羅針盤戦争〜Mad mud dolls.
●狂った泥人形
黒紫の船団が白昼の海に現れた。幽霊船と言うには明らかに時間を間違えているような気もしたが。
それは泥船、暗黒の船。何故沈まぬかと問われれば答えに窮するが、おそらくはコンキスタドールという諸悪が住まうためだろう。
全てがドロドロ。至る所から船体と同化した姿で現れるのは――マッドドール。
彼か彼女か。それらは何を思うたか。目指すは蒼海羅針域、ただ一つ。
●堂に入った初仕事……?
「今こそ我が力を見せる時!」
ルーエントロワ・シェドリーナ(知識欲の悪魔の魔女・f31559)は青々としたグリモアを掲げていた。ふとしたことから得た力。それがどんな作用を齎すか、彼女は知りたくて仕方がなかった。
それは転送の力と共に、他の猟兵を戦場へと導く者の証であった。何やら見慣れぬ顔、と思いながらも、猟兵達はやおら集まり始める。
「ふむ、これは人を集める作用もあるか……まぁよい。さて諸君……我は彼の世界にて行われている『羅針盤戦争』なるものが非常に気になっている。ただならぬ思惑が深く根強く入り混じっている……それは実に興味深く、我はそれを詳らかにせねば気が済まない……が!」
ルーエントロワはグリモアを握り締め主張する。
「彼の海域においては『マッドドール』なる集団が羅針盤戦争を終焉に導くべく船を出していると言うではないか! しかも泥船だ! 推進力は何なのだ!? 泥にしては不気味極まりない色をしているのは何故だ!? 何体のマッドドールが潜んでいるのだ!? あぁ、あぁ! 気になる! 気になりすぎて今朝は3時に目が覚めたぞ! なので我はお前達を送り出した後、寝る!」
……まあ、最低限の役目は全うする辺り、グリモア猟兵としては及第点、としておこう。
「で、だ。さらに気になることがある。この海域では飛行や転移の類は使えぬのだ。故に、敵船へ乗り込みたくば、せいぜい己が膂力で海を跳ぶがよい。それくらいは可能であろう。相手は泥だが海に浮く。立つことくらいはできようぞ」
海域へ向かう鉄甲船から攻撃を仕掛けるのも一考の余地がある。ともかく、海域の性質に合った戦い方を考えれば、自ずと結果はついてくる。
「彼の船団は如何にして沈むのか……それを作り上げるのが最高の悪事にして至上の愉悦! さぁ、乗り込む勇気のある者は手を上げよ! 我が導いてやろう!」
沙雪海都
沙雪海都(さゆきかいと)です。
ついにボスが現れたようですね。さて、こちらはこちらで新たな敵を探す航海へ向かいましょう。
●フラグメント詳細
第1章:集団戦『泥人形『マッドドール』』
何故か海に浮いている泥船です。中には泥人形が乗り込んでいます。
猟兵が乗り込むと、べちゃって感じだと思います。一応立てます。べちゃべちゃしますが。
泥にも負けず突っ込むか、泥を避けて鉄甲船から狙うか……どちらにせよ、うまく戦術が考えられているといい結果が出そうな気がします。
●MSのキャパシティ
戦争ということもありますので、全てのプレイングを採用することが難しい場合も出てくるかもしれません。
その際はご容赦頂きたく、また戦争期間中はシナリオ運営を継続して参りますので、採用に繋がらなかった方については次の機会をお待ちいただければ幸いです。
合わせプレイングはお受けできません。申し訳ないです。
でも複数採用リプレイとかは気まぐれで書いたりするのでソロ希望の方は明記しておいてください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『泥人形『マッドドール』』
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POW : 泥潜行
全身を【相手を引きずり込もうと泥の中へ同化状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 泥分裂
【泥の中から同じ『マッドドール』】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 泥抱擁
【ドロドロ泥抱き着き】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を泥まみれにする】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:黒川 祐衣
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鳳凰院・ひりょ
WIZ
アドリブ歓迎
うわっ、見るからに触れるとどろどろ動きにくくなりそうな相手だな…
ある程度は距離を取って攻撃といこうかな?
抱きつかれない距離までは詰めつつ、可能であれば泥を媒体に、不可能なら周囲の海水を媒体に固有結界・黄昏の間を発動
【高速詠唱】【多重詠唱】で風・火の疑似精霊を同時召喚
風の疑似精霊で自分前方に風の防御壁展開し、敵の接近を阻止
火の疑似精霊で火球を空中に多数生み出し【乱れ撃ち】で焼き尽くす
相手は泥だから火球で焼き尽くせなかったとしても、火による過熱により水分が蒸発して硬くなっているはず
倒し切れなかった場合は退魔刀を手に接近し【破魔】を付与した攻撃で叩き切る
どろどろじゃなければっ!
テフラ・カルデラ
※絡み・アドリブ可
あわあわ…泥船に動く泥人形…みんなドロドロ…
…じゃなくて!早々に退場してもらわなければこの戦争には勝てません!
【氷結の指輪】で目前の海を凍らせて道を作って、スケートのように滑って泥船に乗り込みましょう!
もちろん泥まみれになるのはフラグなので飛び乗る前にその場を凍らせ、泥船の上で【全てを凍てつかせる小さな妖精】を召喚してマッドドールを凍らせてしまいましょう!
近づくマッドドールは指輪で迎撃しましょうか!
そうやって攻防が繰り広げられていると…背後からマッドドールが…!?
ドロドロの泥船の中に引きずり込まれ―――
(マッドドールのようなドロドロの泥人形と化し、船首像として飾られてしまう)
●泥船乗船、大脱出
「うわっ、見るからに触れるとどろどろ動きにくくなりそうな相手だな……」
「あわあわ……泥船に動く泥人形……ドロドロですよ、ドロドロ……」
テフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)は氷結の指輪で海を凍らせ道を作り、鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)と共に敵船目指して海を渡っていた。
船は泥船。沈むのが相場に思えるが此度は何故か、普通の船として機能しているようだ。泥はあたかもチョコレートフォンデュのように、上部から湧き出てはドロドロと垂れて海へ流れ込んでいる。
「これじゃあ、みんなドロドロ……じゃなくて! 早々に退場してもらわなければこの戦争には勝てません!」
「そうだね。でも、ほんとドロドロだ……ある程度は距離を取って攻撃といこうかな?」
「そうするのがいいかもです……じゃあ、乗り込みますよ!」
氷を泥船の外壁まで繋げ、二人は船へと乗り込んだ。
幽霊船には幽霊が巣食うのが相場。では泥船では――。
マッドドール達はまるでゾンビのように二人を迎えた。体中から気色悪い紫色の泥を垂れ流し、ゆっくりと歩み寄ってくる。船から同時に泥を吸い上げてでもいるのか、いくら零しても縮んで無くなるということはなさそうに見える。
そのまま飛び込んでいけば、二人も少なからず泥に塗れる。猟兵としての戦闘経験からフラグを察知したテフラは船の縁に作った氷の取っ手に手を掛けてから、甲板まで凍らせて足場を作って飛び乗った。
『オブリビオンはみーんな凍らせてきてください! 妖精さん……頼みましたよ♪』
テフラは悪戯妖精の力を借りて、さらに氷結の力を高めてマッドドール達を凍らせにかかる。悪戯妖精がふぅっとマッドドールに吐息を吹きかけると、水分が凍ってピキンと固まり動きが鈍っていった。無理に動こうとしたマッドドール達はパリパリと泥の体が崩れ、やがて全身の形状を維持できずに泥の山へと戻ってしまう。
「指輪での迎撃はうまくいきそうです……そちらはどうですか!?」
「こっちもなんとかね……場よ変われ!」
ひりょは周囲の泥に力を作用させていく。マッドドールに取り込まれる前であれば泥は中立の無機物のようで、ひりょの力に応え疑似精霊へと変化した。
高速の多重詠唱を行うことで風と火の疑似精霊を同時召喚。迫るマッドドールの動きには気を配りながら船上を動きつつ、まずは前方に風の防御壁を展開する。
足場はテフラが作り出した氷を頼りにした。少し滑るがうまくバランスを取りつつ、風でマッドドール達との距離を取りながら火の疑似精霊で火球を空中に多数生み出す。
「全部……焼き尽くす!」
目に付いたところから火球の乱れ撃ちを見舞っていく。マッドドール達はどうにか接近しての攻撃を目論んでいるようで、風の防御壁を無理矢理押し込もうとしていたため良い的になった。ドロドロの体を火球がずぼんと貫くと、泥の中の水分が一気に蒸発しマッドドール達の体が固まっていく。
そうして後は風の防御壁で押してやれば、バランスを崩したマッドドール達は氷の上でばらりと崩れて泥の欠片が撒き散らされた。
変質してしまった泥はもう泥船と一体化できないらしい。泥の上で浮いたまま、どこかへ流されて行ってしまう。
「良い調子です……うわっ!?」
ひりょを気に掛けていたテフラだったが、気づけば背後にマッドドールがドロドロした両腕を振り上げていた。がしっとおぶさるように抱き付かれ、泥の上へと引きずられていく。
「テフラさん!?」
「わたしのことはいいです! こいつは……ちゃんと倒します! だから他のを……頼み、ます……」
マッドドールの腕を掴んでどうにか首が締まるのを堪えながら、テフラは泥船の中へ――。
追い掛けるべきか、否か。逡巡。だが、時間はない。決断しなければならない。
「……信じるよ」
テフラは仲間――猟兵だ。それが、こんなところで死んでしまうなんて有り得ない。ミイラ取りがミイラにならぬよう、ひりょは船上にのみ集中して火球を放ち続けた。
氷の足場が狭まっていく。ひりょは足場に追い詰められながら、どうにか見える範囲のマッドドールは倒しきった。
泥の甲板を見つめ、無言。今は待つしかない。
すると船が揺れ始めた。強い波が打ち付けてきたかと思ったが――違う。船全体の形が崩れ始めている。
泥船が形を維持するためには、それはマッドドールの存在が不可欠だ。故に、船に乗るマッドドールが全て消滅すると、泥船もまた消滅する。
少し時間差があったのは、きっと最後の1体が、テフラを船の中に沈めたマッドドールだったのだろう。
「――ぷわっ、大丈夫ですか!?」
「テフラさんこそ!」
船首付近で声がしてひりょが慌てて駆け寄ると、テフラが泥船の船首から顔を出していた。あたかも船の守り神のように、オブジェとして飾られるような格好で。
「この船は直に崩れてなくなってしまいますね! 氷の道を作りますので、少しお待ちを!」
泥船からずっぽと腕を引き抜いて、指輪の魔力で海に新たな足場を作る。
「降りてください!」
「わかったよ!」
ひりょは急いで飛び降りる。その途中でテフラへ向けて手を伸ばし、取った。
落下の勢いを使ってテフラを泥船から引き抜くと、抱き止めるようにテフラの体を抱えて着地する。
泥船が一つ沈んでいく。海面に広がった泥も、溶けるようになくなっていく。
そうして危機一髪、脱出を果たした二人は、また次の船を目指すのだった。
大成功
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九重・白亜
泥船なのに沈まないのか……まあ突っ込みましょう。メイド服ならいくら汚れても構いません。
相手UCをあえて受け止めます。泥で覆いかぶされようとも詠唱はできるので、抱擁を受けたまま指定UCを発動。文字通り、風化させてやる。
……そうだ。この船ごと風化させればいいのでは?
足場習熟で船の奥へ。抱き着いてくる奴にはもう一度UCを当てて、船底を目指す。そこにもう一度UCを当てれば、崩れるかな。
あ、船ごと沈めるから、オレも沈むのか。……いや、続行しよう。ドロッドロのまま帰るより、海に洗われて帰るとしましょう。
【アドリブ・絡み歓迎】
緋翠・華乃音
沈まないと分かっていても泥の船には乗りたくないな。
まあ、狙撃手は狙撃手らしく……装甲船からその本分を全うするとしようか。
……泥船の推進力?
個人で空母を運用するオブリビオンもいたのだから、そこら辺はどうとでもなるんじゃないのか? 理不尽な話だが。
いや、理不尽な能力を有するのは猟兵も同じか。
グリモアの予知に転移、既存の戦術を覆すユーベルコード。
何よりも恐ろしいのは単騎ではないということ。
過信や油断さえしなければ強大なオブリビオンすら屠ってのける。
ということを頭の片隅で考えながら狙撃。
――それにしても数が多いな。
無限湧きはしてないと信じたいが、決め手は他の猟兵に任せて俺は援護に徹しよう。
●泥は有限、猟兵はそれを超えるか?
「泥船なのに沈まないのか……」
九重・白亜(オルタウィザード・f27782)は自身が乗る鉄甲船から泥船を眺める。外壁をドロドロと流れ落ちる泥は、しかし海面に広がらず船体付近を漂うばかり。
船が泥を吸い上げ、また船体の一部にでもしているのだろう。泥の循環、エコロジー。
しかし遠くに見える泥船は――今もまた一隻沈んだ。あれは他の猟兵達が攻撃を仕掛けていた船。マッドドールを全て駆逐すれば泥船は消滅する、と情報も入ってきている。
「沈まないと分かっていても泥の船には乗りたくないな」
緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)の呟きは尤もだった。衣服は汚れるし、泥の中に沈み込む感触も、あまり気持ちいい気がしない。
だが、汚れてもいい服装なら思い切って飛び込むのも一考。
「オレはこのまま行かせていただきます。メイド服ならいくら汚れても構いませんので」
「了解。こっちは少し離れた段階で狙撃する。狙撃手は狙撃手らしく……鉄甲船からその本分を全うするとしようか」
白亜が泥船へ飛び込んだのを確認すると、華乃音は船員に泥船から離れるように指示し、スナイパーライフルのセッティングを始めた。
泥船に飛び乗った白亜にマッドドール達は俊敏に飛び掛かってきた。前から後ろから、白亜が具になったマッドドールサンドイッチの完成だ。
(大丈夫なのか? あれは……っと、また増えてきてるな)
華乃音はスコープを覗き、泥船の状況を確認する。白亜はマッドドール達に迫られても動じていないように見えるが、白亜は気づいているか――船体から新たなマッドドールが複製されていた。
その増援を、華乃音が狙撃する。1体に弾丸を何発もかけていられない。一発で仕留めるため、狙うは泥の奥にぼんやり輝く金色の双眸、その間。
ドン、と放たれた弾丸は一直線にスコープの中心が狙うマッドドールの双眸の間を貫いていった。元が泥だ。弾丸は容易く貫通し、船さえも貫く。撃たれたマッドドールは眼球がぐりんと上を向き、体を保っていた芯がすぽんと抜けたかのようにぐしゃりとその場に崩れていった。
その様子を、船上で見ていた白亜。
(いい仕事でございます……こちらも、お役に立ちませんと)
白亜は決して引き付け役のただの囮ではない。今こうしてマッドドール達に抱き付かれているのは、それでも詠唱を行うことができるから。
『既に壊れたも同然だ』
密着した状態から右腕でフック、そして肘打ちで前後から挟んできたマッドドール達をがすがす攻撃していく。とにかく攻撃を当てさえすればよい。そうすれば、後は破壊魔術がマッドドール達を壊してくれる。
マッドドール達の体が天日干しされたように固まり、そこからヒビが全身に広がっていく。どろりとした感触がなくなったのを感じると、白亜はべりべりと固まった泥を体から剥がしていった。
(……そうだ。この船ごと風化させればいいのでは?)
巨大な泥船だが、試す価値はある。際限なくマッドドール達が湧いてきて手に負えなくなるのなら、そちらのほうが早そうだ。
足場は緩い泥だが、どんな足場でも器用に進む熟練の技を使い、マッドドール達の間をすり抜けていく。
(船内に行くつもりか……船の動力でも破壊しに行くのか? ……ま、こちらは狙撃を続行するとして)
遠くから白亜の動きを確認する華乃音は、白亜を追いかけようとするマッドドール達を優先して狙い、頭を次々撃ち抜いていく。そうして道を作るお膳立てをしながら、追っ手が入っていかぬよう泥船の船外には常に気を配る。
(しかし……泥船の推進力、個人で空母を運用するオブリビオンもいたのだから、そこら辺はどうとでもなるんじゃないのか? 理不尽な話だが)
またマッドドールが生まれた。周期的に生まれてくるのかはよくわからないが、にゅるりと人の形を成した瞬間、華乃音はドンと頭を撃ち抜いてまた泥に戻す。
(いや、理不尽な能力を有するのは猟兵も同じか。グリモアの予知に転移、既存の戦術を覆すユーベルコード)
この狙撃も、簡単にやってのけているように見えるのはユーベルコードの力。人の理を外れた異能は、人の目では到底捉えきれぬ距離でも正確に狙撃する。
(何よりも恐ろしいのは単騎ではないということ。過信や油断さえしなければ強大なオブリビオンすら屠ってのける)
猟兵は日に日に数を増していると聞く。今日もまた、どこかで猟兵の力を授かった者がいるかもしれない。
この戦争において敵戦力は未だ膨大。先の見えない戦いが続いている。だが、猟兵とて消耗しているばかりではない。その一端は、きっと新たに生まれる猟兵が握っているに違いない。
物思いにふけりながら、華乃音が狙撃を続けるその頃。白亜は船内を駆け下り船底を目指していた。船内部にもマッドドールは湧いており、白亜はそれらを魔術で風化させて突き進む。
「ここが船底……いきます」
握り込んだ手に魔力を溜めこむと、瓦割りのように突き下ろしながら手を開き、破壊魔術を叩き込んだ。魔力の波が波紋のように船全体へ広がると、泥の色がさっと薄くなっていく。
バキン、と割れた床から海水が噴水のように吹き上がった。
(あ、船ごと沈めるから、オレも沈むのか。……いや、続行しよう。ドロッドロのまま帰るより、海に洗われて帰ったほうが後の洗濯も楽だから)
上昇する水位から逃げるように来た道を戻りながら、魔術をぶつけて船の崩壊を速めていく。
(へぇ……全部倒したか、船の破壊が先に決まったか……どちらでもいいか。ひとまずこれで、ミッションコンプリート)
スコープからようやく目を離し、華乃音はふぅ、と安堵のため息。集中し続け、いくつもの船に目を向けて狙撃したマッドドールは途中から数えられなくなった。それほどまでに湧き続けていたが、それもようやく収まった。
周りの泥船も、別の猟兵達が攻略したようだ。これで無事、コンキスタドールの船団を退けることができたが。
「あの崩れる泥船の近くへ。白亜がどっかに浮いてると思うから」
単騎で乗り込んだ白亜のサルベージ。それが華乃音の最後の仕事だった。
大成功
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