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羅針盤戦争〜『四つ目』へと到る道

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #バルバロス兄弟

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 一面の荒野の只中で、巨人の叫びが空を裂いた。声は高らかに響いて、しかし木霊する事なく、すぐにまた静寂が世界を支配する。
「つまらん島だな、オルチ兄!」
 辺りを睥睨して、左の男が言った。何もない退屈な島だと。
 正確には全く何もない訳ではない。今ちらと見た範囲だけでも少しばかりの建造物が目に付いたし、遠くには更に何某かの廃墟も見て取れる。
 が、それだけだ。少なくともコンキスタドールたる彼が奪う程の価値あるものは一つもない。破壊を楽しめそうなものも。こうして怒気の混ざった声を上げてみようと、怯えた小動物が跳び出す気配も、木々のざわめきすらもなく。結局、応じたのは彼の兄のみ。
「観光に来た訳じゃねぇぞ、ハイレディン!」
 どこか遠くを見据えて、右の男が言った。ここに来た理由はただの旅行ではないと。
 弟の言う通り見るべきものは皆無。常ならばこの場に留まる理由など何一つない。そこに敢えて陣取る理由とは何か。
 そう、戦争だ。
 それ自体にはさしたる価値はないが、その位置には多大な価値があった。異常気象の中この海域を通るならば、足掛かりとしてまず間違いなくこの島が必要となる。そして、多世界侵略船団へと喧嘩を売ろうという連中が、この海域を通らない理由はない。
「ああ! 早く来ねぇかな、猟兵共!」
「暴れたくて仕方ねぇってのに!」
 まだ見ぬ敵を心待ちに、巨人の叫びが轟いた。静寂には飽いた、喧噪を寄越せと。


「そんな訳で、『三つ目』ってのが皆さんのお相手になります」
 カルパ・メルカが、だいぶ情報を端折りながら告げた。
 どんな訳か存じない方の為に軽く触れておくが、この度グリードオーシャンにて戦争が始まって、その『羅針盤戦争』で相手取る敵の中に『七大海嘯』と称される超強い奴らがいて、その内の一角が『三つ目』のバルバロス兄弟だ。目の前までパパッと転送するからぶちのめして下さい、というのが今回のお仕事である。
 場所はアポカリプスヘルからでも降って来たのだろう荒地の島。地形としては特筆する要素はない。戦闘に注力するには好都合か。
「身の丈五メートル、双頭四腕……五腕? の巨人で、眼が片方欠けてるのが兄オルチ、真っ赤なお鬚が特徴的なのが弟ハイレディン」
 人間の三倍程度の身長ならば巨人種としては標準的な数字であり、一般的とは言い難いが、かの世界ではメガリスで肉体を拡張する技術も知られている。外見に関してだけなら全くの未知の存在という訳ではない。
 問題は、強さだ。当然ながら敵は膂力と手数だけに頼る愚物ではない。多種多様の得物を使いこなす技術があり、弟の眼窩には生物を退化させる恐るべき『オルキヌスの瞳』があり、何よりも、それらを攻撃的に活用する残虐さがあった。
 その力は、例えるなら過去の戦争で会敵した幹部らと近しい領域のもの。即ち、彼らが速力や戦術眼で以てそうしたように、今度の相手にもまた猟兵達に先んずる能力がある。無策で臨めば苦戦は必至だろう。
 だが。
「策次第でどうにかなるって事でもありますので。今回もそんな感じにお願いします」
 娘がそう言って締め括ると、グリモアが静かに瞬いた。
 労してこの戦場を乗り越えたとて、その先にある本拠を叩けねば意味はないが。まあ、勝てる時に勝っておいて損はない。


井深ロド
 頭が二つあれば執筆能力も向上するだろうか。井深と申します。
 一つの頭で二倍頑張りますのでお付き合い下さい。

 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
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第1章 ボス戦 『七大海嘯『三つ目』バルバロス兄弟』

POW   :    フォーアームズ・ストーム
【四腕で振るった武器】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    「オルキヌスの瞳」
【弟ハイレディン(左頭部)の凝視】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【肉体、精神の両面に及ぶ「退化」】で攻撃する。
WIZ   :    バルバロス・パワー
敵より【身体が大きい】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。

イラスト:ちーせん

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

薬師神・悟郎
巨大な敵は威圧感もあり恐ろしいが、考え方を変えれば的が大きくて狙いやすい

敵の先制攻撃には弟とやらの視界に入らないよう対処しようと思う
視力、見切り、聞き耳、第六感、野生の勘にて敵の動きや仕草に注意し、技の発動を察したと同時にUC発動、カウンター、咄嗟の一撃

鯨の群れを盾に敵(の視界等)からダッシュと逃げ足で距離を取り、弓を使い応戦
早業と地形の利用で出来るだけ有利な立ち位置を意識し、毒使いと麻痺毒の継続ダメージでじわじわと敵の機動力を削ぐ狙いだ

好機があれば弟の目を潰し、視界を奪っておきたい、部位破壊
狙いが厳しいようであればそのまま撃ったらすぐに後退するを繰り返す

俺が出来ることを確実に積み重ねていこう



「待ちかねたぜぇ、猟兵!」
 巨人、バルバロス兄弟の雄叫びが耳朶を打った。
 ヒトの三倍もの体躯は生み出す声量も甚だしい。その響きはいかにも威圧的で、巨体が生ずる迫力を一回り強固なものへと変貌させた。己の強みを自覚しての振る舞いなのか、あるいは素の性格なのか、どちらにせよ見る者を畏怖させる凄みがある。
 直前に晒された薬師神・悟郎は、しかし怯え竦む事なく、フードの下から静かに敵を見据えた。これ見よがしに掲げられた長大な武具は全く恐ろしげだが、未だその剛力を発揮できる距離ではない。真に恐怖すべきは別にあった。目を、耳を、肌を。五感の全てと第六の感覚とを総動員してその前兆を探る。そして。
「おいおい、抜け駆けする気かハイレディン!?」
 それが、来た。

 赤鬚の眼窩が、妖しく瞬いた気がした。

 次に知覚したものは、声。恐らくは弟の側の。
「ああ!? 何だよこりゃあ!」
 その声色はどうやら切り札の直撃を確信するものとは違うようで、ならば咄嗟の対応が間に合ったという事だろうか。薬師神は己が五体を検める。半魔半人の身が退化した場合どのような結果となるのか。精神の退行とは自ら認識できるものなのか。幾つかの疑問はあったが、少なくとも今の一瞬で肉体がサルと化した様子はない。完全かは兎も角、支障の出ない程度には凌いだか。
 顔を上げれば、彼我の視線を阻むもの、巨人より尚大きな影が眼前を覆った。
 それは、海獣。敵の邪眼と同じく超常の力を秘めた“鯨の類”。海原を悠然と泳ぎ往くように、巨大な翼の名は比喩ではないとばかりに、大空を回遊する座頭鯨の大集団。
 檻の隙間から、先とは異なる気色で見開かれる巨人の瞳がちらりと見えた。
 戦局が進み、攻守が替わる。

 一射。三又槍が絡め取る。
 一射。舶刀が切り払う。
 一射。左腕の一つを掠めて抜ける。
 やはり件の眼は守りが堅いか。更に一射、薬師神が牽制で視線を外させれば、一瞬の隙に闇色の外套は魚群の黒に溶け込んで消えた。
 残念ながら利用できる地形は少なかったが、それは鯨の進路を阻むものがないという事でもある。影から影へ、陰から陰へ。盾が滑らかに展開すれば、彼の早業を妨げるものは最早なく。盾を削らんと集中すれば、意識から外れた地形が壁としての機能を取り戻す。
 一射。右腕の一つに傷を付ける。
 一射。脇腹に突き刺さる。
 一射。じわりと毒が拡がる。
 苛立ちを乗せて反撃の大振りが迫るが、踏み込みが一歩、浅い。巨体故にか毒の回りは遅かったが、黒弓に乗せた麻痺毒は徐々にバルバロス兄弟の五体を蝕んでいた。僅かな、だが確かな蓄積。もはや脅威が魔人の逃げ足に追い付く事はなく、ならば後には大きな的が残るのみ。
 一射。大斧が叩き落とす。
 一射。肩口を衝き抉る。
 一射。太腿を裂いて飛ぶ。
「はっはぁ! やるじゃねぇか小僧!」
 ダメージを微塵も感じさせず巨人が吼えた。
 硬いな。猟兵は内心で呟いて、しかし焦る事なく次の矢を番える。問題はない。一撃の火力で状況を動かすのはあちらのやり方だ。こちらにはこちらのやり方がある。敵の土俵に上がる必要はない。
「俺ができる事を積み重ねていこう」
 確実に。着実に。堅実に。
 影縫いの矢が放たれた。瞳には届かず、だが先よりも僅かに近い。

成功 🔵​🔵​🔴​

八重咲・科戸
うお、でっかっ!?(ビクッ)
まあでもダイダラボッチとかに比べればマシか!

んー、視界に捉えたら退化させるというならそも見えなければいいのではないか?

属性攻撃で戦域に強風を発生させ、回風合羽の力で透明化
「ダッシュ」「忍び足」で駆け回って視界に入らないようにしよう
そしてユベコを発動!突風に乗せて吹き荒れる砂埃!
目を開けていられんだろう、ゴーグルくらい用意しておくんだったな!

私はいいがやはりあの眼は厄介だ
後続の味方の為にも出来れば潰しておきたい
分裂させた【九化玉】で「爆撃」し攪乱
鎖を足に巻き付けて纏った風の力を借りて「体勢を崩す
」「吹き飛ばし」で転倒させ鎌で頭部、あわよくば弟のオルキヌスの瞳を狙うぞ



「でっかっ!?」
 うおぉ、と妖怪は驚嘆の響きを絞り出した。
 視線の先には山の如き双頭の巨人。でかい。兎に角でかい。周囲に比較対象となるものがないにも関わらず遠目にもそれと分かるでかさであり、近付いて見上げたら確実に首を痛めるであろうでかさだ。八重咲・科戸は大いに慄いた。幾らグリードオーシャンじゃあ常識などと言われたところで、そんなのはカクリヨ民には知ったこっちゃないのである。東方妖怪界隈でこれを凌ぐヤツなんてダイダラボッチくらいしか思い浮かばない。
「あっそうか、ダイダラボッチとかに比べればマシか? マシだな!」
 あれに比べればカワイイもんだ。そう気を取り直した瞬間、
「次は嬢ちゃんが遊んでくれんのか?」
 バルバロス兄弟の三つの視線がその総身に注がれた。
 いややっぱりあんまりマシじゃない気がするな。
 八重咲は即座に掌を反した。視界に捉えるだけで相手を退化させるとかいう能力以前の問題だ。まず目付きが怖い。邪悪だ。妖怪が人を驚かせようとする時にも割と悪そうな顔をするが、その比ではない。軽く十倍くらいは凶悪な空気。
 瞬後。害意を証明するかのように、三つ目の一つに不気味な気配が集まって。
 激しい風が渦を巻いた。

「あぁん!? またかよ!?」
 弟の上げた声は、再度の不発を告げるもの。
 オルキヌスの瞳はその大いなる力を確かに呼び起こして、しかし、それをぶつける筈の相手が忽然と姿を消していた。
「……逃げやがったか?」
 否、そうではない。訝しげに虚空へと向けられた視線の先、八重咲は未だ変わらずそこにいた。
 見るだけで効果を発揮するというなら、そも見えなければいいのだ。鎌鼬をただの鼬に変ずる呪いであろうと、当たらなければどうという事もない。
 手品の種は透ける外套。無論ただの最先端おしゃれファッションではない。これこそは風を纏い光を歪め、不可視の加護を齎すつむじ風の合羽。化かしの術なら妖怪の十八番、風の扱いなら鎌鼬の十八番だ。こうなれば三つの目には、いや、仮に目玉を十や二十並べようとも、永劫にその姿は映りはしない。
 これに獣の脚力が合わされば、最早盤石。
 妖仙が軽やかに駆けた。巨人の見る世界は依然変わりなく、ただ風の音が響くのみ。

 ――思い出せ、風が吹く度彼らが来たる。

 風が吹く。
 風が吹く。
 風が吹き、風が巻き、風が荒れる。
 強風も暴風も海の上なら茶飯事に等しいが、陸の上なら話は別だ。これが天然自然の業でない事は明白で、ならば敵は未だここにいる。兄弟がそれを見落とす筈もなく。
 故に、この一撃は必中となる。
「ゴーグルくらい用意しておくんだったな!」
 今一度敵を捉えんと見開かれた眼に、砂の飛礫が突き刺さった。
 グリードオーシャンの常識がカクリヨファンタズムの非常識なら、アポカリプスヘルの常識もまたグリードオーシャンでは非常識。枯れた砂の大地の過酷さは、海の民の理解の外にあった。突風が塵の絨毯を巻き上げれば、怒涛となって目へと口へと雪崩れ込む。
「目を開けていられんだろう!」
 まあ開けたって私は見えないけどな! というのはさて置いて、鼬は次手を走らせる。自分は兎も角、仲間にとっては厄介な眼に違いない。後続の為にも潰しておきたいところだし、何より己の手番をこの程度で終わらせるつもりもない。
 そこで取り出したるは九化玉、特殊製法の手投げ玉だ。所詮は小人の携行道具。巨人、それも七大海嘯の牙城を揺るがすには聊か頼りないが、使い方次第で化けるもの。姿なき襲撃者が繰り出せば、一時怯ませるには十全で。
 風の妖仙は、その一時を逃す程に鈍間ではない。
 科戸風が駆け抜けた。異形の五体が、傾ぐ。
 果たして『三つ目』は気付いていただろうか。己が視界が平時の半ば以下にまで高度を落としている事に。『三つ目』には見えていただろうか。両の足に絡み付く烈風の鎖が。弟の眼前に迫り来る緑の旋風が。
 ずぶり。風音とは異なる鈍い響きが耳を衝いて。
 僅かに残る視界へと、赤色が染み込んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
腕一本の出どころが何なのか、少々興味はありますが……。
……いえ、言ってる場合ではありませんかね、これは。

体格差はどうにもならないので、強化は甘んじてさせておきましょう。最初から強化後の能力を前提に立ちまわるしかありません。
なに、いくら力が強くてもやりようはありますよ。

巨大な体躯は武器にもなりますが、弱点にもなる。死角は相応に増えるものです。
首が二つになったところで、その事実は変わらない。
距離を取るのは不利。恐れずに距離を詰め、懐に飛び込んでしまいましょう。
その身体そのものを遮蔽にして、視界の外に逃げ回りながら、短刀での一撃を。
闇に紛れる暗殺者の軽業、と言う奴です。その首、両方とも頂きますよ。



 戦力分析。巨人種の体格と、それに見合った怪力。武装は眼窩に嵌められた退化を司る異能と、手には剣が二、槍が一、斧が一、棍が一の合計五。加えて、それらを適切に運用する独立した二つの意識。
「腕一本の出どころが何なのか、少々興味はありますが」
 シャルロット・クリスティアは小さく呟いた。
 首二本に腕四本なら兄弟二人分として理解できる。だが右の脇には腕が更にもう一本。どこかの誰かを加えた三人分? いや、全身に走る継ぎ目の数々を見る限り、五人か六人か、あるいはより多くの。
「いえ、言ってる場合ではありませんかね、これは」
 ならば、今後あの中へ新たに一人二人くらい追加する予定があってもおかしくはない。お仲間になりたくなければ、今必要なのはお喋りではなく。
「――…………」
 必要な仕事を前に、少女の意識は深く静かに研ぎ澄まされた。
「ウオオォォォォォオオオッッ!!」
 対する蛮人は、荒く激しく、猛々しい気勢で応じる。
 開戦だ。

 バルバロス。一部の世界では、聞き取り辛い言葉を話すもの、などといった意味を持つそうだ。彼の名の由来が同じものであるかは定かでなかったが、その雄叫びは確かに聞くに堪えない騒音で銃使いの鼓膜を揺さぶり、しかし意味するところは十全に理解できた。即ち、その総身に力が満ちたという事を。
 数字にして三倍。彼我の戦力差、勝利の可能性はそれ以上に遠のいただろうか。凡百のオブリビオンなら三倍程度さしたる問題にはならないが、これは七大海嘯だ。倍化前の値からして尋常の領域には非ず。
 往くは死地。
 しかし、シャルロットは迷わず一歩を踏み出した。
 体格差を縮める手札はないが、ないならないで立ち回りを考えるだけだ。狙撃の距離は視線が通る。退いた先も死地には違いない。ならば、進むべき道は前で良い。
「やりようはありますよ」
 前へ。更に前へ。接近する剣戟の間合い。
 そして。
 踏み込むと同時、破砕の快音が轟いた。

 砂埃が舞い上がる。爆心地には振動と衝撃とに見合うだけの巨大なクレーターが深々と刻まれて。直撃、いや、掠りでもすれば最後、人間など哀れ物言わぬ肉塊へと成り果てるだろう。亡霊とてただでは済むまい。
 だが、そこに巨人の期待した姿はない。
「チッ!」
 あるのは孔だけだ。外した。
 否、まだ終わりではない。兄の目が敵を追い、弟がそれに応える。バイキングアクスとカットラスとが振り上げられた。猛撃が続き、新たな罅が大地を彩る。連なる衝突痕が更に一つ、二つ、三つ。
 しかし、当たらない。ブチ殺すべき獲物を逃し、刃の台風が幾度目かの空を切る。
 『三つ目』が叫んだ。
「どいつもこいつも、ちょこまかと!」

 破壊の嵐の中心を、散歩でもするかのような穏やかさと軽やかさで少女は歩む。
 巨大な体躯は武器にもなるが、生み出すものは強みだけではない。例えば手数の多さは脅威だが、増えた腕は死角を増やし、互いに干渉して可動範囲を狭めてもいる。明らかに対人戦には過剰な火力を備えた巨大な得物の数々は、不必要なサイズを以て不十分な視界を更に奪う。幾ら首を増やしてみても、生じる死角を完全に補える訳ではない。
 やりようはある。娘の言った通り、優位は既に覆った。懐は正に台風の目にも等しい。接近を許した時点で勝敗は決した。闇に紛れた暗殺者は最早、日の下に現れる事はなく。そして、その後の凶手の仕事はただ一つ。
 巨人の背後から、首筋へと滑らかに刃が吸い込まれた。娘の繊手に大男の首は堅過ぎるかに見えたが、問題はない。彼女もまた埒外のものであるが故に。
 二つもあるなら、片方くらい逆向きに据えておけばこの死角は生まれなかったろうに。そんな事を思わなくもなかったが、まあ敵味方の関係だ。遠慮なく。
「両方とも頂きますよ」
 継ぎ目が開く。
 ずぶり。短刀の姿が奥へと消えて、代わりに温かいものが顔を出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
二人で一人ってやつか
寂しくて兄弟一緒じゃないと居られないタチか?
それとも、二人でやっと一人前か

煽りに煽って、こっちへおいで

振るわれる武器は己の勘で可能な限り避ける
動きが大きければ大きい程
こっちも目安がつくものだし
…といっても
流石にでかいし多いんだよなぁ
避けきれなくても、ちょっとの痛みはなんてことない
【第六感、野生の勘、激痛耐性

腕か武器までおれが跳ねれば十分に、届く
撒いたおれの血飛沫が多ければ多いほど
体の華は勢いを増すんだから
【呪詛、捕食

おまけに拳銃で頭めがけて数発ぶち込む
的が大きいと当たりやすくて助かるなぁ
【スナイパー、呪殺弾、傷口をえぐる

でかいだけの図体で
喧嘩しながら死んでけよ



 二人で一人ってやつか。
 人狼は内心で呟いた。二人はいつでも一緒。一人では何もできない。物語ではよく聞く句であるが、現実でこういう事例に出会うのは珍しい。
 ともあれ。
「寂しくて兄弟一緒じゃないと居られないタチか?」
 次の言葉は心の外へ。その瞬間、揺歌語・なびきの身に三つの視線が過たず注がれた。どうやら上手く刺さったか。何れも攻撃的な色を湛えており、しかし退化の力を使う気配はない。この調子だ。
 狙いは近接。相手の火力は馬鹿にならないが、己の手札との相性は悪くない。あの瞳で遠方から削られ続けるよりは良いだろう。故に。
「それとも、二人でやっと一人前か」
 半人前同士なら、離れられぬのも無理からぬ話。そう揶揄う。
「死にてぇらしいな!? なぁおい!」
 怒声と共に、大地が爆ぜた。異形の肉弾が命知らずへと疾駆する。
 読み通り。弟だけの能力より、兄弟二人の得物で嬲る方が気も晴れよう。これで望んだインファイト。
 こっちへおいで。
 人狼はもう一度内心で呟いて。さて、ここからが本番だ。

 四つ手の嵐が吹き荒れる。
 一手、揺歌語の直上から叩き落とされる戦斧の猛攻。第六感に頼るまでもなく視覚のみで脅威と分かる。避け損ねれば薪のように脳天から真っ二つだ。半歩退いて躱す。動作は最小限に。勢いに呑まれて体勢を崩せば次手で詰む。
 二手、心臓目掛けて抉り込まれるトライデントの一閃。尋常でない加速だが予備動作が大きい。目安を付けて身を捻る。黒スーツの袖が引き裂かれた。穂先の構造によるものか綺麗な切り口ではない。生身で受けたくないものだ。
 三手、再度の脳天狙いでチェーンフレイルの殴打。肌がひりつくような空気。勘に任せ無理矢理に回避軌道を変えた瞬間、対の鉄球がぶつかり合って跳ねた。鼻先を棘が掠め、風圧と砂埃とが顔を叩く。
 四手、左右から挟み込むサーベルの双撃。多いんだよなぁ。灰緑の男は内心で毒づく。看板に偽りがあるんじゃないか。圧縮された感覚の中でそんな文句を垂れる間に、眼前で鮮やかな華が咲いた。その根元を辿ってみれば、どうやら自分の胸からで。
「はっはぁ! 殺ったぜ!」
 赤色を浴びて、巨人が哂った。
 なるほど、紅い華は予定よりも大きいようだ。ずきり。理解と同時、ちょっとではない痛みが五体に拡がる。
 ――五体に?
「……いや」
 ああ、手足と胴とが泣き別れていないなら、なんてことない、ちょっとの範囲だ。少しばかり撒いた飛沫が多くとも、この後を思えば先行投資と言えなくもない。
「道連れだ」
 鮮血に濡れて、狼が嗤った。
 視線の先、血の華が蠢いて。やがて、季節外れの桜が舞う。

 砂と血の色を塗り潰し、薄紅が世界を染めていく。
 それはとても幻想的な風景で、しかしただ美しいだけのものではない。当然だ。何しろこれはUDCのもの。綺麗な花には棘があり、毒があり、それ以上に狂気を孕む。
 『三つ目』は異変を察知して、だが遅い。残心を欠いた隙、常人には無に近しい一瞬の隙は、異界のケダモノには永劫にも等しく、双頭五腕の全てを蝕んで余りある。
「……ッ!?」
 何事か言いかけた二人の口を塞ぐように、桜の花弁が舞い落ちた。どくん。音はなく、しかし確かに何かを奪い取る気配。数多の傷を刻まれて尚活力に満ち溢れていた巨体が、俄かに鈍る。どくん。巨人の身が傾いだ。一瞬ではない、今度は誰の目にも多大な隙。血濡れの狼にも喰らい付ける程度の。
 銃声が響いた。対の首で傷口が開く。揺歌語の狙撃が一射、続けて二射。幾ら失血しているとは言え、この的の大きさで外す事はない。更に数発、抉り込まれる呪殺の弾丸。
「ああ」
 男は小さく呟いた。
 道連れと言ったが、あれはなしだ。
「二人で勝手に死んでけよ」
 薄紅が溢れた。
 華が呪う。華が喰らう。冒涜的に花弁が舞う。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィヴ・クロックロック
半人前の癖に随分とまあ無駄にデカい図体に育った巨人だな
異論があるなら一人一つの身体になって出直してこいできないだろう?

適当に悪口を言って気を引いて相手の視線がこちらに向くタイミングで光子リアクターを光らせる。シンプルに眼潰しをして凝視することを防ぐ。
だがこちらは確かに見えるはずだ、相手がUCを使うその瞬間を。
そして相手のUCをコピーしつつ継続して光る。こちらはよーく見えるが相手は眩しくてこちらを凝視することは難しいだろう。同じUCのぶつけ合いでも一方的に相手を退化させて一方的に攻撃する。武器を使うと影が出来るから出来る限り素手でという事になるだろうか
さあ、半端者は退化するとどうなるのだろう



「半人前の癖に、随分とまあ無駄にデカい図体に育った巨人だな」
 女の声が遠く響いた。
 特徴的で、しかし聴き取り難い波長ではない、よく通る声。戦場の喧騒の中においても掻き消されない声だ。果たして意は過たず届き、お目当ての大男の肩がぴくりと震えた。
「ぁあ!?」
 苛立ちの響きが返る。効果あり、もう一押し。
「異論があるなら一人一つの身体になって出直してこい。できないだろう?」
 反論の機を許さず、ヴィヴ・クロックロックが残る嘲罵を一息に吐き出せば、しばしの間を置いて二つの首がゆるりと振り向いた。
「流行ってんのかァ? その煽りはッ!?」
 どうも似た台詞を考える者がいたらしい。分かり易い見目だからと言って、少しばかり安易な罵倒だったか。だがまあ、喰い付いたから良しとしよう。略奪稼業に身をやつしていれば一山幾らの誹りなど飽きる程浴びただろうに、忍耐に欠ける手合いだ。
 ともあれ、挑発は恙無く完了。次。
 図に乗ったクソアマに喧嘩を売られて、しかし殴り殺しに行くには面倒な距離。ならばどうする? 決まっている。手っ取り早く潰したければ、間違いなくそれに頼る。
 オルキヌスの瞳に力が満ちた。赤鬚の眼光が妖しく燃える。
 そして。
「だから半人前だと言うのだ」
 美貌揃いと謳われる半人半魔の口元が、美から離れた形に歪んだ。悪意ある形に。

 次の瞬間、光が溢れた。
「目潰しかッ!」
 右の頭が叫んだ。二本の腕を傘に辛うじて様子を窺えば、どうやら光源は女そのもの。眩いばかりの輝きは、その内から発されている。
 ヴィヴの心臓で光子動力炉が稼働する。想像を具現化する驚異にして脅威の機関。漏れ出す怪火の光はあくまで副次的なオマケに過ぎないが、それ故に敵の警戒をすり抜けた。意識の外から叩き込まれた一撃は、そこらのカンテラなどより的確に視界を灼き、冥界の視線が獲物から逸れる。
 そして、それはつまり。一度は光源を直視したという事。
 故に。
 眼鏡の下で力が満ちた。ヴィヴの眼光が妖しく燃える。それは正にオルキヌスの魔性。
「やってみるものだな」
 半端者如きにこうも簡単に盗まれるとは、君らは半人前ですらなくそれ未満か? 嘲りの言葉と共に、遂に退化の秘術が牙を剥いた。

 剣が奔り、空が裂ける。斧が降って大地が割れる。
「何だ、思ったよりつまらんな」
 接近戦へと移行した盤面を見ながら、ヴィヴは小さく呟いた。
 この半端者が退化した時どうなるのか期待していたが、どうにも劇的に何が変わったという風ではない。外見的には何やら継ぎ目の数が減っているようにも思えたが、特段動きに変化はなく。精神性も元と大差がない。あるいは、人生の荒波に揉まれて成熟した、というタイプならもっと未熟さが目立つようになったのだろうか。
 効き目が分かるまで凝視し続けるというのも中々悠長な話で、仕方ない、手を出そう。武器を振り抜いた隙に一発、二発。当て推量の反撃から身を躱し、三発目。
 手応えは薄い。こうなると相手のような一撃の火力が欲しくなるが、得物を持ち出せばその分だけ影を生む。目潰しを継続しているからこその優位であり、下手にそれを手放すのは好ましくない結果を招くようにも思えた。
 ならば、素手か。
 欲をかかなければ当面、致命打を貰う危険は少ないだろう。幸いにして先達が付けた傷が数多あるようだから、適当に数を撃てば運良く傷口を抉る事もあるかもしれない。ここは地道に行くとしよう。
「オラァ! どこに行きやがった!」
 未だ割と元気に叫ぶ巨人を見上げて、半人半魔の口元が気怠そうな形に歪んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

シノギ・リンダリンダリンダ
よかったです、あの七大海嘯ともあろう奴が奥に引っ込んでガタガタ震えるだけの存在じゃなくて
そうですよね。本拠を隠して暴れまわるような、恥知らずな存在じゃないですよね?

軽く挑発しつつWIZ対抗
サイズ差はどうしても埋めれません相手のパワーはモロに発揮されるでしょう
しかし今まで数多に培った戦闘知識、フェイント、己のリミッター解除、覚悟と気合
それらを総動員して最初の一撃を左腕一本の犠牲で乗り越えれたら万々歳でしょう

乗り越えたら、懐から札を一枚取り出し【死符】を発動
お前がどれだけ避けようと、大きかろうと、90に近い弾幕の90に近い回数の波状包囲攻撃をかわせますか?

七大海嘯。お前の全てを略奪し蹂躙します
死ね



「よかったです」
 例えば満足とか、安堵とか、あるいは讃美とか。そんな明るい感情を示す言葉は、その性質にあまり似付かわしくない、もっと尊大な響きを以て紡がれた。
 声の主はシノギ・リンダリンダリンダだ。七つの海を渡り略奪と蹂躙に生きる海賊団の首魁であり、即ち侵略を旨とするコンキスタドールとは不倶戴天の間柄である。
「あの七大海嘯ともあろう奴が、奥に引っ込んでガタガタ震えるだけの存在じゃなくて」
 過去に幾度か配下連中と衝突した身としては、大将首を直接叩き潰す機会は待ち望んでいたものだ。細かい事を言えば、“あの七大海嘯”とは主に『鮫牙』と『桜花』とを指すものであって『三つ目』一派との因縁は特にないのだが、今は置いておく。いちゃもんを付ける際に正しさは必要ないのだ。正しく生きてる奴はたぶん海賊になったりしない。
「そうですよね。本拠を隠して暴れまわるような、恥知らずな存在じゃないですよね?」
「だぁれがそんな腰抜けだってぇ!?」
「隠した覚えはねぇよ。マヌケ共が勝手に迷ってるだけだろう」
 重ねて煽れば、二つの異なる反応が続けて返った。魔導人形の眉根がぴくりと上がる。それは生意気にも言い返してきた事実への不満であり、挑発の効果に対する懸念であり、秘密のアジトに引き籠ってる手合いの方がお宝貯め込んでそうだよな、とかそんな大きく脱線した思考の表出である。
 そういやコイツ等、あんまり金持ってそうな顔してないな。そう要らぬ事を思いながら髭面の気配を窺えば、おや、どうやら接近戦の構え。何にせよ扇動成功か。
 ピンク髪は残る罵倒の言葉を呑み込んで、状況は第二段階へ。

 ばきり。鈍い音が鳴った。
 それは例えば、何か硬質なものが壊れた時に発する音だ。具体的には、機械人形の骨格であるとか。
「おいおい! 大層な口を利いた癖して、存外貧弱だなぁ!?」
 巨人が哂った。音の出どころは男の直下。叩き付けられた舶刀の下、圧されたシノギの身体が軋みを上げる。
 態度の大きさは互角だが、肢体の大きさはいかんともし難い。蛮族の秘儀はその威力を余すところなく発揮して、巨人の横暴を更に野蛮なものへと昇華せしめた。海賊が幾度となく繰り返した戦闘の経験、知識、数多に重ねた研鑽、更には出力制限を解除した膂力を以てしても拮抗には至らず。暴虐の兇刃は防御の左腕を容易く破断して尚止まらず、肩口にまでめり込んだ。衝撃は胴から脚へと駆け抜けて、大地にまで切れ込みを入れる。
 巨人が哂う。元々倍あった手数の差が更に大きな隔たりとなった今、俺達兄弟の優位は揺るがない。
 数は力だ。一度より二度、二度より三度、三度より四度。敵より多く攻撃を打ち込めばそれだけ勝利へと近付く道理。
 そして。
 愉悦の視線の先、しかし大海賊もまた同じように哂った。

 まあ、これで済んだなら万々歳でしょう。
 危地のドールの振る舞いは強がりのようでいて、しかしあながち間違いでもない。機能を甚だしく失う大損害であったが、本来なら胸から腰まで諸共引き裂かれていても不思議ではない一撃だったのだ。腕一本程度の損傷で抑えられたなら被害軽微と言っても良い。全く無理をした甲斐があった。
 そのおかげで、これが使える。
 残る右腕が、ゆるりと懐に差し込まれた。ここまで斬り込んでいればお前の勝ちだったのに、残念ですね。人形とは思えぬ自然な所作でシノギが嗤う。そして。
「七大海嘯」
 言葉と同時、現れたるは無数の弾幕。
 十。二十。そんな程度ではない。五十か、百か、あるいはもっとか。前を、後ろを、右を、左を、巨体を取り囲み死霊の弾丸が飛翔する。虚空に描かれる不可思議な模様は何か不吉な未来を予感させるようで。
「お前の全てを略奪し」
 数は力だ。一度より十度、十度より百度、百度より千度。敵より多く攻撃を打ち込めばそれだけ勝利へと近付く道理。
 躱せますか? 人形が問うた。否、これは問いではない。どれだけ避けようとも、どれだけ防ごうとも、必ず持てるものを余さず奪う。そういう宣告。
「蹂躙します」
 やがて、最後の言葉が告げられた。
 死ね、と。
 全天を照らす軌跡が地上へと舞い降りる。輝きが爆ぜた。地上の星が荒野を彩る。
 これが死符、サウロン・ロード。
 全てを差し出せ。霊魂がお前を求めている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エル・クーゴー
●SPD



●対先制
躯体番号L-95
当機は“人形”
完成されたプリセットを有し、そのスペックは日々のラーニングによる向上こそあれ、初期値がマイナス以下に割り込むことは有り得ません

・敵からの凝視に臆さず身を晒し、反撃の為の射撃体勢を取る


●反撃
照準や運用に練度の差こそあれ、例え引鉄を引いたのが誰であろうと、常に定まったスペックを発揮する
それが銃というものです

いかなる退化を強いられようと、この弾頭の威が淀む理由には当たりません

これより、敵性の完全沈黙まで――ワイルドハントを開始します


・敵からの視線が通っている=こちらからも射線が通せる
・ならば敵左頭部目掛け、渾身のレールガンをブッぱなす!(スナイパー)



「潔いな! 気に入ったぜ、女ァ!」
 黄金の右眼を爛々と輝かせ、ハイレディンが吼えた。
 然もあらん。魔性の瞳に対して最も有効で端的な対策は、逃げるか隠れるか、この二択である。そしてそれは埒外の力が飛び交う超常の戦においても同じ事。この戦場でも概ねそのように対応された。分かり易い殺し合いと略奪とを求めるこのコンキスタドールには全くストレスだったに違いない。
 が、ここに至り、これだ。
 視線の先、堂々とその姿を晒し、攻撃態勢を整える人影が一つ。見る限り幻影の類ではない、実体だ。何某かのバリアを纏うでもない。ノーガードで撃ち合いの姿勢。
「それじゃあ押っ始めるとするか!」
 異論はないとばかりにオルチも猛る。
 弟の眼窩、森羅を冠す瞳が更に赫々と燃え上がった。
 戦端が開く。

 激情に荒ぶ巨人の対極にて、エル・クーゴーは淡々と準備を進めていた。敵性体が期待した通りの、射撃戦の準備を、である。
「電磁投射砲、射出形態に移行」
 無機質な声が告げれば、アームドフォートから多数の部品が展開され、適切な射撃兵装が即時構築される。長大な一対の導体レールが眼前、巨人へと向けて固定された。
 そして。
 ――以上。ただのこれだけ。
 他の装備が展開される気配はなく。直後、冥海の波動がその身体を貫いた。
 直撃。
 一瞬の静寂が場を支配する。だが。
「被害状況確認。躯体動作に影響なし」
 機械人形は何事もなかったかのように、粛々と射撃準備を再開する。
 そう、防護兵装に不具合が生じた訳ではない。本当に、そんなものは元よりないのだ。搦め手なし。小細工抜き。これから起こるのは、ただただシンプルなダメージレース。
 兄弟が、歓喜の声を上げた。

 神獣オルキヌスの力は絶大である。たとえそれが魔導蒸気文明技術の粋を集め作られたミレナリィドールであったとしても、逃れ得るものではない。それが埒外の力を持つ存在であっても、だ。猟兵は決してその呪力を跳ね除けた訳ではない。今も静かに、着実に、異能の力はその機能を蝕んでいる。
 しかし、それでもL-95の動きは止まらない。
 退化とは、進歩が停止し、以前の状態まで逆戻りする事。ならば、当初より完成されたプリセットを有する“人形”は、初期値まで逆行しても戦闘行動に支障を来す事はなく。あるいは、データ定義前、躯体製造前にまで遡れば彼女の敗北もあり得たのかもしれないが。残念ながら、その可能性は実現しない。
「ハイレディン!」
 退化の力が緩む。叫びが聞こえた。
 いかに最強の鉾があろうとも、結局は持ち主が振るわなければならないのだ。ここまでの戦いで、既に夥しい血を流した持ち主が。
 砲口が、目標を捉えた。もはやこれを阻むものはない。
 否、退化の威を十全に振るえたとて同じ事だ。
 退化とは、形態、性質が縮小、衰退、あるいは消失する事。ならば、銃の運用に支障はない。無駄なものを削り、捨て、切り詰め続けた末の究極が銃。単純な機構に大掛かりな火器管制は必要なく、複雑な弾道計算が必要な距離でもない。狙いを定め、引鉄を引く。その機能さえあれば銃は撃てる。そして、それすらも失う程にL-95は悠長ではない。
 故に今、攻撃は開始された。
「ワイルドハントを開始します」
 射線はとうの昔に通っていた。目標は敵左頭部。
 レールが通電する。弾体が飛んだ。

 銃を撃てば、人は死ぬ。


 弾頭は狙い通り、過たず眼窩を撃ち抜いた。
 巨体が傾ぎ、倒れる。そして最早立ち上がる事はない。
「……、…………、」
 右の首が何事かを語ろうとして、しかし成らず。巨人の嫌った静寂が荒野の島を今一度満たした。決着だ。
 バルバロス兄弟が第四の目を求めた闘争、その前哨戦は、物言わぬ『二つ目』を残して幕を下ろす。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月05日


挿絵イラスト