込む衝動だが、対峙する巨獣の放つ呪詛に抗う為に、莉亜は素直な情動に身を任せた。
元から食いではありそうだと思ったのだ。
そしてオルキヌスは猟兵の――世界の敵。血を余さず吸い尽くすことに何の弊害があろうか!
――海に帰ろう。
――海に帰ろう。
(海に、帰り、……た、)
「……じゃねェ、血だ! 喉が渇いて乾いて乾いて乾いて乾いて乾いてしょうがないっ」
莉亜の欲望に応え、透明な悪魔の手が氷を砕き、オルキヌスの眉間に迫る。
そして連れられた莉亜は、巨大コンキスタドールの額にある目が無残に斬り刻まれているのを見て――堪らず、その傷に頭を突き入れた。
生命を喰らう。
直に喰らう。
全力で吸い尽くす。
喰っても食っても、吸っても、オルキヌスの命と血は尽きず。攻防は、莉亜の腹が膨れ切るまで続く――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…海の上に立つ事が出来るのは有難い
お陰で陸地と何ら遜色無く動く事が出来るもの
太陽光を闇に紛れる"影精霊装"で全身を覆い遮断した後、
真の姿の吸血鬼化して極限まで凝縮した血の魔力を溜め、
UCを発動し真紅の月を天に浮かべ太陽を覆い隠す
…闇を導き、光を呑み、来たれ、夜
…憎悪に任せて水面に集まったのは失策だったわね?
此処ならばお前達も月光浴が出来るでしょう?
月光のオーラが防御を無視して戦場を照らし、
海の生物全てから限界を突破して魂と生命力を吸収し、
自身を超強化して敵を弱体化していき、
第六感が殺気を捉えたら敵の攻撃を受け流し怪力任せのカウンターで迎撃する
…冥海の王よ。お前を彩る銀河の星々を呑み干してあげる
●夜の吸血鬼
柔らかな銀の髪を風に遊ばせると、巻いた黒の隙間にリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の華奢な首が覗く。
「……海の上に立つ事が出来るのは有難いわね」
仮初の足場の感触を確かめるようゆっくり歩くと、綺麗な波紋が出来た。雲を踏む心地だし、水としての性質は残っているらしい。
それでも、陸地に在るのと遜色ない動きを維持できるのは助かる――リーヴァルディは間もなく、その足元の支えさえ不要になるのだけれど。
緩く波打つ海上にすっくと立ち、リーヴァルディは首に纏わせていた黒を解き、肩に羽織る。途端、闇で編まれた精霊衣はリーヴァルディへ届く一切の光を遮断した。
暗がりに潜めたリーヴァルディの息が、ふと弾む。
「……限定解除」
静かに駆け出す心臓に任せて唱えると、リーヴァルディの姿がダンピールとしてのものから、ヴァンパイアとしてのもの――『真』の姿へと変貌を遂げる。
「血と生命と魂を捧げよ」
リーヴァルディが極限まで凝縮させた血の魔力が発動の引き金となり、真っ青だった空に深紅の月が浮かぶ。禍々しい輝きは肥大し、ついには太陽をも覆い隠した。
「……闇を導き、光を呑み、来たれ、夜」
残されるのは、不吉な夜の闇。
世界の転変に海の生き物たちがざわつく。中でも異変を察した邪なる獣たちの動きは早い。
しかし海獣――オルキヌスの配下たちは、海上に顔を出したのが運の尽き。
「水面に集まったのは失策だったわね?」
麗しく、美しく、そして鋭く微笑んで、リーヴァルディは水の大地を軽く蹴ると、支配下においた天空へと舞い上がる。
「此処ならば、お前達も月光欲が出来るでしょう?」
リーヴァルディの飛翔の軌跡を際立たせるよう、静謐な月の光が海へと降り注いだ。それはただの光ではなく、魂や生命力を吸収するもの。
馴染みの海とは程遠い光景に中てられて、海獣たちは気勢を失い、虚ろな肉の器と張り果てる。そうして集い枯れた海獣たちの下から、オルキヌスが姿を表わした。
「……冥府の王よ」
有象無象とは比べ物にならない威容にもリーヴァルディは怯まず、むしろ尊大に天を渡れぬ獣を見下すと、口元に手をやり蠱惑的に微笑む。
「お前を彩る銀河の星を、私が飲み干してあげる」
然してリーヴァルディは少女の体躯に見合わぬ力を蓄え、オルキヌスの元へと降って征く。
繰り出すのは、単純にして明快な暴力。
激しく水柱を立ち昇らせる一撃は、オルキヌスの眉間を割った。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
派手にやるんだろ
すんなら俺以外に誰がいやがるってんでェ!
いっち派手な画を選べって?
海には波か?波に千鳥か?
否!
鳳凰こそが喧嘩の華よ
飛ばずとも速く動けるし、ちいとばかし高くも跳ねられる
不足なんざこれっぽちもねェ
いざやいざや、退治てくれやう大鯨
あの巨躯を相手取るンなら手は抜けねェ
海を駆け乍ら宙に只管画を残して力の底上げ
鯨の影が見えたら拳を握り、目一杯突き出して風圧で威嚇
時に海を殴って波立たせ、時に水面を蹴り飛ばして浅い谷間を造りゃあ其処からでも分かるだろ
辺りに居る小魚は水面叩いて散らす
殴って殴れるかは分からねェ
乗って乗れるかも知れねェ
然しやる
足りねば描く
こんねェに楽しい喧嘩だ、楽しまにゃ損だろう
●鳳凰連ね喧嘩華
巨大な氷が出来たり、一時限りの夜が訪れたり。
「皆々、派手だぁね」
先んじた猟兵たちの戦いぶりに菱川・彌三八(彌栄・f12195)は肩を揺らしてクツクツ笑う。
派手さを求められている戦いだ、皆それぞれの最善を尽くしているのだろう――しかし。
「俺が負けたら話になるめェ。ていうかだナ、俺意外に誰がいるってんでェって話サ」
派手物好きな江戸っ子の導火線には、とっくに火が点いている。闇雲に走り出さなかったのは、他者を邪魔せぬ為と、己が遣り様を誰にも邪魔されぬ為。
然して天と運は廻り来た。
到来した見せ場に、彌三八は喜々と走り出す。
重力で作られたとかいう足場は、柔らかい腐葉土と感触は似ている。此れは此れで面白いが、筆を取り出した彌三八の意識は既に遠くへ飛んでいた。
(いっち派手な画を選べって?)
海に居るのだ、波がいいか。それとも波に千鳥か。浮かぶ題材は、何れも彌三八の心の中心を射抜かない。何故なら、もう絶対の唯一を決めているから。
「鳳凰こそが喧嘩の華よ! 此れを於いて他にあるかってんだ」
疾駆の速度を保つ前傾姿勢のまま、彌三八は空に筆を走らせた。
――翔雲。
――弥栄。
――鳳鳴朝陽。
口の中で唱えた三句に彌三八の全身を鳳凰の刺青が覆い、彌三八の握る筆は命を宿すようになる。
「まずはァ、ひとつ!」
描き上がった朱色の鳳凰は、今にも羽搏きそうだ。
「ついで、ふたァつ!」
「そいから、みっつ!」
流水が如き筆捌きで、彌三八は中空に数多の鳳凰を描き出す。そして描けば描く程、彌三八は速くなり、闘志は赤々と灼熱の炎を纏って燃え出す。
弾む鞠のように彌三八が高く跳ねた。そうして眼下に広がる視界に、浮上してくる影を見る。
「いざやいざや、退治てくれやう大鯨」
落下の最中も鳳凰を書き連ね、彌三八は着地であり着水のタイミングで拳を海の奥めがけて突き出した。
巻き起こった風が海を割り、オルキヌスまで届く。駆け昇る水を失った海獣の泳ぎが一瞬だけ止った。
その隙に、彌三八はくるり反転して踵を海面に叩きつける。爆ぜた波飛沫に、オルキヌスより身軽な海獣たちがびちりと跳ねた。そこに彌三八はまた鳳凰を描く。
画紙がわりにされた魚もどきが、筆圧と鳳凰の圧に魂を砕かれ、骸の海へ還る。
そうしていよいよ待ち侘びた大獲物との御対面。
戻り来た水に再び泳ぎ出したオルキヌスが、仮初めの足場を超えて顔を出す。ずいぶんと刻まれた後なようでそこかしこから血を吹き出しているが、彌三八は気にも留めずに海獣の体躯の上を坂道のように駆けて登った。
どうせなら、この手の輩には一度乗ってみたいと思っていたのだ。
後は小細工無しで殴るだけ。
「それが喧嘩つうものからよォ」
一打きりじゃ響いた風でないのが、彌三八の心をまた湧き立たせる。こんなに楽しい喧嘩だ、楽しまなければ損というもの。
及ばぬのなら、描いて足して、また繰り出すだけ。
絵描きとして、そして江戸っ子しての本領を如何なく発揮し、彌三八はオルキヌスの骨をいくつも砕く。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
アンドロメダか。星のイメージ強いけど海に沈んで今もシステムを動かしてる…歌が好きなのかなあ。
まあオルキヌスにがぶがぶダイブされちゃたまらないよね。
風情のない偽シャチはお引き取り願わないと。
海面で戦闘。
UCで空シャチ召喚し半数を一匹に纏め残りは空を泳がせる。
海面に高速詠唱で氷の魔法使って氷塊の浮きを幾つか浮かべる。
こっちを喰らうために真下からジャンプする感じで喰らいついてくる時浮きの動きを目印にし、空シャチの力借りて攻撃を回避。
空ぶった瞬間にカウンター。空シャチ達に一斉に喰らいつかせる。
一番強いのはオルキヌスの額を狙ってね。
水中適応してるけど水のない所では避けられないよね?
※アドリブ絡み等お任せ
●海の流儀
ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は空を見上げた。
今は真昼で星はないが、海原の世界であるグリードオーシャンの夜空ならさぞや美しいだろうという想像は、ヴィクトルの身体よりも大きく膨らむ。
(アンドロメダか)
その名にヴィクトルにもたらすイメージは星だ。
アンドロメダと名付けられたシステムコアと、高度な文明。それらから推察するに、この島は星の海から落ちて来たのかもしれない。
「それにしても。海に沈んでもシステムを動かしてるなんてすごいね……歌が好きなのかなあ」
ヴィクトルはシャチのキマイラだ。そして酒に音楽にとマイペースに生きていたと語る大人の男。
海と星と音楽と。アンドロメダはヴィクトルと酒を酌み交わせるくらいに気が合うかもしれない。残念ながらシステムコアであるアンドロメダに飲酒は無理だろうが。
そんな膨らみ切った想像は、海面を叩く音に唐突にパチリと弾けた。
他の猟兵と対峙していたオルキヌスが海中へ一時撤退するために、盛大に跳ねたのだ。
「風情のない偽シャチにはお引き取り願わないと」
似て非なるモノを目にして、温厚なヴィクトルの裡に闘志が灯る。ただでさえシャチには獰猛なイメージが付き纏うのだ――事実、海洋系の食物連鎖の頂点に立つわけだが――、危険極まりない厄災なオルキヌスには、早々にご退場頂かなくてはなるまい。
「がぶがぶダイブされちゃ、アンドロメダもたまらないもんね――海ばかりと思ってたら痛い目見るよ」
他でもないヴィクトルが、海獣の性質は良く知っている。弾まないトランポリンめいた重力の足場を、おおよその目標を定めて走りながら、ヴィクトルは空中を泳ぐ空シャチたちを無数に召喚し、内半数を一体へと集約させた。
あとは素早く唱えて足元に氷塊を幾らか浮かべたら、準備は万全だ。
息を殺してまつと、氷塊が不自然に揺れる。そうする間にも感じた海中から何かが競り上がってくる気配に、ヴィクトルは身構えた。そして見極めた一瞬に、尾鰭で足場を叩いて跳ね上がる。
「行くよ!」
巨体のブリーチングは恐ろしくさえあった。だが空シャチたちの力を借りて、滞空することでオルキヌスの突き上げを躱したヴィクトルは反撃の隙を見逃さない。
自らは大きく波打つ重力場に降り立ち、まずは数いるソラシャチたちをオルキヌスへけしかける。空シャチはオルキヌスにとっては小虫程度だろうが、その小虫にも群れで纏わりつかれるのは存外に厄介なのだ。
――!!!!!
無数の牙に晒されたオルキヌスが、音にならない聲で苦痛を叫べばもう一押し。
「キミは額を狙ってね」
残しておいたとっておきの空シャチへ求めたのは、酷く傷つき爛れたオルキヌスの眉間へ攻撃。
これまでにも狙われただろうそこへ、ヴィクトルは特別手痛い一撃を食らわせる。
数から一へ。集約しただけ強力になった空シャチの体当たりからの牙に、オルキヌスは激しく身悶えながら深海を目指す――が、負った深手のせいで元のように潜れもしなければ、泳ぐこともできず、後は徐々に弱っていくだけなのをヴィクトルは確信していた。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
あら、海を固めるでなく空飛ぶでもないナンて面白いねぇ
トンと一蹴り、【彩月】で喚び出した焔を引き連れ
誘惑する――例えば生き餌のように、不規則に駆ける
ふふ、この海と姫様に似合いの綺麗な月を咲かせようじゃナイの
敵が寄って来たなら
囲い込む焔が照らす海中に玻璃の壁作り
他の生物が寄って来ないようにしマショ
モチロン海中の猟兵を邪魔しないようにネ
2回攻撃で己の周囲から敵へも焔向け
焔と玻璃を派手に煌めかせ、敵へ刺していくわ
行動が狭まって動きも見切りやすくなるでしょうから
反撃はしっかり避けオーラ防御で弾いて
カウンター狙い今度は敵本体を照らすわね
深く深く玻璃を刺し込んだら傷口を抉って生命力を頂戴しましょう
●狩猟祭
トンと踏み出した足元の不思議な感触に、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は「ふふ」と鼻を鳴らす。
弾まないトランポリン、或いは固めた綿のような地面だ。見た目は海面のままで、視認できる地面らしきものはないけれど。
「海を固めるでなく、空飛ぶでもないナンて面白いのねぇ」
小石を蹴飛ばす仕草で足元を弾いたら、ぱしゃりと水が跳ねた。なかなか出来ない経験に、コノハの心は躍る――が、踊りながらもコノハの薄い青の双眸には狩人の計算高さが滲む。
「照らしてアゲル」
事実、悪戯めかして唱えれば、月白の焔がコノハの周囲に幾つも浮いた。それを引き連れ不規則に駆けると、あっという間にコノハは漁火を伴う生餌と化す。
「勿論、食べられてアゲルつもりはないけどネ。この海と姫様に似合いの綺麗な月を咲かせようじゃナイの」
オルキヌスに従う海獣たちは既に少なくない数が猟兵らによって狩られている。同胞が餌食になったにも関わらず罠にほいほいかかるのは、コノハの一睨みで霧散してしまうような輩か、極限まで餓えた大物のいずれか。
「……フーン?」
じぐざぐに、渦巻くように、全くの気紛れめかして駆けつつ、コノハはひとつ、またひとつと焔を海面付近に寄せて置く。
するとかそけき光に照らされた海は、瞬く間に玻璃の結晶へと転じる。
それに迂闊に触れた海獣は、命を吸われてカラカラに干上がった。
「おバカさんネ」
本能的に異変を察して寄ってこない、そこらの魚たちの方がよっぽど賢いとコノハは思う。
空腹を満たす以上に襲おうとするから、狩られるのだ。
過ぎた欲が冬汰されがちなのは、自然界の法則。だからこそ、飢えた獣は恐ろしい。
「来たわネ」
全く意味を持たないようで、毒を浸透させるかの如くじわりじわりと狭めていた『猟場』。そこに大物がかかった気配に、コノハはうっそりとほくそ笑む。
海中から競り上がってくるプレッシャーに、恐怖ではない何かにコノハの背筋がぞくりと震えた。
意識を一点に注ぐ。少しでも浮上速度を削げるよう、複数の焔を同時に繰って広範囲に玻璃の結晶を展開させる。
そしてオーラの護りも纏った直後――。
「そうこなくっちゃネ!」
大口を開けて飛び出して来たオルキヌスの、面積を活かした体当たりをコノハはぎりぎりで躱すと、ありったけの焔を神とも称された海獣の真上に集中させた。
ひとつひとつは柔らかい光でも、縒り合わせれば鮮烈な輝きとなる。それに照らされるのだ、仕上がる玻璃の結晶はどんな槍より鋭く、オルキヌスに深々と突き刺さった。
『!!、―――……』
抜けない棘に、オルキヌスがサイレンのような鳴き声を上げる。
響きに含まれるのは、ありったけの苦悶。だが最後の耀きほど命は美味なもの。
「ごちそうさまデシタ」
走り回った疲労を補う甘露を啜り上げ、コノハはご機嫌に沈みゆく海獣に背中を向けた。
大成功
🔵🔵🔵
アリエ・イヴ
★
アドリブ◎
船の揺れも心地いいもんだが
それより直に波を感じられる
機嫌よく喉をならしたら
先ずは覇気を纏った斬撃を海中に向かって飛ばす
さて、お前と海と女神の祝福≪俺の幸運≫
どっちが上か
その行方がどうでも
挑発にはなっただろう
もし海中から襲ってくるのなら
観察するのは波の動き
その巨体が起こす波を見て
勘で立つべき場所を決める
ふっ飛ばされないように
アハ・ガドールの鎖を伸ばし
コイツの体に碇を繋ごう
会いたかったぜハニー?
そのでかい図体が再び海に沈む前に
しっかり思いを伝えねえとなぁッ!
狙いは頭
力を失った単眼のド真ん中
覇気を限界以上に込めた一撃を
俺の女神とは違うが
お前も海の神だってんなら
ちゃんとこの手で送ってやるよ
●海の覇者
海はそこに住まう生き物だけの世界ではない――ともすれば尊大な考え方だが、船を駆り、海を縄張りとするアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は、そう豪語することをおそらく躊躇いやしないだろう。
「悪くないな」
荒波を越えて往く船の揺れも心地よいが、間近に波を感じられる経験にアリエは機嫌よく喉を鳴らす。
だが重力の足場という稀有なものとの遭遇をアリエが楽しんでいたのは、そこまでだ。
「さて」
肩に羽織った海映えする赤いコートを海風に遊ばせた刹那、アリエの笑みが人好きのする無邪気な青年のものから、覇者のそれへと変貌を遂げる。
「お前と、俺の幸運。どっちが上か試そうじゃないか」
片や神とも称されたもの。しかしアリエは海と女神の祝福を受けている。
アリエがアリエで在る限り約束された豪運は、気紛れで与えられたものではなく、アリエ自身が引き寄せたギフト。
その自負を胸に、アリエはカトラスを海中目掛けて振り下ろす。
纏わせた覇気に海が割れ、アリエの足元も大きく波打つ。しかし慣れた揺れにアリエは微動だにせず、深海の闇さえ見透かそうと、目覚めたての太陽によく似た色の眼を瞠る。
(さあ、どう出る?)
期待に、心臓が大きく脈打つ。
叩きつけた覇気は、神をも畏れぬ挑戦状だ。果たしてオルキヌスは『釣れる』だろうか?
「――ふ」
過った疑問を、アリエは鼻で笑い飛ばす。
釣れぬはずがないのだ。何故なら、此処に立つのは他でもない『アリエ・イヴ』だ。如何な強者だろうと、看過は許されない。
「さあ、来いよ」
不自然な凪を眼下に見止め、アリエは得物をカトラスからバトルアンカーに持ち変え身構えた。
自然では有り得ぬ動きで海面が盛り上がる。吹く風の匂いが変わった。そうして見定めた一瞬に、アリエは鎖に繋がれた碇を放つ。
伸縮自在の鎖越しに、碇が深く肉に沈んだ手ごたえを感じるのと、オルキヌスが海上に跳ね上がるのがほぼ同時。
「会いたかったぜ、ハニー?」
二度と海へ逃れられないよう、アリエは鎖を渾身の力で引き絞った。
傍目には力比べを仕掛けるような相手ではないが、アリエには物理と現実を超越するだけの海の女神の祝福がある。
「お前は俺の女神とは違うが」
そしてその祝福に見合うだけの男である事を示すよう、アリエは限界をも超えるありったけの覇気を一点へと集約し、練り上げた。
狙うのは、他の猟兵たちも攻撃をしかけたろう痕がまざまざと残る眉間の単眼。
「しっかり思いを伝えねぇとなぁッ!」
オルキヌスはアリエの女神とは異なるが、それでも海神の一柱。ならば全身全霊を賭すのが、海に生きるものの礼儀であり流儀。
――ちゃんとこの手で送ってやるよ。
命が削れる直前までため込んだ力を、アリエは一点目掛けて撃ち放つ。
海が巨大な矛に穿たれたように轟き、見上げる高さの波紋が起きる。
それら全てが凪いだ後には、二度と深海へとは帰り往けぬオルキヌスが、骸の海へ還り逝く景色を見守るとある海賊団の船長の姿があった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年02月13日
宿敵
『森羅冠す『オルキヌス』』
を撃破!
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