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羅針盤戦争〜異形の海獣島

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #フィセター島

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●森羅の巫女と陸クジラの島にて
 その島は無人島。とりたてて特徴のない、グリードオーシャンでも誰も居つくような魅力もないただの島。
 だが、今のその島にでは奇妙な海獣が闊歩していた。
 巨大な頭部から尾まで続く龍泉的なフォルムは深海に潜る事に特化した鯨の形そのもの。けれどそれが居るのは水の浮力のない陸上、それを克服するためにか短く太い頑丈な四本の足が進化のために失う前のように生えている。
 奇妙な鳴き声と共に、陸クジラは鬱蒼と茂るジャングルの枝や木々を踏み潰し、或いは薙ぎ倒していく。
 茂みの揺れる音、それを察知した陸クジラの一匹が短い足をさらに屈め直後高くに跳躍、その茂みをその巨体でダイビングする。
 あとには圧し潰された小動物、それを立派な歯で咀嚼しながらまだまだ空腹らしく、獲物を求めるかのように陸クジラは悠々と歩いていく。
 それらが巡回する中央、奇妙な人型達が一心に祈りを捧げる光景がある。
 飲まず、喰わず。一心に祈る様はまるで邪教を信仰する狂信者のよう。そして祈りを捧げられる神体はその祈りに応えるかのように肉々しい表面を波打たせるのであった。

「予知を得た。グリードオーシャンの羅針盤戦争に纏わるモノだ」
 グリモアベース、水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)が集まった猟兵達に説明を始める。
「得た予知によるとUDCアースより落ちてきたと思しき無人島、フィセター島にて森羅の巫女と呼ばれるコンキスタドールが島を支配しておるようだ。巫女達自身は島の中心で神体に祈りを捧げているだけだが、その代わりに島を怪物化した鯨――陸クジラがうろつき回っておる。今回皆には陸クジラ達がうろつき回るジャングルを突破し、巫女達が崇める神体を破壊してきて欲しい」
 作戦の概要を伝え、龍神の話は詳細に移る。
「グリードオーシャンは直接の転移、それから引こうとは阻害されている為、鉄甲船で海岸に接岸してそこから島の中心に向かう流れになる。ジャングルはかなり草木が生い茂っていて視界は悪いが注意すれば問題なく突破できるじゃろう。問題は陸クジラ、マッコウクジラに翼竜のような翼と体重を支える頑丈な手足を生やしたような姿の怪物で、その巨体は十数メートルにもなる。ジャングルの中ですら所によってはその背中を見る事が出来る程に非常に目立つ存在じゃ」
 数は少ないがその巨体、倒すには骨が折れるだろうが問題はそこではないと多摘は言う。
「性質的に飢えているのか非常に狂暴、さらに音に敏感に反応し、此方の存在を察知されたらその翼と足で高く飛び上り周囲の木々ごと巨体で圧し潰そうとしてくる。高さもかなりあるから圧し潰し回避に高所を移動していても強烈な頭突きを喰らってしまう可能性が高い。そしてジャングルという環境、物音を立てずに移動するのは至難の業だろう」
 どうにか上手く躱すなり倒すなりして島の中心を目指し森羅の巫女の神体と思しき物体を破壊してきて欲しいのだと、龍神は云った。
「神体の周囲にいる巫女達は祈りに専念していて特に気にせずとも問題ない。そしてその身体を破壊さえできれば巫女も陸クジラも全て溶けて消滅すると予知されている」
 そして多摘は説明を締め括ると宝珠型のグリモアを取り出し、フィセター島へ向かう鉄甲船へと猟兵達を転移させたのであった。


寅杜柳
 オープニングをお読み頂き有難うございます。
 ジャングル。晴れ時々陸クジラダイビング。

 このシナリオはUDCアース由来の無人島を『森羅の巫女』と異形の陸クジラ達から解放するシナリオとなります。
 島の中心にある不気味で巨大な肉の塊を破壊すれば巫女も陸クジラも消滅します。
 また、下記の特別なプレイングボーナスがある為、それに基づく行動があると判定が有利になりますので狙ってみるのもいいかもしれません。

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 プレイングボーナス……ジャングルと怪物海獣に対処する。
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 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『怪物化した海獣たちの無人島』

POW   :    怪物化した海獣の脅威を打ち払って前進する

SPD   :    不気味なジャングルを探索して、目的地である島の中心を目指す

WIZ   :    ジャングルの生態や、海獣の行動・習性などから、島の中心地を割り出す

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ゲニウス・サガレン
陸クジラか~
骨くらい持ち帰って標本にしたいが、大きすぎるか……

さて、戦うには強大、逃げ切るにも大きすぎるとくれば、陽動作戦だろう

アイテム「フライング・シュリンプ」
有翅エビの群れをジャングルに一斉に解き放つ
彼らが陸クジラを警戒しつつジャングルをランダムに飛行、その羽音や存在によって他の小動物も驚き、いろいろな物音が立つだろう

そうすれば、この辺りの陸クジラたちは闇雲のダイブをかましてくるはず
その隙に私が駆け抜ける! 騒々しいうちが勝負だ

あ、手持ちの金貨すべてで
UC[ゴーイング・マイウェイ」
私とエビたちが無事帰れるように

私はご神体の位置を探ることで手一杯だな
その破壊は……他の猟兵にお任せしようか


ロラン・ヒュッテンブレナー
大きなくじらさん?
くじらさんって、どんな動物だろ?
とにかく、邪教の儀式を止めればいいんだよね

まずは、魔力感知(ハッキング)で大体の方向を調べるね(情報収集)

UCで狼化(8歳程度の子狼)したら行動開始なの
ジャングルでは、狼の嗅覚と聴覚(聞き耳)に、身のこなし(地形の利用)と脚力(ダッシュ)で駆け抜けるね
足音は肉球とオーラ防御の結界術で吸収して相殺なの

暗視と探知した魔力の追跡に、くじらさんは索敵して先に見つけたら、
遠い所に石を投げて囮にしてる間に抜けるの(学習力)

儀式の間に着いたら、ご神体を「月光の槍」の人狼魔術で攻撃するよ
危ない物は、ここには要らないよ
正気に戻って?

魅了の遠吠えを周囲に響かせるの


ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
ジャングルって美味しい食材がいっぱいあるんだよね☆
これは是非とも解放しよう♪

UC【膨張せし肉肉しい宇宙】で宇宙牛に変身・巨大化!
その巨体を利用して、ジャングルの木々を薙ぎ倒し、怪物海獣も圧し潰し、制圧していく!
肉塊も巫女も破壊しつくそう!
小さい所へは「肉体改造」でにゅるんって感じで流動体になって侵入しましょう!

解放したら得られた食材で「宴会」を開こう♪


セフィリカ・ランブレイ
クジラは海に居て欲しいなぁ…
雄大な海を泳ぐクジラは神々しさを感じるけど、陸を飛び跳ねて獲物を貪り食う姿は怪獣じみてない?

『どちらも本質は変わらないと思うけどね』
シェル姉…相棒の魔剣のサッパリとしたご意見だ
ま、イルカも正面から見たら怖い顔してるか
『それ関係ある?』

でも、クジラと正面衝突は避けたい
倒せるだろうけど、その戦闘音でまた別のクジラが…なんてゾッとするよ

【虚影の燐虫】を展開
これに離れた所で音を立てて貰いクジラの注意を引きつける
そうしてクジラをやり過ごして進んで、森羅の巫女への到達を目指す
じゃ、ここから先は声じゃなく思念のやり取りですすもっか、シェル姉。
シェル姉も警戒、よろしくね?


怪式・談
単純にデカくて食欲旺盛、島の天気は晴れ時々鯨。
いやー怖い怖い、会わない様にスニーキングミッションしましょうか。

取り敢えず私はポルターガイストでの【空中浮遊】【滑空】で浮遊移動して音をたてない様に移動します。
まぁそれだけだと何処かで葉っぱやら枝やらに引っかかって音たてそうなのでUCで囮を用意します。

UCで召喚した料理は空腹を探知して料理の一部を飛ばすので腹減り鯨にご馳走してくれるでしょう。
ついでにダイブして爆音起こして私の引っかかったりする音を誤魔化したりしてくれたら嬉しいですかね。
そんな鯨を迂回しながら中心部を目指します。

中心部に着いたら護身用拳銃の【乱れ撃ち】で巫女の破壊です。


久遠寺・遥翔
アドリブ歓迎

全身パイロットスーツを兼ねた変身状態で出撃するぜ
こいつは厄介そうだが、海上に出ずジャングルの中くらいなら飛び回れるはずだ
ジャングルの中を静かに飛び、【地形の利用】で枝葉や蔓の隙間にできた道などを抜けていく
これまでの【戦闘知識】から陸クジラを避けて飛べるルートを予測
【第六感】で軌道修正しながら島の中心を目指すぜ
極力発見されずに進みたいが、発見され敵がこちらに向き直ったら
UCを発動。最高速度で島の中心まで一気に飛ぶ
焔の剣を肉塊に突き立てて【焼却】し任務完了だ


リーヴァルディ・カーライル
…森羅の巫女ね。無人島だからまだ良かったものの、
人が住んでいる島で儀式をされたら、どれだけの被害が出るか…

…これ以上、被害が大きくなる前に必ず、此処で仕留めてみせるわ

木々から漏れ出る日光を全身を覆う闇夜のオーラで防御して、
UCを発動して吸血鬼化し肉体を残像のように実体の無い霧に変化する

…これだけ木々が生い茂っていれば、日光も届きはしない

…異世界では使い辛いこの能力も、何の憂いも無く使う事ができる

障害物を透過し鯨の物理属性攻撃を透過して受け流し、
暗がりを暗視しつつ中央部に向かって密林を直進し神体を破壊する

…霧の身体に障害も押し潰しも通じない

…このまま一直線に神体を破壊してやるわ


エドゥアルト・ルーデル
そんな訳で拙者達はジャングルへやってきたって事でござるな

音が立たない地面にすればいいでござるよ
【流体金属】君を地面に垂らし薄く広がって鉄のカーペットにさせますぞ!
これなら草の上より音が出ないし何より地形もなだらかで移動しやすいでござる

ちょっと進めば陸クジラ、さてどう避けようかと思った矢先に現れたのは…【知らない人】だこれ!誰だ貴様は!あっちへ行け!
ぶっ飛ばされて音を立てる知らない人!気づく陸クジラ!逃げる知らない人!追いかける陸クジラ!まあいいやこのまま囮にしますぞ
ここにいるなら猟兵だろうし何とかするでござろう多分、きっと、メイビー

島の中心の神体に着いたら…燃やすか!森は燃やすものでござるな!



●陸クジラの島にて
 無人の島、フィセター島。いまや邪教の巫女の拠点となった島に接岸した鉄甲船より猟兵達は海岸に降り立つ。
 その真正面にはジャングル。そして時折響く重く巨大なものが地面に落ちる音。
 この陸クジラうろつくジャングルを突破し、島の中心で行われている儀式を阻止する事が今回の目標。
「そんな訳で拙者達はジャングルへやってきたって事でござるな」
 まるで鉄甲船からカメラが向いているようにエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)が語る。
「……森羅の巫女ね。無人島だからまだ良かったものの、人が住んでいる島で儀式をされたら、どれだけの被害が出るか……」
 思案するダンピールはリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 謎の儀式と共に怪物化した動物を生み出し続けるこの儀式、恐らくは島民全滅レベルの被害が出るだろう。
 現時点では無人島でしか儀式を行えていないようだが、勢力を増したらどうなるかは分からない。
 これ以上、被害が大きくなる前に。
「必ず、此処で仕留めてみせるわ」
「クジラは海に居て欲しいなぁ……」
 ジャングルに踏み込む前、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)はそう呟く。
「単純にデカくて食欲旺盛、島の天気は晴れ時々鯨。いやー怖い怖い」
 どことなく胡散臭いヤドリガミの怪式・談(怪しい奴・f31950)は他人事のよう。
「陸クジラか~……骨くらい持ち帰って標本にしたいが……」
 博物学者のゲニウス・サガレン(探検家を気取る駆け出し学者・f30902)は仕事的にそんな事を考えるけれども、大きさ的に無理だろうとあきらめ気味。
「大きなくじらさん?」
 こてんと首を傾げる人狼の少年はロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)。
 そもそも彼はくじらというものがどんな生き物なのかを知らない。けれど、ここで繰り広げられている邪教の儀式をそのままにしておくのがよくない事はしっかりと理解している。
「雄大な海を泳ぐクジラは神々しさを感じるけど、陸を飛び跳ねて獲物を貪り食う姿は怪獣じみてない?」
『どちらも本質は変わらないと思うけどね』
 セフィリカの呟きに応える声。けれど彼女の周囲に人影はなく。
「シェル姉……サッパリとしたご意見有難う」
 シェル姉、と呼びかけた先は彼女の剣。魔剣シェルファ――意志持つ魔剣だ。
「ま、イルカも正面から見たら怖い顔してるか」
『それ関係ある?』
 確かにそれは本当だけれどもちょっぴりベクトル違いをツッコむシェルファ。
 そしてロランは周囲の魔力を感知するため電脳魔術を起動する。大まかな位置は分かるのだが――、
「……この大きいの、全部?」
 感知範囲内に数えられるだけで十数体はいる。それぞれがある程度距離を取っているのは分かるが、移動速度は意外と速いようで。
 骨すら持ち帰れない程に巨大な陸クジラ、それが狂暴にこちらに襲い掛かってくるのであれば戦うにも逃げ切るにも困難が予想される。
 そうあってゲニウスの選択したのは陽動作戦。
 彼を主人と認めた空飛ぶエビの大群を解き放ち、ジャングルに散開させる。
 社会性を持つ彼らに命じた事は陸クジラの警戒と羽音による陸クジラの誘因。その羽音に驚いた小動物も連鎖的に騒ぎを起こしてくれれば。
 そしてセフィリカもユーベルコードを起動する。
「じゃ、目一杯輝いてよろしくねっ!」
 そしてセフィリカの元より蛍のような光点が百近く飛び立つ。
 それは戦闘力のない虫型のマシン、けれど知能の低い陸クジラを誘き寄せるには十分。
 正面衝突して負けない自信はある。けれどそれは一対一の話、その戦闘音で他の陸クジラがわらわらとやってきてしまえば――考えただけでゾッとする。
 セフィリカが召喚したマシンたちも空飛ぶエビと同様に陽動が目的、ジャングルにバラバラに散開、十分離れた場所で光と羽音で陸クジラ達を誘き寄せる。
 所々で重い足音が響き始めるが、高速で飛行できるからそう簡単には捕らえられる事はないだろう。最悪、自爆機能もある。
 そして空飛ぶエビと虫型マシンにより陸クジラのいないルートが開けたところで、セフィリカが気配を消しジャングルを静かに飛び込むと、ロランがユーベルコードを起動。
「夜の灯りを、呼びし遠吠え、大いなる円の下、静寂を尊ぶ」
 一声小さく鳴いたヒトの少年の体が満月の輝きに包まれると、その体は灰色狼の仔に変じる。
 そして満月のオーラを纏った仔狼は体の動きを軽く確かめるようにした後、ジャングルを一気に駆け抜けていく。
 野生動物の優れた五感と身体能力、それに加えて満月のオーラを人としての結界術で消音に利用しつつ走れば陽動に釣られている陸クジラ達が気付く事もないだろう。
 二人に続き、リーヴァルディはその身を闇夜のオーラに包みジャングルに飛び込む。
 樹々から漏れ射し込む日光は今から彼女の発動するユーベルコードには少々都合が悪い。
「……限定解放。伝承に謳われる吸血鬼の力を此処に……血の変生」
 呟けば彼女の肉体が伝説に謳われし吸血鬼そのものに変異。同時に闇夜のオーラに溶け込むようにその身体を霧状に変化させる。
 闇夜の霧は日航も届かぬ程緑深いジャングルの道なき道を静かにすり抜け中心を目指していく。
 吸血鬼の弱点、日光。それがある他の世界では酷く扱い辛い能力だが、これだけ光が遮られている場所でなら行使に問題はない。
 そしてそんな三人に続いて他の猟兵達がジャングルに踏み込んでいった後に残ったエドゥアルト。
 ジャングルの木々は人の入る事もなく雑に重なった小枝や葉が地面を覆い隠す程。その上を普通に歩けば物音を立てることは避けられず、陸クジラのダイブでジャングルの肥やしになってしまう事も確実だろう。
 陽動で陸クジラを離す、空中浮遊で踏まないようにする、或いは真っ向勝負で捻じ伏せる。対策としては色々あるが、歴戦の傭兵っぽいエドゥアルトの選んだ手段は地面そのものに対してのもの。
 自らの意志を持つ流体金属、それをとろりと地面に垂らせば進路上にカーペットのように薄く広がる。
 その上に全体重をかけてもその鉄のカーペットの下からは何の音もしない。音の立たない地面にする為のコーティングは十分だ。
 地形自体もなだらかになり移動しやすくなったのも嬉しい。
 ――名前は『癇癪』とちょっとこの状況的には危険な気もするものだけれども。
「それでは出発進行でござる!」
 威勢よくエドゥアルトはジャングルの中をずんずんと進んでいく。
 そんな風に猟兵達はジャングルへの潜入を果たした。

 ジャングルの中、談はすいーっと地に足を付けず浮遊移動していた。
 悪霊でもある彼女、ポルターガイスト的な事もできなくはないのだ。
 とはいえそれに胡坐をかいては痛い目を見るのも物語の常。例えば葉っぱやら枝やら障害とまではならずとも陸クジラを気付かせるには十分なものはそこかしこ。
 というか、今まさに引っ掛かって陸クジラと目が合ってしまっているのだけれど。
「正直中身見たくないんでパッと怪書発動だけさせて頂きます!」
 判断は早い。即座に談がユーベルコードを起動しアタッシュケースより取り出した黒表紙のレシピ帳を捲れば、人型の獲物に空腹感を刺激されていた陸クジラの前に料理? が召喚される。疑問形なのはその外見があまりに個性的、食欲を減退させる程だったからだ。
 狂暴化した陸クジラすら飛び掛かるのを躊躇うその間に、料理から飛び出した謎の塊が陸クジラの大きく開いた口の中に飛び込んでいく。
 味わいは悪くなかったのか完全に混乱した様子で動きが止まった陸クジラ、最初に食欲を刺激された獲物の事はすっかりと頭から飛んでしまった様子。
(「危ない所でした……」)
 滑空するようにジャングルを移動しながら談が冷や汗を拭う。
「ジャングルって美味しい食材がいっぱいあるんだよね☆」
 ぶよぶよとしたクジラっぽい体に人の上半身を生やしたような巨きな体のラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(ハラペコかわいいコックさん(可食・高栄養・美味)・f31483)はずりずりと通り道を潰しながらジャングルを往く。
 魔王である彼女が目指すは『みんなおなかいっぱいになれるせかい』、その為なら自分の身を食材にすることも厭わない。そんなラヴィラヴァがこの島を解放したいと思うのは至極当然だろう。
 そんな彼女の発する音を感知したか、腹ペコ陸クジラが高々と飛び上がり、彼女を狙い自由落下してくる。
 大きなラヴィラヴァとは言え今の大きさは陸クジラの方が大きい。このままではぺしゃんこにされてしまう。
 しかし彼女は動じず、寧ろ初めて見た陸クジラに歓喜している。
「嗚呼、世界はかくも美味しいのか! さぁどうぞ召し上がれ♪」
 その言葉と共に彼女のピンクのゲル状の肉体が変形、無数の目や耳等のパーツを有する宇宙牛の姿へと変化し、膨張。
 落下してくる陸クジラをその弾力のある肉で受け止めてさらに成長、ジャングルの木々を薙ぎ倒しながら周囲をどんどん圧し潰し飲み込んでいく。
 ――目指す世界以前の問題として、ラヴィラヴァ自身の視点では陸クジラも全て『食材』に見えてしまうこともあるのだけれど。

 ジャングルから少し見上げれば空へ跳躍したでかい灰色の巨体がよく見える。
 何だか変な肉に陸クジラが飲まれたようにも見えたが気のせいだろうと思考を現実に戻しつつ、ゲニウスは誘導に成功しやみくもに陸クジラが暴れている今が勝負とばかりジャングルの中を一気に駆け抜けていく。
 とはいえ陸クジラの数はかなり多い。そんな中彼が無傷で進むことができるのは金貨を代償にしたユーベルコードの効果。
 無傷で目標を達成する、それは彼だけならば代償も少なく済んだだろうが、陽動に力を借りている空飛ぶエビたちの無事をも含むのであれば個体数分の代償がかかってしまう。
 どうにか神体破壊まで金貨が保ってくれることを願いながら無傷で陸クジラ達に察知される事無く走り抜けていくゲニウスの元に、空飛ぶエビの一匹が帰還しどこかへ向かうように訴えかける。
 恐らくはその先が島の中心、邪悪なる森羅の巫女達とその神体のある場所だろう。
 ガジェットはあるけれども神体を破壊できるかまでは少々自信がない彼、神体を探る事で手一杯。
 故に破壊は他の猟兵に任せる事にし、ゲニウスは他猟兵が神体へ向かう為の誘導と、それを阻む陸クジラの攪乱に尽力すると決めジャングルを駆けるのであった。

 さて、エドゥアルトはその身をジャングルの茂みに伏せていた。
 前を見れば陸クジラ。伏せてどっしり構えているようだが、これ以上迂闊に動けば即座に反応してくるだろうと勘が警告してくる。
 頭頂から鼻提灯が出ているようにも見えるけれど油断はならない。
「『さてどう避けようか』」
 思案する黒髭の傭兵――奇妙な感覚に横を見れば全く見覚えのない知らない中年の男がそこにいた。
「誰だ貴様は! あっちへ行け!」
 思わず立ち上がり回し蹴りで見知らぬおっさんを蹴り飛ばし――飛んだ先にはお昼寝中と思しき陸クジラ。
 胴体におっさんのダイブを喰らった陸クジラ、当然ブチ切れて背を向け逃げるおっさんを連続ダイブで追いかけていく。元凶のエドゥアルトには気付かずに。
「……まあいいやこのまま囮にしますぞ」
 まあここにいるならきっと猟兵だろう。そもそも無人島だし、自力でどうにかするだろうと都合よく解釈しつつエドゥアルトはそっと島の中心への行軍を再開した。

 そして別地点。既に全身に黒きパイロットスーツを纏った久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)。
 海上での転移や飛行は阻害されているが、島の中ならある程度は大丈夫だと感覚でわかる。
 けれどあまり高く飛べば陸クジラ達の格好の標的になってしまう。その為遥翔はジャングルの中を飛行している。
 枝葉や蔓、あまりに多いが使えそうなルートを選ぶ分にはある程度は必要情報を絞れる。
 できるだけ音を立てぬルートを選び飛行し進んでいくが、突如嫌な予感に襲われる。
 第六感に従い即座に軌道変更すれば、本来進む筈だったルートに灰色の巨体が墜落してくる。
 運が悪かったか、或いは入り組んだジャングル内を音なく飛行する事に限界があったか――いずれにせよ、完全にこちらを得物と認識して攻撃してきたのだろう。
 この状態でどうするのが最善か、
「天焔解放(オーバーフロウ)――フレアライザー・ヘヴンッ!」
 ユーベルコードを起動すれば漆黒と黄金の焔が遥翔の体を覆い、飛空騎士フレアライザー・ヘヴンへの変身が完了する。
 この状態なら時速9600km/hで飛翔可能、気づかれたなら一気に最高速度でごり押す。
 墜落してきた陸クジラが態勢を整え直す前に遥翔は飛翔、ジャングルの木々の先辺りの高度で一直線に島の中心へと向かう。
 幸い気付かれる事無くある程度の距離は稼いでいる。賭けにはなるが、分が悪いものではないだろう。
 そんな彼とは真逆、暗がりを選び、音もなく進んでいくリーヴァルディに陸クジラ達は気付かない。
 もし気付かれたとしても霧を圧し潰すなどできはしないのだけれども。
 そして彼女は障害なく森羅の巫女共のいる広場へと到着した。

 そこは広場と言っても周囲の特に背の高い木々が空からこの場を覆い隠すようにしている陽の射しこまぬ場所。
 複雑に絡み合った丈の低い草木に膝をついて、巫女達は一心不乱に祈りを捧げている。
 中心に据えられた神体は歪に脈動しおぞましさを感じる。
 奇妙な聖句に狂気の巫女、そして冒涜的な神体。どれをとっても理解し難いものだ。
 その場所を発見したリーヴァルディの行動は早い。
 霧と化した身のままに神体に向かって飛び込んでいく。
 このまま一直線に破壊する――神体に向かって飛び込み射程に入った瞬間吸血鬼の姿に戻り、黒き大鎌で力強く一閃する。
 派手に飛び散る血飛沫、しかしまだ脈動は止まらない。
 そしてその光景を周縁のジャングルから覗き見ていたロランとセフィリカ。
 ロランの方は海岸から魔力感知で把握できなかった位置で陸クジラを見かける事はあったけれど、小石を口で拾って思いっきり遠くに投げつけ木の枝を折った物音で注意を惹きつけてしまえば気付かれずに通り抜ける事が出来て、問題なくこの地へ到達できたのだ。
(「シェル姉、そっちは大丈夫」)
(『問題ないわ』)
 森羅の巫女の祈る広場、そのるセフィリカ。 
 音を極力減らす為に思念でやり取り、セフィリカと魔剣の二つの意識で周囲を警戒しながら進み到着していた。
 リーヴァルディが切り込んだ今がタイミング、そう判断した二人も行動に移る。
(「危ない物は、ここには要らないよ」)
 そんな思念を乗せた仔灰色狼の遠吠えと共に月光のオーラを収束させ形作った槍を神体に放つ。
 遠吠えに乗った魅了が身を挺して庇わんとする巫女達の動きを封じ、槍は易々と巨大な肉塊に大穴を穿つ。
 魅了の魔力は強い、けれど巫女はその信仰心からか抗い再び動き出さんとする。
 そこに陸クジラを迂回してようやく到着した談が広場に飛び込み、コートに隠し持っていた拳銃を魅了に抗い動き出した巫女達に向け銃弾を撃ち込んでいく。
「ヒャッハー! 森は燃やすものでござるな!」
 更にそう言って火炎放射器から炎をばら撒きながら飛び込んできたエドゥアルト。
 神体目指す猟兵を手助けしていたゲニウスに案内されようやくここに到着したのだ。
 生木は燃えにくいはずだが魔力で強化された火炎放射器の火焔には敵わない。
 突如発生した炎と煙で陸クジラも攪乱されているのか、あちこちでダイブする音が聞こえるけれども広場へと援軍にやってくる陸クジラはいない。
 そして火炎を斬り裂き漆黒と黄金の焔の騎士が神体に向かって一直線に突撃。手に持つ焔黒剣を神体に深々とその刃を突き立て、剣に宿した焔を全開にして炎上させる。
 しかしまだ、完全に止めを刺すにはもう少し必要。
 そこにリーヴァルディがマスケット銃の弾丸を連続で発射し風穴を穿てば、セフィリカが一気に距離を詰め、魔剣シェルファを鋭く振るい神体を深々と斬り裂く。
 すると神体は形を維持できなくなったのかドロドロに溶けて地面に広がっていく。
 慌てて後退したセフィリカが周囲を見れば、森羅の巫女達の姿も同じように崩れ始めている。そしてジャングルの方で響いていた音も止んでいた。

 静寂を取り戻した島。その中心の広場で猟兵達は一息ついていた。
 怪物化した陸クジラももういない。いずれ、元の生態系に戻っていくだろう。
「この森、一杯食材があったよ☆」
 そしてジャングルをすりつぶしながら巨大な牛? がそのような事を言いながらやってくる。
 陸クジラを養える程の豊かさがあったのか、ラヴィラヴァの手には小動物や植物、後は神体破壊前に仕留めていたと思われる陸クジラの肉の斬り落としが抱えられていた
「そうとあれば早速宴会の準備、はじめよう☆」
 ユーベルコードを解除して元の姿に戻ったラヴィラヴァが包丁構え調理の準備を始める。
 グリードオーシャンを巡る戦いの中、一時の休息があってもいいのかもしれない。

 かくしてフィセター島は解放され、猟兵達の進軍もまた一つ進んだのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月11日


挿絵イラスト