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「グリードオーシャンで戦争が始まっておるのは知っておるな?」
ガングラン・ガーフィールド(ドワーフのパラディン・f00859)は、集まった者達へそう語り始めた。顎髭を撫でながら、厳しい表情で続ける。
「今回、おぬしらに頼みたいのは七大海嘯の一人、『一の王笏』カルロス・グリードへの対処じゃ」
『一の王笏』、オブリビオン・フォーミュラであるカルロス・グリードの分身体がとある島へと侵略を始めるのだという。ガングランは難しい表情で、言った。
「ダークセイヴァー世界に、紋章というものがある。取り付いて宿主を強化する寄生虫のようなものでな、何故かカルロスはこの紋章の力を使って来るのじゃ」
ただでさえ強力なカルロスの分身体は、紋章によって異形化。さらなる力を得ているのだ。強敵、と呼ぶしかない。
「おぬしらに対応してほしい分身体が使う紋章は、獅子人の紋章と言うらしいの。獅子頭人身の異形の姿をしておる」
その獣人の驚異的な身体能力で、カルロス本来の紋章の力を使ってくる――真っ向からぶつかれば、ただ力で圧倒されて終わるだろう。
「この分身体が侵略するのは、ダークセイヴァーの墓地が広がる島じゃ。この墓地が戦場となるじゃろう」
上手く使えば、墓に身を隠す事も出来るだろう。何にせよ、挑む者の戦い方次第でとるべき対処も変わってくるのは間違いない。
「敵は分身体とはいえ、オブリビオン・フォーミュラじゃ。相応の強者である事を忘れず、心して挑んでくれい」
波多野志郎
紋章も世界を越える! どうも、波多野志郎です。
今回は羅針盤戦争において、七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリードと戦っていただきます。
プレイングボーナスは「敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する」になります。紋章によって獅子頭人身の獣人となったカルロスの分身体といかに戦うか? 皆様のアイデアとプレイングをお待ちいたしております!
強敵との真っ向勝負、是非、存分にお楽しみくださいませ。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード』
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POW : 闇霧の紋章
【紋章の力】に覚醒して【触れた者の生命力を奪う黒き霧の体】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 紅き月の紋章
【無数の三日月型の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 黒百合の紋章
自身の装備武器を無数の【触れたものを呪詛で侵す黒百合】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:hoi
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夷洞・みさき
吸血鬼かと思えば獣になってるんだね。
【地形の利用】
元死霊術士、現死霊の力を使い、死者の霊を浮かび上がらせる。
起こした事を謝りつつも、寝床荒らし退治の協力を依頼。
花びらの攻撃は死者から敵への【呪詛】と【呪詛耐性】で相殺。
身体能力が向上すれば動き回るであろうことを推測。
つまり、花びらをばら撒けば、対象が【触れたもの】であるなら自身も呪詛対象。
【罪業縛りの錨】で敵と自身をつなぎ、互いに花びらの効果範囲に留め置く。
自身はUCにて呼び出した水気、海水にて花びらを避けるようにする。
海流を操作して、敵の周囲に花びらが寄るようにする。
優雅さを棄てたのが仇になったかな?
獣らしく溺れる良いよ。【踏みつけ】る。
スコグル・ノルン
おや霧のように…これは触れてはいけないのがセオリーでしょうね
●対策
まずは【落ち着き】をもって冷静に
『戦乙女の大鎌』の形状をいい感じに変えて【なぎ払い】をしたなら、起こるであろう風で、黒き霧を【吹き飛ばし】などして時間稼ぎしてみましょう
それで体勢も崩れてくれたらラッキーですね
とにかく、反撃に必要な時間さえ稼げて、その時まで私自身が倒れなければ良いでしょう
●反撃
…すでに戦いは始まり、今この瞬間も多くの戦士が彼に挑んでいることでしょう
その戦いへの意志。先手を受けなお挑む姿は多くが美しい
その力を一部、お借りします
誇りある戦いに敬意を――この地に集いし英雄たちの力をここへ
UCで魂を直接斬りつけます
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
海の幸を独り占めしようとしてるのかな?
どちらにせよ、うざったいね★
まずは敵がUCで変身して攻撃される所を「肉体改造」で回避に適した身体に改造する事で回避。
その後、UC【膨張せし肉肉しい宇宙】で宇宙牛に変身、敵の霧の身体を吸い込んで「捕食」する。
生命力を奪われてもUCによる変身を続ければ問題なさそう。
霧の身体でもそうでなくても、巨大化して押し潰す事し、捕食する事は出来そう。
森乃宮・小鹿
うっわ、不気味な場所っすねぇ……
敵もなんか変身して怖いし……
いいっす、やるっす、ボクの本気をお見せしますよ
隠れるところがあるんなら、なんとか働けますかね
他の方々に気が向いてる間に息を潜めて近づきましょう
なるべくダメージ食らいたくないし
気付かれたら即あの黒百合飛んでくるでしょう?
呪詛はまあ多少は平気っすけど問題は傷っすよ
乙女の顔に傷つけるとかデビキンでも許されない悪っすよ!
一気に近づいて、右手で触れる
身体のどこでもいい、指先だけでも触れたら条件は揃う
凍えろ、凍えろ、黄金に凍えて汝美しき静寂となれ!
呪いを唱えて呪いを与え
あとはとにかく生き延びる
治療費と慰謝料、身を以て払ってもらうっすからね!
クネウス・ウィギンシティ
「『一の王笏』、遂に現れましたか」
※アドリブ&絡み歓迎
【WIZ】
●準備
事前にフルフェイスマスクを調達(【メカニック】)して被っておきます。また、周囲の墓地の配置を【情報収集】しておきます。
●戦闘・UC対策
「後は試してみますか」
獣人の身体能力を鑑みて距離を取った状態で戦闘を開始します。
敵のWIZ UC「黒百合の紋章」を被ったマスク、ライオットシールド一体型パイルバンカーの【盾受け】、アーマーで耐える狙いです。
「キャストオフ!」
耐え終われば、呪詛に侵された装備を捨てUCを発動。
「CODE:DELIBERATE ATTACK。掌握開始!」
周囲の無機物=広がる墓を砲台群に変え【砲撃】を浴びせます。
播州・クロリア
紋章の力?ダークセイヴァーの第五の貴族たちの力がなぜ?
(肩幅ほどに足を開き、両手で太ももをなぞりながらゆっくりと上体を起こした後{紅焔の旋律}で『ダンス』を始める)
オブリビオン同士がどこかで繋がっているのでしょうか?
(『オーラ防御』で体を護りながら{紅焔の旋律}で生み出した炎を纏った『衝撃波』で花びらを燃やしていく)
嫌な予感が現実のものとなる前に倒さなくては
この炎で影も残さず燃やし尽くします
(UC【蠱の人】を発動しクロリアの周りに人型の炎が召喚されると敵に向かって攻撃を始める)
この戦争、何としても勝たねばなりません
この世界だけでなく他の世界のためにも
トリテレイア・ゼロナイン
分身体とはいえフォーミュラの力に加え、幾度も戦った『紋章』の強化…
ですが恐れこそすれ、臆す訳にはいきません
この世界の安寧の為、他世界への侵略の野望阻む為、この島を獲らせて頂きます
霧状に変異しての攻撃に対し、脚部スラスターでの●推力移動で後退しつつ●怪力で大盾を●なぎ払い強風を発生させます
その霧の身体で、踏ん張りがきくとは思えませんね
初手を凌げば反撃開始
その身体とは些か相性が悪いので…固めさせていただきます
霧の分布をセンサーでの温度探知で●情報収集
腕部格納銃器での●スナイパー射撃でUCを発射し霧の中心部で遠隔操作で炸裂
急速冷凍で霧の体を固形化させ拘束
接近し実体化した紋章目掛け剣を一閃
花盛・乙女
『一の王笏』カルロス・グリードとお見受けする。
羅刹女、花盛乙女。いざ尋常に。
獅子の頭で黒き靄となり生命力を奪うと聞いた。化生の類か。
瞑目、深く呼吸し、集中。
動作音、衣擦れ、殺気…判断材料はいくらでもある。墓所ならば音もよく聞こえよう。
『第六感』と今までの『戦闘知識』の経験から間合いを『見切る』。
それに…意思ある煙に纏わりつかれるのは慣れている。
刹那触れる感触を察すれば反射的に『怪力』による柏手を一拍。
鬼の膂力の破裂音は耳から入り四肢まで痺れる『属性攻撃』だ。
数瞬でいい、動きを止める。
開眼し、放つ一閃「雨燕」。
紋章刻まれし右手を落とす。
さすれば同道する他の猟兵の助けになるはずだ。
ヴィクティム・ウィンターミュート
そいつがテメェの切り札か
どーやら海賊らしく、アーティファクトの類がお好きらしい
だがいいのかい?過ぎた力は身を滅ぼす。古今東西、異世界でもよくあることさ
おっといきなりの歓迎だな!花吹雪にしてはやべー匂いがするぜ
まずは花の軌道を【見切り】、僅かな空白地帯に身を滑り込ませる
無ければナイフで花を切り裂く
右腕の仕込みクロスボウから、爆発性のエクスプロシヴ・ボルトを放って【爆撃】
爆風で花を吹っ飛ばし、絶え間なく【ダッシュ】で避ける
さて、今ので「覚えた」
花吹雪が少ないのはダセェからよ
俺が増やしといてやるよ
495倍にしてな
触れたものを呪詛で侵すんだったな?
この量の花に飲み込まれたらどうなるか、実験してみようや
鳴宮・匡
紋章、とかいうやつが厄介なのは知ってる
けど、だからといって……いや、だからこそ、か
放っておける相手でもないってのは、わかってる
――討たせてもらうよ
視野の広さと、【見切り】には自信があるんだ
どれだけ数が多かろうと、視えるものなら対処してみせる
襲い来る刃の軌道を見極め
銃撃による撃ち落としを併用しながら回避
完全に無傷とはいかないだろうが
少なくとも致命傷を避けるように立ち回るよ
その間も王笏の行動からは目を離さない
相手がどんな時にどう動くのか
どういう風に戦うことを好み、何を狙い、どんな癖があるのか
観察からわかるあらゆる情報が俺の武器になる
そこから見出した隙を逃さず狙撃するよ
……一撃で仕留めてみせるさ
クロト・ラトキエ
…はて。御宅、かの世界の縁者?
吸血鬼みたいな真似してくれちゃって…
俄然、ヤる気出て来ちゃうじゃないですか。
敵の力からして距離は無意味。
ならば駆け、逆に間を詰め…
刃を放つ兆候、視線、体の向き、手足の挙動に…紋章の反応。
視得る全てを見切り、此方へ向かう刃を回避、
或いは攻撃を外套で払い、せめて威力を削りつつ。
時に墓石を盾に、移動時の陰にと利用して。
…障害物には事欠かない。
鋼糸を周囲に這わせ、掛け、張り。
敵より目を離さず、躱し、損耗は抑えつつ、
されど数手先を図り。
戦場に墓地を選ぶとは、何とも準備の宜しい事。
…皆さん、同意見?
UCにて数多巡らせた鋼糸を一気展開、斬り断つ。
墓標の用意は不要ですものね、此処
神宮時・蒼
…一の、王笏…
…この、王笏とは、一体、何を、指し示す、のでしょうね
…それに、しても、他世界の、他世界の、力が、流れ込む、とは、不思議、ですね…
【WIZ】
相手の呪詛は、「呪詛耐性」があるので、何とか耐えられるでしょうか
とは言え、呪いは身近な物。此れ以上は増やしたくありませんね
「結界術」で身を護りながら「先制攻撃」「属性攻撃」で己の身に風を纏わせましょう
墓石が近くにあるのならば、其方に身を寄せて。呪いを防ぐ盾としましょう
…呪いを、纏う、黒百合の、花弁に、触れなければ、いいの、でしょう?
もしくは、燃やして、しまえば、いい、でしょうか
少しの温度で燃え上がる花の力、お見せしましょうか
●終端の地にて
静寂に満ちた墓地が広がる地、そこに一人の男が降り立った。
「…………」
男は、目を細める。島に広がる終端の地、死者の眠るはずの場所に待ち構えていた生者達の姿に。
「『一の王笏』カルロス・グリードとお見受けする」
「確かに彼は分身体といえど、一の王笏の名を持つ者である」
花盛・乙女(羅刹女・f00399)の誰何の声に、男――カルロス・グリードは堂々と答えた。オブリビオンフォーミュラ、王と呼ぶにふさわしい威風だった。
「問うたのならば答えよ、何者だ?」
「羅刹女、花盛乙女。いざ尋常に」
「そうか、許そう」
乙女の言葉に、カルロスは鷹揚にうなずく。その視線は、周囲の他の猟兵にも注がれる。
(「『一の王笏』、遂に現れましたか」)
フルフェイスヘルメット越しに、クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)はその視線を受け止める。間合いは、必要以上に取っているつもりだった。それだけの驚異を持つ敵だと認識していたからだ。
「理解した。わかった上で挑むならば、良し」
キン! とカルロスは一つの紋章を親指で弾く。蟲の脚が生えたその表面には獅子の顔が彫られ、裏面は爪で削られたような跡があった。
その紋章を見て、ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)が笑みを浮かべる。
「そいつがテメェの切り札か」
「いかにも」
カルロスは短く肯定する。隠す必要などない、言外にそう語る声色には力があった。あるいは、誇りとも言うべきか。
「どーやら海賊らしく、アーティファクトの類がお好きらしい。だがいいのかい? 過ぎた力は身を滅ぼす。古今東西、異世界でもよくあることさ」
「ここはグリードオーシャンである。そして、我を何と心得る」
グ、と紋章をカルロスが握った瞬間、その姿が変わった。服装はそのまま、ミシリと体が一回り大きくなる――獅子頭人身の獣人が、そこに現れた。
「……はて。御宅、かの世界の縁者? 吸血鬼みたいな真似してくれちゃって……俄然、ヤる気出て来ちゃうじゃないですか」
「答える価値があるとも思えぬ問いだ」
クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の言葉に、カルロスは一言で切り捨てる。神宮時・蒼(終極の花雨・f03681)も、小さく呟いた。
「……一の、王笏……この、王笏とは、一体、何を、指し示す、のでしょうね……それに、しても、他世界の、他世界の、力が、流れ込む、とは、不思議、ですね……」
「分身体とはいえフォーミュラの力に加え、幾度も戦った『紋章』の強化……ですが恐れこそすれ、臆す訳にはいきません」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)も一歩前へ、獣人を前に言い放つ。
「この世界の安寧の為、他世界への侵略の野望阻む為、この島を獲らせて頂きます」
「紋章、とかいうやつが厄介なのは知ってる。けど、だからといって……いや、だからこそ、か。放っておける相手でもないってのは、わかってる――討たせてもらうよ」
トリテレイアと鳴宮・匡(凪の海・f01612)の宣言を受けて、獅子の獣人が喉を鳴らす。それが笑ったのだ、と気づいた者は何人いただろう? 元来、笑みとは威嚇するものであるからこそに――。
「――許す。やってみるがいい」
その瞬間、カルロスの姿が消えた。否、消えたと表現するしかないほどの速さで黒い霧へと変わり――上空にいた。
「間合いをはかっていたようだが――我の間合いは、もう少し『広い』」
霧のままの右腕が振り抜かれ、巨大な鉤爪となって猟兵達を襲った。
●百の獣王
ゴォ! 地面と墓石が、砂利のように宙へ巻き上げられる。大きく刻まれる亀裂に、播州・クロリア(リアを充足せし者・f23522)は肩幅ほどに足を開き、両手で太ももをなぞりながらゆっくりと上体を起こしていく。
「紋章の力? ダークセイヴァーの第五の貴族たちの力がなぜ?」
「ほう?」
次のクロリアの動きに、カルロスは目を細める。紅焔の旋律で舞い始めたクロリアに、カルロスは落下と同時に大地に両手をついた。
「ならば、舞ってみせよ」
ボォ! と破裂したように地面が黒百合の花びらへと変わり、周囲へなだれ込んでいく。クロリアはステップを刻むまま、その黒い雪崩へと踏み入った。
「オブリビオン同士がどこかで繋がっているのでしょうか?」
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボォ! とクロリアが踊り過ぎた花びらが、炎に燃えていく。黒と赤のコントラストに、獅子の獣人はニヤリと笑った。
「良い。楽しめそうだ」
「おっといきなりの歓迎だな! 花吹雪にしてはやべー匂いがするぜ」
その黒百合に満ちた眼前をナイフで切り払い、ヴィクティムが一気に間合いを詰める。だが、ゾクリとヴィクティムは違和感に気付いた。
何だ? この違和感は――その正体に気付くよりも、ヴィクティムは勘のまま横に跳ぶ。次の瞬間、ゴォ! と一直線に地面が切り裂かれていた。
「よく避ける」
違和感の正体は、カルロスのその言葉でわかった。左足が霧化して無かったのだ。霧へと変えての踵落とし、それがヴィクティムが回避した攻撃の正体だ。
「おや霧のように……これは触れてはいけないのがセオリーでしょうね」
そこへスコグル・ノルン(気ままな戦乙女の悪魔・f32014)が、戦乙女の大鎌を変形させて踏み込む。ガシャン、と鎌の部分が長く伸びたかと思うと、スコグルは大鎌を横一閃。カルロスの左足であった霧を黒百合と共に切り開いた。
(「敵の力からして距離は無意味」)
その切り開かれた道へ、クロトは躊躇なく踏み込む。クロトは注視する。刃を放つ兆候、視線、体の向き、手足の挙動に……紋章の反応――カルロスのすべてを。
だからこそ、見えた。カルロスの左手が霧化したのを――ヒュオン!! とクロトの鋼糸と同時、無数の三日月型の刃が火花を散らす!
クロトは横へ跳ぶ。間合いを詰めきれないと判断したからだ――その空いた場所に、匡は滑り込み銃弾で鋼糸と刃が触れて起こった火花を銃弾で撃ち抜いていく!
「見事なものだ」
「視野の広さと、見切りには自信があるんだ。どれだけ数が多かろうと、視えるものなら対処してみせる」
カルロスの称賛に、匡はただ事実として答える。とはいえ、クロトが刃の軌道を明らかにしてくれなければ、一つか二つは見切れず食らっていたかもしれない。
「ならば、これでどうだ?」
音もなく、カルロスの両腕が霧に変わる。攻撃の時だけではなく、常時腕を霧にしておく――そうする事で、攻撃の兆しを隠したのだ。
だからこそ、ヒュガガガガガガガガガガガガガガガガ! と頭上から降り注ぐ三日月型の刃と横から襲い来る黒百合の花びらの兆しは、全く見きれなかった。
「獅子の頭で黒き靄となり生命力を奪う……化生の類か――――」
それに対して、乙女は瞑目、深く呼吸し、集中。乙女が『視る』のは、その殺意だ。乙女が『聴く』のは、風の動きだ。いくら本人が化生であろうと、戦場は違う――。
(「判断材料はいくらでもある。墓所ならば音もよく聞こえよう」)
ヒュ、と風の起こりを感じ、乙女がのけぞった。首を狙ったはずの刃が、半瞬前まで彼女の首があった空間を切り裂く!
「海の幸を独り占めしようとしてるのかな? どちらにせよ、うざったいね★」
そして、ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(ハラペコかわいいコックさん(可食・高栄養・美味)・f31483)が肉体改造で自身を回避に適した身体に改造。にょろにょろと軟体生物のように黒百合の隙間に身を滑らせ、かわしていった。
「前へ――!」
「はい!」
直後、トリテレイアとクネウスが同時に前に駆ける。それを見て、蒼は夜に瞬く月下香を二人の背にかざした。
「……風、を……」
呪詛から身を守る蒼の風による結界術が、トリテレイアとクネウスの背を押す。トリテレイアは重質量大型シールドを、クネウスはライオットシールド一体型パイルバンカーを、眼前に構えて黒百合の花びらの中へ突撃した。
「――!!」
「キャストオフ!」
トリテレイアは、そのままシールドバッシュ。風を起こし、霧化していたカルロスを風で吹き飛ばし。クネウスは呪詛に侵された鎧をパージして前に出る。
(「……ありえない」)
カルロスは大きく飛ばされ、着地する。自分に攻撃が届く、対処を行える、そこまでは理解が出来る。
(「だが、鎧を外した程度で呪詛を? ありえない」)
呪詛を耐えきった二人に、カルロスは何かが起きていると知って――その理由を理解した。
「死霊使いか」
「元は。今は死霊だよ」
何体かの霊を従える夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)に、カルロスは理解する。みさきが呼び出した死霊、それが呪詛を中和したのだ、と。
「猟兵とは色々と多芸な事だ」
言い捨て、カルロスは身構える。腰を低く落とし、両腕をだらりと下げる――もしも四足の肉食獣が二足で立てばこう構えるのではないかと思わせる、前傾姿勢。
「その小技ごと、すり潰す」
ドン! と地面を踏み砕き、黒い霧となった獅子の獣人が駆けた。
●王に相応しき墓標
それは、もはや一つの災害と言ってよかった。獣人の身体能力と黒霧の体、それを自在に操りながら放つ刃と黒百合の波状攻撃。例えるならば、津波であり雪崩だ。質量で圧する自然の驚異、このカルロス・グリードという分身体は、そう呼ぶのにふさわしかった。
それでも、猟兵達は真っ向から耐え忍ぶ。だが、それにも限界はある――だからこそ、必要だったのは、状況を変える一手だった。
(「うっわ、不気味な場所っすねぇ……敵もなんか変身して怖いし……いいっす、やるっす、ボクの本気をお見せしますよ」)
墓石に身を隠し、森乃宮・小鹿(Bambi・f31388)は息を潜めていた。少しずつ、少しずつ、仲間との攻防にカルロスの意識が向いた瞬間を狙って距離を詰めてきたのだ。
それは草食動物的な臆病な動きであったかもしれない。しかし、自然の中で生き残る草食動物はみな臆病であり、それは慎重さの裏返しと言えた。
決定的な、確実な距離まで意識されず近づく――それができたのは、小鹿だからこそだ。
小鹿は深呼吸を一つ、二つ、三つと息を吸った瞬間、墓石から飛び出した。
(「気付かれたら即あの黒百合飛んでくるでしょう? 呪詛はまあ多少は平気っすけど問題は傷っすよ。乙女の顔に傷つけるとかデビキンでも許されない悪っすよ!」)
「――ッ!」
小鹿の動きに、カルロスは振り返る。いや、振り返らずに霧化すべきだったのだ――この瞬間まで意識から外れていた者がいた、その事への驚きが勝ったからこその、この戦い唯一のカルロスの判断ミス――それを、小鹿は見逃さなかった。
「凍えろ、凍えろ、黄金に凍えて汝美しき静寂となれ!」
小鹿の止れ、寂たる樹氷の如く(ウェルス・サイレス・マモーナス)によって、右手が触れたカルロスの左腕が黄金に変わっていく! カルロスは即断。黄金化した左腕、肘から下を即座に切り落とした。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして、失って黄金となった左腕を黒百合に変えて小鹿を飲み込む! 小鹿は呪いに蝕まれながら、必死に後退した。
「治療費と慰謝料、身を以て払ってもらうっすからね!」
それを追おうとしたカルロスだが、すぐに足を止めた。自身へ向けられる無数の砲門に気づいたからだ。
「CODE:DELIBERATE ATTACK。掌握開始!」
クネウスのDELIBERATE ATTACK(ディリバレイトアタック)によって無数の墓石が拠点攻撃用の砲台群に変換され、一斉掃射がカルロスを襲った。ドドドドドドドドドドドドドドド! と襲い来る砲弾を、カルロスは霧化して回避――。
「嗚呼、世界はかくも美味しいのか! さぁどうぞ召し上がれ♪」
その瞬間、ラヴィラヴァが膨張せし肉肉しい宇宙(ラ・エトワール・デ・ラ・ヴィアンド)によって無限に巨大化する宇宙牛へ変身、思い切り霧を吸い込んだ。ゴォ! とその巨大さに比例した息に、カルロスは目を見張った。
「ば、かな、このような――!?」
まずい、と判断したカルロスは霧化を解除する。吸い込まれれば、ただではすまないと判断したからだ。
その時だ、一気に乙女がカルロスへと間合いを詰めた。
「解除したな?」
足音が、衣擦れの音が、確かに聞こえる――カルロスは素早く、右腕でカウンターを放とうとした。だが、その鉤爪が不意に止まる。
パン! と派手な破裂音。乙女の怪力による柏手を一拍だ。猫騙し、というのが相撲の技にある。それは相手の反射を利用する虚を打つ技だが、乙女のそれは違う。怪力による音は鼓膜を響き、体の自由を奪うものだった。
数瞬でいい、動きを止める、その上での、開眼した乙女の我流実戦術【雨燕】がカルロスの右腕を切り飛ばした。
「が、は――!」
だが、カルロスは止まらない。即座に右の回し蹴りで、乙女を狙う――そこに割り込んだのは、トリテレイアだ。
「させる、とでも――!」
重質量大型シールドが、爆発音のような轟音と共に蹴りを受けてひしゃげ吹き飛ばされる――否、トリテレイアが手放し、儀礼用長剣でカルロスを突き刺したのだ。
「我を、舐めるな!」
だが、腹部を貫かれたカルロスは一瞬で霧化――大きく後退した。
「飲み干せ、黒百合よ!」
着地と同時、カルロスの足元が砕け散る膨大な黒百合の花びらとなって猟兵達を襲った。それに前に出たのはクロリアと蒼だ。
「この炎で影も残さず燃やし尽くします」
「燃やして、しまえば、いい、でしょうか……少しの温度で燃え上がる花の力、お見せしましょうか」
クロリアの蠱の人によって召喚された無数の人型の炎と、蒼の徒花惨烈ノ陣(モウエンノジン)による燃え上がる花びらが、黒百合を燃やしていく! 互いに拮抗する炎と黒百合――そこへ、ヴィクティムが加わった。
「さて、今ので「覚えた」。花吹雪が少ないのはダセェからよ、俺が増やしといてやるよ――四九五倍にしてな」
Program:『Dead Copy』(プログラム・デッドコピー)――ヴィクティムが生み出した、カルロスのそれを遥かに越える黒い花びらは、まさに夜のように墓場を覆い尽くしていった。
「触れたものを呪詛で侵すんだったな? この量の花に飲み込まれたらどうなるか、実験してみようや」
カルロスは、霧化。広範囲へと増やした前蹴りで、ヴィクティムの黒百合を吹き飛ばす! そのまま、空いた隙間を跳び抜けようとし――。
「優雅さを棄てたのが仇になったかな? 獣らしく溺れる良いよ」
浸食領海・潮騒は鳴り響く(シンショクリョウカイ・ワタツミ)によって呼び出した水気による海流をまとってみさきが、待ち構えていた。罪業縛りの錨によってカルロスを縛り上げると、みさきは獅子の頭を踏みつけ――地面へ叩きつける!
「ぐ、ぬ――!」
だが、錨を振り払い、すぐにカルロスは立ち上がった。その姿に、クロトは微笑んだ。
「戦場に墓地を選ぶとは、何とも準備の宜しい事……皆さん、同意見?」
キン、と指が鋼糸を弾いた瞬間、周囲に展開していた鋼糸が集結する。カルロスを縛り上げる鋼糸がその身を切り裂いていった。
「墓標の用意は不要ですものね、此処」
「我の墓標には、地味がすぎるだろうよ」
ギリギリギリ、と自身を断ち切ろうとする鋼糸に耐えながら、カルロスは吐き捨てる。そこへスコグルが踏み込み、匡がBR-646C [Resonance]の照準を合わせた。
「その力を一部、お借りします。誇りある戦いに敬意を――この地に集いし英雄たちの力をここへ」
「……一撃で仕留めてみせるさ」
スコグルが仲間の意志を乗せて振るう戦乙女の大鎌が魂を、匡の銃弾が心の臓を、同時に捉えた。魂と体、双方の死を迎え、カルロスはゆっくりと倒れながら呟いた。
「……いや、我の墓標には、足りぬが……死ぬには良い、戦いであった……」
カルロスは小さく笑い、自らを倒した者達を満足気に眺め――灰となって、風にかき消えていった……。
大成功
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