「花が――?」
ずっと植物の芽吹かぬ不毛の土地であったこの島に花が咲いたのを子どもは喜んだ。摘んでいって皆に見せよう。ささやかな思い付きがまさか、こんなことになるなんて。黒百合を握り締めた指先から徐々に黒く染まって息絶えた体を見下ろして、男は嗤った。
「七大海嘯の王たる『一の王笏』が痩せた土地の広がる島を狙っている。そこはもう長い事作物が実らず、島民もほとんど生き残っていない死の島だ」
それでも、一の王笏にとっては戦略上の価値がある島なのだろう。彼はそこを呪詛の象徴たる黒百合で満たして島民の命を奪ってしまうつもりなのだ。
「早くしないと、こちらに先んじて一の王笏が島へ上陸してしまう。彼が来るより前に島へ向かって上陸するところを叩いてもらえるかな」
麒・嵐(東方妖怪の冒険商人・f29276)によれば、島はほとんどが荒地で上陸できそうなのは唯一北側にある岬くらいしかないらしい。
「ただ、気になるのは一の王笏が身に着けている三つの紋章だ。ダークセイヴァーにしかないはずのそれを複数所持している。特に、左胸の『黒百合の紋章』……いやな感じがするな。詳しくはわからないが、おそらく形態変化を伴う強化系の……早めにこれを潰さないとまずいかもしれないね」
説明を終え、嵐は鉄甲船の準備はできていると言った。
「これで島まで行っても良し、途中で自前の移動手段に乗り換えても良し。ただし、海上を飛行することはできないから忘れないように頼んだよ。それじゃ、現場へ向かおうか」
ツヅキ
プレイング受付期間:公開時~常時受付中。
リプレイは他の参加者とまとめて判定・執筆する場合があります。
共同プレイングをかけられる場合はプレイング冒頭にお相手の呼び名とID・もしくは団体名をご記載ください。
●第1章 ボス戦
紋章の力を手にした七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリードの分身が相手となります。三つの紋章を所持しており、左胸の『黒百合の紋章』を破壊しない限り他の紋章がどこにあるのかは不明です。
プレイングボーナス…敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード』
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POW : 闇霧の紋章
【紋章の力】に覚醒して【触れた者の生命力を奪う黒き霧の体】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 紅き月の紋章
【無数の三日月型の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 黒百合の紋章
自身の装備武器を無数の【触れたものを呪詛で侵す黒百合】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
神宮寺・絵里香
●心情
・黒い百合か。百合の花は好きでも嫌いでもない。オレのバカ娘と同じ名前の花だ。まあ呪うのはもう1人の義娘の方だが…。そういう意味ではまあ、不思議な縁だな。ま、関係なくぶちのめすがな
●先制攻撃対策
・呪詛の技能と戦闘知識で込められた百合の花の呪いの系統を解読。薙刀にそれに対応した破魔と浄化の雷を宿し、襲い来る花びらを薙ぎ払い。花びらを焼き払って、敵への攻撃ルートを確保
●戦闘
・相手のUCを凌いだらこちらもカウンターとして高速詠唱からUCを発動。雷の羽衣も輝かせて目つぶしをしてから、雷の速度で移動。拳に宿した雷の力で麻痺攻撃を仕掛け、ラッシュを仕掛ける。
・百合の花は白い方が好きなんだよ、オレはな
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
海の幸を独り占めしようとしてるのかな?
どちらにせよ、うざったいね★
まずは敵がUCで変身して攻撃される所を「肉体改造」で回避に適した身体に改造する事で回避。
その後、UC【膨張せし肉肉しい宇宙】で宇宙牛に変身、敵の霧の身体を吸い込んで「捕食」する。
生命力を奪われてもUCによる変身を続ければ問題なさそう。
霧の身体でもそうでなくても、巨大化して押し潰す事し、捕食する事は出来そう。
鈴木・志乃
それ以上はやめてもらえないかな。
私は呪詛を撒かれると困る人間でね。黒百合の紋章、大人しく渡してくれると助かるんだけど?
……言って分かる相手じゃないか。仕方ない、死ね。
(※わざと実力差が分かっていない猟兵の演技してます。相手のUCをとにかく誘発させたい)
第六感で行動を見切り、光の鎖で早業武器受けからのカウンターを狙い続けるよ。
オーラ防御を体に張って、しばらくそのまま戦うね。徐々に私がへばっていくように見せかけて。
実際はUC発動してるんですけどね。
一応は神の使いなもんで、私。特に邪神に対抗して作られた存在なんですよ。
貴方に勝てなきゃ死んだ方がマシです。
全力魔法でぶっとばします。
クロト・ラトキエ
かの世界の力…“一の”王笏。
アンタは…何?
武器の挙動が、攻撃の合図。
ならば視得る限り見、
此方へ向かう花弁の範囲、数、速度…
可能な限り回避、無理でも外套を翻して軌道の阻害、又は直撃を避け、
接近及び紋章への攻撃を試みる。
…傷よりも、募る呪詛が鬱陶しい。
ただ。
根性論なんて主義じゃ無い…けど、
こんなもん、幾らだって呑み込んで遣る。
連中に対し思う事は、この程度の呪詛ほど軽く無い。
鋼糸の届く範囲まで侵略出来たら、後は近接へと注力。
放ち、絡げ、引き斬り断つか、引き剥がすか
…なぁんて、な。
本命は
――捌式
これ滅茶苦茶疲れるんだが…
その、左胸へ、
サービスだ。全ての幻糸、呉れて遣る。
形態変化後は皆の補助へ回ろうかと
夷洞・みさき
”涸れた波”号にて移動。
船で砲撃と考えていたが、黒百合で撃沈される。
それにより初撃消費。
【水泳】にて陸に上がる。
君はここで暮らす人を殺した。
この海で生まれた咎人殺しとしては見逃せないね。
生きる人の未来を奪った過去は禊潰さないといけないんだ。
僕の船も沈めたし。
【WIZ】
同胞達を呼ぼうとする。
なんか別のが来た。
不毛な土地でも花びらが落ちれば肥料できるだろう。
肥料の元を作る敵に感激したお百姓さんは、彼に御馳走する。
ずんびに加減は分からない。
お百姓さんに難しい事は分からない。
この不毛な島はちょっとだけマシになるかもしれない。
僕、何しに来たんだったっけ?
とりあえず、敵の腹を車輪で轢いておく。
アドアレ歓迎
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
黒百合、確か花言葉の一部には呪いや復讐があったか
俺は一度死んだ身、呪い何て構うものか
いつか必ず本体を元の海に還えしてやるからな
SPDで判定
まずは銀腕を【武器改造】で盾にし攻撃を【盾受け】で防ぎ、そのまま【ダッシュ】【悪路走破】で敵に近づいてく
途中【見切り】【受け流し】で攻撃を凌ぐ
それでも負傷は避けられないだろうが【勇気】と【覚悟】を以て挑む
間合いに入ることが出来れば【怪力】【シールドバッシュ】を使って【体勢を崩す】
再び【武器改造】で腕を剣にして左胸の紋章を狙い【鎧無視攻撃】【早業】【限界突破】【怪力】を使いながら指定UCで【切断】する
鷲生・嵯泉
死したる地にも関わらず更に奪うか
だが此の地を抑える事に因ってお前達が何某かの利を得るのならば
如何な手段を講じ様とも止めるまで
流石に些か数が多い、一刀では完全に躱すも落とすも難しい
黒符に呪詛耐性の力を加え、自身の周囲を囲み阻んで時間を稼ぎ
――侵逮畏刻、仕事だ火烏
最大限の火力を以って、悉くを止めろ
此の程度の呪詛なぞ能く知るものとは比べるべくも無い
子供の火遊びと大差無い――止まってしまえば只の塵芥
衝撃波で以って穴をあけると同時、一気に接敵
怪力乗せた斬撃三連、首・胸・腹と叩き込んでくれる
未だ完全に滅する事は叶わずとも、何れ此の刃は届く
其の時が訪れるまで何度でも、骸の海へと叩き返してやろう
非在・究子
【SPD】
て、敵の、上陸地点は、分かって、いるんだ、な?
そ、それなら、取る、手は、決まりだ、な……きょ、距離を、盾にして、上陸、する敵を、狙い、撃つ。
て、敵が、先制攻撃、しようが……と、とどかなけらば、どうと、言う事は、ない。
こ、こっちの、射程は……8100m、だ。お、お前の、レベルは8100以上、あるか? あ、あったら……頑張って、避けるけど、そうじゃ、ないなら、あとは、一方的に、飽和攻撃を、仕掛ける、ぞ。
つ、使う、魔法は、さ、サンシャイン……太陽の、炎で、焼き尽くす、神聖魔法、だ。ご、合計90回の、重複起動。も、紋章と、やらを、焼き尽くして、やるには、ちょ、ちょうど、いいだろう?
シン・コーエン
鉄甲船で現地到着
敵UCは広範囲無差別攻撃。
つまり一点集中も追尾もできないので、当たる面積を最小限にし、防御力を集中させて凌ぎきる!
まず結界術で自分を中心に鋭角状の防御結界を形成して刃を弾く。
結界を突破した刃は第六感と見切りで読んで、灼星剣から衝撃波を発しつつ武器受けで弾き、それを突破した刃は身体に纏うオーラ防御で防ぐ。
反撃でUC発動。
94本の灼星剣複製をUCの念力と自身の念動力で精密操作して動きを牽制した所にダッシュで接近。
2回攻撃の1回目で灼星剣を斬り上げ、左胸の『黒百合の紋章』を破壊。
2回攻撃の2回目で灼星剣を斬り下げ、発現した他の紋章の一つを破壊。
残り二つの紋章は灼星剣の複製で破壊する。
ヴィクティム・ウィンターミュート
よーぅ、大将自ら派手に動くじゃあねえか
現場主義大いに結構だが、敗北回数増やすだけだと思うぜ?
これ見よがしに切り札の紋章なんか見せても…結果は変わらんよ
とは言ったものの、楽勝ムードではないんだがね
まずはファーストアタックか
武器が花びらに変わった瞬間、全力の【ダッシュ】
後退しながらUCを展開
──『Robbery』
無機物を無数のガラス片に変換する
盾のように目の前に展開、ついでに味方も花びらから守る
こいつをただの防御手段だと思ってる?
違うんだなこれが…『奪ってる』に過ぎないんだよ
つまり俺が自由に使えるってことだ
そしてこれを、『全て』お前に殺到させたらどうなる?
試してみようぜ──呪詛で腹が膨れるかどうか
鳴宮・匡
花に触れるとまずい、ってことなら
遠距離からの狙撃がいいか
前に出る猟兵の援護をするように
後方から、敵の放つ刃を迎撃していくよ
自分も含めた味方に当たりそうなものを最優先
味方への攻撃は可能な限りすべて弾き
自分への攻撃は致命傷になりかねないもののみ迎撃
戦闘の続行に支障をきたさない程度であればそれでいい
攻撃できる隙があれば、こちらからも攻勢に転じるよ
まずは左胸の紋章から――だっけ?
可能であればそれを狙う
既に潰されているようであれば
所在の判明している別の紋章か……あるいは、まあ、頭だな
人型ならば共通して弱点のはずだ
大義とか信念とか、そういうのじゃないが
見過ごしてやるわけにもいかないんでね
討たせてもらう
菱川・彌三八
紋…?
良く分からねえが、磨り潰しゃあ勝ちなんだろ
にしても、こんねェに荒れた処じゃ如何ともし難い
ちいと間を開ける術を考えにゃなるめえな
身を隠せる程の物がありゃ其方に身を潜め、
然し其れでも花が舞うってンなら物を飛び越え時には潜り、ひらりと躱す
マ、身のこなしにゃ覚えがあるけどヨ
この際ちいと当たっても善しとする
力に差がありゃ辛くもあるが、次の手で巻き返す算段
刹那でも手が緩んだ隙…否、相手がよっく見える処だ
其処で孔雀を呼び、浄化の雨を身に浴びる
あー…しんどかった
さア此方の番だ
花弁は総て羽根で蹴散らし、其の侭奴も飾っちめえ
悪かねェだろう、似合いだゼ
で?其の紋ってなァ何が如何云う事なんでェ?
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ・連携OKデース!
「荒地に花を咲かすのはグッド。しかしそれを利用して殺戮するとは、許せマセーン!」
岬が見える高台や崖の上から、一の王笏めがけてジャンプ&突撃デース!
一見無鉄砲デスガ、奴の攻撃のタイミングを見計らってUC《荷電粒子体》を起動しマース!
全身に電撃を纏い、【残像】が出るような空中戦闘機動(旋回したり宙返りしたり錐もみ回転したり)して、先制攻撃UCを避けながら接近しマース!
射程距離に入ったところで、アームドフォードや内蔵している全武装による【一斉発射】をお見舞いデース!
人々の希望を踏みにじるような真似は、看過できマセーン! お帰りくだサーイ!
小結・飛花
黒百合の花。
そちらも美しい花で御座います。
そちらさんがあたくしに触れると云ふのなら
あたくしは花を食みましょう。
花弁を食みちからを増幅させる呪いをこの身に宿すのです。
きりがあたくしの身を蝕む前に倒しきってしまえばよいこと。
すきを見てまた食んで。
あゝ。死した島のなんと侘しいことよ。
息吹の感じぬこの地に黒い百合。
それから紋章でしたね。
彼の地には幾度か赴いたことが御座いますが、なぜこのちにあるのでしょう。
その答えすら聞くこともかなわないのでしょうね。
黒い霧は水で弾けるものなら弾きましょう。
あたくしは水鬼ですから。
菖蒲に八橋
花合わせとあいなりましょう。
――きた。
その時を待ちわびていたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)と非在・究子(非実在少女Q・f14901)は一気に作戦行動を開始した。
「……こ、こっちまで、お、お前の攻撃が、と、届くなら、と、届けてみろ」
まさか、島へ上陸する以前に攻撃を受けようなどとは一の王笏も予想外であったに違いない。
「なんだ? 火――? まずい、避けろッ……」
島までの距離にしておよそ8100m手前地点において、一の王笏の上陸船は猟兵による“先制攻撃”をくらったのである。
「ば、馬鹿な……我に先んじて攻撃できようはずが……」
いや、違う。
先制攻撃のチャンスなら確かにあったのだ。
「ど、どうや、ら……お、お前の、レベル、は8100以上は、な、なかったみたいだな……?」
――しまった、と一の王笏はほぞを噛んだ。よもや猟兵にこれほど頭の回る奴がいたとは。UCはその効果によって射程距離に大幅な違いが生まれる。究子はそこをつき、レベルの二乗mまでの敵を撃てる魔法によって敵の先制するチャンスを潰したのだ。
「くそッ、上陸を急げ!! 邪魔するものは全て潰す!!」
目に入ったものへと彼は片っ端から花弾を撃ち放つ。その中には帆に古めかしい紋章を戴いた船もあった。夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)の乗る骸海游濫船である。
「よい。あとは泳いで島へ渡ろう。最大の好機である初撃をこれで消費したこと、後悔するなよ」
みさきは誰に言うともなしに呟き、波間へと消えた。一の王笏の矛先はうら寂しく波濤に濡れる島に向かう。これは宣戦布告だ。
「そこで待ち受けているのだな、猟兵よ。然らば見舞ってやろう。くらえ――」
「そうはさせまセ―――――――――――――ン!!!!!!」
「なッ……」
荷電粒子体を纏ったバルタンの体は薄気味悪い曇天から降臨する一筋の雷槌のようであった。
「人々の希望を踏みにじるような真似は、看過できマセーン! お帰りくだサーイ!」
「おのれッ……」
バルタンは迎え撃つ黒花の暴風を器用に体勢を変えつつ躱す。頭が下になったり、宙返りしたり。
――たんッ、と一の王笏の足元に着地する。同時に仕込まれた武装をアームドフォードごと全解除。
「しまッ」
バルタンは挑発的に笑み、即時一斉発射。激しい轟音とともに船は爆発し、一の王笏はその身一つで島へと流れつく形となったのであった。
「よーぅ、大将自らご登場とは結構なことで。最近流行りの現場主義ってやつ?」
「悪いけどそれ以上はやめてもらえないかな。呪詛を撒かれると困る人間がいるんだ。私みたいに、ね」
一の王笏の“お出迎え”に上がったヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は揶揄するように片目を閉じて、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は少しかしこまった風な仕草で帽子を被り直した。
――風が強い。この潮風が島の大地を枯らし、不毛の土地へと変えた一因でもあるのだろう。
「黒百合の紋章、大人しく渡してくれると助かるんだけど?」
「ふッ……話し合いなど無意味よ!」
志乃はとっさに手持ちの光鎖で撒き散らされる花弁を薙ぎ払った。どうやらうまく挑発に乗ってくれたようではある、が――腐っても七大海嘯の王だ。
「楽勝ムードではないわな、と。どうせ敗北回数増やすだけなんだからおとなしくしてりゃいいのによ」
咄嗟に地面を蹴り、ヴィクティムは距離を取って戦場の右辺あたりをUCの効果域内におさめた。
――さァ、変換(かわ)れ。
闇深き花弁が一瞬にして黒水晶のような硝子の欠片になった。支配権までをも奪われたそれはヴィクティムの命に従い、猟兵を守るための盾と成る。
「ちぃッ」
逆側の左辺から攻めるのは神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
「! これは――」
絵里香は直ちに気付いた。
呪いの花。黒き百合の呪詛たる根源が黒百合の紋章にあるのは明らかだった。どうやら、一の王笏の力を増す苗床ともなるらしい――その片鱗が異形化として彼の姿かたちに現れ始めている。
「こやし、か」
花に限らず植物は大地からその栄養を汲み上げて生長する。だからその土壌が汚染されていれば――例えば呪詛に犯されていたとすれば――それはこのような呪いの花を咲かせるのではないだろうか。
絵里香の薙刀に斬り伏せられた花弁は雷の爆ぜる音とともに浄化され、塵と潰える。
「お前、自分の体を花の苗床としたのか」
問いかけに一の王笏は「是」と頷いた。
「紋章の力によって、私の魔力は黒百合に注ぎ込まれ美しき呪いの花が咲き誇る。ふふ……どうだ。献身的であろう?」
いつしか一の王笏の心臓部は黒百合の球根と一体化し、血管は根に、肉は肥料に、骨は添え木の役目を果たすように蠢いている
「アンタは……何?」
クロトの問いかけは質問でありながらその存在を否定しているかのようでもあった。
視える、敵がどのように花弁を操り、こちらを圧しようとしているかが。左手で外套を跳ね上げ、死角から降り注ぐのを凌いだ。身を伏せ、反撃の機会を窺う。
左胸の紋章。
あれを、撃たねば。
膝をついた大地はそれだけで脆く崩れ、不安定に揺れる。死したる地――何も持たぬ島でさえも欲望で穢そうとするそのやり方が嵯泉は気に入らない。今のところは耐性を持つ黒符によって持ちこたえてはいるが、いつまでもこのままではいられまい。
「――侵逮畏刻、仕事だ火烏」
嘶き、紅蓮の翼を羽搏かせる嵯泉の忠実なる使役。
「吹き飛ばせ。お前になら可能だろう」
頷くように首を下げ、双翼の巻き起こす炎が花弁を燃やして壮麗なる火宴を奏上した。
「派手にやってらァな」
そして、残るは正面。
菱川・彌三八(彌栄・f12195)はふむと顎を撫でる。こういう場所に来ると、故郷の街や森の有難みが身に染みるというもの。
「何もねェったらありゃしねえ。チ、こちとら軽業師でなく絵師だつうのよ」
文句とは裏腹に彌三八は忍者の如き身のこなしで花弁を躱し、大岩を片手だけで飛び越える。
「俺の背中、空いてるぜ」
中継地点にどうぞ、と鳴宮・匡(凪の海・f01612)が言った。自らは前を担う猟兵の援護に回り、降り注ぐ上弦の乱刃を連射で弾き返している。おや、と彌三八は気付いた。自分はかすり傷に血を滲ませながらも、他の猟兵にはただひとつの攻撃も届かせまいと優先的に守っている。
戦闘の続行に関わらなければ、多少の傷など構わない。それは彌三八も同じ考えであった。
「なら、裾分けよ」
背を借り、孔雀の雨を分け与える。
「それに、こっからなら相手がよく見えらァ」
禍々しき花嵐を従え、悠然とたたずむ――否、“そびえ立つ”姿はまさに異形そのものであった。
「まさしく呪われた姿、だな」
「あのような姿になってまで目的を遂げようとする……見上げた意思だ。悪い意味でな」
シン・コーエン(灼閃・f13886)は鋭い刃を持つ三日月の乱舞をそれ以上に鋭角なる防御結界を用いて躱し、剣から放つ衝撃波によって確実に道を切り拓いた。
一方、ルイス・グリッド(生者の盾・f26203)の盾は自らの銀腕である。ライオットシールドのような形状の盾と変え、一気に距離を詰めた。
「くくく……無駄よ。この黒百合の紋章が我の胸に輝く限り、刃は無限に産まれ、霧は太陽の光すら閉ざして貴様等の英気を吸い上げる……くく、はははははッ」
一の王笏の右腕が黒い霧のように形を無くし、小結・飛花(はなあわせ・f31029)とラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(いつもはらぺこ系ラスボス(可食・高栄養・美味)・f31483)に狙いをつけた。
「――」
ひらり、と飛花の足元に花弁が落ちる。黒百合のそれではなかった。気高き紫紺の――菖蒲。
「戦舞の場には侘しき地でございますが。故にこそ花の色が麗しく映えますね」
「花びらは肥料になるだろうからね。そら、お百姓さん。出番だよ。彼に御馳走してやんな」
みさきに誘われ、どこからともなくやってきた百姓たちが地面を耕し、あり合わせの材料で温かい料理を拵える。
「さぁ、飢えた子どもすら殺すことを厭わないあんたにお恵みだよ」
「い、意味のわからないことを……」
「さあ、僕にもわからない」
みさきは首を傾げて惚けると、小刻みに肩を震わせて笑い呆けた。一の王笏は呆気に取られていたようだが、不意に我に返って眉を寄せる。さっきから一向に霧が届かないのだ。飛花のすぐ近くまではいけるのに、どうしても触れられない。
「――水、だと?」
「はい」
飛花は薄っすらと紅い瞳を開け、
「あたくしは水鬼ですから。以後お見知りおきを」
「はいはーい★ オイラははらぺこちゃんなラスボスでっす! 海の幸を独り占めなんかさせないんだよお!」
どうだ、とラヴィラヴァは霧を乾かして蒸発させるためのドライヤーに体を変形させてしまった。
「ま、待て」
これにはさすがに一の王笏も焦った。
「待ったなーし♪」
ブォォーと温風をかけて霧を後退させつつ、ラヴィラヴァの肉体はさらなる改造によって姿を変える。
「う……牛だと?」
「いっただきまーす★」
恐るべき肺活量で戦場の霧を全て吸い込み、咀嚼する。ぽっかりと霧の明けた戦場にかろうじて残った腕のない一の王笏が呆然と立ち尽くしていた。
「闇霧の紋章と紅き月の紋章が破られた……だと……!?」
己を過信する者ほど、それが破られた時の衝撃も大きくなる。クロトはその隙を逃さなかった。
募る呪詛、捻じ伏せるのは許し難き思いだ。少しだけ自嘲する。自分にもこんなに熱い部分があったのだなあ――なんて。
「捕まえましたよ」
異形化して大地に根を下ろした肉体を縛し、きつく絡げとる。反撃の間を与えることなく懐に走り込んだルイスが渾身の体当たりをくらわせた。
「こ、の――」
地面に根を下ろした体はそう簡単に吹き飛ばせない。ルイスは歯を食いしばり、全身の力を振り絞った。
「おおおッ……!!」
めきりと軋んだ音を立て、徐々に一の王笏の体が浮き上がる。
「助太刀する」
「仕掛けるぞ!」
武器を手に進み出たのは嵯泉と絵里香であった。眩く輝いた羽衣の電光に目を潰され、指向性を失った漆黒の花弁が絵里香を掠めて見当違いの方角へ飛ぶ。
「白い方が好きなんだよ、オレは」
脳裏を過ぎる、バカ娘の顔。それに義娘も。縁があるということなのかもしれなかった。花も呪詛も――だ。
絵里香の乱舞に気息を合わせ、嵯泉は持ち前の怪力を乗せた斬撃を三連――首、胸、腹と順番に叩き込む。
「還れ、骸の海へ」
囁くと同時、一の王笏が血を吐いた。
「が、ふッ――」
もう一息、とルイスが踏ん張った。
遂に、足元が地面から離れる。
「あとは――」
紋章、それを砕けば。
「これで!」
シンの剣が数十本も連なって地面に突き刺さり、敵が身動きできないように縫い止める。
狙うは左胸の黒百合。斬り上げた剣先が鋼糸と一緒になってそこを庇う男の腕を引き剥がした。
「サービスだ。全ての幻糸、呉れて遣る」
帰ったらゆっくり休もう。だからいまは出し惜しみなくこの攻撃に――賭ける。
その名は捌式。
クロトの操る“刺突”属性の鋼糸がただ一点を目指して収束する。百舌鳥の早贄のように左胸を貫かれた体が大きくのけぞって天を仰いだ。
「ま、さか……」
割れた紋章が一の王笏の胸を離れ、宙に浮いた。まだ生きている。ルイスの銀腕が盾から剣に形を変え、目にも止まらぬ早業を叩き込み、切断。
「い、い、いくぞ……!」
最後は究子が幾重にも発動した陽炎によって再生の間もなく燃やし尽くす。そうやって破壊され、力を失って地に落ちた紋章を拾い上げる志乃の指先。
「そろそろ、演技は終わりでいいかな」
ふっと息を吐き出すように微笑み、それまでに溜め込んだものを大いに吐き出した。ここで勝てなければ存在価値に瑕がつく。だって、私はそのために造られたのだから。
「――死んだ方がマシなくらいにね。というわけで、死ね」
黒百合の紋章を失い、人間の姿に戻った一の王笏には志乃の全力魔法に耐えられるほどの力が残されていなかった。
「ぐ、あ……ッ」
吹き飛ばされる。
その視界を極彩色の鳥の羽と菖蒲の花弁が舞い踊った。
「似合いだゼ」
彌三八が揶揄するように告げ、あとは八橋があれば花合わせ。
「もう、充分に食みました」
白い布地で唇を拭う飛花の胸元で六芒星が瞬いた。血塗れになった男の前髪が乱れ、ふたつめの紋章が明らかになる。
「頭、か。こういうのも一石二鳥って言うのかな?」
一発目の弾を銃身に送り込み、匡は静かにそれを撃ち抜いた。軽く息をつき、「終わったな」と独り言つ。
「大義とか信念とか、そういうのはわからないけど。だからといって見過ごしてやるわけにもいかないんでね」
残る一つ目めがけ、シンの剣先が振り下ろされていく。狙いは――喉元。黒百合の紋章の効果によって隠されていた紅き月の紋章が砕け、これで三つ全ての破壊に成功。
彌三八は指で摘み上げ、首を捻った。
「で? 其の紋ってなァ何が如何云う事なんでェ?」
「く……な、なにも知らぬ身でこんな……ぐあッ――」
ヴィクティムは呆れたように鼻を鳴らし、男の胸を踏みつけて言った。
「終わりだよ。こいつはもう、俺の言う事しか聞かない」
それは黒百合を元に構成された硝子の欠片。呪詛はそのままに、『全て』――お前に殺到させる。
「お返しするぜ、王サマ? 果たして呪詛で腹が膨れるかね」
「あ、あがッ、あああッ!!」
激痛に喚く腹の上をみさきが容赦なく車輪で轢いていった。そこへ高々とジャンプしたラヴィラヴァの巨体がずどん、と地響きを轟かせながら圧し掛かって「いただきます」。
「おいしそーっ♪」
不幸たるや、己の所業は己に返らん。飢えたるものを追い込もうとした男は最期に貪欲なるものの腹におさまる運命にあったということなのだろう。
大成功
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