●
喉元に刃を突きつけられた。
数日前の状況がそう譬えられたのなら、では今の状況は何と呼ぶべきか。その刃を半ばまで抉り込まれた、だろうか。
「忙しない話だ」
たった数日の間に、随分と戦局が動いたものだ。“喉元”の上、カルロス・グリードは思考する。麗しの姫君が恐れし『グリモア』の力、それを我らは正しく恐れていなかったという事か。
認識を改める必要がある。船団の王はそう呟いて、しかしその姿に焦りはない。互いに刃を突き立て合うのが戦争だ。猟兵共がこの王笏島へとそうしたように、我らも渦潮へと刃を届かせれば良いだけの事。
そう、互いに。
未来を予知する力が彼奴らの手にあるならば、我もまた相応しい力を以て応じるのみ。
「来るが良い、猟兵共」
第四の王は白き鎧を身に纏い、手ずから刃を折るべく居城にて待つ。
●
「白騎士って覚えてます?」
昔の資料をひっくり返しながら、カルパ・メルカが問うた。
白騎士ディアブロ。今からちょうど二年前の戦争で確認された敵幹部、黒騎士アンヘルと並ぶ銀河帝国の二大巨頭である。猟兵達を大いに苦しめた類稀なる強敵だ。
勿論、あの時は大変だったよね、なんて思い出話に花を咲かせる為にわざわざグリモアベースまで人を呼び付けた訳ではない。あくまで今日の本題は最新の戦争の話だ。即ち、白騎士の情報がこの羅針盤戦争に関係してくるという事である。そして、この戦争でそういう特性を持つ手合いは『王笏』カルロス・グリードを措いて他にない。
つまり。
「『四の王笏』は白騎士と同じ『未来を操るユーベルコード』を持っていて」
言いつつ示された戦場は地図の東南東、四の王笏島。王笏の拠点たる八つの島の一つ。このグリードオーシャンの戦争を勝って終わらせる為には、絶対に避けて通れない場所。
「それをどうにか皆さんに叩き伏せて頂こう、と。そういうお願いになります」
さて、続いては奴さんの仔細な戦力情報を。そう言って広げられた資料には何だか長々と書き連ねてあるが、要約すれば話は非常にシンプルだ。要点は二つ。
一つ。敵は他の王笏や七大海嘯と同じく、猟兵達へと先制攻撃をかましてくる。
一つ。白騎士の未来予測パワーにより、その攻撃の威力と精度がめっちゃ上がる。
以上である。
七大海嘯の強さは既に知られている通り。未来予測を覆す策がなければ苦戦は必至だ。無論それは、策があれば苦戦しない、などという意味ではない。そのような生半な心得で太刀打ちできるものではない。楽観は禁物。
とは言え。
「無駄に悲観し過ぎてもアレですので。リラックスして参りませう」
かつて一度は乗り越えた力だ。そして猟兵は、その時よりも多くの糧を得た。強敵には違いないが『鮫牙』のように無敵ではなく、現状でも打つ手はある。
「そうそう、ここで上手く力を削げれば、支配下の島を解放できるかもって話です」
頼りにしてますね、グリモア猟兵は緩く笑って。やがて、戦場への道が拓く。
井深ロド
佳境っぽい雰囲気ですが未だ浅瀬だそうです。井深と申します。
途中で息切れしないペースでお付き合い下さい。
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
また、しない限り必ず🔵🔴🔴苦戦か🔴🔴🔴失敗になる。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『四の王笏』カルロス・グリード』
|
POW : 収束する運命の斬光
【対象の未来位置へ放たれる貫通レーザー】が命中した対象を切断する。
SPD : ディアブロ・オーバーブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【纏う白騎士の鎧による未来予測】から【判明した敵の攻撃を回避し接近、光剣の斬撃】を放つ。
WIZ : デストロイマシン零式
戦闘力のない【66機の動画撮影ドローン】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【正確無比な未来予測シミュレーション】によって武器や防具がパワーアップする。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
片桐・公明
【POW】
武器を仕舞い、両手を握りしめた状態で敵と相対する
「あまり遠くを見ていると、足元をすくわれるわよ?」
敵に接近する
体を大きく左右に振りレーザーの照準を合わせにくくするが
「まぁ、関係ないでしょう。」
当然のように飛んでくるレーザーは両手に仕込んでおいた砂を投げつけることで拡散させ防御する
その隙に最短距離で敵に接敵する
「レーザーなんて所詮光よ。大気圏内だと簡単に無効にできるわ。」
「確定した未来なんて存在しないわ。私も似たようなことできるからよくわかるもの」
敵に接触したらUCによって連撃を放つ
(絡み、アドリブ歓迎です)
青い風が吹き抜ける。
いや、それは風ではない。風は人の形をしていない。
では何か? 決まっている。埒外の戦場で動くものとは、骸の海から染み出した過去の残滓と、それを狩る兵との二つのみ。
正体は、後者。猟兵、片桐・公明が風の如く敵陣を駆けた。
足取りは軽い。何しろ今の彼女は無手である。愛用の二丁拳銃を、妖刀を、重い武器を手放して拳だけを握り締めた今その歩みを縛るものは何もない。知勇双全の才媛が右に左に藍の髪を揺らしてみれば、並のコンキスタドールは瞬く間にその姿を見失う事だろう。
だが、此度の敵もまた並ではない。
武術と舞踏とが合わさった幻惑の歩法を前に、しかし『王笏』の銃口は過たずその姿を捉えた。いや、捉えているのは今の姿ではなく未来の姿か。僅かに先の瞬間、しかし確実に訪れる瞬間へと、全てを見通しているとばかりに向けられる視線。
「あまり遠くを見ていると、足下を掬われるわよ?」
多少は照準を逸らせるかと思ったが、どうやら無駄だ。分かってはいたが楽な相手ではない。改めて認識して、だが怖じる事なく片桐は告げた。紅い瞳がカルロス・グリードの姿を真っ直ぐに見据える。
「試してみるが良い、猟兵よ」
言葉だけが返った。不遜の王は、侵入者を見てはいない。
光が奔った。
銀河帝国の超兵器が異郷の地で荒れ狂う。未だ原始的な鉛玉が猛威を振るう海の世界において、その苛烈な輝きは神の御業にも等しく思えて。
だが、それは無知故の誤解だ。猟兵もまた外なるもの。手品の種は既に割れている。
片桐が握り締めた掌を開いた。ふわり、中から何かが舞う。武器ではない。そんな大仰な仕掛けは必要ない。仕込んでいたもの、それは砂だ。どこにでもある、ただの砂。
だがこの場においては、そんなただの砂が絶対の盾となる。
「レーザーなんて所詮光よ。大気圏内だと簡単に無効にできるわ」
ばちり、光が爆ぜた。斬光は死の運命へと収束する事なく、獲物の眼前で弾けて散る。
スペースシップワールドにおいて指向性エネルギー兵器が数多く採用されているのは、単に科学技術の面で他の世界に先んじているからという理由だけではない。何より大きな要因、それは主戦場が宇宙にある事だ。光学兵器の地上運用を目指せば、その瞬間、弾道兵器では問題にもならなかった様々なものが新たに壁となって立ち塞がる。雨、雪、霧、煙、粉塵。自然界のあらゆるものに光の刃は容易く阻まれる。
無論、完全に止まる訳ではない。正確には無効ではなく漸減だ。その程度の要因で機能不全に陥る火器を、かの銀河帝国が何の対策もなしに使いはしない。だが、それで充分。一時、僅かにでも脅威が緩まれば、その間隙を娘は容易く掻い潜る。
そして。
「聊か、見積もりが甘いように見えるが」
言葉と同時、光が奔った。
光はどこにでもあるもので簡単に止まる。そう、どこにでもあるものでだ。例に挙げた何れもが、この世界に普遍的に存在するもの。ならば果たして、正確無比を誇る白騎士の未来予測システムにそれらが一度として映らないなどという事があるだろうか。
答えは、否。
そして、カルロスはその未来を見た上でこの手を選んだ。それは即ち、この白光で十全に敵を灼けるという証明に他ならない。
「……ッ!?」
生きたまま肉を焙られる感覚が片桐の全身を突き抜けた。
どこを撃たれた? 痛みに歪む視線が見下ろす先、焼けた切断面は既に繋がっていて、しかし灼ける熱がその内側で確かに暴れている。筋肉か、臓物か、それとも骨か。被害の全貌は見えず、だが吠え猛る激痛が軽傷でない事を教えている。
「――――」
王笏が何かを口にした。きっと、未来がどうのこうのといった戯言だろう。勝ち誇った様子が脳裏を掠めて、予測された未来と同じく、猟兵の身体がゆらりと傾ぐ。そして。
「……言った筈よ。足下を掬われる、と」
傾いて、しかし倒れない。床板を踏み締める音が大きく響いた。紅い眼光が真っ直ぐに七大海嘯を射抜く。至近。格闘の間合い。
確定した未来など存在しない。存在したとして、白騎士が見せるものはそれではない。
故に。ここから先は、未知の領域。
猟兵が舞った。滑らかな、軽やかな、戦場には似つかわしくない流麗な動き。だがそれは、戦場に相応しい威力を以て王を襲った。死に体が生んだものとは思えない衝撃が白鎧を穿ち、黒衣を裂き、それ以上に内へと響く。古流の神秘が肉を斬り、先端の技法が骨を断つ。
王の眼が、初めて侵入者へと向けられた。
だが遅い。王の眼にも、騎士の眼にも、最早その影を捉える未来は映りはしない。
苦戦
🔵🔴🔴
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
白生地?(聞き間違え)
それは是非ともパイ料理の生地にしないと☆
事前に自身に「肉体改造」を施し、光の吸収率を下げて反射率を高める!
いかに貫通レーザーといえどもレーザー……つまり光!
切断・貫通する為には対象が光を吸収する必要があるので反射すれば大丈夫のはず!
「カウンター」「オーラ防御」も応用すれば完璧?
未来予知をされても回避・対応が出来ない範囲で攻撃をすれば問題なし!
レーザーを対処したらUC【膨張せし肉肉しい宇宙】でひたすら巨大化して回避・防御も無意味な程の質量の暴力を御馳走しよう!
ラスボスだし堂々と!
勝利の暁にはアップルパイで「宴会」だ♪
「白生地?」
頓狂な呟きと共に、ピンクの塊は上に乗っかった首をかくりと傾げた。
視線の先にはお目当ての真っ白い姿。確かに白い。間違いなく白い。でも何だか、パイ生地やパン生地のお友達という感じがしない。これは一体全体どういう事だ。もしかして騙されたか?
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェは考える。無論ここに白生地などというものはなく、単に聞き間違えただけなのだが、『四の王笏』カルロス・グリードはツッコミを入れてくれるタイプではなかったので残念ながらこの場で彼女の疑問が氷解する事はない。
ラヴィラヴァはしばし考えて、やがて結論を出した。分からないなら試せば良いのだ。パイ生地になるならそれで良し。ならないなら未知の味が楽しめるという事でそれはそれで大いに良し。うん、何一つ問題ない。
そんな訳で。
「いっただっきまーす☆」
ラスボスが進撃を開始した。お食事タイムである。
賑やかな来客に対して、王はあくまで冷淡に応じた。
ピンクの頭でいかなる思考が展開されているかは読み取れないにしても、ピンクの身体が何であるかは見当が付く。ゲルだ。
であるならば現状の兵装で事足りる。流体の身体を持つブラックタール。結晶の身体を持つクリスタリアン。近しい性質を持つ敵との交戦記録は銀河帝国に数多ある。そして、その全てを乗り越えたが故に帝国は宇宙に君臨したのだ。未来予測が告げる。いかに光を透過、屈折しようとも、それが完全でないならば狩り切れる、と。
銃口が静かに向けられる。
闖入者の動きは回避を捨てたもの。未来を見るまでもなく、命中は必然。
そして。
斬光が空を裂いた。
七大海嘯の目が見開かれた。
それは白騎士の鎧から放たれたものではない。標的の体表で跳ね返ったものだ。多少の反射は想定の内。だがこれは、自らの手から放たれたものと九分九厘まで変わらぬもの。ゲル状の身体が跳ねる度、荒ぶる光が迸り、縦横無尽に天を灼く。
予測はあくまで予測に過ぎない。近しいものと等しいものには広く深い隔たりがある。分かっていた事だ。だが、デストロイマシンが齎す完全に近しい演算がその境界を曖昧にさせた。
王笏が、鎧が、共に正しい未来を求めて修正を開始する。ああ、だが遅い。魔王の肉体に施された改造がいかなるものか、その守りがどれ程のものか。理解するには一手遅い。そしてラスボススライムが繰り出す一手は、コンピュータゲームの序盤で狩られる木っ端スライムの一手などとは格が違う。
「ラスボスだし堂々と!」
ラヴィラヴァが叫んだ。宇宙が溢れる。
それは、世界を支える牡牛。
文献によれば無数の眼、耳、鼻、舌、歯、足を持つとか、その数は四千とか四万とか、そんな風に伝えられている。誇張か、何かの譬えか、誤記か、それとも冗句か。真っ当な見識があれば冷静に斬り捨てるに違いない、ふざけた姿。
だが、ラヴィラヴァが変じたものは確かにそれだった。ぎょろり、無数の眼がカルロスを見遣る。そして。
それが、増えた。
身体が膨らむ。眼が倍に。身体が膨らむ。口が倍に。身体が膨らむ。角が倍に。倍に。倍に。そのまた倍に。世界を支えるにはこの程度では全く足りぬと、大きく大きく牡牛が育つ。敵を呑み込むだけでは生温い、島ごと一緒に包み込まんと宇宙が育つ。
ラスボスが吼えた。
「質量の暴力を御馳走しよう!」
逃げ場はない。
膨張する桃色の宇宙が、未来の全てを覆い尽くす。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
あの戦争を経験したかの世界の騎士の一人として
その鎧の力、見過ごす訳には参りません
この世界の無辜の人々に向ける前に…骸の海に還して頂きます、王よ
未来予測に生半な回避は無意味
飛翔する速度をマルチセンサーでの●情報収集で計測
タイミングを瞬間思考力で●見切り怪力での●防具改造で対光線兵器処理施した大盾の●盾受けで防御
…!
今度はこちらの手番です!
UC使用
再度迫る王の行動操り戦闘行動を見切って回避
何故、捉えられないか
鎧が所得する未来予測に必要な挙動などの情報を制限し誘導しているのです
勿論、少し細工もありますが
(予測演算に●ハッキング破壊工作)
鎧に頼る以上、私を捉える事は敵いませんよ
すれ違い様に剣を一閃
銀河帝国攻略戦を憶えている。
こうして戦場の一区画に赴き戦った、というだけではない。帝国軍にどれ程の大軍勢が存在したか、帝国軍がどのような戦略でそれを運用したか、帝国軍がその力を誰に向けて振るおうとしたか。その全てを記憶している。
それは人伝てに得た知識ではなく、騎士が自らの身を以て経験したものだ。それは彼の記憶領域に深く刻まれて、そしてウォーマシンのメモリーは、時と共にそれを忘れさせるようにはできていない。
「あの戦争を経験した、かの世界の騎士の一人として」
白騎士と同じ力。それは白騎士の再来を意味するものではない。力とは手段だ。目的に応じて幾らでもその在り方を変える。かの帝国を上回る悪意を以て振るわれたなら、あの戦争以上の惨禍も起こり得るだろう。
では、彼らはどうか。彼らコンキスタドールは平和の使徒たり得るか?
――是、とは言い難い。
「その鎧の力、見過ごす訳には参りません」
故に、騎士は王の眼前に立つ。
「……では何とする、異境の騎士よ」
『四の王笏』カルロス・グリードが問い。
「この世界の無辜の人々に向ける前に……骸の海に還して頂きます、王よ」
機械騎士トリテレイア・ゼロナインが答えた。
そして。
「そうか」
次の声は、至近から。
何が起きた? などと考えるまでもない。簡単だ。ただ、近付いた。それだけである。白騎士の性能は宙間戦闘も想定したもの。その速力は目で追えぬどころの話ではない。音を置き去りにする程度の芸当など児戯にも等しく、最大加速は第一宇宙速度にも届こうかという領域にまで踏み込んだ。周辺の島々とは隔絶した面積を誇る七大海嘯の拠点であるが、最早この上のどこに立とうとも王にとっては目と鼻の先に相違ない。
「……!」
閃光が散る。
機械騎士が辛うじて構えた盾の表面が、叩き付けられた光剣の出力に圧されて爆ぜた。常人には持ち上げる事も敵わぬ大質量は対光学兵器用の特殊加工諸共に貫かれて、壁盾は風通しの良い姿へと瞬く間に形を変える。
トリテレイアが手を打たんとすれば、その瞬間、いやそれ以前に王の姿が掻き消えた。反撃する未来を観測したか、迷いのない離脱。それも当然。この一時の接触で充分な爪痕を残せると知れた以上、王に無理を押す理由はなくなった。
「実現できそうかね?」
鷹揚に、天上から第四の王が問うた。
「今度は、こちらの手番です!」
地を這う騎士は力強く返す。言葉に虚勢の色はない。形勢は大きく傾いたが、未だ結末は決まっていない。そう告げる。
「やってみるが良い」
騎士は盾の残り香を掲げた。王が再び加速する。
雷光が駆け抜けた。
――そう。駆けて、抜けた。
道の半ばで生じる筈の減速はなく、神速の強襲は空だけを切って再び天に還る。第二撃は、不発。
目で追えぬ、それは人間の話だ。戦闘機械の目は頭部に二つだけではない。全身の各所に配された複合センサー群は常識外の速度をしかし正確に計測してみせた。追随はならずとも、一瞬の攻防に限れば全霊を注いで尚対応できないものではない。
第三撃も、上に同じ。
「……ほう」
王が短く吐き出した声に、僅かに混じる感嘆の響き。然もあらん。この局面、まぐれと断ずる程に愚かでなければ、見切ったと考える他にない。
「何か仕掛けがあるという事か?」
「未来予測に必要な情報を選別して与え、誘導しているのです」
構わんのかね、と王が続け、少し細工があります、と騎士が返す。なるほど、と、王が微かに笑ったかに見えた。
「試してみよう」
王が四度加速する。デストロイマシンが演算を再開し、今一度勝利の未来を描き出す。
そして。
雷光が奔り、弾けた。
少し、ほんの少しの細工。だが密やかに仕込まれた毒は未来予測の能を確かに蝕んで、僅かに生まれた綻びを歴戦の騎士は見逃さない。
「鎧に頼る以上、私を捉える事は敵いませんよ」
擦れ違い様、一閃。王の光剣は三度宙を裂き、騎士の儀礼剣が白鎧に喰い込んだ。切れ味を捨てた質量武器はしかし相対速度の後押しを受けて、いかなる名刀よりも鋭く滑る。秒に満たぬ交錯の中、機械の腕に確かな手応えが残る。外殻の奥の柔肌を刻む感触。
「見事」
趨勢は決した。
短く、称賛を告げて。天上の王が地に落ちる。
成功
🔵🔵🔴
柊・はとり
白騎士の事は噂しか聞いてないが
未来予測出来んならもっと有効に使えよ
殺人事件を未然に防ぐとかな
運命の斬光は普通に避ける動きを取る
敵は心まで読める訳じゃない
俺の弱点までは判らない筈だ
頭にさえ当たらなきゃむしろ好都合
万一頭が狙いなら喰らう直前で【見切り】
【第六感/瞬間思考力】を働かせ他の部位に当てる
悪いが心臓貫かれた位じゃ死ねないんでね
屍人の【継戦能力】を活かし【カウンター】発動
切断された部位付近を代償にUC【第一の殺人】を放つ
全力の【氷属性攻撃/マヒ攻撃】で敵を凍結させ
【切り込み】からの【なぎ払い】で攻撃
こっちが【切断】してやる
待ってるだけの探偵はもうやめたんだよ
事件が起きる未来からぶっ壊してやる
白騎士の事は、よく知らない。
噂には聞いた。過去の資料を漁れば相応の情報も手に入るだろう。だが、それだけだ。上辺をなぞるだけでは、事件の本質は見えてこない。
きっと、当事者にしか知り得ない様々な事情があるのだろう。だからそれについて嘴を容れるつもりはない。ただ、
「未来予測出来んならもっと有効に使えよ。殺人事件を未然に防ぐとかな」
そんな言葉が柊・はとりの口を衝いた。
その能があれば。もっと早くに事件を解決できていれば、そも事件が起こらなければ、と、そんな後悔に苛まれずに済むのではないか。
感傷だ。言っても詮無い事だと分かっている。だが、探偵はそう思わずにいられない。
「多世界侵略船団コンキスタドールにそれを言うかね?」
『四の王笏』が返す。
ああ、それも分かっている。同意が得られる筈はない、そんな事は推理するまでもなく分かっている。侵し、壊し、殺し、奪う。それが奴らの本懐なのだと知っている。
「……だろうよ」
あれは殺人事件を起こす側の存在だ。解決する側と相容れる事は絶対にない。
故に、未来をシミュレーションするまでもなくこの衝突は必然。
斬光が瞬いて、新たな事件の幕が上がる。
運命を告げる光が収束した。
未来を見通す一撃は躱す事能わず。視界が認識した輝きに僅かに遅れ、はとりの全身に痛みが走った。出どころを探ってみれば、初撃はどうやら脇腹に。
幸いにして急所ではないが、手心を加えたという訳でもないだろう。ならば命中精度を優先した結果か。首を刎ねる、心臓を貫く、態々そんな大袈裟な事をせずとも、些細な傷で人は死ぬものだ。
しかし、はとりの身体はその程度で死ぬようにはできていない。
痛みを踏み越えて探偵が駆ける。猟奇探偵は現場での事件解決に重きを置いた類型だ。安楽椅子探偵などと違い、些細な傷で止まる貧弱な足は持ち合わせていない。怪我をものともせず距離を詰める。
だが、いかに頑健な肉体であろうとも、閃光の速度を上回るものではない。
重大な傷を与えんと続く第二撃。より正確に、より致命的に、白騎士の電子頭脳が適切な殺し方を導き出す。
光が、急所を貫いた。
未来予測システムの判断に誤りはない。
死に難い敵の対処法は記録されている。広い宇宙にそういう種は幾らでもいる。人工的に造られたウォーマシンのように、思考回路が頭部に存在するとは限らぬもの。不定形の身体を持つブラックタールのように、明確な頭部を有さぬもの。それらを悉く殺してきたのだ。蓄積された情報が告げている。そこを射抜けと。
故に、第二撃は動力部へと注がれた。斬光は過たず心臓を穿ち、そして。
「悪いが、心臓貫かれた位じゃ死ねないんでね」
探偵が嗤った。その推理は、外れだ。
はとりの身体は、その程度で死ぬようにはできていない。
デストロイマシンは三度未来を導き出さんとして、しかし遅い。
第三撃は、空だけを貫いて消えた。ここへ至り初めての不発。猟兵が加速した? 否、そのような未来は見えていない。では何故か。
答えは、推理を待たずして示された。それは冷気だ。荒れ狂う猛吹雪が島を呑み込まんと渦を巻き、白鎧が更なる白に包まれて軋む。
ばきり。凍結した地面を踏み砕き、デッドマンが一歩を近付いた。胴部の多くを代償に支払った今その歩みはかつてより不確かだったが、しかし接近を妨げるものは最早ない。低温の世界は全てを静止させてみせた。白騎士がいかなる未来を見せようとも、七大海嘯カルロス・グリードの五体がそれをなぞる事はなく。仮に逆転への道筋があったとして、はとりがそれを待つ事もない。
「待ってるだけの探偵は、もうやめたんだよ」
あんたが未来で事件を起こすなら、今この場でぶっ壊してやる。
悲嘆の氷剣が振り抜かれた。それは第一の殺人の再現。
銀河帝国の技術の粋たる白騎士の鎧が、人形のように砕かれていく。
大成功
🔵🔵🔵
レイン・レーニア
(アドリブ・連携歓迎)
銀河帝国…彼らとの戦いであの世界の居住可能惑星が失われたとか。
そうして失われた星の海洋を再現した宇宙船があってね。巡り廻ってこの世界に落ちてきたんだってさ。
ああ、分からなくて結構。僕もあの島が船だった頃の人々と直接の面識はないし。
ただ、その鎧を使うなら負けられないってだけだからさ。
飛翔するカルロスくんを『マタル』の<弾幕>で牽制…
まあ、時間稼ぎにはなるだろうけど回避されるだろうね。予測は絶対だ。
そう。絶対の予測を前提としてるからこそ、弾幕で接近ルートを絞り込める!
位置さえ分かれば斬撃が当たる直前に『レーゲン』の<空中戦>で回避、
ここまで来たんだ、とびきりの嵐を味わいなよ!
王笏島の空に鉄の飛沫が散った。
メガリスボーグの義肢に接続された機関砲が十重に二十重に鈍色を吐き出して、空色のキャンバスを暗く塗り潰していく。それは正に怒涛の勢いで、しかし機銃はこの程度では全く足りぬと空腹を訴えた。外部発動機が最大速度で駆動して、ローラーチェーンが猛烈な勢いで食事を運べば、砲塔は瞬く間に薬莢という名の食べカスを残して平らげる。
一割、二割と空から青色を追い出して、だがレイン・レーニアは理解した。この量でもどうやらまだ充分ではない。
視線の先、弾幕の合間を潜り抜けて『四の王笏』が宙を舞う。白騎士の恐るべき速力の前にはこの島の上空は窮屈に過ぎる筈だが、不自由さを微塵も匂わせない軽快な動き。
やがて、慣熟飛行は済んだとばかりにその影が更に加速した。
衝撃。
視界の隅で光が弾けた。同時、水の体が擦り減るような感覚。
接近を許した。否、それは問題ではない。そこまでは想定の内。ただ、回避が遅れた。速いな、カルロスくん。茫と、レインはそんな事を思う。敵を見失った視界はその直前と同じ色。あれだけばら撒いた弾丸はどうやら彼に掠りもしていない。ならば多少なりとも迂回した筈だが、接近を先延ばしにできたとも思えない。
流石に、強敵だ。一度の攻防で弥が上にも認識させられて。
「銀河帝国……彼らとの戦いであの世界の居住可能惑星が失われたとか」
ふと、そんな言葉が紡ぎ出された。
それは昔々の話。
悪辣なる銀河帝国と抵抗勢力との戦いは熾烈を極め、その末に主だった種族が居住可能な全ての惑星がかの宇宙世界から失われた。人々は今も母なる大地を踏む事なく、宇宙船を住処として暮らしている。
「そうして失われた星の海洋を再現した宇宙船があってね。巡り廻ってこの世界に落ちてきたんだってさ」
「……何の話だ」
話を遮り、天上から王が問うた。要領を得ない、今更時間稼ぎでもするつもりか、と。
「ああ、分からなくて結構」
理解を求めた訳ではない。その船が落ちたのは昔の話だ。星が失われた時代程ではないにせよ、とてもとても昔の話。レイン自身その頃の人々との面識はない。だからこれは、直接的にも間接的にもカルロスとは関りのない事だ。
ただ。
「その鎧を使うなら、負けられないってだけだからさ」
別に銀河帝国の力を有しているからと言って、それで海の惑星を壊して回る訳でもないだろう。因縁などと呼べるようなものは持ち合わせていない。
だが、それでも。この相手には負けるべきではないと、何故だかそう思ったのだ。
闘争の意志を示すかのように、レインの背で『レーゲン』が大きく羽ばたいた。
「そうか」
王は冷淡に呟いて、白騎士が再度の加速に入る。
雷光が空を奔る。
彼我の戦力差は絶大で、現状セイレーンに勝ちの目は皆無。
ではどうする? 愚問だ。先の戦術に誤りはない。弾幕による侵攻経路の制限は目論見通り機能していた。足りないものは己の速度。戦意は力の足しになりはしない。ならば、違うものを費やすのみ。
水の翼が大きく拡がった。大きく、大きく、更に大きく。水量を注ぎ込め、王笏の首に届くまで。負けられない。その為には賭けても良い。名状し難い感情がそう訴えている。
そして。
白騎士の超加速を、未来視に等しい演算を、何より七大海嘯自身の戦力を。雨の秘宝の権能を受けて、一時レインが凌駕する。
カルロスの目が見開かれた。斬り裂くべき敵がその視界から消えている。回避は想定の内にあり、しかし想定外に膨れ上がった水翼の異能は紛い物の未来を大きく引き離した。予測から逸脱した光景は即時の状況判断を許さず、その一瞬を無為に過ごす程この猟兵は愚昧ではない。
「ここまで来たんだ」
王の直上、精霊の翼が翻る。
「とびきりの嵐を味わいなよ!」
水の翼が荒ぶる魔力を解き放った。鉛玉の嵐よりも遥かに激しく、暴風雨が猛り狂う。
白鎧は離脱を望み、だが鈎の秘宝が掴んで止めた。逃がさない。雷の如き速度があろうとも、絶対に。
羽撃く音が“此方より”響いた。やがて、王笏は雨の底に沈む。
苦戦
🔵🔴🔴
シノギ・リンダリンダリンダ
第四の王笏。未来予測の破り方を知っていますか?
予測したところで、どうにもならない状況に追い込む事です
教えてあげましょう。我が海を奪うお前に。この憤怒を以て
【憤怒の海賊】を解放
ミレナリィドールの体を捨て、呪詛と意志と黄金と死霊で構築されたモノになる
呪詛の霧はその腐食させる毒で、恐怖と黄金化を与える呪詛で、ドローンを機能停止させていく
攻撃された所で、その剣は霧に触れた時点で腐食し、光線は触れたその場で黄金の粒子となる
あぁ、あぁ王笏!お前は、お前は私が求める海で、私のテリトリーで!
私の溟海を、私のお宝を!私に、喧嘩を売ってきて!!
抑え得きれない憤怒で、死霊海賊として、
王笏お前を一片も残さずに殺す
白光が空を裂いた。
鳥ではない。いかなる鳥獣も、そのような速度で飛びはしない。
星でもない。いかなる流星も、そのように自由に舞いはしない。
それは人影。白騎士という名の翼を得て、七大海嘯カルロス・グリードが天を往く。
銀河帝国の超技術、その最高峰たる白鎧が齎す速力は正しく絶大。この海の世界に肩を並べるものは存在せず、どうやらそれは魔導蒸気文明の技術の粋を集めて生まれた異邦人でも同じ事。
『王笏』は稲妻の如く飛翔して、相対するシノギ・リンダリンダリンダの五体を穿つ。シノギもまた並外れた能力を備えた傑物であったが、しかし彼女は海賊だ。いかに大海賊であろうとも、空を支配するものではない。
光剣が閃いた。瞬きの間に一度、二度、三度。剣戟を振るう度、魔導人形の身に同じ数だけ裂傷が走り、しかし反撃の手は届かない。一方的な蹂躙。
『Emergency』
危急を告げる機械音声が響く。
そして。
「第四の王笏。未来予測の破り方を知っていますか?」
海賊が問うた。その響きに諦めの色はない。
王笏が訝しげな眼差しを向けた。
言葉の意味は分かる。しかしその意図するところが理解できない。
未来予測を破る手段など存在しない、とは言わぬ。予測はあくまで予測だ。事実猟兵はかつて白騎士を骸の海へと送り還してみせた。この島において超機械の演算を上回る働きを示してもいる。だが。
「予測したところで、どうにもならない状況に追い込む事です」
「……この状況で尚、それが可能だとでも?」
白騎士の鎧が告げている。デストロイマシンが示す未来に猟兵の語るビジョンはない。
いや、未来予測に頼らずとも両の眼で見れば十全に分かる。未知の種族が相手であれば見誤る事もあろうが、しかし機械人形は既知のものだ。王笏の第二の姿が扱う力と同種の技術で造られたもの。判断に間違いはない。そして何より、人形自身が訴えている。
『Emergency』
未来とは、現在を積み重ねた先に到るものだ。予測と同じにせよ、異なるにせよ、結末だけが突然その場に現れる訳ではない。既に趨勢は決した。一発逆転の目はない。
その、筈だ。
しかし。
「教えてあげましょう」
海賊が語る。淀みなく、穏やかに、だが確たる意志を籠めて。
「我が海を奪うお前に」
予測はあくまで予測だ。機械も王笏も、それを外部から俯瞰して判断したに過ぎない。この人形の内に蠢くものを、見てはいない。
「この憤怒を以て」
ぱきり。ミレナリィドールの外殻が剥がれ、落ちた。
内から、悍ましいものが覗く。観測された未来が、音を立てて崩れていく。
『Emergency』
アナウンスが危急を告げる。何人たりとも、それに触れてはならない。
光剣が閃いた。瞬く間に四度。カルロスはかつてない速度で剣戟を振るい、しかしそれが眼前の敵に届く事はない。人形を覆う霧に触れて、刃は輝きを失い汚泥のように腐って落ちた。実体を持たぬ筈の剣が。
「あぁ、あぁ王笏! お前は、お前は私が求める海で! 私のテリトリーで!」
喚いているこれは、何だ。
埒外の存在の真の姿が、それまでと全く異なるものである事は珍しくない。そう知ってはいる。人形の器の内に『鬼火』のようなものが隠されていても可笑しくはない。だが、それでも尚理解できない。この存在の正体が掴めない。
「私の溟海を、私のお宝を! 私に、喧嘩を売ってきて!!」
新たな情報を求めて放たれた六十六機の撮影ドローンは、しかし望む知見を返さない。UAVはただ黄金の景色だけを吐き出し続け、やがて力を失い霧の底に沈んだ。
接近は不味い。後退と共に放たれた斬光も、金色の粒子となって空に消える。
『Emergency』
触れてはならない。機械音声が告げる。
だが、危機を脱する方策が、未来予測の破り方が見付からない。
逃げ場を求めた白鎧は飛翔を望み、しかし成らぬ。推力すらも黄金となって風に散る。
天空の王が、地に堕ちる。
「私の溟海だ、王笏!」
溟海の王が叫んだ。
飛べるものなら飛ぶが良い。空ならお前にくれてやる。
だが、この海は。この海にあるものは全て、水の一滴すら渡しはしない。
「手を出すなら、お前を! お前は!!」
海の藻屑になどしてやらない。欠片も残さず陸で死ね。
霧が溢れた。白色が腐り落ちる。
呪詛が、欲が、恐怖が、そして死が。王笏の島を呑み込んでいく。
成功
🔵🔵🔴
アシェラ・ヘリオース
「貴公がその姿で来るなら、私も相応の姿でお相手しよう」
真の姿で近衛装束を纏う
白騎士殿の力が相手となれば、死力を尽くすに相応しい
・先制対策
ホーミングレーザーの如きフォースで牽制【砲撃、誘導弾、乱れ撃
ち】
間をおかず「破天槍」による【ランスチャージ】でその演算を超えた動きを狙う
以上は全て、絶対先制に対する守りの布石だ
本命は【瞬間思考力】で槍の穂先を奴の斬光に合せる防御である
「破天槍」は物質でありながら結晶化したフォースと言うエネルギーの塊でもある。レーザーとかち合せ、回避と貫通は防げなくともそのエネルギー自体の相殺を狙いたい
「覚悟!!」
反撃は赤光の大剣の十文字切り
間をおかぬ【空中戦】で追撃をかけよう
白騎士ディアブロを知っている。
いや、白騎士だけではない。黒騎士アンヘルを、ウォーマシンの大軍勢を、そして偉大なる皇帝を、この場の誰より知っている。
ああ、だが、それも過去の話だ。帝国の夢は、戦争は、全ては遥かな過去に終わった。そして、過去の亡霊が現在の前に立つべきではないと、そう知っている。
故に。あれもまた、今ここで終わらせなければならない。
「貴公がその姿で来るなら、私も相応の姿でお相手しよう」
アシェラ・ヘリオースは静かに告げた。
その姿は常の黒衣ではない。それは旧き時代に失われたもの。かつての銀河帝国の近衛騎士装束。
その意味するところまでは理解できずとも、穏やかな所作の奥に秘めたる戦意を確かに読み取って、『四の王笏』もまた静かに返す。
「良かろう。来たまえ、猟兵よ」
銃口が異能の騎士を捉えた。
瞬く閃光が、開戦の合図。
光が溢れた。
綺羅びやかな軌跡がうねり、流星雨の如く白鎧の頭上に降って注ぐ。数え切れない程の輝きはその全てが理力で編まれた弾丸だ。近衛の証は伊達ではない。莫大な理力量が生み出す赤光の怒涛は、その一つ一つが必殺の破壊力を内に秘める。
だが。
「見えているぞ」
七大海嘯の声に、未だ周章の気配はない。
脅威の火力に加えて追尾性能すら備えた魔弾の雨を、しかし王笏は見えているかのように軽々と掻い潜る。かのように、ではない。実際に見えているのだ。デストロイマシンの未来予測は迫り来る驟雨の軌道を悉く読み切って、最適な回避経路を主に示した。赤光は島の大地に蜂の巣を増やし続けるも、王の身には傷一つ付かない。
流石は白騎士殿の力。アシェラは内心で感服する。いや、鎧の力だけではない。船団を統べるカルロス自身、王に相応しい力を持つが故の神業。
やはり、死力を尽くして臨まねば。決意を新たに黒騎士が駆けた。演算の力は絶大で、だが乗り越えねばならぬ。でなければ、かの身に刃は届き得ぬ。
猛威に晒され、しかし帝国の超兵器は淀みなく作動する。
全てが見えていた。牽制の弾幕もデストロイマシンに十分な負荷を掛けるには至らず、全霊を賭した突撃も予測した未来を上回るものではない。システムは猟兵の進路を、速度を、そして狙いを、全てを即時に弾き出す。
斬光が閃いた。運命は予測通りに収束し、光条は過たず襲撃者の身を穿つ。致命の輝きが一射、二射、三射。激戦を経て敵を知った今、最早王に油断はない。入念に、確実に、兇光が世界を灼き尽くす。
そして。
「覚悟!!」
死の運命を斬り裂いて、アシェラはその先へと踏み込んだ。
「何、だと……!?」
カルロスの貌が、歪む。驚愕と共に放たれた第四射が赤槍に撃ち払われる様を、王笏と白鎧は確かに見た。超機械が予測を再開し、だが神算を以てしても一手及ばない。そこは既に近接の距離。騎士の間合い。
アシェラの手で赤剣が燃えた。赤光が膨れ上がる。大きく、大きく、天資のフォースの全てを注ぎ込み、破天の槍を超える暴威が育つ。
王は離脱を望み、しかし遅い。今、死力が未来を踏み越える。
瞬後、闇の力が迸った。
天が爆ぜる。あらゆる光よりも尚激しく、十文字が刻まれる。
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「届かぬか、この力を以てしても」
「……ディアブロ殿は、それを克服すべき障壁と呼んだのです」
デストロイマシンは確かに己が戦闘力を増強する。だがそれだけではない。それは傲慢の思考が見せる虚像であり、弱さにも等しいものだと、あの方はかつてそう言ったのだ。
強力なだけの矛と見ている内は、白騎士殿に並ぶ事はできない。そして、その命と心とを乗り越えた猟兵が、今更力のみに屈する道理はない。
「は」
王笏が嗤った。
「完敗だ」
斯くて亡霊は骸の海へと還る。
風が吹いた。記憶の残り香が攫われて、喧騒は海へと消えていく。
大成功
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