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羅針盤戦争〜寂しさを思い出で埋めて

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #座標:S23E13 #島種:アックス&ウィザーズ島 #島名:『魔女の大鍋』

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#グリードオーシャン
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#羅針盤戦争
#座標:S23E13
#島種:アックス&ウィザーズ島
#島名:『魔女の大鍋』


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 ――……アア、寂シイ、寂シイヨォ。

 悲しげな聲が海風に響いている。
 人の耳には獣の雄叫びにしか聞こえないが、その音には確かな哀愁が感じられた。

 その声の出どころは、大きな月型の山を抱く島の洞窟。
 反響するその声は、風に乗り、海に還る。

 ――ヒトリ寂シイ、嫌ダ……!

 咆哮が響く。
 ずん、と地が響く音がして、寂しさに嘆く亀の身が一回り大きくなった。

 ●

 「皆々、大海での大戦、お疲れ様じゃよぅ」
 猟兵達の活躍で、広がりゆく海図を手元に置きながら、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は、己の前に集う猟兵達へと労いの言葉をかける。
 「妾からも一つ、島の情報とお力添えをお願いしたいのじゃ」
 告げながら、トン、と海図の一点を指差して彼女が語る事には、その島にメガリスの力を得た一頭の亀が存在するのだという。

 かの亀……ジョージと呼ぼう。ジョージは元居た世界で乱獲されし種であり、最後の一頭となった彼は人々に保護をされた。しかし、人々の良かれとしたその保護環境が、結果として彼の孤独心を増長させてしまったのだ。
 その心に深い孤独を、喪失感を刻んだまま、この海なる世界に零れ堕ちた彼は、たまたまその地に在ったメガリスの力を得、コンキスタドールと化してしまったのだ。

 ジョージ自身に人を害する意思はない。己を保護した人々を憎んでいるわけでもない。
 唯、唯……そう、寂しさを抱えたまま、嘆き哀しんでいるのだ、と。

 「彼自身が今直ぐ害になる、と言う事ではないのじゃ。じゃが、此の大戦の最中、宿し得た力を七大海嘯に利用されないとも言い切れぬ」
 故に、そうなる前に、メガリスの力を得てしまった彼を、骸の海へと還して欲しい。と、彼女は続けた。
 「現在、ジョージ殿は、とあるアックス&ウィザーズ島の洞窟にその身を置いている」
 まだ、島自体にも、住人達にも何ら害は出ていない。だからこそ、彼が害すものとなってしまう前に。叶うならば、少しでもその孤独なる心を癒して還して欲しいのだ、と。

 そして、彼女はその島についての情報を添えてゆく。
 月型の山を擁するその島は、アックス&ウィザーズよりこの地に島として現れたのだという。
 剣や魔法が常と在る世界。その中でも魔力に満ちた土地であった様子で、魔法の力を使う者にとって大変居心地のいい島なのだそう。
 月型の山には流れ星が降り注ぐ夜もあり、深き森には薬草になる植物や、魔力を帯びた花も咲く。大海の世界らしい砂浜は基本穏やかで、気分転換にもってこいだし、海や陸に存在する洞窟は、光る苔が生えたりなどして瞑想や探検にも向いている。
 島内各地で獲れる植物や鉱石などは、魔具や触媒の材料としても申し分ない。
 「その環境故か、自ずと魔法や魔具の研究、扱いに長けた者が好み集うようでなぁ」

 その島は何時しか、『魔女の大鍋』と呼ばれるようになったそうじゃよ。

 彼女が続けることには、『魔女の大鍋』を拠点とする海賊達もまた同様であり、この話を持ちかけたところ、大きな戦闘を未然に防ぐ為、ジョージとの意思疎通を行うための品として『変身キャンディ』を提供してくれるという。
 「その名の通り、口に含むとその身を変える事の出来る魔具だそうじゃよ。自ら口に含めば望む動物の姿に。ジョージ殿に与えたなら、ジョージ殿のお姿が“ヒト”に変わるのだそう」
 ジョージが変わる“ヒト”の姿は、与えた猟兵の種に準ずるという。
 「例えば、妾が差しあげたなら、オラトリオに。ケットシー殿が差しあげたなら、そのお姿に、となるそうじゃよ。そうそう、此方が如何な動物になっても、彼と言葉は通じるようになるらしい」

 まだ開発段階と言う事で、変身できる時間は決して長くはないらしいが、ひとときの想い出を刻むには十分だろう。
 ジョージにヒトの姿で体験できる想い出をあげるのもよし、己が彼の姿に寄添うのもよし。遊ぶも良い、語るも良い、同じ景色を眸や心に刻むも良い。
 どのような形でも構わない。害無き彼を骸の海へ還す前に、その心へ“独り”ではない想い出を作ってあげて欲しいのだ、と彼女は頭を下げた。

 「かの身がコンキスタドールである以上、最後は還して差しあげねばならぬが……彼にとっても、皆にとっても、優しき想い出となる時間をと、妾は願っておるよ」
 案内を熟す為、己も想い出の一部となれないのは残念だけれど、帰ったら皆の想い出話を聞かせて?と。
 そう添えた彼女は、提案に同意をくれた猟兵達をかの島へと送り出すのだった。


四ツ葉
 初めまして、またはこんにちは。四ツ葉(よつば)と申します。
 此の度は当オープニングをご覧頂き、有難うございます。
 未熟者ではございますが、今回も精一杯、皆様の冒険を彩るお手伝いが出来ましたら幸いです。

 それでは、以下説明となります。

 ●シナリオ概要
 グリードオーシャンにおける『羅針盤戦争』、1章完結のシナリオです。

 ◎【プレイングボーナス】海賊達と協力する。
 当島を統治している海賊達は、マジックアイテムの開発を趣味とする魔法使い達が主となっております。
 OPにある『変身キャンディ』を活用する=協力を得たとみなしますので、特に遊びに誘わなくても大丈夫です。が、かくれんぼや鬼ごっこなど、ある程度の人数が必要な遊びをしたい、と言う折には頼めば協力してくれるでしょう。

 ★各章について。
 ボス戦:『最後のピンタゾウガメ・ロンサムジョージ』
 元居た世界で乱獲により種族最後の一頭になり、保護の名の元、永い孤独に晒されていた亀くんが、この世界へと零れ落ちメガリスの力を得た姿です。
 唯々寂しい想い満ちている彼の心を満たして、最後は骸の海へと還してあげて下さい。
 彼自身は人を憎んでも居ない為、友好的に接すれば抵抗もせず提案に応じてくれます。
 遊びに誘うもよし、お喋りに興じるもよし、島の景色を楽しむもよし。お好みにお過ごしください。
 当シナリオのジョージくんは、10代少年をイメージして頂けましたら、と。皆様からの提案には何であれ興味津々に耳傾けると思います。

 ●プレイングについて
 オープニング公開直後より受付です。
 今回は断章の追加はございませんので、公開後いつでもどうぞ。
 執筆環境の関係もあり、今回、受付は最短対応です。
 【達成人数集まりましたら、その日の23:59に〆『予定』】。正確な〆時間は決定次第タグにて明記いたします。

 内容的には、心情・お出かけ・お遊び系ですので、戦争と気負わずお気軽に。
 ただ、短期受付、少数対応を予定している為、有難くも多く目に留めて頂けた場合、採用出来ない方も生じる可能性があります。
 先着順ではなく、筆走る方から順に、執筆可能期間内で出来る限りの描写、となりますので、ご了承頂けますよう、お願い申し上げます。
 また、シナリオ構成上、戦闘メインのプレイングは不採用寄りになります。ご注意ください。

 ●その他
 ・同行者がいる場合は【相手の名前(呼称可)とID(f○○○○○)】又は【グループ名】のご記入お願いします。キャパの関係上、今回は1グループ最大2名様まででお願い致します。また、記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・逆に、絶対に一人がいい。他人と組んでの描写は避けたい、と言う方は【絡み×】等分かるように記載して頂ければ、単独描写とさせて頂きます。記載ない場合は、組んだり組まなかったりです。
 ・グループ参加時は、返却日〆の日程が揃う様、AM8:31をボーダーに提出日を合わせて頂ければ大変助かります。

 では、此処まで確認有難うございました。
 皆様どうぞ、宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『最後のピンタゾウガメ・ロンサムジョージ』

POW   :    ヒトリ寂シイ、嫌ダ・・・!
【もう二度と独りに戻りたくないという恐怖 】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    俺達、ヒトリ、戻ラナイ!戻リタクナイ・・・!
自身が戦闘で瀕死になると【自らの様に人に種の最後の一頭にされた者達】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ   :    皆、居ル・・・アノ寂シイ時間モウ終ワッタンダ!
戦場全体に、【滅びた種で溢れ来訪者を彼等に変貌させる森】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヨナルデ・パズトーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鈴木・志乃
おお、凄い技術……。やっぱり魔法使いは極めると奇跡を起こせるよね。私もその域まで行きたいけど……おっと、それどころじゃなかった。
骸の海に還すのは気が引けるけど、ここは居場所じゃないからね。向こうに仲間、沢山いるといいね。

キャンディ舐めます。ジョージくんと同じ姿になろう。
あれ、君私とおんなじ姿してるね。わーうれしー! やっと仲間がいた! もうどこ探してもいないから寂しくてさー。
(×演技○既に自己認識が切り替わっている)

ところでお腹空いてない? 私歩き疲れてぺこぺこ。なんか食べに行こうよ! ここら辺のこと詳しいの? 良かったら案内して!

頃合い見てUC。呼ぶのは同じ種族。群れに引き合わせるイメージで



 ●

 「おお、凄い技術……」
 その手にした『変身キャンディ』を掌で転がしながら、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は思わず声を零した。
 口に含めば、異なる生物にも姿を変える。その効果はさながら奇跡のようで。

 「やっぱり魔法使いは極めると奇跡を起こせるよね」
 「あら、そんな風に興味持って褒めて貰えたら、アタシも悪い気はしないわね」
 「本心だよ。私もその域まで行きたいけど……おっと、それどころじゃなかった」
 「あはは!仕事があんだろ?行っといで」
 しっかりソレの効果確かめて、あとで報告してよね!と、背を押す海賊の一人に見送られ、志乃は森の中をゆく。目指す先は孤独なる亀……ジョージの居る洞窟だ。

 風に乗って、洞窟の奥から聲が聴こえる。
 未だキャンディを含んでいない志乃の耳には、獣の咆哮にしか聞こえないが、反響する音のせいだけでない、悲しげな声は胸を打つようで。
 「骸の海に還すのは気が引けるけど、ここは居場所じゃないからね」

 ――向こうに仲間、沢山いるといいね。

 そっと、想いを内に響かせ、軽く瞼を伏せた志乃は、その手に先程のキャンディを取り出して。一度その球体をしっかと眺めてから。
 「キャンディ舐めます」
 一言、意を決したように音に乗せ、それを口の中へと放り込んだ。
 彼女が選んだのは、洞窟の奥、嘆きの声をあげるジョージと同じ姿となることだ。奥で待つ彼に会うべく、と、踏み出した一歩は、ズン、と、重い音響かせて。先程までの、人のそれとは異なった、地につく足は逞しく。一歩一歩踏み締めるように、洞窟の奥へと歩んでゆく。

 「寂シイ……寂シイヨォ……」
 風に乗って届く嘆きの言葉が、解せる。
 「ココニモ、誰モ、イナイ。ヒトリハ、モウ、イヤダヨ」
 哀しげに、震えるような聲が志乃の耳に届く。ズン、ズン、と大きな脚を進めた先に、涙を流す亀の姿をその目に映した。
 「あれ、君、私とおんなじ姿してるね」
 「……エ?」
 「わー、うれしー! やっと仲間がいた! 」
 「仲間……?キミハ、俺ノ、仲間ナノ?」
 まるで本当の仲間に出会ったような志乃の態度は、演技などでは無かった。キャンディによって姿を変えたその身へと、自己の認識を切り替えたが故の、嘘のない言動である。

 「そうだよ!もうどこ探してもいないから寂しくてさー」
 「寂シイ……キミモ、寂シカッタ、ノ?」
 「うん!だから君と会えて嬉しいよ!」
 にっこりと、きっと亀同士には分かるのであろう、そんな表情で微笑んだ志乃をその瞳に映し見て。
 哀しみに染まっていたジョージの瞳に、薄らと光が宿った。交わす会話が、暗い洞窟に現れた志乃の存在が、その心を確かに温めてゆく。
 「ところでお腹空いてない? 私歩き疲れてぺこぺこ」
 「オナカ……」
 彼女の言葉に、ふと自身の腹部へと首を向けたジョージの腹が、今気付いたかのようにゴオォ、と鳴った。グゥ、ではない。ゴオォ、と。
 「君もお腹空いてるみたいだね!なんか食べに行こうよ! 」

 さあ、いこう、と。誘うような志乃の言葉にジョージはゆっくりと首を縦に動かして。彼女がやってきた洞窟の入り口へ向かって歩き出す。
 ズン、ズン。ズン、ズン。足音が響く。そう、ひとつではなく、ふたつの足音が。二匹の足音が外へ向かう。暗い洞窟から陽の差す外へと。
 「そういえばさ、君はここら辺のこと詳しいの? 良かったら案内して!」
 「俺、気付イタラ、コノ暗イトコニイテ。外、マダ知ラナイ」
 「そっか、じゃあまずは外を探検だね!」
 先の楽しみを添えながら、彼女が密やかに祝詞を紡ぎ此処へ呼ぶのは、彼と同じ種の亀達。黄泉と高天が原を紡ぐその力が、ひととき、彼を仲間と再会させる。
 目を見開くジョージを導くように、現れた亀達が外へと歩む。
 「行こう、きっと外には、沢山の素敵な出会いがあるから」
 「出会イガ、外ニ」
 「そう、きっと寂しさを吹き飛ばせるくらいのさ」

 黄泉との繋がりはひとときでも、この群れで導こう。君と、沢山の優しさとの縁を結ぶ為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
彼に寄り添ってあげたいと思った
動物が好きだからか、大切なヒトと重ねたか、それとも俺も把握し切れていない潜在意識と関係あるか…理由はわからない
でもジョージさんに思い出をプレゼントしたい、この気持ちで充分だよね

キャンディで亀に変身
大きさもできる限り彼に近く

姿が変われば響く声の意味もわかる
この切実な声の元へ早く行ってあげたい

彼を見つけたら自己紹介してからゆっくり近づき、寄り添い穏やかに語りかける
君に会いに来たんだ
君のことを知りたいな

まずは彼の話を静かに聞き、ある程度したら島の散歩に誘う
その間もできるだけ近くに
「綺麗な島だね
誰かと見る景色はより綺麗に見えるよ」

お別れは一撃で
せめて静かに眠らせてあげたい



 ●

 洞窟の奥からその姿を現した彼の姿を目に映し、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、胸に湧き上がる思いをしかと感じていた。

 ――彼に、寄り添ってあげたいと思った。

 動物が好きだからか、大切なヒトと重ねたか。それともサンディ自身も把握し切れていない潜在意識と関係あるのか……理由は、彼自身にもわからない。
 そっと掌を当てた胸の内に湧くこの想いの源は、理由はわからないけれど。
 「でも、ジョージさんに思い出をプレゼントしたい、この気持ちで充分だよね」
 そう、理由はわからなくても、今あるこの思いを、叶えたいものを知っていればいいのだ。

 声に出した自分の言葉で、表情を明るくしたサンディが、この島の海賊から受け取ったキャンディを口へと放り込む。
 口の中に広がる甘さとともに、彼が変じたのはジョージに似せた亀の姿。叶う限りに、孤独に嘆く彼と同じ大きさで、と願ったサンディの視線は、望んだ通りにジョージのそれと真っ直ぐに交わされる程の高さにあった。
 先とは異なる、亀の視線で捉えたジョージは、辺りを見回すようにきょろきょろと、どこか不安げにしている。

 「外……ココガ、外?出会イガアル、ッテ。デモ、誰モ……」
 先にジョージを導いた猟兵の飴と術の効果が切れたのだろう。再びひとりになってしまったのでは、と不安げにするジョージの聲がサンディの耳に届いた。
 姿が変われば響く声の意味もわかる。この切実な声の元へ早く行ってあげたい、と。その想いのまま、ゆったりと脚を踏み出したサンディは、ジョージの傍へ。
 がさ、がさ、と。茂みが揺れる音にびくりと体を震わせたジョージの前に、亀の姿をしたサンディが現れた。

 「初めまして、僕はサンディ」
 「……サンディ?」
 「そう、君に会いに来たんだ」
 突然の邂逅に驚かせないように。穏やかな声音で語りかけながら、寄り添うように彼へと近づく。
 「俺ニ、会イニキタ、ノ……?」
 「そうだよ。ねえ、君のことを知りたいな」
 「俺ノ、コト?」
 「うん、なんだっていいんだ。話がしたいんだよ」
 そう、独りでは出来ない、会話を。君と交わしたいんだ、と。サンディは視線を向ける。空腹を訴える音を聞いて、近くに生っていた果物を互いの傍に転がしながら。
 そんな温かな彼の行動に、ジョージはおずおずと口を開く。

 「俺ハ、ジョージ、ッテ、呼バレテタ。仲間ハ、人間ニ、沢山捕マッテ、居ナクナッテイッテ……デモ、ソレカラ助ケテクレタノモ、人間デ。ジョージ、ッテ、呼ンデクレタノモ、ソウナンダ」
 「うん、うん。そうなんだね」
 「俺ガ、ヒドイ目に遭ワナイ様ニ、ッテ、シテクレタンダ。デモ……デモ……俺ハ、寂シカッタンダ。連レテイカレタ先ハ、安全デモ、仲間ハ、イナクテ。コウシテ、話セル相手モ、イナクテ……」
 語る言葉を静かに聞いてくれるサンディの存在に、訥々と話していたジョージの言葉は、徐々に堰を切るように溢れ出す。
 溢れる寂しさが胸を占めたのか、はたまた、こうして語れる今が嬉しいのか、込み上げる熱でジョージの瞳は濡れた。
 そんな彼の言葉に、姿に、サンディはただ静かに寄り添った。
 「ジョージは、寂しかったんだね。ねぇ、僕と散歩をしようよ」
 「散歩……?」
 「そう、散歩!この島を見て回ろう」

 不思議そうに問い返すジョージを誘うように、サンディは亀となった足をゆっくりと前へと動かす。その間も決して彼と離れすぎないように、添いながらも導くように。
 茂みを暫くゆくと視界が開け、辺りを見渡せる小高い場所に出た。
 「綺麗な島だね。誰かと見る景色はより綺麗に見えるよ」
 「ホントダ、暗イトコロ二、ズットイタケド……ココハ、外ハ、綺麗ダネ」
 「ねぇ、ジョージ。君に会いたいって皆がまだいるんだ」
 「俺ト、会イタイ……ミンナ?」
 「そう、だからその皆とも、この島を見ておいで」

 そう告げて笑ったサンディの体が、元に戻る。
 その様子に、目を見開いたジョージだったが、逃げることはしなかった。
 「ほら、きたよ!」
 彼に会いにきた次なる猟兵の姿を示して、サンディは笑う。更なる想い出が、君を満たすことを願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シルヴィア・セーリング
アドリブ◎

船だった頃、寂しいって想いを何度も見た事がある
『私』に乗って密かに泣く子もいた
あの頃は乗せる事しかできなかったけど
…よーし!
彼には宝物を持って帰って貰いましょう!

ジョージに会ったらご挨拶
初めまして!私はシルヴィア!
風が貴方の声を運んでくれたわ
貴方に会いに来たの
ねえ、一緒に海を見に行かない?
変身キャンディを差し出して誘うわ

向かう先は海
ボトルから船を出現させるわ
さあ、乗って!
帆を張り、いざ出港!
彼にも楽しんで欲しいな
この船からの景色を
キラキラの海を
吹き抜ける風を

沢山クルージングをしたら
乗る前に拾っていた貝殻を差し出すわ
海に来たおみやげ!
またねの想いも込めて
【指定UC】…花の旋風で導くわね



 ●

 ジョージに会うべく、その爪先を軽やかに進めながら、シルヴィア・セーリング(Sailing!・f30095)が想い馳せるのは、自分がまだ船だった頃。
 そう、寂しいって想いを、彼女は何度も見た事があった。駆けながら、ふと見上げた空に思い浮かぶ、いつかの光景。『私』に乗って密かに泣く子もいた。

 ――あの頃は、乗せる事しかできなかったけど。

 今なら……そう、この身を得た今ならば、出来ることはもっとある。
 「……よーし!彼には宝物を持って帰って貰いましょう!」
 彼にしてあげたい事。それを言葉へと変え、小さく握り拳を作ったなら、向かう足取りも尚軽やかに、勢いづいてゆく。

 先に時を共にした猟兵と並び立つジョージを瞳に映し、ひらりとその手を軽く振って彼らの前へと辿り着いたなら、シルヴィアは海賊達から譲り受けたキャンディを、赤きつぶらな瞳の前へと差し出した。
 不思議そうに首を動かしたジョージへと、先にいた猟兵が促すように頷けば、おずおずと、彼はその口を己へと差し出されたシルヴィアの手に近づけて。パクリ、と。キャンディを口の中へと招き入れた。
 すると、つい先程まで亀であったジョージの姿が、ヒトの姿をとってゆく。
 つぶらな赤き瞳はそのままに、少しばかり癖ついたブロンドの髪を風に靡かせた少年が、亀の代わりにそこへ立っていた。
 「え、え、え?」
 突然の出来事に狼狽えるジョージへと、にっこりと微笑んだシルヴィアが告げる。
 「びっくりした?少しの間、姿を変えてくれる不思議なキャンディなの。これでお話しできわね?」
 「姿が変わる、不思議な、キャンディ?」
 「そう、貴方と想い出作るための魔法の道具!」
 「想い出……」
 「あ!言葉が通じるようなったら、ご挨拶しなきゃね」

 戸惑うジョージに説明を添えた後、微笑んだシルヴィアは、一度居住まいを正して。
 「初めまして!私はシルヴィア!」
 「……シルヴィア。えっと、俺は、ジョージって、呼ばれてた」
 「よろしく、ジョージ!風が貴方の声を運んでくれたわ。私、貴方に会いに来たの」

 ――ねえ、一緒に海を見に行かない?

 その誘いと共に、再び彼へと掌が差し出される。それは、新たな景色へと、刻む思い出へと続く一歩の誘い。
 おずおずと、ヒトの手となったそれを彼女に重ねて、彼はまた一歩踏み出した。

 シルヴィアが誘い、ふたり共に向かう先は海。
 白く柔らかな砂浜、きらきらと陽の光を受けて煌めく海原、広がる青。その光景は、洞窟に流れ込む海の水とは全く違う色を宿していて。
 「わぁ……!すごく、綺麗!」
 広々と両腕を広げたような青の景色に、赤い瞳が大きく見開かれた。
 砂浜を歩き暫し景色を眺めた後、入江に辿り着いたシルヴィアはジョージの肩を軽く突いて。
 「いいもの見せてあげる!」
 そう告げて取り出したのは、ボトルシップ。
 波打つ海面へ向けた其れから現れ出でたのは、一隻のセーリングカヌー。どこか温かな雰囲気を宿したその船は、彼女の本体でもあった。
 たん、と、かろく音を立て、シルヴィアが先に船体へと乗り込んだなら、瞬くジョージへとその手を伸ばして。
 「さあ、乗って!」
 「う……うん!」
 初めこそ、伸ばされた手を取ることに戸惑いを覚えたジョージだったが、その手を伸ばすぎこちなさも減ってきた。
 彼の乗船を確認したなら、青き瞳を海原へ向け、シルヴィアはカヌーの帆をパン!と張り、いざ出港!

 祝福を受けた帆は、その涼やかな風を受け、ふたりを乗せたカヌーはキラキラの海を翔けてゆく。カヌーを操り、髪を揺らし吹き抜けてゆく風をその身に感じながら、彼女は彼の様子をチラと見る。

 ――彼にも楽しんで欲しいな。この船からの景色を。

 そんな思いを抱くシルヴィアの瞳に、輝く海面に負けぬほどの煌めきをその赤に宿したジョージが映った。
 その顔に満足げな色を浮かべた彼女と、彼のクルージングは続く。そう、あと少し、キャンディの効果が切れるまで。
 そうして、彼が亀の姿に戻る前に、とっておきのお土産も渡すのだ。
 其れはこの島の砂浜で見つけた綺麗な貝殻。またねの想いもぎゅっと込めた、今日という日の想い出の欠片を。貴方に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
一人は寂しいし、ツラいよね
できれば色んな思い出作ってあげたいな

変身キャンディは亀さんに
陸上に行けば空も飛べるかな

人の姿になったジョージさんに片手を差し出し
満面の笑顔で行こうとお誘い
道中はお散歩も兼ねて翼の使い方とか教えながら歩く

両手を取ってふわりと空の散歩にご招待

どう?凄いでしょ
この島にいる皆の姿も見渡せるし
なにより景色が凄く綺麗じゃない?

僕もずっと一人で、寂しくて
でも、初めて誰かと一緒に見た景色に凄く救われたから
せめて同共有できればと思って

それともう一つだけ
地上に降りたら【指定UC】で
痛みの無い、暖かい【破魔】の輝きに包む美しい景色を
大地は★花園で満たして
どうか少しでも安らぎを得られるよう



 ●

 先に想い出交わした猟兵が、亀の姿に戻ったジョージを連れて海から戻る。
 ひとつ、またひとつと想い出重ねゆくその姿を見つめながら、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は想う。

 ――できれば色んな思い出、作ってあげたいな。

 「だって……一人は寂しいし、ツラいよね」
 小さく呟いた一言は、海風がそっと攫って。
 砂浜から此方へ近づく猟兵とジョージの姿に、澪からもその距離を縮める。手にしたキャンディは、ジョージに渡すと決めていた。
 澪の手から差し出された変身キャンディを、先程の経験から躊躇うことなく口に含んだジョージは、再びヒトの姿を形取る。
 赤き瞳は其の儘残しながら、此度のジョージは、柔らかな栗色の髪を一房に結んだ少年の姿。そして、その髪には青きムスカリの花が咲き、背には白き翼を纏ったオラトリオだった。

 髪の花を見た澪は一度瞬いて、けれどもヒトとなったジョージへと、満面の笑みで片手を差し出す。
 抱いていた失望を、通じ合う心を持って、明るい未来へと変えるために。そう、その全て、今君に咲く花が持つ言葉だから。
 「行こう。翼の使い方は、お散歩しながら教えるから」
 「翼……俺も、飛べるの?」
 「うん!一緒に、さっきとは違う島の景色を見に行こう」
 「……うんっ。飛び方、俺にも、教えて」
 ジョージの返答に、柔らかに眦を緩めた澪は、もちろん、と笑顔で答え、ふたりは飛び立ちやすい小高い丘へと向かい歩いてゆく。

 向かう道中に咲く花や、鈴鳴るような不思議な果実。歩みゆくこの島の景色を瞳に刻みながら、翼の動かし方を教わったジョージは、ぱたぱたと、その白を羽ばたかせ、初めての感覚に頬を高揚させていた。
 「これで、いいのかな?ちゃんと、動いてる?」
 「大丈夫だよ!動くようになったね。じゃあ、空の散歩へご招待!」
 せーの、と掛け声をかけて、ジョージの両手を取った澪は、まだ少しぎこちない彼を導くように、ふわりとその身を浮かせた。
 「うわぁ!」
 身の浮く感覚に、そして常の視線より遥かに高い景色に、思わず声が上がる。赤い瞳はまあるく見開かれ今にも零れ落ちそうだ。澪はそんな表情を満足そうに眺めて。
 「どう?凄いでしょ。この島にいる皆の姿も見渡せるし、なにより景色が凄く綺麗じゃない?」
 「うん、俺、こんな景色……初めて!」
 「あ、ほら、あそこにも、あっちにも人がいる!きっと皆、ジョージさんに会いにきた人達だよ」
 「俺に?」
 問い返す彼へと澪はにっこりと頷いて。

 「実はね、僕もずっと一人で、寂しくて。でも、初めて誰かと一緒に見た景色に凄く救われたから」
 「君も、そうなの?」
 「うん、だからせめて、ジョージさんとも同じ景色を共有できればと思って」
 その言葉を聞いたジョージは、改めてその視線を周囲に向ける。空から見るこの島は、沢山のものに満ちて見えて。
 何より、嘆きを響かせていた洞窟の奥からは、考えられないほどの色彩に溢れていて、其れを誰かと共に、こうして手を繋いで見られていることが、どこか奇跡のようにも思えた。
 「そっか。俺、この景色……一緒に、見られてよかったよ」
 まだ少しぎこちなくも、笑顔と共に告げるジョージの言葉に、澪もまた嬉しげに微笑んだ。
 
 そうして、ふたりで空の散歩を楽しんだなら、キャンディの効果が切れる前に飛び立った丘まで戻ってきた。
 「空の散歩はどうだった?」
 「とっても、楽しかった!」
 「そっか、よかったぁ。それと、もう一つだけ」
 「もう一つ?」
 「うん、もう一つ。……でも、それは、もう少し後にね」
 「え?気になっちゃうよ」
 もう一つ、と告げた澪がその言葉を飲み込んだのは、“其れ”を贈るのは今はまだ早いと思ったから。だって。
 「ほら、またジョージさんと想い出を作りたい人が来たよ」
 くるり、と澪が振り向いた先には、またひとり、彼との縁を紡ぎに来た猟兵が立っていた。
 行っておいで、と背を押した澪に見送られて、一度振り向いたジョージは彼の頷きを受け、新たな猟兵の元へと歩みを進める。
 一歩、二歩と歩むうちに、その姿を元の亀の姿に戻して。

 その背を見送りながら、澪は願う。
 “その時”が来るまで。どうか少しでも安らぎを得られるよう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
嗚呼。ひとりぼっちになってしまったのだね。
君に刃を向けなければならない身ではあるが

そうだね。
寂しいままで行くよりも、あたたかい心地の方が良いのだろう。

変身キャンディで動物に返信をしよう。
使い魔のナナ、ナツ、それから冬の仲間と随分賑やかだろう?

何をして遊ぶかい?
ナツは追いかけっこが得意だよ。
ちなみに私は、走る事は得意ではない。

嗚呼。皆々走る気満々だね。
ふわもこは転がるようだ。

それでは鬼は私がやろう。

動物の身は人間よりも動きやすい。
いつもより低い視線は新鮮だね。
まずは転がるふわもこを捕まえよう。

童心に帰ったような心地だ。

嗚呼。皆々待って呉れ。
動物の身でも体力はやはり私のままだ。



 ●

 緑に満ちた丘の上。辿り着いた自分へと向かい、一歩、一歩と近づいて来るジョージの姿をその目に映し、榎本・英(人である・f22898)は眦を緩めた。
 ひとりぼっちになってしまった、君。
 その存在の有り様ゆえに、最後には、君に刃を向けなければならない身ではある、己。だが……今はこうして、近づいて来てくれる。
 いつしか孤独の色のみではなく、興味の其れを宿した赤き眸を此方へ向けて。

 「嗚呼、そうだね。寂しいままで行くよりも、あたたかい心地の方が良いのだろう」
 彼の耳に届かぬ程の囁きで、小さくそう呟いたなら、近付く彼へと少し待つよう手で示し、英はキャンディを己の口へと緩やかに運んだ。
 口内に広がるのは優しい甘さ。其れは、彼の好むドロップとどこか似たような味だった。
 そんな味を楽しむうちに、英の身は動物の其れへと変じてゆく。縮んだ身をその赤い瞳で眺めたならば。其れは、猫……ではなく。
 「……此れは、狸?」
 そう、焦茶色の毛に包まれて、ころんと大きな尻尾を携えた愛嬌のある狸の姿であった。彼の姿を見た者には、瞳の周りを縁取る模様が、何処となく、元の姿で身につける眼鏡に似て見えただろう。

 キャンディによって変じた英の姿に、興味津々と寄って来るのは、彼が連れて来た使い魔である三毛猫のナナと、額のバツ印が印象的な真白の仔猫、ナツ。そして、喚び出したるフワモコの毛糸玉……もとい、冬の仲間達。
 なんとも絵本めいて賑やかな様子に、歩を進めて来たジョージもまた、一層の興味に瞳を染めている。
 「やあ、君はジョージと言ったかな」
 「ウン。君達モ、俺二アイニ……?」
 「そうだよ。賑やかだろう?さて、何をして遊ぶかい?」
 「ナニヲ、シテ……?」
 英からの提案に鸚鵡返しに紡いでは、その長い首を捻ったまま、ジョージは固まってしまった。長い間独りであった為か、遊びが思いつかないようだった。
 「ふむ、そうだね。ナツは追いかけっこが得意だよ」
 であれば、と。共にいる子達の得意なものでも、と提案に挙げたなら。その通り、と言わんばかりに真白の仔猫が、その尾をはたはたと揺らしている。

 ――ちなみに私は、走る事は得意ではない。

 と、添えた英の言葉を聞いているのか、いないのか。追いかけっこという単語を耳にした小さな仲間達は、俄然やる気に満ちている。
 ぴょこんと跳ねるもの、静かに髭を動かすもの、彼方此方と転がり出すものと。思い思いのその仕草を眺めたならば、ちょっとしたお遊戯のよう。
 その様子を見ていたジョージもクスリと笑った……ように見えた。
 「嗚呼。皆々走る気満々だね」
 「俺モ、追イカケッコ、デイイヨ」
 「そうかい?ならばそうしよう。やり方はわかるかな」
 「エット……」
 「そうだね、鬼となるものが他のものを追いかけて、皆は捕まらぬよう、逃げるのだよ」
 「鬼、カラ、ニゲルノ?」
 「嗚呼、そうだ。鬼は私がやろう。私に捕まらぬよう逃げて呉れ」
 シンプルだが、楽しいものさ、と。笑う英にジョージもコクリと長い首を縦に動かした。

 亀と狸の話が終わったのを見た子らが、早く遊ぼと急かす。
 「嗚呼、ならば、始めようか」
 その一言を皮切りに、ワッと散り散りになる動物達とフワモコ達。まだ少し戸惑いがちなジョージの傍を、此方、と嫋やかな動作で三毛猫が先導をした。
 さて、誰から、と眺める英。歩は緩やかであれ、初心者で此度の主役でもあるジョージには、少しでも長く逃げ楽しんで貰いたいものだ。ならば。
 「まずは転がるふわもこを捕まえよう」
 英が最初の標的と定めたのは、ころころと転がり往く冬の仲間達。緑の草原を転がる色取り取りの彼らは、まるでクレヨンで書いた花のよう。丸い色彩を追うべくと、その足に力を籠めた英は、パチリ、とその目を瞬かせた。
 「動物の身は人間よりも動きやすい。いつもより低い視線も新鮮だね」
 童心に返ったような心地だ、と。心ばかりか追う足もかろく、狸の英は駆けてゆく。

 しかしながら……暫く追いかけっこに興じた後、には。

 ――嗚呼。皆々、待って呉れ。

 息も絶え絶え。
 心配そうな視線を投げかけるジョージと、近寄らぬよう、と制す三毛猫の姿をその眸に映し、英はため息を一つ。
 「……ふう。動物の身でも体力はやはり私のままだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸神櫻

ひとりきりは嫌だもの
寂しいとうたうその声に耳をすませ
嘗てひとりぼっちの神様であった、私の大切な神の手を握る
あなたはもうひとりではない
いつだって何処だって
巫女は神に寄り添うのよ

カムイ、私も同じことを考えていたのよう
美しいこの島に、哀しみの嘆きは似合わない
ジョージ
一緒に遊びましょう
飴玉を、食べさせる
あらあら、かぁいらし
私と同じ桜の角に翼の子龍だわ

名案ね、カムイ!
桜吹雪と戯れて、この空を游ぐように飛びましょう
怖いなら手を握っているわ

急降下に旋回に
空と遊ぶのもよいものでしょう
桜の花言葉はね
私を忘れないで、というの
私はジョージのことも、忘れないわ
こうして共に並んで咲いた桜だもの

ほら、笑って咲いて


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

噫、サヨ…
寂しいと哀しいと
孤独を嘆くこえが聴こえる
胸に掌を添え双眸を閉じる

思い返すは、過去たる己
―厄災の神は孤独であった
孤独を、孤独と感じることがないほどに
誰からも疎まれ祓われる存在

孤独な災は、桜に出会い倖を得た
だから

サヨ、私はこの者にも倖を約したいよ
独りでないと教えたい
そなたはジョージ、というのかい?
美しい桜の龍となったね
私の愛し子と同じだ

桜はね春に咲いて、散りて尚
再び花咲く花
ひとつではなく、連なり咲く花なんだ
だからそなたも独りきりではないよ
笑うサヨとジョージと……そうだ
桜吹雪と戯れるよう、空を飛ぶのはどう?

私が変じるのは朱雀
ふたつの桜と戯れ空を遊ぶ

海に還るその前に
美しい倖を胸に刻んで



 ●

 少し時は遡り、其れはまだ、風に嘆きの聲が載っていた頃。ヒトの言の葉にはならぬも、響くその音色に誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)と、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は耳傾けて。
 「噫、サヨ……寂しいと哀しいと、孤独を嘆くこえが聴こえる」
 その響きに、其処に宿る感情に、己が裡をも重ねつつ、カムイは胸に掌を添え双眸を閉じる。
 伏せた瞼の向こう側、カムイが思い返すのは、過去たる己。

 ――厄災の神は孤独であった。

 そう、孤独を、孤独と感じることがないほどに。誰からも疎まれ祓われる存在。そうで“あった”。嘗ては。
 その隣、添う櫻宵もまた、寂しいとうたうその声に耳すませ。
 「ええ、ひとりきりは嫌だもの」
 と、想いを重ねては、嘗てひとりぼっちの神様であった、櫻宵の大切な神の手を握る。
 「でも……」
 「噫、でも……」
 「あなたはもうひとりではない。いつだって何処だって、巫女は神に寄り添うのよ」
 「孤独な災は、桜に出会い倖を得た」
 握られ、繋がれた互いの手が、こんなにも暖かいのだから。すぐ傍に、感じあえる大切な存在がいることが、ひとりではないことが、こんなにも。

 ――だから。

 「サヨ、私はこの者にも倖を約したいよ。独りでないと教えたい」
 そう紡ぐカムイの言葉に、柔らかな色湛えた眸を彼の朱へと重ねて、櫻宵は微笑む。
 「カムイ、私も同じことを考えていたのよう」

 ――美しいこの島に、哀しみの嘆きは似合わない。

 だからこそ、向かわなければ。孤独を、独りを、嘆き悲しむこの聲の主のそばへ。
 繋いだ手は離さずに、ふたりは聲の主を、ジョージを探して島を征く。この美しい島の姿を、ふたりの記憶にも刻みながら。

 ●

 そうして、暫くの時が経つ。
 彼らがジョージを追い、赴いたのは緑豊かな丘の上。
 遊び疲れた様子の猟兵から、彼との想い出のバトンを受け取って。亀の姿したジョージへとふたりは近づく。
 「ジョージ、一緒に遊びましょう」
 そう告げて、櫻宵は手の内に収まったキャンディを、目の前の彼へと差し出す。
 すっかりその行為に慣れた様子のジョージは、差し出されたキャンディを口へと含んだ。
 甘い味が広がると共に、此度のジョージが変じる姿は、赤き瞳に薄灰の鬣を靡かせて、その頭部に櫻の角と翼を得た小さくあどけない、小龍の姿。
 その姿を目にした櫻宵は、きらきらと瞳を輝かせて、その両の手を組む。
 「あらあら、かぁいらし!私と同じ、桜の角に翼の子龍だわ」
 「……俺、龍になったの?」
 ぱちり、と瞬いたジョージは亀の時とは異なる竜の首を、ゆうるりと動かして己が身を眺めた。
 「美しい桜の龍となったね。私の愛し子と同じだ」
 「桜の、龍」
 「ジョージ、桜はね。春に咲いて、散りて尚、再び花咲く花。ひとつではなく、連なり咲く花なんだ」

 ――だからそなたも、独りきりではないよ。

 眦柔く、穏やかに紡がれるカムイの言の葉に、己が身からはらはらと舞う桜の花弁に、そして其れと同じ花を持つ櫻宵の姿に。ジョージの心はまたひとつ温かさを帯びてゆく。
 揃いの花を宿した龍達が、互いを見て微笑む。そんな姿を眺めながら、カムイはふと思案した。

 「笑うサヨとジョージと……そうだ。桜吹雪と戯れるよう、空を飛ぶのはどう?」
 「名案ね、カムイ!桜吹雪と戯れて、この空を游ぐように飛びましょう」
 「空を、飛ぶの?……桜吹雪と、一緒に?」
 「ええ、怖いなら手を握っているわ」
 そう告げて差し出す櫻宵の手に、小さな子龍の前足がそっと重なった。触れ重なる温もりに、柔らかに笑んだ櫻宵とジョージは、纏う桜と共にふわりと宙へ浮いた。
 姿は異なるといえど、先に一度、翼の扱いを知り得たジョージは、まだぎこちないながらも櫻宵の手をしっかりと握り、共に空を游いでゆく。

 そんな様子を見た櫻宵は、此れならば遊び飛ぶのもいいだろうと、その軌道へ、急降下に旋回にとを織り交ぜてゆく。
 「わ、わ!……わぁ!」
 その速度や角度を増す空の旅に、最初こそ少しばかり、驚きと悲鳴に似た音を織り交ぜていたものの、ジョージの声も徐々に楽しさを帯びてゆく。
 「うふふ、空と遊ぶのもよいものでしょう?」
 「う、うん!最初は、ちょっと……怖かった、けど」
 そんな会話を交わす龍達を、朱雀の姿へ身を変じさせたカムイもまた、側を飛翔しながら穏やかな目で見守っていた。
 そうして、ジョージが空と遊ぶ事に慣れて来た頃合いを見計らって、彼もまたふたつの桜と戯れ空を遊ぶのだ。
 そんな時間を共にしながら、カムイは心に抱いた願いを眼差しに乗せる。

 ――海に還るその前に、美しい倖を胸に刻んで。と。

 そして、空の遊戯に興じていた最中、櫻宵もまた、ジョージへとその眼差しを柔く、しかし真っ直ぐに向けた。
 「ねぇ、ジョージ。桜の花言葉はね、私を忘れないで、というの」
 「『私を、忘れないで』……」
 「そう。私はジョージのことも、忘れないわ。こうして共に並んで咲いた桜だもの。だから、ね」

 ――ほら、笑って咲いて。

 告げる櫻宵へと、桜の子龍……ジョージは、眦柔く緩め、咲んだ。
 きっと、きっと、忘れない。こうして咲いた、桜の時間を、想い出を。けっして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
ジョージ、初めまして。
俺はユヴェンという、よろしくな?

共に洞窟を探索しないか?よければ花を…探しに行こう?
共に行ってくれるのなら変身キャンディはジョージに。
俺はこれでも一応クリスタリアンだから、ジョージの身体も宝石に変わるのだろうか、それならば俺よりも美しい姿になりそうだな。

俺の肩にいるコイツはミヌレ。小さな竜だが時に槍となり俺を支えてくれる仲間の1人だ。他にも仲間はいるけど、皆姿形は違う。
見た目も大きさも関係ないんだ
だから
…なぁ、ジョージ。良かったら友達になってくれないか

UC「halu」使用
自身の指先を植物へと変化させ、洞窟で見つけたものと同じ花を咲かせる
その花をジョージへ贈ろう

…ありがとな



 ●

 空より舞う、名残の桜吹雪の中、地に降り亀に戻ったジョージの元へ、またひとり、彼との縁を望んだ者が来る。穏やかな足取りで彼に近づくのは、ユヴェン・ポシェット(kuilu・f01669)。
 手にしたキャンディをジョージへと差し出して、食む姿を眺めながら、口を開く。それは彼に告げるというより、独白に近いものだった。
 「俺はこれでも一応クリスタリアンだから、ジョージの身体も宝石に変わるのだろうか」

 ――それならば、俺よりも美しい姿になりそうだな。

 その姿が変じる前だからこそ、これから見せてくれる姿が楽しみだという気持ちが、言葉に変わる。
 此度のジョージは、赤き瞳を持ち、乳白の髪を靡かせて、其の身にシトリンの輝きを宿したクリスタリアンの少年となった。
 ぱち、ぱち、と瞬く彼へと、ユヴェンは視線を合わせて告げる。
 「ジョージ、初めまして。俺はユヴェンという、よろしくな?」
 「君は、ユヴェン?えっと……よろしく」
 おずおずとながら、自ら頭を下げて見せるジョージの姿に、眦を和らげたユヴェンはゆったりとひとつ頷いて。

 「共に洞窟を探索しないか?よければ花を……探しに行こう?」
 「洞窟を……?」
 元いた暗い場所を思い起こし、少しばかり躊躇する彼に、ユヴェンは穏やかに続ける。
 「ジョージがひとりでいた場所じゃ無い。海の傍、良いところがあったんだ」
 「いい、ところ」
 「それに、俺も……そして、コイツも居る」
 だから、一緒に行ってはくれないか、と。そう今一度問うユヴェンの言葉に、ゆっくりとジョージは頷きを返した。
 そして、彼が示した小竜にそのつぶらな赤を向けて。

 「ねえ、ユヴェン、その子は?」
 「コイツはミヌレ。小さな竜だが時に槍となり俺を支えてくれる仲間の1人だ」
 「ユヴェンの、仲間……」
 「ああ、他にも仲間はいるけど、皆姿形は違う」
 そう語りながら、肩に添うミヌレへと伸ばした手で、その身を撫でて彼は続ける。
 「仲間である事に、見た目も大きさも関係ないんだ」
 「見た目も、大きさも、関係ない……」
 ユヴェンの言葉を裡に落とし込むように、そして、今まで過ごした猟兵達の姿をも重ねるよに、ジョージはぽつり、と呟いた。
 そんな様子を、言葉の響きを受け取って、ユヴェンは言葉を重ねゆく。
 「そう、だから……」

 ――なぁ、ジョージ。良かったら友達になってくれないか。

 「……とも、だち?」
 ぱちり、と。溢れ落ちそうな瞳を瞬かせて、ジョージが言葉を繰り返す。
 「俺とユヴェンが、友達。……いいの?」
 おずおずと問い返すジョージに、ユヴェンが頷き返す。その仕草に、きゅ、と胸を掴んだ彼は、少しばかりくすぐった気に、けれども嬉しさの籠った表情でこくり、と彼へと頷いた。

 そんなやり取りを交わしながら、辿り着いた洞窟で彼らは探索を始める。
 海水入り込む海辺の洞窟は、入り口が広く外の光が奥の方まで入り込み、岩肌から除く鉱石が外や波の光を受け輝いていた。そんな光入る洞窟には、花咲く植物も顔を出している。
 図鑑に載るよな花もあれば、この島特有の不思議な形のものもあった。見つけた花を指差しながら、その色を、形を、そして共に過ごす時間を、彼らは裡に刻んでゆく。

 そろそろ効果が切れそうだと、興味尽きぬ探索を切り上げて、彼らは洞窟の入り口まで戻ってきた。
 「ねえ、ユヴェン、色んな花があるんだね」
 「ああ、そうだな。ジョージは気になった花はあったか?」
 問う言葉に少し思案した後、名前はわからないけれど、と添えてから。
 「ユヴェンの目と髪の色みたいな。真ん中がピンクで花弁が白い花があったよね?俺、あれ好きだな」
 葉っぱの緑は、ミヌレの尻尾みたいだった、と。
 その言葉に瞬いたユヴェンだったが、そのまま眦を和らげて、そうか、と告げたなら、持つ力で指先に花を咲かせる。
 其れは、今彼が告げた、ユヴェンとミヌレの色宿す花。
 驚きの色を湛えたその赤の前へと、指先に咲いた花を摘み取り差し出す。
 「この花をジョージへ。友達への贈り物だ」

 ――…ありがとな。

 花と共に添えた感謝の言葉は、友となってくれた事へか、想い出を重ねた時間にか、含む気持ちはユヴェンにしかわからない。
 しかし、同じ言の葉が、ジョージからも彼へと返る。温かな声音と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルデルク・イドルド
アドリブ歓迎

あぁ…一人は寂しいよな。
それは俺だって分かるが。種としての孤独なんて本当の意味でわかってなんてやれないだろう。

よし、そうだな。今回はジョージがヒトの姿になってくれ。
海を見に行こうぜ。
この世界は海の世界だからなジョージにも満喫して欲しい。
この海の上にはたくさん島があってないろんな奴らが住んでる。
この貝殻綺麗だな。ジョージも好みの貝殻探してみるか?

ジョージは種としとは孤独かもしれないが。
今日は種を越えてたくさんのやつと接しただろう?少しの間だが友達になれた、って思ってる。
きっとそう言う意味ではジョージは一人じゃない。だから…また会った時も友達だ。



 ●

 洞窟がある方向から、亀のジョージが歩いてくる。その姿を目に映したアルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)は、この地に至る折に聞いた話を、彼の境遇を思い出す。
 「あぁ……一人は寂しいよな」
 それは、彼にだって分かることであるのだが。種としての孤独なんて、本当の意味でわかってなんてやれないだろう、とも思う。
 故にこそ、だ。彼は己の思うことを為す。先ずは、そう、ジョージの元へと歩み寄ることから。

 その手にキャンディを握りジョージの元へ向かえば、近づくアルデルクの姿をみとめたジョージもまた、彼が己に会いに来てくれた人なのだと認知し、その距離を縮めてゆく。
 彼が差し出したキャンディを、ジョージが躊躇うことなく口へ含んだなら、その姿がヒトへと変じてゆく。
 此度のジョージの姿は、赤き瞳に黒き髪。一房の三つ編みを持つ人間の少年へと。
 目の前に立つあどけなき少年へ、にっ、とわらったアルデルクはその手を差し出した。
 「海を見に行こうぜ」
 「海を?」
 その言葉に、驚きではない瞬きを返すジョージの様子に、アルデルクは笑みを深めて続ける。
 「あ、もう見たって顔だな?けど知ってるか、海ってのは刻一刻と顔を変えるんだ」
 「もう見たのは本当だけど……海、綺麗だったから。俺、何度でも見たいよ。でも……顔を変えるって、そうなの?」
 「ああ、場所でも、時間でも全然違うんだ。この世界は海の世界だからな、ジョージにも満喫して欲しい」

 そう告げて、アルデルクが示した海は、照らす陽が西に傾き始めて、まだ陽の高い頃にカヌーで見たものとは異なる煌めきを湛えていた。
 「漕ぎ出すのも良いが……色が変わってく夕の海を見ながら、砂浜で遊んでみるか。陸から……この島から、波の先を眺め想うのも良いもんだ」
 「うん!あ、えっと……」
 「ああ、俺はアルデルクだ。よろしく、ジョージ」
 「うん、よろしく、アルデルク」
 互いの名を交わし合ったふたりは、柔らかな白き砂が満ちる砂浜へとその歩みを進めてゆく。
 細かく、さらさらとした白砂が大きな足と小さな足の歩む跡を連ね残す。
 その傍、寄せて返す波の音を耳にしながら、西陽に照らされ、白き輝きを宿す海を示してアルデルクは言う。
 「この海の上にはたくさん島があってな、いろんな奴らが住んでる」
 「いろんな?」
 「ああ、いろんな、だ。ジョージも今日いろんな奴らに会ったろ、でも、其れよりももっと、もっと、いろんな、だ」
 「今日出会ったよりも、もっといろんな……」
 其れは、どれほど沢山なのだろう。今この時までに会ったヒトや動物、そうでない不思議な生き物もいた。それでも、まだまだ、いるのだろうか。

 未知なる先に、ふと思考を飛ばしながら、キラキラと角度を変える波の輝きをジョージは見つめる。
 波間の光を受けてキラキラと煌めく彼の赤を、アルデルクもまた、その隣に並んで見つめた。ひとつでも多く、その輝きを其処に刻んでやりたい、と。そう思いながら。
 そんな視線をふと下へ落とせば、寄せた波が運んだのか、桜色の貝殻が足元に届いていた。
 「お、この貝殻綺麗だな。ジョージも好みの貝殻探してみるか?」
 腰を曲げ、摘み上げた其れを彼へと見せ笑うアルデルクに、うん!と頷いたジョージとの貝殻探しが始まった。
 その中で、昼間に貰った貝殻を彼へと見せながら、今日の想い出を語ってみたり、同じ貝を探してみたり。巻貝を耳に当てると波の音がすると教えて貰い、其れを体験してみたり。ふたりの海岸でのひと時は穏やかな想い出を重ねて行く。

 「なぁ、ジョージは種としとは孤独かもしれないが」
 温かな時間を過ごす中、徐に、アルデルクが口を開いた。紡がれる言葉にその赤を真っ直ぐと向けたジョージは静かに耳を傾けた。
 「今日は種を越えてたくさんのやつと接しただろう?俺も、少しの間だが友達になれた、って思ってる」
 「……友達」
 「ああ、だから、きっとそう言う意味ではジョージは一人じゃない」

 ――だから……また会った時も友達だ。

 アルデルクの紡ぐ、また、の言葉が。いつかへの希望が、ジョージの裡へとじわりと沁みる。
 哀しみではない雫が、つぶらな赤を潤して。彼は一つ、頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
ひとりは寂しいですよね…
ぽつり、小さく呟く

そうだ、お花見しませんか?
私の故郷では春に桜の下で宴をするのです
ヒトになったジョージさんに微笑んで
ひとときだけ、と全力魔法で桜の樹を生やして咲かせてみましょう
出来なければ近くの木々が桜に見える催眠術を

景色を見ながらのんびりしたり
食べたり、飲んだり
一人で過ごすも良し
大勢で楽しむも良し
昼でも夜でも楽しめるのですよ
ジョージさんと桜の中をお散歩

さあさ、宴を始めましょう
海賊さん達も一緒にいかがですか?
お散歩を終えて戻ったら
持ち込んだ料理とお酒で宴をしましょう

大勢で騒いで笑って楽しんで
眠りに着くあなたがいつまでも良い夢を見ていられますように、と祈り歌いましょう



 ●

 空の色がまた一つ時を刻み、茜色に染まる。夕暮れ時の空と言うのは、何故か裡を切なくさせる。そんな色彩を見つめながら、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は小さくぽつりと呟いた。
 「ひとりは、寂しいですよね……」
 そんな言の葉を海風に溶かして、砂浜に居るジョージの姿を見とめた彼女は足早に向かう。茜色の哀愁が、彼の満たされた心を再び寂しさで染めない様に。

 砂を踏みしめる音に振り返ったジョージへと、千織はキャンディを差し出した。今日何度目かのそれを口に運び、彼は再び姿を変える。空を彩る茜色よりも濃い赤をその目に宿し、ふわりと靡いた髪は黒。与えた彼女と全て同じとはいかずとも、ぴょこんと生えたヤマネコの耳と尾を揃いとした少年が其処に立っていた。
 そんな姿に、眦を緩めた千織とジョージが互いに挨拶を交わした後、何をしようか、と、軽く思案した彼女が提案を投げかける。
 「そうだ、お花見しませんか?」
 「……お花見?」
 「ええ。私の故郷では春に桜の下で宴をするのです」
 景色を見ながらのんびりしたり、食べたり、飲んだり。一人で過ごすも良し、大勢で楽しむも良し。
 穏やかに語り聞かせる彼女の話に、興味に満ちた輝きを宿す赤を向けたジョージへと、柔らかに微笑んだ千織は、出来そうな場所を探しに行きましょう、と、柔らかな手を差し出して。ジョージも其れを握り返し、ふたりは歩む。

 今の季節、この島に咲く桜は無い。ならば、と千織には一つの案があったが、しかし其れも砂浜では難しい。せめて木々に満ちた場所を、と、この島の海賊に問う。
 「なんだ、なんだい。花見だって?だったらアタイ達も交ぜとくれよ」
 「桜じゃなくても、木が生えてりゃいいの?だったら、そこの広場がうってつけよ!」
 「宴会だってんなら、開けた場所の方がいいだろ?」
 研究に勤しむインドア派……に見えても、やはり彼ら彼女らも海賊だ。楽しい事には目が無い様子で、千織の話に嬉々として情報提供を行い、そして自分達も混ざる気満々である。
 そんな海賊達の様子に、千織とジョージも顔を見合わせ笑ったなら、海賊達に連れられてゆく。街の裏手、並木の小路を抜けた先。其処は集会場としても使われるのだろうか、背の高い木々に囲まれた円形の広場と、中央には簡素な円卓が置かれていた。

 緑に満ちたこの地を如何にして薄紅に染めるのか、と、集まった海賊達も興味津々で千織の様子を眺めている。そんな視線に少しばかり面映ゆげに笑った彼女は、ジョージに向けて微笑んで、見ていて下さい、と、術式を編んでゆく。組み上げた術に全力魔法を乗せて放ったならば、広場を囲う木々があっという間に薄紅に染まった。風に乗り、はらはらと舞う花弁は紛う事無く桜の其れである。
 わあ、と歓声の上がる中、千織は成功したことに安堵の笑みを浮かべていた。彼女ひとりの力では、成し得なかったかもしれない、されど、この島に満ちる魔力が彼女の想いを後押しした。
 「さあさ、宴を始めましょう」
 そう告げる千織へと、待ったをかけたのは海賊達だ。
 「おっと、こんないいもの見せて貰って、準備も無しじゃ宴にならないよ」
 「料理や酒を用意しておくさ、アンタらは散歩でもしておいで」
 「こんだけの事したんだから、そっちのネーさんも疲れてんだろ、こっちは任せな」
 気前よく背を押す海賊達に流されながらも、折角の桜の景色だ、ジョージと共にゆったりと散歩をするのも良い。
 「それじゃあ、ジョージさん、お散歩に行きましょうか」
 「うん!」

 頷くジョージと連立って、薄紅の舞う地をゆるりと歩む。茜色の空も、もはや哀愁などは連れてこない。
 寧ろ、柔らかな花色を一層に引きたてる彩として、鮮やかに天を染めていた。
 「ねえ、千織。朱い空も、千織が咲かせた花も、綺麗だね」
 「気に入って貰えたなら、私も嬉しいですよ」
 彼の言葉に、千織の表情も柔く咲く。茜と薄紅に包まれた穏やかな散歩の時間が終わったなら、海賊達の待つ広場へ戻るとしよう。
 大勢で騒いで笑って楽しんで……そう、その心に楽しい想い出を。

 ――眠りに着くあなたが、いつまでも良い夢を見ていられますように。

 千織が彼の為に祈り歌うのは、もう少しだけ後の話。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディイ・ディー
🎲🌸

飴で少年になって貰ったジョージと志桜と一緒に

先ずは魔法の花が咲く所に行くか

見てろよ、こうやって編んでいくと
ほら、花の冠になっていくんだ
俺は志桜のを作るから、志桜はジョージのを頼む
三人でお揃いも良いよな!

俺達の間に息子が出来たらこうやって過ごすんだろうか
なんて、遠い未来のことを考えてしまう
俺もジョージも本当はヒトではないから
これから巡る未来を思うと少し切なくもなる

っと、暗い顔しちまってた
ごめん
大丈夫だ
そうだ、このまま流れ星を見に行こうぜ
三人で手でも繋いでさ!

憶えているからな、ずっと
俺が忘れなければ記憶の裡にお前は生き続ける
お前の寂しさも思いも、共に過ごした記憶も
ちゃんと未来に連れて行くぜ


荻原・志桜
🎲🌸

ジョージくん、わたしたちと一緒に遊ぼっ
ディイくん何処がいいかな
魔法の花?そこがいい!しゅっぱーつ!

にひひ、それじゃあ作り合いっこだね
花冠って意外と難しい
ううっ。解けていくぅ
ふたりとも何でそんなに綺麗にできるの?

なんとか完成した花冠
不格好だけど喜んでくれるかな

彼から貰う花冠を嬉しそうに頭に乗せて
三人で笑い、ふと考える
いつか訪れてほしい未来
いとしい旦那様と大切な子と過ごして
その時も今みたいに笑って幸せを噛み締めたい

ディイくんどうかした?
にひひ、それじゃ行こっか
あっいまのみた?流れ星だよ

ジョージくん寂しいのなくなった?
ん、お別れの時間なんだね
大切な時間を分けてくれてありがとう
絶対に忘れないよ



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 桜下での宴会を終え、空が紫色を帯びて宵に向かい始める頃。ジョージへと声を掛けたのは、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)と荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)のふたりだった。
 周囲の海賊達にも見送られ、ディイの差し出したキャンディを口に含んだジョージは、赤い瞳に焦茶の髪を持つ少年のへと姿を変える。
 その姿を瞳に映した志桜は、明るい笑みでジョージに声を掛けた。
 「ジョージくん、わたしたちと一緒に遊ぼっ」
 「うんっ!」
 彼女の其れにつられてか、此処までに温められた心故か、柔らかに笑んだジョージも素直に頷き返す。
 「ディイくん何処がいいかな」
 「そうだな……先ずは、魔法の花が咲く所に行くか」
 問う志桜の声に思案したディイが思い当たったのは、この島の海賊達から話を聞いた花畑。その提案に、志桜の瞳がパッと輝く。
 「魔法の花?そこがいい!」

 ――それじゃあ、しゅっぱーつ!

 期待に満ちた彼女の元気な声が響いて、三人は森の方へと歩いてゆく。
 彼らが赴いたのは、月型の山の麓に広がる森の中。宵迫る森は暗くもあったが、目的の花畑に辿り着けば、そんな事は微塵も気にならなくなった。なぜなら。

 「……これは」
 「わぁ!ディイくん、お花が光ってるよ!」
 「ほんとだ、凄い……!」
 教えて貰った魔法の花は、宿す魔力で光を灯すものだった。淡い光に満ちた花畑は幻想的な雰囲気を纏っている。見ているだけでも美しい花々だが、思い出になるものを作るのもいい。
 「見てろよ、こうやって編んでいくと……ほら、花の冠になっていくんだ」
 摘んだ花々を器用に重ね編み込み、小さな輪を作ったディイはそれをふたりへ見せた。
 「わぁ、ほんとだ!」
 「もっと大きいのも出来るぜ。俺は志桜のを作るから、志桜はジョージのを頼む」
 「にひひ、それじゃあ作り合いっこだね」
 「じゃあ俺は、ディイのを作ればいいの?」
 「そうだな、三人でお揃いも良いよな!」
 「ジョージくん、一緒に頑張ろう」
 「う、うん!」

 頷き合った三人は円となって座り、花冠を作っていく。先ほど同様、器用に花を編んでゆくディイの隣、志桜は少しばかり難しい顔。隣の彼は簡単そうに編んでゆくのに。
 「あ、あれ?花冠って意外と難しい。ううっ。解けていくぅ」
 「だ、大丈夫?志桜」
 その様子を見て気遣わしげな視線を向けるジョージも、其れっぽい形に編めている。
 「ふたりとも何でそんなに綺麗にできるの?」
 「えっと……ここを持つとやりやすい、かも?」
 そんなやり取りを交わす志桜とジョージの様子を眺めて、ディイの眦が和らぐ。
 三人で過ごす時間が、穏やかで、あたたかい。

 四苦八苦しながらも、なんとか完成した志桜の花冠。不格好だけど喜んでくれるかな、という彼女の心配をよそに、己の為に編まれた花冠を頭に乗せて、無邪気に喜ぶジョージの姿が目に入った。
 安堵と嬉しさで頬が綻ぶ志桜の頭に、ふわりと柔らかな感触が降る。見上げたなら、愛しい彼の手から己の頭へと花冠が授けられていて。似合ってる、と笑うディイへ、嬉しそうに志桜は微笑んだ。
 「俺のは、ディイに」
 と、手渡されたそれを、受け取る彼もまた頭に乗せて。互いに作りあった揃いの花冠を頭に飾り、笑い合う三人。

 重なる笑い声を聞きながら、志桜はふと考える。
 いつか訪れてほしい未来。いとしい旦那様と大切な子と過ごして、その時も今みたいに笑って幸せを噛み締めたい、と。
 そうして、ディイもまた想う。
 俺達の間に息子が出来たら、こうやって過ごすんだろうか、と。そんな遠い未来のことを考えてしまう。
 そして同時に。俺もジョージも本当はヒトではないから、と。これから巡る未来を思うと、少し切なくもなるのだ。裡に走る小さな痛みを隠すよに、僅かに眉を下げて。
 
 「ディイくん、どうかした?」
 そんな彼の変化に気付いたのか、志桜が声を掛け、隣のジョージも心配そうな視線を向けていた。
 「……っと、暗い顔しちまってた。ごめん、大丈夫だ」
 本当に?と言いたげな視線を向ける彼女へと、頷き一つ。
 「そうだ、このまま流れ星を見に行こうぜ。三人で手でも繋いでさ!」
 そう明るく笑うディイの様子に、志桜も笑んで。
 「にひひ、それじゃ行こっか!」
 告げてジョージへと差し出すふたりの手を、彼の左右の手が握り、三人は並び歩き出す。揃いの花冠を乗せて。

 森を抜けた三人が来たのは、流れ星が降るという山が良く見える丘。
 すっかり日が落ちた空に星が煌めいて、見上げた志桜の瞳に一筋の光の帯が映った。
 「あっ!いまのみた?流れ星だよ」
 「わぁ!本当だ!」
 志桜の見つけた一つを皮切りに、三人の視界が数多の流れ星に満たされてゆく。
 
 そうして、夜の天蓋を星の帯が彩る中。
 島に集った猟兵達が、この丘に集まるのが見えた。
 そう、今日と言う日ももう間もなく終わるのだ。
 その様を目にした彼女は、“その時”が来たことを悟る。隣にいるディイもまた。

 「ん、お別れの時間なんだね。……ジョージくん、大切な時間を分けてくれてありがとう」
 「憶えているからな、ずっと。俺が忘れなければ記憶の裡にお前は生き続ける」

 ――お前の寂しさも思いも、共に過ごした記憶も、ちゃんと未来に連れて行くぜ。
 ――私も、絶対に忘れないよ。

 其々の想いを目の前の彼へと告げて。
 彼が、“海”に還る時が来た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


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 多くの想い出に満ち満ちて。
 数多のあたたかな想いをその身に受けて。
 孤独に、独りに、嘆いていた亀はもういない。
 風に乗り、響いていた慟哭も、もう聴こえない。

 月型の山がよく見える丘。
 澄んだ空気に包まれて、山へ吸い込まれるよな流れ星達が良く見える。

 星降る静かな夜。
 集う猟兵達に囲まれて、満ちた表情を浮かべる“彼”を、在るべき場所へ還す時が来た。
 彼も知っている、気付いている。此の儘の自分で、この地に在り続けるべきではないことを。
 だから、その裡に満ちた想い出と共に、温かに満たされた心と共に、還りゆくのだ。
 その全てを共に刻んだ、猟兵達の手によって。

 彼を還すべく力が巡る。
 その全てが、其処に込められた想いが、彼に寄り添った温かなものだ。

 彼と同じ亀の姿が黄泉へ導くよに寄り添えば、周囲を彩るのは天上の如き花咲く景色。
 魂を解放するよな光刃が降り注ぎ、愛を宿す歌が響いて、ガジェットからは彩るよな虹泡が舞う。白羽根が重なり舞えば其の心穏やかに包み込み、時重ねゆくよな力も注がれてゆく。
 重なる愛の讃歌が彼の幸を溢れさせ、微睡を誘う星形の花が舞えば、其処に桜と山吹の花が彩重なりて尚華やかと。更に桜の花弁と共に乱舞する賽が加われば、その身に触れし彼の記憶を術者に刻む。
 彼を取り巻き、満ち満ちてゆく花の彩は止まることなく。更なる花が旋風を巻き起こし、彼を還すべき黒桜と共に幸願う朱桜が同時に咲いて、彼とひとつとなるように奪いし力が、龍の桜花を咲き誇らせた。

 彼の身を、力を持って還すものだけでなく、共に見た花を手に掲げ見守る者もいる。共に遊んだフワモコや使い魔達も、主と共に見送るよに集っている。ひよこに、亀、ワニ、小竜にネコ。小さな仲間達や、傀儡人形達も其処にいた。
 ジョージとの縁を、彼の裡満ちることを、願い集うた全ての者達が、彼の還る瞬間を見守っていた。重ねた想い出をその裡にしかと刻んで。

 そうして、彼らの重なる力が満ちゆきて。
 最期の痛みは一瞬で、と、願う黒き剣が彼を貫き……“その時”が来た。
 骸の海へと還るべく、彼の身が消えゆく間際。

 ――ネエ、ミンナ。俺ハモウ、独リデモ、孤独デモ、ナイヨ。

 集う者達の耳に届いたのは、確かな言の葉。

 ――俺ノ、仲間。俺ノ、友達。忘レナイヨ。ミンナ……アリガト。

 今、誰もキャンディは食んでいない。
 けれども確かに、彼の聲は、想いは。
 猟兵達へと、しかと響いた。

 彼の姿は、もう無い。星降る夜に、風が吹く。
 彼の最期を彩った、色彩の名残を乗せて。

 別れは寂しいものだけれど……願わくば。
 集う全ての皆にとって、今日という日の想い出が、あたたかに刻まれますように。いつまでも、ずっと。

最終結果:成功

完成日:2021年02月10日


挿絵イラスト