羅針盤戦争〜Time Limit
深々と霧は揺蕩う。樹々生い茂り、苔生す森の奥深くで。
そこは神聖なるとして、島に生きる者にとっては足踏み入れるを躊躇う島の中央。
気紛れに吹き抜ける風へのみ霧は揺れ、生い茂る植物はその内へ抱かれて眠るように。
静謐なる空気こそが、その場を支配していた。
――かつては、だが。
今は違う。
響くは静謐を破る破壊音。
揺蕩うだけであった霧は追い立てられるように落ち着きなくと揺れ動く。
「ああ、どいつもこいつも気に入らねぇ。ゆらゆらゆらゆらと、気に入らねえ」
霧がかき混ぜられ、樹々の一つが砕け散る。
それを為したは霧の向こうの巨なる影。
身の丈7mにもなろうというその影は、男は、ザンギャバス大帝と呼ばれる存在は、目に付くすべてを破壊せんと彷徨い歩く。
ゆらゆらと揺れる霧も、生い茂る樹々も、苔生す巨岩も、それが何とも分からぬままに、物の区別もつかぬままに、すべて、すべて、すべて。
その歩みは止まるを知らず、いずれは島の全てをすら平らげるであろうことは想像に難くなかった。
「ということでぇ、皆さんにお願いですよぅ~」
羅針盤戦争の真っ只中。東奔西走とグリートオーシャンを猟兵達が駆け回る時の最中、ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)の間延びした声が響いた。
「今回のお願いはですねぇ、『鮫牙』ザンギャバス大帝の足止めですぅ」
ハーバニーの告げたその名は、七大海嘯に連なる者の名前。
本来であれば他の七大海嘯同様、己の領地とも言える島で猟兵達を待ち受けているであろう筈が、何の因果かとある島――常に霧の揺蕩う島、その中心部に飛来してくるのだと言う。
ならば、これはザンギャバスを討ち取る機会になり得るのではないか。と、そう考える猟兵とて居たかもしれない。
だが、ハーバニーは討伐の依頼ではなく、足止めを依頼したいと語るのである。
「ザンギャバスはですねぇ、どのような絡繰りかは今のところ不明なのですがぁ、無敵なのですよぅ」
無敵。如何なる攻撃をもってしても、その身体に痛打を刻むことは出来ぬ。
それが足止めを目的とした依頼の意味。
しかし、無敵であるのならば足止めするだけでは意味がないのではないだろうか。いいや、意味はあるのだ。
「と、言ってもですねぇ、彼の無敵は本来の意味での無敵とはちょっと違うようですよぅ」
攻撃が通じぬはその通りであるが、戦いが長引けば長引くほどに飢餓がザンギャバスを襲い、戦闘を困難とさせるのである。
他にも戦闘による心身の損壊はなくとも、打撃による衝撃で吹き飛ばすなどは可能な様子。
そして、なにより――。
「何故だかは知りませんがぁ、ザンギャバスは衝動的にしか行動が出来ないようなのですよぅ」
複雑な思考をザンギャバスはすることが出来ない。目に付くモノ全てにその暴威を向ける以外には。
つまり、それこそがかの者の欠点にして、打開への糸口。ザンギャバスにはない猟兵達の知恵を駆使し、それをこじ開けるのみだ。
「島に揺蕩う霧もぉ、使い方次第では皆さんの味方となってくれることかと思いますよぅ」
誰彼と問わずに視界を阻む霧も、使いようによっては相手の目のみを欺けるかもしれない。
如何に戦うかは、猟兵へと託されたのだ。
「それでは、私からのご案内はここまで。これより先は皆さんの手で」
虚空に差し込む銀の鍵。捻り、開錠の音が響けば、そこから先は別世界。
時間との戦いが始まるのだ。
ゆうそう
オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
ゆうそうと申します。
今回の依頼は如何に敵を足止めできるかになっています。
プレイングボーナス……島の装備やユーベルコードを駆使し、ザンギャバスを消耗させる(ザンギャバスはパンチや蛇・獅子・山羊・竜の部位を作っての攻撃をします)。
霧に乗じて、もしくは真っ向から、皆さんの力で無敵と言われるザンギャバスを撤退に追い込んで下さい。
それでは、皆さんのプレイング・活躍を心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『ザンギャバスに立ち向かえ!』
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POW : 全力の攻撃をぶつけ、敵の注意を引き付けて侵攻を食い止める
SPD : 防御と回避に徹し、敵に攻撃させ続けて疲弊を誘う
WIZ : 策を巡らせ、地形や物資を利用した罠に敵を誘い込む
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ビードット・ワイワイ
求められるなら幾らでも消耗させよう
手段はさほどあらぬがやれるならばやるのが猟兵だ
UCにて小型の自身を生み出す
霧に加えアウトレンジキャンセラーの煙幕を張れば最早捉えること叶わず
我が機械眼はあらゆる環境を見通す。第六感で見切り回避し
ペイルライダーで毒を生成
体内に流し込み消耗させる
小型機に基本攻撃させ我は離れしところより生命力吸収する誘導弾を放ちて援護射撃
例え無敵であろうともそれに見合う知能が無ければ宝の持ち腐れよ
大人しくここより去るがよい
出会うこと幾度か。刃の交え合うこと幾度か。
己は彼を知りはしたが、さて、彼は己を覚えているであろうか。
「いや、そも区別すらつかんであろうな」
霧の海を泳ぐ機影こそはビードット・ワイワイ(絶対唯一メカモササウルス・f02622)。
形態数多とあれども、その中でもモササウルスを模した姿は一度目にすれば忘れられぬであろうフォルム。それでも、ザンギャバスの思考回路はそれを刻むこともすまい。
「……なんであれ、求められるなら幾らでも消耗させよう」
それがこの世界の、ひいては遍く世界の幸福に繋がるのであれば。その先へと、繋がるのであれば。
「手段はさほどあらぬが、やれるならばやるのが猟兵だ」
だから、そこに恐怖はない。徒労はない。倒せぬ敵を幾度も相手にしてなお、何もない。
――霧の向こうに、巨影が見えた。
「深く、静かに、潜航せよ」
此は水の中に非ず。されど、潜り潜むは同じこと。
ビードットのその身より放たれた弾丸が、霧の海に幾筋もの軌跡を描きだしていた。
「あぁ!? そこにも居やがんのかぁ!?」
それは間違いなくと巨影――ザンギャバスの身の内に潜り込んだをビードットの眼は観測する。
霧があろうと、何があろうと、その三眼が見間違う筈はない。
そして――。
「そっちかぁ!」
何の痛痒も感じさせずに動いたザンギャバスの片腕が泡立ち、膨らみ、竜の顎を形作るのも。
その腕の動きは当てずっぽうで、ビードットの姿を捉えているようには決して見えはしない。だが、何をするかは分からぬでも、それが攻撃の気配を宿すと理解して棒立ちする程にビードットは耄碌していよう筈もなし。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。
その下手な鉄砲に当たってやる気など、ビードットには毛頭ないのだから。
――樹々は穿たれ、岩には刻まれ、地が抉られる。
「随分と、見覚えのある弾丸だ」
竜の顎より放たれたは炎に非ず。ビードットが放った筈の弾丸。
体内に潜り込んだかの弾丸を、如何な機構かザンギャバスは己が弾丸と利用して吐き出してきたのである。
それを霧の海泳ぎ、既に離脱していたビードットは遠目に認識していた。
「はは、ははははっ! 粉微塵、粉微塵にしてやったぞ!」
「それは我ではないのだがなぁ」
言っても理解は出来ぬだろう。だからこそのザンギャバスであるが故に。
ならば、訂正の言葉代わりとその隙だらけの身をまた狙わせてもらうのみ。
「――潜むのはもう終わりだ。破滅を味わうがよい」
霧の中、蠢く数は一万弱。
それは弾丸発射に先んじて放っていた無数の小型機――小さきビードット達が姿。無数の己が姿。
肉に群がるピラニアか。はたまた、獲物に群がる虫の大群か。
無数のビードット達がザンギャバスに喰らい付き、身の内に潜り込まんと。
「うお、うおぉぉぉぉ!? 目障りなんだよぉ!」
纏わりつく無数を潰さんと竜の顎が、羊の蹄が、蛇の尾が遮二無二に振るわれる。
だが、一撃一撃が如何に強力と言えども、思考も伴わずに振るうだけでは一万弱の小さきを殲滅しきるにも時間を要するは間違いない。
「例え無敵であろうとも、それに見合う知能がなければ宝の持ち腐れよ」
それを遠目から――かの暴走に巻き込まれぬ位置から眺め見て、ビードットは独り言ちる。
暴れれば暴れる程に、ザンギャバスはその力を消耗することだろう。
暴れれば暴れる程に、ザンギャバスは小さきビードット達に秘められた毒に侵されていくことだろう。
かの者に思考する力があれば、その行為が如何に己が首を絞める行為か理解できた筈なのに。
「大人しくここより去るがよい」
全てがビードットの思考/演算の手の内。
ビードットが零した通りの未来が引き寄せられるまで、まだもう暫く肉塊は暴れ続けることだろう。
大成功
🔵🔵🔵
八津崎・くくり
視界の悪さに乗じさせてもらおう
一発斬り付けて姿を見せたら、すぐ霧と木々を活かして隠れるよ
そうしたらUDC…口のついた化物をできるだけ伸ばして、私から離れた位置から敵を挑発
「私はここだよ」
「わからないのかい?」
「さあ、私がどこに居るか、わかるかな?」
声の元をぶん殴られても私はそこにいない、というのを繰り返せたら
紫色の謎触手を放とうか
喰らい付き、絡みつけ
触手は勝手に戦わせて、私は自分のUDCで中距離から敵の足元を狙うよ
とはいえ、『歯が立たない』とはこのことかな
捕縛とまではいかないだろうけど、体勢崩して足止めくらいはしたい
一発でももらったらマズそうだからひやひやするね
ああ、そろそろお腹空かないかい?
暴れて蠢く肉の塊。
揺れて開くは霧の幕。
「幕が開けば演者の出番だよ」
さあ、八津崎・くくり(虫食む心音・f13839)が一刀、とくと御覧じろ。
霧に乗じて近付き、閃いた刃は冗談のように巨大なテーブルナイフ。お前を喰らうと言わんばかりのそれは、くくりの、そこに宿るUDCの意志そのもの。
刃が肉塊へと潜り込んだ感触に、お腹がくぅと一つ鳴る。
刃が体内へと潜り込んだ感触に、肉塊がぐぅと一つ鳴く。
「随分と食いでがありそうだ」
「なんだぁ、お前もミンチになりてぇのかぁ!」
「そいつは御免だね。私のお腹をいっぱいにはしたいけれど、君のお腹をいっぱいにしたい訳でないんだよ」
切り裂き、切り分け、皿へと並べん。
そのように振るったテーブルナイフではあったけれど、肉塊へと潜り込んだ端から傷の癒えるを見れば、これが無敵か。と納得もせざるを得まい。
そして、それはそれだけではなかった。
塞がった傷痕がぶくりと泡立ち、膨らめば、そこから顔を覗かせるは異形の身体。
竜の顎が噛砕くを探してガチリと音鳴らし、羊の蹄が踏み潰すを探して振り回されるのだ。
「これはやっぱり逃げの一手だね」
「待てぇ! 逃がすかぁ!」
「そう言われて待つも逃げるもしなくなる者が、古今東西居たと思うかい?」
脱兎を決め込めば一目散。再びと閉じた霧の幕の向こうに、くくりは再びと姿を隠す。
苛立つサンギャバスの声と暴れる音だけが、彼女の背中に追いつき、追い越していった。
「さて、ここからはじっくりと調理するとしよう」
姿は見せた。敵意も与えた。ならば、如何に思考能力に乏しいとは言っても、否、乏しいからこそ、衝動的にザンギャバスはくくりと追うことだろう。
霧の中、ずるりとくくりの髪が蠢き伸びる。牙生え揃う口を生じさせて。
どこまでも伸びるそれを差し向けるは、暴れ続ける肉塊の下。するりするりと髪伸ばし、暴虐の下へと。
「随分と荒れているね」
手当たり次第に力を振るった結果なのだろう。樹々はへし折れ、巌は砕け、苔は掘り返されて土が見えていた。
「声! そこかぁ!」
「ああ、ああ、惜しいね。私はここだよ」
霧の向こうから響いたくくりの――UDCの声に反応し、ザンギャバスがその異能を振るうが手応えなどある筈もない。
ただ霧が揺らめいて、その向こうに合った影――巌が無残に砕け散るのみ。
「ほらほら、しっかり狙って。でないと景観が台無しだ。それとも……私の位置がわからないのかい?」
「なんだとぉぉぉ!?」
嘲るように挑発すれば、それだけで容易くザンギャバスは乗ってくる。そして繰り返すのだ。無為なる空振りを。
「さあ、私がどこに居るか、わかるかな?」
分かる筈もない。
苛立ちだけがザンギャバスの思考を焼いていく。
分からない。わからない。ワカラナイ! どうして、声は聞こえてくるのに! と、纏まり切らない疑問だけが浮かんでは消え、浮かんでは消え。
「その疑問、最もだね。だから、こんなにも育ったよ」
「あぁ?」
「喰らい付き、絡みつけ」
思考に絡みついて離れぬ疑問。それがそのまま形を得たかのように、いつの間にかとザンギャバスの四肢に絡みついた紫色の触手の姿。
ザンギャバスの身を戒め、肉を食み、その身を滅ぼさんと。
「ああ、糞! 鬱陶しい!」
引き剥がせども、引き剥がせども、触手がうねり、蛸の如くと絡みつく。
ザンギャバスに触手の核とでもいえる部位を見抜く思考力があれば脱することも出来ただろうけれど、そんなものはない。
だから、千日手。
纏わり付かれる不快感に触手剥がすことだけが彼の思考を占め、引き剥がしては絡まれるの無為な空回り。
「ああ、そろそろお腹空かないかい?」
わたしは、ちょっとおなかすいた。
紳士に混じった、鈴の音。
それもすぐに立ち消えて、代わりとばかりに暴れる肉塊に忍び寄った髪の牙ががぷり。
でも――。
「歯が立たないとはこのことかな」
食い込む感触はあれども、食い千切るには至らない。テーブルナイフを振るった時と同じ。
あれだけの肉塊だ、食えれば随分と腹も満たせたであろうに。でも、食えねばディスプレイに飾られたの食品サンプルと一緒。
食欲を刺激されるだけで実際には食えぬというお預けに、くぅくぅと小さく鳴く虫の音。
くくりはそれを聞きながら僅かと恨めし気に肉塊を見つめ、時間制限の時が来たるを待つばかり。
大成功
🔵🔵🔵
神代・セシル
体は無敵、しかし頭がちょっと悪い…ですか?想像できません。
霧がありますので、視力を発揮します。
UCを使用。近接戦、遠距離魔法戦交代で攻撃します。
任務は彼を倒す事ではないため、楽な攻撃方法を使用し、時間稼ぎます。
一つの場所で攻撃した後、彼を接近し剣で打つ。後はもう一つの場所に移動します。繰り返し。
【見切り】で彼の攻撃を回避してみます。回避しにくい場合はシールドを展開し防御します。
彼が飢餓になるまで続いていきます。
絡み・アドリブ歓迎
霧の幕は視界を塞ぐ。
だが――。
「目、心の窓よ……」
視えぬのなら、視えるようにすればよい。
瞳に魔力を通し、視えざるを視んとする。
その程度、神代・セシル(夜を日に継ぐ・f28562)の技術をもってすれば容易きこと。
紅の双眸が輝けば、その視界の霧が晴れていく。霧が消えた訳ではない。それは纏わりつく水気が変わらぬから分かる。ただ、セシルの視界に霧が映らなくなっただけ。だが、それでもう十分。
視界の先で荒れた森の光景が――そこに吹き荒れる暴威をセシルは見た。
「あれがそうですか」
巨なる肉塊。身の丈7mにも及ぶそれは、見上げねばならぬ程の。
その太き腕が振るわれれば容易くと樹々は折れ、巌は砕ける。小柄なセシルがもしも直撃を貰えば、その結果など想像するまでもないことであろう。
だがしかし、だ。
「任務は彼を倒す事ではない。時間を稼ぎます」
それで二の足を踏むセシルではない。
――虚空より引き抜く輝きは二刀。
淡く輝くそれを握り、大地踏みしめる足に力を籠める。
さくりと苔の柔らかな感触が素足に反発を返し――。
「行きます」
苔の儚い抵抗をその下の土ごと抉り飛ばす踏みこみを持って、彼我の距離を埋めた。
「? 何か見えた――」
様な。と、ザンギャバスが言葉にするより早く、セシルはその懐に潜り込む。
ザンギャバスはその巨体であるが故に、セシルのような小柄が潜り込めばそこは死角そのもの。
そもそもとしてその死角に潜り込むが至難ではあろうけれど、かの者の視野を塞ぐ霧がセシルの助けとなっていた。
煌きの軌跡が肉塊の内を通り、断ち抜ける。
「なんだァ!? どこにいやがる!」
答えてやる程に親切ではない。
断ち抜けた端から傷の塞がるを目にしてもなお、刃は止まらぬ。
一太刀で塞がるならば二太刀、三太刀、数留まらず。切り裂く部位も方向も、千変万化と。
だが、それだけの刃を叩き込めば、如何な思考力に乏しいザンギャバスと言えども懐潜り込まれたと理解もしよう。
セシルの優れた瞳が、ザンギャバスの身体の波打つを視る。
――鉄槌が、大地を揺らした。
しかし、そこに無残な血飛沫はなく、あるのはただ罅割れた大地のみ。
「あぁ? なんかいた筈なんだがなぁ」
「そうですね。その通りです、私が居ました」
「!?」
声の聞こえ来た方角へと反射的にザンギャバスの顔が向く。
そこに見えたは――。
ふわり、ふわり、ふわり。
――浮かぶ泡の色とりどり。
それは鉄槌の落ちるを見切り、跳び退ったセシルからの置き土産。
だがしかし、色とりどりの美しさに見惚れてはいけない。泡の儚さに見惚れてはいけない。
「これがなんだってんだァ!?」
「迂闊に触れるは短慮というものです」
その泡はただの儚き泡ではなく、雷を、炎を、数多の属性を宿した泡であればこそ。
少し考えれば何の意味もなく戦いの最中で泡を生じさせる筈もないと分かるもの。だけれど、それが出来ぬからこそのザンギャバス。
泡に触れる度、内包された力の影響――電撃のそれで、筋肉を強制的に収縮させられていた。
「肉を纏い、筋を使って動いていているのなら、これは特に効くでしょう」
「うがぁっ!」
触れてはビクリ。触れてはビクリ。
懲りずに泡の境界線を越えようと繰り返し突撃する様は、セシルに一つの理解を齎す。
「成程。これが身体は無敵で、しかし頭がちょっと悪い……ということなのですね」
セシルからすればそのような存在は想像の埒外であったけれど、こうして目の前にすれば理解も出来ようというものであったのだ。
そして、このような状況に持ち込めたのであれば、あとはそれを続けるだけ。あくまで、かの敵が飢餓に陥る程に消耗させるが目的であるのだから。
泡で消耗を強いながら距離を取り、隙を見ては斬りつけて、幾度も幾度もとそれを繰り返したその果てに、ばさりと獣が空へと逃げ行くをセシルは遂に見るのであった。
成功
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