羅針盤戦争〜フライ・ハイ
●
ネルソン提督は己の指揮の結果を見ていた。
「…………」
海の上、高い視界は空母の艦橋からだった。クレマンソー、その名の持つ船から見える光景は壮絶の一言だった。異常気象として荒れ狂う海と空の向こうで、島から爆炎が上がっている。
「この悪天候の中でも飛ぶか」
戦果とも言える爆炎にさほど興味を示さず、見るのは島の上空だ。島を周回するように円周軌道を描く存在らから、声が届いた。
『島を中心とした周辺海域の制圧に成功しました』
「帰投しろ」
魔力による長距離通信だった。短く答えるやいなや、円周軌道がこちらへ向かってくる直線軌道に変わった。
帰ってくるのだ。
「――――」
空を円周していた存在は近づくにつれて、シルエットが解ってくる。手足と翼を有した姿を何と言うか。
「天使共、この島を足掛かりにさらに制圧を進めていくぞ」
『嗚呼』
空母の上空を旋回し、螺旋のように降ることで速度を落とした天使達が順に着艦していった。
●
「“羅針盤戦争”……。グリードオーシャンの命運を賭けた“戦争”は、各所で行われています」
猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。言葉と共に広げるのは海図だ。中央に渦潮を配置したそれは、猟兵達が探索した蒼海羅針域の海図に他ならなかった。
「そして、その蒼海羅針域にある島の一つが制圧されましたの」
海図上の一つの島に目印を付ける。
「占拠したオブリビオンは七大海嘯『舵輪』のネルソン提督。飛行能力の阻害されるこの世界において、海上にある「クレマンソー級空母」から、カタパルト加速により阻害効果を無効化された天使の群れを飛ばし、攻撃の届かない高高度から爆雷を投下してますの!」
驚きですわね、と加えながら。
「つまり敵は先制でユーべルコードを放ってくるわけですの。なんとか船に近づかないと攻撃する事もできませんが、近づいてしまえば、他の七大海嘯に比べて比較的与しやすい相手ですの」
ネルソン提督の姿を映した画像も表示するが、個人武装は長銃一本程度だ。
「まあ、近づくまでが大変なのですが……。天使たちはカタパルトで加速して高速で空を飛び回り、爆雷や機関砲などで適宜武装し、挙句の果てには体当たりも狙ってきますの」
そして忘れてはならないのが、
「戦場が酷く荒れているということですわ。突風、大波、豪雨……、シチュエーションは最悪ですわね」
無論、そういった戦いの方が慣れている方もいらっしゃるかもしれませんけれど、と言いながら、フォルティナは光を出した。
グリモアだ。
「海上でどうやって天使を潜り抜け、空母までたどり着くのか……。ご武運を祈っていますわ!」
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
不慣れなところもあると思いますが、よろしくお願いいたします。
●目的
・敵オブリビオンの撃破。
●説明
・グリードオーシャンで戦争イベントが始まりました。蒼海羅針域の外に潜むオブリビオン・フォーミュラ他の元へ到達するため、猟兵達は戦っています。
・逆に敵は、蒼海羅針域を破壊するために中央の渦潮を狙ってきました。これを破壊されると猟兵達はグリードオーシャンへ来ることが出来なくなってしまいます。
●プレイングボーナス
以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 ボス戦
『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』
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POW : 天使の行軍
【カタパルトで加速射出された天使の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【他の天使】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 天使による高高度爆撃
【天使達が投下する爆雷】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【位置と予測される移動範囲】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : 武装天使隊
召喚したレベル×1体の【透き通った体を持つ天使】に【機関砲や投下用の爆雷】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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ネルソンは機器と魔術の両方による観測の結果を知った。
『報告。クレマンソー周囲に複数の反応有り。未確認物体です。対象の武装状態は個人武装や船舶他、様々です。規格・統一性を把握できません。未確認物体らの所属は――』
「猟兵だな。これ以降、未確認物体らをそう認識して対処しろ」
『未確認物体らを、以後猟兵として対処します』
ならば、後は言うだけだ。
「迎撃位置へ」
●
『現在、a隊から順次パーキングスペースに待機中』
艦橋から見える甲板、そこに天使達が続々と集まっていく。
「クレマンソーから全方位に猟兵の存在を確認。カタパルト展開。仮想フックを用意」
『用意』
天使の背や腰から、光の索のようなものが現れた。魔術によってつくられた仮想のフックだ。風に揺れている。
「カタパルト、出力調整スタート……調整完了。カタパルトフック・スタンドアップ」
鋼の牙が立ち上がり、仮想のフックと合致。硬い音を立てる。
『対G干渉術式、起動。全身に励起』
光の波が現れたかと思うと、天使達の全身を包んでいく。今まで風に流れていた羽毛が撫でつけられたように順方向へ固まった。
「ブラストディフレクター・オープン。a隊b隊、確認次第魔力出力を全開」
『ブラストディフレクター・オープン確認。魔力出力を全開します』
空母の端から端まで、一斉に魔力が立ち上がった。荒天の最中でも唸るような轟音が周囲に走っていく。
『a隊、出力全開。異常無し』
『b隊、出力全開。異常無し』
「離陸許可。――カタパルト射出」
両隊の員数だけの重奏はやがてピークに達し、
『……!』
次の瞬間、蒸気の迸りが甲板を走った。両隊が弾き飛ばされるように瞬時に加速。
a隊が左舷側上空へ、b隊が右舷側上空へ、散開していった。
緋翠・華乃音
……優秀な指揮官が繰る戦術が相手か。
個の戦闘力が強大なオブリビオンよりも、よほど戦争では活躍するだろうな。
だがどれだけ万全を期したつもりの策にも穴はある。
例えば、空を駆ける天使に直接攻撃の叶う――対空迎撃。
既存の戦術に囚われた思考が今回の敗因になるだろう。
高高度とはいえ“たかが”相対距離1万メートルだ。
その領域が狙撃の射程圏内だとは……流石に思わないか。
そもそも先制出来るのは投下までだ。
弾着となると話は別。
命中軌道にある爆雷や天使を片端から撃ち落とす。
悪天候であろうと視えているものを撃つだけだ。
狙撃手なら外しようもない。
これで少しでも他の猟兵の進路啓開となれば良いが。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
対空迎撃を考えて戦えって、
無茶言うんじゃないよ!
アタシにゃ竹槍すらないんだよ?
いつもならちょっとは飛べるけど、
どうやって天使共を撃ち落とせってのさ!
……って待てよ。他の味方も飛べないんだよな。
なら、物騒なアレをぶっ放す絶好の機会かもなぁ?
こういうのは正直、苦手っちゃ苦手なんだよな。
何せ将棋もチェスもあまり強くはないんだ。
けれどもきっちり攻撃の波とクセを『情報収集』し、
効果的な爆撃の為に集結しそうなポイントを絞り込む。
そしたら後は追いかけっこさ、
爆撃から逃げ回り天使の一団を空のある一点に『おびき寄せ』る。
そしたら【宙穿つ穴】にご案内さ!
この混乱の隙に皆、進撃しちまえ!
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『――!』
天使達は加速した。空の上、カタパルト射出された勢いのまま、荒天の最中を弾丸のように突っ切っていく。
目標は一つ。接近してくる猟兵達だった。既にネルソン提督からの武装召喚は成されていた。己の身体に、様々な鋼の武装が合致している。
『――!』
撃滅する。
●
「おいおい……!」
多喜は喧噪の中にいた。
身を吹き飛ばさんとするほどの豪風。一切を強打する雨粒。打ちつけ、次の瞬間には散っていく高波。それらを一番間近に感じれる場所だった。
船上だ。
「対空迎撃を考えて戦えって、無茶言うんじゃないよ……」
船の構造を掴んで身体を支えながら、空を仰ぐ。大粒の雨粒が真上からではなく視界を横切っていく。灰色が空一面に広がっている。
「いつもだったらちょっとは飛べるけど……、どうやって天使共を撃ち落とせってのさ!」
竹槍すらない、とそう呟いたときだった。
「――だが銃ならある」
背後、船の構造的に自分が甲板より一段高いの階層から聞こえた声に振り向く。そこにいる白髪姿は華乃音だ。彼が言った通り、黒い長銃を持っていた。
この豪雨の中で聞こえてたのか……?
疑問に思ったが、しかしそれもそこまでだった。
「――二時と十時の方向から来る」
「!?」
急ぎその方向へ振り仰ぐが、当然見えない。というか、
「天使達が飛ぶのって“高高度”だろ? それって雲の上じゃん!」
「ああ」
平然と答えながら、華乃音が平然と長銃を構えた。
●
天使達は自分達が置かれている状況を理解できていなかった。
『……!?』
クレマンソーから発艦した自分達は、猟兵が乗る船に対して挟み込むような軌道で接近している途中だ。右舷側と左舷側に分かれ、猟兵の船に目がけて急降下攻撃する。
そのはずだった。
否、自分達はそうした。
自分達に爆雷はもう装備されていない。それは既に投下したという意味でもあるが、
『――!!』
投下した傍から爆発してしまっていた。
『a1、こちらa5! ――a6、a34、a40が撃墜されました! 全て、投下した爆雷の爆発に巻き込まれたためです!』
『探れ!』
a隊隊長の天使、a1は吠えた。爆炎が花開く度に部下が数を減っていく空の上で。
『敵の武装は何だ!? 解析し、対策せよ!』
何故、自分達が撃墜されているのか。投下した瞬間を狙って、爆雷が音も光も無く撃破されるのだ。
と、そこで、
『a1!』
報告が来た。a23だった。
『敵の武装は――』
そこまでだった。a23からの声はそれが最後であり、次の瞬間には己の真横を煤煙を散らしながら落下していく。ただ、
『――――』
すれ違う瞬間、恐らく最後の力を振り絞ってこちらに何かを押し付けてきた。a23の霊的な残滓がまだ残るそれは、
『――高度一万メートル近くだぞ!?』
一発の銃弾だった。
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華乃音は己の動作を止めなかった。
狙撃銃“to be alone."を構え、狙いを付け、
「――!」
引き金を引く。
雷鳴のような音が荒天へ昇っていった。
排莢。
「――――」
そして狙いを付ける。
そんな動作を連続させながら、トリガーを絞りながら、思う。
左舷側と右舷側からの挟撃狙いだな……。
相手は、優秀な指揮官が繰る戦術を実行して来ている。それは個の戦闘力が強大なオブリビオンよりもよほど戦争では活躍するだろう。
「だが、どれだけ万全を期したつもりの策にも穴はある」
それは先ほど多喜が言っていた言葉だ。
「例えば空を駆ける天使に直接攻撃が叶う攻撃、――対空迎撃だ。既存の戦術に囚われた思考が今回の敗因になるだろう」
高高度とはいえ、己からすれば“たかが”相対距離約一万メートルだ。その領域が狙撃の射程圏内だとは、
……流石に思わないか。
だから今、慌てふためいた様子で雲を突き破って降下してくる。左舷側も右舷側もどちらの隊も、船を挟撃するというより散開して包囲するように陣形を変えてきた。
「……? 何で下降してきたんだ? てっきり上昇して逃れると思ったんだけど……」
逆舷側に身体を向けてそちらの天使達を撃破しながら、多喜の疑問に答える。
「向こうも数分前まではそう考えていたようだが、例え限界まで上昇したとしてもこちらの射程内だとその時に知ったんだ」
なので、
「敵は上昇してただ撃墜されるより、少しでも爆雷を当てる確率を上げようと接近戦を狙って来る」
来た。
己の視力では雨粒と風の向こう側にいる天使達の表情すらも見えた。
「意外に感情豊かなんだな」
『――!』
焦燥や怒り、困惑といった天使達の感情が空に弾けた。爆雷を投じられた瞬間、己がそれをすぐさま撃ち抜いていくからだ。敵ユーべルコードが先制するのは“投下”までだ。つまり天使の身体から爆雷が離れた瞬間、こちらのユーべルコードは発動し、弾着する。
『……!?』
遅れて音が聞こえるほどの距離の空に、片っ端から爆炎が広がった。
「これで少しでも他の猟兵の進路啓開となれば良いが」
「……華乃音さん因みに聞くけど、その射程ってどこまで?」
「約十万メートルだ」
「おおう……。つまり大体、戦艦の主砲の二倍以上かー……。
まあ、他の味方がいないから景気よく撃てそ――、って待てよ?」
腕を組みながら唸っていた多喜がはた、と何かに気付いたかと思うと、それからすぐに彼女が動き出した。船に固縛していたスペースバイクへ向かって行くのだ。
「? 何を?」
「ああ、いやなに。――ちょっと“主砲”みたいなのを空に一発、ぶちかまそうかなってね」
●
「よっ……と!」
多喜は甲板から跳んだ。跨ったスペースカブの出力を開放し、船上から海上へ降り立ったのだ。海面と反発するように浮遊しているが、その高度なんて僅かだ。
「……!」
気を抜いたら高波がすぐに覆いかぶさり、こちらを押しつぶしてくる。なので急ぎ加速し、波の間を疾走していった。出力は最初から全開だ。
向かうはネルソンのいるクレマンソー、そこへ目がけて最短ルートで直進していく。すると、
『――猟兵がクレマンソーに接近中!!』
接近するこちらに気付いた天使達が、上空から攻撃を放ってきた。
神秘的な身体に懸架された爆雷をこちら目がけて落下してくるが、
「当たるかよ!!」
己は怯まなかった。波が荒れ狂う中を突っ切っていく。
周囲は自分より遙かに高い波が生まれては消え、アップダウンの激しい環境だが、愛機とは長年の付き合いだ。操作だって練熟している。
加速のクセも、ハンドルの反応も、ブレーキの感度も、サスの感触も、クラッチの度合いも、何もかも熟知しているのだ。
「ちょっと荒天で、ちょっとオフロードみたいなもんだろ!」
車体が不必要に浮くこともあるが体重で車体を抑え込み、力任せに曲がるというより、機体を回す。そんなイメージで行く。
そうしていけば、こちらの機動に追いつけなかった爆雷が、背後に水柱を立てていった。海中で炸裂し、爆圧は新たな波を生むが、それすらも捌きながら上空を振り仰いだ。
「そろそろ、かな……!」
クレマンソーに向かってはいるが、その実、自分の狙いは寧ろ天使達の方だった。船の上から見ていた光景と、今実際に体感した攻撃を比較し、己の中で分析していく。
こういうのは正直、苦手っちゃ苦手なんだよな……。
敵の攻撃の波やクセを見極め、次に打つべき一手を用意する。ということだが、何せ将棋もチェスも正直あまり強くはない自分だ。そんなことは苦労したが、船の上で華乃音が敵を刺激してくれたおかげで、観察には余裕があった。そして状況は次第にシンプルになってきた。
周囲を散開していた天使達はクレマンソーに近づくこちらを警戒し、自然と自分の周囲へ集まってくる。それは華乃音の射撃から逃れる意味もあるのだろうが、華乃音がここを“空けている”のはわざとだ。
「つまりそっちはここに追い込まれたってわけだ……! ――座標ロック完了!」
船と十分に距離が離れていることを確認した後、己の愛機が唸りを挙げた。
●
瞬間、空が上書きされたのを戦場にいた全員は知った。
「――――」
誰もが空を見上げ、言葉も無くその空の変化を見ていた。雲の下で平面的にも立体的にも見える影が生まれ、
「――!」
一斉に数を増やしていった。空を埋め尽くさん勢いで広がった影は、こことは別の空間だった。口を開くように、紙を裂くように、その向こう側の景色を一瞬見せたが、次の瞬間にはその全てが崩壊していった。
『……!?』
弾けた、爆ぜた、裂けた、霧消した。表現は多々あれど、突如として生まれた亜空間の広がりは連鎖崩壊し、その過程にいた全ての天使達を一斉に崩壊に巻き込んでいくのだ。
猟兵からの攻撃を逃れ、母艦へ接近してくる猟兵を撃滅しようとしていた残存天使達だった。
そうして亜空間の崩壊が終わると、跡に残るのは何も無かった。
天使も、そして雨すらもだった。
「――!!」
“空間的にズラされた”大気が、元通りとなった座標へ流れ込んで衝突し合い、周囲の雨粒を吹き飛ばしたからだ。
「――さあ!」
戦場を、極大の台風のような圧力が走った。
「この混乱の隙に皆、進撃しちまえ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
春乃・結希
この船は絶対に守ります
だから真っ直ぐ、ネルソンの船に向かってください
自分から飛び込んでくるんですね
大人しく空飛んでればよかったのに
飛び込んでくる天使達をその場で待ち受ける
『wanderer』で甲板をしっかりと踏み締め
『with』を叩き付ける【怪力】【重量攻撃】
近接戦で、『with』と私に勝てると思わないで
爆雷なんて、全部燃やしてしまえばいい
UC発動
船を覆うように焔を広げ、こちらへ届く前に爆発させる
ネルソンに届く距離になったら
【ダッシュ】で助走をつけて飛び乗る
私には地獄の炎があるから、銃で撃たれるくらいで怯んだりしない【激痛態勢】
あなたは優秀な指揮官なのかもしれない
なら、兵士としては、どうかな?
●
『……!』
ネルソンに召喚された天使達は空の上を突っ走っていた。接近してくる猟兵達を迎撃するために、荒天の最中を飛翔しているのだ。
高度にして数千メートル。速度にして音速越え。そんな位置と速度で一直線に目指す先は、
『標的確認。甲板上に反応あり』
海上の船舶だ。
眼下で、クレマンソーに向かって帆を進める船がいる。
『近づけさせるな。突撃用意』
『……!』
隊長級の天使の声に、他の者達が応答。
『――突撃』
そして行動した。自分達の身体を一気に前へ倒し、下降していくのだ。
空が映っていた視界は、最早海と敵船だけになった。
翼で大気を打ち、落下していく。
●
甲板に一人立った結希は、上空の天使達が迷わなかったのを知った。
『――!』
甲板から空を見上げれば、編隊を組んだ天使達がこちらに目がけて真っ直ぐに降下してくるのが見えた。
「自分から飛び込んでくるんですね」
重力落下に羽ばたきを加えて、身を飛ばすようにして落下してきている。
パワーダイブだ。そんな敵の狙いは明白だった。
今、彼我の距離は数千メートル以上あるが、相手の速度は音速越え。接触はすぐだ。事実、周囲の悪天候にも負けないほどの轟音が、空からどんどん近づいて来ていた。
「――大人しく空飛んでればよかったのに」
しかし結希は臆さなかった。
「――――」
彼女が履くブーツである“wonderer”が唸りを挙げ、甲板をしっかりと踏み締めた。そして超重量の大剣“with”を構える。
直後。
「ぁあ……!!」
『――!』
轟風が一閃した。
音を置き去りにするほどの速度で空から飛来した天使達を、薙ぎ払いの一撃で砕いたのだ。
周囲の大気ごと動かすような勢いで“with”を振り切っていく。そしてそのままの勢いで身体を回し、
「次……!」
死角を狙った、頭上からの第二突撃にも斜めの切り上げでカウンターを叩き込んだ。
半ば透けた霊体然とした天使達の身体が、波飛沫のように散った。
「近接戦で、“with”と私に勝てると思わないで」
甲板上を己の居場所として“with”と共に天使を撃破しながら、結希は言った。
「この船は絶対に守ります。――だから、まっすぐネルソンの船に向かって下さい」
●
ネルソンは天使達に命令を下した。
「――爆雷投下」
『……!』
まだ上空に残っていた天使達がその命令に従って、自分達の身体に懸架された爆雷のロックを解除。運動エネルギーそのままに、船目がけて落下していく。
「観測――」
用意、という言葉は、しかし続くことはなかった。
「!?」
次の瞬間に前方で生じた結果があまりに突然で、そして観測する必要も無いほど明白な結果だったからだ。
『――炎!?』
前方、艦橋から見える景色の中、敵船が大きな火炎に包まれたのだ。
否、違う。
「あれは――」
火炎は甲板を始点として船全体を覆うように、守るように広がったのだ。
『全弾阻まれました!』
投下された爆雷の全ては火炎の障壁とも言えるその存在に防がれ、船の上空で無意味な爆発を挙げていた。誘爆による連鎖爆発の大音は、己がいる艦橋の窓ガラスまで揺らした。
無効化されたのだと、気づく頃にはもう一つの異変に気付いた。
「――――」
火炎の向こう側で、人影が徐々に大きくなっていたのだ。
そこにいるのは一人だ。
「――猟兵!」
●
「おぉ……!」
結希は行った。甲板をダッシュして跳躍し、炎の壁を突き破ってクレマンソーに着地。鋼の滑走路は荒天の中でも確かな感触を返してきた。
「――!!」
そしてそこを一気に駆け抜けた。焔の翼をたなびかせながら、目指すはネルソンがいる艦橋だ。そこへ通じる外階段も見えたが、もっと近いルートがある。
「壁……!」
“wonderer”の出力を開放し、艦橋の外壁を駆け上がっていくのだ。やがて艦橋の窓ガラスを叩き割ろうとしたそのとき、ガラスの向こうでネルソンが長銃を構えていたのが見えた。
「……!」
発砲。
ガラスが砕け、弾丸がこちらの身体を抉った。だが背後に突き抜けていくころには、弾丸は地獄の炎で溶かされていた。
「あなたは優秀な指揮官なのかもしれない」
空いた窓枠へねじ込むように身体を入れて、結希はネルソンと正対し、
「――なら、兵士としては、どうかな?」
「おのれ……!」
一機に詰め寄ると、上段に構えた“with”を一息に振り下ろした。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎
オブリビオンだけ飛べるなんてずるいのー
(アイテム:『アリス』の妹(成虫)使用)
天使が空を飛ぶならアリスたちは【団体行動】で海底を【トンネル掘り】して進むのよー
カタパルトで加速射出された突進も海底地中までは届かないよねー?
でも念の為にトンネルの内壁を【アリスの糸】で補強しておきましょー
空母の位置は音の響く水中だから空母の音紋に【聞き耳】をたてて捕捉してー
空母直下まで近づけたら【環境耐性】のある外皮で水圧に耐えながら海底から浮上して船底からみんなでガジガジ齧るのよー
そのまま艦内を貫通して甲板に乗り込んで、オブリビオンを食べたいという気持ちを一つにして敵を【捕食】しましょー
●
アリスは嵐の海を揺蕩っていた。戦場から少し離れた海域だった。
「うーむ」
波に揺られながら離れた空を見れば、天使達が忙しなく周囲を哨戒しているのが見えた。
「オブリビオンだけ飛べるなんてずるいわー」
この世界、グリードオーシャンでは飛行が阻害されているはずだが、敵はその影響下にあらず、自由に飛び回っているのだ。
「――――」
ずるい。
「まあ、それならこっちはこっちで作戦があるのよー」
そこで波が巻き上がった。高波が覆うように被さって、それから自分は海の中に沈んでいった。
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『……!』
天使達はクレマンソー周囲を警戒し、上空を哨戒していたのがつい先ほどまでだ。何か異常は無いか、猟兵達はどこから来るのか。探知術式をフル稼働させていたのだが、
『反応有り!』
今、術式に反応があった。
だが、
『!?』
その反応を見た瞬間、天使達は二つの理由で驚愕した。
『何だこの数は……!?』
反応の数が膨大なのだ。探知外とはいえ、これだけの数が一気に侵入してきたとしたら気付かない訳がない。
だが、今の今まで気づかなかった。その理由が数とは別、もう一つの驚愕した理由だったからだ。
『――――』
座標だ。最初、海底を這って進んできているのかと思った。
だが違う。
術式は最初から、正確な数字で座標を記しているのだ。
『――地中!?』
猟兵が、地の底を突き進んでいる。
●
アリスは行った。自分の“妹達”というか“自分達”を呼び寄せて海へ潜り、海底に取り付いたのだ。
『いくわよー』
『……!』
共有ネットワークで互いに連携を取りながら、爪や牙を振るって地面を掘り進んでいく。そこは地面というか岩盤のような感触だったが、
『もろいわねー』
一気に爪を振り下ろして砕くと、そのまま背後へ投げ捨てていく。周囲は立ち上がった泥で覆われ、視界は悪くなっていくが構わなかった。どんどんと海底の中へ身を沈めていく。
最早自分達は海底の下でトンネルを形成し終え、前進している最中だった。
『相手の位置は振動とか音でわかるものねー』
荒れた海の中だが、だからこそ船はエンジンを回し、その身を波に流されないようにする。あの大きさの空母ともなればエンジンも大型で、生まれる振動も大きい。
『こっちの方角かしらー』
水中を走る波紋を感知し、トンネルの方向を適宜修正していく。
すると、
『お?』
別の波長が聞こえた。それはまず海面に勢いよく生まれたが、波のぶつかりで生まれるものより深く届き、何より鋭かった。
『――――』
刺すように一直線に海底へ向かってきたが、それも途中までだった。
徐々に減衰し、消失していく。いった。
『……天使の突撃ねー。こっちに気付いたのかしら』
位置エネルギーと速度エネルギーのまま海面を突き破ってこちらを狙ってきたが、水に阻まれて勢いが削がれ、海の途中で止まってしまうのだ。
『おお?』
途中、海底の地形など条件が重なれば突撃が届く場合もあるが、厚い岩盤に阻まれる。
『一応、補強工事しておきましょー』
随分、掘り進めた。天使達の突撃もあるが、上に乗っている海水の重みで落盤しないよう、口から出した糸でトンネル内を補強していく。
そうして進んで行けば、
『――ここねー』
辿り着いた。
空母直下だ。
全員が、天井の岩盤を見た。
●
「……!?」
ネルソンは激震を感じた。自分が今いる空母クレマンソーが、波によるものではない振動を得ているのだ。
まるで岩礁に衝突したような振動は、船底から来ていた。
この船の長として、周囲環境は把握している。暗礁など存在していないことは確かだが、しかし現に今、揺れている。
否、
「削られているのか……!」
『……!!』
金切声のような音が船全体を走った。それは船底から一直線に昇ってきている。
船がきしむ音か、それとも――。
「!?」
そこで視界が傾いだ。艦橋外の景色すらも歪んでいるということは、それは艦橋が根元から崩れているということだった。
何故かと、そう思う暇も無かった。
立っていた床板が割れ、そこから異形の姿が這い出てきたからだ。
『――!!』
鉄板出来た床だったものを引き裂いて現れたのは、蜘蛛に似た体高二メートルほどの姿だった。
一体だけでなく、次々と。船のあちこちから現れた。
「……!」
迷わず至近の一体へ引き金を引いた。
そして、それが最後の抵抗だった。
「がっ……!?」
至近距離からの弾丸を平然と弾いた“蜘蛛”は、その爪をこちらの身体に突き立て、身体を床に縫い留めた。
『……!!』
目の前から聞こえる金属を擦り合わせたような鳴き声は、勝利か、それとも歓喜の声か。
全ての個体がそんな声を挙げて、群がって来たが、
「……!」
結局、それ以上解ることは無かった。
大成功
🔵🔵🔵