羅針盤戦争〜幽世島累卵之危
「どうしよう、どうしよう。怖い幽霊がやってくるよ。島がやられちゃうよ」
ひそひそと囁き合う声がする。白砂の浜辺で、白波が押し寄せる波濤で、森で、甘い香りがする桃の木の下で。
「逃げる?」
「だめ。御神木さまを守らなくちゃ」
「でも、どうやって?」
沈黙。
彼らは多少、変化の術が仕えるだけの小妖怪に過ぎなかった。木の世話をしたり物を作ったりはできるけれど、幽霊船と戦えるような力はない。
「……いのる」
一匹が両手を合わせて目を閉じると、他の者もそれにならった。遠くで船笛が鳴る。不気味な幽霊船が大艦隊を為して刻一刻と近寄ってくる。祈りは島の全土へ広がり、厳かな空気に満ちていった。
「ほんと、妖怪たちがつつましやかに自分たちの暮らしをまもっているだけの島なんだよね」
麒・嵐(東方妖怪の冒険商人・f29276)が広げた地図には既に敵の予想進路と島の場所が示してあった。
「七大海嘯の『鬼火』配下の幽霊船艦隊が蒼海領域への侵攻を開始した。彼らはこのカクリヨファンタズム島の東、西、南の三方向を包囲して砲撃を仕掛け、島を陥落させるつもりだ。妖怪たちには彼らを追い払うだけの力がない。このままだと確実に島は奪われてしまう」
島を包囲される前に叩ければよいのだが、この幽霊船は一隻だけでも強力な力を持っている。ボス級といっていいだろう。
「だから、三方向に分かれる前に接触するのは危険だ。それに真正面からぶつかれば地力の強い方が勝つが、攻めと守りなら圧倒的に守る方が有利だ。というわけで、島の妖怪たちに協力してもらって迎撃戦線を張ることになった。皆には島の東西南北それぞれに住む妖怪たちと交渉して、幽霊船艦隊を迎え撃つ準備を整えてほしい」
島に住んでいるのは、主に狐と狸の妖怪。
東の砂浜には禁域の結界を張っている銀狐、西の断崖絶壁には地理に詳しい黒狐、島の御神木がある南の桃林には無力な桃狸、北の森には物作りの得意な黄狸。どういう風に敵を待ち受けたいかを考え、彼らの力を適切に借りることができれば戦いを有利に運ぶことも可能だろう。
「敵は幽霊船。その本性はどこからともなく現れては消える奇襲性にあるからね。しっかりと準備さえできていれば恐れるに足らず。さあ、幽霊船を相手取った海上戦のはじまりだ」
ツヅキ
プレイング受付期間:公開時~常時受付中。
リプレイは他の参加者とまとめて判定・執筆する場合があります。
共同プレイングをかけられる場合はプレイング冒頭にお相手の呼び名とID・もしくは団体名をご記載ください。
●第1章 集団戦
鬼火配下の『幽霊船の大艦隊』がカクリヨファンタズム島に迫っています。島の住民である狐狸の妖怪たちと協力して迎撃してください(幽霊船はもともとボス敵なので、事前準備なしにぶつかるのは避けたい相手です)。
島の東西南北どのエリアで戦うかを決め、プレイングをかけてください。
【東】遠浅の砂浜。銀狐の妖怪が住んでいる。
昆布やわかめ、貝といった海産物がおいしい。銀狐は人見知りをするおとなしい種族です。協力を取り付ける場合はどうやって話を聞いてもらえるように接するかがポイント。彼らは砂浜に人払いの呪いをかけており、彼らの協力が得られない場合は砂浜周辺の事前準備を進めることができません。
(呪いはその土地に足を踏み入れられないという性質のものであり、幽霊船艦隊は遠くの海から砲撃で攻撃するためこの影響を受けません)
【西】岩壁の波濤。黒狐の妖怪が根城にしている。
島で最も見晴らしのよい高台。海鳥が巣を作っており、拝借した卵で作る甘い玉子焼きは格別。赤狐は島の地理や周辺の海域に詳しく、協力してもらえば地形的な支援効果が得られます。
【南】桃狸の妖怪が暮らす桃林。
樹齢千年を超える桃の木が御神木として奉られており、これを破壊されると島が沈没してしまいます。桃狸は戦闘能力がありません。避難させたり守ってあげたりする必要があります。体力回復する桃が手に入ります。
【北】深いクヌギの森。黄狸の妖怪の棲家。
こちらの森側は見通しが悪いので、幽霊船の艦隊が狙ってこない安全地帯となっています。木材が豊富に得られるのと黄狸は腕のいい職人です。必要なものがあればできる範囲で作ってもらえます。きのこがおいしいです。
プレイングボーナス……島民と迎撃準備をした上で海上戦に臨む。
第1章 集団戦
『幽霊船の大艦隊』
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POW : 『鬼火』艦隊一斉砲撃
【並んだ幽霊船が統制の取れた砲撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 『鬼火』海賊団
レベル×1体の、【カトラスを装備した右手の甲】に1と刻印された戦闘用【『鬼火』海賊団員】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : セントエルモストーム
自身の【マスト】から、戦場の仲間が受けた【攻撃回数】に比例した威力と攻撃範囲の【呪詛の紫光】を放つ。
イラスト:猫背
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
緋神・美麗
アドリブ歓迎
とうとうダッチマンが相手かぁ。これは腕が鳴るわねぇ。個人的にもダッチマンは全て潰させてもらうわよ。
【西】
「ぜひとも協力をお願いするわ。無事撃退出来たら玉子焼きをご馳走するって所でどうかしら」
協力を得られたら艦隊が密集しそうな地形を教えてもらって指定UCを技能フル活用の全力攻撃で艦隊を片っ端から撃ち落としていく
「艦隊って言うだけあって数が無駄に多いわね。選り取り見取りで狩り放題ねぇ」
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
西:島民には敬語で話す
申し訳ありません、この場所を使わせて頂いてもよろしいでしょうか?
もちろん、戦いが終わればすぐに立ち去ります
お前達には還るべき海があるだろう、思い通りにさせない
SPDで判定
相手と視線を合わせるようにして交渉、先に海鳥から卵を何個か【略奪】して謙譲
その時、必要なら【言いくるめ】も使う
交渉が終われば船が集まりやすい場所を尋ね、キャバリアの魔銃を使い指定UCで義眼のメガリスの力を付与した弾丸で攻撃
主に藍の災い:圧壊【重量攻撃】を付与した弾丸を【スナイパー】【全力魔法】で撃つ
広範囲への攻撃は橙の災い:爆破【爆撃】を【範囲攻撃】【全力魔法】で行う
杼糸・絡新婦
【東】
サイギョウを踊らせるように【パフォーマンス】して気を引きつけ
飴ちゃん食べる?とか話しかけながら
興味抱くように【誘惑】しつつ【コミュ力】で話しかけ、説得する
守りたいんやろ、なら、ちくっと協力してくれへんかい?
あんたさんらも含めてここを守りに来たんや、
これ以上、あれを進ませるわけにはこちらもいかんのよ。
あと、海産物おすすめある?
戦闘は敵の様子を観察し【情報収集】
打ち込んでくるなら錬成・カミヤドリをレベル分召喚
蜘蛛の巣のように張り巡らせ、くる攻撃を叩き切るように
破壊していく。
また本体にも絡みつくようにして攻撃していく。
島の住民に行きそうな攻撃は【かばう】ようにし、
糸を盾代わりに防ぐ。
ロラン・ヒュッテンブレナー
※【東】アドリブ・絡みOK
カクリョファンタズムの島も、あったんだね
狐さんと、狸さんかぁ
なんだか、友だちになれそうなの
狼変身(8歳くらいの子狼)して、銀狐の里に行くよ
え、えと、あの…、ぼく、猟兵のロラン
ここ、狙われてるから、守るの、手伝って欲しいの
※人見知りで結界魔術師でケモ耳尻尾という親近感に訴えかける
礼儀作法は、忘れてないの
作戦はね、結界に閉じ込めて封印、そのまま浄化させちゃうの
相手が海から里を狙いやすいポイントに
ぼくがUCを仕掛けて動きを止めるから
そのお船を破邪結界で囲ってもらえる?
あとはその結界を縮めて行って…
そのまま押し潰すの
ぼくも全力魔法で結界術のお手伝いするね
みんなで、里を守るの
ゲニウス・サガレン
危機に際して、皆が祈ることは美しく素朴な光景だ
さて、祈り終わったら行動しよう
私はみんなの助けになることを考えよう
北の森に行き、黄狸に協力を求める
島が荒れて北だけ無事はない
木材とその職人の技術が、今この島を救うには必要だ
以下の兵器や木材を、必要な地に供給したい
一夜城:組み立て済みのはりぼて城壁で、偽の城を作成
これは的
破壊されても煙幕をたいて再建すれば、敵は驚くだろう
拘束になる
大型バリスタ:木製の大きな軸の先に鉄の塊をつけて発射する
攻撃は猟兵がいるから、兆発や援護に
UC「眠れる力を呼び起こせ!」
私の話に説得力を持たせ、皆の動きをサポートしよう
あと小舟もいるね
各地の連絡・避難や、敵船への切り込みに
ビードット・ワイワイ
西にて我がオブリビオンマシンによる狙撃攻撃を行おう
メカモササウルスで通じるか分からんゆえ通常の姿で対応しよう
さて黒狐の諸君。我は猟兵である
祈りは我らに届きけり
我らの力を一度振るえばかような敵船立ち所に撃破できよう
されどそれには諸君らの力がいる
何もせぬまま死ぬなら良い
だがまだ負けておらん。始まってすらない
それでいいのか貴様らは
勝利を求め渇望し不埒者共を撃滅せんと思わんか?
貴様ら今、勝利できるぞ
協力要請できれば通信機渡し周辺海域の潮の流れと風の流れから敵船の予想針路を教えてもらう
キャバリア(ステシ先頭JC)に搭乗にUC発動
弾頭準備し一斉発射
敵船の内部に短距離転移させ撃沈させよう
鷲生・嵯泉
幽霊船とは海らしい敵ではあるが……
一度は沈んだ船。再び海の藻屑と消えて貰おう
【東】
さて先ずは信を得ねば話に成るまい
砂浜の縁へと武器を置き、害意の無い事を示し話すとしよう
此の島を襲う輩を排する為に、此の浜へ踏み入る許可を貰えまいか
其れさえあれば十分……後は事が済むまで安全な場所へ避難する様に
海辺ならば材には事欠かん
――至攻白極、変じよ水氣
視界に入れば全てが的、1体足りとも逃しはせん
近付く事が叶わぬ様、其の足悉く斬り飛ばし氷塊へと変えてくれよう
船とて同じ事。下部へと斬撃を集中させて凍り付かせ
其処から砕いて沈めてくれる
ささやかに、されど懸命に生きる祈りを摘ませはせん
此の刃は其の為に在るのだから
ナイ・デス
【南】
この世界で猟兵でない妖怪みるのは、はじめて、です!
猟兵でないなら、普通の人にはみえなくて、食糧(感情)もないでしょうに、よく生きて……!
と、驚きます。御神木などにも、素直に驚きまくります
そうして驚き倒して仲良くなれたら、こちらの能力伝えて、任せてください!
と、安心するよう【鼓舞】して
敵は海上にでて迎撃します
『文明守護竜』連続発動で、数百mもある怪獣のように「ダイウルゴス」を大きくして
その巨体で島を【かばう】
【念動力オーラ防御】で防ぎ
【覚悟激痛耐性継戦能力】防ぎ切れなくても「聖なる光」が修復再生し
【エネルギー充填】光を束ねての巨体相応に大きな【レーザー射撃範囲攻撃なぎ払い】艦隊を、沈めます
シーミャ・ルザリーニ
目標
敵幽霊船艦隊の迎撃、およびカクリヨファンタズム島の防衛。
ダー。任務を受領。作戦を開始します。
島民との協同が作成項目に。……島南部にすむ桃狸と交渉の余地あり。
島の防衛を交換条件に、体力回復用の桃の譲渡を要求。
敵を確認。“ディアボロ”に搭乗。
ヒュージングウィップを用いた近・中距離防衛戦を展開。
敵範囲攻撃を感知。≪オブリビオン・ヴォイド≫を使用し、島民を保護。
後に、憎悪の涯のジェネレーター出力を最大に。……一気に敵船団に突っ込む、です。
時間内に決着を……存分に喰らいなさい、ディアボロ。
寺内・美月
猟兵間通信網構築
アドリブ・連携歓迎
・当初島北部に上陸。
・霊兵統帥杖の効果により砲兵軍団と工兵旅団を召集し構築支援。
※特に最重要目標の桃の木及び狸・狐の保護拠点は、鋼矢板と土嚢及びライナープレートで囲んで破壊されないように対処。
・北部には黄狸の協力を仰ぎ対艦誘導弾部隊を設置し、長射程により島全体(特に東部沖の敵艦)をカバーする(銀狐用の退避施設は砂浜と森の境目あたりに設置)。
・西部には黒狐の協力を仰ぎ、大口径砲と堅固な砲撃陣地を設置し西から南から迫る敵に砲撃を浴びせる。
・南部の敵艦を打ち払うも、上陸される可能性が高い南部でUCを発動し地上部隊を展開(一個歩兵連隊のみ)、上陸した敵を海へ押し返す。
ヴィクティム・ウィンターミュート
・北
ハロー、アンタがここの筆頭エンジニアかい?
ちょいとばかし作って欲しいものがあるのさ
数はあればあるほど良い
ここはクヌギの森なんだろ?どんぐりとか沢山採れるはずだ
そいつを大量に詰めた木製の包みを量産してくれ 頼んだぜ
見通しの悪い森林地帯ってのが素晴らしいな
向こうからの砲撃を心配しなくていい
一番背の高い樹に登り、敵影を視認
さぁ──破壊の時間だ!『Conquer』
黄狸製のどんぐり爆弾を投擲、追尾先は幽霊船のマスト
──俺の手を離れたこれは、分裂する
さらに一つ一つが大量のどんぐりを抱えてる
これら『全て』爆発するとしたら…それはもう派手な破壊になるはずだ
マストを優先的に破壊し、続くクラスターで沈めてやる
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【南】【アドリブ・連係歓迎】POW
幽霊って美味しいのかなぁ?
それはそうと、宴会の邪魔はさせないよ☆
事前に「肉体改造」を自身に施し、視力関係を強化!
UC【素晴らしく肉肉しい晩餐】にて部下の肉塊を召喚し、肉の防壁と肉の砲台をメインとした砦を事前に形成!
戦闘は砲台で部下の肉塊を飛ばし、敵艦隊を超重力で圧し潰し沈没させる!
視力関係の強化で狙って飛ばしやすくなるはず!
ついでに増殖した肉塊は住民の避難を担当するよ!
勝利の暁には幽霊肉で(!?)「宴会」だ!!
兎乃・零時
アドリブ歓迎
【南】
ここに御神木が…ならしっかり護らなくっちゃだよな
この島は沈没させたくないし、俺様が全力で協力するぜ
なんてったって俺様は!いづれ全世界最強の魔術師になる男!
絶対守ってやっから力を貸してくれよ、皆!
今まで覚えた魔術全部使ってやるぜ!
味方に事前に《属性付与》(オーラ防御)を施し
島全体対象に パイオニア・グリッター
UC! 光属性の空間術式〖輝光戦場〗を配置
ウォーターヴェール
更に水魔術による《水の薄布》(拠点防御)も使って盤石の状態に!
さぁこれで敵が来たって大丈夫!
もし此処まで敵が来たら敵に対して島を傷つけないよう気を付けつつ光属性攻撃魔術の一斉発射だ!
エィミー・ロストリンク
【POW】【南】
御神木は何としても守らないとねー!
わたしに任せて! だけど狸さんはびっくりしないでねー?
最初は笑顔で桃狸に話しかけて安心させ、ラクチェの要石で海水を鉄水に変えてドーム状の防護膜で御神木を覆う
さらにUC「CN:23の雷雲の無限竜を制し者の権能」を発動させてクローンドラゴンの大群を召喚
質量のある雷雲の雲による防壁や進路妨害を海岸や海に仕掛けて、対策とする
襲撃対応はスペースシップ「ブラックゴースト」に搭乗し、一斉砲撃の隙をつくように砲撃とクローンドラゴンの雷ブレスの集中攻撃を浴びせて一隻ずつ確実に沈めていく
鬼火なんかに負けないよー! 妖怪の方が面白いしねー!
島は奇妙に静まり返っていた。既に陽は中天に差しかかるというのに、まるで払暁めいた嵐の前の静けさに満ちている。
ふと、その静寂を破る杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)の動きがあった。
「人形?」
東の砂浜を守る銀狐たちは興味を惹かれたように物陰から見守る。絡新婦はにこりと微笑み、手招いた。
「おいで、飴ちゃん食べる?」
きょとんと彼らは顔を見合わせる。興味はあるが、ちょっと怖い。鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が武器を外してみせると、それで少し警戒がほぐれたのかぴくぴくと耳を動かした。
「誰?」
「此の島を襲う輩を排する為に参った。どうか、浜へ踏み入る許可を」
ざわりと衝撃が走る。
「ほんと?」
「ああ、あんたさんらが力を貸してくれたらきっと追い払える。自分らもあいつらには因縁あってな。よかったら手ぇ組まへん?」
絡新婦が頷くと、彼らはひそひそと話し合い始めた。ちらっと彼の人形と飴を見てから、再び相談に戻る。
「実は、さっきも子どもの狼がやってきた」
ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)のことだ。無垢な瞳で尾を振りつつ、「ここ、狙われてるから、守るの。だから手伝って」などと訴えかけてくるのを拒める者が果たしているだろうか。
「島を守ると言ってくれていた。お前たちも、そうなのか? 救ってくれるのか?」
もちろん、と絡新婦と嵯泉は首肯した。
「お前は何が必要だ? 狼の子には人を貸した」
「場所さえ貸してもらえたら、他には何も。なに、水さえあればよいのだ。他には何も減りはせん」
嵯泉の返答に、銀狐が頷く。
「お前は?」
絡新婦はおどけたように肩をすくめ、お土産をねだった。
「おすすめの海産物はある?」
「今の時期なら、牡蠣」
猟兵の来訪は他の地域でも見られた。西の断崖に立つビードット・ワイワイ(絶対唯一メカモササウルス・f02622)は厳かそうな雰囲気を醸しながらこう告げた。
「黒狐の諸君、汝の祈りは我らに届きけり」
すかさず上がる、「おぉッ」という快哉。
「祈りは通じたのだ。ありがとう、ありがとう」
「うむ。我らが力を一度振るえば、かような敵船立ち所に撃破できよう」
ビードットは頷き、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は丁重に島の使用許可を求めた。
「もちろん、戦いが終わればすぐに立ち去ります」
黒狐はルイスの眼を覗き込み、やがて深く首を縦に振る。
「では、これを約束の証に」
ルイスはさきほど獲って来たばかりの海鳥の卵を差し出すが、黒狐は首を大きく横に振った。
そして、にっかりと初めて笑った。
「それはお主らにやる。精がつくぞ、くえ」
「じゃあ、無事あいつらを撃退できたら私が料理してあげるわ。おいしい玉子焼きを御馳走するわよ」
緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)の申し出は黒狐をおおいに喜ばせ、両者の間にあった壁が取り払われる。
「我らはどうすればよいか?」
「何もせぬままなら、死ぬまで」
ビードットの託宣を彼らは神妙な顔で聞いている。
「だがまだ負けておらん。始まってすらない。勝利を求め渇望し不埒者共を撃滅せんとするならば、これを授けよう」
「これは?」
「使い方は後程教える」
渡したのは、彼らでも扱えそうな小型の通信機だ。
「わかった。他には?」
美麗とルイスは互いの顔を見て頷き合い、同時に言った。
「敵の艦隊が集まりそうな場所を」
「この桃は一年中生っているのですか?」
こくりと桃狸が頷いた。
ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)はしげしげと優しい色合いの果実を見上げ、その見事さに驚いた。
「このような辺境でよくぞ生き抜いてこられましたね……! さすがに御神木です。たたずまいからして他の木とは違う品格を漂わせています」
桃狸が再び頷いた。
兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は幹に手を触れ、安心させるように撫でてやる。
「しっかり護ってやらなくっちゃ……この木がないと島が沈んでしまうんだろ?」
三度、桃狸が頷く。
「そんなのさせない!」
エィミー・ロストリンク(再臨せし絆の乙女・f26184)は心からこの状況を憂い、助けたいと思って言った。
零時も同じ気持ちだった。
魔術師の証である杖を突き上げ、勝利を誓う。
「なんたって俺様は! いづれ全世界最強の魔術師になる男! 絶対守ってやっから力を貸してくれよ、皆!」
「ダー」
桃狸と一緒になってシーミャ・ルザリーニ(首輪付き・f31904)が敬礼。防衛と引き換えに接収した桃を受け取り、受領印代わりにサインする。
「交渉完了。あとは……シーに、お任せあれ」
「やったあ★ 勝ったら宴会だね!」
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(ハラペコかわいいコックさん(可食・高栄養・美味)・f31483)のお腹がくぅと鳴る。さっき桃をもらったばかりなのにもうお腹が減ってしまった。
「うぅ……もう我慢できないよぉ。幽霊って美味しいのかなぁ?」
桃林を通して見る海はいまのところ穏やかに凪いでいる。どうせなら早く来ればいいのにと思っていたラヴィラヴァの元へ通信が入った。寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)の構築した猟兵間通信網からの連絡だ。
「島の各所への兵力配備完了。北部には対艦誘導弾部隊、西部には大口径砲を配備、そして南部には鋼矢板と土嚢及びライナープレートを用いて守りを固めました」
島北部から上陸した美月は全地帯を順にめぐり、着実に準備を整えた。続けて東に向かった猟兵にも連絡を入れ、銀狐には森との境目に設営した退避施設へ入ってもらうように伝える。
「お願い、御神木を守って……!」
エィミーの捧げ持つ要石が海水を汲み上げ、御神木の周りに膜を張った。触れるとぶにぶにしていてスライムみたいだ。
「!」
その時、桃狸が驚いて空を見上げる。
――竜の大群。
彼らは雷雲を呼び、幽霊船が近付けないように工夫した。いまや海岸戦は幾重もの防御壁によって守られる鉄壁の要塞へと姿を変えたのである。
「はーい、みんな順番に避難してね!」
ラヴィラヴァから増殖した肉塊はまるでそれ自体に意思があるかの如き仕草でお辞儀すると、いくつか用意された避難所まで島民を案内した。
御神木を中心に広がった祈りの輪は島の反対側に住まう北の森にまで及んでいた。ゲニウス・サガレン(探検家を気取る駆け出し学者・f30902)の協力要請を黄狸は快く受け入れ、協力を約束する。
「わたしたちはなんでも作れます。なんでもおっしゃってください」
「それは頼もしい。よろしく頼むよ、諸君」
ゲニウスが設計図を広げると、黄狸たちは机の周りにわらわらと集まった。かわりばんこで覗き込みながら意見を交わし合っている。
「できるかい?」
「まかせてください」
黄狸は自分の胸を叩いて頷いた。
「でもどこに置きましょう? 森にはこれだけ大きなものを築くだけの広さがありません」
「そうか、敵が狙ってこないくらいの深い森だもんな」
ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は口元を覆い、少し考えた末に「東」と言った。ゲニウスも異論はない。
「そこしかないね。西は岩壁、南は果物畑だから」
よし、と頷いた。
「さっき寺内が繋げてくれた猟兵同士の通信網がある。東に行った仲間に連絡して、設営が可能かどうかをたずねてみよう」
ヴィクティムは黄狸を振り返り、
「なあ、余裕があったらちょいとばかし作ってもらいたいものがあるんだが」
「?」
ひそひそと耳元に囁くと、彼らは一様に首を傾げた。そんなものをいったい何のために使うのだろう? 全く分からない。
「確かに、どんぐりなどの実ならいくらでも手に入りますけど……そんなものが戦いの役に立つのですか?」
ヴィクティムは「ああ」と真顔で頷いた。
「それはもう、派手な花火になるだろうさ」
「おれたちゃ、大海をゆく大海賊~♪ ダッチマンさまにもらったこのおんぼろ船で世界の富をひとりじめ~♪ ――ん? なんだあの雲は? おい、誰か様子を見に――うわっ!?」
戦いが始まると同時に敵の頭を叩いたのは、西の断崖に布陣した美麗、ルイス、ビードットの狙撃部隊と美月の砲撃部隊による一斉射撃であった。
「情報通りね」
ああ、とルイスも口元を緩める。
「これだけ密集していれば当てやすい」
美麗が撃ち放すのは巨大な鉄塊だ。いくら幽霊船とて、そんなものをぶつけられてはたまったものではないだろう。
「艦隊って言うだけあって数が無駄に多いわね。選り取り見取りで狩り放題ねぇ」
唇に指先を当てて笑むと、美麗は為すすべなく沈没してゆくさまを満足げに眺め渡した。
「ななな、なんじゃこりゃあ!? どうして狐狸どもの島に猟兵がいやがるんだ。先回りされちまったのかよ、くそっ」
「船長、あれを見てください!」
双眼鏡をのぞいた船員は美しい銀色のキャバリアが銃を構えるのを見て戦慄した。
――藍の災いと人は呼ぶ。それは圧倒的な重量を持つ、圧壊の魔法を籠めた弾丸だ。
「面舵いっぱーい!!」
「無駄だ」
回頭した横腹に喰らった弾丸が重みを増し、船を沈めてゆくのであった。慌てた幽霊船は少しでも船間距離をとって自分の船だけでも助かろうとする。それが仇となった。
「ふむふむ、了解である」
ビードットは通信を切り、キャバリアに搭載された全弾を発射準備OK。こちらには潮の流れを読める玄人がついているのだ。
「そこの渦を避けて、右から回り込むつもりなのであろう? わからいでか」
もの凄い衝撃がキャバリアの操縦席にまで伝わる。どうやら、敵船の内部に転移させた砲弾はあますところなくその性能を発揮してくれたようだ。弾頭は着弾と同時に炎を吹き、ルイスのばら撒いた橙の災いが引き起こした爆発と相まって海上を文字通りに火の海へと変えたのであった。
ビードットは通信機を繋ぎ、戦果を報告する。
「こちら西海、全敵の撃沈を確認」
一方、南――こちらに向かった幽霊船艦隊は幾ら攻撃をしてもびくともしない相手に焦りを感じ始めていた。
そもそもいったい、あれはなんなのだ? まるで怪獣のように巨大な、まるでそれそのものが都市のようにも見える竜らしき生物。
ナイを中核に抱いたそれは、両翼を交差させてその内側に島を抱き込んでしまった。
「新生ダイウルゴス、です。島への攻撃は絶対に通しません……!」
「これでわかったろ? 降参するならいまのうちだぜ!」
うっすらと島全体が発光して見えるのは零時謹製の空間術式が呪詛を跳ね返す際の明動であった。その上に重ねた水膜がレンズのような役割を果たし、敵の攻撃を防ぐたびに七色の虹を帯びて輝く。
「にしても、本当にかってーな!」
「全て倒すまで、耐えるのみ、です」
何度やってもダイゴウルゴスの鱗に阻まれ、傷を与えることすらできない。予想外の相手を前に浮足立つ幽霊船をさらなる不幸が襲った。
「いっくよー!」
ドォン!! 轟音がして、ラヴィラヴァの元から何かが撃ち出された。当然、砲弾――ではなかった。
「うわあっ」
肉である。
重さに耐えきれず、幽霊船が沈みかけて行くのをラヴィラヴァはおなじく肉を煉瓦のように積み上げた砦の上から監視している。その瞳は改造された証に瞳孔の色が変わり、遥か遠くを見晴るかせる能力を手にしていた。
「沈みたくなかったらそれ、食べていーよ♪ おいしいんだからっ★」
「い、いらねー!!」
乗組員の叫びもろとも、海の藻屑に。
「あ」
ラヴィラヴァははたと気が付いた。
「沈没させちゃうと幽霊肉が手に入らない!」
「ははは……ちょっと助かったかも」
スペースシップの搭乗席でエィミーはほっと胸を撫でおろす。エィミーの仕事は仲間の集中砲火を受けて波間を漂う幽霊船を一体ずつ確実に沈めていくことだった。
「幽霊肉……少し、興味ありました」
桃狸にもらった桃を頬張るシーミャ。ディアボロを発見した幽霊船は一際目立つその目標に呪詛の紫炎を集中させようと試みるが、うまくいかない。
「ん? 調子悪いな?」
最初は景気に不具合が起こっているのかと思った。それがディアブロの≪オブリビオン・ヴォイド≫によってもたらされた不調だということに気付いた時には既に遅く、背後のジェネレーターを噴かしたシーミャが眼前まで迫っていた。
「わあっ!!」
「……存分に喰らいなさい、ディアボロ」
抜き払った鞭状の武装は螺旋を描き、シーミャを中心とする周囲の敵を完膚なきまでに薙ぎ払った。
「ひ、ひけっ!」
「ざんねーん、そこにはわたしがいたのでした!」
そしてあっという間にエィミーの駆るスペースシップの砲撃によって蜂の巣に。
「鬼火なんかに負けないよー! 妖怪の方が面白いしねー! あ、そっち、逃げるつもりだよ」
「引き受けた!」
「はい、です!」
――眩い光が海上を染め上げる。零時の光魔法とナイによる極大レーザーの合わせ技だ。敵が怯んだ隙を逃さず、美月が鋭く命令を発した。
「撃て!」
激しい銃撃が、船から落ちて島に這い上がろうとする海賊たちを容赦なく追い落とす。
「こちら南。ほぼ制圧完了しました。そちらはいかがですか?」
「くそっ、こいつら訓練されてやがる……!! 無視して島を狙えっ!! せめて一矢報いてやりやがれっ!!」
窮地い陥り、海賊魂に火がついた。幽霊船の大艦隊……もはや小艦隊とも言うべき彼らは残った船をとりまとめ、全ての砲塔を同じ標的へと差し向ける。
「いまだ!」
標的――島で一番目立つ城だった――は粉々に砕け、崩れ落ちてしまった。
「やったぞ!! ……いや、復活した!?」
そんな馬鹿な、と目を擦る。
煙幕に紛れ、ゲニウスは黄狸たちに指示を送った。
「いまのうちに、次のはりぼてを!」
鼓舞された黄狸の職人たちは『はりぼて』で作られた一夜城が壊される度に予備と交換。
「それっ!」
混乱に乗じ、今度は大型バリスタを使った投擲機のバネを解き放つ。石ではなく鉄の玉を使ったそれは次々と海面に水柱を上げて幽霊船の視界を遮った。
「ヒュー、いい頃合いだぜ」
島で最も高い木の上でヴィクティムは腕を組み、楽しそうに口笛を吹いた。腕に抱えているのは木箱のようだ。軽く振るとじゃらじゃら音がする。そう、黄狸に用意してもらったアレだ。
「なにに使うんです?」
「そん時のお楽しみさ」
出陣前、黄狸に聞かれたヴィクティムは唇の前に人差し指を立てた。そして、遂にお披露目の時がやってきたのである。
「さぁ――破壊の時間だ!」
抱えていた木箱を残らず投擲した直後、大爆発はやってきた。幽霊船のマストめがけて投げ込まれたそれは即席の爆弾となって――それも『全て』が、だ――問答無用でふっ飛ばした。
「ほい、まだあるぜ?」
駄目押しの二発目を投げ込むと、たまらず潰走が始まる。ヴィクティムは軽く舌を出した。――bye。
「まさか、そんな……」
よもや、一隻だけでも馬鹿にならない力を持つはずの幽霊船の大艦隊がこれほどまでに弄ばれるとは。
「――撤退だ!!」
「だ、だめです。舵が効きません!!」
ふっ、と嵯泉の吐き出す息が氷河の風を受けて白みを帯びる。海には流氷が浮かび、刃へと変じた水氣が船底を砕いて沈没せしめたのであった。
「自業自得と心得よ。ささやかに、されど懸命に生きる祈りを摘ませはせん」
よろけた船が隣のそれにぶつかり、互いにもたれ合いながらゆっくりと沈んでゆく。
「こちら東。んー、あとに、さんゆうところかな。悪足掻きしとるけど、時間の問題やね」
敵はもはや、闇雲に鬼火を撃ち込んでくるので精一杯のようだった。絡新婦の鋼糸は島の周囲へ無数に仕掛けてある。飛び込んでくる鬼火は獲物も同然。蜘蛛の糸のように絡め取り、断ち切る。
「その程度でこの守りを破ろうやなんて、片腹痛いわ」
絡新婦はくすくすと笑い声を零しながらすいと指に絡めたそれを操った。海を渡り、敵の船へと近付いて、絡みつく。
「さあ、やってみよう? 皆が足止めしておいてくれるから、あいつらを倒すんだ」
「でも、できるかな……」
銀狐はロランを不安そうに見つめる。
「ぼくたちの力は、ちょっと人払いができるだけなの。封印なんてできないの」
「大丈夫」
にっこり笑って、ロランはアルターギアを解き放った。
「ぼくが全力魔法でお手伝いするから。あのお船を破邪結界で囲ってもらえる?」
「う、うん……」
銀狐は頷いた。
「やってみる」
彼らは目を閉じ、童歌のような呪いを唱え始めた。結界は艦隊の残党を囲い、外界から切り離す。あとは、その結界を縮めて行って――……。
「魔術回路装填……隔離、縮小、……圧縮」
見る間に小さくなった結界がぴたりと閉じたとき、そこには幽霊船がやってくる前の平和な海が広がるばかりだった。
「やったね、みんなで里を守ったの」
ロランが言った。
「やった、やった」
狐も狸も、みんなで大騒ぎする。
ロランは嬉しくて、一緒に輪になって踊った。宴は次の日の朝まで続いたという。
大成功
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